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損害賠償請求事件
事件番号平成30(受)1961
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和2年12月22日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果その他
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成29(ネ)1110
原審裁判年月日平成30年3月23日
判示事項株式の上場に当たり提出された有価証券届出書の財務計算に関する書類に係る部分に虚偽記載があった場合において当該株式の発行者と元引受契約を締結した金融商品取引業者の金融商品取引法21条1項4号の損害賠償責任につき同条2項3号による免責が否定された事例
裁判日:西暦2020-12-22
情報公開日2020-12-22 18:00:04
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平成30年(受)第1961号
令和2年12月22日

主1
損害賠償請求事件

第三小法廷判決


原判決主文第1項を破棄し,同項に係る部分につき
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

2
別紙上告人目録1記載の上告人らのその余の上告を
棄却する。

3
前項に関する上告費用は,前項記載の上告人らの負
担とする。
理由
上告代理人塚田裕二ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1
本件は,東京証券取引所マザーズ(以下東証マザーズという。)に上場
された株式会社エフオーアイ(以下本件会社という。)の株式を取得した者又はその承継人である上告人らが,本件会社が上記の上場に当たり提出した有価証券届出書に架空売上げの計上による虚偽の記載があったなどと主張して,本件会社等と元引受契約を締結していた金融商品取引業者のうち主幹事会社であったみずほインベスターズ証券株式会社を吸収合併した被上告人(以下,みずほインベスターズ証券及び上記の合併後の被上告人を,合併の前後を問わず被上告人という。)に対し,当該株式のうち募集又は売出しに応じて取得したものにつき金融商品取引法(以下金商法という。)21条1項4号に基づく損害賠償を請求するなどしている事案である。被上告人の同号の損害賠償責任につき,同条2項3号による免責の可否が争われている。
2
原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。(1)ア

本件会社は,半導体製造装置の製造販売等を主たる事業とする株式会社
である。

本件会社の代表取締役及び取締役らのうち2名(以下,併せて本件役員らという。)は,本件会社の平成16年3月期の決算が大幅な赤字となる見込みが生じたことから,富士通株式会社外1社に対する半導体製造装置の販売を仮装して約16億円の架空売上げを計上し,以後,継続して富士通等の国内企業並びに韓国及び台湾の企業に対する架空売上げの計上等を行うことにより,実際の売上高が数億円であるところを数十億円ないし百億円余であるとする粉飾決算を行うようになった。
上記粉飾決算の手法は,上記架空売上げにおいて取引先とされた企業(以下本件偽装取引先という。)から半導体製造装置の発注があった旨の注文書等を偽造し,運送業者に本件会社の倉庫から当該装置を搬出させた上,当該装置の出荷,納入に際して作成される書類を偽造するなどして架空売上げを計上し,いわゆるペーパーカンパニーに対して仕入代金を装って送金することにより作出した簿外資金を本件会社に還流させた上,預金通帳の印字を改ざんするなどして当該架空売上げに係る売掛金の回収を偽装するというものであった。

本件会社の平成14年3月期以降の計算書類及び財務諸表についての監査を
実施した公認会計士ら(以下本件会計士という。)は,売掛金の実在性について,売掛先に対して残高確認書を送付し,その返送を受けて確認していたところ,本件役員らは,上記粉飾決算を行うようになってからは,本件偽装取引先に協力者を確保し,本件会計士から送付された残高確認書を当該協力者から回収した上,当該残高確認書に偽造印を押捺して本件会計士に返送するなどしていた。また,本件役員らは,本件会計士が平成18年3月期の監査において富士通,平成20年3月期の監査において台湾の企業1社につき本件会社の売掛先として訪問調査を実施するに際しても,協力者に応対させ,実際には半導体製造装置の納入の事実はないにもかかわらず,これがあるかのような虚偽の事実を述べさせるなどした。本件会計士は,本件会社の平成20年3月期及び平成21年3月期(以下,併せて本件各事業年度という。)の監査において,ほぼ全ての売上げに関する証ひょう類と総勘定元帳との突合等を実施したが,当該証ひょう類につき,本件役員らから写しの提示を受けた場合であっても原本の提示を求めなかったため,当該証ひょう類の中に偽造されたものが含まれていることに気付かなかった。(2)ア

被上告人は,平成19年5月,本件会社との間で上場準備に関する助言
提供業務に係る契約を締結し,同年8月,本件会社の主幹事会社として本件会社についての引受審査を開始した。

上記引受審査のため被上告人に提供された計算書類等において,本件会社
は,①売上高が平成15年3月期から平成19年3月期にかけて約7億円から約70億円に急増し,②平成18年3月期において売上高の約79%が同年3月に計上されるなど売上げの計上時期に偏りがあり,③売掛金の期末残高が平成15年3月期から平成19年3月期にかけて約4億円から約134億円に増加し,④売上債権回転期間が,同業他社においておおむね5箇月以下であるにもかかわらず,平成19年3月期には約22.8箇月となるなど顕著に長期化しており,⑤営業活動によるキャッシュ・フローが平成18年3月期には約19億円の,平成19年3月期には約47億円のマイナスとなっているなどという状況にあった。
被上告人の引受審査担当者は,上記計算書類等により上記状況を把握し,売掛金の回収の遅れにつき実態の把握及びその原因の解明が必要であると考えたものの,本件役員らから,多額の売掛金があるのは半導体製造装置のうち初号機の検収完了までに長期間を要するという業界の取引慣行のためであり,今後は改善することが見込まれるなどとの説明を受け,当該説明は合理的であると判断した。ウ
上記担当者は,本件会計士の監査実績及び監査体制に問題がないことを確認
したほか,本件会計士から,売掛金の実在性について,売掛先から残高確認書の返送を受けるとともに,平成18年3月期には売掛先のうち富士通を訪問して購買部門の責任者との面談を実施して確認していることなどを聴取した。エ
上記担当者は,平成19年11月から12月にかけて,売掛先のうち本件会
社から調査対象として提案を受けた富士通外1社を訪問し,担当者として応対した者と面談した。このうち,富士通における応対者は上記責任者と同一人であり,これらの応対者は,本件役員らからの依頼に基づき,これらの企業が本件会社から半導体製造装置を購入しているなどと虚偽の事実を述べた。

被上告人は,これらの審査の結果,本件会社の上場申請手続を進めることに
問題はないものと判断した。
(3)ア

本件会社は,平成19年12月,東証マザーズへの上場申請を行い,被
上告人は,株式会社東京証券取引所(以下東証という。)に対して主幹事会社として推薦書等を提出した。

東証は,本件会社の上場承認予定日を平成20年2月18日と設定したが,
同月14日,本件会社の粉飾決算を指摘し対処を求める内容の匿名の投書を受け取ったことから,当該上場承認予定日を延期した。

被上告人は,その頃,上記投書とおおむね同じ内容の匿名の投書(以下第1投書という。)を受け取った。第1投書は,本件役員ら,本件会社の営業部長,被上告人の担当者の個人名を挙げ,本件会社においては,平成16年頃から毎年,注文書,検収書等を偽造し,出荷した半導体製造装置を川崎市,韓国及び台湾にある倉庫に運び入れるなどして,売上高が実際には1ないし2億円であるところを50ないし70億円として決算報告がされており,総額200億円を超える粉飾決算がされている旨,本件役員らは,本件会社が国内外の投資家から数百億円の投資を受けていながら成果が上がらないことから,富士通を巻き込んで粉飾を継続してきたものであり,富士通の購買部門の責任者は巨額のストックオプションと引換えに偽の注文書を発行している旨,上記粉飾は本件偽装取引先を調べれば容易に判明する旨などを記載したものであった。

被上告人の担当者は,第1投書の内容を把握した後,本件役員らに対し,直
ちにその内容等を伝え,その後,第1投書は従業員又は元従業員が業務妨害の意図で作成したものであると思われる旨の説明を本件役員らから受け,その作成者を特定した上で従業員であれば処分を行うよう要請した。
その一方で,被上告人の担当者は,平成20年4月,本件会社から平成15年3月期から平成20年3月期までの売上げに関する証ひょう類及び預金通帳等の写しの提示を受け,当該証ひょう類の写しの相互に重要な矛盾点がないこと,売掛金の回収額が当該証ひょう類の写しに記載されている代金額と一致していること及び当該回収額と一致する入金記録が当該預金通帳等の写しに存在することを確認したが,これらの中に偽造されたものが含まれていることには気付かなかった。また,被上告人の担当者は,本件会社から富士通の関係者に対するストックオプションの付与の事実がないことを確認した。
被上告人は,これらの追加調査の結果に加え,従前の審査結果も併せて考慮すれば,第1投書には信ぴょう性がないものと判断した。

本件役員らは,同年4月,被上告人に対して第1投書の作成者は本件会社の
内部監査室長を務める者であると思われる旨などを説明し,本件会社は,同月,社内体制の整備のためなどとして上記上場申請を取り下げた。
(4)ア

被上告人は,平成20年5月,本件会社から再度の上場申請の意向を受
け,その引受審査を再開した。

被上告人は,審査の結果,本件会社の再度の上場申請手続を進めることに問
題はないものと判断した。なお,被上告人の担当者は,第1投書の作成者であると思われる者は内部監査室から異動させており退職の予定である旨を本件役員らから聴取するなどしたため,上記の者との面談を行わなかった。

本件会社は,同年12月,東証マザーズへの再度の上場申請を行ったが,平
成21年5月,当該上場申請を取り下げた。
(5)ア

被上告人は,平成21年6月,本件会社から3度目の上場申請の意向を
受け,その引受審査を再開した。

上記引受審査のため被上告人に提供された計算書類等において,本件会社は,平成21年3月期の売上高が約118億円に増加し,売掛金の期末残高も約228億円に増加しており,売上債権回転期間が約23箇月と更に長期化し,営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスの状態が継続している状況にあった。被上告人の引受審査担当者は,上記計算書類等により上記状況を把握したものの,本件役員らに対するヒアリング等の結果,売掛金の回収は順調に進んでいるものと認識した。

上記担当者は,本件会計士から,平成21年3月期の監査において,売掛金
全件の残高確認のほか,売上げ,売掛金及び棚卸資産の実在性の確認のため,総勘定元帳と売上げに関する証ひょう類及び預金通帳等との突合並びに実地棚卸しへの立会い等を実施した旨を聴取した。なお,上記担当者は,本件会計士から本件会社の本社において預金の実査を実施した旨の説明を受けたことなどから,上記突合は原本によって行われたと認識していた。

被上告人は,これらの審査の結果,本件会社の3度目の上場申請手続を進め
ることに問題はないものと判断した。
(6)ア

本件会社は,平成21年8月,東証マザーズへの3度目の上場申請を行
い,被上告人は,東証に対して主幹事会社として推薦書等を提出した。イ
東証は,同年10月16日,本件会社の上場を承認した。本件会社は,同
日,関東財務局に有価証券届出書を提出し,その後,その訂正届出書を提出した(以下,上記訂正届出書による訂正後の有価証券届出書を本件有価証券届出書という。)。本件有価証券届出書には,本件会計士が,本件会社の本件各事業年度の財務諸表につき無限定適正意見を記載した監査報告書並びに平成22年3月期の第1及び第2四半期財務諸表につき無限定の結論を記載した四半期レビュー報告書が添付されており,被上告人の引受審査担当者は,あらかじめこれらが添付されていることを確認していた。もっとも,本件有価証券届出書の経理の状況に記載されている上記財務諸表のうち連結損益計算書には,前連結会計年度の売上高欄に,実際には約1億9281万円であるところを94億9681万7000円とし,当連結会計年度の売上高欄に,実際には約3億1956万円であるところを118億5596万円とする虚偽の記載(以下本件虚偽記載という。)がされていた。

東証,被上告人及び本件会計士は,平成21年10月27日頃,第1投書と
おおむね同じ内容の匿名の投書(以下第2投書といい,第1投書と併せて本件各投書という。)を受け取った。エ
被上告人の担当者は,同月29日,本件会計士との面談を行い,本件会計士
が持参した残高確認書の原本の確認を行うとともに,本件会計士から,売掛金の実在性については本件各事業年度につき各2回,残高確認書の返送を受ける方法により確認を行っており,平成21年3月期までの確認は完了していること,売掛先のうち富士通外1社を訪問して担当者との面談を実施したことがあり,富士通に対する売掛金は全額回収済みであること,売掛金の回収については回収予定表と預金通帳等との突合により確認していること,預金の残高については銀行に対して直接確認していること,運送業者に対する倉庫からの出荷状況の確認及び棚卸時の立会いによる在庫確認を実施していること,第2投書に記載されている規模の粉飾を行うことは相当の簿外資金が必要となるため現実的ではないと思われることなどを聴取した。なお,被上告人の担当者は,第2投書の作成者は第1投書の作成者と同一人であると考えたが,上記の作成者と考えられる者との面談等を行わなかった。被上告人は,上記の聴取結果等を踏まえ,第2投書も第1投書と同様に信ぴょう性のないものであると判断した。

被上告人は,同年11月11日,本件会社等との間で元引受契約を締結し,
同月19日,本件会社に対し,本件会社との間で元引受契約を締結した他の金融商品取引業者を代表して,新株発行の払込総額として約52億円を払い込んだ。上記金融商品取引業者は,本件各投書について知らされていなかった。カ
(7)

本件会社は,同月20日,東証マザーズに上場した。
本件会社は,平成22年5月,本件有価証券届出書の虚偽記載の事実を認める旨を公表し,同年6月,上場廃止となった。3
原審は,前記事実関係の下において,要旨次のとおり判断し,本件有価証券
届出書には,金商法193条の2第1項に規定する財務計算に関する書類に係る部分(以下財務計算部分という。)に,重要な事項について本件虚偽記載が存在したところ,被上告人は本件虚偽記載の事実を知らなかったなどとして,被上告人の金商法21条1項4号の損害賠償責任につき同条2項3号による免責を認め,募集又は売出しに応じて取得した本件会社の株式についての被上告人に対する同条1項4号に基づく損害賠償請求を棄却した。
金商法21条2項3号の文言等からすれば,有価証券の募集に係る発行者又は売出しに係る所有者と元引受契約を締結した金融商品取引業者又は登録金融機関(以下,併せて元引受業者という。)は,財務計算部分のうちに重要な事項について虚偽の記載があり,又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合,このことを知らなかったことさえ証明すれば,同条1項4号の損害賠償責任につき,同条2項3号による免責を受けることができると解するのが相当である。
4
しかしながら,原審の前記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

金商法は,21条1項4号において,有価証券届出書のうちに重要な事項
について虚偽の記載があり,又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合に,当該有価証券を募集又は売出しに応じて取得した者に対して上記の虚偽記載又は記載の欠缺(以下,併せて虚偽記載等という。)により生じた損害の賠償責任を負う者として元引受業者を掲げ,同条2項3号において,元引受業者が同号に定める事項(免責事由)を証明したときは上記の損害賠償責任を負わないとしている。これは,元引受契約を締結しようとする金融商品取引業者等が有価証券の発行者である会社について引受審査を実施してその有価証券届出書に記載されるべき情報等を専門知識に基づき審査し得る立場にあることから,虚偽記載等がある場合の元引受業者の損害賠償責任について定めることで,引受審査の適正を確保し,もって元引受業者に有価証券届出書における開示情報の信頼性を担保させることをその趣旨とするものと解される。もっとも,財務計算部分については,有価証券の発行者である会社と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人(以下,併せて独立監査人という。)の監査証明を受けなければならないこととされているところ(金商法193条の2第1項),公認会計士は,監査及び会計の専門家として公正かつ誠実にその業務を行うべきものであって(公認会計士法1条,1条の2),財務計算部分に虚偽記載等があった場合,虚偽記載等がないものとして監査証明を行った独立監査人は,当該監査証明を行ったことにつき故意又は過失がないことを立証しない限り損害賠償責任を負うものとされている(金商法21条1項3号,2項2号,22条)。金商法21条2項3号は,以上のことから,上記免責事由に関し,元引受業者が免責を受けるためには,財務計算部分以外の部分に虚偽記載等がある場合には相当な注意を用いたにもかかわらず当該虚偽記載等を知ることができなかったことを証明すべきものとする一方,財務計算部分に虚偽記載等がある場合には当該虚偽記載等について知らなかったことを証明すべきものとする旨規定したものであると解される。すなわち,財務計算部分に虚偽記載等がある場合についての同号の規定は,独立監査人との合理的な役割分担の観点から,元引受契約を締結しようとする金融商品取引業者等が財務計算部分についての独立監査人による監査を信頼して引受審査を行うことを許容したものであり,当該金融商品取引業者等にとって上記監査が信頼し得るものであることを当然の前提とするものというべきである。
そうすると,上記の金融商品取引業者等は,引受審査に際して上記監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接した場合には,当該疑義の内容等に応じて,上記監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行うことが求められているというべきであって,上記の場合に金融商品取引業者等が上記の調査確認を行うことなく元引受契約を締結したときは,同号による免責の前提を欠くものと解される。よって,財務計算部分に虚偽記載等がある場合に,元引受業者が引受審査に際して上記情報に接していたときには,当該元引受業者は,上記の調査確認を行ったものでなければ,金商法21条1項4号の損害賠償責任につき,同条2項3号による免責を受けることはできないと解するのが相当である。
(2)ア

これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件有価証券届出
書のうち本件会計士による金商法193条の2第1項の監査証明が付された本件各事業年度の財務諸表には,本件会社が平成16年頃以降継続して行ってきた多額の架空売上げの計上に係る本件虚偽記載が存在しているのであって,本件有価証券届出書の財務計算部分に,重要な事項について虚偽の記載があったと認められる。そして,被上告人は本件会社の引受審査に際して本件各投書を受け取っていた。これらは,本件会社の平成16年3月期以降の売上げの大半が架空計上によるものであることを指摘するものであり,上記の指摘内容は,本件会社が,その計算書類等において,平成16年頃以降,売上高の急増,売上げの計上時期の偏り,売掛金期末残高の著しい増加,売上債権回転期間の顕著な長期化,営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスの連続計上等,売上高の粉飾の典型的な兆候といえる複数の事象が継続してみられる状況にあったこととよく符合するものであった。また,本件各投書は,本件役員ら,本件会社の営業部長及び被上告人の担当者の個人名並びに本件会社の売上高及び売上げの内容等について,被上告人において把握している事実関係と合致する記載がされており,かつ,本件役員らが共謀し,富士通等に協力者を確保して証ひょう類の大半を偽造し,製品を実際に倉庫から運び出して出荷を装うなどの方法により架空売上げの計上が行われているなどとして,粉飾決算の手法,内容等を具体的かつ詳細に指摘するものであって,本件会社の内部の者が事実に基づき作成した可能性が十分に考えられるものであった。
そうすると,本件各投書は,本件会社の有価証券届出書に記載されるべき最近事業年度及びその直前事業年度の財務諸表の売上高欄等に重大な虚偽記載があることを相当の信ぴょう性をもって指摘するものであったといえ,被上告人は,これらを受け取ったことにより,当該財務諸表についての本件会計士による監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたものというべきである。イ
被上告人は,本件会社の主幹事会社としてその引受審査に当たってきたもの
であり,本件各投書による上記疑義の内容等に応じて,本件会社に対して必要な資料の提示を求め,本件会計士から事情を聴取し,本件会計士に追加の調査報告を求めるなど,上記監査の信頼性に関する種々の調査を行うことができたといえ,また,これを行うことが期待されていたといえる。
ところが,被上告人は,第1投書が本件役員らの主導により粉飾決算が行われている旨を指摘するものであったにもかかわらず,その内容を把握した後,本件役員らに対して直ちに上記内容を伝え,第1投書は本件会社の従業員等が業務妨害の意図で送付したものと思われる旨の説明を受けてその作成者の処分を求めるなど不適切な対応をしている。加えて,被上告人は,第1投書の作成者と思われる者が内部監査室長を務めていた者であったにもかかわらず,第2投書を受け取ってもなおその者から事情を聴取するなどの調査確認を行っていないのであって,そもそも本件各投書の信ぴょう性の評価を大きく誤ったものというほかない。被上告人は第1投書を受け取った後にその指摘に係る富士通の関係者に対するストックオプションの付与の事実がないことを確認しているものの,このことをもって本件各投書に信ぴょう性がないと直ちに評価し得るものではない。
被上告人は,第1投書を受け取る前に,本件会計士の監査実績及び監査体制に特段の問題がないことを確認し,本件各投書の受取の前後を通じて,本件会計士が実施した監査手続の内容について聴取している。しかし,上記の聴取に係る監査手続は,売掛金の実在性を売掛先から本件会計士に返送されたとする残高確認書によって確認するなどしたものにすぎず,本件偽装取引先の協力者の関与の下,注文書,検収書等を含む証ひょう類の大半を偽造するという本件各投書の指摘する手法による粉飾決算の可能性に対応したものとはいえない。また,被上告人は,上記監査手続において証ひょう類の原本確認が行われたか否かすら具体的に確認していないものであって,上記手法による粉飾決算の可能性を否定するに足りる監査手続が実施されているか否かを確認したとはいえない。
被上告人は,第1投書を受け取る前に,本件偽装取引先のうち2社の訪問調査等を実施し,さらに,第1投書を踏まえた追加調査として,売上げに関する証ひょう類の突合等を実施している。しかし,上記訪問調査は本件会社の提案に従いその対象を選定して実施されたものであり,このうち1社は本件各投書の内容に照らして協力者であっても矛盾しない者が担当者として応対したものである。また,上記突合は証ひょう類の写しの相互に矛盾がないことを確認したにとどまるものであって,これらの調査は本件各投書の指摘する手法による粉飾決算の可能性を否定するに足りるものとはいえない。
そうすると,被上告人が,本件会社の引受審査において,本件会社の本件各事業年度の財務諸表についての本件会計士による監査がその信頼性の基礎を欠くものではないことにつき,本件各投書による疑義の内容等に応じて調査確認を行ったとみることはできないというべきである。

以上によれば,被上告人は,金商法21条1項4号の損害賠償責任につき,
同条2項3号による免責を受けることはできない。
5
したがって,募集又は売出しに応じて取得した本件会社の株式についての被
上告人に対する損害賠償請求を棄却した原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上記請求を棄却した部分は破棄を免れない。そして,上告人らの損害額について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
なお,別紙上告人目録1記載の上告人らのその余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官
宇賀克也

宮崎裕子

裁判官


裁判官

戸倉三郎

道晴)
裁判官


景一

裁判官

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