判例検索β > 令和1年(行ケ)第10126号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和1(行ケ)10126
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和2年10月22日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2020-10-22
情報公開日2020-10-28 14:00:45
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令和2年10月22日判決言渡

令和元年(行ケ)第10126号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日令和2年7月16日
判原決告
株式会社技研製作所

訴訟代理人弁護士

増井和同齋藤誠
復代理人弁護士

橋口尚被
株式会社コーワン

告主1夫二郎幸文
特許庁が無効2019-800010号事件について令和元年8月21日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
主文と同旨
第2事案の概要等
1
手続の経緯


被告は,特許第5763225号(以下本件特許という。)の特許権者である。



本件特許の設定登録に至る経緯は次のとおりである。
平成22年4月22日

原出願(特願2010-99137号)
平成26年1月14日
平成27年6月19日


本件出願(特願2014-4293号)
設定登録(特許第5763225号)

原告が平成27年9月24日に請求した特許無効審判(無効2015-800184号)では,本件特許の請求項1,2,3,8及び9に記載された発明に対して,分割要件違反に基づく新規性欠如又は進歩性欠如(無効理由1,同2),サポート要件違反(無効理由3),及び実施可能要件違反(無効理由4)が主張された。
特許庁は,平成28年6月28日に請求不成立の審決(甲28の1。以下第1次審決という。)をした。
原告が提起した審決取消訴訟(当庁平成28年(行ケ)第10161号)につき,平成29年4月18日に請求棄却の判決がなされ,その後確定した。これにより,第1次審決が確定した。



原告が平成29年6月19日に請求した特許無効審判(無効2017-800078号)では,本件特許の請求項1,2,3,8及び9に記載された発明に対して,サポート要件違反(無効理由1),特開2008-267015号を主引例とする新規性欠如又は進歩性欠如(無効理由2,同3),公然実施された鋼矢板圧入引抜機WP-100に基づく進歩性欠如(無効理由4)が主張された。
特許庁は,平成30年1月24日に請求不成立の審決(甲7の1。以下第2次審決という。)をした。
原告が提起した審決取消訴訟(当庁平成30年(行ケ)第10030号)につき,平成30年11月28日に請求棄却の判決がなされ,その後確定した。これにより,第2次審決が確定した。



原告は,平成31年2月12日,本件特許の請求項1~9に係る発明につき特許無効審判(無効2019-800010号。以下本件審判という。)を請求した。
特許庁は,令和元年8月21日,請求不成立の審決(以下本件審決という。)をした。
原告は,同月29日に本件審決謄本の送達を受け,同年9月26日,本件訴訟を提起した。
2
本件特許発明


請求項1の記載(以下本件発明1という。)

下方にクランプ装置を配設した台座と,台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において,前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜機。


請求項2~9に係る各発明(以下本件発明2~9という。)は,本件発明1に従属し,本件発明1の発明特定事項をすべて含む。

3
本判決の用語について
⑴鋼矢板圧入引抜機を単に圧入機ということがある。⑵既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプすることを正規状態で(の)施工ということがある。これに対し,先頭ではなく2枚目をクランプすることを2枚目クランプ状態で(の)施工ということがある。


鋼矢板の継手ピッチは,通常,鋼矢板の幅によって定まる。したがって,鋼矢板の継手ピッチが400mmであることと400mm(の幅)の鋼矢板を施工することとはほぼ同義であるので,特に区別せずに用いるほか,更に略して,単に400mmの場合等ということがある。
第3本件審決の要旨
1
本件発明1について請求人(原告)が主張した無効理由


引用発明
本件原出願日前に公然実施された圧入機WP-150(以下甲1圧入機という。)から,次の引用発明を認定することができる(以下甲1発明という。甲1-1は甲1圧入機の取扱説明書である。)。下方にクランプを配設したサドルと,サドル上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて圧入引抜シリンダーが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック本体とを具備してなる鋼矢板圧入・引抜機において,前記クランプは,サドルの下面に形成した複数のクランプガイドに,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプを組み替え可能に装備するとともに,複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とするとともに,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mmであっても前記既設のU型の鋼矢板を先頭からではないがクランプ可能とした,鋼矢板圧入・引抜機。⑵

一致点
下方にクランプ装置を配設した台座と,台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において,前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに,相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした鋼矢板圧入引抜機。


相違点
既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした構成について,本件発明1では,継手ピッチ400mm,500mm,600mmのいずれであっても既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能なのに対し,甲1発明では,継手ピッチ500mm,600mmのみ可能であって,継手ピッチ400mmのものは,既設のU型の鋼矢板をクランプ可能であるが,先頭の鋼矢板をクランプするものではない点。
(判決注:この相違点を,上記第23の用語により言い換えると,次のとおりである。

400mmの場合,本件発明1では正規状態で施工できるのに対して,甲1発明では正規状態で施工できず2枚目クランプ状態で施工する点。

)⑷

相違点の容易想到性

甲1発明において,400mmの場合に正規状態で施工できないことの原因は,チャック装置の幅寸法が大きいためにチャック装置と台座とが干渉するという問題(以下干渉問題という。)が生じることにあった。
イ(無効理由1)
圧入する対象に応じて一体型チャックフレームを適宜交換することは公知であり,かつ,400mmの場合は小さな一体型チャックフレームで足りることは公知であった。
したがって,甲1発明において,500mm・600mm用の一体型チャックフレームに加えて,400mm用の小さな一体型チャックフレームを用意し,400mmの場合には小さな一体型チャックフレームに交換することによって干渉問題を解決し,400mmの場合でも正規状態で施工できるようにすることは,当業者が容易に想到し得た。
ウ(無効理由2)
圧入する対象に応じて先端のチャック装置のみを適宜交換する着脱式チャック装置は公知又は周知であり,かつ,400mmの場合に小さなチャック装置で足りることも公知又は周知であった。
したがって,甲1発明において,チャックフレームは共通化し,着脱式チャック装置を備え,500mm・600mm用のチャック装置に加えて,400mm用の小さなチャック装置を用意し,400mmの場合には小さなチャック装置に交換することによって干渉問題を解決し,400mmの場合でも正規状態で施工できるようにすることは,当業者が容易に想到し得た。
2
本件発明1の進歩性についての本件審決の判断


引用発明の認定及びこれと本件発明1との対比は,請求人(原告)の主張(上記1の⑴~⑶)のとおりである。


相違点の容易想到性について

甲1-1では,400mmの場合には,2枚目クランプ状態で施工することが図示されている。また,本件原出願日前に公然実施されていた圧入機WP-100(以下甲6圧入機という。甲6-1は甲6圧入機
の取扱説明書である。)は,甲1圧入機と同様にクランプの組替えによって600mm・500mm・400mmの鋼矢板の施工を1台で可能とする機器であるところ,甲6-1には,400mmの場合について,甲1-1の上記図示と同一の図に加えて,圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり,共下がりすることがありますので,圧入する矢板の手前の矢板とクランプしている矢板を溶接止めして下さい。との記載(以下溶接事項記載という。)がある。
甲1-1の上記図示によれば,甲1発明においては,400mmの場合には2枚目クランプ状態で施工することを前提としていたものと認められる。このことは,甲6圧入機について,甲6-1の溶接事項記載において400mmの場合には2枚目クランプ状態で施工する旨が説明されていることとも整合する。

イ(無効理由1について)
甲2-1~2-3には,鋼矢板の種類に応じて一体型チャックフレームを交換することが開示されているが,400mm・500mm・600mmの鋼矢板を1台で施工するときには一体型チャックフレームを交換せずに施工しており,400mmの場合に小さな一体型チャックフレームに交換することは,記載も示唆もされていない。
甲3~5,11(各枝番含む。)には,鋼矢板の種類に応じて異なるチャック装置を使用することが開示されているが,400mm・500mm・600mmの鋼矢板を1台の圧入機で施工することは記載も示唆もされていない。
甲1-1,3-2,6-1,10-1,12には,2枚目クランプ状態での施工の場合,装置に過負荷がかかること,共下がり・共上がりが生じることが開示されているが,400mm・500mm・600mmのいずれの場合も正規状態で施工可能とすることは記載も示唆もされていない。そして,甲2~6,9~14(各枝番含む。)のいずれにも,400mm・500mm・600mmのいずれの場合も正規状態で施工可能とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると,上記アのとおり400mmの場合は2枚目クランプ状態で施工することを前提としていた甲1発明において,一体型チャックフレームの交換によって,400mm・500mm・600mmのいずれの場合であっても正規状態で施工可能とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また,2枚目クランプ状態での施工には上記の課題(装置への過負荷,共下がり・共上がり)があるとしても,甲1発明は,400mmの鋼矢板の場合は2枚目クランプ状態で施工することを前提とするから,同課題を解決するために,継手ピッチが400mm・500mm・600mmのいずれであっても正規状態で施工可能とする特定の構成を採用することが当業者にとって容易であったとはいえない。
ウ(無効理由2について)
甲3~6,9~14(各枝番含む。)のいずれにも,400mm・500mm・600mmのいずれの場合も正規状態で施工可能とすることは記載も示唆もされていない。そうすると,1台の圧入機では,400mmの場合には正規状態で施工できないことを前提としていた甲1発明において,400mm・500mm・600mmのいずれの場合も正規状態で施工可能とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
3
本件発明2~9について
請求人(原告)は,本件発明1の進歩性欠如による無効を前提に,本件発明2~9で付加された構成も進歩性を基礎付けるものではない旨主張した(なお,本件発明1~3,8,9については無効理由1及び2の両方を,本件発明4~7については無効理由2のみを主張した。)
本件審決は,本件発明1についての無効理由1及び2はいずれも成り立たず本件発明1が進歩性を欠くとはいえないとの判断を前提に,更に構成を限定した本件発明2~9も進歩性を欠くとはいえない旨判断した。

第4当事者の主張
1
原告の主張(審決取消事由)
原告は,本件審決の引用発明の認定及び本件発明1との対比は争わず,相違点の容易想到性の判断の誤りを主張している。
⑴(課題の認識及び解決への動機付け)
甲1発明では,400mmの場合に2枚目クランプ状態で施工することによって,重大な問題(装置への過負荷,圧入引抜力の制限,共下がり・共上がりの発生等)が発生している。したがって,甲1発明において,かかる重大な問題を解決するための,強い動機付けが認められる。
甲1発明において400mmの場合には正規状態で施工できず2枚目クランプ状態で施工すること(本件発明1との相違点)の原因は,甲1発明のチャック装置の横寸に基づく干渉問題による。当業者にとって,甲1発明に干渉問題が存在することは自明であった。
本件原出願時に,400mmの鋼矢板の施工専用に用いる圧入機(以下400mm専用機という。)は周知であり,400mm専用機ではチャック装置が小さいため干渉問題が生じず,正規状態で施工できることも周知であった。
甲1発明において干渉問題が存在するのは,400mmの場合にも500mm・600mm用の大きなチャック装置を用いているためであること,干渉問題の解決のために400mm用の小さなチャック装置を用いればよいことも自明である。当業者は,この自明の理を,甲1発明自体の構成と,400mm専用機では干渉問題は生じないという周知の事実から認識するのであり,開示又は示唆は不要である。
⑵(取消事由1:無効理由1についての判断誤り)本件原出願時に,圧入機の技術分野において,圧入する対象に応じて最適な一体型チャックフレームと交換する手段が,公知の手段として存在していた。すると,上記⑴のとおり,甲1発明において,400mm用の小さなチャック装置を用いれば干渉問題を解消できることは自明であることから,必要に応じて,甲1発明の500mm・600mm用チャック装置を備えた一体型チャックフレームから,400mm用の小さなチャック装置を備えた周知の一体型チャックフレームへと交換することは,甲2及び甲18の教示により当業者が容易に想到することである。
⑶(取消事由2:無効理由2についての判断誤り)本件原出願時に,圧入機の技術分野において,圧入する対象に応じて先端のチャック装置の部分を交換できるものとする着脱式チャック装置は周知であった。すると,上記⑴のとおり,甲1発明において,400mm用の小さなチャック装置を用いれば干渉問題を解消できることは自明であることから,甲1発明の一体型チャックフレームに代えて,周知の着脱式チャック装置を採用し,400mmの鋼矢板を施工する際には400mm用の小さなチャック装置を用いるものとすることは,上記周知技術を知る当業者が容易に想到することである。
2
被告は,3期日にわたって適式な呼出しを受けながらいずれの口頭弁論期日にも出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しない。

第5当裁判所の判断
1
取消事由1及び2について



引用発明の認定及び本件発明1との対比について
原告は,本件審決の引用発明(甲1発明)の認定並びに一致点及び相違点の認定を争っておらず,当裁判所も,これらの認定を相当と認める。


技術常識について
証拠(甲1-1,6-1,10-1,12)によれば,本件原出願時の技術常識として次を認定できる。

鋼矢板圧入引抜機は,通常,正規状態で施工するものであり,正規状態での施工には,既設のU型の鋼矢板から強力な反力が得られ,共上がりや共下がりが発生しないという利点がある。


2枚目クランプ状態での施工には,過負荷がかかるため圧入機が不安定化し,圧入引抜力が制限されるという問題点がある。


チャック装置が大きすぎる場合には,チャック装置が本体側に近づくと干渉問題が発生するために,正規状態での施工が不能になることがある。


周知事項について
後掲各証拠によれば,本件原出願時において次の事項が当業者にとって周知であったと認定できる。

鋼矢板圧入引抜機には,圧入施工する対象(U型の鋼矢板,ハット形の鋼矢板,鋼管矢板等)に合わせてチャック装置の交換が可能な構成が採用されている。具体的には,チャック装置の交換は,一体型チャックフレームの交換や着脱式チャック装置の交換という公知又は周知の手段によって実現される(甲2-2・2-3,3-2・3-3,4-2・4-3,5-1・5-2,10-1,11,18~25)。

継手ピッチ400mmのU型鋼矢板用のチャック装置には,幅が大きな鋼矢板(例えば,φ600~φ1000mmの鋼管矢板,有効幅900mmのハット形鋼矢板)に用いられるチャック装置と比べて,幅が小さいものが使用される(甲2-2・2-3,13-2,14-1~14-3)。


相違点の容易想到性について
正規状態での施工の利点(上記⑵ア)及び2枚目クランプ状態での施工の問題点(同イ)にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能になるように構成することを当業者は動機付けられるといえる。
ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上記⑵ウ)。この干渉問題を解決するために,上記⑶の周知事項を適用して,必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備える一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規状態での施工が可能になるように構成することは,当業者が容易に想到し得たことといえる。
なお,本件特許の明細書の【0027】には,従来技術の説明として,溶接事項記載に相当する記載があるが,溶接の工程にはそれなりの手間や費用を要する上に,溶接した鋼矢板は,その再利用にも支障が生じ得ることなどを踏まえると,鋼矢板の溶接は,あくまでも次善の策にすぎず,当業者としては,より抜本的な解決策の採用に向けて動機付けられるであろうことは否定できない。そうすると,溶接事項記載の存在により,相違点に係る本件発明1の構成を採用することが阻害されるとはいえない。
2
第2次審決(甲7-1)との関係について
なお,甲7の1,2によれば,本件審判手続と第2次審決に係る無効審判手続とでは,類似の無効理由が主張されていたことが認められるので,第2次審決との抵触等が問題にならないではないが,同証拠によれば,両者で主張された無効理由は,主引例が異なる上に,その根拠として提出された証拠にも違いがあることが認められるから,本件において,原告が,甲1発明に基づく進歩性欠如を主張することが,第2次審決の効力に違反するものではないし,また,その主張が既に決着済みの問題を蒸し返すものであって信義則に違反するとまで認めるに足りる証拠もない。

3
結論
以上によれば,本件発明1について,原告主張の取消事由1及び2はいずれも理由があるから,本件審決を取り消すべきである。また,本件発明2~9についても,本件審決の判断は,本件発明1に無効理由がないからその従属請求項である本件発明2~9にも無効理由はないとするものであり,付加された構成の容易想到性を判断していないので,この点を判断させるため,本件審決を取り消すべきである。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
上田卓哉都野道紀
裁判官
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