判例検索β > 令和1年(ネ)第785号
事件番号令和1(ネ)785
裁判年月日令和2年12月9日
裁判所名・部福岡高等裁判所
原審裁判所名福岡地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)889
裁判日:西暦2020-12-09
情報公開日2021-01-27 12:00:20
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主1文
原判決を次のとおり変更する。


被控訴人は,控訴人に対し,268万2086円及びこれに対する平成28年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


2
控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その1を被控訴人
の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
3
この判決の第1項⑴は,本判決が被控訴人に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。ただし,被控訴人が,控訴人に対し,215万円の担保を供するときは,その執行を免れることができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,2297万2380円及びこれに対する平成28年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要(略称等は,特に断らない限り,原判決の表記による。)1本件は,被控訴人の設置する防衛大学校(防衛大)に2学年時まで在校し,そ
の後退校した控訴人が,在校中,防衛大の8人の在校生(本件学生ら)から,暴行,強要等の加害行為(本件各行為)を受けたことに関し,防衛大の組織として,又はその履行補助者である防衛大の教官等において,
本件各行為を防止するため
の対応を怠ったことなどについて安全配慮義務違反があり,この安全配慮義務違反により,本件学生らによる本件各行為の発生を防ぐことができず,控訴人はこ
れにより精神的苦痛を受けるとともに,防衛大からの退校を余儀なくされたなどと主張し,被控訴人に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求として,損害額合計2297万2380円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年4月9日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,原判決を不服として控訴した
上,当審において,防衛大の教官らは,防衛大内部において学生間における暴力等の加害行為が起こらないように学生を指導監督すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った過失があり,その結果,本件学生らによる控訴人に対する本件各行為の発生を防止することができず,控訴人が損害を被ったものであるから,被控訴人は,国家賠償法(以下国賠法という。)1条1項に基づき,
防衛大の教官らの上記過失によって控訴人が負った損害について賠償義務を負うとして,被控訴人に対し,同項に基づき,債務不履行に基づく損害賠償請求と同額の支払を求める請求を選択的に追加した。
2前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,後記3のとおり補正し,後
記4のとおり控訴人の当審における主張を,後記5のとおり被控訴人の当審における主張を,それぞれ付加するほか,原判決事実及び理由第2の1から3までに記載のとおりであるから,これを引用する。
3原判決の補正


原判決5頁9行目から10行目にかけての乙チ60を甲A14,H117,乙チ60,68,116に改める。


原判決5頁12行目から同頁14行目までを次のとおり改める。

学生は,防衛大の敷地内にある学生舎において,学年を異にする複数の者が同一の居室で起居を共にし,各室の4学年の者が室長及び副室長を務める。各居室は,自習室と寝室に分かれている。(乙チ55,60,125,弁論の全趣旨)


原判決6頁11行目の5から6頁を5丁,6丁に,同頁12行目の16頁,22頁を16丁,22丁に,それぞれ改める。


原判決7頁4行目から5行目にかけての何らかの罰ゲームをするように指示するを何らかの罰ゲームを受けるよう指示し,その罰ゲームの内容によって累積した点数を減らすに改め,同頁6行目の,C1を削り,同頁10行目の弁論の全趣旨を甲A11,B2,3,5,弁論の全趣旨に改
める。


原判決10頁3行目から4行目にかけての絵柄のスタンプの後に(LINEにおいて相手やグループに送信することができる絵やデザイン)を加える。



原判決11頁6行目の平成26年から同頁8行目の(乙チ81),までを控訴人は,平成26年5月9日,防衛大学生相談室(以下「本件相談室という。を訪れ,

同日相談員を務めていたA
(以下
A相談員
という。

に対し,
指導学生からのペナルティーが厳しく,
つらいと述べた
(乙チ81)」

に改める。



原判決11頁11行目の本件相談員をA相談員に改める。



原判決12頁8行目から同頁15行目までを次のとおり改める。

キ平成26年8月以降の対応(本件学生らの行為全般について)平成26年8月,控訴人が防衛大において暴力を受けたことを報じる新聞報道がされ,控訴人が,本件各行為について本件学生らに対して告訴をした。これを受け,防衛大は,同月以降,指導教官や学生らからの事情聴取等の調査を行い,B陰毛着火行為及びC陰部吸引行為が行われていたことを初めて把握したほか,Dが,同年4月中旬頃,中隊対抗のカッター競技会(カッターは手漕ぎのボートである。乙チ116,分離前相被告E)に向けて行われたミーティングの際,22中隊の他の4学年の学生とともに,控訴人を含む22中隊の2学年の学生全員に対し暴行等を行ったこと(以下「カッター暴行事件という。)を把握した。(甲A1,5,6,H118から121まで,乙チ13の1・2,弁論の全趣旨)」


原判決18頁3行目の後に改行して次を加える。
1学年時の教官らの記録の不備
1学年時の教官らが,1学年時に控訴人に対してされた加害行為のうち,教官において認識していたB反省文提出指示行為及びC暴行行為について,
適切に記録への記載をしていれば,2学年時における控訴人の教官らが,1学年時の控訴人が受けた心身のダメージを把握することができた。しかし,1学年時の教官らは,記録への適切な記載を行わなかったため,2学年時における教官らは,
1学年時における控訴人の心身の損害について控訴人の母
から情報提供されるまで把握することができず,1学年時における心身の損
害の蓄積を踏まえた控訴人の被害拡大を防ぐための措置を行うことができなかった。」

原判決18頁9行目から10行目にかけての本件相談員をA相談員に改める。


原判決22頁4行目の次に改行して次を加える。
1学年時の教官らの記録について
控訴人への加害行為について,被控訴人は必要な限りで記録に残しており,次年度の教官に引き継いでいるため,1学年時の教官らの記録に関する控訴人が主張する安全配慮義務違反は認められない。また,仮に記録に残さなかったとしても,加害学生らに対する指導等によって,加害学生らの控訴
人に対する加害行為はやんでおり,かつ,それぞれの加害行為は互いに独立して発生したものであるから,控訴人に対する安全配慮義務違反は認められない。」
4当審における控訴人の補充主張(被控訴人が国賠法1条1項に基づき控訴人に対して損害賠償義務を負うことについて)


防衛大の指導教官は,学生間指導を行う学生に対し,その職務として指導監督を行う者であって,指導教官が当該職務遂行に当たって,故意又は過失によって職務遂行を怠り,違法に他人に損害を加えたときは,国賠法1条1項に基づき,被控訴人が賠償責任を負う。
当時の防衛大では,学生間指導の名の下に,数多くの暴力等の加害行為が行われた事実が把握されていたのであるから,各指導教官が指導監督を行うに当
たっては,細心の注意が払われねばならず,とりわけ,被害の通報や相談があった場合には,指導監督を行う上で,何よりもまず事実確認をすることが必要であったにもかかわらず,各指導教官が指導監督に必要な事実の調査を怠ったことは明らかである。かつ,各指導教官は,事態の悪化を防止する対策を講ずるとともに,控訴人に健康被害が生じていれば,その心身の被害を回復するこ
とができるよう配慮するとともに,加害行為によって悪化している勤務環境を改善し,
控訴人がその後さらに不利益を受けることがないようにすべきであったところ,これを怠ったため,控訴人の訓練環境は深刻な程度に悪化し,これが控訴人の健康被害の累積に及び,重度ストレス反応を発症し,退校に追い込まれたのであって,指導教官らに注意義務違反があったことは明らかである。


控訴人が主張している被控訴人の安全配慮義務は,国賠法上の注意義務とほぼ重なるものであり,
被控訴人の安全配慮義務違反に関して控訴人が主張して
いる1学年時のF教官,
G教官及びH教官の対応並びに2学年時のI教官及び
J教官の対応(原判決事実及び理由第2の3⑴の控訴人の主張ウ及びエ)
からすれば,
これらの指導教官らに注意義務違反の過失があったことは明らか
である。
また,控訴人は,平成26年5月9日,Dからのエスカレートする暴力に耐えられなくなり,本件相談室を訪れ,A相談員に相談し,身体中の痣を見せたにもかかわらず,A相談員は,

まあ,頑張って耐えろ,湿布を貼っておけ。


(1年後の)4月の会議で話す。

などと言うだけで,何らの措置を執ることもなかった。A相談員は,学生間指導に名を借りた凄まじいまでの暴力を認識したのであるから,直ちに防衛大のトップに連絡を取り,被害調査を行い,控訴人に対する暴力をやめさせるよう助言すべきであったにもかかわらず,何らの措置も執らずに漫然と放置したのは,明らかな注意義務違反である。⑶

控訴人の損害は,指導教官らの上記注意義務違反の過失がなければ生じなかったものであるから,被控訴人は,控訴人に対し,国賠法1条1項に基づき,
控訴の趣旨2項の金額の損害賠償義務を負う。


控訴人については,本件訴えを提起した時点で,損害が確定していたわけではないから,消滅時効そのものが進行を開始していない。
また,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求と,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は,基本的な請求原因事実及び経済的な給付の目的が同一であ
る。したがって,控訴人は,加害行為及び損害を知ってから3年以内に,本件の訴えを提起し,
国賠法1条1項に基づく損害賠償請求と基本的な請求原因事
実及び経済的な給付の目的が同一である安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をしていたのであるから,同項に基づく損害賠償請求権につき催告が継続していたといえ,同損害賠償請求権の消滅時効は完成していない。
5
当審における被控訴人の主張(控訴人の当審における補充主張に対する反論
等)


控訴人が本件学生らから暴行等を受けたことを指導教官らが認識した後,指導教官らは,直ちに事実確認,本件学生らへの指導,医務室への受診,メンタ
ルヘルス係と面談の実施等の必要な措置を執っており,これらの対応によって控訴人に対する暴行等はやんでいるのであるから,指導教官らに職務上の注意義務違反は認められず,国賠法上の違法性はない。
A相談員は,防衛大の学生からの相談において,学生が自殺に及ぶ可能性があるとか,傷害等の事件に発展するおそれがあるなど,事件性が感じられる場
合には指導教官に連絡することとしていたが,控訴人からの相談については,控訴人から上級生の指導が厳しいといった相談を受けた記憶はあるものの,自らの具体的な発言内容は記憶しておらず,他の教官らに特段の連絡をしていない。これらの状況に照らすと,控訴人との面談の際,A相談員は,面談の内容から,
控訴人の自殺の危険や,
傷害等の事件に発展するおそれは見受けられず,
他の教官らに連絡をする必要もないと判断したと考えられ,その判断に不合理な点はなく,職務上の注意義務違反はない。



控訴人は,遅くとも本件訴えを提起した時点において,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求に関し,損害の発生を現実に認識し,被控訴人に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度に損害及び加害者を知ったといえるから,
被控訴人に対する国賠法1条1項に基づく損害賠償請求が追加さ

れた令和2年1月27日までに,同項に基づく損害賠償請求権の3年の時効期間が経過しており,上記損害賠償請求権は時効により消滅している。なお,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権と,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権は,成立要件を異にしており,実体法上別個独立の請求権であるから,
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の主張がされたことをもっ
て,
国賠法1条1項に基づく損害賠償請求について裁判上の請求があったとみることはできない。しかも,控訴人は,原審において,被控訴人に対する請求は国賠法に基づく請求ではなく民法415条の安全配慮義務違反による損害賠償請求であるとして,
あえて国賠法に基づく損害賠償請求ではないことを明
確にしていた。したがって,被控訴人に対する安全配慮義務違反に基づく損害
賠償請求訴訟の提起をもって,国賠法に基づく損害賠償請求権についての権利主張があったと認めることはできず,裁判上の催告があったと認める余地もない。
被控訴人は,令和2年3月4日の当審第1回口頭弁論期日において,上記時効を援用するとの意思表示をした。

第3当裁判所の判断
1認定事実
前記補正の上で引用した原判決の前提事実
(以下,前提事実
単に
という。,

後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。⑴

防衛大における補導一般及び学生間指導に対する補導

防衛大においては,学生隊生活,教育訓練及びその他諸般の学生の行動において,学生をして国家社会の一員としてはもとより,幹部自衛官としての
職責を理解してこれに適応する基本的な資質を修得させるための学生に対する指導を補導と称している。(甲H117)

防衛大においては,各学生について指導記録が作成される。これは担当指導教官が各学生について直接記録するものであり,学生の入校以前の生活歴,入校動機,性格,入校後の生活状況,成績,課外活動,健康状態等につ
いてその都度記録し,更にこれを追随し観察し,それによって学生の進歩向上の促進又は問題点の指摘と助言等に資するものであるとして,補導の基本的手段として重要な事項の一つであると位置付けられている。指導記録に担当指導教官が記入する項目の一つとして,指導実施記録記事があり,学生の思考又は心理的変化の状況,事故の詳細,共通補導に現れた特異な徴候,健
康状況など,記入すべき事項が具体的に決められているが,担当指導教官が交代しても本人の概形がつかめるよう,でき得る限り具体的に記入すべきであるとされている。(甲H117(79丁から85丁まで),乙チ103から109まで)

控訴人が防衛大に在学していた時期において,学生間指導に対する補導としては,中隊指導教官が,訓練科目として行われる講義である共通補導科目において,その中隊に所属する学生らに対し,学生必携や学生間指導のガイドライン等に基づいて,学生間指導に際して暴力や威圧による指導をしてはならないことなどを指導していた。また,中隊指導教官は,小隊
指導教官を指揮して,
適宜,
各小隊の状況につき報告を受けるともに,
毎朝,
中隊学生長及び中隊週番学生から学生らの状況につき報告を受け,必要があれば個々の学生と直接面談するなどしていた。
小隊指導教官は,中隊指導教官の指揮の下,共通補導科目の内容を補足する形で,朝礼や集会の際に,学生間指導の在り方について,その小隊に所属する学生らに教育を行うとともに,毎朝,小隊学生長及び小隊週番学生から学生らの状況につき報告を受け,学生間指導の内容に問題があれば,必要に
応じて中隊指導教官の指示を仰ぎつつ,小隊学生長等を通じてこれを是正し,異変のある学生とは個別に面談するなどしていた。
中隊指導教官及びその中隊に所属する小隊の小隊指導教官らは,いずれも同じ指導教官室で勤務し,適宜,各小隊及び中隊全体の状況につき情報を共有し,連携する体制をとっていた。

(甲H117(25丁から33丁まで)
,乙チ46,47(添付資料16)

64,119から123まで,証人I,同H,同J,同F)


防衛大における学生間指導の実態及びこれに関する教官の認識

平成22年4月に防衛大訓練部が作成した服務指導参考資料学生間指導のガイドライン(乙チ47添付資料2)では,

暴力的指導や下級生に対する不当な強制をもってする指導は厳に慎まなければならない。

指導は体罰を厳禁し,率先垂範及び口頭による指導を原則とする。

など,学生間指導において暴力を用いてはならないことが記載されていた。また,平成25年に策定された学生間指導の留意事項(乙チ47添付資料3)には,
上級生の下級生に対する指導は,慈愛をもって懇切に,言葉をつくして行うべきであって,暴力,いじめなどに依るべきではなく,また,これを徹底するのは極めて重要である。なぜなら,究極の実力機関である自衛隊の幹部に暴力の私的行使,違法な行使はあってはならないからである。との記述がある。(乙チ47)

イ防衛大学校改革に関する検討委員会が平成23年6月1日に発表した防衛大学校改革に関する報告書には,不祥事の防止と題する項目の中に,防衛大学校では,教育,訓練から学生舎生活にいたるまで徹底した規律指導を実施しているが,残念ながら不祥事は根絶されるには至らず,毎年のように大小の事案が発生している。近年の不祥事の傾向として,集団による不適切な学生間指導などの事案,特に上級生が主導し下級生を巻き込んで引き起こす例が見られる。また,上級生(特に4学年)になるほど,事案が増える傾向にある。との記述が存在する。(甲H69)ウ
防衛大においては,平成20年以降,控訴人が休学するに至った平成26年まで,学生が私的制裁(誤った下級生指導。通常,上級生が下級生を指導するという理由で不当に肉体的又は精神的な苦痛を与える行為をいう。)を理由として懲戒処分を受ける事案が毎年複数件発生していた。
学生が服務規律に違反した場合には,その学生を担当する小隊指導教官が事故報告を作成して,中隊指導教官,大隊指導教官及び訓練部長に報告し,訓練部が,当該服務規律違反行為につき,懲戒手続に移行するか,訓練部長注意や大隊指導教官注意等の部内指導とするかの方針を決定した。訓練部では,
服務規律違反が発生した場合に懲戒手続に移行するか部内指導とするか
の区別の基準に関する内規が存在し,平成24年12月の時点での基準では,私的制裁の場合,外傷がある場合又は被害者が退校を考えるなど心的被害が大きい場合には懲戒手続に移行し,それ以外の場合は部内指導とされていた。
(甲A8の1・2,9,H111,117(96丁から109丁まで),1
41,乙チ130)

平成26年8月に実施された本件アンケートでは,防衛大に入校してから粗相ポイント制をやられたと回答した学生が各大隊の約29%から64%,見たと回答した学生が各大隊の約48%から74%にものぼり,
学生間指導において殴る又は蹴るのを見た又は聞いたことがある学生も一定数存在した。(前提事実⑸ア)

K教官,F教官,G教官,H教官,I教官及びJ教官は,控訴人に対して本件各行為がされた当時,学生間で粗相ポイント制が行われていることは認識しておらず,
学生間に暴力や不適切な指導等も是とする認識が蔓延してい
るとの認識までは有していなかったが,
現に暴力的指導を理由に服務規律違
反の処分を受ける学生が毎年一定数存在することから,一般に学生間指導の
際に暴力が用いられることがあり得るという程度の認識はあった。(甲A8
の1,証人K,同F,同G,同H,同I,同J)


B陰毛着火行為及びこれに対する指導教官の対応等

Bは,平成25年6月14日の午後9時から9時10分までの休憩時間(自習時間の間の休憩時間)中,205号室の自習室において,控訴人に対
し,粗相ポイント制において累積した点数を減らすための罰ゲームとして,風俗店に行くよう求めたが,控訴人はこれを拒絶した。Bは,控訴人に,陰毛に火をつける罰ゲームを受けるよう求め,控訴人はこれを受け入れた。Bは,控訴人以外の1学年の学生に対し,ドア付近で見張りに立つよう指示した上,
やむなく自ら下半身裸となった控訴人の陰部に消毒用アルコールを1
0回程度吹きかけ,ライターで控訴人の陰毛に着火した。火はいったん大きく燃え上がったが,長い時間燃え続けることなく消えた。控訴人は,これによりやけどを負い,
出入口とは反対側の壁の近くにあるBの机と壁の間にう
ずくまり,下半身にタオルケットを掛け,氷水を入れたボトルで陰部を冷やした。
(甲A1,6,11,B1から5まで,乙チ1,3,4,控訴人本人〔第
1,2回〕
,分離前被告B本人)

K教官は,同日,第4大隊の当直勤務に当たり,午後9時過ぎ頃,第4号学生舎の巡回を開始し,B陰毛着火行為からそれほど時間が経過していない時点で205号室を見回りに訪れた。その際,室内が騒がしく,Bの机の背
後に控訴人がうずくまっている様子を見たが,他の学生から,控訴人が陰部をぶつけて痛がっていると聞いたことから,特段異常な事態とは考えず,B陰毛着火行為が行われたことには気付かないまま,打った箇所を処置するように指示して立ち去った。
(乙チ2,
4から6まで,10,
8,
11,
証人K)

その後,控訴人は,陰毛着火と剃毛行為はセットの罰ゲームであるというBの指示に従い,自らかみそりで陰毛を剃った(剃毛行為)
。これにより,控
訴人の陰部は,やけどに加え,剃毛行為による出血も生じた。
(甲B3,控訴

人本人〔第1回〕


H教官,F教官及びG教官(以下,この3人の指導教官を併せてH教官らという。)は,本件各行為に関する後記⑼ウの調査が開始されるまで,B陰毛着火行為について把握していなかった。
(証人G,同H,同F)



B反省文提出指示行為及びこれに対する指導教官の対応等

控訴人は,平成25年8月25日から居室が202号室となり,Bとは別室になった。



甲A11)

Bは,
平成25年9月半ば頃,
週番学生として見回りをした際,
控訴人が,
以前に同様の注意をしていたにもかかわらず,自習時間中の使用が禁止され
ている携帯電話を操作していたことから,同月17日,控訴人に対し,反省文を書いて提出するよう指示した。控訴人は,同月18日の朝に反省文をBに提出したが,Bから書き直しを命じられ,同月19日の朝に再度反省文をBに提出した。その後,Bは,控訴人が中休みの時間に携帯電話を操作しているのを認め,同月24日,反省文を提出するよう控訴人に命じ,その後,
同年10月8日まで,ほぼ連日,日によっては一日に数回,反省文を提出させては書き直しを命じることを繰り返した(B反省文提出指示行為)。
また,Bは,同じころ,控訴人に対し,制服の名札が汚いからという理由で何度も縫い直しを命じた。
控訴人は,定期試験期間前及び試験期間中であったにもかかわらず,B反
省文提出指示行為や名札の縫い直しの指示に対応したため,睡眠時間が不足する状態が続いた。
(甲A1,6.B4,6,H88の1・2,乙チ16,17,控訴人本人〔第1回〕
,分離前相被告B本人)

平成25年10月8日頃,控訴人の母から,F教官に対し,控訴人がBから反省文の提出を強要されている旨の情報提供がされた。F教官は,H教官
の指示により控訴人から事情聴取をしたところ,控訴人は,自習時間中に携帯電話を操作していたことで,週番学生のBから,反省文をA4用紙に3枚程度書かされ,また,些細なことで何度も書き直しを求められていると述べた。
F教官は,
控訴人に深刻そうな様子がないと認識したため,
それ以上に,
控訴人に対し,反省文の頻度や枚数を尋ねることや,反省文の現物を実際に
確認することはせず,
自習時間中に携帯電話を使用してはならない旨注意し
た。また,G教官は,H教官の指示によりBから事情聴取をしたところ,Bは,控訴人が複数回にわたり自習時間中に携帯電話を操作しており,口頭で注意しても改善が見られなかったことから反省文を書かせたが,控訴人の考えが浅かったため何度も書き直しを命じた旨述べた。

そして,H教官は,F教官及びG教官から,控訴人及びBの言い分について報告を受け,Bが自習時間中に携帯電話を操作していた控訴人に反省文を書かせること自体は指導方法の一つであるが,定期試験の時期に些細なことで何度も反省文を書き直しさせる方法は不適切であると判断し,G教官に対し,Bや小隊学生長等にその旨指導するように指示した。

これを受けて,G教官はBを,F教官は423小隊の小隊学生長を,それぞれ指導した。Bは,控訴人に反省文を提出させることをやめた。その後,G教官は,複数回,Bに対し,控訴人に反省文を書かせることをやめたかどうかを尋ね,これをやめた旨の返答を得たほか,H教官らは,中隊学生長等から,
Bが控訴人に反省文を書かせているとの報告がないことを

確認した。そこで,H教官らは,学生に関わる問題をなるべく大事にしたくないとの思いもあって,B反省文提出指示行為が服務事故に該当しないと判断し,事故報告を作成せず,大隊指導教官等に報告しなかった。
F教官は,B反省文提出指示行為に関し,控訴人の指導記録に,控訴人の母から,
控訴人が反省文等の不適切な指導を受けているのではないかとの情報提供があった,控訴人を呼び出し,反省文を書かされていたことを確認した,反省文を課した学生も呼び,理由を確認したところ,自習時間中の携帯
使用等同じことを何度も指導されたにもかかわらず,改善が見られないためであると回答した,
指導の手法を考えさせるとともに定期試験前という時節
もよく考えるよう指導した,控訴人にも,同じことを繰り返すことの理由を確認したところ,周りの学生もやっていたためと回答したため,考えの誤りについて指導を実施し,控訴人も理解している模様であると記載した。この
とき,
Bが繰り返し反省文の提出を控訴人に指示したことは記載しなかった。(甲H87,乙チ15,16,20,21,119,120,123,証人G,同H,同F,控訴人本人〔第2回〕


C暴行行為及びこれに対する指導教官の対応等

Cは,平成25年10月11日の早朝,202号室において,控訴人及び他の1学年の学生1人が,Cの指示に反して上級生を起こさなかったため,従前から,1学年の学生には生活態度全般に問題があり,これを注意しても改めないという思いを抱いていたこともあって,控訴人及び1学年の上記学生に対し,なぜ先輩を起こさないのか,口で言っても分からないなら体で覚えてもらう,歯を食いしばれなどと述べ,手加減してではあるが,利き腕で
はない左手の拳で控訴人の右頬の唇の右側部分を1回殴り,もう1人の1学年の学生の右頬も同様に殴った。この暴行により,控訴人は,口内が切れ,唇が腫れた。
(甲A1,6,甲C1,3,4,H89の1・2,乙ロ2,チ2
2,115,120,控訴人本人〔第1回〕
,分離前相被告C本人)

控訴人の母は,同月14日頃,防衛大に電話をかけ,いずれかの指導教官に対し,控訴人がCから殴られたことを伝えた。
F教官は,H教官の指示により,控訴人から事情聴取をしたところ,控訴人は,大したことではなく,控訴人の母が大げさに言っているだけである旨述べたことから,それ以上に,殴打の部位や態様を詳細に尋ねたり,控訴人の怪我の有無を確認したりはしなかった。また,G教官は,Cに対し,情報源を伝えることなく事情聴取をしたところ,Cが,控訴人が自分を朝起こさ
なかったので,おいと小突いただけである旨述べたことから,両者がボクシング部の先輩と後輩であることも踏まえて,ふざけて,じゃれ合っていただけであると判断した。その上で,G教官は,Cに対し,朝起こすように下級生に指示すること自体誤りであり,ボクシング部の主将であるCが,じゃれ合うという意識であったとしても,相手には暴力であると受け取られること
もあるから,今後,手を出さないようにと指導した。
H教官は,控訴人とCの言い分がおおむね整合しており,控訴人はCに小突かれたものの,控訴人の顔に傷やあざ等は認められず,軽微な案件であると判断した。その後,H教官らは,中隊学生長や421小隊の小隊学生長等から,
Cが控訴人に暴行を続けている旨の報告を受けなかった上,
従前から,

学生に関わる問題をなるべく大事にしたくないとの思いを抱いていたこともあって,C暴行行為は服務事故に該当しないと判断し,事故報告を作成せず,大隊指導教官等にこれを報告しなかった。また,F教官は,C暴行行為について控訴人の指導記録に記載しなかった。
(甲A6,H89の1・2,乙チ15,16,20,21,119,120,
123,126から128まで,131から133まで(いずれも枝番を含む。,証人G,同H,同F,控訴人本人〔第2回〕




C陰部吸引行為及びこれに対する指導教官の対応等

Cは,
C暴行行為後の平成25年10月中旬頃から同年12月末頃までの間に,
202号室の控訴人及び他の1学年の学生1人の生活態度に不満を募らせ,悪ふざけの気持ちもあって,202号室内において,控訴人及び上記学生に対し,ズボンと下着を脱がせた上,掃除機でそれぞれの陰部を吸引する行為を複数回行った(C陰部吸引行為)(甲A1,6,乙ロ2,チ22,。
115,控訴人本人〔第1回〕
,分離前相被告C本人)

H教官らは,本件各行為に関する後記⑼ウの調査が開始されるまで,C陰部吸引行為について把握していなかった。
(乙チ28,証人G,同H,同F)



D,L及びEの控訴人に対する行為並びにこれに対する指導教官の対応等ア
防衛大において,カッター競技会は,新2学年が気力,体力を向上させるとともに,
新4学年の指導の下に中隊全体が一致団結する機会として位置付
けられていたが,控訴人が2学年となった平成26年4月中旬頃,同年のカッター競技会に向けて行われたミーティングの際,Dは,22中隊の他の4
学年の学生らと共に,控訴人を含む22中隊の2学年の学生全員に対し,気合い入れと称して,
空気椅子と呼ばれる行為(両膝を折り,中腰の姿勢を
維持する行為)を強制し,姿勢の崩れた者に対して,頭を叩き,臀部を蹴り上げるなどの暴行を加えた(カッター暴行事件)(甲A6,H118,乙チ。
47添付資料2(8枚目)
,控訴人本人〔第1回〕



Dは,同年5月当時,22中隊の中隊学生長を務めていた。
Dは,同月6日,控訴人が,同日4時の着校時間の直前に外出先から防衛大内に帰校したことを認識し,同日中に,22中隊週番室において控訴人から事情を聴取したところ,控訴人が,事前に得ていた外出許可と異なり,実家に帰省していたこと(本件服務事故)を知った。Dは,指導において暴力
を振るうことも許されると認識していたこと,控訴人の態度が悪いと感じたことから,控訴人の顔面を右手の平で殴打し,その後,Dの自室である第2号学生舎203号室(以下203号室という。
)の自習室において,控訴
人の腹部を右手拳で殴打した。
(甲D1,2,乙チ141,控訴人本人〔第1回〕
,分離前相被告D本人)


Dは,同月7日の朝,I教官に対し,控訴人が特別外出許可とは異なる外出行動をとったことを報告した。I教官は,Dに対し,控訴人が特別外出の許可申請期間の経過後に福岡へ帰省したい旨申し出た経緯があることを伝え,そのことも踏まえて控訴人を指導するようDに述べた。このとき,I教官は,
本件服務事故に関して既に控訴人に対して学生間指導を行ったか否か,行ったとして暴力を振るっていないかについて,Dに尋ねることをせず,今
後の学生間指導で暴力を振るってはならないとDに指導することもなかった。Dは,上記経緯について控訴人がDに述べていなかったことから,控訴人に対して腹を立て,同日午前,203号室において,控訴人の胸部を右手のひらで1回押す暴行を加え,同日午後,203号室において,控訴人の左足首を右足で1回蹴る暴行を加えた。

また,
Dは,
同日から同月9日頃までの間,
複数回にわたり,
控訴人の机,
たんす,ベッド等を荒らし,制服をしわくちゃにするなどの飛ばし行為(D飛ばし行為)に及んだ。
(甲A6,D1,2,E2,乙チ75,121,141,控訴人本人〔第1回〕
,分離前相被告D本人,証人I)


控訴人は,同月8日夜,22中隊の2学年の学生を集めて,事故開示(服務事故を起こした学生が,同級生等を集めて,服務事故の内容や反省事項等を口頭で開示するもの。を行った。

22中隊の2学年であったL及びEは,
本件服務事故後の生活方針について控訴人が納得のいく説明をしておらず,
控訴人に反省の態度がないと感じ,本件服務事故後に2学年の学生全員が上級生から厳しい指導を受けるようになったとも認識していたことから,控訴人を問い詰め,これに対する控訴人の返答にも納得せず,Lが,控訴人の胸を数回突き,腹部を殴り,Eが,控訴人の胸倉をつかんで数回壁に押し付けた(Lら暴行行為)
。その後,L及びEは,控訴人を203号室に呼び出し,

さらに控訴人を詰問し,Eが控訴人の制服の名札を剥ぎ取ろうとするなどした。
(甲A1,6,D3,E5の1・2,乙チ113,114,142,143,分離前相被告L本人,同E本人)

控訴人は,同月9日,本件相談室を訪れ,A相談員に対し,本件服務事故で処分を待っており,指導学生からのペナルティーが厳しく,つらい旨述べた。A相談員は,控訴人の話を聴いたが,控訴人に対して具体的な助言をすることはなく,
控訴人から上記内容の相談があったことを防衛大の指導教官

等に伝えることもなかった。
なお,控訴人が防衛大に在学していた当時,本件相談室の相談員が学生から相談を受けた内容が,
当該学生を担当する指導教官に直接伝えられること
はなかった。
(甲A1,11,H70,乙チ81,証人J)


控訴人の母は,同日,防衛大に電話をかけ,J教官に対し,控訴人が上級生及び同級生から,暴力や飛ばし行為を受けていることを伝えた。J教官は,22中隊の中隊学生長であるDから事情を聴取したところ,Dは,
控訴人に対して暴力を振るったこと及び飛ばし行為をしたことを認めた。
J教官は,Dに対し,私的制裁をしてはならないと注意し,控訴人との接触や他の学生への指導を一切禁止する旨伝えた。
I教官は,J教官の指示に基づき,同日,控訴人から事情を聴取し,控訴人がL及びEから暴行を受けたことを把握した。このとき,控訴人は,I教官に対して目を合わせることはなく,ふさぎ込んだ様子であり,I教官が大
丈夫かと話しかけても,

はい,はい。

と受け答える程度で,ほとんど話さなかった。I教官は,控訴人に怪我がないかを確認した。
I教官による控訴人からの事情聴取の結果を受け,J教官は,L及びEから事情を聴取したところ,
L及びEは,
控訴人に暴行を行ったことを認めた。
J教官は,L及びEに対し,控訴人との接触を一切禁止する旨伝えた。
D,L及びEが,J教官から事情聴取を受けた後,控訴人に対して暴行や飛ばし行為をしたことはない。
J教官は,I教官に指示し,D暴行行為及びD飛ばし行為並びにLら暴行行為が発生したことを警務隊に通報させた。また,J教官は,同月13日,D暴行行為及びD飛ばし行為並びにLら暴行行為について事故報告を作成した。
J教官は,I教官に指示し,同日午後,D,L及びEが控訴人に謝罪する
場を設けた。D,L及びEは,控訴人に対して謝罪した。
(甲E2,乙チ15,31,32,41,121,122,129,135から137まで,141から143まで,証人I,同J,分離前相被告L本人,同E本人)

Dは,同月11日付けで中隊学生長を解任され,Lは,同日付けで小隊学生長付を解任された。
また,Dは,同月23日,部内指導のうち訓練部長注意を受け,L及びEは,同日,部内指導のうち総括指導教官注意を受けた。
(甲E2,乙チ130,135から137まで)



その後の控訴人に関する出来事,控訴人の状態及び指導教官の対応等ア
J教官は,平成26年5月13日及び同月14日,22中隊に所属していた大隊学生長から,本件服務事故及びそれに引き続くD,L及びEによる暴行等事案が発生した22中隊の悪い雰囲気を一掃するために22中隊の学生全員で走りたい旨の申出を受け,これを許可した。J教官は,本件周回走
の前後に,22中隊の学生全員に対し,今回走る目的は,中隊の学生に連帯責任として連帯罰を課すためではなく,22中隊の悪い雰囲気を一掃し,士気を高揚させるためである旨説明し,I教官及び22中隊の学生全員と共に,1学年及び2学年は軽装(作業服,半長靴,水筒,弾帯)で,3学年及び4学年には更に背嚢を背負わせ,自ら先頭に立って,学生舎及び教場の周りを
各日2周程度,20分程度の時間をかけて走った(本件周回走)(甲H98。
の1・2,乙チ34から37まで,122,証人I,同J)

控訴人は,本件服務事故について大隊首席指導教官注意を受けることになったが,同月21日,3学年のMから,上記注意を受けることを表彰を受けると説明すれば笑いがとれると促されて,
2学年のLINEグループに,
大隊首席指導教官注意を受けることを表彰を受けると表現した内容の本件メッセージを送信した。
(甲A11,H70,乙チ33,75,控訴人本人

〔第1回〕

Nは,
控訴人と学年も小隊も異なっており,
面識はなかったが,
控訴人が,
本件服務事故を起こして指導を受けているにもかかわらず,本件メッセージを送信したことを聞き,本件メッセージの内容も確認し,控訴人の態度が問題であると感じ,
指導教官から控訴人への指導を控えるよう説明を受けてい

たにもかかわらず,自ら指導することとした。Nは,同月23日,控訴人に対し,
本件メッセージの内容や注意処分を受けた際の服装が不適切である旨注意したが,控訴人に期待したような反応がないことから,ロッカーをガンガン叩き,声を荒げながら,軽率な行動を繰り返していると同期から見放されると述べ,
今回指導したことが改善されるかどうかは今後も見ていくとの

趣旨で,5月で指導が終わると思うなとも述べた(N呼出し等行為)(甲A。
1,乙チ42,75,138,控訴人本人〔第1回〕
,分離前相被告N本人)

控訴人は,同月13日頃から,体調を崩し,発熱,下痢,胃痛等の症状が続いていた。そして,控訴人は,防衛大では服務事故を起こすと1か月間上級生から厳しい指導が続くと認識していたが,Nから,5月で指導が終わる
と思うなと言われたことで,Dから受けていたような理不尽な行為が更に1か月は続くことになると感じ,
絶望的な気持ちを抱いた。
(甲H68,
乙チ1
5,控訴人本人〔第1回〕


控訴人は,同月26日朝,I教官に対し,防衛大での生活が苦痛であり,継続することが困難であるとして,退校の意思を告げた。
また,同日午前,控訴人の母が防衛大に電話をかけ,J教官に対し,控訴人が精神的に落ち込んでおり,一時帰省させたいので,それまで他の学生らから隔離してほしいと求めた。
J教官は,控訴人を他の学生らから隔離した上,防衛大のメンタルヘルス係の担当者と面談を実施させた。メンタルヘルス係の担当者は,控訴人に希死念慮があって心配であるとJ教官に報告し,J教官は,見守りを続けると
ともに,控訴人が退校意思を示したことから,I教官に指示し,控訴人が両親と進路の相談をできるように,約1週間の外泊を伴う平日外出の措置を執らせた。そして,J教官は,控訴人の母に対し,同月27日朝に控訴人を外出させる旨伝えた上で,同日朝,控訴人を帰宅療養(帰療)のため外出させた。

(甲A11,H87,99の1・2,100の1・2,乙チ15,121,122,証人I,同J)

控訴人は,①同年6月3日,自衛隊福岡病院において,引き続き2週間の療養を要する抑うつ状態と診断され,②同月5日,福岡県飯塚市内の病院において,
同年7月4日まで自宅療養及び通院加療を要する抑うつ反応及び自
律神経失調症と診断され,③同年6月20日,同市内の別の病院において,同年7月5日から1か月間の静養加療を要するストレス反応と診断された。(甲H6から9まで,乙チ15)

I教官は,同年6月30日,控訴人の母から,控訴人が本件メッセージを送信したことに関し,Nから恫喝を受けた旨の情報提供を受け,Nから事情
聴取を行い,Nに対し,指導の趣旨は理解できるが,ロッカーを叩いたり声を荒げたりしたことは,威圧的であり,不適切である旨指導した。(甲H8
7,乙チ121,122,138,証人I,同J)

Oは,控訴人が帰療となった後である同年6月上旬,206号室の他の学生らと共に,控訴人の写真の枠を黒いビニールテープで囲んだもの(本件工作物)を作成した上で,同室のドアと同じ壁面に設置され,ドアを開けた際にはドアの陰に隠れる位置にあったホワイトボードにこれを立てかけ,その周りに鳥居の絵を描き,
P大明神と呼んで合掌,礼拝するな
どの遊びを行っていた。この頃,I教官は,毎日,222小隊の全部屋を巡回していたが,自習室の中まで入ることはほとんどなく,出入口で室内の状況を確認するだけであり,本件工作物が206号室のホワイトボードに立てかけられていることには気付かなかった。
(甲F1,
乙チ76,
12
1,証人I,分離前相被告O本人)
Oは,同年6月30日,控訴人と同学年である2学年のいずれかの学生が控訴人の帰療に関する報告書を作成して提出する必要があったことか
ら,
2学年の特定の学生1人に対して報告書の作成,
提出を依頼するため,
本件工作物に,

夏期休暇へ移行。報告書出せじゃろ

と,控訴人の口ぶりをまねた吹出しを加えた写真(本件写真)を撮影し,上記学生に本件写真のデータを送信するつもりであったが,宛先を誤って,控訴人を含む22中隊の2学年全員がメンバーとなっているLINEグループ(以下本件グループという。)に送信した(O写真送信等行為)(甲A1,F1,G

1,乙チ76,139,控訴人本人〔第1回〕
,分離前相被告O本人)
Qは,同日,本件グループに送信された本件写真に気付き,本件グループのメンバーで自主的に退会しない者を強制的に退会させ,Qと控訴人のみが残った状態で,午後3時47分から午後4時頃まで,嘔吐,藁人形,
怒り等の絵柄のスタンプ合計724個程度を絶え間なく送信した上,なんで退会せんの?
とのメッセージを送信した
(Qスタンプ送信行為)こ

れに対し,控訴人が辞めさせたいわけ?やねやけどまだ,おれ戻るきあるんこれって,イジメてるんやろ?とのメッセージを送信したとこ
ろ,Qは控訴人を本件グループから退会させた。
(甲A1,G1,2,3,
5,
乙チ44,
77,
140,
控訴人本人
〔第1回〕分離前相被告Q本人)

I教官は,同年7月1日,控訴人の母から,控訴人が同級生から嫌がらせを受けた旨の情報提供を受け,控訴人と同室の学生らから事情聴取をするなどした結果,O写真送信等行為及びQスタンプ送信行為を把握し,O及びQから事情聴取をしたところ,Oは,本件写真を他の同級生に送信するつもりで誤って本件グループに送信してしまった旨,Qは,本件写真を他の学生に見られないようにするために他の学生を本件グループから退
会させた後,控訴人に見られないようにするためスタンプを送信した旨,それぞれ述べた。I教官は,J教官に報告した上で,Oに対しては,控訴人を誹謗中傷するような写真をLINEで共有することは不適切である旨,Qに対しては,大量のスタンプを送信する行為は相手に誤解を与え,不適切である旨,
それぞれ指導した。
(乙チ121,
122,
証人I,
同J)


控訴人については,その後,帰療期間が同年8月31日まで延長となったが,同年7月26日,ストレス反応により同年8月5日から3か月の静養加療が必要であると診断されたことに基づき,防衛大学校長は,同月31日,控訴人に対し,同日から同年11月5日までの休学を命じた。さらに,控訴人は,同年10月17日,ストレス反応により同年11月5日から5か月の
静養加療が必要であると診断され,この診断に基づき,上記休学の期間が平成27年4月5日までに延長された。
(甲H11,12,乙チ15,53,5
4)

控訴人は,平成26年8月7日,本件各行為について本件学生らに対して告訴をした。
(甲A11,乙チ15)


控訴人は,
平成27年3月21日,
防衛大学校長宛ての退校願を提出した。
控訴人は,上記退校願において,退校理由として,主治医により防衛大に復学すると重度ストレス障害が悪化する危険性が高くなると指導されたこと,及び,加害学生8人のうち3人が暴行罪で略式起訴となったため,仮に復学
しても加害学生からの報復の危険性が高いことを記載した。J教官は,所見として,控訴人の退校の意思は固く,今後も病気の治療が必要なこと及び両親も退校に同意していることから退校はやむを得ないと考えると記載した。控訴人に対しては,
同月30日付けで退校命令が発令された。
(甲H13,

チ80)

防衛大の事後的な対応等

防衛大は,平成26年6月27日,新聞記者から,控訴人が受けた暴力に関する問い合わせを受け,同年8月1日には新聞記者から取材の申込みを受けた。同月4日,控訴人が防衛大において暴力を受けたとの内容の記事が複数の新聞に掲載された。
(乙チ12,13の1・2,14)


F教官は,同年6月下旬ころ,第2大隊首席指導教官から指示を受け,B反省文提出指示行為に対する対応を含む,平成25年10月から同年11月
にかけての控訴人に関する事情を記載した資料であるPに関する資料と題する資料を作成した。
(乙チ16,133の1から6まで)

防衛大は,前記アの新聞報道がされたことを受け,平成26年8月4日,学校長を長とする学生間指導臨時調査委員会を設置し,本件各行為に関する事実関係等の調査及び同種事案の再発防止のための検討を開始した。
(甲A6)

防衛大は,同月,本件アンケートを実施した。
防衛大訓練部学生課は,本件アンケートの結果につき,①約半数以上の者が不適切な学生間指導を体験したり,見たりしており,この傾向は大隊ごと
の偏りもなく,
学校全体に広がっている,
②過半数の学生
(主に上級生)
が,
上記不適切な学生間指導を防衛大の伝統的なものとして受け入れている,③不適切な学生間指導の質(陰湿さ)について,学生の間での認識は薄いが,内容的には,今回の事案のように陰湿と思われる行為が多数存在している(部屋解雇,
指令外出,
食いシバキ等)④上記不適切な学生間指導が全く許,

されないと考えている者は極めて少なく,一方で,不適切な学生間指導が状況により許されると考えている学生が多数存在し,この状況は上級生になるにつれて増える傾向にあり,上級生になるほど遊びと捉える傾向にあるとまとめた。そして,同学生課による学生間指導に関する調査結果に対する幹事
いない,
これは伝統ではなく悪弊であることを学生に理解させて断ち切って導の変遷と認識について確認し,何が原因でこのような現状に至っているのか明
緯でそうなっているのかを確認して,学生たちにどのように指導したらいいのか,何を話せばよいのかを具体的に教えていく必要がある,などといった事項が挙げられた。

(甲H63,64,乙H82から86まで)

防衛大は,同年12月,
学生間指導の在り方を策定し,これに関する学
校長通達を発出した。
学生間指導の在り方は,従前からある学生間指導のガイドライン学生間指導の留意事項を見直し,学生に学生間指導に,
ついて正しい認識を持たせるために策定されたものであり,不適切な指導
(いじめ違法なもの)

等についても説明がされている。乙チ47資料5,


チ48)

防衛大は,
平成28年2月18日,
学生間指導臨時調査委員会
による調
査及び検討の結果をまとめた防衛大学校における不適切な学生間指導等に関する調査報告書を作成した。
この報告書では,
事案発生の原因が
近因
と遠因に分けてまとめられ,原因(近因)は,①コンプライアンスに関する認識の不足(上下関係を利用した身体的・精神的な攻撃(パワー・ハラスメント)や他者を不快にする性的な言動(セクシャル・ハラスメント)が行われていたが,これが社会常識から逸脱した行為であり,犯罪行為や人権
侵害等に当たる可能性があるという認識が欠如している。,②自衛隊員とし)
ての認識の欠如,③学生間における不適切な慣習の継承であるとされ,原因した中隊指導官,小隊指導官が十分な調査を行わなかったことにより,事後
の暴行等の事案を防止(抑止)できなかった可能性がある,また,指導官は平素から不適切な学生間指導を行わないよう指導を行っていたが,結果として暴行を伴う学生間指導が生起しており,指導が十分であったとはいい難いと述べている。
(甲A6)

控訴人に対する本件各行為に関しては,本件学生らが,同月26日に懲戒処分等を受けたほか,当時の指導教官等10名も訓戒等(訓戒2名,注意2名,口頭注意6名)の処分を受けた。H教官は,平成25年に発生した上級生による下級生に対する暴行等事案(C暴行行為)において,被害学生の母から連絡を受け,その概要を認知したにもかかわらず,被害学生による具体的な告発がなかったことや,事を大げさにしたくない旨の発言を受けるとと
もに,傷害行為を推定させるような外形上の変化を認めなかったことから,加害学生への指導と加害学生による謝罪のみを行わせ,被害学生の母に対して同処置を説明したことで納得したと認識し,担当の小隊指導教官に対して調査の指示を怠るとともに,上司である大隊指導教官への報告を怠ったことが規律違反の行為に当たるとされ,訓戒の処分を受けた。また,G教官及び
F教官も,
C暴行行為に係る対応に関し,
それぞれ注意の処分を受けた。
(甲
A5,乙チ131から133まで(枝番含む。)

2争点⑴(被控訴人の安全配慮義務違反の有無)について⑴
被控訴人の安全配慮義務

被控訴人(国)は,公務員に対し,被控訴人が公務遂行のために設置すべき場所,
施設若しくは器具等の設置管理又は公務員が被控訴人若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たって,公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っている(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決・民集29巻2号143頁,最高裁昭和58年5月27日第二小法廷判決・民集37巻4号477頁参照)上記義務は,。
被控訴人
が公務遂行に当たって支配管理する人的及び物的環境から生じ得べき危険
の防止について信義則上負担するものである。

前提事実⑴イ,⑵ア,ウによれば,被控訴人は,幹部自衛官となるべき者の教育訓練を行うため,防衛省に防衛大を設置し,特別職の国家公務員である学生に対し,学生舎等の施設を供与し,学生手当等を支給した上で,教育
訓練を実施し,学生舎での生活を営ませている。
したがって,被控訴人は,防衛大の学生に対する安全配慮義務として,学生が防衛大において教育訓練を受け,学生舎等において生活を送るに当たり,防衛大の組織,体制,設備等を適切に整備するなどして,学生の生命,身体及び健康に対する危険の発生を防止する義務を負っているものと認められ
る。
また,防衛大においては,幹部自衛官としての資質を育成するため,主に中隊及び学生舎における室等を単位として,学生間で,規律を遵守するように学生間指導が行われており,これは事実上行われているものではなく,防衛大の教育訓練の目的を達成するために行われるものと位置付けられてい
導が,防衛大の教育訓練や生活の中に組み込まれていたのであるから,被控訴人が学生に対して負う前記安全配慮義務には,防衛大の中で行われる学生間指導によって学生の生命,身体及び健康に対する危険が生じないよう,学生間指導が適切に行われるような一般的な指導を実施するとともに,学生間指導により具体的な危険が発生する可能性があると認められる場合には,この危険の発生を防止するための具体的な措置を講ずべき義務も含まれると解される。

防衛大においては,学生に対する指導(補導)や監督のため,総括首席指導教官,首席指導教官(大隊指導教官)
,次席指導教官(中隊指導教官)及び
指導教官(小隊指導教官)が置かれ,これらの指導教官により,学生全体に対する補導及び監督が行われるほか,学生隊,各大隊,各中隊及び各小隊に
おいて所属隊の指揮等の任務を行う学生隊学生長,大隊学生長,中隊学生長及び小隊学生長に対する指導監督も行われており(前提事実⑵イ),これら
の指導教官は,
被控訴人が防衛大の学生に対して負う安全配慮義務について
履行補助者の立場にあるということができる。
これに加え,控訴人は,防衛大の学生も被控訴人が負う上記安全配慮義務
についての履行補助者であると主張する。しかし,防衛大の学生は,被控訴人の設置した防衛大において教育訓練を受ける立場にある者であり,学生間指導において学生が他の学生を指導することがあるとしても,それは学生の教育訓練の目的で行われるものであることからすれば,学生が被控訴人の上記安全配慮義務について履行補助者の立場にあるとは認められない。


学生間指導の実態とこれに対する防衛大の取組の状況

のとおり,学生間指導は,将来自衛隊の幹部自衛官に
なる者として必要な進展性のある資質を育成するという教育訓練の目的を達成するため,自主自律の下,自己修練の一環として行われるものとして,防衛大において重要なものと位置付けられている。


しかし,控訴人が防衛大に在学していた頃において,毎年のように学生が私的制裁を理由として懲戒処分を受ける事案が複数発生していた事実(認定事実⑵ウ)及び本件アンケートに対する学生の回答の内容(前提事実⑸,認定事実⑵エ)によれば,控訴人が在学していた時期の防衛大においては,学
生間指導において,
上級生の下級生に対する暴力や不当な精神的苦痛を与え
る行為がしばしば行われていたものと認められる。
学生が私的制裁に当たる行為をした場合に懲戒手続に移行するのは,外傷がある場合や被害者の心的被害が大きい場合であって,そこまで悪質でない場合は部内指導とされていたのであるから(認定事実⑵ウ),私的制裁を理
由とする懲戒処分が複数発生している事実からは,そこまで程度が重くない私的制裁の事案に関して部内指導とされたものも毎年発生していたと推認
することができる。
また,平成23年に作成された防衛大学校改革に関する報告書にも,集団による不適切な学生間指導などの事案,特に上級生が主導し下級生を巻き込んで引き起こす例が見られるとの記述が存在する(認定事実⑵イ)。

控訴人が防衛大に在学した時期に防衛大の指導教官であったK教官,F教官,G教官,H教官,I教官及びJ教官は,学生間指導に関し,控訴人に対して本件各行為がされた当時,学生間で粗相ポイント制が行われていることは認識しておらず,
一般に学生間指導の際に暴力が用いられることがあり得
るという程度の認識を有していたにすぎず(認定事実⑵オ),当時の学生間

指導の実情を具体的に把握していなかったといえる。
前記イに挙げた事情によれば,上記指導教官らが学生間指導の実情を具体的に把握していなかったのは,学生間指導において暴力や不当な精神的苦痛を与える行為が行われていること自体は判明していたにもかかわらず,防衛大において,学生間指導の実態を具体的に把握する必要があるとの意識を欠
いており,
本件アンケートのような学生間指導の実態の把握のための調査等
の措置を講じなかったことが原因であると認められる。
また,
学生間指導における暴力や不当な精神的苦痛を与える行為を防止するために指導教官がどのように学生を指導すべきかに関する防衛大内部での検討も不十分であったということができる。

控訴人に対する暴力に関する新聞報道がされた後に設置された学生間指導臨時調査委員会が,不適切な学生間指導が発生した原因について検討しているところ,ここにおいても,学生間指導に関する誤解及び教育の不徹底並びに指導官の対応・指導不十分もその原因に含まれると結論付けられているところである(認定事実⑼カ)


本件学生らの本件各行為に関して被控訴人又は指導教官らが安全配慮義務を怠ったと認められるか否かについては,
以上のような学生間指導の実態

やこれに対する防衛大の取組の状況を踏まえて判断するのが相当である。⑶

被控訴人の本件各行為に関する安全配慮義務違反の有無

控訴人は,
本件各行為は集団による一連のいじめ行為であり,
被控訴人は,
学生らが控訴人に対して本件各行為に及ぶことを当初の段階から予見することができたから,
本件各行為が発生したことについて安全配慮義務違反を

負う旨主張する。
しかし,被控訴人又はその履行補助者である指導教官らにおいて,本件各行為がまだ発生していない当初の段階で,本件各行為について,その行為者及び行為の内容を予見することができたと認めるに足りる証拠はなく,控訴人の主張は採用することができない。


控訴人は,被控訴人が,本件各行為を当初の段階から予見することができなかったとしても,本件各行為が発生した各段階において,これを予見することが可能であり,かつ,本件各行為を把握した各段階において,その後の本件各行為の発生を予見することができたのであり,その都度,調査や再発
防止策を講じていれば,その後の各行為を未然に防ぐことができたと主張する。
しかし,認定事実によれば,B罰ゲーム指示行為,Lら暴行行為,N呼出し等行為,O写真送信等行為及びQスタンプ送信行為については,これらの行為が発生するまでに,被控訴人又は指導教官らにおいて,これらの行為を
した学生が控訴人に対して暴力又は不当な精神的苦痛を与える行為をすると事前に予見することができたとは認められず,また,これらの行為を把握した後の対応が不十分であったためにその後の各行為が発生したとも認められない。そして,これらの行為について,他に控訴人の上記主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。
本件各行為のうち,
上記各行為以外のものについては,
⑷以下で検討する。


B陰毛着火行為に関する安全配慮義務違反
認定事実⑶によれば,K教官は,平成25年6月14日,控訴人がB陰毛着火行為を受けてからそれほど時間が経過していない時点で,B陰毛着火行為の現場である205号室に見回りに訪れ,室内が騒がしく,控訴人がうずくまっていることを認識したにもかかわらず,控訴人以外の学生が,控訴人が陰部を
ぶつけて痛がっていると述べたのを聞いて,それ以上事情を確認することなくその場を後にしている。
しかし,
K教官が見回りをしたのは夜9時過ぎの自習時間又は自習時間の間の休憩時間であり,そのような時間において,学生が自室で陰部をぶつけてうずくまるというのは異常な出来事である。そして,前記のとおり,学生間指導
において暴力や不当な精神的苦痛を与える行為がしばしば行われていた事実も考慮すれば,K教官は,控訴人が同室の他の学生から暴力を受けるなど苦痛を与えられた可能性があり,かつ,控訴人が更に暴力又は不当な精神的苦痛を与える行為を受ける可能性があるとの認識を持ち,控訴人又は同室の学生から詳しく事情を聴取したり,うずくまっている控訴人の身体の状態を確認したり
すべきであったということができる。
それにもかかわらず,K教官はこれを怠り,控訴人以外の学生の説明を安易に信じたものと認められる。K教官が,その場で控訴人の状況を確かめていれば,
控訴人の陰毛が焦げた状態になっていることを認識した可能性があるといえるし,仮に上記の事情を認識することができなくても,控訴人の下半身が裸
であることは直ちに判明したと認められる。そうであるとすれば,K教官は,上記確認をしていれば,
控訴人が自ら陰部をぶつけてうずくまっているのでは
なく,
他の学生による暴力等によって控訴人が苦痛を与えられた可能性があると判断することができたといえ,Bを含む205号室内の学生に対し,控訴人に暴力を振るったり精神的苦痛を与えたりしてはならない旨の適切な指導をすることが可能であったと認められる。
以上によれば,K教官の上記対応には,控訴人に対する安全配慮義務違反が
あったと認められる。
そして,認定事実⑶の経過に照らせば,K教官の上記安全配慮義務違反により,
控訴人に対して暴力を振るったり不当な精神的苦痛を与えたりしてはならない旨の適切な指導がBに行われず,Bが,その日のうちに,更に控訴人に対して陰毛を剃るよう指示する行為に及び,控訴人がこれを拒絶することができ
ずに,自らの陰毛を剃ることを余儀なくされたものと認められる。これに加え,控訴人は,B陰毛着火行為に関して安全配慮義務違反があったために,
その後のB反省文提出指示行為の発生も防ぐことができなかったと主張する。しかし,B反省文提出指示行為は,B陰毛着火行為から約3か月が経過した後に発生したものであり,かつ,Bが当該行為に及んだ経緯もB陰毛着
火行為とは異なるものであるから,B陰毛着火行為に関してK教官の安全配慮義務違反があったために,B反省文提出指示行為の発生を防ぐことができなかったとは認められない。

B反省文提出指示行為に関する安全配慮義務違反

認定事実⑷ウによれば,BがB反省文提出指示行為に及んだ後,控訴人の母が,防衛大に電話をかけ,F教官に対し,控訴人がBから反省文の提出を強要されていることを伝えたこと,その後,Bからの事情聴取の後,H教官の指示に基づき,G教官がBに対し,定期試験の時期に反省文を何度も書き直させることは不適切であると指導し,その後Bは控訴人に対して反省文を
書き直して提出するよう指示しなかったことが認められる。
上記事実によれば,H教官らの対応により,BがB反省文提出指示行為を終了させたことが認められる。

しかし,
H教官らは,
B反省文提出指示行為について事故報告を作成せず,
大隊指導教官等への報告も行わなかった(認定事実⑷ウ)。前記⑴イのとおり,被控訴人が学生に対して負う安全配慮義務には,学生間指導による学生の生命,身体及び健康に対する危険の発生を防止する義務
が含まれると解されるところ,ある学生に対する学生間指導において暴力又は不当な精神的苦痛を与える行為がされた事案が発生した場合,当該事案に対する適切な対応を防衛大内部で検討する必要があり,また,当該学生がこのような不当な学生間指導を受けたことを踏まえて,当該学生に対応していく必要があることから,当該事案について必要な報告書を作成し,上司にそ
の内容を報告して,防衛大内部で情報を共有することが,学生間指導による学生の生命,
身体及び健康に対する危険の発生を防止するために必要なこと
である。
B反省文提出指示行為は,定期試験の期間中を含め,Bが繰り返し反省文の書き直しを控訴人に指示してこれを行わせたものであって,学生間指導と
しての適切な指導の範囲を超えた不当な精神的苦痛を与える行為に当たる。したがって,H教官らは,B反省文提出指示行為が服務事故(服務規律違反)に該当するものとして,事故報告を作成し,上司である大隊指導教官等に対して報告すべきであったのに,前記のとおり,これを怠っており,この点について控訴人に対する安全配慮義務違反が認められる。そして,この安
全配慮義務違反により,B反省文提出指示行為が発生した事実が防衛大内部において適切に共有されない結果が生じたということができる。

また,控訴人の所属する423小隊の指導教官であったF教官は,B反省文提出指示行為について控訴人の指導記録に記載したものの,その記載内容
は認定事実⑷ウのとおりであり,Bが繰り返し反省文の書き直し及び提出を指示したことを記載せず,
Bの行為が控訴人に不当な精神的苦痛を与える行
為であったことが明らかでない記載内容であった。
F教官は,B反省文提出指示行為に関して指導記録に不十分な記載をしたものといえる。また,中隊指導教官であったH教官は,F教官に対し,B反省文提出指示行為に関し,控訴人の指導記録に適切な記載をするよう指示すべきであったのに,この指示を行わなかったものと推認することができる。
これらの点につき,F教官及びH教官に,控訴人に対する安全配慮義務違反が認められる。
そして,上記両教官の安全配慮義務違反により,控訴人が1学年時に学生間指導において上級生から不当な精神的苦痛を与える行為を受けた事実が,指導記録を通じて2学年の担当指導教官に引き継がれることがなく,2学年
の担当指導教官が上記事実のあったことを踏まえて控訴人に対応することができないという結果が生じたと認められる。


C暴行行為に関する安全配慮義務違反
認定事実⑸イによれば,C暴行行為が発生した後,控訴人の母が,防衛大に
電話をかけ,控訴人がCから殴られた旨の情報提供をしたこと,H教官らが控訴人の母からの上記情報提供の事実を認識したことが認められる。F教官が控訴人から,G教官がCから,それぞれ事情聴取をしたが,G教官は,Cと控訴人がふざけて,じゃれ合っていただけであると判断し,Cに対する指導は,じゃれ合うという意識であったとしても,相手には暴力であると受
け取られることもあるから今後は手を出さないようにするよう述べるのみの軽微な内容であった。
この点,
F教官及びG教官の事情聴取に対しては,
Cのみならず,
控訴人も,
実際のC暴行行為と異なり,大したことではないなどと述べており,当事者であるCと控訴人がいずれもC暴行行為は軽微なものであったという趣旨の説
明をしている。
しかし,控訴人が,同室の上級生であるCからの報復等を恐れて,実際にはCから軽微でない暴行を受けたにもかかわらず,軽微であったと説明する可能性があることはH教官らにおいても認識することが可能であったといえる。しかも,控訴人の母がC暴行行為に関して情報提供してきた事実からは,控訴人がその母に対してCから暴行を受けたことを伝えた事実が推認され,C暴行行為が本当に軽微な事案であったとしたら,控訴人があえて母に連絡するかどうかについて,H教官らは疑問を持つべきであったといえる。
これらに加えて,一般的に,学生間指導において暴力や不当な精神的苦痛を与える行為がしばしば行われていた状況が存在していたことも考慮すれば,控訴人が軽微な事案である旨の説明をしていたとしても,H教官らは,控訴人が
Cから軽微でない暴力を受けた可能性があるとの認識を持った上で,①控訴人及びCから更に詳細な事情聴取を行うこと,②事故報告を作成し,上司である大隊指導教官等に事実関係を報告して,防衛大内部でC暴行行為に関する情報を共有し,対応について指示を受けること,③Cに対しては,軽微な有形力の行使しかしていない旨述べていたとしても,学生間指導において決して下級生
に暴力を振るってはならない旨十分に指導し,その後の調査の内容に応じて更に必要な指導をすることをすべきであったと認められる。
しかし,
H教官らは,
上記①及び②を怠り,③のCに対する指導についても,前記の軽微な内容のものでとどめた。
さらに,C暴行行為がB反省文提出指示行為と近接した時期に発生してお
り,かつ,いずれについても控訴人の母から防衛大に情報提供がされたことからすると,担当指導教官が変わっても,C暴行行為が発生したこと及び控訴人の母から情報提供がされたことを情報として把握しておくべきであるといえ,そのため,
小隊指導教官であったF教官において,
控訴人に関する指導記録に,
控訴人の母から情報提供がされたことも含め,C暴行行為に関する記載をすべ
きであり,中隊指導教官であったH教官は,そのような記載をするようF教官に指導すべきであった。しかし,F教官及びH教官は,これを怠った。以上の点につき,H教官らは,控訴人に対する安全配慮義務を怠ったものと認められる。
そして,認定事実⑸及び⑹の事実経過によれば,H教官らの上記安全配慮義務違反により,Cに対する適切な指導が行われず,その結果,Cが,C暴行行為と近接した時期にC陰部吸引行為に及ぶことを防ぐことができなかったと
認められる。また,H教官らの上記安全配慮義務違反により,C暴行行為に関して防衛大内部での適切な情報共有がされなかったことも認められる。⑺

D暴行行為に関する安全配慮義務違反

認定事実⑺イ,ウによれば,Dは,平成26年5月6日,控訴人が本件服務事故を起こした事実を認識し,控訴人の態度が悪いと感じたこともあり,
控訴人に対する暴力に及んだことが認められる。
同日のDの暴力については,防衛大の指導教官がこれを事前に予見することはできなかったといえる。

しかし,Dは,同月7日,I教官に対し,控訴人が本件服務事故を起こしたことを報告している。Dは,当時,控訴人が所属する22中隊の中隊学生
長であったのであるから,I教官は,Dが,上記報告の時点で既に控訴人に対して学生間指導を行ったか,又は今後学生間指導を行う可能性があることを認識することができたと認められる。
そして,当時の防衛大において,一般的に,学生間指導で暴力や不当な精神的苦痛を与える行為がしばしば行われていた状況が存在したことからす
れば,I教官は,Dが既に行った学生間指導で暴力を振るっていたか,今後行う学生間指導で暴力を振るう可能性があると認識することができたと認められる。

したがって,I教官は,Dに対し,既に学生間指導として控訴人に暴力を振るっていないかを確認した上で,今後学生間指導として控訴人に暴力を振るってはならないことを適切に指導すべきであったと認められる。しかし,I教官は,Dから前記報告を受けた際,上記の確認及び指導をすることなく,
控訴人が特別外出の許可申請期間の経過後に帰省したい旨申し
出た経緯があることを伝え,そのことも踏まえて控訴人を指導するようDに述べており,この点において,I教官は控訴人に対する安全配慮義務を怠ったと認められる。

そして,認定事実⑺イ,ウの事実経過によれば,I教官の上記安全配慮義務違反により,Dに対する適切な指導が行われず,その結果,平成26年5月7日及びそれ以降のDによる暴力及び飛ばし行為の発生を防ぐことができなかったと認めることができる。


その余の安全配慮義務違反の有無

J教官が本件周回走の申し出を許可したことについては,認定事実⑺及び⑻アに認定した事実経過によれば,本件周回走に参加することとなった22中隊の学生の間に,控訴人のために連帯責任を課されて走ることとなったとの不満を引き起こすおそれがあったことは否定できない。しかし,認定事実⑻によれば,①本件周回走の内容が過酷であったとまではいえず,②J教官
が,
連帯罰を課すものではなく悪い雰囲気を一掃するためのものであると22中隊の学生に説明し,自らも本件周回走に参加しており,③その後に発生したN呼出し等行為の直接のきっかけは控訴人による本件メッセージの送信であり,O写真送信等行為又はQスタンプ送信行為については,O及びQが本件周回走に対する不満を直接の原因としてこれらの行為に及んだとは
認められない。これらの事情によれば,J教官が本件周回走の申し出を許可したことについて,控訴人に対する安全配慮義務違反があったとは認められない。

A相談員が,本件相談室を訪れて,指導学生からのペナルティーが厳しくつらいと述べた控訴人に対し,具体的な助言をせず,控訴人の述べた内容を指導教官らに伝えなかったこと(認定事実⑺オ)については,控訴人において自身が受けた暴行等をどれだけ具体的にA相談員に説明したのか明らかでなく,A相談員の対応に安全配慮義務違反があるとまでは認められない。また,被控訴人において,本件相談室の組織や体制の整備に関し安全配慮義務違反があったとも認められない。

そして,その他の点について,被控訴人又は指導教官らにおいて,控訴人に対する安全配慮義務違反があったと認めるに足りる証拠はない。


小括
以上によれば,前記⑷から⑺までの点について,控訴人が在学していた時期の防衛大の指導教官らに,控訴人に対する安全配慮義務違反があったと認められる。

上記指導教官らは,防衛大の学生に対する被控訴人の安全配慮義務に関し,被控訴人の履行補助者であったといえるから,被控訴人が,控訴人に対して安全配慮義務違反の責任を負うと認められる。
3争点⑵
(被控訴人の安全配慮義務違反と控訴人の防衛大退校との相当因果関係の有無)について


認定事実⑻によれば,
①控訴人は,
平成26年5月26日,
I教官に対して,
防衛大での生活が苦痛であり,継続することが困難であるとして退校の意思を告げ,同日,控訴人と面談した防衛大のメンタルヘルス係の担当者は,控訴人に希死念慮があると判断したこと,②控訴人は,同月27日,帰療のため防衛
大を離れ,その後定期的に医師の診断を受けたが,抑うつ状態,自律神経失調症,ストレス反応などの精神的症状があると診断を受け続け,同年8月31日から休学とされたこと,③その後も控訴人の症状が回復せず,防衛大に在校して教育訓練を受けることが困難な状態が継続し,平成27年3月,控訴人が退校願を提出したことが認められる。

そして,上記事実並びに認定事実⑺及び⑻イ,ウによれば,控訴人は,Dから複数回暴行及び飛ばし行為を受けたことを大きな苦痛と感じており,平成26年5月13日頃から体調を崩していたが,防衛大では服務事故を起こすと1か月間上級生から厳しい指導が続くと認識しており,本件服務事故が発覚してDによる暴行等が始まったのが同月6日であり,そこから1か月程度でD暴行行為及びD飛ばし行為等による苦痛を受けることが終わると思っていたところ,同月23日,Nから,5月で指導が終わると思うなと言われ,その発言が,
Dから受けていたような理不尽な行為が更に1か月は続くことになるという意味であると捉えて,絶望的な気持ちを抱き,精神的な不調に陥り,希死念慮を抱くほどの状態になったものと認められる。
そうすると,控訴人において,精神的症状が発生し,これにより休学し,さらにこの症状が継続して退学せざるを得ない状況に至ったことについては,D
暴行行為及びD飛ばし行為が大きな要因となったと認められる。


前記2⑺の説示によれば,I教官が,Dから本件服務事故に関する報告を受けた際,Dに対し,既に学生間指導として控訴人に暴力を振るっていないかを確認した上で,
今後学生間指導として控訴人に暴力を振るってはならないこと
を適切に指導すべきであったのに,これを怠った安全配慮義務違反があり,こ
れによりDが同月7日以降にした暴行行為及び飛ばし行為を防止することができなかったと認められる。


前記⑴及び⑵の認定事実によれば,被控訴人の安全配慮義務違反と,控訴人の防衛大休学及び退校との間には相当因果関係があると認めることができる。


被控訴人は,控訴人は自らの意思で防衛大を退校したのであるから,被控訴人の安全配慮義務違反と控訴人の防衛大退校との間には相当因果関係がないと主張する。
しかし,前記⑴の認定事実によれば,控訴人は,D暴行行為及びD飛ばし行為を受け,さらにこれが継続する可能性があると考えたことなどにより,精神
的症状が発症し,平成27年3月に至ってもこれが回復せず,防衛大に在学して教育訓練を受けることが困難な状態が続いたため,防衛大から退校することを決断し,上記退校願を提出したのであって,このような事情の下では,控訴人が退校願を提出したことに基づき退校命令が発令されたのであるとしても,それによって,
被控訴人の安全配慮義務違反と上記退校との間に相当因果関係
が認められないことにはならない。被控訴人の主張は採用することができない。

4争点⑶(控訴人の損害額)について


医療関係費

5万6000円

認定事実⑻,証拠(甲H14から47まで)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,平成26年6月以降,精神的症状の治療のため病院に複数回通院し,処方された薬を購入していること,休学や退校の判断に関連して医師に診断書
の作成を依頼し,この作成費用を支払ったことが認められる。
控訴人は,医療関係費が合計7万2740円であると主張し,その内訳の表を書証として提出する(甲H14)。
証拠(甲H15から47まで)及び弁論の全趣旨によれば,甲H第14号証の表に記載された費用のうち,記載された金額を控訴人が支出し,これが被控
訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係があると認められるのは,同表の番号2から19まで(ただし,証拠(甲H34,35)によれば,13番は2140円と記載されているが,実際の支出額は2110円であると認められる。また,19番については,レシートのない薬代1200円は裏付けがなく,損害として認められない。)及び23であり,これらの金額を合計すると5万
6000円となり,
この金額が被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係の
ある控訴人の医療関係費であると認められる。上記の表に記載されたその余の費用については,証拠等によっても,その金額の支出がされたと認めるに足りない。


控訴人が防衛大を退校したことに伴う費用

0円

控訴人は,退校に伴う郵便料金等2万5931円が,被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害であると主張する。
しかし,控訴人は,上記損害に関し,その内訳表を書証として提出するものの(甲H48),この表に記載された支出に関しては,裏付け資料が全く証拠として提出されておらず,かつ,上記内訳表に記載された支出項目も,必ずしも具体的に記載されておらず,支出の趣旨が不明な項目もある。
以上によれば,控訴人の主張する退校に伴う郵便料金等2万5931円が,
被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。

控訴人は,
控訴人の母が控訴人の下に駆け付けるのに要した交通費等及び
本件学生らに対する告訴のために要した交通費等34万0794円が,被控
訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害であると主張する。しかし,平成6年生まれである控訴人(甲H6から10まで,弁論の全趣旨)の当時の年齢を考慮すれば,認定事実⑻の控訴人の精神的症状の内容に照らしても,控訴人の母が,控訴人の下に駆け付けることや,告訴のために交通費を支出することが必要不可欠であったと認めるに足りない上,上記交
通費等の支出に関する裏付け資料は証拠として提出されていない。以上によれば,控訴人の主張する上記交通費等34万0794円が,被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。


防衛大退校後の大学等の入試及び九州国際大学への入学後卒業までの費用0円
控訴人は,被控訴人の安全配慮義務違反により,防衛大を退校せざるを得なくなって,九州国際大学に入学したのであるから,同大学の入試を受験するために要した費用及び入学後の学費の合計379万5400円が,上記安全配慮
義務違反と相当因果関係のある控訴人の損害であると主張する。
しかし,
被控訴人の安全配慮義務違反と控訴人の防衛大退校との間に相当因果関係が認められるとしても,退校後に控訴人が大学を受験したことは,控訴人の自由意思によるものであって,被控訴人の安全配慮義務違反と,控訴人が防衛大退校後に大学を受験したこととの間には,相当因果関係を認めることはできない。したがって,上記大学の入試の受験に要した費用及び入学後の学費が,
被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある控訴人の損害であると
認めることはできない。


休業損害(休学による学生手当及び期末手当の減額分)16万2538円ア
前記3の説示のとおり,被控訴人の安全配慮義務違反と控訴人の防衛大休学との間には相当因果関係があると認められる。
そして,休学期間中は,学生手当の100分の80が支給されている(甲
H11,12)。防衛大の学生に支給されるのは学生手当及び期末手当であるところ(防衛省の職員の給与等に関する法律25条1項。乙チ61),期末手当の金額は学生手当の金額に一定の割合を乗じて定まるから(同条3項,一般職の職員の給与に関する法律19条の4第2項,4項),休学期間中は期末手当も上記割合で減額して支給されたと認められる。

以上によれば,
休学により減額となって支給されなかった学生手当及び期
末手当の金額は,
被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある控訴人
の損害であると認められる。

証拠(甲H61)によれば,控訴人の休学前である平成26年6月及び7月並びに休学した日の属する月である同年8月の学生手当の金額は月額10万8300円であり,税金等を控除した控訴人の手取りの金額は5万1361円であったこと,同年6月の期末手当の金額は15万1620円であり,
税金等を控除した控訴人の手取りの金額は12万2721円であったことが認められる。

同年8月から平成27年3月までの間に,防衛省の職員の給与等に関する法律25条2項が定める学生手当の金額が減額されたとは認められないから,控訴人は,防衛大を休学しなければ,平成26年9月から平成27年3月までの7か月間において,学生手当に関して手取りで少なくとも5万1361円を支給され,
平成26年12月の期末手当に関して手取りで少なくと
も12万2721円を支給されていたものと認めるのが相当であり,これに反する証拠はない。

証拠(甲H61)によれば,控訴人が平成26年9月から平成27年3月までの間において実際に支給を受けた学生手当及び期末手当の手取りの金額の合計は31万9710円であったと認められる。
以上によれば,休学により減額となって支給されなかった学生手当及び期末手当の金額の合計は,以下のとおり控訴人主張額である16万2538円
を下回らないものと認められ,この金額が被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある控訴人の損害であると認められる。
51,361×7+122,721-319,710=162,538⑸

控訴人が防衛大を退校せずに卒業していれば支給を受けられた学生手当等172万3548円


前記3の説示のとおり,被控訴人の安全配慮義務違反と控訴人の防衛大退校との間には相当因果関係があると認められる。
そして,控訴人は,精神的症状が回復せず,防衛大に在校して教育訓練を受けることが困難な状態が継続し,退校願を提出したものと認められるとこ
ろ(前記3⑴),控訴人について,上記の事情以外に,卒業まで防衛大に在籍することを困難とする事情があったとは認められない。
以上によれば,控訴人は,精神的症状が回復しないために防衛大退校を余儀なくされる事態にならなければ,卒業まで防衛大に在籍していたと認められ,平成27年4月から平成29年3月まで(控訴人が防衛大を退校してい
なければ3学年及び4学年であった期間)に支給されたはずの学生手当及び期末手当の金額は,
被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある控訴
人の損害であると認められる。

前記⑷のとおり,平成26年6月から同年8月までの学生手当の金額は月額10万8300円であり,税金等を控除した控訴人の手取りの金額は5万1361円であったこと,同年6月の期末手当の金額は15万1620円であり,
税金等を控除した控訴人の手取りの金額は12万2721円であった
ことが認められる。そして,平成27年4月から平成29年3月までの間に防衛省の職員の給与等に関する法律25条2項が定める学生手当の金額が減額されたとは認められない。したがって,控訴人は,防衛大を退校せずに卒業まで在籍していれば,平成27年4月から平成29年3月までの2年間において,
学生手当に関して手取りで少なくとも毎月5万1361円を受給

し,
年2回の期末手当に関して手取りで少なくとも毎回12万2721円を受給したものと認めるのが相当であり,これに反する証拠はない。また,控訴人が,上記期間に就職するなどして収入を得たとの事情も認められない。
以上によれば,
控訴人が防衛大を退校せずに卒業していれば支給を受けら

れた学生手当及び期末手当の金額は,以下のとおり控訴人主張額である172万3548円を下回らないと認められ,この金額が被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある控訴人の損害であると認められる。
51,361×24+122,721×4=1,723,548

被控訴人は,
控訴人が自らの意思で自由に就労することも可能であったか
ら,逸失利益としての損害は確定的に発生していないと主張する。しかし,控訴人が,上記期間に現実に就労するなどして収入を得たと認められない以上,控訴人が就労して収入を得ることが可能であったとしても,これをもって,前記イの損害が発生していないとか,得べかりし収入につい
て損害から控除されるということにはならない。被控訴人の主張は採用することができない。


控訴人が防衛大を卒業し,幹部自衛官に任官していれば得られた俸給等0円
控訴人は,
防衛大を卒業する22歳から54歳まで幹部自衛官として勤務し
た場合に得られる平均収入と全国の平均収入との差額の合計776万3031円が,
被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある控訴人の損害であ
ると主張する。
しかし,
防衛大の学生で自衛官に任官しない者が一定数いることは公知の事実であり,控訴人が防衛大を退校せずに卒業していた場合に,幹部自衛官として任官していたことが確実であったとはいえない。
したがって,幹部自衛官として勤務した場合に得られる金額と,我が国にお
ける平均収入との差額が,被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある控訴人の損害であると認めることはできない。


慰謝料

50万円

前記2に説示したとおり,被控訴人の安全配慮義務違反の結果防止することができなかった控訴人に対する加害行為が複数存在しており,特にD暴行行為及びD飛ばし行為は控訴人に大きな苦痛を与え,休学及び退校につながっていったことが認められる。
他方,
暴力や不当な精神的苦痛を与える行為による学生間指導は正当化することはできないものの,Dによる学生間指導が,控訴人が事前に得た許可と異
なる内容の外出をした本件服務事故を契機としていることは,慰謝料を判断する上で考慮すべき要素であるといえる。
また,控訴人は,原審において,被控訴人とともに本件学生らを被告として不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起しており,本件学生らについての口頭弁論は被控訴人についての口頭弁論から分離され,本件学生らに対する訴
えに係る判決において,元金で合計95万円の損害賠償(慰謝料)請求が認容され,この判決が確定したこと,上記判決の判断中で,Cについては,C暴行行為に係る慰謝料が15万円,C陰部吸引行為に係る慰謝料が10万円であるが,
このうちC暴行行為に係る慰謝料15万円は有効な弁済供託がされて債務が消滅したと判断されており,実質的に認容された慰謝料額は上記95万円に15万円を加えた110万円であることが認められる(当裁判所に顕著な事実)。

さらに,
休学によって減額された学生手当等及び退校によって支給を受けられなかった学生手当等については,前記⑷及び⑸のとおり,慰謝料とは別の損害として認められる。
上記各事情,その他本件で認められる全ての事情を考慮すると,被控訴人が控訴人に対して支払義務を負う慰謝料の金額を50万円と認めるのが相当で
ある。


前記⑴から⑺までの損害の小計



弁護士費用

244万2086円

24万円

上記⑻のとおりの損害の認容額,その他本件で認められる諸事情を考慮すると,
被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある控訴人の損害としての
弁護士費用を24万円と認めるのが相当である。

合計

268万2086円

5以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として,268万2086円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
6国賠法1条1項に基づく損害賠償請求について
前記2及び3の説示のとおり,被控訴人が,控訴人に対し,債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償義務を負い,被控訴人の安全配慮義務違反と控
訴人の防衛大休学及び退校との間にも相当因果関係があると認められ,被控訴人の安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害としては,休学及び退校に伴う損害も含め,前記4のとおりであると認められる。
また,控訴人は,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求についても,遅延損害金の起算日を訴状送達の日の翌日(平成28年4月9日)としている。上記の各事情に加え,控訴人が国賠法1条1項に関して主張する指導教官らの注意義務違反行為が,
債務不履行に基づく損害賠償請求で主張する安全配慮義務
違反の行為と基本的に同一であることも考慮すれば,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求として控訴人が被控訴人に対して支払を求めることができる金額は,元金及び遅延損害金のいずれについても,前記5の限度で認容される債務不履行に基づく損害賠償請求の金額を超えることはないと認められる。

7その他,原審及び当審における当事者双方の主張に鑑み,証拠の内容を検討しても,当審における上記認定判断(原判決引用部分を含む。
)を左右しない。
第4結論
以上によれば,控訴人の被控訴人に対する請求は,268万2086円及びこれに対する平成28年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払うよう求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれをいずれも棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部不当であり,本件控訴は一部理由がある。
なお,仮執行宣言については,主文第3項のとおり,主文第1項⑴に限り,被控訴人に本判決が送達された日から14日を経過したときから,仮に執行するこ
とができることとし,被控訴人の仮執行免脱宣言の申立てに基づき,被控訴人が215万円の担保を供するときは,その執行を免れることができることとする。よって,主文のとおり判決する。

福岡高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官

増田稔
裁判官

水野
裁判官

矢﨑正則豊
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