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障害年金不支給決定取消請求事件
事件番号平成30(行ウ)415
事件名障害年金不支給決定取消請求事件
裁判年月日令和2年6月5日
裁判所名東京地方裁判所
裁判日:西暦2020-06-05
情報公開日2020-11-26 12:00:41
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令和2年6月5日判決言渡
平成30年(行ウ)第415号

障害年金不支給決定取消請求事件

主1文
処分行政庁が平成28年12月6日付けで原告に対してした障害基礎年金及び障害厚生年金を支給しない旨の決定を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文第1項と同旨

第2

事案の概要
本件は,原告が,平成28年4月19日,処分行政庁に対し,線維筋痛症により障害の状態にあるとして,障害基礎年金及び障害厚生年金(以下,総称して障害給付という。)の支給を求める裁定請求をした(以下本件裁定請求といい,同日を本件裁定請求日という。)ところ,処分行政庁から,同年12月6日付けで障害給付を支給しない旨の決定(以下本件処分とい
う。)を受けたことから,線維筋痛症による原告の障害の状態は,厚生年金保険法(以下厚年法という。)47条1項にいう障害認定日及び本件裁定請求日において,同条2項に規定する障害等級3級に該当するものであったなどと主張して,本件処分の取消しを求める事案である。
1
関係法令等の定め
本件に関係する法令等の定めは,別紙関係法令等の定め(以下別紙関係法令等という。)記載のとおりである(別紙関係法令等において定義した略語等は,以下においても用いることとする。)。

2
前提事実(いずれも当事者の間に争いがないか,当事者が争うことを明らかにしないか又は当裁判所に顕著な事実である。)
(1)

原告
原告は,昭和54年▲月▲日生まれの女性であり,以下の期間において厚
生年金保険の被保険者であった。

平成13年4月1日から平成15年5月29日まで(同月30日に被保険者資格喪失)


平成23年7月1日から平成26年1月31日まで(同年2月1日に被保険者資格喪失)

(2)

本件処分に至る経緯
原告は,平成28年4月19日,処分行政庁に対し,線維筋痛症により障
害の状態にあるとして,本件傷病の初診日を平成25年8月29日とし,障害認定日による請求(予備的に事後重症による請求)として,障害給付の裁定請求(本件裁定請求)をした。
処分行政庁は,平成28年12月6日付けで,原告に対し,原告がり患した線維筋痛症(以下本件傷病ということがある。)の初診日が平成26年9月3日であり,原告が当該初診日において厚生年金保険の被保険者であった者に該当しないとして,障害給付を支給しない旨の決定(本件処分)をした。
(3)

不服申立手続(以下の不服申立手続を総称して本件不服申立手続とい
う。)
原告は,平成29年2月22日,本件処分を不服として,関東信越厚生局社会保険審査官に対し,審査請求をしたが,同社会保険審査官は,同年6月23日,同審査請求を棄却する旨の決定をした。
原告は,平成29年7月27日,上記の決定を不服として,社会保険審査
会に対し,
再審査請求をしたが,
社会保険審査会は,
平成30年3月30日,
同再審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(4)

本件訴えの提起
原告は,平成30年9月28日,本件訴えを提起した。

3
争点
本件の争点は,本件処分の違法性であるが,具体的には,以下の2点が争われている(なお,前提事実(2)のとおり,本件処分は,本件傷病の初診日が平成
26年9月3日であり,原告が当該初診日において厚生年金保険の被保険者であった者に該当しないとして,障害給付を支給しない旨決定しているが,本件訴訟においては,本件傷病の初診日が,原告が厚生年金保険の被保険者であった平成25年8月24日であることは,当事者の間に争いがない。)。(1)

被告が,本件処分及び本件不服申立手続において判断が示されていない
原告の障害の状態に関する事由をもって,本件処分が適法である旨主張することができるか否か(争点①)
(2)

平成27年2月24日(本件傷病の初診日とされる平成25年8月24
日から起算して1年6月を経過した日。以下本件障害認定日という。)又は本件裁定請求日における原告の障害の状態が,障害等級3級に該当する
程度のものであったか否か(争点②)
4
争点に関する当事者の主張の要旨
(1)

争点①
(被告が,
本件処分及び本件不服申立手続において判断が示されて

いない原告の障害の状態に関する事由をもって,本件処分が適法である旨主張することができるか否か)について
(原告の主張)
本件処分は,原告が本件傷病の初診日において厚生年金保険の被保険者であった者に該当しないことのみを理由とし,本件不服申立手続でも,専らこの点のみが判断されており,これらにおいて,本件障害認定日又は本件裁定
請求日における原告の障害の状態が障害等級3級に該当する程度のものであったか否かに関する判断が示されたことはない。
このように全く審査対象とされてこなかった要件について司法機関に対して第一次的判断を求めることは,裁定請求及び不服申立手続を前置し,第一次的判断権を厚生労働大臣等に委ね,司法機関は処分の適否について事後審査を行うものとした国年法及び厚年法の建前に反する上,被保険者の裁定請求及び不服申立てに関する手続的利益を奪うものであるから,許されない。したがって,被告が,原告の障害の状態に関する事由をもって,本件処分が適法である旨主張することは許されないから,争点②(後記(2))の点について判断されるまでもなく,本件処分は取り消されるべきである。(被告の主張)
争う。

(2)

争点②(本件障害認定日又は本件裁定請求日における原告の障害の状態
が,障害等級3級に該当する程度のものであったか否か)について(原告の主張)

本件障害認定日における原告の障害の状態について
障害認定基準のうち,本件傷病に適用すべき第3第1章第18節(別紙関係法令等第3・3。その他の疾患による障害)における認定基準において,障害等級3級は,労働に関する制約の程度に着目し,労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとされているところ,以下のとおり,本件障害認定日における原告の障害の状態
は,障害等級3級に該当する程度のものであった。
(ア)

本件障害認定日当時,原告は,線維筋痛症の臨床的重症度分類(厚
生労働省線維筋痛症研究班により,公的社会保障制度運用のための行政的重症度基準として作成された試案によるもの。以下重症度分類という。)においてステージⅡ(

広範囲な筋緊張が続き腱付着部炎を併発する一方,不眠,不安感,うつ状態が続く。通常の日常生活がやや困難

とされるもの)と診断されている。日常生活が困難である状態は,当然に,労働に制限をもたらす状態である。
(イ)

平成28年3月28日付けA医師作成の診断書(原告の平成27年
3月11日現症の障害の状態に係るもの。乙1・6~7頁。以下平成27年3月現症診断書といい,同日を平成27年3月現症時という。)の日常生活における動作の障害の程度欄を見ると,原告は,10mほどの距離を多少転倒しそうになったりよろめいたりするがどうにか歩き通す状態とされ,
階段の上り下りは,
手すりがあっても
非常に不自由,座席からの立ち上がりも,支持してもらっても非常に不自由な状態とされている。上記のような状態の者が,一般の職場に出勤して労務を支障なく提供
できるとはいえない。平成27年3月現症診断書では,原告は,座位では正常人と変わりなく作業できる(1日6時間週4日程度)とされているものの,座位のみの労務は一般的ではなく,立位,歩行等を要しない労務を見出すことは容易ではないし,1日6時間週4日程度の労働しかできない者が,正規労働者として勤務できる分野は皆無といえる。また,上記のような状態は,障害認定基準第3第1章第18節2⑺の一般状態区分表のイ軽度の症状があり,(肉体労働は制限を受けるが,歩行,軽労働や座業はできるもの例えば,軽い家事,事務など)に
該当し,かつ,歩行が困難である点でこれよりもやや重い状態とみることができ,障害等級3級におおむね相当するとされている。
(ウ)

原告は,平成25年12月上旬頃から休職を開始した後,退職を余
儀なくされ,本件障害認定日においても就職できていなかった。これらの期間については,原告の平成25年12月分ないし平成27年3月分の各傷病手当金支給申請書(以下,総称して本件各傷病手当金支給申請書という。)中の診療担当医師の意見書欄(甲20の1~16)において,いずれもB病院の医師であるC医師又はD医師が,原告を就労不能と認めた所見等を記載している。

本件裁定請求日における原告の障害の状態について
本件裁定請求日における原告の障害の状態について,本件障害認定日から変化したのは,①支持を受けての立ち上がりと手すりを使った階段の上りについて,非常に不自由であった状態がやや不自由な状態にな

ったこと,及び②両膝痛があった状態が,下肢痛が軽減した状態になったこと(ただし,筋力低下があった。)にとどまり,重症度分類がステージⅡであったとする医学的評価は変更されていない(平成28年3月28日付けA医師作成の診断書
(原告の同日現症の障害の状態に係るもの。
甲4,
乙1・8~9頁。以下平成28年3月現症診断書といい,同日を平成28年3月現症時という。)参照)。したがって,本件障害認定日と同様,本件裁定請求日においても,原告の障害の状態は,障害等級3級に該当する程度のものであった。
(被告の主張)

線維筋痛症に係る障害等級の認定の方法について
線維筋痛症に係る障害等級の認定については,主要症状である疼痛によって身体にどの程度の不自由があるのかを障害認定基準第3第1章第7節第4
(別紙関係法令等第3・2(2)。
肢体の機能の障害)(認定要領)
の2
を用いて確認し,その上で,疼痛による身体機能の不自由さの程度及び重症度分類のステージ評価を参考に,障害による日常生活の支障を総合的に
判断し,認定することになる(障害認定基準第3第1章第18節2(5))。イ
本件障害認定日における原告の障害の状態について
(ア)a

原告の本件傷病による疼痛の症状は,その存在が確認された平成

25年9月4日以降,A医師により線維筋痛症の診断がされた平成26年9月頃までの間,同様の症状を示していたと考えられ,圧迫時や動作時に痛みを感じることがある程度の,軽度なものであり,体の動きに支障を生ずる程度のものではなかったと考えられる。そして,線維筋痛症の多くが発症日から同様の症状を示すことに照らせば,本件障害認定日においても,発症の頃と同様に,疼痛の程度は軽度であったとみることができる。
b
原告は,B病院神経精神科を受診していた平成25年12月から平成27年4月までの間,疲労感や足が動かない等の症状は常
時訴えていたものの,痛みについて自ら訴えることはほとんどな
かったから,原告は,本件障害認定日において,疼痛による身体の不自由さを強く実感することはなかったといえる。

c
①重症筋無力症等の神経筋疾患が否定されていること,②平成25年9月に行われたE病院やF病院での徒手筋力検査では,下肢の筋力評価が3~5(自力で動かせる程度の筋力が保たれている程度)
とされ,状況により筋力も変化がある等と評価されていること,
③原告は,つま先立ちやしゃがみ立ちが可能であったとされていること,④線維筋痛症が,症状の消長を繰り返しつつ,その多く
が発症時から同様の症状を示しながら長期に経過すること等を踏まえれば,原告につき,本件障害認定日時点で筋力低下が認められたとしても,その程度は,平成25年9月頃と変わらず比較的軽いものと考えられ,痛みの程度も強くはない状態であったと推認される。このような状態であれば,両下肢に脱力感や疲れを感じることがあったとし
ても,自力で下肢を動かすことができないほどの筋力低下があったとは認められず,歩行や昇降運動も十分に可能であったと考えられる。(イ)

前記(ア)を踏まえ,平成27年3月現症診断書を見ると,平成27
年3月現症時の原告の日常生活動作の程度については,歩行につき一人でできてもやや不自由と,立ち上がりや階段の上り下りにつき支持(又は手すり)があればできるが非常に不自由と評価されているが,
上肢の動作はおおむね行うことができており,日常生活活動能力や労働能力に関しては,歩行に不安定さはあるが,座位であれば特段の支障なくできると評価されている。また,本件傷病による病勢は改善傾向であるとされている。
そして,原告の疼痛の程度は,激しい触痛や自発痛が持続して,自力
で体を動かすことができないような状態にはなく,せいぜい歩行時に両膝痛を訴える程度にとどまっていたこと,原告の両下肢には,自力で歩行ができないほどの筋力低下や神経症状があるとは認められないこと,本件傷病の重症度分類がステージⅡ(痛みはあるが普通の生活ができるとされる状態である。)と評価されていることなどを勘案し,本件
障害認定日における原告の本件傷病による日常生活の支障を総合的に判断すると,労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものには及ばず,本件障害認定日における原告の障害の状態は,障害等級3級に該当する程度のものではない。

本件裁定請求日における原告の障害の状態について
平成28年3月現症診断書を見ると,平成28年3月現症時の原告の日常生活動作の程度については,歩行につき一人でできてもやや不自由と,立ち上がりや階段の上りにつき支持(又は手すり)があればできるがやや不自由階段の下りがと,
手すりがあればできるが非常に不自由

と評価されている。しかし,上肢の動作については,ほぼ不自由なく行うことができており,日常生活活動能力や労働能力に関しては,歩行に不安定さはあるが,座位であれば特段の支障なくできると評価されている。歩行に関しては,長時間の歩行の際には杖を補助具として使用しているとされているものの,平成27年3月現症診断書の内容と比較して,立ち上がるや階段を上るなどの運動機能が改善されている。疼痛に関しても,下肢痛が軽減しているとされている。これらによれば,本件裁定請求日における原告の日常生活活動能力等は,全体的には,本件障害認定日の時点よりも軽快傾向にあると考えられ,他に疼痛による身体又は精神の障害が生じているとの所見も見受けられない。
以上を踏まえ,平成28年3月現症時の本件傷病の重症度分類が平成27年3月現症時と変わらずステージⅡと評価されていることも勘案し,本
件裁定請求日における原告の本件傷病による日常生活の支障を総合的に判断すると,労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものには及ばず,本件裁定請求日における原告の障害の状態は,障害等級3級に該当する程度のものではない。
第3
1
当裁判所の判断
争点①(被告が,本件処分及び本件不服申立手続において判断が示されていない原告の障害の状態に関する事由をもって,本件処分が適法である旨主張することができるか否か)について
(1)

前提事実(1),証拠(甲3ないし7,9,13,18ないし21(枝番を
含む),乙1,5ないし7,10ないし16)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成25年8月24日までに本件傷病にり患し,厚生年金保険の被保険者であった同日,本件傷病について初めて医師の診療を受けたと認められる(この点については,当事者の間に争いがない。)。
(2)

被告は,前記(1)の初診日から起算して1年6月を経過した日である本件
障害認定日及び本件裁定請求日において,原告の障害の状態は,厚年法47条2項に規定する障害等級に該当しないものである旨主張して,本件処分が適法である旨主張している(争点②参照)ところ,原告は,本件障害認定日又は本件裁定請求日における原告の障害の状態は,本件処分及び本件不服申立手続において判断が示されていない以上,被告が本件訴訟において当該主
張をすることは許されない旨主張する。
(3)ア

取消訴訟の訴訟物は,
処分の違法一般であると解されるところ,
一般に,
取消訴訟においては,別異に解すべき特別の理由のない限り,被告は当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものと解すべきである(最高裁昭和51年(行ツ)第113号同53年9月19日第三小法廷判決・裁判集民事125号69頁)。また,本件処分においては理由が示されているが,申請拒否処分におい
て理由を示すべきものとされている(行政手続法8条)のは,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解され,その趣旨は,処分の理由を具体的に示して処分の名宛人に通知すること自体をもって,ひとまず実現され,この趣旨を超えて,一たび通知書におい
て理由を示した以上,行政庁が当該理由以外の理由を取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨を含むとは解されない(最高裁平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日第二小法廷判決・民集53巻8号1862頁参照)。
よって,被告が,本件障害認定日及び本件裁定請求日における原告の障
害の状態が障害等級3級に該当しない旨主張して,本件処分が適法である旨主張することは許されるというべきである。

これに対し,原告は,処分や不服申立手続において審査対象とされてこなかった要件について司法機関に対して第一次的判断を求めることは,裁
定請求及び不服申立手続を前置し,第一次的判断権を厚生労働大臣等に委ね,司法機関は処分の適否について事後審査を行うものとした国年法及び厚年法の建前に反する上,被保険者の裁定請求及び不服申立てに関する手続的利益を奪うものであるから,許されない旨主張する。
しかし,行政手続法,国年法及び厚年法をみても,前記アに説示した行
政手続法の理由提示制度の趣旨を超えて,通知書において提示された理由以外の理由を取消訴訟において主張することを許さないとする趣旨を含むものとは解されないから,原告の上記主張を採用することはできない。なお,原告は,上記主張の中で,最高裁平成2年(行ツ)第45号同5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻2号473頁の判示を挙げているが,同判決の事案は,労働者が,労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付を請求したところ,
行政庁から,
同請求に係る疾病が,

同法施行前に従事した業務に起因したものであり,業務起因性の有無について判断する前提を欠くとして,保険給付不支給処分を受けたため,同処分の取消しを求めたというものであり,同判決は,同処分の実体的要件の存否に関する行政庁の第一次的判断権の行使がおよそされていないことを前提として,原判決が業務起因性の有無に関する行政庁の主張についての
認定及び判断を留保した上で同処分を取り消したことに違法はないとしたものである。
そうすると,
本件のように,
実体的要件
(初診日に係る要件)
の存否の判断を経ていて行政庁の第一次的判断権が行使されたものとは事案が異なるし,本件訴えにおける訴訟物は,飽くまで本件処分の違法一般であって,
実体要件の一つである被保険者の障害の状態
(障害等級該当性)

に係る要件に関する主張を追加することが訴訟物の範囲を超えることにもならないから,同判決の判示は,前記アの判断を左右するものではない。2
争点②(本件障害認定日又は本件裁定請求日における原告の障害の状態が,障害等級3級に該当する程度のものであったか否か)について

(1)

認定事実
掲記の証拠等によれば,本件障害認定日及び本件裁定請求日における原告
の障害の状態の評価に関連して,以下の事実を認めることができる。ア
線維筋痛症について
(ア)

線維筋痛症は,身体の広範な部位の筋骨格系における慢性の疼痛及
びこわばりを主症状とし,
解剖学的に明確な部位に圧痛を認める以外に,
他覚的及び一般的臨床検査所見に異常がなく(明らかな検査異常を認める場合は,線維筋痛症の診断は否定的である。),治療抵抗性であり,随伴症状として疲労感,睡眠障害,抑鬱気分等の多彩な身体症状又は精神・神経症状を伴い,中年以降の女性に好発する原因不明のリウマチ性疾患である。
(乙5・本文10~13,83~84,103~104頁)
線維筋痛症に対する特異的原因療法又は根治療法はなく,線維筋痛症にり患すると,長期に経過し,ADL(日常生活動作能力。以下同じ。)及びQOL(生活の質。以下同じ。)の低下が著しく,機能的予後が問題となるとされている。本邦における線維筋痛症の患者につき,発症から1年経過時点で,①治癒した者が1.5%,何らかの症状の改善がみ
られた者が51.9%,病状に変化なく経過した者が37.2%,症状が悪化した者が2.6%であった旨,②自立ができている程度のADLであった者が約半数であったが,その余の者に何らかのADLの低下が認められ,うち27.2%の者が著しくADLが低下し,34.0%の者が休職又は休学の状況にあった
(その期間は平均3.(標準偏差4.
2
8)年)旨の報告がある。この点,発症から1,2年経過以後の経過が不良であるとの指摘もある。(甲9・本文21頁。乙5・本文15~16,89~90頁)
また,本邦における線維筋痛症の患者のADLを,強い疲労を主症状とする慢性疲労症候群の診断に用いられるPerformancestatus(疲労・
倦怠の程度を示す指標であり,

倦怠感がなく平常の生活ができ,制限を受けることなく行動できる。

(スコア0)から

身の回りのことはできず,常に介助がいり,終日就床を必要としている。

(スコア9)までの10段階で評価するもの。以下PSスコアという。慢性疲労症候群と診断されるためには,

全身倦怠の為,月に数日は社会生活や労働ができず,自宅にて休息が必要である。

とされるPSスコア3以上とされることを要するものとされている。)を用いて評価した報告において,日常生活にほとんど影響がないとされるPSスコア0~2とされた者が13.1%,通常の日常生活が不可能とされるPSスコア≧7とされた者が54.5%であり,平均のPSスコアが6.0(標準偏差2.4)であった旨の報告がある。(甲9・本文17頁。甲23。乙5・本文89~90頁)

(イ)

厚生労働省線維筋痛症研究班により,公的社会保障制度運用のため
の行政的重症度基準として,ステージⅠないしステージⅤに分類された線維筋痛症の臨床的重症度分類の試案(重症度分類)並びに各重症度とQOL,疼痛部位及び圧痛の程度との間の対応関係が発表されており,その内容は以下のとおりである。(甲9・10~11頁。乙5・本文1
13,115頁。乙7・本文13~14頁)

重症度分類

QOL

疼痛部位

圧痛の
程度

ステージACR(米国リウマチ学会)分類基痛みはあ体幹部

圧痛


(4kg/㎠)

準の18箇所の圧縮点のうち11るが普通
箇所以上で痛みがあるが,日常生活の生活が
に重大な影響を及ぼさない

できる

ステージ広範囲な筋緊張が続き腱付着部炎

を併発する一方,不眠,不安感,鬱
状態が続く。通常の日常生活がやや
困難

ステージ痛みが持続し,爪や髪への刺激,温痛みのた体幹部か軽度の圧Ⅲ
度・湿度変化など軽微な刺激で激しめ普通のら末梢部痛
い痛みが増強する。自力での生活は生活が困痛
困難


ステージ痛みのため自力で体を動かせず,ほ寝たきり全身痛

触痛・自


発痛

とんど寝たきり状態に陥る。自分のであるが
体重による痛みで,長時間同じ姿勢眠れない
で寝たり座ったりできない

ステージ激しい全身の痛みとともに,膀胱や

直腸の障害,口の渇き,目の乾燥,
膀胱症状など全身に症状が出る。通
常の日常生活は不可能


原告の本件傷病り患後の経過等について
(ア)

原告は,平成25年8月24日までに本件傷病にり患し,同日,右
手第2指から肘にかけてのしびれを訴えて,G医院において,本件傷病について医師の診察を受けた。その後,原告は,H病院で診察を受けたほか,本件傷病に起因する四肢のしびれ感,脱力,疲労感等を訴えて,E病院,F病院及びB病院に順次通院又は入院し,検査を受けるなどしたが,
本件傷病につき線維筋痛症との確定診断を受けることはなかった。(前記1(1)に認定した事実,甲3,5,乙1,11ないし14)
(イ)

原告は,前記(ア)の間の平成25年12月6日頃から,本件傷病に
起因する疲労感等を訴えて,当時の職場を休職し,平成26年1月31日付けで退職した。(甲16,20の1,弁論の全趣旨)
(ウ)

原告は,平成26年9月3日,J医院において初めてA医師の診察
を受け,同月29日,本件傷病(線維筋痛症)の診断を受けた。
(甲4。
乙1・本文6~9頁。乙15・2~3頁)
(エ)

C医師又はD医師は,本件各傷病手当金支給申請書中の診療担当医
師の意見書欄(甲20の1~16)において,平成25年12月6日から平成27年3月13日までの期間を通して,原告を就労不能と認めた旨の意見を記載した。平成25年12月6日から同月31日までについてはC医師が記載しており,原告を就労不能と認めた所見につき,四肢筋力低下及び息苦しさを挙げている(甲20の1)。その余の期間についてはD医師が記載しており,原告を就労不能と認めた所見につき,め
まい感,胸部苦悶感等を挙げている(甲20の2~16)。

平成27年3月現症診断書について
平成27年3月現症診断書には,要旨,以下の記載がある。
(ア)

障害の原因となった傷病名欄
線維筋痛症

(イ)

診断書作成医療機関における初診時所見(初診年月日平成26年9月3日)欄両上下肢の脱力感及び両手関節,両膝関節,両足関節に自発痛を認めた。
また,
線維筋痛症の圧痛点に一致して圧痛があった。
(ステージⅡ)
(ウ)

現在までの治療の内容,期間,経過,その他参考となる事項欄
26年9月29日よりジェイゾロフト1T/1×朝の内服を開始した。
その後,疼痛は改善傾向にあり,27年3月の時点では歩行時に両膝痛を訴える程度であった。(ステージⅡ)
(エ)
a
障害の状態(平成27年3月11日現症)
日常生活における動作の障害の程度欄
(a)

日常生活における動作欄

つまむ(新聞紙が引き抜けない程度)

右左共に,一人でできてもやや不自由

握る(丸めた週刊誌が引き抜けない程右左共に,一人でできてもやや不自由度)
タオルを絞る(水をきれる程度)

両手で,一人でできてもやや不自由

ひもを結ぶ

両手で,一人でうまくできる

さじで食事をする

右左共に,一人でうまくできる

顔を洗う(顔に手のひらをつける)

右左共に,一人でうまくできる

用便の処置をする
(ズボンの前のところ右左共に,一人でうまくできる
に手をやる)
用便の処置をする
(尻のところに手をや右左共に,一人でうまくできる
る)
上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)両手で,一人でうまくできる上衣の着脱
(ワイシャツを着てボタンを両手で,一人でうまくできる
とめる)
ズボンの着脱(どのような姿勢でもよ両手で,一人でうまくできるい)
靴下を履く(どのような姿勢でもよい)両手で,一人でうまくできる片足で立つ

右左共に,
一人でできるが非常に不自由

座る〔正座,横すわり,あぐら,脚なげ一人でうまくできる
だし〕(このような姿勢を持続する)
深くおじぎ(最敬礼)をする

一人でできてもやや不自由

歩く(屋内)

一人でできてもやや不自由

歩く(屋外)

一人でできてもやや不自由

立ち上がる

支持があればできるが非常に不自由

階段を上る

手すりがあればできるが非常に不自由

階段を下りる

手すりがあればできるが非常に不自由

(b)

平衡機能欄
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