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生活保護基準引下げ処分取消等請求事件(第1事件、第2事件)
事件番号平成26(行ウ)83
事件名生活保護基準引下げ処分取消等請求事件(第1事件,第2事件)
裁判年月日令和2年6月25日
裁判所名名古屋地方裁判所
裁判日:西暦2020-06-25
情報公開日2020-11-12 10:00:29
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令和2年6月25日判決言渡

同日判決原本交付

裁判所書記官

平成26年
(行ウ)
第83号

生活保護基準引下げ処分取消等請求事件
(第1事件)

平成28年
(行ウ)
第60号

生活保護基準引下げ処分取消等請求事件
(第2事件)

口頭弁論終結日

令和2年1月27日
判決主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1

実及び理由
請求

1
第1事件


別紙処分一覧表1の処分行政庁欄記載の各処分行政庁が処分日欄
記載の各年月日付けで処分の名宛人欄記載の各原告に対してした各保護変更決定処分を取り消す。



第1事件被告兼第2事件被告国(以下被告国という。
)は,第1事件原
告ら各自に対し,1万円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
第2事件


別紙処分一覧表2の処分行政庁欄記載の各処分行政庁が処分日欄
記載の各年月日付けで処分の名宛人欄記載の各原告に対してした各保護変更決定処分を取り消す。



被告国は,第2事件原告ら各自に対し,1万円及びこれに対する平成26年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2
1
事案の概要等
事案の要旨
生活保護法に基づく生活扶助の支給を受けている第1事件原告らは,生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日号外厚生省告示第158号。以下保護基準
という。における生活扶助の基準

(以下
生活扶助基準
という。

を改定する厚生労働省告示(平成25年厚生労働省告示第174号。同年8月1日から適用される。以下本件告示1という。
)により生活扶助基準が改定
されたことに基づき,別紙処分一覧表1の処分行政庁欄記載の各処分行政庁から
処分の名宛人
欄記載の各原告を名宛人とする各保護変更決定処分
(以
下,これらを併せて本件各処分1という。
)を受けた。また,生活保護法に
基づく生活扶助の支給を受けている第2事件原告らは,本件告示1に引き続い
て保護基準における生活扶助基準を改定する厚生労働省告示(平成26年厚生労働省告示第136号。同年4月1日から適用される。以下本件告示2といい,本件告示1と本件告示2を併せて本件各告示という。
)により生活扶
助基準が改定されたことに基づき,別紙処分一覧表2の処分行政庁欄記載の各処分行政庁から,
処分の名宛人
欄記載の各原告を名宛人とする各保護変

更決定処分(以下,これらを併せて本件各処分2といい,本件各処分1と本件各処分2を併せて本件各処分という。)を受けた。
本件は,第1事件原告らが,本件各処分1は,生活保護法3条に反し,生活扶助を健康で文化的な最低限度の生活を維持するに足りない水準とするものであるなどの理由から違法であるとして,本件各処分1の取消しを求め(第1
事件・取消訴訟)
,第2事件原告らが,本件各処分2には本件各処分1と同様の
違法事由があるとして,本件各処分2の取消しを求め(第2事件・取消訴訟),
さらに,③原告らが,本件各処分の根拠となった生活扶助基準の改定が国家賠償法上違法であるとして,被告国に対し,損害賠償金1万円及びこれに対する違法行為の日(生活扶助基準の改定日であり,第1事件原告らについては平成
25年8月1日,第2事件原告らについては平成26年4月1日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2
関係法令の定め等


生活保護法

生活保護法は,1条において,同法は,憲法25条に規定する理念に基づき,国が生活に困窮する全ての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助
長することを目的とする旨規定し,3条において,同法により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない旨規定する。

生活保護法は,8条1項において,保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者(生活保護法による保護を必要とする者をいう。
以下同じ。
)の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすこ
とのできない不足分を補う程度において行うものとする旨規定し,同条2項において,前項の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものでなけれ
ばならない旨規定する。

生活保護法は,11条において,保護の種類の1つとして生活扶助を定め,12条において,生活扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの
(1号)
及び移送
(2号)の範囲内において行われる旨規定する。


生活保護法
(平成25年号外法律第104号による改正前のもの。
以下,
同法24条及び25条につき同じ。
)は,25条2項において,保護の実施
機関は,保護の変更を必要とすると認めるときは,速やかに,職権をもってその決定を行い,書面をもって,これを被保護者(現に生活保護法によ
る保護を受けている者をいう。以下同じ。
)に通知しなければならず,同法
24条2項を準用して,その通知書には理由を付さなければならない旨規定する。

生活保護法は,56条において,被保護者は,正当な理由がなければ,既に決定された保護を不利益に変更されることがない旨規定する。

生活扶助基準

生活扶助基準(別表第1)は,日常生活に必要な基本的かつ経常的な費用についての最低生活費を定めたものであり,基準生活費(第1章)と加算(第2章)とに大別されている。居宅で生活する者の基準生活費は,食費,被服費等の個人単位の経費に対応する第1類の額(以下第1類費という。と光熱水費,

家具什器類費等の世帯単位の経費に対応する第2類
の額(以下第2類費という。
)に分けられている。基準生活費は,原則

として世帯ごとに,当該世帯を構成する個人ごとの第1類費を合算したものと第2類費とを合計して算出される。

第1類費は年齢別に,第2類費は世帯人員別に定められているところ,第1類費及び第2類費を設定するに当たっては,標準世帯(現在は,夫婦
子1人の3人世帯)の最低限度の生活に要する費用を具体的金額として設定し,これを一般世帯の消費実態を参考にして第1類費と第2類費に分けた上,第1類費については栄養所要量を参考とした指数を,第2類費については消費支出を参考とした指数をそれぞれ設定し,これらの指数を標準世帯の第1類費及び第2類費に適用して,第1類費の年齢階級別の額及び
第2類費の世帯人員別の額を設定している。また,保護基準は,生活様式や物価の違い等を考慮して全国の市町村を1級地-1から3級地-2までの6つの級地に区分した上
(別表第9)
,第1類費及び第2類費に地域差を
設けているが,級地による地域差についても,1級地-1における額を定めた上で,1級地-1を1として一定の比率(指数)により他の級地の額
を定めている(以下,生活扶助基準において標準世帯の第1類費及び第2類費を基準として指数により他の年齢階級及び世帯人員の額を定める部分及び1級地-1の基準額を基準として指数により他の級地の基準額を定める部分を展開部分という。。

なお,名古屋市(原告1,3~5,7~12及び17~20の居住地)は1級地-1に,愛知県豊橋市(以下豊橋市という。原告13,14及び21の居住地)及び愛知県刈谷市(以下刈谷市という。原告15
の居住地)は2級地-1にそれぞれ属する。
(別表第9)
3
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等。なお,以下において,特記しない限り,書証番号は全ての枝番を含むものとする。




当事者
原告1,3~5,7~12及び17~20は名古屋市,原告13,14及び21は豊橋市,原告15は刈谷市において,それぞれ生活保護を受給している。





本件各処分に至る経緯

平成23年2月,厚生労働省の審議会である社会保障審議会の下に生活保護基準部会が設置され,生活保護基準部会において生活扶助基準に関する検証及び評価が行われた。
生活保護基準部会は,
平成25年1月18日,
この検証及び評価の結果を取りまとめて社会保障審議会生活保護基準部会報告書(以下平成25年報告書という。
)として公表し,平成25年報

告書において,生活扶助基準の展開部分が一般低所得世帯の消費実態とかい離している旨を指摘した(以下,前記の検証及び評価を行った生活保護基準部会を基準部会という。。

厚生労働大臣は,基準部会の検証結果を受けて,一般低所得世帯の消費実態を生活扶助基準の展開部分に反映させることにより生活扶助基準の展
開部分を適正化し生活保護受給世帯間の公平を図るため,生活扶助基準を改定することとした(以下,この改定をゆがみ調整という。。

(以上につき,甲全6,乙全6,16,19,22,弁論の全趣旨)イ
また,厚生労働大臣は,平成20年から平成23年までの物価下落により被保護者の可処分所得が実質的に増加しているとして物価下落率を考慮した生活扶助基準の引下げを行うこととした(以下,この改定をデフレ調整という。。)
厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率を算出するに当たり,総務省が公表している消費者物価指数(以下総務省CPIという。)の
データを使用した。消費者物価指数は,消費財・サービスの価格における変化を計測する物価指数であり,一定の数量の消費財・サービスを購入す
るための費用の変化を指数化することにより算出される。総務省CPIも前記の方法により算出され,指数の計算の対象とする品目(以下指数品目という。)を選定し,家計調査により家計の消費支出全体に当該品目の
支出額が占める割合(以下支出割合という。
)を算出した上,指数品目
の基準年の価格と比較年の価格の比を,支出割合をウェイトとして加重平
均(値に重み〔ウェイト〕を付けて行う平均)し,基準年の指数を100として比較年の物価を指数化することで算出される。
厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率を算出するに当たり,総務省CPIの指数品目から家賃等の生活扶助以外の他の扶助で賄われる品目及び自動車関係費等の生活保護受給世帯において支出することが想定
されていない品目を除外したものを指数品目とした(以下,総務省CPIの指数品目からこれらの品目を除外した品目による消費者物価指数を生活扶助相当CPIという。。そして,厚生労働大臣は,生活扶助相当C)
PIにより,平成20年から平成23年までの期間における物価下落率を算出することとし,
平成22年の家計調査による支出割合をウェイトとし,

同年の価格を基準に同年の指数を100とした上で,平成20年の生活扶助相当CPI及び平成23年の生活扶助相当CPIを算出した(以下,消費者物価指数の計算において,ウェイトとして使用される数量や支出の時点を
ウェイト参照時点比較の基準となる価格の時点を

価格参照時点

指数の値を100とする時点を指数参照時点という。。

その結果,平成20年の生活扶助相当CPIは104.5,平成23年の生活扶助相当CPIは99.5となり,平成20年から平成23年まで
の下落率は4.78%(99.5÷104.5-1≒-4.78%)となった。
(以上につき,甲全100,102,149,230,乙全16,19,26~28,弁論の全趣旨)

以上の経緯から,厚生労働大臣は,生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を解消するとともに
(ゆがみ調整)平成20

年から平成23年までの物価下落率を考慮した4.78%の生活扶助基準の引下げ(デフレ調整)を行うこととしたが,これらの生活扶助基準の改定においては,生活保護受給世帯に対する激変緩和措置として,①改定を平成25年度から3年間かけて段階的に実施し,②改定の影響を一定程度
抑える観点から,増減額の幅がプラスマイナス10%を超えないように調整するとともにゆがみ調整による増減額の幅を基準部会の検証結果の2分の1とすることとした。そして,厚生労働大臣は,平成25年5月16日に本件告示1による生活扶助基準の改定を実施し,平成26年3月31日に本件告示2による生活扶助基準の改定を実施した。
(甲全8,97,乙全

1,3,16,19,31)


原告らに対する処分等

別紙処分一覧表1の処分行政庁欄記載の各処分行政庁は,本件告示1に基づき,
処分の名宛人欄記載の各原告に対し,各保護変更決定処分

をした(本件各処分1。乙⑴1,⑶1~⑸1,⑺1~⒂1)。また,別紙処
分一覧表2の処分行政庁欄記載の各処分行政庁は,本件告示2に基づき,
処分の名宛人
欄記載の各原告に対し,
各保護変更決定処分をした
(本
件各処分2。乙⒄1~

1)


本件告示1により第1事件原告らについて生じた生活扶助基準額の変更額は別紙処分一覧表1の差額欄記載のとおりであり,本件告示2により第2事件原告らについて生じた生活扶助基準額の変更額は別紙処分一覧
表2の差額欄記載のとおりである。なお,生活扶助基準額が増額となっている者があるのは,本件告示2及び本件処分2が消費税増額に伴う引上げを含んでいるためである。
(弁論の全趣旨)

本件各処分1の通知書には,処分の理由として,原告1,3~5及び7~12につき基準改定による変更
,原告13及び14につき基準改定を行う
,原告15につき基準改定と記載されていた。また,本件各処
分2の通知書には,原告17~20につき基準改定(年齢改定,冬季加算削除)による変更,原告21につき基準改定,年齢改定を行うと記
載されていた。
(乙⑴1,⑶1~⑸1,⑺1~⒂1,⒄1~ウ
1)

原告らは,それぞれ,本件処分1ないし本件処分2について,別紙処分一覧表1及び2記載の審査請求日欄記載の日に愛知県知事に対して審査請求を行ったところ,
愛知県知事は,
別紙処分一覧表1及び2記載の
裁決日欄記載の日に,原告らの各審査請求を棄却する旨の各裁決を行い,各同日頃,
原告らにその旨を通知した。
原告ら
(ただし,
原告14を除く。

は,本件各処分について,別紙処分一覧表1及び2の再審査請求日欄
記載の日に厚生労働大臣に対して再審査請求を行った。
(弁論の全趣旨)

第1事件原告らは,平成26年7月31日に第1事件に係る訴えを,第2事件原告らは,平成28年4月21日に第2事件に係る訴えをそれぞれ提起し,第2事件は第1事件に併合された。
(顕著な事実)


その後,厚生労働大臣は,前記ウの再審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
(弁論の全趣旨)
第3

主要な争点

1
本件各告示による生活扶助基準の改定に生活保護法3条及び8条に違反した違法があるか(争点1)

2
本件各処分に行政手続法14条の理由提示義務又は生活保護法25条2項の理由付記義務に違反した違法があるか(争点2)

3
本件各告示による生活扶助基準の改定の国家賠償法上の違法性の有無及び損害額(争点3)

第4

主要な争点に関する当事者の主張の要旨

1
争点1(本件各告示による生活扶助基準の改定に生活保護法3条及び8条に違反した違法があるか)
(原告らの主張の要旨)


生活扶助基準改定の違法性判断の枠組み
生活扶助基準の改定については,厚生労働大臣に一定の裁量が認められるから,本件各告示による生活扶助基準の改定が違法か否かは,当該改定を行
った厚生労働大臣の判断が,生活保護法8条1項により厚生労働大臣に付与された裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものといえるか否かにより判断すべきである。もっとも,生活保護法が憲法25条の保障する生存権を具体化したものであり,生活扶助基準が生存権の保護水準を画する極めて重要なものであることなどから,前記の厚生労働大臣の裁量には,以下のよ
うな制約が存在するというべきである。

制度後退禁止原則による制約
憲法25条が生存権を国民の権利として規定していることからすれば,憲法上,国は健康で文化的な水準の生活を国民に保障しなければならないというべきである。そして,生活保護法は,このような憲法25条の
理念を受けて,
3条において,
この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないと規定し,健康で文化的な生活水準を維持することを国に義務付けるとともに,8条2項において,生活扶助基準が最低限度の生活の需要を満たすに十分なもの(中略)でなければならないと規定し,
健康で文化的な最低限度の生活の需要が確実に満たされるようにしなければならないとしている。また,不利益変更の禁止を定める生活保護法56条は,保護基準の改定においても適用されるべきであるし,仮に,保護基準の改定に適用されないとしても,同条は,保護基準を個々人に具体化する場合に適用される規定であり,被保護者に対する不利益の点において両者に何らの差異はないから同条の趣旨は保護基準の改定にも
及ぼされるべきである。さらに,生活保護法の立法当時,厚生大臣(以下,
省庁名,
官職名等はいずれも当時のものである。が国会において

基準額につきましては下げないということでどこまでも進んでいきたいと答弁していることや厚生省社会局長が同法8条2項につき最低生活はできるだけ高い線まで持って行きたいと答弁していることからする
と,生活保護法は保護基準の引下げを予定していないということができる。以上のような生活保護法の規定等に照らすと,厚生労働大臣は,原則として,一旦,最低限度の生活の需要を満たすために必要として設定された生活扶助基準を引き下げることはできないというべきである(制度後退禁止原則)


このような制度後退禁止原則は,憲法25条2項が,国に社会福祉の向上及び増進を義務付けており,制度の後退を予定していないことからも明らかである。また,憲法98条2項からは経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下社会権規約という。
)も法律の解釈指
針となると解されるところ,
その2条1項は,
この規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため,自国における利用可能な手段を最大限に用いること,すなわち権利の実現の漸進的な進歩を国家の法的義務としている上,社会権規約の解釈として一般的通用力を有すると解されている経済的,社会的及び文化的権利に関する委員会の一般的意見(以下一般的意見という。
)も,その3において,不可欠
な食料等の最低限の部分を充足することを即時的に行われるべき最低限の中核的義務として位置付けるとともに,その19において,財政上社
会保障に対して優先的な財源の配分を求め,社会保障に関する後退的な措置は禁じられているとの強い推定が働くとしていることからも導かれる。
以上のとおり,厚生労働大臣は,原則として,最低限度の生活の需要を満たすために必要であるとして設定された生活扶助基準を引き下げる
ことはできないというべきである。したがって,厚生労働大臣が生活扶助基準の引下げを行う場合には,国において,当該措置が全ての選択肢が最大限検討された上での措置か否か,影響を受ける者らがその検討の手続に真に参加することができたか否か,当該措置が社会保障に対する権利の実現に持続的な影響力を及ぼすか否かなどの観点からみて,生活
扶助基準を引き下げる正当な理由があることを主張立証しない限り,生活扶助基準の引下げは,違法となる。

生活保護法が考慮事項を法定していることによる制約
生活保護法8条は,1項において,生活扶助基準の設定ないし改定を厚
生労働大臣に委任する一方で,2項において,その設定ないし改定は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事項を考慮したものでなければならないとして考慮すべき事項を具体的に示している。また,同法9条は,保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して有効かつ
適切に行うものとしている。
基本的人権の具体的内容を定めることを行政に授権する場合であっても,法律による行政や民主主義の原理からして,その本質的事項(内容・方法・手続の面)は法律自体で明確に定められていなければならないし,立法の沿革としても,生活保護法において保護の内容を法定しているのは,保護の内容が行政機関の広範な自由裁量に委ねられてきた旧法下の在り方を改めるためであり,ある程度抽象的な定め方となっているのも,それ以上具
体的な規律を設けることが技術的に不可能に近いという制約によるものにすぎない。そうすると,厚生労働大臣が生活扶助基準を設定ないし改定するに当たっては,法定の考慮事項を考慮することが義務付けられているというべきであり,他方で,国の財政事情,国民感情,政権与党の公約等の同法8条2項及び9条に定められた事項以外の事項を考慮してはならない
のであって,厚生労働大臣が生活扶助基準の設定ないし改定に当たり,同法8条2項及び9条に定められた事項を考慮せず,又はそれらの各規定に定められた事項以外の事項を考慮した場合には,厚生労働大臣の判断は裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法となるというべきである。


事柄の専門技術性による制約
生活扶助基準の引下げが適法となるためには,最低限度の生活を維持す
る上で引下げに見合った需要の減少が認められ(引下げの必要性),引下げ
後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであること(引下げの相当性)が必要となるところ,このような必要性及び相当性は,高度の専門技術的な考察により判断されるべき事柄であり,その判断においては,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無が検討される必要がある。そして,生活保護法が制定された際の国会での議論においては,①保護基準は合理的な基礎
資料によって算出されるべきであること,②その合理的な基礎資料は,厚生大臣限りではなく,社会保障制度審議会の最低生活水準に関する調査研究によって得られるものとした上,社会事業審議会に部会を設けて部会の検討結果の趣旨を生かすことなどが前提とされていた。このように生活保護法の立法過程において,生活扶助基準は,専門家によって構成された審議会の検討を経て,これに基づいて設定することが当然の前提とされ,必ず専門家の判断を踏まえることによって厚生大臣の裁量判断の正当性が根
拠付けられるものとされていたのである。
また,昭和59年から現在に至るまで採用されている水準均衡方式は,中央社会福祉審議会が昭和58年12月に取りまとめた意見具申
(以下
昭和58年意見具申という。
)において,
現在の生活扶助基準が一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているとの所見を示したの
を受けて,その均衡を維持しようとするものであるが,この水準均衡方式は,生活扶助基準が一般国民の消費実態と均衡しているか否かを定期的に検証することを予定しており,厚生労働大臣が,そうした検証の結果に拘束されることを前提としている上,生活保護の在り方に関する専門委員会(以下専門委員会という。
)も,保護基準が定期的に専門家により検証

されることを前提としていた。
これらの点に照らすと,厚生労働大臣が保護基準を設定するに当たっては,専門家による審議会の検討を経て,その結果に基づいて行うことが法令上要請されているのであり,保護基準の設定が専門家により構成される審議会における検討結果に依拠しない場合には,統計等の客観的な数値等
との合理的関連性や専門的知見との整合性が一層厳しく審査されるべきこととなる。そして,従前,専門家による会議等において生活保護受給世帯の消費の下方硬直性が強いことが繰り返し指摘されてきたことからすれば,保護基準を引き下げる場合には,前記のことはより一層妥当するというべきである。



ゆがみ調整を行ったことが違法であること

第Ⅰ-10分位(調査対象者を年間収入額順に10等分した場合に最も収入額の低いグループ。以下同じ。
)の世帯を比較対象としたこと
基準部会が生活扶助基準の検証に当たり第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象とした理由は,①これまでの検証においても,生活保護受給世帯と
隣接した一般低所得世帯の消費実態が比較対象とされてきたこと,②第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準が平均的な世帯の消費水準に照らして相当程度に達していること,③国民の過半数が必要であると考えている必需的な耐久消費財(平均的世帯における普及率が70%を超える品目)の第Ⅰ-10分位に属する世帯における普及状況が中位所得階層と比べ
ておおむね遜色ないこと,④経済協力開発機構(以下OECDという。
)の国際的基準によれば,等価可処分所得(世帯の可処分所得をスケールメリット〔世帯人員数による規模の経済性〕を考慮して世帯人員数の平方根で除したもの)の中位値(全データの真中の値)の半分の額に満たない世帯は相対的貧困層にあるとされており,平成21年の全国消
費実態調査によれば,第Ⅰ-10分位に属する世帯の大部分が相対的貧困層にあることを示していることであると考えられる。
しかしながら,①については,昭和39年から昭和58年までの期間に採用された格差縮小方式における比較対象は,一般勤労者世帯の消費水準であり,昭和59年から採用されている水準均衡方式における比較
対象は一般国民生活における消費水準であって,従前の検証が第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象として行われてきた事実はない。また,②については,夫婦子1人世帯の第Ⅰ-10分位の消費水準は,第Ⅲ-5分位(調査対象者を年間収入額順に5等分した場合に収入額の低い方から3番目のグループ。以下同じ。
)の7割に達しているが,単身世帯(60歳

以上)については,その割合が5割(第Ⅰ-5分位〔調査対象者を年間収入額順に5等分した場合に最も収入額の低いグループ〕でみると約6割)にとどまっており,第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準が平均的な世帯の消費水準に照らして相当程度に達しているということはできない。さらに,③については,厚生労働省社会・援護局保護課が平成22年に実施した家庭の生活実態及び生活意識に関する調査によれば,第Ⅰ-10分位の世帯の普及率が第Ⅲ-5分位の普及率の9割未満である項
目が全体の3分の2に及び,特に文化や教養に関わる項目及び社会生活に関わる項目において第Ⅲ-5分位の世帯との格差が顕著であることが明らかであり,第Ⅰ-10分位に属する世帯における必需的な耐久消費財の普及状況が,中位所得階層と比べて遜色ないものであるということはできない。加えて,④については,相対的貧困層にある者は,あってはならない状況にあるものと考えられているから,このような状況にある第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象とすることは到底許されるものではない。
平成22年4月9日付け厚生労働省社会・援護局保護課作成の生活保護基準未満の低所得世帯数の推計についてによれば,生活保護を受
給することができるのに受給していない層が多数存在しており,これらの世帯では消費支出が生活扶助基準以下の水準となるのは当然であるから,これらの層を多く含むと考えられる第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準との比較を根拠に生活扶助基準を引き下げてしまうと,際限のない引下げを招くこととなる。

したがって,厚生労働大臣が第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象とした基準部会の検証結果に基づいてゆがみ調整を行ったことはその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとして違法である。

比較対象群から生活保護受給世帯が除外されていないこと
仮に第Ⅰ-10分位の世帯と比較すること自体は不合理でないとしても,基準部会の生活扶助基準の検証過程においては,比較対象であった第Ⅰ―10分位の世帯から生活保護受給世帯が除外されておらず,いわば対照群の中に比較群が含まれることになってしまっており,データの比較可能性を欠くことになって不合理である。そうであるからこそ,平成19年に設置された生活扶助基準に関する検討会(以下検討会という。
)が公表した生活扶助基準に関する検討会報告書
(以下平成19年報告書
という。及び平成29年の生活保護基準部会が公表した

社会保障審議会生活保護基準部会報告書
(以下平成29年報告書
という。では生活保護受給世帯が比較対象から除外されているのである。)
そうすると,基準部会の生活扶助基準の検証において第Ⅰ-10分位の世帯から生活保護受給世帯が除外されていないことは合理性を欠くから,
厚生労働大臣がこのような基準部会の検証結果に基づいてゆがみ調整を行ったことはその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法である。
被告らは,第Ⅰ-10分位の世帯と比較されているのは,生活保護受給世帯の消費実態ではなく,法令上の生活扶助基準額であるから比較対
象となる第Ⅰ-10分位の世帯から生活保護受給世帯が除外されていないことは違法ではないと主張するが,生活扶助基準額は,基本的にはその全額が消費されるものであるから,
生活扶助基準額と比較することは,
すなわち,生活保護受給世帯の消費実態と比較することに他ならないのであって,被告らの主張は失当である。



デフレ調整を行ったことが違法であること

専門家による検証を経ずに行ったことが違法であること
これまでの生活扶助基準の改定は,昭和58年意見具申以来,水準均衡方式により行われており,物価を基準とした調整は行われたことがなく,
専門委員会では,
生活扶助基準の改定に当たって物価指数を用いることは,
昭和59年以来採用されてきた水準均衡方式から逸脱する内容になるので相当慎重にされたいとの指摘がされ,生活扶助基準の改定に物価指数を用いることについて強い反対意見が述べられていた。また,基準部会においても,生活扶助基準改定に当たり消費者物価指数を勘案することもあり得る旨の厚生労働省の報告書案について,消費者物価指数については何も議論していないことを明確にするよう求めるとともに,消費品目によって物
価指数が異なるにもかかわらず,全国一律の物価指数によって生活扶助基準を改定することには非常に慎重であるべきだというような意見が出された。以上のとおり,生活扶助基準の改定において物価指数を考慮することは,従前の改定方式である水準均衡方式を逸脱するものであり,新たな生活扶助基準の改定方式を構築することを意味するものである。このように
生活扶助基準の改定方式を抜本的に変更するのであれば,生活保護基準部会における専門的な審議を経る必要があったというべきである。そうであるところ,専門委員会及び基準部会において生活扶助基準改定に物価指数を用いることに反対意見が述べられ,基準部会では物価指数について何も具体的な議論がされなかったのであり,
にもかかわらず,
厚生労働大臣は,

物価指数を用いて生活扶助基準の引下げを行ったのである。以上の点からすると,物価指数を考慮したデフレ調整は,専門的知見との整合性を欠くものであり,厚生労働大臣がこのようなデフレ調整を行ったことは,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法である。イ
デフレ調整を行う必要性がなかったのに行ったことが違法であること被告らは,デフレ調整は,平成20年から平成23年までの物価下落が生活扶助基準に反映されていなかったことから,これらを生活扶助基準の改定に反映させたものであるとしている。
しかしながら,水準均衡方式は,生活扶助基準の改定につき,政府経
済見通しの民間最終消費支出
(以下,民間最終消費支出
単に
という。

の伸びを基礎とし,国民の消費動向や社会経済情勢を総合的に勘案するものであるところ,水準均衡方式の基礎となる民間最終消費支出は,物価水準の変動の影響が反映された名目値の民間最終消費支出である。そうすると,水準均衡方式の下では,生活扶助基準の改定において毎年度の物価変動の影響が反映された名目値の民間最終消費支出の伸び率(一般国民の消費実態を示す数値)
との均衡が検証されているのであるから,
生活扶助基準の改定に毎年度の物価変動が当然に反映されていることになる。そうであるとすれば,平成20年度から平成24年度までの間においても水準均衡方式による生活扶助基準の改定において既に物価変動が反映されているから,その後に,重ねてデフレ調整を行う必要はなか
ったというべきである。したがって,デフレ調整は,その必要性がないのに行われたものであり,厚生労働大臣がデフレ調整を行ったことは,その裁量権の範囲を逸脱し,
又はこれを濫用したものとして違法である。
この点,平成20年度から平成24年度までの間は,民間最終消費支出の変動に伴う生活扶助基準の改定は行われていないが,これは,物価
変動の影響について何ら考慮されていないことを意味するわけではなく,むしろ,いずれの年度においても,将来の消費支出を見込む指標として物価動向を参考にした上で,その他の社会経済情勢等を総合的に勘案しつつ,結果として改定をしないとの判断がされたものである。特に,平成23年度において,民間最終消費支出自体は0.2%上昇しているに
もかかわらず,改定を行わないとの判断がされているのは,総務省CPIが0.4%下落しているのを踏まえてのこととしか考えられず,この事実は,前記の主張を強く裏付けるものである。
また,被告らは,平成16年に専門委員会が公表した生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書以下(
平成16年報告書
という。


では,勤労3人世帯の生活扶助基準の水準は基本的に妥当と評価されていたのに対し,検討会が公表した平成19年報告書では,生活扶助基準が一般低所得世帯の実態と比べて高いとされ,引下げの必要が指摘されていたなどと主張する。しかしながら,検討会は,厚生労働省社会・援護局長が法令上の根拠に基づかずに設置した私的諮問機関にすぎず,議事録も発言者を公にしないものであるし,わずか1か月半の検討期間で平成19年報告書をまとめていることなどからすると,平成19年報告
書の内容を根拠として生活扶助基準の引下げの必要性があったということはできない。

物価下落率算出における期間設定が違法であること
期首を平成20年としたことについて

a
厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率の算出において,下落率算出の期首を平成20年としている。

b
しかしながら,直近で生活扶助基準が改定されたのは,老齢加算の廃止に伴う引下げが行われた平成16年であるから,デフレ調整における物価下落率の算出の期首は同年とされるべきである。他方,平成
20年は,原油価格の高騰によってごく一時的に食料品等の物価が上昇した時期であり,期首を同年とした場合に物価下落率が大きくなることは明らかである。これらのことからすると,期首を平成20年とする合理的な理由はない。
被告らは,期首を平成16年として生活扶助相当CPIを算出する
と下落率が6.4%となる旨を指摘しており,そのような計算結果となることは被告らの指摘するとおりである。しかしながら,このような著しい下落率となる原因は,生活扶助相当CPIの指数品目が著しく偏ったものであるために家電製品の物価下落が過大評価されたことにあるのであって,厚生労働大臣は,物価の下落率が余りに異常であ
ることから生活扶助相当CPIの問題点が露呈してしまうことを避けるために,
あえて期首を平成20年として選択したものと考えられる。
したがって,被告らが主張する点をもって,期首を平成20年とすることが正当化されるものではない。
c
これらのことからすると,期首を平成20年とした厚生労働大臣の判断には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。

期末を平成23年としたことについて
a
厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率の算出において,下落率算出の期末を平成23年としている。

b
しかしながら,一般的に,政策判断を行うために統計データを使用する場合には最新のデータが使用されるところ,本件告示1による保
護基準の改定当時,平成24年の総務省CPIのデータは公表されていたのであるから,デフレ調整における物価下落率の算出に当たっては,期末を同年として同年のデータを使用すべきである。
厚生労働省は,生活扶助を食料や光熱・水道費といった基礎的な日常生活費を賄うものであると説明していたため,
厚生労働省としては,

生活扶助基準を引き下げるためにはこれらがいずれも下落している必要があった。ところが,期末を平成23年とした場合には,
食料と
光熱・水道費のいずれについても物価が下落したと評価すること
が可能であるのに対し,期末を平成24年とした場合には,
食料に
ついては物価が下落したと評価することはできるものの,
光熱・水道費については物価が上昇したと評価される状況であった。このようなことから,厚生労働大臣は,デフレ調整の物価下落率の算出においてあえて期末を平成23年としたものと考えられる。
c
これらのことからすると,期末を平成23年とした厚生労働大臣の判断には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。

指数参照時点及び価格参照時点(以下,両者を併せて指数・価格参照時点という。)を平成22年としたことが違法であること
a
厚生労働大臣は,デフレ調整の物価下落率の算出に当たり,指数・価格参照時点を,期首である平成20年ではなく,平成22年としている。

b
しかしながら,物価指数は,時間的な変化の尺度であり,価格参照時点以降の価格の変化を示すものであるから,価格参照時点が価格を比較する時点よりも前であることは当然であり,国際労働機関(以下ILO
という。による

消費者物価指数マニュアル理論と実践
(2004年版)
(以下
ILOマニュアル
という。
)等においては,

①基準時は対象とする時系列間の期首であり起点であって,比較時点より過去の時点となること及び②基準時の指数は100でなければならないことが定められている。指数・価格参照時点を,期首であり起点である平成20年ではなく,平成22年とする算出方法は前記①及び②の定めに反するものである。

c
また,平成20年を期首,平成23年を期末としつつ,指数・価格参照時点を平成22年とすると,平成22年から平成20年に向かう変化率と平成22年から平成23年に向かう変化率を比較することとなるが,ある品目の物価指数を考察する場合に,新しい時点から古い
時点への上昇率(下落率)
(㋐)と,古い時点から新しい時点への下落
率(上昇率)
(㋑)との間には,双対性がない。例えば,ある指数が,
古い時点では100であり,新しい時点では80であった場合,㋐の数値は25%であるが,㋑の数値は20%であって,同じ事象について異なる数値が出されることとなる。そうすると,平成22年を基準
として古い方向の数値となる平成20年の数値と,新しい方向の数値となる平成23年の数値を比較すること自体が誤りである。
これらのことからすると,指数・価格参照時点を平成22年とした厚生労働大臣の判断には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。

ウェイト参照時点を平成22年としたことが違法であること
ウェイト参照時点を期首と期末の間である平成22年とした場合の平成20年の生活扶助相当CPIは,パーシェ式(比較する期間の期末の支出や数量等をウェイトとして使用する算式)による計算結果と一致するものであるのに対して,平成23年の生活扶助相当CPIは,ラスパイレス式(比較する期間の期首の支出や数量等をウェイトとして使用す
る算式)による計算結果と一致するものである。
しかしながら,パーシェ式は加重調和平均であるのに対してラスパイレス式は加重相加平均であり,両者は平均の性質を異にするものである上,この2つの式により計算された指数を比較する方法を採ると,これらの計算式により生ずるバイアス
(指数の変動率が過大評価されること)

も混交することになるから,このような手法は統計学的にはあり得ないものである。現に,総務省統計局も平成31年4月の国会議員からの質問に対して,算式が違う指数を比較することは適切でない旨を回答している。
また,期末の支出等をウェイトとして使用するパーシェ式で消費者物
価指数を計算した場合には,価格変動の影響を受けた後の支出をウェイトとして使用するため,ある財の価格が低下した場合にはその財に対する支出が上昇しその財の価格低下が物価指数に与える影響がより大きくなる。特に,指数品目として,価格と数量が大幅かつ逆方向に変化し続けるIT関連財のような財が存するときには,実際の価格が据え置かれ
たとしても,品質調整(ある財の価格が品質の変化など物価変動以外の要因により変化した場合にその価格差を除去する調整)により性能・品質の向上に応じてその価格が下落することになる。これらのことから,パーシェ式で消費者物価指数を計算した場合には,時間が経過するほど下方バイアス(指数の下落率が過大評価されること)が生ずることとなる。現に,価格参照時点を固定する方式のパーシェ式は,従前はパーシェ式が用いられてきたGDPデフレーター(名目GDPを実質GDPで除することによって事後的に求められる物価指数)においても採用されていないし,総務省CPIの計算においては,パーシェ式はおよそ採用されていない。そして,平成17年から平成22年までの間には,パソコン類については品質調整の影響により価格低下と購入量の増加が生じ,
テレビについては価格低下と地上波によるテレビジョン放送のアナログ方式からデジタル方式への移行(以下地デジ化という。
)による実際
の購入台数の増加が生じていた。このような状況の下で,前記のような下方バイアスが生ずるパーシェ式により消費者物価指数を計算した場合には,その計算結果は生活保護受給者の生活実態からかけ離れたものと
なる。
総務省統計局や多くの国際統計機関は,消費者物価指数については,一貫して,比較する期間の期首の数値をウェイトとして用いるラスパイレス式を採用しており,統計委員会の答申指数の基準時に関する統計基準においても,期首以外の数値をウェイトとして用いることが妥当
でない旨が示されているのであり,ウェイト参照時点を比較する期間の途中の時点とすることは合理性を欠くというべきである。
被告らは,直近の消費構造を反映させるという趣旨に照らして,平成22年の支出割合をウェイトとして使用することが合理的であり,平成20年の指数計算に際して平成17年の支出割合をウェイトとして使用
することが妥当でないとする。しかしながら,平成20年の消費構造が平成17年のものよりも平成22年のものに近似していると解すべき合理的な根拠はない。
被告らは,総務省CPIにおいては,平成17年の支出割合をウェイトとして使用する平成20年の指数と平成22年の支出割合をウェイトとして使用する平成23年の指数を比較する場合には,平成23年の指数を基準に平成20年の指数を換算した上で両者を比較するが,物価の長期的な推移を把握するための総務省CPIと生活扶助相当CPIとは目的を異にするから,生活扶助相当CPIにおいて平成20年の指数と平成23年の指数を比較する場合に前記のような方法によらないことも合理的であるなどと主張する。
しかしながら,
総務省CPIは毎月作成・

公表され,四半期平均,半期平均の数値も作成されているのであって,短期的な推移を捉える目的もあることは明らかであるし,総務省CPIが採用するラスパイレス式は上方バイアス(指数の上昇率が過大評価されること)が生ずるとされており,比較する期間が長くなるほど上方バイアスも大きくなるから,むしろ短期的な推移を見る方が総務省CPI
の活用の仕方としては優れているのであって,被告らの主張は失当である。
被告らは,厚生労働大臣が採用した計算方法は,ロウ指数に依拠したものであり,ロウ指数においては,比較する期間の途中の時点をウェイト参照時点とすることも可能であるとされていると主張する。

しかしながら,そもそもロウ指数においては,一般に比較する期間より前の時点をウェイト参照時点とすることが前提とされているから,平成20年と平成23年の間の平成22年をウェイト参照時点とする計算方法をロウ指数として説明することはできない。この点を措いても,ロウ指数は,指数に関する議論が未成熟でウェイト参照時点の選択につい
ての厳密な方法が確立されない段階のものであって,その後,経済学者等においてウェイト参照時点に関する議論が精緻化し,現在では,ラスパイレス式,パーシェ式などが提唱されており,指数の議論はこれらの式による指数に集約されている。そうすると,ウェイト参照時点を厳密に特定しない指数は淘汰されているというべきであり,ロウ指数であることを根拠にウェイト参照時点を平成22年とすることが合理的であるということはできない。

また,ロウ指数は,ILOマニュアルで初めて出てきた概念であり,理論的性質は未解明であって,理論的に合理性を欠くものである可能性がある。その上,ウェイト参照時点を比較する期間の期首と期末との間の時点とした場合には,ウェイト参照時点をどの時点とするかによって期首とウェイト参照時点との間の変化率に生ずる下方バイアスとウェイ
ト参照時点と期末との間の変化率に生ずる上方バイアスが偏ることがあり,特定の品目の価格が下落してその購入数量が大きくなっている場合には,下方バイアスが大きく働き,物価指数の下落率が生活実態からかけ離れた結果となる。
これらのことからすると,ウェイト参照時点を平成22年とした厚生
労働大臣の判断には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。

指数品目の選定が違法であること
生活扶助相当CPIは,総務省CPIの指数品目から生活保護受給世帯が支出しない自動車関係費等の品目を除外しているため,生活保護受給世
帯は電化製品をほとんど購入しないにもかかわらず,物価下落の主因となっている電化製品の支出割合が相対的に大きくなり,生活保護受給世帯の生活実態と異なる指数が算出されており,不合理である。
したがって,指数品目の選定に関する厚生労働大臣の判断には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。


異なる品目数により算出した指数を比較したことが違法であることデフレ調整の物価下落率の算出に用いられた平成20年の生活扶助相当CPI及び平成23年の生活扶助相当CPIの指数品目は,平成20年の生活扶助相当CPIが485品目であるのに対して,平成23年の生活扶助相当CPIは517品目である。
しかし,国際的には,消費者物価指数の算出において比較する期間の
期首と期末の指数品目は完全に同一で対応していなければならないとされているから,期首と期末で指数品目が異なる物価指数は前記の国際的な定めに反する違法なものである。
そして,総務省統計局では,5年ごとに消費構造の基礎となる指数品目を改定しているため,総務省CPIの計算においても,比較する期間
の途中で指数品目の組合せが変化することがあるが,そのような場合には,比較年の指数に合わせて基準年の指数を換算し接続するという方法(以下指数の接続という。
)が採られており,このようにすることで
基準年の指数と比較年の指数との間で指数品目が改定された場合にも両者の比較をすることができるようになる。

ところが,生活扶助相当CPIにおいては,平成22年の前後で指数品目の品目数が異なる上,そうであるにもかかわらず,指数の接続も行っていない。
以上によれば,指数の接続をしないで指数品目数の異なる生活扶助相当CPIにより物価下落率を算出した厚生労働大臣の判断には,その裁
量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。

家計調査に基づく一般世帯の支出割合をウェイトとして使用したことが違法であること
総務省CPIは,家計調査に基づく一般世帯の支出割合をウェイトと
して算出されており,生活扶助相当CPIも総務省CPIの支出割合をウェイトとして算出されている。
しかしながら,一般世帯においては,生活保護受給世帯の大部分が属すると思われる年収200万円未満の層は数%にとどまる一方,年収750万円以上の層が25%を超えている。富裕層と貧困層とで消費構造が異なることは公知の事実であるから,
生活保護受給世帯の消費実態は,
一般世帯の消費実態とは異なるはずであって,家計調査に基づく一般世帯の支出割合をウェイトとして使用した生活扶助相当CPIは,生活保護受給世帯の状況が十分に反映されないものであることが明らかであり,不合理である。
厚生労働省は,生活保護制度の企画運営のために必要な基礎資料を得
ることを目的とする社会保障生計調査を毎年実施している。
この調査は,
全国約1100の生活保護受給世帯の家計のみを対象とするものであり,一般世帯を対象とする家計調査に比べて,生活保護受給世帯の実態をより正確に反映したものということができる。そして,社会保障生計調査における消費支出額は,家計調査における消費支出額の6割程度にとど
まっており,これだけ消費支出額が異なれば,各品目に対する支出額割合も異なり,社会保障生計調査に基づく生活保護受給世帯の支出割合をウェイトとして使用するか家計調査に基づく一般世帯の支出割合をウェイトとして使用するかにより,生活扶助相当CPIの算出結果に差異が生ずることは明らかである。現に,社会保障生計調査に基づく生活保護
受給世帯の支出割合をウェイトとして使用して計算すれば,生活保護受給世帯においてはほとんど物価下落がないものと推定される。
具体的な品目又は品目グループをみても,生活保護受給世帯と一般世帯の間で消費構造に大きな違いがあり,それが,生活扶助相当CPIの計算にも大きな影響を及ぼしていることは明らかである。すなわち,生
活保護受給世帯は,一般世帯に比して,
食料
(特に外食等以外)住,居
(特に家賃地代)

光熱・水道
(特に灯油関係)

家具・家事用品

被服及び履物への支出割合が高く,
保健医療交通・通信

(特
に自動車等関係)教育

(特に補習教育関係)教養娯楽

(特にPC・
AV機器等の教養娯楽用耐久財・教養娯楽サービス)その他の消費支,出(特に冠婚葬祭費,交際費)への支出割合が低い。これらの中で,例えば,食料は物価下落率が低く,PC・AV機器は物価下落率が高かっ
たため,実際の生活保護受給世帯では食料の支出割合が高く,
教養娯楽の支出割合が低いのに,家計調査に基づく一般世帯の支出割合をウェイトとして使用して生活扶助相当CPIを計算したため,
食料

支出割合が低く,
教養娯楽
の支出割合が高いものとして計算されるこ
ととなり,その結果,生活扶助相当CPIの下落率が実態よりも大きな
数値となってしまっている。現に,ノート型パソコン・テレビを除いただけでも,生活扶助相当CPIの下落率は,4.78%から2.21%にまで下がる。また,生活保護受給世帯の場合,たばこへの支出額の割合が非常に高くなっており,たばこの価格は大幅に上昇しているが,生活扶助相当CPIの計算において家計調査に基づく一般世帯の支出割合
をウェイトとして使用するとたばこへの支出割合が小さくなり,物価下落率が実態よりも大きな数値となってしまっている。
以上によれば,生活扶助相当CPIの算出において家計調査に基づく一般世帯の支出割合をウェイトとして使用した厚生労働大臣の判断には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。



ゆがみ調整とデフレ調整を重複して行ったことが違法であること
ゆがみ調整とデフレ調整は,それぞれが財政削減の効果を生じさせている以上,その効果の重複があることは明らかであって,ゆがみ調整とデフレ調整を併せて行った厚生労働大臣の判断には,その過程に過誤,欠落があることは明らかであり,
裁量権の範囲を逸脱し,
又はこれを濫用した違法がある。



ゆがみ調整の増額の幅を基準部会の検証結果の2分の1としたことが違法であること(原告1,7,8,13,15~19,21に関する違法事由)ア
厚生労働大臣は,本件各告示による生活扶助基準の改定に際し,ゆがみ調整において激変緩和措置を講ずるためであるとして,基準部会が検証結果として示した増減額の幅を2分の1に縮小する調整をし,基準部会の検証結果を全て生活扶助基準に反映させることをしなかった。


しかしながら,ゆがみ調整の増減額の幅を一律2分の1とすることは,生活保護基準部会の検討を経ることなく行われたものであるから,その合理性が厳しく審査される必要がある。そうであるところ,①まず,本件各告示による生活扶助基準の改定に際しては,ゆがみ調整とは別に,引下幅
を最大10%とする下限規制が設けられており,ゆがみ調整による減額の幅を2分の1に縮小しなくても生活扶助基準の引下げによる激変緩和が図られることは明らかであるから,生活扶助基準の引下げによる激変緩和のためにゆがみ調整による増減額の幅を基準部会の検証結果の2分の1とする合理性はない。②また,基準部会の検証結果のうち,ゆがみ調整として
生活扶助基準に反映されなかった残りの2分の1については,実際の給付額に反映させることが予定されていない以上,ゆがみ調整による増減額の幅を基準部会の検証結果の2分の1とする措置は,いわば恒久的なものであって,生活扶助基準の引下げによる激変緩和としては説明することができない。③さらに,ゆがみ調整により増額されるのは,生活保護受給世帯
の8割程度を占める単身世帯である一方で,ゆがみ調整により減額されるのは全体から見ると少数の世帯である。その結果,ゆがみ調整による増減額の幅を基準部会の検証結果の2分の1とした場合には,全体としてみると,減額の影響よりも増額の影響の方が大きいこととなるから,厚生労働大臣としては,減額の幅を基準部会の検証結果の2分の1とし増額の幅に
ついてはそのまま反映させるという方法を採るべきであったのに,そのような方法を採らなかった。④加えて,基準部会が検証結果として一定の増減額を妥当としている以上,基準部会の検証結果をそのまま実施しない場合には,生活扶助基準が,要保護者の最低限度の生活の需要を満たすのに十分なものとはいえなくなり,
生活保護法8条2項に違反するものとなる。

以上のことからすれば,厚生労働大臣がゆがみ調整の増額の幅を基準部会の検証結果の2分の1としたことは,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれ
を濫用するものとして違法である。


本件各告示による生活扶助基準の改定が政治的意図に基づくものであることが違法であること
当時の政権与党であった自由民主党(以下自民党という。
)は,本件各
告示の直近の衆議院議員の選挙において,生活保護水準を10%引き下げる
ことを政権公約としており,
当時のA厚生労働大臣
(以下
A大臣
という。

は,平成25年報告書が発表される以前から,自民党の政権公約による制約をある程度は受けている旨の発言をしたり,引下げをしないということはないなどと発言したりしていた。そして,本件各告示による生活扶助基準の改定は,デフレ調整で約580億円,ゆがみ調整で約90億円の財政削減効果
を生じさせるものであり,このような大幅な削減は何らかの意図に基づいて行われたものと考えるのが合理的である。
これらのことからすれば,本件各告示による生活扶助基準の改定は,国の財政事情や国民感情を勘案した自民党の政権公約の実現という,本来考慮してはならない事項を考慮したものというべきであり,本件各告示による生活
扶助基準の改定は,厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとして違法である。


本件各告示が生活保護受給者の生活実態を考慮していないことが違法であること

本件各告示による生活扶助基準の改定前の段階から,原告らを含む生活保護受給者は,他者との社会的な関わりのために必要な交際費を削っているばかりではなく,食事の回数を減少させて栄養状態に影響が出たり適切な頻度での入浴や生活必需品の購入を控えざるを得ないなど,生活の基盤ともいえる被服費,
食費,
光熱費を限界まで削ることを余儀なくされており,
既に健康で文化的な最低限度の生活を営むことができない状態にあった。取り分け,高齢者世帯の社会的孤立や母子世帯の貧困の状況は特に深刻であった。
このような生活保護受給者の生活実態は,生活保護法8条2項の必要な事情として,保護基準を定めるに当たり考慮されるべき最も基本的かつ重要な情報であり,本件各告示による生活扶助基準の引下げに当たり考慮しなければならない事情である。そうであるにもかかわらず,厚生労働大臣は,生活保護受給者の生活実態を考慮しないまま,本件各告示による生活扶助基準
の引下げを行ったのであり,このことは,本件各告示による生活扶助基準の引下げ後の生活保護受給世帯の生活が現に最低限度の生活を下回っていることによっても示されている。
したがって,本件各告示による生活扶助基準の引下げは,考慮すべき事項を考慮せずにされたものであり,厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又
はこれを濫用したものとして違法である。
(被告らの主張の要旨)


保護基準改定の違法性判断の枠組み

保護基準の改定については,厚生労働大臣に,専門技術的かつ政策的な見地からの広範な裁量が認められている。すなわち,生活保護法3条,8条の規定する最低限度の生活は抽象的かつ相対的な概念であって,その具体的内容は,その時々における経済的・社会的条件や一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断されるべきものであり,これを保護基準において具体化するに当たっては,高度かつ複雑で非定型的な専門技
術的考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするから,厚生労働大臣には専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるのであって,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性などの観点から,最低限度の生活水準の具体化に係る厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤や欠落があるなど,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったことを原告側において主張立証しない限り,処分の違法は認められないと解すべきである。


これに対し,原告らは,厚生労働大臣の裁量権が憲法25条等による制度後退禁止原則により制約される旨主張する。
しかしながら,憲法25条は,国民に具体的権利として健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障したものではなく,健康で文化的な最低限度の生活は,極めて抽象的・相対的な概念であり,その具体的内容は,
多数の不確定要素を総合して初めて決定できるものであるから,
その時々における多数の不確定要素に応じて変化し得るものであり,保護基準の引下げは当然にあり得るものである。また,保護基準は最低限度の生活の需要を満たしつつ,これを超えないものでなければならず,
これを超えれば違法となることからしても,一度設定された水準が,その後の社会情勢の変化等によって削減されることも当然想定されているところである。さらに,憲法25条2項は,社会福祉,社会保障等の向上及び増進に努めなければならないと規定しているにとどまるのであり,社会福祉等の水準を後退させることが原則として禁止されている
と解する根拠とはならない。
原告らは,生活保護法の立法当時,厚生大臣が国会において基準額につきましては下げないということでどこまでも進んでいきたいと答弁していることや厚生省社会局長が同法8条2項につき最低生活はできるだけ高い線まで持って行きたいと答弁していることから同法は保
護基準の引下げを予定していないと主張するが,これらの答弁が保護基準の引下げが絶対にあり得ないことまで前提にしたものとは考え難いし,同法の成立当時は,戦後間もない時期で国民全体の生活水準が非常に低く,一般世帯との格差の是正も求められていた時期であり,昭和58年意見具申において生活扶助基準が一般世帯の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているとされ,それ以後水準均衡方式が採用されている現在とでは,全く事情が異なる。
また,社会権規約2条1項は,社会権規約の規定する権利が,国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,その権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し,即時に具体的権利を付与すべき
ことを定めたものではない。そして,一般的意見は,法的拘束力を有するものではないから,以上のような解釈を左右するものではない。また,原告らは,生活保護法8条2項及び9条において考慮事項が法定されており,厚生労働大臣は,前記各規定に定められた事項を考慮しなければならず,前記各規定に定められた以外の事項を考慮してはなら
ない旨主張するが,前記アのとおり,保護基準の改定については,厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの広範な裁量が認められており,様々な要素を考慮することが許されるものであって,保護基準の改定に当たり厚生労働大臣が前記各規定に定められた事項以外の事項を考慮することも許される。

さらに,原告らは,保護基準の設定については,専門家によって構成された審議会の検討を経てその結果に基づいて行われることが要請されていると主張する。
しかしながら,厚生労働大臣や厚生労働省の職員自体が保護基準の改定についての専門的知見を当然有している上,保護基準の改定に際し,
厚生労働大臣が社会保障審議会等の第三者の意見を聴くことが法令上の要件として定められているものではない。また,基準部会の役割は,あくまで当時の生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか等の定期的な検証を行うことにとどまり,この検証結果を踏まえてどのような保護基準の改定を行うかという厚生労働大臣の政策判断を拘束するものではない。実際に,平成25年報告書においても,他に合理的な説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は,それらの根拠についても明確に示されたいとされており,厚生労働大臣が合目的的裁量の行使として基準部会の検証結果を考慮した上で,更に基準部会における検証結果以外の合理的な経済指標などを総合的に勘案することは否定されていない。


ゆがみ調整を行ったことが違法でないこと

基準部会の検証は,比較対象となる一般低所得世帯を第Ⅰ-10分位の世帯とした上,年齢階級別,世帯人員別及び級地別に生活扶助基準額を指数化したもの(以下生活扶助基準額による指数という。
)と一般低所得
世帯の年齢階級別,世帯人員別及び級地別の生活扶助相当支出額(消費支
出額から家賃,医療等の生活扶助に相当しないものを除いたもの。以下同じ。
)を指数化したもの(以下消費実態による指数という。
)を比較検
証したものであり,その結果,年齢階級別,世帯人員別及び級地別のいずれにおいても,生活扶助基準額による指数と消費実態による指数との間にかい離がみられたことから,厚生労働大臣は,このような検証の結果を踏
まえてゆがみ調整を行った。
そして,基準部会による検証では,①これまでの検証に倣い,生活保護受給世帯と隣接した一般低所得世帯の消費実態を用いることが現実的であること,②第Ⅰ-10分位の世帯の平均消費水準は中位所得階層の約6割に達していること,③第Ⅰ-10分位に属する世帯における物品
等の普及状況は中位層と比べておおむね遜色がないこと,④統計分析の結果,第Ⅰ-10分位の世帯と第Ⅱ-10分位(調査対象者を年間収入額順に10等分した場合に収入額の低い方から2番目のグループ。以下同じ。の世帯とでは消費構造が大きく変化していることなどを踏まえて,)
第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象としている。基準部会による検証は,生活扶助基準の展開部分に一般低所得世帯の消費実態を反映させることにより生活扶助基準の展開部分を適正化し生活保護受給者間の公平を図ることを目的としているから,その手掛かりとする一般低所得世帯は,生活保護受給世帯と消費構造が近い世帯とするのが相当であり,このような観点からすると,前記の理由から生活保護受給世帯に近い消費構造を有するものとして第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象としたことは合理
的である。
原告らは,生活保護を受給することができるのに受給していない者が多数存在しているから,最下層である第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準との比較を根拠に保護基準を引き下げてしまうと,際限のない引下げを招くこととなると主張する。しかしながら,基準部会の検証は,生活扶
助基準額と第Ⅰ-10分位の世帯の消費支出額との高低を比較するものではなく,あくまで第Ⅰ-10分位の世帯の消費支出額に基づいて生活扶助基準の展開部分の適正化を図るものであるから,基準部会の検証により生活扶助基準額の絶対的水準が検証されるものでない以上,第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象とする基準部会の検証が生活扶助基準の際限
のない引下げにつながるということはできない。
この点を措いても,原告らが主張の根拠とする平成22年4月9日付け厚生労働省社会・援護局保護課作成の生活保護基準未満の低所得世帯数の推計についてからは,生活保護を受給することができるのに受給していない層がどの程度存在するのかは明らかでなく,原告らの主張
は理由がない。
原告らは,相対的貧困層にある世帯の水準と比較することについても問題とするが,相対的貧困層とは,世帯の所得から直接税及び社会保険料を減じ,
当該額を世帯員数の平方根で除した等価可処分所得を算出し,
その等価可処分所得が真ん中の順位に当たる者の50%を下回る者を意味するのであって,相対的貧困層にあるか否かは,最低限度の生活水準か否かとは関わりがない。


また,基準部会の検証においては,生活保護受給世帯が比較対象の第Ⅰ-10分位に含まれているが,ゆがみ調整は,基準部会の検証によって認められた生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を是正し,生活扶助基準額を一般低所得世帯の消費実態を適切に反映したものとすることにより,世帯構成などが異なる生活保護受給世帯間におけ
る実質的な給付水準の均衡を図ることを目的とするものであり,基準部会の検証は,このような観点から,第Ⅰ-10分位の世帯の消費実態を指数化したもの(消費実態による指数)と,それらの各世帯が実際に当時の生活扶助基準により生活保護を受給した場合の生活扶助基準額を指数化したもの(生活扶助基準額による指数)を比較したものである。このように,
第Ⅰ-10分位の世帯の消費支出額と比較している対象は,当時の生活扶助基準であり,実際の生活保護受給世帯の消費支出額を比較対象としたものではないから,比較群と対照群とに同じ属性の集団が含まれているというような問題が生ずるものではなく,生活保護受給世帯が比較対象の第Ⅰ-10分位に含まれていることが不合理であるということはできない。

以上のほか,基準部会の検証の方法等に過誤,欠落等をうかがわせる事情はないから,基準部会の検証の結果に基づいてゆがみ調整を行った厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲を逸脱し,
又はこれを濫用した違法はない。


デフレ調整を行ったことが違法でないこと

専門家による検証を経ていない点について
原告らは,デフレ調整は新しい保護基準の改定方式を構築するものであるのに専門家の意見を踏まえずに行われた点において厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるなどと主張する。しかしながら,生活扶助相当CPIは,全く独自に作成した新たな指数ではなく総務省CPIを活用したものであるところ,総務省CPIは,公的年金の給付額等を物価動向に応じて改定するための算出基準となることが法律上定められていて(国民年金法〔平成24年号外法律第63号による改正前のもの〕
27条の2等)
,多くの社会保障制度の給付額の改定でも
利用されており,生活保護に関しても各種加算において用いられるなど,既に社会的に広く定着しているものであって,国民からの理解を得られて
いる透明性の高い指標である。これらのことに照らせば,生活扶助相当CPIを考慮したデフレ調整が新たな保護基準の改定方式であるということはできない。
また,前記

において述べたとおり,保護基準の改定において専門

家の意見を聴くことは法令上求められていないのであり,生活保護基準部会等の専門機関による検証が行われた場合であっても,その検証結果は広範な裁量権を有する厚生労働大臣の判断の考慮要素の1つに位置付けられるものである。
さらに,デフレ調整についてみると,平成15年の専門委員会での中間取りまとめ(以下平成15年中間取りまとめという。
)の中でも,消費

者物価指数を改定の指標の1つとすることに慎重意見はあったものの,消費者物価指数を勘案すること自体は否定されておらず,そのような指標を導入するのに改めて専門家機関での審議が必要であるなどとの前提は採られていなかった。そして,基準部会においても,物価などの経済指標を活用することそのものを否定する趣旨の意見は述べられておらず,最終的に

他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は,それらの根拠についても明確に示されたい。との意見が取りまとめられている

こと,基準部会の委員は,生活保護基準部会は生活扶助基準の検証を行うにとどまり,どのような保護基準の改定を行うかという厚生労働大臣の政策判断を拘束するものではないことを認識しながら,前記のような意見を取りまとめていることなどからすれば,基準部会は,基準部会の検証結果を考慮した上で,更に基準部会の検証結果以外の合理的な経済指標などを
総合的に勘案することを含めて厚生労働大臣の合目的的裁量に委ねたものと解するのが相当である。
以上のことからすると,デフレ調整について専門家の検証を経ていないということはできないし,専門家の検証を経ていないとしてもそのことをもってデフレ調整を行ったことが違法であるということはできない。

デフレ調整の必要性について
平成19年報告書により,生活扶助基準の水準が一般低所得世帯の消費実態と比較して高いという結果が得られ,生活扶助基準額を減額することも考えられる状況にあったが,平成20年以降,当時の社会経済情
勢等から生活扶助基準が据え置かれていた。他方,同年以降,賃金,物価及び家計消費がいずれも継続的に下落するデフレ状況にあり,そのような中で生活扶助基準が据え置かれているということは,生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加しており,生活扶助基準の引上げがされているのと同視し得る状況にあったため,一般世帯の消費実態との均
衡を図るには,物価動向を勘案した生活扶助基準の見直しが不可欠であった。現に,平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法附則2条1号は,
生活扶助,医療扶助等の給付水準の適正化,保護を受けている世帯に属する者の就労の促進その他の必要な見直しを早急に行うことを掲げていたところである。

原告らは,厚生労働大臣は,平成20年度から平成24年度までの間においても,水準均衡方式の下で民間最終消費支出の動向を基礎としつつ,物価動向を含む当時の社会経済情勢等を総合的に勘案して生活扶助基準を据え置くという判断をしたのであり,前記期間においても物価変動の影響は生活扶助基準に反映されているから,更にデフレ調整を行うことは物価下落を二重に考慮することになるからデフレ調整の必要性はないなどと主張する。しかしながら,前記期間において生活扶助基準を
据え置いたのは,消費を基礎としたものではなく,平成20年度は,原油価格の高騰等が消費に与える影響等を見極めるために据え置かれたなど,前記期間においては,消費や物価の経済動向を生活扶助基準の水準に反映させる趣旨の改定は行われなかった。したがって,デフレ調整を行うことが物価下落を二重に考慮することになるということはできない。
原告らは,平成19年報告書を作成した検討会の適格性を問題とするが,検討会は法令上の根拠に基づいて設置されたものではないものの,厚生労働大臣が生活扶助基準を見直す際,行政運営上の参考に資するために有識者から任意の方法で意見聴取することは何ら妨げられないから,検討会が検証機関として不適格であるなどとはいい得ない。また,検討
会は学識経験者から構成され,統計等を専門的かつ客観的に検証したのであって,専門委員会や基準部会と比べても遜色はないし,その意見の考慮要素としての位置付けに当然に差が生ずるというものでもない。さらに,検討会自体としての検討期間は短いとはいえ,過去における専門委員会での指摘も踏まえた連続的な検討がされたものであって,期間の
短さが検討内容の信ぴょう性に関わるわけではない。

物価下落率算出における期間設定について
期首を平成20年としたことについて
a
平成16年報告書では,生活扶助基準は基本的に妥当と評価され,平成16年から平成19年までの間は総務省CPIがおおむね横ばいでデフレ傾向自体が見られなかったが,その後,平成19年報告書では,
生活扶助基準の水準が一般低所得世帯と比べて高いとされたため,本来,翌年以降に生活扶助基準の見直しが行われるべきであった。しかし,平成20年度予算編成時には原油価格が高騰しており,その消費に与える影響等を見極める必要があったため,同年度は生活扶助基準を据え置くこととされ,平成21年度予算編成時においても,平成
20年2月以降の物価上昇が家計に大きな影響を与えるとともに,同年9月以降の世界金融危機の影響が深刻であったため,平成21年度以降,本来行うべき生活扶助基準の見直しが据え置かれてきた。このような経緯からすれば,デフレ調整の期首を,本来,生活扶助基準の見直しが行われるべき平成20年とすることには十分に合理的な理由
がある。
b
原告らは,平成16年を期首として物価下落率を計算すべきであると主張するが,このことに理由がないことは既に述べたとおりである上,同年を期首とした場合には,平成23年までの生活扶助相当CPIの下落率は6.4%となり,かえって,生活保護受給世帯に不利な
結果となることからも妥当ではない。
期末を平成23年としたことについて
平成24年の総務省CPIのデータは平成25年1月25日に公表されたところ,同年度の予算案の閣議決定は同月29日にされたのであるから,平成24年の総務省CPIのデータを平成25年度の予算編成に
用いることは,明らかに時間的に無理があり,平成23年を期末とすることはやむを得なかったところである。

指数・価格参照時点を平成22年としたことについて
原告らは,指数・価格参照時点を期首である平成20年とせず平成2
2年としたことはILOマニュアル等が物価指数の計算方法について定めるところに反するとともに,新しい時点から古い時点の変化率と古い時点から新しい時点の変化率には双対性がないから両者を比較することは誤りであるなどと主張する。
しかしながら,価格参照時点は,相対的な価格変化をみる基準となる時点であるから,比較時よりも新しい時点を価格参照時点とすることも可能である上,消費者物価指数の計算上,ウェイト参照時点が固定され
ている限り,価格参照時点を比較する期間の途中の時点としても,期首から期末への指数の変化率には差異をもたらさない。また,指数参照時点は,その時点の指数が100とされる時点であるから任意の時点に設定することができるものであり,必ずしも価格参照時点と指数参照時点が一致しなければならないものではないし,平成20年の生活扶助相当
CPI及び平成23年の生活扶助相当CPIでは,いずれも平成22年を指数参照時点としており,指数参照時点と価格参照時点とに齟齬はない。
デフレ調整の物価下落率の算出は,指数・価格参照時点を平成22年として,平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当
CPIを求め,平成20年から平成23年までの変化率を計算しているのであって,平成22年から平成20年までの変化率と平成22年から平成23年までの変化率を比較するものではない。

ウェイト参照時点を平成22年としたことについて
生活扶助相当CPIは,物価の長期的な推移を見ることが目的ではなく,デフレ傾向が続く中で生活扶助基準が据え置かれたことによって生じた生活扶助基準の実質的な引上げの程度を見ることが目的であって,問題となる期間も短く,その間の消費構造の変化による影響は小さいと考えられる。そうすると,平成20年から平成23年までの物価下落率
を算出するに当たっては,長期的な比較も予定している総務省CPIの場合と異なり,消費構造の変化による物価指数への影響を最小限に抑えるべく,ウェイトとして使用する支出割合を固定するのが最も目的に適っているし,直近の消費構造を反映することが望ましいことからも,平成22年をウェイト参照時点としたことには十分な合理性がある。他方,
総務省CPIの算出において行われているように,平成17年の支出割合をウェイトとして平成20年の物価指数を求め,平成22年の支出割合をウェイトとして平成23年の物価指数を求めた上で両者を接続して比較するという方法(指数の接続)によったのでは,平成20年の指数の基準年となっている平成17年よりも後の消費構造の変化が反映されず,相当でない。

また,生活扶助相当CPIの計算方法は,消費者物価指数の計算の関係で広く用いられるとされるロウ指数の考え方に依拠するものであり,このロウ指数の考え方によれば,比較する期間のいずれの時点をウェイト参照時点としても誤りではなく,現に物価指数の計算方法として比較する期間の途中をウェイト参照時点とする中間年指数という考え方
も認められているのであるから,
平成20年
(期首)でも平成23年(期
末)でもなく,平成22年をウェイト参照時点とすることが特異なものであるとはいえない。
この点,総務省は,総務省CPIの算出において期首の数値をウェイトとして使用するラスパイレス式を採用しているが,これは,ラスパイ
レス式が速報性やコスト面に優れているなどの特徴を有していることによるものであり,ラスパイレス式以外の算式が誤っているということではない。むしろ,ラスパイレス式の場合,期首以降に物価が上昇したときに,それに伴って消費量が減少するという事象を捕捉できないために上方バイアスが生ずるとされるなどの算出上の欠点もあるのであって,
この方式以外が許容されないとするのは相当でない。現に,物価指数の算式には様々なものがあり,各省庁が政策目的に適った算式を採用することが合理的であるとされており,内閣府において算出しているGDPデフレーターにおいてはパーシェ式による指数が,財務省の貿易価格指数においてはフィッシャー指数が,日本銀行の卸売物価指数においては幾何平均指数が用いられるなど,ラスパイレス式以外による指標の計算がされる場合も多々ある。

平成20年から平成23年までの物価下落率の算出方法をあえて分析的にみると,ウェイトとして使用された支出割合は平成22年のものであるから,①平成20年の生活扶助相当CPIは,平成20年を基準時点とし平成22年を比較時点としたパーシェ式によって算出したものと,②平成23年の生活扶助相当CPIは,平成22年を基準時点とし平成
23年を比較時点としたときのラスパイレス式によって算出したものと整理することができ,原告らは,この点を捉えて平成22年をウェイト参照時点とすることは,異なる計算原理を用いることになり不当であると主張している。
しかしながら,これは,それぞれの計算過程をあえて分析的に整理し
たものにすぎず,平成20年から平成22年までと平成22年から平成23年までとで異なる算式を用いて生活扶助相当CPIを算出した上でこれらを総合して変化率を測定したものではない。また,ラスパイレス式とパーシェ式はウェイト参照時点をどの時点とするかに違いがあるにすぎず,いずれもロウ指数の考え方の枠内で説明可能な計算方式である
から,平成20年から平成23年までの物価下落率の算出方法が2つの方式を組み合わせているとみる余地があるとしても,その点に問題があるものでもない。

指数品目の選定の在り方が合理的であること
原告らは,生活扶助相当CPIは,総務省CPIの指数品目から生活保護受給世帯が支出しない品目を控除したものを指数品目としているため,生活保護受給世帯は電化製品をほとんど購入しないにもかかわらず,物価下落の主因となっている電化製品の支出割合が相対的に大きくなり,生活保護受給世帯の生活実態と異なる指数が算出されていると主張する。しかしながら,生活扶助相当CPIにおいて,いかなる品目を指数品目とするかは,価格の変化を把握する目的に応じて変わり得るところ,デフ
レ傾向の下での生活扶助基準の実質的な引上げの程度を把握するというデフレ調整の目的に照らせば,生活保護受給世帯が支出することが予定される品目に限定することは合理的であるし,同様に,生活扶助以外の扶助により賄われる品目も除外されるのが合理的である。そして,特定の品目の支出割合を除外した場合,残りの品目全ての支出割合はその比率に応じて
等しく増加するのであり,物価が下落した品目のみならず,物価が上昇した品目も等しく支出割合が相対的に増加するのである。仮に,原告らの主張するとおり,生活扶助相当CPIにおいて生活保護受給世帯が支出しない品目を控除したために電化製品の支出割合が相対的に大きくなり,生活扶助相当CPIの下落率が大きくなったとしても,それは生活保護受給世
帯において支出することが想定される品目の物価下落が,指数品目全体の物価下落よりも相対的に大きかったというにすぎない。
原告らは,生活保護受給世帯では電化製品をほとんど購入できないことを前提としているが,生活保護受給世帯における電化製品の普及率を見ると,パソコンが約4割,ビデオレコーダーは約7割,電子レンジや洗濯機
は約9割,カラーテレビや冷蔵庫はほぼ全世帯という状況であるから,生活保護受給世帯では電化製品をほとんど購入できないとはいえず,原告らの主張は,その前提において誤っている。

異なる品目数により算出した指数を比較していることが不合理ではないことついて
平成22年の総務省CPIの指数品目の改定により生活扶助相当CPIの指数品目に32品目が新たに加えられ,平成20年の生活扶助相当CPIの指数品目は485品目であるのに対し,平成23年の生活扶助相当CPIの指数品目は517品目となっている。
しかしながら,追加された32品目は,平成22年以降の家計消費支出の実態をみる上で重要であったからこそ追加されたものであるから,これ
らを平成23年の生活扶助相当CPIの計算から除外してしまうと,かえって最新の消費構造を反映しない帰結となるため,生活扶助相当CPIを算出するに当たりこれらを除外することで指数品目を同一とすることは妥当でない。また,比較する期間の期首と期末とで指数品目を必ず固定しなければならないという知見は存在しておらず,むしろ,総務省CPIにお
いては,指数品目が5年に1度は見直されるのであり,その見直しの年をまたいで長期的な数値の比較がされている以上,期首と期末とで品目数がずれてしまうという事象は総務省CPIの計算においても不可避的に生じ得る問題である。このような場合,総務省CPIでは指数の接続を行っているが,指数を接続したとしても平成17年に定められた品目で計算され
た物価指数が平成22年に定められた品目で計算された物価指数となるものではなく,
指数の接続によって品目数のずれが解消されるものでもない。

家計調査に基づく一般世帯の支出割合をウェイトとして使用したことが不合理ではないこと

原告らは,デフレ調整における物価下落率の算出に当たっては,社会保障生計調査に基づく生活保護受給世帯の支出割合をウェイトとして使用すべきであり,家計調査に基づく一般世帯の支出割合をウェイトとして使用したことは違法である旨主張する。
しかしながら,保護基準の改定に当たり複数の統計資料がある中でどの
資料を用いるかに関する判断も高度の専門技術的考察に基づく政策判断であるから,統計資料の使用が違法であるか否かは,当該資料を用いた判断過程自体に過誤,欠落等があると認められるかにより判断されるべきである。そして,総務省統計局が実施している家計調査は,調査対象世帯の選定が居住地域等により偏らないように配慮されている上,詳細な品目別の支出額が調査の対象となっており,統計資料としての精度が高いなどの特徴を有するものである。これに対し,社会保障生計調査の目的は,世帯を
構成する人員の数やその年齢,居住地域等によって様々である生活保護受給世帯の消費等の実例を把握することであるため,調査対象については,実際の生活保護受給世帯の各世帯類型,人員,都市部及び地方などの分布を踏まえた抽出等はされておらず,サンプルとして抽出される世帯について,世帯類型,人員,地域等に偏りが生ずることは避けられず,調査結果
は,生活保護受給世帯の全体像及び実態を示すものにはならない。また,社会保障生計調査は,個別品目の消費支出の割合等を正確かつ詳細に調査するものではなく,この調査結果により大まかな支出割合しか把握することができない。
以上のことからすれば,物価下落率の算出に当たり,家計調査に基づく
一般世帯の支出割合をウェイトとして使用し,社会保障生計調査に基づく生活保護受給世帯の支出割合をウェイトとして使用しなかった厚生労働大臣の判断に過誤,欠落等があったということはできない。

ゆがみ調整とデフレ調整を重複して行ったことが違法でないこと
ゆがみ調整は,基準部会における検証により,生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態との間にかい離が認められ,そのかい離が,世帯構成,年齢,地域分布等によって不均衡となっていたことから,それを調整する必要があるとして行われたものである。このように,ゆがみ調整は,生活保護受給者間の相対的な水準調整を行うためのものであり,保護基準の絶
対水準の調整を意図したものではないから,その趣旨は保護基準の絶対水準の調整を目的としたデフレ調整とは全く重複しない。


ゆがみ調整の増額の幅を基準部会の検証結果の2分の1としたことの合理性

最低限度の生活の概念は,抽象的かつ相対的なものであるから,基準部会の検証結果を反映させるか,反映させる場合にどのような比率を用
いるかといったことについては,厚生労働大臣の合目的的裁量に委ねられていると解すべきである。
そして,厚生労働大臣は,①平成25年報告書において生活扶助基準の見直しを検討する際には,現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯,とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から,子どものいる世帯への影響にも配慮する必要があるなどと指摘されており,基準部会の検証結果をそのまま生活扶助基準の改定に反映させた場合には子どものいる世帯への影響が大きくなること,②生活扶助基準の展開部分の検証方法として基準部会が採用した手法が唯一のものということはできず,また,
特定のサンプル世帯に限定して分析する際にサンプル世帯が極めて少数に
なるといった統計上の限界も認められたこと,③次の生活保護基準部会の定期的な検証において更なる評価,検証が予定されていたことから,基準部会の検証結果により得られた較差を生活扶助基準に完全に反映させるべきではないと判断した。
他方,ゆがみ調整を生活扶助基準に反映させるに当たり,個々人の改定
結果が減額となるか増額となるかは,年齢,世帯人員及び級地別の3要素について指数を全て乗じた結果により初めて明らかになるものであり,変化額を各要素に分解することは困難であった。また,個別の指数ごとに減額幅については2分の1とし,増額幅についてはそのまま反映させるといったように部分的に反映させる程度を変えることは理論的にはあり得るも
のの,
ゆがみを公平に解消させる観点等からは適当ではないと考えられた。そこで,厚生労働大臣は,基準部会の検証結果を生活保護受給世帯の全てにできるだけ公平に反映しつつ,生活保護受給世帯への影響を一定程度に抑えるため
(激変緩和)基準部会の検証結果を反映させる比率を,

増額・
減額とも2分の1に抑えることとしたものである。

原告らは,本件各告示による生活扶助基準の改定に際しては,ゆがみ調整とデフレ調整を併せて行ったことによる最低生活費の減額の幅を10%
を下限とする激変緩和措置を講じているから,ゆがみ調整の増減額の幅を基準部会の検証結果の2分の1とすることは不要である旨主張する。しかしながら,ゆがみ調整とデフレ調整を併せて行ったことによる最低生活費の減額の幅を10%を下限とする措置は,ゆがみ調整とデフレ調整を併せて行うことによって最低生活費が大幅に減額となる世帯の負担軽減を目的
としたものであり,前記のゆがみ調整の増減額の幅を基準部会の検証結果の2分の1とする措置とは目的や観点を異にするものである。


本件各告示による生活扶助基準の改定が政治的意図に基づくものではないこと

原告らは,本件各告示による生活扶助基準の引下げには政治的意図が強く働いており,本来考慮してはならない事項を考慮したものであるから,厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用する違法がある旨主張する。
しかしながら,本件各告示による生活扶助基準の見直しは,基準部会の検
証結果に基づいて生活扶助基準における生活保護受給者間の較差を是正するとともに,デフレ傾向が続いてきた中で適切な生活扶助基準を再考する必要が生じたことから行われたものであるし,
生活扶助基準の見直しの必要性は,
平成19年報告書の段階から明らかにされていて,原油価格の高騰や金融危機の影響等からその見直しが見送られてきたにすぎない。また,A大臣は,
生活保護基準部会等による報告を踏まえた検討をしなければならないことを前提とし,10%引下げという自民党の政権公約に盲従するものではないことを明言していたのである。
以上のとおり,本件各告示による生活扶助基準の改定は,その必要性に応じて適切に行われたものであって,政治的意図に基づくものでないことは明らかである。


本件各告示による生活扶助基準の改定が生活保護受給者の生活実態を考慮していないとの原告らの主張に理由がないこと
原告らがその主張の裏付けとして挙げる調査結果は,生活扶助基準の引下げの撤回を求める目的で行われたものや,生活扶助基準の引下げに関する訴訟の原告を対象とするものなど,その客観性・公平性に疑義がある。また,そもそも,
最低限度の生活の概念は,抽象的かつ相対的なものであって,

その時々における経済的・社会的条件や一般的な国民生活の状況等との相関関係において決定されるべきものであるから,
単に従前の調査の時点よりも,
生活が苦しいなどといった意見が増加したなどということのみをもって,最低限度の生活の水準が切り崩されたなどとはいい得ない。
2
争点2(本件各処分に行政手続法14条の理由提示義務又は生活保護法25条2項の理由付記義務に違反した違法があるか)
(原告らの主張の要旨)
生活扶助は,生活保護の中核となるものであり,生活扶助を引き下げる処分は,名宛人の生存権の侵害に至るおそれのあるものであるから,同処分をする
際には,処分の通知書において具体的かつ明確な理由の記載を要するというべきである。ところが,本件各処分を通知した生活保護変更通知書には処分の理由として,おおむね基準改定によるとの記載しかなく,これでは,名宛人においてどのような基準がどのように適用されたのかを知ることができない。したがって,本件各処分には,行政手続法14条1項の理由提示義務又は生活
保護法25条2項の理由付記義務に違反する違法があるというべきである。(被告らの主張の要旨)
本件各処分は,あらかじめ官報によって一般に周知されていた本件各告示に伴って,本件各告示をそのまま当てはめる形で処分を行うものであり,処分行政庁による恣意的な判断が介入するおそれは全くない。また,本件各告示が官報により一般に周知されていたことに加え,保護変更決定の通知書の記載とそれ以前の通知書を見比べることによって,保護基準が改定されたことで給付額
が減額されたことは十分に理解可能である。しかも,本件各処分の通知には,本件各告示による生活扶助基準の改定の具体的な内容が説明された書面も同封されていた。
こうしたことからすれば,本件各処分の通知書の記載によって,
原告らによる不服申立ての便宜は損なわれておらず,本件各処分には行政手続法14条1項の理由提示義務及び生活保護法25条2項の理由付記義務に反
する違法はない。
3
争点3(本件各告示による生活扶助基準の改定の国家賠償法上の違法性の有無及び損害額)
(原告らの主張の要旨)

前記1(原告らの主張の要旨)のとおり,厚生労働大臣は,生存権という国民の生活の根幹に関わる基本的な権利が関係する生活扶助基準の引下げにおいて,国の財政事情や国民感情を勘案した政権与党の政権公約の実現という考慮すべきでない事項を考慮してゆがみ調整及びデフレ調整を行った。そして,ゆがみ調整については,合理的な理由なく第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象と
し,生活保護受給世帯を除くことなく第Ⅰ-10分位の世帯と生活扶助基準を比較した上,生活保護基準部会での議論を経ないまま,調整幅を一律2分の1にした。また,デフレ調整においては,生活保護基準部会での議論を経ないまま,そもそも必要のない調整を行った上に,統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いている生活扶助相当CPIを用いたの
である。これらの厚生労働大臣の行為は,生活扶助基準の改定に当たって財政事情等の生活外的要素を考慮しない職務上の義務及び統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を図る職務上の義務に反するものであり,国家賠償法上違法というべきである。
そして,原告らは,このように違法な本件各告示による生活扶助基準の引下げにより,食事を減らし,入浴回数も減らし,衣服の購入も満足にできなくなり,電気・ガス・水道代を節約するためにエアコンの使用も控えなければなら
なくなった。さらに,こうしたことも背景に,原告らは,他者との交流までも控え,親類の葬儀にすら出席することができない状態となった。このような状態の下で,原告らは,肉体的・精神的な健康が損なわれていくことへの不安を抱いており,かかる精神的苦痛は,たとえ本件各処分が取り消されても慰謝されるものではなく,その精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも原告ら各自に
ついて1万円の慰謝料の賠償が必要である。
(被告らの主張の要旨)
本件各告示に関し,厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用が認められない以上,その判断に職務上の義務違反が認められる余地はない。第5

当裁判所の判断

1
本件各告示による生活扶助基準の引下げに至る経緯等
前記前提事実並びに証拠
(主要なものを括弧内に掲記した。
)及び弁論の全趣
旨によれば,本件各告示による生活扶助基準の引下げに至る経過等について,以下の事実が認められる。



生活扶助基準の改定方法について水準均衡方式が導入された経緯

生活扶助基準については,①昭和21年ないし昭和22年においては標準生計費方式(当時の経済安定本部が定めた世帯人員別の標準生計費を基に算出し生活扶助基準とする方式)②昭和23年ないし昭和35年におい,
てはマーケットバスケット方式(最低生活を営むために必要な飲食物費,
衣類費,家具什器費,入浴料といった個々の品目を1つ1つ積み上げて最低生活費を算出する方式)③昭和36年ないし昭和39年においてはエン,
ゲル方式(栄養審議会の答申に基づく栄養所要量を満たし得る食品を理論的に積み上げて,別に低所得世帯の実態調査から当該飲食物費を支出している世帯のエンゲル係数の理論値を求め,これから逆算して総生活費を算出する方式)がそれぞれ採用され,④昭和40年ないし昭和58年においては格差縮小方式(民間最終消費支出の伸び率を基礎として,その伸び率
以上に生活扶助基準を引き上げ,結果的に一般世帯と生活保護受給世帯との消費水準の格差を縮小させようとする方式)が採られてきた。
(甲全4の
1・2,160の177・327頁,乙全7の2,9,34)

厚生省の審議会である中央社会福祉審議会は,
昭和58年12月,
生活扶助基準及び加算のあり方について(意見具申)(昭和58年意見具申)
を発表した。昭和58年意見具申においては,生活保護において保障すべき最低生活の水準は一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的なものであるなどとした上,①生活扶助基準は,一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているが,国民の生活水準は今後も向上すると見込まれるため,生活扶助基準の妥当性を定期的に検証する必要
がある,②生活扶助基準の改定に当たっては,当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に,前年度までの一般国民の消費水準との調整が図られるよう適切な措置を執ることが必要であり,また,当該年度に予想される国民の消費動向に対応する見地から,民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当であるなどとされ,賃金や物価は,そのままで
は消費水準を示すものではないので,その伸びは参考資料にとどめるべきであるとされた。
(乙全8)


昭和58年意見具申を踏まえ,昭和59年4月以降,生活扶助基準の改定方式については,一般国民生活における消費水準との比較において相対
的なものとして設定するとの観点から,毎年度の民間最終消費支出の伸びを基礎として国民の消費水準と均衡した水準を維持・調整する水準均衡方式が導入された。
(甲全4の2,乙全7の2,8,弁論の全趣旨)


生活扶助基準に関する専門家による検証等

専門委員会による検証
平成15年6月,経済活動が低迷し,賃金,物価及び家計消費がいず
れも下落するデフレ状況が続いていたなどの社会経済情勢の下,財務省の審議会である財務制度等審議会の建議において生活扶助基準・加算の引下げ・廃止等が必要であるなどとされ,社会保障審議会においても,生活保護制度につき,他の社会保障制度との関係等にも留意しつつ,その在り方についてより専門的に検討していく必要があるなどとされた。
また,同月27日には経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003が閣議決定され,その中で,生活保護について,物価,賃金動向,社会経済情勢の変化等との関係を踏まえた見直しが必要であるなどとされた。このような状況を踏まえて,厚生労働省の審議会である社会保障審議会(厚生労働省設置法7条1項に定める厚生労働大臣の諮問機関)
は,同年7月,社会保障審議会運営規則8条に基づき,その福祉部会内に,保護基準の在り方を始めとする生活保護制度全般についての検討を目的として,生活保護制度の在り方に関する専門委員会(専門委員会)を設置した。
(乙全11,12,弁論の全趣旨)
専門委員会においては,生活扶助基準の在り方等について議論され,
その中で生活扶助基準の改定を賃金や物価等に基づいて行うことについても議論された。その議論の中で,物価を指標として生活扶助基準の改定を行うことは,一般国民の生活水準との相対性を確保することを目的とした水準均衡方式から相当外れることになるため慎重に行う必要がある旨の意見も出されたが,他方で,生活保護費の財源が租税であること
や社会の公平感等からすると賃金や物価等を指標とすることは国民に分かりやすいなどとする意見が出された。
(甲全68,69)
専門委員会は,
平成15年12月16日,
生活保護制度の在り方についての中間取りまとめ
(平成15年中間取りまとめ)を公表した。この
平成15年中間取りまとめは,専門委員会の生活扶助基準についての考え方をさしあたり示すものであったが,その中で,①生活扶助基準の評価については,生活保護において保障すべき最低限度の生活水準は,一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的なものであり,具体的には,第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準に着目することが適当であるとされて第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準と生活扶助基準額との比較が行われ,②生活扶助基準の改定方式については,経済情勢が水準均
衡方式を採用した当時と異なることから,例えば,5年間に1度の頻度で生活扶助基準の水準について検証を行うことが必要であり,定期的な検証を行うまでの毎年の改定については,国民にとって分かりやすいものとすることが必要なので,例えば年金の改定と同じように消費者物価指数の伸びも改定の指標の1つとして用いることなども考えられるなど
とされた。
(乙全13)
専門委員会は,
平成16年12月15日,
生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書
(平成16年報告書)を公表した。この平成16
年報告書のうち,生活扶助基準の在り方に関する部分の概要は,次のとおりである。
(甲全3,乙全4)



水準均衡方式により,勤労3人世帯の生活扶助基準について,一般低所得世帯の消費支出額との比較において検証・評価した結果,その水準は基本的に妥当であったが,今後,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため,全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必
要がある。そして,生活扶助基準の検証に当たっては,地域別,世帯類型別等に分けるとともに,調査方法及び評価手法について専門家の知見を踏まえることが妥当である。


生活扶助基準は,世帯人員数分を単純に足し上げて算出される第1類費とスケールメリットを考慮して世帯人員数に応じて設定されている第2類費とを合算する仕組みが採用されているため,人数が増すにつれ第1類費の比重が高くなり多人数世帯になるほど生活扶助基準額
が割高になるなど,世帯人員別にみると必ずしも一般低所得世帯の消費実態を反映したものとなっていない。そこで,生活扶助基準の設定及び算出方法については,第2類費の構成割合や多人数世帯の換算率に関する見直し等を行う必要がある。


現行の級地制度については昭和62年度から最大格差22.5%,6区分制とされているが,現在の一般世帯の生活扶助相当支出額では地域差が縮小傾向にあるため,級地制度全般について見直しを検討する必要がある。


検討会による検証
平成16年報告書において,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があるとされていたこと(前記ア

に加え,平成18年7月に閣議決定された経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006において,生活扶助基準について,一般低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直しを行い,併せて級地の見直しを行うなどとされたことから,平成19年,級地を含む生活扶助基準の見直しについて専門的な分析・検討を行うため,生活扶助基準に関する検討会(検討会)が設置された。この検討会は,学識経験者等で構成された組織であるが,国家行政組織法に基づく審議会
等に当たるものではなく,厚生労働省社会・援護局長が行政運営上の参考に資するため,有識者の参集を求め意見聴取を行った会議体である。(甲全4の1,74の2,乙全14,弁論の全趣旨)

検討会は,平成19年10月19日から同年11月30日までの約1か月半の間に5回の会議を開催し,平成16年の全国消費実態調査の特別集計結果に基づき,①水準の妥当性(生活保護を受給していない一般低所得世帯における消費実態との均衡が適切に図られているかどうか),
②体系の妥当性(生活扶助基準において第1類費と第2類費の合算によって算出される基準額が消費実態を反映しているかどうか)③地域差の,
妥当性(級地による基準額の較差が地域間における生活水準の差を反映しているかどうか)
等の評価及び検証を行った。甲全4の1,

74の3)
検討会は,
平成19年11月30日,
生活扶助基準に関する検討会報告書
(平成19年報告書)を公表したが,その概要は,次のとおりである。
(甲全4,乙全5)


生活扶助基準の設定に当たっては水準均衡方式が採用されていることから,生活扶助基準の水準は,国民の消費実態等との関係で相対的に決まるものとされており,国民の消費実態との比較に当たっては,
第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準と比較することが適当である。


生活扶助基準の水準については,勤労3人世帯の平均の生活扶助基準額(15万0408円)は,第Ⅰ-10分位におけるそれらの世帯の生活扶助相当支出額(14万8781円)よりもやや高めであり,単身世帯(60歳以上の場合)の平均の生活扶助基準額(7万120
9円)は,第Ⅰ-10分位におけるそれらの世帯の生活扶助相当支出額(6万2831円)よりも高めであった。


生活扶助基準の体系に関する評価及び検証は,世帯構成などが異なる生活保護受給者間において実質的な給付水準の均衡が図られる体系
としていくべきとの観点から行い,その上で必要な見直しを行っていくことが必要である。そして,生活扶助基準の世帯人員別及び年齢階級別の基準額が消費実態を反映しているかを検討すると,⒜世帯人員別の生活扶助基準額と生活扶助相当支出額の差は,世帯人員が4人以上の世帯の方が世帯人員が1人の世帯に比して有利となっており(生活扶助基準額が生活扶助相当支出額よりも高い。,⒝年齢階級別での)
生活扶助基準額と生活扶助相当支出額の差は,60歳未満では生活扶
助相当支出額の方が高く,70歳以上では生活扶助基準額が高くなるなど,消費実態からかい離している。


地域差の比較においては,現行の級地制度における地域差を設定した当時(昭和59年)の消費実態と平成16年の消費実態を比較すると,地域差が縮小している傾向がみられる。


平成19年報告書発表後の生活扶助基準の据置き等
厚生労働大臣は,平成19年報告書において,生活扶助基準の水準が一般低所得世帯の消費水準に比して高いなどとする検証結果が示されたことから,
生活扶助基準を消費実態に適合させる方向での見直しを検討したが,
原油価格の高騰が消費に与える影響等を見極めるため,平成20年度は据え置くこととし,さらに,平成21年度についても,平成20年2月以降の生活関連物資を中心とした物価上昇の家計への影響が大きいこと,同年9月のいわゆるリーマンショックに端を発した世界的な金融危機が実体経済に深刻な影響を及ぼしており,国民の将来不安が高まっている状況にあ
ることから,引き続き据え置くこととした。その後も,厚生労働大臣は,平成22年度においては,完全失業率が高水準で推移するなどの厳しい経済・雇用情勢を踏まえ,国民生活の安心が確保されるべき状況に鑑みて,また,
平成23年度においても経済雇用情勢等を総合的に勘案した上で,・
引き続き,生活扶助基準を据え置くこととした(甲全244~247,乙
全15,69~71,77)

もっとも,平成20年以降,①一般勤労者世帯の賃金は,事業所規模5人以上の調査産業計の1人当たり平均月間現金給与総額で減少傾向にあり,②総務省CPIは平成21年から平成23年まで3年連続で前年比がマイナスとなり(3年間で約-2.4%)
,③全国勤労者世帯の家計消費支出の
名目値も平成21年から平成23年まで3年連続で減少するなど,賃金,物価及び家計消費はいずれも下落するデフレ状況が継続していた。また,
厳しい経済・雇用情勢等の下,生活保護受給者数は平成23年7月に過去最高の205万人に達し,その後も引き続き増加しており,これに伴って生活保護費負担金は年々増加して平成23年度には約3.5兆円に上っていた。このような状況を受けて,生活困窮者対策及び生活保護制度の見直しの必要性が指摘され,平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進
法附則2条1号には,生活扶助,医療扶助等の給付水準の適正化等の必要な見直しを早急に行うことが明記されるに至った。甲全6,83の1,(
7,
84の1,乙全6,11)

基準部会による検証
平成16年報告書において5年に1度の頻度で生活扶助基準の水準を検証する必要がある旨の指摘がされ


これを受けて平成1

9年には検討会において生活扶助基準の検証が行われたこと
などから,平成23年2月,学識経験者による定期的な保護基準の専門的かつ客観的な評価・検証を行うことを目的として,社会保障審議会運営規則2条に基づき,社会保障審議会の下に常設部会として生活保護基準部会が設置された。
(甲全6,79の2~4,乙全6,22,24,弁
論の全趣旨)
基準部会では,平成21年の全国消費実態調査に基づいて生活扶助基準の在り方が検討されたが,生活扶助基準の水準が一般低所得世帯の消
費水準と均衡しているかを検証することはせず,生活扶助基準の展開部分の適正化を図るという観点から,年齢階級別,世帯人員別及び級地別の生活扶助基準額と消費実態とのかい離を検証することとし,具体的には,年齢階級別,世帯人員別及び級地別の一般低所得世帯の生活扶助相当支出額を,それぞれ0~2歳,単身世帯,1級地-1の額を1として指数化し(消費実態による指数)
,年齢階級別,世帯人員別及び級地別の
生活扶助基準額を指数化したもの(生活扶助基準額による指数)と比較した。その際,比較対象となる一般低所得世帯は,第Ⅰ-10分位の世帯とすることとされたが,比較対象となる第Ⅰ-10分位の世帯から,生活保護受給世帯は除外されなかった。また,消費実態による指数と生活扶助基準額による指数の作成に当たっては,前記のとおり,基準部会
の検証が,生活扶助基準額自体の妥当性を検証することを直接の目的とするものではなく,生活扶助基準の展開部分の適正化を図ることを目的とするものであることから,第Ⅰ-10分位のサンプル世帯が全て生活保護を受給した場合の生活扶助基準額の平均と当該サンプル世帯の生活扶助相当支出額の平均とが同額になるように指数が作成された。甲全6,(

乙全6,弁論の全趣旨)
基準部会では,平成25年1月16日,前記

の手法による検証結果

がまとまり,厚生労働省社会・援護局保護課から生活保護基準部会報告書(案)が示された。同報告書案には,厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には,本報告書の評価・検証の結果を考慮した上で,他に合理的説明が可能な経済指標などがあれば,それらについても根拠を明確にして改定されたいとの記載があり,この記載について,厚生労働省社会・援護局保護課から,要旨,
年齢階級別,世帯人員別及び級地別による生活扶助基準の見直しを行っても,第Ⅰ-10分位との間に一定の差が存在するため,一般的に合理的説明が可能であれば消費に影響を及ぼす因子を考慮することは1つの方向性としてあり得るところであり,その場合,何をもって合理的かということについても様々な考え方があり得る中で,例えば政府が発表している経済指標等を加味するということは正当化できるだろうという趣旨であり,当該指標について例を挙げるとすれば,消費者物価指数や賃金の動向が考えられる旨の説明がされた。これに対して,基準部会の委員からは,基準部会においては,年齢,人員及び級地という3要素しか議論しておらず,消費者物価指数や賃金の動向について何も議論していないことは明確にしてもらいたいなどの意見が出され,これを受けて,平成25年報告書においては,厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際に

は,本報告書の評価・検証の結果を考慮し,その上で他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は,それらの根拠についても明確に示されたい。

と修正された。(甲全6,84の1・3,乙全6,
25)
基準部会は,
平成25年1月18日,
社会保障審議会生活保護基準部会報告書
(平成25年報告書)を発表したが,その概要は,次のとおり

である。
(甲全6,7,乙全6,弁論の全趣旨)


年齢階級別(第1類費)の基準額の水準では,年齢階級間において消費実態による指数と生活扶助基準額による指数にかい離が認められ,世帯人員別(第1類費及び第2類費)の基準額の水準では,第1類費及び第2類費のいずれについても世帯人員が増えるにつれて前記のかい離が拡大する傾向が認められた。また,級地別の基準額の水準をみ
ると,生活扶助基準額の地域差よりも消費実態の地域差の方が小さくなっていると認められた。


検証結果を生活扶助基準額に反映させた場合の各世帯への影響は,年齢,世帯人数及び居住地域の組合せによって様々であり,検証結果
をそのまま生活扶助基準に反映させた場合の生活扶助基準額と現行の生活扶助基準額を比較した結果を平均値でみると,⒜夫婦と18歳未満の子1人世帯では-8.5%,⒝夫婦と18歳未満の子2人世帯では-14.2%,⒞60歳以上の単身世帯では+4.5%,共に60歳以上の高齢夫婦世帯では+1.6%,⒟20~50代の若年単身世帯では-1.
7%,
⒠母親と18歳未満の子1人の母子世帯では-5.
2%となった。



今般,生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には,現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯,とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から,子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある。


本件各告示による生活扶助基準の引下げの実施
前記のとおり,平成16年報告書において生活扶助基準の展開部分に関して見直しを検討する必要がある旨指摘され


平成1

9年報告書においても,年齢階級別,世帯人員別及び級地別でみると生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態とかい離しているとの指摘がされており

~④)
,これらを踏まえた基準部会においても,生

活扶助基準の展開部分が一般低所得世帯の消費実態を反映していないことが明らかとなった

①)
。そこで,厚生労働大臣は,一般低所

得世帯の消費実態を生活扶助基準の展開部分に反映させることにより生活扶助基準の展開部分を適正化し生活保護受給世帯間の公平を図るため,基準部会の検証結果に基づいて生活扶助基準の改定を行うこととした(ゆがみ調整)

(前記前提事実⑵ア,
甲全7,
乙全16,
弁論の全趣旨)
また,前記イ及びウのとおり,平成19年報告書において生活扶助基準の基準額が一般低所得世帯の消費実態と比較して高いなどの検証結果が示されていたが,当時の社会経済情勢等から生活扶助基準が据え置か
れる状況が続き,その間においても,賃金,物価及び家計消費はいずれも下落するデフレ状況が継続していた。そのため,厚生労働大臣は,生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加したと評価することができるとして,平成20年以降の物価変動を生活扶助基準に反映させる生活扶助基準の改定を行うこととした(デフレ調整)(前記前提事実⑵ウ,。
甲全7,乙全16,弁論の全趣旨)
厚生労働大臣は,ゆがみ調整による生活扶助基準の引下げの激変緩和
措置として,基準部会による検証結果を生活扶助基準に反映する比率を増額方向と減額方向共に2分の1とした。また,この激変緩和措置を講じたとしても,ゆがみ調整及びデフレ調整を行うことにより生活扶助基準額が大幅に減額になる世帯が生ずることが見込まれたため,激変緩和措置として,現行の生活扶助基準からの増減額の幅がプラスマイナス1
0%を超えないように調整し,かつ,生活扶助基準の引下げを平成25年度から3年間かけて段階的に実施することとした。前記前提事実⑵ウ,(
甲全7,乙全16,弁論の全趣旨)
2
デフレ調整における下落幅の算出方法等
前記前提事実並びに証拠
(主要なものを括弧内に掲記した。
)及び弁論の全趣

旨によれば,デフレ調整における下落幅の算出方法等について,以下の事実が認められる。


厚生労働大臣は,デフレ調整を行うに当たり,物価下落による生活保護受給世帯の実質的な可処分所得の増加分を算出するという目的から,総務省C
PIの指数品目のうち,生活扶助による支出が想定される品目のみを指数品目とする消費者物価指数(生活扶助相当CPI)により物価下落率を算出することとし,物価下落率の算出に当たり,総務省CPIの指数品目から,家賃等の生活扶助以外の他の扶助で賄われる品目及び自動車関係費,NHK受信料,大学授業料,幼稚園保育料等の生活保護受給世帯において支出するこ
とが想定されていない品目を除外した。
(前記前提事実⑵イ,甲全7,乙全1
8,30,弁論の全趣旨)


総務省CPIではラスパイレス式が採用され,基準年を指数・価格参照時点及びウェイト参照時点としてその後の変化を指数として表すものとされている。これに対して,厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率を算出する期間を平成20年から平成23年までとしつつ,指数・価格参照時点及びウェイト参照時点を平成22年とし,平成20年の生活扶助相当CP
Iと平成23年の生活扶助相当CPIを求めた上で,これらの変動率を算出した。
(前記前提事実⑵イ,甲全7,乙全16,弁論の全趣旨)⑶

総務省CPIでは,新たな財及びサービスの出現や嗜好の変化などによる消費構造の変化を反映させるため,5年に1度,基準年(価格・指数参照時点及びウェイト参照時点)
を改定し,
指数品目とウェイトを見直している
(以

下指数基準改定という。。この指数基準改定は,本件各告示の前には平)
成22年に行われており,平成22年の指数基準改定により総務省CPIの指数品目の追加・廃止が行われ,これにより,生活扶助相当CPIの指数品目も,平成20年の指数費目が485品目であったのに対し,平成23年の指数品目は517品目となった。また,総務省CPIでは,家計調査による
支出割合をウェイトとして使用しており,平成22年の指数基準改定によりウェイトとして使用する支出割合も見直されたが,前記⑵のとおり,生活扶助相当CPIでは,平成20年及び平成23年のいずれにおいてもウェイト参照時点が平成22年とされており,いずれにおいても同年の家計調査による支出割合がウェイトとして使用された。
(前記認定事実⑵イ,甲全99,1

03,149,乙全27,28)


総務省CPIでは,5年に1度の指数基準改定に対応して,過去に遡って比較が可能となるように,過去の指数を指数基準改定に合わせて換算し,指数基準改定前の指数を指数基準改定の年の指数で除した結果を100倍す
るものとされている(指数の接続。例えば,平成17年の指数を100として同年の指数品目による平成22年の指数が99.6である場合,同年の指数を100とする平成17年の指数品目による指数は,100/99.6を乗ずることで求められる。。これに対して,平成20年の生活扶助相当CP)
Iと平成23年の生活扶助相当CPIの比較においては,平成22年の指数基準改定により指数品目が異なることになったにもかかわらず,指数の接続は行われなかった。
(以上につき,前記前提事実⑵イ,甲全100,103,
149,183,乙全27,28,弁論の全趣旨)
3
争点1(本件各告示による生活扶助基準の改定に生活保護法3条及び8条に違反した違法があるか)について


ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定における厚生労働大臣の裁量権について
生活保護法3条によれば,同法により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ,同法8条2項によれば,保護基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考
慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものでなければならない。そうすると,仮に,保護基準が前記の最低限度の生活の需要を超えているというのであれば,これに応じて保護基準を改定することは,同項の規定に沿うところであるということができる。もっとも,これらの規定にいう最低限度の生活は,抽象
的かつ相対的な概念であって,その具体的な内容は,その時々における経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり,これを保護基準において具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策
的判断を必要とするものである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)
。したがっ
て,保護基準中の生活扶助基準を改定するに際し,生活扶助基準の改定の必要があるか否か及び改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては,厚生労働大臣に前記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである。
また,生活扶助基準が改定された場合には被保護者の生活に多大な影響が生ずることも少なくないから,厚生労働大臣は,生活扶助基準を改定するに当たっては,生活扶助基準の改定の必要性を踏まえつつ,生活扶助基準の改定による被保護者の生活への影響についても可及的に配慮
するため,その改定の具体的な方法等について,激変緩和措置の要否などを含め,前記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているというべきである。
そして,ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価及びゆがみ調整やデフレ調整に
よる生活扶助基準の改定に伴う被保護者の生活への可及的な配慮は,前るもの
の,生活扶助基準の展開部分の不均衡の有無やその程度及び物価下落による生活保護受給者の可処分所得の実質的な増加の有無やその程度は,各種の統計資料や専門家の作成した資料等に基づいてある程度客観的に
推認し得るものであり,本件各告示による生活扶助基準の引下げにおいてもこうした資料に基づいて検討されている(前記1⑵ウ~オ,2)。こ
れらの諸点に鑑みると,ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定は,①ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定をした厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及
び手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,あるいは,②ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に被保護者の生活への影響の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,生活保護法3条及び8条2項に違反し,違法となるものというべきである(最高裁
平成22年(行ツ)第392号,同年(行ヒ)第416号同24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号1240頁,最高裁平成22年(行ヒ)第367号同24年4月2日第二小法廷判決・民集66巻6号2367頁参照)


以上の点につき,原告らは,制度後退禁止原則により生活扶助基準を引き下げることは原則として許されず,国において生活扶助基準を引き下げる正当な理由があることを立証しない限り,生活扶助基準の引下げは違法となる旨主張し,その根拠として,①憲法25条1項は国に健康で文化的な水準の生活を国民に保障することを,同条2項は国に社会福祉の向上及
び増進をそれぞれ義務付けており,同条を受けた生活保護法は,3条において,
健康で文化的な生活水準を維持することを国に義務付けるとともに,8条2項において,健康で文化的な最低限度の生活の需要が確実に満たされるようにしなければならないとしており,56条において,不利益変更の禁止を定めていること,②同法立法当時,厚生大臣が国会において基準額につきましては下げないということでどこまでも進んでいきたいと答弁していることや厚生省社会局長が同法8条2項につき最低生活はできるだけ高い線まで持って行きたいと答弁していること,③社会権規約2条1項は,この規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため,自国における利用可能な手段を最大限に用いること,すな
わち権利の実現の漸進的な進歩を国家に要求している上,一般的意見も,その3において,不可欠な食料等の最低限の部分を充足することを加盟国が即時的に負う最低限の中核的義務として位置付けているとともに,その19において,財政上社会保障に対して優先的な財源の配分を求め,社会保障に関する後退的な措置は禁じられているとの強い推定が働くとしていることを挙げている。
しかしながら,まず,①についてみると,憲法25条1項は,全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり,
国が個々の国民に対して具体的

現実的に前記のような義務を有することを規定したものではない上,健康で文化的な最低限度の生活は,抽象的かつ相対的な概念であって,その
具体的内容は,
その時々における文化の発達の程度,
経済的・社会的条件,
一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるから(前掲最高裁昭和57年7月7日大法廷判決参照)
,同項は,社
会経済情勢の変化等によって健康で文化的な最低限度の生活の具体的な水準が変動し得ることを当然に予定していると解される。これらのこと
からすれば,同項が生活保護制度を後退させることを禁止しているということはできない。また,同条2項は,国は,社会福祉,社会保障等の向上及び増進に努めなければならないと規定しており,同項は,福祉国家の理念に基づき社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したにとどまるものであって(前掲最高裁昭和57年
7月7日大法廷判決参照)同項が生活保護制度を後退させることを禁止し,
ていると解することはできない。そして,生活保護法は,前記のような憲法25条を受けて定められたものであり,生活保護法3条の規定する健康で文化的な生活水準や同法8条の規定する最低限度の生活も,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生
活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであって,社会経済情勢の変化等によって変動し得るものと解されるから,これらの規定が生活保護制度を後退させることを禁止するものと解することはできない。また,同法56条は,既に保護の決定を受けた個々の被保護者の権利及び義務について定めた規定であって,保護の実施機関が被保護者に対する保護を一旦決定した場合には,当該被保護者について,同法の定める変更の事由が生じ,保護の実施機関が同法の定める変更の手続を正規に執るまでは,その決定された内容の保護の実施を受ける法的地位を保障する趣旨のものであると解される(前掲最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決参照)このような同条の趣旨に照らせば,

同条は保護基準自体が改定され
る場合には適用されないというべきであるし,同条の趣旨を考慮するとし
ても,保護基準は,最低限度の生活の需要を満たすものとして定められるものであり(同法8条2項)
,前記のとおり,最低限度の生活の具体的内容
は,社会経済情勢の変化等によって変動し得ることを当然に予定していると解されるのであって,同法56条がこのことを否定する趣旨を含むものとは解されない。そうすると,同条の趣旨をもって生活保護制度を後退さ
せることが禁止されるということはできない。
次に,②についてみると,生活保護法立法当時,厚生大臣は,国会において,予算を十分に確保して切下げということがないようにしてほしい旨の発言を受けて,基準額につきましては下げないということでどこまでも進んで行きたいと答弁していること(甲全33)
,厚生省社会局長が同法

8条2項につき最低生活の線というものは,でき得る限り高い線まで持って行きたいと答弁していること(甲全158)が認められるものの,これらの答弁は,同法制定当時(昭和25年)の国民全体の生活水準が非常に低い状況の中で生活扶助基準も極めて不十分なものであることを前提にするものと推認され(甲全33,34,乙全44,45)
,このことは,

前記の厚生省社会局長が,生活扶助基準が,
現在の基準ならば
,少しで
も良くするという方向で努力していきたい旨を答弁していることからも明らかである(乙全45)
。しかしながら,その後の社会経済の発展により国
民の生活水準は上昇し,これに伴って生活扶助基準の改善が図られ,昭和58年意見具申において生活扶助基準が一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているとされるなど
(乙全34,
前記1⑴イ)現在は,

生活扶助基準の水準が生活保護法制定当時と大幅に異なるのであるから,
前記各答弁をもって,現在の生活扶助基準についても引き下げることが予定されていないということはできない。
さらに,③についてみると,社会権規約9条は,締約国において,社会保障に関する権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,国が前記の権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進
すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない。このことは,社会権規約2条1項が締約国において立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成することを求めていることからも明らかであって,社会権規約9条により生活
扶助基準の改定における厚生労働大臣の裁量権が制約されるということはできない(最高裁昭和60年(行ツ)第92号平成元年3月2日第一小法廷判決・裁判集民事156号271頁参照)
。そして,一般的意見が直ちに
締約国を法的に拘束すると解すべき根拠は見当たらない。そうすると,社会権規約9条及び一般的意見によって生活扶助基準の改定における厚生労
働大臣の裁量権が制約されるということはできない。
以上によれば,原告らの前記主張は採用することができない。

また,原告らは,厚生労働大臣は,生活扶助基準を改定するに当たっては,
生活保護法8条2項所定の事項を考慮することが義務付けられており,
他方で,国の財政事情,国民感情,政権与党の公約等の同項及び9条に定められた事項以外の事項を考慮してはならないと主張する。
しかしながら,前記アのとおり,憲法25条の規定を保護基準として具体化するに当たっては,高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものであり,厚生労働大臣が保護基準を設定するに当たっては専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるというべきであるところ,前記の政策的判断においては,国の財政事情,他の政策等
の多方面にわたる諸事情を広く考慮する必要があり,前記の厚生労働大臣の裁量権もそれらの諸事情を広く考慮して行使されるべきものであると解される。このような生活扶助基準の設定における厚生労働大臣の裁量権の性質に照らすと,厚生労働大臣がこれを行使するに当たり,生活保護法8条2項所定の事項を考慮することが義務付けられるということはできず,
他方で,同項及び9条に定められた事項以外の事項を考慮することが許されないということはできない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。

さらに,原告らは,生活保護法の立法過程においては,生活扶助基準の設定は,専門家によって構成された審議会の検討を経て,これに基づいて決定することが当然の前提とされていたことなどからすれば,厚生労働大臣による生活扶助基準の設定は,専門家による審議会の検討の結果に基づいて行うことが要請されており,専門家による検討を経ていない場合には厚生労働大臣の裁量権が制約される趣旨の主張をする。

確かに,①生活保護法の制定過程において,保護の範囲,方法等が法律で具体的に定められていないことが問題視されたのに対し,厚生省は,保護基準は合理的な基礎資料によって算出されるべきものであり,当該資料は社会保障制度審議会の最低限度の生活の水準に関する調査及び研究によって得られるべきことを説明し,かつ,社会事業審議会に部会を設け実際
の運用に当たり部会の検討結果の趣旨を生かすことを言明して了解を得たこと
(甲全2)②生活扶助基準の設定を水準均衡方式で行うことも当時の,
厚生省の審議会である中央社会福祉審議会における意見を踏まえて決定されていること
(前記1⑴イ)③専門委員会の平成16年報告書において5,
年に1度の検証が提言され,生活扶助基準の検証に当たっては,調査方法や評価手法について専門家の知見を踏まえることが妥当であるとされたこと(前記


,④平成16年報告書を踏まえ,平成19年には検討会
において,平成24年には基準部会において,生活扶助基準の検証が行われてきていること(前記1⑵イ,エ)などからすれば,生活扶助基準の改定に当たっては専門家により構成された審議会等による検討結果を踏まえて行うことが通例であったということができる。
しかしながら,厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たって社会保障
審議会等の専門家の検討を経ることを義務付ける法令上の根拠は見当たらず,厚生労働省設置法は,厚生労働省には社会保障審議会を置くものとしつつ,社会保障審議会は厚生労働大臣の諮問に応じて調査審議することなどをつかさどる審議会と規定するにとどまるから
(同法7条1項1号)厚

生労働大臣は必要に応じて社会保障審議会に諮問すれば足り,厚生労働大
臣が保護基準を改定するに当たり社会保障審議会への諮問が法令上義務付けられているものではないというべきである。そうすると,社会保障審議会等の専門家の検討を経ていないことをもって直ちに生活扶助基準の改定における厚生労働大臣の裁量権が制約されるということはできない。したがって,原告らの前記主張は採用することができない。



ゆがみ調整を行った厚生労働大臣の判断について

基準部会の検証内容等
前記

証拠(甲全6,乙全6)によれば,①基準

部会は,比較対象とする一般低所得世帯を第Ⅰ-10分位の世帯とした上,平成21年の全国消費実態調査に基づき,第Ⅰ-10分位の世帯の年齢階級別,世帯人員別及び級地別の生活扶助基準額を指数化したもの(生活扶助基準額による指数)と第Ⅰ-10分位の世帯の年齢階級別,世帯人員別及び級地別の生活扶助相当支出額を指数化したもの(消費実態による指数)を比較検証し,その結果,年齢階級別,世帯人員別及び級地別のいずれにおいても両者の間にかい離がみられたこと,②基準部会は,比較対象とする一般低所得世帯を第Ⅰ-10分位の世帯とした根拠として,⒜これまでの検証に倣い,生活保護受給世帯と隣接した一般低所得世帯の消費実態を用いることが現実的であること,⒝第Ⅰ-10分位の世帯の平均消費水準は中位所得階層の約6割に達していること,⒞第Ⅰ-10分位に属する世帯における必需的な耐久消費財の普及状況
は中位所得階層と比べておおむね遜色がないこと,⒟第Ⅰ-10分位の世帯の大部分は相対的貧困層にあること,⒠分散分析等の統計的手法により検証すると,第Ⅰ-10分位と第Ⅱ-10分位の間において消費動向が大きく変化しており,第Ⅰ-10分位の世帯の消費動向は,他の年間収入階級と比べて大きく異なると考えられることなどを挙げているこ
と,③比較対象とした第Ⅰ-10分位の世帯から生活保護受給世帯を除外していないことが認められる。
そして,被告らは,生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を検証するという基準部会の検証の目的からすると,前記②⒜~⒠の理由から生活保護受給世帯に近い消費実態を有するものと
して第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象としたことは合理的であるし,基準部会の検証において第Ⅰ-10分位の世帯の消費支出額と比較している対象は,当時の生活扶助基準であり,実際の生活保護受給世帯の消費支出額ではないから,生活保護受給世帯が比較対象の第Ⅰ-10分位の世帯から除外されていないことも不合理であるということはできないな
どとして,基準部会の検証の結果を踏まえてゆがみ調整を行った厚生労働大臣の判断に違法はないと主張している。
前記

によれば,基準部会の検証は,生活扶助基準の展開部分

の適正化を図るため,生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を検証するものであるから,比較対象となる一般低所得世帯は,最低限度の生活水準にある世帯とすることが前記の検証の目的に沿うものである。そして,前記

②⒜については,平成15年中間取

りまとめが生活扶助基準の評価においては第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準に着目することが適当であるとし


平成19年報

告書も生活扶助基準の検証に当たり第Ⅰ-10分位の世帯を比較の対象としており(前記1⑵イ
これらのことは,第Ⅰ-10分位の世帯

が最低限度の生活水準にあり生活扶助基準と比較する対象として適切であることを基礎付けるものということができる。また,前記

②⒝につ

いては,第Ⅰ-10分位の世帯の生活扶助相当支出額と平均的な所得階層である第Ⅲ-5分位の世帯の生活扶助相当支出額を比較すると,20歳~59歳の単身有業世帯で68%,60歳以上の単身世帯で64%,60歳以上の夫婦世帯で62%,夫婦と18歳未満の子1人の有業世帯で66%,夫婦と18歳未満の子2人の有業世帯で71%であるとの統計資料に基づくものであり(甲全84の2)
,この統計結果によれば,第
Ⅰ-10分位の世帯の平均消費水準は中位所得階層の約6割に達していると評価することができる。また,前記

②⒞については,厚生労働省

社会・援護局保護課が平成22年に実施した家庭の生活実態及び生活意識に関する調査等の統計資料によるものであり,これらの統計資料では,冷蔵庫,炊飯器,テレビ等一般市民の過半数が必要と考えている消費財について,第Ⅰ-10分位の世帯の普及率の平均的な所得階層である第Ⅲ-5分位の世帯の普及率に対する割合はおおむね9割程度とな
っており(甲全60,83の2,138,乙全37)
,この統計結果によ
れば,第Ⅰ-10分位の世帯における必需的な耐久消費財の普及状況は中位所得階層と比べておおむね遜色がないと評価することができる。そして,前記

②⒝,⒞及び⒟は,消費水準,保有財産及び可処分所得の
点において第Ⅰ-10分位の世帯が最低限度の生活水準にあることを基礎付けるものということができる。さらに,前記

②⒠については,第

Ⅰ-10分位の世帯が,低所得層として他の分位の世帯と区別される一
定の消費動向を有する世帯であることを示すものであり,第Ⅰ-10分位の世帯を最低限度の生活水準にある世帯として把握することが可能であることを示すものといえる。
以上のことからすると,基準部会の検証において比較対象を第Ⅰ-10分位の世帯としたことが不合理であるということはできない。

また,基準部会の検証は,実際の生活保護受給世帯の消費水準の妥当性を一般低所得世帯の消費水準との比較において検証するものではなく,生活扶助基準の展開部分の適正化を図るため,生活扶助基準額による指数と消費実態による指数を比較することにより生活扶助基準の展開部分の妥当性を検証しようとするものである。このような基準部会の検証の
目的に照らすと,生活扶助基準との比較対象を一般低所得世帯の現実の消費実態と考えることも相応の合理性を有するのであり,生活保護受給世帯も一般低所得世帯を構成する以上,基準部会の検証において,比較対象から生活保護受給世帯を除外しなかったことが不合理であるとはいえない。


原告らの主張について
生活保護受給世帯の消費支出を第Ⅰ-10分位の世帯と比較した点について
a
原告らは,基準部会が比較対象を第Ⅰ-10分位の世帯とした根拠のうち,

⒜について,昭和59年以降に採用されている水

準均衡方式における比較対象は一般国民生活における消費水準であり,従前の生活扶助基準の検証が第Ⅰ-10分位の世帯を比較対象として行われてきた事実はない,

⒝について,第Ⅰ-10分位の

単身世帯(60歳以上)の消費水準は,第Ⅲ-5分位の5割(第Ⅰ-5分位でみると約6割)にとどまっているから,第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準が平均的な世帯の消費水準に照らして相当程度に達しているということはできない,

⒞について,
厚生労働省社会・

援護局保護課が平成22年に実施した家庭の生活実態及び生活意識に関する調査によれば,第Ⅰ-10分位の世帯の普及率が第Ⅲ-5分位の世帯の普及率の9割未満である項目が全体の3分の2に及び,特に文化や教養に関わる項目及び社会生活に関わる項目において第Ⅲ-5分位の世帯との格差が顕著であることが明らかであり,必需的な耐久消費財について第Ⅰ-10分位に属する世帯における普及状況が,中位所得階層と比べて遜色ないものであるということはできない,前⒟について,OECDの国際的基準による相対的貧困層の世

帯は,
あってはならない状況にあるものと考えられているから,こ
のような状況にある世帯を比較対象とすることは,到底許されるものではないなどと主張する。
しかしながら,⒜についてみると,前記1⑴ウ並びに⑵ア及びイによれば,生活扶助基準の改定については,昭和59年以降,最低生活
の水準は一般国民生活における消費水準との比較における相対的なものとして設定すべきであるとの見地から水準均衡方式が採用されたが,その後,平成15年中間取りまとめでは,生活扶助基準の評価に当たり水準均衡方式を前提としつつ第Ⅰ-10分位の世帯に着目することが適切であるとして第Ⅰ-10分位の世帯との比較が行われているこ
と,平成19年の検討会においても,水準均衡方式を前提としつつ,生活扶助基準を第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準との比較を行われたことが認められる。
これらの事実によれば,
基準部会以前においても,
具体的な生活扶助基準の検証に当たっては,第Ⅰ-10分位の世帯と比較する方法が採られていたということができ,⒜の点に関する基準部会の判断に不合理はない。
また,⒝については,平成19年の検討会の検証時においては,第Ⅰ-10分位の単身世帯(60歳以上)の消費水準は,第Ⅲ-5分位の5割(第Ⅰ-5分位でみると約6割)にとどまっていたことが認められるものの(甲全4の1,74の3,乙全5)
,前記

のとおり,

基準部会による検証時の統計資料では,第Ⅰ-10分位における単身世帯(60歳以上)の生活扶助相当支出額は,中位所得階層である第Ⅲ-5分位の世帯の生活扶助相当支出額の64%であるとされており,その信用性に疑義を生じさせる事情は見当たらないから,原告らの前記主張は前提を欠くものである。この点を措いても,平成19年報告書では,第Ⅰ-10分位の単身世帯(60歳以上)の消費水準は,第
Ⅲ-5分位の5割(第Ⅰ-5分位でみると約6割)にとどまっていることに留意する必要があるとしつつ,夫婦子1人世帯の第Ⅰ-10分位の消費水準が第Ⅲ-5分位の7割に達していることから第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準が平均的な世帯の消費水準に照らして相当程度に達しているとされており(甲全78,乙全5)
,これらのことからす

ると,原告らの前記主張をもって,⒝の点に関する基準部会の判断が不合理であるということはできない。
さらに,⒞については,厚生労働省社会・援護局保護課が平成22年に実施した家庭の生活実態及び生活意識に関する調査は,様々
な項目について第Ⅰ-10分位の世帯と第Ⅲ-5分位の世帯とが比較
されているものであり,前記調査で第Ⅰ-10分位の世帯の普及率が第Ⅲ-5分位の世帯の普及率の9割未満である項目は,システムキッチン年1回は泊りがけの旅行に行くなど,必ずしも必需品とま

ではいえないものが相当数含まれている(甲全60,138,乙全37)
。そうすると,原告らの前記主張をもって,前記の統計結果により必需的な耐久消費財の第Ⅰ-10分位の世帯の普及状況が中位所得層と比べて遜色ないとした基準部会の検証が根拠を欠くということはで
きない。
また,⒟については,相対的貧困層は,世帯の所得から直接税及び社会保険料を減じ,当該額を世帯員数の平方根で除した等価可処分所得を算出し,その可処分所得を低い順に並べた際の,等価可処分所得が真ん中の順位に当たる者(所得中央値)の50%を下回る所得しか
得ていない者のことであり(弁論の全趣旨)国民の平均的な所得に比,
して所得が一定程度低い世帯であることを示すものということはできても,このことから直ちに最低限度の生活を維持することができない者であるなど,あってはならない状況にある世帯であるということはできない。したがって,⒟の点に関する基準部会の判断に不合理はな
いというべきである。
以上のとおりであるから,原告らの前記主張は採用することができない。
b
また,原告らは,生活保護を受給することができるのに受給していない者が多数存在しており,これらの世帯では消費支出が生活扶助基準以下の水準となるのは当然であるから,最下層である第Ⅰ-10分位の世帯の消費水準との比較を根拠に生活扶助基準を引き下げてしまうと,際限のない引下げを招くこととなるという弊害が生じかねないと主張する。

しかしながら,ゆがみ調整は,一般低所得世帯の消費実態を生活扶助基準の展開部分に反映させることにより生活扶助基準の展開部分を適正化し生活保護受給世帯間の公平を図ることを目的とするものであって,生活扶助基準額の水準を第Ⅰ-10分位の世帯の消費支出と比較することにより生活扶助基準額を引き下げるものではないから,第Ⅰ-10分位の世帯に生活保護を受給することができるのに受給していない世帯が存在することはゆがみ調整による生活扶助基準の見直しの内容に影響するものではない。また,平成22年4月9日付けで厚生労働省社会・援護局保護課が作成した生活保護基準未満の低所得世帯数の推計についてによれば,平成16年の全国消費実態調査に基づいて所得が保護基準未満の世帯(以下基準未満世帯という。


を推計すると総世帯の約5~7%であり,基準未満世帯と生活保護受給世帯の合計に対する基準未満世帯の割合(保護世帯比)は約24%から30%にとどまるとされているが(甲全22)
,前記の推計は,全
国消費実態調査のデータから個々の世帯の生活保護基準額(最低生活費)を算出し,収入から税,社会保険料及び勤労控除を控除して所得
を算出して,所得が最低生活費を下回る世帯を生活保護基準未満の世帯としたものであり,統計データからは不動産等の資産を把握することができない上,生活保護の受給要件の存否を判断する際に考慮される親族からの扶養や稼働能力の有無が考慮されていないものであって,前記の推計をもって生活保護を受給することができるのに受給してい
ない世帯の割合を正確に表したものということは困難である。
そして,
他に生活保護を受給することができるのに受給していない世帯の数を認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
比較対象群から生活保護受給世帯が除外されていない点について

原告らは,平成25年報告書において比較対象とされた第Ⅰ-10分位の世帯から生活保護受給世帯が除外されていないことについて,①比較群と対照群の中に同じ集団を含めている点で不当である,②比較対象が一般低所得世帯の消費実態と生活扶助基準であるとしても,生活保護受給世帯は生活扶助基準額を全額消費するのであるから比較群と対照群に同一の世帯が含まれることに変わりはない,③平成19年報告書及び平成29年報告書では比較対象から生活保護受給世帯が除外されているなどと主張する。
しかしながら,①については,前記アで説示したとおり,基準部会の検証は,生活扶助基準の展開部分の適正化を図るため,生活扶助基準額による指数と消費実態による指数とのかい離を検証したものであって
(前記1⑵エ

)ここでの比較対象は,

第Ⅰ-10分位の世帯の

現実の消費実態を指数化したものと生活扶助基準額を指数化したものであるから,比較対象から生活保護受給世帯を除外しないことをもって比較群と対照群に同一の集団が含まれるということはできない。
また,②については,生活保護受給世帯の消費性向は,各世帯の個別的な生活状況や時々の社会経済状況等によって異なるものであり,必ずしも生活扶助基準が予定するところと完全に一致するものではないから,生活保護受給世帯の消費実態と生活扶助基準とが同一のものであるということはできない。そうすると,第Ⅰ-10分位の世帯の現実の消費実態と生活扶助基準額とがかい離しているかを検証する場合に第Ⅰ-10
分位の世帯から生活保護受給世帯を除外しないとすることも不合理であるということはできない。
さらに,③についてみると,平成19年報告書や平成29年報告書では比較対象から生活保護受給世帯が除外されているものの
(甲全226,
乙全41,
弁論の全趣旨)平成19年報告書及び平成29年報告書では,


生活扶助基準における標準世帯の水準の妥当性を一般低所得世帯との比較において検証する作業が行われており,このような検証を行っていない基準部会の検証とはその内容が異なるのであるから,平成19年報告書や平成29年報告書において比較対象から生活保護受給世帯が除外されていることをもって基準部会が同様の扱いをしなかったことが不合理であるということはできない。
以上によれば,原告らの前記主張は採用することができない。


まとめ
以上によれば,基準部会の検証結果に統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところはないというべきである。そして,ゆがみ調整を行った厚生労働大臣の判断は,基準部会の検証結果を踏まえて行われたものであり,その判断の過程及び手続に過誤,欠落が
あると解すべき事情はうかがわれない。したがって,ゆがみ調整を行った厚生労働大臣の判断が違法であるということはできない。


デフレ調整を行った厚生労働大臣の判断について

専門家による検証が行われていない点について
原告らは,生活扶助基準の改定において物価指数を考慮することは,昭和58年意見具申以来採用されてきた水準均衡方式による改定を逸脱する新たな生活扶助基準の改定方式であり,専門委員会及び基準部会において生活扶助基準の改定に物価指数を用いることに反対意見が述べられていたことからすれば,専門家による検討を経ないまま行われたデフレ調整によ
る生活扶助基準の改定は違法であると主張する。
前記1及び証拠(甲全84の1)によれば,本件各告示による生活扶助基準の改定までは物価指数を用いた生活扶助基準の改定が行われたことはなく,基準部会においても物価指数を用いた生活扶助基準の改定については議論されておらず,かえって,基準部会の委員からは,消費品目によっ
て物価指数が異なるにもかかわらず,全国一律の物価指数によって生活扶助基準を改定することには非常に慎重であるべきであるなどの意見が出されたことが認められる。
しかしながら,前記⑴エに説示したとおり,厚生労働大臣が生活扶助基準を改定するに当たっては社会保障審議会等の専門家の検討を経ることが通例であったということができるものの,そのような検討を経ることは法令上要求されていないのであり,これまで物価指数を用いた生活扶助基準
の改定が行われたことはなく,基準部会において委員から物価指数によって生活扶助基準を改定することに慎重であるべきとの意見が述べられたことなどを考慮しても,デフレ調整について専門家の検討を経ていないことをもって,直ちにデフレ調整を行った厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤,欠落があったということはできない。


デフレ調整を行う必要性について
厚生労働大臣の判断について
被告らは,平成19年報告書により当時の生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態と比較して高いことが明らかとなったため生活扶助基準
を見直す必要があったものの,当時の社会経済情勢等を考慮して平成20年度以降,生活扶助基準を据え置き,他方で,賃金,物価及び家計消費が下落するデフレ状況にあり,生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加したと評価することができる状態となっていたことから,デフレ調整を行った旨主張している。

前記⑴に説示したところに照らせば,
生活扶助基準の改定については,
厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量が認められるところ,前記1⑵イ及びウによれば,①平成19年報告書は,第Ⅰ-10分位の夫婦子1人の勤労3人世帯及び単身世帯(60歳以上の場合)における生活扶助基準額は,それらの世帯の平均の生活扶助相当支出額よ
りも高めであるとの検証結果が得られたとするものであったこと(前記1⑵イ)
,②しかしながら,厚生労働大臣は,原油価格の高騰が消費に与える影響等を見極めるため平成20年度は生活扶助基準を据え置くこととし,平成21年度以降も当時の経済,雇用情勢等を踏まえて生活扶助基準の据置きを継続したこと
(前記1⑵ウ)③一方で,

平成20年以降,
賃金,物価及び家計消費はいずれも下落するデフレ状況が継続していたこと(前記1⑵ウ)が認められる。これらの事実によれば,平成19年当時,生活扶助基準を引き下げる必要があり,そのような状況の下で,平成20年以降,物価が下落する状況が継続したことにより生活扶助基準額が実質的に増加したと評価し得る状況が生じていたと評価することも可能であるから,デフレ調整を行う必要があるとした厚生労働大臣の
判断が不合理であるということはできない。
原告らの主張について
a
原告らは,水準均衡方式の下では,生活扶助基準の改定において,毎年度の物価変動の影響が反映された名目値の民間最終消費支出の伸び率との均衡が検証されているのであり,平成20年度から平成24
年度までの間,生活扶助基準が据え置かれているのは,物価変動の影響について何ら考慮されていないことを意味するものではなく,むしろ,いずれの年度においても,将来の消費支出を見込む指標として物価動向を参考にした上で,その他の社会経済情勢等を総合的に勘案しつつ,結果として,生活扶助基準を改定しないとの判断がされている
のであるから,平成20年度から平成24年度までの間においても,水準均衡方式による生活扶助基準の改定において物価変動が反映されており,その後に,重ねてデフレ調整を行う必要はなかったと主張する。
確かに,平成20年度から平成24年度までの間,水準均衡方式の
下,当時の社会経済情勢等を踏まえて生活扶助基準が据え置かれており,その理由として,原油価格の高騰(平成20年度)
,生活関連物資
を中心とした物価上昇の家計への影響(平成21年度)
,経済,雇用情
勢等(平成22年度から平成24年度まで)といった物価等に関する事情が挙げられていることからすると
(前記1⑵ウ)
,前記の据置きの
判断の過程において物価動向も勘案されたものと推認される。しかしながら,このような物価動向の考慮は,生活扶助基準の水準自体の妥
当性を判断するためのものではなく,生活扶助基準の水準自体は妥当性を欠くことを前提としつつその改定を直ちに行うべきか否かを判断する際の参考指標として考慮されたにとどまるものであり,このような物価動向の考慮をもって,デフレ調整を行うことが平成20年度から平成24年度までの物価動向を重ねて考慮するものであるというこ
とはできない。そうすると,平成20年度から平成24年度までの間は水準均衡方式に基づく生活扶助基準の改定は実施されず,この間の物価変動は生活扶助基準に反映されていないのであるから,平成20年から平成23年までの物価変動を生活扶助基準に反映させるデフレ調整を行う必要がなかったということはできない。

以上によれば,原告らの前記主張は採用することができない。
b
原告らは,平成19年報告書を取りまとめた検討会は,厚生労働省社会・援護局長が法令上の根拠に基づかずに設置した私的諮問機関にすぎず,議事録も発言者を公にしないものであるし,わずか1か月半
の検討期間で平成19年報告書がまとめられていることからすれば,平成19年報告書を根拠として生活扶助基準の引下げの必要があったということはできないと主張する。
しかしながら,検討会は,平成16年報告書において生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを
定期的に見極めるために全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があるとされたことなどから,厚生労働省社会・援護局長により,生活扶助基準の見直しについて専門的な分析・検討を行うことを目的として
置の経緯に不自然な点はない。また,検討会は,学識経験者を委員として組織されており,検討会においては,厚生労働省社会・援護局保護課の作成した統計等の資料を踏まえた専門的知見に基づく議論が行
われ,その内容に特段不自然な点は見当たらない(
全4の2,74~78,乙全14)
。これらの点に鑑みると,平成19
年報告書の内容は,統計上の根拠に基づく客観的・専門的な分析として十分信用することができるものというべきであり,原告らの主張する点は,
いずれも平成19年報告書の信用性を左右するものではなく,

採用することができない。
小括
以上によれば,平成19年報告書及び平成20年度以降の生活扶助基準の改定状況等を踏まえてデフレ調整の必要があるとした厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤,欠落があったということはできず,その
判断が違法であるということはできない。

物価下落率算出における期間設定について
厚生労働大臣の判断について
a
前記1⑵イ,ウ及びオ並びに2⑵によれば,厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率の算出期間を平成20年から平成23年までとしているところ,被告らは,デフレ調整は,平成20年以降にデフレ状況が継続している中で生活扶助基準が据え置かれたことにより生活保護受給世帯の可処分所得の実質的な増加があったことを理由とするものであるからデフレ調整における物価下落率の算出期間の期首
を平成20年としたことは合理的であり,他方,期末については,物価下落率の算出資料として不可欠な基礎資料である全国年平均の総務省CPIの最新のデータが平成24年1月27日に公表された平成23年のものであったことから期末を同年としたのであり,同年を期末としたことも不合理ではないと主張している。
b
前記⑴に説示したところに照らせば,デフレ調整における物価下落率の算出方法は厚生労働大臣の専門技術的な見地からの裁量に委ねら
れていると解される。そして,前記

及び証拠(乙全11)に

よれば,①平成16年報告書においては,夫婦子1人の勤労3人世帯の生活扶助基準の水準は基本的に妥当であるとされており(前記1⑵いな
かったこと,②平成16年から平成19年までの総務省CPIの上昇
率は前年比で平成16年が0.0%,平成17年が-0.3%,平成18年が0.3%,平成19年が0.0%であり,この間の総務省CPIはほぼ横ばい状態であったことが認められ,これらの事実によれば,平成19年までは,物価下落による生活扶助基準の改定を要するような状況になかったと評価することも不合理ではなく,他方,前記
⑶イに説示したところからすれば,平成20年以降にデフレ状況が継続したこと等により物価の下落を生活扶助基準に反映させる必要が生じていたとすることが不合理であるということはできない。これらの諸点に照らすと,デフレ調整において物価下落率を算出する期間の期首を平成20年とした厚生労働大臣の判断が不合理であるということ
はできない。
c
また,本件告示1は平成25年5月16日付けであり,同年度予算の政府案は,同年1月29日に閣議決定された後,同年2月28日に国会に提出され,同年5月15日に政府案のとおりに平成25年度予
算が成立したものである(前記前提事実⑵ウ,乙全52)。そうである
ところ,平成24年の全国年平均の総務省CPIのデータは,前記の閣議決定の直前である平成25年1月25日に公表されたものであり(乙全53)この内容を平成25年度予算の政府案の内容に反映させ,
ることは現実的に極めて困難であることは明らかである。これらの諸点に照らすと,デフレ調整において物価下落率を算出する期間の期末を平成23年とした厚生労働大臣の判断が不合理であるということは
できない。
原告らの主張について
a
原告らは,直近で生活扶助基準の改定がされたのは平成16年であるからデフレ調整における物価下落率の期首は同年とされるべきであ
り,平成20年は,原油価格の高騰等によってごく一時的に物価が上昇した時期であって,同年を期首とした場合に物価下落率が大きくなることは明らかであるとして,同年を期首とすることは違法であると主張する。
しかしながら,デフレ調整は,物価下落により生活保護受給世帯の
可処分所得の実質的な増加があったと評価できることを理由とするものであるところ,

平成16年報告書にお

いて,夫婦子1人の勤労3人世帯の生活扶助基準の水準は基本的に妥当であるとされ,同年の時点で生活扶助基準を改定する必要は指摘されておらず,平成16年から平成19年までの総務省CPIはほぼ横ばいの状態で,物価下落による生活扶助基準の改定を要するような物価下落が生じていたということはできないのであり,デフレ調整において物価下落率を算出する期間の期首を平成16年とすべきであるということはできない。

デフ

レ調整において物価下落率を算出する期間の期首を物価の下落が生じ始めた平成20年とすることが不合理ということはできず,そうである以上,同年に一時的に物価が上昇したためにその後の物価下落率が大きくなるとしても,それは,同年にそのような物価変動要因が生じたというにすぎず,そのような事情をもって期首を同年とすることが不合理であるということはできない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
b
また,原告らは,本件各告示による生活扶助基準の改定当時には平成24年の全国年平均の総務省CPIのデータが公表されていたから,デフレ調整における物価下落率の算出に当たっては,同年のデータを使用すべきであり,物価下落率を算出する期間の期末を平成23年とすることは不合理であると主張する。
しかしながら,

cに説示したとおり,平成24年の全国年平

均の総務省CPIのデータを平成25年度予算の政府案の内容に反映させることは現実的に極めて困難であるから,デフレ調整において物価下落率の算出期間の期末を平成24年にすべきであるということはできない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。

まとめ
以上によれば,デフレ調整における物価下落率の算出期間を平成20年から平成23年までとした厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落があったということはできず,その判断が違法であるということはできない。


指数・価格参照時点を平成22年とした点について
厚生労働大臣の物価下落率の算出方法
a
前記2⑵によれば,厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率の算出に当たり,指数・価格参照時点を期首である平成20年では
なく,平成22年としていることが認められる。この点につき,被告らは,価格参照時点は相対的な価格変化をみる基準となる時点であるから比較時よりも新しい時点を価格参照時点とすることも可能である上,消費者物価指数の計算上,ウェイト参照時点が固定されている限り,価格参照時点を平成22年としても,価格参照時点を期首である平成20年とした場合と計算結果は同じである,指数参照時点はその時点の指数が100とされる時点であるから任意の時点に設定するこ
とができるなどとして,指数・価格参照時点を平成22年としたことに不合理はないと主張している。
b
前記⑴に説示したところに照らせば,デフレ調整における物価下落率の算出方法は厚生労働大臣の専門技術的な見地からの裁量に委ねら
れていると解される。そうであるところ,期首と期末の物価の変動率は,期首と期末の価格を比較する場合と当該価格を一定の基準で指数化したものを比較した場合とで異なるものではないから,期首と期末の物価の変動率を測定するに当たり,期首の価格を基準とすることなく,期首と期末の間の時点の価格を基準として期首と期末の物価を指
数化し,その指数の変化をもって前記の変動率を測定する方法が不合理であるということはできない。そして,消費者物価指数の計算上,ウェイト参照時点を固定する限り,価格参照時点を期首と期末の間に設定しても,期首と期末の物価の変動率は異ならない。本件についてみると,平成22年をウェイト参照時点とし,平成20年を価格参照
時点とすると,平成23年の物価指数は,平成20年と平成23年の価格比に平成20年の価格と平成22年の数量を乗じたものをウェイトとして乗じそのウェイト合計で除したものの合計となり,平成23年の価格に平成22年の数量を乗じたものを前記ウェイト合計で除した合計に等しくなる(下記計算式①)
。これに対して,平成22年をウ

ェイト参照時点及び価格参照時点とすると,
平成20年の物価指数は,
平成22年と平成20年の価格比に平成22年の価格と平成22年の数量を乗じたものをウェイトとして乗じそのウェイト合計で除したものの合計となり(下記計算式
2年と平成23年の価格比に平成22年の価格と平成22年の数量を乗じたものをウェイトとして乗じそのウェイト合計で除したものの合計となるから
(下記計算式②

,平成20年の物価指数に対する平成

23年の物価指数の比は,平成23年の価格と平成22年の数量を乗じたものを平成20年の価格と平成22年の数量を乗じたもので除したものの合計となる(下記計算式
(計算式)
平成20年の価格をp(20),
平成22年の価格をp(22),
平成23年

の価格をp(23),平成22年の数量をq(22)とすると,


平成22年をウェイト参照時点とし,平成20年を価格参照時点
とした場合,ウェイトはp(20)×q(22)となり,平成23年の物価指数は,
𝑝(23)
𝑝(20)×𝑞(22)
×
の合計
𝑝(20)
(𝑝(20)×𝑞(22))の合計

=

(𝑝(23)×𝑞(22))の合計
(𝑝(20)×𝑞(22))の合計

となる。


平成22をウェイト参照時点とし,平成22年を価格参照時点と
した場合,ウェイトはp(22)×q(22)となり,

平成20年の物価指数は,
𝑝(20)
𝑝(22)×𝑞(22)
×
の合計
𝑝(22)
(𝑝(22)×𝑞(22))の合計

=

(𝑝(20)×𝑞(22))の合計
(𝑝(22)×𝑞(22))の合計

平成23年の物価指数は,
𝑝(23)
𝑝(22)×𝑞(22)
×
の合計
𝑝(22)
(𝑝(22)×𝑞(22))の合計
=

(𝑝(23)×𝑞(22))の合計
(𝑝(22)×𝑞(22))の合計

となり,平成23年の物価指数÷平成20年の物価指数は,


(𝑝(23)×𝑞(22))の合計
(𝑝(20)×𝑞(22))の合計



=①の物価指数
となる。
c
また,指数参照時点は,指数の値を100とする時点であり,いずれの時点を指数参照時点としても指数の変化率は異ならないから,期
首と期末の間の時点の価格を基準に期首と期末の物価を指数化する場合に,期首を指数参照時点とする必要はなく,価格参照時点を指数参照時点とすることも不合理とはいえない。
d
以上のことからすると,デフレ調整における物価下落率の算出に当たり,指数・価格参照時点を期首である平成20年とせず,平成22
年として平成20年及び平成23年の生活扶助相当CPIを算出したことが不合理であるということはできない。
原告らの主張について
a
原告らは,物価指数は,価格参照時点以降の価格の変化を示すものであるから,
価格参照時点は価格比較時点よりも前になければならず,
ILOマニュアルにおいて物価指数は,典型的には,ある参照時点において1又は100の値が指定され,他の時点についての指数の値は,この価格参照時点以降の価格の平均的な変化(中略)を示そうとするものであると記載されていること(甲全230の1)やILO
マニュアルの付録の基本的な指数算式及び用語において,物価指
数の算式の説明として

これは,ある一定の数量買い物かごを使って時点tの価格を(それより早い)価格参照時点0の価格と比較している。

と記載されていること(甲全230の2)を根拠として,消費者物価指数の算出においては,基準時は対象とする時系列間の期首であ
り起点であって比較時点より過去の時点となり,基準時の指数が100でなければならないという基準が存在しており,この基準からすれば,デフレ調整においては指数・価格参照時点を物価下落率を算出する期間の期首であり起点である平成20年とすべきであると主張する。しかしながら,
原告らが指摘するILOマニュアルの
物価指数は,典型的には,ある参照時点において1又は100の値が指定され,他の時点についての指数の値は,この価格参照時点以降の価格の平均的な変化(中略)を示そうとするものであるとの記載については,その記載内容からして,指数・価格参照時点の典型的な場面を想定したものにとどまり,ある時点からある時点までの価格の平均的な変化を示すという物価指数の実質に反しないような指数・価格参照時点の設定を許容しないものとは解されない。また,ILOマニュアルの付録
の基本的な指数算式及び用語の

これは,ある一定の数量買い物かごを使って時点tの価格を(それより早い)価格参照時点0の価格と比較している。

との記載についても,その記載の仕方からして,価格参照時点が比較時点よりも早くなる通常の場合を想定して記載されたものにとどまり,前記の物価指数の実質に反しないような価格参照
時点の設定を禁止するものとは解されない。そして,
に説示したところからすれば,比較する期間の途中の時点を指数・価格参照時点として期首と期末の物価を指数化し,この指数の変化をもって物価の変化率を算出することが前記の物価指数の実質に反するものであるということはできない。

そうすると,原告らの指摘するILOマニュアルの記載をもって,デフレ調整における物価下落率の算出に当たり平成22年を指数・価格参照時点としたことが不合理であるということはできない。
b
また,原告らは,物価指数を考察する場合に,新しい時点から古い時点への上昇率(下落率)
(㋐)と,古い時点から新しい時点への下落
率(上昇率)
(㋑)との間には,双対性がな
であるから,平成22年を指数・価格参照時点として,同年から過去となる平成20年の消費者物価指数と将来となる平成24年の消費者物価指数を比較することは誤りであると主張する。
しかしながら,デフレ調整における物価下落率の算出は,平成22年を指数・価格参照時点として,平成20年と平成23年の生活扶助相当CPIを求め,両者の相対的な変化率を算出したものであり,平成22年から平成20年までの変化率と平成22年から平成23年までの変化率を比較するものではない。また,ウェイト参照時点を固定する限り,指数・価格参照時点を平成20年とした場合と平成22年
とした場合とで平成20年から平成23年までの物価下落率の算出に差異を生じないことは,前記

において説示したとおりである。これ

らのことからすれば,原告らの前記主張をもって,デフレ調整において指数・価格参照時点を平成22年としたことが不合理であるということはできない。
この点につき,証人Bは,意見書(甲全149)及び証人尋問において,
前記の原告らの主張を裏付けるものとして,
平成22年を指数・
価格参照時点とした場合には平成20年から平成22年までの下落率が4.31%となるのに対して,平成20年を指数・価格参照時点とした場合には同年から平成22年までの下落率は2.55%になるこ
とを指摘している。しかしながら,前記のとおり,デフレ調整における物価下落率の算出は,平成22年から平成20年までの変化率を問題とするものではない上,消費者物価指数の計算上,ウェイトとして使用される数値は価格参照時点の価格に基づくものであるが,前記の証人Bの計算においては,これと異なり,平成20年を指数・価格参
照時点とした下落率を平成22年の価格に基づく支出割合をウェイトとして算出するものである。そうすると,証人Bによる計算のうち,平成22年を指数・価格参照時点とするものは通常の消費者物価指数の計算方法により算出されたものであるのに対し,
平成20年を指数

価格参照時点とするものは通常の消費者物価指数の計算方法とは異なる方法により算出されたものであるから,両者の計算結果の差異が生ずるからといって,ウェイト参照時点を固定する限り,指数・価格参
照時点を平成20年とした場合と平成22年とした場合で異ならないとする前記判断が左右されるものではない。
これらのことからすると,
デフレ調整において指数・価格参照時点を平成22年としたことが不合理であるということはできない。
以上によれば,原告らの前記主張は採用することができない。

まとめ
以上によれば,デフレ調整における物価下落率の算出に当たり指数・価格参照時点を平成22年とした厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落があったということはできず,その判断が違法であるということはできない。


ウェイト参照時点を平成22年としたことについて
厚生労働大臣の算出方法
前記2⑵によれば,厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率の算出に当たり,ウェイト参照時点を平成22年としていることが認め
られる。
この点につき,
被告らは,
同年をウェイト参照時点としたのは,
デフレ調整の物価下落率の算出において現実の消費実態を反映した物価指数を算出するためには物価指数の算出時点とできるだけ近接した時点の消費構造を示すデータを使用することが相当であったためであり,ウェイト参照時点を,比較する期間である平成20年と平成23年の間の
平成22年とすることは,ロウ指数の考え方に依拠したものであると主張している。
前記⑴に説示したところに照らせば,デフレ調整における物価下落率の算出方法は厚生労働大臣の専門技術的な見地からの裁量に委ねられていると解される。そうであるところ,総務省CPIの指数品目及びウェイトは5年に1度の指数基準改定により改定され
(前記2⑶)平成20

年及び平成23年の生活扶助相当CPIの算出にウェイトとして使用する支出割合としては,平成22年の指数基準改定時のもののほか,その前の指数基準改定である平成17年の指数基準改定時のものが考えられるが,国民の消費構造は時間の変化と共に変化するため,ウェイトとして使用する支出割合の時点が物価指数を算出する時点と離れれば離れる
ほど消費構造の変化による物価指数への影響が大きくなると考えられることからすると,平成17年の指数基準改定時の支出割合よりも平成20年及び平成23年に近接した平成22年の指数基準改定時の支出割合をウェイトとして使用することが不合理であるということはできない。そして,ロウ指数は,ILOマニュアルにおいて,消費者物価指数の
ために広く使用される指数とされているものであり,比較される時点間において一定量の数量を購入するために要する全費用の割合の変化として定義される指数であり,ウェイト参照時点が比較する期間の期首と期末の間にある場合も含むものとされている(甲全230の1)このIL。
Oマニュアルは,ILO,国際金融基金(IMF)等の6国際機関の共
同責任の下で作成された消費者物価指数に関するマニュアルであり,消費者物価指数の作成に関する詳細で包括的な情報及び解説が収められているものであって,指数に関する記載は最近の10年間における指数理論や方法に関する新しい研究の蓄積に基づいているものである(甲全230の1)
。これらのことからすれば,ロウ指数は,十分な理論的根拠を

有する指数であるということができる。
そして,
生活扶助相当CPIは,
一定の指数品目を購入するための費用を指数化したものであり,デフレ調整における物価下落率の算出方法は,平成20年と平成23年の生活扶助相当CPIを求めた上で,これらの変化の割合を算出するものであるから
(前記前提事実⑵イ)デフレ調整における物価下落率はロウ指数,
の考え方で説明することができるものであり,平成20年から平成23年までの物価下落率の算出に当たり,ウェイト参照時点を平成22年とすることも理論的根拠を有するものといえる。
以上のことからすれば,デフレ調整における物価下落率の算出に当たりウェイト参照時点を平成22年とした厚生労働大臣の判断が不合理であるということはできない。
原告らの主張について

a
原告らは,平成20年の生活扶助相当CPIはパーシェ式の計算結果と同一であり,平成23年の生活扶助相当CPIはラスパイレス式の計算結果と同一であって,両者は平均の性質を異にするものである上,パーシェ式では下方バイアスが,ラスパイレス式では上方バイア
スがそれぞれ生ずるから,この2つの式に基づく指数を比較することは,バイアスが混交する計算手法で統計学的にはあり得ないものであるとし,現に,総務省統計局も平成31年4月の議員からの質問に対して,算式が違うものを比較することは適切でない旨を回答していると主張している。

確かに,デフレ調整における物価下落率の算出方法においては,平成22年を指数・価格参照時点及びウェイト参照時点とするため,平成20年の生活扶助相当CPIはパーシェ式の計算結果と同一となり,平成23年の生活扶助相当CPIはラスパイレス式の計算結果と同一となる(弁論の全趣旨)


しかしながら,ラスパイレス式とパーシェ式は,いずれも一定の数量を購入するために要する全費用の割合の変化を測定するものであり,両者の差異は,ウェイトとして使用する数値が期首のものか期末のものかの違いにすぎず,いずれの式による指数もロウ指数に包摂されるものであるから
(甲全230の1)このようなラスパイレス式による

指数とパーシェ式による指数に異なるバイアスが生ずるとしても,それらを比較することが理論的根拠を欠くものとまではいえない。
現に,

ロウ指数は,ウェイト参照時点が期首と期
末の間の時点とする場合も含むものであり,その場合に,指数・価格参照時点を期首と期末の間の時点とすると,ロウ指数による消費者物価指数の算出において,ラスパイレス式による指数とパーシェ式の指数を比較することになるのであって
(弁論の全趣旨)
,このようなロウ

指数が理論的根拠を有するものであることは
である。
そうすると,
デフレ調整における物価下落率の算出に当たり,
パーシェ式による指数とラスパイレス式による指数とを比較することになるとしても,ウェイト参照時点を平成22年とすることが不合理であるということはできない。

したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
b
原告らは,①総務省統計局や多くの国際統計機関は,消費者物価指数については,一貫して,比較する期間の期首の支出等をウェイトとして用いるラスパイレス式を採用している,②統計委員会の答申指数の基準時に関する統計基準(甲全241)においても,期首以外の
数値をウェイトとして用いることが妥当でない旨が示されているなどとして,比較する期間の途中である平成22年の支出割合をウェイトとして使用することは合理性を欠くと主張する。
しかしながら,物価指数の算出に当たりどの時点の数値をウェイト
として使用するかについては,比較する期間の期首の数値をウェイトとして使用するラスパイレス式のほか,期末の数値をウェイトとして使用するパーシェ式,ラスパイレス式による指数とパーシェ式による指数を幾何平均するフィッシャー式,期首と期末の数値の平均値をウェイトとして用いるエッジワース式など,多種多様な指数が考案されており,総務省CPIにはラスパイレス式が利用されているが,総務省CPIでは参考指数として中間年バスケット方式も採用されているほか,
内閣府のGDPデフレーターには,
従前パーシェ式が利用され,
現在でもこれに準ずる算式による指数が用いられており,貿易価格指数にはフィッシャー式が利用されている(甲全104,105,乙全26)
。そして,ラスパイレス式は,期首以降の数量に関する調査が不

要であるために速報性があるものの,価格上昇が過大評価され上方バイアスが生じ,逆にパーシェ式は,最新のウェイトを反映させるために調査コストが大きくなる上,価格上昇が過小評価され下方バイアスが生ずるとされるなど(甲全100,104,105,乙全26,28)各指数にはそれぞれ長所及び短所が存している。

これらのことか

らすると,物価指数の計算においてラスパイレス式以外の式を用いることが直ちに不合理であるということはできない。
また,原告らが指摘する統計委員会の答申指数の基準時に関する統計基準(甲全241)は,ウェイトを固定する指数について,基準
時である年のウェイトにより算出することなどを統計法28条1項に
基づく統計基準として設定することは差し支えない旨を答申するものであり,この答申は,これまでの統計基準を変更するための諮問に対するものである。そして,これまでの統計基準は,要旨,

ウェイトを固定する指数については,基準時と同じ年又はその近傍の年を採ることとするが,指数算出に当たって方法論的扱いが定まっているパーシェ型指数,連鎖指数等については,この限りでない。

というものであったが,前記の諮問は,①ウェイトを固定する指数については,近年の運用実態を踏まえて,基準時である年のウェイトで算出することを原則とするのが相当であり,②このようなウェイトの算出方法に関する基準は,ラスパイレス式についてのみに必要なものであるから,パーシェ式等に関する記述を削除することが相当であるとして,これまでの統計基準を変更することを諮問するものである(乙全68)これ。

らの前記答申が出された経緯等に照らせば,前記答申はラスパイレス式による指数について基準時のウェイトを使用することを明らかにしたものにすぎず,前記答申をもって指数一般について基準時以外のウェイトを使用することを許容しないものということはできない。
以上によれば,原告らの前記主張は採用することができない。

c
原告らは,①ロウ指数は,比較する期間よりも前の時点をウェイト参照時点とすることを前提とするものであるから,平成20年と平成23年の間の時点をウェイト参照時点とすることをロウ指数で説明することはできない,②ロウ指数は,指数に関する議論が未成熟な段階
のものであり,ラスパイレス式やパーシェ式などが提唱されている現在においては,ロウ指数はこれらの式による指数に集約されており,ロウ指数を根拠に比較する期間の途中の時点をウェイト参照時点とすることが合理的であるとはいえない,③ロウ指数は,ILOマニュアルで初めて出てきた概念であり,理論的性質は解明されておらず理論
的に合理性を欠くものである可能性がある,④ウェイト参照時点を比較する期間の途中の時点にした場合には,ウェイト参照時点をどの時点とするかによって期首とウェイト参照時点との間の変化率に生ずる下方バイアスとウェイト参照時点と期末との間の変化率に生ずる上方バイアスが偏ることがあり,特定の品目の物価が下落しその購入数量
が大きくなっている場合には,下方バイアスが大きく働き,物価指数の下落率が生活実態からかけ離れた結果となると主張する。そして,証人Bも,⑤ロウ指数は新しい概念であり,ウェイト参照時点を期首と期末の間の時点にすることはラスパイレス式とパーシェ式という計算原理の異なる2つの式を混在させるものである,⑥ウェイト参照時点を期首と期末の中間の年とした場合にラスパイレス式による上方バイアスとパーシェ式による下方バイアスが相殺されることになるとしても,デフレ調整における物価下落率の算出ではウェイト参照時点は平成22年であり,同年は期首である平成20年と期末である平成23年の中間ではないなどと供述する。
しかしながら,①については,前記

のとおり,ロウ指数は,期首

と期末の間の時点をウェイト参照時点とする場合を含むものであるから,原告らの主張は採用することができない。また,②及び③については,前記

のとおり,ロウ指数は,ILOマニュアルにおいて消費

者物価指数の計算に広く使用される指数の1つであるとされているものであり,理論的根拠を有する指数の1つであるといえる。確かに,ロウ指数のうち期首をウェイト参照時点とするものがラスパイレス式による指数,期末をウェイト参照時点とするものがパーシェ式による指数となるが,これらは,ロウ指数の中で理論的見地から重要なものが各別に論じられているにとどまり
(甲全230の1)これらの指数

の存在をもってロウ指数の合理性が失われるものではない。

さらに,⑤については,確かに,比較する期間の途中を指数・価格参照時点としてロウ指数により消費者物価指数を算出する場合に,比較する期間の途中の時点をウェイト参照時点とすると,期首の指数が実質的にパーシェ式で計算されるのに対し,期末の指数はラスパイレス式で計算されることになる。しかしながら,前記

に説示したと

おり,ロウ指数は,ウェイト参照時点が期首と期末の間の時点とする場合も含むものであり,その場合に,指数・価格参照時点を期首と期末の間の時点とすると,ロウ指数による消費者物価指数の算出において,ラスパイレス式による指数とパーシェ式の指数を比較することになるのであって,このようなロウ指数は理論的根拠を有するものである。そうすると,ラスパイレス式の指数とパーシェ式の指数が混在することをもって期首と期末の間の時点をウェイト参照時点とするロウ
指数が理論的根拠を有しないということはできない。
また,④及び⑥については,前記イa及びbに説示したところによれば,指数・価格参照時点を期首と期末の間の時点として消費者物価指数を算出する場合に,ウェイト参照時点を期首と期末の間の時点としたときは,
期首の指数が実質的にパーシェ式で計算されるのに対し,

期末の指数がラスパイレス式で計算されることになり,パーシェ式による指数には下方バイアスが,ラスパイレス式による指数には上方バイアスがそれぞれ生ずることとなる。しかしながら,ウェイト参照時点を固定して消費者物価指数を算出する場合には比較する期間中の価格変動により消費構造が変化することは当然生じ得るのであり,その
結果,当該期間の指数に一定のバイアスが生ずることは避けられないものであって,このことはラスパイレス式による指数でもパーシェ式による指数でも異なるところはない。そうすると,ウェイト参照時点を期首と期末の間の時点とした物価指数に一定のバイアスが生ずることをもって当該物価指数の算出方法が不合理であるということはでき
ない。
以上によれば,原告らの主張及び証人Bの前記供述は採用することができない。
d
原告らは,平成20年の生活扶助相当CPIは,指数・価格参照時点及びウェイト参照時点を平成22年としていることからパーシェ式による計算結果に一致し,パーシェ式の場合には,下方バイアスが生ずるため価格低下の影響がより大きくなるが,平成17年から平成22年までの間には,パソコン類については品質調整の影響により価格低下と購入量の増加が生じ,テレビについては実際に価格低下と地デジ化に伴う購入台数の増加が生じていたから,
このような状況の下で,
前記のように下方バイアスが生ずるパーシェ式により物価指数を計算するとその計算結果は生活保護受給者の生活実態からかけ離れたものとなって合理性を欠く旨主張する。
確かに,前記2及び弁論の全趣旨によれば,平成20年の生活扶助相当CPIは,指数・価格参照時点及びウェイト参照時点を平成22
年とするため,パーシェ式による計算結果に等しくなり,パーシェ式による計算結果には下方バイアスが生ずることが認められる。
しかしながら,デフレ調整における物価下落率の算出方法がロウ指数で説明することができるものであること,ウェイト参照時点を期首と期末の間の時点とするロウ指数においては,指数・価格参照時点を
期首と期末の間の時点とすると,ラスパイレス式による指数とパーシェ式の指数を比較することになることは,
既に説示したとおりである。
そうすると,平成22年をウェイト参照時点とすることにより平成20年の生活扶助相当CPIに下方バイアスが生ずることをもってウェイト参照時点を平成22年とすることが不合理であるとはいえない。
したがって,ウェイト参照時点を平成22年とした場合にパソコン類の品質調整やテレビの価格低下及び地デジ化による購入台数の増加のために物価下落率が大きくなるとしても,そのことをもってウェイト参照時点を平成22年とすることが直ちに不合理とはいえない。
以上によれば,原告らの前記主張は採用することができない。

まとめ
以上によれば,デフレ調整における物価下落率の算出に当たりウェイト参照時点を平成22年とした厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落があったということはできず,その判断が違法であるということはできない。

指数品目の選定の在り方について
厚生労働大臣による指数品目の選定
前記2⑴によれば,デフレ調整における物価下落率を算出するに当たっては,総務省CPIの指数品目のうち,生活扶助による支出が想定される品目のみを使用し,家賃等の生活扶助以外の他の扶助で賄われる品目及び自動車関係費,NHK受信料,大学授業料,幼稚園保育料等の生
活保護受給世帯において支出することが想定されていない品目は除外されたことが認められる。この点について,被告らは,デフレ調整は,物価下落により生活保護受給世帯の実質的な可処分所得が増加したと評価されることを根拠とするものであるから,デフレ調整における物価下落率は,生活扶助により支出が想定される品目の物価下落率を考慮すれば
足りると主張する。
前記⑴に説示したところに照らせば,デフレ調整における物価下落率の算出方法は厚生労働大臣の専門技術的な見地からの裁量に委ねられていると解されるところ,デフレ調整が生活保護受給世帯の実質的な可処分所得の増加分に応じて生活扶助基準を見直すものであることからすれ
ば,生活扶助基準において支出が想定される品目に限って物価下落率を算出することはその目的に沿う合理的なものである。
原告らの主張について
原告らは,生活扶助相当CPIは,前記のように総務省CPIの指数品目から生活保護受給世帯が支出しない品目を除外しているため,生活
保護受給世帯は電化製品をほとんど購入しないにもかかわらず,物価下落の主因となっている電化製品のウェイトが相対的に大きくなり,生活保護受給世帯の生活実態と異なる指数が算出されているから,物価下落率の算出における品目の選定が不合理であると主張する。
しかしながら,物価下落率の算出において一定の品目が除外され,除外されなかった品目の物価の下落率が高いために,総務省CPIに比べて,生活扶助相当CPIの方が下落率が高く計算されるとしても,その
こと自体は合理的な指数品目の選択の結果にすぎず,そのことをもって厚生労働大臣の指数品目の選定が不合理であるということはできない。したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
まとめ
以上によれば,デフレ調整における物価下落率の算出に当たり,総務
省CPIの指数品目のうち,生活扶助による支出が想定される品目のみを使用した厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落があったということはできず,その判断が違法であるということはできない。

異なる品目数により算出した指数を比較している点について
厚生労働大臣の物価指数算出における品目数
前記2⑴及び⑶並びに弁論の全趣旨によれば,①デフレ調整における平成20年の生活扶助相当CPI及び平成23年の生活扶助相当CPIの指数品目は総務省CPIの指数品目が利用されているが,総務省CPIの指数品目は指数基準改定により5年に1度改定されており,本件各
告示前には平成22年に指数基準改定が行われ,その前には平成17年に指数基準改定が行われたこと,②平成20年の生活扶助相当CPIの指数品目は485品目であったが,平成22年の指数基準改定により,平成23年の生活扶助相当CPIの指数品目は517品目となり,厚生労働大臣は,前記の各指数品目により平成20年及び平成23年の生活
扶助相当CPIを算出したことが認められる。
この点につき,
被告らは,
総務省CPIにおいては,指数基準改定により指数品目が5年に1度見直されるのであり,
期首と期末とで品目数に齟齬が生ずるという事象は,
総務省CPIの計算においても不可避的に生じ得る問題であるから,平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIにおいて指数品目の品目数が異なることも不合理ではないなどと主張している。
前記⑴に説示したところに照らせば,デフレ調整における物価下落率の算出方法は厚生労働大臣の専門技術的な見地からの裁量に委ねられていると解される。そして,総務省CPIでは,新たな財及びサービスの出現等による消費構造の変化を反映させるため,5年に1度指数基準改
定が行われ,指数品目とウェイトを見直し,価格・指数参照時点及びウェイト参照時点が改定されているところ,平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIとの指数品目の齟齬は,前記のような総務省CPIの指数基準改定に伴うものであり,指数品目が異なることは合理的な理由に基づくものといえる。そして,平成23年の生
活扶助相当CPIにおいて新たに指数品目となった品目数は517品目中の32品目であり,ウェイトとして使用されるこれらの品目の支出割合の合計は全体の約3%(204/6393)にとどまること(前記2⑶,乙全30)からすると,前記の指数品目数の差異が平成20年及び平成23年の生活扶助相当CPIの変動率に及ぼす影響は軽微であると
考えられる。これらの諸点に照らすと,平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIとの間に指数品目につき32品目の齟齬があるとしても著しく合理性を欠くとまではいえない。
この点を措いても,消費者物価指数は消費者が購入する商品やサービスの価格の平均的な変化を表すものであり,①同種の商品を品目として
グループ分けした上,家計の消費支出の支出額が高い品目を指数品目として選定し,他の品目の値動きは選定された品目で代表されるものとする,②消費支出の中で当該品目の支出割合を算出する,③個々の指数品目の価格を当該品目の支出割合で加重平均するという過程で算出されるものである(前記前提事実⑵イ,乙全26,27)。このような消費者物
価指数の算出方法からすれば,消費者物価指数は,指数品目の価格変動が他の品目の価格変動を表すものとした上で,その支出割合で加重平均することにより全ての商品の平均的な価格変化を指数化したものということができる。そして,平成23年の生活扶助相当CPIで基礎とされた指数品目のうち平成20年の生活扶助相当CPIで基礎とされなかった32品目は,
①ゆで沖縄そば,
②いくら,③ポーク缶詰,④しょうが,
⑤ドレッシング,⑥やきとり,⑦フライドチキン,⑧フライパン,⑨背広服(夏物,普通品)
,⑩スリッパ,⑪紙おむつ(大人用)
,⑫予防接種
料,⑬高速バス代,⑭電子辞書,⑮ゲームソフト,⑯月刊誌,⑰演劇観覧料,⑱洗顔料などであり,
(乙全30,61)
,これらの品目は,その
品目名からすると,
いずれも平成20年当時に存在していたものであり,

当該品目の価格変動が同年当時に存在した指数品目の価格変動に代表されるものとすることも不合理であるとまではいえない。
これらに加えて,
前記のとおり,指数品目数の差異が平成20年及び平成23年の生活扶助相当CPIの変動率に及ぼす影響は軽微であると考えられることを併せ考慮すれば,平成23年の生活扶助相当CPIの指数品目のうち平成
20年の生活扶助相当CPIで指数品目とされなかった32品目も同年の生活扶助相当CPIと同一の価格変化をしたものとして生活扶助相当CPIを算出することが著しく合理性を欠くとまでいうことはできない。以上によれば,平成23年の生活扶助相当CPIについて517品目を指数品目としながら平成20年の生活扶助相当CPIについては48
5品目を指数品目として物価変動率を算出した厚生労働大臣の判断が著しく不合理であるとまでいうことはできない。
原告らの主張について
a
原告らは,消費者物価指数の算出においては基準時と比較時の指数品目は完全に同一で対応していなければならないから,平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIの指数品目の品目数が異なることは,前記の消費者物価指数の算出方法に反する違
法なものであると主張する。
説示したとおり,平成20年の生活扶助相
当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIとの指数品目の品目数の齟齬は,合理的な理由に基づくものである上,前記の指数品目数の差異が平成20年及び平成23年の生活扶助相当CPIの変動率に及ぼ
す影響は軽微であると考えられるし,この点を措いても,消費者物価指数の算出方法に照らすと,平成20年の生活扶助相当CPIで指数品目とされなかった32品目も同年の生活扶助相当CPIと同一の価格変化をしたものとして同年の生活扶助相当CPIを算出することも不合理とまではいえないのであるから,平成20年の生活扶助相当C
PIと平成23年の生活扶助相当CPIはいずれも517品目を基礎とするものと評価することも不合理とまではいえない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
b
また,原告らは,総務省CPIでは基準年と比較年の間で指数品目の組合せが変化した場合には,比較年の指数に合わせて基準年の指数を換算し接続するという方法が採られており(指数の接続)
,このよう
にすることで基準年の消費者物価指数と比較年の消費者物価指数との間で指数品目が改定された場合にも両者の比較をすることができるようになるとした上で,平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年
の生活扶助相当CPIでは指数品目の品目数に齟齬があるにもかかわらず,指数の接続を行わないまま両者を比較しているから違法であると主張し,証人Bも同趣旨の証言をする。
しかしながら,総務省CPIにおける指数の接続は,指数基準改定がされたときに指数基準改定前の指数を指数基準改定の年の指数で除した結果を100倍することにより指数基準改定前後の指数の比較を可能にするというものにとどまり
(前記2⑶)
,指数基準改定前後にお

いて指数品目が齟齬することとなった場合に齟齬する指数品目の内容や支出割合等に応じて指数品目の違いを是正するものではない。そうすると,平成22年の指数基準改定により平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIとで指数品目が異なることとなった場合に指数の接続によらなければ,物価指数の算出として著
しく不合理であるとまではいえない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
まとめ
以上によれば,平成23年の生活扶助相当CPIについて517品目を指数品目としながら平成20年の生活扶助相当CPIについては48
5品目を指数品目として物価変動率を算出した厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落があったということはできず,その判断が違法であるということはできない。

家計調査に基づく一般世帯のウェイトを使用した点について
生活扶助相当CPIの計算におけるウェイトの基礎資料
前記2⑵,乙全27及び弁論の全趣旨によれば,厚生労働大臣は,生活扶助相当CPIの計算にウェイトとして使用する支出割合につき,社会保障生計調査による支出割合を使用せず,総務省CPIにおいて使用されている家計調査による支出割合を使用していることが認められる。
この点につき,被告らは,家計調査は,調査対象世帯の選定が居住地域等により偏らないように配慮されているなど,統計資料としての精度が高いなどの特徴を有するものであるのに対し,社会保障生計調査は,調査対象について,実際の生活保護受給世帯の各世帯類型,人員,都市部及び地方などの分布を踏まえた抽出等はされておらず,調査結果は,生活保護受給世帯の全体像及び実態を示すものではないことなどから,社会保障生計調査は,デフレ調整に利用することができる精度のものではなく,前記の厚生労働大臣の判断に過誤,欠落があったということはできないと主張している。
家計調査及び社会保障生計調査に関する認定事実
証拠(甲全22,110~112,乙全27,29,50,81~8
3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a
家計調査は,総務省統計局が実施している統計調査であり,国民生活における家計収支の実態を把握し,国の経済政策・社会政策の立案のための基礎資料を提供することを目的とするものである。この家計調査は,一般世帯を対象とする標本調査であるが,全国の世帯の実態が正確に反映されるように統計理論に基づいて調査世帯の選定が行わ
れており,具体的には,全国の市町村を様々な特性によりグループに分け,各グループから1つずつ合計168市町村を選定した上,各市町村から無作為に調査地区を選び,調査地区内から無作為に調査世帯を選んでいる。そして,家計調査は,前記の方法で選定された約9000世帯から家計上の収支等を詳細に記載した家計簿の提出を受けて
これを集計して行い,
食料などの大きな分類を魚介類などの中
程度の分類に分けた上,さらに,これをさばなどの個別の品目ご
とに分けてそれぞれの支出額について明らかにする。
(甲全22,
11
1,乙全81,82,弁論の全趣旨)
b
社会保障生計調査は,厚生労働省が実施している統計調査であり,被保護者の生活実態を明らかにすることによって,生活扶助基準の改定等の生活保護制度の企画運営のために必要な基礎資料を得ることなどを目的とするものである。この社会保障生計調査は,生活保護受給世帯を対象とする標本調査であるが,世帯の選定は統計理論に基づいて行われるものではなく,全国を単純に地域別に10ブロックに分けてブロックごとに調査対象となる自治体を選定し,調査対象となる自
治体から調査世帯を選定するにとどまり,平成18年以降は調査対象となる自治体から約1100世帯を抽出して行われている。そして,社会保障生計調査は,前記の方法で選定された世帯から家計上の収支を記載した家計簿の提出を受けてこれを集計して行うものの,個別の品目の支出額までは明らかとならず,
食料住居などの大きな分


類と魚介類などの中程度の分類に分け,これらの支出額が明らか
となるにとどまる。
(甲全110,111,乙全50,83,弁論の全
趣旨)
検討
a
前記⑴に説示したところに照らせば,デフレ調整における物価下落率の算出方法は厚生労働大臣の専門技術的な見地からの裁量に委ねられていると解される。そして,家計調査は,生活保護受給世帯を含む一般世帯を対象として,全国の世帯の実態が正確に反映されるよう統計理論に基づき調査世帯の選定が行われているものであるから(前記,
これにより算出される支出割合をウェイトとする総務省CPI

は,生活保護受給世帯を含めた一般世帯を対象とした物価の変動率を表すものということができ,このことは,指数品目を特定の品目に限定するか否かにより異なるものではない。そうすると,生活扶助相当CPIの算出のウェイトとして家計調査による支出割合を使用することが著しく合理性を欠くということはできない。

b
以上に対し,原告らは,①生活保護受給世帯の消費実態は一般世帯の消費実態とは異なるところ,一般世帯を対象とする家計調査による支出割合は,生活保護受給世帯の状況が十分に反映されないものであるのに対し,社会保障生計調査は,生活保護受給世帯を対象とするものであるから,生活保護受給世帯の実態をより正確に反映したものということができるのであり,②社会保障生計調査によるウェイトを使用するか家計調査によるウェイトを使用するかにより,生活扶助相当CPIの算出結果に違いが生ずるなどとして,生活扶助相当CPIの算出においてウェイトとして使用する支出割合は社会保障生計調査に基づいて計算されるべきであり,生活扶助相当CPIの算出のウェイ
トとして家計調査による支出割合を使用した厚生労働大臣の判断の過程には過誤,欠落等があると主張する。
しかしながら,社会保障生計調査は,被保護者の生活実態を明らかにすることなどを目的とするものであり,その調査対象は全国に及ぶものの,全国を単純に地域別にブロックに分けて調査対象となる自治
体を選定し調査世帯を選定するにとどまり,家計調査と異なり,世帯の選定は統計理論に基づいて行われるものではないことからすると,
社会保障生計調査の結果が生活保護受給世帯の消費実態
を正確に反映したものとはいえないと評価することも不合理ではない。また,家計調査では,個別の品目ごとの支出額が明らかとなるのに対
し,社会保障生計調査では,中程度の分類での支出額が明らかとなるにとどまることからすれば


正確に物価変動率を把握すると

いう観点からは,ウェイトとして使用する支出割合については,家計調査による場合の方が社会保障生計調査による場合よりも適切であると評価することも不合理ではない。これらの諸点に鑑みると,家計調査による支出割合をウェイトとして使用した場合と社会保障生計調査による支出割合をウェイトとして使用した場合とで生活扶助相当CPIの算出結果に一定の差異が生ずるとしても,生活扶助相当CPIを算出するためのウェイトとして,社会保障生計調査による支出割合ではなく,家計調査による支出割合を使用することが不合理であるということはできない。
まとめ

以上によれば,生活扶助相当CPIの算出に当たり家計調査による支出割合をウェイトとして使用した厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落等があったということはできず,その判断が違法であるということはできない。


ゆがみ調整とデフレ調整を重複して行った厚生労働大臣の判断についてア
被告らは,ゆがみ調整とデフレ調整を併せて実施したことにつき,ゆがみ調整は,生活扶助基準の展開部分の相対的な調整を図るものであり,生活扶助基準の絶対水準の調整を目的としたデフレ調整と全く重複しないから,ゆがみ調整とデフレ調整を併せて実施したことは不合理ではないと主
張している。
前記⑴に説示したところに照らせば,生活扶助基準の改定については,厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量が認められる。そして,ゆがみ調整は,一般低所得世帯の消費実態を生活扶助基準の展開部分に反映させることにより生活扶助基準を適正化して生活保護受給世帯間
の実質的公平を図ることを目的としたものである(前記1⑵オ
。これに

対して,デフレ調整は,デフレ状況が継続していたにもかかわらず生活扶助基準が据え置かれていたことにより,生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加したと評価することができる状態であったことからこれを解消して生活扶助基準の水準を適正化しようとするものである(前記1⑵オ。
このようにゆがみ調整とデフレ調整は目的や内容を異にするものであるから,両者を同一機会に実施した厚生労働大臣の判断が不合理であるということはできない。

原告らは,ゆがみ調整とデフレ調整は,それぞれが財政削減の効果を生じさせている以上,その効果の重複があることは明らかであって,ゆがみ調整とデフレ調整を併せて行った厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落があると主張するが,ゆがみ調整とデフレ調整がその目的及び内容を異に
するものであることは,前記アに説示したとおりであり,両者がいずれも財政削減の効果を生ずることをもって,両者を併せて行ったことが不合理であるということはできない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。

以上によれば,ゆがみ調整とデフレ調整を併せて行った厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落があったということはできず,その判断が違法であるということはできない。



ゆがみ調整の幅を基準部会の検証結果の2分の1とした厚生労働大臣の判断について


厚生労働大臣の判断内容等
前記1⑵オ

によれば,厚生労働大臣は,基準部会の検証結果を反映さ

せる比率を,増額方向と減額方向共に2分の1としたことが認められる。この点につき,被告らは,①平成25年報告書において生活扶助基準の見直しを検討する際には,現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯,とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から,子どものいる世帯への影響にも配慮する必要があるなどと指摘されたこと,②個別の指数ごとに減額幅については2分の1とし,増額幅についてはそのまま反映させるといったことはゆがみを公平に解消させる観点等からは適当ではないことなどを考慮して,基準部会の検証結果を反映させる比率を,増額方
向と減額方向共に2分の1としたと主張している。
そして,基準部会の前記①の見解は,平成21年の全国消費実態調査の結果に基づいて生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を検証し,その検証結果をそのまま生活扶助基準に反映させた場合の生活扶助基準額と現行の生活扶助基準額とを比較すると,子どものいる世帯について大幅な減額となることなどを踏まえたものであって
(甲全6,
7,乙全6,弁論の全趣旨)
,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や

専門的知見との整合性に欠けるところはない。そして,基準部会の前記①の見解を踏まえ,激変緩和措置として,基準部会の検証結果をそのまま生活扶助基準に反映させないとすることも合理性を欠くということはできない。
また,
②については,
基準部会の検証は,
平成19年報告書において,
世帯構成などが異なる生活保護受給者間において実質的な給付水準の均衡
が図られる体系とすべきであると指摘されたことを踏まえ,生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離の有無及び程度を検証したものであり,ゆがみ調整は,この検証から明らかとなったかい離を解消して生活扶助基準を適正化し生活保護受給世帯間の公平を図ろうとするものである


。このようなゆがみ調整の目的等から

すれば,基準部会の検証結果を部分的に生活扶助基準に反映させる場合にはゆがみ調整による影響の内容・程度にかかわらず一定の割合でこれを反映させることがゆがみ調整の目的に沿う合理的な措置であるということができる。
以上によれば,ゆがみ調整の幅を増額方向と減額方向共に基準部会の検
証結果の2分の1とした厚生労働大臣の判断が不合理であるということはできない。

原告らの主張について
原告らは,①本件各告示による生活扶助基準の改定に際しては,ゆがみ
調整とは別に,引下幅を最大10%とする下限規制が設けられており,ゆがみ調整による減額の幅を2分の1に縮小しなくても生活扶助基準の引下げによる激変緩和が図られることは明らかであるから,生活扶助基準の引下げによる激変緩和のためにゆがみ調整による増減幅を基準部会の検証結果の2分の1とする合理性はない,②ゆがみ調整による増減額の幅を基準部会の検証結果の2分の1とする措置は,残りの2分の1を実際の給付額に反映させることが予定されていない,いわば恒久的なものであって,生活扶助基準の引下げによる激変緩和としては説明することができない,③ゆがみ調整により増額されるのは,生活保護受給世帯の8割程度を占める単身世帯である一方で,ゆがみ調整により減額されるのは全体から見ると少数の世帯であるから,ゆがみ調整による増減額の幅を2分の1にした場
合には,全体としてみると,減額の影響よりも増額の影響の方が大きいことが明らかであり,厚生労働大臣としては,減額幅を2分の1とし増額幅についてはそのまま反映させるという方法を採るべきであった,④基準部会が検証結果として一定の増減額を妥当としている以上,基準部会の検証結果をそのまま実施しない場合には,生活扶助基準が,要保護者の最低限
度の生活の需要を満たすのに十分なものとはいえないこととなり,生活保護法8条2項に違反するものとなるなどと主張する。
しかしながら,①についてみると,前記アのとおり,平成25年報告書において,生活扶助基準の見直しに当たっては,現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯,とりわけ子どものいる世帯への影響にも配
慮する必要があるとされたのであり,このような基準部会の示した見解の趣旨からすると,基準部会の検証結果を生活扶助基準に反映させる場合において,減額幅がデフレ調整と併せて10%以内となるときであっても,なお生活扶助基準の減額幅を抑えるための措置を実施することが不合理であるということはできない。また,②についてみると,ゆがみ調整による
減額幅を2分の1とすれば,その分だけゆがみ調整により不利益を受ける世帯への影響が緩和される効果は生ずるのであり,このことはゆがみ調整の減額幅を2分の1とする措置が恒久的なものか否かに関わらない。さらに,③についてみると,前記アのとおり,基準部会の検証結果を部分的に生活扶助基準に反映させる場合にはゆがみ調整による影響の内容・程度にかかわらず一定の割合でこれを反映させることがゆがみ調整の目的に沿うというべきであるから,ゆがみ調整の増減額の幅を2分の1とすることに
よる影響が減額分よりも増額分の方が大きいとしても,減額分のみを2分の1とすることはゆがみ調整の目的に沿わない結果となるとすることが不合理とはいえない。また,④についてみると,前記⑴に説示したとおり,生活保護法8条2項にいう最低限度の生活は,抽象的かつ相対的な概念であって,その具体的な内容は,その時々における経済的・社会的条件,一
般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり,これを具体化する保護基準は,厚生労働大臣が,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断に基づいて設定されるものである。そうすると,厚生労働大臣が,基準部会の検証結果をそのまま生活扶助基準に反映しないことをもって,直ちに当
該生活扶助基準が,要保護者の最低限度の生活の需要を満たすのに十分なものとはいえないということはできない。
以上によれば,原告らの前記主張は採用することができない。

小括
以上によれば,ゆがみ調整において基準部会の検証結果の2分の1を生
活扶助基準に反映させた厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落等があるということはできず,その判断が違法であるということはできない。⑹

本件各告示による生活扶助基準の改定が政治的意図に基づくものであることから違法となるかについて

原告らは,本件各告示による生活扶助基準の改定は,国の財政事情や国民感情を勘案したと思われる自民党の政権公約の実現という,本来考慮してはならない事項を考慮したものというべきであり,本件各告示による生活扶助基準の改定は,厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものというべきであると主張する。
しかしながら,平成25年当時,デフレ調整を行う必要があったことは前記⑶イにおいて説示したとおりであり,前記1⑵イ及びエによれば,平成19年に検討会において生活保護受給者間における給付水準の均衡を図るため生活扶助基準の体系の見直しの必要などが指摘され,これを受けて行われた基準部会の検証により,生活扶助基準の展開部分が一般低所得世帯の消費実態とかい離していることが明らかとなったことが認められ,これらのことか
らすれば,平成25年当時,ゆがみ調整を行う必要もあったということができる。そうすると,本件各告示による生活扶助基準の改定は,前記のような必要性に基づいて行われたものということができる。
もっとも,証拠(甲全90~96)及び弁論の全趣旨によれば,①自民党は,平成24年,民主党政権下において生活保護開始決定における受給資格
の認定が緩和され生活保護受給世帯が増加したことにより生活保護制度に対する国民の不公平感・不信感が高まるとともに生活保護費が急増したなどとして生活保護制度を見直すことを政策として掲げ,その具体策として生活保護費の給付水準を10%引き下げること等を打ち出すとともに,平成24年に行われた衆議院議員の選挙における政権公約にも生活保護費の給付水準を
原則として1割削減することが盛り込まれたこと,
②自民党所属のA大臣は,
同選挙後の大臣就任の記者会見において,生活保護水準の10%引下げについて下げないということはない旨の発言をし,翌日の記者会見でも,生活保護水準の引下げについては公明党とも相談して決めていきたい旨の発言をしつつ,生活保護の1割引下げは自民党が政権公約として打ち出したものなの
で,自民党から選出された大臣としては,自民党の政権公約によりある程度の制約を受けると思うなどと発言したことなどが認められ
(甲全95,
96)

これらの事実に照らせば,本件各告示による生活扶助基準の改定が,前記のような自民党の政策の影響を受けていた可能性を否定することはできない。しかしながら,前記の認定事実によれば,生活保護費の削減などを内容とする自民党の政策は,国民感情や国の財政事情を踏まえたものであって,厚生労働大臣が,生活扶助基準を改定するに当たり,これらの事情を考慮する
ことができることは前記⑴に説示したところから明らかである。以上によれば,本件各告示による生活扶助基準の改定には,これを実施する必要性が存在しており,当時の自民党の政策の影響を受けたものであるとしても,そのことをもって本件各告示による生活扶助基準の改定が違法であるということはできない。

したがって,原告らの前記主張は採用することができない。


本件各告示が生活保護受給者の生活実態を考慮していないとの原告らの主張について
原告らは,本件各告示による生活扶助基準の改定前の段階から,生活保護
受給者は,既に健康で文化的な最低限度の生活を営むことができなかったのであり,このような事情を考慮しないまま,更に生活扶助基準を引き下げる本件各告示による生活扶助基準の引下げは,考慮すべき事項を考慮せずにされたものであり,厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法であると主張し,本件各告示による生活扶助基準の改
定前後の生活状況を裏付ける証拠として,①C連合会(以下Cという。)
が平成19年に実施した調査結果(
生活保護受給者老齢加算廃止後の生活実態調査報告
・甲全132)
,②D大学講師Eが平成22年に実施した調査
の結果(甲全133)
,③Cが平成25年に実施した調査結果(
緊急C生活保護受給者実態報告
・甲全134)
,④F連合会(以下Fという。
)が平

成26年に実施した調査結果(
生活保護受給者実態調査2014報告書

甲全135)
,⑤平成27年に実施された調査に基づくG大学社会福祉学部准教授H作成の意見書(甲全137)を提出するとともに,原告らの一部について生活状況を記載した陳述書等(甲⑸1,⑼1,⑾1,⒀1,⒁1,⒂
3・15・21)は,本件各告示による生活扶助基準の引下げ前後の生活状況について当法廷で供述している。
しかしながら,①についてみると,①の調査は,老齢加算の廃止に対する不服申立て及び裁判が行われていることを前提に,その裁判の支援などに活用するために行われたものであり(甲全132,乙全54)
,調査の客観性,
公平性,中立性には疑問の余地がある。また,①の調査では,通常とる食事が満足でき,十分な栄養になっているかとの質問にはいと回答した者が約33%あり,
生活保護は最低限の生活を保障していると思うかとの質
問については,約22%の者がこれを肯定し,経済的な制約の中で,カラオケ,映画,囲碁サークルへの参加など一定の娯楽や文化的活動の機会を有している者もいるなど
(甲全132)必ずしも健康で文化的な最低限度の生活


を下回っているとまではいえない者が一定割合存在することがうかがわれる。次に,②についてみると,②の調査は,平成18年の老齢加算の廃止が高齢者の生活に与える影響を明らかにするため,生活保護を受給する70歳以上の単身高齢者を対象としたものであるが,
その人数は28人にとどまり
(甲
全133)
,統計としての有意性に疑問の余地がある。また,②の調査結果で
は,健康状態について,50%を超える者が健康まあまあ健康と回,
答し,1日の食事の回数については,70%以上の者が3食きちんと食べていると回答するなど(甲全133),必ずしも健康で文化的な最低限度の
生活を下回っているとまではいえない者が一定割合存在することがうかがわれる。

さらに,③についてみると,③の調査は,Cが,生活扶助基準の引下げに反対する立場から,国の予定する生活扶助基準の引下げの影響を明らかにして引下げの撤回を求める目的で行ったものであり(乙全55)①の調査と同,
様,調査の客観性,公平性,中立性に疑問の余地がある。また,③の調査結果によれば,約66%の者が1日の食事回数が3回であり,約39%の者が食事内容に満足している,約39%の者が娯楽やクラブ活動への参加を行うなど
(甲全134)
,必ずしも健康で文化的な最低限度の生活を下回っている
とまではいえない者が一定割合存在することがうかがわれる。
また,④についてみると,④の調査は,Fが本件各告示による生活扶助基準の引下げに反対する立場から生活扶助費の削減を中止するよう国に求める運動の一環として行われたものであると認められ(甲全135の1)①の調,

査と同様,調査の客観性,公平性,中立性には疑問の余地がある。また,④の調査結果によれば,1日の食事回数が3回の者が約64%であり,50%の者が満足する食事ができていると回答するなど
(甲全135の2)必ずし

も健康で文化的な最低限度の生活を下回っているとまではいえない者が一定割合存在することがうかがわれる。

そして,⑤についてみると,⑤の調査は,生活扶助基準の引下げが違憲であるとする訴訟の原告となっている者を対象としたものである上,調査方法も同訴訟の弁護団や支援者による聴き取りであって
(甲全137)
,調査の客
観性,
公平性,
中立性には疑問の余地がある。
また,⑤の調査結果によれば,
約60%の者が規則正しい食事をしていると回答し,冷蔵庫,炊飯器,
電子レンジなどの生活必需品に類する耐久財を保有する者が多く,約45%の者が社会的活動に参加し,約34%の者が講演会や学習講座に参加するなど
(甲全137)必ずしも健康で文化的な最低限度の生活を下回っていると,
まではいえない者が一定割合存在することがうかがわれる。
さらに,原告らの一部の陳述書(甲⑸1,⑼1,⑾1,⒀1,⒁1,⒂1,
⒅1,⒆1,

1)及び原告5・9・13・15・21の本人尋問の結果を

みても,原告らは,経済的な制約のある中で,衣食住といった生活の基本的な部分や社会的活動に関して不自由を感じながら生活していることは認められるものの,他方で,多くの者は食事を1日3食取っており,外食をすることもある上,食事の内容が社会的に許容し難い程度に乏しいものとまでは認められないこと,一定の貯蓄をすることが可能な者もあること(原告9,15,21)
,映画(原告5)
,カラオケ(原告21)
,日帰り旅行(原告15)

などの娯楽や文化的活動を行っている者がいることなどが認められる。以上のような前記①~⑤の調査結果並びに前記原告らの陳述書及び供述の内容に照らすと,これらをもって本件各告示による生活扶助基準の改定前後における生活保護受給者の生活が最低限度の生活を下回っていたと認めることはできない。

以上によれば,原告らの前記主張は採用することができない。
4
争点2(本件各処分に行政手続法14条の理由提示義務又は生活保護法25条2項の理由付記義務に違反した違法があるか)について


生活保護法は,保護の実施機関は,保護の変更を必要とすると認めるときは決定を行い,書面によって被保護者に通知しなければならず,その通知書には理由を付さなければならないとし(生活保護法24条1項,2項,25条2項)
,行政手続法は,不利益処分をする場合には,名宛人に対し,当該不利益処分の理由を示さなければならない旨を規定している(行政手続法14条)このように,

法が行政処分において理由を提示すべきものとしている趣

旨は,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるところにあると解される。そうであるところ,前記の各規定によりどの程度の理由を提示すべきかは,前記のような法が理由の提示を求める趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表
の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決定すべきである(最高裁平成21年(行ヒ)第91号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)



そして,
前記前提事実⑶イによれば,
本件各処分1の通知書には,
原告1,
3~5及び7~12につき
基準改定による変更原告13及び14につき

基準改定を行う
,原告15につき基準改定
,本件各処分2の通知書に
は,原告17~20につき基準改定(年齢改定,冬季加算削除)による変更,原告21につき基準改定,年齢改定を行うと記載されていたことが認められるところ,①生活扶助基準には,年齢,世帯人員等の別に基準額等が具体的かつ詳細に定められており,本件各処分の根拠となる本件各告示には,前記のような生活扶助基準の定めをどのように変更するかが明確に定められていること(乙全1,3)
,②本件各処分は,前記のような本件各告示に

よる生活扶助基準の改定に伴って,改定後の生活扶助基準どおりに生活扶助費を変更するものであり,行政庁に裁量の余地のあるものではないこと,③本件各告示は,本件各処分前である平成25年5月16日(本件告示1)及び平成26年3月31日(本件告示2)に既に官報により一般に周知されていること(乙全3)
,④本件各処分の通知書には,本件各告示による改定後の
生活扶助基準額が記載されていること(乙⑴1,⑶1~⑸1,⑺1~⒂1,⒄1~

1)などからすると,前記の基準改定による変更などの記載が

された通知書を受けた被保護者としては,本件各処分前の通知書と本件各処分の通知書を比較するなどの方法によって,本件各処分の内容及び根拠を了知し得るということができる。そうすると,本件各処分の通知書に記載され
た理由の程度をもって,前記各規定の要求する理由の付記ないし提示に欠けるところはないというべきである。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
5
争点3(本件各告示による生活扶助基準の改定の国家賠償法上の違法性の有無及び損害額)について
これまで説示してきたとおり,本件各告示による生活扶助基準の改定に違法な点は見当たらず,これを前提とする本件各処分も適法であるから,本件各告示による生活扶助基準の改定を行ったことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものということはできない。
第6
結論
以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,
訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,
民訴法61条を適用して,
主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官

角谷昌毅
裁判官

後藤隆大
裁判官佐藤政達は,転補につき署名押印することができない。

裁判長裁判官

角谷昌毅
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