判例検索β > 平成28年(行ウ)第169号
自衛隊出動差止め等請求事件(第1事件)、安保法制違憲駆け付け警護等差止請求事件(第2事件、第3事件)
事件番号平成28(行ウ)169
事件名自衛隊出動差止め等請求事件(第1事件),安保法制違憲駆け付け警護等差止請求事件(第2事件,第3事件)
裁判年月日令和2年3月13日
裁判所名東京地方裁判所
分野行政
裁判日:西暦2020-03-13
情報公開日2020-10-12 16:00:31
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和2年3月13日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成28年(行ウ)第169号
平成29年(行ウ)第373号

安保法制違憲駆け付け警護等差止請求事件(第2事件)

平成29年(行ウ)第394号
自衛隊出動差止め等請求事件(第1事件)

安保法制違憲駆け付け警護等差止請求事件(第3事件)

口頭弁論終結日

令和元年10月30日
判主1決文
第1事件に係る訴えのうち差止めを求める部分並びに第2事件及び第3事件に係る訴えをいずれも却下する。

2
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

(注
第1
略語は,
本文中で定義するもののほか,
別紙2略語一覧記載のとおりである。

請求

1
第1事件


内閣総理大臣は,自衛隊法76条1項2号に基づき自衛隊の全部又は一部を出動させてはならない。



防衛大臣は,重要影響事態法の実施に関し,

同法6条1項に基づき,自らは又は他に委任して,同法3条1項2号に規定する後方支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施してはな
らない。

同法6条2項に基づき,防衛省の機関又は自衛隊法8条に規定する部隊等に命じて,
重要影響事態法3条1項2号に規定する後方支援活動として,
自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。



防衛大臣は,国際平和支援法の実施に関し,

同法7条1項に基づき,自ら又は他に委任して,同法3条1項2号に規定する協力支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。

同法7条2項に基づき,自衛隊法8条に規定する部隊等に命じて,国際平和支援法3条1項2号に規定する協力支援活動として,自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。



被告は,原告らそれぞれに対し,10万円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
第2事件
防衛大臣は,国際平和協力法9条4項に基づき,自衛隊法8条に規定する部隊等に,同法3条5号ト若しくはラに掲げる国際平和協力業務又は同号トに類
するものとして同号ナの政令で定める国際平和協力業務を行わせてはならない。3
第3事件
防衛大臣は,自衛隊法95条の2に基づき,自衛官に,アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊の部隊の武器等の警護を行わせてはならない。
第2

事案の概要
内閣は,平成26年7月1日,国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備についてと題する新たな安全保障法制の整備のための基本方針を閣議決定し,平成27年5月14日,自衛隊法,国際平和協力法,重要影響事態法,事態対処法等の改正を内容とする平和安全法制整備法
及び国際平和支援法(平和安全法制関連2法)に係る各法律案を閣議決定し,上記各法律案は,同月15日,衆議院に提出され,その後両議院で可決されたことにより,同年9月19日,平和安全法制関連2法が成立した(以下,内閣及び国会による平和安全法制関連2法の制定に係る上記各行為を
本件各行為
という。)。

第1事件は,原告らが,行訴法3条7項の差止めの訴えとして,①内閣総理大臣による自衛隊法76条1項2号に基づく自衛隊の出動
(防衛出動
(命令),

②防衛大臣による重要影響事態法6条1項に基づく後方支援活動としての自衛隊に属する物品の提供の実施及び同条2項に基づく後方支援活動としての自衛隊による役務の提供の実施命令(後方支援活動としての物品の提供等),③防衛大臣による国際平和支援法7条1項に基づく協力支援活動としての自衛隊に属する物品の提供の実施及び同条2項に基づく協力支援活動としての自衛隊に
よる役務の提供の実施命令(協力支援活動としての物品の提供等)の各差止めを求めるとともに,本件各行為が違憲,違法であり,これにより,原告らが有するとする平和的生存権,人格権,憲法改正・決定権が侵害され,精神的苦痛を受けたとして,被告に対し,国賠法1条に基づき,原告らそれぞれにつき慰謝料10万円及びこれに対する平和安全法制関連2法の成立の日である平成2
7年9月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(以下,上記の国家賠償請求を本件国賠請求という。)。第2事件は,原告らが,行訴法3条7項の差止めの訴えとして,国際平和協力法9条4項に基づく同法3条5号ト(いわゆる安全確保業務)若しくはラに掲げる国際平和協力業務(いわゆる駆け付け警護)又は同号トに類するものと
して同号ナの政令で定める国際平和協力業務の実施の差止めを求める事案であり,第3事件は,原告らが,行訴法3条7項の差止めの訴えとして,自衛隊法95条の2に基づくアメリカ合衆国(以下アメリカという。)の軍隊その他の外国の軍隊の部隊の武器等の防護の警護(武器等防護)の実施の差止めを求める事案である(以下,第1事件に係る訴えのうち差止めを求める部分並び
に第2事件及び第3事件に係る訴えを併せて本件各差止めの訴えという。なお,本判決中,第2事件及び第3事件に関して原告らというときは,これらの事件の原告である者のみをいう。)。
1
関係法令等の定め
本件に関係する法令等の定めは,別紙3-1から3-5までに記載のとおりである(なお,上記各別紙中で定義した用語,略称等は,以下の本文においても同様に用いるものとする。)。
2
前提事実(公知の事実)


内閣は,平成26年7月1日,国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備についてと題する新たな安全保障法制の整備のための基本方針を閣議決定した(以下,この閣議決定を平成26年7月閣議決定という。)。⑵

内閣は,平成27年5月14日,平和安全法制関連2法(平和安全法制整備法及び国際平和支援法)に係る法律案を閣議決定し,内閣総理大臣は,同月15日,上記法律案を国会(衆議院)に提出した。



上記⑵の法律案は,平成27年7月16日に衆議院本会議で,同年9月19日に参議院本会議で,それぞれ可決され,平和安全法制関連2法が成立した。



平和安全法制整備法は,自衛隊法,国際平和協力法,重要影響事態法,事態対処法など10の法律の一部を改正する法律である。平和安全法制整備法により,①自衛隊法において,防衛出動命令及び武器等防護に関する法整備
が行われ(76条1項2号,95条の2等),②重要影響事態法において,後方支援活動に関する法整備が行われ(3条1項2号,2項,6条等),③国際平和協力法において,いわゆる安全確保業務,駆け付け警護などの業務(駆け付け警護等)に関する法整備が行われた(3条5号ト,ナ,ラ等)。また,新たに制定された国際平和支援法において,協力支援活動に関する
規定が設けられた(3条1項2号,2項,7条等)。


平和安全法制関連2法は,平成27年9月30日に公布され,平成28年3月29日に施行された。

3
争点


本件各差止めの訴えに関する争点

本件各差止めの訴えが適法であるか否か



本件各差止めの訴えが本案要件を充足するか否か
本件国賠請求に関する争点

アイ4
本件各行為が憲法9条等に違反し,国賠法上違法であるか否か
本件各行為による原告らの損害の発生の有無及び額

争点に関する当事者の主張


本件各差止めの訴えが適法であるか否か(争点⑴ア)(原告らの主張)

原告らが差止めを求める行為
原告らが差止めを求める行為は,
下記(ア)の内閣総理大臣又は防衛大臣に

よる事実行為と構成することができるところ,これらは原告らに対する直接の公権力の行使である(主位的主張。以下,この構成に基づき差止めを求める主張を本件主位的主張という。)。また,原告らが差止めを求める行為は,
下記(イ)の内閣総理大臣又は防衛大臣による自衛隊若しくはそ
の部隊等に対する行政機関における内部命令又は自衛官に対する命令と構
成することも可能であるところ,原告らはこれらの命令(処分)の名宛人ではないが,その取消しを求める法律上の利益を有する(予備的主張。以下,
この構成に基づき差止めを求める主張を
本件予備的主張
という。。

(ア)本件主位的主張の構成における差止めを求める行為
a
内閣総理大臣の命令による自衛隊法76条1項2号に基づく自衛隊の全部又は一部の出動(存立危機事態における防衛出動)

b
重要影響事態法の実施に関し,
防衛大臣が,
同法6条1項に基づき,
自ら又は他に委任して同法3条1項2号に規定する後方支援活動として行う自衛隊に属する物品の提供,及び防衛大臣が,同法6条2項に基づき,防衛省の機関又は自衛隊の部隊等(陸上自衛隊,海上自衛隊
又は航空自衛隊の部隊及び機関をいう。以下同じ。)に命じて同法3条1項2号に規定する後方支援活動として行わせる自衛隊による役務の提供(後方支援活動としての物品又は役務の提供)
c
国際平和支援法の実施に関し,
防衛大臣が,
同法7条1項に基づき,
自ら又は他に委任して同法3条1項2号に規定する協力支援活動として行う自衛隊に属する物品の提供,及び防衛大臣が,同法7条2項に基づき,自衛隊の部隊等に命じて同法3条1項2号に規定する協力支
援活動として行わせる自衛隊による役務の提供(協力支援活動としての物品又は役務の提供)
d
防衛大臣が国際平和協力法9条4項に基づき自衛隊の部隊等に行わせる,同法3条5号ト若しくはラに掲げる国際平和協力業務又は同号トに類するものとして同号ナの政令で定める国際平和協力業務の実施
(安全確保活動・駆け付け警護の実施等)
e
防衛大臣が自衛隊法95条の2に基づき自衛官に行わせる,アメリカの軍隊その他の外国の軍隊の部隊の武器等の防護のための警護の実施(武器等防護の実施)

(イ)本件予備的主張の構成における差止めを求める行為
a
自衛隊法76条1項2号に基づく内閣総理大臣による自衛隊の全部又は一部に対する出動の命令(防衛出動命令)

b
重要影響事態法の実施に関し,同法6条1項に基づく防衛大臣の,自ら又は他に委任して行う同法3条1項2号に規定する後方支援活動としての自衛隊に属する物品の提供を自衛官に行わせる命令,及び同
法6条2項に基づく防衛大臣の,防衛省の機関又は自衛隊の部隊等に対する同法3条1項2号に規定する後方支援活動としての自衛隊による役務の提供の実施の命令
c
国際平和支援法の実施に関し,同法7条1項に基づく防衛大臣の,自ら又は他に委任して行う同法3条1項2号に規定する協力支援活動としての自衛隊に属する物品の提供を自衛官に行わせる命令,及び同法7条2項に基づく防衛大臣の,防衛省の機関又は自衛隊の部隊等に対する同法3条1項2号に規定する協力支援活動としての自衛隊による役務の提供の実施の命令
d
国際平和協力法9条4項に基づく防衛大臣の,自衛隊の部隊等に対する同法3条5号ト若しくはラに掲げる国際平和協力業務又は同号ト
に類するものとして同号ナの政令で定める国際平和協力業務の実施の命令
e
自衛隊法95条の2に基づく防衛大臣の,自衛官に対するアメリカの軍隊その他の外国の軍隊の武器等の防護のための警護の命令


本件主位的主張に係る各行為につき処分性が認められること
(ア)処分性の判断基準
最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁(以下最高裁昭和39年判決という。)は,行政庁の処分とは直接国民の権利義務を形成し又はその範囲
を確定することが法律上認められているものをいうと判示するが,処分性が認められる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行訴法3条2項)は,上記の基準に当てはまるものに限られるものではなく,その後の最高裁判決(平成15年(行ヒ)第206号同16年4月26日第一小法廷判決・民集58巻4号989頁,平成14年(行ヒ)
第207号同17年7月15日第二小法廷判決・民集59巻6号1661頁,平成17年(行ヒ)第397号同20年9月10日大法廷判決・民集62巻8号2029頁等)においては,処分性が認められる範囲は最高裁昭和39年判決の基準よりも拡大している。
(イ)本件主位的主張①

前記ア(ア)の各事実行為は,自衛隊が武力を行使し,又は武力の行使に至る危険を生じさせるもの,日本が戦争当事国となり,又はそうなる危険を生じさせるもの,日本又は国民,市民がテロの対象とされ,又はその危険にさらされることになるものであるから,原告らの有する具体的権利である後記の平和的生存権,人格権及び憲法改正・決定権(以下,原告らの主張するこれらの権利を併せて平和的生存権等という。)を侵害し,その侵害状態の受忍を原告らに強いるものである。
また,国は,重要影響事態,国際平和共同対処事態,国際平和協力業務においては,地方公共団体や民間企業など,国以外の者に必要な協力を依頼すること等ができ,また,存立危機事態においては,事態対処法9条1項の対処基本方針に従って武力の行使や国民保護関連措置等の対
処措置を実施し,地方公共団体等は国と連携協力して万全の措置を講ずることが求められる。このような場合,地方公共団体,民間企業等で働く者は,雇用主等から当該業務への従事命令を受けることになり,これは,原告らの平和的生存権等を侵害し,その侵害状態の受忍を原告らに強いるものである。

したがって,前記ア(ア)の各事実行為(以下本件主位的主張に係る各行為という。)には,処分性が認められる(以下,(イ)の構成による本件主位的主張を本件主位的主張①という。)。
(ウ)本件主位的主張②
集団的自衛権の行使等は,それに続いて日本に武力攻撃事態等をもた
らす蓋然性が極めて高いことから,武力攻撃事態等が発生した場合に適用されるいわゆる有事法制と密接不可分の関係にあり,その場合には,自衛隊法103条による物資の収用,業務従事命令等を始めとして,国民に対する極めて多くの強力な権利制限や義務付けがされることになる。このように,本件主位的主張に係る各行為は,後続する武力攻撃事態等
における原告らの権利制限・義務付けを確実に招来し,予定するものであり,原告らの平和的生存権等を侵害し,その侵害状態の受忍を原告らに強いるものである。
したがって,本件主位的主張に係る各行為には,処分性が認められる(以下,
(ウ)の構成による本件主位的主張を
本件主位的主張②
という。。

(エ)法律の仕組みに基づく本件主位的主張の補足
a
集団的自衛権の行使に係る法規定と原告らの権利侵害
(a)存立危機事態における防衛出動を規定する自衛隊法76条1項2号は,集団的自衛権の行使を発動するものであり,日本が相手国を攻撃すれば相手国の日本の領域に対する反撃を免れず,武力攻撃事態等を招かないことの方が考えにくいことからすれば,この集団的
自衛権の行使は,相当程度の確実性をもって日本を武力攻撃事態等に至らしめることになる。
したがって,
集団的自衛権の行使自体が,
原告らを含む国民,
市民を戦争に直面させ,
戦争に巻き込むことで,
原告らの平和的生存権等を侵害し,その侵害状態の受忍を原告らに強いるものといえる。

また,武力攻撃事態等に至らない存立危機事態においても,事態
対処法9条1項の対処基本方針に従い,同法10条1項の事態対策本部が設置され,同法2条8号ハ及びニの対処措置が実施されることになるところ,地方公共団体等は,国と連携協力して万全の措置を講ずべきこととされ(同法3条1項),事態対策本部長(内閣総
理大臣)の調整を受け,調整に応じない場合には指示,代執行もされることとなっており(同法14,15条),原告らの一部を含む地方公共団体等の職員等は,上記措置の実施のために戦争遂行や国民保護に関連する危険を含み得る業務に従事することを命じられることになる。したがって,原告らは,存立危機事態において,臨戦
態勢に置かれ,生命,身体,財産等を喪失したり,侵害の現実の危険にさらされたりし,また,平和安全法制関連2法が現実に適用,実施されることによって憲法改正・決定権を侵害されるから,自衛隊法76条1項2号による防衛出動という公権力の行使は,原告らの平和的生存権等を侵害し,その侵害状態の受忍を原告らに強いるものといえる。
(b)事態対処法4条は,武力攻撃事態等及び存立危機事態において,
国は国民の生命,身体及び財産を保護する固有の使命を有する旨規定しているところ,この規定は,存立危機事態においても国民の生命,身体,財産が危険にさらされることを前提にしたものである。また,同法3条5項は,武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処に関する基本理念として,国に憲法の保障する国民の自由と権利の
尊重を義務付けるところ,この規定は,武力攻撃事態等及び存立危機事態においては,国民や市民の人権に直接,重大な影響を与えることになるがゆえに,人権を過度に制限しないよう,武力攻撃事態等及び存立危機事態の全ての意思決定過程及び実施過程において人権への配慮を求めたものである。

このように,事態対処法は,国民の権利義務との調整規定を置い
ており,このことからも,自衛隊法76条1項2号は,他の関係法令とともに,防衛出動によって国民への権利侵害が生ずることを前提に,その受忍を国民や市民に直接義務付けるものといえる。
(c)以上によれば,自衛隊法76条1項2号及び関係法令は,存立危
機事態において,これに基づく内閣総理大臣の自衛隊に対する命令による防衛出動という事実行為によって,国民又は市民である原告らに対し,平和的生存権等の制限という不利益の受忍を直接義務付ける規定であるといえる。
b
後方支援活動等に係る法規定と原告らの権利侵害
重要影響事態法6条1項,
2項,
国際平和支援法7条1項,
2項は,
後方支援活動又は協力支援活動としての自衛隊等による物品及び役務の提供を定めるところ,これらの事実行為は,武力の行使をするアメリカの軍隊その他の外国の軍隊に対する支援活動
(いわゆる兵站活動)
として行われるものである。そして,平和安全法制関連2法は,自衛隊の活動地域を従前の後方地域及び非戦闘地域から拡大し(重
要影響事態法2条3項,国際平和支援法2条3項),外国軍隊に提供する物品,役務として,戦闘行為に直結する弾薬の提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機への給油及び整備を含め(重要影響事態法3条2項,別表第一,国際平和支援法3条2項,別表第一),こ
れらの活動の地域的限定,時期的限定をなくしている。そうすると,平和安全法制関連2法は,自衛隊の活動が当該外国の軍隊の武力の行使と一体化してしまう危険性を極めて高いものにしたものといえるところ,他国軍隊の武力の行使と一体化すれば,日本が戦争当事国になり,相手国からの攻撃対象となることで,武力攻撃事態へと発展する
こととなる。国民,市民である原告らは,このような危険がある状況に置かれていること自体によって,生命,身体,財産等の喪失,侵害等の現実的危険にさらされ,
平和的生存権等を侵害されることとなる。
また,重要影響事態及び国際平和共同対処事態における国以外の者に対する協力の依頼(重要影響事態法9条2項,国際平和支援法13
条1項)は,法令と上記物品及び役務の提供等の対応措置が記載された基本計画に従い行われるものであるところ,上記協力の依頼の対象である国以外の者として予定されている地方公共団体等が依頼を
拒否することは考え難く,これらが対応措置に関する業務を実施しようとする場合には,その職員等(原告らの中にもこれらに当たる者が
存在する。)に対し,業務命令として危険な業務を含めた上記業務を命じ,この業務命令を拒否すれば不利益を受けることが考えられるから,当該業務への従事が事実上強制され,平和的生存権等が侵害されることになる。
c
駆け付け警護等の実施に係る法規定と原告ら権利侵害
(a)自衛隊法は,自衛隊の従たる任務の一環として国際平和協力業務
の実施を位置付けるところ
(3条2項2号,
84条の5第2項4号)

平和安全法制整備法による改正後の国際平和協力法は,活動分野をいわゆる有志連合による国際連携平和安全活動にも拡大し(3条2号)駆け付け警護等の国際平和協力業務を定め

(同条5号ト,
ナ,
ラ),これらを自衛隊の部隊等が行う国際平和協力業務の対象とし
(6条6項),防衛大臣が自衛隊の部隊等に行わせることができることとし
(9条4項)自衛隊員がその業務に従事するものとし

(同
条5項),自衛官がその業務に伴う任務遂行のため武器を使用することができることとした(26条)。
駆け付け警護等から武力の行使へと発展すれば,日本は戦争当事

国になり,相手国からの武力攻撃やテロの対象となる危険にさらされかねない状態に置かれることとなる。
国民,
市民である原告らは,
このような状況に置かれることで,生命,身体,財産等の喪失,侵害等の現実的危険にさらされることなどから,平和的生存権等を侵害されることとなる。

(b)国際連合平和維持活動及び国際連携平和安全活動については,①紛争当事者の停戦合意,②紛争当事者及び紛争領域国のPKO活動への同意,③中立性の維持,④これらがなくなった場合の中止・撤収,
⑤武器使用の制限の,
いわゆるPKO参加5原則があるところ,
国際平和協力法上もこれらに関する規定があり(①~③につき3条
1号,2号,②につき6条1項1号,2号,④につき6条13項1~6号,9号,10号,8条1項6号,7号,⑤につき25条,26条),駆け付け警護等の実施については,国際連合平和維持活動・国際連携平和安全活動及び駆け付け警護等の業務が行われる期間を通じて上記②の同意が安定的に維持されると認められる場合に限るものとされた(6条1項柱書き)。
これらの規定は,国際連合平和維持活動等には参加国による武力

行使に至る危険性があるため,その危険回避のために設けられたものであり,中でも駆け付け警護はその特別な危険性のために加重要件が定められている。したがって,これらの規定は,当該活動及び当該業務の実施を制限することで国民の権利,利益の侵害を防止するものであるから,公権力の行使の発動要件を構成すると同時に,
国民の権利義務との調整規定としての性格を有するものといえる。(c)国際平和協力法31条は,国際平和協力本部長が国以外の者に協力を求めることができる旨規定するところ,前記bと同様,国以外の者の職員又は従業員(原告らの中にもこれらに当たる者が存在する。)は,その業務への従事を事実上強制されることから,平和的
生存権等が侵害されることとなる。
d
武器等防護の実施に係る法規定と原告らの権利侵害
(a)武器等防護に関しては,自衛隊法95条の2が規定する抽象的な要件があるのみで,これに関する他の直接的な規定は,防衛大臣の
自衛隊に対する一般的な隊務統括権を規定する同法8条のほかに特に見当たらず,警護の実施及び武器使用は防衛大臣及び現場の自衛官の裁量と判断に委ねられている。そうすると,アメリカの軍隊等に対し武力攻撃に至らない侵害行為があった場合,自衛官はミサイルを含む自衛隊の武器を使用して反撃することで,相手国等が自衛
隊をも攻撃の対象とすることは必定となり,実質的な集団的自衛権の行使となる。したがって,武器等防護を定めた上記規定は,日本を戦争に巻き込み,日本の領域及び国民に武力攻撃やテロの危険をもたらし,国民の権利義務に直接的な影響を与えるものであり,アメリカの軍隊等の武器等防護の実施という事実行為は,原告らの平和的生存権を侵害する公権力の行使といえる。
(b)武器等防護が実施されて武器使用がされた場合,内閣総理大臣による防衛出動命令(自衛隊法76条)や事態対処法に基づく国会の承認(同法9条4項,7項)等の手続なしに,日本は戦争に突入することとなる。その上,国家安全保障会議の決定によれば,武器等防護のための警備の実施の有無は,原則として公表しなくてよいこととされている。このように,国民の権利義務を決定的に左右しか
ねない重要な事項が国民に基本的に知らされないまま実施されていること自体が,原告らの権利を侵害するものである。
(オ)厚木基地航空機運航差止行政訴訟と本件との類似性
本件主位的主張の法律構成は,いわゆる厚木基地航空機運航差止行政訴訟最高裁判決(平成27年(行ヒ)第512号,513号同28年12月8日第一小法廷判決・民集70巻8号1833頁。以下最高裁平成28年判決という。)に係る原判決(東京高等裁判所平成26年(行コ)第284号同27年7月30日判決)の法律構成と同様のものである。

そして,上記東京高裁判決において処分性が認められた防衛大臣の自衛隊機運航に関する権限に基づいてされる自衛隊機運航という事実行為と本件主位的主張に係る各行為は,自衛隊に対する権限の行使が,それによって外部化された自衛隊の行動という事実行為になり,その事実行為が,大臣等の権限を規定する法的根拠に基づき,国民,市民に対し,
その利益や権利を侵害することの受忍を義務付けるものであるという点で共通する。
したがって,この観点からも,本件主位的主張に係る各行為には処分性が認められる。

本件主位的主張に係る各行為につき原告適格が認められること
原告らの主張する平和的生存権等は,憲法前文,13条,96条等に裏付けられた,憲法上の基本的人権又は根源的な権利である(詳細は後記⑶
(原告らの主張)イのとおりである。)。そして,原告らは,その戦争体験,
居住地域,
職業,
社会的立場等から,
集団的自衛権の行使等によって,
日本が戦争当事国となる場合,他国の戦争に加担して戦争に引き込まれた場合,戦争の危険がある状態になった場合のいずれにおいても,平和的生存権等を侵害されることが明らかな者である(各原告の被害の状況は別紙
4-1から4-47までのとおりである。
以下,
これらの別紙を併せて
別紙4という。)。
このように,本件主位的主張に係る各行為によって侵害を受ける原告らの平和的生存権等の内容,性質は極めて重大であり,侵害の程度は極めて深刻である。したがって,原告らは,本件主位的主張に係る各行為の差止
めを求める法律上の利益を有する。

本件予備的主張に係る各行為につき処分性が認められること
公務員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼす職務命令には,処分性が認められるところ,前記ア(イ)の各命令(以下本件予備的主張に係る各行為という。)は,いずれも,自衛官に対し,国外に赴
任し,武力の行使や戦闘行為に参加し,又はその危険性の高い状況の下に身を置き,生命,身体を危険にさらす活動に従事することを命ずるものであり,当該自衛官の身分や勤務条件に根本的な変動を生じさせて,その権利義務に直接影響を及ぼすものであることが明らかである。

本件予備的主張に係る各行為につき原告適格が認められること
本件予備的主張に係る各行為に基づく集団的自衛権の行使等は,自衛隊が武力を行使し,
又はその武力の行使に至る危険を生じさせるものであり,
これにより,日本が戦争当事国となったりそのような危険を生じさせたりするもの,あるいは,日本及び国民,市民がテロの標的とされたりその危険にさらされたりすることとなるものであることから,後記⑶(原告らの主張)イのとおり,原告らの平和的生存権等を侵害する。

また,集団的自衛権の行使は,武力攻撃事態等をもたらすことにより,有事法制下における職業生活,日常生活の全般に及ぶ多くの強力な権利制限や義務付けを受ける事態を引き起こすことになるし,重要影響事態,国際平和共同対処事態及び国際平和協力業務における国以外の者への協力依頼等や存立危機事態における対処措置において,国以外の者の職員又は従
業員(原告らの中にもこれらに当たる者が存在する。)は,これらに係る業務に携わることを命ずる業務命令等を受けることにより,権利制限や義務付けを強いられる。
このように,
自衛官に対する命令である本件予備的主張に係る各行為は,
自衛官自身の権利義務の形成等をするとともに,その命令の履行,すなわ
ち集団的自衛権の行使等によって,日本が戦争当事国となり,あるいはテロの対象とされ,又はその危険を招来すること等により,原告らの平和的生存権等を侵害するものであり,別紙4の事情に照らせば,この平和的生存権等の侵害は具体的なものである。
したがって,原告らは,本件予備的主張に係る各行為の差止めを求める
法律上の利益を有する。

重大な損害を生ずるおそれがあること
平和的生存権等は,国民主権,民主主義,平和主義という憲法的価値の根幹を成すとともに,国民一人一人にとってかけがえのないものである。
特に原告らは,後記⑶(原告らの主張)イに照らせば,前記ア(ア)又は(イ)の行為によって,平和的生存権等を直接侵害され,重大な影響を受ける者であり,侵害を受け,危険にさらされるのは原告ら各人の人格全体であることから,損害の性質及び程度は切実かつ重大である。
また,一旦自衛隊が武力の行使を開始すれば,その戦闘行為は際限なく拡大しかねず,国内外における惨禍は計り知れない。このような事態は,平和的生存権等の侵害の極致というべきものであり,回復の余地がない。
したがって,原告らには,前記ア(ア)又は(イ)の行為により重大な損害を生ずるおそれがあるといえる。キ
処分が行われる蓋然性があること
処分が行われる蓋然性があることについては,
擬制自白が成立している。
また,被告が本件においてこの要件を否認することは,国民主権の原理及
び訴訟上の信義則の観点から許されない。
これらの点をおくとしても,平和安全法制関連2法は,世界中の脅威に対応することを目的に制定されており,集団的自衛権の行使等の要件が極めてあいまいで限定性に乏しいところ,日本がアメリカに追随することで戦争やテロに巻き込まれる現実的な危険が高いことに鑑みれば,本件にお
いては,前記ア(ア)又は(イ)の処分が行われる相当程度の蓋然性があるといえる。

補充性があること
自衛隊法,重要影響事態法,国際平和支援法,国際平和協力法等の関係法令は,原告らが前記カの損害を避けるための方法を定めていないから,
本件各差止めの訴えを提起する以外に,損害を避けるための適当な方法がない。

法律上の争訟に当たらないとの被告の主張に対する反論
被告は,本件主位的主張を前提として,本件各差止めの訴えが裁判所法
3条1項の法律上の争訟に当たらない旨主張する。
しかしながら,本件においては,平和安全法制関連2法の制定という重大な行為により原告らの権利に対する重度の侵害が行われており,集団的自衛権の行使や後方支援活動等,駆け付け警護等,武器等防護の実施がされれば,日本が戦争当事国になること等により,原告らの権利は根底から破壊されることになるのであって,これは現に受けている原告らの利益の侵害が極限化した状況である。

したがって,上記訴えにつき,原告らの主観的利益に直接関わらないなどとして,法律上の争訟に当たらないとする被告の主張は適切でない。(被告の主張)

本件主位的主張①につき,処分性がないこと
(ア)処分性の判断基準
行訴法3条2項の処分(行政庁の処分その他公権力の行使に当た
る行為)とは,公権力の主体たる国又は公共団体が法令の規定に基づき行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
これに対して,原告らは,近時の最高裁判所の判例によれば,上記判
断基準に当たらないものについても処分とされており,防衛出動を始めとする前記(原告らの主張)ア(ア)の行為(本件主位的主張に係る各行為)についても処分性が認められる旨主張する。しかしながら,これらの判例は,実効的な権利救済を図るという観点から,上記判断基準を柔軟に解したものと理解することができるものであり,上記判断基準自体は依然として維持されているものというべきである。
(イ)原告らの主張に係る各行為が上記判断基準に当たらないことa
防衛出動命令について
自衛隊法76条1項2号の防衛出動命令は,内閣総理大臣が,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に際して,我が国を防衛するため必要があると認める場合に,自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることである。したがって,防衛出動命令は,飽くまで内閣総理大臣の自衛隊に対する命令であり,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接義務付けるものではなく,その結果行われる事実行為と
しての自衛隊の全部又は一部の出動も,国民に何らかの不利益な
効果の受忍を直接的に義務付けるものではない。
そして,
自衛隊法上,
防衛出動命令又はこれに基づく事実行為としての防衛出動に関し,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるような規定は設けられておらず,また,防衛出動命令に関し,国民の権利義務との
関係を調整すべき旨の規定も設けられていない。
したがって,防衛出動命令又はこれに基づく事実行為としての防衛出動は,原告らとの関係において,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえないから,行訴法3条2項にいう処分には当たらない。

b
後方支援活動等としての物品の提供等について
(a)重要影響事態法6条1項に基づく後方支援活動としての自衛隊に属する物品の提供の実施,及び国際平和支援法7条1項に基づく協力支援活動としての自衛隊に属する物品の提供の実施は,いずれも
防衛大臣又はその委任を受けた者が,後方支援活動又は協力支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施するものであり,その規定から一見して明らかなとおり,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものではない。
また,重要影響事態法6条2項に基づく後方支援活動としての自

衛隊による役務の提供の実施命令,及び国際平和支援法7条2項に基づく協力支援活動としての自衛隊による役務の提供の実施命令は,いずれも防衛大臣が,後方支援活動又は協力支援活動として,防衛省の機関又は自衛隊の部隊等にその実施を命ずるものであり,その規定からも,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものではなく,上記各命令の結果実施される事実行為としての自衛隊による役務の提供も,国民に何らかの不利益な効果の受
忍を直接的に義務付けるものではない。
そして,上記各法律上,後方支援活動等としての物品の提供等又
はこれに係る事実行為に関し,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるような規定は設けられておらず,また,これ
らに関し,国民の権利義務との関係を調整すべき旨の規定も設けられていない。
したがって,後方支援活動等としての物品の提供等又はこれに係
る事実行為は,原告らとの関係において,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの
とはいえないから,
行訴法3条2項にいう
処分
には当たらない。
(b)なお,重要影響事態法9条2項は,

関係行政機関の長は,法令及び基本計画に従い,国以外の者に対し,必要な協力を依頼することができる。

と規定している。しかしながら,これは,後方支援活動等としての物品の提供等の効果として生ずるものではない。ま
た,上記の依頼により何ら協力義務が生ずるものではなく,協力を拒否したとしても制裁的措置が執られるものでもない。
さらに,国際平和支援法13条1項は,防衛大臣は,前章の規定による措置のみによっては対応措置を十分に実施することができないと認めるときは,関係行政機関の長の協力を得て,物品の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供について国以外の者に協力を依頼することができる。と規定している。しかしながら,これも,後方支援活動等としての物品の提供等の効果として生ずるものではない。また,上記規定についても,重要影響事態法9条2項と同様に

依頼することができる。

と規定されていることからすれば,上記の依頼により何らかの協力義務が生ずるものとは解されず,協力を拒否したとしても制裁的措置が執られるものでもないというべきであ
る。
したがって,上記各規定は,後方支援活動等としての物品の提供
等又はこれに係る事実行為が行訴法3条2項の処分に当たるこ
との根拠になるものではない。
c
駆け付け警護等の実施について
(a)国際平和協力法9条4項の駆け付け警護等の実施は,
防衛大臣が,
実施計画に定められた同法6条6項の国際平和協力業務について本部長(内閣総理大臣)から要請があった場合に,実施計画及び実施要領に従い,自衛隊の部隊等に国際平和協力業務を行わせることで
ある。このように,駆け付け警護等は,飽くまで防衛大臣が,実施計画及び実施要領に従い,
自衛隊の部隊等に実施させるものであり,
国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接義務付けるものではない。そして,国際平和協力法上,駆け付け警護等又はこれに係る事実
行為に関し,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付
けるような規定は設けられておらず,また,駆け付け警護等の実施に関し,国民の権利義務との関係を調整すべき旨の規定も設けられていない。
したがって,駆け付け警護等又はこれに係る事実行為は,原告ら
との関係において,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえないから,行訴法3条2項にいう処分には当たらない。
(b)なお,国際平和協力法31条は,本部長(内閣総理大臣)は,同法第3章第1節の規定による措置によって国際平和協力業務を十分に実施することができないと認めるとき,又は物資協力に関し必要があると認めるときは,関係行政機関の長の協力を得て,物品の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供について国以外の者に協力を求め
ることができる旨規定している。しかしながら,これも,駆け付け警護等の実施の効果として生ずるものではない上,文言上,上記の求めによって何らかの協力義務が生ずるものとは解されず,協力を拒否したとしても制裁的措置が執られるものでもない。
したがって,上記規定は,駆け付け警護等又はこれに係る事実行

為が行訴法3条2項の処分に当たることの根拠になるものでは
ない。
d
武器等防護の実施について
自衛隊法95条の2に基づく武器等防護の実施については,自衛官
が,アメリカの軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり,人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には,その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる旨
規定されており,その規定から一見して明らかなとおり,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものではない。
そして,自衛隊法上,武器等防護又はこれに係る事実行為に関し,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるような規定は設けられておらず,また,これらに関し,国民の権利義務との関係
を調整すべき旨の規定も設けられていない。
したがって,武器等防護又はこれに係る事実行為は,原告らとの関係において,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえないから,行訴法3条2項の処分には当たらない。
e
原告らが主張する平和的生存権等に具体的権利性がないこと
そもそも,原告らが主張する平和的生存権等には,後記⑶(被告の
主張)イのとおり具体的権利性が認められないから,これらを被侵害利益とする原告らの主張には理由がない。
f
原告らの主張について
原告らは,本件主位的主張に係る各行為について,自衛隊が武力を
行使し,又は武力の行使に至る危険を生じさせるものとして,原告らとの関係で,その平和的生存権等を侵害し,更にその侵害状態の受忍を強いる公権力の行使に該当すると主張する。
しかしながら,原告らの上記の主張は,本件主位的主張に係る各行為が行われることによって必然的に我が国が戦争に巻き込まれるとい
う仮定が成立する場合に初めて成り立つものであるところ,原告らの主張を前提としても,これらの各行為に関して何ら具体的な事情を想定し得ないような現時点において,およそこれらの各行為によって必然的に我が国が戦争に巻き込まれるなどということはできない。
実際,
原告らにおいても,この点については抽象的な可能性を指摘するのみ
である。
したがって,原告らが主張する平和的生存権等に対する侵害は抽象的なものにすぎず,およそ本件主位的主張に係る各行為による直接的な効果であるといえないことはもちろん,その事実上の効果とさえもいえない。

(ウ)最高裁平成28年判決と本件とでは事案を異にすることについて原告らは,本件主位的主張と最高裁平成28年判決に係る原判決とは法律構成が同様のものであるから,本件主位的主張に係る各行為についても処分性が認められる旨主張する。
しかしながら,最高裁平成28年判決の事案は,飽くまで,自衛隊機の運航に必然的に伴う騒音等が,周辺住民の法的地位に直接的に具体的な影響を及ぼす事案であり,本件主位的主張に係る各行為によって,原
告らの権利義務に何ら直接的,具体的な影響が及ぶものではないから,この点で,本件は,最高裁平成28年判決の事案と明らかに事案を異にする。
また,最高裁平成28年判決の事案で主張された権利侵害の内容は,自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響としての周辺住民の健康被害等であ
って,その成否はともかく,周辺住民が主張する法的地位については具体的権利性が認められ得るものであるが,前記eのとおり,原告らが主張する平和的生存権等には具体的権利性が認められないから,当該行為により影響を及ぼされるとする権利の具体的権利性の有無についても,本件は最高裁平成28年判決の事案と事案を異にする。


本件主位的主張②につき,処分性がないこと
(ア)本件主位的主張に係る各行為が論理必然として武力攻撃事態等の発生をもたらすものでないことは明らかであって,ましてや,原告らが主張するような
武力攻撃事態等における原告らの権利制限義務付け


と直結するものでもない。
(イ)また,原告らが武力攻撃事態等における原告らの権利制限・義務付けとして挙げる各事情を検討しても,次のとおり,およそ本件主位的主張に係る各行為が原告らに対して強制的に権利を侵害し,その受忍を強いるものに当たるということはできない。
a
事態対処法5条及び6条に基づく地方公共団体等の責務は,飽くまで地方公共団体等が負うものであり,原告らが直接的に義務を負うものではない。
b
事態対処法8条に基づく国民の協力は,同条の文言からも明らかなとおり,努力義務を定めたものにすぎず,何らその権利を侵害し,又は法的義務を強いるものではない。

c
自衛隊法103条に基づく防衛出動時における物資の収用等について,確かに,同条1項は,防衛出動が命ぜられ,当該自衛隊の行動に係る地域において自衛隊の任務遂行上必要があると認める場合,都道府県知事は,物資の生産等を業とする者に対し,その取り扱う物資の保管を命じ,又はこれらの物資を収用することができる旨規定しており,また,同条2項は,防衛出動が命ぜられた場合,当該自衛隊
の行動に係る地域以外の地域においても,都道府県知事は,施設の管理,土地等の使用若しくは物資の収用を行い,又は取扱物資の保管命令を発し,また,当該地域内にある医療,土木建設工事又は輸送を業とする者に対して,当該地域内においてこれらの者が現に従事している医療,土木建設工事又は輸送の業務と同種の業務で防衛大臣〔中略〕が指定したものに従事することを命ずることができる旨規定している。しかしながら,これらの義務は,いずれも上記各項で定められた独立した行政処分
(同条10項参照)
によって生ずるものであり,
本件主位的主張に係る各行為によって直接的に生ずるものではない。d
自衛隊法103条に基づく防衛出動時における電気通信設備の利用等については,同法104条に

防衛大臣は,〔中略〕総務大臣に対し,〔中略〕電気通信設備を使用することに関し必要な措置をとることを求めることができる。

と規定されているとおり,総務大臣に対する求めを定めたものであって,これにより,直接的に原告らが何らかの義務を負うものではない。


本件主位的主張につき,法律上の争訟に当たらないこと
裁判所の審判の対象は法律上の争訟(裁判所法3条1項)でなければならず,法律上の争訟といえるためには,当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であることが必要である。
前記ア,イのとおり,本件主位的主張に係る各行為は,いずれも原告らに対し何らかの義務を課し,
又は,
原告らの権利を制限するものではない。

原告らは,自身の主観的利益に直接関わらない事項に関し,国民としての一般的な資格・地位をもって本件差止めの訴えに係る各請求をするものであり,訴えの実質は,私人としての原告らと被告との間に利害の対立紛争が現存し,
その司法的解決のために本件各訴えを提起したものではなく,
国民の一人として政策の当否を訴える民衆訴訟(行訴法5条)にほかなら
ない。
そうすると,本件各差止めの訴えは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であるといえないから,裁判所法3条1項の法律上の争訟に当たらないことは明らかである。そして,民衆訴訟は法律の定める場合において,法律に定める者に限って提起できるとされ
ているところ(行訴法42条),本件各差止めの訴えは法の定めるどの民衆訴訟の形態にも当たらないから,不適法である。

本件主位的主張につき,損害の重大性の要件が認められないこと
前記ア,イのとおり,本件主位的主張に係る各行為は,いずれも原告らとの関係で処分とみることはできないから,本件主位的主張による差
止めの訴えが損害の重大性の要件を欠くことは明らかである。

本件主位的主張及び本件予備的主張につき,原告適格が認められないこと
防衛出動を始めとする前記(原告らの主張)ア(ア)及び(イ)の各行為(本
件主位的主張に係る行為及び本件予備的主張に係る行為)は,そもそも,原告らに何らかの不利益な効果の受忍を義務付けるものではない。そうである以上,
原告らは,
前記
(原告らの主張)
ア(ア)及び(イ)の各行為により,
自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者とはいえない。
原告らは,上記各行為によって,原告らの平和的生存権等が侵害されるとして,原告適格(差止めを求める法律上の利益。行訴法37条の4第3
項)が認められる旨主張する。しかしながら,これらの権利について具体的な権利性又は法的利益性を認め得ないことは前記ア(イ)eのとおりであり,原告らが上記各行為の根拠として掲げる諸法令が,これらの利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨に出たものでないこともまた明らかである。

したがって,本件各差止めの訴えにつき,原告らに上記の法律上の利益は認められず,原告らが原告適格を有するということはできない(本件予備的主張については,上記各行為が自衛官に対して処分性を有するかについて論ずるまでもなく,原告適格を認めることはできない。)。


本件各差止めの訴えが本案要件を充足するか否か(争点⑴イ)(原告らの主張)
前記⑴(原告らの主張)ア(ア)及び(イ)の各行為(処分)は,後記⑶(原告らの主張)アのとおり,いずれも違憲であるから,行政庁がこれらをすべきでないことは,上記各処分の根拠となる法令の規定から明らかである。(被告の主張)

前記⑴(被告の主張)のとおり,そもそも,本件各差止めの訴えは不適法である。


本件各行為が憲法9条等に違反し,
国賠法上違法であるか否か
(争点⑵ア)
(原告らの主張)


本件各行為の違憲性
(ア)集団的自衛権の行使を許容することが違憲であること
平成26年7月閣議決定は,集団的自衛権の行使を容認することをその内容とするものであり,平和安全法制整備法による自衛隊法,事態対処法等の改正により,一定の要件の下で,存立危機事態(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより,我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合)において自衛隊が防衛出動し,海外で武力行使することができることとなった。
従前,集団的自衛権の行使は憲法9条に反して許されないと解され,政府が一貫してこの解釈を表明することにより,憲法9条の確立した政
府解釈として法規範性を有してきたことからすれば,集団的自衛権行使を容認する本件各行為は,現実に機能してきた憲法の根本規範に反するものであり,違憲である。
さらに,上記の存立危機事態の要件については,①各文言の具体的な内容が不明確であること,②武力の行使の範囲につき地域的限定がない
こと,③特定秘密の保護に関する法律の下で,集団的自衛権の行使の要件該当性の判断に必要な情報は政府のみが掌握しており,政府による要件判断に対する民主的統制が極めて不十分であることといった,重大な問題点がある。そうすると,集団的自衛権の行使及び自衛隊による海外での武力行使を容認することは,武力の行使を禁ずる憲法9条1項に違
反し,また,自衛隊という戦力により交戦権を行使することを
容認するものとして,同条2項にも違反する。
(イ)後方支援活動としての物品の提供等が違憲であること
周辺事態法においては,地域を限定して,周辺事態に対処して軍
事行動を行っているアメリカの軍隊を自衛隊が支援することとしていた
ところ,重要影響事態法は,対処すべき事態を,判断基準が明確ではない我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態とし,地域的限定及び支援対象の限定をなくし,支援活動の物品,役務の提供の範囲を,弾薬の提供,戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油・整備にまで拡大するなどした。したがって,後方支援活動としての物品等の提供は,外国軍隊の武力行使と一体化する危険性を否定することができず,兵站活動として相手国からの攻撃の対象となることも十分に考えられる極めて危険なものであるから,憲法9条に違反する。
(ウ)協力支援活動としての物品の提供等が違憲であること
従前,特定地域に関して協力支援活動の要請を受けた場合は,憲法上可能な支援内容及びその必要性を検討し,期間及び地域の限定を付した
個別立法で対応していたが,国際平和支援法の制定によって,自衛隊がいつでも海外活動を行うことができる恒久立法が整備された。
協力支援活動としての物品の提供等は,国際連合の総会決議や安全保障理事会決議による国際平和共同対処事態に応じて行うこととされているが,当該活動を認める決議が存在する場合のみならず,当該事態が平和に対する脅威又は平和の破壊であるとの認識を示すとともに,当該事態に関連して国際連合加盟国の取り組みを求める決議が存在する場合に行うこととされており(国際平和支援法3条1項1号),基準があいまいであって,対象となる決議が拡大される可能性がある。また,協力支援活動の内容及び活動地域の制限の解除については,
上記(イ)と同様

である。したがって,協力支援活動としての物品の提供等は,外国軍隊の武力行使との一体化の危険性を一段と高めるものであり,武力の行使を禁ずる憲法9条1項に違反する。
(エ)駆け付け警護等が違憲であること
従前,いわゆるPKO参加5原則による制限の下で行われていた国際
平和協力業務について,平和安全法制整備法による国際平和協力法の改正により,国際連合が統括しない有志連合の軍事行動(国際連携平和安全活動)
への参加が対象に含められ,
駆け付け警護等が活動に加えられ,
その業務遂行のための武器使用が認められた。この改正内容は,PKO参加5原則を大きく逸脱するものであって,武力の行使を禁ずる憲法9条1項に違反する。
(オ)武器等防護が違憲であること
平和安全法制整備法による自衛隊法の改正により,我が国の防衛に資する活動に従事している他国軍隊等の武器等防護のための武器使用が認められた(同法95条の2)。武器等は武器,弾薬のほか空母を含む船舶,航空機等が対象であり,行使につき地理的限定もなく,行使要
件もあいまいである。また,武器使用の前提となる武器等の警護命令は防衛大臣が行うものの,実際の武器使用は,その状況判断も含めて現場の自衛官に委ねられている。
従前,自衛隊法95条は,自衛隊自体の武器等の防護を定めており,これ自体憲法上疑義があったところ,他国軍の武器等の防護にまで拡大
することの合理的な根拠は見出せない。さらに,自衛隊が武器を使用することにより,相手国等から自衛隊による反撃とみられ,実質的に集団的自衛権の行使と変わらない事態となりかねないものであり,日本が戦争に巻き込まれる危険性が著しく高まる。
したがって,武器等防護は憲法9条1項に違反する。

(カ)憲法改正手続を経ることなしに集団的自衛権の行使を認めることが違憲であること
前記(ア)のとおり,
集団的自衛権の行使は憲法9条に反するところ,

議決定及び法律の制定にすぎない本件各行為により憲法の条項の実質的な改変を行うことは,憲法96条の改正手続を潜脱するものであり,主
権者たる国民の憲法改正に関する決定権を侵害するものであって,違憲である。
(キ)本件各行為の違憲性
本件各行為は,集団的自衛権の行使を容認し,前記(イ)から(オ)までの活動等を定める各法の改正等を行うものであったところ,
前記(ア)から(カ)
までで述べたことからすれば,本件各行為自体が憲法に違反するというべきである。


本件各行為による原告らの権利の侵害
(ア)原告らの権利侵害について
原告らは,憲法の下で生きる国民又は市民である。原告らは,日本が起こした戦争の敗戦の惨禍を経て,
国民が主権者となって憲法を制定し,

その9条において戦争の放棄と戦力の不保持及び交戦権の否認を規定することによって,日本が戦争をしない平和国家として生まれ変わり,政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることはないものと信じ,時には危惧を感じながらも,安心して生活してきた。ところが,平成26年7月閣議決定により,長年にわたって定着してきた憲法9条の政府解釈
が実質的に変更され,憲法改正手続を潜脱して平和安全法制関連2法が制定され,集団的自衛権の行使を限定的に容認することとなったことから,日本は,積極的に戦争をする国家に変質した。この結果,原告らは,日本がアメリカ等の戦争に加担あるいは巻き込まれたり,テロの対象となったりするおそれがあることの恐怖や不安にさらされるだけで
はなく,軍事国家化の過程において人権が抑圧されるおそれも加わり,平穏に生活できる精神状態ではなくなった。
原告ら各人の権利侵害に係る個別的主張は別紙4のとおりであるが,以下,原告らが侵害された権利を平和的生存権,人格権,憲法改正・決定権と構成した上で主張する。

(イ)本件各行為による平和的生存権の侵害
a(a)本件訴訟において原告らが主張する平和的生存権とは,憲法の平和条項が遵守され,政府の行為による戦争と軍備及び戦争準備によって,生命や生活が侵害されたり,破壊され,抑圧されたりすることなく,戦争の恐怖と欠乏から免れて平和のうちに生存し,またそのような平和な国と世界をつくり出していくことのできる核時代の自然権の本質を持つ基本的人権である。

平和的生存権は,憲法前文,9条及び13条を始めとする憲法第
3章の諸条項が複合して保障している基本的人権の基底的権利であり,局面に応じて自由権的,社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利であって,これが侵害された場合には,憲法9条に違反する国,政府の行為を差し止めるとともに,被った損害の
賠償を請求することができる。
(b)被告は,平和の概念が抽象的かつ不明確であると主張する。しかしながら,平和は国家,国民のいずれにとっても,その存
立又は生存に関わる非常に重要な価値であり,それゆえに多様な理解の仕方があり,質と量が大きくて計量し難いだけであって,概念
が不明確とはいえない。憲法前文第2段のとおり,平和とは,
戦争の恐怖や不安から解放され,精神的にも経済的にも安心して平穏に生活できる状態をいうことは明らかであって,不明確とはいえない。実際,平成26年7月閣議決定においても,平和や平和的生存権という文言が用いられている。
b
本件各行為は,集団的自衛権の行使を容認し,そのための法整備を強行したものであり,自衛隊の組織と装備の整備状況等に鑑みると,いつでもアメリカの軍隊等に加担して戦争や武力行使ができる態勢を整えたとみることができるから,戦争の準備行為に当たる。

原告らの立場は,空襲や原子爆弾の被害体験者,基地周辺の住民,交通機関等の従事者,学者・教育者,宗教家,ジャーナリスト,母親等,
障害者,
在日外国人,
自衛隊関係者,
原子力発電所関係者など様々
であるが,
こうした政府の行為に対して,
原告らは,
別紙4のとおり,
それぞれの立場から平和を愛し,これを願って心のよりどころとしてきた心情が痛く傷つけられたのであり,本件各行為は平和的生存権の侵害に当たる。

(ウ)本件各行為による人格権の侵害
a
本件訴訟において原告らが主張する人格権とは,憲法13条に基づいて保障されるべき個人の生命,身体,精神,生活等に関する権利の総体をいう。この人格権の核心は,人間が人間であることからその存在を全うするために認められた権利であることにある。

b
平和安全法制関連2法は,憲法9条を法律により覆そうとする明らかに違憲の法律であり,これらによる原告らの人格権侵害の内容は別紙4のとおりであるところ,
原告らが侵害された人格権は,
①生命権・
身体権及び精神に関する利益としての人格権,②平穏生活権,③主権
者としてないがしろにされない権利と分類することができる。
上記①は,各人の人格に本質的なものであり,法の絶対的保護を受けることは明らかであるところ,集団的自衛権の行使や後方支援活動等の実施が日本に武力攻撃事態等をもたらし,その結果,公共交通機関等に従事する原告らは攻撃やテロの被害を受ける危険があり,基地
近辺に居住する原告らは当該基地が攻撃対象となることで被害を受ける危険があることなどから,原告らは,本件各行為によって,その生命・身体に関する侵害の危険を感じ,著しい精神的苦痛を受けたものであるから,上記①の人格権の侵害が認められる。上記②は,平穏な生活は精神的な平穏及び物理的な平穏から成ると
ころ,平穏な生活の核心にある自分の人生を自律的に設計し送っていくことを成り立たせる複数の要素を包摂しているものであり,判例等により保護法益として認められているものである。
そして,
原告らは,
本件各行為により,憲法に導かれて戦後築いてきた平和な生活が否定され,破壊されたと感じており,仮に生命,身体に対する直接的な侵害がなくても,精神に対する侵害を受け,生命,身体が侵害されるのではないかとの不安,恐怖にさいなまれた者も少なくない。特に,平
成29年4月以降のアメリカと朝鮮民主主義人民共和国との軍事的対立において,平和安全法制関連2法を成立させた日本がその当事国となりつつあることを,多くの国民,市民は具体的な生命,身体及び精神への危険として実感している。こうしたことからすれば,本件各行為による原告らの上記②の人格権の侵害が認められる。
上記③は,国民による意思決定のうちで最も重要なものは,憲法改正手続に参加し,
意思表明する権利であることから,
人格的自律権
(自
己決定権)の中核として,十全に保障されなければならないものである。そして,本件各行為は,本来憲法改正手続によってしか行うことができないことを閣議決定及び法律の制定により行ったものであり,
原告らは本来参加し得べき憲法改正手続への参加の機会を奪われ,主権者としての立場をないがしろにされたものであるから,上記③の人格権の侵害が認められる。
(エ)本件各行為による憲法改正・決定権の侵害
a
原告らを含む国民各人は,集団的自衛権の行使等を容認する本件各行為により,戦争をしない国から戦争をする国へとこの国のあり方を根底から変更されるという事態を生じさせられた。本来であれば,憲法改正手続に基づいて憲法上の権利の中でも最も重要な国民投票権を行使して,改正の是非について意思表示をする機会を与えられるはず
であったにもかかわらず,そのような機会を与えられないまま,違憲の法律により実質的な憲法9条の改変が行われた。このように,原告らは,主権者として憲法を自ら改正し,決定するという最も重要な最終的決定権(以下憲法改正・決定権という。)を侵害された。
b
原告らの多くは,戦争を放棄し,戦力を持たないと宣言する憲法を自らの誇りとし,日本は二度と戦争をしてはならず,そのために憲法9条の規範を守り通さなければならないと強く決意し,その確信の下
に人生を送ってきた。そのため,原告らは,平成26年7月閣議決定以降,これに反対する意見,意思を内閣,政党,国会議員及び社会に対し可能な限り表明し続け,取り分け平和安全法制関連2法の法案上程後は,原告らの多くは集会,デモ活動等を通じて大きな声を上げてきた。

本件各行為により憲法改正・決定権を侵害されたことに対する原告らの怒り,憤り,焦燥感,絶望感等の精神的苦痛の内容は,別紙4のとおりである。

小括
以上のとおり,本件各行為は,国賠法1条1項の適用上違法であること
が明白であり,これらに関与した内閣総理大臣及び国務大臣並びに国会議員には,本件各行為を行ったことにつき故意・過失があることも明白である。

本件において,裁判所は憲法判断をすべきこと
(ア)原告らの請求が認められるためには,本件各行為のうち平和安全法制関連2法の立法行為が,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うがごとき,容易に想定し難いような例外的な場合に当たるか否かを判断する必要があり,そのためには,上記各法及びその制定過程が憲法の規定に違反することが
明白であるか否かを判断しなければならない。したがって,本件において,裁判所は,まず憲法適合性について判断をすべきである。
(イ)本件各行為は違憲であることが一見極めて明白である上に,平和安全法制関連2法の審議過程は不十分かつ異常なものであった。
したがって,
本件については,裁判所がいわゆる事件性の要件を欠くとして憲法判断を回避したり,事件性の要件を満たすとした上で統治行為論やブランダイス・ルールを適用するなどして憲法判断を回避したりすることは許さ
れない。
(被告の主張)
原告らの請求は,以下のとおり,国賠法上保護された権利又は法的利益の侵害をいうものではなく,主張自体失当であるといわざるを得ない。被告に損害賠償義務があるとする主張は争う。

権利又は法的利益の侵害がなければ国賠法上の違法を認める余地がないこと
国家賠償制度が個別の国民の権利又は法的利益の侵害を救済するものであることの当然の帰結として,国賠法1条1項の違法は,当該個別の国民の権利又は法的利益に対する侵害があることを前提としており,権利又は
法的利益の侵害が認められない場合には,国賠法上の違法を認める余地はない。これは,国賠法が民法の不法行為の特別法であることからも明らかである。

原告らが主張する権利は国賠法上保護された権利又は法的利益とは認められないこと
(ア)平和的生存権について
最高裁判所の判例は,平和的生存権について,憲法における平和とは理念ないし目的を示す抽象的な概念であることを理由として,具体的権利性を否定している。

実質的に検討しても,平和の概念そのものが抽象的かつ不明確で
あるばかりでなく,具体的な権利内容,根拠規定,主体,成立要件,法律効果等のどの点をとってみても,一義性に欠け,その外延を画することさえできない極めてあいまいなものであり,このような平和的生存権に具体的権利性は認められない。この点について,原告らは,平和的生存権とは,戦争と軍備及び戦争準備によって破壊されたり侵害ないし抑制されることなく,恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生存し,またそのように平和な国と世界をつくり出してゆくことのできる核時代の自然権の本質をもつ基本的人権であると主張するものの,恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生存することは,平和主義の理念ではあるが,その具体的内実は不明といわざるを得ないし,平和な国と世界をつくり出してゆくことのできる核時代の自然権なる言葉も,その内容は不明である。
また,憲法前文第2段は,全世界の国民が

平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

として,平和的生存権を規定するものの,ここにいう平和的生存権は,憲法前文第1段及び第2段で表
明されている憲法の平和主義の原理を人々の生存に結び付けて説明するものであり,憲法の理念,基本原理を宣明したものであるという憲法前文の法的性格からしても,憲法前文に平和的生存権が掲げられているからといって,直ちにこれが基本的人権の一つであるということはできず,裁判上の救済が得られる具体的権利の性格を持つものと認めるこ
とはできない。
以上によれば,平和的生存権に具体的権利性を認めることができ
ないことは明らかである。
(イ)生命・身体の安全を含む人格権について
原告らによる人格権の主張は,いずれも極めて抽象的であり,具体的
な権利内容,成立要件,法律効果等について一義性に欠ける極めてあいまいなものであるから,そこに具体的権利性を認めることはできない。原告らが人格権の概要として主張する①生命権・身体権及び精神に関する利益としての人格権,②平穏生活権,③主権者としてないがしろにされない権利についてみても,①及び②は,結局のところ,我が国が戦争やテロ行為の当事者になれば,国民が何らかの犠牲を強いられたり危険にさらされたりするのではないかといった漠然とした不安感を抱いたという域を超えるものではないといわざるを得ず,③は,原告らの主張によっても,一義的に内容の定まらない抽象的かつ主観的な感情にすぎないものであって,結局,平和安全法制関連2法に反対している自らの主義が容れられないことにより心情が害されたことを言い換
えたものにすぎない。
また,原告らの主張が,戦争やテロ行為に対する恐怖や不安を感じることなく平穏に生活する権利が侵害されたとの主張であるとすれば,これは原告らのいう平和的生存権に係る主張と同旨であり,この主張に理由がないことは上記(ア)のとおりである。
したがって,原告らの主張する人格権に具体的権利性を認めるこ

とはできない。
(ウ)憲法改正・決定権について
a
憲法96条1項が,国民が自らの意思に基づいて憲法の条項と内容を決定するという国民主権又は民主主義の原理,理念を体現するもの
であるとしても,それは,国家の主権者としての国民という抽象
的な位置付けにとどまるのであって,そのことから直ちに,原告らという具体的な個別の国民との関係で具体的,個別的な権利又は法
的利益としての憲法改正・決定権なるものを観念することはでき
ない。

したがって,原告らの主張する憲法改正・決定権に具体的権利
性を認めることはできない。
b
加えて,
憲法改正・決定権
についての原告らの主張については,
平和安全法制関連2法は憲法の条文自体を改正するものではなく,憲法改正に伴う国民投票制度における個別の国民の投票権の内容や行使に何ら具体的な制約を加えるものではなく,憲法改正手続に関する原告らの具体的,個別的な権利又は法的利益に何ら影響を及ぼすもので
はないから,原告らの主張はそれ自体失当である。

原告らの主張は,個々人の権利ないし法的利益を離れて,抽象的に法規範等の憲法適合性判断を求めているものにすぎないこと
本件で原告らが国家賠償請求の対象としている公務員の行為(本件各行為)は,閣議決定,法律案の提出行為,法律の制定行為であるところ,閣
議決定や法律案の提出行為自体は外部にその効力を及ぼし,国民の具体的な権利ないし法的利益に影響を及ぼすものではなく,法律の制定行為も,法規範を定立する行為であるから,それだけでは直ちに国民の具体的な権利又は法的利益に影響を及ぼすものではない。原告らの主張は,結局のところ,個々人の権利又は法的利益を離れて,抽象的に法規範等の憲法適合
性判断を求めるものにほかならず,付随的審査制を採る我が国の司法審査の在り方とかい離したものといわざるを得ない。

本件各行為が憲法9条等に違反し,国賠法上違法である旨をいうその余の原告らの主張は争う。



本件各行為による原告らの損害の発生の有無及び額(争点⑵イ)(原告らの主張)
原告らは,違憲違法な本件各行為により精神的苦痛を受けたところ,これを慰謝するには,原告ら各人について10万円が相当である。
(被告の主張)
争う。

第3

当裁判所の判断
1
争点⑴ア(本件各差止めの訴えが適法であるか否か)について⑴

本件主位的主張について

原告らの主張
原告らは,防衛出動命令に基づく防衛出動,後方支援活動又は協力支援活動としての自衛隊による物品又は役務の提供,駆け付け警護の実施等,
武器等防護の実施という各事実行為(前記第2の4⑴(原告らの主張)ア(ア)。本件主位的主張に係る各行為)は,日本が戦争当事国となり,又はそうなる危険を生じさせるものであること等により,原告らの平和的生存権等を侵害するものである旨主張する(本件主位的主張①)。また,原告らは,上記各事実行為は,日本に武力攻撃事態等をもたらす蓋然性が極めて
高く,その場合に適用されるいわゆる有事法制によって国民,市民に対する権利制限や義務付けが行われることとなるから,原告らの平和的生存権等を侵害するものである旨主張する(本件主位的主張②)。そして,原告らは,上記各事実行為が処分性を有し,原告らが原告適格を有するほか,本件各差止めの訴えにつき訴訟要件がいずれも満たされる旨主張する(本
件主位的主張)。

処分性について
(ア)判断基準
行訴法3条7項の処分の差止めの訴えは,行政庁が一定の処分をすべ
きでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,行政庁がその処分をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟であって,同条1項に規定する抗告訴訟,すなわち行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟の一類型であるから,同条7項の処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権
利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和39年判決参照)。
原告らは,近時の最高裁判決において,処分性が肯定される範囲が最高裁昭和39年判決の上記判示よりも拡大されている旨主張するが,原告らが指摘する最高裁判例も上記判示を否定するものではなく,行訴法3条7項の処分の意義が異なるものとなったということはできないから,本件主位的主張に係る各行為が同項の処分に該当するか否かを判断するに当たっては,上記判示に従って判断するのが相当である。(イ)防衛出動について
a
自衛隊法76条1項は,内閣総理大臣が,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かさ
れ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(同項2号)に際して,我が国を防衛するため必要があると認める場合に,自衛隊の全部又は一部の出動を命ずること(防衛出動命令)ができると規定している。
上記規定のとおり,防衛出動命令は,内閣総理大臣の自衛隊に対す
る命令であって,これによって国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものということはできず,防衛出動命令の結果行われる事実行為としての自衛隊の全部又は一部の出動
(防衛出動)
も,
国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものということはできない。

また,自衛隊法上,防衛出動命令及びその結果行われる事実行為としての自衛隊の全部又は一部の出動に関して,国民に何らかの不利益な効果が直接的に生ずることを定めた法令上の規定は見当たらず,国民の権利義務との関係を調整すべき旨を具体的に定めた規定が設けられているということもできない。

したがって,防衛出動命令の結果行われる事実行為としての自衛隊の全部又は一部の出動が,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに該当するということはできない。
b(a)これに対し,原告らは,防衛出動の結果,①他国による武力攻撃を招き,
日本が戦争当事国となり,
又はそうなる危険が生ずるほか,
日本又は国民,市民がテロの対象とされ,又はその危険にさらされること,②日本に武力攻撃事態等がもたらされ,その場合に適用される有事法制により,多くの強力な権利制限や義務付けがされること,③武力攻撃事態等に至らない存立危機事態においても,対処措置を実施し,地方公共団体等が国と連携協力して万全の措置を講ず
べきこととされ,地方公共団体等の職員等である原告らが対処措置の実施のために戦争遂行や国民保護に関連する危険を含み得る業務への従事を命じられることになるから,原告らの平和的生存権等が侵害されるとして,防衛出動が処分性を有する旨主張する。
(b)しかしながら,
上記(a)①及び②の主張については,防衛出動命令

が発出され,その結果として自衛隊の全部又は一部について防衛出動が行われるとしても,そのことにより相手国等からの武力攻撃が行われることについては,防衛出動という事実行為により直接的にそのような効果が生ずるものでないことはもとより,
本件の全主張,
立証によっても,必然的にそのような結果が招来されるものとみる
ことはできない。したがって,武力攻撃を受けることにより日本が戦争当事国となること又はそのおそれが生ずることや,武力攻撃事態等がもたらされることにより有事法制による権利制限や義務付けがされることについても,防衛出動により直接的にそのような効果が生じたり,必然的にそのような効果が招来されるものでないこと
は明らかである。
また,上記(a)③の主張についても,防衛出動という事実行為により直接的に存立危機事態において対処措置を実施するための命令が行われるという効果が生じたり,必然的にそのような結果が招来されたりするものではなく,地方公共団体等の職員等である原告らがそのような命令を受けることについても,飽くまで抽象的な可能性にとどまるものといわざるを得ない。

(c)したがって,
原告らの前記(a)の主張をもって,
防衛出動命令の結
果行われる事実行為としての自衛隊の全部又は一部の出動が処分性を有するものということはできない。
(ウ)後方支援活動等としての物品の提供等又はこれに係る事実行為についてa
重要影響事態法6条1項は,防衛大臣又はその委任を受けた者が,同法4条1項の基本計画に従い,後方支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施する旨規定し,国際平和支援法7条1項は,防衛大臣又はその委任を受けた者が,同法4条1項の基本計画に従い,協
力支援活動として,
自衛隊に属する物品の提供を実施する旨規定する。
上記各規定のとおり,これらの物品の提供の実施は,防衛大臣又はその委任を受けた者が自衛隊に属する物品を提供する行為であるから,これによって国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものということはできない。

また,重要影響事態法6条2項は,防衛大臣が,同法4条1項の基本計画に従い,防衛省の機関又は自衛隊の部隊等に対し,後方支援活動としての自衛隊による役務の提供の実施を命ずる旨定め,国際平和支援法7条2項は,防衛大臣が,同法4条1項の基本計画に従い,自衛隊の部隊等に対し,協力支援活動としての自衛隊による役務の提供
の実施を命ずる旨定める。上記各規定のとおり,これらの命令は,防衛大臣の防衛省の機関又は自衛隊の部隊等に対する命令であって,これによって国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものではないし,これらの命令の結果実施される事実行為としての自衛隊による役務の提供も,国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものということはできない。
さらに,重要影響事態法及び国際平和支援法において,後方支援活動等としての物品の提供等及びこれに係る事実行為に関して,国民に何らかの不利益な効果が直接的に生ずることを定めた法令の規定は見当たらず,国民の権利義務との関係を調整すべき旨を具体的に定めた規定が設けられているということもできない。

b(a)これに対し,原告らは,後方支援活動等としての物品の提供等又はこれに係る事実行為は,いわゆる兵站活動として行われるものであり,平和安全法制関連2法によって自衛隊の活動が当該外国の軍隊の武力の行使と一体化する危険性が極めて高くなったところ,武力の行使と一体化すれば,日本が戦争当事国となり,相手国からの
攻撃対象となることで武力攻撃事態に発展することとなることから,このような危険がある状況に置かれることで原告らの平和的生存権等が侵害されるとして,後方支援活動等としての物品の提供等又はこれに係る事実行為が処分性を有する旨主張する。
しかしながら,後方支援活動等としての物品の提供等又はこれに

係る事実行為が行われることにより,その直接的な効果として原告らの主張するような事態が生ずるものでないことはもとより,必然的にそのような結果が招来されるものということができないことは,前記(イ)b(b)と同様であって,原告らの主張を採用することはできない。

(b)また,原告らは,後方支援活動等としての物品の提供等又はこれに係る事実行為の処分性が,国以外の者に対する協力の依頼の規定によって基礎付けられる旨主張する。
そこで検討すると,重要影響事態法9条2項は,関係行政機関の
長が国以外の者に対して必要な協力を依頼することができる旨規定し,また,国際平和支援法13条1項は,防衛大臣が一定の場合に物品の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供について国以外の者に協
力を依頼することができる旨規定するところ,これらの依頼によって国以外の者に協力義務が発生することはなく,依頼を拒否した場合に制裁的措置が執られることもないと解されること(乙1)などからすれば,これらの規定があるからといって,後方支援活動等としての物品の提供等又はこれに係る事実行為が処分性を有するとい
うことはできない。
したがって,原告らの主張を採用することはできない。
(エ)国際平和協力法9条4項の駆け付け警護等の実施について
a
国際平和協力法9条4項は,防衛大臣が,同法6条6項の国際平和協力業務(駆け付け警護等に係る同法3条5号ト,ナ,ラの業務を含む。)について本部長(内閣総理大臣)から要請があったときは,同法6条の実施計画及び同法8条の実施要領に従い,自衛隊の部隊等に国際平和協力業務を行わせることができる旨規定し,駆け付け警護等を実施させることができることとしている。

これらの規定のとおり,駆け付け警護等は,防衛大臣が自衛隊等の部隊等に実施させるものであって,その実施によって国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものということはできない。また,自衛隊法上,駆け付け警護等の実施に関して,国民に何らかの不利益な効果が生ずることを直接的に定めた法令の規定は見当たら
ず,国民の権利義務との関係を調整すべき旨を具体的に定めた規定が設けられているということもできない。
b(a)これに対し,原告らは,駆け付け警護等から武力の行使へと発展すれば,日本は戦争当事国になり,日本が相手国からの武力攻撃やテロの対象となる危険にさらされかねないことから,原告らの平和的生存権等が侵害されるとして,駆け付け警護等の実施が処分性を有する旨主張する。

しかしながら,駆け付け警護等が行われることにより,その直接
的な効果として原告らの主張するような事態が生ずるものでないことはもとより,本件の全主張,立証に照らしても,必然的にそのような結果が招来されるものということができないことは,
前記(イ)b
(b)と同様であって,原告らの主張を採用することはできない。
(b)また,原告らは,国際平和協力法31条の規定が,駆け付け警護等の実施について処分性が認められることの根拠となる旨主張する。しかしながら,
国際平和協力法31条は,
本部長
(内閣総理大臣)
が,一定の場合に,物品の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供について国以外の者に協力を求めることができる旨規定するものであり,
この依頼によって国以外の者に協力義務が発生することはなく,依頼を拒否した場合に制裁的措置が執られることもないと解されることなどからすれば,同条の規定があるからといって,駆け付け警護等の実施が処分性を有するということはできず,原告らの主張を採用することはできない。

(オ)自衛隊法95条の2に基づく武器等防護の実施について
a
自衛隊法95条の2は,アメリカの軍隊等から要請があり,防衛大臣が必要と認める場合に,自衛官は,アメリカの軍隊等の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事しているも
のの武器等を職務上警護するに当たり,人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由があるときには,その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる旨規定する。上記規定のとおり,武器等防護は,自衛官が一定の場合に武器を使用することを内容とするものであって,その実施によって国民に何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものということはできない。
また,自衛隊法上,武器等防護の実施に関して,国民に何らかの不利益な効果が生ずることを直接的に定めた法令の規定は見当たらず,国民の権利義務との関係を調整すべき旨を具体的に定めた規定が設けられているということもできない。

b(a)これに対し,原告らは,武器等防護の実施によって,相手方が自衛隊を攻撃の対象とすることから実質的な集団的自衛権の行使となり,日本を戦争に巻き込み,武力攻撃やテロの危険をもたらすことにより,原告らの平和的生存権等が侵害されるとして,武器等防護の実施が処分性を有する旨主張する。

しかしながら,武器等防護が行われることにより,その直接的な
効果として原告らの主張するような事態が生ずるものでないことはもとより,本件の全主張,立証に照らしても,必然的にそのような結果が招来されるものということができないことは,前記(イ)b(b)と同様であって,原告らの主張を採用することはできない。

(b)また,原告らは,武器等防護等の実施により国会等の関与なしに戦争に突入することとなる上に,武器等防護に係る警備の実施の有無を公表しなくてよいことから,このような重要な事項が国民に知らされないまま実施されること自体が国民の権利の侵害である旨主張する。しかしながら,そもそも武器等防護のための警備実施の有
無を原則として公表しない旨が法令によって定められているわけではない上に,武器等防護の実施によって必然的に戦争に突入するという結果が招来されるものではないことからも,上記の点をもって武器等防護の処分性が基礎付けられるものとはいえず,原告らの主張を採用することはできない。
(カ)原告らの最高裁平成28年判決の事案に関する主張について原告らは,最高裁平成28年判決の事案と本件とはその構造が基本的
に共通するなどとして,本件主位的主張に係る各行為について処分性が認められる旨主張する。
最高裁平成28年判決に係る原判決(前掲東京高等裁判所平成27年7月30日判決)は,自衛隊機の運航が,性質上必然的に騒音等の発生を伴い,その影響は自衛隊の飛行場の周辺に広く及ぶことが不可避であ
るといえることから,防衛大臣による自衛隊機の運航権限の行使は,上記騒音等について周辺住民の受忍を義務付けることとなるといえるため,周辺住民との関係において公権力の行使に当たるという理解(最高裁昭和62年(オ)第58号平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁参照)を前提として,防衛大臣がその運航に関する統括
権限に基づいて行う自衛隊機の運航という行為について処分性を認めたものであり,最高裁平成28年判決は,当該差止めの訴えに処分性が認められるとする判断を前提に,本案要件について判断をしている。これに対し,本件においては,前記(イ)b(b)等のとおり,本件主位的主張に係る各行為によって,日本が必然的に武力攻撃を受けたり,戦争
当事国となったり,テロの危険にさらされたりすることになるものではなく,原告らの主張する権利が直接的,必然的に侵害されるものとはいえないから,
この点において,
最高裁平成28年判決の事案と本件とは,
事案を異にするものというべきである。
したがって,原告らの主張を採用することはできない。


小括
以上によれば,本件主位的主張に係る各行為は,いずれも直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに該当するとはいえないから,行訴法3条7項の処分に当たらないこととなる。


本件予備的主張について

原告らの主張
原告らは,防衛出動命令,後方支援活動等としての物品の提供等に係る命令,駆け付け警護等の実施の命令及び武器等防護の命令(本件予備的主張に係る各行為)が,自衛官に対する関係では処分性を有し,原告らはその差止めの訴えについて原告適格を有する旨主張する
(本件予備的主張)



原告適格(法律上の利益の有無)について
(ア)裁判所法3条1項は,

裁判所は,日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し,その他法律において特に定める権限を有する。

と規定しており,ここにいう法律上の争訟とは,
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法令の適用により終局的に解決することができるものを指すものと解される(最高裁昭和39年(行ツ)第61号同41年2月8日第三小法廷判決民集20巻2号196頁,

最高裁昭和51年
(オ)
第749号同56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁
参照)。
そして,行訴法37条の4第3項は,

差止めの訴えは,行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起することができる。

と規定し,差止めの訴えを提起することができる者を法律上の利益を有する者に限
定している。これは,差止めの訴えが,裁判所法3条1項の法律上の争訟であること,すなわち,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であることを示すものと解される。
そうすると,差止めの訴えを提起することができる法律上の利益
を有する者とは,当該処分がされることにより自己の具体的な権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきであり,これに当たらない者が提起した差止めの訴えは,原告適格を欠く
ものとして不適法であるというべきである。
(イ)本件予備的主張に係る各行為は,前記⑴イ(イ)から(オ)までから明らかなとおり,原告らに対して何らかの不利益な効果の受忍を直接的に義務付けるものではない。原告らは,防衛出動命令等による集団的自衛権の行使等によって,武力攻撃を受けたり,戦争当事国となったり,テロの
危険にさらされたりすること,又はそのおそれがあること,さらには武力攻撃事態等となって有事法制の下で多くの権利制限や義務付けを受けること等から,平和的生存権等の侵害を受ける旨主張するが,これらの事態が本件予備的主張に係る各行為によって必然的に招来されるものでないことは前記⑴イ(イ)b(b)等において説示したとおりであって,上記
主張を採用することはできない。
したがって,原告らが,本件予備的主張に係る各行為により,自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということはできない。

小括
以上によれば,原告らは,本件予備的主張に係る各行為の差止めを求める法律上の利益を有するとはいえず,上記各行為の差止めの訴えにつき,原告適格を欠くものというべきである。


まとめ
以上のとおり,本件各差止めの訴えは,差止めを求める行為につき,①本件主位的主張のとおり構成するのであれば,処分性を欠くものであり,②本件予備的主張のとおり構成するのであれば,原告適格を欠くものであって,いずれにしても,その余の点について判断するまでもなく不適法といわざるを得ない。
2
争点⑵ア(本件各行為が憲法9条等に違反し,国賠法上違法であるか否か)について


原告らは,本件各行為が憲法9条等に違反し,その結果,平和安全法制関連2法により改正され,又は制定された各法律を適用して集団的自衛権の行使等がされることにより,アメリカ等の戦争に加担し,あるいは巻き込まれたり,テロの対象となったりする恐怖や不安にさらされるなどの精神的苦痛を被っている旨主張する。

そこで,原告らの主張する各権利が法律上保護された利益であり,本件各行為によりこれらが侵害された旨の主張が認められるか否かについて検討する。

平和的生存権について

原告らは,憲法前文,9条,13条に基づき,戦争と軍備及び戦争準備によって破壊されたり侵害又は抑制されることなく,恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生存し,またそのように平和な国と世界をつくり出してゆくことのできる核時代の自然権の本質を持つ基本的人権として平和的生存権が保障されている旨主張する。

イ(ア)この点について,憲法は,前文第2段第3文において,全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認すると宣言しており,
第2章
戦争の放棄
において,
9条は,
戦争の放棄,
戦力及び交戦権の否認について規定し,第3章
国民の権利及び義務において,基本的人権の保障について定め,同章に
おいて,13条は,

生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

と規定している。こうしたことに照らせば,憲法は,平和主義を重要な理念としており,国民が平和のうちに生存することは基本的人権が保障されるための基礎的な条件であることから,平和のうちに生存していくことと各人の基本的人権が保障されることとは,密接な関連を有しているものと解される。
(イ)しかしながら,
憲法前文第2段第3文の
平和のうちに生存する権利
は,理念ないし目的としての抽象的概念であること(最高裁昭和57年(オ)第164号,165号平成元年6月20日第三小法廷判決・民集43巻6号385頁参照),そもそも憲法前文は崇高な理念と目的
を示すものであること(前文第4段)からすれば,憲法前文第2段第3文の上記文言があることをもって,
国民に
平和のうちに生存する権利
が具体的な権利として保障されているものと解することはできない。また,平和についても,その内容は抽象的であり,個々人の思想や信条により多様な捉え方が可能なものである上に,これを確保する手段,
方法は,複雑な国際情勢に応じて多岐多様にわたるものであって,特定することができないものといわざるを得ない。したがって,平和のうちに生存する権利との文言から,直ちに一定の意味内容や,これを達成する手段や方法が特定されるものとはいえない。
(ウ)また,憲法9条は,国会の統治機構ないし統治活動についての規範を
定めたものであって,国民の権利を直接保障したものということはできないから,同条を根拠として原告らが主張する平和的生存権が保障されていると解することはできない。
(エ)さらに,憲法13条は,憲法上明示的に列挙されていない利益を新しい人権として保障する根拠となる一般的包括的権利を定めたものである
ものの,原告らが主張する平和的生存権が法的利益として認めるに足りる具体的な内容を有すると認め難いことは上記(イ)のとおりであるから,同条によっても,原告らが主張する平和的生存権が具体的利益な権利又は法的利益として保障されているということはできない。
ウしたがって,原告らの前記アの主張を採用することはできない。⑶
人格権について

原告らの主張の概要
原告らは,本件各行為によって,その生命,身体及び精神に関する侵害の危険により(生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権),また,
平和で平穏な生活を破壊されたことにより
(平穏生活権)さらに,

憲法改正について主権者として意思決定をする機会を奪われるなどしたことにより(主権者としてないがしろにされない権利),著しい精神的苦痛
を受けているところ,これらにより侵害された権利利益が人格権である旨主張する。

生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権について
(ア)本件各行為は立法行為及び閣議決定にすぎず,平和安全法制関連2法
においても,原告らの生命,身体に対する侵害を効果として定めた規定が制定又は改正されているわけではない。
原告らは,集団的自衛権の行使や後方支援活動等の実施が日本に武力攻撃事態等をもたらし,その結果,公共交通機関等に従事する原告らは当該機関が戦争やテロの攻撃対象となることで被害を受ける危険があり,
基地周辺に居住する原告らは当該基地が戦争やテロの攻撃目標として選択されることで被害を受ける危険があることなどから,本件各行為は原告らの生命,身体に対する侵害である旨主張する。しかしながら,原告らが上記主張を裏付けるものとして提出する証拠
(甲B43,
甲E18,
原告A本人,原告B本人,原告C本人,原告D本人等)によれば,いず
れも日本が集団的自衛権を行使した場合に他国等からの攻撃やテロの対象となる蓋然性が高まることが認められるものの,本件の全証拠によっても,平和安全法制関連2法の成立後,本件の口頭弁論終結時までの間に,防衛出動命令,後方支援活動としての物品の提供等,駆け付け警護等,武器等防護が実施され,これらに起因して日本が他国,過激派組織等から具体的に武力の行使を受けた事実を認めることはできないから,客観的に見て,原告らの主張する戦争やテロのおそれが切迫し,原告らの生命,身体の安全が侵害される具体的な危険が発生したものとは認め難い。
したがって,本件各行為によって,原告らの生命,身体に対する侵害が発生したということはできず,原告らが,生命,身体に危害が加えら
れるのではないかという恐怖や不安を抱いたとしても,漠然かつ抽象的な不安感にとどまるものといわざるを得ないから,原告らの上記主張をもってその法律上保護された利益が侵害されたものということはできない。
(イ)また,(甲D1~5,
証拠
7~48,
50~53
〔各枝番号を含む。,


甲E10の10,19,原告E本人,原告F本人,原告G本人,原告H本人,原告I本人,原告A本人,原告B本人,原告C本人,原告J本人,原告D本人,原告K本人,原告L本人,原告M本人)によれば,原告らは,別紙4のとおり,それぞれの経歴,境遇,職業,生活状況等を背景として,憲法9条の平和主義の理念を守り,日本が他国の武力行使に加
担することや戦争に巻き込まれることはあってはならないとの強い信念や信条を有していること,本件各行為によって日本が戦争当事国やテロの標的になる事態が引き起こされるものと認識し,自身の世界観等と相容れない事態が生じていることに対する不快感,苦痛や,戦争やテロに巻き込まれることにより自身や子供等の生命,身体が侵害されることへ
の恐怖や不安を抱いていること,原告らのうち,特に自身又は家族が東京大空襲の被害にあった者や原子爆弾に被爆した者は,その経験に基づき本件各行為に対し強い嫌悪と懸念を感じていること,
障害を持つ者は,
戦時においてどのように扱われるかという観点から,健常者とは異なる危機感や世界観の侵害を感じていること,自衛官の親は,戦地へ向かう子のことを想像して精神的苦痛を感じていることが認められる。上記のような原告らの有する平和に対する信念や信条は十分に尊重されるべき
ものであって,本件各行為に対して原告らが上記のような感情を抱いたことについても,これらの信念や信条に反することにより精神的苦痛を受けたものとして理解することができる。
しかしながら,前記イ(ア)のとおり,本件各行為が,日本が戦争に巻き込まれる事態やテロの標的になる事態を必然的に引き起こすものとはい
えないことに加えて,多数決原理を基礎とする間接民主制を採用する我が国において,立法府による立法政策や立法行為が必ずしも全ての国民の個々の見解や信念と一致するものではないことは自明であり,自らの信条や信念と反する立法等が行われることによって精神的苦痛が生ずることは不可避的なものというべきであることからすれば,このような精
神的苦痛が上記のとおり原告らそれぞれにとって切実なものであるとしても,これらは社会通念上受忍されるべきものといわざるを得ない。したがって,この点からも,本件各行為によって原告らの法律上保護される利益が侵害されたということはできない。
(ウ)以上によれば,本件各行為によって,その生命,身体及び精神に関す
る侵害の危険により法律上保護された利益である人格権が侵害された旨の原告らの主張を採用することはできない。

平穏生活権について
(ア)原告らは,平穏な生活は精神的な平穏及び物理的な平穏から成るとこ
ろ,その核心にある,自分の人生を自律的に設計し送っていくことを成り立たせる複数の要素を包摂するものが平穏生活権であって,この平穏生活権は法律上保護された利益であり,原告らの平穏生活権は本件各行為により侵害された旨主張する。
(イ)しかしながら,上記(ア)の主張は,本件各行為によって,日本が戦争に巻き込まれたり,テロ攻撃を受けたりすることへの不安により,平穏な生活を送るという利益が侵害された旨をいうものと解されるところ,前
記イ(ア)のとおり,
平和安全法制関連2法の成立後,
本件口頭弁論終結時
までの間に,我が国が他国等から武力攻撃の対象とされた事実は認められず,客観的にみて,原告らの主張する戦争やテロのおそれが切迫し,原告らの生命,身体の安全が侵害される具体的な危険が発生したものとは認め難いから,原告らについて本件各行為により平穏な生活を送ると
いう利益が侵害されているとはいえない。また,上記(ア)の主張は,本件各行為により自らの信条や信念と反する立法等が行われたことによって,精神の平穏が害され,精神的苦痛を受けた旨をいうものとも解されるところ,前記イ(イ)のとおり,このような精神的苦痛は,社会通念上受忍されるべきものといわざるを得ない。

(ウ)したがって,本件各行為によって,法律上保護された利益である平穏生活権が侵害された旨の原告らの主張は採用することができない。エ
主権者としてないがしろにされない権利について
原告らは,主権者として憲法制定権を享有し,憲法改正に際しても国民
投票に参加し得る地位を有するところ,本件各行為は,本来は憲法改正手続によってしか行いえないものであり,本来参加し得べき上記の手続に参加する機会を奪われたことが,主権者としての立場をないがしろにされたという意味で人格権の侵害となる旨主張する。
しかしながら,憲法96条1項は,憲法改正の発議を国会が行い,当該
発議に係る承認について国民投票が行われる旨を定めていることからすれば,特定の問題に関して憲法改正の発議を行うことにつき,個々の国民に対して何らかの権利又は法的利益を保障する趣旨とは解されないし,これを人格権と構成したとしても,具体的権利性を認めることはできない。また,原告らの上記主張を,本件各行為が国会や内閣が原告らの憲法擁護に係る主義,信念に反するものであり,これにより精神的苦痛を被った旨をいうものと理解したとしても,この主張を採用することができないこ
とは前記イ(イ)のとおりである。
したがって,本件各行為によって,法律上保護された利益である主権者としてないがしろにされない権利が侵害された旨の原告らの主張を採用することはできない。


憲法改正・決定権について
原告らは,集団的自衛権の行使等を容認する本件各行為により,国民投票の機会を与えられないままに憲法9条の規定が実質的に改変されたことから,主権者として憲法を自ら改正し,決定するという最も重要な最終的決定権である憲法改正・決定権を侵害された旨主張する。
しかしながら,上記⑶エで述べたところと同様の理由により,この原告ら
の主張を採用することはできない。


原告らの個別的主張について
国家賠償請求において原告らが侵害されたと主張する権利については,前記⑵から⑷までにおいて検討したとおりであるところ,原告らが本件各行為
によって侵害がされたと主張する個別的な権利(別紙4)の中に平和的生存権等のいずれにも含まれないものがあるとしても,
前記⑶イ(ア)のとおり,

件各行為が,日本が戦争に巻き込まれる事態やテロの標的になる事態を必然的に引き起こすものとはいえないし,原告らが抱いている精神的苦痛は,原告らにとって重大なものであることを考慮してもなお,
前記⑶イ(イ)のとおり,

国家賠償請求において保護されるべき利益ということはできないから,このことをもって,本件各行為によって原告らの法律上保護された利益が侵害されたと認めることはできない。


小括
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件各行為が国賠法上違法であるということはできない。

3
結論
以上のとおり,本件訴えのうち,本件各差止めの訴えはいずれも不適法であるからこれらを却下し,原告らのその余の請求は,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

裁判官


裁判官

森鈴英貫明納有子鹿祥吾
トップに戻る

saiban.in