判例検索β > 平成30年(行ウ)第280号
在留を特別に許可しない処分取消等請求事件
事件番号平成30(行ウ)280
事件名在留を特別に許可しない処分取消等請求事件
裁判年月日令和2年2月18日
裁判所名東京地方裁判所
分野行政
判示事項本邦において義務教育課程をほぼ全て修了した中学3年生のコンゴ民主共和国の国籍を有する外国人に対してされた出入国管理及び難民認定法61条の2の2第2項の在留特別許可を付与しない旨の処分が,裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法とされた事例
裁判日:西暦2020-02-18
情報公開日2020-10-12 16:00:39
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令和2年2月18日判決言渡
平成30年(行ウ)第280号,第290号,第291号

在留を特別に許可しな

い処分取消等請求事件(以下それぞれ第1事件~第3事件という。)
主1文
本件各訴えのうち,在留特別許可の義務付けを求める部分をいずれも却下する。

2
東京入国管理局長が平成30年1月16日付けで第3事件原告に対してした出入国管理及び難民認定法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分を取り消す。

3
第1事件原告及び第2事件原告のその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,被告に生じた費用の3分の1と第3事件原告に生じた費用を2分し,その1を第3事件原告の負担とし,その余は被告の負担とし,被告に生じたその余の費用とその余の原告らに生じた費用を,その余の原告らの負担とする。


第1
1実及び理由
請求
第1事件
(1)

東京入国管理局長が平成30年1月16日付けで第1事件原告に対して
した出入国管理及び難民認定法61条の2の2第2項による在留特別許可を
しない旨の処分を取り消す。
(2)
2
第2事件
(1)

処分行政庁は,
第1事件原告に対し,
本邦における在留を特別に許可せよ。

東京入国管理局長が平成30年1月16日付けで第2事件原告に対して
した出入国管理及び難民認定法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分を取り消す。
(2)
3
処分行政庁は,
第2事件原告に対し,
本邦における在留を特別に許可せよ。

第3事件
(1)
(2)

第2

主文2項同旨
処分行政庁は,
第3事件原告に対し,
本邦における在留を特別に許可せよ。

事案の概要
本件は,コンゴ民主共和国の国籍を有する外国人である原告らが,それぞれ難民認定申請をしたところ,法務大臣がいずれについても不認定処分をし,法務大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局長(以下東京入管局長という。
)が,いずれについても出入国管理及び難民認定法(以下入管法といい,以下特に断りのない限り平成30年法律第102号による改正前のものを
いう。
)61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分(以下,原告らに対するこれらの処分を併せて本件各在特不許可処分という。)を
したことから,それぞれ本件各在特不許可処分の取消しを求めるとともに,行政事件訴訟法(以下行訴法という。
)3条6項1号の義務付けの訴えとし
て,在留特別許可の義務付けを求める事案である(以下,これらの義務付けの
訴えを併せて本件各在特義務付けの訴えという。。

1
前提事実(証拠等の引用がない事実は当事者間に争いがない。

(1)

原告らの身分事項
第1事件原告A(以下原告母という。
)は,1974年(昭和49年)
▲月▲日,コンゴ民主共和国において出生した同国の国籍を有する外国人
女性である。

第3事件原告C(以下原告長女という。
)は,2002年(平成14
年)▲月▲日,コンゴ民主共和国において出生した同国の国籍を有する外国人女性であり,原告母の子である(甲43,弁論の全趣旨)



第2事件原告D(以下原告長男といい,原告長女と併せて原告子らという。)は,平成26年▲月▲日,本邦において出生したコンゴ民主
共和国の国籍を有する外国人男性であり,原告母の子である。
(2)

原告らの入国及び在留状況等
原告母の入国及び在留状況等
(ア)原告母は,平成21年5月25日,関西国際空港(以下関西空港
という。
)に到着し,大阪入国管理局(以下大阪入管という。
)関西
空港支局入国審査官に対し,
渡航目的を
観光日本滞在予定期間を

6日として上陸申請したが,同入国審査官は,入管法所定の上陸のための条件に適合しないと認められることを理由に,同支局特別審理官に原告母を引き渡した。

同特別審理官は,口頭審理の結果,原告母の本邦において行おうとする活動に係る申請内容が虚偽のものでないとは認められず,入管法所定の上陸のための条件に適合していない旨の認定をしたところ,
原告母は,
法務大臣に対して異議の申出をした。
(イ)法務大臣は,平成21年6月2日,上記(ア)の原告母に係る異議の申
出には理由がなく,退去相当とする裁決をし,これを大阪入管関西空港支局主任審査官へ通知した。
(ウ)上記(イ)の裁決の通知を受けた大阪入管関西空港支局主任審査官は,入管法11条6項に基づき,退去命令書を原告母に交付した。
(エ)原告母は,上記(ウ)の退去命令書により退去を命じられ,平成21年
6月4日の出国便が指定されたにもかかわらず,同便に搭乗せず,遅滞なく本邦から出国しなかった。
大阪入管関西空港支局入国審査官は,同日,同支局入国警備官に,原告母が不退去(入管法24条5号の2)容疑に該当する旨の通報をし,同入国警備官は,原告母に係る同法24条5号の2該当容疑事件を立件
し,違反調査を実施した。
(オ)大阪入管関西空港支局主任審査官は,平成21年6月9日,原告母は入管法24条5号の2に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,収容令書を発付した。
(カ)大阪入管関西空港支局入国警備官は,
平成21年6月10日,
上記(オ)
の収容令書を執行し,原告母を同支局収容場に収容し,違反調査を実施した。
また,同支局入国警備官は,原告母を同支局入国審査官に引き渡し,同入国審査官は,原告母に係る違反審査を実施し,その結果,原告母が入管法24条5号の2に該当する旨認定し,これを通知したところ,原告母は,口頭審理を請求した。

同支局主任審査官は,同日,原告母に対して仮放免許可をした(仮放免の期間:判定の確定若しくは大臣裁決結果の告知又は入管法61条の2の4第1項の許可を受けるまで)

(キ)原告母に係る上記(カ)の入管法違反該当容疑事件は,平成21年6月11日,大阪入管関西空港支局から大阪入管へ移管された。

(ク)大阪入管特別審理官は,平成21年9月4日,原告母に係る上記(キ)の入管法違反該当容疑事件について,口頭審理(1回目)を実施した。(ケ)原告母は,平成21年9月11日,大阪入管において,法務大臣に対して難民認定申請(1回目)をした。
(コ)大阪入国管理局長(以下大阪入管局長という。
)は,平成21年

10月21日,原告母に対して仮滞在許可をし,以降,大阪入管局長又は東京入国管理局(以下東京入管という。
)横浜支局長は,後記(ツ)
に至るまで,仮滞在期間の更新をした(乙4の1・3)

この仮滞在許可により,入管法61条の2の6第2項の適用を受け,原告母に係る退去強制手続が停止した。

(サ)法務大臣は,平成22年3月15日,前記(ケ)の難民認定申請に対する不認定処分をした。
(シ)入管法69条の2により権限の委任を受けた大阪入管局長は,平成22年3月16日,原告母に対して,同法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分をした。
(ス)原告母は,平成22年3月30日,大阪入管において,前記(サ)の難民不認定処分,上記(シ)の在留特別許可をしない旨の処分の通知を受けた。
同日,原告母は,前記(サ)の難民不認定処分に対する異議申立てをした。
(セ)大阪入管難民調査官は,平成23年4月25日,大阪入管において,
上記(ス)の異議申立てに係る第1回口頭意見陳述・審尋手続(以下審尋等という。)を実施した。
(ソ)前記(ス)の異議申立ては,平成24年3月12日,大阪入管から東京入管横浜支局へ移管された。
(タ)前記(ク)の口頭審理中の入管法違反該当容疑事件は,平成24年3月
27日,仮滞在許可の指定住居変更により,大阪入管から東京入管横浜支局へ移管された。
(チ)法務大臣は,平成24年6月29日,前記(ス)の異議申立てを棄却する決定をした。
(ツ)原告母は,平成24年10月19日,上記(チ)の異議申立てを棄却す
る決定の通知を受けた。そして,当該通知により,原告母の仮滞在許可の終期が到来した。
東京入管横浜支局主任審査官は,同日,前記(カ)の収容令書の収容すべき場所を東京入管横浜支局収容場とする収容場所の変更をし,同支局入国警備官は,当該記載を原告母に対して提示及び執行した。
また,同主任審査官は,原告母に対して,仮放免許可をした(仮放免の期間:認定若しくは判定の確定若しくは裁決結果の告知又は入管法61条の2の4第1項の許可を受けるまで)

(テ)東京入管横浜支局特別審理官は,平成24年12月21日,原告母に係る前記(タ)の入管法違反該当容疑事件について,口頭審理(2回目)を実施し,その結果,前記(カ)の入国審査官の認定に誤りがない旨の判定をし,これを通知したところ,同日,原告母は,法務大臣に対して異議の申出をした。
(ト)入管法69条の2により権限の委任を受けた東京入管局長は,平成25年1月7日,上記(テ)の異議の申出には理由がない旨の裁決をし,同裁決を東京入管横浜支局主任審査官に通知した。

(ナ)東京入管横浜支局主任審査官は,平成25年1月24日,上記(ト)により通知を受けた裁決を原告母に通知し,原告母に対して退去強制令書を発付し,同支局入国警備官は同令書を執行し,原告母を同支局収容場に収容した。
同日,同主任審査官は,原告母に対して仮放免許可をし,原告母は,
同収容場から出所した。
(ニ)原告母は,平成25年5月30日,法務大臣に対して,難民認定申請(2回目)をした。
(ヌ)法務大臣は,平成25年11月6日,上記(ニ)の難民認定申請に対する不認定処分をした。

(ネ)東京入管局長は,平成25年11月20日,原告母に係る入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分をした。
(ノ)原告母は,平成25年12月5日,東京入管横浜支局において,前記(ヌ)の不認定処分,
上記(ネ)の在留特別許可をしない旨の処分の通知を受
けた。

原告母は,同日,前記(ヌ)の不認定処分に対して異議申立て(2回目)をした。
(ハ)東京入管難民調査官は,平成28年9月28日,東京入管において,上記(ノ)の異議申立てに係る審尋等を実施した。
(ヒ)法務大臣は,平成29年1月16日,前記(ノ)の異議申立てを棄却する決定をした。
(フ)原告母は,平成29年1月27日,上記(ヒ)の決定の通知を受けた。
(ヘ)原告母は,平成29年5月29日,東京入管横浜支局において,法務大臣に対して,難民認定申請(3回目)をした。
(ホ)法務大臣は,平成29年11月22日,上記(ヘ)の難民認定申請に対する不認定処分をした。
(マ)入管法69条の2により権限の委任を受けた東京入管局長は,平成3
0年1月16日,同法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分(本件各在特不許可処分の一つ。以下原告母に対する本件在特不許可処分という。)をした。
(ミ)原告母は,平成30年1月26日,東京入管横浜支局において,前記(ホ)の不認定処分,原告母に対する本件在特不許可処分の各通知を受け
た。
原告母は,同日,前記(ホ)の不認定処分に対する審査請求をした。イ
原告長女の入国及び在留状況等
(ア)原告長女は,平成21年5月25日,原告母と共に,関西空港に到着
し,大阪入管関西空港支局入国審査官に対し,渡航目的を観光
,日本
滞在予定期間を6日として上陸申請したが,同入国審査官は,入管法所定の上陸のための条件に適合しないと認められることを理由に,同支局特別審理官に原告長女を引き渡した。
同特別審理官は,口頭審理の結果,原告長女の本邦において行おうと
する活動に係る申請内容が虚偽のものでないとは認められず,入管法所定の上陸のための条件に適合していない旨の認定をしたところ,原告長女は,法務大臣に対して異議の申出をした。
(イ)法務大臣は,平成21年6月2日,上記(ア)の原告長女に係る異議の申出には理由がなく,退去相当とする裁決をし,これを大阪入管関西空港支局主任審査官へ通知した。
(ウ)上記(イ)の裁決の通知を受けた大阪入管関西空港支局主任審査官は,入管法11条6項に基づき,原告母に対して原告長女に対する退去命令書を提示及び説明し,原告母に交付した。
(エ)原告長女は,上記(ウ)の退去命令書により退去を命じられ,平成21年6月4日の出国便が指定されたにもかかわらず,同便に搭乗せず,遅
滞なく本邦から出国しなかった。
大阪入管関西空港支局入国審査官は,同日,同支局入国警備官に,原告長女が不退去容疑に該当する旨の通報をし,同入国警備官は,原告長女に係る入管法24条5号の2該当容疑事件を立件し,違反調査を実施した。

(オ)大阪入管関西空港支局主任審査官は,平成21年6月9日,原告長女は入管法24条5号の2に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,収容令書を発付した。
(カ)大阪入管関西空港支局入国警備官は,
平成21年6月10日,
上記(オ)
の収容令書を執行し,原告長女を同支局収容場に収容し,原告長女に係
る違反調査を実施した。
また,同入国警備官は,原告長女を同支局入国審査官に引き渡し,同入国審査官は,原告長女に係る違反審査を実施し,その結果,原告長女が入管法24条5号の2該当する旨認定し,これを原告母に通知したところ,原告母は,原告長女に係る口頭審理を請求した。

同支局主任審査官は,同日,原告長女に対して仮放免許可をした(仮放免の期間:判定の確定若しくは大臣裁決結果の告知又は入管法61条の2の4第1項の許可を受けるまで)

(キ)原告長女に係る前記(エ)の入管法違反該当容疑事件は,平成21年6月11日,大阪入管関西空港支局から大阪入管へ移管された。
(ク)大阪入管特別審理官は,
平成21年9月4日,
原告長女に係る上記(キ)
の入管法違反該当容疑事件について,口頭審理(1回目)を実施し,原告母が代理で供述した。
(ケ)原告長女は,平成21年9月11日,大阪入管において,法務大臣に対して難民認定申請(1回目)をした。
(コ)大阪入管局長は,平成21年10月21日,原告長女に対して仮滞在
許可をし,以降,大阪入管局長又は東京入管横浜支局長は,後記(ツ)に至るまで仮滞在期間を更新した(乙5の1・3)

この仮滞在許可により,入管法61条の2の6第2項の適用を受け,原告長女に係る退去強制手続が停止した。
(サ)法務大臣は,平成22年3月15日,前記(ケ)の難民認定申請に対す
る不認定処分をした。
(シ)入管法69条の2により権限の委任を受けた大阪入管局長は,平成22年3月16日,原告長女に対して,同法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分をした。
(ス)原告母は,平成22年3月30日,大阪入管において,前記(サ)の難
民不認定処分,上記(シ)の在留特別許可をしない旨の処分の通知を受けた。
同日,原告母は,前記(サ)の難民不認定処分に対する異議申立てをした。
(セ)大阪入管難民調査官は,平成23年4月25日,大阪入管において,
上記(ス)の異議申立てに係る審尋等を実施した。
(ソ)前記(ス)の異議申立ては,平成24年3月12日,大阪入管から東京入管横浜支局へ移管された。
(タ)前記(ク)の口頭審理中の入管法違反該当容疑事件は,平成24年3月27日,仮滞在許可の指定住居変更により,大阪入管から東京入管横浜支局へ移管された。
(チ)法務大臣は,平成24年6月29日,前記(ス)の異議申立てを棄却する決定をした。
(ツ)原告母は,平成24年10月19日,上記(チ)の異議申立てを棄却する決定の通知を受けた。そして,当該通知により,原告長女の仮滞在許可の終期が到来した。

東京入管横浜支局主任審査官は,同日,前記(カ)の収容令書の収容すべき場所を東京入管横浜支局収容場とする収容場所の変更をし,同支局入国警備官は,当該記載を提示及び執行した。
また,同主任審査官は,原告長女に対して,仮放免許可をした(仮放免の期間:認定若しくは判定の確定若しくは裁決結果の告知又は入管法
61条の2の4第1項の許可を受けるまで)

(テ)東京入管横浜支局特別審理官は,平成24年12月21日,前記(タ)の入管法違反該当容疑事件について,口頭審理(2回目)を実施し,その結果,前記(カ)の入国審査官の認定に誤りがない旨の判定をし,これを原告母に通知したところ,同日,原告母は,法務大臣に対して異議の
申出をした。
(ト)入管法69条の2により権限の委任を受けた東京入管局長は,平成25年1月7日,上記(テ)の異議の申出には理由がない旨の裁決をし,同裁決を東京入管横浜支局主任審査官に通知した。
(ナ)東京入管横浜支局主任審査官は,平成25年1月24日,上記(ト)に
より通知を受けた裁決を原告母に通知し,原告長女に対して退去強制令書を発付し,同支局入国警備官は同令書を執行し,原告長女を同支局収容場に収容した。
同主任審査官は,同日,原告長女に対して仮放免許可をし,原告長女は,同収容場から出所した。
(ニ)原告長女は,平成25年5月30日,法務大臣に対して,難民認定申請(2回目)をした。
(ヌ)法務大臣は,平成25年11月6日,上記(ニ)の難民認定申請に対する不認定処分をした。
(ネ)東京入管局長は,平成25年11月20日,原告長女に係る入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分をした。
(ノ)原告母は,平成25年12月5日,東京入管横浜支局において,前記(ヌ)の不認定処分,
上記(ネ)の在留特別許可をしない旨の処分の通知を受
けた。
原告母は,同日,前記(ヌ)の不認定処分に対して,異議申立て(2回目)をした。

(ハ)東京入管難民調査官は,平成28年9月28日,東京入管において,上記(ノ)の異議申立てに係る審尋等を実施した。
(ヒ)法務大臣は,平成29年1月16日,前記(ノ)の異議申立てを棄却する決定をした。
(フ)原告母は,平成29年1月27日,上記(ヒ)の決定の通知を受けた。
(ヘ)原告長女は,平成29年5月29日,東京入管横浜支局において,法務大臣に対して,難民認定申請(3回目)をした。
(ホ)法務大臣は,平成29年11月22日,上記(ヘ)の難民認定申請に対する不認定処分をした。
(マ)入管法69条の2により権限の委任を受けた東京入管局長は,平成3
0年1月16日,同法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分(本件各在特不許可処分の一つ。以下原告長女に対する本件在特不許可処分という。)をした。
(ミ)原告母は,平成30年1月26日,東京入管横浜支局において,前記(ホ)の不認定処分,原告長女に対する本件在特不許可処分の通知を受けた。
原告長女は,同日,前記(ホ)の不認定処分に対する審査請求をした。

原告長男の在留状況等
(ア)原告長男は,
平成26年▲月▲日,
川崎市内の病院において出生した。
(イ)原告長男は,入管法22条の2第3項又は第4項の規定に基づく在留資格の取得許可を受けることなく,出生後60日を経過する平成26年
▲月▲日を超えて本邦にとどまり,不法残留した。
(ウ)原告母は,平成26年▲月▲日,川崎市E区長に対して,原告長男の出生を届け出た。
(エ)原告母は,平成26年▲月▲日,東京入管横浜支局において,法務大臣に対して,原告長男に係る難民認定申請(1回目)をした。

(オ)東京入管横浜支局入国警備官は,平成26年▲月▲日,原告長男に係る入管法24条7号該当容疑事件を立件した。
(カ)東京入管横浜支局主任審査官は,平成26年▲月▲日,上記(オ)の入管法違反該当容疑事件につき,同法24条7号に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,収容令書を発付した。

(キ)東京入管横浜支局入国警備官は,平成26年▲月▲日,上記(カ)の収容令書を執行し,同支局収容場に原告長男を収容し,同支局入国審査官に引き渡した。
東京入管局長は,同日,原告長男に対して,仮滞在許可をし,以降,東京入管横浜支局長は,後記(シ)に至るまで仮滞在期間の更新を行った。
この仮滞在許可により,入管法61条の2の6第2項の適用を受け,原告長男に係る退去強制手続が停止した。
(ク)法務大臣は,平成27年10月2日,前記(エ)の難民認定申請に対する不認定処分をした。
(ケ)入管法69条の2により権限委任を受けた東京入管局長は,平成27年11月23日,原告長男に対して同法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分をした。
(コ)原告母は,平成27年11月25日,前記(ク)の不認定処分及び上記(ケ)の在留特別許可をしない旨の処分の各通知を受けた。
原告母は,同日,前記(ク)の不認定処分に対して,異議申立てをした。(サ)法務大臣は,平成29年1月16日,上記(コ)の異議申立てを棄却す
る決定をした。
(シ)原告母は,平成29年1月27日,上記(サ)の決定の通知を受けた。当該通知により,原告長男に係る仮滞在許可の終期が到来した。
東京入管横浜支局入国審査官は,同日,原告長男が入管法24条7号に該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨認定し,これを原告母
に通知したところ,原告母は,原告長男に係る口頭審理を請求した。同支局主任審査官は,
同日,原告長男に対して,仮放免許可をした
(仮
放免の期間:認定若しくは判定の確定若しくは裁決結果の告知又は入管法61条の2の4第1項の許可を受けるまで)

(ス)原告母は,平成29年5月29日,東京入管横浜支局において,法務
大臣に対して,原告長男に係る難民認定申請(2回目)をした。
(セ)東京入管横浜支局特別審理官は,原告長男の入管法24条7号該当容疑事件につき,前記(シ)の認定に誤りがない旨の判定をし,これを原告母に通知したところ,原告母は,法務大臣に対して異議の申出をした。(ソ)法務大臣は,平成29年11月22日,前記(ス)の難民認定申請に対
する不認定処分をした。
(タ)入管法69条の2により権限委任を受けた東京入管局長は,平成29年12月6日,前記(セ)の異議の申出に理由がない旨の裁決をし,これを東京入管横浜支局主任審査官に通知した。
(チ)入管法69条の2により権限委任を受けた東京入管局長は,平成30年1月16日,同法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分(本件各在特不許可処分の一つ。以下原告長男に対する本件在特不許可処分という。)をした。
(ツ)原告母は,平成30年3月23日,前記(ソ)の不認定処分の通知を受けた。また,東京入管横浜支局主任審査官は,同日,前記(タ)により通知を受けた裁決を原告母に通知し,原告長男に対して退去強制令書を発付し,同支局入国警備官は同令書を執行し,原告長男を同支局収容場に
収容した。
同主任審査官は,同日,原告長男に対して仮放免許可をし,原告長男は,同収容場を出所した。
また,原告母は,同日,前記(ソ)の不認定処分に対して審査請求をした。

(3)

原告母及び原告長女の前訴の経過(乙1~3)
原告母及び原告長女は,平成25年4月11日,前記(2)ア(サ)及び(ト)並びに前記(2)イ(サ)及び(ト)の各処分の取消しを求めて,東京地方裁判所に訴えを提起した(同裁判所平成25年(〇)第〇号,第〇号難民不認定処分取消等請求事件。以下,その上訴審と併せて前訴という。。



東京地方裁判所は,平成27年3月25日,上記アに係る請求をいずれも棄却する判決を言い渡した。


原告母及び原告長女は,上記イの判決を不服として東京高等裁判所に控訴したが(同裁判所平成27年(〇)第〇号各難民不認定処分取消等請求
控訴事件)
,同裁判所は,平成27年12月2日,控訴棄却の判決を言い渡
した。

原告母及び原告長女は,上記ウの判決を不服として最高裁判所へ上告及び上告受理申立てを行ったが
(同裁判所平成28年
(〇)
第〇号,
同年
(〇)
第〇号)
,同裁判所は,平成28年5月12日,上告を棄却し,上告審として受理しない旨の決定をした。

(4)

本件訴えの提起(顕著な事実)
原告らは,平成30年7月13日,本件各訴えを提起した。

2
争点
(1)

本件各在特義務付けの訴えが適法であるか否か(本案前の争点)

(2)

本件各在特不許可処分をしたことが裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当た
るか否か

3
争点に関する当事者の主張
(1)

争点(1)(本件各在特義務付けの訴えが適法であるか否か)

(原告らの主張)

被告は,法務大臣及び地方出入国在留管理局長(平成30年法律第102号による入管法改正前は地方入国管理局長。以下,これらを併せて法務大臣等という。
)には入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許
可を行う法的な権限がない旨主張する。しかしながら,後記(2)(原告らの主張)のとおり,本件各在特不許可処分は違法であって取り消されるべきものであり,これを前提とすれば,法務大臣等には上記法的な権限があるといえる。


被告は,本件各在特義務付けの訴えが補充性の要件を満たさない旨主張する。しかしながら,本件各在特不許可処分の取消訴訟では,原告らに対し在留特別許可がされるわけではなく,在留特別許可が付与されるか否かが未確定な状態となるにすぎないところ,このような状態のままでは,今
後の原告らの本邦における在留について重大な損害が生じるおそれが高い。特に,原告長女は,在留資格がないことから進学や将来について多大な不安を有しており,将来について夢を持つことも厳しい状況である。(被告の主張)

法務大臣等は,入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可をしない旨の処分が既に存在する場合には,当該処分の効力が失われ,改めて同項に基づく処分をすることが可能な状態とならない限り,同項に基づく
在留特別許可をする法的権限を有しないところ,後記(2)(被告の主張)のとおり,本件各在特不許可処分は適法であり,その効力は存続している。したがって,本件各在特義務付けの訴えは,処分行政庁に対し法的に権限のない処分を求めるものであって,不適法というべきである。

原告らは,東京入管局長が在留特別許可を付与することなく本件各在特不許可処分をしたことが裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるとして,上記各不許可処分の取消訴訟を提起して,
これに勝訴すれば,
法務大臣等は,
行訴法33条により,取消判決の主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に拘束されることになり,原告らは,当該判決後にされる入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可を受けることにより,本
件各在特義務付けの訴えの目的を達することができる。
したがって,仮に在留特別許可が付与されないことにより,原告らに重大な損害が生ずるおそれがあるとしても,その損害を避けるためには,本件各在特不許可処分の取消訴訟という方法が存在し,原告らは現にこの訴えを提起しているのであるから,本件各在特義務付けの訴えは補充性の要
件を満たさない。
(2)

争点(2)
(本件各在特不許可処分をしたことが裁量権の範囲の逸脱又は濫用
に当たるか否か)
(原告らの主張)

入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可における法務大臣等の裁量
入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可を付与するか否かに係る法務大臣等の裁量権の範囲は,
同法の
出入国の公平な管理
(1条)

すなわち外国人の正当な利益の保護を図るための管理という目的や,同法61条の2の2第2項の公益目的と外国人の正当な権利利益の調整という趣旨に覊束されるものであり,法務省入国管理局が策定した在留特別許可に係るガイドライン(以下ガイドラインという。
)によっても制約
される。加えて,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下B規約という。
)17条,23条,児童の権利に関する条約(以下児童の権利条約という。)3条は,いずれも,国家が,難民又は個人一般の退去強制な
どを決定し,これを執行するに際して,当該者が追放,送還,引渡先の国
又は地域において,生命,身体に関わる基本的な権利を害されるおそれがある場合に,当該国又は地域への追放,送還,引渡しを禁止する。これらの規定からすれば,我が国が締結した上記条約等が外国人の追放,送還に関して禁止規定として働き,慣習国際法上の外国人の出入国,在留に関する国家の広範な裁量は制約を受けるといえる。


原告長女に対する本件在特不許可処分が違法であること
(ア)本邦での滞在期間が長期に及び,本邦への定着性が認められること原告長女は,平成21年の来日当時僅か6歳であり,同年に本邦の小学校に入学し,原告長女に対する本件在特不許可処分がされた平成30
年1月時点では中学3年生であった。その後,原告長女は,F高等学校(以下本件高校という。
)に進学した。
原告長女は,来日した当初は母語であるチルバ語とコンゴ民主共和国の公用語であるフランス語しか話すことができなかったが,本邦においては日本語による教育を受けており,遅くとも小学校卒業時には日本人
の同級生と同等の日本語能力を身に着け,現在は日本語が母語となっている一方,チルバ語,リンガラ語(コンゴ民主共和国で用いられる。)は
ほとんど理解することができず,フランス語についても簡単な会話ができる程度にとどまっている。
原告長女の友人のほとんどは日本人であり,
原告長女が日本の文化風習に慣れ親しんでいることは明らかである。原告長女は,
小学校在学中からミニバスケットボールクラブに参加し,
市のバスケットボール協会から最優秀選手として表彰されたほか,中学進学後は県ブロック選抜選手や県の強化選手に選ばれるなどし,バスケットボールの能力を高く評価されて本件高校に特待生で迎え入れられ,入学料,授業料は免除されており,レギュラーとして活躍している。このような事情からすれば,原告長女は,ガイドラインにおける積極
要素である本邦への滞在期間が長期に及び,本邦への定着性が認められることを満たしているといえる。(イ)原告長女に在留特別許可を付与するに当たり消極要素がないこと原告長女は幼いころに原告母に連れられて来日したものであり,原告長女自身に何ら消極要素はない。

また,原告長女は,来日後間もなく難民認定申請を自ら行っているものであり,この点は自主出頭事案と比較しても積極的に評価されるべきであるといえる。
(ウ)原告長女に在留特別許可を付与しないことは未成年者の権利を蹂躙するものであること

原告長女は,来日から10年を経ても,いまだに在留資格がなく,そのために,健康保険にも入れず,大学進学も現状では困難であることを認識しながら,それでも自暴自棄になることなく,頑張りすぎるほどに頑張り続け,学業に部活動に,ひたすら努力を続けている。中学生の頃から自らに在留資格がないことで悩んでいるが,この不安を親にぶつけ
ることもできないでいる。
原告長女は歯科医師になりたいとの目標を持っており,その夢を実現させる方法を探しているが,原告母が稼働できないこと,在留資格がないと奨学金を受け取ることができないことなどから,大学進学ができるのか,特待生としての待遇を受けられた高校と同様にバスケットボールでの進学に頼らざるを得ないのかと不安になっている。また,バスケットボールの点を見ても,原告長女の能力は,本来であれば今後全国代表やプロ選手として活躍するに十分なものであるにもかかわらず,仮放免されているにすぎず就業することができない状況では,将来の夢を描くことができない。
(エ)原告長女は送還後に虐待される恐怖におびえていること

難民認定されなかった難民認定申請者がコンゴ民主共和国に送還された後,過酷な拷問等の虐待にさらされていることが報道されているところ,原告長女は,祖父が政治的意見を理由に当局に殺害されたこと等を理由として難民認定申請を行っており,本国に送還された後虐待される恐怖におびえている。

被告は,原告長女が平成21年6月4日に本邦を退去せず不法残留したこと,その後も不法残留を継続していることが悪質であると主張するが,上記のとおりの事情から,コンゴ民主共和国に戻れば原告長女の生命,身体が危険にさらされるおそれが高かったため,原告母が原告長女を本邦から退去させず,不法残留に至ったものであり,この点について
原告長女に何ら責められるべきいわれはない。
また,原告長女は難民として認定されなかったが,原告長女が本邦に到着した直後には,ナイフで自分自身を傷つける行為があったほか,原告母がいない場所で恐怖体験をフランス語で幼いながら自らの言葉で話していることからすれば,コンゴ民主共和国において恐怖の体験をした
ことは事実である。
(オ)原告長女は訴外永住者との養子縁組に同意していること
原告長女は,原告母の現在の夫(G。以下訴外永住者という。
)を
父親のように慕い,訴外永住者との養子縁組に同意しており,実際に,訴外永住者は,原告長女との養子縁組につき,家庭裁判所に許可の申立てを行っている。
(カ)本国に帰国した場合の不利益が大きいこと

前記(ア)のとおり,原告長女は,母語が日本語となり,日本の文化,社会になじんでいる一方,チルバ語,リンガラ語はほとんど理解することができず,フランス語も同年代の子供と比較して劣っているところ,本国に帰国した場合には,文化の差異について戸惑うことは明らかであり,勉学についても多大な不利益を被ることとなる。このような状況か
らすれば,原告長女にとって,本国に帰国すれば,前途を絶たれ,自己の将来にとって回復し難い不利益を被ることになる。
また,前記(エ)の事情から,原告長女は,コンゴ民主共和国での生活を嫌な思い出と記憶しており,同国について恐怖を抱いているし,同国には友人もなく,連絡を取っている人物もいない。

(キ)小括
以上の事情に照らせば,原告長女に在留特別許可を認めない原告長女に対する本件在特不許可処分は違法である。

原告母に対する本件在特不許可処分が違法であること
(ア)原告長女との関係で原告母に在留特別許可が付与されるべきこと上記イのとおり,
原告長女には在留特別許可が付与されるべきである。
そして,原告母に対する本件在特不許可処分時において,原告長女は15歳と幼く,母親である原告母の助けを必要としていることは明らかであるし,原告長女にとって,原告母は本邦でのつらい生活を一緒に乗
り越えてきたかけがえのない家族である。原告長女の最善の利益,家族に対する保護の観点からすれば,原告母にも在留特別許可を付与すべきであることは明らかである。
(イ)本邦への滞在期間が長期に及び,本邦への定着性が認められること原告母は,平成21年5月に来日し,滞在期間は10年近くに及んでおり,本邦において妊娠,出産も経験した。さらに,原告母は,日本語の会話,ひらがなとカタカナの読み書きができ,原告長男の同級生の保護者など大勢の日本人と交流しながら平穏に生活している。
(ウ)原告母は訴外永住者と結婚したこと
原告母は,原告長女及び原告長男と共に訴外永住者と同居を始め,平成29年▲月▲日に婚姻した。訴外永住者は,本邦において長年在東京
アメリカ合衆国大使館等の警備の任に就いてきた,高い社会的信頼と安定した収入を有する永住者である。訴外永住者は原告らを養っており,原告母とは夫婦として互いに協力扶助し,安定成熟した関係を構築している。また,訴外永住者は,原告長女及び原告長男を自らの子として養子縁組するために家庭裁判所に対し許可の申立てを行った。

なお,被告は,上記の事情を格別参酌すべきものとはいえないと主張するが,永住者と婚姻した在留資格のない外国人に対し在留特別許可が付与されてきた事例があるし,原告母は本邦において在留資格を得ていないこと以外に何ら法律に反することなく生活を送ってきていることからすれば,永住者との婚姻を積極的な事情として考慮することに問題は
ない。
(エ)来日当初に難民認定申請をしていること
原告母は,
来日後間もなく難民認定申請を自ら行っており,
この点は,
自主出頭事案と比較しても積極的に考慮されるべき事実である。
(オ)本国に帰国した場合虐待されるおそれが高いこと

原告母も本邦において難民認定申請をしていることから,前記イ(エ)のとおり,原告母がコンゴ民主共和国に帰国した場合には,虐待されるおそれが高く,原告母はその恐怖におびえている。
被告は,原告母が平成21年6月4日に本邦を退去せず不法残留したこと,
その後も不法残留を継続していることが悪質であると主張するが,上記のとおりの事情から,コンゴ民主共和国に戻れば原告長女の生命,身体が危険にさらされる恐れが高かったため,本邦から退去しなかった
ものであり,
この点について原告母に何ら責められるべきいわれはない。
(カ)本国に帰国した場合に不利益が大きいこと
原告母の父は既に死亡しており,原告母が他に連絡を取ることができる親族は本国にいない。
また,原告母は原告長男を養育しているところ,原告長男は幼稚園及
び家庭において日本語のみを用いて生活している。
(キ)小括
以上の事情に照らせば,原告母に在留特別許可を認めない原告母に対する本件在特不許可処分は違法である。

原告長男に対する本件在特不許可処分が違法であること
(ア)原告長女との関係で原告長男に在留特別許可が認められるべきこと前記イのとおり,原告長女には在留特別許可が付与されるべきであるところ,原告長女にとって,原告長男は本邦でのつらい生活を一緒に乗り越えてきたかけがえのない家族である。

したがって,原告長女の最善の利益,家族に対する保護の観点からすれば,原告長男にも在留特別許可を付与すべきであることは明らかである。
(イ)原告母と離れて生活することはできないこと
原告長男は幼く,
一貫して原告母に監護養育されてきたのであるから,

原告母の居場所以外で生活することは不可能である。
(ウ)原告長男が本邦に定着性を有すること
原告長男は,本邦において出生して以来,一貫して日本社会で暮らしており,自然に日本語で会話し,漫画やゲームを愛する男児である。被告は,
原告長男の在留状況が悪質である旨主張するが,
原告長男は,
原告母が前訴を提起している間に本邦において出生したものであり,そのような評価を受けるいわれはない。

原告長男は現在幼稚園に通園しているところ,友人は日本人ばかりであり,日本語のみで生活をしている。そして,原告母のほか,訴外永住者も父親代わりとして,幼稚園の活動に参加している。
(エ)小括
以上の事情に照らせば,原告長男に在留特別許可を認めない原告長男
に対する本件在特不許可処分は違法である。
(被告の主張)

入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可における法務大臣等の裁量

(ア)入管法61条の2の2第2項の在留特別許可は,在留資格を取得していない外国人が,同法24条各号の退去強制事由に該当する者であることを前提にした上で,法務大臣が,当該外国人の在留を特別に許可すべき事情があるか否か,具体的には,当該外国人の滞在中の一切の行状等の個別的事情のみならず,国内の治安や善良な風俗の維持,保健衛生の
確保,労働市場の安定等の政治,経済,社会等の諸事情,当該外国人の本国との外交関係,我が国の外交政策,国際情勢といった諸般の事情を総合的に考慮し,我が国の国益を害せず,むしろ積極的に利すると認められるか否かを判断して行わなければならない。
そして,入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可に係る法
務大臣等の裁量は極めて広いものであるから,在留特別許可を付与しないという法務大臣等の判断が裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるとして違法とされるような事態は,
容易には想定し難いというべきであって,
極めて例外的にその判断が違法となり得る場合があるとしても,
それは,
法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお我が国に在留することを認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらずこれが看過されたなど,在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに
反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきである。
(イ)これに対して,原告らは,B規約17条,23条及び児童の権利条約3条等が,外国人の出入国管理に関する国家の裁量を制約する旨主張する。

しかしながら,国家は,国際慣習法上,外国人を受け入れる義務を負わず,外国人を受け入れる場合の条件や在留資格の制度を自由に決定することができるところ,B規約の中にはこれを否定する規定は見当たらず,かえってB規約13条は法律に基づく退去強制手続を執ることを容認しており,B規約17条,23条はその文言からしてB規約13条の
例外を定めたものとは解されない。
そして,児童の権利条約3条1項は,行政当局等が児童の権利に関する措置を執るに当たり,児童の利益を主要な考慮事項の一つとすることを求める趣旨の一般原則であり,締約国に対し,児童に関する特定の措置を行うことを義務付けるものではない。

したがって,これらの規定等は,外国人の出入国に関する国家の広範な裁量を制約するものとはいえない。

原告らの在留状況が悪質であり,出入国管理行政上看過できないこと原告母及び原告長女は,平成21年6月4日,遅滞なく本邦から出国せ
ず,不法在留しており,前訴の敗訴が確定したにもかかわらず,本邦から出国しないところ,将来は在留資格が得られるだろうという無責任な判断の下で本邦に不法残留し続けているとみるほかない。原告長男の不法残留についても,原告母の悪質な不法残留の下に築かれたものであり,原告長男に帰責性がないとしても,そのことを殊更重視することや,不法残留が長期化している事実を消極的に評価せずに考慮することは許されない。また,仮に原告母及び原告長女の当初の在留に帰責性がないとしても,
前訴確定後の不法在留については,退去強制令書発付処分が適法である旨の判決が確定したにもかかわらず,原告母及び原告長女が送還を忌避するものであるから,両名に帰責性が認められる。このような事態は,我が国の出入国管理に係る法秩序に反するのみならず,司法府の判断を軽視するものであり,看過し難い。


原告らに在留特別許可を認めるべき特別な事情がないこと
(ア)原告らに本邦への定着性があるとの主張に理由がないこと
原告らは,原告母及び原告長女の本邦在留期間が10年近くに及ぶこと,その間に原告長男が誕生したこと,原告母が訴外永住者と婚姻して
生活していることから,いずれも本邦での生活になじんでおり,定着性が認められるとして,在留特別許可が付与されるべき特別な事情がある旨主張する。
しかしながら,法務大臣等の在留特別許可の許否に関する裁量の範囲が極めて広範であること,入管法上,在留特別許可を付与するか否かの
判断に関し特定の事項を考慮しなければならないとする規定を置いていないことからすれば,原告らが主張する事情が,法務大臣等の裁量権を制約するものとはいえない。
また,原告母及び原告長女は,本邦へ入国した後,在留資格を有していた期間は皆無であり,
本邦での生活は不法在留の継続にほかならない。

原告長男についても,出生後60日を経過した以降は不法残留の状態である。原告らの本邦在留期間が長期に及んでいるという事情は,違法行為が長期間に及んでいることを意味するのであって,原告らが主張する本邦への定着性は法的保護に値するものとは認められず,むしろ消極要素として評価されるべきものである。
(イ)原告母と訴外永住者との関係は在留特別許可の判断において格別斟酌すべき事情に当たらないこと
a
原告らは,原告母が訴外永住者と婚姻し,原告らと訴外永住者が同居生活をしていることから,在留特別許可が付与されるべき特別な事情がある旨主張する。

b
しかしながら,法務大臣等の在留特別許可の許否に関する裁量の範囲は極めて広範であることや,日本人や永住者である配偶者等がいる外国人に一律に特別の扱いをすべき法的地位が付与されているとは解されないことからすれば,退去強制事由に該当する外国人に永住者である配偶者がいることは,在留特別許可の許否の判断をする際に斟酌される事情の一つにすぎず,上記判断に関する裁量権の行使に対し,
何ら法律上制約を課するものではない。
また,原告母は長期間の不法在留中に訴外永住者と婚姻したものであるところ,不法在留という違法状態の上に築かれた婚姻関係は保護すべき必要性が低く,
当然には法的保護に値するものとはいえないし,
永住者と本邦とのつながりは日本人のそれと比較して相対的に弱いと
いえるから,永住者の配偶者を保護する必要性の程度は,日本人の配偶者に対するものとは自ずと異なるというべきである。
さらに,原告母と訴外永住者が婚姻届を提出してから本件各在特不許可処分までは2か月足らずにすぎないし,原告母が述べる同居開始時期から起算しても10か月程度にすぎない。このように,本件各在
特不許可処分時において,原告母と訴外永住者との関係は法的保護を考慮しなければならないほど成熟かつ安定したものであったとはいえず,
原告らに対して在留特別許可を付与すべき事情とは認められない。c
加えて,原告母及び訴外永住者は,原告母が在留資格を有しないという違法状態にあり,いずれ本国に退去強制されることになることを十分に承知した上で,同居や婚姻という関係を構築したものであるから,原告母が退去強制される事態を甘受すべき立場にあるといえ,か
かる観点からも上記婚姻について要保護性は認められない。
d
なお,訴外永住者は,原告長女及び原告長男との養子縁組許可を家庭裁判所に申し立てたが,原告長女及び原告長男が入管法違反の状態であることを十分に認識しつつ上記申立てを行ったことは明らかであるから,養子縁組にかかわらず原告長女及び原告長男が退去強制され
る事態を甘受すべき立場にあり,上記申立てをしたことをもって,法的保護の必要性があるとは直ちには認められない。
(ウ)原告長女の学校での活動は,違法な残留の上に築かれたものであり,その要保護性は格段に低いこと
a
原告長女に対しては,
適法に退去強制令書が発付され,
原告長女は,
前訴において,原告母の難民該当性に係る申述内容の信用性の低さや証拠として提出した新聞記事に疑義があることを指摘されて敗訴した。しかしながら,
原告らは,
個別的な事情の変化がないにもかかわらず,
前訴で退けられた主張等を繰り返し主張するなどして複数回の難民認
定申請を行っており,原告長女は,自分たちの都合で送還を忌避することにより,本邦における人道的支援に基づく教育の恩恵を受けて,本邦の小,中,高校に通学するという事情を積み上げ,更にはこれを奇貨として大学への進学や就職を希望するという自己中心的な動機から,本邦への在留を継続している。また,原告長女は,平成30年1
月23日,本件高校の入学者選抜試験に合格したところ,それ以前に前訴に係る上告棄却等決定がされていたし,中学2年生の当時には自身に在留資格がなく,本邦外に退去されるべき立場にあることを理解していたことからすれば,本国へ送還された場合には本件高校への入学や通学ができなくなることを承知していたと認められる。
このような違法な在留をもって,本邦への定着性が形成されたなどとして積極要素として考慮することは,原告らが本来退去強制される
べき外国人に該当することに背理するものであって,到底認めることはできない。
b
なお,原告長女は,検討中の進学先としてH大学を挙げ,同大学には医学部又はこれに類する学部がある旨を述べているが,同大学には医学部や歯学部,医学科や歯学科はない。仮に原告長女が虚偽を述べ
たとすれば,在留特別許可を受けるためには客観的事実に反する供述をすることも厭わないとする意思を有していることがうかがわれるし,仮に記憶が曖昧であったために上記供述をしたとすれば,将来の進学先について真摯に検討していないことの証左といえる。
また,原告長女は,歯学部や歯科大学に進学することを考えている
旨を述べるが,経済的な裏付けや明確な見通しを欠いているといわざるを得ないし,バスケットボールによる推薦についても,ある大学の選手から誘われたにすぎず,大学進学の具体的な見通しが立っているものではない。
これらのことからすれば,原告長女の大学進学に係る主張は,著し
く具体性に欠けた本人の希望にすぎず,法的保護には値しない。
(エ)原告子らが順応性や可塑性に富む年齢であること
a
原告長女は,原告長女に対する本件在特不許可処分時において15歳であり,いまだ環境の変化に対する順応性や可塑性に富んでいると
いえ,本国に帰国した当初は言語や生活習慣の面で多少の困難を感じることがあるとしても,もともと本国で生まれ育っているのであるから,原告母と現地での生活を経験するとともに再度言語や生活習慣を身に付け,十分に生活環境になじみ得る。また,原告長女は,本国の公用語であるフランス語の読み書き,会話の能力を有しており,言語を理由として本国での生活が不可能であるとはいえない。
また,原告長男は,原告長男に対する本件在特不許可処分時におい
て満4歳にも満たず,環境の変化に対する順応性や可塑性に富んでいるといえ,本国に帰国した当初は言語や生活習慣の面で多少の困難を感じることがあるとしても,
原告母の養育の下で時間の経過とともに,
言語や生活習慣を身に付け,十分に生活環境になじみ得る。
b
上記aのような言語や生活習慣といった問題は,両親が外国で生活中に当該外国で生まれ育った子供が,両親と共に本国に帰国する際に一般に生ずるものであるから,現代のように国際化が進んだ社会においてはある程度起こり得るものであって,それほど特殊なものとはいえない。
加えて,
原告子らに関する教育や保護の責任は,
一次的には原告母,

次いで国籍国の政府にあるから,仮に,原告子らが帰国することにより不利益を受けるとしても,それは専ら原告母の責任において対処すべきものであり,その上で,原告子らに対する教育上及び生活上の支援が必要であれば,本国政府に対して必要な支援を求めるべきものである。したがって,原告らが本国に帰国した場合に,言語や生活習慣
の相違などにより原告子らの生活に支障が生じ得るというのであれば,原告母がそのような事態を避けるべく配慮すべきであったものであるにもかかわらず,漫然と不法在留を継続させ,原告子らにフランス語や本国の生活習慣,文化等を習得させるための教育を怠ってきた結果にすぎない。

c
なお,本邦から退去強制された後の原告長女の上陸禁止期間は5年であり,当該期間が経過すれば,原告長女は再び本邦に上陸することも可能になるのであり,適法な在留資格を得て,日本語能力を活かして就学,就労することも不可能とはいえないから,原告ら,特に原告長女が本国に送還された場合の,原告長女の不利益や支障を考慮すべきであるとはいえない。

(オ)原告長女は原告母と共に本国へ帰国することが子の福祉の観点からも相当であること
原告長女の年齢に照らすと,原告長女は原告母と離れて本邦で生活するだけの生活能力があるわけではなく,かえって,原告長女の心身の健全な成長のためには,原告母と共に本国へ帰国し生活を送ることが重要であるといえる。
(カ)原告らの帰国に支障が生ずるとは直ちには認められないことa
原告らは,本国に送還された場合,本邦において難民認定申請をしていることから,虐待等の危険にさらされる旨を主張する。

しかしながら,原告母及び原告長女が難民と認められないことは,前訴の結果からも明らかである。
また,原告らが虐待等のおそれがあることの根拠として挙げる報道記事の一つ(甲30)は,グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(以下英国という。
)からの送還帰国者が暴力を受けたとい

う報道であるところ,暴力を受けたと称する人物が,金銭や賄賂の要求を受けたこと,あるいは賄賂を払って解放された旨の記載があることから,英国からの送還帰国者に対して難民申請したことに因縁をつけて,賄賂を得るためにコンゴ民主共和国の官憲が暴力行為に及んでいる可能性もある。さらに,もう一つの報道記事(甲31,乙54)
には,同国内務省から出された機密の書面において,逮捕や拷問の対象者につき,英国など欧州諸国に居住しコンゴ民主共和国の首都キンシャサに強制送還される政治活動家に的を絞ることに重点が置かれている旨が記載されているし,英国の移民収容センターに身柄拘束されたコンゴ民主共和国の妊婦が,同女を含む同国人女性らの送還について不安や英国政府への非難を語っていると解される記載もあり,英国とは異なる我が国で仮放免許可を受けている原告らとは明らかに事情
が相違している。そうすると,これらの報道記事は,いずれも原告らに対する迫害のおそれを根拠付けるものとはいえない。
b
原告長女は,祖父が殺害されたことについて供述するが,前訴における同趣旨の主張は,これに沿う原告母の前訴における供述と矛盾する内容の客観的証拠があることなどを理由として排斥されていること
からすれば,上記原告長女の供述の信用性も自ずと疑われるというほかない。
(キ)ガイドラインに基づく主張には理由がないこと
原告らは,本件において,ガイドラインが掲げる積極要素が原告母及び原告長女には存在し,在留特別許可が付与されるべき旨主張する。
しかしながら,在留特別許可は,諸般の事情を総合的に考慮した上で個別的に決定される恩恵的措置であって,その許否の判断を拘束する一般的,固定的基準は存在せず,ガイドラインに例示された事情だけで判断されるわけではない。
したがって,仮に,ガイドラインに示された積極要素に該当する

と評価し得るような事情が存在したとしても,そのことだけで当然に在留特別許可を付与すべきであるということにはならない。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(本件各在特義務付けの訴えが適法であるか否か)について(1)

原告らは,入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可の義務付け
を求めているところ,同法61条の2第1項が本邦に在る外国人に難民認定を求める申請権があることを明らかにしている一方で,同法61条の2の2が本邦に在る外国人に在留特別許可についての申請権を明文上認めていないことからすれば,本件各在特義務付けの訴えは,行訴法3条6項1号所定のいわゆる非申請型の義務付けの訴えと解すべきである。
(2)

行訴法37条の2第1項は,同法3条6項1号所定の義務付けの訴えにつ
いてその損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り,提起することができるものと定めている。本件において,原告らは,東京入管局長が原告らに対し在留特別許可を付与しなかったことは裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるとして,本件各在特不許可処分の取消しを求めているところ,この取消訴訟において,原告ら
に対し在留特別許可を付与しなかったことにつき裁量権の範囲の逸脱又は濫用があると判断されて,原告らがこれに勝訴すれば,行訴法33条により,法務大臣等は,取消判決の主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に拘束されることになる(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)
。そうすると,本

件において,被告が原告らについて本件各在特不許可処分後の消極事情を具体的に主張していないことを踏まえれば,原告らは,当該判決後に改めてされる法務大臣等による現行入管法61条の2の2第2項に基づく在留特別許可により,本邦での在留資格を得るという本件各在特義務付けの訴えの目的を達することができることになる。

したがって,
本件各在特義務付けの訴えは,
行訴法37条の2第1項の
その損害を避けるため他に適当な方法がないとの義務付けの訴えの訴訟要件を欠く不適法な訴えというべきである。
2
争点(2)
(本件各在特不許可処分をしたことが裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるか否か)について
(1)

在留特別許可の付与に関する法務大臣等の裁量について

国家は,国際慣習法上,国家主権の属性として,外国人を受け入れる義務を
負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるか否か,また,受け入れる場合にいかなる条件を付するかについて,これを自由に決定し得るものと解され,我が国の憲法も,外国人に対し,我が国に入国する自由又は在留する権利を保障する規定を設けていない。このように,国家は,外国人の入国及び在留の許否に関する裁量権を有しているところ,入管法上,法務大臣等が在留特別許可の許否の判断をするに当たって考慮すべき事項は何ら定められていない。そして,外国人の出入国管理が国内の治安と善良な風俗の維持,保健及び衛生の確保,労働市場の安定などの我が国の国益と密接に
関わっており,これらについて総合的に分析,検討した上で,当該外国人の在留の許否を決する必要があることなどからすると,同法61条の2の2第2項の規定する在留特別許可を付与するか否かの判断は,同法50条各号の規定する在留特別許可を付与するか否かの判断と同様,法務大臣等の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
したがって,上記の裁量権の行使の結果としてされた在留特別許可を付与し
ないとの法務大臣等の判断が,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法と評価されるのは,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,その判断が重要な事実の基礎を欠く場合,又は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限られるというべきである。

なお,ガイドラインは,在留特別許可を付与するか否かの判断の際の積極要
素又は消極要素として考慮されうる事項を例示的かつ一般的,抽象的に示したものであり,その性質上,同判断における法務大臣等の裁量権を一義的に拘束するものではない。したがって,ガイドラインは,在留特別許可の許否の判断における検討の要素にはなるとしても,積極要素として記載された事情が認められる場合に必ず在留特別許可を付与すべきことを定めた基準ではなく,原告らにつきガイドラインの積極要素に該当する事実が一部認められたとしても,そのことのみをもって,原告らに在留特別許可を付与しなかった東京入管局長の判断が直ちに裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるということはできない。ウ
そこで,前記アの判断の枠組みに従って,原告らに在留特別許可を付与しな
かった東京入管局長の判断が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものといえ
るか否かを検討する。
(2)

原告長女に対する本件在特不許可処分について
認定事実
前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認め
られる。
(ア)原告長女に対する本件在特不許可処分以前の事情
a
原告長女は,コンゴ民主共和国で出生し,6歳であった平成21年5月25日に来日した後,
退去命令を受けて収容令書を発付されたが,
同年6月10日に仮放免許可を受け,遅くとも同年の2学期から大阪府内の公立小学校に小学1年生として入学した。その後,小学4年生
の時に神奈川県内の公立小学校に転校し,同校を卒業後,同県内の公立中学校に進学し,原告長女に対する本件在特不許可処分時において中学3年生(当時15歳)であった(前記前提事実(1)イ,(2)イ(ア)(ウ)(オ),甲4,5,57の1,61,原告長女〔1頁〕,弁論の
全趣旨)


b
原告長女は,小学1年生以降,英語の授業を除き,日本語の授業を受けてきており,日本語を習得した(甲42〔3枚目〕。原告長女の)
学校の友人は,少なくともその多くが日本人である(乙15〔7頁〕,
原告長女〔3頁〕
,弁論の全趣旨)


c
原告長女は,小学校在学中からミニバスケットボールクラブに参加し,市のバスケットボール協会から最優秀選手として表彰されるなどしたほか,中学校進学後はバスケットボール部に所属し,少なくとも1年生及び2年生在学時はバスケットボールの県ブロックの選抜選手に選出され,2年生在学時には県中学生強化選手に選出された(甲9~12,16,60の4)

原告長女は,バスケットボールの技能が評価され,平成29年12
月頃,本件高校の平成30年度入学者選抜試験(スポーツ特待生としての推薦入学試験)を受験した(原告長女〔1,17頁〕
,弁論の全趣
旨)

d
原告長女は,平成29年3月頃,原告母及び原告長男とともに,原告母の交際相手である訴外永住者のアパートに移り住み,原告母は,
同年▲月▲日,訴外永住者との婚姻届を提出した(甲25,26,44,証人訴外永住者〔5頁〕
,原告母〔2頁〕。

e
訴外永住者は,平成18年に永住権を取得し,平成19年4月1日以降,会社員としてビルのメンテナンス等の仕事に従事しており,平成29年度の給与収入金額は500万4750円であった(甲27,
45,46,証人訴外永住者〔2,4頁〕。

(イ)原告長女に対する本件在特不許可処分後の事情
a
原告長女は,平成30年1月23日,前記(ア)cの入学者選抜試験に合格し,
現在,
本件高校に通学している。
また,
特待生認定を受け,
授業料及び入学金が免除されている(甲20,21,42〔1枚目〕,

49,53,原告長女〔1頁〕。

b
原告長女は,来日時に身につけていたフランス語を次第に忘れており,現時点において,フランス語(本国の公用語)の簡単な単語であれば読むことはでき,訴外永住者との間などで簡単な会話をすること
もできるが,複雑な表現をすることはできず,フランス語で話し始めても途中から日本語になるなど,言いたいことをフランス語で十分に伝えることはできない。フランス語の会話は全部を理解することはできず,フランス語を書くこともできない。また,原告長女は,チルバ語やリンガラ語の読み書きをすることはできない
(乙12の1
〔7頁〕

証人訴外永住者〔9,14頁〕
,原告母〔3,9,10頁〕
,原告長女
〔7,9頁〕
,弁論の全趣旨)


c
原告長女は,高校1年生である令和元年7月の時点で,希望する職業は歯科医であるが,次善の策としてバスケットボール選手としての推薦入学や,経済,ビジネスの学問を専攻することも考えており,大学のオープンキャンパス等で気に入った大学があれば候補として検討しているところ,H大学を見学した後,原告母に対して,同大学の医
学部や経済を専攻する学部などは進学先として悪くない旨を述べた(原告母〔6頁〕
,原告長女〔4~6,12,16頁〕。

d
原告長女は,令和元年7月20日付けで,自身が訴外永住者の養子になることに同意する家庭裁判所宛ての書面を作成し,
訴外永住者は,
同年9月17日までに,家庭裁判所に対し,原告長女及び原告長男に
ついての養子縁組許可申立てを行った(甲55,66,67)


検討
(ア)前記ア(ア)aのとおり,原告長女は,平成21年6月に仮放免許可を受けた時から原告長女に対する本件在特不許可処分まで約8年半の間,
本邦において社会生活を送り,義務教育課程をほぼ全て修了しており,全証拠によっても,就学状況や生活状況に特段の問題は見当たらない。そして,原告長女は,反対尋問を含む原告本人尋問を日本語で流暢に対応するなど,現時点において日本語が第一言語となっていることが認められる。また,前記ア(ア)b,c及び証拠(甲10~15,60の1~
4)によれば,原告長女は,学校の友人の少なくとも多くが日本人であることに加え,小学生の頃からチームスポーツであるバスケットボールに励み,校内の部活動に参加するだけでなく市内や県内の他校の生徒らとバスケットボールを通じた交流を行い,高い評価を受けてきたことが認められ,このようなことからも,原告長女が日本の社会に深くなじんでいることがうかがわれる。
以上のとおり,原告長女は,小学生及び中学生という人格形成に極めて重要な時期に,専ら本邦において日本語で生活し,公立学校における教育を受け,
本邦の文化,
社会等の中で円滑に人格を形成してきており,
本邦での生活環境に順応しながら成長を重ねることによって,本邦の社会に良好に適応しているといえるのであって,本邦に高度の定着性を有
するものということができる。
(イ)一方,前記ア(イ)bのとおり,原告長女は,フランス語については,家庭内で話すことはあるものの,簡単な会話ができる程度にとどまり,複雑な表現をしたり,十分な聴き取りをしたりすることはできず,書くこともできないというのであり,また,チルバ語やリンガラ語について
は,読み書きをすることができないというのであるから,日本語以外の言語について十分な語学力を有しているとはいい難い状況にあるというほかない(なお,原告母が記載した原告長女に係る平成29年5月29日受付の難民認定申請書には,
その他可能な言語
として日本語と共に
フランス語についても読むこと,書くこと,話すことに○が付され
ているが(乙26〔訳文4頁〕,平成25年5月30日付けの難民認定)
申請書では,
母国語及びその他可能な言語としてフランス語を少々と記載されていること(乙20の1〔訳文4頁〕)に照らしても,
原告長女のフランス語能力は上記認定の程度と認められる。。

そして,原告長女は,原告長女に対する本件在特不許可処分時には1
5歳,本件口頭弁論終結時において16歳であり,生活上使用する言語の変化及び文化,
社会,
教育等の環境の変化に対する可塑性,
柔軟性は,
幼少期と比較して,相当程度失われているものといわざるを得ない。そうすると,原告母が現時点で連絡を取っている親族等が本国におらず(乙12の1〔5頁〕
,15〔5頁〕
,52の2〔10頁〕
,原告母〔1
頁〕,原告長女自身も本国に住む親族等と連絡をしているわけではない)
こと(原告長女〔6頁〕
)も踏まえれば,原告長女が原告母とともに帰国
したとしても,本国において,フランス語等の言語を習得し,本国の生活環境,文化,社会等に適応していくことは,相当困難であるといわざるを得ない。
(ウ)そして,本邦においては大学への進学が一般化している状況にあるこ
とに加え,原告長女は,原告長女に対する本件在特不許可処分時に本件高校の推薦入学試験を受験済みであり(前記ア(ア)c)
,実際に本件高校
に進学し,その後も優秀な学業成績を収めており(甲49,53),本邦
の大学への進学を希望していること(前記ア(イ)c)を踏まえれば,原告長女に対する本件在特不許可処分時において,原告長女が本邦への在
留を許可されたとすれば,本邦の大学に進学する可能性は相当に高かったと認められる。他方,上記(イ)で認定したとおりの原告長女のフランス語等の語学力に鑑みれば,本邦において日本語により履修した教育課程と同等の内容をフランス語等で理解し,その能力を踏まえて本国その他本邦以外の国の大学に入学し,教育課程を修了することには極めて大
きな困難が見込まれるといえる。そうすると,原告長女に対して在留特別許可をしないことは,
原告長女の大学進学の可能性を実質的に閉ざし,
ひいては将来の社会生活における可能性を閉ざすことになりかねないものといわざるを得ない。
なお,原告長女は,進学先の一つとしてH大学の医学部に関心を有す
る旨供述するところ(前記ア(イ)c)
,同大学に医学部は存在せず(乙5
6)また,

進学費用についての具体的な検討もされていないことがうか
がわれる(原告長女〔12~13頁〕
)が,原告長女の進路に関する供述
は,飽くまで高校1年生時点の希望を述べたものにすぎず,具体性を伴うものにまでは至っていないというべきであり,原告長女が在留特別許可を受けるために意図的に虚偽の供述をしたものとは認められず,また,
具体性を伴う希望に至っていないからといって,大学進学自体について真摯な希望を有していないということもできない。
(エ)他方において,原告長女は,本邦上陸後不法在留を継続しているところ,平成22年3月15日付けの難民の認定をしない処分及び平成25年1月24日付けの退去強制令書発付処分(前記前提事実(2)イ(サ),
(ナ))の取消しを求めたが,平成28年5月12日,請求を棄却する判決が確定したのであるから(前記前提事実(3))
,速やかに本国であるコ
ンゴ民主共和国に送還されるべき地位にあるということができる。そうすると,前記(ア)で認定した原告長女の本邦への定着性等は,違法に本邦に滞在し続けた結果であるともいえるものであり,かかる結果
をもって在留特別許可を付与することとなれば,違法な状態を追認するに等しいとの見方もあり得ることからすれば,このような事情は,在留特別許可の許否を検討するに当たっての消極事情ということができる。しかしながら,前記ア(ア)aのとおり,原告長女が最初に仮放免許可を受けた時は6歳であり,親の監護がなければ生活することが困難であ
ったことは明らかであるところ,母親である原告母が本邦を退去しなかったにもかかわらず,自身のみが退去するという選択が現実的なものであったとはいい難い。また,原告長女は6歳時に入国して以降本邦から出国しておらず(弁論の全趣旨)
,前記(イ)のとおり原告長女や原告母が
現時点で連絡を取っている本国在住の親族等がいるとは認められないこ
とからすれば,原告長女に対する本件在特不許可処分がされた時点においても,原告母が本邦を退去しない状況の下において,単身での本国への帰国を期待することが現実的であったとはいえない。さらに,前記前提事実(2)イ(ナ),証拠(乙30)及び弁論の全趣旨によれば,原告長女に対しては,退去強制令書が発付された後においても仮放免が継続して許可されていることが認められる。これらの事情に照らせば,原告長女の前記(ア)から(ウ)までの事情は,
違法な在留状態を基礎として生じたも
のであることを考慮してもなお,法的保護に値するものというべきである。
(オ)以上に対し,被告は,原告長女が原告母とともに本国に帰国することが子の福祉の観点から相当であると主張する。

確かに,
原告母に対する本件在不許可処分が適法であることは後記(3)
のとおりであるところ,原告長女が本邦に在留することとなれば,本国に送還されるべき原告母と共に生活することができなくなる一方,原告長女が本国において原告母と共に生活すれば,その協力や援助を受けることで,言語や文化,社会,教育等の環境が異なる同国で生活すること
に伴う困難を一定程度解消することも不可能ではないといえる。
しかしながら,原告長女に対する本件在特不許可処分時の年齢からすれば,原告長女が環境の変化への可塑性や柔軟性を幼少期と比較して相当程度失っていたといえることは,前記(ア)のとおりである。
そして,原告長女は,原告長女に対する本件在特不許可処分時におい
て,一般的にも親元を離れて生活することが不可能ではない年齢に近づいていたといえるし,前記ア(イ)aのとおり,同処分後に本件高校に進学し,その授業料が免除されたことなどを踏まえると,仮に在留特別許可が付与されていたならば,新たに与えられる在留資格に伴う制約の範囲内で一定の労働をして収入を得ることや,奨学金を得ることは可能で
あったといえる。
加えて,前記ア(ア)e,(イ)dのとおり,原告母の夫であり原告長女と同居する訴外永住者は,定期的な収入を得ている上,原告長女に対する本件在特不許可処分後ではあるが,原告長女との養子縁組の申立てを行っていること,原告長女の学費等についても援助をする意向を示していること(証人訴外永住者〔10~12頁〕
)からすれば,原告長女に対す
る本件在特不許可処分時においても,原告長女の生活費等について訴外永住者から一定の援助を受けることは具体的に期待できる状況にあったといえる。そうであれば,原告長女は,同処分時においても,原告母による監護や養育を要することなく,本邦において自立的な社会生活を送ることが可能であったということができる。

他方において,在留特別許可が認められることは,本邦における在留を義務付けるものではないし,原告母らに在留特別許可が認められないこと(後記(3)(4))を踏まえても,原告長女が日本国外において原告母らと会うことや共に生活することが認められなくなるわけではないこと,通信手段の発達した現代においては,
本国との間で,
電話や電子メール,

インターネット等により連絡を取り合ったりすることにより,交流を維持することは可能であることからすれば,原告長女のみに在留特別許可を認めることが子の福祉の観点から不相当とまでいうことはできない。(カ)以上のとおり,原告長女については,原告長女に対する本件在特不許可処分時において,本邦を離れて生活することを余儀なくすることは,
将来の可能性を著しく損なうものであったといわざるを得ず,本邦から退去強制されることにつき重大な支障があったといえるところ,東京入管局長は,上記処分を行うに当たり,原告長女が本邦を離れて生活することによって生ずる支障を過小評価し,原告長女の本邦への定着性等を保護する必要性についての評価を誤ったものと認められる。そして,本
邦上陸後の原告長女の真摯な生活状況等の事情にも照らすと,同処分を行った判断は,人道上の観点から事実に対する評価が合理性を欠くものであることが明らかであったといわざるを得ない。
したがって,原告長女に対する本件在特不許可処分は,社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に当たり,
裁量権の範囲を逸
脱又は濫用したものというべきあるから,違法である。
(3)原告母に対する本件在特不許可処分について

原告母は,本邦に上陸して以降,不法在留を継続している上,平成22年3月15日付けの難民の認定をしない処分及び平成25年1月24日付けの退去強制令書発付処分を受け(前記前提事実(2)ア(サ),(ナ)),これら
の取消しを求めた訴えについても,平成28年5月12日,請求を棄却する判決が確定したこと(前記前提事実(3))により,本邦に適法に在留する
ことができない地位が確定し,速やかに本国であるコンゴ民主共和国に送還されるべき地位にある。それにもかかわらず,原告母は,自らの選択により送還を忌避して不法在留を継続してきたものであり,このような原告母の行状は,我が国の司法制度及び出入国管理制度を軽視する看過し難い行為というべきである。そうすると,原告母が自らの選択により長期間本
邦に不法在留していることは,原告母に対して在留特別許可を付与するか否かの判断において,消極事情として考慮されてもやむを得ないというべきである。
また,以上の点を考慮すると,原告母が本邦在留期間中に妊娠,出産したこと,日本語の会話ができるようになったこと,その他日本において社
会生活を営んできたこと等の事情について,在留特別許可を付与するか否かの判断に当たり積極事情として考慮されなかったとしても,不合理であるということはできない。

原告らは,原告長女に在留特別許可が付与されるべきであるから,原告長女の最善の利益等の観点から,原告母にも在留特別許可が付与されるべきである旨主張するところ,原告母が退去強制により本国に送還され,原告長女と離れて暮らすことにより,原告長女に精神面,生活面での一定の支障が生じる可能性があることは否定し得ない。
しかしながら,前記(2)イ(オ)のとおり,原告長女は,原告母に対する本件在特不許可処分時においても,原告母による監護を要することなく,本邦において自立的な社会生活を送ることが可能であったということができ
るし,日本国外で会ったり,様々な通信手段を用いて連絡を取り合ったりするなどして原告長女との交流を維持することは可能といえることからすれば,原告長女の監護等の必要性という点が,原告母について在留特別許可を付与するか否かの判断に当たり格別積極事情として考慮されなかったとしても,不合理であるということはできない。


原告母は,原告長女及び原告長男と共に訴外永住者と同居し,訴外永住者と結婚しているものの,この同居及び結婚は長期間の不法在留中にされたものであり,訴外永住者においても,平成24年に原告母と知り合ってすぐに原告母から在留資格を有していないことを聞いていた旨述べている
ことからすれば
(証人訴外永住者
〔4,
5頁〕,
)原告母及び訴外永住者は,
原告母が入管法違反の状態にあることを十分に認識しつつ,原告母が退去強制により本国に送還される等の事態があることを承知の上で同居や婚姻という関係を構築したものといえる。また,原告母が退去強制されたとしても,原告長女との関係と同様に,訴外永住者との交流を維持することは
可能である。そうすると,訴外永住者との関係が,原告母について在留特別許可を付与するか否かの判断に当たり格別積極事情として考慮されなかったとしても,不合理であるということはできない。
なお,訴外永住者は,原告母の子である原告長女及び原告長男との養子縁組許可の申立てをしているものの(前記(2)ア(イ)d)
,前記イの事情や,

訴外永住者が原告長男に在留資格がないことを認識して上記申立てを行っていることが明らかであることからすれば,訴外永住者が原告母の子である原告子らとの養子縁組許可の申立てをしたという事情をもって,原告母と訴外永住者との関係性が積極事情として考慮されるべきであるということはできない。

原告母は,本国に送還された場合,治安の問題がある旨主張し,同旨の供述をする。しかしながら,原告らが治安に関する問題点として指摘するものは具体的ではないし,治安に係る国民生活の保護は国籍国の責任において行われるべきであることからすれば,この事情をもって直ちに原告母に在留特別許可を認めないことが不合理であるということはできない。なお,原告母は,コンゴ民主共和国に帰国することについて強い恐怖を
抱いている事情として,同国において原告母の父親が同国政府当局に殺害されたことを主張し,同趣旨の陳述書(甲43)を提出するほか,原告長女も同趣旨の供述をする(甲42〔2枚目〕
,原告長女〔6,18頁〕。し

かしながら,原告母は,査証取得のために2008年3月24日付けの居住証明書(乙52の3〔7枚目〕
)を日本大使館に提出していたところ,上

記父親が故人となっていた旨の記載があり(乙52の3〔3頁〕,原告母)
が述べていた上記父親の死亡日(2009年▲月▲日)と整合しないところ,原告母は,この点についての大阪入管難民調査官からの指摘に対し,このような証明書は見たことがない旨の弁解に終始している(乙52の3〔3,4頁〕。また,原告母が同様に日本大使館に迫害の証拠として提出)

した新聞記事は虚偽のものであったことがうかがわれ(乙52の3〔5,6頁〕,上記新聞記事が真実であることを裏付ける証拠等は明らかにされ)
ていない(乙12の1〔9~11頁〕
,弁論の全趣旨)
。そして,上記証明
書の矛盾点等から,前訴の第一審,控訴審判決において原告母の父が殺害されたとの主張が排斥されている(乙1,2)
。これらのことからすれば,

原告長女の上記供述が一定程度具体的であることを踏まえても,原告母の父親が当局に殺害された旨の主張を採用することはできない。

原告母は,本国に送還された場合,原告長男の言語の問題が生じる旨主張し,同旨の供述をする。しかしながら,原告長男は,原告母に対する本件在特不許可処分時において3歳,本件口頭弁論終結時において5歳であり,新たな言語を習得する素地が十分にあるといえることからすれば,この事情をもって原告母に在留特別許可を認めないことが不合理ということ
はできない。

原告母は,難民認定申請を来日当初に行っていることが,原告母に対して在留特別許可を認めるべき積極事情である旨主張するが,前記エのとおり,原告母に係る迫害のおそれを裏付ける事情が真実であるとは認められず,かえって提出した証拠の信憑性が疑わしいことも考慮すれば,原告母
の主張を採用することはできない。

原告母は,本国には友人もおらず,連絡を取っている人物もいない旨主張し,同旨の供述をする(乙12の1〔5頁〕
,15〔5頁〕
,52の2〔1
0頁〕
,原告母〔1頁〕。しかしながら,このことにより,仮に原告母の本)
国での生活に一定の支障が生じるとしても,そのような事態は本邦に上陸
した後に退去しなかった原告母自身が招いたものといえるものであり,原告母において受忍すべき事情というべきであるから,このことをもって原告母に在留特別許可を付与すべきであるとはいえない。

以上によれば,原告母については,在留特別許可が認められなかったことにつき,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,その判断が重要な事実の基礎を欠く場合,又は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,
その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くこと
が明らかな場合であるということはできないから,
処分行政庁が原告母に対し
在留特別許可を認めないことが,
その裁量権の範囲を逸脱又は濫用するもので

あるということはできない。
(4)原告長男に対する本件在特不許可処分について

前記前提事実(1)ウ,(2)ウ(ア),(チ)によれば,原告長男は,本邦において出生し,入管法22条の2第1項に基づき本邦に在留することができる期限を越えて不法に残留し,その後も原告母は原告長男を本国へ帰国させず,原告長男に対する本件在特不許可処分がされた時点で原告長男は3歳であったことが認められる。

以上からすれば,原告長男が不法残留となったことについて,原告長男自身に落ち度があるというわけではない。
しかしながら,原告長男は,コンゴ民主共和国の国籍を有する外国人であり,在留資格を当然に取得し得る地位にあるわけではないこと,親権者である原告母が原告長男の在留資格を取得しなかったことについて合理的
な理由が見当たらないこと(乙40〔9頁〕
)に照らせば,不法残留につい
て原告長男自身に落ち度がないことが,原告長男に対する在留特別許可の許否の判断に当たり殊更積極事情として斟酌されなかったとしても,不合理とはいえない。

原告らは,原告長女に在留特別許可が付与されるべきであるから,原告長女の最善の利益等の観点から,原告長男にも在留特別許可が付与されるべきである旨主張するところ,
原告長男が退去強制により本国に送還され,
原告長女と離れて暮らすことにより,原告長女に精神面等での一定の影響が生じる可能性があることは否定できない。
しかしながら,前記(3)イで述べたのと同様に,原告長男において,日本
国外で会ったり様々な通信手段を利用して連絡を取り合ったりするなどして原告長女との交流を維持することは可能といえることからすれば,原告長女と原告長男が離れて生活することになるという点が,原告長男について在留特別許可を付与するか否かの判断に当たり格別積極事情として考慮されなかったとしても,不合理であるということはできない。


前記前提事実(1)ウ及び証拠(甲41,44〔2頁〕
,証人訴外永住者〔1
4頁〕
,原告母〔3頁〕
)によれば,原告長男は,出生以来本邦で生活し,
日本語で会話し,日本人も通園する幼稚園に通園するなどしていることが認められ,前記(3)キのとおり,原告母が現時点で連絡を取っている親族等が本国にいないこと等も考慮すると,本国に送還された場合,原告長男の生活に一定の困難が伴うことは否定できない。
しかしながら,
原告長男は,

原告長男に対する本件在特不許可処分時において3歳,本件口頭弁論終結時においても5歳であり,可塑性や順応性に富んだ年齢であることからすれば,原告母の援助の下,原告長男が本国での生活に適応することを十分期待することができるというべきである。
そうすると,原告長男が出生以来本邦において生活していることや,本
国に送還された場合に生活上一定の支障が生じ得ることといった事情が,原告長男について在留特別許可を付与するか否かの判断に当たり格別積極事情として考慮されなかったとしても,不合理であるということはできない。
なお,訴外永住者は,原告長男との養子縁組の申立を行っているが(前
記(2)ア(イ)d)
,原告長男は上記アのとおり在留資格がなく,訴外永住者は
そのことを理解した上で上記申立てを行ったものと認められるから,上記申立てを行ったという事情をもって,原告長男と訴外永住者との関係性が積極事情として考慮されるべきであるということはできない。

以上によれば,原告長男については,在留特別許可が認められなかったことにつき,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,その判断が重要な事実の基礎を欠く場合,又は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,
その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くこ
とが明らかな場合ということはできないから,
処分行政庁が原告長男に対し在

留特別許可を認めないことが,
その裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものとい
うことはできない。


小括
したがって,本件各在特不許可処分のうち,原告長女に対する本件在特不許可処分は,裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものとして違法であるというべきであるが,その他の本件各在特不許可処分は,いずれも違法であるとはいえない。

3
結論
以上によれば,本件各訴えのうち,本件各在特義務付けの訴えに係る部分はいずれも不適法であるからこれらを却下し,原告長女に対する本件在特不許可処分の取消しを求める請求は理由があるからこれを認容し,その余の請求はい
ずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

鈴英明有子貫納
(別紙省略)

鹿祥吾
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