判例検索β > 令和1年(う)第1512号
殺人
事件番号令和1(う)1512
事件名殺人
裁判年月日令和2年12月10日
裁判所名・部東京高等裁判所  第6刑事部
結果破棄差戻
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28合(わ)57
裁判日:西暦2020-12-10
情報公開日2020-12-28 12:00:25
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令和2年12月10日宣告東京高等裁判所第6刑事部判決
令和元

1512号

殺人被告事件
主文
原判決を破棄する
本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由
第1控訴の趣意
本件控訴の趣意は,弁護人山本衛(主任)及び同宮村啓太作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書⑴記載のとおりであり,論旨は,訴訟手続の法令違反及び事実誤認である。これに対する検察官の答弁は,検察官神田浩行の弁論のとおりである。
第2原判決の概要
1原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,以下のとおりである。被告人は,平成25年6月10日頃(以下,月日のみの記載は平成25年の
ものをいう。),東京都新宿区ab丁目c番d号ef号室において,A(当時25歳)に対し,殺意をもって,ジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を摂取させた上,同人の頸部を圧迫し,よって,その頃,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させた。
2
原審においては,①被害者が頸部圧迫により窒息死したと認められる
か,②被告人がその犯人と認められるかが争点となった。3前記争点①について,原判決は,次のように説示して,Aが何者かによって頸部を圧迫されて窒息死したことが推認できるとした。


Aの死体の司法解剖を行ったB教授は,死体は死蝋化して高度に死後
変化していること,死体に致死的な損傷や病変をうかがわせる所見が認められないこと,頸部(右総頸動脈の内膜及び環椎前方の筋肉内),左の上眼瞼結膜,右の眼球結膜及び左右の肺表面に出血をうかがわせる所見があり,これらは頸部圧迫による窒息死の可能性を示すものの,腐敗等の死後変化によって生じた可能性もあること,死体の大腿筋から検出されたジフェンヒドラミンを基に推定した死亡時の血中濃度が8.8ないし10.6㎍/gであるところ,致死的となるジフェンヒドラミンの血中濃度は5ないし10㎍/gとされているため,ジフェンヒドラミン中毒死の可能性もあることを指摘し,死因は不詳とせざるを得ないと証言する。また,B教授は,ピンク歯自体は重要な所見ではなく,解剖時にはそれほど意識していないという。C准教授も,B教授の見解を支持する旨証言する。


一方,D教授は,B教授作成の鑑定書等の資料に基づいて,Aの死因
について検討し,死体の歯には,著明なピンク歯の所見(歯牙が,左右,上下ともほぼ均等かつ広範囲に鮮明なピンクに変色した状態をいう。以下同じ。)が認められるところ,これは,死亡時に頭部全体が強く鬱血していたことを示す所見であり,その原因として頸部圧迫による窒息死が考えられると証言する。すなわち,ピンク歯は,歯の中の細血管が破れて出血し,死後に体内で産
生された一酸化炭素等と血液中のヘモグロビンが結合することによって形成されると考えられ,臼歯より切歯,歯冠部より歯根部の方に細血管が密集しているため強い色調になりやすい。そして,頸部を圧迫すれば,歯の細血管を含め頭部全体が鬱血し,窒息による酸素欠乏で細血管が破れやすくなり,それが破れて血液が出ることによって著明なピンク歯が形成されるという。そして,頸
部(B教授指摘の箇所のほか,甲状舌骨筋付近),左上下及び右上の眼瞼結膜,肺胸膜及び頭蓋内に出血をうかがわせる所見があること,Aが事件当時25歳で生死に関わる病気を有しておらず,死体にも死亡につながる外傷がなかったこと,死体の大腿筋等から高濃度のジフェンヒドラミンが検出されているところ,ジフェンヒドラミンによる中毒死は遷延死であるのが通常で,頭部鬱
血は生じないため,著明なピンク歯が認められる本件ではジフェンヒドラミン中毒死が死因とは考え難いこと,ジフェンヒドラミン中毒が原因で急死したとすると,胃内容物にジフェンヒドラミンの残渣が認められるはずであるが,そのような所見はないことも指摘して,Aの死因として頸部圧迫による窒息死が最も考えられると証言する。E教授もD教授の見解を支持する旨証言する。⑶
B教授とD教授の見解は,著明なピンク歯の所見が,頸部圧迫による
頭部鬱血を示唆するとともに,ジフェンヒドラミン中毒による遷延死の可能性を否定する方向に働く所見といえるか否かの点で異なっており,この相違が結論を分ける大きな要因となっているといえる。
この点,D教授は,法医学に関する豊富な学識と経験を有していることはもとより,窒息死や歯牙からの個人識別を専門分野としており,長年にわたって
ピンク歯が生ずる条件や形成過程等について研究を重ねた上でその見解を示しており,その理由も合理的である上,左右ほぼ均等に,切歯だけでなく臼歯の方までピンクに着染しているという一定の条件を備えた場合に限り,著明なピンク歯として有意な所見と位置付ける点でも合理的といえる。そして,法医学の分野で豊富な学識と経験を有するE教授もD教授とほぼ同様の見解に立って
いる。他方,B教授は,D教授のようにピンク歯に関する深い知見を有しているわけではないし,単に一部の歯がピンクに変色しているのではなく,D教授が著明なピンク歯と認めるような状況にある場合にまで,頸部圧迫による頭部鬱血が生じていることを否定する理由について,特段の根拠は示していない。C准教授の見解についても同様の指摘ができる。

そして,Aの死体に著明なピンク歯の所見が認められることは,D証言及びE証言に加え,B教授作成の鑑定書においても,歯牙は根部周囲が淡紅色調を呈するものが混在していた旨記載され,C准教授も死体の歯牙が全体的にピンクに変色している旨証言していることから,明らかといえる。
以上によれば,ピンク歯に関するD教授の見解は信用できる。



D教授の見解を中心に,Aの死因について考察すると,死体には致死
的な損傷や病変をうかがわせるような所見は認められず,外傷や病気による急死の可能性は否定される。また,死体から高濃度のジフェンヒドラミンが検出されているが,著明なピンク歯の所見が見られることや,死体にはジフェンヒドラミン中毒による急死を示唆する痕跡が見られなかったことから,ジフェンヒドラミン中毒死の可能性も否定される。そうすると,窒息死以外の急死の可能性は考え難いところ,死体の頸部,眼球・眼瞼結膜及び肺に,頸部圧迫による窒息死の可能性を示唆する複数の所見が認められており,著明なピンク歯の所見が認められたことからすれば,Aは,ジフェンヒドラミンを摂取した状態で,何者かによって頸部を圧迫されて窒息死したことが推認できる。4前記争点②について,原判決は,次のように説示して,被告人を犯人と
認めた。


被告人は,平成19年頃までにはAと交際を始め,本件当時もAとの
交際を続けていた一方で,平成24年10月下旬には,Fとも交際を開始し,Fに対しては,結婚を前提とするかのような態度で接していた。
被告人は,平成25年6月初め頃,Fに対し,睡眠改善薬ドリエル(主成分ジフェンヒドラミン塩酸塩)をできるだけ多く購入するよう指示し,同月5日頃から9日頃までの間に,Fが購入した12錠入りドリエル合計8箱を受け取った。Aは,同月8日,川崎市内の中華料理店で被告人と食事をし,同日午後5時4分頃に新宿駅の改札を出た後,消息を絶ち,その後,相当量のジフェンヒドラミンを摂取した状態で,頸部を圧迫されて窒息死した。被告人は,Fと
共に,同月15日から翌16日までの間に,Aの死体をA方から運び出し,F方で一時保管した後,同年7月19日,相模原市内の墓地に埋めて隠匿した。⑵

以上のとおり,被告人は,Aが殺害されたのと同時期にジフェンヒド
ラミンを主成分とするドリエルを大量に入手した上,殺害されたAの死体をA方から運び出し,墓地に埋めて隠匿しており,Aを殺害した犯人であると推認できる。
第3訴訟手続の法令違反の論旨について
論旨は,要するに,ピンク歯に関するD証言及びこれを支持するE証言は,その科学的原理や理論的正確性が明らかになっておらず,証拠能力がないにもかかわらず,これを認めた原判決には訴訟手続の法令違反があり,その余の証拠によっては原判示の事実を認めることができないから,判決に影響を及ぼすことも明らかである,という。
そこで検討すると,D教授は,法医学,特に窒息死等を専門とし,現在,g大学大学院医学研究院教授を務めており,約2500件の司法解剖を経験していること,E教授は,法医学を専門とし,現在,h大学法医学講座教授を務めており,約4000件の解剖(主に司法解剖)を経験していることが認めら
れ,両名とも死体の解剖等に基づいて死因やその機序等に関する専門的な意見を証言するのに十分な学識経験を有しているものと認められる。そうすると,両名の証人尋問は,本件において関連性及び必要性があるといえ,両名の証言には証拠能力が認められる。
所論は,両名の証言中,ピンク歯に関する見解が科学的原理や理論的正確性
を欠くというところ,その指摘に正当なものが含まれることは,後に検討するとおりである。しかし,同見解は,経験科学としての側面を持つ法医学上の根拠を全く欠くものではなく,異なる見解に基づく専門家の証言等と対比しながら,その当否を検討することが相当というべきであるから,上記見解に関する部分を含め,両名の証言の証拠能力を肯定した原判決の判断に誤りはない。
訴訟手続の法令違反の論旨は理由がない。
第4事件性に関する事実誤認の論旨について
1論旨は,Aの死因が頸部圧迫による窒息死であり,Aは何者かによって頸部を圧迫されて窒息死したと認めた原判決には事実の誤認があるというのであり,その理由として,Aの死体には著明なピンク歯は見られず,著明なピン
ク歯の所見は頭部鬱血ひいては頸部圧迫による窒息死を示すものでもないことに加え,Aの死体から致死的な濃度のジフェンヒドラミンが検出されており,ジフェンヒドラミン中毒死の可能性がある,という。
2原判決の前記認定判断は,合理的な理由を示さないまま,B証言の信用性を否定するとともに,D証言の信用性を肯定した点で,論理則,経験則等に照らして不合理であり,是認できない。以下,その理由を説明する。⑴

B教授は,法医学を専門とし,現在i大学大学院法医学教室教授とj
大学大学院法医学教室教授を併せて務め,約1500件の司法解剖の経験を有していることが認められ,死体の解剖等に基づいて死因やその機序等に関する専門的な意見を証言するのに十分な学識経験を有しているところ,原審公判廷において,ピンク歯に関連して,次のとおり,相当程度具体的な証言をしている。
すなわち,Aの死体には,切歯の根元を中心に典型的なピンク歯が認められるが,溺死の死体の方が強いピンクを示すことがあり,それほど強いピンクではない。ピンク歯は,水中や土中から発見された死体で見られることがよくあり,血液中のヘモグロビンが水分に溶け出し,それが歯ににじみ込むことによ
って生じると考えられるため,そのような現象が起きるあらゆる環境で生じ得る。したがって,ピンク歯は,頸部圧迫による窒息死に特異的な現象ではなく,それをもって頸部圧迫による窒息死ということはできないので,重視していない。動物実験を通じピンク歯の形成原因について研究したD教授の論文は,絞殺した犬と失血死させた犬とを放置し,前者にはピンク歯が見られたも
のの,後者にはピンク歯が極めてわずかしか見られなかったことを明らかにしたものであるが,ピンク歯がヘモグロビンによって形成されることの証明にはなるものの,絞殺によって生じるというためには,絞殺した犬と出血を伴わない方法で殺害した犬とを対照する必要があり,その証明になっていない。⑵

原判決は,D教授が長年にわたってピンク歯が生ずる条件や形成過程
等について研究を重ねている一方,B教授は,D教授のようにピンク歯に関する深い知見を有しているわけではないとして,その証言の信用性を否定する理由の一つとしている。しかし,長期間にわたる研究の継続が学問的な真実の発見に結び付くとは限らない一方,当該分野の専門家であれば,個別の事項について研究を行っていなくとも,その学識経験に基づき,当該事項についての研究の当否を判断することはできるはずであるから,原判決の指摘は当を得ない。実際に,B教授は,前記のように相応の根拠を示して,ピンク歯が頸部圧迫による窒息死の所見であるとする見解を否定する証言をしている。また,原判決は,D教授は著明なピンク歯が頸部圧迫による窒息死の所見であることについて合理的な理由を証言している一方,B教授は著明なピンク歯の所見がある場合にまで,頸部圧迫による頭部鬱血が生じていることを否定す
る理由について,特段の根拠を示していないとして,その証言の信用性を否定する理由の一つとしている。しかし,そもそも,B教授の証人尋問において,D教授のいう著明なピンク歯の所見がある場合についての質問はなく,この点に関するB教授の見解は不明というほかないから,原判決の指摘は前提に誤りがある。また,B教授は,D教授が著明なピンク歯と認めるAの死体よりも濃
いピンク歯が溺死体で認められたことなどを挙げて,ピンク歯が頸部圧迫による窒息死に特異的な所見ではないと証言しており,著明なピンク歯の所見がある場合でも,頸部圧迫による頭部鬱血が生じていたとは言い切れない根拠を示しているともいえる。
したがって,原判決がB証言の信用性を否定した理由は,いずれも不合理で
あって,是認できない。D教授とB教授は,いずれも法医学の専門家であるが,ピンク歯に関して異なる見解を採っており,各証言の信用性を検討するには,それぞれの基礎となる見解の理論的正確性や実証的根拠及び同見解に基づく判断の確実性等について,ピンク歯に関する法医学の研究状況なども踏まえ,科学的ないし実証的な根拠に遡って検討する必要があり,原判決の検討は
不十分といわざるを得ない。


付言するに,原審では,4名もの法医学者の証人尋問が実施されているが,各証人尋問が別期日で実施され,争いのない事項についての尋問が重複する一方,見解の相違点に着目した尋問が十分に行われたようには見受けられず,証拠調べを終えた段階で,それぞれの証言にどのような相違があり,それがどのような理由で生じているのかを理解し難い状態に陥り,その判断に必要なピンク歯に関する法医学の研究状況が客観的かつ分かりやすく示されることもなかったのではないかと思われる。このような点において,原審裁判所の審理は,裁判員がその職責を十分に果たすための配慮に欠けていたといわざるを得ず,これが前記のような検討の不十分さ,不合理さにつながった可能性がある。

3そこで,Aの死因を頸部圧迫による窒息死とした原判決の結論の当否について,原審証拠のほか,当審における事実取調べの結果も踏まえ,更に検討する。


B証言等の関係証拠によれば,Aの死因として可能性があるのは,頸
部圧迫による窒息死とジフェンヒドラミン中毒死の2つであることが認められるところ,一方の死因を認定するには,他方の死因の合理的な疑いが否定される必要がある。そこで,まず,ジフェンヒドラミン中毒死の可能性を否定できるかを検討する。


D教授及びE教授は,①Aの死体に認められる著明なピンク歯は,生
前又は死後に頭部が強く鬱血するような状況があったことを示す所見であるが,②ジフェンヒドラミン中毒死が遷延死であって,死亡の過程で強い頭部鬱血は生じず,血液の流動性が失われて死後に鬱血が生じることもないとし,ジフェンヒドラミン中毒死の可能性を否定する。また,D教授は,③急死するほど多量のジフェンヒドラミンを摂取した場合,胃内容物にその痕跡があるはずであるが,それが見られないことも理由に挙げる。そこで,これらの見解の当
否について,順に検討する。

著明なピンク歯が,生前又は死後に頭部が強く鬱血するような状況があったことを示す所見であるとする点(前記①)について,D教授は,頭部の鬱血によりピンク歯の形成が促進される過程を挙げて説明しているが(前記第2の3⑵),ここで問題とすべきは,生前又は死後に頭部の強い鬱血がなければ,著明なピンク歯が生じる現実的な可能性がないといえるかである。D証言によれば,ピンク歯は,湿潤かつ比較的低温な環境下で,歯の細血管中のヘモグロビンが死後に体内で産生された一酸化炭素等と結合し,それが歯に染み込むことにより生じると理解されるが,頭部の鬱血がなくとも歯の細血管中にはもともとヘモグロビン(血液)が存在するのであるから,頭部の鬱血が必要条件となるというような論理的な関係は見いだせない。D教授は,過去
に行った動物実験において,絞殺した犬2頭と失血死させた犬2頭の死体を山林内に約2か月放置したところ,前者は2頭ともほぼ全ての歯にピンク歯が形成されたのに対し,後者は2頭とも切歯又は臼歯の数本がわずかにピンクを呈している程度にとどまったことを理由として挙げる。しかし,この実験については,B証言,C証言及び当審におけるG教授(法医学を専門とする医師であ
り,k大学医学部長,l研究所長を歴任し,ピンク歯に関する研究業績もあり,十分な学識経験を有していると認められる。)の各証言が指摘するように,失血死させた犬は血液自体が大きく減少して前提条件が異なってしまっているため,この結果を他の死因に類推するのは困難である。すなわち,失血死させた犬であっても歯の一部がピンクを呈しており,心臓発作など血液量が減
少しなかった場合にピンク歯が生じるか否か,生じるとして,その割合や色調が頭部鬱血を伴う場合と異なるか否かは,上記実験によっては明らかにならない。また,何らかの相違が生じるとして,ピンク歯の割合や色調等(著明度)をどのように評価し,どのような基準で頭部鬱血の有無,程度を判定するのかも,不明のままである。以上によれば,著明なピンク歯を生前又は死後に頭部
が強く鬱血するような状況があったことを示す所見とするD教授の見解は,その根拠が実験や調査によって法医学的に証明されておらず,実践面でもピンク歯の著明度から頭部鬱血の有無,程度を判定する方法や基準等が不明であって,仮説の段階にとどまっているといわざるを得ない。これを支持するE証言についても,同様の指摘が可能である(なお,D証言には,頭蓋骨がピンクを呈するピンク骨に言及する部分もあるが,その説明によればピンク骨は原理的にピンク歯と異ならないというから,以上で指摘した問題点がピンク骨についても当てはまるといえる。)。
この点に関する法医学の先行研究をみると,D教授も,近年海外で刊行された論文において,ピンク歯の発生と死因との間には明白な関連性がないという一般的な合意があるとの指摘がなされていることを認めている。また,G教授
は,首を絞めて土中に埋めた何例かの死体にピンク歯が見られたことから,ピンク歯があれば絞殺という推認に使えるのではないかということに注目されてピンク歯に関する研究は始まったが,現時点に至るまでの国内外の研究を踏まえると,ピンク歯は特定の死因に結び付くものではなく,死後の状況にも左右されるとし,また,溺死の場合,湿った環境があり,頭部が下になって漂流す
ることが多いため,ピンク歯が形成されやすいと言われているものの,実際にはピンク歯が形成されないものが多く,条件が同じであるのにピンク歯の形成の有無に差異が生じているため,ピンク歯の形成に関して何らかの具体的な因果関係を証明するのは困難であり,生前,死後に顔面の鬱血があれば,ある程度ピンク歯を起こしやすくするだろうという関係にとどまると証言している。
さらに,ピンク歯の著明度(範囲や色調)と死因ないし頭部鬱血との関係の考察となると,D教授による論文に簡略な記述がある(前記動物実験に関する論文に,強いピンク歯の産出が見られたときには,一応絞殺や扼殺などの死亡状況を考慮に入れる必要がある旨の記述があり,原審証言後に掲載された論文に上下顎の広範囲に著明なピンク歯が見られなおかつピンク骨を伴う場合は,やはり生前,頚部圧迫による頭部鬱血があった可能性を常に考える必要があると思われるとの記述がある。)以外には,研究結果が明らかになっておらず,ほとんど研究が行われていない状況にある。したがって,D教授のピンク歯に関する前記見解は,法医学の分野において広く承認されたものとはいえず,むしろ,これと異なる見解が有力に存在しているといえる。
そうすると,著明なピンク歯が,生前又は死後に頭部が強く鬱血するような状況があったことを示す所見であるとするD教授の見解は,どの程度の頭部鬱血があればピンク歯が生成されるのかが明確でない点をおくとしても,同見解自体,理論的な正確性が明らかでなく,著明なピンク歯の評価を確実に行う手法も確立されていないのであって,現在の研究状況を前提にする限り,刑事裁判の証拠として十分な証明力を有するとはいえない。したがって,これに依拠
したD証言及びE証言の信用性は低いといわざるを得ない。
この点,検察官の所論は,前記動物実験は,頭部鬱血があると著明なピンク歯が形成されやすいことを示しており,B教授及びG教授の見解は著明なピンク歯が認められる場合にまで頭部鬱血が生じたことを否定する根拠が不明である,という。しかし,前記動物実験について適切な対照実験が行われていない
ことは,前記のとおりであり,問題は頭部鬱血がピンク歯形成の主たる要因であることの法医学的論証がなされていない点にあり,所論は当を得ない。イ
ジフェンヒドラミン中毒死が急死ではなく,死亡の過程で強い頭部
鬱血は生じないとする点(前記②)について,D証言及びE証言を詳しく見ると,ジフェンヒドラミンは睡眠薬であるが,睡眠薬中毒は,脳に作用してその機能を麻痺させ,最終的に呼吸を麻痺させたり,心臓の動きが悪くなったりして死亡に至るもので,急死ではなく,急死の徴候である血液の流動性が保たれないため,頭部の強い鬱血は生じない,というのである。
これらの証言は,睡眠薬中毒に関する法医学の知見に基づくもので,相応の信用性が認められる(なお,ジフェンヒドラミンは,抗ヒスタミン薬としても
用いられる睡眠改善薬であり(原審甲97),厳密には睡眠薬と異なる性質であることがうかがわれるが,中枢神経抑制作用を有しているという点では違いがないと考えられる。)。もっとも,G証言によれば,国内外の論文によれば,ジフェンヒドラミンを大量に服用した自殺例について,その死因は急性の心臓死であろうとの報告があること,米国の救急医学のガイドラインによればジフェンヒドラミンには抗コリン作用が認められ,不整脈を起こすなどの心臓毒としての性質もあり,急性の心臓死を起こすことがあるとされており,米国ではジフェンヒドラミン中毒は心肺の緊急症という言い方もされていること,一般に,急死の所見が現れるか否かは薬物摂取からの時間経過ではなく,死亡前に急変があったか否かが影響することから,ジフェンヒドラミン中毒死であっても死亡前に激変が生じる状況が考えられ,急死の所見がみられてもおかし
くはないことなどを証言する。G証言が援用する論文は,症例数が限られ,鬱血や心臓血の流動性等の急死の所見の有無への言及はないが,ジフェンヒドラミン中毒死の機序を明らかにしており,捜査関係事項照会に対する製薬会社の回答(原審甲97)に,ジフェンヒドラミン塩酸塩の中毒症状は,患者によって異なり,小児や若年者では,中枢神経の抑制ではなく,抗コリン毒性による
不穏・興奮,けいれん発作などの中枢神経刺激作用が現れやすいとされていることとも整合している。G証言中,上記各論文に基づく推論過程にも不合理な点はないから,G証言の信用性はにわかに否定できない。そうすると,睡眠薬中毒に関する一般的な知見に基づくD証言及びE証言が,ジフェンヒドラミン中毒死において急死の徴候を示す症例があり得ることまで否定する趣旨であれ
ば,不合理であって採用できない。
この点,検察官は,ジフェンヒドラミン中毒死は,その血中濃度が上がるにつれて,呼吸中枢を麻痺させ,心臓が弱り,死に至るという経過をたどるので,死亡直前に症状が急変するような事情があったとしても,瞬間死に近い経過にはなり得ないというが,ジフェンヒドラミン中毒が抗コリン毒性による症
状を示す可能性を見落としており,採用できない。
なお,E教授は,D教授が指摘した点に加えて,ジフェンヒドラミン中毒死が急死とはいえないことを前提に,血液が流動性を失って凝固することにより,血液が歯ににじみ出にくくなり,ピンク歯が形成されなくなるとも証言している。しかし,ジフェンヒドラミン中毒死が急死でないという前提が採用できないことは前述のとおりである。

D証言のうち,急死するほど多量のジフェンヒドラミンを摂取した
場合,胃内容物にその痕跡があるはずであるが,それが見られないという点(前記③)について検討する。
そもそも,B教授は,Aの死体の大腿筋組織から検出されたジフェンヒドラミンの濃度は18.5㎍/gであり,死後の水分の蒸発等を考慮すると,死亡時の血中濃度は8.8ないし10.6㎍/gと推定されるところ,5ないし10㎍/gが昏睡や死に至る濃度とされているので,中毒死であっても矛盾はないと説明しており,D教授及びE教授も,死後変化により正確な評価が困難としつつも,生前にかなりの量のジフェンヒドラミンを摂取していたことは間違いなく,その濃度からは,中毒死の可能性を否定していない。したがって,A
が多量のジフェンヒドラミンを摂取していた事実は動かし難く,その濃度からは中毒死の可能性を否定できない。そして,G教授は,ジフェンヒドラミン中毒死4例の症例報告論文に,いずれの死体も胃内容物は液体であって,錠剤等が残っていたとの報告はないとした上,一旦溶けたジフェンヒドラミンは,体の組織に染み込んでいき,乾燥等によって析出することは考え難いとしてい
る。このG証言は,症例報告に基づいた合理的な内容であって信用できる。そうすると,急死するほど多量のジフェンヒドラミンを摂取した場合,胃内容物にその痕跡があるはずとのD証言は,採用できない。
(中略)
したがって,Aの死体の胃内容物にジフェンヒドラミンの痕跡が見当たらな
いことから,ジフェンヒドラミン中毒による急死の可能性を否定するD証言は,採用することができない。
この点,検察官は,G教授が引用するジフェンヒドラミン中毒死に関する症例は,摂取したジフェンヒドラミンの形状や量が不明であり,本件に当てはまるとはいえないし,当該症例についても,胃内容物が乾燥すると溶けていたジフェンヒドラミンの残渣が現れる可能性もあるというが,可能性の指摘にとどまり,溶けたジフェンヒドラミンは体の組織に染み込んでいくはずである旨のG証言に対する論難とはなっていない。また,検察官は,胃内容物の点以外に,G教授がジフェンヒドラミン中毒死であるが直接の死因が急性心不全の症例として引用する論文によれば,肺水腫の所見があったとされているが,Aの死体には見られない,という。しかし,B教授作成の鑑定書(原審甲4)によ
れば,Aの死体は高度に腐敗し,全身の組織にガス産生が認められ,諸臓器の容積が低下,変形している状況にあり,気胸も死後変化によるものとして矛盾しないとされており,肺水腫があったことと矛盾しない。所論はいずれも採用できない。

以上を総合すると,①Aの死体に認められる著明なピンク歯が生前
又は死後に頭部が強く鬱血するような状況があったことを示す所見であるとはいえず,②ジフェンヒドラミン中毒死であっても,血液の流動性が保たれ,頭部鬱血が生じた可能性は否定できず,また,③急死するほど多量のジフェンヒドラミンを摂取した場合であっても,胃内容物にその痕跡があるとは限らないのであるから,D証言及びE証言が挙げる理由によっては,ジフェンヒドラミ
ン中毒死の可能性を否定することはできない。


ところで,以上を前提としても,Aの死因を頸部圧迫による窒息死と
認めるべき積極的な事情があれば,ジフェンヒドラミン中毒死の可能性を否定し,頸部圧迫による窒息死と認定することもできなくはないので,以下検討する。

D証言には,Aの死体に著明なピンク歯が認められることから,頸
部圧迫による窒息死であることが認められるかのように述べる部分がある(原審D55頁,82頁ないし83頁)。しかし,D教授は,著明なピンク歯の存在から死因を頸部圧迫による窒息死と推定するのは,それが頭部の強い鬱血を生じる死因であるからと述べているところ,前記⑵アで検討したとおり,著明なピンク歯が頭部鬱血を示す所見であるとはいえない以上,上記のような推定も困難である。また,原審証拠によれば,頭部鬱血は,頸部圧迫による窒息死以外にも心臓死によって生じることがあり,死後に頭部を下に放置されたり,胸部が強く圧迫されたりすることによっても生じ得るとされており(原審E39頁,原審D18頁),著明なピンク歯の存在から頸部圧迫による窒息死と推認するには,これらの可能性を否定する必要があり,ピンク歯の存在を頸部圧迫による
窒息死と結び付けることは,一層困難である。
なお,この点,E教授は,頸部圧迫ではない急死の死体が床に寝かされて放置された場合,顔の向き等によってピンク歯は上下左右に偏って形成され,Aの死体のように著明なピンク歯が形成されることは考え難い,という。しかし,これは,D教授の証言に現れていない観点である上,Aが死亡した後に,
その死体が同人方やF方でどのように取り扱われ,どのような体勢で放置されていたかは証拠上明らかではないから,採用できない。

ピンク歯以外に,Aの死体には,頸部や眼瞼結膜,眼球結膜,肺胸
膜及び頭蓋内等に生前の出血をうかがわせる変色部があることが認められるところ,D証言及びE証言は,これらを総合して,Aの死因を頸部圧迫による窒息死としているようにも理解できる。
しかし,上記変色部の大部分について,解剖を担当したB教授は,死体が高度に腐敗しているため,死後の血色素の浸潤や付着といった死後変化の可能性が否定できないと指摘しており,D証言及びE証言も,これを覆すに足りる根拠を示しているわけではないから,上記変色部が生前の出血を示すものとは言
いきれない。B教授が死後変化によるものと説明しにくい,すなわち,生前の出血である可能性が高いとしているのは,左の上眼瞼結膜の半米粒大の変色部数か所にとどまるところ,法医学的に見て,この数か所の出血のみで死因を頸部圧迫による窒息死と特定する根拠があるとは認められない。このように,Aの死因を頸部圧迫による窒息死と認めるべき積極的な事情は見いだせない。4以上によれば,原審証拠を総合しても,Aの死因がジフェンヒドラミン中毒死である合理的な疑いを否定することはできない。したがって,Aの死因が頸部圧迫による窒息死であり,Aは何者かによって頸部を圧迫されて窒息死したと認定した原判決には,事実の誤認があり,この点が判決に影響を及ぼすことも明らかである。
もっとも,本件公訴事実及び原判決が認定した罪となるべき事実は,被告人
がAに対し,殺意をもって,ジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を過剰に摂取させたことも殺人の実行行為の一部としていると解される。したがって,Aの死因を頸部圧迫による窒息死と認めることができない場合でも,上記事実について事実誤認があるか更に検討する必要がある。そして,この点は,被告人の犯人性と切り離して検討することができないので,弁護人の犯人性に
関する事実誤認の論旨と併せて検討することとする。
第5睡眠改善薬を過剰摂取させた点に関する事実誤認の論旨について1弁護人の犯人性に関する事実誤認の論旨は,被告人はAを殺害しておらず,その理由として,被告人がAの死体を移置するなどした事実は殺害行為をしたことを示すものではない,被告人が購入したドリエルがAの死体から検出
されたジフェンヒドラミンであるとする根拠や,遮光カーテンの購入が死体保管の準備行為であるとする根拠はない,被告人の行動には殺害行為をした犯人だとすると不合理なものがある,という。
2原判決は,被告人がAに対し,殺意をもって,ジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を過剰に摂取させた旨認定しているところ,Aの死因が頸部
圧迫による窒息死であるとした前提に誤りがある。また,被告人がジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を過剰に摂取させたことをうかがわせる間接事実が複数認められるものの,被告人が殺意をもってAにジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を摂取させたと認定するには,被告人の関与なしにAがジフェンヒドラミンを摂取した可能性や被告人の同関与をAが容認していた可能性が否定される必要があるが,この点についての審理が尽くされたとはいえない。以下,説明する。


原判決は,被告人がAに対し,ジフェンヒドラミンを含有する睡眠改
善薬を摂取させた根拠として,Aの死体を同人方から運び出し,墓地に埋めて隠匿したこと,Aが消息を絶った6月8日からそれほど日をおかないで,相当量のジフェンヒドラミンを摂取した状態で死亡したこと,被告人が同月5日から同月9日にかけてジフェンヒドラミンを主成分とするドリエルを多量に入手していること,ドリエルの入手は,遮光カーテンの購入等といったAの死体を保管ないし遺棄するための準備行為と近接する時期にそれらと同様にFに命じて行っていることを挙げる。


確かに,個々の事実を分断して見た場合,弁護人が指摘するとおり,
Aの死体から検出されたジフェンヒドラミンが被告人の入手したドリエルに由来するとは断定できない。また,被告人がFに遮光カーテンの購入を依頼した同月9日の時点でAが死亡していたと認めるに足りる証拠はないから,これをAの死体を保管ないし遺棄するための準備行為と評価することも,ひいてはドリエルの購入を殺害の準備行為と推認することもできない。

もっとも,原審証拠によれば,Aが消息を絶った6月8日からそれほど日をおかずに,多量のジフェンヒドラミンを摂取した状態でAが死亡したこと,被告人はAの死体を当初はA方に放置し,その後,ビニールシート等で包みF方に運び入れ,7月19日まで保管した上,神奈川県内の墓地に運び,穴を掘って,土中に遺棄したことは疑いなく認定できるところ,病死や自殺等,被告人
の関与なしに死亡したのであればこのような行動に出ることは通常考え難く,Aと被告人の従前の関係を考慮しても,被告人がAの死亡に積極的な関与をしたことを強く推認させる事情といえる。また,Aの死体からは,中毒死する可能性のある高濃度のジフェンヒドラミンが検出されているところ,被告人は6月5日から同月9日にかけてジフェンヒドラミンを主成分とするドリエル(12錠入りのもの)を8箱入手している。そして,本来の用途に服用するために,これほど多量のドリエルを一度に入手する必要はないことからすると,被告人が入手したドリエルがAの死体から検出されたジフェンヒドラミンであると合理的に推認することができる。以上によれば,被告人がドリエルを入手した上,これを何らかの方法でAに多量に服用させた後,何らかの理由でAが死亡した可能性が非常に高いといえる。

また,用量を大きく超えるジフェンヒドラミンを服用させること自体,生命への危険性の高い行為であり,入手経緯に照らすと,被告人にその認識もあったといえるところ,被告人としては,中毒死を目的にするにせよ,過剰に摂取させて意識を失わせる目的にとどまるにせよ,最終的には殺害する目的があったとする以外に合理的理由を見いだすことは困難である。したがって,被告人
がAにドリエルを多量に服用させたのであれば,それは殺害目的であったと推認できる。
ただし,原審においては,Aの死因が頸部圧迫による窒息死であり,死因が認定できれば,他殺であることもほぼ確実に認定できるという判断構造に沿った審理及び評議がなされており,Aが被告人の関与なしに死亡したにとどまる
のに,被告人があえてAの死体を保管,遺棄したといえる特段の事情があるかについて審理が尽くされたとはいえない。また,多量のドリエルを摂取させるには,欺罔して自ら摂取させるなど,Aの行為を利用したと考えるのが合理的であるところ,その際,Aが死亡の結果を容認していたといえる具体的な事情が被告人側から主張されるのであれば,その点についても審理を尽くす必要が
ある。そうすると,これらの点について審理を尽くすことなく,被告人がAに対し,殺意をもって,ジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を摂取させたと認定した原判決には事実の誤認があり,この点が判決に影響を及ぼすことも明らかである。
第6破棄差戻し
1以上によれば,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり,その余の論旨について検討するまでもなく,破棄を免れない。そして,被告人が,殺意をもって,ジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を摂取させたとの殺人未遂罪が成立する可能性があるところ,この点に関する攻撃防御が尽くされたとはいえず,有罪の場合,これを前提とする量刑判断も必要となる。そこで,本件を第一審に差し戻し,裁判員の参加する合議体におい
て,更に審理を尽くさせるのが相当である。なお,Aの死亡に関して被告人以外の第三者の関与がうかがわれないことからすると,検察官としては,訴因を変更した上で,引き続き殺人既遂の罪責を問題とする余地もあるところ,以上の説示は,これを妨げる趣旨ではない。
2弁護人は,原審においてAの死因が頸部圧迫による窒息死であるか否か
が争点とされ,その点が否定されたのであるから,無罪の自判をすべきであり,検察官にこれと異なる主張立証の機会を与え,被告人側に防御準備をやり直させることは手続的正義に反する,と主張する。
しかし,被告人が,殺意をもって,ジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を摂取させたことは公訴事実の範囲内の事実である。また,原審の公判前整
理手続においては,D教授及びE教授のピンク歯に関する見解と相反する証拠はB教授及びC准教授の証言にとどまることが見込まれており(なお,当審G証言が引用した海外の論文等の一部は,原審におけるD教授の証人尋問の際,原審弁護人から示されているが,検察官に尋問直前にその英文資料が提示されただけであり,証拠として請求されたわけでもない。),当審における事実取
調べによって,この証拠関係が大きく変動したことは否定し難く,これに応じて,当事者双方に新たに主張立証等の機会を与えるために本件を第一審に差し戻すことは,何ら手続的正義に反するものではない。
3よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条本文により,本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。
令和2年12月14日
東京高等裁判所第6刑事部

裁判長裁判官

大熊
裁判官

奥山
裁判官

小一之野寺豪健太
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