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国家賠償請求事件
事件番号平成30(受)2032
事件名国家賠償請求事件
裁判年月日令和2年10月9日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成29(ネ)1692
原審裁判年月日平成30年3月22日
判示事項家庭裁判所調査官が少年保護事件を題材として執筆した論文の執筆届の決裁に際し,家庭裁判所の職員において,当該論文の内容を修正させ,又はその公表を差し控えさせる注意義務があったということはできないとされた事例
裁判日:西暦2020-10-09
情報公開日2020-10-12 16:00:04
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平成30年(受)第2032号
令和2年10月9日

国家賠償請求事件

第二小法廷判決

主文
原判決中,上告人敗訴部分を破棄する
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は,被上告人の負担とする。
理由
上告代理人舘内比佐志ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1
家庭裁判所調査官であったAは,被上告人に対する少年保護事件を題材とし
た論文を公表した。本件は,被上告人が,Aの所属する裁判所の職員が上記論文の公表を制止すべき義務を怠ったこと等により,名誉を毀損され,プライバシーを侵害されたなどと主張して,上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。
2
原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)ア

被上告人(当時17歳)は,平成N年,ナイフをリュックサックの中に
入れて持ち歩いたという非行事実に係る銃砲刀剣類所持等取締法違反保護事件(以下本件保護事件という。)について東京家庭裁判所に送致された。本件保護事件は,平成N+1年

月,不処分により終了した。被上告人は,先天的な発達障害

の一種であるアスペルガー症候群(以下本件疾患という。)を有するとの診断を受けていた。

Aは,当時,東京家庭裁判所において家庭裁判所調査官として勤務してお
り,本件保護事件の調査を担当した。Aは,平成N+1年
所において勤務していたが,平成N+2年
(2)

月以降,大阪家庭裁判

月をもって退官した。

株式会社アークメディアは,臨床精神医学に関する月刊誌(以下本件月刊誌という。)を発行しているところ,本件月刊誌において,本件疾患の症例報告に関する公募論文の特集を行うこととし,平成N+1年

月,論文を公募した

(以下,この公募を本件公募という。)。この特集の趣旨は,本件疾患に関する論文を提供することにより,本件疾患に対する正しい理解を広めることにあった。本件月刊誌は,精神医学の臨床や研究に関与する医師や臨床心理士を読者と想定して市販されている専門誌であった。
(3)ア

大阪家庭裁判所においては,一般的な職務上の指導監督として,家庭裁
判所調査官に対し,外部の雑誌等に論文等を発表する場合には,執筆した原稿を添付した執筆届を事前に提出するように指導していた。これは,論文等を執筆した者が家庭裁判所調査官という肩書で外部に向けて不適切な表現活動をしないように確認することと,その倫理違反等を防ぐことを目的とするものであった。イ
Aは,私人として,本件保護事件を題材とした論文(以下本件論文とい
う。)を執筆し,本件公募に応募したところ,これが採用されたことから,上記の指導に従い,本件論文に関する平成N+1年


日付け執筆届(以下本件執筆届という。)を,大阪家庭裁判所首席家庭裁判所調査官(以下本件首席調査官という。)宛てに提出し,大阪家庭裁判所長,本件首席調査官を始めとする大阪家庭裁判所の職員(以下本件家裁職員という。)による決裁を受けた。Aは,本件執筆届に本件論文の原稿及び本件公募の応募要領を添付した。この応募要領には,本件疾患が,頻度の多さ,見過ごされた成人例とその転帰の問題,一部でみられる触法問題等から,精神医学全体の大きな課題となっているとの問題意識により,本件疾患の症例報告に関する論文を公募し,公募論文の特集を行う旨が記載されていた。

アークメディアは,平成N+1年

月に発行された本件月刊誌(以下本件掲載誌という。)において,本件疾患の症例報告に関する公募論文の特集を行い,本件論文を掲載した。被上告人は,本件掲載誌の発行当時,19歳であった。(4)

Aは,本件保護事件における調査の際に作成した手控えを基礎資料として本件論文を執筆しており,その内容は,上記特集の趣旨に沿ったものであった。Aは,本件論文において取り上げた少年(以下対象少年ともいう。)の氏名や住所等の記載を省略しており,本件論文には,対象少年やその関係者を直接特定した記載部分はなく,対象少年や父親の年齢等を記載した箇所はあるものの,本件保護事件が係属した時期など,本件論文に記載された事実関係の時期を特定した記載部分もなかった。しかしながら,本件論文には,対象少年の家庭環境や生育歴に関して具体的な記載がされ,学校生活における具体的な出来事も複数記載されていたことから,これらを知る者が,本件論文を読んだ場合には,その知識と照合することによって対象少年を被上告人と同定し得る可能性はあった。なお,精神医学の症例報告を内容とする論文においては,一般的に,患者の具体的な症状のほか,家族歴,既往歴,生育・生活歴,現病歴,治療経過,考察等を必須事項として正確に記載することが求められていた。
本件論文には,対象少年の非行事実の態様,母親の生育歴,小学校における評価,家庭裁判所への係属歴及び本件保護事件の調査における知能検査の状況に関する記載部分があり,これらの記載部分には,対象少年である被上告人のプライバシーに属する情報が含まれていた(以下,上記記載部分に含まれる被上告人のプライバシーに属する情報を本件プライバシー情報という。)。
3
原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,被上告人
の上告人に対する損害賠償請求を一部認容した。
(1)

本件プライバシー情報は,少年保護事件の手続において得られたものであ
り,これを公表されない被上告人の法的利益は重要であって,本件論文の目的等を考慮しても,本件論文に記載された内容を公表されない法的利益は,これを公表する法的利益に優越する。したがって,Aが本件論文を本件掲載誌において公表したこと(以下本件公表という。)による被上告人のプライバシーの侵害は,不法行為に該当する。
(2)

本件論文には,被上告人に非行があったこと,父親や学校等と度々トラブルを起こしたことなど,被上告人の社会的評価を低下させる記載内容が含まれる。上告人は名誉毀損について違法性阻却事由を主張しておらず,本件公表は名誉毀損としての不法行為に該当する。
(3)

本件執筆届の名宛人であった本件首席調査官は,Aに対し,本件公表によ
る被上告人のプライバシーの侵害及び名誉毀損としての不法行為を防止するため,本件論文の内容を修正させ,又はその公表を差し控えさせる注意義務があったにもかかわらず,本件公表を制止しなかったものであり,上告人は,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。
4
しかしながら,原審の上記判断のうち,上記(1)及び(3)は是認することがで
きない。その理由は,次のとおりである。
(1)ア

プライバシーの侵害については,その事実を公表されない法的利益とこ
れを公表する理由とを比較衡量し,前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するものと解される(最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁,最高裁平成12年(受)第1335号同15年3月14日第二小法廷判決・民集57巻3号229頁)。本件公表が被上告人のプライバシーを侵害したものとして不法行為法上違法となるか否かは,本件プライバシー情報の性質及び内容,本件公表の当時における被上告人の年齢や社会的地位,本件公表の目的や意義,本件公表において本件プライバシー情報を開示する必要性,本件公表によって本件プライバシー情報が伝達される範囲と被上告人が被る具体的被害の程度,本件公表における表現媒体の性質など,本件プライバシー情報に係る事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を比較衡量し,本件プライバシー情報に係る事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するか否かによって判断すべきものである。
イ(ア)

少年法は,少年審判を非公開とし(22条2項),審判に付された少年
本人を推知させる記事等を出版物に掲載することを禁止しており(61条),少年審判規則7条1項及び2項は,少年の付添人以外の者は,同条1項に定める場合を除き,少年保護事件の記録等を閲覧又は謄写することができないと定めている。これらの規定は,少年の健全な育成を期するため(同法1条),少年に非行があったこと等が公開されることによって少年の改善更生や社会復帰に悪影響が及ぶことのないように配慮したものである。また,家庭裁判所調査官は,裁判所の命令により,少年の要保護性や改善更生の方法を明らかにするため,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的智識を活用して調査を行う(同法8条2項,9条)のであって,その調査内容は,少年等のプライバシーに属する情報を多く含んでいるのであるから,これを対外的に公表することは原則として予定されていないものというべきである。本件プライバシー情報は,被上告人の非行事実の態様,母親の生育歴,小学校における評価,家庭裁判所への係属歴及び本件保護事件の調査における知能検査の状況に関するものであるところ,これらは,いずれも本件保護事件における調査によって取得されたものであり,上記規定の趣旨等に鑑みても,その秘匿性は極めて高い。また,被上告人は,本件公表の当時,19歳であり,その改善更生等に悪影響が及ぶことのないように配慮を受けるべき地位にあった。さらに,本件保護事件の性質や処分結果等に照らし,被上告人において,本件保護事件の内容等が出版物に掲載されるといったことは想定し難いものであったということもできる。(イ)

他方において,本件掲載誌における論文特集の趣旨は,本件疾患に関する
論文を提供することにより,本件疾患に対する正しい理解を広めることにあったところ,Aは,本件公募に応じ,本件保護事件を題材とした本件論文を執筆したものである。本件論文の内容が上記論文特集の趣旨に沿ったものであったこと,本件公表が精神医学関係者を読者とする本件月刊誌に掲載する方法で行われたこと等に鑑み,本件公表の目的は重要な公益を図ることにあったということができる。そして,症例報告を内容とする論文では,一般的に,患者の家族歴,生育・生活歴等も必須事項として正確に記載することが求められていたというのであり,本件論文の趣旨及び内容に照らしても,本件プライバシー情報に係る事実を記載することは本件論文にとって必要なものであったということができる。また,本件論文には,対象少年やその関係者を直接特定した記載部分はなく,事実関係の時期を特定した記載部分もなかったのであり,Aは,本件論文の執筆に当たり,対象少年である被上告人のプライバシーに対する配慮もしていたということができる。もっとも,被上告人と面識があること等から本件論文に記載された事実関係を知る者が,本件論文を読んだ場合には,その知識と照合することによって対象少年を被上告人と同定し得る可能性はあったものである。しかしながら,本件論文に記載された事実関係を知る者の範囲は限定されており,本件論文が精神医学関係者を読者とする専門誌に掲載するという方法で公表されたことからすると,本件論文の読者が対象少年を被上告人と同定し,そのことから被上告人に具体的被害が生ずるといった事態が起こる可能性は相当低かったものというべきである。そして,このことは,実際に,被上告人又は被上告人と面識のある者等が本件論文を読んで,対象少年を被上告人と同定し,その結果,被上告人の改善更生等に悪影響を及ぼしたなどといった事情がうかがわれないことからも裏付けられている。(ウ)

以上の諸事情に照らすと,本件プライバシー情報に係る事実を公表されな
い法的利益がこれを公表する理由に優越するとまではいい難い。したがって,本件公表が被上告人のプライバシーを侵害したものとして不法行為法上違法であるということはできない。
(2)

本件公表は,Aが私人として行ったものであるが,Aは,本件保護事件に
おける調査の際に作成した手控えを基礎資料として本件論文を執筆し,本件公表に先立ち,本件執筆届を提出していたというのであるから,本件家裁職員は,本件執筆届の決裁に際し,本件論文の執筆や公表について倫理違反等のおそれがあると認めたならば,Aに対して必要な指導監督を行うことは可能であったということはできる。
まず,本件公表が被上告人のプライバシーの侵害として不法行為法上違法なものであったとすれば,倫理違反等にも当たることとなるが,そのようにいえないことは既に判断したとおりである。また,家庭裁判所調査官が少年保護事件を通じて得た知見に基づく論文を専門誌に発表することについては,少年のプライバシー等に配慮した慎重な考慮が必要であることは当然である。しかしながら,家庭裁判所調査官は,前述した少年法の規定の趣旨等に反しない限りにおいて,少年のプライバシー等に配慮した上で,少年非行の予防や精神医学の発展等を目的とする論文を専門誌に公表することが許される場合もあるということができる。
本件執筆届には本件論文の原稿及び本件公募の応募要領が添付されていたところ,本件論文が本件疾患の症例報告に関する論文として本件月刊誌に掲載されるものであり,公益を図ることを目的としていることは,本件執筆届によって明らかであったということができる。そして,既に検討したとおり,本件論文には,対象少年やその関係者を直接特定した記載部分や事実関係の時期を特定した記載部分はなく,本件論文の読者が対象少年を被上告人と同定する可能性は相当低かったのであるから,本件家裁職員が,本件執筆届の決裁に際し,本件論文の公表によって被上告人の名誉又はプライバシーが侵害され,被上告人の改善更生等に悪影響が及ぶおそれがあるなどと判断すべき状況にあったということはできない。そうである以上,本件家裁職員が,本件執筆届の決裁に際し,本件論文の執筆や公表について倫理違反等のおそれがあるとして,Aに対して指導監督をすべきであったということもできない。
以上によれば,本件首席調査官を含む本件家裁職員において,本件執筆届の決裁に際し,Aに対し,本件論文の内容を修正させ,又はその公表を差し控えさせる注意義務があったということはできない。
5
以上と異なる原審の前記3(1)及び(3)の判断には,判決に影響を及ぼすこと
が明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。以上に説示したところによれば,被上告人のその余の主張を考慮しても,被上告人の請求には理由がなく,これを棄却した1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官三浦守の補足意見,裁判官草野耕一の意見がある。
裁判官三浦守の補足意見は,次のとおりである。
少年保護事件に係る情報等の取扱いについて付言する。
少年審判の非公開及び少年保護事件の記録の開示の制限等は,多数意見が述べるとおり,少年の健全育成を期するため,少年の改善更生や社会復帰に悪影響が及ぶことがないように配慮したものと解される。また,憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。したがって,少年保護事件の記録の内容,とりわけ社会記録の内容をみだりに第三者に開示し又は公表することは,少年保護法制の根幹に関わるとともに,個人に関する情報に係る上記自由に関わる問題ということができる。
そして,家庭裁判所調査官は,裁判所の命令により,少年の要保護性や改善更生の方法を明らかにするため,少年等の行状,経歴,素質,環境等について調査を行うことを職責とするものであるから,自己の担当した少年保護事件の調査について,適切な配慮をすることなく,みだりにその内容を公表することは,それが私人としての論文発表であっても,公務員としての法令上又は倫理上の義務に関わる問題が生ずることになる。
その一方で,少年法は家庭裁判所調査官の行う調査について(9条),少年鑑別所法は少年鑑別所において行う少年の鑑別について(16条1項),そして少年院法は少年院において行う少年の処遇について(15条2項),いずれも,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識及び技術を活用して又はこれらに基づいて行う旨を規定している。少年の非行に影響を及ぼした資質上及び環境上の事情等を明らかにして,少年の健全育成に資する保護処分及び処遇を行い,その改善更生及び円滑な社会復帰を図るためには,これらの規定を適切かつ効果的に運用することが不可欠であるが,それは,この分野における専門的知識及び技術の充実・発展によって支えられるものといわなければならない。特に,少年を含め再犯・再非行の防止が我が国社会の重要な課題とされる中にあって,少年保護や再犯の防止等に関係する官民の様々な機関,団体その他の関係者の連携及び協力は極めて重要であり,上記の専門的知識及び技術についても,関係者の間で,適切な配慮の下に,必要な情報が共有され,効果的な処遇の在り方等に関する調査及び研究が深められることが必要である(再犯の防止等の推進に関する法律5条,20条等参照)。以上に述べたことは,裁判所だけでなく,少年の鑑別や処遇を行う矯正施設その他の機関においても重要な課題というべきであり,少年の健全育成,個人に関する情報に係る自由の重要性に鑑み,それぞれの組織において,その実情を踏まえ,少年保護事件に係る情報等の取扱いに関し,適切な指導等の在り方を検討する必要があるものと考えられる。
裁判官草野耕一の意見は,次のとおりである。
私は,多数意見の結論に賛同するものであるが,多数意見の4(1)に述べられている理由は私のものと異なるので,私の考えるところをつまびらかにしたい。1
Aが本件プライバシー情報を知り得たのは,ひとえにAが少年法に基づき本
件保護事件を調査する権限を担当裁判官から与えられた結果に他ならない。そうである以上,Aが本件プライバシー情報を学術目的等に利用し得る場合があるとしても,被上告人の改善更生という同法の趣旨に抵触する態様で本件プライバシー情報を利用することは許されないというべきである。本件は,この点において,一般のプライバシー侵害案件に使われる判断枠組みだけでは適切な評価を行い得ない事案である。
2
Aは,本件保護事件が不処分により終了してから僅か半年後に本件公表を行
っており,この時点において,被上告人は,高等学校の生徒として多感な時期にあったことがうかがわれる。また,原審の認定によれば,本件論文の記載内容は,被上告人に関する情報を有している読者が対象少年を被上告人と同定し得る可能性を否定することができないものであったというのである。しかも,本件プライバシー情報の中には,被上告人が幼年時代に経験した深刻な出来事等も含まれており,多感な時期にあった当時の被上告人が本件公表の事実を知ったならば,いかほどの精神的苦痛を受けたか,そして,そのことが被上告人の改善更生にいかほどの悪影響を及ぼしたか,これらのことに思いを致すと,おそれにも似た感慨を抱かざるを得ない。以上の点に鑑みれば,本件公表の目的が本件疾患の症例報告により公益を図ることにあったとしても,本件公表における本件プライバシー情報の利用は,被上告人の改善更生という少年法の趣旨に抵触する態様のものであったというべきである。
しかしながら,本件においては,本件公表によって被上告人が本件論文の対象少年であることが他者に同定されたということはできず,被上告人自身は,本件公表から7年以上が経過した後になって,被上告人の十分な成長を見届けたAが自発的に告知したことにより本件公表の事実を知ったことがうかがわれ,その結果と本件公表との間に相当因果関係があるということはできない(なお,Aによる上記の告知が,被上告人に対する不法行為に当たるか否かは別論である。)。そうである以上,本件公表によってプライバシー侵害の結果が現実化したということはできず,本件公表が被上告人に対する不法行為に当たるということもできない。(裁判長裁判官

岡村和美

裁判官

菅野博之

草野耕一)
裁判官

三浦


裁判官

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