判例検索β > 平成30年(わ)第347号
不正作出支払用カード電磁的記録供用、窃盗被告事件
事件番号平成30(わ)347
事件名不正作出支払用カード電磁的記録供用,窃盗被告事件
裁判年月日令和2年9月30日
裁判所名・部福岡地方裁判所  第3刑事部
裁判日:西暦2020-09-30
情報公開日2020-11-26 10:00:26
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令和2年9月30日宣告
平成30年(わ)第347号,同第456号,同第1030号

不正作出支払用カ

ード電磁的記録供用,窃盗被告事件
主文
被告人を懲役12年に処する
未決勾留日数中680日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1(平成30年3月30日付け起訴状記載の公訴事実)
A,B,C及び氏名不詳者らと共謀の上,南アフリカ共和国所在のD発行の会員番号●●●●●●●●●●●●●●●●等のデビットカードを構成する人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録を不正に作出して構成された不正電磁的記録カード32枚を使用して現金を窃取しようと考え,
別表1記載のとおり,
更にE,F,G,H,Iらとそれぞれ共謀の上,平成28年5月15日午前6時11分頃から同日午前8時39分頃までの間,507回にわたり,福岡市a区bc丁目d番e号のJabc丁目店ほか55か所において,人の財産上の事務処理を誤らせる目的で,前記カード32枚を前記各所設置の現金自動預払機に挿入して前記カード32枚の電磁的記録を読み取らせて同機を作動させ,同カード32枚の電磁的記録を人の財産上の事務処理の用に供するとともに,同機から株式会社K代表取締役Lほか1名が管理する現金合計5070万円を引き出して窃取した。
第2(平成30年5月2日付け起訴状記載の公訴事実)
前記A,前記B,前記C及び氏名不詳者らと共謀の上,前記D発行の会員番号●●●●●●●●●●●●●●●●等のデビットカードを構成する人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録を不正に作出して構成された不正電磁的記録カード14枚を使用して現金を窃取しようと考え,別表2記載のとおり,更にMらとそれぞれ共謀の上,平成28年5月15日午前6時18分頃から同日午前8時37分頃までの間,276回にわたり,福岡県大野城市fg丁目h番i号のJ大野城fg丁目店ほか15か所において,人の財産上の事務処理を誤らせる目的で,前記カード14枚を前記各所設置の現金自動預払機に挿入して前記カード14枚の電磁的記録を読み取らせて同機を作動させ,同カード14枚の電磁的記録を人の財産上の事務処理の用に供するとともに,同機から前記Lほか1名管理に係る現金合計2760万円を引き出して窃取した。
第3(平成30年7月27日付け起訴状記載の公訴事実)
前記A,N,O及び氏名不詳者らと共謀の上,前記D発行の会員番号●●●●●●●●●●●●●●●●等のデビットカードを構成する人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録を不正に作出して構成された不正電磁的記録カード30枚を使用して現金を窃取しようと考え,別表3記載のとおり,更にPらと共謀の上,平成28年5月15日午前6時32分頃から同日午前8時36分頃までの間,175回にわたり,千葉県船橋市j町k丁目l番地のQ船橋jk丁目店ほか18か所において,人の財産上の事務処理を誤らせる目的で,前記カード30枚を前記各所設置の現金自動預払機に挿入して,前記カード30枚の電磁的記録を読み取らせて同機を作動させ,同カード30枚の電磁的記録を人の財産上の事務処理の用に供するとともに,同機から前記Lほか1名管理に係る現金合計1760万円を引き出して窃取した。
(事実認定の補足説明)
第1

争点及び結論
(日時の記載はいずれも平成28年を指し,人名については,同姓の者がいる場合を除き,再出時から姓のみを記す。

罪となるべき事実のとおり,
広域でほぼ同時に多額の現金が窃取されたこと,
本件犯行が,判明している限りRなる者を主犯格として行われた組織的犯行であること,Aが,Rの指示を受け,主犯格と実行者との間をつなぐ役割を果たしたことに争いはなく,証拠によっても認められる。
弁護人は,被告人は,RとAとの間の連絡,カードの受渡しに一部関与したことはあるが,本件犯行の内容を知らされていなかったのであるから,故意及び共謀がなく,無罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。争点は被告人の故意と共謀の有無であり,具体的には,被告人の果たした役割が重要なもので,その際被告人が犯行内容を認識し,共犯者らと本件犯行の遂行について意思を通じていたかが争われている。
当裁判所は,次の理由により,被告人には故意及び共謀が認められ,罪となるべき事実のとおり共同正犯が成立すると判断した。
第2

前提事実
前提として,以下の事実は証拠により認められる。

1
本件犯行の概要
別表1ないし3記載のとおり,5月15日午前6時11分頃から同日午前8時39分頃にかけて,福岡県内,長崎県内,佐賀県内及び千葉県内において,多数の者ら(以下出し子という。
)が,一斉に偽造デビットカードを
使用して,各地のコンビニエンスストアに設置された現金自動預払機から現金を不正に引き出し,合計9590万円を窃取した。
一連の犯行に用いられた偽造デビットカードは,いずれも,実在する海外の銀行が発行したマスターカードデビットカードの情報をホワイトカード等に不正に印磁して偽造されたものである(以下,単にカードと略称することがある。。

これらのカードは,主犯格であるRが調達し,順次,仲介者や指示役を介して,末端の出し子に分配された。
出し子は,
いずれも,
犯行直前までカードの使用方法を教えられておらず,
指示役から,開始の連絡を受けてから引き出しを開始すること,1回あたりの引き出し額,1枚のカードで連続して引き出すことができる回数などを指示されていた。
2
共謀の形成過程等
本件犯行は,次のとおり,主犯格であるRから,仲介役,指示役を介して末端の出し子まで,順次,意思を連絡して共同して実行された。
福岡県,長崎県及び佐賀県にまたがる九州地方における犯行(別表1及び2記載の各犯行)は,福岡にいるCがとりまとめ,その上位者としてBがいる。
Aは,上位者とC及びBとの間に立ち,RからAへ,AからCへ,C又はAから,G,I,Mへと順次犯行の情報が伝えられた。C,Gらは報酬目当ての出し子を勧誘し,Rから出し子に至るまで,順次共謀が形成された。千葉県内での犯行(別表3記載の各犯行)は,AがOに犯行を持ち掛け,O,指示役であるPらが出し子を勧誘し,順次共謀が形成された。出し子が使用したカードの供給経路は概ね次のとおりである。
本件犯行の1,
2日前,
Aから指示を受けたSが,
さらにTに指示をして,
東京都内で被告人からカード約400枚を受け取らせた(詳細に食い違いはあるが,被告人がこのカードの引渡しに関与したこと自体は争いがない。。)
このうち約100枚は,Aから指示を受けたUが,Tから受け取り,東京から空路福岡に持ち込み,5月14日夜以降,C,G,Iらを介して,順次九州の出し子に分配された。
残りの約300枚は,SがTから受け取り,Nの管理するアジトに持ち込んで保管し,
Nは,
5月14日の夜から同月15日未明にかけて,
Oに対し,
そのうち約180枚を渡した。
Aの指示で,Oが,被告人のいる六本木まで赴き,被告人の持っていた追加のカード約110枚を受け取った(詳細に食い違いはあるが,被告人がこの追加のカードの引渡しに関与したこと自体は争いがない。。

Oが受け取ったカードは順次千葉の出し子に分配された。
3
犯行後の状況
九州で引き出された現金は,Cが取りまとめ,Uが福岡から東京に運び,都内にいたAに手渡した。
千葉で引き出された現金は,Oが取りまとめ,Aのいる自由が丘のホテルに運ぶこととなっていたが,その一部は,途中の路上で何者かに強取されたとされ,Aの下に渡っていない。

第3
1
争点の検討
関係者の供述
争点に関し,A,N及びVは次のとおり供述する。
Aの供述要旨
本件犯行に関し,私が知っている限り,私の上位者はR及び被告人の2名である。Rは被告人の上位者であり,見たところ,被告人はRに逆らえないようだった。
被告人はRの右腕として,私に対してRからの指示を伝える役割だった。私は,被告人と頻繁に連絡を取り合い,分からないことがあればRとも直接話し,その指示を更に下の者に伝えていた。
私は,4月頃,RからICチップのデータをカードに違法に入れる仕事を持ち掛けられたことがあり,その仕事が実現に至らなかった責任をRから追及され,本件犯行に加担することになった。
Rからは,私の報酬はないと言われていたが,被告人の報酬が35パーセントとされており,その中から一部でももらえればいいと思っていた。私は,ICカードの件でS,N,Oに声をかけていたので,これらの者を本件でも使うことにした。ほかにもCに声をかけた。
当初,5月8日に実行する予定であったが,その2日ほど前に被告人から延期を伝えられた。
延期後の犯行日は1週間後の5月15日頃と言われたが,
言ったのがRか被告人かは覚えていない。
5月13日頃,既に福岡に入っていた私に,被告人からカードを取りに来るよう連絡があった。東京にいたSに受取りを指示し,受け取ったカードのうち約100枚をUに福岡まで運ばせ,Cに渡すよう手配した。
その頃,上位者から犯行方法を聞き,N,Cらに伝えた。
Nを通じてOが追加のカードを欲しがっていると聞き,被告人に連絡すると,六本木に取りに来るよう指示されたことから,Nにその旨指示した。Nから,追加のカードを受け取ったと連絡を受けた。
5月15日は,時間が来たら始めるということではなく,Rと被告人からの開始の合図を私が受け,私がCとNにそれを連絡し,Cから九州の共犯者らに,NからOに連絡して,順次下位の共犯者に犯行開始を伝達する段取りだった。Nは別ルートで情報を入手し,それを私に流してくれることもあった。
当初は午前5時に犯行開始予定だったが,午前6時にずれ込んだ。犯行開始時刻について,上位者から私に連絡があったのか,Nからの情報だったのかは覚えていないが,被告人と連絡がつかなかった記憶なのでNから聞いたのではないかと思う。
受け子が引き出した現金は,九州分はCが集め,千葉分はOが集めてNに渡し,これらをすべて自分が取りまとめ,Nに指示して上位者に渡す段取りだった。
私は,5月15日の夜,九州から東京へ戻り,品川駅でUが運んできた九州分の現金を受け取り,自由が丘のホテルで待機した。千葉分は,OがNを介さず直接私のところに持ってくることになった。しかし,Oはホテルの前で強盗に遭ったとのことで,結局千葉分は届かなかった。
上位者から電話があったが,私は強盗の件で落ち込んでいたので電話には出ず,Nに携帯電話を渡した。Nが,私の携帯電話でRか被告人のどちらかと連絡を取り,集めた現金を持って行った。
本件犯行後,代官山のカフェで,被告人,私,N及びSの4人で会い,被告人から,資料を示された。被告人からは特に話はなかったが,Oが奪われたという現金を何としても回収しなければならないと思った。被告人は,資料の意味が分かっておらず,上から指示されて持ってきた様子だった。私はOが強盗に遭った責任を上位者から追及されていたが,捕まった後,上位者がその強盗に絡んでいると聞いて,裏切られたと感じた。そこで,知っていることを全部正直に話そうと思った。


Nの供述要旨
私は,Aに誘われ,3月頃から本件に関与した。Aから,本件はRとW(被告人と同姓)の仕事だと複数回聞いた。Aは,当初はRとWの名前を言っていたが,煮詰まってからはWの名前しか言わなくなった。私は,出し子を集め,連絡をし,カード及び現金を受け渡す役割をした。
5月14日頃,当時犯罪拠点として使っていた大塚のマンションに,カード及びカードの使用方法が書かれたマニュアル(以下本件メモという。)
が入った茶封筒が置いてあった。これはSが持ってきたとSから聞いた。本件メモのうち太字部分は誰が書いたか分からないが,
細字部分は私が書いた。
このカードのうち180枚をOに渡したが,Oはカードが足りないと言っていた。これをAに報告すると,Aから,Wが持っているカードを六本木のすし店に取りに行くよう指示された。Oがカードを取りに行き,Oは約110枚追加のカードを受け取ったので,私もそこから少し分けてもらった。Aから,5月15日午前5時45分頃,電話で犯行方法を伝えられ,午前7時頃,犯行開始を指示された。私は,A以外に,Xさんという人物から本件の情報を聞くこともあったが,Xさんから犯行延期,開始の連絡を受けたことはなく,これらの連絡はAから受けた。
出し子やOからトラブルの連絡があり,Aに指示を仰ぐと,Aは,いったん電話を切って,上位者に指示を仰いでいる様子だった。
その日の犯行終了が決まったのは午後6時頃であり,その連絡もAから受けた。
私が回収した現金は,自由が丘のホテルのAの下へ運んだ。Sから,Oが回収した現金の一部を強盗に奪われたと聞いた。
Aは上位者と何度も電話していたが,
都合が悪くなると電話に出なくなり,
私に電話に出るよう指示してきた。Aは,私やSに,電話の相手はWだと言っていた。私は,Aの携帯電話を使い,03から始まりWと登録された電話番号の相手と連絡を取り,その指示に従い,車に乗った人物に現金を渡した。
5月末か6月頃,代官山のカフェで,A,Wらしき人物,Y及び私の4人が集まった。そこで,Wらしき人物が資料を持ってきて,私以外の3人が何かを話しているのを見た。3人はOが強盗に奪われた金額について話をしていると思った。
Vの供述要旨
被告人とは,被告人が組織する振り込め詐欺グループの顔合わせで知り合った。
3月頃,
被告人から
すげえことがあるぞ
と言われた。
今から考えると,
これは本件のことだと思う。
私は,事件の1,2週間前,被告人に連れられて,恵比寿のマンションの一室に行った。そこには,Rのほかに10人ほどの氏名不詳者がいて,この者たちが,VIPと書かれた焼肉屋のカードや白色のカードを,パソコンにつないだカードリーダーに通す作業を繰り返していた。
被告人が,Rに,もうカードを持って行っていいですかと尋ねると,Rはまだ駄目だ,細かいことが決まってないと答えていた。Rは,今のところ分かっている範囲として,カードを使って現金を引き出す方法を被告人に説明した。私は,被告人に指示され,それを書き留めた(本件メモ)
。私が書いた
のは,本件メモのうち太字の部分であり,内容や筆跡からすると,自分が書いたものに間違いない。
本件メモは,被告人と一緒に被告人の自宅に持って行き,そこに置いて帰った。
5月14日の夜,被告人と一緒に六本木のバーにいたが,被告人から指示され,誰かに,封筒に入ったカードを渡した。
5月15日,私が用意した出し子の見張りを被告人の指示でした。被告人から電話で詳しい犯行方法と実行開始時刻を聞き,
出し子に伝えた。
犯行中,
被告人から他のところはもう1000万円ぐらい出しているぞなどと言われた。
午前11時から12時頃,引き出せなくなり,被告人から,また復活させるから待機するよう指示されたが,結局再開されなかった。
私が見張っていた出し子が引き出した現金は私が回収し,被告人の自宅に届けた。そこで,被告人は,電話で,お金を集めた人間が拉致され強盗に遭ったという話をしていた。
被告人は,
誰かに電話をして,
今こっちにある分を持って行きますと言い,
私と被告人は,
集めた現金を,
カードを偽造していた恵比寿のマンションに,
一緒に届けた。
そこには,
一見したところ億単位の現金が置いてあり,
Rが,
もし今ここに捜索が入ったらこの金をクッションにして飛び降りて逃げるなどと冗談を言っていた。被告人とRは,福岡の方が遅れているといった話をしていた。
2
各供述の信用性
Aの供述の信用性について
Aの供述の概要は,本件犯行について,九州と千葉の犯行を取りまとめ,上位者の指示を下の者に伝え,カードを渡し,窃取した現金を回収し,Nに指示して上位者に渡したというもので,自己の重大な刑事責任を自認する内容である。そして,その具体的な内容は,前記のとおり,カードを被告人から受け取り,
実行者側に配布した経緯,
現金を集めて上位者に渡した経緯等,
重要な内容についてNの供述と整合し,また,5月14日頃から5月16日頃にかけて,被告人,N,C,Uらと頻繁に連絡を取っていることが,判明している通話履歴により裏付けられている。
そこで,本件で特に検討すべきは,Aが,被告人の関与について,部分的に虚偽の事実を述べている疑いがあるかどうかである。
Aは,自分の上位者はRと被告人の2名であると述べるが,これは,犯行当時Aが本件はRとWの仕事だと言っていた
旨のNの供述と整合している。
Aが,真実は被告人が本件に主体的に関与していなかったにもかかわらず,犯行に関与している最中の共犯者に対しWの仕事などと虚偽を述べる理由はない。
そして,Aは,主に被告人と連絡を取り合っていた旨述べつつ,Rと被告人のいずれから言われたか記憶にない部分と,被告人から言われた部分を明確に分けて供述しているのであり,Rや第三者の行動と被告人の行動をすり替えて供述している様子はうかがえない。
被告人とAが,犯行前後において,頻繁に電話連絡しているのは,前記のとおりである。
弁護人は,Aは,Oから現金を強取した者の背後に被告人がいると考えており,怨恨から被告人に不利な供述をする動機がある旨指摘するが,Aは,Oから現金を強取した者の背後に被告人がいたことを後に知り,そのことで被告人ら上位者に裏切られたと感じた旨を述べつつ,Rと被告人のいずれから指示を受けたかは分からないなど,被告人に責任を押し付け得る場面で被告人に有利な供述をしている。
本件についての刑が既に確定していることからしても,
Aにとって,
今更,
被告人の関与についてのみ虚偽供述をする理由があるとは認められない。以上によれば,被告人の関与について述べる部分を含め,Aの供述には高い信用性を認めることができる。
なお,
Aの供述には,
代官山のカフェに持参した資料について,
被告人は,
資料の意味が分かっておらず,上から指示されて持ってきた様子だと述べるなど被告人が犯行の内容を知らなかったかのように述べる部分があるが,Aの供述全体から認められる被告人の本件犯行への関与の態様によれば,被告人は犯行の内容を認識した上で,RとAの間で連絡役を果たしていたと推認するほかはなく,Aの供述のうち,被告人の主観について推測を述べた上記部分は採用できない。
Nの供述の信用性について
Nの供述は,Aの供述と概ね整合し,相互に信用性を補完し合っている。また,Nは,被告人とほとんど面識がなく,被告人に不利益な虚偽供述をする理由がないことによれば,その供述は,被告人に関する部分を含め,信用し得る。
Vの供述の信用性について
Vの供述は,被告人に指示されて六本木でカードを誰かに渡したこと,犯行方法や犯行開始時刻が直前になって伝えられたこと,犯行後待機するよう指示されたが,結局犯行は再開されなかったことなど,実際に体験したのでなければ知り得ない事実を含んでおり,A,N等他の者の供述や,実際の犯行における経過とも整合している。
また,本件メモの太字部分を記載したのは自分であるとの点については,自己の責任にとって著しく不利益な供述である上,本件メモの太字部分を誰が書いたのかは分からないが,細字での書き込みは自分だとのNの供述と整合している。
別のメモとの混同の可能性を指摘する反対尋問に対しても,具体的な理由をもって区別して説明し,揺らいでいない。
そして,Vが被告人の関与についてのみ虚偽の供述をしている可能性についても,被告人の関与以外の部分について,他の者の供述や客観的証拠との整合性を保ちつつ,被告人の関与についてのみ虚偽の供述をするのは困難である。
弁護人は,Vは,本件について刑事責任を問われていないだけでなく,被告人に指示されてカードを届ける際,そこからカードを抜き取って現金を窃取し,そのことで被告人から追われている者であって,被告人に不利な虚偽供述をする理由があり,供述内容も不合理で,以前には供述していなかった本件メモの作成について公判廷で初めて供述し,内容も変遷しているなどとして,その信用性を争う。
しかし,Vは,実際にAを介して指示を受けた共犯者らが供述する本件犯行の実際の経過と整合する供述をしているのであり,被告人から預かったカードを盗んで他の実行犯らと無関係であるとすれば,このような供述をなし得ないはずである。本件メモについて公判廷で初めて供述したとの点も,Vは,捜査段階では誰からもこのメモについて質問されなかったと述べるところ,この点についても,捜査段階では本件メモの作成を否認するなど,以前に相反する供述をしたわけでもなく,不合理とはいえない。その他,弁護人が不自然と指摘する点は,いずれもVの供述の信用性を失わせるものとはいえない。
以上によれば,Vの供述する内容が,全体として前提事実と整合し,信用できるAの供述とも補強し合うこと,更にその内容が具体的で不合理な点はないことからすると,被告人の関与に関する部分を含め,Vの供述は信用し得る。
小括
以上によれば,

で適示した事実の範囲において,
A,N及びVの供述は信用でき,その供述に沿う事実を認めることができる(ただし,前述のとおり,Aの供述のうち,被告人が犯行の内容を知らなかったかのように推測して述べる部分は採用できず,これに沿う事実を認めることはできない。。

各証人の供述の相違点について検討すると,Aが上位者から実際に犯行開始の指示を受け,これをNに伝えたかどうかについて,AとNの供述が食い違っている。それぞれの供述を裏付ける証拠は存在せず,Nからも犯行開始の連絡を受けた旨のAの供述が信用できないとはいい切れないことから,犯行当日早朝の犯行開始の電話連絡を,何時頃,誰が誰に対して行ったかについては曖昧な部分が残る。しかし,本件の犯行計画において,被告人がRとともに,Aに対し,犯行開始を連絡することが予め予定されていたとのA供述の核心部分については,これを揺るがす事情は認められず,Nの供述とも矛盾しないため,この限度でAの供述に沿う事実を認めることができる。また,Nの供述のうち,回収した現金を上位者に渡す場面に関し,現金を受け取った人物の特定に関するNの供述は不確実であり,この人物が被告人自身であると認定することはできない。しかし,Nが現金の受け渡しの直前にAの指示で電話に出た携帯電話の登録名や電話番号によれば,Nが現金を受け渡した人物がRの意を受けており,被告人が少なくともその連絡場面に関与していたことは証拠上認められる。
3
被告人の供述について
これに対する被告人の供述の骨子は,①自分がAと連絡したのは,RとAは互いに携帯電話のアプリ以外の連絡先を知らず,アプリでの通話がつながらないときに,他方が連絡を取りたがっていることをもう一方に伝えて取り次いだだけで,連絡の内容までは知らない,②Rの指示で,結果としてカードの入った封筒を他人に渡したことはあるが,その際中身については知らなかった,というものである。
しかし,被告人の供述は,以下の理由で信用できない。
まず,通話の一方当事者であるAは,このような供述をしていない。本件犯行は,少なくとも400枚以上に及ぶ大量の偽造デビットカードを使用して,
九州及び千葉の広域各県にまたがり,
一斉に大量の現金を窃取し,
その現金を東京にいる主犯格に集約することを計画した組織的犯行であり,出し子に対し,開始の連絡を受けてから引き出しを開始することや引き出し方法が具体的に指示されていたのは,最初の不正な引き出しから,これが認知されてカードの利用が停止されるまでの間に,引き出しを集中して行うためだと推認できる。
このような本件犯行を,
時機を逸せず遂行するためには,
主犯格の意思を,
末端の出し子に至るまで確実に伝達することが重要な意味を持つのであり,犯行の内容を知らず,連絡の意味や内容を理解できない者が,犯行当日を含むRとAとの間の連絡を仲介することは想定し難いというべきである。5月14日から16日の未明にかけ,被告人とAとの間で相互に多数の発着信が集中しているが,これらがすべて一方が他方へ連絡を取りたがっていると伝えるだけの取次にすぎないというのも非常に不自然である。連絡役の重要性やRとの関係性からすると,被告人は,Rと近しい立場として,少なくとも予定された犯行の内容を知る者として,Aとの連絡に当たったと推認するのが自然である。
以上に加え,その外観や量から一見して犯罪性が疑われるカードを,散逸や発覚の危険を冒してまで,当該犯罪と無関係の者に持たせるとは通常考え難いことからしても,TやOにカードの入った封筒を渡した際,被告人が,その内容物を知らなかったとはいえない。
以上によれば,被告人の供述は信用できない。
4
まとめ
これまでの検討を総合すれば,被告人は,本件犯行について,次の役割を果たしたと認められる。
本件犯行の計画段階から犯行当日,犯行後現金を回収する時点にかけて,主犯格であるRの意を受けて,Rの指示を各地の実行犯グループを取りまとめるAに連絡した。
5月上旬ころ,カードの作成現場に一部立ち合い,Vに指示して,カードの使用方法が記載された本件メモを作成させた。カードの調達後は,そのうち相当数の管理をRから任され,Aからカードの提供を要望された場合,これに応じてカード及び本件メモを交付した。
5月6日頃,Aに対し,当初5月8日に予定されていた犯行が延期になった旨連絡した。
当初の犯行計画では,犯行当日(5月15日)
,Rと被告人からの開始の合
図をAが受け,AがCとNにそれを連絡し,順次下位の共犯者に犯行開始を伝達する段取りとなっていた。
本件犯行当夜,被告人方に集約された本件と同種の犯行により引き出された現金を,Vと共にRがいる恵比寿のマンションまで運搬した。
5月16日早朝頃,Aから指示されたNと連絡を取り,Nが何者かに対しAが取りまとめた現金を渡したことに関与した。
5月末か6月頃,代官山のカフェで,A,Nほか1名と会い,資料を示して,Oが強盗に奪われたとされる金額について話をした。
以上の事実によれば,被告人は,計画段階から犯行中,犯行後にかけて,本件犯行に深くかかわっていると認められ,
被告人が本件犯行の内容を知らずに関与した可能性はなく,故意及びR,Aらとの意思連絡があったものと認められる。
そして,被告人が果たした役割は,本件犯行の遂行に不可欠で重要なものと認められ,正犯性も認められる。
第4

結論
よって,被告人は本件犯行の共同正犯であると認められる。
(量刑の理由)
本件は,主犯格の統率の下,大量の偽造デビットカードを調達し,九州や千葉の広域各県にまたがり,多数の実行犯を動員して,各地のコンビニエンスストアに設置された現金自動預払機から一斉に多額の現金を窃取したという,不正作出支払用カード電磁的記録供用及び窃盗の事案である。
本件犯行は,周到な準備と計画の下で遂行された大規模な組織的犯行であり,その結果もたらされた被害額は合計9590万円と多額に上る。決済システムの安定を害した程度も非常に大きく,社会的な影響も無視し得ない。本件の犯情は,本件の各罪が予定する犯罪類型の中では非常に重い。
中でも被告人は,主犯格の側近として,主犯格と各地の犯行を統括する仲介者との間の連絡役を担い,事前の準備から窃取金の回収に至るまで,本件犯行の遂行過程の全般を通じて重要な役割を果たしている。その刑事責任は,本件に関与した全共犯者の中でも相当に重い。もっとも,被告人は,主犯格とは明確に上下関係があり,主犯格の指示の下で行動していたことがうかがわれ,その責任は主犯格と同等とまではいえない。
一般情状についてみると,被告人は,自らの責任を矮小化するような弁解に終始し,真摯な反省は認められない。他方,被告人には前科前歴がなく,被告人の父や知人が今後の監督を誓約していることなど有利な事情もある。
行為に対する責任を中心的に考慮し,これに一般情状を合わせ考慮した上で,被告人に科すべき刑は懲役12年が相当と判断した。
(求刑:懲役14年)
令和2年10月5日
福岡地方裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

神原
裁判官

川口洋平
裁判官

池上恒太浩
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