判例検索β > 平成29年(行ウ)第26号
遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
事件番号平成29(行ウ)26
事件名遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
裁判年月日令和2年10月14日
裁判所名・部札幌地方裁判所
判示事項の要旨看護師として勤務していた労働者が,勤務する病院での業務に起因して精神障害を発病し自殺したとして,原告が労災保険法に基づき遺族補償給付及び葬祭料を請求したところ,処分行政庁がこれらを支給しない旨の処分をしたことから,原告が被告を相手として,上記各処分の取消しを求めた事案において,労働者が精神障害を発病して死亡したことにつき,業務起因性を認めた事例
裁判日:西暦2020-10-14
情報公開日2020-11-16 12:00:19
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主1文
処分行政庁が平成28年1月28日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法による遺族補償給付を支給しない旨の処分及び葬祭料を支給しない旨の処分をいずれも取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2

事案の概要
本件は,社会医療法人社団A(以下本件法人という。
)が開設するB病

院(以下本件病院という。
)において看護師として勤務していた期間中に
死亡したCの父である原告が,Cは本件病院での業務に起因して精神障害を発症し自殺したとして,札幌東労働基準監督署長(処分行政庁)に対し,労働者災害補償保険法(以下労災保険法という。)に基づいて遺族補償給付及び葬祭料を請求したところ,処分行政庁が平成28年1月28日付けでこれらを
支給しない旨の各決定(以下本件各処分という。
)をしたことから,被告
を相手として,本件各処分の取消しを求めた事案である。
1
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認められる。


当事者等(甲21〔7頁〕
,乙1〔212,1094~1096,110
2頁〕
,11〔2,14頁〕


C(昭和53年9月5日生)は,原告の子であり,平成25年4月1日,同日から3か月間の試用期間付きで本件法人に雇用され,看護師として勤
務を開始し,同月8日,本件病院の第4病棟(主として循環器内科の患者が入院する病棟。以下,単に第4病棟という。
)に配属された。
原告は,Cの父であり,Dは,Cの姉である。

本件病院は,内科,循環器内科,心臓血管外科,消化器内科及び放射線科で診療を行う病院であり,入院患者病床数は145床,職員総数は220名である。
Cが本件病院に勤務していた当時の看護部長はEであり,第4病棟の看
護課長はGであった。また,第4病棟には,新人看護師の指導担当者を監督する立場にもある看護主任として,H及びI(旧姓J)がいたところ,Cに対する新人教育指導は,主に,H,K及びLが担当していた。なお,Cが本件病院に勤務していた当時,第4病棟にはMが配属されていたが,平成25年7月,ICUに異動となり,同月末,本件病院を退
職した。


Cの死亡に至る経緯等(甲20〔6頁〕
,乙1〔1070~1072頁〕

16,26〔3~5頁〕
,36〔14頁〕
,証人G〔1頁〕

Cは,平成25年6月24日,Gの面談を受け,同日,Gから,Cの試用期間が1か月間延長される旨告げられた。

Cは,その頃,適応障害(ICD-10分類F43.2)を発病し,同年7月上旬頃,うつ病エピソード(同F32)を発病した。
Cは,同月26日,本件病院を無断欠勤し,自宅においてビニール袋を被った状態で自殺を図り,酸素欠乏による窒息が原因で死亡した。


本件訴訟に至る経緯等(甲1,2,4,5,乙1〔表紙,1,83,84,86,87,1154頁〕
,2)

原告は,平成27年3月23日,処分行政庁に対し,労災保険法に基づき,遺族補償給付及び葬祭料を請求したところ,処分行政庁は,業務による心理的負荷が主要な原因となってCが精神障害を発症したものとは認め
られないとして,平成28年1月28日付けでこれらを支給しない旨の各決定をし(本件各処分)
,原告は,同月29日,本件各処分に係る通知を
受け取った。

原告は,同年3月7日,北海道労働者災害補償保険審査官に対し,本件各処分の取消しを求めて審査請求をしたところ,同審査官は,同年7月28日,同審査請求を棄却する旨の決定をし,原告は,同年8月2日,同決定に係る決定書謄本を受け取った。

原告は,同年9月1日,労働保険審査会に対し,再審査請求を行ったところ,同審査会は,平成29年5月26日,同再審査請求を棄却する旨の裁決をし,原告は,同月29日,同裁決に係る裁決書謄本を受け取った。

原告は,平成29年11月8日,本件各処分の取消しを求めて,本件訴えを提起した。



流暢性障害について(甲8,9,19)
流暢性障害とは,音から音への移行が途切れたり,滑らかではない特異的
な話し方(発語の非流暢性)を呈したりすることによって,発話者又はその家族にとって心理的,社会的に大きな支障を来している状態をいうところ,
その主要な症状は発語の非流暢性であり,その代表的位置にあるのがきつ音(発達性きつ音)である。
きつ音は,発話・発声器官に器質的な問題はないが,これらを協調して動かすことが困難な障害であって,その中核症状として,連発(音・音節・語の部分を3回以上繰り返す)
,伸発(音が伸びる)及び難発(音が出ない)

がある。
きつ音には,中核症状以外にも症状や特徴がいくつかあるところ,その中には,顔面やその他の身体が随伴して動くこと,
(きつ音を避けるため)言
いやすい表現に言い換えたり,
えー
あの等の間投詞を多用したりする
こと,ストレスや緊張によって症状が出やすいことなどがある。

2
精神障害の業務起因性に関する行政通達の制定及び改廃経過(乙3,6~9)旧労働省は,業務によるストレスを原因とする精神障害に関する労働災害認定に関し,精神医学,心理学及び法律学の研究者で構成される専門検討会から,精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書
(乙3)の提出を受け,同
省労働基準局長は,平成11年9月14日付け基発第544号心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について(乙7。以下判断指針

という。
)を示した。
その後,厚生労働省は,平成23年11月8日,法学及び医学の専門家により構成される精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会から,審理の迅速化や効率化を図るための労災認定の在り方に関する検討結果である精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(乙9。以下認定基準専門検討会報告書という。
)の提出を受け,同省労働基準局長は,同年12月26
日付け基発1226第1号心理的負荷による精神障害の認定基準について(乙6。以下認定基準という。
)を発出し,精神障害の業務起因性につい
ては認定基準に基づき判断することとして,判断指針を廃止した。認定基準の概要は,別紙1のとおりである(なお,以下における認定要件①認定要件②認定要件③及び別表1の具体的内容については,,

別紙1及び別紙2参照。。

3
争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,Cが精神障害を発病して死亡したことにつき業務起因性が認
められるかであり,これに関する当事者の主張は以下のとおりである。(原告の主張)


判断の枠組みについて

認定基準は,精神障害の業務起因性を認める要件として,業務による心理的負荷の評価について,

同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されるものであり,『同種の労働者』とは職種,職場における立場や職責,年齢,経験等が類似する者をいう。

と定めるところ,ここでいう同種の労働者については,以下のように解すべきである。(ア)認定基準専門検討会報告書(乙9)では,労働者の職種や経験等は様々であることから,労働者に与える心理的負荷の程度を一律に定めることは適当ではないため,労働者の属性に基づく修正をすることによって公平性を保つ必要があり,精神障害を発病した労働者と職種,職責,
年齢,経験等が類似する者を想定し,そのような者にとってどの程度の心理的負荷があるかを判断する方法が合理的であるとされている。このように,心理的負荷の評価基準となる同種の労働者とは,労働災害に遭遇した労働者本人から離れた全労働者の平均像を意味するものではなく,当該労働者が障害者という属性を有している場合においては,当
該労働者と同種の障害を有する労働者として理解されなければならない。(イ)
ストレス-脆弱性理論についても,当該労働者が障害者という属
性を有しており,その障害があるからこそ強いストレスが発生したという場合において,そのストレスの強弱を障害者という属性を有しない労働者を基準に判断してしまっては,そもそも当該ストレス自体が発生し
ていないか,発生していたとしても些細なストレスであったとの結論になり,その結果,障害者の精神障害の発病は,全て個体側の問題として理解されることとなってしまい,不当である。
(ウ)裁判例においても,労働者が障害を有することを前提として雇用されたことを主要な要件として,当該労働者を基準として業務起因性を判断
したものがある。本件で,Cは,重度のきつ音を有することを前提に本件法人に雇用されているから,Cの死亡についての業務起因性を判断するに当たっては,Cと同種の障害を有する労働者,すなわち,重度のきつ音を有する労働者(C本人)が基準とされるべきである。

また,同じ職場において通常の業務に就いている労働者であっても,ストレスに対する脆弱性の程度には個人差があるところ,使用者は,そのような個人差も含めて,多種多様な労働者を雇用することによって営利活動を行い,経営目的を達成している。そのため,労働者が労働災害に遭遇した場合,被災労働者の損害を補償するとともに被災労働者又はその遺族の生活をも保障するという労災補償制度の趣旨に鑑みれば,
同種の労働者
とは,同種労働者の中でその性格傾向が最も脆弱である者と解すべきであ
る。


業務上の心理的負荷の評価等について
Cには,業務以外の心理的負荷及び個体的要因は認められず(認定要件③)
,次のとおり,業務による強い心理的負荷が認められる出来事が多数存
在した(認定要件②)
。したがって,Cの死亡は本件病院での業務に起因す
るものといえる。

文章を読み上げさせる説明練習を繰り返していたこと

(ア)本件病院では,きつ音のためにうまく発語することができないCに対し,きつ音の症状なく発語し,患者に分かりやすく説明することを目的として,繰り返し,文章の読上練習をさせていた。しかしながら,きつ音について何らの専門的知識も有さない指導担当者による読上練習によって,きつ音の症状のない説明を実現させるなどということは医学的に不可能である。このような繰り返しの読上練習は,障害者に対して障害に起因する不可能を強制するものであり,業務指導の範囲を大きく逸脱
することは明らかであるから,具体的出来事としては,別表1の(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けたこと(項目29)に該当
する。
(イ)この場合の心理的負荷の程度についてみると,繰り返しの読上練習は,業務指導の範囲を逸脱している上,障害者に対し,障害に起因する不可
能又は困難の達成を繰り返し求めることで障害者の人格を否定するものであり,かつ,執拗に行われている。また,繰り返しの読上練習は,きつ音を有するCにとってこの上ない苦痛を与える危険な行為であるにもかかわらず,職場全体の方針として,極めて組織的かつ継続的に行われた。さらに,入職直後の新人看護師であったCは,このような練習を強制されており,職場の中に,これを見直そうとする者や,別の解決策によって対応しようとする者はおらず,きつ音の問題に対する職場の支援,
協力等は著しく欠如していた。そのため,繰り返しの読上練習の心理的負荷の程度は強となる。

上記ア以外の点において,きつい言い方で厳しく叱られていたこと
(ア)Cは,上記アの繰り返しの読上練習の他にも,指導担当者であるHやK等から,厳しい指導及び叱責を何度も受けていた。Cが受けた指導及
び叱責は,具体的出来事としては,別表1の上司とのトラブルがあった(項目30)に該当する。
(イ)この場合の心理的負荷の程度についてみると,Cが受けた指導及び叱責は,上司から,業務指導の範囲内である強い指導及び叱責を受けたものであるから,心理的負荷の程度は中となる。

ここで,Cに対する厳しい指導及び叱責は,複数名の指導担当者によって何度も行われていたため,出来事が複数ある場合の全体評価(別紙1の4⑵ウ)を行うと,
一つの出来事のほかに,それとは関連しない他の出来事が生じている場合に該当し,Cに対する厳しい指導及び叱責は,出来事の数として多大であることから,その心理的負荷は強
となる。
仮に,Cに対する厳しい指導及び叱責が,
出来事が関連して生じている場合に該当すると考えたとしても,複数の指導担当者から,心理的負荷が中と評価される厳しい指導及び叱責が何度も行われることで,その心理的負荷は強となる。


克服できないきつ音に起因するコミュニケーション問題(意思・伝達能力,仕事の速さ)の克服を業績目標として課され,達成できない場合には試用期間を再延長又は本採用を拒否することを予告され,その不達成を理由に試用期間を延長されたこと
(ア)Cは,Gによる人事評価が記載された本採用考課表において,意思・伝達能力が1点
(不良)であること及び仕事の速さが
1点
(遅い)であることを理由に本採用せずとの評価を受け,
試用期間を延長された。このことは,Cが,本採用に向けて,
意思・伝達能力及び仕事の速さについての低評価の克服を業績目標として課されていたことを意味する。Cは,きつ音に起因するコミュニケー
ション問題により,本採用考課表において低評価を受けたものであって,上記業績目標の達成はきつ音の克服を求めるものにほかならないところ,きつ音は,努力や訓練によって克服することが不可能であるから,その達成は,不可能又は著しく困難なものであった。Cに上記業績目標が課されたことは,具体的出来事としては,別表1の達成困難なノルマが課された(項目8)に該当する。
なお,認定基準におけるノルマとは,業務量,期限及び目標等の
意味合いも含む幅広い概念であるから,Cに課された上記業績目標はノルマに該当する。
(イ)この場合の心理的負荷の程度についてみると,Cが,
意思・伝達能力が1点
(不良)仕事の速さが1点

(遅い)であることを
理由に本採用せずとの評価を受け,試用期間を延長されたことからすると,Cには,上記業績目標を達成できない場合には,試用期間の再延長や本採用の拒否等のペナルティが課されていたといえる。Gによる試用期間延長の通告は,上記業績目標を達成できない場合には,解雇も
辞さないことの予告にほかならない。そのため,客観的に相当な努力があっても達成困難なノルマが課され,達成できない場合には重いペナルティがあると予告された場合に該当し,その心理的負荷の程度は強となる。

上記業績目標を達成できなかったこと
上記原告の主張ウ(ア)のとおり,Cは,
意思・伝達能力及び仕事の速さについての低評価の克服を業績目標として課されていたとこ
ろ,これを達成することができず,実際に試用期間を延長された。そのため,具体的出来事としては,別表1のノルマが達成できなかった(項目9)に該当し,ノルマが達成できなかったことにより昇進の遅れ等を含むペナルティがあったことから,心理的負荷の程度は中となる。


(上記業績目標の不達成とは無関係でも)試用期間を延長されたこと
(ア)Cの試用期間が延長されたことは,上記原告の主張ウ(ア)の業績目標の不達成との関係を考慮しないとしても,具体的出来事としては,別表1の非正規社員である自分の契約満了が迫った
(項目28)に該
当する。
(イ)認定基準上,具体的出来事としての非正規社員である自分の契約満了が迫ったについて,その平均的な心理的負荷の程度は弱とされているが,これは,非正規社員においては,期間満了によって失職の危険が生じたとしても,それはもとより想定されていたことであるから,
心理的負荷はさほど強いものにならないとの理由によるものと考えられる。これに対し,期間の定めのない労働契約を締結している労働者にとっては,試用期間の延長や試用期間満了後の本採用拒否は,通常は想定外の出来事である。
よって,Cのように,現に試用期間を延長され,本採用を拒否される
危険にさらされていた労働者の心理的負荷が,契約期間の満了にさらされている非正規社員の平均的心理的負荷(

)よりも大きいことは明
らかであって,心理的負荷の程度は中となる。

各種の新人研修に参加できなくなっていたこと

(ア)Cは,試用期間を延長され,新人看護師の中で一人だけ不安定な身分に据え置かれていたのみならず,看護師としての成長に必要不可欠な各種の研修に参加できなくなっていた。

すなわち,Cの試用期間延長後,Cが死亡する前に作成された新人研修の計画書には,Cと同期の新人看護師の氏名は記載されているが,Cの氏名のみ記載がない。このように,Cは,一人だけ試用期間中の不安定な身分に据え置かれていたことによって,新人研修に参加する機会を奪われていた。Cが各種の新人研修に参加できなくなっていたことは,
具体的出来事としては,別表1の非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けた(項目24)に該当する。
(イ)この場合の心理的負荷の程度についてみると,Cは,非正規社員であるとの理由又はその他の理由により,仕事上の差別,不利益取扱いを受け,業務の遂行から疎外又は排除される取扱いを受けたことによるもの
であり,心理的負荷の程度は中となる。

患者からの苦情を受けていたこと

(ア)Cは,きつ音のために流暢な発語ができなかったことから,患者から,何言っていたのか分からないとか別の看護師に聞くと言われる
ことや,認知症の患者から,
あっちに行けとか何を言っているか分からないから気持ち悪いなどと言われることがあった。そのため,具体的出来事としては,別表1の顧客や取引先からクレームを受けた(項目12)に該当する。
(イ)a

この場合の心理的負荷の程度についてみると,患者からの苦情を
受けて,本件病院では,Cに威圧的な患者の担当を任せないなどの対応のほか,Cと指導担当者による説明練習を行うという対応が必要となった。そのため,Cの業務内容及び業務量にも変化が生じたはずであり,業務に関連して,顧客等からクレーム(納品物の不適合の指摘等その内容が妥当なもの)を受けたとして,その心理的負荷の程度は中となる。
ただし,患者からの苦情は,Cのきつ音に対するものであって,

本人の意思や努力によってはどうすることもできない障害を理由にするものであることから,内容が妥当なものとはいえず,患者から苦情を受けたことによるCの心理的負荷は,実際には中を超え
たものであった。
b
また,患者からの複数の苦情は,全て関連して生じているも
のとは考えられないため,Cが患者からの苦情を受けていたことは,一つの出来事のほかに,それとは関連しない他の出来事が生じている場合に該当する。そして,Cに対する苦情は多数あり,各苦情の心理的負荷の程度は中を超えるものであったことからする
と,出来事が複数ある場合の全体評価を行った場合,Cが患者から
の苦情を受けていたことの心理的負荷の程度は強となる。
仮に,Cが患者からの苦情を受けていたことが出来事が関連して生じている場合に該当すると考えたとしても,心理的負荷の程度が中を超える苦情を多数の患者から何度も受けていたことか
ら,その回数が増えるにつれて,心理的負荷の程度は強となっ

た。

出来事が複数ある場合の総合評価について
本件では,Cが第4病棟に配属されてから死亡するまでの約3か月半という短期間に,上記ア~キという多数の出来事が生じており,各出来
事の心理的負荷の程度は,上記ア~ウ及びキはいずれも単独で強であり,上記エ~カも少なくとも中である。また,上記ア,イ及びキは,Cの勤務中に継続的に発生していた出来事であり,その他の出来事が発生した際にも,Cに対して同時並行的に心理的負荷を与えていた。そのため,上記ア~キの出来事を全体として評価した場合においても,Cに対する業務による心理的負荷の程度は強となる。
(被告の主張)


判断の枠組みについて

問題となる業務が,ある労働者に生じた傷病との関係において危険性の要件を満たすか否か,すなわち,当該業務が危険を内在させているものかを判断するに当たっては,当該業務の内容や性質に基づいて客観的に判断すべきであり,業務外の要因である本人の要因によって業務の危険性が左
右されるのは不合理である。また,労災保険制度の前提となる使用者の補償責任が,危険責任に基づく無過失責任であり,また,労災保険制度が使用者の保険料により運営されていることに照らせば,個体側要因の大きな労働者に発生した精神障害まで労災保険制度で救済することは,制度の趣旨に反する。したがって,
同種の労働者は,あくまで平均的な労働者,

すなわち,日常業務を支障なく遂行できる労働者を基準とすべきである。イ
原告は,平均的な労働者を,同種の労働者の中でその性格傾向が最も脆弱な者と解すべきであると主張するが,脆弱性が大きいかどうかは外部からうかがい知ることができない上に,概念が抽象的であって,客観的にされるべき業務起因性の判断になじまない。また,そもそも,脆弱性は,業
務外の要因であるのに,労働者が脆弱であればあるほど業務の危険性が肯定されるような考え方も合理的ではない。


業務上の心理的負荷の評価等について
本件では,以下に述べるとおり,別表1の具体的出来事が複数想定される
が,いずれも心理的負荷の程度は弱というべきで,全体としての評価も弱であることから,業務による強い心理的負荷があったとは認められない(認定要件②)
。きつ音を有する者の思考は,自己を否定する傾向にあり,
Cについても,個体側の脆弱性が存在していたとも考えられるため(認定要件③)
,Cの死亡に業務起因性は認められない。

文章を読み上げさせる説明練習を繰り返していたという事実はないことCが行っていた説明練習は,Cが患者に説明しに行く前に,緊張するこ
となく説明するための準備として行われているものであり,業務指導の範囲内である。また,説明練習において,指導担当者が怒鳴ったり,暴言を吐いたりしたといった事実は存在せず,Cのきつ音の治療や改善という不可能なことを要求するものでもなかったことから,Cの人格や人間性を否定するとの評価は当たらない。さらに,説明練習自体が行われ
たのは5回程度であり,1回の説明練習の中で説明板(患者への説明事項をまとめたもの)を通して読むのは二,三度であるから,説明練習が執拗に行われたということもできない。加えて,他の看護師が,Cの説明練習の様子を笑いながら見ていたというような出来事もなかった。以上に照らすと,Cが行っていた説明練習は,別表1の(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた(項目29)には該当しない。

上記説明練習以外の点において,きつい言い方で厳しく叱られていたという事実はないこと

(ア)Hや他の指導担当者がCに対して行った指導は,Cに対するのみではなく,他の新人看護師に対しても行われていたもので,患者の病態や生命に関わる医療現場における看護師の職務の性質上,時には厳しい指導となることも一定程度想定されているというべきである。また,Cに対する指導は,長時間にわたって説教をしたり,怒鳴るような大声を出したりするというものではなかったから,Cが,看護の現場において想定
される一般的なものを超える厳しい指導及び叱責を受けていた事実は存在しない。
(イ)Cが指導担当者から受けていた指導及び叱責は,具体的出来事としては,別表1の上司とのトラブルがあった
(項目30)に該当し得る。
しかしながら,あくまで業務指導の範囲内のものであるから,その心理的負荷の程度は弱にとどまる。
なお,Cに対して行われていた指導及び叱責は,業務を遂行するため
に必要な新人看護師の教育プログラムの一環として行われていたものであるから,複数の指導担当者から複数回にわたり指導及び叱責が行われたとしても,出来事が関連して生じている場合として,全体で一つの出来事として心理的負荷の程度を評価すべきである。

克服できないきつ音に起因するコミュニケーション問題(意思・伝達能力,仕事の速さ)の克服を業績目標として課されたという事実や,これが達成できない場合には試用期間を再延長又は本採用を拒否することを予告されたという事実はなく,その不達成を理由に試用期間を延長されたともいえないこと

(ア)Gは,Cに,上司等に対する報告・連絡・相談(以下報連相という。
)や先輩看護師との調整を行う場面での遅れといった改善点があったこと,採血や注射等の基本的な看護技術の進捗面で他の新人看護師より遅れていたこと,患者とのコミュニケーションが十分に取れない場面があったことについて,平成25年6月24日,Cとの面談を行い,同
面談におけるCとの話合いの結果を踏まえて本採用考課表を作成したものであり,
意思・伝達能力及び仕事の速さについての低評価の
克服は,同日時点で初めて,今後の目標とされたものである。そして,Cが試用期間の延長を通知されたのは同日のことであるから,Cが,上記目標の不達成を理由に試用期間を延長されたという事実は存在しない。
また,Cに対して試用期間の延長が通知される以前において,Cに対して何らかの業績目標が課された事実はない。
(イ)Cは,報連相等の基本的な看護技術の習得が不足していることを理由に試用期間を延長されたものであり,試用期間の延長の理由が,Cのきつ音に起因するコミュニケーション問題の克服でないことは明らかである。また,報連相は,看護実践上において基本的かつ重要なものであり,Gが,Cの試用期間延長の理由として報連相を改善するという目標を掲げたことは妥当である。また,仕事の速さについても,どのような仕事でも一定の速度が求められるものであるし,看護の現場では,患者への措置や他の職員との連携において速さを欠くことにより患者の病態や生命に関わることもあり得るから,新人看護師に対して求める成長の内容
として当然の事柄である。したがって,GがCとの間で決めた目標は,新人看護師一般にとって達成可能なものであり,Cにとっても達成可能なものであった。
(ウ)そもそも,
ノルマとは,ロシア語で,労働者が一定時間内に遂行
すべきものとして割り当てられる労働の基準量を意味し,これが転じて,
一般に勤務や労働の最低基準量を意味するようになった言葉であり,ノルマにおいて目標として課されるものは量である。本件でCの試用期間延長の理由となった報連相や仕事の遅さを改善するという目標は,業務を行う上で身に付けるべき技術,技能に関する目標であり,ノルマには当たらない。

(エ)Cが,上記目標を求められると同時に試用期間を延長されたことは,具体的出来事としては,別表1の非正規社員である自分の契約満了が迫った(項目28)に該当し得るものの,その心理的負荷の程度は
弱となる。
仮に,Cが試用期間延長によって課せられた上記目標がノルマに該当
するとしても,上記の点からすると,上記目標は,同種の経験等を有する労働者であれば達成可能なノルマを課されたにとどまるというべきである。また,試用期間延長自体はペナルティではなく,試用期間再延長や解雇の予告もなかったため,心理的負荷の程度は弱となる。

原告が主張する業績目標を達成できなかったという事実はないこと上記ウのとおり,原告が主張する業績目標をCに課した事実はない。

試用期間を延長されたことについて
Cの雇用契約に関しては,試用期間満了後には本採用に移行することが予定されており,Cに対してもその旨伝わっていた。また,Cの試用期間は,1か月間延長されたのみであり,同期の新人看護師と比較しても処遇の差は小さく,試用期間を延長されたことは,上記ウ(エ)のとおり,別表1の非正規社員である自分の契約満了が迫った
(項目28)

に該当し得るものの,その心理的負荷の程度は弱となる。

各種の新人研修に参加できなくなっていたという事実はないこと
Cが,試用期間を延長されたことを理由として,各種の新人研修に参加できなくなっていたという事実は存在しない。
原告が主張する新人看護師の研修計画書には,当初,Cの氏名も記載さ
れていたが,Cが死亡して研修に参加できなくなったことを受けて,Cの氏名が削除されたものである。研修計画書に記載された作成日付は,当該計画書が作成された当初の日付のままであり,Cの氏名を削除した際の日付に更新されていなかったにすぎない。

患者からの苦情を受けていたことについて
Cが受けた患者からの苦情は,具体的出来事としては,別表1の顧客や取引先からクレームを受けた(項目12)に当たり得るとしても,
看護師が通常業務の中で日常的に経験する程度のものであった。また,Cは,患者への説明を行う際には,指導担当者が同行していたのであり,
指導担当者の見守りの下,必要があれば支援を受けられる状況で患者に対応していた。患者の苦情を受けて,Cを当該患者の担当から外すこともあったが,患者からの苦情によって,Cの業務内容や業務量に大きな変化がもたらされたことはない。したがって,Cが患者からの苦情を受けたことについての心理的負荷の程度は弱となる。

出来事が複数ある場合の総合評価について
Cについては,別表1の具体的出来事に該当する出来事が複数存在す
るものの,いずれも心理的負荷の程度は弱であり,全体としての評価も弱となる。
第3

当裁判所の判断

1
認定事実
掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


Cの経歴等(甲21〔2,3頁〕
,乙1〔1059~1066,1079,
1080,1099頁〕
,11〔20頁〕
,証人D〔2~5頁〕


Cは,幼少期にきつ音の症状が出始め,小学校を卒業するまでの間,言葉の教室に通っていたが,中学校以降は通うことはなくなった。Cは,公立の中学校,高等学校を経て,平成10年4月,N大学法学部に入
学し,平成14年3月,同学部を卒業した。

Cは,大学4年生の頃から警察官になることを志し,大学卒業後も,アルバイトをしながら採用試験を数回受験したが,いずれも不合格となっていた。


その後,Cは,看護師を志すようになり,平成21年4月,3年制の看護師養成所であるO学校に入学し,1年の留年を経て,平成25年3月,看護師国家試験に合格し,O学校を卒業した。


Cは,O学校への在学中,卒業後の就職先として循環器系の病棟での勤務を希望していたが,周囲からは,きつ音があるため急性期の患者のいる
病棟は難しいと言われていた。
しかし,Cは,O学校の非常勤講師を務めていた本件病院の看護部長(当時)Pから勧誘を受け,本件病院の採用選考を受けることとなった。Cの採用面接には,Gも同席していた。

Cは,平成24年9月,本件法人から採用内定を得て,平成25年4月1日,本件法人に採用された。Cは,本件法人への採用当時,34歳であった。



Cの雇用条件及び本件病院での新人看護師に対する教育制度

Cの雇用条件(乙1〔185,230頁〕

Cと本件法人との間の雇用契約においては,採用の日から3か月間の試用期間が置かれていた。この試用期間は,特別の事情のある場合は省略,短縮又は延長することがあり,また,試用期間中の勤務成績,出勤状況,
能力,健康診断,採用希望時や採用試験合格後に提出した必要書類についての記載の虚偽等から,病院等が職員として不適合と認めた場合は本採用とせず解雇することもあるとされていた(就業規則8条1項)。
Cの所定業務内容は,病棟における看護業務であり,具体的には,受持患者の情報共有から始まり,病棟患者の環境整備,診察の補助,各患者
の看護過程に沿ったケア(病状観察及び保清)を行うこととされていた。イ
本件病院での新人看護師に対する教育制度(乙1〔647,668~687頁〕
,11〔10,12頁〕
,15〔5,10頁〕
,27〔5,6,9
頁〕
,証人H〔6,7,30頁〕


本件病院では,入職1年目の新人看護師(以下,単に新人看護師
という。なお,キャリアに応じて色が設定されており,新人看護師はホワイトであった。
)に対する教育は,1年間の到達目標を掲げたホ
ワイトステージ教育計画に基づいて行われていた。また,本件病院では,早期に習得するべき看護技術を項目ごとにまとめたホワイトチェックリ
ストが作成されており,新人看護師は,ホワイトチェックリストの全ての項目について,1年間で自立と評価されることを目指すものとされていたが,実施の機会が限られているものもあるため,1年間で全ての項目が自立となることまでは義務付けられていなかった。
新人看護師は,朝の調整時に,ホワイトチェックリストを用いて,その日の指導担当者と共に,進捗及び当日獲得する予定の項目を確認して,指導担当者と共に受け持つ患者に対し,どのようなケア及び処置等があ
るのかを予め確認しておくこととなっていた。また,新人看護師は,技術の早期獲得のために,その日の指導担当者ではない看護師と共に,当該看護師が受け持つ患者に対して実施されるケア及び処置等を実施することもあった。
新人看護師は,指導担当者のサポート下で実践を繰り返し,新人主動
での実施へ移行していくものとされ,新人主動での実施を踏まえ,単独で実施可能と判断されたら,指導担当者と相談の上で,個人ごとに作成されるファイル内の各自のホワイトチェックリストの自立日に日付を記入することとなっていた。自立日が記入された後は,自立した技術及び処置については,新人看護師が単独で実施することとなるが,その
場合でも,前期インターンシップ期間(4,5月)中は単独では実施せず,引き続き,指導担当者も関与しつつ,新人主動で実施することとされており,中期インターンシップ期間(6,7月)以後,原則として単独で実施可能となっていた。
ホワイトチェックリストのメモ欄は,実施過程で指導を受けたポ

イントや改善点等をメモするなど,新人看護師が自由に使用することができた。


Cの本件病院における勤務状況等

本件病院内におけるCのきつ音への理解等について(乙11〔20,21頁〕
,15〔19頁〕

Cは,本件病院での勤務開始後も,緊張したり,急かされたりする場面では,言葉が出なくなるなど,きつ音の症状が出ることがあったところ,Cは,第4病棟の看護師を相手に,きつ音についての勉強会を開き,きつ音についての一般的な知識を説明したり,他の看護師に対し,自身のきつ音の症状に関し,緊張するときつ音が強くなってしまうため,できるだけ緊張を和らげてもらえると助かると伝えたりしていた。


患者への説明等について(乙1〔1099,1103,1114,1117頁〕
,11〔3,17頁〕
,15〔14,16頁〕
,26〔3頁〕
,27
〔3,6頁〕

Cは,患者に説明する際,患者と打ち解けることができた場合には,言葉が突っかかることはなかったものの,初対面の患者や威圧的な患者
に対しては,緊張して言葉が出なかったり,体が揺れ動いたりしてしまうことがあった。
そのため,患者がCの説明を待ってくれず,別の看護師から聞く旨を告げられたり,患者から,不安である,別の看護師にしてほしいなどと言われたり,患者が,Cによる検査の説明後,他の看護師に対し,何を言
っていたのか分からないと話したりするなど,Cによる説明等に関する患者からの苦情は少なくなかった。また,Cが直接,高齢や認知症の患者から,
あっちに行け
あなた来ないで
こわい
あんた何を言っているのか分からないから,気持ち悪いなどと言われることもあった。患者がCに対してそのような苦情を申し入れた際には,そのときCを指
導している看護師が,患者に対し,一緒にサポートする旨説明することもあったが,認知症の患者等は,そのような説明を受け入れなかったため,Cを当該患者の担当から外すこともあった。また,Cに対しては,Cが緊張するような威圧的な患者を避け,比較的温厚な患者や同じ患者を担当させるという対応も取られていた。


看護師間での報連相等について(乙11〔2,3,6,11,12頁〕,
15〔7頁〕
,38〔3頁〕

Cは,他の看護師に対する報連相が苦手であり,先輩看護師等に相談せずに自分一人で仕事を行おうとする傾向があったほか,患者に答えた内容と異なる報告を他の看護師にすることがあったため,他の新人看護師と比べて,きちんと報告するように指導されることが多かった。
これに関連して,Cは,女性の患者から,女性の看護師に保清を行ってほしい旨の要望を受けたのに,そのような要望があったことを他の看護師に伝えず,自ら保清を行おうとして,患者から苦情を言われたこともあった。
また,Cは,他の看護師との日程調整等が必要な場面で,積極的に調
整を行うことができず,調整が遅れてしまい,催促されることもあった。エ
採血や注射の技術について(乙11〔8,9頁〕
,15〔15,16頁〕

Cは,採血や注射といった患者の身体への侵襲を伴う処置について,練習の際には緊張することなく行うことができるのに,実際に患者に対して処置を行う際には,針を刺す段階やそれ以前の声掛けの段階から,
緊張して身体が動いてしまうことがあり,処置ができないということがあった。


事前の説明練習について(乙11〔18,19頁〕
,13,15〔14,
15,17頁〕
,26〔1~3頁〕
,27,証人G〔12,13,17,18

頁〕
,証人H〔3,4,6~10,16~22,29,32~34頁〕)

本件病院では,看護師が,患者に検査の内容や注意事項を説明する際,説明事項をまとめた説明板を読み上げることとなっていた。様々な検査に応じて作成された説明板の中でも,心臓カテーテル検査についての説明板(乙13)は,A4用紙2頁分の分量があるもので,説明内容が多かった
ため,新人看護師は,患者に同検査の説明するに先立ち,説明の当日又は前日に,他の看護師を相手にして説明練習を行っていた。その他の検査等に用いる説明板については,説明内容も少ないため,新人看護師が患者に初めて説明する際に,新人看護師本人の希望や指導担当者からの提案があった場合に,説明練習をする程度であった。

新人看護師は,心臓カテーテル検査の説明の際には,一,二回程度の説明練習の後,指導担当者と共に実際に患者に説明を行い,説明が終わった
後,指導担当者とその状況を振り返り,ホワイトチェックリストの32.カテーテル検査・治療(前日まで)の各項目が自立と評価できるかどうかを確認することとなっていた。

Cが心臓カテーテル検査の説明練習を行ったのは,平成25年6月5日,同月10日,同月13日,同月26日及び同年7月2日の合計5回であり,
そのうち2回は,Hが指導を担当した。

Cは,きつ音により,あらかじめ用意された文章を読み上げることが苦手であり,また,五十音の特定の行についてきつ音の症状(難発)が出やすかったことから,Hを相手にして心臓カテーテル検査の説明練習を行っ
た際,Cが発言しやすく,かつ,患者に対して必要な情報が伝わるよう,説明板の表現を言い換えた上で説明できるよう練習した(以下,HとCが行った2回の説明練習を,
本件言換練習という。。

本件言換練習は,次のようなものであった。すなわち,まず,Cが,一度,説明板全体を通して読み上げてみた後,Cが言いにくい行や突っか
かりやすい言葉を,言いやすい表現や短い文に言い換え,それでも患者に必要な説明内容が伝わるかなどについて,言い換えた表現で部分的に読み上げを行うなどしながら話し合った上,別の看護師を患者役にして,言い換えた表現でCが説明することができるか,及び,説明板の内容が伝わるかという観点から,再度,説明板の内容全体の説明練習を行った。
Cが,説明板全体を一通り説明する練習を行った回数は,一度の説明練習において,二,三回程度であり,説明板全体を1回読み上げるのに要する時間は,四,五分程度であった。本件言換練習に要した時間は,全体で20~30分程度であった。
本件言換練習の際に,他の看護師が仕事の手を止めてその様子を眺めているなどということはなかった。
(以下,本件言換練習を含め,Cが行った事前の説明練習を本件説明練習という。本件説明練習の状況について上記ウ,エのとおり認定した理由は,後記事実認定の補足説明⑴参照。



Gとの面談について

面談前の評価等(乙1〔941,1097,1098頁〕
,11〔5頁〕

16,証人G〔2,4,5,9,10,31,32,38,39,43,45,46頁〕


(ア)Cにはきつ音があったことから,Gは,日頃,Eとの間で,Cの成長について細かく情報交換をしていたところ,その中で,Cが看護師として成長していくには,長い目で支援していく必要があり,Cの配属部署についても考えなければいけないと相談していた。
(イ)本件病院では,新人看護師について,3か月の試用期間が終了する際,本採用考課表(乙16。所属長が各考課要素につき3段階で評価した上で,総合評価として本採用せずどちらでもよい本採用したいのいずれかの意見を付すもの。)が作成されていたところ,G
は,Cとの平成25年6月24日の面談前に,Cについての他の看護師からの報告を踏まえて,本採用考課表に仮の評価を付けていた。このとき,Gは,意思・伝達能力については2(普通),仕事の速さについては1(遅い)と評価していた。Gは,本採用考課表の評価の項目に一つでも最低評価である1が

あると本採用にできないとは認識していたが,Cとの面談前には,Cの今後について具体的にどのように対応していくかをEと相談していなかった。そのため,Gは,Cに1と評価される項目があった場合,直ちに退職となるのか,その他の対応(試用期間の延長,他部署への異動等の措置)が採られるのかは把握していなかった。

1回目の面談(乙1〔676,677頁〕
,16,26〔3~5頁〕
,3
8,証人G〔1~5,19~22,45頁〕
Gは,本採用考課表について,Cとの面談で試用期間中の振返りを行いながら最終的な評価を付けようと考え,平成25年6月24日,Cとの面談を実施した。同日までに,Cには,本採用考課表において評価される具体的な項目は知らされていなかった。

Gは,Cと共に,報連相の重要性,先輩看護師と調整を行う場面での遅れを改善しなければならないこと,採血や注射といった基本的な看護技術の進捗面で,他の新人看護師よりも遅れがあったこと,患者とのコミュニケーションが十分に取れていない場面があったことなどについて話し合った。

Cは,Gに対し,患者から,話がよく分からない,返事が返ってこないと言われることがあり,患者とのコミュニケーションに問題があることや,他の看護師への報告,相談,情報共有という意味での報連相に課題があると考えていることを伝えた。Gは,Cが,患者とコミュニケーションを取るために積極的に努力していると認識していたため,本採用
考課表の評価としては,意思・伝達能力については事前の仮評価である2(普通)でよいのではないかと考えたが,C自身から,課題であると自覚している旨の話があったことを受けて,1(不良)と評価することにし,その場で本採用考課表を訂正した。
Cは,採血や注射等の患者の身体に侵襲を加える技術に遅れがあるこ
とも自覚していると話していたため,Gは,仕事の速さについて,事前の仮評価を訂正することなく1(遅い)のままとした。

GとEの相談(乙38〔2頁〕
,証人G〔5~7,22,39,40頁〕

Gは,Cとの1回目の面談後の同日中,Cの本採用考課表の評価につき1とした項目があり,Cを本採用とすることができないため,今後どのように対応すべきかをEと相談した。
Gは,Cが退職となることを心配していたが,Eとの相談の結果,C
については,試用期間を延長することとなった。従前,GとEとの間では,Cについて長い目で見ていこうと話していたことから(上記ア),延長期間を長く設定することも考えたが,本採用でない状態が長く続くとCが不安になるであろうことを踏まえて,延長期間は1か月とすることした。試用期間延長の理由には,報連相が不十分であることや注射等
の技術習得の遅れがあることのほか,患者とのコミュニケーションに問題があることも含まれていた。
Gは,Eに対し,Cの延長後の試用期間中の待遇面(給与,仕事の中身,教育内容,支援内容)に変更はないかを確認したところ,Eは,変わりはないと回答した。

また,第4病棟では,看護師2人態勢で夜勤を行っていたところ,Gは,Eに対し,Cについて,緊張が強いと動きが止まってしまうことがあったため,夜勤中の緊急時に対応できるのかを不安に思っており,Cの配属先を第4病棟のままとするかについても相談したところ,Eは,Cを第4病棟に配属しておくことが難しいと判断した場合には,患者と
の関わりが少ない部署への配属も検討していると回答した。

2回目の面談(乙38〔5頁〕
,証人G〔7~9,11,24,25,
27~30頁〕

Gは,Eとの相談後の同日中,Cと2回目の面談を行い,Cに対し,E
と相談した結果,試用期間を1か月間延長することになったこと,試用期間が延長されても待遇面は変わらないこと,延長後の試用期間中に,1回目の面談で話した課題である報連相について取り組んでほしいこと,Cに対する成長の支援は続けていくことを伝えた。
この際,Gは,Cに対し,EとはCについて長い目で見ていくという方針であると話していることは伝えておらず,試用期間延長が終わる1か月後の処遇について,報連相の課題が達成できていない場合に本採
用されない可能性があるかどうかなどは説明しなかった。
(GとCとの2回目の面談の状況について上記エのとおり認定した理由は,後記事実認定の補足説明⑵参照。)


Hら指導担当者からの叱責について(乙1〔1106~1109,1118頁〕
,乙15〔7~10頁〕



Cは,平成25年6月下旬又は同年7月初め頃,Hに対して提出物を持参しなかったため,Hは,そんなことが続くと信頼を失う旨述べて,Cを叱責した。
Cは,同月12日頃,再度,Hに対して提出物を持参するのが遅れたため,Hは,社会人として期限は守らなければならない旨述べて,Cを
叱責した。

上記アのほか,Hは,Cを直接指導する機会が多かったため,Cの業務上のミス等について厳しく叱責することがあり,ときには感情的に叱ることもあった。Kも,Cを含めた新人看護師に対し,できないことや間違いがあった場合には,患者の生死に関わることであるため,厳しい叱責や指
導を行うことがあった。
2
事実認定の補足説明


本件説明練習の状況について

Cが心臓カテーテル検査の説明練習を行った回数について

(ア)心臓カテーテル検査の説明練習は,新人看護師が患者に対して説明する前の予行演習として行われていたところ(認定事実⑷ア),Hは,新人看護師に対して指導したことは自分に報告される態勢になっていたから,Cが,上記予行演習以外の趣旨で指導担当者と心臓カテーテル検査の説明練習を行っていたとすれば,自分が把握していないことはあり得ないとし,自分も,Cから,上記予行演習以外の趣旨で,心臓カテーテル検査の説明練習を希望されたことはない旨供述する(乙27〔5頁〕,証人H〔10,33頁〕)。Cについては,患者への説明の際に言葉が出ないことがあり(認定事実⑶イ),患者への説明時に向けて事前に練習を行う必要性が高く,他の新人看護師と比べて説明練習を行う回数は多かったことがうかがえるものの(乙1〔1104頁〕,証人G〔13
頁〕),本件全証拠によっても,Cが,患者への説明とは全く異なる機会に,指導担当者との心臓カテーテル検査の説明練習を行っていたと認めるに足りない。
(イ)また,Hは,Cから,心臓カテーテル検査以外の検査に関して,説明内容の言換えをするような同様の説明練習をしたいとの希望を受けたこ
とはなく,そもそも心臓カテーテル検査以外の検査は説明内容が短い旨供述する(証人H〔3,21,22頁〕)。
そして,心臓カテーテル検査以外の検査等の説明については,新人看護師が患者に初めて説明する場合に,新人看護師本人の希望等に応じて事前の説明練習を行っていたにとどまること(認定事実⑷ア)や,H以
外の第4病棟で勤務していた看護師からも,Cが,心臓カテーテル検査以外の検査等に関して特別な説明練習を行っていた旨の具体的な供述がないことを踏まえると,Cにおいても,心臓カテーテル検査以外の検査については,本件言換練習のような説明練習は行っていなかったものと認められる。

(ウ)上記(ア)(イ)からすると,Cが,患者への説明に関して,先輩看護師らの指導を受け,ある程度時間をかけて説明練習を行ったのは,心臓カテーテル検査に関する説明のみであり,その頻度は,患者への説明を実施するごとに,その当日や前日に行っていたと認められるところ,Hは,Cと時間をかけて本件言換練習をしたのは,平成25年6月5日の患者への説明の際とその後いずれかの説明実施の際の合計2回であった旨供述する。
ここで,Cは,同年5月28日,心臓カテーテル検査についての患者への説明を見学し,同年6月5日,同月10日,同月13日,同月26日及び同年7月2日,実際に患者への説明を実施したから(乙1〔680頁〕),Cが先輩看護師らと共に心臓カテーテル検査の説明練習を行
ったことは,合計5回あったと認められる。なお,ホワイトチェックリストには,同年6月26日に説明を実施したとの記載があるのに対し〔乙1(680頁)〕,Cが作成したホワイトチェックリストの項目ごとの一覧表〔乙1(688頁))のカテーテル検査・治療(前日まで)の実施日欄には,6/25と記載されている。この点につい
て,ホワイトチェックリストが,本件病院における新人看護師の教育に用いられ,各項目についての実践を繰り返した後,指導担当者との相談の上で自立日を記入することとなっていたものであること〔認定事実⑵イ〕からすると,Cは,指導担当者と共に患者に対して心臓カテーテル検査の説明を行った後,指導担当者との振返りの際といった同説明
の実施と近接した機会に,同説明の実施日を記入していたと考えられる。他方,Cが作成したホワイトチェックリストの項目ごとの一覧表は,Cが,ホワイトチェックリストの記載等を元に,改めて作成したものと考えられることからすれば,ホワイトチェックリストの記載が正しいものと認められる。そして,Cが患者に対して心臓カテーテル検査の
説明を行った上記各日付のCの主たる指導担当者は,同月5日はHであり,その余は他の看護師であった(乙1〔400,408,413,416,429,435頁〕,乙27〔7,8頁〕)。新人看護師に対する指導は,その日の指導担当者以外の看護師が行うこともあったため(認定事実⑵イ),HがCの指導担当者ではなかった日においても,Cが患者への説明を行うに当たり,Hと共に説明練習を行った可能性は十分あるといえ,一方で,Hが,2回を超えてCと本件言換練習を行った
ことをうかがわせるような証拠がないことからすれば,Hの上記供述は信用できる。
そうすると,Cが,先輩看護師らと心臓カテーテル検査の説明練習を行ったのは,合計5回であり,そのうち,Hの指導を受けて本件言換練習を行ったのは2回であったと認められる。


本件言換練習の態様について

(ア)本件病院においては,患者に対してこれから受ける検査の説明をする際に用いるために,患者に説明する内容をまとめた説明板が用意されており,通常はその説明板を読み上げる形で説明が実施される(認定事実⑷ア)。しかしながら,患者への説明は,患者に対してこれから受ける検査の内容を理解してもらうべく,正確にかつ分かりやすく行うことにその主眼があるのであって,一言一句説明板のとおり読み上げないといけないという趣旨ではないと解され,このことは,Cのホワイトチェックリストのメモに説明板のとおり読まなければいけないではなく,説明板を使う説明明のとおり読めばいい(乙1
〔680頁〕。なお,説明明とあるのは,説明板の誤記と解
される。)と記載されていることにも表れている。そして,特に緊張する場面ではきつ音の症状が出やすいC(前提事実⑷,認定事実⑶ア,イ)にとっては,新人看護師として習得過程にある,患者に対する心臓カテーテル検査の説明は一定の緊張を伴うものであり,きつ音の症状が出て説明ができなくなってしまわないようにしたいと考えることはごく自然であることからすれば,事前の説明練習において,CとHが,説明板の記載をCにとって言いやすい表現に言い換えていこうとすることは,C及びHのいずれの行動としても,自然かつ合理的であるし,この点については,Cが本件法人に雇用された平成25年4月1日以降,業務内容や指導された事項等について毎日細かく記録していたメモ帳(以下本件メモ帳という。)にも,

説明-自分の言葉で話す方が言いやすい。

(乙1〔926頁〕)とあることからも裏付けられる。このように説明板の表現を言い換える形で練習する場合,①説明板を読み上げて説明してみる,②言いにくい表現の箇
所の言換表現を考え,言いやすくなっているかを検証しながら,説明してみる,③言い換えた箇所に正確性等から問題がないかを確認する,④全体を通して説明してみるという流れ(本件言換練習)が想定されるところ,これに沿うHの供述は信用できる。
(イ)本件言換練習は,心臓カテーテル検査の内容を患者に対して説明する
前の予行演習であって,他に行うべき通常業務の合間に実施されるものであることからすれば,それに長時間をかけることができたとは考えにくく,一度の機会の練習時間が全体で20~30分程度であったとのHの供述(乙27〔5頁〕)は信用できる。そして,心臓カテーテル検査の説明板の分量がA4用紙2頁分のものであること(認定事
実⑷ア)からすれば,最初から最後まで一通り説明するには四,五分程度を要すると認められ,また,本件言換練習においては,説明そのものの練習(上記(ア)①,④)だけではなく,言換表現の検討や確認(同②,③)も行われており,それにも相応の時間を要すると考えられることからすれば,Cが説明板(言い換えた後のものも含む。)
を一通り読み上げる練習を行った回数は二,三回程度であったとのHの供述(乙15〔17頁〕,証人H〔16~18頁〕)も信用できる。

原告の主張について
原告は,H自身が,北海道労働局や労働基準監督署からの聴取において,Cは患者への説明時に突っかかることが多かったため,他の新人看護師と比べて説明練習を繰り返し行わざるを得なかった旨(乙1〔11
04頁〕)や,言換えが難しい場合にはうまく説明できるよう重点的に練習した旨(乙15〔15頁〕)を供述していたことなどを指摘し,Cに対し,心臓カテーテル検査を含めた全ての検査の説明板を読み上げる練習が,多数回行われており,その態様も文章を繰り返し読み上げさせる執拗なものであった旨主張する。しかし,上記アで説示したとおり,
Cに対して,本件言換練習程度に時間をかけた説明練習が,心臓カテーテル検査の説明実施に先立つ5回以上の機会に行われたとは認められないし,Hの上記各供述も,本件言換練習の態様と矛盾するとはいえないのであって,原告の上記主張は採用することができない。


Gとの面談について

2回目の面談において,Gが,延長された試用期間が終わる際に課題である報連相が達成できていなかった場合の処遇について伝えなかったと認定した点について

(ア)Gは,平成25年6月24日の2回目の面談に先立って,EとCに対する今後の対応について相談し,報連相が不十分であること,注射等の技術習得の遅れがあること,患者とのコミュニケーションに問題があることを理由として,試用期間を1か月間延長すると決めたものの,1か月後にこれらの改善がなかった場合にどうするかということまでは相談されておらず,また,Eからは,Cの配属先の変更については言及があ
ったが,退職になるという話は出ていなかった(認定事実⑸ウ)。このことからすると,Gがその証人尋問において供述するように,Cに試用期間の延長を伝えた2回目の面談時のGの認識は,1か月後に課題を達成できていなかった場合,本採用した上で配属先を第4病棟以外に変更するか,又は,再度試用期間を延長して第4病棟に配属し続けるのかを,改めてEと相談することになる(証人G〔27,28,44頁〕)というものであり,直ちに退職することにはならないと考えていたと認められる。そして,このようなGの認識からすれば,Cに対し,課題があること及び試用期間を延長することを伝える一方で,1か月後にその課題が達成できていなかった場合のことについてまでは言及しなかったということは十分あり得る。

この点について,Cは,同日の面談に関し,本件メモ帳に本さいように向けての課題⇒試用延長と記載しており(乙1〔941頁〕),同記載は,Gが,Cに対し,本採用に当たって達成すべき課題があり,これが達成できていないから本採用とならず,試用期間を延長する,ひいては,課題が達成できない限り本採用とはならないという趣旨の話を
したことを意味すると読めないではない。しかしながら,Gは,上記記載にあるような言葉で伝えた記憶はないと供述しており(証人G〔29頁〕),また,上記で説示したとおり,同日時点においてCの今後についての方針が決まっていない以上,Gが,Cに対し,課題が達成できない限り本採用とならないとの趣旨を伝えたとは認められない(Cにおい
ては,本採用とならず試用期間が延長される旨告げられたことと,その際に指摘された自分の課題とを結び付けて受け止め,本件メモ帳に上記のように記載したと考えられる。)。
以上のとおりであって,Cに対し,課題である報連相が達成できなかった場合に本採用とならない可能性や再度試用期間が延長される可能性
を伝えなかったとするGの供述は信用できる。
(イ)他方で,Gは,Cとの2回目の面談において,Cに対し,試用期間を1か月間延長した後に,課題である報連相が達成できていなかったとしても,直ちに退職になるとは考えていない旨伝えたと供述する(証人G〔7頁〕)。
確かに,Cに試用期間の延長を伝えた際のGの認識については,上記(ア)のとおりであり,Gは,Cが1か月後に課題が達成できていなかったとしても,直ちに退職することにはならないと考えていたと認められる。
しかしながら,Gは,本件に関し,平成27年8月26日,札幌東労働基準監督署における聴取を受け(乙1〔1095~1101頁〕),
平成30年1月24日,同年8月30日及び令和元年10月31日,それぞれ北海道労働局における聴取を受けたところ(乙11,26,38),その際には,1か月後に課題が達成できていなかったとしても,直ちに退職になるとは考えていない旨Cに伝えたとは供述していなかった。本件では,Cの業務上の心理的負荷の程度が問題となっており,G
とCとの面談の際のやり取りがどのようなものであったかは重要な事情であることからすると,仮に,Gが上記内容をCに伝えていたとすれば,札幌東労働基準監督署や北海道労働局における聴取時に,その旨供述しないことは不自然である。
また,Gは,札幌東労働基準監督署における聴取の際,Cには,試用
期間延長後に退職となるかもしれないという不安があったのではないかと供述していたところ(乙1〔1098頁〕,証人G〔25,26〕),仮に,Gが,Cに対し,1か月後に課題を達成できていなかったとしても直ちに退職することにはならない旨伝えていたのであれば,Cが退職となることを不安に思っていたであろうと推測することは不自然である。
したがって,Gの上記供述(証人G〔7頁〕)は採用することはできない。

2回目の面談において,Gが,Cに対して課題として伝えた内容について
(ア)Gは,1回目の面談において,他の看護師への報告,相談,情報共有という意味での報連相に課題があると話し,2回目の面談において,Cに対し,1回目の面談で確認した課題である報連相に取り組んでほしい旨伝えたと一貫して供述し,他方,患者とのコミュニケーションの問題を課題としては伝えなかったと供述する(乙11〔5,6頁〕
,26
〔5頁〕
,証人G〔7,24,25,40,41頁〕。

(イ)ここで,1回目の面談において,Cは,Gに対し,患者とのコミュニ
ケーションの問題や,他の看護師への報告,相談,情報共有という意味での報連相に課題があると感じていることを伝え,Gは,Cの話を受けて,本採用考課表の意思・伝達能力について1
(不良)と評価
することにしたという経緯(認定事実⑸イ)や,試用期間延長の理由には,患者とのコミュニケーションの問題も含まれていたこと(同⑸ウ)
は認められる。しかしながら,Gとしては,Cが患者とコミュニケーションを取るために努力していたことを踏まえて,当初,本採用考課表の評価は2
(普通)でよいと考えていたところでもある(乙16,証
人G〔5頁〕。このことからすると,Gにおいては,Cとの2回目の面)
談の際,患者とのコミュニケーション問題についてはCに十分な自覚が
あって,努力もしているとして,改めて課題として伝えなかったことは十分あり得るところである。この点について,Cは,Gと面談した平成25年6月24日の出来事として,本件メモ帳に説明言う事の練習これは自立だからと記載しているものの(乙1〔941頁〕,Gは,)
このような発言をしたか覚えていない,患者への説明について自立と判断するのは(直接の指導担当者であって)自分ではないから,発言していないと思う旨供述しており(乙11〔6頁〕
,証人G〔23,24
頁〕,また,Cは,本件メモ帳に,先輩看護師等から指摘された事項の)
みならず,自らが気付いたことや留意すべきことについても細かく記載していること(一日の記載量が複数頁にわたっていることの方が多い。)
からすれば,上記記載も,面談時におけるGからの指摘又は発言とは限らない。

以上からすれば,2回目の面談の際に,Gから,報連相に加えて,患者とのコミュニケーション問題に取り組むことを課題として示されたとまでは認められない。


Mの供述の信用性について
Cの死亡後にMがDに対して話した内容をまとめたとされる書面(乙1
〔644~646頁〕
)には,Cが,看護器具の対応で失敗した際に患者の
目の前で指導担当者から大声で叱責されたこと,Cに対する指導は,周りがいじめと思うほど必要以上に厳しいものであったこと,Cのきつ音に対し,ため息をついたり失笑したりする者がいたこと,Cは,指導担当者ほか複数名に見られながら,患者への説明練習を何十回も行わされていたことなどの
記載がある。しかしながら,Mの上記供述は,Dによる伝聞供述であり,また,Mに対する証人尋問の機会を通じて吟味することもできていない。さらに,Mの上記供述は本件病院の他の看護師の供述と矛盾している以上,これを裏付ける他の証拠なしに信用できるとはいい難いところ,そのような裏付け証拠は一切ない。

これらからすれば,Mの上記供述について,信用性があるということはできない。
3
争点に対する判断


業務起因性の判断枠組みについて
労災保険法は,
労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡
(業務災害。
以下,負傷,疾病,障害又は死亡を併せて傷病等という。
)に対して労
働者災害補償保険(労災保険)を給付すると定めている(労災保険法7条1項1号)
。ここで,労働者に生じた傷病等が業務上のものであるといえるためには,単に当該労働者が当該業務に従事しなければ当該傷病等が生じなかったという条件関係が存在するだけでは足りず,業務と傷病等の発生の間に相当因果関係が認められる必要があると解されるところ,労災保険制度が,労働者が従属的労働契約に基づいて使用者の支配管理下にあることを考慮し,その労務提供過程において業務に内在する危険が現実化して傷病等が引き起こされた場合には,使用者は,当該傷病等の発症等について過失がなくても,その危険を負担し,労働者の損失を補填すべきであるとする危険責任の法理
に基づくものであることからすれば,上記相当因果関係は,業務に内在又は随伴する危険が現実化して当該傷病等を発生したといえる場合に認められると解される(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁,最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178
号621頁参照)

この点,精神障害に係る業務災害についてのものである認定基準専門検討会報告書(乙9)は,法学及び医学の専門家によって構成された専門検討会が,直近時の医学的知見のほか,これまでの業務災害認定事例,裁判例の状況等を踏まえ,従前の判断指針等が依拠するストレス-脆弱性理論(環境由来のストレス〔心理的負荷〕と個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じる〔発病する〕かが決まるという考え方)に引き続き依拠し,その考え方を踏襲しつつ,業務による心理的負荷の評価基準と審理方法等の改善を提言するものであって,合理性を有する内容であると認められる。そして,精神障害の業務起因性に関する認定基準は,このような認定基準専門
検討会報告書の内容を踏まえて策定されたものであるから,これについても合理性を有するものと評価でき,行政処分の違法性に関する裁判所の判断を直接拘束するものではないものの,当該精神障害の業務起因性の判断に資するものであるといえる。
そこで,精神障害の業務起因性の判断に当たっては,認定基準を参考にしながら,当該労働者に関する精神障害の発病前の具体的事情を総合的に考慮して,精神障害の発病が業務に内在又は随伴する危険の現実化であるといえ
るかを判断するのが相当である。


業務上の心理的負荷の評価の基準となる労働者について

労災保険制度が,使用者が労働者を自己の支配下において労務を提供させるという労働関係の特質に鑑み,業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に,使用者に何ら過失はなくても労働者に発生した損失を填補す
る危険責任の法理に基づく制度であることからすると,当該業務が精神障害を発生させる危険の程度を判断する際には,同種の業務において通常の勤務に就くことが期待される一般的,平均的な労働者,すなわち,何らかの素因(個体の脆弱性)を有しながらも,当該労働者と職種,職場における立場,経験等で同種の者であって,特段の労務の軽減までは要せず,通
常の業務を遂行することができる程度の心身の健康状態を有する労働者を基準とすべきである。

原告は,労働者が障害者という属性を有している場合においては,当該労働者と同種の障害を有する労働者を基準にして業務起因性を判断すべき
であり,Cはきつ音という障害を有していることを前提として雇用されていたのであるから,本件では,きつ音を有する同種の労働者を基準に業務の心理的負荷を評価すべきであると主張する。確かに,身体的障害又は精神的障害があることを理由として労務軽減が必要とされているような場合においては,当該障害を有する者とそうでない者とでは,業務に内在又は
随伴する危険が現実化する可能性の程度が異なる以上,当該障害の存在を考慮せずに業務の危険性を評価することは相当でなく,当該障害については,年齢,経験等に準ずる属性として考慮し,同様の労務軽減を受けている労働者を平均的労働者と捉えて基準とすることが考えられる。しかしながら,Cについては,きつ音を有する者であることを理解し,そのことに対する配慮がされるべきことは前提にしつつも,きつ音を理由とした労務軽減が必要な者であったわけではなく,きつ音を有しながらも他の看護師
と同様の勤務に就くことが期待できた者であったといえる。そうすると,Cに係る業務起因性を判断するに当たっては,きつ音を有する労働者を基準とする必要はなく,Cの有していたきつ音については,業務上の出来事を評価するに当たり,必要な限度でこれを考慮すれば足りるというべきである。


以上からすれば,Cに係る業務起因性を判断するに当たっては,特段の労務軽減なしに,通常の新人看護師としての業務を遂行できる者を基準とすることになる。



Cの死亡に業務起因性が認められるかについて
Cは,平成25年6月中旬から同月下旬頃,適応障害を発病し,同年7月
上旬頃,うつ病エピソードを発病した(前提事実⑵,認定要件①)。そこで,
以下,Cの精神障害の発病前おおむね6か月に生じた業務上の出来事による心理的負荷の強度(認定要件②)並びに業務以外の心理的負荷及び個体側要因による発病の有無(認定要件③)について検討する。ア
本件説明練習を含む指導担当者によるCに対する指導等について

(ア)本件言換練習は,Cが言いにくい行や突っかかりやすい言葉を,HとCが相談しながら,Cにとって発語しやすい表現かつ患者に検査内容が伝わる表現に置き換え,Cが,部分的又は一通り説明板を読み上げる形で行うというものであり(認定事実⑷エ)
,Cが伝えやすい言葉で,患
者に伝わる説明ができるようになることを目的として行われたものと認められる。また,本件言換練習を含めた心臓カテーテル検査の説明練習は,患者への説明に向けた予行演習として行われていたものであり,実際に患者に対して説明する際には,指導担当者が付き添っていて,Cが説明することができない場面があったとしても支援することが可能な態勢がとられていたこと(同⑵イ,証人H〔33頁〕)から,練習によっ
て,一人で患者への説明を成し遂げることが可能な程度にまで達することや,きつ音の症状を一切出さずに,説明板の文章を滞りなく読めるようになることまでは求められていなかったと認めることができる。そして,本件言換練習は,Cが本件病院の第4病棟に配属されてから平成25年7月上旬頃までの間に,一度の練習で20~30分程度のも
のが少なくとも2回行われ,そのうち,説明板を一通り読み上げるのに要する時間は,四,五分程度であり,説明板を一通り読み上げた回数も二,三回程度であった(認定事実⑷エ)
。Cは,上記期間中,心臓カテ
ーテル検査の説明練習を本件言換練習以外に3回行っているところ(同⑷ウ)
,これらが本件言換練習以上に長時間をかけた厳しいものであっ

たことをうかがわせるような事情が見当たらないことからすれば,最大でも本件言換練習と同程度のものであったと考えられ,心臓カテーテル検査以外の検査についても,本件言換練習のような時間をかけた説明練習は行われなかったと認められる(事実認定の補足説明⑴ア)。
また,本件言換練習の際に,他の看護師があえてその様子を眺めてい
たとか,Hが,Cに対して,不必要に厳しい口調で指導を行うなど,本件言換練習がCに過度に心理的負荷を与えるような状況で行われたことをうかがわせる事実も認められない。
以上のことからすると,本件説明練習は,Cに対し,きつ音の改善という不可能又は困難を繰り返し強制したり,その人格を否定するような
言動を伴ったりするものとはいえないから,別表1の(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた(項目29)には該当せず,これに
類似するものとして評価すべきであるともいえない。ただし,上司との間で客観的にトラブルを生じさせたものではないが,新人看護師への指導の一環としてその範囲内の指導を受けたものと認められるから,具体的出来事としては,別表1の上司とのトラブルがあった
(項目30)
に類似するものとして評価すべきである。
(イ)また,Cは,平成25年6月下旬又は同年7月初め頃,Hに対して提出物を持参しなかったため,Hから,そんなことが続くと信頼を失う旨叱責され,同月12日頃にも,再度,Hに対して提出物を持参するのが遅れたため,Hから,社会人として期限は守らなければならない旨叱責
された(認定事実⑹ア)
。このほか,Cは,HやKから業務上のミス等
に対して厳しい指導や叱責を受けることがあったところ(同⑹イ),こ
のようなHら指導担当者による叱責及び指導は,具体的出来事としては,別表1の上司とのトラブルがあった
(項目30)に該当する。
(ウ)本件説明練習を含む指導担当者によるCに対する指導等(上記(ア)
(イ)
)は,新人看護師に対する教育指導の一環として行われたもので
あるから,出来事が関連して生じている場合として,全体を一つの出来事として評価することとする(別紙1の4⑵ウ)

本件説明練習は,口頭での説明やコミュニケーションを苦手とする新人看護師(C)が,上司(H等の指導担当者)の指導の下,患者への説
明を正確かつ分かりやすくできるよう,これに先立って事前に練習を行うものであり,職務上必要なものである。また,その他の指導担当者によるCに対する指導及び叱責も,業務上のミス等に対するものであって,職務上必要なものであるといえる。したがって,そのような説明練習や指導等を行うこと自体が不合理なものではない上,これまで認定説示し
てきた本件説明練習や指導等の態様及び内容等に照らしても,新人看護師に対する業務指導の範囲内のものであったと認められる。そして,本件説明練習を含めた指導担当者によるCに対する指導等が行われたことにより,CとH等の指導担当者との間に,客観的な対立が生じていたとまでは認められないことからすれば,Cと同種の労働者を基準として,心理的負荷の程度は弱と認める(別紙2の2⑻参照)。

Gとの面談において,課題を指摘され,また,試用期間が延長となったことについて

(ア)Cは,平成25年6月24日,Gと2回の面談を行ったところ,1回目の面談においては,本採用考課表の項目に沿って,GとCが話し合い,Cのそれまでの勤務状況を踏まえた今後の改善点の確認がされた(認定事実⑸イ)
。Cに対しては,同日までに本採用考課表の項目が知らされ
ていたわけではなく(同前)
,また,本件病院の教育制度としても,早
期に習得するべき看護技術を項目ごとにまとめたホワイトチェックリストが作成されていたものの,新人看護師は,ホワイトチェックリストの全ての項目について,試用期間中はもちろん,1年間で達成することも
義務付けられていなかったと認められる(同⑵イ)。Gは,1回目の面
談において,Cの基本的な看護技術の習得が遅れていたことから,それを指摘したにすぎず,同日までにCに一定の目標が課されており,その達成の有無が確認されたものではない。
そうすると,GとCの面談の前の時点において,Cに対して何らかの
具体的な課題や目標が課されており,それらが達成できなかったペナルティとして試用期間を延長されたとは認められないから,Cが,Gとの面談において,課題を指摘され,試用期間を延長されたことについて,別表1のノルマが達成できなかった
(項目9)に該当する又はこれ
に類似するとして評価すべきであるとはいい難い。

(イ)他方,Gは,2回目の面談において,Cに対し,延長後の試用期間中の課題として報連相以外の点について明示的に告げたとまでは認められないものの(認定事実⑸エ)
,1回目の面談においては,患者とのコミ
ュニケーションに問題があることや,採血や注射等の技術の習得の遅れについて話し合われた上で,2回目の面談で試用期間を1か月間延長する旨通知されたのであるから(実際に,試用期間延長の理由には,患者とのコミュニケーション問題も含まれていた〔同⑸ウ〕)。,これを聞い
た者においては,通常,延長された1か月間の試用期間中に,1回目の面談で話し合われた課題点の全て,すなわち,報連相の改善及び採血や注射等の技術の習得だけではなく,患者とのコミュニケーション問題にも取り組むよう求められていると受け止めるのが自然であり,現に,C
自身,当日の出来事について,本件メモ帳にホウレンソウの徹底
説明言う事の練習と記載しているところである(乙1〔941

頁〕。このような通常の受止めを前提とすると,①報連相を徹底するこ)
と,採血や注射等の技術を習得すること及び患者とのコミュニケーションを十分取ることが,いずれも看護師として習得すべき基本的な事柄・能力であって,新人看護師が身に付けるべきことである,②それにもかかわらず,Cは,3か月間の試用期間中には,これらにつき,求められる水準には達しなかった,③この後1か月間でこれらを改善するよう告げられたということになり,営利企業における納期,工期及び売上目標等の業績に関わるノルマとは同一視できないものの,Cが看護師として
本件病院で勤務し続けるに当たって,この先1か月で達成を指示された事項として評価すべきものといえる。
そのため,Cが,Gとの面談において,課題を指摘されたことは,具体的出来事としては,別表1の達成困難なノルマが課された
(項目
8)に類似するというべきである。

(ウ)また,Gは,2回目の面談において,Cに対し,1か月間の試用期間を延長後の処遇について具体的には何も告げておらず,課題が達成できなかったとしても直ちに退職とはならないと考えていることも伝えていない(認定事実⑸エ,事実認定の補足説明⑵)。
ここで,本件法人とCとの雇用契約では,延長可能な試用期間が設けられ,本件法人は,試用期間中の勤務成績等により,職員として不適合と認めた場合は本採用とせず解雇することが可能であるとされており(認定事実⑵ア)
,同契約は,解約権留保付雇用契約であったと認めら
れる。そして,一般的に,新規採用後の試用期間は,特に問題がなければそのまま雇用が維持されるものである一方,試用期間中の解約は,無限定ではないものの,通常の解雇より広い範囲で認められるものと理解
されていることに照らせば,Cについては,試用期間が延長されることにより,その間,通常の解雇よりは容易に解約され得る状態が継続する上,延長後の試用期間終了時に解約される現実的な可能性があることも意識させる出来事であったということができる。
以上のことからすると,本件法人との雇用契約に係る試用期間が延長
されたことは,具体的出来事としては,別表1の非正規社員である自分の契約満了が迫った(項目28)に類似するものというべきである。
(エ)そこで,Gとの面談において,課題を指摘され,また,試用期間が延長となったことについて,項目8及び28に類似するものとして,その心理的負荷の程度を検討する。

a
Cは,第4病棟に配属されて以降,他の新人看護師と比べて,他の看護師に対する報告や調整をきちんと行うように指導されることが多かったところ(認定事実⑶ウ)
,報連相は,新人看護師に対して通常
求められる事柄であり,また,Cのきつ音の症状は,主に緊張する場面や初対面の者に対応する場面で現れており(同⑶イ),日常的に接

している他の看護師への報告等の場面はこれとは異なると考えられ,きつ音を有することが報連相を行うに当たって直ちに支障となるものとまではいえないことをも踏まえると,報連相の実施については,Cと同種の労働者にとって達成可能な課題を示されたものということができる。
また,採血や注射等の技術の習得についても,新人看護師に対して通常求められる以上の高度な水準を求められていたものでもないから,
Cと同種の労働者にとって達成可能な課題というべきである。
さらに,患者とのコミュニケーション問題についても,Cは,患者への説明の際,緊張することがなければ言葉が突っかかることはなかったし,緊張が強いられるような患者についてはCの担当としないといった対応も取られていたこと(同前)
,や,本件説明練習の目的は,

Cがきつ音の症状を全く出すことなく,説明板の文章を滞りなく読めるようになることではなく,Cに対してそのようなことは求められていなかったこと(上記ア)からすると,やはり,Cと同種の労働者であれば達成可能な課題を示されたものといえる。
そうすると,客観的にみて,Cと同種の労働者にとって,Gとの面
談で示された各課題の達成に向けて従事しなければならない業務内容が質的に重大であるとまではいい難いところである。他方,これらの課題は,Cが当初の試用期間である3か月の間に求められる水準に達しなかったものであるところ,延長された試用期間は,その3分の1である1か月間であり,Gから,どの程度課題が達成されれば本採用
されるかなどの具体的なことは示されておらず,Cにおいて,これが達成できなかった場合には解雇(解約)もあり得ると考えられる状態であったところ,Cと同様の立場に置かれた同種の労働者を基準としても,上記のような課題が示された不安感等による心理的負荷はある程度強いものであったといえる。

b
また,Cは,正規社員として本件法人に雇用され,雇用契約上,留保解約権の存在が明示されていたところ,2回目の面談において,Gから,延長された試用期間終了後の自己の処遇についての明言はなく,不安定な状態に置かれたといえる。また,Cは,本件病院への採用時34歳と新社会人としてはやや高齢であることからすれば,本件病院での勤務が継続できなくなった場合の再就職に対する不安は大きかっ
たとも考えられる。そして,上記のとおり,Cは,当初の試用期間である3か月の間に,通常の新人看護師であれば到達すべき水準に達していない事項があったことも踏まえると,試用期間の延長により,示された課題につき水準に達することができずに解雇(解約)される可能性が,ある程度現実的に認識できる状態になったと認められるとこ
ろ,このことは,Cと同種の労働者を基準としてその心理的負荷の程度を考えてみても,別表1において弱とされている非正規社員である自分の契約満了が迫ったよりも強いものというべきである。c
以上を踏まえると,Gとの面談において,課題を指摘され,また,試用期間が延長となったことを全体としてみると,心理的負荷の程度
は中と認める(別紙2の2⑵,⑹参照)。

患者からの苦情を受けていたことについて

(ア)Cによる患者への説明に関しては,患者から,不安である,別の看護師にしてほしい,何を言っていたのか分からない,来ないでほしい,こわい,何を言っているのか分からないから気持ち悪いなどと苦情を言われることがあった(認定事実⑶イ)
。また,Cの報連相の問題に関して,
女性の患者から,女性の看護師に保清を行ってほしい旨の要望を受けたのに,そのような要望があったことを他の看護師に伝えず,自ら保清を行おうとして,患者から苦情を言われたこともあった(同⑶ウ)。Cが

上記のような患者からの苦情を受けていたことは,具体的出来事としては,別表1の顧客や取引先からクレームを受けた
(項目12)に該
当する。
(イ)その心理的負荷の程度についてみると,患者が,Cによる説明に関して苦情を申し入れた際には,そのときCを指導している看護師が患者に対して説明するなどの対応や,Cを当該患者の担当から外すようにし,Cには,Cが緊張するような威圧的な患者を避け,比較的温厚な患者や,
同じ患者を担当させるという対応が取られていた(同⑶イ)。C自身が,
患者からの苦情への対応のために困難な調整に当たることはなかったものの,苦情の内容は,看護業務を遂行に当たって非常に重要な患者への説明内容や患者との信頼関係に関するもので,その数も少なくなかった上,Cの業務にも,患者の担当を外されたり,対応可能な患者が限定さ
れたりするなどの影響があったほか,他の新人看護師は行っていない本件言換練習が必要となったことにも関係しているということができ,患者の苦情を受けて,Cの業務内容や業務量には相応の変化が生じていたというべきである。以上を踏まえると,Cと同種の労働者を基準として,患者からの苦情を受けていたことについて,その心理的負荷の程度は
中と認める(別紙2の2⑷参照)


非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けた(項目24)に該当する具体的出来事があったかについて

(ア)Gは,新人看護師の研修参加について決定する立場にあったところ,4月の段階で1年間の新人研修の計画が決定されており,Cも,他の新人看護師とともに新人研修に参加する予定であったこと,Cについて,試用期間延長を決定した後に,新人研修への参加を変更したことはないことを供述する(証人G〔15,16頁〕。また,Hも,看護主任とし)
て,新人看護師が研修に参加することは把握していたところ,Cについ
て,平成25年6月24日以降に,新人研修への参加を取りやめる旨の連絡はなかったと供述する(証人H〔11,12頁〕。

(イ)ここで,原告は,新人研修の計画書(乙1〔569,573頁〕)に,
他の新人看護師の氏名は記載されているにもかかわらず,Cの氏名がないことを指摘する。しかしながら,上記計画書に記載された新人研修は,Cの死亡後に実施することになっていたことからすれば,Gや上記計画書を作成した看護師らが述べるとおり(乙26〔6頁〕
,39,40)


Cの死亡を受けて,参加者の訂正を行い,作成日付は,作成当初のまま訂正されなかったことも十分考えられるところである。
(ウ)以上からすると,Cが,試用期間延長を理由とする差別を受けていたと認めることはできない。

出来事が複数ある場合の総合評価について
上記ア~ウで説示した出来事は,一つの出来事のほかに,それとは関連しない他の出来事が生じている場合に当たるから,主としてそれらの出来事の数,各出来事の内容(心理的負荷の強弱)
,各出来事の時間的な
近接の程度を元に,その全体的な心理的負荷を評価することになる(別
紙1の4⑵ウ)

本件においては,3か月程度の期間内に,別表1における心理的負荷の強度が中と認められる上記イ(Gとの面談関係)及びウ(患者からの苦情関係)の各出来事が存するところ,上記ウの出来事による相応に重い心理的負荷が生じていた状況において,さらに,患者とのコミュ
ニケーション問題を含む課題を提示され,これを改善しなければ本件病院での勤務を継続できなくなるかもしれず,その時期も迫っているという上記イの出来事による心理的負荷が加わったものである。そして,これらの出来事と重なる時期に,上記ア(指導担当者による指導等関係)による心理的負荷があったと認められることにも鑑みると,上記ア~ウ
の出来事に係る全体的な心理的負荷の程度は,Cと同種の労働者にとって,精神障害を発病させる程度に強度のものであったと認めるのが相当である。

業務以外の心理的負荷及び個体側要因
きつ音を有する者の一般的な心理傾向として,自己を否定する傾向があることは認められるものの(乙18)
,Cについて,そのような心理傾向
があったとまでは認められず,Cが,業務以外の心理的負荷及び個体側
要因によって,適応障害及びうつ病エピソードを発病したと認めるに足りる的確な証拠はない。


まとめ
以上によれば,Cの精神障害の発病は,Cの業務に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価できる。そして,業務によりICD-10のF0か
らF4に分類される精神障害を発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定できるから(別紙1の5)
,Cの死亡(自殺)も,Cの業務
に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価でき,業務起因性が認めら
れる。
第4

結論
よって,原告の労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の請求に対して,いずれも不支給とした本件各処分は違法であり,その取消しを求める原告の本
件請求はいずれも理由があるから,これをいずれも認容することとして,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

武部知子
裁判官

伊藤吾朗
裁判官

先﨑春奈
別紙1

認定基準の概要

1
対象疾病
認定基準で対象とする疾病(以下対象疾病という。
)は,ICD-10第
Ⅴ章精神および行動の障害に分類される精神障害であって,器質性のもの及び有害物質に起因するものは除外される。
対象疾病のうち,業務に関連して発病する可能性のある精神障害は,主としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害である。

2
認定要件
次の①ないし③のいずれの要件も満たす対象疾病は,労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う。



対象疾病を発病していること(以下認定要件①という。。)
対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること(以下認定要件②という。。




業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと(以下認定要件③という。。


3
認定要件に関する基本的な考え方
対象疾病の発病に至る原因の考え方は,今日の精神医学及び心理学で広く受け入れられているストレス-脆弱性理論
(乙3)に依拠している。すなわち,
環境由来のストレス(心理的負荷)と,個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり,心理的負荷が非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こるし,逆に脆弱性が大きければ,心理的負荷が
小さくても破綻が生ずる。
このため,心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件としては,対象疾病の発病の有無,発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があることに加え(認定要件①)
,当該対象疾病の発病の前おおむね6か月の間に業務
による強い心理的負荷が認められることが必要となる(認定要件②)。この場合
の強い心理的負荷とは,精神障害を発病した労働者がその出来事及び出来事後の状況が持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく,同種の労働者が一般
的にどう受け止めるかという観点から評価されるものであり,
同種の労働者
とは職種,職場における立場や職責,年齢,経験等が類似する者をいう。さらに,これらの要件が認められた場合であっても,明らかに業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したと認められる場合には,業務起因性が否定される(認定要件③)


4
認定要件の具体的判断


認定要件①
対象疾病の発病の有無,発病時期及び疾患名は,
ICD-10び行動の障害精神およ臨床記述と診断ガイドラインに基づき,主治医の意見書や診
療録等の関係資料,請求人や関係者からの聴取内容,その他の情報から得られ
た認定事実により,医学的に判断される。特に発病時期については特定が難しい場合があるが,そのような場合にもできる限り時期の範囲を絞り込んだ医学意見を求め判断する。
なお,強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病の兆候と理解し得る言動があるものの,どの段階で診断基準を満たしたかの特定が困難な
場合には,出来事の後に発病したものと取り扱う。


認定要件②
認定要件②は,対象疾病の発病前おおむね6か月の間に業務による出来事があり,当該出来事及びその後の状況による心理的負荷が,客観的に対象疾病を
発病させるおそれのある強い心理的負荷であると認められる場合をいう。このため,業務による心理的負荷の強度の判断に当たっては,精神障害発病前おおむね6か月の間に,対象疾病の発病に関与したと考えられる業務によるどのような出来事があり,また,その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握し,それらによる心理的負荷の強度はどの程度であるかについて,
業務による心理的負荷評価表
(以下別表1という。その内容の抜粋
は別紙2のとおりである。
)を指標として強中弱の三段階に区分


する。業務による強い心理的負荷が認められるものを強
,日常的に経験す
るものであって一般的に弱い心理的負荷しか認められないものを弱とし,中とは,経験の頻度は様々であって弱よりは心理的負荷があるものの,強い心理的負荷とは認められないものをいう。
具体的には次のとおり判断し,総合評価が強と判断される場合には,認
定要件②を満たすものとする。

特別な出来事に該当する出来事がある場合
発病前おおむね6か月の間に,別表1の特別な出来事に該当する業務による出来事が認められた場合には,心理的負荷の総合評価を強と判断する。


特別な出来事に該当する出来事がない場合
以下の手順により心理的負荷の総合評価を行い,
強中又は弱

に評価する。

(ア)
具体的出来事への当てはめ
発病前おおむね6か月の間に認められた業務による出来事が,別表1の具体的出来事のどれに該当するかを判断する。ただし,実際の出来事が別表1の具体的出来事に合致しない場合には,どの具体的出来事に近いかを類推して評価する。(イ)出来事ごとの心理的負荷の総合評価

該当する具体的出来事に示された具体例の内容に,認定した出来事や出来事後の状況についての事実関係が合致する場合には,その強度で評価する。
事実関係が具体例に合致しない場合には,
具体的出来事ごとに示し
ている心理的負荷の総合評価の視点及び総合評価における共通事項に基づき,具体例も参考としつつ個々の事案ごとに評価する。具体例はあくまでも例示であるので,具体例の強の欄で示したもの以外
は強と判断しないというものではない。
なお,
心理的負荷の総合評価の視点及び具体例において,
事故や災害の体験以外の出来事については,
出来事と出来事後の状況の
両者を軽重の別なく評価しており,総合評価を強と判断するのは,ⅰ)出来事自体の心理的負荷が強く,その後に当該出来事に関する本人
の対応を伴っている場合,ⅱ)出来事自体の心理的負荷としては中程度であっても,その後に当該出来事に関する本人の特に困難な対応を伴っている場合である。
そのほか,いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては,繰り返される出来事を一体のものとして評価し,
また,
その継続する状況は,心理的負荷が強まるものとしている。

出来事が複数ある場合の全体評価
上記ア及びイによりそれぞれの出来事について総合評価を行い,いずれかの出来事が強の評価となる場合は,業務による心理的負荷を強と判
断する。いずれの出来事でも単独では強の評価とならない場合には,それらの複数の出来事について,関連して生じているのか,関連なく生じているのかを判断した上で,ⅰ)出来事が関連して生じている場合には,その全体を一つの出来事として評価することとし,原則として最初の出来事を具体的出来事として別表1に当てはめ,関連して生じた各出来事は,出来事
後の状況とみなす方法により,その全体評価を行う。具体的には,中で
ある出来事があり,それに関連する別の出来事(それ単独では中の評価)が生じた場合には,後発の出来事は先発の出来事の出来事後の状況とみなし,当該後発の出来事の内容,程度により強又は中として全体を評価する。また,ⅱ)一つの出来事のほかに,それとは関連しない他の出来事が生じている場合には,主としてそれらの出来事の数,各出来事の内容(心理的負荷の強弱)
,各出来事の時間的な近接の程度を元に,その全体的な心理的

負荷を評価する。具体的には,単独の出来事の心理的負荷が中である出来事が複数生じている場合には,全体評価は中又は強となる。また,中の出来事が一つあるほかには弱の出来事しかない場合には原則として全体評価も中であり,
弱の出来事が複数生じている場合には原
則として全体評価も弱となる。



認定要件③

認定要件③は,ⅰ)業務以外の心理的負荷及び個体側要因が認められない場合,又は,ⅱ)業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められるものの,業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合をいう。


業務以外の心理的負荷の判断
対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,対象疾病の発病に関与したと考えられる業務以外の出来事(自分又は自分以外の家族・親族に関する出来事,金銭関係,事件・事故・災害の体験,住環境の変化,他人との人間関係に関する出来事)の有無を確認する。


個体側要因の評価
本人の個体側要因については,その有無とその内容について確認し,個体側要因の存在が確認できた場合には,それが発病の原因であると判断することの医学的な妥当性を慎重に検討して,上記アのⅱ)に該当するか否かを判
断する。業務による強い心理的負荷が認められる事案であって個体側要因によって発病したことが医学的に見て明らかな場合としては,例えば,就業年齢前の若年期から精神障害の発病と寛解を繰り返しており,請求に係る精神障害がその一連の病態である場合等がある。
5
自殺について
業務によりICD-10のF0からF4に分類される精神障害を発病したと認
められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し,業務起因性を認める。

以上
別紙2

業務による心理的負荷評価表
(別表1)の内容(抜粋)

1
特別な出来事
出来事それ自体の心理的負荷が極めて大きいため,出来事後の状況に関係なく強い心理的負荷を与えると認め得るものについては,
心理的負荷が極度のもの
と整理され(乙9〔7頁〕,具体例は以下のとおりである。



生死にかかわる,極度の苦痛を伴う,又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをしたこと(業務上の傷病により6か月を超えて療養中
に症状が急変し,極度の苦痛を伴った場合を含む。



業務に関連し,他人を死亡させ,又は生死にかかわる重大なケガを負わせたこと(故意によるものを除く。




ラスメントを受けたこと



2
その他,上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの

特別な出来事以外の具体的出来事


強姦や,本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハ
具体的出来事として,項目1から項目36までが列挙され,その平均的な心理的負荷の強度が示されている(強い方からⅢⅡⅠ。その上



で,
心理的負荷の総合評価の視点として,具体的出来事ごとに典型的に想定される検討事項,すなわち,その出来事自体の内容,出来事ごとに一般的に起こる出来事後の状況等,その出来事に伴う業務による心理的負荷の強さを総合的に評価するための視点が明示され,これらの全体を検討して,出来事
と出来事後の状況を包含したものである心理的負荷の総体を強


の三段階で評価している(以上につき,乙9〔8頁〕。



達成困難なノルマが課されたこと
(項目8)
納期,工期,売上目標など会社の中に存在する様々なノルマについて,ノルマが課されたことによる心理的負荷,すなわち,その時点における不安感等による心理的負荷とノルマ達成のために強いられた業務による心理的負荷を評価する項目である。平均的な心理的負荷の強度はⅡであり,
心理的負荷の総合評価の視点としては,ノルマの内容,困難性,強制の程度,達成できなかった場合の影響,ペナルティの有無等,その後の業務内容・業務量の程度,職場の人間関係等が挙げられている(以上につき,甲16〔8頁〕。)
心理的負荷の強度が強になる例としては,客観的に,相当な努力があっても達成困難なノルマが課され,達成できない場合には重いペナルティがある
と予告されたこと,
中である例としては,達成は容易ではないものの,客
観的にみて,努力すれば達成も可能であるノルマが課され,この達成に向けた業務を行ったこと,
弱になる例としては,同種の経験等を有する労働者で
あれば達成可能なノルマを課された場合,ノルマではない業績目標が示された(当該目標が,達成を強く求められるものではなかった)ことが挙げられてい
る。


ノルマが達成できなかったこと
(項目9)
ノルマが達成できなかったときの責任やペナルティによる不利益等による心理的負荷を評価する項目である。期限の到達時に実際にノルマが達成できなか
ったという場合だけでなく,期限に至っていないものの,達成できない状況が明らかになった場合にもこの項目で評価することとなる。
平均的な心理的負荷の強度はⅡであり,
心理的負荷の総合評価の視点
としては,達成できなかったことによる経営上の影響度,ペナルティの程度等,事後対応の困難性等が挙げられている(以上につき,甲16〔8頁〕。)

心理的負荷の強度が強になる例としては,経営に影響するようなノルマ(達成できなかったことにより倒産を招きかねないもの,大幅な業績悪化につながるもの,会社の信用を著しく傷つけるもの等)が達成できず,そのため,事後対応に多大な労力を費やしたこと(懲戒処分,降格,左遷,賠償責任の追及等重いペナルティを課された等を含む)中である例としては,ノルマが,
達成できなかったことによりペナルティ(昇進の遅れ等を含む。
)があったこ
と,
弱になる例としては,ノルマが達成できなかったが,何ら事後対応は
必要なく,会社から責任を問われること等もなかったこと,業績目標が達成できなかったものの,当該目標の達成は,強く求められていたものではなかったことが挙げられている。


顧客や取引先からクレームを受けたこと
(項目12)
本人に過失のないクレームについて評価する項目である。平均的な心理的負
荷の強度はⅡであり,
心理的負荷の総合評価の視点としては,顧客・
取引先の重要性,会社に与えた損害の内容,程度等,事後対応の困難性等が挙げられている。
心理的負荷の強度が強になる例としては,顧客や取引先から重大なクレーム(大口の顧客等の喪失を招きかねないもの,会社の信用を著しく傷つける
もの等)を受け,その解消のために他部門や別の取引先と困難な調整に当たったこと,
中である例としては,業務に関連して,顧客等からクレーム(納
品物の不適合の指摘等その内容が妥当なもの)を受けたこと,
弱になる例
としては,顧客等からクレームを受けたが,特に対応を求められるものではなく,取引関係や,業務内容・業務量に大きな変化もなかったことが挙げられて
いる。


非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けたこと(項目24)
平均的な心理的負荷の強度はⅡであり,
心理的負荷の総合評価の視点

としては,差別・不利益取扱いの理由・経過,内容,程度,職場の人間関係等や,差別・不利益取扱いの継続する状況が挙げられている。
心理的負荷の強度が強になる例としては,仕事上の差別,不利益取扱いの程度が著しく大きく,人格を否定するようなものであって,かつこれが継続したことが,
中である例としては,非正規社員であるとの理由等により,
仕事上の差別,不利益取扱いを受けたり,業務の遂行から疎外又は排除される取扱いを受けたりしたことが,
弱になる例としては,社員間に処遇の差異

があるが,その差は小さいものであったことが挙げられている。


非正規社員である自分の契約満了が迫ったこと
(項目28)
平均的な心理的負荷の程度はⅠであり,
心理的負荷の総合評価の視点
としては,契約締結時,期間満了前の説明の有無,その内容,その後の状況,職場の人間関係等が挙げられている。

心理的負荷の強度は,通常弱であり,事前の説明に反した突然の契約終了(雇止め)通告であり契約終了までの期間が短かった等の場合に,その経過等から中や強と評価する例があるが,
強になることはまれである
と解説されている。


(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けたこと
(項目29)
平均的な心理的負荷の強度はⅢであり,
心理的負荷の総合評価の視点
としては,嫌がらせ,いじめ,暴行の内容,程度等及びその継続する状況が挙げられている。なお,上司から業務指導の範囲内の叱責等を受けた場合,上司と業務をめぐる方針等において対立が生じた場合等は,
上司とのトラブルがあったこと
(項目30)等で評価する。
心理的負荷の強度が強である場合としては,部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われたこと等が挙げられている。上記の程度に至らない場合は,その内容,程度,経過と業務指導からの逸脱の程度により
弱又は中と評価されるところ,
中になる場合としては,上司の叱
責の過程で業務指導の範囲を逸脱した発言があったが,これが継続していないこと等が,
弱になる場合としては,複数の同僚等の発言により不快感を覚
えたこと(客観的には嫌がらせやいじめとはいえないものも含まれる。)が挙
げられている。

上司とのトラブルがあったこと
(項目30)
平均的な心理的負荷の強度はⅡであり,
心理的負荷の総合評価の視点
としては,トラブルの内容,程度等及びその後の業務への支障等が挙げられている。
心理的負荷の程度が強になる場合としては,業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,そ
の後の業務に大きな支障を来したことが,
中である場合としては,業務を
めぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような対立が上司との間に生じたこと等が,
弱になる場合としては,業務をめぐる方針等におい
て,上司との考え方の相違が生じたこと(客観的にはトラブルとはいえないものも含む。
)が挙げられている。
以上

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