判例検索β > 平成26年(ワ)第2721号
損害賠償請求事件
事件番号平成26(ワ)2721
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和2年6月24日
裁判所名・部福岡地方裁判所  第1民事部
裁判日:西暦2020-06-24
情報公開日2020-09-08 18:00:27
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主1文
原告らの被告東京電力ホールディングス株式会社に対する主位的請求をいずれも棄却する。

2
被告東京電力ホールディングス株式会社は,別紙1-2認容額等一覧表記載の原告番号1ないし5,13,15,16,21,22,26ない
し28,37ないし40,48ないし54の各原告に対し,同一覧表の認容額欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
前項の原告らの被告東京電力ホールディングス株式会社に対するその余の予備的請求をいずれも棄却する。

4
第2項の原告らを除く原告らの被告東京電力ホールディングス株式会社に対する予備的請求をいずれも棄却する。

5
原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用中,原告らと被告東京電力ホールディングス株式会社との間に生じたものは,各原告に係る別紙1-2認容額等一覧表の訴訟費用負担割合欄記載の割合を各原告の負担とし,その余を被告東京電力ホールディングス株式会社の負担とし,原告らと被告国との間に生じたものは原告らの負担とする。
7
この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
ただし,被告東京電力ホールディングス株式会社が同項の原告らに対し,
各原告に係る別紙1-2認容額等一覧表の担保額欄記載の各金員の担保を供するときは,その執行を免れることができる。
事実及び理由
以下,使用する略語・用語については,別紙1-3略語・用語一覧表の例による。
また,
各原告については,
別紙1-2
認容額等一覧表
記載の原告番号に応じ,
原告番号1などと記載し,同一世帯に属する者等については,まとめて原告番号1らなどと記載することがある。第1部

請求

被告らは,各原告に対し,連帯して各原告に係る別紙1-2認容額等一覧表の請求額欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2部

事案の概要

第1章

事案の骨子

本件は,平成23年3月11日に発生した本件地震及び本件津波の影響で,被告東電が設置し運営する福島第一原発から放射性物質が放出されるという事故(本件事故)が発生したことにより居住していた地域からの避難を余儀なくされたと主張する原告らが,①被告東電に対しては,福島第一原発の敷地高さを超える津波の到来等を予見しながら,福島第一原発の安全対策を怠ったなどと主張して,主位的に民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)
709条,予備的に原賠法3条1項に基づき,②被告国に対しては,経済産業大臣が被告東電に対して電気事業法等に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して,国賠法1条1項に基づき,連帯して,別紙1-2認容額等一覧表の請求額欄記載の各金員及びこれらに対する本件事故の発生日である平成23年3月11日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める事案である。
第2章

前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣
旨により容易に認められる事実)
第1

当事者

1⑴

原告らは,本件事故当時,それぞれ,別紙1-2認容額等一覧表の避難元住居欄記載の市又は町に居住していた者である。


承継前原告番号8は,平成30年11月5日に死亡し,その子である原告番号10及び11が,各2分の1の割合で,本件訴訟における承継前原告番号8の権利義務を承継した。
2
被告東電(本件事故当時の商号は東京電力株式会社)は,福島県双葉郡大熊町及び同郡双葉町に福島第一原発を設置し,運転してきた株式会社であり,本件事故における,原賠法2条3項の原子力事業者に当たる。

第2

福島第一原発の施設の概要等

1
福島第一原発の概要


施設の概要等(甲A1の1〔本文編9頁〕)
福島第一原発は,大熊町及び双葉町にまたがって設置されており,いわき市の北約40㎞,郡山市の東約55㎞,福島市の南東約60㎞に位置し,東
は太平洋に面している。敷地は海岸線に長軸を持つ半長円状の形状となっており,敷地全体の広さは約350万㎡である。福島第一原発は,被告東電が初めて建設・運転した原子力発電所であり,昭和42年4月に1号機の建設に着工して以来,順次増設を重ね,平成23年3月時点で6基の沸騰水型原子炉(BWR)を有していた。



施設の配置,構造,高さ等(甲A1の1〔本文編9頁,資料Ⅱ-3,Ⅱ-4,Ⅱ-15〕)

福島第一原発の1号機から4号機までは大熊町に,5号機及び6号機は双葉町に設置されている。各号機の配置は,別紙2-1福島第一原子力発電所配置図(甲A1の1〔資料編Ⅱ-3〕)のとおりである。各号
機は,原子炉建屋(R/B),タービン建屋(T/B),コントロール建屋(C/B),サービス建屋,放射性廃棄物処理建屋等から構成されている。これら建屋のうち一部については,隣接プラントと共用となっているものがある。

1号機ないし4号機を格納する各原子炉建屋(R/B)及びタービン建屋(T/B)の敷地高さは,O.P.+10mであり,5号機及び6号機を格納する各原子炉建屋(R/B)及びタービン建屋(T/B)の敷地高さは,O.P.+13mである。
福島第一原発各号機の非常用海水系ポンプ及び非常用ディーゼル発電設備冷却系ポンプが設置されている海側部分の敷地高さは,
いずれもO.
P.
+4mである。



本件事故当時の施設運営の体制等(甲A1の1〔本文編9,10頁,資料Ⅱ-6,Ⅱ-7〕)

通常運転時の体制
福島第一原発には,発電所長の下に,ユニット所長2人,副所長3人が置かれており,その下に総務部,防災安全部,広報部,品質・安全部,技
術総括部,第一運転管理部,第二運転管理部,第一保全部及び第二保全部が置かれている。また,原子炉施設の運転は,被告東電の従業員から成る当直が担当している。当直は,第一及び第二運転管理部長の下で,それぞれ1号機及び2号機,3号機及び4号機,5号機及び6号機の各担当に分かれる。各担当は,原則として,当直長1人,当直副長1人,当直主任2
人,当直副主任1人,主機操作員2人及び補機操作員4人の合計11人で一つの班を構成し,更に5個班による交代制勤務を採ることにより24時間体制で原子炉施設の運転に従事している。
福島第一原発に所属する被告東電の従業員は約1100人であり,福島第一原発には,このほかに,プラントメーカーや防火,警備等を担当する
協力企業の従業員約2000人が常駐している。
なお,
本件地震発生当時,
福島第一原発では,被告東電の従業員約750人,協力企業の従業員約5600人が構内で勤務していた。

緊急時の体制
福島第一原発では,原災法7条1項に基づき,福島第一原子力発電所原子力事業者防災業務計画が定められており,同法10条の特定事象の通報を行った場合には第1次緊急時態勢,同法15条の特定事象の報告を行った場合又は同条の特定事象に基づく原子力緊急事態宣言が発出される事態に至った場合には第2次緊急時態勢となり,原子力災害の情勢に応じて,事故原因の除去,原子力災害の拡大の阻止その他必要な活動を迅速かつ円滑に行うこととされていた。

福島第一原発では,第1次緊急時態勢又は第2次緊急時態勢が発令された場合には,緊急時対策本部が設置されることとなっていた。緊急時対策本部は,情報班,通報班,広報班,技術班,保安班,復旧班,発電班,資材班,厚生班,医療班,総務班及び警備誘導班により構成され,それぞれの役割に応じて原子力災害に対応する防災体制を確立することとされて
いた。
また,原子炉施設の運転は発電班に組み込まれた当直が担い,その体制は通常運転時と同様である。

原子力発電の仕組み(甲A1の1〔本文編12頁〕,21,乙A16〔19~25頁〕〕
全ての物質は,原子から成り立っており,原子は原子核とその周りにある電子からできている。原子核は中性子と陽子からなっているが,ウランの場合,ウランの原子核に外から中性子が飛び込むと,分裂して二つ以上の別の原子核(核分裂生成物)に変わるとともに,数個の中性子
を放出し(核分裂反応),その際に膨大なエネルギーが発生する。このエネルギーのほとんどは新しく発生した原子や粒子の運動エネルギーとなるが,最終的には熱エネルギーとなる。原子力発電は,原子炉内で核分裂反応を発生させ,取り出した熱エネルギーで蒸気を作り,その蒸気でタービンを回すことにより発電するものである。

原子炉とは,核分裂をコントロールしながら核分裂によって発生する熱エネルギーを取り出す装置であり,燃料,減速材,冷却材,制御材等から構成されている。
軽水炉では,通常,ウラン235が数%程度含まれるウランを酸化物にして焼き固めたもの(ペレット)を燃料として使用しており,ペレットを被覆管と呼ばれる長さ4mほどのさやに密封したものが燃料棒である。沸騰水型原子炉(BWR)では,燃料棒は50ないし80本程度に束ねられ,燃料集合体に組み上げられ,400から800体程度の燃料集合体が原子炉に装荷される。
核分裂によって新しく発生する中性子(高速中性子)は,非常に高速であり,このままでも核分裂を引き起こすことが可能であるが,速度を
遅くすると次の核分裂を引き起こしやすくなる。この速度の遅い中性子を熱中性子といい,高速中性子を減速させて熱中性子にするものを減速材という。軽水炉では水を減速材として用いている。
冷却材とは,核分裂によって発生した熱エネルギーを炉心から外部に取り出すものをいう。軽水炉では水を冷却材として用いるので,冷却材
が減速材を兼ねることができる。
制御材とは核燃料が核分裂する量を調整するために用いられるものである。制御材は,中性子を吸収しやすい物質で作られており,中性子を吸収することによって,核分裂の反応速度を低下させ,原子炉の出力を低下させる。軽水炉では,燃料棒の間に制御材を挿入できるようになっ
ており,これを制御棒という。
燃料集合体は,数十体まとめて原子炉の中心部にあるステンレス製構造物であるシュラウドの中に挿入されるが,燃料集合体と燃料集合体との間には制御棒が挿入される構造となっている。燃料集合体,制御棒及びシュラウドは,冷却材と減速材を兼ねる軽水で満たされ,原子炉圧力
容器内に収納されている。沸騰水型原子炉(BWR)では,中性子を吸収するための制御棒の出し入れ(位置の調整)と炉心を流れる冷却水の流量(再循環量)の調節により,核分裂の数を制御して一定に保たれる状態(臨界)とし,出力を一定に保っている。

我が国で使用されている商業用の原子炉には,
沸騰水型原子炉
(BWR)
と加圧水型原子炉(PWR)があり,福島第一原発で使用されているのはBWRである。沸騰水型原子炉(BWR)は,原子炉で水を沸騰させ,発
生した蒸気がタービン建屋(T/B)へと入って直接タービンを回す構造となっており,タービン建屋(T/B)の蒸気は復水器を通る海水によって冷やされて水に戻り,原子炉内に戻される。温度が上がった海水は海に放水されるため,最終ヒートシンク(熱の逃がし場)は海である。なお,沸騰水型原子炉(BWR)及び加圧水型原子炉(PWR)は,い
ずれも軽水炉(普通の水である軽水を減速材や冷却材として使用する原子炉)である。


原子炉施設の安全を確保するための仕組み(甲A1の1〔本文編11~14,20~25頁,資料編Ⅱ-1,Ⅱ-8〕,乙A16〔59~61頁〕,
17)
原子炉内には,ウランの核分裂により生じた強い放射能を持つ放射性物質が存在する。そのため,原子炉施設には,何らかの異常・故障等により放射性物質が施設外へ漏出することを防止するため,多重防護の考え方に基づいた複数の安全機能が備え付けられている。この安全機能とは,異常の発生の防止,異常の拡大及び事故への進展の防止及び周辺環境への放射性物質の異常放出防止という三つのレベルでの対策を図ることにより周辺住民の放射線被ばくを防止することであり,異常の拡大及び事故への進展の防止の観点から,異常を検出して原子炉を速やかに停止する機能(止める機能)が,周辺環境への放射性物質の異常放出防止の観点から,原子
炉停止後も放射性物質の崩壊により発熱を続ける燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける機能(冷やす機能)及び燃料から放出された放射性物質の施設外への過大な漏出を抑制する機能(閉じ込める機能)がそれぞれ備え付けられている。

止める機能(原子炉停止機能)
原子炉を止める機能を担う設備は,原子炉停止系と呼ばれる。原子炉停止系は,原子炉に異常が発生した際に炉心における核分裂反応を停止させ
て出力を急速に低下させるための設備である。
原子炉停止系の代表的な設備は制御棒であり,燃料集合体の間に入れると,
中性子が吸収され,
核分裂反応が制御され,
原子炉の出力が低下する。
原子炉の異常時には燃料の損傷を防ぐため急速に制御棒を炉心に挿入して,原子炉を緊急停止(スクラム)させる。また,原子炉停止系の設備である
ほう酸水注入系は,ほう酸貯蔵タンク,ポンプ,テストタンク,配管,弁等から構成され,制御棒が挿入不能の場合に,原子炉に中性子吸収材であるほう酸水を注入して原子炉を停止する機能を有する。

冷やす機能(原子炉冷却機能)
炉心に制御棒を挿入して原子炉を停止させた場合においても,燃料棒内に残存する多量の放射性物質の崩壊により発熱が続くことから,燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける必要がある。そこで,原子炉施設には通常の給水系の他に様々な注水系が備えられており,原子炉で発生する蒸気を駆動源とするタービン駆動ポンプ又は電動ポンプにより,原子炉
へ注水する。注水系には,原子炉が高圧の状態の場合でも注水が可能な高圧のものと,原子炉の減圧をすることによって初めて注水が可能となる低圧のものがある。
福島第一原発の各号機に設置されている原子炉冷却機能を有する主な設備は,以下のとおりである。

1号機
1号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,炉心スプレイ系(CS)2系統,非常用復水器(IC)2系統,高圧注水系(HPCI)1系統,原子炉停止時冷却系(SHC)1系統及び格納容器冷却系(CCS)2系統が設置されている。
炉心スプレイ系(CS)とは,何らかの原因により冷却材喪失事故によって炉心が露出した場合に,燃料の過熱による燃料及び被覆管の破損を防ぐために,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,炉心上に取り付けられたノズルから燃料にスプレイすることによって,炉心を冷却する設備である。
非常用復水器(IC)とは,主蒸気管が破断するなどして主復水器が
利用できない場合に,圧力容器内の蒸気を非常用の復水器タンクにより水へ凝縮させ,その水を炉内に戻すことによって,ポンプを用いずに炉心を冷却する設備であり,最終的な熱の逃し先は大気である。
高圧注水系(HPCI)とは,配管破断等を原因として冷却材喪失事故が発生したような場合に,圧力容器から発生する蒸気の一部を用いる
タービン駆動ポンプにより,圧力容器内へ注水することによって炉心を冷却する設備である。HPCIは,通常,水源として復水貯蔵タンクの水を使用するが,圧力抑制室(S/C)の水を水源とすることも可能である。
原子炉停止時冷却系(SHC)は,原子炉停止後,炉心の崩壊熱並び
に圧力容器及び冷却材中の保有熱を除去して,原子炉を冷却する設備である。
格納容器冷却系(CCS)は,冷却材喪失事故が発生した際に,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,格納容器内にスプレイすることによって,格納容器を冷却する設備である。

2号機から5号機まで
2号機から5号機までには,
原子炉冷却機能を有する主な設備として,
前記炉心スプレイ系(CS)2系統及び高圧注水系(HPCI)1系統のほか,原子炉隔離時冷却系(RCIC)1系統及び残留熱除去系(RHR)2系統が設置されている。
原子炉隔離時冷却系(RCIC)は,原子炉停止後に何らかの原因で給水系が停止した場合等に,圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるタービン駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク又は圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,蒸気として失われた冷却材を原子炉に補給し,炉心を冷却する設備である。
残留熱除去系(RHR)は,原子炉停止時の残留熱の除去を目的とす
るもので,弁の切替操作により使用モードを変え,原子炉停止時冷却系(SHC),低圧注水系(LPCI)及び格納容器冷却系(CCS)として利用できるようになっている。
6号機
6号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,前記原子炉隔
離時冷却系(RCIC)1系統及び残留熱除去系(RHR)3系統のほか,
高圧炉心スプレイ系
(HPCS)
1系統及び低圧炉心スプレイ系
(L
PCS)1系統が設置されている。
高圧炉心スプレイ系(HPCS)は,配管破断等を原因として冷却材喪失事故が発生したような場合に,復水貯蔵タンク又は圧力抑制室(S
/C)内の水を水源として,燃料にスプレイすることによって,炉心を冷却する設備である。
低圧炉心スプレイ系(LPCS)は,配管破断等を理由として冷却材喪失事故が発生したような場合に,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,炉心上に取り付けられたノズルから燃料にスプレイすることに
よって,炉心を冷却する設備である。
非常用海水系ポンプ
格納容器冷却系(CCS・1号機)及び残留熱除去系(RHR・2号機ないし6号機)の熱交換器を除熱するために冷却水となる海水を供給する冷却用海水ポンプを非常用海水系ポンプという。いずれの非常用海水系ポンプも,作動させるために6900Vの交流電源を必要とする。ウ
閉じ込める機能(格納機能)
原子炉施設の潜在的な危険性は,原子炉内に蓄積される放射性物質の放射能が極めて強いことにある。したがって,原子炉施設には,放射性物質の施設外への過大な放出を防止するため,5重の防壁が備えられている。

第1はペレットであり,
核分裂によって生じた放射性物質の大部分は,
飛散せずペレットの中にとどまる。
第2は,燃料棒の周りを覆う被覆管である。ペレットは,被覆管の中に納められて燃料棒を構成している。
この被覆管は気密に作られており,
ペレットの外に出てくる放射性物質を被覆管の中に留めることができる。
第3は,燃料棒が格納されている原子炉圧力容器である。何らかの原因により,被覆管が破損すると放射性物質が冷却材中に漏出することとなるが,圧力容器は高い圧力にも耐えられる構造となっており,また気密性も高いことから,その中に漏出した放射性物質を留めることができる。

第4は,原子炉圧力容器を包み込む原子炉格納容器である。格納容器は,鋼鉄製の容器であり,原子炉圧力容器を含む主要な原子炉施設を覆っている。
第5は,格納容器が納められている原子炉建屋(R/B)であり,厚いコンクリートで作られている。

福島第一原発の原子炉格納容器
福島第一原発の原子炉格納容器は,1号機から5号機まではマークⅠ型,6号機はマークⅡ型である。マークⅡ型は,原子炉格納容器内に圧力抑制プールが組み込まれたものであり,マークⅠ型は,原子炉圧力容器を格納する部分(ドライウェル〔D/W〕)とその下部の圧力抑制室(サプレッションチャンバー〔S/C〕)から構成され,両者がベント管により結合されたものである。圧力抑制室は,原子炉圧力容器から放
出された蒸気を冷却,液化することにより,圧力上昇を抑制し,粒子状となって浮遊している放射性物質を減少させるほか,圧力抑制室内の水を原子炉圧力容器へ注水する水源としての機能を有している。
逃がし安全弁(SR弁)
原子炉には,原子炉格納容器の圧力が規定値を越えた場合に作動する
減圧用の安全弁として,逃がし安全弁が設置されている。福島第一原発においては,1号機に4個,2号機及び3号機に各8個,4号機及び5号機に各11個,6号機に18個の逃がし安全弁が設置されている。⑹
電源設備

金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)(甲A1の1〔本文編30頁〕)
金属閉鎖配電盤(M/C,メタクラ)とは,6900Vの所内高電圧回路に使用される動力用電源盤で,遮断器,保護継電器,付属計器等を収納したものであり,常用,共通及び非常用の3系統に分かれて設備されてい
る。
パワーセンター(P/C)とは,金属閉鎖配電盤(M/C)から変圧器を経て降圧された480Vの所内低電圧回路に使用される動力用電源盤で,遮断器,保護継電器,付属計器を収納したものであり,常用,共通及び非常用の3系統から成る。

常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,通常運転時に使用される設備に接続されているものであり,そのうち,隣接号機等への給電にも用いられている系統を共通系という。
非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,外部電源が喪失した際に非常用ディーゼル発電機(DG)から電気が供給され,非常時に使用する設備及び通常運転時に使用する設備のうち非常時にも使用するものに接続されている。

各号機に設置されている非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)の設置場所は,別紙2-2非常用DG,M/C,P/Cの被害状況(甲A1の1〔資料編Ⅱ-21〕)のとおりである。

外部電源設備(甲A1の1〔本文編31,32頁〕,甲A1の2〔本文編111~113頁,資料編Ⅱ-4-1・2〕)
原子力発電所の運転に必要な電気は,通常,発電所で発電された電力の一部により賄われるが,定期検査中及び何らかの原因で原子炉が緊急停止(スクラム)した際など発電が停止している間は外部から供給される。福島第一原発は,外部電源として,主に福島第一原発の南西約9kmの場所
に位置する新福島変電所からの電源供給を受けていた。
1号機及び2号機には,新福島変電所から,大熊線1号線及び2号線を通じて27万5000Vの電気が供給され,この電気は,1号機の原子炉建屋(R/B)の西側に設置された1・2号機超高圧開閉所を経由して,1号機及び2号機の各タービン建屋(T/B)西側に設置された起動変圧
器(STr1S及びSTr2S)で6900Vに降圧され,1号機及び2号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C)(常用M/Cの一つであり,非常用M/Cに供給するもの。1号機の共通M/Cは1号機タービン建屋〔T/B〕1階に,2号機の共通M/Cの一つは2号機原子炉建屋〔R/B〕南側に設置された専用建屋1階に,もう一つは2号機タービン建屋〔T/
B〕地下1階に設置されていた。)に供給されていた。また,1号機には,予備線として,東北電力株式会社富岡変電所から東北電力原子力線を通じて,6万6000Vの電気が供給されており,それは,福島第一原発構内の予備変電所に設置された変圧器で6900Vに降圧され,1号機の共通金属閉鎖配電盤(M/C)に供給されていた。
3号機及び4号機には,新福島変電所から大熊線3号線及び4号線を通じて27万5000Vの電気が供給され,この電気は,3号機の原子炉建
屋(R/B)の西側に設置された3・4号機超高圧開閉所を経由して,3号機のタービン建屋(T/B)西側に設置された起動変圧器(STr3SA及びSTr3SB)で6900Vに降圧され,3号機及び4号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C,3号機及び4号機のコントロール建屋(C/B)地下1階に設置されていた。)に供給されていた。

5号機及び6号機には,新福島変電所から夜の森線1号線及び同2号線を通じて6万6000Vの電気が供給され,この電気は,6号機原子炉建屋(R/B)の西側に設置された5・6号機66kV開閉所を経由して,5号機及び6号機のコントロール建屋(C/B)西側に設置された起動変圧器(STr5SA及びSTr5SB)で6900Vに降圧され,5号機
及び6号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C,5号機及び6号機のコントロール建屋〔C/B〕地下1階に設置されていた。)に供給されていた。ウ
非常用ディーゼル発電機(甲A1の1〔本文編27,28,434頁〕)非常用ディーゼル発電機(DG)は,外部電源が喪失したときに原子炉
施設に交流電源(6900V)を供給するための非常用予備電源設備であり,ディーゼルエンジンで駆動する発電機である。非常用ディーゼル発電機(DG)は,非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)に電源を供給し,外部電源が喪失した場合でも,原子炉を安全に停止するために必要な電力を供給する。

非常用ディーゼル発電機(DG)には,海水冷却式(水冷式)のものと空気冷却式(空冷式)のものがあり,水冷式のものには,これを冷却するための海水ポンプが付属している。本件事故当時の福島第一原発には,非常用ディーゼル発電機(DG)が各号機2台ずつ設置されていたが,2号機B系,4号機B系及び6号機B系のみが空冷式であり,これら以外は全て水冷式であった(なお,6号機にはさらに高圧炉心スプレイ系〔HPCS〕専用DG1台が設置されていた。)。また,福島第一原発においては,
隣接するプラント間(1・2号機,3・4号機,5・6号機)で互いに電源を融通することのできる仕組みとなっていた。
各号機に設置されている非常用ディーゼル発電機
(DG)
の設置場所は,
別紙2-2のとおりであり,水冷式の非常用ディーゼル発電機(DG)に付属する冷却用海水ポンプの設置場所は,甲A1の1別紙2-3福島第一原子力発電所海側エリア,屋外海水設備,全体写真(甲A1の1〔資

料編Ⅱ-20〕)のDGSWポンプ記載のとおりである。
2
福島第一原発の設置許可処分又は変更許可処分,運転開始


設置許可処分又は変更許可処分
福島第一原発1号機ないし4号機について,以下のとおり設置許可処分又
は変更許可処分がされた。

2号機

昭和43年3月29日変更許可処分


3号機

昭和45年1月23日変更許可処分




昭和41年12月1日設置許可処分


1号機

4号機

昭和47年1月13日変更許可処分

運転開始及びその後の運転状況
(甲A1の1
〔資料編Ⅱ-1〕乙A21,

22)
被告東電は,昭和46年3月に1号機,昭和49年7月に2号機,昭和51年3月に3号機,昭和53年4月に5号機,同年10月に4号機,昭和5
4年10月に6号機の運転をそれぞれ開始し,平成23年3月時点で,1号機から6号機までの合計6機の沸騰水原子炉(BWR)が完成していた。福島第一原発について,本件事故発生前までに,被告国に対して法令・通達に基づいて報告されたトラブルは,1号機54件,2号機51件,3号機31件,4号機20件,5号機21件,6号機29件の合計206件であった。また,福島第一原発において,運転開始から平成23年2月末までに実施された定期検査は,1号機については26回,2号機については25回,
3号機ないし5号機についてはいずれも24回,6号機については22回である。
第3

本件事故の概要

1
本件地震とそれに伴う本件津波の発生


本件地震の概要(甲A1の1〔本文編15,16頁〕,乙A23,B89)平成23年3月11日午後2時46分,牡鹿半島の東南東約130㎞付近(北緯38°06.2’,東経142°51.6’),深さ約24㎞を震源とするM9.0(Mw9.0)の本件地震が発生した。本件地震は,国内観測史上最大規模の地震であり,宮城県栗原市で震度7,宮城県,福島県,茨
城県及び栃木県の4県37市町村で震度6強を観測したほか,東日本を中心に,北海道から九州地方にかけての広い範囲で震度6弱から震度1を観測した。気象庁は,本件地震を平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震と命名した。また,政府は,本件地震による災害について東日本大震災と呼称することを閣議了解した。
本件地震は,西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で,太平洋プレートと陸のプレートの境界の広い範囲で破壊が起きたことにより発生したものである。本件地震によって動いた断層領域は南北の長さ約450㎞,東西の幅約200㎞であったと推定され,断層すべり量は20ないし30m,最大で50mに及ぶとも推定されている。
地震活動は,
本震-余震型で推移し,

M7.0以上の余震が5回,M6.0以上の余震が82回,M5.0以上の余震が506回発生するなど余震活動も非常に活発であった。余震は,岩手県沖から茨城県沖にかけての北北東-南南西方向に延びる長さ約500㎞,幅約200㎞の範囲に密集して発生しているほか,震源域に近い海溝軸の東側,福島県及び茨城県の陸域の浅い場所も含めた広い範囲で発生している。観測された最大余震は,平成23年3月11日午後3時15分に茨城県沖で発生したM7.7の地震である。



本件津波の概要(甲A1の1〔本文編16頁〕)
本件地震により,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に,北海道から沖縄県にかけての広い範囲で津波を観測した。
各地の津波観測施設では,
福島県相馬で高さ9.3m,宮城県石巻市鮎川で高さ8.6mなど,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に非常に高い津波が観測されたほか,
北海道から鹿児島県にかけての太平洋沿岸や小笠原諸島で1m以上の津波が観測された。気象庁が,津波観測施設及びその周辺地域において,各地の津波による被害や津波の到達状況等について現地調査を実施したところ,岩手県沿岸で10mを超える津波が到達していたことが判明したほか,北海道から四国に至る太平洋沿岸各地で数mの津波の痕跡を観測した。

本件地震に伴う津波は,カナダ,アメリカ,中南米等の太平洋沿岸においても観測され,アメリカ,チリ等では最大高さ2mを超える津波が観測されている。

本件地震とそれに伴う本件津波による被害の概観(甲A1の1〔本文編16,17頁,資料Ⅱ-9〕)
国土地理院の調査によれば,本件津波による浸水範囲面積は,宮城県が327㎢と最も大きく,次いで福島県が112㎢,岩手県が58㎢となっており,青森県,岩手県,宮城県,福島県,茨城県及び千葉県の6県62市町村の浸水範囲面積の合計は561㎢である。本件地震及びそれに伴う本件津波
により,1都1道10県で死者1万5840人,6県で行方不明者3547人,1都1道18県で負傷者5951人の人的被害が発生した(平成23年12月1日現在)。


福島第一原発の被災状況の概要
(甲A1の1
〔本文編17~19,
90頁,
資料編Ⅱ-10,11〕,乙A25〔32頁〕)

本件地震発生直前の福島第一原発の運転状況
1号機は,定格電気出力一定運転(原子炉電気出力を,年間を通じて発電可能な値である定格電気出力に保つ運転方法)を行っており,本件地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は25℃であった。
2号機及び3号機は,定格熱出力一定運転(原子炉熱出力を,原子炉設
置許可で認められた最大値である定格熱出力に保つ運転方法)を行っており,本件地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位はいずれも満水,2号機のプール水温は26℃,3号機のプール水温は25℃であった。
4号機は,平成22年11月30日から定期検査中であり,シュラウド
取替え等の圧力容器内の工事が予定されていたことから,全燃料が圧力容器から使用済燃料プールに取り出されていた。また,本件地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は27℃であった。
5号機は,平成23年1月3日から定期検査中であり,原子炉では燃料
が装荷され,かつ,制御棒が全挿入された状態で圧力容器内に窒素を封入する耐圧漏えい試験を実施しており,
原子炉圧力が7.
2MPaまで昇圧さ
れていた。また,本件地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は24℃であった。
6号機は,平成22年8月14日から定期検査中であり,原子炉は燃料
が装荷され,かつ,制御棒が全挿入された冷温停止状態にあった。また,本件地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は25℃であった。

福島第一原発で観測された地震動及び津波
地震動
本件地震に際し,福島第一原発が位置する大熊町及び双葉町において
観測された最高震度は6強であり,震度5弱以下の余震も多数回観測された。福島第一原発では,敷地地盤,各号機の原子炉建屋(R/B)及びタービン建屋(T/B)並びに地震観測室に地震計を設置し,計53か所で地震動の観測を行っていたが,これらの地震計により得られた観測記録のうち,各号機の原子炉建屋(R/B)基礎版上で得られた最大
加速度は別紙2-4東北地方太平洋沖地震の際,福島第一原発で取得された観測記録と基準地震動(Ss)に対する最大応答加速度値との比較(甲A1の1〔本文編18頁・表Ⅱ-1〕)のとおりである。観測記録によると,2号機,3号機及び5号機において,東西方向の最大加速度が基準地震動(Ss)に対する最大応答加速度値を上回っている。
本件津波の到来
福島第一原発には,本件津波の第1波が平成23年3月11日午後3時27分頃,第2波が同日午後3時35分頃に到達し,その後も断続的に津波が到達した。これらの津波により,福島第一原発の海側エリア及び主要建屋設置エリアはほぼ全域が浸水した。浸水域,浸水高及び浸水
深の詳細は別紙2-5福島第一原子力発電所における津波の調査結果(浸水高,浸水深及び浸水域)(甲A1の1〔資料編Ⅱ-11〕)のとおりである。
1号機から4号機側主要建屋設置エリアの浸水高は,O.P.+約11.5ないし15.5mであった。同エリアの敷地高はO.P.+10
mであることから,浸水深(地表面からの浸水の高さ)は約1.5ないし5.5mであった。同エリアの南西部では,局所的に,O.P.+約16ないし17mの浸水高が確認されており,浸水深は約6ないし7mであった。また,5号機及び6号機側主要建屋設置エリアの浸水高は,O.P.+約13ないし14.5mであった。同エリアの敷地高はO.P.+13mであることから,浸水深は約1.5m以下であった。2
本件事故の発生状況


1号機の状況(甲A1の1〔本文編19~33,79~82,92~94頁〕,1の2〔本文編46~48頁〕,乙A18の1〔Ⅳ-36~40,45頁〕)
1号機の原子炉は,本件地震発生時,運転中であり,本件地震により自動
停止した。本件地震によって,大熊線1号線及び2号線の発電所側受電用遮断器等が損傷したため,新福島変電所からの外部電源を喪失し,平成23年3月11日午後2時47分頃,
非常用ディーゼル発電機
(DG)
が起動した。
同日午後2時52分頃,非常用復水器(IC)が自動起動し,当直が,午後3時30分頃まで非常用復水器(IC)の手動操作を行い,圧力抑制室(S
/C)の冷却を行うため,格納容器冷却系(CCS)2系統を手動で起動させた。
1号機の非常用ディーゼル発電機(DG)は2系統あったが,ともにタービン建屋(T/B)地下1階に設置されていたことから,本件津波により,非常用ディーゼル発電機自体が被水して機能を喪失し,
同日午後3時37分,

全交流電源を喪失した。それと前後して,タービン建屋(T/B)地下1階にあった直流電源盤が被水して機能を喪失し,直流電源も喪失した。これにより,1号機は全電源喪失の状態となり,非常用復水器(IC)及び高圧注水系(HPCI)が起動不能となり,さらに,この頃,原子炉格納容器冷却系,機器の冷却に必要な非常用海水系も機能喪失し,炉心の冷却が不可能と
なったことから,炉心損傷に至った。
同月12日午後3時36分頃,原子炉建屋(R/B)内で水素ガスによる爆発が起き,原子炉建屋(R/B)の屋根及び5階部分の外壁が損傷し,原子炉建屋(R/B)内の放射性物質が放出された。


2号機の状況(甲A1の1〔本文編19~33,79~82,222,223,229~235頁,資料Ⅱ-21〕,乙A18〔Ⅳ-50~51,5
8頁〕)
2号機の原子炉は,本件地震発生時,運転中であり,本件地震により自動停止した。本件地震によって,1号機と同様の理由により,新福島変電所からの外部電源を喪失し,平成23年3月11日午後2時47分頃,非常用ディーゼル発電機(DG)が起動した。当直職員は,2号機原子炉への注水ポ
ンプが停止したため,原子炉隔離時冷却系(RCIC)を手動で起動し,逃がし安全弁(SR弁)や原子炉隔離時冷却系(RCIC)の作動による圧力抑制室(S/C)の温度上昇のため,残留熱除去系(RHR)ポンプを順次起動し,圧力抑制室(S/C)の水を冷却した。
2号機の非常用ディーゼル発電機(DG)は2系統あり,A系統はタービ
ン建屋(T/B)地下1階に設置され,B系統は運用補助共用施設1階に設置されていたが,本件津波により,A系統は被水して機能を喪失したが,B系統は運用補助共用施設(共用プール)1階に設置されていたため被水を免れた。しかし,2号機の全ての金属閉鎖配電盤(M/C)及び一部のパワーセンター(P/C)が被水したことにより,2台の非常用ディーゼル発電機
(DG)が停止し,全交流電源を喪失し,それと前後して,直流電源を喪失し,全電源喪失に至った。また,残留熱除去系(RHR)の海水ポンプが津波の影響により順次運転を停止したことにより,崩壊熱を最終ヒートシンクである海に移行させることができない状態となった。その後,原子炉隔離時冷却系(RCIC)も停止し,同日午後6時22分頃には,炉心が完全に露
出したと判断されたが,その後,消防車による海水の注入が開始され,原子炉圧力の上昇と降下が反復され,
同日午後9時20分に2台の逃し安全弁
(S
R弁)を開くことで原子炉の減圧を加速し,原子炉圧力容器への注水が継続された。その後,ドライウェル(D/W)の圧力が上昇して原子炉格納容器が破壊されるのを防ぐため,
同月14日午後4時頃から圧力抑制室
(S/C)
ベントが,同月15日午前零時頃からドライウェル(D/W)ベントが実施されたが,
ベント機能が十分果たされず,
炉心損傷に至り,
同日午前6時頃,

放射性物質が放出された。


3号機の状況(甲A1の1〔本文編19~33,83,95,96,202~208,214頁〕,乙A18の1〔Ⅳ-63~65,71頁〕)3号機の原子炉は,本件地震発生時,運転中であったところ,本件地震に
より自動停止した。3号機は,本件地震により,大熊線3号線及び4号線が変電所内遮断器の作動により停止したことから,平成23年3月11日午後2時48分頃,新福島変電所からの外部電源を喪失し,非常用ディーゼル発電機(DG)が起動した。当直職員は,原子炉圧力容器の圧力が上昇したことから,原子炉隔離時冷却系(RCIC)を手動で起動したが,これは原子
炉水位の上昇により自動停止した。
3号機の非常用ディーゼル発電機(DG)は2系統あったが,ともにタービン建屋(T/B)地下1階に設置されていたため,本件津波により非常用ディーゼル発電機
(DG)
が被水して機能を停止し,
全交流電源を喪失した。
しかし,直流電源盤は被水を免れため,原子炉隔離時冷却系(RCIC)で
原子炉を冷却していたが,その後自動停止し,高圧注水系(HPCI)が自動起動した。しかし,高圧注水系(HPCI)も手動停止され,原子炉隔離時冷却系(RCIC)の再起動を試みたが奏功しなかった。その結果,炉心損傷が生じた。
3号機について,同月13日午前8時から9時頃にかけて原子炉格納容器
ベントが行われ,放射性物質が放出された。その後,消防車によるほう酸を含む淡水注水,海水注水が行われたが,同月14日午前11時01分頃,3号機原子炉建屋(R/B)で水素爆発と思われる爆発が発生し,オペレーションフロアから上部全体とオペレーションフロア1階下の南北の外壁及び廃棄物処理建屋が損壊し,放射性物質が放出された。


4号機の状況(甲A1の1〔本文編19~33,236~238頁〕,1の2〔本文編76~78頁〕,乙18〔Ⅳ-76,77頁〕)

4号機は,本件地震発生時,定期検査のため運転停止中であり,シュラウド工事のために全燃料が原子炉建屋4,5階の使用済燃料プールに取り出されていたため,使用済み燃料プールには貯蔵容量1590体の97%となる1535体が貯蔵されていた。4号機は,本件地震により,3号機と同様の理由により,外部電源を喪失したが,その後,非常用ディーゼル発電機(D
G)が起動した。
4号機の非常用ディーゼル発電機(DG)は2系統あったが,A系統は点検中のため機能しておらず,B系統は運用補助共用施設(共用プール)1階に設置されていたため本件津波による被水を免れた。しかし,本件津波により,電源盤が被水するなどしたため,B系統の非常用ディーゼル発電機(D
G)も停止し,全交流電源を喪失し,使用済燃料プールの冷却が不可能となった。
4号機原子炉建屋
(R/B)
において,
平成23年3月15日午前6時頃,
3号機からの水素の流入が原因と思われる水素爆発が発生し,オペレーティングフロア1階下から上部全体と西側階段沿いの壁面が損壊した。しかし,
4号機が定期検査中であり,通常水が張られていない部分に張られていた水が,全交流電源喪失の影響により使用済み燃料プールに流れ込み,使用済み燃料プールの水位が保たれたため,燃料の損傷は起こらなかった。⑸
5号機(甲A1の1〔本文編28,29,34頁〕,1の2〔本文編89~110頁〕,乙A18の1〔Ⅳ-82,83頁〕)
5号機は,本件地震発生時,定期検査のため,燃料を入れた状態で運転を停止していた。5号機は,本件地震により,夜の森1号線及び2号線が変電所内の遮断器の作動により停止したことにより,新福島変電所からの外部電源を喪失し,非常用ディーゼル発電機(DG)が起動した。
5号機非常用ディーゼル発電機(DG)は2系統あり,いずれも5号機タービン建屋(T/B)1階に設置されていたため,本件津波による被水を免
れたが,関連機器が被水したために機能を停止し,全交流電源を喪失した。また,冷却用海水ポンプが機能喪失したことにより残留熱除去系(RHR)が使用できない状態となった。
その後,
5号機においては,
6号機のB系非常用ディーゼル発電機
(DG)
からの電源融通を受け,逃がし安全弁(SR弁)の開操作を行って原子炉を
減圧した上で,復水貯蔵タンクからの水を原子炉に補給するなどしていたが,平成23年3月19日午前4時56分頃,仮設の海水ポンプを使用して残留熱除去系(RHR)が復旧し,同月20日午後2時30分頃に冷温停止の状態となった。


6号機((甲A1の1〔本文編28,29,34頁〕,1の2〔本文編89~110頁〕,乙18の1〔84,85頁〕)
6号機は,本件地震発生時,定期検査のため,燃料を入れた状態で運転を停止していた。6号機は,本件地震により,5号機と同様の理由により,外部電源を喪失し,非常用ディーゼル発電機(DG)が起動した。

6号機の非常用ディーゼル発電機(DG)は3系統あり,A系及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)は原子炉建屋(R/B)地下1階,B系はディーゼル発電機6B建屋1階に設置されており,いずれも本件津波による被水を免れた。しかし,A系及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)は,非常用ディーゼル発電機(DG)の冷却に必要な冷却用海水ポンプが被水したことから
機能を喪失し,B系のみが機能を維持した。
その後,5号機とおおむね同様の方法により冷却を継続し,平成23年3月20日午後7時27分頃,冷温停止の状態となった。
3
放射性物質の拡散(甲A1の1〔本文編37,38,345~349頁〕)⑴

保安院は,平成23年4月12日,本件事故の重大さを,INESに基づき,レベル7(深刻な事故)と評価したことを公表した。



保安院は,本件事故に起因して,福島第一原発1号機ないし3号機から大気中に放出された放射性物質の総量を推計し,平成23年4月12日及び同年6月6日の2回にわたり,その結果を公表した。保安院により公表された推計総放出量は,ヨウ素131が約16万TBq(テラベクレル),セシウム137が約1.5万TBqであり,これらのヨウ素換算値は約77万TBqとなる。また,原子力安全委員会も,本件事故に起因して大気中に放出された放射
線物質の総量を保安院と異なる手法により推計し,同年4月12日と同年8月24日の2回にわたり,その結果を公表した。原子力安全委員会により公表された推計放出量は,
ヨウ素131が約13万TBq,
セシウム137が約1.
1万TBqであり,これらのヨウ素換算値は約57万TBqとなる。第4

住民の避難

1
本件事故初期における避難措置等


福島第一原発に係る緊急事態宣言(甲A1の1〔本文編96頁〕,1の2〔本文編191~193,229頁〕,)

被告東電は,平成23年3月11日午後4時36分頃,福島第一原発1号機及び2号機について非常用炉心冷却装置による注水ができなくなって
いる可能性があると考え,原災法15条1項の特定事象(原災法施行規則21条1号ロの非常用炉心冷却装置注水不能)が発生したと判断し,同日午後4時45分頃,保安院に対し,その旨報告した。

保安院は,上記報告を受けて技術的な確認を行い,原災法15条1項に規定する原子力緊急事態に該当すると判断し,保安院次長らは,平成23年3月11日午後5時35分頃,同条2項に基づく原子力緊急事態宣言を発出することにつき,経済産業大臣の了承を得た。経済産業大臣は,同日午後5時42分頃,保安院長らとともに,内閣総理大臣に対し,同条1項に規定する原子力緊急事態の発生について報告するとともに,原子力緊急事態宣言の発出について了承を求めた。

内閣総理大臣は,平成23年3月11日午後7時3分,原災法15条2項に基づき,福島第一原発について,原子力緊急事態宣言を発出し,同法16条1項に基づき,内閣総理大臣を本部長とする原災本部及び原子力災害現地対策本部(福島県災害対策本部)を設置した。



福島県災害対策本部の対応(甲A1の2〔本文編229頁〕)
福島県災害対策本部は,原子力緊急事態宣言を受け,通常の原子力防災訓
練で行うこととなっている原子力発電所から半径2㎞圏内への避難指示の発出を検討し,福島県知事は,平成23年3月11日午後8時50分,大熊町及び双葉町に対し,福島第一原発から半径2㎞圏内の居住者等に対する避難指示を要請した。ただし,この要請は,法令に基づくものではなく,事実上の措置として行われたものである。



避難指示等(本件事故発生から福島第一原発1号機爆発まで)(甲A1の2〔本文編230~232頁〕,丙D共10)

原災本部は,平成23年3月11日午後9時23分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径3㎞圏内の居住者等に対する避難のための立退き及び福島第一原発から半
径10㎞圏内の居住者等に対する屋内退避を指示し,
同日午後9時52分,
官房長官の記者会見が行われた。

原災本部は,福島第一原発1号機及び2号機のベントの実施ができていないこと等が判明したことから,避難範囲を拡大することとし,平成23
年3月12日午前5時44分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径10㎞圏内の居住者等に対する避難のための立退きを指示し,同日午前9時35分,官房長官の記者会見が行われた。

被告東電は,平成23年3月12日午前5時頃から6時頃にかけて,福島第二原発の1号機,2号機及び4号機の各原子炉において圧力抑制機能を喪失する事態が生じたとして,原災法15条1項の特定事象の発生によ
る報告を行った。内閣総理大臣は,同日午前7時45分,原災法15条2項に基づき,福島第二原発について,原子力緊急事態宣言を発出し,同条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発から半径3㎞圏内の居住者等に対する避難のための立退き及び半径10㎞圏内の住民の屋内退避を指示した。



避難指示等
(福島第一原発1号機爆発から平成23年3月14日まで)
(甲
A1の2〔本文編230~233,265頁〕,丙D共11,12)福島第一原発1号機について,平成23年3月11日からベントが試みられていたが,同月12日午後3時36分,1号機の原子炉建屋(R/B)が爆発した。
原災本部は,
避難指示を拡大することとし,
同日午後6時25分,

原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径20㎞圏内の居住者等に対する避難のための立退きを指示した。その後,原災本部は,福島第二原発でも同様の事象が発生した場合に備え,同日午後5時39分,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発から半径10㎞圏内の住民の避難を指示した。



避難指示等(平成23年3月14日以降)(甲A1の1〔本文編266,267頁〕,1の2〔本文編231~233頁〕,丙D共1〔8頁〕,13,14)

福島第一原発においては,平成23年3月14日に3号機の原子炉建屋(R/B)の爆発,同月15日に4号機方向からの衝撃音の発生及び原子炉建屋(R/B)の損傷確認等の事態が生じていた。原災本部は,同日午前11時,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内の居住者等に対する屋内退避を指示した。

南相馬市は,平成23年3月16日,市民の生活の安全確保等を理由として,
独自の判断に基づき,
南相馬市の住民に対し,
一時避難を要請した。


原災本部は,平成23年4月21日,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発に係る避難指示の対象区域を,福島第二原発から半径10㎞圏内から半径8㎞圏内に変更(縮小)することを指示した。これにより,福島第二原発についての避難区域は,全て福島第一原発についての避難指示区域に含まれることとなった。
2
長期的な避難措置等


警戒区域の設定(甲A1の1〔272~275頁〕,乙A73,丙D共15)
原災本部は,平成23年4月21日午前11時,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径20㎞圏
内を警戒区域(原災法28条2項により読み替えて適用される災対法63条1項の規定による警戒区域)に設定し,市町村長が一時的な立入りを認める場合を除き,当該区域への立入りを禁止するとともに当該区域からの退去を命ずることを指示し,同月22日午前零時,福島第一原発から半径20㎞圏内が警戒区域に設定された。



計画的避難区域及び緊急時避難準備区域の設定(甲A1の1〔本文編271~273頁〕,乙A71,73,79,80,丙D共16)
原災本部は,平成23年4月10日,原子力安全委員会に対し,福島第一原発から半径20㎞以遠の地域ではあるが,放射線量の高い区域や,放射線
量は高くないが緊急時に高くなる可能性のある区域における避難等のあり方について助言を求め,原子力安全委員会は,同日,原災本部に対し,福島第一原発から半径20㎞以遠の周辺地域において,ICRPとIAEAの緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値
(年間20ないし100mSv)
を考
慮し,
本件事故から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域とすること,本件事故の状況がまだ安定していないため,
現在屋内退避区域となっている半径20ないし30㎞の区域については,計画的避難区域に該当する区域以外の区域を,緊急時避難準備区域とすることを提案した。当時の官房長官は,同月11日,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域の設定に係る基本的考え方を説明した。
原災本部は,同月22日,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関
係自治体の長に対し,以下のとおりの指示をした。

福島第一原発から半径20㎞から30㎞圏内の地域について,屋内退避指示を解除すること。


葛尾村,浪江町,飯舘村,川俣町の一部及び南相馬市の一部(福島第一原発から半径20㎞圏内の区域を除く。)を計画的避難区域に設定する。当該区域内の居住者等は,原則としておおむね1か月程度の間に順次当該
区域外へ避難のための立退きを行うこと。

広野町,【l2】町,川内村,田村市の一部及び南相馬市の一部(福島第一原発から半径20㎞圏内の区域を除く。)を緊急時避難準備区域に設定する。当該区域内の居住者等は,常に緊急時に避難のための立退き又は
屋内への退避が可能な準備を行うこと。なお,当該区域においては,引続き自主的避難をし,特に子供,妊婦,要介護者,入院患者等は当該区域内に入らないようにすること,
また,
当該区域においては,
保育所,
幼稚園,
小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,
その場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくこと。


特定避難勧奨地点の設定(甲A1の1〔本文編274,275頁〕,乙A72,丙D共19の1~7)
原災本部は,平成23年6月16日,計画的避難区域及び警戒区域の外で
あって,
本件事故発生以降1年間の積算線量が20mSvに達するおそれのある地点を特定避難勧奨地点(居住する住民に対し注意喚起,情報提供,避難支援等を行う地点)とする方針を定めた。福島県現地対策本部は,対象となる市町村と協議した上,同月30日及び同年11月25日に伊達市の一部,同年7月21日及び同年8月3日に南相馬市の一部,同年8月3日に川内村の一部をそれぞれ特定避難勧奨地点に設定した。



避難指示区域等の見直し及び解除等(甲A1の1〔284,285頁〕,1の2〔242~244頁〕,186,丙D共17,21,143)ア
原災本部は,平成23年8月9日,避難区域等の見直しに関する考え方を決定し,見直しのための確認事項として,①原子炉施設の安全性確保,②空間線量率の低下,③公的サービス・インフラ等の復旧が整うことの3点を挙げた。

原災本部は,同年9月30日,上記各解除条件が満たされたと判断し,緊急時避難準備区域を解除した。

原災本部は,平成23年12月26日,福島第二原発について,原子力緊急事態解除宣言を行い,それに伴って,福島第二原発から8㎞圏内に設定された避難指示区域についても解除した。


原災本部は,平成23年12月26日,福島第一原発について,原子炉は安定状態を達成し,本件事故そのものは収束に至ったと判断した。原災本部は,警戒区域及び避難指示区域の設定を見直すこととし,平成24年3月30日,
年間積算線量が20mSvとなることが確実であると確認された

地域を避難指示解除準備区域,年間積算線量が20mSvを超える恐れがあり,住民の被ばくを低減する観点から引き続き避難を求める地域を居住制限区域,さらに居住制限区域のうち,5年間を経過してもなお,年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある地域
(同日時点で年間積算
線量が50mSvの地域)を帰還困難区域として設定することとした。これにより,川内村,田村市及び南相馬市について,警戒区域が解除され,避難指示区域について上記各区域の設定がされた。

第5

関連法令等

1
総論
我が国の原子力安全に関する法体系は,最も上位にあって我が国の原子力利用に関する基本的理念を定義する原子力基本法の下,原子力安全規制に関する法律として,炉規法,電気事業法,放射性同位元素等による放射線障害の防止
に関する法律等が整備されている。
また,
原子力防災体制に関する法律として,
原災法等の原子力の安全を確保するために必要な法律が整備されている。法律以外にも,原子力委員会又は原子力安全委員会が安全審査を行う際に用いるために策定された各種指針類があり,規制行政庁の安全審査において用いられていた。

以下,特に記載のない限り,各法令等は本件事故当時のものを指す。2
原子力基本法


1条(目的)は,この法律は,原子力の研究,開発及び利用を推進することによって,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与すること
を目的とする旨定める。


2条(基本方針)は,原子力の研究,開発及び利用は,平和の目的に限り,安全の確保を旨として,
民主的な運営の下に,
自主的にこれを行うものとし,
その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする旨定める。
3
炉規法


炉規法(本件事故当時のもの)

1条(目的)は,この法律は,原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する
必要な規制を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制等を行うことを目的とする旨定める。

23条(設置の許可)1項は,原子炉を設置しようとする者は,原子炉の区分に応じ,政令で定めるところにより,同項各号に掲げる大臣の許可
を受けなければならないとしており,福島第一原発に設置されている原子炉のような,発電の用に供する原子炉(実用発電用原子炉)については,上記大臣は経済産業大臣とされていた(1号)。

24条(設置許可の基準)1項は,主務大臣(実用発電用原子炉の場合は経済産業大臣を指す。以下同じ。)は,同法23条1項の許可の申請があった場合,その申請が,原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと(24条1項1号),その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと(同2号),その者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,
かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること(同3号),原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること(同4号)の各号に適合していると認めるときでなければ,許可をしてはならない旨定める。

また,同条2項は,主務大臣は,23条1項の許可をする場合においては,あらかじめ,24条1項1号,2号及び3号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会,同3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号に規定する基準の適用については原子力安全委員会の意見を聴かなければならない旨定める。

36条(施設の使用の停止等)1項は,主務大臣は,原子炉施設の性能が29条2項の技術上の基準に適合していないと認めるとき等には,原子
炉設置者に対し,原子炉施設の使用の停止,改造,修理又は移転,原子炉運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる旨定める。

73条(炉規法の一部適用除外)は,電気事業法及び同法に基づく命令の規定による検査を受けるべき原子炉施設であって,実用発電用原子炉に
ついては,炉規法27条から29条までの規定は適用しない旨定める。⑵

改正後炉規法

改正後炉規法1条は,炉規法1条で核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止しと規定していた部分につき,原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されること等の災害を防止することその他の核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止しと改めた。イ
改正後炉規法は,発電用原子炉の設置許可の基準を43条の3の6第1項において定めており,同項3号は,発電用原子炉を設置しようとする者について,重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規
制委員会規則で定める重大な事故をいう。)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があることを挙げている。
4
電気事業法
電気事業法は,我が国の電気事業を包括的に規制する法律であり,実用発電用原子炉に対しても適用される。


1条(目的)は,この法律は,電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによって,電気の使用者の利益を保護し,及び電気事業の健全な発達を図るとともに,
電気工作物の工事,
維持及び運用を規制することによって,
公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ることを目的とする旨定める。


39条(事業用電気工作物の維持)1項は,事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない旨定める。
同条2項は,1項の経済産業省令は,事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること(同1号),事業用電気工作物は,他の電気的設備その他の物件の機能に電気的又は磁気的な障害を
与えないようにすること(同2号),事業用電気工作物の損壊により一般電気事業者の電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすること
(同3号)

事業用電気工作物が一般電気事業の用に供される場合にあっては,その事業用電気工作物の損壊によりその一般電気事業に係る電気の供給に著しい支障を生じないようにすること(同4号)の各号に掲げるところによらなければ
ならない旨定める。
なお,福島第一原発に設置されている原子炉は,事業用電気工作物に当たり
(2条1項16号参照)39条1項の

経済産業省令で定める技術基準
として省令62号が定められている。


40条(技術基準適合命令)は,経済産業大臣は,事業用電気工作物が39条1項の経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる旨定める。
5
省令62号(乙A5の2)
省令62号は,電気事業法39条1項による委任に基づき定められた,発電用原子力設備に関する技術基準に関する省令である。


4条(防護措置等)1項は,原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震を除く。)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,
防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない旨定める。


8条の2(安全設備)第1項は,2条8号ハ及びホに掲げる安全設備は,当該安全設備を構成する機械器具の単一故障(単一の原因によって一つの機械器具が所定の安全機能を失うことをいう。以下同じ。)が生じた場合であ
って,外部電源が利用できない場合においても機能できるように,構成する機械器具の機能,構造及び動作原理を考慮して,多重性又は多様性,及び独立性を有するように施設しなければならない旨定める。
同条2項は,安全設備は,想定されているすべての環境条件においてその機能が発揮できるように施設しなければならない旨定める。



16条(循環装置等)柱書きは,原子力発電所には,同条各号に掲げる設備を施設しなければならない旨定め,同条5号は,

原子炉停止時(短時間の全交流動力電源喪失時を含む。)に原子炉圧力容器内において発生した残留熱を除去することができる設備

を掲げる。


33条(保安電源設備)5項は,原子力発電所には,短時間の全交流動力電源喪失時においても原子炉を完全に停止し,かつ,停止後に冷却するための設備が動作することができるよう必要な容量を有する蓄電池等を施設しなければならない旨定める。

6
平成13年安全設計審査指針(甲A1の1〔本文編367頁〕,乙A7)安全設計審査指針は,発電用軽水型原子炉の設置許可申請に係る安全審査において,安全確保の観点から設計の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として定められたものである。
平成13年安全設計審査指針は,原子炉施設全般の指針として指針1ないし10を定め,安全機能を有する構築物系統及び機器の個別の系列ごとにさらに指針11ないし59を定める。


指針2(自然現象に対する設計上の考慮)の1項は,安全機能を有する構築物,系統及び機器は,その安全機能の重要度及び地震によって機能の喪失を起こした場合の安全上の影響を考慮して,耐震設計上の区分がなされるとともに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられる設計であることと定める。
同2項は,安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定さ
れる自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること,重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も過酷と考えられる条件,又は自然力に事故過重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であることと定める。


指針9(信頼性に関する設計上の考慮)の2項は,重要度の特に高い安全機能を有する系統については,その構造,動作原理,果たすべき安全機能の性質等を考慮して,多重性又は多様性及び独立性を備えた設計であることと定める。
同3項は,同2項の系統は,その系統を構成する機器の単一故障の仮定に加え,外部電源が利用できない場合においても,その系統の安全機能が達成
できる設計であることと定める。


原子炉冷却系に係る指針27(電源喪失に対する設計上の考慮)は,原子炉施設は,短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であることと定める。

なお,安全設計審査指針の解説によれば,指針27について,長期間にわたる全交流動力電源喪失は,送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はないとされている。


原子炉格納容器熱除去系に係る指針33
(格納施設雰囲気を制御する系統)
の3項は,格納施設雰囲気を制御する系統は,その系統を構成する機器の単一故障の仮定に加え,外部電源が利用できない場合においても,その系統の安全機能が達成できるように,多重性又は多様性及び独立性を備え,かつ,
試験可能性を備えた設定であることと定める。


計測制御系及び電気系統に係る指針48(電気系統)の3項は,非常用所内電源系は,多重性又は多様性及び独立性を有し,その系統を構成する機器の単一故障を仮定しても次の各号に掲げる事項を確実に行うのに十分な容量及び機能を有する設計であることと定め,1号として,運転時の異常の過渡
変化時において,燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えることなく原子炉を停止し,冷却すること,2号として,原子炉冷却材喪失等の事故時の炉心冷却を行い,かつ,原子炉格納容器の健全性並びにその他の所要の系統及び機器の安全機能を確保することを掲げる。なお,原子炉冷却材圧力バウンダリとは,原子炉の通常運転時に,原子炉
冷却材(PWRにおいては1次冷却材)を内包して原子炉と同じ圧力条件となり,異常状態において圧力障壁を形成するものであって,それが破壊すると原子炉冷却材喪失となる範囲の施設をいう。
7
原賠法


1条(目的)は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする旨定める。



2条(定義)2項は,原賠法における原子力損害とは,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作
用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう旨定める。
また,同3項によれば,原子力事業者には,炉規法23条1項の許可を受けた者が含まれる(同1号)。


3条(無過失責任,責任の集中等)1項は,原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる旨定める。

また,4条1項は,3条の場合においては,同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は,その損害を賠償する責めに任じない旨定める。
8
原災法
原災法は,原子力災害の特殊性にかんがみ,原子力災害の予防に関する原子
力事業者の義務等,原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実施その他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより,炉規法,災対法その他原子力災害の防止に関する法律と相まって,原子力災害に対する対策の強化を図り,もって原子力災害から国民の生命,
身体及び財産を保護することを目的とするものである
(1条)


原災法は,原子力緊急事態(原子力事業者の原子炉の運転等により放射性物質又は放射線が異常な水準で当該原子力事業者の原子力事業所外へ放出された事態,2条2号)が発生した場合における,内閣総理大臣による原子力緊急事態宣言(15条2項),内閣府における原子力災害対策本部(16条1項)及び当該原子力緊急事態宣言に係る緊急事態応急対策実施区域を管轄する都道府
県知事等による災害対策本部の設置(22条),避難の勧告又は指示等に関する緊急時応急対策(26条)等について定めている。
第6
1
安全審査に関する各種指針
指針の位置付け等(甲A1の1〔本文編365,368頁〕,甲A8,乙A12,20)
本件事故当時,我が国の発電用原子炉施設は経済産業大臣が所管しており,その安全規制は,経済産業省資源エネルギー庁の特別の機関として,発電用原子炉施設の安全確保等のために設置された保安院が行っていた。保安院は,同施設の設置・変更許可の段階において,
一次的な安全審査
(一次審査)
を行い,
内閣府に設置された原子力安全委員会は,上記一次審査の結果について,独自の観点から科学技術的知見を踏まえた安全審査(二次審査)を行っていた(炉
規法24条参照)。この二次審査の合理性,客観性,透明性を高めるために安全審査を行う上での視点,考え方を示しているのが安全審査指針であるが,保安院が一次審査を行う際にも,これらの指針への適合性が審査されている。これら指針類のうち主なものは,以下のとおりである。


立地に関する指針
原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやす



設計に関する指針
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針
発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針



安全評価に関する指針
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針



線量目標値に関する指針
発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針

2
原子炉立地審査指針(乙A13)
原子炉立地審査指針は,陸上に定置する原子炉の設置に先だって行う安全審査の際,万一の事故に関連してその立地条件の適否を判断するために,昭和39年5月27日に定められた指針であり,その後一部改正も行われたが,基本的な考え方に変更はない。

原子炉立地審査指針における基本的な考え方として,原子炉は,どこに設置されるにしても,事故を起こさないように設計,建設,運転及び保守を行わなければならないことは当然のことであるが,なお万一の事故に備えて,公衆の安全を確保するための原則的な立地条件として,①大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないこと,また,災害を拡大するような事象も少ないこと,②原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること,
③原子炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じ得る環境にあることを挙げる。
また,
基本的目標として,
a敷地周辺の事象,
原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,技術的見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故(重大事故)の発生を仮定しても,周辺の公衆に放射線障害を与えないこと,bさらに,重大事故を超えるよ
うな技術的見地からは起こるとは考えられない事故(仮想事故)(例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し,それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと,cなお,仮想事故の場合にも,国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいことを挙げる。
3
安全設計審査指針(乙A7,9,14)


安全設計審査指針は,発電用軽水型原子炉の設置及び変更許可申請に係る安全審査において,安全性確保の観点から設計の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として,昭和45年4月に定められた指針である。
原子力委員会(当時)は,昭和52年6月に安全設計審査指針の全面改訂を行ったが,その後,軽水炉の技術の改良及び進歩には著しいものがあり,スリーマイルアイランド原子力発電所事故等の様々な事象から得られた教訓も含めた経験の蓄積もあったことから,それらを踏まえ,平成2年8月30日付け原子力安全委員会決定により,安全設計審査指針の全面改訂がされ,
平成13年3月29日に一部改訂が行われた
(平成13年安全設計審査指針)

なお,安全設計審査指針の改定とともに,原子炉施設の各種構築物,系統及び機器の安全機能の重要度についての判断目安及び安全設計審査指針の運用方法について発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針が定められた。⑵

本件事故当時の安全設計審査指針(平成13年安全設計審査指針)の概要は,前記第5の6のとおりである。

4
耐震設計審査指針(甲A1の1〔384頁〕,8,9,乙A8の1・2)⑴

耐震設計審査指針は,昭和56年7月20日,発電用原子炉施設の耐震設計に関する安全審査を行うにあたって,その設計方針の妥当性を評価するために定められた指針であり,施設の耐震設計上の重要度を,地震により発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点からA(平成18年耐震
設計審査指針においてはS),B,Cの各クラスに分類し,それに応じた耐震設計に関する基本的な方針を定めている。
耐震設計審査指針は,平成13年3月に一部改正されたが,原子力安全委員会は,策定以降の地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに発電用軽水型原子炉施設の耐震設計技術の著しい改良及び進歩を反映して見直
しを行い,平成18年9月19日付け決定により,耐震設計審査指針を全面的に改訂した(平成18年耐震設計審査指針)。


平成18年耐震設計審査指針

平成18年耐震設計審査指針は,基本方針として,①耐震設計上重要な施設は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない,②施設は,地震により発生する可能性のあ
る環境への放射線による影響の観点からなされる耐震設計上の区分ごとに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられるように設計されなければならない,③建物・構築物は,十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならないと定めている。同指針の解説には,地震学的見地からは,上記想定を前提に策定された基準地震動を上回る強さの地震が生起する可能性が否定できないことから,耐震設計上の地震動の策定において残余のリスク(策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことによ
り,施設に重大な損傷事象が発生すること,施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること,あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク)の存在を十分認識しつつ,それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきであるとされている。


また,平成18年耐震設計審査指針は,8地震随伴現象に対する考慮として,①施設の周辺斜面で地震時に想定しうる崩壊等によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと,②施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと
を十分考慮した上で設計されなければならないと定めている。
上記規定は,
発電用原子炉施設の設計にあたり,初めて,必ず津波の影響を考慮するものとして定められた規定であった。
第7

関係機関等(甲A1の1〔本文編368,375,376頁〕,B42,52,53,乙A52,B100,219の3〔資料7〕,丙B10〔資料7〕,
弁論の全趣旨)
1
原子力委員会・原子力安全委員会


原子力委員会
原子力委員会は,昭和31年1月1日,我が国の原子力の研究,開発及び
利用に関する国の施策を計画的に実行し,原子力行政の民主的な運営を図るため,総理府(平成13年1月6日の中央省庁改革後は内閣府)に設置された機関である。
原子力委員会は,原子力利用に関する政策に関すること,関係行政機関の原子力利用に関する事務の調整に関すること,関係行政機関の原子力利用に関する経費の見積り及び配分計画に関すること,核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること,原子力利用に関する試験及び研究の助成に関するこ
と,原子力利用に関する研究者及び技術者の養成及び訓練に関すること,原子力利用に関する資料の収集,統計の作成及び調査に関すること,その他原子力利用に関する重要な事項に関することについて企画し,審議し,決定することを所掌していた(平成24年法律第47号による改正前の原子力委員会及び原子力安全委員会設置法2条)。



原子力安全委員会
原子力安全委員会は,昭和53年10月4日,原子力の安全確保体制を強化するため,原子力委員会に属していた安全規制機能を移行して設置された機関である。
原子力安全委員会は,原子力利用に関する政策のうち安全の確保のための
規制に関する政策に関すること,核燃料物質及び原子炉に関する規制のうち安全の確保のための規制に関すること,原子力利用に伴う障害防止の基本に関すること,放射性降下物による障害の防止に関する対策の基本に関すること,その他原子力利用に関する重要事項のうち安全の確保のための規制に係るものに関することについて企画し,審議し,及び決定することを所掌して
いる(平成24年法律第47号による改正前の原子力委員会及び原子力安全委員会設置法13条1項)。
なお,原子力安全委員会は,原子力規制委員会が新たに設置されたことにより,平成24年9月19日をもって廃止された。
2
保安院
保安院は,平成13年1月6日の中央省庁改革時,経済産業省資源エネルギー庁の特別の機関として原子力エネルギーに係る安全の確保等のために設置された機関である。保安院は,炉規法に基づく設置許可や電気事業法に基づく工事計画の認可,使用前検査などの経済産業大臣の規制活動を,同大臣の付託を受けて,独立して意思決定を行うか,又は同大臣に対して意思決定の案を諮ることができることになっていた。また,保安院の技術支援機関として,JNE
Sがあり,法律に基づく原子力施設の検査を保安院と分担して行うほか,原子力施設の安全審査や安全規制基準の整備に関する技術支援を行っていた。なお,
原子力規制委員会の発足により保安院は廃止されJNESも解散して,その業務を原子力規制委員会に引き継いだ。
3
原子力規制委員会
原子力規制委員会は,平成24年9月19日,環境省の外局として設置された機関であり,従前の原子力安全委員会及び保安院の事務のほか,文部科学省及び国土交通省の掌握する原子力安全の規制,核不拡散のための保障措置等に関する事務を一元的に処理するものとして設置された機関である。原子力規制委員会の事務局として,原子力規制庁が置かれている。

4
中央防災会議
中央防災会議は,災対法11条1項に基づき,内閣府に設置された機関であり,防災基本計画を作成し,及びその実施を推進すること(同条2項1号)や内閣総理大臣の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること(同3号)などの事務等を目的としている。

5
推進本部


平成7年1月に発生した阪神淡路大震災を契機として,地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)が制定され,同法7条に基づき,文部科学省(平成11年法律102号による改正前は総理府)に推進本部が設置さ
れた。推進本部は,地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な政策を立案すること(同法7条2項1号)等を目的としており,そのうち,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うために地震調査委員会が置かれている。
推進本部は,同法7条2項1号に掲げる事務を行うに当っては,中央防災会議の意見を聴かなければならないとされている(同条3項)。



推進本部は,国民や防災関係機関等による地震被害軽減のための具体的な対策や行動に結び付く情報を提供するため,当面推進すべき地震調査研究として活断層調査,地震の発生可能性の長期評価,強震動予測等を統合した地震動予測地図の作成を挙げ,地震調査委員会に長期評価部会を設置し,海溝型地震については,海溝型分科会において順次評価を行っていくことと
した。推進本部は,平成14年12月までに,主要98断層帯のうち25地域27断層帯,海溝型地震のうち南海トラフの地震等についての評価をまとめて公表している。平成14年7月に公表された三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について(長期評価)
は,
上記の一環として作成,
公表されたものである。

6
土木学会
土木学会は,大正3年に社団法人として設立され,土木工事の進歩及び土木
事業の発達並びに土木技術者の資質の向上を図り,もって学術文化の進展と社会の発展に寄与することを目的とする組織である。土木学会は,教育,研究機関のみならず,建設業,コンサルタント,官庁など多岐にわたる職場に属する会員により構成されており,原子力土木委員会などが置かれ,同委員会の下に津波評価部会などが置かれている。
第8

知見及びその発展

1
過去の原子力発電所事故に関する知見


米国のスリーマイルアイランド原子力発電所事故
(甲A5
〔56~61頁〕

B12の1〔34頁〕)
昭和54年(1979年)3月28日,米国ペンシルバニア州スリーマイルアイランド上の原子力発電所2号炉(PWR)が,給水喪失という事象から炉心損傷にまで至った。事故の重大さを0から7の8段階にレベル分けした国際原子力事象評価尺度(INES)のレベルは5(広範囲な影響を伴う事故)とされた。この事故における核燃料の損傷により,放射性物質が一次
冷却水中に漏出され,環境へ放出された。


旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故(甲D共43,丙D2の1〔39頁〕,弁論の全趣旨)
昭和61年(1986年)4月26日,当時のソビエト連邦ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所4号炉において,原子炉出力が異常に上
昇し,燃料の過熱,激しい蒸気の発生,圧力管の破壊,原子炉と建屋の構造物の一部破損,燃料及び黒鉛ブロックの一部飛散,火災に進み,放射性物質がウクライナ,ベラルーシ,ロシア等へ飛散し,半径30㎞圏内の住民約13万5000人が避難した。
INESのレベルは7
(深刻な事故)
とされた。
チェルノブイリ原子力発電所事故による放射性物質の放出量は本件事故の約
7倍であり,本件事故と比して広範囲に放出された。


フランスのルブレイエ原子力発電所事故(甲A201,B12の1〔13頁〕,88)
フランスのルブレイエ原子力発電所において,平成11年12月27日,強い低気圧と非常に強い突風が潮汐と重なって,ジロンド河口に波が押し寄
せ,風による大きなうねり波が既存の堤防内に氾濫し,原子力発電所の一部が浸水して電源が喪失したが,過酷事故には至らなかった。INESのレベルは2(異常事象)とされた。

台湾の馬鞍山原子力発電所事故(甲A202,B12の1〔14頁〕,丙A2の1〔37頁〕)
台湾の馬鞍山原子力発電所において,平成13年3月,季節性の塩霧害の影響により送電線にトラブルが発生して外部電源が喪失し,さらに所内の安全交流電源系統が故障し,予備のディーゼル発電機による給電も不能となる全電源喪失事故が発生した。しかし,現場の作業員の速やかな処理により,放射性物質が漏れることはなかった。


インドのマドラス原子力発電所の津波による電源喪失事故(甲B12の1〔14頁〕,乙B15,23の1,丙A2の1〔37頁〕)
インドのマドラス原子力発電所において,平成16年12月に発生したスマトラ島沖地震に伴う津波により,取水トンネルを通って海水がポンプハウスに入り,必須プロセス海水ポンプ(我が国における原子炉補機冷却海水設備に相当)のモーターが水没して運転不能となった。ただし,それ以外にプ
ラント被害がなく,INESのレベルは0(安全上重要でない事象)であった。
2
地震に関する基本的な知見(甲B10〔別添2頁〕,乙B1,2,40〔5頁〕,弁論の全趣旨)



地震の定義等
地球の表面は,十数枚の巨大な板状の岩盤(プレート)で覆われており,それぞれが別方向に年間数㎝の速度で移動している(プレート運動)。プレート境界付近の地下の岩盤には,プレート運動により大きな力が加わり,長い年月の間に巨大なエネルギーがひずみとして蓄えられる。地震とは,その
ひずみにより,岩盤(プレート)が耐えきれなくなったときに起こる破壊現象のことをいう。
震源とは,上記の破壊が最初に発生した地点をいい,震央とは,地下の震源を真上の地表へ投影した位置のことをいう。震源で発生した破壊は周囲へと伝わり,ある範囲で止まるが,破壊が及んだ震源断層を含む破壊が広がっ
た領域のことを震源域という。
震度とは,ある地点で観測された揺れの大きさをいう。
マグニチュード(M)とは,震源域で生じた断層運動そのものの大きさを表す尺度をいい,
地下でずれた断層面の大きさと,
ずれの量によって決まる。
断層面から放出される地震のエネルギーは,マグニチュードが1大きいと約32倍,2大きいと約1000倍の違いが生ずる。マグニチュードは基本的に地震計の記録から求められるが,津波の大きさから求められる津波マグニ
チュード(Mt)や,断層面の面積とずれの量などから求められるモーメントマグニチュード(Mw)が利用されることもある。
震源断層の形状や生成過程についてのモデルのことを断層モデルという。断層モデルは,発震機構,地震波の解析,地殻変動,余震の分布などの資料から推定される断層運動に関連する諸要素(断層パラメータ。断層の走向,
傾斜角,断層のすべり方向,面積〔長さと幅〕,食い違い量〔すべり量〕,ライズタイム〔食い違いの形成時間〕,食い違い速度〔すべり速度〕,破壊速度,地震モーメント,応力効果量〔ストレスドロップ〕など)を総合してつくられる。


日本列島やその周辺で発生する地震
日本列島やその周辺で発生する地震は,大きく分けて,プレート境界付近で発生する地震(プレート間地震,沈み込むプレート内の地震)と陸のプレートの浅い部分で起こる地震とに分けられる。

プレート境界付近で発生する地震
日本列島の太平洋側の日本海溝では,海のプレートが陸のプレートの下に沈み込み,陸のプレートの先端部も常に内陸側に引きずり込まれている。この状態が進行し,蓄えられたひずみがある限界を超えると,陸のプレートと海のプレートとの間で断層運動が生じ,陸のプレートの先端が跳ね上がることによって地震が発生する。これをプレート間地震という。
また,海のプレート内部に蓄積されたひずみにより,プレート内部で大規模な断層運動が生じて地震が発生することもある。これを沈み込むプレート内の地震という。
なお,海溝やトラフ(海溝より浅くて幅の広い,比較的緩やかな斜面を持つ改定の凹地のこと)のプレート境界やその付近で発生する地震のことを海溝型地震と称する。

陸のプレートの浅い部分で起こる地震
プレート運動による間接的なひずみが岩盤に蓄積され,地下数㎞から20㎞程度までの浅い部分で断層運動が起こることにより発生する地震を陸のプレートの浅い部分で起こる地震という。なお,同地震は,地殻内地震といわれることもある。


プレート・テクトニクス説(論)
地球の表面近くで起こる様々な地学的な現象をプレート運動で説明する学説をいう。

3
津波に関する基本的な知見(甲B10〔別添2頁〕,乙B2,弁論の全趣旨)⑴

津波の発生
地震等による地殻変動により,海底が急激に隆起又は沈降すると,その上
にある海水も同じだけ上下に移動する。この海水を海水の重力により復元しようとする動きが津波である。


津波の大きさ
津波は,海底の隆起又は沈降により,その海域の海水が持ち上げられたり
沈み込んだりすることによって発生するため,津波の高さは,海底の隆起・沈降の大きさによって決まる。そして,地震は,岩盤がずれ動くことで起こるが,このずれ動く長さ,すなわちすべり量が大きいほど,海底の隆起・沈降も大きくなりやすい。したがって,このすべり量が大きければ津波も大きくなるという関係に立つ。

なお,津波が陸地の沿岸部に到達したときの波高は,地震の規模だけではなく,海底地形や海岸線の形に大きく影響を受ける。


津波の高さ,浸水高及び遡上高
津波の高さ(津波高,波高)とは,平均潮位(津波がない場合の潮位)から津波によって海面が上昇した高さの差のことをいう。
浸水高(痕跡高)とは,浸水の高さ,すなわち建物や設備に残された変色部や漂着物等の痕跡の基準面からの高さのことをいう。

遡上高とは,津波が内陸へ駆け上がった結果,斜面や路面上に残された変色部や漂着物等の痕跡の基準面からの高さのことをいう。


津波地震
津波地震とは,断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模の大きくなるような地震のことをいう。なお,
長期評価では,津波マグニチュードがマグニチュードと比べて0.5以上大きいか,津波による顕著な災害が記録されているにもかかわらず,顕著な震害が記録されていないものを津波地震として扱っている。
4
放射線に関する基本的な知見


放射線の種類と性質(甲A28〔30,32頁〕,29〔30頁〕,乙A16〔62~64頁〕,D共1の1〔2,20頁〕,18〔24,25頁〕43〔17,18頁〕,45〔9,10頁〕)

原子核の崩壊や核分裂反応のときに放出される粒子や電磁波のことを放射線という(放射線は電離放射線と非電離放射線に分けられるが,以下,
単に放射線というときには,電離放射線のことを指す。)。
放射線を発生する能力のことを放射能といい,放射能を有する物質のことを放射性物質という。放射線には,以下のとおり,アルファ線,ベータ線,ガンマ線,中性子線等がある。
アルファ(α)線は,陽子2個と中性子2個とが結びついたアルファ粒子の流れであり,プラスの電気を帯びている。ベータ(β)線は,原子核から高速で飛び出す電子の流れであり,マイナスの電気を帯びている。
ガンマ(γ)線は,原子核からアルファ粒子やベータ粒子が飛び出した直後などに,
余ったエネルギーが電磁波
(光子)
の形で放出されるもので,
光子の流れである。電磁波は電波や光やガンマ線等の総称である。エックス(x)線は,原子から放出される電磁波であり,一般にガンマ線に比べ
エネルギーは小さくなるが,ガンマ線と同じような性質を持っている。ガンマ線やエックス線は電気を帯びていないため,強い透過力(物質を通り抜ける力)を有する。
中性子線は,核分裂等に伴い放出される中性子の流れであって,電気的に中性であり,強い透過力を有する。


上記のとおり,放射線には複数の種類があるが,その透過力には差がある。
アルファ線は,
透過力が極めて小さく,
紙によって遮ることができる。
ベータ線は,アルファ線より透過力が大きいが,薄いアルミニウムや木材で遮ることができる。ガンマ線及びエックス線は,強い透過力があるが,鉛や厚い鉄の板によって遮ることができる。中性子線は,ガンマ線やエッ
クス線に比べて透過力が強く,水やコンクリートによって遮ることができる。


放射線の量を表す単位(甲A28〔38頁〕,乙A16〔64頁〕,D共1の1〔1,3,35~40頁〕,D共3の1〔1,3,35~40頁〕,1
8〔29頁〕,42〔31,32頁〕〕)

放射線に関する単位としては,以下のとおり,ベクレル(Bq),グレイ(Gy),シーベルト(Sv)等がある。
ベクレル(Bq)は,放射能の強さを表す単位であり,1秒間に原子核が崩壊する数を表す単位である。

グレイ(Gy)は,放射線のエネルギーがどれだけ物質(人体を含む全ての物質)に吸収されたかを表す単位(吸収線量の単位)である。1Gyは,1㎏当たり1ジュール
(J)
のエネルギーが吸収されることを表している。
シーベルト(Sv)は,放射線の生物学的影響を示す単位(等価線量や実行線量の単位)であり,1Gyのガンマ線によって人体の組織に生じるのと同じ生物学的影響を組織に与える放射線の量を1Sv(1Sv=1000mSv。なお,1mSv=1000µSvである。)とする。


等価線量とは,放射線の種類ごとに影響の大きさに応じた重み付けをした線量のことをいう。
実効線量とは,放射線防護における被ばく管理のために考案されたものであり,等価線量に対して,臓器や組織ごとの感受性の違いによる重み付けをして,それらを合計することで全身への影響を表す。実効線量は,人
体の臓器や組織の線量から計算される量であり,測定器を使って直接測定することができないため,被ばく管理に当たっては,実際に測定できる量(実用量)として周辺線量当量(空間線量)と個人線量当量が用いられている。
周辺線量当量とは,
環境モニタリングにおいて用いられる値であり,
サーベイメーター等により測定することができる。個人線量当量は,個人
モニタリングにおいて用いられる値であり,個人線量計等で測定することができる。


外部被ばくと内部被ばく
(乙D共1の1
〔4,
23~27頁〕3の1

〔4,
23~27頁〕,18〔27頁〕,丙D共33〔4頁〕)

放射性物質から放射線を受けることを放射線被ばくという(なお,国際的に合意された低線量の定義はないが,
最近では200mSv以下の被ばくを
低線量被ばくということが多い。)。
外部被ばくとは,体外にある放射性物質や放射線発生装置から発生した放射線による被ばくや体表面に付着した放射性物質による被ばくのことをいう。
内部被ばくとは,体内に取り込んだ放射性物質から放出される放射線による被ばくのことをいう。内部被ばくの経路には,吸入摂取,経口摂取,経皮吸収及び創傷侵入の経路がある。吸入摂取とは,気体状の放射性物質や放射性の微粒子を呼吸によって吸い込む場合であり,経口摂取とは,放射性物質を含有又は付着した食物を飲食することによって一緒に取り込まれる場合であり,経皮吸収とは,皮膚からの吸収がされる場合であり,創傷侵入とは,傷口からの吸収がされる場合である。



日常生活と放射線(甲A28〔41,43頁〕,乙A16〔64頁〕,丙D共42〔2~9頁〕,44〔15~24頁〕)
放射線や放射性物質は,もともと自然界に存在しているものであり,人間は放射線や放射性物質の中で生活している。地殻を構成している岩石や土砂等の中には,ウラン系列,トリウム系列,カリウム等の放射性物質が含まれ
ている。また,ウラン系列,トリウム系列から生じたラドンは気体状の放射性物質であり,空気中に混じっており,呼吸することによって体内に取り込まれ,体内で放射線を出す。さらに,太陽や銀河の恒星から飛来した宇宙線と呼ばれる放射線も地表に降り注いでいる。
世界全体でみると,
1人当たり平均して年間約2.
4mSvの放射線を自然界

から受けており,
その内訳は,
宇宙線として飛来してくるものが0.
39mSv,
土壌から放出されるものが0.
48mSv,
日常摂取する食物を通じて体内で照
射されるものが0.29mSv,空気中のラドン等の吸入によるものが1.26mSvである。
なお,
地質等により場所ごとの自然放射性核種濃度が異なるため,
自然界からの放射線量は場所によりその大きさが異なる。

また,日本では,自然放射線のほかに,放射線を利用した医療診断によって,国民一人当たり平均で年間2.25mSvの線量を受けている。⑸

放射線の影響(丙D共42〔31,32頁〕,44〔31~37頁〕)ア
身体的影響と遺伝的影響
身体的影響とは,放射線を受けた者の人体に出る影響であり,遺伝的影響とは,精子や卵子あるいはそのもとになる生殖細胞に影響を与えて次の世代に影響を及ぼす影響である。

急性障害と晩発障害
身体的影響には,急性障害(急性影響)と晩発障害(晩性影響)がある。
急性障害とは,
被ばく総量1000mSvを超える大量の放射線を一度に受け
た場合に,
数日から数か月以内に症状が現れるもので,
皮膚や粘膜の紅斑,

脱毛,嘔吐,下痢,貧血や免疫力の低下,生殖能力の低下などが知られている。晩発障害とは,被ばく後数年から数十年後に症状が現れるもので,被ばくが200mSv以下の場合に問題となる。症状としては,白内障,白血病(血液のがん)やその他のがんがある。

確定的影響と確率的影響
確定的影響とは,ある線量以上になると影響が出る現象をいい,多量の細胞が放射線によって損傷を受けた場合に起き,
脱毛,
生殖機能への影響,
白内障などの障害を生ずる。確定的影響では,受ける線量が多くなるにしたがって症状が重くなる。
確率的影響とは,必ず影響が出るというものではなく,受ける線量が多
くなるほど影響の出る確率が高まる場合をいう。
放射線による影響のうち,
がんと遺伝的障害がこれに当たる。確率的影響は,確定的影響と異なり,線量が多いからといって症状が重くなるというものではない。
第9
1
シビアアクシデント対策の概要
シビアアクシデント(過酷事故,SA)(甲A1の1〔本文編407,408頁〕,6〔29頁〕)
原子炉施設には,起こり得ると思われる異常や事故に対して,設計上何段階もの対策が講じられている。この設計上の妥当性を評価するために,いくつかの設計基準事象という事象の発生を想定して安全評価を行う。設計
基準事象とは,実際に起こり得る様々な異常や事故について,放射性物質の潜在的危険性や発生頻度などを考慮し,大きな影響が発生するような代表的事象であり,さらに,評価上はこの設計基準事象に対処する機器につき敢えて故障を想定するなどの厳しい評価を行っている(このような評価手法は,評価に当たって想定した事象の起こりやすさにかかわらず,その事象の発生を想定して安全評価を行うことから,決定論的安全評価といわれる。)。シビアアクシデントとは,このような安全評価において想定している設計
基準事象を大幅に超える事象であって,炉心が重大な損傷を受ける事象のことをいう。
2
シビアアクシデント対策(アクシデントマネジメント,AM)(甲A1の1〔408,410頁〕,6〔29,30頁〕)
シビアアクシデント対策(アクシデントマネジメント)とは,シビアアク
シデントに至るおそれのある事態が発生した場合であっても,現在の設計に含まれる安全余裕や本来の機能以外にも期待し得る機能,若しくはその事態に備えて新規に設置した機器を有効に活用することによって,その事態がシビアアクシデントに拡大するのを防止するための措置(フェーズⅠ),又はシビアアクシデントに至った場合に周辺環境への影響を緩和するための措置
(フェーズⅡ)をいう(手順書の整備及び実施体制や教育・訓練等の整備を含む。)。フェーズⅠの措置は,炉心冷却等の安全機能を回復させる操作から構成され,例えば,非常用炉心冷却系(ECCS)の手動起動や原子炉スクラム失敗事象に対するほう酸水注入系の起動等である。フェーズⅡの措置は,フィルター付き格納容器ベント設備や格納容器内注水設備等である。
シビアアクシデント対策の対象として取り上げられるものの一つに全交流電源喪失事象(SBO)がある。SBOとは,全ての外部交流電源及び所内非常用交流電源からの電力の供給が喪失した状態をいう。
3
確率論的安全評価(PSA,米国ではPRA〔ProbabilisticSafetyAssessment,確率論的リスク評価〕といわれている。)(甲A1の1〔409,
410頁〕,6〔30頁〕,乙A59〔31頁〕,弁論の全趣旨)確率論的安全評価とは,原子炉施設の異常や事故の発端となる事象(起因事象)の発生頻度,発生した事象の及ぼす影響を緩和する安全機能の喪失確率及び発生した事象の進展・影響の度合いを定量的に分析することにより,原子炉施設の安全性を総合的,定量的に評価する手法である。確率論的安全評価は,シビアアクシデントのように,発生確率が極めて小さく,事象の進展の可能性
が広範・多岐にわたるような事象に関する検討を行う上で有用とされるが,事象の偶然性や知識の不確かなことから,結果に不確実さが存在する。4
起因事象
原子力発電所での事故による影響が発生する可能性のある原因事象としては,機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミス等の内部事象,地震,
津波,

洪水,火災,火山や航空機落下等の外部事象,産業破壊活動等の意図的な人為事象がある。
第10
1
中間指針等の概要
中間指針等の策定(丙D共1,3,5,7)
平成23年4月11日,原賠法18条1項に基づき,本件事故による原子力
損害の賠償に関する紛争についての原子力損害の範囲の判定等に関する指針(原賠法18条2項2号)を策定するために原賠審が設置され,原陪審は,累次の審理を経て,本件事故による原子力損害の賠償されるべき損害の範囲等について,平成23年8月5日付けで中間指針,同年12月6日付けで中間指針追補,平成24年3月16日付けで中間指針第二次追補,平成25年1月30
日付けで中間指針第三次追補,同年12月26日付けで中間指針第四次追補を策定・公表した。
2
中間指針等における賠償の対象者(丙D共1,3,5,7)
中間指針等は,本件事故による原子力損害の賠償されるべき対象者として,
避難等対象者と自主的避難等対象者を挙げている。
避難等対象者とは,対象区域における政府又は本件事故発生直後における合理的な判断に基づく地方公共団体による避難等の指示,要請又は支援・促進により避難を余儀なくされた者であり,具体的には,①本件事故が発生した後に避難指示等対象区域内から同区域外へ避難のための立退き及びこれに引き続く同区域外滞在を余儀なくされた者(ただし,平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域〔特定避難勧奨地点を除く。〕から同区域外に避難を開始し
た者のうち,子供,妊婦,要介護者,入院患者等以外の者を除く。),②本件事故発生時に避難指示等対象区域外に居り,同区域内に生活の本拠としての住居があるものの引き続き対象区域外滞在を余儀なくされた者,③屋内退避区域内で屋内への退避を余儀なくされた者を指す。
また,
自主的避難等対象者とは,
本件事故発生時,
自主的避難等対象区域
(福

島県の市町村のうち,避難指示等対象区域には含まれない,福島市等の県北地域や郡山市等の県中地域のほか,いわき地域のいわき市などを指す。)に生活の本拠としての住居があった者(本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行ったか否か,当該住居に滞在を続けたか否か等を問わない。)を指す。第3部

争点及び当事者の主張

別紙3-1争点及び当事者の主張(総論)及び同3-2争点及び当事者の主張(各論)のとおり
第4部
責任論に関する当裁判所の判断

第1章

認定事実

第1
1
地震・津波に関する知見の進展等
設置等許可処分時の地震・津波に関する知見等(甲A1の1〔本文編373~375頁〕)
昭和41年から昭和47年にかけて,福島第一原発1号機から6号機まで順
次設置許可申請がされ,津波対策が必要な波高として,昭和35年のチリ津波のときに小名浜港で観測された最高潮位O.P.+3.122m及び最低潮位O.P.-1.918mを前提として設置許可がされた。敷地の最も海側の部分についてはO.P.+4mの高さに整地され,非常用海水ポンプが設置された。なお,昭和40年代には,まだ津波高を計算するシミュレーション技術は一般化しておらず,電子計算機による津波数値計算(シミュレーション)は,1970年(昭和45年)代以降,徐々に利用可能となっていった。
2
4省庁報告書(甲B7の1・2,乙B5)


目的等(甲B7の1〔はじめに,2,9頁〕)
被告国の4省庁(農林水産省構造改善局,同省水産庁,運輸省港湾局,建設省河川局)は,総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討する
ことを目的として,太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査を実施し,平成9年3月,その成果を4省庁報告書にまとめた。
4省庁報告書は,総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,推進を図るため,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定し得る最大規模の地
震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度ではあるものの津波数値解析を行い,津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行ったものである。
4省庁報告書における津波数値計算は,極めて広い範囲を対象に津波高の傾向を把握することに主眼を置いているため,計算過程等を一部簡略化して
おり,各地域における想定津波計算結果は十分精度の高いものではなく,各地域における正確な津波の規模並びに被害予測を行うには地形条件等をよりきめの細やかな情報の下に実施する詳細調査を行うことが別途必要であること,津波数値解析計算自体が様々な仮定に基づいて計算されたものであること,津波数値解析計算は数値誤差が発生しやすく計算結果は幅を持った値と
して理解すべきであることなどから,概略的な把握であるとの表現がされている。
4省庁報告書を取りまとめた太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査委員会は,首藤伸夫,阿部勝征を初めとする有識者をその構成メンバーとしていた。

概要(甲B7の1〔9~12,125,136,157,162,176,188,238頁〕,7の2〔148頁〕)

4省庁報告書においては,津波数値解析を行う前提となる想定地震について,①想定地震の設定規模は歴史地震も含め既往最大級の地震規模を用いる,
②想定地震の地域区分は地震地体構造論上の知見に基づき設定する,③想定地震の発生位置は既往地震を含め太平洋沿岸を網羅するように設定
するとの方針に従って決定されている。
想定地震の設定に当たっては,太平洋沿岸における想定地震設定の地域区分を,地震地体構造論(地震の起こり方の共通している地域では地体構造にも共通の特徴があるとの前提から,規模,頻度,深さ,震源モデルなどの地震の起こり方に共通性のある地域ごとに区分し,それと地体構造の
関連性について研究するもの)に基づき,その時点で広く知られている萩原尊禮らによって提案された区分(萩原マップ)を採用することとし,G1,G2,G3,H2,I,P1,P2の7つに区分した。そして,地域区分ごとに既往最大の地震を特定し,当該地震のマグニチュードを想定地震のマグニチュードとすることにした。福島県沖を含むG3領域における
既往最大の地震は1677年延宝房総沖地震(M8.0)とされ,三陸沖を含むG2領域における既往最大の地震は1896年明治三陸地震(M8.
5)とされた。そして,太平洋沿岸について過去に発生した地震の震源断層モデルを統計解析し,これまでの研究により,震源断層モデルを構成する各パラメータのうち,断層長,断層幅及びすべり量に関して相似則が成
立することが指摘されていることから,上記既往地震の震源断層モデルを基礎データとし,プレート境界別に震源断層相似則について整理を行い,各地体区分における最大マグニチュードを与えることにより,各地体区分別の基本となる想定地震モデルを設定した。さらに,各地体区分領域を網羅するように設定するなどの考え方に基づき,想定地震の断層の位置設定を行った。3G領域においては,延宝房総沖地震の断層モデルを,同領域内の全域を対象として南北にずらしての設定が行われた。

また,想定地震とは別に,既往地震についても併せて検討するものとして,主要な既往地震を抽出した。

上記のように定められた想定地震及び既往地震に対し,対象領域が広大であること,対象計算ケースが多量であること,沿岸部における津波高の傾向の概略把握が目的であることから,簡易的なモデル(高速演算型津波
数値計算モデル)を使用して津波数値解析が行われ,沿岸部では計算精度が確保可能と考えられている最小の600m格子の水深データを用いた計算方法が採用された。同計算方式の精度を確認するため,既往地震において同計算方式を用いて計算を行ったところ,既往地震全体の倍率は1よりやや大きい傾向が読み取れたことから,沿岸での津波水位として計算値に
増幅率(平均倍率)を乗じて,現実に近いものへと修正された。

以上の方法により津波数値解析を行ったところ,福島第一原発1号機ないし4号機が所在する大熊町における想定津波により生じた津波水位の平均値は6.4m,福島第一原発5号機及び6号機が所在する双葉町における想定津波により生じた津波水位の平均値は6.8mとそれぞれ算出され
た。
3
7省庁手引き及び津波災害予測マニュアル(甲B25,38)


策定経緯等
国土庁,気象庁及び消防庁は,平成9年3月,海岸整備を担当する農林水
産省,水産庁,運輸省,建設省との連携のもとに,地域防災計画における津波対策の強化を図る際の基本的な考え方,津波に対する防災計画の基本方針及び策定手順等について7省庁手引きとして取りまとめ,国土庁,気象庁,消防庁は,7省庁手引きの別冊として,津波災害予測マニュアルを取りまとめた。

7省庁手引きの概要(甲B25〔3,9,30,31頁〕)
7省庁手引きは,現在の技術水準では,津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり,また,津波が発生した場合においても,地域の特性によって津波高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,津波防災対策の検討が極めて難しいものとなっており,これまでの津波災害は,必ずしも人口稠密な大都市域で発生したものではないため,今後,臨海大都市で発生する危険性がある都市津波災害に対する対策も新たに講ずる必要があることから,津波という災害の特殊性を十分踏まえ,総合的な観点から津波防災対策を検討し,津波防災対策のより一層の充実を図ることが必要不可欠となっているとして取りまとめられたものである。津波防災計画策定の前提条件として設定される対象津波については,過去
に当該沿岸地域で発生し,痕跡高などの津波情報を比較的精度良く,しかも数多く得られている津波の中から既往最大の津波を選定し,それを対象とすることを基本としつつ,近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常
に安全側の発想から地震の発生位置や規模,震源の深さ,指向性,断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波の設定を行う必要があるとされている。また,最大地震が必ずしも最大津波に対応するとは限らず,地震が小さくとも津波の大きい津波地震があり得ることに配慮しながら,地震の規模,震源の深さとその位置,発生する津波の指向性等を総合的に評価した上で対
象津波の設定を行わなければならないとし,過去の遠地津波の到来状況などを整理,検討し,最大遠地津波による沿岸水位が上記対象津波の沿岸水位よりも大きい場合には,対象とする地震を別途設定するなどの措置が必要となるとされている。
各海岸における最大津波高については,対象津波に基づく津波数値解析の計算結果から得られた沿岸域の最大津波水位を最大津波高として設定することとするが,津波数値解析計算の技術は開発途上であり,精度あるいは費用
の点でも汎用性には限界があり,
波源モデルの妥当性,
発生した津波の波形,
波先端部の波形や挙動,越流時の挙動,河川遡上の問題等,精度と再現性に関係して未解決の部分も多いため,津波数値解析の計算結果は,相対的な評価の基礎とはなり得ても,絶対的な判断を下すにはまだ問題が残されているとされている。



津波災害予測マニュアルの概要(甲B38〔まえがき,50,85頁〕)津波災害予測マニュアルは,地方公共団体が個々の海岸におけるきめ細かな津波災害対策を行うためには海岸ごとに津波の浸水予測値を算出した津波浸水予測図等を作成することが有効であるとして,予測図の作成方法等につ
いて明示することを目的とし,7省庁手引きの別冊として作成されたものである。
同マニュアルは,津波の推算(津波浸水予測計算)について,①地殻変動に伴う津波の発生,②外洋から沿岸への伝播,③陸上への浸水,遡上の3過程に分けて考えることができるとされ,推計結果の良否は,初期に与えた海
面変動すなわち波源モデルの表現と,遡上域でのエネルギー損失の表現の適否に大きく依存するとされる。
また,津波の数値計算には至るところで誤差が入り込み得るから,計算結果を利用するに当たっては,
その利用目的ごとに判断することが重要であり,
防潮堤などの構造物であれば余裕高を付け加えることで大きな間違いの確率
を下げることができるが,余裕高を付けたとしても完全に津波を防げるとは限らないとしている。
4
津波浸水予測図(甲B38〔37,49頁〕,39の1~4,40,乙B90)


策定経緯等
国土庁は,平成11年3月,7省庁手引き及び津波災害予測マニュアルに基づいて,福島第一原発の立地点をも含む沿岸部を対象として,想定される
設計津波高の津波の来襲によって,対象沿岸地域においてどの程度の津波による浸水(浸水高及び浸水域)がもたらされるかについて,海岸地形や地上の地形データを踏まえて具体的に推計した津波浸水予測図を作成,公表した。

概要

津波浸水予測図は,気象庁から発表される量的津波予報(地震の断層モデルによる津波の発生及び津波の伝播に数値モデルを利用して津波予報の精度を向上させ,津波予報区を都道府県支庁単位程度の大きさとし,津波高や来襲時刻の予測値を具体的な数値として,多様な伝達メディアを考慮した発表を実現させるもの)に対応したものであり,県域の津波予報が発
表されたとき,各市町村における個々の湾や海岸が浸水するか否か,浸水する場合はどの程度浸水するかの浸水予想区域を表示することにより,事前の津波対策を検討したり,津波予報が発表された際の避難・救助・応急対策活動を支援したりするための資料として,津波防災対策に役立てようとするものである。津波浸水予測図により,津波による浸水域の広がり,
浸水高及びその中に含まれる市街地,行政機関等の公共施設,工場等を抽出することができ,その地域における津波防災上の課題を明らかにすることができる。
津波浸水予測図は,全国の海岸を412の領域に分けて設定し,各領域にとって最も大きな津波を発生させると考えられる地震断層モデルを選
定し,数値モデルは格子間隔100mの格子点モデルとし,各領域において,津波高が2,4,6,8,10mの5通りとなるよう,津波波形の設定を行った上で,津波災害予測マニュアルに従って数値計算を行っている。なお,津波浸水予測図の設定条件として,元となる地図の基準面はほぼ平均海域に相当するので,満潮時及び干潮時には浸水の程度が変化すること,防波堤等の港湾構造物は100m以上の規模を持つものは海岸地形として考慮されているが,標高を0mとしているため,津波の遮蔽効果は十分
に考慮されておらず,構造物の浸水域は過大評価されていること,陸上の土地利用の形態,構造物の高さについては考慮されておらず,摩擦係数は一律の値が用いられていることなどが挙げられる。

福島第一原発を含む津波浸水予測図において,設定津波高6mの場合,福島第一原発敷地へ遡上・浸水する津波の状況は,O.P.+10m盤に
立地する1号機ないし4号機のタービン建屋
(T/B)
及び原子炉建屋
(R
/B)では,タービン建屋の海側に面した領域において3ないし4mとなり,ほぼ建屋全体が浸水すること,1号機ないし4号機の立地点では敷地上から2ないし3m程度の浸水となることが示された。また,設定津波高8mの場合には,1号機ないし4号機の立地点のほぼ全域が地盤上2ない
し3m以上の浸水となることが示された。
5
津波評価技術


策定経緯等(甲A1の1〔本文編375~377頁〕,乙B6の1~3)電力業界では,4省庁報告書等を背景に,電力における津波評価の考え方
を検討するための研究が行われており,平成11年に,当該研究の成果や津波に関する最新の知見を踏まえ,原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化についての検討を行うことを目的として,土木学会原子力土木委員会に津波評価部会が設置された。
土木学会原子力土木委員会津波評価部会は,平成14年2月,同部会が培
ってきた津波の波源や数値計算に関する知見を集大成して,原子力発電所の設計津波水位の標準的な設定方法を提案するものとして津波評価技術を策定,公表した。なお,当時の土木学会原子力土木委員会津波評価部会の主査は首藤伸夫であり,委員には佐竹健治,阿部勝征,今村文彦ら専門家のほか,被告東電を含む電力会社の担当者が含まれていた。

概要(甲A1の1〔本文編375,376頁〕,乙B6の1,6の2〔1-4,14,32,33,59頁〕,6の3)

津波評価技術の考え方
津波評価技術は,①評価地点に最も影響を与える想定津波(プレート境界付近,日本海東縁部及び海域活断層に想定される地震に伴う津波)を設計想定津波として選定し,それに適切な潮位条件を足し合わせて設
計津波水位を求める,②想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する,③設定想定津波の妥当性は,評価地点において設計想定津波の計算結果と既往津波
の計算結果を,評価地点付近において想定津波群(パラメータスタディを行った想定津波の集合体)の計算結果と既往津波の痕跡高を比較して行うこととするという全体方針を基本としている。
全体的な流れとしては,プレート境界付近及び日本海東縁部に想定される津波については,地震地体構造の知見を踏まえた対象津波を抽出し
て基準断層モデルを設定し,パラメータスタディを行って設計想定津波を確定させ,潮位条件を加えて設計津波水位の評価を行う(なお,設計想定津波の評価方法の妥当性の確認のために,既往津波の再現性についての確認も行う。)ことになる。
基準断層モデルの波源設定のための領域区分は,地震地体構造の知見
に基づき,萩原マップを元に過去の地震の発生状況等の地震学的知見等を踏まえ,合理的と考えられるさらに詳細に区分された位置に津波の発生様式に応じて設定できるものとした。福島県沖を含む日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿いの領域に係る区分については,別紙2-6既往津波の痕跡高を説明できる断層モデル(乙B6の2
〔1-59頁〕

のとおりである。
想定津波については,
波源の不確定性,
数値計算上の誤差,
海底地形,

海岸地形等データの誤差などによる不確定性が生ずることから,パラメータスタディを行い,評価地点における影響が最も大きい津波を設計想定津波とすることにより,不確定性を考慮した設計津波水位を得ることとしている。設計想定津波の妥当性の確認方法としては,計算結果が,評価地点において最も大きな影響を与えたと考えられる既往津波の痕跡
高が存在し,現在の海底・海岸地形等と照らし合わせても有効と判断される場合にはその痕跡高を上回ること,そのような痕跡高が存在しない場合には,評価地点において設計想定津波の計算結果が既往津波の再現計算結果を上回ること等を求めており,津波評価技術の提案する方法によって計算を行った場合,平均して設計想定津波の痕跡高の2倍となっ
ていることが確認されたとする。

福島第一原発付近の設計想定津波(乙B6の3〔2-26~29,53~59頁〕)
津波評価技術においては,日本海溝沿いの海域においては,北部と南部
の活動に大きな違いがある点が特徴であり,北部では海溝付近に大津波の波源域が集中しており,津波地震・正断層地震が見られる一方,南部では延宝房総沖地震を除き,海溝付近に大津波の波源域は見られず,陸域に比較的近い領域で発生しているとされた。
そして,
津波評価技術は,
福島県沖
(別紙2-6における番号7の領域)

においては,1938年の福島県東方沖(塩屋崎沖)地震のみが既往の地震であり,福島県沖の日本海溝沿いでは津波地震が発生していないとし,福島県東方沖地震に基づき,最大Mw7.9の断層モデルを基準断層モデルとして設定した。
なお,津波評価技術には,慶長三陸地震については,正断層地震であるとする考え方と津波地震であるとする考え方があること,津波地震や正断層型地震の発生する場所は限定されているという考え方があることにつ
いての記載がある。
6
長期評価


策定経緯等(前提事実,甲A1の1〔391,392頁〕,B10,乙B152)
被告国は,平成7年に発生した阪神淡路大震災を踏まえて,全国にわたる
総合的な地震防災対策を推進するために,
政府の特別の機関として総理府
(平
成14年当時は文部科学省)に推進本部を設置した。推進本部は,海溝型分科会を中心に検討を行った上,
平成14年7月31日,
長期評価を公表した。
長期評価公表当時,谷岡勇市郎は地震調査委員会の委員,島﨑邦彦は長期評価部会の部会長であり海溝型分科会の主査,都司嘉宣及び松澤暢は長期評
価部会の委員,佐竹健治及び阿部勝征は海溝型分科会の委員であった。⑵

概要(甲B10,乙B152)

長期評価は,三陸沖から房総沖までの太平洋沿岸を含む日本海溝沿いの領域について,固有地震モデル(個々の断層又はそのセグメントからは,
基本的にほぼ同規模の地震が繰り返し発生するという考え方)
に基づいて,
別紙2-7
三陸沖北部から房総沖の評価対象領域
(甲B10
〔15頁〕

のとおり,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域(日本海溝付近領域)や福島県沖の領域など8つの領域に区分した上で,各領域内において繰り返し発生する最大規模の地震を固有地震と定義し,その固有地震
と同規模の地震が発生する可能性や震源域の形態等について評価したものである。
次の地震の発生時期及び規模の計算に当たり,固有地震のように当該地域における地震が比較的規則的な間隔で発生している場合には,確率モデル(更新過程)を当てはめる際に,現状においてよりよく地震発生過程を近似すると考えられるBPT分布(物理モデルを考慮した地震発生間隔を表す統計モデル)を適用するが,固有地震以外の地震については,ポアソ
ン過程を適用している。なお,固有地震については,地震が発生していない期間が長ければ長いほど,地震発生の確率は高くなっていくと考えられているが,ポアソン過程を用いた場合,地震発生の確率はいつの時点でも同じ値となり,本来時間と共に変化する確率の平均的なものとなる。イ
長期評価は,日本海溝付近領域のプレート間で発生したM8クラスの地震は,江戸時代(1603年)以降では,1611年の慶長三陸地震(M8.1,Mt8.4),1677年の延宝房総沖地震(M8.0,Mt8.0),1896年の明治三陸地震(M8.2,Mt8.2)が知られており,日本海溝付近領域全体では,同様の地震が過去400年に3回(約1
33年に1回)発生しているといえるとし,また,上記各地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとはいい難いため,固有地震であるとは扱わないとした。なお,長期評価には,慶長三陸地震及び明治三陸地震については,津波数値計算等から得られた震源モデルから海溝軸付近に位置することが判明していることから,断層の位置を考えたが,過去に同様の地震の
発生例は少なく,同タイプの地震が特定の三陸沖にのみ発生する固有地震であるとは断定できないため,
同じ構造を持つプレート境界の海溝付近に,
同様に発生する可能性があり,場所は特定できないとしたこと,延宝房総沖地震の震源については,やや陸寄りという考え方もあるが,阿部勝征や石橋克彦の論文から津波地震であることが明らかであることから評価対象
に含めたとの記載がある。
その上で,日本海溝付近領域で発生した地震として明治三陸地震のモデルを参考にし,同様の地震は日本海溝付近領域内のどこでも発生する可能性があると考え,日本海溝に沿って長さ約200km,幅約50kmのプレート境界面を震源域とする地震が上記頻度で生ずるとすると,日本海溝付近領域全体(のどこか)におけるM8クラスの地震の今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定される
とした。
日本海溝付近領域内の特定の海域では,断層長(200km程度)と領域全体の長さ(800km)の比を考慮して,530年に1回の割合でM8クラスの地震が発生すると推定されるとされ,ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は6%程度,今後50年以内の発生確率は9%程度と
推定されるとした。また,次の地震も津波地震であることを想定し,その規模はMt8.2前後と推定されるとした。

長期評価の今後に向けてには,

三陸沖北部および三陸沖南部海溝寄り以外の領域は,過去の地震資料が少ないなどの理由でポアソン過程として扱ったが,今後新しい知見が得られればBPT分布を適用した更新過程の取り扱いの検討が望まれる。

,三陸沖~房総沖にかけての海域ではプレート内逆断層型の大地震についてはこれまで知られていない。しかし,同様に過去このタイプの地震が知られていなかった北海道東方沖で1994年にM8.1の地震があったこともあり,このような地震についても留意する必要がある。と記載されている。また,長期評価の頭書きには,なお,今回の評価は,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが,データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。と記載されていた。⑶

長期評価の信頼度について(乙B10)
推進本部は,平成15年3月24日,プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度についてを公表した。これは,長期評価に用いられたデータは,量及び質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差があるとして,評価の信頼度
を,評価に用いたデータの量的,質的な充足性などから,
A:(信頼度が)高い,B:中程度,C:やや低い,D:低いの4段階に相対的にランク付けしたものである。
この中では,
日本海溝付近領域のプレート間大地震
(津波地震)
について,
発生領域の評価の信頼度率の評価の信頼度C,規模の評価の信頼度C(地震数3,モデル「発生領域の評価の信頼度A,

発生確ポアソン)と評価されている。


C」とは,

発生領域内における大地震は知られていないが,ほぼ領域全体若しくはそれに近い大きさの領域を想定震源域と推定できる(地震空白域)。過去に大地震が知られていないため,発生領域の信頼性はやや低い。

ということ又は

想定地震と同様な地震が領域内のどこかで発生すると考えられる。想定震源域を特定できず,過去の地震データが不十分であるため発生領域の信頼性はやや低い。

ということを意味する。
規模の評価の信頼度Aとは,

想定地震と同様な過去の地震の規模から想定規模を推定した。過去の地震データが比較的多くあり,規模の信頼性は高い。

ということを意味する。発生確率の評価の信頼度Cとは,

想定地震と同様な過去の地震データが少なく,必要に応じ地震学的知見を用いて発生確率を求めたため,発生確率の値の信頼性はやや低い。今後の新しい知見により値が大きく変わり得る。

ということを意味する。


長期評価に対する地震学等の専門家の意見

島﨑邦彦(甲B48の1〔1~3,12頁〕,48の2〔31,32,60,61頁〕,84の1〔2,26,32頁〕,乙B219の1〔1,35,58~62頁〕)
島﨑邦彦は,平成27年3月28日当時,東京大学名誉教授であり,
それ以前に原子力規制委員会の委員や日本地震学会の会長を務め,平成7年12月から平成24年3月まで長期評価部会部会長を務めていた。島﨑邦彦の専門分野は地震学全般であり,特に地震及び津波の長期予測である。
島﨑邦彦の意見書及び関連事件において実施された尋問における証
言の概要は以下のとおりである。
長期評価の領域は,津波地震については明治三陸地震の断層モデルを参考にして津波地震に似た特徴を持つ地震が起こる領域とし,その他の領域については過去の地震の起こり方に基づいて定めたものであり,プレートの構造や地形に違いがあることに基づいて定めたものではない。
三陸沖北部から房総沖の海溝寄りを南北に一つの領域(日本海溝付近領域)にして区分けするという考え方は長期評価によってはじめて示されたものである。慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震はいずれも津波地震と評価でき,明治三陸地震については,日本海溝に沿って南北に長い震源域があることが分かっているが,それが南北のどの位置
にあるのかは分かっておらず,慶長三陸地震については記録が十分ではなく,
研究者によって推定が異なっており,
延宝房総沖地震についても,
位置が明確でないこと,
日本海溝付近領域は北部,
南部,
中部とみても,
プレートの構造や地形等に特に違いがないことから,同領域のどこでも津波地震が生じ得るとしたものである。海溝型分科会における議論にお
いて,慶長三陸地震を津波地震であるとすることや慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の発生領域については異論もあったものの,福島県沖で地震が起きないという意見は出なかった。
中央防災会議においては,長期評価の見解は取り入れられず,慶長三陸地震や延宝房総沖地震は繰返しが確認されていないとして除外され,明治三陸地震を被害想定の対象としたが,このような地震の選択は,歴史地震の資料が限られている点が十分に考慮されておらず,空白域の考
え方が取り入れられていないものであり,不適当である。

大竹政和(乙B165)
大竹政和は,長期評価が公表された当時,日本地震学会の会長兼東北大学名誉教授であり,原子力安全委員会原子炉安全専門審査委員会の委員等を務めていた。
大竹政和は,
平成24年8月8日,
長期評価に関し,

地震調査委員会に対して意見書を送付した。
大竹政和の意見書の概要は以下のとおりである。
長期評価の評価結果の表現について,将来の地震発生確率として具体的な数値が記述されており,本文中には数値を記載していなかった平成12年の宮城県沖地震の長期評価の表現と比べても,高信頼度であ
るとの誤解を与えかねない。評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでいるとの記載は,当然のことを記載しているにすぎず,宮城県沖地震や南海トラフの地震に関する長期評価に比べて,格段に高い不確実性を持つことを明記すべきではないか。また,相当の不確実さを持つ長期評価を,そのまま地震動予測地図に反
映するのは危険であり,わからないところはわからないとして残すべきではないか。

佐竹健治(乙B40〔2,3頁〕,51〔1,37,38頁〕,53〔69,70頁〕)

佐竹健治は,平成11年以降,土木学会原子力土木委員会津波評価部会第1期から第5期までの委員を務めており,平成11年から平成17年まで及び平成21年以降は長期評価部会の委員を務め,平成24年以降は長期評価部会部会長を務めている。佐竹健治の専門分野は,巨大地震及び巨大津波であり,特に津波堆積物調査及びそれを用いた津波シミュレーションである。
佐竹健治の意見書及び他裁判所において実施された同種事件の尋問
における供述の概要は以下のとおりである。
長期評価は,
三陸沖の日本海溝付近では慶長三陸地震と明治三陸地震,
房総沖の日本海溝付近では延宝房総沖地震のいずれもM8クラスの津波地震が発生していたという前提の下で津波地震の発生確率を算出しているが,長期評価の検討過程においては,慶長三陸地震と延宝房総沖地震
は津波地震ではないという指摘や,慶長三陸地震の震源は千島沖である可能性があるなどの指摘もされていた。また,事務局からは,三陸海岸は,上記三つの地震によって大きな津波被害を受けていることから,いずれも津波地震として扱って警告をしたいという防災行政的な発言もあった。

津波地震は決まった領域で発生すると考えており,どこでも発生するとは考えていなかったが,海溝型分科会では,結局,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の波源域が明らかでないことから,それらの津波地震は日本海溝沿いのどこかで発生したとして評価することになり,日本海溝寄りの北部から南部を一つの領域と考えることにした。
この評価からは,

津波地震は日本海溝沿いのどこでも起こり得るという解釈になるが,上記領域のどこでも津波地震が起こるとの議論が積極的に行われたり,そのようなデータが明示的に提示されたりしたわけではなかった。
また,本件地震発生当時,このような巨大地震が発生することは想定されていなかった。


津村建四朗(乙B41)
津村建四朗は,平成28年9月12日当時,公益財団法人地震予知総合研究振興会の地震防災調査研究部副首席主任研究員であり,平成12年から平成18年までの間,地震調査委員会委員長を務めていた。津村建四朗の専門分野は,潮位を用いた地殻変動の研究,微小地震の研究を中心とした地震観測に基づく地震予知の研究等である。

津村建四朗の意見書の概要は以下のとおりである。
地震は同じ場所で同じような規模で繰り返すという性質を有すると考えられるため,過去の地震の研究を行うことが重要であるところ,三陸沖から房総沖の海溝寄りの領域(日本海溝付近領域)では,過去の地震の活動履歴として確認できるデータは極めて乏しいものであり,歴史資
料も乏しかった。長期評価の見解は,過去の地震のデータや歴史資料が乏しいという重大な問題点があったにもかかわらず,過去に津波地震の発生が確認されていない福島県沖や茨城県沖の日本海溝沿いも含めた日本海溝沿いの領域も陸側のプレートに太平洋プレートが沈み込んでいる点で構造が同じであるという極めておおざっぱな根拠で,三陸沖から房
総沖までの日本海溝沿い(日本海溝付近領域)を一括りにして,津波地震が発生する可能性があると評価したものであり,地震学の基本的な考え方からすれば異質で,地震又は津波の専門家の統一的な見解や最大公約数的見解とはいい難いものであった。

都司嘉宣(甲B47の1〔1頁〕,47の2〔1,2,33~35頁〕,49〔5,6,38~58頁〕,乙B13)
長期評価が公表された際の長期評価部会の委員であった都司嘉宣は,元東京大学地震研究所准教授であり,平成7年以降長期評価部会の委員を,平成25年以降推進本部津波評価部会の委員を務めている。都司嘉
宣の専門分野は歴史地震と津波,高潮である。
都司嘉宣の意見書及び関連事件において実施された尋問における証言の概要は以下のとおりである。
推進本部は,地震防災対策の強化,特に地震による被害の軽減に資する地震調査研究の推進を基本的な目標とする組織である。推進本部は,当時の第一線の理学者たちの充実した議論を経て,慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震を日本海溝沿いのプレート間で生じた津波
地震であると結論付けたが,これらの地震が津波地震であるという最終結論に対して,海溝型分科会では異論は出なかった。また,太平洋プレートが北米プレートの下に潜み込むという基本的構造は日本海溝の北部,南部,中部で変わらないため,長期評価が,津波地震について,同じ構造をもつプレート境界の海溝付近に同様に発生する可能性があり,場所
は特定できないとしたことは当然であり,その結論に特段の異論は出なかった。
なお,慶長三陸地震について,平成6年頃には津波地震であると考えており,平成7年頃には海底の地滑りにより生じたものである可能性があると考えていたが,現在は日本海溝の海溝軸よりも沖側(東側)で生
じた正断層型地震ではないかと考えている。しかし,長期評価は,防災のために理学者が集団的な議論を尽くして一定の結論を出したものであり,慶長三陸地震に対する考え方が変わったことにより長期評価が持つ意義と重要性が否定されるものではない。

松澤暢
(乙B12
〔368,373頁〕,
42
〔1,
2,
13~16頁〕,
丙B11〔80~82,84~86頁〕)
松澤暢は,平成28年9月28日当時,東北大学大学院理学研究科教授を務めるとともに,同研究科附属地震・噴火予知研究観測センターのセンター長を務めており,
平成16年4月から平成28年3月までの間,

長期評価部会の委員を務めていた。松澤暢の専門分野は自然災害科学及び固体地球惑星物理学であり,主に地震の研究を行っている。
松澤暢の意見書及び他裁判所において実施された同種事件の尋問における供述の概要は以下のとおりである。
推進本部は,もともと地震の調査・研究と国民に対する正確な科学的情報・評価の提供を主目的として立ち上げられたものであり,予知や予測を主目的としたものではなかったが,国民が知りたい情報は,自分に関わりのある場所で,どれくらいの規模の地震が,どのくらいの確率で生じるかに尽きており,そこに結びつけられない科学的情報を提供しても意味がないという批判がされたことから,全国の任意の地点の地震動予測が必要となり,そのためには日本のどこかに被害をもたらす地震に
ついて,全て何らかの評価をしなければならなくなった。本件事故当時においても津波地震発生のメカニズムはよく分かっておらず,宮城県沖から福島県沖の領域で津波地震が起きた証拠もなく,その規模を予測する具体的材料もなかったが,津波地震が起きないという確たる科学的根拠もなかった。長期評価は,海溝軸近くのプレートが沈み込み始めた領
域という構造の同一性に着目して一つの領域を設定しているものであるから,全く科学的根拠がないものとはいえないが,それほど強い根拠があるものでもない。
それでも,
当時の海溝型分科会や長期評価部会では,
防災上の観点から,長期評価が対象としない空白域を作るよりも信頼度は低くても何らかの評価を行った方がよいと考えて,海溝沿いの領域を
どこも同じ性質であると仮定したと理解しており,日本海溝寄りの領域を一つにまとめることの科学的正当性を論じた論文は,少なくとも本件地震及び本件津波以前には見たことがなかったし,長期評価においてもその積極的根拠は述べられていない。
また,長期評価は,日本海溝付近領域を一つにまとめた上で,この領
域で400年に3回津波地震が発生していることを根拠に津波地震の発生確率を算出しているが,
平成14年から現在
(平成28年9月28日)
に至るまで,地震学界で日本海溝沿いの津波地震としてコンセンサスが得られているのは明治三陸沖地震だけであり,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震については津波地震なのか明確ではなく,震源もよく分かっていない。
本件地震に関し,地震・津波の専門家は,誰もここまで巨大な地震及
び津波が生ずるとは思っておらず,
外国の専門家も驚いたほどであった。
また,平成15年に発表された松澤暢・内田直希地震観測から見た東北地方太平洋下における津波地震発生の可能性には,津波地震が巨大な低周波地震であるならば,三陸沖のみならず,福島県沖から茨城県沖にかけても津波地震発生の可能性がある。ただし,海溝における未固結の堆積物は三陸沖にのみ顕著であるため,三陸沖以外においては巨大低周波地震は発生しても津波地震には至らないかもしれない。,福島県沖~茨城県沖にかけての領域においても大規模な低周波地震が発生する可能性がある。しかしながら,Tsuruetal.によれば,この福島県沖の海溝近傍では,三陸沖のような厚い堆積物は見つかっておらず,もし,大規模な低周波地震が起きても,海底の大規模な上下変動は生じにくく,結果として大きな津波は引き起こさないかもしれない。との記載がある。

谷岡勇市郎(乙B49〔1,2,14,18,19頁〕)
谷岡勇市郎は,平成29年7月6日当時,北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センターのセンター長であり,平成16年には中央防災会議に設置された日本海溝・千島海溝調査会の北海道WGの委員を務めるとともに,平成21年からは地震調査委員会の委員を務めていた。谷岡勇市郎の専門は地震学で,具体的な研究テーマは巨大地震の
震源仮定の研究,津波の発生・伝搬に関する研究,古地震・古津波の研究などである。
谷岡勇市郎の意見書の概要は以下のとおりである。
本件地震が起こるまで,多くの地震学者が津波地震を研究し,様々な仮説を提唱していたが,明治三陸地震のような津波地震は,限られた領域や特殊な条件がそろった場合にのみ発生し得るという考え方が大勢を占めていた。理学的根拠に基づいて考えた場合,明治三陸地震のような
津波地震は限られた領域でのみ発生する可能性が高いものであり,このような地震が福島県沖で発生するとは考えておらず,本件地震も明治三陸地震のような津波地震が福島県沖で発生したものではないため,現在でも,明治三陸地震のような津波地震が福島県沖で発生する可能性が高いとは思っていない。

地震学の分野では,津波地震のメカニズムを含め,多くの事項が未解明であることから,明治三陸地震のような津波地震についても

この地域では地震は起きない。

と断言することはできず,地震調査委員会の立場では,可能性が否定できない以上,ひとまず防災行政的な警告をするためにも明治三陸地震と同様の地震が日本海溝付近領域内でも発生す
る可能性があるという見解を出す意義はある。しかし,実際にこの見解に依拠した防災対策をさせるべきかという観点から見ると,明治三陸地震と同じような津波地震が福島県沖で発生すると考えることには無理がある。

笠原稔(乙B50〔1,6~10頁〕)
笠原稔は,平成29年7月24日当時,公益財団法人地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所の客員研究員であり,平成15年には中央防災会議専門調査会北海道WG座長を務めていた。笠原稔の専門分野は地震学で,地殻変動の研究等を行っている。

笠原稔の意見書の概要は以下のとおりである。
長期評価は,推進本部が理学的知見を基に議論した結果として,理学的に否定できないものとして出された見解であると認識している。長期評価の知見の精度がどのようなものであるのかということや津波地震に関する科学的知見の詳細については,北海道WGの中で検討されることとなったが,北海道WGにおいては,明治三陸地震のような津波地震は限られた領域や特殊な条件下でのみ発生する可能性が高いという方向性に異論は出ず,長期評価の見解は理学的に否定できないというものであることに間違いはないものの,それ以上の具体的な根拠があるものであるという意見は出されなかった。ケ阿部勝征(乙B212〔1~4頁〕)阿部勝征は,平成25年4月18日当時,公益財団法人地震予知総合研究振興会の理事であり,同振興会の下に設置された地震調査研究センターの所長を務めており,長期評価策定当時,海溝型分科会の委員及び地震調査委員会の委員長代理を務めていた。阿部勝征の専門分野は地震学である。阿部勝征の検察官調書における供述の概要は以下のとおりである。長期評価は,日本海溝付近領域のどこでも津波地震が発生する可能性があるとしているが,これは過去に津波地震の発生が確認されていない福島県沖や茨城県沖の海溝沿いの領域も含めて津波地震が発生する可能性があるとする点で,基本的には過去に地震が発生した領域で繰り返し同じタイプの地震が発生するという考え方を前提として,評価を行う領域において過去に発生した既往最大の地震を元に将来的な地震予測を行うという従来の考え方からすると,非常に特異な内容であった。また,長期評価は,過去400年に日本海溝付近領域において明治三陸地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の3回の津波地震が発生したことを根拠としていたが,その当時,慶長三陸地震はそもそも津波地震ではないとする見解があり,震源域も厳密には明らかではなく,延宝房総沖地震の震源域も厳密には明らかではなかった。他方で,福島県沖海溝沿いや茨城県沖海溝沿いの領域で津波地震が発生しないと積極的に否定できるだけの根拠がないことも確かであった。そのため,積極的にこれらの領域で津波地震が発生するという立場はとらず,「そういう見方もあるのだなと思いながら海溝型分科会の議論に参加していた。

石橋克彦(乙B14)
石橋克彦は,平成15年当時,神戸大学都市安全研究センターに勤めていた。
石橋克彦は,平成15年に発表した史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震という論文において,延宝房総沖地震は,津波地震であ
ると考えられるものの,
史料地震学の観点からすると,
長期評価において,
延宝房総沖地震を慶長三陸地震や明治三陸地震と一括して,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間地震(津波地震)というグループを設定したことは適切でないかもしれず,津波防災上大きな問題が残っているとしている。



長期評価に対する津波工学の専門家の意見等

今村文彦(乙B44〔1,2,7,8,17~21頁〕,179〔1,2,14頁〕)
今村文彦は,平成30年6月12日当時,東北大学災害科学国際研究
所所長であり,
同研究所の災害リスク研究部門津波工学研究分野の教授,
津波評価部会の部会長を務めていた。今村文彦の主な専門分野は津波工学であり,津波防災・減災技術開発,津波数値解析である。
今村文彦の意見書の概要は以下のとおりである。
津波工学を含む工学一般では,ある構造物にハード面の対策を講じる
ことの要否を検討する際,ベネフィットとコストの双方を構造物全体で総合的に考えて対策の要否を判断する。原子力施設,特に既設炉に対してハード対策を要求することは,莫大な支出を民間企業である事業者に強いることとなり,慎重に検討する必要があることから,津波工学の観点から既設炉でハード面の対策を要求するには,理学的根拠をもってその対策の必要性を正当化できることが必要であり,具体的には,検討対象とする津波は,既往津波であるか,少なくとも理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的なコンセンサスが得られている津波のうち,具体的根拠をもって波源の位置が特定されるなどして一定の期間における発生間隔が算出できるものであることが必要である。
長期評価策定当時,日本海溝沿いについて,三陸沖はプレート間の固
着が強いため大きな地震自体が起きやすく,津波地震の発生に影響を及ぼすとする海溝沿いの堆積物が多い一方,福島県沖及び茨城県沖はプレート間の固着が弱いため,大きな地震自体が起きにくく,津波地震の発生に影響を及ぼすとする海溝沿いの堆積物の量も少ないという違いがあったが,長期評価は,日本海溝付近領域のどこでも津波地震が起きる可
能性があるということについて,従来なかった新たな理学的知見を提示するものではなく,メカニズム的に否定できないという以上の理学的根拠を示していなかったし,津波地震が起きるとしてもなぜ明治三陸地震と同程度のものが起こり得るのかということについては何らの具体的な根拠も示していなかった。これらのことから,歴史的・理学的知見が十
分に定まっておらず,逆に三陸沖と福島県沖及び茨城県沖の違いを示唆する理学的知見が存在した津波地震について,既往津波地震について考慮する以外に,それを超えて日本海溝沿いのどの地域でも発生すると取り扱うべきとは考えなかったし,
多くの専門家も同様であった。
つまり,
福島県沖及び茨城県沖においても三陸沖や房総沖と同様の津波地震の発
生が否定できないというのは,発生をうかがわせる科学的なコンセンサスを得られておらず,単に理学的根拠をもって発生を否定することができないだけの津波であって,理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的なコンセンサスが得られている津波であるとは考えられていなかった。津波工学者としては,本件事故前において,長期評価を前提に慶長三陸地震,明治三陸地震及び延宝房総沖地震と同様の地震が福島県沖の日本海溝沿いでも発生することを想定した津波対策をすべきであった
とはいえない。
なお,本件津波のような規模の津波が発生するとは,誰も考えてはいなかった。

首藤伸夫(乙B45〔2,3,11,23頁〕,206〔1,4頁〕)首藤伸夫は,
平成30年6月13日当時,
東北大学の名誉教授であり,
昭和35年5月に発生したチリ地震津波の被害調査に研究員として従事して以降,津波工学の第一人者として,我が国の津波防災基準等の策定に長年関与してきた。首藤伸夫は,平成11年11月から平成24年3月まで,土木学会原子力土木委員会津波評価部会主査であり,7省庁手
引きや津波評価技術の策定にも関与している。
首藤伸夫の意見書の概要は以下のとおりである。
推進本部は,研究調査の方向を示すもので,災害対策の方針を決めるものではなく,防災対策の実施方針を決めるのは中央防災会議であるところ,平成18年の中央防災会議では,長期評価の見解は採用されなか
ったのであるから,一電力会社である被告東電においてそれを防災の対象にしようとしても株主総会を通らなかったと考えられる。また,長期評価は福島県沖でも津波地震が発生する可能性に言及しているが,これは飽くまで研究を推進すべきとしているだけであって,防災対策を採ることを求めているわけではない。このように,長期評価が策定された当
時の福島県沖に関する長期評価の見解は,専門家の間でもコンセンサスが得られておらず,確定論に取り入れ,直ちに対策を採らせるような説得力のある見解とは考えられていなかったのであり,土木学会原子力土木委員会津波評価部会においては,長期評価の見解をロジックツリーの分岐として組み入れ,確率論の中で評価することとした。


地震動予測地図(乙B103,155,156の1~3)
地震調査委員会は,平成17年3月,それまでに実施した長期評価及び強
震動評価を総合的にとりまとめた地震動予測地図を公表した。地震動予測地図には,ある特定の震源断層に着目し,そこである特定の地震が起きた場合にどのような地震動が生じるかを予測計算して地図上に震度で表示した震源断層を特定した地震動予測地図と,ある一定期間内にある地域が強い揺れに見舞われる可能性を確率論的手法を用いて評価し,地図上に確率で表示
した確率論的地震動予測地図の2種類がある。
長期評価では,日本海溝付近領域で地震が発生する可能性が指摘されたものの,この指摘は,
震源断層を特定した地震動予測地図を作成する際の基
礎資料にはされなかった。


ロジックツリーの重み付けアンケート(甲B60の3,乙B67,69の1・2)

ロジックツリーとは,認識論的不確定性(知識やデータの不足による見解の相違)を表すために,異なる見解を分岐で表示するものであり,これを用いることにより多数の異なるシナリオを想定することができる。
ロジックツリーを用いる場合,分岐ごとの重み(確からしさ)を設定する必要があるところ,適切な重み付けのためには,専門家の意見を集約することが望ましいとされており,アンケートの回答者は,各分岐の重みについて,より確からしいと考える見解について重みが大きくなるように数値を分配し,合計が1となるようにして回答を行うことになる。

土木学会は,津波評価技術の後継研究としての確率論的津波評価手法の研究を行う中で,日本海溝付近領域における津波地震の発生可能性に関してどの程度の重みを付けるべきかについて,平成16年度と平成20年度の2回にわたり,専門家に対してロジックツリーの重み付けアンケートを行った。
これは,
津波について認識論的不確実性が存在することを前提に,
異なる見解を結果に反映させ,津波ハザード解析を行うために行われたものである。


平成16年度のアンケートは,土木学会原子力土木委員会津波評価部会の委員及び幹事計31名,外部専門家5名に対して実施され,うち35名が回答をした。同アンケートの結果によれば,日本海溝付近領域は一体の地域でありどこでもM8級の津波地震が起きるというのが,地震学者の比重を4倍とした全体加重平均で重み0.50,地震学者の
グループ平均では0.65であった。
平成20年度のアンケートは,土木学会原子力土木委員会津波評価部会の委員及び幹事計34名,外部専門家5名に対して実施され,うち34名が回答した。同アンケートの結果によれば,日本海溝付近領域の津波地震活動について,地震学者の比重を4倍とした全体加重平均で,①
過去に発生例がある三陸沖(1611年,1896年の発生領域)と房総沖(1677年の発生領域)でのみ過去と同様の様式で津波地震が発生するが重み0.40,②

活動域内のどこでも津波地震が発生するが,北部領域に比べ南部ではすべり量が小さい(北部領域では1896モデルを移動させる。南部領域では1677モデルを移動させる)


が重み0.35,③活動域内のどこでも津波地震(1896年タイプ)が発生し,南部でも北部と同程度のすべり量の津波地震が発生する(北部及び南部各領域併せて1896モデルを移動させる)が重み0.25となった。

被告東電は,平成18年7月,上記ロジックツリー等の手法を用いる確率論的津波ハザード解析法に係る論文(マイアミ論文)を,原子力工学国際会議において発表した。


長期評価の改訂

平成21年3月9日の一部改訂(甲B61,62,丙B8)
地震調査委員会は,茨城県沖で平成20年5月8日に地震(M7.0)が発生したことから,茨城県沖の評価を見直すとともに,三陸沖から房総
沖にかけての地震活動について,公表から時間が経過したことから地震発生確率等の記載を更新するとして,平成21年3月9日,長期評価の一部改訂を行った。しかし,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)については,信頼度も含めて内容の改訂はされなかった。


長期評価第2版(乙A24,B35)
地震調査委員会は,本件地震についてのその時点における知見をまとめて評価すること等を目的として,平成23年11月25日,長期評価の第2版を公表した。それによれば,本件地震はM9.0,Mt9.1ないし9.4とされた。

7
垣見マップ(乙B84)
垣見俊弘らは,平成15年,日本列島と周辺海域の地震地体構造区分において垣見マップを発表した。垣見マップは,それまでに発表されていた複数の地震地体構造区分図を比較し,垣見俊弘らが平成6年に公表した地震地体構造区分図を,最新のデータと知見に基づいて改訂したものである。
垣見マップは,主として地殻内地震の規模の地域差を重視し,併せて地震の頻度や発震機構とも調和の取れた区分となるように区分を行い,長期評価における日本海溝付近領域に相当する区域を,
おおむね4つ
(8A1日高舟状海盆,
8A2三陸沖大陸斜面,8A3常磐沖大陸斜面,8A4房総沖大陸斜面)の構造区に区分している。

8
日本海溝・千島海溝報告書(乙B11〔4,6,9,14頁〕)
中央防災会議は,
災対法11条1項に基づき内閣府に設置された機関であり,
防災基本計画を作成し,及びその実施を推進すること(同条2項1号),内閣総理大臣の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること(同項2号)などの事務をつかさどっており,内閣総理大臣を会長とし(同法12条2項),全国務大臣,指定公共機関の代表者及び学識経験者により構成されている(同
条5項)。
中央防災会議は,平成15年5月に宮城県沖を震源とする地震,同年7月に宮城県北部を震源とする地震,同年9月に十勝沖地震が発生したことから,特に東北・北海道地方における地震防災対策強化の必要性があるとし,同年10月,専門家14名からなる日本海溝・千島海溝調査会を設置した。
日本海溝・千島海溝調査会は,平成18年1月25日,日本海溝・千島海溝報告書を公表した。同報告書によれば,日本海溝・千島海溝調査会は,長期評価等について検討を行い,長期評価等による分類を基本として地震発生領域を分類したが,福島県沖・茨城県沖のプレート間地震は,M7クラスの地震などが発生しているが繰返しが確認されていないため,
発生間隔が長いものと考え,

近い将来に発生する可能性が低いとして,検討対象から除外された。このように,日本海溝・千島海溝調査会は,長期評価の見解を採用しなかった。
9
耐震設計審査指針の改訂及び耐震バックチェック


耐震設計審査指針の改訂(前提事実第6の4)
原子力安全委員会は,平成18年9月19日,耐震設計審査指針を改訂した(平成18年耐震設計審査指針)。平成18年耐震設計審査指針においては,津波に関し,地震随伴事象に対する考慮の中で,

施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。

と定められた。なお,耐震設計審査指針は,軽水炉の設置(変更)許可申請に係る安全審査における指針であるため,既設の軽水炉について直接の適用はない。


耐震バックチェック(甲A1の1〔388,389頁〕,乙A43,B29〔12~14,41~43頁〕,30〔12~15,41~43頁〕,7
2,82,191,192,丙B1)

保安院は,上記⑴のとおり耐震設計審査指針が改訂されたことを受け,平成18年9月20日,バックチェックルールを策定するとともに,被告東電を含む各電力会社等に対し,稼働中及び建設中の発電用原子炉施設等について,耐震バックチェックの実施,実施計画の報告を指示した。バックチェックルールにおいては,津波の評価方法として,既往の津波
の発生状況,活断層の分布状況,最新の知見等を考慮して,施設の供用期間中に,極めてまれではあるが発生する可能性のある津波を想定し,数値シミュレーションにより評価することを基本とし,水位上昇・低下の双方に対して安全性に影響を受けることがないことを確認するとともに,必要に応じて土砂移動等の二次的な影響について確認することとされた。

被告東電を含む原子力事業者は,耐震バックチェックの指示に基づき,実施計画書を提出していたが,平成19年7月16日に新潟県中越沖地震が発生し,被告東電が設置する柏崎刈羽原子力発電所で従来の想定を超える地震動が観測された。
保安院は,各電力会社に対し,新潟県中越沖地震を踏まえ,この地震か
ら得られる知見を耐震バックチェックに適切に反映するとともに,耐震バックチェックの実施計画の見直しについて検討を行うように指示した。被告東電は,同年8月20日,保安院に対して実施計画の見直しについての報告を行った。

被告東電は,平成20年3月31日,耐震バックチェックの中間報告を行った。
保安院は,上記中間報告に関し,耐震安全性について,総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会の地震・津波,地質・地盤合同ワーキンググループにおいて検討を行った上,平成21年7月21日,被告東電が,プレート間地震について震源を特定して策定する地震動として,1938年に塩屋崎で起きた地震のうち敷地への影
響が大きいもの(M7.3及びM7.5)を検討用地震として選定していることは妥当であり,それを前提とする地震動に対しての福島第一原発5号機及び福島第二原発5号機の耐震安全性は確保されていると評価した。被告東電は,その後も耐震バックチェックを継続していたが,最終報告を行う前に本件地震及び本件津波が発生した。

10

貞観津波に関する知見(甲A1の1〔本文編390頁〕)
貞観津波とは,869年に発生した貞観地震により発生した津波であり,東
北地方沿岸を襲った巨大津波であるとされている。貞観津波に関しては,下記⑴の論文が発表されて以降,掘削調査により津波堆積物の分布を調査する堆積物調査や,津波シミュレーションの技法を駆使した遡上高や浸水域の再現計算が行われ,地震の断層モデルを推定する研究が進められた。


阿部壽・菅野喜貞・千釜章仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定(平成2年)(甲A1の1〔本文編390,391頁〕,甲B1)
貞観津波に関する仙台平野での初めての堆積物調査の結果に基づき,津波
痕跡高を推定したものであり,東北電力株式会社による独自の調査として行われたものである。貞観津波の痕跡高は,仙台平野の河川から離れた一般の平野部で2.5mないし3mで,浸水域は海岸線から3kmぐらいの範囲であったと推定している。


菅原大助・箕浦幸治・今村文彦西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元(平成13年)(甲A1の1〔本文編391頁〕,甲B5)津波堆積物の調査を行い,福島県相馬市の松川浦付近で仙台平野と同様の堆積層を検出したことから,日本三代実録にある地震被害の記述と既往の研究による波源モデルを参考に,貞観津波の波源モデルを推定し,津波の数値復元を行った。同論文の計算によれば,海岸線に沿った津波高は,大洗から相馬にかけておよそ2ないし4m,相馬から気仙沼にかけてはおよそ6ない
し12mであったとされた。


佐竹健治・行谷佑一・山木滋石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション(佐竹論文,平成20年)(甲A1の1〔本文編391頁〕,甲B66,乙B27)
貞観津波を起こした地震の規模やメカニズムを推定するため,貞観津波に
よる石巻平野と仙台平野における津波堆積物の分布といくつかの断層モデルからのシミュレーション結果を比較したもので,断層幅100㎞,すべり量7m以上としたプレート間地震モデルによって石巻平野と仙台平野での分布をほぼ完全に再現できることを確認した。ただし,同論文は,断層の南北方向の広がり(長さ)を調べるためには,仙台湾より北の岩手県あるいは南の
福島県や茨城県での調査が必要であるとしている。


穴倉正展・澤井祐紀・行谷佑一・岡村行信平安の人々が見た巨大津波を再現する-西暦869年貞観津波-(平成22年)(甲A1の1〔本文編391頁〕,乙B70)

石巻平野,仙台平野及び福島県沿岸において掘削による津波堆積物調査等を行い,復元された新水域に基づいて,津波の波源を数値シミュレーションによって求めたもので,宮城県から福島県にかけての沖合の日本海溝沿いにおけるプレート境界で,
長さ200㎞程度の断層が動いた可能性が考えられ,
M8以上の地震であったことが明らかとなったこと,同規模の津波が450
ないし800年程度の再来間隔で繰り返し起きていたことが分かり,近い将来に再び起きる可能性も否定できないとしている。
第2

原子力発電所における安全対策及び電源喪失の危険性についての知見
1
原子力発電所における安全対策の考え方


IAEAによる多重防護(深層防護)の考え方(甲A1の2〔本文編297~300頁〕,乙A53)


IAEAは,IAEA憲章に基づき,原子力安全基準等の策定を行うとともに,原子力安全に関する国際条約の策定等の原子力安全確保に係る活動を行っている。原子力安全基準文書の策定は,IAEA安全基準シリーズに基礎を置き,安全基準類に関する国際的な合意形成と各国の国内法令の整備に貢献している。

イ基本安全原則
(SF-1,平成18年発行)において,多重防護は,
相互に独立な複数の防護レベルの組み合わせによって主に実現され,防護レベルの組み合わせは,全体として機能失敗したときに初めて人または環境に対する有害な影響が引き起こされ得るようなものでなければならないとしている。

また,本件事故当時に採られていた原子力発電所の安全:設計(NS-R-1,平成12年発行。本件事故後に,原子力発電所の設計に関する基準としてSSR-2/1が発行されている。)においては,多重防護の各層を以下のとおりとしている。
第1層
第2層

異常運転の制御及び故障の検出(事故への拡大防止)

第3層

異常運転及び故障の防止

設計基準内への事故の制御(設備に対して重大な影響が発生し
ても炉心損傷を起こさないよう備えること)

第4層

事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和(炉心損傷
が発生しても放射性物質の環境への重大な放出がないよう備える
こと)

第5層

放射性物質の放出による放射線影響の緩和(住民を守る安全対
策の必要性を示すこと)


我が国におけるシビアアクシデント対策

諸外国におけるシビアアクシデント対策の状況(甲A1の1〔本文編414~416頁〕

1970年代頃から,諸外国においてシビアアクシデント対策が導入さ
れるようになり,アメリカ,フランス,ドイツなどでは,確率論的安全評価やシビアアクシデント対策が実施され,1980年代から1990年代にかけて,フィルター付き格納庫ベンティングシステムの整備等が順次進められていた。

日本におけるシビアアクシデント対策
シビアアクシデント対策の導入
(甲A1の1
〔416頁〕乙A28)

我が国においても,昭和54年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故を契機として,シビアアクシデント対策の重要性が認識されるようになった。原子力安全委員会は,スリーマイルアイランド原子力発電
所事故や昭和61年4月に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故を契機として,昭和62年7月に原子炉安全基準専門部会に共通問題懇談会を設け,シビアアクシデントの考え方,確率論的安全評価,シビアアクシデントに対する格納容器の機能等について検討を行った。共通問題懇談会は,
平成4年,
シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書-格納容器対策を中心として-を取りまとめた。
発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(甲A1の1〔416~417頁〕,6,乙A28)

原子力安全委員会は,
前記報告書を受けて,
平成4年5月28日,
発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについてを決定した。同決定は,上記報告書におけるアクシデントマネジメントの役割と位置付け及び格納容器対策に関する技術的検討結果を妥当なものであるとした。
原子力安全委員会は,上記決定において,既存の原子炉施設の安全性は,設計,建設,運転の各段階において,異常の発生防止,異常の拡大防止と事故への発展の防止及び放射性物質の異常な放出の防止といういわゆる多重防護の思想に基づき厳格な安全確保対策を行うことによって十分確保されており,シビアアクシデントは工学的には現実起こることは考えられないほど発生の可能性は十分小さく,原子炉施設のリスクは
十分低くなっていると判断されるところ,アクシデントマネジメントの整備は,
この低いリスクを一層低減するものとして位置付けられるから,
原子炉設置者において効果的なアクシデントマネジメントを自主的に整備し,万一の場合にこれを的確に実施することは強く奨励されるべきであるとして,アクシデントマネジメントを事業者の自主的な対応と位置
付けた。また,原子力安全委員会は,同決定において,今後,必要に応じ,具体的方策及び施策について行政庁から報告を聴取することとし,当面は,新設される原子炉施設においては設置許可等に係る安全審査の際に,運転中又は建設中の原子炉施設については順次,それぞれアクシデントマネジメントの実施方法についての報告を求めるとともに,上記
原子炉に関する確率論的安全評価についても報告を求めるとの方針を出した。
アクシデントマネジメントの今後の進め方について(甲A11,
乙A33,34)
通商産業省資源エネルギー庁は,
平成4年7月,
アクシデントマネジメントの今後の進め方についてを取りまとめ,同月28日原子力発電所内におけるアクシデントマネジメントの整備についてと題する
資源エネルギー庁公益事業部長名の行政指導文書を,
被告東電を含む
事業者に対して発出した。
アクシデントマネジメントの今後の進め方については,我が国に
おけるアクシデントマネジメントの安全規制上の位置付けについて,厳格な安全規制により,我が国の原子力発電所の安全性は確保され,シビアアクシデントの発生の可能性は工学的には考えられない程度に小さいこと,アクシデントマネジメントは,これまでの対策によって十分低くなっているリスクを更に低減するための電気事業者の技術的知見に依拠する知識ベースの措置であり,状況に応じて電気事

業者がその知見を駆使して臨機にかつ柔軟に行われることが望まれるものであること等から,
この時点では,
原子炉の設置又は運転などを
制約するような規制的措置を要求するものではないとしつつ,実施されるアクシデントマネジメントの技術的有効性については,設計基準事象への対応に与える影響を含めて通商産業省による確認,評価等を行うこ
ととし,今後は,シビアアクシデント研究の成果により適宜適切に対応していくこととした。
軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備について検討報告書(甲A1の1〔419,421,422頁〕,17,

乙A35)
通商産業省資源エネルギー庁は,平成6年10月,電気事業者が同年3月31日提出したアクシデントマネジメント検討報告書の技術的妥当性を検討し,軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備について検討報告書に取りまとめ,原子力安全委員会に報告し
た。
通商産業省は,上記報告書において,電気事業者から提出されたアクシデントマネジメント策の妥当性について,
安全性を更に向上させ
る上で検討すべきシーケンスへの対策,
実施の可能性と実施による防
止・緩和効果,従来の安全機能への悪影響の有無という観点から技術的妥当性を検討したところ,
電気事業者が今回提出したアクシデント
マネジメント策は,
安全性をさらに向上させる上で有効なシーケンス
を適切に把握して摘出しており,
実施可能かつ防止緩和効果が期待で

き,
また既存の安全機能に悪影響を与えない妥当なものであるとした。また,同報告書には,通商産業省は,アクシデントマネジメントの整備が遅滞なく順次実施されることが望ましいとの立場から,被告東電を含む電気事業者に対し,今後おおむね6年を目処に,運転中及び建
設中の全原子炉施設に整備することを促すとした。

原子力安全委員会は,上記報告書について同委員会が設置した原子炉安全総合検討会及びアクシデントマネージメント検討小委員会において順次検討を行い,平成7年12月に電気事業者のアクシデントマネジメント策について了承した。
なお,平成4年当時,我が国において確率論的安全評価の手法が確立
されつつあったのは運転時の内的事象(機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミス等)のみであったため,電力事業者が行った確率論的安全評価は内的事象を対象としたものであった。

保安院によるシビアアクシデント対策等(甲A1の1〔本文編431,432頁〕,18,乙A37~41,45〔11,35~37頁〕)被告東電は,上記イにおける原子力安全委員会や通商産業省の決定等を受け,平成6年3月までに福島第一原発及び福島第二原発におけるシビアアクシデント対策の検討を行った。
経済産業省及び保安院は,平成14年4月,アクシデントマネジメント整備上の基本要件についてを作成し,アクシデントマネジメント整備上の基本要件として,アクシデントマネジメントの実施体制,整備に関わる施設・設備類,知識ベース(予め有効かつ適切と考えられる措置の手順等),通報連絡,要員の教育等の各項目を挙げた。
被告東電は,同年5月29日,保安院に対し,アクシデントマネジメントの整備が完了したとして報告書を提出した。
保安院は,被告東電から提出された上記報告書や他の電気事業者の報告書を受け,平成14年10月,軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書を取りまとめ,
原子力安全委員会へ報告した。同報告書においては,電気事業者が整備したアクシデントマネジメント策について,既存の安全機能への影響の有無,アクシデントマネジメント整備上の基本要件の充足,アクシデントマネジメント整備有効性評価の妥当性についてそれぞれ評価を行い,今回整備されたアクシデントマネジメントは,原子炉施設の安全性をさらに向上させるという観点から有効であることを定量的に確認したとしたが,アクシデントマネジメントはプラント状況に応じた知識ベースの
活動であるため,日常においてもシビアアクシデントが発生した場合のプラントの挙動に関する知識の向上を目指すことが重要であり,今後とも,定期的に知識ベースの理解向上に資する教育を行うとともに,必要に応じて演習等の機会を持つなど実施組織の実効性等を総合的に維持するための努力が必要であり,国内外における安全研究等によりアクシデ
ントマネジメントに関するより有効な知見が得られた場合には,適切に知識ベースに反映させることが重要であるとした。
被告東電は,経済産業省の依頼に基づき,福島第一原発の3ないし6号機等における確率論的安全評価を実施し,
平成16年3月26日,
アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書を保安院に提
出した。
保安院は,財団法人原子力発電技術機構原子力安全解析所(後のJNES解析評価部)に委託するなどして,電気事業者とは独立してその有効性を確認し,平成16年10月,軽水型原子力発電所における『アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価』に関する評価報告書を取りまとめ,公表した。同報告書においては,電気事業者が実施したアクシデントマネジメント整備の有効性が確認され,全原子炉施設の安
全性が向上していることが再確認されたが,シビアアクシデントについては物理現象的に未解明な事象もあり,世界的に研究が継続されているところであるから,国内外における安全研究等により有用な知見が得られた場合には,アクシデントマネジメントに適切に反映していくことが重要であるとされている。

IAEAは,原子力施設の安全,電離放射線防護,放射線源の安全とセキュリティ,放射性廃棄物の安全な管理,放射性物質の安全な輸送を確保する各国の最終的な責任を認識した上で,原子力,放射線,放射性廃棄物及び輸送の安全に関する加盟国の規制基盤の有効性を強化し,向上させることを目的として,各国専門家によるレビュー及び評価サービ
ス(IRRS)を実施している。
IAEAは,日本におけるIRRSを実施し,平成19年12月20日に報告書を提出している。上記報告書においては,我が国の原子力安全規制について,発生した事故・故障に対応し,事故の再発を防止するために原子力安全上の取り決めを強化する目的で,法令上及び行政上の
枠組みの更新・改善努力を絶えず行なっているとされ,原子力基本法,炉規法,電気事業法,原子力安全委員会の定めた各種指針及び民間のコンセンサス基準等が存在しており,保安院は,IAEA安全基準を参照した性能を規定化した基準を策定していると評価した。
2
原子力発電所における電源喪失に係る事故及び同事故を踏まえた対策⑴

被告東電における平成3年の海水漏えい事故等(丙A2の1〔38頁〕)福島第一原発1号機タービン建屋地下1階で,平成3年10月,補機冷却水系海水配管からの海水漏えいが発生した。また,被告東電は,同時期に,米国のプラントにおいて,タービン駆動主給水ポンプ用復水器の冷却用に湖から取水している循環水配管が破断し,タービン建屋と補助建屋が浸水する事故が発生したとの情報を入手した。そこで,被告東電は,上記事故等を教
訓として,地下階に設置した重要機器が,建屋内の配管破断等による内部溢水により被水,浸水して機能を失うことがないよう,技術的な検討を行った上で,原子炉建屋階段開口部への堰の設置,原子炉最地下階の残留熱除去系機器室等の入口扉の水密化,原子炉建屋1階電源管貫通部トレンチハッチの水密化,非常用電気品室エリアの堰のかさ上げ,非常用ディーゼル発電機室
入口扉の水密化,復水器エリアへの監視カメラ及び床漏えい検知器設置等の措置を取った。


フランスのルブレイエ原子力発電所事故(甲A201,B12の1〔13頁〕,88)
フランスのルブレイエ原子力発電所において,平成11年12月27日,
暴風雨の影響で外部電源が失われ,非常用電源が起動したが,高潮と満潮が重なりジロンド河口に波が押し寄せた結果,河川が増水し,川の水が洪水防水壁を越えて浸入し,電源が喪失する事故が発生した。ルブレイエ原子力発電所においては,最大潮位を考慮した洪水防止壁を設定していたが,これに加わる波の動的影響を考慮していなかったために,防止壁が押し流されたこ
とが原因である。
ルブレイエ原子力発電所の運営を行うフランス電力公社は,調査結果を基に堤防や防潮堤のかさ上げ,延長及び強化,防水扉の設置による水侵入に対する抵抗の改良,隙間と貫通部の密閉等の対策を取った。


台湾の馬鞍山原子力発電所事故(甲B12の1〔14頁〕,202,丙A2の1〔37頁〕)
台湾の馬鞍山原子力発電所において,平成13年3月,季節性の塩霧害の影響により送電線にトラブルが発生して外部電源が喪失し,さらに所内の安全交流電源系統が故障し,予備のディーゼル発電機による給電も不能となる全電源喪失事故が発生した。しかし,現場の作業員の速やかな処理により,放射能が漏れることはなかった。



インドのマドラス原子力発電所事故
(甲B12の1
〔14頁〕乙B15,

23の1,丙A2の1〔37頁〕)
マドラス原子力発電所において,平成16年12月に発生したスマトラ島沖地震に伴う津波により,
取水トンネルを通って海水がポンプハウスに入り,
必須プロセス海水ポンプ(我が国における原子炉補機冷却海水設備に相当)
のモーターが水没して運転不能となった。ただし,それ以外にプラント被害がなく,INESのレベルは0(安全上重要でない事象)であった。3
国内の溢水による電源喪失についての知見


平成5年の全交流電源喪失事象の研究(甲A12〔1,27頁〕,弁論の全趣旨)
原子力安全委員会の原子力施設事故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループは,平成5年6月11日付けで原子力発電所における全交流電源喪失事象についてを作成した。同報告書は,海外において,短時間(調査した範囲では最長36分)のSBO事例が報告されて
いること,米国の代表的な原子力プラントの確率論的安全評価(PSA)の結果によると,SBOが炉心損傷の主要な寄与要因となる原子力プラントがあることが報告されていること,近年,米国でSBOに対する規制措置がとられていること等に鑑み,国内外の原子力プラントに係るSBOに関する規制上の要求事項,事故故障事例の調査等を行い,主にこれらの現状について
取りまとめたものである。
同報告書は,結論として,我が国の原子力プラントにおいては,これまでにSBOの事例は生じておらず,
外部電源系統,
非常用ディーゼル発電機
(E
DG)及び非常用直流電源系の非常用蓄電池等の信頼性は良好であり,SBOの発生は起こりにくいと考えられること,最近10年間の非常用ディーゼル発電機の起動失敗確率の実績が米国の実績に比べて低いこと,我が国の原子力プラントのSBOに対する原子炉の耐久能力は5時間以上と評価される
こと,我が国の代表的な原子力プラントについて行った内的事象のみを起因事象としたPSA結果によれば,SBOによる炉心損傷の発生頻度は低いことなどから,我が国の原子力プラントにおけるSBOの発生確率は小さく,SBOが発生したとしても短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な事態に至る可能性は低いとした。



溢水勉強会

設置経緯(甲B20の2,乙B15~20,22~24)
保安院及びJNESは,平成16年12月26日に発生したスマトラ島沖地震に伴う津波により,インドのマドラス原子力発電所事故が発生
したとの情報を得て,平成17年6月8日に開催された第33回安全情報検討会において,外部溢水問題に係る検討を開始した。
また,米国NRCは,平成17年11月7日,タービン建屋での循環水配管等の破断を仮定すると,内部溢水により安全停止機能が損なわれる可能性があることを事業者に通知した。これを受けて,保安院及びJ
NESは,この通知を同月16日に行われた第40回安全情報検討会で紹介し,今後の検討項目とした。
保安院及びJNESは,
するため,平成18年1月,溢水勉強会を立ち上げて調査検討を開始した。なお,溢水勉強会には,電気事業者,電事連,原子力技術協会及び
メーカーがオブザーバーとして参加していた。溢水勉強会は,同月から平成19年3月まで合計10回にわたって開催され,同年4月,溢水勉強会の調査結果についてを取りまとめた。溢水勉強会は,原子力発電所内の配管の破断等を理由とする内部溢水,津波による外部溢水を問わず,
溢水に関する調査,
検討を進めていたが,
平成18年の耐震設計審査指針の改訂に伴い,地震随伴現象として津波評価を行うとされたことから,外部溢水に係る津波の対応は耐震バック
チェックに委ねられることになった。

平成18年5月11日に開催された第3回溢󠄀水勉強会において,想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)に従った影響評価の結果として,
福島第一原発5号機について,
以下のとおり,
報告された
(甲

B20の1,乙B17の2,18)。
津波水位の設定
O.P.+14m(敷地高さ〔O.P.+13m〕+1m)及びO.P.+10m(上記仮定水位〔O.P.14m〕と設計水位(O.P.+5.6m)の中間)の二つを仮定水位とし,継続時間は考慮しない(長
時間継続するもの)という条件を設定した。
津波水位による機器影響評価
敷地高さを超える津波(O.P.+14m)の場合,建屋に浸水する可能性があることが確認され,具体的な流入口としては,海側に面したタービン建屋(T/B)大物搬入口,サービス建屋(S/B)入口等が
あると考えられた。その場合,タービン建屋(T/B)の各エリアに浸水し,電源設備の機能が喪失し,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する。
津波水位O.P.+10mの場合には,建屋への浸水はないと考えられることから,建屋内の機器への影響はない。

ただし,いずれの津波水位であっても,津波により非常用海水ポンプが使用不能となる。

平成19年4月付け
溢水勉強会の調査結果について
(甲B20の2,
乙B17の1・2,21の1)
同報告書の作成に当たっては,諸外国における溢水の規制対応についての調査のほか,電気事業者が行ってきた溢水対策等について調査が行われており,その作成過程において,平成18年6月8日及び9日,BWRの
代表プラントとして福島第一原発についての現地調査が行われた。福島第一原発においては,内部溢水について4号機,外部溢水について5号機の調査が行われており,5号機の津波による浸水の可能性がある屋外設備の代表例として,非常用海水ポンプ,タービン建屋大物搬入口,サービス建屋入口,非常用DG吸気ルーバの状況について調査が行われた。その際,
被告東電は,タービン建屋大物搬入口及びサービス建屋入口については水密性の扉ではなく,非常用DG吸気ルーバは敷地レベルからわずかの高さしかないこと,非常用海水ポンプは敷地レベル(O.P.+13m)よりも低い取水エリアレベル(O.P.+4.5m)に屋外設置されていること,土木学会手法による津波による上昇水位は+5.6mとなっており,
非常用海水ポンプ電動機据付けレベルは+5.6mと余裕はなく,仮に海水面が上昇し電動機レベルまで到達すれば,1分程度で電動機が機能を喪失すると説明した。
第3
被告東電の対応

1
平成6年時点における被告東電による津波想定(甲B95,乙B3,4,丙A2の1〔17頁〕)


通商産業省資源エネルギー庁は,平成5年7月に北海道南西沖地震が発生し,奥尻島などが津波に襲われたことを受け,同年10月15日,電事連に対し,既設原子力発電所の津波に対する安全性のチェック結果の報告を求めた。



被告東電は,福島第一原発及び福島第二原発について,文献調査による既往津波の抽出や簡易予測式による津波水位予測等を実施し,平成6年3月,津波に対する安全性のチェック結果の報告書を資源エネルギー庁に提出した。同報告書においては,敷地周辺の津波記録及び簡易予測式による敷地での津波の高さを推定した結果,敷地に比較的大きな影響を及ぼした可能性のある地震として,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震並びに1960年のチリ地震
があり,貞観津波よりも慶長三陸地震による津波の方が仙台平野における痕跡高が高かったとされ,それらを対象としたシミュレーションの結果,福島第一原発の護岸前面での最大水位上昇量は約2.1mとなり,朔望平均満潮位時(O.P.+1.359m)に津波が来襲すると最高水位はO.P.+3.5m程度になるが,護岸の天端高がO.P.+4.5mあり,主要施設
の整地地盤高がO.P.+10.0m以上あるため,主要施設が津波による被害を受けることはないとされていた。
2
4省庁報告書への対応(丙B7)
被告東電は,平成10年6月,4省庁報告書により想定される津波に対する福島第一原発及び福島第二原発の安全性について検討を行った。福島第一原発
につき最も大きな影響を与える断層モデルに基づく検討をした結果,朔望平均満潮位を考慮した最高水位はO.P.+4.8mとなり,屋外に設置されている非常用海水ポンプの据付けレベルを超えるが,ポンプのモーター下端レベル(O.P.+5.6m以上)には達しないため,安全性に影響はないとした。3
7省庁手引きに対する対応(甲B75)


作成経緯
電事連は,通商産業省を通じて7省庁手引きの草稿(ドラフト版)を入手して検討し,平成9年10月15日,7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針を作成した。


概要
上記文書には,7省庁手引きに示されている断層モデルを用いて電事連独自の数値解析を行った結果,福島第一原発等において冷却水取水ポンプの機能は確保されるものの余裕のない状況となっており,断層パラメータのバラツキ等を考慮して仮に電事連の数値解析の2倍の値を用いて数値解析を行うと,太平洋側のほとんどの原子力地点において,水位上昇によって冷却水取水ポンプが浸水し,
機能喪失のために対処が困難となるとした。
その上で,

7省庁手引きは地震地体構造的見地から想定される最大規模の地震を考慮するものであり,津波評価に際しても同地震による津波を検討する必要があるものと考えられるので,今後,原子力の津波評価の考え方を指針等にまとめる際は,必要に応じて地震地体構造上の地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討・整備していく必要があるとした。また,同文書には,通商
産業省顧問は,現状の学問レベルでは自然現象の推定誤差は大きく,予測し得ないことが起きることがあるので,特に原子力では最終的な安全判断に際しては理詰めで考えられる水位を超える津波が来る可能性があることを考慮してさらに余裕を確保すべきであり,工学的判断として,安全上重要な施設のうち,水に弱い施設については耐水性を高めるための検討をしておくこ
とが重要であるとの認識を有しているとの記載もある。
4
平成14年試算


経緯(甲A1の1〔381頁〕)
被告東電は,津波評価技術の公表を受け,平成14年3月,津波評価技術により想定される津波に対する安全性について検討を行い,保安院に対し,
福島第一原発の設計津波最高水位等について報告した。


概要(甲A1の1〔381頁〕,B37〔27頁〕,乙B7,34,丙A2の1〔17,18頁〕)
被告東電は,津波推計計算に当たり,敷地に与える影響が最も大きい津波
として1960年のチリ地震津波を抽出して再現性を確認した上,近地津波の波源位置について,別紙2-6の領域3,4,5,7及び8にそれぞれ波源を設定し,津波評価技術に従って既往最大となる断層モデルを設定し,パラメータスタディを行ったところ,領域7(1938年福島県東方沖〔塩屋崎沖〕地震)において水位上昇率が最大となり,最大水位上昇量に朔望平均満潮位を考慮した福島第一原発における設計津波最高水位はO.P.+5.4mないし5.7mとなった。また,遠地津波については,チリ地震津波の
波源モデルを基に算定したところ,福島第一原発における設計津波最高水位はO.P.+5.4mないし5.5mとなった。
被告東電は,上記結果によれば,福島第一原発6号機の非常用ディーゼル発電機冷却系海水ポンプ(屋外設置)にて,電動機据付けレベル(最低O.P.+5.58m)を上回るものの,6号機はエアフィンクーラー付きディ
ーゼル発電機を有しているため,津波水位にかかわらず非常用電源の確保が可能であり,万一の同ディーゼル発電機の不作動を想定しても,隣接プラントからの電源融通により電源を確保することが可能であるから,現時点でも安全確保は可能であるものの,信頼性確保の観点から同ポンプ電動機の軸を長尺化し,下側軸受設置レベルをかさ上げした構造への変更につき,実施可
能な時期において速やかに対応するとした。
5
長期評価への対応(甲A1の1〔396~402頁〕,乙B34〔20~24頁〕,44〔31頁〕,111〔4~10頁,資料1,4~6〕)⑴

保安院は,長期評価公表後,被告東電に対し,長期評価を前提とした原子力発電所の安全性や津波評価技術が福島県沖や茨城県沖で津波地震を想定していない理由等についての確認を行い,同年8月5日及び同月6日,被告東電の担当者から,上記各点についての説明を受けた。保安院は,福島県沖から茨城県沖で津波地震が発生することを前提としたシミュレーションを行うべきであるなどの指摘をした上,被告東電に対し,長期評価の見解について
推進本部の委員等に確認することを指示した。被告東電は,同月7日,その当時,海溝型分科会の委員であった佐竹健治に対し,長期評価の見解と,佐竹論文では典型的なプレート間地震が発生している領域の海溝付近では津波地震が発生しないとされていることとの関係性についてメールでの確認を行ったところ,佐竹健治から,長期評価は,反対意見もあったものの,明治三陸地震のほか,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震についても津波地震としており,発生場所についても,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の波源がはっ
きりしないことから,日本海溝付近領域のどこで起きるか分からないとしたものであるなどといった返答を得た。そこで,被告東電は,同月23日,保安院に対し,佐竹健治からのメールの内容を報告するとともに,津波評価技術に基づいて確定論的に検討するのであれば,福島県沖から茨城県沖では津波地震の発生は想定されないが,長期評価の見解については,確率論的津波
ハザード解析の分岐の一つとして取り扱っていきたい旨を伝えたところ,保安院の担当者から異論は述べられなかった。


被告東電は,平成20年2月頃,耐震バックチェックにおいて長期評価の見解を取り入れるべきかについて,今村文彦に意見を聴いたところ,長期評
価の見解については,中央防災会議でも取扱いを議論したが,福島県沖海溝沿いで大地震が発生するかどうかについては,繰返し性及び切迫性がないことを理由に結論を出さなかったが,バックチェックにおいては波源として考慮すべきであるという意見を得た。しかし,バックチェックで設計事象として扱うかどうかは難しい問題であるという意見もあったことから,被告東電
は,社内で検討を行い,結論として,長期評価については,評価方法が確定しておらず,直ちに設計に反映させるレベルのものではないと思料されるので,電力共通研究として土木学会に検討してもらい,その結果,対応が必要となれば対策工事等を行うこと,耐震バックチェックは当面津波評価技術に基づいて実施することを決定し,その旨を土木学会の委員を務める有識者ら
に説明したが,特に異論はなかった。
被告東電は,保安院からの説明要求を受けて,平成21年8月及び9月,上記方針について保安院に説明したが,保安院の担当者が異論を述べることはなかったため,上記方針につき,保安院の了承が得られたものと考えた。6
平成20年試算


検討経過等(甲A1の1〔本文編396頁〕,甲B12の2,65,91,乙B7,34,丙B3)

被告東電の委託を受けた東電設計株式会社は,平成20年4月18日,長期評価に基づいて,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝沿いに置いて試算を行った。なお,平成20年試算における試算方法は,平成14年試算とおおむね同一であった。
平成20年試算に基づく計算結果は,平成23年3月7日に被告国に対し
て報告された。


概要(乙B79,81〔9頁〕,193の4〔証言資料75~79,131~135〕)
平成20年試算においては,長期評価の見解に基づき,福島県沖から房総
沖にかけての日本海溝寄りの領域に明治三陸地震の断層モデルの位置及び走向を変化させた15ケースを設定した概略パラメータスタディを行い,そのうち最も高い津波高が算出されたケース(Mw8.3,断層の南北の長さ210㎞,東西の幅50㎞,すべり量9.7m)について,詳細パラメータスタディを実施した。

平成20年試算によれば,想定される最大の津波は,敷地南側方向から到来し,敷地南側境界付近(O.P.+10m)で最大O.P.+15.707m,敷地北側境界付近(O.P.+13m)で最大O.P.+13.695m,2号機前面の取水ポンプ位置でO.P.+9.244m,5号機前面の取水ポンプ位置でO.P.+10.182m,4号機の原子炉建屋中央付
近(O.P.+10m)でO.P.+12.604m(浸水高2.604m),4号機のタービン建屋(T/B)中央付近(O.P.+10m)でO.P.+12.026m(浸水高2.026m)などと算出された。また,浸水深については,
1ないし3号機の原子炉建屋等の主要建屋の立地点で1m前後,
4号機の原子炉建屋等の主要建屋の立地点で2m前後に達すると算出された。⑶

対応(甲A1の1〔本文編395頁~398頁〕,乙B193の4〔証言資料126~129,136~139〕)

被告東電は,平成20年試算の結果を受けて対応を検討し,他の原子力事業者との協議を行った上,前記5⑵のとおり,耐震バックチェックは津波評価技術による津波評価で対応し,長期評価の見解は取り入れないこととした。また,被告東電は,平成20年10月頃,佐竹健治から佐竹論文の原稿を入手したことから,同論文を元に福島第一原発及び福島第二原発における津
波高を試算したところ,福島第一原発でO.P.+8.6ないし9.2mとなる旨の結果を得た。
第2章
第1
被告国の責任に関する判断
規制権限の有無及び内容

1
原告らの主たる主張
経済産業大臣の規制権限の不行使に係る原告らの主張は,想定する結果回避措置や規制権限の根拠が抽象的かつ網羅的であり,判断の対象を的確に捉えにくい面があるが,本件訴訟において原告らが主として主張するのは,経済産業大臣には,津波被害による全交流電源喪失対策として,電気事業法39条に基づく省令62号の改正権限ないし同法40条に基づく技術基準適合命令の発令権限を行使し,被告東電に対し,福島第一原発の建屋等の水密化などの措置を採らせるべき義務があったのに,これをしなかったことは違法であるという主張(以下本件主張という。)であると解されるので,以下,まず本件主張について先行して検討する。
2
本件主張に係る規制権限の有無等


本件主張に関し,被告国は,原告らが主張する結果回避措置は,福島第一原発の建屋の敷地高さを超えることを前提にした津波の到来に対する対策であるところ,これらの津波に対する対策は,想定津波との関係でドライサイトが維持されるとの前提で行われた基本設計を覆し,いわゆるウェットサイトに転じる可能性が生じたことを前提にさらなる措置を求めるものであり,基本設計ないし基本的設計方針の変更に当たるところ,段階的安全規制の仕
組みを前提とする炉規法及び電気事業法の下では,省令62号の改正や技術基準適合命令は,詳細設計をその対象とするものであり,基本設計ないし基本的設計方針の問題を対象としていないから,経済産業大臣は原告らの主張するような規制権限を有しない旨主張する。


確かに,実用発電用原子炉施設に関する炉規法及び電気事業法は,原子炉施設の設計から運転に至るまでの過程を段階的に区分し,それぞれの段階に応じて,原子炉施設の設置,変更の許可(炉規法23条ないし26条),設置工事の計画の認可(電気事業法47条),使用前検査(同法49条),保安規定の認可及び保安検査
(炉規法37条)定期検査

(電気事業法54条)


定期安全管理検査(同法55条),立入検査(同法107条1項)等の各規制を設けており,
それぞれの段階に対応して許認可等の規制手続を介在させ,
これらを通じて原子炉の利用に係る安全の確保を図るという段階的安全規制の体系が採られている。そして,この安全規制は,設置許可処分に当たっての安全審査(前段規制)により,その土台となる基本設計及び基本的設計方
針の妥当性が審査され,これに続く規制では,基本設計及び基本的設計方針が妥当であることを前提として,詳細設計の安全性に問題がないか否か,更には具体的な部材,設備,機器等の強度,機能の確保が図られているか否かといったより細緻な事項へと段階を踏んで審査がされる方法が採用されているといえる(伊方原発訴訟最高裁判決参照)。そうすると,原子炉の設置許
可後の規制(後段規制)においては,原子炉の基本設計及び基本的設計方針の妥当性は規制の対象とはならないようにも思われる。
しかし,
基本設計及び基本的設計方針の定義を規定した法令等は存在せず,いかなる事項が基本設計及び基本的設計方針に関する事項に該当するかは明らかでない上,電気事業法39条に基づく省令62号の改正権限,同法40条に基づく技術基準適合命令の発令権限に関し,安全規制の対象を詳細設計に関する事項のみに限定し,基本設計及び基本的設計方針に関する事項を除外する明確な規定は存在しないから,上記の解釈が当然に導かれるわけではない。
また,原子力発電所においては,ひとたび事故等を原因として放射性物質の大量放出を招いた場合には,深刻な被害が広範囲かつ長期間にわたって生
じる危険性があることからすると,原子力発電所の稼働に当たっては,国民の生命・健康・財産や環境が害されないための万全な安全対策の確保が求められるというべきであるから,経済産業大臣には,電気事業法39条に基づく省令62号の改正権限,同法40条に基づく技術基準適合命令の発令権限に基づき,原子力発電所において万が一にも事故が起こらないようにするた
め,技術基準を技術の進歩や最新の地震,津波等の知見等に即応したものに改正し,かつこの技術基準に施設を適合させるべく,適時にかつ適切に行使することが求められるというべきである。仮に被告国が主張するように,省令62号の改正や技術基準適合命令が基本設計ないし基本的設計方針に関する事項を対象としておらず,経済産業大臣が,電気事業者に対し,従前の想
定を超える津波に対する防護措置を講じるよう命じる規制権限を有していなかったとすると,経済産業大臣は,原子力発電所における津波の被害を予見した場合,電気事業者に対し,原子炉設置変更許可の申請を促す行政指導を行い,電気事業者から同申請を受けた上で,再度,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性から審査し,原子炉設置変更許可処分をするという迂遠な方
法を採らざるを得ないことになり,万が一にも引き起こしてはならない原子力発電所における事故の発生を防止することが困難なものとなりかねず,電気事業法39条及び40条の趣旨に反する著しく不合理な結果となる。以上によれば,電気事業法39条に基づく省令62号の改正権限,同法40条に基づく技術基準適合命令の発令権限の対象は,詳細設計に関する事項のみならず,基本設計ないし基本的設計方針に関する事項にも及ぶと解するのが相当である。被告国の上記主張は採用することができない。

第2
1
国賠法上の違法性の判断枠組み
本件主張に係る電気事業法39条に基づく省令62号の改正権限や同法40条に基づく技術基準適合命令の発令権限については,その規定文言や事柄の性質上,権限を行使する経済産業大臣に専門技術的裁量が認められていることが明らかである。このように,規制権限を行使する公務員に裁量が認められる場
合,規制権限の存在から直ちに個々の国民との関係で当該公務員に規制権限を行使すべき義務(作為義務)が認められることにはならないのであり,かかる規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限り,その不行使により被害を受け
た者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(大阪泉南アスベスト最高裁判決等参照)。
2
福島第一原発のような実用発電用原子炉には,炉規法及び電気事業法が適用されるところ,炉規法及び電気事業法は,電気事業法による規制の及ぶ範囲に
ついては炉規法の規制を適用除外とするなどしており,相互に補完しあって実用発電用原子炉についての規制体系を構築している。炉規法は,核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止し,公共の安全を図るために原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制を行うことなどを目的とし(1条),電気事業法も,電気工作物の工事,維持及び運用を規制することによって,公共の
安全を確保し,環境の保全を図ることを目的としている(1条)。また,電気事業法39条2項は,同条1項の技術基準のよるべきところについて,事業用電気工作物が,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること(同項1号)を求めている。
電気工作物の一つである実用発電用原子炉を含む原子炉は,原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるもの
であって,原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがある。そして,そのような実用発電用原子炉が維持すべき技術水準を定め,その適合性を判断するに当たっては,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見が
必要であり,また,上記各知見の不断の進歩,発展に適時にかつ適切に対応する必要もある。
以上を踏まえると,電気事業法39条及び40条が,経済産業大臣に,電気工作物が維持すべき技術水準(省令62号)の改正権限及び技術基準適合命令の発令権限を付与しているのは,万が一にも原子炉施設における深刻な災害が
発生することのないように,技術水準の内容をできる限り速やかに技術の進歩や最新の科学的知見等に適合したものに改正し,その適合性を判断するためには,これを経済産業大臣に委ねるのが適当であるとされたことによるものであると解される。そして,前述の炉規法及び電気事業法の目的等に照らせば,経済産業大臣の上記規制権限は,
原子炉施設における深刻な災害の発生を防止し,

その周辺住民等の生命,身体に対する危害を防止することをその主要な目的として,適時にかつ適切に行使されるべきものと解される。
第3

予見可能性の有無及び程度

1
前提となる考え方(予見の対象,前提となる科学的知見の程度)


予見の対象について
被告国は,規制権限の不行使が違法とされる前提としての予見可能性の対象は,原告らに対して損害を与えた原因とされる本件地震及びこれに伴う本件津波と同規模の地震,津波の発生又は到来であると主張する。
しかし,本件事故は,福島第一原発の敷地高を超える津波が発生,到来したことにより,福島第一原発1ないし4号機の原子炉建屋等が浸水し,電源設備等の原子炉を冷却するために必要不可欠な設備が被水したため,全交流電源喪失に至り発生したものであるところ,第2部認定事実第2の1⑵ア,第3の2⑴ないし⑷のとおり,福島第一原発1ないし4号機の電源設備等の多くはタービン建屋(T/B)の地下1階に設置されていたのであるから,本件地震及び本件津波と全く同規模のものではなくとも,
敷地高さ
(O.
P.

+10m)を超える津波が到来した場合には,福島第一原発の原子炉建屋等が浸水し,電源設備等が機能不全に陥り,全交流電源喪失に至る現実的な危険性があったというべきである。そうすると,経済産業大臣が,過去の一定の時点において,福島第一原発の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波の到来を予見することが可能であったのであれば,その時点で,原子炉建
屋等の浸水による全交流電源喪失を予見し,これを避けるための結果回避義務を想定することは可能であり,ひいては,かかる結果回避義務の不履行の違法性が認められることがあり得るというべきである。
したがって,本件主張に係る規制権限の不行使の違法性を検討する前提となる予見の対象(国賠法上の違法性が基礎付けられ得る最小限度の予見の対
象)は,福島第一原発の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波の到来をもって足りるというべきである。
ただし,本件津波と同規模の津波を予見し得た場合に求められる結果回避措置と,敷地高さ(O.P.+10m)をわずかに超える津波を予見し得た場合に求められる結果回避措置とは,当然にその内容や程度が異なり得るも
のであるし,全交流電源喪失に至る危険性の程度も異なるのであるから,予見の対象に係る上記の議論は,本件津波と同規模の津波を予見し得なかったという一事をもって直ちに被告国の賠償責任が否定されるわけではないということにすぎず,経済産業大臣において実際に予見することが可能であった津波の規模に照らし,そのような規模の津波に対して求められる結果回避措置をもって,本件事故を実際に回避することが可能であったか否か(結果回避可能性)などの点については,別途の考慮を要するというべきである。


前提となる科学的知見の程度について

被告国は,予見可能性の前提となる科学的知見は,専門的研究者の間で正当な見解であると是認され,通説的見解といえる程度に形成,確立した科学的知見であることを要するとか,審議会等の検証に耐え得る程度の客
観的かつ合理的根拠に裏付けられた科学的知見であることを要するなどと主張する。
しかし,本件では,経済産業大臣が規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるか否かの判断における一つの考慮要素として,
予見可能性が検討されることになるところ,

措置の内容や優先度も異なるのであり,そのような措置を採らなかったことの合理性の程度も変わってくるものである。したがって,規制権限の不行使の違法性の判断においては,前提となる科学的知見の程度について一定の基準を設け,そのような基準を満たす予見可能性があるかないか(予見可能性の有無)という観点から二者択一的に論ずるのではなく,どの程度の予見可能性があるか(予見可能性の程度)という観点から科学的知見の程度を検討し,これを違法性の判断における考慮要素として,他の事情と併せて総合的に判断するのが相当である(なお,予見可能性という用語には様々な意味内容や意味付けがあり得るが,
以下の説示においては,

議論の混乱を避けるため,社会通念上の純然たる可能性としての予見可能性の意味で用いることとし,調査義務ないし予見義務が認められるという意味での予見可能性であるとか,結果回避義務を基礎付けるに足りる程度の予見可能性という意味では用いないこととする。)。

ところで,
原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理判断は,
原子力規制機関の専門技術的裁量を前提として,現在の科学技術水準に照らし,原子炉施設に係る安全性の審査基準に不合理な点があるか否か,審
査基準に適合するとした原子力規制機関の判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否かという二段階の審査を行うことが必要とされているが(伊方原発訴訟最高裁判決参照),このような考え方は,本件のような規制権限(技術基準適合命令等)の不行使の国賠法上の違法性を判断する場面においても,
判断枠組みとしてそのまま取り入れるかどうかは別として,

裁判所の基本的な審理判断の姿勢として尊重すべきものと解される(伊方原発訴訟最高裁判決で問題とされた原子炉設置許可処分も,規制権限の不行使の一場面であることに変わりはなく,その意味では本件と根本的な相違はない。)。
もっとも,上記判断枠組みにおける審査基準の合理性の判断に当たって
は,その審査基準の基礎とされ又はされなかった科学的知見が通説的見解といえる程度や審議会等の検証に耐え得る程度に達しているかどうかという点だけで結論が左右されるのではなく,その科学的知見の信頼性の程度と,被害の重大性・切迫性等の他の事情との総合考慮により判断されるというべきであって(すなわち,被害の重大性や切迫性等の事情次
第では,審査基準の合理性の判断に取り入れるべき知見の範囲や程度も異なり得ると考えられる。),伊方原発訴訟最高裁判決の考え方や判断枠組みを前提としても,前提となる科学的知見の程度に一定の基準を設ける被告国の主張が論理的に導かれるわけではない。
2
予見可能性の有無及び程度


予見可能性の有無

前記認定事実第3の6⑴及び弁論の全趣旨によれば,経済産業大臣が福島第一原発1ないし4号機の敷地高(O.P.+10m)を超える津波が到来する可能性を認識したのは,被告東電から平成20年試算の報告を受けた平成23年3月7日であったと認められ,それ以前の時点において,O.P.+10mを超える津波の到来や,津波被害による全交流電源喪失
及び炉心損傷を実際に予見していたとは認められない。

前記認定事実第1の6⑵イのとおり,推進本部が平成14年7月31日に公表した長期評価は,要旨,M8クラスの日本海溝付近領域のプレート間大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体
では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定されるとし,ポアソン過程により,日本海溝付近領域全体のどこかで上記の規模の地震が発生する確率は,今後30年以内で20%,今後50年以内で30%程度と推定され,同領域内の特定の区域で同様の規模の地震が発生する確率は,今後30年以内で6%程度,今後50年以内で9%程度と推定
されるとしている。
推進本部は,地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策を立案することを目的として,地震防災対策特別措置法に基づき当時の総理府(後に文部科学省)に設置された政府の特別の機関であり,長期評価は,推進本部が,全国を概観した地震動予測地図の
作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題としている中で,海溝型地震である三陸沖に発生する地震を中心に,三陸沖から房総沖にかけての地震活動について,その時点までの研究成果及び関連資料を用いて調査研究の立場から評価する目的で策定・公表したものである(第2部前提事実第7の5⑴,⑵)。そうすると,長期評価には,その作成機関や作成経緯
等からみて,一定の信頼性があることは明らかである。
また,被告東電が行った平成20年試算では,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の海溝沿いに移動した場合の津波水位を試算したところ,福島第一原発の敷地南側境界の津波高は最大でO.P.+15.707mと算定されたが,平成20年試算で基礎とされた試算方法は,平成14年試算と概ね同一であった(認定事実第3の6⑴,⑵)。そうすると,被告東電において,平成20年試算と同様の試算を,長期評価が公表された平成
14年7月31日以降の時点で実施することは可能であったし,被告国において,被告東電にこのような試算をするよう指示し,又は第三者に依頼して試算することも可能であったと認められる。
これらの事情からすれば,被告国は,長期評価の公表を受けて,被告東電に対して平成20年試算と同様の試算を実施するよう指示するなどし,
その結果を報告するよう求めることにより,同年末頃には,福島第一原発の敷地高さ(O.P.+10m)を超える,平成20年試算と同規模の津波(以下本件想定津波という。)の到来を予見することが可能であったと認められる。


予見可能性の程度を検討する意義
上記⑴のとおり,経済産業大臣は,平成14年末時点において,本件想定津波の到来を予見することが可能であったと認められるところ,原子炉施設においてひとたび事故が生じた場合,その被害は深刻かつ重大なものとなり得ることや,そもそも地震や津波などの発生時期の予測は難しいことからす
れば,経済産業大臣は,敷地高さを超える津波(本件想定津波)を予見することが可能となった時点で,直ちにこれを想定した津波対策を行わなければならない作為義務(結果回避義務)を負い,これを怠った場合には国賠法上違法の評価を受けるという考え方もあり得る。
しかし,経済産業大臣には,原子炉の安全性を総合的に確保するために,
どのような調査権限や規制権限を,いつ,どのように行使するかにつき一定の裁量が認められるというべきであり,このことは,地震や津波からの安全性についても異なるところはないと解される。
また,
原子炉施設については,
その他の自然災害や人的災害からの安全性も確保しなければならないところ,理論上否定することができないあらゆるリスクについて100%に近い安全性を求めることは,資金や人材等の資源に限りがある以上,現実にはほぼ不可能である。このような観点を踏まえると,経済産業大臣は,敷地高さを超える津波(本件想定津波)の到来を予見することが可能であったことをもって,直ちに個々の国民との関係で規制権限を行使すべき作為義務(結果回避義務)を負うということはできず,その予見可能性の程度によって,調査義務(予見義務)が生じると解すべき時期や,規制権限を行使すべき作為義務
が生じる時期及びその具体的な内容等が異なってくるものと解され,ひいては,規制権限の不行使の違法性の判断も左右されるものと解される。そこで,以下,敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波の到来に係る予見可能性の程度につき,その基礎となる知見(特に長期評価の見解)の信頼性について検討した上で,予見し得た津波の規模,予見し得た津波被害の切迫性や危険性について検討する。



予見可能性の程度(長期評価の見解の信頼性)
上記⑴イのとおり,長期評価は,地震防災対策特別措置法に基づき設置された推進本部が,全国を概観した地震動予測地図の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題としている中で,海溝型地震である三
陸沖に発生する地震を中心にして,三陸沖から房総沖にかけての地震活動について,その時点までの研究成果及び関連資料を用いて調査研究の立場から評価する目的で策定・公表したものであり,その作成機関や作成経緯等からみて一定の信頼性が認められるものであるし,その内容において理学的に否定することができないものである。

もっとも,長期評価の見解の信頼性については,以下の点を指摘することができる。
長期評価の見解は,過去400年間に発生したM8クラスの地震である1611年慶長三陸地震,1677年延宝房総沖地震及び1896年明治三陸地震を,日本海溝付近領域で発生したプレート間大地震(津波地震)と評価することが前提となっている。
しかし,海溝型分科会の議論をみると,慶長三陸地震については,震源域が明らかでなく,千島沖で発生した可能性もあるとの指摘があり,延宝房総沖地震については,震源域が明らかでない上,そもそもプレート間地震(津波地震)ではない可能性もあるとの指摘があるなど,これらの地震を日本海溝付近領域で発生したプレート間大地震(津波地震)
と評価することに対する強い異論や疑問があったことが認められ,また,
このような異論等もある中で,

メカニズムは分からないけれども,3回大きな津波が発生して三陸に大きな被害を発生させているわけだから,警告としてはむしろ3回というほうを。

(事務局・須田秀志),

次善の策として三陸に押し付けた。あまり減ると確率が小さくなって警告の意がなくなって,正しく反映しないのではないか,という恐れもある。

(主査・島﨑邦彦)といった,科学的な見地というよりは,防災行政的な観点を重視した発言がされていることも認められる(乙B40〔20頁〕,61~64,219の3〔資料27〕,丙B10など。なお,延宝房総沖地震に関する上記指摘と同旨をいうものとして,乙B14,2
1参照)。
また,長期評価の見解は,陸側のプレートに太平洋プレートが沈み込んでいるという構造の同一性から,三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」という南北に長い一つの領域(日本海溝付近領域)を設定し,明治三陸地震と同程度の地震が上記領域内のどこでも起こり得るとしている。しかし,この点については,平成14年6月26日の第67回長期評価部会において,部会長の島﨑邦彦が,「400年に3回と割り切ったことと,それが一様に起こるとした所あたりに問題が残りそうだ。と発言しており,海溝型分科会の議論を経てもなお,上記の考え方には問題が残っている旨の認識が示されている
(乙B219の3
〔315頁〕

なお,海溝型分科会の議論につき,乙B62〔5頁〕など)。
また,当時の地震学・津波学においては,過去に地震が発生した領域では同じような地震が繰り返し発生し,既往地震が確認されていない領域であっても,地体構造が近似していれば同じような地震が発生する可能性があるという考え方(地震地体構造論)の下,日本海溝付近領域の北部と南部では,地震の発生に影響を及ぼす地形や堆積物の厚さに違い
があることなどから(乙B46,51,59,60,121など),これらを異なる領域として区別する考え方が一般的であり(垣見マップ・乙B84参照),また,明治三陸地震のような津波地震は限られた領域でのみ発生するという考え方も強く,日本海溝付近領域の南部(福島県沖)
において,
明治三陸地震のようなM8クラスのプレート間大地震
(津

波地震)
が発生する確率は低いと考えられていたことがうかがわれる
(乙
B38,40~43,49など)。
長期評価公表後の事情(推進本部や関係団体による評価等)についてみると,長期評価を公表した推進本部は,平成15年3月24日に公表したプレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度についてにおいて,日本海溝付近領域のプレート間大地震(津波地震)について,過去の地震のデータが少ないことなどから,発生領域の評価及び発生確率の信頼度をC:やや低いと評価し,平成17年3月に公表した地震動予測地図においても,これを決定論的地震動予測地図である震源断層を特定した地震動予測地図には取り入れず,確率論的地
震動予測地図の基礎資料としたことが認められる
(認定事実第1の6⑶,
⑹)。
また,内閣府に設置された中央防災会議は,十勝沖地震等を契機として,東北・北海道地方における地震防災対策強化のため日本海溝・千島海溝調査会を設置し,同調査会において検討の上,平成18年1月に日本海溝・千島海溝報告書を公表したが,同報告書においては,福島県沖・茨城県沖のプレート間地震は,M7クラスの地震などが発生しているが繰り返しが確認されておらず,近い将来発生する可能性が低いとして検討対象から除外されており,長期評価の見解は採用されなかったことが認められる(認定事実第1の8)。
さらに,土木学会において平成20年度に行われたロジックツリーの
重み付けアンケートにおいては,日本海溝付近領域の津波地震活動について,三陸沖と房総沖でのみ過去と同様の様式で津波地震が発生するという長期評価とは異なる分岐に0.40の重み付けがされ,日本海溝付近領域の北部と南部ではすべり量が異なるという地体構造の違いを前提とする分岐に0.35の重み付けがされた一方,日本海溝付近
領域の南部でも同領域の北部と同程度のすべり量の津波地震が発生するという長期評価の見解と同旨の分岐には0.25の重み付けしかさ
長期評価の見解に対する関係分野の専門家の意見等についてみると,地震学等の専門家からは,宮城県沖地震及び南海トラフの地震の長期評価に比べて,格段に高い不確実性をもつことを明記すべき(大竹政和・乙B165〔3頁〕),

福島県沖では,太平洋プレートは巨大地震は発生しないで沈み込んでいると考えられ,多くの地震学者はそのように思っていた。

多くの地震学者は,今回の地震発生当時,福島県沖で大規模な地震が起こるとは考えていなかった。

(佐竹健治・乙
B40〔29頁〕),

このような評価は,地震学の基本的な考え方からすると,異質であると思います。(津村建四朗・乙B41

〔4頁〕,

起きないと言い切れないから起きる可能性があるという論理は,これもまた科学的とは言い難く,本来は『不明』とすべきであったと思います。

(松澤暢・乙B42〔16頁〕),本件地震まで,私を含む多くの地震学者が津波地震を研究し,様々な仮説を提唱してきましたが,総じて,明治三陸地震のような津波地震は,限られた領域や特殊な条件が揃った場合にのみ発生しうるというものが大勢を占めていたと言えます。,

実際の防災対策をしていく上で,明治三陸地震と同じような津波地震が福島沖で発生すると考えることには少し無理があるのではないかと考えます。

(谷岡勇市郎・乙B49〔14,19頁〕),

これは地震本部が理学的知見を基に議論した結果として『理学的に否定できない』ものとして出された見解であると認識しています。

(笠原稔・
乙B50〔6頁〕),

積極的にこれらの領域で津波地震が発生するという立場は取っておらず,『そういう見方もあるのだな』と思いながら,海溝型分科会の議論に参加していました。(阿部勝征・乙B212

〔2,

4頁〕),一括して『三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間地震(津波地震)』というグループを設定し,その活動の長期評価を行った…作業は適切ではないかもしれず,津波防災上まだ大きな問題が残っている(石橋克彦・乙B14〔387,388頁〕)といった意見等があり,津波工学の専門家からは,

理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的なコンセンサスが得られている津波であるとは考えられていなかったのです。

(今村文彦・乙B44〔21頁〕),

この見解は確定論に取り入れ,直ちに対策を取らせるような説得力のある見解とは考えられていませんでした。

(首藤伸夫・乙B45〔23頁〕)
といった意見等があることが認められ,関係分野の専門家全体の意見の
傾向としても,積極的にこれを支持する者は少なく,消極的ないし懐疑的な意見を有する者が多かったことがうかがわれる。
以上のような海溝型分科会における長期評価策定に係る議論状況,長期評価の見解に対する関係団体等による評価,関係分野の専門家の意見等からすれば,長期評価の見解は,作成機関や作成経緯等から一定の信頼性は認められるものの,関係団体や専門家からおおむね消極的ないし懐疑的に見られていたのであって,本件事故が発生する前の科学技術水
準の下では,理学的に否定することができないという以上の積極的な評価をすることは困難で,信頼性の高いものとは評価されていなかったというべきである。

原告らが主張するその他の知見について
原告らは,福島第一原発の敷地高さを超える津波の到来に係る予見可能性に関する知見として,①4省庁報告書,②津波浸水予測図及び③貞観津波に関する知見を挙げる。
しかし,①4省庁報告書については,前記認定事実第1の2のとおり,極めて広い範囲を対象に津波高の傾向を把握することに主眼を置いたも
のであり,計算過程等を簡略化するなどして津波高の概略的な把握をするものであって,その精度は高いものではない上,津波計算解析の結果としても,福島第一原発1ないし4号機が所在する大熊町の想定津波の計算値を平均O.P.+6.4m,同5及び6号機が所在する双葉町の想定津波の計算値を平均O.P.+6.8mと算出したものであって,福島第
一原発の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波の到来を予測したものではない。したがって,4省庁報告書は,福島第一原発の敷地高さを超える津波の到来に係る予見可能性を基礎付ける知見とはいえないし,その精度において信頼性の高い見解ということもできない。
また,②津波浸水予測図については,前記認定事実第1の4のとおり,
事前の津波対策を検討したり,
量的津波予報が発表された際の避難・救助・
応急対策活動を支援したりするための資料として作成されたものであり,特定の地点の沿岸部に到来する津波高さを個別に算出して具体的に予測することを目的としたものではない。また,その数値計算においては,格子間隔が100mとされ,防波堤等による遮蔽効果が十分に考慮されていないなど,相当程度抽象化された手法が用いられている。したがって,津波浸水予測図は,福島第一原発の敷地高さを超える津波の到来に係る予見
可能性を基礎付ける知見とはいえないし,その精度において信頼性の高い見解ということもできない。
さらに,③貞観津波に関する知見については,前記認定事実第1の10によれば,
平成20年より前に発表されたもの
(甲B1,
5)
については,
いずれも貞観津波が福島第一原発の敷地高さを超える津波であったこと
を裏付けるようなものではなく,原告らが指摘するその他の論文(甲B2~4,6,26,44)においても,貞観津波の全容を解明する研究はあまり進んでいないなどとされており,貞観津波の詳細は明らかではなかったことが認められる。
また,
平成20年に公表された佐竹論文においても,
断層の南北方向の広がり(長さ)を調べるためにはさらなる調査が必要で
あるとされるなど,平成20年の時点においてもなお,貞観津波の詳細は十分に明らかではなかったことがうかがわれる。したがって,貞観津波の研究成果は,福島第一原発の敷地高さを超える津波の到来に係る予見可能性を基礎付ける知見とはいえないし,その精度において信頼性の高い見解ということもできない。



予見可能性の程度(津波の規模,津波被害の切迫性及び津波被害の危険性に係る予見可能性)

津波の規模に係る予見可能性について
上記⑴イのとおり,被告国は,平成14年7月31日の長期評価の公表
を受けて,被告東電に平成20年試算と同様の試算を実施するよう指示するなどし,その結果を報告するよう求めることにより,同年末頃には,福島第一原発1ないし4号機の敷地高さ(O.P.+10m)を超える本件想定津波の到来を予見することが可能であったと認められる。
もっとも,被告国は,本件津波発生以前に本件津波と同規模の津波の到来を予見することができたとは認められず,本件想定津波を超える規模の津波の到来を予見することができたと認めるに足りる証拠もない。イ
津波被害の切迫性に係る予見可能性について
前記認定事実第1の6⑵イのとおり,長期評価では,日本海溝付近領域において,M8クラスのプレート間大地震が約133年に1回の割合で発生すると推定され,その領域全体のどこかで上記地震が発生する確率は,
今後30年以内で20%,今後50年以内で30%程度と推定されるとし,同領域内の特定の区域で同様の地震が発生する確率は,今後30年以内で6%程度,今後50年以内で9%程度(530年に1回の割合)と推定されるとしている。
しかし,本件地震発生前の時点で,三陸沖北部から房総沖の領域におい
てM9クラスの大地震(本件地震と同程度の規模の地震)が発生することは,専門家も含め誰も想定していなかったのであり,長期評価の見解を前提としても,日本海溝付近領域内のどこか特定の区域において,明治三陸地震(M8.2,断層領域の長さ200km,幅50km程度)と同程度の規模の地震が発生することを予見し得たにすぎない。また,上記のとおり,
長期評価の見解を前提としても,日本海溝付近領域のうち福島県沖(特定の区域)
でこのような地震が発生する確率は,
今後30年以内で6%程度,
今後50年以内で9%程度(530年に1回の割合)と推定されるにとどまるものであった。しかも,長期評価の見解の信頼性については,発生領域の評価及び発生確率の評価の信頼度がAないしDの4段階の評価のうち
C(やや低い)とされ,日本海溝・千島海溝報告書においても採用されないなど,
信頼性の高いものとは評価されておらず,
地震学の専門家も,
当時の地震学においては,この領域で大規模な津波地震や巨大地震が発生する切迫した危険性があるなどと考える人はほとんどいなかったと思います(津村建四朗・乙B41〔6頁〕),調査委においても,日本海溝沿い福島沖で,津波地震が発生する可能性が高いと考えていた人はほとんどいなかったと思いますし,ましてや津波地震がいつ発生してもおかしくない(切迫性がある)と考えていた人はいなかったはずです(松澤暢・乙B42〔17頁〕)などと述べている。
以上によれば,本件津波発生前の時点で,福島第一原発1ないし4号機の敷地高さを超える津波が到来する切迫した危険性があると認識することは困難であったといえ,かかる意味において,津波被害の切迫性に係る予
見可能性の程度は低いものであったというべきである。

津波被害の危険性(電源喪失に至る蓋然性)に係る予見可能性について前記認定事実第2の2によれば,平成3年の福島第一原発1号機における海水漏えい事故,平成11年のルブレイエ原子力発電所における外部溢
水事故,平成16年のスマトラ島沖地震によるマドラス原子力発電所の外部溢水事故等を通じ,設計基準で想定した規模を超える自然現象が発生し得ることや,そうした事象が発生した場合には,原子炉の安全設備に重大な危険をもたらし得ることが明らかになってきていたといえる。
また,前記認定事実第2の3⑵イによれば,平成18年5月11日に開
催された溢水勉強会においては,
福島第一原発5号機の敷地高さ
(O.
P.
+13m)を1m超過する津波(O.P.+14m)が継続することにより,同5号機のタービン建屋の各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性があり,

浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する。

などと報告され
ていたことが認められる。
これらの事実に照らすと,
被告国は,
福島第一原発にその敷地高さ
(O.
P.+10m)を超える津波が到来した場合には,原子炉施設建屋への浸水,さらには非常用電源設備の被水によって全交流電源喪失がもたらされる現実的な危険性があることを認識していたというべきであり,このような福島第一原発の津波被害(外部溢水)に対する電源設備等の脆弱性は,平成18年5月の溢水勉強会における報告を受けて,より具体的なものと
して認識されたことが認められる。
そうすると,経済産業大臣は,福島第一原発の津波被害(外部溢水)に対する脆弱性を具体的に認識した平成18年5月以降,福島第一原発にその敷地高さを超える津波が到来する可能性について,長期評価の見解も踏まえ,より慎重に調査,検討し,設計想定津波を超える津波の到来に対す
る安全性の確保を検討することが期待される状況にあったというべきである。
第4
1
結果回避可能性
本件津波と本件想定津波の規模等の違い
前記第3の2⑷アのとおり,経済産業大臣は,本件事故発生前において,福島第一原発1ないし4号機の敷地高さ(O.P.+10m)を超える本件想定津波の到来を予見することが可能であったと認められるが,これを超える津波の到来を予見することができたとは認められないから,規制権限の行使による結果回避可能性については,本件想定津波(敷地南側境界の津波高O.P.+
15.707m)を基準として考えるべきである。
しかるところ,本件想定津波の前提となる地震はM8.3であるのに対し,本件地震はM9.0であり,地震エネルギーはマグニチュードが1大きくなると約32倍となるから,本件地震は,本件想定津波の前提となる地震よりも10倍以上大きな地震エネルギーを有していたといえる。また,本件想定津波の
前提となる地震によって動く断層領域は,南北の長さが210㎞,東西の幅が50㎞であるのに対し,本件地震によって実際に動いた断層領域は南北の長さ400㎞以上,東西の幅が200㎞以上であったと推定されており,地震の断層すべり量についても,本件想定津波の前提となる地震が9.7mであったのに対し,
本件地震は最大で50m以上であったと推定されている。
このように,
本件想定津波の前提となる地震と本件地震とは,地震エネルギーの大きさ,動いた断層領域の広さ,
断層すべり量などにおいて,
大きく異なるものであった。
(以上につき,
第2部前提事実第3の1⑴,
第8の2⑴,
認定事実第3の6⑵)
また,
本件想定津波は,
敷地南側方向から到来し,
その高さは,
敷地南側
(O.
P.+10m)で最大O.P.+15.707m,敷地北側(O.P.+13m)で最大O.P.+13.695mと敷地高さを超えたが,敷地東側では,
2号機前面の取水ポンプ位置(O.P.+10m)でO.P.+9.244m,5号機前面の取水ポンプ位置(O.P.+13m)でO.P.+10.182mにとどまり,敷地高さを超えないものと推定されていた。これに対し,本件津波の高さは,福島第一原発4号機の南側付近(敷地南側)で最大O.P.+15.5m程度,6号機の東側付近(敷地北側)で最大O.P.+14.5m
程度に至っただけでなく,1ないし4号機の東側(敷地東側)でもO.P.+14ないし15mと優にその敷地高さを超え,敷地南西部ではO.P.+約16ないし17mの浸水高も確認された。浸水深も,本件想定津波においては,1ないし3号機の主要建屋の立地点で1m前後,4号機の立地点で2m前後と推定されていたが,本件津波においては最大で5mに至った。(以上につき,
編Ⅱ-11〕)
このように,本件想定津波と本件津波とは,その規模や到来する方向等が大きく異なるものであった。
したがって,本件想定津波を前提として経済産業大臣が何らかの結果回避措置を被告東電に義務付けていたとしても,本件津波の到来による本件事故(電源喪失による炉心損傷)の発生を防止することができたと推認することはできない。
2
防潮堤等の設置による結果回避可能性


平成14年末頃以降の本件事故発生前において,経済産業大臣が本件想定津波の到来を予見していた場合,その津波防護措置としてまず想定されるのは,当時の工学的知見として一般的であったドライサイトコンセプトに基づ
き,防潮堤・防波堤等を設置してドライサイトを維持することであったと認められる。
すなわち,ドライサイトコンセプトとは,安全上重要な全ての機器が設計基準津波の水位より高い場所に設置されることなどによって,それらの機器が津波で浸水するのを防ぎ,津波による被害の発生を防ぐという考え方であ
り,この考え方の下では,主要建屋等の地盤高を設計想定津波よりも高くすることのほか,海側に防潮堤・防波堤等を設置することにより,津波の侵入を阻止すること(ドライサイトの維持)が津波防護対策の基本となる。そして,津波工学や原子力工学の専門家は,本件事故前,更に想定外の津波が到来することを想定し,津波の越流を前提とした津波対策を講じるとの考え方は,防災関係者一般でとられていませんでした(今村文彦・乙B44〔3
9頁〕),本件事故前に,津波対策として,主要施設の水密化や非常用電源・配電盤・高圧注水系等へ接続するための各種ケーブル等の高所移設を行うべきなどという提言をした人は,事業者のなかにも規制をする国の側にも,われわれ専門家の中にも一人もいませんでしたし,そもそもそのような発想自体がなかったのです。(岡本孝司・乙C1〔15頁〕)などと述べており,ドライサイトコンセプトは,本件事故発生前において,原子力施設に係る津波防護対策の考え方の基本とされていたことが認められる。

上記のとおり,経済産業大臣が本件想定津波の到来を予見していた場合,その津波防護措置(結果回避措置)としてまず想定されるのは,ドライサイトコンセプトに基づき,福島第一原発の敷地又はその周辺に防潮堤・防波堤等を設置することである。
しかし,前述のとおり,本件想定津波と本件津波とでは規模や到来の方向等に大きな違いがあるから,本件想定津波の防護措置として防潮堤・防波堤等の設置が行われたとしても,本件津波による本件事故の発生を防止することができたとは認められない。被告東電は,平成28年7月22日,本件想定津波を前提に,福島第一原発の敷地への浸水を防ぐための対策として敷地の南北側に防潮堤を設置した場合,津波による浸水を防ぐことができたか否かについてのシミュレーションを行ったところ,本件想定津波を前提とする防潮堤を設置していたとしても,本件津波が敷地に浸水することを防ぐこと
はできないとの計算結果を得たことが認められ(乙B81),このような計算結果からみても,本件想定津波を想定した防潮堤等の設置によって,本件事故の発生を避けることはできなかったと考える方が自然である。なお,経済産業大臣が本件想定津波の到来を予見していた場合,上記シミュレーションのように敷地の南北側にのみ防潮堤を設置する対策にとどまら
ず,敷地の東側からも同程度の高さの津波が到来する可能性を考え,敷地の東側にも同程度の防潮堤を設置するという津波対策が採用された可能性もある。しかし,本件事故が発生する前の時点でこのような発想に至ることが当時の知見や状況の下で一般的であったかどうかは定かでなく,いわば抽象的な可能性にとどまる上(なお,原子力工学を専門とする岡本孝司東京大学教
授は,合理的な津波の想定により水位が導き出され,敷地の東側の津波は敷地高さを超えないと試算されているにもかかわらず,
南北の防潮堤に加えて,
東側にも防潮堤を建てるというのは,緊急性の低いリスクに対する対策に注力した結果,
緊急性の高いリスクに対する対策が後手に回る危険性をはらみ,
工学的な見地からは合理性を有するとはいい難いとしている(乙C1〔14
頁〕)。),敷地の東側にどの程度の防潮堤を設けていれば本件津波による被害を防止することができたかどうかも証拠上明らかではない。


以上のとおり,本件想定津波を想定した防潮堤等の設置が行われていたとしても,本件津波による本件事故を防止することができた可能性(結果回避可能性)は低いものであったと認められる。

3
建屋等の水密化やその他の方法による結果回避可能性


原告らは,防潮堤等の設置だけが唯一の結果回避措置ではなく,建屋等の水密化などの結果回避措置も考えられた旨主張する。
しかし,本件事故発生前の時点で,経済産業大臣が本件想定津波の到来を予見していたとしても,当時の工学的知見の下において,防潮堤等の設置に代えて又はこれに併せて,建屋等の水密化などの結果回避措置が選択された
と認めるに足りる証拠はない。もちろん,本件事故発生前においても,被告東電が,福島第一原発において,内部溢水対策として重要な機器の設置された部屋の入口扉の水密化等を行ったこともあり(認定事実第2の2⑴),外部溢水対策として建屋等の水密化が採用された可能性もないわけではないが,これが確実に採用されたであろうというほどの事情も見当たらないのであり,
前述の当時の一般的な工学的知見の下では,むしろ採用されなかった可能性の方が高いように思われる。
この点につき,原告らは,被告東電が,平成20年試算を受けて防潮堤の設置を検討した際,反射した波が周辺集落に向かう波を大きくする可能性があることから,社会的に受け入れられないだろうという意見が出されていた
こと(甲A1の1〔本文編397頁等〕)を指摘し,防潮堤以外の方策についても検討せざるを得ない状況にあったなどと主張する。しかし,当時,原子力施設に津波が到来し浸水する可能性を想定して,建屋等の水密化などの措置が広く行われていたような事情はうかがわれないのであり,被告国が,当時の原子炉施設の設置に関する一般的な考え方であるドライサイトコンセ
プトから発想を大きく転換し,本件想定津波からの防護措置として建屋等の水密化などの方策を採用したであろうと直ちに推認することは難しい。⑵

また,経済産業大臣が,本件想定津波の到来を予見していた場合に,被告東電に義務付ける結果回避措置として防潮堤等の設置のみを選択したとしても,そのような結果回避措置の選択は,その当時の工学的知見の下では,経済産業大臣の専門技術的裁量を逸脱するような不合理なものとは認め難い。確かに,本件事故発生後の現在から回顧的にみれば,ドライサイトコンセ
プトのみに基づいて津波対策を行うことは原子炉施設の安全性を十分に確保するものとはいい難く,想定外の津波が到来し敷地内に侵入し得ることを前提に,建屋等の水密化や代替電源の確保等の措置を実施すべきであったようにも思われる。しかし,当時の工学的知見に関する津波工学及び原子力工学の専門家の意見は,信頼のおける試算によって津波の想定が変わったことになるのですから,それに応じて防潮堤・防潮壁を設置することにより,それまでどおり主要地盤への津波の越流を防ぐという対策を講じると判断することには,合理性が認められたはずです。(今村文彦・乙B44〔40頁〕,

ドライサイトを維持するために南北にのみ防潮堤を建てるという対策は,工学的な見地からは合理性を有するものです。

(岡本孝司・乙C1〔14
頁〕),計算上,ドライサイトを維持できる対策のみを講じることの合理性を否定できるものではな(い)(山口彰・乙C4〔7頁〕)などというものであって,本件事故発生前において,これらの見解が非常識で不合理なものとして批判されていたとか,これらの見解が一部の特殊なものであったというような事情も見当たらないから,証拠上,当時の工学的知見の下にお
いて,本件想定津波の結果回避措置として防潮堤等の設置のみを選択することの合理性を否定することはできない。


しかも,津波工学の専門家である今村文彦の意見書(乙B44〔53~58頁〕)によれば,本件津波と到来の方向や遡上態様が異なる本件想定津波
を前提として波力計算を行っていたとしても,本件津波の波力に耐えられたかは不明であるし,開口部の水密化(水密扉の設置)においては,漂流物が衝突する可能性を考慮する必要があるが,本件事故の時点では,その評価を行うための衝突力算定式が不十分であったことが指摘されている。そして,このような意見に対する十分な反論や立証(反証)も見当たらないから,仮に本件想定津波を想定して建屋等の水密化が行われていた場合であっても,全交流電源喪失に陥ることなく本件事故を回避することができたかどうかは
証拠上明らかでない。


なお,津波防護措置には,防潮堤等の設置や建屋等の水密化以外にも,非常用電源設備の高所配置や電源車の配備など様々なものがあり得るが,本件事故が発生する前の時点で,本件想定津波に対する措置としてそのような方策が選択されたはずであることや,あるいは選択すべきであったこと,さら
にはそれらの方策により本件事故を回避し得たことについて,原告らから具体的な主張立証はない。
第5
1
その他の関連事情
長期評価公表後の対応について
前記認定事実第3の5⑴のとおり,保安院は,長期評価公表直後,被告東電に対し,長期評価の見解の取扱いに関して確認を行い,福島県沖から茨城県沖で津波地震が発生することを前提としたシミュレーションを行うべきであるなどの指摘をしたり,長期評価の見解について推進本部の委員等に確認することを指示したりした上で,被告東電から,長期評価の見解は確定論に取り入れる
見解としては採用しないが,確率論的津波ハザード解析で対応する旨の報告を受けた。
また,前記認定事実第1の9⑵アのとおり,保安院は,原子力安全委員会が平成18年9月19日に平成18年耐震設計審査指針を公表したことを受けて,同月20日,被告東電を含む電気事業者に対して耐震バックチェックの実施を
求めるに際し,バックチェックルールにおいて津波に対する安全性の評価結果の妥当性を確認することを求めた。
このように,被告国(保安院)は,長期評価公表後,長期評価の見解を無視したり,津波被害に係る対策をしないまま放置したりしていたものではなく,当時の知見等に応じ,一定の対応を行っていたことが認められる。2
地震に対する規制権限行使の必要性について
前記認定事実第1の9⑵イのとおり,保安院は,平成19年7月16日に新
潟県中越沖地震が発生し,被告東電が設置する柏崎刈羽原子力発電所で従来の想定を超える地震動が観測されたことを受け,電気事業者に対し,耐震バックチェックにおいてその事項を反映するよう求め,実施計画の見直しを指示し,被告東電も,上記指示に応じて実施計画の見直しを行うなどしている。このように,平成19年7月以降は,原子力発電所における安全性に関し,
確率論的津波ハザード解析で対応することとしていた長期評価を踏まえた津波対策よりも,現実に従来の想定を超える観測結果があった地震動についての安全対策が急務とされていたのであって,被告らもそのような方針の下で対応していたことが認められる。
第6

本件主張に係る判断のまとめ
原子力発電所において事故が発生した場合には,その従業員や周辺住民等の生命,
身体に重大な危害を及ぼし,
周辺の環境を放射能によって汚染するなど,
深刻な災害を引き起こすことになり,その被害は極めて重大である。また,一般市民である原告ら自身が,原子力発電所の事故の発生を直接防止することは
不可能である。したがって,経済産業大臣には,万が一にもそのような事故が発生することのないよう,その専門技術的裁量の下で,適時かつ適切に技術基準適合命令等の規制権限を行使することが期待されていたというべきである。そして,経済産業大臣は,被告東電等に対して長期評価の見解を基礎として試算することを指示するなどすれば,平成14年末頃には福島第一原発の敷地高
さ(O.P.+10m)を超える本件想定津波の到来を予見することが可能であった。
しかし,本件事故発生前の時点では,長期評価の見解は,関係団体や専門家からおおむね消極的ないし懐疑的に見られており,理学的に否定することができないという以上の積極的な評価をすることは困難で,信頼性の高いものとは評価されていなかったのであり,また,長期評価の見解で示された発生確率からしても,福島第一原発の敷地高さを超える津波が到来する切迫した危険性があると認識することは困難であった。さらに,経済産業大臣において予見し得たのは本件想定津波であるところ,本件想定津波と本件津波とでは規模や到来の方向等に大きな違いがあることから,防潮堤等の設置や建屋等の水密化などの措置により本件事故の発生を回避することができた可能性は低いといわざる
を得ない。このような予見可能性や結果回避可能性の程度に加え,被告国(保安院)が津波の安全対策について一定の対応を行っていたことや,平成19年に新潟県中越沖地震が発生し,その後は地震動についての安全対策が急務とされていたことも考慮すると,被告国が,平成18年5月には福島第一原発の津波被害(外部溢水)に対する脆弱性を具体的に認識していたことを考慮しても
なお,経済産業大臣が,電気事業法39号に基づく省令62号の改正権限ないし同法40条に基づく技術基準適合命令権限を行使し,被告東電に対して建屋等の水密化などの措置を採るよう義務付けなかったことが,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない。
したがって,本件主張に係る経済産業大臣の規制権限の不行使は,国賠法上
違法であるとは認められない。
第7
1
その他の主張について
炉規法23条に基づく原子炉設置許可処分の自庁取消権限,又は電気事業法40条に基づく原子炉の一時使用停止命令について
原告らは,炉規法24条1項所定の災害の防止上支障がある場合に当た
るとして,同法23条1項に基づき,福島第一原発の設置許可処分を取り消すべきであったとか,建屋等の水密化等により結果回避可能性が認められないのであれば,電気事業法40条に基づく原子炉の一時使用停止命令をすべきであったなどと主張する。
しかし,本件主張について説示したとおり,本件事故が発生する前の時点では,長期評価の見解は,信頼性の高い見解であるとは評価されていなかったのであり,福島第一原発の敷地高さを超える津波が到来する切迫した危険性があると認識することは困難であったことなどからすれば,経済産業大臣が,技術基準適合命令よりもさらに強い措置である原子炉設置許可処分取消決定や一時使用停止命令を行わなかったからといって,その不作為が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない。

2
炉規法29条2項に基づく省令77号の改正権限,同法35条1項に基づく省令制定権限及び同法36条1項に基づく保安措置命令の発令権限について炉規法36条1項は,原子炉施設の性能が第29条第2項の技術上の基準に適合していないと認めるとき,又は原子炉施設の保全,原子炉の運転…に関する措置が前条第1項の規定に基づく主務省令…の規定に違反していると認めるときに,保安措置命令を発令することができる旨規定するところ,同法7
3条によれば,同法27条から29条までは,実用発電用原子炉については適用を除外することとされているから,実用発電用原子炉である福島第一原発に対し,同法29条2項の技術上の基準ないし原子炉施設の保全等に係る主務省令の規定に適合しないことを理由とする保安措置命令を発令することはできないと解される。

したがって,これらの規制権限の不行使を理由とする原告らの主張は,いずれも採用することができない。
3
シビアアクシデント対策について
原告らは,要旨,経済産業大臣は,炉心損傷というシビアアクシデントを回
避するため,省令62号を改正してシビアアクシデント対策を技術基準として定め,炉規法37条1項及び3項に基づきシビアアクシデント対策を保安規定に定めることを被告東電に義務付け,炉規法35条1項に基づきシビアアクシデント対策を省令77号に定めた上で,シビアアクシデント対策を講ずるよう技術基準適合命令
(電気事業法40条)
又は保安措置命令
(炉規法36条1項)
を発する又は被告東電に対する福島第一原発の設置許可を取り消す(炉規法23条)義務を負っていたと主張する。

しかし,原告らの上記主張は抽象的なものであり,経済産業大臣が,被告東電に対し具体的にどのような措置を採ることを義務付けるべきであったのかが明らかでない。そして,シビアアクシデント対策として義務付けるべき具体的な措置が明確でない以上,結果回避可能性についても具体的に検討することができない。

また,
前述のとおり,
本件事故が発生する前の時点では,
長期評価の見解は,
信頼性の高い見解であるとは評価されていなかったこと,福島第一原発の敷地高さを超える津波が到来する切迫した危険性があると認識することは困難であったことなどに加え,被告国が被告東電ら電気事業者にシビアアクシデント対策の整備を求め,その報告を受け,有効性を評価するなど一定の取組を行って
きたこと(前記認定事実第2の1⑵)にも鑑みると,シビアアクシデント対策につき被告国が規制権限を行使しなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
4
その他,違法な規制権限の不行使として原告らが主張するものにつき,国家賠償法上の違法性は認められない。

第3章

被告東電の民法709条に基づく責任(主位的請求)に関する判断
原賠法は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的として(1条),原子力事業者の無過失責任(3条1項),責任集中(3条2項,4条),求償権の制限(5条),原子力事業者の損害賠償措置(6条以下),国の措置(16条以下)などを定めている。このような原賠法の規定等からすれば,原賠法の原子力損害の賠償責任に関する規定は,民法の損害賠償責任に関する規定の特則であり,原賠法の規定が適用される範囲においては,民法の不法行為に関する規定の適用は排除されると解するのが相当である。
したがって,本件事故による損害賠償に関しては,原賠法3条1項によってのみ損害賠償を請求することができるというべきであるから,原告らの被告東電に対する民法709条に基づく請求(主位的請求)は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
第5部

損害論(総論)に関する当裁判所の判断

第1章

認定事実

第1

本件事故前の状況

1
原告らの避難元住居
原告らの本件事故当時の住居(避難元住居)は,自主的避難等対象区域(福島市,いわき市又は郡山市に居住していた原告ら)又は区域外(その他の原告
ら)にある。
2
本件事故前の放射線量
(甲A40,
甲D22の5,
39の5,
丙D17の1,
23の3)
本件事故前に全国に設置されていたモニタリングポストにおける空間線量の
測定結果等は,以下のとおりである。


福島県(福島市)におけるモニタリングポスト(高さ2.5m)の本件事故前の平常値は0.037ないし0.046µSv/hであった。また,郡山市の郡山合同庁舎付近における本件事故前の平常値は0.04ないし0.06µSv/h,福島市の【i2】事務所北側駐車場における本件事故前の平常値は0.04µSv/hであった。



東京都(新宿区)におけるモニタリングポスト(高さ22m)の本件事故前の平常値は0.028ないし0.079µSv/hであった。


神奈川県(茅ヶ崎市)におけるモニタリングポスト(高さ4.9m)の本件事故前の平常値は0.035ないし0.069µSv/hであった。


千葉県(市原市)におけるモニタリングポスト(高さ7m)の本件事故前の平常値は0.022ないし0.044µSv/hであった。



埼玉県(さいたま市)におけるモニタリングポスト(高さ18m)の本件事故前の平常値は0.031~0.060µSv/hであった。



茨城県(水戸市)におけるモニタリングポスト(高さ3.45m)の本件事故前の平常値は0.036ないし0.056µSv/hであった。また,
茨城県つくば市における自然放射線
(バックグラウンド放射線)
は,

0.06ないし0.09µSv/h程度であるとされている。


宮城県(仙台市)におけるモニタリングポスト(高さ9.5m)の本件事故前の平常値は0.0176ないし0.0513µSv/hであった。
第2
本件事故後の状況

1
本件事故後の放射線量


福島市内の複数地点において観測された環境放射能
(丙D共94の2
〔1,
4頁〕,94の3〔1,4頁〕,94の4〔1,4頁〕,94の5〔1,4頁〕,94の6〔1,4頁〕,95,147〔1,4頁〕)
平成23年

4月30日

0.51ないし1.49µSv/h
0.41ないし1.36µSv/h

6月30日

0.40ないし1.05µSv/h

7月31日

0.29ないし1.08µSv/h

8月31日
0.64ないし2.61µSv/h

5月31日

3月31日

0.36ないし0.99µSv/h

9月30日

0.34ないし0.93µSv/h

10月31日

0.35ないし1.18µSv/h
11月30日

0.34ないし1.16µSv/h

12月31日

0.34ないし1.12µSv/h

1月31日

0.23ないし1.06µSv/h

2月16日

0.27ないし1.08µSv/h

4月

1日

0.04ないし1.39µSv/h

平成25年

4月

1日

0.08ないし0.63µSv/h

平成26年

4月

1日

0.03ないし0.35µSv/h

平成27年

4月

1日

0.03ないし0.30µSv/h

平成28年

4月

1日

0.05ないし0.25µSv/h

平成29年

4月

1日

0.05ないし0.22µSv/h

平成24年



いわき市内の複数地点において観測された環境放射能
(丙D共94の2
〔1
06,109,112,115頁〕,94の3〔106,109,112,115頁〕,94の4〔115,118,121,124頁〕,94の5〔115,118,121,124頁〕,94の6〔115,118,121,
124頁〕,95,147〔115,118,121,124頁〕)平成23年

0.12ないし0.59µSv/h

6月30日

0.09ないし0.35µSv/h

7月31日

0.10ないし0.39µSv/h

8月31日

0.09ないし0.38µSv/h

9月30日

0.09ないし0.36µSv/h

10月31日

0.09ないし0.36µSv/h

11月30日

0.09ないし0.36µSv/h

12月31日
平成24年

0.11ないし0.62µSv/h

5月31日

0.39ないし1.46µSv/h

4月30日

3月31日

0.09ないし0.36µSv/h

1月31日

0.09ないし0.34µSv/h
2月16日
4月

0.07ないし0.83µSv/h

4月

1日

0.05ないし0.61µSv/h

平成26年

4月

1日

0.04ないし0.31µSv/h

平成27年

4月

1日

0.04ないし0.30µSv/h

平成28年

4月

1日

0.03ないし0.24µSv/h

平成29年


1日

平成25年

0.09ないし0.36µSv/h

4月

1日

0.03ないし0.12µSv/h

郡山市内において観測された複数地点の環境放射能(丙D共94の2〔16,19頁〕94の3〔16,19頁〕,94の4〔16,19頁〕,94
の5〔16,19頁〕,94の6〔16,19頁〕,95,147〔16,19頁〕)
平成23年

3月31日

1.00ないし2.12µSv/h

4月30日

0.30ないし1.51µSv/h

5月31日

0.20ないし1.36µSv/h

6月30日

0.25ないし1.24µSv/h

7月31日

0.21ないし1.10µSv/h

8月31日

0.21ないし1.03µSv/h

9月30日

0.21ないし1.00µSv/h

10月31日

0.21ないし0.98µSv/h

11月30日

0.21ないし0.96µSv/h

12月31日

0.20ないし0.91µSv/h

1月31日

0.16ないし0.78µSv/h

2月16日

0.17ないし0.83µSv/h

4月

1日

0.06ないし1.32µSv/h

平成25年

4月

1日

0.06ないし0.94µSv/h

平成26年

4月

1日

0.06ないし0.33µSv/h

平成24年

平成27年

0.04ないし0.28µSv/h

4月

1日

0.05ないし0.19µSv/h

平成29年

1日

平成28年



4月

4月

1日

0.04ないし0.16µSv/h

その他の原告らの避難元住居のある地域における放射線量

東京都(甲A40,43の1,44,丙D9の1の1・2,12の1の1~3)
東京都(新宿区)におけるモニタリングポスト(高さ22m)における平成23年8月20日の測定値は0.035µSv/hであった。また,航空機モニタリングにより測定された同年9月18日の空間線量(地上1m)は葛飾区で0.1ないし0.2µSv/h以下,日野市で0.
1µSv/h以下であった。
東京都による空間線量(地上1m)の測定結果は,平成23年6月17日の葛飾区において最大値0.2µGy/h(南水元3丁目)であり,同月19日の日野市において最大値0.05µGy/h(高幡)であった。葛飾区による区内複数地点の空間線量の測定結果(地上1m)によれ
ば,平成23年10月17日から同年12月1日までは0.09ないし0.25µSv/hであった。
日野市による市内複数地点の空間線量の測定結果(地上1m)によれば,
同年7月11日から同月12日までは0.
03ないし0.
08µSv/h,
同年12月26日頃は0.07ないし0.10µSv/h,平成24年12月
25日には0.04ないし0.09µSv/h,平成25年12月24日には0.04ないし0.07µSv/hであった。

神奈川県(甲A40,43の2,丙D32の3の1~3)
神奈川県(茅ヶ崎市)におけるモニタリングポスト(高さ4.9m)
の平成23年8月20日の測定値は0.040µSv/hであった。また,航空機モニタリングにより測定された同年9月18日の空間線量(地上1m)は,鎌倉市及び藤沢市でいずれも0.1µSv/h以下であった。
鎌倉市は,平成23年6月以降,市内の市立小学校の運動場中央等で放射線量の測定を行っていたところ,平成23年6月における測定値(地上1m)は最大で0.071µSv/h(今泉小学校,同月6日),平成
24年4月における測定値は最大で0.
061µSv/h
(第一小学校,
同月
6日),平成25年3月における測定値は最大で0.047µSv/h(第一小学校,同月15日)であった。

千葉県(甲A40,丙D29の1の1)
千葉県(市原市)におけるモニタリングポスト(高さ7m)の平成2
3年8月20日の測定値は0.032µSv/hであった。
松戸市による空間線量の測定結果(継続モニタリング)は,平成23年(本件事故後除染実施前)は0.28µSv/h(129施設の平均値)となったが,
平成24年の除染実施後は0.
15µSv/h
(607施設の平均
値)を下回り,その後も低下し,平成28年には約0.055µSv/h(1
29施設の平均値)となった。

埼玉県(甲A40,D7の5,丙D7の1)
埼玉県(さいたま市)におけるモニタリングポスト(高さ18m)の平成23年8月20日の測定値は,0.041µSv/hであった。
埼玉県による放射線調査によれば,
埼玉県庁
(さいたま市浦和区高砂)
における空間線量(午前1時測定)は,平成23年3月12日から同月31日までの間は0.033ないし0.
133µSv/h
(最大値は同月23
日),同年4月は0.056ないし0.080µSv/h(ただし,同月16日以降は0.06µSv/h以下),同年5月は0.052ないし0.058
µSv/h,同年6月は0.051ないし0.058µSv/h,同年7月は0.050ないし0.062µSv/h,同年8月は0.049ないし0.051µSv/h,
同年9月は0.
048ないし0.
056µSv/h,
同年10月は0.
048ないし0.057µSv/h,同年11月は0.048ないし0.052µSv/h,同年12月は0.048ないし0.051µSv/hであった。オ
茨城県(甲A40,甲D17の5,丙D17の1,42の1の1)茨城県(水戸市)におけるモニタリングポスト(高さ3.45m)の
同年8月20日の測定値は0.063µSv/hであった。
つくば市による,市内の公立小学校,中学校及び幼稚園並びに保育園の校庭や公園等の放射線量の測定結果(地上1m)は,平成23年5月27日に0.
072ないし0.
278µSv/h,
同年6月20日に最大で0.
375µSv/h
(あしび野多目的広場)
となり,
平成24年3月26日の時

点で0.1µSv/hを超える場所も多く,最大で0.271µSv/h(高見原ソフトボール場)となった。

宮城県(甲A40,丙D23の3)
宮城県(仙台市)におけるモニタリングポスト(高さ9.5m)の平成23年8月20日の測定値は0.059µSv/hであった。

宮城県亘理郡亘理町による,亘理地区における平均放射線量(地上1m及び50㎝)
の測定結果は,
平成24年
(1月ないし2月。
以下同じ。

は0.12µSv/h,平成25年は0.08µSv/h,平成26年及び平成27年は0.06µSv/h,平成28年及び平成29年は0.05µSv/h,平成30年及び平成31年は0.04µSv/hであった。



他国における放射線量(丙D共100〔5頁〕)
平成28年12月当時における世界各国の放射線量は,フランス(パリ)が0.05µSv/h,ドイツ(ベルリン)が0.08µSv/h,中国(北京)が0.07µSv/h,韓国(ソウル)が0.12µSv/h,シンガポール共和国(シンガポール)が0.10µSv/h,米国(ニューヨーク)が0.04µSv/hである。
2
本件事故による避難者数の推移


自主的避難者について(甲A13の3〔2~4頁〕,丙D共96〔2~4頁〕,97の1〔18頁〕)

本件事故後の福島県民の自主的避難者数は以下のとおり推移した。平成23年3月15日

4万0256人

3月25日

2万3659人

4月22日

2万2315人

5月22日

3万6184人

6月30日

3万4093人

7月28日

4万1377人

8月25日

4万7786人

9月22日

5万0327人

なお,平成27年6月時点における福島県全体の避難者数は約11万2000人であり,そのうち避難指示区域及び旧緊急時避難準備区域からの避難者は約9万8000人であり,自主的避難者は約1万4000人である。


平成23年3月15日時点での福島県内における自主的避難者数(本件地震及び本件津波による避難を含む。)及び人口に占める割合は以下のとおりである。
福島市

1万5377人(人口比

4.5%)

5068人(人口比

1.5%)

相馬市

4457人(人口比11.8%)

須賀川市

1138人(人口比

1.4%)

二本松市
1.1%)

郡山市

3234人(人口比

647人(人口比

1.1%)

白河市

522人(人口比

0.8%)

田村市

39人(人口比

0.1%)

いわき市

伊達市

0.0%)

国見町


14人(人口比
986人(人口比

9.8%)

福島市,いわき市及び郡山市における18歳未満の避難者数の推移(丙D共98の1~5,99,149)


福島市
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

3034人

平成26年4月1日時点

2398人

平成27年4月1日時点

2059人

平成28年4月1日時点

1561人

平成29年4月1日時点

3174人

1379人

福島市における平成23年3月1日時点における18歳未満の人口と平成28年4月1日現在の18歳未満の避難者数を比較すると,同日時点における18歳未満の避難率は3.2%である。

いわき市
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

2803人

平成26年4月1日時点

2107人

平成27年4月1日時点

1690人

平成28年4月1日時点

1358人

平成29年4月1日時点

3641人

884人

いわき市における平成23年3月1日時点における18歳未満の人口と平成28年4月1日現在の18歳未満の避難者数を比較すると,同日時点における18歳未満の避難率は2.4%である。

郡山市
平成24年4月1日時点

2801人
平成25年4月1日時点
平成26年4月1日時点

2311人

平成27年4月1日時点

2032人

平成28年4月1日時点

1880人

平成29年4月1日時点

2590人

1707人

郡山市における平成23年3月1日時点における18歳未満の人口と平成28年4月1日現在の18歳未満の避難者数を比較すると,同日時点における18歳未満の避難率は3.2%である。
3
本件事故後の新聞報道等
本件事故後の新聞報道や専門家の見解等の状況は,以下のとおりである。


平成23年3月

新聞報道等
福島第一原発の状況について,平成23年3月14日に,3号機が炉心融解し,爆発のおそれがある(丙D共132〔1頁〕),同月15日
に,
3号機が爆発した,
メルトダウンのおそれがある
(丙D共132
〔2,
3頁〕)との報道がされ,同月16日には,高濃度の放射能が漏れ,屋内退避指示の対象となる地域が拡大されたこと(丙D共132〔4頁〕),同月18日には,冷却作業が続いていること(丙D共130〔12頁〕)という報道がされた。同月22日,同月26日及び同月30日には,福島
第一原発近くの海水から放射性物質が検出されたこと(甲D共64~66),同月23日には,福島第一原発の全号機について外部電源を供給できる態勢が整ったこと(丙D共130〔17頁〕),同月24日には,1号機から4号機がまだ不安定な状況にあり,冷却作業が続いていること(丙D共130〔21頁〕),同月26日には,汚染水が原子炉から漏出
した可能性があること(丙D共130〔25頁〕),同月28日には,原子炉の冷却は長期戦となる(丙D共130〔26頁〕)という報道がされた。
放射線量等について,同月15日に,福島第一原発敷地内において人体に影響のある値となっており,さらなる放射性物質の漏洩の危険性がある(丙D共130〔4頁〕),同月16日に,福島県で通常の478倍の放射線が確認された(丙D共132〔5頁〕)という報道がされた。しかし,同日以降,福島県内だけでなく茨城県や東京都でも通常より高い値が出ているが,いずれも健康影響はない又は低いレベルであるとの報道がされるようになり(丙D共130〔5.7,10,11,13,14〕,131の2~3,132〔10,24頁〕),同月24日以降は,福島県内や首
都圏において放射線量が低下する傾向にある
(丙D共130
〔22,
27,
29,31頁〕,132〔18,23頁〕)という報道がされた。農産物等について,同月18日以降,ホウレンソウ・原乳・水道水等について一部で基準を超える放射性物質が確認されたが,直ちに健康影響のない値であるという報道がされた(丙D共130〔15,16,18〕,
131の5)。また,同月23日以降,内閣総理大臣が,ホウレンソウ等について摂取制限を指示したという報道がされた
(丙D共130
〔19頁〕

132〔16頁〕)。
水道水について,同月22日には,飯舘村で水道水から基準を上回る放射能が出たため飲用を控えるように周知した
(丙D共132
〔13頁〕,


同月24日には,いわき市でも乳児の飲用に係る水道水の摂取制限の要請があった(丙D共132〔17頁〕)という報道がされたが,同日22日及び同月25日には,母親が飲んだとしても胎児又は乳幼児に影響はほとんどない
(丙D共130
〔23頁〕131の6,

132
〔14,
18頁〕

という報道もされた。

原告らの避難元住居の状況について,同月28日には,いわき市において一部店舗で営業が再開されたこと(丙D共132〔23頁〕),同月25日には,いわき市や郡山市の小中学校や幼稚園において,同年4月6日ないし11日に入学式,
始業式等が行われる予定である
(丙D共132
〔2
5頁〕)という報道がされた。

専門機関等による情報提供(丙D共60,61)
公益社団法人日本医学放射線学会は,平成23年3月22日,ホーム
ページ上の
放射線被ばくなどに関するQ&A
という記事を更新した。
同記事によれば,屋内退避などの行政からの指示に従い行動する限り,被ばくによる健康への影響はないこと,どこにいるとしても地域の放射線量は妊婦や子供への影響を心配するには及ばない少ない線量であること,屋内退避の勧告が出ていない地域ではいつもどおり生活して構わ
ず,子供を外で遊ばせても問題がないこと,水道水から放射性物質が検出されたことについて政府が直接の飲用制限を指示している場合でなければ乳幼児が飲んでも問題はないこと,放射性物質が検出された食物について出荷を停止した基準値は国際的に見ても厳しい基準であり,報告されている範囲の食物を数回食べたとしても妊婦や子供,胎児に対す
る影響を心配する必要はないこと等が記載されている。
日本産科婦人科学会は,平成23年3月24日,水道水について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内を公表して,1㎏あたり200Bq前後の放射性物質を含む水道水を長期にわたって飲んだ場合の健康影響についての学会の見解を示した。それによれば,上記汚染さ
れた水道水を毎日1ℓ飲んだ場合でも,母体及び胎児に健康被害は起こらず,授乳を持続しても乳幼児に健康被害は起こらないと推定されるが,被ばくは少ないほど安心であるため,上記のような放射性物質を含まない水を利用できる場合には,それらの飲用を勧めるとしている。


平成23年4月以降

新聞報道等
福島第一原発の状況について,平成23年4月6日に高濃度汚染水の流出が止まった(丙D共130〔40頁〕,132〔32頁〕),汚染水の回収が進んでいる(丙D共130〔48頁〕)という報道がされるようになり,同月18日には,被告東電が事故収束に向けた道筋(後記6)を公表したとの報道(丙D共130〔51頁〕,132〔45頁〕)がされた。放射線量等について,同月以降も基本的に減少傾向が続いている旨の報道が継続しており(丙D共130〔36~38頁〕,132〔29,30頁〕),同月7日には,子供が外遊びをしても問題がなく,将来の妊娠にも問題がない(丙D共55の2,158の1),同月13日及び同日14
日には,IAEAの事務次長が,本件事故はチェルノブイリ原子力発電所事故と構造や規模の点で全く異なり,チェルノブイリ原子力発電所事故の方が断然深刻であると述べた(丙D共55の4,130〔47頁〕)旨の報道がされ,同月16日には,ロシアの医学生物学庁長官が,東京都内の空間放射線が(もともと自然放射線量の多い)モスクワの半分程度である
として,渡航解除をすることをロシア外務省に勧告する意向を有している(丙D共130〔50頁〕)という報道がされた。
農産物等について,同月4日に,出荷停止等について部分的に解除する見込みであり,また制限がされている農産物を摂取しても直ちに健康影響はない(丙D共130〔38頁〕),同月7日には,福島県内における作
付延期要請の一部解除がされた(丙D共130〔41頁〕,132〔32頁〕),同月17日には,出荷制限の一部が実際に解除された(丙D共132〔41頁〕)という報道がされた。
水道水について,同月1日,いわき市で摂取制限が解除され(丙D共132〔26頁〕),同月15日以降,福島県内の水道水から放射性物質が
検出されなかった又は検出された場合でも乳児の飲用に係る指標値(100Bq/㎏)以下を下回っている(丙D共132〔37,50~52頁〕)という報道がされた。
原告らの避難元住居の状況について,同月7日には,相双地区と郡山市を除く県内46市町村の公立小中学校で同月6日に入学式が実施された(丙D共132〔32頁〕),同月16日には,同月15日にいわき市の県立高校で入学式が行われた(丙D共132〔39頁〕),同月11日以
降同年5月にかけて,福島市やいわき市で複数のイベントが開催されている(丙D共132〔35,44頁〕,158の2~6)という報道がされた。

広報誌等
福島市が発行する福島市政だより(丙D共151の1~6)にお
いては,平成23年4月21日発行分以降,複数回にわたって放射線に関する情報提供がされており,現在の放射線量であれば健康に対するリスクは少なく,妊婦であっても特に心配をする必要がないことや,同月に行われた水道水の採水による検査の結果,放射性物質は検出されなか
ったこと等についての情報提供もされた。
いわき市の発行する広報いわき(丙D共153の1~10)にお
いては,平成23年7月号以降,放射線量測定値についての情報提供がされており,水道水について,同年4月4日以降放射性物質は検出されていないこと等についての情報提供もされた。

郡山市の発行する広報誌(丙D共152の1~7)においては,平成23年8月号に放射線Q&Aが掲載され,水道水について,同年4月17日以降,放射性ヨウ素も放射性セシウムも検出されておらず,乳幼児や妊婦も通常どおり使用できるとされ,同年6月号には,市内の放射線量が低下していること等の情報提供がされている。

松戸市(千葉県)の発行する広報まつど
(丙D共159の1~9)
においては,平成23年4月15日号で,浄水場から放射性物質が検出されたが,妊婦が長期間にわたって飲み続けても母体及び胎児に健康被害は起こらないと情報提供があり,その後,継続的に市内の放射線測定結果についての情報提供もされている。また,上記広報誌によれば,松戸市は,同年4月13日までに,福島県からの避難者延べ388人の受入れを行ったとされている。

亘理町(宮城県)の発行する広報わたり
(丙D共166の1~4)
においては,平成23年6月8日号で,現在の放射線量は健康に影響を与えるレベルではないとの情報提供がされ,同年9月号においても同様の情報提供がされた。
4
除染状況(丙D共144)
原災本部は,平成23年8月26日,除染特措法の成立に先立ち,本件事故により生じた放射性物質に係る除染に関する基本方針として,除染に関する緊急実施基本方針を公表した。同基本方針によれば,ICRPの2007年勧告等を踏まえ,緊急時被ばく状況(当時の運用では追加被ばく線量が年間2
0mSv以上)
にある地域を段階的かつ迅速に縮小し,
長期的には追加被ばく線量
が年間1mSv以下となることを目標とすること,放射線物質に汚染された地域において,2年後までに一般公衆の推定年間被ばく線量を約50%減少した状態を実現することを目指すこと,国は責任をもって除染を推進し,線量の水準に応じて,
県及び市町村と連携を取って必要な支援等を行うこととされている。


福島市(丙D共122,123)
福島市は,平成23年5月から小・中学校等の公共施設の除染を開始し,同年9月に福島市ふるさと除染計画を策定し,それ以降,同計画に沿って,福島市内の除染を実施した。
福島市は,学校,幼稚園,保育所等の除染を優先して行い,同年8月末に
は,上記各施設の除染を完了した。福島市における平成29年1月末時点における除染の進捗率は,住宅100%,公共施設等99.6%,道路49.1%,農地67.7%,森林76.7%である。


いわき市(丙D共106,107)
いわき市は,平成23年12月21日以降,原災本部の上記基本方針に基づき,いわき市除染実施計画(第1版ないし第5版)を策定し,いわき市内の除染を実施した。

いわき市除染実施計画に基づく除染について,平成29年1月末時点における進捗率は,住宅90.9%,公共施設等98.8%,道路84.1%,農地100%,森林100%である。


郡山市(丙D共118,弁論の全趣旨)
郡山市は,
平成23年12月以降,
郡山市ふるさと再生除染計画を策定し,

郡山市内の除染を実施した。
郡山市における平成29年1月末時点における除染の進捗率は,
住宅99.
2%,公共施設等100%,道路74.5%,農地86.1%,森林100%である。
5
食品等の規制


本件事故以前の状況(甲A1の1〔289,310頁〕,D共46の1・2)
本件事故以前には,放射性物質に汚染された飲食物を直接規制する基準はなく,原子力安全委員会が定めた原子力施設等の防災対策についてにお
いて,飲食物摂取制限に関する指標として,放射性ヨウ素については,飲料水及び牛乳・乳製品で300Bq/㎏以上,野菜類(根菜,イモ類を除く)で200Bq/㎏以上,放射性セシウムについては,飲料水,牛乳・乳製品で200Bq/㎏以上,野菜類,穀類,肉・卵・魚・その他で500Bq/㎏以上と定められていた。この指標は,飲食物の摂取制限措置を講ずることが適当か否かの
検討を開始する目安を示すものであって,出荷制限措置を講ずる基準として示されたものではなかった。


本件事故後の状況(甲A1の1〔311~316頁〕,乙D共1の2〔67,75,76頁〕,3の2〔67,75,76頁〕,18〔19頁〕,46~48,丙D共70,73,74,77)

暫定規制値の設定と出荷制限
福島県が,平成23年3月15日,県内の雑草を採取して検査を実施したところ,福島第一原発から30㎞以上離れた地点で採取した雑草から,上記⑴の飲食物摂取制限に関する指標の値を大きく超える放射性物質が検出された。
原子力安全委員会は,同月17日,上記⑴の飲食物摂取制限に関する指
標に従い,食品に含有される放射性ヨウ素の指標値を飲料水,牛乳・乳製品について300Bq/㎏,野菜類(根菜,芋類等を除く)について2000Bq/㎏(全体として甲状腺への預託等価線量の上限を年間50mSvとして設定されたもの。),放射性セシウムの指標値を飲料水,牛乳・乳製品について200Bq/㎏,野菜類,穀類,肉・卵・その他について500Bq/㎏(全
体として食品からの被ばく線量の上限を年間5mSvとして設定されたもの。)と設定した。厚生労働省は,同日,各都道府県に対し,原子力安全委員会により示された上記指標値を暫定規制値とし,これを上回る食品については,食品衛生法6条2号に当たるものとして食品に供されないようにすべき旨通知した。その後,魚介類,茶などについても暫定規制値が設
定され,暫定規制値を超えた福島県や茨城県産の野菜等について,原災本部の指示により出荷制限や摂取制限の措置が取られた。
厚生労働省は,平成24年4月1日,暫定規制値を新たな基準値へ変更し,放射性セシウムの規制値を,飲料水について10Bq/㎏,乳児用食品,牛乳について50Bq/㎏,一般食品について100Bq/㎏,乳児用食品につ
いて50Bq/㎏とした。このうち,一般食品の基準は,食品からの被ばく線量の上限を年間1mSvとして設定した上で,
年齢や性別ごとに区分し,
それ
ぞれの区分の摂取量,体格,代謝を考慮して,最も厳しい区分においても年間1mSvを十分に下回る水準として決められたものであり,乳児用食品の基準は,放射線への感受性が高い可能性があるとされる子供への配慮から,一般食品の基準の半分としたものである。
なお,厚生労働省が,平成23年9月及び同年11月に東京都,宮城県
及び福島県で実際に流通している食品を調査,推計したところ,今後の食品からの放射性セシウムによる被ばく線量は,年間0.002ないし0.02mSvであり,
自然界に存在する放射性カリウムによる被ばく線量
(0.
2mSv)と比べて低い値であるとされている。

水道水について(甲A1の1〔315,316頁〕)
厚生労働省は,平成23年3月18日,福島市内において同月16日に採取された水道水から170Bq/㎏の放射性ヨウ素が検出されたことを受け,水道水についても,食品と同様に基準値の設定等の検討を開始し,同月19日,各自治体に対し,飲食物摂取制限に関する指標(放射性ヨウ素
300Bq/㎏,放射性セシウム200Bq/㎏)を超えるものについては飲用を控えること,飲用以外の生活用水としての使用には問題がないこと,上記指標を超過した水を一時的に摂取した場合でも直ちに健康影響は生じないことなどから代替となる飲用水がない場合には飲用しても差し支えないこと等を記載した福島第一・第二原子力発電所の事故に伴う水道の対応についてを発出した。厚生労働省は,同月21日,水道水の基準と食品の暫定規制値との整合性を図るため,
各自治体に対し,
水道水の放射性ヨウ素が100Bq/㎏を超
える場合には,当該水を提供する水道事業者等は,乳児による水道水の摂取を控えるように広報すること等を依頼する通知を出した。また,厚生労
働省は,上記各基準値を超えることが判明した水道水を供給する自治体等に対し,摂取制限等を要請した。
6
本件事故後の原告らの避難元住居周辺の状況等


福島市(甲A56,57,甲D共50,丙D共71,72,78,121,123,124,130〔11頁〕)

福島市においては,本件地震によりライフラインに被害が生じた。水道については,市内全域で断水が生じたが,平成23年3月22日には避難指示区域とされたあさひ台団地の一部を除いて全て復旧した。電気については,14万7000戸が停電したが,同月14日に全て復旧した。都市ガスについては,一部の地域で供給が停止されたが,同月30日には全て復旧した。

また,本件地震等により,平成23年3月末までに市道約300か所が被災したが,市内の路線バスは通常運行を継続した。
本件事故後,福島市では,一部の食品について原災法に基づく出荷制限が行われた。原乳については平成23年4月16日,非結球性葉菜類(ホウレンソウ・コマツナ等)については同年6月23日,結球性葉菜
類(キャベツ類)については同年5月11日,アブラナ科の花蕾類(ブロッコリー,カリフラワー等)については同年6月15日,カブについては同年5月4日にそれぞれ制限が解除されるなどしているが,原木しいたけ(露地栽培),キノコ類(野生のものに限る),山菜などについては,平成29年1月17日時点でも出荷制限が続いている。

福島市では,平成24年産米の作付に当たり,反転耕・深耕による除染を行い,平成24年産米及び平成25年産米について収穫後の全量全袋検査を実施した。その結果,平成24年産米では,放射性セシウム濃度が基準値
(100Bq/㎏)
を超えたものが31万4556袋中41袋,
平成25年産米では基準値を超えたものが33万1229袋中1袋,平
成26年産米では基準値を超えたものが33万8751袋中2袋存在したが,平成27年産米では平成27年12月7日時点で基準値を超えたものはなかった。
福島市では,平成23年3月16日,水道水から放射性ヨウ素177Bq/㎏,放射性セシウム58Bq/㎏が検出され,同月17日及び18日にも放射性ヨウ素が検出された。


いわき市(甲A56,57,甲D共50,159,丙D共71,72,108~111,132〔17,26頁〕,153の2)

いわき市においては,本件地震によりライフラインに被害が生じた。水道については,平成23年4月10日までに復旧率97%となったが,同月11日の大規模余震により一部断水する地域が生じ,同月21日,津波や地滑りの被害で復旧が困難な地域を除いて市内ほぼ全域での復旧が完了
した。電力については,本件地震後は1週間以内(津波で流出した箇所を除く。),上記大規模余震後はその翌日までに市内全域で停電が解消し,津波や土砂崩れなどによる直接の被害箇所についても,同月28日までには復旧した。都市ガスについては,同月中にはほぼ全域で復旧した。通信については,
同年3月18日までには光回線
(音声通話,
インターネット)

及び固定電話が津波被災地域を除いた市内ほぼ全域で復旧し,携帯電話などについては,同年4月末までに一部の地域を除き本件地震前とほぼ同等のレベルにまで復旧した。
また,本件地震により,いわき市内の875か所で道路の損壊が発生したが,高速道路は,常磐自動車道が平成23年3月21日,磐越自動車道
が同月24日にそれぞれ再開した。鉄道は,磐越東線が同年4月15日以降通常運転を再開し,常磐線も同月11日から同年5月14日にかけて段階的に運転を再開した。また,バスは,高速バスが同年3月17日以降一部運転を再開し,市内路線バスは同月22日に一部運行を再開し,同年4月6日に通常ダイヤでの運行を開始した。


いわき市は,平成23年9月,復興に向けた基本方針や主要な施策などを示した
いわき市復興ビジョン
を策定し,
同年10月に市復旧計画を,
同年12月以降数次にわたって復興事業計画を策定し,地震補強事業,震災復興土地区画整理事業,防災集団移転促進事業,復興道路整備事業,災害公営住宅整備事業等の事業を行った。復興事業計画においては,被災者の生活再建(住まいと暮らしの債権や安定に向けた総合的な取組など),
生活環境の整備・充実(医療・福祉体制及び子育て・教育環境の整備・充実,災害対応力の強化など),社会基盤の再生・強化(災害に強い社会資本の整備,沿岸域等の地域特性に応じた再生・強化など),経済・産業の再生・創造(地域経済の再生復興・知育企業の経営再建や新たな産業の創出など),復興の推進(復興を推進するために必要な体制の構築など)の
ための事業を行うこととされ,これらの事業は,平成25年度末時点で概ね計画通りに進捗している。

いわき市には,平成24年10月29日時点で,市外から2万3787人が避難しており,
応急仮設住宅や借り上げ住宅等において生活していた。

本件事故後,いわき市では,一部の食品について原災法に基づく出荷制限が行われた。原乳については平成23年4月16日,非結球性葉菜類(ホウレンソウ・コマツナ等),結球性葉菜類(キャベツ類),アブラナ科の花蕾類(ブロッコリー,カリフラワー等),カブについては同年5月4日,原木しいたけ(露地栽培)については同年4月25日にそ
れぞれ制限が解除されるなどしているが,原木ナメコ(露地栽培),キノコ類(野生のものに限る),山菜などについては,平成29年1月17日時点で出荷制限が続いている。
いわき市は,平成23年3月16日から水道水の放射性物質の測定を開始したが,同月23日に上野原浄水場で100Bq/㎏を超える放射性
ヨウ素が検出されたことを確認し,同日から乳児による水道水の飲用を控えるよう求め,ペットボトル水の配布を行った。しかし,同月25日以降,上野原浄水場における放射性ヨウ素の検出値が上記指標値以下となり,同月28日に採水した市内8か所の浄水場における測定の結果はいずれも上記指標値を大きく下回ったことから,同月31日に摂取制限を解除した。いわき市による測定によれば,同年4月4日以降は,市内の水道水から放射性ヨウ素及び放射性セシウムは検出されていない。


郡山市(甲A56,57,D共50,160,丙D共71,72,117,152の1~2)

郡山市においては,本件地震によりライフラインに被害が生じた。水道については,
大規模な断水が発生したが,
本件地震から4日目には90%,
10日目には99%,平成23年4月1日には100%復旧した。電力に
ついては,
最大で市内全世帯の約16%
(3万6000戸)
が停電したが,
同年3月12日までにすべて復旧した。都市ガスは,同月26日までにすべて復旧した。また,郡山市においては,平成23年3月28日からごみの収集が再開され,同月31日に市内の小学校で卒業式が行われ,同年4月11日に市内の小中学校で始業式及び入学式が行われた。


郡山市では,市外からの避難者の受入支援(仮設住宅用地の貸与,公共施設の無償貸与など)を行っており,平成23年12月26日時点で9117人,平成24年10月1日時点で8750人の避難者が郡山市に避難していた。

本件事故後,郡山市では,一部の食品について原災法に基づく出荷制限が行われた。原乳については平成23年4月16日,非結球性葉菜類(ホウレンソウ・コマツナ等)については同年6月1日,結球性葉菜類(キャベツ類)カブについては同年5月4日,

アブラナ科の花蕾類
(ブ
ロッコリー,カリフラワー等)については同月11日にそれぞれ制限が
解除されるなどしているが,キノコ類(野生のものに限る),山菜などについては,平成29年1月17日時点でも出荷制限が続いている。郡山市は,平成23年10月頃から,市内で生産,加工,販売されている農産物や卸売市場に流通している農林水産物等についての放射線検査を行っている。そのうち加工,流通食品の検査において,平成23年12月5日以降行われた1311件の検査のうち基準値を超えたものは平成24年4月1日以降に行われたもののうち1件のみであり,同食品
に対しては食品衛生法に基づく回収の指導が行われた。
食肉については,
平成23年9月20日以降行われた7179件の検査のうち基準値を超えたものは平成24年5月及び同年11月に各1件ずつであり,同食肉に対しては食品衛生法に基づく廃棄命令がされた。
郡山市は,
平成23年3月21日に豊田浄水場の水道水から100Bq/

㎏を超える放射性ヨウ素が検出されたことから,一次的に乳児の水道水の摂取を制限したが,その後,数値が低下したことから,同月25日に摂取制限を解除した。郡山市の水道水から放射性セシウムが検出されたことはなく,同年4月17日以降は放射性ヨウ素も検出されていない。⑷

東京都

東京都(甲A56,57,D共50,丙D共72)
本件事故後,東京都において,原災法に基づく出荷制限が行われたものはない。


23区内等(丙D共160の1・2,161,162の1・2,163)東京都水道局は,平成23年3月23日,葛飾区所在の金町浄水場の上水
(水道水)
から同月22日に放射性ヨウ素210Bq/㎏が検出されたとし
て,東京都の23区内,武蔵野市,三鷹市,町田市,多摩市及び稲木市において乳児による水道水の摂取を控えるよう発表した。金町浄水場においては,同日以降も放射能測定が行われていたが,同月23日には放射性ヨ
ウ素が190Bq/㎏となり,同月24日以降は100Bq/㎏以下となったため,乳児の飲用に係る制限は解除され,同月31日には放射性ヨウ素は不検出となった。なお,金町浄水場において,放射性セシウムが検出されたことはない。

日野市(丙D12の2の1・2)
日野市では,本件事故前後で人口に大きな変化はない。



神奈川県(甲A56,57,D共50,丙D共72,176の1・2)ア
神奈川県においては,本件事故後,原災法に基づき,茶について出荷制限が行われたが,鎌倉市及び藤沢市においては出荷制限が行われたものはない。
また,神奈川県においては,遅くとも平成24年以降,水道水の放射性
物質の測定が行われているが,神奈川県内広域水道事業団は提供している
水道水の安全性に問題はないとしている。

鎌倉市(丙D32の4~6)
鎌倉市では,本件地震及び本件津波による人的被害はなく,岩手県,宮城県,福島県及び宮城県から合計167名の避難者の受け入れを行ったが,鎌倉市からの避難者数については公表していない。鎌倉市においては,平
成22年をピークとして,人口の減少が続いている。
また,鎌倉市は,平成24年度以降少なくとも平成29年度までの間,複数の農作物についての放射性物質濃度の測定を行っているが,平成26年4月9日にタケノコから検出最下限である3.0Bq/㎏の放射性セシウム137が検出されたほか,放射性物質が検出されたことはない。


千葉県

松戸市(甲A56,57,D共50,丙D共72,D29の2・3)松戸市では,本件地震により市道や公共施設の一部損壊が生じ,平成23年3月12日には一時1000名を超える住民が避難所に避難し
たが,同月13日には避難所への避難者は45名となり,同月28日には避難所が閉鎖された。また,松戸市は,被災地支援として,宮城県や岩手県に自転車の提供を行うなどした。松戸市からの避難者数については公表されていない。
千葉県では,本件事故後,原災法に基づき,一部の食品等について出荷制限が行われたが,松戸市においてはイノシシの肉を除き出荷制限が行われたものはない。

また,千葉県は,水道水の放射性物質の検査を行い,同月23日に松戸市にある栗山浄水場及びちば野菊の里浄水場で100Bq/㎏を超える放射性ヨウ素が検出されたことを受けて,乳児に対する水道水の摂取制限を行うこととし,松戸市は,同月24日から乳児用の飲用水の配布を開始した。
千葉県は,同月24日以降100Bq/㎏を超える放射性ヨウ素

が検出されることはなかったため,同月25日,摂取制限を解除した。イ
船橋市(甲A56,57,D共50,丙D共72)
船橋市では,本件事故後,原災法に基づき,タケノコについて平成25年10月23日まで出荷制限が行われた。



埼玉県(甲A56,57,D共50,130〔23頁〕,丙D共72,D7の2・3,13)

埼玉県においては,
本件地震後,
一部地域において,
停電,
水道管破裂,
道路破損等が生じた。埼玉県では,平成23年3月16日以降,さいたまスーパーアリーナ等に県外からの避難者向けの避難所を開設したほか,同月11日以降,緊急消防救助隊や水道局,保健師等を岩手県や福島県に派
遣し,仙台市に電気自動車の貸出しや自転車の提供を行った。また,さいたま市の人口は,本件事故後に減少したことはなく,現在まで増加し続けている。

埼玉県では,本件事故後,原災法に基づき,キノコ類(野生のものに限る。)について出荷制限が行われたが,さいたま市において出荷制限が行われたものはない。
また,川口市では,同月22日午後0時に採水した浄水場の水道水から120Bq/㎏の放射性ヨウ素が測定されたが,同月24日午前6時に採水した水道水からは100Bq/㎏以下の放射性ヨウ素しか検出されなかった。⑻
茨城県

取手市(甲A56,57,D共33〔146頁〕,50,丙D共72)取手市では,本件事故後,原災法に基づき,一部の食品等について出荷制限が行われたが,原乳については平成23年4月10日,ホウレンソウについては同月17日,茶については平成25年11月1日,タケノコについては平成27年4月24日までにそれぞれ出荷制限が解除された。また,取手市では,平成23年3月25日,配水場で同月24日に採取した
水から,100Bq/㎏を上回る放射性物質が検出された。

つくば市(甲A56,57,D共50,丙D共72,D17の2~4)つくば市においては,本件地震により,市道の損壊,停電,断水が生じた。つくば市は,平成23年3月20日以降,福島県や宮城県に対し
て物資支援等を行い,同月15日以降避難所を設けて500名以上の避難者の受入れを行った。つくば市の人口は,本件事故前から増加傾向にあったところ,本件事故後も増加を続けている。
つくば市は,文部科学省が平成23年8月に行った航空機モニタリングの結果,除染特措法における基準である追加被ばく線量が年間1mSv
を超える区域が同市南部の一部地域(市域の約5%)に認められ,同年12月から平成24年2月にかけて汚染状況調査を行ったところ,市域の約2%で上記基準を超える区域が確認されたとして,平成25年8月末時点で地上50㎝における市内の空間線量が年間追加被ばく線量1mSv
(0.
23µSv/h)
以下となることを目指して除染実施計画を策定し,

除染を実施した。同計画に基づく除染実施区域には,本件事故後の放射線量の高かった高見原ソフトボール場やあしび野多目的広場が含まれているが,つくば市fは含まれていない。
本件事故後,つくば市では,原災法に基づき,一部の食品等について出荷制限が行われたが,原乳については平成23年4月10日,ホウレンソウについては同月17日,茶につき平成24年10月11日にそれぞれ出荷制限が解除された。また,つくば市では,平成23年3月20
日以降,複数回にわたって水道水について放射性物質の検査を行ったが,放射性ヨウ素及び放射性セシウムとも100Bq/㎏を上回ったことはなく,同年5月19日以降はいずれも不検出となった。

宮城県(甲A56,57,D共50,丙D共72,174の1・2,175)

本件事故後,宮城県においては,原災法に基づき,一部の農産品等について出荷制限が行われたが,仙台市及び亘理町においては,キノコ類(野生のものに限る。),クマの肉などごく一部を除いて出荷制限が行われたものはない。また,宮城県は,平成23年6月16日以降,水道水の放射性物質の測定を行っているが,いずれも健康に影響を与えるレベルの放射
性物質は検出されていない。

仙台市(丙D36の3)
仙台市は,平成24年1月以降,水道水の放射能測定を行っているが,放射性物質が検出されたことはない(検出限界値0.4Bq/㎏)。

亘理町(丙D23の2の1~4)
亘理町では,本件地震のほか,本件津波によって亘理町の総面積の約48%が浸水するという重大な被害を受け,災害関連死亡を含め300人以上の住民が死亡した。しかし,平成23年3月末には,小中学校の卒業式等が実施され,同年4月下旬には小中学校の始業式,入学式等が実施され
た。
亘理町では,除染特措法に基づき策定した除染実施計画(第2版)にのっとり,平成24年7月から11月にかけて,亘理町あぶくま公園,サニータウン1号公園,
稲荷山農村公園についての除染を実施した。
その結果,
上記3か所の平均空間線量は,地上50㎝で0.1ないし0.2µSv/hとなった。
7
被告東電による本件事故収束に向けた道筋の策定・公表とその経過⑴

本件事故収束に向けた道筋の策定等(丙D共20,133,142)被告東電は,平成23年4月17日,福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋を公表した。上記においては,本件事故の事態の収束の目標として,ステップ1放射線量が着実に減少傾向となっている,ステップ2放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられているを
設定し,それぞれの達成時期の目安として,ステップ1につき3か月程度,ステップ2につきステップ1終了後3ないし6か月程度と設定した。そして,
上記目標を達成するため,当面の取組を冷却,抑制,モニタリング・除染の三つの分野とし,①原子炉の冷却,②使用済み燃料プールの冷却,③放射性物質で汚染された水(滞留水)の閉じ込め,処理・保管・再利用,④大気・
土壌での放射性物質の抑制,⑤避難指示/計画的避難/緊急時避難準備区域の放射線量の測定・低減・公表の五つの課題ごとに目標を設定して,対策を同時並行的に進めていくとした。


ステップ1の完了等(丙D共142)
被告東電は,平成23年7月19日,福島第一原発敷地境界における被ば
く線量評価が最大でも年間約1.
7mSvであり,
本件事故当初と比較して十分
に減少していることが確認されたとして,ステップ1の目標放射線量が着実に減少傾向となっているが達成されたことを確認した。また,被告東電は,ステップ1において特に重要な対策とされた水素爆発の回避について,格納容器に窒素充填を行い,水素爆発が回避されているとした。



ステップ2の完了等(甲D共58の1・2,丙D共20,141〔25,26頁〕)

被告東電は,平成23年12月16日,原子炉が冷温停止状態に達し,不測の事態が発生した場合も,敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持することができるようになったとして,安定状態を達成し,本件事故そのものは収束に至ったと判断し,ステップ2の目標である放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられているの達成と完了を確認した。この段階で,福島第一原発の圧力容器底部と格納容器内の温度が概ね100度以下になっている,注水をコントロールすることにより格納容器内の蒸気の発生が抑えられ,格納容器からの放射性物質の放出が抑制されている状態で,格納容器からの放射性物質の放出による敷地
境界における被ばく線量は年間0.
1mSvを下回っている,
注水設備がすべ
て使用不能となっても3時間程度で消防車による注水再開が可能であり,福島第一原発1ないし3号機において同時に12時間の注水停止が発生したとしても,
敷地境界における被ばく線量は年間1mSvを下回るという状態
であった。


内閣総理大臣は,平成23年12月16日,福島第一原発が冷温停止状態に至り,本件事故そのものは収束に至ったと宣言した。

第3

賠償に関する各種基準の概要(ただし,原告らに関係する部分に限る。)
1
中間指針(丙D共1〔以下本項においては,同証拠の頁数を記載する。〕)⑴

中間指針の策定及び位置付け(1~3,6頁)
原賠審は,平成23年8月5日,原賠法18条2項2号に基づき,避難を余儀なくされた住民や事業者,出荷制限等により事業に支障が生じた生産者などの被害者を迅速,公平かつ適正に救済することを目的として,中間指針を策定した。中間指針は,避難等対象者を対象とするものである。
なお,中間指針は,その位置付けとして,本件事故が収束せず,被害の拡大が見られる状況下,賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものであるから,中間指針で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得るとしている。⑵
財産的損害

検査費用(8~11頁)
本件事故の発生以降,①避難指示等対象区域内から同区域外へ避難のための立退き及びこれに引き続く同区域外への滞在を余儀なくされた者(ただし,平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域〔特定避難勧奨地点を除く。〕から同区域外に避難を開始した者のうち,子供,妊婦,要介護者,入院患者等以外の者を除く。),②本件事故発生時に避難指示等対象
区域外に居り,同区域内に生活の本拠としての住居があるものの,引き続き避難等対象区域外での滞在を余儀なくされた者又は③屋内退避区域内で屋内への退避を余儀なくされた者(避難等対象者)のうち避難若しくは屋内退避をした者,又は対象区域内滞在者が,放射線へのばく露の有無又はそれが健康に及ぼす影響を確認する目的で必要かつ合理的な範囲で検
査を受けた場合には,これらの者が負担した検査費用(検査のための交通費等の付随費用を含む。)は,賠償すべき損害と認められる。

避難費用(11~14頁)
避難等対象者が必要かつ合理的な範囲で負担した以下の費用が,賠償
すべき損害と認められる。
a
避難指示等対象区域から避難するために負担した交通費,家財道具の移動費用

b
避難指示等対象区域外に滞在することを余儀なくされたことにより負担した宿泊費及びこの宿泊に付随して負担した費用(以下宿泊費等という。)
c
避難等対象者が,避難等によって生活費が増加した部分があれば,その増加費用
避難費用の損害額算定方法は,以下のとおりとする。
a
避難費用のうち交通費,
家財道具の移動費用,
宿泊費等については,
避難等対象者が現実に負担した費用が賠償の対象となり,その実費を損害額とするのが合理的な算定方法と認められる。ただし,領収証等
による損害額の立証が困難な場合には,平均的な費用を推計することにより損害額を立証することも認められるべきである。
b
他方,避難費用のうち生活費の増加費用については,原則として,精神的損害の額に加算し,その加算後の一定額をもって両者の損害額とするのが公平かつ合理的な算定方法と認められる。

c
避難指示等の解除等(指示,要請の解除のみならず帰宅許容の見解表明等を含む。)から相当期間経過後に生じた避難費用は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。


一時立入費用(14,15頁)
避難等対象者のうち,警戒区域内に住居を有する者が,市町村が政府及
び県の支援を得て実施する一時立入りに参加するために負担した交通費,家財道具の移動費用,除染費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。は,
)必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。

帰宅費用(15,16頁)
避難等対象者が,対象区域の避難指示等の解除等に伴い,対象区域内の
住居に最終的に戻るために負担した交通費,家財道具の移動費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。)は,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。

生命・身体的損害(17,18頁)
避難等対象者が被った以下のものが,賠償すべき損害と認められる。本件事故により避難等を余儀なくされたため,傷害を負い,治療を要する程度に健康状態が悪化(精神的障害を含む。)し,疾病にかかり,あるいは死亡したことにより生じた逸失利益,治療費,薬代,精神的損害等
本件事故により避難等を余儀なくされ,これによる治療を要する程度の健康状態の悪化等を防止するため,負担が増加した診断費,治療費,
薬代等

就労不能等に伴う損害(26~28頁)
避難指示等対象区域内に住居又は勤務先がある勤労者が避難指示等により,あるいは,営業損害を被った事業者に雇用されていた勤労者が当該事業者の営業損害により,その就労が不能等となった場合には,かかる勤労
者について,給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。

財物価値の喪失又は減少等
財物につき,現実に発生した以下のものについては,賠償すべき損害と
認められる。なお,ここでいう財物は動産のみならず不動産をも含む。避難指示等による避難等を余儀なくされたことに伴い,対象区域内の財物の管理が不能等となったため,当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には,現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに伴う必要かつ合理的な範囲の追加的費用(当該財物の廃棄費用,
修理費用等)は,賠償すべき損害と認められる。
のほか,当該財物が対象区域内にあり,
a
財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質にばく露した場合,又は

b
前記aには該当しないものの,財物の種類,性質及び取引態様等から,平均的・一般的な人の認識を基準として,本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合
には,現実に価値を喪失し又は減少した部分及び除染等の必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
対象区域内の財物の管理が不能等となり,又は放射性物質にばく露することにより,その価値が喪失又は減少することを予防するため,所有者等が支出した費用は,必要かつ合理的な範囲において賠償すべき損害
と認められる。


精神的損害(17~23頁)

本件事故において,避難等対象者が受けた精神的苦痛(生命・身体的損害を伴わないものに限る。)のうち,少なくとも以下の精神的苦痛は,賠償すべき損害と認められる。

避難指示等対象区域から実際に避難した上,引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)及び本件事故発生時には避難指示等対象区域外に居り,同区域内に住居があるものの引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)が,自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,正常な日常生活の
維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域における屋内退避を長期間余儀なくされた者が,行動の自由の制限等を余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛


生活費の増加費用と合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定する
者であれば,その年齢や世帯の人数等にかかわらず,避難等対象者個々人が賠償の対象となる。


当たっては,差し当たって,その算
定期間を,以下の3段階に分け,それぞれの期間について,以下のとおりとする。
本件事故発生時から6か月間(第1期)
第1期については,一人月額10万円を目安とする。
ただし,この間,避難所・体育館・公民館等(以下避難所等とい

う。)における避難生活等を余儀なくされた者については,避難所等において避難生活をした期間は,一人月額12万円を目安とする。
第1期終了から6か月間(第2期)
第2期については,一人月額5万円を目安とする。
第2期終了から終期までの期間(第3期)

第3期については,
今後の本件事故の収束状況等諸般の事情を踏まえ,
改めて損害額の算定方法を検討するのが妥当であると考えられる。エ
始期については,原則として,個々の避難等対象者が避難等をした日にかかわらず,本件事故発生日である平成23年3月11日とする。た
だし,緊急時避難準備区域内に住居がある子供,妊婦,要介護者,入院患者等であって,同年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難した者については,当該者が実際に避難した日を始期とする。終期については,避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた精神的損害は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。

除されるまでの
間,同区域において屋内退避をしていた者(緊急時避難準備区域から平成23年6月19日までに避難を開始した者及び計画的避難区域から避難した者を除く。)につき,一人10万円を目安とする。

2
中間指針第一次追補(丙D共3)
原賠審は,平成23年12月6日,避難指示等対象区域の周辺区域から自主的避難を行った者の損害に関し,中間指針第一次追補を策定した。中間指針第一次追補においては,自主的避難に至った者について,福島第一原発の状況が安定していない等の状況下で,福島第一原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者数の多寡など)等の要素が複合的に関連して,本件事故による放射線被ばくへの恐怖や不安を抱いたものと考えられ,少なくとも中間指針追補の対象となる自主的避難等対象区域においては,住民が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱いたことには相当の理由があり,また,その危険を回避するために自主的避難を
行ったことに合理性があるとして,以下のとおりの指針を示した。⑴

対象区域
以下の福島県内の市町村のうち避難指示等対象区域を除く区域
(県北地域)福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,大玉村
(県中地域)郡山市,須賀川市,田村市,鏡石町,天栄村,石川町,玉川村,
平田村,浅川町,古殿町,三春村,小野町
(相双地域)相馬市,新地町
(いわき地域)いわき市


対象者
本件事故発生時に自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があ
った者(自主的避難等対象者。本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行った場合,本件事故発生時に自主的避難等対象区域外に居り引き続き同区域外に滞在した場合,当該住居に滞在を続けた場合等を問わない。)⑶

損害項目
自主的避難等対象者が受けた損害のうち,以下のもの。


放射線被ばくへの恐怖や不安により自主的避難等対象区域内の住居から自主的避難を行った場合(本件事故発生時に区域外に居り引き続き区域外に滞在した場合を含む。以下同じ。)における以下のもの。
自主的避難によって生じた生活費の増加費用
自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛

避難及び帰宅に要した移動費用

放射線被ばくへの恐怖や不安を抱きながら自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合における以下のもの。
放射線被ばくへの恐怖や不安,
これに伴う行動の自由の制限等により,
正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的
苦痛
放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用


具体的な損害額の算定の目安は以下のとおりである。

子供及び妊婦については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人40万円


上記ア以外の自主的避難等対象者については,本件事故発生当初の時期の損害として一人8万円


本件事故発生時に避難指示等対象区域内に住居があった者については,賠償すべき損害は自主的避難等対象者の場合に準じるものとし,具体的な損害額の算定に当たっては次のとおりとする。

中間指針の精神的損害の賠償対象とされていない期間については,前記1⑶に定める金額が上記⑷のア及びイにおける対象期間に応じた目安であることを勘案した金額とする。


子供及び妊婦が自主的避難等対象区域内に避難して滞在した期間については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人20万円を目安としつつ,これらの者が中間指針第一次追補の対象となる期間に応じた金額とする。
3
中間指針第二次追補(丙D共5,21)
原賠審は,平成24年3月16日,政府(原災本部)が平成23年12月26日に策定したステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題についてに基づき,避難指示区域を見直し,平成24年3月末を一つの目途に新たな避難指示区域を設定することを予定していること等を踏まえて,避難等対象者及び自主的避難等対象者に対する損害について,その時点で可能な範囲での考え方を示すとして,中間指針第二次追補を策定し,平成24年1月以降の自主的避難等対者等に対する
賠償について,以下のとおりの指針を示した。


少なくとも子供及び妊婦については,個別の事例又は類型ごとに,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を
有していると認められる場合には,賠償の対象となる。


上記⑴によって賠償の対象となる場合において,賠償すべき損害及びその損害額の算定方法は,
原則として中間指針第一次追補で示したとおりとする。
具体的な損害額については,同追補の趣旨を踏まえ,かつ,当該損害の内容に応じて,合理的に算定するものとする。

4
中間指針の策定方法等(丙D共1〔21頁〕,9,31,32,35)上記1のとおり,中間指針等は,原賠審が,原賠法18条2項2号に基づき
策定したものである。
原陪審は,
大塚直
(早稲田大学大学院法務研究科教授
〔当
時〕)など法学に関する専門家や米倉義晴(放射線医学総合研修所理事長〔当時〕)など放射線や医学に関する専門家など10名で構成されている。原陪審においては,精神的損害に係る賠償額を決定するにあたり,自賠責基準を参考しているほか,空港・軍基地の騒音や道路大気汚染に関する裁判例等を参考にしている。
5
被告東電基準


被告東電は,中間指針第一次追補を踏まえ,平成24年2月28日付けプレスリリースにより,本件事故発生時に自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者に係る損害の賠償について,次のとおりの一律の賠償基準を公表した(丙D共36)。

賠償の対象となる損害
自主的避難を行った場合
自主的避難によって生じた生活費の増加費用,自主的に避難により正
常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,避難及び帰宅に要した移動費用
自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合
放射線被ばくへの恐怖や不安,
これに伴う行動の自由の制限等により,
正常な日常生の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦
痛,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用

本件事故当時18歳以下であった者(誕生日が平成4年3月12日から平成23年12月31日までの者)及び妊婦(平成23年3月11日から同年12月31日までの間に妊娠していた期間のある者)

対象期間

平成23年3月11日から同年12月31日まで

賠償金額

一人当たり40万円

ただし,上記の者が自主的避難をした場合には,一人当たり20万円を追加する。

上記イ以外の者
対象期間

平成23年3月11日から同年4月22日まで
賠償金額


一人当たり8万円

被告東電は,中間指針第一次追補及び中間指針第二次追補を踏まえ,平成24年12月5日付けプレスリリースにより,本件事故発生時に自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居があった者等に係る損害について,以
下のとおり,追加の賠償を実施することを公表した(丙D共39)。ア
精神的損害等に対する賠償
賠償の対象となる損害
平成24年1月1日から同年8月31日までの間の以下の損害
a
自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,
生活費の増加費用並びに避難及び帰宅

に要した移動費用
b
自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合における放射線被ば
くへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持
・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及
び生活費が増加した分があればその増加費用

賠償対象者及び賠償金額
本件事故発生時に自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居があった者で平成24年1月1日から同年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者(誕生日が平成5年1月2日から平成24年8月31日までの者)及び同年1月1日から同年8月31日までの期間
に妊娠していた期間がある者並びに平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に本件事故発生時に自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居があった者から出生した者について,一人当たり8万円

追加的費用等に対する賠償
賠償の対象となる損害
自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用など)及び中間指針第一次追補に基づく賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用賠償対象者及び賠償金額
本件事故発生時に自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居が
あった者及び平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記の者から出生した者について,一人当たり4万円


まとめ
上記⑴及び⑵をまとめると,被告東電基準に基づく,自主的避難等対象者に対する賠償額は以下のとおりとなる。


平成23年3月11日から平成24年8月31日までの間に18歳以下であった期間のある者及び妊娠していた期間のある者
①本件事故当時18歳以下であった者及び平成23年3月11日から同年12月31日までの精神的損害等に対する賠償として40万円(実際に自主的避難を行った者についてはさらに20万円を追加),②平成24
年1月1日から同年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者及び妊娠していた期間がある者に対する精神的損害等に対する賠償として8万円,③追加的費用等に対する賠償として4万円よって,賠償額の合計は最大72万円(上記各期間を通じて18歳以下であった者及び妊婦であった者の場合)となる。


上記ア以外の者
①平成23年3月11日以降本件事故発生当初までの時期(平成23年4
月22日頃まで)の精神的損害等に対する賠償として8万円,②追加的費用等に対する賠償として4万円
よって,賠償額の合計は12万円となる。

第4

放射線に関する知見等
1
ICRPの勧告


ICRPの勧告の位置付け(甲A1の1〔285,286頁〕,34〔1,31頁〕,弁論の全趣旨)
ICRPは,1928年に放射線医療者の防護のために国際放射線学会に設立された国際X線・ラジウム防護委員会が,1950年にその対象を医療
以外の放射線利用における防護に拡大し,改組及び名称の変更がされて設立された非営利国際組織である。ICRPは,UNSCEARにおいて取りまとめられた被ばくの実態や影響に関する情報を基に,放射線防護の枠組みを構築するとともに,被ばく管理のための線量限度等を勧告しており,被ばくを放射線の健康影響リスクに関連付けるために,被ばく線量概念を構築し,
様々な状況から被ばく線量を推定する手法を検討している。ICRPは,UNSCEAR,WHO,IAEA等とも連携しており,IAEAは,ICRPの勧告を尊重しつつ,加盟国間の合意形成を進めて,国際的に統一された国際基本安全基準を定め,加盟国に提案している。ICRPは,1959年に現在のシリーズにおける最初の報告書を発表し,
1964年,
1966年,

1977年,1990年(平成2年,Pub.60)及び2007年(平成19年,Pub.102)等に一般的な勧告を発表している。
ICRPの勧告は,主として適切な放射線防護の基礎となり得る基本原則についての指針を提供することにより,国,地域及び国際的なレベルで規制機関並びに諮問機関の役に立つことを意図して行われているものであり,放
射線防護の主な目的は,放射線被ばくの原因となる有益な行為を不当に制限することなく,人を防護するための適切な標準を与えること(1990年勧告)であるとされている。ICRPの勧告は,多くの国における放射線防護において参考にされている。


ICRPの勧告の概要

1990年勧告の概要
放射線防護の基本原則(甲A34〔33~38頁〕)
放射線被ばくを引き起こす行為に関する放射線防護体系は,①放射線被ばくを伴うどんな行為も,その行為によって被ばくする個人又は社会に対して,それが引き起こす放射線損害を相殺するのに十分な便益を生むのでなければ,採用すべきでない(行為の正当化),②ある行為
内のどんな特定の線源に関しても,個人線量の大きさ,被ばくする人の数及び受けることが確かでない被ばくの起こる可能性の三つ全てを,経済的及び社会的要因を考慮に加えたうえ,合理的に達成できる限り低く(AsLowAsReasonablyAchievable)保つべきである(防護の最適化,ALARAの原則),③関連する行為全ての複合の結果生ずる個人の被
ばくは線量限度に従うべきであり,また潜在被ばくの場合にはリスクの何らかの管理に従うべきである(個人線量限度及び個人リスク限度)という3つの基本原則に基づくものである。
公衆被ばくに対する線量限度
(甲A34
〔41~43,
55,56頁〕

弁論の全趣旨)

1990年勧告は,放射線被ばくを,職業被ばく(主に仕事の結果起こる被ばく),医療被ばく(主に診断又は治療の一部として患者が受ける被ばく),公衆被ばく(職業被ばく及び医療被ばく以外の全ての被ばく)に分類する。そして,公衆被ばくに関する線量限度(ただし,行為の結果受ける線量に限る。
)は年間1mSv(実効線量)とし,特殊な状況

においては,
5年間にわたる平均が年間1mSvを超えなければ,
単一年に
これよりも高い実効線量が許されることもあり得るとしている。
公衆被ばくに関する線量限度年間1mSvという値は,
ほとんどの国が規
制の中で使っている値である。

2007年勧告の概要
基本原則及び線量限度等(乙D共7〔総括xvii,44,45,50,51,
55~57,
60,
71,
75,
76頁〕丙D共47

〔総括xvii,
44,45,50,51,55~57,60,71,75,76頁〕)a
2007年勧告は,1990年勧告における放射線防護の3つの基本原則(正当化,最適化,線量限度の適用)を引き続き維持し,職業被ばくの線量限度,公衆被ばくの線量限度についても1990年勧告
の基準を維持した。
b
被ばく状況は①計画被ばく状況(線源の意図的な導入と運用を伴う状況),②緊急時被ばく状況(計画された状況を運用する間に若しくは悪意ある行動から,あるいは他の予想しない状況から発生する可能性がある好ましくない結果を避けたり減らしたりするために緊急の
対策を必要とする状況),③現存被ばく状況(管理についての決定をしなければならないときに既に存在する,緊急事態の後の被ばく状況を含む被ばく状況)の3つのタイプに分類される。基本原則のうち,正当化の原則及び最適化の原則はすべての被ばく状況に適用されるが,線量限度の適用の原則は,計画被ばく状況のみに適用される。
c
計画被ばく状況における公衆被ばくの線量限度は年間1mSv実効線(
量)とし,特別な事情がある場合には5年間にわたる平均が年間1mSvを超えないという条件付きで,1年間の実効線量としてより高い値も許容される。線量拘束値(計画的被ばく状況においてあらかじめ計画
される個人線量の制限値)は年間1mSv以下(実効線量)で選択すべきである。
緊急時被ばく状況における公衆被ばくの参考レベル(緊急時又は現存の制御可能な被ばく状況における線量又はリスクのレベル)は,状況に応じて年間20ないし100mSv(実効線量)の間に定め,現存被
ばく状況(公衆被ばくのみ)における参考レベルは,状況に応じて年間1ないし20m㏜(実効線量)の間に定めるべきである。
なお,線量拘束値及び参考レベルに選択された値は,考慮されている被ばく事情によるので,いずれも安全と危険の境界を表したり,個人の健康リスクに関連した段階的変化を反映するものではない。
被ばくによる健康影響の考え方(甲A1の1〔286,287頁〕,乙D共4〔15~17,23頁〕丙D共47〔15~17,23頁〕)
放射線被ばくによる健康への有害な影響は,確定的影響と確率的影響に分類されるところ,
約100mSvを下回る低線量域では,
ある一定の線
量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定(LNTモデル)に根拠を置くこととし,LNTモデルは,低線量放射線被ばくのリスクの管理に対して慎
重な根拠を示すものであると考える。しかし,LNTモデルが実用的なその放射線防護体系において引き続き科学的にも説得力がある要素であるとする一方,このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的/疫学的知見がすぐには得られそうになく,低線量における健康影響は不確実である。

なお,ICRPは,1990年勧告においても,LNTモデルを前提としていた。
2
本件事故に関するICRPの勧告(丙D共48)
ICRPは,
平成23年3月21日,
本件事故に関し,
公衆の防護のために,

国の機関が最も高い計画的な被ばく線量として20ないし100mSvの範囲で参考レベルを設定するとした2007年勧告を変更することなしに用いることを勧告した。また,放射線源が制御されても汚染地域は残ることになり,国の機関は人々がその地域を見捨てずに住み続けるように必要な防護を取るはずであり,
その場合には,
長期間の後には放射線レベルを年間1mSvへ低減するとし

て,現時点での参考レベルを1ないし20mSvの範囲で設定することを勧告した。
3
本件事故後の我が国の放射線防護体制等(丙D共49,50)


原子力安全委員会は,平成23年7月19日,今後の避難解除,復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方についてを公表した。同文書によれば,本件事故の初期防護措置においては,防災指針に規定された予測線量に関する指標を参照しつつ,事象の進展の可能性や緊急性に基づく予防的
観点から避難区域等の設定を行ったが,防災指針に規定されている指標は,短期間の避難や屋内退避を想定した国際機関の指標を参考に定めたものであり,我が国においては長期にわたる防護措置のための指標がなかったため,計画的避難区域の設定に係る助言において,ICRPの2007年勧告において緊急時被ばく状況に適用することとされている参考レベルの範囲である
年間20ないし100mSvの下限である年間20mSvを適用することが適切であると判断したこと,現存被ばく状況に移行後においては,2007年勧告に基づいて年間1ないし20mSvの下方の線量を選定することとなり,状況を
漸進的に改善するために中間的な参考レベルを設定することもできるが,長期的には年間1mSvを目標とすることなどが示された。



また,平成23年11月11日に閣議決定された除染特措法に基づく基本方針も,土壌等の除染等の措置に係る目標値として,ICRPの2007年勧告,上記⑴の基本的考え方等を踏まえて,自然被ばく線量及び医療被ばく線量を除いた被ばく線量
(追加被ばく線量)
が年間20mSv以上である地域に
ついては,当該地域を段階的かつ迅速に縮小することを目指すものとし,追
加被ばく線量が年間20mSv未満である地域については,
長期的な目標として
追加被ばく線量が年間1mSv以下となることを目指すこととしている。4
IAEA国際フォローアップミッション最終報告書(丙D共53)IAEAは,福島第一原発外の汚染地域の環境回復を支援するために,平成
25年10月,被告国の要請に応じて,国際専門家等が参画するIAEAの国際フォローアップミッションを編成し,日本における調査等を行い,その調査結果に係る最終報告書を公表した。この報告書では,日本が環境回復計画を実施するため多大の努力をなしていることを評価するとした上で,除染を実施している状況においては,年間1ないし20mSvという範囲内のいかなるレベルの個人放射線量も許容し得るものであり,
国際基準および関連する国際組織
(I
CRP,IAEA,UNSCEAR及びWHOなど)の勧告等に整合したもの
であるということについて,住民がより現実的な受け止めができるようにコミュニケーションの取組を強化することが日本の諸機関に推奨されるとし,政府は,
人々に年間1mSvの追加個人線量が長期の目標であり,
上記目標は除染活動
のみによって短期間に達成し得るものではないことを説明する更なる努力をなすべきであると記載されている。

5
文部科学省通知(甲A1の1〔本文編322,323頁〕,丙D共51,52)


文部科学省は,平成23年4月19日,福島県知事等に対し,福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方についてを通知し
た。
この通知では前記2のICRPの助言を踏まえ,
幼児,
児童及び生徒
(以
下児童生徒等という。)が学校等に通うことができる地域においては,非常事態収束後の参考レベルの年1ないし20mSvを学校の校舎校庭等の利・
用判断における暫定的な目安とし,今後できる限り児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であるとされた。児童生徒等が屋内(木造)にい
る時間を1日当たり16時間,屋外にいる時間を1日当たり8時間とする生活パターンを想定すると,
児童生徒等が1年間に20mSvの放射線を受ける空
間線量率は,屋外では毎時3.8µSv,屋内(木造)では毎時1.52µSvとなることから,これを一つの目安とすることとし,文部科学省による再調査により校庭,
園庭で毎時3.
8µSv未満の空間線量率が測定された学校につい

ては,校舎・校庭等を平常通り使用して差し支えないが,校庭・園庭において毎時3.
8µSv以上を示した場合においては,
屋外活動をなるべく制限した
り,屋外での活動後には手洗い,うがい等をしたりすることが適当であるとされた。


また,文部科学省は,平成23年8月26日,福島県知事等に対し,福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について(通知)を通知した。この通知では,校庭・園庭の土壌除去等の具体的な手法が示され,それに基づ
く土壌除去が進んだことなどにより,学校が開校されている地域では,既に校庭・園庭において毎時3.
8µSv以上の空間線量率が測定される学校はなく
なっていること,
夏期休業終了後,
学校において児童生徒等が受ける線量
(自
然放射線による被ばく及び医療被ばくは含まない。)については,原則年1mSv以下とし,
児童生徒等の行動パターンを考慮した上でこれを達成するため

には,
校庭等の空間線量率の目安を毎時1µSv未満とする必要があること,仮
にそれを超えることがあっても屋外活動を制限する必要はないものの,除染等の速やかな対策が望ましいこと,局所的に線量が高い場所の把握及び除染が重要であることなどの考え方が示された。
なお,文部科学省は,福島県が平成23年4月5日から同月7日にかけて
実施した小学校等の校庭の空間線量のモニタリング調査の際に比較的高い空間線量率(毎時3.7µSv以上)を示した52校の校庭について,同月14日以降も継続的にモニタリング調査を行った。その結果,同日には13施設において毎時3.
8µSv以上の空間線量率が測定されたが,
同年5月12日以降,
毎時3.
8µSv以上の空間線量率が測定された学校はなく,
同年8月25日の

測定では,最も高いところで毎時0.8µSvであった。
6
低線量被ばくについて


放射線によるDNAの損傷と修復(甲A30,乙D共1の1〔78~80頁〕,3の1〔82~84頁〕,18〔34,35頁〕)

細胞の中にはDNAが存在しているところ,DNAは4種類の異なる塩基が鎖のようにつなぎ合わされており,その並び方が固有の遺伝情報となっている。DNAの鎖は,通常,2本が互いに結びついているところ,DNAの鎖に放射線が当たると,線量に応じてDNAの一部が損傷することがある。上記の損傷は,エックス線1mGy当たり,1細胞で平均1箇所の一本鎖切断,平均0.04箇所の二本鎖切断が起こるとされている。DNA損傷の原因としては,放射線以外にも食物中の発がん物質,たばこ,環境中の化学物質,
活性酸素等があるほか,細胞分裂の過程においてもDNAの鎖の損傷が起こることがある。このようなDNAの損傷は,すべての種類の損傷を足し合わせると,1日1細胞当たり,1万から100万箇所の頻度で起こるとされている。
細胞にはDNAの損傷を修復する機能(修復酵素)が備わっており,DN
Aが損傷すると,修復酵素が損傷部位に集まりDNAを修復する。しかし,損傷が多すぎる場合には修復ができず,細胞自体が死ぬ(アポトーシス)ことになり,細胞死が甚大となれば急性の影響等が出ることがある。また,DNAの修復の際にエラーが生じ,細胞が不完全な遺伝子を持つことがあり,このような突然変異ががんや遺伝性の影響の原因となると考えられている。
ただし,細胞死や突然変異が起これば必ず急性の影響やがんが生ずるということではなく,上記影響等の発生には,DNA損傷の量や質のほか,個人の資質などの要因が関係している。

低線量被ばくWG報告書(丙D共33)
本件事故による放射性物質汚染対策において,低線量被ばく(国際的に合意された定義はないが,200mSv以下とされることが多い。)のリスク管理を適切に行うため,
国際機関等により示されている科学的知見や評価の整理,
現場の課題の抽出,今後の対応の方向性の検討を行う場として,放射性物質汚染対策顧問会議の下,大学教授や放射線に関する学会,研究所等の関係者
を構成員とする低線量被ばくWGが設置された。
低線量被ばくWGは,平成23年11月9日から同年12月15日までの間,全8回にわたって,国内の有識者やICRPのScientificSecretary等からの説明を受けた上で議論・検討を行い,同月22日,低線量被ばくWG報告書が公表された。
同報告書の概要は,
次のとおりである
(甲D共33
〔以
下本項においては,同証拠の頁数を記載する。〕)。

科学的知見と国際的合意(3頁)
放射線の影響に関しては様々な知見が報告されているため,国際的に合意されている科学的知見を確実に理解する必要がある。国際的合意としては,科学的知見を国連に報告しているUNSCEAR,WHO,IAEA等の報告書に準拠することが妥当である。
低線量被ばくのリスク(4頁)

a
低線量被ばくによる健康影響に関する現在の科学的な知見は,主として広島・長崎の原爆被爆者の半世紀以上にわたる精緻なデータに基づくものであり,国際的にも信頼性は高く,UNSCEARの報告書の中核を成している。
広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果からは,被ばく線量が1
00mSvを超える辺りから,
被ばく線量に依存して発がんのリスクが増
加することが示されている。国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,
100mSv以下の被ばく線量では,
他の要因による発がん
の影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる。疫学調査以外
の科学的手法でも,同様に発がんリスクの解明が試みられているが,現時点では人のリスクを明らかにするには至っていない。
b
一方,
被ばくしてから発がんまでには長期間を要する。
したがって,
100mSv以下の被ばくであっても,
微量で持続的な被ばくがある場合,

より長期間が経過した状況で発がんリスクが明らかになる可能性があるとの意見もあった。
長期にわたる被ばくの健康影響(4~5頁)
低線量率の環境で長期間にわたり継続的に被ばくし,積算量として合計100mSvを被ばくした場合は,
短時間で被ばくした場合より健康影響
が小さいと推定されている(線量率効果)。この効果は,動物実験においても確認されている。
本件事故により環境中に放出された放射性物質による被ばくの健康影響は,
長期的な低線量率の被ばくであるため,
瞬間的な被ばくと比較し,
同じ線量であっても発がんリスクはより小さいと考えられる。
外部被ばくと内部被ばくの違い(5頁)

内部被ばくは外部被ばくよりも人体への影響が大きいという主張がある。しかし,放射性物質が身体の外部にあっても内部にあっても,それが発する放射線がDNAを損傷し,損傷を受けたDNAの修復過程での突然変異ががん発生の原因となるため,臓器に付与される等価線量が同じであれば,外部被ばくと内部被ばくのリスクは同等と評価できる。
チェルノブイリ原子力発電所事故で小児の甲状腺がんが増加した原因は,事故直後数か月の間に放射性ヨウ素により汚染された牛乳の摂取による選択的な甲状腺への内部被ばくによるものとされており,同事故により周辺住民の受けた平均線量は11万6000人の避難民で33mSv,27万人の高レベル汚染地域住民で50mSv超,
500万人の低レベル汚

染地域住民で10ないし20mSvとされている
(UNSCEAR2008
年報告による。)。
子供・胎児への影響(7頁)
一般に,
発がんの相対リスクは若年ほど高くなる傾向がある。
小児期・
思春期までは高線量被ばくによる発がんのリスクは成人と比較してより
高い。しかし,低線量被ばくでは,年齢層の違いによる発がんリスクの差は明らかではない。他方,原爆による胎児被爆者の研究からは,成人期に発症するがんについての胎児被ばくのリスクは小児被ばくと同等かあるいはそれよりも低いことが示唆されている。
また,放射線による遺伝的影響について,原爆被爆者の子供数万人を対象にした長期間の追跡調査によれば,現在までのところ遺伝的影響は全く検出されていない。がんの放射線治療において,がんの占拠部位によっては原爆被爆者が受けた線量よりも精巣や卵巣が高い線量を受けるが,こうした患者(親)の子供の大規模な疫学調査でも,遺伝的影響は認められていない。
チェルノブイリ原子力発電所事故における甲状腺被ばくよりも,本件
事故による小児の甲状腺被ばくは限定的であり,被ばく線量は小さく,発がんリスクは非常に低いと考えられる。
生体防御反応(7~8頁)
放射線によりDNAが損傷し,突然変異が起こり,さらに多段階の変異が加わり正常細胞ががん化するというメカニズムがあるが,生体には
防御機能が備わっており,この発がんの過程を抑制する仕組みがある。低線量被ばくであってもDNAが損傷し,その修復の際に異常が起こることで発がんするメカニズムがあるという指摘があったが,線量が低ければ,DNA損傷の量も少なくなり,さらに修復の正確さと同時に生体防御機能が十分に機能すると考えられ,発がんに至るリスクは増加し
ないという指摘もあった。
放射線による健康リスクの考え方(8~10頁)
a
LNTモデルの考え方
放射線防護や放射線管理の立場からは,低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという考え方(LNT
モデル)を採用する。これは,科学的に証明された真実として受け入れられているのではなく,科学的な不確かさを補う観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されているもので,飽くまで被ばくを低減するためのいわば手段として用いられる。すなわち,予測された被ばくによるリスクと放射線防護措置等による他の健康リスク等,リスク同士を比較する際に意味がある。しかし,この考えに従って,
100mSv以下の極めて低い線量の被ばくのリスクを多人数の

集団線量に適用して,単純に死亡者数等の予測に用いることは不確かさが非常に大きくなるため不適切である。
b
リスクの程度の理解
平成21年のデータによれば,日本人の約30%ががんで死亡して
いる。広島・長崎の原爆被爆者に関する調査の結果に線量・線量率効果係数(DRREF)2を適用すれば,長期間にわたり100mSvを被ばくすると,生涯のがん死亡のリスクが約0.5%増加すると試算されている。他方,我が国でのがん死亡率は都道府県の間でも10%以上の差異がある。

放射線と他の発がん要因等のリスクとを比較すると,喫煙は1000ないし2000mSv,肥満は200ないし500mSv,野菜不足や受動喫煙は100ないし200mSvの放射線の健康へのリスクと同等とされる。
被ばく線量でみると,
例えばCT検査を受けると,
1回で数mSvの放

射線被ばくを受けるが,重症患者では入院中に数回のCT検査を受けることも決して稀ではない。
東京-ニューヨーク間の航空機旅行では,
高度による宇宙線の増加により,
1往復当たり0.
2mSv程度被ばくす
るとされている。
自然放射線による被ばく線量の世界平均は年間約2.
4mSvであり,日本平均は年間約1.5mSvである。このうち,ラドン
による被ばく線量は,UNSCEARの報告によれば,世界の平均は年間1.2mSv,変動幅は年間0.2ないし10mSvと推定されているが,日本の平均値は年間0.59mSvである。クロロホルムは,水道水中に含まれ,発がん性が懸念されているトリハロメタン類の代表的な物質であるが,
平均して1日に2ℓの水道水を飲用し続けたとしても発
がんのリスクは0.01%未満であり,懸念されるレベルではないと評価されている。100mSvの放射線被ばくによる発がんのリスクは,
このクロロホルム摂取による発がんのリスクよりは大きい。
c
放射線防護上では,
100mSv以下の低線量であっても被ばく線量に
対して直線的に発がんリスクが増加するという考え方は重要であるが,この考え方に従ってリスクを比較した場合,
年間20mSv被ばくすると
仮定した場合の健康リスクは,例えば他の発がん要因(喫煙,肥満,
野菜不足等)によるリスクと比べても低く,放射線防護措置に伴うリスク
(避難によるストレス,
屋外活動を避けることによる運動不足等)
と比べられる程度であると考えられる。

放射線防護のための方向性(16~17頁)
我が国が採用している放射線防護上の基準は年間20mSvであるが,今後
はさらに被ばく線量をできるだけ低減することが必要である。その際,ステップバイステップで,住民の方々の被ばく線量が高いと想定される地域から漸進的に改善していくことが必要である。長期的な目標である年間1mSvは,
原状回復を実施する立場から,
これを目指して対策を講じていくべ

きである。
同時に,
生活圏の除染や健康管理等の対策の実施に当たっては,
投入するリソースを有効に活用するため,適切かつ合理的な優先順位をつけること,また中間的な参考レベルを示した上で行うことが有効である。被ばく線量の低減対策の実施に当たっては,放射線影響の感受性の高い子供,放射線の影響に対する親の懸念が大きい乳幼児について優先するこ
ととし,きめ細かな防護措置を行うことが必要である。当面寄与が大きいと考えられる外部被ばくは,土壌等に存在する放射性物質からの放射線によるものであるから,子供の生活環境を優先的に除染する必要があり,校庭・園庭や通学路,公園等の子供の生活圏の除染を行い,空間線量率を毎時1µSv未満とすることを目指す必要がある。
内部被ばくの予防及び低減には適切な管理が必要であるため,食品中の放射能濃度の適切かつ合理的な基準の設定,遵守とともに,例えば地域の
実情に応じた食品中の放射能濃度の測定を実施することが必要である。ウ
まとめ(19,20頁)
現在の避難指示の基準である年間20mSvの被ばくによる健康リスクは,他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準であり,放
射線防護の観点からは,生活圏を中心とした除染や食品の安全管理等の放射線防護措置を継続して実施すべきであり,これら放射線防護措置を通じて,十分にリスクを回避できる水準であると評価できる。また,放射線防護措置を実施するに当たっては,それを採用することによるリスク(避難によるストレス,屋外活動を避けることによる運動不足等)と
比べた上で,どのような防護措置をとるべきかを政策的に検討すべきである。
こうしたことから,
年間20mSvという数値は,
今後より一層の線
量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切であると考えられる。なお,現在の避難区域設定の際には,放射能の自然衰退を考慮に入れないなど安全側に立って被ばく線量の推計を行ったこともあ
り,実際の被ばく線量は,年間20mSvを平均的に大きく下回ると評価できる。
子供・妊婦の被ばくによる発がんリスクについても,成人の場合と同様,100mSv以下の低線量被ばくでは,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく,発がんリスクの明らかな増加を証明
することは難しい。
一方,
100mSvを超える被ばくでは,
思春期までの
子供は,成人よりも放射線による発がんのリスクが高い。こうしたことから,100mSv以下の低線量被ばくであっても,住民の大きな不安を考慮に入れて,子供に対して優先的に放射線防護のための措置をとることは適切である。ただし,子供は,放射線を避けることに伴うストレス等に対する影響についても感受性が高いと考えられるため,きめ細やかな対応策を実施することが重要である。

放射線防護のための数値については,科学的に証明されたものか,政策としてのものか理解してもらうことが重要である。チェルノブイリでの経験を踏まえれば,長期的かつ効果的な放射線防護の取組を実施するためには,住民が主体的に参加することが不可欠である。このため,政府及び専門家には,住民の目線に立って,確かな科学的事実に基づき,
分かりやすく,透明性をもって情報を提供するリスクコミュニケーションが必要である。


LSS第14報(2012,甲A165,166,丙D共83,84〔27~29頁〕,85)


同報告書は,放影研(小笹晃太郎ほか)が,原子爆弾による電離放射線の健康影響を調査する目的で1950年から行ってきた,原爆被爆者及び広島・長崎の住民で原爆投下時に同市にいなかった者を含む約12万人の固定集団(寿命調査〔LSS〕集団)に係る死亡調査についての第14報(平成24年3月発表)である。

LSS第14報の要約欄には,
全固形がんについて過剰相対危険度が有意になる最小推定線量範囲は0-0.2Gy(200mGy)であり,定型的な線量閾値解析(線量反応に関する近似直線モデル)では閾値は示されず,ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。と記載されているが,結論部分に
は,
低線量域に認められた単位線量当たりの高いリスクは解釈が難しい
ともされている。
また,放影研は,ホームページにおいて,LSSについて,固形がんにより死亡するリスクは,100ないし200mSv以上では放射線の被ばく線量に正比例しているが,それ以下では不明であるとしている。
小笹晃太郎は,平成26年5月20日に行われた第6回東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議に出席し,LSS第14報の記載について,上記ホームページに記載のと
おり,リスクが優位となる領域は0.2mGy以上であったということで,0ないし0.2mGyで有意となるという意味ではないと説明している。イ
LSS第13報の要約では,約0.5Sv未満の線量については,放射線影響の直接的な証拠は認められなかったとされている。



核施設労働者に関する調査

米国ハンフォード原子力施設従事者の疫学調査(甲A169)
米国ワシントン州リッチランド市にあるハンフォード原子力施設の労働者の放射線被ばくとその健康影響についての調査に係るものである。上記施設における職業被ばくと健康影響
(がんとの関連性)
については,
影響を認める論文とそれに反対する論文が複数ある状態である。


原子力産業の放射線作業従事者のがんのリスクに関する15カ国共同研究(甲A171の1・2,乙D共2,13の1・2)
米国,フランス,イギリス等15か国の核施設作業者40万7391人等の疫学調査の結果を解析した論文である。

同論文は,放射線量が増加すると白血病を除くすべてのがんによる死亡リスクが増加することを示すエビデンスが見つかったとし,考察において

ある特定の1ケ国だけを除外して解析しても,全て原爆解析からのリスク推定やBEIRⅤⅡ推定よりも一貫して高いリスク推定が生じたが,それらは全て統計的には合致していた。

とし,結論におい
て,
フォトン放射線に対する低線量長期間の被ばくに関して,これまでに実施された最大規模の研究から,放射線量とがんの死亡の関係を検討し,放射線リスク推定値を示した。…白血病を除く全てのがんと肺がんによる死亡について,リスクが有意に上昇することが明らかになった。などと記載している。他方で,同論文は,行った研究において数十mSvの極低線量の影響について検討することはできず,同研究の統計検出力では,取り扱った線量の範囲においても,線量‐応答関係の形状について
研究するには不十分であるとしている。
なお,上記15ヶ国にはカナダが含まれているところ,カナダ原子力安全委員会(CNSC)は,データの再分析を行い,平成23年,一部の労働者についての線量の記録が過少であったことが判明し,これを除外すると,カナダの原子力施設の労働者に固形がん死亡リスクの上昇は
みられなかった旨の報告書を作成・発表している。

電離放射線の職業性被ばくから生じるガンのリスク:フランス,英国,米国の労働者の後ろ向きコホート研究(INWORKS)(2015,甲A172の1・2,173の1・2,乙D共2,86)

同論文は,上記イの論文の疫学集団から米国,イギリス,フランスの3か国を選び,
さらに,
上記疫学集団では対象外とされた中性子被ばく,
プルトニウム等の内部被ばくを伴う核兵器開発施設作業者を加えた30万8297人の調査結果を分析した論文である。
同論文は,
考察として,
原子力産業で通常遭遇する低線量率の電離放射線への被ばく量が高まるにつれて,がんによる死亡の過剰相対リスクが線形に増加するエビデンスが示されたとし,データを0‐100mGy
の線量範囲に限定して解析すると,精度は低くなるとしても,放射線量と白血病を除くすべてのがんの間に正の相関関係があることを示す支持的エビデンスをもたらしているわれわれのデータは,平均累積線量,がおよそ20である集団でのがんによる死亡リスクを比較的正確に推定できるのに十分な統計情報をもたらしたとしつつ,問題点として,交絡していると考えられる喫煙についての測定を行っていないことを挙げている。
放影研は,同論文について,交絡因子である喫煙について適切に調整が加えられておらず,日本の放射線業務従事者における調査とは結果が全く異なっていること,中性子被ばくの状況が適切に考慮されていない
可能性があることを指摘している。また,同論文の示唆する結果については,科学的な評価が定まっていないとの意見がある。
なお,2015年に上記論文に関する調査中,白血病,リンパ腫の調査に特化して分析した論文(放射線量モニターを受けた労働者における電離放射線と白血病及びリンパ腫による死亡リスク(INWORKS):国際コホート研究,2015年)も発表されているところ,同論文は,本研究は,長期間の低線量放射線被曝と白血病による死亡の間に相関関係があることを示す強いエビデンスをもたらすものであるとしている。しかし,同論文についても,日本の低線量放射線の疫学調査と結果が異なっており,喫煙等の放射線以外の要因による影響が大き
いのではないかという指摘や,同論文の統計解析によれば,年間平均3mGyを40年間被ばくした労働者と,1年間50mGy被ばくし,その後35年間平均2mGy被ばくした者とが同じように扱われることになってしまうといった批判がある。


核施設近隣住民に関する論文

テチャ川流域住民に関する論文(2005年,甲A170の1,2,乙D共2,42の1・2)
南ウラル
(旧ソ連)
のマヤーク核兵器製造施設が稼働した初期の頃
(1
950年頃),同施設よりテチャ川に放射性物質が放出されたことに関
し,テチャ川流域住民(拡大テチャ川コホート)の骨がんを除く固形がん及び白血病による死亡リスクを解析した論文である。
同論文には,固形がんの放射線リスクについて,高い有意性の線量-応答関係があり,線形ERR(過剰相対リスク)推定値は0.92/㏉であり,線形二次モデルの低線量での勾配は,線形モデルのリスク推定とほぼ同じである旨の記載がある。
また,
CLL
(慢性リンパ性白血病)
以外の白血病の放射線リスクについても,線量-応答関係を示す強いエビデンスがあり,線形ERR(過剰相対リスク)推定値は6.5/㏉であり,線形二次モデルの低線量での推定勾配は,線形モデルのものとほぼ同じである旨の記載がある。また,考察において,今回の解析は,固形がんとCLL以外の白血病の両方について,有意な線量-応答関係が
あることを明確に実証しており,長期間の被ばくに伴う放射線リスクについての重要な情報を付け加えているとの記載があるが,コホート構成員の15%が転出の結果追跡不能となり,残るコホート構成員の11%近くで生命状態に関する情報が得られておらず,さらに死亡したコホート構成員の13%の死因が不明であることにより,コホートの効果サイ
ズを約35%縮小させ,追跡不能に関連する判明していないバイアスが生じている可能性があるとしている。
上記論文については,対象者の生活習慣や遺伝的素因の影響などが十分に考慮されていないなどの批判がある。また,テチャ川流域住民の線量を再評価した他の論文(RadiatRes.184:56-65,2015
年)においては,50mSv以下の低線量域ではリスクがないことを示すとも読める図が引用されており,線形モデルのほか,純二次モデル(低線量被ばくにおいてはリスクがないことを表すモデル)にもフィットすることが述べられている。ただし,同論文は,本文においては,この被ばく環境における全固形がん発生率リスク増加を継続して裏付けてい
るとし,50m㏜以下の低線量ではリスクがないとしているわけではない。

KiKK研究(2007年,甲A167)
KiKK研究とは,ドイツの環境省と連邦放射線防護庁が2007年(平成19年)7月に発表した,ドイツ国内16か所の通常運転されている原子力発電所周辺に住む子供たちに発症した小児がん及び小児白血病について,原子力発電所サイトから子供の居住地までの距離と疾病発症の
相関関係について調査したものである。
同調査結果によれば,原子力発電所から5㎞以内で,全小児がん及び小児白血病とも他の地域と比べて高い発症率を示しているとされたが,同研究においては,高率のがん発症と原子力発電所の放出放射能との関連については直接調査されておらず,放射線を危険性の原因として解釈すること
はできないとされている。

セラフィールド再処理工場周辺地域における調査(1984~2002年,甲A168)
イギリスのセラフィールドにある原爆プルトニウム生産用再処理工場敷地から約3㎞の所にあるシースケール村における白血病の増加につい
ての調査について触れた論文である。
同論文は,シースケール村の白血病の原因は,セラフィールドから放出されたとされた放射能であると考えるのが素直であるとしているが,周辺環境と住民に対する放射線モニタリングデータがほとんど残されておらず,被ばく量が相当に少ないとする調査結果もあるとされている。


自然放射線による被ばくに関する論文

1980-2006年の英国における自然バックグラウンド放射線と小児白血病その他のがんの罹患に関するレコードベースの症例対照研究(2013年,甲A213の1・2,乙D共43の1・2)

1980年から2006年までの間にイギリスで生まれ,小児がんと診断された症例(2万7447人)とがんを発症していない対照(3万6793人)を小児腫瘍国家登録から抽出し,これらを分析した症例対照研究である。子供が出生した時点の母親の居住地域から放射線量を推定している。
同論文は,結論として,統計的に優位な過剰リスクは,中等度・高線量及び高線量率における最近の解析で予想されたものと同じであり,そのよ
うなリスクモデルの結果を低線量又は低線量率の長期被ばくに当てはめることができるとし,極めて低い線量や線量率では放射線に有害作用はなくベネフィットさえあるという考え方には反対するとしている。
また,上記論文の著者であるKendallGMらは,上記論文に関し,平成27年,
小児がんの研究における自然放射線への被ばく評価に関連した居住地移動と関連要因とする論文を発表した。それによれば,英国における症例対照研究において,症例の44%が出生から診断までの間に家を移動しておらず,約3分の2が出生時の居住地から2㎞以内に住んでいたことが分かったので,出生地だけを使用してもリスク推定値に重大な偏りは生じないことが示唆されたとしている。

同論文については,線量推定に大きな不確実さがあり,対象者の居住歴が把握されていないとか,社会経済因子や交絡因子が十分に考慮されていないとの批判がある。

バックグラウンド電離放射線と小児がんのリスク:国勢調査ベースの全国コホート研究(2015年,甲A176,乙D共44の1・2,丙D共88,89)
1990年と2000年のスイス国勢調査記録において16歳未満であった小児から,スイス小児がん登録で特定した対象者について,小児がんの罹患と自然放射線の被ばくの相関関係を分析した研究論文であ
る。
同論文は,考察として,上記研究により,200nSv/h(0.2µSv/h)以上のバックグラウンド電離放射線の体外線量率に被ばくしている小児では,100nSv/h(0.1µSv/h)未満の小児と比較してがんのリスクが上昇することを示すエビデンスを見出すことができたとして,バックグラウンド放射線が小児がんのリスクに寄与していることが示唆されるとしている。

同論文については,バックグラウンド線量率が実測値ではなく,物理的なモデルに基づいたものであったことや,がんの発生に寄与しないレベルの放射線は防護的な生物学的応答を引き起こし,それによってがんリスクが低下するという研究も多数あること,医療被ばく,遺伝子損傷など交絡因子の検討が十分ではないことなどについての批判がある。

バックグラウンド放射線と小児白血病:全国登録に基づく症例対照研究(1997年,甲A214の1・2,乙D共55の1・2,58)フィンランドがん登録から特定された1990年から2011年までにフィンランド国内で小児白血病と診断された者と年齢,性別でマッチ
ングする人口登録センターに登録された者との対照研究である。
同論文は,結論として,バックグラウンド放射線からの線量又は線量率に伴う小児白血病のOR(オッズ比〔事象の起こりやすさを示す尺度であり,ORが1であれば,対象とする事象の起こりやすさが同じであることを意味する。〕)の優位な増大が得られなかったが,急性リンパ
性白血病(ALL)の発生率が最も高い2歳以上7歳未満の年齢グループについては,線量率と累積線量の両方に関係するORの増大を観察したとしている。
AtteNikkilaらは,フィンランドにおけ
る研究に関し,平成30年,小児白血病と環境放射線のような自然放射線ばく露の調査に与える不完全な居住記録の影響という論文を発表した。それによれば,居住地域によってばく露物質が異なる場合の疫学調査において,全住居歴を知ることができれば,誤った被ばく分類をすることが少なくなるが,小さな子供がいる家庭では一般的に遠くには移住しないという相当な証拠があるので,被ばく期間の不確定性も考えれば,全被ばく線量を単一の住所,特に出生時の住所から予測することも有益であろうとされている。

定,リスク因子の選択,データの表示等に難点があり,特に,被ばく線量について線量率と累積線量を使い分けしている点が問題であるとの指摘がある。

インドケララ州での自然放射線とがんの罹患―KARUNAGAPPALLYコホート研究
(2009年,
乙D共2,
12の2
〔提示書証97頁〕

48)
インドの高自然放射線地域であるケララ州の30歳から84歳の住民6万9958人を平均10.5年追跡調査したコホート研究に関する論文である。ケララ州にはトリウムを含有しているモザナイト砂が多く,平均γ
線で4.5mSv,ラドンによる内部被ばくで2.4mSvの被ばくがあり,高いところで年間16mSvの被ばく量になるとされている。
同論文は,放射線レベルと人口密度から見て世界的にも有数の高自然放射線地帯の住民を対象とするコホート研究であるが,結果として,住民の自然放射線による生涯累積線量とがん罹患率が関連する証拠は得られな
かったとしている。


医療被ばくに関する論文

小児期のCT検査からの放射線被曝,ならびにその後の白血病および脳腫瘍のリスク:後ろ向きコホート研究(2016年,乙D共2,46の1・
2)
イギリスにおいてX線CTを受けた小児・若年成人を調査した研究論文である。
同論文は,考察として,上記研究により,赤色骨髄及び脳に対してCT検査が照射する推定放射線量とその後の白血病および脳腫瘍の罹患に有意な相関関係があり,二,三回の頭部CT検査を行ったことによる累積電離放射線量(~60mGy)で脳腫瘍のリスクはほぼ3倍になり,5な
いし10回の頭部CT検査を行ったことによる累積電離放射線量(~50mGy)で白血病のリスクが3倍になる場合があるとした。
同論文については,イギリスではCT検査の適応は慎重に決定されているところ,上記研究ではCT検査を施行した目的や基礎疾患が調査されていないなどという批判がある。そして,他の研究者が,フランスで
CT検査による放射線被ばくと脳腫瘍,白血病,リンパ腫の発症との関係を調査し,これらの疾患の素因となる基礎疾患の影響を検討したところ,基礎疾患がある患者はCT検査の回数が多く,被ばく量も多くなっていたとの結果が得られており,基礎疾患を考慮しないと放射線被ばくによる発がんリスク増加を過大評価することになると示唆されている。

小児期あるいは青年期にコンピュータ断層撮影を受けた68万人のがんのリスク:オーストラリア人1100万人のデータリンケージ研究(2013年,甲A177,乙D共2,47の1・2)
オーストラリアで1985年1月1日に19歳以下であった又は同日
から2005年12月31日までに生まれた者について,1985年から2005年の間にCT検査を受けた者のうちがんと診断される1年以上前にCT検査を受けた者とCT検査を受けたことがない者とを比較した研究論文である。
同論文は,
結論として,
1回の検査あたりの平均有効放射線量は,
4.

5mSvと推定され,CT検査を受けた後にがんの罹患率が上昇するのは主に放射線の影響によるものであり,CT検査1800回につき1例のがんが過剰に生じ,4000回の脳のCT検査につき1例の脳腫瘍が過剰に生じるといえるとした。
同論文については,CT検査をした目的や基礎疾患などの患者背景を調査していないこと,放射線の影響はまずは放射線被ばく部位に生じるはずであるのに,CT検査で撮影された部位と発がん部位との関連性が
低いことなどから,発がんの素因となる基礎疾患の影響が考慮されておらず,放射線被ばくの影響を過大視しているとの批判がある。


Commentary

27(2018年,甲A217の1~3,乙D共

39)
上記論文は,
NCRPが,
米国NRCの要求を受けて作成したものである。
同論文は,放射線とがんとの関係に関する研究におけるLNTモデルの支持程度の評価等を行った上で,まとめとして,個人の推定線量に基づくがんの死亡率又は発生率の定量的固定がん推定値は,50万人以上の個人について報告されており,ほとんどが低線量の放射線被ばく労働者又は環境放射線レ
レベルの高い地域に住む人々の研究に基づいている,INWORKSやLSSなどの長期の追跡調査等を行っている研究には強みもあるが,
生活習慣
(喫
煙等)やその他の疾病リスク要因による交絡の可能性をコントロールして放射線リスクを分析したものはほとんどなく,調査結果の一貫性を損なう可能性がある,また,現在,個人の放射線リスクレベルに関わる遺伝的又は生物
学的要因を評価するための生物学的サンプルを備えた研究はほとんどないとした上で,大部分の規模の大きい質の高い低線量調査によれば,低線量でもがんの可能性があることを示唆しており,必ずしも証明はされていないものの,
放射線防護におけるLNTモデルの適用性と一致しているものであるが,低線量被ばくのがんのリスクは小さいとしている。そして,同論文は,結論
として,今後も放射線防護においてはLNTモデル(線量応答の傾斜がたぶんDDRFFによって軽減)を採用すべきとしている。


国立がん研究センターによるわかりやすい放射線とがんのリスク(乙D共5,18〔14頁〕,丙D共34〔6頁〕)
国立がん研究センターは,LSS(2007年発表のもの),チェルノブイリ原子力発電所事故の被ばく者に関する調査の論文から,放射能と生活習慣によって固形がんになるリスクをまとめている。それによれば,生活習慣
によるがんのリスクは,受動喫煙(非喫煙者,女性)が1.02ないし1.03倍,野菜不足が1.06倍,100ないし200mSvの放射線を浴びた場合が1.08倍,200ないし500mSvを浴びた場合が1.16倍,運動不足が1.15ないし1.19倍,肥満(BMI≧30)が1.22倍,やせ過ぎ(BMI<19)が1.29倍,毎日2合以上の飲酒及び500ないし
1000mSvを浴びた場合が1.
4倍,
喫煙及び毎日3合以上の飲酒をした場
合が1.6倍,1000ないし2000mSvを浴びた場合が1.8倍であるとされている。
7
UNSCEAR2013年報告書(乙D共10,丙D共80,81〔5,28~35,49,50,58,59頁〕)
UNSCEARは,
1955年の国連総会で設置された国連の委員会であり,
加盟国が任命した科学分野の専門家で構成される。UNSCEARは,科学分野の専門家80名以上で構成するチームを設置し,更に関連する専門知識を持つ者やIAEA,WHO等の国際機関からの情報提供などを受けた上で,本件
事故に関する電離放射線の線源,影響及びリスクについてまとめた報告書を作成し,平成25年の国連総会において報告した。


線量評価

避難しなかった公衆の1年目の線量
福島県内の避難対象外行政区画の住民のうち避難しなかった者の本件事
故後1年間の実効線量の推定値(外部被ばく,吸入による内部被ばく及び経口摂取による内部被ばくの合計)は,成人が1.0ないし4.3mSv,10歳児が1.2ないし5.9mSv,1歳児が2.0ないし7.5mSvである。また,同住民の本件事故後1年間の甲状腺の吸収線量の推定値は,成人が7.8ないし17mGy,10歳児が15ないし31mGy,1歳児が33ないし52mGyである。また,宮城県,茨城県,千葉県など福島県に近い県における実効線量の推定値は,成人が0.2ないし1.4mSv,10歳児が0.
2~2.0mSv,1歳児が0.3ないし2.5mSvであり,その他の都道府県においては最も高い1歳児で0.2ないし0.5mSvである。なお,上記数値は,自然放射線源によるバックグラウンド線量への上乗せ分である。データが不十分である場合には仮定を設けており,そのためこれらの数値は平均線量を実際よりも過大評価している可能性がある。

福島県内では,20km圏内の避難区域に一部がかかる南相馬市と地表での沈着密度が高い福島市,二本松市,桑折町,大玉村,郡山市,本宮市,伊達市において,避難しなかった者としては最大の推定実効線量が得られ,本件事故直後1年間における成人の平均実効線量は2.
5ないし4.
3mSv
の範囲であった。


避難者の線量
避難者の本件事故後1年間の実効線量の推定値は,予防的避難地区(高度の被ばくを防止するための緊急時防護措置として平成23年3月12日から同月15日にかけて指示された地区。具体的には,同日までに避難又は屋内退避を命じられた福島第一原発から半径30㎞圏内の区域を指
す。)では,成人が1.1ないし5.7mSv,10歳児が1.3ないし7.3mSv,1歳児が1.6ないし9.3mSvである。また,避難者の本件事故後1年間の甲状腺吸収線量は,予防的避難地区では,成人が7.2ないし34mGy,
10歳児が12ないし58mGy,
1歳児が15ないし82mGyであ
る。


不確かさ
外部被ばくによる線量の推定は,基本的に地表に沈着した放射線核種の測定レベルに基づくものであるところ,測定の正確性や時間の経過に伴う放射線核種の放出率の推移と放出時の気象状況についての知見が不完全であることから,不確かさが生じる。福島県内においては広範な測定が実施されており,特定の行政区画に関する推定行政区画平均線量は2倍の範囲
内で正確であると考えられるが,福島県から近い位置にないと道具府県では測定値数が比較的少ないため,平均線量の不確かさはより大きいと考えられる。特に平成23年3月に避難した住民の地区平均実効線量と臓器吸収線量については一般的に4倍から5倍過大評価又は過少評価されている可能性がある。



公衆の健康影響

本件事故後1年間における成人避難者が受けた地区平均実効線量及び福島県の避難区域外で最も影響を受けた地域の行政区画平均生涯実効線量の双方が最大で約10mSv,
小児及び乳幼児ではその約2倍となると考えられ
るところ(個人の実効線量は,約30ないし50%から2ないし3倍の範
囲で変動した可能性がある。),この程度の線量であってもがんのリスクがわずかに上昇することが示唆されるが,一般的な集団における事故の放射線被ばくによる疾患発生率の全体的な上昇は,日本人の基準生涯リスク(事故に起因する放射線被ばくがない場合の固形がんの生涯リスク。あらゆる固形がんにおいて平均35%であるが,性別,生活習慣や他の要因に
よって個人差がある。)に対して検出するには小さすぎる。

甲状腺がんについて,本件事故後1年間の成人の平均甲状腺吸収線量は数十mGyの範囲内であり,
大幅に低いため,
福島県でチェルノブイリ原子力
発電所事故のように多数の放射線誘発性甲状腺がんが発生するというように考える必要はない。


胎児及び幼少期・小児期に被ばくした人の白血病のリスク並びに若年時に被ばくした者の乳がんのリスクについては,発生率が識別可能なレベルで上昇するとは予測されない。

妊娠中の被ばくによる自然流産,流産,周産期死亡率,先天的な影響又は認知障害が増加するとは予測されず,本件事故で被ばくした人の子孫に遺伝的な疾患が増加するとも予測されない。



集団検診(福島県民健康調査)について
本件事故当時18歳以下であった福島県民を対象として,平成25年7月末までに行われた福島県民健康調査における甲状腺検査においては,結節が調査対象者の約1%,のう胞が約40%で見つかったが,これは,本件事故の影響を受けていない地域での類似した調査と変わらず,福島県での継続的
な超音波検査では,検査が集中的で使用機器の感度が高いために比較的多数の甲状腺異常が見つかったことが示唆される。
8
帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置具体化のために)(丙D共54)

原子力規制委員会は,平成25年11月20日,帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置の具体化のために)を公表した。
ここでは,放射線による被ばくに関する国際的な知見及び線量水準に関する考えとして,
放射線による被ばくがおよそ100mSvを超える場合には,
がん罹

患率や死亡率の上昇が線量の増加に伴って観察されているが,100mSv以下の被ばく線量域では,がん等の影響は,他の要因による発がんの影響等によって隠れてしまうほど小さく,疫学的に健康リスクの明らかな増加を証明することは難しいと国際的に認識されており,
公衆の被ばく線量限度
(年間1mSv)
は,
ICRPが,低線量率生涯被ばくによる年齢別年間がん死亡率の推定及び自然
から受ける放射線による年間の被ばく線量の差等を基に定めたものであり,放射線による被ばくにおける安全と危険の境界を表したものではないし,いかなる線量でもリスクが存在するという予防的な仮定に立っているとしている。また,ICRPは,緊急事態後の長期被ばく状況を含む状況(現存被ばく状況)において汚染地域内に居住する人々の防護の最適化を計画するための参考レベルは,
長期的な目標として,
年間1ないし20mSvの線量域の下方部分から選択
すべきであるとしている。その上で,我が国ではICRPの勧告等を踏まえ,
空間線量率から推定される年間積算線量
(20mSv)
以下の地域になることが確
実であることを避難指示解除の要件の一つとして定めているが,長期目標として,帰還後に個人が受ける追加被ばく線量が年間1mSv以下になることを目指すこと等について国が責任をもって取り組むことが必要であるとしている。9
福島県民健康調査等(丙D共100〔8頁〕)
福島県は,県民の心身の健康を見守り,将来にわたる健康の維持,増進を図ることを目的に,
本件事故時点における県内居住者を対象に,
県民健康調査
として,被ばく線量の推計や甲状腺検査,ホールボディカウンターによる内部被ばく検査を行った。



基本調査(甲A180,丙D共100〔8頁〕,105,170)本件事故時における福島県内居住者205万5305人に対し,自記式質問票に対する回答を求め,
外部被ばく実効線量の推計を実施したものである。
平成26年3月末までに回答を行った53万2046人
(回答率25.
9%)
のうち,
放射線業務従事経験者を除く47万1565人の推計結果は,
県北・
県中地区(福島市,郡山市を含む)では約90%が2mSv未満となり,県南地
区では約91%,
会津・南会津地区では99%以上,
相双地区では約78%,
いわき地区では99%以上が1mSv未満であった。


甲状腺検査(甲A180,乙D共1の2〔167,168頁〕,3の2〔167,168頁〕,18〔5頁〕,丙D共100〔8頁〕,167,170,
171,173)

福島県は,本件事故時に福島県内に居住していた平成3年4月2日から平成23年4月1日までに生まれた県民を対象として,平成23年10月から平成25年度までに先行検査を実施し,平成26年度以降に本格検査(先行検査と比較するための2回目の検査で,さらに平成24年4月1日までに生まれた者を対象に加えた約38万人を対象としたもの。対象者が20歳を超えるまでは2年ごと,それ以降は25歳及び30歳に継続検査
が行われる。)を実施することとしている。
甲状腺がんは,甲状腺の一部に腫瘍ができるもの(結節性甲状腺腫)のうち,悪性の腫瘍をいう。発生原因のうち,確実なものは,若年期(特に幼年期)の放射線被ばくである。
甲状腺検査の結果は,A1(のう胞や結節が認められなかった),A
2(5.0㎜以下の結節や20.0㎜以上ののう胞がある),B(5.1㎜以上の結節や20.1㎜以上ののう胞がある),C(甲状腺の状態から判断して,直ちに二次検査を要する)の4段階で判定され,B及びC判定の者が二次検査を受けることになる。
のう胞とは,中に液体が溜まった袋状のもので,健康な者でも見つか
る良性のものであり,細胞がないためがんになることはない。のう胞は成長に伴って増加し,中学生頃にピークを迎え,その後少しずつ減る傾向にあるとされている。
結節とは,甲状腺の細胞が変化したものであり,良性と悪性(がん)があるが,ほとんどは良性のものである。なお,通常の診察では精密検
査が必要となる結節の多くは10ないし20㎜以上であるが,福島県では5.1㎜以上を二次検査の対象としている。

先行検査については,平成28年12月末時点で,受診した約30万人(受診率81.7%)のうち,A1及びA2の判定を受けた者が29万8
182人(99.2%),B判定を受けた者が2293人(0.8%),C判定を受けた者が1人であり,二次検査で悪性又は悪性疑いと判定された者は116人いたが,このうち102人が手術を受け,甲状腺がんが101人,良性結節が1人であった。
本格検査(1回目)については,平成28年12月末時点で,A1及びA2の判定を受けた者が26万8242人(99.2%),B判定を受けた者が2226人(0.8%),C判定を受けた者はいなかった。二次検
査を受け,平成28年12月末までに結果が確定した者で,悪性又は悪性疑いと判定された者が69人,このうち手術を受けた44人全員が甲状腺がんであった。
本格検査(2回目)については,平成28年12月末までにA判定を受けた者が7万0600人
(99.
3%)B判定を受けた者が483人

(0.

7%),C判定を受けた者はいなかった。二次検査を受け,平成28年12月末までに結果が確定した64人のうち,悪性又は悪性疑いと判定されたものはいない。

環境省は,平成24年,青森県弘前市,山梨県甲府市及び長崎県長崎市に住む幼稚園から高校生までの4365人を対象に甲状腺有所見率調査を
行った。同検査によれば,A判定を受けた者が4321人(99%),B判定を受けた者が44人(1%),C判定を受けた者はいなかった。⑶

内部被ばく検査(丙D共79,100〔8頁〕,104)
福島県が平成23年6月27日から平成25年12月31日までに行った
ホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果では,
預託実効線量
(概
ね生涯体内から受けると思われる内部被ばく量)
が1mSv未満の者が17万5
278人中17万5252人
(約99.
9%)
となっており,
1mSvが14人,
2mSvが10人,3mSvが2人であった。また,福島市,いわき市及び郡山市の住民については全員が1mSv未満であった。

平成23年6月27日から平成29年2月28日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果でも,
預託実効線量が1mSv未満の
者が32万1255人中32万1229人(約99.9%)となっており,1mSvが14人,2mSvが10人,3mSvが2人であった。また,福島市,いわき市及び郡山市の住民については全員が1mSv未満であった。


妊産婦に関する調査(甲A180,丙D共170)
福島県は,平成23年度から平成25年度までの間に県内市町村において
母子健康手帳を交付された者を対象に,アンケート調査を行い,平成23年度は58.2%,平成24年度は47.7%,平成26年度は47.2%の者から回答を得た。同アンケート結果によれば,早産率及び低出生体重児出生率は同時期の全国区平均とほとんど変わりなく,先天異常の発生率は一般的な発生率に比べて低かった。

第2章
第1
1
判断
基本的な考え方
財産的損害
避難により原告らが被った財産的損害の額については,その算定方法を後記
第3のとおり定め,当該算定方法に従って算定することとする。

ある損害費目につき,被告東電による賠償が行われておらず又はその賠償額が原告らの主張する金額に満たない場合,原告らにその損害の発生及び額に係る主張立証責任があると解されるが,本件事故後の混乱の中での避難という事案の性質等に鑑み,原告らが領収証等の客観的な証拠により具体的な金額を立証し得ない場合であっても,損害の発生自体が認められるときは,民事訴訟法
248条の趣旨に照らし,被告東電基準等も参照の上,一定の合理的な金額をもって損害額と認めることとする。
2
精神的損害
避難により原告らが被った精神的損害の額(慰謝料額)については,その算
定方法を後記第4のとおり定め,原則として,当該算定方法に従って算定することとする。
ただし,精神的損害については,個別の事情により精神的苦痛の程度が大きく異なり得るから,特別な事情がある場合には,相当と認める慰謝料額を個別に算定することがある。
3
弁済の抗弁等について
上記1及び2の損害額の算定方法に従って各原告の損害額を認定し,かかる
損害額全体から,被告東電が本件事故に係る賠償金として各原告に支払った金額を控除し,なお残額が存在する場合には,その残額に相当因果関係が認められる範囲の弁護士費用(残額の1割程度)を上乗せした金額を認容額とする。なお,被告東電が本件事故に係る賠償金として各原告に支払った金額を控除するに当たっては,①直接請求手続により支払われた既払金については,その
名目にかかわらず,認定された損害額から既払金の全額を差し引く。②ADR手続による和解に基づき支払われた既払金については,和解の効力の及ぶ範囲が限定されているとみられること(丙D22の1)など和解の趣旨を考慮し,当事者の合理的意思の観点から,和解の対象とされた期間に係る損害項目について請求額に計上されていない場合には,その損害項目に係る支払額は控除の
対象としないが,上記損害項目が請求額に計上されている場合には,上記損害項目に係る本件事故と相当因果関係のある損害全額につき,賠償が行われたものと推認する。
4
遅延損害金について
被告東電は,直接請求手続においては,立証の負担の緩和や中間利息の控除を行わない賠償方式を採用しているという面において請求者を有利に取り扱う代わりに,
遅延損害金も付さないことを想定した扱いをしていることを踏まえ,損害元本に対応する遅延損害金についてはこれを請求しない旨の黙示の合意が成立している旨主張する。しかし,直接請求手続に係る上記のような取扱いを
もって,訴訟になっても遅延損害金を請求しないという黙示の合意が成立していると推認することはできないし,他にこれを認めるに足りる十分な証拠もない。被告東電の上記主張は採用することができない。
5
中間指針等及び被告東電基準について
原告ら及び被告東電は,中間指針等やそれを踏まえた被告東電基準の合理性の有無等についてそれぞれ主張している。
前記認定事実第3の1,4のとおり,中間指針等は,原賠法18条2項2号
に依拠して,関係分野の専門家等の委員で構成された原賠審において,多数の被害者への迅速,公平かつ適正な賠償を行うとの見地から,過去の裁判例及び慰謝料額の基準も踏まえて定められたものであり,被告東電基準も,このような中間指針等の考え方に基づいて策定されたものであるから,いずれも一定の合理性を有するものであり,本件訴訟における原告らの賠償額の算定に当たっ
て参考にすべきものといえる。もっとも,中間指針等及び被告東電基準は,あくまで当事者による自主的な解決に資する一般的な指針として定められたものにすぎないから,裁判所を法的に拘束するものではなく,個別の内容に係る合理性については検討しない。
第2

避難の相当性について
原告らの主張する損害が,賠償の対象となる原賠法1条の原子力損害,す
なわち,
核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(中略)により生じた損害(同法2条2項)と認めら
れるためには,本件事故と原告らの避難との間に相当因果関係が認められるこ
と,換言すれば,原告らの避難が,本件事故による放射線被ばくの影響を避けるためのものであって,一般人からみてもやむを得ないものとして社会通念上相当といえること(避難の相当性)が必要と解される。
原告らは,いずれも,本件事故後に自主的避難等対象区域又は区域外から避難した者であり,避難指示等により避難を余儀なくされたのではなく,自ら又
は世帯の判断に基づいて避難元住居から避難したものであることから,その避難の相当性が認められるかを個別に判断する前提として,以下,その基本的な考え方を示すこととする。
1
低線量被ばくによる健康影響について


原告らは,放射線被ばくの健康影響にはしきい値がないというLNTモデルを採用すべきことを前提に,たとえ低線量の被ばくであったとしても,被
ばく線量に応じた相応の健康リスクがあるから,本件事故由来の放射性物質によりわずかでも被ばくする可能性がある場合には,より被ばくの可能性が低いところに避難することは当然であり,そのような地域に避難元住居のある原告らには避難の相当性が認められる旨主張する。
そして,
原告らは,
証人崎山の証言
(他裁判所における尋問調書等を含む。


や意見書(甲A30,210~212,乙D共34)を基に,LNTモデルが科学的にも裏付けられたものである旨主張するので,以下,原告らの主張に沿って,低線量被ばくによる健康影響について検討する。
⑵ア

証人崎山は,ICRPが,放射線が生物に与える影響のメカニズムを前提とした科学的根拠に基づいて,LNTモデルを採用している旨述べる。

放射線被ばくに関する情報提供等を行っている国際的機関には,ICRP,UNSCEAR,WHO,IAEA等があり,それぞれ,放射線被ばくによる健康影響等に関する知見等を公表している。前記認定事実第4の1⑴のとおり,ICRPは,1959年以降,主として適切な放射線防護の基礎となり得る基本原則についての指針を提供することにより,国,地
域及び国際的なレベルで規制機関並びに諮問機関の役に立つことを意図して勧告を行っており,その勧告は各国における放射線防護において参考にされている。

告において,ある行為内のどんな特定の線源に関しても,個人線量の大きさ,被ばくする人の数及び受けることが確かでない被ばくの起こる可能性の三つ全てを,経済的及び社会的要因を考慮に加えた上,合理的に達成できる限り低く保つべきであるとする防護の最適化の原則(ALARAの原則)等を基本原則とした上で,LNTモデルは低線量放射線被ばくのリスクの管理に対して慎重な根拠を示すものであり,実用的な放射線防護体系において引き続き科学的にも説得力がある要素であるとして,LNTモデルを採用するとの立場を取っているが,他方で,LNTモデルの根拠とな
っている仮説を明確に実証する生物学的/疫学的知見がすぐには得られそうになく,
低線量における健康影響は不確実であるとしている。
すなわち,
ICRPは,低線量被ばくについては科学的に未解明の点が多いことを前提としつつ,放射線防護という観点からすれば安全側に立って考える必要があるとして,LNTモデルを採用しているのであって,科学的に実証さ
れている知見としてLNTモデルを採用しているものではない。
また,

ICRPは,2007

年勧告において,計画被ばく状況においては,線量限度を年間1mSv(実効線量)としているが,緊急時被ばく状況における公衆被ばくの参考レベルは,状況に応じて年間20ないし100mSv(実効線量)の間に定め,現存被ばく状況(公衆被ばくのみ)における参考レベルは,状況に応じて年間1ないし20mSv(実効線量)の間に定めるべきであるとし,線量拘束値及び参考レベルに選択された値についても,考慮されている被ばく事情によるので,安全と危険の境界を表したり個人の健康リスクに関連した段階的
変化を反映したりするものではないとしている。このような勧告の内容からすれば,
ICRPは,
飽くまでも放射線防護の観点から年間1mSvという
基準を定めているものであり,
年間1mSv程度の被ばくにより健康被害が生
じ又はそのおそれがあるとしているものではないというべきである。したがって,証人崎山の上記証言等は採用することができない。

⑶ア

証人崎山は,
放射線がDNAの二本鎖切断を起こすという医学的知見や,
放射線被ばくとがんの罹患率等に係る疫学調査等に関する論文等によってLNTモデルが裏付けられており,
100mSv以下の低線量被ばくであって
も,がん死や発がんリスクが増加することは実証されている旨述べる。証人崎山が根拠として挙げる論文の主要なものは,前記認定事実第4の6⑶ないし⑻(ただし,同⑹エを除く。)で挙げたとおりである。イ
確かに,証人崎山の引用する,放射線被ばくとがんの罹患率等に係る論文や疫学調査は,複数の国における調査等を基礎として,疫学等の手法を用いてされたものであって,その内容も,低線量被ばくであっても健康に影響することをうかがわせるものであり,LNTモデルが一定の科学的な合理性を有する見解であることは否定し難い。

しかし,上記のとおり,ICRPの2007年勧告においても,LNTモデルは,科学的に実証されたものとして扱われているものではない。また,証人崎山が引用する各論文についても,前記認定事実第4の6⑶ないし⑻において個別に記載したような批判や異なる見解が示されているほか,インドの高自然放射線地域であるケララ州における調査では,自然放射線
による生涯累積線量とがん罹患率が関連する証拠は得られなかったとされているという論文もある(前記認定事実第4の6⑹エ)。そうすると,少なくとも10mSvに満たないような低線量被ばく(なお,
UNSCEAR2
013年報告書によれば,福島県内の避難対象外行政区画の住民の本件事故後1年間の実効線量の推定値は,成人で年間最大4.3mSv,1歳児で最
大7.
3mSvとされている。において,

理論上の可能性としてはともかく,
がん死や発がんリスクの有意な増加が実証されているということはできない。
また,
例えば,
CT検査を1回受けると数mSvの放射線被ばくをするとさ
れ,東京ニューヨーク間の航空機旅行では,1往復当たり0.2mSv程度被
ばくするとされている
られる微量の放射能を含む放射能泉(ラジウム温泉やラドン温泉といわれる。)も日本中に数多く存在すること(顕著な事実)などからすると,年間10mSvに満たないような低線量被ばくにつき,直ちに健康への悪影響を危惧すべきというような社会通念が存在するとも認められない。ウ
また,
生体には,
DNAの損傷が生じたとしてもそれを修復する機能や,
変異した細胞を除去するアポトーシス等の防御機能が備わっていることか
ら,低線量率による被ばくの健康影響は,高線量率の場合と比べて生体への影響が少ない可能性を示唆する見解もある(認定事実第4の6⑴,⑵ア
しかも,
100mSv程度の被ばくの場合には,
喫煙や肥満と比べてもその
健康影響は小さいと考えられている(なお,低線量被ばくWG報告書によ
れば,
長期間にわたり100mSvを被ばくすると生涯のがん死亡のリスクが約0.5%増加すると試算されており,他のリスクとの比較では,喫煙のリスクは1000ないし2000mSv相当,
肥満のリスクは200ないし5
00mSv
したがって,
年間10mSvを下回るような低線量被ばくにより健康影響が

生ずる可能性は極めて低いといわざるを得ず,前述の社会通念に照らしても,本件事故由来の放射性物質によりわずかでも被ばくする可能性があれば直ちに避難の相当性を認めるべきであるとする原告らの主張は,採用することができない。
2
自主的避難等対象者(福島市,いわき市及び郡山市から避難した者)について


避難の相当性について

自主的避難等対象者は,政府の避難指示等によらずに避難をしたものであるから,自主的避難等対象者については,避難元住居からの避難を余儀
なくされたとはいえず,避難の相当性が直ちに認められるものではない。しかし,自主的避難等対象区域は,同区域において生活を継続したとしても,避難指示等の基準とされた年間20mSv(実効線量)以上の被ばくが生ずるとは考えられない地域であるものの,避難指示等対象区域に近接しており,
福島第一原発との距離も比較的近いといえる区域である。
また,自主的避難等対象区域である福島市,いわき市及び郡山市は,本件事故から半月以上が経過した平成23年3月31日時点でも,市内における空間放射線量の最大値が1µSv/hを超え,
本件事故前の福島県
(福
島市)におけるモニタリングポスト(高さ2.5m)の平常値(0.037ないし0.046µSv/h)を超える状態にあるなど(前記認定事実第1の2⑴,第2の1⑴ないし⑶),本件事故による空間線量の明らかな
増加がみられた地域である。
また,本件事故直後の時期である平成23年3月14日ないし同月16日頃には,福島第一原発の状況について,3号機が炉心融解し,爆発のおそれがあるとか,本件事故により高濃度の放射能が漏れたというような報道がされ(認定事実第2の3⑴ア),本件事故当日から同月
15日にかけて政府による避難指示の対象となる区域も順次拡大され(第2部前提事実第4の1),その範囲がさらに拡大される可能性も否定できない状況にあった。放射線量についても,福島第一原発敷地内において人体に影響のある値が計測され,さらなる放射性物質の漏洩の危険性があるとか,福島県で通常の478倍の放射線量が確認されたとい
うような報道がされていた(認定事実第2の3⑴ア)。さらに,保安院は,同年4月12日,本件事故の重大性を,INESに基づきレベル7(深刻な事故)と評価した(第2部前提事実第3の3⑴)。さらに,
原災本部が,本件事故発生以降1年間の積算線量が20mSvに
達するおそれのある地点を特定避難勧奨地点とする旨を定めたのは同年
6月末頃であり
(第2部前提事実第4の2⑶)このような状況の下で,,
自主的避難者数は,同年5月頃から同年9月頃までにかけて増加し,同月には福島県全体で5万人を超えたことが認められる(認定事実第2の2⑴ア)。
加えて,中間指針第一次追補においても,自主的避難等対象者に対して賠償を行うべきであるとされ,被告東電基準においても,自主的避難等対象者に対する賠償の基準を定めているなど
(認定事実第3の2,,
5)

被告らにおいても,自主的避難等対象者の避難には相当性があると考えていることがうかがわれる。
これらの事情からすれば,自主的避難等対象者が,近接する地域について避難指示等がされ,その範囲も拡大している状況にある中,本件事故による放射線被ばくに対する現実的な不安を抱くことは十分に理解
し得ることであって,上記放射線被ばくを避けるための避難行為は,実際の被ばく線量の多寡にかかわらず,一般人からみてもやむを得ないものとして社会通念上相当なものと評価し得るというべきである。したがって,自主的避難等対象者については,原則として,避難の相当性が認められるというべきである。

ただし,自主的避難等対象者が,本件事故後に避難元住居からの転居を行った場合であっても,本件地震や本件津波により自宅等が被害を受けたためである場合など,本件事故による放射線被ばくを避けるための転居と認められないときは,そのような自主的避難等対象者が転居により被った損害は,本件事故との相当因果関係が認められず,賠償の対象
となる原子力損害には該当しないというべきである。


避難継続の相当性が認められる期間について
妊婦及び子供以外の者について
前記第2部前提事実及び認定事実によれば,平成23年4月22日,
屋内退避の指示が解除されるとともに,避難区域の見直しが行われたこと(第2部前提事実第4の2⑵),被告東電が,同年7月19日,本件事故収束に関するステップ1(安定的な冷却)を達成したとし,原災本部が,同年9月30日,原子炉の安全性の確保等の条件が満たされたことを前提に緊急時避難準備区域を解除したこと(第2部前提事実第4の2⑷ア,認定事実第2の7⑵),被告東電が,同年12月16日,放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられているというステップ2の目標達成と完了を確認し,内閣総理大臣が,本件事故の収束を宣言したことが認められる(認定事実第2の7⑶)。また同年4月以降,放射線量が減少傾向にある旨の報道や,農産物の出荷制限等についても順次解除されている旨の報道がされるようになり,各自治体等の
発行する広報誌等においても,放射線被ばくに関する情報提供や,その時点の放射線量の値が直ちに健康に影響するようなものではない旨の情報提供がされるようになっていたこと(認定事実第2の3⑵)が認められる。
これらの事情からすれば,同年4月下旬以降も福島第一原発の原子炉
の冷却等の作業は継続されていたものの,本件事故が収束傾向にあり,本件事故による放射線被ばくについての不安が軽減ないし解消されるような情報提供も多く行われるようになっており,同年12月に内閣総理大臣による本件事故の収束宣言がされた頃には,原告らにおいて,本件事故がほぼ収束したものといえ,これ以上状況が悪化するとは考え難い
ことや,自主的避難等対象区域内の避難元住居で生活したとしても,健康への影響がある程度の放射線被ばくを受けるとは考え難いことを認識することができたといえる。
したがって,自主的避難等対象者(ただし,本件事故当時に妊婦又は18歳以下の子供若しくは胎児であった者を除く。)について,避難継
続の相当性が認められるのは,平成23年12月31日までと認めるのが相当である。
妊婦(胎児)及び子供について

以外の者に比べて放射線に対する感受性が高いとされており,放射線については遺伝的な影響もあると考えられているところ,このことは,本件事故後,妊婦や子供の放射線被ばくによる健康影響について殊更の情報提供がされたり,食品や水道水についてその他の者とは異なる規制が課されたりしていることから,一般に広く認識されていたといえる。したがって,妊婦や子供が,それ以外の者に比べ,放射線被ばくに対する強い不安を感じることもやむを得ないというべきであり,その他の者よ
りも長期にわたり避難を継続することには合理性があるというべきである。
中間指針等及び被告東電基準においても,
妊婦及び子供については,
賠償の対象となる期間や賠償額について,それ以外の者とは異なる取扱いがされているところである(例えば,被告東電基準においては,精神的損害等の賠償として,平成24年1月1日から同年8月31日までの
間に18歳以下であった期間がある者及び妊娠していた期間がある者に対して,
8万円の賠償をすることとされている
〔認定事実第3の5⑵〕)
。。
したがって,自主的避難等対象者のうち,本件事故当時に妊婦又は18歳以下の子供若しくは胎児であった者については,それ以外の者よりも長期にわたる避難継続の相当性が認められるというべきであり,上記すれば,その期間(終期)は平成24

年8月31日までとするのが相当である。
なお,本件事故当時妊婦又は18歳以下の子供であった自主的避難等対象者が,本件事故後に妊婦又は18歳以下の子供でなくなった場合,当該自主的避難対象者について避難継続の相当性が認められる期間は,妊婦若しくは18歳以下の子供でなくなった時期又は平成23年12月末のいずれか遅い時期までとする。

自主的避難等対象者の避難開始の時期が遅れた場合について
被告東電は,自主的避難等対象者について,避難の相当性が認められ得るとしても,避難を開始した時期が本件事故直後でない場合には,本件事故と避難との間に相当因果関係が認められないなどと主張する。
しかし,上記ア記載の各事情からすれば,避難継続の相当性が認められ
る期間内においては,自主的避難等対象者が本件事故による放射線被ばくについて現実的な不安感を抱くことはある程度やむを得ないものといえ,また,実際に遠方へ避難することは,精神的にも経済的にも必ずしも容易なことではなく,人間関係その他の事情により,躊躇して決断が遅れることもあり得る。

したがって,放射線被ばくを避けるべく避難を決断し実行するまでに一定の期間を要したとしても,避難継続の相当性が認められる期間内においては,原則として避難の相当性を認めるのが相当であり,避難継続の相当性が認められる期間内(妊婦及び子供は平成24年8月末まで,それ以外の者は平成23年12月末まで)に避難をした者については,原則として
避難の相当性を認めることとする。
他方で,避難継続の相当性が認められる期間を過ぎた後に避難をした者については,原則として避難の相当性を認めない。ただし,避難の相当性が認められない場合であっても,後記第4の2のとおり,精神的損害に対する慰謝料は,原則として認められる。

3
区域外居住者について
避難指示等対象区域や自主的避難等対象区域に含まれない区域(区域外)については,避難指示等対象区域に近接しているとはいえず,放射線量も健康に影響がある程度のものとは認め難く,区域外居住者が本件事故により被ばくした放射
線量は,自主的避難等対象者と比べてもさらに低いものと推認される。また,区域外の多くの自治体は,本件地震,本件津波及び本件事故により被災した者を避難者として受け入れており,一般的には避難元というより避難先として認識されていることも考慮すれば,区域外居住者の避難の相当性は容易には認め難く,個別に慎重に検討する必要があるというべきである。
したがって,区域外居住者の避難の相当性については,避難元住居と福島第一原発及び避難指示区域との位置関係,
避難元住居付近の空間線量,
避難者の年齢,

家族構成,心身の状況,避難者が入手した放射線量に関する情報,本件事故から避難を選択するまでの期間等の諸事情を総合的に考慮して,避難及びその継続に相当性が認められるかどうかを個別に判断するのが相当である。
4
原告らの主張について


原告らは,土壌汚染マップ(甲A219)によれば,一部の原告らの避難元住居周辺につき土壌汚染があるとされているとして,これを避難の相当性の根拠として挙げる。
しかし,上記マップは,平成26年10月から平成29年9月までの期間,除染などが行われていないと考えられる場所の土
(深さ5㎝,
1ℓ強)
を採取し,
放射性物質を測定した上で,それをチェルノブイリ原子力発電所事故の際に用
いられたものや福島県におけるものと異なる方法により,本件事故当時の値に換算したものであって,その正確性には疑問があるといわざるを得ない上,1ℓ程度の土の採取しか行っていないにもかかわらず,マップ上の1か所の汚染区域は広域にわたると見えるように記載されているものであり,仮に同採取地において放射性物質が検出されたからといって,その周辺の土壌でも同様の放
射性物質が検出されるとはいえない。したがって,上記マップにおいて,原告らの避難元住居周辺において放射性物質がある旨の記載がされているとしても,そのことから,原告らの避難元住居周辺における土壌汚染があったと認めることはできない。


原告らは,避難元住居のある一部の地域において,水道水や食品から指標値又は暫定規制値を超える放射性物質が検出され出荷制限等が行われたことなどから,当該地域において放射能汚染がある旨主張する。
しかし,水道水について,検出されたのは乳児の飲用に係る指標値(100Bq/㎏)を超える値であって,成人の飲用に係る指標値(300Bq/㎏)を超える放射性物質が検出されたことはなく,また検出された期間もごく限られた期間であり,直ちに健康に影響を及ぼすようなものではなかったことが認められ
る(認定事実第2の3
も,本件事故後に定められた暫定規制値は,食品からの被ばく量の上限を放射性セシウムについて年間5mSv,放射線ヨウ素について甲状腺の預託等価線量を年間50mSvとして設定されたものであり(認定事実第2の5⑵ア),仮に暫定規制値を超える食品等を摂取したとしても,直ちに健康に影響があるものと
はいえないし,避難元住居と同一都道府県又は同一市町村で生産された食品等の一部から暫定規制値を超える放射性物質が検出されたからといって,避難元住居を含む当該地域全体において,同程度の放射能汚染があったといえるわけでもない。
さらに,
上記指標値や暫定規制値を超える水道水や食品については,
摂取制限や出荷制限が行われることにより,一般に流通しないような措置が取
られていた(認定事実第2の6⑴ないし⑹)のであり,原告らがそれらの食品等を摂取する可能性は低かったものといえる。
これらの事情からすれば,内部被ばくは外部被ばくよりも健康影響へのリスクが高いという見解があることを考慮しても,水道水や食品等について指標値や暫定規制値を超える値が検出されたことをもって直ちに,原告らの避難の相当性が認められるとはいえない。
第3

財産的損害について
避難及び避難継続の相当性が認められる場合の財産的損害に係る賠償の基準は,概要,以下のとおりとする。

1
避難のために要した費用等


避難交通費,一時帰宅費用

避難の際に実際に支出した交通費のうち,必要かつ合理的な範囲の交通費については,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
なお,原則として,原告らが一定期間生活することを前提として定めた
住居を避難先住居とし,避難先住居までの移動に要した費用を避難交通費として認めるほか,本件事故後比較的早期に,一時的な避難をするために要した費用についても避難交通費として認める。他方,避難先住居に移動した後の更なる移動に要した費用については,個別の事情に照らし,特にその必要性が認められる場合に限り,避難交通費として認める。

避難先住居に避難した後,避難の相当性の認められる期間内に,避難元住居に一時帰宅した場合,その一時帰宅が避難及び避難継続のために必要
であったと認められる場合その他特段の必要性が認められるときは,合理的な範囲の交通費(一時帰宅費用)につき,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

避難交通費や一時帰宅費用に係る損害額については,原則として,領収証等の客観的な証拠に基づいて認定する。ただし,領収証等による金額の立証ができない場合であっても,本件事故後の混乱の中での避難という事案の性質等に鑑み,避難を行った事実が認められるときは,民事訴訟法248条の趣旨に照らし,一定の合理的な金額を損害額と認定する。その場合の損害額の認定に当たっては,被告東電の直接請求手続におけ
る標準交通費一覧表(甲D共156)を参考とするが,上記の標準交通費は,飽くまでも被告東電が迅速かつ一律の賠償を行うために用いたものであり,自家用車や公共交通機関を使用した場合に比べて高額となっていることや,移動距離に対応した金額になっていない部分もあるとみられることから,一定の割合を減ずるのが相当である。そこで,同一都道府県内に
おける移動については車両1台につき4000円とし,都道府県外への移動については,①自家用車の場合には,車両1台につき標準交通費一覧表(自家用車)の額×0.8を交通費として認め,②それ以外の公共交通機関の場合には,大人の場合には標準交通費一覧表(その他公共交通機関)の額×0.8,避難時に6歳以上12歳未満の者(小人料金の対象者)の場合には標準交通費一覧表の額×0.4をそれぞれ交通費として認め,避難時に6歳未満の者については,交通費を支出したことにつき具体的な立
証がある場合に限り,その額を損害額と認定する。


避難宿泊費
避難の際に実際に支出した宿泊費のうち,必要かつ合理的な範囲の宿泊費については,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
避難宿泊費に係る損害額については,原則として,領収証等の客観的な証
拠に基づいて認定する。ただし,領収証等による金額の立証ができない場合であっても,避難の際に宿泊費を要したと認められるときは,民事訴訟法248条の趣旨に照らし,一定の合理的な金額を損害額と認定する。⑶

引越費用
避難の際に実際に支出した引越費用のうち,必要かつ合理的な範囲の引越
費用については,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
引越費用に係る損害額については,原則として,領収証等の客観的な証拠に基づいて認定する。ただし,領収証等による金額の立証ができない場合であっても,避難のため引越費用を要したと認められるときは,民事訴訟法248条の趣旨に照らし,一定の合理的な金額を損害額と認定する。
2
避難後の生活のために要した費用(家財道具購入費用)
本件事故後の混乱の中で,避難の際に多くの家財道具を持って行くことは困難であるから,原告らが避難した後に家財道具を購入した場合,その購入費のうち必要かつ合理的な範囲の家財道具購入費用については,本件事故と相当因
果関係のある損害と認める。
家財道具購入費用に係る損害額については,原則として,領収証等の客観的な証拠に基づいて認定する。ただし,購入した家財道具の個数や金額等について領収証等の客観的な証拠による立証ができない場合であっても,避難先での生活のために家財道具の購入が必要であったと認められるときは,民事訴訟法248条の趣旨に照らし,ADR手続における運用(甲D158〔27頁〕)も参照の上,一定の合理的な金額を損害額と認定する。

3
収入の喪失又は減少(就労不能損害・収入減少損害)


本件事故により就労が不能となったと認められる場合には,本件事故と相当因果関係が認められる就労不能期間につき,本件事故前の収入を基礎として,本件事故による避難がなければ得られたであろう収入額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

ただし,就労が不能となった原因が専ら本件地震又は本件津波の被害(勤務先の建物が本件地震により倒壊したなど)にあり,本件事故により就労が不能となったとは認められない場合には,その就労不能による損害は,本件事故との相当因果関係が認められず賠償の対象とはならないと解される。また,本件事故当時就労していなかった場合には,近い将来就労することが予
定されていたなど,就労する蓋然性が具体的に認められる場合に限り,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。


本件事故により収入が減少したと認められる場合には,本件事故と相当因果関係が認められる収入減少期間につき,本件事故前の収入と本件事故後の収入との差額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

4
避難に伴う所有物の価値の喪失(財物損害)
本件事故による所有物の価値の喪失(避難時の廃棄等)が認められる場合には,本件事故当時の対象物の交換価格(時価)に基づいて,本件事故と相当因果関係のある損害額を認定する。所有物の価値の喪失に係る金額を具体的に立
証できない場合であっても,損害の発生が認められる場合には,民事訴訟法248条の趣旨に照らし,一定の合理的な金額をもって損害額と認める。5
避難雑費
原告らは,避難雑費として各月額1万円の請求をするが,その具体的内容は明らかではないし,避難の態様等も様々であって,必ずしも一人当たり月額1万円の負担や出費が発生するとはいえないから,抽象的な内容の避難雑費については後述の慰謝料に含めて考慮することとし,その費用の内容を特定した具
体的な主張立証がある場合に限り,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
第4

精神的損害について

1
被侵害利益


本件事故を原因として避難した者は,住み慣れた自宅や地域から離れ,不便な避難生活を強いられ,将来への不安を感じ,平穏な日常生活を喪失することによる精神的苦痛を被ったものと認められる。また,本件事故後しばらくして避難した者は,避難するまでの期間,本件事故による放射線被ばくの恐怖や不安の中で生活せざるを得なかったといえ,早期に避難した者と遜色のない精神的苦痛を被ったものと認められる。このように,本件事故により
侵害された,いわば平穏な日常生活を送る権利は,憲法13条等に照らし,人格権の一種として原賠法上も保護されるというべきであり,その慰謝料額については,算定の基準を後記2のとおり示すこととする。

原告らは,上記とは別に,コミュニティ侵害(ふるさと喪失)に係る損害が生じている旨主張する。
しかし,自主的避難等対象区域又は区域外においては,避難指示等はされておらず,基本的に立入りは自由であったこと,原告らの避難元住居のある市町村においては,人口に占める避難者数の割合が最も多いいわき市でも約4.5%にとどまっており,大部分の住民が本件事故後も居住を継続してい
ること,放射線量も時間によって逓減し,除染等も行われていること等からすれば,自主的避難等対象区域又は区域外の避難元住居への帰還を妨げる客観的な事情は存在しないというべきであるから,原告らの主張する上記損害は,原告らが避難を決断し,環境や人間関係が変化したことにより生じた精神的苦痛であって,上記アの被侵害利益に含まれるものというべきである。したがって,原告らの主張する上記の損害は,上記アの精神的苦痛に係る慰謝料額の算定において考慮すべき事情にとどまるというべきである。


原告らのうち,自主的避難等対象者である一部の者は,原告ら自身又はその子が甲状腺検査を受けたところ,のう胞がある旨の検査結果(A2判定)が出たことから,放射線被ばくの影響を受けたのではないかと不安に感じたことによる精神的苦痛を被っており,上記事実は,慰謝料額の算定に当たって考慮されるべきである旨主張する。

しかし,のう胞は,健康な者でも見つかる良性のものであることがほとんどで,基本的にがんになることはないのであり,A2判定を受けたとしても
ら,本件事故由来の放射線被ばくに基づく疾病又はその前駆症状とは認められないし,A2判定を受けたことによって感じる不安感も具体的な根拠のあ
るものとはいい難い。したがって,原告ら自身又はその子の甲状腺にのう胞がある旨の検査結果が出たことを,慰謝料の増額等を基礎付ける事情とすることはできない。
2
慰謝料額の基準


自主的避難等対象者について
自主的避難等対象区域に居住していた原告らの中には,本件事故後直ちに避難せず,しばらくしてから避難した者がいるが,前述のとおり,これらの者は,避難するまでの間,本件事故による放射線被ばくへの恐怖や不安の中で生活せざるを得なかったといえ,早期に避難した者と遜色のない精神的苦
痛を被ったものと認められる。
したがって,
自主的避難等対象者については,
避難継続の相当性が認められる期間(妊婦・子供について平成24年8月末まで,それ以外の者について平成23年12月末まで)のうち避難していない期間があったとしても,原則として,本件事故後直ちに避難した者と同額の慰謝料を認めることとする。
そして,自主的避難等対象者に対する慰謝料の額の基準は,これまでに述べた事情を総合考慮し,避難開始の時期を問わず,原則として,①本件事故
から同年12月末までの分につき,本件事故当時,妊婦及び子供(18歳以下)
であった者については50万円,
それ以外の者については25万円とし,
②平成24年1月1日の時点で妊婦又は子供(18歳以下)であった者については,平成24年1月から同年8月までの分として,さらに25万円を加えることとする。



区域外居住者について
避難の相当性が認められる場合には,自主的避難等対象者に対す
の基準を参考にして,慰謝料額を算定することとする。

3
被告東電の故意又は重過失を理由とする慰謝料増額の是非
原告らは,被告東電には本件事故の発生につき故意又はこれに匹敵する重大な過失があるとして,慰謝料を増額すべき旨主張する。
しかし,第4部第2章第6のとおり,本件事故が発生する前の時点では,長期評価の見解は,信頼性の高い見解であるとは評価されておらず,福島第一原発の敷地高さを超える津波が到来する切迫した危険性があると認識することは
困難であった。また,本件想定津波と本件津波には規模や方向に大きな違いがあることから,防潮堤等の設置等により本件事故の発生を回避することができた可能性は低い。
さらに,
第4部認定事実第3の5,
6によれば,
被告東電は,
長期評価の見解について,漫然とこれを放置したわけではなく,土木学会に対してその取扱いに係る検討を依頼したり,平成20年試算を行い,必要に応じ
て対策を取る方針を採用したりしていたことも認められる。
これらの事情に照らせば,被告東電に,本件事故の発生につき故意又はこれに匹敵する重大な過失があったと評価することはできない。したがって,これを慰謝料増額事由とすべき旨の原告らの主張は,その前提を欠くものであって採用することができない。
第6部
損害論(各論)に関する当裁判所の判断

第1章

原告番号1ないし5について

第1

認定事実(甲D1の1,1の2の3,1の3~5,1の6の6,丙D1の1~3,原告番号1本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況


原告番号1らは,
本件事故当時,
いわき市内の自宅兼教会に居住していた。
原告番号1(49歳・夫。以下,年齢については平成23年3月11日当時
のものを指す。)は,■■■■■■■■【1A】においてキリスト教の牧師をしており,原告番号2(44歳・妻)は,飲食店でパート勤務をしながら上記教会の手伝いをしており,原告番号3(17歳・長男)は高校生,原告番号4(13歳・次男)は中学生,原告番号5(10歳・長女)は小学生であった。

いわき市は自主的避難等対象区域である。原告番号1らの避難元住居は,福島第一原発から約43㎞の位置にあり,いわき市合同庁舎から■■■■■の位置にある。


原告番号1は,本件事故前,結婚式場(【1B】)で牧師として結婚式を執り行うことにより1回あたり1万5000円の収入を得ており,平成23
年1月から本件事故までの間に25万円の収入があった。上記結婚式場は,本件地震により損傷し,平成23年3月13日以降に予定されていた結婚式はキャンセルとなった。
2
避難及び避難後の状況等


避難経路等
原告番号1らは,平成23年3月12日,知人からの連絡で本件事故の発生を知り,その後,テレビ報道等によって本件事故の状況等を知り,避難元住居から避難することを考えた。原告番号1らは,同月16日,ガソリン20ℓを入手することができたこと等から,
同月17日,
自家用車でいわき市の
避難元住居から東京都台東区の知人宅に移動し,同月18日,自家用車で東京都台東区から静岡県に移動して一泊し,同月19日,高槻市(大阪府)の
親族宅に移動した。原告番号1らは,同月23日から同月24日にかけて,フェリーで大阪府から北九州市に移動し,同日,自家用車でさらに久留米市に移動し,県営住宅(避難者用の借り上げ住宅)に入居した。
原告番号1らは,平成25年3月末頃,久留米市から鳥栖市(佐賀県)の現在の住居に転居した。



一時帰宅の状況

原告番号1らは,平成23年4月上旬頃,荷物の整理のため,フェリー及び自家用車で久留米市と避難元住居を往復した。
また,原告番号1は,【1A】の後任の牧師への引継ぎ等のため,同年6月,同年8月及び同年10月の合計3回,飛行機等で久留米市と避
難元住居を往復した。

原告番号2及び5は,荷物整理のために1回,原告番号3は,学校の部活動に関連して2回,それぞれ飛行機等で久留米市と避難元住居を往復した。



避難後の状況等
原告番号1らは,上記⑵の一時帰宅の際,宅配便を利用して,避難元住居から久留米市の県営住宅に荷物を送ったが,家具や家電は送っていない。また,原告番号1は,久留米市に移動した後,エアコン2台,ベッド,食器棚及び下駄箱等をリサイクルショップで購入した。

原告番号1は,平成23年3月30日,同年4月からいわき市内の学校が再開するということを知り,避難元住居への帰還を検討したが,鳥栖市にある【1C】の牧師である義理の父(原告番号2の父)から要請を受け,避難元住居に戻らないことを決め,同年5月1日,上記教会の牧師に就任した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量

いわき市の複数地点において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑵のとおりである。


いわき市合同庁舎の空間線量は,本件事故後平成23年3月14日までは0.1µSv/hを下回っていたが,同月15日午前零時に0.57µSv/h,同日午前1時に4.
22µSv/h,
同日午前4時には本件事故後の最大値であ

る23.72µSv/hとなった。その後,同日午前8時に2.77µSv/h,同日午前11時20分に1.
92µSv/h,
原告番号1らが避難した同月17日
午前9時に1.25µSv/hとなり,同月21日午前11時に6.00µSv/hまで上昇したが,
同月28日以降は1µSv/h以下となり,
同月31日午後1
1時には0.68µSv/hとなった。



食品の規制等
いわき市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限等については,第5部認定事実第2の6⑵エのとおりである。


原告番号1らが入手した情報
原告番号1は,平成23年3月12日,友人から,福島第一原発が爆発し
たので今すぐ逃げるようにとの連絡を受けたほか,同日夜には,テレビでも本件事故について報道されているのを見た。また,原告番号1は,その頃,新聞等を通じて,いわき市における空間線量は,健康に影響を与える値ではないといわれていることを知った。
4
既払金
被告東電は,原告番号1に対し,自主避難等に係る損害として12万円(精神的損害等8万円,追加的費用等4万円),ADR手続での和解に基づき営業損害として10万円の合計22万円,原告番号2に対し,自主避難等に係る損害として12万円(精神的損害等8万円,追加的費用等4万円),原告番号3ないし5に対し,自主避難等に係る損害として各72万円(精神的損害等48万円,追加的費用等24万円)を支払った。

第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性
原告番号1らの避難元住居のあるいわき市は,自主的避難等対象区域であるところ,原告番号1らは,放射線被ばくを避けるために避難をしたものと認められ,避難の相当性を否定するような事情もないから,原告番号1らの避難及
び避難継続の相当性は認められる。
2
財産的損害


避難交通費
原告番号1らは,平成23年3月17日に自家用車でいわき市から東
京都台東区へ,同月18日に自家用車で東京都台東区から静岡県へ,同月19日に自家用車で静岡県から高槻市(大阪府)へ移動し,同月23日及び同月24日に自家用車及びフェリーで大阪府から久留米市へと移動しているところ,上記各移動に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある避難交通費と認められる。
他方,原告番号1らは,平成25年3月末頃,久留米市から鳥栖市へと転居しているが,同転居は,自主的避難等対象者について避難継続の相当性が認められる期間経過後にされたものである上,原告番号1が牧師をしていた【1C】に住み込むこととなったために行ったものであり,避難のための転居とはいい難いことからすれば,上記移動に要し
た費用は避難のために生じた費用であるとはいえず,本件事故と相当因果関係のある避難交通費とは認められない。

求していると解されるところ(甲D1の2の3参照),具体的な立証をしないから,第5部第2章第3の1⑴ウに基づき認定する。そうすると,避難交通費は,いわき市から東京都台東区までは1万3000円×0.8=1万0400円,東京都台東区から静岡県までは1万3
000円×0.8=1万0400円,静岡県から高槻市(大阪府)までは1万8000円×0.8=1万4400円となる。また,大阪府から久留米市までは,自家用車とフェリーを使用しているところ,大阪府から北九州市までのフェリー代金については,具体的立証のない以上,最も安価なフェリーを使用したと考えて算定することとし,大人料金4名×6480
円+小人料金1名×3240円+車両運送費2万2430円(車両の長さ4m以上5m未満)=5万1590円(丙D1の3の1・2)となり,フェリー乗船前後の移動は同一都道府県内における避難交通費とみなして4000円を加え,5万5590円を相当と認める。
以上によれば,本件事故と相当因果関係のある避難交通費の合計額は,
9万0790円となる。


一時帰宅費用

上記認定事実のとおり,①原告番号1らが,平成23年4月初旬頃,自家用車とフェリーで久留米市と避難元住居を往復したこと,及び②原告番
号1が,同年6月,同年8月及び同年10月の合計3回,飛行機等で久留米市と避難元住居を往復したこと,③原告番号2及び5が1回,原告番号3が2回,それぞれ飛行機等で久留米市と避難元住居を往復したことが認められる。
上記①については,避難元住居に残していた荷物等の整理や避難先住居
への送付等を主な目的とするものと認められ,避難及び避難継続のため必要かつ相当なものと認められるから,本件事故と相当因果関係のある一時帰宅費用と認められる。
上記②については,原告番号1が,後任者に職務の引継ぎを行うことを主たる目的とするものと認められるところ,原告番号1が後任者への職務の引継ぎを行ったのは,上記認定事実2⑶のとおり,原告番号1が避難元住居に戻らず,【1A】の牧師を引き継ぐこととしたからであり,原
告番号1の選択によるものであるから,上記②に要した費用は,本件事故により負担を余儀なくされたものではなく,避難及び避難継続のために必要なものとはいえず,本件事故と相当因果関係のある一時帰宅費用とは認められない。
上記③についても,証拠上,その時期が不明である上,上記①の一時帰
宅では対応し得なかった理由など一時帰宅の必要性も明らかでないから,本件事故と相当因果関係のある一時帰宅費用とは認められない。

原告番号1は,上記①の一時帰宅費用として合計27万8000円を請求しているが,具体的な立証はないから,第5部第2章第3の1⑴ウに基づき認定する。

そうすると,久留米市から大阪府までの交通費は,フェリー代金及びフェリー乗船後の移動につき5万5590円,大阪府からいわき市までは3万4000円×0.8=2万7200円の合計8万2790円(片道)となり,一時帰宅費用は往復16万5580円となる。


引越費用
原告番号1らは,宅配便を利用して避難元住居から久留米市に荷物を送付しているところ,上記送付に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある引越費用と認められる。
原告番号1らは,引越費用として20万0025円を請求しているが,領
収証等による具体的な額の立証はないから,その合理的と認められる額を認定すると,
原告番号1らは,
宅配便を利用して荷物を送付していることから,
一人当たり2万円×5名=10万円を本件事故と相当因果関係のある引越費用と認める。


家財道具購入費用
原告番号1らは,久留米市に転居した後,エアコン2台,ベッド,食器棚及び下駄箱等をリサイクルショップで購入しているところ,上記購入に要し
た費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費用と認められる。
原告番号1らは,
家財道具購入費用として15万円を請求しているところ,
領収証等による具体的な額についての立証はないが,上記の金額をもって相当と認める。



就労不能損害

原告番号1について
原告番号1は,本件事故から平成23年4月末までの就労不能損害として,18万1159円を請求する。しかし,被告東電は,原告番号1に対し,ADR手続での和解に基づき,同年3月11日から同年4月30日ま
での期間の営業損害を支払ったことが認められ,本件事故と相当因果関係のある就労不能損害(営業損害)は,全額支払済みであると認められる。イ
原告番号2について
原告番号2は,就労不能損害又は収入減少損害として105万円を請求するが,本件事故前及び避難後の就労状況や収入等について具体的な主張
立証がなく,上記損害の発生は認められない。


その他の費用について

リフォーム費用
原告番号1は,鳥栖市の教会及び自宅のリフォーム費用として191万
5000円を請求するが,上記⑴のとおり,鳥栖市への移動は避難のための転居とは評価し難いから,同市への転居に際して要したリフォーム費用についても,避難のために生じた費用であるとはいえず,本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

避難雑費について
原告番号1らは,避難雑費として各87万円を請求するが,その具体的内容について主張立証がないから,避難雑費の請求は認められない。


財産的損害の合計額
原告番号1の財産的損害の合計額は,避難交通費9万0790円,一時帰宅費用16万5580円,引越費用10万円,家財道具購入費用15万円の合計50万6370円となる。

3
精神的損害
原告番号1らは,本件事故による放射線被ばくに対する不安等を感じ,避難によって生活に支障を生ずるなどしたことにより,精神的苦痛を被ったと認められる。
原告番号1は,久留米市に転居後,ストレスから様々な症状が生じた旨主張
しているが,他の避難者と比較して殊更に強い精神的苦痛があったとは認められず,上記の事情は第5部で定めた基準に基づく慰謝料において考慮されているといえ,同基準から更に慰謝料を増額する必要があるとは認められない。原告番号3及び5については,転校により進路の変更を要したり,情緒の安定を欠く時期があったりしたことが認められるが,急に遠方に避難した学齢期の子
供においては,このような不利益や精神的苦痛は通常想定される範囲内のものということができ,18歳以下の子供についてはその他の者よりも第5部で定めた基準において慰謝料が増額されていることも考慮すると,第5部で定めた基準に基づく慰謝料において考慮されているといえ,同基準から更に慰謝料を増額する必要があるとは認められない。

よって,原告番号1及び2に係る慰謝料は各25万円,本件事故及び平成24年1月1日の各時点において18歳以下であった原告番号3ないし5に係る慰謝料は各75万円とするのが相当である。
4
まとめ


以上によれば,原告番号1らの各損害は,原告番号1につき75万6370円,原告番号2につき25万円,原告番号3ないし5につき各75万円となる。



原告番号1らに係る損害額(認容額)は,原告番号1につき,上記75万6370円から既払金12万円(ADR手続に基づく和解により支払われた10万円を除く。)を控除した63万6370円に相当な弁護士費用6万3000円を加えた69万9370円,原告番号2につき,上記25万円から既払金12万円を控除した13万円に相当な弁護士費用1万3000円を加
えた14万3000円,原告番号3ないし5につき,上記75万円から既払金72万円を控除した3万円に相当な弁護士費用3000円を加えた各3万3000円となる。
第2章
第1

原告番号6及び7について
認定事実(甲D7の1,7の2の4,7の5,7の7の1・2,原告番号7
本人,弁論の全趣旨)
1
本件事故前の状況
原告番号6らは,
本件事故当時,
さいたま市a区の賃貸マンションに居住して
いた。原告番号6(56歳・夫)は,東京都北区の【2A】で弁護士として勤務しており,原告番号7(52歳・妻)は,【2B】に通う学生であった。
原告番号6らの避難元住居は,福島第一原発から約209㎞の位置にあり,埼玉県庁から■■■■■■の位置にある。
2
避難及び避難後の状況等
原告番号6らは,平成23年3月16日,従前から予定していたオーストラ
リア旅行のために避難元住居を出発し,
予定していた帰国日である同月21日,
利用する空港を成田空港から関西国際空港に変更して帰国した。原告番号6らは,同日は京都府内で一泊し,同月22日に避難元住居に戻ったが,原告番号6の母方の実家のある鹿児島県に移動しようと考え,同年4月17日,飛行機等でさいたま市から霧島市(鹿児島県)に移動し,賃貸住宅に入居した。原告番号6らは,平成24年1月以降,同市内で3回転居した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況


空間線量
埼玉県庁における空間線量は,第5部認定事実第2の1⑷エのとおりである。



食品等の規制
埼玉県における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限
については,第5部認定事実第2の6⑺イのとおりであり,原告番号6らの避難元住居に供給されている水道水から指標値を超える放射性物質が検出されたことはなく,さいたま市の農産物等について原災法に基づく出荷制限がされたことはない。


原告番号6らの入手した情報
原告番号6らは,オーストラリア滞在中及び帰国後,インターネット等を通じて情報収集を行い,ヨーロッパにおいて実施された本件事故由来の放射能汚染のシミュレーションにおいて,避難元住居(さいたま市)や原告番号6の勤務地(東京都北区)を含む関東圏が汚染されているのを見た。また,原告番号6らは,水道水の汚染の基準値が引き上げられたとの報道,東京都
葛飾区の金町浄水場から放射性ヨウ素が検出されたが,その後濃度が低下したという報道,平成23年3月17日頃,米国政府が福島第一原発から80㎞圏内に居住する自国民に避難勧告を出した旨の報道を見た。
4
既払金
被告東電から原告番号6らに対して賠償金は支払われていない。

第2

判断
1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,原告番号6らの避難元住居はさいたま市にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必要がある。



原告番号6らの避難元住居は,
福島第一原発から200㎞以上離れた位置
にあり,
避難指示等対象区域とも近接しているとはいえないところ,
避難元
住居から■■■■■■の位置にある埼玉県庁で測定された空間線量は,平成
23年3月23日に最大1.37µSv/hとなったが,その後は逓減し,同年4月中旬以降は,本件事故前の水準(0.031~0.060µSv/h)と概
ね同水準で推移している。上記の値は,年間積算線量で1mSvにも満たない値であり,健康に影響を与える値とはいえない。また,原告番号6らの避難元住居のあるさいたま市において,
水道水から放射性物質が検出されたとの
事実は認められず,川口市(埼玉県)の水道水から検出された放射線ヨウ素も,
一時的に乳児の飲用に係る指標値を上回ったのみであり,
成人である原

告番号6らの健康に影響を与える値とは認められない。
原告番号6らの避難
元住居周辺で生産された食品等について,
原災法に基づく出荷制限がされた
とも認められない。
そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質の拡散等について報道されていたが,同月16日以降は,放射線量が低下し
ているとか,放射線量は健康に影響のないレベルのものであるといった報道がされていた。
加えて,さいたま市において,本件事故後に人口が減少した事実は認められず,本件事故により避難した者の数は少ないと推認されるし,一般的な認識として,本件事故によるさいたま市における放射線被ばくの危険性は,避
難を要する程度のものとは考えられていない。
これらの事情からすれば,原告番号6らがさいたま市から避難したことにつき,避難の相当性は認められない。


原告番号6らは,避難の相当性を基礎付ける事情として,ヨーロッパにおけるシミュレーションや米国政府が自国民に向けて出した避難指示に関する情報を入手していた旨を主張する。しかし,ヨーロッパにおけるシミュレーションの具体的内容は明らかではなく,その根拠や正確性も不明であるとい
わざるを得ないし,原告番号6らの主張する米国政府の自国民に対する避難指示は,福島第一原発から80㎞圏内の者を対象としたものであり,福島第一原発から200㎞以上離れた原告番号6らの避難元住居はその対象とはされていないのであるから,上記情報等は原告番号6らの避難の相当性を基礎付けるものとはいえない。

また,原告番号7は,陳述書(丙D7の1)において,原告番号6の元勤務先である東京都北区所在の法律事務所が行っていた空間線量の測定の結果(甲D7の11)に基づき,同所の空間線量が高い旨主張する。しかし,上記測定結果については,測定方法等が不明であるほか,いずれの時期においても年間積算線量1mSvに満たず,健康に影響を与える値とはいえないから,
上記事情は原告番号6らの避難の相当性を基礎付けるものとはいえない。2
まとめ
以上によれば,
原告番号6らについては,
避難の相当性が認められないから,
本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められず,請求はいずれも理由がない。

第3章
第1

原告番号9ないし11について
認定事実(甲D9の1,9の2の3,9の3~5,9の7,9の8,丙D9
の1の1・2,原告番号9本人,弁論の全趣旨)
1
本件事故前の状況
原告番号9らは,本件事故当時,承継前原告番号8と共に,東京都葛飾区内の住宅に居住していた。承継前原告番号8(57歳・夫)は,高校教員であり,原告番号9(60歳・妻)は,障害のある子供に対する介護サービス等に関する仕事を行っており,原告番号10(21歳・長女)と原告番号11(19歳・二女)は,いずれもアルバイトをしていた。また,原告番号10は,平成23年3月16日から米国留学を予定していた。
なお,承継前原告番号8は,本件訴訟提起後の平成30年11月5日に死
亡し,その子である原告番号10及び11が,本件訴訟に係る承継前原告番号8の損害賠償請求権を相続した。
原告番号9らの避難元住居は,福島第一原発から約215㎞の位置にあり,東京都葛飾区b所在のc公園から約200mの位置にある。
2
避難及び避難後の状況等
原告番号10は,平成23年3月16日,米国に留学した。
承継前原告番号8,原告番号9及び11は,その頃,避難元住居から避難した方がよいと考え,同月17日,新幹線で東京都葛飾区から大阪府に移動してホテルに宿泊し,同月21日頃,避難元住居に戻った。承継前原告番号8,原告番号9及び11は,その頃,原告番号9らの避難元住居に水道水を供給して
いる金町浄水場から放射性物質が検出されたとの報道を見て,とにかく少しでも福島第一原発から離れた方がよいと考え,同月29日,新幹線で東京都葛飾区から福岡県に移動してホテルに宿泊し,その後,同県内の賃貸マンションに入居した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量

東京都(新宿区,葛飾区,日野市)における本件事故後の空間線量は,第5部認定事実第2の1⑷アのとおりである。


c公園における空間線量
(地上1m)平成23年5月25日には0.
は,
16µSv/hとなり,同年6月には0.14ないし0.16µSv/h,同年7月には0.14ないし0.15µSv/h,同年8月1日には0.14µSv/h,同年10月(ただし17日以降)には0.11ないし0.12µSv/h,同年11月には0.11ないし0.12µSv/hであった。


食品の規制等
東京都における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限等については,第5部認定事実第2の6⑷ア,イのとおりである。原告番号
9らの避難元住居は,金町浄水場から水道水の供給を受けている。⑶

原告番号9らの入手した情報等
原告番号9は,本件事故以前から原子力や原子力発電所事故についての文献を読んだり,勉強会に参加したりしていた。また,原告番号9は,本件事故について,インターネット,テレビ,雑誌等から情報を得ていたほか,登
録していた市民運動のメーリングリストにより,中国政府や韓国政府が自国民に一時避難・帰国を呼びかけている,米国政府が福島第一原発の80㎞圏内にいる自国民を避難させているといった情報を得た。
4
既払金
被告東電から原告番号9らに対して賠償金は支払われていない。

第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,
原告番号9らの避難元住居は東京都葛飾区にあり,
区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必要がある。



原告番号9らの避難元住居は,福島第一原発から200㎞以上離れた位置にあり,避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。また,避難元住居から約200mの位置にあるc公園における空間線量は,平成23年5月以降最大で0.
16µSv/hであるところ,
東京都新宿区に設置さ

れていたモニタリングポストにおける測定値が,同年8月の時点で0.035µSv/hであり
(第5部認定事実


本件事故前の平常値
(0.
028ないし0.079µSv/h,第5部認定事実第1の2⑵)に戻っていることからすれば,c公園における本件事故後の測定値が,本件事故前の測定値を大きく上回っているものとは考え難い上,c公園における測定値は,年間積算線量で1mSvにも満たない値であり,
健康に影響を与える値であるとはい
えない。また,原告番号9らの避難元住居に水道水を供給している金町浄水
場においては,
同年3月22日に放射線ヨウ素210Bq/㎏が検出され,
乳児
の飲用に係る指標値を超えたものの,同月24日以降は同指標値を上回る放射性物質は検出されていない上,成人の飲用に係る指標値(300Bq/㎏)を超えたことは一度もなかったのであり,原告番号9らの健康に影響を与える程度のものであったということはできない。原告番号9らの避難元住居周辺
で生産された食品等について,原災法に基づく出荷制限がされたとも認められない。
そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質の拡散等について報道されていたが,同月16日以降は,放射線量が低下している旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がさ
れていた。
これらの事情からすれば,原告番号9らが東京都葛飾区から避難したことにつき,避難の相当性は認められない。

原告番号9らは,避難の相当性を基礎付ける事情として,市民運動のメーリングリスト等により,中国政府や韓国政府による自国民に対する一時避難等の指示の呼びかけや,米国政府の自国民に対する避難指示の情報を得た旨を主張するが,原告番号9らの主張する米国政府の自国民に対する避難指示は,福島第一原発から80㎞圏内の者を対象としたものであり,福島第一原発から200㎞以上離れた原告番号9らの避難元住居はその対象とはされて
いないし,中国政府や韓国政府の避難指示の内容の詳細も明らかではなく,上記情報等により原告番号9らの避難の相当性が基礎付けられるとはいえない。
2
まとめ
以上によれば,
原告番号9らについては,
避難の相当性が認められないから,
本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められず,請求はいずれも理由がない。

第4章
第1

原告番号12について
認定事実(甲D12の1,12の2の3,12の3~5,12の7,丙D1
2の1の1~3,原告番号12本人,弁論の全趣旨)
1
本件事故前の状況
原告番号12(35歳)は,本件事故当時,日野市(東京都)の賃貸住宅に
居住していた。原告番号12は,国産材を使用した■■■■■■■■■■■■■■■■■として活動していたほか,ジャーナリストとしても活動しており,狭心症及び心臓の奇形の持病を有していた。
原告番号12の避難元住居は,福島第一原発から約245㎞の位置にあり,日野市d所在のe公園から約2.26㎞の位置にある。

2
避難及び避難後の状況等
原告番号12は,本件事故後,避難元住居から避難することを考え,個展等を開いた際に見に来てくれていた顧客等の安否確認を行ったり,情報収集を行ったりした上で,平成23年12月,自家用車で日野市から八女市(福岡県)に移動し,顧客から紹介を受けた住宅に入居した。

3
本件事故後の避難元住居周辺の状況


空間線量等

東京都(新宿区,葛飾区,日野市)における本件事故後の空間線量は,第5部認定事実第2の1⑷アのとおりである。


e公園における空間線量
(地上1m)平成23年7月12日には0.
は,
08µSv/h,同年12月27日には0.10µSv/h,平成24年12月25日には0.09µSv/h,平成25年12月24日には0.07µSv/hであった。


食品の規制等
東京都における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限等については,第5部認定事実第2の6⑷ア,イのとおりである。原告番号
12の避難元住居に供給されている水道水から,指標値を超える放射性物質が検出されたことはない。


原告番号12の入手した情報等
原告番号12は,テレビで本件事故に関する報道を見たほか,横田米軍基地の関係者やジャーナリスト,ウクライナ大使から,米軍基地や大使館,領
事館の敷地内における放射線量の計測データを提供してもらったり,自らソーシャルネットワーキングサービス(SNS)等を利用して在日米兵に関する避難情報を調べたりした。また,原告番号12は,チェルノブイリ原子力発電所事故が発生したときにチェルノブイリにいた医師から,原告番号12は心臓に持病があり,影響を受ける可能性があるから気を付けるようにとの
アドバイスを受けた。
4
既払金
被告東電から原告番号12に対して賠償金は支払われていない

第2
判断

1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,原告番号12の避難元住居は日野市にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必要がある。


原告番号12の避難元住居は,福島第一原発から200㎞以上離れた位置にあり,避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。そして,避難元住居から約2.26㎞の位置にあるe公園で測定された空間線量は,平成23年12月に0.10µSv/hとなっているものの,それ以外の時期においては0.
10µSv/h以下となっており,
東京都新宿区に設置されてい
たモニタリングポストにおける測定値が,
同年8月の時点で0.
035µSv/h
であり(第5部認定事実

,本件事故前の平常値(0.02

8ないし0.079µSv/h,第5部認定事実第1の2⑵)に戻っていることか
らすれば,e公園における本件事故後の測定値が,本件事故前の測定値を大きく上回っているとは考え難い上,e公園における測定値は,年間積算線量で1mSvにも満たない値であり,健康に影響を与える値であるとはいえない。また,原告番号12の避難元住居に供給されている水道水から放射性物質が検出されたことはなく,原告番号12の避難元住居周辺で生産された食品等
について,原災法に基づく出荷制限がされたとも認められない。
そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質の拡散等について報道されていたが,同月16日以降は,放射線量が低下している旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がされていた。

これらの事情からすれば,
原告番号12が日野市から避難したことにつき,
避難の相当性は認められない。


原告番号12は,避難の相当性を基礎付ける事情として,横田米軍基地の関係者等から情報を得たとしているが,その具体的な内容や根拠,情報の正
確性等は証拠上明らかでない。また,原告番号12は,自らガイガーカウンターを使用して放射線量を測定した旨主張するが,これを裏付ける客観的な証拠はなく,測定方法や具体的な数値も不明であるから,原告番号12の被ばく量が上記第1の3⑴で認定した空間線量等による被ばく量を大きく上回るものであるとも認められない。さらに,原告番号12は,狭心症等の心臓
の持病を有しており,医師からも気を付けるように言われたなどとしているが,本件のように0.1µSv/h未満のごく低線量の被ばく(なお,ソウルの空間線量は0.12µSv/h,シンガポールの空間線量は0.10µSv/hである。第5部認定事実第2の1⑸)の場合に,狭心症等の心臓の病気に影響があるのか,あるとしてどの程度の影響があるのかということは何ら明らかになっていないし,上記医師の発言も具体的な影響を想定してされたものであるとは認め難い。したがって,上記の事情は,いずれも,原告番号12の避難の
相当性を基礎付けるものとはいえない。
2
まとめ
以上によれば,
原告番号12については,
避難の相当性が認められないから,
本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められず,請求は理由がない。

なお,原告番号12は,本件事故により,■■■■■■■の材料となる木材が汚染され,作品を作ることができなくなったことにより収入が減少したなどと主張するが,原告番号12は,本件事故前の収入や本件事故後の収入について必要な立証を行っておらず,特定の木材を使用しなければならない理由やその特定の木材が本件事故により使用することができなくなったことについても
必要な立証がされているとはいえないから,上記損害の発生を認めることはできない。
第5章
第1

原告番号13ないし16について
認定事実(丙D13の1,13の2の3,13の3~5,13の7,丙D共
146〔1~19頁〕,原告番号14本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号13らは,本件事故当時,いわき市内の賃貸アパートに居住していた。原告番号13(29歳・夫)は,【5A】の工場の工員として勤務しており,原告番号14(27歳・妻)は,主婦であり,原告番号15(1歳・長男)
と3人で生活していた。原告番号16(次男)は,本件事故後の■■■■■■■■■■にいわき市において出生した。
いわき市は自主的避難等対象区域である。原告番号13らの避難元住居は,福島第一原発から約59㎞の位置にあり,いわき市【p2】支所から2㎞以内の位置にある。
2
避難及び避難後の状況等


避難経路
原告番号13らの避難元住居は,本件地震の被害を受け,外壁にひびが入るなどした。
原告番号14は,■■■■■■■■■■,いわき市内の病院で原告番号16を出産したが,断水が続いていたこともあり,2日で病院を退院して避難元住居に戻った。原告番号13らは,その後,避難することを考えるように
なり,福島第一原発から可能な限り遠く,支援の手厚い鳥栖市(佐賀県)に避難することを決め,平成23年7月22日に避難元住居を引き払っていわき市内で一泊し,
同月23日,
電車でいわき市から東京都に移動して一泊し,
同月24日,新幹線等で東京都から鳥栖市に移動し,同市が避難者に無償で提供していた住宅に入居した。

原告番号13は,避難後の勤務先である【5B】から,福山市(広島県)に転勤するよう指示され,原告番号13らは,平成26年10月頃,鳥栖市から福山市に転居した。

避難後の状況等
原告番号13は,避難元住居から鳥栖市に転居するにあたり,所有していた自動車を輸送したが,避難元住居にあった家具や家電等は,近隣の親族に贈与したり,処分したりした。原告番号13らは,鳥栖市に転居した後,同市から家電等を無償で譲り受けることができたが,冷蔵庫が小さくて不便であったため,買い替えた。

原告番号13は,鳥栖市に転居するに当たり,【5A】を退職したが,その際,同社の他の工場への転勤等については検討しなかった。原告番号13は,平成24年1月頃,鳥栖市において,【5B】に就職した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量

いわき市の複数地点において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑵のとおりである。


いわき市【p2】支所の空間線量は,平成23年4月1日から同月9日までの間は0.22ないし0.56µSv/h,同年5月1日から同月10日までの間は0.10ないし0.16µSv/h,同年6月1日から同月11日までの間は0.09ないし0.13µSv/h,同年7月1日から同月11日までの間は0.
08ないし0.
10µSv/hであり,
その後は平成24年3月まで0.

1µSv/h前後の値となっている。


食品等の規制
いわき市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑵エのとおりである。


原告番号13らが入手した情報
原告番号13は,本件事故から1か月程度経過した頃から,インターネットなどで情報を収集するようになり,元京都大学原子炉実験所助教授の小出裕章が,子供は放射性物質による甲状腺への影響を受けやすく,福島第一原発から可能な限り離れた方がよいと話しているのを聞いた。

4
既払金
被告東電は,
原告番号13に対し,
自主避難等に係る損害として12万円
(精
神的損害等8万円,追加的費用等4万円),原告番号14に対し,自主避難等に係る損害として64万円
(精神的損害等40万円,
追加的費用等24万円)

原告番号15及び16に対し,自主避難等に係る損害として各72万円(精神的損害等48万円,追加的費用等24万円)を支払った。

第2

判断
1
避難及び避難継続の相当性
原告番号13らの避難元住居のあるいわき市は,自主的避難等対象区域であるところ,原告番号13らは,放射線被ばくを避けるために避難をしたものであると認められ,避難の相当性を否定するような事情もないから,原告番号13らの避難及び避難継続の相当性は認められる。

2
財産的損害


避難交通費等
原告番号13らは,平成23年7月23日に電車でいわき市から東京都に移動し,同月24日に新幹線等で東京都から鳥栖市に移動しているところ,上記移動に要した費用は,避難によって生じた費用であって,本件事故と相
当因果関係のある避難交通費と認められる。
原告番号13は,上記避難交通費として8万円(電車代6万円,タクシー代2万円)を請求しているところ,具体的な立証をしないから,第5部第2章第3の1⑴ウに基づき認定する。
そうすると,
避難交通費はいわき市から東京都までは1万4000円×0.

8×2名(大人)=2万2400円,東京都から鳥栖市までは4万1000円×0.8×2名(大人)=6万5600円となり,合計8万8000円となる。しかし,上記のとおり,原告番号13は,避難交通費として8万円を請求しているから,請求額である8万円の限度で認める。


避難宿泊費
原告番号13は,避難先住居へ移動する際,平成23年7月22日にいわき市内で,同月23日に東京都内でそれぞれ宿泊しているが,その当時,原告番号15は2歳,原告番号16は■■■■■程度であったことなどを考慮すると,これらの宿泊は必要であったといえ,上記各宿泊に要した費用は,
避難のために生じた費用として,本件事故と相当因果関係のある避難宿泊費と認められる。
原告番号13は,避難宿泊費として各1万5000円(合計3万円)を請求するが,具体的な立証をしないから,合理的な金額を認定することとし,各1万円(合計2万円)を相当と認める。


引越費用
原告番号13は,いわき市から鳥栖市に荷物を送付し,自家用車を輸送し
ているところ,上記送付等に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある引越費用と認められる。
原告番号13は,引越費用として30万7970円,自家用車の輸送費等として9万円を請求しているが,領収証等による具体的な立証はない。そして,前記認定事実のとおり,原告番号13らは,鳥栖市への転居に当たり,
荷物の送付等を行っているところ,原告番号13らは,避難元住居で使用していた家具や家電等を処分しており,その運搬にあたり多額の費用を要したとは考えられないから,引越費用(荷物送付費用)として2万円×4人=8万円,車両運送費用として5万円の合計13万円を相当と認める。⑷

家財道具購入費用
原告番号13らは,鳥栖市に転居した後,冷蔵庫を購入しており,そのほかにも転居後の生活に必要なものを購入していると推認され,上記購入に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費用と認められる。
原告番号13らは,家財道具購入費用として15万円を請求しているとこ
ろ,具体的な額の立証はないが,上記の金額をもって相当と認める。⑸

その他の費用

就労不能損害
原告番号13は,平成23年7月から同年12月まで就労することがで
きなかったとして,【5A】での手取額である月額約25万円の6か月分から失業給付金50万円を差し引いた100万円を就労不能損害として請求している。しかし,原告番号13の本件事故前の具体的な収入額や就労不能期間に係る客観的な証拠はないことから,確実な範囲で控えめに算定することとし,本件事故と相当因果関係のある就労不能損害は50万円を相当と認める。

避難雑費
原告番号13らは,避難雑費として各83万円を請求する。しかし,その具体的内容についての主張立証はないから,避難雑費の請求は認められない。



財産的損害の合計額
原告番号13の財産的損害は,避難交通費8万円,避難宿泊費2万円,引
越費用13万円,家財道具購入費用15万円,就労不能損害50万円の合計88万円となる。
3
精神的損害
原告番号13らは,本件事故による放射線被ばくに対する不安等を感じ,ま
た,避難によって生活に支障を生ずるなどしたことにより精神的苦痛を被ったと認められる。
原告番号14は,鳥栖市に転居した後,そのストレスから様々な症状が生じた旨主張しているところ,他の避難者と比較して殊更に強い精神的苦痛があったとは認められず,上記の事情は第5部で定めた基準に基づく慰謝料において
考慮されているといえ,同基準から更に慰謝料を増額する必要があるとは認められない。また,原告番号16は,本件事故当時出生していなかったものの,平成23年3月中に出生していることから,同月以降の慰謝料の発生を認めることとする。
よって,原告番号13に係る慰謝料は各25万円,本件事故当時妊婦であっ
たが平成24年1月1日の時点では妊婦ではなかった原告番号14に係る慰謝料は50万円,本件事故及び平成24年1月1日の各時点で18歳以下であった原告番号15及び平成23年3月中に出生した原告番号16に係る慰謝料は各75万円とするのが相当である。
4
まとめ


以上によれば,原告番号13らの各損害は,原告番号13につき113万円,原告番号14につき50万円,原告番号15及び16につき各75万円となる。

⑵ア

ところで,被告東電は,原告番号14に対し,精神的損害等40万円,追加的費用等24万円の合計64万円を支払っており,同原告につき認められる損害額50万円を14万円超えている。
そこで,この14万円の取扱いにつき検討するに,第5部認定事実第3
この追加的費用等は,自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用など)及び中間指針第一次追補に基づく賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用であるとされ,慰謝料とは別の損害費目とされており,財産的損害に係る賠償の趣旨で支払われたもの
と解されるところ,同一世帯では原則として家計を共通にすることから,名目上は原告番号14に対する支払であっても,実質的には,原告番号13らの世帯単位の財産的損害に係る賠償とみることができる。そして,原告番号13らの世帯においては,世帯としての財産的損害は,原告番号13が代表して請求していることから,上記14万円については,原告番号
13が請求している財産的損害に充当することができるというべきである。

以上を前提とすると,原告番号13らに係る損害額(認容額)は,原告番号13につき,上記113万円から既払金26万円(原告番号14に対
する既払金14万円を含む。)を控除した87万円に相当な弁護士費用8万7000円を加えた95万7000円,原告番号14につき0円,原告番号15及び16につき,上記75万円から既払金72万円を控除した3万円に相当な弁護士費用3000円を加えた各3万3000円となる。第6章
第1

原告番号17ないし20について
認定事実
(甲D17の1,
17の3ないし5,
17の7,
17の8の1~4,

丙D17の1,原告番号17本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号17らは,本件事故当時,つくば市(茨城県)に所有する住宅に居住していた。原告番号17(42歳・妻)は主婦であり,原告番号18(44歳・夫)は会社員であり,原告番号19(4歳・長男)及び原告番号20(2歳・次男)と共に生活していた。

原告番号17らの避難元住居は,
福島第一原発から約171㎞の位置にあり,
つくば市f所在のg幼稚園から約191m,h小学校から約289mの位置にある。
2
避難及び避難後の状況等
原告番号17は,知人が愛媛県や京都府に避難したと聞いたことや,フランス在住の友人からフランスでは本件事故が重大である旨の報道がされていると聞いたことから,原告番号19及び20と共に,平成23年3月18日,つくば市から安曇野市(長野県)に移動し,原告番号17の父方の叔父方で生活したが,同年4月11日,避難元住居に戻った。また,原告番号17,19及び
20は,同年5月上旬頃,つくば市から北杜市(山梨県)に移動し,無償で借りたペンションで生活をしていたが,同月末頃,避難元住居に戻った。原告番号17,19及び20は,同年7月11日,つくば市から鳥栖市(佐賀県)に移動し,無償貸与されていた雇用促進住宅に入居した。
原告番号18は,上記期間中も避難元住居での生活を続けていたが,平成2
4年8月,勤務先を退職し,原告番号17,19及び20が既に入居していた鳥栖市の雇用促進住宅に入居した。
原告番号17らは,平成27年3月,鳥栖市における住宅家賃補助等がなくなることから,避難元住居に戻った。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況


空間線量

茨城県(水戸市)及びつくば市の小学校の校庭等において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑷オのとおりである。

g幼稚園における空間線量
(地上1m)平成23年5月27日は0.
は,
138µSv/h,同年7月11日は0.124µSv/hであり,その後平成24年3月26日までは0.1µSv/h前後で推移している。また,h小学校における空間線量(地上1m)は,平成23年5月27日は0.072µSv/h,
同年6月20日は0.
108µSv/hであり,
同年10月24日から平成27
年11月中旬頃まで0.
1µSv/h前後で推移している
(ただし,
0.
1µSv/h
を超えたのは平成24年3月12日及び同年9月25日のみである。)。
一部の地域において除染が実施されたが,同市fはその対象となっていな
い。


食品等の規制
つくば市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制
水から100Bq/㎏を超える放射性ヨウ素及び放射性セシウムが検出された
ことはない。


原告番号17らの入手した情報
原告番号17は,フランス在住の知人からのメールで,フランス政府が日本国内の自国民全員に帰国又は広域の避難を呼びかけていることを知った。
4
既払金
被告東電から原告番号17らに対して賠償金は支払われていない。第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,原告番号17らの避難元住居はつくば市にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必要がある。



原告番号17らの避難元住居は,福島第一原発から約171㎞離れた位置にあり,避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。そして,
避難元住居から約191mの位置にあるg幼稚園における空間線量や,同じく約289mの位置にあるh小学校における空間線量は,最大で0.1
38µSv/h(最大はいずれも平成23年5月27日)であり,同年8月以降は0.
1µSv/h前後又はそれ以下の値で推移しているところ,
このような空間線
量は,
年間積算線量で1mSvにも満たない値であり,
健康に影響を与える値で
あるとはいえない。また,第5部認定事実第1の2⑹のとおり,つくば市における自然放射線量が0.
06ないし0.
09µSv/hであるとされていること

からすれば,本件事故によって増加した放射線量がそれほど大きなものであるということもできない。また,原告番号17らの避難元住居に供給されている水道水から放射性物質が検出されたことはない。
そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質の拡散等について報道されていたが,同月16日以降は,放射線量が低下し
ている旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がされていた。
加えて,つくば市において,本件事故後に人口が減少した事実は認められず(第5部認
ないと推認されるし,一般的な認識として,本件事故による同市における放
射線被ばくの程度は,避難を要する程度のものとは考えられていない。これらの事情からすれば,原告番号19及び20が乳幼児であったことを考慮しても,原告番号17らがつくば市から移動したことにつき,避難の相当性は認められない。


原告番号17らは,避難の相当性を基礎付ける事情として,ガイガーカウンターで避難元住居の駐車場の雨どい付近を測定したところ,放射線量が3µSv/hと測定されたことや,
避難元住居や原告番号19らが遊んでいた公園等

でも0.3µSv/hを超える放射線量であったなどと主張し,陳述書(甲D17の1)にもそれに沿う記載がある。しかし,これらの事実を認めるに足りる十分な立証はないし,これらの主張に係る測定値を前提としてもなお避難の相当性を認めるには足りない。上記主張は採用することができない。また,原告番号17らは,つくば市から避難した家族が他にもいた旨主張
するが,知人や隣人が転居等を行ったことにより,原告番号17らの避難の相当性が基礎付けられるものでもないし,上記⑵のとおり,同市からの避難者が多いものとは認められないから,上記の事情は,原告番号17らの避難の相当性を基礎付けるものとはいえない。
2
まとめ
以上によれば,原告番号17らについては,避難の相当性が認められないから,本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められず,請求はいずれも理由がない。

第7章
第1

原告番号21及び22について
認定事実(甲D22の1,22の2の3,22の3~5,22の7,丙D2
2の1~3,原告番号22本人,弁論の全趣旨)
1
本件事故前の状況
原告番号21らは,
本件事故当時,
郡山市内に所有する住宅に居住していた。

原告番号21(44歳・夫)は警備会社の警備員であり,原告番号22(45歳・妻)は,実家が経営している時計,宝石及び眼鏡等の販売店で勤務していた。
郡山市は,自主的避難等対象区域である。原告番号21の避難元住居は,福島第一原発から約58㎞の位置にあり,同市i所在のj庁舎から約3.79㎞の位置にある。
2
避難及び避難後の状況等


避難経路等
原告番号21らは,平成23年3月14日,福島第一原発3号機建屋が爆発した旨の報道等を見たことから,同日,栃木県に移動して一泊し,同月15日,茨城県に移動して一泊した。そして,原告番号21らは,更に本件事故による影響が拡大する可能性があると考え,原告番号21の実家のある天草市(熊本県)に避難することを決め,同月17日,新幹線等で郡山市から
福岡市に移動して一泊し,同月18日,新幹線等で福岡市から天草市に移動し,その後,原告番号21の実家に滞在した。
原告番号21らは,同年7月頃,天草市から菊池郡k町(熊本県)に移動し,避難者用の避難者用の借り上げ住宅に入居した。原告番号21らは,同年9月頃,郡山市に戻らず熊本市に定住することを決意し,その頃,郡山市
の避難元住居を売却し,平成25年頃の初め頃までに,熊本市に住宅を購入し,同市に転居した。


一時帰宅の状況
原告番号21らは,平成23年3月末頃,避難元住居の荷物等を搬出する
ため,新幹線等で天草市と郡山市を往復した。また,原告番号21らは,同年9月頃,避難元住居の売却手続に関し司法書士と打ち合わせをするため,公共交通機関を利用してk町と大阪市を往復した。また,原告番号21は,同月頃,売却前に避難元住居の片付け等をするため,新幹線等で天草市と郡山市を往復した。



避難後の状況
原告番号21らは,避難元住居を売却するに際し,エアコン2台,テレビ等の電化製品やベッド等の家具をそのまま避難元住居に残し,避難元住居の購入者に譲渡することとした。そのため,原告番号21らは,熊本市に住宅を購入した後,ベッドやたんすなどの家具やエアコン等の家電を購入した。原告番号21は,平成23年3月17日から平成28年2月まで無職であり,同月から就労を開始した。原告番号22は,平成24年8月頃からパー
ト勤務を開始した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量

郡山市の複数地点において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑶のとおりである。


j庁舎3階屋外の空間線量は,
平成23年3月15日午後2時5分に8.
26µSv/hとなり,同日中は3µSv/h以上の値で推移し,同月16日から同月21日の昼頃まで2µSv/h以上の値が続き,同日昼頃から1µSv/h台の値となった。また,j庁舎東側入口付近の空間線量は,測定が開始された同月24日午後4時から同月28日早朝まで3µSv/h以上の値で推移し,同月

末までの間は2µSv/h以上の状態が継続し,
同年6月前半はおおむね0.
1
ないし0.12µSv/h,同月後半はおおむね0.1ないし0.2µSv/hで推移した。


食品の規制等
郡山市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限
については,第5部認定事実第2の6⑶ウのとおりである。⑶

原告番号21らが入手した情報
原告番号21らは,本件事故後,テレビのニュースやインターネットを通じて情報収集を行っていたところ,米国政府が,平成23年3月16日,福
島第一原発から80㎞圏内の自国民に対して避難指示を出したということ情報を得た。
4
既払金等
被告東電は,原告番号21らに対し,自主的避難等に係る損害として各12万円(精神的損害等8万円,追加的費用等4万円)を支払った。
また,被告東電は,原告番号21らに対し,①ADR手続での和解(平成2
4年7月17日)に基づき,平成23年3月11日から同年5月31日までに発生した費用として,避難交通費(駐車場代含む)19万8930円,避難宿泊費9万6000円,精神的損害8万円,就労不能損害87万7230円の合計109万2160円(ただし,既払金16万円控除後の額)を支払い,②ADR手続での和解(平成25年4月27日)に基づき,平成23年3月11日
から同年8月31日までの家財道具購入費15万円,同年6月1日から同年8月31日までの原告番号21の就労不能損害41万5845円,同じく原告番号22の就労不能損害90万円の合計138万5845円(ただし,既払金8万円控除後の額)を支払い,③ADR手続での和解(同年12月5日)に基づき,上記②において既払金として8万円が重複控除されていたとして,8万円
を支払った。
第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性
原告番号21らの避難元住居のある郡山市は,自主的避難等対象区域であるところ,原告番号21らは,放射線被ばくを避けるために避難をしたものと認められ,避難の相当性を否定するような事情もないから,原告番号21らの避
難及び避難継続の相当性は認められる。
2
財産的損害


避難交通費
原告番号21らは,避難交通費として,郡山市から天草市への移動に要し
た交通費3万7000円を請求する(ただし,甲D22の2の3においては10万4000円としている。)。しかし,被告東電は,ADR手続に基づく和解により,同年3月11日から同年8月31日までの期間の避難交通費19万8930円を支払ったことが認められ,上記避難交通費はその一部であると解されるから,本件事故と相当因果関係のある避難交通費は,全額支払済みであると認められる。


一時帰宅費用

前記認定事実のとおり,原告番号21らは,①平成23年3月末頃,新幹線等で天草市と郡山市を往復しているところ,その目的は避難元住宅からの荷物の搬出や整理等にあると認められるから,上記一時帰宅に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある一時帰宅費用と認められる。

他方,原告番号21は,②同年9月頃,原告番号22と共にk町と大阪市を往復し,また,単独でk町と郡山市を往復しており,その目的は,避難元住居の売却手続及び売却前の片付けであると認められる。しかるに,郡山市は自主的避難等対象区域であって,同市内の大半の住民は避難していないのであるから,避難元住居に帰還することが不可能であるような事
情は存在しないというべきであって,本件事故により郡山市にある避難元住居を売却したことは,本件事故と相当因果関係を有するものとは認め難い。したがって,上記の各費用は,本件事故と相当因果関係のある一時帰宅費用とは認められない。

原告番号22は,上記①の一時帰宅費用として20万8000円を請求しているが,具体的な立証はないから,第5部第2章第3の1第3の1⑴に基づき認定する。
そうすると,一時帰宅費用は,5万2000円×0.8×2(往復)×2名=16万6400円となる。



引越費用

原告番号22は,郡山市から天草市への引越費用として17万9860円を請求している(ただし,丙D22の2の3においては,上記に加え,天草市からk町までの引越費用20万円,同町から熊本市への引越費用として20万円を計上している。)。
原告番号21らの郡山市から天草市への転居は,本件事故による避難であって,その相当性も認められるから,上記転居に要した費用は,本件事
故と相当因果関係のある引越費用と認められる。また,原告番号21らの同市からk町への転居は,原告番号21らにつき避難継続の相当性が認められる期間(平成23年12月末まで)内での転居であり,原告番号21の実家での居候状態を解消するためのものであることから,避難に伴うやむを得ないものとしてその必要性を認めるのが相当であり,上記転居に要
した費用についても,本件事故と相当因果関係のある引越費用と認められる。
原告番号21らのk町から熊本市への転居は,避難元住居を売却して同市内に住宅を購入したことに伴うものであるところ,前述のとおり,本件事故により避難元住居の売却を余儀なくされたものではなく,新居の購入
についても本件事故との相当因果関係は認められないから,上記転居に要した費用については,本件事故と相当因果関係のある引越費用とは認められない。

原告番号22は,郡山市から天草市への引越費用及び同市からk町への引越費用について,領収証等による具体的な額についての立証をしていないから,その合理的と認められる金額を認定する。
原告番号21らは,避難元住居において使用していた家具や家電等のほとんどを避難元住居の購入者に譲ったというのであり,家具や家電等を購入したのも熊本市に転居してからであることからすれば,郡山市から天草
市及び同市からk町への荷物の運搬に当たり多額の費用を要したとは認め難い。したがって,郡山市から天草市及び同市からk町のいずれの引越費用についても,一人当たり各2万円とし,合計8万円を相当と認める。⑷

家財道具購入費用
原告番号22は,平成23年7月に熊本市に転居する際,ベッドやたんすなどの家具やエアコン等の家電を購入したとして,家財道具購入費用として100万円を請求する。しかし,被告東電は,原告番号21らに対し,AD
R手続に基づく和解により,同年3月11日から同年8月31日までの期間の家財道具購入費として15万円を支払ったことが認められ,本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費は,全額支払済みであると認められる。⑸
就労不能損害

前記認定事実のとおり,原告番号21らは,平成23年9月頃,熊本市に定住することを決意したことが認められるところ,同月末までは,避難元住居に戻るかどうか確定しておらず,就労することができなかったとしてもやむを得ないといえるから,平成23年3月から同年9月までの期間において就労できなかったことによる損害は,避難のために生じたものといえ,本件事故と相当因果関係のある就労不能損害と認められる。
他方,同年10月以降については,原告番号21については,本件事故やその後の避難によりうつ病に罹患したといえるか,うつ病により就労不能であったといえるかは証拠上明らかでなく,また,原告番号22については,そもそも就労不能であったことを認めるに足りる証拠がないから,いずれも本件事故と相当因果関係のある就労不能損害とは認められない。

原告番号21らは,平成23年3月分以降の就労不能損害を請求しているが,同年3月分から同年8月分までについては,既にADR手続での和解に基づき,被告東電から原告番号21らに対して支払済みであるから,これを請求することはできない。

同年9月分について,原告番号21らは,本件事故当時の収入額について客観的な立証を行っていないが,被告東電は,ADR手続での和解に基づき,平成23年6月1日から同年8月31日までの就労不能損害として,原告番号21につき41万5845円
(1か月あたり13万8615円)

原告番号22につき90万円(1か月あたり30万円)を支払っているから,上記額をもって本件事故当時の収入額と認める。
そうすると,原告番号21らの就労不能損害のうち未払分(平成23年
9月分)は,原告番号21につき13万8615円,原告番号22につき30万円と認められる。


その他の費用について

避難雑費
原告番号21らは,避難雑費として各87万円を請求するが,その具体
的内容について主張立証がないから,避難雑費の請求は認められないイ
動産損害
原告番号22は,避難元住居を売却する際に放棄せざるを得なかった家具,
エアコン等の動産損害として250万円を請求するが,
前述のとおり,
原告番号21らは,避難元住居に戻る選択をすることも可能であって,本
件事故により避難元住居の売却を余儀なくされたとはいえないし,避難元住居の家具等を避難先の住居に送付することも可能であったはずであるから,上記請求に係る動産損害は,本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。


財産的損害の合計額
原告番号21の財産的損害は,就労不能損害13万8615円となる。原告番号22の財産的損害の合計額は,一時帰宅費用16万6400円,引越費用8万円,就労不能損害30万円の合計54万6400円となる。
3
精神的損害
原告番号21らは,本件事故による放射線被ばくに対する不安等を感じ,また,避難によって生活に支障を生ずるなどしたことにより精神的苦痛を被ったと認められる。
原告番号21は,
本件事故による避難のためにうつ病になったと主張するが,
医師の診断等は受けておらず,これを認めるに足りる証拠がないし,その相当因果関係も明らかでないから,慰謝料を増額すべき事情とは認められない。よって,原告番号21らに係る慰謝料額は,各25万円とするのが相当であ
る。
4
まとめ


以上によれば,原告番号21らの各損害は,原告番号21につき38万8615円,原告番号22につき79万6400円となる。



原告番号21らに係る損害額(認容額)は,原告番号21につき,上記38万8615円から既払金4万円(ADR手続での和解に基づき支払われたもの及び同和解において既払金として控除されたものを除く。)を控除した34万8615円に相当な弁護士費用3万4000円を加えた38万2615円,
原告番号22につき,
上記79万6400円から既払金4万円
(同上)
を控除した75万6400円に相当な弁護士費用7万5000円を加えた
83万1400円となる。
第8章
第1

原告番号23ないし25について
認定事実
(甲D23の1,
23の2の3,
23の3ないし7,
丙D23の1,

23の3,原告番号23本人,弁論の全趣旨)
1
本件事故前の状況
原告番号23らは,本件事故当時,亘理郡l町(宮城県)の賃貸アパートに
居住していた。原告番号23(42歳・夫)は,【8A】の同郡m町の工場の工場長であり,原告番号24(35歳・妻)は主婦であった。原告番号25(長男)は,■■■■■■■■■■に出生した。
原告番号23らの避難元住居は,福島第一原発から約70㎞の位置にあり,l町所在の【n】から約1.71㎞,l町立o小学校から約1.35㎞の位置にある。
2
避難及び避難後の状況等


避難経路等
l町は本件津波の被害を受けた地域であり,アパートの2階にあった原告番号23らの避難元住居も一部浸水し,本件津波発生後,電気が復旧するま
でに約1週間,水道が復旧するまでに約3週間を要した。また,原告番号24の実家は,本件津波に流されて全壊し,原告番号24の両親は,一時,原告番号23らの避難元住居で生活した。
【8A】は,平成23年4月中旬頃,m町の工場を一時閉鎖することにした。原告番号23は,同社から退職又は転勤のいずれかを選択するように言
われたため,転勤を選択することとし,同年5月1日,自動車でl町から宗像市(福岡県)に移動し,同社が借り上げた賃貸物件に入居し,同僚と同居しての生活を開始した。原告番号24は,本件事故当時妊娠7か月であり,初産のため,主治医を変えることにも不安があったため,l町での生活を続け,■■■■■■■に原告番号25を出産した。

【8A】は,同年12月頃,m町の工場を完全に閉鎖することを決定し,原告番号23は,その後も福岡県での勤務を続けることとした。また,原告番号24の実家につき,平成24年3月頃,リフォーム工事が完成した。原告番号24及び25は,
原告番号24の両親の生活もひと段落着いたとして,
同年4月30日,飛行機等でl町から宗像市に移動したが,まだ家財道具の
準備等が整っていなかったため,同市内のホテルで一泊した(費用7400円)。原告番号23らは,同年5月1日,同市内に新たに賃貸した住宅に入居した。
原告番号23らは,
平成29年8月15日,
福津市
(福岡県)
に転居した。


避難後の状況等
原告番号23は,原告番号24及び25の転居の際に要した引越費用25万3000円,車両運送費用4万9350円を負担した。
原告番号23は,平成25年4月5日,精神科・心療内科を初受診したところ,心的外傷後ストレス性障害(PTSD)と診断され,同年12月15日,【8A】を退職した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量

宮城県(仙台市)及びl町のp地区における空間線量は,第5部認定事実第2の1⑷カのとおりである。


【n】における空間線量(地上50㎝)は,平成23年6月14日以降同年7月8日までの間は0.31ないし0.37µSv/hで推移し,平成24
年4月2日から5月2日までの間は0.
11ないし0.
17µSv/hで推移し
た。
l町立o小学校における空間線量(地上1m)は,平成23年6月6日から同年7月7日までの間は0.15ないし0.25µSv/hで推移し,平成24年4月9日から5月2日までの間は0.
10ないし0.
22µSv/hで推

移した。また,l町立o小学校における平成24年以降の空間線量(地上50㎝)は,平成24年(1月又は2月。以下同じ。)は0.10µSv/h,平成25年以降平成31年までは0.
054ないし0.
06µSv/hであった。


食品の規制等
宮城県における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限
については,第5部認定事実第2の6⑼アのとおりであり,l町において,水道水から指標値を超える放射性物質が検出されたことはない。


原告番号23らが入手した情報
原告番号23らは,本件事故直後の時期においては,本件地震及び本件津
波の被害等により本件事故に関する情報を十分に入手することができなかったが,本件事故から約1か月後,知人から,放射線量の高い地域があるとか,山に入ってはいけないといった話を聞いた。原告番号23は,平成23年5月1日に宗像市に転居した後,テレビ,雑誌,インターネットなどを通じて,放射線量や食品の規制等に関する報道を見た。
4
既払金
被告東電から原告番号23らに対して賠償金は支払われていない。
第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性
上記認定事実のとおり,原告番号23らの避難元住居はl町にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必
要がある。


原告番号23について
上記認定事実のとおり,原告番号23は,平成23年5月1日にl町から宗像市に転居しているところ,上記転居は,原告番号23の勤務先であった【8A】が,m町の工場を閉鎖することに伴い,原告番号23に対し退職と
転勤のいずれかを選択するよう求め,原告番号23が転勤を選択したことによるものである。そして,原告番号23が,放射性物質の危険性等に関する情報を入手するようになったのは宗像市に転居した後のことであり,それ以前の時期においては,知人から,放射線量が高い地域があるとか,山に入ってはいけないというような情報を得ていたにすぎなかったこと,妻である原
告番号24と共に移動していないこと(l町における放射線被ばくを心配していたのであれば,当時妊婦であった妻を置いて一人で避難するというのは不自然である。)も考慮すると,原告番号23が平成23年5月1日に宗像市に転居したのは,
本件事故による放射線被ばくを避けるためではなく,
【8
A】に勤務し続けることを選択し,転勤の指示を受け入れた結果にすぎない
というべきである。なお,l町は本件地震及び本件津波の被害が大きかった地域であり,【8A】が上記工場の閉鎖を決定した主たる理由が,本件事故にあったとも認められない。
以上のとおり,原告番号23の宗像市への転居は,勤務先からの転勤の指示に従ったものにすぎず,放射線被ばくを避けるための避難ではないから,本件事故との相当因果関係を認めることはできない。


原告番号24及び25について
原告番号24及び25は,平成24年4月30日,l町から宗像市に転居しているところ,上記の時期は,本件事故から1年以上,原告番号25の出生後10か月以上が経過した時期であって,本件事故及び原告番号25の出生から比較的長い期間が経過した後の転居であるといえるし,原告番号24は主婦であって,仕事上の都合等により転居が遅れたというような事情も見
当たらない。また,前記認定事実2⑴のとおり,原告番号24及び25が転居をした時期は,【8A】がm町の工場を完全に閉鎖することを決定した後であり,原告番号23がm町の工場に戻ってくる可能性がなくなった後の時期でもある。
これらの事情に加え,l町は区域外の地域であり,平成24年1ないし2
月のp地区の空間線量は0.
12µSv/hにとどまり
(なお,
この値はソウル
〔韓
国〕の空間線量と同程度である。第5部認定事実第2の1⑸),原告番号23らの避難元住居から約1.71㎞の位置にある【n】や,約1.35㎞の位置にあるl町立o小学校における平成24年4月及び5月頃の空間線量を見ても,0.10µSv/hないし0.22µSv/hにとどまっており,いずれも健
康に影響を与える値とはいえないことなども考慮すれば,転居するに至るまでには様々な事情があり得ることを考慮しても,原告番号24及び25の転居は,専ら原告番号23と同居するためのものと認めるのが相当であり,本件事故との相当因果関係を認めることはできない。
2
まとめ
以上によれば,原告番号23らについては,避難の相当性が認められず,本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められないから,請求はいずれも理由がない。
第9章
第1

原告番号26ないし28について
認定事実(甲D26の1,26の2の3,26の3~5,26の7,丙D2
6の1,原告番号26本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号26らは,本件事故当時,原告番号26が郡山市に所有するビルの
3階に居住していた。原告番号26(37歳)は,同市内の【9A】■■■■■■■■■■■■の介護職員であり,元夫並びに原告番号27(4歳・幼稚園児・長女)及び原告番号28(1歳・次女)と共に生活していた。郡山市は,自主的避難等対象区域である。原告番号26らの避難元住居は,福島第一原発から約57㎞の位置にあり,同市i所在のj庁舎から約430mの位置にある。
2
避難及び避難後の状況等


避難経路等
原告番号26は,平成23年3月15日,【9A】の院長から,建物の倒壊の危険性があり,営業を続けることができないため全職員を解雇する旨を告げられるとともに,子供のいる家庭については避難するように言われた。原告番号26ら及び元夫は,同日,必要最小限の荷物を持って,自家用車で
郡山市からさいたま市に移動し,元夫の知人が用意してくれたワンルームマンションで,知人1名と共に生活をするようになった。しかし,原告番号26ら及び元夫は,次第に共同生活にストレスを感じるようになり,同年4月10日,自家用車でさいたま市から避難元住居に戻った。
原告番号26らは,元夫を除く3名で,同年6月,自家用車で郡山市から
岡山市に移動し,元夫の元勤務先の社長の勧めで,市営団地(避難者用の借り上げ住宅)に入居した。しかし,元夫は,原告番号26に対し,仕事の都合があるので
一緒には行けない,放射線の影響について心配しすぎなのではないかなどと述べて,避難元住居にとどまった。原告番号26らは,その後,元夫から,元夫の実家のある大川市(福岡県)に転居するように勧められ,同年8月,自家用車で岡山市から大川市に移動し,約2週間佐賀県内のホテルに宿泊し
た後,大川市の市営団地(避難者用の借り上げ住宅)に入居した。原告番号26らは,平成26年4月に同市から久留米市(福岡県)のマンションに転居し,平成27年6月に同市の市営団地に転居し,同年11月2日に同市から福岡市に転居した。


避難後の状況
原告番号26は,大川市に転居した際,家電等を購入した。
原告番号26と元夫は,
平成25年3月に協議離婚した。
原告番号26は,
平成29年12月,現在の夫と再婚した。
原告番号26は,平成23年9月から平成24年7月まで,柳川市(福岡県)
内の病院で介護職員
(ヘルパー)
として勤務したが,
それ以降は職を転々

とし,現在は,福岡市内で介護職員として働いている。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


郡山市の複数地点において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑶のとおりであり,j庁舎
とおりであり,郡山市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関
する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑶ウのとおりである。⑵

原告番号26らが入手した情報
原告番号26は,平成23年3月15日,勤務先の病院長から,子供に対する放射線被ばくの影響が大きいことを聞いた。また,原告番号26は,同
年4月10日以降,テレビや原告番号27を通じ,避難元住居近くの小学校や原告番号27が通う幼稚園の庭において除染が行われたことを知った。4
既払金
被告東電は,原告番号26に対し,自主的避難等に係る損害として12万円(精神的損害等8万円,
追加的費用等4万円)原告番号27及び28に対し,

自主的避難等に係る損害として各72万円(精神的損害等各48万円,追加的費用等各24万円)を支払った。

第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性
原告番号26らの避難元住居のある郡山市は,自主的避難等対象区域であるところ,原告番号26らは,放射線被ばくを避けるために避難をしたものと認められ,避難の相当性を否定するような事情もないから,原告番号26らの避
難及び避難継続の相当性は認められる。
2
財産的損害


避難交通費

原告番号26らは,①平成23年3月15日,自家用車で郡山市からさいたま市に移動し,②同年4月10日,自家用車でさいたま市から郡山市に移動し,③同年6月,自家用車で郡山市から岡山市に移動し,④同年8月,自家用車で岡山市から大川市に移動している。
上記①及び③の移動については,放射線被ばくを避けるために行ったものであるといえるから,上記①ないし③の移動に要した費用は,避難のた
めに生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある避難交通費と認められる。
上記④の移動については,原告番号26は,元夫の元勤務先社長の世話になることで元夫が肩身の狭い思いをすることを理由とするものである旨述べているところ(丙D26の1,原告番号26人本人〔7頁〕),原告
番号26らが岡山市で入居したのは避難者用の借り上げ住宅であって,上記社長等から経済的な援助等を受けていた事実も認められないから,上記の転居は原告番号26や元夫の心情的な問題を理由として行われたものであると推認され,避難のために必要な転居ということはできない。したがって,上記④の移動に要した費用は,本件事故と相当因果関係のある避難交通費とは認められない。

原告番号26らは,上記①及び②の移動に係る交通費として2万2000円を要した旨主張するが,
原告番号26の陳述書
(丙D26の1)
には,
郡山市からさいたま市までの移動に要した交通費は,ガソリン代約6000円である旨記載されており,他に交通費を要した旨の記載もない。そして,上記額は,第5部第2章第3の1第3の1⑴に基づいて算定した額を超えないから,上記①及び②の移動に係る避難交通費は6000円を相当
と認める。
また,原告番号26らは,上記③の移動につき5万6000円を要した旨主張するが,原告番号26の上記陳述書には,上記③の移動に要した交通費は,ガソリン代約1万円,高速道路料金約1万7000円の合計約2万7000円と記載されており,他に交通費を要した旨の記載もない。そ
して,上記額は,第5部第2章第3の1第3の1⑴に基づいて算定した額を超えないから,上記③の移動に係る避難交通費は2万7000円を相当と認める。
以上により,本件事故と相当因果関係のある避難交通費の合計額は,3万3000円となる。



引越費用
上記⑴アのとおり,避難のために必要な転居(移動)として認められるのは,避難元住居からさいたま市への転居(上記①及び②の移動)と,避難元住居から岡山市への転居(上記③の移動)である。そして,上記各転居に際
して要した費用は,本件事故と相当因果関係のある引越費用と認められる。原告番号26は,上記①ないし④の移動に要した全ての引越費用として21万9950円を請求しているものと解されるが,その内訳については明らかでなく,その額についての具体的な立証もない。
前記認定事実のとおり,原告番号26らは,上記①の移動において,必要最小限の荷物だけを持って避難したのであるから,上記①及び②の移動の際に引越費用を要したとは認められない。また,上記③の移動についても,元
夫が引き続き避難元住居での生活を継続していたことや,原告番号26が家電等を購入したのは主に大川市に転居してからであることからすれば,引越費用は低額なものにとどまるものと推認される。したがって,上記③の移動に際して要した引越費用は,一人当たり2万円×3人=6万円の限度で相当と認める。



家財道具購入費用
原告番号26らは,家財道具購入費用として15万円を請求しているところ,原告番号26は,本人尋問において,同費用は大川市に転居する際に家電等を購入した費用であると述べる(原告番号26本人〔27頁〕)。上記⑴のとおり,
岡山市から大川市への転居
(上記④の移動)
については,

避難のために必要な転居であるとは認められないが,原告番号26が避難及び避難継続の相当性が認められる期間内に上記家電等を購入していることや,岡山市に転居した時点から家電等を購入する潜在的な必要性があったことも考慮し,
上記家電等の購入費用についても,
避難のために生じたものとして,
本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費用と認められる。

上記家財道具購入費用の金額については,領収証等による具体的な立証はないが,請求に係る15万円をもって相当と認める。


その他の費用について

一時帰宅費用
原告番号26は,平成26年1月3日から同月5日まで,久留米市から避難元住居に一時帰宅した際に要した費用として11万2000円を請求している。しかし,上記帰宅は,本件事故から3年近く経過した後にされたものであり,郡山市は自主的避難等対象区域であり,上記の時期までに避難元住居に帰還することが不可能であるような事情も見当たらないから,上記一時帰宅に要した費用は,避難のために生じたものであるとはいえず,本件事故と相当因果関係のある一時帰宅費用とは認められない。

避難雑費
原告番号26らは,避難雑費として各87万円を請求するが,その具体的内容について主張立証がないから,避難雑費の請求は認められない。


財産的損害の合計額
原告番号26の財産的損害の合計額は,避難交通費3万3000円,引越
費用6万円,家財道具購入費用15万円の合計24万3000円となる。3
精神的損害
原告番号26らは,本件事故による放射線被ばくに対する不安等を感じ,また,避難によって生活に支障を生ずるなどしたことにより精神的苦痛を被った
と認められる。
原告番号26は,平成30年12月にシェーグレン症候群疑いと診断されたことにつき放射線被ばくの影響が否定できないとか,避難をしたことにより元夫と離婚し元夫からストーカー被害を受けることとなったことから精神的苦痛が増大したなどと主張する。しかし,シェーグレン症候群と放射線被ばくとの
関連性を裏付ける証拠は見当たらないし,元夫との関係の悪化についても,そのきっかけが,原告番号26らが元夫を置いて岡山市に転居(別居)したことや,その際の意見の衝突にある可能性は否定できないものの,そのような状況に置かれた夫婦が当然に離婚に至るものとはいえず,いずれについても,本件事故との相当因果関係は認められない。

以上によれば,原告番号26らに係る慰謝料額は,原告番号26につき25万円,本件事故及び平成24年1月1日の時点で18歳以下であった原告番号27及び28につき各75万円とするのが相当である。
4
まとめ


以上によれば,原告番号26らの各損害は,原告番号26につき49万3000円,原告番号27及び28につき各75万円となる。



原告番号26らに係る損害額(認容額)は,原告番号26につき,上記49万3000円から既払金12万円を控除した37万3000円に相当な弁護士費用3万7000円を加えた41万円,原告番号27及び28につき,上記75万円から既払金72万円を控除した3万円に相当な弁護士費用3000円を加えた各3万3000円となる。

第10章
第1

原告番号29ないし31について

認定事実(甲D29の1,29の2の3,29の3~5,29の7,丙D29の1の2,原告番号29本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号29らは,本件事故当時,松戸市(千葉県)内のマンションに居住していた。原告番号29(36歳・夫)は,広告代理店■■■■■■■■■■
■■■に勤務しており,原告番号30(31歳・妻)は,派遣社員としてデータ入力を行っていたほか劇団員として活動しており,原告番号31(1歳・長女)と共に生活していた。
原告番号29らの避難元住居は,
福島第一原発から約207㎞の位置にあり,
同市q所在の松戸市役所本庁舎新館から■■■■■■,同市s所在のt公園から約1.7㎞の位置にある。
2
避難及び避難後の状況等
原告番号29らの避難元住居であるマンションは,本件地震により地盤沈下が生じ,外壁等に亀裂が生じた。

原告番号30は,避難元住居であるマンションに掲示された周辺の空間線量の値や,周囲に一時的に長野県や沖縄県に移動する人を見るようになったことから,平成23年7月16日,原告番号31と共に,飛行機等で松戸市から原告番号30の実家のある久留米市(福岡県)に移動し,その後しばらく原告番号30の実家で生活し,同年8月20日,避難元住居に戻った。
原告番号29らは,同年10月,罹災証明書の発行を受けて転居先を探すようになり,原告番号29の同級生の実家が経営している玉名市(熊本県)のア
パートに転居しようと考えたが,その後,罹災証明書があれば熊本市内の国家公務員住宅を2年間無償で借りることができると聞き,原告番号31の保育園の募集時期に合わせて平成24年1月に転居することとした。原告番号30及び31は,同月19日,飛行機で松戸市から熊本市に移動してゲストハウスで一泊し,同月20日,同市内の公務員宿舎に入居した。

原告番号29は,平成25年6月1日,自家用車で松戸市から熊本市に移動し,原告番号30及び31と共に生活するようになった。
原告番号29らは,同年10月2日,福岡市に転居し,平成28年3月,同市内において転居した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量

千葉県
(市原市)
及び松戸市の空間線量の測定結果
(継続モニタリング)
の結果は,第5部認定事実第2の1⑷ウのとおりである

松戸市役所本庁舎新館10階屋上における空間線量(地上1m)は,平成24年7月9日には0.
160µSv/h,
同年8月7日には0.
162µSv/h
であり,その後も,平成26年10月2日まで0.1µSv/h以上の値で推移し,平成27年以降は概ね0.1µSv/h未満で推移している。t公園における空間線量
(地上50㎝)平成23年6月6日には0.
は,
409µSv/h(場所等不明),同年9月12日には0.270µSv/h(場所
等不明),同年11月2日には最大0.453µSv/h(テニスコート),平成24年3月22日には0.420µSv/h(沈床庭園中心部),同年5月24日には0.375µSv/h(テニスコート)同年11月5日には0.219µSv/h(集水ます),平成26年1月7日には0.213µSv/h(集水ます)であった。


食品の規制等
松戸市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限


原告番号29らが入手した情報
原告番号29らは,平成23年3月,松戸市に隣接する東京都葛飾区の金町浄水場や松戸市の浄水場で放射性物質が検出されたとの情報を得た。また,
原告番号29らは,同年5月頃以降,避難元住居であるマンションの掲示板
や松戸市の公式ツイッター等を通じて,放射線量に関する情報や学校給食について放射線量が随時測定されているといった情報を得ており,松戸市の広報誌等で,同市の放射線量は直ちに健康に害のある値ではないとされていることも知っていた。また,原告番号29は,同年8月頃,原告番号31の1歳半検診の際,医師から,新たに放射性物質が降ってくることはないだろう
が,風で移動したりすることはあるので,外遊びは時間を決めて行うのがよいなどと言われた。
4
既払金
被告東電から原告番号29らに対して賠償金は支払われていない。
第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,原告番号29らの避難元住居は松戸市にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必要がある。



原告番号29らの避難元住居は,福島第一原発から約200㎞以上離れた位置にあり,
避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。
避難元住居から■■■■■■の位置にある松戸市役所本庁舎新館(屋上)における空間線量及び約1.7㎞の位置にあるt公園における空間線量は,一時0.4µSv/hを超え,平成24年以降も0.1µSv/hを超えているなど,他の区域外の地域に比べると比較的高い値で推移しているものの,健康に影響を与える値とはいえない。また,松戸市の浄水場において水道水から乳児の
飲用に係る指標値を上回る放射性物質が検出されたのは,平成23年3月23日の1日のみであり,同市周辺において健康影響を生じる程度の汚染があったとは認められないし,これによって原告番号29らの健康に影響が生じたとも認められない。原告番号29の避難元住居周辺では,イノシシの肉を除き,生産された食品等について,原災法に基づく出荷制限がされたとも認
められない。
そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質の拡散等について報道されていたが,同月16日以降は,放射線量が低下している旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がされていた。

福島県等からの避難者の受け入れ等を行っている一方で,松戸市からの避難者数については公表しておらず,本件事故により避難した者は少ないと推認されるし,一般的な認識として,松戸市における放射線被ばくの程度は,避難を要する程度のものとは考えられていない。

これらの事情からすれば,原告番号31が本件事故当時1歳の幼児であったことを考慮しても,原告番号29らが松戸市から避難したことにつき,避難の相当性は認められない。

原告番号29らは,避難の相当性を基礎付ける事情として,避難元住居のマンションに掲示されていた放射線量の値(0.33µSv/h)が,本件事故前の値の10倍となっていたなどと主張し,原告番号29もそれに沿う供述をする(原告番号29本人〔6頁〕)。しかし,上記の主張を裏付ける客観的な証拠はないし,仮に上記のような値が計測されていたとしても,その時期や期間は明らかでなく,原告番号29らの被ばく量が前記認定事実3⑴で認定した空間線量等による被ばくを大きく上回るものであるとも認められないから,上記事情は,原告番号29らの避難の相当性を基礎付けるものとは認
められない。
2
まとめ
以上によれば,原告番号29らについては,避難の相当性が認められず,本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められないから,請求はいずれも理由がない。

第11章
第1

原告番号32ないし34について

認定事実(甲D32の1,32の2の3,32の3~5,32の7,丙D32の1,32の2の2,原告番号32本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号32らは,本件事故当時,鎌倉市(神奈川県)に居住していた。原
告番号32(51歳・夫)は,陶芸家として活動していたほか,平成23年3月14日に茅ケ崎市(神奈川県)で中学校の臨時教諭の採用面接を受ける予定があり,原告番号33(41歳・妻)は,横浜市内の中学校で国語科教員をしており,原告番号34(1歳・長男)と共に生活していた。
原告番号32らの避難元住居は,
福島第一原発から約266㎞の位置にあり,

鎌倉市u所在のv公園から約75.40m,同市w所在の【x】から約3.3㎞の位置にある。
2
避難及び避難後の状況等
原告番号32は,平成23年3月14日,予定通り国語科の臨時教員の採用
面接を受けて採用され,原告番号32及び33は,その後もそれぞれ中学校教諭として勤務していたが,原告番号34と共に親族のいる福岡県に転居しようと考えるようになり,平成24年3月頃から同年11月頃にかけて,複数回にわたり福岡県を訪問し,物件探しを行うなどした。原告番号33は,同年7月頃,
福岡県の教員採用試験を受け,
同年11月に合格した。
原告番号32らは,
平成25年3月31日,自家用車で鎌倉市から兵庫県に移動して一泊し,同年4月1日,兵庫県から久留米市(福岡県)に移動してホテルで一泊し,同月2
日,同市内の住宅に入居した。原告番号32らは,平成27年3月,久留米市からうきは市(福岡県)に転居した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況


空間線量

神奈川県(茅ヶ崎市)及び鎌倉市の空間線量の市立小学校等において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑷イのとおりであるイ
v公園の空間線量(地上1m)は,平成23年10月25日に最大0.032µSv/hであった。
【x】の空間線量(地上13m)は,平成23年4月1日に0.179
µSv/hとなり,同月中は0.041ないし0.119µSv/hの間で推移し,平成25年3月は0.047ないし0.143µSv/hで推移した。⑵

食品の規制等
鎌倉市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑸のとおりであり,水道水や食品等か
ら指標値や規制値を超える放射性物質が検出されたことはない。


原告番号32らが入手した情報
原告番号32は,
大学生の頃に原子力工学や放射性物質について学んだり,
原子力発電所に勤めていた親族から話を聞いたりしたことがあり,本件事故
前から,原子力や放射性物質は危険であると考えていた。原告番号32及び33は,本件事故後,放射性物質やチェルノブイリ原子力発電所事故に関する文献を読んだり,原子力発電所事故に関する講演を聞いたりした。原告番号32は,フランス人の知人から,フランス政府から一時帰国を命じられたので帰国する旨の連絡を受けた。また,原告番号32は,原告番号34の入園予定の保育園の見学に行った際,園庭の土を入れ替えたと聞いたほか,同保育園が公表している給食に使用した食材の放射性物質量の値を毎日確認し
た。
4
既払金
被告東電から原告番号32らに対して賠償金は支払われていない。
第2
判断

1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,原告番号32らの避難元住居は鎌倉市にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必要がある。


原告番号29らの避難元住居は,福島第一原発から250㎞以上離れた位置にあり,避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。原告番号29らの避難元住居から約75.40mの位置にあるv公園における空間線量は,
平成23年10月の時点で最大0.
032µSv/hにとどまって
いるのであり,本件事故前の神奈川県(茅ヶ崎市)におけるモニタリングポストの平常値(0.035ないし0.069µSv/h・第5部認定事実第1の2
⑶)を下回っている。なお,避難元住居から約3.3㎞の位置にある【x】の空間線量(地上13m)は,平成23年4月時点で最大0.179µSv/hとなり,平成25年3月の時点でも最大で0.167µSv/hとなっているが,測定値の変動が激しいことやv公園及び鎌倉市内の小学校で測定された空間線量と大きく異なっていること,本件事故による放射線量は時間と共に低下し
ていくと考えられるところ,そのような経過を経ていないことからすれば,■■■による測定であるとはいえ,その正確性に疑問があるといわざるを得ないし,
上記の測定値を前提としても,
年間積算線量にして1mSvを下回って
おり,健康に影響のある値であるとはいえない。また,鎌倉市において,水道水や食品等から指標値又は規制値を上回る放射性物質が検出されたことはない。
そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質
の拡散等について報道されていたが,同月16日以降は,放射線量が低下している旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がされていた。
さらに,
原告番号32らが久留米市に転居したのは平成25年3月であり,本件事故から約2年も経過してからのことである。

加えて,第5部認定事実第2の6⑸イのとおり,鎌倉市は,福島県等からの避難者の受入れ等を行っている一方で,鎌倉市からの避難者数については公表しておらず,同市から避難した者の数は少ないと推認されるし,一般的な認識として,本件事故による鎌倉市における放射線被ばくの程度は,避難を要する程度のものとは考えられていない。

これらの事情からすれば,原告番号34が本件事故当時1歳の幼児であったことを考慮しても,原告番号32らが鎌倉市から移動したことにつき,避難の相当性は認められない。

原告番号32らは,避難の相当性を基礎付ける事情として,平成23年6月以降,自ら購入した線量計で避難元住居やその周辺,原告番号32及び33の勤務先の中学校等で放射線量を測定したところ,避難元住居の雨どいで0.29µSv/h,中学校の落ち葉のあるところで0.3µSv/hの値が測定されたなどと主張する。しかし,上記主張を裏付ける客観的な証拠はないし,仮に上記のような値が計測されていたとしても,その時期や期間は明らかでな
く,原告番号32らの健康に影響を与える値であるとも認められないから,上記事情は原告番号32らの避難の相当性を基礎付けるものとはいえない。2
まとめ
以上によれば,原告番号32らについては,避難の相当性が認められず,本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められないから,請求はいずれも理由がない。

第12章
第1

原告番号35及び47について

認定事実(甲D35の1,35の2の3,35の3~5,35の7の1・2,原告番号35本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号35らは,本件事故当時,藤沢市(神奈川県)の賃貸住宅に居住していた。原告番号35(27歳・妻)は,【12A】のカスタマーセンターで
勤務しており,原告番号47(49歳・夫)は,同社の倉庫作業員として勤務していた。原告番号35らは,本件事故当時内縁関係にあったが,原告番号47が福岡市に転居した後,正式に婚姻した。なお,本件事故当時,原告番号35の母及び姉は,双葉郡y町(福島県)に居住していた。
原告番号35らの避難元住居は,
福島第一原発から約270㎞の位置にあり,

藤沢市z所在の【a2】幼稚園から約828m,同市【b2】所在の【c2】小学校から約300mの位置にある。
2
避難及び避難後の状況等
原告番号35らは,平成23年3月21日,y町から避難してきた原告番号
35の母及び姉と,避難元住居で同居して生活するようになった。しかし,その後,原告番号47と原告番号35の母及び姉との関係が悪化し,原告番号35は,原告番号47と別れて母及び姉に寄り添いたいと考えるようになった。そして,原告番号35は,母及び姉と共に福岡県に転居することとし,同年6月頃,母を福岡市の賃貸住宅に転居させ,原告番号35及びその姉は,原告番
号35の勤務先において福岡市への転勤が認められるのを待って,同年7月頃,
飛行機等で藤沢市から福岡市に移動し,上記賃貸住宅に入居した。原告番号47は,平成23年7月頃,避難元住居から横浜市に転居したが,原告番号35と復縁し,平成24年7月頃,飛行機等で横浜市から福岡市に移動し,原告番号35との同居を再開した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況


空間線量

神奈川県(茅ヶ崎市)及び藤沢市の空間線量については,第5部認定事

【a2】幼稚園における空間線量(地上1m)は,平成23年8月24日には0.
11µSv/h,
平成24年4月12日には0.
04µSv/hであった。
【c2】小学校における空間線量は,平成23年8月24日には0.08
µSv/h,平成24年4月12日に0.04µSv/hであった。⑵

食品の規制等
神奈川県における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑸アのとおりであり,指標値や規制値を超える放射性物質が検出されたことはない。



原告番号35らの入手した情報
原告番号35は,平成23年3月21日以降,留学経験のある姉から,海外のニュース等で本件事故がチェルノブイリ原子力発電所事故と比較されており,福島第一原発4号機が爆発したら日本人の半分が死亡して東日本一帯
は人が住めなくなると言われているとか,海外在住の友人からドイツに避難するように言われているなどと聞いた。また,原告番号35は,インターネットやテレビを通じ,米国のブルックヘブン国立研究所が,米国の原子力規制委員会が自国民に避難勧告を出したとか,福島第一原発4号機が爆発すれば18万人以上の人が死ぬという発表をしているという情報を得た。また,
原告番号35は,京都大学の小出裕章が,内部被ばくの危険性や低線量被ばくであっても人体に影響が出ないことはあり得ないとの話をしていること,東京都葛飾区の金町浄水場から放射性物質が検出されたという情報を得た。他方で,原告番号35は,神奈川県から避難すべきであるという新聞やテレビの報道を見たことはなく,低線量の被ばくは健康に影響がないとする情報も見たことがあった。
4
既払金
被告東電から原告番号35らに対し賠償金は支払われていない。

第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,原告番号35らの避難元住居は藤沢市にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討
する必要がある。


原告番号29らの避難元住居は,福島第一原発から250㎞以上離れた位置にあり,避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。原告番号29らの避難元住居付近の平成23年8月の空間線量は,同住居か
ら約828mの位置にある【a2】幼稚園において0.11µSv/h,同住居から約300mの位置にある【c2】小学校において0,08µSv/hであり,平成24年4月にはいずれの地点においても0.
04µSv/hとなっており,
本件
事故前の神奈川県(茅ヶ崎市)におけるモニタリングポストの平常値(0.035ないし0.069µSv/h,第5部認定事実第1の2⑶)と同程度の値と
なっている。上記の値は,年間積算線量1mSvに満たない値であり,健康に影響のある値であるとはいえない。また,藤沢市において,水道水や農産物等から指標値又は規制値を上回る放射性物質が検出されたことはない。また,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質の拡散等についての報道はされていたものの,平成23年3月16日以降は,
放射線量が低下している旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がされていた。
これらの事情からすれば,原告番号35らが藤沢市から移動したことにつき,避難の相当性は認められない。


なお,原告番号35は、本件事故以前,一,二か月に一度の頻度で実家のあるy町に帰省していたところ,y町はまだ本件事故以前の状態には戻っておらず,実家のあったy町に戻ることができない以上,藤沢市に戻る意味は
ないから,原告番号35の母及び姉のy町への帰還がかなわない限り避難を継続せざるを得ないなどと主張する。しかし,原告番号35は,本件事故当時,母及び姉と同居していたものではなく,上記事情は原告番号35の避難の相当性を基礎付けるものとはいえない。
2
まとめ
以上によれば,原告番号35らについては,避難の相当性が認められず,本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められないから,請求はいずれも理由がない。

第13章
第1

原告番号36について

認定事実
(甲D36の1,
36の2の3,
36の3~5,
丙D36の1~2,
弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号36(48歳)は,本件事故当時,仙台市の賃貸アパートに居住していた。原告番号36は,平成22年に麺類の製造メーカーを退職し,本件事故当時は無職であったが,平成23年4月から【13A】研究室の助手として
就職する内定を得ていた。
原告番号36の避難元住居は,福島第一原発から約93㎞の位置にある。また,原告番号36の避難元住居は,仙台市【d2】区所在の【e2】公園から約4.25㎞,仙台市立【f2】小学校から約463.47mの位置にある。2
避難及び避難後の状況等
原告番号36は,本件地震により避難元住居周辺で地割れ等が起きたり,電気,水道及びガスが止まるなどしたため,平成23年4月6日まで仙台市内の小学校で避難生活をしていたが,知人から春日市(福岡県)が市営住宅を被災者に無償提供しているという話を聞き,同市に転居することとし,同月7日,自家用車で仙台市から春日市に移動し,同市の市営住宅に入居した。原告番号36は,その市営住宅で約3か月間生活したが,福岡市【q2】区の病院に就
職したことから,同区所在の同病院の寮に転居し,その寮で約4年3か月間生活した。
原告番号36は,平成28年3月頃,インターネットで徳島県が移住者向けの非常勤職員を募集していることを知り,福岡市から徳島市に転居した。3
本件事故後の避難元住居周辺の状況


空間線量

である

【e2】公園における空間線量(地上50㎝)は,平成23年6月20日で0.16µSv/hである。仙台市立【f2】小学校における空間線量(地
上50㎝)は,平成23年6月9日で0.11µSv/h,平成24年8月2日で0.09µSv/h,平成25年8月14日で0.04µSv/hである。⑵

食品の規制等
仙台市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑼ア,イのとおりである。


原告番号36が入手した情報
原告番号36は,本件事故以前に,チェルノブイリ原子力発電所事故等に
ついて調べたことがあり,本件事故後,インターネットで,米軍が日本国外に撤退するという情報や,福島第一原発1号機が再度爆発する可能性があるという情報を得た。また,原告番号36は,日本政府が,測定されている放射線量につき直ちに健康に影響はないと述べている旨の報道を見た。4
既払金
被告東電から原告番号36に対し賠償金は支払われていない。

第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,原告番号36の避難元住居は仙台市にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必要がある。



原告番号36の避難元住居は,福島第一原発から約93㎞離れた位置にあり,避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。原告番号36の避難元住居から約4.25㎞の位置にある【e2】公園及び避難元
住居から約463.
47mの位置にある
【f2】
小学校における空間線量は,
最も高い平成23年中で見ても年間積算線量にして1mSvに満たず,健康に影
響のある値であるとはいえない。また,仙台市においては,野生のクマ肉等ごく一部の食品を除き,水道水や食品から指標値又は規制値を上回る放射性物質は検出されていない。

そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質の拡散等についての報道はされていたものの,
平成23年3月16日以降は,
放射線量が低下している旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がされていた。
これらの事情からすれば,
原告番号36が仙台市から避難したことにつき,

避難の相当性は認められない。
2
まとめ
以上によれば,原告番号36については,避難の相当性が認められず,本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認められないから,請求は理由が
ない。
第14章

原告番号37及び38について
第1

認定事実(甲D37の1,37の2の4,37の3~5,37の7,原告番号37本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号37(20歳)は,本件事故前,元夫と共に郡山市内の賃貸マンシ
ョンに居住していたが,■■■■■■■■■■に原告番号38(0歳・長男)を出産したことから,本件事故当時,同市内の実家(避難元住居)に里帰りをしており,両親及び原告番号38と共に生活していた。
郡山市は,自主的避難等対象区域である。原告番号37が元夫と生活していた郡山市内のマンションは,福島第一原発から約63㎞の位置にあり,原告番
号37の実家は同市i所在のj庁舎から約5.15㎞の位置にある。2
避難及び避難後の状況等


避難経路等
原告番号37らは,本件事故当時,原告番号37の実家で生活しており,元夫とは別居していたが,余震が続いていたことから,平成23年5月頃,
元夫と生活していたマンションを引き払い,元夫と共に郡山市内にある元夫の実家に転居した。しかし,原告番号37は,元夫と避難の必要性や原告番号37の就労についての意見が合わず喧嘩になり,原告番号38と共に原告番号37の実家に戻った。
原告番号37は,オーストラリアのシドニーに住む叔母からシドニーに避
難するように勧められていたことから,同年10月,母及び原告番号38と共に,電車で郡山市から東京都に移動し,飛行機でシドニーへと移動した。原告番号37らは,同年11月下旬頃,帰国した。原告番号37は,元夫と相談の上,元夫が福岡県に本拠地のあるプロ野球チームを応援していたことや避難者用の借り上げ住宅への入居ができる見込みがあったことから福岡県
に転居することとし,原告番号37ら及び元夫は,平成24年1月中旬頃,自家用車で郡山市を出発し,
滋賀県で一泊,
福岡市で一泊した後,
筑紫郡
【g
2】町(福岡県,現在の那珂川市)に移動して,避難者用の借り上げ住宅に入居した。


避難後の状況等
原告番号37ら及び元夫は,郡山市から【g2】町に移動するにあたり,自家用車に家財道具を積んでいたほか,宅配便で荷物を送った。また,原告
番号37及び元夫は,【g2】町に転居した後,赤十字から一部の家具等の提供を受けたが,不足していた照明,カーテン,ストーブ,ガスコンロ及びたんす等については購入し,それぞれ購入費用の一部を負担した。原告番号37と元夫は,郡山市に戻るか否かについての意見が一致しなかったこと等から平成24年8月に離婚し,元夫は郡山市に戻ったが,原告番
号37らは,そのまま避難者用の借り上げ住宅での生活を継続した。原告番号37らは,平成25年1月から生活保護を受給するようになり,現在は,生活保護費及び原告番号37のパート収入で生活している。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量
郡山市の複数地点において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑶のとおりであり,j庁舎の空間線量については,第7章認定事実3⑴イのとおりである。
食品の規制等

郡山市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑶ウのとおりである。原告番号37らが入手した情報
原告番号37は,水道水から放射性物質が検出されたという報道を見たほか,インターネットを通じて,母乳を乳児に与えるのは危険である旨の情報
を得た。原告番号37は,平成23年夏頃,須賀川市(福島県)において行われた講演会で,1か月程度の一時的な避難であっても,子供の内部被ばくが改善されるとの情報を得た。また,原告番号37は,郡山市の広報誌等により,同市内における放射線量は健康に影響を及ぼすものではない,同市においては,同年4月17日以降水道水から放射性物質が検出されておらず,乳幼児も通常どおり使用できるとされているのを見たことがあったが,同市内から避難することを勧める旨の報道等は見たことがなかった。

4
既払金
被告東電は,原告番号37に対し,自主的避難等に係る損害として12万円(精神的損害等8万円,追加的費用等4万円),原告番号38に対し,自主的避難等に係る損害72万円(精神的損害48万円,追加的費用等24万円)を支払った。

第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性
原告番号37らの避難元住居のある郡山市は,自主的避難等対象区域であるところ,
原告番号37らは,
平成24年1月,
放射線被ばくを避けるために【g
2】町に避難をしたものであると認められ,避難の相当性を否定するような事
情もないから,原告番号37らの上記避難及び避難継続の相当性は認められる(オーストラリアのシドニーへの一時避難の相当性については,
後述する。。

なお,平成24年1月の避難は,原告番号37の避難及び避難継続の相当性が認められる期間(平成23年12月31日まで)の経過後に行われたものであるが,原告番号38(当時1歳)の避難及び避難継続の相当性が認められる
期間(平成24年8月31日まで)内に行われたものであることから,原告番号38の母である原告番号37の避難についても,その相当性を認める。2
財産的損害


避難交通費
原告番号37らは,平成23年10月から同年11月まで約1か月間にわたり,叔母が在住するオーストラリアのシドニーに一時避難したとして,その往復に係る交通費12万5810円を請求している(なお,郡山市から那賀川町への移動に要した交通費については,原告番号37の元夫が負担したとして,請求の対象とはされていない。)。
しかし,
上記の交通費は,
原告番号37の母が支払ったというのであり
(原
告番号37本人〔26頁〕),その当時,原告番号37とその母は同居して
いたものの,原告番号37と元夫の婚姻関係は継続しており,原告番号37とその母が同一世帯であったとは認められないから,上記交通費は原告番号37の損害であるとはいえない。なお,仮に原告番号37の損害であるとしても,本件事故が収束しつつあった平成23年10月当時の状況において,国外のオーストラリアまで避難する必要があったとは認め難い。



引越費用
原告番号37は,
【g2】町に転居するに際し,宅配便を利用して荷物を送
付しているところ,上記送付に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある引越費用と認められる。
原告番号37は,引越費用として20万5860円を請求しているが,具
体的な立証はない。そして,原告番号37らは,
【g2】町に転居した後,赤
十字から家具の提供等を受けていたというのであるから,上記宅配便の荷物には家具や家電等は含まれていないものと推認され,その荷物の量はさほど多くないものと考えられる。したがって,2万円×2名=4万円を相当と認める。



家財道具購入費用
原告番号37らは,
【g2】町に転居した後,照明,カーテン,ストーブ,
ガスコンロ及びたんす等を購入しており,上記購入に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費
用と認められる。
原告番号37は,
家財道具購入費用として15万円を請求しているところ,
領収証等による具体的な立証はなく,また,家財道具購入費用は原告番号37が単独で負担したものではなく,原告番号37と元夫が共同で負担したものであることから,本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費は,請求額の半分である7万5000円を相当と認める。


その他の費用(避難雑費)
原告番号37らは,避難雑費として各76万円を請求するが,その具体的内容について主張立証がないから,避難雑費の請求は認められない。


財産的損害の合計額
原告番号37の財産的損害の合計額は,引越費用4万円,家財道具購入費用7万5000円の合計11万5000円となる。

3
精神的損害
原告番号37らは,本件事故による放射線被ばくに対する不安等を感じ,また,避難によって生活に支障を生ずるなどしたことにより精神的苦痛を被ったと認められる。
原告番号37は,慰謝料の額において考慮すべき事情として,本件事故によ
る避難が原因で元夫と離婚するに至った旨主張する。しかし,原告番号37と元夫との関係が悪化したきっかけが,避難の要否等に関する意見の不一致や,【g2】町への転居等にある可能性は否定し難いものの,そのような状況に置かれた夫婦が当然に離婚に至るものとはいえず,本件事故と上記の離婚との間に相当因果関係は認められない。

よって,原告番号37に係る慰謝料は25万円,本件事故及び平成24年1月1日の各時点において18歳以下であった原告番号38に係る慰謝料は75万円とするのが相当である。
4
まとめ


以上によれば,原告番号37らの各損害は,原告番号37につき36万5000円,原告番号38につき75万円となる。


原告番号37らに係る損害額(認容額)は,原告番号37につき,上記36万5000円から既払金12万円を控除した24万5000円に相当な弁護士費用2万4000円を加えた26万9000円,原告番号38につき,上記75万円から既払金72万円を控除した3万円に相当な弁護士費用3000円を加えた3万3000円となる。

第15章
第1

原告番号39及び40について

認定事実(甲D39の1,39の2の5,39の3~5,39の7,原告番号39本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号39らは,本件事故当時,福島市内に所有するマンションに居住し
ていた。原告番号39(54歳・妻)は,同市内で居酒屋【15A】を経営しており,原告番号40(58歳・夫)は,ガソリンスタンドに勤めており,当時11歳の長男と生活していた。
福島市は,自主的避難等対象区域である。原告番号39らの避難元住居は,福島第一原発から約62㎞の位置にあり,同市【h2】町所在の【i2】事務所から約1.55㎞の位置にある。
2
避難及び避難後の状況等


避難経路等
原告番号39ら及び長男は,本件地震等により避難元住居の水道や電気が
止まり,余震も続いていたことから,一時自家用車の中で生活し,平成23年3月17日に避難元住居に戻った。
原告番号39は,韓国在住の弟から韓国に避難することを勧められ,原告番号40及び長男と共に韓国に避難することとし,同月18日,自家用車で新潟空港に向かったが,飛行機の予約が取れず,同月24日頃までの間,新
潟空港近くの健康ランドに宿泊し,同日頃,飛行機で韓国に移動し,原告番号39の弟妹の自宅やホテルなどに宿泊した。
原告番号39ら及び長男は,同年5月,飛行機等で韓国から避難元住居に戻ったが,
その後,
福島県から遠く韓国に近い福岡県に避難することを決め,
平成24年2月頃,自家用車で福島市から福岡市に移動し,避難者用の借り上げ住宅に入居した。


避難後の状況等
原告番号39らは,福岡市に転居する際,家具や日用品等を一切送らず,転居後に冷蔵庫,テレビ,電気釜及び布団等を購入した。
原告番号39は,
平成24年2月,
経営していた居酒屋を廃業し,
現在は,
原告番号39のパート収入及び原告番号40の年金で生活している。
3
本件事故後の避難元住居付近の状況等


空間線量

福島市の複数地点において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑴のとおりである。


【i2】事務所北側駐車場における空間線量は,平成23年3月15日午後から大幅に増加し,
同日午後5時以降は20µSv/hを超え,
同日以降同

月19日昼頃まで概ね10µSv/hを超え,
その後逓減したが,
同月31日の
時点でも2µSv/hを超える放射線量が測定された。
同所における平成24年
2月1日の空間線量
(サーベイメーターで測定したもの)0.
は,63µSv/h
であった。


食品の規制等
福島市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑴イのとおりである。


原告番号39らが入手した情報
原告番号39は,本件事故から約1週間後,韓国在住の弟から,本件事故
が世界中で問題になっており,米国政府は福島第一原発から100㎞圏内に住んではいけないと言っているなどと聞いた。また,原告番号39は,韓国に滞在している間,福島県は放射線量が高い,本件事故はチェルノブイリ原子力発電所事故と同程度かそれ以上の規模であるなどと報道されているのを見た。さらに,原告番号39は,テレビや新聞を通じ,福島市内の放射線量が健康に影響を及ぼす値ではないという報道を見たり,広報誌において,同市において日常生活を継続しても問題はないとされているのを見たりした。
4
既払金
被告東電は,原告番号39らに対し,自主的避難等に係る損害として各12万円(精神的損害等8万円,追加的費用等4万円)及び原告番号39の営業損害(逸失利益及び追加的費用)として393万3383円を支払った(原告番号39らの長男にも,
自主的避難等に係る損害としての支払がされている。。


また,被告東電は,ADR手続での和解に基づき,原告番号39ら及びその長男の世帯に対して,平成23年3月11日から平成26年3月31日までの原告番号39の営業損害として208万4780円,原告番号40の就労不能損害,原告番号39ら及び長男の避難費用,精神的損害,生活費増加費用及び避難雑費として133万9732円の合計342万4512円を支払った。
第2
1
判断
避難及び避難継続の相当性
原告番号39らの避難元住居のある福島市は,自主的避難等対象区域であるところ,原告番号39ら及び長男は,平成24年2月,放射線被ばくを避ける
ために福岡市に避難をしたものと認められ,原告番号39らの避難及び避難継続の相当性は認められる。
なお,平成24年2月の避難は,原告番号39の避難及び避難継続の相当性が認められる期間(平成23年12月31日まで)の経過後に行われたものであるが,原告番号39らの長男(当時11歳)の避難及び避難継続の相当性が
認められる期間(平成24年8月31日まで)内に行われたものであることから,父母である原告番号39らの避難についても,その相当性を認める。2
財産的損害


避難交通費
原告番号39は,平成24年2月の福島市から福岡市への移動に要した費用として5万6000円を請求している(なお,その余の移動に係る避難交通費の請求はない。)。しかし,被告東電は,ADR手続での和解に基づき,
平成23年3月11日から平成26年3月31日までの期間に係る避難費用を支払ったことが認められ,本件事故と相当因果関係のある避難交通費は,全額支払済みであると認められる。


引越費用
原告番号39は,
引越費用として26万0025円を請求しているところ,

上記認定事実のとおり,原告番号39ら及びその長男は,福岡市への転居に際し,福島市で使用していた家具や日用品を一切送っていない。よって,引越費用の発生が認められず,引越費用の請求は認められない。


家財道具購入費用
原告番号39は,福岡市において,冷蔵庫,テレビ,電気釜及び布団等を
購入したとして,
家財道具購入費用として15万円を請求している。
しかし,
被告東電は,ADR手続での和解に基づき,平成23年3月11日から平成26年3月31日までの期間に係る生活費増加費用を支払ったことが認められるところ,これは家財道具購入費用の趣旨を含むと推認されるから,本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費用は,全額支払済みであると認め
られる。


その他の費用(避難雑費)
原告番号39らは,
避難雑費として各76万円を請求するが,
被告東電は,
ADR手続での和解に基づき,平成23年3月11日から平成26年3月3
1日までの期間に係る避難雑費を支払ったことが認められ,本件事故と相当因果関係のある避難雑費は,全額支払済みであると認められる。


財産的損害の合計額
以上によれば,原告番号39が請求する財産的損害について,未払いのも
のはない。
3
精神的損害
原告番号39らは,本件事故による放射線被ばくに対する不安等を感じ,ま
た,避難によって生活に支障を生ずるなどしたことにより精神的苦痛を被ったと認められる。そして,原告番号39らに係る慰謝料は,各25万円とするのが相当である。
なお,被告東電と原告番号39ら及びその長男との間のADR手続での和解には,損害項目として精神的損害が含まれているが,原告番号21らのADR
手続に基づく和解契約書(丙D22の1)をみると,精神的損害に係る和解の効力は限定されており,原告番号39らについても同様であることが推認されることから,精神的損害に係る慰謝料については,ADR手続での和解により支払済みであるとは認められない。
4
まとめ


以上によれば,原告番号39らの各損害は,各25万円となる。



原告番号39らに係る損害額(認容額)は,上記25万円から既払金12万円(ADRでの和解に基づき支払われた額を除く。)を控除した13万円に相当な弁護士費用1万3000円を加えた各14万3000円となる。
第16章
第1

原告番号41及び42について

認定事実(甲D42の1,42の2の3,42の3~5,弁論の全趣旨)
1
本件事故前の状況


原告番号41(73歳・母)は,本件事故当時,取手市(茨城県)に居住しており,年金で生活していた。
原告番号41の避難元住居は,
福島第一原発から約189㎞の位置にある。



原告番号42(44歳・子)は,本件事故当時,船橋市(千葉県)に居住しており,自宅でトレーダーをしていた。また,原告番号42は,慢性の全身性炎症性疾患であるベーチェット病に罹患している。
原告番号42の避難元住居は,
福島第一原発から約209㎞の位置にあり,
船橋市【j2】所在の船橋市立【k2】小学校から約1.2㎞の位置にある。2
避難及び避難後の状況等
原告番号41は,本件地震等が発生したため,平成23年3月13日,取手市(原告番号41の避難元住居)から船橋市(原告番号42の避難元住居)に移動して,原告番号42と生活するようになった。
原告番号41らは,
各避難元住居から避難をした方がよいと考え,
飯塚市
(福
岡県)の賃貸住宅を借りる手はずを整え,同月24日,船橋市を出発して途中
で一泊し,同月25日,飯塚市内の賃貸住宅に入居した。原告番号41らは,同月27日頃,福岡県が避難者に避難者用の借り上げ住宅を無償貸与していることを知り,福岡市に転居し,少なくとも平成30年4月頃まで同市内に居住していたが,その後,白井市(千葉県)に転居した。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量

取手市
茨城県(水戸市)及びつくば市における本件事故後の空間線量は,第5部認定事実第2の1⑷オのとおりである。
原告番号41らは,甲D42の5の資料1を前提に,本件事故後,原
告番号41の避難元住居付近における空間線量が0.
4µSv/hを超えてい
たなどと主張する。しかし,甲D42の5の資料1は,地図上に放射線量を測定したと思われる結果を記載したものであるが,放射線量の測定日や測定方法,測定者が明らかでなく,その内容の正確性も不明であるから,上記主張は採用することができない。


船橋市
千葉県(市原市)における本件事故後の空間線量は,第5部認定事実
【k2】小学校における空間線量(地上1m)は,平成23年6月3日ないし7日に0.14µSv/h,同月28日に0.12µSv/h,同年7月22日に0.15µSv/hであった。



食品の規制等
千葉県及び茨城県における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関す
とおりであり,取手市及び船橋市において,水道水から成人の飲用に係る指標値を超える放射性物質が検出された事実は認められない。



原告番号41らが入手した情報
原告番号42は,チェルノブイリ原子力発電所事故が発生した当時,イタリアのミラノに留学していたため,上記事故当時のヨーロッパの状況を知っており,放射線被ばくに対する強い恐怖感を持っていた。原告番号42は,平成23年3月15日頃,在日フランス大使館が在日フランス人に対して避
難勧告を出したとの報道を見たり,イギリス在住の姉から,イギリスでは福島第一原発が爆発の危機にあると報道されているとの話を聞いたりし,同月19日,米国大使館が福島第一原発から80㎞圏内の自国民に避難勧告を出したとの報道を見た。また,原告番号42は,日本政府が本件事故による放射性物質の拡散に関し直ちに危険はないと述べている旨の情報を得た。
4
既払金
被告東電から原告番号41らに対して賠償金は支払われていない。
第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性


上記認定事実のとおり,原告番号41の避難元住居は取手市,原告番号42の避難元住居は船橋市にあり,区域外の地域に当たるため,その避難の相当性については,個別に慎重に検討する必要がある。
⑵ア

原告番号41について
原告番号41の避難元住居は,福島第一原発から約189㎞離れた位置
にあり,避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。本件事故後の取手市の空間線量は証拠上明らかではないが,同市と比較的近いつくば市の空間線量は,平成23年6月20日に最大で0.375µSv/h(あしび野多目的広場)となったこともあったが,平成24年3月頃には概ね0.
1µSv/h程度であったことや,第6章認定事実1の3⑴イのとおり,同市松代の空間線量は,平成23年5月頃以降,概ね0.1µSv/h前
後の値となっていたことからすれば,取手市における空間線量も同程度であったと考えられる。
上記の値は年間積算線量にして1mSvにも満たない値
であって,健康に影響のある値であるとはいえない。また,取手市において,水道水から成人の飲用に係る指標値を超える放射性物質が検出されたことはなく,出荷制限がされた食品もごく一部にとどまる。
そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物
質の拡散等についての報道がされていたものの,平成23年3月16日以降は,放射線量が低下している旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がされていた。
これらの事情からすれば,原告番号41が取手市から避難したことにつき,避難の相当性は認められない。


原告番号42について
原告番号42の避難元住居は,福島第一原発から200㎞以上離れた位置にあり,避難指示等対象区域とも近接しているとはいえない地域にある。原告番号42の避難元住居から約1.2㎞の位置にある船橋市立
【k2】小学校における空間線量(地上1m)は,平成23年6月から7月にかけて0.15µSv/以下で推移しており,上記の値は年間積算線量にして1mSvにも満たない値であって,
健康に影響のある値であるとは
いえない。また,船橋市において,水道水から放射性物質が検出されたことはなく,出荷制限がされた食品もごく一部にとどまる。
そして,第5部認定事実第2の3⑴アのとおり,本件事故後,放射線物質の拡散等についての報道はされていたものの,平成23年3月16
日以降は,放射線量が低下している旨や,放射線量は健康に影響のないレベルのものである旨の報道がされていた。
これらの事情からすれば,原告番号42が船橋市から避難したことにつき,避難の相当性は認められない。
なお,原告番号42は,避難の相当性を基礎付ける事情として,横田
ベーチェット病に罹患していることを主張している。しかし,本件のように0.
1µSv/h未満のごく低線量の被ばくの場合に,
ベーチェット病に
影響があるのか,あるとしてどの程度の影響があるのかということは何ら明らかになっておらず,上記事情は,原告番号42の避難の相当性を基礎付けるものとはいえない。

2
まとめ
以上によれば,原告番号41らについては,避難の相当性が認められず,本件事故と相当因果関係のある損害を被ったとは認めらないから,請求はいずれも理由がない。

第17章
第1

原告番号43ないし46について

認定事実(甲D44の1,44の2の4,44の3~5,44の7,原告番号44本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号43らは,本件事故当時,いわき市の市営住宅に居住していた。原
告番号43(50歳・夫)は,双葉郡【l2】町(福島県)の工業団地内の企業に勤めており,原告番号44(48歳・妻)は,訪問介護を行っており,原告番号45(18歳・長女)と原告番号46(16歳・長男)はいずれも高校生であった。
いわき市は自主的避難等対象区域である。原告番号43らの避難元住居は,福島第一原発から約34㎞の位置にあり,いわき市合同庁舎から約11.9㎞の位置にある。

2
避難及び避難後の状況等


避難経路等
いわき市は本件地震及び本件津波の被害を受けた地域であり,本件津波は原告番号43らの避難元住居の数百m先まで迫り,避難元住居の外壁にもひ
び割れ等が生じた。
原告番号43らは,隣接するいわき市【m2】町に避難指示が出されたと聞いたことや,避難元住居の市営住宅の明かりがほとんどついていないことに気付いたことから,避難元住居からの避難を考えるようになり,平成23年3月14日,自家用車でいわき市から耶麻郡【n2】町(福島県)に移動
して約1週間親族と話し合いなどを行った上,福岡県在住の原告番号44の姉から福岡県が避難者を受け入れていること等を聞き,同月22日から23日にかけて,自家用車で同町から大阪市(大阪南港)に移動し,フェリーで同市から北九州市に移動し,自家用車で同市から福岡市に移動し,同市内の県営住宅(避難者用の借り上げ住宅)に入居した。

原告番号43は,勤務先から転勤の指示を受け,同月30日,笠間市(茨城県)に単身赴任し,再度転勤の指示を受け,同年5月6日,中津市(大分県)
に単身赴任した。
なお,
原告番号43が本件事故前に働いていた【l2】
町の事業所は,後に閉鎖された。
原告番号44は,平成29年4月頃に中津市に転居して原告番号43との
同居を開始し,
原告番号45は,
平成28年3月頃に東京都中央区に転居し,
原告番号46は,平成25年4月頃に裾野市(静岡県)に転居した。⑵

一時帰宅等
原告番号44は,平成23年4月8日頃,避難元住居から洋服等の荷物を送ったり,原告番号46の通っていた高校教諭と進路の相談をしたりするため,原告番号46と共に,公共交通機関で福岡市といわき市を往復した。また,原告番号44は,同月28日,原告番号43の笠間市への転勤の準備や
避難元住居の解約手続等のため避難元住居に戻り,家財道具等を原告番号43の実家に置かせてもらった上で,福岡市に戻った。


避難後の状況等
原告番号43らは,福岡市に転居後,救急セットやバスタオル等の支給を受けたが,
そのほか日常生活に必要なものについては揃っていなかったため,
それらを購入した。
原告番号44は,平成23年4月8日頃,避難元住居から福岡市の住居に衣類等を送るなどした。
原告番号44は,福岡市に転居した後,文化や言葉の違い等から訪問看護の仕事を継続することを断念した。原告番号45は,福岡市に転居した数日
後には同年4月以降に通う予備校を決めて同月から通学し,その後,福岡の大学に進学して看護師となり,現在は東京都中央区に居住している。原告番号46は,福岡市内の高校に編入し,高校卒業後に就職し,現在は裾野市に居住している。
3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


空間線量

いわき市の複数地点において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑵のとおりである。


福島県いわき市合同庁舎における空間線量は,第1章第1の3⑴イのとおりである。



食品の規制等
いわき市における水道水からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑵エのとおりである。⑶

原告番号43らが入手した情報
原告番号46は,高校の担任教師から,電力会社に勤める友人が福島第一原発から80㎞圏外に出るように言っているというメールを受け取り,原告
番号43ないし45にその旨伝えた。原告番号43は,本件事故直後,インターネットを通じ,福島第一原発がメルトダウンしているという情報を得たが,反対に安全であるとする情報もあり混乱した。また,原告番号43は,子供は放射線の影響を受けやすいといった情報も得た。
4
既払金
被告東電は,原告番号43に対して,自主的避難等に係る損害として12万円(精神的損害等8万円,追加的費用等4万円),その他として75万4080円を支払った。
また,被告東電は,原告番号44に対して,自主的避難等に係る損害として12万円(精神的損害等8万円,追加的費用等4万円),原告番号45に対し
て,自主的避難等に係る損害として64万円(精神的損害等40万円,追加的費用等24万円),その他として3万円,原告番号46に対して,自主的避難等に係る損害72万円(精神的損害等48万円,追加的費用等24万円),その他として11万9738円をそれぞれ支払った。
第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性


原告番号43らの避難元住居のあるいわき市は,自主的避難等対象区域であるところ,原告番号43らは,放射線被ばくを避けるために避難をしたものと認められ,
後述のとおり避難の相当性を否定するような事情もないから,
原告番号43らの避難及び避難継続の相当性は認められる。



被告東電は,原告番号43らが福岡市に転居した後,原告番号44ないし46が比較的早期に予備校を決定したり,高校編入手続を行ったりしていることから,同市での居住の継続は,原告番号44ないし46の判断によるものであり,本件事故との相当因果関係がないなどと主張する。しかし,いずれ避難元住居に戻るか否かにかかわらず,一定期間は避難先住居での生活を継続することが見込まれる以上,大学受験を控えている原告番号45や高校
生である原告番号46につき,上記手続等を早急に行うことは当然のことであって,これらの事情をもって,原告番号44ないし46の避難継続の相当性は否定されないというべきである。
2
財産的損害


避難交通費

原告番号43らは,平成23年3月22日から同月23日にかけて,自家用車でいわき市から大阪市に移動し,フェリーで大阪市から北九州市に移動し,更に自家用車で北九州市から福岡市に移動しているところ,上記移動に要した費用は避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある避難交通費と認められる。


原告番号44は,上記避難交通費として6万7160円を請求しているところ,その内訳を,①いわき市から【n2】町までの2860円の高速料金,②同町から大阪市(大阪南港)までの1万6050円の高速料金,③北九州市(門司港)から福岡市(【o2】)までの2600円の高速料金及び④大阪市から北九州市までのフェリー代(4人及び自動車)4万5
650円としている(甲D44の1)。以上の経路及び料金は,いずれも相当なものと認められるから,本件事故と相当因果関係のある避難交通費は6万7160円と認める。

一時帰宅費用
原告番号44は,平成23年4月頃,公共交通機関で福岡市といわき市を
2回往復しているところ,上記一時帰宅は,避難元住居から洋服等の荷物を送付したり,避難元住居の解約手続を行ったりすること等を目的としてされたものであり,避難及び避難継続のため必要かつ相当なものと認められるから,本件事故と相当因果関係のある一時帰宅費用と認められる(なお,原告番号46も,平成23年4月8日頃に避難元住居に一時帰宅しているが,それに要した費用は請求されていない。)。
原告番号44は,上記2回の一時帰宅に要した費用として合計18万4000円を請求しているが,具体的な立証はないから,第5部第2章第3の1⑴ウに基づき認定する。
そうすると,一時帰宅費用は4万6000円×0.8×2(往復)×2回=14万7200円を相当と認める。



引越費用
原告番号43らは,いわき市から福岡市に荷物を送付しており,同送付に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある引越費用と認められる。
原告番号44は,
引越費用として25万3465円を請求しているところ,

領収証等による具体的な額の立証はないから,その合理的と認められる額を認定する。原告番号43らは,福岡市に洋服等の荷物を送付したというのであり,大型の家具等は送付しなかったものと推認されるので,引越費用は一人当たり2万円×4名=8万円を相当と認める。


家財道具購入費
原告番号43らは,福岡市に転居した後,生活に必要なものを購入するなどしており,同購入に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費用と認められる。
原告番号44は,
家財道具購入費用として15万円を請求しているところ,

領収証等による具体的な額についての立証はないが,上記の金額をもって相当と認める。


その他の費用(避難雑費)
原告番号43らは,避難雑費として各86万円を請求しており,その内容として,原告番号46の学生服,カバンなどの通学に必要な物品の購入費用等を挙げているところ,上記購入に要した費用は,避難のために生じた費用であって,本件事故と相当因果関係のある避難雑費と認められる。そして,
上記購入に要した費用は,一般的な世帯において生ずる家財道具購入費用に含まれるということはできないから,上記⑷の家財道具購入費用に加えて,相当額を避難雑費として認める。原告番号43らのその他の避難雑費の請求については,具体的内容について主張立証がないから,認められない。上記学生服等の購入費用について,
領収証等による具体的な立証はないが,

5万円をもって相当と認める。そして,上記購入に要した費用は,原告番号46の保護者である原告番号44が負担したものと認める。


財産的損害の合計額
原告番号44の財産的損害の合計額は,避難交通費6万7160円,一時帰宅費用14万7200円,引越費用8万円,家財道具購入費用15万円,
避難雑費5万円の合計49万4360円となる。
3
精神的損害
原告番号43らは,本件事故による放射線被ばくに対する不安等を感じ,避難によって生活に支障を生ずるなどしたことにより,精神的苦痛を被ったと認
められる。
原告番号45及び46については,
転居により進路の変更等を余儀なくされ,
情緒の安定を欠く時期があったこともうかがわれるが,急に遠方に避難した学齢期の子供においては,このような不利益や精神的苦痛は通常想定される範囲内のものということができ,18歳以下の子供についてはその他の者よりも第
5部で定めた基準において慰謝料が増額されていることも考慮すると,同基準から更に慰謝料を増額する必要があるとは認められない。また,原告番号44は,福岡市に転居した後,コレステロール値が高くなったとか,カウンセラーからうつ状態であるといわれたなどと主張し,原告番号44及び45は,白血球数が低下したなどと主張するが,それらを裏付ける客観的な証拠はないし,上記各症状が本件事故によって生じたものであると認めるに足りる証拠もなく,上記基準から更に慰謝料を増額する必要があるとは認められない。
よって,原告番号43及び44に係る慰謝料は各25万円,本件事故の時点で18歳であったが平成24年1月1日の時点で19歳であった原告番号45に係る慰謝料は50万円,本件事故及び平成24年1月1日の各時点において18歳以下であった原告番号46に係る慰謝料は75万円とするのが相当である。

4
まとめ


原告番号43らの各損害は,原告番号43につき25万円,原告番号44につき74万4360円,原告番号45につき50万円,原告番号46につき75万円となる。

⑵ア

上記認定事実のとおり,被告東電は,原告番号43に対して,精神的損害等8万円,追加的費用等4万円,その他75万4080円(合計87万4080円),原告番号45に対して,精神的損害等40万円,追加的費用等24万円,その他3万円(合計67万円),原告番号46に対して,精神的損害等48万円,追加的費用等24万円,その他11万9738円
(合計83万9738円)をそれぞれ支払っており,原告番号43につき62万4080円,原告番号45につき17万円,原告番号46につき8万9738円(世帯合計88万3818円)超えている。
そこで上記超過分の取扱いにつき検討するに,第5部認定事実第3の5追加的費用等は,自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用など)及び中間指針第一次追補に基づく賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用であるとされ,慰謝料とは別の損害費目とされており,財産的損害に係る賠償の趣旨で支払われたものと解される。また,原告番号43のその他の費用についても,その中には,避難交通費や一時帰宅費用,
引越費用が含まれている
(原告番号44本人
〔1
9頁〕)ことからすれば,主に財産的損害に対する支払であるといえる。
そして,同一世帯では原則として家計を共通にすることから,原告番号43,45及び46に支払われた追加的費用及び原告番号43に支払われたその他の費用は,名目上は上記各原告に対する支払であっても,実質的には,原告番号43らの世帯単位の財産的損害に係る賠償とみることができる。そして,原告番号43らの世帯においては,世帯としての財
産的損害は,原告番号44が代表して請求していることから,上記各費用は,原告番号44が請求している財産的損害に充当することができるというべきである。

以上を前提とすると,原告番号43らに係る損害額(認容額)は,原告番号43,45及び46につき,上記アの損害額から既払金を控除すると
いずれも0円となる。
また,原告番号44については,上記⑴の74万4360円から原告番号44に対する既払金12万円を控除すると62万4360円となるが,上記アのとおり,原告番号43,45及び46への既払金のうち原告番号44の損害額に充当し得る額は合計88万3818円であるから,原告番
号44の上記損害額から上記既払金
(世帯分)
を控除すると,
0円となる。
したがって,原告番号43らの請求は,いずれも理由がない。
第18章
第1

原告番号48ないし54について

認定事実(甲D48の1,48の2の3,48の3~5,48の7,原告番号48本人,弁論の全趣旨)

1
本件事故前の状況
原告番号48らは,本件事故当時,郡山市内に所有するマンションに居住していた。原告番号48(45歳)は,【18A】の郡山支店における保険外交員であり,原告番号49(13歳・長女)は,同市内の【18B】に通っており,原告番号50(12歳・次女),原告番号51(10歳・長男),原告番号52(9歳・三女)及び原告番号53(6歳・次男)は,いずれも同市内の
【18C】に通っており,原告番号54(5歳・三男)は,同市内の幼稚園に通っており,電気工事の自営業を営んでいた原告番号48の元夫と共に生活していた。
郡山市は,自主的避難等対象区域である。原告番号48らの避難元住居は,福島第一原発から約60㎞の位置にあり,同市i所在のj庁舎から約1.9㎞の位置にある。
2
避難及び避難後の状況等


避難経路等
原告番号48ら及び元夫は,平成23年3月15日,原告番号48の勤務
先から,福島第一原発の80㎞圏内に居住する従業員及びその家族は会社の用意したバスで避難するようにとの連絡を受け,上記バスで郡山市から東京都墨田区に移動し,
同区内のホテルに滞在した。
原告番号48ら及び元夫は,
原告番号48の勤務先から,同年3月末でホテルを出る必要があり,会社が千葉県に用意する寮に入るように言われたことから,より南に避難をしよう
と考え,
同年4月1日,
1台の自家用車で東京都墨田区から大阪市に移動し,
同日から同月10日までの間,
【18D】
学校の空き教室を借りて宿泊した。
原告番号48ら及び元夫は,上記学校からの紹介を受け,同日,自家用車で大阪府内の空き家に移動し,大阪府や兵庫県等で無償の借り上げ住宅を探したが,
罹災証明書を所持していなかったため入居することができず,
その後,

福岡県が罹災証明書を所持しない避難者に公営住宅を提供していることを知り,
同年5月中旬頃,
自家用車で大阪府から北九州市に移動し,
公営住宅
(避
難者用の借り上げ住宅)に入居した。
原告番号48らは,上記公営住宅の近隣住民から音がうるさいなどという苦情を受けるようになり,平成23年11月下旬頃,春日市(福岡県)の避難者用の借り上げ住宅に転居したが,賃貸人から終期の見通しが立たないとして退去を求められたため,
平成26年11月に同市内のアパートに転居し,

平成29年3月,同市内の県営住宅に転居した。


避難後の状況等
原告番号48は,
郡山市から移動する際,
家具や家電を運び出しておらず,
大阪府内の空き家に移動した後に家電等を購入した。
原告番号48は,郡山市を出た後も勤務先から休業手当の支払を受けてい
たが,
平成24年春頃に勤務先を退職し,
派遣社員として働くようになった。
原告番号48は,平成24年4月頃,元夫と離婚した。
原告番号49ないし54は,それぞれ福岡県や佐賀県で進学した。3
本件事故後の避難元住居周辺の状況等


郡山市の複数地点において測定された空間線量については,第5部認定事実第2の1⑶のとおりであり,郡山市合同庁舎において測定された空間線量
からの放射性物質の検出及び食品に関する出荷制限については,第5部認定事実第2の6⑶ウのとおりである。


原告番号48らが入手した情報
原告番号48は,父から,福島第一原発のメルトダウンの危険性はない,害はないという報道がされていると聞いた。

4
既払金
被告東電は,原告番号48に対し,自主的避難等に係る損害として12万円
(精神的損害等8万円,追加的費用等4万円),原告番号49ないし54に対し,自主的避難等に係る損害として各72万円(精神的損害等48万円,追加的費用等24万円)を支払った。
第2

判断

1
避難及び避難継続の相当性
原告番号48らの避難元住居のある郡山市は,自主的避難等対象区域であるところ,原告番号48らは,放射線被ばくを避けるために避難をしたものであ
ると認められ,避難の相当性を否定するような事情もないから,原告番号48らの避難及び避難継続の相当性は認められる。
2
財産的損害


避難交通費

原告番号48は,①平成23年4月1日,自家用車で東京都墨田区から大阪市に移動し,②同月11日,自家用車で同市内の【18D】学校から大阪府内の空き家へ移動し,③同年5月中旬頃,自家用車で大阪府から北九州市に移動し,④同年11月頃,自家用車で北九州市から春日市に移動している。

上記①の移動については,放射線被ばくを避けるために避難をしたものであると認められ,上記②の移動についても,一時的に【18D】学校の空き教室を借りていた状態であり,短期間での移動が必要であったと考えられることからすれば,やむを得ないものであったといえるから,上記①及び②の移動に要した費用は,避難のために生じた費用であり,本件事故
と相当因果関係のある避難交通費と認められる。
上記③の移動について,原告番号48らは,罹災証明書をすぐに用意することができなかったため,罹災証明書がなくても入居可能な北九州市の避難者用の借り上げ住宅に入居することにしたと主張している。郡山市の広報誌(丙D共152の7)によれば,郡山市は,同年3月25日には罹
災証明書の発行を開始していたと認められるが,同広報誌によれば,罹災証明書の申請には書類の作成及び資料の添付が必要であり,既に郡山市を離れていた原告番号48らにおいて,罹災証明書を取得することは容易ではなかったと考えられるから,上記③の移動に要した費用についても,本件事故と相当因果関係のある避難交通費と認められる。
上記④の移動については,近隣住民からの騒音に関する苦情を原因とするものであって,本件事故と相当因果関係があるとはいえないから,その
移動に要した費用は,本件事故と相当因果関係のある避難交通費とは認められない。

原告番号48は,上記①ないし③の移動に係る交通費として,上記①について2万5000円,上記②について1万4000円,上記③について2万7000円をそれぞれ請求しているところ,その額について具体的な
立証をしないから,第5部第2章第3の1⑴ウに基づき相当な額を認定する。
そうすると,上記①の移動については,2万5000円×0.8=2万円,上記②の移動については,同一都道府県内の移動であるため4000円,上記③の移動については,2万7000円×0.8=2万1600円
とするのが相当であり,本件事故と相当因果関係のある避難交通費の合計額は4万5600円となる。


引越費用

原告番号48は,①大阪府内の空き家から北九州市への引越費用として13万0700円,②北九州市から春日市への引越費用として9万9270円を請求している。
上記①については,原告番号48は,大阪府において家電等を購入しており,それらを北九州市に送付するには一定の費用を要したと推認されるから,上記送付に要した費用は,本件事故と相当因果関係のある引越費用
と認められる。他方,上記②については,上記⑴のとおり,北九州市から春日市への転居は,原告番号48らの騒音への苦情を理由とするものであり,本件事故と相当因果関係があるとは認められないから,その引越費用についても,本件事故と相当因果関係があるとは認められない。

原告番号48は,上記①の引越費用として13万0700円を請求するが,具体的な立証をしていないから,その合理的な額を認定することとする。

原告番号48が大阪府において購入した家電等の具体的内容は明らかではないが,避難の経緯等からすれば,送付した荷物の量はさほど多くなかったものと推認されるから,引越費用は10万円をもって相当と認める。⑶

家財道具購入費用
原告番号48は,大阪府の空き家に移動した後,家電等の家財道具を購入
しており,同購入に要した費用は,本件事故と相当因果関係のある家財道具購入費用と認められる。
原告番号48は,
家財道具購入費用として15万円を請求しているところ,
具体的な立証はないが,上記金額をもって相当と認める。


避難雑費
原告番号48らは,避難雑費として各87万円を請求するが,その具体的内容につき主張立証はないから,避難雑費の請求は認められない。


財産的損害の合計額
原告番号48の財産的損害の合計額は,避難交通費4万5600円,引越費用10万円,家財道具購入費用15万円の合計29万5600円となる。
3
精神的損害
原告番号48らは,本件事故による放射線被ばくに対する不安等を感じ,また,避難によって生活に支障を生ずるなどしたことにより精神的苦痛を被ったと認められる。

原告番号49ないし51については,転居により進路の変更等を余儀なくされ,転居後のカウンセリングで不快な思いをしたり,不登校となったりした時期があったこともうかがわれるが,急に遠方に避難した学齢期の子供においては,進路変更等の不利益や精神的苦痛は通常想定される範囲内のものということができるのであって(なお,不登校については,本件事故との相当因果関係があると認めるに足りない。),18歳以下の子供についてはその他の者よりも第5部で定めた基準において慰謝料が増額されていることも考慮すると,同
基準から更に慰謝料を増額する必要があるとは認められない。また,原告番号48は,本件事故による避難が原因で元夫と離婚するに至った旨主張するが,その原因や経緯等の詳細は明らかではなく,本件事故と離婚との相当因果関係は認められない。
よって,原告番号48に係る慰謝料は25万円,本件事故及び平成24年1
月1日当時18歳以下であった原告番号49ないし54に係る慰謝料額は各75万円とするのが相当である。
4
まとめ


以上によれば,原告番号48らの各損害は,原告番号48につき54万5600円,原告番号49ないし54につき各75万円となる。



原告番号48らに係る損害額(認容額)は,原告番号48につき,上記54万5600円から既払金12万円を控除した42万5600円に相当な弁護士費用4万2000円を加えた46万7600円,原告番号49ないし54につき,上記75万円から既払金72万円を控除した3万円に相当な弁護士費用3000円を加えた各3万3000円となる。

第7部

結論

よって,原告らの被告東電に対する主位的請求は,いずれも理由がないからこれを棄却し,予備的請求は,原告番号1ないし5,13,15,16,21,22,26ないし28,37ないし40,48ないし54の各原告につき,別紙1-2認容額等一覧表の認容額欄記載の各金額及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度でいずれも理由があるからこれを認容し,上記原告らのその余の予備的請求及び上記原告らを除く原告らの予備的請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,原告らの被告国に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第1民事部

裁判長裁判官

徳地淳
裁判官

岩﨑雄
裁判官

工藤明亮日香
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