判例検索β > 平成30年(ワ)第3601号
損害賠償請求事件
事件番号平成30(ワ)3601
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和2年9月28日
裁判所名・部京都地方裁判所  第3民事部
裁判日:西暦2020-09-28
情報公開日2020-12-07 16:00:27
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主1文
被告らは,原告に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成30年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,これを100分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求
被告らは,原告に対し,連帯して1億1000万円及びこれに対する平成30
年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2
1
事案の概要等
事案の概要
本件は,原告が,被告株式会社A(以下被告会社という。)の発行する週刊誌である週刊B(以下,本件週刊誌という。)第1191号(平
成30年7月6日発売)に掲載された警察の闇暴力団の破門状事件めぐり京都府警が過去を隠した男と題する別紙記事(以下本件記事という。)について,本件記事が,原告が指定暴力団山口組の直参組織である淡海一家の組員であったという事実等を摘示し,原告の名誉を棄損したと主張して,被告会社及び本件記事を執筆した被告y(以下被告個人という。)に対し,共
同不法行為に基づく損害賠償として,1億1000万円(慰謝料1億円及び弁護士費用1000万円)及びこれに対する平成30年11月30日(不法行為日より後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
2
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。当事者等

原告は,総合警備保障業務等を目的とするC警備株式会社(以下C社
という。)をはじめ,警備業務や人材派遣業務等を目的とする複数の企業を経営する者である(乙2)。原告は,出生時は韓国籍であり,通称とし
てaを名乗っていたが,平成16年6月22日,日本国籍に帰化した際に現在の氏名(h)に変更した(甲5,10,乙2,原告本人)。イ
被告会社は,書籍,雑誌及びパンフレットの出版及び販売等を目的とす
る株式会社であり,本件週刊誌を発行している。本件記事掲載当時の本件週刊誌の編集長は,bであった(丙1)。

被告個人は,フリージャーナリストであり,本件記事の執筆者である
(乙14)。

淡海一家は,平成14年末ないし平成15年頃に指定暴力団山口組の傘下組織として設立された暴力団組織である。

原告は,淡海一家が平成29年9月21日付けで原告を破門した旨が記載された破門状と題する書面(以下本件破門状という。)が頒布されたことを知り,同年11月1日,原告に対する名誉棄損罪及び偽計業務妨害罪を構成するとして,京都府警に刑事告訴した。
これを受けて捜査が行われた結果,平成30年1月31日,淡海一家の元
組員であるc,d,eほかが名誉棄損罪の被疑事実により逮捕され,その後,京都地方裁判所に起訴された。
cは,平成29年10月上旬頃ないし同月26日までの間,自己の携帯電話及び自宅のFAXを用いて本件破門状の写しや写真データをd等の第三者に送信した事実等が名誉棄損罪に該当するとされ,平成31年3月13日に
罰金50万円の有罪判決を受け(甲4),これに対するcの控訴は棄却されて上記判決が確定した。(甲7~9,乙5,被告個人本人,弁論の全趣旨。以下,この事件を破門状事件という。)株式会社Dは,平成29年11月27日,フリーライターであるfの執筆に係る原告に関する記事(以下E記事という。)が掲載された週刊誌週刊E(平成29年11月29日号)を発行し,販売した。
E記事は,原告をH氏とした上で,本件破門状にH(原告)の氏名が
記載されていたこと,H(原告)は平成15年3月まで国会記者会館や総務省等の庁舎内に食堂を出店していた会社のオーナーであったこと,H(原告)が淡海一家に所属していたとする淡海一家の関係者の証言があることなどを記載し,さらに,H(原告)に取材したところ,同人から自分が暴力団員だった事実は絶対にない,破門状は私に恨みを持っている人間が出した怪文書じゃないですかなどの回答を受け,H(原告)の代理人弁護士からも,

Hは過去にも,また,現在も,淡海一家なる暴力団に帰属したことはありません。

,京都府警察本部組織犯罪対策第二…課職員からHに対し,『同組に所属していた事実はない』旨の確認を頂いておりますとの回答を
受けたことを記載した上,

H氏のような実社会と暴力団社会の“狭間”に位置する存在によって,国会や裁判所と暴力団が逆に“接近”するというあり得ない事態が起きている。

などと記載するものであった。(甲6)被告個人は,本件記事を執筆し,被告会社は,平成30年7月6日,本件記事が掲載された本件週刊誌第1191号を発行し,販売した。本件記事の
内容は,概略,次のとおりである。(甲1)

見出し
本件記事は,見開き1頁にわたり,警察の闇暴力団の破門状事件めぐり京都府警が過去を隠した男との大見出しの下に,京都府知事も誕生祝いにかけつけた“大物”が背景に?!との中見出しや京都府警はなぜ庇うのかとの小見出しがある。

写真部分本件記事の右頁上部には,顔にモザイクがかけられた3名のほか,原告及びgの写真が掲載され,h氏(右)の誕生日にかけつけたg京都府知事(当時)(左ページも資料提供筆者)とコメントが付されている。
また,本件記事の左頁上部には,原告の実名(h)を記載し,原告以外の者の氏名を黒塗りにした本件破門状の写しが掲載され,2017年9月末に淡海一家が通知し,SNSで拡散された破門状4人の名があると
コメントが付されている。

記載部分A
本件記事の小見出し京都府警はなぜ庇うのかに続く本文では,暴力
団組織において,組員を破門した場合などには破門状を作成して通知するのが一般的であるとした上で,本件破門状事件について,京都府警が原告には暴力団組織の在籍の事実がないと説明したことを取り上げ,

淡海一家の組員に聞けば,破門状に書かれた4人は間違いなく元組員だと証言するだろうが,府警は,どうしてh氏という人物の過去をことさら隠蔽するのか。

などと記載されている(以下記載部分Aという。)。エ
記載部分B
本件記事の小見出し『義理を忘れた男』に続く本文では,i総長の盃をh氏と共に受けたc氏…は『hとは五分の兄弟盃を交わしていますし,れっきとした淡海一家の組員でしたよ。平成22年か23年ごろまでは間違いなく淡海一家の看板で仕事をしていました。…』とその素顔を証言する。,

媒酌人をつとめたj氏(56歳)も立合人の一人として出席したk氏(49歳)も『…(h)とcは五分の兄弟盃を交わしています』と証言する。

と記載され,京都府警による原告に暴力団在籍の事実がないとの説明が怪しい旨の記載や,京都府警本部新築工事の現場の警備業務
を原告が経営する警備会社が受注し,元京都府警の警察官が同社の副社長といった要職に就いていることを指摘し,元暴力団組員が経営する企業が公共工事の警備業務に参入していることを問題視する旨の記載がある(以下記載部分Bという。)。
2
争点及び当事者の主張
本案前の争点は,本件訴えが訴権の濫用に当たるか(争点1)であり,本案
の争点は,①


本件記事によって原告の社会的評価が低下したか(争点2),

本件記事に係る公共性,公益目的の有無(争点3),③
真実性,真実相当性の有無(争点4),④

本件記事に係る

原告に生じた損害の額(争点5)

である。
争点1(本件訴えが訴権の濫用に当たるか)
(被告会社の主張)
本件訴えは,同種事件の一般的な損害賠償額の20~100倍に達する1億1000万円もの高額な損害賠償を求めるものであり,このような請求は,被告会社の経営に大きく影響する。原告は,原告の主張する不法行為(名誉棄損)が成立しないことを容易に予想し得たにもかかわらず,出版社に対し,
その言論を萎縮させ,封殺するために上記のような高額な損害賠償を求めているものであって,本件訴訟の提起は,専ら相手方当事者を困惑させることを目的とし,あるいは訴訟が係属,審理されていること自体を社会的に誇示することにより,被告らに対して有形・無形の負担若しくは打撃を与えることを目的として提起されたものといえる。

したがって,本件訴えは,訴権の濫用に当たり,訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反するものとして不適法である。
(原告の主張)
争う。
本件訴えは,原告の名誉権の侵害に対する適切な法的措置として提起した
ものであり,請求額も過大とはいえないから,訴権の濫用に当たらない。争点2(本件記事は原告の社会的評価を低下させるものか)(原告の主張)一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてみれば,本件記事は,原告が,京都府暴力団排除条例が施行された後の平成29年9月21日(本件破門状で破門があったとされた日)頃まで暴力団組員であったとの事実を断定して摘示し,その印象を読者に与えて,原告の社会的評価を著しく低下させる。
(被告らの主張)

本件記事は,単に原告が元暴力団組員であるという事実を摘示したにす
ぎず,原告が平成29年9月21日頃まで暴力団組員であったことまで摘示したものではない。

本件記事の主眼は,原告と京都府警及び元京都府知事が,公共工事の受
注や天下りの受け入れ,破門状事件における誤認逮捕につながるような不適切な関係がある疑惑を報じることにあり,原告が元暴力団組員であるという事実は,その背景事情の一つにすぎない。また,本件記事においては,京都府警が,原告が暴力団に在籍していた事実はないと発表していることも記載しているから,記事全体を読めば,原告が元暴力団組員であると断定するものではなく,その疑いがあることを記載しているにすぎない。よって,一般の読者の普通の注意と読み方を基準としても,本件記事は,原告の社会的評価を低下させるものではない。


仮に,本件記事が原告の社会的評価を低下させる内容のものであるとし
ても,本件記事の発表前にE記事等で破門状事件が取り上げられ,本件記事に記載されたのと同内容の事実が公にされていたから,本件記事によって原告の社会的評価が新たに低下することはない。
争点3(公共性及び公益目的の有無)
(被告らの主張)
前記

(被告らの主張)イのとおり,本件記事の主眼は,原告の社会的評価を貶めることにあるのではなく,暴力団組織の元幹部であったという有力な証拠がある原告の経営する会社が,公共工事の警備業務の受注や天下りの受け入れを行っており,原告と京都府警及び元京都府知事との間に不適切な関係があるのではないかという疑惑を報じることにあり,本件記事は,上記疑惑を報じる上で必要不可欠な原告が元暴力団組員であるという事実を摘示したにすぎない。本件記事には公共性があり,かつ,本件記事の表現方法が穏当であることに鑑みても,被告らが本件記事を執筆ないし公表したことには公益目的があったといえる。
(原告の主張)
被告らの主張は,争う。以下の事情に照らせば,本件記事に公共性はなく,
また,被告らが本件記事を執筆,掲載した意図が専ら公益を図る目的にあったとはいえない。

本件記事は,原告の実名を記載していること,紙幅の大半を本件破門状
の内容の真偽を巡る経緯に費やしており,京都府警や元京都府知事に関する記述は僅かであること,本件記事が,本件破門状事件で原告の名誉を毀
損したとして有罪判決を受けたcや,原告から貸金返還請求訴訟を提起されていたdの証言を基にしていることなどからしても,本件記事の目的は専ら原告の社会的評価を貶めることにあったといえる。

また,原告は単なる私人にすぎない。被告らは,原告の経営する会社が
公共工事の警備業務の受注をしていることなどをもって,本件記事が公共性を有し,被告らには公益を図る目的があったなどと主張するが,原告の経営する会社が具体的にどのような業務を行っているのかなど被告らに公益を図る目的があったとすれば当然になされて然るべき取材がなされておらず,不合理である。

争点4(真実性又は真実であると信じたことについての相当な理由〈以下,併せて真実性等という。〉の有無)(被告らの主張)

真実であること
本件記事は,原告が元暴力団組員であるという事実を摘示したものであるところ,以下のとおり,同事実は真実である。
原告は,平成14年10月,当時指定暴力団五代目山口組弘道会会長
であったiとの間で舎弟盃を交わし,暴力団組員となった。淡海一家設立直後の同年11月11日,敵対関係にある暴力団組織によって原告が経営する警備会社が銃撃される事件が発生したが,このことは,原告が淡海一家の幹部であった事実を裏付けるものである。
本件破門状には原告の氏名が記載されている。一般的に,破門状は,
暴力団組織において重要な書類であって,虚偽の破門状が出回ることはない。また,山口組弘道会幹部も本件破門状の内容が真正であると述べていること,原告自身,lに対し,淡海一家に所属していたことを自認する発言をしていたこと,cや淡海一家の元組員が,原告が淡海一家の幹部であったと明言していることなどからしても,原告が淡海一家の組
員であったとの事実は真実である。

真実であると信じたことについて相当な理由があること
上記アの事実に加えて,被告個人は,他の記者から情報の提供を受け,警察関係者や淡海一家の元組員,原告と利害関係のない複数の取材協力
者に対して取材等を行った上,原告が暴力団組員であったと確信したものであり,取材経過等に照らせば,被告らにおいて,本件記事の摘示した事実が真実と信じたことにつき相当な理由があったといえる。
被告個人は,原告本人への直接の取材は行っていないが,原告は,週刊Eの記者からの取材に対して,暴力団に所属していた事実を否定して
いたこと(E記事),京都府警も,原告が暴力団に所属した事実はないと断言していたこと,dに取材した際,同人から,原告の代理人弁護士が原告と暴力団との関係を否定する発言をしたことを聴取したことなどからすれば,原告に取材をしても,元暴力団組員であった事実を否定するであろうことは明らかであったから,そのような取材に意味はなく,不要である。
(原告の主張)

本件記事が摘示する事実は,(本件破門状によって破門があったとされる)平成29年9月頃まで原告が暴力団組員であったことであるところ,被告らは,上記事実に係る真実性等について何ら主張立証していない。

仮に,本件記事が摘示する事実が,原告が元暴力団組員であることにと
どまるとしても,以下のとおり,同事実は真実ではなく,被告らがこれを真実と信じたことについて相当な理由もない。
真実でないこと
原告が暴力団に所属していたという事実はない。
本件破門状は,淡海一家が作成したものかどうかも不明であり,原告
が淡海一家の組員であったことを裏付けるものとはいえない。被告個人は,原告がいかなる理由で淡海一家を破門されたかを尋問で問われても回答できておらず,本件破門状が真正なものかどうかについて十分な取材をしていないことが明らかである。
京都府警は,管轄内において特定の人物が暴力団組員に該当するか否
かの情報が記録された最大のデータベースを有しているところ,各報道機関に対し,原告が暴力団に在籍していた事実はないと明言している。被告個人が取材した者の供述は,いずれも,原告が暴力団関係者と思しき言動をしていたなどというものにすぎず,原告が淡海一家に所属する暴力団組員として活動していたとの具体的事実やこれに関する客観的
な証拠はない。また,原告が,lその他の第三者に対して原告が暴力団に所属していたなどと認める発言をした事実はない。真実であると信じたことについて相当な理由がないこと被告個人は,原告と利害が対立するか紛争が生じていたなど,原告に不利となる虚偽の事実を述べる動機がある人物に取材をしたのみで,何ら客観的な裏付けを取ることなく,また,原告に対する直接の取材申込みすら行わず,原告の言い分も確認せずに本件記事を執筆し,被告会社
は,これをそのまま掲載したものである。よって,仮に,被告らにおいて,本件記事において摘示した事実が真実であると信じたとしても,そのように信じるにつき相当な理由があったとはいえない。
争点5(原告に生じた損害の額)
(原告の主張)

慰謝料
原告は,行政からの信頼も厚く,原告が経営する会社は行政から依頼された業務も多数受注していた。一方で,週刊Bは,創刊27年近くも経つ老舗雑誌として社会的に発信力のある媒体であり,本件記事による事実の流布は広範囲にわたり,その伝播力も強力である。本件記事によって,原
告の社会的評価は著しく低下させられ,会社の経営にも支障が生じた。これらの事情を勘案すれば,被告らの不法行為によって原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額は,1億円を下らない。

弁護士費用
原告は,本件訴訟の追行を弁護士に委任したところ,被告らの不法行為
と相当因果関係のある弁護士費用の額は,1000万円とするのが相当である。
(被告らの主張)
争う。
原告は,本件記事が掲載される以前に,E記事において破門状事件を取り上げられ,本件記事と同様の事実を公にされていたから,本件記事の公表によって原告が新たに被る損害は存在しないか,ごく僅かである。第3
1
当裁判所の判断
争点1(本件訴えが訴権の濫用に当たるか)について
本件訴えは,本件記事が原告の名誉を毀損するとして,本件記事を執筆した被告個人及び本件記事を掲載した週刊誌を発行した被告会社に対して不法
行為に基づく損害賠償を求めるものであるところ,本件訴えが,原告に生じた損害の回復を目的とするものではなく,専ら被告らに不利益を与えることを意図したものであるとは認められず,その他,本件訴えが,裁判制度の趣旨,目的に照らして著しく相当性を欠き,信義に反するものと評価すべき事情があるとはいえない。この判断は,原告が請求する損害賠償の額が同種事
案に比して高額であったとしても,左右されない。
したがって,本件訴えが訴権を濫用するものとして不適法である旨の被告会社の主張は,理由がない。
2
争点2(本件記事が原告の社会的評価を低下させるものか)についてある表現における事実の摘示が人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,当該表現についての一般的な読者の普通の注意と読み方とを基準としてその意味内容を解釈し,判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁等参照)。

本件記事は,その記載の意味内容を一般の読者の普通の注意と読み方を基準として解釈すれば,原告が少なくとも平成22年ないし23年頃まで淡海一家に所属していた元暴力団組員であるとの事実(以下本件事実という。)を摘示して原告の社会的評価を低下させるものといえる。なお,本件記事は,原告が本件破門状に記載された平成29年9月21日頃まで暴力団
に所属していた事実を明確に摘示するものとは認められないが,このことは,本件記事が原告の社会的評価を低下させるとの上記判断に影響を及ぼすものではない。これに対し,被告らは,本件記事には,原告が暴力団に在籍していた事実はないとの京都府警の説明についても記載しているから,全体を読めば,原告が元暴力団組員であると断定するものではなく,その疑いがあることを記載しているにすぎないなどと主張する。
しかしながら,本件記事は,原告が暴力団組員であった旨の暴力団関係者らの証言と,原告が暴力団に在籍していた事実はない旨の京都府警の説明とを並列的に取り上げて紹介するといった体裁を取っておらず,かえって,京都府警はなぜ庇うのかとの小見出しに続けて,淡海一家の組員に聞けば,破門状に書かれた4人は間違いなく元組員だと証言するだろうが,府警は,どうしてh氏という人物の過去をことさら隠蔽するのかなどと,京都府警による上記説明が事実を隠蔽するものであると断定し,その前提に立って記述を進めていることが明らかであるから,被告らの上記主張は,採用することができない。

被告らは,また,E記事で既に同内容の事実が摘示されていたから,本件記事は原告の社会的評価を新たに低下させるものではないなどと主張する。しかしながら,仮に,先に発行された週刊誌等に同内容の記事が掲載されていたとしても,後に公表された記事によって対象者の社会的評価が更に低下することがないとはいえないし,そもそも,本件記事は,E記事と異なり,
原告の実名を公表している上,原告側に取材等した上でその言い分を記載することなく,原告と対立関係にあった関係者等からの聴取結果のみに基づいて記載されているなど,E記事とは異なる内容の事実の摘示によって原告の社会的評価を低下させるものといえる。よって,被告らの上記主張は,採用できない。

したがって,本件記事は,本件事実を摘示することにより原告の社会的評価を低下させるものといえる。3

争点3(公共性及び公益目的の有無)及び争点4(真実性等の有無)について
判断枠組み
特定の事実を摘示することによる名誉毀損については,その行為が公共の
利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合において,摘示された事実の重要な部分が真実であることが証明されたときは,当該行為には違法性がなく,また,真実であることが証明されなかったときであっても,その行為者が真実と信ずるについて相当の理由があるときには,当該行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しないものと解
される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・集民140号177頁参照)。
以上を前提に,公共性及び公益目的の有無(争点3)及び真実性等の有無(争点4)について判断する。
争点3(公共性及び公益目的の有無)について


私人の私生活上の行状であっても,当該私人が携わる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度に加えて,その事実が対象人物の社会的活動に対する批判又は評価の資料とするに値する事実であるかどうかという観点から,その事実と対象人物の社会的活動との関連の有無・程度等を考慮し,その事実が多数人の社会的利害に関する事実で,そ
の事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められる場合には,公共の利害に関する事実に当たると解するのが相当である(最高裁昭和54年(あ)第273号同56年4月16日第一小法廷判決・刑集35巻3号84頁参照)。

本件記事は,原告が少なくとも平成22年ないし23年頃まで淡海一家に所属していた元暴力団組員であるとの事実(本件事実)を摘示した上,京都府警が原告との癒着関係から同事実を隠蔽しているとの疑惑について記載したものであるところ,原告は,私人であるとはいえ,その経営に係る複数の警備会社が公共工事の警備業務等を受注しているなど一定の社会的影響力を有する者であること,本件事実は,公共工事の警備業務等を受注する会社としての適性評価と関連性がないとはいえないこと,京都府警
と原告との癒着の有無は,京都府警による捜査活動の適正さ等にも関わる事柄であることなどからすれば,本件事実は,多数人の社会的利害に関する事実で,その事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるものとして公共の利害に関する事実ということができ,また,その公表目的は専ら公益を図ることにあったと認められる。


これに対し,原告は,被告らが専ら原告の社会的評価を貶める目的で本件記事を公表したものであると主張するけれども,本件記事の記載内容や表現等に照らしても,本件記事が,原告の経営する会社が公共工事の警備業務等を受注することについての適性や,京都府警と原告との癒着関係の有無といった上記主題を離れて,殊更に原告を批判,攻撃することに終始
しているとまでは認められない。よって,原告の上記主張は,採用できない。

したがって,本件記事による本件事実の公表は,公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあると認められる。争点4(真実性等の有無)について


真実性について
前提事実並びに証拠(後掲各証拠のほか,甲10,乙5,14,証人c,証人b,原告本人。ただし,いずれも後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
a
iは,不動産業やコンサルタント業等を行う者であったが,平成14年9月頃,指定暴力団山口組弘道会の組員となり,同年末ないし平成15年頃,弘道会の傘下組織である淡海一家を設立して総長となった。
b
原告とiは,いずれもいわゆる在日韓国人であったことなどから,iが暴力団組員になる以前から私生活上及び業務上の交流があり,宴会等の場に同席することもあった。原告は,iを総長と呼称して

いた(乙15の1,乙15の2)。
c
cは,平成10年頃,指定暴力団山口組弘道会の傘下組織である関谷組白井興業の組員となった。

d
原告は,cとも,同人が暴力団組員になる以前から交流があり,cが暴力団組員になった後にiをcに紹介したことがあったが,その当
時はまだiは暴力団組員になっていなかった(乙15の1,乙15の2)。
e
原告は,平成4年9月16日,C社を設立して代表取締役に就任し,平成14年10月1日に代表取締役を辞任した後も,平成17年9月29日まで取締役としてC社を経営していた(乙2)。また,原告は,
株式会社Fほか複数の警備会社を経営し,官公庁等から多数の公共工事の警備業務を受注していた(甲10)。
f
原告は,平成20年11月,貸金業者としての登録をせずにcやd等に対する貸金業を営んでいたとして,貸金業法違反の罪で懲役1年
6月,執行猶予3年の有罪判決の宣告を受けた(原告本人)。
また,原告ないしその経営する会社は,かつて,C社等の警備業務を円滑に行うため,地元対策費等の名目で淡海一家等の暴力団組織に金銭を支払ったことがあったが,上記貸金業法違反事件の捜査に当たって,当初,原告による貸金が暴力団組織に対する利益供与に当たる
との嫌疑がかけられたことなどから,原告は,上記有罪判決が宣告された平成20年11月以降,暴力団組織の関係者と関わることのないよう行動することとし,遅くとも京都府暴力団排除条例が施行された平成23年4月までには,暴力団組織に対する金銭供与を行わないようになった。
認定した事実によれば,原告は,淡海一家の総長であるiや
関谷組白井興業の組員であるcと,両名が暴力団組員になる以前から交友関係にあり,暴力団組員であるcやdに対して金員を貸し付けていたほか,京都府暴力団排除条例等によって企業と暴力団組織との関係が厳格に規律される以前に,原告ないしその経営する警備会社が淡海一家等の暴力団組織に対して金銭供与をしたことがあったことが認められるけ
れども,これらの事実から直ちに,原告が暴力団組織に所属する組員であったとまで認めることはできない。
この点に関し,被告らは,①

複数の暴力団関係者が,原告が淡海一

家に所属していたと述べていること,②
載された本件破門状が発布されたこと,③
淡海一家から原告の氏名が記
平成14年11月11日,

C社の玄関ガラスに銃弾数発が撃ち込まれる事件(以下本件銃撃事件という。)が発生したこと(乙3),④

原告自身,lに対し,淡海一

家に所属していたことを自認する旨の発言をしたこと(乙15の1,乙15の2)などを挙げて,本件事実は真実であると主張する。
a
しかしながら,上記①について,cは,その証人尋問において,原告とiとの盃事に立ち会ったと供述するけれども,同供述を裏付ける客観的な証拠はなく,cが,原告の告訴に係る名誉毀損事件(破門状事件)に関与して有罪判決を宣告されるなど(前提事実

),何らか

の理由で原告と敵対する関係にあった者であることを勘案すると,cの上記証言をそのとおりに採用することはできない。また,被告個人は,c以外の暴力団関係者にも取材して,原告が淡海一家に所属する暴力団組員であったとの証言を得たと供述し,これら関係者の陳述書(乙7~11)を提出するところ,これらの中には,原告を車でiとの盃事の会場である料亭まで送ったとか,原告が暴力団組員から兄貴と呼ばれていたとか,原告から勧誘されて淡海一家の組員になった者が複数存在するとかといった記載が存在するけれども,いずれも,客観的な裏付けが一切なく,これらの供述記載によっても,原告が,
iをはじめとする暴力団組員と交友関係を有していたとの事実にとどまらず,淡海一家に所属する暴力団組員であったとまで認めるには足りない。
b
上記②について,被告らは,淡海一家の組員(若頭)であるeが作成したとする回答書(乙17の1,乙17の2,乙18)を提出する
ところ,同回答書には,原告が淡海一家に所属していたこと,本件破門状は,原告が組織に戻る気がないと判断してeが発布したものであることなどの記載があるが,同記載についても客観的な裏付けがなく,他方,捜査機関(京都府警)内部で行われた原告に関する暴力団個人照会において,京都府警察本部刑事部組織犯罪対策第一課から,実名,
通称のいずれについても該当なしとされていることなどに鑑みると(甲5),上記回答書の記載をそのとおりに採用することはできず,また,原告宛てに本件破門状が発布された事実のみから直ちに,本件事実が真実であると認めることはできない。
c
上記③について,本件銃撃事件の被疑者は未だ検挙されておらず,事件の動機や背景は明らかになっていない。cは,淡海一家と敵対する暴力団組織による犯行であると供述するが,客観的な根拠に基づくものではなく,同供述をそのとおりに採用することはできないし,仮に,敵対する暴力団組織の組員による犯行であったとしても,そのこ
とから直ちに,原告が淡海一家に所属する組員であったとの事実を推認するには至らない。d

上記④について,被告らは,原告とlとの会話の録音を証拠として提出するけれども(乙15の1,乙15の2),これを見ても,原告の発言内容は断片的でその趣旨が判然とせず,原告がiを総長と呼んでおり,原告とiとが古くからの付き合いであることは窺われるものの,原告自身が淡海一家に所属する組員であったことを認める趣旨の
発言をしていたとは認められない。
e
よって,被告らの上記主張を踏まえて検討しても,原告が少なくとも平成22年ないし23年頃まで淡海一家に所属していた元暴力団組員であるとの事実(本件事実)が真実であるとは認められない。
したがって,本件事実が真実であることを認めるに足りる証拠はなく,
真実性についての被告らの主張は,理由がない。

真実と信ずるにつき相当な理由の有無について
前提事実並びに証拠(後掲各証拠のほか,乙5,14,16,証人c,証人b,被告個人本人。ただし,いずれも後記認定に反する部分を除
く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。a
フリージャーナリストである被告個人は,平成30年頃,日刊紙の後輩記者から,本件破門状が頒布されたことを原因として逮捕者が出たこと,京都府警の元警察官が破門された人物が経営する警備会社の役員に就任していること,同人物が元京都府知事と交流があることなどの情報を得て,取材を開始した。

b
被告個人は,淡海一家の関連団体である指定暴力団山口組弘道会傘下の司興業の幹部である某と知己があったことから,同人に対し,本件破門状が司興業に届いているかどうかを確認し,肯定する回答を受け,本件破門状は本物であると考えた。もっとも,被告個人は,本件
破門状の発布名義人であるe(淡海一家の若頭)に対し,本件破門状の真偽や発布の経緯,理由等について確認することはしなかった。なお,被告個人は,本訴が提起された後に,eに対し,原告が淡海一家に所属する組員であった事実の有無,原告に対する破門状を発布した理由等に関する質問状を送付し(乙17の1及び17の2),回答を得ているが(乙18),これは被告らが本件記事を公表した後の事情であるから,被告らが本件事実を真実と信ずるにつき相当な理由があ
ったか否かを判断する上での資料とはならない。
c
被告個人は,平成30年2月中旬ないし下旬頃,淡海一家の組員の元組員に対する別件恐喝被告事件の刑事記録を閲覧する機会を得て,上記組員らが,淡海一家の幹部であった原告に勧誘されて淡海一家に加入した旨の供述をしていることを知った。

被告個人は,同年3月10日以降,淡海一家の元組員であるc及びdを中心として,複数の暴力団関係者等に対する取材を行い,同人らから,原告が平成14年10月にiとの盃事によって淡海一家に加入し,金銭面で淡海一家の活動を支えていたなどの供述を得た。
d
被告個人は,平成30年6月19日,上記cの取材結果を基に本件記事の草案を書き上げ,編集長であるbと打合せを行った。その際,bは,本件記事の根拠が暴力団関係者らの供述のみで客観的な裏付けに乏しいことに疑念を呈し,被告個人に対し,原告とiとの盃事の写真等の客観的な資料や利害関係のない複数人の供述の録音等を取得するよう要求した。

e
被告個人は,同月21日,取材対象者のうちc及びd,cが所属していた指定暴力団山口組弘道会の傘下組織である白井興業の元組員であるj及びkをホテルに呼び,改めて取材を行い,原告が淡海一家の組員であったなどとする供述を得てこれらを録音した上,bに提出した(丙2,3,乙14,被告個人本人)。

f
bは,被告個人から上記eの追加資料の提出を受け,本件記事を掲載した本件週刊誌を発行することを決めた。事実によれば,被告個人は,複数の暴力団関係者等
から供述を得るなど一応の取材活動を行ったことは認められるものの,取材協力者のうち,本件記事に実名で証言を載せるなどその中心的な立場にあったc及びdは,破門状事件において原告の告訴により名誉毀損罪で逮捕,起訴されていたり(c),原告から貸金の返還を請求されていたりするなど(d),原告と対立関係にあった者であるから,その供述の信用性については慎重に検討する必要があったというべきであるのに,被告個人は,何ら客観的な裏付けとなる資料が存在しなかったにも
かかわらず,専ら取材対象者らの供述のみに基づいて本件記事を執筆したものと認められる。被告個人は,本件記事の草案について,bから客観的な裏付けに乏しいとの指摘を受け,補充としてj及びk(丙2,3)を取材しているけれども,同人らも,cと同じ暴力団組織に所属していた者であって,中立的な立場の第三者とはいい難い上,同人らに対する
取材もc及びdが同席する場で行われたものであるから,その供述の信用性も高いものとはいえず,また,客観的な裏付けに乏しい状態にも変わりがなかったというべきである。
他方,暴力団組織への在籍歴について広範な情報を有する京都府警が,原告については暴力団組織への在籍歴がないと回答していたところ,被
告個人は,同事実を認識していたにもかかわらず,京都府警の元警察官がC社の役員に就任していること,C社が京都府警本部の新庁舎新築工事等を受注していること,京都府知事と原告との間に交流があることのみから,京都府警と原告との間に癒着関係があるものと即断し,それ以上の取材を行わなかったものである。

しかも,被告個人は,本件記事を執筆するに当たり,原告が本件事実を否定することが明らかであるとの理由で,原告に対して取材を申し込むことすらせず(被告個人),原告と対立関係にある暴力団関係者らの一方的な供述のみに基づいて本件記事を執筆したというのである。これらを総合すれば,被告個人は,本件記事を執筆するに当たり,本件事実が真実であると信じていたとしても,そのように信ずるについて相当な理由があったということはできない。また,編集長であったbに
ついても,一旦は本件記事の記載内容につき客観的な裏付け資料に乏しい旨の正当な指摘をしながら,被告個人が取材対象者を補充し,供述内容を録音したというのみで,客観的な裏付けがない状況に変化はなかったにもかかわらず,本件記事の掲載を判断したものであるから,本件事実が真実であると信ずるについて相当な理由があったということはでき
ない。
したがって,本件事実を真実であると信ずるにつき相当な理由があったとの被告らの主張は,採用することができない。

以上判断したところからすれば,本件事実は真実であると認められず,被告らにおいて,本件事実が真実であると信ずるにつき相当な理由があっ
たとも認められない。
4
小括
以上によれば,被告らが本件記事を執筆ないし掲載した行為は,原告の名誉を毀損するものとして原告に対する不法行為を構成し,被告らは,これによって原告が被った損害を連帯して賠償する責任を負う。

5
争点5(原告に生じた損害の額)について
慰謝料
本件記事は,全国的に販売される週刊誌に掲載されたものであり,それによる影響は大きいというべきである。また,本件記事の摘示した事実は,原
告が少なくとも平成22年ないし23年頃まで淡海一家に所属していた元暴力団組員であるというものであるから,原告の経営者としての資質や人格に対する社会的評価を低下させる程度は小さいとはいえない。他方で,原告は,複数の公共工事等を受注する会社の経営者として,その資質に関わる属性や人的関係等が社会の批判にさらされることもある程度容認すべき立場にあったといえること,原告が暴力団組員であったとの事実までは認められないとはいえ,iをはじめとする暴力団組員らと長年にわたる親交があり,暴力団
組織と無関係であったというわけではないこと,その他,本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すると,被告らが本件記事を執筆ないし掲載した本件週刊誌を発行して原告の名誉を毀損したことにより原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては,100万円をもって相当と認める。弁護士費用

原告は,本件訴訟を追行するために弁護士に委任しているところ,弁護士費用のうち被告らによる上記不法行為と相当因果関係を有する損害は,10万円と認めるのが相当である。
6
まとめ
以上によれば,原告の被告らに対する請求は,不法行為に基づく損害賠償と
して110万円及びこれに対する本件不法行為の後の日である平成30年11月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余の請求は,いずれも理由がない。第4
結論
以上の次第で,原告の被告らに対する請求は,110万円及びこれに対する平
成30年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれらを認容し,その余の請求は理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官

増森珠美
裁判官

佐藤彩香
裁判官

牛島賢
(別紙記事)
甲1
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