判例検索β > 令和1年(行ケ)第10070号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和1(行ケ)10070
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和2年9月10日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2020-09-10
情報公開日2020-09-11 16:00:42
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令和2年9月10日判決言渡

令和元年(行ケ)第10070号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日令和2年7月2日
判原決告
テクニカ合同株式会社

訴訟代理人弁護士

宍同菅同服
訴訟代理人弁理士

森被
栗田工業株式会社

告戸充尋史部啓治
訴訟代理人弁理士

大谷保同片岡誠同高久浩同石村理同有永主1郎恵俊文
原告の請求を棄却する。

2一
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
特許庁が無効2018-800070号事件について平成31年4月15日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1
手続の経緯等


被告は,平成17年3月23日,気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法の発明についての特許を出願し(特願2005-83412号),平成24年8月17日,特許5063863号(以下本件特許という。)として特許権の設定登録を受けた。



原告は,本件特許の全ての請求項につき無効審判(無効2018-800070号)を請求した。



特許庁は,平成31年4月15日,請求不成立の審決をした。



原告は,同月25日,審決謄本の送達を受け,同年5月21日,本件訴訟を提起した。

2
特許請求の範囲の記載
【請求項1】(以下本件発明1という。)
気泡シールド工法で発生する建設排泥に,カチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合し,造粒した後,無機系固化材を添加混合して固化することを特徴とする気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。
【請求項2】(以下本件発明2という。)
請求項1において,無機系固化材がカルシウムまたはマグネシウムの酸化物を含む粉末である気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。【請求項3】(以下本件発明3という。)
請求項1において,無機系固化材が石膏を含む粉末である気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。

3
請求人(本件原告)が主張した無効理由の概要


無効理由1(甲1を主引用例とする新規性・進歩性欠如)
本件発明1は甲1(特開2002-336671号公報)に記載された発明と同一であるか,仮に相違するとしても,その相違点は,同発明及び周知技術から容易想到である。したがって,本件発明1は新規性又は進歩性を欠く。
本件発明2及び3で付加された構成も,甲1に記載されているか,そうでないとしても周知技術によって容易想到である。したがって,本件発明2及び3も新規性又は進歩性を欠く。


無効理由2(甲32を主引用例とする新規性・進歩性欠如)
本件発明1は甲32(特開平6-193382号公報)に記載された発明と同一であるか,仮に相違するとしても,その相違点は,同発明及び周知技術から容易想到である。したがって,本件発明1は新規性又は進歩性を欠く。本件発明2及び3で付加された構成も,周知技術によって容易想到である。したがって,本件発明2及び3は進歩性を欠く。

4
審決の理由の要旨
本件発明1についての理由の要旨は次の⑴及び⑵のとおりである(証拠番号は,本件訴訟と同一である。用字は,おおむね審決のものに従った。)。なお,本件発明2及び3において付加された構成は,周知技術の適用によって容易想到であると判断された。


無効理由1について

本件発明1と甲1発明の対比

〔引用発明〕
甲1には,次の発明(以下審決甲1発明という。)が記載されている。
シールド工事で発生する泥土を凝集材と撹拌混合し泥土を粒状化するように処理し,セメント系や石灰系の固化材を供給することにより,凝集材で粒状化させた泥土を固化し,凝集材は,主たる凝集材,補助の凝集材の何れに使用するかの凝集材の使用目的,更には,泥土が有機質か無機質かの泥土の種類,泥土が粘度,シルト,コロイド等の何れに該当するかの泥土の土粒子径,泥土の含水比等の泥土の性状に応じて適宜選択して使用し,例えば,通常の泥土は,アニオン性又はノニオン性の凝集材で凝集することが可能であるが,建設工事で発生する泥土の中には,工事中にベントナイトが添加されたものもあり,こうした泥土は,アニオン性又はノニオン性の凝集材だけでは,凝集させることができないので,主たる凝集材としてアニオン性又はノニオン性のものを使用するほか,補助の凝集材としてカチオン性のものを添加することにより,泥土を凝集させ,また,高分子凝集材の性能は,PHへの依存性が大きいので,泥土が酸性の場合はカチオン性やノニオン性のものを,アルカリ性の場合はアニオン性やノニオン性のものを,中性の場合はノニオン性ものを使用することも考える,シールド工事で発生する泥土の処理方法〔一致点〕
シールド工法で発生する建設排泥に,アニオン性高分子凝集剤を添加混合し,造粒した後,無機系固化材を添加混合して固化する,シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。
〔相違点1〕
シールド工法に関して,本件発明1は気泡シールド工法であるの
に対し,審決甲1発明はそのような特定がなされていない点。
〔相違点2〕
凝集材に関して,本件発明1はカチオン性高分子凝集剤を添加することなくとしているのに対し,審決甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点に関する判断
相違点1,2は関連するため,あわせて検討する。
本件発明1は,気泡シールド工法で発生する建設排泥を処理対象とするものであって,気泡シールド工法で発生する建設排泥に特化してカチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合するものである。一方,甲1において,シールド工事として,さらに具体的な工法などについて記載されていないことを併せて見ても,審決甲1発明は,シールド工法全般を対象とし,処理対象となる建設排泥もシールド工法から発生する建設排泥全般を対象としていると解することができる。なお,甲1には,泥土の状態として,気泡を有する泥土についての記載や示唆はない。また,審決甲1発明は,凝集材として,アニオン性,ノニオン性,カチオン性の凝集材を泥土の状態に合わせて組み合わせて用いるものであるが,甲1の記載を参酌しても,カチオン性の凝集材の使用を排除するとの記載や示唆はない。
したがって,上記したように甲1に気泡を有する泥土に関する記載がないことから見て,審決甲1発明は実質的に気泡シールド工法で発生する建設排泥を対象としているとはいえず,また,上記したように甲1においてカチオン性の凝集材の使用を排除しているともいえない。さらに,甲1の記載には,気泡シールド工法で発生する建設排泥のみに着目する動機付けはなく,カチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合することについて何ら示唆もないことから,審決甲1発明において,気泡シールド工法で発生する建設排泥に特化してカチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合することは当業者が容易に想到し得る程度のことといえるものではない。
また,甲2~甲28においても,審決甲1発明に適用する動機付けや示唆を含んだ構成,及び相違点1,2に相当する構成は開示されていない。よって,本件発明1は審決甲1発明と同一であるとはいえず,また,審決甲1発明において,相違点1,2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る程度のことではない。


無効理由2について

本件発明1と甲32発明の対比

〔引用発明〕
甲32には,次の発明(以下審決甲32発明という。)が記載されている。
地層を掘削するにあたり切羽を前面に設けた隔壁の後方に形成したチャンバーまたは掘削土排出装置内にアクリル系有機高分子凝集剤分散液を注入し,掘削土砂と混合して凝集状態の泥土に変換し,当該泥土は,過度の流動性がなく,植物の生育阻害物質や有害物質を含まず,適度の通気と保水性を有するため,園芸用土等に資源化することも容易に可能であり,アクリル系有機高分子として,アニオン性アクリル系水溶性高分子が適している,泥土圧シールド工法における掘削土砂の処理方法。
〔一致点〕
建設排泥に,アニオン性高分子凝集剤を添加混合した,シールド工法における建設排泥の処理方法。
〔相違点A〕
本件発明1は気泡シールド工法で発生する建設排泥にカチオン性高分子凝集剤を添加することなく凝集剤を添加混合し造粒しているのに対し,審決甲32発明は泥土圧シールド工法において地層を掘削するにあたり切羽を前面に設けた隔壁の後方に形成したチャンバーまたは掘削土排出装置内にアクリル系有機高分子凝集剤分散液を注入し,掘削土砂と混合して凝集状態の泥土に変換している点。〔相違点B〕
本件発明1は無機系固化材を添加混合して固化するのに対し,審
決甲32発明はそのような特定がなされていない点。

相違点Aに関する判断
本件発明1は,気泡シールド工法で発生する建設排泥を処理対象とするものであるから,文字通り,気泡シールド工法を行った結果,発生する建設排泥を対象としていると解される。
一方,審決甲32発明は,地層を掘削するにあたり切羽を前面に設けた隔壁の後方に形成したチャンバーまたは掘削土排出装置内にアクリル系有機高分子凝集剤分散液を注入するものである。また,甲32における【0004】ところで,泥土加圧シールド工法においては,泥土圧シールド機のカッタで掘削した掘削土砂に適当な添加剤即ち作泥土剤を加えて搬出に好ましい状態の泥土を作り,該泥土に流動性を付与して坑外へ排出するものであり,特に,掘削土砂には流動性,止水性,残土処理性等が要求される。・・・【0007】【発明が解決しようとする課題】この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,透水係数が100~10-3cm/secの高透水性地層であっても,該土砂を凝集させて泥土とし,該泥土を容易に取り扱えるようにすることができる凝集剤を泥土圧シールド機のチャンバ内などへ注入し,カッタで掘削したチャンバ内の掘削土砂と混練して搬出に良好な流動性を確保し,スクリューコンベヤでベルトコンベヤへスムースに移送でき,更に泥土をベルトコンベヤ上に多量に載置でき,それによって泥土の坑外への搬出が効率良く且つ大量に搬出できとの記載から見ても,審決甲32発明における凝集剤は,泥土シールド工法における添加剤即ち作泥土剤に相当すると解することが自然である。したがって,審決甲32発明における凝集剤は,泥土圧シールド工法の中で用いられる凝集剤(添加剤即ち作泥土剤)であるから,泥土圧シールド工法を行った結果,発生する掘削土砂に添加する凝集剤ではない。よって,甲32において,泥土圧シールド工法を行った結果,発生する掘削土砂に凝集剤を添加することは記載されていないし,このようにして発生した掘削土砂に,さらに泥土圧シールド工法の中で用いられた凝集剤(添加剤即ち作泥土剤)と同様の凝集剤を添加する動機付けもないというべきである。また,審決甲32発明においては,泥土圧シールド工法の中で凝集剤(添加剤即ち作泥土剤)を既に用いていることから,同じような目的で更に凝集剤(添加剤即ち作泥土剤)として気泡を加える必要性もない。よって,上記したように泥土圧シールド工法を行った結果,発生する掘削土砂にさらに同様の凝集剤を添加する動機付けはないこと,及び泥土圧シールド工法の中で用いられる凝集剤(添加剤即ち作泥土剤)として気泡をさらに加える必要性はないことから,審決甲32発明において,気泡シールド工法で発生する建設排泥に特化してカチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合することは当業者が容易に想到し得る程度のことといえるものではない。
また,甲1~28,33においても,審決甲32発明に適用する動機付けや示唆を含んだ構成,及び相違点Aに相当する構成は開示されていない。よって,審決甲32発明において,相違点Aに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る程度のことではない。

相違点Bに関する判断
シールド工法において,凝集剤を添加した建設排泥に,無機系固化材を添加して固化することは,甲1に記載されている。
そして,シールド工法による建設排泥において,残土処理や運搬性の向上のために,建設排泥を固化させることは共通の周知の課題であるので,審決甲32発明に,甲1に記載された上記技術事項を適用し,相違点Bに係る本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到し得る程度のことにすぎない。
第3原告の主張
1
取消事由1(甲1を主引用例とする本件発明1の新規性・進歩性の判断の誤り)


本件発明1の認定の誤り

審決は,相違点1,2の容易想到性の判断の中で,本件発明1は,『気泡シールド工法で発生する建設排泥』を処理対象とするものであって,『気泡シールド工法で発生する建設排泥』に特化したものであるとして検討を行っている。すなわち,審決は,処理対象とされる建設排泥が気泡シールド工法で発生するものであることを,本件発明1の特徴的部分として認定しているが,この認定は誤りである。
気泡シールド工法では,掘削土に流動性を付与するために気泡が添加されるが,気泡は自然放置や消泡剤の添加により消泡される。そして,消泡後は,気泡に由来する流動性を消失して通常の建設排泥に戻る場合もあれば,シルト又はセルロース系増粘剤に由来する流動性が残存する場合もある。本件発明1の技術的意義は,後者の場合の流動性を課題としてこれを解決する点にあり,前者の場合(通常の建設排泥)はそもそも解決課題としていない。したがって,建設排泥が気泡シールド工法で発生するものであること自体は,本件発明1の特徴的部分ではない。


上記アの点を,本件特許の明細書(以下本件明細書という。)の記載及び出願の経緯に基づき説明すると次のとおりである。
(ア)

本件明細書の記載
a
【0002】【0003】の記載によれば,気泡シールド工法とは,切羽により掘削する前に,砂礫地盤に粘土やベントナイトを加える代わりに気泡を加える掘削の工法である。その結果,流動性,止水性,作業環境の向上等の効果がある。
b
【0005】~【0007】の記載によれば,従来技術においては,気泡シールド工法から発生した建設排泥が,気泡を十分に消泡しないで固化処理を行うことにより軽石状化して強度不十分となることを防ぐため,先ず自然放置や消泡剤の添加により消泡されるから,建設排泥中の気泡自体に関する課題はなかった。なお,気泡が自然放置
により消泡することは,技術常識でもある(甲19,21,22)。
c
【0007】【0008】の記載によれば,従来技術には,消泡しても,汚泥中にシルトやセルロース系増粘剤を含む場合が多く,該成分の生成する強固な泥膜は気泡の離脱を妨害する上に脱泡残留物においてもなお流動性を有するという問題があったところ,特公平7-53280号公報(乙3)に係る技術(以下乙3技術という。
)は,この問題,すなわち脱泡後の残留物における流動性の問題を解決するため,排泥の処理の際にカチオン性高分子凝集剤を添加した。
d
【0009】の記載によれば,乙3技術の方法によって流動性の問題は解決するものの,固化処理後の固化物が塊状となって運搬に不便であり,また,残留カチオン性高分子凝集剤が環境汚染を引き起こすという問題があったところ,本件発明1は,これらの新たな課題
を解決するものである。

e
以上の本件明細書の記載によれば,本件発明1は,気泡シールド工法で発生する建設排泥のうち,汚泥中にシルトやセルロース系増粘剤を含むという特定の場合に生じる課題を解決するものである。それ以外の場合は,気泡シールド工法で発生する建設排泥の中の気泡は自然放置や消泡剤の添加により消泡されるので,通常の建設排泥と変わることはなく,特有の課題は生じない。
本件明細書の実施例及び比較例の記載をみても,気泡シールド工法で発生した建設排泥が試料とされているものの,試料中の気泡の有無・状態は示されていない一方で,試料中にシルト分を大量に含むことは示されているから,シルト分を多く含む残留物の流動性をいかに改良するかが本件発明1の課題であったことがわかる。
(イ)

出願の経緯
本件特許の出願時の請求項1は,カチオン性高分子凝集剤を添加することなくとの文言を含まないものであった。同文言は,審査手続中に乙3には,処理対象を気泡シールド工法で発生する排泥とすることが産業上の利用分野の項に記載されており,高分子凝集剤としてアニオン系の使用が示唆されており,無機系固化剤の添加混練も記載されている。そして,高分子凝集剤の添加により造粒化されることは容易に予測できる旨の拒絶理由通知を受け,これに対応する補正によって追加されたものである。
かかる出願経緯にかんがみると,気泡シールド工法で発生する建設排泥を処理対象とすること自体は産業上の利用分野の項に記載されているから公知の技術にほかならず,本件発明1の特徴的部分はカチオン性高分子凝集剤を添加することなくアニオン性高分子凝集剤を添加混合したところにあるものとして特許査定を受けたものである。


引用発明の認定の誤り

審決甲1発明の認定の誤り
甲1の段落【0029】には,使用する凝集材の選択について,①通常の泥土の場合,②工事中にベントナイトが添加された泥土の場合,③泥土のpHに応じて選択する場合,に分けて述べられているところ,それぞれのケースは,異なった技術的思想を有しているから,これらを一まとめにして発明を認定することはできず,いずれか一つの場合を引用発明として認定すべきである。そして,気泡シールド工法とは,粘土やベントナイトを加える代わりに気泡を加える掘削の工法であるから,②は,明確に本件発明1とは異なる用法例である。また,③は,使用することも考えるという付加的・付随的な用法例である。したがって,本件においては,引用発明として①を認定すべきである。
よって,本件発明1と対比する引用発明は,次のとおり認定すべきであり,審決の認定は誤りである。
シールド工事で発生する泥土を凝集材と撹拌混合し泥土を粒状化するように処理し,セメント系や石灰系の固化材を供給することにより,凝集材で粒状化させた泥土を固化し,凝集材は,主たる凝集材,補助の凝集材の何れに使用するかの凝集材の使用目的,更には,泥土が有機質か無機質かの泥土の種類,泥土が粘度,シルト,コロイド等の何れに該当するかの泥土の土粒子径,泥土の含水比等の泥土の性状に応じて適宜選択して使用し,例えば,通常の泥土は,アニオン性又はノニオン性の凝集材で凝集することが可能である,シールド工事で発生する泥土の処理方法(以下原告甲1発明という。)

原告甲1発明のシールド工事で発生する泥土には,気泡シールド工法から発生する泥土も含まれること
甲1にはシールド工事で発生する泥土を処理対象とする旨の記載があること(【0001】),甲1には泥土の性状について多様な観点が列挙されていること(【0029】),シールド工事は気泡シールド工法を包含する上位概念であること(技術常識),気泡シールド工法はシールド工法のうちの典型的な一類型であること(同),気泡シールド工法が他の泥土圧シールド工法と適宜併用されること(同),シールド工法においては地盤の状況次第で施工の方法を変えるものであること(同),建設排泥に関連する法令通達は気泡シールド工法により発生する泥土を除外・区別していないことに照らすと,原告甲1発明のシールド工事で発生する泥土には,気泡シールド工法から発生する泥土も含まれ,後者を区別してあえて除外するのは無理がある。


相違点の認定の誤り
審決が認定した相違点2は,

凝集材に関して,本件発明1は『カチオン性高分子凝集剤を添加することなく』としているのに対し,審決甲1発明はそのような特定がなされていない点。

であるが,この認定は,誤った審決甲1発明の認定に基づくものである。引用発明を原告甲1発明として正しく認定すれば,通常の泥土はアニオン性又はノニオン性の凝集材で凝集することが可能であるから,カチオン性高分子凝集材を添加することなくの構成を充たす。
よって,審決が相違点2を認定したことは誤りである。



新規性の判断の誤り
審決が認定した相違点1は,

シールド工法に関して,本件発明1は『気泡シールド工法』であるのに対し,審決甲1発明はそのような特定がなされていない点。

であるが,上記⑵アのとおり正しく認定した原告甲1発明のシールド工事で発生する泥土には,同イのとおり気泡シールド工法から発生する泥土も含まれているから,相違点1は実質的相違点ではない。よって,本件発明1は原告甲1発明と同一であるから新規性を欠く。新規性を欠かないとした審決の判断は誤りである。



進歩性の判断の誤り
審決は,『気泡シールド工法で発生する建設排泥』のみに着目する動機付けはないとするが,上記⑴のとおり,本件発明1の気泡シールド工法で発生する建設排泥は,自然放置や消泡剤の添加により消泡されて通常の建設排泥に戻る場合も含めて認定されるべきものである。そして,通常の建設排泥に戻った場合には,通常の泥土の凝集についての原告甲1発明を適用する動機付けがあることは明らかである。
また,万一,原告甲1発明のシールド工事で発生する泥土が本件発明1の気泡シールド工法で発生する建設排泥を含まないとされるとしても,上記⑵イのとおり,気泡シールド工法はシールド工法の典型的な一類型であること,気泡シールド工法とその他の泥土圧シールド工法とは技術分野に親近性があり適宜の互換性があること,両工法には発生する泥土の流動性という課題の共通性があること,両工法には凝集剤による泥土の凝集という作用機能の共通性があること,さらには,甲1の通常の泥土にはベントナイトが添加されていないから泥土圧シールド工法のうち気泡シールド工法が示唆されていることからすれば,甲1に接した当業者が原告甲1発明を気泡シールド工法で発生する建設排泥に適用することは容易である。よって,本件発明1は原告甲1発明及び技術常識から容易に想到できたものであり,進歩性を欠く。進歩性を欠かないとした審決の判断は誤りである。2
取消事由2(甲32を主引用例とする本件発明1の新規性・進歩性の判断の誤り)


本件発明1の認定の誤り
この点に関する主張は,上記1⑴のとおりである。


審決甲32発明の認定の誤り

審決は,甲32に記載されたアニオン性アクリル系水溶性高分子凝集剤分散液を,泥土圧シールド工法の中で用いられる添加剤(作泥土剤)に相当するものであって,泥土圧シールド工法による掘削の結果発生した排泥に添加する凝集剤ではないと解している。その結果,審決は,相違点Aの認定において,凝集剤の添加について,本件発明1では排泥に添加するのに対し,審決甲32発明ではチャンバ内に(すなわち排泥になる前の掘削土砂に)添加するものとして,これを相違点Aに含めた。審決の上記解釈は,掘削中の土砂に添加する添加剤と,掘削の結果発生した排泥に混合する凝集剤とを分け,甲32のアニオン性アクリル系水溶性高分子凝集剤分散液は前者に当たるとするものである。
しかし,甲32の記載によれば,カッタで掘削された土砂は含水土砂であり,アニオン性アクリル系水溶性高分子凝集剤分散液はその含水土砂に混合されるものである。すなわち,アニオン性アクリル系水溶性高分子凝集剤分散液は,掘削の結果発生した排泥に混合されている。したがって,審決の上記解釈は誤りである。

審決は,審決甲32発明の認定に当たり,掘削土砂を凝集状態の泥土に変換することは認定したが,本件発明1のように造粒することは認定せず,この点も相違点Aに含めた。
しかしながら,甲32の記載によれば,アニオン性アクリル系水溶性高分子凝集剤分散液を混合した結果生成される凝集状態の泥土は,適度な流動性を有し,搬出に好ましい状態にあり,通気性,保水性を有し,園芸用土壌等に利用できるものであるから,造粒物である(造粒とは,凝集によって小さな粒子から大きな粒子をつくることである。)。
したがって,審決は,審決甲32発明の認定を誤った結果,相違点でないものを相違点Aとした誤りもある。


以上によれば,引用発明並びに一致点及び相違点を次のとおり認定するべきである。

〔引用発明〕(以下原告甲32発明という。)

泥土圧シールド工法で発生する含水土砂に,カチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合し,造粒することを特徴とする泥土圧シールド工法で発生する含水土砂の処理方法。

〔一致点〕
本件発明1と原告甲32発明は,いずれも,カチオン性高分子凝集剤を添加することなくアニオン性高分子凝集剤を添加混合し造粒している。〔相違点a〕
本件発明1の処理対象が気泡シールド工法で発生する建設排泥で
あるのに対して,原告甲32発明のそれは泥土圧シールド工法において発生する含水土砂である点。〔相違点B〕(審決の認定に同じ)
本件発明1は無機系固化材を添加混合して固化するのに対し,原
告甲32発明はそのような特定がなされていない点。


相違点aについて
本件発明1の気泡シールド工法は原告甲32発明の泥土圧シールド工法の典型的な類型であるから,原告甲32発明を気泡シールド工法に適用することには何の困難もない。
また,本件明細書及び甲32の各記載によれば,原告甲32発明の含水土砂は本件発明1の建設排泥とは実質的に同一である。したがって,相違点aは実質的な相違点ではない。



相違点Bについて
相違点Bが容易想到であることは,審決が正しく認定したとおりである。


以上によれば,本件発明1は甲32に記載された発明に対して進歩性を欠くから,進歩性を欠かないとした審決の判断は誤りである。

3
取消事由3(本件発明2及び3の進歩性の判断の誤り)
上記1及び2のとおり本件発明1は新規性・進歩性を欠き,本件発明2及び3で付加された構成も新規性・進歩性を欠くから,新規性・進歩性を欠かないとした審決の判断は誤りである。

第4被告の主張
1
取消事由1について


本件発明1の認定に誤りはないこと
本件明細書の【0003】【0004】の記載からも明らかなとおり,本件発明1における気泡シールド工法で発生する建設排泥が気泡を含むことは当然の大前提である。したがって,審決が,処理対象とされる建設排泥は気泡シールド工法で発生するものであることを本件発明1の特徴的部分として認定したことに誤りはない。


審決甲1発明の認定に誤りはないこと
本件発明1は気泡シールド工法で発生する建設排泥を対象とするもの
であるのに対し,甲1は気泡シールド工法で発生する建設排泥を対象としないため,甲1の記載の全体中に気泡シールド工法で発生する建設排泥に関する記載又は示唆があるか否かを検討する必要がある。したがって,審決が,①通常の泥土の場合,②工事中にベントナイトが添加された泥土の場合,③泥土のpHに応じて選択する場合,のすべてを包含する審決甲1発明を引用発明として認定したことに誤りはない。


相違点の認定に誤りはないこと
審決が引用発明として審決甲1発明を認定したことには上記⑵のとおり誤
りはないから,これに基づき相違点2を相違点として認定したことにも誤りはない。


相違点の容易想到性の判断に誤りはないこと
審決甲1発明は,気泡シールド工法で発生する建設排泥を処理対象とするものではなく,また,甲1及び他の甲号証には審決甲1発明を気泡シールド工法で発生する建設排泥に適用することを動機付ける記載はなく,そのような適用が技術常識であるともいえないから,甲1に接した当業者が相違点1及び2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとはいえない。
2
取消事由2について


審決甲32発明の認定に誤りはないこと
甲32は,泥土圧シールド工法自体の発明を記載したものであって,カチオン性高分子凝集剤の使用を排除する記載はなく,造粒に関する記載もない。したがって,引用発明を原告甲32発明のとおり認定すべきであるとはいえず,審決甲32発明の認定に誤りはない。


相違点の容易想到性の判断に誤りはないこと
審決甲32発明における凝集剤は,泥土圧シールド工法の中で用いられる添加剤(作泥土剤)であり,泥土圧シールド工法を行った結果発生する掘削土砂に添加されるものではない。したがって,審決甲32発明に接した当業者が泥土圧シールド工法から,本件発明1に係る気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法を想到することは容易ではない。また,甲32には,作泥土材としてアクリル系高分子を添加することが記載されているだけであり,作泥土材(加泥材)として気泡を添加することの開示はないから,アクリル系高分子に加えて気泡を併用することは一切想定されていない。そうすると,甲32には,気泡シールド工法で発生する建設排泥中の気泡を,アクリル系高分子ないしアニオン性高分子凝集剤によって消泡させるという技術的思想に関する記載も示唆も全く存在しないことは明白である。アニオン性高分子凝集剤を添加混合することで,気泡が消泡されて造粒される等の効果は,本件特許の出願日前には知られていなかった格別な効果なのである。
したがって,甲32に接した当業者が,相違点Aに係る本件発明1の構成に想到することは容易でない。

3
取消事由3について
上記1及び2のとおり本件発明1は新規性・進歩性を有するから,更に構成を限定した本件発明2及び3も新規性・進歩性を有する。

第5
1
当裁判所の判断
取消事由1(甲1を主引用例とする本件発明1の新規性・進歩性の判断の誤り)について


本件発明1の認定誤りについて
審決は,本件発明1の要旨をその請求項の文言どおりに認定しており,その認定に誤りはない。
原告の主張は,審決は,新規性及び進歩性の判断に当たって,本件発明1の技術的意義を正しく理解していない旨をいうものであり,本件発明1の要旨の認定の誤りをいうものではない。原告の主張については,後記⑷アで検討する。



引用発明の認定誤りについて

原告の主張アについて
原告は,審決甲1発明の認定は,異なる技術的思想を有する事項を一括りに発明として認定したもので,誤りである旨主張する。
この点,たしかに,審決甲1発明の認定は,構成について十分には整理されておらず,本件発明1との対比という観点からすれば,通常の泥土の場合の凝集剤の選択に着目して,原告甲1発明のとおり認定すれば十分であって,それ以外の場合についての構成まで認定する必要はない。しかしながら,引用発明を原告甲1発明のとおり認定したとしても,後
記⑷のとおり,本件発明1が原告甲1発明に対して進歩性を欠くとはいえないから,審決の引用発明の認定誤りは,審決の結論に影響しない。イ
原告の主張イについて
原告は,原告甲1発明のシールド工事で発生する泥土には気泡シールド工法から発生する泥土も含まれる旨主張するが,この主張については,相違点1に係る構成の新規性及び進歩性の判断の前提として,下記⑷イにおいて検討する。



相違点の認定誤りについて
原告は,審決が相違点2を認定したことは誤りである旨主張する。この点,たしかに,甲1の記載からは引用発明を原告甲1発明のとおり認定すべきものであるから(上記⑵ア),審決が相違点2を認定したことは相当でない。
そうすると,相違点1が実質的相違点であるか(新規性),原告甲1発明自体及び技術常識によって容易想到か(進歩性)が取消事由1の成否を分けることになる。


相違点1について
既にみたとおり,本件発明1が処理の対象としているものは,気泡シールド工法で発生する建設排泥であるのに対し,原告甲1発明が処理の対象としているものは,気泡シールド工法には特定しないシールド工事で発生する泥土である。そして,審決は,気泡シールド工法で発生する建設排泥には気泡が含まれているのに対し,後者は,気泡を有する泥土を想定しているとは考えられないから,後者の対象には,気泡シールド工法で発生する建設排泥は含まれず,この点に相違点があると判断したのに対し,原告は,気泡シールド工法で発生する建設排泥であっても,その後の自然消泡や消泡処理によって気泡を消滅させることが可能であり,本件発明1は,このようにして気泡が消滅した泥土になお残る流動性に対応するための発明であるから,その対象を気泡を有する泥土とみることはできないし,原告甲1発明の対象は,シールド工事で発生する泥土であり,この中には,シールド工法の一種である気泡シールド工法で発生する泥土も含まれるから,仮に本件発明1が処理の対象としているのが,気泡シールド工法で発生する建設排泥(すなわち気泡を有する泥土)であったとしても,それが原告甲1発明の対象になっていないという判断は誤りであると主張している。
このように,相違点1が実質的な相違点であるといえるかどうかについては,本件発明1は,気泡を有する泥土を処理の対象としているといえるのかどうか,そして,原告甲1発明は,気泡を有する泥土を処理の対象とはしていないといえるのかどうかが問題となっているので,以下,この点について判断する。

本件発明1の対象
(ア)

本件明細書には,次の開示がある。
a
気泡シールド工法から発生する建設排泥に含まれる気泡は,
安定したものである【0004】。

b
気泡シールド工法から発生する建設排泥は流動性が大きいため
に固化処理した上で運搬して再利用されていたが,消泡しないで固化処理すると軽石状となるため,再利用に十分な強度を有しなくなる【0004】~【0006】。

c
そのため,気泡シールド工法から発生する建設排泥は,まず,
自然放置や消泡材の添加により,消泡されていた。しかし,消泡しても,汚泥中に含まれるシルトやセルロース系増粘剤が生成する泥膜により,気泡の離脱が妨害される上に脱泡残留物においてもなお流動性を有する【0007】。

d
この問題を解決するために,乙3には,カチオン性高分子凝集剤を気泡シールド工法から発生する排泥に混錬し,流動性を消失させ
る処理法が提案されている【0008】。

e
しかしながら,上記従来法には,①固化処理後の固化物が塊状となるのでそのままでは運搬に適さない,②固化物中の残留カチオン性高分子凝集剤が環境汚染を引き起こす,という問題点があった【0009】。

f
本件発明(本件明細書にいう本発明を指す。以下同じ)は,上
記の問題点を解決するため,気泡シールド工法から発生する建設排泥に,カチオン性高分子凝集剤を添加することなくアニオン性高分子凝集剤を添加混合するものである【0010】【0001】。

g
本件発明の方法によって,①´固化処理後の固化物は粒状となるので運搬性が向上する,②´環境汚染の心配がない,という効果が奏される【0014】。
(イ)

本件明細書の上記開示事項,特にd~gによれば,本件発明の目的は,乙3が開示する従来法(乙3技術)に代替し得る技術として,気泡シールド工法から発生する排泥の処理方法を提供することにある。そこで,乙3技術の内容についても検討すると,乙3には次の開示がある。

a
気泡混入掘削ずりの処理方法として,自然放置による消泡(特
公昭58-47560号公報)及び消泡材の添加による消泡処理(特公昭59-49999号公報)がある。しかし,気泡混入掘削ずり中にはシルト・粘土分やセルロース系増粘剤を含む場合が多く,これらの成分が生成する強固な泥膜は気泡の離脱を妨害するとともに,脱泡残留物においてもなお流動性を付与する。このため,単なる消泡処理では未だ十分な対処法とはいえない【2段12行~3段5行】。

b
乙3技術は,短時間で気泡混入掘削ずりを固化する簡便な処理
方法の提供を目的とする【3段10~16行】。

c
乙3技術においては,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混錬することによって,電荷中和反応により気泡周囲の泥膜が破れて,気泡が集合し,ずりから放出される。これにより気泡を失い凝集した改質土には,流動性及び増粘作用がなく,運搬及び埋土が容易となる。このような効果は,従来の消泡剤には全く期待できなかった【4段18行~31行】。

(ウ)

本件明細書及び乙3の上記各開示事項によれば,本件発明は,次のような背景のもとになされたものと理解できる。

a
気泡シールド工法により,気泡混入掘削ずりが発生する。

b
気泡混入掘削ずりに含まれる気泡は安定したものであり,
シルト・粘土分やセルロース系増粘剤が生成する強固な泥膜のた
め,離脱しにくい上に流動性の問題も生じる。
c
そこで,泥膜によって離脱を妨げられていた気泡を消泡し,これによって流動性にも対応するための新たな技術として,乙3技術が発明された。

d
しかし,乙3技術を適用すると,固化物が運搬に不便であり,環境汚染を引き起こす,という問題があった。本件発明は,この問題を解決して乙3技術に代わり得るような技術を提供する。

(エ)

本件発明は,上記(ウ)のような背景の下になされたものであるから,消泡のための技術にほかならない。そうすると,本件発明の適用対象の気泡シールド工法で発生する建設排泥は,消泡を必要とする泥土であって,必ず気泡を含むものと解される。本件明細書に本件発明の効果として気泡の効果を低減する旨が明記されていること【0030】も,かかる解釈と符合する。
この点につき,原告は,気泡の存在自体から生じる問題は自然消泡及び消泡処理によって解決済みであるから,本件発明の解決課題は消泡後の脱泡残留物の流動性である旨主張する。しかしながら,上記(ア)cにおいて指摘したとおり,本件明細書によれば,気泡シールド工法によって発生する建設排泥は,消泡しても,汚泥中に含まれるシルトやセルロース系増粘剤が生成する泥膜により,気泡の離脱が妨害されるというのであるから,完全に泡が消滅した状態にはなっていないことは明らかである(なお,本件明細書にある消泡してもという表現は,消泡のための操作をしてもという意味であって,完全に泡が消えていてもという意味ではないと解される。)。したがって,原告の主張を採用することはできない。
なお,気泡シールド工法は,気泡を添加して掘削土に流動性及び止水性を付与した上で掘削する工法であるが,このようにして掘削した後に発生する建設排泥においては,土粒子の間の自由水が気泡で置き換えられているから,その含水比はさして高くないものと考えられる(甲2の46頁,227頁)。
具体的には,気泡シールド工法を適用した工事の内容を紹介する甲5の80頁の表では,含水比はほとんどの地層で50%以下であること,本件明細書の実施例【0035】の試料では,含水比は33%及び45%であること,乙3の実施例1【5段48行】の試料では含水比は41%であり,実施例2【6段27行】の試料では含水比は12%ないし52%であることなどからすれば,気泡シールド工法で発生する建設排泥の含水比は,せいぜい50%程度であるものと考えられる。

原告甲1発明の対象
次に,原告甲1発明の対象についてみるに,甲1には,泥土に気泡を含有することについては,記載も示唆もない。かえって,気泡シールド工法で発生する気泡を含んだ泥土は,含水比が低いものと考えられることは既に指摘したとおりであるところ,甲1は,原告甲1発明の対象を,縦穴掘削機等による基礎工事,管推進機による推進工事,シールド工事,浚渫工事のような建設工事等で発生する泥土,すなわち,高含水比の軟弱な土砂【0002】であると定めており,この記載からすれば,原告甲1発明は,気泡シールド工法から発生する低含水の泥土は対象としていないものと理解するのが素直である(なお,甲1には,高含水比の泥土の含水率について具体的に言及した記載はないが,…造粒処理しようとする泥土が含水比の著しく高い泥土でない場合,…(【0008】),造粒処理しようとする泥土が含水比の著しく高い場合…(【0009】)の処理方法について記載があり,また,【0019】【0048】【0049】の記載を総合すると,泥土の含水比が150%以下である場合は,著しくは高くない場合に当たるものとされている。著しくは高くない場合の含水比の下限値については特に言及されていないが,この含水比150%という数値は,本件発明が対象とする泥土の含水比50%程度と比べるとはるかに高い数値であること,著しくは高くないといっても,原告甲1発明の対象は,高含水泥土であるのには変わりないことなどから考えれば,含水比50%程度の泥土は,著しくは高くない泥土には含まれないと解するのが素直である。)。
原告は,甲1には,発明の対象を縦穴掘削機等による基礎工事,管推進機による推進工事,シールド工事,浚渫工事のような建設工事等から発生する泥土とする記載があるところ,気泡シールド工事は,シールド工事の典型例といえるものなのであるから,気泡シールド工事から発生する泥土がその対象に含まれていないとは考えられないという趣旨の主張をする。しかしながら,甲1の上記記載は,その記載ぶりからみて,処理の対象となる可能性があり得る泥土(その発生原因となる工事)を列挙したのにとどまり,これらの工事類型に含まれる工事から発生した泥土は,その性質にかかわらず,全て原告甲1発明の処理の対象となることを明示したものではない(したがって,これらの工事から発生した泥土であっても,高含水泥土とはいえないものは,原告甲1発明の対象とはならない。)と解されるから,原告の主張は採用できない。原告は,気泡シールド工事がシールド工事の典型であるという点を強調しているが,工事の類型として典型的かどうかということと,工事によって発生する泥土の性質が典型的かということとは別個の事柄であるから,やはり,その主張は採用できない。

新規性の判断について(相違点1が実質的相違点といえるか)
上記ア及びイのとおり,本件発明1が処理対象とする気泡シールド工法で発生する建設排泥と,原告甲1発明が処理対象とするシールド工事で発生する泥土は異なるというべきであるから,相違点1は実質的相違点である。
したがって,本件発明1が新規性を欠くとはいえず,審決の同旨の判断には結論において誤りはない。

進歩性の判断について
原告は,原告甲1発明は,シールド工法により発生する泥土の処理方法に関する発明であるから,仮に,その泥土に気泡シールド工法により発生する泥土が含まれないとしても,気泡シールド工法がシールド工法の典型例であることなどを考慮すれば,気泡シールド工法によって発生した泥土を原告甲1発明の対象とすることは容易に想到することができると主張する。
しかしながら,原告甲1発明に開示された発明は,推進工事,シールド工事,基礎工事,浚渫工事のような建設工事等で発生する泥土であって,高い含水比により流動性が高い反面,気泡の存在は想定されていないものを対象とし,これに凝集剤を適切に供給することよって凝集された無数の土粒子間に自由水を満遍なく抱合して,粒状化した状態に処理【0049】するという発明である。これに対し,気泡シールド工法によって発生する泥土は,含水比が低く,気泡を有している点において,原告甲1発明が想定する泥土とは性質が異なるのであるから,当業者には,このように性質の異なる泥土を,原告甲1発明の対象とすることの動機付けはないというべきである。このことは,気泡シールド工法がシールド工法の典型例であるとしても,それによって左右されるものではない(問題は,泥土の性質であるからである。)。
原告は,気泡シールド工法とその他の泥土圧シールド工法とは技術分野に親近性があり適宜の互換性があること,両工法には発生する泥土の流動性という課題の共通性があることなども指摘している。しかし,前者に関していえば,問題は,泥土の性質であって,工法の種類ではないことは既に指摘したとおりである。また,後者についていえば,気泡を有する泥土の場合には,流動性をなくすために気泡を消滅させなければならないという固有の課題が存在するのであるから,流動性という表面的な現象面において共通性があるからといって,直ちに,気泡を有する泥土を原告甲1発明の対象とすることが容易であるということはできない。
よって,原告甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものとはいえない。したがって,本件発明1が進歩性を欠くとはいえず,審決の同旨の判断には結論において誤りはない。
2
取消事由2(甲32を主引用例とする本件発明1の新規性・進歩性の判断の誤り)について


甲32記載の発明における凝集剤の作用
泥土圧シールド工法においては,掘削対象土砂に対して適度な流動性・止水性等を付与することによって掘削施工を容易にするため,掘削対象土砂に添加剤(作泥土剤)を供給する(甲32の【0004】,甲9の14頁)。そして,添加剤として気泡を採用するのが気泡シールド工法であるのに対し,甲32記載の発明は,添加剤としてアニオン性のアクリル系高分子凝集剤を採用したものといえる(なお,アニオン性のアクリル系高分子凝集剤であるポリアクリルアミド(甲32の【0016】に例示されている。)は,添加剤の選択肢の一つとして気泡と並列されるものである(甲9の15頁表-1)。)。次に,甲32記載の発明においてアクリル系高分子凝集剤が供給される時点についてみる。甲32には,チャンバーまたは掘削土排出装置内にアクリル系有機高分子凝集剤分散液を注入【0008】,アクリル性有機高分子凝集剤を泥土圧シールド機のチャンバ(スクリューコンベヤ等のハウジングを含む)内に注入【0009】,チャンバ2内には,カッタ15で掘削した掘削土砂と該凝集剤を混練する攪拌翼14……を備え【0010】,掘削土砂は,チャンバ2内に注入された凝集剤と攪拌翼14によって混合され,チャンバ2から排出に好ましい状態,すなわち,適度な流動性,不透水性即ち止水性,残土処理性に好ましい泥土に作られる。凝集剤と掘削土との混錬はスクリュウコンベアなどのハウジング内の任意の場所で行うことができる【0011】と記載されており,これらの記載に【図1】【図2】をあわせ参照すると,凝集剤は遅くとも土砂がスクリュウコンベア13を経由する時点までに掘削土と十分に混練され,排出に好ましい状態の泥土としてハウジング23(【符号の説明】によればチャンバの一部である。)から排出され,ベルトコンベア3に載せられることがわかる。
以上によれば,甲32記載の発明においては,アクリル系高分子凝集剤を掘削土に混練することによって,シールド機のチャンバから排出される泥土は既に好ましい状態になっていて,その後の処理を要しないとされている。


本件発明1における凝集剤の作用
本件発明1は,請求項の文言どおり建設排泥の処理方法の発明であり,アニオン性高分子凝集剤は建設排泥に添加される。そして,本件明細書の添加混合方法としては,連続ミキサー,強制攪拌ミキサー等の混錬機やパワーショベル,バックホウ,スクリューコンベア等の土木機械を用いることができる【0020】との記載によれば,アニオン性高分子凝集剤の添加が行われる時点は,シールド機のチャンバから排出された後であると理解するのが自然である。
また,本件発明1にいう建設排泥は,気泡を含み,気泡に由来する過剰な流動性を有し,そのままではトラックによる運搬に適さない等の問題がある(本件明細書【0004】)。そして,アニオン性高分子凝集剤は,気泡に由来する流動性を消失させるために添加されている。
以上によれば,本件発明1においては,シールド機のチャンバから排出される建設排泥は好ましい状態にはなく,これを処理して好ましい状態にするためにアニオン系高分子凝集剤が添加混合されている。⑶

甲32を主引用例とする本件発明1の新規性・進歩性欠如について上記⑴⑵によれば,本件発明1と甲32記載の発明とは,泥土圧シールド工事においてアニオン性高分子凝集剤を使用するという点で共通するだけであり,アニオン性高分子凝集剤を使用する目的及び時点が異なり,その使用によって得られる作用も大きく異なる。したがって,両者が実質的に同一であると見る余地はない。
また,甲32記載の発明から本件発明1の構成に到達するためには,まず,添加剤をアニオン性高分子凝集剤(甲32)から気泡(本件)に置き換えた上で,シールド機のチャンバから排出された泥土(甲32)/建設排泥(本件)に対する処理を,何もしないこと(甲32)からアニオン性高分子凝集剤の添加(本件)に置き換えることが必要であるが,前者の置換をあえて行わなければならない動機付けがあることや,後者の置換が周知又は公知であることを認めるに足りる証拠はない。よって,甲32に接した当業者にとって,本件発明1の構成が容易想到であるとはいえない。
審決の認定(特に審決甲32発明の認定)及び判断は,十分に整理されたものとはいいがたいが,甲32記載の発明における泥土と本件発明1における建設排泥とが技術的には同じ意義を有することを正しく理解し,アニオン性高分子凝集剤の添加が,甲32記載の発明では泥土の生成の前段階で行われるのに対し,本件発明1では建設排泥の生成の後段階で行われることを両発明の根本的な相違として理解した上でなされており,結論においても誤りはない。



原告の主張について
原告は,本件発明1の建設排泥に対応するのは甲32記載の発明においては含水土砂であり,その含水土砂にアニオン性高分子凝集剤が添加されるのであるから,アニオン性高分子凝集剤添加の目的,時点,作用に違いはないと主張する。
そこで,含水土砂の意義につき検討すると,甲32において,当該文言は,ただ1箇所,掘削する地層中に含まれる粘土が微量であり,その地層の透水係数が100~10-3cm/secであると,掘削土の流動性が高くスクリュウコンベアから噴出する。アクリル系有機高分子凝集剤分散液(以下,凝集剤と略す)を添加剤として上記地層から掘削した含水土砂に混合することによって,該土砂は適度な流動性を有する凝集状態の泥土に生成される。【0009】(下線は本判決が付した。)との記載に現れる。この記載によれば,含水土砂は,地層から掘削されてチャンバ内に入ってきた土砂そのものであり,その時点では何の処理もなされていないから,これをもって本件発明1の建設排泥(気泡が注入されている。)と等置することはできない。上記⑴に摘示した記載も考慮すると,甲32記載の発明においては,含水土砂に凝集剤を混合する処理を行い泥土とした上でチャンバから排出するのであるから,泥土が本件発明1の建設排泥に対応する。したがって,原告の主張は前提において誤りがあり,採用することができない。
3
取消事由3(本件発明2及び3の進歩性の判断の誤り)について
本件発明1が新規性・進歩性を欠くとの原告の主張に理由がないから,更に構成を付加した本件発明2・3が新規性・進歩性を欠くことはない。したがって,取消事由3に係る原告の主張は理由がない。

4
結論
以上によれば,審決に原告主張の誤りはないから,請求を棄却すべきである。知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦上田卓哉都野道紀
裁判官

裁判官
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