判例検索β > 令和1年(行ケ)第10165号
特許権 行政訴訟
事件番号令和1(行ケ)10165
裁判年月日令和2年11月5日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2020-11-05
情報公開日2020-11-11 16:00:42
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令和2年11月5日判決言渡
令和元年(行ケ)第10165号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和2年9月8日
判決原告
有限会社ギムティー

同訴訟代理人弁理士

野同河野同河楠被誠吾和也告特
同指定代理人

石井孝明同横溝顕範同井上茂夫同原賢一同石利恵主121官文
訴訟費用は,被告の負担とする。
実及び
請求
主文同旨

第2


特許庁が不服2018-14256号事件について令和元年10月23日

第1

庁塚
にした審決を取り消す。

許生
事案の概要
特許庁における手続の経緯等

理由
(1)

原告は,発明の名称を保温シート及びそれを用いた保温布団
(後記の

第2次補正により保温シートに変更)とする発明について,平成26年12月15日(国内優先権主張:同月4日)
,特許出願(特願2014-25
2662号。請求項の数8。以下本件出願という。
)をした。
(甲1,2)
(2)

原告は,
平成29年5月18日付けの拒絶理由通知を受けたため,
同年7

月21日,特許請求の範囲及び明細書を補正する旨の手続補正書を提出するとともに,意見書(以下本件意見書という。
)を提出した。
(甲3ないし
5)
また,
原告は,
平成29年10月30日付けの拒絶理由通知を受けたため,
平成30年3月7日,特許請求の範囲及び明細書を補正する旨の手続補正書
及び意見書を提出したが,既に補正期間が経過していたことから,同補正書に係る手続は,同年5月16日付けで却下された。
(甲6ないし11)
そして,
原告は,
平成30年7月25日付けで拒絶査定を受けた。
(甲12)
(3)

原告は,平成30年10月26日,拒絶査定不服審判(不服2018-1
4256号事件)を請求するとともに,特許請求の範囲及び明細書を補正す
る旨の手続補正書を提出した
(以下
第2次補正
という。。

(甲13,
14)
また,原告は,令和元年6月27日付けの拒絶理由通知を受けたため,同年8月29日,特許請求の範囲及び明細書を補正する旨の手続補正書を提出するとともに(以下本件補正という。,意見書を提出した。

(甲15ない
し17)

そして,特許庁は,令和元年10月23日,

本件審判の請求は,成り立たない。

との審決(以下本件審決という。)をし,その謄本は,同年11
月5日,原告に送達された。
(4)

原告は,
令和元年12月5日,
本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起

した。

2
特許請求の範囲の記載

(1)

本件出願時
本件出願に係る願書に最初に添付した特許請求の範囲の記載は,次のとお
りである。
(甲1)
【請求項1】
人又はその他の動物である生体の表面の保温を行う保温シートであって,フレキシブルに変更可能なシート状の基材と,
通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体とを備え,
前記基材における生体側の面に断熱材を含浸又は塗布することにより断熱面を形成し,

前記カバー体によって基材の断熱面をカバーした
ことを特徴とする保温シート。
【請求項2】
前記基材は,織布,不織布,フェルト又は和紙によって構成され,前記カバー体は,織布又は不織布によって構成された

請求項1に記載の保温シート。
【請求項3】
前記断熱材は,中空ビーズ構造であって且つ10~50μmの粒径を有するアルミノ珪酸ソーダガラスと,顔料と,樹脂エマルジョンと,分散剤と,粘着剤とを含み,

前記アルミノ珪酸ソーダガラスの含有量は,前記断熱材の全重量の10~20重量%である
請求項1又は2の何れかに記載の保温シート。
【請求項4】
前記カバー体を,基材の断熱面に密着させた状態で,該基材に縫合又は接
着させた
請求項1乃至3の何れかに記載の保温シート。

【請求項5】
前記基材の全体に断熱材を含浸させることにより,該基材の両面を断熱面とし,
前記カバー体によって,基材の両面側をカバーした
請求項1乃至4の何れかに記載の保温シート。

【請求項6】
前記基材の片面側のみに断熱材を塗布又は含浸させることにより,該基材の片面を断熱面とするとともに,もう片面側を,非断熱面とした
請求項1乃至4の何れかに記載の保温シート。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の保温シートを,布団カバーに形成された収容部に収容した
ことを特徴とする保温布団。
【請求項8】
前記収容部を,
就寝者の身長方向に並ぶように,
布団カバーに複数形成し,

各収容部に保温シートを収容した
請求項7に記載の保温布団。
(2)

本件補正後
本件補正後における特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,
本件補正後の請求項1に係る発明を本願発明という。。なお,請求項2)
以下は,第2次補正において削除された。
(甲14,16)
【請求項1】
人又はその他の動物である生体の表面の保温を行う保温シートであって,フレキシブルに変更可能なシート状の基材と,

通気性及び通水性が確保され且つ透光性を有する不織布又は織布からなるカバー体とを備え,

前記基材における生体側の面に断熱材を含浸又は塗布することにより断熱面を形成し,
前記断熱材は,中空ビーズ構造であって且つ10~50μmの粒径を有するアルミノ珪酸ソーダガラスと,顔料としての二酸化チタンとを含み,前記アルミノ珪酸ソーダガラスの含有量は,前記断熱材の全重量の10~
20重量%であり,
前記カバー体によって基材の断熱面をカバーし,
前記カバー体は,上記断熱面に面状に密着された状態で接着され,前記カバー体は,生体側からの輻射熱を通すことによって,前記アルミノ珪酸ソーダガラスが遠赤外線を放射する温度まで該アルミノ珪酸ソーダガラ
スを温めるとともに,該アルミノ珪酸ソーダガラスから放射された遠赤外線が生体側に達するように構成された
ことを特徴とする保温シート。
3
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,本
件補正により補正された請求項1には,
通気性及び通水性が確保され且つ透光性を有する不織布又は織布からなるカバー体とを備え,との事項が含まれるところ,このカバー体(以下本件カバー体という。
)が透光性を有す
ることは,本件出願に係る願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,これらを併せて本件当初明細書等という。
)には明示的に記

載されておらず,また,本件当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえないから,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものではないというものである。

第3

原告が主張する取消事由

1
本件カバー体が透光性を有することは,本件当初明細書等に明示的に記載されてはいないが,次のとおり,本件当初明細書等の記載から自明な事項であるから,これを特許請求の範囲に加えたからといって,新たな技術的事項が追加されるものではない。

(1)

本件当初明細書等の記載(
【0049】
)によれば,断熱面のアルミノ珪酸

ソーダガラスから照射された遠赤外線が,生体側の空間に達し,当該生体を加温しているものと理解するのが自然である。そして,本件当初明細書等の記載(
【0026】【0028】【0029】【0035】【0037】,



)に
よれば,アルミノ珪酸ソーダガラスから照射された遠赤外線が生体側に達するためには,遠赤外線が敷布団カバー及び本件カバー体を透過する必要があるから,本件カバー体が遠赤外線を透過させる機能を有することは明らかである。
このように,本件当初明細書等には,本件カバー体が遠赤外線を透過させることが明示的に記載されている。そして,遠赤外線を含む赤外線は,光の
一種であり,直進性を有するなど可視光線と同様の性質を持つから,本件カバー体が可視光線を透過させる性質も有するということは,上記の各記載から自明であるといえる。
(2)

本件カバー体は,
通気性及び通水性を有する上,
遠赤外線も透過させるも

のであるから,本件カバー体が透光性を有していないと技術的に理解するのは不自然である。また,本件カバー体について,透光性を有さないような構造を実現することは,技術的に困難である。
(3)

布に遮光性を付与するためには,
遮光カーテンのように,
黒い糸を生地の

中に入れたり,裏面に樹脂等をコーティングしたりするなどの特殊な加工が必要であり,このような特殊な加工や処理がされていない布が透光性を有するということは,技術常識である。したがって,このような特殊な加工等がされていない本件カバー体が透光性を有することは,当業者にとって自明の
事項であるといえる。
また,
本件当初明細書等の記載【0036】によれば,


本件カバー体が,
1枚の織布又は不織布から構成され,かつ,その表面には何らのコーティングもされず,遮光性を付与するような特殊な処理がされていないものであることは,技術的に明白である。したがって,当業者が,本件カバー体につい
て,透光性を有していないと理解するのは困難である。
(4)

本件当初明細書等には,二酸化チタンが光を反射する旨が記載されてい
るところ【0031】,

)この光が本件カバー体を透過してきた光であること
は直接的に明記されていない。もっとも,本件当初明細書等には,本件カバー体が通気性及び通水性を有し,遠赤外線も透過させる旨が記載されている
ことからすれば,上記の光が本件カバー体を透過してきた光であることが示唆されているといえる。
2
原告は,本件意見書において,二酸化チタンの光触媒作用によって消臭効果や臭いの発生を効率的に防止する効果が発生する旨を主張したが,これらの効果を明細書や特許請求の範囲に追加する旨の補正を行ったものではないから,
本件補正は,新たな技術的事項を追加するものではない。
3
以上によれば,本件補正は,新たな技術的事項を追加するものではなく,特許法17条の2第3項の要件を満たすから,本件審決の判断には誤りがある。
第4
1
被告の主張
本件カバー体が透光性を有することは,本件当初明細書等には明示的に記載されていない上,次のとおり,当業者によって,本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとはいえない。(1)

本願発明は,通気性及び通水性が確保された織布又は不織布からなるカ
バー体を備えることにより,保温の際に生体側の熱を効率的に利用できることなどを技術的意義とするものであるから,当業者は,本件当初明細書等に通気性,通水性及び熱に関することが記載されていても,技術的意義に何ら
関係のない光に関する技術的事項である透光性を認識することはない。(2)輻射は放射ともいうことに加え,繊維は遠赤外線を透過せずに吸収するという技術常識や,放射エネルギー(赤外線)はあらゆる物の表面で発生して再放射するという技術常識からすれば,本件当初明細書等に記載された輻射熱【0049】

)は,昇温した本件カバー体からの間接的な輻射
によるものと解するのが相当である。また,本件当初明細書等の微量の遠赤外線を,生体側に放射するようになり,との記載(【0049】
)は,遠赤
外線の放射方向について生体側と特定しているにすぎない。さらに,本件当初明細書等には,
本件カバー体を介した熱の伝達の機序について,
空気の流れ【0043】

)とも記載されているが,遠赤外線は空気の流れによっ
て本件カバー体を透過し,断熱面に到達するものではない。
以上のとおり,本件当初明細書等において,遠赤外線が本件カバー体を透過することが明示的に記載されているものではない。
また,光という文言は,通常の定義によれば可視光線を指すものであり,
遠赤外線は含まれないから,
遠赤外線に関する記載を根拠に,
透光性を有するという技術的事項を導き出すこともできない。
(3)

織布又は不織布中の通気路や通水路は,相重なる多数の繊維により通路
として折れ曲がっていても通気又は通水することが可能であるのに対し,光は直進するものであること,通気性や通水性を有する織布又は不織布であっても透光性を有しないものも存在することからすれば,本件カバー体が通気性や通水性を有するからといって,
直ちに透光性を有することにはならない。
(4)

本願発明の技術分野において,どのような光がどの程度透過する場合を
透光性を有する
というのかを示す技術常識が存在するとはいえないから,
本件当初明細書等に,本件カバー体に関して,通気路や通水路の記載,遠赤外線の記載があるとしても,
透光性を有する
という技術的事項に結び付け
ることはできない。

(5)

織布や不織布への遮光性の付与は,特殊な処理によっても可能であるが,
織布の組織や不織布の目付を変えたり,織布の素材を変えたりすることによっても可能である。そうすると,織布や不織布が透光性を有するか否かは,特殊な処理がされているか否かだけで決まるものではないから,種々の特殊な処理がされていない布が透光性を有することは,技術常識とまではいえな
い。
また,特殊な処理がされていない布は透光性を有するとの原告の主張は,単に光が布を通りさえすれば透光性を有するとすることを前提とするものであるが,この主張は,不織布又は織布からなるカバー体に対する,例えば光触媒作用を発生させる透光性を有すること等,透光に関する何らかの技
術的特徴に対応した限定であると通常理解される透光性を有するとの特定が不織布又は織布からなるカバー体にとって自明であることを示すものではない。
(6)

本件当初明細書等の
顔料は光を反射する白色の二酸化チタンであり

の記載(
【0031】
)をもって,二酸化チタンの上層に配置される本件カバ

ー体の性状まで特定し得るものではないから,上記の光が本件カバー体を透過してきた光であることが示唆されているとはいえない。
2
明細書や特許請求の範囲には,二酸化チタンの光触媒作用によって消臭効果や臭いの発生を効率的に防止する効果が発生することが明示的に追加されて
いるわけではない。
しかしながら,本件カバー体について,透光に関する何らかの技術的特徴に対応した限定であると通常理解される透光性を有するという特定を追加することは,本件当初明細書等に透光に関する技術的事項が記載されていない以上,本件当初明細書等に記載されているとはいえない新たな技術的特徴を追加
するものである。
また,本件補正によって本件カバー体に透光性を有するという特定が追
加された結果,実質的に,基材の断熱面に光が到達する構成が追加され,当該構成によって,本願発明は,基材の断熱面に光が到達することに対応する新たな技術的意義又は新たな作用・効果を有することとなったものである。以上のとおり,本件カバー体に透光性を有するという特定を追加する本件補正は,これによって生ずる二酸化チタンの光触媒作用による消臭効果や臭
いの発生の効率的な防止という技術的意義又は作用・効果の追加を必然的にもたらすものであって,本件当初明細書等に記載されているとはいえない新たな技術的事項の追加に当たる。
3
以上によれば,本件補正は,新たな技術的事項を追加するものであるから,特許法17条の2第3項に反する。

第5
1
当裁判所の判断
本件当初明細書等の記載事項について
(1)

本件当初明細書等には,次のとおり記載されている。なお,図1,図4及
び図5は,別紙のとおりである。
(甲1)

技術分野及び背景技術

【0001】この発明は,
保温シート及びそれを用いた保温布団に関する。
【0002】

人又はその他の動物である生体の表面の保温を行う保温シー

トであって,シート状の基材を備え,該基材における生体側の面に,断熱材を含浸することにより断熱面を形成し,該断熱面を,被覆層によって被覆した保温シートが公知になっている(例えば,特許文献1を参照。。)


発明が解決しようとする課題

【0004】

上記文献の保温シートは,基材における生体側の面に,断熱

材を含浸することにより断熱面を形成し,該断熱面を,被覆層によって被覆しているため,基材の材料に左右されずに,断熱を行うことが可能になるとともに,被覆層によって保護された断熱面は,断熱性能を維持し易くなる。

しかし,被覆層がプラスティックフィルム等によって構成されるため,生体側の体温が,断熱面まで達し難く,被覆層の表面に沿って拡散されるため,生体側からの熱を効率的に利用することが困難である。
【0005】

本発明は,基材における生体側の面に,断熱材を含浸するこ

とにより断熱面を形成し,該断熱面がカバーされて保護される保温シート
において,生体側の体温も利用し易い保温シート及びそれを用いた保温布団を提供することを課題とする。

課題を解決するための手段

【0006】

本発明の保温シートは,人又はその他の動物である生体の表

面の保温を行う保温シートであって,フレキシブルに変更可能なシート状
の基材と,通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体とを備え,前記基材における生体側の面に断熱材を含浸又は塗布することにより断熱面を形成し,前記カバー体によって基材の断熱面をカバーしたことを特徴とする。

発明の効果

【0014】

通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体によっ

て,基材の断熱面がカバーされるため,生体側の体温が,カバー体を通り抜けて断熱面に達して留まるか,或いは生体側に熱反射され易くなり,保温の際に生体側の熱を効率的に利用できる。

図面の簡単な説明

【0015】
【図1】

本発明を適用した敷布団の平面図である。

【図4】

(A)は,本発明を適用した保温シートの片面側の説明図であ
り,
(B)はもう片面側の説明図である。

【図5】


図4(A)のC-C断面図である。

発明を実施するための形態

【0026】

図4(A)は,本発明を適用した保温シートの片面側の説明

図であり,
(B)はもう片面側の説明図であり,図5は,図4(A)のC-
C断面図である。保温シート4は,フレキシブルに変形可能な方形シート状の基材12と,該基材12の少なくとも片面側を密着状態でカバーするカバー(カバー体)13とを有している。
【0027】

基材12を構成する材料としては,繊維を撚って糸にしたも

のを織ってつくる織布や,繊維を織らずに絡み合わせてシート状にした不織布や,動物の毛や化学繊維を薄く板状に圧縮してつくるシート状のフェルトや,植物などの長い繊維を絡ませながら薄くシート状にした和紙等を用いる。これらの材料によって構成される基材12は,曲げ伸ばし自在で破損し難く,十分な通気性及び通水性を有しているため,皮膚からの発汗を短時間に蒸発させることができ,さらに洗濯も行い易い。
【0028】

この基材12の片面側に,断熱材を塗布するか,或いは含浸

させることにより,断熱層14を形成し,これによって基材12の断熱層14を形成させた側の面が断熱面14aになる。
【0029】

断熱材は,アルミノ珪酸ソーダガラスと,顔料と,樹脂エマ

ルジョンと,分散剤と,粘着剤等を配合し,水を加えて撹拌混合することによって得られる白色の溶液である。
【0030】
アルミノ珪酸ソーダガラスは,粒径が10~50μmとなる

中空ビーズ構造であり,アルミノ珪酸ソーダガラスの含有量は,断熱材の全重量の10~20重量%である。ちなみに,アルミノ珪酸ソーダガラスの含有量が10重量%未満の場合には,断熱性能が低下し,20重量%を超えると,基材への付着力が低下するため,含有量を上記のように設定してある。

【0031】

顔料は光を反射する白色の二酸化チタンであり,樹脂エマル

ジョンは水溶性のアクリルエマルジョン樹脂であり,上記分散剤は,アル
ミノ珪酸ソーダガラスと,顔料と,樹脂エマルジョンとからなる成分材料の混合を均一にするためのものであり,粘着剤は均一に混合された上記成分材料の分離や沈殿を抑制するためのものである。
【0035】
カバー13は,通気性や通水性が確保された織布又は不織布

から構成される。該カバー13は,基材12の断熱面14aから,側端該基材12の断熱面14aと反対側の面である非断熱面12aの4つの辺部に至る範囲をカバーしている。
【0036】

さらに,カバー13の具体的な構成を説明すると,カバー1

3の表面の少なくとも一部(本例では全体)は,カバー13を構成する材料がそのまま露出し,通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない。
【0037】

そして,断熱面14aが就寝者側に向けられた姿勢の保温シ

ート4を,該就寝者の身体に近づけると,就寝者の体温が,敷布団カバー2及びカバー13を通って断熱面14aまで達し,その場で留まるか,或いは生体側に反射されるため,断熱面14aと就寝者との間の空間が,心地よい温度に保たれる。
【0040】

該構成の保護シート4は,基本的には,就寝者側に断熱面1

4aを向けた姿勢(具体的には,断熱面14aが上面となる姿勢)で,敷布団カバー2の収容部3に収容される。
【0043】

該構成の敷布団1によれば,就寝者側へ断熱面14aを向け

た保温シート4が,
該就寝者に近接した状態になるため,
就寝者の体温が,
空気の流れにより,敷布団カバー2及びカバー13を通り抜けて,該断熱面14aまで達し,その場で留まるか,或いは,就寝者側まで反射するため,保温シート4と就寝者との間の空間が適切な温度に加温又は保温される。
【0045】

また,この保温シート4は,フレキシブルに変更可能な基材

12に断熱塗料を塗布して含浸させることによって,断熱層14を形成し,この断熱層14を,カバー13でカバーして保護しているため,捻りや,曲げを加えるか,或いは洗濯を行っても,破損や剥離のリスクが少なく,高い耐久性を期待できる。
【0046】

さらに,微細なアルミノ珪酸ソーダガラスは,無数に積層さ

れ,且つ断熱面14aに沿って平面的にも連鎖した状態になるため,断熱層14に達した熱は,アルミノ珪酸ソーダガラスの表面で反射され,これによって,透過が抑制されるとともに,アルミノ珪酸ソーダガラスの中空部によって,断熱面14に沿った平面的な対流熱や伝導熱も抑制される。【0047】

ちなみに,アルミノ珪酸ソーダガラスが断熱面14aに沿っ

て平面的に連鎖する原因について考察すると,該アルミノ珪酸ソーダガラスは中空ビーズ構造であり,且つ断熱塗料(断熱材)が流動性を有する液状であるため,基材12に塗布された断熱塗料中のアルミノ珪酸ソーダガラスには,乾燥するまでの間,浮力が作用する。この浮力によって,上記アルミノ珪酸ソーダガラスは,断熱塗料の上面側の表層(すなわち,断熱
面14a側)に集積される。
【0048】

これが,アルミノ珪酸ソーダガラスが断熱面14aに沿って

平面的に連鎖する原因の1つと考えられる。これに加えて,断熱塗料は,上記した通り,乾燥の過程で,基材12に含浸されるため,基材12の繊維の1本1本に付着した状態になる。

【0049】

このような状態では,生体側からの熱が,カバー13を介し

て,輻射熱の状態で,アルミノ珪酸ソーダガラスに達し,該アルミノ珪酸ソーダガラスを生体の体温と同程度まで上昇させる。このアルミノ珪酸ソーダガラスは,前記温度上昇に伴って,微量の遠赤外線を,生体側に放射するようになり,
これが熱反射の現象となって,
生体を心地よく加温する。


符号の説明

【0056】
1
敷布団(保温布団)

2
敷布団カバー(布団カバー)

2a

仕切部

3
収容部

4
保温シート

12
12a
13
14a

(2)

基材
非断熱面
カバー(カバー体)
断熱面

上記(1)の記載事項によれば,本件当初明細書等には,次のような技術的
事項が記載されているものと認められる。

本願発明は,人又はその他の動物である生体の表面の保温を行う保温シートに関する発明である。【0001】




本件出願以前から,シート状の基材を備え,同基材の生体側の面に断熱材を含浸して断熱面を形成し,同断熱面を被覆層によって被覆した保温シートが公知であったが,この従来の保温シートは,被覆層がプラスティックフィルム等によって構成されるため,生体側の体温が断熱面まで達し難く,また,被覆層の表面に沿って拡散されてしまい,生体側からの熱を効率的に利用することが困難であった。【0002】【0004】





本願発明は,生体側の体温も利用しやすい保温シートを提供することを課題とし,これを解決する手段として,通気性や通水性が確保された不織布又は織布からなるカバー体(本件カバー体)によって基材の断熱面をカバーすることとした。これにより,生体側の体温が,本件カバー体を通り
抜けて断熱面に達して留まるか,又は生体側に熱反射されやすくなり,保温の際に生体側の熱を効率的に利用することができるという効果が生ず
る。【0005】【0006】【0014】【0035】





2
本件補正の適否について
(1)

前記第2の2のとおり,
本願発明に係る特許請求の範囲については,
本件

出願時には通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体と記載されていたものが,本件補正後には通気性及び通水性が確保され且つ透光性を有する不織布又は織布からなるカバー体へと記載が変更されたものであり,本件カバー体につき,
通水性及び透光性を有する旨の記載が追
加されたものといえる。
そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,本件カバー体が通水性
を有する旨の記載(
【0035】
)は存するものの,
透光性を有するとの事
項に対応する明示的な記載は存しない。
そこで,本件カバー体が透光性を有するとの事項が,本件当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて,以下,検討する。(2)

工業分野一般において,
透光性とは,
物質を光が透過して他面から出るこ

とをいう(JIS工業用語大辞典第5版(乙1)
)ところ,本願発明の技術分
野における透光性の用語が,これと異なる意味を有するものとみるべき事情は存しない。
そうすると,本件カバー体が透光性を有するとは,本件カバー体が光を透過させて他面から出す性質を有することを意味するものといえる。
(3)

次に,
上記1のとおり,
本件カバー体は織布又は不織布から構成されると

ころ,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識について検討する。
証拠(甲23,24)及び弁論の全趣旨によれば,本件出願よりも前の時点において,遮光カーテンの生地に遮光性能を付与するために,有彩色の生地に黒色の生地を重ねて二重にする,有彩色の糸と共に黒色の糸を使用して生地を製造する,黒色顔料を配合した塗料を生地に塗布積層する,黒色顔料
を配合したプラスチックフイルムを生地に張り合わせるなどの方法が採られていたことが認められる。また,証拠(乙4,10)及び弁論の全趣旨によれば,本件出願よりも前の時点において,織布である樹木の萌芽抑制シートの遮光性を高めるために,糸材にカーボン粉末が練り込まれた黒色糸を使用する方法が採られたり,織布又は不織布である野生動物侵入防止用資材の遮光率を高めるために,繊維間又は糸条間の間隔を小さくして光を通しにくくする方法が採られたりしていたことが認められる。
このように,本件出願よりも前の時点において,織布又は不織布に遮光性能を付与するために,特殊な製法又は素材を用いたり,特殊な加工を施した
りするなどの方法が採られていたことからすれば,本件出願時において,織布又は不織布に遮光性を付与するためにはこのような特別な方法を採る必要があるということは技術常識であったといえる。そうすると,このような特別な方法が採られていない織布又は不織布は遮光性能を有しないということもまた,技術常識であったとみるのが相当である。
そして,繊維分野において,遮光性能とは,入射する光を遮る性能をいう

JISハンドブック31繊維
(乙8)
)から,遮光性能を有しないと

いうことは,
入射する光を遮らずに透過させること,
すなわち上記(2)の意味
における透光性を有することを意味することとなる。
以上検討したところによれば,織布又は不織布について遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は不織布は透光性を有するということが,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識であったとみるのが相当である。
(4)

以上を前提として,本件カバー体が透光性を有するとの事項が,本件
当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて検討する。上記(3)によれば,
本件出願時における当業者は,
織布又は不織布について
遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は
不織布は透光性を有するものであると当然に理解するものといえる。そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,織布又は不織布から構成される本件カバー体につき,遮光性能を有する旨や遮光性能を付与するための特別な方法が採られている旨の明示的な記載は存せず,かえって,本件カバー体が通気性や通水性を有する旨の記載(
【0035】
)や,本件カバー

体の表面の少なくとも一部は本件カバー体を構成する材料がそのまま露出し,通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない旨の記載【0(
036】
)が存するところである。
このような本件当初明細書等の記載内容からすれば,当業者は,本件カバー体を構成する織布又は不織布について,特殊な製法又は素材を用いたり,
特殊な加工が施されたりするなど,遮光性能を付与するための特別な方法は採られていないと理解するのが通常であるというべきである。
そうすると,本件当初明細書等に接した当業者は,本件カバー体は透光性を有するものであると当然に理解するものといえるから,
本件カバー体が
透光性を有するという事項は,本件当初明細書等の記載内容から自明な事項
であるというべきである。
(5)

以上によれば,
本件補正は,
本件当初明細書等の全ての記載を総合するこ

とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから,
特許法17条の2第3項の要件を満たすものと認められる。

3
被告の主張について
被告は,本件カバー体が透光性を有するとの事項は本件当初明細書等の全ての記載事項を総合することにより導かれる技術的事項であるとはいえないとして種々の主張をするが,次のとおり,いずれも採用することはできない。
(1)

被告は,
本願発明の技術的意義からすれば,
これと何ら関係のない光に関

する技術的事項である
透光性
を当業者が認識することはない旨主張する。

しかしながら,本願発明の技術的意義に光に関する技術的事項が含まれないとしても,上記2(3)及び(4)で検討したとおり,本件当初明細書等の記載内容及び本件出願時における技術常識からすれば,本件当初明細書等に接した当業者は,本件カバー体は透光性を有するものであると当然に理解するものといえるから,当業者が透光性を認識することがないということはできない。
(2)

被告は,
織布の組織や不織布の目付を変えたり,
織布の素材を変えたりす

ることによっても遮光性能を付与することができることからすれば,織布や不織布が透光性を有するか否かは,特殊な処理がされているか否かだけで決まるものではないから,種々の特殊な処理がされていない布が透光性を有することは技術常識とまではいえないと主張する。
しかしながら,
上記2(3)で検討したとおり,
織布又は不織布に遮光性能を
付与するためには特別な方法を採る必要があり,このような特別な方法が採られていない織布又は不織布が遮光性能を有しないということは,本件出願
時における技術常識であったといえる。
そして,
ここでいう特別な方法には,
遮光性能を付与するための方法全般が含まれるのであって,被告が指摘するような種々の方法が除外されるものではなく,それらも含めて本件当初明細書等に何らの記載も存在しないために,
本件当初明細書等に接した当業者は,
本件カバー体は透光性を有するものであると当然に理解するものといえるの
であるから,被告の指摘は当を得たものとはいえない。
(3)

被告は,特殊な処理がされていない布は透光性を有するとの原告の主張
について,単に光が布を通りさえすれば透光性を有するとすることを前提とするものであるなどと主張する。
しかしながら,上記2(2)のとおりの透光性の用語の意味からすれば,たとえわずかであっても光を透過させて他面から出す性質を有するのであれば,
透光性を有するということになるのであるから,被告の主張は当を得
ないものといわざるを得ない。
(4)

被告は,
本件カバー体について
透光性を有する
との特定をすることは,

透光に関する何らかの技術的特徴に対応した限定であると通常理解されるから,このような特定を追加することは,本件当初明細書等に記載されていない新たな技術的事項を追加するものである旨主張する。また,被告は,この追加により,実質的に,基材の断熱面に光が到達する構成が追加され,本願発明は,この構成に対応する新たな技術的意義又は新たな作用・効果を有することとなった旨主張する。
確かに,証拠(甲5)によれば,本件意見書には,本願発明における独自
の作用効果の記載として,本件カバー体が透光性を有していることから,本件カバー体を透過して断熱面に照射された光が,断熱材に含まれた二酸化チタンを光触媒として作用させ,十分な消臭効果や臭いの発生を効率的に防止する効果が発生する旨の記載が存することが認められる。
しかしながら,
本件当初明細書等には,
顔料は光を反射する白色の二酸化チタンであり,(【0031】
)との記載が存するのみであって,二酸化チタ
ンの光触媒作用や消臭効果等に関する記載は何ら存しない(甲1)。そして,
その後の数次の補正を経た後の明細書,特許請求の範囲又は図面をみても,二酸化チタンの光触媒作用であるとか,それによる消臭効果等については,何らの記載も追加されていない(甲4,14,16)


このように,本件意見書に記載された上記の各事項については,本願発明に係る明細書等において何ら触れられていないのであるから,
本願発明には,
これらの事項に関する技術的意義や作用・効果が含まれるものではなく,また,本願発明に係る明細書等に接した当業者においても,本願発明にこのような技術的意義又は作用・効果が存すると理解することはないというべきで
ある。なお,本願発明における二酸化チタンが,顔料として利用されるだけでなく,光触媒作用を発揮して消臭効果や臭いの発生を効率的に防止する効
果を発生させるものと認めるに足りる証拠は存しない。
以上によれば,
本件補正により,
本件カバー体について
透光性を有する
という事項が追加されたからといって,本願発明に上記のような技術的意義又は作用・効果が新たに導入されるものではないというべきである。(5)

このほか,被告は,種々の主張をするが,いずれも前記の結論を左右する
ものではないというべきである。
4
結論
以上によれば,本件審決が,本件補正について,新たな技術的事項を追加するものであり,特許法17条の2第3項に反するものであると判断した点には
誤りがあるから,原告が主張する取消事由は,理由がある。
よって,原告の請求は,理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡中平稔彦
裁判官


裁判官
都野道紀
(別

紙)

【図1】

(別

紙)

【図4】

(別

紙)

【図5】

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