判例検索β > 令和2年(わ)第947号
所得税法違反
事件番号令和2(わ)947
事件名所得税法違反
裁判年月日令和2年9月14日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第12刑事部
裁判日:西暦2020-09-14
情報公開日2020-10-22 16:00:19
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主文
被告人を懲役1年及び罰金800万円に処する
その罰金を完納することができないときは,金4万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,大阪市a区bc丁目d番e号所在のfg号に居住し,同所において,インターネット販売サイト上で音響機器等を販売する事業及び不動産賃貸業を営んでいたものであるが,自己の所得税を免れようと企て,居住実態がない住所に住民登録をして住民登録と実際の住所が異なる状態を生じさせる方法により,その所得を隠匿した上,別表記載のとおり,平成26年分から平成29年分までの4年分における総所得金額,これに対する所得税額,所得税及び復興特別所得税額,その申告納税額並びにそのうちの所得税額がそれぞれ同表記載のとおりであったにもかかわらず,同表記載の各法定納期限までに,a区hi丁目j番k号所在の所轄A税務署長に対し,
所得税及び復興特別所得税の確定申告書を提出しないで同期限を徒過させ,もって不正の行為により,同表記載の各年分の所得税額及び復興特別所得税額の申告納税額のうちの所得税額合計3,189万0,205円につき所得税を免れた。(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1

本件の争点等
被告人は,平成22年頃から個人で輸入するなどした音響機器等をインターネットオークションサイトで販売する事業を営み,平成23年頃から不動産賃貸業を営んで,それらの事業により収益を上げていたにもかかわらず,事業開始から一貫して確定申告をせず,別表記載の各法定納期限までに被告人が確定申告書を提出しなかったことについては前掲各証拠から容易に認められる。検察官は,被告人が,①居住実態がない住所に住民登録をしたこと,②他人名義の銀行口座から仕入代金を海外の仕入先に送金したこと,③他人名義を含む多数のオークションサイトIDを使用して販売取引をしたこと,④自己の所得を0円であるなどと記載した市・県民税申告書を提出したことが,上記の各不申告に関する所得秘匿工作に当たると主張する。
これに対し,弁護人は,被告人が上記①から④までの各行為を行ったことは事実であるが,これらの行為は,所得税をほ脱する意図によるものではなく,税務当局の調査を困難にさせるものでもないから,
いずれも所得税法238条1項
の偽りその他不正の行為の前提となる所得秘匿工作には当たらず,被告人には同条3項違反の罪が成立するにとどまり,平成26年分の所得税ほ脱については公訴時効期間経過後の起訴であるから免訴の判決を言い渡すべきである旨主張する。
当裁判所は,上記①の行為のみ,所得秘匿工作に当たる,すなわち,被告人が,ほ脱の意図をもって,所得税の賦課徴収を困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行ったものといえると判断したものであるが,以下,上記②から④までの行為がこれに当たらないとした点を含め,その理由を説明する。
第2
1
当裁判所の判断
①居住実態がない住所への住民登録について
(1)

税の賦課徴収を困難ならしめる行為といえるか
前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。すなわち,被告人は,平成22年7月頃から,
京都市l区内のマンション
(以下
l住所
という。

に居住し,平成24年6月頃から大阪市x区内に,平成26年5月頃から大阪市a区bc丁目d番e号所在のfg号室(以下被告人方という。)に居住する一方,住民登録は,平成26年1月に不動産取得税の軽減のため一時的に京都府舞鶴市内に登録したほかは,l住所に登録していたところ,平成26年9月18日頃にl税務署が税務調査の事前通知を行った直後の同月24日,l住所から,母親らの住む実家で被告人の居住実態のない兵庫県三田市mn丁目o番p号(以下三田住所という。)に,転出日を同月12日と遡らせた転出届を提出して住民登録をした。被告人は,その後も平成30年3月30日まで被告人方に居住する一方,住民登録については,平成27年5月に不動産取得税を軽減するため一時的に奈良県五條市に登録したほかは,三田住所に登録していたが,平成29年9月20日に大阪国税局職員らが被告人方等を訪問するなどした後の同年10月4日,大阪市a区qr丁目s番t号所在のuv号室(以下u住所という。)に転出する旨の転出届を提出して同所に登録した。
上記の事実をもとに検討するに,税務署は,原則としてその管轄区域内に住所を有する納税義務者を対象として所得税の賦課徴収に当たるため,納税義務者が居住実態のない住所に虚偽の住民登録を行うことで居住実態と住民登録が異なる状態が生じると,当該納税義務者につき管轄を有すべき税務署において,当該納税義務者の存在自体を把握できず,これを把握しても当該納税義務者が居住地等につき虚偽を述べるなどして,税務調査に着手しても所得の把握が困難になるといった事態が生じ,税の賦課徴収が困難となる。本件において,被告人が三田住所やu住所に虚偽の住民登録をすることにより,判示の各年分を通じて住民登録と居住実態とが異なる状態が継続していたのであるから,被告人が三田住所等に虚偽の住民登録をしていたことは,判示の各年分の所得税の賦課徴収を困難ならしめる行為である。このことは,l税務署が被告人に調査の事前通知を発送したものの,三田住所への住民登録により調査が実施されず,インターネット販売を端緒に被告人を把握した大阪国税局も被告人の住居地の確定に時間を要するなどして,上記l税務署の事前通知から大阪国税局職員が被告人方を訪問等するまでに約3年間を要していることからも明らかである。イ
これに対して,弁護人は,平成27年分及び平成28年分の所得税に関しては,各年中に被告人が虚偽の住民登録をしておらず,所得秘匿工作は行われていない旨主張する。しかし,虚偽の住民登録によって居住実態と住民登録が異なる状態が継続していれば,被告人の居住地を管轄する税務署において税の賦課徴収が困難な状態も継続する一方,虚偽の住民登録先である三田住所の所轄税務署等が被告人の実際の住居を把握することも困難になるのであるから,平成26年9月に三田住所に虚偽の住民登録をし,その状態を継続したことにより,同年分以降の所得税の賦課徴収をも困難ならしめたことは明らかである。
また,弁護人は,平成29年分の所得税に関して,大阪国税局は当時既に種々の調査により被告人の住居を把握していたこと,
被告人の住民登録
(u
住所)と実際の住居はいずれもA税務署の管轄内にあったことから,住民登録と実際の住居が異なることにより税の賦課徴収が困難になったことはない旨主張する。しかし,税務署等が納税義務者の住居と思しき場所を把握したとしても,
真実の住居がいずこであるのか調査する必要が生じるし,
納税義務者の工作等により調査が奏功せず所得の把握に至らないこともあり得る。現に,本件では,被告人がu住所に虚偽の住民登録をする前後を通じ,被告人及びその妻が大阪国税局職員らに対して別人を装って虚偽を述べている。住民登録と実際の住居が同じ管轄内であっても,管轄の問題が生じないというだけで,実際の住居が判明せず税の賦課徴収が困難になる危険があることには変わりない。

(2)

ほ脱の意図に基づくものといえるか
前記のとおり,虚偽の住民登録によって居住実態と住民登録が異なる状態が継続していれば,税の賦課徴収が困難な状態が将来にわたって継続することは明らかであり,税務署には管轄の問題があるため虚偽の住民登録によって税務調査が困難になるということを認識していた被告人は,このことも当然に認識していたものと認められる。これに加え,被告人が,事業開始以来,本件各犯行に至るまで確定申告を一切行わず,確定申告を強く促す親族に対してその意思はない旨を明言していたことも併せ考えれば,被告人は,虚偽の住民登録が法定納期限到来前の年分の所得税の税務調査をも困難にさせることを理解した上で,
あえて虚偽の住民登録をした,
すなわちそれらの所得税に関するほ脱の意図をもって虚偽の住民登録をしたものと優に認められる。

これに対し,弁護人は,被告人が平成26年9月及び平成29年10月に虚偽の住民登録をしたのは,既に法定納期限を過ぎている所得税の税務調査を免れるためであって,まだ法定納期限が到来していない所得税の税務調査を予期し,これを免れるためにしたものではないから,被告人には,判示の各年分の所得税をほ脱する意図はなかった旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
確かに,被告人が平成26年9月に提出した転出届が転出日を遡らせたものであったこと,被告人が平成29年9月頃に妻に対して時効で少しでも昔の分の税金を払わなくて済めばよいとの発言をしたことからすれば,被告人が,既に法定納期限を過ぎた年分の所得税を免れることを強く意識していたことはうかがわれる。
しかし,既に法定納期限を過ぎた所得税を免れる意思と今後法定納期限が到来する所得税を免れる意思とは,併存し得るのであって,被告人が虚偽の住民登録をする際に居住実態と住民登録が異なる状態を解消させる見通しがあったわけでもないことにも照らし,前者の意思をもって後者の意思を否定することはできない。そして,本件では,前記アのとおり,被告人は,虚偽の住民登録によって税の賦課徴収が困難な状態が将来にわたって継続することを認識し,本件各犯行まで確定申告を一切行わず,その意思がない旨明言していたのであって,このような所得税を払いたくないという意思は,既に法定納期限を過ぎた所得税を免れる意思と今後法定納期限が到来する所得税を免れる意思を包摂するものとすらいえることにも照らし,被告人には後者の意思もあったと認められる。後者の意思を否定する被告人の供述は不合理であって信用できず,弁護人の主張は採用できない。
(3)

以上によれば,被告人が三田住所やu住所に虚偽の住民登録をしたこと
は,所得秘匿工作に当たる。
2
他人名義の銀行口座からの仕入代金の送金について
関係各証拠によれば,被告人は,平成24年夏頃以降,商品の仕入れを知り合いの中国人であるBの母を介して行うこととし,その仕入代金を,C銀行の被告人名義の口座のほか,妻,実父,実母及び義母の名義でそれぞれC銀行に開設した口座(以下,併せて借名口座という。)から送金するなどしていたこと,被告人の仕入代金の送金のうち,借名口座からの送金額が約8割であったことが認められる。
仕入代金の送金に被告人以外の名義の口座を使えば,被告人の事業における仕入れの実態,ひいては事業規模等の把握が困難になるため,上記の行為は,客観的には税の賦課徴収を困難ならしめる行為ということができる。もっとも,被告人は,借名口座から仕入代金を送金したのは,仕入先であるBの母に仕入代金を送金するに当たり,C銀行の口座からの海外送金の上限額が1年当たり300万円であったのに対し,
送金を要する仕入代金がこれを大きく
上回るものであったためである旨供述するところ,同供述は,C銀行の送金上限額や,借名口座の利用状況とよく整合しており,信用することができる。検察官は,被告人が上記のような理由で借名口座を利用していたとしても,ほ脱の意図が併存すらしていなかったとは考え難い旨主張する。しかし,仕入代金に係る口座の全てを他人名義として,被告人が当該事業を行っていること自体を隠蔽したり,売上とこれに対応する仕入を隠匿したりするのであればともかく,仕入代金のみを隠匿することは,所得が実態よりも多いかのような外観につながり得るもので,所得を隠匿する方法としてはやや迂遠である。送金の必要性に応じて借名口座を利用していた被告人が,借名口座の利用に,送金上の便宜とは性質の異なる,所得秘匿工作の側面があることまでも認識していたと認めるには,なお合理的疑いが残るといわざるを得ない。
なお,証拠によれば,被告人は,平成29年10月頃から平成30年6月頃までの間に,妻に対して,国税局はC銀行の被告人名義の口座からは被告人の事業規模等を把握できない上,被告人以外の銀行口座は直ちに把握できないとする趣旨の発言をしたことが認められる。しかし,これらの発言は,判示の各年分の法定納期限より後にされたか,その疑いが残るものであって,これらの発言をもって,被告人が,本件各犯行の時点において,借名口座からの仕入代金の送金が所得秘匿工作としての客観的意味を有することを認識していたと認めることはできない。
したがって,被告人が借名口座から仕入代金の送金を行ったことは,所得秘匿工作に当たるとは認められない。
3
他人名義を含む多数のオークションサイトIDを使用して販売取引をしたことについて
関係各証拠によれば,被告人は,前記音響機器等の販売事業に当たり,平成22年5月から平成29年9月までの間に取得した11個の
Yahoo!ID
(以下単に
アカウントという。)を用いてヤフーオークションでの出品を行っていたことが認められる。単に複数のアカウントを用いて商品の出品を行うのみならず,アカウントの登録名義と売上金の入金口座の名義人が異なる場合,税務当局は,
当該取引及び売上げの帰属主体を調査することが必要となり,十分な確証が得られない場合には,売上げの帰属主体を認定することができず,税の賦課徴収が困難となる危険があるといえる。そして,上記11個のアカウントのうち,登録名義と売上金の入金口座の名義人が異なるのはD,E,Fの3個であり,これらのアカウント(以下偽名アカウントという。)からの出品は,上記のとおり,税の賦課徴収を困難ならしめるものといえる(なお,Gのアカウントの住所は名古屋市w区であるが,登録名義も入金口座名義も被告人であり,同アカウントからの出品が税の賦課徴収を困難にするとまではいえない。)。
したがって,被告人が偽名アカウントを取得し,同アカウントから商品を出品したことは,所得税の賦課徴収を困難ならしめる行為といえる。もっとも,被告人のヤフーオークションでの出品件数は,アカウントの登録名義と売上金の入金口座の名義人の情報が一致しているHのアカウントからの出品が約9割を占めている。そして,偽名アカウントの売上金も,被告人名義の銀行口座に入金されていたことが認められる。仮に被告人が偽名アカウントの使用によって売上金を秘匿しようと考えていたとすれば,商品を出品するアカウントをより分散したり,入金口座を借名口座等の別の名義人のものにしたりする方がより効果的かつ自然であると考えられるところ,被告人においてそのような行為に出ることが困難であったとの事情は認められない。そうすると,被告人が偽名アカウントを取得し,同アカウントから出品をしたことが,売上金を秘匿する意図のもと行われたものであるかについては疑問の余地がある。
なお,偽名アカウントのうち,
Fのアカウントについては,他のアカウン
トと異なって,被告人やその親族以外の氏名が登録名義に使われ,その住所も埼玉県川口市とされている上,国税局が被告人方を訪問した約1週間後に取得されている。しかし,このアカウントも,売上金の入金口座は飽くまで被告人名義である。また本件全証拠によっても,被告人が偽名アカウントを含む各アカウントから商品を出品した時期の先後関係等は明らかではなく,上記Fのアカウントを使用し始めた頃に自己名義のアカウントの使用を取りやめたなどの事情を認定することもできない。かえって,国税局の調査が差し迫った段階でこのように中途半端な所得秘匿工作に出ることは不自然ともいい得る。このように,上記Fのアカウントからの出品についても,ほ脱の意図によるものと認定することにはなお合理的な疑いが残る。
以上によれば,被告人が偽名アカウントを取得し,同アカウントから商品を出品したことにつき,ほ脱の意図があったと認めることはできない。したがって,被告人が他人名義を含む多数のオークションサイトIDを使用して販売取引をしたことが,所得秘匿工作に当たるとはいえない。4
内容虚偽の市・県民税申告書の提出について
関係各証拠によれば,被告人は,平成27年6月,平成28年6月及び平成29年7月の3回にわたり,長男の保育園に関する手続のため兵庫県三田市役所に所得・課税証明書の発行を求めた際,市役所側から市・県民税申告書の作成を求められ,所得金額の合計額が0円で,貯金を取り崩して生活している旨内容虚偽の記載をした市・県民税申告書を提出したことが認められる。
この点につき検察官は,兵庫県三田市に対して所得がない旨虚偽申告することは,同市と税務署との間で本来提供されるべき情報が提供されなかったりするなどして,税務当局による所得の把握を困難にするもので,被告人もこれを意図して虚偽の申告をした旨主張する。しかし,市・県民税を含む住民税は,前年の所得金額を課税標準とするものである(地方税法32条1項,313条1項)から,内容虚偽の市・県民税申告書の提出は,直接的には,既に所得税の法定納期限を過ぎている前年分の所得のみを秘匿する工作としての意味合いを有するにすぎない。確かに,内容虚偽の市・県民税申告書を提出することで,前年分の所得に対する税務調査等の契機が失われ,その結果として,法定納期限が到来していない,市・県民税申告書を提出した年の所得に対する税務調査等の契機も失われるという意味で,間接的に当該年分の所得税の賦課徴収が困難となる面がないとはいえない。しかし,このような間接的な影響をもって所得秘匿工作に該当するとすれば,特定の年分の不申告に関係する所得秘匿工作が,将来の全ての年分との関係でも調査の契機を失わせたとして所得秘匿工作に当たるということになりかねず,相当ではない。
以上によれば,前年の所得に関する内容虚偽の市・県民税申告書の提出をもって,当該年分の所得税に係る所得秘匿工作に当たるということはできない。5
なお,検察官は,被告人が,遅くとも平成25年頃から実姉に確定申告をするよう忠告されるなどしていたにもかかわらず,ネット販売を開始した平成22年頃から一切所得税の確定申告をせず,会計帳簿も作成していなかったこと,平成26年1月頃以降,税金を支払わないという趣旨の発言を繰り返していたこと等からすれば,被告人には一貫した強固な所得税ほ脱の意思が認められ,検察官主張の前記①から④までの各行為はその強固なほ脱の意思に基づく一連の行為である旨主張する。しかし,被告人が一貫した強固なほ脱の意思を有していたとは認められるものの,当然にその行為全てがほ脱の意図に基づいてなされたということはできず,被告人がどのような意図でそれぞれの行為に出たのかについては,上記のような強固なほ脱の意思を念頭に置きつつも,個別的に検討判断する必要がある。そして,検察官主張の各行為がほ脱の意図に出たものか否かについては,既に個別に認定判断したとおりである。

第3

結論
以上によれば,検察官の主張する前記①から④までの各行為のうち,所得秘匿工作に当たると認められるのは,同①の虚偽の住民登録のみであるものの,前記のとおりの住民登録の状況やこれによる調査の遅延等に鑑みると,同①の行為のみをもって,本件に係る各不申告についての所得秘匿工作に当たると認めるに十分である。
したがって,被告人は,判示の4年分の所得税について,判示のとおり,所得秘匿工作をした上で所得税及び復興特別所得税の確定申告書を提出しなかった,すなわち,偽りその他不正の行為により所得税を免れたものと認められる。(法令の適用)


別表番号1及び2の各所為

いずれも平成26年法律第10号及び平成28年法律第
15号による改正前の所得税法238条1項

別表番号3及び4の各所為
刑種の選択
併合罪の処理
懲役刑につき

いずれも所得税法238条1項
いずれも懲役刑及び罰金刑の併科
刑法45条前段
刑法47条本文,10条(犯情の最も重い判示別表番
号3の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき
労役場留
刑法48条2項
(判示各罪所定の罰金の多額を合計)

刑法18条

刑の執行猶予

刑法25条1項(懲役刑につき)

訴訟費用の負担

刑事訴訟法181条1項本文

(量刑の理由)
本件のほ脱額は,4年分合計約3,000万円と,公判請求される所得税ほ脱事案の中で特に金額が大きいわけではないが,無申告ほ脱犯として,4年分の所得税全額を免れており,納税義務に大きく反する犯行である。被告人は,親族等から繰り返し納税の必要性を指摘されていたにもかかわらず,税務署や国税局から税務調査の通知等を受けるたびに虚偽の住民登録をして,居住実態と住民登録の乖離を生じさせるという巧妙な所得秘匿工作を続けたのであって,強固なほ脱の意思に基づく犯行は強い非難に値する。他方で,被告人は,期限後申告を行って,本税,延滞税及び無申告加算税の全額を納付している。なお,被告人に前科はない。以上によれば,被告人の刑事責任は軽いものとはいえないものの,本件においては社会内での被告人の更生を期するのが相当である。
被告人は,査察開始後,妻や義姉との間で口裏合わせを行い,公判においても不合理な弁解をしているのであって,公判ではこれまでの自らの納税態度に対する悔悟の言葉も述べるものの,それが真摯な反省に基づくものか疑問がないではない。そこで,被告人が,今後は顧問税理士と契約して,決算,帳簿作成の助言及び申告代理を依頼するなど一定の再発防止措置を講じた上で適正な納税を行う旨述べていること等も踏まえた上,被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し,懲役刑については比較的長期の期間を定めてその執行を猶予することとした。
(求刑

懲役1年及び罰金1,000万円)
令和2年9月16日
大阪地方裁判所第12刑事部

裁判長裁判官

増田啓祐
裁判官

坂本好司
裁判官

尾嶋翔

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