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法人税更正処分取消請求事件
事件番号平成28(行ウ)589
事件名法人税更正処分取消請求事件
裁判年月日令和2年3月24日
裁判所名東京地方裁判所
裁判日:西暦2020-03-24
情報公開日2020-11-26 12:00:43
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令和2年3月24日判決言渡
平成28年(行ウ)第589号

法人税更正処分取消請求事件

主文12
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
処分行政庁が平成27年6月29日付けでした原告の平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度(以下平成25年3月期といい,他の事業年度についても同様の要領で平成23年4月1日から平成24年3月
31日までの事業年度を平成24年3月期などという。)の法人税の更正処分(以下本件更正処分という。)のうち翌期へ繰り越す欠損金額が4億0243万0691円を超える(欠損金額が減少する方向をいう。以下,欠損金額を比較する際において同じ。)部分を取り消す。
第2

事案の概要
本件は,肉用牛の飼育,肥育及び販売事業等を行う株式会社である原告が,平成24年12月25日に原告の取締役を退任したB1
(以下
本件元取締役
という。)に対して平成25年3月1日に支給した退任慰労金及び特別功労金(以下,総称して本件役員退職給与という。)の額の全額を,平成25年
3月期の法人税の所得の金額の計算上,損金の額に算入して確定申告をしたところ,処分行政庁から,本件役員退職給与には法人税法34条2項に規定する不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額(以下不相当に高額な部分の金額ということがある。)が存在し,当該金額は損金の額に算入されないとして本件更正処分を受けたため,被告が主張する本件役員退職給与に
係る不相当に高額な部分の金額の算定過程は合理性を欠き,本件役員退職給与に係る不相当に高額な部分の金額の立証がないなどと主張して,本件更正処分の一部の取消しを求める事案である。
1
関係法令の定め
(1)

法人税法34条(役員給与の損金不算入)2項の定め
法人税法34条2項は,内国法人がその役員に対して支給する給与(同条
1項又は同条3項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高
額な部分の金額として政令で定める金額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない旨を定めている。
(2)

法人税法施行令70条(過大な役員給与の額)2号の定め
法人税法施行令70条柱書きは,法人税法34条2項に規定する政令で定
める金額は,同施行令70条各号に掲げる金額の合計額とする旨を定め,同
条2号(平成29年政令第106号による改正前のもの。以下同じ。)は,内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が,当該役員のその内国法人の業務に従事した期間,その退職の事情,その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし,その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額を掲げている。2
前提事実(証拠等を掲記した事実のほかは,いずれも,当事者間に争いがないか,当事者が争うことを明らかにしない事実である。)

(1)

原告等
原告は,昭和62年4月25日に有限会社として設立され,平成21年6月17日に株式会社に移行した,肉用牛の飼育,肥育及び販売事業を主たる事業として行う株式会社である。(甲102,乙1,36)


株式会社B2(以下B2という。)は,昭和54年8月24日に有限会社として設立され,平成21年6月17日に株式会社に移行した,搾乳事業,肉用牛の繁殖,哺育育成及び販売事業等を行う株式会社であり,設立から平成24年12月25日まで,本件元取締役がその代表取締役を務めていた。(甲102,乙18,19,36,37,弁論の全趣旨)ウ
原告の代表者であるB3(以下原告代表者という。)は,本件元取締役の子である。

(2)

本件元取締役による原告の取締役への就任及び退任等


本件元取締役は,原告の設立と同時に原告の代表取締役に就任し,以後継続して代表取締役を務めていたが,平成8年3月9日,原告の取締役を辞任し(以下,これによる取締役及び代表取締役の退任を平成8年の退任という。),原告代表者が,同日,原告の代表取締役に就任し,現在に至っている。


本件元取締役は,平成15年11月13日,原告の取締役に就任し(以下平成15年の就任という。以下,平成8年の退任の後から平成15年の就任までの間の本件元取締役が原告の取締役に就いていなかった期間を指して本件役員退任期間という。),以後継続して取締役を務めていたが,平成24年12月25日,辞任した(以下,これによる取締役の
退任を平成24年の退任という。)。
(3)

平成24年の退任時における本件元取締役の報酬の額等
原告は,遅くとも平成19年4月以降,本件元取締役に対し,役員報酬として月額25万円を支給していた。


原告は,平成25年1月11日,本件元取締役に対し,平成24年6月から同年12月までの役員報酬として合計525万円(月額75万円)を追加支給した(以下,同追加支給による本件元取締役の役員報酬の遡及的な増額を指して本件遡及増額という。)。

(4)
本件役員退職給与の支給
原告は,平成25年3月1日,本件元取締役に対し,本件役員退職給与と
して合計2億7000万円(内訳は,退任慰労金2億円,特別功労金7000万円である。)を支給した。
なお,
本件役員退職給与のうち退任慰労金は,
いわゆる功績倍率法により,
本件元取締役の最終月額報酬額を100万円,勤続年数を25年,功績倍率(役員退職給与の額を,その退職役員の最終月額報酬額に勤続年数を乗じた額で除して得た倍率をいう。以下同じ。)を8倍とし,これらを乗じて算定されたものであった。
(5)

本件更正処分に至る経緯,本件更正処分に対する原告の不服申立て等原告がした平成25年3月期の法人税の確定申告(以下本件確定申告
という。)の内容,本件更正処分の内容及び本件更正処分に対する原告の不服申立ての経過は,いずれも別表1記載のとおりである。
原告は,本件確定申告において,所得の金額の計算上,本件役員退職給与2億7000万円の全額を損金の額に算入したが,処分行政庁は,本件更正処分において,本件役員退職給与につき,法人税法施行令70条2号に規定するその退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額(以下役員退職給与適正額ということがある。)に該当する金額(以下本件役員退職給与適正額という。)は,6250万0672円であり,本件役員退職給与のうち本件役員退職給与適正額を超える2億0749万9328円は,不相当に高額な部分の金額に該当し損金の額に算入されない旨の判断をし,同金額を所得の金額に加算した(なお,本件更正処分において
は,他の理由による所得の金額の加算もされたが,原告は,この点については争っていない。)。
(6)

本件訴えの提起
原告は,平成28年12月22日,本件訴えを提起した。(当裁判所に顕
著な事実)
(7)

役員退職給与適正額の算定方法
役員退職給与適正額の算定方法には,一般に,以下に挙げる平均功績倍率法,1年当たり平均額法及び最高功績倍率法がある。

平均功績倍率法
平均功績倍率法は,①退職役員に役員退職給与を支給した当該法人と同種の事業を営み,かつ,その事業規模が類似する法人(以下同業類似法人という。)の役員退職給与の支給事例における功績倍率の平均値(以
下平均功績倍率という。)に,当該退職役員の②最終月額報酬額及び③勤続年数を乗じて役員退職給与適正額を算定する方法である。イ
1年当たり平均額法
1年当たり平均額法は,①同業類似法人の役員退職給与の支給事例にお
ける役員退職給与の額をその退職役員の勤続年数で除して得た額
(以下
1年当たり役員退職給与額という。)の平均額に,②当該退職役員の勤続年数を乗じて役員退職給与適正額を算定する方法である。

最高功績倍率法
最高功績倍率法は,①同業類似法人の役員退職給与の支給事例における功績倍率の最高値(以下最高功績倍率という。)に,当該退職役員の
②最終月額報酬額及び③勤続年数を乗じて役員退職給与適正額を算定する方法である。
(8)

関東信越国税局長による同業類似法人の抽出等
関東信越国税局長は,平成29年4月6日付けで同局管内の各税務署長に対して発出した指示文書(乙11)及び同日付けで関東信越国税局に隣接する国税局である仙台国税局,東京国税局,金沢国税局及び名古屋国税局(以下,総称して隣接局という。)の各局長に対して発出した各依頼文書(乙12の1~4)により,以下の抽出基準(以下,総称して本件各抽出基準という。)を満たす同業類似法人における役員退職給与の
支給事例について,
報告の指示又は回答の依頼をした
(以下
本件指示等
という。また,本件各抽出基準と支給事例を関東信越国税局及び隣接局の管内から抽出することとした抽出方法とを総称して本件各抽出基準等という。)。
(ア)

日本標準産業分類における大分類A-農業,林業中,中分類01-農業中,小分類012畜産農業(なお,小分類012畜産農業の中には,細分類0122123養豚業,細分類0124肉用牛生産業,細分類0養鶏業等が存在する。甲65,
乙30。以下,日本標準産業分類における上記の各分類を指して,単に畜産農業,肉用牛生産業などということがある。)を基幹の事
業としていること
(イ)

平成23年10月1日から平成26年9月30日までの間に終了す
る事業年度において,売上金額が8億6333万5576円(原告の平成25年3月期の損益計算書上の売上高
(17億2667万1152円)
の2分の1の額である。)以上34億5334万2304円(同売上高の2倍の額である。)以下である事業年度(以下調査対象事業年度という。)があり(いわゆる売上金額の倍半基準),かつ,所得金額(翌
期へ繰り越す欠損金又は災害損失金等の当期控除前の金額。以下,別紙1本件更正処分の根拠及び適法性及び別紙3当裁判所が認定する原告の平成25年3月期の法人税に係る翌期へ繰り越す欠損金額等を除いて同じ。)が欠損でないこと
(ウ)

調査対象事業年度において,代表取締役及び取締役(非常勤の者を
除く。以下,総称して代表取締役等という。)に対して退職給与の支給があり,かつ,その支給原因が普通退職(死亡退職を除く。以下同じ。)であること
(エ)

調査対象事業年度について,国税通則法所定の不服申立て又は行政
事件訴訟法に基づく訴訟が係属中でないこと


本件指示等に対して,税務署長等から,13法人における合計16件の役員退職給与の支給事例について報告及び回答があった(以下,総称して本件各報告等という。)が,これらのうち,取締役又は監査役に役員退職給与を支給した同業類似法人9法人(以下,総称して本件同業類似法人という。)における支給事例10件の詳細は,別表2記載のとおりである
(以下,
同別表の各支給事例を総称して
本件各支給事例
といい,

順号欄の番号を用いて本件支給事例1,本件支給事例2などとい
う。)。
なお,本件支給事例2及び本件支給事例10は,いずれも監査役に対する支給事例であり,本件支給事例5及び本件支給事例6は,同一の法人における支給事例である。

3
本件更正処分の根拠及び適法性に関する被告の主張
本件更正処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は,
後記5に掲げるほか,
別紙1記載のとおりである。

4
争点
本件の争点は,本件役員退職給与における不相当に高額な部分の金額の有無
及びその額であり,具体的には,被告が主張する本件役員退職給与適正額の算定(以下本件算定という。)の合理性の有無が争われている。
5
争点に関する当事者の主張の要旨
争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙2争点に関する当事者の主張の要旨記載のとおりである(同別紙で定義する略称等は,以下においても用い
るものとする。)。
第3
1
当裁判所の判断
検討の順序等
本件においては,本件役員退職給与適正額について,被告が,本件同業類似
法人における取締役又は監査役に対する役員退職給与の支給事例である本件各支給事例の1年当たり役員退職給与額の平均額150万7897円及び本件元取締役の勤続年数10年の各数値を用いて,1年当たり平均額法により,1507万8970円と主張する(本件算定)のに対し,原告が,別紙2の第2記載のとおり,①本件同業類似法人の抽出の合理性等(同1及び2),②本件役員退職給与適正額の算定に用いるべき支給事例の適格性(同3,4及び6),③本件元取締役の勤続年数(同5)及び④1年当たり平均額法を用いることの
合理性(同7及び8)の各点から,本件算定の合理性を争っている。役員退職給与適正額の算定に当たっては,複数の方法が考えられるものの,そのいずれを選択するかにかかわらず,同業類似法人の役員退職給与の支給事例が適切に抽出及び選択され,かつ,役員の勤続年数が適正に認定及び評価されることが前提となるものであるから,まず,上記①ないし③の点から検討を
加えるものとし,中でも,本件元取締役と退職の事情又は役職を異にする役員に対する支給事例を用いることの適否は,当該支給事例それ自体から,その適否を判断し得るものであり,かつ,その適否がその後の検討の前提ともなることから,これをまず検討することとする。
その上で,本件においては,本件算定の合理性を争う上記の原告の主張に沿
って判断を加えることが,事案の理解に資するものと考えられるから,これに沿って順次検討を加えることとする。
2
本件元取締役と退職の事情又は役職を異にする役員に対する支給事例が存在する旨の原告の主張について

原告は,本件支給事例8は解任された取締役に対する役員退職給与の支給事例であり,本件支給事例2及び本件支給事例10はいずれも監査役に対する退職給与の支給事例であるから,これらはいずれも本件役員退職給与適正額の算定の基礎とすることができない旨主張する。
前提事実(8)及び証拠(甲34,35,乙14の4)によれば,本件支給事例
8は,B4の取締役であったB5に対する退職給与の支給事例であり,当該支給に係る同人の取締役の退職は,B4による解任を原因とするものであったことがうかがわれ,本件においてはこれに反する積極的な証拠はない。法人税法施行令70条2号は,役員退職給与適正額の算定に当たって退職の事情を考慮すべきことを明文で定めており,本件のような辞任(会社法330条,民法651条1項)の場合と株主総会による決議を要する解任(会社法339条1項)の場合とでは,退職の事情が異なると認められる上,一般に,解任手続
が採られた場合に,役員退職給与が支給されないか又は役員退職給与の額が支給規程の定めにより算出された額よりも減額されることがあることは,当裁判所に顕著である。
また,本件支給事例2及び本件支給事例10はいずれも監査役に対する退職給与の支給事例である(前提事実(8))が,取締役と監査役とではその職務内容
に明らかな相違があることに照らし,仮に,同程度の最終月額報酬額や勤務年数の者であったとしても,一般に,取締役と監査役とで支給される役員退職給与の額が異なることがあることも,当裁判所に顕著である(このことは,本件支給事例2に係る法人において,同一の事業年度での役員退職給与の支払につき,ほぼ同じ勤続年数であるとされているにもかかわらず,代表取締役に対す
るものと監査役に対するもの(本件支給事例2)とで,その金額に3倍を超える差が生じていること(乙13の3)からも,うかがわれるところである。)。以上によれば,
本件役員退職給与適正額の算定に当たって,
本件支給事例2,
本件支給事例8及び本件支給事例10を用いることは合理性を欠くというべきである。これに反する被告の主張は採用することができない。

3
本件各抽出基準等の合理性に関する原告の主張について
(1)

小分類
畜産農業
を基幹の事業としていることに係る基準に関連する原

告の主張について

原告は,小分類畜産農業のうち,細分類養豚業及び細分類養鶏業と,原告が営む細分類肉用牛生産業とは,その事業の特質等を大きく異にする以上,小分類畜産農業を営む法人であることを抽出基準としなければ原告の同業類似法人を得られないなどの特段の事情がない限り,細分類肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準とすべきである旨主張した上で,本件においては,肉用牛課税特例の適用によって所得金額が欠損となる法人を抽出対象に含めたり,関東信越国税局及び隣接局以外の国税局の管内を抽出対象地域に含めたりすれば,肉用牛生産業
を営む法人であることを抽出基準としても,原告の同業類似法人を得られる可能性が高く,上記の特段の事情は認められないため,小分類畜産農業を基幹の事業としていることに係る基準を含む本件各抽出基準等は合理的なものとはいえない旨主張する。

法人税法施行令70条2号は,同業類似法人について,その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものとのみ規定しており,同種の事業を営む法人を抽出するに当たって,産業分類上の同種性を厳格に確保しなければならないと解すべき法令上の根拠は見当たらない。また,法人間における業種,業態等の相違の程度が,各法人におけ
る役員退職給与の支給額にいかなる差異をもたらすかについては,その性質上,一般的かつ明確な基準を設けることは困難であるといわざるを得ない上,役員退職給与適正額の算定に当たっては,同業類似法人の役員退職給与の支給事例が複数抽出された上で,その功績倍率の平均値又は1年当たり役員退職給与額の平均額の形で用いられることにより,同業類似法人
間の業種,業態等の相違による役員退職給与の支給額に対する影響が平準化される結果,当該法人と同業類似法人との間の業種,業態等の相違による影響も相対的に緩和されるということができる(平均功績倍率法及び1年当たり平均額法。後記7(2)参照。他方,最高功績倍率法及び1年当たり最高額法は,複数抽出された支給事例のうち最高功績倍率又は1年当たり
役員退職給与額の最高額という特定の一つのものを用いるものであるが,納税者に最も有利という意味で保守的な手法であるから,当該法人と当該支給事例に係る法人との間の業種,業態等の相違による影響を考慮すべき要請は後退するものといえる。)。そして,事業規模等の他の条件との兼ね合いや,十分な数の同業類似法人及び支給事例を確保すべき必要性等にも照らし,ある事業につき,当該法人の事業との間に,社会通念上,業種の共通性が相応にあるということができれば,
その事業を営む法人は,
同種の事業を営むものとして同業類似法人となり得るものと解するのが相当である。

本件についてみると,原告は,肉用牛生産業に該当する肉用牛の飼育,肥育及び販売事業を主たる事業として行う株式会社である(前提事実(1)
ア)。
他方,本件各支給事例のうち,前記2において判断を示した本件支給事例2,本件支給事例8及び本件支給事例10を除いた各支給事例についてみると,前提事実(8)及び証拠(甲15ないし17,22ないし33,36ないし39,乙14の1・2・4)によれば,①本件支給事例1は,養豚
業を主たる事業とするB6牧場の取締役であったB7に対する退職給与の支給事例,②本件支給事例3は,養豚業を主たる事業とするB8の取締役であったB9に対する退職給与の支給事例,③本件支給事例4は,養鶏業を主たる事業とするB10の取締役であったB11に対する退職給与の支給事例,④本件支給事例5及び6は,養鶏業を主たる事業とするB1
2の取締役であったB13及びB14に対する退職給与の各支給事例,⑤本件支給事例7は,養鶏業を主たる事業とするB15の取締役であったB16に対する退職給与の支給事例,⑥本件支給事例9は,養鶏業を主たる事業とするB17の取締役であったB18に対する退職給与の支給事例であるとそれぞれうかがわれ,本件においては,これに反する積極的な証
拠はない(以下,本件支給事例1,3,4,5,6,7及び9を総称して裁判所選定支給事例といい,裁判所選定支給事例に係るB6牧場,B8,B10,B12,B15及びB17を総称して裁判所選定法人という。)。
そうすると,裁判所選定法人が主たる事業とするものとうかがわれる養豚業及び養鶏業と,原告が主たる事業とする肉用牛生産業とを比較すると,共に日本標準産業分類において小分類畜産農業の下に位置付けられて
いるとおり,
いずれも,(人間が生活に役立てるために飼育する動物)
家畜
を飼養・飼育して必要な物資を得る事業として,社会通念上,業種の共通性があるということができる。

ところで,前記アに原告が指摘するところの,本件各抽出基準等のうち所得金額が欠損でないことに係る基準や抽出対象地域の設定の点について
みると,原告は,平成25年3月期の申告所得金額につき欠損でなく,関東信越国税局の真岡税務署の管内に本店を置く株式会社であること(当事者の間に争いがない)を踏まえれば,本件各抽出基準等のうち所得金額が欠損でないことに係る基準については,相対的に優良な法人を抽出しようとする基準として合理性を肯定することができ,抽出対象地域が関東信越
国税局及び隣接局の管内とされたことについても,原告の本店所在地との間の地理的条件の類似性に配慮したものとして,一般的な合理性を肯定することができる。
そして,関東信越国税局及び隣接局の管内の法人のうち所得金額が欠損でないものを抽出することによっては,適切な同業類似法人及び支給事例を十分に集積することができなかった場合には,抽出対象地域を拡大し,又は所得金額に係る基準を緩める等して,これらを更に収集する必要が生じ得ることはともかく,本件においては,相応の数の適切な同業類似法人及び支給事例を抽出及び収集することができている(詳細は,後に順に検
討する。)以上,これらを更に収集する必要は認め難い。

原告は,①肉用牛生産業と養鶏業及び養豚業との間に,総資産回転率に約2倍又は2倍以上に上る差がある,②肉用牛生産業と養豚業との間には経常利益率に10倍以上の違いがある,③肉用牛生産業と養鶏業及び養豚業との間には,キャッシュ・コンバージョン・サイクルに約300日又は約1年の違いがあるなどとして,
肉用牛生産業と養鶏業及び養豚業とが
同種の事業とはいえない旨主張する。

しかし,原告が上記に指摘する各種の経営指標は,いずれも全ての事業に共通して用いられる財務又は金融に関するものであって,事業間で当該経営指標の数値が類似しているとしても,そのことをもって直ちに,当該各事業が同種の事業であることを意味しないから,事業の同種性を判断する指標として適切なものとはいえない。
この点をおくとしても,本件全証拠によっても,原告が上記に指摘する各種の経営指標の数値の差異が,役員退職給与の支給額に有意な影響を具体的に及ぼしていると認めるに足りる事情は見当たらない(原告も,そのような事情を具体的に主張立証していないところである。)から,原告が
上記主張するところは,肉用牛生産業と養鶏業及び養豚業との間に一定の差異がある旨のものにとどまり,これをもって事業の同種性がないとはいえない。

以上によれば,裁判所選定法人は,原告が主たる事業とする肉用牛生産業と,
法人税法施行令70条2号にいう
同種の事業
を営むものとして,

原告の同業類似法人となり得るものというべきであるから,本件各抽出基準等のうち,
小分類
畜産農業
を基幹の事業としていることに係る部分,
所得金額が欠損でないことに係る部分及び抽出対象地域を関東信越国税局及び隣接局の管内とした部分は,相応の合理性を有するものであると認められる。

これに反する原告の前記アの主張は,採用することができない。
(2)

本件各抽出基準等のうちその余のものの一般的な合理性について
本件各抽出基準等のうち,
前記(1)に説示したもの以外のもの
(①売上金額

の倍半基準,②役員退職給与の支給原因が普通退職であること及び③不服申立て又は訴訟が係属中でないこと)については,いずれも,その内容に照らし合理性を肯定することができ,原告も,これらについて合理性を争ってい
ない。
(3)

小括
したがって,本件各抽出基準等は,本件の事実関係の下においては,相応
の合理性を有するものであると認められる。
4
本件指示等に対する調査が適切に行われたものとは認められない旨の原告の主張について
(1)ア

原告は,本件各報告等における本件各支給事例に係る勤続年数の記載
には使用人として勤務した期間も含まれているから,税務署長等により本件同業類似法人における退職役員の勤続年数の調査が適切に行われたと認めることはできず,そのような調査に基づき算定された金額を,本件役員退職給与適正額と認めることはできない旨主張し,具体的には,裁判所選定支給事例のうち本件支給事例7及び9について,本件各報告等における勤続年数が実際のものと異なる旨主張する。
イ(ア)

裁判所選定支給事例のうち本件支給事例7についてみると,
これは,

B15の取締役であったB16に対する退職給与の支給事例であるとうかがわれ,本件においては,これに反する積極的な証拠はない(前記3(1)ウ)が,本件各報告等において,同人の勤続年数は52年とされている一方,証拠(甲32)によれば,B15の商業登記簿において,同人は,平成4年11月27日に取締役に就任し,平成25年10月30日
に取締役を辞任した旨記録されていることが認められる。
また,裁判所選定支給事例のうち本件支給事例9についてみると,これは,B17の取締役であったB18に対する退職給与の支給事例であるとうかがわれ,
本件においては,
これに反する積極的な証拠はない
(前
記3(1)ウ)が,本件各報告等において,同人の勤続年数は24年とされている一方,証拠(甲37)によれば,B17の商業登記簿において,同人は,平成12年5月25日に取締役に就任し,平成26年3月25日に取締役を辞任した旨記録されていることが認められる。
(イ)

役員退職給与適正額の算定において考慮されるべき退職役員の法人
に対する功績は,当該退職役員の役員としての地位に基づく活動により生じるものであるから,役員退職給与適正額の算定において用いられるべき当該退職役員の勤続年数は,原則として,役員の在任期間と一致するものであるが,法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る。)以外の者でその法人の経営に従事しているものが法人税法上の役員に該当すること(同法2条15号,同法施行令7条1号)に鑑みれば,役員の在任期間の他に,その者の法人内における地位や行う
職務等からみて,その者が他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事している期間があった場合には,当該期間も通算し勤続年数を算定しなければならないというべきである。
(ウ)

この点,証拠(甲30ないし33,36ないし39)によれば,B
15及びB17は,それぞれ同族経営による会社であるとうかがわれ,これらの取締役であったB16及びB18が,それぞれ取締役就任以前から,当該法人を経営する一族に属する者として実質的に法人の経営に従事していた可能性は認め得るものの,B16が昭和37年頃から,B18が平成2年又は平成3年頃から,それぞれ実質的に法人の経営に従事していたと認めるに足りる的確な証拠はない。

そうすると,平均功績倍率法,1年当たり平均額法等に用いるに当たって,本件支給事例7及び9の勤続年数を,それぞれ52年,24年とすることは,役員退職給与の支給を受けた取締役につき職制上使用人としての地位のみを有する使用人として就業していたにすぎない可能性のある期間についても,実質的に法人の経営に従事した期間であったものとして取り扱い,1年当たり役員退職給与額を算定する点で,合理的な理由なく原告に不利な取扱いをすることとなる可能性を排除することが
できないから,合理性を欠くというべきである。もっとも,それぞれ,前記(ア)に認定した商業登記簿の記載から認定できる取締役の在任期間である21年,14年とする限りでは,職制上使用人としての地位のみを有する使用人としての退職給与の支給である可能性がある部分も含めて役員退職給与として取り扱い,1年当たり役員退職給与額を算定する
という意味で,原告に有利な取扱いをすることになるから,その限度でなお,原告の同業類似法人における役員退職給与の支給事例としての合理性を認めることができるというべきである。
(エ)

他方,裁判所選定支給事例のうち本件支給事例7及び9以外のもの
については,原告は,本件各報告等における勤続年数を具体的に争って
おらず,証拠(甲16,17,23,24,26,27,29)及び弁論の全趣旨によれば,前記(イ)の説示を踏まえた各事例の退職取締役の勤続年数は,いずれも本件各報告等におけるものであったと認めることができる。
(2)

原告は,本件指示等に対して,土浦税務署長及び名古屋国税局長(小牧税
務署長)が監査役に対して退職給与の支給があった法人(本件支給事例2に係る法人及び本件支給事例10に係る法人)を抽出し,松本税務署長が代表理事に対して退職給与の支給があった法人を抽出しているが,本件抽出基準によって監査役や代表理事に対して退職給与の支給があった法人を抽出すべきであると一義的に判断することは不可能であるから,当該法人を抽出すべきであるか否かは,各税務署長及び各国税局長の裁量に委ねられていたということになり,このような抽出過程には恣意が介在する余地があるとして,本件指示等に対する税務署長等による調査が適切に行われたと認めることはできず,このような調査により導かれた金額を,本件役員退職給与適正額と認めることはできない旨主張する。
前提事実(8)及び証拠(乙13の3・55,14の4)によれば,本件指示等に対し,土浦税務署長及び名古屋国税局長(小牧税務署長)が監査役に対して退職給与の支給があった法人(本件支給事例2に係る法人及び本件支給事例10に係る法人)を抽出したこと,及び松本税務署長が代表理事に対して退職給与の支給があった法人を抽出したことが認められ,これら監査役又
は代表理事に対する役員退職給与の支給事例の抽出は,代表取締役等に対する支給事例を抽出すべき旨を定めた本件各抽出基準の定めに沿ったものとはいえない。しかし,監査役及び代表理事は,いずれも,法人税法2条15号に規定する役員に該当するものであること等を踏まえると,上記の各抽出が存在することをもって,原告が主張するように,監査役又は代表理事に対す
る支給事例を抽出すべきであるか否かが各税務署長等の裁量に委ねられているとか,抽出過程に恣意が介在する余地があるなどと認めることはできず,これを本件同業類似法人の抽出過程に恣意が介在したことをうかがわせる事情ということもできない。
なお,原告は,本件指示等に対し,実際には農事組合法人の理事に対する
退職給与の支給事例が存在するにもかかわらず,当該支給事例が抽出されなかった可能性があることを指摘するが,本件全証拠によっても,当該支給事例が存在する具体的な可能性はうかがわれず,単なる抽象的な可能性の指摘にとどまる上,そもそも,農事組合法人の理事に対する退職給与の支給事例は,本件各抽出基準による抽出対象には含まれないものであるから,原告の
上記指摘は,本件指示等に対する税務署長等による調査の適切性の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
5
原告主張除外法人が原告とその事業規模が類似するものと認められない旨の原告の主張について
(1)ア

原告は,少なくとも総資産額が原告の総資産額の2分の1を大幅に下
回る法人を,原告と法人税法施行令70条2号にいうその事業規模が類似するものと認めることができないとした上で,本件支給事例3に係る法人を除く裁判所選定法人については,総資産額が原告の総資産額の2分の1を大幅に下回ることが推認されるから,原告とその事業規模が類似するものと認めることはできず,原告の同業類似法人ということはできない旨主張する。


しかし,原告による本件支給事例3に係る法人を除く裁判所選定法人の総資産額の推定(別表4参照)は,本件支給事例3に係る法人を除く裁判所選定法人の各売上金額を,養鶏業又は養豚業の別に応じ一定のサンプルにおける平均値として求められた総資産回転率で除した結果であるにすぎ
ず,上記の総資産回転率とされる数値が当該法人のものではなく,一定のサンプルにおける平均値であること等に照らし,上記の推定の正確性には疑問がある(原告自身,原告の総資産額と売上金額を前提とした場合の原告における総資産回転率が,肉用牛生産業における総資産回転率の平均値とされる数値から相当にかい離することを自認しているところである。さ
らにいえば,原告が養鶏業の総資産回転率を示すものとして依拠するサンプルは,採卵鶏経営を行う法人のものであり(甲44),肉用鶏(ブロイラー)経営を行う法人を含んでないから,サンプルとしての適切性すら欠くといわざるを得ない。また,被告が本件同業類似法人の推定等に関する原告の主張に対する認否を明らかにしないこと等の原告が指摘する被告の
訴訟追行の態度によっても,原告の推定の正確性に疑問があるとの上記の認定は左右されない。)から,原告の主張は,その前提を欠くものというべきである。
この点をおくとしても,本件全証拠によっても,法人間の総資産額の差異が,当該各法人における役員退職給与の支給額に有意な影響を及ぼす旨の知見又は経験則は見当たらない。また,総資産額が,売上げから生じた利益が集積して増加する側面を有するものであって,ある事業年度におけ
る事業活動の規模を直ちに示すものではなく,当該法人の事業年度における事業活動の規模を端的に示す指標である売上金額と重ねて考慮しなければ,事業規模が類似するものの抽出において直ちに合理性を欠くことになるとは解し難い。

したがって,仮に,本件支給事例3に係る法人を除く裁判所選定法人の総資産額に係る原告の主張を前提としたとしても,裁判所選定法人が原告と事業規模が類似するものであることを左右しないというべきであるから,原告の上記主張を採用することはできない。
なお,仮に,原告が主張するとおり,原告と裁判所選定法人との間で,
業種の相違に起因して,総資産回転率,経常利益率及びキャッシュ・コンバージョンサイクルに相応の差異が存在することを前提としたとしても,・
これらの経営指標は,総資産額と同様,事業活動の規模を端的に示すものではなく,売上金額と重ねて事業規模が類似するものの抽出において考慮すべき事情とはいえず,かつ,前記3(1)オに説示したとおり,役員退
職給与の支給額に有意な影響を具体的に及ぼしていると認めるに足りる事情が見当たらないことに照らすと,やはり,裁判所選定法人が原告と事業規模が類似するものであることを左右しない。(2)ア

原告は,
農業会計指針や農業法人標準勘定科目の定め等によれば,
農業

法人において,農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金が売上高として計上されるべきことは,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準又は企業会計の慣行の内容となっているところ,自身の平成25年3月期の損益計算書においては,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準・慣行によれば農業法人において売上高として計上されるべき,農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金に該当する本件マル緊収入及び本件風評被害賠償金が,いずれも売上高として計上されていなかったため,これらを売上高として計上して売上金額の倍半基準を再設定
すると,本件支給事例5及び本件支給事例6に係る法人,本件支給事例7に係る法人並びに本件支給事例9に係る法人は,売上金額の倍半基準を満たさないから,これらの法人を原告とその事業規模が類似するものと認めることはできない旨主張する。

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準又は企業会計の慣行の内容を成すと認められる企業会計原則(乙51)は,売上高について,損益計算書のうち,当該企業の営業活動から生ずる費用及び収益を記載して営業利益を計算する営業損益計算の区分に記載するものとした上で,実現主義の原則に従い,商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る
旨等を定めているにとどまっており,農業法人における農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金について,当該補填金・交付金が当該企業の営業活動から生じたもの
(営業損益計算の区分に記載すべきもの)
であるか否かを一義的に明らかにするものとはいい難い。
そうすると,上記の企業会計原則の定めをもって直ちに,農業法人にお
いて,農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金が売上高として計上されるべきことが,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準又は企業会計の慣行の内容となっているとは認め難い。
その上で,①農業会計指針及び農業法人標準勘定科目は,いずれも,飽くまで公益社団法人日本農業法人協会が作成及び公表したもの(農業会計
指針については,一般社団法人全国農業経営コンサルタント協会と共同して作成及び公表したもの)にすぎず,その内容が直ちに,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準又は企業会計の慣行の内容を形成しているとは認め難いこと,②農業会計指針が,平成25年3月期又は本件各支給事例があった当該法人の事業年度よりも後の平成26年5月19日に制定されたものであること(甲100),③農業法人標準勘定科目についても,公益社団法人日本農業法人協会らが,平成25年3月期又は本件各支
給事例があった当該法人の事業年度よりも後の平成26年5月19日付けで,農業会計指針を公表した際に発表したプレスリリースにおいて,

(農業法人標準勘定科目が)農業法人における会計規範として定着してきています。

と述べられるにとどまっていること(甲116),④原告自身,税理士の関与の上で作成した平成25年3月期の損益計算書におい
て,農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金に該当することが明らかである本件マル緊収入を売上高に含めていなかったこと(甲110,乙2,52)を踏まえれば,全国農業経営改善支援センター・都道府県経営改善支援センター編集平成17年版青色申告から経営改善につなぐ勘定科目別農業簿記マニュアル(甲118)に価格補填収入を売上
高の区分に記載すべき旨の記載があることを踏まえても,平成25年3月期又は本件各支給事例があった当該法人の事業年度当時,農業法人において,本件マル緊収入のような農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金が売上高として計上されるべきことが,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準又は企業会計の慣行の内容となっていたとまでは
認め難い。

本件風評被害賠償金については,その中に,本件原発事故に伴う営業損害として算定された金額や,肉牛の出荷が延長されたことに伴う経費に相当する金額が含まれており(甲101の2・3,弁論の全趣旨),これら
は,その性質上,農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金と認めることはできないから,本件風評被害賠償金が売上高として計上されるべきことが,平成25年3月期又は本件各支給事例があった当該法人の事業年度当時,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準又は企業会計の慣行の内容となっていたとは認められない。

したがって,原告の前記アの主張は採用することができず,原告の平成25年3月期の売上高を本件マル緊収入及び本件風評被害賠償金を含めず
に17億2667万1152円と把握した上で,これに基づき売上高の倍半基準を設定して本件同業類似法人を抽出した本件算定が合理性を欠くものであるとはいえない。
6
本件元取締役の勤続年数及び本件元取締役が実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていた旨の原告の主張について
(1)

原告の主張
原告は,①本件元取締役は,本件役員退任期間において,実質的に原告の
経営に従事していたといえ,業務に従事した期間は,本件役員退任期間を含む昭和62年4月25日から平成24年12月25日までの26年である旨主張するとともに,
②本件元取締役は,
平成8年の退任の後においても,
平成24年の退任に至るまで,原告の事業運営に関わる最終意思決定権を有し,実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていたから,取締役に対する退職給与の支給事例を基に算定された金額を本件役員退職給与適正額と認めることはできない旨主張する。

(2)

認定事実
前提事実,証拠(甲7の1,8の1,11ないし14,52,53,55
ないし64,91,92,95,104,乙3,17,49,証人本件元取締役)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実(以下認定事実という。)を認めることができる。
ア(ア)

B19は,昭和62年4月25日に原告が設立されて以来,原告の
取締役に就いていたが,平成8年頃,帳簿上の在庫と実態をそごさせる等の職務遂行上の複数の問題を生じさせ,原告の取引先からも,B19の職務遂行に問題がある旨の指摘がされた。本件元取締役は,当該状況の解決策として,自身を含む当時の原告の取締役が全員辞任する方針を固め,他の取締役と共に自身も原告の取締役を辞任した(平成8年の退任)。
平成8年の退任に当たって,本件元取締役に退職給与は支給されなかった。
(イ)

平成8年の退任に伴い,原告代表者が原告の代表取締役に就任し,
以後現在に至るまで原告の代表取締役を務めている。
イ(ア)

原告は,本件役員退任期間において,いわゆるメインバンクである
B20銀行から継続的に融資を受けていた。
本件元取締役は,原告がB20銀行から融資を受けるに際して,同銀行の担当者に対し当該融資の資金使途や事業計画について説明をしたり,同担当者との間で融資条件に関する交渉をしたりした。また,本件役員退任期間において毎年,原告は同銀行の担当者に対し決算報告を行っていたが,その説明は本件元取締役が行っていた。
(イ)

原告は,本件役員退任期間において,B21協同組合及びB22金
融公庫から融資を受けることもあり,本件元取締役は,原告が当該融資を受けるに際して,当該金融機関の担当者に対し当該融資の資金使途や事業計画について説明をしたり,同担当者との間で融資条件に関する交渉をしたりした。
ウ(ア)

原告は,平成8年6月にB23農場を購入し,平成12年2月にB
24牧場を購入し,平成13年9月頃にB25牧場を新設稼働させた。本件元取締役は,上記の各購入及び新設稼働を行う旨の意思決定を行った上で,売主との交渉や新設する建物の設計及び建築の発注を行うなどした。
(イ)

原告は,平成12年8月31日付け及び平成13年5月1日付けで
B20銀行からB25牧場の運転資金に係る借入れをするに際し,それぞれ同日付けでB26との間で保証委託契約を締結し,B26は,各保証委託契約に基づき各借入れに係る保証をした。
本件元取締役は,B26の担当者との間で,上記の各保証委託契約の
契約条件に関する交渉を行い,それらの中で,B26に対し,B25牧場においてB26の配合飼料を使用することを確約する旨の発言をするなどした。

本件元取締役は,本件役員退任期間において,原告の税務申告業務に関与していた税理士から,原告の決算書や申告書の内容について説明を受け
た上で,当該税理士に対し質問をしたり,原告の経理担当者を呼んで経理処理について確認をしたり,原告の決算書や申告書の修正の指示や承認をしたりした。

本件元取締役は,本件役員退任期間において,原告の年度の予算を作成したほか,月次で予算と実績との差異を比較するなどし,必要に応じ原告代表者や原告の従業員に対し改善の指示をした。

カ(ア)

B2及び原告は,遅くとも平成8年以降,B2が子牛の繁殖及び一
定の月齢までの哺育育成を行った後,原告が出荷販売に適する月齢になるまで肥育し出荷販売するなど,肉用牛の繁殖,哺育育成,肥育及び販売に関し一体的な事業活動を行っている。
(イ)

B2は,平成15年11月4日付けの原告(当時有限会社)の社員
総会において承認された増資により,総出資口数600口のうち400口を有する原告の社員となり,後の平成25年3月31日時点では発行済株式総数1000株中997株を有する原告の株主となっていたが,少なくとも平成8年3月9日(本件役員退任期間の始期)から上記の増資までの間において,原告の社員であったことはなかった。
また,本件元取締役は,本件役員退任期間において,原告の社員又は株主であったことはなかった。
(ウ)

本件各稟議書は,いずれも同様の様式の書面であり,上部の決裁者
欄には決議B1欄及び決議B3欄が設けられ,いずれの欄

にもB28名(ただし,両者の印影は異なる。)の押印がされてい
る。
本件各稟議書には,起案部門欄が存在し,デイリー部,ビーフ部,飼料原料部,環境事業部,生産管理部,企画管理部及びB29が,それぞれチェック用の□と共に不動文字で記載されている。

(3)

本件元取締役の勤続年数について
前記4(1)イ(イ)に説示したとおり,
役員退職給与適正額の算定における
平均功績倍率法,1年当たり平均額法等において用いられるべき退職役員の勤続年数は,原則として,役員の在任期間と一致するものであるが,そ
の法人内における地位や行う職務等からみて,その者が他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事している期間があった場合には,当該期間も通算し勤続年数を算定すべきである。
イ(ア)

認定事実イないしオの各事実によれば,本件元取締役は,本件役員
退任期間において,①継続して原告内部における決算書や申告書の修正の指示や承認を行い,原告の税務申告業務に関与していた税理士とのやり取りや,原告のメインバンクであるB20銀行との間で原告が受ける融資に関する交渉及び毎年の決算報告の説明を行うなど,原告の経理面の重要な業務に関する行為を行っていたほか,②継続的に,原告の年度の予算を作成し,実績と比較等した上で原告代表者や原告の従業員に対
し改善の指示をするなど,原告の予算管理に係る行為も行っていたものであり,さらに,③B23農場及びB24牧場の各購入並びにB25牧場の新設稼働という三度にわたる原告の事業拡大の場面において,それぞれ,購入等の意思決定を行うとともに,資金の借入れの実現のため交渉等を行っており,原告の重要な経営判断やその実務処理に実質的に参与したといえる。
そうすると,本件元取締役は,本件役員退任期間において,上記①及び②のとおり,継続的に,原告の経理や予算管理に係る業務を担っていたということができ,さらに,本件役員退任期間の中では散発的に行われたものではあるものの,上記③にみたとおり本件元取締役が原告の重要な経営判断やその実務処理に実質的に参与したことがあったことも併
せ勘案すれば,
本件元取締役は,
本件役員退任期間において,
継続して,
実質的に原告の経営に従事していたと認めるのが相当であり,本件役員退職給与適正額の算定における平均功績倍率法,1年当たり平均額法等において用いられるべき本件元取締役の勤続年数には本件役員退任期間も通算されるべきである。

(イ)a

被告は,認定事実イないしオの各事実に係る本件元取締役の行為

につき,いずれも役員でなければできないものではなく,経理・財務を担当する使用人であっても可能である旨や,本件元取締役の原告における地位,肩書,業務,報酬又は給与の有無等の業務関与態様の詳細が不明であり,結局のところ,B2の代表取締役又はB27において会長と呼ばれていた立場で行われたと評価され得るにすぎないものである旨を主張する。
しかし,認定事実イないしオに認定した各事実に係る本件元取締役の行為は,その内容に照らし,原告固有の業務に関連するものも含まれており,これらにより実現する利益が専ら原告を除くB2を含むB
27の原告を除く各社のみに帰属するものとはいえない以上,原告の経営に従事したとの評価を基礎付け得るというべきである上,本件役員退任期間において本件元取締役が代表取締役を務めるB2及び本件元取締役個人が,いずれも原告の社員の地位を有していなかったこと(認定事実カ(イ))を踏まえれば,認定事実イないしオの各事実に係る本件元取締役の行為は,本件元取締役が,設立以来平成8年の退任に至るまで自身が代表取締役として原告の経営を行ってきたことや原
告代表者が自身の子であること等を背景に,原告を含むB27の一体的な発展を企図し一個人として原告の経営に実質的に関与したことを示すものといえる。
したがって,被告の上記主張はいずれも前記(ア)の評価を覆すものとはいえない。

b
被告は,仮に,本件役員退任期間において本件元取締役が原告の経営に従事していたとすれば,原告は,その実態に即して,平成15年の就任以前にも,本件元取締役の取締役就任登記を行っていたはずである旨主張するが,一般的に,被告が主張するような経験則があるとは認められないから,被告の上記主張は,その前提を欠き,採用する
ことができない。
ウ(ア)

次に,本件役員退職給与適正額の算定における平均功績倍率法,1
年当たり平均額法等において用いられるべき本件元取締役の勤続年数に,昭和62年4月25日から平成8年の退任までの期間も通算されるべきかについて検討する。
認定事実ア(ア)のとおり,本件元取締役の平成8年の退任は,当時,B19が原告の取締役としての職務遂行上複数の問題を生じさせ,原告の取引先からB19の職務遂行に問題がある旨の指摘がされるに至った中で,当該状況の解決策として,自身を含む当時の原告の取締役が全員
辞任する方針の下,行われたものであった。取締役が全員辞任するという解決策が採られた点をみても,B19が生じさせたという複数の問題は相応に重大なものであったとうかがわれ(この点について,本件元取締役は,陳述書(甲95)にて重要な問題と表現し,証人尋問においては,
刑事事件にもなり得るものであった旨証言している
(19頁))
。,
本件元取締役が,証人尋問において,自身にも一定の責任を負うべき事情があった旨の証言をしていること(2,18頁)も踏まえれば,平成8年の退任は,本件元取締役にも上記の問題の発生に関する一定の責任が存在することを前提に,その責任を取る趣旨を含め行われたと評価されるべきものといえる(なお,本件元取締役は,証人尋問において,B19以外の取締役も職務遂行上の問題を生じさせており,それらも不問
とする趣旨もあったことをうかがわせる証言もしている(15~16頁)。)。
そして,平成8年の退任に当たって本件元取締役に退職給与は支給されなかった。
以上にみた平成8年の退任の経過等に鑑みれば,平成8年の退任に当
たり本件元取締役に退職給与が支給されなかったのは,本件元取締役の原告に対する平成8年の退任までの間の功績を前提としてもなお,上記の一定の責任の存在により,本件元取締役に対して支給すべき役員退職給与が存在しない(零円である)との評価を前提としたものであるとみるのが相当であるから,平成8年の退任までの間の本件元取締役の原告
に対する功績については,平成8年の退任の際に既に評価し尽されて清算されたものと認められる。
したがって,本件役員退職給与適正額の算定において,平成8年の退任までの間の勤続年数を考慮することはできないというべきである。(イ)

原告は,本件元取締役が平成8年の退任の際に退職給与の支給を受
けなかったのは,①そもそも平成8年の退任が他の取締役を辞任させるための方便としてされた形式的なものであったためである旨,②本件元取締役が自らの報酬よりも原告の内部留保を厚くして金融機関の信用を付けることを優先したことによるためである旨主張し,本件元取締役はこれらに沿う証言をする。
a
しかし,上記①については,前記(ア)において挙げた本件元取締役の証言と必ずしも整合しないものである上,仮に,本件元取締役自身
に何らの責任もないのであれば,たとえ形式的にであれ,取締役を辞任する合理的な理由がないことになるところ,本件元取締役は,この点につき,合理的な説明をしない(16~20頁)。また,仮に,本件元取締役が,形式的に取締役を辞任したというのであれば,他の取締役が辞任した後,速やかに,再度,原告の代表取締役に就任するの
が自然である(本件元取締役は,一貫して,対外的にも対内的にも,自身が実質的な原告の代表者であった旨を証言しているところである。)が,実際には,平成15年の就任までの間,7年以上にわたって,取締役に就任することはなく,また,平成15年の就任においても,代表権を有さない取締役に就任したのみであり,客観的な事実の
経過自体,本件元取締役が形式的に取締役を辞任したとされることとは必ずしも整合しないにもかかわらず,この点についても,本件元取締役は,合理的な説明をしない(12~13頁)。
そうすると,原告の上記①の主張は,本件元取締役の証言とも,客観的な事実の経過とも整合せず,かつ,そのことにつき,合理的な説
明もないものであるから,
前記(ア)の認定及び評価を覆すには足りず,
採用することができない。
b
上記②については,本件元取締役が,平成8年の退任の当時,主観的に,上記②に沿う意図を有していたとしても,当該意図と,本件元
取締役の原告に対する平成8年の退任までの間の功績を前提としてもなお,一定の責任の存在により,本件元取締役に対して支給すべき役員退職給与が存在しない(零円である)との評価がされることとは,何ら矛盾するものではないから,上記の本件元取締役の意図は,前記(ア)の判断を左右するものではない。

以上によれば,
本件役員退職給与適正額の算定における平均功績倍率法,
1年当たり平均額法等において用いられるべき本件元取締役の勤続年数は
17年(平成8年3月9日から平成24年12月25日。以下,同期間を本件評価期間という。1年未満切上げ。)とすべきであり,これを10年とした本件算定は,その限度で合理性を欠くというべきである。(4)
本件元取締役が実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていた
旨の原告の主張について

認定事実ア(イ)及び証拠(甲95,証人本件元取締役)によれば,本件評価期間を通じて,原告代表者が原告の代表取締役の地位にあり,平成8年3月9日の就任の当初から,少なくとも原告の生産現場に係る業務を行っていたことが認められる。また,本件元取締役は,陳述書(甲95)に
おいて平成24年12月に取締役を退任するまでの間には,少しずつ,後継者であるB3(原告代表者)に経営面の業務も任せるようにしていきましたと述べており,本件評価期間を通じて,次第に原告代表者の担当する業務が増大し,それに伴い本件元取締役の担当する業務が減少したことがうかがわれる。

そして,本件元取締役が,本件評価期間を通じて,認定事実エに係る行為を継続的に行っていたことはうかがわれるものの(甲93),平成15年の就任から平成24年の退任までの間に行っていた原告の業務に関するその余の具体的な内容を認めるに足りる的確な証拠はないから,本件の証拠関係の下においては,本件元取締役が,平成15年の就任から平成2
4年の退任までの間,原告においていかなる業務を行っていたのかを的確に認定することはできないというべきである。
これらの事情に加え,①本件元取締役が,B2の原告に対する平成15年11月の増資の後から平成24年の退任までの間は,原告の親会社であるB2の代表取締役という立場において原告の経営に実質的に関与することが可能であった(前提事実⑴イ及び認定事実カ)から,当該期間において本件元取締役が原告の業務を行ったことがあったとしても,それは当
該立場に基づくものであったとしても説明することが可能であること,②認定事実イないしオの各事実に係る本件元取締役の行為は,認定事実エに係る行為を除き,本件役員退任期間におけるものである上,いずれも,その性質上,代表権を有する取締役でないと行い得ないものとはいい難いこと,③本件元取締役が,平成17年頃まで,原告から何らの報酬の支払も
受けていなかったこと(証人本件元取締役・14~15頁),④原告代表者が,平成8年3月9日の原告の代表取締役への就任当初の時点で,既に成人した一定の能力を有する者であり,かつ,本件元取締役の平成8年の退任から現在に至るまで,原告の代表権を有する唯一の者であって(当事者の間に争いがない),原告から,継続的に報酬の支払を受けていたこと
(証人本件元取締役・14頁),⑤本件元取締役が,平成8年の退任から平成15年の就任までの間は,原告の役員としての地位を有さず,平成15年の就任から平成24年の退任までの間は,法形式上及び登記上,原告の取締役の地位にとどまっていたことも併せ考えれば,本件元取締役が,本件評価期間を通じて,原告において代表取締役と同等の業務に従事して
いたとまでは認められないというべきである。
したがって,本件元取締役の勤続年数を本件評価期間に係る17年(1年未満切上げ)とする本件役員退職給与適正額の算定において,取締役に対する退職給与の支給事例を用いることは,相応の合理性を有するものと認められる。


原告は,本件元取締役が,①役員報酬の金額のみではなく,2億7000万円という多額な退職給与の金額についてまでも,実質的に一存で決定をすることができる立場にあった旨,②原告における配当金の支払,定款の目的変更登記等について会長として最終決裁をしていた旨を指摘して,本件元取締役が,原告の事業運営に関わる最終意思決定権を有し,実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていた旨主張する。

しかし,上記①及び②は,いずれも,前記アにおいて説示したとおり,本件元取締役が,原告の親会社であるB2の代表取締役の立場に基づき行ったものとしても説明することが可能である(なお,本件役員退職給与が支給された当時,B2は,原告の発行済株式総数1000株中997株を有しており,完全親会社と同視し得るものであった。)から,原告の上記
主張は前記アの判断を覆すものとはいえない。
7
本件役員退職給与適正額の算定方法について
(1)

はじめに
これまでの検討によれば,本件各抽出基準等に基づいて抽出された裁判所
選定支給事例は,いずれも本件役員退職給与適正額の算定に用いる支給事例としての適格性を有するものと認められる。
その上で,原告は,本件役員退職給与適正額の算定について,功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利となる限りこれによるべきである旨や,最高功績倍率法又は1年当たり平均額法における1年当たり役員
退職給与額の平均額に代えてその最高額を用いる方法(以下1年当たり最高額法という。)により算定すべきである旨を主張しているから,以下においては,役員退職給与適正額の算定方法の個々の合理性について検討した上で,本件役員退職給与適正額の算定に用いるべき方法について検討を加えることとする。

(2)

役員退職給与適正額の算定方法の個々の合理性について

ア(ア)

前提事実(7)のとおり,
役員退職給与適正額の算定方法には,
一般に,
平均功績倍率法,1年当たり平均額法及び最高功績倍率法があるほか,原告が提示する1年当たり最高額法も考えられる。
(イ)

平均功績倍率法は,同業類似法人の役員退職給与の支給事例におけ
る平均功績倍率に,当該退職役員の最終月額報酬額及び勤続年数を乗じて算定する方法である。最終月額報酬額は,通常,当該退職役員の在職期間中における報酬額の最高額を示すものであるとともに,特段の事情がある場合を除き,当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を最も良く反映しているものといえ,勤続年数は,法人税法施行令70条2号が明文で規定する当該役員のその内国法人の業務に従事した期間に相当する。功績倍率は,役員退職給与額が当該退職役員の最終月額報酬額に勤続年数を乗じた金額に対し,いかなる倍率になっているかを示す数値であり,当該退職役員の法人に対する功績や法人の退職給与支払能力など,最終月額報酬額及び勤続年数以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数であるということ
ができ,
同業類似法人における功績倍率の平均値である平均功績倍率は,
同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象された,より平準化された数値ということができる。このような最終月額報酬額,勤続年数及び平均功績倍率を用いて役員退職給与適正額を算定する平均功績倍率法は,その同業類似法人の抽出が合理的に行われる
限り,法人税法34条2項及び同法施行令70条2号の趣旨に最も合致する合理的な方法というべきである。
1年当たり平均額法は,同業類似法人の役員退職給与の支給事例における1年当たり役員退職給与額の平均額に,当該退職役員の勤続年数を乗じて算定する方法である。当該退職役員の在職期間中における法人に
対する功績の程度を反映しているものというべき最終月額報酬額を用いないため,その合理性において平均功績倍率法に劣る面があることは否めないものの,平均功績倍率法と同様,①勤続年数は,法人税法施行令70条2号が明文で規定する当該役員のその内国法人の業務に従事した期間に相当すること,②同業類似法人における1年当たり役員退職給与額の平均額は,同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象された,より平準化された数値ということができる
ことからすれば,最終月額報酬額が当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を反映しているとはいえないなど,功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情がある場合には,このような1年当たり役員退職給与額の平均額及び勤続年数を用いて役員退職給与適正額を算定する1年当たり平均額法もまた,その
同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り,法人税法34条2項及び同法施行令70条2号の趣旨に合致する合理的な方法となり得るというべきである。
(ウ)

他方,前記(イ)のとおり,平均功績倍率法及び1年当たり平均額法
の合理性が,同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の
特殊性が捨象された,より平準化された数値である,同業類似法人における平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均値を用いる点に基づくものであることからすれば,これらを用いない最高功績倍率法及び1年当たり最高額法は,平均功績倍率法及び1年当たり平均額法と比べて,その合理性において劣るものといわざるを得ず,当該退職役員の
役員退職給与適正額の算定に当たり平均功績倍率又は1年当たり平均額を用いることが適切を欠くと認められる特段の事情がない限り,その合理性を肯定し得ないというべきである。

これに対し,原告は,平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均額により役員退職給与適正額を算定することとした場合,同業類似法人の平均的な退職給与の額を超える部分が不相当に高額な部分の金額であるということになるが,そのような解釈は,不相当に高額という法人税法34条2項の文言にも合致しない上,役員に対する退職給与のうち,隠れた利益処分としての性質を有する部分について損金算入を認めないこととした同項の趣旨にも合致しないから,役員退職給与適正額は,最高功績倍率法又は1年当たり最高額法を用いて算定すべきである旨主張する。しかし,法人税法施行令70条2号は,法人税法34条2項に規定する不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額につき,その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額(役員退職給与適正額)を超える場合におけるその超える部分の金額を定めてい
るのであるが,平均功績倍率法又は1年当たり平均額法における役員退職給与適正額の算定においては,同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象された,より平準化された数値である,平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均額のみならず,当該退職役員又は当該法人に係る事情である,最終月額報酬額や当該退職役員の勤続
年数も併せ考慮されているのであるから,これらにより求められた金額をその退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額とし,これを超える部分を不相当に高額な部分の金額と解することが,法人税法34条2項の文言や,役員に対する退職給与のうち隠れた利益処分としての性質を有する部分について損金算入を認めないことと
した同項の趣旨に合致しないものとはいえない。
そして,最高功績倍率法及び1年当たり最高額法の算定過程には,用いられる役員退職給与の支給事例に係る同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象される過程が存在せず,平均功績倍率法及び1年当たり平均額法と比較して合理性において劣ることは前記
アに説示したとおりである。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(3)

功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事
情の有無等について

前提事実(3)のとおり,本件元取締役は,遅くとも平成19年4月以降,役員報酬として月額25万円の支給を受けていたが,平成24年の退任の後である平成25年1月11日に,役員報酬の遡及的な追加支給がされ,
その最終月額報酬額は,月額25万円の4倍に上る月額100万円とされたものである(本件遡及増額)。そして,原告は,本件遡及増額につき,会社法361条1項の趣旨に反しない旨を主張するのみで,本件元取締役の役員報酬を,上記の時期に,上記のとおり大幅に増額する必要があった合理的な理由を何ら主張せず,本件において,これを認めるに足りる証拠
もない(なお,原告の経理担当者は,本件遡及増額の理由は分からない旨を供述等している(乙15)ところである。)。
このような事情に鑑みれば,本件元取締役の最終月額報酬額である100万円は,専ら本件役員退職給与の額の算定根拠を整える目的で決定及び支給されたものといわざるを得ない
(前提事実(4)のとおり,
本件役員退職

給与のうち退任慰労金は,最終月額報酬額が100万円であることを基礎に勤続年数及び功績倍率を乗じて算定されたものである。)。
したがって,本件役員退職給与適正額の算定については,功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情があるといえ,1年当たり平均額法又は1年当たり最高額法が法人税法34条2項及
び同法施行令70条2号の趣旨に合致する合理的な方法となるというべきである。

原告は,本件元取締役の原告に対する功績は,これまでの功績という点において原告代表者の功績を上回ることは明らかであり,本件元取締役の
直近事業年度に果たしていた役割をみても,原告代表者の役割と遜色ないものであったから,原告が原告代表者に対し平成21年3月期ないし平成24年3月期においては月額100万円,平成25年3月期においては月額120万円の役員報酬を支給していた点に照らし,本件元取締役の最終月額報酬額である100万円は,その功績の程度を反映したものであるといえるため,功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利となる限り,これによるべきである旨主張する。

しかし,前記6,とりわけ同(4)に説示したところによれば,本件全証拠によっても,本件評価期間を通算したときの,本件元取締役の原告の役員(取締役)としての地位に基づく原告に対する功績が,原告代表者の原告に対する功績を上回る又は同程度であるとまでは認めるに足りない上,原告の上記主張は,遅くとも平成19年4月から平成24年の退任に至るま
で支給されていた本件元取締役の役員報酬が月額25万円にとどまるものであったことと整合せず,かつ,本件遡及増額については,前記アのとおり,その合理性を裏付ける事情は見当たらない。
したがって,原告の上記主張は前提を欠くものであり,採用することはできない。

(4)

本件役員退職給与適正額の算定に当たり1年当たり平均額を用いること
が適切を欠くと認められる特段の事情の有無等について
原告は,①原告が,平成25年3月期以前の5事業年度の平均で2億7636万1000円もの純利益(純利益率19.0%)を上げる高収益企業であるとともに,平成25年3月期末において26億8905万円(利益剰余金比率52.6%)もの利益剰余金を有する健全企業であり,一般に高収益を上げることが困難である肉用牛生産業において,原告をこのような高収益かつ健全な企業に成長させたのは,
本件元取締役の功績に他ならず,
②(a)本
件同業類似法人は,いずれも総資産額が原告に比して相当に少なく,その平
均額は,
原告の総資産額の3分の1以下であると推認されること,
(b)本件各
支給事例は,取締役(又は監査役)に対する役員退職給与の支給事例であること,
(c)本件同業類似法人に原告のような高収益かつ健全な企業があるとは認められない(仮に,本件同業類似法人にそのような企業が含まれているとすれば,本件同業類似法人の財政状態及び収益状況を把握している被告において,その旨の主張がされるはずである。)ことに鑑みると,本件元取締役には,本件同業類似法人の取締役(又は監査役)に通常存する事情を超える特殊な事情があることは明らかであるとして,本件各支給事例を基に本件役員退職給与適正額を算定する場合には,1年当たり最高額法によるべきである旨主張する。
しかし,これまでに説示したところによれば,上記①のうち本件元取締役
の功績を主張する点は,平成25年3月期における原告の収益性等の全てが本件元取締役の本件評価期間における原告の役員としての地位に基づく功績のみによって実現したものと評価し得ない点でその前提を異にし(なお,本件元取締役は,平成24年12月25日付けでB2の代表取締役を退任した後,
多額の役員退職給与
(2億9920万円)
の支給を受けている
(乙37))
。,

上記②は,裁判所選定支給事例を用いた本件役員退職給与適正額の算定に当たり特段考慮されるべきものといえないか,又は認めるに足りる証拠がないかのいずれかである。
そして,これまでに判示したところに基づき,本件役員退職給与適正額の算定に用いることについて合理性を認めることができる裁判所選定支給事例
における1年当たり役員退職給与額を算定すると,別表5記載のとおりとなるところ,原告が上記①に主張する平成25年3月期における原告の収益性等を踏まえたとしても,とりわけ高額な1年当たり役員退職給与額を示している本件支給事例3を含む裁判所選定支給事例の1年当たり役員退職給与額の平均額に本件元取締役の勤続年数を乗じ算定された金額については,少な
くとも本件役員退職給与適正額として過少であるとはいえず(本件支給事例3の1年当たり役員退職給与額(529万4118円)は,裁判所選定支給事例のうち2番目に高額なもの(本件支給事例9の214万2858円)の約2.5倍,最も安価なもの(本件支給事例5の66万6000円)の約8倍に上るものであり,1年当たり役員退職給与額の平均額である192万2528円は,裁判所選定支給事例個々の1年当たり役員退職給与額と比較すると,上から3番目に位置付けられるものである。),本件役員退職給与適
正額の算定に当たり,1年当たり平均額を用いることが適切を欠くと認められる特段の事情があるとはいえないから,1年当たり最高額法の合理性を肯定することはできない。原告の上記主張は採用することができない。8
まとめ
以上によれば,本件算定は,①1年当たり役員退職給与額の平均額の算定に当たって本件支給事例2,8及び10を用いている点(前記2参照),②本件支給事例7の勤続年数を21年とすべきところを52年とし,本件支給事例9の勤続年数を14年とすべきところを24年としている点
(前記4(1)参照)

び③本件元取締役の勤続年数を17年とすべきところを10年としている点
(前記6(3)参照)について,合理性を欠くものの,その他の算定過程はいずれも合理性を肯定できるから,別表5記載の各1年当たり役員退職給与額の平均額を基に,本件元取締役の勤続年数を17年として1年当たり平均額により算定した額を,本件役員退職給与適正額と認めることができる。
これを計算すると,1年当たり役員退職給与額の平均額及び本件役員退職給
与適正額は,それぞれ,192万2528円(1円未満切上げ),3268万2976円となり,本件役員退職給与の額2億7000万円のうち,上記の本件役員退職給与適正額を超える2億3731万7024円が不相当に高額な部分の金額となる。
そして,弁論の全趣旨によれば,当裁判所が認定する原告の平成25年3月
期の法人税に係る翌期へ繰り越す欠損金額等は,別紙3のとおりであり,翌期へ繰り越す欠損金額(1億6511万3667円)は本件更正処分における翌期へ繰り越す欠損金額1億9493万1363円を超えるから,本件更正処分は適法である。
9
結論
よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官

鎌野真敬
裁判官

福渡裕貴
裁判官

獅野裕介子
(別紙省略)
(別表1省略)
(別表2省略)
(別表3省略)
(別表4省略)
(別表5省略)
(別表6省略)
(別紙1)
本件更正処分の根拠及び適法性
第1

本件更正処分の根拠
被告が本件訴訟において主張する原告の平成25年3月期の法人税に係る所得金額等は,以下のとおりである(別表3も参照)。

1
所得金額(別表3・順号⑨)
0円
上記金額は,
以下の(1)の金額に(2)ないし(4)の金額を加算し,
(5)及び(6)の
金額を減算した金額である。

(1)

申告所得金額(別表3・順号①)
0円
上記金額は,本件確定申告に係る申告書に記載された所得金額と同額であ
る。
(2)

役員退職給与の損金不算入額(別表3・順号②)
2億5492万1030円

上記金額は,別紙2の第1・3に述べるとおり,本件役員退職給与の額2億7000万円のうち,本件役員退職給与適正額1507万8970円を超える金額であり,不相当に高額な部分の金額として,法人税法34条2項の規定により損金の額に算入されない金額である。
(3)

農業生産法人の肉用牛の売却に係る所得の課税の特例の損金不算入額(別

表3・順号③)
610万3314円
上記金額は,租税特別措置法67条の3(平成26年法律第10号による改正前のもの)の規定を適用するとして損金の額に算入した肉用牛の売却による利益の額に相当する金額のうち,損失が生じた売却の取引分を含めずに計算したことにより過大となった利益の額536万6086円と,同条1項に規定する免税対象飼育牛に該当しない肉用牛の売却による利益の額73万7228円の合計額であり,原告の益金の額に算入されるべき金額である。(4)

役員給与の損金不算入額(別表3・順号④)
525万円
上記金額は,原告が,
本件元取締役の退任後に,
本件元取締役の平成24年

6月から同年12月までの役員報酬として追加支給し,損金の額に算入した金額であるが,当該追加支給は,法人税法施行令69条1項(平成28年政令第146号による改正前のもの。以下同じ。)1号イないしハに掲げる改定とは認められず,法人税法34条1項(平成26年法律第10号による改正前のもの)に規定する給与には該当しないため,同条2項の規定により,
損金の額に算入されない金額である。
(5)

農業生産法人の肉用牛の売却に係る所得の課税の特例の損金算入額(別
表3・順号⑥)
128万4794円
上記金額は,租税特別措置法67条の3(平成26年法律第10号による
改正前のもの)の規定に基づき,肉用牛の売却による利益の額に相当する金額として,当期の損金の額に算入される金額である。
(6)

繰越欠損金の損金算入増加額(別表3・順号⑦)
2億6498万9550円
上記金額は,原告が,前期から繰り越した欠損金額であり,本件更正処分
により,所得金額が増加したことに伴い,当期の損金の額に算入される金額である。
2
翌期へ繰り越す欠損金額(別表3・順号⑩)
1億4750万9661円

上記金額は,
以下の(1)の金額から(2)の金額及び前記1(6)の金額
(繰越欠損
金の損金算入増加額)を減算した金額であり,法人税法57条1項(平成27年法律第9号による改正前のもの)の規定により,翌期以降の事業年度において損金の額に算入されることとなる欠損金額である。
(1)

原告の平成24年3月期の法人税に係る翌期へ繰り越す欠損金額
5億9219万3182円
上記金額は,処分行政庁が平成27年6月29日付けでした原告の平成2
4年3月期の法人税の更正処分により更正された,原告の平成24年3月期の法人税に係る翌期へ繰り越す欠損金額である。
(2)

申告に係る平成25年3月期の繰越欠損金の控除額
1億7969万3971円
上記金額は,本件確定申告に係る申告書に記載された繰越欠損金の当期控除額と同額である。第2

本件更正処分の適法性
被告が本件訴訟において主張する原告の平成25年3月期における翌期へ繰り越す欠損金額は,1億4750万9661円(前記第1・2)であり,この
金額は,本件更正処分における翌期へ繰り越す欠損金額1億9493万1363円を超えるから,本件更正処分は適法である。
以上
(別紙2)
争点に関する当事者の主張の要旨

当事者の主張内容に鑑み,まず,本件算定の詳細及び本件算定の合理性に関する被告の総論的な主張を記載した上で(後記第1),その余の当事者の主張につき,原告の主張から先に記載する(後記第2及び第3)。
第1
1
本件算定の詳細及び本件算定の合理性に関する被告の総論的な主張役員退職給与適正額の算定方法について
役員退職給与適正額の算定方法については,一般に,平均功績倍率法,1年
当たり平均額法及び最高功績倍率法がある。
功績倍率は,当該退職役員の法人に対する功績や法人の退職給与支払能力など,最終月額報酬額(通常,当該退職役員の在職期間中における報酬の最高額を示すものであるとともに,当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を最も良く反映しているものといえる。)及び勤続年数(法人税法
施行令70条2号に規定する当該役員のその内国法人の業務に従事した期間に相当する。)以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数であるといえ,同業類似法人における功績倍率の平均値(平均功績倍率)を算定することにより,同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され,より平準化された数値が得られるものといえる。
そうすると,
同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り,
平均功績倍率法は,
法人税法34条2項及び同法施行令70条2号の趣旨に最も合致する合理的な方法というべきである。他方,1年当たり平均額法は,最終月額報酬額を用いないため,その合理性において平均功績倍率法に劣る面があることは否定し難いが,退職の直前に当該退職役員の報酬が大幅に引き下げられるなど,平均
功績倍率法を用いることが不合理であると認められる特段の事情がある場合には,1年当たり平均額法もまた,同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り,同法34条2項及び同法施行令70条2号の趣旨に合致する合理的な方法というべきである。
なお,最高功績倍率法は,抽出された同業類似法人の中に不相当に過大な退職給与を支給した法人があった場合に明らかに不合理な結論を招くこととなるから,功績倍率の平均値を用いることにより,同業類似法人間に通常存在す
る諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され,より平準化された数値を得ることができるとはいえない場合,すなわち,同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分ではない場合や,同業類似法人の抽出件数が僅少であり,かつ,当該法人とその最高値を示す同業類似法人とが極めて類似していると認められる場合などに限られるというべきである。また,仮に,1年当たり役員退職給与額
の最高額を用いる方法が採用される場合があり得るとしても,これと同様の場合に限られるというべきである。
2
本件役員退職給与適正額(本件算定)について
(1)

本件各抽出基準等の合理性について
本件各抽出基準等は,①抽出対象地域について,原告の所在地である栃木
県と経済事情が類似する地域である関東信越国税局及び隣接局の管内を対象とし,②事業の類似性を判断する要素である業種について,原告と同種の事業である日本標準産業分類における大分類
A-農業,林業
の中分類
01-農業の小分類012-畜産農業とし,③事業規模の類似性を判断する要素である売上金額について,原告の平成25年3月期の売上金額の2分の1から2倍の範囲内(売上金額の倍半基準)とし,④代表取締役等に対し退職給与の支給があり,かつ,その退任理由を本件元取締役と同じく普通退職としており,
業種の同一性,
規模等の近似性等のいずれの点においても,
同業者の類似性の基礎的要素を欠くものではなく,合理的なものである。
また,本件指示等に基づく各税務署長及び各国税局長の同業類似法人の抽出方法は,本件各抽出基準の全てを満たす法人を機械的に抽出するというものであり,その抽出過程に恣意が介在する余地はなく,合理性は十分に確保されている。
(2)

算定方法について
原告は,取締役会の決議に基づき,本件元取締役に対し役員報酬として月額25万円を支給していたが,会社法所定の手続である株主総会及び取
締役会の決議を経ることなく,本件元取締役の取締役退任後である平成25年1月11日,本件元取締役に対し平成24年6月から同年12月までの役員報酬として合計525万円(月額75万円)を追加支給したことにより,当該期間の役員報酬を月額100万円とした(本件遡及増額)。このような経緯に照らせば,本件元取締役の最終月額報酬額である100万
円は,本件元取締役の在職期間中における報酬の最高額を示すものとは認められず,本件元取締役の在職期間中における法人に対する功績の程度を最も良く反映しているものともいえない。
したがって,
本件においては,
前記(1)に述べた平均功績倍率法を用いる
ことが不合理であると認められる特段の事情があり,本件役員退職給与適
正額を算定するに当たっては,1年当たり平均額法を用いることが合理的である。

本件役員退職給与は,
本件元取締役が,
平成8年に取締役を退任した
(平
成8年の退任)後,平成15年に改めて取締役に就任し(平成15年の就任),再度退任するに当たって支払われた役員退職給与であるから,本件
役員退職給与適正額の算定は,
取締役の支給事例によることが相当である。
(3)

本件役員退職給与適正額
以上によれば,本件役員退職給与適正額は,1年当たり平均額法により,
(a)本件各支給事例の1年当たり役員退職給与額の平均額150万7897円に,
(b)本件元取締役の原告における勤続年数である10年
(平成15年1
1月13日から平成24年12月25日に退任するまでの年数。1年未満切上げ。)を乗じて算定するのが相当であり,1507万8970円となる。3
本件役員退職給与における不相当に高額な部分の金額
したがって,本件役員退職給与における不相当に高額な部分の金額は,本件役員退職給与の額である2億7000万円のうち,本件役員退職給与適正額1507万8970円を超える2億5492万1030円である。

第2
1
原告の主張
本件各抽出基準等が合理的なものといえないこと
(1)

原告の主張の骨子
同業類似法人の抽出においては,業種,業態,規模(売上金額,総資産額(期末資産合計額)及び従業員数が参照される。),収益状況等ができる限り当該法人と類似するものであることが望ましいとされており,この点については,原告と被告との間に争いはない。
本件同業類似法人は,いずれも細分類養鶏業又は細分類養豚業
を営むものであるが,
後記(2)に述べるとおり,
小分類
畜産農業
のうち,

細分類養鶏業及び細分類養豚業と,原告が営む細分類肉用牛生産業とは,
その事業の特質等を大きく異にする以上,
小分類
畜産農業
を営む法人であることを抽出基準としなければ原告の同業類似法人を得られないなどの特段の事情がない限り,細分類肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準とすべきである。

本件では,後記(3)に述べるとおり,租税特別措置法67条の3(平成28年法律第15号による改正前のもの又は平成26年法律第10号による改正前のもの。以下,別紙3を除いて同じ。)が定める肉用牛の売却に係る所得の課税の特例(以下肉用牛課税特例という。)の適用によって所得金額が欠損となる法人を抽出対象に含める抽出基準としたり,関東信
越国税局及び隣接局以外の国税局管内を抽出対象地域に含めたりすることによって,肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準とした場合であっても,原告の同業類似法人が抽出される可能性が十分にあり,これらの抽出基準等を用いないことについて合理性は認められないから,本件において,上記の特段の事情を認めることはできない。
したがって,本件各抽出基準等は,業種,業態,規模,収益状況等ができる限り当該法人と類似する法人を抽出することが可能となるような条件
であるとは認められず,合理的なものとはいえない。

被告は,推計課税(所得税法156条,法人税法131条参照)においては,同業類似法人の類似性はかなり厳格なものが要求されるものの,これと比較して退職給与の過大性の判断基準となる同業類似法人の類似性について考えると,退職給与の支給額が業種によって著しく差があるとは,
一般的,かつ,経験則上も認められないから,同業類似法人の業種については,推計課税における類似性ほどの厳格なものは必要ないなどと主張する。
しかし,推計課税は,不誠実な納税者に対する制裁的な課税という側面もある上に,納税者が訴訟等において実額反証をすることも認められてい
る。これに対し,役員給与が不相当に高額である場合の課税は,納税者の不誠実な対応により実額課税をすることができない場合に認められた概算課税ではなく,納税者が訴訟等において実額反証をする余地もないのであるから,推計課税の場合においてすら同業類似法人の類似性はかなり厳格なものが要求されるのであるとすれば,役員給与が不相当に高額であるか
否かを判断するための同種の事業を営む法人の業種の類似性についても,当然にかなり厳格なものが要求されるものと解すべきである。
したがって,被告の上記主張には理由がない。
(2)
畜産農業を営む法人であることを抽出基準としなければ原告の同業類似
法人を得られないなどの特段の事情がない限り,肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準とすべきであること

養鶏業及び養豚業と肉用牛生産業とを比較した検討
以下のとおり,畜産農業のうち,養鶏業及び養豚業と原告が営む肉用牛生産業とは,その事業の特質等を大きく異にする。そうすると,畜産農業を営む法人であることという抽出条件は,売上金額の倍半基準と併用する
と,業態,規模,収益状況等が原告と類似する法人を抽出することが困難な条件であるから,少なくとも,畜産農業を営む法人であることを抽出基準としなければ原告の同業類似法人を得られないなどの特段の事情がない限り,肉用牛生産業を営む法人を対象とする抽出基準が用いられなければならない。

(ア)

養鶏業との比較について
肉用牛生産業の総資産回転率(総資本回転率ともいい,売上高÷総資
産によって算定される値である。)は0.57回であるのに対して,養鶏業の総資産回転率は1.25回である。
また,肉用牛生産業のキャッシュ・コンバージョン・サイクル(売上債権回転期間(日数)+棚卸資産回転期間(日数)-仕入債務回転期間(日数)によって算定される値であり,事業活動のサイクルにおいて,正味どれだけの現金を事業に張り付ける必要があるかを示す指標である。)は348.7日であるのに対して,養鶏業のキャッシュ・コンバージョン・サイクルは,マイナス7.5日である。

(イ)

養豚業との比較について
肉用牛生産業の総資産回転率は0.57回であるのに対して,養豚業
の総資産回転率は1.12回である。
また,
肉用牛生産業の売上高経常利益率
(以下
経常利益率
という。

は2%であるのに対して,
養豚業の経常利益率は僅か0.
18%である。
さらに,肉用牛生産業のキャッシュ・コンバージョン・サイクルは348.7日であるのに対して,養鶏業のキャッシュ・コンバージョン・サイクルは,51.1日である。
(ウ)

前記各比較の意義
前記(ア)及び(イ)のとおり,
養鶏業及び養豚業と肉用牛生産業とには,

総資産回転率に約2倍又は2倍以上にも上る差があるから,養鶏業や養豚業を含む畜産農業を営む法人であることという抽出基準は,売上金額
の倍半基準と併用すると,総資産額が原告と類似する法人を抽出することが困難な条件であるということになる。
また,肉用牛生産業と養豚業には,経常利益率に10倍以上の違いがあるから,畜産農業を営む法人であることという抽出基準は,売上金額の倍半基準と併用すると,収益状況が原告と類似する法人を抽出するこ
とが困難な条件であるということになる。
さらに,肉用牛生産業と養鶏業及び養豚業には,キャッシュ・コンバージョン・サイクルに約300日又は約1年の違いがあるから,畜産農業を営む法人であることという抽出基準は,売上金額の倍半基準と併用すると,原告と必要とされる運転資金の金額に著しい違いのある法人が
抽出される基準であるということになるが,必要とされる運転資金の金額の違いというのは,業態の違いの最たるものであるから,そのような基準というのは,業態が原告と類似する法人を抽出することが困難な条件であるということになる。

被告の主張に対する反論
(ア)

被告は,
過去の多くの裁判例
(札幌地裁昭和58年5月27日判決・

行裁集34巻5号930頁,名古屋地裁平成2年5月25日判決・判タ738号89頁,大分地裁平成21年2月26日判決・税資259号順号11147及び東京地裁平成29年10月13日判決・税資267号順号13076)において,日本標準産業分類における大分類又は中分類により同業類似法人を抽出することが認められており,業種の類似性の基準として小分類畜産農業を用いることは,これらと比較してより類似性を求める基準を用いるものであって,合理性を有することは明らかである旨主張する。
しかし,被告が指摘する裁判例は,いずれも,同業類似法人を抽出するための条件として日本標準産業分類の大分類又は中分類の分類項目を用いれば十分であってそれ以上に類似性を求める必要はない旨の判断をしたものではない。
また,
日本標準産業分類の分類項目の設定に当たっては,
事業所の数,
従業者の数,生産額,販売額等が考慮されているため,これらが極めて
少ない大分類農業・林業の分類項目は,他の業種の分類項目に比べると,かなり大まかに設定されていることになる。そうすると,小分類畜産農業を営む法人であるという抽出基準は,必ずしも,被告が指摘する裁判例の事案において用いられた抽出基準と比較してより類似性を求める基準であるとはいえない。
したがって,被告の上記主張には理由がない。

(イ)

被告は,前記アに述べた総資産回転率等の各指標の差異が,役員退
職給与の額にいかなる影響を及ぼすのか,また,どのような関連性を有しているのかについて,何ら具体的に明らかにしていない旨主張する。しかし,総資産回転率や経常利益率に大きな違いがあれば,同程度の売上高を上げるための総資産額や経常利益の額に大きな違いがあることになるが,総資産額や経常利益の額が役員退職給与の額に影響を及ぼすことは,法人税法施行令70条2号が事業規模が類似する(法人)の役員に対する退職給与の支給状況を考慮することを求めていることからも明らかであるから,
少なくとも売上高が同程度の法人間においては,

総資産回転率や経常利益率と役員退職給与の額との間にも強い関連性を認めることができる。
また,キャッシュ・コンバージョン・サイクルについても,その値に1年近くの違いがあれば,同程度の売上高を増加させるために必要となる経営能力や期間の違いにも著しい違いを生じさせることになり,同程度の売上高を増加させるために必要となる経営能力や期間の違いは,当然に役員退職給与の額にも影響するはずであるから,少なくとも売上高が同程度の法人間においては,キャッシュ・コンバージョン・サイクルと役員退職給与の額との間にも少なからぬ関連性があるといえる。したがって,被告の上記主張には理由がない。
(ウ)

被告は,同じ肉用牛生産業を営む法人であっても,前記アに述べた
総資産回転率等の各指標の数値には幅があり,しかも,養鶏業及び養豚業の対応する指標の数値の幅はほぼそれに重なるほか,経常利益率と同じ収益性分析の指標の一つである売上総利益率によれば養豚業又は養鶏業よりも肉用牛生産業の方が劣るなど,財務指標を全体としてみれば,いずれの業種においてもさほど大きな違いはない旨主張する。

しかし,後記第3の1(4)イのとおり,被告は,北海道の酪農業の経常利益率が2.
8%であるのに対して,
都府県の酪農業の経常利益率が5.
2%であり,約1.8倍の違いがあることを根拠として,北海道を抽出対象地域に含めないことが合理的である旨の主張をしているが,肉用牛生産業と養豚業の経常利益率に10倍以上の違いがあるにもかかわらず,
全体としてみれば…さほど大きな違いがない
旨述べる被告の主張は,
自らの主張とも整合しない。また,肉用牛生産業の方が養鶏業及び養豚業よりも経常利益率が高いにもかかわらず,売上総利益率が低いということは,肉用牛生産業と養鶏業及び養豚業の収益構造が大きく異なることを意味し,両者の事業の特質が異なることを裏付けるものであって,
経常利益率は高いが売上総利益率は低いから全体としてみれば…さほど大きな違いがないといえるものでもない。したがって,被告の上記主張には理由がない。
(3)

畜産農業を営む法人であることを抽出基準としなければ原告の同業類似
法人を得られないなどの特段の事情はないこと
原告が提出した証拠によれば,本件支給事例1に係る法人は,養豚業を主たる事業とする有限会社B6牧場(以下B6牧場という。),本件支給事例2に係る法人は,養鶏業を主たる事業とする有限会社B30農場(以下B30農場という。),本件支給事例3に係る法人は,養豚業を主たる事業とする有限会社B8(以下B8という。),本件支給事例4に係る法人は,
養鶏業を主たる事業とする有限会社B10
(以下
B10
という。,


本件支給事例5及び本件支給事例6に係る法人は,養鶏業を主たる事業とする有限会社B12(以下B12という。),本件支給事例7に係る法人は,養鶏業を主たる事業とする有限会社B15(以下B15という。),本件支給事例8に係る法人は,養鶏業を主たる事業とするB4株式会社(以下B4という。),本件支給事例9に係る法人は,養鶏業を主たる事業
とする有限会社B17(以下B17という。),本件支給事例10に係る法人は,養鶏業を主たる事業とする株式会社B31であるとそれぞれ推認されるから,仮に,本件指示等において肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準としたとすれば,本件同業類似法人はいずれも抽出されなかったことになる。
しかし,以下のとおり,合理的な理由なく抽出対象を限定している他の抽
出基準等(所得金額が欠損でないこととする抽出基準及び関東信越国税局及び隣接局の管内を抽出対象地域としたこと)の内容を変えることにより,肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準としても,原告の同業類似法人を得られる蓋然性は高いから,畜産農業を営む法人であることを抽出基準としなければ原告の同業類似法人を得られないなどの特段の事情はない。ア
肉用牛課税特例の適用によって所得金額が欠損となる法人を抽出対象から除外すべき合理的な理由がないこと
本件各抽出基準は,
所得金額が欠損でないこととする基準を含んでおり,
当該基準を設けた理由について,被告は,所得金額が欠損である法人は,一般的に経営状態が良好な法人であるとはいえず,役員に対して退職給与が支給されたとしても,その額が低く抑えられている可能性がある旨等を
主張する。
しかし,原告と同様に肉用牛生産業を主たる事業としている法人は,肉用牛課税特例の適用を受けた場合には,肉用牛の売却取引について,肉用牛の売却による利益の額に相当する額を損金の額に算入することができる。肉用牛の売却による利益の額が大きければ大きいほど損金の額に算入する
ことができる金額も大きくなるため,肉用牛課税特例の適用によって所得金額が欠損となる法人は,むしろ,一般的に経営状態は良好な法人であるといえる(現に,原告は,平成25年3月期より前の4事業年度にわたって,肉用牛課税特例の適用を受け所得が欠損となっていたが,経営状態は極めて良好であった。)。

したがって,肉用牛課税特例の適用によって所得金額が欠損となる法人を抽出対象から除外すべき合理的な理由がないことは明らかである。イ
肉用牛課税特例の適用によって所得金額が欠損となる法人を抽出対象に含めれば,肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準としても,原告
の同業類似法人を得られる可能性が高いこと
租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書(平成23年度ないし平成25年度に係るもの。甲73の1~3)によれば,肉用牛課税特例の適用を受けた農林水産業を営む法人は,平成23年度ないし平成25年度において,それぞれ903社から1068社であるのに対し,平成27
年の農林業センサス報告書(甲94)によれば,農産物販売金額のうち肉用牛の販売金額が最も多い法人経営体は1260社にすぎず,そのような法人経営体と肉用牛生産業を営む法人は,ほぼ重なり合うものと考えられることから,肉用牛生産業を営む法人のうち相当に高い割合の法人が肉用牛課税特例の適用を受けていることは明らかである。
そして,平成23年度ないし平成25年度の肉用牛課税特例の適用を受けた農林水産業を営む法人の74.9%から77.5%もの法人の所得金
額が0円又は欠損であり,そのような所得金額が0円又は欠損である法人による肉用牛課税特例の適用金額の平均が,1998万5902円から2020万2664円にも及ぶことからすると,それらの法人の多くは,肉用牛課税特例の適用を受けたことによって所得金額が欠損となった法人であると推認される。

したがって,肉用牛生産業を営む法人の中には,所得金額が欠損であるが,肉用牛課税特例の適用を受けなければ所得金額が欠損でない法人が相当にあるものと推認されることから,肉用牛課税特例の適用によって所得金額が欠損となる法人を抽出の対象に含めれば,肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準としても,原告の同業類似法人を得られる可能性は
高い。

関東信越国税局及び隣接局の管内を抽出対象地域とすべき合理的な理由がないこと
被告は,原告の同業類似法人の抽出につき,関東信越国税局及び隣接局
の管内に納税地がある法人を対象とした理由について,同業類似法人の立地条件の類似性を確保するとともに,地域的な条件において同一であることを担保するためである旨主張する。
しかし,隣接局の管内の地域は,関東信越国税局の管内の地域と隣接しているものの,その他の国税局の管内の地域と比べて,関東信越国税局の
管内の地域と立地条件や地域的な条件に特に類似性があるわけではないから,関東信越国税局及び隣接局の管内を抽出対象地域としても,当該抽出対象地域に係る条件を設けない場合に比べて,立地条件の類似性が確保されることにはならないし,地域的な条件において同一であることが担保されることにもならない。
したがって,関東信越国税局及び隣接局の管内を抽出対象地域とすべき合理的な理由があるとはいえない。


関東信越国税局及び隣接局以外の国税局の管内を抽出対象地域に含めれば,肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準としても,原告の同業類似法人を得られる可能性が高いこと
(ア)

平成25年の畜産統計(甲51)によれば,日本全国の肉用牛の総
飼養頭数が200頭以上である肉用牛の飼養者(2190戸)のうち,札幌国税局の管内の飼養者(410戸)及び熊本国税局の管内の飼養者(595戸)が45.9%を占めているのに対して,関東信越国税局及び隣接局の管内の各飼養者を合計しても32.
7%を占めるにとどまる。
このような肉用牛の総飼養頭数が多い飼養者の札幌国税局及び熊本国税
局の管内への集中の傾向は,総飼養頭数が多くなればなるほど強まるものと考えられるから,肉用牛の総飼養頭数が約4000頭である原告と事業規模が類似するものに該当する肉用牛の飼養者(肉用牛生産業を営む法人)は,その大半が札幌国税局及び熊本国税局の管内の法人であると推認される。

そうすると,札幌国税局及び熊本国税局の管内を始めとする,関東信越国税局及び隣接局以外の国税局の管内を抽出対象地域に含めれば,肉用牛生産業を営む法人であることを抽出基準としても,原告の同業類似法人を得られる可能性は高い。
(イ)

被告は,①札幌国税局の管轄にある北海道については,北海道の酪
農業と都府県の酪農業とで,ほとんどの項目において異なる財務指標が示されていることや,牧草・放牧・採草費が,北海道において突出して自給されていることなどを,②熊本国税局の管轄にある南九州については,温暖な気候や畜産に活用可能な土地の豊富さという環境要因と,食肉センターや飼料サイロ・飼料工場といった畜産業クラスター
(集合体)
が同エリアに存在するという経済要因とが相まって,国内の他地域にない規模で生産及び処理が行われていることなどを挙げて,札幌国税局及び熊本国税局の管内は,関東信越国税局及び隣接局の管内とは異なる特質があり,これらを抽出範囲に含めることは,経済事情の差異を全くないがしろにするものであって,抽出方法として合理性に疑問がある旨主張する。

しかし,そもそも,法人税法施行令70条2号は,その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものと規定するのみで,納税地の近接性等については何ら規定していないから,抽出対象地域に係る条件は,専ら役員退職給与の適正額を算定すべき法人とできる限り業種,業態,規模,収益状況等の類似性が認められる法人を抽出す
るために定められるものである。したがって,抽出対象地域に係る条件が合理的であるかどうかは,
そのような抽出基準を定めることによって,
役員退職給与適正額を算定すべき法人とできる限り事業の類似性が認められる法人を抽出することになるか否かという観点によって判断されるべきである。

その上で北海道についてみると,北海道の酪農業と都府県の酪農業の財務指標の比較によっては,北海道の肉用牛生産業と都府県の肉用牛生産業にどのような違いがあるかを理解することはできない。むしろ,被告が依拠する日本政策金融公庫作成の平成25年度高収益畜産経営の要因分析調査(甲44,乙38。以下畜産経営分析調査という。)

が,酪農業とは異なり,肉用牛生産業について北海道と都府県を区別して決算データ等を分析していないことからすれば,酪農業のような違いはないことが推認される。また,1頭当たりの牧草・放牧・採草費の金額については,北海道と他の地域に大きな違いがあることがうかがわれるものの,利益率(1頭当たりの粗収益)をみると,北海道は他の地域に比べて少し低め(全国比で90.5%)であり,この程度の違いが,北海道を抽出対象地域から除外すべき理由とはならない。

南九州についてみると,被告が主張するような環境要因及び経済要因が,南九州の肉用牛生産業と他の地域の肉用牛生産業にどのような違いをもたらしているのかは明らかではないものの,仮に,違いをもたらしているとしても,その違いは,養鶏業又は養豚業と肉用牛生産業の違いに比べるとごく僅かなものであると考えられる。むしろ,南九州を含む
九州の利益率
(1頭当たりの粗収益)
は他の地域と同等
(全国比で99.
3%)である上,国内の他地域にない規模で生産が行われているのであるとすると,南九州の肉用牛生産業を営む法人の中には,原告と事業規模が類似する法人が多いことも想定される。
以上によれば,少なくとも,肉用牛生産業を営む法人であることを抽
出基準とするよりも,関東信越国税局及び隣接局の管内を抽出対象地域とすることを優先させるべき合理的な理由がないことは明らかである。2
本件指示等に対する調査が適切に行われたものとは認められないこと(1)

本件各報告等における退職役員の勤続年数は,
退職所得の源泉徴収票に記

載された勤続年数欄の記載を基にしたものであり,このことに争いはないと考えられるが,
同欄の記載は,
役員として業務に従事した期間だけではなく,
使用人として勤務した期間も含まれる(所得税法30条3項1号,同法施行令69条1項1号)
ことから,
同欄を基にした本件各報告等の勤続年数には,
役員として業務に従事した期間だけではなく,使用人として勤務した期間も
含まれていることになる。
実際に,前記1(3)に述べたとおり,本件支給事例2に係る法人は,B30農場と推認されるから,本件支給事例2は,B30農場の監査役であったB32に対する退職給与の支給事例であるが,同人が監査役に就任したのは,平成7年5月10日であるから,その在任期間は,19年であるにもかかわらず,
土浦税務署長の調査結果では,
勤続年数が46年とされている。
また,
本件支給事例7に係る法人は,
B15と推認されるから,
本件支給事例7は,
B15の取締役であったB16に対する退職給与の支給事例であるが,同人が取締役に就任したのは,平成4年11月27日であるから,その在任期間は21年であるにもかかわらず,名古屋国税局長(豊橋税務署長)の調査結果では,勤続年数が52年とされている。さらに,本件支給事例9に係る法
人は,B17と推認されるから,本件支給事例9は,B17の取締役であったB18に対する退職給与の支給事例であるが,同人が取締役に就任したのは,平成12年5月25日であるから,その在任期間は,14年であるにもかかわらず,名古屋国税局長(半田税務署長)の調査結果では,勤続年数が24年とされている。
役員退職給与適正額を算定するために考慮されるべき業務に従事した期間役員として業務に従事した期間を意味することは明らかであるから,が,
本件各報告等の勤続年数は,役員退職給与適正額を算定するために考慮されるべき業務に従事した期間ではないことになる。
したがって,税務署長等により本件同業類似法人における退職役員の勤続年数の調査が適切に行われたと認めることはできず,そのような調査に基づき算定された金額を,本件役員退職給与適正額と認めることはできない。(2)

また,前記(1)に述べたところからすれば,少なくとも,土浦税務署長及
び名古屋国税局長(豊橋税務署長・半田税務署長)の調査は,役員の勤続年数の点において正確に行われていなかったという他なく,このことからすれば,他の各税務署長及び各国税局長の調査の正確性についても疑問を呈さざるを得ない。さらに,本件指示等に対して土浦税務署長及び名古屋国税局長(小牧税務署長)は,監査役に対して退職給与の支給があった法人(本件支給事例2に係る法人及び本件支給事例10に係る法人)を抽出し,松本税務署長は,代表理事に対して退職給与の支給があった法人を抽出しているが,本件抽出基準によって監査役や代表理事に対して退職給与の支給があった法人を抽出すべきであると一義的に判断することは不可能であるから,当該法
人を抽出すべきであるか否かは,各税務署長及び各国税局長の裁量に委ねられていたということになり,このような抽出過程には恣意が介在する余地がある(これにより,例えば,実際には農事組合法人の理事に対する退職給与の支給事例が存在するにもかかわらず,報告書の作成者等の恣意的な判断によって,そのような支給事例が抽出されなかった可能性がある。)。
したがって,本件指示等に対する税務署長等による調査が適切に行われたと認めることはできず,このような調査により導かれた金額を,本件役員退職給与適正額と認めることはできない。
3
本件支給事例2,本件支給事例8及び本件支給事例10は,本件元取締役と退職の事情又は役職を異にする役員に対する支給事例であること

前記1(3)に述べたとおり,
本件支給事例8に係る法人は,
B4と推認される
から,本件支給事例8は,B4の取締役であったB5に対する退職給与の支給事例であるところ,同人は取締役を解任されたものである。そして,解任という退職の事情は,退職給与の支給額に影響を及ぼす典型的かつ類型的な事情である。

また,本件支給事例2及び本件支給事例10は,いずれも監査役に対する退職給与の支給事例である。
したがって,前記1及び2の主張が認められなかったとしても,本件支給事例2,本件支給事例8及び本件支給事例10は,本件役員退職給与適正額の算定の基礎とすることはできない。

4
本件支給事例1に係る法人,本件支給事例2に係る法人,本件支給事例5及び本件支給事例6に係る法人,本件支給事例7に係る法人,本件支給事例8に係る法人,本件支給事例9に係る法人並びに本件支給事例10に係る法人(以下,総称して原告主張除外法人という。)は,原告とその事業規模が類似するものとは認められないこと(1)ア

法人税法施行令70条2号は,
その内国法人と…その事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況を考慮すべきことを求めているが,総資産額が法人の事業規模の実態を直せつに示すものとして重視すべき指標であることは,過去の裁判例において繰り返し判示され,また,過去の同種事件において被告が主張してきたとおりである。また,役員退職給与が,中長期的な役員在任期間における功労報奨的性格を有する
ものであることからすると,その額の相当性を判断するためにその事業規模が類似するものを選定するに当たっては,売上金額のように,専ら当該事業年度における事業規模を示す指標の類似性だけでなく,総資産額のように,中長期的な期間にわたって形成された事業規模を示す指標の類似性についても考慮する必要がある。

したがって,少なくとも,総資産額が原告の総資産額の2分の1を大幅に下回る法人を,原告とその事業規模が類似するものと認めることができないことは明らかである。

本件同業類似法人の推定総資産額は,その当該法人の売上金額,(推定される)業種及び総資産回転率により,別表4のとおりと推認されるところ,これに対して,原告の平成25年3月期末における総資産額は,51億1138万6120円であるため,本件同業類似法人は,いずれも総資産額が原告に比して相当に少ないことが推認される。特に,原告主張除外法人については,総資産額が原告の総資産額の2分の1を大幅に下回るこ
とが推認される。
この点,被告は,およそ合理的な理由がないにもかかわらず,本件同業類似法人の総資産額を明らかにすることを拒否しており,被告がこのような対応をとっているのは,本件同業類似法人の総資産額が,上記に推認した金額に近似しており,これを明らかにすることが専ら被告に不利となるからであると理解せざるを得ない。
したがって,原告主張除外法人については,原告とその事業規模が類似するものと認めることはできない。ウ
被告は,原告は,B27の法人,原告代表者及び本件元取締役といういわば原告の身内に対する多額の債権(合計13億4507万2779円)を有しており,これらは容易に回収して現金化でき,その他所持している
現預金と合わせることで,少なくとも平成25年3月期の長期借入金20億8082万5000円を返済することが可能であったにもかかわらず,それをしていないために,総資産額が経営実態に比して不相当に高額になっている(したがって,総資産回転率も不相当に低くなっている。)という原告特有の事情があるから,同程度の総資産額を有する法人を抽出しよ
うとした場合には,売上高等の他の条件を満たさない結果になることが明らかであるとして,本件において総資産額による比較は妥当ではない旨主張する。
しかし,特に肉用牛生産業を営む法人においては,キャッシュ・コンバージョン・サイクルが極めて長期である一方で,疫病や天災等によって壊
滅的なダメージを受けるリスクもあることから,手元流動性を犠牲にしてまで低金利の借入金の繰上返済を選択するなどおよそ考えられない。この点をおくとしても,原告の金融機関からの借入金について,繰上返済をする場合には金融機関に対して損害金を支払われなければならないこととされているから,このような損害金を支払ってまで借入金の繰上返済をす
るはずはない。また,原告のB2や株式会社B33に対する債権は,これらの法人の事業上の必要性から貸付け等をしたものであるから,身内に対する債権であったとしても,容易に回収して現金化し借入金の返済に充てることが可能なものではない。
原告の平成22年3月期から平成24年3月期の総資産回転率の平均が同業者の平均と比較して低いことは,一般に,売上高利益率が高い場合には総資産回転率は低くなる傾向があり,原告の経常利益率が同業者の平
均よりもはるかに高いことからすれば,むしろ自然なことである。また,原告の総資産経常利益率が同業者の平均よりもはるかに高いことも踏まえれば,原告の総資産回転率が同業者の平均と比べて低いとしても,原告の資本の利用効率が悪いわけでも,原告の総資産額が経営実態に比して不相当に高額となっているわけでもない。

したがって,被告の上記主張には理由がない。
(2)

仮に,前記(1)ウにみた身内に対する債権によって原告の総資産額が
経営実態に比して不相当に高額になっている旨の被告の主張を前提としたとしても,原告の平成25年3月期末における総資産額は,被告が指摘する身内に対する債権
の金額
(13億4507万2779円)
を除外しても,
37億6631万3341円であるため,本件支給事例1に係る法人,本件支給事例5及び本件支給事例6に係る法人,本件支給事例7に係る法人,本件支給事例9に係る法人並びに本件支給事例10に係る法人の総資産額は,この2分の1すら大幅に下回ることが推認され,原告とその事業規模が類似するものであると認めることはできない。(3)ア

原告の平成25年3月期の損益計算書には,
営業外収入として
マル緊収入1億4457万2200円(以下本件マル緊収入という。)が計上されるとともに,特別利益として風評被害賠償金4億7475万6736円(以下本件風評被害賠償金という。)が計上されている。本件マル緊収入は,肉用牛肥育経営安定特別対策事業による肥育牛の価格補填収入であって,一般社団法人全国農業経営コンサルタント協会及び公益社団法人日本農業法人協会作成の農業の会計に関する指針(甲100。以下農業会計指針という。)によれば,農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金
(農畜産物の販売によって実現するもの。

として,
売上高として計上されるべきものである。
本件風評被害賠償金は,
東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故(以下本件原発事故という。)の影響により,肉用牛の適正な出荷が行われなかったこと等による営業損害の賠償金(その金額は,原発事故農畜産物損害賠償対策栃木県協議会が設定した算出方式(甲101の1~4)に基づき算出されたもの。)であって,本件原発事故がなければ当然に原告の売上高として計上
されていたはずのものであること等によれば,やはり売上高として計上されるべきものである。
したがって,原告の平成25年3月期の本来の売上高は,23億4600万0088円であり,本件支給事例5及び本件支給事例6に係る法人,本件支給事例7に係る法人並びに本件支給事例9に係る法人の売上金額
は,原告の売上金額の2分の1を下回っている。
したがって,事業規模に関する抽出基準として売上金額の倍半基準のみで十分であるとする被告の主張を前提としたとしても,本件支給事例5及び本件支給事例6に係る法人,本件支給事例7に係る法人並びに本件支給事例9に係る法人について,原告とその事業規模が類似するものであ
ると認めることはできない。
イ(ア)

被告は,①企業会計原則上,企業の営業活動以外の原因から生ずる
ものである補填金や損害賠償金の収益は,営業損益計算以外の区分で記載すべきとされているとした上で,②本件マル緊収入については,農業会計指針に基づけば売上高に計上することも許容されるものの,農業会計指針は画一的な会計処理の方法を定めたものではないから,必ずしも売上高に計上されるべきものではない旨,③本件風評被害賠償金については,肉用牛の評価額が低下したことの補償のほか,原発事故という企業の営業活動以外の原因から生じた損害に対する補償を含むものであって,長期間にわたって毎期継続的に生じるものではないことから,上記①の企業会計原則の定めによれば,農業会計指針に基づいても,売上高として計上されるべきものとはいえない旨主張する。
しかし,企業会計原則は,どのような収益が営業活動から生ずる収益に該当するかについては明らかにしておらず,むしろ,農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金が,農畜産物の販売により実現するものであり,農業法人が農畜産物の販売を主な営業活動としている
法人であることからすれば,それは,営業活動から生ずる収益,すなわち営業収益(売上高)に計上すべきことになる。
また,農業会計指針が制定される前に農業法人における会計規範として定着していた農業法人標準勘定科目(甲117。以下農業法人標準勘定科目という。)においても,価格補填収入が売上高に計上す
べきものとされていたこと等によれば,本件マル緊収入が該当するところの農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金を営業収益(売上高)に計上すべきであるという取扱いについては,農業会計指針が制定される前から一般に公正妥当と認められる会計処理の基準・慣行によって要請されていたものと認められる。

さらに,本件風評被害賠償金については,確かに営業損害額を含んでいるものの,基本的には肉用牛の価格下落分を補填するためのものである上,営業損害額も含め,事前に定められた算定方法により算定される評価額と販売額の差額として機械的に算定されるものであることからすれば,農畜産物の販売によって実現するものであることはもちろん,実
質的には,本件マル緊収入と同様の農畜産物の販売数量に基づき交付される補填金・交付金にも該当するものと認められる。仮に,会計上の取扱いとしては営業収益
(売上高)
に計上すべきものといえないとしても,
上記に述べた実質的に農畜産物の販売によって実現するものであるという性質や,本件原発事故がなかったとすれば原告の営業収益(売上高)に計上されていたはずの金額を補填するものであること,また,実際にも継続的に原告の収益に計上されているものであることからすれば,原告の事業規模を計る上では営業収益
(売上高)
と同視すべきものである。
(イ)

被告は,同業類似法人の抽出については,規模,収益状況等ができ
るだけ当該法人と類似するものであることが望ましいものの,その類似性は厳密なものでなくともその意義が失われるものとはいえず,売上高を基準に抽出することを考えた場合には,対象法人自らが作成した損益計算書記載の売上高金額によらざるを得ず,当該金額の記載の妥当性等まで判断することは困難であるから,当該売上高記載の金額以外の要素を検討した上での類似性を求めることは妥当でない旨主張する。
しかし,原告の決算書を確認すれば,多額のマル緊収入及び風評被害
賠償金が継続的に営業外収入に計上されていることは明らかであり,これらの性質を理解すれば,売上高に計上すべきものであるか,又は原告の事業規模を計る上では売上高と同視すべきものであることは,容易に理解することができる。また,本件マル緊収入及び本件風評被害賠償金を加算した原告の本来の売上高(23億4600万0088円)に基づ
く倍半基準と,損益計算書上の売上高(17億2667万1152円)に基づく倍半基準とでは,その上限が12億3865万7872円も異なる上に,両基準が重なる範囲も本来の売上高に基づく倍半基準の3分の2程度にすぎないから,そのような抽出基準によって原告と事業規模が類似するものを抽出することが不合理であることは明らかである。
(ウ)

以上によれば,前記(ア)及び(イ)にみた被告の主張をもって,本件
支給事例5及び本件支給事例6に係る法人,本件支給事例7に係る法人並びに本件支給事例9に係る法人を同業類似法人とすることの合理性は失われない旨を述べる被告の主張には理由がない。
5
本件元取締役が原告の業務に従事した期間は26年であること
(1)

形式的には役員に就任していない者であっても,実質的に法人の経営に
従事している者については,法人税法2条(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)15号に規定する役員とみなされることになる(法人税法施行令7条参照)から,同施行令70条2号に規定する業務に従事した期間には,
実質的に法人の経営に従事していることにより
役員とみなされる期間も当然に含むものと解される。

(2)

本件元取締役は,以下のとおり,本件役員退任期間において,原告の経営
管理,経理に関する決裁及び判断,決算書及び税務申告書の承認,事業投資の意思決定,事業投資に必要な資金調達等を行っていたものであり,これらは,役員でなければできない行為に他ならず,特定の一時的業務ともいえないから,本件元取締役がこれらをしていたことをもって,本件元取締役は,実質的に原告の経営に従事していたといえる。
そうすると,
法人税法施行令70条2号に規定する
業務に従事した期間
は,本件役員退任期間を含む昭和62年4月25日から平成24年12月25日までの26年(1年未満切上げ)である。

本件元取締役は,本件役員退任期間も,B20銀行,B21協同組合及びB22金融公庫から融資を受けるため,これらの金融機関に対する資金の使途や事業計画の説明や,これらの金融機関との間の融資条件の交渉を行っていた(B20銀行に対しては決算報告も行っていた。)。
また,
本件元取締役は,
本件役員退任期間において,
B26株式会社
(以
下B26という。)に対し,原告がB20銀行からB25牧場(原告
が平成13年9月頃に栃木県芳賀郡市貝町(住所省略)に新設した牧場のこと。以下同じ。)の運転資金に係る借入れをするための保証をしてもらいたい旨の依頼をした上で,B26との間の保証委託契約の締結に向けた交渉を担当した。

本件元取締役は,平成8年6月の栃木県芳賀郡市貝町(住所省略)に所在する農場(以下B23農場という。)の購入,平成12年2月の同郡茂木町(住所省略)に所在する牧場(以下B24牧場という。)の
購入,平成13年9月頃のB25牧場の新設稼働等,本件役員退任期間における原告の事業の拡大を主導し,これらに関する対外的な交渉や資金調達等を全て担った。

本件元取締役は,本件役員退任期間において,原告の税務申告業務に関与していた税理士から,原告の決算書や税務申告書の内容について説明を
受け,当該税理士に対し質問をしたり,経理担当者を呼んで経理処理について確認をしたり,原告の決算書や税務申告書の修正の指示や承認をしたりしており,原告においてこれらを担っていたのは,専ら本件元取締役であった。

本件元取締役は,本件役員退任期間において,日常的な原告の業務として,年度の予算を作成し,月次レベルで予算と実績との差異を比較し,その差異の原因を分析及び特定し,改善策を考えて改善を指示する業務を行うなど,原告の経営面の業務を担当していた。


前記アないしエの事実は,①平成8年の退任の際,後任として原告の代表取締役に就任した原告代表者が,当時25歳と若く,社会人としての経験も僅か3年(畜産業の経験は2年)しかなかった上,同時に原告の取締役に就任したB34(原告代表者の妻)も,原告代表者と同年齢であり,肉用牛生産業の経験が一切なかったこと,②本件元取締役が,平成8年の退任の直後に,原告に対しB23農場の取得資金として9000万円もの
貸付けをしていること等からも裏付けられている。
(3)ア

被告は,前記(2)に述べた本件元取締役の行為の存在を前提としたとしても,これらは,B2の代表取締役又はB2を中心とした原告を含む関連会社のグループ(以下B27という。)において会長と呼ばれていた立場で行われたにすぎず,本件元取締役がB2又はB27において業務に従事した旨の評価を基礎付けるにすぎない旨主張する。しかし,
前記(2)に述べた本件元取締役の行為は,
いずれも原告の業務の

執行であって,原告の親会社の業務の執行ではないことは明らかであり,B27の会長が,
その会長としての地位に基づき,
前記(2)に述べた原告の
業務の執行を行っているとすれば,そのような会長こそ,法人税法施行令7条1号に規定する使用人以外の者でその経営に従事しているものの典型例である。

また,そもそも,原告における平成15年11月の増資以前において,B2は,原告の親会社ではなかったことはもちろん,原告の社員ですらなかった。
したがって,被告の上記主張には理由がない。

被告は,本件元取締役は,平成8年の退任の当時,他の退任取締役と同様に,取引先等から指摘を受けた問題の責任を取り,又は責任を不問にされる代わりに退職給与を受領せずに退任したものといえ,この時点で,本件元取締役が原告の創業者であることや創業時から平成8年の退任までの期間において代表者として業務に従事したことの功績に係る退職給与は,
既に清算されたと考えるべきであるから,本件役員退職給与適正額の算定に係る業務に従事した期間として,平成8年の退任以前の期間は含めるべきでない旨主張する。
しかし,本件元取締役が平成8年の退任の際に退職給与の支給を受けなかったのは,そもそも,平成8年の退任が他の取締役を退任させるための
方便としてされた形式的なものであったことに加え,本件元取締役が自らの報酬よりも原告の内部留保を厚くして金融機関の信用を付けることを優先したことによるものにすぎない。
したがって,本件元取締役が平成8年の退任の際に退職給与の支給を受けなかったことをもって,本件元取締役が平成8年まで原告の代表取締役として業務に従事したことの功績に係る退職給与が既に清算されていると評価すべきものではないから,被告の上記主張には理由がない。
6
本件元取締役が実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていたこと(1)

前記5に述べたとおり,
本件元取締役は,
平成8年の退任の後においても,

引き続き原告の経営面の業務を担当し,
重要な経営事項は全て判断するなど,
平成24年の退任に至るまで,原告の事業運営に関わる最終意思決定権を有し,実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていた。
このことは,本件元取締役が,①役員報酬の金額のみではなく,2億7000万円という多額な退職給与の金額についてまでも,実質的に一存で決定をすることができる立場にあったこと(この点は,被告も主張するとおりである。)や,②原告における配当金の支払,定款の目的変更登記,保険契約
の更新,保守点検契約の締結,送水モーターの購入,運転免許の取得,スロード包装の発注,堆肥袋の購入,堆肥包装袋の購入等について会長として最終決裁をしていたことにも照らし,明らかである。
したがって,
取締役に対する退職給与の支給事例を基に算定された金額を,
本件役員退職給与適正額と認めることはできない。
なお,処分行政庁は,本件更正処分に当たり,代表取締役に対する退職給
与の支給事例を基礎として本件役員退職給与適正額を算定していた。(2)

被告は,①本件元取締役がその一存で本件遡及増額及び本件役員退職給
与の支給を決定した事実は,飽くまで,本件元取締役が原告の親会社であるB2の代表取締役又はB27会長としての立場を有することからそれらの決定ができたことを示すものにすぎず,②本件元取締役が会長として最終決裁をしていたことの立証のため原告が提出した各稟議書(甲55ないし64。以下,総称して本件各稟議書という。)も,原告及びB2において兼用されているものであって,本件元取締役がB27における会長としての立場において決裁をしていたことを示すものにすぎないから,
これらはいずれも,
本件元取締役がB27の子会社の一つである原告の代表取締役の職責としての個別的かつ内部的な最終意思決定権を有していたことを示すものではない
旨主張する。
しかし,完全親会社の代表取締役であればともかく,単なる親会社の代表取締役には子会社の役員報酬の増額や役員退職金の支給を決定する法的な権限はなく,企業グループの会長にも当該企業グループ内の個別の法人の役員報酬の増額や役員退職金の支給を決定する法的権限はない。そして,前記⑴
に述べた役員報酬の増額や役員退職金の支給の決定は,法人の組織形態やキャッシュフローにも大きな影響を与える決定であって,法人の事業運営に関わる決定そのものである。
また,確かに,本件元取締役が最終決裁をした本件各稟議書の用紙は,原告及びB2において兼用されているものであるが,本件各稟議書の内容は,
いずれも原告の事業運営上の個別的かつ内部的な事項であるから,本件元取締役がこのような事項について会長として最終決裁をしていたことは,本件元取締役が原告の事業運営に関わる最終意思決定権を有していたことを裏付けるものといえる。
したがって,被告の上記主張に理由はない。

7
功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利となる限り,これによるべきであること
被告は,本件元取締役の最終月額報酬額である100万円は,本件元取締役の在職期間中における報酬の最高額を示すものとは認められず,本件元取締役
の在職期間中における法人に対する功績の程度を最も良く反映しているものともいえない旨主張する。
しかし,前記5及び6に述べたところからすれば,本件元取締役の原告に対する功績は,これまでの功績という点において,原告代表者の功績を上回ることは明らかであるし,本件元取締役の直近事業年度に果たしていた役割をみても,原告代表者の役割と遜色ないものであった。
そして,原告は,原告代表者に対し,平成21年3月期ないし平成24年3
月期においては月額100万円,平成25年3月期においては月額120万円の役員報酬を支給していたのであるから,本件遡及増額後の本件元取締役の最終月額報酬額(月額100万円)は,これらの原告代表者の役員報酬の額と比較しても合理的なものであった。
したがって,本件元取締役の最終月額報酬額である100万円は,本件元取
締役の原告に対する功績からすれば少額にすぎると思われるが,その功績の程度を反映したものであるとはいえるため,功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利となる限り,これによるべきである。
なお,本件遡及増額は,原告の株主全員の承諾を得て行われたものであり,取締役報酬のお手盛りによって会社や株主に損失を与えることを防止するこ
とを目的としている会社法361条1項の趣旨に反するところがないため,同項の株主総会の決議があったものと取り扱うのが相当である。また,本件遡及増額は,原告の取締役全員の承諾を得たものである(原告は取締役会設置会社ではない。)。したがって,本件遡及増額が株主総会及び取締役会の決議を経ることなく行われた旨を指摘する被告の主張は,前提において誤っている。
8
本件役員退職給与適正額の算定に当たって,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いるべきであること
(1)

同業類似法人の平均的な退職給与の額を超える部分が不相当に高額な部
分の金額であるとは認められないこと

平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均額により役員退職給与適正額を算定することとした場合には,同業類似法人の平均的な退職給与の額を超える部分が不相当に高額な部分の金額であるということになるが,そのような解釈は,不相当に高額という法人税法34条2項の文言に合致しない上,役員に対する退職給与のうち,隠れた利益処分としての性質を有する部分について損金算入を認めないこととした同項の趣旨にも合致しない。

したがって,役員退職給与適正額は,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いて算定すべきである。

被告は,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いる場合,抽出した同業類似法人の中に不相当に過大な退職給与を支給してい
るものがあったときに不合理な結論となり,これを避けるために異常に多額なものは除外するにしても,その対象や範囲が不明確となり,恣意の入り込む余地が生じる上,本来,適正な役員退職給与を算定すべき客観的な基準の中に,適正な役員退職給与はかくあるべきという主観的価値判断を内在させることになり矛盾するという問題が生じることとなるから,1年
当たり役員退職給与額の最高額などの最高値を用いるのは,限定的な場合に限るのが相当である旨主張する。
しかし,仮に,同業類似法人の中に異常に多額な退職給与を支給している法人があったとすれば,速やかに更正処分等が行われるべきであるから,いまだにそれらが行われていないということは,通常は,当該法人は,そ
のような法人ではないと考えるべきであるし,同業類似法人の事業規模,収益状況,役員の勤続年数等を勘案した上で,統計上の外れ値(異常値)に該当するものを除外することとすれば,異常に多額な退職給与を支給している法人を客観的な基準によって除外することも可能なはずである。他方で,平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均額を用いる
方法は,特殊な事情があると認められる場合には,そのような事情を別途に考慮することを予定しているはずであり,そのような特殊な事情の有無の判断は,まさに主観的価値判断に他ならないから,むしろ,平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均額を用いる方法こそ,適正な役員退職給与はかくあるべきという主観的価値判断を内在させていることになる。
したがって,被告の上記主張には理由がない。

(2)

本件各抽出基準等が,原告の同業類似法人を抽出するための条件として
必ずしも十分ではないこと
前記1に述べたとおり,本件各抽出基準等は,原告の同業類似法人を抽出するための基準等として合理的であるとは認められないから,本件における役員退職給与適正額の算定は,本件各支給事例を基に算定されるべきではないが,仮に,本件各支給事例を基に算定するとすれば,同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分ではない場合に該当することは明らかである。そうすると,同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され,より平準化された数値を得ることができるとはいえない場合,すなわ
ち,同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分ではない場合や,同業類似法人の抽出件数が僅少であり,かつ,当該法人とその最高値を示す同業類似法人とが極めて類似していると認められる場合などに限り,最高功績倍率法を用いることが許される旨の被告の主張を前提としても,本件は,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いる方法によるべきである。
(3)

本件元取締役には,本件類似法人の役員に通常存する事情を超える特殊
な事情が認められること
原告は,本件元取締役が退任した平成25年3月期以前の5事業年度の平均で2億7636万1000円もの純利益(純利益率19.0%)を上げる高収益企業であるとともに,平成25年3月期末において26億8905万円(利益剰余金比率52.6%)もの利益剰余金を有する健全企業である。一般に高収益を上げることが困難である肉用牛生産業において,原告をこのような高収益かつ健全な企業に成長させたのは創業者であるとともに,前記6に述べたとおり,実質的に原告の代表取締役の職責を果たしていた本件元取締役の功績に他ならない。
そして,これまでに述べたとおり,①本件同業類似法人は,いずれも総資産額が原告に比して相当に少なく,その平均額は,原告の総資産額の3分の
1以下であると推認されること,
②本件各支給事例は,
取締役
(又は監査役)
に対する役員退職給与の支給事例であること,③本件同業類似法人に原告のような高収益かつ健全な企業があるとは認められない(仮に,本件同業類似法人にそのような企業が含まれているとすれば,本件同業類似法人の財政状態及び収益状況を把握している被告において,その旨の主張がされるはずで
ある。)ことに鑑みると,本件元取締役には,本件同業類似法人の取締役(又は監査役)
に通常存する事情を超える特殊な事情があることは明らかである。したがって,仮に,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いる方法により役員退職給与適正額を算定するのが,同業類似法人の役員に通常存する事情を超える特殊な事情がある場合に限られるとしても,本
件各支給事例を基に本件役員退職給与適正額を算定する場合には,当該特殊な事情があるものとして,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いる方法によるべきことになる。
9
原告の主張のまとめ
(1)

以上のとおり,①本件各抽出基準等が原告の同業類似法人を抽出するた
めの基準等として合理的なものとは認められないこと,②本件指示等に対する税務署長等による調査が適切に行われたものとは認められないこと,③本件元取締役が実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていたこと,④本件算定が,功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利となるか否かの検討なく,1年当たり役員退職給与額を用いた算定方法によっていることからすれば,本件各支給事例を基にして1年当たり平均額法により算定された金額を,本件役員退職給与適正額と認めることはできない。したがって,本件更正処分は,本文第1記載のとおり取り消されるべきである。
(2)
仮に,本件各支給事例を基にして本件役員退職給与適正額を算定すると
しても,前記8に述べたとおり,少なくとも本件においては,本件各支給事例の最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いて算定すべきであり,本件各支給事例の1年当たり役員退職給与額の最高額は,529万4118円である。そして,前記5に述べたとおり,本件元取締役が原告の役員として業務に従事した期間は26年であるから,本件役員退職給
与適正額は,少なくとも1億3764万7068円を下回るものではない。したがって,本件更正処分は,翌期へ繰り越す欠損金額が2億7007万7759円を超える部分について取り消されるべきである。
(3)

仮に,本件各支給事例の平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の
平均額を用いて本件役員退職給与適正額を算定するとしても,前記3及び4に述べたとおり,原告主張除外法人は,その総資産額が原告の総資産額を大幅に下回っており,かつ,本件支給事例2,本件支給事例8及び本件支給事例10は,本件元取締役と退職の事情又は役職を異にする者に対する支給事例であるから,残る本件支給事例3及び本件支給事例4の平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均額を用いるべきことになる。その1年当た
り役員退職給与額の平均額は353万2059円であり,本件元取締役が原告の役員として業務に従事した期間は26年であるから,本件役員退職給与適正額は,少なくとも9183万3534円を下回るものではない。したがって,本件更正処分は,翌期へ繰り越す欠損金額が2億2426万4224円を超える部分について取り消されるべきである。
第3
1
被告の主張
本件各抽出基準等が合理的なものとはいえない旨の原告の主張について(1)

総論的な反論
原告は,本件同業類似法人以外の法人についても,本件役員退職給与と比
較すべき支給事例を有する法人があるのではないかという憶測に基づき,抽出基準等を提示して,その抽出基準等を満たす法人の有無及び当該法人の役員退職給与の支給事例を提示するよう求めている。しかし,それに逐次対応し,抽出基準等に即した同業類似法人を適時抽出しなければならないとなると,抽出基準が多岐にわたり,それら全ての検討を要するとなれば法人税法
施行令70条2号の執行は事実上不可能なものとならざるを得ないが,それが同号の趣旨に反することになることは明らかである。
裁判例において,類似法人の抽出については,報酬額の比較のための資料である以上,業種,業態,規模,収益状況等ができるだけ当該法人と類似するものであることが望ましいものの,その報酬額は,客観的に相当な金額を
算定するための一資料として用いられるにすぎないものであるから,その類似性は厳密なものでなくともその意義が失われるものではないなどと判示されているように,同業類似法人における業種,業態,規模,収益状況等の類似性は,必ずしも厳密な類似性を求められているものではない。
(2)

畜産農業を基幹の事業としていることに係る基準について

ア(ア)

被告が本件同業類似法人を抽出するに当たって業種の基準とした日
本標準産業分類は,統計の正確性と客観性を保持し,統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定された統計基準であるから,同業類似法人の業種の同一性を確保する上で,十分な合理性,客観性を有している。
そして,法人税法施行令70条2号がその内国法人と同種の事業を営む法人と規定し,同種の事業を営むこと以上の要件を付していないことに照らせば,業種等についてはできる限り当該法人と類似するものであることが望ましいものの,同業類似法人の抽出に当たって厳密な類似性は求められないというべきであるから,小分類畜産農業に属する法人を抽出基準としたことは合理的である。
(イ)

ところで,推計課税においては,同業類似法人の類似性はかなり厳
格なものが要求されるものの,これと比較して退職給与の過大性の判断基準となる同業類似法人の類似性について考えると,退職給与の支給額が業種によって著しく差があるとは,一般的に,かつ,経験則上も認められないから,同業類似法人の業種については,推計課税における類似性ほどの厳格なものは必要ないと解される。

(ウ)

また,過去の多くの裁判例において,日本標準産業分類における大
分類又は中分類により同業類似法人を抽出することが認められており,業種の類似性の基準として小分類畜産農業を用いることは,上記のとおり合理的であると判示された大分類又は中分類よりも更に細分化した基準,つまり,より類似性を求める基準を用いるものであるから,こ
れが合理性を有することは明らかである。

原告は,総資産回転率,キャッシュ・コンバージョン・サイクル等の各指標の数値の差異を指摘して,畜産農業のうち,養鶏業及び養豚業と原告が営む肉用牛生産業とは,その事業の特質等を大きく異にするため,畜産
農業を営む法人であることという抽出条件は,売上金額の倍半基準と併用すると,業態,規模,収益状況等が原告と類似する法人を抽出することが困難な条件である旨主張する。
しかし,原告は,上記の各指標における数値の差異が,役員退職給与の額にいかなる影響を及ぼすのか,また,どのような関連性を有しているの
かについて,何ら具体的に明らかにしていない。また,同じ肉用牛生産業を営む法人であっても,
上記の各指標における数値には幅があり,
しかも,
養鶏業及び養豚業の対応する指標の数値の幅はほぼそれに重なるほか,ある収益性分析指標によれば養豚業又は養鶏業よりも肉用牛生産業の方が劣るなど,財務指標を全体としてみれば,いずれの業種においてもさほど大きな違いはない。
この点をおくとしても,原告の主張は,結局のところ,法人税法施行令
70条2号に規定する同種の事業について,より厳密性を求めるものであるが,これにより個々の諸条件の厳格性を追求すれば,そもそも同業類似法人の支給事例が抽出できない可能性がある上に,原告の主張する上記各指標の差異は,業種の特殊性のみによるものとはいえず,同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性といえるのであっ
て,同業類似法人間の平均値を算定して平準化された数値を出すことにより捨象されるものと考えられるから,かかる原告の主張には理由がない。(3)

所得金額が欠損でないことに係る基準について


本件各抽出基準のうち所得金額が欠損でない法人としたのは,原告の平成25年3月期の申告所得金額が欠損ではないためであるから,合理的で
ある。
また,所得金額が欠損である法人は,一般的に経営状態が良好な法人であるとはいえず,役員に対して退職給与を支払っていたとしても,その額が低く抑えられている可能性もあることからすれば,所得金額が欠損である法人を除外することは,本件役員退職給与適正額を算定するに当たり原
告にとって不利となる条件ではない。

原告は,肉用牛生産業を営む法人の中には,所得金額が欠損であるが,肉用牛課税特例の適用を受けなければ所得金額が欠損でない法人が相当にあると推認されるとともに,肉用牛課税特例の適用によって所得金額が欠
損となる法人を抽出対象から除外すべき合理的な理由はないなどと主張する。
しかし,肉用牛課税特例は,租税特別措置法67条の3第1項に規定する実体的要件だけではなく,確定申告書等への同項の規定の損金算入に関する申告の記載や明細書及び肉用牛売却証明書類の添付という手続的要件を充足した場合に限ってその適用が認められるものであるから,肉用牛生産業を主たる事業とする法人であれば肉用牛課税特例を必ず適用する
とはいえず,
まして所得金額が欠損になる傾向にあるとはいえない。
また,
肉用牛課税特例を受ける場合でも,その売却価格や適用される合計頭数には上限があり,原告は当該特例の適用後も欠損となっていないことに鑑みれば,当該特例の適用により欠損となる法人と原告とは,おのずから規模が異なるものといえる。

したがって,原告の上記主張には理由がない。
(4)

抽出対象地域について
同業類似法人を抽出するに当たりどの地域を抽出対象地域とするかについては,役員退職給与適正額を算定すべき法人とできる限り事業の類似性
が認められる法人を抽出すべきと考えられるものの,仮に同種の事業を営む法人でその事業規模が類似する法人が集中する地域が特定されるとしても,地域における経済的事情の類似性が全く考慮されない結果が導き出されることは相当ではないから,役員退職給与適正額を算定すべき法人の所在地と近接し,経済事情の類似する地域を抽出対象地域とするのが相
当である。
この点については,例えば,裁判例において製造業における製造コストや設備費,人件費等は,地域によって異なるのが一般的であり,同一国税局管内や近接した国税局管内という比較的近接した地域においては,製造コスト等に類似性が認められるものが多いと考えられると判示されて
いることを踏まえれば,調査対象地域を広げてまで中分類よりも細かい業種・業態の類似性又は同一性を有する法人を抽出することまでは求められていないというべきである。
本件において,被告(処分行政庁)は,抽出対象地域を,順次,原告の本店所在地である真岡税務署管内から,
栃木県内,
関東信越国税局の管内,
隣接局の管内にまで拡大した結果,小分類畜産農業に該当する同業類似法人における役員退職給与の支給事例を10事例抽出したのであるか
ら,これ以上経済事情の差異を無視してまで抽出対象地域を広げる必要性はなく,逆に抽出範囲を広げると,各地域の経済事情の差異に起因してその合理性に疑義が生じるといえる。
したがって,法人税法施行令70条2号の趣旨に照らしても,抽出対象地域を関東信越国税局及び隣接局の管内としたことは合理的であり,他の
地域に同業類似法人を求めて範囲を拡大しなかったとしても,その意義が失われることはない。

原告が主張する札幌国税局及び熊本国税局の管内は,以下のとおり,関東信越国税局及び隣接局の管内とは異なる特質があり,これらを抽出範囲
に含めるのは,経済事情の差異を全くないがしろにするものであって,抽出基準としての合理性に疑問がある。
(ア)

札幌国税局の管轄にある北海道についてみると,土地に恵まれた北
海道と土地の制約がある都府県とでは,経営規模やコストの点において大きく異なっている。すなわち,畜産経営分析調査は,酪農経営について,北海道だけを他の都府県と区別し,独立して決算データ等を分析しており,これによれば,北海道の酪農業と都府県の酪農業は,ほとんどの項目において異なる財務指標を示しており,特に売上高経常利益率においては,都府県(5.2%)は,北海道(2.8%)に比べ約1.8倍大きい。また,農林水産省生産局畜産部作成の畜産・酪農をめぐる情勢・平成30年11月(乙39)によれば,土地に恵まれた北海道では飼料の自給基盤が確保されているため,実搾乳量100キログラム当たりの飼料費は,北海道では4096円であるのに対して,都府県では5049円と,1000円ほども差が生じている。さらに,農林水産省の畜産物生産費統計(平成25年度)(乙40)によれば,牧草・放牧採草費は,

北海道において突出して自給されていることが分かる。
(イ)

熊本国税局の管轄にある南九州についてみると,その温暖な気候や
畜産に活用可能な土地の豊富さという環境要因と,食肉センターや飼料サイロ・飼料工場といった畜産業クラスター(集合体)が同エリアに存在するという経済要因とが相まって,国内の他地域にない規模で生産及び処理が行われている一方,大消費地である首都圏への地理的な遠さのため輸送コストがかさむ要素もあり,関東信越国税局及び隣接局の管内
とは経済事情が異なっている。
2
本件指示等に対する調査が適切に行われたものとは認められない旨の原告の主張について
(1)

原告は,
本件各報告等における退職役員の勤続年数は,
退職所得の源泉徴

収票に記載された勤続年数欄の記載を基にしたものであり,
当該勤続年数は,
役員退職給与適正額を算定するために考慮されるべき業務に従事した期間ではない旨主張する。
しかし,法人税法上の役員については,登記上の役員と必ずしも一致するものではないから,退職所得の源泉徴収票上の勤続年数は,登記簿から導き
出される役員就任年数と異なる年数が記載される可能性があるとしても,それをもって,退職所得の源泉徴収票に記載された勤続年数が,当該退職役員の業務に従事した期間とかい離した年数であるということはできない。また,当該退職給与額と退職所得の源泉徴収票に記載された支払金額が一致するのであれば,当該役員退職給与額は,退職所得の源泉徴収票に記載され
た勤続年数に基づき,その支給がされたものと認められることからも,当該勤続年数が,当該退職役員の業務に従事した期間と乖離した年数であるということはできない。
さらに,同業類似法人の選定においては,広範囲かつ多数の法人の資料を検索及び抽出する必要があるから,個々の法人役員の実際の勤続年数まで確認できなくとも,そのことをもって,本件同業類似法人が原告の同業類似法人として不適当であるなどということは妥当ではない。

したがって,原告の上記主張には理由がない。
(2)

原告は,
本件指示等に対して土浦税務署長及び名古屋国税局長
(小牧税務

署長)が,監査役に対して退職給与の支給があった法人(本件支給事例2に係る法人及び本件支給事例10に係る法人)を抽出し,松本税務署長が,代表理事に対して退職給与の支給があった法人を抽出していることを指摘して,
本件の抽出過程には恣意が介在する余地があるなどと主張する。
しかし,同業類似法人における支給事例を抽出するに当たって,その基準である代表取締役等を含む概念である法人税法2条15号に規定する役員に該当する監査役又は代表理事に対する支給事例が含まれていたとしても,広く該当法人が抽出されて報告等がされたにすぎず,かかる点をもっ
て,恣意的な判断による抽出が行われたなどとする結論が導き出せるものではないから,原告の上記主張には理由がない。
3
本件元取締役と退職の事情又は役職を異にする役員に対する支給事例が存在する旨の原告の主張について

原告は,本件支給事例8は,解任された取締役に対する退職給与の支給事例であるとして,これを本件役員退職給与適正額の算定の基礎とすることはできない旨主張する。
しかし,原告が上記主張する解任の事実を前提としたとしても,会社法339条1項の規定によれば,株主総会は,その普通決議で,いつでも,理由を問
わず,役員及び会計監査人を解任することができることとされており,当該解任の理由も様々であることからすれば,直ちに,解任による退職が本件元取締役と退職事情を明らかに異にしているとはいえず,また,必ずしもその事情が退職給与の額に影響するなどとも考えられない。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
4
原告主張除外法人が原告とその事業規模が類似するものと認められない旨の原告の主張について
(1)ア

原告は,
原告主張除外法人につき,
総資産額が原告の総資産額の2分の

1を大幅に下回ることが推認されるとした上で,少なくともこのような総資産額が原告の総資産額の2分の1を大幅に下回る法人を原告とその事業規模が類似するものと認めることはできない旨主張する。イ
しかし,同業類似法人における事業規模の類似性を確保するため,売上金額の倍半基準により同業類似法人を抽出することは,事業規模の類似する同業者を抽出する基準として優れた合理性を有するものとして一般に承認されているものであり,また,同業類似法人の抽出が役員報酬や役員退職給与の適正額を算定する一つの資料,指標を得るための手段にすぎないことに鑑みれば,類似法人の範囲を事業規模の点から一定の範囲内に絞
るために使用される倍半基準の適用においては,事業規模に関する指標である売上金額のみに適用することで十分というべきである。むしろ,総資産額といった,事業規模を計る他の指標においても倍半基準を満たすなどの厳密な類似性を求めるとすれば,同業類似法人の抽出は事実上不可能となり,法人税法施行令70条2号の趣旨に反することになる。


その上,原告は,B27の法人,原告代表者及び本件元取締役といういわば原告の身内に対する多額の債権(合計13億4507万2779円)を有しているが,これらは容易に回収して現金化できるものであり,その他所持している現預金と合わせることで,少なくとも平成25年3月期の
長期借入金20億8082万5000円を返済することが可能であったにもかかわらず,それをしていないために,総資産額が経営実態に比して不相当に高額になっている(したがって,総資産回転率も不相当に低くなっている。)という原告特有の事情がある。この点は,上記の債権の現金化及び長期借入金の返済をしたと仮定した場合に計算される原告の総資産額
(30億3056万1120円)
に基づき計算される総資産回転率
(約
0.57回)が,原告が提出した畜産経営分析調査から計算される肉用牛
生産法人の総資産回転率(約0.6回)とほぼ同じ値であることからも裏付けられる。
したがって,同程度の総資産額を有する法人を抽出しようとした場合には,売上高等の他の条件を満たさない結果になることが明らかであることにも照らせば,少なくとも本件においては総資産額による比較は妥当では
ない。

(2)

以上によれば,原告の前記アの主張は失当である。
原告は,
原告の平成25年3月期の損益計算書には,
本件マル緊収入1億

4457万2200円が営業外収入として,本件風評被害賠償金4億7475万6736円が特別利益としてそれぞれ計上されており,これらはいずれも売上高として計上されるべきものであるから,平成25年3月期の損益計算書に計上された売上高(17億2667万1152円)は,原告の平成25年3月期の本来の売上高(23億4600万0088円)に比して6億1932万8936円も過少に計上されたものであるとして,本件支給事例5
及び本件支給事例6に係る法人,本件支給事例7に係る法人並びに本件支給事例9に係る法人の売上金額は,原告の売上金額の2分の1を下回っており,当該各法人はいずれも原告とその事業規模が類似するものであると認めることはできない旨主張する。
しかし,本件マル緊収入及び本件風評被害賠償金の具体的内容や性質,支
払の主体,金額の内訳等は客観的に明らかではなく,原告の上記主張はその根拠を欠く。
この点をおくとしても,①企業会計原則上,企業の営業活動以外の原因から生ずるものである補填金や損害賠償金の収益は,営業損益計算以外の区分で記載すべきとされており,②本件マル緊収入については,農業会計指針に基づけば売上高に計上することも許容されるものの,農業会計指針は画一的な会計処理の方法を定めたものではないから,必ずしも売上高に計上される
べきものではなく,③本件風評被害賠償金については,肉用牛の評価額が低下したことの補償のほか,原発事故という企業の営業活動以外の原因から生じた損害に対する補償を含むものであって,長期間にわたって毎期継続的に生じるものではないことから,上記①の企業会計原則の定めによれば,農業会計指針に基づいても,売上高として計上されるべきものとはいえない。原
告の平成25年3月期の損益計算書に,本件マル緊収入が営業外収入として,本件風評被害賠償金が特別利益としてそれぞれ計上されていたことは,これらを売上高として計上することが定着した取扱いでなかったことを端的に示すものである。
また,前記(1)に述べたとおり,同業類似法人の抽出については,規模,収
益状況等ができるだけ当該法人と類似するものであることが望ましいものの,その類似性は厳密なものでなくともその意義が失われるものとはいえず,売上高を基準に抽出することを考えた場合には,対象法人自らが作成した損益計算書記載の売上高金額によらざるを得ず,当該金額の記載の妥当性等まで判断することは困難であることも踏まえれば,当該売上高記載の金額以外
の要素を検討した上での類似性を求めることは妥当でない。
以上によれば,原告の上記主張は,本件支給事例5及び本件支給事例6に係る法人,本件支給事例7に係る法人並びに本件支給事例9に係る法人を同業類似法人とすることの合理性を失わせるものではなく,理由がない。5
本件元取締役が原告の業務に従事した期間は10年であること
以下のとおり,本件元取締役が本件役員退任期間において実質的に原告の経営に従事していた事実は認められないとともに,本件役員退職給与適正額の計算上,平成8年の退任以前の期間を考慮すべきではないから,本件元取締役の原告の業務に従事した期間は,平成15年の就任より後の10年にとどまる。
(1)

本件元取締役が本件役員退任期間において実質的に原告の経営に従事し
ていた事実は認められないこと

原告は,要旨,本件元取締役が,本件役員退任期間において,①原告がB20銀行等から融資を受けるため,当該金融機関に対し資金の使途や事業計画の説明をしたり,融資条件の交渉を行ったりしていたこと,②B2
6に対し原告がB20銀行から借入れをするための保証をしてもらいたい旨の依頼をし,B26との間の保証委託契約の締結に向けた交渉を担当したこと,③農場や牧場の購入等という原告の事業の拡大を主導し,これらに関する対外的な交渉や資金調達等を全て担ったこと,④原告の税務申告業務に関与していた税理士から原告の決算書や税務申告書の内容について
説明を受けるなどした上で,原告の決算書や税務申告書の修正の指示や承認をし,原告においてこれらを担っていたのは専ら本件元取締役であったこと,⑤原告の年度の予算を作成し,月次レベルで予算と実績との差異を比較して改善を指示する業務を行っていたこと等を指摘した上で,本件元取締役は,本件役員退任期間において実質的に原告の経営に従事していた
旨主張する。

しかし,本件元取締役が原告の経営に従事していたことについて客観的な裏付けはなく,立証されたとはいえない。
この点をおくとしても,入出金の管理,財務諸表の作成,取引先の与信管理,
税理士との折衝及び資金調達に関する折衝などは,一般的に,
経理・

財務の担当の業務の範囲内であり,原告が主張する融資交渉なども,役員でなければできないものではなく,経理・財務を担当する使用人であっても可能であるから,本件元取締役が上記のような行為を行っていたとしても,これが直ちに本件元取締役が原告の経営に従事していた事実を明らかにするものとはいえない。
さらに,本件元取締役は,本件役員退任期間において,原告の役員としての地位を有しておらず,そもそも,原告には業務分掌に係る具体的な定
めがなく,本件元取締役の当時の原告における地位,肩書,業務,報酬又は給与の有無等の業務関与態様の詳細は不明であるから,原告が指摘する本件元取締役が行ったという業務を,本件元取締役がどのような立場で行ったのかは明らかではない。
結局のところ,原告が指摘する本件元取締役の行為は,B2の代表取締
役又はB27において会長と呼ばれていた立場で行われたにすぎない。すなわち,原告は,B27の一員として,B2と共に乳肉複合経営を行っており,B2は,酪農と繁殖・哺育育成,原告は,肉牛の肥育・出荷をそれぞれ担当することにより,乳用種から出生した子牛を肥育出荷まで一貫管理すると言った一体的な事業運営をしている。原告が指摘する本件元取締
役の行為は,B27としての一体的な事業運営として,飽くまで原告の親会社であるB2の代表取締役の立場で関与していたものである。したがって,原告が指摘する本件元取締役の行為は,本件元取締役が,B2又はB27において
業務に従事した
旨の評価を基礎付けるにすぎない
(なお,
本件元取締役は,平成24年12月25日付けでB2の代表取締役を退任
し,退任慰労金2億9920万円の支給を受けている。)。この点は,B2が原告の親会社となったのが平成15年11月以降であるという事実によっても変わりはない。

前記イに述べたとおり,原告は本件元取締役が本件役員退任期間において
実質的に原告の経営に従事していた
事実を立証できていないところ,
さらに,原告は,本件役員退任期間において,原告の役員の氏名変更や住所変更の都度,間を置かずに登記を行っており,登記制度について理解があると考えられ,仮に,本件元取締役が実質的な取締役として業務に従事していたとすると,原告は,その実態に即して,平成15年の就任以前にも,本件元取締役の取締役就任登記を行っていたはずであるにもかかわらず,これを行っていないことからしても,本件元取締役が本件役員退任期
間において実質的に原告の経営に従事していた事実がないことは明らかである。
(2)

本件役員退職給与適正額の算定に係る
業務に従事した期間
として平成

8年の退任以前の期間を含めるべきでないこと
平成8年の退任に当たり,本件元取締役は,原告の取引先等から原告の役
員に問題がある旨の指摘を受け,自身が取締役を退任するとともに当時の原告の全役員を退任させたのであり,その退任の理由等を取引先等の外部の者にも説明した上で,原告の経営から身を引いたと考えられる。そして,本件取締役には,平成8年の退任に係る役員退職給与は支給されなかった。このような経過を踏まえると,本件元取締役は,平成8年の退任の当時,
他の退任取締役と同様に,取引先等から指摘を受けた問題の責任を取り,又は責任を不問にされる代わりに退職給与を受領せずに退任したものといえ,この時点で,本件元取締役が,原告の創業者であることや,創業時から平成8年の退任までの期間において代表者として業務に従事したことの功績に係る退職給与は,既に清算されたと考えるべきである。

そうすると,
本件役員退職給与適正額の算定に係る
業務に従事した期間
として,平成8年の退任以前の期間は含めるべきでない。
6
本件元取締役が実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていた旨の原告の主張について

(1)

原告は,本件元取締役は,平成8年の退任の後においても,引き続き原告
の経営面の業務を担当し,重要な経営事項は全て判断するなど,平成24年の退任に至るまで,原告の事業運営に関わる最終意思決定権を有し,実質的に原告の代表取締役としての職責を果たしていた旨主張する。
しかし,かかる事実を認めるに足りる事実について,何ら具体的な主張及び立証はされていない。
むしろ,役員報酬は,通常,役員の職務行為の対価であるところ,本件元
取締役の退任時から遡って6事業年度(平成20年3月期ないし平成25年3月期)をみても,当該各事業年度における本件元取締役の役員報酬額は,原告代表者はおろか他の取締役と比較しても低額であったことからすれば,本件元取締役が実質的な代表取締役としての職責を果たしていたとは認められない。
また,
前記5(1)ウに述べたように,
取締役の氏名や住所の変更等登記が必
要な事項について適時登記を行っている原告において,本件元取締役の平成8年の退任以降,取締役としてすら登記を行わず,かつ,平成15年の就任に際して取締役として登記を行い,それぞれ,原告における本件元取締役の
役割が代表取締役でないことを自ら対外的かつ積極的に明らかにしていたことからみても,本件元取締役の原告における役割は取締役としての職責を超えないか,あるいは原告と一体運営される関係にあるB2の代表取締役又はB27の会長としての職責の範囲内のものと評価される行為であったと考えるべきである。

(2)

原告は,本件元取締役が実質的に原告の代表取締役としての職責を果た
していた旨を根拠付ける事実として,本件元取締役が,①本件遡及増額及び本件役員退職給与の支給について,実質的に一存で決定をすることができる立場にあったことや,②原告における配当金の支払,定款の目的変更登記等について,会長として最終決裁をしていたことを指摘する。
しかし,本件元取締役がその一存で本件遡及増額及び本件役員退職給与の支給を決定した事実は,飽くまで,本件元取締役が原告の親会社であるB2の代表取締役又はB27の会長としての立場を有することからそれらの決定ができたことを示すものにすぎず,そのことが,原告の事業運営に関わる最終意思決定権を有していたとはいえないことは明らかであり,また,本件元取締役が原告の実質的な代表取締役としての職責を果たしていたとの評価が導かれる関係にないことも明らかである。

また,原告が指摘する本件元取締役が会長として最終決裁をしていたとする本件各稟議書は,原告及びB2において兼用されているものであって,本件元取締役がB27における会長としての立場において決裁をしていたことを示すものであり,原告における最終意思決定を明らかにしたものか又はB27における最終意思決定を明らかにしたものかの区別がされていない
から,B27の子会社の一つである原告の代表取締役の職責としての個別的かつ内部的な最終意思決定権を有していたことを示すものではない。7
功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利となる限り,これによるべきである旨の原告の主張について

原告は,本件元取締役の最終月額報酬額である100万円は,本件元取締役の原告に対する功績からすれば少額にすぎると思われるが,その功績の程度を反映したものであるとはいえるため,功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利となる限り,これによるべきである旨主張する。しかし,前記第1・2(2)アのとおり,本件遡及増額が会社法所定の手続であ
る株主総会及び取締役会の決議を経ることなくされたものであることに加え,原告の株主であるB35が,本件役員退職給与を支給する旨の決議がされたとされる株主総会に出席していない旨供述しているなど本件役員退職給与の支給手続自体にも疑義があること,原告の経理担当者のほか,原告代表者やB35がいずれも本件役員退職給与の額の算定の詳細を知らない旨供述しており,
その額は本件元取締役の一存により決定されたものであること,本件遡及増額は本件元取締役の指示により本件役員退職給与の額を支給するためにされたものであると評価できること等にも照らせば,本件においては,本件元取締役の最終月額報酬額が功績の程度を最も良く反映しているものとはいえないという功績倍率法によることが不合理であると認められる特段の事情があることは明らかである。
したがって,原告の上記主張には理由がない。

8
本件役員退職給与適正額の算定に当たって,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いるべき旨の原告の主張について
(1)

原告は,平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均額により役
員退職給与適正額を算定することとした場合には,同業類似法人の平均的な退職給与の額を超える部分が不相当に高額な部分の金額であるということになるが,そのような解釈は,不相当に高額という法人税法34条2項の文言に合致しないなどとして,役員退職給与適正額は,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いて算定すべき旨主張する。しかし,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いる場
合,抽出した同業類似法人の中に不相当に過大な退職給与を支給しているものがあったときに不合理な結論となり,これを避けるために異常に多額なものは除外するにしても,その対象や範囲が不明確となり,恣意の入り込む余地が生じる上,
本来,
適正な役員退職給与を算定すべき客観的な基準の中に,
適正な役員退職給与はかくあるべきという主観的価値判断を内在させるこ
とになり矛盾するという問題が生じることとなるから,1年当たり役員退職給与額の最高額などの最高値を用いるのは,前記第1・1のとおり,限定的な場合に限るのが相当であり,役員退職給与適正額につき,直ちに最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いて算定すべきことにはならない。

(2)

原告は,本件元取締役には,原告の創業者であり,かつ,原告を高収益か
つ健全な企業に成長させたという功績があるほか,本件同業類似法人の総資産額の平均額が原告の総資産額の3分の1以下と推認されることなどの特別な事情があるから,本件元取締役には,本件同業類似法人の取締役(又は監査役)に通常存する事情を超える特殊な事情があり,本件役員退職給与適正額の算定に当たって,最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いるべき旨主張する。
しかし,前記第1・1のとおり,最高功績倍率法又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いる方法が採用されるべき特段の事情が存する場合があるとしても,同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分ではない場合や,同業類似法人の抽出件数が僅少であり,かつ,当該法人とその最高値を示す同
業類似法人とが極めて類似していると認められる場合などに限られるのであり,原告が上記主張するのが,これらに該当する旨をいうものではないのは明らかである(なお,原告は,別途,本件が上記同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分ではない場合に該当する旨も主張しているが,前記1に述べたところからすれば,本件同業類似法人の選定に係る抽出基準等は合理
的かつ十分であるから,原告の上記主張は前提を欠く。)。
また,退職役員及び法人に存する個別事情であっても,法人税法施行令70条2号に例示されている業務に従事した期間及び退職の事情以外の種々の事情については,原則として,同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されるべきものであり,同業類似法人の抽出が合理的に
行われてもなお,同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があると認められる場合に限り,
これを別途考慮すれば足りるというべきである。
そして,
本件では,
原告の平成25年3月期の売上金額の倍半基準の範囲内の法人を抽出して,その1年当たり役員退職給与額と本件元取締役の役員退職給与額を比較し
ているのであり,平均値を算出すれば,抽出した同業類似法人間に存在する諸要素の差異等が捨象され,より平準化された数値が得られるのであって,原告が上記主張する,原告を高収益かつ健全な企業に成長させた功績(この点,前記5(2)に述べた点を踏まえれば,上記の検討において,本件元取締役が原告の創業者であることや,平成8年の退任までの間の代表取締役としての功績について考慮することは不合理である。)といった要素も含めた諸要素の差異等も,その平準化された範囲内に含まれるから,原告が上記主張する事情をもってしても,同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があるとは認められない。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
以上
(別紙3)
当裁判所が認定する原告の平成25年3月期の法人税に係る
翌期へ繰り越す欠損金額等

1
所得金額(別表6・順号⑨)
0円
上記金額は,
以下の(1)の金額に(2)ないし(4)の金額を加算し,
(5)及び(6)の
金額を減算した金額である。
(1)

申告所得金額(別表6・順号①)
0円

上記金額は,本件確定申告に係る申告書に記載された所得金額と同額である。
(2)

役員退職給与の損金不算入額(別表6・順号②)
2億3731万7024円
上記金額は,本件役員退職給与の額2億7000万円のうち,本件役員退
職給与適正額3268万2976円を超える金額であり,不相当に高額な部分の金額として,法人税法34条2項の規定により損金の額に算入されない金額である。
(3)
農業生産法人の肉用牛の売却に係る所得の課税の特例の損金不算入額(別

表6・順号③)
610万3314円
上記金額は,租税特別措置法67条の3(平成26年法律第10号による改正前のもの)の規定を適用するとして損金の額に算入した肉用牛の売却による利益の額に相当する金額のうち,損失が生じた売却の取引分を含めずに
計算したことにより過大となった利益の額536万6086円と,同条1項に規定する免税対象飼育牛に該当しない肉用牛の売却による利益の額73万7228円の合計額であり,原告の益金の額に算入されるべき金額である。(4)

役員給与の損金不算入額(別表6・順号④)
525万円
上記金額は,原告が,
本件元取締役の退任後に,
本件元取締役の平成24年

6月から同年12月までの役員報酬として追加支給し,損金の額に算入した
金額であるが,当該追加支給は,法人税法施行令69条1項1号イないしハに掲げる改定とは認められず,法人税法34条1項(平成26年法律第10号による改正前のもの)に規定する給与には該当しないため,同条2項の規定により,損金の額に算入されない金額である。
(5)

農業生産法人の肉用牛の売却に係る所得の課税の特例の損金算入額(別
表6・順号⑥)
128万4794円
上記金額は,租税特別措置法67条の3(平成26年法律第10号による改正前のもの)の規定に基づき,肉用牛の売却による利益の額に相当する金額として,当期の損金の額に算入される金額である。

(6)

繰越欠損金の損金算入増加額(別表6・順号⑦)
2億4738万5544円
上記金額は,原告が,前期から繰り越した欠損金額であり,本件更正処分
により,所得金額が増加したことに伴い,当期の損金の額に算入される金額である。

2
翌期へ繰り越す欠損金額(別表6・順号⑩)
1億6511万3667円
上記金額は,
以下の(1)の金額から(2)の金額及び前記1(6)の金額
(繰越欠損
金の損金算入増加額)を減算した金額であり,法人税法57条1項(平成27
年法律第9号による改正前のもの)の規定により,翌期以降の事業年度において損金の額に算入されることとなる欠損金額である。
(1)

原告の平成24年3月期の法人税に係る翌期へ繰り越す欠損金額
5億9219万3182円
上記金額は,処分行政庁が平成27年6月29日付けでした原告の平成2
4年3月期の法人税の更正処分により更正された,原告の平成24年3月期の法人税に係る翌期へ繰り越す欠損金額である。
(2)

申告に係る平成25年3月期の繰越欠損金の控除額
1億7969万3971円
上記金額は,本件確定申告に係る申告書に記載された繰越欠損金の当期控除額と同額である。以上
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