判例検索β > 平成30年(行ウ)第4号
不当利得返還等請求事件
事件番号平成30(行ウ)4
事件名不当利得返還等請求事件
裁判年月日令和2年8月12日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第2民事部
裁判日:西暦2020-08-12
情報公開日2020-09-10 12:00:19
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主1文
被告は,原告に対し,3942万0561円及びうち別表1の内金欄記載の各金員に対する同表の年月日欄記載の各日から各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2
被告は,原告に対し,307万9310円及びこれに対する平成30年5月26日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3
被告は,原告に対し,次の(1)ないし(3)の各金員を支払え。(1)

1316万1000円

(2)

前記(1)の金員のうち別表2の
内金
欄記載の各金員に対する同表の
年月日欄記載の各日から各支払済みまで年10.95%の割合による金員(3)

前記(1)の金員に対する平成29年11月1日から支払済みまで次のアな
いしウの各割合による金員

平成29年11月1日から同年12月31日までは年9.0%の割合

平成30年1月1日から令和2年12月31日までは年8.9%の割合

令和3年1月1日以降は当該年の特例基準割合(当該年の前年に租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第93条第2項の規定により告示された割合に年1%の割合を加算した割合)に年7.3%の割合を加算した割合

4
被告は,原告に対し,588万1140円及びうち581万7181円に対する平成30年5月26日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
5
訴訟費用は被告の負担とする。

6
この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2

事案の概要
1
事案の要旨
(1)

地方公共団体である原告は,
社会福祉法人である被告に対し,
被告が運営

する認可保育所について,その保育に要する費用を支弁し,補助金を交付し,また,保育士を派遣した。
(2)

本件は,
原告が,
被告に対し,
上記費用の支弁及び補助金の交付について,

その要件が欠けていたと主張して,次のアないしウのとおり,その返還及び利息等の支払を求めるとともに,次のエのとおり,合意に基づき,派遣した保育士の人件費相当額の支払を求める事案である。

運営費・委託費の返還請求(主文1項関係)
不当利得返還請求権に基づき,原告が被告に対し準委任契約に基づき別表1の年度欄記載の各年度に支弁した運営費・委託費のうち支弁の要件に欠ける合計3942万0561円(同表の内金欄記載の金額の合計)及びこのうち同表の内金欄記載の各金員に対する同表の年月日欄記載の各日(各年度における最終の精算日の翌日)から各支払済みまで年5%の割合(平成29年法律第44号による改正前の民法404条。以下,同改正前の民法を改正前民法という。)による民法704条前段所定の利息の支払請求


1歳児保育特別対策費の返還請求(主文2項関係)
解除による原状回復請求権又は不当利得返還請求権に基づき,原告が被告に対し大阪市民間保育所1歳児保育特別対策費交付要綱に基づき交付した補助金である1歳児保育特別対策費(平成23年度及び平成24年度分)の合計307万9310円及びこれに対する平成30年5月26日から支払済みまで年5%の割合(改正前民法404条)による遅延損害金の支払請求(本件で請求する遅延損害金は,同月24日付け相殺通知書をもって原告がした相殺により消滅した上記307万9310円に対する平成29年9月30日(返還を求める通知が被告に到達した日の翌日)から平成30年5月25日までの遅延損害金10万0393円が除かれている。)

大阪市補助金等交付規則等に基づく各補助金の返還請求
(主文3項関係)
解除による原状回復請求権又は不当利得返還請求権に基づく次の(ア)の金員並びにこれに対する次の(イ)及び(ウ)の金員の支払請求
(ア)

原告が被告に対し交付した各補助金(大阪市補助金等交付規則及び
大阪市民間保育所等運営補助金交付要綱に基づく障がい児保育事業及び長時間・延長保育事業に係る各補助金(平成23年度ないし平成26年度分)並びに上記規則及び大阪市特定教育・保育施設等運営補助金交付要綱に基づくアレルギー対応等栄養士配置事業に係る補助金(平成27年度及び平成28年度分))の合計1316万1000円
(イ)

上記各補助金の各交付額(別表2の内金欄記載の金額)に対する

各交付日(同表の年月日欄記載の日)から各支払済みまで上記規則が定める年10.95%の割合による加算金
(ウ)

上記1316万1000円に対する平成29年11月1日(返還期
日の翌日)から支払済みまで上記規則が定める割合(税外歳入に係る延滞金及び過料に関する条例2条,附則9条の定める割合)による延滞金エ
人件費相当額の支払請求(主文4項関係)
原告と被告との間の合意に基づき,原告が被告に対し派遣した保育士の給与,各種手当等及び交通費の人件費相当額の合計581万7181円並びにこれに対する催告の後である平成29年11月1日から平成30年5月25日まで年5%の割合(改正前民法404条)による遅延損害金のうち6万3959円及び上記581万7181円に対する同月26日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払請求(本件で請求する遅延損害金は,上記平成29年11月1日から平成30年5月25日までの遅延損害金16万4156円から,同月24日付け相殺通知書をもって原告がした相殺による充当額10万0197円を控除した残額である6万3959円と,同月26日から支払済みまでの遅延損害金である。)2
前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠(書証の番号は特に断らない限り枝番を含む。及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実))
(1)

被告運営の保育所


被告は,保育所の経営を事業目的とする平成21年設立の社会福祉法人である。


被告は,平成22年4月1日以降(甲97),大阪市長の認可を得て設
置した保育所であるp学園(以下本件保育所という。)を運営していたが,平成29年6月27日付けで事業停止命令を受け,同年12月27日付けで認可取消決定を受けたため,被告の事業は停止状態にある。(2)

運営費・委託費
保育費用の負担
(ア)

子ども・子育て支援法の施行(平成27年4月1日)前の保育制度に
おける保育費用の負担(平成23年度ないし平成26年度)
a
市町村は,保育の実施(平成24年法律第67号による改正前の児
童福祉法(以下改正前児童福祉法という。)24条1項)を社会福祉法人が設置する保育所に委託することがあり,その場合に当該保育所における保育を行うことに要する保育費用は,市町村が支弁し(改正前児童福祉法51条),その費用の2分の1を政令が定めるところにより国庫が負担することとされていた(改正前児童福祉法53条)。b
前記aの国庫の負担は,厚生労働大臣が保育所の種類,入所定員,
所在地による地域差等を考慮して定める基準によって算定した保育所の職員の給与費,入所者の日常生活費その他の経費の額から厚生労働大臣が定める基準によって算定した当該費用に係る改正前児童福祉法56条3項の規定による徴収金の額を控除した額について行うこととされていた(平成26年政令第300号による改正前の児童福祉法施行令42条)。そして,上記基準による算定額に係る国庫負担金の交付要綱(毎年改定される。)である厚生事務次官発出の児童福祉法による保育所運営費国庫負担金について(昭和51年4月16日厚生省発児第59号の2)(以下本件運営費交付要綱という。)には,国庫負担金の対象となる市町村が支弁した額等について,要旨次のような定めがあった(甲4ないし7,101)。
(a)

この国庫負担金は,
その年度において,
市町村が改正前児童福祉

法51条により支弁した支弁総額(各保育所に対する各月の支弁額(保育単価に入所児童の数を乗じて得た額)の年間の合算額の全保育所の合計額をいう。)から当該年度における徴収金(保育料)基準額を控除した額を基本額として,改正前児童福祉法53条の規定によりその2分の1に相当する額を負担する(第2の1)。ここに保育単価
とは,
入所児童1人当たり運営費の月額単価をいい
(平
成23年度は第1の13,平成24年度以降は第1の11),運営費とは,都道府県の定める最低基準(改正前児童福祉法45条1項)を維持するための費用(事業費,人件費及び管理費)のうち本件運営費交付要綱が定める範囲内の経費をいう(第1の1)。
(b)

保育単価は,
保育所の所在する地域区分,
保育所のその月初日の

定員区分,所長がその月初日において設置されているか否か,その月初日の入所児童の年齢区分等に応じて定められる。保育所の所長がその月初日において設置されている場合,そうでない場合に比べて高額の保育単価(以下所長設置保育単価という。)が定めら
れる(第3の1)。
(c)

別に定めるところにより,入所児童(者)処遇特別加算費を必要

とするものと認定された場合,保育単価に上記加算額が加算される(第3の2(7))。具体的には,厚生省児童家庭局長発出の児童福祉施設(児童家庭局所管施設)における入所児童(者)処遇特別加算費について(平成2年6月7日厚生省児発第475号の6。甲8)が定めるところにより,保育所が高齢者等を非常勤職員として雇用する場合で,一定の要件を満たすときは,保育単価に,入所児童(者)処遇特別加算額が加算(以下入所児童(者)処遇特別加算という。)される。そして,上記通達は,保育所の職員配置数が,児童福祉施設の職種別職員定数表(平成11年4月30日
厚生省発児第86号の別表2)及び本件運営費交付要綱の第1の1中の職員構成(保育士については,乳児3人につき1人,1~2歳児6人につき1人,3歳児20人につき1人,4歳以上児30人につき1人とし,定員90人以下の施設においては,これに加えて1人を加算する。)に示す職員配置基準(以下本件職員配置基準
という。)を充足していることを加算の要件の一つとしていた。
(イ)

子ども・子育て支援法の施行(平成27年4月1日)後の保育制度に
おける保育費用の負担(平成27年度及び平成28年度)
a
市町村は,保育の実施を社会福祉法人が設置する保育所に委託した
場合,内閣総理大臣が定める基準により算定した費用の額に相当する額を当該保育所に委託費として支払うこととされ(子ども・子育て支援法65条2号,附則6条1項),上記基準として,特定教育・保育,特別利用保育,特別利用教育,特定地域型保育,特別利用地域型保育,特定利用地域型保育及び特例保育に要する費用の額の算定に関する基準等(平成27年内閣府告示第49号)(以下本件委託費告示という。)が定められている(甲1ないし3)。b
本件委託費告示は,
上記委託費を,
基本部分と,
基本加算部分等の各
種の加算部分とに区別し,基本部分については地域や定員数,保育される者の年齢等によって区分された基本分単価を元に算出し(9条,別表第二),基本部分に加算するものを個別に定めているところ,本件に関係する加算部分は,次の(a)ないし(e)のとおりである。(a)

所長設置加算
所長設置加算とは,当該施設等において,運営管理の業務に常時

従事し,かつ給与の支給を受けている所長を配置する場合に加算されるものをいう(本件委託費告示1条45号)。
本件委託費告示の実施に伴う留意事項を定める通知(平成27年
度については特定教育・保育等に要する費用の額の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について(平成27年3月31日厚生労働省雇児発0331第9号),平成28年度については特定教育・保育等に要する費用の額の算定に関する基準等の改正に伴う実施上の留意事項について(平成28年8月23日厚生労働省雇児発0823第1号),甲16,17。以下本件委託費通知という。)は,所長を配置しているか否かの認定基準の一つとして,その所長が常時実際にその施設の運営管理の業務に専従する場合に限ることを挙げており,したがって,2以上の施設又は他の事業と兼務し,所長として職務を行っていない者は欠員とみなして加算は適用されないとしている(別紙2Ⅲ2(1))。
(b)

3歳児配置改善加算
3歳児配置改善加算とは,当該施設等において,3歳児15人に

つき,教員,保育士等を1人配置する場合に加算されるものをいう(本件委託費告示1条23号)。
本件委託費通知は,当該保育所が,保育士の年齢別配置基準(4
歳以上児30人につき1人,3歳児20人につき1人,1,2歳児6人につき1人,乳児3人につき1人)のうち3歳児に係る保育士配置基準を3歳児15人につき1人により実施する施設であることを3歳児配置改善加算の要件としている(別紙2Ⅲ3(1))。
(c)

主任保育士専任加算
主任保育士専任加算とは,当該施設等において,事業の取組状況

に応じて主任保育士を保育計画の立案並びに保護者からの育児相談及び地域の子育て支援活動に専念することができるよう,代替保育士を配置する場合に加算されるものをいう(本件委託費告示1条53号)。
本件委託費通知は,当該保育所が,必要保育士数(上記(b)記載の保育士の年齢別配置基準に加え,利用定員90人以下の施設については1人,保育標準時間認定を受けた子どもが利用する施設については1人を加えた人数。別紙2Ⅱ1(2))を超えて,主任保育士を主任業務に専念させるための代替保育士を配置することを主任保育士専任加算の要件の一つとしている(別紙2Ⅵ1(1))。
(d)

入所児童処遇特別加算
入所児童処遇特別加算とは,当該施設等において,高齢者等の雇

用の促進を図るため,これらの者を活用して支給認定子どもの処遇の向上を図り,かつ,一時預かり事業等の複数事業を行う場合に加算されるものをいう(本件委託費告示1条55号)。
本件委託費通知は,当該保育所が本件職員配置基準以外に高齢者
等を非常勤職員として雇用することを入所児童処遇特別加算の要件の一つとしている(別紙2Ⅵ7(1)(ア))。
(e)

処遇改善等加算
処遇改善等加算とは,当該施設等における職員の平均勤続年数並

びに賃金改善及びキャリアアップの取組を踏まえた加算率を基に各区分に応じ算出し,加算されるものをいう(本件委託費告示1条21号)。
厚生労働省雇用均等・児童家庭局長等発出の施設型給付費等に係る処遇改善等加算について(平成27年3月31日厚生労働省雇児発0331第10号)は,処遇改善等加算の加算率を,加算率区分表における職員1人当たり平均勤続年数の区分に応じた基礎分及び賃金改善要件分の値を合計して得た値によるとし,職員1人当たりの平均勤続年数が,7年以上8年未満の場合は基礎分9%及び賃金改善要件分3%の合計12%,6年以上7年未満の場合は基礎分8%及び賃金改善要件分3%の合計11%と,それぞれ定めている(甲27)。

運営費・委託費の支払
(ア)

支払事務

a
運営費の支払事務(平成23年度ないし平成26年度)
原告は,改正前児童福祉法の下で,保育を委託した社会福祉法人が
設置する保育所に対し,保育費用(運営費)の支弁として,本件運営費交付要綱が定める基準によって算出される支弁額を毎月支払った。毎月の支払額は,前月18日を基準日とする入退所情報に基づき,当月分の概算払額及び前月分までの概算払の精算額を計算することによって算出された。その具体的な支払手続は,原告の担当部署が計算して数額を記入した当月分の保育所運営費等支弁額内訳計算書(前
月分までの精算書及び当月分の請求書)を作成し,これを前月25日頃に各施設・事業所に送付し,送付を受けた各施設・事業所が内容を確認して上記計算書の精算書欄及び請求書欄にそれぞれ記名・押印をした上で,これを当月5日頃までに原告の担当部署に提出し,同部署がその内容を確認した上で,当月10日頃に精算後の当月分の運営費(概算払額)を指定口座に振り込むというものである。また,毎年度末には,本件運営費交付要綱における運営費の単価改正がされ,これに基づき毎年3月18日を基準に同年度の4月分にまで遡って支弁額の再計算をする必要があることから,原告の担当部署が上記再計算をして精算書等を作成し,これを毎年3月22日頃に各施設・事業所に送付し,同月28日頃までに各施設・事業所から押印済みの精算書等の提出を受けて,同月31日に精算額の支払等をした。さらに,その後の決算資料の作成及び決算額の確認過程において各施設・事業所への支払額に過不足があることが判明した場合は,毎年5月下旬に過不足の最終精算(追給又は戻入れ)がされた。(甲58ないし甲65,弁論の全趣旨)
b
委託費の支払事務(平成27年度及び平成28年度)
原告は,子ども・子育て支援法の施行(平成27年4月1日)後,
保育を委託した社会福祉法人が設置する保育所に対し,委託費の支弁として,本件委託費告示が定める基準によって算出される支弁額を毎月支払った。委託費の支払事務の流れは,おおむね上記運営費の支払事務と同様である。(甲54ないし甲57,弁論の全趣旨)
(イ)

被告に対する支払

a
運営費の支払(平成23年度ないし平成26年度)

(a)

原告は,
被告に対し,
①平成23年度から平成26年度までの間,

本件保育所に保育を委託したことによる運営費について,各月初日に本件保育所の長にDが設置されていることを前提とした所長設置保育単価を基礎に算出した額を支払い,
②平成24年度には,
入所児

(者)
処遇特別加算もした額を支払った
(甲12ないし15,
21,
22)。
(b)

しかしながら,①Dは,上記各年度において,被告の関連法人で
ある学校法人q学園が運営する幼稚園(以下r幼稚園という。)
に勤務しており,長として本件保育所に常時専従していなかったため,
本件保育所は,
運営費について所長設置保育単価の適用を受ける
要件に欠け,
②本件保育所は,
平成24年度において本件職員配置基
準を充足していなかったため,
入所児童
(者)
処遇特別加算の要件に
欠けていた(甲66,67,弁論の全趣旨)。
上記各年度について,被告に対し実際に支払われた運営費のうち
所長設置保育単価で計算した基本額及び民間施設給与等改善費加算額(以下運営費の基本額等という。別表3のA欄),本件保育所
の長が各月初日に設置されていないことを前提として算出した運営費の基本額等(同表のB欄)及びこれらの差額(同表のC欄)は,別表3のとおりである(甲12ないし15,23ないし26)。また,平成24年度に被告に対し支払われた運営費のうち入所児童
(者)

遇特別加算による加算額は72万6000円である
(甲13の1,

論の全趣旨)。
b
委託費の支払(平成27年度及び平成28年度)
(a)

原告は,
被告に対し,
本件保育所に保育を委託したことによる委

託費について,基本額に加えて,別表4のとおり,平成27年度及び平成28年度に,①各月初日に本件保育所の長にDが設置されていることを前提とした所長設置加算,②3歳児配置改善加算を,また,平成28年度に,③Eが主任保育士,Fが代替保育士として各配置されていることを前提とした主任保育士専任加算,④入所児童処遇特別加算を,さらに,平成27年度及び平成28年度に,⑤職員の平均勤続年数が7年であることを前提に加算率を12%とし
た処遇改善等加算(なお,平成28年度分について,同年4月分ないし同年9月分の支払の際には8%の加算率が適用され,同年10月に加算率を12%とする旨の決定がされているところ,12%の加算率は,同年4月分に遡及して適用され,8%の加算率との差額部分が同年11月分の支払の際に追給されている(甲57の8)から,同年度を通じて12%の加算率が適用された額が支払われたものと認められる。)を,それぞれ適用した額を支払った(甲9,10,54~57,弁論の全趣旨)。
(b)

しかしながら,本件保育所は,平成27年度及び平成28年度に

おいて,①所長設置加算につき,前記a(b)と同様にDが長として本件保育所に常時専従しておらず,
②3歳児配置改善加算につき,
本件
保育所の保育士として勤務していたとされる各保育士のうち一部の者が,r幼稚園の専任教員として勤務していたことなどにより,必要保育士数を充足していなかったため,いずれも加算要件に欠けており,また,平成28年度において,③主任保育士専任加算につき,上記同様に必要保育士数を充足せず,
かつ,
本件保育所の主任保育士及
び代替保育士とされたE及びFがr幼稚園の専任職員として勤務しておらず,
④入所児童処遇特別加算につき,
上記同様に必要保育士数
を充足していなかったため,いずれも加算要件に欠けており,さらに,
⑤同年度において,
本件保育所の職員として認められる保育士等
の平均勤続年数が6年であったため,処遇改善等加算で適用されるべき加算率は11%であり,11%で計算し直した場合の加算額と12%による計算で支払われた663万9759円(別表4の⑤欄)との差額は36万6870円
(同表の⑥欄)であった
(甲66ないし
68,72,弁論の全趣旨)。
c
最終の精算日
平成23年度ないし平成28年度における原告の被告に対する運営
費・委託費の最終精算日(前記(ア))は,次のとおりである。
平成23年度

平成24年5月18日(甲58の13)
平成24年度
平成25年度

平成27年3月31日(甲64の13)

平成27年度

平成28年5月20日(甲54の13)

平成28年度


平成26年5月14日(甲62の13)

平成26年度

(3)

平成25年5月17日(甲60の13)

平成29年5月19日(甲56の14)

補助金
1歳児保育特別対策費
(ア)

大阪市民間保育所1歳児保育特別対策費交付要綱
(以下
1歳児保育特別対策費要綱という。)は,大阪市が民間保育所における1歳児保育の充実強化と施設運営の健全化を図るために必要な保育士の雇用に要する費用(以下1歳児保育特別対策費という。)を交付するについての要綱を定めるものであった(甲28,29)。
1歳児保育特別対策費要綱は,交付要件の一つとして,当該保育所につき,保育士が1歳児保育特別対策費要綱3条1項3号所定の数(0歳児の人数の3分の1,1歳児の人数の5分の1,2歳児の人数の6分の1,3歳児の人数の20分の1,4歳以上児の人数の30分の1の合計に1人を加えた数)確保されていることを定め,また,市長は,1歳児保育特別対策費要綱3条に定める交付の要件に該当しなくなったときは,1歳児保育特別対策費の交付の全部又は一部を取り消し,又は既に交付した1歳児保育特別対策費の全部又は一部の返還を命ずることができる旨定めていた(1歳児保育特別対策費要綱7条1項1号)。
(イ)

原告は,被告に対し,1歳児保育特別対策費要綱に基づき,被告が請
求した本件保育所に係る1歳児保育特別対策費として,平成23年度に合計218万9550円を,平成24年度に合計88万9760円を,それぞれ交付した(甲12,13の1,58ないし61)。
しかしながら,本件保育所の上記各年度の保育士の数は,本件保育所の職員とされていた保育士(又は主任保育士)のうち5人が,r幼稚園の専任教員であって本件保育所での勤務実態に欠ける者であったため,平成23年度については6人(1歳児保育特別対策費要綱3条1項3号の所定数は最も少ない月で7人),平成24年度については5人(同所定数は最も少ない月で6人)にとどまり,いずれも同所定数を充足していなかったことから,上記各年度における被告に対する1歳児保育特別対策費の交付は,交付要件に欠けるものであった(甲12,13の1,67,弁論の全趣旨)。
そこで,原告は,平成29年9月28日付けの

職員配置不足であったことが判明したため。

との理由を付した1歳児保育特別対策費要綱7条1項に基づく大阪市長による交付取消決定及び返還命令を発した上で,被告に対し,上記交付の合計307万9310円の返還及びこれに対する通知到達の日の翌日から納付日まで年5%の割合による利息の支払を請求し,同請求に係る通知は,同月29日に被告に到達した(甲30,88)。

障がい児保育事業及び長時間・延長保育事業に係る補助金

(ア)

大阪市民間保育所等運営補助金交付要綱(以下運営補助金要綱と

いう。)は,大阪市補助金等交付規則(平成18年大阪市規則第7号。以下本件補助金交付規則という。)に定めるもののほか,大阪市民間保育所等運営補助金の交付について必要な事項を定めること等を目的とする要綱であり,上記補助金として,大阪市内の認可保育所のうち大阪市以外のものが経営する保育所が実施する①障がい児保育事業に係る経費に対する補助金(障がい児保育担当保育士等の人件費を対象とする補助金。以下障がい児補助金という。),②長時間・延長保育事業に係る経費に対する補助金(開所時間を延長するために必要な担当保育士等の人件費等を補助対象とする補助金。以下,このうち開所時間が9時間30分以上11時間以下の場合についての補助金を長時間補助金という。)等を定めていた(甲31ないし35)。
運営補助金要綱は,①障がい児補助金や②長時間補助金の各交付要件の一つとして,交付対象となる施設が,本件職員配置基準における保育士数を充足した上で,①必要となる障がい児保育担当保育士等を配置することや,②9時間30分以上の保育を行うに当たって必要な人員を配置していることを定めていた(運営補助金要綱の別紙3,4。なお,障がい児補助金の交付要件に係る平成23年度ないし平成25年度当時の運営補助金要綱の別紙4には,上記保育士数の充足に係る記載が明示的にはされていないが,障害のある乳幼児の民間保育所への入所を円滑にするなどの目的等によれば,補助金の対象が,最低基準である本件職員配置基準を充足した上での加配分の人件費であることは明らかであるから,上記各年度についても,平成26年度と同様に,上記の保育士数の充足が交付要件となっていると認められる。)。
また,本件補助金交付規則は,補助事業者が補助事業等に関して補助金等の交付決定の内容に違反した場合は,市長は,補助金等の交付決定の全部又は一部を取り消すことができ,既に補助金等が交付されているときは,期限を定めてその返還を求める旨定めており,また,返還を求められた補助事業者は,本件補助金交付規則19条1項及び4項所定の加算金及び延滞金を納付しなければならない旨定めている(本件補助金交付規則及び本件補助金交付規則が参照する条例及び告示の定めは,別紙記載のとおりである。)。
(イ)

原告は,被告に対し,平成23年度ないし平成26年度に,本件補助
金交付規則及び運営補助金要綱に基づき,被告が請求した本件保育所に係る障がい児補助金及び長時間補助金の合計1064万1000円を,別表5のとおり交付した(甲73の1ないし4,74の1ないし7)。しかしながら,上記各年度において,本件保育所は,本件職員配置基準を充足しておらず,上記各補助金の交付は,いずれも交付要件に欠けるものであった(甲67,弁論の全趣旨)。
そこで,原告は,大阪市長による平成29年9月28日付けの

虚偽の申請により交付決定を受けたため。

との理由を付した本件補助金交付規則17条1項に基づく交付取消決定及び本件補助金交付規則18条に基づく補助金の返還決定を発した上で,被告に対し,返還期日を同年10月31日と定めて上記各交付の合計1064万1000円の返還及び本件補助金交付規則19条1項及び4項所定の加算金・延滞金の支払を請求した(甲36ないし43)。

アレルギー対応等栄養士配置事業に係る補助金
(ア)

大阪市特定教育・保育施設等運営補助金交付要綱(以下特定運営補助金要綱という。)は,本件補助金交付規則に定めるもののほか,大阪市特定教育・保育施設等運営補助金の交付について必要な事項を定めること等を目的とする要綱であり,上記補助金として,大阪市内に設置された特定教育・保育施設(公立施設を除く。)が実施するアレルギー対応等栄養士配置事業に係る経費に対する補助金(以下アレルギー対応補助金という。)等を定めている(甲44,45)。特定運営補助金要綱は,アレルギー対応補助金の交付要件の一つとして,交付対象となる施設が,月120時間以上勤務する栄養士(職員定数に含まれている者を除く。)を1人以上雇用等していることを定めており(特定運営補助金要綱の別紙3),また,補助事業者が虚偽の申請その他の不正な行為により補助金交付決定等を受けた場合,市長は,補助金交付決定等の全部又は一部を取り消すことができ,既に補助金が交付されているときは,期限を定めてその返還を命じる旨定めており,その命令を受けた補助事業者は,本件補助金交付規則19条の規定に基づき,加算金及び延滞金を納付しなければならない旨定めている(特定運営補助金要綱16条,17条3項)。
(イ)

原告は,
被告に対し,
本件補助金交付規則及び特定運営補助金要綱に

基づき,
被告が請求した本件保育所に係るアレルギー対応補助金として,
平成27年度及び平成28年度に,別表6のとおり,各126万円の合計252万円を交付した(甲73の5・6,74の8ないし11)。しかしながら,上記交付の対象とされた本件保育所の栄養士は,r幼稚園の専任職員であり,月120時間以上勤務する栄養士として本件保育所に雇用等されておらず,本件保育所には他に栄養士が配置されていなかったため,上記各年度における被告に対するアレルギー対応補助金の交付は,いずれも交付要件に欠けるものであった(甲66,弁論の全趣旨)。
そこで,原告は,大阪市長による平成29年9月28日付けの

虚偽の申請により交付決定を受けたため。

との理由を付した特定運営補助金要綱16条に基づく交付取消決定及び特定運営補助金要綱17条に基づく補助金の返還決定を発した上で,被告に対し,返還期日を同年10月31日と定めて上記交付の合計252万円の返還及び特定運営補助金要綱17条3項(本件補助金交付規則19条)所定の加算金・延滞金の支払を請求した(甲46ないし49)。
(4)

保育士の派遣
平成29年4月頃,本件保育所において保育士の退職が相次いだことなどにより,
被告による継続した本件保育所の運営が困難となった。
被告は,
当初,本件保育所を休所する意向を示していたが,原告は,通所中の乳幼児の保育を確保するための緊急対応として,原告が保育士を派遣することで本件保育所の運営を継続することを提案した。そして,原告は,同月4日,被告との間で,おおむね1か月程度を目途として不足する保育士を本件保育所に派遣し,被告が派遣された保育士の人件費相当額を負担する旨を合意し(以下本件派遣合意という。なお,派遣の期間は,後に合意により延長された。),同月5日から同年6月29日までの間,別表7-1ないし7-4の氏名欄の各保育士(Aは本務職員,Bは非常勤嘱託職員,Cは臨時職員を示す符号である。)を,同各表の派遣日数,派遣時間及び超勤時間の各欄のとおり,本件保育所に派遣した(甲50ないし52,79,80,82,83,弁論の全趣旨)。

原告は,被告に対し,平成29年9月29日到達の通知書で,原告が被告に対し派遣した保育士の人件費相当額として別表7-1ないし7-4のとおり算定した合計581万7181円の支払を催告した
(甲53,
80,
弁論の全趣旨)。

(5)

訴えの提起
原告は,平成30年1月17日,本件の訴えを提起した(顕著な事実)。
3
争点
(1)

被告が悪意の受益者であるか否か
(運営費委託費の返還請求に係る争点)


(2)

消滅時効の成否(運営費及び補助金の返還請求に係る争点)

(3)

人件費相当額の支払請求に係る争点

アイ4
人件費相当額
人件費相当額の支払請求が信義則に反するか否か

争点に関する当事者の主張の要旨
(1)

争点(1)(被告が悪意の受益者であるか否か)

(原告の主張の要旨)
被告は,
平成23年度ないし平成26年度の運営費について,
前提事実(2)
イ(イ)a(b)のとおり要件に欠けることを認識しながら,また,平成27年度及び平成28年度の委託費について,前提事実(2)イ(イ)b(b)のとおり要件に欠けることを認識しながら,同各要件を充足することを前提に加算された運営費・委託費を受領したから,同加算部分につき悪意の受益者である。(被告の主張の要旨)
否認する。被告は,原告の定期的な監査で指摘を受けることもなかったため,本件保育所が必要保育士数を欠く状態であったことを認識しておらず,これを充足していると信じていたから,
要件に欠けることの認識はなかった。
(2)

争点(2)(消滅時効の成否)

(被告の主張の要旨)

消滅時効期間の判断基準について
本件の返還請求権の消滅時効について,
地方自治法236条1項前段
(消
滅時効期間5年)又は改正前民法167条1項(消滅時効期間10年)のいずれが適用されるかは,債権の発生原因が公法か私法かで形式的に判断するのではなく,要件,手続,効果,権利の性質及び社会福祉性の有無(目的)等を総合的に考慮し,債権の発生原因が私人間の法律関係とは異なる行政固有のものであるか否かで実質的に判断すべきである。このように判断することは,国又は地方公共団体の債権債務の消滅時効について判断した最高裁昭和41年11月1日第三小法廷判決・民集20巻9号1665頁(以下昭和41年最判という。),同50年2月25日第三小法廷判決・民集29巻2号143頁(以下昭和50年最判という。)及び同平成17年11月21日第二小法廷判決・民集59巻9号2611頁(以下平成17年最判という。)並びに労働基準監督所長が労働者災害補償保険法23条に基づいて行う労災就学援護費の支給に関する決定が行政処分に当たると判断した最高裁平成15年9月4日第一小法廷判決・集民210号385頁(以下平成15年最判という。)と整合的である。


運営費に係る返還請求権について
(ア)

要件・手続・効果
改正前児童福祉法の保育制度では,市町村が保育義務を負い,その義務履行のために私立の認可保育所に保育を委託する場合には,同保育所における保育の実施に必要な保育費用を市町村が支弁し,政令の定めるところにより,その費用の2分の1を国庫が負担するとされている(この国庫負担金は,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下補助金適正化法という。)2条1項の補助金等に該当し,補
助金適正化法の適用がある。)。
そして,改正前児童福祉法の委任を受けた同法施行令42条は,国庫負担額の算出方法を定め,これを受けて,本件運営費交付要綱は,運営費の支払基準と国庫負担額を具体的に定めている。また,同法施行令43条は,負担金交付の条件に違反したときには,国庫負担金の全部又は一部を返還させることができると定め,さらに,法若しくは法に基づいて発する命令又はこれらに基づいてする処分に違反したときにも負担金の返還請求ができると定めているところ,これは,負担金の支出とは無関係な事情による法令違反があった場合でも制裁として負担金の返還請求ができることを意味するから,負担金返還請求権は,不当利得返還請求権の特則ではなく,同法施行令によって創設された請求権と解される。
そうすると,運営費及びその返還請求権は,平成15年最判における労災就学援護費と同様,改正前児童福祉法が直接運営費の支出を定めてはいないものの,その要件・手続・効果を実質的に判断すると,改正前児童福祉法による仕組みの一環として定められたものであり,私人間の法律関係とは異なる行政固有の性質を有している。
(イ)

権利の性質
改正前児童福祉法の保育制度では,保育所の利用希望者の申込みに対
する市町村の決定は,行政処分と解されており,保育所は,改正前児童福祉法に基づく保育の委託を正当な理由がない限り拒否することができない(改正前児童福祉法46条の2)から,運営費が発生する仕組みは,私人間の法律関係とは異なる行政固有の性質を有している。また,保育料は,改正前児童福祉法56条10項に基づき滞納処分が可能な債権として強制徴収公債権に分類されるから,公法上の債権であるところ,上記保育制度からすると,
運営費は,
実質的には保育利用の対価である
(保
育所は,市町村を通じて,利用者から保育料を受け取っている。)と評価できるから,保育料と同様,私人間の法律関係とは異なる行政固有の性質を有している。
(ウ)

社会福祉性(目的)
運営費は,国の社会福祉制度を実施するための費用であり,国及び市
町村により費用負担がされているから,私人間の法律関係とは異なる行政固有の性質を有している。
(エ)

以上によれば,
本件の運営費に係る返還請求権の発生原因は,
私人間

の法律関係とは異なる行政固有のものであるから,消滅時効について,民法は適用されず,
金銭の支給を目的とする普通地方公共団体の権利
で時効に関し他の法律に特別な規定がないもの(地方自治法236条1項)として消滅時効期間は5年である。
したがって,本件の運営費に係る返還請求権のうち,別表1の平成23年度分及び平成24年度分のうち本件訴訟提起日の5年前である平成25年1月18日より前に支給された部分に係る返還請求権は,時効消滅している。

補助金に係る返還請求権について
(ア)

要件・効果・手続
改正前児童福祉法21条の8以下において,市町村は,子育て支援事
業につき,必要な措置の実施に努めなければならないと定められ,平成20年6月9日雇児発第0609001号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知保育対策等促進事業の実施については,事業の内容及び要件を要綱に定めて市町村に対する国庫補助を定めている。これらを受けて,1歳児保育特別対策費要綱及び運営補助金要綱は,1歳児保育特別対策費,障がい児補助金及び長時間補助金の具体的な要件等を定めており,上記各要綱及びこれらに適用される本件補助金交付規則には,交付決定の内容又は条件に不服があるときの手続が定められており(運営補助金要綱7条,本件補助金交付規則8条),これは行政手続に類似している。
また,補助金に係る返還請求権について,改正前児童福祉法56条の3第1号は,地方公共団体は,補助金の交付を受けた児童福祉施設の設置者に対して,補助金の交付条件に違反したときには既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができると定め,本件補助金交付規則及び上記各要綱は,補助金返還の要件・効果を定め,本件補助金交付規則は,私人間の法律関係には見られない行政上の制裁金と評価できる加算金(本件補助金交付規則19条1項)及び延滞金(同条4項)を課している。
そうすると,本件の補助金に係る返還請求権は,私人間の法律関係とは異なる行政固有の性質を有しているといえる。
(イ)

権利の性質
国の補助金の交付及びその返還については,補助金適正化法で要件・
効果が定められており,行政処分と解されているところ,本件補助金交付規則は,補助金適正化法と条項の並び方や標目がよく似ており,補助金適正化法に準じた運用がされているといえる。
そして,
前記(ア)のよう
に地方公共団体の補助金が法律の仕組みの一環であると評価できる場合には,法律の定めがあるか否かという形式的な違いをもって国の補助金返還請求と地方公共団体の補助金返還請求とで扱いを異にする根拠は乏しい。
そうすると,本件の補助金に係る返還請求権は,私人間の法律関係とは異なる行政固有の性質を有しているといえる。
(ウ)

社会福祉性(目的)
本件における各補助金は,保育制度を促進するという社会福祉性が認
められる制度であり,国と原告の予算から支出され(前記(ア)),目的外の利用が禁止されている(1歳児保育特別対策費要綱7条,運営補助金要綱11条)ことからすると,私人間の法律関係とは異なる行政固有の性質を有しているといえる。
(エ)

以上のとおり,
本件の補助金に係る返還請求権の発生原因は,
私人間

の法律関係とは異なる行政固有のものであるから,消滅時効について,民法の規定は適用されず,金銭の支給を目的とする普通地方公共団体の権利で時効に関し他の法律に特別な規定がないもの(地方自治法236条1項)として消滅時効期間は5年である。
したがって,原告が被告に対して補助金交付決定を取り消してその返還を命じた平成29年9月28日付け通知が被告に到達した日から5年を遡った日より前に交付された補助金に係る交付決定取消権は,時効消滅している。
(原告の主張の要旨)

消滅時効期間の判断基準について
昭和41年最判,昭和50年最判及び平成17年最判を踏まえると,地方公共団体が有する債権で地方自治法236条1項が適用されて5年の消滅時効に服するのは,公法規範を根拠とするもの(公法上の債権)で,かつ,行政上の便宜を考慮する必要があるものに限られ,私法規範を根拠とするもの(私法上の債権)や公法規範を根拠とするものであっても行政上の便宜を考慮する必要がないものは,民法の消滅時効の規定が適用されると解される。

運営費に係る返還請求権について
改正前児童福祉法に基づく保育の委託(改正前児童福祉法24条2項)は,正当な事由があれば拒むことができ(改正前児童福祉法46条1項),保育所の応諾が前提となっているから,一方的に法律関係を形成する行政処分又は公法上の行為には該当せず,私法上の準委任契約に該当する。この場合に支払われる運営費は,準委任契約における報酬及び委任事務の処理に必要と認められる費用の償還(改正前民法656条が準用する改正前民法648条,650条1項)であり,改正前児童福祉法51条5号は,このことを確認的に規定したものであって,運営費の直接の根拠となる法律及び条例上の規定は存在しないから,運営費に関する権利は,私法上の債権に分類される。
そして,本件の運営費の返還請求権は,運営費の加算等に係る費用を支払う理由がないことが判明したためにその返還を求めるものであるところ,改正前児童福祉法には運営費の返還請求の根拠となる定めはなく,上記のとおり運営費に関する権利が私法上の債権であることからすれば,その運営費の返還請求権もまた,民法703条に基づく不当利得返還請求権として私法上の債権である。
したがって,本件の運営費に係る返還請求権については,改正前民法167条1項が適用され,その消滅時効期間は,10年である。


補助金に係る返還請求権について
地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては補助金を交付することができる(地方自治法232条の2)ところ,補助金の具体的な交付について当然に条例の根拠を必要とするものではなく,条例の根拠なく補助金が交付されることもある。そして,このような補助金の交付については,法律や条例等に特段の根拠がない限り,行政処分には該当しないと解されている。
本件における各補助金の交付は,いずれも法律や条例にその根拠があるものではなく,行政庁の内部規則である要綱に基づくものであって,私法上の負担付き贈与契約に該当する。平成15年最判は,労災就学援護費が労働者災害補償保険法23条を根拠とするものであることを前提に行政処分性を肯定するものであり,労災就学援護費と,法律や条例を直接の根拠とせず要綱に基づき交付された本件における各補助金とでは,全く性質が異なる。
そうすると,本件における各補助金の法的性質は,私法上の債権に分類され,その補助金の返還請求権も,民法703条に基づく不当利得返還請求権又は負担付き贈与契約の解除に基づく原状回復請求権として私法上の債権である。
したがって,本件における補助金に係る返還請求権については,改正前民法167条1項が適用され,その消滅時効期間は,10年である。(3)

争点(3)(人件費相当額の支払請求に係る争点)
人件費相当額
(原告の主張の要旨)
(ア)

原告が被告に対し派遣した保育士の人件費相当額は,本務職員につ
いては,平成29年4月分が別表7-1のとおり合計145万8895円,同年5月分が別表7-2のとおり合計222万8746円及び同年6月分が別表7-3のとおり合計157万0429円となり,非常勤嘱託職員・臨時職員については,別表7-4のとおり合計55万9111円となる。具体的な算定方法は,次のとおりである。
a
本務職員(別表7-1ないし7-3の氏名欄の符号A)
各人の月毎の人件費相当額は,各人の給料月額,地域手当及び超勤単価の額(別表7-1ないし7-3の算定基礎額の各欄)に基づ
き,給与月額・地域手当の額をそれぞれ1か月の要勤務日数(平成29年4月及び同年5月は各20日,
同年6月は22日)
で除した額
(円
未満切捨て)を派遣日額とし,給料月額を上記要勤務日数で除した額をさらに7.75時間で除した額を派遣時間額とした上で,上記派遣日額,派遣時間額及び超勤単価に各人の派遣日数,派遣時間及び超勤時間(同各表の派遣日数,
派遣時間及び超勤時間の各欄)
をそれぞれ乗じた額(派遣時間額についてはこの額について円未満切捨て)(同各表の給与等の各欄)に,各人についての共済事業主
負担額(同各表の市共済事業主負担欄)と交通費実費(同各表の
交通費欄)を加えた額(同表の合計欄)である。
b
非常勤嘱託職員(別表7-4の氏名欄の符号B)
各人の月毎の人件費相当額は,各人の給料月額(別表7-4の算定基礎額欄)を1か月の要勤務日数(平成29年4月及び同年5月は各16日,同年6月は17日)で除した額(円未満切捨て)を派遣日額とし,給与月額を上記要勤務日数で除した額をさらに7.5時間で除した額(円未満切捨て)を派遣時間額とした上で,上記派遣日額及び派遣時間額に各人の派遣日数及び派遣時間(同表の派遣日数
及び派遣時間欄)をそれぞれ乗じた額(同表の報酬額欄)に,
各人についての社会保険等事業主負担額
(同表の
社保等事業主負担
欄)と交通費実費(同表の交通費欄)を加えた額(同表の合計
欄)である。

c
臨時職員(別表7-4の氏名欄の符号C)
同人の人件費相当額は,同人の日額賃金(別表7-4の算定基礎額欄)に派遣日数(同表の派遣日数欄)を乗じた額に,交通費実費(同表の交通費欄)を加えた額(同表の合計欄)である。
(イ)

したがって,原告は,被告に対し,本件派遣合意に基づき,別表7-
1ないし7-4の合計581万7181円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることができる。
(被告の主張の要旨)
人件費相当額の金額につき,争う。

人件費相当額の支払請求が信義則に反するか否か
(被告の主張の要旨)
(ア)

原告は,
本件保育所の保育士に対し,
被告に対する毎月の監査におい

て,本件保育所での園児に対する虐待の有無についてしつこく質問を繰り返していたところ,平成29年3月31日の監査においても,保育士1名を複数で取り囲み,虐待の事実がないにもかかわらず責任追及をするような事情聴取をしたため,同年4月1日,本件保育所の保育士2名が退職するに至った。
(イ)

原告は,本件保育所を休園する意向であった被告に対し,保育士不足
が解消されない場合は事業停止命令などの強い処分がされる可能性があるといったマイナス面の説明をせず,
他方で,
保育士の人件費相当額は支
払予定の委託費から差し引く,保育士の派遣期間は1か月単位であるが延長可能であると説明することで,被告が保育士の派遣を受け入れるよう巧みに誘導した。
(ウ)

原告は,
被告が保育士の派遣を受け入れるや,
不足する保育士を同月

20日までという短期間に確保するようにとの指導を繰り返した。通常でも新たな保育士の確保は容易でなく,また,被告の代表者についてのマスコミ報道が盛んにされていたとの当時の事情の下では,保育士の確保は,一層困難であったにもかかわらず,原告は,被告に通知することなく同月25日に保護者説明会を開催し,保護者に対し,被告が何ら対応していないかのように説明して,他の保育所への転所をうながした。(エ)

被告は,原告から保育士確保の状況報告を求められた期限である同
年5月10日までに書類を提示できなかったが,弁護士を通じて,被告の取組を口頭で何度も説明していたし,同月24日には,採用済み又は採用予定の職員の雇用契約書又は契約書案を弁明書に添付している。この弁明書につき,原告から,被告が職員配置基準と考えていたものは法令の要求する職員配置基準ではない旨の指摘を受けたが,被告は,同基準を満たすべく真摯に対応した。
(オ)

以上の経緯によれば,
原告は,
自らの過剰な調査が原因で本件保育所

の保育士不足を発生させたのであるから,これを解消する努力をすべき立場にあるとともに,本件派遣合意という形で積極的に関与して本件保育所の運営を被告に継続させたのであるから,被告に対し,保育士不足を解消できなければ本件保育所を存続させないとの圧力をかけるのではなく,本件保育所が満たすべき職員配置基準を事前に積極的に説明・指導して,本件保育所を存続させるために被告と協力すべき立場にあったにもかかわらず,上記の説明・指導をすることを怠って,被告の対応後に要件が充足していないことを指摘するだけであり,また,世間から被告に対する批判の目が集まっている中で,世間の目を気にして被告に責任転嫁をして強い対応をするに至り,事業停止命令によって本件保育所を存続できなくするという矛盾した態度をとったのであるから,本件派遣合意に基づく人件費相当額の支払請求は,信義則に反する。
(原告の主張の要旨)
(ア)

原告の職員2名は,
平成29年3月31日の監査の際,
当時一部マス

コミで報道があった本件保育所での園児に対する虐待の有無についても,本件保育所の保育士から聴き取りをしたが,虐待が疑われるような回答はなく,責任を追及するような事情聴取はしていない。
(イ)

原告は,
被告から本件保育所の休園の連絡を受け,
休園による混乱を
回避するための緊急の対応として保育士の派遣を提案した。他方で,保育士不足を解消するのは被告であり,原告が長期間にわたり保育士を派遣し続けることはできないから,原告は,被告に対し,不足する保育士を確保するよう指導をし,文書での回答を求めたが,回答期限である同年4月20日になっても,被告から保育士の確保ができる具体的な目途に関する報告はなく,保育士の配置基準についての被告の認識も曖昧なままであった。
(ウ)

原告は,保育士の派遣を続けたままの状態で長期間本件保育所の運
営を継続させることはできないため,本件保育所の園長に対し実施を事前に伝えた上で,同月25日,淀川区役所において保護者説明会を実施し,保護者に対し,保育士不足にかかるこれまでの経緯及び今後の本件保育所に対する指導について説明し,また,転所の意向確認及び転所する場合の手続等に関する説明をした。
(エ)

原告は,被告に対し,児童福祉法に基づく改善勧告,改善命令を発し
た上で,改善勧告の期限である同月28日,さらには改善命令の期限である同年5月10日までに保育士の確保の状況を報告するように求めていたが,被告から保育士の確保が見込まれることを示す書類の提示はなく,
同月24日に被告から代理人弁護士を通じて弁明書が提出されたが,職員配置基準を満たす保育士の配置を完了させるためにはなお必要となる遵守事項があったことから,被告に対し,同年6月2日付け文書でその旨通知し,同月16日,被告に対する随時監査を実施したが,被告からは代理人弁護士のみが出席し,同人からは今後の対応方針に関する具体的な説明はなく,職員配置不足は解消されないままであった。
(オ)

以上の経緯を踏まえて,
原告は,
本件保育所の事業停止命令を発した

ものである。原告は,被告に対し,本件保育所の職員配置不足という事態に対し法令に基づき適切に対応したものであり,原告の対応に矛盾や被告への責任転嫁と評価される要素はなく,本件派遣合意に基づく人件費相当額の支払請求が信義則に反することはない。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(被告が悪意の受益者であるか否か)について
(1)

前提事実(2)によれば,被告は,本件保育所において原告から委託を受け
た保育を実施し,平成23年度ないし平成26年度には,その費用支弁として本件運営費交付要綱が定める基準による運営費の支払を,平成27年度及び平成28年度には,本件委託費告示が定める基準による委託費の支払を,それぞれ受ける旨の準委任契約を原告との間で締結し,これに基づき,上記各年度に運営費・委託費の支払を受けたものと認められる。しかるに,被告は,前提事実(2)イ(イ)のとおり,運営費・委託費の加算部分の一部(各年度の合計額は別表1の内金欄のとおりであり,同欄の金額の内訳は同表の備考欄のとおりである。)につき,加算要件が欠けているにもかかわらず加算された額の支払を受けたものであり,法律上の原因なく同額を利得したものというべきであるから,被告は,原告に対し,同額の不当利得返還義務を負う。
そこで,被告が上記不当利得につき悪意の受益者であり,運営費・委託費の最終の精算日(前提事実(2)イ(イ)c)の翌日から支払済みまで年5%の割合(改正前民法404条)による民法704条前段所定の利息の支払義務を負うか否かが問題となる。
(2)

前提事実(2),証拠(甲22,68ないし71,89ないし95,99)
及び弁論の全趣旨によれば,運営費・委託費の加算要件は,本件運営費交付要綱・本件委託費告示により定められており,また,保育所を運営して運営費・委託費の支払を受ける社会福祉法人は,保育所の認可申請時の手続や各年度末の時期に開催される次年度の説明会等において,原告から,加算要件につき詳しく記載された資料の配布を受けると共に説明を受ける(当該説明会に欠席した場合でも配布資料を受領する)ことによって,加算要件を十分に認識した上で,自身が運営する保育所が加算要件を充足する場合には,当該保育所に各加算の適用があることの申請書を提出し,毎月の運営費・委託費を請求して加算された運営費・委託費の支払を受けるものであり,このことは,被告についても異ならないと認められる。
そして,前記(1)で不当利得とされる運営費・委託費の加算部分について,その加算要件が欠けることの原因となった事実は,前提事実(2)イ(イ)のとおり,本件保育所の所長として所長設置単価・所長設置加算の適用の理由とされたDが,r幼稚園に勤務し本件保育所に常時専従していなかったこと,本件保育所が本件職員配置基準又は必要保育士数を充足していなかったこと,主任保育士加算の適用の理由とされた保育士がr幼稚園の専任職員として勤務していたこと及び7年とされた職員の平均勤続年数が6年であったことである。これらの事実は,いずれも,本件保育所を運営し,保育士その他の職員を雇用等してその勤怠管理等をし,本件保育所につき加算要件の充足を判断して各加算の適用の申請をし,加算された運営費・委託費を請求してその支払を受ける被告にとって,客観的に明らかな事実であるから,被告は,前記(1)で不当利得とされる運営費・委託費の加算部分の支払を受けるに際し,同加算部分につき加算要件を満たしていないことを認識していたと推認され,この推認を覆すに足りる事情はない。
(3)

被告は,
原告の定期的な監査で指摘を受けることもなかったため,
本件保

育所が必要保育士数を欠く状態であったことを認識しておらず,これを充足していると信じていたなどと主張するが,必要保育士数を欠く状態であるか否かは,本件保育所の保育士の勤務状況を客観的に把握して管理する被告において,
これを加算要件と照らし合わせることで認識すべき事柄であるから,原告から指摘を受けることがなかったことによって,上記推認を覆す事情があるということはできず,被告の上記主張は採用することができない。(4)

したがって,前記(1)で不当利得とされる運営費・委託費の加算部分につ
き,被告は悪意の受益者であると認められるから,被告は,原告に対し,上記加算部分(別表1の内金欄の各金額)の返還義務及びこれらに対する各年度における最終の精算日の翌日(同表の年月日欄の日)から支払済みまで年5%の割合(改正前民法404条)による民法704条前段所定の利息の支払義務を負う。
2
争点(2)(消滅時効の成否)について
(1)

前提事実(3)によれば,被告が原告から交付を受けた1歳児保育特別対策
費(合計307万9310円),障がい児補助金及び長時間補助金(別表5の交付額欄のとおり)並びにアレルギー対応補助金(別表6の交付額欄のとおり)は,いずれも交付要件に欠け,当初から法律上の原因のない給付として被告が不当に利得したと認められるから,被告は,原告に対し,上記各補助金の不当利得返還義務を負うと共に,上記1歳児保育特別対策費については返還請求を受けた時以降の遅延損害金並びに上記障がい児補助金,長時間補助金及びアレルギー対応補助金については各交付日以降の本件補助金交付規則が定める加算金及び延滞金の支払義務を負う。
そこで,運営費・委託費の不当利得返還請求権(前記1)のうち本件訴え提起日
(前提事実(5))
の5年以上前に支払われた平成23年度の運営費及び
平成24年度の運営費の一部に係る不当利得返還請求権並びに上記1歳児保育特別対策費,障がい児補助金及び長時間補助金の不当利得返還請求権のうち返還請求(前提事実(3)ア(イ),同イ(イ),同ウ(イ))の5年より前に支払われた平成23年度支払分及び平成24年度支払分の一部に係る不当利得返還請求権について,これらが地方自治法236条1項所定の5年の消滅時効にかかるかが問題となる。
(2)

普通地方公共団体の有する金銭債権の消滅時効につき,地方自治法又は
民法のいずれの規定が適用されるかは,当該債権が公法上の金銭債権であるときは地方自治法の時効に関する規定が,私法上の金銭債権であるときは民法の時効に関する規定が適用されると解するのが相当である(国の普通財産売払代金債権と会計法30条に関する昭和41年最判参照。被告がその主張において引用する昭和50年最判は,昭和41年最判における上記の判断枠組みを変更するものとは解されず,また,同引用の平成17年最判は,昭和41年最判における判断枠組みによって公立病院の診療に関する債権につき民法の時効に関する規定が適用されるとの判断をしたものと解される。)。そして,公法上の金銭債権又は私法上の金銭債権の別は,当該債権を発生させる法律関係の性質及び当該債権の実定法上の取扱い方を検討して決することが相当であると解されるから,以下,これらの観点から,運営費及び各補助金に係る不当利得返還請求権につき,公法上又は私法上の金銭債権の別を検討する。
(3)

運営費に係る返還請求権について
本件における運営費に係る返還請求権は,
前記1(1)のとおり,
保育を委
託して所定の基準により算定される費用額を支弁するとの準委任契約に基づいて支払った運営費の加算部分について,当初から加算要件が欠けていたことを理由に同部分の返還を求めるもの,すなわち,契約上の支払義務がないのにその弁済として支払ったとの法律関係を原因として発生する不当利得返還請求権である。そして,不当利得の制度は,ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に,法律が,公平の観念に基づいて,受益者にその返還義務を負担させるものであり(最高裁昭和49年9月26日第一小法廷判決・民集28巻6号1243頁参照),民法のほかに不当利得に関する一般的規定はなく,不当利得関係が生じる当事者が私人同士である場合と一方当事者が普通地方公共団体である場合とでその法律関係に本質的な差異はないから,後者の場合であっても,その法律関係は本質上私法関係というべきである。
そして,当初から加算要件に欠ける運営費の返還請求権につき,不当利得に関する民法の規定と異なる取扱いを定める実定法上の規定は存在しない。被告がその主張において引用する補助金適正化法及び改正前児童福祉法施行令の各条項は,国庫又は都道府県の負担金の取扱いに係るものであり,市町村が保育を委託した保育所を運営する社会福祉法人に支払った運営費の取扱いに係るものではない。
これに対して,被告は,市町村が保育義務を負い,必要な保育費用を市町村や国庫が負担するとされ,本件運営費交付要綱により運営費の支払基準と国庫負担額が具体的に定められていること,改正前児童福祉法における保育制度では,保育所の利用希望者の申込みに対する市町村の決定は行政処分と解されており,また,保育料が公法上の債権であり,運営費が実質的には保育の対価と評価できることなどを挙げて,運営費に係る返還請求権の発生原因には私人間の法律関係とは異なる行政固有の性質がある旨主張する。しかし,被告の主張を踏まえても,保育を委託してその費用を運営費として支払うとの関係が公法上の関係であるといえるにとどまり,支払義務がないのに弁済として支払ったとの不当利得関係が,私人間の法律関係と本質的に異なるといえるものではない。

また,普通地方公共団体の権利義務を早期に決済する必要などの行政上の便宜(会計法30条に関する昭和50年最判参照)の観点から見たときにも,運営費の支払請求権が公法上の関係から継続的に発生する債権であり,権利義務を早期に決済すべきという要請が妥当するといい得るのに対し,支払義務がないのに弁済として支払った運営費に係る返還請求権は,支払の原因が欠ける場合における公平の理念に基づいて発生する債権であるから,その場合には権利義務を早期に決済すべきという要請を考慮すべき合理的根拠が乏しく,地方自治法の消滅時効の規定を適用すべき根拠があるとはいえない。

したがって,運営費に係る不当利得返還請求権は,私法上の金銭債権であり,民法の消滅時効に関する規定が適用されるから,消滅時効期間は10年である(改正前民法167条1項)。

(4)

補助金に係る返還請求権について
1歳児保育特別対策費,障がい児補助金及び長時間補助金(以下本件各補助金という。)は,国の補助金につき補助金適正化法の適用がありその交付決定が行政処分と解されるのと異なり,前提事実(3)ア(ア)及び同イ(ア)のとおり,原告が1歳児保育特別対策費要綱や本件補助金交付規則及び運営補助金要綱に基づいて保育所を運営する事業者に対し交付する補助金であって,資金の給付を求める事業者の申込みに対する承諾という性質を有する非権力的な給付行政に属するものであるから,
その法的性質は,
行政処分が介在することのない原告から事業者に対する資金の贈与又は負担付贈与であると認められる。
被告は,原告の補助金交付及び補助金返還請求に行政固有の性質がある旨主張するが,被告がその主張において引用する改正前児童福祉法21条の8以下は,子育て支援事業に関する市町村の責務等を定めるものであって,具体的な補助金の交付を定めるものではなく,また,改正前児童福祉法56条の3は,施設の新設,修理,改造,拡張又は整備に要する費用に対する補助金に係るものであって,人件費に対する補助金に係るものではない。また,本件補助金交付規則や1歳児保育特別対策費要綱及び運営補助金要綱は,交付申請,交付決定,交付決定の取消し及び補助金の返還等の手続を定めているが,決定に対する不服申立てについては定めていない(被告がその主張において引用する本件補助金交付規則8条等は,交付決定の内容又はこれに付された条件に不服があるときは申請の取下げをすることができる旨定めるものであって,決定に対する不服申立てを定めるものではない。)ことなどを踏まえると,これらは,所定の要件を充足したときには補助金を受給することを公法上の権利として認め,その可否の判断を行政処分という形式で行うということを定めたものではなく,補助金の交付に関する手続が適正に行われるように事務執行上の内部的手続を定めたものにすぎないと解される。さらに,本件補助金交付規則は,交付した補助金の返還を求める場合の加算金及び延滞金についても定めるが,強制徴収権が付与されているものではなく,補助金交付の条件として補助金を返還する場合の利息又は遅延損害金を予め定めるものと解されるから,上記加算金及び延滞金を行政上の制裁金ということはできない。したがって,被告の主張を踏まえても,本件各補助金の交付関係に行政処分が介在するということはできない。

そして,本件各補助金に係る返還請求権は,1歳児保育特別対策費要綱及び運営補助金要綱が定める交付要件を充足する事業者につき必要となる人件費を補助する目的で贈与された補助金につき,その目的が存在しなかったために当初から法律上の原因のない給付を事業者が利得したとの法律関係を原因として発生する不当利得返還請求権であるから,前記(3)アと同様,その法律関係は本質上私法関係というべきである。また,前記アのとおり,本件各補助金の交付関係には行政処分が介在しておらず,本件各補助金に係る返還請求権につき,不当利得に関する民法の規定と異なる取扱いを定める実定法上の規定は存在しない。さらに,行政上の便宜の観点から見たときにも,本件各補助金に係る不当利得関係に地方自治法の消滅時効の規定を適用すべき根拠があるといえないことは,前記(3)イと同様である。
被告は,本件各補助金に保育制度を促進するという社会福祉性が認められる旨主張するが,その主張を踏まえても,保育所を運営する事業者に特定の保育事業を促進する目的で補助金を交付するとの関係が公法上の関係であるといえるにとどまり,その目的が存在しないのに補助金が交付されたとの不当利得関係が,私人間の法律関係と本質的に異なるといえるものではない。

したがって,
前記(3)と同様に,
本件各補助金に係る不当利得返還請求権
は,私法上の金銭債権であり,消滅時効期間は10年である。

(5)

以上の次第であるから,
本訴請求債権について,
地方自治法の消滅時効の

規定が適用される部分はなく,原告の運営費・委託費に係る不当利得返還請求,1歳児保育特別対策費に係る不当利得返還請求及び大阪市補助金等交付規則等に基づく各補助金に係る不当利得返還請求は,附帯請求を含め,いずれも理由がある。
3
争点(3)(人件費相当額の支払請求に係る争点)について

争点(3)ア(人件費相当額)について
(ア)

前提事実(4)ア,証拠(甲79,80)及び弁論の全趣旨によれば,原
告は,本件派遣合意に基づき,平成29年4月5日から同年6月29日までの間,別表7-1ないし7-4の氏名欄の各保育士を,同各表の派遣日数,派遣時間及び超勤時間の各欄のとおり本件保育所に派遣したところ,各保育士の人件費相当額の算定の基礎となる各人の給料月額等は同各表の算定基礎額の各欄のとおりであり,これらに基づいて各人の派遣の日額及び時間額を算出した上で,これに派遣日数及び派遣時間を乗じた額に共済組合等に係る事業者負担額(同各表の市共済事業主負担及び社保等事業主負担欄)及び交通費実費(同各表の交通費欄)を加えて算定した原告主張の同各表の算定結果は,本件派遣合意に基づく人件費相当額の算定として相当と認めることができる。
(イ)

したがって,本件派遣合意に基づき被告が原告に対し支払うべき人件
費相当額は,別表7-1ないし7-4記載の合計581万7181円と認めることができる。

争点(3)イ(人件費相当額の支払請求が信義則に反するか否か)について(ア)

人件費相当額の支払請求が信義則に反すると評価すべき根拠として被
告が主張する事実,すなわち,本件保育所の保育士2名が原告の職員から不当な事情聴取を受けたことが原因で退職した
(争点(3)イについての被告
の主張の要旨(ア))原告がマイナス面の説明をしないことによって被告に,
おいて保育士の派遣を受け入れるよう誘導した(同(イ)),原告が被告に事前に知らせることなく保護者説明会を開催し,保護者に対し,被告が保育士の確保につき何ら対応していないかのように説明した
(同(ウ))
などの事
実を認めるに足りる証拠はなく,本件保育所の保育士不足を生じさせた原因が原告にあることを前提とした信義則違反の主張は,理由がない。本件保育所に被告の費用負担で原告から保育士を派遣することは,本件保育所における保育士不足(これが原告の責任に帰するものと認められないことは上記のとおりである。)への緊急の対応として原告と被告との間で合意されたものであり(前提事実(4)ア),派遣された保育士が稼働することによって被告による本件保育所の運営が継続された以上,仮に,被告において,新たな保育士を確保することが困難な状況の中で短期間で保育士不足を解消するよう原告から強く要求されたことに不満を覚えることがあったとしても,保育士の派遣を受けたことと対価関係にある人件費相当額の費用負担を被告が免れるべき事情があったということはできない。(イ)

したがって,人件費相当額の支払請求が信義則に反するとの被告の主
張は理由がなく,原告の本件派遣合意に基づく人件費相当額及びこれに対する遅延損害金の支払請求は,理由がある。
第4

結論
よって,
原告の請求はいずれも理由があるから,
これを認容することとして,
主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官
森鍵一齋藤毅野幹
裁判官

裁判官
日比
(別表1)

年度

内金

年月日

備考
別表3の平成23年度

平成23年度

494万3271円

平成24年5月19日
のC欄記載の金額
別表3の平成24年度
のC欄記載の金額に

平成24年度

570万9941円

平成25年5月18日入所児童
(者)
処遇特
別加算に係る72万
6000円を加えた金額
別表3の平成25年度

平成25年度

528万0137円

平成26年5月15日
のC欄記載の金額
別表3の平成26年度

平成26年度

576万0452円

平成27年4月1日
のC欄記載の金額
別表4の平成27年度

平成27年度

663万8050円

平成28年5月21日
の合計欄記載の金額
別表4の平成28年度

平成28年度

1108万8710円

平成29年5月20日
の合計欄記載の金額

(別表2)

内金
467万0000円

年月日
平成23年10月26日

72万8000円

平成24年

1月26日

58万2000円

平成24年

9月27日

182万9000円

平成25年

9月19日

115万0000円

平成26年

9月10日

112万3000円

平成27年

1月29日

55万9000円

平成27年

5月21日

94万5000円

平成27年

9月30日

31万5000円

平成28年

1月27日

94万5000円

平成28年

9月30日

31万5000円

平成29年

2月

8日

(別表3)

年度

ABC
平成23年度

5635万9801円

5141万6530円

494万3271円

平成24年度

5589万9521円

5091万5580円

498万3941円

平成25年度

5455万1937円

4927万1800円

528万0137円

平成26年度

6181万9782円

5605万9330円

576万0452円

A(被告に対し実際に支払われた運営費の基本額等)
B(本件保育所の長が各月初日に設置されていないことを前提として算出した運営費の基本額等)
C(AとBの差額)

(別表4)

平成27年度

平成28年度



所長設置加算

562万9350円

617万3590円



3歳児配置改善加算

100万8700円

96万3270円



主任保育士専任加算



入所児童処遇特別加算



処遇改善等加算



計算し直した処遇改善等

283万9240円
74万5740円
428万3261円

663万9759円
36万6870円

加算との差額
合計(①ないし④及び⑥)
663万8050円

1108万8710円

(別表5)

年度

交付額
467万0000円

交付日
平成23年10月26日

内訳
障がい児補助金
532万8000円

平成23年度
72万8000円

平成24年1月26日

長時間補助金
7万0000円
障がい児補助金
44万4000円

平成24年度

58万2000円

平成24年9月27日
長時間補助金
13万8000円
障がい児補助金
177万6000円

平成25年度

182万9000円

平成25年9月19日
長時間補助金
5万3000円

115万0000円

平成26年9月10日

112万3000円

平成27年1月29日

障がい児補助金
266万4000円

平成26年度
長時間補助金
55万9000円

平成27年5月21日
16万8000円

(別表6)

年度

交付額

交付日

94万5000円

平成27年9月30日

31万5000円

平成28年1月27日

94万5000円

平成28年9月30日

31万5000円

平成29年2月8日

平成27年度

平成28年度

(別紙)
1
大阪市補助金等交付規則
(決定の取消し)
第17条

市長は,補助事業者が,補助金等の他の用途への使用をし,その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに付した条件その他法令等又はこれに基づく市長の処分に違反したときは,補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。

(2項以下略)
(補助金等の返還)
第18条

市長は,補助金等の交付の決定を取り消した場合において,補助事業等の当該取消しに係る部分に関し,すでに補助金等が交付されているときは,期限を定めて,その返還を求めるものとする。

(加算金及び延滞金)
第19条

補助事業者は,
前条の規定により補助金等の返還を求められたときは,
その請求に係る補助金等の受領の日から納付の日までの日数に応じて,当該補助金等の額(その一部を納付した場合におけるその後の期間については,既納額を控除した額とし,100円未満の端数があるときは,これを切り捨てる。)につき年10.95パーセントの割合で計算した加算金を本市に納付しなければならない。

(2,3項略)
4
補助事業者が補助金等の返還を求められ,これを納期日までに納付しなかったときは,税外歳入に係る延滞金及び過料に関する条例(昭和39年大阪市条例第12号)第2条の規定により算出した延滞金を本市に納付しなければならない。

(5項以下略)

2
税外歳入に係る延滞金及び過料に関する条例
(趣旨)
第1条

地方自治法(昭和22年法律第67号。以下法という。)第231条の3第2項の規定による延滞金及び法第228条第3項の規定による過料の徴収に関しては,別に定めがあるもののほか,この条例の定めるところによる。

(延滞金)
第2条

法第231条の3第1項の市の歳入(以下税外歳入という。)の督促を受けた者が,督促状の指定期限までにその納付すべき金額を納付しないときは,当該指定期限の翌日から納付する日までの期間の日数に応じ,納付すべき金額(1,000円未満の端数があるときは,これを切り捨てる。)につき年14.6パーセントの割合で計算した延滞金を徴収する。ただし,次の各号のいずれかに該当するときは,この限りでない。(1)

納付すべき金額が2,000円未満であるとき

(2)

納付すべき金額が既に市に納付している保証金(敷金その他保証金
に準ずるものを含む。)の額に満たないとき
(3)

延滞金の額が1,000円未満であるとき

附則
(延滞金の割合の特例)
第9条

当分の間,第2条に規定する延滞金の年14.6パーセントの割合は,同条の規定にかかわらず,各年の特例基準割合(当該年の前年に租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第93条第2項の規定により告示された割合に年1パーセントの割合を加算した割合をいう。以下同じ。)が年7.3パーセントの割合に満たない場合には,その年中においては,その年における特例基準割合に年7.3パーセントの割合を加算した割合とする。
3
租税特別措置法第93条第2項の規定に基づく告示
同項に規定する財務大臣が告示する割合
平成29年

年0.7パーセント(平成28年財務省告示第362号)

平成30年

年0.6パーセント(平成29年財務省告示第332号)

平成31年

年0.6パーセント(平成30年財務省告示第336号)

(令和元年)
令和

2年

年0.6パーセント(令和元年財務省告示第180号)
以上
トップに戻る

saiban.in