判例検索β > 令和1年(行ケ)第10114号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和1(行ケ)10114
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和2年9月24日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2020-09-24
情報公開日2020-09-28 16:00:46
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令和2年9月24日判決言渡

令和元年(行ケ)第10114号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日令和2年7月16日
判原決告グ
訴訟代理人弁護士

大野聖二同小林英了
訴訟代理人弁理士

松野知紘被告特
指定代理人

樫本同梶尾誠哉同清水正一同間宮嘉誉同石塚利恵主1ー許株式庁会長社官剛文原告の請求を棄却する。

2リ
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
特許庁が不服2019-892号事件について令和元年7月16日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1
特許庁における手続の経緯等
原告は,平成30年5月8日に出願した特願2018-89612号(以下原出願という。)を分割して,平成30年8月1日にアクターの動きに基づいて生成されるキャラクタオブジェクトのアニメーションを含む動画を配信する動画配信システム,動画配信方法及び動画配信プログラムの発明について出願(特願2018-144682号。以下本願という。)をした。原出願に添付された明細書(甲4。以下本件明細書という。)は,原出願の後,補正されていない。
原告は,本願につき,平成30年11月28日付けの拒絶査定を受けたので,平成31年1月23日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は上記請求を不服2019-892号事件として審理した上,令和元年7月16日,

本件審判の請求は,成り立たない。

との審決をし,その謄本は令和元年7月30日に原告に送達された。
原告は,令和元年8月29日,審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。2
本願発明


特許請求の範囲の記載
本願の請求項に係る発明は,平成31年4月25日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される。
請求項1に係る発明(以下本願発明という。)は,以下のとおりである。なお,本願発明の各構成の符号は,説明のために審決において付与されたものであり,以下,各構成に付された符号に従って構成Aのように称する。

(本願発明)
(A)アクターの動きに基づいて生成されるキャラクタオブジェクトのアニメーションを含む動画を配信する動画配信システムであって,
(B)一又は複数のコンピュータプロセッサを備え,
(C)前記一又は複数のコンピュータプロセッサは,コンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより,
(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要求する第1表示要求がなされ,
(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて
(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,
(A)動画配信システム。


図面
本願に添付された図面の抜粋を別紙1に示す。

3
審決の理由の要旨


理由の骨子
本願発明は,本願の出願日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記甲1に記載された発明,同甲2に記載された技術,及び周知技術(その一例として同甲3)に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

甲1

特開2015-184689号公報

甲2ファンと一緒に放送をつくろう!「AniCastにユーザーギフティング機能を追加」,[online],2018年4月5日,株式会社エクシヴィ,インターネット<URL:(省略)>(別紙2として写しを添付する。)
甲3


特開2010-33298号公報

引用発明の認定
甲1には,次の発明(以下引用発明という。)が記載されている。なお,引用発明の符号(a)~(k)は,説明のために審決において付されたものである。

(a)動画生成出力システム10と,ユーザ端末80と,ユーザ端末81とを備えるインタラクティブシステム5であって,
(b)動画生成出力システム10は,カメラ20と,モーションセンサ30と,カメラ40と,表示装置50と,動画処理装置100とを備え,動画処理装置100は,プロセッサで実現され,
(c)動画処理装置100の処理は,プロセッサがプログラムに従って動画処理装置100を制御することにより実現され,
(d)動画生成出力システム10は,ユーザ端末80と,ネットワーク9を介して通信し,
(e)ユーザ90は,ユーザ端末80のユーザであり,
(f)動画生成出力システム10は,声優60の動作に応じて動くキャラクタの動画であるキャラクタ動画を生成するとともに,声優60の音声をキャラクタ動画にリアルタイムに合成して,キャラクタ動画をユーザ端末80に配信し,
(g)ユーザ端末80は,ネットワーク9を通じて,動画生成出力システム10から動画の配信を受け,
(h)ユーザ端末80は,ユーザ90から入力されたテキストメッセージ等のデータを,動画生成出力システム10に送信し,
(i)動画生成出力システム10は,ユーザ端末80から取得したテキストメッセージを受信すると,受信したテキストメッセージを声優60が見ることができる位置に設けられる表示装置50に表示し,
(j)動画生成出力システム10は,声優60は,表示されたメッセージを見て,メッセージに対して動作及び音声でリアクションを行うと,声優60が行った動作に応じて動き,声優60が発した音声を含むキャラクタ動画を生成して,ネットワーク9を通じてユーザ端末80に配信し,
(k)動画生成出力システム10は,ユーザ90が発したメッセージに対して,キャラクタがリアルタイムに反応する,ライブ感のある動画を配信でき,ユーザ90は,まるでキャラクタと会話しているような感覚でチャットを楽しむことができる
(a)インタラクティブシステム5。


一致点及び相違点

(一致点)
アクターの動きに基づいて生成されるキャラクタオブジェクトのアニメーションを含む動画を配信する動画配信システムであって,
一又は複数のコンピュータプロセッサを備え,
前記一又は複数のコンピュータプロセッサは,コンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより,
前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画への表示を要求する第1表示要求がなされ,
前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって所定の動作が行われた場合に,
前記動画に表示させる
動画配信システム。
(相違点1)
構成D1につき,
表示を要求する対象が,本願発明においては,装飾オブジェクトであるのに対して,引用発明においては,リアルタイムに反応するキャラクタ動画である点。(相違点2)
構成D2につき,
前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって行われる動作が,本願発明においては,装飾オブジェクト(の)選択であるのに対して,引用発明においては,リアクションである点。(相違点3)
構成D3につき,
上記相違点1に伴い,装飾オブジェクトを動画に表示させるという処理が,本願発明においては,前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて行われるのに対して,引用発明においては,そのように関連づけて行われない点。


相違点1について
甲2に記載された技術は,3DCGキャラクターをライブ配信するライブ配信プラットフォームにおいて,ユーザギフティング機能を追加して,視聴者が創作したギフトをVR空間内に登場させ,配信者は,VR空間内で,ギフトを装着するという表現を行い,3DCGアニメーションの主人公がユーザギフティング機能を使って放送内で視聴者からの作品を装着する技術である。
ここで,甲2に記載された技術におけるギフトは,装着するという表現に用いられるものであるから,本願発明の装飾オブジェクトに相当する。
また,甲2に記載された技術における3DCGキャラクターをライブ配信するライブ配信プラットフォームにおいて,ギフトを装着するという表現を行うことは,ギフトをライブ配信される動画に表示させることにほかならない。
そうすると,甲2に記載された技術は,表示の対象を装飾オブジェクトとするものである。引用発明及び甲2に記載された技術は,キャラクタ動画を配信する動画配信システムに関する点で共通するものであるから,引用発明に甲2に記載された技術を適用して,引用発明において,甲2に記載された技術の装飾オブジェクトを表示の対象とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
よって,引用発明において,相違点1を本願発明のようにすることは,甲2に記載された技術を適用して,当業者が容易になし得ることである。⑸

相違点2について
引用発明の声優60は,本願発明のアクターに相当する。
上記⑷で述べたように,甲2に記載された技術における3DCGキャラクターをライブ配信するライブ配信プラットフォームにおいて,ギフトを装着するという表現を行うことは,ギフトをライブ配信される動画に表示させることにほかならない。
甲2に記載された技術において,配信者は,VR空間内で,ギフトを装着するという表現を行いとは,当該ライブ配信プラットフォームを用いてライブ配信を行う配信者が,視聴者が創作したギフトをキャラクターに装着するを行うことであることは明らかである。そして,ライブ配信プラットフォームにおいて,配信者がキャラクターに装着するとは,配信者がキャラクターに装着を行うかあるいは行わないかを判断して,装着を実行するための動作を行うことであるから,配信者によって装着するギフトが選択されたといえる。そうすると,甲2に記載された技術は,動画に表示させるという処理を,配信者によって装飾オブジェクトが選択された場合に行うものである。
引用発明及び甲2に記載された技術は,キャラクタ動画を配信する動画配信システムに関する点で共通するものであり,引用発明の声優60及び甲2に記載された技術における配信者は動画配信を行う者である点で共通するから,引用発明に甲2に記載された技術を適用して,引用発明において,動画に表示させるという処理を行うために,アクターによって行われる動作を,装飾オブジェクトの選択とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
よって,引用発明において,相違点2を本願発明のようにすることは,甲2に記載された技術を適用して,当業者が容易になし得ることである。⑹

相違点3について
上記⑷で述べたように,引用発明において,甲2に記載された技術の装飾オブジェクトを表示の対象とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
またその際に,オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる部位にオブジェクトを表示させるという甲3(段落0060~0086,図2~5等)に記載の周知技術を採用して,引用発明において,装飾オブジェクトを動画に表示させるという処理を,前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて行われるようにすることは,当業者が適宜なし得ることである。
よって,引用発明において,相違点3を本願発明のようにすることは,甲2に記載された技術を適用して,当業者が容易になし得ることである。
第3原告の主張(審決取消事由)
1
取消事由1(相違点4の看過)
本願発明の構成D2は,文言上,動画の配信中にサポーター及びアクターのいずれもが選択を行うことが可能であることを前提とし,その少なくとも一方が選択を行った場合に装飾オブジェクトを動画に表示させることを規定する。例えば,アクターが選択を行わなかったとしても,サポーターが選択すれば装飾オブジェクトが表示される。このように解すべきことは,本件明細書の【0082】【0083】【0089】の記載からも裏付けられる。
これに対し,引用発明は本願発明のサポーターに相当する構成を有しておらず,声優60以外の者がリアクションを行うことを全く想定していない。
よって,審決では以下の相違点4が看過されており,このことは審決の結論に影響を及ぼす。
[相違点4]
本願発明は,前記動画の配信中に…サポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択されるものであって,アクターだけでなくサポーターも所定の動作(選択)を行えるのに対し,引用発明は,アクターだけが所定の動作(リアクション)を行える点。
2
取消事由2(相違点5の看過)
本願発明の構成D1の第1表示要求は,動画への装飾オブジェクトの表示を要求するものであり,この装飾オブジェクトが選択された場合に,装飾オブジェクトが動画に表示される。よって,第1表示要求において,要求の対象である装飾オブジェクトは,当該要求が行われる時点においては未だ表示されていない。
これに対し,引用発明のテキストメッセージ等のデータに関し,テキストメッセージの対象であるキャラクタ動画は,当該データが入力される時点において既に表示されている。このことは,甲1の【0014】~【0016】の記載によって裏付けられる。
審決では,引用発明のテキストメッセージ等のデータが本願発明の第1表示要求に相当するとして,「前記動画への表示を要求する第1表示要求がなされる点が一致点であると認定された。しかし,このような認定は正しくなく,以下の相違点5が看過されており,このことは審決の結論に影響を及ぼす。
[相違点5]
本願発明は,第1表示要求が行われる時点では未だ表示されていない装飾オブジェクトの表示を要求するのに対し,引用発明は,テキストメッセージ等のデータが入力される時点で既に表示されているキャラクタ動画のキャラクタに対してテキストメッセージ等に応じて動くよう要求する点。
3
取消事由3(相違点1の容易想到性の判断誤り)
審決は,甲2に記載された技術を引用発明に適用することは容易であるとする。ここでいう適用が,①引用発明のリアルタイムに反応するキャラクタ動画を甲2記載のギフト(装飾オブジェクト)に置換すること,②引用発明のリアルタイムに反応するキャラクタ動画に甲2記載のギフト(装飾オブジェクト)を追加すること,のいずれであるのか判然としないが,次のとおり,いずれにせよ審決の判断は誤りである。


仮に①(置換)であるとすれば,置換によってリアルタイムに反応するキャラクタ動画が表示されなくなり,

リアクションがキャラクタ動画にリアルタイムに反映されて…ライブ感のあるチャットを楽しむことができる。

(甲1の【0035】)という引用発明の効果を没却させることとなる。したがって,引用発明に対して①のような置換を行うのには阻害要因がある。



仮に②(追加)であるとすれば,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ることが動画配信中に行われるとの記載はないので,甲2記載の技術を追加したとしても動画配信中に行われた表示要求に応じて,装飾オブジェクトを表示するという本願発明の構成には至らない。また,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから,甲1から認定される引用発明に,創作したギフトを贈るという甲2記載の技術を組み合わせる動機付けはない。
さらに,動画をリアルタイムで提供すること(甲1の【0003】)を課題とする引用発明に対して,甲2記載の技術を追加しようとするならば,配信者から,手で持つ,動かす,装着する,拡大縮小するなどの表現を受け取り,当該表現に応じてギフトを装着等させるという追加の処理が必要となるために,動作が重くなって遅延が生じることから,引用発明の上記課題を解決することが困難となる。よって,引用発明に対して②のような追加を行うのは阻害要因がある。
4
取消事由4(相違点3の容易想到性の判断誤り)


相違点3に係る本願発明の構成に至るには,引用発明に対して,甲2記載の技術(ギフト(装飾オブジェクト)を表示すること)を適用し,更に審決認定の周知技術(装着位置情報に基づき身体等の部位に表示すること)を採用する必要がある。このような2段階の変更を伴う相違点の克服は,容易想到とはいえない。



上記3⑵のとおり,引用発明に対して甲2記載の技術を適用すると,動作が重くなって動画をリアルタイムで提供するという課題を解決できなくなるおそれがある。しかも,甲2記載の技術を適用する際に審決認定の周知技術(装着位置情報に基づく表示)を採用すると,追加の処理が必要となって,更に動作が重くなる。したがって,引用発明に甲2記載の技術を適用した上,更に周知技術を採用することには,二重に阻害要因がある。



甲2記載の技術は,ギフトを装着する以外にも手に持つ動かす拡大縮小する等の多彩な表現を行うものである。これに対し,審決認定の周知技術では,オブジェクトの表示位置は装着位置情報に基づいて定められる特定の部位に限定されている。このように二つは全く性質が異なる技術なので,引用発明に甲2記載の技術を適用する際に,審決認定の周知技術を採用する動機付けはない。


装飾オブジェクトが通常の装飾品であれば身体のどの部位に装着するか決まっているから,審決認定の周知技術を適用し得るとしても,甲2記載のめぐアクセサリーには視聴者が創作した物もあり,その場合は身体のどの部位に装着するか決まっていないという点で,通常とは異なる事情があるから,同周知技術を採用することは,当業者が適宜なし得る設計事項ではない。また,仮に同周知技術の採用を試みたとしても,視聴者が創作しためぐアクセサリーを装着する部位を誰がいかにして定めるかは同周知技術からは判らないので,甲2記載の技術を適用するに当たって,同周知技術を採用することはできない。

5
取消事由5(相違点2の容易想到性の判断誤り)
本願発明は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,…前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させるというものであり,選択されることによって装飾オブジェクトが表示されるが,選択されなければ装飾オブジェクトは表示されない。すなわち,本願発明は,装飾オブジェクトを表示させるか否かを選択可能な構成を前提としているのであり,装飾オブジェクトの選択とは,当該装飾オブジェクトを表示させるか否かの選択を意味している。
一方,甲2記載の技術は,ギフトを表示させることを前提としており,ギフトを表示させないという態様は示されていない。
したがって,仮に引用発明に甲2記載の技術を適用したとしても,装飾オブジェクトの選択すなわち装飾オブジェクトを表示させるか否かの選択という本願発明の構成には至らない。
第4被告の反論
原告の主張は,次のとおり理由がない。
1
取消事由1(相違点4の看過)について
本願発明の構成D2はサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択されるものであるから,装飾オブジェクトの選択がサポーターによって行われる発明と,アクターによって行われる発明との両方を含むものである。このことは,本件明細書の記載によっても裏付けられる。
そして,引用発明の声優60は,本願発明のアクターに相当する。そうすると,アクターを発明特定事項として有する点で一致するから,引用発明において,本願発明のサポーターに相当する構成がないことは相違点とはいえず,審決に一致点の認定の誤りはない。

2
取消事由2(相違点5の看過)について
引用発明のテキストメッセージ等のデータと本願発明の第1表示要求とは,前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中になされるものである点で共通するから,審決の認定に誤りはない。
また,原告の主張する相違点5は,換言すれば,第1表示要求が要求する表示の対象について,本願発明では装飾オブジェクトであるのに対し,引用発明ではテキストメッセージ等のデータに応じて動くキャラクタ動画であるということもできる。そうすると,原告の主張する相違点5は,審決の認定した相違点1と同様の相違点であるともいえるから,このことからも,審決に相違点の看過はない。

3
取消事由3(相違点1の容易想到性の判断誤り)について


甲2の記載によれば,ギフトを装着することは手に持つ等の
例示された四つの表現の一つであるから,装着することを甲2記載の技術として認定したことに誤りはない。また,本願発明の装飾オブジェクトにも甲2記載のギフトにもアクセサリーが含まれているから,甲2記載のギフトは本願発明の装飾オブジェクトに相当する。


甲2の記載によれば,視聴者がライブ配信を視聴中,すなわち,動画配信中に配信者へギフトを贈っていることは明らかである。
また,甲1と甲2はライブ配信システムという共通の技術分野に関するものであり,視聴者から配信者への要求に応じて配信者が視聴者へ動画を配信するという方法においても共通するから,甲2記載の技術を引用発明に追加する動機付けがある。
さらに,引用発明においてリアルタイムに反応することとは,予め定められた一定の時間内に動画が提供されることを意味し,一切の遅延なく提供されることまでは求められない。そうすると,甲2記載の技術を適用することによって追加の処理のために多少の遅延が生じても,引用発明の課題の解決に影響を及ぼすものではないから,その適用に阻害要因はない。
4
取消事由4(相違点3の容易想到性の判断誤り)について


上記3⑵のとおり,引用発明のリアルタイムは一切の遅延が許されないものではないので,相違点3に係る処理が更に追加されるとしても引用発明の課題解決に影響を及ぼすような遅延とはいえない。そうすると,引用発明に甲2記載の技術を適用する際に,審決認定の周知技術を採用することに,阻害要因はない。



上記3⑴のとおり,甲2記載のギフトのうちアクセサリー等はCGキャラクターに装着されるものであって,審決認定の周知技術と全く性質が異なる技術であるとはいえないから,引用発明に甲2記載の技術を適用する際に,審決認定の周知技術を採用することの動機付けはある。

5
取消事由5(相違点2の容易想到性の判断誤り)について


甲2記載のギフトが本願発明の装飾オブジェクトに相当すること
は,上記3⑴のとおりである。


甲2には,視聴者が創作したギフトをVR空間内に登場させるか否かをアクターが選択することに関する明示的な記載はない。しかしながら,甲2記載の技術のライブ配信プラットフォームにおいて,配信者側が,視聴者が創作したギフトの量や質によって,ギフトをVR空間内に登場させるか否かの判断をすることは,ライブ配信を行う配信者ならば通常想定できる範囲内のことである。甲2記載の技術においても,ギフトを表示させるか否かの選択を行っていることは明らかである。

第5当裁判所の判断
1
取消事由1(相違点4の看過)について


原告は,本願発明の構成D2は,サポーター及びアクターのいず
れもが所定の動作(選択)を行うことが可能であることを前提とする点において,声優だけが所定の動作(リアクション)を行える引用発明とは異なるから,この点を相違点4として認定すべき旨主張する。
しかしながら,本件明細書では,【0082】以下において,装飾オブジェクト選択画面がサポーターコンピュータに表示され,サポーターがこれを操作して装飾オブジェクトを選択する態様について説明した後,【0089】において,装飾オブジェクト選択画面がサポーターコンピュータに代えてアクターの前のディスプレイ等に表示され,アクターがこれを操作して装飾オブジェクトを選択する態様が開示されている(下線は当裁判所が付した。)。すなわち,本件明細書には,装飾オブジェクトの選択をアクターのみが行う態様が含まれており,本願発明の構成D2も,このような態様も含むと解するのが相当である。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。



原告は,装飾オブジェクトの選択をアクターのみが行う態様は実施例の一つとして開示されているにすぎず,かえって,請求項にはサポーター又は前記アクターによって装飾オブジェクトが選択された場合にと明示されているのであるから,サポーター及びアクターのいずれもが選択を行える態様を特許請求したのが本願発明である旨主張する。しかしながら,本願発明の請求項は,発明の構成として,動画配信システムの配信者側にはアクターの外にサポーターが必ず存在することや,サポーターコンピュータ及び(アクターが視認・操作する)ディスプレイの両方に装飾オブジェクト選択画面が表示されることを特定しているわけではないのであるから,本願発明の構成として,サポーターがもともと存在しない動画配信システムも排除されていないといわざるを得ない。そして,この構成は,まさに引用発明と共通する構成であるということができる。
原告の上記主張は,請求項の文言及び本件明細書の記載を離れて,特許請求人としての主観をいうものであって,採用することができない。2
取消事由2(相違点5の看過)について


原告は,本願発明は,第1表示要求が行われる時点では未だ表示されていない装飾オブジェクトの表示を要求するのに対し,引用発明は,テキストメッセージ等のデータが入力される時点で既に表示されているキャラクタ動画のキャラクタに対してテキストメッセージ等に応じて動くよう要求する点で相違する旨主張する。
よって,以下検討する。



本願発明の第1表示要求及び装飾オブジェクト等について

本件明細書には,次の開示がある。
(ア)

視聴ユーザは,ギフトオブジェクトを購入して,アクターへのデジタル的なギフトとすることができる【0052】【0054】。

(イ)

ギフトオブジェクトには,エフェクトオブジェクト,通常オブジェクト及び装飾オブジェクトがある【0052】。

(ウ)

装飾オブジェクトは,キャラクタオブジェクトの特定の部位と関連付けて表示画面に表示されるオブジェクトであり,例えば,アクセサリー(カチューシャ,ネックレス,イヤリングなど)である【0055】【0056】。
(エ)

本願発明の動画配信システムは,アクターの体及び表情の動きに同期して動くキャラクタオブジェクトのアニメーションを生成する【0060】【0063】。

(オ)

視聴ユーザから特定の装飾オブジェクトの表示要求を受け付けると,当該表示要求に基づいて,表示が要求された装飾オブジェクトを候補リストに追加する(装飾オブジェクトの表示要求は,第1表示要求の例である。)。サポーターが操作するサポーターコンピュータには,装飾オブジェクト選択画面が表示される。装飾オブジェクト選択画面は,例えば,候補リストに含まれている複数の装飾オブジェクトの各々を表示する【0080】【0082】。

(カ)

サポーターは,この装飾オブジェクト選択画面に含まれている装飾オブジェクトのうちの一又は複数を選択することができる。選択された装飾オブジェクトは,これと関連付けられたキャラクタオブジェクトの当該特定部位の動きに付随して動くように,表示画面に表示されてもよい。例えば,カチューシャを装着したキャラクタオブジェクトの頭部が動くと,あたかもカチューシャがキャラクタオブジェクトの頭部に装着されているかのごとく,カチューシャを示す選択装飾オブジェクトもキャラクタオブジェクトの頭部に付随して動く【0083】。

(キ)

装飾オブジェクト選択画面は,サポーターコンピュータに代えて,スタジオルーム内のディスプレイ等に表示されてもよく,この場合,アクターが所望の装飾オブジェクトを選択することができる【0089】。

上記開示事項によれば,原告主張の相違点5に係る本願発明の構成は,より具体的には以下のような態様を有するといえる。
(ア)

動画配信の継続中は,アクターの体及び表情の動きに同期して,キャラクタオブジェクトのアニメーションが動き続けている。

(イ)

視聴ユーザが第1表示要求において例えばカチューシャ(装飾オブジェクトの一例)の表示を要求することは,単にカチューシャを画面上に表示するよう要求することではなく,キャラクタオブジェクトがカチューシャを頭部に装着した状態で動くよう要求することを意味する。
(ウ)

装飾オブジェクトの表示要求がなされた場合,配信者側のコンピュータ上の装飾オブジェクト選択画面にそれが追加して表示され,サポーター又はアクターは,表示リストの中から装飾オブジェクトを選択する。
(エ)

カチューシャが選択された場合,それ以前は頭部にカチューシャを装着せずに動いていたキャラクタオブジェクトのアニメーションが,それ以後は頭部にカチューシャを装着して動くようになる。



本願発明の上記構成によれば,本願発明が,原告のいうように『第1表示要求』が行われる時点では未だ表示されていない『装飾オブジェクト』の表示を要求するものであるとしても,それは,物としての装飾オブジェクトだけの表示を要求するのではなく,キャラクタオブジェクトのアニメーションが既に動いている状態を前提として,装飾オブジェクトを装着しない状態から装着した状態に変わるよう要求することを意味している。すなわち,本願発明においても,第1表示要求の時点で既に表示されているキャラクタのアニメーション(動画)に対して,新たに装飾オブジェクトを装着しての動きを要求していることになる。
これに対し,引用発明においては,テキストメッセージが入力される時点で既に表示されているキャラクタ動画に対して,テキストメッセージに応じた新たなリアクション(動作)をすることを要求している。そうすると,本願発明と引用発明との相違は,視聴ユーザがアクター/声優に要求する対象が,装飾オブジェクトを装着した状態で動くこと(本願発明)か,具体的な内容の特定がないリアクション(動作)(引用発明)か,という点であり,この点は,相違点1として審決が認定した内容と実質的に同一である(審決の相違点1では,本願発明においては装飾オブジェクトという物,引用発明においてはリアルタイムに反応する『キャラクタ動画』という人,と表現しているが,これらも,正しくは,上述したところに照らして,状態又は動作として表現すべきものである。)。
したがって,審決は,原告のいう相違点5も相違点1として実質的に検討しているから,相違点を看過した誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
3
取消事由3(相違点1の容易想到性の判断誤り)について


審決は,引用発明に甲2記載の技術(その内容は別紙2に記載のとおり)を適用して相違点1に係る本願発明の構成とすることは容易想到である旨判断した。そして,被告の主張に照らすと,ここでいう適用は置換ではなく追加を意味すると解されるので,以下,この前提で判断する。


ユーザーギフティングを動画配信中に行うことについて

原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギフティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲2記載の技術を追加したとしても動画配信中に行われた表示要求に応じて,装飾オブジェクトを表示するという本願発明の構成には至らない旨主張する。
しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティングを動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CGキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定されているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング機能を追加することによって,相違点1に係る前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要求する第1表示要求がなされるという構成を得ることができる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター東雲めぐが登場する実際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られていること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しない。



動機付けについて

甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツールAniCastにユーザーギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信するものであるから,引用発明も配信も可能なVRアニメ作成ツールといえる。
また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能を追加することによって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。
そうすると,当業者にとって,配信も可能なVRアニメ作成ツールである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機能を追加することの動機付けがあるといえる。


原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから,引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付けはない旨主張する。
しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明を知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けられるといえる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。


阻害要因について
原告は,引用発明に甲2記載の技術を追加するとプログラムの処理が重くなって遅延が生じ,動画をリアルタイムで提供するという引用発明の目的の達成が困難になるから,かかる追加には阻害要因がある旨主張する。しかしながら,引用発明におけるリアルタイムとは,声優の動作に応じてほぼ同時にキャラクタ動画が生成されることをいうのであり(甲1の【0014】【0033】),声優がテキストメッセージを認識してから動作などのリアクションを行うまでの所要時間については特に限定がない(なお,【0017】には,メッセージの送信からキャラクタの反応までがリアルタイムである旨の記載があるが,【0035】の記載も参照すると,【0017】のリアルタイムも,声優の反応とキャラクタ動画の反応がほぼ同時であることを意味すると解される。)。
もちろん,リアクション(反応)と称する以上は,それなりに短い時間内に反応がされるのでなければ実用性に欠けるといえようが,原告は,処理すべき操作が増えれば処理する時間も増えるという一般的な問題点を指摘するのみであって,実用性に欠けるような遅延が生じるおそれがあることについては何ら具体的な説明をしていない。かえって,甲11によれば,甲2記載のユーザーギフティング機能を追加されたプログラムを用いた番組が,商業ベースで一般ユーザーにも受け入れられるものとして配信されていることが認められるのであるから,当業者が,処理が重くなることを懸念して甲2記載の技術を採用することを妨げられるとは考え難い。そうすると,引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を追加することに阻害要因があるとまではいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
4
取消事由4(相違点3の容易想到性の判断誤り)について


原告は,相違点3に係る本願発明の構成に至るには,引用発明に対して,甲2記載の技術を適用し,更に審決認定の周知技術を採用するという2段階の変更が必要となるから,容易想到ではない旨主張する。
しかしながら,CGの技術分野において,何らかのオブジェクト(例えばカチューシャ)をCGキャラクターが装着しているかのようにCGキャラクターの動きに追従させて表示するためには,当該オブジェクトを装着する身体の部位(カチューシャであれば頭部)のVR空間での座標に基づいて当該オブジェクト(カチューシャ)を表示しなければならない。つまり,CGキャラクターの身体の部位とオブジェクトとを関連付ける装着位置情報に基づいて当該オブジェクトの表示を行わなければ,当該オブジェクトを装着しているかのように表示することはできない。そうすると,甲2記載のユーザーギフティング機能において,身体に装着するアクセサリー等がギフトとして想定されている場合(甲2記載の東雲めぐもそのような場合である。)には,オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる部位にオブジェクトを表示させるという審決認定の周知技術は,まさに甲2記載の技術の一部をなしている(それは,適宜の手段によって実現されることが予定されているといえる。)のであって,甲2記載の技術とは別の技術ということはできないものというべきである。
よって,引用発明から本願発明の構成に至るに当たり,原告がいうように2段階の変更を要するとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。


原告は,引用発明に対して,甲2記載の技術に加えて更に審決認定の周知技術を採用すると,追加の処理の必要が増大し,動画をリアルタイムで提供するという課題を解決できなくなるおそれが増大するので,阻害要因があるとか,甲2記載の技術と審決認定の周知技術とは全く性質の異なる技術なのであるから,引用発明に甲2記載の技術を適用する際に,審決認定の周知技術を採用する動機付けはないなどと主張する。
しかしながら,甲2記載の技術に,更に周知技術が追加されるという原告の前提自体に誤りがあることは,既に⑴において指摘したとおりであるから,この前提に立つ原告の上記主張は採用することができない。



原告は,ギフトとしてのアクセサリー等が視聴者の創作した物である場合には,身体のどの部位に装着するかが決まっていないので,審決認定の周知技術を採用することは,当業者が適宜なし得る設計事項ではない等と主張する。
しかしながら,CGの技術分野において,CGキャラクターの身体に装着するアクセサリー等を動画上に表示しようとすれば審決認定の周知技術が必然的に採用されることは上記⑴に説示したとおりである。そうすると,アクセサリー等として視聴者の創作した物も受け入れる場合には,そのアクセサリーに何らかの方法で装着位置情報を付与するための適宜の手段を講じることも,当業者の通常の創意工夫の範囲内の設計事項であるというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

5
取消事由5(相違点2の容易想到性の判断誤り)について
原告は,甲2記載の技術は,ギフトを表示させることを前提としており,ギフトを表示させないという態様は示されていないから,引用発明に甲2記載の技術を適用したとしても,装飾オブジェクトの選択すなわち装飾オブジェクトを表示させるか否かの選択という本願発明の構成には至らない旨主張する。
しかしながら,例えば,甲2の2枚目の右側の図では,CGキャラクターが両手に別々のギフトを持っている絵が示されているところ,これは,手で持つという表現において,右手で何を持ち左手で何を持つかという選択が配信者の側で行われた結果と理解するのが自然である。このように,甲2記載の技術においては,視聴者からギフトが送られてきた場合,配信者の何の判断も経ることなく,いわば自動的にギフトが表示されることになるのではなく,ギフトを手で持つ,動かす,装着する,拡大縮小するなどの様々な表現態様のうち,どの表現態様で表示するのか,また,それをどの場所に表示するのかなどについての配信者の判断を経て,ギフトが表示されるものであると理解される。そして,ギフトを,どのような態様により,どの位置に表示するかを判断するためには,その前提として,そのギフトを上記の判断の対象にするという操作が行われなければならないはずであるところ,この操作は,まさにギフト(装飾オブジェクト)を選択していることにほかならない。したがって,甲2記載の技術には,相違点2に係る,配信者による装飾オブジェクトの選択という構成が含まれていることになるから,原告の上記主張は採用することができない。
6
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
上田卓哉都野道紀
裁判官
別紙省略
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