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選挙無効請求事件
事件番号令和2(行ツ)79
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和2年10月23日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別判決
結果棄却
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号令和1(行ケ)31
原審裁判年月日令和元年12月4日
判示事項参議院(比例代表選出)議員の選挙についていわゆる特定枠制度を定める公職選挙法の規定の合憲性
裁判日:西暦2020-10-23
情報公開日2020-10-23 16:00:03
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令和2年(行ツ)第79号
令和2年10月23日

選挙無効請求事件

第二小法廷判決

主文
本件上告を棄却する
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告人兼上告代理人山口邦明ほかの上告理由について
1
本件は,公職選挙法の一部を改正する法律(平成30年法律第75号)によ
る改正(以下本件改正という。)後の公職選挙法の規定が憲法に違反して無効であるから,これに依拠して令和元年7月21日に施行された参議院議員通常選挙のうち比例代表選出議員の選挙(以下本件選挙という。)は無効であるとして提起された選挙無効訴訟である。
2
参議院(比例代表選出)議員の選挙については,昭和57年法律第81号に
よる公職選挙法の改正によりいわゆる拘束名簿式比例代表制が導入されたが,これについては候補者の顔の見えない選挙である,参議院の政党化を殊更に進めている,名簿登載者の順位の決定過程が分かりにくいなどの批判があり,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正により,いわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められることとなった。
その後,本件改正により,参議院(比例代表選出)議員の選挙について,非拘束名簿式比例代表制を維持しつつも,政党その他の政治団体(以下政党等という。)の判断により,優先的に当選人となるべき候補者(以下特定枠の候補者という。)を定めることができるものとするいわゆる特定枠制度が導入された。すなわち,政党等が当該政党等の名称及び候補者とする者の氏名を記載した参議院名簿の届出をする場合に,候補者とする者のうちの一部の者について,優先的に当選人となるべき候補者(特定枠の候補者)として,その氏名及び特定枠の候補者の間
における当選人となるべき順位をその他の候補者(以下特定枠以外の候補者という。)とする者の氏名と区分して当該参議院名簿に記載することができることとされ(本件改正後の公職選挙法86条の3第1項柱書き後段),特定枠の候補者がある場合の参議院名簿登載者の間における当選人となるべき順位につき,特定枠の候補者の当選人となるべき順位は,特定枠以外の候補者の当選人となるべき順位より上位とし,特定枠以外の候補者の間における当選人となるべき順位は,その得票数の最も多い者から順次に定めることとされた(同法95条の3第4項)。3
論旨は,特定枠制度においては選挙人の意思と関係なく議員が選ばれている
に等しく,本件改正後の公職選挙法における同制度について定める規定は,憲法43条1項に違反する,また,本件選挙と同日に施行された参議院の選挙区選出議員の選挙は同法が定める定数配分規定が憲法に違反するため無効であるから,本件選挙も無効であるなどという。
4(1)

本件改正後の参議院(比例代表選出)議員の選挙制度は,政党等にあら
かじめ候補者の氏名及び特定枠の候補者を定める場合にはその氏名等を記載した名簿を届け出させた上,選挙人が名簿登載者又は政党等を選択して投票を行い,各政党等の得票数(当該政党等に係る各参議院名簿登載者の得票数を含む。)に基づきその当選人数を決定した上,各政党等の名簿に記載された特定枠の順位及び各候補者の得票数の多寡に応じて当選人を決定する選挙制度であるから,投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において,選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。そうすると,本件改正後の参議院(比例代表選出)議員の選挙に関する公職選挙法の規定は憲法43条1項等の憲法の規定に違反するものではなく,このことは,最高裁平成11年(行ツ)第8号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1577頁及び最高裁平成15年(行ツ)第15号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号1頁の判示するところであるか,又はその趣旨に徴して明らかである。
(2)

また,参議院議員通常選挙のうち比例代表選出議員の選挙の無効を求める
訴訟において選挙区選出議員の選挙の仕組みの憲法適合性を問題とすることができないことは,前掲平成11年大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。5
以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨はいず
れも採用することができない。
その余の上告理由は,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官草野耕一の意見がある。
裁判官草野耕一の意見は,次のとおりである。
1
最初にいくつかの言葉を定義する。

まず,伝統的選挙制とは,候補者個人が互いに得票を競い合い,各人の得票数に応じて当選人が決定される選挙制度を指す。これに対して,名簿式比例代表制とは,政党等(以下,単に政党という。)が互いに得票を競い合い,あらかじめ公表している候補者名簿に登載している者の中から獲得した得票数に対応する数に至るまでの者を当選人とする選挙制度を指し,政党内における当選人となるべき順位が名簿上定まっているものを拘束名簿式比例代表制,有権者に名簿に記載された候補者個人を選択する自由を与え,政党内での当選人となるべき順位は各候補者の得票数によって定まるとするものを非拘束名簿式比例代表制という。
2
多数意見は,本件改正後の参議院(比例代表選出)議員選挙の制度が,投票結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点においては,伝統的選挙制と異なるところはないとして,憲法に違反しないとするものであり,この点には賛同するところである。
しかしながら,私は,名簿式比例代表制,特に拘束名簿式比例代表制については,伝統的選挙制とは明らかに異なる点があり,これを伝統的選挙制と同等のものとして論ずることは必ずしも適切ではないと考えるものである。

3
本件改正により導入されたいわゆる特定枠制度は,全面的に非拘束名簿式比
例代表制により行われていた参議院(比例代表選出)議員選挙の一部に拘束名簿式比例代表制を導入するものである。前記のとおり,拘束名簿式比例代表制は,政党内における当選人となるべき順位に有権者による投票結果が反映されないから,候補者及び当選人となるべき順位の決定が専ら政党に委ねられ,有権者は政党を選ぶことしかできない制度であるということができる。これに対し,伝統的選挙制は,有権者が候補者個人を直接選択することができる点で明らかな差異がある。また,非拘束名簿式比例代表制は,拘束名簿式比例代表制と同様に,政党の選択という意味を持たない投票を認めない制度ではあるものの,当選人となるべき者の順位が各候補者の得票数に応じて定まる点において,拘束名簿式比例代表制とは異なる。拘束名簿式比例代表制は,その選挙制度の仕組み自体が,伝統的選挙制に比して,国民と候補者ひいては当選人(議員)との距離が遠い制度であるということができる。
我が国においては,現行憲法の制定前後を通じ,昭和57年の公職選挙法の改正により参議院について拘束名簿式比例代表制が導入されるまでは両議院の選挙は全て伝統的選挙制により行われ,その後も,両議院のいずれについても過半数の議員は伝統的選挙制により選出される選挙制度とされてきた。上記の参議院の拘束名簿式比例代表制は,平成12年の同法の改正により非拘束名簿式比例代表制に改められたが,その理由として,拘束名簿式比例代表制が候補者の顔の見えない選挙であるなどの批判があったことは多数意見も摘示するとおりである。4
憲法は,両議院の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量
に委ねており,国会は,その裁量により,公正かつ効果的な代表を選出する目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができることは,これまで当裁判所の判例が指摘するとおりである。拘束名簿式比例代表制には上記のように伝統的選挙制とは明らかな差異があり,また,同じ名簿式比例代表制でも投票結果を当選人となるべき順位に反映することができる非拘束名簿式比例代表制も選択し
得るのであるから,国会が拘束名簿式比例代表制を導入するに当たっては,以上に述べたような選挙の仕組み自体の特性を十分に考慮する必要があると考えるところである。ただし,政党が国民の政治意思を形成する有力な媒体であることなどを踏まえれば,拘束名簿式比例代表制を参議院議員選挙の一部に導入すること自体が国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないであろう。そして,本件改正後の公職選挙法においては,参議院議員の総定数は248人であり,そのうち比例代表選出議員は100人であるところ,政党が特定枠の候補者となし得るのは,法文上,名簿登載者の一部の者に限定されていることなどからすれば,本件改正により特定枠制度を導入したことが国会の立法裁量の範囲に属さないとはいえない。5
したがって,以上の見地に立って検討しても,本件選挙が違憲,無効となる
余地はないものと考えるところである。
(裁判長裁判官
草野耕一)

岡村和美

裁判官

菅野博之

裁判官

三浦


裁判官

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