判例検索β > 平成29年(わ)第1293号
殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反
事件番号平成29(わ)1293
事件名殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反
裁判年月日令和2年8月24日
裁判所名・部福岡地方裁判所  第3刑事部
裁判日:西暦2020-08-24
情報公開日2020-10-12 14:00:31
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令和2年8月24日宣告
平成29年(わ)第1293号

殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

主文
被告人を懲役17年に処する
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理由
人名については,証拠の標目に掲記する場合を除き,再出時以降は姓のみで表記する。
(罪となるべき事実)
被告人は,A,B,C,D,E及びFと共謀の上,
第1

平成22年3月15日午後11時13分頃,北九州市a区内のG方敷地内において,G方に在宅中のG(同月17日当時75歳)及びH(当時75歳)に対し,殺意をもって,回転式けん銃を使用して,被告人又はBがG方台所勝手口から家屋内に弾丸2発を発射して台所壁に着弾させ,さらに,被告人又はBが同人方玄関先から家屋内に弾丸4発を発射し,玄関に接した8畳和室空間を通してGら2名が在室していたG方1階6畳寝室のふすま等を貫通させて同室押入に着弾させるなどしたが,前記弾丸がいずれもGらに命中せず,同人らを殺害するに至らなかった。

第2

法定の除外事由がないのに,前記日時場所において,前記けん銃1丁を,これに適合する実包6発と共に携帯して所持した。

(証拠の標目)
(記載省略)

(事実認定の補足説明)
第1

争点等
本件の争点は,①本件銃撃行為が殺人の実行行為に当たるか(争点1),②被
告人が本件に関与したか
(争点2)③被告人に殺意及び他の共犯者との間の共,
謀が認められるか(争点3)である。
当裁判所は,これらをいずれも肯定し,被告人には罪となるべき事実のとおり殺人未遂罪等が認められると判断した。以下,その理由を述べる。第2
1
前提事実
甲會の概要,関係者の地位及び関係性
甲會は,北九州市内に本拠を置く暴力団組織であり,平成4年6月に暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律3条に基づくいわゆる指定暴力団として指定されてから,その後も継続して指定を受けている。
乙組は甲會傘下の二次団体であり,乙組内の三次団体が二次団体に昇格した場合,甲會の内部では乙組一門と呼ばれている。
本件発生当時,Fは乙組内で組長に次ぐ地位である組長代行かつ乙組内F組組長,Aは乙組内で序列4位である本部長かつ乙組内A組組長,Bは乙組内F組若頭,被告人は乙組若頭補佐,C,D及びEは乙組組員であった。
2
被害者と甲會との関係
平成22年当時,Gは,北九州市において(以下,北九州市内の地名については市の記載を省略する。,a区自治総連合会会長等を務めていた。)
HはGの妻であり,H及びGはG方において同居していた。
H及びGと甲會との間には,Gが暴力団追放運動に関与していた以外に接点はない。
平成22年3月5日,a区内の建物の門扉に甲會丙会館と書かれた看板が設置された(以下,当該建物を丙会館という。。

同月10日,a区内の公立学校の各校区を単位とする自治会長らが,a区役所に集まって,区職員及びa警察署の警察官らと対応を協議したところ,丙会館前の道路で,地域住民らによる暴力団追放パレード等を実施することが決まった。
この席において,a区自治総連合会会長として各校区の自治会を代表する立場にあったGは,
要旨,

新しい事務所の設置で近隣住民の生活が心配されている。事務所撤去,暴力団排除に向け,一致団結して取り組まなければならない。と述べ,

そのことが同日から翌日にかけて複数の新聞で報道された。
同月12日,警察官が警備する中で,住民らによる暴力団追放パレードが行われた。参加した住民らは,丙会館近辺に至ったが,敷地内に整列した甲會組員らを目にし,その前を通らずに引き返した。
3
本件の発生
平成22年3月15日午後11時13分頃,a区内のG方において,勝手口ドアから家屋内に弾丸2発が撃ち込まれ,さらに,G方玄関戸付近からG方家屋内に向けて弾丸4発が撃ち込まれた
(以下,
この一連の発砲行為を指して
本件銃撃行為という。。


第3
1
本件銃撃行為が殺人の実行行為に当たるか(争点1)
認定事実
関係証拠によれば,本件銃撃行為に係る客観的事実を以下のとおり認定できる。
G方は木造2階建ての和風住宅である。1階南側中央に玄関があり,玄関と隣接してふすまで仕切られた東側(G方南東部)に8畳和室(以下8畳和室という。)がある。8畳和室の南側には障子で仕切られて縁側があり,
北側(G方北東部)には寝室として用いられる6畳和室(以下6畳寝室という。
)があって,8畳和室と6畳寝室の間はふすまで仕切られている。1階北西には台所があり,台所内の東側には壁が,西側(G方北西端)にはアルミ枠ガラス戸の勝手口がある。
本件発生当時,H及びGは,まだ就寝しておらず,6畳寝室内のベッドに横たわって,テレビを見ながら話をしていた。
犯人(以下,その人数にかかわらず,単に実行犯という。
)は,G方勝
手口のドアガラスをコンクリートブロックで割り,1ないし2秒後に,割れたガラスの隙間から家屋内に向けて,所携の回転弾倉式けん銃で,弾丸2発を連続して発射した。
そのうち1発は,勝手口の正面からほぼ水平方向に発射され,1階台所内の空間を通過し,台所東側壁面(床面から約105センチメートルの高さ)に着弾し,壁表面とその内側の板を貫通して,コンクリート製の内壁で停留した。
もう1発は,斜め上方に向かって台所内の空間を通過し,天井壁面を抜けて天井内で跳弾し,
斜め下方に向け再度天井壁面を貫通して台所東側壁面
(床
面から約193センチメートルの高さ)に着弾し,さらに壁表面を貫通して壁面内側の土台の上に落ちた。
その後,実行犯は,G方玄関側に回り,G方敷地内の玄関付近から家屋内に向けて,玄関のアルミ格子付ガラス製引き戸に,前記けん銃で弾丸4発をほぼ水平方向に連続して発射した。この4発の弾丸の軌道及び着弾位置は,それぞれ以下のとおりである(以下,各弾丸をそれぞれ弾丸アないし弾丸エと呼称する。。)

弾丸アは,玄関引き戸の戸枠左端から43センチメートル,床面から約125センチメートルの高さのアルミ格子及びガラスを貫通して,玄関内の下駄箱天板上に置かれていた花瓶に当たって跳弾し,8畳和室のふすま上部に飾ってあった額縁
(床面からの高さ約221センチメートルの位置)
に着弾した。


弾丸イは,玄関引き戸の戸枠左端から57センチメートル,床面から142センチメートルの高さのアルミ格子及びガラスを貫通して,玄関及び8畳和室内の空間を通過し,さらに同室北側のふすまを貫通して,6畳寝室の押入内のハンガー等
(床面からの高さ約155センチメートルの位置)
に着弾し,プラスチック製の同ハンガーを破壊して落下した。

弾丸ウは,玄関引き戸の戸枠左端から70センチメートル,床面から137センチメートルの高さのアルミ格子及びガラスを貫通し,玄関内の空間を通過して玄関東側壁面に着弾した。


弾丸エは,玄関引き戸の戸枠左端から117センチメートル,床面から130センチメートルの高さのアルミ格子及びガラスを貫通し,さらに玄関内東側壁面を貫通して,縁側の空間を通過して8畳和室南側の障子を貫通した後に落下した。
本件犯行に用いられたけん銃は発見されていないが,G方に遺留された弾
丸の鑑定結果によれば,犯行に用いられたのは口径0.38インチの回転弾倉式けん銃であると認められる。これと同型のうち弱い威力のけん銃でも,G方と同型の玄関戸とふすまを垂直に貫通した条件の下で,なお148ジュール/平方センチメートルのエネルギーを有している。この値は,人の生命に危険を及ぼし得るものとして法定されたエネルギー値(20ジュール/平方センチメートル,銃砲刀剣類所持等取締法2条1項,同法施行規則3条参照)を超えている。
2
検討
以上で認定したとおり,本件の犯行態様は,高い殺傷能力を有する真正けん銃を用い,勝手口においては予めドアガラスを割った上でその隙間から2発の弾丸を,うち1発は概ね佇立した人体の上半身に相当する高さでほぼ水平に発射し,玄関についてはアルミ格子付ガラス製引き戸に向かって4発の弾丸を,それぞれ被害者らが在宅しているG方家屋内に向かって,概ね佇立した人体の上半身に相当する高さでほぼ水平に,北東方向に角度をやや広げて発射したものである。
以上を踏まえると,本件銃撃行為は,例えば壁面などに撃ち込む態様と異なり,割れたガラスの隙間から直接,又はアルミ格子付ガラス製引き戸という弾丸が容易に貫通する物越しに家屋に向けて弾丸を撃ち込むものであり,高い殺傷能力を維持したまま,通常人がいる居住空間内に弾丸を到達させ,かつ弾丸が人に命中した場合その者を死亡させる可能性が高い行為と認められる。加えて,本件では,勝手口及び玄関の2か所から,ほぼ水平に,玄関ではやや角度を広げて複数発撃ち込んでいることによれば,本件銃撃行為は,実行犯がGらを目視していなかったとしても,単発の銃撃と比較して,居住者の身体にいずれかの弾丸を命中させる危険性がより高かったものと認められる。現に,弾丸は,Gらがいた6畳寝室内に着弾しており,弾丸の角度やGらの動向等の僅かな条件の違いで,Gらに弾丸を命中させ,その生命を奪いかねないものであった。
弁護人は,
要旨,
通常人の就寝場所は玄関や勝手口からは離れた場所であり,
玄関や勝手口から人の就寝場所までには壁などの構造物や家屋内の扉など弾丸の殺傷力を弱める障害物もあり得るなどとして,深夜明かりの消えている居宅に閉ざされた玄関戸や勝手口の外から発砲する行為はGらを殺害する可能性が高い行為とはいえないと主張する。
しかしながら,G方はやや広いとはいえ一般の和風住宅であって,弾丸が堅い遮蔽物のないところを通って発射位置から離れた位置まで到達する可能性は十分にある。また,夜11時過ぎとはいえ,G方はGらが日常生活を送る自宅であるから,GらがG方内のどこにいても何ら意外ではなく,玄関や勝手口から離れた場所にまで弾丸が到達しなければ危険がないということにはならない。弁護人の主張は採用できない。
以上によれば,本件銃撃行為は,H及びGの生命を侵害する現実的な危険を有しており,同人らに対する殺人の実行行為に当たると認められる。第4

被告人が本件に関与したか(争点2)
被告人が本件に関与したことを証明する証拠はEの供述のみであるから,その信用性について検討する。

1
E供述の要旨
被告人の関与について,Eは,要旨以下のとおり供述する。
被告人とは,平成20年11月頃に知り合った。当時,お互い丙組の組員であり,Aのかばん持ちをしている際や,組事務所で当番に入っている際に挨拶することはあったが,個人的な付き合いはない。
本件(平成22年3月15日)の数日前,Aから,バイクを急ぎで用意するよう指示されので,Dと一緒に,いわゆる足のつかないバイクとして知人からバイク(以下本件バイクという。
)を借りて用意した。
本件当日,Aから,Dと一緒に本件バイクをa区にある銭湯(以下銭湯という。
)まで持って行くよう指示された。
まず,
本件バイクを運転して銭湯まで運び,
鍵をかけておいた。
Dと合流し,
b区内で自動車(以下グロリアという。
)を盗み,a区内の知人のガレージ
(以下ガレージという。
)まで運んだ。
Aから指示された時刻頃になったので,Dが運転する自動車(フォルクスワーゲンゴルフ。以下ゴルフという。
)で,銭湯へ移動し,事前に止めておい
た本件バイクの前輪の上にバイクの鍵を置いて引き渡せるようにし,その旨をAに電話で報告し,Dの運転するゴルフで帰路に就いた。
その途中,Cから自分に電話があり,本件バイクが動かないから戻ってきてくれと言われた。
Dの運転するゴルフに乗って,一緒に銭湯付近へ戻る途中,川沿いの道で,自動車に乗って対向して進行してきたCと出会い,対向方向のまま車を横並びに止めて,窓越しに話をした。Cは,ヘルメットを持ってくるように言われたので持ってきた,などと言っていた。
銭湯付近に着いて,自分だけゴルフを下りたところ,作業着姿に手袋をつけて,フルフェイスのヘルメットをかぶったBが,本件バイクを押していた。本件バイクのエンジンがかからなかったので,Bにグロリアを用意していることを伝えると,Bは,近くに止まっていた黒いベンツ(以下ベンツという。の運転席にいたFと相談した後,

グロリアのところへ案内するように言っ
てきた。
Dの運転するゴルフに乗り,Bらが乗ったベンツをガレージまで先導した。ガレージに到着すると,ベンツから,Bと一緒に,作業着を着た被告人が降りてきた。B及び被告人は,グロリアを確認して,ベンツにいるFのもとに戻って相談していたが,Bからゴルフを使うのでお前たち(E及びD)が運転してくれと言われた。
Fの運転するベンツは,その場から去っていった。
B及び被告人がゴルフに乗り込み,運転席にDが,助手席に自分が,助手席後ろに被告人が,運転席後ろにBが乗った状態で,ガレージ周辺でしばらく待機した。B又は被告人から,この辺から逃げるならどこに逃げるかと言われ,a区からc区に山道を抜ける逃走経路を提案し,事件を起こした後そのルートでd区のレンタルビデオ店まで逃走することになった。
Bの指示で,Dがゴルフを運転してガレージを出発した。
出発の前後に,B又は被告人から,岩かブロックがないかと言われ,途中でコンクリートブロックを見つけたので,それを拾い,助手席後部の座席に座っていた被告人の手元か足元かに置いた。
Bの案内で,住宅街にある公園付近に至り,そこでゴルフを止めるよう指示された。
Bと被告人はゴルフを降りて走り去り,しばらくすると発砲音が複数回聞こえた。間もなく,2人が走って戻ってきて,後部座席に乗り込んだ。Bの指示で出発し,先に決めた逃走経路を逃走した。途中,Bの指示で海岸沿いの渡船場に立ち寄った。Bは,そこで車を降りて,しばらくすると戻ってきたので,先ほど事件で使ったけん銃を捨てたのだと思った。
その後,予定どおりd区内のレンタルビデオ店まで行き,Bと被告人は,着ていた作業着等を脱いで,ゴルフ内に残して解散した。
その後,当日の出来事について,電話でAに報告した。
翌日(同月16日)以降,Bと共に,ゴルフを海中に投棄し,犯行に使用した作業着等は燃やして,グロリアは自分で運転して路上に放置した。2
E供述の信用性
E供述の内容は,①自ら海に投棄したとするゴルフがEの案内に基づいて発見され,
グロリアも,
本件の捜査とは別に,
盗難車として警察に把握され,
遺留品として路上で発見されていること,
②犯行当日におけるA,
D及びC,
ガレージを管理する知人らとの電話連絡が,客観的な通話履歴と整合して矛盾がないことから,その供述が,ありもしない事実を虚偽で述べたものでないことは明らかである。
被告人とBがコンクリートブロックを持ってゴルフから降りて,しばらくして発砲音が聞こえ,その後に2人がゴルフに戻ってきたという点については,その場所がG方のごく近辺であることと,少なくとも2人以上の人物がG方ガレージで話しており,その後発砲音が聞こえたとのIの供述とに整合し,犯行後G方勝手口付近に,Hの関知しないコンクリートブロックが遺留されていたことと併せて,
本件犯行の態様を矛盾なく説明するものといえる。
Eは,以上の供述をした時点で,本件における自らの殺意を争って控訴中ではあったが,Eの供述によらなければ第三者が知り得ない事実を供述し,甲會内の幹部であったFや,特に直接の上位者であるAについても供述しており,自己の刑責の軽減を図るため殊更に虚偽の供述をしているとは考えにくい。
以上に加え,その供述内容が具体的で,反対尋問に対しても特に揺らいでいないことからも,Eの供述には全体として高い信用性を認めることができる。
次に,Eが被告人の関与について部分的に事実と異なる供述をしている可能性があるかどうかを検討する。
まず,Eと被告人は旧知の間柄であり,ガレージでグロリアを確認し,本件犯行を行い,d区内のレンタルビデオ店に逃走するまでの数時間,行動を共にしていたのであるから,他人を被告人と間違えて認識していることは考え難い。
その上で,Eにとって,乙組一門の幹部であるFや,幹部であり直接の上位者でもあるAの関与を既に供述しているのに,被告人の関与についてのみ殊更虚偽の供述をして,自らの罪の軽減を図るとは考え難い。また,Eと被告人は,互いに甲會組員という以外の個人的な付き合いはなく,怨恨等Eが被告人に刑責を押し付けるような事情や,真の関与者をかばうため,その者と被告人をすり替えて供述していることをうかがわせる事情も特段ない。また,被告人とBが行動を共にしていたと見込まれる本件当日の午後19時40分頃から犯行時刻頃までの間は,少なくとも被告人とBとの間では通話がないところ,この間に両者の間で通話があるなど,被告人とBが行動を共にして犯行現場に至ったことと両立しないような事実も特段認められない。以上によれば,本件の証拠関係において,Eが,虚実織り交ぜ,被告人の関与以外の部分については客観的証拠と整合するように供述し,被告人の関与についてのみ部分的に虚偽を述べていることを疑わせる事実は何ら存在せず,
Eの供述は,
被告人の関与に関する部分を含め,
信用することができる。
弁護人は,Eの供述につき,①Cと車同士ですれ違いざまに停止して会話したとの供述が不合理である,②ガレージで待機してから犯行に及ぶまでにある程度の時間があったはずであるのに,Eの供述はその間の出来事を十分に説明し得るものではなく,③その間の被告人の発言,会話についての言及が一切なく,不自然であるという点を指摘して,Eの供述は不自然であって信用できない旨主張する。
しかしながら,①については,Eの供述は,Cから電話で呼び戻され,銭湯に引き返す途中でCとすれ違い,その際自動車を止めて話をしたというもので,出会うまでに一定のやりとりがあったことによれば,E及びCがお互いを認識して自動車を停止したことが,特段不自然とはいえない(なお,証拠によれば,EとCは何度か携帯電話で会話をしている。。

②については,Eの供述や関係者の通話履歴によれば,ガレージでの待機から犯行までの時間はおよそ2ないし3時間程度であったと認められるが,待機中に逃走経路の相談などをしていたなどのEの供述が,弁護人の指摘するように時間経過を説明できない不自然なものとはいえない。
③については,Eの供述には,Bか被告人のどちらかの発言である旨述べているところもある上,被告人との具体的会話を記憶していないとしても,本件が供述時から9年以上前の出来事であることによれば不自然とはいえず,少なくともEの供述全体の信用性を失わせるものではない。
以上によれば,被告人の関与に関する点を含め,E供述の信用性に疑問を生じさせる事情は認められず,これに沿う事実を認めることができる。3
小括
以上のとおり信用できるE供述と,前記第3の1で認定した本件銃撃行為に関する事実とを総合すれば,本件犯行の概要及びこれに対する被告人の関与について,以下の事実を認定できる。
Aは,本件犯行の数日前,本件犯行を実行することとし,実行犯が使うバイクの手配を,配下の組員であるEとDに指示した。
EとDは,Aの指示に基づき,本件バイクを用意し,さらに予備の手段として,予めグロリアを盗んで用意し,ガレージに保管した。
被告人は,遅くとも犯行当日(平成22年3月15日)までに,何者かからの指示を受け,実行犯として本件犯行に加わった。
犯行当日,被告人は,同じく実行犯を担う予定のBとともに,Fの運転するベンツに乗って,概ね同日午後7時40分頃までに,本件バイクを受け取るため,銭湯付近に到着した。
Bらは,Cを介して,Eに本件バイクが動かないので銭湯に戻るよう連絡した。
Eらが銭湯に戻ると,
Bの言うとおり本件バイクが動かなかったので,
Eは予備のグロリアを用いることをBに提案した。
被告人は,Fの運転するベンツに乗ったまま,Bとともに,E及びDの先導で,グロリアが置かれていたガレージに移動した。
グロリアを確認した後,BがFと相談して,EとDが乗っていたゴルフを犯行に使うこと,EとDが,被告人とBを犯行現場付近まで送迎することが決まった。
被告人,E及びDの4名は,
B,
ガレージ付近に止めたゴルフ内で待機し,
逃走経路を話し合うなどした。
被告人らは,Bの合図により,Dの運転で同所を出発し,その途中で,Eがコンクリートブロックを拾った。
G方付近の公園前にゴルフを停めさせると,被告人とBは,けん銃及びコンクリートブロックを持って車から降り,G方へ向かった。
同日午後11時13頃,同所において,被告人又はBのいずれかが,コンクリートブロックを勝手口ドアに投げつけてガラスを割り,続けて,同人らのいずれかがけん銃を用いて弾丸2発を発射し,さらに玄関前に移動して,同人らのいずれかがけん銃を用いて弾丸4発を発射し,
本件犯行に及んだ
(な
お,被告人とBのいずれが銃撃を担当したのか,あるいは途中で交代するなどして両名で行ったのかは,証拠上特定できない。。

犯行を終えた両名は,直ちにゴルフへ駆け戻ると,Dに指示してゴルフを発進させ,同所から逃走した。
第5

被告人に殺意及び他の共犯者との間の共謀が認められるか(争点3)以上の事実を踏まえて,被告人の殺意及び共謀の有無について検討する。
1
殺意について
実行犯のうち銃撃を担当した者の殺意について
まず,本件銃撃行為が,客観的にみて,殺人の実行行為と評価するに足りる危険性を有していることは,既に前記第3で認定したとおりである。その上で,本件銃撃行為の当時,銃撃担当者が認識し得た外形的事実について検討すると,関係証拠によれば,G方は,庭の掃除が行き届いているなど,建物の外観上明らかに廃屋ではなく,勝手口にはセンサーライトが取り付けられており,本件銃撃行為の当時,実行犯がG方勝手口付近に赴いた際にも,これが点灯したことが認められ,Gらが留守にしていることを示す事情もないことによれば,銃撃担当者は,G方に現に家人がいることを認識していたと認められる。
このように,銃撃担当者は,前記認定のとおりの危険な態様で,その危険性を基礎付ける事実を認識した上で,家屋内に向けて合計6発の弾丸を発射したことが認められ,銃撃担当者に対し,行為の危険性の認識を妨げたり誤らせたりする事情は何ら存在しない。
以上によれば,銃撃担当者は,発射した弾丸が家屋内の人物に命中する可能性があること,
命中すればその者が死に至り得ることを十分認識しながら,
その結果を意に介さず本件犯行に及んだものと認められ,殺意があったと認められる(なお,検察官は,実行犯がコンクリートブロックで勝手口のドアガラスを破壊したのは,就寝していたGらを立ち上がらせ,物音の確認のため家屋内を動き回らせる状況を誘発して,殺傷の危険を高める意図で行われた旨主張するが,ドアガラスの破壊とけん銃の発射の間隔が短いことなどによれば,そこまでの意図を推認することはできず,殺意の認定において重視しなかった。。

そして,本件が,F,A,B,被告人ら,甲會関係者により計画的に行われた犯行であること,Gと被告人らの属する甲會との間に,Gが暴力団追放運動に携わる住民の代表であるという以外に何ら接点がないことからすると,本件犯行は,暴力団追放運動に携わるGらに対する威嚇,脅迫,報復の目的で行われたものと認められる。
弁護人は,要旨,①Gの殺害を意図していたのであればGの帰宅を待ち伏せるなど,Gらを目視する別の方法によることもできたのに,そのような方法が選ばれていない,②本件銃撃行為は,ブロックによるガラスの破壊と一連のものとして,被害者らに対する威嚇効果を狙ったもので,Gらの死亡結果を意図していないなどと主張する。
①については,銃撃担当者において,確実にGを殺害しようという意欲があったことを否定する根拠とはなり得ても,前記認定に係る殺意を否定する根拠とはならない。
②について,前記のとおり,本件犯行の目的は,暴力団追放運動に携わるGらに対する威嚇,脅迫,報復にあると認められるのであり,威嚇目的と殺意は何ら矛盾するものではないから,そもそも,威嚇目的があることが殺意の推認を妨げる事情とはいえない。
弁護人の主張は採用できず,銃撃担当者には,Gらに対する殺意が認められる。
被告人の殺意について
本件銃撃行為を担当したのが被告人とBのいずれであるか,あるいは両者であるかは,本件の証拠上特定できないが,以下の理由により,いずれにせよ,被告人にはGらに対する殺意があったことを認めることができる。ア
被告人が自ら銃撃行為を担当した場合,殺意が認められることは前記のとおりである。


被告人が自ら銃撃行為を担当しなかった場合でも,
被告人が,
Bと同様,
犯行後に焼却して処分された作業着を着てG方に赴き,犯行から逃走までが短時間で遂行されている以上,その役割は,G方への誘導,現場での見張り,それと併せてコンクリートブロックで勝手口のドアガラスを破壊することなどにあったと認められる。
その際,G方の外観や家人の在宅可能性等,銃撃担当者が犯行時に認識し得た客観的事情は,その場にいた被告人も当然認識したと認められる。このような役割を現場で果たしている以上,甲會組員としてそれまでに相当期間にわたり活動し,犯行当時は乙組の若頭補佐を務めていた被告人にとって,G方への銃撃が予期せぬもので,自らの意思に反したものだったとは考えられない。
このように,被告人は,自ら銃撃を担当していない場合であっても,銃撃を担当した者と同様の認識の下で,その遂行に不可欠の役割を躊躇なく果たしていると認められることによれば,同様に殺意があったと認められる。
2
本件の共謀について
前記第4の3で認定したとおり,本件犯行は,①甲會内乙組組長代行であるF,乙組本部長であるAの関与の下で,Aの配下であるE及びDが,Aの指示に基づき,犯行現場への移動手段である本件バイク等を予め用意し,②Fが,本件バイクの受取現場までB及び被告人を連れて行き,③Cが,必要に応じてEらを呼び戻し,④予め定められた役割に従って,B及び被告人が,G方での実行犯としての役割を担い
(ただし,
銃撃担当者を特定することはできない。,

⑤F及びGのガレージでの指示に基づいて,EとDが現場への送迎役を担うなど,それぞれが役割を分担して行われた組織的犯行である。
このような事実関係によれば,被告人は,F,B,C,D及びEとの間で意思を通じ,Aとは少なくともE及びDを経由して意思を通じ,殺意を持って本件犯行に及んだことが認められる。
そして,
被告人の果たした役割は,
Bと共に銃撃現場であるG方前まで行き,
自ら銃撃行為を行うか,少なくとも銃撃担当者の誘導,見張り等,本件犯行を確実に実行するために不可欠なものであった。
以上によれば,被告人には,本件殺人未遂及びけん銃の加重所持についての共謀が認められる。
第6

結論
以上のとおり,被告人はBとともに本件犯行に及んだ実行犯であり,H及びGに対する殺意及び他の共犯者らとの共謀があったと認められる。
(累犯前科及び確定裁判)
1
累犯前科の事実
平成17年3月3日
福岡地方裁判所小倉支部宣告
覚せい剤取締法違反の罪により懲役1年10月
平成18年12月13日その刑の執行終了
平成18年5月30日
高松地方裁判所宣告
傷害罪により懲役1年2月
平成20年2月13日その刑の執行終了

2
確定裁判の事実
平成26年11月19日
福岡地方裁判所小倉支部宣告
覚せい剤取締法違反の罪により懲役2年4月
平成26年12月4日確定

3
証拠
検察事務官作成の前科調書

(法令の適用)


判示第1の行為

被害者ごとにそれぞれ包括して刑法60条,203条,19
9条

判示第2の行為

刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,第
1項,3条1項
科刑上の一罪の処理

刑法54条1項前段,10条(判示第1のB及びAに対する
殺人未遂は1個の行為が2個の罪名に触れる場合である
が,犯情が被害者ごとに異ならないのでその一つを選ぶこと
をせず,殺人未遂罪の刑により処断)

刑累種犯の選加択
判示第1の罪について有期懲役刑を選択


刑法56条1項,57条,14条2項(判示各罪はいずれも
前記1

の各前科との関係で再犯であるから,それぞ

れ再犯の加重。

併合罪の処理

刑法45条後段,50条(判示各罪は前記2の確定裁判があ
った覚せい剤取締法違反の罪とそれぞれ併合罪の関係にある
から,
まだ確定裁判を経ていない判示各罪について更に処断)

刑法45条前段,47条本文,10条,14条2項(判示各
罪もまた併合罪であるから,重い判示第1の罪の刑に法定の
加重)

未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用(不負担)刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1
本件は,被告人が,暴力団関係者である共犯者らと共謀の上,高い殺傷能力を有する真正けん銃を用い,殺意をもって,被害者らが在宅する家屋内に向かって合計6発の弾丸を発射した殺人未遂,並びにけん銃及び適合実包を所持した銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案である。
本件が,暴力団組織に属する者らによる組織的,計画的犯行であることや,地域住民の代表として暴力団追放運動に取り組み始めた被害者らを標的としていることによれば,その目的は,被害者らを含む暴力団追放運動に取り組む住民への威嚇,脅迫,報復にあったと推認できる。本件犯行は,暴力を用いて一般市民の生命を脅かし,暴力団組織への抵抗を封殺しようとするものであり,その凶悪性は他の類型に比肩できないものがある。
殺人未遂の犯行態様は,民家内に向けて,ガラス戸越しに,弾丸複数発をほぼ水平に発射するというものである。弾丸の角度や被害者らの動向等の僅かな条件の違いで,被害者らに弾丸を命中させ,その生命を奪いかねないもので,その態様は生命に対する危険性が非常に高いものである。
暴力団組織に属する複数の組員が,その指揮命令系統に従った組織的かつ計画的犯行として本件に及んだという点は,犯罪遂行の確実性を高め,被害者らの生命侵害の危険を一層高めるものである。
このように凶悪な犯行の標的とされ,最も平穏に生活できるはずの自宅内で生命を脅かされた被害者らの恐怖感と精神的苦痛は大きく,被告人らの厳罰を望むのは当然である。
以上によれば,
本件に関与した全員に対し,
すべからく厳しい非難を免れない。
2
被告人は,自らけん銃を発射したかどうかは不明であるものの,少なくとも犯行現場に赴き,けん銃発射の場面に立ち会っているのであるから,その一事をもってしても,犯行の実現に重要で不可欠な役割を担ったと認められる。被告人の暴力団組織内の地位を考慮すると,被告人は上位者の指示に従って本件犯行に関与したものと認められるが,その刑事責任は,本件犯行を立案した者や指揮した者に次いで重いといえる。
被告人には,本件犯行までに累犯前科を含む複数回の服役前科があるだけでなく,本件犯行に自らの意思で加担している点で,その規範意識の低下は著しいといわざるを得ない。
本件につき,被告人については,その責任非難において酌むべき事情を見出すことができない。
他方,被告人には,前記のとおり確定裁判が存在し,これと本件とが併合審理された場合との均衡を,一定程度は考慮する必要がある。
3
以上のとおり,本件犯行の目的の凶悪性,犯行の危険性,被害者が被った精神的被害,被告人が果たした役割の重要性等の本件の犯情によれば,前記確定裁判の存在を考慮しても,
被告人に科すべき刑は懲役17年が相当であると判断した。

(求刑‐懲役18年)
令和2年8月25日
福岡地方裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

神原
裁判官

川口洋平
裁判官

池上恒太浩
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