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損害賠償等請求事件
事件番号令和1(受)1190
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日令和2年10月13日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果その他
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成29(ネ)1842
原審裁判年月日平成31年2月20日
判示事項無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
裁判日:西暦2020-10-13
情報公開日2020-10-13 18:00:04
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令和元年(受)第1190号,第1191号
令和2年10月13日

第三小法廷判決

主1
損害賠償等請求事件


第1審被告の上告に基づき,原判決主文第2項を次
のとおり変更する。
第1審判決中,第1審原告X1及び第1審原告X2
に関する部分を次のとおり変更する。

(1)

第1審被告は,第1審原告X1に対し,33万0
880円及びうち原判決別紙控訴人X1の差額一覧記載の各金員に対する各日から,うち3万0080円に対する平成26年5月1日から各支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)

第1審被告は,第1審原告X2に対し,17万6
440円及びうち原判決別紙控訴人X2の差額一覧記載の各金員に対する各日から,うち1万6040円に対する平成26年5月1日から各支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)

第1審原告X1及び第1審原告X2のその余の請
求をいずれも棄却する。

2
第1審原告らの上告を棄却する。

3
訴訟の総費用のうち,第1審被告と第1審原告X1
との間で生じたものはこれを40分し,その1を第
1審被告の負担とし,その余を第1審原告X1の負
担とし,第1審被告と第1審原告X2との間で生じ

たものはこれを200分し,その3を第1審被告の
負担とし,その余を第1審原告X2の負担とする。
理由
令和元年(受)第1190号上告代理人髙橋一郎,同近衞大,同河本みま乃の上告受理申立て理由及び同第1191号上告代理人滝沢香ほかの上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除されたものを除く。)について
1
本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(以下有期労働契約と
いう。)を締結して東京地下鉄株式会社(以下東京メトロという。)の駅構内の売店における販売業務に従事していた第1審原告らが,第1審被告と期間の定めのない労働契約(以下無期労働契約という。)を締結している労働者のうち上記業務に従事している者と第1審原告らとの間で,退職金等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったなどと主張して,第1審被告に対し,不法行為等に基づき,上記相違に係る退職金に相当する額等の損害賠償等を求める事案である。2
原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)ア

第1審被告は,東京メトロの完全子会社であって,東京メトロの駅構内
における新聞,飲食料品,雑貨類等の物品販売,入場券等の販売,鉄道運輸事業に係る業務の受託等の事業を行う株式会社である。第1審被告の平成25年7月1日当時の従業員数は848名であった。
なお,第1審被告は,平成12年10月,営団地下鉄グループの関連会社等の再編成に伴い,売店事業を行っていた財団法人地下鉄互助会(以下互助会という。)から売店等の物販事業に関する営業を譲り受けるなどした。イ
第1審原告らは,いずれも高等学校等を卒業した後,社会人生活を経て,第
1審原告X2は平成16年4月,第1審原告X1は同年8月,それぞれ後記(2)エの契約社員Bとして第1審被告に採用され,契約期間を1年以内とする有期労働契約の更新を繰り返しながら,東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事し
ていた。第1審原告X2については平成26年3月31日,第1審原告X1については同27年3月31日,いずれも65歳に達したことにより上記契約が終了した。
(2)ア

第1審被告は,本社に経営管理部,総務部,リテール事業本部及びステ
ーション事業本部を設けており,リテール事業本部は基幹事業としてメトロス事業所を管轄し,同事業所が東京メトロの駅構内の売店を管轄している。平成26年4月当時,第1審被告の経営する売店110店舗のうち,56店舗は第1審被告の直営する売店METRO’S(以下,単に売店といい,売店における販売業務を売店業務という。)であり,その他の店舗は他社に業務を委託していた。その後,売上高の大きな割合を占めていた新聞及び雑誌の売上高の減少による不採算店舗の閉鎖や大手コンビニエンスストアとの提携によるコンビニ型店舗の展開等により,売店数は,平成27年8月時点で42店舗,同28年3月時点で25店舗にそれぞれ減少し,他方,コンビニ型店舗は平成28年度までに27店舗が開業するなどした。
第1審被告においては,従業員は,社員(以下正社員という。),契約社員A(平成28年4月に職種限定社員に変更)及び契約社員Bという名称の雇用形態の区分が設けられ,それぞれ適用される就業規則が異なっていた。イ
正社員は,無期労働契約を締結した労働者であり,定年は65歳であった。
正社員は,本社の経営管理部,総務部,リテール事業本部及びステーション事業本部の各部署に配置されるほか,各事業本部が所管するメトロス事業所,保守管理事業所,ストア・ショップ事業所等に配置される場合や関連会社に出向する場合もあった。平成25年度から同28年度までにおける第1審被告の正社員(同年度については職種限定社員を含む。)は560~613名であり,うち売店業務に従事していた者は15~24名であった。なお,第1審被告は,東京メトロから57歳以上の社員を出向者として受け入れ,60歳を超えてから正社員に切り替える取扱いをしているが,上記出向者は売店業務に従事していない。

正社員の労働時間は,本社では1日7時間40分(週38時間20分),売店勤務では1日7時間50分(週39時間10分)であり,職務の限定はなかった。また,正社員は,業務の必要により配置転換,職種転換又は出向を命ぜられることがあり,正当な理由なく,これを拒むことはできなかった。

契約社員Aは,主に契約期間を1年とする有期労働契約を締結した労働者で
ある。同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年(更新の上限年齢をいう。以下同じ。)は65歳と定められていた。契約社員Aは,契約社員Bのキャリアアップの雇用形態として位置付けられ,本社の経営管理部施設課,メトロス事業所及びストア・ショップ事業所以外には配置されていなかった。なお,平成28年4月,契約社員Aの名称は職種限定社員に改められ,その契約は無期労働契約に変更された。

契約社員Bは,契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した労働者で
あり,一時的,補完的な業務に従事する者をいうものとされていた。同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年は65歳と定められていた。なお,契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であった。
契約社員Bの労働時間は,大半の者が週40時間と定められていた。契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあったが,業務の内容に変更はなく,正社員と異なり,配置転換や出向を命ぜられることはなかった。

第1審原告らの就業場所は,リテール事業本部メトロス事業所管轄METR
O’S売店,従事する業務の種類は,売店における販売及びその付随業務であり,労働時間は,1日8時間以内(週40時間以内)であった。
(3)ア

正社員の賃金は月給制であり,月例賃金は基準賃金と基準外賃金から成
り,昇格及び昇職制度が設けられていた。基準賃金は,本給,資格手当又は成果手当,住宅手当及び家族手当により,基準外賃金は,年末年始勤務手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当等により,それぞれ構成されていた。本給は年齢給及び職務給から成り,前者は,18歳の5万円から始まり,1歳ごと
に1000円増額され,40歳以降は一律7万2000円であり,後者は,三つの職務グループ(スタッフ職,リーダー職,マネージャー職)ごとの資格及び号俸により定められ,その額は10万8000円から33万7000円までであった。正社員には,年2回の賞与及び退職金が支給されていた。賞与は,平成25年度から同29年度までの各回の平均支給実績として,本給の2か月分に17万6000円を加算した額が支給された。退職金は,第1審被告の作成した退職金規程により,計算基礎額である本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものと定められていた。

契約社員Aの賃金は月給制であり,月例賃金額は16万5000円(本給)
であった。これに加えて,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,早番手当,通勤手当その他の諸手当が支給され,本人の勤務成績等による昇給制度が設けられていた。
契約社員Aには,年2回の賞与(年額59万4000円)が支給されていたが,退職金は支給しないと定められていた。なお,契約社員Aについては,平成28年4月に職種限定社員に名称が改められ,その契約が無期労働契約に変更された際に,退職金制度が設けられた。

契約社員Bの賃金は時給制の本給及び諸手当から成っていた。本給は,時間
給を原則とし,業務内容,技能,経験,業務遂行能力等を考慮して個別に定めるものとされており,第1審原告らが入社した当時は一律1000円であったが,平成22年4月以降,毎年10円ずつ昇給するものとされた。諸手当は,年末年始出勤手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当,早番手当,皆勤手当等であり,資格手当又は成果手当,住宅手当及び家族手当は支給されていなかった。
契約社員Bには,年2回の賞与(各12万円)が支給されていたが,退職金は支給しないと定められていた。

第1審被告においては,業務上特に顕著な功績があった従業員に対し,褒賞
を行うものとされていたが,正社員には,勤続10年及び定年退職時に金品が支給されていたのに対し,契約社員A及び契約社員Bには,これらが支給されていなかった。
(4)ア

平成27年1月当時,売店業務に従事する従業員は合計110名であ
り,その内訳は,正社員が18名,契約社員Aが14名,契約社員Bが78名であった。このうち正社員は,互助会において売店業務に従事し,平成12年の関連会社等の再編成の後も引き続き第1審被告の正社員として売店業務に従事している者と,後記(5)の登用制度により契約社員Bから契約社員Aを経て正社員になった者とが,約半数ずつでほぼ全体を占めていた。なお,その後,上記の互助会の出身者が他の部署に異動したことがあったほか,平成28年3月には,売店業務に従事する従業員が合計56名に減少し,このうち正社員は4名となった。イ
販売員が固定されている売店における業務の内容は,売店の管理,接客販
売,商品の管理,準備及び陳列,伝票及び帳票類の取扱い,売上金等の金銭取扱い,その他付随する業務であり,これらは正社員,契約社員A及び契約社員Bで相違することはなかった。もっとも,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在になった販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を行っていたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務や売店の事故対応等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあり,契約社員Aも,正社員と同様に代務業務を行っていた。これに対し,契約社員Bは,原則として代務業務を行わず,エリアマネージャー業務に従事することもなかった。
(5)

第1審被告においては,契約社員Bから契約社員A,契約社員Aから正社
員への登用制度が設けられ,平成22年度から導入された登用試験では,原則として勤続1年以上の希望者全員に受験が認められていた。平成22年度から同26年度までの間においては,契約社員Aへの登用試験につき受験者合計134名のうち28名が,正社員への登用試験につき同105名のうち78名が,それぞれ合格し
た。
(6)

第1審被告は,第1審原告らが加入する労働組合との団体交渉を経て,契
約社員Bの労働条件に関し,平成21年以降,年末年始出勤手当,早番手当及び皆勤手当の導入や,年1日のリフレッシュ休暇及び会社創立記念休暇(有給休暇)の付与などを行った。
3
原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,第1審原告
らの退職金に係る不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも一部認容した。一般に,退職金には賃金の後払い,功労報償等の様々な性格があるところ,長期雇用を前提とする無期労働契約を締結した労働者(以下無期契約労働者という。)に対し,福利厚生を手厚くし,有為な人材の確保及び定着を図るなどの目的をもって退職金制度を設ける一方,本来的に短期雇用を前提とした有期労働契約を締結した労働者(以下有期契約労働者という。)に対し,これを設けないという制度設計自体は,人事施策上一概に不合理であるとはいえない。もっとも,第1審被告においては,契約社員Bは契約期間が1年以内の有期契約労働者であり,賃金の後払いが予定されているとはいえないが,原則として契約が更新され,定年が65歳と定められており,実際に第1審原告らは定年により契約が終了するまで10年前後の長期間にわたって勤務したことや,契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員として無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことを考慮すれば,少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理である。
したがって,売店業務に従事している正社員と契約社員Bとの間の退職金に関する労働条件の相違は,労使間の交渉や経営判断の尊重を考慮に入れても,第1審原告らのような長期間勤務を継続した契約社員Bに全く退職金の支給を認めない点において,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差
が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。
(2)ア

第1審被告は,退職する正社員に対し,一時金として退職金を支給する
制度を設けており,退職金規程により,その支給対象者の範囲や支給基準,方法等を定めていたものである。そして,上記退職金は,本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ,その支給対象となる正社員は,第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され,業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり,また,退職金の算定基礎となる本給は,年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。このような第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

そして,第1審原告らにより比較の対象とされた売店業務に従事する正社員
と契約社員Bである第1審原告らの労働契約法20条所定の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下職務の内容という。)をみると,両者の業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また,売店業務に従事する正社員については,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なく,これを拒否することはできなかったのに対し,契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあっても,業務の内容に変更はなく,配置転換等を命ぜられることはなかったものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下変更の範囲という。)にも一定の相違があったことが否定できない。
さらに,第1審被告においては,全ての正社員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが,売店業務に従事する正社員と,第1審被告の本社の各部署や事業所等に配置され配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは,職務の内容及び変更の範囲につき相違があったものである。そして,平成27年1月当時に売店業務に従事する正社員は,同12年の関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め,売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたものであり,上記再編成の経緯やその職務経験等に照らし,賃金水準を変更したり,他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があったことがうかがわれる。このように,売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえる。また,第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更
するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については,第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定のその他の事情(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて職務の内容等という。)として考慮するのが相当である。

そうすると,第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこ
れを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
なお,契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ,その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの,このことがその前に退職した契約社員Bである第1審原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。また,契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや,契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば,無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって,上記の判断を左右するものでもない。
(3)

以上によれば,売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方
で,契約社員Bである第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
5
以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令
の違反がある。この点に関する第1審被告の論旨は理由があり,他方,第1審原告らの論旨は理由がなく,第1審原告らの退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないから棄却すべきである。そして,同請求に関する部分以外については,第1審原告ら及び第1審被告の各上告受理申立て理由が上告受理の決定においてそれぞれ排除された。以上によれば,第1審原告X1の請求は,住宅手当,褒賞及び弁護士費用に相当する損害金としてそれぞれ22万0800円,8万円及び3万0080円の合計33万0880円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,第1審原告X2の請求は,住宅手当,褒賞及び弁護士費用に相当する損害金としてそれぞれ11万0400円,5万円及び1万6040円の合計17万6440円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これらを認容すべきであり,その余はいずれも理由がないから棄却すべきである。したがって,原判決中,第1審被告敗訴部分のうち上記の各金額を超える部分はいずれも破棄を免れず,第1審被告の上告に基づき,これを主文第1項のとおり変更することとし,また,第1審原告らの上告はいずれも棄却すべきである。
よって,裁判官宇賀克也の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官林景一,同林道晴の各補足意見がある。裁判官林景一の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に賛同するものであるが,本件の退職金に関する相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かの判断の在り方等について,若干の意見の補足をしたい。
1
労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違
が不合理と認められるか否かを判断するに当たっては両者の職務の内容等を考慮すべき旨を規定しており,その判断に当たっては,当該労働条件の性質やこれを定めた目的を踏まえて検討すべきものである。そして,原審が適法に確定した事実関係を前提とすれば,多数意見が述べるとおり,第1審原告らと比較の対象とされた売
店業務に従事する正社員の職務の内容等に相違があったことは否定できないところ,原審は,無期契約労働者に対してのみ退職金制度を設けること自体は人事施策上一概に不合理であるとはいえないとしつつ,上記の職務の内容等を十分に考慮することなく,契約社員Bの契約が原則として更新され,定年制が設けられ,第1審原告らが長期間にわたって勤務したこと等を考慮して,退職金に関する相違の一部を不合理と認められるものに当たると判断した。しかしながら,第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,多数意見が述べるとおり,原審が摘示した上記の諸事情を考慮しても,第1審原告らに対し退職金を支給しないことが不合理であるとまで評価することができるものとはいえないといわざるを得ない。
なお,有期契約労働者がある程度長期間雇用されることを想定して採用されており,有期契約労働者と比較の対象とされた無期契約労働者との職務の内容等が実質的に異ならないような場合には,両者の間に退職金の支給に係る労働条件の相違を設けることが不合理と認められるものに当たると判断されることはあり得るものの,上記に述べたとおり,その判断に当たっては,企業等において退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的をも十分に踏まえて検討する必要がある。退職金は,その支給の有無や支給方法等につき,労使交渉等を踏まえて,賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例であると考えられるところ,退職金制度を持続的に運用していくためには,その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があるから,退職金制度の在り方は,社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるものといえる。そうすると,退職金制度の構築に関し,これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は,比較的大きいものと解されよう。
2
更に付言すると,労働契約法20条は,有期契約労働者については,無期契
約労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,両者の労働条件の格
差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである(最高裁平成28年(受)第2099号,第2100号同30年6月1日判決・民集72巻2号88頁参照)。そして,退職金には,継続的な勤務等に対する功労報償の性格を有する部分が存することが一般的であることに照らせば,企業等が,労使交渉を経るなどして,有期契約労働者と無期契約労働者との間における職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは,同条やこれを引き継いだ短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の理念に沿うものといえる。現に,同条が適用されるに際して,有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり,有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり,その他にも,有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう。
裁判官林道晴は,裁判官林景一の補足意見に同調する。
裁判官宇賀克也の反対意見は,次のとおりである。
私は,多数意見とは異なり,本件の事実関係の下で,長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら契約社員Bに支給しないことが不合理であるとした原審の判断は是認することができ,第1審被告の上告及び第1審原告らの上告は,いずれも棄却すべきものと考える。その理由は,以下のとおりである。多数意見のいうように,第1審被告の正社員に対する退職金の性質やこれを支給する目的を踏まえ,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮して,退職金に係る労働条件の相違が不合理と評価することができるかどうかを検討すべきものとする判断枠組みを採ることには異論はない。また,林景一裁判官の補足意見が指摘するとおり,退職金は,その原資を長期間にわたって積み立てるな
どして用意する必要があること等からすれば,裁判所が退職金制度の構築に関する使用者の裁量判断を是正する判断をすることには慎重さが求められるということもできる。
しかし,契約社員Bは,契約期間を1年以内とする有期契約労働者として採用されるものの,当該労働契約は原則として更新され,定年が65歳と定められており,正社員と同様,特段の事情がない限り65歳までの勤務が保障されていたといえる。契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であるから,契約社員Bは,平均して約18年間にわたって第1審被告に勤務することが保障されていたことになる。他方,第1審被告は,東京メトロから57歳以上の社員を出向者として受け入れ,60歳を超えてから正社員に切り替える取扱いをしているというのであり,このことからすると,むしろ,正社員よりも契約社員Bの方が長期間にわたり勤務することもある。第1審被告の正社員に対する退職金は,継続的な勤務等に対する功労報償という性質を含むものであり,このような性質は,契約社員Bにも当てはまるものである。
また,正社員は,代務業務を行っていたために勤務する売店が固定されておらず,複数の売店を統括するエリアマネージャー業務に従事することがあるが,契約社員Bも代務業務を行うことがあり,また,代務業務が正社員でなければ行えないような専門性を必要とするものとも考え難い。エリアマネージャー業務に従事する者は正社員に限られるものの,エリアマネージャー業務が他の売店業務と質的に異なるものであるかは評価の分かれ得るところである。正社員は,配置転換,職種転換又は出向の可能性があるのに対して,契約社員Bは,勤務する売店の変更の可能性があるのみという制度上の相違は存在するものの,売店業務に従事する正社員は,互助会において売店業務に従事していた者と,登用制度により正社員になった者とでほぼ全体を占めており,当該売店業務がいわゆる人事ローテーションの一環として現場の勤務を一定期間行わせるという位置付けのものであったとはいえない。そうすると,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範
囲に大きな相違はない。
以上のとおり,第1審被告の正社員に対する退職金の性質の一部は契約社員Bにも当てはまり,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に大きな相違はないことからすれば,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。他方,多数意見も指摘するとおり,第1審被告の正社員に対する退職金は,職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いの性質も有するものであるし,一般論として,有為な人材の確保やその定着を図るなどの目的から,継続的な就労が期待される者に対して退職金を支給する必要があることは理解することができる。そして,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に一定の相違があることは否定できず,当該正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについて,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえること等も考慮すると,売店業務に従事する正社員と契約社員Bとの間で退職金に係る労働条件に相違があること自体は,不合理なことではない。退職金制度の構築に関する使用者の裁量判断を尊重する余地があることにも鑑みると,契約社員Bに対し,正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額を超えて退職金を支給しなくとも,不合理であるとまで評価することができるものとはいえないとした原審の判断をあえて破棄するには及ばないものと考える。
(裁判長裁判官
宇賀克也


裁判官

景一

裁判官

道晴)

戸倉三郎

裁判官

宮崎裕子

裁判官

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