判例検索β > 令和2年(わ)第165号
名誉棄損被告事件
事件番号令和2(わ)165
事件名名誉棄損被告事件
裁判年月日令和2年12月10日
裁判所名・部福岡地方裁判所  小倉支部  第1刑事部
裁判日:西暦2020-12-10
情報公開日2021-01-25 12:00:18
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主文
被告人を罰金30万円に処する
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,AがB高速道路における自動車運転処罰法違反等で逮捕されたと報道されていた事件に関し,C株式会社の名誉を毀損するかもしれないことを認識しながら,あえて,平成29年10月11日午前7時52分頃,埼玉県川越市(以下省略)の被告人方において,パーソナルコンピュータを使用して,インターネットを介し,不特定多数の者が閲覧可能なインターネット上の掲示板である5ちゃんねる内の

【B夫婦死亡事故】A容疑者、『なぜPAから追いかけていった?』との質問に『やっぱこっちもカチンとくるけん』★13

と題するスレッドにAの親ってD区で建設会社社長してるってマジ?息子逮捕で会社を守るために社員からアルバイトに降格したの?との内容の投稿番号を引用した上で

これ?違うかな。

という文章に続けてC株式会社〒(郵便番号省略)福岡県北九州市D区(以下省略)(電話番号省略)等の会社情報が記載されたホームページのURLを投稿し,あたかも,同社がAの父親が経営する会社であり,Aの勤務先であるかのような事実を掲載し,これをインターネットを利用する北九州市D区(以下省略)の同社で勤務するEら不特定多数の者に閲覧可能な状態にさせ,もって,公然と事実を摘示し,同社の名誉を毀損した。
(事実認定の補足説明)
1
弁護人は,①被告人による判示の行為は名誉毀損罪の構成要件に該当せず,②名誉毀損罪の故意も欠けるから,被告人は無罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
しかしながら,当裁判所は,関係証拠に照らし判示の事実を認定したので,その理由を補足して説明する。
2
名誉毀損罪の構成要件該当性について


前提事実
関係証拠によれば,次の事実が認められる。

平成29年10月10日,Aなる人物(以下別件被疑者という。
)が,
B高速道路において,家族が乗っていた車の進路をふさいで停止させ,大型トラックによる追突事故を誘発させて死傷事故を起こしたとして逮捕され,同日以降,新聞等で広くその旨報道がなされた。


同月11日,インターネット上の掲示板である5ちゃんねる
(以下本件掲示板という。
)のニュース速報+というカテゴリ内に,【B夫婦死

亡事故】A容疑者、『なぜPAから追いかけていった?』との質問に『やっぱこっちもカチンとくるけん』★13

と題するスレッド
(以下
本件スレッド
という。
)が作成された。
本件スレッドは,匿名での投稿が可能であり,各投稿が投稿の順に番号を付して上から表示されるようになっていて,不特定多数の者が閲覧可能であった。


同日,氏名不詳者が,本件スレッドに,匿名で,投稿番号793として,Aの親ってD区で建設会社社長してるってマジ?息子逮捕で会社を守るために社員からアルバイトに降格したの?という投稿をした(以下793番の投稿という。。)


同日,被告人は,本件スレッドに,冒頭>>793と記載した上,

これ?違うかな。

という文章を記載し,更に続けて,ホームページのURLを記載した投稿をし(以下本件投稿という。,これを不特定多数の者が閲覧可)
能な状態にした。
なお,上記URLは,これをクリックすると,C株式会社(以下被害会社という。)の会社情報として,その所在地や電話番号のほか,建設,建築
業等を営んでいる旨記載がされたホームページが表示されるものであった。オ
同日以降,被害会社は,別件被疑者とは全く関係がないにもかかわらず,同人と関係があることを前提とした苦情の電話や無言電話が殺到したことで,一時休業を余儀なくされたほか,同社代表取締役は,取引先や従業員等に対し,同社が別件被疑者とは無関係である旨の説明を要する事態となった。


本件投稿が公然と事実を摘示したものといえるか否かについて

前記事実関係を基に検討すると,本件投稿は,前記⑴エのとおり,冒頭に>>793と記載したものであるところ,その体裁からして,本件投稿を閲覧した者は,通常,本件投稿を793番の投稿に対する返信と捉えるであろうことが認められ,実際,本件投稿を見た者の中に,本件投稿の記載から,本件投稿が793番の投稿に対する返信であると理解した者の存在が裏付けられている。そして,本件投稿の

これ?違うかな。

という記載のみでは本件投稿の意味をにわかに理解できないことに加えて,本件スレッドは不特定多数の者が閲覧可能であり,本件投稿の閲覧者において容易に793番の投稿を見ることができたことも併せ考えると,本件投稿の閲覧者は,本件投稿と793番の投稿を併せて読むことが通常想定されるというべきである。そして,本件投稿の閲覧者において,本件投稿と793番の投稿を併せて読んだ場合,両者の記載内容に照らし,本件投稿に記載されたURLによって表示される被害会社が,793番の投稿でいう別件被疑者の父親が経営する会社であり,別件被疑者の勤務先等である可能性があると容易に理解するものと認められる。
そうすると,被告人は,本件投稿により,被害会社が別件被疑者の父親が経営する会社であり,別件被疑者の勤務先等である可能性があるかのような具体的な事実を摘示し,かつ,これを不特定多数の者が閲覧可能な状態に置いたといえ,公然と事実を摘示したものと認められる。


これに対し,弁護人は,そもそも本件投稿と793番の投稿の各内容を併せて見るべきではないという趣旨の主張をする。
しかしながら,前記のとおり,本件投稿が793番の投稿に対する返信と捉えられること等からすると,本件投稿の閲覧者は,その内容を理解しようと793番の投稿内容も見た上で本件投稿を読むのが通常といえ,弁護人の上記主張は,むしろ不自然な読み方を前提にするもので,採用できない。
また,
弁護人は,
本件投稿がされた媒体が匿名掲示板であることに加え,
本件投稿の体裁が疑問符を付け,確認を求めるものであることなどからすると,本件投稿の内容はその真偽について疑いをもって見られるようなものであるから,そもそも事実の摘示があったとは評価できない旨主張する。確かに,匿名掲示板では,一定の虚偽事実が投稿されることは周知の事実といえる。しかしながら,他方で,投稿された内容はすべからく虚偽事実との認識まで広く共有されているとは考えにくく,結局のところ,閲覧者は,その媒体の性質を踏まえつつ,その投稿の内容等に則して,真偽の可能性について判断を行っているものと解される。そうしたところ,本件投稿は,弁護人が指摘するとおり,疑問符を用い,
違うかな。」と記載し
て断定的な表現をしてはいないものの,その記載上,793番の投稿の内容自体には疑問を呈することなく,記載した経緯についての説明や何らの留保を付さないまま,793番の投稿内容を前提に,それに沿った被害会社の情報を記載しているのであるから,本件投稿の閲覧者において,被害会社が793番の投稿でいう別件被疑者の父親が経営する会社であり,別件被疑者の勤務先等である可能性がおよそないものと理解するとは考え難い。現に,本件投稿を閲覧した者の中には,本件投稿を元にして,更に本件投稿と同種とうかがわれる内容を投稿した者がおり,そのような情報が順次拡散した結果,被害会社が前記2⑴オのとおりの対応を余儀なくされる結果となっていることも併せ鑑みれば,弁護人指摘の点により,本件投稿が,およそ信頼性の低い情報として受け取られるものとの疑いは存しないというべきである。
以上のとおり,弁護人の上記主張は,採用できない。


本件投稿が被害会社の名誉を毀損するものか否かについて

前記のとおり,本件投稿は,被害会社が別件被疑者の父親が経営する会社であり,
別件被疑者の勤務先等であるかのような事実を摘示するものであり,その閲覧者において,被害会社が,広く報道されている前記事故を引き起こした別件被疑者の勤務先等である可能性があると思わせ,ひいては,被害会社がかかる犯罪者を輩出する不十分な指導や監督しかなし得ない会社であるなどといったイメージを抱かせ,同社がこれまでに培ってきた信用や評判に疑問や誤解を生じさせうるものというべきである。実際,前記のとおり,本件投稿の後,本件投稿を元にして,本件投稿と同種とうかがわれる内容を投稿した者がおり,そのような情報が順次拡散した結果,被害会社が前記2⑴オのとおりの対応,とりわけ,取引先への説明等を余儀なくされる結果となっていることが認められ,このことは本件投稿が前記疑問や誤解を生じさせ得ることの裏付けといえる。
以上によれば,
本件投稿は,
被害会社の名誉を毀損するものと認められる。


これに対し,弁護人は,本件投稿が,仮に別件被疑者が被害会社に勤務しているとの事実を摘示するものであるとしても,犯罪の被疑者がたまたま勤めていた会社が被害会社であるという事実を示すに過ぎないから,被害会社の社会的評価を害するものではない旨主張する。
しかしながら,本件における前記事情,とりわけ,被害会社が余儀なくされた対応等に鑑みると,前記のとおり,本件投稿は,被害会社の名誉を毀損するものと認めるのが相当であって,本件において,弁護人の上記主張を採用することはできない。

3
名誉毀損罪の故意の有無について
前記のとおり,被告人は,何らの留保を付さないまま793番の投稿の内容を前提に,これに沿った被害会社の情報を投稿したことが認められるところ,本件投稿の閲覧者は,793番の投稿を併せて読んだ上で,本件投稿に記載されたURLによって表示される被害会社が,793番の投稿でいう別件被疑者の父親が経営する会社であり,別件被疑者の勤務先等である可能性があると理解するものと考えられ,本件投稿及び793番の投稿内容を認識している被告人においても,当然,本件投稿の閲覧者がそのように理解する可能性があると認識したことが容易に推認される。そして,793番の投稿等から別件被疑者ないしその勤務先等に対する否定的評価の存在を把握し得ることに照らすと,上記認識を有する被告人において,自らの判示の行為により被害会社の社会的評価が害される可能性を認識したことも優に推認され,これについて否定する趣旨の被告人の供述は俄かに信用することはできない。
以上によれば,被告人は,本件投稿により,被害会社の名誉を毀損するかもしれないことを認識しながら,あえて本件投稿をしたと推認することができ,被告人が少なくとも名誉毀損の未必的な故意をもって,本件投稿に及んだと認められる。被告人の供述を基に弁護人が種々主張するところを踏まえて検討しても,同認定は揺らがない。
4
以上の次第で,判示のとおり認定した。

(量刑の理由)
被告人による本件投稿は,インターネットを閲覧しうる不特定多数の者に対し,被害会社の社会的評価を低下させる危険を生じさせる行為であり,実際に被害会社に生じた事態を軽視することはできない。被害会社に与える影響に十分に思いを致さなかった被告人の行動はあまりにも浅慮と言わざるを得ず,非難を免れない上,現時点においても,本件についての被告人の受け止めは十分とはいえない。もっとも,証拠上,被告人に被害会社の名誉を積極的に毀損する意図があったとまでは認められないこと,被害会社に実害が発生するまでには本件投稿以前の793番の投稿をした者や本件投稿後の第三者の行為が介在していること,被告人に前科前歴がないことなどは考慮すべき事情といえる。
以上によれば,被告人に対しては,主文の罰金刑を科すのが相当である。(求刑

罰金30万円)

令和2年12月10日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

葛󠄀

喜史山香奈西正成
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