判例検索β > 平成28年(行ウ)第211号
工事実施計画認可取消請求事件
事件番号平成28(行ウ)211
事件名工事実施計画認可取消請求事件
裁判年月日令和2年12月1日
裁判所名・部東京地方裁判所
裁判日:西暦2020-12-01
情報公開日2021-01-22 12:00:19
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和2年12月1日判決言渡

同日原本領収

平成28年(行ウ)第211号

裁判所書記官

工事実施計画認可取消請求事件(以下甲事件

という。)
平成31年(行ウ)第115号
工事実施計画認可取消請求事件(以下乙事件

という。)
口頭弁論終結日

令和元年12月20日
判主1決文
別紙甲事件原告目録記載の原告らの甲事件の訴え及び別紙乙事件原告目録記載の原告らの乙事件の訴えをいずれも却下する。

2
訴訟費用は,甲事件につき別紙甲事件原告目録記載の原告らの負担とし,乙事件につき別紙乙事件原告目録記載の原告らの負担とする。
事実及び理由

第1
請求

(甲事件)
国土交通大臣が平成26年10月17日付けで参加人に対してした全国新幹線鉄道整備法9条1項に基づく中央新幹線(品川・名古屋間)の工事実施計画(その1)の認可を取り消す。
(乙事件)
国土交通大臣が平成30年3月2日付けで参加人に対してした全国新幹線鉄
道整備法9条1項に基づく中央新幹線(品川・名古屋間)の工事実施計画(その2)の認可を取り消す。
第2

事案の概要(本判決で摘示する法令の規定は各当時のものをいう。)甲事件は,参加人が,国土交通大臣(以下国交大臣という。)に対し,
中央新幹線(品川・名古屋間)の建設(以下本件事業という。)のうち土木構造物関係分の工事に関する工事実施計画(以下本件計画(その1)という。)の認可の申請をしたところ,国交大臣が,全国新幹線鉄道整備法(以下全幹法という。)9条1項に基づく認可(以下9条認可という。)として,本件計画(その1)の認可(以下本件認可(その1)という。)をしたことについて,本件事業が実施されることが予定されている地域を含む東京都,神奈川県,山梨県,静岡県,長野県,岐阜県,愛知県の7都県(以下
本件7都県という。)等に居住する甲事件原告らが,本件認可(その1)は違法であると主張して,その取消しを求める事案である。
乙事件は,参加人が,国交大臣に対し,本件事業のうち本件計画(その1)に係る工事以外の工事に関する工事実施計画(以下本件計画(その2)といい,本件計画(その1)と併せて本件各計画という。)の認可の申請を
したところ,国交大臣が,9条認可として,本件計画(その2)の認可(以下本件認可(その2)といい,本件認可(その1)と併せて本件各認可という。)をしたことについて,本件7都県のうち東京都,静岡県,長野県,岐阜県,愛知県に居住する乙事件原告ら(以下,甲事件原告らと併せて原告らという。)が,本件認可(その2)は違法であると主張して,その取消し
を求める事案である。
被告は,原告らは本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有しない等の本案前の主張をして,訴えの却下を求めている。
なお,乙事件の弁論は甲事件の弁論に併合され,また,参加人は,行政事件訴訟法22条1項に基づき,
甲事件及び乙事件それぞれにつき訴訟参加をした。

1
前提事実(当事者間に争いがないか掲記の各証拠等及び弁論の全趣旨により認められる事実)


中央新幹線に係る建設計画の経緯

運輸大臣は,全幹法4条1項に基づき,昭和48年11月15日運輸省告示第466号により,次のとおり,建設を開始すべき新幹線鉄道の路線(以下建設線という。)を定める基本計画を決定した(乙9)。
路線名

中央新幹線

起点

東京都

終点

大阪市

主要な経過地

甲府市付近,名古屋市付近及び奈良市付近

運輸大臣は,全幹法5条1項に基づき,中央新幹線の建設について,昭和62年11月5日,日本鉄道建設公団に対し,甲府市付近・名古屋市付近間の山岳トンネル部に係る区間の地形,地質等に関する事項の調査を指示し(乙10),平成2年2月6日,同公団及び参加人に対し,東京都・大阪市間の地形,
地質等に関する事項の調査を指示し
(乙11の1,
2)

同公団の権利義務を承継した独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機
構(以下鉄道・運輸機構という。)及び参加人は,平成20年10月22日,国交大臣に対し,上記各調査に係る調査報告書を提出した(乙12)。
国交大臣は,全幹法5条1項に基づき,中央新幹線の建設について,平成20年12月24日,鉄道・運輸機構及び参加人に対し,①輸送需要量
に対応する供給輸送力等に関する事項,②施設及び車両の技術の開発に関する事項,③建設に要する費用に関する事項,④その他必要な事項の調査を指示し(乙13),鉄道・運輸機構及び参加人は,平成21年12月24日,
国交大臣に対し,
上記調査に係る調査報告書を提出した
(乙14)


国交大臣は,交通政策審議会に対する諮問及び同審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会(以下本件小委員会という。)からの答申(以下本件答申という。乙3,15の1)を経た上で,全幹法6条1項に基づき,平成23年5月20日,参加人を,中央新幹線(東京都・大阪市間)の営業主体及び建設主体として指名する(乙17の1,2,1
8の1,2)とともに,同法7条1項に基づき,同月26日,次のとおり,中央新幹線の建設に関する整備計画を決定した(乙5,19)。
建設線
区間

中央新幹線
東京都・大阪市間

走行方式

超電導磁気浮上方式

最高設計速度

時速505km

建設に要する費用の概算額(車両費を含む。)

主要な経過地

9兆0300億円

甲府市付近,赤石山脈(南アルプス)中南部,名古屋

市付近,奈良市付近

国交大臣は,全幹法8条に基づき,平成23年5月27日,参加人に対し,中央新幹線(東京都・大阪市間)の建設を前記ウの整備計画に基づいて行うべきことを指示した(乙20)。



環境影響評価の実施

全幹法に基づく建設線の建設の事業は,環境影響評価法(以下評価法という。)及び環境影響評価法施行令(以下評価令という。)が規定する第一種事業(規模(形状が変更される部分の土地の面積,新設される工作物の大きさその他の数値で表される事業の規模をいう。)が大きく,
環境影響の程度が著しいものとなるおそれがあるものとして政令で定めるもの)に該当し(評価法2条2項,評価令1条,3条,別表第一の三の項のイの第二欄,第四欄),評価法に基づく環境影響評価の実施が義務付けられる(以下,本件事業について実施された評価法等に基づく一連の環境影響評価の手続を本件環境影響評価という。)。


参加人は,平成23年8月5日までに,本件事業につき,本件7都県それぞれに係る計画段階環境配慮書を公表した。


参加人は,平成23年9月27日,本件事業につき,本件7都県それぞれに係る環境影響評価方法書(以下方法書という。)を公告するとと
もに,同日から1か月間,本件7都県において,当該都県に対応する方法書を縦覧に供した。
本件7都県の各知事は,平成24年3月までに,参加人に対し,方法書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べた。

参加人は,平成25年9月20日,本件事業につき,本件7都県それぞれに係る環境影響評価準備書(以下準備書という。)を公告するとともに,同日から1か月間,本件7都県において,当該都県に対応する準備
書を縦覧に供した。
本件7都県の各知事は,平成26年3月,参加人に対し,準備書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べた。

参加人は,平成26年4月23日,国交大臣に対し,本件事業につき,本件7都県それぞれに係る環境影響評価書(以下評価書という。)を
送付した。
環境大臣は,平成26年6月5日,国交大臣に対し,各評価書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べ,国交大臣は,同年7月18日,参加人に対し,各評価書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べた。

参加人は,平成26年8月26日,国交大臣に対し,上記各意見を踏まえて補正した各評価書
(丙1の1~7の3,本件各評価書
以下
という。

を送付し,同月29日,本件各評価書を公告するとともに,同日から1か月間,本件7都県において,当該都県に対応する本件各評価書を縦覧に供した。



本件各認可

本件認可(その1)
参加人は,本件事業のうちガイドウェイ(軌道),高架橋,橋梁,トンネル等土木構造物関係分の工事に関する品川・名古屋間工事実施計画(その1)(本件計画(その1))を作成し,平成26年8月26日,国交大臣に対し,認可の申請をした(乙43の1~11)ところ,国交大臣は,全幹法9条1項に基づき,同年10月17日,参加人に対し,本件計画(その1)の認可(本件認可(その1))をした(乙4)。本件認可(その1)で認可された本件計画(その1)の概要は次のとおりである(乙4,43の1~11。別紙中央新幹線(品川・名古屋間)概要図参照)。


区間

品川・名古屋間


駅の位置

①品川駅(地下,品川駅に併設,東京都港区A),②神
奈川県駅(仮称,地下,新設,相模原市B区C),③山梨県駅(仮称,地上,新設,甲府市D字E),④長野県駅(仮称,地上,新設,長野県飯田市F),⑤岐阜県駅(仮称,地上,新設,岐阜県中津川市G字
H),⑥名古屋駅(地下,名古屋駅に併設,名古屋市I区J)ⅲ
車両基地の位置

関東車両基地(仮称,新設,相模原市B区K),

中部総合車両基地(仮称,新設,岐阜県中津川市L)

線路延長

286.605km

このうち,トンネルが246.6km(約86%),高架橋が23.
6km(約8%),橋梁が11.3km(約4%),路盤が4.1km(約1.4%)である。

工事方法

最小曲線半径は基本8000m(やむを得ない場合は8

00m),最急勾配は40%,軌道の中心間隔は5.8m以上(ガイドウェイ中心線間隔)であること等

ⅵⅶイ
工事の着手の予定時期
工事完了の予定時期

認可の日
平成39年(令和9年)

本件認可(その2)
参加人は,本件計画(その1)に残余の工事である電力設備等の工事
を追加すること等を内容とする
品川・名古屋間工事実施計画(その2)
(本件計画(その2))を作成し,平成29年9月25日,国交大臣に対し,認可の申請をした(乙88の1~16)ところ,国交大臣は,全幹法9条1項に基づき,平成30年3月2日,参加人に対し,本件計画(その2)の認可(本件認可(その2))をした(乙89,90)。本件認可(その2)で認可された本件計画(その2)は,既に認可を受けた本件計画(その1)に,工事方法として,列車の制御方式,通信
設備の概要,発電所及び変電所の概要等を追加し,一部の駅及び一部区間の線形を変更するなどしたものである(乙90)。


中央新幹線の走行方式

超電導磁気浮上方式(超電導リニア方式)(丙9)
中央新幹線の走行方式として採用された超電導磁気浮上方式は,次のとおりであるとされている。
ある種の金属・合金・酸化物を一定温度以下としたとき,電気抵抗がゼロになる現象を超電導状態といい,超電導状態となったコイル(超電導コイル)に一度電流を流すと半永久的に流れ続ける。

中央新幹線では,超電導材料としてニオブチタン合金を使用し,液体ヘリウムでマイナス269℃に冷却することにより,超電導状態を作り出す。
中央新幹線は,車両に搭載した超電導磁石と地上のガイドウェイ(軌道)に設置されたコイルとの間の磁力によって,車両を10cm程度浮
上させ,走行する。
すなわち,
ガイドウェイの推進コイルに電流を流すことにより磁界
(N
極・S極)が発生し,車両の超電導磁石(N極・S極を交互に配置したもの)との間で,引き合う力と反発する力が発生し,これを利用して車両(超電導磁石)が前進する。

ガイドウェイの側壁両側に浮上コイル及び案内コイルが設置されており,車両の超電導磁石が高速で通過すると両側の両コイルに電流が流れて電磁石となり,車両(超電導磁石)を押し上げる力(反発力)と引き上げる力(吸引力)が発生する。
ガイドウェイの側壁両側に設置された浮上コイル及び案内コイルは,車両が中心からどちらか一方にずれると,
車両の遠ざかった側に吸引力,
近づいた側に反発力が働き,車両を常に中央に戻す。


ガイドウェイの構造(乙43の10)
ガイドウェイは,車両を支持,案内,推進及び制動する機能を持ち,地上コイル(浮上コイル及び推進コイル),ガイドウェイ側壁,支持車輪走行路,案内車輪走行路等から構成される。
浮上コイルは,車輪等を通常使用しない速度において,車両の超電導
磁石との間の電磁的作用により,車両の支持及び案内を行う浮上装置及び案内装置の地上設備をいう。
推進コイルは,車両の超電導磁石との間の電磁的作用により,車両の推進及び制動を行う動力発生装置の地上設備をいう。
ガイドウェイ側壁は,地上コイルが設置され,ガイドウェイ底面と直
角かつ直線の壁であって,案内車輪走行路を含むものをいう。
支持車輪走行路は,車両が車輪走行する場合に,車両を支持するガイドウェイ底面の支持車輪等の走行路をいう。
案内車輪走行路は,車両が車輪走行する場合に,車両を案内するガイドウェイ内側面の案内車輪等の走行路をいう。



本件各訴えの提起(顕著な事実)
甲事件原告らは,平成28年5月20日,甲事件の訴えを提起し,乙事件原告らは,平成31年3月13日,乙事件の訴えを提起し,令和元年5月17日,これらの弁論は併合された。

第3
1
本案前の当事者の主張の要旨
出訴期間について
(甲事件の原告番号5,24,52,53,65,83,88,235,303,325,389,440,480,483,484,495,502,506,528,529,559,616,648,649,657,669,670,675,694,707,725,735,737の原告らの主張)上記原告らは,他の甲事件原告らと同様に,平成26年12月16日,行政
不服審査法に基づき,国交大臣に対し,本件認可(その1)について異議申立てをしており,かつ,同異議申立てについての決定はまだされていないから,上記原告らの訴えは出訴期間を徒過しておらず,適法である。
(被告の主張)
上記原告らのうち原告番号506の原告は,本件認可(その1)について異
議申立てをしていないため,同原告の訴えは出訴期間を徒過しており,不適法である。
また,上記原告らのうちその余の原告らは,本件認可(その1)について異議申立てをした者との同一性があるとは認められないため,同原告らの訴えは出訴期間を徒過しており,不適法である。

2
原告適格について
(原告らの主張)


根拠法令について
超電導磁気浮上方式は技術的安全性が確認されておらず,全幹法による簡
易な審査手続によることは相当ではないこと,全幹法上,鉄道・運輸機構が建設主体になることが想定されており,参加人のような新幹線鉄道の路線の建設について実績を有しない民間企業が建設主体になることは想定されていないこと,全幹法上,超電導磁気浮上方式は想定されていないこと,中央新幹線は,在来の鉄道と相互乗り入れができないこと等を踏まえれば,中央新
幹線は全幹法1条及び3条に反し,
同法の適用対象となるものではないから,
同法9条1項を根拠に本件各認可をしたことは違法であり,本来であれば鉄道事業法(以下事業法という。
)3条1項に基づく鉄道事業の許可及び同
法8条1項に基づく工事施行の認可によらなければならなかったというべきである。
したがって,
本件において根拠法令となるべきは事業法であるから,
これ
を前提に原告適格の有無を判断すべきである。なお,全幹法が本件各認可の
根拠法令であると解したとしても,原告らに原告適格があるという結論において差異はない。


乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益について
昭和61年に鉄道国有法等の廃止に伴い制定された当時の事業法は,
1条において

この法律は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とする。

と定め,鉄道国有法等にはなかった条項を置き,平成17年4月25日に生じた福知山線脱線事故等を踏まえた事業法の改正(平成18年
法律第19号)では,1条の目的に輸送の安全性を確保しという文言が加えられるとともに,輸送の安全を確保するための取組みを強化する条項(18条の2,3,19条の3,4)も追加された。
事業法は,
その事業の計画が輸送の安全上適切なものであること
等を鉄道事業の許可基準(5条1項)とし,鉄道事業者は,輸送の安全
を確保するための事業の運営の方針に関する事項等(鉄道事業法施行規則36条の3各号)を内容とする安全管理規程を定め,国交大臣に届け出なければならず,国交大臣は,当該規程が事業法の基準に適合しないと認めるときは,当該鉄道事業者に対し,これを変更すべきことを命ずることができる(18条の3)とし,国交大臣は,鉄道事業者の事業に
ついて輸送の安全,利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときは,鉄道事業者に対し,鉄道施設に関する工事の実施方法,鉄道施設若しくは車両又は列車の運転に関し改善措置を講ずることを命ずることができる(23条1項3号)と定めている。
また,事業法は,国交大臣は,国交大臣が鉄道事業の停止命令又は許可の取消し(30条)や安全管理規程に係る報告の徴収又は立入検査の実施に係る基本的な方針の策定
(56条の2)
等をしようとするときは,
運輸審議会に諮らなければならない
(64条の2)
と定め,
同審議会は,
同審議会の定める利害関係人の請求があったときは公聴会を開かなければならない(国土交通省設置法23条)とされており,同審議会は,上記利害関係人として,利用者その他の者のうち運輸審議会が当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者運輸審議会一般規則5条(
6号)を定めている。ここでいう利害関係人には鉄道利用者も含まれると解すべきであり,鉄道利用者に,輸送の安全性について一定の手続関与の機会が付与されている。
事業法は,鉄道事業者は,国交大臣による鉄道施設の工事の完成検査
を受けなければならず,国交大臣がその検査を合格とするためには,当該鉄道施設が鉄道に関する技術上の基準を定める省令
(以下技術基準省令
という。に適合しなければならない旨定めている

(10条1項,
2項)ところ,同省令は,
安全な輸送を目的として掲げる(1条)と
ともに,線路,停車場,車両等に関し,必要な技術上の基準を定めてお
り,同省令120条に基づく特殊鉄道に関する技術上の基準を定める告示(以下特殊技術基準告示という。
)は,超電導磁気浮上式鉄道
に関する技術上の基準(6条3項~7項)等を定めている。
また,全幹法は,建設主体に対する建設の指示が行われたときは,当該指示に係る建設線の区間について,当該法人は,事業法3条1項の規
定による第一種鉄道事業の許可を受けたものとみなす旨定めていること(14条1項)建設線の工事に係る完成検査について,

事業法10条1
項が読み替えの上適用されること(14条6項)等に鑑みれば,事業法は,全幹法と目的を共通にする関係法令でもある。
以上によれば,事業法及び全幹法は,乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益を保護することをその趣旨及び目的としていると解すべきである。


輸送の手段及びニーズが多様化・高度化した現代においても,新幹線を含む鉄道は,人及び物を大量・高速・定時に輸送する重要な公共的存在であり,これを利用する者にとって,仕事や学業を継続していくために欠くことのできない移動手段である。事業法3条1項の許可及び同法8条1項の認可が違法にされ,安全性が欠如した鉄道が敷設営業された場合,その
利用者は危険な鉄道を利用し続けることを余儀なくされるだけでなく,ひとたび事故が発生すれば,多数の死傷者が生じ得る。事業法の上記各規定が,生命・身体等の重大な権利侵害を受けるおそれがある鉄道利用者について,当該処分の違法性を争うことを許さず,これを甘受すべきことを強いているとは,到底解することができない。

したがって,事業法及び全幹法は,乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解すべきである。

中央新幹線の乗客になる可能性は全国民にあるから,乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益は全国民が個々に有する利益である。そうすると,原告らは,本件各認可により同利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たり,本件各認可の取消しを求める原告適格を有する。



南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然と触れ合う権利についてア
中央新幹線の建設工事については,事業法及び全幹法上の要件に加え,評価法33条1項,2項3号(横断条項)により,環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかという要件が付加されているから,評価法は,当然に事業法及び全幹法と目的を共通にする関係法令である。したがって,事業法及び全幹法は,南アルプス及びその他の本件7
都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然と触れ合う権利を保護することをその趣旨及び目的としていると解すべきである。

南アルプスは,自然公園法及び鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律に基づき,その広大な地域が国立公園,特別保護地区及び鳥獣保護区に指定されており,平成26年6月には,ユネスコのエコパーク(自然と人間が共生する地域)に登録された。このように,南アルプスの自然環境は,広く一般的に承認されている。しかし,南アルプスにおいて,本件事業に係るトンネル工事が施工された場合,南アルプスの中心
を流れる大井川等の河川の水や地下水が大量に流出し,また,同工事による発生土(建設工事に伴い副次的に発生する土砂及び汚泥)の処理に伴って,南アルプスの自然環境が破壊される危険性が高く,しかも,かかる環境破壊は,工事の進行によって直ちに生ずるものであり,南アルプスの自然環境が短期間のうちに回復困難なものとなる。

南アルプスだけでなく,本件7都県の各地域の自然環境も,本件事業に係るトンネル工事やこれに伴う発生土の処理によって破壊される危険性がある。
以上によれば,事業法及び全幹法が,南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める
権利並びに自然と触れ合う権利を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解すべきである。

前記イの南アルプスの性質によれば,南アルプスの良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利及び自然と触れ合う権利は,国民が個々に有するものである。したがって,原告らは,本件各認可により同権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たり,
本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有する。
また,その他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利及び自然と触れ合う権利は,当該各地域に居住する者が個々に有するものである。したがって,原告らのうちこれに該当する者(別紙甲事件原告目録及び乙事件原告目録の地域の自然環境を保全する権利欄に●印のある者)は,本件各認可により同権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たり,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有する。

工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益について
本件各計画の工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益を有している者は,本件各計画に基づく工事が進行した場合,参加人に対し同権利利益を任意に売却し,又は土地収用法に基づく事業認定と権利取得裁決により強制的に同権利利益が奪われることを余儀な
くされる。これを避けるため事業認定の取消訴訟を提起するという手段があるとしても,判決がされる前に工事が完成してしまうのが現実であるから,かかる手段は実質的な救済手段にはなり得ない。そうすると,同権利利益を有する者は本件各認可により同権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たる。

以上によれば,原告らのうち本件各計画の工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益を有している者(別紙甲事件原告目録及び乙事件原告目録の地上権欄,
土地家屋所有権欄,
耕作権・占有権・居住権欄,各立木所有権欄,
リニア新幹線施設予定地の所有者及び対象土地欄に●印のある者)は,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有する。


工事の進行に伴う発生土運搬車両の運行に起因する騒音・振動・大気の汚染・交通混雑,高架橋・駅舎等の設置に起因する景観阻害による,健康又は生活環境に係る被害を受けない利益について

新幹線鉄道の建設の事業は評価法上の第一種事業に該当し,厳格な環境影響評価が要求されており,鉄道の建設及び改良の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針,環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令(以下鉄道事業評価省令という。
)が定められていること,
前記⑶アのとおり,本件各認可に当たっては,環境配慮審査が求められていること(評価法33条1項,2項3号)
,工事の進行等に起因する騒音,
振動,大気の汚染,交通混雑,景観阻害により健康又は生活環境に係る被
害を受けない利益は,人格権及び生存権(憲法13条,25条)から派生するものであることからすれば,事業法及び全幹法はそのような利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解すべきである。

そうすると,工事の進行等により上記のような健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある住民は,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有する。

工事の進行等により上記のような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けるおそれのある住民は,具体的には次のとおりであり,原告らがそのいずれに当たるかは,別紙甲事件原告目録及び乙事件原告目録のとおりである。
発生土運搬車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染,交通混雑による被害を受けるおそれのある原告
発生土運搬車両の運行する範囲,期間等がいまだ具体的に特定されておらず,トンネル工事等で生ずる極めて多量の発生土が本件7都県の山岳地帯等に廃棄される可能性が高いことを踏まえれば,発生土運搬車両が広範囲にわたって反復継続的に運行する可能性があり,そうなると,その周囲の住民は,発生土運搬車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染,交通混雑による被害を受けるおそれがある。また,中央新幹線
の計画路線から遠距離に居住する原告らについても,その付近を発生土運搬車両が運行し,それに起因して健康又は生活環境に係る被害を受ける可能性があるから,発生土運搬車両の運行経路が決まるまでは,広範囲な地域に居住する原告らについて原告適格が認められるべきである。したがって,以上に該当する原告(別紙甲事件原告目録及び乙事件原
告目録の工事車両による騒音・振動・大気汚染・交通混雑欄に●印のある者)は,原告適格を有する。
景観阻害による被害を受けるおそれのある原告
橋梁,高架橋等の鉄道施設の建設に伴い,次の原告(別紙甲事件原告目録及び乙事件原告目録の景観(施設,路線の近傍,ただし山梨は丙3の2環17-1-16に準拠)欄に●印のある者)は景観阻害による
被害を受けるおそれがあるから,原告適格を有する。

神奈川県内の原告
本件環境影響評価では,日常的な視点場からの眺望については鉄道施設から水平距離で最長約200mの地点で予測しており,主要な眺
望点からの眺望については鉄道施設から水平距離で約300mから1500mまでの地点で予測している。
以上に加え,山梨県内では,日常的な視点場からの眺望については鉄道施設から水平距離で最長約700mの地点で予測していることを参考にすれば,鉄道施設から約700m以内に居住する原告らは,景観阻害による被害を受けるおそれがあるから,原告適格を有する。ⅱ
山梨県内の原告
本件環境影響評価では,高架橋,橋梁による山岳の眺望への影響範囲を予測しているところ,中央市に計画されている路線の北側約250mの範囲と南アルプス市に計画されている路線の北側約500mの範囲で富士山が見えなくなり,笛吹市,甲府市及び南アルプス市に計画されている路線の南側約700mの範囲及びM町に計画されている
路線の南側約1kmの範囲で八ヶ岳が見えなくなり,中央市に計画されている路線の南側約100mの範囲で南アルプスが見えなくなることが予測されている。また,日常的な視点場からの眺望については鉄道施設から水平距離で最長約700mの地点で予測しており,主要な眺望点からの眺望については鉄道施設から水平距離で最大約2700
mの地点で予測している。
また,本件環境影響評価では,一定範囲の地域を鉄道施設に対する可視領域と不可視領域に区分した図が作成されている。
以上によれば,同図に図示された地域に居住する原告らは,景観阻害による被害を受けるおそれがあるから,原告適格を有する。


長野県内の原告
本件環境影響評価では,日常的な視点場(飯田市,N村及びO村の特定の地点)からの眺望については鉄道施設から水平距離で約200mから400mまでの地点で予測しており,主要な眺望点(P村,飯
田市,N村,O村及びQ町の特定の地点)からの眺望については鉄道施設から最長約6.9kmの地点で予測している。
以上によれば,P村,飯田市,N村,O村及びQ町に居住する原告らは,景観阻害による被害を受けるおそれがあるから,原告適格を有する。

岐阜県内の原告
本件環境影響評価では,日常的な視点場からの眺望については鉄道
施設から水平距離で約200mから300mまでの地点で予測しており,主要な眺望点からの眺望については鉄道施設から水平距離で最長約4000mの地点で予測している。
以上によれば,
鉄道施設から約4000m以内に居住する原告らは,
景観阻害による被害を受けるおそれがあるから,原告適格を有する。

愛知県内の原告
本件環境影響評価では,主要な眺望点からの眺望については鉄道施設から水平距離で約2000mの地点である弥勒山展望台と同約800mの地点である名古屋テレビ塔で予測しているが,当該鉄道施設は名古屋市民にとって重要な名古屋城を中心とする景観利益を阻害する
ものであるから,名古屋市に居住する原告らは,原告適格を有する。(被告の主張)


根拠法令に関する原告らの主張について
そもそも,全幹法1条は同法の目的を定めた規定,3条は新幹線鉄道の路
線の計画理念を定めた規定であり,これらの規定が,同法の解釈及び運用についての一般的指針となり得ることはあっても,同法に基づく個々の行政処分の効力に影響を及ぼすような要件を定めた規定であるとはいえない。また,
同法6条3項は,建設主体として指名される法人の範囲を限定していないこと,同法2条の新幹線鉄道の定義上,走行方式に限定はないこと等をも踏ま
えれば,中央新幹線が同法1条及び3条に反するという原告らの主張もまた理由がなく,原告ら独自の見解をいうものである。
本件各認可は,
全幹法4条1項に基づき決定された基本計画を前提として,
順次同法に基づく手続が進められた上でされたものであり,また,我が国の鉄道法制が,新幹線鉄道と同様の鉄道の建設を事業法に基づいて実施することを許容しているとは解されないから,本件各認可の根拠法令は事業法ではなく全幹法である。

以上によれば,本件における根拠法令は事業法であるという原告らの主張には,理由がない。


乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益について
全幹法は,国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的としている(1条)ところ,かかる利益は専ら不特定多数者の一般的公益に属する利益であること,9条認可の審査対象は,当該工事実施計画の内容が,国が主導的に策定してきた基本計画及び整備計画を適確に具体化するものであるか否かであること,9条認可の効果は,その名宛人に対し当該計画に係る工事に着工することができる地位を付与するにとどま
ること等に鑑みれば,同法が,乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない。
原告らは,事業法が全幹法と目的を共通にする関係法令である旨主張する
が,両法は,趣旨及び目的並びに建設スキームに係る制度設計を異にする法律であるから,事業法が関係法令であるとはいえない。
また,原告らは,鉄道利用者に運輸審議会における手続関与の機会がある旨主張するが,9条認可を行うに際し,乗客になる可能性が高いなどという者を手続に関与させる規定は存在しない。

以上によれば,乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益は,本件各認可の取消しを求める法律上の利益には当たらない。


南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然と触れ合う権利について全幹法の目的,9条認可の審査対象,9条認可の効果等(前記⑵)に鑑みれば,全幹法が,南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然と触れ合う
権利を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできない。
原告らは,評価法が全幹法と目的を共通にする関係法令である旨主張するが,全幹法1条に環境の保全への配慮に関する文言はないから,全幹法と評
価法は目的を異にしており,評価法が関係法令であるとはいえない。仮に,評価法が関係法令であるとして,その趣旨及び目的を参酌したとしても,良好な自然環境を享受する利益などというものは本来一般的公益に属する利益であることに加え,評価法は,審査の基準を具体的に定めず,免許等を行う者が,当該対象事業につき,環境の保全についての適正な配慮がなされるも
のであるかどうかを審査すべきこと等を定めるにとどまり,周辺住民の個別的利益が常に必ず保護されるとはいえないことからすれば,全幹法が,南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然と触れ合う権利を殊更に個々人の個別的利益として保護する趣旨及び目的を含むと解することはできない。
以上によれば,南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然と触れ合う権利は,本件各認可の取消しを求める法律上の利益には当たらない。⑷
工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益について
全幹法の目的,
9条認可の審査対象,
9条認可の効果等
(前記⑵)
に加え,
全幹法は,9条認可とは別個の処分として,行為制限区域の指定(10条)及び行為の制限(11条)を定めており,これにより土地,建物等について損失を被った場合には,その財産権は個々人の個別的利益として保護されるべきものであるが,9条認可にはそのような行為の制限効果は付与されていないことにも鑑みれば,全幹法が,工事予定地内に所在する土地,建物,立
木に係る所有権,借地権等又は居住の利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない。
また,9条認可があった段階では用地取得等の手続が残されており,たとえこれらの手続によって財産的損失が生じるに至るとしても,それは任意売
却や土地収用手続などといった9条認可とは別個の手続に基づくものであり,それに応じた救済手段もある。
以上によれば,工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益は,本件各認可の取消しを求める法律上の利益には当たらない。



工事の進行に伴う発生土運搬車両の運行に起因する騒音・振動・大気の汚染・交通混雑,高架橋・駅舎等の設置に起因する景観阻害による,健康又は生活環境に係る被害を受けない利益について

全幹法の目的,9条認可の審査対象,9条認可の効果等(前記⑵)に鑑みれば,全幹法が,工事の進行に伴う発生土運搬車両の運行に起因する騒音・振動・大気の汚染・交通混雑,高架橋・駅舎等の設置に起因する景観阻害による,健康又は生活環境に係る被害を受けない利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を含むと解することはできない。
また,評価法は全幹法と目的を共通にする関係法令に該当しない上,仮
に,評価法が関係法令であるとして,その趣旨及び目的を参酌したとしても,評価法上,周辺住民の個別的利益が常に必ず保護されるとはいえないこと(前記⑶)に鑑みれば,全幹法が,工事の進行等に起因する健康又は生活環境に係る被害を受けない利益を殊更に個々人の個別的利益として保護する趣旨及び目的を含むと解することはできない。

以上によれば,工事の進行に伴う発生土運搬車両の運行に起因する騒
音・振動・大気の汚染・交通混雑,高架橋・駅舎等の設置に起因する景観
阻害による,健康又は生活環境に係る被害を受けない利益は,本件各認可の取消しを求める法律上の利益には当たらない。


結論
以上のとおり,原告らは本件各訴えにつき原告適格を有しないから,本件各訴えは不適法である。

第4

本案に関する当事者の主張の要旨
別紙本案に関する当事者の主張の要旨記載のとおり。

第5
1⑴
当裁判所の判断(原告適格について)
行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき
法律上の利益を有する者
とは,
当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべき
ものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。

そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害され
ることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項)。


なお,本件では,本件認可(その1)と本件認可(その2)の二つの処分が存在し,それぞれ認可の対象である工事実施計画の内容も異なるが,前記前提事実⑶のとおり,本件各認可の対象である本件各計画はいずれも中央新
幹線(品川・名古屋間)の建設(本件事業)という一個の鉄道建設事業に係るものであり,本来必要な全工事を便宜上,土木構造物関係分の工事と残余の工事とに分けて,それぞれについての認可を受けたにすぎないものと解されることに鑑みれば,本件各認可を本件事業に係る一体の9条認可とみて,すなわち,原告らは,実質的には,一個の9条認可のそれぞれ一部の取消し
を求めているものとみて,原告適格の有無を判断するのが相当である。2
根拠法令について
原告らは,中央新幹線は全幹法1条及び3条に反し,同法の適用対象ではないから,9条認可ではなく事業法3条1項に基づく鉄道事業の許可及び同法8
条1項に基づく工事施行の認可によるべきであったとして,本件各訴えの原告適格についても全幹法ではなく事業法を根拠法令として判断すべきである旨主張する。
しかし,全幹法2条は,新幹線鉄道をその主たる区間を列車が200キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道と定義し,これに該当
する鉄道については,事業法に基づく建設手続ではなく,全幹法4条以下の規定に基づく建設手続によるべきとしているものと解されるところ,前記前提事実⑴のとおり,中央新幹線は,東京都と大阪市を結び,最高設計速度を時速505kmとして計画された鉄道であって,全幹法2条の上記定義に適合するものである。
また,全幹法1条及び3条は,全幹法の目的と新幹線鉄道の路線の理念をそれぞれ一般的かつ抽象的に定めた規定であって,これらの規定中の新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備,全国的な幹線鉄道網を形成するに足るもの,全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するものとの文言も,新たに建設される新幹線鉄道の路線の条件として,必ずしも在来の路線との相互乗り入れを可能とすることまでを求めるものとは解されず,これらの規定が中央新幹線の建設に適用されるべき法令の選択に影響を与えると解することはで
きない。
以上によれば,全幹法4条以下の規定に沿って本件各認可までの手続が進められ,国交大臣が同法9条1項に基づいて本件各認可をしたこと自体に違法はないというべきである。
したがって,本件各認可の取消しを求める本件各訴えについては,全幹法9
条1項を根拠法令として原告適格の有無を判断すべきであり,原告らの上記主張は採用することができない。
3
乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益について


全幹法9条1項は,建設主体は,国交大臣の指示により建設線の建設を行おうとするときは,整備計画に基づいて,建設線の工事実施計画を作成し,国交大臣の認可を受けなければならないと定めているが,全幹法上,9条認可に係る具体的な基準は定められていない。

⑵ア

とはいえ,全幹法は,国交大臣が建設の指示をしたときは,当該指示に係る建設線の区間について,営業主体及び建設主体が事業法3条1項によ
る鉄道事業の許可を受けたものとみなす
(14条1項,
2項)
とした上で,
事業法10条1項及び2項の規定を建設線についても読み替えて適用し,鉄道事業者である営業主体及び建設主体は,鉄道施設の工事が完成したときは,国交大臣の検査を申請しなければならず,国交大臣は,その検査の結果,当該鉄道施設が,9条認可を受けた工事実施計画に合致し,かつ,鉄道営業法1条の国土交通省令で定める規程(技術基準省令等)に適合すると認めるときは,これを合格としなければならない(14条6項)としている。
これによれば,技術基準省令等に対する適合性に関する審査が,事業法上は工事施行認可の申請時においても行われるべきもの(事業法8条2項)とされているのとは異なり,全幹法上は一見すると鉄道施設の工事完
成後の検査においてのみ実施されるものとされているかのようであるが,新幹線鉄道の路線の建設は全国の中核都市を連結する極めて大規模な事業であることが想定されており(全幹法3条),その工事完成後に当該鉄道施設が技術基準省令等に適合しないと判断された場合には,国民経済上の損失が極めて大きくなることが容易に予見できることに鑑みれば,その
工事が行われる前の工事実施計画の段階においても,技術基準省令等に対する適合性の審査が求められるものというべきである。そして,9条認可の対象である工事実施計画には,路線名,工事の区間,工事方法その他国土交通省令で定める事項を記載し,線路の位置を表示する図面その他国土交通省令で定める書類を添付しなければならない
(全幹法9条1項,
2項)

とされており,これらを定めた省令である全国新幹線鉄道整備法施行規則(以下全幹規則という。)においては,工事方法として,最小曲線半径,最急勾配,軌道の中心間隔,施工基面の幅,軌道及び橋梁の負担力,停車場における本線路の有効長,発電所及び変電所の概要,建設工事に伴う人に対する危害の防止方法等の工事の実施に関し必要な事項を記載し
(2条1項7号),線路平面図,線路縦断面図,停車場平面図,停車場設備表,車庫施設及び検査修繕施設の概要を示す表,橋梁・隧道その他の主要な建造物の概要を示す表,特殊な設計がある場合にはその概要を示す書類等を添付する(同条2項)とされているところ,これらの記載事項及び添付書類には,後記イで摘示する技術基準省令や特殊技術基準告示が定める各基準に関連するものが含まれているのであって,かかる規定は,上記のような事前の審査の必要性を考慮したものであると解される。

以上によれば,国交大臣は,9条認可の判断に当たっても,工事実施計画の記載事項及び添付書類の範囲内において,当該工事実施計画が技術基準省令等に適合しているか否かを審査しなければならないものと解するのが相当である。

次に,技術基準省令の規定をみると,同省令は,鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めることにより,安全な輸送及び安定的な輸送の確保を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とし
(1条)これを具体化するものとして,

①係員,②鉄道施設(線路,停車場,電気設備,運転保安設備等),③車
両,④運転の各項目について,技術上の基準を定めている。上記②に係る規定の一部を摘示すると,曲線半径は,車両の曲線通過性能,運転速度等を考慮し,車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないものでなければならない(14条1項),勾配は,車両の動力発生装置,ブレーキ装置の性能,運転速度等を考慮し,車両が起動し,所定の速度で
連続して運転することができ,かつ,所定の距離で停止することができるものでなければならない(18条1項),直線における建築限界は,車両の走行に伴って生ずる動揺等を考慮して,車両限界との間隔が,車両の走行,旅客及び係員の安全に支障を及ぼすおそれのないよう定めなければならない
(20条1項)直線における施工基面の幅は,

軌道の構造に応じ,

軌道としての機能を維持することができるものであり,
かつ,
必要に応じ,
係員が列車を避けることができるものでなければならない
(21条1項)

直線における軌道中心間隔は,車両の走行に伴って生ずる動揺等により,車両同士の接触,旅客が窓から出した身体と車両との接触その他の車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないものでなければならない(22条1項),線路は,事故が発生した場合その他の緊急の場合に避難しようとする旅客が安全に歩行することが可能なものでなければならない(32
条)などと定めている。
また,技術基準省令120条は,同省令に定めるもののほか,特殊な構造を有する鉄道の施設及び車両の構造及び取扱いについては,国交大臣が告示で定めるところにより,同省令の規定の一部の適用を除外し,その他必要な特例を定めることができると定めており,同条に基づき定められた
特殊技術基準告示は,例えば,超電導磁気浮上式鉄道について,浮上装置及び案内装置は,車両の走行に必要な浮上力及び案内力を有し,動作の状態にかかわらず,車両の走行に支障を及ぼすおそれのないものでなければならない(6条3項),浮上装置,案内装置その他これに類する装置は,誘導作用等により障害が発生するおそれのないものであるとともに,他の
施設又は車両にも障害を及ぼすおそれのないものでなければならない(同条4項),これらのほか,浮上装置及び案内装置の地上設備は火災のおそれのないもの,動力発生装置の地上設備は感電及び火災のおそれ並びに車両の走行に支障を及ぼすおそれのないもの等の基準に適合するものでなければならない(同条5項)などと定めている。


以上によれば,全幹法9条1項は,工事実施計画が技術基準省令等に適合するか否かの審査を通じて,旅客の安全を含めた輸送の安全を確保することを,その趣旨及び目的とするものと解される。


しかし,
原告らが主張する乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益
は,
鉄道事業者との間で個別に輸送役務提供契約を締結することによって初めて具体的に生ずる性質のものである。また,新幹線鉄道の路線は,全国的な幹線鉄道網を形成するに足るものであるとともに,
全国の中核都市を有機
的かつ効率的に連結するものであることが想定されている(全幹法3条)という性質に鑑みれば,新幹線鉄道は,在来の鉄道と異なり,当該路線に隣接する地域に居住する住民等特定の範疇に属する者が日常的に又は反復継続的に利用する蓋然性が一般的に高いものともいい難い。そうすると,鉄道事
業者との間で個別に輸送役務提供契約を締結するまでは,
各個人が新幹線鉄
道の乗客になる可能性は飽くまで潜在的かつ抽象的なものにとどまり,新幹
線鉄道において安全な輸送役務の提供を受ける利益もまた,
潜在的かつ抽象
的なものであるから,このような性質の利益は,乗客の生命・身体の安全という重要な法益に関連するものであることを踏まえても,
9条認可の段階に

おいては,
公益に属する利益として考慮されるにとどまるものというべきで
ある。すなわち,全幹法9条1項は,乗客となり得る者をその地域又は属性等で区別することなく,
一般的に不特定多数の潜在的な利用者が新幹線鉄道
において安全な輸送役務の提供を受けることを確保するという公益的見地から,
技術基準省令等に対する適合性に関する審査を求めているものと解さ
れる。
したがって,前記⑵の全幹法の趣旨及び目的を考慮しても,全幹法9条1項が,乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできず,原告らは,
同利益について,本件各認可により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということはできない。

原告らは,鉄道利用者は,運輸審議会に公聴会の開催を請求できる利害関係人に当たるから,輸送の安全性について,手続関与の機会が付与されており,このことが原告適格の根拠となる旨主張する。
この点,運輸審議会は,事業法の規定により同審議会に諮ることを要する事項等について,必要があると認めるときは,公聴会を開くことができ,同審議会の定める利害関係人の請求があったときは,公聴会を開かなければならない(国土交通省設置法23条)とされており,これを受けて,同審議会は,利用者その他の者のうち運輸審議会が当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者(運輸審議会一般規則5条6号)を上記利害関係人として定めている。このように,同審議会に対し公聴会の開催を請求できるのは,単に利用者となり得る者ではなく,当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者であるところ,新幹線鉄道の利用者は,上記のとおり,鉄道事業者との間で個別に輸送役務提供契約を締結するまでは潜在
的かつ抽象的な存在であることを踏まえれば,
9条認可の手続段階において,
上記利害関係人に該当するとはいい難く,公聴会の開催を請求できる手続的地位が付与されているということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。


以上によれば,原告らは,乗客として安全な輸送役務の提供を受ける利益を根拠として,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有するということはできない。

4
南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然と触れ合う権利について
⑴ア

全幹法に基づく建設線の建設の事業は,評価法及び評価令上の対象事業である第一種事業に該当する(前記前提事実⑵ア)ところ,評価法は,事業者は,対象事業に係る環境影響評価を行い,評価書を作成したときは,速やかに,当該事業に係る免許等を行う者等にこれを送付しなければならず(22条1項),評価書の送付を受ける者が各省大臣であるときは,当
該大臣は,評価書の送付を受けた後,速やかに,環境大臣に当該評価書の写しを送付して意見を求める措置をとらなければならず(同条2項),環境大臣は,必要に応じ,当該大臣に対し,送付された評価書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べることができ(23条),当該大臣は,必要に応じ,事業者に対し,評価書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べることができ,この場合において,上記環境大臣の意見があるときは,これを勘案しなければならない(24条)と定め
ている。
そして,評価法は,対象事業に係る免許等を行う者は,当該免許等の審査に際し,評価書の記載事項及び24条の書面に基づいて,当該対象事業につき,環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならず(33条1項),この場合において,免許等を行
い又は行わない基準を法律の規定で定めていない免許等(9条認可はこれに当たる。)を行う者は,当該事業の実施による利益に関する審査と上記環境の保全に関する審査の結果を併せて判断するものとし,当該判断に基づき,当該免許等を拒否する処分を行い,又は当該免許等に必要な条件を付することができるものとする(同条2項3号,評価令19条,別表第四
の三の項の第二欄)と定めている。

評価法が制定される根拠となった環境基本法をみると,同法は,環境の保全は,環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均
衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が,人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることに鑑み,現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない(3条)とした上で,環
境の保全に関する施策の策定及び実施は,上記の基本理念にのっとり,①自然環境が適正に保全されるよう,大気,水,土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること,②生態系の多様性の確保,野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保が図られるとともに,森林,農地,水辺地等における多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されること,③人と自然との豊かな触れ合いが保たれることを旨として行わなければならない(14条)とし,国が講ずる環境の保
全のための施策等の一環として,土地の形状の変更,工作物の新設等の事業を行う事業者が,その事業の実施に当たりあらかじめその事業に係る環境への影響について自ら適正に調査,予測又は評価を行い,その結果に基づき,その事業に係る環境の保全について適正に配慮することを推進するため,必要な措置を講ずべきこと(20条)を定めている。


評価法は,環境基本法20条を受けて制定された法律であり,規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定め,その手続等によって行われた環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保
全のための措置その他のその事業の内容に関する決定に反映させるための措置をとること等により,その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し,もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とし(1条),国,地方公共団体,事業者及び国民は,事業の実施前における環境影響評価の重要性を深く認識して,
評価法の規定による環境影響評価その他の手続が適切かつ円滑に行われ,事業の実施による環境への負荷をできる限り回避し,又は低減することその他の環境の保全についての配慮が適正になされるようにそれぞれの立場で努めなければならない(3条)とした上で,事業者は,事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより,対象事業に係る環境影響評価の項目並
びに調査,予測及び評価の手法を選定し(11条1項),その選定した項目及び手法に基づいて,対象事業に係る環境影響評価を行わなければならない(12条1項)としている。
そして,鉄道の建設の事業に関する上記主務省令である鉄道事業評価省令は,事業者は,対象事業に係る環境影響評価の項目を選定するに当たっては,当該事業に伴う影響要因について同省令別表第一においてその影響を受けるおそれがあるとされる環境要素に係る項目を勘案して選定しな
ければならない(21条1項)と定めているところ,同表では,工事の実施により影響を受けるおそれがある環境要素として,大気質(粉じん等),放射線の量等を,鉄道施設の存在により影響を受けるおそれがある環境要素として,動物(重要な種及び注目すべき生息地),植物(重要な種及び群落),生態系(地域を特徴づける生態系),景観(主要な眺望点及び景観資源並びに主要な眺望景観)及び人と自然との触れ合いの活動の場(主要な人と自然との触れ合いの活動の場)等を,
それぞれ定めている。
また,
同省令は,
上記項目の選定に当たっては,
当該事業に伴う影響要因が環境要素に及ぼす影響の重大性について客観的かつ科学的に検討しなければならない
(同条3項)
と定めているところ,

当該検討の対象とすべき環境要素として,同省令別表第一に定める上記の各環境要素のほか,水質,水底の底質,地下水の水質及び水位
等の水環境に係る環境要素,地形及び地質,地盤,土壌等の
土壌に係る環境要素等(同条4項)を定めている。
以上に加え,評価法は,方法書,準備書及び評価書を作成した旨等を公
告し,併せて,対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認められる地域内において,これらの書面を公告の日から1か月間縦覧に供しなければならない(7条,16条,27条)と定めている。

これらのことを踏まえれば,環境基本法,評価法,評価令及び鉄道事業評価省令という一連の環境法令は,鉄道の建設の事業に係る事業者が前記のような環境要素に係る項目について環境影響評価を実施した上で,前記アの免許等の審査に際し,良好な自然環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかの審査を受けることで,大気,水,土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されるようにすること,生態系及び生物の多様性の確保が図られるとともに,多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されるようにすること,人と自
然との豊かな触れ合いが保たれるようにすることを,その趣旨及び目的とするものということができる。
そうすると,全幹法9条1項についても,上記一連の環境法令上の関係規定の存在により,これらの法令と同じ上記の趣旨及び目的が付加されたものと解される。



しかし,原告らが主張するところの南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然と触れ合う権利とは,南アルプス等一般的にその自然的価値が認められている良好な自然環境の恵沢を享受し,又はこれと触れ合う利益をいう
ものと解されるところ,このような利益は国民を始め我が国に滞在する者が一般的に等しく受けるものというべきであり,特定の範疇に属する者が専ら享受しているものでもなければ,これらを享受すべき者の範囲に限定を付すことが可能な性質のものであるともいい難い。
また,
良好な自然環境の意義,
内容,価値等は各個人が有する主観的な評価によって左右される性質のもの
であり,どのような侵害の態様,程度等であれば良好な自然環境が毀損されたといえるかを客観的に明らかにすることも困難であって,かかる利益が私法上の権利ともいい得るような明確な実体を有するものとはいえない。良好な自然環境に近接した地域に居住する者はこれによる利益を日常的に享受しており,
そのような利益は尊重に値するものであるといえるとしても,

仮に新幹線鉄道の建設の工事やその開業後の運営においてその周辺の良好な自然環境の保全についての適正な配慮がなされなかった場合にその周辺に居住する住民が受ける可能性のある被害は,良好な自然環境の恵沢を日常的に享受する機会及びこれと触れ合う機会の喪失又は減少等であって,これによって直ちにその周辺に居住する住民の生命・身体の安全や健康が脅かされたり,その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難い。そのような性質の生活環境の悪化は,環境基本法が公害と定義する大気の汚染,
水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭によって生ずる人の健康又は生活環境に係る被害(2条3項参照)とは区別される,広い意味での生活環境の悪化であり,これを受けないという利益は,基本的には公益に属する利益といわざるを得ない。全幹法及びその関係法令である前記一連の環境法令を通覧しても,これらの法令が上記利益を周辺住民等の個々人
の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない。
そうすると,前記⑴の全幹法の趣旨及び目的を考慮しても,全幹法9条1項が,原告らが主張する上記のような利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護
すべきものとする趣旨を含むと解することはできず,原告らは,同利益について,本件各認可により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,
又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということはできない。⑶

以上によれば,原告らは,南アルプス及びその他の本件7都県の各地域の良好な自然環境を享受する利益,同自然環境の保全を求める権利並びに自然
と触れ合う権利を根拠として,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有するということはできない。
5
工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益について



9条認可の直接の法的効果は,それがなければ適法に建設線の建設工事をすることができないという制限を解除するにとどまる(全幹法25条の罰則規定参照)と解される上,全幹法上,9条認可が存在することにより,直ちに,工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益に制限が加えられることを定めた規定は存在せず,また,全幹法が,9条認可の段階において,これらの権利利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むと解する根拠となる同法その他の法令の
規定も存在しないから,これらの権利利益を有する者が,本件各認可により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するということはできない。
なお,全幹法10条1項に基づき,9条認可に係る新幹線鉄道の建設に要する土地の区域について,国交大臣による行為制限区域の指定がされた場合
には,同法11条1項により,当該区域内での土地の形質の変更,工作物の新設・改築・増築が禁止されることになる。また,建設主体は,新幹線鉄道の建設に関する工事のためやむを得ない必要があるときは,同法12条1項に基づき,その必要の限度において,他人の占有する土地に立ち入り,又は特別の用途のない他人の土地を材料置場若しくは作業場として一時使用する
ことができるとされている。
しかし,
これらの指定,
立入り及び一時使用は,
9条認可が存在するからといって直ちに適法となるものではない(9条認可が違法であれば9条認可が取り消されなくてもこれらの行為は違法となる)と解されるから,これらの行為による土地所有権等への制約を9条認可による効果ということはできない。



原告らは,工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益を有している者は,本件事業に係る工事が進行すれば,土地収用法に基づく事業認定と権利取得裁決により強制的にこれらの権利利益が奪われる地位に立たされるから,本件各認可によりこれらの権利利益を
侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たる旨主張する。しかし,9条認可がされても土地収用法に基づく事業認定や権利取得裁決が必然的にされるものではない上,これらの行為は,9条認可が存在するからといって直ちに適法となるものではない(9条認可が違法であれば9条認可が取り消されなくてもこれらの行為は違法となる)と解されるから,これらの行為による法的効果を9条認可による効果ということはできない。⑶

以上によれば,原告らは,工事予定地内に所在する土地,建物,立木に係る所有権,借地権等又は居住の利益を根拠として,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有するということはできない。

6
工事の進行に伴う発生土運搬車両の運行に起因する騒音・振動・大気の汚染・交通混雑,高架橋・駅舎等の設置に起因する景観阻害による,健康又は生活環
境に係る被害を受けない利益について
⑴ア

前記4のとおり,全幹法に基づく建設線の建設の事業は評価法及び評価令上の対象事業である第一種事業に該当し,環境基本法,評価法,評価令及び鉄道事業評価省令という一連の環境法令は全幹法の関係法令に当たるということができる。


そして,環境基本法は,前記4⑴イのとおり定めるほか,環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めること等により,環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とし(1条),環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大
気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭によって人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることを公害と定義し(2条3項),環境の保全に関する施策の策定及び実施は,人の健康が保護され,及び生活環境が保全されるよう,大気,水,土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されることを旨として行わなければな
らない(14条1号)とした上で,国が講ずる環境の保全のための施策等の一環として,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染又は悪臭の原因となる物質の排出,騒音又は振動の発生,地盤の沈下の原因となる地下水の採取その他の行為に関し,事業者等の遵守すべき基準を定めること等により行う公害を防止するために必要な規制の措置を講ずべきこと(21条1項1号)等を定めている。

また,
評価法は,
前記4⑴ア及びウのとおり定め,
鉄道事業評価省令は,
同ウのとおり定めるほか,別表第一において,資材及び機械の運搬に用いる車両の運行により影響を受けるおそれがある環境要素として,大気質(粉じん等),騒音,振動等を定めている。

これらのことを踏まえれば,前記の一連の関係法令は,鉄道の建設の事業に係る事業者が前記のような環境要素に係る項目について環境影響評
価を実施した上で,免許等の審査に際し,環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかの審査を受けることで,工事の進行に伴う資材及び機械の運搬に用いる車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染等による被害の発生を防止し,もって,人の健康が保護され,生活環境が保全されるようにすることも,その趣旨及び目的とするものというこ
とができる。
そうすると,全幹法9条1項についても,これらの関係法令の存在により,これらの法令と同じ上記の趣旨及び目的が付加されたものと解される。⑵
とりわけ,規模が大きく,環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある評価法及び評価令上の第一種事業に該当する全幹法に基づく建設線の建設の事業については,環境の保全についての適正な配慮がなされない状態で,工事の進行に伴う資材及び機械の運搬に用いる車両の運行が反復継続的にされた場合には,騒音,振動,大気の汚染等が生じ,当該運行経路の周辺地域に居住する住民の生活環境が害されるおそれがあるばかりでなく,その健康
に被害が生じ,ひいてはその生命・身体に危害が及ぼされるおそれがある。そして,これらの被害を直接的に受けるのは,運搬車両の運行経路の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られる上,その受ける被害の程度は,その居住地と当該運行経路との近接の度合いや当該車両の種類,運行頻度等の諸条件によっては,その健康又は生活環境に係る著しい被害を受ける事態にも至りかねないものである。全幹法9条1項の前記の趣旨及び目的に鑑みれば,同項は,当該運行経路の周辺地域に居住する住民に対し,そのような
健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ,上記のような被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわなければならない。
以上のような全幹法9条1項の趣旨及び目的,同項が9条認可の制度を通
して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,同項は,工事の進行に伴う資材及び機械の運搬に用いる車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解す
るのが相当である。
したがって,全幹法に基づく建設線の建設の工事に係る資材及び機械の運搬に用いる車両の運行経路の周辺地域に居住する住民のうち,当該車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該建設に係る9条認可の取消
しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。


他方で,騒音,振動,大気の汚染等を伴わない工事関係車両の運行に起因する交通混雑や,鉄道施設の設置に起因する景観阻害は,環境基本法が公害と定義する人の健康又は生活環境に係る被害とは区別される,広い意味での生活環境の悪化であって,これらにより直ちに周辺住民等の生命・身体の安全や健康が脅かされたり,その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難く,このような交通や景観に関する利益は,基本的には公益に属する利益といわざるを得ない。全幹法及びその関係法令である前記各法令を通覧しても,全幹法9条1項が上記利益を周辺住民等の個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない。そうすると,原告らは,上記のような交通混雑及び景観阻害による被害を受けない利益を根拠として,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有するということはできない。
⑷ア

そこで,前記⑵の原告適格について,更に検討するに,建設線の建設の工事に係る資材及び機械の運搬に用いる車両の運行経路の周辺地域に居住する住民が,当該車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるか否かは,当該住民の居住する地域が上記の著しい被害を直接的に受けるおそれがあるものと想定される地域であるか否かによって判断すべき
ものと解される。そして,当該住民の居住する地域がそのような地域であるか否かについては,当該車両の種類や運行頻度等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で,当該住民の居住する地域と当該運行経路との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものと解される(最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集
46巻6号571頁,最高裁平成24年(行ヒ)第267号同26年7月29日第三小法廷判決・民集68巻6号620頁参照)。

鉄道事業評価省令において,事業者による環境影響評価の項目の選定に当たっては,対象事業に伴う影響要因が環境要素に及ぼす影響の重大性について客観的かつ科学的に検討しなければならず,必要に応じ専門家等の
助言を受けて選定するものとされていること(21条3項,5項,5条4項),事業者による環境影響評価の調査の手法の選定に当たっても,調査すべき情報について,選定項目に係る環境要素の状況に関する情報又は気象,土壌その他の自然的状況若しくは人口,産業,土地利用その他の社会的状況に関する情報を,調査の対象とする地域について,対象事業の実施により選定項目に関する環境要素に係る環境影響を受けるおそれがある地域又は土地の形状が変更される区域及びその周辺の区域その
他の調査に適切な範囲であると認められる地域を,それぞれ選定項目について適切に予測及び評価を行うために必要な範囲内で,当該選定項目の特性,事業特性及び地域特性を勘案し,並びに地域特性が時間の経過に伴って変化するものであることを踏まえ,当該選定項目に係る予測及び評価において必要とされる水準が確保されるよう選定しなければならないとさ
れていること(24条1項1号,3号)等に照らせば,9条認可の際に審査の対象となる評価書において建設線の建設の事業に係る環境影響評価の調査の対象とされる地域は,一般に,当該建設に係る鉄道施設の種類・規模,工事関係車両の種類・運行頻度等の具体的な諸条件を踏まえ,当該建設の事業に伴う騒音,振動,大気の汚染等による健康又は生活環境に係
る著しい被害を直接的に受けるおそれがある地域として選定されるものであるということができる。
したがって,前記アの観点から原告適格の地域的範囲を画するに当たっては,当該評価書において調査の対象とされている地域の範囲が重要な目安となるものと解されるが,他方で,建設線の建設の事業に伴う騒音,振
動,大気の汚染等が,その周辺の一定範囲の地域に限定されるとはいえ,その範囲は上記の諸条件によっては相当程度に広がり得る性質のものであることにも目配りをする必要があるものと解される。

ところが,これを本件の原告らが主張する発生土運搬車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染についてみると,参加人が作成した本件各評価書(丙1の1~7の3)においては,発生土運搬車両の運行経路,車両の種類,運行頻度等が明らかにされておらず,本件各認可の時点においても,これらについては具体的に決定されていなかったこと,そのため本件各認可においては,発生土運搬車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染が評価法33条1項に基づく環境配慮審査の対象となっていなかったこと(弁論の全趣旨)が認められる。

そうすると,本件各認可の取消しを求める原告適格の有無に関し,原告らが,発生土運搬車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあるものと想定される地域に居住しているか否かを認定するための上記重要な目安その他の手掛りを欠いており,原告らがこのような地域に居住していると
認めることはできないものといわざるを得ない。
したがって,結局,原告らは,工事の進行に伴う発生土運搬車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染による健康又は生活環境に係る被害を受けない利益を根拠として,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有するということはできないものというほかない。


もっとも,上記の結論は,本件各認可の取消しを求めるにつき原告適格を有すると認められる弁論分離前の相原告らのうち,建設予定の鉄道施設である高架,非常口,駅,変電所等の近隣で発生土運搬車両が近くを運行する可能性が高い地域に居住する住民が,本案について,本件環境影響評価における発生土運搬車両の運行に起因する騒音,振動,大気の汚染につ
いての評価の不備を主張することを妨げるものではなく,また,発生土運搬車両の運行経路等が具体的に決定された後において,その経路の周辺地域に居住する住民が騒音,振動,大気の汚染による健康又は生活環境に係る被害を受けるおそれがあることを理由として,発生土運搬車両の運行の差止め等を求める民事訴訟を提起することを妨げるものでもない。
第6

結論
以上のとおり,原告らの本件各訴えはいずれも原告適格を欠くものとして不適法であるから却下することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部

裁判長裁判官

古田孝夫
裁判官

西村康夫
裁判官

永田大貴
トップに戻る

saiban.in