判例検索β > 平成27年(行ウ)第6号
天ヶ瀬ダム再開発事業公金支出差止等請求事件
事件番号平成27(行ウ)6
事件名天ヶ瀬ダム再開発事業公金支出差止等請求事件
裁判年月日令和2年6月25日
裁判所名・部京都地方裁判所  第3民事部
裁判日:西暦2020-06-25
情報公開日2020-09-07 14:00:26
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1
1実及び理由
請求
被告は,Aに対し1億9288万4000円を,Bに対し5億8738万2000円を,Cに対し12億8771万8000円を,Dに対し2億8391万7000円を,Eに対し8億4498万8312円を,Fに対し14億5137万4674円を,Gに対し3億0279万7511円を,それぞれH及び国と連帯して京都府に支払うよう請求せよ。

2
被告は,H及び国に対し,連帯して,43億6367万9497円を(ただし,1億9288万4000円についてはAと,5億8738万2000円についてはBと,12億8771万8000円についてはCと,2億8391万7000円についてはDと,8億4498万8312円についてはEと,14億5137万4674円についてはFと,3億0279万7511円について
はGとそれぞれ連帯して)京都府に支払うよう請求せよ。
3
被告は,特定多目的ダム法7条1項に基づく天ヶ瀬ダム再開発建設事業に係る負担金及び河川法60条1項に基づく淀川天ヶ瀬ダム再開発建設費に関する直轄治水事業地方負担金を支出してはならない。

第2

事案の概要
本件は,
京都府の住民である原告らが,(国土交通省)

を事業主体とする,
淀川水系宇治川(一級河川)に位置する多目的ダムである天ヶ瀬ダムの再開発事業(以下本件事業という。
)について,本件事業は治水及び利水上の必要
性がないこと,天ヶ瀬ダムが河川管理施設としての安全性を欠いていることな
どから,京都府において本件事業に係る特定多目的ダム法7条1項所定の負担金
(以下
利水負担金
という。及び河川法60条1項所定の負担金

(以下
治水負担金といい,利水負担金と併せて本件各負担金という。
)を支出する
ことは,地方財政法4条及び地方自治法2条14項に反して違法であると主張して,京都府の執行機関である被告に対し,①地方自治法242条の2第1項4号に基づき,京都府文化環境部公営企業課長として平成25年度ないし平成29年度の利水負担金の支出命令をした者(A,B,C,D)及び京都府建設
交通部河川課長として上記各年度の治水負担金の支出命令をした者(E,F,G)並びに当時の京都府知事であった者(H)に対して上記各年度の本件各負担金支出相当額の損害賠償請求をすること並びに国に対して同額の不当利得返還請求をすることを求めるとともに,②地方自治法242条の2第1項1号に基づき,本件各負担金(未払分)の支出の差止めを求める事案である。
1
関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは,以下のとおりである。


特定多目的ダム法及び同法施行令

基本計画
国土交通大臣は,多目的ダム(国土交通大臣が河川法9条1項の規定に
より自ら新築するダムで,これによる流水の貯留を利用して流水が発電,水道又は工業用水道の用(以下特定用途という。
)に供されるものをい
う[特定多目的ダム法2条1項])を新築しようとするときは,その建設。
に関する基本計画(以下基本計画という。
)を作成しなければならない
(特定多目的ダム法4条1項)



建設費の負担(利水負担金)
ダム使用権(多目的ダムによる一定量の流水の貯留を一定の地域において確保する権利をいう[特定多目的ダム法2条2項])の設定予定者は,。
多目的ダムの建設に要する費用のうち,建設の目的である各用途について,
多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水を当該用途に供することによって得られる効用から算定される推定の投資額及び当該用途のみに供される工作物でその効用と同等の効用を有するものの設置に要する推定の費用の額並びに多目的ダムの建設に要する費用の財源の一部に借入金が充てられる場合においては,支払うべき利息の額を勘案して,政令で定めるところにより算出した額の費用を負担しなければならない(特定多目的ダム法7条1項)



利水負担金の納付の方法及び期限等
利水負担金(特定多目的ダム法施行令9条1項2号に掲げる負担金を除く。は,
)毎年度,
国土交通大臣が当該年度の事業計画に応じて定める額を,
国土交通大臣が当該年度の資金計画に基づいて定める期限までに納付する(特定多目的ダム法施行令9条1項1号)



負担金の決定
国土交通大臣は,負担金を徴収しようとするときは,負担金の額を決定し,負担金の徴収を受ける者に通知するものとする(特定多目的ダム法施行令11条の3)



設定の申請の却下
国土交通大臣は,利水負担金を納付しないときに該当すると認めたときは,ダム使用権の設定予定者の設定の申請を却下しなければならない(特定多目的ダム法16条2項2号)



利水負担金の還付
ダム使用権の設定予定者のダム使用権の設定の申請が却下され,又は取
り下げられたときは,その者がすでに納付した利水負担金を還付するものとする。ただし,国土交通大臣は,基本計画を廃止する場合を除き,新たにダム使用権の設定予定者が定められるまでその還付を停止することができる。
(特定多目的ダム法12条)

還付金の額
特定多目的ダム法12条の規定により還付する既に納付した利水負担金の額は,ダム使用権の設定予定者の事業からの撤退により当該事業が縮小され,又は当該事業に係る基本計画が廃止されたときに当該者に還付する場合,当該者が既に納付した利水負担金の額から当該者について特定多目的ダム法施行令1条の1第2項又は4項の規定により算出した額を控除した額(当該者が既に納付した利水負担金の額が上記各規定により算出し
た額を超えない場合にあっては零)とする(特定多目的ダム法施行令14条2号)



河川法及び同法施行令

河川整備基本方針
河川管理者は,その管理する河川について,計画高水流量その他当該河
川の河川工事及び河川の維持(以下河川の整備という。
)についての基
本となるべき方針に関する事項(以下河川整備基本方針という。
)を定
めておかなければならない(河川法16条1項)


河川整備計画
河川管理者は,河川整備基本方針に沿って計画的に河川の整備を実施す
べき区間について,当該河川の整備に関する計画(以下河川整備計画という。
)を定めておかなければならない(河川法16条の2第1項)


一級河川の管理に要する費用の都道府県の負担(治水負担金)
都道府県は,その区域内における一級河川の管理に要する費用(指定区
間内における管理で河川法9条2項の規定により都道府県知事が行うものとされたものに係る費用を除く。については,

政令で定めるところによ
り,改良工事のうち政令で定める大規模な工事に要する費用にあってはその10分の3を,その他の改良工事に要する費用にあってはその3分の1を,災害復旧事業に要する費用にあってはその10分の4.5を,改良工
事及び修繕以外の河川工事に要する費用にあってはその2分の1を負担する(河川法60条1項)


負担金の納付
治水負担金は,政令で定めるところにより,国庫に納付しなければならない(河川法64条)
。国土交通大臣は,治水負担金を負担すべき都道府県
に対し,それぞれその負担すべき額を納付すべき旨を通知しなければならない(河川法施行令38条1項本文)


2
前提事実


当事者等

原告らは,京都府の住民である。


A,B,C及びDは,京都府の文化環境部公営企画課長として,後記のとおり,利水負担金の支出命令をした者である。


E,F及びGは,京都府の建設交通部河川課長として,後記のとおり,治水負担金の支出命令をした者である。


Hは,後記の本件各負担金の支出命令がされた当時,京都府知事の職にあった者である。
なお,京都府が経営する水道事業については,管理者(地方公営企業法
7条本文)が置かれていないため(京都府公営企業の設置等に関する条例3条1項[甲14],京都府知事が管理者の権限を行うことになる(同法)
8条2項)


天ヶ瀬ダムの概要

天ヶ瀬ダムは,一級河川である淀川水系宇治川(京都府宇治市)に設置された特定多目的ダム法2条1項に定める多目的ダムである。


天ヶ瀬ダムは,昭和28年9月の台風13号により宇治川を含む淀川水系に大洪水が発生し,沿岸地域が甚大な被害を受けたことを契機として,昭和29年9月に淀川水系改修基本計画が策定され,同基本計画に基づい
て建設されることとなったアーチ式コンクリートダムであり,昭和34年2月に特定多目的ダム法4条1項に基づく基本計画として天ヶ瀬ダムの建設に関する基本計画(以下天ヶ瀬ダム建設基本計画という。
)が作
成され,宇治川及び淀川の洪水調節(治水)に加え,発電及び水道(利水)を目的とする多目的ダムとして,昭和39年に完成した。
(甲4,25,乙
42)

天ヶ瀬ダム建設基本計画は,
建設の目的を以下のとおりとしている
(甲25)

洪水調節
天ヶ瀬ダム地点における計画高水流量1360㎥/sを220㎥/sに調節し,淀川三川(宇治川,木津川,桂川)合流地点における計画高水流量に対する宇治川の合流量を260㎥/sに低減させる。

発電
天ヶ瀬ダムの建設に伴い建設される天ヶ瀬発電所において,最大出力9万2000kwの発電を行う。
水道
京都府宇治市,城陽町(当時)
,久御山町及び八幡町(当時)に対する

上水道用水として,最大0.3㎥/s,平均0.197㎥/sを供給する。


天ヶ瀬ダムの再開発事業(本件事業)

建設大臣
(当時)
は,
天ヶ瀬ダムの再開発に関し,
平成7年3月28日,
特定多目的ダム法4条1項に基づく基本計画として
天ヶ瀬ダムの建設(再開発)に関する基本計画
(以下天ヶ瀬ダム再開発基本計画という。

を作成した(乙13,14)


天ヶ瀬ダム再開発基本計画は,
建設の目的
を以下のとおりとしている
(乙13,14,23,24)


洪水調節
天ヶ瀬ダムの再開発により,天ヶ瀬ダム地点における計画高水流量2080㎥/sのうち,940㎥/sの洪水調節を行う(ただし,平成23年3月8日の基本計画変更後のもの。同変更前は,計画高水流量2300㎥/sのうち,1100㎥/sの洪水調節を行うとされていた。。)
なお,琵琶湖の水位低下のための瀬田川洗堰の操作が行われている時において,流入量最大1500㎥/sの放流能力を確保する。

水道
京都府に対し,天ヶ瀬ダム地点において,新たに1日最大5万1840㎥(0.6㎥/s)の水道用水の取水を可能ならしめる。
発電
天ヶ瀬発電所及び木撰山発電所(揚水発電)において,それぞれ最大
出力9万2000kw及び最大出力46万6000kwの発電を行う。ウ
本件事業は,天ヶ瀬ダム再開発基本計画における治水(上記イ
利水(同

及び

)の目的を天ヶ瀬ダムの放流能力を高めることによって

達成しようとするものである。その具体的な内容は,天ヶ瀬ダムのダム湖左岸から宇治川左岸までトンネル式放流設備(延長617m,導流部にお
ける内径10.3m,減勢池部における幅最大23m,高さ最大26m,計画最大放流量600㎥/s。以下本件放流設備という。
)を建設する
というものであり,これにより,天ヶ瀬ダムの計画放流量を,840㎥/sから1140㎥/sに増強するとされている。
(甲3,4)
本件事業について,平成25年6月16日に起工式が行われ,本体工事
が開始された(甲4)


京都府
(京都府営水道)天ヶ瀬ダム再開発基本計画の策定に当たり,
は,
特定多目的ダム法15条1項に基づくダム使用権の設定の申請をしており,同基本計画において,水道に係るダム使用権設定予定者とされている。


天ヶ瀬ダムにおける京都府の水利権
京都府(京都府営水道)は,天ヶ瀬ダムを取水口とする0.3㎥/sの水利権(安定水利権)を有していたところ(前記⑵


,天ヶ瀬ダム再開発基

本計画策定後の平成7年9月18日,水利権の変更を申請し,平成8年6月4日,上記安定水利権に加え,同基本計画におけるダム使用権設定予定者であることを前提とする暫定豊水水利権として,0.804㎥/sの水利権が認められた。その後,暫定豊水水利権は0.6㎥/sに変更され,現在に至
っている。
(乙31,38,弁論の全趣旨)


本件各負担金の支出

本件各負担金の支出命令に係る権限は京都府知事に属するところ,利水負担金については文化環境部公営企画課長が(京都府公営企業処務規程5条1⑺)治水負担金については建設交通部河川課長が,
(部課長専行規定1

,それぞれ専行するものとされている。

京都府は,平成25年度から平成29年度にかけて,国土交通大臣から本件各負担金の納付通知(以下本件各納付通知という。
)を受け,以下
のとおり,利水負担金については当時の文化環境部公営企画課長(平成2
5年度はA,平成26年度はB,平成27年度及び平成28年度はC,平成29年度はD)治水負担金については当時の建設交通部河川課長が,
(平
成25年度及び平成26年度はE,平成27年度及び平成28年度はF,平成29年度はG)
がそれぞれ支出命令を行い,
本件各負担金を支出した。
平成25年度

利水負担金

4億8657万5000円(ただし,本件訴訟における
損害賠償請求等の対象は,うち1億9288万4000円)

治水負担金

3億2865万2686円(ただし,本件訴訟における
損害賠償請求等の対象は,うち3億0522万1686円)

平成26年度
利水負担金

5億8738万2000円

治水負担金

5億3976万6626円
平成27年度
利水負担金

9億1520万0000円

治水負担金

10億4462万9490円

平成28年度
利水負担金

3億7251万8000円

治水負担金

4億0674万5184円

平成29年度
利水負担金
治水負担金


2億8391万7000円
3億0279万7511円

住民監査請求
原告らは,平成26年10月28日,京都府監査委員に対し,本件各負担金の支出は違法であるから必要な措置を講ずることを求める旨の住民監査請求をしたが,同請求は,同年12月26日,棄却され,同月27日,原告らに対してその旨通知された(甲1,2,弁論の全趣旨)




本件訴え提起
原告らは,平成27年1月23日,本件訴えを提起した。

3
争点
本件の争点は,本件各負担金の支出の違法の有無であり,これに関する当事者の主張は,以下のとおりである。

(原告らの主張)


本件各支出を行った会計管理者の行為自体が財務会計上の義務に違反する違法なものであるとき,
本件各支出は違法となる
(最高裁昭和61年
(行ツ)
第133号平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)
。そして,地方自治体は,法令の遵守を求められており(地方自治法
2条16項)
,財政については必要最小限の経費としなければならず,
(地方
財政法4条1項)地方公共団体の負担金について,

国が法令違反をしている
ときは,
負担金を支出せず又は返還を求めることができる
(同法25条3項)
のであるから,本件各負担金のように国の納付通知に基づく支出を行う場合であっても,会計管理者において,国の納付通知が法令に違反しているか否かを判断し,法令に違反しているときは漫然と支出を行ってはならない財務会計上の義務がある。

したがって,本件各負担金の支出に当たる会計管理者としては,国の納付通知が法令に違反しているか否かを判断しなければならず,法令に違反しているにもかかわらず漫然と本件各負担金を支出した場合には,その支出は財務会計上違法となる。


以下のとおり,本件各納付通知は,地方財政法4条及び地方自治法2条14項に反して違法であるから,本件各負担金の支出は違法である。仮に,本件各納付通知に違法があるからといって本件各負担金の支出が直ちに違法となるものでないとしても,以下の事実に照らせば,本件各納付通知には,重大かつ明白な違法ないし瑕疵があり,又は外形上一見して看取で
きる違法ないし瑕疵があるといえるから,
本件各負担金の支出は違法である。

治水上の必要性がないこと
本件事業は,以下のとおり,治水上の必要性を欠き,本件事業に係る費用は一級河川の管理に関する費用
(河川法60条1項)
とはいえないから,
これを京都府に負担させることはできず,本件各納付通知は違法である。
基本高水流量及び計画高水流量が過大に設定されていること
本件事業は,宇治地点(山科川合流地点)における計画高水流量を1500㎥/sと設定して,天ヶ瀬ダムコンジットゲートの放流能力840㎥/s
(宇治川発電所からの放流量60㎥/sと併せて900㎥/s)
に加えて本件放流設備の建設によって600㎥/sの放流能力を増強す
ることで合計1500㎥/sを確保するという計画になっており,宇治地点における計画高水流量1500㎥/sに合わせた形で600㎥/sの放流能力のある本件放流設備の建設が必要であるというのである。しかし,以下のとおり,宇治地点における計画高水流量自体が過大に設定されており,それに合わせるように本件事業が計画されたものであるから,本件事業の必要性についての上記判断は,合理性を欠く。
a
宇治地点における計画高水流量の設定の前提となる淀川・枚方地点の基本高水流量は,淀川・宇治川の治水計画である淀川工事実施基本計画が昭和46年に改訂された結果,基本高水流量が8650㎥/sから1万7000㎥/sへと約2倍になっている。しかし,その理由について合理的説明がつかず,根拠が明らかでない。改訂前の淀川工事実施基本計画では,実績降雨を基にして求める確率洪水によって基
本高水(基本高水流量を決める前提となるハイドログラフ)が決定されていたのに対し,
改定後の淀川工事実施基本計画は降雨
(2日雨量)
の資料を用いた計算結果から基本高水が決定されており,実績に基づかない机上の計算で決定されている点で合理性を欠く。
b
基本高水流量を1万7000㎥/sと決定する際,
カバー率は91.
2%が採用されているが,国土交通省技術基準案のカバー率は60%~80%とされ,その中位70%を採用すると1万6000㎥/sとするのが妥当であって,1000㎥/s分が過大になっている。

c
上記改訂後の淀川工事実施基本計画においては,天ヶ瀬ダムで洪水調節をして1200㎥/sを一定量放流することで宇治地点での計画高水流量を1500㎥/sにするという計画になっており,天ヶ瀬ダムから宇治地点までに300㎥/sの増加を見込むとになるが,この間に放流が加わるのは宇治発電所の60㎥/sくらいでほかの川の流量は僅かであって,到底300㎥/sも増えるとは考えられない。宇
治地点における1500㎥/sという計画高水流量は,本件事業で600㎥/sの放流能力の必要性を理屈づけるためのこじつけにすぎない。
過去の実績からみても放流能力を増強する必要はないこと
天ヶ瀬ダムからの放流量についての過去の実績をみても,放流量が900㎥/sを超えたことは2回しかなく,うち1回は超えたといっても約910㎥/sにすぎないし,
他の1回は約1160㎥/sであったが,
このときは予備放流を実施しなかったためにこのような緊急放流を余儀なくされたのであり,適切な予備放流をしていればこのような放流は避けられた。したがって,900㎥/sを超える放流を余儀なくされる可能性は限りなくゼロに近く,本件放流設備を建設する必要性はない。天ヶ瀬ダムは十分な放流能力があること

a
宇治地点の計画高水流量を1500㎥/sとすることを前提としても,天ヶ瀬ダムは,サーチャージ水位標高78.5mで1630㎥/sの放流能力を有しているから,
本件放流設備を新設する必要はない。

b
また,本件事業による再開発後の天ヶ瀬ダムの計画放流量は1140㎥/sであるが,平成25年9月の台風18号豪雨時の放流量はピ
ーク時に1151㎥/sであり,現在の天ヶ瀬ダムは再開発後の計画放流量を上回る放流能力があるから,本件放流設備を新設する必要はない。
洪水調節機能強化及び琵琶湖後期放流対応との目的に照らして必要性がないこと
本件事業は,洪水調節機能強化のために1140㎥/sの,琵琶湖後期放流対応のために1500㎥/sの各放流能力を備える必要があることを理由に,天ヶ瀬ダムの放流能力を増強するものであるが,以下のとおり,それらの目的に照らして必要性がない。

a
放流量を840㎥/sから1140㎥/sに300㎥/s増強した場合,予備放流の場面でダム湖の水位を最低水位58mまで下げる時間を300㎥/s分だけ短縮でき,また,洪水調節時にはダム湖が満杯になるまでの時間を300㎥/s分だけ遅延させることができることになるが,
理論上,
予備放流の場面で短縮できる時間は1.
5時間,
洪水調節時に延長できる時間は1.4時間にすぎず,洪水調節機能強化にもたらされる効果は微々たるものにすぎない。

b
琵琶湖からの後期放流のために1500㎥/sの放流能力を確保するという目的については,琵琶湖総合開発事業の成果として既に琵琶湖沿岸浸水被害が大幅に軽減されている今日,その必要性はなくなっている。

上流及び下流の流下能力との関係で無意味な事業であること
天ヶ瀬ダム下流の宇治川の流下能力は,距離標46.5km~52kmの区間が1500㎥/sを下回っており,最も小さいところでは730㎥/sしかない。天ヶ瀬ダム上流の瀬田川の流下能力は,宇治川に比べて全般的に小さく,1500㎥/sを下回っている区間の方が多い。
優れた景観を有し市民のレクレーションの場として有名な鹿跳渓谷においては730㎥/sしかない。したがって,本件事業で天ヶ瀬ダムのみ1500㎥/sの放流能力を確保しても,上流から1500㎥/sの水が流れて来ないし,下流に1500㎥/sの水を流すことができないのであるから,本件事業は無意味な事業である。

その他治水上の費用対効果が乏しいこと
近畿地方整備局は,淀川水系河川整備基本方針及び淀川水系河川整備計画を受けて,本件事業の完成前後における調整可能洪水数について25のパターンでシミュレーションをし,本件事業によって貯水容量の範囲内に収まるパターンが,13パターンから16パターンへと3パター
ン増加するとしているが,シミュレーション自体が実際には考えにくい大洪水を前提にしており,また,天ヶ瀬ダムは実際には1885万㎥の貯水が可能であるにもかかわらず貯水容量を1667万㎥としてシミュレーションしているのであって,本件事業の必要性を基礎づける事実が欠如している。その上,上記シミュレーションにおいてすら,本件事業によって貯水容量に収まるパターンが25パターン中3パターンしか増加しないことからすれば,本件事業は,治水面での費用対効果が極めて
乏しい。

利水上の必要性がないこと
本件事業は,以下のとおり利水上の必要性を欠くから,京都府が本件事業に係る費用を支出することは許されず,本件各納付通知は違法である。暫定豊水水利権を安定水利権化する必要性はないこと

a
天ヶ瀬ダムでは,昭和44年以降,京都府において0.9㎥/sの取水をしているが,特段の問題は生じておらず,また,暫定豊水水利権による取水の条件を満たさずとも安定水利権の範囲を超えて取水している日が多数あるにもかかわらず,何らの弊害も生じていないので
あって,本件事業にかかわりなく,既に0.9㎥/sが安定水利権化しているということができる。これを安定水利権とせずに暫定豊水水利権としてきたのは,国が本件事業に利水名目で費用を拠出させるために恣意的に運用しているにすぎない。
また,宇治川の宇治観測所における流量観測では,渇水期において
概ね60~70㎥/sが観測されているところ,その数値は10㎥/s程度の誤差があることが指摘されている。これに対し,本件において安定水利権化しようとする0.6㎥/sは流量全体の1%程度にしか当たらず,観測誤差に吸収され得る程度にすぎない。そのため,これまで0.9㎥/sの取水をしても何らの弊害も生じてこなかったの
であり,実態としては既に0.9㎥/sの取水は安定水利権化しているということができる。
したがって,暫定豊水水利権を安定水利権化する必要はない。
b
京都府営水道は,各水系に応じて宇治浄水場,木津浄水場,乙訓浄水場の3浄水場から各市町村に供給しているところ,3浄水場全体の一日最大給水量は,平成13年度までは増加傾向にあったが同年度以
降は横這い又は漸減の傾向にあり,平成13年度(2001年度)は13万6635㎥であったものが平成28年度(2016年度)は12万3580㎥となっている。さらに京都府全体の人口も平成22年(2010年)には264万人であったものが2040年には16%減少し222万人になる(宇治川水系の4市町については平成27年
(2015年)
から2045年までの間に人口が68%になる。と推

測されている。このように,京都府全体の水需要は低下しており,将来的にも上記人口推移に伴って著しく低下することが予測されており,京都府営水道全体の1日最大給水量は2040年度には10万5000㎥にまで減少すると予測されている。

これに対し,京都府営水道全体における安定水利権は約17万4000㎥/日(宇治浄水場2万5920㎥/日,木津浄水場7万7760㎥/日,乙訓浄水場7万4304㎥/日の各取水量に98%を乗じて給水量に換算したものの合計。あり,

現在の各浄水場の浄水能力
(宇
治浄水場7万2000㎥/日,木津浄水場4万8000㎥/日,乙訓
浄水場4万6000㎥/日)を前提としても約11万9000㎥/日を共有できる。
そして,
平成23年度から久御山広域ポンプ場により,
3浄水場の広域的な水供給が行えるようになり,相互融通する仕組みは整っているから,本件事業の完成時から間もないうちに,現在の安定水利権と設備で水需要を賄えることになる。

さらに,木津浄水場は,木津川の比奈知ダムのほかに水系の異なる桂川の日吉ダムをも水源とすることが認められているから,宇治浄水場においても,天ヶ瀬ダムのほかに比奈知ダム又は日吉ダムを水源とすることも可能である。また,木津浄水場及び乙訓浄水場は,それぞれの浄水能力を安定水利権が上回っており,使用していない安定水利権があり,これを宇治浄水場に振り分けることをすれば,現在の1日最大給水量を上回る供給を行うことができる。

したがって,暫定豊水水利権を安定水利権化する必要はない。
水道事業に関する効用はないこと
本件事業は,洪水時の放流能力を増大させるためのものであって,渇水時には全く稼働することは想定されておらず,基準渇水流量を増大させるものではない。本件事業のように既存のダムにトンネル洪水吐を増
設する事業は,肘川の鹿野川ダム改造事業以外に見当たらないが,鹿野川ダム改造事業においては利水である発電容量等を低下させて洪水調節機能を増強させている。すなわち,トンネル洪水吐に利水としての効用はなく,むしろ治水事業のために発電容量を低下させている。このように,
トンネル洪水吐は,
渇水期における流量を増大させるという利水
(水

道事業)
のために必要な効用を備えておらず,
流水の貯留を利用して流水を当該用途に供することによって得られる効用特定多目的ダム法7(
条1項)はない。

天ヶ瀬ダム及び本件放流設備が河川管理施設としての安全性を欠くこと河川管理施設である天ヶ瀬ダム及び本件放流設備は,安全な構造でなければならず(河川法13条1項)
,河川管理施設のうち,ダム,堤防その他
の主要なものの構造について河川管理上必要とされる技術的基準は,政令で定めることとされ(同条2項)
,これを受けた河川管理施設等構造令(以
下構造令という。
)が上記技術的基準を定めている。そして,構造令が

定める技術的基準は,河川管理施設等の新築又は改築時はもちろんのこと,当該河川管理施設等の存続期間においても適用され,河川管理施設等が存続している限り,河川管理における安全確保のために常に充足しなければならない基準である。しかるに,以下のとおり,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備は,河川法等が河川管理施設の安全性確保の要請に基づき定めている上記基準を充足しない違法な状態にある。
天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の耐震性欠如等の危険性

a
天ヶ瀬ダム設置区域の断層,活断層の存在
天ヶ瀬ダムが設置されている区域は,京都府を含む近畿地方北部
のいわゆる近畿トライアングル(敦賀湾を頂点として,中央構造線の淡路島から伊勢湾までの区間を底辺とする三角地帯)といわれて
いる区域にあり,多くの活断層が密集しており,我が国で最も活断層が多い地域の一つである。京都府が実施した京都府地震被害想定調査(甲26の1~11)においても,天ヶ瀬ダムが設置されている区域及び本件放流設備設置区域の周辺に,花折断層帯,桃山-鹿ケ谷断層,黄檗断層,奈良盆地東縁断層帯,和束谷断層,琵琶湖西
岸断層帯,宇治川断層,有馬-高槻断層,木津川断層帯等の活断層が存在するとし,
上記各断層に起因する地震規模の想定をしている。
さらに,
平成14年度に国が実施した活断層調査
(第四紀断層調査)
による調査結果(甲67,乙30[42頁]
)でも,天ヶ瀬ダム(本
件放流設備設置予定地を含む。から半径3kmの範囲内には,

6つ

の線状模様(活断層の可能性があるもの)の断層があるとされている。
実際にも天ヶ瀬ダム建設中の昭和31年及び昭和35年には,工
事中の天ヶ瀬ダム左岸のダム堤体根付け付近において,大規模な崩落が発生した事実がある。さらに,天ヶ瀬ダム付近から上流へ田原
川との合流点や田原川に入った辺りまでは,川沿いの道路建設以来今日まで,道路に面した斜面の崩壊が多発しており,元々崩壊しやすい地質的素因があるからであり,しかもその周辺は,黄檗断層系の延長部に当たるとの指摘がされている。このため,天ヶ瀬ダムのダム湖周辺の山・斜面の崩落,地滑り等によるダム津波が発生する危険性も否定できない。


上記特徴を有する天ヶ瀬ダム周辺の断層は,
地質学等の観点から,
近畿地方北部のいわゆる近畿トライアングルには,南北性の地塁が特徴的に発達しているが,その他にも有馬-高槻構造線,宇治川断層,和束谷断層,木津川断層などの東西性の規模の大きな活断層がある。天ヶ瀬ダム直下断層が,これらの断層を形成した変動に起因する可能性も考慮する必要がある。また,断層の延長方向が南北から東西方向に向き曲がり,東西性断層に合流するような断層構造が各地にあることも注目されなければならない。天ヶ瀬ダム直下断層も黄檗断層と成因的類似性をもつ可能性が考えられる。そうでないとしても,ダム堤体直下に幅10m以上の未固結の破砕帯が存在している事実は重視すべきである。と評価され,問題があることが

指摘されている。
また,天ヶ瀬ダム周辺には,確認されている上記の活断層とは別
に,いくつかの断層が存在しており,天ヶ瀬ダムの耐震性の存否に関連して問題視されている。特にF-0層といわれる天ヶ瀬ダ
ム直下にある断層については,地質学等の専門家から,活断層であ
る可能性が高いこと,それが活断層でないとしても天ヶ瀬ダム地点が上記の複数の活断層に近接していることから,天ヶ瀬ダム施設の耐震性に疑問があると指摘されている。
b
天ヶ瀬ダムの耐震性能
天ヶ瀬ダムは昭和39年に完成したが,当時の耐震性基準は,大
正12年に発生した関東大震災(海溝型地震でマグニチュード7.9)を想定した震度法に依拠していたものと推定される。
しかし,天ヶ瀬ダム建設後の平成7年に発生した内陸型直下地震
である阪神淡路大震災(マグニチュード7.3)を踏まえたダムの耐震性能照査の再検討が実施され,平成17年3月に大規模地震に対するダム耐震性能照査指針(案)(甲19)が公表され,現在
に至っている。その後,平成23年3月11日に発生した東日本大震災(海溝型地震でマグニチュード9.0)発生時には,藤沼ダム(福島県須賀川市。堤高18.5m,堤頂長133.2m,アースダム)が決壊し,死者7名,行方不明者1名の被害が発生した事例も確認されている。
東日本大震災は,
大規模地震に対するダム耐震性能照査指針(案)が想定した阪神淡路大震災に比べて,震度,マグニチュードともにより大きな地震であった。そして,この東日本大震災による建物,構造物等の被害調査を踏まえた河川構造物等の耐震性能照査指針の見直しは,
平成24年2月に一部公表されたが,
現時点で公表されている河川構造物の照査対象は,堤防,水門・樋
門等に限られており,ダムについての耐震性能照査指針の見直しについては,未だ公表されていない。


天ヶ瀬ダムにおいては,昭和39年の完成後から現在までの間,
耐震性補強工事が実施された形跡はない。特に,天ヶ瀬ダムについ
ては,耐震性基準の見直しがされた阪神淡路大震災後,さらには東日本大震災後のいずれにおいても,大規模地震に対するダム耐震性能照査が実施されたことがない。平成21年3月31日に策定された淀川水系河川整備計画(甲6)にも,
淀川大堰,毛馬排水ポンプ場の重要構造物については,耐震点検を実施の上,対策を行っているが,その他の河川管理施設の多くについては耐震点検が実施されておらず安全性がまだ確認されていない。と記述されており,天ヶ
瀬ダムについては,建設地点において予想すべき最大級の地震動に対する耐震性能照査は実施されておらず,その安全性が確認されていない。
したがって,
天ヶ瀬ダムの耐震性能が確認されていない現状では,
天ヶ瀬ダムの供用を継続すること自体に重大な疑問があり,この上
さらに本件事業により本件放流設備設置工事を実施することは危険極まりないこととみるべきであるし,本件放流設備の設置目標が実現できるかについても重大な疑義がある。
c
本件放流設備の設置工事による崩壊の危険性
上記のとおり,天ヶ瀬ダム設置区域や本件放流設備設置区域の周

辺の地盤については,
耐震性確保に疑問があると指摘されているが,
特に,天ヶ瀬ダム建設中の昭和32年及び昭和35年には,天ヶ瀬ダム左岸の堤体根付け付近において,大規模な崩落が発生した事実がある。このため,天ヶ瀬ダム建設後においても,天ヶ瀬ダム左岸の地盤の強度については重大な疑問がある。



本件放流設備は,まさに上記のとおり地盤強度に重大な疑問があ
ることが指摘されている天ヶ瀬ダム左岸に設置されるものであるところ,その設置については,本件放流設備の強度確保,安全性の確保の観点からのみならず,アーチ式コンクリートダムである天ヶ瀬ダムの左岸地盤の支持力を脆弱化させるとの疑いがある。

安全管理のための計測機器の設置不備等
a
河川管理施設は,その安全性確保の必要性から河川管理設備等の構造の基準が厳格に設定されており,河川管理施設である天ヶ瀬ダム及び本件放流設備についても,新築又は改築時はもちろんのこと,その
施設等の存続期間中においても河川法及び構造令等が定める技術的基準を常時充足しなければならない。
そして,
河川管理施設の管理者は,
河川管理施設を良好な状態に保つように維持し,修繕し,もって公共の安全が保持されるよう努めなければならないとされており(河川法15条の2)上記の河川管理施設の維持又は修繕に関する技術的基準,
その他必要な事項を定める河川法施行令9条の3の定め等に則って点検等を実施し,必要な措置を講じなければならない。特に,ダム等の
重要な河川施設については,ダムの維持管理面から構造に対する必要な安全を常に監視,確認し,ダム等が致命的な破壊に達する以前に,その徴候を把握して適切な措置を講ずることが最優先されなければならないため,構造令は,ダム等については,その種類及び規模に区分して,新築,改築時,そしてその後の施設存続期間中の管理における
安全管理上基本となる計測事項を含め,ダム等に必要な装置(計測器等)を設置することを義務付けている(構造令13条)

b
天ヶ瀬ダムは,アーチ式コンクリートダムであり,基礎地盤から堤頂までの高さが30m以上(73m)であることから,漏水量,変形
(歪又は応力,内部温度,継目の開き等)
,揚圧力が計測事項とされて
いる。また,ダムには,地震加速計の設置が求められている。
しかし,天ヶ瀬ダムの現在の計測器等の設置状況に関し,①天ヶ瀬ダムの右岸,左岸,堤底等の岩盤に設置されていた計測装置が利用できない状況にあること,②ダム躯体内部に設置すべき測定装置として
は唯一プラムラインが残っているのみで,プラムライン以外の計測装置は埋め殺しされ,かつ修理や交換ができないこと,③プラムラインについては,平成9年に更新されたようだが,それから約20年を経過していることからその機能に疑問があること,④プラムラインは,ダム躯体中央部の上下,左右の変位状況を記録するものであって,プ
ラムライン以外には,他のダム躯体部分の変位量を把握するための計測器は設置されていないこと,⑤天ヶ瀬ダム管理者が必要最小限度の空洞を設けて設置していると説明している計測装置の内容,測定状況等が不明であることからすれば,天ヶ瀬ダムには,その安全性を確保するために必要な計測装置が設置されているとはいえない。
天ヶ瀬ダム建設・供用に伴う放流水による低周波音被害防止対策の欠陥
天ヶ瀬ダム完成直後から,ダム放流時に,宇治市a区内を中心とした地域において,地区内の家屋への振動(がたつきや揺れ)及び地区内住民の心身に対する圧迫等の低周波音による被害が発生し続けている。また,既設の天ヶ瀬ダムからの放流による低周波音の影響に加えて,本件放流設備設置による低周波音の影響があることが予測される。a区内へ
の低周波音影響は5~20Hzレベルの周波数域によるものであり,低周波音対策として5~20Hzレベルの周波数域に対応する影響調査を実施し,その結果を踏まえた低周波音低減策をとることが必要であるところ,これまでの検討,対策では効果的な低周波音低減策は確認されていないし,見通しも立っていない状況にある。


環境への悪影響
本件事業は,宇治川上流域及び下流域の環境に影響を及ぼすものであるから,その環境に配慮しなければならない。
下流域では,塔の島とその周辺地区は,世界遺産である平等院や宇治上
神社をはじめとした歴史的文化遺産が点在し,宇治川や周辺の山々の自然景観からなる宇治の文化的景観の選定地区である。宇治の文化的景観を構成する重要な要素である宇治川の鵜飼が,本件事業に伴う流量の増大により実施が困難となっている。
宇治川の鵜飼は,
夏の風物詩とされ,
歴史的,
文化的に貴重な伝統行事であるが,本件事業の前提となる河床掘削の影響
により実施が困難となっており,本件事業によってさらに流量が増大すれば実施ができなくなる。上流域についても,本件事業によって琵琶湖から流れる流水量を人工的に操作することになり,琵琶湖に人口的な水位変動をもたらすため,琵琶湖を含めた周辺河川環境に影響を及ぼし,生態系に影響を与えることとなる。
近畿地方整備局琵琶湖河川事務所は,平成25年3月,本件事業による環境影響の調査について報告しているが(甲35)
,同報告は,具体的な影

響を示した上で,対策が講じられたことで低減される効果を示すものとはなっておらず,河川法の目的に河川環境の整備と保全(同法1条)が追加された趣旨及び環境影響評価とは環境への影響を調査,予測及び評価し,環境の保全のための措置を講じた場合における環境影響を検討することであること(環境影響評価法2条1項)からすると,環境影響の検討は尽
くされていないというべきである。また,同報告においては,塔の島付近の景観には全く触れられておらず,上流域については,優れた景観から景勝地とされている鹿跳渓谷を含め,河川環境への影響と対策は検討されていない。

手続上の瑕疵があること
平成9年の河川法改正により,河川整備計画の策定に当たっては,学識経験者の意見を聴かなければならないものとされ(河川法16条の2第3項)
,各方面からの専門的知識経験を結集し整備計画に反映させようという趣旨が盛り込まれた。これに基づき,平成13年に淀川水系流域委員会
が設置された。同委員会は,本件事業について,当初は,ダム下流の塔の島地区の歴史的,文化的景観を考慮して河床掘削を極力抑制した流下能力の増大法の検討,宇治川堤防の強化を前提として,賛成の意見を述べていたが,それらの検討が十分なされていないとして,本件事業の必要性が認められず,見直すべきであるとの趣旨の意見を述べた。

しかし,淀川水系流域委員会は,上記意見提出後の平成20年6月20日に審議を打ち切られ,委員会の意見を全く反映しない淀川水系河川整備計画が策定された。これは,上記河川法の趣旨に反するものであり,本件事業遂行の手続には瑕疵がある。
(被告の主張)


予算の適正な執行に当たることを義務付けられている京都府知事としては,法令上,本件各負担金を支出する義務を負っているものであるから,本件各
負担金の支出が違法となるのは,国土交通大臣による本件各納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があり,又は外形上一見して看取できる違法ないし瑕疵がある場合に限られる。
本件事業は,淀川・宇治川の洪水被害の低減を図り,琵琶湖水位の速やかな低下に資するとともに,新たな水道用水の確保及び発電能力の増強を図る
ことを目的として,天ヶ瀬ダムの放流能力を増強する事業であって,国土交通大臣がした本件各納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があり,又は外形上一見して看取できる違法ないし瑕疵があるといえないことは明らかであるから,本件各負担金の支出が違法となることはない。


原告らが本件各負担金の支出が違法であることの根拠として主張する事実は,以下のとおり,理由がない。

治水上の必要性
基本高水流量及び計画高水流量の設定
宇治地点における基本高水流量及び計画高水流量が過大に見積もられ
ているとの主張は争う。
a
治水計画については,河川管理者である国土交通大臣がその権限と責任により定めるものであるところ,本件事業の根拠である淀川水系河川整備基本方針(甲5)及び淀川水系河川整備計画(甲6)は,専門家らの意見を踏まえた十分な審議に基づいて治水計画を策定し,過
去の洪水等を踏まえ,将来における安全を確保する見地から,一定の合理性をもって基本高水流量及び計画高水流量を定めたものであることが窺える。計画高水流量等は,一義的に定まるものではなく,治水計画全体の中でいくらと設定するのが合理的かという事項であり,本件において一見して不合理とみるべき点はない。
b
宇治地点の計画高水流量は,天ヶ瀬ダム及び宇治川発電所からの放流量のほか,天ヶ瀬ダム下流の志津川や白川等からの流出量も加えて
1500㎥/sとされているものであるから,何ら不合理なものではない。
過去の実績からみた放流能力の必要性
平成25年台風18号時に予備放流を行わなかったのは,予備放流基準に達しなかったからであるが,予測降雨の活用を検討するなどして予備放流の更に適切な実施に努めるとしても,想定を超える自然現象の発生は完全には避けられないということを考えれば,現在の放流能力1100㎥/sを1500㎥/sに増大させるという治水計画を不合理ということはできない。
天ヶ瀬ダムの放流能力

a
天ヶ瀬ダムの放流能力が,サーチャージ水位標高78.5mで1630㎥/sとされるのは,天ヶ瀬ダム計画時における異常洪水流量の値であり,コンジットゲートからの放流能力はサーチャージ水位時で1100㎥/sとされ,クレストゲートからの放流量がサーチャージ
水位時で680㎥/sであり,これらを併せて1630㎥/sの放流量が十分確保されるというものである。貯水池の水位と関係付けずに放流量を論じることは無意味であり,天ヶ瀬ダムでは,発電最低水位(標高68.6m)で規定の放流能力が確保されていることを前提として洪水調節等の操作を行う仕組みとなっており,クレストゲートの
標高は74.5mであり,発電最低水位である標高68.6mにおいてはクレストゲートからの放流能力を見込むことはできない。したがって,天ヶ瀬ダムは1500㎥/sを超える放流能力があるから本件事業は不要であるとするのは誤りである。
b
平成25年9月の台風18号豪雨時の放流は,天ヶ瀬ダムの洪水調節容量を超える可能性があったため,クレストゲートを使用する異常洪水時防災操作と計画上の安全率によって危機管理的に運用されたも
のである。洪水を安全に流下させるという場合に想定しているのは,コンジットゲートからの放流であり,クレストゲートは天端からの越流を防ぐための非常用である。平成25年9月の台風18号による豪雨時にそのような非常事態が現実に生じてしまったことから,そうした事態を踏まえて再開発における放流能力等を検討することは何ら問
題がない。非常時の事態を捉えて,放流能力を有していると評価することは誤りである。
洪水調節機能強化及び琵琶湖後期放流対応との目的に照らした必要性a
本件放流設備は,洪水調節容量を大きくすることなく洪水調節機能を強化するものであり,事業前に比べてより大きな洪水に対して安全に洪水を流下させることが可能となる。

b
琵琶湖総合開発によって沿岸浸水被害の軽減が図られていることを示す文献はあるが(甲28)
,あくまで昭和47年7月(琵琶湖基準水

位+92cm)と平成7年5月(琵琶湖基準水位+93cm)の各出水実績による浸水被害を比較したものにすぎずない。瀬田川堰堤操作規則に定める計画高水位は琵琶湖基準水位+1.40mであり(瀬田川洗堰操作規則8条[甲24],琵琶湖総合開発の結果によっても,)
この計画高水位での沿岸浸水被害の解消は図られていない。本件事業
は,洪水等により上昇した琵琶湖の水位を速やかに低下させることで浸水日数を減じる効果があり,浸水被害の縮小ないし解消に有効である。
上流及び下流の流下能力との関係
淀川水系河川整備計画(甲6)では,対象期間を概ね30年間とし,瀬田川では,琵琶湖の後期放流に対応するため,大戸川合流点より下流において,1500㎥/sの流下能力を確保する。このため,大戸川合流点から鹿跳渓谷までの河床掘削を継続実施する。優れた景観を形成している鹿跳渓谷については,学識経験者の助言を得て,景観,自然環境の保全や親水性の確保などの観点を重視した河川整備について検討して実施する。とされているから,原告らの指摘は当たらない。その他治水上の費用効果

国土交通省近畿地方整備局のシミュレーションは,
洪水規模について,
国土交通省河川砂防技術基準に従い,実際に発生した洪水を基に計画規模に応じて基準地点上流域の降雨発生確率を1/200,1/150,1/100となるように設定されたもので合理的である。
2013年9月の台風18号豪雨時の貯水容量1885万㎥というの
は,天ヶ瀬ダムの洪水調節容量を超える可能性があったため,クレストゲートを使用する異常洪水時防災操作と計画上の安全率によって危機管理的に運用されたものであるから,貯留量を1667万㎥としてシミュレーションを行うのは合理的である。
また,洪水調節機能は天ヶ瀬ダムのみが担うものではなく,淀川水系
河川整備基本方針で設定された河道整備が完了し,大戸川ダム等の洪水調節施設が完成することにより,全てのパターンにおいて洪水調節機能を果たし,目標とする治水安全度が達成されるものである。
本件事業は,近畿地方整備局事業評価監視委員会においても事業継続すべきとされ,費用対効果が極めて不当という判断はされていない。

利水上の必要性
暫定豊水水利権を安定水利権化することの必要性
a
京都府営水道の宇治浄水場は,
有する水利権0.
9㎥/sのうち0.
6㎥/sを暫定豊水水利権に依存して取水している状況にあり,安定水利権を得て安定化を図るためには,本件事業への利水参画が必要である。京都府が0.9㎥/sの取水をしてきたのは,急激な都市化に
伴う水需要の増加に対応するため,新たに水道用水0.6㎥/sを確保することについて国と協議を重ね,昭和44年2月に0.9㎥/sへの増量申請を行うも,安定的な水源確保が必要として検討が続けられる中で,住民への生活用水を確保し給水義務を果たすため,やむを得ず取水していたというのが実情である。そのようにやむを得ず行わ
れた事態を捉えて,暫定豊水水利権は本件事業への参画を前提としなくても認められると論じるのは失当である。
暫定豊水水利権0.6㎥/sを宇治川の流量と関連付ける原告らの主張は失当である。宇治浄水場の取水地点は,天ヶ瀬ダムにおける取水口(宇治市b町cd番e)のみであり,京都府の利水拡大は天ヶ瀬
ダムのキャパシティ(利水容量)をとれだけ多く使うことになるかの問題であり,宇治川の流量自体は直接関係しない。
b
本件事業への利水参画は,昭和39年の取水開始から平成13年度まで水需要が増加し続ける中で,本件事業への参画を前提として暫定
豊水水利権により取水してきた事実に基づき,安定水利権を確保して早期安定化を図るというものである。現在も,全体の水利権0.9㎥/sの3分の2に相当する0.6㎥/sが暫定豊水水利権であり,それへの依存なくしては水道供給が成り立たない状況にある。水需要がピーク時であった平成13年度と比べて横ばい又は漸減の傾向にある
からといって,利水参画の必要性がなくなるものではない。また,人口の推移と一日最大給水量は必ずしも比例するものではないし,安定給水の観点からは様々な要素(学研開発等への備え,維持管理のための施設停止など)を見込んでおくことが必要である。京都府営水道ビジョン改訂版(平成30年3月)によれば,平成34年度までの一日平均給水量は10万8436㎥,一日最大給水量は12万8327㎥と推計され,
現状の実績とほぼ同水準で推移する見通しとされている。
また,京都府営水道における3浄水場接続による広域水運用システムは,3浄水場がそれぞれ現有施設能力(暫定豊水水利権による給水分も含む。を維持することを前提として3浄水場の送水管路を接続し,)
日常的なトラブルや水質異常,あるいは地震や事故などの非常時にも
安定的に水道用水を供給するためのバックアップを行うというものである。こうした3浄水バックアップシステムができたからといって本件事業から撤退してしまうと,最大の施設能力を有する宇治浄水場を遊休化させる一方で,木津浄水場及び乙訓浄水場の拡張整備やポンプ場増強が必要となり,多額の事業費と長期間の工期が必要となる。し
かも,最大の水需要がある宇治市へは,現在は直近の宇治浄水場から水道水を供給することができているが,宇治浄水場を縮小する場合には管路の末端に位置づけられるので非効率的な水運用となるし,トラブル発生時や災害時に他の浄水場からのバックアップを行うという目的にも支障を来すことになる。

さらに,安定水利権の許可は国が行うものであり,京都府の一存でできるものではないし,
原告らがいう水源振分けは,
三川合流地点の淀川で所定の流量を確保すれば影響はないというような事情がある場合に限られるものと理解され,
河川管理者である国からは,
取水位置と水源の河川が異なること,関係利水者に影響を与えることから困難であるとの見解が示されている。水道事業に関する効用
本件事業の内容は,600㎥/sの放流能力を備える本件放流設備を設置するというものであり,それ自体が利水容量の拡大をもたらすものではないが,トンネルを増設するという裏付けがあることによって初めて天ヶ瀬ダム本体での利水容量拡大が認められるという関係にある。ダムにおける洪水調節機能は,水を貯留したり放流したりすることによっ
て行うのであるが,その際,利水のために一定の容量を確保しておくということになれば,洪水調節機能に影響がある。本件事業は,放流能力の向上のほか,発電及び水道という利水容量拡大という要因も加わって本件放流設備を建設するものであり,天ヶ瀬ダムにおける利水容量の確保と本件放流設備建設とは一体として把握される必要がある。本件事業
は,京都府のための利水容量(水道容量)を拡大し,新たに0.6㎥/sに見合う水源をダム本体において確保することによって,安定水利権を得させるものであることにおいて,流水の貯留を利用して流水を当該用途に供することによって得られる効用
があるものにほからならない。

天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の河川管理施設としての安全性
天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の耐震性等
a
耐震性等安全性の検証は,本件事業の実施主体である国(国土交通省近畿地方整備局)が行うものであるところ,活断層調査(第4期断層調査)の結果,天ヶ瀬ダムの下を通る活断層はないこと,F-0断層についても活断層ではないことが確認されている。また,トンネル
式放流設備については,ダム本体端部よりほぼ100m離れると基礎地盤の応力変位の影響を受けなくなるところ,本件事業では離隔距離を150m確保する,覆工厚を厚くするなどトンネルの構造を丈夫にしたり,トンネル周辺地盤の補強を行ったりすることにより,ダム本体を支えている地盤に影響がないように対処するものとされている。
b
さらに,ダム本体の耐震性能照査が行われていないという事実が仮にあったとしても,安全性の確保がなされていないという意味に止まり,危険が明白に存在しているということを意味するものではない。c
以上のような事実に照らすと,耐震性不足等の危険性のために国土交通大臣による本件各納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があ
り,又は外形上一見して看取できる違法ないし瑕疵があるものとはいえない。
安全管理のための計測機器の設置
原告らが法令違背の根拠とする河川法15条の2及び河川法施行令9条の3は,いずれも河川法等の平成25年改正により新設された規定で
あることにも照らすと,それ以前に設置された河川管理施設である天ヶ瀬ダムについて,計測機器等に十分でない点が仮にあるとしても,直ちに違法視できない側面があるというべきである。
もとより,改正法以前に設置された既存の河川施設についても,改正法の趣旨を及ぼし,可能な限り法令の趣旨に沿った維持管理等を行うよ
うにすべきであるが,少なくとも既存の天ヶ瀬ダムが河川法改正によって法令に違反するものとしてその利用が許されなくなったり,再開発を目的とした本件事業が許されなくなったりするということはない。以上によれば,天ヶ瀬ダムが河川施設としての安全確保義務に反しているために国土交通大臣による本件各納付通知に重大かつ明白な違法な
いし瑕疵があり,又は外形上一見して看取できる違法があるものとは認められない。
天ヶ瀬ダム建設・供用に伴う放流水による低周波音被害防止対策
国交省においては,低周波について,低減効果のある放流操作方法が検討されており,
今後の実運用に向けて模型実験も実施している。
また,

我が国において低周波音の規制基準等は定められていないから,仮に原告らが主張するような低周波音が現に発生し,あるいは発生する蓋然性が認められる場合であっても,そのことによって本件事業自体が禁止されるということにはならない。さらに,低周波音による影響が受忍限度を超え,人の生命・身体に被害が生じたというような場合に,国による損害賠償が問題となる余地はあるが,それゆえに本件事業そのものが違法として許されないということにはならない。

したがって,低周波音被害を生じる蓋然性があるために国土交通大臣による本件各納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があり,又は外形上一見して看取できる違法ないし瑕疵があるとはいえない。

環境への影響
国が作成した天ケ瀬ダム再開発事業に係る環境調査についてと題す
る資料(甲35)によれば,近畿地方整備局琵琶湖河川事務所は,本件事業の実施に係る環境影響の軽減に努め,調査を実施して事業の実施に係る環境影響の予測・評価を行うとともに,保全措置を整理したこと,調査項目としては,貯水池内環境,下流河川環境及び周辺環境のそれぞれについて,現状の把握,工事中の影響及び天ケ瀬ダム再開発後の運用による影響
を調査したこと並びにそれらの結果が報告されている。
原告らは,塔の島付近の景観,鹿跳渓谷を含む上流域の河川環境への影響等が調査項目に含まれていない,あるいは調査が不十分であると主張するが,調査項目は調査主体が合理的に定めるべきものであり,それらが当然に不可欠の調査項目であるとはいえないし,少なくとも,それらの項目
が調査項目に含まれていない,あるいは調査が不十分であるというような理由で本件事業自体が禁止されるということにはならない。
したがって,環境への影響を考慮していないために国土交通大臣による本件各納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があり,又は外形上一見して看取できる違法ないし瑕疵があるとはいえない。


淀川水系留意域委員会の意見聴取手続
河川法16条の2第3項が,

河川管理者は,河川整備計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは,河川に関し学識経験を有する者の意見を聴かなければならない。と規定していること,

平成1
3年に淀川水系流域委員会が設置され,同委員会の平成20年10月16日付け淀川水系河川整備計画策定に関する意見書で計画の見直しが必
要であると述べられていることは認めるが,本件事業遂行の手続に瑕疵があるとの主張は争う。
第3

当裁判所の判断

1
争点(本件各負担金の支出が違法か)について


本件各負担金の支出が違法となる場合(原因行為との関係)について地方自治法242条の2の規定に基づく住民訴訟は,普通地方公共団体の執行機関又は職員(以下職員等という。
)による同法242条1項所定の
財務会計上の違法な行為又は怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え,もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的と
するものであり,同法242条の2第1項1号の規定に基づく差止めの請求及び同項4号に基づく損害賠償等の請求をすることを求める請求は,このような住民訴訟の一類型として,財務会計上の行為を行う職員等に対して職務上の義務に違反する財務会計上の行為の差止め及び同行為による損害賠償等を求めるものであるから,それらの請求をすることができるのは,仮にこれ
に先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,当該職員等の財務会計上の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である(最高裁昭和61年(行ツ)第133号平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。
そして,職員等の財務会計上の行為が,これに先行する原因行為に基づく
場合において,当該原因行為が行政組織上独立の権限を有する他の機関の権限に基づいてされた行為であるときは,職員等は,上記のような独立の権限を有する他の機関の固有の権限内容にまで介入し得るものではないことからすれば,法が特に職員等に対しその先行する原因行為の適法性を審査した上で,適法な場合に限り,その内容に応じた財務会計上の行為をすべき義務を課しているときを除き,当該原因行為について重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるなど,当該原因行為が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り,これを尊重してその内容に応じた財務会計上の行為をすることが違法と認めることはできないと解するのが相当である。
また,その違法ないし瑕疵が明白であるというためには,行為の外形上違
法ないし瑕疵が一見看取できるものでなければならないと解される(最高裁昭和41(行ツ)第52号同44年2月6日第一小法廷判決・集民94号233頁参照)



利水負担金について

利水負担金支出の原因行為について
本件事業は,特定多目的ダム法4条1項の規定に基づき国土交通大臣が定めた基本計画
(天ヶ瀬ダム再開発基本計画)
に基づくものであり
(前
提事実⑶ア)
,同基本計画の策定に当たり,京都府は,特定多目的ダム法
15条に基づき,建設大臣(当時)に対してダム使用権の設定を申請し,同基本計画においてダム使用権設定予定者と定められ,京都府のために
本件事業によって開発される水利権のうち0.6㎥/sの水利権の設定が予定されている


特定多目的ダム法7条1項は,

ダム使用権設定予定者は,多目的ダムの建設に要する費用のうち,政令で定めるところにより算出した額の利水負担金を負担しなければならない旨を定め,同法施行令9条1項1号は,利水負担金につき,毎年度,国土交通大臣が当該年度の事業計画に応じて定める額を,同大臣が当該年度の資金計画に基づいて定める期限までに納付する旨を定めているところ,京都府知事は,前提事実⑸イのとおり,国土交通大臣からの納付通知を受け,利水負担金の支出をしたものであるから,京都府知事による利水負担金の支出は,上記納付通知を原因とするものであると認められる。
特定多目的ダム法7条1項は,ダム使用権設定予定
者は,多目的ダムの建設に要する費用のうち政令で定めるところにより算出した額の費用(利水負担金)を負担しなければならない旨を定め,同法施行令9条1項は,利水負担金につき,毎年度,国土交通大臣が当該年度の事業計画に応じて定める額を,同大臣が当該年度の資金計画に
基づいて定める期限までに納付する旨を定めているほか,同法施行例11条の3は,国土交通大臣は,負担金を徴収しようとするときは,負担金の額を決定し,負担金の徴収を受ける者に通知する旨を定めている。そして,同法36条1項は,利水負担金を納付しない者があるときは,国土交通大臣は,督促状によって納付すべき期限を指定して督促しなけ
ればならない旨を,同条3項は,この督促を受けた者がその指定する期限までにその納付すべき金額を納付しないときは,国土交通大臣は,国税滞納処分の例により,利水負担金及び延滞金を徴収することができる旨を定めている。
上記各規定においても,京都府知事に対し,利水負担金の支出に際し
て,原因行為である国土交通大臣による納付通知の適法性を審査した上で,これが適法な場合に限りその支出をすべき義務を課することを窺わせる条項は存在しない。これに加えて,ダム使用権設定予定者に負担が義務付けられることなどの利水負担金の性質,その額の決定及び督促・徴収の方法等における国土交通大臣とダム使用権設定予定者の権限の配
分関係をも総合すれば,法が,京都府知事に対し,利水負担金の支出に際して原因行為たる国土交通大臣による利水負担金の納付通知の適法性を審査した上で,これが適法な場合に限り利水負担金の支出をすべき義務を課しているものとは解されないというべきである。
なお,
原告らは,
特定多目的ダム法4条4項が,国土交通大臣は,同条1項に定める基本計画を作成等しようとするときは,あらかじめ関係都道府県知事の意見を聴かなければならないとしていること,地方自治法2条16項が,地方公共団体は,法令に違反してその事務を処理してはならないとしていることをもって,京都府知事において国の納付通知の適法性を審査すべき義務を負う旨主張するが,上記のいずれの規定も,都道府県知事に原告らの主張するような義務を課す趣旨のものとは解されず,原告らの上
記主張は,採用することができない。
したがって,原因行為である国土交通大臣による利水負担金の納付通知について,重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるなど,上記納付通知が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り,上記納付通知に応じてした京都府知
事による利水負担金の支出が違法ということはできず,また,上記納付通知の違法ないし瑕疵が明白であるというためには,行為の外形上違法ないし瑕疵が一見看取できるものでなければならないと解するのが相当である。

利水負担金に係る納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるかについて
利水上の必要性について
原告らは,①0.6㎥/sの暫定豊水水利権が安定水利権化していること,京都府の水需要が現在の安定水利権のみで賄えることから,暫定
本件放流設備は,渇水期における流量を増大させるという利水のために必要な効用を備えておらず,流水の貯留を利用して流水を当該用途に供することによって得られる効用特定多目的ダム法7条1項)

はなく
(同

本件事業は利水上の必要性がないから,
京都府が利水負担金を支出
することは違法であると主張する。
a
しかし,特定多目的ダム法7条1項は,ダム使用権設定予定者は,多目的ダムの建設に要する費用のうち政令で定めるところにより算出した額の費用(利水負担金)を負担しなければならない旨を定めており,ダム使用権設定予定者に利水上の必要性(流水の貯留を利用して流水をその用に供する必要性)があることを利水負担金の負担要件とする規定はないから,京都府がダム使用権設定の申請をし,天ヶ瀬ダ
ム再開発基本計画においてダム使用権設定予定者の地位にある以上,京都府は,再開発後の天ヶ瀬ダムの流水の貯留を利用することに利水上の必要性があるか否かに関わらず,利水負担金を支払う義務を負うこととなる。
したがって,
京都府にとって上記の利水上の必要性があるか否かは,

そもそも利水負担金に係る納付通知の違法性の有無にかかわる事項ではないというべきである。
b
もっとも,特定多目的ダム法12条は,ダム使用権設定予定者のダム使用権の設定の申請が却下され,又は取り下げられたときは,その者がすでに納付した第7条1項の負担金を還付するものとする旨規定
し,ダム使用権設定申請の取下げを特に制約する規定は置いていないから,ダム使用権設定予定者は,ダム使用権の設定の申請を取り下げることにより,利水負担金の負担義務を免れることができる。そうすると,京都府知事がダム使用権の設定申請をする行為又はダム使用権設定予定者たる地位を維持することが合理性を欠く場合には,京都府
知事は,ダム使用権の設定申請を取り下げることによって,利水負担金の負担義務を免れるよう務めるべき財務会計上の義務があると解する余地がある
c
そこで,京都府知事が,天ヶ瀬ダム再開発基本計画におけるダム使用権の設定申請及びダム使用権設定予定者たる地位を維持することが合理性を欠くと認められるか否かにつき,検討する。

前提事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められる。

京都府が営む京都府営水道は,京都府南部地域の7市3町を給
水対象とする水道用水供給事業を行うものであり,宇治川(天ヶ
瀬ダムのダム湖水)を水源とする宇治浄水場(所在:宇治市f,

給水対象:城陽市・宇治市・久御山町・八幡市,現有施設能力:
7万2000㎥/日)
,木津川(表流水)を水源とする木津浄水場
(所在:木津川市g,給水対象:木津川市・京田辺市・精華町,
現有施設能力:4万8000㎥/日)
,桂川(表流水)を水源とす
る乙訓浄水場(所在:京都市h区i,給水対象:向日市・長岡京

市・大山崎町,現有施設能力:4万6000㎥/日)の3つの浄
水場により給水を行っている。また,京都府営水道では,平成2
3年4月から,久御山広域ポンプ場で上記各浄水場の送水管が接
続され,
同ポンプ場を用いて広域的に水運用を行っている(以下,
このような水運用の仕組みを,広域的水運用システム」
という。。)(甲55[27頁以下])ⅱ京都府は,宇治浄水場による天ヶ瀬ダムからの取水について,天ヶ瀬ダム建設基本計画に定めるところにより,天ヶ瀬ダム建設当時から0.3㎥/sの水利権(安定水利権)を有しているとこ昭和50年度の1日最大給水量を7万2000㎥,これに見合う1日最大取水量を7万7760㎥(0.9㎥/s)とする水需要予測の下,国に対し,上記安定水利権を0.9㎥/sに変更することを申請したが,許可を得ることができなかった(乙32,弁論の全趣旨)。ⅲ平成7年3月28日,天ヶ瀬ダム再開発基本計画が策定され,同基本計画において,宇治浄水場における天ヶ瀬ダムからの取水について,本件事業による天ヶ瀬ダムの再開発後は,上記ⅱの安定水利権に加えて,新たに0.6㎥/s(合計0.9㎥/s)の安定水利権を認めるものとされた(前提事実⑶ア,イ)。また,同基本計画においては,貯留量の用途配分量として,京都府の水道用水のための貯留量は,洪水期においては標高72.0mから標高58.0mまでの容量1032万㎥のうち最大154万㎥とし,非洪水期においては,標高78.5mから標高58.0mまでの容量2000万㎥のうち最大154万㎥とするとされた。ⅳ京都府は,天ヶ瀬ダム再開発基本計画策定後の平成7年9月18日,国に対し,水利権の変更を申請した。国は,平成8年6月4日,上記ⅱの安定水利権に加え,同基本計画におけるダム使用権設定予定者であることを前提とする暫定豊水水利権として,淀川三川合流地点にける淀川の流量が,6月15日から9月20日までの間においては183.97㎥/sを,9月21日から翌年の6月14日までの間においては167.17㎥/sを超える場合に限り,その超える部分において取水すること等を条件として,天ヶ瀬ダムから0.804㎥/sの取水が認められた。その後,上記暫定豊水水利権は0.6㎥/sに変更され,同水利権に基づく取水の条件も,淀川三川合流地点における淀川の流量が,6月15日から9月20日までの間においては186.51㎥/sを,9月21日から翌年の6月14日までの間においては169.71㎥/sを超える場合に限り,その超える部分において取水すること(ただし,水道利用の目的に著しい影響を及ぼすおそれがあると認められるときは,この限りでない。)等に変更された。(乙31,38,弁論の全趣旨)ⅴ京都府は,宇治浄水場の給水対象地域の水需要に応えるため,上記ⅳのとおり暫定豊水水利権が認められる以前(遅くとも昭和50年頃)から,また,暫定豊水水利権が認められた後は暫定豊水利権による取水条件を満たさない場合でも,上記安定水利権の範囲を超えて取水していた(乙53の2[3頁],弁論の全趣旨)。ⅵ京都府営水道における平成13年度から平成28年度までの各浄水場の給水量及び取水量は別表のとおりである。京都府営水道全体の1日最大給水量は,平成13年度までは増加傾向にあったが,同年度の13万6635㎥をピークに,その後は増減を繰り返しつつも漸減の傾向にあり,平成28年度は12万3580㎥となっている。宇治浄水場の1日最大給水量も,平成13年に8万2710㎥であったものが,その後増減を繰り返しつつ漸減し,平成28年度は6万6380㎥となっている。⒝上記認定事実によれば,宇治浄水場の給水対象となる地域における水需要は,遅くとも昭和50年頃以降,天ヶ瀬ダムからの安定水利権(0.3㎥/s,2万5920㎥/日)で賄える水量を上回っており,京都府は,当該水需要に応えるため,平成8年6月4日に暫定豊水水利権が認められるまでの間,また,暫定豊水水利権が認められた後は暫定豊水水利権に基づく取水条件を満たさずとも,水「道利用の目的に著しい影響を及ぼすおそれがあると認められるときに該当するもの等として,安定水利権の範囲を超える取水を行ってきたものである。そうすると,宇治浄水場による給水対象地域における水需要に安定的に応えるためには,現在認められている天ヶ瀬ダムからの安定水利権を更に拡張する必要があるものと認められる。
そして,
宇治浄水場におけるこれまでの取水の実績をみると,
昭和50年頃以降,1日最大取水量が,概ね安定水利権2万5920㎥(0.3㎥/s)と暫定豊水水利権5万1840㎥(0.6㎥/s)を併せた7万7760㎥(0.9㎥/s)の前後で推移していること(乙53の2[3頁]
,別表参照。平成13年以降は減少傾
向にあるが,平成28年においても6万7460㎥[0.78㎥/
s]であり,大幅な減少には至っていない。
)に照らせば,新たに認
めるべき安定水利権の範囲を0.6㎥/sとし,既に認められているものと併せて0.9㎥/s(7万7760㎥/日)の安定水利権を確保することは,相応の根拠に基づくものと認められる。
以上によると,京都府が,天ヶ瀬ダム再開発基本計画におけるダ

ム使用権の設定申請及びダム使用権設定予定者たる地位を維持することが合理性を欠くとは認められない。


これに対し,原告らは,本件事業後の天ケ瀬ダム使用権について
利水上の必要性がないと主張し,その根拠として前記諸事情を指摘するほか,元東京都環境科学研究所研究員Iの意見書(甲55,6
8。以下,併せてI意見書という。
)にもこれに沿う趣旨の記載
があるので,以下,検討する。

原告らは,京都府が,天ヶ瀬ダムにおいて,昭和44年以降,
0.9㎥/sの取水をし,また,暫定豊水水利権による取水の条
件を満たさずとも安定水利権の範囲を超えて取水している日が多

数あるにもかかわらず,
何らの弊害も生じていないから,
既に0.
9㎥/sが安定水利権化しているということができ,豊水水利権
を安定水利権化する必要はないと主張する。
そこで検討するに,京都府が,天ヶ瀬ダムにおいて,暫定豊水
水利権が認められる以前から,また,暫定豊水水利権が認められ
た後は暫定豊水利権による取水条件を満たさない場合でも,安定
水利権の範囲を超え
るが,これは,宇治浄水場の給水対象地域における水需要に応え
るため,やむを得ない措置として行ってきたものと認められ,こ
のような取水の実態に合わせて安定水利権を確保することは,水
道事業者がとるべき措置として合理的なものであるといえる。ま

た,暫定豊水水利権は,天ヶ瀬ダム再開発基本計画におけるダム
使用権設定予定者であることを前提とするものであるから,京都
府が,天ヶ瀬ダム再開発基本計画におけるダム使用権設定申請を
取り下げ,ダム使用権設定予定者たる地位を失った場合には,上
記暫定豊水水利権をも失うことになる。

原告らの主張は,本件事業により天ヶ瀬ダムの放流能力の増強
をせずとも,京都府に対して既存分を含めて0.9㎥/sの安定
水利権を許可することができる状況にあるから,京都府は,本件
事業に参画せず,国に安定水利権の許可を求めるべきであるとの
趣旨とも解されるが,京都府が,昭和44年以降,国に対して安

定水利権の増量を申請しても許可を得ることができない状況にお
いて,当該水利権を得るために,同基本計画におけるダム使用権
設定の申請をし,ダム使用権設定者たる地位を取得しようとする
ことが不合理とはいえない(なお,本件事業に利水上の効用が認
められることは後記のとおりであり,国が京都府に対して本件事

業への参画を条件に水利権を付与することが合理性を欠くともい
えない。。


原告らは,また,京都府が天ヶ瀬ダム再開発基本計画における
ダム使用権設定者として得ようとする水利権は,宇治川の宇治観
測所における流量と比較してごくわずかのものにすぎないとも主
張するが,そうであったとしても,上記ⅰに判示したとおり,京
都府が国に対して安定水利権の増量を申請しても許可を得ること

ができない状況下で当該水利権を得ようとすれば,同基本計画に
おけるダム使用権設定の申請をし,ダム使用権設定者となる必要
があるのであるから,原告らが指摘するような事情は,京都府知
事によるダム使用権の設定申請及びダム使用権設定予定者たる地
位の維持が合理性を欠くとの評価を基礎付けるものではない。


原告らは,京都府営水道全体の1日最大給水量は2040年度
には10万5000㎥にまで減少すると予測され,広域的水運用
システムによれば,現在の安定水利権のみで水需要を賄えると主
張する。

京都府営水道による広域的水運用システムは,3浄水場の現有
施設能力(宇治浄水場については暫定豊水水利権に基づく給水分
を含む。を前提として,

3浄水場の送水管を接続して相互のバッ
クアップを可能とすることで,非常時においても安定的に給水が
行えるように備えることを目的とするものであるところ(甲55

の3頁掲載の図参照)水道事業者が非常時に備えてこのようなシ

ステムを整備することには合理性がある。ところが,仮に,原告
らが主張するような取水及び給水態勢,すなわち,宇治浄水場か
らの取水量は現状の安定水利権の範囲内のもののみとする態勢を
前提とすれば,平常時においても,宇治浄水場の給水対象地域に

対する給水には不足が生じ,当該不足分を他の2浄水場からの送
水でバックアップすることにならざるを得ず,その場合には広域
的水運用システムの本来の目的である非常時における安定的給水
の機能が失われるおそれがある。例えば,平常時から宇治浄水場
をバックアップしている他の2浄水場のいずれかにトラブルが発
生し,当該浄水場の取水,浄水及び給水等の各種機能に支障が生
じた場合には,当該浄水場の給水対象地域のみならず,宇治浄水
場の給水対象地域に対する給水にも支障が生じることになる。そ
して,そのような事態は,原告ら主張に係る将来的な水需要予測
を前提としても生じ得るものである。
したがって,将来的な水需要予測に関する原告らの主張の当否

はともかく,広域的水運用システムを利用すれば現在の安定水利
権のみで水需要を賄えるとの原告らの上記主張は,採用すること
ができない。

原告らは,さらに,宇治川水系以外の水源の安定水利権を宇治
浄水場に振り分ければ,現在の一日最大給水量を上回る供給を行
うことができると主張する。

しかしながら,水利権の許可は国が行うものであって,原告ら
の主張する安定水利権の振分けにつき国の許可が得られる確実な
見込みがあるなどの事情も認められないから,原告らの上記主張
は,採用できない。

原告らは,本件放流設備は,渇水期における流量を増大させる
という利水(水道事業)のために必要な効用を備えていないと主
張する。
しかしながら,本件事業は,本件放流設備を建設して天ヶ瀬ダ
ムの放流能力を高め,これにより治水(洪水調節)及び利水(発

電,水道)の目的を達成しようとするものであるところ(前提事
実⑶ウ)証拠(甲4[6枚目]

,乙53の3[7頁]
,53の4[1
2頁]
)によれば,本件事業による貯水池運用の効率化により,洪
水対策や発電に影響を与えることなく,より多くの水道用水を取
水できるようになるというのであって,渇水期における流量を増
大させるか否かのみによって利水上の効用の有無が判断されるべ
きものではない。
ダムにおいては,一般に,治水(洪水調節)のためにはダム湖
の水位を低下させ,洪水時に流入する流水を貯留できる容量を確
保しておくことが必要となるのに対し,
水道等の利水のためには,
ダム湖の水位を上昇させ,水道等に利用する水を貯留しておくこ

とが必要となり,このように相反する目的を相互に均衡をとりつ
つ達成することが求められるところ,ダムの放流能力を高めるこ
とは,洪水に備えて速やかに水位を低下させること及び洪水時に
おいて貯留量の急激な増加を抑えることが可能となるため,ダム
湖の水位をより効率的に調整することができ,水道等の利水のた

めの貯留量をより多く確保することが可能となるものと解され
る。
したがって,本件事業には,利水上の効用がないとはいえず,
原告らの上記主張は,採用することができない。
なお,原告らの主張は,本件事業には水道事業に関する効用が

なく,流水の貯留を利用して流水を当該用途に供することによっ
て得られる効用
(特定多目的ダム法7条1項)を欠くから,本件
事業の費用を京都府に負担させる納付通知は,同条項の要件を欠
き,違法であるとの趣旨をいうものとも解されるが,上記のとお
り,本件事業は利水上の効用を有すると認められるから,原告ら

の上記主張も,理由がない。


以上によれば,原告らが主張する諸事情を踏まえて検討しても,
京都府知事が,天ヶ瀬ダム再開発基本計画におけるダム使用権の設定申請をしたこと及びダム使用権設定予定者たる地位を維持することが合理性を欠くとは認められない。
d
よって,本件事業に利水上の必要性がないことを根拠として,利水負担金に係る納付通知ないし利水負担金の支出が違法であるとする原告らの主張は,理由がない。
治水上の必要性について
原告らは,
また,
本件事業には治水上の必要性がないとも主張するが,

特定多目的ダム法は,ダム使用権設定の対象となるダム事業につき治水上の必要があることを利水負担金の要件とするものではないから,治水上の必要の有無にかかわらず,京都府は,ダム使用権設定予定者の地位にある以上,利水負担金の納付義務を負うものであるし,また,京都府知事において,国土交通大臣が主体となって行う本件事業につき治水上の必要性まで検討した上でダム使用権設定の申請を行い,又は当該設定
の申請を取り下げずるか否かを判断すべき財務会計上の義務を負うと解することもできないから,治水上の必要性の有無は,利水負担金に係る納付通知ないし利水負担金の支出の違法性判断に影響するものではない。
天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の河川管理施設としての安全性につい

原告らは,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備が河川管理施設としての安全性を欠くと主張するが,上記

と同様に,天ヶ瀬ダム及び

本件放流設備の安全性に関する事情は,京都府の利水負担金の納付義務の有無を左右するものではないし,京都府知事において,利水負担金の支出に当たり,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の安全性まで検討した上でダム使用権設定の申請を行い,又は当該設定の申請を取り下げずに維持する判断を行うべき財務会計上の義務を負うとはいえないから,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の安全性に係る事情は,利水負担金の支出の違法性の有無に影響しない。
なお,後述するとおり,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備ダムについて,原告らが主張するような安全性の欠如があり,これらが河川管理施設としての性状と機能を備えていないとは認められない。
環境への影響について
原告らは,本件事業が宇治川上流域及び下流域の環境に及ぼす影響に配慮すべきところ,十分な調査が行われていないと主張する。

しかしながら,仮に,環境調査に不備があったとしても,それにより京都府が利水負担金の納付義務を負わないこととなるとも,利水負担金の納付通知が違法となるとも解されないし,京都府知事において,利水負担金の支出に当たり,本件事業につき適切な環境影響調査が実施されているか否かまで検討した上でダム使用権設定の申請を行い,又は当該
設定の申請を取り下げずに維持するか否かの判断を行うべき財務会計上の義務を負うと解することもできない。
なお,証拠(甲35)によれば,国土交通省近畿地方整備局琵琶湖河川事務所は,本件事業に当たり,天ヶ瀬ダムの貯水池内環境及び下流域環境について,現状把握のための調査として生物調査,水理水質調査,
土砂環境調査及び河床材料調査を行うほか,水質,地下水及び生物に関わる工事中の影響及び天ヶ瀬ダム再開発後の運用による影響について調査し,また,周辺環境についても騒音,振動及び低周波音についての調査を行い,それらの調査・検討の結果を踏まえ,環境影響の予測及び保全措置を整理し,これを平成19年及び25年に公表していることが認
められ,その内容に不合理ないし不十分というべきところはないから,原告らの上記主張は,いずれにしても理由がない。
淀川水系流域委員会の意見聴取手続について
原告らは,淀川水系河川整備計画は,淀川水系流域委員会による計画見直しが必要であるとの意見を全く反映せずに策定されたものであり,本件事業遂行の手続に瑕疵がある旨主張する。
証拠(甲6,13,乙6の1~4)及び弁論の全趣旨によれば,①国土交通省は,河川法16条の2第1項所定の河川整備計画である淀川水系河川整備計画を策定するに当たり,
同条3項に基づく意見聴取のため,
平成13年2月,学識経験者からなる淀川水系流域委員会を設置したこと,②淀川水系流域委員会は,20回(延べ90時間)の審議を経て,
平成20年4月25日,淀川水系河川整備計画原案(平成19年8月28日作成)に対する意見書を提出したこと,③国土交通省は,平成20年6月20日,淀川河川整備計画(案)を作成し,関係府県知事及び市町村長からの意見聴取を経て,平成21年3月31日,淀川水系河川整備計画を策定したこと,④淀川水系流域委員会は,上記②の意見書提出
後も,独自に活動を続け,平成20年10月16日,
淀川水系河川整備計画策定に関する意見書を作成し,公表したこと,⑤淀川水系河川整備計画策定に関する意見書には,本件事業について,淀川における流量増加対策としての効果は限定的であり,緊急性は低い,三川合流点の水位状況によっては,宇治川の安全度を低下させる,低周波問題につ
いての検討がなされていない,下流河川の生態系影響評価と対策が十分に検討されていない,活断層の存在について疑義があるとして,提示された天ヶ瀬ダム再開発事業計画の実施を河川整備計画に位置付けることは適切ではなく,見直しが必要である旨の意見が記載されていること,以上の事実が認められる。

上記の事実経過等に照らせば,国土交通省は,淀川水系河川整備計画を策定するについて,河川法16条の2第3項所定の学識経験者の意見聴取の手続を履践しており,その手続に瑕疵があるとは認められない。原告らは,淀川水系河川整備計画が淀川水系流域委員会の意見が全く反映されていないなどと主張するが,そのことをもって河川整備計画策定の手続に瑕疵があるとはいえない(なお,淀川水系河川整備計画(案)は,淀川水系流域委員会の意見をも検討した上で策定されたものである
ことが窺える[乙6の3・5])
。。
したがって,原告らの上記主張も,理由がない
小括
以上によれば,国土交通大臣による利水負担金の納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるということはできず,また,京都府知事がダム使用権設定の申請を行い,その設定の申請を取り下げないことが合理性を欠くともいえない。

利水負担金の支出の違法の有無についてのまとめ
よって,京都府知事が利水負担金の納付通知に応じて利水負担金を支出
する行為が,財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるということはできない。


治水負担金について

治水負担金支出の原因行為について
本件事業は,一級河川である淀川水系宇治川(京都府宇治市)に設置
された特定多目的ダム法2条に定める多目的ダムである天ヶ瀬ダムにつき,その治水能力の向上等を目的として再開発を行う事業である(前提事実⑵ア,⑶ア~ウ)
。そして,河川法60条1項は,都道府県は,その
区域内における一級河川の管理に要する費用については,政令で定めるところによりその一部(治水負担金)を負担すべきものとし,河川法6
4条1項は,治水負担金は,政令で定めるところにより国庫に納付しなければならない旨を定め,河川法施行令38条1項本文は,国土交通大臣は,治水負担金を負担すべき都道府県に対し,それぞれその負担すべき額を納付すべき旨を通知しなければならない旨定めているところ,京都府知事は,前提事実⑸イのとおり,国土交通大臣からの納付通知を受け,治水負担金の支出をしたものであるから,京都府知事による治水負担金の支出は,上記納付通知を原因とするものであると認められる。職員等の財務会計上の行為が,これに先行する原因行為に基づく場合において,当該原因行為が行政組織上独立の権限を有する他の機関の権限に基づいてされた行為であるときは,法が特に職員等に対しその先行する原因行為の適法性を審査した上で,適法な場合に限り,その内容に
応じた財務会計上の行為をすべき義務を課しているときを除き,当該原因行為について重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるなど,当該原因行為が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り,これを尊重してその内容に応じた財務会計上の行為をすることが違法と認めることはできないと解すべき
法令の規定をみるに,河川法60条1項は,都道府県は,その区域内における一級河川の管理に要する費用については,政令で定めるところによりその一部(治水負担金)を負担すべきものとし,河川法64条1項は,治水負担金は,政令で定めるところにより国庫に納付しなければならない旨を定め,河川法施行令38条1項本文は,国土交通大臣は,治水負担金を負担すべき都道府県に対し,それぞれその負担すべき額を納付すべき旨を通知しなければならない旨定めているほか,同法74条1項は,同法に基づく政令若しくは都道府県の条例の規定又はこれらの規定に基づく処分により納付すべき負担金等をその納期限までに納付し
ない者がある場合においては,河川管理者(当該負担金等が国の収入となる場合にあっては,国土交通大臣)は,期限を指定して,その納付を督促しなければならない旨を,同条2項は,河川管理者は,前項の規定により督促する場合においては,
納付義務者に対し督促状を発する旨を,
同条3項は,河川管理者は,第1項の規定による督促を受けた納付義務者がその指定の期限までにその負担金等を納付しない場合においては,当該負担金等が国の収入となる場合にあっては,国税の滞納処分の例により,滞納処分をすることができる旨を定めている。
上記各規定においても,京都府知事に対し,治水負担金の支出について,原因行為である国土交通大臣による納付通知の適法性を審査した上で,これが適法な場合に限りその支出をすべき義務を課することを窺わ
せる条項は存在しない。これに加えて,上記各規定の定めに該当する都道府県に納付が義務付けられるなどの治水負担金の性質,その額の決定及び督促・徴収の方法等における国土交通大臣と治水負担金を負担する都道府県の権限の配分関係をも総合すれば,法が,京都府知事に対し,治水負担金の支出について,原因行為たる国土交通大臣による治水負担
金の通知の適法性を審査した上で,適法な場合に限り,治水負担金の支出をすべき義務を課しているものと解することはできない。なお,原告らは,河川法16条の2第5項が,国土交通大臣は,同条1項に定める河川整備計画を作成等しようとするときは,あらかじめ関係都道府県知事の意見を聴かなければならないとし,地方自治法2条16項が,地方
公共団体は,法令に違反してその事務を処理してはならないとしていることをもって,京都府知事において国の納付通知の適法性を審査すべき義務を負う旨主張するが,上記のいずれの規定も,都道府県知事に原告らの主張するような義務を課す趣旨のものとは解されず,原告らの上記主張は,採用することができない。

したがって,国土交通大臣による治水負担金の納付通知について,重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるなど,当該納付通知が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り,これに基づく京都府による治水負担金の支出が違法であるということはできず,また,その違法ないし瑕疵が明白であるというためには,行為の外形上違法ないし瑕疵が一見看取できるものでなければならないと解するのが相当である。
そして,上記のとおり,京都府は,法令上,京都府内に存在する一級河川の管理に要する費用につき治水負担金を納付する義務を負っていること(河川法60条1項)からすれば,本件事業に係る治水負担金の納付通知について,行為の外形上違法ないし瑕疵が一見看取できるような
重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるといえるためには,天ヶ瀬ダムないし本件放流設備が河川法に基づく河川管理施設としての機能,性状を有しないか,又は,本件事業に河川管理上の必要性が全くないなど,本件事業に係る治水負担金がおよそ河川の管理に要する費用に該当しないことが明白でなければならないと解される。


治水負担金に係る納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるかについて
治水上の必要性について
原告らは,①基本高水流量及び計画高水流量が過大に設定されていること,②過去の実績からみても放流能力を増強する必要はないこと,③
天ケ瀬ダムは十分な放流能力があること,④洪水調節機能強化及び琵琶湖後記放流対応との目的に照らして必要性がないこと,⑤上流及び下流との関係で無意味な事業であること,⑥その他治水上の費用対効果が乏しいことから,本件事業は治水上の必要性がなく,本件事業に係る費用は一級河川の管理に要する費用(河川法60条1項)とはいえず,京都
府が治水負担金を支出することは違法であると主張し,I意見書等にもこれに沿う趣旨の記載がある。
a
前提事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
昭和28年9月の台風13号により,宇治川を含む淀川水系に大
洪水が発生し,沿岸地域が甚大な被害を受けたことを契機として,建設大臣(当時)は,昭和29年9月,淀川水系改修基本計画を策
定した。同基本計画においては,三川合流地点における計画対象高水流量を8650㎥/,計画高水流量を6950㎥/sとし,これに対する高水防御計画として,宇治川に天ヶ瀬ダムを建設し,南郷ダムと併せて三川合流地点における宇治川の合流量を260㎥/s以下とするものとされた。
(乙42)




上記淀川水系改修基本計画は,昭和39年法律第167号による
河川法の改正に伴い,昭和40年4月,淀川水系工事実施基本計画に改められた。同基本計画においては,基本高水流量は,昭和28年9月洪水を主要な対象洪水として,基準時点枚方において8650㎥/sとし,このうち上流のダム群により,1700㎥/sを調
節して,河道への配分流量を6950㎥/sとするものとされた。また,天ヶ瀬ダム(昭和39年に完成)に関しては,天ヶ瀬ダム地点における計画高水流量を1360㎥/sとし,このうち天ヶ瀬ダムにより520㎥/sを調節して840㎥/sとし,宇治発電所からの放流量を併せて900㎥/sとするとされた。
(乙43)



建設大臣(当時)は,昭和46年3月,淀川水系工事実施基本計
画策定後も昭和36年,昭和40年と大出水が相次いだこと及び近年において淀川流域の人口資産が著しく増大したことに鑑み,淀川の治水計画を全面的に改定するとして,上記淀川水系工事実施基本
計画を改定した。
同改訂後の基本計画においては,
基本高水流量は,
枚方上流域の対象雨量(2日雨量)を302mmとし,昭和38年9月洪水,昭和40年9月洪水等,近年における大出水を主要な対象洪水として検討し,基準地点枚方において1万7000㎥/sとし,このうち上流ダム群により5000㎥/sを調節して,河道への配分流量を1万2000㎥/sとするものとされた。また,天ヶ瀬ダムに関しては,宇治地点における計画高水流量を1500㎥/
sとし,天ヶ瀬ダム及び大戸川のダムにより淀川の洪水を調節し,宇治地点における計画高水流量1500㎥/s以下に低減せしめるものとされた。淀川水系工事実施基本計画は,その後数次の一部改訂が行われたが,上記各事項について変更はない。
(乙44~49)


建設大臣(当時)は,平成7年3月28日,天ヶ瀬ダム再開発基
本計画を策定した。同基本計画においては,天ヶ瀬ダムの再開発により,天ヶ瀬ダム地点における計画高水流量2300㎥のうち1100㎥/sの洪水調節を行うものとされていた。前提事実⑶ア,(
イ)
国土交通大臣は,平成19年8月,平成9年法律第69号による

河川法の改正を受けて,河川法16条1項に基づく河川整備基本方針として淀川水系河川整備基本方針を策定した。同基本方針の
策定に当たっては,学識経験者等からなる淀川水系河川整備基本方針検討小委員会において,基本高水流量及び計画高水流量を含む各論点について7回にわたる審議が重ねられた。同基本方針において
は,河川の総合的な保全と利用に関する基本方針として,
淀川,宇治川から琵琶湖までの区間においては,洪水調節施設による洪水調節とあわせて堤防の新設,拡築及び河道の掘削により,河積を増大させ,護岸等を整備するとともに,堤防の強化を図り,計画規模の洪水の安全な流下とあわせて琵琶湖沿岸の浸水被害の軽減を図る。また,放流能力の増強など,関係機関と調整しながら既存の洪水調節施設の有効利用及び長寿命化を図るとともに,上流部に洪水調節施設を整備する。流域全体の治水安全度の向上を図る観点から,所要の堤防等の整備や洪水調節施設の整備を行った後,下流に影響を及ぼさない範囲で,原則として瀬田川洗堰の全閉操作は行わないこととし,洪水時においても洗堰設置前と同程度の流量を流下させることとする。とされている。基本高水流量については,昭和28年
9月洪水,
昭和40年9月洪水等の既往洪水について検討した結果,
基準地点枚方において1万7500㎥/sとし,このうち流域内の洪水調整施設により5500㎥/sを調節し,
河道への配分流量
(計
画高水流量)を1万2000㎥/sとするものとされた。また,宇治地点における計画高水流量を1500㎥/sとするものとされた。
(甲5,乙33,34)


国土交通大臣は,淀川水系河川整備基本方針を受け,平成21年
3月31日,河川法16条の2第1項に基づく河川整備計画として淀川水系河川整備計画を定めた(同整備計画の策定に当たって

の淀川水系流域委員会からの意見聴取等
のとおりである。。
)同整備計画では,
対象期間を概ね30年間とし,
宇治川について,山科川合流地点より上流においては,天ヶ瀬ダムを効果的に運用し,宇治川及び淀川本川において洪水を安全に流下させるとともに,琵琶湖に貯留された洪水の速やかな放流を実現す
るため,1500㎥/sの流下能力を目標に,塔の島地区における河道整備及び天ヶ瀬ダム再開発事業による天ヶ瀬ダムの放流能力の増強を行う(塔の内地区については,優れた景観が形成されていることに鑑み,学識経験者の助言を得て景観,自然環境の保全や親水性の確保などの観点を重視した整備を実施する)ものとされ,これ
により,戦後最大の洪水である昭和28年台風13号洪水を安全に流下させることが可能となるとともに,淀川水系全体の治水安全度の向上に効果のある大戸川ダムと合わせ,降雨確率で概ね1/150の洪水に対応できることとなるとされている。また,瀬田川について,琵琶湖の後期放流に対応するため,大戸川合流点より下流において1500㎥/sの流下能力を確保するものとし,このため,大戸川合流点から鹿跳渓谷までの河床掘削を継続する(優れた景観
を形成している鹿跳渓谷については,学識経験者の助言を得て,景観,自然環境の保全や親水性の確保などの観点を重視した河川整備について検討して実施する)ものとされている。
(甲6)


国土交通大臣は,平成23年3月8日,天ヶ瀬ダム再開発基本計
画(上記⒟)について,天ヶ瀬ダム地点における計画高水流量2300㎥/sを2080㎥/sに,洪水調節1100㎥/sを940㎥/sに変更した。(





本件事業は,天ヶ瀬ダム再開発基本計画における上記治水の目的
(上記⒟,⒢)を,本件放流設備を設置し,天ヶ瀬ダムの放流能力
を840㎥/sから1140㎥/sに高めることにより達成しようとするものであり,
平成25年6月16日,
本体工事が開始された。
(前提事実⑶ウ)

近畿地方整備局事業評価監視委員会は,本件事業の事業評価に係
る審議を平成20年度,平成23年度,平成26年度及び平成28
年度の各年度において行った。
国土交通省近畿地方整備局は,平成20年度の審議においては,
淀川流域の概要,
河川整備計画の策定状況,
淀川水系における治水・
防災等の考え方,本件事業とこれに変わる治水代替案との比較を記載した上で,対応方針の原案として,できるだけ早期に河川整備計
画を取りまとめるとともに,適切な事業管理とコスト削減に努め,円滑な事業執行を図ることとする(なお,河川整備計画が策定されるまでは,本体工事に着手せず,調査・検討等を継続し,また,当面地元の地域生活に必要な道路や防災上途中で止めることが不適当な工事のみ行う。旨を記載した資料を,

その他の年度の審議におい
ては,淀川流域の概要,本件事業の概要,事業の必要性等,事業の進捗の見込み,コスト縮減や代替案等の可能性を記載した上で,対
応方針の原案として,引き続き事業を継続することが妥当と考える旨記載した資料を,それぞれ提示して説明した(乙53の1~4)。
同委員会は,いずれの年度においても,提出された資料,説明の
範囲において概ね適切に進められており,対応方針原案のとおりでよいと判断される旨の意見を述べた(乙50の1~4)


b
天ヶ瀬ダムは,淀川水系改修基本計画に基づき,昭和39年に完成したダムであるが(前提事実⑵イ)
,上記認定事実によれば,本件事業
は,天ヶ瀬ダム完成後の大洪水の発生等を受けて淀川の治水計画が見直される中で,洪水調節機能を高めること等を目的として計画され,淀川水系河川整備計画においては宇治川における治水対策として具体
的に位置づけられて実施されているものであり,淀川水系流域委員会において見直しが必要であるとの意見が述べられてはいるものの,近畿地方整備局事業評価監視委員会においては事業継続してよいとの意見が述べられていることにも鑑みれば,治水の観点からみて,天ヶ瀬ダムないし本件放流設備が河川管理施設としての機能,性状を有して
いないとか,本件事業が河川管理上の必要性を全く有していないとかいうことはできず,その他,治水の観点からみて,本件事業に係る治水負担金がおよそ河川管理のための費用に当たらないことが明白であると評価すべき事実の存在を認めるに足りる証拠はない。
c
これに対し,原告らは,本件事業が治水上の必要性がないとする根拠として前記諸事情を指摘するので,以下,個別に検討する。
原告らは,本件事業は,宇治地点における計画高水流量が150
0㎥/sと設定されていることを前提に600㎥/sの放流能力のある本件放流設備の建設が必要であるとするが,そもそも基本高水流量及び計画高水流量の設定が過大であるなどと主張する。
しかしながら,前記a⒞に認定したとおり,宇治地点における計
画高水流量が1500㎥/sとされたのは昭和46年3月の淀川水系工事実施基本計画の改訂によるものであるところ,同改訂においては,枚方上流域の対象雨量(2日雨量)を302mmとし,昭和38年9月洪水,昭和40年9月洪水等,近年における大出水を主
要な対象洪水として検討し,基準地点枚方における基本高水流量を1万7000㎥/sとした上で,これに基づき,宇治地点における計画高水流量を1500㎥/sとしたものである。
原告らは,上記改訂前は,実績降雨を基にして求める確率高水に
よって基本高水が決定されていたのに対し,上記改訂後は実績に基
づかない机上の計算で基本高水が決定されている点で合理性を欠くと主張するが,前記のような改訂後の基本高水流量及び計画高水流量の決定方法が明らかに不合理であるとはいえない。
原告らは,また,基本高水流量を1万7000㎥/sと決定する
際,カバー率は91.2%が採用されているところ,国土交通省技
術基準案のカバー率は60%~80%とされ,その中位の70%を採用して1万6000㎥/sとするのが妥当であると主張するが,そもそもカバー率を基準とすべき根拠が明らかでないし,原告らの主張によっても,妥当な基本高水流量は1万6000㎥/sであるというのであって,上記改訂後の基本高水流量がそれよりも100
0㎥/s大きいことをもって,当該数値が明らかに不合理であるとはいえない。
原告らは,さらに,天ヶ瀬ダムからの計画放流量が1200㎥/
sであり,天ヶ瀬ダムから宇治地点までの間に加わる流量は僅かであって,300㎥も増えるとは考えられないから,宇治地点における1500㎥/sという計画高水流量は過大であるとも主張する。計画高水流量が原告らの主張するような河川管理施設からの放流量
と他の河川からの流入量の和のみで決定されることを根拠づける証拠はないが,仮に,計画高水流量の算定方法に関して原告らが指摘するような疑問点があるとしても,そのことのみで天ヶ瀬ダムの放流能力を増強する必要性が否定されるとはいえない。


原告らは,天ヶ瀬ダムからの放流量についての過去の実績からみ
て,900㎥/sを超える放流を余儀なくされる可能性は限りなくゼロに近く,本件事業は必要性がないと主張する。
そこで検討するに,証拠(甲10)によれば,天ケ瀬ダムからの
放流量が900㎥を超えたのは,①平成7年5月16日午後5時~午後12時(最大放流量約910㎥/s)と②平成25年9月16
日午前6時40分~午前10時40分(同約1160㎥/s)の2回であることが認められるところ,現在の計画放流量をわずかであれ上回る事態が2度も発生したという事実は,むしろ本件事業の必要性を裏付けるものといえる。なお,上記②の洪水は,その後の検証により,予備放流を適切に行えば回避できたことが確認されてい
るが(もっとも,当時の予備放流実施基準によれば予備放流を行うべき基準に達していなかったことも確認されている
[甲11])予
。,
備放流を適切に行うことと併せて放流能力を増強させることにより上記と同様の事態の出来に対処しようとすることが不合理な判断であるとはいえない。



原告らは,天ケ瀬ダムがサーチャージ水位で1630㎥/sの放
流能力を有しており,また,平成25年9月の台風18号豪雨時におけるピーク時の放流量が1151㎥/sであったことから,天ヶ瀬ダムには十分な放流能力があると主張する。
そこで検討するに,近畿建設局(当時)作成の天ヶ瀬ダム建設誌
(甲25[250頁]
)には,天ヶ瀬ダムの放水設備について,
計画満水位EL.78.5mで異常洪水量毎秒1630㎥を安全確実に放流できるとの記載があり,天ヶ瀬ダムの放流設備はサーチャージ水位で1630㎥/sの放流能力があるとされる。しかしながら,これは,天ヶ瀬ダムにおける計画異常洪水量が1630㎥/sであり,これを常用放水口であるコンジットゲート(サーチャージ
水位で1100㎥/sの放流能力)と非常余水吐であるクレストゲート(サーチャージ水位で680㎥/sの放流能力)をもって放流することができることを意味すると解されるところ(甲25[118頁,250頁]
,弁論の全趣旨)
,クレストゲートは異常洪水時防
災操作等のための非常用の放水設備であるから(天ヶ瀬ダムゲート
操作実施要領5条1項[甲48],クレストゲートを除いた放水設)
備からの放流能力を計画放流量に見合った能力に増強することが不合理であるとはいえない。
また,平成25年9月の台風18号豪雨時におけるピーク時の放
流量は約1160㎥/sであったが(甲11,上記b①),これはク

レストゲートを利用した異常洪水時防災操作によるものであり(甲11)上記同様に,

クレストゲートを除いた放水設備からの放流能
力を計画放流量に見合った能力に増強することが不合理であるともはいえない。


原告らは,①放流量を840㎥/sから1140㎥/sに増強しても,予備放流の場面で短縮できる時間は1.5時間,洪水調節時に延長できる時間は1.4時間にすぎず,洪水調節機能にもたらされる効果は微々たるものにすぎない,②琵琶湖総合開発事業の成果として既に琵琶湖沿岸浸水被害が大幅に軽減されており,琵琶湖後期放流のために放流能力を増強する必要はない,などとして,本件事業はその目的に照らして必要性がないと主張する。
しかしながら,原告らも主張するとおり,本件事業は,洪水調節
機能に時間的効果をもたらすのであるから,本件事業が治水の観点からみておよそ必要性がないとはいえない。
また,琵琶湖総合開発事業は,昭和47年度から平成8年度にか

けて,琵琶湖治水及び水資源開発事業として,①湖岸堤・管理用道路工事,②内水排除施設,③流入河川改修,④瀬田川浚渫,⑤南湖浚渫,⑥瀬田川洗堰の改築(バイパス水路)
,⑦管理設備,⑧水位低
下対策(補償工事)等の事業を行ったものであり,うち治水に関わる事業は上記①~④であるところ
(甲9)それらの事業によって沿


岸浸水被害の大幅な軽減が図られていることを指摘する文献(甲28)がある一方で,国土交通省近畿地方整備局によるシミュレーション(平成23年度,平成26年度及び平成28年度の近畿地方整備局事業評価監視委員会への提出資料に記載されたもの)
によれば,
戦後最高水位を記録した昭和36年洪水が発生した場合において,
本件事業(天ヶ瀬ダムの放流能力増強と宇治川・瀬田川の整備)により,最高水位が約19cm低下し,農地が浸水を始める琵琶湖水位のB.S.L+30cmを超える日数が約12日間短縮し,家屋が浸水を始める琵琶湖水位のB.S.L+70cmを1cm超えるのみになり,浸水被害が大幅に軽減されるとされており(乙53の
2~4)
,このことに照らしても,本件事業が,治水上の観点からみ
て必要性がないなどとはいえない。
原告らは,上流及び下流の流下能力が1500㎥/sを下回るか
ら,本件事業により1500㎥/sの放流能力を確保しても無意味であると主張する。
しかしながら,前記a⒡に認定したとおり,淀川水系河川整備計
画においては,対象期間を概ね30年間とし,天ヶ瀬ダムの上下流
域において,景勝地である塔の島地区及び鹿跳渓谷においては学識経験者の助言を得て景観,自然環境の保全等の観点を重視して,河川整備を併せて行うものされているのであるから,現時点での上流及び下流の流下能力が1500㎥/sを下回るからといって,本件事業により1500㎥/sの放流能力を確保することが無意味であ
るとか,治水の観点からみて不要であるとかいうことはできない。河川整備に要する費用や実際の河川整備の進捗状況,塔の島地区及び鹿跳渓谷の整備は容易でないことなど原告らが主張する点を踏まえても,上記判断を左右するには至らない。


原告らは,国土交通省近畿地方整備局が行った本件事業の前後に
おける調節可能洪水数の比較に関するシミュレーション(乙53の2[7頁]
,53の3[9頁]
)について,シミュレーションの手法
に不備があり,また,当該シミュレーションによっても,本件事業により増加する調節可能洪水数がごくわずかであり,本件事業は治
水上の費用対効果が極めて乏しいと主張する。
そこで検討するに,上記シミュレーションは,枚方地点の流量が
8000㎥/sを超え,天ヶ瀬ダムの放流量を低減させる二次調節の必要のある対象洪水25パターン(過去にあった複数の洪水について,枚方等の各基準地点上流域における雨量を降雨確率1/20
0,
1/150,
1/100となるように設定したもの)
について,
二次調節を行っても天ヶ瀬ダムの治水容量1667万㎥を超えないパターン数を確認したものであるところ(乙53の2[7頁]
,53
の3[9頁],シミュレーションに当たり想定雨量を実際の雨量で)
はなく,上記降雨確率を用いて行うことは不合理ではなく,上記降雨確率を用いた結果,実際の雨量に対する想定雨量の倍率は1.02倍~1.55倍であるから,パターンの設定が著しく不合理であるともいえない。また,天ヶ瀬ダムの治水容量は,河川砂防技術基準に従い,流入洪水の予測の不確実性や実操作時に生じる操作や操作制限による遅れなどを見込んで設定されたものであって(乙53の3[9頁],その設定に不合理なところはない。そして,上記シ)

ミュレーションによれば,本件事業により,3パターンとはいえ調節可能洪水の数が増加するというのであるから,本件事業の必要性が裏付けられるといえる。
なお,原告らは,淀川水系河川整備計画が整備目標としているの
は,上記シミュレーションにおいて本件事業前でも調節可能とされ
る昭和28年9月の台風13号洪水(宇治地点上流域の雨量を降雨確率1/150[倍率1.02倍]に引き伸ばしたもの)のみであるから,本件事業は必要がないと主張するが,淀川水系河川整備基本計画が台風13号洪水のみを整備目標としていることを認めるに足りる証拠はなく,原告らの上記主張は,失当である。

さらに,原告らは,上記シミュレーションにおいて昭和28年9
月の台風13号洪水(枚方地点上流域の雨量を降雨確率1/200[倍率1.18倍]に引き伸ばしたもの)は本件事業前後にかかわらず調節不能とされているのに,その洪水調節図が,平成23年3月8日の天ヶ瀬ダム再開発基本計画の変更に関する国土交通省近畿
地方整備局作成の資料(乙20)に掲載されていることから,上記基本計画が杜撰であるなどとも主張するが,上記洪水調節図掲載の趣旨及び同図と上記シミュレーションの整合性について不明確な点があるとしても,そのことのみをもって,本件事業につきおよそ治水上の必要がないと認めることはできない。

以上のとおり,治水の観点からみて,天ヶ瀬ダムないし本件放流
設備が河川管理施設としての機能,性状を有していないとか,本件事業が河川管理上の必要性を全く有しないとかいうことはできないから,本件事業に係る治水負担金がおよそ河川管理のための費用に該当しないことが明白であるとはいえず,国土交通大臣による治水負担金の納付通知に重大かつ明白な違法があるとは認められない。
d
よって,本件事業に治水上の必要性がないことを理由に,治水負担金の納付通知ないしこれに基づく支出が違法であるとする原告らの主張は,理由がない。
天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の安全性について
原告らは,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備が,①耐震性の欠如等,②安
全管理のための計測機器の設置不備等,③低周波音被害防止対策の欠陥により,河川管理施設としての安全性を欠くと主張するところ,前記アで判示したとおり,河川管理施設としての安全性の欠如を理由に本件事業に係る治水負担金の支出が違法であるといえるためには,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備が,その安全性の欠如により,河川法に基づく河川管
理施設としての機能,性状を有しておらず,本件事業に係る治水負担金がおよそ河川管理のための費用に該当しないことが一見して明白でなければならないと解される。上記の観点から,以下,検討する。
a
天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の耐震性等について
後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ

る。

天ヶ瀬ダムが設置されている地域は,京都府を含む近畿地方北
部のいわゆる近畿トライアングル(敦賀湾を頂点として,中央構
造線の淡路島から伊勢湾までの区間を底辺とする三角地帯)とい
われている区域にあり,多くの活断層が密集しており,我が国で
最も活断層が多い地域の一つである。京都府が実施した京都府地
震被害想定調査においては,天ヶ瀬ダムが設置されている区域及

び本件放流設備設置区域の周辺に,花折断層帯,桃山-鹿ケ谷断
層,黄檗断層,奈良盆地東縁断層帯,和束谷断層,琵琶湖西岸断
層帯,宇治川断層,有馬-高槻断層,木津川断層帯等の活断層が
存在するとされている。
(甲26の1~11,弁論の全趣旨)

天ヶ瀬ダム直下には,F-0層と呼ばれる断層(破砕帯)が存
在している。なお,F-0層は,本件事業の着工当初からその存
在が確認されていたが,着工後,同破砕帯の幅が当初想定してい
たものよりも約1.5倍あることが判明している。
(甲33,乙3
0[42頁]
,53の4,弁論の全趣旨)



天ヶ瀬ダム建設中の昭和31年及び昭和35年に,工事中の天
ヶ瀬ダム左岸のダム堤体付根付近において大規模な崩落が発生し
たことがあり,また,天ヶ瀬ダム建設後,堰堤頂部や堰堤両岸付
根部等に亀裂等が多数発生している。


国土交通省は,平成14年度に活断層調査(第四紀断層調査)
を実施した。同調査においては,空中写真(4万分の1)及び地
形図(2万5000分の1)の判読により天ヶ瀬ダム(本件放流
設備設置予定地を含む。から半径3kmの範囲内で6つの線状模


(活断層の可能性があるもの)
を抽出し,
現地調査が行われた。
同調査の結果,天ヶ瀬ダムの下を通る活断層はないことが確認さ

れた。また,平成20年に京都府建設交通部が作成した淀川水系河川整備計画案に対する京都府域への効果等に関する技術的評価(中間報告)(乙30)には,トンネル掘削による周辺地盤への影響に関して,トンネル位置の影響につき,ダム本体端部から
ほぼ100m離れると基礎岩盤の応力変位の影響は受けなくなる
ところ,本件放流設備と天ヶ瀬ダムとの隔離距離は150mを確
保していることから,安全と判断していること,トンネル施工の

影響につき,断層(F-0層)部は地質的に弱いため,覆工厚を
厚くするなどトンネルの構造を丈夫にしたり,トンネル周辺地盤
の補強を行ったりすることにより,ダム本体を支えている地盤に
影響がないように対処する予定であること,F-0層は,天ケ瀬
ダム建設時に確認されている断層であり,活断層ではないことな

どが記載されている。
(乙30[42頁]。


国土交通省は,本件事業が,平成21年3月に策定された淀川
水系河川整備計画に位置付けられたことから,本件事業の実施に
当たり,第四紀断層に関する最新の情報を収集・整理し,解析を
行い,天ヶ瀬ダムに影響を及ぼす可能性のある第四紀断層の有無

を精査することを目的に,①文献調査,②地形学的調査,③地質学的調査,④総合解析の手順で調査を実施した。同調査の結果,天ヶ瀬ダムに影響を及ぼす可能性のある第四紀断層はなかったと
報告された。
(甲67)

ダムの耐震性能については,平成7年に発生した内陸型直下地
震である阪神淡路大震災を踏まえ,ダムの耐震性能照査の再検討
が実施され,平成17年3月に大規模地震に対するダム耐震性能照査指針(案)(甲19。耐震性能照査指針案
以下
という。

が公表されているが,天ヶ瀬ダムについて,同照査指針案に基づ
く耐震性能照査は実施されていない。


上記ⅰの天ヶ瀬ダム設置地域周辺の活断層等の存在及び上記ⅱ
の天ヶ瀬ダムにおける亀裂等の存在について,F-0層が活断層
であり,仮に活断層でないとしても,天ヶ瀬ダム地点が複数の活
断層に近接していることから,天ヶ瀬ダムの耐震性に疑問がある
ことや,天ヶ瀬ダム地点両岸の地盤が緩みつつあるか,天ヶ瀬ダ
ムの堤体が上流側に動いている可能性があることを指摘する文献
(甲12等)があり,国土問題研究会副理事長(当時)Jら作成
の天ヶ瀬ダムの危険性に関する検討
(甲70。以下J論文
という。
)においては,以下の指摘がされている。


天ヶ瀬ダム直下にはF-0層と斜交する多くの波打った断層
があり,天ヶ瀬ダムは破砕された岩盤に支持されている。天ヶ

瀬ダム地点と40m上流の地質断面図からは岩盤崩壊につなが
る岩盤クリープ(地層の折れ曲がり)が存在し,活断層である
黄檗断層が北方からこの地域に延びてきており,現在の基準で
はこの地点にアーチ式ダムを建設することは到底許容されない。


天ヶ瀬ダムが建設された場所は中生代のメランジ堆積物であ
る丹波層群分布地域であり,多くの断層が分布する。東西方向
の天ヶ瀬ダム直下断層のほかに北西-南東方向の多くの断層が
あるが,ダム堰堤表面及び周辺に生じた亀裂群は,大局的にこ
れらの断層群とほぼ方向が同じである。亀裂の発生は,これら
の断層群によって広範な地域の岩盤にゆるみが生じていること

を示している可能性がある。


天ヶ瀬ダムは,現在破壊されているわけではなく,平成25
年の高水位にも耐えているから,今直ちに破壊されることは考
えられない。しかし,将来,天ヶ瀬ダムの堤体破壊が起きるか

どうかについて,一つは,ダム両岸の岩盤の変位に起因してダ
ム堤体の左右の翼部で起きていると考えられる変位・変形が,
次第に堤体の他の部分に波及し,堤体が亀裂だらけになって強
度が落ちる可能性,もう一つは,思いがけない外力,具体的に
は地震力による堤体破壊の可能性(上記ダム堤体の変位・変形
の進行は天ヶ瀬ダムが地震で破壊される確率を確実に高めてい
くことになる。
)を考える必要がある。



上記認定事実によれば,天ヶ瀬ダム設置地域周辺には複数の活断
層が存在し,天ヶ瀬ダム建設以降,天ヶ瀬ダム堰堤等に亀裂等が生じており,天ヶ瀬ダムについて耐震性能照査指針案に基づく耐震性能照査が実施されておらず,それらの事実等を根拠に天ヶ瀬ダム及び本件放流設備の危険性を指摘する論文等が存在することは認めら
れるけれども,天ヶ瀬ダムは,現に治水機能を有するダムとして供用されており,現在破壊が進行しているとか近い将来に破壊するおそれがあるなど差し迫った危険が生じているといった事実は認められず,上記論文等の記述も,天ヶ瀬ダムの耐震性能等に関する問題点を指摘し,将来的に強度が低下していく可能性や,地震等の思い
がけない外力による堤体破壊の可能性があることを指摘するにとどまるものである。
そうすると,上記の諸事実を踏まえても,天ヶ瀬ダム及び本件放
流設備が,その安全性の欠如により,河川法に基づく河川管理施設としての機能,性状を有しないものとまで認めることはできない。
b
安全管理のための計測機器の設置について
原告らは,また,天ヶ瀬ダムに法令上設置が義務付けられている安全管理のための計測機器が設置されていないとも主張するところ,具体的にどのような計測機器が設置されていないことをもって違法と主
張する趣旨か,必ずしも明らかでないが,仮に,計測機器の設置状況に何らかの不備があるとしても,そのことから直ちに,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備が,その安全性の欠如により,河川法に基づく河川管理施設としての機能,性状を有しないものであるとまで認めることはできない。
c
天ヶ瀬ダム建設・供用に伴う放流水による低周波音被害防止対策について
原告らは,さらに,天ヶ瀬ダム完成直後から,ダム放流時に周辺地域に低周波音による被害が発生し続けており,本件放流設備設置による低周波音の影響があることが予測されるにもかかわらず,その対策がなされていないと主張する。

しかしながら,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備による低周波音被害の具体的内容及び程度を認定するに足りる証拠はなく,仮に,低周波音による何らかの被害発生の可能性があるとしても,そのことのみをもって,天ヶ瀬ダム及び本件放流設備が,その安全性の欠如により,河川法に基づく河川管理施設としての機能,性状を有しないものである
とまでいうことはできない。
環境への影響について

河川事務所は,本件事業に当たり,天ヶ瀬ダムの貯水池内環境及び下流域環境について環境調査を実施しており,その調査内容に不合理ないし不十分というべきところはない。原告らが指摘する事項等について調査が行われていないとしても,それにより京都府が治水負担金の納付義務を負わないこととなるとも,治水負担金の納付通知が違法となるとも解されない。
淀川水系流域委員会の意見聴取手続について

判断したとおり,国土交通省は,淀川水系河川整備
計画を策定するについて,河川法16条の2第3項所定の学識経験者の意見聴取の手続を履践しており,その手続に瑕疵があるとは認められない。
小括
以上によれば,本件事業に係る治水負担金がおよそ河川管理のための費用に該当しないことが明白であるとはいえず,国土交通大臣による治水負担金の納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があるとは認められない。

治水負担金の支出の違法の有無についてのまとめ
よって,京都府知事が治水負担金の納付通知に応じて治水負担金を支出
する行為が,財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるということはできない。
2
まとめ
以上によれば,本件各負担金の支出に違法はなく,原告の請求は,いずれも理由がない。

第4

結論
以上の次第で,原告らの請求は理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第3民事部

裁判長裁判官

増森珠美
裁判官

中田克

裁判官

藤野真歩子
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