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特許法74条1項を原因とする特許権移転登録請求事件 民事訴訟
事件番号平成30(ワ)22338
事件名特許法74条1項を原因とする特許権移転登録請求事件
裁判年月日令和2年12月1日
裁判所名東京地方裁判所
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2020-12-01
情報公開日2020-12-22 10:00:41
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令和2年12月1日判決言渡

同日原本交付

平成30年(ワ)第22338号

裁判所書記官

特許法74条1項を原因とする特許権移転登

録請求事件
口頭弁論終結日

令和2年8月25日
判決原告
岡本レース株式会社

同訴訟代理人弁護士


同補佐人弁理士

岡倉被松
松山毛織株式会社


同訴訟代理人弁護士
主川岸光代誠弘樹文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
被告は,原告に対し,別紙特許権目録記載の特許権(以下本件特許権と
いう。)の持分2分の1につき,特許法74条1項を原因とする移転登録手続をせよ。
第2

事案の概要
本件は,原告が被告に対し,被告が原告代表者等と被告の共有に係る特許を
受ける権利について単独で特許出願をして本件特許権の設定の登録を受けたところ,原告は原告代表者等から本件特許権の持分を譲り受けたなどと主張して,
特許法74条1項所定の移転請求権に基づき,本件特許権の持分2分の1の移転登録を求める事案である。
1
前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお,書証は特記しない限り枝番を全て含む。以
下同じ。)


当事者等

原告は,編レースの製造及び販売等を目的とする株式会社である。(甲1)
原告代表者の弟であるAⅰ(以下Aⅰという。)は,原告の取締役を務めている。(甲1,56)


被告は,毛織物の製造業等を目的とする株式会社である。(甲6)

株式会社タカキタ(以下タカキタという。)は,農業用作業機などを製作する株式会社である。(乙47)
Bⅰ(以下Bⅰという。)は,タカキタの開発部長である。(証人Bⅰ)



事実経過

家畜用飼料である乾牧草を円柱状に成形したものをロールベールといい,その形状を維持した上で運搬及び保管するため,その外周を牧草用ネット(ベールネットないしラップネット。以下専らラップネットとい
う。)で被覆することが行われている。ラップネットは,専ら高密度ポリエチレンフィルム(合成樹脂系繊維(化学繊維長繊維))を細いテープ状に裁断したスリット糸(スリットヤーン)等で製造されることが一般的であった。
被告は,平成24年10月頃,ポリエチレンと澱粉によって作られた生
分解性ポリエチレンフィルムを素材としたラップネットを開発することとし,原告に対し,材料(糸)を提供した上で編布を注文した。

被告代表者,原告代表者及びAⅰは,平成25年1月24日,生分解性ポリエチレンフィルムを素材としたラップネットの試作品を持参して福井県畜産試験場(以下畜産試験場という。)を訪れた際,同職員から,牛に飼料として綿実を与えている旨の話を聞いた。
(本項につき,争いがない事実のほか,甲21,弁論の全趣旨)


被告は,平成25年4月26日,被告代表者から特許を受ける権利を譲り受けたとして,ラップネットについて特許出願(特願2013-093805号,以下先の出願1という。)をした。(争いがない事実のほか,甲8,弁論の全趣旨)
また,被告は,同年7月22日,被告代表者から特許を受ける権利を
譲り受けたとして,ラップネット及びその製造方法について特許出願(特願2013-151430号,以下先の出願2といい,先の出願1及び2を併せて本件各先の出願という。)をした。(争いがない事実のほか,甲9,弁論の全趣旨)

被告,原告及びタカキタは,平成25年12月頃,新規なラッピング用ネット(ラップネット)の開発等について,有効期間を同年9月から1年間として,共同開発契約(以下本件開発契約という。)を締結した。(甲21,22)


被告は,平成26年4月23日,被告代表者から特許を受ける権利を譲り受けたとして,本件各先の出願に記載された発明に基づき優先権を主張した上,本件特許権に係る特許(以下本件特許という。)について特許出願(国際出願による特許出願。以下本件出願という。)をし,平成28年3月4日,被告を特許権者,被告代表者を発明者として,本件特許権の設定の登録がされた。

本件特許の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
【請求項1】編地の長さ方向に並列したセルロース系繊維からなる経糸群
が,それぞれ,編地の長さ方向に連続したループにより複数
の独立鎖編を形成し,
前記独立鎖編の各ループが他の独立鎖編の他のループとセ
ルロース系繊維からなる緯糸によって連結されてなる編地
からなることを特徴とするラップネット。
【請求項2】前記経糸の糸強度が前記緯糸の糸強度より大きいことを特徴とする請求項1に記載のラップネット。
【請求項3】前記経糸は,綿繊維からなる5番手~20番手の短繊維紡績糸条の単糸の少なくとも2本以上の糸に撚りを掛けずに引き

揃えた引き揃え糸であって,
前記緯糸は,綿繊維からなる10番手~30番手の短繊維紡
績糸条の単糸であることを特徴とする請求項2に記載のラッ
プネット。
【請求項4】前記経糸は,綿繊維からなる5番手~20番手の短繊維紡績
糸条の単糸の少なくとも2本以上の糸を合撚した合撚糸であ
って,
前記緯糸は,綿繊維からなる10番手~30番手の短繊維紡
績糸条の単糸であることを特徴とする請求項2に記載のラッ
プネット。

【請求項5】編地の長さ方向に並列した合成樹脂系繊維からなる経糸群が,それぞれ,当該長さ方向に連続したループにより複数の独
立鎖編を形成し,
前記独立鎖編の各ループが他の独立鎖編の他のループとセ
ルロース系繊維からなる緯糸によって連結されてなる編地

からなり,
前記経糸の糸強度が前記緯糸の糸強度より大きいことを特

徴とするラップネット。
【請求項6】前記経糸は,合成樹脂フィルムをスリットしてなる…スリットヤーンであって,
前記緯糸は,綿繊維からなる…糸条であることを特徴とす
る請求項5に記載のラップネット。
【請求項7】前記経糸は,生分解性樹脂からなることを特徴とする請求項6に記載のラップネット。
【請求項8】前記緯糸は,…との交絡点で当該独立鎖編に挿入され,更に,上方に伸びて…との交絡点で当該他の独立鎖編に挿

入されることにより,
前記独立鎖編とこれに隣接する他の独立鎖編とが連結して
編地を編成することを特徴とする請求項1~7のいずれか
1つに記載のラップネット。
【請求項9】経編機にて編密度が0.5~20コース/2.54cm,且
つ,編地の長さ方向に連なる前記独立鎖編と隣接する他の
独立鎖編との間隔が10cm以下となるように編成してな
ることを特徴とする請求項8に記載のラップネット。
【請求項10】編地の長さ方向に連なる前記独立鎖編と隣接する他の独立鎖編との間隔をAとし,各独立鎖編において,1つのルー

プの伸長時の長さをBとしたときに,
C=A/Bで表される編地の開口比率Cの値が,1~5の
範囲内にあることを特徴とする請求項8に記載のラップネ
ット。
【請求項11】経糸送出機構,緯糸供給機構,柄出し機構,編目形成機
構,及び,巻取機構を備えた経編機を使用して,請求項1
~10に記載のラップネットを連続して編成するラップネ

ットの製造方法において,
前記編目形成機構から連続的に編出される前記ラップネッ
トを前記巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり,当
該巻上げローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動
させることを特徴とするラップネットの製造方法。

(本項につき,争いがない事実のほか,甲7,弁論の全趣旨)

原告代表者及びAⅰは,原告に対し,本件特許権の持分を譲渡する旨の意思表示をした。(甲23)
タカキタは本件特許権の持分を有しない。(争いがない事実のほか,甲39)


織布等の巻取りにおいて,嵩高になる部分が生じることを抑制するため,織布等を左右に所定の振幅で往復させるなどの何らかの動作を行わせながら巻き取ることにより厚さを均一にし巻取径を小さくするあや振り(トラバース)は,繊維業界において広く用いられている基本的技術である。(争いがない)

2
争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,
①原告代表者及びAⅰが被告代表者と共同で本件特許に係る発明(以下,請求項番号に応じて本件発明1等といい,併せて本件各発明とい
う。)をしたか。

②原告代表者及びAⅰが本件特許を受ける権利の持分2分の1を有していたか。
である。

争点①(原告代表者及びAⅰが被告代表者と共同で本件各発明をしたか。)について
(原告の主張)


原告代表者及びAⅰは,家畜の安全性という課題解決に関し,ラップネットの経糸及び緯糸の両方にセルロース系繊維を使用することとした本件発明1の特徴的部分の完成に関与した。
また,原告代表者及びAⅰは,運搬,保管に有効なラップネットによるラッピングのメリットを維持するという課題解決に関し,ラップネット
を巻き取るに当たり巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させるあや振り技術を導入した本件発明11の特徴的部分に関与した。このように,原告代表者及びAⅰが,本件発明1及び11の特徴的部分の完成に関与し,ひいては本件各発明に当たりラップネット製造機の設計及びラップネットの製造という開発の根幹部分であり大部分を担った
のに対し,被告代表者はラップネットの材料の選定等を担当したにすぎない。

本件発明1について,原告代表者及びAⅰは,昭和50年代から行っていた綿タオルの製造に係る技術を背景に,平成25年1月24日に畜産試験場の職員から聞いた話から直ちに着想を得て,同年3月中旬頃,被告代
表者に対し,ラップネットに綿糸を使用することを提案し,経糸にポリエチレンフィルムのスリットヤーン,緯糸に綿糸を用いたラップネットを試作した。さらに,原告代表者は,同年5月9日,Aⅰ,被告代表者及びタカキタの担当者と行った会議の際,Bⅰから全部綿糸を使用した方が安全性が高いのではないかとの指摘を受け,経糸にも綿糸を用いるとの着想を
得てこれを提案した。仮に,そうでなくとも,同着想は参加者全員の話合いの中で生み出されたものである。本件発明1は,遅くとも同月31日に完成した。

また,本件発明11について,原告は,平成25年5月頃,ラップネット製造機にあや振り技術を導入する必要があると考え,被告に対し,同月9日に技術内容を説明し,同月31日に同技術を用いる旨伝えて本件
発明11を完成し,平成26年1月に新たな製造機を導入して実用化した。
(被告の主張)

本件各発明は,従来からのポリエチレン製のラップネットに代替し得るだけの強度を維持しつつ,作業性,廃棄容易性,家畜の安全性といった課
題解決のため,被告代表者が,着想,着想の提供及びその具体化を行ったものであり,原告及びタカキタは,被告の指示及び提供に係る材料に基づいて,それぞれラップネットの編布及び実験や機能検査等を行ったにすぎない。

本件発明1について,その特徴的部分は,本件発明2から10と併せ全体として,経糸にセルロース系繊維又は合成樹脂系繊維(化学繊維長繊維)を,緯糸にセルロース系繊維を使用して編成された編地からなるラップネット,さらに,このような素材の採用を可能とする糸の仕様等にある。すなわち,本件各先の出願及び本件出願を通じ,作業性,廃棄容
易性及び家畜の安全性という課題の解決手段は,ロールベールに一部が残ってしまう緯糸にセルロース系繊維を使用し,経糸には緯糸に比較して糸強度の大きい繊維を使用するという技術的思想にあり,したがって,本件発明1の特徴的部分は単に経糸及び緯糸にセルロース系繊維を使用するということにあるのではない。そして,このようなラップネットの
素材や仕様の選定,検討は被告代表者が行ったものであり,原告は被告が提供した糸を使用してラップネットの編布をしたにすぎず,原告代表者及びAⅰは,本件発明1の上記特徴的部分,ひいては,本件発明2から10の特徴的部分の完成に何ら関与していない。
また,この点を措くとしても,ラップネットに綿糸を使用することは,
被告代表者が畜産試験場の職員との面談後にAⅰに指摘したものである。そもそも綿実と綿糸は異なるものであり,綿実が牛の飼料になり得るか
らといって綿繊維を牛に食べさせることには直ちにつながらないところ,被告代表者は,取引先から綿紡績工程で発生した屑綿(落綿)を牛に食べさせているとの話を聞いたことがあったため,ラップネットの材料として綿糸を想起したものである。そして,ラップネットにおいては経糸に強度が必要とされることから,被告代表者は,まず緯糸に綿糸を使用
する技術に目処をつけて特許出願した上で,経糸として適度な強度を備えた綿糸の仕様等について検討を重ね,平成25年3月下旬,遅くとも,同年4月末までには,ラップネットの経糸及び緯糸の両方にセルロース系繊維を使用する技術を完成した。原告は,被告の指示に基づき,被告の提供した綿糸を含む糸を編布したにすぎない。


本件発明11について,あや振りは織編物ないしその整経(製織準備のために経糸を所定の幅に均整に配列してドラム又はビームに巻き上げる)過程において一部に嵩高が生じる場合にこれを解消する手段として常識的な技術であるところ,本件発明11は,あくまでも経糸に緯糸に比較
して糸強度の大きい繊維を使用する本件発明1から10に係るラップネットの製造方法におけるあや振り構造に関するものであって,あや振り自体が技術的解決手段として本件発明11の特徴的部分となるものではない。
また,あや振りが周知技術である点を措くとしても,被告代表者は原告
使用に係るラップネット製造機を見たことはないのであるから,本件発明11が原告代表者らの関与はなく被告代表者によってされたものであることは明らかである。なお,被告代表者は平成25年5月に原告代表者らに対してあや振りを指示したものの,平成26年5月に至っても原告が製造したラップネットにはあや振りが施されていなかったのであり,
原告が,被告が先の出願2をした平成25年7月の時点においてあや振りの着想ないしその具体化を行っていなかったことは明らかである。


争点②(原告代表者及びAⅰが本件特許を受ける権利の持分2分の1を有していたか。)について
(原告の主張)
原告代表者及びAⅰは,本件各発明の大部分をした(前記⑴(原告の主張))から,本件特許を受ける権利の大部分を有していた。本件開発契約の
内容から,同権利の持分は,原告,被告及びタカキタが3分の1ずつ有することになり,タカキタが持分を放棄したことから,原告の持分は少なくとも2分の1の持分を有することになるところ,上記のとおり,原告代表者及びAⅰは少なくとも同持分を有していたものである。
(被告の主張)

否認する。
第3

当裁判所の判断

1
認定事実
前提事実,証拠(甲56,57,59,66,乙34,37,39,51,
証人Bⅰ,原告代表者及び被告代表者。ただし,いずれも後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば次の各事実が認められる。⑴

畜産業においては,従来,夏から秋にかけて収穫した干草や藁などの牧草を乾燥させた乾牧草を家畜の冬用飼料として保管,活用している。干草や藁などを乾牧草にする際には,干草や藁などをロールベーダー装置でロール状
に巻き込み,円柱形のロールベールに成形し,その形状が崩れないようにラップネットで被覆し,数日間放置して適度に乾燥した上,ラップフィルムで被覆して運搬,保管する。ロールベールを飼料とする際には,ラップフィルム及びラップネットを切断,除去する。除去されたラップネット等は産業廃棄物として処分される。

ラップネットには,経済性やラップネットの強度維持といった観点から,高密度ポリエチレンフィルムを延伸して裁断した伸度の小さなスリットヤー
ンが専ら使用されていた(なお,ポリエチレンフィルムスリットヤーンで製造した独立鎖編1本当たりの引張強さは75N程度である。)。そして,ラップネットの除去作業には強い力が必要であるなど困難を伴い,作業時に事故が発生していたほか,除去したラップネットの一部が飼料に混入して家畜に害を与える,ラップネットを産業廃棄物として処分するコストが大きいと
いう問題が生じていた。
(本項につき,甲7~9,19,乙4,35)


被告は,取引先からの依頼があったため,生分解性ポリエチレンフィルムスリットヤーンを用いたラップネットを開発することとした。

被告は,平成24年10月,尾池工業株式会社に生分解性ポリエチレンフィルムのスリット加工(フィルムを裁断してリボン状にする加工)を,あいち産業科学技術総合センター三河繊維技術センターにスリットヤーンの延伸加工(スリットヤーンを引き延ばして強度及び伸度を調整する加工)をそれぞれ依頼して,ラップネットに使用する糸を準備した。

そして,被告は,従前,原告にラッシェル編機を用いた糸(モールヤーン)の製造を依頼したことがあったことから,原告に対し,上記生分解性ポリエチレンフィルムスリットヤーンを提供し,対価を支払って,ラップネットの編布を依頼した。なお,ラップネットの編組織(ネットの形状)は一般的なものであり,その製造には一般的なラッシェル編機を用いることが可能であ
る。
原告は,ラップネットの製造は初めてであったが,従前から保有していたラッシェル編機を用いて,これを行うこととした。なお,原告は,現在に至るまで,施錠して作業を行うなどラップネット製造機に係る営業秘密を厳重に管理しており,被告代表者は,後記⒂のとおり,平成26年2月頃に原告
のラップネット製造機(1号機)の稼働状況を見たことがあるほかは,原告の使用するラップネット製造機を見たことはない。(甲13,乙48,49)
被告は,同年11月,前記取引先にラップネットを納入した。(甲21)原告は,被告に対し,ラップネットを量産化するに当たり,生分解性ポリエチレンフィルムのスリット加工及び延伸加工も原告において行った上で編布したい旨申し出た。(甲21,22)


被告は,平成25年1月8日,タカキタに対し,生分解性ラップネットの試作品の評価を依頼した。(甲50)
被告及び原告は,同月13日,被告代表者,原告代表者及びAⅰを発明者として,発明の名称をラップネットとする発明について,共同で特許出願(特願2013-004137号,以下別件出願1という。)をした。その発明には,易分解性樹脂からなる糸を用いて編成したラップネットの発
明が含まれていた。(甲19)
被告代表者,原告代表者及びAⅰは,同月24日,牛が生分解性ポリエチレンフィルムのスリットヤーンを誤食した場合の影響について助言を得るため,ラップネットの試作品を持参して畜産試験場を訪れ,同職員から,生分解性ポリエチレンフィルムを牛に食べさせることは好ましくない旨指摘され
るとともに,牛に飼料として綿実を与えている旨の話を聞いた。
原告と被告は,同年2月頃,生分解性ポリエチレンフィルムを使用したラップネットの製造を共同で行うことを合意した。(甲21,22)⑷
原告は,ラップネット用経編機(スリッター,延伸機及び編機を備えたもの)を購入する資金を得るため,被告から紹介を受けた中小企業診断士から助言等を受け,平成25年3月21日付けで,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)(当時)に対し,研究開発費補助金交付の申請をした。申請書には,助成事業の概要として,ネット分解後の成分の安全性確認及び分解時間制御の研究,経編みでのラップネット実用可能な諸条件を確立,量産化に向けての生産性の研究などと記載されており,原料について,時間管理システムを有する生分解プラスチック=某社・特許出願中などと記載され,被告が当時出願を準備していた発明(後記の別件出願2に係るもの)を用いることとされていた。(甲20,41)⑸

被告は,平成25年3月中旬頃,原告に対し,糸を提供し,経糸に生分解性ポリエチレンフィルムスリットヤーンを使用し,緯糸に綿糸を使用したラ
ップネットの編布を依頼した。なお,綿糸は,ポリエチレンフィルムスリットヤーンより伸度及び強度が小さい。
また,被告は緯糸よりも強度が要求される経糸に使用することを念頭に置いて,複数の業者に対して一定の強度を有する綿糸の製造を依頼することとし,同月28日には,長谷撚織工業株式会社に対し,綿糸の撚糸加工を依頼
した。具体的には,10番手単糸2本を撚った10番手双糸(10/2)と10番手単糸(10/1)を撚糸加工した10番手単糸3本からなる糸(10/3)と10番手双糸同士を撚糸加工した10番手単糸4本からなる糸(10/4)の製造を依頼した。ラップネットの緯糸としては,例えば,先の出願1の実施例においては10番手単糸の綿糸を使用することとされてい
た(後記⑹)。なお,綿糸は,1ポンド(453.6g)で840ヤード(768.1m)のものを1番手といい,同じ重さで2倍の長さのものを2番手といって,番手の数字が大きくなるほど細く軽い糸となる。10番手双糸の糸強度は13から14N程度であり,20番手単糸の糸強度は2から4N程度である。また,被告は,麻糸についても同様に撚糸加工を依頼したが,
十分な品質のものはできなかった。(甲58,乙25,26,36)被告は,同年4月9日,被告代表者を発明者として,時間管理システムを有する生分解性プラスチックを利用したラップネットの使用方法について特許出願(特願2013-80929号,以下別件出願2という。)をした。同使用方法は,生分解性スリットヤーンを使用したラップネットに
対し生分解性を促進する微生物又は酵素を付着させるというものであった。(乙4)



被告は,平成25年4月26日,先の出願1をした。その請求項1,4及び5の記載は次のとおりである。
【請求項1】編地の長さ方向に並列した合成樹脂系繊維からなる経糸群が,それぞれ,当該長さ方向に連続したループにより複数

の独立鎖編を形成し,
前記独立鎖編の各ループが他の独立鎖編の他のループとセル
ロース系繊維からなる緯糸によって連結されてなる編地か
らなり,
前記経糸の糸強度が前記緯糸の糸強度より大きいことを特徴

とするラップネット。
【請求項4】前記経糸は,合成樹脂フィルムをスリットしてなる単糸繊度が200~2500デシテックスのスリットヤーンであっ
て,
前記緯糸は,綿繊維からなる3番手~30番手の短繊維紡績

糸条であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つ
に記載のラップネット。
【請求項5】前記経糸は,生分解性樹脂からなることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載のラップネット。
その明細書には,先の出願1に係る発明は,運搬・保管に有効なラップネット及びラップフィルムによるラッピングのメリットを維持し,且つ,ラップネットの除去作業が容易になり,ラップネットの残渣が飼料に混入した場合でも,家畜に影響の少ないラップネットを提供すること,除去作業後の廃棄処分が容易なラップネットを提供することを目的とするものであることが記載されていた(段落【0013】)。上記明細書には,実施例と
して,同発明のラップネットが,経糸,緯糸共に高密度ポリエチレンを使用する従来のラップネットと同様の高い装置張力にも耐えることなどが記載さ
れていた。また,実施例1及び2として,緯糸に,10番手の綿紡績糸(単糸)を使用した実施例が記載されていた。
(本項につき,甲8)


前記⑸の被告からの編布の依頼について,原告は,生分解性ポリエチレンフィルムのスリット加工を成功させることができなかったため,ポリエチレ
ンフィルムのスリットヤーンを独自に仕入れ,これを経糸に使用し,被告から提供された綿糸を緯糸に使用したラップネットを試作した。(甲33)原告代表者,Aⅰ及び被告代表者は,平成25年5月9日,開発協力を依頼したタカキタを訪れて上記のラップネット試作品について評価を受けたところ,タカキタのBⅰから,強度が不足していると指摘された。また,Bⅰ
は,その際,全部を綿糸で製造した方が安全ではないかとの発言をした。原告代表者及びAⅰは,同日,初めてロールベーラ機の作動工程やラップネットの除去作業を確認した。

被告は,遅くとも平成25年5月中旬までに,原告に対し,前記⑸で他社に依頼して製造した綿糸を提供した上で,経糸に前記の3種類の綿糸(10/2,10/3,10/4)を使用し,緯糸に綿糸20番手単糸を使用したラップネットの編布を依頼し,原告は,これらの綿糸を使用して3種類のラップネットを試作した。
原告代表者,Aⅰ及び被告代表者は,同月31日,タカキタを訪れ,上記
の3種類のラップネット試作品について評価を受けた。そして,同日,原告,被告及びタカキタにおいて,新しいラップネットの考え方について,生分解性ポリエチレンフィルムを原料とする方法と綿糸を原料とする方法とが考えられること,上記の3種類の試作品についていずれも強度が十分であること,以後の予定として,同年6月中旬をめどに,経糸に綿糸10番手双糸を使用
し,巻取りの際にあや振りをするなどの仕様で試作品を製造することなどが確認された。(甲22)



原告,被告及び学校法人慶應義塾慶應義塾先端科学技術研究センター所長は,平成25年6月頃,近畿経済産業局長に対し,時間管理された生分解ベールネット及び包装材料に係る事業計画書を提出して,補助金の申請をした。
同事業計画書には,時間を管理した生分解性繊維によるラップネットの実
用化,市場獲得を図ることが記載され,被告が,材料の選定,企画設計,性能シミュレーション,包装材料(織布)製造等を行い,原告が,ラップネットの性能(強度,分解速度)確認,ネット製造機の設計,ネット製造などを行うものとされていた。また,別件出願1及び先の出願1に係る各発明を利用することや,経編機の改造に際して特許出願等をする予定であることなど
が記載されていた。もっとも,同申請は認められなかった。(甲20)⑽
原告は,ラップネットの製造の際の巻取りに当たって,経編機の巻取機構の巻上げローラを左右に往復運動させる方法(本件発明11の方法)を試みたが,所望の結果が得られず,平成25年6月以降,上記の巻上げローラを往復運動させる方法ではなく,巻上げローラの前にあや振り装置を設置する
方法によりあや振りを施すことを試みるようになった。(原告代表者(2,3,12頁~))

被告は,平成25年6月中旬頃,弁理士に委任し,同年7月22日,先の出願2をした。その請求項1,3及び6の記載は次のとおりである。
【請求項1】編地の長さ方向に並列した経糸群が,それぞれ,当該長さ方向に連続したループにより複数の独立鎖編を形成し,
前記独立鎖編の各ループが他の独立鎖編の他のループと緯糸
によって連結されてなる編地からなり,
前記経糸及び前記緯糸は,いずれも,セルロース系繊維から

なり,且つ,前記経糸の糸強度が前記緯糸の糸強度より大き
いことを特徴とするラップネット。

【請求項3】前記経糸は,綿繊維からなる5番手~20番手の短繊維紡績糸条を少なくとも2本以上合撚した合撚糸であって,
前記緯糸は,綿繊維からなる10番手~30番手の短繊維紡
績糸条の単糸であることを特徴とする請求項1又は2に記載
のラップネット。
【請求項6】経糸送出機構,緯糸供給機構,柄出し機構,編目形成機構,及び,巻取機構を備えた経編機を使用して,請求項1~5に
記載のラップネットを連続して編成するラップネットの製造
方法において,

前記編目形成機構から連続的に編出される前記ラップネット
を前記巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり,当該巻
上げローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させる
ことを特徴とするラップネットの製造方法。
その明細書には,先の出願2に係る発明は,運搬・保管に有効なラップネットによるラッピングのメリットを維持し,且つ,ラップネットの除去作業が容易になり,ラップネットの残渣が飼料,或いは,発酵原料に混入した場合でも,家畜への影響が少なく,或いは,発酵装置がトラブルを生じないラップネットを提供すること,これらのラップネットの製造方法を提供することを目的とすることが記載され(段落【0016】),発明の効果
として,

セルロース系繊維からなる経糸と緯糸(2種類の異なる糸)とで編成された編地からなる。…この編地において,経糸の糸強度が緯糸の糸強度より大きいことを特徴とする。

このことにより,使用後のラップネットを除去する際に緯糸が優先的に切断され,ラップネットの除去作業が容易になる。よって,除去作業の作業者が誤って刃物により身体を傷つけるという事故が生じない。

,また,経糸と緯糸が共にセルロース系繊維からなることにより,家畜が飼料と一緒にセルロース系繊維からなるラップネットの一部を食べてしまっても,…家畜の体内で消化され家畜への影響が出ることがない。また,…発酵原料に混入して発酵装置に入ってしまった場合でも,…分解されてバイオエタノールの発酵原料となる。(段落【0024】~【0026】),…緯糸に比べて経糸の強度を強くするために,経糸を綿の合撚糸とした場合には,従来のポリエチレンフィルムのスリットヤーンに比べて経糸が太くなる。このように経糸と緯糸の太さが大きく異なる場合には,従来と同じ直径(装置の制約から25cm以下)のロール状に巻き取った場合,1本のロールに巻取れるラップネットの長さが短くなる。そこで,…巻上げローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させることにより,巻上げられる経糸の位置が常にずれて長尺のラップネットを1本のロールに巻取ることができる。(段落【0033】)ことが記載されている。また,先の出願2の発明を実施するための形態として,

経糸及び緯糸に使用されるセルロース系繊維には,綿,麻などの天然セルロース系繊維,レーヨン,キュプラ,ポリノジックまたはテンセルなどの再生セルロース系繊維などが挙げられる。…

(段落【0036】)ことが記載され,また,ラップネットの製造装置は,どのような編機でもよく,ラッシェル編機,トリコット編機など通常の経編機を使用することができるが,生産性等の点でラッシェル編機を使用することが望ましく(段落【0053】【0063】),…編目形成機構から連続的に編出されるラップネットを巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり,当該巻上げローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させる。また,巻上げローラを往復運動させるかわりに,巻上げローラの前に綾振り装置を設置する,或いは,巻取り台を移動するようにしてもよく,これらを組み合わせるようにしてもよい。(段落【0068】)ことが記載されている。実施例として,経糸に10番手の綿紡績糸を
2本引き揃えて合撚した合撚糸(10/2双糸,糸強度14N/本)を使用し,緯糸に20番手の綿紡績糸の単糸(糸強度3N/本)を使用し(段落
【0075】),編成にはラッシェル編機を使用したところ,編地の長さ方向に連なるチェーンステッチ1本当たりの強度(引張強さ)は40N/本であり(段落【0076】【0077】),また,連続的に編出されるラップネットを巻取機構の巻上げローラで巻き取るに当たり,当該巻上げローラをその回転軸方向に2.5cmの振幅で往復運動させ,また,巻上げローラに
対応したプレスローラーを採用し巻取硬度を硬くするようにしたところ,1本のロールに巻き取ったラップネットの長さは1000m/本であり,巻き取ったラップネットの直径は24cmであった(段落【0081】)ことが記載されている。
上記明細書等に記載されたチェーンステッチ1本当たりの強度や,1本の
ロールに巻き取ったラップネットの長さ,直径等の数値は実測値ではなく,被告代表者が知識と経験に基づき計算した値であり,原告から提供されたものはない。
(本項につき,甲9,乙29~32)

原告は,平成25年7月初旬頃,福井県工業技術センターにおいて,綿糸の独立鎖編の試作品の強度試験を行った。被告は,原告から,同試験結果の提供を受けたが,既に前記の計算に係る独自の値を得て,先の出願2をしており,同試験結果がその後の出願等に反映,参考等されることはなかった。(甲42)
また,タカキタは,被告に対し,ラップネット関連製品の設計製作を依頼
するなどした。(甲21)

原告,被告及びタカキタは,平成25年9月25日,綿製ラップネットの課題と展開について話し合った。(甲21,22)
タカキタは,平成25年秋頃,広島県立総合技術研究所畜産技術センター
(以下畜産技術センターという。)に対し,ラップネットの試作品に係る試験を依頼した。(甲62)

原告,被告及びタカキタは,同年12月3日,共同開発契約について話し合った。そこでは,被告において,畜産技術センターによる発表の前である平成26年1月頃に特許出願をすること,出願時には三者で協議することとするが,先行出願が必要なものについては被告に一任することなどが話し合われ,また,乳酸菌を利用した製品の展開についても話し合われた。(甲2
2)
原告が同月4日頃に試作した綿製ラップネットを巻き取ったものには顕著な凹凸があった。(乙5)

原告,被告及びタカキタは,平成25年12月,新規なラップネットの開発,市場の拡大と新規市場の開発に関する本件開発契約を締結した。本件開発契約は,被告の情報収集力と企画提案力,原告のラップネット製造技術,タカキタの有するネット使用技術及び性能評価技術を用いて,その開発を実施することを目的とするものである(1条)。その実施分担として,被告が,ラップネットの構造と要求される性能等の情報を入手し,原告及び
タカキタに対して企画提案するとともに,原告及びタカキタが担当する開発作業に協力すること,被告の企画提案について,原告は,自己の有するネット製造技術を適用して更なる提案をするとともにラップネット等を製造し,タカキタは,自己の有するネット使用技術及び性能評価技術を適用して更なる提案をするとともにラップネット等の性能を評価することが定められてい
た(2条)。そして,開発の過程でされた発明等に係る産業財産権又はこれを受ける権利は当該発明等をした当事者(企画発案者を含む。)に帰属するものとし,当該発明等に係る出願をしようとするときは,あらかじめ他の二者と協議すること,発明等が共同でされた場合は当該発明等に関与した当事者の共有とし,それぞれの持分を定めた共同出願契約を締結し,共同して出
願をすることとされ(8条),本件開発契約の有効期間は平成25年9月から1年間とされていた(13条)。

本件開発契約には,甲(判決注:被告)の活動及び甲による提案の記録として,被告の行動等が記載された別紙が付された。その別紙には,被告が,平成24年10月に,他社から生分解ポリエチレンフィルムによるラップネット作成依頼を受け,原告にベールネットの編布を依頼するなどしたこと,平成25年5月に,ポリエチレンと綿糸を利用したベールネットを作成し,
タカキタに試験巻きを依頼し,また,原告に綿ベールネットの編布を依頼し,綿10番手双糸,綿10番手単糸を原告に納入したこと,同年6月にタカキタに綿ベールネットの試験巻きを依頼したことなどが記載されていた。(甲21,22)

原告は,平成26年1月頃から,新しく購入したラッシェル編機を使用してラップネットの製造を行うようになった。被告代表者は,この頃,上記ラッシェル編機の稼働状況を視察した。(甲18,乙48,49)
タカキタは,同年3月,畜産技術センターから,ラップネットの試作品について牛の胃内で分解されたとの結果を得た。(甲62)


被告は,平成26年4月23日,本件出願をした。その特許請求の範囲の記載は前記第2の1⑵記載のとおりである。その明細書(以下本件明細書という。)には,発明が解決しようとする課題について,先の出願2に係る発明の目的と同様の課題が記載され(段落【0016】,前記⑾),発明の効果として,本件発明1の構成によれば,経糸と緯糸が共にセルロース系繊維からなることにより,家畜が飼料と一緒にセルロース系繊維からなるラップネットの一部を食べてしまっても,…家畜の体内で消化され家畜への影響が出ることがない。また,…発酵原料に混入して発酵装置に入ってしまった場合でも,…分解されてバイオエタノールの発酵原料となる。更に,ロールベールからラップネットを除去することなく,ロールベールと共にラップネットを細断して全量を家畜の飼料とし,或いは,発酵原料として利用することもできる。と記載され,また,本件発明2の構成によれば,

使用後のラップネットを除去する際に糸強度の弱い緯糸が優先的に切断され,ラップネットの除去作業が容易になる。よって,除去作業の作業者が誤って刃物により身体を傷つけるという事故が生じない。

(段落【0029】~【0031】),

…緯糸に比べて経糸の糸強度を強くする場合には,従来のポリエチレンフィルムのスリットヤーンに比べて経糸が太くなることがある。

,このように経糸と緯糸の太さが大きく異なる場合には,従来と同じ直径(装置の制約から25cm以下)のロール状に巻き取った場合,1本のロールに巻取れるラップネットの長さが短くなる。そこで,…巻上げローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させることにより,巻上げられる経糸の位置が常にずれて重なることがなく,長尺のラップネットを1本のロールに巻取ることができる。(段落【0043】【0044】)と記載されている。
本件明細書には,発明を実施するための形態として,本件発明1及び2に係るラップネットについて,先の出願2とほぼ同様の記載がされていて,経
糸及び緯糸に使用されるセルロース系繊維として綿の他,麻などが挙げられ(段落【0048】),また,ラップネットの製造装置は,どのような編機でもよいが,生産性等の点でラッシェル編機を使用することが望ましいこと(段落【0066】【0076】),…編目形成機構から連続的に編出されるラップネットを巻取機構の巻上げローラで巻き取るにあたり,当該巻上げローラをその回転軸方向に所定の振幅で往復運動させる。また,巻上げローラを往復運動させるかわりに,巻上げローラの前に綾振り装置を設置する,或いは,巻取り台を移動するようにしてもよく,これらを組み合わせるようにしてもよい。(段落【0081】)ことが記載されている。そして,実施例として,経糸に10番手の綿紡績糸を2本引き揃えて撚りを掛けないま
ま使用する引き揃え糸(10//2s,糸強度14N/本)を,緯糸に20番手の綿紡績糸の単糸(糸強度3N/本)を使用し(段落【0088】),
編成にはラッシェル編機を使用したところ,編地の長さ方向に連なるチェーンステッチ1本当たりの強度(引張強さ)は40N/本であり(段落【0089】【0090】),また,連続的に編出されるラップネットを巻取機構の巻上げローラで巻き取るに当たり,当該巻上げローラをその回転軸方向に2.5cmの振幅で往復運動させ,また,巻上げローラに対応したプレスロ
ーラーを採用し巻取硬度を硬くするようにしたところ,1本のロールに巻き取ったラップネットの長さは1000m/本であり,巻き取ったラップネットの直径は24cmであった(段落【0094】)ことが記載されている。本件明細書に記載された数値等は,先の出願2に係るものとほぼ同じであるところ,実測値ではなく,被告代表者が知識と経験に基づき計算した値で
あり,原告から提供された数値は含まれていない。
(本項につき,甲7)

原告が平成26年5月に試作した綿製ラップネットを巻き取ったものには顕著な凹凸があった。(乙6)
原告,被告及びタカキタは,同年6月から同年7月頃,タカキタが出展す
る展示会に,e-コットンネットとの文字を含む商標(後に被告において商標登録出願)を付した綿製ラップネットを出品するためチラシを作成した。同チラシには,問合せ先として被告が,協力会社として原告及びタカキタが記載され,開発中国際特許出願中と記載されていた。タカキタは,同チラシの作成過程において,印刷会社が作成したチラシ案に対し,上
記のラップネットは被告の商品であることを指摘した上,問合せ先は被告のみにするのが相当であり,原告及びタカキタの住所は記載不要である旨の意見を述べ,採用された。(乙7,46)

原告と被告は,その後,原則として,被告が原告を通じて綿糸を輸入し,原告がこれを使用して綿製ラップネットを製造した上で被告に納品し,被告は原告に糸代及び加工賃を支払うという態様で継続的に取引を行った。(乙
6,50)
原告は,平成28年3月頃から,綿製ラップネットを自社製品として宣伝するようになった。(乙42,43)
原告と被告の取引は,同年秋から冬頃に終了した。(乙50)
被告は,昭和43年から昭和52年頃に製造された武田マイヤー株式会社
(当時)製の中古のラッシェル編機を導入し,綿製ラップネットを内製するようになった。(乙8)
原告は,平成29年4月頃,被告が単独で本件出願をしたことを問題視するようになった。(甲38)
原告は,平成30年7月30日,ロール状ラッピングネット,及びその製造方法について特許出願した。その特許請求の範囲は,【請求項1】…経糸と挿入糸にそれぞれ綿糸を使用すると共に,ネット生地の巻取り工程において,…ネット生地を鎖編組織の間隔の範囲内で幅方向に一定の大きさで振りながらロール芯に巻き取ることを特徴とするロール状ラッピングネットの製造方法。などとされている。(乙45)
被告は,現在,マルオカ産業株式会社製の汎用の経編機を導入して,綿製ラップネットを内製している。(乙22)

ラップネットに綿糸を使用するに至った経緯,ラップネットの巻取りにあや振りの技術を用いることになった経緯について(事実認定の補足)

ラップネットに綿糸を使用するに至った経緯やラップネットの巻取り
においてあや振りの技術を用いることになった経緯について,以下の供述等がある。
原告代表者は,畜産試験場の職員から牛に飼料として綿実を与えている旨の話を聞いた際ラップネットに綿糸を使用することを思いつき,平成25年3月中旬に,被告代表者に提案して,経糸にポリエチレンフィルムスリットヤーン,緯糸に綿糸を使用したラップネットの開発に着手し
たが,同年5月9日に,Bⅰから,強度不足,課題未解決を指摘され,経糸にも綿糸を使用することの提案を受けたことからこれを採用し,その場合には経編機にあや振りの技術が必要になることを指摘した上で,プロトタイプにあや振り機構を備えるため次々と部品を発注してその改造に取り掛かり,同月31日には綿製ラップネットの試作品を提供し,同年6月中旬,同年7月26日,同年9月26日にそれぞれ改良品を提供した旨供述等する(甲56,66,原告代表者(6頁~))。Aⅰは,同年5月9日,Bⅰから経糸にポリエチレンフィルムスリットヤーン,緯糸に綿糸を使用したラップネットの強度不足等を指摘された際,原告
代表者において,更に経糸にも綿糸を使用することを提案した等と陳述する(甲57)。
Bⅰは,同人において,同年1月頃,ラップネットに綿糸を使用することを発案し,同年5月9日,雑談の中で,原告代表者ら及び被告代表者に対し,ポリエチレンフィルムスリットヤーンを使用するより全部綿糸
で製造した方が安全ではないかと指摘したように思う,また,同月31日に,巻取径を小さくする方法としてあや振りを施して更にプレスをすることについて,少なくとも原告代表者の発言があった旨供述等する(甲59,証人Bⅰ(8頁,11頁~,33頁~))。
被告代表者は,畜産試験場の職員からの指摘をきっかけに落綿を牛に食
べさせているとの取引先から聞いた話を思い出し,ラップネットの材料として綿糸を想起してこれをAⅰに指摘した,そして,綿糸を含め従来のポリエチレンフィルムスリットヤーンに代替できる糸の素材や仕様を検討する中で,平成25年3月中旬頃,まずは,経糸に生分解性ポリエチレンフィルムスリットヤーンを,強度を必要とせず飼料に混入しやす
い緯糸に綿糸を使用するラップネットを発明して,特許出願の準備をするとともに,原告に編布を依頼した,その後も,引き続き素材や仕様の
検討を重ねて経糸にも綿糸を使用するラップネットを発明し,同年5月9日頃までに原告に編布を依頼するとともに,ラップネットの巻取りに関し常識的な技術であるあや振りを指示したが,同年31日に原告から示された試作品にはあや振りが施されていなかったことから,同日,再度あや振りを指示した,被告が従前から所有する整経機にはあや振り機
構が備えられており,被告は業務において日常的にあや振りを行っていた旨供述等する(乙34,37,39,51,被告代表者)。

ラップネットに綿糸を用いることになったことに関係して,関係各証拠によれば,被告は取引先からの依頼に基づいて生分解性ポリエチレンフ
ィルムスリットヤーンを用いたラップネットを開発することとし,原告に生分解性ポリエチレンフィルムスリットヤーンを提供して編布を依頼して試作品を製造するなどしていたところ(前記⑵,⑶),平成25年1月に被告代表者,原告代表者及びAⅰが訪れた畜産試験場の職員からの指摘があった後,ラップネットに綿糸を使用するようになったことが
認められる(同⑶,⑸)。
もっとも,原告代表者がラップネットに綿糸を使用することを着想し,同年3月中旬に被告にこれを提案した旨の原告代表者及びAⅰの前記供述等を裏付ける客観的な証拠はない。他方,実際に様々な種類の綿糸の製造を依頼する(前記⑸)など当時から綿糸に関する知識を有していた
と認められる被告代表者の,畜産試験場の職員からの指摘をきっかけに取引先から聞いた話を思い出してラップネットの材料として綿糸を想起してこれをAⅰに指摘した旨の供述には相応の信用性があり,原告代表者及びAⅰの前記供述等は直ちに採用することができず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

したがって,原告代表者がラップネットに綿糸を使用することを着想し,同月中旬に被告にこれを提案したとは認められない。


ラップネットの経糸に綿糸を使用することに関係して,関係各証拠によれば,平成25年3月中旬以降,経糸に生分解性ポリエチレンフィルムスリットヤーンを,緯糸に綿糸を使用したラップネットの試作が開始され,原告は,経糸に市販のポリエチレンフィルムスリットヤーンを,緯糸に綿糸を使用したラップネットを試作したこと(前記⑸),Bⅰが,同年5月
9日,この試作品について評価をした際,全部を綿糸で製造した方が安全ではないかとの発言をしたこと(同⑺),被告は,同年3月には,緯糸よりも強度が要求される経糸に使用することを念頭において他の業者に対して複数の種類の綿糸の製造を依頼し(同⑸),同年5月中旬頃までには,経糸に使用するものとして複数の種類の綿糸を原告に提供して,ラップネ
ットの編布を依頼し,原告はこれらの綿糸を使用してラップネットを試作したこと(同⑸,⑺)が認められる。ここで,経糸にも綿糸を使用してラップネットを製造するようになった経緯について,同月9日にBⅰが全部を綿糸で製造した方が安全ではないかとの発言をしたことが認められるのであり,また,同日より前から
被告が複数の業者に経糸に使用することを念頭において一定の強度を有する複数の種類の綿糸等の製造を依頼していたことも併せて考慮すると,原告代表者が同日に経糸にも綿糸を使用することを着想し被告に提案した旨のAⅰの前記陳述を直ちに採用することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告代表者が,同日にラップネットの経糸に綿糸を使用することを着想し,被告に提案したと認めることはできない。

ラップネットの巻取りにあや振り機構を備えることについて,関係各証拠によれば,平成25年5月31日,原告代表者,被告代表者等との間
で,今後,ラップネットの巻取りの際にあや振りをするなどの仕様で試作品を製造することなどが確認されたことが認められる(前記⑻)。
もっとも,経糸に綿糸を用いる場合には強度を確保する点から糸が太くなってそのままでは巻き取れるラップネットの長さが短くなるところ,そのような太い経糸で効果的に巻取りをするためにはあや振りの技術があり,そのようなあや振り自体は繊維業界において広く用いられている基本的技術であって(前記第2の1⑵カ),被告が昭和60年頃に導入
した整経機にもあや振り機構が備えられていて,被告代表者は従前から,あや振りの技術を認識し上記機構を日常的に用いていたと認められること(乙14~17,34),他方,原告製造に係る綿製ラップネットの試作品には平成26年5月頃まで巻取り後に凹凸があり(前記⒀,⒄),平成25年5月当時の原告代表者のあや振りの具体的な技術に関する知
識経験が必ずしも明らかではないことなどの事情がある。これらに照らせば,同月31日にあや振りの話がされた際に原告代表者があや振りを施して更にプレスすることを発言したことがあったとしても,原告代表者が同日,あや振りの技術を採用すること自体を独自に思い付いたことを認めるに足りず,あや振りの技術を提案した旨の原告代表者及びAⅰ
の前記供述等を採用することはできない。また,Aⅰがラップネットに綿糸を使用することやあや振りの技術を適用することを着想し被告に提案したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告代表者及びAⅰが,綿製ラップネットの製造に当たりあや振りの技術を適用することを着想して,これを被告代表者に提案等
したとは認められない。
2
争点①(原告代表者及びAⅰが被告代表者と共同で本件各発明をしたか。)について


本件発明1及び本件発明11の特徴的部分について

原告は,本件発明1及び本件発明11の特徴的部分の完成への関与について,その大部分を担ったのは,原告代表者及びAⅰであると主張する。

前記1⒃によれば,従前の技術的課題を解決する,本件発明1の特徴的部分は,ラップネットにおいて従前,技術的課題であるとされていた作業性,家畜の安全性を確保するために,ラップネットの経糸及び緯糸のいずれにもセルロース系繊維を用いたというものであると認められる。この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2
(平成25年7月22日出願)の請求項1に含まれるものであった。そして,本件明細書の発明の実施の形態における,本件発明1のラップネットに関する経糸及び緯糸に使用する糸の種類や引張強度等の数値を含めた記載は,先の出願2の明細書の記載とほぼ同様のものである。これらによれば,本件発明1の特徴的部分は,平成25年7月22日ま
でには完成されていた。

前記1⒃によれば,本件発明1のように,ラップネットの経糸及び緯糸のいずれにもセルロース系繊維を用いると,特に緯糸に比べて強度が要求される経糸が太くなり,それによって1本のロールに巻き取れるラップネ
ットの長さが短くなるという課題があった。本件発明11は,その課題を解決するため,本件発明1等のラップネットの製造方法において,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を適用したものであり,本件発明11の特徴的部分は,本件発明1から10に係るラップネットの製造方法において上記のようなあや振り機
構を適用した部分であると認められる。
この特徴的部分は,本件出願において優先権の主張がされた先の出願2(平成25年7月22日出願)の請求項6に含まれるものであった。そして,本件明細書の実施の形態における,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を用いた場合
の往復運動の振幅,その場合の巻き取ったラップトップの長さや直径の数値を含めた記載は,先の出願2の明細書の記載と同じものである。
これらによれば,本件発明11の特徴的部分は,平成25年7月22日までには完成されていた。


本件発明1の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAⅰの現実の関与について


被告は,平成25年3月中旬頃,原告に対し,糸を提供して,緯糸に綿糸を使用したラップネットの編布を依頼し,同年5月にタカキタ,原告,被告の関係者が集まった場において,Bⅰが全部を綿糸で製造した方が安全でないかとの発言をして,その後,被告は,他の業者に対して依頼して製造していた複数の種類の綿糸を原告に提供して,経糸及び緯糸に綿糸を使用するラップネットの編布を依頼し,原告は経糸にこれらの綿糸を使用してラップネ
ットを試作した。
ここで,ラップネットの緯糸,経糸に綿糸を用いることについて,原告代表者又はAⅰが着想して,これを被告に提案したと認めることはできない(前記1⒆ア,イ)。

原告は,平成25年5月,被告から提供を受けた複数の種類の綿糸を経糸及び緯糸に使用して,ラップネットの試作を行い,タカキタは,その試作品の強度が十分であることを確認した。
もっとも,経糸に使用した綿糸は,被告が平成25年3月頃からラップネットの経糸に使用することを想定して他社に依頼して製造していたものであり,それを原告に提供したものであった。また,ラップネットの編組織は一
般的なものであり,その製造には一般的なラッシェル編機を用いることが可能であり(前記1⑵),原告は,従前から保有していたラッシェル編機を用いて編布をした。

原告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項1に記載された発明は,ラップネットにおける経糸及び緯糸がセルロース系繊維であるというものであったところ,その明細書の実施例には,経糸,緯糸に用い
る具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェル編機を使用してラップネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチェーンステッチ1本当たりの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されていた。この強度等の数値は,被告代表者が,その知識,経験に基づき計算したもので,原告から提供されたものはなかった。

また,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成26年4月23日に本件出願をしたところ,その明細書の実施例には,先の出願2とほぼ同様の,経糸,緯糸に用いる具体的な綿糸の種類や,それを用いて,ラッシェル編機を使用してラップネットを製造した場合の編地の長さ方向に連なるチェーンステッチ1本当たりの具体的な強度(引っ張り強さ)が記載されてい
た。この強度等の数値は,被告代表者が,その知識,経験に基づき計算したもので,原告から提供されたものはなかった。また,上記の計算や本件明細書の記載に当たり,原告から提供を受けた試験結果等が参考等されたことを認めるに足りる証拠はない。

前記アによれば,本件発明1の特徴的部分について,原告代表者又はAⅰが着想したと認めることはできない。また,前記イのとおり,原告が綿糸を使用したラップネットの編布を行ったことは認められるものの,それは被告が製造して原告に提供した綿糸を使用してされたものであって,ラップネットの編組織が一般的なものであり,上記編布において一般的な編布に必要な
技術以外の技術が用いられたことを認めるに足りる証拠はないことなどからすると,そのような編布をしたことのみをもって,原告代表者及びAⅰが直ちに本件発明1の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。そして,前記ウのとおりの明細書の記載やその記載に至る経緯に照らせば,原告が編布を行ったり,その後,その試作品の強度試験を行ったりしたこと
があったとしても,原告代表者及びAⅰが,本件発明1の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。

したがって,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAⅰが具体的に関与したとはいえず,原告代表者又はAⅰが本件発明1を発明したということはできない。

原告,被告及びタカキタは,平成25年12月,本件開発契約を締結した(前記1⒁)。しかし,本件開発契約において,有効期間は同年9月からと定められているのに対し,本件発明1の特徴的部分が同年7月22日までに完成されていたことから,そもそも,本件発明1は,本件開発契約に基づいて開発,発明されたものとはいえない。また,原告もその当事者である本件開発契約においては,その有効期間前の被告の活動等として,被告が,平成
25年5月に綿ベールネットの編布を原告に依頼したこと,原告に複数の綿糸を納入したこと,タカキタに綿ネットの試験巻きを依頼したことが特に記載されており,綿ベールネット自体は被告が開発したことが前提とされていたともいえる。
また,被告が平成24年に原告に対しラップネットの編布を依頼した後,
被告及び原告は,共同で特許出願をしたり,畜産試験場を訪れたり,試作品についての評価をタカキタで受けたり,どのような試作品を製造するかを確認したり,補助金の交付の申請をしたりした(前記1⑶,⑸,⑺ないし⑼)。また,原告は,新たに編機を購入するなどした上でラップネットの製造についての開発を行った(同⒂)。

しかし,上記各事実は,それ自体は本件発明1の特徴的部分の完成に直接関係するとはいえないものであって,それらの事実をもって直ちに本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAⅰが現実に関与したと認めるに足りるものではない。上記各事実は,前記アないしウに記載した事実に照らすと,本件発明1の特徴的部分の完成に原告代表者又はAⅰが具体的に関与し
たとはいえないという上記認定を左右するものではない。
なお,被告が,ラップネットに関し,平成25年1月に原告と共同で別件
出願1をしたことや,同年12月に原告及びタカキタと本件開発契約を締結したことについて,被告代表者は,別件出願1は,原告からラップネットを量産化するに当たり,生分解性ポリエチレンフィルムのスリット加工等も原告において行った上で編布をしたい旨の申出を受けたことから,経編機の改良における原告の役割を期待して,共同で行うこととしたものであり,また,
本件開発契約は,被告において綿製ラップネットの基本的な開発が完了した段階で量産化や生産効率化を図るに当たり,原告及びタカキタにおいて積極的な役割を果たすことが期待されたことから締結したものである等と陳述する(乙34)。この説明は,原告が平成26年1月頃から新しく購入したラッシェル編機を用いてラップネットの製造を行う(前記1⒂)など,ラップ
ネットの量産化,生産効率化における役割を果たしたことや,原告と被告は被告が原告に糸代及び加工賃を支払うという態様で継続的に取引を行うようになっていて(同⒅),ラップネットの生産効率化等は被告の利益でもあったことなどを含めた前記認定に係る事実経過にも矛盾せず,相応の合理性があるものである。


以上によれば,本件発明1について,原告代表者及びAⅰが発明者であることを認めるに足りず,同人らが本件発明1に係る特許を受ける権利を有していたとはいえない。


本件発明11の特徴的部分の完成に対する原告代表者及びAⅰの現実の関与について

原告代表者,Aⅰ及び被告代表者は,平成25年5月31日,タカキタにおいてラップネットの試作品の評価を受け,以後の予定として,巻取りの際にあや振りをするなどの仕様で試作品を製造することが確認された(前記1⑻)。

ここで,原告代表者又はAⅰが,綿糸を用いるラップネットの編布においてあや振りの技術を適用することを着想し,被告に提案したとは認められな
い(前記1⒆エ)。

原告は,平成25年6月以降,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させるのではなく,巻上げローラの前にあや振り装置を設置するという方法により,あや振りを施すことを試みていた(前記1⑽)。なお,それ以前,原告は,巻上げローラを左右に往復運動させる方法を試みたが,所
望の結果が得られず,また,上記方法について,被告にその機械の動作等を見せたことはなく(同⑵),同動作等に関する情報を被告に対して提供したことを認めるに足りる証拠はない。

巻取りに際してあや振りをすること自体は,繊維業界において広く用いられている基本的な技術であり,被告が昭和60年頃に導入した整経機にもあ
や振り機構が備わっており,被告代表者は,従前からあや振りの技術を認識し,日常的に用いていた。
被告は,平成25年7月22日,先の出願2をした。その請求項6に記載された発明は,経糸及び緯糸がセルロース系繊維からなるラップネットの製造方法において,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させる
というものであった。そして,明細書の実施例には,巻上げローラを回転軸方向に往復運動させる振幅の数値や,1本のロールに巻き取ったラップネットの長さ,その直径の数値が記載されているところ,この数値等は被告代表者が知識と経験に基づいて計算したものであり,原告から提供されたものではなかった。そして,原告は,先の出願2等を優先権の基礎として,平成2
6年4月23日に本件出願をしたところ,本件明細書の実施例には,あや振りに関して,先の出願2の実施例と同じ記載がされていて,この数値等は被告代表者が知識と経験に基づき計算したものであった。上記の計算や本件明細書の記載に当たり,原告から提供を受けた何らかの情報が参考等されたことを認めるに足りる証拠はない。


上記アによれば,本件発明11の特徴的部分について,原告代表者又はA
ⅰが着想したと認めることはできない。また,原告が巻上げローラの前にあや振り装置を設置するという方法によりあや振りを施すことを試みていたことは認められるが,本件発明11は,巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させるというものである。そして,前記ウのとおりの明細書の記載やその記載に至る経緯に照らしても,原告代表者やAⅰが本件発明11
の特徴的部分の完成に現実に関与したと認めるには足りない。
したがって,本件発明11の特徴的部分の完成に原告代表者又はAⅰが現実に関与したとはいえない以上,原告代表者又はAⅰが本件発明11を発明したということはできない。

原告は,ラップネットの試作を行い,平成25年6月以降は,巻上げローラの前にあや振り装置を設置する方法によりあや振りを施すことを試みるようになり(前記1⑽),平成30年7月には,ネット生地を鎖編組織の間隔の範囲内で幅方向に一定の大きさで振りながら巻き取ることなどの構成を有する製造方法についての特許出願をする(同⒅)など,ラップネットの製造においてあや振りに関する開発を行っていたことはうかがえる。しかし,上
記各事実は,その内容及び時期から,平成25年7月22日までに完成されていた,本件発明1等のラップネットの製造方法において巻上げローラを回転軸方向に所定の振幅で往復運動させて巻き取るというあや振り機構を適用するという,本件発明11の特徴的部分の完成に対し,原告代表者及びAⅰが具体的に関与したことの根拠となるものではない。



以上によれば,原告代表者又はAⅰが本件発明1及び本件発明11を発明し,ひいては本件各発明の大部分を担ったとの原告の主張には理由がない。なお,本件各発明のうち,本件発明1及び本件発明11以外の発明について,その特徴的部分の完成に対する,原告代表者又はAⅰの具体的な関与を認める
に足りる証拠もない。原告の主張中には,本件各発明の中には本件開発契約の期間中の発明がある旨述べる部分もあるが,その期間中にされた発明であるこ
とによって,直ちに特定の発明の特徴的部分の完成に原告代表者及びAⅰが具体的に寄与したと認められることになるものではない(本件開発契約でも発明に係る権利は発明をした当事者に帰属することが定められていた。)。したがって,原告代表者及びAⅰが被告代表者と共同で本件各発明をしたとは認めるに足りない。

第4

結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がないから,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官

柴田義明
裁判官

佐伯良子
裁判官

棚井啓
(別紙)
特許権目
特許登録番号
第5892637号

登録名義人

被告

登録年月日

平成28年3月4日

発明の名称


ラップネット及びその製造方法
以上
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