判例検索β > 令和1年(わ)第674号
恐喝、恐喝未遂、強盗致傷被告事件
事件番号令和1(わ)674
事件名恐喝,恐喝未遂,強盗致傷被告事件
裁判年月日令和2年9月9日
裁判所名・部札幌地方裁判所
判示事項の要旨被告人が,共犯者らとともに,出会い系サイトで呼び出した男性に対して,未成年と口淫したことが犯罪であるなどとして示談金名目で現金を要求した恐喝,恐喝未遂事件と,同様の方法で現金を要求したが被害者が支払に応じなかったため,共犯者らが被害者に対し顔面を拳骨で殴るなどの暴行を加え,全治1か月の鼻骨骨折等の傷害を負わせた強盗致傷事件である。争点となった強盗の正犯性及び傷害結果への因果関係についていずれも認め,一方で暴行に関する被告人の関与の程度を考慮し,被告人に懲役3年6月を言い渡した事案。
裁判日:西暦2020-09-09
情報公開日2020-10-08 16:00:21
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主文
被告人を懲役3年6月に処する
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,Cの兄になりすました上,AがCに口淫させたことが犯罪であるなどと因縁を付けて,
Aから現金を脅し取ろうと考え,
C及びDらと共謀の上,
令和元年8月13日午前0時40分頃から同日午前1時5分頃までの間,札幌市(住所省略)G公園において,Aに対し,

こいつ,家出してた俺の妹なんだけど。「未成年に何してるのよ。淫行は犯罪だよ。警察行くか。「警察行きた


くないっていうなら,どうするんだ。逮捕されたら,最低でも罰金はあるだろう。ニュースに出たら大変なことになるんじゃねえのか。罰金なら50万はいくんじゃねえのか。せめて半分の20万ぐらいは用意するのが筋じゃないの。

とりあえず,その1万円はもらえるかい。残りの19万円は後でいいか


ら。などと言って現金の交付を要求し,

もしこの要求に応じなければ,
Aの自
由及び名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示してAを怖がらせ,よって,その頃,同所において,Aから現金1万円の交付を受けてこれを脅し取り,引き続き,同日から同月28日までの間,数回にわたり,北海道内において,Aに対し,電話又は対面で,

金は用意できたのか。「今週中になん


とかしてくれ。

19で良いよ。

」などと言って,現金の交付を要求し,前記同
様の気勢を示してAを怖がらせ,Aから現金を脅し取ろうとしたが,Aが警察に届け出たため,その目的を遂げなかった。
第2被告人は,
令和元年8月21日午前1時41分頃から同日午前3時28分頃
までの間,札幌市(住所省略)H公園において,Cの兄になりすまし,C,D
及びEらと共に,BがCと口淫したことに因縁を付けて,Bに示談金を支払うよう要求したが,Bがこれに応じなかったことから,Bから現金を強取しようと考え,D及びEらと共謀の上,その頃から同日午前3時55分頃までの間,H公園において,Bに対し,背中を突き飛ばしてBを転倒させ,腹部を多数回足蹴りし,髪の毛をつかんで顔面を拳骨で1回殴打し,頭部を地面に打ち付けるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧してBに10万円の支払いを約束させ,その頃から同日午前4時27分頃までの間に,その支払いを履行させるためBとともに同市
(住所省略)
のB方に赴くなどしたが,
Bが警察に通報したため,
その目的を遂げず,その際,前記暴行により,Bに全治約1か月間を要する鼻骨骨折及び加療約1か月間を要する頸椎捻挫,両側胸部打撲及び両手擦過傷の傷害を負わせた。

(事実認定の補足説明)
1本件では,判示第2の強盗致傷事件について,①共同正犯か幇助犯か,すなわち,被告人が共犯者らと共に,被害者に暴行を加えて現金を奪うことを自分の犯罪として行ったといえるか,②被告人が強盗致傷罪の責任を負うか,すなわち,被害者の怪我は被告人の合流後の暴行により生じたものか,が争点となっている。
2まず,強盗致傷事件の経過については,被告人の公判供述,証人B及びEの各証言等によって,以下の事実が概ね争い無く認めることができる。H公園のトイレからBとCが出てきた際に,被告人がDと共にBに声をかけ,Cに口淫させたことに因縁を付けて脅し,示談金の支払を要求した。その間,FはCを車まで送っていった後に被告人らに合流した。被告人は,Bのキャッ
シュカードを取りに行ってもらうために,Eに電話をかけてトイレ前に呼び出したが,Bは支払いに応じなかった。被告人らがBを伴って公園のベンチに移動した後,被告人に美人局の別のターゲットが来ている旨の連絡があり,被告人は,Eに対し,
ちょっと行ってくる旨述べて,E及びFを残し,Dと共に
別のターゲットが来る公園へと向かった。

被告人とDがH公園を離れている間,同公園内のベンチにおいて,FはBに複数回往復びんたをし,EはBの右肩付近を前蹴りした。また,被告人のスマートフォンからEのスマートフォンに対して連絡があり,被告人及びDは,Eに対し,Bに対する美人局の状況を確認したところ,Eが変わりがない旨述べたことから,同公園に向かう旨述べた。
被告人及びDがH公園に戻ってEらと合流した際には,
被告人は,
Eから
ボコっていいですか
旨言われ,
好きにすれば
という趣旨の返事をしている。

その後,
EがBと共にH公園の茂み付近に移動し,
被告人らもついていった。
そして,Eらは,背後からBの背中を突き飛ばして四つん這いになる形で転倒させ,両脇腹を多数回足蹴りし,髪の毛をつかんで体を引き起こした後に顔面を拳骨で1回殴打し,髪の毛をつかんで頭部を地面に打ちつけるといった暴行を加えた。その際,被告人は,その付近におり,EらがBに対して暴行を加え
ていることを認識していながらこれを止めるような行動をとらなかった。⑷

その後,
Bが金の入った口座のキャッシュカードが家にある旨述べて支払う意思を示したため,Bの車に被告人及びEらが同乗してキャッシュカードをBの家に取りに行った。その際,被告人は,Eに対し,分け前を要求する旨の発言をした。

3共同正犯の成否について(争点①)


この点,確かに,被告人が自ら暴行を加えたとは認められない(なお,Dの供述調書には被告人の暴行についての記載があるが,暴行に関するDの供述はB,E及び被告人の供述と整合せず,信用できない。。


しかし,本件に至るまでの経緯をみると,被告人が暴力団組員に誘われて美人局を始め,Cを誘い入れたこと,その後にE,D及びFが加わったこと,報酬の不満から暴力団組員とは別に被告人らだけで美人局を始めるようになった後,被告人とDが主として脅し役を担い,Fが運転手役を担うことが多かったこと,被告人はE及びDよりも年上であることが認められるところ,被告人
がリーダー格とまではいえないとしても,やや上の立場であったとはいえる。このことは,本件においても,被告人がEを電話で呼び出したことや,Eが被告人に対してBに暴力を加えても良いか尋ねたことからもうかがわれる。⑵

そして,本件において,被告人は,もともとBに示談金を要求していた際には脅し役をしており,Eを電話で呼び出すなど主導的な役割を担っていたものである。その後に被告人はDとともにH公園を離れてはいるが,これは弁護人が主張するように,Bに対する美人局をあきらめたものとは認められない。
すなわち,被告人がEに対して頼むわなどと発言したかは判然としないが,Eに対しちょっと行ってくる旨発言してH公園を離れたのは,その発言の趣旨やE及びFをH公園に残したことからして,緊急性を要する別の美人局を実行するために被告人及びDは移動し,その後のBの対応をEらに任せたものとみるべきである。さらに,その後に被告人のスマートフォンから発信し
て,Eのスマートフォンとの間で通話がされ,被告人及びDがBに対する美人局の状況を確認するなどし,状況が変わらないと認識しても美人局をやめて戻ってくるように述べず,H公園まで戻っていることは,被告人がBに対する美人局をあきらめておらず,未だ関与し続けていることを示している。なお,H公園の状況を確認したり,H公園に向かう旨の発言をしたのが被告人なのかD
なのかは判然としないが,仮にDの発言だったとしても,被告人もそのやりとりを共有してDと共に行動をしているのであり,この評価に変わりはない。⑶

また,合流した後の被告人の行動を見ても,被告人は,Eからボコっていいですかと聞かれた際,好きにすればという趣旨の返事をし,Eが暴行

ることを容認する発言をしている。この点,検察官は,Bの証言に基づき,被告人がEに対して殴ってもいいから,丘の方へ行けや人気のないところへ行けという趣旨の発言をし,暴行に関して指示を与えたと主張する。しかし,Eは,被告人の発言は殴っちゃえばいいじゃないという趣旨のものにとどまり,場所については,Fが移動するべなどと発言したと証言してい
る。Bは,初対面の被告人らから被害を受けたのであり,被告人らから言われた内容自体は記憶していたとしても,その発言を被告人らのうち誰が言ったのかについて明確に記憶していたのか疑問がある。Bは,場所を移動することに関するFの発言内容についても被告人が発言したと記憶した可能性がある。したがって,被告人が殴ってもいい旨の発言にとどまらず,
丘の方へ行け
や人気のないところへ行けという趣旨の発言をしたとは認められず,検察官が主張するように,
被告人がEに対して暴行に関する指示をしたとは評価で

きない。他方で,弁護人は,被告人はEが脅すために言っているのであり,本当に暴行を振るうつもりだとは思っていなかったから,被告人がEの暴行を容認していたわけではないなどと主張する。しかしながら,被告人は,Eらが暴行を加え始めてもそれを止めることもなかったのである。しかも,好きにすればという趣旨の発言は,EもBも,EがBに暴行を加えても良いという趣
旨のものとして受け止めたのであるから,被告人においても,Eがそのように認識することを分かって発言したものと認められる。そうすると,Eが暴行を加えるつもりとは思わなかったという被告人の供述は信用できず,被告人の発言は,暴行を加えることを容認する内容のものとみるべきである。そして,Eは,ベンチにおいてBの右肩付近を前蹴りしたが,勝手に暴行
加えていいものではないと思い直して1回で止め,被告人らと合流した後に被告人に対してボコっていいですかなどと聞いていることや,被告人がこれまで共犯者間でやや上位の立場にあったことからすれば,既に始まっていた暴行を被告人が止められなかったとはいえず,被告人の上記発言をきっかけとして,Eらの暴行が始まったといえる。



さらに,被告人は,Bの家にキャッシュカードを取りに行く際にもBの車にEらと乗って行動を共にし,報酬を求める発言をしている。なお,報酬について,弁護人は,脅し取った人が分配方法を全て決めるルールであったなどと主張するが,被告人の供述によっても,過去に行った美人局の中では脅し役以外
の者が分け前を得ることも多々あったことや,被告人がBの家の前で分け前を要求する旨の発言をしていることからすれば,被告人においても,本件で報酬を全く得られないという認識でいたとは認められず,むしろ報酬をもらえるものとして行動していたというべきである。


そうすると,被告人は,自らBに対して暴行を加えたわけではないものの,もともと共犯者間でやや上位の立場にある上,本件美人局においても当初は脅し役として主導していたのであり,その後にH公園を離れたとしても,Bに対
する美人局をいったんEらに任せたにすぎず,関与しなくなったわけではないこと,合流後にEの暴行を容認する発言をし,これをきっかけとしてEらの暴行が開始され,
この暴行についても認識していながら何ら制止するなどの行動
をとらなかったこと,
暴行後にBから脅し取った金の分け前を求める行動をと
っていることからすると,被告人は,被害者に暴行を加えて現金を奪うことを
自分の犯罪として行ったと認められる。
4因果関係について(争点②)


上記の事実認定からすると,合流後の暴行は,それぞれ突き飛ばされた際に手の甲をついたことによる両手擦過傷,両脇腹を蹴られたことによる両側胸部打撲,鼻を殴られたことによる鼻骨骨折,髪の毛をつかんで地面に頭部を打ち
つけられたことによる頸椎捻挫という傷害結果とそれぞれ対応している。他方で,ベンチ前での暴行には,これらの傷害結果と対応する暴行が存在しないことから,
いずれの傷害結果も被告人が合流した後に加えられた暴行により生じたと認められる。


なお,弁護人は,ベンチ前でFから往復びんたを受けた際又はEから前蹴りを受けた際に頸椎捻挫が生じた可能性もあると主張する。
しかし,Bは,ベンチ前での暴行の際には首の痛みは感じていなかったが,茂みの裏で髪の毛をつかんで地面に頭を打ちつける暴行を加えられた際に首の痛みを感じた旨具体的に証言しており,このような証言内容は,誰からどの
暴行を加えられたかという点についてはともかく,暴行の内容や加えられた時期については信用性が認められる。また,Bの頸椎捻挫が加療約1か月と診断されていることからすると,ベンチ前での暴行のみによって生じたものとは考えられない。したがって,弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
罰条
判示第1の行為
恐喝の点

刑法60条,249条1項

恐喝未遂の点

刑法60条,250条,249条1項

包括一罪の処理

一罪として恐喝罪の刑で処断

判示第2の行為
刑種の選
刑法60条,240条前段

併合罪の処理

判示第2の罪について,有期懲役刑を選択
刑法45条前段,47条本文,10条(重い判
示第2の罪の刑に法定加重)

酌量減軽
刑法66条,71条,68条3号

未決勾留日数の算入
刑法21条

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
本件各犯行は,被告人が,共犯者らと共にいわゆる美人局をした判示第1の恐喝恐喝未遂事件と,
同じように美人局をした被害者に対して暴行まで加えた判示第2の強盗致傷事件である。
本件で量刑の中心となるのは,
法定刑の重い判示第2の強盗致傷事件である。
まず,
被告人らが被害者に対する暴行を加えたことについて計画性があったとは認められない。また,証拠上認められる傷害結果は重大なものとはいえないし,暴行態様は,凶器等を使用して共犯者全員で長時間にわたって暴行を加えたなどといった悪質なものであるとは認められず,強盗致傷罪の暴行のなかでは軽いものであるといえる。
そして,現金を奪い取ることは未遂に終わっている。したがって,本件は強盗致傷罪が想定する種々の類型の中では軽い犯情といえる。
そして,
一連の美人局を行う中で被告人が共犯者間で相対的に上位の立場にいたことや,Eの暴行を容認する発言をして暴行のきっかけを作ったこと,Eらによる暴行を認識していて止める機会があったにも関わらず,一切止めることがなかったなどの事情に照らせば,被告人の責任を軽く見ることはできないが,被告人は,直接暴行を加えていない上に,
検察官が主張するようにリーダー格としてEらに暴行を指示した
ということも認められないことから,共犯者の中では主に暴行を加えたEの次に重い責任を負うにとどまる。
そうすると,被告人の犯情は,強盗致傷事件の中ではかなり軽いものといえ,酌量減軽をした処断刑の範囲の中でも最下限の懲役3年程度の刑事責任を負うというべ
きである。
他方,判示第1の恐喝恐喝未遂においては,被告人は主導的,積極的に脅し役として中心的役割を果たしていることが認められ,また,本件犯行は,被告人が未成年者をグループに加えるなどした上で,計画的,常習的に美人局を行っていたなかで行われたものであり,この点は,被告人の責任を重くするものとして考慮する。
その他の情状を見ると,被告人が客観的な事実関係を認めていること,被告人の母親が公判廷で被告人の指導監督を誓約し,就労先を含む更生環境を用意する意向を示していることや,
被告人には罰金前科1件以外に前科がないことなどの事情が認められる。もっとも,更生環境についてはこれまでの経緯からみると十分に整っているとまでは評価できない。また,いずれの事件についても全く被害弁償をしていない。
以上のとおり,犯情を前提にして,その他の情状も考慮すると,被告人に対して,弁護人が主張するように最下限の懲役刑としてさらに執行猶予を付するのは相当ではないが,その刑期については主文のとおりとすることとした。
(求刑懲役7年)
令和2年9月9日

札幌地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官

中川正隆
裁判官

宇野遥子
裁判官

田中大地
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