判例検索β > 令和2年(わ)第374号
建造物侵入、強盗殺人、窃盗被告事件
事件番号令和2(わ)374
事件名建造物侵入,強盗殺人,窃盗被告事件
裁判年月日令和2年12月14日
裁判所名・部福岡地方裁判所  第2刑事部
裁判日:西暦2020-12-14
情報公開日2021-01-13 18:00:19
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主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,自分に嫌気がさすなどし,大阪市内の当時の自宅を出て,行く当てもなく放浪する中,手っ取り早く金品を手に入れるため,
第1

令和2年2月27日午後9時15分頃,神戸市a区bc丁目d番e号付近路上に
おいて,Aが同所に駐車した自動車内から同人所有又は管理に係る現金約4万0014円及びキーケース等23点在中の手提げ鞄1個(時価合計約6万8100円相当)を窃取し,
第2

金品を強奪する目的で,同年3月4日午後3時59分頃から同日午後4時3
4分頃までの間に,福岡市f区gh丁目i番j号kB店(以下店という)店長C(以下被害者という)が看守する同店に正面出入口から侵入した上,客を装って被害者と話をするなどしながら機会をうかがい,同日午後5時頃から同日午後5時41分頃までの間に,同店において,被害者(当時42歳)の背後から襲い掛かり,仰向けに倒れた被害者に跨り,殺意をもって,その頸部を両手で絞め付けて圧迫するなどし,よって,その頃,同店において,被害者を窒息により死亡させて殺害した上,被害者が管理していた現金少なくとも10万7500円を強奪した。
(証拠の標目)
(省略)
(争点に対する判断)
第1

争点等

被告人は,判示第2の事実について,被害者に対する殺意はなかった旨を供述し,弁護人も,この供述を前提に,被告人には強盗致死罪が成立するにとどまると主張している。したがって,本件の争点は,判示第2の事実における殺意の有無である。第2
1
判断
被告人の公判供述等によれば,判示第2の犯行状況は,以下のようなもので
あったと認められる。
すなわち,被告人(被害者より,身長は約20cm高く,体重は約28kg重い)は,①被害者の背後からその首に腕を回して絞めようとしたが,被害者がすり抜けてしまい,悲鳴を上げたので,その口を押さえたところ,一緒に倒れてしまった,②仰向けに倒れている被害者に跨り,膝立ちになったり胴体に座ったりしながら,その前頸部を片手で押さえ付け,さらに,手や足を動かして抵抗する被害者の両手を,膝立ちになった被告人の脛で押さえ付けながら,被害者の首を両手で絞め付けた(以下1回目の絞頸ともいう),③店に客が来たので被害者から離れて対応し,客をあしらって被害者の元に戻ると,被害者は仰向けに倒れたまま,ほとんど動いた様子はなかったが,膝を立てようとし,目を動かしていたのを見て,④再度被害者に跨り,膝立ちの状態で,被害者の前頸部を,両手で指先まで力を込めて絞め付けた,被告人としては,1回目の絞頸よりも長い時間にわたって被害者の首を絞めていたと感じており,被害者の顔色が変わり,胸の動きがなくなっても,しばらくは首を絞めるのを止めなかった(以下2回目の絞頸ともいう)。被告人が,来客のために被害者から一時的に離れ,客を帰して被害者の元へ戻っても,被害者は,その場を離れる前と同様仰向けに倒れたままほとんど動くことができない状態であったというのであるが,突然襲われ馬乗りの状態で首を絞められた被害者とすれば,隙があれば,助けを求めたり逃げ出したりしたかったはずであろう。そうであるのに,1回目の絞頸の後,被害者は,声を出して周囲に助けを求めることも,自力で逃げ出すこともできないほどに弱っていたのだとすると,1回目の絞頸もかなり強い力で行われた危険性の高い行為と評価すべきである。それにもかかわらず,被告人は,身動きもできない被害者の状態を認識していながら,再びその首を体重をかけて両手で絞め始め,顔色が変わるなど被害者が明らかな異状な様子を示しても止めることなく,1回目よりも長く首を絞め続けたというのである。圧倒的に体格の劣る被害者に対し,その抵抗を封じた上,ある程度の時間,2度にわたり,首を絞める行為は,人を死亡させる危険性が極めて高い行為であるが,当時の被害者の様子,被告人の態勢等を踏まえると,2回目の絞頸が人を死亡させる危険性は,この上もなく高いと評価するのが相当である。
そして,首を絞める行為が人を死亡させる危険性が高いことは,誰にでも分かることで,被告人も,当然そのように認識しながら首を絞めていたと考えるのが妥当であり,このことは,被告人が,その最中に来客の対応をしたり,犯行後に被害者の遺体を直ぐには見つからないように隠したりするなど,比較的冷静に行動していると認められることからも明らかである。そうすると,被告人は,自らの行為が人を死亡させる危険性が極めて高い行為であることを認識していたと強く推認できる。2
これに対し,弁護人は,金品を奪う目的を達成するためには,被害者を失神
させれば足りるし,被告人としても,被害者を,死亡させてしまうかもしれないとは認識していなかった旨を主張し,被告人も,被害者を失神させようとしていただけで,被害者が死んでしまうとは全く考えていなかった旨を供述している。確かに,被害者の背後からその首に腕を回した当初の時点では,被告人は,そのように考えていたのかもしれないし,その後の絞頸中,興奮し我を忘れた被告人の心中に,言語化された明確な認識はなかったのかもしれない。しかし,被害者の首を2回にわたって絞める行為は,人を失神させる行為としての危険性を遥かに超えており,特に2回目の絞頸は,この上なく危険な行為であることは誰にでも分かることである。被告人が,その例外であることをうかがわせる事情もない以上,被害者を死亡させる危険性を全く認識していなかったとは考え難い。
3
以上によれば,被告人は,被害者を死亡させる危険性の高い行為を,そのよ
うな行為と分かって行ったものと認められるから,被害者に対する殺意があったと認定できる。(法令の適用)
(省略)
(量刑の理由)
量刑判断の中心となる判示第2の犯行を見ると,その殺害態様は前記争点に対する判断中で認定したとおりであって,この上なく危険かつ執拗である。被告人が,当初から被害者の殺害を意図していたわけではないとしても,悪質性の極めて高い犯行といえる。被害者は,何の落ち度もないのに突然の凶行によりその尊い生命を奪われた。理不尽というほかない犯行である上,1回目の絞頸により身動きもできない状態の被害者が,戻ってきた被告人に再び首を絞められると分かったときや首を絞められている間の恐怖,絶望,苦痛は計り知れない。遺族が被告人に対する厳重な処罰を望むのは至極当然である。
被告人は,ギャンブルが原因で多額の借金を作り,保身のために嘘を重ねる自分に嫌気がさし,仕事や交際相手などを放り出し,受け取った給料を持って家を出て放浪する中,所持金がなくなると死ぬしかないと考えていた旨をいう。しかし,被告人は,所持金を節約するでもなく,むしろ後先を考えずに遊興等に金を使った挙げ句,死ぬことからも逃げ出し,所持金がなくなることは何としてでも避けたいと考えて,判示各犯行に及んだとみられる。あまりにも身勝手であり,動機や経緯に酌むべき点は見い出せない上,そこからうかがわれる,他人の生命を犠牲にしてでも自分の都合を優先させる態度・他人の生命を軽視する傾向も考え併せると,その意思決定は強く非難されるべきである。そして,判示第2の犯行後も,強奪した金の多くをキャバクラ等の遊興に浪費していることからは,被告人にとっては,判示第2の犯行を経ても,被害者を顧みる気持ちや反省の態度などを示すことが容易ではないと思われ,被告人の抱える問題点の根深さを示していると思われる。以上の犯罪事実に関する事情や,同種事案(強盗殺人1件)の量刑傾向も踏まえて検討すると,本件は,死刑に処するのが相当な事案とはいえない一方,被告人が客観的な事実関係については隠さず述べようとしていることは,遅過ぎたとはいえ,事の重大さを認識しつつあると評価できること,被告人に前科がないことなどの一般情状を最大限考慮しても,酌量減軽の余地はない。
(求刑

無期懲役)

令和2年12月18日
福岡地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

溝國禎久
裁判官

辛島靖崇
裁判官

平岩彩

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