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補助金交付決定一部取消及び返還命令取消請求事件
事件番号平成30(行ウ)402
事件名補助金交付決定一部取消及び返還命令取消請求事件
裁判年月日令和2年7月14日
裁判所名東京地方裁判所
裁判日:西暦2020-07-14
情報公開日2020-11-26 12:00:39
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令和2年7月14日判決言渡
平成30年(行ウ)第402号,同第435号~同第438号

補助金交付決定一

部取消及び返還命令取消請求事件(以下,順に第1事件ないし第5事件という。)
主1文
文部科学大臣が原告に対して平成30年3月23日付けでした別
紙1処分目録記載1~5の科学研究費補助金交付決定一部取消決定及び返還命令をいずれも取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
主文1項と同旨

第2
1
事案の概要等
事案の概要
本件は,国立大学法人A大学(以下A大学という。)大学院B研究科
の教授であった原告が,文部科学大臣による科学研究費補助金(以下科研費という。)の交付決定を受け,これに基づく科研費を受領していたところ,文部科学大臣が,補助条件違反(取扱規程10条違反)を理由としてその一部を取り消す旨の決定及びこれを原因とする科研費の返還命令をしたことから,これらの取消しを求める事案である。

2
関連法令等の定め
本件に関連する法令等の定めは,別紙2関連法令等の定めのとおりである(なお,同別紙における略語は,本文においても用いることがある。)。
3
判断の前提となる事実
以下の各事実については,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠又は弁論の全趣旨により,容易に認められる。
(1)原告
原告は,平成15年4月1日から平成24年6月28日までの間,A大学大学院B研究科教授の職にあり,Cセンターの研究室を主宰していた者である(乙1,弁論の全趣旨)。
(2)本件各交付決定及び本件各科研費の交付

文部科学大臣は,研究代表者である原告が交付の申請をした別紙3補助金一覧表記載1~5の各補助金欄の科研費(以下本件各科研費とい
う。)について,同表記載1~5の各交付決定欄の日付欄の日に
交付金額欄の金額につき交付を決定し(各決定の文書番号は番号欄記載のとおり。以下本件各交付決定という。),本件各科研費は,同表
記載1~5の各交付日欄の日に研究機関であるA大学に交付された(甲1~10,乙13,弁論の全趣旨)。
(3)本件各取消決定等
文部科学大臣は,平成30年3月23日,本件各科研費について,別紙3補助金一覧表記載1~5の各一部取消決定欄の取消金額欄の金額に
つき取消理由欄の理由で取り消す旨を決定するとともに(各決定の文書番号は番号欄記載のとおり。以下本件各取消決定という。),各
返還命令欄の返還金額欄及び加算金額欄の金額につき納付期限欄の日までに支払うよう命じた(各命令の文書番号は番号欄記載のとおり。以下本件各返還命令といい,本件各取消決定と併せて本件各取消決定等という。甲1~10,乙13)。(4)本件訴訟に至る経緯
原告は,平成30年5月22日,文部科学大臣に対し,本件各取消決定等について審査請求をした。
原告は,同年9月21日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

4
争点
(1)本件各取消決定等に裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるか
(争点1)

(2)本件各取消決定等に手続的瑕疵があるか

(争点2)

(3)本件各交付決定に係る取消権及び補助金返還請求権が時効により消滅しているか

第3
1
(争点3)

争点に関する当事者の主張
争点1(本件各取消決定等に裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるか)について
(被告の主張)

(1)本件各取消決定等に裁量権の範囲の逸脱又は濫用はないことア
文部科学大臣による科研費交付決定を受けた補助事業者が科研費交付決定に付された補助条件に違反した場合,科研費交付決定の一部又は全部を取り消すか否かについては,文部科学大臣の合理的裁量が認められると解され,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用がない限り,その取消処分が違法とされることはない。また,科研費が交付された後に,適正化法17条1
項に基づく交付決定取消処分がされた場合には,返還命令をすべきこと及び同法19条1項所定の加算金が付されることについて,文部科学大臣の裁量はなく,したがって,同法17条1項に基づく交付決定取消処分が無効であるか取り消されない限り,同法18条1項に基づく返還命令が取り消される余地はない。


A大学が作成した平成30年2月26日付け国立大学法人A大学大学院B研究科元教授の研究費不正使用に関する調査報告書(以下本件大学報告書という。)には,関係者の聴き取り調査や書面調査のほか原告に係る収賄被告事件(以下別件刑事事件という。)の第一審判決等を
踏まえ,原告が,年度ごとの執行残額を使い切るため,自身の主宰する研究室の関係者に指示するなどして,旧知の取引業者に架空の発注をして預け金を形成していたこと(より具体的には,原告が取引業者と共謀して,実際には納品されていない物品に係る架空の請求書をA大学に提出させ,これに基づき,科研費を管理するA大学に取引業者に対する代金の支払をさせ,これを取引業者が預け金としてプールした上で,翌年度以降に取り崩して使用していたこと。),預け金の使途は,研究目的のほか,私的な
目的に使用していたことが疑われるものの,それを裏付ける資料がないこと等から,本件大学報告書作成時点で,私的流用を認定するのは困難であること等が記載されている。
文部科学大臣は,本件大学報告書に基づき,本件各交付決定に基づき交付された本件各科研費の一部(別紙3補助金一覧表記載の取消金額欄
の金額)について,原告が,取引業者との共謀により預け金を形成し,本件各交付決定の対象とされた補助事業である科学研究等に必要な経費以外に使用したものと認め,いずれも取扱規程10条に違反することから,本件各補助条件(本件各補助条件1-1に加え,本件各補助条件2-1,平成17年度補助条件2-6・平成18年度補助条件2-6・平成19年度
補助条件2-9)に違反するとして,適正化法17条1項に基づき,本件各交付決定の一部(別紙3補助金一覧表記載の取消金額欄の金額に係る部分)を取り消す旨の本件各取消決定をしたものであり,本件各取消決定等に裁量権の範囲の逸脱又は濫用はない。
(2)原告の主張について

原告は,科研費の交付時期が年度当初ではないため,年度当初から科研費を受領するまでの間に,金銭の支出ができない空白期間が生じ,研究の継続が困難となるため,株式会社D(以下Dという。)の管理の下で預け金を形成したのはやむを得ない措置であったと主張する。

しかし,本件各補助条件及び本件各機関使用ルールでは,年度当初の4月から研究を開始し,契約を締結することが運用上可能とされている。また,科研費が実際に交付されるまでの間に発生する補助事業に係る経費の処理については,


研究代表者が研究機関に購入依頼をする際,研究機関の会計規則等に基づき研究機関の予算から立て替えて支出し,科研費が交付された後に精算する。



研究代表者が研究機関に購入依頼をする際,研究機関から研究代表者や所属部局等に配分された予算や企業等からの寄附金から支出し,交付後,補助事業に係る費用を科研費に振り替える。


取引業者の了解の下,研究機関から取引業者への支払を科研費が交付される時期以降とする。

等の方法が考えられ,年度当初から科研費を受領するまでの間に補助事業の研究を継続するため,預け金の形成が必要不可欠であるなどとはいえない。
実際に,原告は,平成17年度から平成19年度の各年度の年度当初から科研費を受領するまでの間,預け金を形成しなくとも,A大学の立替制度を利用することが可能であった。また,Dは,原告がA大学の教授に着任する約10年も前から原告が研究に用いる物品を原告の所属していた研究機関に販売し,原告がA大学の教授に就任するに当たって原告のためにαに営業所まで立ち上げており,原告は,Dの経営上,非常に重要な人物
であったといえる。そして,Dは原告からの求めに応じて預け金の形成をしていたことからすると,Dが,年度当初から原告に本件各科研費が支払われる6月末頃までの間,その年の4月及び5月の売上に係る支払を,本来の翌月払ではなく,1,2か月程度延長して7月とする程度の要求を拒否するとは考え難く,原告がDに要求さえすれば,研究に必要な物品の代
金の支払時期を先延ばしにすることは十分に可能であったといえる。以上のとおり,原告は,預け金の形成をしなくとも,年度当初から研究に必要な物品を購入し,研究を実施することは可能だったといえる。イ
原告は,Dの下で形成した預け金をすべて研究のために使用し,研究の成果を上げていたとして,取扱規程10条及び本件各補助条件違反の責任が軽減されるかのような主張をする。
しかし,科研費は,会計年度につきいわゆる単年度主義に基づく助成金
であり,単年度で使い切れなかった未使用の科研費が存在したのであれば,本来,適正化法15条による額の確定をして国に返還しなければならず,翌年度以降の研究活動資金は別途手続を踏んで調達すべきである。したがって,預け金の形成は,たとえその後に研究のために使用されたとしても,不正支出であるといわざるを得ない。また,そもそも,上記アのと
おり,年度当初から科研費を受け取るまでの間の研究を継続するために原告が預け金を形成する必要があったとはいえないのであるから,研究成果が上がったことは,預け金の形成と何ら関係がないというべきである。したがって,原告が主張する事情は,取扱規程10条及び本件各補助条件違反の責任を何ら軽減するものとはいえず,文部科学大臣の裁量権の範
囲の逸脱又は濫用を基礎付けるものということはできない。

原告は,預け金の形成について,早期の是正措置命令等により容易に目的を達成し得たのであり,会計年度終了時及び研究完了時の実績報告の際に文部科学省から何ら指摘を受けることがなかったにもかかわらず,交付
決定から10年以上が経って突如として本件各取消決定がされたことが不当であると主張する。
しかしながら,原告は,Dと共謀して,虚偽の会計書類を用いてA大学にDに対する科研費の支払をさせ,秘密裏にDの下で預け金を形成したのであり,文部科学大臣は,取扱規程10条違反及び本件各補助条件違反の
事実を本件大学報告書によって把握したのであるから,文部科学大臣がその提出を受ける以前にこれらの事実に関する処分又は措置を採ることが可能であったとはいえず,原告の主張には理由がない。

原告は,本件各取消決定等が本件大学報告書のみに依拠しており,文部科学大臣がその内容を精査しなかったことは考慮不尽であって,本件各取消決定等は違法であるなどと主張するが,本件大学報告書におけるA大学
の認定手法は合理的であることに加え,交付決定権者である処分行政庁には強制力を伴う調査権限は付与されておらず,一方で,本件大学報告書を作成したA大学は,科研費の管理を実施し,取引業者との購入契約の名義人本人で,なおかつ,原告に係る不正に関係する教職員をよく把握しており,原告の不正経理関係の実態解明を目的として,第三者委員をもメンバ
ーとする調査委員会を立ち上げてまで幅広に証拠収集を実施して本件大学報告書を作成しており,その証拠資料には,捜査機関が捜査権限を行使して収集した捜査資料も含まれている。したがって,文部科学大臣が,本件大学報告書を事実認定に当たって信用性の高い資料として位置付けたことは不合理ではなく,これを踏まえて,原告による預け金の形成が本件各補
助条件(取扱規程10条)に違反すると判断し,預け金相当額について本件各取消決定をしたことについて,裁量権の範囲の逸脱又は濫用として問擬されることはない。
(3)小括
したがって,本件各取消決定等は,文部科学大臣の裁量権の範囲を逸脱又
は濫用したものとはいえず,本件各取消決定等はいずれも適法である。(原告の主張)
(1)考慮不尽の違法があること
本件各取消決定等は,その影響の甚大さに鑑みれば,吟味を重ねて精査された証拠に基づき,丁寧な事実認定をした上で慎重に行われる必要があり,
事実認定においては,処分行政庁自身がその権限と責任において事実関係を調査し,判断の基礎となる証拠を収集すべきである。
しかしながら,本件各取消決定等は,原告に直接事情を説明する機会を与えることなく,A大学が作成した本件大学報告書のみに依拠してされたものであるところ,本件大学報告書が文部科学大臣に提出されたのは同年3月1日で,本件各取消決定等は同月23日にされており,文部科学大臣が本件大学報告書を精査した経過はうかがわれない。
補助金の管理主体である研究機関には,補助金に係る問題が生じた場合,自らの管理責任を免れるためその責任を研究者に押し付ける動機が十分に存在し,研究者と研究機関は対立関係に立つといえる。特に,本件では,本件各取消決定等の当時,A大学は,原告を相手方として,不法行為に基づく損
害賠償請求訴訟(以下別件訴訟という。)を提起していたのであるから,その対立関係は顕現化していた。
このように,本件各取消決定等は,その内容の重大さにもかかわらず,明示的に対立関係にある一方当事者の報告書のみに依拠し,内容を十分に精査することもなくされたものであって,考慮不尽の違法がある。

(2)比例原則に違反する違法があること

本件各科研費を使用した研究は,著名な科学雑誌に論文発表され,文部科学省,学会や社会から高く評価され,その基礎研究成果が臨床応用されつつある。また,原告は,これを含めて多数の研究を行い,その成果を論文にまとめて発表し,多数の科学雑誌に論文が掲載され,社会的にも極めて高い評価を得ている。


これに対し,原告による預け金は,年度内使用という会計ルールに反するものであったにせよ,そのすべてが研究のために使用され,取扱規程10条に違反するものでもなく,その制裁はあまりに過大である。
原告が預け金をしたのは,科研費の交付が年度開始後すぐにされるこ
とはなく少なくとも数か月以上遅れる上(A大学における事務手続を経て実際に原告の手元で使用可能となるのは7月中旬以降であった。),研究
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