判例検索β > 令和1年(行ケ)第10173号
特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和1(行ケ)10173
事件名特許取消決定取消請求事件
裁判年月日令和2年9月3日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2020-09-03
情報公開日2020-09-03 16:00:50
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令和2年9月3日判決言渡
令和元年(行ケ)第10173号
口頭弁論終結日

特許取消決定取消請求事件

令和2年7月7日
判決原告
同訴訟代理人弁護士

積水化学工業株式会社
小松陽藤野睦大住原被告
同指定代理人

子洋悠介野蔵雅昭比野隆治賢一浩子原小出天1郎
特許庁長官

日主一野斉文
特許庁が異議2018-700983号事件につい
て令和元年11月20日にした決定を取り消す。

2
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求

主文第1項と同旨
第2

事案の概要

1
特許庁における手続の経緯等



原告は,平成29年2月22日,発明の名称を両面粘着テープ,車載部品固定用両面粘着テープ,及び,車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープとする発明について特許出願をし
(優先権主張:平成28年2月22日,
日本)
,平成30年7月20日,特許権の設定登録(特許第6370477号。請求項数7。甲1)を受けた(以下,この特許を本件特許という。。



Aは平成30年12月4日に,Bは平成31年2月1日に,特許業務法人朝
日奈特許事務所は同月4日に,本件特許について特許異議の申立てをした(異議2018-700983号)



特許庁は,令和元年11月20日,

特許第6370477号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。

との決定(以下本件決定という。)をし,その謄本
は,同月29日,原告に送達された。


原告は,令和元年12月24日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2
特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7の記載は,
以下のとおりである
(甲1)

なお,
/
は原文の改行部分を示す(以下同じ。。以下,各請求項に係る発明を本)件発明1などといい,これらを併せて本件発明という。また,本件特許の明細書(甲1)を,図面を含めて,
本件明細書という。
【請求項1】基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テープであって,/前記基材は,発泡体からなり,/前記基材の厚みが1500μm以下であり,/前記発泡体は,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であり,発泡倍率が15cm3/g以下であり,気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)が0.9~3であり,/前記発泡体がポリプロピレン系樹脂を含有する/ことを特徴とする両面粘着テープ。
【請求項2】前記発泡体は,ポリプロピレン系樹脂を30~90重量%含有するポリオレフィン発泡体であることを特徴とする請求項1記載の両面粘着テープ。【請求項3】前記ポリプロピレン系樹脂は,プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の両面
粘着テープ。
【請求項4】前記発泡体は,厚さ方向の25%圧縮強度が50~1000kPaであることを特徴とする請求項1,2又は3記載の両面粘着テープ。【請求項5】
総厚みが30~2000μmであることを特徴とする請求項1,
2,
3又は4記載の両面粘着テープ。
【請求項6】請求項1,2,3,4又は5記載の両面粘着テープからなることを特徴とする車載部品固定用両面粘着テープ。
【請求項7】請求項1,2,3,4又は5記載の両面粘着テープからなることを特徴とする車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープ。3
本件決定の理由の要旨

本件決定の理由は,別紙決定書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明は,①特許法36条6項2号に規定する要件に適合しないから,明確性要件に違反する,
②同条4項1号に規定する要件に適合しないから,実施可能要件に違反する,
③同条6項1号に規定する要件に適合しないから,サポート要件に違反する,というものである。
4
取消事由



明確性要件の判断の誤り(取消事由1)



実施可能要件の判断の誤り(取消事由2)



サポート要件の判断の誤り(取消事由3)

第3
1
当事者の主張
取消事由1(明確性要件の判断の誤り)について

〔原告の主張〕


示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であるの意義アピークとは,

①山のいただき。峰。②絶頂。最高潮

(広辞苑第6版)な
どと用語の説明がなされており,一般的には1つの山を前提としたものである。し
たがって,日本語の意味として,本件発明1の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であるとの記載は,示差走査熱量計による測定結果のグラフの頂点が140℃以上に存在することを意味することが明らかである。

(ア)

本件明細書の実施例の記載からも,上記アの点が理解できる。
すなわち,実施例1~7は,原材料としてポリプロピレン系樹脂と直鎖状低
密度ポリエチレンを用いた発泡体であるが,この2系統が用いられた系では,示差走査熱量計による測定により,ポリプロピレン樹脂に由来する結晶融解温度ピークと直鎖状低密度ポリエチレンに由来する結晶融解温度ピークが発現することがあるが,前者のピークが後者のピークより高温域に発現すること及び後者のピークが140℃には満たないことは,技術常識である(例えば,甲9~11)。そして,本件
明細書の【表1】には,実施例1~7の結晶融解温度ピークとして141.5~147.4℃の各値が記載されているから,最も高温側のピークが140℃を超えていれば実施例に該当することを示している。
このように,
示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありとは,複数のピークが発現する場合であっても,140℃以上の部分にピークがあることを意味することは明確である。
(イ)

本件発明の実施例2の追試結果は下図のとおりであり,
120℃付近と14

0℃付近にピークがある。本件明細書には,実施例2の結晶融解温度ピークは143.9と記載されており(
【表1】,2つのうちの1つが140℃以上であ

れば発明特定事項を満たすことが明確である。ピークが2つ出るであろうことは,実施例2がポリエチレンとポリプロピレン樹脂とを含むことの記載【0062】(
【0
058】
)からも理解できる。

(ウ)

さらに,示差走査熱量測定により測定されるピークが複数存在する場合に,
高温側のピーク温度を結晶融解温度ピークとするのが技術常識でもある(甲9)。

以上のように,請求項1の文言自体が明確であって,かつ,その範囲をカバ
ーし,
外縁を明らかにするのに十分な実施例が本件明細書中に開示されているから,本件発明1の特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を与えるということはない。


本件発明の明確性要件適合性について

上記⑴によれば,本件発明1は明確性要件に適合する。また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~7についても同様である。
したがって,本件決定の明確性要件の判断には誤りがある。
〔被告の主張〕


示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であるの意義ア
示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークとは,融点を意味
する(乙1)
。本件発明1の発泡体は,ポリプロピレン系樹脂以外の成分を許容するものであるから,示差走査熱量計により測定すると,ポリプロピレン系樹脂を含む各成分の融点に対応する結晶融解温度ピークが測定される。また,ポリプロピレン系樹脂自体も,示差走査熱量計による結晶融解ピークが複数本ある場合がある。
このように,結晶融解温度ピークが複数測定される場合に,
示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありについて,①結晶融解温度ピークといえるものは140℃以上であるという解釈,②最も高温側の結晶融解温度ピークが140℃以上であるという解釈のほか,③最大ピークを示す温度が140℃以上である,又は,最大面積の吸熱ピークの頂点温度が140℃以上であるという解釈(乙2~6)
,④最も低い結晶融解ピーク温度が140℃以上であるという解釈(甲5,乙7~9)
,⑤わずかなピークであっても,そのピークが140℃以上に存在すればよいという解釈等,複数の解釈が考えられる。
そして,特許請求の範囲及び本件明細書には,
示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークの定義の記載はない。イ
ピークが複数現れた場合は,
複数のTpmを示すことになっているとされる
(乙

1)が,本件明細書には,結晶融解温度ピークが複数ある場合を含むことについての記載がないから,本件発明1は結晶融解温度ピークが複数ある場合については想定されていない。
また,本件明細書の実施例及び比較例における結晶融解温度ピークの温度の記載は1つであり,他の結晶融解温度ピークの有無や個数,複数の結晶融解温度ピークが測定されていたのであれば,いずれを記載したかについての記載はない。このように,本件明細書の記載からは,結晶融解温度ピークが複数ある場合に,いずれのピークに基づいて示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありの充足性を判断すべきかが不明であり,また,この点に関する技術常識もない。

以上のとおり,本件発明1の前記発泡体は,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありについて複数の解釈が可能であるところ,本件明細書の記載を考慮し,また,本件特許の出願時における当業者の技術常識を勘案しても,これを一義的に解釈することができないから,第三者に不測の不利益を及ぼすこととなる。



本件発明の明確性要件適合性について

上記⑴のとおり,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。また,本件発明2~7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり,同様に不明確である。
2
取消事由2(実施可能要件の判断の誤り)について

〔原告の主張〕


本件明細書の記載

本件明細書には,発泡体の原材料(原材料の商品名等含む)
,配合比,押出機の種
類,溶融混錬温度,原反シートの厚み,架橋条件(電子線の加圧電圧及び照射量),
発泡条件,粘着剤の原材料,還流方法,共重合体製造手順,架橋剤添加手順等,両面粘着テープの製造手順,乾燥温度,時間,養生温度,時間を具体的に記載した実施例が7つ,本件発明の外縁をより明確にする比較例が4つ開示され,得られた各例の特性も開示されている(
【0058】~【0075】。

また,①示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークについて,発泡体の材料,発泡倍率,厚み等により調整することができること(
【0020】,②発泡

倍率について,
発泡体の材料,
厚み等により調整することができること【0021】,


③気泡のアスペクト比について,発泡体の材料,発泡倍率,厚み等により調整することができること(
【0022】
)が記載され,発泡体を製造する方法の記載(
【00
31】~【0042】
)もある。


実施可能要件適合性について


本件明細書のように,7つもの実施例及び4つの比較例が記載されている場
合,それらを起点として,本件発明の幅の範囲内で特許発明を実施することは,当業者にとって困難なことではない。

本件明細書の【0020】及び【0022】における厚み等という記載か
らわかるように,結晶融解温度ピークを材料,発泡倍率,厚みの3者のみで調整するという限定はない。本件明細書には,
【0031】~【0042】に発泡体を製

造する上で必要な要素・具体的な条件が詳細に記載されているので,これらに基づき,適宜,発明特定事項に入るように製造すればよい。

本件発明の発泡体に気泡が存在するのは当然の前提であり,本件明細書にお
ける,気泡のアスペクト比の説明(
【0008】【0009】【0023】等)や,


工程(3)においては,必要に応じて,シート状のポリオレフィン樹脂組成物をMD又はTDの何れか一方又は双方に延伸してもよい。上記シート状のポリオレフィン樹脂組成物を延伸する方法としては,ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させて,発泡体を得た後に延伸する方法や,ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させつつ延伸する方法等が挙げられる。・・・【0041】(
)との記載によれば,延伸時の張力のか
け方によって,シートが縦に大きく引っ張られたり,さほど引っ張られなかったりする結果,
アスペクト比に影響することは,
当業者はもちろん,
一般的に経験則上,
容易に理解できる(甲24~26)
。例えば,甲17(特許6476734号公報)
にも,
発泡体基材を延伸することによって,発泡体基材の気泡を所定方向に延伸し変形させて,気泡のアスペクト比を所定範囲内にすると記載されている。エ
以上によれば,本件発明は実施可能要件に適合する。したがって,本件決定
の実施可能要件の判断には誤りがある。


被告の主張について


被告は,
請求項1の記載は,本件発明1が達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいる等と主張し,機能的クレームであるとの前提に立つかのようである。しかし,本件発明が達成すべき結果は,耐熱性や耐反発性であり(
【0073】~【0074】【表1】,被告の主張する5つの要件は,達成すべ,

き結果ではなく,本件発明の物理的構成そのものであるから,前提が誤っている。本件のような物の発明について,
製造方法についての具体的記載が不可欠ではない。

被告は,発泡倍率を決めると,発泡体の材料,厚みも決まってしまうと主張
するが,本件発明の発明特定事項の1つである厚みは基材の厚みであるから,最終的に所望の厚みに裁断すればよく,発泡倍率を決めると厚みも決まるなどという
ことはない。基材の厚みは裁断により制御でき(甲18)
,結晶融解温度ピークは材
料が支配的,発泡倍率は発泡剤の量が支配的(例えば,甲20)
,気泡のアスペクト
比は製造条件(発泡条件,延伸条件等)が支配的である(例えば,甲21~23)。
厚み,結晶融解温度ピーク,発泡倍率及び気泡のアスペクト比の4つの特性を制御する方法やこれらに影響する因子は,当業者にとって技術常識であり,本件明細書の記載で十分に実施可能である。

被告は,本件明細書の実施例や比較例の一部を取り出して,比較ア~カとし
て,比較をし,実施例以外の実施について過度の試行錯誤を強いられる旨主張するが,例えば,比較アにおいて,示差走査熱量分析の精度に鑑みれば,結晶融解温度ピーク142.6℃(実施例1)
,143.9℃(実施例2)の差1.3℃に有意な差
があるかどうかの検討もされていないなど,意味のない比較である。〔被告の主張〕


実施可能要件について

請求項が達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでおり,発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって,当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても,請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由があるときには,実施可能要件違反となる。
本件発明1は,物の発明であって,基材の厚み,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピーク,発泡倍率,気泡のアスペクト比及び材料についての5つの要件を同時に全て満足する(達成する)ことを要するものであるから,請求項1の記載は,本件発明1が達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいる。


本件発明の実施可能要件適合性について


前記1〔被告の主張〕のとおり,本件発明は明確ではないから,当業者は,本
件発明の両面粘着テープを製造できたか否かを判断することができない。したがっ
て,発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

本件明細書の【0020】【0022】には,要するに,発泡体の材料,発泡,

倍率及び厚みの3者を適宜調整することにより,結晶融解温度ピークと気泡のアスペクト比とを同時に所望の値に調整することによって製造することができる旨の一般的説明がされている。
しかし,発泡体の材料,発泡倍率及び厚みをどのように調整するかについて,具体的な調整指針などが何も記載されておらず,また,他に結晶融解温度ピーク及び発泡体の気泡のアスペクト比を所望の値に調整するための手段を具体的に説明する記載もない。そうすると,本件明細書の記載からは,発泡体の材料,発泡倍率及び厚みをどのように調整したら良いのかを理解することができない。
また,発泡体の材料,発泡倍率及び厚みのうちの発泡倍率及び厚みは,それぞれ所望の値にすることを要するから,結局,これらのうち自由に調整することができるものは材料のみである。そうすると,材料を調整することによって結晶融解温度ピークを所望の値に調整できたとしても,同時に気泡のアスペクト比が所望の値になっているとは限らず,しかも,結晶融解温度ピークを所望の値に調整するために材料を調整すると,
当該調整は,
発泡倍率に影響を与えてしまうため【0021】,


発泡倍率が所望の値ではなくなってしまう。このように,発泡体の材料,発泡倍率及び厚みを独立に調整して,結晶融解温度ピーク及び気泡のアスペクト比をそれぞれ所望の値に調整することはできないから,調整の手立てが制限された中で試行錯誤を行わなければならず,上記の一般的説明を手掛かりとしては,過度の試行錯誤を強いられることになる。

本件明細書の実施例及び比較例の記載をまとめると,別紙被告比較表目録の
【比較表1】のとおりであり,これを比較,分析した結果は,同目録の【比較表2】の比較ア~カのとおりである(以下,単に【比較表1】などという。。)
比較アと比較カを考慮すると,比較アでは,発泡剤の含有量が減少すると気泡のアスペクト比が増加するのに対し,比較カでは,発泡剤の含有量が増加しているのに気泡のアスペクト比も増加しており,発泡剤の含有量が増加しても減少しても気泡のアスペクト比が上昇するという相反する結果を示している。
比較ウと比較オを考慮すると,両者とも,発泡剤の含有量及び厚みが共に減少している点で一致しているが,比較ウではアスペクト比が増加するのに対し,比較オではアスペクト比が減少し,発泡剤の含有量及び厚みに対し,気泡のアスペクト比の変化に相反する結果を示している。
比較イと比較エを考慮すると,比較イでは,ポリプロピレン系樹脂の含有量が低下すると,融解温度ピークが上昇するのに対し,比較エでは,ポリプロピレン系樹脂の含有量が増加すると,融解温度ピークが上昇しており,ポリプロピレン系樹脂の含有量に対して,融解温度ピークの変化に相反する結果を示している。以上を踏まえると,材料,発泡倍率及び厚みは,それぞれ,融解温度ピーク及び気泡のアスペクト比に影響するが,その影響に一定の規則性を読み取ることはできない。したがって,実施例及び比較例の記載をみても,材料,発泡倍率及び厚みを,それぞれどのように調整すれば,融解温度ピーク及び気泡のアスペクト比を所望の値とすることができるのかを理解することができない。
なお,原告は,延伸時の張力のかけ方が気泡のアスペクト比に影響することは容易に理解できると主張するが,本件明細書には,材料,発泡倍率及び厚みの調整との関連はもちろんのこと,延伸時の張力のかけ方をどのように調整するとアスペクト比がどのように変化するのか等に関する具体的な説明を含んでおらず,この点に関する技術常識を示す証拠もない。

実施例及び比較例のように,ポリプロピレン系樹脂の種類を変えずに含有量
を変えただけの場合についてですら,結晶融解温度ピーク及び気泡のアスペクト比に対する影響に一定の規則性を読み取ることができないから,本件発明1において実施例及び比較例と異なるポリプロピレン系樹脂を使用した場合の影響は全く予想することができない。

したがって,当業者は,実施例1~7に係る特定の粘着テープについては実
施が可能であるとしても,それ以外の態様の粘着テープを製造する場合には,過度の試行錯誤を強いられることになる。発明の詳細な説明は,本件発明1を当業者が過度な試行錯誤等を行うことなく実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。また,本件発明2~7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから,同様のことがいえる。
3
取消事由3(サポート要件の判断の誤り)について

〔原告の主張〕


サポート要件について

本件発明は,被告が主張するいわゆるパラメータ発明ではないから,請求項に係る発明と,発明の詳細な説明に発明として記載されたものを対比すればよく,請求項に係る発明が,課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを検討すれば足りる。


本件発明のサポート要件適合性について


本件発明において両面接着テープの剥離の問題を耐熱性や耐反発性の改良な
どで解決しようとしていることは,本件明細書(
【0005】【0006】等)から

も当業者は容易に理解できる。本件発明が所望の効果を奏する作用機序は,このような高温下に晒されたときに基材が収縮してしまい,その結果接着力が低下して剥離してしまったものと考えられ・・・曲面に両面粘着テープを適用した場合,反発力により剥離し易くなる(
【0005】との記載,

(1)耐熱性の評価

【0073】,

(2)耐反発性の評価【0074】

)の記載から理解することができ,また,
【表
1】の実施例1~7,比較例1~4から,各発明特定事項を満たすことで効果を奏することが理解できる。
本件発明の発泡体は
ポリプロピレン系樹脂を含有する発泡体
であり,
①厚み,
②結晶融解温度ピーク,③発泡倍率,④気泡のアスペクト比に係る発明特定事項を満たす発泡体であるから,実施例に記載された以外のポリプロピレン系樹脂を含有する場合であっても,
①~④の条件を満たすように調整された発泡体とすることで,本件発明の課題を解決することができる。実施例が7つもあり,しかも発明はポリプロピレン系樹脂に限定されているにもかかわらず,実施例で具体的な多種類のポリプロピレン系樹脂の実施例を求めることは,特許権者に過大な負担を課すものである。

被告は,本件明細書には,①~④の条件を同時に満足することにより課題を
解決することができる理由(作用機序や原理など)を説明する記載がないなどと主張するが,発明を開示した代償としての特許権付与という特許制度の趣旨に照らせば,本来作用機序や原理の記載は必須ではないし,本件発明が所望の効果を奏する作用機序は,上記アの本件明細書の記載から理解できる。
被告は,例えば,本件明細書が,①~④の条件のうち耐熱性と関係があるのは結晶融解温度ピークのみであるとしているとの前提に立って,実施例及び比較例の記載は説明がつかないと主張する。しかし,本件明細書には,耐熱性と関係があるのは結晶融解温度ピークのみなどとは記載されておらず,実施例及び比較例の比較からは,それ以外の特性も関係があり,4つの条件を充足することが必要であることが理解できる。また,被告は,結晶融解温度ピークについて,比較例1(143.9℃)と,実施例1,4~7(141.5℃~143.3℃)とで違いがあると扱って分析するが,そのような手法自体に疑問がある。
〔被告の主張〕


サポート要件について

発明の課題に係る耐熱性及び耐反発性という効果(性能)についての記載(【00
08】【0020】~【0022】【0042】


)によれば,本件明細書において,
①厚み,②結晶融解温度ピーク,③発泡倍率,④気泡のアスペクト比の4つの条件を同時に満足することにより,発明の課題を解決することができるものであると説明されているから,本件発明1はいわゆるパラメータ発明である。いわゆるパラメータ発明について,サポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,
当該数式が示す範囲内であれば所望の効果
(性能)
が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要する(知財高裁平成17年(行ケ)10042号同年11月11日判決)。


本件発明のサポート要件適合性について


前記1〔被告の主張〕のとおり,本件発明の特許請求の範囲の記載は明確で
はないから,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを正確に対比することができない。また,前記2〔被告の主張〕のとおり,本件発明のうち,実施例1~7に係る粘着テープの態様以外の態様の粘着テープを製造することができる程度に発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとはいえないから,本件発明は製造することができない態様を含むものであり,
製造することができない態様は,
実質的には発明の詳細な説明に記載されているとはいえないものであるし,発明の課題を解決できるものでもない。

前記⑴のとおり,本件発明1はパラメータ発明であるところ,本件明細書に
は,①厚み,②結晶融解温度ピーク,③発泡倍率,④気泡のアスペクト比の4つの条件を同時に満足することにより課題を解決することができる理由(作用機序や原理など)を説明(立証)する記載はない。また,これらを同時に満足することと耐熱性や耐反発性との関係についての記載もない。加えて,例えば軟化温度が耐熱性に影響を与えることは明らかであるが,
本件明細書には,
上記4つの条件以外の条件
(軟
化温度など)とは関係なく,上記4つの条件のみを満足することによって発明の課題を解決することができる理由(4つの条件以外には,上記の発明の課題の解決と関連のある条件が存在しないこと)に関する説明も記載されていない。ウ
本件明細書には,耐熱性と結晶融解温度ピークとの関係が記載され(【002

0】,発泡倍率,気泡のアスペクト比及び厚さと耐熱性との関係に関する記載はな)
いので,
4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶融解温度ピークのみであり,これが高いほど耐熱性が優れている旨説明されていると理解できる。ところが,実施例及び比較例はこのような関係になっておらず,その理由について本件明細書には説明が記載されていない。
このように,上記4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶融解温度ピークのみであると理解できるにもかかわらず,結晶融解温度ピークを140℃以上にしても必ずしも耐熱性に優れたものとすることができないから,本件発明1は,耐熱性が×であってその課題を解決することができない態様を包含している。エ
本件明細書には,耐反発性について,発泡倍率の上限(
【0021】,気泡の


アスペクト比の上限及び下限(
【0022】,厚みの上限と下限(

【0042】
)につ
いての記載があり,結晶融解温度ピークと耐反発性との関係に関する記載はないので,耐反発性は,発泡倍率,気泡のアスペクト比及び厚さに関連があることが説明されていると理解できる。これによれば,発泡倍率が上限の15cm3/gに近く,気泡のアスペクト比が0.9又は3に近く,さらに,厚みが上限の1500μmに近い態様が,最も耐反発性に劣る可能性のある態様であるといえる。これに基づいて実施例1及び5の,厚み,発泡倍率ないし気泡のアスペクト比を本件発明1の範囲内で次のとおり変更すると,対反発性が優れたものといえないから,本件発明1は,当業者が耐反発性に優れていると認識できる範囲のものとはいえない。(ア)
3
発泡倍率が上限の15cm3/gに最も近い実施例1(発泡倍率は13cm
/g)の気泡のアスペクト比(1.4)はほぼ気泡のアスペクト比の最も好ましい
値(1.4以上1.5以下)であるから,実施例1において気泡のアスペクト比を1.4から0.9に変更すると,耐反発性が大きく低下することが予想できる。また,実施例1の厚さ(1000μm)は全ての実施例の中で最大であるが,これを上限の1500μmに変更すると,耐反発性が大きく低下することが予想できる。そうすると,このような態様における耐反発性は,実施例1よりも大きく劣るものとなることが予想できるため,耐反発性が優れたものであるとはいえない。(イ)

気泡のアスペクト比が下限の0.9である実施例5の発泡倍率(4.5cm3
/g)は実施例の中では2番目に小さく(2番目に好ましい値)
,かつ,厚み(2

00μm)も実施例の中では最も薄い(好ましい値)から,実施例5において発泡倍率を上限の15cm3/gに,厚みを上限の1500μmに変更すると,その耐反発性は実施例5よりも大きく劣るものとなることが予想できるため,耐反発性が優れたものであるとはいえない。

材料や製造方法が耐熱性や耐反発性に影響を与えることは十分にあり得ると
ころ,実施例はいずれも特定のポリプロピレン系樹脂やその他特定の成分で構成されているものに限られている。したがって,ポリプロピレン系樹脂として他の樹脂を使用した場合や,実施例と異なる条件で発泡体を製造した態様に,前記4つの条件のみを満足することによって発明の課題を解決することができることが実施例によって裏付けられているわけではない。

原告は,取消事由1に関し,本件発明1の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありとの発明特定事項について,複数のピークが発現する場合であっても,140℃以上の部分にピークがあることを指すと主張するが,この主張に基づけば,140℃以上の部分にごく小さな結晶融解温度ピークでも存在しさえすれば良いことになる。結晶融解温度ピークの大きさと,そのピークを発現する材料の含有量は相関している(甲10)ところ,本件発明1を技術的に特徴付ける140℃以上の結晶融解温度ピークについて,このピークを発現する材料がごく少量でも,当業者は,発明の課題を解決できるとは認識することができない。

以上のとおりであるから,当業者は,上記の本件発明1の各条件を満足する
全範囲の両面粘着テープにおいて,本件発明の課題を解決できるものと認識することができないから,
本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また,
本件発明2~7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから,同様のことがいえる。
第4

当裁判所の判断
1
本件発明について



本件明細書の記載

本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。

技術分野

【0001】本発明は,耐熱性,耐反発性に優れ,特に車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイのカバーを固定したときにでも剥離しにくい両面粘着テープ,及び,該両面粘着テープからなる車載部品固定用両面粘着テープ,車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープに関する。

背景技術

【0002】

自動車等の車両において車載部品を車両本体に固定する用途に,

両面粘着テープが用いられている。このような車載部品固定用途においては,衝撃が加わっても部品が外れたり破損したりしないよう部品の固定配置又は機器本体のデザインが検討されている。
車載部品を固定するために用いられる両面粘着テー
プとしても,衝撃が加わった場合であっても部品が外れることがなく,かつ,部品に強い衝撃が加わらない両面粘着テープが望まれている。・・・
【0003】このような耐衝撃性に優れた両面粘着テープとして,特許文献1及び2には,
基材層の少なくとも片面にアクリル粘着剤層が積層一体化されており,基材層が特定の架橋度及び気泡のアスペクト比を有する架橋ポリオレフィン樹脂発泡シートからなる衝撃吸収テープが記載されている。しかしながら・・・従来の発泡シートを基材とする両面粘着テープを用いた場合に,
しばしば部品が剥がれてし
まうことがあった。特に,薄型の両面粘着テープを用いた場合に部品の剥がれが問題となることがあった。

発明が解決しようとする課題

【0005】

本発明者は,従来の発泡シートを基材とする両面粘着テープを用

いて車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイのカバーを固定したときに,剥がれが発生する原因について検討し,両面粘着テープの耐熱性に着目した。車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイは,一般にフロントガラス下に設置される。このようなフロントガラス下は,直接日光が当たることから,夏季には100℃を超える温度に達することがある。従来の発泡シートを基材とする両面粘着テープでは,このような高温下に晒されたときに基材が収縮してしまい,その結果接着力が低下して剥離してしまったものと考えられた。また,近年の車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイでは,意匠性に優れた曲面を多用したデザインが採用されるが,そのような曲面に両面粘着テープを適用した場合,反発力により剥離し易くなることがあった。
【0006】本発明は,上記現状に鑑み,耐熱性,耐反発性に優れ,特に車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイのカバーを固定したときにでも剥離しにくい両面粘着テープ,及び,該両面粘着テープからなる車載部品固定用両面粘着テープ,車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープを提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

【0007】

本発明は,基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テー

プであって,前記基材は,発泡体からなり,前記基材の厚みが1500μm以下であり,前記発泡体は,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であり,発泡倍率が15cm3/g以下であり,気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)が0.9~3である両面粘着テープである。・・・【0008】

本発明者は,鋭意検討の結果,基材の両面にアクリル粘着剤層を

有する両面粘着テープにおいて,基材として発泡体を用い,該発泡体の結晶融解温度ピーク,
発泡倍率,
及び,
気泡のアスペクト比を特定範囲に調整することにより,
薄型の両面粘着テープであっても,耐熱性を向上させて車載部品の固定用途にて想定される高温下でも剥離しにくくなるとともに,曲面に適用したときにでも剥離しにくい耐反発性を発揮できることを見出し,本発明を完成した。
【0010】

上記発泡体は特に限定されず,例えば,ポリオレフィン発泡体を

用いることができる。
上記ポリオレフィン発泡体としては,ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を含有するポリオレフィン発泡体を用いることができる。なかでも,ポリプロピレン系樹脂を含有するポリオレフィン発泡体が好ましい。
・・・ポリプロピレン系樹脂
は単独で用いてもよく,2種以上を併用してもよい。なかでも,得られるポリオレフィン発泡体の耐熱性及び耐反発性を両立しやすくことから,プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体を含有することが好ましい。・・・【0015】

上記ポリオレフィン発泡体のポリプロピレン系樹脂の含有量の好

ましい下限は30重量%,好ましい上限は90重量%である。上記ポリプロピレン系樹脂の含有量がこの範囲内であると,得られるポリオレフィン発泡体は耐熱性と耐反発性とを両立することができる。上記ポリプロピレン系樹脂の含有量が30重量%未満であると,得られるポリオレフィン発泡体が充分な耐熱性を発揮することができず,90重量%を超えると,得られるポリオレフィン発泡体が硬くなって,曲面に適用したときに反発して剥がれやすくなる。上記ポリプロピレン系樹脂の含有量のより好ましい下限は40重量%,より好ましい上限は60重量%である。・・・【0016】

上記ポリプロピレン系樹脂を含有するポリオレフィン発泡体は,

上記ポリプロピレン系樹脂以外のポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。・・・なかでも,得られるポリオレフィン発泡体の耐熱性及び耐反発性がより向上することから,ポリエチレンが好ましい。
【0017】

上記ポリエチレンとしては特には限定されないが,例えば,低密

度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,エチレンを主成分とするエチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。・・・
【0020】

上記発泡体の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピー

クは,140℃以上であれば特には限定されないが,好ましい下限は145℃,好ましい上限は175℃である。上記結晶融解温度ピークがこの範囲内であると,得られる発泡体の耐熱性をより向上させることができる。上記結晶融解温度ピークのより好ましい下限は147℃,更に好ましい下限は149℃,特に好ましい下限は152℃である。上記発泡体の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークは,上記発泡体の材料,発泡倍率,厚み等により調整することができる。なお,本明細書において示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークとは,発泡体100mgを示差走査熱量計を用いて大気中において昇温速度10℃/分の条件下で測定された際のピーク温度を意味する。・・・
【0021】上記発泡体の発泡倍率の上限は15cm3/gである。上記発泡体の発泡倍率がこの範囲内であると,得られる両面粘着テープは高い耐衝撃性と耐反発性とを両立することができる。上記発泡体の発泡倍率の下限は特に限定されないが,好ましい下限は3cm3/gである。上記発泡体の発泡倍率が3cm3/g未満であると,基材としての反発力が強くなりすぎて耐反発性が低下し,得られる両面粘着テープを曲面に適用したときに剥がれやすくなることがあり,15cm3/gを
超えると,基材の強度が不足して,得られる両面粘着テープを曲面に適用したときに基材が厚み方向に延びたり割れてしまったりすることがある。上記発泡体の発泡倍率の好ましい下限は4cm3/g,好ましい上限は8cm3/gであり,より好ましい下限は4.5cm3/g,より好ましい上限は6cm3/gである。上記発泡体の発泡倍率は,上記発泡体の材料,厚み等により調整することができる。なお,上記発泡体の発泡倍率は,上記発泡体の密度の逆数から算出できる。・・・【0022】

上記発泡体は,気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの

平均気泡径)が0.9~3である。上記気泡のアスペクト比,すなわちMDの平均気泡径とTDの平均気泡径との比が小さいと,発泡倍率が低下して耐反発性が低下したり,発泡体の厚み,耐反発性及び引張強度にばらつきが発生したりすることがある。上記気泡のアスペクト比が大きいと,発泡体の耐反発性が低下する。上記気泡のアスペクト比の好ましい下限は1.2,好ましい上限は2であり,より好ましい下限は1.4,より好ましい上限は1.5である。上記発泡体の気泡のアスペクト比は,上記発泡体の材料,発泡倍率,厚み等により調整することができる。【0023】なお,発泡体のMD(Machine

Direction)と

は,発泡体をシート状に押出加工する際の押出方向をいい,発泡体のTD(Transverse

Direction)とは,発泡体の厚み方向(発泡体を基材

として粘着剤層を積層させる方向)から平面視した際に,MD(MachineDirection)に直交する方向をいう。
【0030】上記発泡体は,厚さ方向の25%圧縮強度が50kPa以上,1000kPa以下であることが好ましい。上記25%圧縮強度が1000kPaを超えると,発泡体の耐反発性が低下するため好ましくない。耐反発性の観点から,上記25%圧縮強度のより好ましい下限は100kPa,より好ましい上限は900kPaである。
上記発泡体の厚さ方向の25%圧縮強度は,上記発泡体の材料,発泡倍率,厚み等により調整することができる。
なお,
上記発泡体の厚さ方向の25%圧縮強度は,
JIS

K6767-7.
2.

3(JIS2009)に準拠して測定することができる。
【0031】

上記発泡体を製造する方法としては,原料となる樹脂組成物を必

要に応じて架橋した後に発泡する方法等,従来公知の方法を用いることができる。具体的には,例えば,以下の工程(1)~(3)を有する方法により製造することができる。なお,上記発泡体の製造方法としては,他にも例えば,国際公開第2005/007731号に記載された方法等も挙げられる。
工程(1)
:ポリオレフィン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂以外のポリオレフィン系樹脂等の樹脂成分,熱分解型発泡剤,並びに,その他の添加剤を押出機に供給して溶融混練し,押出機からシート状に押出すことによってシート状にされたポリオレフィン樹脂組成物を得る工程
工程(2)
:シート状にされたポリオレフィン樹脂組成物を架橋する工程
工程(3)
:架橋させたシート状のポリオレフィン樹脂組成物を加熱し,熱分解型発泡剤を発泡させる工程
【0032】

工程(1)においてポリオレフィン樹脂組成物に配合する熱分解

型発泡剤は特に限定されず,例えば,アゾジカルボンアミド,N,N-ジニトロソペンタメチレンテトラミン,
p-トルエンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。
これらの分解型発泡剤は単独で用いてもよく,2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも,アゾジカルボンアミドが好ましい。
【0033】

上記熱分解型発泡剤の含有量は特に限定されないが,樹脂成分1

00重量部に対する好ましい下限は1重量部,好ましい上限は12重量部である。上記熱分解型発泡剤の含有量が上記範囲内であることで,上記ポリオレフィン樹脂組成物の発泡性が向上し,所望の発泡倍率を有するポリオレフィン発泡体を得ることができる。上記熱分解型発泡剤の含有量のより好ましい上限は8重量部である。【0041】工程(3)においては,必要に応じて,シート状のポリオレフィン樹脂組成物をMD又はTDの何れか一方又は双方に延伸してもよい。上記シート状のポリオレフィン樹脂組成物を延伸する方法としては,ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させて,発泡体を得た後に延伸する方法や,ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させつつ延伸する方法等が挙げられる。なお,ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させて,発泡体を得た後に延伸を行う場合には,発泡体を冷却することなく発泡時の溶融状態を維持したまま続けて発泡体を延伸したほうが好ましいが,冷却した発泡体を再度加熱して,溶融又は軟化状態とした後に発泡体を延伸してもよい。【0042】

上記基材の厚みの上限は1500μmである。上記基材の厚みが

この範囲のように薄型であっても,上記のように発泡体を調整することで,得られる両面粘着テープは高い耐衝撃性と耐反発性とを両立することができる。上記基材の下限は特に限定されないが,好ましい下限は100μmである。上記基材の厚みが100μm未満であると,得られる両面粘着テープは充分な耐衝撃性を発揮することができないことがある。
上記基材の厚みの好ましい上限は1000μmである。
上記基材の厚みが1000μmを超えると,耐反発性が低下して,得られる両面粘着テープを曲面に適用したときに剥がれやすくなることがある。上記基材の厚みのより好ましい下限は150μm,より好ましい上限は900μmであり,更に好ましい下限は200μm,更に好ましい上限は800μmである。
【0052】

本発明の両面粘着テープは,両面粘着テープの総厚みの好ましい

下限が30μm,好ましい上限が2000μmである。両面粘着テープの総厚みがこの範囲内であると,使用される部品の薄型化に寄与することができる。また,このような薄型の両面粘着テープとした場合であっても,高い耐衝撃性と,粘着性,耐反発性を発揮することができる。上記両面粘着テープの総厚みのより好ましい下限は150μm,より好ましい上限は1100μmである。上記両面粘着テープの総厚みの更に好ましい下限は200μm,更に好ましい上限は900μmである。【0055】・・・車載部品固定用粘着テープ,とりわけ車載用パネルカバー固定用両面粘着テープや車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープとして特に好適である。・・・

発明の効果

【0056】本発明によれば,耐熱性,耐反発性に優れ,特に車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイのカバーを固定したときにでも剥離しにくい両面粘着テープ,及び,該両面粘着テープからなる車載部品固定用両面粘着テープ,車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープを提供することができる。カ
発明を実施するための形態

【0058】

(実施例1)

(1)ポリオレフィン発泡体の調製
ポリプロピレン系樹脂
(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製,
商品名AD571
,密度0.90g/cm3,MFR0.5g/10分)80重
量部と,直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製,商品名ZF231,MFR2
g/10分,密度0.917g/cm3)20重量部とからなる樹脂成分に,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)7.5重量部及びジビニルベンゼン(架橋助剤)3重量部を添加し,更に2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(酸化防止剤)0.3重量部,ジラウリルチオプロピオネート(酸化防止剤)0.3重量部,及び,メチルベンゾトリアゾール(金属害防止剤)0.5重量部を添加して得たポリオレフィン樹脂組成物を,単軸押出機により,温度185℃で溶融混練して,厚み600μmの原反シートとして押出した。
【0059】

次に,上記原反シートを,その両面に加速電圧800kVの電子

線を1.5Mrad照射して架橋した後,熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させ,厚さ1000μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体の発泡倍率を,JISK-6767に準拠してミラージュ社製の電子比重計
(商品名
ED120T

を使用して測定した密度から算出した。また,得られたポリオレフィン発泡体の結晶融解温度ピーク,気泡アスペクト比,及び,25%圧縮強度を求めた。【0060】(2)粘着剤の調製温度計,攪拌機,冷却管を備えた反応器にブチルアクリレート70重量部,2-エチルヘキシルアクリレート27重量部,アクリル酸3重量部,2-ヒドロキシエチルアクリレート0.2重量部,及び,酢酸エチル80重量部を加え,窒素置換した後,反応器を加熱して還流を開始した。続いて,上記反応器内に,重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を添加した。70℃,5時間還流させて,アクリル共重合体の溶液を得た。得られたアクリル共重合体について・・・重量平均分子量を測定したところ,71万であった。得られたアクリル共重合体の溶液に含まれるアクリル共重合体の固形分100重量部に対して,軟化点150℃の重合ロジンエステル15重量部,酢酸エチル(不二化学薬品社製)125重量部,イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製商品名コロネートL45
)1.5重量部を添加し,攪拌して,粘着剤を得た。
【0061】

(3)両面粘着テープの製造

厚み150μmの離型紙を用意し,この離型紙の離型処理面に粘着剤を塗布し,100℃で5分間乾燥させることにより,厚み50μmのアクリル粘着剤層を形成した。このアクリル粘着剤層を,ポリオレフィン発泡体の表面と貼り合わせた。次いで,同様の要領で,このポリオレフィン発泡体の反対の表面にも上記と同じアクリル粘着剤層を貼り合わせた。
その後40℃で48時間加熱することで養生を行い,
両面粘着テープを得た。
【0062】

(実施例2)

アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を7重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン発泡体を得た。
・・・実施例1と同様にして両面粘着
テープを得た。
【0063】

(実施例3)

ポリプロピレン系樹脂・・・を70重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を30重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を7重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン発泡体を得た。
・・・実施例1と同様にして両面
粘着テープを得た。
【0064】

(実施例4)

ポリプロピレン系樹脂・・・を60重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を40重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を3.8重量部に変更し,原反シートの厚みを300μmにしたこと以外は実施例1と同様にして,厚さ500μmのポリオレフィン発泡体を得た。・・・実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。【0065】

(実施例5)

ポリプロピレン系樹脂・・・を60重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を40重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を3.5重量部に変更し,原反シートの厚みを150μmにしたこと以外は実施例1と同様にして,厚さ200μmのポリオレフィン発泡体を得た。・・・実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。【0066】

(実施例6)

ポリプロピレン系樹脂・・・を70重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を30重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を3.0重量部に変更し,原反シートの厚みを400μmにしたこと以外は実施例1と同様にして,厚さ500μmのポリオレフィン発泡体を得た。・・・実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。【0067】

(実施例7)

ポリプロピレン系樹脂・・・を40重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を60重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を4.5重量部に変更し,原反シートの厚みを400μmにしたこと以外は実施例1と同様にして,厚さ800μmのポリオレフィン発泡体を得た。・・・実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。【0068】

(比較例1)

ポリプロピレン系樹脂・・・を70重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を30重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を4.5重量部に変更し,原反シートの厚みを200μmにしたこと以外は実施例1と同様にして,厚さ400μmのポリオレフィン発泡体を得た。・・・実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。【0069】

(比較例2)

ポリプロピレン系樹脂・・・を0重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を100重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を4.5重量部に変更し,原反シートの厚みを400μmにしたこと以外は実施例1と同様にして,厚さ800μmのポリオレフィン発泡体を得た。・・・実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。【0070】

(比較例3)

ポリプロピレン系樹脂・・・を0重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を100重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を2.2重量部に変更し,原反シートの厚みを170μmにしたこと以外は実施例1と同様にして,厚さ100μmのポリオレフィン発泡体を得た。・・・実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。【0071】

(比較例4)

ポリプロピレン系樹脂・・・を70重量部,直鎖状低密度ポリエチレン・・・を30重量部,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を13重量部に変更し,原反シートの厚みを400μmにしたこと以外は実施例1と同様にして,厚さ1000μmのポリオレフィン発泡体を得た。・・・実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。【0072】

(評価)

実施例,比較例で得られた両面粘着テープについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0073】

(1)耐熱性の評価

得られた両面粘着テープを,MD及びTDが辺になるように縦10mm,横10mmの正方形状に切り出してサンプルとした。得られたサンプルを,110℃に調整したオーブン中に500時間置いた後,取り出して23℃にまで自然冷却した。・・・MD及びTDともに収縮率が5%以下であった場合を○と,MD及びTDのいずれか又は両方において収縮率が5%を超えた場合を×と評価した。また,
○と評価された場合については同様にサンプルをもうひとつ作製し・・・120℃の熱処理でもMD及びTDともに収縮率が5%以下であった場合を◎・・・と評価した。
【0074】

(2)耐反発性の評価

得られた両面粘着テープを,MDが縦方向の辺,TDが横方向の辺になるように縦150mm,横25mmの長方形状に切り出した。得られたサンプルの片面を,縦150mm,横25mm,厚み1mmのポリカーボネート板に貼り合わせ,更にもう片面を縦200mm,横25mm,厚み1mmのポリカーボネート板に貼り合わせ,2kgのローラーで1往復圧着し,24時間静置した。その後,試験片を縦200mmから190mmになるように曲げて固定し,サンプルとした。サンプルを110℃に調整したオーブン中に500時間置き,観察して,浮き
の発生が全く認められなかった場合を○
,一部にでも浮きが認められた場合
を×と評価した。
また,
○と評価された場合については同様に試験片をもうひとつ作製し・・・165mmまで曲げても浮きの発生が全く認められなかった場合を◎・・・と評価した。
【0075】



【表1】

前記⑴によれば,本件発明の概要は,以下のとおりである。
自動車等の車両において,車載部品を車両本体に固定する際に,従来,両面粘着テープが用いられていたが,部品に衝撃が加わった場合に,しばしば部品が剥がれてしまうことがあり,特に薄型の両面粘着テープを用いた場合に部品の剥がれが問題となることがあった(
【0002】【0003】。


特に,車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイは,直接日光に当たり高温に晒されることや曲面を多用したデザインが採用されていることから,従来の発泡シートを基材とする両面粘着テープを用いて固定した場合には,剥離し易くなるという課題があった(
【0005】。

本件発明は,薄型(厚みが1500μm以下)でも,耐熱性,耐反発性に優れ,車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイのカバーを固定する場合にも剥離しにくい両面粘着テープを提供することを目的とするものであり,アクリル粘着剤層を有する両面粘着テープの基材として,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上,
発泡倍率が15cm3/g以下及び気泡のアスペクト比
が0.9~3であり,ポリプロピレン系樹脂を含有する発泡体を用いることを特徴とする両面粘着テープである(
【0006】~【0008】【0042】。


本件発明の両面粘着テープは,耐熱性,耐反発性に優れ,特に車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイのカバーを固定する場合にも,剥離しにくいという効果を奏する(
【0056】。

2
取消事由1(明確性要件の判断の誤り)について



明確性要件について

特許法36条6項2号において,発明の明確性を要件とする趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。


示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であるの意義ア
本件発明1の特許請求の範囲には,
前記発泡体は,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありとの記載があるが,それ以上に示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークについて特定する記載はない。
ピークとは,

①山のいただき。②絶頂。最高潮

(広辞苑第6版)を意味すること
からすれば,
示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であり,との記載は,示差走査熱量計による測定結果のグラフのピーク(頂点)が140℃以上に存在することを意味するものと解するのがまずは自然である。イ
甲10(あいち産業科学技術総合センター研究報告研究ノートポリエチレン・ポリプロピレン樹脂における混合比の測定12~13頁(2016年),甲)
11(
フィルムの分析評価技術52~55頁(株式会社情報機構,2003年))
及び弁論の全趣旨によれば,結晶融解温度ピークの面積は,吸熱量を示すものであり,含まれる材料の結晶融解温度に応じて1個のピークが存在する場合と複数のピークが存在する場合があり,複数のピークが存在する場合に各ピークの面積(吸熱量)は,そのピークを発現する材料の含有量と相関することは,本件特許の出願時の技術常識であったと認められる。

本件明細書には,
示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークと

は,発泡体100mgを示差走査熱量計を用いて大気中において昇温速度10℃/分の条件下で測定された際のピーク温度を意味することが記載されている【002(
0】。そして,本件明細書の実施例1~7は,ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プ)
ロピレンランダム共重合体:住友化学社製,商品名AD571
)と直鎖状低密度
ポリエチレン(東ソー社製,商品名ZF231
)の混合物より構成される発泡体
であり,その結晶融解温度ピークは,それぞれ141.5~147.4℃であることが記載されている。これに対し,比較例2,3は,直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製,商品名ZF231
)のみにより構成される発泡体であり,その結晶融解
温度ピークは94℃,
92℃であることが記載されている
(以上につき,0058】

~【0067】【0069】【0070】【表1】。




本件特許請求の範囲には,複数のピークが生じる場合に,特定のピークを選択する旨の記載や,
全てのピークが140℃以上であることの記載が存在しないところ,上記のとおり,実施例1~7の発泡体は,比較例2,3と同じ直鎖状低密度ポリエチレンを20~60重量%で含有するから,
【表1】に記載された141.5~14
7.4℃(140℃以上)の結晶融解温度ピーク以外に,140℃未満の結晶融解温度ピークを含むであろうことは,当業者であれば,上記イの技術常識により,容易に理解することができる。
このことは,
原告による実施例2の追試結果の図
(甲8)
や甲10の図4とも符合する。
そうすると,本件明細書(
【表1】
)の実施例1~7についての結晶融解温度ピー
クは,複数の結晶融解温度ピークのうち,ポリプロピレン系樹脂を含有させたことに基づく140℃以上のピークを1個記載したものであることが理解できるから,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上は,複数の結晶融解温度ピークが測定される場合があることを前提として,140℃以上にピークが存在することを意味するものと解され,このような解釈は,上記アの解釈に沿うものである。
また,本件発明1は,ポリプロピレン系樹脂の含有量を規定するものではないから,ポリプロピレン系樹脂の含有量が,140℃未満のピークを示す直鎖状低密度ポリエチレンの含有量を下回る場合を含むことは,実施例7の記載から明らかである。そして,このような場合に,当業者であれば,140℃未満に一番大きいピーク(最大ピーク)が生じ得ることを理解することができるのであり,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であるについて,複数のピークがある場合のピークの大小は問わないものと解するのが合理的である。エ
以上のとおり,本件発明1の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であるとは,示差走査熱量計による測定結果のグラフのピーク(頂点)が140℃以上に存在することを意味し,複数のピークがある場合のピークの大小は問わないものと解され,その記載について,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。


被告の主張について

被告は,
示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありについて,①結晶融解温度ピークといえるものは140℃以上であるという解釈,②最も高温側の結晶融解温度ピークが140℃以上であるという解釈,③最大ピークを示す温度が140℃以上である,又は,最大面積の吸熱ピークの頂点温度が140℃以上であるという解釈,④最も低い結晶融解ピーク温度が140℃以上であるという解釈,⑤わずかなピークであっても,そのピークが140℃以上に存在すればよいという解釈等複数の解釈が考えられるところ,いずれを示すものかが不明であると主張する。しかし,③④の解釈を採るべき場合にはその旨が明記されているところ(乙2・
【0032】
,乙3・
【0056】
,乙4・
【0024】
,乙5・
[0025]
,乙6・
【0018】
,甲5・
【0014】
,乙7・
【0008】
,乙8・
【0
091】
,乙9・
【0027】,本件明細書にはこのような記載はなく,複数あるピー)
クの大小を問わず,1つのピークが140℃以上にあれば示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありを充足すると解すべきであることは,前記⑵において説示したとおりである。また,⑤について,特許請求の範囲の記載及び本件明細書にピークの大きさを特定する記載はないから,ピークの大きさを問わず示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありに該当するというべきであり,示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありとの記載が不明確であるという被告の主張は採用できない。
また,被告は,本件発明1において結晶融解温度ピークが複数ある場合は想定されていないと主張する。しかし,本件発明1において,結晶融解温度ピークが複数ある場合が想定されていることは,前記⑵ウに説示したところから明らかである。⑷

小括

以上によれば,本件発明1の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であるとの記載が不明確であることを理由に,本件特許の特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合しないとした本件決定の判断は誤りであり,取消事由1は理由がある。
3
取消事由2(実施可能要件の判断の誤り)について



実施可能要件について

発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。


本件明細書の記載

本件明細書には,
発泡体を製造する方法についての一般的な記載【0031】



【0032】等)のほか,7つの実施例が記載され,それぞれの実施例について,発泡体の原材料,配合比,押出機の種類,溶融混錬温度,原反シートの厚み,架橋条件(電子線の加圧電圧及び照射量)
,発泡条件,粘着剤の原材料,還流方法,共重合体
製造手順,架橋剤添加手順,両面粘着テープの製造手順,乾燥温度・時間,養生温度・時間等が具体的に記載されている(
【0058】~【0067】【表1】。



結晶融解温度ピークについて

前記2⑵ウのとおり,結晶融解温度ピークは,発泡体に含まれるポリプロピレン系樹脂に由来するものであるから,本件発明1の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上を満たすためには,一定量のポリプロピレン系樹脂を含有させれば足りることは,実施例1~7及び比較例1,4とポリプロピレン系樹脂を含まない比較例2,
3の測定結果より明らかであり,
このことは
【0
015】にも説明されている。
このように,
結晶融解温度ピークの調整には,
発泡体の材料,発泡倍率,厚み等

【0020】
)における発泡体の材料のうち,特に,ポリプロピレン系樹脂の含有量の調整が重要であることを理解することができる。
もっとも,ポリプロピレン系樹脂の含有量が同じであっても,発泡倍率,厚み等により,結晶融解温度ピークに差異が生じることは,ポリプロピレン系樹脂の含有量が同じである,①80重量%の実施例1(142.6℃)と実施例2(143.9℃)
,②70重量%の実施例3(147.4℃)
,実施例6(143.2℃)
,比較
例1(143.9℃)と比較例4(142℃)
,③60重量%の実施例4(143.
3℃)と実施例5(143.1℃)について,結晶融解温度ピークを比較することにより理解できる。しかし,その差異は,最大でも,5.4℃(実施例3と比較例4の比較)にすぎないから,結晶融解温度ピークについて,140℃以上の範囲に設定することが,過度の試行錯誤を要するものということはできない。ウ
発泡倍率について
本件明細書における,好ましい熱分解型発泡剤の含有量の下限は1重量部で上限は12重量部であるとの記載(
【0033】,アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡

剤)
を13重量部用いた比較例4において発泡倍率が15cm3/gを上回る20cm3/gであることの記載【0071】


【表1】からすると,

発泡倍率の調整には,
発泡体の材料,厚み等【0021】

)における発泡体の材料のうち,特に発泡剤
の含有量を低めに抑えることが重要であることを理解することができる。そして,発泡剤の含有量が同じ場合には,ポリプロピレン系樹脂の含有量や厚み等の違いに関わらず同じ発泡倍率を示すことは,①実施例2と実施例3の比較,②実施例7,比較例1と比較例2の比較から読み取ることできる。また,実施例及び比較例からは,発泡剤の重量部が多くなるに従い,発泡倍率が高くなる傾向にあることが理解でき【比較表1】,

)発泡倍率が発泡剤の量に依存することは,
甲20
(古
河電工時報71号85頁Fig.9(昭和56年3月)
)からも理解することができ
る。
そうすると,発泡倍率について,15cm3/g以下に設定することが,過度の試行錯誤を要するものということはできない。

気泡のアスペクト比について

本件明細書の記載によれば,気泡のアスペクト比は,押出加工する際の押出方向(MD)の平均気泡径を,横方向(幅方向)
(TD)の平均気泡径で除したものであ
り(
【0022】~【0023】,本件発明1は,気泡のアスペクト比を0.9~3)
と規定しており,押出方向の平均気泡径が,横方向(幅方向)の平均気泡径とほぼ同じか,横方向(幅方向)の平均気泡径よりも幾分大きい点に特徴を有するものである。
本件明細書の実施例及び比較例をみると,気泡のアスペクト比が0.5と極端に低い比較例1,3は,ぞれぞれ,発泡体の厚みが400μm,100μmであり,気泡のアスペクト比が本件発明1の下限値である0.9を示している実施例5の厚みは200μmである。一方,500μmの厚みを越える発泡体は,その全てが,1.2以上の数値を示していることからすると,気泡のアスペクト比の調整には,発泡体の材料,発泡倍率,厚み等【0022】

)のうち,特に,厚みの調整が重要であ
り,500μm以上に設定することで気泡のアスペクト比が0.9~3の範囲になる蓋然性が高いことを理解することができる。
もっとも,気泡のアスペクト比については,比較例1のように,実施例5より発泡体の厚みが大きいにも関わらず,気泡のアスペクト比が低い例が見られ,発泡体の材料,発泡倍率等の影響により,気泡のアスペクト比が,0.9~3の数値範囲を外れることが想定される。しかし,本件特許の出願日前の特許第5299596号公報(甲24【0041】,特許第5477517号公報(甲25【0042】,特)

許第5851072号公報(甲26【0093】
)の記載に照らせば,そうした場合
でも,シート状の発泡体をMD又はTDの何れか一方又は双方に延伸すること(本件明細書【0041】
)により気泡のアスペクト比を再調整できることは,本件特許
の出願当時の当業者が格別の工夫を伴うことなく行うことができたものということができる。
そうすると,
気泡のアスペクト比について,
0.
9~3の範囲に設定することが,
過度の試行錯誤を要するものということはできない。


本件発明の実施可能要件適合性について

以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,本件発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるということができる。


被告の主張について


被告は,本件発明が明確ではないことを根拠に,実施可能要件に適合しない
と主張するが,明確性要件に関する判断は前記2のとおりであり,被告の主張は採用できない。

被告は,本件明細書の記載(
【0020】【0022】

)について,発泡体の材
料,発泡倍率及び厚みを調整することにより,結晶融解温度ピークと気泡のアスペクト比とを所望の値に調整することができる旨の説明であることを前提とした主張をする。しかし,被告の指摘する上記段落の発泡体の材料,発泡倍率及び厚み等との記載や,
前記⑵イ及びエに説示したところに照らせば,
同段落に発泡体の材料,
発泡倍率及び厚みのみによって,結晶融解温度ピークと気泡のアスペクト比を調整することが記載されているとは認められない。
また,被告は,発泡体の材料,発泡倍率及び厚みを独立に調整して,結晶融解温度ピーク及び気泡のアスペクト比をそれぞれ所望の値に調整することができないと主張する。しかし,本件発明1が規定する数値範囲は,上限や下限が規定されているだけ,あるいは,一定の幅のある数値範囲を規定したものであるから,本件発明1の基材を製造するには,ポリプロピレン系樹脂の含有量,発泡剤の含有量,厚み,延伸が,融解温度ピーク,発泡倍率,気泡のアスペクト比に与える一定の傾向を,当業者が理解できれば足り,本件明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,本件発明1を実施することができることは,前記⑵において説示したとおりである。

被告は,比較表2】

のとおりに実施例及び比較例を評価し,
これに基づいて,

実施例及び比較例からは,材料,発泡倍率及び厚みが融解温度ピーク及び気泡のアスペクト比に与える影響に一定の規則性を読み取ることができないと主張する。しかし,
【比較表2】は,結晶融解温度ピークの違い,気泡のアスペクト比の違いについて,その差の大小を考慮せず,また,その差が誤差範囲であるかなども検討せずに,定性的に,一方を高い又は低い,大きい又は小さいと評価したものであり,評価の手法が適切ではない。また,前記⑵エのとおり,気泡のアスペクト比は,特に厚みの調整が重要であり,また,延伸との関連が強いから,発泡体の材料及び発泡剤率との関連は相対的に弱いものと解されるが,被告の主張は,規則性を検討する過程でこうした関連の強弱を考慮に入れておらず,この点でも適切ではない。エ
被告は,ポリプロピレン系樹脂の種類を変えずに含有量を変えただけの場合についてですら,結晶融解温度ピーク及び気泡のアスペクト比に対する影響に一定の規則性を読み取ることができないから,実施例と異なるポリプロピレン系樹脂を使用した場合の影響は全く予想することができないと主張するが,発泡体の材料,発泡倍率,厚み等を調整することにより,結晶融解温度ピーク及び気泡のアスペクト比を調整できることは,前記⑵において説示したとおりである。⑸

小括

以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合しないとした本件決定の判断は誤りであり,取消事由2は理由がある。4
取消事由3(サポート要件の判断の誤り)について



サポート要件について

特許請求の範囲の記載が,サポート要件を定めた特許法36条6項1号に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。⑵

本件明細書の記載


本件明細書には,
本件発明の構成が記載されている【0007】0010】





【0015】【0030】【0052】【0055】。





また,本件明細書の実施例1~7には,発泡倍率が3.5~13cm3/g,
気泡のアスペクト比が0.9~3,結晶融解温度ピークが141.5~147.4℃の範囲に設定され,ポリプロピレン系樹脂を40~80重量%含有する,厚みが200~1000μmである,発泡基材を用いた両面粘着テープが,耐熱性と耐反発性に優れることが,実験データと共に記載されている(
【0058】~【0067】

【表1】。

さらに,①気泡のアスペクト比が0.9未満の0.5である比較例1,3の両面粘着テープが耐熱性に劣ること,②結晶融解温度ピークが140℃未満の94℃,92℃である比較例2,3の両面粘着テープが耐熱性に劣ること(比較例1~3),③
発泡倍率が15cm3/gを超える20cm3/gである比較例4の両面粘着テープが,耐反発性に劣ること(比較例4)が示されている(
【0068】~【0071】【表

1】。



本件発明のサポート要件適合性について

上記⑵のとおりの本件明細書の記載は,本件発明の両面粘着テープについて,車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイのカバーの固定に有用な,耐熱性,耐反発性に優れる両面粘着テープを提供するという本件発明の課題(【0006】

以下本件課題という。
)を解決できると当業者が認識できる範囲内のものである
ということができる。


被告の主張について


被告は,本件発明はいわゆるパラメータ発明であり,サポート要件に適合す
るためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要する(知財高裁平成17年(行ケ)10042号同年11月11日判決)と主張する。しかし,本件発明は,特性値を表す技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とする発明ではなく,被告が指摘する上記裁判例にいうパラメータ発明には当たらないから,被告の主張は前提を欠く。

被告は,本件発明の特許請求の範囲の記載が明確ではなく,また,実施可能
要件を欠き本件発明1は製造することができない態様を含むものであるから,本件発明はサポート要件に適合しないと主張する。しかし,明確性要件及び実施可能要件についての判断は前記2及び3のとおりであり,被告の主張は採用できない。ウ
被告は,本件明細書の記載(
【0020】
)から,厚さ,結晶融解温度ピーク,

発泡倍率及び気泡のアスペクト比の4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶融解温度ピークのみであり,これが高いほど耐熱性が優れている旨説明されていると理解できると主張する。
しかし,本件明細書には,厚さ,結晶融解温度ピーク,発泡倍率及び気泡のアスペクト比の4つの条件のうち耐熱性と関連があるのは結晶融解温度ピークのみであり,これが高いほど耐熱性が優れている旨の説明は存在しない。かえって,結晶融解温度ピークが143.9℃であっても,気泡のアスペクト比が0.5と0.9~3の範囲外である比較例1において,耐熱性に劣る結果となっている(
【表1】
)ことから
すれば,4つの条件のうち耐熱性と関連があるのが結晶融解温度ピークのみとは理解されない。

また,被告は,4つの条件のうち耐反発性と関連があるのは結晶融解温度ピ
ークを除く3つであり,発泡倍率が15cm3/gに近いほど,気泡のアスペクト比が0.9あるいは3に近いほど,また,厚さが1500μmに近いほど耐反発性が劣る旨説明されていることを前提に,実施例1及び5の構成の一部を本件発明1の範囲内の境界に近い数値に変更した場合に,本件発明1の課題を解決できると認識することができないと主張する。
しかし,本件明細書には,発泡倍率が15cm3/gに近いほど,気泡のアスペクト比が0.9あるいは3に近いほど,また,厚さが1500μmに近いほど耐反発性が劣ることの記載はない。また,被告の主張する構成の変更により耐反発性が低下するとしても,所定の評価方法に基づき耐反発性が◎と評価された実施例1及び5(
【0074】【表1】

)について,本件課題を解決できないほどの耐反発性の低下
をもたらすとする根拠は不明であり,被告の主張は採用できない。オ
被告は,実施例に記載されたAD571以外のポリプロピレン系樹脂を
使用した場合や,実施例とは異なる条件で発泡体を製造した場合に,本件発明1の課題を解決できることが実施例によって裏付けられていないと主張する。しかし,ポリプロピレン系樹脂が,耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れた樹脂であることは,本件特許の出願時の技術常識であり(甲10のはじめにの項,乙11[0002],乙12[0002],乙14[0002])
,これによれば,当業者は,
AD571以外のポリプロピレン系樹脂を使用した場合や実施例と異なる条件で発泡体を製造した場合についての実施例及び比較例がなくても,本件明細書の記載や本件特許の出願時の技術常識に照らし,本件発明1の両面粘着テープが,本件課題を解決できると認識できるというべきである。

被告は,
示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上でありについて,140℃以上の部分にごく小さな結晶融解温度ピークでも存在しさえすれば良いとすると,そのような,ピークを発現する材料がごく少量の場合に本件発明1の課題を解決できると認識することはできないと主張する。しかし,前記ウのとおり,比較例1によれば,耐熱性には結晶融解温度ピークのみならず気泡のアスペクト比が関係していることを理解することができる。そして,
上記オのとおり,ポリプロピレン系樹脂は,耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れた樹脂であるところ,融点が140℃よりも低いポリプロピレン系樹脂も本件特許の出願時の当業者に知られていた
(乙11[0008],
[0009],
乙12[0080],
[0097],
乙14[0078])
。そうすると,ポリプロピレン系樹脂を含有させたこ
とに基づく140℃以上のピークがごく小さいものであったとしても,ポリプロピレン系樹脂の含有量を調整すること及び気泡のアスペクト比を調整することにより,本件課題を解決することができると認識することができるというべきである。⑸

小括

以上によれば,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないとした本件決定の判断は誤りであり,取消事由3は理由がある。
5
結論

以上によれば,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

髙部眞
裁判官

小林康
裁判官

髙橋規子彦彩
(別紙)被告比較表目録
【比較表1】

実施例1
実施例2
実施例3
実施例4
実施例5
実施例6
実施例7
比較例1
比較例2
比較例3
比較例4

発泡剤
重量部
7.57
3.8
3.54.5
4.5
4.5
2.2
発泡倍率
cm3/g105
4.5
3.583
PP系樹脂含有量
重量%806070700
厚み
μm1000500500400100
結晶融解温度ピーク

142.6
143.9
147.4
143.3
143.1
143.2
141.5
143.992
気泡アスペクト比

耐熱性

耐反発性

1.41.2
1.5
0.9
1.5
1.2
0.5
2.3
0.5
1.4








×
×
×












×

【比較表2】

比較ア 実1 vs 実2
比較イ 実2 vs 実3
比較ウ 実3 vs 実6
比較エ 実7 vs 比1
比較オ 実3 vs 比1
比較カ 実3 vs 比4

発泡剤
少ない

発泡倍率

PP系樹脂含有量

厚み

少ない
少ない
多い
少ない
多い

薄い
薄い
薄い

結晶融解温度ピーク
高い
高い
低い
高い
低い
低い

多い、とは、前者と後者を比べて、後者の方が多いことを表す。高い、等も同様。気泡アスペクト比
大きい
小さい
大きい
小さい
小さい
大きい

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