事件番号 | 令和2(わ)327 |
---|---|
事件名 | 業務上横領,詐欺被告事件 |
裁判年月日 | 令和2年10月14日 |
裁判所名・部 | 福岡地方裁判所 第3刑事部 |
裁判日:西暦 | 2020-10-14 |
情報公開日 | 2020-10-29 12:00:19 |
令和2年 第327号,第562号,第657号 主 業務上横領,詐欺被告事件 文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は, 第1 福岡市a区bc丁目d番e号の日本郵便株式会社A郵便局に勤務し,同社が株式会社ゆうちょ銀行から委託された銀行代理業及びこれに付随する業務のうち,顧客から貯金預入金を収受する業務並びに商品販売契約に係る代金を顧客から回収する業務等に従事していたものであるが, 1(令和2年3月27日付け起訴状公訴事実) 令和元年7月8日,同郵便局において,顧客であるBから,貯金預入金として現金50万円を収受し,これを同郵便局のため業務上預かり保管中,同日,同所付近において,自己の用途に費消する目的で着服し,もって横領し,2(令和2年6月8日付け起訴状公訴事実第1) 平成29年9月28日から令和元年8月9日までの間,35回にわたり,同郵便局ほか3か所において,顧客であるCほか8名から,貯金預入金又は商品販売代金として現金合計6941万640円を受領し,これを同郵便局のため業務上預かり保管中,いずれもその頃,同市内において,自己の用途に費消する目的で着服し,もってそれぞれ横領し, 3(令和2年6月26日付け起訴状公訴事実第1) 平成30年5月16日から令和元年8月28日までの間,16回にわたり,同郵便局ほか5か所において,顧客であるDほか11名から,貯金預入金又は商品販売代金として現金合計3091万8880円を受領し,これを同郵便局 のため業務上預かり保管中,いずれもその頃,同市内において,自己の用途に費消する目的で着服し,もってそれぞれ横領し, 第2 前記業務等における不正が発覚し,前記日本郵便株式会社から就業禁止命令を受けて前記業務等を行うことを禁止されたにもかかわらず,引き続き,前記業務等に従事しているかのように装って顧客から貯金預入金名目で現金をだまし取ろうと考え,真実は,顧客から貯金預入金を収受する権限がなく,収受した現金は自己の用途に費消する目的であるのに,その情を秘し, 1(令和2年6月8日付け起訴状公訴事実第2) 令和元年10月7日頃,同市a区bf丁目g番h号のE方前路上に駐車中の自動車内において,顧客である同人(当時62歳)に対し, 「お金を預けてくれませんか。」 などと言って現金の交付を求め,同人をして,被告人に貯金預入金の収受権限があり,被告人に交付する現金が郵便局において管理されるものと誤信させ,よって,同月11日,前記E方前路上に駐車中の自動車内において,同人から現金600万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ,2(令和2年6月26日付け起訴状公訴事実第2の1) 令和元年9月26日,同市a区ij丁目k番l号の株式会社F事務所において,顧客であるG(当時72歳)に対し, 「郵便局にお金を預けてもらっていいですか。」 などと言って現金の交付を求め,同人をして,被告人に貯金預入金の収受権限があり,被告人に交付する現金が郵便局において管理されるものと誤信させ,よって,同月27日,前記事務所において,前記Gから現金600万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ,3(令和2年6月26日付け起訴状公訴事実第2の2) 令和元年10月8日,同市a区mn丁目o番p号のH方において,顧客である同人(当時63歳)に対し, 「お金を預けてくれませんか。」 などと言って現金の交付を求め,同人をして,被告人に貯金預入金の収受権限があり,被告人に交付する現金が郵便局において管理されるものと誤信させ,よって,同日,前記H方において,同人から現金50万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ, 4(令和2年6月26日付け起訴状公訴事実第2の3) 令和元年10月20日,同市a区qr丁目s番t号のI方において,顧客である同人(当時78歳)に対し, 「少しの間お金を預けていただけませんか。」 などと言って現金の交付を求め,同人をして,被告人に貯金預入金の収受権限があり,被告人に交付する現金が郵便局において管理されるものと誤信させ,よって,同日,前記I方において,同人から現金50万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。(量刑の理由) 本件は,郵便局で長年勤務し,定年退職後も期間雇用社員として勤務していた被告人が,郵便局の顧客22名から,貯金預入金又は商品販売代金として預かった現金合計1億82万9520円を着服して横領したほか,不正行為が発覚して就業禁止命令を受けた後も,郵便局の顧客4名(うち1名は業務上横領の被害者でもある。 )から,引き続き業務に従事しているかのように装って貯金預入金名目で現金合計1300万円をだまし取ったという事案である。 被告人は,貯金からの現金引出し,あるいは保険貸付等の方法により顧客に用意させた現金を貯金預入等の名目で預かり着服するという巧妙な手口での横領を約2年間にわたり続け,着服した金の大半を競艇等のギャンブルにつぎ込んで費消していた。そればかりか,被告人は,不正行為が発覚して就業禁止命令を受け,日本郵便株式会社から調査を受けていた最中にも,引き続き業務に従事しているかのように装って,顧客から貯金預入金名目で現金をだまし取り,これもギャンブルで費消しており,犯行態様は相当に悪質と評価せざるを得ない。こうした犯行を重ねた理由につき,被告人は,顧客の金の使い込みを穴埋めするために競艇等のギャンブルで一発当てようと思ったなどと述べるが,余りに身勝手かつ無責任な発想であり, 難病の家族を抱えるストレスからギャンブルにのめり込んだ旨の被告人の供述を踏まえても,経緯及び動機に酌むべき点は見出せない。 そして,本件の被害総額は1億1300万円を超える高額に上っており,個々の顧客の被った損害が多額であることに加え,郵便局に対する信頼を失墜させた点でも,本件各犯行の結果は極めて重大である。この点,被告人は,9名の顧客に対し,合計2323万1664円を返却しているほか,自宅不動産を売却して得た原資で,起訴外の事実に関してではあるものの,①被告人が個人的な借入れをした顧客2名に対し1750万円を返済し,②被告人の依頼で保険貸付けを受けたことにより利息分の損害を被った顧客7名に対し117万1729円を弁済し,それぞれとの間で宥恕文言付きの示談を成立させているほか,③残金のうち276万2018円を,顧客ら個人の損害の補填を行った日本郵便株式会社に送金して,被害回復に努めたことが認められる。しかし,起訴事実に関しては,なお9000万円以上の被害弁償が未了であり,上記の点を有利に考慮することができる程度には限度がある。以上によれば,被告人の刑事責任はかなり重いというべきである。他方で,被告人が,事実を認め,被害者の顧客全員に宛てて謝罪文を送付するなどして反省・悔悟の情を示しており,前記のとおり,自宅不動産を売却して被害回復に努めた上,残部についても可能な限り賠償を行う旨誓っていること,被告人には前科前歴がないこと,被告人の更生を願う家族がいることなど,弁護人が指摘する酌むべき事情も認められるが,これらを考慮して慎重に検討しても,本件の犯情に照らすと,被告人は主文の実刑を免れないと判断した。 〔求刑 懲役8年〕 令和2年10月14日 福岡地方裁判所第3刑事部 裁判官 足立勉 |