事件番号 | 平成24(行ウ)117 |
---|---|
事件名 | 発電所運転停止命令義務付け請求事件 |
裁判年月日 | 令和2年12月4日 |
裁判所名・部 | 大阪地方裁判所 第2民事部 |
判示事項の要旨 | 原子力規制委員会がした発電用原子炉の設置変更許可が違法であるとされた事例 |
裁判日:西暦 | 2020-12-04 |
情報公開日 | 2020-12-24 14:00:22 |
原告X51,原告X60,原告X62,原告X72,原告X105,原告X122,原告X123及び原告X125の各訴えをいずれも却下する。 2 原子力規制委員会が平成29年5月24日付けで被告参加人に対してした大飯発電所3号機及び4号機に係る発電用原子炉の設置変更許可を取り 消す。 3 訴訟費用(参加によって生じた費用を除く。)は,第1項記載の原告らと被告との間においては,被告に生じた費用の20分の1を同項記載の原告らの負担とし,その余は各自の負担とし,その余の原告らと被告との間においては,全部被告の負担とし,参加によって生じた費用は,第1項記載の原告 らと被告参加人との間においては,被告参加人に生じた費用の20分の1を同項記載の原告らの負担とし,その余は各自の負担とし,その余の原告らと被告参加人との間においては,全部被告参加人の負担とする。 事実及び理由 目次 第1 請求...............................................................3 第2 事案の概要.........................................................3 1 2 関係法令の定め等.....................................................4前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実)...............................................734 争点に関する当事者の主張の要旨.....................................12 (1) 争点1(原告適格).................................................12 (2) 争点................................................................11 争点2(入倉・三宅式及び壇ほか式の合理性)........................15 (3) 争点3 (入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることの合理性).......................39(4) 争点4 (本件申請について, 制御棒挿入性の点が設置許可基準規則4条3項に 適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性).........................48(5) 争点5(本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制 委員会の判断の合理性)..................................................50(6) 争点6 (本件申請について, 基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適 合するとした原子力規制委員会の判断の合理性)...........................57(7) 争点7 (本件各原子炉施設について, 設置許可基準規則51条所定の設備が設 けられ,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられており,参加人に法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力があるとした原子力規制委員会の判断の合理性)................................................................62(8) 争点8(設置許可基準規則55条は想定し得る放射性物質の拡散形態の全て をその適用対象とするものであるか).....................................66第3 争点1(原告適格)についての当裁判所の判断.......................70 1 認定事実............................................................70 2 検討................................................................74 3 当事者の主張に対する判断............................................75 第4 本件処分の適法性(争点2から9まで)についての当裁判所の判断.....77 1 判断枠組み..........................................................77 2 争点2(本件申請について,基準地震動の策定の点が設置許可基準規則4条3 項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性-入倉・三宅式及び壇ほか式の合理性)について......................................................82(1) (2) 入倉・三宅式の合理性について......................................82壇ほか式の合理性について..........................................99 3 争点3(本件申請について,基準地震動の策定の点が設置許可基準規則4条3 項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性-入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることの合理性)について...................................................106(1) (2) 本件ばらつき条項(地震動審査ガイドⅠ.3.2.3(2))の意義...115 (3) 検討..............................................................128 4 認定事実..........................................................106 争点4(本件申請について,制御棒挿入性の点が設置許可基準規則4条3項に 適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性)について................1335 争点5(本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委 員会の判断の合理性)について...........................................1346 争点6(本件申請について,基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適 合するとした原子力規制委員会の判断の合理性)について..................1527 争点7(本件各原子炉施設について,設置許可基準規則51条所定の設備が設 けられ,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられており,参加人に法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力があるとした原子力規制委員会の判断の合理性)について.......................................................1638 争点8(設置許可基準規則55条は想定し得る放射性物質の拡散形態の全てを その適用対象とするものであるか)について..............................1719 まとめ.............................................................182 第5 結論.............................................................182 第1 請求 主文2項同旨 第2 事案の概要 本件は,福井県,岐阜県,滋賀県,京都府,大阪府,兵庫県,奈良県,和歌 山県,埼玉県,神奈川県及び沖縄県に居住する原告らが,原子力規制委員会が平成29年5月24日付けで被告参加人(以下参加人という。)に対してした大飯発電所3号機及び4号機に係る発電用原子炉(以下本件各原子炉という。)の設置変更許可(以下本件処分という。)は,参加人に重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力がなく,また,上記許可の申請(以下本件申請という。)が実用発電用原子炉及びそ の附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(平成29年原子力規制委員会規則第13号による改正前のもの。以下設置許可基準規則という。)で定める基準に適合するものでないにもかかわらずされたものであるから,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(平成29年法律第15号による改正前のもの。以下法という。)43条の3の8第2項において 準用する43条の3の6第1項3号,4号(以下,この準用関係については特に断らない。)に反し違法である旨主張して,その取消しを求める事案である。1 関係法令の定め等 (1) 関係法令等の定めは, 別紙2 関係法令等の定め 記載のとおりである (同 別紙中で定めた略称は,以下においても同様に用いる。)。 (2) 原子炉設置(変更)許可に関する規則等(いわゆる新規制基準)について (乙147,弁論の全趣旨) ア 平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故 (以下 福島第一原発事故 という。 ) を契機として,平成24年6月27日,原子力規制委員会設置法(平成24年法律第47号。以下設置法という。)が制定され,同年9月,原子力規制委員会が設置された。 法は,設置法附則15条から18条までに基づいて改正された後のものであり,このうち原子炉設置(変更)許可の要件等に関する改正は,平成 25年7月8日に施行された(設置法附則1条4号,17条)。法43条の3の6第1項は,原子炉設置(変更)許可の要件として,3号において,当該申請をした者に重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があることを,4号において,発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委 員会規則で定める基準に適合するものであること(以下4号要件という。)を,それぞれ定めている(別紙2の第1の3)。 イ 原子力規制委員会は,設置法に基づく改正によって重大事故等への対策が法による規制の対象と位置付けられたことなどを踏まえ,重大事故等へ の対策,地震及び津波以外の自然現象への対策に関する設計基準に加え,これまで原子炉設置許可の基準として用いられてきた安全設計審査指針等を見直した上で,原子力規制委員会が定めるべき基準を検討するため,発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム(後に,発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チームと改称。以下原子炉施設等基準検討チームという。)を構成した。また,自然現象に関する設計基準のうち,地震及び津波対策については,原子力規制委員会の前身である原子力安全委員会に設置された地震等検討小委員会の検討も踏まえた上で,原子力規制委員会が定めるべき基準を検討するため,発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる規制基準に関する検討チーム(以下地震等基準検討チームといい,原子炉施設等基準検討チームと併せて各基準検討チームという。)を構成した。各基準検討チームは,いずれも原子力規制委員会の委員が中心となり,原子力規制庁職員も参加し,また,関係分野の学識経験者を有識者として同席を求め,専門技術的知見に基づく意見等を集約する形で規制基準の見直しが行われた。 原子力規制委員会は,各基準検討チームによる検討の結果に加え,行政手続法に基づく意見公募手続を行った上,法43条の3の6第1項4号の委任を受けた原子力規制委員会規則である設置許可基準規則(別紙2の第2)及び4号要件の適合性の判断に関する審査基準である規則の解釈(別紙2の第3)を定めた。また,原子力規制委員会は,4号要件の適合性審査に用いる各種審査ガイド(基準地震動の策定,基準津波の策定等に関するもの。別紙2の第5はその一部)を定めた。 ウ 原子力規制委員会は,前記イの規則等のほかにも,法43条の3の6第1項2号及び3号所定の要件の適合性の判断に関する審査基準(後者が,技術的能力審査基準(別紙2の第4)である。),工事の計画の認可等に関する法43条の3の14の委任を受けた原子力規制委員会規則である実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則(以下技術基準規則という。)及びこれに関する審査基準等,様々な規則,告示及び内規を定めている。行政実務上,これらの全部又は一部が新規制基準と呼ばれている。 (3) ア 震源断層を特定した地震の強震動予測手法(推本レシピ)について地震調査研究推進本部(以下推本という。)は,平成7年1月に発生した兵庫県南部地震を契機に明らかになった我が国の地震防災対策に関する課題を踏まえ,同年7月に総理府(当時)に設置された,地震防災対策の強化,特に地震による被害の軽減に資する地震調査研究の推進を目的とする機関であり,現在は文部科学省に設置されている。そして,推本の 下部組織として,関係行政機関の職員及び学識経験者から構成される委員会の一つである地震調査委員会が設置され,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うことを役割として担っている。さらに,同委員会の下に,平成11年8月,特定の震源断層に おいて地震が発生した際の強い揺れ(強震動)を予測する手法を検討するとともに,その手法を用いた強震動の評価を行うために,入倉孝次郎京都大学防災研究所教授(当時。以下入倉という。)を部会長として,強震動評価部会が設置され,同年10月には,同部会の審議に資するため,強震動予測手法の高度化に関する検討を行う強震動予測手法検討分科会(主査は入倉)が同部会の下に設置された。同分科会においては,強震動予測手法の構成要素(震源モデル等)等の審議が繰り返し行われている。 (乙155から157まで,弁論の全趣旨) イ 推本レシピは,地震調査委員会が実施してきた強震動評価に関する検討結果から,強震動予測手法の構成要素となる震源特性,地下構造モデル,強震動計算,予測結果の検証の現状における手法や震源特性パラメータの設定に当たっての考え方を取りまとめたものである。 推本レシピ(平成29年4月27日改訂版。特に断らない限り,以下同じ。)の概要は,別紙3推本レシピの概要記載のとおりである(同別紙中で定めた略称は,以下においても同様に用いる。)。 (乙36,73,87,251) 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) ア 当事者等 原告らは,福井県,岐阜県,滋賀県,京都府,大阪府,兵庫県,奈良県,和歌山県,埼玉県,神奈川県及び沖縄県に居住する者である。 イ 参加人は,関西地方を供給地域として電気事業を営むことを目的とする株式会社であり,大島半島の最先端部である福井県大飯郡おおい町大島1字吉見1-1に大飯発電所(以下本件発電所という。)を設置している(乙9)。 (2) ア 原子力発電の仕組み(乙147) 原子力発電は,ウラン燃料の核分裂連鎖反応を継続的に起こさせることによって熱エネルギーを発生させて水を蒸気に変え,その蒸気の力でタービンを回転させて電気を起こす発電方法である。ここにいう核分裂連鎖反応とは,燃料であるウランの原子核に入ってきた中性子が衝突して,ウランの原子核が,多くの場合2個の異なる原子核に分裂(核分裂)する際にエネルギーを発生し,その時同時に放出される中性子の1個が別のウランの原子核に衝突して次の核分裂を起こすという ように,これを繰り返すことで核分裂が継続することをいう。 ウランでは,1回の核分裂により2,3個の中性子が放出され,その中性子は,①炉心の外に逃げ出す,②核分裂を引き起こさない物質に吸収される,③次の核分裂を起こす,という三つの場合のいずれかとなる。1回の核分裂で発生した2,3個の中性子のうち1個のみが次の核分裂を引き 起こす状態,すなわち核分裂を引き起こしたのと同数の中性子が次の核分裂を引き起こす状態では,核分裂の数が常に一定に保たれており,このような状態を臨界という。これに対して,次の核分裂を起こす中性子の数が,核分裂を引き起こさない物質への吸収等により,核分裂を引き起こした数より少なくなる状態を未臨界といい,核分裂連鎖反応はやがて 止まることになる。 原子力発電所の中心部である炉心は,核分裂反応を起こして発熱する核燃料,核分裂で新たに発生する高速の中性子を次の核分裂反応が起こりやすい状態にまで減速させるための減速材,発生した熱を取り出すための冷却材,核分裂反応を制御するための制御材等から成り立っている。 軽水型原子炉とは,減速材及び冷却材の両者の役割を果たすものとして水(軽水)を用いる発電用原子炉のことをいい,沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)がある。 イ 加圧水型原子炉に用いる核燃料には,中性子が当たると核分裂反応を起こすウラン235を3~5%含む二酸化ウランを円柱状に焼き固めた燃料ペレットが使用されており,この燃料ペレットを金属製の被覆管の中に縦に積み重ね,両端を密封したものが燃料棒である。この燃料棒をまとめた燃料集合体により炉心を構成している。また,制御材としては,中性子吸収材が詰められている制御棒を燃料集合体内部にクラスタ状に配置して使用しており,この制御棒を出し入れすることによって炉心に存在する中性子の数を増減させ,核分裂反応を調整し,出力を制御している。 加圧水型原子炉においては,原子炉内の圧力を加圧することで,原子炉の冷却材(一次冷却材)を沸騰させることなく高温,高圧の熱水状態で維持している。この高温,高圧の熱水(一次冷却材)を熱源として蒸気発生器において別の系統の水(二次冷却材)を蒸気に変え,その蒸気が主蒸気管を通ってタービンに送られ,発電機により発電を行う。タービンを回転 させた蒸気は,復水器で冷却水(海水)により冷却されて水となり,この水(二次冷却材)は給水管を通って蒸気発生器に戻される。 加圧水型原子炉においては,制御棒と共にホウ素濃度の制御により出力を調整することができる。 ウ 原子力発電所は,安全確保の観点から,異常を早期に検知し,緊急を要する異常を検知した場合には全ての制御棒を原子炉内に自動的に挿入し,原子炉を緊急停止(核分裂連鎖反応を止める)できる設計とされる。加圧水型原子炉の場合,制御棒を炉心上部から挿入する構造であり,通常時は制御棒駆動装置内の電磁石に電流を流し,制御棒を炉心上部の適切な位置 に保持しており,緊急を要する異常時においては,制御棒駆動装置内の電磁石への電流を切断し,制御棒が自重で炉心に落下する仕組みとされる。また,上記の異常が事故に発展した場合にその影響を緩和するため,原子力発電所は,例えば,非常用炉心冷却設備により,炉心を冷却し,除去した熱を最終的な熱の逃がし場(最終ヒートシンク)へ輸送する系統によ り,原子炉圧力容器内において発生した残留熱を除去する設計とされる。さらに,原子力発電所は,上記の事故による放射性物質の異常な放出を防止することができる設計とされる。すなわち,放射性物質を閉じ込める設備として原子炉格納容器等があり,原子炉格納容器は,想定される最大の圧力,最高の温度及び適切な地震力に十分に耐えることができ,かつ適切に作動する格納容器隔離弁の作動と併せて放射性物質の漏えいを抑制する設計とされる。 (3) 本件発電所の概要(甲209,乙9,弁論の全趣旨) 本件発電所は,昭和54年3月に1号機が,同年12月に2号機がそれぞ れ営業運転を開始した原子力発電所である。本件各原子炉は,いずれも昭和62年2月10日付けで原子炉設置変更許可処分がされて増設されたものであり,平成3年12月に3号機が,平成5年2月に4号機がそれぞれ営業運転を開始した。本件発電所1号機及び2号機(定格出力はいずれも117.5万kW)は,いずれも平成30年3月1日に運転を終了した。 本件各原子炉は,いずれも加圧水型原子炉(PWR)であり,その定格出力は各118万kWである。 (4) ア 本件訴訟の提起及び本件処分に至る経緯等 原告らは,平成24年6月12日,経済産業大臣が参加人に対して設置法による改正前の法36条に基づき本件各原子炉の運転停止を命ずべき旨を命ずることを求める本件訴訟を提起した。 イ 参加人は,平成25年7月8日(設置法附則による原子炉設置(変更)許可の要件等に関する改正後の法の施行日)付けで,本件各原子炉及びそ の附属施設(以下本件各原子炉施設という。)の位置,構造及び設備,並びに本件各原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項(法43条の3の2第2項5号,10号)の変更を内容とする発電用原子炉の設置変更許可を申請した(本件申請。丙4)。 ウ 原告らは,平成25年9月19日,原子力規制委員会が参加人に対して法43条の3の23第1項に基づき本件各原子炉の使用停止を命ずべき旨を命ずることを求める旨の訴えの交換的変更をした。 エ 原子力規制委員会は,平成29年5月24日付けで,参加人に対し,本件申請に係る発電用原子炉の設置変更を許可した(本件処分。乙81)。原告らは,平成29年9月21日,本件処分の取消しを求める旨の訴え の交換的変更をした。 3 争点 (1) (2) 原告適格(争点1) 本件処分の適法性 ア 本件申請について,基準地震動の策定の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性 (ア) 入倉・三宅式及び壇ほか式の合理性(争点2) (イ) 入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることの合理性(争点3) イ 本件申請について,制御棒挿入性の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性(争点4) ウ 本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性(争点5) エ 本件申請について,基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性(争点6) オ 本件各原子炉施設について,設置許可基準規則51条所定の設備が設けられ,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられており,参加人に法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力があるとした原子力規制委員会の判断の合理性(争点7) カ 設置許可基準規則55条は想定し得る放射性物質の拡散形態の全てをその適用対象とするものであるか(争点8)4 争点に関する当事者の主張の要旨 (1) 争点1(原告適格) (原告らの主張の要旨) ア 法1条は,原子力施設で重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で放出されるといった原子炉による災害を防止することで公共の安全を図り,国民の生命,健康及び財産を保護し,環境を保全することを目的としている。そして,本件処分の根拠となっている法43条の3の6第1項は,実用発電用原子炉の設置者に重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力等(3号)を求めるとともに, 発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること(4号)を求めているところ,これらを欠く場合には,重大な事故が生ずる可能性があり,重大な事故が生じたときは,住民は直接的かつ重大な被 害を受ける蓋然性が高い。また,設置法は,その1条において,設置法の目的として,福島第一原発事故を契機として,原子炉事故の発生を常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立ち,原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し,実施する機関として原子力規制委員会が設置されたことを明言している。 以上のとおり,法43条の3の6第1項3号及び4号の趣旨,上記各号が考慮している被害の性質,関係法令としての設置法の目的に鑑みると,法43条の3の6第1項3号及び4号は,単に公衆の生命,身体の安全,環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず,原子炉事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定さ れる範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。イ 国際放射線防護委員会(以下ICRPという。)は,公衆の被ばくに関する実効線量(個々の臓器や組織が受けた放射線の量(等価線量)に対して,個々の臓器や組織ごとの感受性の違いによる重み付けをして,それらを合計することで,放射線の量を人体(全身)への影響として表したもの)の限度を1年につき1ミリシーベルトと定めているから,本件各原 子炉施設における原子炉事故等により実効線量1年につき1ミリシーベルト以上の放射性物質が拡散する範囲の住民は,本件処分の取消訴訟について原告適格を有するものというべきである。 原子力規制庁が平成24年12月に公表した,原子力発電所事故時の放射性物質拡散シミュレーション(以下本件シミュレーションという。) の試算結果を基に試算すると,本件各原子炉のうちの1基について事故が起きたとして,本件発電所から最遠隔の地である那覇市(本件発電所からの直線距離は約1282㎞)に居住する原告X72でも,7日間の被ばく線量が1.05ミリシーベルトとなる。 したがって,原告ら全員が原告適格を有するものというべきである。 (被告の主張の要旨) ア 本件各原子炉は,いずれも電気出力約118万kWの加圧水型原子炉であるところ,原告らの中には,本件各原子炉施設から相当遠隔地に居住する者がいる。しかるに,原告らは,そのような遠隔地に居住する原告らが,生命,身体等に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される地域に居 住すると認められること(原告適格を有することを基礎付ける事実)について具体的に立証していない。 したがって,原子炉との位置関係及び原子炉の規模等に照らして,原告らのうち本件各原子炉施設から相当遠隔地に居住する者については,原告適格が認められるべきでない。 イ ICRPは,計画被ばく状況(放射線源の計画的な導入と操業に伴う日常的状況。すなわち平常時)における公衆被ばくに関する実効線量の限度を年間1ミリシーベルトと勧告しているが,これは,放射線による発がんリスク等の健康影響に関する科学的知見,ラドンによる被ばくを除いた自然放射線源からの年実効線量が約1ミリシーベルトであることを考慮して,社会的・経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り低く被ばく線量を制限することを要求する趣旨であるにすぎない。また,ICRPは,緊急時被ばく状況(計画的状況における操業中又は悪意ある行動により発生するかもしれない,至急の注意を要する予期せぬ被ばく状況。具体的には,原子力事故又は放射線緊急事態の状況下におい て,望ましくない影響を回避若しくは低減するために緊急活動を必要とする状況) において公衆を防護するための最大残存線量の最高レベルとして,1年間の実効線量の積算値20ミリシーベルトから100ミリシーベルトという数値を提示し,現存被ばく状況(管理に関する決定をしなければならない時点で既に存在する被ばく状況。具体的には,緊急事態後の復興期 の長期被ばくを含む,管理に関する決定を下さなければならないときに,既に存在している被ばく状況)の参考レベルは,予測線量1ミリシーベルトから20ミリシーベルトの範囲に通常設定すべきであるとする。しかし, 年間100ミリシーベルトを下回る被ばく線量でがんの発症率が有意に上昇するとの科学的な根拠は存在しない。 さらに,長期被ばく(公衆が偶発的に,また,持続的に受ける長期間にわたる被ばく)により積算線量(実効線量の累積値)で100ミリシーベルトを上回った場合であっても,直ちにがん発症のリスクが高まるともいえない。 以上のとおり, 本件各原子炉の事故等がもたらす災害により, 原告らが, 年間1ミリシーベルトを超える放射線量を被ばくする可能性がある地域に居住しているとしても,それだけで直ちに,その生命,身体等に直接かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民には該当せず,原告適格を基礎付けるものとはいえない。 ウ 本件シミュレーションは,飽くまで,地域防災計画の見直しのための参考とすることを目的として作成・公表されたものであり,放射性物質による健康影響が生じ得る範囲を明らかにして原告適格を基礎付ける指標とな るものではないというべきである。また,本件シミュレーションにおける初期条件は,福島第一原発事故に基づいて設定された仮定のものであり,個別の原子炉施設において放射性物質の放出事故が生じた場合の想定としては,放射性物質の拡散状況や健康被害が及ぶ範囲に係る精度や信頼性に疑義がある上,その適用コードには15マイル(24.1㎞)から20マ イル(32.2㎞)を超える範囲では不確実さが拡大するという適用限界があるから,本件シミュレーションは,その内容においても,原告適格を論ずる上で参考となり得るものでない。 (2) 争点2(入倉・三宅式及び壇ほか式の合理性) (原告らの主張の要旨) ア (ア) 総論 推本レシピで示された評価方法は,次のとおり,実際の地震観測記録と整合することなどが検証されたものであるとはいえない。すなわち,推本レシピにおいて検証したとされる地震のうち,平成12年に発生し た鳥取県西部地震については,検証に係る二つのケースのうち一つは,時刻歴波形等について整合しない点が多く,最大加速度については約3倍や3分の1倍になるものもあり,もう一つは,おおむね整合したとされるものであるが,それは,地震記録から推定されている研究結果を参照しながら,観測記録を説明できるように,試行錯誤によりパラメータ を設定し直したものだからである。また,平成17年に発生した福岡県西方沖地震については,ハイブリッド合成法による地表の最大速度及び計測震度については,おおむね観測値に対応する計算結果が得られたとされる一方,波形インバージョンによる震源破壊過程を特性化した震源モデルによる計算では,観測記録の再現はできなかったとされ,推本レシピの適用性や改良すべき点について複数の課題が指摘されている。推本レシピで示された評価手法は,理論的には正当なものと理解され ているが,実際には多くの課題を抱えているといえる。 (イ) 推本レシピは多数の関係式の集合体ともいえるところ,それぞれの関係式はそれぞれのパラメータを合理的に導くことに意義がある (例えば, 入倉・三宅式は断層面積から地震モーメントを導くものである。)。あるパラメータをより合理的に導く関係式がほかにあるならば,それに置 き換えることについて何ら支障はない。推本レシピ自体,その前文において, 「今後も強震動評価における検討により,修正を加え,改訂されていくことを前提としている。」 としている。実際に,原子力規制委員会は,川内原子力発電所1・2号機の基準地震動の策定について,九州電力株式会社(以下九州電力という。)が推本レシピに記載されていない,入倉・三宅式以外の算出式を用いたことを容認している。 イ 断層面積と地震モーメントの関係式について (ア) 入倉・三宅式の不合理性 入倉・三宅式は,以下に述べるとおり,不合理である。 a 震源特性化の手続の合理性と入倉・三宅式の合理性との関係 被告は,入倉及び三宅弘恵が執筆した論文であるシナリオ地震の強震動予測(以下入倉・三宅(2001)という。)で提案されている強震動予測のための震源特性化の手続が合理的であるから,入倉・三宅式も合理的であるというが,論理が飛躍している。 b 入倉・三宅式の基礎となった地震データセットの合理性等(a) 震源インバージョンの合理性等 被告は,入倉・三宅式が前提とした地震データセットにおける震 源断層面積は,震源インバージョンに基づいているというが,上記データセットに含まれる53個のデータのうち震源インバージョ ンに基づいて震源断層面積が求められたものは12個にとどまる。 地震予測は,地震が発生していない段階で得られた情報,データ の範囲内でせざるを得ないものであるところ,震源インバージョンは,実際に起こった地震を基に震源等を解析する手法であるから,震源インバージョンによって得られたデータは,将来起こる地震動の予測そのものには用いることができない。 震源インバージョンは,確実に定まった方法ではなく,最初にと る断層面,その要素断層への分割,伝播経路特性やサイト特性の想定の仕方,付加条件の与え方等によって,震源断層面積やすべり量の分布について相当に異なる結果を導くものである。現に,平成28年に発生した熊本地震の震源インバージョンに関する二つの論 文においても,断層面積が754km2,1344km2と大きく異なり,アスペリティの位置や構造も相当に異なっている。また,震源インバージョンにおいて震源断層面積を設定する場合,断層面を碁盤の目状に分けて,すべりの小さい領域(すべり量の平均値が全体のすべり量平均値の0.3倍未満である領域)を震源断層面積から切り 捨てること(トリミング)が行われるというが,この0.3倍 という基準の根拠は明らかでない。 (b) 日本の地震の地域的特性 入倉・三宅式は,世界中の地震(強震動)のデータに基づいて導 かれたものであるところ,そのデータの中に日本の地震は1個(昭和23年に発生した福井地震)しか含まれておらず,入倉・三宅式は,日本の地震の地域的特性を反映していない。この点について,宮腰研ほかが執筆した論文である強震動記録を用いた震源インバージョンに基づく国内の内陸地殻内地震の震源パラメータのスケーリング則の検討(以下宮腰ほか(2015)という。)には,国内外の地震スケーリング則に違いはない 旨の記載がある。しかし,宮腰ほか(2015)が最新の地震学会の一般的な理解であるかは不明である。また,宮腰ほか(2015)においては,福井地震について,元文献等では断層面積Sが300km2であるのにこれを600km2であるとし,昭和20年に発生した三河地震について,元文献等では地下に存在する震源断層の長さ (以下Lsubということがある。)が20㎞であるのにこれ を25㎞とした上,断層幅が元文献等と同じ15㎞であるから,断層長さを25㎞としても断層面積は375km2となるべきところ,こ れを750km2としている。このように,宮腰ほか(2015)においては,国内外の地震スケーリング則に違いがないとの結論を導く 地震データが意図的に操作されている疑いがある。 (イ) 武村式の合理性 武村雅之が執筆した論文である日本列島における地殻内地震のスケーリング則-地震断層の影響および地震被害との関連-(以下武村(1998)という。)には,断層面積S(km2)と地震モーメントM(dyne・cm)の関係式として,次の式(以下武村式という。)が記 0 載されている(dyneとは,CGS単位系(基本単位を長さ㎝,重さg,時間sとする単位系)における力の単位であり,国際単位系(SI)における1N=105dyneである。)。 logS=1/2logM0-10.71 (M0≧7.5×1025dyne・㎝) 武村式は,以下に述べるとおり,合理的なものである。a 武村式は,日本国内の10の地震のデータに基づいて導かれたものであり,津波評価に当たっては津波を起こす地震動評価に適用されている。入倉・三宅式の基礎となったデータと武村式の基礎となったデータとを比較すると,後者の方が,同じ断層面積でより大きい地震モーメントを与えるように分布している。入倉・三宅(2001)を執 筆した入倉も,別の研究発表において, 「日本と北西アメリカの地殻内地震では,明らかな違いがあることがわかった。……日本の地震の破壊面積は小さく,平均すべり量は大きい。」 と述べている。武村式は,このような日本の地震の地域的特性を反映したものである。b 被告の主張に対する反論 武村(1998)は,まず断層長さLと地震モーメントM0の関係式を求め,断層幅を13㎞に固定し,L=S/13を上記断層長さLと地震モーメントM0の関係式に代入して断層面積Sと地震モーメントの関係式を導いたものであるが,武村(1998)に掲載された表か ら断層面積Sと地震モーメントM0のデータセットが得られるところ, これを用いて最小二乗法を適用すると, 有効数字内でL-M0を媒 介にしたのと同じ武村式が得られるから,入倉・三宅式と武村式を比較することはできる。 また,被告は,入倉ほかが執筆した論文である強震動記録を用いた震源インバージョンに基づく国内の内陸地殻内地震の震源パラメータのスケーリング則の再検討(以下入倉ほか(2014)という。)において,武村(1998)において用いられたデータセットのうち,一定規模以上の地震に係るデータを震源インバージョンの手法を用いて再評価した結果,武村(1998)においては断層長さ, ひいては断層面積が過小評価となっているとされた旨主張するが,実際に断層面積を再評価することができたデータは,10の地震のうちの二つにすぎない。(ウ) 島﨑邦彦(以下島﨑という。)の学会発表等について a 元原子力規制委員会委員である島﨑が日本地球惑星科学連合の2015年大会において行った発表である活断層の長さから推定する地震モーメント(その後,島﨑は,日本地震学会の2015年度秋季 大会や日本活断層学会の同年度秋季学術大会においても,同旨の発表をした。以下,これらの発表を島﨑発表と総称する。)によれば,入倉・三宅式は地震モーメントを過小評価する傾向がある(実測評価値と比較して2分の1から4分の1程度の過小評価になっている。。) b 島﨑が執筆した論文である最大クラスではない日本海「最大クラスの津波-過ちを糾さないままでは想定外の災害が再生産される」(以下島﨑提言という。)によれば,熊本地震で実測された 地震モーメントの値は, 武村式による計算結果とほぼ整合的であるが, 入倉・三宅式による計算結果は実測値の約1/3.4倍となって過小である。 c 被告は,島﨑発表が入倉・三宅式を断層長さのみに依拠して地震モーメントを算出する関係式に変形したことを批判する。しかし,内陸の活断層地震の断層幅は,ある程度以上の地震に対して飽和して一定値になるから,断層長さが一定の値より長いものについては,断層幅 を固定して断層長さと地震モーメントの関係として捉えることができる。そして,島﨑発表における断層幅を14㎞,断層傾斜角を垂直とするとの仮定は,少なくとも本件発電所が関係する西日本では十分に妥当する。したがって,島﨑発表における入倉・三宅式の変形は,科学的根拠を有するものと評価することができる。 被告は,島﨑発表が地下に存在する震源断層の長さ(Lsub)を設定しないことを批判する。しかし,将来起こり得る地震の予測としては,実際に起きた地震(過去の地震)の解析によって得られた震源インバージョンによるデータであるLsubを用いることができないのは当然であり,地震の発生前に分かるという観点から,活断層の端から端までを測ったものを断層長さと定義するのがむしろ正当というべきである。 被告は,島﨑提言が,国土地理院が均質すべり震源モデルを仮定して推定した断層面積の暫定解を使用したことを批判する。しかし,島﨑提言は,シンプルな断層モデルの方が事前に設定できるものに近いから上記のとおり仮定した旨を説明しており,これが科学的に誤っているとはいえない。また,入倉・三宅式自体,震源断層の断層すべり が不均質であることを前提としているとはいえない。 ウ 地震モーメントと短周期レベルの関係式について (ア) 壇ほか式の不合理性 壇ほか式は,以下に述べるとおり,不合理である。 a 地震データに基づくことなく,短周期レベルが地震モーメントの3分の1乗に比例するものと仮定していること 壇ほか式は,地震データに基づくことなく短周期レベルが地震モーメントの3分の1乗に比例する(短周期レベルの対数を縦軸に,地震モーメントの対数を横軸にとると,関係式が傾き3分の1の直線とな る。)ものと仮定しているところ,このような仮定を置かないで,壇ほか式の基礎となった観測データセットのうち12個のデータを用い,地震モーメントと短周期レベルの各対数をとって,最小二乗法で関係式を導くと,その直線の傾きは0.261となる。 この点について,被告は,壇ほか式の結果は実際の観測データと整 合することが検証されている旨主張する。しかしながら, その根拠は, 壇一男ほかが執筆した論文である断層の非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベルと半経験的波形合成法による強震動予測のための震源断層のモデル化(以下壇ほか(2001)という。)中の図において,観測データの短周期レベルの値が,壇ほか式による値の0.5倍~2倍の範囲内におおむね収まっていることであるところ,これをもって壇ほか式が観測データと整合しているといえる理由 は明らかでない。 b 壇ほか式の基礎となった地震データセットの不合理性 (a) 壇ほか式は12の内陸地震のデータから最小二乗法によって求め られているが,これらのデータのうち日本のデータは1個(兵庫県南部地震)であり,その他は,1個(イラン地震)を除き,北米大 陸北西部の地震のデータである(被告は,最新の地震学の知見によれば,国内外の地震のスケーリング則(関係式)には違いがないとの評価が一般的である旨主張するが,この点については前記イ(ア)b(b)のとおりである。)。 したがって,壇ほか式の基礎となった地震データセットが日本の 地震の地域的特性を反映していないことは明らかであり,壇ほか式は短周期レベルを過小評価するものである。 (b) 壇ほか式の基礎となったデータのうち,入倉・三宅式が有効な領 域であるとされる地震モーメントM0>7.5×1018N・mを充足するデータに限って最小二乗法を適用すると,地震モーメントが 大きくなると短周期レベルが小さくなるという矛盾が生ずる。 壇ほか式の基礎となったデータセットは,このような矛盾を生じ させるようなデータの集合であり,これを前提とする壇ほか式は不合理なものである。 c 壇ほか式はアスペリティ面積が断層面積を超えるという法則的傾向を有すること壇ほか式を用いて算出した短周期レベルに基づいてアスペリティ面積を計算すると,地震モーメントが大きくなるにつれてアスペリティ面積が増加し,地震モーメントがある値を超えると,断層面積の一部であるはずのアスペリティ面積(アスペリティ面積が27%を上回ることは想定できない。)が断層面積を超えるという法則的傾向がある。すなわち,壇ほか式を含む推本レシピの関係式を用いると,アスペリティ面積の断層面積に対する比は, γ=KM01-2α (Kは定数,α=1/3:壇ほか式におけるM0のべき指数) で表されるところ,1-2α=1/3であるから,地震モーメントM0 が増加すると,アスペリティ面積比は法則的に増加する。 被告は,壇ほか式の基礎となったデータセットの範囲が壇ほか式の 適用範囲である旨主張するが,推本レシピの壇ほか式についての箇所にそのような記載はないし,被告がいう壇ほか式の適用範囲内にある福井地震の例をとっても,壇ほか式を用いるとアスペリティ面積が断層面積を超える(被告は,福井地震の例として取り上げるデータにおいて, 地震モーメントM0が, 推本レシピに規定された経験式に従わず に算出された数値となっているから,これをもって推本レシピやこれを構成する壇ほか式が不合理であるとはいえない旨主張するが,この 数値は実測値(単に経験式に断層面積を代入して計算した結果ではなく,福井地震の観測事実に基づいた値)である。)。 また,被告は,推本レシピは,地震モーメントの増大に伴ってアスペリティ面積比が過大になる現象を想定し,その場合,アスペリティ面積比を約22%,震源断層全体の静的応力降下量を3.1MPaと設 定する方法を定めているから,壇ほか式や推本レシピが誤っているということにはならない旨主張する。しかし,壇ほか式の科学的内的必然性から22%という数値が導かれるものではなく,推本レシピは,壇ほか式を適用して非現実的なパラメータ設定となったら,やむを得ず,暫定的にアスペリティ面積比を22%にするなどせよとしているものであり,これは,壇ほか式が非科学的結果をもたらす式であることを認め,その非現実的な結果を回避するために定められた対処法に すぎない。 壇ほか式には適用範囲(M0<7.5×1018N・m)が存在するこ dと 壇ほか(2001)において,短周期レベルが地震モーメントの3分の1乗でスケーリングできることの根拠として挙げられた文献は, 応力降下量(Δσ)が地震モーメントの値によらず一定値をとることを前提としているところ,推本レシピによれば,応力降下量が一定値をとるのは,地震モーメントM0が断層面積Sの2分の3乗に比例する場合である。そして,推本レシピによれば,地震モーメントM0が断層面積Sの2分の3乗に比例する場合は, 地震モーメントM0が7. 5 ×1018N・mよりも小さい場合であるとされる。 そうすると,壇ほか式には適用範囲(M0<7.5×1018N・m)が存在するといえる。しかるに,本件各原子炉について算出されている地震モーメントM0は5.03×1019N・mであり,この適用範囲に含まれない。 したがって,本件各原子炉について短周期レベルを算出するに当たっては,壇ほか式を用いるべきではない。 (イ) 片岡ほか式の合理性 a 片岡正次郎ほかが執筆した論文である短周期レベルをパラメータとした地震動強さの距離減衰式は,壇ほか式のような仮定(短周期レベルが地震モーメントの3分の1乗に比例するとの仮定) を置かず,日本で発生した地震のデータのみに基づいて,次のとおり,短周期レベルと地震モーメントとの関係式を導いているところ(以下,この式を片岡ほか式という。),片岡ほか式の方が,壇ほか式よりも実 態に即している。 全内陸地震をデータとした式 A=3.162×109×M00.51 横ずれ断層をデータとした式 A=3.162×108×M00.57 b 断層面積と地震モーメントの関係式として入倉・三宅式又は武村式を用い,推本レシピにおける応力降下量と地震モーメント及び震源断 層の半径との関係式等を用いると,短周期レベルが地震モーメントの2分の1乗に比例する旨の関係式を導くことができるから, 基本的に, 片岡ほか式(短周期レベルが地震モーメントの0.51乗又は0.57条に比例する旨の関係式) を用いるべきであるということができる。 c 片岡ほか式を用いた場合,アスペリティ面積が断層面積より相当に小さくなることとなり,壇ほか式を用いた場合のような,アスペリティ面積が断層面積を大きく超えるという矛盾が生じない。 以上のとおり,少なくとも地震モーメントM0が7.5×1018N d ・mを超える領域においては,壇ほか式ではなく片岡ほか式を用いるべきである。 エ まとめ 以上のとおり,入倉・三宅式及び壇ほか式は,いずれも不合理である。 (被告の主張の要旨) ア (ア) 総論 推本レシピは,震源断層を特定した地震を想定した場合の強震動を高精度に予測するための,誰がやっても同じ答えが得られる標準的な方法論を確立することを目指して,政府の機関である地震調査委員会を構成する多数の学識経験者等による検討を経て策定されたものである。また,推本(地震調査委員会)は,推本レシピ策定後に発生した鳥取県西部地震及び福岡県西方沖地震の観測波形と,これらの地震の震源像を基に推本レシピを用いて行ったシミュレーション解析により得られる理論波形を比較検討した結果,両者が整合的であることを確認した。すなわち,推本レシピで示された評価方法は,実際の地震観測記録と整合し,過去の地震観測記録がおおむね再現できることが検証されたものである。 そして,推本レシピは,今後も強震動評価における検討により,修正 を加え,改訂されていくことを前提としており,現に,地震調査委員会は,これまでに推本レシピにつき複数回の改訂又は修正を行い,随時その内容の見直しを行っている。 以上によれば,推本レシピは,現在の科学技術水準を踏まえた十分に合理的なものであるといえる。 (イ)a 推本レシピは, 前記(ア)のとおり, 標準的な方法論を確立することを 目的としており,平均的な地震動を評価するための方法論である。また,推本レシピでは,ばらつきや不確定性は震源断層の設定において考慮することが予定されているのであって,推本レシピの一部を合理 的な根拠なく改変することは予定されていない。 断層モデルを用いた手法による地震動評価においては,基準地 震動の策定に当たり,特性化震源モデルを策定し,その地震動を評価することになるが,特性化震源モデルの策定においては,震源断層のパラメータが,活断層調査結果等に基づき,推本レシピ等の最新の研 究成果を考慮し設定されていることを確認することとされている。このように,推本レシピにおける研究成果を考慮するのは,主に特性化震源モデルの地震動評価の場面においてである。そして,基準地震動は,特性化震源モデルの地震動評価のみによってそのまま策定されるものではなく,更に不確かさを考慮した上で策定されるものである。そうすると,特性化震源モデルの震源特性パラメータ及びそれに基づき算出される地震動は,その後に行われる不確かさの考慮の検討のベ ースとなるものであるから,科学技術的に標準的・平均的な地震動であることが求められる。 以上によれば,特性化震源モデルの地震動評価の段階においては,推本レシピをそのまま用いるのが最も合理的である。仮に,推本レシピの一部のみを改変するとすれば,特性化震源モデルの地震動評価に おいて,科学的技術的根拠に乏しい特性化震源モデルが設定された上で,これに基づく地震動評価がされることとなり,かえって,その後に予定される不確かさの考慮の検討を行うためのベース自体が揺らぐこととなり,適切な分析及び検討が行えないおそれがある。 このように,推本レシピは,地震学の専門家らが吟味して取りまと めた,いわば一つのパッケージであり,その一部のみを改変することにはおよそ合理性がない。 b 推本レシピは,パラメータ間の関係式を用いながら多数のパラメータが設定された一連の地震動評価手法であり,各パラメータが複数の パラメータと相関関係を有している。そして,このようなひとまとまりの手法が,最新の知見に基づき最もあり得る地震と地震動を評価するための方法論として機能し,それが観測記録とも整合するということが,地震調査委員会による検証の結果,確認されている。そのため,上記の相関関係を無視し,一部の関係式を他の式に置き換えた場合, パラメータ間の相関関係が損なわれ,地震動評価手法としての合理性も失われることになる。これに対して,原告らが主張する評価手法(武村式と片岡ほか式を組み合わせるもの)は,強震動予測において重要である地震動評価と観測記録との整合性の検証を経るなどの科学的な裏付けはなく,評価体系として何ら確立されていないものである。また,上記評価手法を用いた場合において,震源特性パラメータを矛盾なく設定できるのか は全く不明である。 (ウ) 九州電力が行った川内原子力発電所1・2号機の地震動評価は,九州電力において,川内原子力発電所の地域で実際に発生した良好な地震観測記録を取得していたことから,最新の知見としてこの観測記録を用い,地震動評価をしたものであって,推本レシピの一部を改変したも のではない。 九州電力による上記地震動評価の手法は,九州電力が独自に策定したものであって,推本レシピを直接的に用いたものでもその一部を改変したものでもないから,前記(イ)の主張と矛盾するものではない。イ 断層面積と地震モーメントの関係式について (ア) 入倉・三宅式の合理性 a 入倉・三宅(2001)において示された強震動予測のための震源特性化の手続の合理性 入倉・三宅式は,入倉・三宅(2001)に記載された震源断層面 積と地震モーメントの関係式である。 入倉・三宅(2001)は,強震動予測のための震源特性化(必要な震源の特性を主要な断層パラメータで整理すること)の手続を次のようなものとして提案するものである。すなわち,断層パラメータを巨視的断層パラメータ,微視的断層パラメータ,その他の断層パラメ ータに分けた上,①巨視的断層パラメータについては,活断層調査により活動する可能性の高い断層長さを推定し,地震発生の深さ限界から断層幅を推定する。この断層長さと断層幅から断層面積を求め,断層面積と地震モーメントの経験的関係から地震モーメントを推定する。②微視的断層パラメータについては,断層面上のすべり不均質性をモデル化し,地震モーメントとアスペリティ面積の総和,最大アスペリティ面積等に関する経験的関係から,アスペリティの面積及びそ こでの応力降下量(断層破壊(地震)直前の応力とその直後の応力の差)を算出する。このような震源特性化の手続の有効性は,兵庫県南部地震の震源モデル化及びそれに基づき経験的グリーン関数法等を用いて合成された強震動が観測記録とよく一致することで検証されている。 以上のとおり,入倉・三宅(2001)は,特定の活断層を想定した強震動の予測手法として,現在の科学技術水準に照らして合理的なものであるといえ,これに従って,巨視的断層パラメータの一つである断層面積と地震モーメントの関係式について入倉・三宅式を用いることもまた合理的である。 b (a) 入倉・三宅式の基礎となった地震データセットの合理性等 震源インバージョンの合理性等 震源インバージョンとは,複数の観測地点で得られた観測記録に 基づき,断層面を仮定し,当該断層面の各地点において生ずるすべ り量及びすべりの方向を解析によって求め,それらの結果から震源断層を推定する方法であり,断層面積を高精度に求めることができるとされ,多くの研究者が一般的に用いている手法である。原告らが指摘する熊本地震の震源インバージョンに関する二つの論文に おける解析結果の数値の違いは,各論文において使用されたデータ の違い等によって生じたものであり,震源断層面積の数値の違いは取り立てて大きな意味があるものではなく,かえって,その結果は入倉・三宅式とおおむね調和的と評価することができる。また,震源インバージョンにおいて,すべり量の平均値が全体のすべり量の平均値の0.3倍未満である領域を震源断層面積から切り捨てること(トリミング)については,この手法によって得られる巨視的震源パラメータ(断層長さや幅)が従来の調査結果と一致することが確認されている。 入倉・三宅式の基礎となった地震データセットには,震源インバ ージョンによって震源断層面積を求めたもの(PaulSomervilleほかが執筆した論文であるCharacterizingcrustalearthquakeslipmodelsforthepredictionofstronggroundmotion(以下サマビルほか(1999)という。)に記載されたデータ8 個を含む12個)のみならず,震源インバージョンによらずに震源断層面積を求めたもの(余震分布や活断層情報,一部は測地学的データから求めたもの。41個)もある。しかしながら,入倉ほか(2 014)において,1995年から2013年までに国内で発生した最新の18個の内陸地殻内地震(モーメントマグニチュード(Mw)5.4~6.9)を対象に震源インバージョン結果を収集・整理し, 震源断層の巨視的・微視的パラメータの推定を行ったところ, Mw6.5以上で入倉・三宅式とよく一致することが確認された。 また,入倉ほか(2014)の続編と位置付けられる宮腰ほか(2015)にも同旨の記載がある。したがって,入倉・三宅式は,国内で発生した既往の内陸地殻内地震を対象とした震源インバージ ョンの結果と整合的であることが確認されているのであり,入倉・三宅式の基礎となった地震データセットにおける震源断層面積は, 基本的に,震源インバージョンに基づいているということができ る。以上によれば,将来起こり得る地震動の予測に当たり,各種調査結果により推定・設定した震源断層形状を入倉・三宅式に適用することは,科学的合理性を有するものである。 (b) 国内外の地震のスケーリング則(関係式)に違いはないこと 入倉・三宅式は, 主に日本とカリフォルニア州のデータを中心に, 震源断層面積Sと地震モーメントM0の経験式を求めているが,最新の地震学の知見(宮腰ほか(2015))によれば,国内外の地震のスケーリング則(関係式)には違いがないとの評価が一般的である。そのため,日本の地震のデータのみを基礎とすること自体の合理性は見当たらない。また,前記(a)のとおり,宮腰ほか(201 5)によれば,1995年から2013年に国内で発生した内陸地殻内地震を対象に震源インバージョン結果を収集・整理し,震源断層の巨視的・微視的パラメータの推定を行った結果,断層破壊面積と地震モーメントとの関係は一定の規模以上の地震について入倉・三宅式と整合的であったことが確認されている。 なお,原告らは,宮腰ほか(2015)において国内外の地震ス ケーリング則に違いがないとの結論を導く地震データが意図的に 操作されている疑いがある旨主張する。しかし,これは一部の地震データについて断層幅及び震源断層面積の記載を誤ったものにす ぎないし,宮腰ほか(2015)は震源断層長さ(Lsub)と地 震モーメント(M0)の関係を整理し,その関係から,国内外の地震スケーリング則に違いがないと結論付けているものであるから,上記の誤記はこの結論を左右するものではない。 (イ) 武村式を採用しないことが不合理とはいえないこと 入倉・三宅(2001)は,地震動を生成する主要な断層運動は地下にある断層面(震源断層)での動きであり,地表に現れる断層変位(地表地震断層)は地下にある断層の運動の結果にすぎないため,地表地震断層の動きのみから断層運動全体を特性化することが困難であることを前提に,断層面積Sと地震モーメントM0の関係式を策定したものである。そして,この関係式(入倉・三宅式)は,過去に発生した地震に係る断層面積Sと地震モーメントM0の数値から策定されたものであり,参照された地震データの断層面積Sは,震源インバージョン等に基づくものである。これに対して,武村(1998)は,まず,①断層長さLと地震モーメントM0の関係式を求め, 引き続き, ②断層幅Wと断層長さ Lの関係式を策定しているが, 地震規模の大きな地震に係る断層幅Wは, 地震発生層の厚さの制限を受けるものとして,固定数値である13㎞としている。その上で,武村(1998)は,上記①,②の各関係式とS(断層面積)=L(断層長さ)×W(断層幅)の式を用いて,断層面積Sと地震モーメントM0の関係式を求めている。このように,入倉・三宅(2001)と武村(1998)は,関係式を策定する過程における 断層面積Sの捉え方が異なっているから,両論文における断層面積Sと地震モーメントM0の関係式を単純に比較することはできない。 また,入倉・三宅(2001)において用いられたデータセットは,基本的に, 震源インバージョンに基づいているといえる。これに対して, 武村(1998)において用いられたデータセットは,兵庫県南部地震 を契機として強震観測網が拡充される前のものであり,基本的に,地震直後に地表に現れた地表断層の長さを断層長さLとして捉えているものと考えられる。入倉ほか(2014)において,武村(1998)において用いられたデータのうち,一定規模以上の地震に係るものについて震源インバージョンの手法を用いて再評価した結果,ほとんどの地震に おいて,震源断層長さLが,武村(1998)における断層長さLより長く,入倉・三宅式と調和的であることが報告されているところ,このような武村(1998)における断層長さLの過小評価は,上記のような断層長さの捉え方によると考えられる。武村(1998)は断層幅Wを固定しており,断層面積Sは断層長さLに依拠しているから,断層長さLが過小評価である以上,断層面積も過小評価となる。したがって,武村式はモーメントM0を過大に算出する関係式となっている。 以上によれば,武村式を採用しないことが不合理とはいえない。 (ウ) 島﨑発表及び島﨑提言(以下島﨑発表等と総称する。)について a 島﨑発表の性格 そもそも,島﨑発表は,学会での発表であって,複数の専門家による査定(査読)を経て受理された正式な論文ではなく,前提とした数 値の根拠や計算過程等が不明なものであるから,確たる科学的知見とは評価し難い。 b 島﨑発表は,科学的根拠なく入倉・三宅式を変形していること 前記(イ)のとおり,入倉・三宅式における震源断層面積Sは,地表に 現れた断層長さをそのまま用いるものではなく, 地下にある断層面 (震 源断層)について,震源インバージョンの手法を前提として,個別的に求められるものである。地質審査ガイド及び地震動審査ガイドにおいては,地震発生層の上端と下端は,当該地域についての綿密な調査結果に基づき個別具体的に設定されることが予定されているから(地 質審査ガイドⅠ.4.4.1(2),地震動審査ガイドⅠ.3.2.2(1)(2)),入倉・三宅式における震源断層面積の捉え方は,設置許可基準規則適合性審査に整合的である。 これに対して,島﨑発表が入倉・三宅式として掲げるものは, わかりやすさを重視するために,厚さ(断層幅)14㎞の垂直な 断層を仮定しており,震源断層面積を個別具体的に把握することを前提として策定された入倉・三宅式を,断層長さのみに依拠して地震モーメントを算出する関係式に変形したものであって,入倉・三宅式の科学的な意義を踏まえないものである。また,断層幅を14㎞,断層傾斜角を垂直とする仮定にも科学的根拠が認められない。 そうすると,入倉・三宅式の科学的な意義を踏まえずにこれを変形した上で他の関係式と比較するという島﨑発表の手法自体,科学的な 合理性を欠くものである。 c 島﨑発表等が用いている断層長さは,科学的根拠に基づかないこと入倉・三宅式を用いる場合,断層長さとして地下に存在する震源断層の長さ(Lsub)を設定する必要がある。しかるに,島﨑発表等 は,地震発生前に使用できるのは活断層の情報であるとして,独 自に設定した断層長さLを,前記bのとおり変形した入倉・三宅式に代入し,他の関係式と比較して,入倉・三宅式は地震モーメントを過小評価する旨をいう。この断層長さLは,地表に現れた断層の長さであると考えられる。 そして,この断層長さLは,震源インバージョンの結果を収集・整理した最新の科学的知見(宮腰ほか(2015))で取り上げられた内陸地殻内地震についてみると,この知見で示されたLsubよりも短くなっている。また,島﨑提言は,熊本地震についても,震源インバージョンの結果よりも短い,地表に現れた断層の長さを設定してい る。 以上によれば,島﨑発表における断層長さLは科学的根拠に基づかないというべきである。 なお,原告らは,将来起こり得る地震の予測としては,地震の発生前に分かるという観点から,活断層の端から端までを測ったものを断 層長さと定義するのがむしろ正当というべきである旨主張するが,各種調査結果から,地下にある震源断層長さ等を推定して特性震源化モデルを設定し,地震動評価をすることには科学的合理性が認められる。 d 島﨑提言は,入倉・三宅(2001)とは異なる震源モデルを仮定しており,入倉・三宅式と比較するには不適切な解析結果のみを引用して入倉・三宅式を批判するものであること 入倉・三宅(2001)は,震源断層の断層すべりが不均質である ことを前提に,震源断層の大きさや強震動を出す領域の大きさを評価しているところ,島﨑提言は,国土地理院が均質すべり震源モデルを仮定して推定した断層面積の暫定解を使用している。 島﨑提言は,入倉・三宅式と比較するには不適切な解析結果のみを引用して,恣意的な結論を誘導している可能性がある。 e 入倉・三宅式は熊本地震にも適合すること 入倉らが執筆した論文であるApplicabilityofsourcescalingrelationsforcrustalearthquakestoestimationofthegroundmotionsofthe2016Kumamotoearthquake(2016年熊本地震の地震動の推定に対する内陸地殻内地震の震源スケーリング則の適用可 能性。以下入倉ほか(2017)という。)には,熊本地震にお ける断層破壊面と地震モーメントの関係が入倉・三宅式が平均をとるデータのばらつきの範囲内にほぼ収まっている旨の記載がある。この論文は,査読を経て地球惑星科学分野の学会が共同出版する欧文雑誌に受理されたものであり,専門家によってその信頼性が担保されてい る。 ウ 地震モーメントと短周期レベルの関係式について 以下のとおり,壇ほか式は合理的である。推本レシピは,随時改訂が行われており,改訂に係る議論は,地震学の専門家により構成される強震動 予測手法検討分科会が行っているところ,同分科会には,片岡ほか式が掲載された論文の著者である片岡正次郎も委員として在籍している。しかし,推本レシピの改訂版において,壇ほか式を片岡ほか式に置き換えるなどの対応が示されたことは一度もない。 (ア) 短周期レベルが地震モーメントの3分の1乗に比例するとの仮定の合理性 壇ほか式は,短周期レベルが地震モーメントの3分の1乗に比例するとの仮定を置いているが,この仮定は,地震の短周期レベルが地震モーメントの3分の1乗でスケーリングできるとの知見が他の研究によって明らかになっていたためであり,それ自体科学的根拠がある。その上,壇ほか式の結果は実際の観測データと整合することが検証されているか ら, 壇ほか式は, 地震データに基づき実態に即したものであるといえる。 壇ほか式は,内陸地殻内地震の地震モーメントと短周期レベルの関係を表す式として,基本的に合理的なものとして多くの研究者によって支持されている。 この点について,原告らは,壇ほか式の基礎となったデータのうち内 陸地震のもの12個のみを取り出して,対数をとった直線の傾きが0.261となったから壇ほか式が不合理である旨主張する。 しかしながら, 壇ほか(2001)においては,壇ほか式が,上記12個のデータのみならず,他の観測データについても整合することが確認されているのであり,原告らの上記主張のように,科学的な根拠を示さず観測データの 一部を取り出して関係式を算出することは,壇ほか(2001)があえて多数の地震データを用いて,観測データと壇ほか式の整合性を幅広く検証した意義を没却するものである。 また,原告らは,壇ほか(2001)においては,壇ほか式と観測データとの整合性が厳密に検証されているわけではなく,壇ほか式と観測 データが示された図において,観測データがおおむね壇ほか式に沿っていることが確認されているだけであり,被告の上記主張は前提を欠く旨主張する。しかしながら,経験式の前提となる観測記録には,そもそも,観測網の充実の程度,観測機器の精度向上等の測定方法の相違や,観測地点の地下構造の決定精度等の違いによって生ずるモデル化による誤差等が含まれており,ばらつきが存在することから,全ての観測記録上のデータがある関係式上に整然と並ぶということはあり得ない。地震学に おけるスケーリング則(経験式)の検証においては,以上の点を踏まえ,関係式がデータのばらつきの範囲内にあるとか,観測記録とほぼ対応するという表現を用い,観測記録をある程度再現できることをもって整合すると評価・判断することが一般的であるから,壇ほか(2001)における壇ほか式と観測記録の整合性の検証・評価に何ら不合理な点は ない。 (イ) 壇ほか式の基礎となったデータセットの合理性 a 前記イ(ア)b(b)のとおり,最新の地震学の知見によれば,国内外の地震のスケーリング則(関係式)には違いがないから,壇ほか式が北米大陸北西部の地震のデータ等を用いているからといって実態に即し ていないとはいえない。 b 原告らは, 壇ほか式の基礎となったデータのうち, 地震モーメントM 0 >7.5×1018N・mを充足するデータに限って最小二乗法を適 用すると,地震モーメントが大きくなると短周期レベルが小さくなるという矛盾を生じさせる旨主張する。 しかしながら,壇ほか式は,地震モーメントM0が3.5×1017N・mから7.5×1019N・mまでの範囲の地震データを用いて,地震モーメントと短周期レベルの関係を示す式を策定したものであるところ,その一部のデータのみに基づいて策定された回帰式は壇ほか 式とは全く異質のものであるから,上記回帰式は壇ほか式の当否を論ずる根拠となり得ない。(ウ) アスペリティ面積と断層面積との関係について 壇ほか式は,地震モーメントから短周期レベルを求める式であり,アスペリティ面積比そのものを求める式ではない。推本レシピによるとアスペリティ面積比が過大になる場合があるのは,他の経験式との組み合 わせによるものであって,壇ほか式が本質的に有する法則的傾向ではない。また,壇ほか式は,地震モーメントM0が3.5×1017N・mから7.5×1019N・mまでの範囲の内陸地震データを用いて策定されたものであるから,この範囲が壇ほか式の適用範囲と解されるのであり,この適用範囲外の地震モーメントに壇ほか式を適用した結果を基に壇ほ か式の不合理性をいう主張は失当である。原告らは,壇ほか式の適用範囲内にある福井地震の例をとっても,壇ほか式を用いるとアスペリティ面積が断層面積を超える旨をいうが,原告らが福井地震の例として取り上げるデータにおいては, 地震モーメントM0が, 推本レシピに規定され た経験式に従わずに算出された数値となっているから,これをもって推 本レシピやこれを構成する壇ほか式が不合理であるとはいえない(原告らは,上記の地震モーメントが実測値である旨をいうが,それは実測値ではなく解析値である上,その前提とされた観測データは,国内での強震観測網が整備されるより前の昭和23年に発生した地震のものであり,その正確性が担保されていない。)。 推本レシピは,多数のパラメータが設定された一連の流れをもった地震動評価手法であり,各パラメータが複数のパラメータと同時に相関関係を有し,これらが一体となって強震動の予測手法を構成している。そこで,推本レシピにおける強震動予測の合理性は,この一連の流れを通じて評価されるべきものであるところ,推本レシピは,地震モーメント の増大に伴ってアスペリティ面積比が過大になる現象を想定し,その場合,アスペリティ面積比を約22%,震源断層全体の静的応力降下量を3.1MPaと設定する方法を定めている。したがって,原告らが主張するような事態が生ずるとしても,そのことをもって壇ほか式や推本レシピが誤っているということにはならない。 (エ) 壇ほか式の適用範囲について 短周期レベルを地震モーメントの3分の1乗でスケーリングすること は,純理論的には,前記(原告らの主張の要旨)ウ(ア)dの地震規模の領域に整合するものである。しかしながら,経験式は,一定の観測記録のデータセットを分析した上で,そこから導き出された法則性を数式にしたものであるから,基本的に,当該経験式の基礎となった観測記録のデータセットの範囲内であれば適用することができる。 そうであるところ, 壇ほか式は,地震モーメントが3.5×1017N・mから7.5×1019 N・mまでの範囲の観測記録に基づき策定されたものであり,また, 広い範囲で壇ほか式と観測記録との整合性が確認されている。したがって,壇ほか式は,基本的には,上記の範囲において適用することができる。 そして,入倉・三宅式によれば,FO-A~FO-B~熊川断層の地震モーメントは5.03×1019N・mであり,壇ほか式の適用範囲内にある。 エ まとめ 以上のとおり,入倉・三宅式及び壇ほか式は,いずれも合理的なもので ある。 (3) 争点3 (入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源 モデルにおける地震モーメントの値とすることの合理性) (原告らの主張の要旨) ア 地震動審査ガイドは,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計方針に関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則及び規則の解釈を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的とするものであるから(Ⅰ.1.1),規則の解釈において示された重要な諸点の原則を踏まえて具体的に問題となる諸点を詳細に規定したものである。 そうであるところ,地震動審査ガイドのⅠ.3.2.3(2)(以下本件ばらつき条項という。)は,震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。と定めている。 本件ばらつき条項の第1文が経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認するというのは,当該地域の震源断層について当該経験式を適用することが妥当であることを確認するという意味である。これに対 して,本件ばらつき条項の第2文の趣旨は,次のとおりである。すなわち,入倉・三宅式は,過去の地震動のデータから導かれた経験式であり,過去の地震動の平均像という性格を有するところ(経験式は平均値としての地震規模を与える),現実の地震規模が過去の地震の規模の平均値であることはまずあり得ない。そこで,将来生じ得る地震の規模が平均値より も大きいものであることを想定して,データのばらつき(経験式とその基礎となった観測データ(データセット)とのかい離)を考慮して,経験式により求められる平均値に,少なくともかい離の度合いを示すある種の平均値(標準偏差)を加えるか,より安全側に,最大のかい離を加えるかすべきである(このことは,原子力安全基準・指針専門部会の地震等検討小 委員会の第9回会合における川瀬博委員(以下川瀬委員という。)の発言からも裏付けられる。)。入倉・三宅式について後者のような修正を行うと,武村式を採用するのと事実上ほぼ同じ結果となる(武村式を採用する場合であっても,同様にばらつきを最大限考慮して修正をすべきである(logS=1/2logM0-10.90)。)。 入倉・三宅(2001)においても,大きな地震では,ある経験式により算出される断層面積が断層面積と地震モーメントについての別の経験式 に比べて系統的に小さくなること,断層幅が飽和するような大きい地震で断層面積がM01/2に比例することが分かっており,マグニチュード8クラスの地震について断層面積から地震モーメントを推定するときにはこのような関係に基づくばらつきを考慮することが必要とされている。 イ 被告は,経験式の適用範囲が検討されていることを確認する際の留意点として,前記アのかい離の度合いを踏まえて,当該経験式を適用することの適否について検討すべきであると主張するが,かい離の度合いをどのように踏まえ,それが経験式を適用することの適否にどのようにつながるのかが全く示されていない。 ウ 被告は,経験式のばらつきの考慮そのものはしていないことを認めながら,不確かさの考慮を行うなどして基準地震動が保守的に設定されることが予定されているから不合理ではない旨主張するが,この主張は次のとおり誤りである。 すなわち,地震動審査ガイドの構造及び制定過程をみれば,経験式のば らつきの考慮(本件ばらつき条項)と不確かさの考慮(I.3.3.3(2)①)とは別なものとして位置付けられていることが明らかであり,一方をもって他方に代えるという関係にはない。また,不確かさの考慮は,断層面積Sを算出する過程で,震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角について問題となるが,経験式のばらつきの考慮は,経 験式を用いて地震規模の平均値を得た後に問題となるのであり,経験式のばらつきの考慮と不確かさの考慮は局面を異にする。さらに,不確かさの考慮の対象として挙げられている震源断層の長さ等はいずれも震源特性パラメータであるところ,経験式から導かれる地震規模M0も同じ震源特性パラメータであるにもかかわらず,不確かさの考慮の対象に含まれていないのは,経験式のばらつきは,誤差ではなく経験式とのかい離自体に積極的な意義を見出すものであって,その値が誤差を持っているという不確か さの考慮の対象事項とは異なる意義を持っているからである。このことからしても,一方をもって他方に代えることは許されない。地震動審査ガイドにおいて本件ばらつき条項の第2文があえて付加された意義に照らして,経験式のばらつきの考慮と不確かさの考慮は併せて行われるべきである。 また,経験式のばらつきの考慮(本件ばらつき条項)は,地震動審査ガイドⅠ.3.2検討用地震の選定の項に位置付けられているが,地震動審査ガイドは,同項において,検討用地震を単に選定するのみならず,選定された検討用地震について震源として想定する断層の形状等の評価や当該断層についての震源特性パラメータ(断層の長さ, 面積,地震規模 (地 震モーメント)等)を設定することをも求めている。 エ 以上のとおり,本件審査における基準地震動の策定は地震動審査ガイドに違反しているから,本件申請における基準地震動の策定が設置許可基準規則4条3項に適合し,地震動審査ガイドを踏まえているとした原子力規制委員会の判断は不合理である。 (被告の主張の要旨) ア (ア) 本件ばらつき条項(地震動審査ガイドⅠ.3.2.3(2))の意味本件ばらつき条項の経験式が有するばらつきも考慮されている必要があるとの記載は,震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合に,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する際,すなわち当該地域の地質調査の結果等を踏まえて設定される震源断層に当該経験式を適用することの適否(適用範囲)を確認する際の留意点として,当該経験式とその基礎となった観測データ(データセット)との間のかい離の度合いを踏まえる必要があることを意味するものであって,経験式の修正を求めるものではない。 a 経験式は,観測データ(データセット)を回帰分析して得られるものであって,一般法則であることが求められる。他方,検討用地震の選定に当たって考慮される震源特性は,一般的に地域によって異なるため,当該地域の特性を考慮するのが合理的である。また,当該地域の地質調査結果や観測記録等から設定された震源モデルのパラメータ (例えば,震源断層面積等)が,特定の経験式が想定する適用範囲から外れる場合もあり得る。したがって,経験式を用いる際には,当該経験式を当該地域の地質調査の結果等を踏まえて設定される震源断層に適用することが適当であるのか,換言すれば,当該震源断層が当該経験式の適用範囲に含まれているかについて十分検討する必要があ る。これが,本件ばらつき条項にいう経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認することの意味である。b 経験式が回帰分析によって導き出されたものである以上,当該経験式とその基礎となった観測データとの間には当然かい離があり,この かい離の度合いが経験式が有するばらつきである。 本件ばらつき条項の経験式が有するばらつきも考慮されている必要があるとの記載は,経験式の適用範囲が検討されていることを確認する際の留意点として,上記かい離の度合いを踏まえて,当該経験式を適用することの適否について十分に検討する必要がある旨をいう ものである。 例えば,ある地域において,経験式を用いて震源断層面積から地震規模を設定するに際し,当該地域の地質調査の結果等を踏まえて設定される震源断層面積が,当該経験式の基礎となった観測データの範囲を外れるのであれば,当該経験式を適用することは基本的に相当でない。 c これに対して,経験式そのものの修正を行うことは,経験式が最小二乗法を用い観測データとの誤差を最小にして得られたことを無意味にして,当該経験式の科学的な合理性を失わせるものである。 d 原告らが指摘する入倉・三宅(2001)の記載は,M0≧7.5×1025(dyne・cm)の領域において入倉・三宅式の係数が異なること(適用すべき経験式が異なること)や入倉・三宅式を適用するに当た っては,このような相違を踏まえた上で,入倉・三宅式とその基礎となった観測データとの間のかい離の度合いを踏まえる必要があることを意味するものであって, 経験式の修正を求める趣旨のものではない。 (イ) 本件ばらつき条項は,地震動審査ガイドⅠ.3.2検討用地震の選定の項に位置付けられている。検討用地震の選定とは,想定される数多くの地震の中から,敷地に対して相対的に影響が大きい地震を検討用地震として選別する過程をいい,実質的な地震動評価を行う段階の前段階に位置付けられる。しかるに,仮に,原告らが主張するように,地震モーメントの値を,経験式で得られる平均値ではなく,当該経験式 の基となった地震データ中の既往最大値(例えば,経験式により得られる平均値のn倍)に設定したとしても,検討用地震の選定候補として比較検討の対象となる全ての断層について地震規模がn倍となるにすぎず,検討用地震として選定される地震は何ら変わらないから,上記記載は無意味なものとなる。地震動審査ガイドが,このような無意味な規定 を設けたとは考え難い。 また,経験式が有するばらつきについては不確かさと同義で用いられる場合もあるところ,規則の解釈別記2の5二柱書きは,検討用地震を選定した後に基準地震動の策定の段階においては不確かさの考慮を要求するが,検討用地震の選定の段階においては不確かさの考慮を要求していない。したがって,経験式が有するばらつきを不確かさと解釈すること(原告らが主張するように平均像を超えた地震を想 定すること等)は,設置許可基準規則及び規則の解釈への妥当性を確認する目的を有する地震動審査ガイドが,設置許可基準規則等が要求していない事項の確認を定めているという不整合な結論となる。 (ウ) 耐震設計上考慮する活断層の認定(震源断層面の評価)には不確かさ(ばらつき)を考慮する必要があるし,地震動評価においてアスペリティの位置・応力降下量や破壊開始点の設定等において不確かさ(ばらつき)を考慮する必要もあるが,これらの不確かさ(ばらつき)が考慮されている場合にまで,経験式で得られた地震規模の値に更に上乗せをする必要はなく,かえって不適切である。 現行の新規制基準の下においては,震源断層の長さや地震発生層の上端深さ・下端深さ等の震源断層の評価に係る不確かさが既に考慮され,更に地震動評価の不確かさが別途上乗せされて基準地震動が策定されることが予定されている。このため,現行の新規制基準の枠組みにおいては,震源断層面の評価に不確かさ(ばらつき)を考慮して保守的な設定 をするという形で地震規模を大きく設定すること,つまり地震規模の不確かさ(ばらつき)を考慮することとされている。そこで,経験式で得られた地震規模の値に更にばらつきを考慮して上乗せがされていることを確認するとの趣旨で地震動審査ガイドを解釈し運用しなければならない場面は,存在し得ない。 したがって,本件ばらつき条項の第2文にいうばらつきを,地震 動評価段階等において考慮する不確かさであると解釈する余地があるとしても,4号要件適合性の審査において,震源断層面の評価や地震動評価上の各種不確かさが考慮されている場合に,更に重畳して,経験式で得られた地震規模の値に上乗せがされていることを確認するとの趣旨で本件ばらつき条項の第2文を解釈し運用すべき合理的理由はない。イ 地震動審査ガイド等においては,基準地震動は保守的に策定されることが予定されていること 地質審査ガイドにおいては,活断層の長さの評価の段階において,地震規模が大きくなるように活断層の長さが保守的に設定されることが予定されている。また,地質審査ガイド及び地震動審査ガイドにおいては,活断 層評価の段階において,地震規模が大きくなるように活断層の連動を考慮し,活断層の長さが保守的に設定されることが予定されている。 地震動審査ガイドは,断層モデルを用いた手法による地震動評価における不確かさの考慮について, 「断層モデルを用いた手法による地震動の評価過程に伴う不確かさについて,適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。」 などとした上,①支配的な震源特性パラメータ等の分析及び②必要に応じた不確かさの組合せによる適切な考慮を求めている。これらは,断層モデルを用いた手法による地震動評価においては,策定した特性化震源モデルを前提としつつ,例えば,震源断層の傾斜角,アスペリティの応力降下量(短周期レベル),破壊開始点等について,原子炉施設への影響がより大きくなるように変更された震源モデルを用いて地震動評価を行うことや(上記①),必要に応じて不確かさの考慮を組み合わせて行うこと(上記②)を意味する。このように,地震動審査ガイドにおいては,不確かさの考慮を行うことによって,基準地震動が保守的に策定されることが予定されている。 以上によれば,本件ばらつき条項の経験式が有するばらつきも考慮されている必要があるとの記載について,策定された経験式を修正する意味であるという科学的合理性のない解釈を採用する必要はない(前記アのとおり,経験式が有するばらつきは考慮するのであり,これを考慮しなくてよいという趣旨ではない。)。 ウ 耐震設計の段階において,保守的で余裕を持つことが求められていること 設置許可基準規則は,実際に地震動が建物・構築物や機器・配管等に伝わった際に,それらの構造物がどの程度地震応答するかを解析し,その解析結果に耐えられるようにそれらの構造物を設計する段階,すなわち耐震設計の段階においても,保守的で余裕を持つことを求めている。そして,耐震設計の各段階で,独立して保守性を保つように設計がされ,各段階で の保守性(余裕)が集積され,結果,建物・構築物や機器・配管の地震応答の最大値が保守的なものになる。 したがって,原子力発電所は,基準地震動クラスの地震による建物・構造物や機器・配管の地震応答に対して大きく余裕を持った設計がされており,基準地震動を仮に超えるような地震が発生したとしても,即座に耐震 重要施設の安全機能が喪失するということはない。 エ 仮に,本件ばらつき条項の第2文を経験式で得られた地震モーメントにばらつきを考慮した上乗せをするものと解釈したとしても,評価される地震動は基準地震動を下回るものであること FO-A~FO-B~熊川断層の震源断層モデルとして,アスペリティの位置を除いて,その他の不確かさがほぼ考慮されていない平均的な震源断層面積を持つモデルを設定し, 地震モーメントに標準偏差を上乗せして, 最大加速度値を計算すると,本件申請において策定された基準地震動の中で最大加速度値が最も大きなケースの値である856gal(=㎝/s2)より も明らかに小さくなる。 また,本件申請において設定されたFO-A~FO-B~熊川断層の基本ケースを基に,あえて同様の計算をすると,最大加速度値は810galとなり,本件申請において策定された基準地震動の中で最大加速度値が最も大きなケースの値である856galよりも明らかに小さくなる。オ したがって,本件申請における基準地震動の策定が設置許可基準規則4条3項に適合し,地震動審査ガイドを踏まえているとした原子力規制委員 会の判断は合理的である。 (4) 争点4 (本件申請について, 制御棒挿入性の点が設置許可基準規則4条3 項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性) (原告らの主張の要旨) ア 制御棒の挿入のための施設は,原子炉の緊急停止のために急激に負の反応度を付加するための施設(規則の解釈別記2の2一)であるから,設置許可基準規則3条1項にいう耐震重要施設に当たる。そこで,制御棒の挿入のための施設は,基準地震動による地震力に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない(設置許可基準規則4条 3項)。 制御棒の挿入のための施設における安全機能が損なわれないというために,制御棒の挿入に要する時間(以下制御棒挿入時間という。)は,参加人が設置許可申請書に記載した2.2秒以内でなければならないところ,参加人は,平成22年1月15日付けで,原子力安全・保安院に対し, FO-A断層とFO-B断層が連動することを想定して策定した基準地震動を前提とする場合,本件各原子炉施設における制御棒挿入時間は2.16秒である旨の書面を提出した。 しかるに,上記各断層に加えて熊川断層も連動した場合,本件各原子炉施設における制御棒挿入時間が2.2秒を上回ることは明らかである。 したがって,本件申請について,制御棒挿入性の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である。イ 被告は,設置許可基準規則4条3項は,基本設計ないし基本的設計方針に係る規定であり,制御棒については,基本設計ないし基本的設計方針として,基準地震動による地震力に対し制御棒が炉心に挿入される設計方針になっていることが同項により要求されているにとどまる旨主張する。しかしながら,事業者が原子炉の設置変更について抽象的な方針の審査 を受けただけで工事計画の段階に進み,同段階において安全審査の基準を満たすために計画を度々変更することになった場合,これにより増加したコストは電力受給者の負担する電気料金に転嫁されるから,見通しの不透明な設置変更許可申請に対しては,その時点で許可をしないこととすべき責務がある。また,実際にも,原子力規制委員会は,設置許可,工事計画 認可及び保安規定認可の審査を一体的,同時並行的に審査しているから,技術基準規則の違反がある場合には,設置変更許可処分は違法であるというべきである。 (被告の主張の要旨) ア 制御棒に関する設置許可基準規則4条3項適合性審査の対象 制御棒(制御棒駆動機構)は耐震重要施設に当たるところ,設置許可基準規則4条3項に規定する安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならないを満たすために,その設計に当たっては,基準地震動による応答(地震により加えられた外力に対する,施設,設備の作用。例え ば,揺れの速度や変位)に対して,その設備に要求される機能を保持すること,具体的には,実証試験等により確認されている機能維持加速度等を許容限界とするという方針によらなければならないものと解される(規則の解釈別記2の6一)。そうであるところ,地震時において制御棒に要求される機能とは,原子炉が安全かつ確実に停止するように炉心に挿入され ることである。 そして,設置許可基準規則4条3項は,基本設計ないし基本的設計方針に係る規定であり,基本設計ないし基本的設計方針は,後続の詳細設計等に対して指針を示し,枠組みを与えるものである。そうすると,制御棒については,基本設計ないし基本的設計方針として,基準地震動による応答加速度等が,実証試験等で制御棒に要求される機能の維持が確認されてい る加速度(機能維持加速度)等以下となるように設計するなど,制御棒が十分な耐震性を有し,それに要求される機能が維持される設計方針となっていること,すなわち,基準地震動による地震力に対し制御棒が炉心に挿入される設計方針になっていることが同項により要求されているといえる。これを超えて,機能維持加速度等の具体的な数値や,実際に特定の 機器が設定された特定の条件を満たす設計であるか否かについては,基本設計ないし基本的設計方針において確認されるべき事項ではない(地震動審査ガイドⅡ.2.2参照)。 したがって,設置許可基準規則4条3項適合性の審査においては,制御棒挿入時間は審査の対象とならないから,原告らの主張は前提を欠く。 イ 原子力規制委員会の判断の合理性 原子力規制委員会は,参加人が実施した制御棒及びその駆動装置についての耐震重要度分類の適用,参加人による耐震重要度分類Sクラスの施設の地震力の算定方針並びに耐震設計上考慮する荷重の種類及び荷重の組合せに係る方針等が,規則の解釈別記2に適合していること及び地震動審査 ガイドを踏まえていること等を適切に確認しており,その審査結果は合理的である。 (5) 争点5(本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力 規制委員会の判断の合理性) (原告らの主張の要旨) ア F-6破砕帯は将来活動する可能性のある断層等に当たること本件発電所の敷地内にF-6破砕帯(昭和60年の本件各原子炉の設置変更許可申請時に推定されていたもの。以下旧F-6破砕帯という。その位置は,別紙4記載のとおり)が存在し,その露頭の上に非常用取水路(海水管トンネル)が設置されている(破砕帯とは,断層運動等により岩石が破砕された割れ目をいう。)。非常用取水路は,原子炉停止後,炉心から崩壊熱を除去するための施設あるいは原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故後,炉心から崩壊熱を除去するための施設であるから (規 則の解釈別記2の2一),設置許可基準規則3条1項にいう耐震重要施設に当たる。そこで,非常用取水路は,変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない(設置許可基準規則3条3項)。 設置許可基準規則3条3項にいう変位が生ずるおそれがない地盤とは,将来活動する可能性のある断層等の露頭がないことを確認した地盤をいい(規則の解釈別記1の3),将来活動する可能性のある断層等の認定に当たっては,地形面又は地層にずれや変形が認められないことを明確な証拠により示されたとき,後期更新世以降の活動を否定できる(地質 審査ガイドⅠ.2.1〔解説〕(1))。 そこで,非常用取水路の直下に将来活動する可能性のある断層等が存在しないことを示す明確な証拠がない限り,将来活動する可能性のある断層等が存在するものとして判断しなければならないところ,旧F-6破砕帯が将来活動する可能性のある断層等でないことを示す明確な 証拠はない。 したがって,旧F-6破砕帯が将来活動する可能性のある断層等に当たるものとせず,本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断は,不合理である。 イ 新F-6破砕帯の存在には疑義があること等 原子力規制委員会は,旧F-6破砕帯とは異なる位置を通過する新たな破砕帯(新F-6破砕帯。その位置は,別紙4記載のとおり。以下,旧F-6破砕帯と新F-6破砕帯とを区別しないときは単にF-6破砕帯という。)を認定した上で,耐震重要施設の地盤において認められる新F-6破砕帯は将来活動する可能性のある断層等に当たらないと判断し た。 しかしながら,①上記の判断をするに当たっては,調査される側である参加人が調査範囲を決定し,原子力規制委員会が求めた調査が行われなかった。また,②ボーリング調査によって新F-6破砕帯の位置(連続性)が認定されているところ,その調査方法には限界があることから,その認 定には大きな疑義があり,旧F-6破砕帯の存在を否定することができるのか根本的な疑問がある。さらに,③新F-6破砕帯が将来活動する可能性のある断層等に当たるか否かという点(活動性)について,新F-6破砕帯が一続きのものでない可能性があるにもかかわらず,南側トレンチ(トレンチとは,破砕帯や地層の状況を直接確認するために,地面に掘 った大規模な溝のことをいう。)の火山灰によって,新F-6破砕帯の活動時期を判断したものである。 以上によれば,新F-6破砕帯の存在を前提に,これが将来活動する可能性のある断層等に当たるものとせず,本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断は,不合理である。 ウ 台場浜トレンチ内の破砕帯について 原子力規制委員会は,本件発電所の敷地内である台場浜トレンチ(その位置は,別紙4記載のとおり)内の破砕帯を将来活動する可能性のある断層等に当たるものと認定しているところ,台場浜そのものは非常用取 水路の近傍(210m程度の距離)にある上,上記破砕帯との連続性が否定されていない南方のボーリング部の破砕帯は,非常用取水路から36m程度の距離に存在することになる。 敷地内及び敷地極近傍に将来活動する可能性のある断層等の露頭が存在する場合には,適切な調査,又はその組合せによって,当該断層等の性状(位置,形状,過去の活動状況)について合理的に説明されていることを 確認しなければならないし(地質審査ガイドⅠ.3.1(2)),将来活動する可能性のある断層等が重要な安全機能を有する施設の直下にない場合でも,施設の近傍にある場合には,建物及び構築物の基礎及び躯体に対して,鉛直面内で生ずる傾斜や段差(縦ずれ)だけでなく,水平面内で生ずるせん断変形や横ずれについても,施設の安全機能が重大な影響を受け るおそれがないことが照査されていること等を確認しなければならない(地質審査ガイドⅠ.3.1(3),地盤審査ガイド4.3(1))。しかるに,原子力規制委員会は,台場浜トレンチ内の破砕帯について,上記の点を全く確認していない。 したがって,本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原 子力規制委員会の判断は不合理である。 (被告の主張の要旨) ア (ア) 新F-6破砕帯の存在等の認定の経緯 原子力規制委員会は,参加人が本件申請をする前に,大飯発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合(以下大飯破砕帯有識者会合という。)を設置した。 大飯破砕帯有識者会合は,日本地質学会,日本活断層学会,日本地震学会及び日本第四紀学会から候補者の推薦を受け,原子力規制委員会が選定した4名に,日本地震学会会長等を務めた原子力規制委員会の島﨑 委員長代理(当時)を加えた5名で構成された。 大飯破砕帯有識者会合は,平成24年11月に参加人が実施したトレンチ調査やボーリング調査等の結果について現地調査と評価を行い,参加人に指示して2度の追加調査を実施させたほか,同年12月及び平成25年7月に現地で確認を行うなどした。そして,大飯破砕帯有識者会合は,昭和60年の設置変更許可申請時以降の安全審査等における資料 等を用いて,平成25年8月から同年11月にかけて,主にF-6破砕帯が将来活動する可能性のある断層等に当たるか否かについて,最新の専門的知見を基に評価を行い,平成26年2月12日付けで関西電力株式会社大飯発電所の敷地内破砕帯の評価について(以下破砕帯評価書という。)を取りまとめた。 (イ) 大飯破砕帯有識者会合は, 前記(ア)の調査の結果,旧F-6破砕帯とは 異なる位置を通過する新F-6破砕帯を確認し, これが 山頂トレンチ 付近から旧試掘坑,旧トレンチ,南側トレンチ東端を通り, その南方に連続している可能性があると評価した。 (ウ) 大飯破砕帯有識者会合は,前記(ア)の調査の結果,新F-6破砕帯が将来活動する可能性のある断層等に当たるか(活動性)について,次のとおり評価した。すなわち,まず,南側トレンチにおける新F-6破砕帯を含む全ての破砕帯が,約23万年前の火山灰を含む地層を変位させていないことから,後期更新世以降活動していないことを確認 した。次に,山頂トレンチにおける新F-6破砕帯の活動ステージ(破砕帯の活動時期を複数の活動期に分類したもの)が,南側トレンチを含む新F-6破砕帯の他の全ての確認地点のものと一致することを確認した。以上により,大飯破砕帯有識者会合は,南側トレンチの破砕帯の活動性評価の結果が,新F-6破砕帯が一続きの破砕帯であ るか否かにかかわらず,新F-6破砕帯全体に対して適用可能であることを確認した。大飯破砕帯有識者会合は,以上の検討により,新F-6破砕帯が,後期更新世以降活動しておらず,将来活動する可能性のある断層等ではないと判断した。 (エ) 参加人は,本件申請に当たり,F-6破砕帯については,大飯破砕帯有識者会合における評価手法及び評価結果を踏襲した。 イ (ア) 原子力規制委員会の判断の合理性 大飯破砕帯有識者会合は,参加人が本件申請をする以前に,本件申請に対する設置許可基準規則適合性審査とは別に設置されたものであり,大飯破砕帯有識者会合の評価が上記審査を拘束するものではない。もっとも,大飯破砕帯有識者会合の評価は,現在の科学技術水準を踏まえて 作成された設置許可基準規則及び規則の解釈,地質審査ガイド等を総合的に勘案して行われ,また,専門家による専門技術的な観点からされたものである。そして,破砕帯評価書は,最新の調査手法による追加調査等も行って得られたデータ等を基に,破砕帯評価に関する各分野の専門家が,現在の科学技術水準を踏まえて総合的に検討した報告書である。 そのため,上記審査において,設置許可基準規則3条3項等の適合性審査を行う際には,大飯破砕帯有識者会合の評価が重要な科学的知見の一つとして参考とされる。 (イ) 原子力規制委員会は,参加人が行った各種調査の結果,耐震重要施設を設置する地盤における断層の活動性評価手法等が適切であり,耐震重 要施設設置位置に分布する断層は, 将来活動する可能性のある断層等 に当たらず,規則の解釈別記1の規定に適合していること及び地質審査ガイドを踏まえていることを適切に確認しており,その審査結果は合理的である。 (ウ) なお,原告らは,新F-6破砕帯が一続きのものでない可能性があるにもかかわらず,南側トレンチの火山灰によって,新F-6破砕帯の活動時期を判断したものであるとして,原子力規制委員会の判断が不合理である旨主張する。 しかし,前記ア(ウ)のとおり,大飯破砕帯有識者会合は, 山頂トレンチにおける新F-6破砕帯の活動ステージが,南側トレンチを含む新F-6破砕帯の他の全ての確認地点のものと一致することを確認し たことから,新F-6破砕帯の活動時期を判断したものである。具体的には, 大飯破砕帯有識者会合は, 破砕帯が活動した際にそのせん断面 (断 層の切り口)に残る条線(地層面や断層面に見られる線構造で,運動方向を示すと考えられる。)の向き等のデータを解析することにより,過去におけるその周辺の応力場の向き(地層にどのような力が加わってい るか)を推定して,活動ステージを分類したところ,南側トレンチ及び山頂トレンチで確認された各破砕帯の最新活動時期が,いずれも,新F-6破砕帯の各地点において確認された四つの活動ステージのうち最新のものと一致すると評価した。そして,南側トレンチにおける各破砕帯は,いずれも,約23万年前に降灰したとされるhpm1 火山灰より下位の堆積層のいずれも変位させていないことが確認されたことから,南側トレンチ及び山頂トレンチにおける各破砕帯で 確認された活動ステージによる構造は,数十万年前以降に形成されたものではないとした。そこで,大飯破砕帯有識者会合は,新F-6破砕帯が一続きの破砕帯でない可能性を考慮したとしても,全ての区間におい て,数十万年前以降活動していないと判断したものである。原告らの上記主張は,破砕帯評価書の内容を正解しないものである。 ウ 台場浜トレンチ内の破砕帯について 設置許可基準規則3条3項の趣旨は,耐震重要施設の基礎となる地盤に 露出する断層等が動いて段差が生ずることにより,その段差(変位)によって建物・構築物や内部の機器等が損傷することを防止することにあるから,同項が対象とするのは,原子炉施設敷地内外に存在するあらゆる断層ではなく,耐震重要施設の直下の地盤に露出する断層に限られる。敷地内及び敷地極近傍に将来活動する可能性のある断層等の露頭が存在する場合や,将来活動する可能性のある断層等が重要な安全機能を有する施設の近傍にある場合に関する地質審査ガイド及び地盤審査ガイドの定めは,設置 許可基準規則3条2項適合性審査の際の確認事項である。 台場浜トレンチは,本件各原子炉施設とは山を隔てたところに位置する敷地北部の海岸である台場浜の付近において掘削されたトレンチである。台場浜にはそもそも耐震重要施設が存在しておらず,台場浜トレンチで認められた各破砕部は,耐震重要施設の直下に位置していない。また,これ らの破砕部は,全て連続性が乏しく,南方へ延長していくことにより耐震重要施設が設置されている地盤の直下まで至ることもない。さらに,前記(原告ら主張の要旨)ウにいう,台場浜トレンチ内の破砕帯との連続性が否定されていない南方のボーリング部の破砕帯については,それよりも北方のボーリング孔において既に台場浜トレンチ内の破砕部との連続性 が否定されていることからして,当然に連続性は否定されている。したがって,台場浜トレンチの破砕部は,設置許可基準規則3条3項が対象とする断層(破砕帯・破砕部)ではない。 (6) 争点6 (本件申請について, 基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条 に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性) (原告らの主張の要旨) ア 設置許可基準規則5条は,設計基準対象施設は,その供用中に当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない旨規定するところ,津波 の調査においては,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査及び地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を行うべきであるほか,敷地周辺に襲来した可能性のある津波に係る調査等を行うべきである(規則の解釈別記3の2七)。そして,地質審査ガイドにおいては,①津波痕跡調査について,津波の観測記録,古文書等に記された歴史記録,伝承及び考古学的調査の資料等の既存文献等の調査・分析により,敷地周辺において過去に来襲した可能性のある津波の発生時期,規模及び要因等について,できるだけ過去に遡って把握されていることを確認すること等が,②津波堆積物調査について,津波堆積物の調査は,調査範囲や場所に限界もあり,調査を行っても津波堆積物が確認されない場合があるが,周辺の状況から津波が来襲した可能性がある場合には,安全側 に判断していることを確認すること等が,それぞれ定められている。イ(ア) 本件各原子炉施設の立地する若狭湾岸においては,天正年間に津波 が発生したという記述が兼見卿記やルイス・フロイスの日本史 にある(被告指摘の文献(天正大地震誌)に記載された津波は,フロイスの日本史に記述されたものとは別のものであり,フロイスの日本史における津波の記述を否定するものではない。)。そして,原子力安全保安院の見解を受けて参加人が平成24年2月から同年1・ 2月にかけて実施した調査によって, 猪ヶ池において高波浪又は津波が 成因の可能性がある砂層が確認された。このことによれば,相当大規模な津波が過去に若狭湾岸において発生した可能性が否定できない。 しかるに,参加人は,三方五湖周辺において津波堆積物が発見されなかったことから, 猪ヶ池の砂層を形成したイベントが津波であるとして もそれは大きなものではなかったとして,本件申請をした。 (イ)丹後国風土記(残欠)には,大宝元年3月巳亥に地震が3日続き大津波が丹後地方を襲ったとの記述があり, 真名井神社の波せき地蔵堂 には,ここで大津波を切り返したといういわれが伝えられている。しかるに, 参加人は,丹後地方の歴史地震を考慮の対象とせずに本件申請をした。ウ したがって,本件申請が設置許可基準規則5条に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である。 (被告の主張の要旨) ア 参加人は,本件申請において,海域活断層による地震に伴う津波の検討対象波源として,文献調査及び敷地周辺の地質調査結果から,敷地において大きな水位変動が予想される二つの断層を詳細数値計算モデルによる検討対象波源として選定し,津波評価を実施したほか,行政機関が実施している津波シミュレーションを用いて津波評価を実施した。また, 参加人は, 地震以外の要因による津波として,海底地すべり及び陸上地すべりを検討対象とした。そして,参加人は,地震に伴う津波と地震以外の要因による津波を組み合わせた津波評価を実施した上で,不確かさを考慮して基準津波を策定し,基準津波による水位変動に伴う砂移動の評価を行った。原子力規制委員会は,参加人が実施した津波評価の内容について審査し た結果,適切な位置で基準津波の時刻歴波形を策定するとともに,基準津波による水位変動に伴う砂移動の評価を適切に行っていることなどから,規則の解釈別記3に適合していることを適切に確認しており,その審査及び判断の過程は合理的である。 イ(ア) (原告らの主張の要旨)イ(ア)について (原告らの主張の要旨) イ(ア)記載の調査の結果, 若狭湾沿岸のうち, 本件各原子炉施設に近い三方五湖周辺(久々子湖・菅湖・中山湿地)及び久々子湖東方陸域においては, いずれも津波を示唆する痕跡が認めら れなかった。 また, 本件各原子炉施設から遠く離れた若狭湾の東端付近 に位置する猪ヶ池においては, 砂層が確認されたが, 専門家らの指摘を 踏まえて成因に関する詳細検討を行い, 海水性の微化石が検出されない ことなどから,津波堆積物ではないと判断された。そして,当該砂層とは別に,更に古い時代に堆積した津波堆積物である可能性がある堆積物 が確認されたが, それは5000年以上前に堆積したものであり, 少な くとも,原告らが指摘するような天正時代(現在から400年余り前)のものではない。以上の調査結果からすれば,過去,猪ヶ池には一定程度(池に砂を流入させる程度)の規模の津波が到来していたとしても, 本件各原子炉施設においては, それらの津波の明確な痕跡がないのであ るから, 少なくとも完新世において,本件各原子炉施設の安全性に影響 を与える規模の津波が到来した可能性はないとした参加人の評価は合理的である。 また,原告ら指摘の文献についていえば,①兼見卿記には,津波 被害について……云々と記載されており,伝聞によって記載されたものであると認められた。また,②日本史には,若狭国(現在の福井県南西部)の長浜と称する町に津波が押し寄せた旨記載されているところ,そもそも若狭には長浜という地名はない。そして,他の文献(天正大地震誌,山内家史料第一代一豊公記)には,近江 (現在の滋賀県)の長浜における津波被害が記録されており,琵琶湖における遺跡調査結果からもそれが裏付けられている。 加えて, 若狭 湾周辺の県市町村誌を確認しても天正地震の際の津波に関する記録はなく, 公益財団法人地震予知総合研究振興会の松浦律子氏も, 天正地震 で日本海側に大津波があったというのは間違いである旨論文に記載し ている。 したがって,原告ら指摘の文献はいずれも信頼性を欠くもので ある。 (イ) (原告らの主張の要旨)イ(イ)について a 設置許可基準規則5条の解釈適用に当たっては, 基準津波による遡 上津波が, 敷地周辺における津波堆積物等の地質学的証拠及び歴史記 録等から推定される津波高及び浸水域を上回っていることを確認しなければならない(規則の解釈別記3の2五)。この点について,地質審査ガイドⅡ.3.2(2)並びに基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド (平成25年6月19日原管地発第1306193号 原子力規制委員会決定)Ⅰ.3.6.1(3)は,歴史記録や伝承の信頼性については, 複数の専門家による客観的な評価が参照されてい ることを確認する旨定めている。その趣旨は,例えば,事実無根の伝承や誤った歴史記録等の内容から過去の津波高さを推定して当該基準津波の妥当性を検証し, 当該基準津波が妥当であると誤認すること を防ぐところにある。 そうすると, 津波に係る規制において考慮が求 められる歴史記録等とは, 存在が確認された歴史記録等の全てではな く, 客観的に信頼性が確認されている歴史記録等を意味するものと解 するのが相当である。 そして, 上記信頼性については, 当該歴史記録等が公的記録や通史, 作者や作成年代等が分かる日記等, 信頼性が一定程度確保されたもの であるか否か,複数の専門家による学術的文献等(考古学の論文等) における評価はいかなるものかなどといった点を踏まえて判断されることになる。また,実際に津波堆積物の調査を行い,歴史記録等に記された津波による堆積物が確認されるか否かも, 判断の重要な要素 となる。 b 大宝年間に起こった地震で記録上確認できるものは, 701年の大 宝地震以外にない。 大宝地震については, 従前は若狭一体にも津波をもたらしたものと 考えられていたが,現在は,丹波国(現在の京都府及び兵庫県の内陸部) 内に震央をもつ局発地震であり, 津波に関する伝承は風説にすぎ ず,津波はなかったことが学術的に明らかになっている。また,大宝地震の津波の伝承や波せき地蔵の伝承については,京都府の地域防災の見直し部会において調査が行われたところ,大宝地震の津 波の伝承は地学的に証明することができず,また,波せき地蔵の 伝承にあるような大きな津波であれば他の地域にも記録が残っているはずであるにもかかわらず,そのような記録がないため,事実不明であると結論付けられている。 以上のように, 大宝地震に関する 波せき地蔵 の伝承については, 既にその信頼性が否定されており, 基準津波の妥当性を検証するに当 たり,これを考慮すべきではない。 (7) 争点7 (本件各原子炉施設について, 設置許可基準規則51条所定の設備 が設けられ,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられており,参加人に法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力があるとした原子力規制委員会の判断の合理性) (原告らの主張の要旨) ア 本件申請においては,大破断LOCAでECCS失敗で格納容器スプレイ循環失敗という想定事象に対し,溶融炉心が原子炉容器を溶かして原子炉格納容器の下部キャビティに落下した場合に溶融炉心と放射能に汚染された水が格納容器外に漏出することを防ぐために,原子炉格納容器の下部キャビティに一定程度以上の水をためるための設備を設けておかなければならないのに,格納容器上部にあるスプレイ装置からのスプレイ水を 壁伝いや隙間や連通管を通じて下部キャビティに導くにとどめている。なお,大破断LOCAとは,配管等の破損により起こる一次冷却材喪失事故のうち,破断口が大きい場合を,ECCS失敗とは,一次冷却材喪失事故時に炉心に外部から冷却水を注入する設備が働かない状態を,格納容器スプレイ循環失敗とは,上部スプレイから水を散布して格納容器 内を冷却するために,下部の格納容器サンプから格納容器スプレイポンプによって水を循環させるべきところ,そのポンプの故障等により循環機能が働かない状態をそれぞれいう。以上によれば,本件各原子炉施設には,設置許可基準規則51条所定の設備が設けられていないものというべきである。 したがって,本件申請が設置許可基準規則51条に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である。 イ 技術的能力審査基準1.8項は,原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するための手順等に関する要求事項として, 発電用原子炉設置者において, 炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器の破損を防止するため,溶融し,原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために 必要な手順等が適切に整備されているか,又は整備される方針が適切に示されていることを規定している。また,技術的能力審査基準1.8項は,この要求事項の解釈として,上記溶融し,原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために必要な手順等について,溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下を遅延又は防止するため,原子炉圧力容器へ注水する 手順等を整備することなどを挙げている。 しかるに,本件申請においては,大破断LOCAでECCS失敗で格納容器スプレイ循環失敗という想定事象に対し,前記アのとおり,炉心損傷を判断した時点で,原子炉容器への注水を諦めて,原子炉格納容器への落下を前提に格納容器天井からのスプレイに切り替えることにしてい る。 そうすると,本件各原子炉施設については,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられていないものというべきである。また,本件申請における上記の手順は技術的能力審査基準1.8項に違反していることから,参加人は,法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力がないもの というべきである。 したがって,本件申請が設置許可基準規則37条2項に適合するとし,また,本件申請が法43条の3の6第1項3号に適合する(参加人に同号所定の技術的能力がある) とした原子力規制委員会の判断は不合理である。 (被告の主張の要旨) ア 設置許可基準規則51条に規定する溶融し,原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために必要な設備とは,原子炉格納容器下部注 水設備を設置すること等を要求しているが,これらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備」であれば,この要求を満たすものと解される(規則の解釈中同条に関する部分)。 技術的能力審査基準1.8項は,炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器の破損を防止するため,溶融し,原子炉格納容器の下 部に落下した炉心を冷却するために必要な手順等について,①原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却(炉心の著しい損傷が発生した場合において,原子炉格納容器下部注水設備により,原子炉格納容器の破損を防止するために必要な手順等を整備すること。)及び②溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下遅延・防止(溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下 を遅延又は防止するため,原子炉圧力容器へ注水する手順等を整備すること。)の措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための手順等をいうものとしている。 イ 本件申請においては,設置許可基準規則51条等が定める要求事項に対応するため,次の設備及び手順等を整備するものとされた。 ① 原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却のための格納容器スプレイ。そのために,格納容器スプレイポンプ等を重大事故等対処設備として位置付ける。 ② 原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却のための代替格納容器スプレイ。そのために,恒設代替低圧注水ポンプ等を重大事故等対処設備として新たに整備する。③ 溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下の遅延又は防止のための炉心注水。そのために,高圧注入ポンプ,余熱除去ポンプ等を重大事故等対処設備として位置付ける。 ④ 溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下の遅延又は防止のための代替炉心注水。そのために,A格納容器スプレイポンプ(RHRS-CSS 連絡ライン(余熱除去系統-格納容器スプレイ系統連絡ライン)使用),B充てんポンプ(自己冷却)等を重大事故等対処設備として位置付けるとともに,恒設代替低圧注水ポンプ等を重大事故等対処設備として新たに整備する。 ウ 原子力規制委員会は,前記イ①及び②の対策が,設置許可基準51条が要求する原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心を冷却するための原子炉格納容器下部注水設備及び手順等に対応していること,同②の恒設代替低圧注水ポンプは,格納容器スプレイポンプに対して多様性及び独立性を有し,位置的分散を図る設計とされていること,同③及び④の対策は,技術的能力審査基準1.8項が要求する,溶融炉心の原子炉格納容器下部への 落下を遅延又は防止するために原子炉圧力容器へ注水する手順等に対応していること,恒設代替低圧注水ポンプは代替電源設備により給電が可能な設計とされていること等を確認し,本件各原子炉施設が設置許可基準規則51条等に適合していると判断したものであり,このような原子力規制委員会の判断は合理的である。 エ (ア) 原告らの主張に対する反論 前記(原告らの主張の要旨)アについて 冷却水を原子炉格納容器下部に流入させる経路を確保するために,必ずしも専用の配管を設置しなければならないとされているわけではな く, 原子炉格納容器下部への注水が適切に確保できれば足りる。そして,原子力規制委員会は,格納容器スプレイ水が格納容器とフロア最外周部間の隙間等を通じ格納容器最下部フロアまで流下し,更に連通穴を経由して原子炉下部キャビティに流入することで,溶融炉心が落下するまでに原子炉下部キャビティに十分な水量を蓄水できる設計とすることを確認した。 したがって,前記(原告らの主張の要旨)アの主張は理由がない。 (イ) 前記(原告らの主張の要旨)イについて 本件申請においては,前記イ③,④のとおり,溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下の遅延又は防止のための炉心注水や代替炉心注水の設備及び手順等を整備するものとされている。 したがって,前記(原告らの主張の要旨)イの主張は理由がない。 (8) 争点8(設置許可基準規則55条は想定し得る放射性物質の拡散形態の 全てをその適用対象とするものであるか) (原告らの主張の要旨) ア 炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損又は貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷に至った場合,炉心溶融が発生しているから,大量の注水によって溶融炉心を冷却することが必要となっており, 大量の汚染水が発生する。 そこで,この場合における工場等外への放射性物質の拡散(設置許可基準規則55条)の形態としては,気体として大気中に拡散する場合のほか,溶融燃料の冷却水に溶け込んで液体として格納容器下部の貫通配管の 破損部等から流出して地中に染み込んだり海中に流出したりして拡散する場合,溶融炉心が原子炉格納容器下部のコンクリート土台を溶かしながら突き抜け地中に達する場合,セシウムが水に溶けない微粒子(セシウムボール)として大気中に拡散する場合等が想定できる。そして,福島第一原発事故の経験に照らせば,少なくとも液体の放射性物質である汚染冷却水 の原子炉格納容器からの流出は,それに対処するための設備をあらかじめ一般的に設置しておく必要がないほど進展が遅いわけでは決してなかった。 設置許可基準規則55条は,上記のように想定し得る放射性物質の拡散形態の全てをその適用対象としており,その全ての場合について放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備を設けなければならない旨を定めて いる。 しかるに,本件各原子炉施設には,工場等外への放射性物質の拡散を抑制するための手順として,大容量ポンプにより海水を放水砲を用いて建屋の損壊箇所に放水する手順並びに海洋への汚染水の拡散の抑制を図るために取水口及び放水口にシルトフェンスを設置する手順が整備されているに すぎず,これでは,放射性物質が気体として大気中に拡散する場合以外の場合に工場等外への放射性物質の拡散を抑制することができない。また,上記シルトフェンスは,数ミクロン程度以上の泥微粒子をこしとるだけの設備であり,1000分の1ミクロン程度である放射性物質の流出を防ぐことはできないから,放射性物質が気体として大気中に拡散する 場合についての設備としても不十分なものである。 イ 設置許可基準規則55条の制定過程に照らすと,原子炉格納容器の破損等に至った場合に放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備として,規則の解釈中同条に関する部分の(a)から(d)まで(別紙2の第3の7①か ら④まで)の放水による方策では不十分であることから,同(e)(海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備を整備すること。同⑤)が設けられたものというべきである。ここにいう海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備について,気体に対する放水により打ち落とされた放射性物質のみを対象とするとはされていない。 そうすると,設置許可基準規則55条は,原子炉格納容器内の放射性物質を含んだ冷却水(汚染冷却水)の海洋への拡散を抑制する設備の整備を要求するものと解される。 (被告の主張の要旨) ア 原子炉格納容器の破損等に至り,工場等外へ放射性物質が拡散する場合の放射性物質の拡散形態の一つとして,原子炉格納容器外に気体状の放射性物質を含んだ空気の一団(放射性プルーム)が発生して多量の放射性物質が短時間のうちに工場等外の広範囲に拡散することが想定される。このような拡散形態に対しては,特に短時間での対処が必要である一方,あら かじめ放水設備を設置し,これを用いて速やかに放水することで工場等外への放射性物質の拡散を抑制することができる。このとき,放水により水滴と共に落下した放射性物質を含む放水後の水が海洋に拡散する事態が想定されるが,あらかじめ海洋への拡散を抑制するシルトフェンス等の設備を整備することにより,工場等外への放射性物質の拡散を抑制することが できる。なお,セシウムボールについては,飽くまで研究途上であって科学的に確立された知見がない上,仮にそれがセシウム等が集まって微粒子になったものであるとしても,放水設備によって大量の水を噴霧することで,微粒子状の放射性物質に衝突して水滴に捕集させ,水滴と共に落下させることにより, 工場等外への放射性物質の拡散を抑制することができる。 そこで,設置許可基準規則55条は,あらかじめ一般的に上記の放水設備等の設置を要求するものであり,規則の解釈中同条に関する部分が,同条の 工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備 として, 「海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備を整備すること。」 と規定しているのは,放水により水滴と共に落下した放射性物質を含む放水後の水の海洋への流出を抑制するための設備を整備することを要求するものと解するのが相当である。他方,上記の拡散形態以外の形態による放射性物質の拡散は,具体的状況下における原子炉施設の破損損傷部位により大きく異なるものである。・ その上,原告らが指摘する汚染冷却水の流出については,液体ないし固体の放射性物質が地中に浸透した後に海等といった工場等外に流出する事象が想定されるが,このような事象の進展は気体による拡散に比して遅く, その形態等も個別の原子炉施設ごとに様々であるから,実際に発生した重大事故の状況に応じて臨機応変に対応していくことも考慮する必要がある。 イ 設置許可基準規則及び規則の解釈は,関係分野の学識経験者の専門技術的知見に基づく意見等の集約を経ることにより,当時の科学技術水準を踏まえた科学的合理的なものとして,原子力規制委員会において制定されたものであり,その内容には合理性が認められる。そうであるところ,設置許可基準規則及び規則の解釈の制定過程においては,設計基準を超える事故への包括的な対応策(敷地外への影響緩和対策)について,パブリック コメント等を踏まえた検討を経て,原子炉格納容器が破損等した場合に,発生することが想定される放射性プルームの拡散抑制(放射性プルームへの放水により生じた放射性物質を含んだ水の拡散抑制を含む。のために,) 屋外に放水設備を配備することと海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備を整備することを想定して,設置許可基準規則55条を設けることとし たものである。その際,パブリックコメントにおいて寄せられた意見のうち,地下水への拡散抑制は考慮しないのかとの意見に対しては, 「地下水を経て周辺公衆に放射性物質の影響が及ぶまでには長期間を要するため,外部支援を得て対処することを想定しています。」 とする考え方の案が示されていた。第3 1 争点1(原告適格)についての当裁判所の判断 認定事実 前記前提事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 (1) 本件各原子炉の種類,構造,規模等 本件各原子炉は加圧水型原子炉(PWR)であり,その定格出力は各11 8万kWである。なお,本件発電所にはほかに原子炉が二つあり,その定格出力は各117.5万kWであったが,いずれも平成30年3月1日に運転を終了した。 (2) ア 放射線防護に関する考え方 国際放射線防護委員会(ICRP)は,放射線から人や環境を守る仕組みを専門家の立場で勧告する国際学術組織であるところ,ICRPの平成19年(2007年)の勧告(以下ICRP2007勧告という。)は,緊急時被ばく状況(事故や核テロ等により大量の放射性物質が環境に 放出されるような非常事態が起こった場合)において公衆を防護するための参考レベル(それを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切であると判断される線量又はリスクのレベル)として,1年間の実効線量の積算値が20ミリシーベルトから100ミリシーベルトという数値を提示している。この数値は,100ミリシーベルトよりも高い線量では,確定的 影響(もし線量が十分に大きければ,組織の機能を損なうのに十分な細胞喪失を引き起こす,放射線による細胞致死の結果から生ずる健康影響)及びがんの有意なリスクの可能性が高くなること,並びに約100ミリシーベルトを下回る線量においては,ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生ずるであろう(確 率的影響)という仮定に基づいている。(甲35,乙32,34,218から220まで,弁論の全趣旨)。他方,ICRP2007勧告は,計画被ばく状況(計画的に管理できる平常時。乙32)にのみ線量限度を適用することとし,公衆被ばくの線量限度を1年につき1ミリシーベルトとしている(乙219)。 イ 原子力安全委員会は,平成23年7月19日,今後の避難解除,復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方を示した。この考え方では,I CRP2007勧告の考え方に基づいて,同年4月22日,福島第一原発事故の発生後1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超える可能性がある半径20㎞以遠の地域が計画的避難区域に設定されたとされた。(甲32) (3) 原子力災害対策指針等における原子力災害対策を重点的に実施すべき区 域 中央防災会議は,福島第一原発事故を踏まえて,平成24年9月,災害対策基本法34条等に基づき, 都道府県地域防災計画 (同法2条1項10号イ) に係る原子力防災に関する見直しを行い,防災基本計画を修正した。この防災基本計画においては,地域防災計画原子力災害対策編を策定すべき地域について,原子力災害対策特別措置法6条の2第1項の規定により原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針において示されている原子力災害対策を重点的に実施すべき区域を目安として,その自然的,社会的周辺状況等を勘案して定めるものとされた。 原子力規制委員会が平成24年10月31日に策定した原子力災害対策指針においては,原子力災害対策を重点的に実施すべき区域の設定に当たり,原子力施設の種類に応じた当該施設からの距離をその目安として用いることとされた。そして,実用発電用原子炉についての上記区域は,国際基準や福島第一原発事故の教訓等を踏まえて,次のとおり定めることとされた。 ① 予防的防護措置を準備する区域 急速に進展する事故においても放射線被ばくによる確定的影響等を回避するため,即時避難を実施するなど放射性物質の環境への放出前の段階から予防的に防護措置を準備する区域。原子力施設からおおむね半径5㎞を目安とする。 ② 緊急時防護措置を準備する区域 確率的影響のリスクを最小限に抑えるため,緊急時防護措置を準備する区域。原子力施設からおおむね30㎞を目安とする。なお,この目安については,主として参照する事故の規模等を踏まえ,迅速で実効的な防護措置を講ずることができるよう検討した上で,継続的に改善していく必要がある。 ③ プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域 前記②の区域外においても,プルーム通過時には放射性ヨウ素の吸入による甲状腺被ばく等の影響もあることが想定される。すなわち,前記②の目安である原子力施設から30㎞の範囲外であっても,その周辺を中心に防護措置が必要となる場合がある。 (乙28,29,弁論の全趣旨) (4) 原子力規制庁による放射性物質の拡散シミュレーション 原子力規制庁は, 前記(3)の防災基本計画に基づいて道府県が地域防災計画 を見直し,同①,②の区域を設けるに際し,専門技術的な観点からの技術的支援を行うことを目的として,国内の各原子力発電所から放射性物質が放出された場合にそれがどの範囲に拡散するかについてシミュレーションを行い,平成24年12月,その試算結果を発表した(本件シミュレーション)。その結果は,本件発電所については,東京電力福島第一原子力発電所の1号炉ないし3号炉の合計出力に対する本件発電所の全原子炉(当時稼働していた 4基)の合計出力の比(2.32)を乗じた量の放射性物質が放出されたなどの仮定を置いた場合,7日間の実効線量の積算値が100ミリシーベルトに達する拡散距離は,南方において最も長く,過去の気象データを基にすると,97%の確率で32.5㎞以内に収まり,本件発電所から63.5㎞より外側において7日間の実効線量の積算値が100ミリシーベルトを上回ることはないというものであった。(甲26,29,弁論の全趣旨)(5) 原告らによる放射性物質の拡散距離の計算 本件シミュレーションの結果において,本件発電所から南方63.5㎞よ り外側において7日間の実効線量の積算値が100ミリシーベルトを上回ることはないとされたことに基づいて,一定の計算をすると,本件発電所から南方約120㎞より外側において上記積算値が50ミリシーベルトを上回ることはなく,同約270㎞より外側において上記積算値が20ミリシーベルトを上回ることはないものとされる(甲30,194の2)。 (6) ア 原告らの居住する地域と本件各原子炉との距離関係 原告らのうち,原告X51,原告X60,原告X62,原告X72,原告X105,原告X122,原告X123及び原告X125を除く者は,いずれも本件各原子炉から約120㎞の範囲内の地域に居住している(甲 33,34の1,2)。 イ 原告X105, 原告X122, 原告X123及び原告X125 (以下 阪南市等に居住する原告らと総称する。)は,いずれも本件各原子炉から約140~150㎞の範囲内の地域に居住している(甲33,34の1,2)。 ウ 原告X60は,本件各原子炉から約200㎞の地域に居住しており,原告X51,原告X62及び原告X72(以下神奈川県以遠に居住する原告らと総称する。)は,いずれも本件各原子炉から300㎞以上離れた地域に居住している(原告X72は,本件各原子炉から約1282㎞離れ た沖縄県に居住している。)。(甲33,34の1,2,甲194の1,2,弁論の全趣旨)2 検討 (1) 設置許可申請に係る原子炉の周辺に居住し,原子炉事故等がもたらす災 害により生命,身体等に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民は,原子炉設置許可処分の取消しを求めるにつき,行政事件訴訟法9条1項にいう法律上の利益を有する者に該当する。そして,当該住民の居住する地域が,上記の原子炉事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かについては,当該原子炉の種類,構造,規模等の当該原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で,当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として,社 会通念に照らし,合理的に判断すべきものである(最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁参照)。以上の理は,設置変更許可処分の取消しを求める訴えについても異ならないというべきである。 (2) これを本件についてみると,まず,前記認定事実(2),(3)によれば,原子 炉事故等により1年間の実効線量の積算値が20ミリシーベルトに達することが社会通念上想定され得る地域は,本件各原子炉の設置変更許可の際に行われる法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力の有無及び同項4号所定の安全性に関する各審査に過誤,欠落がある場合に起こり得る事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に 当たるものというべきである。 そして, 本件シミュレーションの結果及び前記認定事実(5)の原告らによる放射性物質の拡散距離の計算を踏まえ,かつ,本件シミュレーションが本件各原子炉の約2倍の出力を前提として,7日間の実効線量の積算値を試算したものであることを考慮すると, 原告らのうち前記認定事実(6)アの者は, い ずれも上記地域に居住する者というべきであるから,本件処分の取消しを求める本訴請求において,行政事件訴訟法9条1項所定の法律上の利益を有する者に該当するものと認めるのが相当である。他方,阪南市等に居住する原告ら,原告X60及び神奈川県以遠に居住する原告らは,いずれも,上記の事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域内に居住する者と認めるに足りないから, 上記法律上の利益を有する者に該当しない。 3 当事者の主張に対する判断 (1) 原告らの主張に対する判断 原告らは,ICRPは,公衆の被ばくに関する実効線量限度を1年につき 1ミリシーベルトと定めているから,本件各原子炉施設における原子炉事故等により実効線量1年につき1ミリシーベルト以上の放射性物質が拡散する範囲の住民は,本件処分の取消訴訟について原告適格を有するものというべきである旨主張する。 しかしながら,前記認定事実(2)アのとおり, ICRPが公衆の被ばくに関 する実効線量限度を1年につき1ミリシーベルトと定めているのは,飽くまで計画被ばく状況(計画的に管理できる平常時)に関するものであって,原子炉事故が発生した場合のような緊急時被ばく状況については, ICRPは, 公衆を防護するための参考レベル(それを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切であると判断される線量又はリスクのレベル)として,1年間 の実効線量の積算値が20ミリシーベルトから100ミリシーベルトという数値を提示しているから,原告らの上記主張は前提を誤っており,採用することができない。 (2) ア 被告の主張に対する判断 被告は,年間100ミリシーベルトを下回る被ばく線量でがんの発症率が有意に上昇するとの科学的な根拠は存在しない旨主張する。 そこで検討すると,証拠(乙219,222)によれば,①平成23年12月22日に発表された低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書には,国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,100ミリシーベルト以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる旨などの記載があるこ と,②ICRPは,前記認定事実(2)アの仮定(約100ミリシーベルトを下回る線量においては,ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生ずるであろうという仮定)を明確に実証する生物学的・疫学的知見がすぐには得られそうにないことを強調するとしていることが認められる。 しかしながら,そもそも,前記2(1)で説示したとおり,原告適格の有無は,当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものであって,原告において一点の疑義も許されない自然科学的証明により立証しなければ原告適格が認められないというものではない。そして,前記認定事実(2)イのとおり,原子 力安全委員会が,ICRP2007勧告の考え方に基づいて,福島第一原発事故の発生後1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超える可能性がある半径20㎞以遠の地域を計画的避難区域に設定したことに加え,ICRPは,上記②のとおり説明する一方で,上記の仮定が実用的な放射線防護体系において引き続き科学的に説得力がある要素であると説明している こと(乙219)等も考慮すれば,被告の上記主張は前記2の認定判断を左右するものではない。 イ 被告は,本件シミュレーションは,飽くまで,地域防災計画の見直しのための参考とすることを目的として作成・公表されたものであり,放射性 物質による健康影響が生じ得る範囲を明らかにして原告適格を基礎付ける指標となるものではない旨主張する。しかしながら,本件シミュレーションが,国内の各原子力発電所から放射性物質が放出された場合にそれがどの範囲に拡散するかについてのシミュレーションであることは明らかであり,その目的が地域防災計画の見直しのための参考とすることにあるからといって,その結果が直ちに信用性を欠くことにはならないから,被告の上記主張は採用することができない。 また,被告は,本件シミュレーションにおける初期条件は,福島第一原発事故に基づいて設定された仮定のものであり,個別の原子炉施設において放射性物質の放出事故が生じた場合の想定としては,放射性物質の拡散状況や健康被害が及ぶ範囲に係る精度や信頼性に疑義がある上,その適用コードには15マイル(24.1㎞)から20マイル(32.2㎞)を超 える範囲では不確実さが拡大するという適用限界があるから,本件シミュレーションは,その内容においても,原告適格を論ずる上で参考となり得るものでない旨主張する。しかしながら,前記アで説示したとおり,原告適格の有無は,当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものであるところ,本 件シミュレーションの精度や信頼に関する疑義,不確実さを考慮しても,前記認定事実(6)アの者については,社会通念に照らし,原告適格を認めるのが相当であると解される。被告の上記主張は,前記2の認定判断を左右するものではない。 第4 1 本件処分の適法性(争点2から9まで)についての当裁判所の判断判断枠組み (1) 発電用原子炉を設置しようとする者は,原子力規制委員会の許可を受け なければならず(法43条の3の5第1項),原子力規制委員会は,発電用原子炉設置の許可申請が,法43条の3の6第1項各号のいずれにも適合していると認めるときでなければこれを許可してはならないものとされている(同項)。原子力規制委員会は,国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため,原子力利用における安全の確保を図ることを任務として設置され,原子炉に関する規制等を所掌事務とする機関であり, 原子力規制委員会の委員長及び委員は, 人格が高潔であって, 原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命するものとされている(設置法3条,4条1項,7条1項)。そして,原子力規制委員会には,学識経験者で組織される原子炉安全専門審査会が置かれ,原子力規制委員会の指示を受けて,原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議するものとされている(設置法14条,15条)。そのほか,原子力規制委 員会の事務局である原子力規制庁(設置法27条)の職員については,原子力利用における安全の確保のための規制の独立性を確保する観点から,原子力規制庁の幹部職員のみならずそれ以外の職員についても,原則として,原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織への配置転換を認めないこととされている(いわゆるノーリターン・ルール。設置法附則6条2項)。 また,法43条の3の6第1項2号は,発電用原子炉を設置しようとする者が発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力を有するか否かについて,同項3号は,その者が重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かについて,同項4号は,当該申請に係 る発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染されたもの又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものであるか否かについて,審査を行うべきものと定めている。発電用原子炉設置許可の基準として,上記のように定められた趣旨は,原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する 装置であり,その稼働により,人体に有害な多量の放射性物質を内部に発生させるものであって,発電用原子炉を設置しようとする者が発電用原子炉の設置,運転について所定の技術的能力(重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置の実施のために必要なそれを含む。)を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,上記災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で,発電用原子炉を設置しようとする者の上記技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性について,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される。 上記の技術的能力を含めた発電用原子炉施設の安全性に関する審査は,当該発電用原子炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射能の影響,事故時における周辺地域への影響等を,発電用原子炉設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の上記技術的能力との関連において, 多角的, 総合的見地から検討するものであり, しかも, 上記審査の対象には, 将来の予測に係る事項も含まれているのであって,上記審査においては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そこで,法43条の3の6第1項2号から4号までは,以上のような原子炉 施設の安全性に関する審査の特質を考慮し,上記各号所定の基準の適合性については,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的,専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解するのが相当である。以上の点を考慮すると,上記の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる発電用原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理,判断 は,原子力規制委員会の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって,現在の科学技術水準に照らし,原子力規制委員会の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該発電用原子炉の設置許可申請が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認められる場合には,原子力規制委員会の判断に不合理な点があるものとして,その判断に基づく発電用原子炉設置許可処分は違法であると解するのが相当である。そして,この理は,発電用原子炉の設置変更許可処分(法43条の3の8)の取消訴訟においても異ならないというべきである(発電用原子炉の設置許可の基準に関する法43条の3の6の規定は,上記処分についても準用される。法43条の3の8第2項)。 発電用原子炉設置許可処分(設置変更許可処分を含む。以下同じ。)についての上記取消訴訟においては,同処分が上記のような性質を有することに鑑みると, 原子力規制委員会がした上記判断に不合理な点があることの主張,立証責任は,本来,原告が負うべきものと解されるが,当該原子炉施設の安全審査に関する資料を全て原子力規制委員会の側が保持していることなどの 点を考慮すると,被告の側において,まず,原子力規制委員会が依拠した上記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等,原子力規制委員会の判断に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき,主張,立証する必要があり,被告が上記の主張,立証を尽くさない場合には,原子力規制委員会がした上記判断に不合理な点があることが事実上推認されるものという べきである(以上,最高裁昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁参照)。 (2)ア 法第4章の原子炉の設置, 運転等に関する規制の内容をみると,原子炉 の設置の許可,変更の許可(43条の3の5から43条の3の8まで)のほかに,工事の計画の認可,届出(43条の3の9,43条の3の10),使用前検査(43条の3の11),保安規定の認可(43条の3の24)等の各規制が定められており,これらの規制が段階的に行われることとされている。したがって,原子炉の設置の許可(変更の許可も同様である。以下同じ。)の段階においては,専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって, 後続の工事の計画の認可,(43条の3の9, 届出 43条の3の10)の段階において規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とならないものと解すべきで ある。 以上のような法の構造に照らすと,原子炉設置の許可の段階の安全審査においては,当該原子炉施設の安全性に関わる事項の全てをその対象とするものではなく,その基本設計の安全性に関わる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である(前掲最高裁平成4年10月29日第一小 法廷判決参照)。 イ これに対して,原告らは,①事業者が原子炉の設置変更について抽象的な方針の審査を受けただけで工事計画の段階に進み,同段階において安全審査の基準を満たすために計画を度々変更することになった場合,これに より増加したコストは電力受給者の負担する電気料金に転嫁されるから,見通しの不透明な設置変更許可申請に対しては,その時点で許可をしないこととすべき責務がある,②実際にも,原子力規制委員会は,設置許可,工事計画認可及び保安規定認可の審査を一体的,同時並行的に審査しているから,技術基準規則の違反がある場合には,設置変更許可処分は違法で あるというべきである旨主張する (争点4に関する主張。 前記第2の4(4) (原告らの主張の要旨)イ)。 しかしながら,原告らの主張によれば,設置許可処分の段階において詳細設計及び工事の方法等についても審査すべきであるということになり,後続の処分は不要となって,法が前記アで説示したように段階を異にする 各規制を定めた趣旨が没却されることになるから,原告らの上記主張は採用することができない。なお,上記②については,確かに,証拠(甲73,乙43)によれば,原子力規制委員会は, 新規制基準への適合性審査について, 設置変更許可, 工事計画認可,保安規定認可に関する申請を同時期に受け付け,ハード・ソフト両面から一体的に審査を行うという基本的な方針を示している事実が認められるのであり,原子力規制委員会は,設置許可処分の審査の時点 において,事実上,詳細設計及び工事の方法についても審査しているということができる。しかし,設置許可処分と工事計画認可処分は法的には別個の処分であるから,詳細設計及び工事の方法に関する判断の合理性は,飽くまで工事計画認可処分の適法性に関する事情というべきである。2 争点2(本件申請について,基準地震動の策定の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性-入倉・三宅式及び壇ほか式の合理性)について (1) 入倉・三宅式の合理性について ア 認定事実 掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。 (ア) 当時京都大学防災研究所に所属していた入倉及び三宅弘恵は,平成13年,シナリオ地震の強震動予測と題する論文(入倉・三宅(2001)。甲96)を発表した。その要旨は,次の内容を含む。 a はじめに 従来の強震動予測は,起震断層の長さや代表的変位量から地震マグニチュードを推定し,地震動に関するマグニチュード-距離の関係式(距離減衰式)から対象地域の最大加速度,最大速度,あるいは震度等を推定するものであった。しかし,最近の震災の経験から,このような強震動予測のみでは種々の異なる構造物の被害やその分布は説明 できないことが明らかとなってきた。様々な構造物に対する地震動の破壊力を最大加速度や最大速度等の一つの指標で表すのは困難であり,それぞれの構造物・施設の動的な耐震性を知るには地震動の時刻歴波形あるいは応答スペクトルの評価が必要となる。そのためには,震源断層の破壊過程及び震源から対象地点までの地下構造による波動伝播特性に基づいた強震動の予測がされなければならない。 b 活断層に起因する地震の強震動予測 本研究は,危険な活断層が存在するとき,そこで引き起こされる可能性の高い将来の地震による強震動をどのように評価するか,その方法論の確立を目指している。 ここでいう強震動とは, 単に最大加速度, 最大速度,震度という簡便化された指標ではなく,一般的な構造物に 対する破壊力を知ることのできる大振幅の時刻歴波形を意味している。このような形で強震動を予測するための最重要課題の一つが震源となる断層運動の特性化である。 断層運動がどのようなパラメータで表現できるかについて,地質・地形学アプローチとして,これまでの大地震のときに生じた地表断層 の長さや変位分布の測定を基に,それらのパラメータと地震マグニチュードや地震モーメントとのスケーリングに関する関係式が検討されている。しかしながら,地震動を生成する主要な断層運動は地下にある断層面での動きで,地表に現れる断層変位は地下にある断層の運動の結果にすぎない。地下にある断層の動きを知るには,地震記録や測 地記録から断層運動を推定する地震学的アプローチとの連携が重要となる。地震時の破壊域,すなわち断層面積が余震の発生域に関係していることはよく知られている。 強震動を予測する上で重要なのは断層運動と強震動の関係にある。近年,大地震のときの震源域近傍での強震動を断層モデルを用いて推 定する研究が盛んに行われるようになった。震源断層に適当なすべり分布と破壊伝播を想定して求められる強震動と観測記録を比較することにより大地震の破壊過程を推定する研究は,強震動記録や遠地地震記録を用いて断層面でのすべり分布を波形インバージョンにより求める研究(震源インバージョン)へ発展した。この震源インバージョンの研究は1980年代後半から盛んに行われるようになり,大地震のときの断層運動は一様ではなく震源断層面上のすべり分布は不均質で あることが分かってきた。 また, 地震災害に関係する強震動の生成は, 断層運動の不均質性によることが明らかになってきた。 サマビルほか(1999)は地殻内地震の地震動記録の震源インバージョンにより得られた震源断層での不均質なすべり分布についてシステマティックな統計的解析を行い,不均質なすべり分布,すなわち アスペリティの分布が一定のスケーリング則に支配されていることを明らかにした。このことは,特定の活断層に起因する地震によって生ずる強震動では,従来知られていた断層面積や平均すべり量のような巨視的断層パラメータのみならず,すべり分布の不均質性のような微視的断層パラメータが重要な役割を果たしていることを意味する。 c 断層パラメータ(断層長さ,幅,変位,面積,地震モーメント)のスケーリング則 (a) WellsとCoppersmithの論文とサマビルほか(1999)による断層パラメータの比較 強震動に関係する最も精度の良い断層パラメータは,強震動記録 を用いた震源インバージョンによるものであり,サマビルほか(1999)においては,15の地殻内地震について同一手法でインバージョンされた断層すべり分布から一定基準で断層破壊域やアス ペリティの抽出を行い,断層面積と地震モーメントのスケーリング 則を求めた。このうち地震モーメントが最も大きいものはMw7.2で,最も小さいものはMw5.7である。上記のスケーリング則がマグニチュード8クラスの大地震にも適用可能かどうかは検証されていないため,更に大きな地震に対する震源の特性化を行うには,震源インバージョン以外の方法で決められた断層パラメータによる検証が必要とされている。 マグニチュード8クラスの大地震に対する断層パラメータのデ ータは, WellsとCoppersmithが執筆した論文である Newempiricalrelationshipsamongmagnitude,rupturelength,rupturewidth,rupturearea,andsurfacedisplacement(以下ウェルズほか(1994)という。)により種々の文献からコンパイルされている。ウェルズほか(1994)の断層パラメータは,余震分布や 活断層情報,一部は測地学的データから求められたものである。そのうち11の地震についてはサマビルほか(1999)も震源インバージョンの結果から断層パラメータを評価しているところ,これらの地震についてウェルズほか(1994)とサマビルほか(1999)の断層パラメータを比較すると,断層の長さは比較的よく一 致し,断層幅と平均すべり量はばらつきが大きく,断層面積は,規模の大きい地震ではよく一致し,相対的に規模の小さい地震ではばらつきがみられる。地震モーメントは,どちらも地震動記録から求めているのでよく一致している。これらの結果は,震源インバージョンによるデータがないマグニチュード8クラスの大地震に対す るスケーリングを検討するとき,ウェルズほか(1994)によりコンパイルされた従来型の解析で得られた断層パラメータが有効 であることを示している。 (b) 断層面積と地震モーメントの関係 ウェルズほか(1994)による断層面積Sは,地震モーメント M0が1026dyne・㎝よりも大きな地震で,サマビルほか(1999)による関係式(S(km2)=2.23×10-15×M02/3(dyne・㎝)。サマビルほか式)に比べて系統的に小さくなっている。断層幅が飽和する地震(7.5×1025dyne・㎝以上の地震モーメント(判決注:モーメントマグニチュード約6.52以上)の地震)について,SがM01/2に比例すると仮定して(また,断層幅が飽和したときの 断層長さを20㎞と仮定して)経験的関係式を求めると,入倉・三宅式が導かれる。 ウェルズほか (1994) によるSとM0の関係は, サマビルほか式ではなく入倉・三宅式に合うようにみえる。 武村(1998)は,日本の内陸地震を対象として,断層幅が1 3㎞で飽和すると仮定して,断層面積と地震モーメントの関係式を 求めている(武村式)。武村式は7.5×1025dyne・㎝以上の地震モーメントの地震ではサマビルほか(1999)等による震源インバージョンからの断層面積やウェルズほか(1994)でコンパイルされた余震分布からの断層面積に比べて顕著に小さい断層面 積を与える。この理由が断層長さや幅を求めるときの定義の違いか, あるいは日本周辺の地震の地域性によるものか,今後の検討が必要とされる。断層面積が与えられたとき,武村式による地震モーメントは他の関係式に比べて約2倍程度大きく推定され,安全サイドの評価となる。 d 強震動予測のレシピ 我々は,地震災害軽減対策の要である強震動予測の方法論をまとめ,誰がやっても同じ答えが出るような“強震動予測のレシピ”の考えを提案する。 (a) 同じ震源モデルをもつ地震が繰り返し起こるか 活断層に起因する地震を想定して強震動予測を行うための前提 条件として,同じ断層系で生ずる地震は毎回ほぼ同じ震源モデルをもつか,あるいは少なくとも前回の地震の断層調査結果から次の地震の震源モデルが予測可能なことが必要とされる。この仮定の有効性については,地質・地形学及び地震学の両分野における研究成果を基に,現在も議論が続いている。島﨑が執筆した論文である地震はどのように繰り返すか(平成12年)は,断層線に沿ったす べり分布の調査結果を基に,活断層における地震の繰り返しは決定論的に完全には定まっていないものの,ばらつきの範囲であらかじめ予想することが可能であるとしている。 (b) 特性化断層震源モデルの構築(震源特性化の手続) 震源パラメータは,巨視的断層パラメータ(例えば,想定される 地震の震源断層の位置,走向,長さ,傾斜角,深さ,幅,地震モーメント),微視的断層パラメータ(例えば,想定される地震のアスペリティの位置・大きさ・数,アスペリティ・背景領域の平均すべり量・応力降下量,すべり速度時間関数及びfmax),その他の断層パラメータ(破壊開始点,破壊伝播様式等)の三つに分けられる。 (c) 巨視的断層パラメータ ① 起震断層の特定 活断層マップから同時に活動する可能性の高い断層セグメント を特定する。 断層破壊が同時期に複数のセグメントに及ぶときは, それらのセグメントをグルーピングして一つの地震とみなす。 ② 断層長さ(L):各セグメントの長さの総計で決定 地質・地形・地理学的調査に基づき推定する。断層がセグメン トに分かれている場合,同時に活動する可能性の高いセグメント の長さの総計をLとする。 ③ 断層幅(W):地震発生層の厚さに関係 断層幅は断層長さの関数として,次の式から推定される。W=kLW=Wmax for L<Wmax for L≧Wmax Wmax=WS(地震発生層の厚さ)/sinθ(断層面の傾斜角)WS=Hd(地震発生層の下限の深さ)-Hs(地震発生層の上 限の深さ) ④ 地震モーメント(M0)の評価 このようにして推定された断層長さLと断層幅Wから断層面積 S(=LW)が求められる。地震モーメントM0は,震源断層の面積との経験的関係(サマビルほか式等参照)より求められる。た だし, サマビルほか式は適用限界があると考えられる。 Mwが7. 5を超えるような大地震を想定するときは,ウェルズほか(19 94)によりコンパイルされたS-M0関係式(判決注:入倉・三宅式を指すものと解される。等を補助的に考慮する必要がある。 ) (d) 断層破壊の不均質性(微視的断層パラメータ) ① アスペリティのモデル化 サマビルほか(1999)は,始めに解析用に想定された断層 面全体の平均すべり量Davを求め,想定断層面の中の各列又は行の平均すべり量がDavの0.3倍以下ならばその行又は列を順に削除し,正味の破壊域の大きさを定義した。以下,この破壊域が 断層面積に対応すると考える。 アスペリティは,断層破壊面上の領域で,平均すべり量に比べ て大きなすべりを伴った領域である。ここでは,すべり量が全破 壊伝播面での平均すべり量をある基準で上回る長方形領域をアス ペリティと定義する。 ② アスペリティ領域の面積 本研究ではサマビルほか(1999)による15の内陸地震の解析に最近の地震の解析結果を加えて,アスペリティ面積の総和Sa及び最大アスペリティの面積S1と断層面積Sの関係を検討 した。その結果は,次のとおりである。 Sa(km2)=0.215S(km2) S1(km2)=0.150S(km2) ③ アスペリティの個数の推定(略) ④ アスペリティでの応力降下量の推定(略) ⑤ アスペリティの幾何学的位置(略) (e) その他の震源断層パラメータ ① 断層破壊の開始点,破壊伝播の方向,破壊の終端 断層面のどこから破壊が開始するかということも強震動予測に おける重要な要素である。 ② 破壊伝播様式 これまでにされた強震動シミュレーションの解析から,破壊は 発震点から円状に伝わると仮定して,その破壊速度は一般に媒質 のS波速度の関数として与えられることが分かってきた。 e (a) 特性化震源モデルに基づく強震動シミュレーション 特性化震源モデルの有効性 サマビルほか(1999)は震源インバージョンの結果を基に一 定の判断基準を導入して,全断層破壊域とアスペリティ領域の抽出方法を提案した。ここでは,その定義に基づいて特性化されたアスペリティを有する震源断層モデルを特性化震源モデルという。サマビルほか(1999)の方法で特性化された震源モデルを用いて理論的に計算された波形は,震源インバージョンと同様の周期範囲に 限れば観測波形とよく一致することが示されたが,特性化された震源モデルが工学的にも重要な短周期も含む広帯域の強震動波形の合成に有効かどうかの検証はいまだ十分にはされていない。兵庫県南部地震で被害の源になったのは周期1秒のパルス波と 考えられている。地震災害の軽減のためには周期1秒を含む広帯域の強震動の予測が必要とされる。そのためには,震源モデルのみならず,伝播経路や観測点近傍の地下構造に基づいて評価されるグリーン関数が短周期に十分な精度を有するものでなければならない。一般的には周期1秒よりも短周期までのグリーン関数を理論的に 評価するに十分な3次元地下構造モデルの推定は極めて困難であ る。 現実的には広帯域の強震動をシミュレーションするための最も 精度の良い方法は経験的グリーン関数法であると考えられる。しかしながら,経験的グリーン関数法は適切な小地震記録が得られないと適用できないという致命的な限界がある。 この問題を克服するため,最近,理論的方法と半経験的方法の特 徴を組み合わせて計算するハイブリッドグリーン関数法又はハイ ブリッド法による強震動シミュレーションが広く行われるように なった。最近の地震について,ハイブリッドグリーン関数法及びハイブリッド法により検証された特性化震源モデルのアスペリティ の総面積及び最大アスペリティの面積をみると,いずれの地震も強 震動を推定するための最適震源モデルはサマビルほか(1999)で示されたアスペリティ面積と地震モーメントの自己相似の関係 をほぼ満足していることが分かる。このことは,特性化震源モデルが強震動を評価するための震源断層モデルとして有効であること,更にそのために必要とされるすべり分布の不均質特性,すなわちア スペリティモデルが一定の相似則により予測可能なことを示して いる。(b) f 1948年福井地震の強震動の再現(略) おわりに 強震動記録や遠地地震記録を用いた高精度の線形波形インバージ ョンによる断層すべり分布の研究成果が最近少しずつ蓄積し,統一的な基準を用いたすべりの分布の統計的解析が可能になってきた。この結果,断層長さ,幅や平均変位のような巨視的断層パラメータに加えて,すべり分布の不均質性を表す微視的断層パラメータも地震モーメントに関して自己相似な関係にあることが確認された。 しかしながら, 解析された最大の地震規模はMw7.2であるため,より大きな地震 への適用の可能性は試されていないという問題があった。 巨視的断層パラメータに関して,ウェルズほか(1994)によりコンパイルされたデータ(余震分布,活断層情報や測地学的データから推定されたもの)を加えて,断層パラメータに関するスケーリング則の再検討を試みた。その結果,Mwが7.5を超えるような大きな 地震で, ウェルズほか (1994) による断層面積はサマビルほか (1 999)の断層面積と地震モーメントについての経験式(断層面積は地震モーメントの3分の2乗に比例する)に比べて系統的に小さくなることが分かった。また,断層幅が飽和するような大きい地震で断層面積が地震モーメントの2分の1乗に比例するようになることが分か った。よって,マグニチュード8クラスの地震について断層面積から地震モーメントを推定するときには,上の関係に基づくばらつきを考慮することが必要とされる。 本研究で提案している強震動予測のためのレシピは,シナリオ地震を想定したときに誰が行っても同じ答えが出ることを目指したもので あるが, 実際に確定論的に唯一のモデルを作るには困難な場合が多い。 より信頼性の高い強震動予測を行うには, アスペリティの位置の設定,地震発生層の浅さ限界の推定,地表地震断層と伏在断層におけるすべり量の関係といった問題点の検証が今後必要であり,そのためには地質学と地震学の研究の融合が不可欠である。 (イ) 入倉・三宅式は,サマビルほか(1999)及びMiyakoshi(平成13年の私信)に記載されたデータセット(震源インバージョンの結果)に ウェルズほか(1994)に記載されたデータセット(震源インバージョン以外の方法による結果)を加え,そのうち地震モーメントが7.5×1025dyne・㎝(=7.5×1018N・m)より大きいもの(前者が12個,後者が41個)を基に,回帰分析により導かれたものである。このデータセットのうち, 日本の地震のデータは4個である(ウェルズほ か(1994)に福井地震の,サマビルほか(1999)に兵庫県南部地震のデータが含まれるほか,Miyakoshi(平成13年の私信)に鳥取県西部地震ほか1個のデータが含まれる。)。(甲96,165,弁論の全趣旨。甲96・858頁図7参照)。 イ 前記アの認定事実によれば,入倉・三宅式は,過去の地震(地震モーメントが7.5×1025dyne・㎝(=7.5×1018N・m)より大きいもの)53個における震源断層面積と地震モーメントのデータを基に回帰分析により導かれたものであり,本件全証拠によっても,その基礎となった考え方,データセットに含まれる個々のデータや回帰分析の手法に不合理な点はうかがわれない。 ウ (ア) 原告らの主張に対する判断 原告らは,地震予測は,地震が発生していない段階で得られた情報,データの範囲内でせざるを得ないものであるところ,震源インバージョンは,実際に起こった地震を基に震源等を解析する手法であるから,震 源インバージョンによって得られたデータは,将来起こる地震動の予測そのものには用いることができない旨主張する。しかしながら,そもそも,被告は,震源インバージョンによって将来起こる地震動の予測をすると主張しているものではない(本件申請も本件処分もそのような趣旨のものとは解されない。)。入倉・三宅式は,震源断層面積又は地震モーメントのいずれか一方の値を所与のものとした上で, 他方の値を導くための関係式として導かれたものであるところ, 被告は,このような関係式を導くに当たって,精度の高い震源インバージョンによるデータセットを用いるのが望ましいと主張するものにすぎない。原告の上記主張は被告の主張を正解しないものであって,採用することができない。 また,原告らは,震源インバージョンは,確実に定まった方法ではな く,最初にとる断層面,その要素断層への分割,伝播経路特性やサイト特性の想定の仕方,付加条件の与え方等によって,震源断層面積やすべり量の分布について相当に異なる結果を導くものである旨主張する。しかしながら,仮にそのようなことがいえるとしても,震源断層面積等の推定について他により合理的で精度が高く科学的に確立した手法があるとの具体的な主張立証がされているものではないから,入倉・三宅式の基礎となったデータセットの中に震源インバージョンによるものが含まれているからといって,入倉・三宅式に不合理な点があるとはいえない。また,入倉・三宅式の基礎となったデータセットのうち約8割に 当たる43個のデータは,震源インバージョンによるものでないから,仮に震源インバージョンの手法に問題があったとしても,入倉・三宅式に不合理な点があるものと直ちにいうことはできない。 (イ)a 原告らは,入倉・三宅式の基礎となったデータの中に日本の地震は1個 (福井地震) しか含まれておらず (前記アの認定事実(イ)のとおり, 入倉・三宅式の基礎となったデータセットの中には,日本の地震のデータが4個含まれるから,この点において原告らの上記主張は誤りである。),入倉・三宅式は,日本の地震の地域的特性を反映していない旨主張する。 この点について,確かに,入倉・三宅(2001)において,武村式は7.5×1025dyne・㎝以上の地震モーメントの地震ではサマビルほか(1999)等による震源インバージョンからの断層面積やウェルズほか(1994)でコンパイルされた余震分布からの断層面積に比べて顕著に小さい断層面積を与えるところ,この理由が断層長さや幅を求めるときの定義の違いか,あるいは日本周辺の地震の地域性によるものか,今後の検討が必要とされる旨が指摘されていた(前記 アの認定事実(ア)c(b))。また,入倉ほかが執筆した論文である地震断層のすべり変位量の空間分布の検討(平成5年。甲151)においては,震源インバージョンにより断層面でのすべり分布が求められている北西アメリカの11の地震と日本の7の地震について,破壊面積(断層面積)と地震モーメントとの関係等を検討したところ,同 じ地震モーメントの地震に対して,日本の地殻内地震の断層面積は北西アメリカのそれの0.53倍であり,日本と北西アメリカの地殻内地震では明らかな違いがあることが分かった旨が指摘されていた。しかしながら,他方,宮腰研ほかが執筆した論文である強震動記録を用いた震源インバージョンに基づく国内の内陸地殻内地震の震源パラメータのスケーリング則の再検討(宮腰ほか(2015)。乙61)においては,平成7年から平成25年に発生した国内の内陸地殻内地震の震源インバージョン結果から抽出される震源断層の長さはレシピのスケーリング則(関係式。ここでは,震源断層面積から地震モーメントを求める関係式ではなく,長期評価された地表の活断層長 さL(㎞)から,M=(logL+2.9)/0.6よりマグニチュードMを求め,logM0=1.17・M+10.72より地震モーメントM0を求める。)とよく一致しており,国外のデータとも調和的であるから,武村(1998)とレシピにおける断層長さのスケーリング則の違いの要因として, 国内外のテクトニックな違いは認められない旨が指摘されている。また,気象庁地震火山部地震予知情報課の岩切一宏ほかが執筆した論文である地震波形を用いた気象庁の震源過程解析-解析方法と断層すべり分布のスケーリング則-(平成26年。乙111)においては,平成21年9月から平成25年5月までに国外で発生した40の地震(うち内陸地殻内地震は8)及び平成23年3月から平成25年4月までに国内で発生した26の地震(うち内陸地殻内地震は8)について震源パラメータを求めたところ,国外の地震と国内の地震のス ケーリング則に違いはほとんどみられなかった旨が指摘されている。したがって,震源断層面積と地震モーメントの関係について,現在の科学技術水準に照らして,日本の地域的特性があると断定することはできないのであり,これがあることを前提として入倉・三宅式に不合理な点がある旨をいう原告らの上記主張は採用することができない。 b これに対して,原告らは,宮腰ほか(2015)においては,国内外の地震スケーリング則に違いがないとの結論を導く地震データが意図的に操作されている疑いがある旨主張する。 しかしながら,証拠(乙85)及び弁論の全趣旨によれば,原告ら が上記主張の根拠として挙げる例のうち断層面積については,いずれも誤記であることが認められる上,原告らの主張に係るデータは,震源断層長さと地震モーメントの関係について論ずる箇所において挙げられているものであり,宮腰ほか(2015)の当該箇所における論旨に影響を及ぼすものではない。 また,証拠(乙86)及び弁論の全趣旨によれば,原告らが上記主張の根拠として挙げる例のうち三河地震の断層長さについては,宮腰ほか(2015)の元文献である入倉ほか(2014)に記載されたデータ(20㎞)の方が誤りであり,宮腰ほか(2015)においてこれが訂正された(25㎞)ものと認められる。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (ウ) 原告らは,武村式が合理的であるから,これを採用すべきである旨主張する。 震源断層(活断層)は地中に存在するものであり,その評価に当たっては,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し活断層 の位置・形状・活動性等を明らかにしなければならないとされていること(規則の解釈別記2の5二なお書き②ⅰ)などに照らして,震源断層の長さや幅の設定には相当程度の不確かさがあるものとうかがわれる(なお,証拠(甲159,160)及び弁論の全趣旨によれば,地震が発生した後に行われる震源インバージョンの結果においても,同一の地 震について,どのようなデータを用いるかによって震源断層面積が2倍以上異なるものとして想定されている二つの研究がある事実が認められる。)。そうすると,地震モーメントをより保守的に(安全側に)設定するために武村式を用いることにも一定の合理性があるという余地はある。 しかしながら,震源断層面積が所与のものとして与えられていることを前提に地震モーメントを求める式としては, 前記イで説示したとおり, 入倉・三宅式に不合理な点はうかがわれないのであり,本件全証拠によっても,武村式の方がより合理的であるものと認めることはできない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (エ) 島﨑発表等について原告らは,島﨑発表等を根拠に,入倉・三宅式が不合理である旨の主張もするので,以下検討する。 a 島﨑発表では,過去の七つの地震について,地震モーメントの実測値(観測値)と入倉・三宅式により推定される値とを比較すると,う ち六つの地震について,入倉・三宅式により推定される値が実測値の2分の1から4分の1程度になるとされる(甲148,169)。しかしながら,島﨑発表において入倉・三宅式により推定される値を求めるために用いた断層長さは,新編日本の活断層に記載され た活断層の長さや東京電力株式会社が事前に推定していた値であると ころ(甲152,168),規則の解釈及び地震動審査ガイドにおいては,新編日本の活断層に記載された活断層の長さをそのまま用 いることが当然に想定されているものではない(現に,本件申請においても,熊川断層について,新編日本の活断層には長さ9㎞と記 載されているのに対し,調査の結果長さは約14㎞と設定され,敷地 前面海域の断層について,新編日本の活断層には全長18㎞の断 層と全長5㎞の断層の記載があるのに対し,調査の結果FO-A断層の長さは約24㎞と,FO-B断層の長さは約11㎞と設定された。丙4・6-3-19頁,6-3-25頁,6-3-74~76頁)。すなわち,島﨑発表において用いられた断層長さが客観的に正確なも のである,あるいは推本レシピを用いて震源モデルを設定する場合の断層長さと一致すると断定できるものではないから,島﨑発表によって直ちに入倉三宅式の合理性が否定されるものではない ・ (島﨑自身, 本件発電所の運転差止めに関する別件訴訟の証人尋問において, 「入倉・三宅式が震源パラメータの間のスケーリング則として問題があると,私は申し上げていないんです。」 と証言している(甲168・48頁)。)。b島﨑提言には,熊本地震について,①世界中で観測された熊本地震の様々な波を解析した結果や震源に近い場所の強い揺れの記録等に基づいて得られた地震モーメントの値としては,4.06×1019N・mから5.3×1019N・mまで五つが得られている(中央値は4.66×1019N・m),②地表地震断層の分布から推定される断層の 長さは31㎞で,断層が60度程度傾斜していることから幅を16㎞とすると, 断層面積は496km2であり, これを入倉・三宅式 (ただし, 断層長さと地震モーメントの関係式に変形したもの。に代入すると,) 地震モーメントは1.37×1019N・mとなって,上記①の推定値(中央値)の3.4分の1となる,③上記②の断層の長さを武村式に 代入すると,地震モーメントは4.2×1019N・mとなって,その誤差は30%より小さくなる旨の記載がある(甲152)。 しかしながら,熊本地震の震源断層面積については,上記②とは異なる研究結果が発表されており (1344km2, 756km2, 792km2。 甲159,160,乙75の2),上記②の断層面積の値が客観的に 正確なものである,あるいは推本レシピを用いて震源モデルを設定する場合の震源断層面積と一致すると断定できるものではないから,島﨑提言によって直ちに入倉・三宅式の合理性が否定されるものではない。 エ 以上によれば,現在の科学技術水準に照らして,入倉・三宅式が不合理であるとはいえない。 したがって,本件申請における基準地震動の策定について,地震モーメントを設定するに当たり入倉・三宅式を用いた点をもって設置許可基準規則4条3項に適合しないとはしなかった原子力規制委員会の判断に看過し 難い過誤,欠落があるとは認め難い。 (2) 壇ほか式の合理性について ア 認定事実 掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。 (ア) 当時清水建設株式会社和泉研究室に所属していた壇一男ほか3名は,平成13年,断層の非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベルと半経験的波形合成法による強震動予測のための震源断層のモデル化(壇ほか(2001)。甲163)を発表した。その要旨は,次の内容を含む。 a はじめに 断層の非一様すべり破壊モデルの統計的特質の抽出結果に基づい て強震動予測を行うには,各アスペリティ又は各主破壊領域の実効応力の算定が不可欠であり,その妥当性については,個々の地震の強震動シミュレーションを積み重ねて検証するという方法をとっているのが現状である。 強震動予測に際しては,震源における複雑な力学状態を把握し,断 層面において適切な実効応力を設定する必要があるが,現時点では,想定地震のみならず,過去に起こった地震についてさえも,その力学状態は完全には解明されていない。そこで,本論文では,半経験的波形合成法による強震動予測で必要となる実効応力を算定することを目的に,サマビルほか(1999)等と同様に,震源をアスペリティと 背景領域とから構成される簡便なモデルで表現し,そのモデルに与えるべき最終すべり量と実効応力を断層全体の地震モーメントと短周期レベル(短周期領域における加速度震源スペクトルのレベル)で規定することを考えた。 b (a) 非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベル 短周期レベルの算定式本論文では,半経験的波形合成法による強震動予測で必要となる実効応力を算定することを目的としていることから,断層の非一様すべり破壊モデルから短周期レベルを算定するに当たっては,壇一男・佐藤俊明断層の非一様すべり破壊を考慮した半経験的波形合成法による強震動予測(平成10年)が導いた式で算定される短 周期レベルが妥当であるとして,議論を進めることとした。 (b) 短周期レベルの算定結果 既往の研究によると,内陸地震である1989年米国Loma Prieta地震の本震と複数の余震の加速度フーリエスペクトルの短 周期帯域の値は,地震モーメントの3分の1乗M01/3でスケーリングできることが分かっており,これは,これまでに行われたマグニチュード4~7クラスの地震の記録の解析結果とも整合している。そこで, 12の内陸地震について, 前記(a)の式により短周期レベル を算定し,これを縦軸にとって,地震モーメントを横軸にとって, M01/3でスケーリングして最小二乗法で定数を決めると (回帰分析) , その結果,壇ほか式が得られた(回帰に用いたM0の範囲は,3.5×1024dyne・㎝以上7.5×1026dyne・㎝以下)。既往の研究において震源モデルから算定された短周期レベルは, 壇ほか式による値とほぼ対応している。 既往の研究のうち強震記録から短周期レベルを直接評価したも のと壇ほか式による値を比較すると,和歌山県の地震や南関東の浅い地震の短周期レベルは,モーメントマグニチュードが4~7の広い範囲で壇ほか式による値とほぼ対応している。一方,福島県沖の地震及び関東直下のやや深発地震の短周期レベルは,壇ほか式によ る値の1~4倍になっている。 以上より,壇ほか式で示される地震モーメントと短周期レベルとの関係は,内陸の浅い地震や海溝付近の大地震及び巨大地震に対しては,妥当な関係式であるといえようが,この関係にはかなり地域差があるため,実際の強震動予測に際しては,この震源域の特性を十分に考慮する必要がある。 c 断層面におけるすべり量と実効応力の算定式 サマビルほか(1999)等の結果によれば,地震モーメント,断層面積,短周期レベル及び各アスペリティの面積が設定できれば,各アスペリティ及び背景領域の平均すべり量と実効応力が算定できることが分かった。 d 強震動予測のための震源断層のモデル化 実際の強震動の予測問題に際しては,地震モーメント,断層面積,短周期レベル,各アスペリティの面積は,詳しい調査結果や研究成果を総合的に判断して設定されるので,ここでは,一般論として,これらの量の間の平均的な関係を用いて,次のように設定することを考えた。 上記の四つのパラメータのうち断層面積については,内陸で発生する大地震では活断層調査の結果や地震発生層の情報等からある程度の予測が可能である。また,予測した断層面積を基に,これまでに提案されている断層面積と地震モーメントとの関係(武村(1998),サマビルほか(1999)等)から,その断層の平均的な地震モーメ ントが推定できる。さらに,この地震モーメントを基に,壇ほか式を用いるなどして短周期レベルを設定することができる。 e まとめ 本論文では,断層の非一様すべり破壊モデルに基づき,断層面にお けるすべり量又は地震モーメント及び短周期レベルの統計的特質と整合するように,震源のモデル化を考えた。したがって,震源スペクトルとしては,非一様すべり破壊モデルの震源スペクトルと同等のものが平均的には再現されていると考えられるが,実際の強震動の予測問題では,各アスペリティの位置も,特に断層近傍における強震動に大きな影響を与える。これについては,現在のところ,理論的あるいは経験的な関係は見いだされていないが,今後,活断層の詳しい研究や 地殻変動データの解析等の地球物理学的な研究の蓄積に伴い,ある程度の推定が可能になると期待される。 一方, 本論文で用いた短周期レベルの算定式は, 前記b(a)の推定式 であり,この式の妥当性は,既往の研究で行われた半経験的波形合成法に基づく複数の地震の加速度記録の再現を通じて間接的に示されて いるとして,議論を進めた。したがって,本論文で算定した短周期レベルとそれぞれの地震の加速度記録から求められる短周期レベルとを直接比較するなどの検証が今後必要である。 (イ) 壇ほか式は,前記(ア)b(b)のとおり,12の内陸地震のデータ(地震モーメントは3.50×1024dyne・㎝(3.50×1017N・m)以 上7.50×1026dyne・㎝(7.50×1019N・m)以下)を基に,回帰分析により導かれたものである。このデータセットは,昭和53年から平成7年までに発生した地震のものであり,そのうち日本の地震のデータは兵庫県南部地震のみである。(甲163) イ 前記アの認定事実によれば,壇ほか式は,過去の12の地震における地震モーメントと短周期レベルのデータを基に回帰分析により導かれたものであり,本件全証拠によっても,その基礎となった考え方,データセットに含まれる個々のデータや回帰分析の手法に不合理な点はうかがわれない。 ウ (ア) 原告らの主張に対する判断 原告らは,壇ほか式は,地震データに基づくことなく短周期レベルが地震モーメントの3分の1乗に比例するものと仮定しているから不合理である旨主張する。しかしながら,前記アの認定事実(ア)b(b)のとおり,上記の仮定は既往の研究に基づくものである上,既往の研究において震源モデルから算定された短周期レベルは,壇ほか式による値とほぼ対応している旨が壇ほか(2001)において説明されており,その説明に不合理な点は見当たらない。そうすると,壇ほか式が上記の仮定に基づいているからといって直ちに不合理であるとはいえない(ただし,前記アの認定事実(ア)b(b)のとおり,壇ほか(2001)において,地震モーメントと短周期レベルとの関係にはかなり地域差があるため,実際の強震動予測に際し ては,この震源域の特性を十分に考慮する必要があるとされている点に留意する必要がある。)。 (イ)a 原告らは,壇ほか式の基礎となったデータ12個のうち日本のデータは1個のみであって,壇ほか式は日本の地震の地域的特性を反映しておらず,短周期レベルを過小評価するものである旨主張する。 しかしながら,本件全証拠によっても,一定の地震モーメントを所 与のものとした場合に,日本の地震の地域的特性として,他の国の地震よりも短周期レベルが大きくなるというものがあるという事実は認められないから,原告らの上記主張は,前提を欠くものであり採用することができない。 b 原告らは,壇ほか式の基礎となったデータセットのうち,入倉・三宅式が有効な領域であるとされる地震モーメントM0>7.5×1018 N・mを充足するデータに限って最小二乗法を適用すると, 地震モー メントが大きくなると短周期レベルが小さくなるという矛盾が生ずるから,壇ほか式は不合理である旨主張する。 しかしながら,壇ほか式は12個のデータについて回帰分析をしたものであるところ,原告らの上記主張はそのうちの8個のデータのみを抽出して回帰分析をするというものであり,そのような回帰分析の結果をもって壇ほか式の当否を論ずること自体に疑問の余地がある上,この回帰分析の基礎となったデータの数が8個にとどまることからして,この回帰分析の結果を直ちに信頼することもできないから,原告らの上記主張は採用することができない。 (ウ) 原告らは,壇ほか式を用いて算出した短周期レベルに基づいてアスペリティ面積を計算すると,地震モーメントが大きくなるにつれてアスペリティ面積が増加し,地震モーメントがある値を超えると,断層面積の一部であるはずのアスペリティ面積が断層面積を超えるという法則的傾 向があるから,壇ほか式は不合理である旨主張する。 そこで検討すると,証拠(乙87,155)によれば,次の事実が認められる。すなわち,①推本レシピでは,アスペリティの総面積と短周期レベルとは密接な関係があるとの知見を基に, 円形破壊面を仮定して, 短周期レベル,地震モーメント,震源域における岩盤のS波速度からア スペリティの総面積を求める式(r=(7π/4)・{M0/(A・R)}・β2)が採用されている。②他方,大規模な地震(震源断層の長さが震源断層の幅に比べて十分に長大な断層)になると,震源断層面が円形から大きく離れることになり,入倉・三宅式も円形破壊面を仮定していないところ,この円形破壊面を仮定しない物理モデルは,円形破壊面を仮 定した上記①の式と整合しない(上記①の式によると,結果的に,アスペリティの総面積が既往の調査・研究成果と比較して過大評価となる傾向にある。)。③微視的震源特性についても円形破壊面を仮定しないスケーリング則を適用する必要があるが,長大な断層のアスペリティに関するスケーリング則については,そのデータも少ないことから,未解決 の研究課題となっている。④そこで,推本レシピでは,アスペリティ面積比が大きくなるなど非現実的なパラメータ設定になる場合にはアスペリティ面積比を22%とする旨などが定められている。そうすると,原告らの主張する,断層面積の一部であるはずのアスペリティ面積が断層面積を超えるという事態は,地震モーメントが一定の値を超えるほど大規模な地震であるにもかかわらず,上記①の式を用いてアスペリティ面積を求めることから生ずる問題であり,地震モーメン トと短周期レベルの経験的関係を示す式である壇ほか式自体の合理性に疑いを生じさせるものとは必ずしもいえない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (エ) 原告らは,壇ほか式には適用範囲(M0<7.5×1018N・m)が存在するといえるところ,本件各原子炉について算出されている地震モーメントはこの適用範囲に含まれないから,本件各原子炉について短周期レベルを算出するに当たっては,壇ほか式を用いるべきではない旨主張する。 そこで検討すると,証拠(甲163,172,173,乙87)及び 弁論の全趣旨によれば,短周期レベルを地震モーメントの3分の1乗でスケーリングすることは,純理論的な物理モデルとしては,サマビルほか式が妥当する地震規模の領域(推本レシピによれば,地震モーメントが7.5×1018N・m未満の領域。別紙3の1(1)ウ(ア))に整合するものである事実や,推本レシピにおいては,震源断層の長さが震源断層 の幅に比べて十分に大きい長大な断層に対して円形破壊面を仮定することは必ずしも適当ではないことが指摘されているとする一方,壇ほか式は円形破壊面を仮定したものとされている事実(別紙3の1(2)イ(イ))が認められる。 しかしながら,他方,前記アの認定事実(イ)のとおり,壇ほか式の基礎 となったデータの地震モーメントは,3.50×1017N・m以上7.50×1019N・m以下であるから,地震モーメントが7.50×1019 N・m以下である限り,壇ほか式を適用することが不合理であるとま では当然にはいえない。また,証拠(乙105,106)によれば,平成23年に福島県浜通りで発生した地震(地震モーメントは9.58×1018N・m)について,解析した結果としての短周期レベルが壇ほか式による値と同程度であった旨の研究や, モーメントマグニチュード7. 5以上の六つの内陸地殻内地震(地震モーメントは最大9.72×1020 )について,特性震源化モデルにおける短周期レベルが,全体的に壇 ほか式のばらつきの範囲内に収まっている旨の研究がある事実が認められる。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 エ 以上によれば,現在の科学技術水準に照らして,壇ほか式が不合理であるとはいえない。 したがって,本件申請における基準地震動の策定について,壇ほか式を用いて短周期レベルを設定した点をもって設置許可基準規則4条3項に適合しないとはしなかった原子力規制委員会の判断に看過し難い過誤,欠落 があるとは認め難い。 3 争点3(本件申請について,基準地震動の策定の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性-入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメント の値とすることの合理性)について (1) 認定事実 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア (ア) 地震に関する基本的知見等(乙147,155) 地球の表面は十数枚の巨大な板状の岩盤 (プレート) に覆われており, それぞれが別の方向に年間数㎝の速度で移動している (プレート運動) 。 日本の周りでは,2枚の陸のプレートと2枚の海のプレートとがぶつかり合っており,海のプレートが陸のプレートの下に沈み込み,陸のプレートが内側に引きずり込まれている。この結果,プレート境界付近や陸の岩盤には大きな力が加わり,岩盤は次第に変形し,岩盤中には巨大なエネルギーがひずみとして蓄えられる。 そして, 力が加えられ続けると, 蓄えられていたひずみがある限界を超え,ある弱い面(断層面)を境に して岩盤が破壊され,断層面に沿ってその両側の岩盤がすべって,ずれ動く現象(断層運動)が生じて,エネルギーが解放され,地震が発生する。 (イ) 前記(ア)の断層面(震源断層面)は均質ではなく,断層面上で通常は強く固着していて,ある時に急激にずれて(すべって)地震波を出す領域のうち,周囲に比べて特にすべり量が大きく強い地震波を出す領域(アスペリティ)がある。そして,震源断層は,同時に震源断層面の全範囲が破壊されるのではなく,破壊が始まった断層が地震波を発し,次第に破壊の範囲が広がっていくものである。地震動評価においては,大きな 地震は小さな地震が次々に発生してそれが集まったものとみなすことができる。 規則の解釈別記2の5及び地震動審査ガイドにいう断層モデルを用いた手法による地震動評価とは,震源断層面を設定し,その震源断層面にアスペリティを配置し,ある1点の破壊開始点から,これが次第に 破壊し,揺れが伝わっていく様子を解析することにより地震動を計算する評価手法であり,上記の地震の発生メカニズムを反映した手法である。具体的には,①震源断層面を設定し(アスペリティの配置を含む。),細かい小断層(要素面)に分割する,②ある特定の要素面から破壊が始まるものとして破壊開始点を設定する,③破壊開始点から破壊が各要素 面に伝播し,分割された各要素面からの地震波が次々に評価地点に伝わることにより評価地点に生ずる地震動を足し合わせる(このとき,アスペリティからの地震波は周囲よりも強いものとなる。),④足し合わせの結果,評価地点での地震動が求められる。この手法により,評価地点における地盤の揺れを表す時刻歴波形や応答スペクトル等を求めることができる。 (ウ) 一般に,地震による地盤の揺れ(地震動)は,震源においてどのような破壊が起こったか(震源特性),生じた地震波がどのように伝わってきたか(伝播経路特性)及び対象地点近傍の地盤構造によって地震波がどのような影響を受けたか(サイト特性)という三つの特性によって決定されると考えられている。すなわち,震源特性は,どの程度の大きさの震源がどのように破壊したかといった時間的・空間的な特徴が要因と なり,放射される地震波に大きな影響を与える。震源から放射された地震波は, 硬い地殻の中を様々な経路をたどって対象地点の近傍に到来し, たどった経路に固有の特性が伝播経路特性として地震動に反映される。そして,対象地点近傍で地震波が柔らかい地層に入射すると,地震波は一般には増幅されて大きな地震動となるが,このサイト特性は,地盤の 構成や構造によって異なるとされている。 イ 本件申請における基準地震動の策定(丙4,5,弁論の全趣旨) (ア) 参加人は,本件申請において,基準地震動Ssを,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動に ついて,解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として策定した(規則の解釈別記2の5一参照)。このうち,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動については,概要次のような過程を経て策定された。 a 検討用地震の選定 (a) 敷地周辺の地震発生状況の調査・評価 参加人は,文献に記載された過去の被害地震のうち,本件発電所の敷地からの震央距離が200㎞程度以内のもので,同敷地に大きな影響を及ぼしたと考えられる(震度Ⅴ程度以上)もの9個を,検討用地震の候補として抽出した。 (b) 敷地周辺の活断層の分布の調査・評価 参加人は,敷地周辺の活断層の分布について,文献調査のほか, 陸域(変動地形学的調査,地表地質調査等)及び海域(海上音波探査,海上ボーリング調査)における調査を行った。そして,活断層の長さから想定される地震の規模及び震央距離から,本件発電所の敷地に大きな影響を及ぼす(震度5弱程度以上の地震動が生じ得る)と考えられる18個の活断層による地震を,検討用地震の候補とし て抽出した。 (c) 結論 以上の検討を踏まえて,参加人は,FO-A~FO-B~熊川断 層による地震と上林川断層による地震を検討用地震として選定し た。 b (a) 震源モデルの設定 FO-A~FO-B~熊川断層による地震について 参加人は,FO-A~FO-B~熊川断層による地震の巨視的震 源特性 (巨視的断層パラメータ) について, 震源断層の位置,長さ, 傾斜角等を地質調査結果等に基づき設定し,地震モーメントを入倉・三宅式に基づいて計算した値(全体で5.03×1019N・m)とするなどして設定した。 参加人は,微視的震源特性(微視的断層パラメータ)について, 壇ほか式によって計算した短周期レベルの値を用いた上で,推本レ シピに定められた短周期レベルの値からアスペリティの総面積を 算出する式を用いると,アスペリティの総面積が震源断層面積の30%を超えることから,アスペリティの総面積を震源断層面積の22%と設定した(これは,長大な断層のアスペリティに関する推本レシピの考え方と同じである。)。 参加人は,以上のように震源モデルを設定した基本ケースに加え,不確かさを考慮して,断層傾斜角が75°のケース(基本ケースの 断層傾斜角は90°。震源断層面が斜めになることにより,震源断層の幅が増大する。乙155),破壊伝播速度が0.87β(βは地震発生層におけるS波速度。以下同じ。)のケース(基本ケースの破壊伝播速度は0.72β。破壊伝播速度が大きくなることにより,評価地点での地震動が一般的に強くなる。乙155)等も設定 した。その際,参加人は,破壊開始点について5~9通りのケースを設定したほか,短周期の地震動と破壊伝播速度の不確かさを重畳して考慮するケースを設定するなどした。 (b) 上林川断層による地震について 参加人は,上林川断層による地震の巨視的震源特性(巨視的断層 パラメータ)について,震源断層の位置,長さ,傾斜角等を地質調査結果等に基づき設定し,地震モーメントを入倉・三宅式に基づいて計算した値(1.95×1019N・m)とし,短周期レベルを壇ほか式に基づいて計算した値(1.43×1019N・m/s2)とする などして設定した。 参加人は,微視的震源特性(微視的断層パラメータ)について, 推本レシピに定められた短周期レベルの値からアスペリティの総 面積を算出する式を用いて,アスペリティの総面積を158.31km2(震源断層面積の約26.7%)と設定した。また,参加人は, 破壊開始点について6通りのケースを設定した。 参加人は,以上のように震源モデルを設定した基本ケースに加え,不確かさを考慮して,短周期レベルが基本ケースの1.5倍となるケース及び破壊伝播速度が0.87β(基本ケースの破壊伝播速度は0.72β)のケースも設定した。 c 応答スペクトルに基づく地震動評価 参加人は,各種の距離減衰式を用いて,応答スペクトルに基づく地 震動評価を行った。 d 断層モデルを用いた手法による地震動評価 (a) 伝播経路特性の評価 参加人は,伝播経路特性について,Q値を国内における平均的な 値と同程度に設定するなどした(丙15,弁論の全趣旨)。 (b) サイト特性の評価 参加人は, 地盤調査を行い, 本件発電所の敷地周辺の地下構造に, 局所的に地震波の集中をもたらすような特異な速度構造は認めら れないとして,水平成層構造とみなして地下構造をモデル化することができると評価し,一次元の速度構造モデル(波の速度が変化す る境界面 (速度構造)が地表面と平行となるモデル)を作成した (丙 4,15,弁論の全趣旨)。 (c) 結果 参加人は,本件発電所の敷地における適切な地震観測記録がない ため,短周期領域は統計的グリーン関数法を,長周期領域は離散化 波数法を用いて評価し,それらを組み合わせることにより評価するハイブリッド合成法により地震動を評価した。 (イ) 参加人は,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内地震を検討対象地震として選定し,それらの地震時に得られた震源近傍 における観測記録を収集し,本件発電所の敷地の地盤物性を加味した応答スペクトルを設定して,震源を特定せず策定する地震動を策定した。(ウ) 参加人は,前記(ア),(イ)の結果を踏まえて,要旨次のとおり,基準地震動Ss1~Ss19を策定した。 a 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の評価結果のうち, 応答スペクトルに基づく地震動評価の結果に基づき,基準地震動Ss -1(最大加速度は,水平方向が700gal,鉛直方向が467gal)を策定した。 Ss-1の応答スペクトルは,上林川断層による地震の地震動評価結果を,水平方向・鉛直方向ともに,全ての周期帯で上回っている。Ss-1の応答スペクトルは,FO-A~FO-B~熊川断層によ る地震の応答スペクトルをおおむね上回っている。 b 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の評価結果のうち, 断層モデルを用いた手法による地震動評価の結果,一部の周期帯で基準地震動Ss-1の応答スペクトルを上回る16ケースを抽出し,基準地震動Ss-2~Ss-17として策定した(最大加速度は,水平 方向が856gal (Ss-4)鉛直方向が613gal , (Ss-14)。 ) c 震源を特定せず策定する地震動の評価結果が,一部の周期帯で 基準地震動Ss-1の応答スペクトルを上回ることから,これらを基準地震動Ss-18,Ss-19として策定した(最大加速度は,水平方向が620gal(Ss-19),鉛直方向が485gal(Ss-1 8))。 ウ 本件処分の際の基準地震動の策定に関する審査 原子力規制委員会は,本件処分の際,基準地震動の策定について,要旨次の内容を含む審査をした(乙81)。 (ア) 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について a 検討用地震の選定参加人は,当初,FO-A~FO-B断層と熊川断層の同時活動を考慮する必要はないと評価していたが,原子力規制委員会は,審査の過程において,敷地の前面に存在するFO-A~FO-B断層と熊川断層との間に断層の有無が不明瞭な区間が相当あり,連動破壊を否定することは難しいことから,検討用地震の選定に際しては,敷地に与 える影響が大きくなるよう,FO-A~FO-B断層と熊川断層が連動する場合を考慮することを求めた。 これに対して,参加人は,これらを反映して検討用地震の選定に係る評価を示した。 原子力規制委員会は,参加人が実施した検討用地震の選定に係る評 価は,活断層の性質や地震発生状況を精査し,既往の研究成果等を総合的に検討することにより検討用地震を複数選定するとともに,評価に当たっては複数の活断層の連動も考慮していることから,規則の解釈別記2の規定に適合していることを確認した。 b 地震動評価 参加人は,検討用地震として選定したFO-A~FO-B~熊川断層による地震及び上林川断層による地震について,震源モデル及び震源特性パラメータの設定並びに地震動評価の内容を次のとおりとしている。 ① FO-A~FO-B~熊川断層による地震 基本ケースは, 推本レシピや入倉・三宅 (2001)等に基づき, 震源モデル及び震源特性パラメータを設定した。また,参加人は,地震動評価に影響が大きいと考えられるパラメータの不確かさを 考慮したケースも設定した。 応答スペクトルに基づく地震動評価においては,本断層が敷地に 近いため,破壊過程が地震動評価に大きな影響を与えると考えられることから,断層モデルを用いた手法による地震動評価結果を重視することとした。 断層モデルを用いた手法による地震動評価に当たっては,震源特 性パラメータのうち,地震モーメントは入倉・三宅(2001)により断層面積から設定し,平均応力降下量は3.1MPaとし,アス ペリティの面積は断層面積の22%とするなどした。 ② 上林川断層による地震 基本ケースは, 推本レシピや入倉・三宅 (2001)等に基づき, 震源モデル及び震源特性パラメータを設定した。また,参加人は, 地震動評価に影響が大きいと考えられるパラメータの不確かさを 考慮したケースも設定した。 断層モデルを用いた手法による地震動評価に当たっては,震源特 性パラメータのうち,地震モーメントは入倉・三宅(2001)により断層面積から設定し,アスペリティの面積は短周期レベルを介 して設定するなどした。 原子力規制委員会は,審査の過程において,震源特性パラメータのうち断層上端深さや破壊伝播速度について検討を求めたほか,FO-A~FO-B~熊川断層による地震動評価について更なる検討を求めた。これに対して,参加人は,断層上端深さの設定を変更し,破壊伝 播速度について,標準偏差1σを考慮したもの(0.87β)を不確かさケースとして地震動評価を行ったほか,FO-A~FO-B~熊川断層による地震動評価について,短周期レベルの不確かさと破壊伝播速度の不確かさを重畳するケースを設定し,評価を行った。 原子力規制委員会は,参加人が実施した敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の評価については,検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価に基づき策定していることから,規則の解釈別記2の規定に適合していること及び地震動審査ガイドを踏まえていることを確認した。 (イ) 震源を特定せず策定する地震動について 原子力規制委員会は,審査の過程において,震源を特定せず策定する地震動の評価で収集対象となる内陸地殻内地震の例として地震動審査ガイドに示している全ての地震について観測記録等を収集し,検討することを求めるなどし,参加人は観測記録の収集等を行った。 原子力規制委員会は,参加人が実施した震源を特定せず策定する地震動の評価については,過去の内陸地殻内地震について得られた震源 近傍における観測記録を精査し,各種の不確かさ及び敷地の地盤物性を考慮して策定していることから,規則の解釈別記2の規定に適合していることを確認した。 (ウ) 基準地震動の策定について 原子力規制委員会は,参加人が,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動に関し,敷地の解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として基準地震動を策定していることから,規則の解釈別記2の規定に適合していることを確認した。 (2) 本件ばらつき条項(地震動審査ガイドⅠ.3.2.3(2))の意義 ア 掲記の証拠によれば,地震動審査ガイドに本件ばらつき条項が設けられた経緯等について,次の事実が認められる。 (ア) 新規制基準が定められる前に用いられていた発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(平成22年12月20日原子力 安全委員会了承)では,Ⅳ.基準地震動の策定の項の下に1.敷地ごとに震源を特定して策定する地震動1.1検討用地震の選定 の項があり,その項の下の(2)震源特性パラメータの設定の項に, 「②震源断層モデルの長さ又は面積,あるいは単位変位量(1回の活動による変位量)と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲を十分に検討して行うこと。」 という本件ばらつき条項の第1文に相当する定めが置かれていたが,本件ばらつき条項の第2文に相当する定めは置かれていなかった(甲59,乙122,123)。 (イ) 原子力安全委員会は,福島第一原発事故を受け,同委員会に設置された専門部会である原子力安全基準・指針専門部会に対し,福島第一原発 事故の教訓等を踏まえ,耐震設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項を検討,報告するよう指示した(乙118)これを受けて,。 同部会は,地震及び津波に関する専門家から成る地震等検討小委員会を新たに設置し,上記事項の検討を行わせることとした(乙117)。a 地震等検討小委員会の第9回会合において,耐震設計審査指針の改訂に係る議論の中で,同指針の5.基準地震動の策定(当時の改 訂案ではⅣ.耐震安全設計方針の2.基準地震動の策定)の 項の下の,(解説)Ⅱ. 基準地震動Ssの策定について内の(4) 震源として想定する断層の評価についてのうち, 「④経験式を用いて断層の長さ等から地震規模を想定する際には,その経験式の特徴等を踏まえ,地震規模を適切に評価することとする。」 との記載について,川瀬委員(当時京都大学防災研究所教授)が,上記(4)項は基本的に全部活断層の評価に関し規定されていて,「④で「経験式を用いて断層の長さ等から地震規模を想定する際にはその経験式の特徴を踏まえ地震規模を適正に評価することとする。」 という規定はありますが,海溝型地震の想定断層域とマグニチュードの関係については過去の平均則を使って想定してきているというのが現状で,あと連動は考慮しましょうという話にはなっていますが,同じ想定域からマグニチュードがより大きな地震が発生する可能性はゼロではないわけです。それは今まで残余のリスクですよという話になっていたわけです。ばらつきの評価を断層パラメータのばらつきだけではなくて想定断層のマグニチュード等の断層想定におけるばらつきとして,海溝型地震, プレート間地震に関しても想定すべきだと思います。と発言した 」 (乙 227,228)。 b 川瀬委員の前記aの発言を受けて,前記aの 「④経験式を用いて断層の長さ等から地震規模を想定する際には,その経験式の特徴等を踏まえ,地震規模を適切に評価することとする。」 との記載の次に,「その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,その不確かさ(ばらつき)も考慮する必要がある。」 との1文が付け加えられた。この文は,現時点の知見等を踏まえて追加するものとされた。この文については,地震等検討小委員会の第10回会合において,入倉主査から, 「実に上の文章(判決注:「④経験式を用いて断層の長さ等から地震規模を想定する際には,その経験式の特徴等を踏まえ,地震規模を適切に評価することとする。」 との記載)だけですと,経験式でやりなさいということになってしまうので,経験式と経験式の不確かさを考慮するということが必要だと思うんですけれども。」との発言がされた。(乙229,230) その後,上記の文は,耐震設計審査指針の改訂案から発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(改訂案)に移され,ⅱ.基準地震動の策定1.敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の項の下の1.1検討用地震の選定内の(2)震源特性パラメータの設定の項の下で,②震源断層モデルの長さ又は面積,あるいは単位変位量(1回の活動による変位量)と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲を十分に検討して行うこと。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,その不確かさ(ばらつき)も考慮する必要がある。とされた(乙231,232)。この文言は,平成24年3月に取りまとめられた 「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(改訂案)においても維持された。」 なお,この改訂案の1.1検討用地震の選定内には,(1)震源として想定する断層の形状等の評価という項があり,複数の活断層が連動してより規模の大きな地震を引き起こすことを考慮して起震断層を設定すること等が定められていた。(乙122,123) (ウ) 地震等基準検討チームは, 前記(イ)のとおり取りまとめられた 発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(改訂案)を基に,地震動審査ガイドの策定に当たった。当初,本件ばらつき条項については,現在と同じ位置に,(2)震源断層モデルの長さ又は面積,あるいは単位変位量(1回の活動による変位量)と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,その不確かさも考慮されている必要がある。とされていた(乙233,234)。しかし,本件ばらつき条項の第2文のうち,上記においてその不確かさとされていた部分 は,最終的には,経験式が有するばらつきに改められた。 イ (ア) 以上の経緯等を踏まえて,本件ばらつき条項の意義について検討する。地震動審査ガイドⅠは基準地震動の策定に関する審査基準であり,基準地震動は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動と,震源を特定 せず策定する地震動とに分けて策定するものであるところ(規則の解釈別記2の5一。別紙2の第3の3),本件ばらつき条項は,前者についての震源特性パラメータの設定に関する基準(Ⅰ.3.2.3)の一つである。前記(1)の認定事実イのとおり,基準地震動の策定は,検討用地震の選定, 震源モデルの設定, 地震動の評価という順序で行われるところ, 震源特性パラメータの設定は,震源モデルの設定の一部を成すものである(推本レシピ(乙87)44頁参照。なお,上記の震源特性パラメー タの設定に関する基準は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動についての検討用地震の選定(Ⅰ.3.2)の項の下に位置付けられているが,そもそも,震源をモデル化するということは震源を主要なパラメータで表すことであるから(乙155・22頁),震源断層パラメータの設定が上記のように震源モデルの設定と区別された狭い意味にお ける検討用地震の選定の一部を成すものとは解し難い。)。 本件ばらつき条項の内容は,震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。というものである(乙52。地質審査ガイドにも同じ定めがある(Ⅰ.4.4.2(5))。)。 (イ) 震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式は,長さ,面積又は変位量と地震規模という二つの物理量の間の原理的関係を示すものではなく,観測等により得られたデータを基に推測された経験的関係を示すものである。そこで,一方の物理量を経験式に代入して他方の物理量を設定する場合,前者の物理量が経験式の基礎となったデータの値の範囲(経験式の適用範囲) 内にあるか,経験式の適用範囲内にない場合,当該経験式を用いることが適切か等について検討すべきであるといえる。本件ばらつき条項の第1文は,この趣旨をいうものと解される。(ウ)a 経験式は二つの物理量の間の平均的な関係を示すものであり,経験式によって算出される地震規模は平均値であるが(前記2(2)ア(ア)dの壇ほか(2001)における記述も参照),実際に発生する地震の 地震規模は平均値からかい離することが当然に想定されている(入倉・三宅式や壇ほか式は,回帰分析により導かれた式であり,その基礎となった変数(物理量)の値と当該式により算出される値との間にも残差がある。)。そうであるからこそ,次のとおり,実際に発生した地震における地震規模 (地震モーメント) や短周期レベルが経験式 (ス ケーリング則)に合致しているか否かが検討される場面において,実際に発生した地震における地震モーメントや短周期レベルの値と経験式によって算出される値とのかい離が一定のばらつきの範囲内に収まっているかが問題とされるのである。すなわち,例えば,①入倉・三宅(2001)の執筆者である入倉は,熊本地震の強震動記録を用い た解析結果がスケーリング則(入倉・三宅式)に合致していると論ずる文脈において, 「強震動記録を用いた解析結果(断層長さ40-56㎞,断層幅16-20㎞)を整理すれば,一定のばらつき(例えば1σ)の範囲で,スケーリング則に合致している,と考えています。」 と述べている(乙102)。ここに1σというのは標準偏差のことであると解されるから,ここでは,経験式と実際に発生する地震の地震規模との間には一定のかい離があり,標準偏差がそのかい離の大きさの目安の一つとなることは当然の前提にされているといえる。また,②入倉・三宅(2001)の執筆者である入倉及び三宅弘恵並びに宮腰ほか(2015)の執筆者である宮腰研ほかも,上記①と同様 に, 熊本地震のS-M0関係 (震源断層面積と地震モーメントの関係) は,標準偏差の範囲内で第2段階のスケーリング(入倉・三宅式)に従っている旨を述べている(乙75の2)。さらに,③被告も,地震学におけるスケーリング則(経験則(ママ))の検証においては,以上.................の点を踏まえ,経験式がデータのばらつきの範囲内にあるとか,観測.........記録とほぼ対応する,という表現を用い,観測記録をある程度再現できることをもって「整合すると評価・判断するのが一般的である」と主張している(被告第21準備書面39~40頁。傍点は原文)。そのほか,逆断層や横ずれ断層における地震モーメントと短周期レベルのスケーリング則についての研究において,地震モーメントと短周期レベルの経験式に逆断層と横ずれ断層の違いを定量的に考慮することができれば,よりばらつきの少ないシナリオ型の強震動予測が可能となるものと考えられる。との問題意識を踏まえて検討した結果, 「本研究で求めた逆断層と横ずれ断層に対するM0とAのスケーリング則は,断層モデルによる強震動予測のばらつきの低減に役立つものと考えられる。」 と締めくくる例もある(乙104)。地震モーメントは,震源モデルの巨視的震源特性として重要なパラメータの一つであり,微視的震源特性である平均すべり量や,アスペリティ面積を算出するための短周期レベルの算出に用いられるものであって,基準地震動の策定における重要な要素であるといえる。そうすると,上記のとおり実際に発生する地震の地震規模(地震モーメン ト)が経験式によって算出される平均値からかい離することが当然に想定されていることに照らし,基準地震動の策定に当たって,経験式を用いて地震モーメントを設定する場合には,経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントとして設定するのではなく,実際に発生する地震の地震モーメントが平均 値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定するのが相当であると考えられる。その具体的な方法としては,標準偏差分を加味する方法のほか,倍半分(壇ほか式に関するものであるが,独立行政法人原子力安全基盤機構の断層モデルによる地震動評価の不確実さに関する検討と題する書面は,経験的グリーン関数法に基づく地震モーメントと短周期レベルの関係について,壇ほか式により算出された短周期レベルの値の倍から半分の間にデータが収まっていることをもって,壇ほか式の経験的な関係と良く整合していると評する(甲188)。)を加味する方法等が考えられる。ただし,本件ばらつき条項の第2文が,経験式により算出される地震規模に経験式が有するばらつきに相当する分を加算すべきである などと明示的に定められておらず, 「経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。」 と定められていることに照らすと,他の震源特性パラメータの設定に当たり,上記のような方法で地震モーメントを設定するのと同視し得るような考慮など,相応の合理性を有する考慮がされていれば足りるものと考えられる。本件ばらつき条項の第2文は,以上の趣旨をいうものと解される。このような解釈は,平成24年3月に取りまとめられた発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(改訂案)に本件ばらつき条項の第2文に相当する定めが置かれるに至った経緯 (前記ア。 特に,同じ想定域からマグニチュードがより大きな地震が発生する可 能性に言及する当初の川瀬委員の発言(同(イ)a))とも整合する。そして,このような本件ばらつき条項の第2文の定めは,設置許可基準規則4条3項にいう基準地震動の解釈として,基準地震動の 策定過程に伴う各種の不確かさについては,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析 した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮することとされていること(規則の解釈別記2の5二なお書き⑤)を具体化したものであると解される(平均値と実際に発生する地震の地震規模とのかい離は,ここにいう各種の不確かさに当た るものと解される。)。 b 前記aのような本件ばらつき条項の第2文の趣旨に照らすと,基準地震動の策定に当たっては,経験式が有するばらつきを検証して,経 験式によって算出される平均値に何らかの上乗せをする必要があるか否かを検討すべきものであるといえる。そして,その結果,例えば,経験式が有するばらつきの幅が小さく,他の震源特性パラメータの設定に当たり適切な考慮がされているなど,経験式によって算出される平均値に更なる上乗せをする必要がないといえる場合には,経験式に よって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることは妨げられないものと解される。 しかるに,上記のような検討をすることなく,経験式によって算出された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることは,本件ばらつき条項の趣旨に反するものといわざる を得ない。そして,本件ばらつき条項に適合しない基準地震動の策定は,設置許可基準規則4条3項に適合しないものと解するのが相当である。 ウ (ア) 被告の主張に対する判断 被告は,本件ばらつき条項の経験式が有するばらつきも考慮されている必要があるとの記載は,震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連付ける経験式を用いて地震規模を設定する場合に,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する際,すなわち当該地域の地質調査の結果等を踏まえて設 定される震源断層に当該経験式を適用することの適否(適用範囲)を確認する際の留意点として,当該経験式とその基礎となった観測データ(データセット)との間のかい離の度合いを踏まえる必要があることを意味するものであって,経験式の修正を求めるものではない旨主張する。そして,被告は,ここにいう当該経験式とその基礎となった観測データ(データセット)との間のかい離の度合いを踏まえるとは, 例えば,ある地域において,経験式を用いて断層面積から地震規模を設定するに際し,当該地域の地質調査の結果等を踏まえて設定される震源断層面積が,当該経験式の基礎となった観測データの範囲を外れるのであれば,当該経験式を適用することは基本的に相当でない。ということである旨主張する。 しかしながら,被告の上記主張にいう当該経験式とその基礎となった観測データ(データセット)との間のかい離の度合いを踏まえるの意味は,震源モデルの長さ等(入倉・三宅式の適用についていえば,震源断層面積)が,当該経験式(入倉・三宅式)の基礎となったデータセットの範囲内であることを確認するということであり,本件ばらつき条 項の第1文にいう経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認すると全く同じところに帰することになる。そうすると,本件ばらつき条項の第2文は無用な定めということになるところ,新規制基準が定められる前に用いられていた発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き平成22年12月20日原子力安全委員会了承)( には,本件ばらつき条項の第1文に相当する定めが置かれていたが,第2文に相当する定めは置かれていなかった (前記ア(ア)) にもかかわらず, 地震動審査ガイドにおいて,あえてこのような無用な定めが設けられた合理的な理由は見当たらない。むしろ,前記ア(イ)aのとおり,地震等検討小委員会において川瀬委員が同じ想定域からマグニチュードがより大 きな地震が発生する可能性があると指摘していること,同bのとおり,入倉主査が経験式と経験式の不確かさを考慮することが必要であると指摘していることを踏まえると,本件ばらつき条項には,経験式の適用範囲の妥当性を検証すること(第1文)にとどまらず,経験式によって算出される平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定すること(第2文)を求めるという積極的な意味が込められていたこと,その余の委員もこれに賛同していたことは明らかというべきである。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 (イ) 被告は,本件ばらつき条項は,地震動審査ガイドⅠ.3.2検討用地震の選定の項に位置付けられているところ,地震モーメントの値を経験式で得られる平均値ではないものに設定したとしても,検討用地震 の選定候補として比較検討の対象となる全ての断層について地震規模が一定程度大きくなるにすぎず,検討用地震として選定される地震は何ら変わらないから,本件ばらつき条項の第2文が無意味なものとなる旨などを主張する。 しかしながら,前記イで説示したとおり,本件ばらつき条項は,敷地 ごとに震源を特定して策定する地震動についての震源特性パラメータの設定に関する基準(Ⅰ.3.2.3)の一つであって,震源モデルの設定と区別された狭い意味における検討用地震の選定に関する基準であるとは解し難い(地質審査ガイドの内陸地殻内地震に関する震源断層の評価の項に本件ばらつき条項と同じ定めがあること(Ⅰ.4.4.2 (5)。別紙2の第5の1(2)ウ(イ))からも,本件ばらつき条項が狭い意味における検討用地震の選定に関する基準であるとは解し難い。)。したがって,本件ばらつき条項が狭い意味における検討用地震の選定に関する基準であることを前提とする被告の主張は,いずれも採用することができない。 (ウ) 被告は,本件ばらつき条項の第2文にいうばらつきを,地震動評価段階等において考慮する不確かさであると解釈する余地があるとしても,4号要件適合性の審査において,震源断層面の評価や地震動評価上の各種不確かさが考慮されている場合に,更に重畳して,経験式で得られた地震規模の値に上乗せがされていることを確認するとの趣旨で本件ばらつき条項の第2文を解釈し運用すべき合理的理由はない旨主張し,これを根拠付ける証拠として,川瀬委員作成の経験式と地震動評価のばらつきに関する報告書と題する書面(乙235。以下ばらつき報告書という。)を提出する。そこで検討すると,ばらつき報告書は,川瀬委員が,平成9年5月に 発生した鹿児島県北西部地震から平成28年10月に発生した鳥取県中部地震まで9個の地震の観測記録を分析し,その震源特性,伝播経路特性及びサイト特性のいずれにおいても,そのばらつきは概ね倍/半分の変動範囲に収まることを検証したというものである。川瀬委員は,このばらつき報告書の結論部分において,地震動評価における経験式が内包 するばらつきを考慮するには,地震モーメントの予測平均値に一定の上乗せをする方法のほか,例えば断層面積をばらつきに相当する分だけ大きめに設定する方法もあること,観測値の変動幅が,予測対象とした値の不可避に有する正味のばらつきの幅であり,それを大幅に超えるばらつきを予測値に考慮すべき合理的な理由はないこと,複数の関係式で表 現されている予測モデルにおいて,個々のパラメータにばらつき,不確かさが存在しているからといって,それを重畳して変動させ,予測強震動のばらつき評価を行うことは適切ではないことを述べている。 上記のとおり,ばらつき報告書は,川瀬委員が経験式と地震動評価のばらつきに関して地震学等の観点から説明を行ったものであり,川瀬委 員が地震等検討小委員会の委員であったことを踏まえると,少なくとも地震動評価の在り方については相応の重みを有するものというべきである。取り分け,ばらつき報告書が指摘する各点,すなわち,地震動評価についての経験式が有するばらつきを考慮する方法は一つに限られるものではないこと,複数の関係式で表現されている予測モデルにおいて,個々のパラメータにばらつき,不確かさが存在しているからといって,それを重畳して変動させ,予測強震動のばらつき評価を行うことは適切 ではないことについては,傾聴に値する。 しかし,ばらつき報告書は,上記のとおり,川瀬委員が,経験式と地震動評価のばらつきに関し,地震学等の観点から説明を行ったものであって,それ自体は,規則の解釈別記2の5二なお書き⑤や本件ばらつき条項の文言や趣旨の説明をするものではない。その説明の内容も一般的 なものであって,本件申請に当たり地震モーメントを求めるために適用された経験式である入倉・三宅式が有するばらつきを考慮しても特段の上乗せをする必要がないことについて検証したものではない(第34回口頭弁論期日における当裁判所の釈明を踏まえた被告第34準備書面4~7頁参照)。 したがって,ばらつき報告書が被告の上記主張を直ちに裏付けるものとはいえない。 (エ) なお,被告は,地震動審査ガイド等においては,基準地震動は保守的に策定されることが予定されているから,本件ばらつき条項の経験式が有するばらつきも考慮されている必要があるとの記載について,策定された経験式を修正する意味であるという科学的合理性のない解釈を採用する必要はない旨主張する。 しかしながら,以上説示したところから明らかなとおり,経験式によって算出される地震モーメントの値にばらつきを考慮して修正を加える ことには, 経験式の性質に照らして科学的合理性があるものといえる (そ うであるからこそ,地震動審査ガイドに本件ばらつき条項の第2文が定められたものと考えられる。)。そもそも,既に説示したとおり,ここでは, 基準地震動の策定過程において震源特性パラメータを設定する際,経験式によって算出される地震モーメントの値をそのまま震源モデルにおける地震モーメントとして設定するのか,経験式が有するばらつきを考慮して震源モデルにおける地震モーメントを設定するのかが問題とな っているのであり,経験式が不合理であるかとか経験式を修正すべきであるかとかいうことが問題となっているのではない。また,活断層の長さ等を保守的に設定した上で更に地震規模を保守的に設定するということに何ら矛盾はない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 (オ) そのほか,被告は,原子力発電所は,基準地震動クラスの地震による建物・構築物や機器・配管の地震応答に対して大きく余裕を持った設計がされており, 基準地震動を仮に超えるような地震が発生したとしても, 即座に耐震重要施設の安全機能が喪失するということはない旨主張する。しかしながら,設置許可基準規則4条3項は,基準地震動の策定と耐震 設計の双方について適切さを要求しているものと解されるのであり,前者が不適切であっても後者が適切であれば同項に適合するとの判断を許容するものであると解することはできない(規則の解釈別記2の5,6参照)。したがって,被告の上記主張は採用することができない。(3) 検討 ア (ア) 原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程における過誤,欠落 前記(1)の認定事実イ(ア)bによれば,参加人は,本件申請において基準地震動を策定する際,地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を入倉・三宅式に当てはめて計算された地震モーメントをそのまま震源 モデルにおける地震モーメントの値としたものであり,例えば,入倉・三宅式が経験式として有するばらつきを考慮するために,その基礎となったデータセットの標準偏差分を加味するなどの方法により,実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定する必要があるか否かということ自体を検討しておらず,現に,そのような設定(上乗せ)をしなかったものである。 (イ)a 前記(2)イ(ウ)bで説示したとおり,本件ばらつき条項の第2文によっても,経験式が有するばらつきを検証した上で,経験式によって算出される平均値に更なる上乗せをする必要がないといえる場合には,経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおけ る地震モーメントの値とすることは妨げられないものというべきである。 しかしながら,経験式が有するばらつきを考慮し,経験式によって算出される平均値に上乗せをすることが必要といえるか否かは,正に発電用原子炉の耐震性の有無の判断という,各専門分野の学識経験者 を擁する原子力規制委員会が,科学的,専門技術的知見を結集して審議,判断することを求められた論点にほかならない。多くの専門家による多面的な審議を経ることによって科学的,専門技術的な精度が上がり,合理性も高まることを期待して,原子力規制委員会に発電用原子炉の安全審査の権限が委ねられたとみるべきものであって,いかに 高名であったとしても,一研究者による事後的な意見書の提出により判断を代替し得るものではない。 ところが,本件全証拠によっても,本件申請における基準地震動の策定についての原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程において,経験式が有するばらつきについて検討した形跡はなく,また,地震モ ーメント以外の震源特性のパラメータの設定に当たり, 前記(ア)の方法 で地震モーメントを設定するのと同視し得るような考慮がされたかという観点からの検討がされた形跡もない。被告は,ばらつき報告書を援用するものの,これに記載されたような見解(複数の関係式で表現されている予測モデルにおいて,個々のパラメータにばらつき・不確かさが存在しているからといって,それを重畳して変動させ予測強震動のばらつき評価を行うのは適切でない旨の見解)自体の適否及びそ れを本件申請に当てはめることの適否(地震モーメント以外の震源特性パラメータにおいて不確かさが十分考慮されているか否か等)が検討された形跡はない。すなわち,当裁判所は,第34回口頭弁論期日において,被告に対し,原子力規制委員会がばらつき報告書と同様の見解に立って審査をしたのであれば,それを裏付ける議事録等を提出 するよう釈明した。しかし,これに応じて被告が提出した被告第34準備書面7~15頁には,各種パラメータを保守的に検討したからばらつき報告書と同様の見解に立って審査をしたという主張がされているにとどまる。そもそも,本件ばらつき条項の第2文は,経験式が有するばらつきを考慮して,経験式によって算出される平均値に何らか の上乗せをする必要があるか否かということ自体を検討することを求めているのであるが,原子力規制委員会においてそのような検討をしたという主張も立証もない。 b この点について,参加人は,本件申請において,原子力規制委員会の指摘を受けて,FO-A~FO-B断層と熊川断層が連動する場合を考慮することとしたため,震源断層面積は,参加人が当初設定しようとしたものよりも,不確かさ(ばらつき)を考慮して大きく設定されている(前記(1)の認定事実イ(ア)a,ウ(ア)a等)。 しかしながら,このような震源断層面積を設定する際の不確かさ (ばらつき)の考慮とは,複数の連続する活断層や近接して分岐,並行する複数の活断層が連動してより規模の大きな地震を引き起こすことを考慮したり(地質審査ガイドⅠ.4.4.2(1)参照),震源断層に係る調査の不確かさを踏まえて地震発生層の深さを設定したり(同Ⅰ.4.4.1参照),震源断層面が斜めになると断層の幅が大きくなることを踏まえて断層傾斜角を設定したりする(乙155・32頁参照)などというものである(地震動審査ガイドⅠ.3.3.3(2))。このような不確かさ(ばらつき)は,本件ばらつき条項の第2文において問題とされている,経験式が平均値としての地震規模を与えることから考慮を要請される地震規模(地震モーメント)のばらつきとは相当異質なものであって,実際の基準地震動の策定過 程において,両者の不確かさ(ばらつき)を相互に補完するように考慮し得るものと直ちにはいえない。地震動審査ガイドにおいても,震源特性パラメータの設定について,内陸地殻内地震の起震断層,活動区間及びプレート間地震の震源領域に対応する震源特性パラメータすなわち震源断層面積等の設定(Ⅰ.3.2.3(1))と,経験式 を用いた地震規模の設定(同(2))とが区別して定められており,前者についての不確かさ(ばらつき)の考慮をもって後者についてのばらつきの考慮に代えることができることをうかがわせる定めは見当たらない。 前記(2)イ(ウ)aで説示したとおり,経験式は,断層面積等と地震規 模(地震モーメント)という二つの物理量の間の平均的な関係を示すものであるから,上記のように不確かさ(ばらつき)を考慮して断層面積を大きめに設定した場合(これは,そのように大きめの断層が実際に震源となり得ることを前提としているものと解される。),これを経験式に代入して算出される値よりも大きな規模の地震が発生する ことが当然に想定されるものである。 そして,前記aのとおり,本件全証拠によっても,本件申請における基準地震動の策定についての原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程において,本件申請における震源断層面積の設定が,地震モーメントをばらつきに相当する分だけ上乗せすることと等価になるようなものとなるか(ばらつき報告書13頁参照)といった観点からの検討がされた形跡はない。 (ウ) 以上によれば,本件申請について,基準地震動の策定に当たり,入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値としているにもかかわらず,原子力規制委員会は,経験式である入倉・三宅式が有するばらつきを考慮した場合,これに基づき算出された値に何らかの上乗せをする必要があるか否か等につ いて何ら検討することなく,本件申請が設置許可基準規則4条3項に適合し,地震動審査ガイドを踏まえているとした。このような原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程には,経験式の適用に当たって一定の補正をする必要があるか否かを検討せずに,漫然とこれに基づいて地震モーメントの値を設定したという点において,過誤,欠落があるものと いうべきである。そして,前記(2)イ(ウ)aで説示したとおり,地震モーメントは,震源モデルの巨視的震源特性として重要なパラメータの一つであり,微視的震源特性である平均すべり量や,アスペリティ面積を算出するための短周期レベルの算出に用いられるものであって,基準地震動の策定における重要な要素であるから,上記の過誤,欠落は看過し難 いものというべきである。 イ 被告の主張に対する判断 被告は,①FO-A~FO-B~熊川断層の震源断層モデルとして,アスペリティの位置を除いて,その他の不確かさがほぼ考慮されていない平 均的な震源断層面積を持つモデルを設定し,地震モーメントに標準偏差を上乗せして,最大加速度値を計算すると,本件申請において策定された基準地震動の中で最大加速度値が最も大きなケースの値である856galよりも明らかに小さくなる,②本件申請において設定されたFO-A~FO-B~熊川断層の基本ケースを基に,あえて同様の計算をすると,最大加速度値は810galとなり,本件申請において策定された基準地震動の中で最大加速度値が最も大きなケースの値である856galよりも明ら かに小さくなる,旨主張する。 しかしながら,そもそも,被告の上記主張に係る最大加速度値は,強震動計算の結果ではないため,有意なものとはいえない(被告第33準備書面70頁参照)。 この点を措くとしても, 前記(2)イで説示したところなどによれば, 本件 ばらつき条項の第2文は,不確かさを考慮して設定された複数の震源断層面積について,それぞればらつきを考慮した地震モーメントの値を算出するか,他の震源特性パラメータの設定に当たりこれと同視し得るような考慮など,相応の合理性を有する考慮をして基準地震動を策定すべき旨の定めであると解するのが相当である。 したがって,本件申請において設定されたものとは異なる震源断層面積を想定する上記①の主張や,本件申請において設定された震源断層面積のうちの一つのみを取り上げる上記②の主張は,いずれも前提を誤るものであり,採用することができない。 4 争点4(本件申請について,制御棒挿入性の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性)について 原告らは,制御棒の挿入のための施設における安全機能が損なわれないというためには,制御棒挿入時間は2.2秒以内でなければならないところ,FO-A~FO-B~熊川断層が連動した場合,本件各原子炉施設における制御棒 挿入時間が2.2秒を上回ることは明らかであるとして,制御棒挿入性の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である旨主張する。しかしながら,設置許可基準規則は設置許可処分における4号要件の適合性審査のための基準であるから,前記1(2)で説示したとおり,原子炉施設の基本設計の安全性に関わる事項のみを対象とするものであり,制御棒のような具体的な機器が設定された特定の条件を満たす設計であるか否かは審査の対象と ならないものというべきである。 したがって,制御棒挿入時間は設置許可基準規則4条3項適合性の審査の対象とならないから, 原告らの上記主張は前提を欠き, 採用することができない。 5 争点5(本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性)について (1) 認定事実 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア 本件各原子炉の設置位置付近の破砕帯についての当初の推定 参加人は,昭和62年に本件各原子炉の設置許可申請をした時点の調査結果として,本件発電所敷地内の本件各原子炉の設置位置付近に15の破 砕帯(断層運動等により岩石が破砕された割れ目)が存在し,このうち最も長いF-6破砕帯(旧F-6破砕帯)は,別紙4のとおり,台場浜海岸露頭から旧試掘坑(試掘坑とは,原子炉施設を建設する前に,設置する場所の地質構造等を調べるために掘削した地下トンネルのことをいう。)を経て旧トレンチに連続すると推定していた(乙48,49)。 イ (ア) 耐震バックチェック等 原子力安全委員会は,平成18年9月19日付けで,発電用軽水型原子炉の設置許可申請(変更許可申請を含む。)に係る安全審査のうち,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際 の基礎を示すことを目的として,発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針を改訂した。その趣旨は,昭和56年に改訂前の指針が策定された時以降における地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに発電用軽水型原子炉施設の耐震設計技術の著しい改良及び進歩を反映し,指針を全面的に見直すところにあった。(乙2) これを受けて,原子力安全・保安院は,平成18年9月20日,原子力事業者に対し,既設の発電用原子炉施設等について,上記の改訂後の 指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,その結果を報告するよう指示した(耐震バックチェック)。そして,同院は,参加人からの報告を受けて審議を行い, 平成22年11月29日, 原子力安全委員会に対し, 旧F-6破砕帯は後期更新世(約12~13万年前)以降に活動したものではないとの参加人の評価は妥当である旨を報告した (乙13, 23, 弁論の全趣旨)。 (イ) 原子力安全・保安院は,東北地方太平洋沖地震を受けて,同地震から得られた知見について整理し,原子力発電所等の耐震安全性評価に反映すべき事項を検討し,平成24年1月27日付けで,事業者に対し,活 断層の連動性についての検討を実施し,その結果を報告するよう指示した(甲4)。これを受けて,各事業者は,平成24年2月29日,上記の点についての検討結果に係る報告書を提出した(乙24)。 原子力安全・保安院は,上記報告書の内容を検討するため,地震・津波に関する意見聴取会の中に活断層関係の委員を中心に会合を 設置して検討を進めた。そうしたところ,同院は,敷地内の破砕帯に関する耐震バックチェックの中間評価が未了であった日本原子力発電株式会社敦賀発電所等の調査状況等を踏まえ,本件発電所を含む他の発電所についても,敷地内破砕帯(断層等を含む。)に関して,現状の評価を改めて整理する必要があるとして,上記会合(地震・津波に関する意見 聴取会(地質・地質構造関係))において,上記の点を審議することとした。(乙24,49)原子力安全・保安院は,平成24年7月18日,参加人に対し,旧F-6破砕帯の活動性を完全に否定するためには資料が十分でなく,現地での直接確認が必要であるとして,その活動性の評価に必要な調査計画の策定を指示した(乙48,49)。 ウ (ア) 大飯破砕帯有識者会合等による調査・評価 大飯発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合(大飯破砕帯有識者会合)は,本件発電所敷地内の破砕帯について,現地調査を実施するとともに,設置許可以降の安全審査における資料等を用いて,これが将来活動する可能性のある断層等であるかどうかの評価を行い,その結果を原子力規制委員会に報告することを役割として,原子力規制委員会に 設置された。 大飯破砕帯有識者会合は, 日本活断層学会, 日本地質学会, 日本第四紀学会及び日本地震学会から候補者の推薦を受け,原子力規制委員会が選定した有識者4名に,日本地震学会会長等を務め,当時原子力規制委員会の委員長代理であった島﨑を加えた5名で構成された。乙( 49,弁論の全趣旨) (イ) 参加人は,平成24年11月2日,本件発電所敷地内の破砕帯について,トレンチ調査(山頂トレンチ及び台場浜トレンチ(その位置等については別紙4参照)を掘って地層の状態等を確認した。)及びボーリング調査等を行った。大飯破砕帯有識者会合は,この現地調査の結果等を現地で確認した上でその評価について議論し,参加人に対し,F-6破 砕帯(旧F-6破砕帯)の活動性評価を行うには追加のデータが必要である旨を指摘した。(甲39の1,2,甲40,41,乙48,49)(ウ) 参加人は, 前記(イ)の指摘を受けて, 平成24年12月28日から同月 29日にかけて並びに平成25年7月27日から同月28日にかけて及 び同年8月10日から同月11日にかけて, 追加調査 (ボーリング調査, 南側トレンチ (その位置等については別紙4の 敷地南側トレンチ調査のとおり),山頂トレンチ及び台場浜トレンチの拡幅等)を実施した。南側トレンチについて,大飯破砕帯有識者会合は長さ300mのトレンチを掘削するよう求めたが,参加人は長さ70mのトレンチを掘削するにとどめた。大飯破砕帯有識者会合は,この現地調査の結果を現地で確認するとともに, 同年11月15日までの間, その評価について議論し, 破砕帯評価書の案(乙39)を取りまとめた。(甲61,63から69まで,乙37から39まで,48,49) (エ) 破砕帯評価書の案については,第三者の視点から科学的,技術的見地に基づいているかの確認を求めるため,ピア・レビューを実施した。ピア・レビュー会合は,前記(ア)の4学会から推薦を受けた候補者から原子 力規制委員会が選定した12名及び当時の日本地質学会会長の13名で構成された。 大飯破砕帯有識者会合は,上記ピア・レビューの結果を踏まえて,平成26年2月12日, 原子力規制委員会に対し, 関西電力株式会社大飯発電所の敷地内破砕帯の評価について と題する書面 (破砕帯評価書。 乙49)を提出した。 (甲116,乙49,50,弁論の全趣旨) (オ) 破砕帯評価書は,要旨次の内容を含んでいる(乙48,49)。 a (a) F-6破砕帯の連続性に関する検討 旧試掘坑より北側 旧試掘坑より北側の旧F-6破砕帯は,石切場露頭を通過し,台 場浜露頭に達すると評価されていた。また,その走向・傾斜から推定される位置に近いことにより,O1-4孔,O1-6孔や1192孔の破砕部や砂状部もその一部と考えられていた(別紙5参照)。 参加人は,山頂トレンチを新たに掘削したほか,新たにボーリン グ調査を実施した。その結果,山頂トレンチでは四つの破砕帯が確認されたところ,参加人は,そのうち最も東に位置する破砕帯が,旧試掘坑のF-6破砕帯の走向・傾斜に近く,その延長に位置することから,新F-6破砕帯であると判断した。一方,参加人は,西側の二つの破砕帯は,旧試掘坑のF-6破砕帯とは走向・傾斜が異なり出現位置も一致しないことから,その余の一つの破砕帯は走向 が異なっていることなどから,いずれも旧試掘坑のF-6破砕帯に連続しないと判断した。大飯破砕帯有識者会合は,この検討結果は妥当であると考える。 参加人は,山頂トレンチから北方へのF-6破砕帯の連続性を確 認するため,山頂トレンチ北側の斜面において,新たにボーリング 調査を実施した。参加人は,新F-6破砕帯の延長部に位置すると推定されるボーリング孔の破砕部(破砕部とは,基盤中に認められる破砕構造のうち,破砕幅の狭いものや明瞭な破砕帯を伴わないもの(破砕構造が認められないすべり面を含む。)をいう。)に ついて詳細な検討を行った結果,その特徴が,山頂トレンチで確認 された新F-6破砕帯の運動センス(右ずれ・正断層)と整合しないことが確認されたことから,新F-6破砕帯は台場浜方向へは連続しないとした。大飯破砕帯有識者会合は,この検討結果は妥当であると考える(正断層とは,傾いた断層の上側の部分である上盤が相対的に下がる場合をいい,逆断層とは,上盤が相対的に上がる場 合をいう。乙155)。 (b) 旧試掘坑から旧トレンチの間の連続性 参加人は,新たなボーリング調査の結果,旧F-6破砕帯とは異 なる新F-6破砕帯を認定した。大飯破砕帯有識者会合は,参加人 が新F-6破砕帯と判断した破砕部の連続性についてはその可能 性を認めたが,それでは破砕帯が顕著に屈曲するとともに破砕帯の傾斜方向が変化するのは不自然であること,旧試掘坑のF-6破砕帯は旧トレンチへ向かわずに別の破砕部に向かう可能性もあるこ と等について議論した。 (c) 旧トレンチより南側への連続性 従来の敷地内破砕帯の評価では,旧F-6破砕帯は旧トレンチ以 南には認められないとされていた。 参加人は,南側トレンチを新たに掘削したほか,新たにボーリン グ調査を実施した。その結果,南側トレンチでは三つの固結した破砕部が観察されたところ, 参加人は, そのうち東端付近の破砕帯が, 旧トレンチのF-6破砕帯の走向・傾斜にほぼ一致することや山頂 トレンチで確認した新F-6破砕帯の性状と類似することから,これが新F-6破砕帯であるとした。他方,参加人は,旧トレンチから南側トレンチまでの区間のボーリング孔で観察された破砕部に ついては,いずれも新F-6破砕帯に該当しないとした。大飯破砕帯有識者会合は,旧トレンチのF-6破砕帯が,参加人が指摘する 南側トレンチの東端付近の破砕帯に連続する可能性があると判断 した。 参加人は,新たなボーリング調査の結果,新F-6破砕帯が南側 トレンチより南に連続すると考えられるとした。 (d) 大飯破砕帯有識者会合は,以上のような各区間における検討結果 を踏まえ,新F-6破砕帯は,山頂トレンチ北方のボーリング孔付近から,山頂トレンチ,旧試掘坑,旧トレンチ,南側トレンチ東端付近等を通り,その南方に連続している可能性があると評価した。ただし,ボーリング調査によって破砕帯の連続性を議論することに は限界があるため,新F-6破砕帯が一続きの破砕帯ではない可能性もあるという意見もあった。b (a) 新F-6破砕帯の活動性に関する検討 トレンチにおける調査結果 南側トレンチにおいて認められた複数の破砕帯は,いずれも約2 3万年前の火山灰を含む地層を変位させておらず,後期更新世以降活動していないことが確認された。他方,山頂トレンチにおいて認 められた破砕帯には,岩盤を覆う地層がほとんど分布せず,南側トレンチと同様の方法により破砕帯の活動性を評価することはでき ないため,以下に述べる方法により評価を行った。 (b) 活動ステージの検討 大飯破砕帯有識者会合は,破砕帯の活動ステージに基づき,南側 トレンチで確認した活動性評価の結果を他の敷地内破砕帯に適用 できるのか検討した。ここで,活動ステージとは,同じような応力によって断層が繰り返し動いている時期と考えられる。したがって,異なる場所でも,断層に見られる構造が同じ応力に支配されている と判断できれば,同じ活動ステージの構造と判断できる。 山頂トレンチにおいて新F-6破砕帯の露頭及び薄片に見られ る構造に基づくと,せん断面の切り切られの関係から,イ:右横ずれ→ロ:左横ずれ→ハ:右横ずれといった運動センスの変遷が明らかになった。敷地内全体でみると,イ:正断層と他の構造 の関係が確認された場所は少ないが,ロ:正断層・左横ずれの 構造をハ:正断層・右横ずれの構造が切っていることは複数個 所で確認された。 以上の考えに基づき,参加人は,山頂トレンチ,南側トレンチ, 各ボーリングコア等において得られた114の破砕部の運動方向 を明らかにし,解析を行うなどした。その結果,敷地内で確認した新F-6破砕帯を含む破砕部の活動ステージのうち,最新活動ステージとしたハは,ハ-2とハ-1の2種類に区分され, 大飯破砕帯有識者会合は,ハ-1の方が新しいと判断した。 南側トレンチの新F-6破砕帯であると考えられる東端付近の 破砕帯の最新活動面のすべり方向は,活動ステージハ-1と整 合的である。また,その西側に位置する破砕帯(新F-6破砕帯と は直接は連続しない。)では,活動ステージハ-1ハ-2 による構造が観察される。一方,山頂トレンチでは,活動ステージハ-2により形成した構造とハ-1により形成した構造が 観察される。 以上の検討により得られた活動ステージ区分は,敷地内の新F- 6破砕帯及びその周辺の破砕帯で取得したデータに基づき得られ たものであることから,少なくとも新F-6破砕帯が分布する範囲周辺においては,適用可能なものと考える。 (c) 活動時期の検討 各活動ステージの活動性については,南側トレンチにおいて前記 (b)の二つの破砕帯がいずれもhpm1火山灰(約23年前の火山灰)より下位の層を変位させていないことが確認されるため,大飯破砕帯有識者会合は,上記各破砕帯で認められる構造とも,数十万年前以降に形成されたものではないと考える。 また,山頂トレンチの新F-6破砕帯は,最新の活動ステージが ハ-2であることが確認されたことから,大飯破砕帯有識者会 合は,上記検討結果に照らして,数十万年前以降に形成されたものではないと考える。 さらに,南側トレンチ及び山頂トレンチ以外で新F-6破砕帯と 認められた破砕部について活動ステージの検討を行った結果,最新活動面の構造は,全て活動ステージロハ-2ハ-1のいずれかにおいて形成されたことが確認された。したがって,大飯破砕帯有識者会合としては,新F-6破砕帯が 一続きの破砕帯でない可能性を考慮したとしても,全ての区間において,数十万年前以降活動していないと考える。 (d) 以上のように,大飯破砕帯有識者会合は,新F-6破砕帯を対象 に行った最新活動ステージの検討結果と,南側トレンチにおける地層の観察結果から,新F-6破砕帯は少なくともhpm1火山灰が降下した約23万年前以降,恐らく数十万年前以降活動しておらず,将来活動する可能性のある断層等(後期更新世以降(約12~ 13万年前以降)の活動が否定できないものをいう。)ではないと 判断した。 c (a) 台場浜における検討 台場浜トレンチとその周辺で観察された破砕帯 参加人は,旧F-6破砕帯が通るとしていた台場浜において,旧 F-6破砕帯の活動性評価を行う目的で,台場浜トレンチの調査及びボーリング調査を行った。 大飯破砕帯有識者会合は,台場浜において掘削されたトレンチ (台場浜トレンチ),ボーリングコア,同孔壁画像データ及び海岸露頭等の調査結果について検討した結果,基盤岩の上に載っている 堆積層のうち,変位を受けている下から2番目の層(D層)の堆積時期は約9.5万年前前後であるという見解で一致した。しかし,堆積層に変位を与えたずれの成因については,地すべりであると考える意見と地震活動に関連する断層であると考える意見があった。したがって,台場浜トレンチ内で認められた破砕部等にずれを生 じさせている面は,成因について意見が一致しなかったものの,後期更新世以降に活動したことは確かであることから,破砕帯評価書では将来活動する可能性のある断層等に該当することとした。ただし,台場浜には重要な安全機能を有する施設は存在していない。また,これら堆積層にずれを生じさせている面は,大飯破砕帯有識者会合は,新F-6破砕帯とは連続しないと考えている。一方で,堆積層にずれを生じさせている面(台場浜トレンチの東半部に3箇所 ある。)の新F-6破砕帯以外の方向への連続性については,うち1箇所は十分な資料がなく十分な検討がされていない。また,その余の2箇所については,一方はトレンチ内で水平に近くなること,他方は下方延長に認められる破砕部とはセンスが一致しないこと などから,少なくとも地下深部へは連続しないとの意見があった。 以上より,これら堆積層にずれを生じさせている面は,敷地内の重要な安全機能を有する施設には影響ないと判断される。ただし,これら堆積層にずれを生じさせている面の南方への連続性について は,確認が必要ではないかとの意見もあった。 (b) d 海成段丘面高度に関する検討(略) まとめ 以上の検討の結果,大飯破砕帯有識者会合としては,本件発電所敷 地内において重要な安全機能を有する施設の地盤に認められる新F-6破砕帯については,将来活動する可能性のある断層等には該当しないと判断する。 この判断は,現在まで得られたデータ等を基に総合的に検討した結果であり,今後,新たな知見が得られた場合,必要があれば,上記評価を見直すこともあり得る。 なお,今回の評価は敷地内の新F-6破砕帯を対象としたものであ り,敷地内の他の破砕帯,敷地近傍及び周辺に分布する断層の活動性については,別途,新規制基準適合性の審査で十分な検討が必要と考える。(カ) 平成26年2月12日に開催された平成25年度原子力規制委員会第42回会議においては,破砕帯評価書について議論された。その際,原子力規制庁の安全規制管理官(地震・津波安全対策担当)は,昭和62年に本件各原子炉の設置許可申請をした当時,ボーリング杭にカメラを 入れるなどしていなかったため,ボーリング調査によっても破砕帯の方向等が特定できず,破砕帯があれば連続するものとして扱っていたが,今回新たにカメラを入れて走向をきちんと把握し,新たな知見に基づいて,新F-6破砕帯の走向を特定し,旧F-6破砕帯は連続していないことを確認した旨説明した(乙50)。 エ 本件申請における地盤に関する評価 参加人は,本件申請において,敷地の地質構造並びに原子炉施設設置位置付近の地質・地質構造及び地盤について,概要次のような内容を含む評価をした(丙4)。 (ア) 敷地の地質構造 文献には,敷地内に活断層等は記載されていない。 台場浜トレンチにおける調査の結果,トレンチ東部では超苦鉄質岩中や超苦鉄質岩・輝緑岩に沿ってずれを生じさせている面 (破砕部a, b, c)が認められた。その分布について検討すると,破砕部a及びbは, 直線的に南方の発電所施設の方向及び地下深部へ延伸する断層ではなく,トレンチ西部の底盤の破砕部と一対のもので,一つの地すべりとして滑動していると考えられる。破砕部cは,台場浜トレンチ内及びトレンチ周辺において超苦鉄質岩中で認められ,南方の発電所施設の方向には延伸しない。また,超苦鉄質岩の平面分布範囲は限定的であることから, 破砕部cの平面分布範囲も限定的であると考えられる。破砕部cが断面的に深部へ延伸する場合,破砕部cの最新活動は右横ずれ逆断層センスであるが,周囲に正断層や逆断層も存在することから,震源として考慮する活断層ではないと考えられる超苦鉄質岩中の破砕部に連続すると考えられる。破砕部cの延長部付近の海底地形にも変動地形は認められない。 以上のことから,台場浜トレンチで認められた破砕部は,震源として 考慮する活断層ではないと評価する。 (イ) 原子炉施設設置位置付近の地質・地質構造及び地盤 a 主な破砕帯の性状及び連続性 F-6破砕帯は,旧試掘坑では3号炉心から北東に約100m付近に認められる。 水平方向の連続性については,旧試掘坑調査,ボーリング調査,トレンチ調査結果等により,破砕部の出現位置,走向傾斜,性状及び運動センスの観点から検討した。その結果,北側は山頂トレンチ以北のボーリング孔で認められず,南側のボーリング孔でF-6破砕帯が確認されたことから,650m以上と考えられる。 b 破砕帯の活動性 F-6破砕帯は,既往トレンチにおいて破砕帯を覆う砂礫層に変位・変形を及ぼしていないこと,山頂トレンチにおける破砕帯の構造観察及び多重逆解法を用いた活動ステージの検討の結果, 古い順に イ , ロ,ハ-2,ハ-1のいずれかの活動ステージに分類さ れ, 南側トレンチにおけるF-6破砕帯の最新活動ステージ ハ-1 は,大山最下部火山灰層(hpm1:約23年前)の降灰層準を含む地層に変位・変形を及ぼしていないこと等から,少なくとも後期更新世以降の活動は認められない。 以上のことなどから,耐震重要施設等を設置する地盤に認められる破砕帯は,少なくとも後期更新世以降活動しておらず,将来活動する可能性のある断層等ではないと評価する。c 基礎地盤の安定性評価 (a) 地震力に対する基礎地盤の安定性評価 ① 支持力に対する安全性 基礎地盤は十分な支持力を有している。 ② すべりに対する安全性 地盤物性のばらつきを考慮し,地盤物性のうちせん断強度につ いて平均値-1.0×標準偏差(σ)とした場合の安定解析 結果についても,最小すべり安全率は評価基準値1.5を上回っ ている。 以上のことなどから,基礎地盤はすべりに対して十分な安全性 を有している。 ③ 基礎底面の傾斜に対する安全性 基礎底面に生ずる傾斜は,評価基準値の目安である2000分 の1を下回っていることから,重要な機器・系統の安全機能に支 障を与えるものではない。 以上のことなどから,基礎地盤は傾斜に対して十分な安全性を 有している。 (b) 周辺地盤の変状による施設への影響評価 耐震重要施設については,岩盤に支持されていることから,揺す り込み沈下や液状化による不等沈下の影響を受けるおそれはない。(c) 地殻変動による基礎地盤の変形の影響評価 地盤の最大傾斜は,地震動による傾斜との重畳を考慮した場合に おいても,評価基準値の目安である2000分の1を下回っている ことから,重要な機器・配管系の安全機能に支障を与えるものではない。オ 本件処分の際の地盤に関する審査 (ア) 原子力規制庁は,平成26年12月3日,敷地内破砕帯調査に関する有識者会合(大飯破砕帯有識者会合のほか,各発電所について同様の有識者会合が設けられていた。)による評価と新規制基準への適合性審査との関係や今後の対応を整理した資料を作成した。この資料には,要旨 次の記載があった。(乙51) a 適合性審査との関係 有識者会合での評価は,旧原子力安全・保安院が行った調査指示に基づき各事業者が実施した敷地内破砕帯に関する地質調査結果について,有識者が専門的知見を基に評価を行い,原子力規制委員会に報告 するもの。 他方,新規制基準への適合性審査は,原子力規制委員会が法に基づく許認可を行うに当たって,審査会合やヒアリングを通じて審査を行った上で処分を決定するもの。敷地内破砕帯の活動性についても,設置変更許可を行う際の審査項目の一つとして位置付けられており,有 識者会合による評価にかかわらず,原子力規制委員会が審査を行った上で許認可の可否を決定する必要がある。 b 今後の対応 新規制基準への適合性審査に当たっては,原子力規制委員会が審査を行い,許認可の可否を決定する。この際,有識者会合による評価を 重要な知見の一つして参考とするほか,事業者から追加調査等による新たな知見の提出があれば,これを含めて厳正に確認を行っていく。(イ) 原子力規制委員会は,本件処分の際,地盤の変位及び変形(設置許可基準規則3条関係) について, 要旨次の内容を含む審査をした (乙81) 。 a 地盤の変位 原子力規制委員会は,参加人が行った各種調査の結果,耐震重要施設を設置する地盤における断層の活動性評価手法等が適切であり,耐震重要施設設置位置に分布する断層は,将来活動する可能性のある断層等に該当せず,規則の解釈別記1の規定に適合していること及び地質審査ガイドを踏まえていることを確認した。 b 地盤の変形 原子力規制委員会は,地盤の変形について,参加人の耐震重要施設の支持地盤の変形に係る設計方針,地殻変動による傾斜に関する評価が適切であり,変形した場合においてもその安全機能が損なわれるおそれがない地盤に当該施設を設けるとしていることから,規則の解釈別記1の規定に適合していること及び地盤審査ガイドを踏まえている ことを確認した。 (2) 前記(1)の認定事実によれば,参加人は,各種学会から推薦された有識者 等から構成される大飯破砕帯有識者会合が1年以上かけて調査審議して取りまとめられた破砕帯評価書等を踏まえて地盤の評価をしたものであり,原子力規制委員会は,その内容を精査した上で,本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合すると判断したものであって,この判断に不合理な点はないことがうかがわれる。 (3) 原告らの主張に対する判断 ア (ア) 新F-6破砕帯の存在及び活動性等について 原告らは,耐震重要施設に当たる非常用取水路の直下に旧F-6破砕帯が存在し,旧F-6破砕帯が規則の解釈別記1の3にいう将来活動する可能性のある断層等でないことを示す明確な証拠はないから,本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である旨主張する。 そこで検討すると,確かに,証拠(甲61等)によれば,大飯破砕帯有識者会合の評価会合において,一部の出席者から新F-6破砕帯の位置等について疑問が呈された事実が認められる。しかしながら, 前記(1) の認定事実によれば,各種学会から推薦された有識者等から構成される大飯破砕帯有識者会合が,現地調査の結果等を踏まえて1年以上かけて審議し,上記のような疑問も踏まえて議論した結果取りまとめた破砕帯評価書において,旧F-6破砕帯ではなく新F-6破砕帯の存在が認定 されたものであり, その位置等の認定に不合理な点があるとはいえない。 そして,本件申請における地盤の評価は破砕帯評価書に沿ってされたものである。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (イ) 原告らは,①破砕帯の調査について参加人が調査範囲を決定し,原子力規制委員会が求めた調査が行われなかったこと,②新F-6破砕帯の位置等の認定に大きな疑義があること,③新F-6破砕帯が一続きのものでない可能性があるにもかかわらず,南側トレンチの火山灰によって新F-6破砕帯の活動時期を判断したことを指摘して,新F-6破砕帯 の存在を前提に,これが規則の解釈別記1の3にいう将来活動する可能性のある断層等に当たるものとせず,本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である旨主張する。 そこで検討すると,①確かに,前記(1)の認定事実ウ(ウ)のとおり,参 加人は,南側トレンチについて,大飯破砕帯有識者会合が長さ300mのトレンチを掘削するよう求めたのに対し,長さ70mのトレンチを掘削するにとどめるなどしたものであり,当初大飯破砕帯有識者会合が求めたとおりの調査がされなかったものである。しかし,大飯破砕帯有識者会合は,平成25年8月に追加調査が実施された後も3箇月余りにわ たって議論した上で,それ以上の追加調査を求めることなく破砕帯評価書を取りまとめたものである。そうすると,大飯破砕帯有識者会合は,それ以上の追加調査が必要であるとは判断しなかったものとうかがわれるのであり,破砕帯の評価について十分な調査がされなかったものとまで評価することはできない。また,②前記(ア)で説示したとおり,新F-6破砕帯の位置等の認定に不合理な点があるとはいえない。さらに,③破砕帯評価書は,新F-6破砕帯が一続きのものであることを根拠とし て新F-6破砕帯の活動性を評価したものではなく,新F-6破砕帯が一続きの破砕帯でない可能性を考慮したとしても, 全ての区間において, 数十万年前以降活動していないと評価したものであり (前記(1)の認定事 実ウ(オ)b。特に同(c)),その評価の過程等に不合理な点は見当たらないところ,本件申請における地盤の評価は破砕帯評価書の評価に沿った ものである。 以上によれば,原告らの上記主張は採用することができない。 イ 台場浜トレンチ内の破砕帯について 原告らは,本件発電所の敷地内にある台場浜トレンチ内の破砕帯が規則 の解釈別記1の3にいう将来活動する可能性のある断層等に当たるとされているところ,台場浜そのものは非常用取水路の近傍(210m程度の距離)にある上,上記破砕帯との連続性が否定されていない南方のボーリング部の破砕帯は, 非常用取水路から36m程度の距離に存在するから, これらの破砕帯について,その性状について合理的に説明されていること を確認し(地質審査ガイドⅠ.3.1(2)),建物及び構築物の基礎及び躯体に対して,鉛直面内で生ずる傾斜や段差(縦ずれ)だけでなく,水平面内で生ずるせん断変形や横ずれについても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことが照査されていること等を確認しなければならないのに(地質審査ガイドⅠ.3.1(3),地盤審査ガイド4.3 (1)),これらの点が全く確認されていないから,本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である旨主張する。そこで検討すると, まず, 上記の南方のボーリング部の破砕帯について, 証拠(甲116)によれば,破砕帯評価書の案のピア・レビュー会合において,参加者の一人から,同破砕帯(破砕部)が台場浜トレンチ内の破砕帯と連続する可能性があるのではないかとの指摘がされた一方,大飯破砕帯有識者会合のメンバーから一定の根拠を示して連続していないとの認識が示され,座長からこの点について検討するよう指示されたという事実が認められる。そして,その結果,破砕帯評価書においては,台場浜トレンチ内の堆積層にずれを生じさせている破砕部3箇所のうち2箇所について は,少なくとも地下深部へは連続しないとの意見に基づき,この破砕部が敷地内の重要な安全機能を有する施設に影響がないとの判断が記載されたものである(前記(1)の認定事実ウ(オ)c(a))。そうすると,破砕帯評価書において,上記判断の記載の後に 「ただし,これら堆積層にずれを生じさせている面の南方への連続性については,確認が必要ではないかとの意見もあった。」 旨の記載が付加されていることを考慮してもなお,台場浜トレンチ内の破砕帯(破砕部)が上記の南方のボーリング部の破砕帯(破砕部)に連続しているものとは認められないから,同破砕帯(破砕部)の性状について合理的に説明がされていること等を確認しなければならない旨の原告らの主張は前提を欠き,採用することができない。次に,原告らが指摘する地質審査ガイド及び地盤審査ガイドの定めについてみると, ①台場浜トレンチ内の破砕帯については,前記(1)の認定事実ウ(オ)c(a)のとおり,適切な調査又はその組合せによって,当該断層等の性状(位置,形状,過去の活動状況)について合理的に説明されていることが確認されている(地質審査ガイドⅠ.3.1(2)に適合する。)。 ②設置許可基準規則3条2項は,耐震重要施設は,変形した場合においてもその安全機能が損なわれるおそれがない地盤に設けなければならない旨を,同条3項は,耐震重要施設は,変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない旨をそれぞれ定めている。 一方, 地質審査ガイドⅠ. 3. 1(3)の第1文は,敷地内及び敷地極近傍に将来活動する可能性のある断層等の露頭が存在する場合には,その断層等の本体及び延長部が重要な安全機能を有する施設の直下にないことを確認する旨を,第2文は,将来 活動する可能性のある断層等が重要な安全機能を有する施設の直下にない場合でも,施設の近傍にある場合には,地震により施設の安全機能に影響がないことを地盤審査ガイドに基づいて確認する旨をそれぞれ定めている。設置許可基準規則3条3項が地盤の変位が生ずるおそれの有無を問題とするのに対し,同条2項が地盤の変形により耐震重要施設の安全機能が損な われるおそれの有無を問題とすることに照らすと, 地質審査ガイドⅠ. 3. 1(3)の第1文は設置許可基準規則3条3項に,第2文は同条2項に対応する定めであると解するのが相当である。また,原告らが指摘する地盤審査ガイド4.3(1)は地殻変動による基礎地盤の変形の影響についての評価方針を定めるものであり,同項に対応する定めであると解され る。しかるに,原告らの上記主張は,地質審査ガイドⅠ.3.1(3)の第2文への不適合を理由に本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合しない旨を主張するものであるから,採用することができない。また,前記(1)の認定事実エ(イ)c,オ(イ)bによれば,原子力規制委員会は,本件処分の際,この点についても確認したものと認められるから,この点からも, 原告らの上記主張は採用することができない。 (4) 以上によれば,争点5に関する原告らの主張はいずれも採用することが できず,本件申請が設置許可基準規則3条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるものとは認められない。 6 争点6(本件申請について,基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性)について (1) 認定事実 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア 本件申請における基準津波の策定 参加人は,本件申請において,概要次のような過程を経て基準津波を策 定した(丙4)。 (ア) 敷地周辺に影響を及ぼした過去の津波 a 参加人は,文献を調査し,日本海における津波の記録を確認するとともに,地震以外の要因による津波についての記録の有無を確認したところ,若狭湾周辺に大きな被害をもたらした津波の記載はなかった が(乙149),敷地周辺に影響を与えたと考えられる津波として,昭和58年に発生した日本海中部地震津波及び平成5年に発生した北海道南西沖地震津波がある。また,地震以外を要因とする日本海における津波の記録としては,火山現象に伴う山体崩壊を要因とする1741年に発生した渡島沖の津波があるものの,そのほかに海底地すべ り,陸上の斜面崩壊(地すべり),火山現象等,地震以外の要因による津波の記録は認められなかった。さらに,参加人は,若狭湾沿岸の県市町村史誌(全36文献)を調査したが,天正地震による津波に関する記述はなかった(乙151)。 b 参加人は,本件発電所が面している若狭湾における津波の痕跡に関する情報の蓄積を目的として,津波堆積物調査を実施した。具体的には,堆積物の保存性が良い地域であり,津波の遡上範囲及び到達標高が検討可能な場所として,若狭湾沿岸で本件発電所の北東方向に位置する三方五湖周辺(久々子湖,菅湖及び中山湿地),久々子湖東方陸 域及び猪ヶ池において,ボーリングにより完新世(約1万年前以降)の地層をカバーするように試料を採取し,X線CTスキャンを併用した肉眼観察,微化石層分析等を実施し, 海から運ばれた痕跡 (砂層等) を調査し,津波堆積物の有無を評価した。 上記津波堆積物調査の結果,三方五湖周辺及び久々子湖東方陸域においては,津波を示唆する痕跡は認められなかった。また,猪ヶ池においては,6箇所においてボーリングを実施したところ,合計11の イベント堆積物(地震,津波,防風,斜面崩壊等に際して形成された堆積物)が認められた。これらのイベント堆積物のうち,①津波堆積物である可能性は低いものの別途成因の調査が必要なもの(一つ),及び②海成イベントにより形成された可能性が高いもの(五つ)について詳細検討を行ったところ,その結果は,要旨次の内容を含むもの であり,約5300年ないし5600年前に上記②のイベント堆積物の一つを形成する津波が猪ヶ池周辺にあった可能性が考えられるが,本件発電所の安全性に影響を与える規模ではなかったものと評価された。 (乙149から151まで,弁論の全趣旨) (a) 前記①について 砂層であり,海水性微化石は検出されず,帯磁率が著しく低く,地表付近で風化を受けていると考えられ,海域に分布していた堆積物とは考えにくい。また,ボーリング地点付近における採泥調査の結果によれば,上記地点の砂層は砂州近傍の局所的なものであることも考慮 すると,前記①は,津波堆積物ではなく,砂州表層部が局所的に崩壊したものと考えられる。 (b) 前記②について 三方五湖周辺及び久々子湖東方陸域と猪ヶ池におけるイベント堆 積物の分布を見ると,猪ヶ池の中部以深(前記②)以外では,暴浪・津波等の海成イベントにより形成されたと解釈される堆積物は認められない。また,洪水・湖底地すべり等の陸成イベントにより形成されたと解釈される堆積物は,菅湖及び久々子湖では比較的多く認められるのに対して,猪ヶ池等では少数しか認められないか,あるいは全く認められず,地点間の連続性は認め難い。したがって,前記②の堆積物を形成したイベントの影響範囲は,三方五湖周辺及び久々子湖東方 陸域まで及んでいない可能性が高い。前記②の五つのイベント堆積物のうち,津波堆積物である可能性が高く,かつ,猪ヶ池で確認された中では最も大きなイベントによるものであったと推定される一つを形成した津波の規模を津波水位シミュレーション及び土砂移動シミュレーションで検討すると,当時の海水準等を考慮した津波と比較して大 きな規模ではなかったと考えられる。 (イ) 地震に起因する津波 a 過去に敷地周辺に比較的大きな水位変動を与えたと考えられる津波には,日本海東縁部を波源とする日本海中部地震津波及び北海道南西沖地震津波がある。参加人は,これらの津波を対象とした津波シミュ レーションを実施し,計算結果と敷地周辺及び日本海沿岸における津波痕跡高との比較により再現性の検討を行い,数値計算モデル及び計算手法の妥当性を確認した。 b 参加人は,文献調査及び敷地周辺の地質調査結果を踏まえ,敷地前面海域及び敷地周辺海域において後期更新世以降の活動が否定できない断層について,武村(1998)等の手法で算出した地震モーメントに基づき推定津波水位を算定し,これが1m以上となる五つの断層を,検討対象の海域活断層として抽出したほか,日本海東縁部の検討対象断層として,北海道沖から新潟県沖までの広範囲な海域にモーメ ントマグニチュード7.85の基準波源モデルを設定した。 そして,参加人は,上記各断層について,不確定性が存在する因子のうちの幾つかを合理的と考えられる範囲で変化させた概略数値計算モデルによる検討を実施し,その結果により,水位変動量の大きい大陸棚外縁~B~野坂断層及びFO-A~FO-B~熊川断層を詳細数値計算モデルによる検討対象波源として選定した。 c 参加人が,前記bで選定した波源に対して,詳細数値計算モデルによる津波シミュレーションを実施し,津波水位を算出したところ,水位上昇側において最も影響が大きい波源は大陸棚外縁~B~野坂断層であり,水位下降側において最も影響が大きい波源はFO-A~FO-B~熊川断層であった。 d 参加人は,行政機関が行った津波シミュレーションに係る波源モデルのうち,本件発電所に比較的大きな水位変動を与える可能性のあるものとして,福井県が想定している若狭海丘列付近断層,秋田県が想定している日本海東縁部,国土交通省の日本海における大規模地震に関する調査検討会が想定している若狭海丘列付近断層及びFO-A~FO-B~熊川断層の各波源モデルを対象に, その影響を検討し, これを基準津波の選定に当たり考慮した。なお,上記各波源モデルのうち,水位上昇側及び水位下降側共に最も影響が大きい波源は福井県の波源モデルであった。 (ウ) 地震以外に起因する津波 a 海底地すべりによる津波の評価 参加人は,隠岐トラフの南東側及び南西側の水深約500m~約1000m付近の大陸斜面に38の海底地すべり跡を抽出し,これを大きく三つのエリアに分けて,断面積により地すべり規模を評価し,各エリアの最大規模となる海底地すべりを評価対象として選定した。そ して,参加人は,これら三つの海底地すべり跡について,高分解能海上音波探査記録を用いて海底地形変化を算出し,津波シミュレーションを実施した。b 陸上の斜面崩壊(地すべり)に起因する津波評価 参加人は,本件発電所から半径約10㎞以内にある地すべり地形のうち,地すべりの規模と本件発電所との位置関係等から,本件発電所に影響のある津波を発生させる陸上地すべりが存在すると考えられる 三つのエリアを抽出し,これらのエリアについて,空中写真・航空レーザー測量結果による地形判読及び現地踏査を実施し,地すべり地形を抽出し, 詳細検討を実施する地すべり地形を二つ選定した。 そして, 参加人は,選定された地すべり地形について,詳細な地形判読及び現地踏査を行って地すべり範囲を推定するとともに,崩壊土砂量を想定 し,想定した地すべり地形を用いて斜面崩壊シミュレーションを実施して,地すべりが海面に突入する際の挙動を計算した。 c 火山現象に起因する津波評価 日本海で認められる活火山はあるものの,前記(ア)bの津波堆積物調査の結果から,本件発電所の安全性に影響を与えるような津波の痕 跡は認められなかったこと,その他の第四紀火山として隠岐島後があるが,噴火形態は溶岩流であり,将来の活動性が低いと考えられることから,参加人は,火山現象に起因する津波により本件発電所の安全性が影響を受けるおそれはないと評価した。 (エ) 津波発生要因の組合せに関する検討 参加人は,地震に起因する津波及び地震以外に起因する津波の検討結果を踏まえ,因果関係が考えられる津波発生要因の組合せとして,地震と海底地すべりの組合せとなる若狭海丘列付近断層と隠岐トラフ海底地すべり,地震と陸上地すべりの組合せとなるFO-A~FO-B~熊川断層と陸上地すべりを選定し,津波発生要因の組合せに関する検討を実施した。(オ) 基準津波の選定 参加人は,前記(イ)から(エ)までの各波源及びそれらの組合せによる津波水位評価を踏まえ,各評価点で最も水位の影響が大きい波源(3ケース)を対象に津波シミュレーションを実施し,その結果,本件発電所への影響が大きい若狭海丘列付近断層と隠岐トラフ海底地すべり(エリアB)の組合せを基準津波1及び基準津波2として選定した。イ 本件処分の際の基準津波の策定に関する審査 原子力規制委員会は,本件処分の際,基準津波の策定について,要旨次の内容を含む審査をした(乙81,177)。 (ア) 地震に伴う津波 原子力規制委員会は,審査の過程において,海域活断層による地震に伴う津波の波源として,FO-A~FO-B~熊川断層の3連動を考慮すること及び福井県による津波評価の波源である若狭海丘列付近断層を波源として評価すること並びに日本海東縁部の断層による地震に伴う津波について他の行政機関が想定している断層長さも考慮して評価するこ とを求めた。 これに対して,参加人は,これらを反映して地震に伴う津波の評価を示した。 原子力規制委員会は,参加人が実施した地震に伴う津波の評価については,波源モデルの設定等に必要な調査を実施するとともに,行政機関 が行った津波シミュレーションも適切に反映し,不確かさを考慮して海域活断層の特性や位置等から考えられる適切な規模の津波波源を設定して適切な手法で評価を行っていることから,規則の解釈別記3の規定に適合していることを確認した。 (イ) 地震以外の要因による津波 原子力規制委員会は,参加人が実施した地震以外の要因による津波の評価については,波源モデルの設定等に必要な調査を実施するとともに, 不確かさを考慮して波源の特性や位置等から考えられる適切な規模の津波波源を設定して適切な手法で評価を行っていることから,規則の解釈別記3の規定に適合していることを確認した。 (ウ) 地震に伴う津波と地震以外の要因による津波の組合せ 原子力規制委員会は,参加人が実施した地震に伴う津波と地震以外の要因による津波の組合せの評価については,敷地の地学的背景及び津波発生要因の関連性を踏まえて波源を適切に組み合わせ,適切な手法で評価を行っていることから,規則の解釈別記3の規定に適合していることを確認した。 (エ) 基準津波の策定等 原子力規制委員会は,参加人が,適切な位置で基準津波の時刻歴波形を策定するとともに,基準津波による水位変動に伴う砂移動の評価を適切に行っていることから,規則の解釈別記3の規定に適合していることを確認した。 ウ (ア) 天正地震に関する文献の記述 1586年に発生した天正地震に関して,若狭(州)における津 波が記述された古文書としては,吉田兼見兼見卿記,ルイス・フロイス日本史のほか,イエズス会日本書簡集及びマカオ司教区歴史資 料があるが,後2者の内容はルイス・フロイスの日本史のそれとほぼ同じである。 吉田兼見兼見卿記には,1586年1月18日頃の記述として, 丹後若狭の海岸に津波が来襲し,家がことごとく押し流され,死亡した者は数知れない云々との記載があるところ,この記述は後日追記さ れたものであると考えられ,云々とは伝聞であることを示す記載である。ルイス・フロイス日本史には,1586年1月18日頃の記述として,若狭の国には海に沿って,やはり長浜と称する別の大きい町があった。そこには多数の人々が出入りし,(盛んに)商売が行われていた。人々の大いなる恐怖と驚愕のうちにその地が数日間揺れ動いた後,海が荒れ立ち,高い山にも似た大波が,遠くから恐るべき唸りを発しながら猛烈な勢いで押し寄せてその町に襲いかかり,ほとんど痕跡を留めないまでに破壊してしまった。(高)潮が引き返す時には,大量の家屋と男女の人々を連れ去り,その地は塩水の泡だらけとなって,いっさいのものが海に呑みこまれてしまった。との記載がある。(甲204,乙151) (イ) ルイス・フロイス日本史の前記(ア)の記載について,次のような研究者の意見がある。 a 外岡慎一郎(敦賀短期大学教授) 「天正地震と越前・若狭」 (平 成24年)は,長浜について,商業港湾の規模という点では小浜の誤記であると考えられるが,母音が共通し,多数の人と商品が 行き交う町であった 高浜 の誤記である可能性もある旨を述べる (甲 204)。 b 松浦律子(公益財団法人地震予知総合研究振興会)日本海沿岸での過去の津波災害(平成25年)は,当時若狭にナガハマという場所はなかったこと,新潟から丹後までの津波被害であれば豊臣政権の 確立に影響したはずであるが,実際は天正地震後に蜂屋家,上杉家等に影響がみられず,天正地震より前の高潮も含めた別の事象との混同又は別の場所との混同と考えるのがせいぜいであり,少なくとも天正地震で日本海側に大津波があったというのは間違いである旨を述べる(乙152)。 (2) 前記(1)の認定事実によれば,参加人は,詳細な文献調査及び津波堆積物調査等を踏まえて本件申請をしたものであり,原子力規制委員会は,その内容を精査した上で,本件申請について,基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適合すると判断したものであり,この判断に不合理な点はないことがうかがわれる。 (3) ア 原告らの主張に対する判断 原告らは,①本件各原子炉施設の立地する若狭湾岸において,天正年間に津波が発生したという記述が兼見卿記やルイス・フロイスの日本史にあること,②参加人が平成24年2月から同年12月にかけて実施した調査によって,猪ヶ池において高波浪又は津波が成因の可能性がある 砂層が確認されたという事情があるにもかかわらず,猪ヶ池の砂層を形成したイベントが津波であるとしてもそれは大きなものではなかったとした本件申請について,基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である旨主張する。 しかしながら,前記(1)の認定事実によれば,参加人は,相当程度の文献 を調査し,津波堆積物についても広範囲にわたって詳細な調査をしたものであり(同ア(ア)),上記①の文献の記述のみをもって天正年間に日本海側で大津波があったという合理的な根拠があると直ちにいうことはできないし,これらの文献のうち兼見卿記は伝聞の記載にすぎず,日本史 の記載から天正地震で日本海側に大津波があったと考えることについては 研究者から疑義が示されている(同ウ(イ))。地質審査ガイドにおいて,津波堆積物の調査は,調査範囲や場所に限界もあり,調査を行っても津波堆積物が確認されない場合があるが,周辺の状況から津波が来襲した可能性がある場合には, 安全側に判断していることを確認する (Ⅱ.3 3.(3) 。 別紙2の第5の1(3)イ(ウ)c)とされていることを考慮しても,猪ヶ池に 津波堆積物があるとしても本件発電所の安全性に影響を与えるような規模の津波があったとはいえない旨の評価に不合理な点は見当たらない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。イ 原告らは,丹後国風土記(残欠)には,大宝元年3月巳亥に地震が3日続き大津波が丹後地方を襲ったとの記述があり,真名井神社の波せき地蔵堂には,ここで大津波を切り返したといういわれが伝えられているに もかかわらず,丹後地方の歴史地震を考慮の対象としなかった本件申請について,基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である旨主張する。 確かに,証拠(甲91,92)及び弁論の全趣旨によれば,①長享2年(1488年)のものとされる丹後国風土記(残欠)に,大宝元年(7 01年)3月巳亥に地震が3日間続いた,この郷が一夜にして青い海となった,ようやく僅かに郷の中の高い山と立神岩のみが海上に残った,今それを常世の島と呼んでいる旨等の記載がある事実,②海抜約40mの地点にある宮津市の眞名井神社の波止き地蔵(なみせきじぞう)には,この地点まで大津波が押し寄せたという言い伝えがある事実が認められる。 しかしながら,証拠(乙154)によれば,平成23年6月22日の京都府防災会議専門部会における地域防災対策の見直し等についての協議において,①701年に丹後半島で地震があり,沖合の大きな島が海中に没したとの記述は地学的に証明できない,②宮津市の約1300年前の大津波をせき止めたとの波せき地蔵の伝承は,そのような大きな津波 なら他の地域にも記録が残っているはずで,事実かどうか不明である旨の議論がされた事実が認められる。 そうすると,上記の丹後国風土記(残欠)の記載や言い伝えをもって,原告らの上記主張に係る地震によって津波が発生したことをうかがわせる合理的な資料と認めることはできず,ほかにそのような合理的な資料 があることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,丹後地方の歴史地震を考慮の対象としなかった本件申請について,基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるものとは認められない。(4) 以上によれば,争点6に関する原告らの主張はいずれも採用することが できず,本件申請について,基準津波の策定の点が設置許可基準規則5条に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるものとは認め られない。 7 争点7(本件各原子炉施設について,設置許可基準規則51条所定の設備が設けられ,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられており,参加人に法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力があるとした原子力規制委 員会の判断の合理性)について (1) 認定事実 証拠(乙81,169)によれば,原子力規制委員会は,本件処分の際, 設置許可基準規則51条及び技術的能力審査基準1.(以下 8項 51条等 と総称する。)適合性について,要旨次の内容を含む審査をした事実が認められる。 ア 51条等の規制要求に対する設備及び手順等 (ア) 対策と設備 参加人は,51条等に基づく要求事項に対応するために,次の対策とそのための重大事故等対処設備を整備するとしている。 a 原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却のための格納容器スプレイ。そのために,格納容器スプレイポンプ等を重大事故等対処設備として位置付ける。 b 原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却のための代替格納容器スプレイ。そのために,恒設代替低圧注水ポンプ等を重大事故等対処設備として新たに整備する。 c 溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下の遅延又は防止のための炉心注水。そのために,高圧注入ポンプ,余熱除去ポンプ等を重大事故等対処設備として位置付ける。 d 溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下の遅延又は防止のための代替炉心注水。そのために,A格納容器スプレイポンプ(RHRS-CSS連絡ライン使用),B充てんポンプ(自己冷却)等を重大事故等 対処設備として位置付けるとともに,恒設代替低圧注水ポンプ等を重大事故等対処設備として新たに整備する。 原子力規制委員会は,前記a及びbの対策が規則の解釈中51条に関する部分(別紙2の第3の6(1)柱書き)及び技術的能力審査基準1.8項の【解釈】1(1)の要求に,前記c及びdの対策が同(2)の要求 に対応するものであることを確認した。 (イ) 重大事故等対処設備の設計方針 参加人は, 前記(ア)の重大事故等対処設備について,主な設計方針を次 のとおりとしている。 a 原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却のための恒設代替低圧注水ポンプは,格納容器スプレイポンプに対して多様性及び独立性を有し,位置的分散を図る設計とする。また,全交流動力電源が喪失した場合でも代替電源設備により給電が可能な設計とする。さらに,格納容器スプレイ水は溶融炉心が落下するまでに原子炉下部キャビティに十分な水量を蓄水できる設計とする。 b 溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下の遅延又は防止のための恒設代替低圧注水ポンプは,高圧注水ポンプ等に対して多様性を有し,位置的分散を図る設計とする。また,全交流動力電源が喪失した場合でも代替電源設備により給電が可能な設計とする。 原子力規制委員会は,参加人の計画において,①恒設代替低圧注水ポンプは,代替電源設備から給電されるため,非常用電源設備から給電される設計基準事故対処設備の格納容器スプレイポンプに対して,電源について多様性を有すること,②恒設代替低圧注水ポンプは,設計基準事故対処設備の格納容器スプレイポンプが設置されている原子炉周辺建屋の異なる区画に設置されることにより設計基準事故対処設備に対する位置的分散を図り,独立性を有すること,③恒設代替低圧注水ポンプは,全交流動力電源が喪失した場合でも代替電源設備の空冷式非常用発電装置から給電が可能な設計とすること,④格納容器スプレイ水が格納容器とフロア最外周部間の隙間等を通じ格納容器最下部フロアまで流下し,更に連通穴を経由して原子炉下部キャビティへ流入することで,溶融炉 心が落下するまでに原子炉下部キャビティに十分な水量を蓄水できる設計とすることを確認した。上記④の点については,参加人から,原子力規制委員会に対し,次のような説明がされた(乙169)。 (a) LOCA(冷却材喪失事故)時に,格納容器スプレイ水が原子炉 格納容器に注水されると,①原子炉格納容器鋼板部とフロア床最外周部の間の隙間,②外周通路部の階段・開口部(ハッチ等)(ルー プ室内が外周通路部より高いため, 水は外周通路部へ流下する。, ) ③ループ室内の床(グレーチング),④原子炉キャビティ底部から原子炉格納容器最下層に通ずる連通管を経由して,原子炉格納容器最下部フロアまで流下し,更に連通穴を通じて原子炉下部キャビティへ流入する(原子炉格納容器最下部フロアの水位上昇に伴い,小 扉からも流入する。)。また,原子炉容器と原子炉キャビティの隙間から直接原子炉下部キャビティへ流入する。 (b) 前記(a)の連通穴は,1箇所のみでMCCI(溶融炉心・コンクリート相互作用)防止のために必要な原子炉下部キャビティ保有水を 確保できることを確認しているが,2箇所設置することで多重性を持った設計とする。(c) 溶融炉心が原子炉下部キャビティ室に落下した際,溶融炉心等で 連通穴が内側から閉塞しないことを解析により確認した。また,原子炉格納容器内に発生する可能性のあるデブリ(溶融した核燃料等が冷えて固まったもの)により連通穴が外側から閉塞することのない設計とする。 以上の確認等から,原子力規制委員会は, 参加人が前記(ア)の重大事故 等対処設備について,設置許可基準規則43条(重大事故等対処設備に関する共通的な要求事項)に適合する措置等を講じた設計とする方針であることを確認した。 また, 原子力規制委員会は, 参加人が前記(ア)a及びbの重大事故等対 処設備について,規則の解釈中51条に関する部分(別紙2の第3の6(1)イ,(2))に適合する設計方針であることを確認した。 (ウ) 手順等の方針 参加人は,前記(ア)の設備を用いた主な手順は次のとおりとしている。 a (a) 原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却 炉心が損傷し,格納容器再循環サンプ広域水位が61%未満の場 合において,原子炉格納容器へ注水するために必要な燃料取替用水ピットの水位が確保されている場合には,格納容器スプレイの手順に着手する。この手順では,中央制御室での操作を1名により実施する。 (b) 格納容器再循環サンプ広域水位が61%未満であり,格納容器ス プレイポンプの故障等(全交流動力電源喪失又は原子炉補機冷却機能喪失を含む。)により原子炉格納容器への注水が確認できない場合において,原子炉格納容器へ注水するために必要な燃料取替用水 ピット等の水位が確保されている場合には,恒設代替低圧注水ポンプによる代替格納容器スプレイの手順に着手する。この手順では,系統構成,恒設代替低圧注水ポンプの起動操作等を計3名により,約30分で実施する。 b (a) 溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下の遅延又は防止 炉心が損傷し,原子炉へ注水するために必要な燃料取替用水ピッ トの水位が確保されている場合には,高圧注入ポンプ又は余熱除去 ポンプによる炉心注水の手順に着手する。この手順では,中央制御室での操作を1名により実施する。 (b) 高圧注入ポンプ又は余熱除去ポンプの故障等により原子炉への注 水が確認できない場合において,原子炉へ注水するために必要な燃料取替用水ピットの水位が確保されている場合には,A格納容器ス プレイポンプ(RHRS-CSS連絡ライン使用)による代替炉心注水の手順に着手する。この手順では,系統構成,A格納容器スプレイポンプ(RHRS-CSS連絡ライン使用)の起動操作等を計2名により,約20分で実施する。 (c) A格納容器スプレイポンプ(RHRS-CSS連絡ライン使用) の故障等により原子炉への注水が確認できない場合において,原子炉へ注水するために必要な燃料取替用水ピットの水位が確保され ている場合には,充てんポンプによる炉心注水の手順に着手する。この手順は,中央制御室での通常の運転操作を1名により実施する。 (d) 充てんポンプの故障等により原子炉への注水が確認できない場合 において,原子炉へ注水するために必要な燃料取替用水ピット等の水位が確保され,代替格納容器スプレイに使用されていない場合には,恒設代替低圧注水ポンプによる代替炉心注水の手順に着手する。この手順では,系統構成,恒設代替低圧注水ポンプの起動及び原子炉への注水を計4名により,約30分で実施する。 (e) 全交流動力電源喪失時又は原子炉補機冷却機能喪失時において,原子炉へ注水するために必要な燃料取替用水ピットの水位が確保されている場合には,B充てんポンプ(自己冷却)による代替炉心注水の手順に着手する。この手順では,系統構成,B充てんポンプ(自己冷却)の起動等を計6名により,約84分で実施する。 原子力規制委員会は,参加人の計画において,①手順の優先順位を, 原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却のための手順として上記a(a),(b)の順に,また,溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下の遅延又は防止のための手順として,交流動力電源及び原子炉補機冷却機能が健全な場合は同b(a),(b),(c),(d)の順に,全交流動力電源又は原子炉補機冷却機能が喪失した場合は同(d),(e)の順に設定して明確化し ていること,②代替格納容器スプレイ,代替炉心注水等について現場での手動操作等の手順等について定め,必要な人員を確保するとともに必要な訓練を行うとしていること,③作業環境(作業空間,温度等)に支障がないことを確認していること,④ヘッドライト等により夜間等でのアクセス性を確保していること,⑤携行型通話装置等の必要な連絡手段 を確保していることなどを確認した。 以上の確認等から,原子力規制委員会は, 参加人が前記(ア)の設備を用 いた手順等について,技術的能力審査基準1.0項(手順等に関する共通的な要求事項)等に適合する手順等を整備する方針であることを確認した。 また, 原子力規制委員会は, 上記bの手順等が技術的能力審査基準1. 8項の【解釈】1(2)の要求に対応するものであることを確認した。(エ) 以上のとおり, 原子力規制委員会は, 前記(ア)a及びbの対策が規則の 解釈中51条に関する部分 (別紙2の第3の6(1)柱書き) 及び技術的能 力審査基準1.8項の【解釈】1(1)の要求に,前記(ア)c及びdの対策が同(2)の要求に対応するものであること,前記(ア)a及びbの重大事故等対処設備が規則の解釈中51条に関する部分(別紙2の第3の6(1)イ,(2))に適合する設計方針であること,前記(ア)の重大事故等対処設備及びその手順等が設置許可基準規則43条等に従って適切に整備される方針であることから,51条等に適合するものと判断した。 イ 設置許可基準規則37条等の規制要求に対する設備及び手順等 参加人は,有効性評価(設置許可基準規則37条)において,原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するために,恒設代替低圧注水ポンプを用いた代替格納容器スプレイによる格納容器下部への注水を必要な対策としている。 この対策は, 前記ア(ア)bと同じであるため必要な重大事故等対処設 備も同じである。また,これらに関する重大事故等対処設備の設計方針及 び手順等の方針も同じである。 よって,原子力規制委員会は,参加人が有効性評価(設置許可基準規則37条)において原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するため重大事故等対処設備及び手順等として位置付けた設備及び手順等を,設置許可基準規則43条等に従って適切に整備する方針であることを確認した。 (2) 前記(1)の認定事実によれば,本件各原子炉施設について,設置許可基準 規則51条所定の設備が設けられ,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられており,参加人に法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力があるとした原子力規制委員会の判断に不合理な点はないことがうかがわれる。 (3) ア 原告らの主張に対する判断 原告らは,本件申請においては,大破断LOCAでECCS失敗で格納容器スプレイ循環失敗という想定事象に対し,溶融炉心が原子炉容器を溶かして原子炉格納容器の下部キャビティに落下した場合に溶融炉心と 放射能に汚染された水が格納容器外に漏出することを防ぐために,原子炉格納容器の下部キャビティに一定程度以上の水をためるための設備を設けておかなければならないのに,格納容器上部にあるスプレイ装置からのスプレイ水を壁伝いや隙間や連通管を通じて下部キャビティに導くにとどめていることから,本件各原子炉施設には,設置許可基準規則51条所定の設備が設けられていないものというべきである旨主張する。 しかしながら,前記(1)の認定事実ア(イ)によれば,格納容器スプレイ水 が格納容器とフロア最外周部間の隙間等を通じ格納容器最下部フロアまで流下し,更に連通穴を経由して原子炉下部キャビティへ流入することで,溶融炉心が落下するまでに原子炉下部キャビティに十分な水量を蓄水できる設計とすることが確認されているから,原子炉下部キャビティに一定程度以上の水をためるための設備が設けられているといえる。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 イ 原告らは,本件申請においては,大破断LOCAでECCS失敗で格納容器スプレイ循環失敗という想定事象に対し,炉心損傷を判断した時点で,恒設代替低圧注水ポンプを原子炉容器への注入に使うことを諦めて 格納容器天井からのスプレイに切り替えることにしており,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられていないものというべきであるし,この手順は技術的能力審査基準1.8項に違反する旨主張する。 しかしながら,前記(1)の認定事実ア(イ)によれば,格納容器スプレイ水が格納容器とフロア最外周部間の隙間等を通じ格納容器最下部フロアまで 流下し,更に連通穴を経由して原子炉下部キャビティへ流入することで,溶融炉心が落下するまでに原子炉下部キャビティに十分な水量を蓄水できる設計とすることが確認されているというのである。そうすると,これにより原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心を冷却し,原子炉格納容器の破損を防止し,工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するこ とが期待できるのであるから,炉心損傷を判断した時点で格納容器天井からのスプレイに切り替えることにしているからといって,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられていないとか,技術的能力審査基準1. 8項に適合しないなどということはできない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (4) 以上によれば,争点7に関する原告らの主張はいずれも採用することが できず,本件各原子炉施設について,設置許可基準規則51条所定の設備が 設けられ,設置許可基準規則37条2項所定の措置が講じられており,参加人に法43条の3の6第1項3号所定の技術的能力があるとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるものとは認められない。 8 争点8(設置許可基準規則55条は想定し得る放射性物質の拡散形態の全てをその適用対象とするものであるか)について (1) 認定事実 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア 設置許可基準規則55条の制定過程 原子力規制委員会が設置した原子炉施設等基準検討チーム(前記関係法 令の定め等(2)イ参照) は, 平成24年10月25日から平成25年6月3 日までの間,重大事故等への対策等に関する規制基準策定のため,学識経験者らの参加の下,合計23回の会合を開催した。また,この間,原子力規制委員会の会議も開かれていた。その中で,次のとおり,設置許可基準規則55条について議論等がされた。 (ア) 原子炉施設等基準検討チーム第8回会合(平成24年12月27日)a 会合の参考資料として配付された新安全基準(SA)骨子(たたき台)には,設計基準事故を超える事故について,シビアアクシデント対策における要求事項(個別対策別の主な設備等について)のうちの敷地外への放射性物質の放出抑制対策として,次のとおり記 載されていた(乙159)。 【基本的要求事項】1.重大事故が発生し,著しい炉心損傷及び格納容器破損に至った場合又は使用済燃料貯蔵プールの大規模燃料破損に至った場合に,敷地外への放射性物質の放出を抑制する手段を整備すること。 【要求事項の詳細】 上記手段として,格納容器又は使用済燃料貯蔵プールに放水する 場合は,以下によること。 ・ 格納容器又は使用済燃料貯蔵プールを射程内に入れた屋外放水 設備を設けること。 ・ 屋外放水設備の電源には,SBOを考慮した電源から給電する こと。 b 会合の資料として配付された設計基準を超える外部事象への対応について(特に,特定安全施設の目的,機能及び外部事象に対する頑健性について)(案)には,包括的な対処策(敷地外への影響緩和対策)(案)として, 「敷地外に放射性物質が漏えいした場合,遠距離からの放水により放射性物質を沈降させる等,周辺環境への影響を緩和する対策が必要。」 などと記載され,対策イメージとして,大容量泡放水砲システムによる放水の様子を写した画像が掲載されていた(乙160の1)。c 前記bの資料の記載について,会合においては,原子力規制庁職員から,炉心が損傷し,原子炉格納容器も損傷して,敷地外へ放射性物 質が出ている状況において,放射性プルームが流れているときに,遠距離からの放水により放射性物質を沈降させるというようなことをして,周辺への影響を緩和するという対策が必要と考えている旨の意見が述べられた(乙160の2)。 (イ) 平成24年度原子力規制委員会第27回会議(平成25年2月6日)a 原子炉施設等基準検討チームにおける検討状況をまとめた発電用軽水型原子炉施設に係る新安全基準骨子案について-概要-が,会議の資料として配付された。この資料には,敷地外への放射性物質の拡散抑制対策として,格納容器が破損に至った場合などを想定し,屋外放水設備の設置などを要求(原子炉建屋への放水により放射性物質の拡散を抑制)と記載され,対策イメージとして前記(ア) bと同じ画像が掲載されていた。(乙162) b 会議の資料として配付された新安全基準(シビアアクシデント対策)骨子案には,シビアアクシデント対策における要求事項(個別対策別の主な設備等について)のうちの敷地外への放射性物質の拡散抑制対策として,次のとおり記載されていた(乙161)。 【基本的要求事項】 炉心の著しい損傷及び格納容器の破損に至った場合又は使用済 燃料貯蔵プールの燃料損傷に至った場合に,敷地外への放射性物質の拡散を抑制する設備,手順等を整備すること。 【要求事項の詳細】 A 敷地外への放射性物質の拡散を抑制する設備,手順等とは, 以下に規定する措置又はこれと同等以上の効果を有する措置とす る。 (a) (b) 放水設備は,航空機燃料火災に対応できること。 (c) 原子炉建屋に放水できる設備を配備すること。 放水設備は,移動する等して,複数の方向から原子炉建屋に向 けて放水することが可能なこと。 (d) 放水設備は,複数プラント同時使用を想定し,所内プラント基 数の半数分(端数は切り上げ)を配備すること。 c 会議においては,担当委員から,前記bの記載について,どのような手段を尽くしても避けきれなかった場合の備えとして,原子炉施設から放射性物質の放出が避けられなくなった場合には,屋外の放水設備等によって緩和する,単純に見えるが,このような機能によって放射性物質の放出は10分の1ないし100分の1に抑えられるのであり,それだけでも環境にとっては非常に大きな防護措置となる旨の説明がされた(乙163)。 d この会議の後,前記bの新安全基準骨子案について,自主的な事前のパブリックコメント手続が実施された(乙163)。この手続においては,①爆弾を搭載した航空機が落下する想定であれば,格納容器も含めて全滅するとみるべきであり,100m離れたところで遠隔操作により冷却するなどといってみたところで,制御すべき装置自体が 全滅しているのではないか,仮に部分損壊として,屋外放水設備を設置するとしているが,この汚染水をどう処理するのか,そもそも,航空機テロを考えれば,早急に廃炉すべきである,②敷地内部から汚染水が敷地外へ漏えいしない対策,施設外部からの施設内部への浸水によって大量の汚染水が発生しない構造が必要である,③放水による, 汚染物質を含んだ表面水が海水や地下水の汚染を引き起こさないような処理設備を設けるべきである,④福島第一原発事故のような状態となった場合,汚染水の海や地下水への流出が起こらないように,冷却水の漏えいが想定される室内に亀裂等がなく水を閉じ込められるか,又は水の導線等が確保され汚染水が回収できる仕組みが考えられてい るか,⑤敷地外への放射性物質の拡散を抑制する設備として恒設の循環水処理施設及び廃水の貯蔵施設を追加すべきである,などの意見が出された(乙164,弁論の全趣旨)。 (ウ) 原子炉施設等基準検討チーム第18回会合(平成25年3月19日)会合においては,前記(イ)dの意見等を踏まえ,敷地外への放射性物質の拡散抑制対策として,海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備,手段等を整備することを追加する考え方が示された(乙164)。(エ) 原子炉施設等基準検討チーム第20回会合(平成25年3月28日)a 会合においては,前記(イ)bの骨子案の【要求事項の詳細】に 「(e)海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備,手順等を整備すること。」 を追加するなどの修正案(修正理由は,汚染水が海洋で拡散することを抑制するためというものであった。)が議論された(乙165,166)。 b この会合の後,設置許可基準規則の案及び規則の解釈の案に対する行政手続法に基づく意見公募手続が実施された。 この手続においては, 工場又は事業所外への放射性物質の拡散を抑制するための設備につい て,拡散抑制対策の対象は「海洋だけか。地下水への拡散抑制は 考慮しないのか。」との意見が出された。(乙167) (オ) 原子炉施設等基準検討チーム第22回会合(平成25年5月24日)会合においては,前記(エ)bの意見に対して, 「地下水を経て周辺公衆に放射性物質の影響が及ぶまでには長時間を要するため,外部支援を得て対処することを想定しています。」 との考え方を示す案が議論された(乙167)。(カ) 原子炉施設等基準検討チーム第23回会合(平成25年6月3日)a 前記(エ)bと同様に, 技術的能力審査基準の案についても行政手続法 に基づく意見公募手続が実施されたところ,工場又は事業所外への放射性物質の拡散を抑制するための手順等に関し,冷却水処理対策について,対策は緊急時の比較的短期のものから,現在の福島程度に小康状態を保っている中長期のものまで含むべきである。海洋への放射性物質拡散に留意しなければならない事項であり,その対象として上述した冷却水を含むことは明らかである。との意見が出された(甲208)。b 会合の資料として配付された(21)実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力に係る審査基準に対する御意見への考え方には,前記aの意見に対して,汚染水が格納容器から流出しないよう,格納容器破損防止対策を要求しています。格納容器が破損しなければ,崩壊熱相当の水を格納容器に注水し,蒸気をフィルタ・ベント等により除熱することができます。仮に,格納容器が破損した場合,その状況を現時点で想定することは困難です。汚染水の処理については,外部支援により対応することを想定しています。との考え方を示す案が記載されていた(甲208)。 c 前記bの案について,会合においては,仮に以下の部分の趣旨 について,意見では福島第一原発事故における汚染水の問題が指摘されていることを前提に,現時点では,原子炉格納容器が破損した場合の具体的な状況を想定することが難しいので,今の段階からその対策をするというよりは,中長期的な外部支援により対策をとって柔軟に 対応するということが確認された(甲207)。 (キ) 平成25年度原子力規制委員会第11回会議 (平成25年6月19日) 前記(ア)から(カ)までのような原子炉施設等基準検討チームにおける検討,意見公募手続において出された意見及びこれに対する考え方等を踏まえ,設置許可基準規則及び規則の解釈が決定された(乙168)。 イ 本件申請に対する設置許可基準規則55条適合性審査 原子力規制委員会は,本件処分の際,設置許可基準規則55条及び技術的能力審査基準1.12項(以下55条等と総称する。)適合性について,要旨次の内容を含む審査をした(乙81)。 (ア) 対策と設備 参加人は,55条等に基づく要求事項に対応するために,次の対策とそのための重大事故等対処設備を整備するとしている。a 放水設備を用いた屋外から原子炉格納容器等又は原子炉周辺建屋 (貯蔵槽内燃料体等)への放水。そのために,大容量ポンプ(放水砲用),放水砲,送水車,スプレイヘッダ等を重大事故等対処設備として新たに整備する。 b 原子炉格納容器等又は原子炉周辺建屋(貯蔵槽内燃料体等)への放水による海洋への放射性物質の拡散の抑制。そのために,シルトフェンスを重大事故等対処設備として新たに整備する。 原子力規制委員会は,上記aの対策が規則の解釈中55条に関する部 分 (別紙2の第3の7①) 及び技術的能力審査基準1. 12項の 【解釈】 1aの要求に,上記bの対策が規則の解釈中55条に関する部分(別紙2の第3の7⑤)及び技術的能力審査基準1.12項の【解釈】1bの要求に対応するものであることを確認した。 (イ) 重大事故等対処設備の設計方針 参加人は, 前記(ア)の重大事故等対処設備について,主な設計方針を次 のとおりとしている。 a 大容量ポンプ(放水砲用)及び放水砲は,海を水源とし,車両等により運搬,移動でき,複数の方向から原子炉格納容器等又は原子炉周辺建屋(貯蔵槽内燃料体等)に向けて放水できるとともに原子炉格納 容器の最高点である頂部に放水できる容量を有する設計とする。大容量ポンプ(放水砲用)は,3号炉及び4号炉の同時使用を想定し,2台接続することで3号炉及び4号炉の両方に同時に放水できる容量を有するものを3号炉及び4号炉で1セット2台,バックアップ用として1台の合計3台, 放水砲は, 3号炉及び4号炉の同時使用を想定し, 3号炉及び4号炉で1セット2台,バックアップ用として1台の合計3台を保管する。b 海を水源とした送水車及びスプレイヘッダは,車両等により運搬,移動でき,できる限り環境への放射性物質の放出を低減するために必要な容量を有する設計とする。送水車は,3号炉及び4号炉それぞれ2セット2台,バックアップ用として1台の合計5台を保管する。スプレイヘッダは,3号炉及び4号炉それぞれ1セット2個の使用を想 定し,2セット4個,バックアップ用として1セット2個の合計6個を保管する。 c 大容量ポンプ(放水砲用),放水砲及び泡混合器による原子炉格納容器周辺への泡消火は,泡消火剤と混合しながら放水できる設計とする。また,車両等により運搬,移動でき,複数の方向から原子炉格納 容器周辺に向けて放水できる設計とする。泡混合器は,3号炉及び4号炉で1セット1台,バックアップ用として1台,合計2台を保管する。 d 海洋への放射性物質の拡散を抑制するシルトフェンスは,設置場所に応じた高さ及び幅を有する設計とする。保有数は,4箇所の設置場所に各2組,バックアップ4組の合計12組とする。 原子力規制委員会は,参加人の計画において,a)大容量ポンプ(放 水砲用),放水砲等は,放射性物質の拡散を抑制するために原子炉格納容器の頂部まで放水できること,大容量ポンプ(放水砲用),放水砲等は,車両等により運搬,移動できるため,原子炉格納容器等又は原子炉周辺建屋(貯蔵槽内燃料体等)に対して,複数の方向から放水できること,大容量ポンプ(放水砲用),放水砲,送水車及びスプレイヘッダの保有数は,3号炉及び4号炉の同時使用を想定し,それぞれ,原子炉基数の半数以上を保管すること,b)航空機衝突による航空機燃料火災に 対しては,泡混合器により泡消火剤を混合し,放水砲による泡消火ができる仕様であることを確認した。なお,放水砲による放水後の放射性物質の海洋への流出に対しては,発電所から海洋への流出箇所の取水路側と放水路側にシルトフェンスを設置し,放射性物質の拡散の抑制を図る方針であることを確認した。以上の確認等から,原子力規制委員会は, 参加人が前記(ア)の設備を用 いた重大事故等対処設備について設置許可基準規則43条(重大事故等 対処設備に関する共通的な要求事項)に適合する措置等を講じた設計とする方針であることを確認した。 また,原子力規制委員会は,前記(ア)の重大事故等対処設備について,規則の解釈中55条に関する部分(別紙2の第3の7②,③,④)に適合する設計方針であることを確認した。 (ウ) 手順等の方針(略) (エ) 以上のとおり, 原子力規制委員会は, 前記(ア)a及びbの対策が規則の 解釈中55条に関する部分及び技術的能力審査基準1. 12項の 【解釈】 の要求に対応するものであること, 前記(ア)の重大事故等対処設備が規則 の解釈中55条に関する部分に適合する設計方針であること, 前記(ア)a 及びbの重大事故等対処設備及びその手順等が設置許可基準規則43条等に従って適切に整備される方針であることから,55条等に適合するものと判断した。 (2)ア 前記(1)の認定事実アによれば,設置許可基準規則55条及び規則の解 釈中同条に関する部分は,炉心の著しい損傷等によって工場等外へ放射性物質が拡散している状況を前提に,放射性プルーム(気体)が発生することを念頭に置いて,屋外の放水設備等を用いた遠距離からの放水により放射性物質を沈降させることによって,放射性物質の放出を相当程度抑制できるとの考え方に基づいて定められたものといえるのであり,設置許可基 準規則55条が,放射性プルーム以外の態様による放射性物質の拡散を抑制するための設備を設けることを要求しているものと解することはできない。イ (ア) 原告らの主張に対する判断 原告らは,設置許可基準規則55条は,想定し得る放射性物質の拡散形態の全てをその適用対象としており,その全ての場合について放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備を設けなければならない旨を定 めている旨主張する。 しかしながら, 前記アで説示したとおり, 設置許可基準規則55条は, 放射性プルーム以外の態様による放射性物質の拡散を抑制するための設備を設けることまでは要求していないものと解されるから,原告らの上記主張は採用することができない。 (イ) 原告らは,設置許可基準規則55条の制定過程に照らすと,原子炉格納容器の破損等に至った場合に放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備として,規則の解釈中同条に関する部分の(a)から(d)まで(別紙2の第3の7①から④まで)の放水による方策では不十分であることか ら,同(e)(海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備を整備すること。同⑤)が設けられたものというべきであるから,同条は,原子炉格納容器内の放射性物質を含んだ冷却水(汚染冷却水)の海洋への拡散を抑制する設備の整備を要求するものと解される旨主張する。 そこで検討すると,規則の解釈中55条に関する部分の制定過程にお いて, 「(e)海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備,手順等を整備すること。が追加されたものであるが」 (前記(1)の認定事実ア(エ)a), これが,冷却水の汚染水の海洋への拡散を抑制する設備の整備を要求する趣旨であると解することはできない。すなわち,①設置許可基準規則の案及び規則の解釈の案に対する意見公募手続において,拡散抑制対策の対象は「海洋だけか。地下水への拡散抑制は考慮しないのか。」との意見が出されたのに対し,原子力規制委員会が, 「地下水を経て周辺公衆に放射性物質の影響が及ぶまでには長時間を要するため,外部支援を得て対処することを想定しています。」 との考え方を示す案が議論されたこと(同(オ)),②技術的能力審査基準の案に対する行政手続法に基づく意見公募手続において,福島第一原発事故において発生したのと同様の汚染水の処理を放射性物質の拡散の抑制対策の対象とすべき意見が出されたのに対し,現時点においてその対策をするのではなく,中長期的な外部支援により対策をとって柔軟に対応するということが確認されたこと(同(カ))などからすると,設置許可基準規則55条は,原子炉格納容器の破損等に至った場合,上記汚染水が発生し得ることは想定した上で,その拡散を抑制するための設備を発電用原子炉施設に設けるこ とまでは要求しない趣旨の規定として制定されたものと解するのが相当である。そうすると,規則の解釈中55条に関する部分の(e)は,放水によって沈降した放射性物質(汚染水)の海洋への拡散を抑制する設備の設置を求める趣旨のものであると解される。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (3) 以上によれば,争点8に関する原告らの主張はいずれも採用することが できない。そして,前記(1)の認定事実イによれば,本件各原子炉施設には,放射性プルーム(気体)が発生することを念頭に置いて,屋外の放水設備等を用いた遠距離からの放水により放射性物質を沈降させるための設備が設けられる設計方針となっていたものであり, 本件全証拠によっても, 前記(2) アで説示した設置許可基準規則55条の解釈を前提として,本件申請が設置許可基準規則55条に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があることをうかがわせる事情は認められない。 なお,原告らは,本件申請においては,本件原子炉施設に海洋への汚染水 の拡散の抑制を図るために取水口及び放水口にシルトフェンスを設置する手順が整備されているが,このシルトフェンスは,数ミクロン程度以上の泥微粒子をこしとるだけの設備であり,1000分の1ミクロン程度である放射性物質の流出を防ぐことはできないから,放射性物質が気体として大気中に拡散する場合についての設備としても不十分なものである旨主張するが,これを裏付ける客観的かつ的確な証拠はない(新聞記事(甲131)が提出されているのみである。)。 9 まとめ 以上説示したところによれば,本件申請が原子力規制委員会の調査審議において用いられた具体的審査基準(設置許可基準規則等)に適合するとした原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認められるから,原子力規制委員会の判断に不合理な点があるものとして,その判 断に基づく本件処分は違法であるものというべきである。 第5 結論 よって,原告X51,原告X60,原告X62,原告X72,原告X105,原告X122,原告X123及び原告X125の各訴えはいずれも不適法であ るからこれを却下し,その余の原告らの請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 森鍵 一 裁判官 齋藤豊臣毅 裁判官亮 輔 (別紙1)当事者目録(略) (別紙2)関係法令等の定め 第1 1 法 法は,原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られることを確保するとともに,原子力施設において 重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関し,大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定 した必要な規制を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行い,もって国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする(1条)。 2 発電用原子炉(発電の用に供する原子炉(核燃料物質を燃料として使用する装置。ただし,政令で定めるものを除く。2条4項,原子力基本法3条4号)であって研究開発段階にあるものとして政令で定める原子炉以外の試験研究の用に供する原子炉及び船舶に設置する原子炉を除くもの。2条5項)を設置しようとする者は,政令で定めるところにより,原子力規制委員会の許可を受けなければならない(43条の3の5第1項)。 3 原子力規制委員会は, 前記2の許可の申請があった場合においては,(1) そ の者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷及び核燃料物質貯蔵設備に貯蔵する燃料体又は使用済燃料の著しい損傷をいう(実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則4条)。以下同じ。)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認めるときでなければ,前記2の許可をしてはならない(43条の3の6第1項3号)。また,(2) 発電用原子炉施設の 位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであると認めるときでなければ,前記2の許可をしてはならない(同項4号)。 4 前記2の許可を受けた者は,①使用の目的,②発電用原子炉の型式,熱出力及び基数,③発電用原子炉を設置する工場又は事業所の名称及び所在地,④発電用原子炉及びその附属施設(以下発電用原子炉施設という。)の位置,構造及び設備,⑤使用済燃料の処分の方法,⑥発電用原子炉施設における放射線の管理に関する事項,⑦発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発 生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項を変更しようとするときは,政令で定めるところにより,原子力規制委員会の許可を受けなければならない(43条の3の8第1項本文)。43条の3の6の規定 (前記3)上記許可に準用する は, (43条の3の8第2項) 。 第2 1 設置許可基準規則 用語の定義(2条2項) (1) 通常運転とは,設計基準対象施設(後記(3))において計画的に行わ れる発電用原子炉の起動,停止,出力運転,高温待機,燃料体の取替えその他の発電用原子炉の計画的に行われる運転に必要な活動をいう(2号)。(2)運転時の異常な過渡変化とは,通常運転時に予想される機械又は器具の単一の故障若しくはその誤作動又は運転員の単一の誤操作及びこれらと類似の頻度で発生すると予想される外乱によって発生する異常な状態であって, 当該状態が継続した場合には発電用原子炉の炉心 (以下, 単に 炉心 という。)又は原子炉冷却材圧力バウンダリの著しい損傷が生ずるおそれが あるものとして安全設計上想定すべきものをいう(3号)。 原子炉冷却材圧力バウンダリとは,発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡変化時及び設計基準事故(後記(3))時において,圧力障壁となる部分をいう(35号)。 (3)設計基準事故とは,発生頻度が運転時の異常な過渡変化より低い異常な状態であって,当該状態が発生した場合には発電用原子炉施設から多量の放射性物質が放出するおそれがあるものとして安全設計上想定すべきものをいう(4号)。 安全機能とは,発電用原子炉施設の安全性を確保するために必要な機能であって,①その機能の喪失により発電用原子炉施設に運転時の異常な過渡変化又は設計基準事故が発生し,これにより公衆又は従事者に放射線障害 を及ぼすおそれがある機能,②発電用原子炉施設の運転時の異常な過渡変化又は設計基準事故の拡大を防止し,又は速やかにその事故を収束させることにより,公衆又は従事者に及ぼすおそれがある放射線障害を防止し,及び放射性物質が発電用原子炉を設置する工場又は事業所 (以下 工場等 という。 ) 外へ放出されることを抑制し,又は防止する機能をいう(5号)。 設計基準対象施設とは,発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡変化又は設計基準事故の発生を防止し,又はこれらの拡大を防止するために必要となるものをいう(7号)。 安全施設とは,設計基準対象施設のうち,安全機能を有するものをいう(8号)。 設計基準事故対処設備とは,設計基準事故に対処するための安全機能を有する設備をいう(13号)。 (4)重大事故等対処施設とは,重大事故に至るおそれがある事故(運転時の異常な過渡変化及び設計基準事故を除く。以下同じ。)又は重大事故(以下重大事故等と総称する。)に対処するための機能を有する施設をいう (11号)。 重大事故等対処設備とは,重大事故等に対処するための機能を有する設備をいう(14号)。(5)原子炉格納容器とは,一次冷却系統(炉心を直接冷却する冷却材が循環する回路。33号)に係る発電用原子炉施設の容器内の機械又は器具から放出される放射性物質の漏えいを防止するために設けられる容器をいう(36号)。 2 設計基準対象施設の地盤(3条) (1) 設計基準対象施設は,4条2項の規定(後記3(2))により算定する地震 力(設計基準対象施設のうち,地震の発生によって生ずるおそれがあるその安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度が特に大きいもの(以下耐震重要施設という。)にあっては,同条3項(同(3))に規 定する基準地震動による地震力を含む。)が作用した場合においても当該設計基準対象施設を十分に支持することができる地盤に設けなければならない(1項)。 (2) 耐震重要施設は,変形した場合においてもその安全機能が損なわれるお それがない地盤に設けなければならない(2項)。 (3) 耐震重要施設は,変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならな い(3項)。 3 地震による損傷の防止(4条) (1) 設計基準対象施設は,地震力に十分に耐えることができるものでなけれ ばならない(1項)。 (2) 前記(1)の地震力は,地震の発生によって生ずるおそれがある設計基準対 象施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定しなければならない(2項)。 (3) 耐震重要施設は,その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼす おそれがある地震による加速度によって作用する地震力(以下基準地震動による地震力という。)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない(3項)。4 津波による損傷の防止(5条) 設計基準対象施設は,その供用中に当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波(以下基準津波という。)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない。 5 重大事故等の拡大の防止等(37条) (1) 発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合 において,炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(1項)。 (2) 発電用原子炉施設は, 重大事故が発生した場合において, 原子炉格納容器 の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(2項)。 6 重大事故等対処設備(43条1項) 重大事故等対処設備は,次に掲げるものでなければならない。 (1) 想定される重大事故等が発生した場合における温度,放射線, 荷重その他 の使用条件において,重大事故等に対処するために必要な機能を有効に発揮するものであること。 (2) 想定される重大事故等が発生した場合において確実に操作できるもので あること。 (3) 健全性及び能力を確認するため,発電用原子炉の運転中又は停止中に試 験又は検査ができるものであること。 (4) 本来の用途以外の用途として重大事故等に対処するために使用する設備 にあっては,通常時に使用する系統から速やかに切り替えられる機能を備えるものであること。 (5) 工場等内の他の設備に対して悪影響を及ぼさないものであること。 (6) 想定される重大事故等が発生した場合において重大事故等対処設備の操作及び復旧作業を行うことができるよう,放射線量が高くなるおそれが少ない設置場所の選定,設置場所への遮蔽物の設置その他の適切な措置を講じたものであること。 7 原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するための設備(51条) 発電用原子炉施設には,炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格 納容器の破損を防止するため,溶融し,原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために必要な設備を設けなければならない。 8 工場等外への放射性物質の拡散を抑制するための設備(55条) 発電用原子炉施設には,炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損又は貯蔵槽内燃料体等(使用済燃料貯蔵槽内の燃料体又は使用済燃料。37条3項) の著しい損傷に至った場合において工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備を設けなければならない。 第3 実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈(平成25年6月19日原規技発第1306193号原子力規制委員会決定。平成29年8月30日原規技発第1708302号原子力規制委員会 決定による改正前のもの。以下規則の解釈という。甲43,乙44,113,弁論の全趣旨) 1 設置許可基準規則3条2項及び3項の解釈(別記1の2,3) (1) 設置許可基準規則3条2項に規定する変形とは,地震発生に伴う地殻 変動によって生じる支持地盤の傾斜及び撓み並びに地震発生に伴う建物・建築物間の不等沈下,液状化及び揺すり込み沈下等の周辺地盤の変状をいう。このうち,上記の地震発生に伴う地殻変動によって生じる支持地盤の傾斜及び撓みについては,広域的な地盤の隆起又は沈降によって生じるもののほか,局所的なものを含む,これらのうち,上記の局所的なものにつ いては,支持地盤の傾斜及び撓みの安全性への影響が大きいおそれがあるため,特に留意が必要である。(2) 設置許可基準規則3条3項に規定する変位とは,将来活動する可能性 のある断層等が活動することにより,地盤に与えるずれをいう。 また,設置許可基準規則3条3項に規定する変位が生ずるおそれがない地盤に設けるとは,耐震重要施設が将来活動する可能性のある断層等の露頭がある地盤に設置された場合,その断層等の活動によって安全機能に重大 な影響を与えるおそれがあるため,当該施設を将来活動する可能性のある断層等の露頭がないことを確認した地盤に設置することをいう。 なお,上記の将来活動する可能性のある断層等とは,後期更新世以降(約12~13万年前以降)の活動が否定できない断層等とする。その認定に当たって,後期更新世(約12~13万年前)の地形面又は地層が欠如す る等,後期更新世以降の活動性が明確に判断できない場合には,中期更新世以降(約40万年前以降)まで遡って地形,地質・地質構造及び応力場等を総合的に検討した上で活動性を評価すること。なお,活動性の評価に当たって,設置面での確認が困難な場合には,当該断層の延長部で確認される断層等の性状等により,安全側に判断すること。 また,将来活動する可能性のある断層等には,震源として考慮する活断層のほか,地震活動に伴って永久変位が生じる断層に加え,支持地盤まで変位及び変形が及ぶ地すべり面を含む。 2 設置許可基準規則4条2項の解釈(別記2の2) 設置許可基準規則4条2項に規定する地震の発生によって生ずるおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度とは,地震により発生するおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失(地震に伴って発生するおそれがある津波及び周辺斜面の崩壊等による安全機能の喪失を含む。)及びそれに続く放射線による公衆への影響を防止 する観点から,各施設の安全機能が喪失した場合の影響の相対的な程度(以下耐震重要度という。)をいう。設計基準対象施設は,耐震重要度に応じて,以下のクラス(以下耐震重要度分類という。)に分類するものとする。(1) Sクラス 地震により発生するおそれがある事象に対して,原子炉を停止し,炉心を 冷却するために必要な機能を持つ施設, 自ら放射性物質を内蔵している施設, 当該施設に直接関係しておりその機能喪失により放射性物質を外部に拡散する可能性のある施設,これらの施設の機能喪失により事故に至った場合の影響を緩和し,放射線による公衆への影響を軽減するために必要な機能を持つ施設及びこれらの重要な安全機能を支援するために必要となる施設,並びに地震に伴って発生するおそれがある津波による安全機能の喪失を防止するた めに必要となる施設であって,その影響が大きいものをいい,少なくとも次の施設はSクラスとすること。 ・ 原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器・配管系 ・ 使用済燃料を貯蔵するための施設 ・ 原子炉の緊急停止のために急激に負の反応度を付加するための施設,及び原子炉の停止状態を維持するための施設 ・ 原子炉停止後,炉心から崩壊熱を除去するための施設 ・ 原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故後,炉心から崩壊熱を除去するための施設 ・ 原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故の際に,圧力障壁となり放射性物質の放散を直接防ぐための施設 ・ 放射性物質の放出を伴うような事故の際に,その外部放散を抑制するための施設であり,上記の放射性物質の放散を直接防ぐための施設以外の施設 ・ 津波防護機能を有する設備及び浸水防止機能を有する設備 ・ 敷地における津波監視機能を有する施設 (2) Bクラス安全機能を有する施設のうち,機能喪失した場合の影響がSクラス施設と比べ小さい施設をいい,例えば,次の施設が挙げられる。 ・ 原子炉冷却材圧力バウンダリに直接接続されていて,一次冷却材を内蔵しているか又は内蔵し得る施設 ・ 放射性廃棄物を内蔵している施設(一部のものを除く。) ・ 放射性廃棄物以外の放射性物質に関連した施設で,その破損により,公衆及び従事者に過大な放射線被ばくを与える可能性のある施設 ・ 使用済燃料を冷却するための施設 ・ 放射性物質の放出を伴うような場合に,その外部放散を抑制するための施設で,Sクラスに属さない施設 (3) Cクラス Sクラスに属する施設及びBクラスに属する施設以外の一般産業施設又は 公共施設と同等の安全性が要求される施設をいう。 3 設置許可基準規則4条3項の解釈(要旨) 設置許可基準規則4条3項に規定する基準地震動は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとして策定する(別記2の5柱書き)。そして,基準地震動は,(1)敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び(2)震源を特定せず策定する地震動につい て,解放基盤表面(基準地震動を策定するために,基盤面上の表層及び構造物がないものとして仮想的に設定する自由表面であって,著しい高低差がなく,ほぼ水平で相当な拡がりを持って想定される基盤の表面)における水平方向及び鉛直方向の地震動として,次の方針に基づいて,それぞれ策定する(別記2の5一)。 (1) 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動(敷地ごとに当該施設敷地周 辺の地質状況,活断層の状況,プレート境界との関係等を考慮した当該敷地固有の特性に基づく地震動)敷地ごとに震源を特定して策定する地震動は,内陸地殻内地震(陸のプレートの上部地殻地震発生層に生ずる地震をいい,海岸のやや沖合で起こるものを含む。),プレート間地震(相接する二つのプレートの境界面で発生する地震)及び海洋プレート内地震(沈み込む(沈み込んだ)海洋プレート内部で発生する地震)について,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(以下検討用地震という。)を複数選定し,選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して,①応答スペクトルに基づく地震動評価及び②断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝 播特性を反映して策定する(別記2の5二柱書き)。 検討用地震の選定に当たっては,活断層の性質や地震発生状況を精査し,中・小・微小地震の分布,応力場及び地震発生様式(プレートの形状・運動・相互作用を含む。)に関する既往の研究成果等を総合的に検討する(別記2の5二なお書き①)。 断層モデルを用いた手法に基づく地震動評価を実施する場合,検討用地震 ごとに,適切な手法を用いて震源特性パラメータを設定し,地震動評価を行う(別記2の5二なお書き④ⅱ)。基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の不確かさ並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮する(同⑤)。 (2) 震源を特定せず策定する地震動 震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について 得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に,各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定する(別記2の5三)。 4 設置許可基準規則5条の解釈 設置許可基準規則5条に規定する基準津波は,最新の科学的・技術的知 見を踏まえ,波源海域から敷地周辺までの海底地形,地質構造及び地震活動性等の地震学的見地から想定することが適切なものを策定する。また,津波の発生要因として,地震のほか,地すべり,斜面崩壊その他の地震以外の要因,及びこれらの組合せによるものを複数選定し,不確かさを考慮して数値解析を実施し,策定する(別記3の1)。 上記基準津波の策定に当たっては,次の方針による(別記3の2)。(1) 津波を発生させる要因として,プレート間地震,海洋プレート内地震,海 域の活断層による地殻内地震,陸上及び海底での地すべり及び斜面崩壊,火山現象(噴火,山体崩壊又はカルデラ陥没等)を考慮するものとし,敷地に大きな影響を与えると予想される要因を複数選定する。また,津波発生要因に係る敷地の地学的背景及び津波発生要因の関連性を踏まえ,プレート間地震及びその他の地震,又は地震及び地すべり若しくは斜面崩壊等の組合せについて考慮する。 (2) プレート形状,すべり欠損分布,断層形状,地形・地質及び火山の位置等 から考えられる適切な規模の津波波源を考慮する。この場合,国内のみならず世界で起きた大規模な津波事例を踏まえ,津波の発生機構及びテクトニクス的背景の類似性を考慮した上で検討を行う。また,遠地津波に対しても,国内のみならず世界での事例を踏まえ,検討を行う。 (3) プレート間地震については,地震発生域の深さの下限から海溝軸までが 震源域となる地震を考慮する。 (4) 他の地域において発生した大規模な津波の沖合での水位変化が観測され ている場合は,津波の発生機構,テクトニクス的背景の類似性及び観測された海域における地形の影響を考慮した上で,必要に応じ基準津波への影響について検討する。 (5) 基準津波による遡上津波は,敷地周辺における津波堆積物等の地質学的 証拠及び歴史記録等から推定される津波高及び浸水域を上回っている。また,行政機関により敷地又はその周辺の津波が評価されている場合には,波源設定の考え方及び解析条件等の相違点に着目して内容を精査した上で,安全側の評価を実施するとの観点から必要な科学的・技術的知見を基準津波の策定に反映する。 (6) 耐津波設計上の十分な裕度を含めるため,基準津波の策定の過程に伴う 不確かさの考慮に当たっては,基準津波の策定に及ぼす影響が大きいと考えられる波源特性の不確かさの要因(断層の位置,長さ,幅,走向,傾斜角,すべり量,すべり角,すべり分布,破壊開始点及び破壊伝播速度等)及びその大きさの程度並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさを十分踏まえた上で,適切な手法を用いる。 (7) 津波の調査においては,必要な調査範囲を地震動評価における調査より も十分に広く設定した上で,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査, 変動地形学的調査, 地質調査及び地球物理学的調査等の特性を活かし, これらを適切に組み合わせた調査を行う。また,津波の発生要因に係る調査及び波源モデルの設定に必要な調査,敷地周辺に襲来した可能性のある津波に係る調査,津波の伝播経路に係る調査及び砂移動の評価に必要な調査を行う。 (8) 基準津波の策定に当たって行う調査及び評価は, 最新の科学的・技術的知 見を踏まえる。また,既往の資料等について,調査範囲の広さを踏まえた上で,それらの充足度及び精度に対する十分な考慮を行い,参照する。なお,既往の資料と異なる見解を採用した場合には,その根拠を明示する。(9) 基準津波については, 対応する超過確率を参照し, 策定された津波がどの程度の超過確率に相当するかを把握する。 5 設置許可基準規則37条2項の解釈 (1) 設置許可基準規則37条2項に規定する 重大事故が発生した場合 にお いて想定する格納容器破損モードは,次の(a)及び(b)の格納容器破損モードとする。なお,(a)の格納容器破損モードについては,(b)における格納容器破損モードの検討結果いかんにかかわらず,必ず含めなければならない。(a) 必ず想定する格納容器破損モード 雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損) 高圧溶融物放出/格納容器雰囲気直接加熱 原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用 水素燃焼 格納容器直接接触(シェルアタック) 溶融炉心・コンクリート相互作用 (b) 個別プラント評価により抽出した格納容器破損モード (略) (2) 設置許可基準規則37条2項に規定する原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものとは,前記(1)の想定する格納容器破損モードに対して,原子炉格納容器の破損を防止し,かつ,放射性物質が異常な水準で敷地外へ放出されることを防止する対策に有効性があることを確認するという要件を満たすものであることをいう。 (3) 前記(2)の有効性があることを確認するとは,①急速な原子炉圧力容 器外の溶融燃料-冷却材相互作用による熱的・機械的荷重によって原子炉格納容器バウンダリの機能が喪失しないこと,②原子炉格納容器の床上に落下した溶融炉心が床面を拡がり原子炉格納容器バウンダリと直接接触しないこと及び溶融炉心が適切に冷却されること,③溶融炉心による侵食によって,原子炉格納容器の構造部材の支持機能が喪失しないこと及び溶融炉心が適切に冷却されること等の評価項目をおおむね満足することを確認することをいう。 6 設置許可基準規則51条の解釈 設置許可基準規則51条に規定する溶融し,原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために必要な設備とは,次に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいう。なお,原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却は, 溶融炉心・コンクリート相互作用 (MCCI) を抑制すること及び溶融炉心が拡がり原子炉格納容器バウンダリに接触することを防止するために行われるものである。 (1) 原子炉格納容器下部注水設備を設置すること。原子炉格納容器下部注水 設備とは,次に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいう。 ア 原子炉格納容器下部注水設備(ポンプ車及び耐圧ホース等)を整備すること。(可搬型の原子炉格納容器下部注水設備の場合は,接続する建屋内 の流路をあらかじめ敷設すること。) イ 原子炉格納容器下部注水設備は,多重性又は多様性及び独立性を有し,位置的分散を図ること。ただし, ( 建屋内の構造上の流路及び配管を除く。 ) (2) これらの設備は,交流又は直流電源が必要な場合は代替電源設備からの 給電を可能とすること。 7 設置許可基準規則55条の解釈 設置許可基準規則55条に規定する工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備とは,次に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいう。 ① 原子炉建屋に放水できる設備を配備すること。 ② 放水設備は,原子炉建屋周辺における航空機衝突による航空機燃料火災に対応できること。③ 放水設備は,移動等により,複数の方向から原子炉建屋に向けて放水することが可能なこと。 ④ 放水設備は,複数の発電用原子炉施設の同時使用を想定し,工場等内発電用原子炉施設基数の半数以上を配備すること。 ⑤ 第4 海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備を整備すること。 実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の重大事故の発生及び拡大の防 止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力に係る審査基準(平成25年6月19日原規技発第1306197号原子力規制委員会決定。以下技術的能力審査基準という。乙59) 1 原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するための手順等(1.8)【要求事項】 発電用原子炉設置者において,炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器の破損を防止するため,溶融し,原子炉格納容器の下部に落 下した炉心を冷却するために必要な手順等が適切に整備されているか,又は整備される方針が適切に示されていること。 【解釈】 1 溶融し,原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために必要な手順等とは,次に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措 置を行うための手順等をいう。 なお,原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却は,溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)を抑制すること及び溶融炉心が拡がり原子炉格納容器バウンダリに接触することを防止するために行われるものである。 (1)原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却 a)炉心の著しい損傷が発生した場合において,原子炉格納容器下部注水設備により,原子炉格納容器の破損を防止するために必要な手順等を整備すること。 (2)溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下遅延・防止 a)溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下を遅延又は防止するため,原子炉圧力容器へ注水する手順等を整備すること。 2 工場等外への放射性物質の拡散を抑制するための手順等(1.12)【要求事項】 発電用原子炉設置者において,炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損又は貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷に至った場合において工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要な手順等が適切に整備されている か,又は整備される方針が適切に示されていること。 【解釈】 1工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要な手順等 とは, 次に規定する措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための手順等をいう。 a)炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損又は貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷に至った場合において,放水設備により,工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要な手順等を整備すること。 b)海洋への放射性物質の拡散を抑制する手順等を整備すること。第5 1 原子力規制委員会の内規 (行政手続法上の命令等に当たらないとされるもの) 敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド(平成25年6月19日原管地発第1306191号原子力規制委員会決定。以下地質審査ガイドという。甲60,乙45)(1) ア まえがき 目的(1) 地質審査ガイドは,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の審査において,審査官等が設置許可基準規則及び規則の解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動及び基準津波の策定並びに地盤の安定性評価等に必要な調査及びその評価の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的とする。イ 東北地方太平洋沖地震から得られた知見の反映(4) 調査結果の総合的評価においては,2011年東北地方太平洋沖地震と それに関連する事象から得られた知見が,可能な限り反映されていることが重要である。 特に,断層等に関する詳細調査については,より厳密かつ総合的に行う必要があるため,特に次のような点に注意が払われている必要がある。① 当該地域について,地震観測等により,どのような応力場であるかを把握しておくこと。 ② 変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査について,それぞれが独立した視点から行う調査であることを踏まえ,例えば変動地形学的調査により,断層の活動を示唆する結果が得られ,これを他の調査で否定できない場合には,活動性を否定できないこと等を念頭に評価を進め ること。 ③ 後期更新世(約12~13万年前)の地形面又は地層が欠如する場合には,更に古い年代の地形面や地層の変形等を総合的に検討すること。また,歴史地震・津波については,古文書等に記された歴史記録,伝承 及び考古学的調査の資料等の既存文献等の調査・分析により,敷地周辺に おいて過去に来襲した可能性のある地震・津波の発生時期,規模及び要因等について,できるだけ過去に遡って把握される必要がある。地質調査等によってその痕跡が把握できない場合は,調査地点の妥当性について詳細に検討する必要がある。 (2) ア 地質・地質構造,地下構造及び地盤等に関する調査・評価(Ⅰ) 将来活動する可能性のある断層等の認定(Ⅰ.2)(ア) 基本方針(Ⅰ.2.1) a 将来活動する可能性のある断層等は,後期更新世以降(約12 ~13万年前以降)の活動が否定できないものとすること。 b その認定に当たって,後期更新世(約12~13万年前)の地形面又は地層が欠如するなど,後期更新世以降の活動性が明確に判断でき ない場合には, 中期更新世以降 (約40万年前以降) まで遡って地形, 地質・地質構造及び応力場等を総合的に検討した上で活動性を評価すること。 c なお, 活動性の評価に当たって, 設置面での確認が困難な場合には, 当該断層の延長部で確認される断層等の性状等により,安全側に判断 する必要がある。 d また,将来活動する可能性のある断層等には,震源として考慮 する活断層のほか,地震活動に伴って永久変位が生じる断層に加え,支持地盤まで変位及び変形が及ぶ地すべり面が含まれる。 e 震源として考慮する活断層とは,地下深部の地震発生層から地 表付近まで破壊し,地震動による施設への影響を検討する必要があるものをいう。 〔解説〕 a 約12~13万年前以降の複数の地形面又は連続的な地層が十分に存在する場合は,これらの地形面又は地層にずれや変形が認められな いことを明確な証拠により示されたとき,後期更新世以降の活動を否定できる。なお,この判断をより明確なものとするため,活動性を評価した年代より古い(中期更新世(約40万年前)までの)地形面や地層にずれや変形が生じていないことが念のため調査されていることが重要である。 b 約12~13万年前の地形面又は地層が十分に存在しない場合には,より古い(中期更新世(約40万年前)まで)地形面又は地層にずれや変形が認められないことを明確な証拠により示されたとき,後期更新世以降の活動を否定できる。 c 約40万年前から約12~13万年前までの間の地形面又は地層にずれや変形が認められる場合において,約12~13万年前以降の地 形面又は地層にずれや変形が確認されない場合は,調査位置や手法が不適切である可能性が高いため,追加調査の実施も念頭に調査結果について詳細に検討する必要がある。その際,地表付近の痕跡等とその起因となる地下深部の震源断層の活動時期は常に同時ではなく,走向や傾斜は必ずしも一致しないことに留意する。 d 地震活動に伴って永久変位が生じる断層並びに支持地盤まで変位及び変形が及ぶ地すべり面の認定に当たっては,上記のほか,次の点に留意する。 ① 地震活動に伴って永久変位が生じる断層と,支持地盤まで変位及 び変形が及ぶ地すべり面とは,露頭では,区別が困難な場合がある。 ② 地震活動に伴って永久変位が生じる断層並びに支持地盤まで変位 及び変形が及ぶ地すべり面は,地震活動と常に同時に活動するとは限らない。このことを踏まえ,安易に,将来活動する可能性を否定してはならない。 ③ 上記のような断層等は, 様々な構造を呈することがある。 例えば, 一つの地すべり面においても,場所により,正断層,横ずれ断層,逆断層と似た形態を呈することがある。 (イ) 将来活動する可能性のある断層等の活動性評価(Ⅰ.2.2) 将来活動する可能性のある断層等の活動性評価に当たっては,次の各 項目が満足されていることを確認する。 a 将来活動する可能性のある断層等の認定においては,調査結果の精度や信頼性を考慮した安全側の判断が行われていることを確認する。その根拠となる地形面の変位・変形は変動地形学的調査により,地層の変位・変形は地表地質調査及び地球物理学的調査により,それぞれ認定されていることを確認する。 b 将来活動する可能性のある断層等が疑われる地表付近の痕跡や累積的な地殻変動が疑われる地形については,個別の痕跡等のみにとらわれることなく,その起因となる地下深部の震源断層を想定して調査が実施されていることを確認する。また,それらの調査結果や地形発達過程及び地質構造等を総合的に検討して評価が行われていることを確認する。その際,地表付近の痕跡等とその起因となる地下深部の震源 断層の活動時期は常に同時ではなく,走向や傾斜は必ずしも一致しないことに留意する。 c 地球物理学的調査によって推定される地下の断層の位置や形状は,変動地形学的調査及び地質調査によって想定される地表の断層等や広域的な変位・変形の特徴と矛盾のない位置及び形状として説明が可能 なことを確認する。 d 将来活動する可能性のある断層等の認定においては,一貫した認定の考え方により,適切な判断が行われていることを確認する。 e 将来活動する可能性のある断層等の認定においては, 認定の考え方, 認定した根拠及びその信頼性等が示されていることを確認する。 (〔解説〕及び〔参考〕は省略) イ 敷地内及び敷地極近傍における地盤の変位に関する調査(Ⅰ.3) (ア) 調査方針(Ⅰ.3.1) a 重要な安全機能を有する施設の地盤には,将来活動する可能性のある断層等の露頭がないことを確認する。 b 敷地内及び敷地極近傍に将来活動する可能性のある断層等の露頭が存在する場合には,適切な調査,又はその組合せによって,当該断層等の性状(位置,形状,過去の活動状況)について合理的に説明されていることを確認する。 c 敷地内及び敷地極近傍に将来活動する可能性のある断層等の露頭が存在する場合には,その断層等の本体及び延長部が重要な安全機能を 有する施設の直下にないことを確認する。なお,将来活動する可能性のある断層等が重要な安全機能を有する施設の直下にない場合でも,施設の近傍にある場合には,地震により施設の安全機能に影響がないことを, 基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価に係る審査ガイド (以 下地盤審査ガイドという。)に基づいて確認する。 d 将来活動する可能性のある断層等とは,震源として考慮する活断層のほか,地震活動に伴って永久変位が生じる断層に加え,支持地盤まで変位及び変形が及ぶ地すべり面が含まれる。 〔解説〕 a 重要な安全機能を有する施設が,将来活動する可能性のある断層等の露頭がある地盤面に設置された場合,その将来の断層等の活動によって安全機能に重大な影響を与えるおそれがある。 b このようなことを避けるため,敷地内及び敷地極近傍に将来活動する可能性のある断層等の存否や性状(位置,形状,過去の活動状況)等を明らかにする必要がある。 (イ) ウ 敷地内及び敷地極近傍の調査(Ⅰ.3.2)(略) 震源断層に係る調査及び評価(Ⅰ.4) (ア) 震源断層の評価における共通事項(Ⅰ.4.4.1) a 後記(イ)等において設定される起震断層及び活動区間や震源領域の活動性は,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査の結果に基づく平均変位速度,変位量及び活動間隔等により推定されていることを確認する。また,ハザード評価に活用されていることを確認する。 b 地震発生層の浅さ限界・深さ限界は,敷地周辺で発生した地震の震源分布・キュリー点深度・速度構造データ等を参考に設定されていることを確認する。ただし,地震発生層の浅さ限界を設定する際には, 周辺地域やテクトニクス的背景が,類似の地域における大地震の余震の精密調査による観測点直下及びその周辺の精度の良い震源の深さが参考とされていることを確認する。 c 地震発生層は,調査結果から判明した浅さ限界・深さ限界を明らかにし,調査の不確かさを踏まえた浅さ限界・深さ限界が設定されてい ることを確認する。 d 震源断層の位置及び形状等は,調査結果から判明した長さ及び断層傾斜角等に基づき,調査の不確かさを踏まえて設定されていることを確認する。 〔解説〕 a 評価された震源断層については,調査結果から得られた震源特性モデルが設定され,それらの不確かさの範囲が明らかにされ設定されている必要がある。また,活断層(群)については,震源断層の連動が考慮される必要がある。 b 基準地震動の策定において,地震動を断層モデル等により詳細に評価した結果, 震源特性パラメータ及びその不確かさ等の設定において, 情報が不足する場合, 不確かさの幅をより大きく設定する必要がある。 (〔参考〕は省略) (イ) 内陸地殻内地震に関する震源断層の評価(Ⅰ.4.4.2) a 内陸地殻内地震においては, 複数の連続する活断層や近接して分岐, 並行する複数の活断層が連動してより規模の大きな地震を引き起こすことを考慮して,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査及び地球物理学的調査の結果に基づいて起震断層が設定されていることを確認する((1))。 b 震源断層モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連付ける経験式を用いて地震規模を設定する場合には, 経験式の適用範囲を十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されていることを確認する((5))。c 震源として想定する断層の形状評価を含めた震源特性パラメータの設定に必要な情報が十分得られなかった場合には,その設定に当たっ て不確かさの考慮が適切に行われていることを確認する((6))。(〔解説〕は省略) (ウ) (エ) プレート間地震に関する震源断層の評価(Ⅰ.4.4.3)(略)海洋プレート内地震に関する震源断層の評価(Ⅰ.4.4.4) (略) エ 地震動評価のための地下構造調査(Ⅰ.5) (ア) 調査方針(Ⅰ.5.1) a 地下構造(地盤構造,地盤物性)の性状は敷地ごとに異なるため,地震動評価のための地下構造モデル作成に必要な地下構造調査に際しては,それぞれの敷地における適切な調査・手法が適用されていることを確認する((1))。 b 地震動評価の過程において,地下構造が成層かつ均質と認められる場合を除き,三次元的な地下構造により検討されていることを,地震動審査ガイドにより確認する((4))。 (〔解説〕は省略) (イ) オ 地下構造調査(Ⅰ.5.2)(略) 敷地及び敷地周辺の地盤及び周辺斜面に関する調査(Ⅰ.6)(ア) 調査方針(Ⅰ.6.1) a 原子炉建屋等構造物の基礎地盤及び周辺斜面の地盤安定性評価に必要な調査・手法が,適切に適用されていることを確認する((1))。 b 重要な安全機能を有する施設は,地震発生に伴う建物・構築物間の不等沈下(揺すりこみ沈下を含む。),液状化等の周辺地盤の変状に より安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことを確認する。また,地震発生に伴う地殻変動及び断層変位(評価に関しては,前記ア(イ)参照) によって生じる支持地盤の傾斜及び撓みに対しても, 安全機 能が重大な影響を受けるおそれがないことを確認する((2))。c 施設を設置する地盤は,耐震設計方針に規定する地震力に対して十分な支持性能を有していることを確認する。耐震設計上の重要度分類Sクラスの設備等を支持する建物・構築物の地盤の支持性能については,将来活動する可能性のある断層等の露頭がないことが確認された地盤について,地震動に対する弱面上のずれ等がないことを含め,基準地震動に対する支持性能が確保されていることを確認する(3)。( ) (イ) カ (3) 全プロセスの明示(Ⅰ.7)(略) 基準津波の策定に必要な調査(Ⅱ) ア 地盤調査(Ⅰ.6.2)(略) (ア) 調査方針(Ⅱ.1) 津波の調査においては,必要な調査範囲を地震動評価における調査よりも相当広く設定した上で,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査及び地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査が行われていることを確認する。 (イ) 上記の調査に加え,津波の発生要因に係る調査,波源モデルの設定に必要な調査,敷地周辺に襲来した可能性のある津波に係る調査,津波の伝播経路に係る調査及び砂移動の評価に必要な調査が行われていることを確認する。 (ウ) 基準津波の策定に当たって行う調査や評価は,最新の科学的・技術的知見を踏まえていることを確認する。また,既往の資料等について,調査範囲を踏まえた上で,それらの充足度及び精度に対する十分な考慮を 行い,参照されていることを確認する。なお,既往の資料と異なる見解を採用した場合には,その根拠が明示されていることを確認する。イ 敷地周辺に来襲した可能性のある津波に係る調査(Ⅱ.3) (ア) 調査範囲(Ⅱ.3.1) 津波の規模が大きいほど遠い地域の調査が必要となるため,津波堆積物 調査は,敷地に近い範囲内の適地に加え,地域特性(津波波源・海岸付近における山体崩壊等)を考慮した調査範囲が設定されていることを確認する。 (イ) 津波痕跡調査(Ⅱ.3.2) a 津波の観測記録,古文書等に記された歴史記録,伝承及び考古学的調査の資料等の既存文献等の調査・分析により,敷地周辺において過去に来襲した可能性のある津波の発生時期,規模及び要因等について,できるだけ過去に遡って把握されていることを確認する。 b 歴史記録や伝承の信頼性については,複数の専門家による客観的な評価が参照されていることを確認する。 (〔解説〕は省略) (ウ) 津波堆積物調査(Ⅱ.3.3) a 敷地周辺及び地域特性(津波波源・海岸付近における山体崩壊等)を考慮した調査範囲における津波堆積物調査を行い,津波堆積物の有無, 広域的な分布,供給源,津波の発生時期及び規模(津波高,浸水域等)等について把握されていることを確認する。b 津波堆積物の調査においては,地形の形成過程や周辺の堆積物の分布条件に応じて適切な手法を組み合わせて行われていることを確認する。また,深海底の崩壊堆積物(地震性タービダイト)についても資料等の調査が行われていることを確認する。 c 津波堆積物の調査は,調査範囲や場所に限界もあり,調査を行っても津波堆積物が確認されない場合がある。周辺の状況から津波が来襲した可能性がある場合には,安全側に判断していることを確認する。 d 津波による浸水範囲の調査や津波遡上高の調査など,調査地点が調査目的に適した地形・地質等の環境にあることを確認する。 e 津波堆積物であることを判断する際は,得られた調査・分析結果等に基づいて,評価していることを確認する。また,1地点の調査結果で判断するのではなく,広域に調査した複数地点の調査結果に基づいて総合的に評価されていることを確認する。 (〔解説〕は省略) 〔参考〕詳細な調査手順及び観点等に関して,以下に概略を示す。a.事前調査 (a) 文献調査 ① 敷地に影響を及ぼすと想定される古津波及び古地震の記録,津 波堆積物が残りやすそうな地形(堆積速度等),堆積物の供給源 に関する情報並びに古環境の変遷等が調査されていることを確 認する。 ② 古津波及び古地震の一覧表,津波痕跡図並びに環境(古環境) について考慮した地形分類図を作成し,各調査地域の地形発達が 検討・整理されていることを確認する。 (b) 現地調査 ① 調査対象地域の堆積場の環境,地形的制約,地域特性による制限及び断層による変位の有無等が調査されていることを確認する。 ② 簡易掘削等を用いて津波堆積物の候補(イベント堆積物)が確 認されていること。 ③ 必要に応じて,地中レーダー等の最新技術を用いるのが良い。 ④ 堆積物が確認できる頻度を考慮するとともに,堆積物の分布を 把握するため,密に多点で簡易掘削が実施されていることを確認 する。 ⑤ 少なくとも,完新世のうち,おおむね現海水準と同じ海水準で あった時代以降に形成された津波堆積物を対象とするため,古い 年代まで含む試料採取が行われていることを確認する。 (c) 地点の選定 ① 本調査地点として,基本的に,津波堆積物らしきイベント堆積 物が発見された地点及び地形(古環境),堆積環境場(堆積速度 等)並びに堆積物の供給源の観点からその分布の可能性が否定で きない地点が選定されていることを確認する。 ② また,津波堆積物であるかどうか判別するため,イベント堆積 物の平面的な連続性について確認することができる,十分な調査 範囲と調査密度が設定されているか確認する。 b.本調査 (a) 掘削調査 ① イベント堆積物の分布,形成年代及び供給源等の情報を取得す るため,堆積場,地形特性,地域特性及び土壌の状態に応じ,地 形学,地質学及び地球物理学等を適切に組み合わせてイベント堆 積物とその下位・上位の平常時堆積物の採取が行われていること を確認する。② 掘削調査は,堆積物の分布を把握できる精度で密に多点で実施 し,完新世に形成された津波堆積物を対象とするため,可能な限 り古い年代まで含む試料採取が行われていることを確認する。 (b) 観察及び記載方法 ① 露頭において観察できる堆積物や柱状試料等の特徴を記載・把 握し,層序,イベント堆積物の成因の評価,津波堆積物の識別を 行うための基礎情報が取得されていることを確認する。 ② 対象とする露頭が将来の人工改変で消失する可能性や,堆積構 造や分析試料の経時的変化を考慮し,できる限り詳細な記載が行 われていることを確認する。 ③ 少なくとも審査が終了するまで,試料(コア,分析試料全て) が保存されていることを確認する。 (c) 分析方法 ① 露頭や柱状試料から採取されたイベント堆積物及びその下位・ 上位の平常時堆積物について,堆積物の供給源や構成物,物性値, 堆積物の堆積年代及び環境変化等の情報が取得されていること を確認する。 ② 試料の分析方法は,堆積学的分析,年代学的分析,古生物学的 分析,化学的分析及び鉱物組成分析を組み合わせて実施されてい ることを確認する。 c.総合評価 結果の解釈は,一つの分析項目のみにとらわれることなく,それらを総合的に判断する必要がある。 2 基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(平成25年6月19日原管地発第1306192号原子力規制委員会決定。以下地震動審査ガイドという。乙52)(1) 目的(Ⅰ.1.1) 地震動審査ガイドは,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計 方針に関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則及び規則の解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的とする。 (2) 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動(Ⅰ.3) ア 策定方針(Ⅰ.3.1) 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の策定においては,検討用地震ごとに応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価に基づき策定されている必要がある。 なお, 地震動評価に当たっては,敷地における地震観測記録を踏まえて,地震発生様式,地震波の伝播経路等に応じた諸特性(その地域における特性を含む。)が十分に考慮されている必要がある。 震源が敷地に近く,その破壊過程が地震動評価に大きな影響を与えると考えられる地震については,断層モデルを用いた手法が重視されている必 要がある。 イ (ア) 検討用地震の選定(Ⅰ.3.2) 震源として想定する断層の形状等の評価(Ⅰ.3.2.2) 内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について, 各種の調査及び観測等により震源として想定する断層の形状等の評価が適切に行われていることを確認する。 検討用地震による地震動を断層モデル等により詳細に評価した結果,断層の位置,長さ等の震源特性パラメータの設定やその不確かさ等の評価においてより詳細な情報が必要となった場合,変動地形学的調査,地 表地質調査,地球物理学的調査等の追加調査の実施を求めるとともに,追加調査の後,それらの詳細な情報が十分に得られていることを確認する。(イ) 震源特性パラメータの設定(Ⅰ.3.2.3) ① 内陸地殻内地震の起震断層,活動区間及びプレート間地震の震源領域に対応する震源特性パラメータに関して,既存文献の調査,変動地形学的調査,地表地質調査,地球物理学的調査の結果を踏まえ適切に 設定されていることを確認する。 ② 震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連付ける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式 が有するばらつきも考慮されている必要がある。 ③ プレート間地震及び海洋プレート内地震の規模の設定においては,敷地周辺において過去に発生した地震の規模,すべり量,震源領域の広がり等に関する地形・地質学的,地震学的及び測地学的な直接・間接的な情報が可能な限り活用されていることを確認する。国内のみな らず世界で起きた大規模な地震を踏まえ,地震の発生機構やテクトニクス的背景の類似性を考慮した上で震源領域が設定されていることを確認する。特に,スラブ内地震についてはアスペリティの応力降下量(短周期レベル)が適切に設定されていることを確認する。 ④ 長大な活断層については,断層の長さ,地震発生層の厚さ,断層傾斜角,1回の地震の断層変位,断層間相互作用(活断層の連動)等に関する最新の研究成果を十分考慮して,地震規模や震源断層モデルが設定されていることを確認する。 ⑤ 孤立した長さの短い活断層については,地震発生層の厚さ,地震発生機構,断層破壊過程,スケーリング則等に関する最新の研究成果を十分に考慮して,地震規模や震源断層モデルが設定されていることを確認する。ウ 地震動評価(Ⅰ.3.3) (ア) 応答スペクトルに基づく地震動評価 検討用地震ごとに適切な手法を用いて応答スペクトルが評価され,それらを基に設定された応答スペクトルに対して,地震動の継続時間,振 幅包絡線の経時的変化等の地震動特性が適切に設定され,地震動評価が行われていることを確認する(Ⅰ.3.3.1柱書き)。 (イ) 断層モデルを用いた手法による地震動評価 a 検討用地震ごとに適切な手法を用いて震源特性パラメータが設定され, 地震動評価が行われていることを確認する (Ⅰ.3.(1)。 3.2 ) b 統計的グリーン関数法及びハイブリッド法(理論的手法と統計的あるいは経験的グリーン関数法を組み合わせたものをいう。 以下同じ。 ) による地震動評価においては,・ 地質地質構造等の調査結果に基づき, 各々の手法に応じて地震波の伝播特性が適切に評価されていることを確認する(Ⅰ.3.3.2(3))。 c 震源モデルの設定(Ⅰ.3.3.2(4)①) 震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震調査研究推進本部による震源断層を特定した地震の強震動予測手法(以 下推本レシピという。)等の最新の研究成果を考慮し設定されて いることを確認する。 アスペリティの位置が活断層調査等によって設定できる場合は,その根拠が示されていることを確認する。根拠がない場合は,敷地への影響を考慮して安全側に設定されている必要がある。なお,アスペリティの応力降下量(短周期レベル)については,新潟県中越沖地震を踏まえて設定されていることを確認する。 d 統計的グリーン関数法やハイブリッド法による地震動評価においては,震源から評価地点までの地震波の伝播特性,地震基盤からの増幅特性が地盤調査結果等に基づき評価されていることを確認する(Ⅰ.3.3.2(4)③1))。 (ウ) 不確かさの考慮 断層モデルを用いた手法による地震動の評価過程に伴う不確かさにつ いて,適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。併せて,震源特性パラメータの不確かさについて,その設定の考え方が明確にされていることを確認する(Ⅰ.3.3.3(2))。 ① 支配的な震源特性パラメータ等の分析 震源モデルの不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・ 下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の不確かさ並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)を考慮する場合には,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析し,その結果を地震動評価に反映させることが必要である。特に,アスペリ ティの位置・応力降下量や破壊開始点の設定等が重要であり,震源モデルの不確かさとして適切に評価されていることを確認する。 ② 必要に応じた不確かさの組み合わせによる適切な考慮 地震動の評価過程に伴う不確かさについては,必要に応じて不確か さを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮されていることを確認する。 地震動評価においては,震源特性(震源モデル),伝播特性(地殻・上部マントル構造),サイト特性(深部・浅部地下構造)における各種の不確かさが含まれるため,これらの不確実さ要因を偶然的不確 実さと認識論的不確実さに分類して,分析が適切にされていることを確認する。(3) 震源を特定せず策定する地震動(Ⅰ.4)(略) (4) 基準地震動(Ⅰ.5) ア 策定方針(Ⅰ.5.1) 基準地震動は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動の評価結果を踏まえて,基準地震動の策定 過程に伴う各種の不確かさを考慮して適切に策定されている必要がある((1))。 基準地震動の策定に当たっては, 敷地における地震観測記録を踏まえて, 地震発生様式,地震波の伝播経路等に応じた諸特性(その地域における特性を含む。)が十分に考慮されている必要がある((2))。 イ (ア) 基準地震動の策定(Ⅰ.5.2) 応答スペクトルに基づく手法による基準地震動は,検討用地震ごとに評価した応答スペクトルを下回らないように作成する必要があり,その際の振幅包絡線は,地震動の継続時間に留意して設定されていることを確認する。 (イ) 断層モデルを用いた手法による基準地震動は,施設に与える影響の観点から地震動の諸特性(周波数特性,継続時間,位相特性等)を考慮して,別途評価した応答スペクトルとの関係を踏まえつつ複数の地震動評価結果から策定されていることを確認する。なお,応答スペクトルに基づく基準地震動が全周期帯にわたって断層モデルを用いた基準地震動を 有意に上回る場合には,応答スペクトルに基づく基準地震動で代表させることができる。 (ウ) 震源を特定せず策定する地震動による基準地震動は,設定された応答スペクトルに対して,地震動の継続時間,振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性が適切に考慮されていることを確認する。 (エ) 基準地震動は,最新の知見や震源近傍等で得られた観測記録によってその妥当性が確認されていることを確認する。3 基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価に係る審査ガイド(地盤審査ガイド。原管地発1306194号原子力規制委員会決定。甲114,乙171)(1) 目的(1.1) 地盤審査ガイドは,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階に関わる審査 において, 審査官等が設置許可基準規則及び規則の解釈の趣旨を十分踏まえ,耐震重要施設等の基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的とする。 (2) ア 基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価に関する安全審査の基本方針(2)原子炉建屋等の基礎地盤の安定性 原子炉建屋等が設置される地盤は,将来も活動する可能性のある断層等の露頭がないことが確認された地盤であり,想定される地震動の地震力に対して,当該地盤に設置する耐震設計上の重要度分類Sクラスの機器及び系統を支持する建物及び構築物の安全機能が重大な影響を受けないことを 確認する。具体的な確認事項は次のとおりである。 ・ 耐震設計上の重要度分類Sクラスの建物及び構築物が設置される地盤には,将来も活動する可能性のある断層等が露頭していないこと。 ・ 想定される地震動に対して,耐震設計上の重要度分類Sクラスの機器及び系統を支持する建物及び構築物の安全機能が重大な影響を受けないこと。 ・ 地震発生に伴う周辺地盤の変状による建物・構築物間の不等沈下,液状化,揺すり込み沈下等により,当該建物及び構築物の安全機能が重大な影響を受けないこと。 ・ 地震発生に伴う地殻変動による基礎地盤の傾斜及び撓みにより,重要な安全機能を有する施設が重大な影響を受けないこと。傾斜及び撓みは,広域的な地盤の隆起及び沈降によって生じるもののほか,局所的に生じるものも含む。イ 周辺斜面安定性 Sクラスの施設の周辺斜面が, 想定される地震動の地震力により崩壊し, 当該施設の安全機能が重大な影響を受けないことを確認する。 (3) 建物及び構築物が設置される地盤のモデル化(3) 建物及び構築物が設置される地盤については, 各種の地質調査, 物理探査, 地盤調査,地盤材料試験等の結果に基づき,地盤の構造,境界条件,初期条件,地盤材料の物理特性,力学特性(地震波の伝播特性も含む。)等が適切にモデル化されていることを確認する。特に次の点を確認する。 ・ 地盤の力学的な構成関係及びそれらに含まれる地盤パラメータが,各種の地質調査,物理探査,地盤調査,地盤材料試験等の結果を総合的に判断して適切に設定されていること。 ・ 地盤パラメータの設定に当たっては,地盤材料の物理特性及び力学特性における異方性,不均質性,不連続性等の影響,試験結果における試料,試験地盤の乱れの影響,更に調査及び試験の結果に含まれる不確か さ(ばらつき)を適切に考慮して設定されていること。 ・ 複数の調査や試験の結果によって同一の力学特性が評価される場合には,最新の知見に基づいて,これらの結果が合理的に説明されていること。 ・ (4) 地質調査等の詳細は,地質審査ガイドを参照するものとする。 基礎地盤の安定性評価(4) ア 地震力に対する基礎地盤の安定性評価(4.1) (ア) 評価項目 建物及び構築物が設置される地盤について,基礎地盤のすべり,基礎 の支持力及び基礎底面の傾斜の観点から照査されていることを確認する。a 基礎地盤のすべり・ 動的解析の結果に基づき,基礎地盤の内部及び基礎底面を通るす べり面が仮定され,そのすべり安全率によって総合的に判断されていること。 ・動的解析における時刻歴のすべり安全率が1. 5以上であること。 その際,地盤内部の不安定領域(地盤要素の安全率が低い領域)の 分布及び性状(応力,ひずみ等)を吟味して,仮定したすべり面の位置に係る妥当性を確認する必要がある。 b 基礎の支持力 原位置試験の結果等に基づいて設定されていることを確認する。なお,杭の載荷試験等,設置許可申請段階に試験を行えないものに関し ては,安全審査においてその基本設計方針を確認し,試験実施後に確認を行うものとする。 c 基礎底面の傾斜 許容される傾斜が各建物及び構築物に対する要求性能に応じて設 定されており,動的解析の結果に基づいて求められた基礎の最大不等 沈下量及び残留不等沈下量による傾斜が許容値を超えていないことを確認する。 一般建築物の構造的な障害が発生する限界 (亀裂の発生率, 発生区間等により判断)として建物の変形角を施設の傾斜に対する評価の目安に,1/2000以下となる旨の評価をしていることを確認する。なお,これは,基本設計段階での目安値であり,機器,設備等 の仕様が明らかになる詳細設計段階において詳細に評価を行うこととなる。 (イ) 確認事項 a 基準地震動 基準地震動は,解放基盤表面で定義されたものが用いられていることを確認する。詳細は地震動審査ガイドを参照するものとする。b 入力地震動の策定 入力地震動の評価手法としては,基準地震動及び地盤モデルを用いた1次元,2次元,3次元の各種手法がある。評価手法は,対象とする地盤の不整形性に応じて選択する。選択した手法に応じて基準地震動及び地盤モデルが適切に作成されていることを確認する。 c 評価対象断面の選定 2次元解析の場合は,評価断面として,地形,地質,地盤等の状況から, 最も厳しいと想定されるものが選定されていることを確認する。 d 解析モデルの設定と結果の評価 次の点等を確認する。 ・ 荷重の設定において,施工過程や自然条件の状況変化等を踏まえ た初期地圧,地震力,地下水位等が考慮されていること。 ・ 入力地震動が水平及び上下方向の基準地震動を基に設定され,そ れらが同時に解析モデルに作用されていること。 ・ 建物及び構築物が設置される地盤が第四紀層等の砂地盤又は砂礫 地盤で地下水位が高い場合には,液状化の可能性を検討していること。 イ 周辺地盤の変状による重要な安全機能を有する施設への影響評価(4.2) (ア) 評価方針 隣接する建物及び構築物の間で生じる不等沈下及び地表面の不陸について照査されていること。不等沈下には,基礎の周囲の埋め戻し土の揺すり込み沈下,液状化による沈下に起因するものを含む。また,地表面の不陸には,液状化等によるものをいう。 (イ) 確認事項 圧密,揺すり込み沈下及び液状化によって隣接する建物・構築物の間で生じる不等沈下等の変状が生じるおそれがある場合,これらの現象が生じたとしても,施設の安全機能が重大な影響を受けないよう,所要の対策を講じる旨の基本設計方針であることを確認する。 ウ 地殻変動による基礎地盤の変形の影響(4.3) (ア) 評価方針 ・ 基礎地盤の支持性能と構造物の安全性に対する評価によって照査されていること。 ・ 建物及び構築物の基礎及び躯体に対して,鉛直面内で生じる傾斜や段差(縦ずれ)だけでなく,水平面内で生じるせん断変形や横ずれについても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことが 照査されていること。 ・ 地殻の広域的な変形(隆起,沈降及び水平変位)については,基礎底面の傾斜について照査されていること。 ・ 局所的なものについては,支持地盤の傾斜及び撓みの安全性への影響が大きいおそれがあるため,最新の科学的,技術的知見を踏まえ, 安全側の評価が行われていることを確認する。 (イ) 確認事項 a 基礎地盤の支持性能 前記ア(ア)に同じ。 b 基礎及び躯体の構造的な健全性 ・ 基礎地盤に生じる変形によって基礎及び躯体に生じる変形が,建 物及び構築物の要求性能に応じて設定される許容値を超えないこ とを確認する。 ・ 周辺地盤の隆起及び沈降については,地殻や敷地周辺の地盤の3 次元構造,破砕帯等の不均質性等を考慮していることを確認する。以上 (別紙3)推本レシピの概要 推本レシピは,震源断層を特定した地震を想定した場合の強震動を高精度に予測するための,誰がやっても同じ答えが得られる標準的な方法論を確立することを目指しており,今後も強震動評価における検討により,修正を加え,改訂されていくことを前提としている。 推本レシピは,次の1から4までのとおり,①特性化震源モデル(強震動(地震によって地面等に生ずる強い揺れ)を再現するために必要な震源の特性を主要なパラメータで表した震源モデル)の設定,②地下構造モデルの作成,③強震動計算, ④予測結果の検証の四つの過程から成る。 ここに示すのは,最新の知見に基づき最もあり得る地震と強震動を評価するための方法論であるが,断層とそこで将来生ずる地震及びそれによってもたらされる強震動に関して得られた知見はいまだ十分とはいえないことから,特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合には,その点に十分留意して計算手法と計算結果 を吟味・判断した上で震源断層を設定することが望ましい。 1 特性化震源モデルの設定-活断層で発生する地震の特性化震源モデルについて(推本レシピ1.1。推本レシピには,ほかにプレート間地震の震源化モデル及びスラブ内地震の特性化震源モデルについても記載されているが,省略する。) ①断層全体の形状や規模を示す巨視的震源特性,②主として震源断層の不均質性を示す微視的震源特性,③破壊過程を示すその他の震源特性を考慮して,震源特性パラメータを設定する。 活断層で発生する地震は,海溝型地震と比較して地震の発生間隔が長いために, 最新活動時の地震観測記録が得られていることはまれである。 したがって, 活断層で発生する地震を想定する場合には,変動地形調査や地表トレンチ調査による過去の活動の痕跡のみから特性化震源モデルを設定しなければならないため,海溝型地震の場合と比較してそのモデルの不確定性が大きくなる傾向にある。このため,そうした不確定性を考慮して,複数の特性化震源モデルを想定することが望ましい。 (活断層とは,過去に活動(破壊)を繰り返し,今後も活動する可能性がある断層をいう。乙155,丙8,弁論の全趣旨) (1) 巨視的震源特性(推本レシピ1.1.1) ①震源断層モデルの位置と構造,②震源断層モデルの大きさ(長さ・幅) ・深さ・傾斜角, ③地震規模, ④震源断層モデルの平均すべり量を設定する。 ア 震源断層モデルの位置・構造 震源断層モデルの位置及び走向の設定に当たっては,基本的に,地震調 査委員会による長期評価結果で示された活断層位置図を参照する。長期評価がされていない活断層(帯)については,変動地形調査や既存のデータを取りまとめた新編日本の活断層等を基に設定する。 セグメント (最大規模の地震を発生させる単位にまとめた活断層の中で, 分割放出型地震としてやや規模の小さな地震を発生させる単位)も設定す る。 イ 震源断層モデルの大きさ(長さL・幅W)・深さ・傾斜角(δ) 過去の地震記録や調査結果等の諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合,震源断層モデルの長さL(㎞)については,前記アで想 定した震源断層モデルの形状を基に設定する。幅W(㎞)については,WとLの経験的関係(W=L(L<Wmax),W=Wmax(L≧Wmax))を用いる。ここで,Wmax=Ts/sinδ,Ts=Hd-Hs(Ts:地震発生層の厚さ(㎞)(≦20㎞),Hd:地震発生層下限の深さ(㎞),Hs:断層モデル上端の深さ(㎞)) WとLの経験的関係を示す上記の式は,内陸地殻内地震の活断層で発生する地震の震源断層モデルの幅Wが,地震発生層の厚さTsに応じて飽和して一定値となることを示している。震源断層モデルの傾斜角については,地表から地震発生層の最下部に至る活断層全体の形状が実際に明らかとなった例は少ないが,その一方で,次の地震規模の推定に大きな影響を与えるため,注意深く設定する必要がある。断層の傾斜角を推定する資料が得られない場合は,断層のずれのタ イプ(ずれの方向)により次に示す傾斜角(逆断層・正断層:45°,横ずれ断層:90°)を基本とする。ただし,周辺の地質構造,特に活断層の分布を考慮し,対象断層とその周辺の地質構造との関係が説明できるように留意する。 ウ 地震規模(地震モーメントM0) 過去の地震記録や調査結果等の諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合,地震モーメントM0(N・m)と震源断層の面積S(km2)との経験的関係(経験式)により算出する。具体的には,次のとおり,地震モーメントが大きい地震であるか否かによって経験式を使い分ける。 (ア) M0=7.5×1018(Mw6.5相当)未満の地震 M0=(S/2.23×1015)3/2×10-7(以下,この式をサマビルほか式という。) (イ) M0=7.5×1018以上1.8×1020(Mw7.4相当)以下の地震M0=(S/4.24×1011)2×10-7(以下,この式を入倉・三宅式という。) (ウ) M0=1.8×1020超の地震 M0=S×1017 ただし,この式の基になったデータ分布の上限値M0=1.1×1021に留意する必要がある。 (地震モーメントとは,震源断層をずれ動かすために必要なエネルギー量であるとともに,震源断層面がどのくらいの力でどの程度ずれ動いたのか,すなわち地震の規模を表す物理量である。モーメントマグニチュードMwとは,地震モーメントM0から定義されるマグニチュード(地震の規模を表す尺度)であり,Mw=2/3×(log10M0-9.1)との計算式で求められる。(乙155)) エ 震源断層モデルの平均すべり量D 震源断層全体の平均すべり量D(m)と地震モーメントM0(N・m)の関係は,震源断層の面積S(km2)と剛性率μ(N/㎡)を用いて,次の式で表される。 D=M0/(μ・S) 剛性率については,地震発生層の密度ρ(㎏/㎥),S波速度β(㎞/ s)から次の式で算出する。 μ=ρ・β2 (2) 微視的震源特性(推本レシピ1.1.2) ①アスペリティの位置・個数,②アスペリティの面積,③アスペリティ及 び背景領域の平均すべり量,④アスペリティ及び背景領域の実効応力,⑤fmax ,⑥平均破壊伝播速度,⑦すべり速度時間関数,⑧すべり角を設定する。 ア アスペリティの位置・個数 (アスペリティとは,震源断層面上で通常は強く固着していて,ある時にずれて(すべって)地震波を出す領域のうち,周囲に比べて特にす べり量が大きい領域をいう。アスペリティからの地震波は周囲よりも強いものになるといわれる。(乙147,155)) 震源断層モデルのアスペリティの位置は,活断層調査から得られた1回の地震イベントによる変位量分布又は平均変位速度 (平均的なずれの速度) の分布より設定する。この推定方法は,震源断層深部のアスペリティの位 置が推定されないなど,不確定性が高い。しかし,アスペリティの位置の違いは,強震動予測結果に大きく影響することがこれまでの強震動評価結果から明らかになっている。したがって,アスペリティの位置に対する強震動予測結果のばらつきの大きさを把握するため,複数のケースを設定しておくことが,防災上の観点からも望ましい。 アスペリティの位置については,平均的な地震動を推定することを目的とする場合で平均変位速度の分布等の情報に基づき設定できないときは, やや簡便化したパラメータ設定として,アスペリティが1個の場合には中央付近,アスペリティが複数ある場合にはバランスよく配分し,設定するケースを基本ケースとする。この場合にも,必要に応じ複数ケースを設定することが望ましい。 アスペリティの個数は,研究成果を参照し,状況に応じて1セグメント 当たり1個か2個に設定する。 イ (ア) アスペリティの面積 アスペリティの総面積Sa(km2)は,強震動予測に直接影響を与える短周期領域における加速度震源スペクトルのレベル(以下短周期レベルという。)と密接な関係があるため,震源断層モデルの短周期レベルを設定した上で,アスペリティの総面積Saを求める。活断層で発生する地震については,最新活動の地震による短周期レベルの想定が現時点では不可能である。その一方で,想定する地震の震源域に限定しなければ,最近の地震の解析結果より短周期レベルA(N・m/s2)と地震モー メントM0(N・m)との経験的関係が求められている。そこで,次の式によって短周期レベルを算出する。 1/3 A=2.46×1010× (M0×107)(以下, この式を 壇ほか式 という。 ) アスペリティの総面積Saは=πr2より求められる。 ここでは便宜的 に震源断層とアスペリティの形状は面積が等価な円形と仮定する。r(㎞)は,アスペリティの形状を面積が等価となる円形で近似した場合の半径であり,これを,上記のとおり推定された短周期レベルAを用いて,次の式により算出する。r=(7π/4)・{M0/(A・R)}・β2 なお,上式は,シングル・アスペリティモデル(ただ一つのアスペリティを持つモデル) におけるM0とAの理論的関係から, 次の二つの式に より導出されたものである(これらの式は,複数のアスペリティモデル を持つ場合(マルチ・アスペリティモデル)にも拡張可能である。)。M0=(16/7)・r2・R・Δσa A=4π・r・Δσa・β2 ここで,R(㎞)は震源断層の形状を面積が等価となる円形で近似した場合の半径であり,Δσa(MPa)はアスペリティの応力降下量,β(㎞ /s)は震源域における岩盤のS波速度である。 (地震が発生すると,地中に震動が生じ,周囲に波(地震波)として伝わる。地震波は様々な周期(波が1往復する時間)の波の集合として捉えられるところ,短周期レベルは,震源から放出された直後の地震波のうち短周期領域における加速度の大きさを示すパラメータである。 乙155) (イ) 震源断層の長さが震源断層の幅に比べて十分に大きい長大な断層に対して,円形破壊面を仮定することは必ずしも適当ではないことが指摘されている。推本レシピでは,巨視的震源特性である地震モーメントM0 (N・m)を,円形破壊面を仮定しない入倉・三宅式等から推定しているが,微視的震源特性であるアスペリティの総面積の推定には,円形破壊面を仮定したスケーリング則から導出される前記(ア)の式を適用している。このような方法では,結果的に震源断層全体の面積が大きくなるほど, 既往の調査研究成果と比較して過大評価となる傾向にあるため, ・ 微視的震源特性についても円形破壊面を仮定しないスケーリング則を適用する必要がある。しかし,長大な断層のアスペリティに関するスケーリング則については,そのデータも少ないことから,未解決の研究課題となっている。そこで,このような場合には,前記(ア)の式を用いず,震源断層全体の面積に対するアスペリティの総面積の比率約22%からアスペリティの総面積を推定する方法がある。 ウ アスペリティ・背景領域の平均すべり量(略) エ 震源断層全体及びアスペリティの静的応力降下量と実効応力及び背景領域の実効応力 (静的応力降下量とは,断層が動く前の応力(初期応力)と断層が動いた後の応力(最終応力)との差をいい,地中の岩盤に蓄えられていた応力が,断層で破壊が生じたことにより解放したことにより低下(降下)し た分を示す。実効応力とは,破壊直前の応力(強度超過)と動摩擦応力(断層が動いている際に断層面に働く摩擦力)の差をいい,断層運動に伴い放出された力の大きさを表すという点では,静的応力降下量と同様のものと考えてよい。乙155) (ア) アスペリティの静的応力降下量Δσa(MPa)は,次の式を用いれば,震源断層全体の面積S(km2)とアスペリティの総面積Sa(km2)の比率及び震源断層全体の静的応力降下量Δσ(MPa)を与えることにより,算出することができる。 Δσa=(S/Sa) ・Δσ(以下,エの項において(21-1)式 という。) (1パスカル(Pa)とは,1㎡の面積につき1N(ニュートン)の力が作用する圧力又は応力をいう。MPa(メガパスカル)とは,パスカルの106(100万)倍である。) 円形破壊面を仮定できる規模の震源断層に対しては,震源断層全体の 地震モーメントM0(N・m)が震源断層全体の面積S(=πR2)(km2) の1. 5乗に比例するため, 次の式によりΔσaを算出することができる。Δσa=(7/16)・M0/(r2・R)(以下,エの項において(21-2)式という。) ここで,r(㎞)は,アスペリティ全体の等価半径である(前記イ(ア)参照)。 (イ) 一方,前記イ(イ)のとおり,長大な断層に関しては,円形破壊面を仮定して導かれた同(ア)のアスペリティの等価半径r (㎞) を算出する方法に 問題があるため,(21-2)式を用いることができない。この場合には,(21-1)式からアスペリティの静的応力降下量Δσa(MPa)を求めるが,その際,震源断層全体の面積S(km2)とアスペリティの総面積Sa(km2)の比率は,約22%とする。 内陸の長大な横ずれ断層に対する関係式としては, 断層幅W=15㎞, a=1.4×10-2,b=1.0(a,bは数値計算により与えられる構造依存のパラメータ)を仮定した上で,収集した観測データに基づく回帰計算により,Δσ=3.1MPaを導出している。この値の適用範囲については今後十分に検討していく必要があるが,長大断層の静的応力降下量 に関する新たな知見が得られるまでは,暫定値としてこれを与えることとする。 (ウ) 円形破壊面を仮定せずアスペリティ面積比を22%,静的応力降下量を3.1MPaとする取扱いは,暫定的に,次のいずれかの断層の地震を 対象とする。 ① 断層幅と平均すべり量とが飽和する目安となるM0=1.8×1020N・mを上回る断層 ② M0=1.8×1020N・mを上回らない場合でも, アスペリティ面積比が 大きくなったり背景領域の応力降下量が負になるなど,非現実的なパ ラメータ設定になり,円形クラックの式を用いてアスペリティの大きさを決めることが困難な断層等オ fmax(略) カ 平均破壊伝播速度Vr 平均破壊伝播速度Vr(㎞/s)は,特にその震源域の詳しい情報がない限り,地震発生層のS波速度β(㎞/s)との経験式 Vr=0.72・β により推定する。 キ すべり速度時間関数(略) ク すべり角(略) (3) その他の震源特性 ①破壊開始点,②破壊形態を設定する。 ア 破壊開始点 破壊開始点の位置は強震動予測結果に大きく影響を与えるため,分布形態がはっきりしない場合には,必要に応じて複数のケースを設定するのが望ましい。破壊開始点はアスペリティの外部に存在する傾向にあるため,アスペリティの内部には設定しないようにする。深さについては,内陸の 横ずれ断層は深い方から浅い方へ破壊が進む傾向にあるため,震源断層の下部に設定する。 破壊開始点については,平均的な地震動を推定することを目的とする場合で,活断層の形状等から破壊開始点を特定できないときには,やや簡便化したパラメータ設定として,横ずれ成分が卓越する場合にはアスペリテ ィ下端の左右端,縦ずれ成分が卓越する場合にはアスペリティ中央下端を基本ケースとする。この場合にも,必要に応じ複数ケースを設定することが望ましい。 イ 破壊形態 破壊開始点から放射状に破壊が進行していくものとし,異なるセグメント間では,最も早く破壊が到達する地点から破壊が放射状に伝播していくと仮定する。2 地下構造モデルの作成(推本レシピ2) (1) 詳細な強震動評価における地下構造モデルを作成する場合,成層構造を 前提とし,各層の密度,P波・S波速度,Q値(地震波が伝播していく媒介(媒質)におけるエネルギーの減衰特性を示す値。乙147)及び層境界面 の形状等を主なパラメータとする三次元構造として定義し,地下構造モデルを,工学的基盤(建築や土木等の工学分野での構造物設計の際に地震動設定の基礎とする堅固な地盤。S波速度は多くの場合300~700m/sとされている。)と地震基盤(地殻最上部にあるS波速度3㎞/s程度(以上)の堅硬な岩盤)の各上面を境界とする次の三つの領域に分けて作成する。 ① 浅部地盤構造:工学的基盤の目安である300~700m/sのS波速度を示す層の上面から地表までの地盤構造。深さは0~数十m。 ② 深部地盤構造:地震基盤の目安である3㎞/s程度のS波速度を示す層の上面から工学的基盤上面までの地盤構造。深さは数十~3000m程度。 ③ 地震基盤以深の地殻構造:地震基盤上面より深い地殻構造。地震波の伝播経路特性に影響する。 (2) 水平成層構造が想定可能なことがあらかじめ分かっている場合には,水 平成層構造に対する強震動の理論計算がはるかに容易であるから,三次元的に不均質なモデルをあえて作ることは適切でない。 3 強震動計算(推本レシピ3) 強震動計算では,地盤のモデル化や設定条件の違いから,工学的基盤上面までの計算方法と工学的基盤上面~地表の計算方法が異なる。なお,強震動計算の結果は,時刻歴波形,最大加速度,最大速度,応答スペクトル等を指す。(時刻歴波形とは,地震波の到達によって起こされた評価地点での地震動が 時間の経過とともに生ずる変化を表したものをいう。変化の指標として,加速度,速度,変位があるが,強震動予測においては,加速度の時間変化を指すことが多い。乙147)(1) 工学的基盤上面までの計算方法 ア 工学的基盤上面までの強震動計算方法は,経験的手法,半経験的手法,理論的手法,ハイブリッド合成法の四つに大きく分類され,データの多寡 ・目的に応じて手法が選択されている。それぞれの手法の特徴は,次のとおりまとめられる。 ① 経験的手法 過去のデータを基に,最大加速度,最大速度,加速度応答スペクトル等の値をマグニチュードと距離の関数で算出する最も簡便な方法である。平均的な値で評価するため,破壊過程の影響やアスペリティの影響は個 別には考慮しない。 ② 半経験的手法 既存の小地震の波形から大地震の波形を合成する方法で,経験的グリーン関数法と統計的グリーン関数法がある。 経験的グリーン関数法は,想定する断層の震源域で発生した中小地震の波形を要素波(グリーン関数)として,想定する断層の破壊過程に応じて足し合わせる方法である。時刻歴波形を予測でき,破壊過程の影響やアスペリティの影響を考慮できる。ただし,あらかじめ評価地点で適当な観測波形が入手されている必要がある。 統計的グリーン関数法は,多数の観測記録の平均的特性をもつ波形を要素波とする方法である。評価地点で適当な観測波形を入手する必要はないが,評価地点固有の特性に応じた震動特性が反映されにくい。時刻歴波形は経験的グリーン関数法と同様の方法で計算される。 (グリーン関数とは,物理の分野において,波動による伝播過程等を 表現することに用いられており,地震の分野においても,一般的に震源に単位の力が作用したときの観測点での応答としてみなすことができる。乙147)③ 理論的手法 地震波の伝播特性と表層地盤の増幅特性を弾性波動論により計算する方法。時刻歴波形を予測でき,破壊過程の影響やアスペリティの影響を考慮できる。震源断層の不均質特性の影響を受けにくい長周期領域につ いては評価し得るものの,短周期地震動の生成に関係する破壊過程及び地下構造の推定の困難さのため,短周期領域についての評価は困難となる。 ④ ハイブリッド合成法 震源断層における現象のうち長周期領域を理論的手法で,破壊のラン ダム現象が卓越する短周期領域を半経験的手法でそれぞれ計算し,両者を合成する方法。時刻歴波形を予測でき,破壊の影響やアスペリティの影響を考慮できる。広帯域の評価が可能である。 イ 特性化震源モデル及び詳細な地下構造モデルが利用可能な地域では,面的に強震動計算を行う方法として,半経験的手法である統計的グリーン関 数法と理論的手法である三次元差分法を合わせたハイブリッド合成法がよく用いられる。ただし,水平多層構造で想定可能な地域があれば,理論的手法においては水平成層構造のみ適用可能な波数積分を用いる方法を利用することができる。この方法は水平成層構造のグリーン関数の計算に最もよく用いられている方法であり,モデル化や計算が比較的簡単で,震源断 層モデル及び水平成層構造モデルが妥当であれば,実体波や表面波をよく再現できることが多くの事例から確かめられている。 (2) 4 地表面までの計算方法(略) 予測結果の検証-活断層で発生する地震の強震動予測結果に対する検証について(推本レシピ4.1。推本レシピには,ほかにプレート間地震の強震動予測結果に対する検証及びスラブ内地震の強震動予測結果に対する検証についても記載されているが,省略する。)(1) 距離減衰式を用いた推定値との比較 半経験的手法や理論的手法による計算結果と距離減衰式を用いた推定値と を比較し,計算結果が距離減衰式を用いた推定値のばらつきの範囲内にあることを確認する。 検証の結果,距離減衰式のばらつきの傾向と強震動予測結果の傾向にかなり差が出て妥当性に問題がある場合には,設定した特性化震源モデルや地下構造モデルを修正する。 (2) 震度分布との比較 震度分布としては,明治中期以降の観測情報はそのまま利用することがで きる。また,江戸時代以降に発生した地震については,被害情報が比較的整っていることにより,被害情報から震度分布が推定されている。震度分布による検証は,震源特性パラメータを設定する比較的早い段階で経験的方法や半経験的方法を用いて行う。 この震度分布と計算結果が合わない場合は,震源特性又は地下構造モデル の見直しを行う。 (3) 観測波形記録との比較 観測記録との比較において,計算波形をどの程度まで合わせることができ るかという点については,観測波形の質,震源や観測点の地盤状況等の情報の多寡によりケースごとに異なる。現状では,条件が整えば,観測記録の位相までを精度よく合わせることは可能であるが,面的な予測ということを考え合わせると,時刻歴波形の最大値,継続時間,周期特性やスペクトル特性がある程度説明できることをもって検証と位置付ける。 計算結果を観測波形に合わせるためには,微視的震源特性や地下構造モデ ルについて検討し直すことが必要となる。 以上 (別紙4)乙48図2(略) (別紙5)乙48図3(略) |