判例検索β > 令和1年(ネ)第2739号
意匠権 民事訴訟
事件番号令和1(ネ)2739
裁判年月日令和2年10月30日
裁判所名大阪高等裁判所
権利種別意匠権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2020-10-30
情報公開日2020-11-26 16:00:50
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令和2年10月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官

令和元年(ネ)第2739号,同第2765号損害賠償請求控訴事件,同附帯控訴事件
(原審大阪地方裁判所平成30年(ワ)第2439号)
口頭弁論終結日令和2年8月28日
判決
控訴人兼附帯被控訴人(一審被告)

株式会社ヨコタ東北
(以下控訴人という。)

同訴訟代理人弁護士

後藤邦同田口雄同田中友梨同青栁剛史同後藤慎平
被控訴人兼附帯控訴人(一審原告)

株式会社

丸春一朗善
(以下被控訴人という。)
同訴訟代理人弁護士

森本
同訴訟代理人弁理士

田中主1純秀明文
本件控訴に基づき,原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
(1)

控訴人は,被控訴人に対し,2944万3794円及びこれに対する平
成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(2)

被控訴人のその余の請求を棄却する。

2
本件附帯控訴を却下する。

3
訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の各負担とする。
4
この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1
1
当事者が求めた裁判
控訴の趣旨

(1)

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)

上記取消しに係る部分につき,被控訴人の請求を棄却する。

(3)

訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2
附帯控訴の趣旨

(1)

原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

(2)

控訴人は,被控訴人に対し,4273万3063円及びこれに対する平
成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員(当初請求していた額である7217万6858円及びこれに対する上記同様の割合による金員から後記第2の1のとおり支払を受けた2944万3795円及びこれに対する上記同様の割合による金員を控除した残額)を支払え。(3)

訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

(4)

仮執行宣言

第2

事案の概要
以下で使用する略称は,特に断らない限り,原判決の例による。

1
前提事実
次のとおり補正するほか,原判決事実及び理由第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)

5頁18行目の突条の先端を突条の外側先端に改める。

(2)

5頁23行目の段部よりもを他の段部よりもに改める。

(3)

7頁3行目末尾の次に,改行の上,次のとおり加える。

(9)原判決言渡しの後の一審被告株式会社静岡産業社(以下「一審被告静岡産業社という。)による一部弁済被控訴人は,原判決言渡しの後,一審被告静岡産業社との間で任意の和解をし,これに基づき,一審被告静岡産業社から,2944万3795円(原判決主文第1項の認容額の2分の1相当額。1円未満切上げ)及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに9万4125円(貼用印紙額の4分の3についての2分の1相当額)の支払を受けた。」
2
被控訴人の請求と訴訟の経過

(1)

被控訴人は,被控訴人が意匠権(本件意匠権)を有している登録意匠
(本件意匠)について,一審被告静岡産業社及び控訴人が,これと類似する意匠(被告意匠)を用いて原判決別紙被告意匠説明書記載の焼売用容器を製造・販売したとして,共同不法行為(意匠権侵害を理由とするものにつき意匠法39条1項[令和元年法律第3号による改正前のもの。以下同じ。],民法709条。原告製品の値下げを理由とするものにつき民法709条。なお民法719条前段)に基づき,損害賠償金7217万6858円及びこれに対する平成30年3月30日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた。
また,被控訴人は,一審被告静岡産業社に対し,売買契約に基づき,未払代金394万1568円及びこれに対する平成30年3月30日(本件訴状の送達による催告の日の翌日)から支払済みまで上記同様の遅延損害金の支払を求めた。
(2)

原審は,被控訴人の一審被告静岡産業社及び控訴人に対する請求(共同
不法行為による損害賠償請求)につき損害賠償金5888万7589円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで前記同様の遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し,その余を棄却し,被控訴人の一審被告静岡産業社に対する請求(売買契約に基づく未払代金請求)を棄却した。(3)

控訴人は,上記敗訴部分を不服として本件控訴を提起し,被控訴人は,本件附帯控訴を提起した。
被控訴人は,前記1のとおり一審被告静岡産業社から支払を受けたことから,当審において,その請求を附帯控訴の趣旨(2)のとおりに減縮した(その結果,本件附帯控訴は,附帯控訴の利益を失った。)。
他方,一審被告静岡産業社は,控訴の提起をしなかった。
3
争点

(1)

本件意匠と被告製品との類否

(2)

無効の抗弁


新規性欠如


創作容易性

(3)

黙示の実施許諾

(4)

権利濫用・信義則違反

(5)

控訴人の過失

(6)

共同不法行為

(7)

損害の発生及びその額

4
争点に関する当事者の主張
次のとおり補正し,後記5及び6のとおり当審における主張を付加するほか,原判決事実及び理由第3(ただし,一審被告静岡産業社のみが主張する部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)

(1)

原判決8頁15行目の突条の先端を突条の外側先端に改める。

(2)

原判決10頁25行目の前記(3)を前記(2)に改める。

(3)

原判決15頁2,3行目の係る際のもたらすをかかる差異のもたらすに改める。(4)

原判決23頁8行目の被告産業社を一審被告静岡産業社に改め

る。
(5)

原判決27頁26行目から28頁1行目の以下の同様を以下同様

に改める。
(6)

原判決31頁9行目の製造ラインのを製造ラインにに改める。

(7)

原判決31頁10行目の成否にを製品に改める。

5
当審における控訴人の主張

(1)

黙示の実施許諾(争点(3))について
次の点からも,被控訴人が,控訴人に対し,本件意匠権の実施について,
黙示の許諾をしていたということができる。

2社購入という取引形態であったこと
焼売木目8個用は,原告製品2と競合するため,浪漫亭は被控訴人及び一審被告静岡産業社の2社から製品を購入することになる。2社購入の場合,消費者が商品を誤認することのないように,容器の形は必然的に同じようになるのが通例であるが,他方で,全く同じ形にしてしまうと,容器に問題が発生した場合にどちらの会社が製造したものなのか区別がつかなくなる。そのため,全く同じ形にはしないこととされている。このことは製造業者にとって周知の事実であり,被控訴人も当然理解していたはずである。
また,控訴人の製造する容器は,浪漫亭の製造ラインに適合させる必要があった。そのため,容器の形は一定程度,被控訴人の製品と同じにならざるを得ない。このことも,被控訴人は当然理解していた。


被控訴人が,一審被告静岡産業社による競合製品が原告製品と同一又は類似の製品であると承知していたこと
被控訴人は,一審被告静岡産業社が本件見積書を浪漫亭に提出したことをもって意匠権侵害に当たると主張しているが,そのことからも,被控訴人が,一審被告静岡産業社による競合製品が原告製品と同一又は類似の製品であると承知していたことを意味する。また,それゆえに,一審被告静岡産業社による競合製品は,前記アから必然的に本件意匠権を侵害するおそれがあることを被控訴人自身が認識していた。
(2)

控訴人の過失(争点(5))について
控訴人の行為が本件意匠権を侵害するものであったとしても,控訴人につ
いて過失の推定(意匠法40条)は働かない。

控訴人は,発注者たる浪漫亭から,原告製品を見せられ,これと同じような容器を作るようにとの指示を受けて試作品を作成し,平成27年6月上旬,P1の修正指示に従って底部を五徳状に変更したが,それ以後,P1から底部の形状に関する修正指示はなかった。


そのため,控訴人は,底部が五徳状の容器であれば問題はなく,その旨P1と被控訴人との間で話がついたと考えた。控訴人がこのように考えたことには,合理的理由がある。

(3)

損害の発生及びその額(争点(7))について

経費の控除について
シート加工賃(製品1個当たり0.8円),金型成形加工賃(製品1個当たり1.5円)も経費として控除すべきである。
被控訴人は,原告製品の製造を100%子会社のキャネロン化工株式会社(以下キャネロン化工という。)に委託し,キャネロン化工が外注先に再委託している。したがって,シート加工賃及び金型成形加工賃を労務費等に含めて,被控訴人において経費として控除せず,委託先であるキャネロン化工に負担させるのであれば,キャネロン化工に対して本来計上すべき委託料を経費として控除すべきである。


販売することができないとする事情について
被告製品は,原告製品よりも価格面,ブランド力及び製品そのものの機能において優れていた。したがって,平成28年1月以降,少なくとも原告製品の取引数量が0になった月は,意匠法39条1項ただし書の販売することができないとする事情があるというべきである。

控訴人の実施能力について
被告製品が浪漫亭に販売された平成28年1月前3か月間の1か月の平均数量は,原告製品1が(中略)個であり,原告製品2が(中略)個である。被控訴人の実施能力は,この限度にとどまる。


過失相殺について
被控訴人には,被告製品が浪漫亭に納入されていることを知りながら漫然と放置するなど,自己の損害を拡大させたことについて過失があり,かつ,その程度は重いから,少なくとも損害の9割超について過失相殺をすべきである。

6
当審における被控訴人の主張
損害の発生及びその額(争点(7))について

(1)

意匠法39条1項における損害額の算定について
意匠法39条1項における損害額の算定は,以下に述べるとおり,値下げ
前の単価に基づいてなされるべきである。

控訴人及び一審被告静岡産業社は,平成27年4月から同年11月までの間,一貫して,原告製品の形状をもとに,本件意匠権に対する侵害品の範囲内で,細部の形状を検討していたにすぎない。
したがって,控訴人は,一審被告静岡産業社が平成27年4月に本件見積書を浪漫亭に提示した時点で,侵害品の範囲内の形状の容器を製造販売することを確実に認識していた。
以上によれば,一審被告静岡産業社が本件見積書を提示した行為は,侵害品の販売の申出として,本件意匠権の侵害に当たり,控訴人には,これについて共同不法行為が成立する。


本件意匠は,浪漫亭という特定の1件の取引先のために開発され,被控訴人は,その実施品を浪漫亭に対して長年販売してきた。製品の底部が本件意匠と類似する形状を備えていなければ,被告製品の浪漫亭に対する販売は実現せず,被控訴人が原告製品の値下げを余儀なくされることはなく,被控訴人の浪漫亭に対する販売機会が奪われることもなかった。
したがって,本件では,控訴人及び一審被告静岡産業社による侵害品の販売又は販売の申出と,被控訴人における原告製品の販売機会の喪失又は値下げとの間には,直接の因果関係がある。
(2)

値下げによる損害の発生に対する損害賠償責任(民法709条)につい

原告製品の値下げにより,被控訴人が原告製品を従前の価格で販売することができなくなったことにより生じた損害は,原告製品の販売機会の喪失とは無関係に生じたものであり,これは,原告製品の販売において,本来得られるはずの利益(値下げ前の単価に基づく利益)を得られなかったことにより生じた損害である。
したがって,この損害は,意匠法39条1項により算定される損害(販売機会の喪失により生じた損害)とは法的性質を異にするものであって,後者の損害賠償請求が認められたからといって,前者が評価済みとなるものではなく,民法709条により,単価の値下げ額に原告製品の販売数量を乗じた額について賠償が認められるべきである。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
次のとおり補正するほかは,原判決事実及び理由第4の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)

(1)

原判決36頁19行目のトレイにの次に生のを加える。

(2)

原判決37頁1行目の図面(甲10)の次に及びこれを基礎とした金型を加える。(3)

原判決37頁7行目のX字状の次にの突条を加える。

(4)

原判決37頁9行目の同月19日から11行目の10月までの間にを,平成18年6月23日,本件意匠権について出願するとともに,同年8月19日に焼売6個及び10個用のサンプル品を納入し,同年10月までの間にに改める。(5)

原判決37頁18行目の甲5を甲3,5に改める。

(6)

原判決39頁15行目の約(中略)個を約(中略)個に改める。

(7)

原判決39頁17行目の(中略)個を(中略)個に改める。

2
争点(1)から(6)について
当裁判所も,控訴人の行為は,被控訴人の有する本件意匠権を侵害するものであって,一審被告静岡産業社との共同不法行為が成立し,被控訴人の受けた損害を賠償する責任を免れないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記4(1),(2)を加えるほかは,原判決事実及び理由第4の2から7まで(ただし,一審被告静岡産業社のみの主張に対する判断部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)

(1)

原判決42頁10行目の

段差がある(被告意匠のk参照。)から,


の次にこの段差を(高さの異なる)段部の一部とみた場合には,を加える。
(2)

原判決46頁15行目の第3の2(1)を第3の2(2)に改める。
(3)

原判決49頁25行目の(中略)個を(中略)個に改める。

(4)

原判決50頁1行目の約(中略)個を約(中略)個に改める。

(5)

原判決50頁10行目の平成29年2月以降,を平成29年2月,3月,6月及び7月にに改める。3
争点(7)について
当裁判所も,控訴人及び一審被告静岡産業社の共同不法行為により被控訴人が受けた損害につき,意匠法39条1項により推定される損害額は5348万7589円であって,上記共同不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は540万円とするのが相当であり,その合計額は5888万7589円であるが,他方で,値下げによる損害についての賠償は認められないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記4(3)及び5のとおり加えるほかは,原判決事実及び理由第4の8(ただし,一審被告静岡産業社のみの主張に対する判断部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
そして,被控訴人は,原判決言渡しの後,一審被告静岡産業社との間で任意の和解をし,これに基づき,一審被告静岡産業社から,2944万3795円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を受けたので,上記損害賠償残金は2944万3794円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員となった。
(原判決の補正)
(1)

原判決54頁1行目の同年2月を平成29年2月に改める。

(2)

原判決55頁9行目の(中略)m/円を(中略)円/mに改める。
(3)

原判決57頁6行目の考えられ,を考えられる。前記1(2)ウのとおり,浪漫亭のP1は,控訴人に対し,被告製品の底のX字部分の形状について,原告製品と全く同じものにしないよう指示し,控訴人のP2は,被告製品の底の形状について,突条の中央部を開けたものとした。このとおり,浪漫亭も控訴人も,被控訴人の有する知的財産権を侵害することを回避しようとしたことが窺えるが,前述したとおり,被告製品については,浪漫亭の製造・梱包ラインに合致するように製造されるだけでなく,ラップを外さず,トレーのままレンジで調理することができるための形状とすることが要求され,その結果,前記2のとおり,被告製品は本件意匠権を侵害することとなった以上,上記結論(被告製品の販売がなければ,浪漫亭は同数の原告製品を購入したという事実)は左右されない。したがって,に改める。(4)

原判決60頁13行目から16行目までを,次のとおり改める。

以上のとおり,一審被告静岡産業社及び控訴人の不法行為により被控訴人が被った損害につき,意匠法39条1項により推定される損害額は5348万7589円(税込)であり,上記不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は540万円とするのが相当であるが,他方で,値下げによる損害の賠償は認められない。4
当審における控訴人の主張に対する判断

(1)

黙示の実施許諾(争点(3))について

控訴人は,前記第2の5(1)のとおり主張する。


しかし,本件は,もともと被控訴人のみが浪漫亭に原告製品を納入していたところ,一審被告静岡産業社が取引への参入を図り,控訴人に指示して被告製品を製造させたという事案である。被控訴人は労力及び資金等を投じて商品開発を行い,他社が無許諾で製造販売を行うことがないよう本件意匠権を取得したものであるが,結果的に2社購入の状態となり,控訴人の製造する容器を浪漫亭の製造ラインに適合させる必要があったからといって,被告製品の形状を本件意匠に類似するものとする必然性はなく,また,被告製品の製造販売の開始当時,被控訴人が被告製品の形状を認識していたわけでもなく(前記2で引用した原判決事実及び理由第4の4(5)),被控訴人の黙示の実施許諾を推認させることにはならない。
また,控訴人は,一審被告静岡産業社が本件見積書を浪漫亭に提出したことをもって意匠権侵害に当たると被控訴人が主張したことが被控訴人の黙示の実施許諾を裏付けると主張する。
しかし,被控訴人は,本件見積書の提出を意匠権侵害に当たる事実として主張していることからしても,被控訴人の黙示の実施許諾を推認させるものとは解し得ず,かえって,被控訴人は,一審被告静岡産業社による競合製品を容認しない姿勢を明確に示しているということができる。また,上述したとおり,本件見積書が提出された時点では,被告製品の形状が確定しているわけではなく,被控訴人が被告製品の形状を認識していたわけではないことからも,控訴人の主張は採用できない。
上記のほか,控訴人は,被控訴人代表者が焼売木目8個用の容器からにしてほしいなどと述べたことも挙げる。しかし,上記説示の本件紛争に至る経緯に照らすと,あくまでも本件意匠権を侵害しないことを当然の前提とした上で,被控訴人は一審被告静岡産業社が本件意匠権を侵害することなく浪漫亭の要望に応じるような容器を製造することを容認したにすぎないと理解するのが相当である。

(2)

したがって,控訴人の前記アの主張は採用することができない。
控訴人の過失(争点(5))について


控訴人は,前記第2の5(2)のとおり主張する。


しかし,前記2で引用した原判決事実及び理由第4の2から5の
とおり,被告意匠は本件意匠に類似するものと認められ,意匠に係る物品が同一であることは争いがなく,他方,控訴人主張に係る抗弁はいずれも認められないから,被告製品の製造及び販売は,本件意匠権の侵害となる。そして,控訴人の行為はいずれも本件意匠が登録された後のものであると認められるから,意匠法40条1項本文が適用され,その侵害の行為について控訴人に過失があったことが推定される。
同条本文による過失の推定を覆すためには,侵害者において予見義務違反や結果回避義務違反のいずれかが存在しないことを抗弁として主張立証しなければならないと解すべきであり,上記各義務違反の有無は,当業者としての専門的注意能力を基準として判断するのが相当である。そこで,上記推定の覆滅の有無について検討するに,浪漫亭から原告製品を見せられ,かつ,修正指示を受けるなどしたとしても,そのことだけで上記の推定を覆すに足りない。むしろ,前記2で引用した原判決事実及び理由第4の6のとおり,控訴人は,通常業務として製品を製造するに当たり,他人の知的財産権を侵害することのないよう調査する一般的な注意義務を負っている上,被控訴人が原告製品の底部のX字状の突条について何らかの権利を有することについて一審被告静岡産業社を通じて知っていたのであるから,本件意匠権について調査することも十分に可能だったというべきである。

(3)

したがって,控訴人の前記アの主張は採用することができない。
損害の発生及びその額(争点(7))について


経費の控除について
控訴人は,前記第2の5(3)アのとおり主張する。
しかし,シートの加工や金型成形の加工はいずれも被控訴人の工場における製造工程の一部であって,前記3で引用した原判決事実及び理由第4の8(3)のとおり,被控訴人は原告製品を自己の工場内で製造しており,しかも,被控訴人の製造する食品包装用容器全体のうち原告製品の占める割合が僅かであることからすると,シート加工賃及び金型成形加工賃が通常の労務費とは別に発生するとは認められないというべきである。
また,控訴人は,被控訴人が,原告製品の製造をキャネロン化工に委託していると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。


販売することができないとする事情について
控訴人は,前記第2の5(3)イのとおり主張する。
しかし,被告製品が原告製品よりもブランド力及び製品そのものの機能において明らかに優れていたことを認めるに足りる証拠はない。また,原告製品1は,その販売数量が平成28年12月にいったん0個となったものの,その翌月である平成29年1月には(中略)個となり,その後も一定程度の販売数量は維持されていたことが認められる。そもそも,前記3で引用した原判決事実及び理由第4の8(3)のとおり,原告製品及び被告製品はいずれも浪漫亭のみに納入されているところ,被告製品が納入されるまでは,原告製品のみが納入されていたのであるから,販売することができないとする事情があったということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

控訴人の実施能力について
控訴人は,前記第2の5(3)ウのとおり主張する。
しかし,前記3で引用した原判決事実及び理由第4の8(3)のとおり,平成27年5月及び6月の原告製品1の販売数量はいずれも約(中略)個であったこと,被控訴人は,食品用包装容器を多種類製造しており,その中において原告製品の占める割合は僅かであることに照らし,控訴人の上記主張は採用することができない。


過失相殺について
控訴人は,前記第2の5(3)エのとおり主張する。
しかし,前記2で引用した原判決事実及び理由第4の4で検討さ
れた事情からしても,被控訴人において控訴人が本件意匠権を侵害していることを知りながらそれを放置したとは認められない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

5
当審における被控訴人の主張に対する判断

(1)

意匠法39条1項による損害額の算定について

被控訴人は,前記第2の6(1)のとおり主張する。

しかし,前記3で引用した原判決事実及び理由第4の8(2)のとおり,一審被告静岡産業社が本件見積書を浪漫亭に提示した時点においては,一審被告静岡産業社及び控訴人に本件意匠権を侵害しようとする確定的な意図があったとまでは認め難く,むしろ,被告製品の形状は定まっておらず,被控訴人の有する知的財産権の侵害を回避しようとしていたことがうかがえる。そのような状況下で,一審被告静岡産業社が,本件見積書を浪漫亭に提示し,営業活動を行うことは,自由競争の範囲内の行為とみるほかなく,意匠法39条1項により損害額を算定する際,値下げ前の単価に基づくのは相当でないというべきである。


(2)

したがって,被控訴人の前記アの主張は採用することができない。値下げによる損害の発生に対する損害賠償責任(民法709条)につい
てア
被控訴人は,前記第2の6(2)のとおり主張する。


しかし,前記3で引用した原判決事実及び理由第4の8(4)のとおり,一審被告静岡産業社が本件見積書を浪漫亭に提示したことは自由競争の範囲内の行為であるから,平成27年12月までの期間について,値下げがあったとしても損害賠償の対象とはならないというべきである。他方,意匠権侵害が認められる平成28年1月以降の期間については,意匠権侵害の直前の単価を前提として,損害額が意匠法39条1項に基づいて算定されているため,その後の値下げ分は,損害額へ反映されており,値下げ分を別途損害賠償の対象とすることは相当でない。

ウ6
したがって,被控訴人の前記アの主張は採用することができない。
まとめ
以上のとおりで,被控訴人の控訴人に対する請求は,2944万3794円及びこれに対する平成30年3月30日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(損害賠償金5888万7589円及びこれに対する上記同様の遅延損害金から,原判決の言渡しの後に一審被告静岡産業社が弁済した2944万3795円及びこれに対する上記同様の遅延損害金を控除した残額)の支払を求める限度で理由がある。
第4

結論
よって,本件控訴に基づき,これと異なる原判決を前記第3の6のとおり変更し,本件附帯控訴は被控訴人が当審において前記第2の2(3)のとおり請求を減縮した結果,附帯控訴の利益を失うに至ったことから却下することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官

山田陽三
裁判官

倉地康弘
裁判官

三井教

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