判例検索β > 平成30年(ワ)第256号
損害賠償請求事件
事件番号平成30(ワ)256
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和2年7月1日
裁判所名・部東京地方裁判所  立川支部
裁判日:西暦2020-07-01
情報公開日2020-09-02 18:00:20
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主1文
被告は,原告に対し,206万8864円及びこれに対する平成30年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
原告のその余の請求を棄却する。

3
訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の,その余を原告の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,547万2036円及びこれに対する平成30年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告の設置する公立Y病院(以下本件病院という。)医事課課長として勤務していた原告が,①本件病院の事務次長であったA(以下A事務次長という。)からパワーハラスメントを受け,さらに②当時本件病院の事務長であったB(以下B事務長という。)及び庶務課長であったC(以下C庶務課長という。)が,A事務次長のパワーハラスメント行為について適切な対応を採らなかったとして,これらにより適応障害,睡眠障害等を発症したと主張し,被告に対し,上記①につき国家賠償法(以下国賠法とい
う。)1条1項及び上記②につき債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として,547万2036円(治療費,慰謝料等の合計額。なお,慰謝料以外の損害については訴訟物①及び②は選択的併合の関係にあり,慰謝料に関しては,①に対する慰謝料として300万円,②に対する慰謝料として100万円の単純併合の関係にある。)及びこれに対する本件訴状送達の日の
翌日である平成30年2月21日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)⑴

当事者等

原告(昭和35年生)は,昭和53年4月から東京都国民健康保険団体連合会に勤務し,平成17年4月に被告が運営する本件病院の職員とし
て任用され,本件病院において勤務をしている者である。原告がパワーハラスメントを受けたと主張する平成28年10月から平成29年2月当時は,本件病院の事務部医事課長の地位にあった。

被告は,東京都a市,b市及びc町で構成される地方公営企業法上の企業団であり,本件病院を設置,運営する主体である。なお,被告は,以
前は地方自治法上の一部事務組合であり,当時の名称はY病院組合であったが,令和2年4月1日に,現在の組織及び名称に変更となった(以下,旧Y病院組合のことも同様に被告という。)。
ウエ
B事務長は,本件病院の事務長として,C庶務課長は,本件病院庶務課
A事務次長は,本件病院の事務次長として勤務していた者である。
の課長として,それぞれ勤務していた者である。


A事務次長の発言内容

原告は,平成25年4月1日に,本件病院の医事課課長に就任した(甲2)。


A事務次長は,平成27年4月1日に,本件病院の事務次長に就任した。

A事務次長は,平成28年10月から平成29年2月にかけて,原告に対し,次のような発言をした(甲8ないし14(枝番を含む。以下,甲8ないし14を引用する場合において同様。))。
平成28年10月28日の午前9時頃,B事務長,A事務次長,C庶
務課長,原告及び他1名が出席する事務部調整会議(事務部管理職会議)において,A事務次長は,原告の報告に対し,別紙1の平成28年10月28日事務部調整会議欄記載の言葉を含む発言をした
(甲8,以下発言1という。なお,前提事実として容易に認めら
れるのは,やり取りにかかるA事務次長の発言内容である。別紙1のうち,括弧書きで(怒鳴る),(机を叩く)等とあるのは,原告本人が録音反訳を行った際に記載したものであり,原告の評価に及ぶ部分を含むため,括弧書き内の記載は,前提事実としては認めないこととする。以下,後記

の発言2ないし発言7について同様。)。

同年11月10日の午前10時30分頃,ミーティングルームにおいて,原告がA事務次長に対して説明及び報告を行った際,A事務次長は,原告に対し,別紙1の平成28年11月10日ミーティングルーム欄記載の言葉を含む発言をした(甲9,以下発言2という。)。
同年12月9日午後2時頃,B事務長,A事務次長,C庶務課長,原告及び他1名が出席する事務部調整会議において,A事務次長は,原告に対し,別紙1の平成28年12月9日事務部調整会議欄記

載の言葉を含む発言をした(甲11,以下発言3という。)。
同日

の事務部調整会議の後,事務室内において,原告が,

自席にいたA事務次長に対し,報告を行った際,A事務次長は,原告に対し,別紙1の平成28年12月9日報告(事務室内)記載

の言葉を含む発言をした(甲10,以下発言4という。)。
平成29年1月24日午後,ミーティングルームにおいて,原告がA事務次長に対して報告を行った際,A事務次長は,原告に対し,別紙1の平成29年1月24日報告(ミーティングルーム)欄記載

の言葉を含む発言をした(甲12,以下発言5という。)。
同年1月26日午後,ミーティングルームにおいて,原告がA事務次長に対して報告を行った際,A事務次長は,原告に対し,別紙1の平成29年1月26日報告(ミーティングルーム)欄記載の言

葉を含む発言をした(甲13,以下発言6という。)。
同年2月27日午後,ミーティングルームにおいて,原告がA事務次長と打合せを行っていた際,A事務次長は,原告に対し,別紙1の平成29年2月27日報告(ミーティングルーム)欄記載の言

葉を含む発言をした(甲14,以下発言7という。)。


発言1ないし発言7以降の経緯

原告は,平成29年4月17日に南晴病院の精神科を受診し,適応障害で3か月間の休養が必要との診断を受けた(甲16)。


原告は,同日から同年7月16日まで3か月の病気休暇を取得した。

被告は,同年7月15日付けで,原告に対し,同年7月16日から同年
10月15日までの期間,休職を命じた(甲22)。

原告は,平成29年7月27日及び同年8月19日付けで,原因となった職場の上司と直接関わりをもたなければ,職場復帰が可能であるとの診断を受けた(甲24,25)。


被告は,同年8月21日付けで,原告に対し復職を命じた(甲26)。
3争点


国賠法1条1項に基づく請求
アイ
A事務次長の行為と原告の適応障害との因果関係(争点②)

A事務次長の行為と因果関係のある損害(争点③)
A事務次長の行為の違法性(争点①)



債務不履行に基づく損害賠償請求
アイ
B事務長及びC庶務課長の行為についての安全配慮義務違反(争点④)B事務長及びC庶務課長の行為と因果関係ある損害(争点⑤)
4争点に対する当事者の主張


争点①(A事務次長の行為の違法性)について
【原告の主張】

A事務次長の違法行為
A事務次長は,事務次長に就任した後,原告を含む複数の職員に対して,日常的に,人格を否定する暴言,机を叩く,大声で怒鳴る,会議の場や他の職員の面前で長時間執拗に非難するなどのパワーハラスメントを行
うようになった。平成28年秋頃から,A事務次長の原告に対するパワーハラスメントは激化し,ほぼ毎日のように行われるようになった。争いのない発言1ないし発言7は,そのごく一端にすぎない。
一般に,叱責が業務の必要な範囲を超えて違法になるものか否かを決するに当たっては,指導の必要性と相当性から判断するが,対象者の人格
を非難,侮辱する発言は,たとえ教育目的があったとしても,その必要性,相当性が否定され,違法となる。本件でのA事務次長による一連のパワーハラスメント行為は,原告の人格を否定し,非難するような言葉が,夥しい回数繰り返されており,指導の必要性を検討するまでもなく,違法であることは明らかである。加えて,A事務次長は,発言5におい
て,原告が当然ノイローゼになるべき立場であるかのような発言をしており,このことからすると,A事務次長は,原告を精神疾患に陥れる意図をもって,ハラスメントを繰り返したというべきである。
なお,被告は,A事務次長の叱責が原告に誘発されたものであるかのごとく主張するが,原告が報告を行っている事項は,いずれもA事務次長
に指示された事項であって,録音で記録を残すのもA事務次長が自ら示唆したことである。原告の返答をみても,原告がA事務次長をわざと怒らせようとしている様子はないのであって,被告の主張は理由がない。イ
原告とA事務次長との関係性
原告は,以前からA事務次長と面識はあったが,被告の主張するような親しい間柄ではなかった。出張やお遍路,ゴルフへの同行は,いずれもA事務次長が原告を強引に誘ってきたため,原告は立場もあって断り切れなかったにすぎない。
したがって,原告とA事務次長との関係は,少なくとも,原告の側から見れば,決して良好なものではない。被告が主張するように,A事務次長の叱責が,両名の信頼関係に基づく忠言であるとは考えられない。

指導の必要性
前記アのとおり,A事務次長による一連のパワーハラスメント行為は,指導の必要性をみるまでもなく違法である上,次のとおり,指導の必要性も存しないものである。

発言1について
被告は,入院患者数の差異に関する対応への落ち度を指摘するが,そもそも,これらの数値の集計方法は異なるため,数値が合致しないことには問題はない。このときは,生じた差異が大きかったことから,医事課担当者が,入院患者数集計表を管理している外部委託業者に対
して,その原因を確認している状況であった。原告は,以上の内容を事務部調整会議において報告したのであり,不適切不明確な説明はしていない。
さらに,原告は,管理職として問題把握が遅れたことについては冒頭で謝罪をしており,責任回避や言い訳のような態度はとっていない。
発言2について
被告が指摘する平成28年度の診療報酬の未請求は,診療報酬請求を独立して行っていた外部委託業者のミスであり,原告がこれを防止することはできなかった。原告は,このときも自らの管理不足を謝罪しており,上記外部委託業者に対して請求をし直すように指示した結果,
被告には損害が生じずに済んでいる。
メディカルアシスタント(以下MAという。)の定年に関しては,原告が自ら誤った説明をしたこともなければ,職員に犯人捜しをするよう指示したこともない。
発言3について
患者満足度調査については,A事務次長から提出締切は指定されていなかったが,原告は,会議前にA事務次長の部下に対して,同集計の速報値を連絡していた。患者満足度調査の調査実施期間自体も,A事務次長の指示で遅らせたのであり,原告に落ち度はない。
発言4について
被告は,原告がMAの勤怠管理を怠り,出勤簿を改ざんしたなどと指
摘するが,そのような事実はなく,原告は,勤怠管理を適切に行っていた。勤怠管理システムへの入力は,数日分をまとめて行うことが常態となっており,これによって支障が生じてもいなかったのであって,原告に職務怠慢はない。出勤簿改ざんの事実もなく,A事務次長も別紙1においてそのような指摘はしていない。

また,救急業務連絡委員会の資料の点については,他ならぬA事務次長が,医事課に対して分析資料を提出するように求めたことから,原告は,委員長と協議の上,資料を提出したのであり,委員会の場でも資料の内容や分量が問題視されることはなかった。A事務次長の叱責は理由のないものである。

個人情報保護委員会については,委員長である院長の意向で開催されなかった。
発言5について
被告の指摘する新たな課の設立に関する資料については,原告は,被告の求める内容を正しく含んだものを作成し提出している。

発言6について
共用ディスクの整理に関しては,原告が院長から指示されて行ったものであり,作業にもさして時間を要さなかった。優先順位の低い業務を優先し,他の業務を滞らせたという被告の指摘は当たらない。
発言7について
個人情報保護方針等の変更について,包括同意を入れるという指示を行ったのはA事務次長であり,原告の業務遂行に問題はなかった。
【被告の主張】

A事務次長の行為の違法性をいう主張について
A事務次長が発言1ないし発言7のとおり発言をしたことは認めるが,その余は否認し争う。A事務次長は,そもそも部署の異なる原告と毎日顔を合わせるようなことはなかったし,会議において毎回のように原告
の人格を否定したり,降格を示唆したりする暴言を吐いたり,机を叩いたりしたという事実はなく,長時間にわたり執拗に非難されたと評価されるような叱責を行ったこともない。
原告からの報告や相談と称するものは,本来,A事務次長に報告や相談をする必要もないものも含まれていた。原告がやり取りを録音してい
たことからして,原告は,わざと不必要な相談を行い,ふてくされたような態度で応対することによってA事務次長を怒らせ,その発言を録音した可能性すらあるものである。

原告とA事務次長との関係性
原告とA事務次長は,平成8年頃に知り合って以降,20年以上にわたって良好な関係を築いており,原告が本件病院に入職したのも,A事務次長が原告の能力を評価して招聘したためである。入職後も,原告がA事務次長の出張やお遍路巡り,ゴルフ等に同行するなど,親密な交友関係にあった。そのような中で,原告が上記のとおり管理職として問題の
ある行動を繰り返していたことから,A事務次長は,原告自身の成長のため,ひいては本件病院のために,熱心に助言,忠告をしていたのである。

指導の必要性,相当性
前提
原告は,医事課長として,業務上の重大な問題を生じさせていた。A
事務次長の発言1ないし発言7は,そのような中で,原告に対し,管理職としての自覚を促し,資質を向上させるため,次のとおり業務上必要な注意をしたものである。
発言1について
このとき,原告は,入院患者数集計表における入院患者数(以下地区別ベースの患者数という。)と,診療行為分析表における入院患者数(以下請求ベースの患者数,地区別ベースの患者数と請求ベ
ースの患者数を合わせて両数値という。)の齟齬について報告を
したが,その報告内容が拙く,重要部分についてすら理解できるような説明をしなかった。さらに,原告は,当該問題を外部委託業者の責
任とし,自分には何の責任もないとして,責任回避に終始する態度をとった。したがって,A事務次長が,業務上の注意勧告を行ったものである。
発言2について
このときは,医事課の所管である診療報酬改定への対応に不備があり,
診療報酬が未請求となる問題が発覚していたにもかかわらず,原告が,外部委託業者や部下の責任であるという責任逃れの態度に終始したことから,A事務次長が,原告に対して業務上の注意を行ったものである。
また,医事課職員がMAに対して,定年退職に関する誤った説明を行
ったことについて,部下の中から犯人捜しをしないよう,また自ら率先して正しい情報を調べるよう指導したにすぎない。
発言3について
このときは,A事務次長が,原告に対し,会議の1週間前から患者満足度調査結果の提出を求めていた(なお,発言3にかかるやり取りのうちに,原告が平成28年12月の1週目ないし十何日かが締切であることを認める発言がある。)にもかかわらず,原告は集計管理を怠り,提出期限に間に合わせることができなかった。当該会議の場でA事務次長が原告にそのことを問いただしたところ,原告がふてくされた態度で言い訳をしたため,注意を促したものである。
発言4について

このときは,原告がMAの勤怠管理を怠り,出勤簿の改ざんをしていたことが発覚しており,さらに,会議において必要以上に大部の資料を提出する,医事課長として開催すべき個人情報委員会を開催していないなどの事実が明らかになってもいたことから,A事務次長が,原告に対して注意喚起をしたものである。

発言5について
このときは,原告は,指示していた事務分掌に関する資料について,考慮要素の重要度を正しく反映しないものを提出したことから,注意喚起をしたものである。
発言6について

このときは,原告が,優先すべき業務を後回しにして,優先度の低い共用ディスクの整理を先行させていたことから,これを諫めるために注意をしたものである。なお,原告は,共用ディスクの整理は院長の指示であると主張するが,そのような事実はない。
発言7について

このときは,原告が,個人情報保護方針の改訂が必要となった根拠や,包括同意にまつわる点について正しい理解をしていなかったことから,それを確認し,問いただしたものである。また,原告の行った人事評価の内容にも,不適切な記載があったことから,それに対する注意をしたのみであり,いずれの点についても必要な指導の範疇である。以上のとおり,発言1ないし発言7について,A事務次長は,いずれも原告に対する指導の必要性があって叱責を行っている。



争点②(A事務次長の行為と原告の適応障害との因果関係)について【原告の主張】
原告は,A事務次長による一連のパワーハラスメント行為により,適応障害を発症したとの診断を受けた。当該診断は,医師が,症状や生活歴に関
する必要な聴取を経て,反応性所見を認め,原告の抑うつ症状を業務に起因するものと判断したものである。被告が主張するICD-10の基準にしても,持続的ストレスの場面では,ストレスを受けてから,ストレスに抵抗する時期等の一定期間を踏まえてストレス反応を発症するというのは,職場のメンタルヘルスで常識的に共有される事柄であるし,そもそも原告
は,発言1ないし発言7の場面以外にも,平成29年4月まで継続的にストレス因子にさらされていたとみられるのであるから,適応障害の診断は然るべきものである。録音反訳は,業務上,会議や打合せの記録を残す必要があったため,やむなく苦痛をこらえて作業を行ったのであり,適応障害の発症を否定する事情にはならない。

【被告の主張】
原告は,A事務次長の行為によって適応障害を発症したものではない。ICD-10の基準によると,適応障害は,ストレス性の出来事があってから通常1か月以内に発症し,その症状は通常6か月を超えないとされている。しかし,原告がストレス反応を発症したと主張する平成29年4月は,
原告が激しいパワーハラスメントを受けるようになったと主張する平成28年10月から6か月以上が経過した時点であるし,同年5月1日付けの診断書によると,病気休暇取得後に症状が悪化した様子がみられることからすると,ICD-10の基準に合致せず,原告の適応障害の発症及びA事務次長の行為との因果関係は疑わしい。なお,原告が自ら,パワーハラスメントが行われたと主張する場の録音を聞き直して反訳を作成していることからも,同様にいうことができる。



争点③(A事務次長の行為と因果関係のある損害)について【原告の主張】
原告は,前記⑴の【原告の主張】記載のとおりのA事務次長の行為により,適応障害及びストレスに伴う胃腸炎,睡眠障害,息苦しさ等の症状を発症
した。これにより,原告は,次のとおりの損害を負った。

治療費,診断書作成費,薬代

計15万4190円

通院等の履歴は,別紙2及び3記載のとおりである。なお,通院した病院,目的及び通院期間については次のとおりである。
南晴病院精神科
適応障害の治療のため,平成29年4月17日から同年10月14日まで通院。
ことぶき共同診療所精神科
平成29年11月8日から平成28年1月16日まで通院。
南晴病院から転院した。

山高クリニック胃腸科
胃腸痛の改善のため,平成29年4月17日から同年9月19日まで通院。
おなかクリニック胃腸科
胃腸痛の改善,内視鏡検査等実施のため,平成29年7月28日から
同年10月15日まで通院。
池谷医院循環器科
息苦しさ及び睡眠障害の改善のため,平成29年10月4日から同年10月21日まで通院。
大塚歯科医院
池谷医院の紹介にて,マウスピース作成のため平成29年10月21日から同年11月11日まで通院。


通院交通費

計10万2902円

原告は,上記アのとおり各病院に通院し,通院交通費として別紙3記載のとおりの損害を負った。
なお,a市所在の原告の自宅から大田区の南晴病院まで通院した理由について,原告は,職場があるa市内の病院を受診することは憚られたこ
とから,近隣の市区町村の病院を探したが,当日初診の予約を取ることのできる病院がなかった。そこで,原告は,当時体調が悪かったことから,横浜市d区に所在する原告の実家に滞在し,そこから通院することを念頭に置いて,知人の紹介を受け,南晴病院を受診したものである。結局のところ,原告の体調が非常に悪く,実家に戻ることも困難であっ
たため,a市の自宅から南晴病院に通院することもあった。通院の方法としては,当初は友人に車で送迎してもらい,体調がある程度回復してからは,自分で車を運転して通院していた。友人に送迎してもらった際は,ガソリン代と駐車場代は原告が負担していた。
また,南晴病院で処方された薬をあきる野市の薬局で受け取っているの
は,南晴病院を最初に受診した際,当該薬品の在庫がなく,自宅付近で在庫のある薬局を探したところ,当該あきる野市の薬局に在庫があったためである。

休業損害

計71万7486円

給与減額分
原告は,平成29年4月17日から同年7月16日まで病気休暇を取得し,翌日から同年8月21日まで分限休職処分を受けたため,平成29年5月から7月支給分の給与(諸手当含む)を,次のとおり減額された。
5月~7月支給分
8月支給分

11万3160円の減額

月当たり7万7797円の減額

賞与減額分
原告は,上記のとおりの休職により,平成29年6月及び12月支給分の賞与(諸手当含む)を,次のとおり減額された。
6月支給分
12月支給分

20万9892円の減額

16万1043円の減額


慰謝料

300万0000円

原告は,A事務次長から半年以上の長きにわたり,ほぼ毎日のように悪質なパワーハラスメントを受け,人格権及び良好な職場環境のもとで働く権利を侵害され,甚大な精神的苦痛を被った。A事務次長の行為により原告の受けた精神的損害を金銭に換算するならば,300万円を下ら
ない。

弁護士費用

49万7458円

原告は,本件に関して,弁護士に依頼しての訴訟追行を余儀なくされたのであり,本件と因果関係のある損害としての弁護士費用は,後記⑸の【原告の主張】において主張する損害も考慮して,49万7458円を下回らないというべきである。
【被告の主張】
いずれも否認し争う。
通院交通費について,原告があえて遠方である南晴病院に通院する必要性
はない。また,同病院での処方薬は同病院の近くの薬局で受け取ればよく,あきる野市の薬局に受け取りに行く必要はない。


争点④(B事務長及びC庶務課長の行為についての安全配慮義務違反)について
【原告の主張】
B事務長及びC庶務課長は,少なくとも,平成28年10月28日の会議及び同年12月9日の会議に同席し,発言1及び発言3を耳にしていた。
また,A事務次長の席は,B事務長の席からよく見え,音も聞こえる位置にあった。
そして,B事務長及びC庶務課長は,上記会議の場において,A事務次長が原告に対して暴言を吐いているのを止めることもせず,注意や指導などの適切な措置を採ることはなかった。さらに,発言1ないし発言7以外の
場面で,A事務次長の暴言に対し,B事務長が笑うような様子すらみられた。このことからして,両名には,パワーハラスメントを防止する意識が皆無であったといわざるを得ず,被告は安全配慮義務を怠ったといえる。また,B事務長及びC庶務課長は,原告の休職後,A事務次長に対する指導や処分を行わず,原告の復帰時も,A事務次長との接触の機会をなくす
ため,原告の行動,職域のみを制限し,A事務次長の行為を何ら制限しないなど,復帰に際して適切な環境調整を行わなかった。この点からも被告には安全配慮義務違反がある。
【被告の主張】
B事務長は,A事務次長の発言が原告に対する必要な指導であったことか
ら,当該発言をパワーハラスメントと認識することはなく,原告が休職前にパワーハラスメントを訴えたこともなかった。
休職中の原告がパワーハラスメントを訴えた後,被告は,B事務長及びA事務次長に対し,それぞれ口頭注意と訓告処分を行い,原告の復職に向け,適切な対応を行った。被告に安全配慮義務違反はない。



争点⑤(B事務長及びC庶務課長の行為と因果関係ある損害)について【原告の主張】
原告の適応障害及びその他の身体症状の発症は,A事務次長の行為を助長した被告の安全配慮義務違反にも起因している。したがって,上記⑶の【原告の主張】アないしウは,安全配慮義務違反とも因果関係のある損害である。

また,原告は,被告の安全配慮義務違反により,人格権及び良好な職場環境のもとで働く権利を害され,甚大な精神的苦痛を被った。この精神的損害を金銭に換算するならば,100万円を下らない。
【被告の主張】
否認し争う。

第3当裁判所の判断
1認定事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。なお,掲記した証拠は特に断らない限り枝番を含む。)
⑴本件病院の組織

本件病院は,内科,精神科,循環器内科,腎臓内科,小児科,外科,消化器外科,整形外科,脳神経外科等の診療科を有する総合病院であり,平成28年4月1日時点での職員数は,常勤の職員は,医師が58人,看護師が292人,薬剤師が12人,その他技師が56人,事務が25人であり,非常勤職員も含めると,520人余りが勤務していた(甲4)。

本件病院には,院長及び副院長の下,事務部,診療部,医療技術部,薬剤部及び看護部等があり,本件病院の経営にかかわる事項は,院長直属の経営会議で決定することとされており,本件病院の重要事項については,経営会議の下部組織である経営調整会議で検討することとされていた(甲4,乙15)。


経営調整会議は,平成26年当時,院長,副院長,看護部長並びに事務部の管理職である事務長,事務次長及び課長が出席し,事前に事務部内での検討をしないまま,事務部提出の議案を経営調整会議で検討していた。B事務長は,上記のような経営調整会議の在り方を改める必要を感じ,A事務次長に指示をし,平成27年4月から,経営調整会議に臨むに当たり,事前に事務部の管理職で議案を検討する場を設けることとし,そのような場として,事務部内に事務部管理職会議(事務部調整会議)を新たに設け,事務長,事務次長及び課長が出席し,経営調整会議に提出する議題を検討するとともに,それ以外の事務部内の課題等についても検討するようにした。それに伴い,事務部からの経営調整会議の出席者は事務長のみとなった(甲4,乙15)。



事務部の組織構造及び職務分掌

平成28年4月1日当時の事務部の職員配属は,別紙4のとおりであり,B事務長以下24名の職員が配属されていた(甲4,乙2)。


事務長は,院長の命を受け,病院の事務を掌り,所属職員を指揮監督する職責がある(争いのない事実)。また,事務部でのハラスメント防止の責任者である(証人B)。


事務次長は,上司の命を受け,部内の調整等を行うことにより事務長を補佐し,また事務長不在の際にはその職務を代理する職責がある(甲6(11条の2))。


課長は,上司の命を受け,課の業務を掌り,所属職員を指揮監督する職責がある。課長の直属の上司は事務長及び事務次長である(甲6(12
条1項),94,乙2,15)。

庶務課は,病院全体の庶務及び部内庶務に関すること,病院各部署との連絡調整に関すること,職員の労働安全衛生に関すること等を所掌事務としていた(甲6(別表1))。


医事課は,入院・外来業務に関すること,健診センターに関すること,救急業務に関すること,診療報酬に関すること等を所掌事務としていた(甲6(別表1))。


配席

平成28年度の事務長室及び事務室は,事務部が所属する建物の2階にあり,配席は別紙5のとおりであった。このうち,事務次長席と記載されている席がA事務次長,事務長席と記載されている席がB
事務長,庶務課長席と記載されている席がC庶務課長の席であった。D及びEは,経理課と記載されている島に着席していた。また,原告の席は1階にあった(乙1,原告本人,証人D,証人E)。

上記アのB事務長席は,個室内にあるが,医事課システム担当主任席との間の扉は,通常開けたままにされていた(原告本人,証人B)。


A事務次長の叱責や原告の様子

事務長席から事務次長席までの距離は,4メートルないし5メートル程度であり,A事務次長の自席での叱責の声は,事務長席のB事務長にも聞こえていた(証人B)。


経理課席にいたD及びEは,原告が事務次長席でA事務次長に叱責されているのを聞いたことがあった(証人D,証人E)。


甲8ないし14にかかるやり取りにおいて,括弧書きで机を叩く,ペンで机を叩く等と,机を叩くことに関する記載がある部分には,A事務次長が,話しながら,掌やペン等で机を叩いた音が録音されている(甲8から14)。



発言1(平成28年10月28日午前9時,事務部調整会議)についてア
発言1は,原告が,事務部調整会議において,地区別ベースの患者数と請求ベースの患者数の差異が大きくなったことについて報告を行ったことが発端となったものである(甲8)。


地区別ベースの患者数及び請求ベースの患者数は,それぞれの前提となる集計方法が異なるため,通常,両数値は一致しない(甲39,原告本人)。

本件病院では,病院情報システム管理業務を富士通エフ・アイ・ピー株式会社(以下富士通FIPという。)に委託しており,診療行為分析表は,富士通FIPが作成していた。


医事課の担当職員は,平成28年10月21日頃,同年9月分の両数値の差異が他の月よりも大きいことに気付き,富士通FIPに問合せをした。富士通FIPは,同月28日の午後4時に,差異の原因についての中間報告を行った(甲39)。


両数値の差異が大きくなった原因は,富士通FIPの条件設定漏れであり,後に該当期間の帳票は修正された(甲39)。


A事務次長は,発言1の際,別紙1の平成28年10月28日事務部調整会議欄記載の発言のほか,同発言の前に,何でどうしようとしたの結局,

いつまでたっても直ってない現状に対して,ホウレンソウもなくて。何もしないで。やってるのが,現実の医事課なの。それで,結局,経理が分かるってこと。おかしいぜ,そのロジックどう考えても。

などと発言をした。また,B事務次長は,別紙1の平成28年10月28日事務部調整会議欄記載のA事務次長の発言の途中において,

時間がないんで,ちょっと文書かなんかにされて。今,最初に言ってることと。今,いってることとちがってるから

などと発言し,文書での提出を命じて締め
括ろうとした。しかし,A事務次長は,その後も,別紙1の平成28年10月28日キ事務部調整会議欄記載の発言を続けた(甲8)。
発言1がなされた際のやり取りは,時間にして14分間程度であった(甲8)。



発言2(同年11月10日,ミーティングルーム)について

初期加算の算定漏れに関する部分
発言2の前半は,原告が,地域包括ケアの初期加算の算定漏れがあったことについて,A事務次長に報告したことに対するものである。このとき,A事務次長は,原告に対し,別紙1の平成28年11月10日ミーティングルーム欄記載の発言の前に,原告の作成してきた文書の記載について

そんなことわかんねえよ。俺は読んでんだけなんだよ。あーん。これ何いいてえの

(原告が自身の管理不足を述べたことに対し)どこにもかいてねえ。一番はじめに書くんじゃねえの。

などと発言した。(甲9)。
本件病院では,診療報酬算定を株式会社ソラスト(以下ソラスト
という。)に委託していた。

診療報酬算定の漏れが生じた直接の原因は,ソラストの担当者が,地域包括ケア初期加算について認識していなかったことであった(甲59)。

MAの定年に関する部分
発言2の後半は,A事務次長が,MAの定年退職年齢について医事課職
員が説明したことに関し,原告に発言したものである。このとき,A事務次長は,原告に対し

言われた方の身になったことがあんの。あなたは。そんなことで誰が,言っただなんて言われた方のみになれよ。

,その前にお前がどういう風になっているかって調べることが先じゃないのなどと述べた(甲9)。

発言2がなされた際のやり取りは,時間にして40分間程度であった(甲9)。



発言3(同年12月9日,事務部調整会議)について

発言3は,会議内で,原告が医事課業務に関する報告をしていたところ,A事務次長が原告に対し患者満足度調査について質問したことによるものである。このとき,A事務次長は,原告に対し,(集計が)まだ終わらないの,多いから大変だからって,こっちに迷惑かけてもいいんだなどと述べた(甲11)。イ
平成28年度の患者満足度調査は,入院患者について平成28年10月31日から同年11月18日までの期間,外来患者について同年10月31日から同年11月7日までの期間に行われ,調査結果については回
収後に集計して報告書にまとめ,調整会議及び経営会議の了承を得たうえで,院内及び病院だよりに掲示し,平成29年1月末までにホームページに掲載するとされていた(甲64の2)。

平成28年12月6日に本件病院改革プランワーキング会議が開催された際は,患者満足度調査に関する話題は特に出されなかった。なお,同
会議にはA事務次長も出席していた(甲65)。

同月13日の本件病院改革プラン策定委員会において,原告は,患者満足度調査に関する報告をした。この報告に対して,出席者から特段の意見や問題提起はなされなかった。なお,同委員会には,A事務次長も出席していた(甲66)。


発言3がなされた際のやり取りは,時間にして10分間程度であった(甲11)。



発言4(同日,事務室内)について

発言4は,原告が,上記⑺にかかる事務部調整会議の後,事務次長席に,患者満足度調査の暫定の集計結果を持参し,A事務次長に対して報告を
行った際のものである(甲10,原告本人)。

MAの出退勤管理
発言4の序盤は,A事務次長が,原告の行っているMAの出退勤管理業務について言及したものである(甲10)。

管理職による勤怠管理は,システムに入力する形で行われているが,被告において,出退勤の管理自体が適切になされている限り,1か月程度の日数分をまとめて入力すること自体を特に問題視していたことはなかった。原告は,システム入力を1か月分程度まとめて行っていた(証人B,原告本人)。

救急業務連絡委員会資料
発言4の中盤は,A事務次長が,原告が救急業務連絡委員会に提出し
ようとしていた資料について言及したものである(甲10)。
平成28年10月18日に開催された救急業務連絡委員会において,A事務次長が,同委員会への提出資料として,医事課が資料を作成するよう提案した(甲42。なお,同記載中のA委員とある提案が,A事務次長のものであることにつき争いはない。)。

原告は,医事課職員の協力も得て,同年10月及び同年11月開催の救急業務連絡委員会に,資料を作成し提出した。これらは,総ページ数32頁ないし63頁で構成されたものであり,冒頭数頁が目次及び要録(レジュメ)の部分,残りの頁が参照資料であった(乙19,20)。

の資料の分量や内
容につき,特段の言及はなされなかった。また,次回以降資料は不要であるという発言もなかった(乙21)。

個人情報保護委員会
発言4の終盤は,原告が,監査が予定されていることを考慮して,個人情報保護委員会を開催すべきではないかという旨の提案をしたことに対するA事務次長の発言である(甲10)。
本件病院の個人情報保護委員会設置要綱では,個人情報委員会は院長を委員長として構成され,年1回の開催が定められている。招集は委員
長の権限とされている。委員としては,医事課長のほか,事務長,事務次長,庶務課長も含まれる(甲43)。
平成27年の個人情報委員会は,開催されなかった。

発言4がなされた際のやり取りは,時間にして15分間程度であった(甲10)。



発言5(平成29年1月24日,ミーティングルーム)について

発言5は,原告が,新設予定の診療情報管理課の事務分掌に関し,文書を作成して持参した際のものである(甲12,原告本人)。


上記アで原告が持参した書面では,冒頭に,今回の組織改正での目標として機能評価の対応の項目が筆頭に挙げられ,次いで,新設の課において新たに取り組む業務,既存の課題の解決,新設の課の事務分掌等が記載されていた(甲44の1)。これについて,A事務次長は,

あー勘違いだね。機能評価なんて誰がやれって言った。

と述べ,原告が新設の課でやっていきたいことである旨返答したのに対し,

ただ,もう視点がずれてる。

,前の問題を解決する気がないんだもん等と述べて,その後別紙1の平成29年1月24日報告(ミーティングルーム)欄記載の発言をした。さらに,同発言の間に,

あなたのことを評価している部下がいないんですよ。

俺が何を心配しているかっていうと君じゃないんだよ。あなたのために迷惑のかかった周りの人のことで気にしてるんだよ

管理職っていうのは自己責任なんだよ。全部責任を背負うんだよ。

などと述べた(甲12)。ウ
発言5がなされた際のやり取りは,時間にして50分間程度であった。(甲12)。


発言6(同月26日,ミーティングルーム)について

発言6は,原告が共用ディスクのフォルダ整理に関する報告を行った際のものである(甲13)。


共用ディスクの整理に関しては,同月25日の経営会議において提案され,院長も同旨の意見を述べて,どこのセクションがやるのかと尋ねたのに対し,原告が検討するとの応答をした(甲45の1,2)。

発言6がなされた際のやり取りは,時間にして54分間程度であった(甲13)。


発言7(同年2月27日,ミーティングルーム)について

個人情報保護方針の変更
発言7の前半は,原告が,個人情報保護委員会への提出議題として,個人情報方針の変更に関する資料を持参した際のものである(甲14,72)。


人事評価
発言7の後半は,原告が行った人事評価の内容について,A事務次長
が言及したものである(甲14)。
原告は,平成28年度の人事評価一次評価者として,F職員について,評価理由のうちに,飲酒癖に対する注意事項を記載した(乙25,原告本人)。

発言7がなされた際のやり取りは,時間にして1時間14分程度であった(甲14)。


録音にまつわる事情(原告本人)

甲8ないし14のやり取りは,いずれも原告が録音機器を用いて録音し,反訳を作成したものである。


原告は,録音を行う際,録音機器をワイシャツの胸ポケットに入れて行っていた。


原告とA事務次長との関係性

原告は,平成8年にA事務次長と同じ部署で勤務を行ったことがあり,その時からA事務次長と面識を有していた(原告本人)。


原告が本件病院に入職した後は,原告は,A事務次長のお遍路巡りを兼ねた四国旅行に同行したり,一緒にゴルフをしたりしたことがあった(原告本人)。

B事務長及びC庶務課長の対応

B事務長及びC庶務課長は,発言1及び発言3がなされた事務部調整会議に出席していたが,A事務次長の発言に対して,制止や注意等はしなかった(甲8,11,証人B)。


B事務長は,原告の休職後,A事務次長に対して,この時代では,この言葉を使うと,パワーハラスメントという風に取られてしまうという旨の注意をした(証人B)。


A事務次長は,本件に関し訓告処分を受けたが,懲戒処分は受けていない(証人B)。


原告による通院等の事実

原告は,睡眠障害や,耳鳴り,食欲不振,胃腸痛等の症状を覚えるようになり,平成29年4月12日から有給休暇を取得した。同月17日,東京都八王子市e町所在の山高クリニックを受診し,胃腸炎と診断された(甲15,甲94,証人B)。


原告は,同日,大田区f所在の南晴病院精神科を受診し,同病院のG医師(以下G医師という。)から,職場の上司(事務次長)から過度に威圧的な言動を受け続けたことによる適応障害である旨診断された(甲16)。なお,原告は,同病院について,所属する労働組合から紹介を受けたものである(争いのない事実)。


原告は,胃腸痛等の症状が続いていたことから,同年7月26日以降,再度山高クリニックに通院するようになり,同病院の紹介で東京都八王子市g町所在のおなかクリニックにも通院し,内視鏡検査及び治療を受けた(甲94)。


原告は,別紙2(上記アないしウの通院を含む)のとおり,通院治療を受け,治療費及び薬剤費等を支払った(甲27の1ないし54)。また,原告は,南晴病院,ことぶき共同診療所,山高クリニック及びおなかクリニックへの通院治療の際の駐車料金として,合計1万3700円を支出した(甲28の1ないし16)。

原告は,休職期間中,東京都a市の自宅と,横浜市d区所在の実家とを行き来して生活しており,休職期間の初めころは,通院や実家との行き
来は,友人や兄に依頼して送迎をしてもらっていた(甲116,証人D)。

原告が南晴病院を受診したのは,自宅付近の病院は同僚等の目が気になり選択できなかったところ,実家からの通院を想定して探した結果,実家からの所要時間30分程度のところに位置する南晴病院が,偶然予約
を取ることができる状態にあったためである。病態や治療内容からして,南晴病院でしか治療ができないというものではなかった(甲94,原告本人)。

原告の収入の変動

原告の平成29年3月及び4月支給の給与の支給額計は,いずれも59万6447円であり,このうち基本給が45万1000円,地域手当が7万7797円,管理職手当が6万7650円であった(甲29の1,2)。


原告の同年5月ないし7月支給の給与の支給額計は,いずれも51万8650円であり,このうち基本給が45万1000円,地域手当が6万
7650円で,管理職手当は支払われなかった(甲29の3ないし5)。ウ
原告の同年8月支給の給与の支給額計は,48万3287円であり,このうち基本給が39万7700円で,地域手当が6万9802円,管理職手当が6万7650円であり,差額遡及として5万1865円が差し引かれていた(甲29の6)。


原告の同年9月支給の給与の支給額計は,59万6447円であり,内訳は上記アと同様であった(甲29の7)。

原告の同年6月及び同年12月支給の賞与について,原告の同年3月及び同年4月支給にかかる基本給額45万1000円を前提とすると,6月支給分につき122万2716円,12月支給分につき125万2538円が支給されるべきであった(基礎となる金額59万6447円
(基本給45万1000円+地域手当6万7650円+職務段階加算7万7797円の合計額)に,支給率(6月支給分につき2.05,12月支給分につき2.1)を乗じた額。ただし小数点以下切捨て。)(甲30,31,32,33,35)。

原告の同年6月支給の賞与の支給額計は,106万1675円であった(甲34)。


原告の同年12月支給の賞与の支給額計は,104万2648円であった(甲36)。


原告に対する適応障害の診断について

G医師は,平成29年4月17日の診察において,原告に問診をした。その中で,A事務次長により受けた行為の他,A事務次長以外の者(家族を含む)との関係や,うつ病等の既往歴,不登校歴等についても聴き取り,前記⒂イのとおり,適応障害と診断した(甲79の3)。


G医師は,同年5月1日にも,原告について適応障害との診断書を作成しており,その内容には,

上司(事務次長)からの過度に威圧的な言動を受け…不安,緊張,不眠,耳鳴,ストレス性胃腸炎症状,抑鬱感,情動動揺等の症状が出現増悪し,前記診断される。

と記載されていた(甲17)。なお,原告は,同日の診療において,気分が良くなった旨述べた(甲79の3)。

原告は,平成29年8月1日に,被告の指示で,本件病院の精神科である医H医師の診察を受け,病名は適応障害で,これによる症状はほぼ軽快しており,職場調整の上復帰可能な状態であると診断されている(甲86)。

原告は,同月3日,被告の指示で,被告産業医であるI医師の診察を受けた。この時の診療録には,0(客観的情報)欄に事務次長からの昨年秋頃から半年にわたるパワハラが誘因,A(評価)欄に適応障害なので復職のためには今回のエピソードの誘因からの隔離が必要と記載された(甲87)。

ICD-10においては,適応障害の発症は通常,ストレス性の出来事,あるいは生活の変化が生じてから1か月以内であり,症状の持続は遷延性抑うつ反応の場合を除いて通常6か月を超えない(6か月を超えて症
状が持続するならば,診断はその時点での臨床病像に応じて変更すべきである。)とされている(乙4)。

G医師は,その意見書において,ICD-10の基準は本来短期のストレスを想定しているものであって,原告は,平成29年4月まで継続的にストレスにさらされていたとみられることを考慮すると,適応障害と
の診断に不整合はなく,また,原告に対する診断については,外因性はなく,内因性の中核症状とされる精神病性の要素を認めず,むしろ職場に関連する事項や,A事務次長を想起する状況に甚だしい情動反応を示したことから,反応性が強く示唆されたことを指摘した(甲78)。キ
被告協力医のJ医師(Kクリニック医師,L大学心理学部教授)は,意見書において,原告に対する適応障害との診断について,強度のストレス因としてA事務次長の不適切あるいは過剰な叱責行動を挙げつつも,他の原因(入院患者数の把握過誤,地域包括ケア病棟の初期加算算定漏れ,(いずれも強度中)及び強度弱のストレス因5項目)を挙

げた。また,診断医が,A事務次長との関係での過剰適応や,業務において表面的な言い訳に終始し,管理職として業務遅滞をもたらしたことの原因を精査することなく,外因性,内因性を否定したことを問題とし,適応障害の診断に当たっては,ストレス因のみならず,パーソナリティや特性,生育史等の背景が精査されるべきであると指摘している(乙14)。

原告の復職に当たっての措置

原告の復職に当たっては,段階的に就業時間を増やす復職プログラムが実施された(原告本人,証人B)。


原告の復職後,A事務次長の職域や行動について,原告に接触しないという以外に特段の制限は設けられず,原告は,会議等には一切出ないよう指示された(原告本人,証人B)。

2争点①(A事務次長の行為の違法性)


前提
被告は,特別地方公共団体(一部事務組合)であり,その職員に対する指揮監督ないし安全管理作用は,国賠法1条1項にいう公権力の行使に当たると解される。

そして,一般に,パワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的,身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいい,この限度に至った行為は,国賠法上も違法と評価すべきである。本件で,前記認定事実⑵ア及びエのとおり,A事務次長は,原告の直属の
上司であり,両名の会話の録音反訳(甲8ないし14)におけるやり取りの内容や,このときの双方の態度に鑑み,A事務次長が原告の報告を受け,助言をするような優位の立場であったことは,明らかというべきである。そこで,原告の主張する7つの発言について,それぞれが上記違法行為に該当するか検討する。



発言1について

前記認定事実⑸アのとおり,A事務次長による発言1は,平成28年9月の地区別ベースの患者数と請求ベースの患者数の差異が75件に達したことについて,事務部調整会議において,原告に対し,担当課長として説明を求めた際のものと認められる。


その際の原告の説明は,医事課の担当者が,地区別ベースの患者数と請求ベースの患者数の差異があったことに気が付いた時期,差異が生じることに対する対策,原告の事実関係の把握等について,B事務長等から尋ねられたことに対して回答しているものであるが,説明内容は曖昧であり,会議の当初と途中の説明内容が食い違うとも受け取ら
れる内容であって,要領を得ない説明内容であったといわざるを得ない。
そのような原告の説明内容からすると,原告に対し,事実関係を把握した的確な報告をするよう求めることは,上司であるA事務次長の職責の範囲内のものというべきである。この点,前記認定事実⑸カにお
いて認定する事実のうち,A事務次長が,原告に対し,何でどうしようとしたの結局,

いつまでたっても直ってない現状に対して,ホウレンソウもなくて。何もしないで。やってるのが,現実の医事課なの。それで,結局,経理が分かるってこと。おかしいぜ,そのロジックどう考えても。

などと発言した部分は,原告が医事課長として
現状把握が不十分であること,対応策を十分検討していないこと等を指摘するものであって,業務上の必要性を否定することはできないものというべきである。
これに対し,原告は,地区別ベースの患者数と請求ベースの患者数が,集計方法の相違により数値が合致しないものであり,原告において,
外部委託業者にその原因を確認しており,そのことを事務部調整会議において報告したなどとして,原告の対応に問題がなかった旨主張する。
しかしながら,地区別ベースの患者数と請求ベースの患者数が合致するとは限らないものであるとしても,前記認定のとおり,事務部調整会議における原告の説明は,要領を得ないものであり,途中で説明内容が変遷しているとも受け取られかねないものであったと認められる
ことからすると,事務部調整会議における原告の説明に問題がなかったということはできない。
したがって,原告の主張を採用することはできない。

もっとも,上記イの点を踏まえても,前記認定事実⑵ウア及び前記認定事実⑷ウにおいて認定するとおり,発言1の内容は,上記の部分を超え,原告が嘘つきである,偉そうに言っているからむかつくなどと叱責ないし罵倒するものであって,ペンで机を叩く動作も交えられたものであった。加えて,他の管理職が居合わせる会議の最中に,14分間近くにわたって厳しい叱責や侮蔑的な発言をし,B事務長が文書での提出を命じ
て締め括ろうとした後も,さらに非難を続けたのであり(前記認定事実⑸カ及びキ),このような発言1の内容や態様からすると,発言1は,業務上の必要性を超え不必要に原告の人格を非難するに至っているものと認められる。特に,原告の説明が嘘だという点について,確かに,問合せを含む従前のチェック体制に不十分な点があったがために,この時
点まで問題が顕在化しなかった可能性はあるものの,証拠(甲8)によると,原告はこれについて定期的に調べてくださいっていう形でやって,直したり,直さなかったりとずっと来てたみたいなんですと,担当の対応に,直さない,すなわち不十分な点があったことを述べている。また,その段階で,僕もキャッチしてれば良かったんですけどすいませんと,自身も差異が大きくなっていたことを把握していなかったのも認めており,殊更に虚偽を述べたというべき様子はないことをも考慮すると,発言1は,職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて精神的,身体的苦痛を与える行為に当たるものと認められる。
したがって,発言1は,国賠法上違法というべきである。

発言2について

前記認定事実⑹ア

及びイによると,発言2の前半は,地域包括ケアの

初期加算算定漏れがあったことについての原告の報告に対するものであり,発言2の後半は,MAの定年退職年齢に対する情報提供に関してA事務次長が言及したものである。

A事務次長は,

発言2の

中で,原告が算定漏れの事実について作成した報告書を見て,何一つ出来もしない一番程度の低い人間が一番偉いって俺には聞こえるからむかつくんだよ,まともなこと一つもできもしねえ人間が,

何気取ってんの。だから無理だって言ってんだよ。だから,あなたが書いてくんのはすべて見て腹も立つ。全部嘘だもん俺から言わせりゃ

と述べ
た。
さらに,その後,報告とは無関係のMAの定年退職年齢に関することを持ち出し,

おめーが馬鹿だからだべや。おめえの管理不足だからそんなってることを俺はいってんだよ。

と言い,

一番恥なんだよ。人として。

お前みたいな嘘つきはいないよ。嘘つきと言い訳の塊の人間なんだよお前。

生きてる価値なんかないんだから。

などという発言をしている。
このときのA事務次長の発言のうちには,
とおり,報告書の記載に対する指摘や問い質し,管理職としての態度に対する注意を意図する部分も含まれるものの,前記前提事実⑵ウイのと
おり,何一つ出来もしない一番程度の低い人間,人として恥,
嘘つきと言い訳の塊の人間,生きてる価値なんかないなどとい
う罵倒を含むに至っており,これらの発言は,個別の行為や業務態度に対する具体的な注意という範疇を超えて,人格全体に対する攻撃,否定に及んでいるというべきである。
また,A事務次長の叱責及び罵倒は,机を叩く威圧的な動作も交え,報告事項と無関係な事柄も引き合いに出しつつ,約40分間という長時
間に及ぶものであった。

この点について,被告は,原告が,算定漏れの事実に関して外部委託業者や部下に責任を押し付けるような態度をとったり,MAの定年に関して誤った説明をした職員について犯人捜しのような言動をしたことに対し,指導の必要に基づいて行った業務上の注意であると主張する。しか
しながら,原告が当初提出した報告書の内容や,MAの定年退職年齢の問題に関する態度が,責任逃れや犯人捜しのようなものであったということを認めるに足る証拠はない。なお,被告の提出する乙3号証の報告書は,発言2におけるA事務次長の読み上げとの間に齟齬があることなどからして,このとき原告が提出した報告書ではないとみられるし,内
容においても,同報告書では,初期加算について認識していなかった主体が何者であるか特定されていないのであって,原告の説明と齟齬があるとはいえない。以上より,被告の主張を採用することはできない。エ
したがって,A事務次長による発言2は,そもそも業務上の必要性があるとはいい難いものであり,業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与
えるものとして,国賠法上違法な行為であると認められる。


発言3について

前記認定事実⑺アのとおり,発言3は,事務部調整会議内において,原告医事課業務に関する報告をしたところ,A事務次長が,患者満足度調
査について尋ねたことによるものである。
この中で,A事務次長は,前記認定事実⑺アのとおり,原告に対し,患者満足度調査の集計が遅れたことについて,叱責をした。

この点について,患者満足度調査業務の締切として客観的に明らかなのは,前記認定事実⑺イのとおり,平成29年1月末までに,調整会議及び経営会議の了承を得て,ホームページへの掲載等を行うということの
みであり,被告の主張するように,平成28年12月13日の会議の1週間前,あるいは同月6日の会議までに提出する旨指示されたと認めるに足りる証拠はない。
そして,前記認定事実⑺ウのとおり,同月6日の会議において,原告が患者満足度調査に関する報告を行わなかったにもかかわらず,これに
対し,A事務次長を含む他の出席者から問題提起はなかったことからすると,6日の会議において報告をしなかったことにつき,問題があったとは認められない。また,前記認定事実⑻アのとおり,当該事務部調整会議の直後である発言4の冒頭に,原告が患者満足度調査の内容を持参していることからすると,原告は,遅くともこの時点において,手元に
暫定の集計結果を用意することができていたこと,前記認定事実⑺エのとおり,原告は,同月13日の委員会において,患者満足度調査に関する報告を行い,それについて他の出席者から特段の意見は出なかったことが認められる。このことからすると,原告が患者満足度調査の集計を遅滞していたとまで認めることはできないというべきである。

なお,被告は,原告が同月1週目ないし十何日かの締切を自認する旨の発言をしていると主張する。しかし,被告が指摘するのは,甲11(1頁)のえーと12月の1週,だから,えーと入院の方は,じゅうという原告の発言であるところ,この発言部分は,患者満足度調査の調査期間(通院と入院で期間が別に設定されている(前記認定事実⑺
イ)。)を指す可能性もあり,この発言から直ちに被告の主張が裏付けられるということはできない。

前記前提

とおり,A事務次長は,この日の

会議において集計結果が出されなかったことにつき,

なめてるのお前。

何でおめーみていな馬鹿のため謝んなきゃいけねーんだよ。

責任とってないの。よくよく考えた方がいいんじゃねえか。

などと発言したと認められる。

しかも,発言3は,机を叩く動作を交えつつ,他の管理職の居合わせる会議の場で,約10分間にわたってなされたことにも鑑みると,発言3は,合理的理由なくなされた罵倒で,態様としても明らかに社会的許容限度を超えていると評価すべきであり,業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与えるものであるというのが相当である。


したがって,A事務次長による発言3は,国賠法上違法な行為であると認められる。



発言4について

前記

及び前記認定事実⑻アのとおり,発言4は,上記⑷
にかかる事務部調整会議の後,原告が,事務次長席において報告を行お
うとした際のものである。このとき,A事務次長は,原告の業務である,①MAの出退勤管理,②救急業務連絡委員会の資料,③個人情報保護委員会の開催について,それぞれ言及した。

MAの出退勤管理
前記認定事実⑻

のとおり,原告は,MAの出退勤管理について,

これをまとめてシステムに入力していたところ,被告においては,出退勤は,適切に管理がなされている限り,まとめて入力をすること自体を問題視してはいなかったと認められ,この点につき,原告の業務に落ち度があるということはできない。
被告は,原告が出退勤管理業務そのものを懈怠し,出勤簿を改ざんしていたため,そのことについて注意をしたと主張するが,別紙1のA事務次長の発言を見ても,まとめて入力していたことに対する叱責はあるものの,出退勤管理自体の懈怠や,出勤簿の改ざんを問題視する発言は見当たらないのであり,A事務次長の注意の対象が出退勤管理懈怠や出勤簿の改ざんであったと認めることはできない。

救急業務連絡委員会資料及び個人情報保護委員会の不開催
この点につき,被告は,原告が,会議において不必要に大部の資料を提出し,また医事課長として開催すべき個人情報保護委員会を開催していなかったことから,これに対する注意をしたと主張する。
しかしながら,前記認定事実⑻

のとおり,そもそも医事課が

救急業務連絡委員会への資料を作成し提出することは,A事務次長自身
の提案によるものであり,その後原告が資料を提出した会議において,その資料に問題があるという指摘はなく,次回以降は提出不要という発言もなかったことが認められるのであり,このような経緯に照らすと,原告の資料提出が,不要又は不必要に大部であるとか,原告がそのことを認識し改めて然るべきであったと認めることはできない。

また,個人情報保護委員会は,前記認定事実⑻

のとおり,委

員長である院長が招集権限を有するものであり,原告はA事務次長と同じ一委員の立場である。それを超えて,医事課長が開催に当たって主導的な役割を果たさなければならないという取り決めや慣習等があったと認めるに足る証拠はない。


以上のとおり,A事務次長が指摘し叱責する前記アの①ないし③の点について,少なくとも,いずれも原告が叱責を受けるべき理由は認められないというべきである。
そして,発言4におけるA事務次長の発言は,原告が患者満足度調査
に関する資料を提出しようとするのを遮って,報告と無関係の事柄を持ち出して仕事ができないと詰り,

こんな馬鹿でもできることすらも。ていうか責任感ないよね

切っちゃうからいーけどさ。そーいうことは未来なくすからいいけど

最低だね。人としてね。で,一個は言い訳と嘘をつきっぱなしだよ

などと,業務上の能力や態度に対する注意としての限度を超え,人格否定にも及ぶ著しく侮辱的な内容や,脅しを含めた内容を述べるものであり,特にMAの出退勤管理の部分につ
いては,原告のわずかな返答にも長い非難を連ね,一方的に罵ったと評価すべき態様である。
発言4は,A事務次長と原告の2名のみのやり取りであり,時間は約15分間と,2名のみのやり取りのうちでは比較的短時間であるが,発言がなされた場所は事務室内の事務次長席であり,前記認定事実⑶ア及
びイのとおり,他の管理職や,原告より下の地位の職員が多数在席する中であったと認められる。このような中で,業務上叱責の必要性が認められないにもかかわらず,上記のように人格否定にも及ぶような言葉を含めて,管理職としての資質や姿勢を否定するような叱責の仕方をされていることからすると,これは業務の適正な範囲を超えて,原告に精神
的苦痛を与えるものに他ならないというべきである。
なお,被告の主張するように,別紙1のA事務次長の発言には,出退勤管理はこまめに入力する,短時間の会議のための資料は分量を絞るなど,業務に関する建設的な示唆が含まれている面もある。しかしながら,原告が叱責を受けるだけの理由が認められないことは上記のとおりであり,
これら業務改善のための助言は,それ自体適切ではあっても,叱責の形で伝える必要はなく,ましてや上記のような侮蔑的な態様で伝えることが許されるものではないというのが相当である。

よって,A事務次長の発言4は,国賠法上違法な行為であると認められる。



発言5について

前記認定事実⑼アのとおり,発言5は,原告が,新課設立に伴う事務分掌について,資料を提出した際のものである。A事務次長は,前記認定事実⑼イで認定したとおり,当該資料について,原告が機能評価を内容に掲げたことを叱責し,さらに管理職としての在り方について叱責したものである。


前記認定事実⑼イにおいて認定するとおり,原告の作成した資料には,事務分掌や既存の課題解決に関する記載があり,必ずしも重要な要素を欠落させたものということはできない。しかしながら,原告が作成した資料は,事務分掌に関する考慮要素の重要度について,A事務次長と認識が異なっており,A事務次長において,原告の管理職としての能力や
自覚に関わるものと考えたことがうかがわれる。
このような点を踏まえると,A事務次長において,被告の事務分掌の考慮要素の重要性等について,原告を指導する必要を感じたものであり,その必要性自体を全面的に否定することはできないものであり,この点について,業務上の必要性があった旨の被告の主張は一定の裏付けがあ
るということができる。

A事務
次長は,発言5において,原告について失格,失格者と繰り返
し,一体君は嘘つくのが8割うそつきなんだから,2割の本当は何なんだ,人として恥ずかしくねーかよ,果ては精神障害者かなんかだよなどと,資料に関する指摘とはかけ離れ,原告の人格を否定する言葉をあからさまに並べている。
その他にもテメーの言うことが誰が聞くんだ馬鹿(原文ママ),
俺から見るとぶっ飛ばしてーよ,何様なんだよなどという侮蔑

的にすぎる発言や,

下がるか,この病院から去って欲しいよ。そこの根本的なところがかわらない人間はもう失格なんだよ

,お前なんかだれも課長だと思っちゃいねえぜ,誰もお前には期待していないと,劣等感を煽り,暗に降格を促すような発言をしている。これらは,約50分間もの長時間にわたり,かつその大半において,A事務次長が一方的に原告を責め続けるという態様のものであって,業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与える行為であることは明らかである。


したがって,A事務次長の発言5は,国賠法上違法な行為であると認められる。



発言6について

前記認定事実⑽アのとおり,発言6は,原告が,共用ディスクの整理についてA事務次長に報告をした際のものである。


において認定する通り,発言6において,A事務
次長は,

お前は本当にひどい人間だね。俺こーんな最低な子と思わなかったよ。

,お前の人間性って全然甘い,

うそつきなんじゃないの。君は,いつも嘘をついてきてんじゃないの

,言い訳と嘘の塊と発言しており,これらも,共用ディスク整理の方針検討や,それに関
する管理職としての資質に関する注意という域を超え,性格や人間性といった,人格の否定に至る言葉であるというのが相当である。
さらに,A事務次長は,

全然わかってないよ。あまいよ。何様なんだよ。世の中なめてんじゃねえよ。馬鹿野郎

嘘ついてるんですか。そうやって。追い詰められれば,すぐ,そういう嘘をつく。

ただ課長としての仕事しろよな。やんなかったら懲戒分限処分てのをかけるからねよ。どんどん。(原文ママ)

など,罵倒や脅しというべき言葉を交え,約54分間にわたって,発言5と同様,原告を一方的に責め続けたものである



被告は,この点について,原告が優先すべき他の業務を後回しにして,共用ディスクの整理を行っていたことから,注意をした旨主張するが,優先すべき他の業務が多数あったとか,共用ディスクの整理によって他の業務に支障が出たと認めるに足りる証拠はない。また,共用ディスクの整理は,前記認定事実⑽イのとおり,経営会議において院長から問題提起をされた事項であり,原告がこれを自ら引き受けて行ったことについて,非難すべきような事情は認められない。


以上より,A事務次長の発言6は,そもそも業務上の指導の必要性があるといい難い事項について,原告の人格を否定する言動をしたものであり,国賠法上違法な行為であると認められる。


発言7について

前記認定事実⑾

のとおり,発言7は,原告が個人情報保護方

針改訂の資料を持参したことに端を発するものであり,さらに原告による人事評価にも及んでいる。

被告は,この点に関して,原告が個人情報保護方針の改訂の理由や包括同意の点に関して誤った理解をしていたことや,人事評価に不適切な記
載をしたことに対する,業務上必要な注意であったと主張する。これらの点につき,包括同意に関する双方の主張の当否は,本件の証拠関係上明らかでないといわざるを得ないが,証拠(甲14)によると,A事務次長が根本的な改訂理由を問うていたのに対し,原告は,他の機関との整合やガイドラインの改訂を言うにとどまり,明確な回答はできていな
かったと認められる。また,原告は,前記認定事実⑾


定の職員の人事評価において,当該職員の飲酒癖に関する記載をしたことが認められ,これが管理職として適切でない行動であった可能性がある。このことからすると,A事務次長が,直属の上司として,原告の管理職としての業務の問題を正すことは,業務上必要性がなかったとは認められず,その限度において,発言7について,業務上の必要性が全くなかったということはできない。

しかしながら,前記前提事実⑵

A事務次長は,発言7に

おいて,一回,精神科行ったらー,病気なんじゃねーの,

人として信じられないんですけど。あなた自身が。その狂い。

わりいけど病気なんかもしれんけど,そういうのはできない子かもしれんけど,迷惑なんだよー。

と発言しており,これらが業務上必要な注意の
域を超えた人格否定であることは明らかである。
さらに,それにとどまらず,

わからない脳みその中身なの。

,お前は悪いけどD以下などという侮蔑的な発言,

できないなら,できないって言ってくれよー。自分で降りてくれよ頼むから

,本当に迷惑,頼むから降格処分してくれよ,来年1年たったら,自分で出せなどと,発言5以上に強く降格を促すような発言を含め,約1時間にわたって強い語調で,一方的に暴言を浴びせかけたものである。エ
このような発言内容を踏まえると,A事務次長の発言7は,職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的,身体的苦痛を与える行為に当たり,国賠法上違法な行為であると認められる。



被告の主張について

前記⑵ないし⑻のとおり,A事務次長の発言1ないし発言7は,いずれもパワーハラスメントとして,国賠法上違法な行為であると認められる。この点,被告は,原告とA事務次長とは,従前から旅行に同道するよう
な良好な関係にあり,A事務次長は,その信頼関係に基づき,原告の管理職としての成長を願って注意を繰り返した旨主張する。
確かに,前記認定事実⒀ア及びイのとおり,両名には以前から面識があり,四国旅行やゴルフを共にしていたことが認められるが,このような点を考慮しても,前記⑶ないし⑸及び⑺において認定するとおり,そ
もそも業務上の必要性が認め難いにもかかわらず,A事務次長において原告を罵倒するなどしたことがあり,また,業務上の必要が認められる場合においても,業務の適正な範囲を超えて叱責を繰り返したものであると認められるから,発言1ないし発言7について,国賠法上の違法性を否定することはできないというべきである。
また,A事務次長が,原告の管理職としての成長を願っていたか否か必ずしも明らかではないが,前記⑵ないし⑻のとおり,A事務次長が,
精神障害者,言い訳と嘘の塊の人間,生きている価値がない等という,親身な相談相手としてはおよそあり得ない言葉を連ねていたことからすると,仮にA事務次長が内心では原告の管理職としての成長を願っていたとしても,それを理由としてA事務次長の発言の違法性を否定することはできないというべきであり,この観点からも被告の主張を採用する
ことができない。

さらに,被告は,A事務次長の発言は,原告に誘発されたものである可能性があると主張する。この点について,原告は,報告はA事務次長に指示されてのものであり,録音は業務上メモを残す目的で行ったと述べるところ,この原告の供述を否定するような客観的証拠は存しない。
また,A事務次長の叱責は,前記⑵ないし⑻のとおり,人格否定にも及び得る苛烈なものであるのみならず,長時間に及ぶこともあり,他の職員の面前でなされることもあったものである。このように,対人的にも時間的にも弊害が甚大であることが目に見えている叱責を原告自ら誘発したということには疑問の余地がある。

以上より,この点に関する被告の主張も,採用することはできない。⑽
精神疾患に陥れることを意図して行った不法行為であるか
進んで,原告は,A事務次長が,原告が当然ノイローゼになるべき立場である旨の発言をしていることに鑑み,原告を精神疾患に陥れる意図があっ
たと主張することから,これについて検討する。
原告の指摘する発言は,発言5の

普通はみんな嫌がって,これでいくとノイローゼになるんだけど,お前はならないところを見ると,よっぽど図々しいか,テメーのことしか考えてねえ人間だよ。

という言葉であるところ,これは発言5のうちの,過度に侮蔑的な言葉の一つであることは疑いない。しかしながら,その前のやり取りは,原告が周囲や部下に迷惑をかけていることに自覚がないという内容のものであることからすると,
上記発言の普通はみんな嫌がって,これでいくとノイローゼになるというのは,部下や周囲の者が原告を嫌がり,それによって管理職である原告がノイローゼになるという趣旨と捉えるのが自然であって,この発言から,A事務次長が原告を精神疾患に陥れる意図を有していたと認めることはできず,他にこのことを認めるに足る証拠はない。

よって,A事務次長が,原告を精神疾患に陥れる意図までを有していたと認めることはできず,上記原告の主張は採用することができない。3争点②(A事務次長の行為と原告の適応障害との因果関係)⑴

前記認定事実⒂ア及びイのとおり,原告は,睡眠障害や,耳鳴り,食欲不振,胃腸痛等の症状を覚えるようになり,平成29年4月17日,南晴病
院において,A事務次長から過度に威圧的な言動を受け続けたことによる適応障害との診断を受けた。さらに,前記認定事実⒄ウ及びエによると,原告は,同年8月1日及び同月3日に,本件病院所属の精神科医及び被告産業医の診察を受け,両医師が適応障害の診断を肯定し,産業医は,事務次長のパワーハラスメントが誘因であると判断している。

以上の事情からすると,原告は,A事務次長のパワーハラスメント行為が原因で適応障害を発症したというべきであり,A事務次長の行為と原告の適応障害との間には,相当因果関係が認められる。

この点,被告は,原告の症状は,ICD-10における,通常ストレス因が生じてから1か月以内に発症するという基準に合致しないと主張する。しかしながら,原告は,前記2のとおり,少なくとも平成28年10月28日から平成29年2月27日までの間,A事務次長のパワーハラスメント行為にさらされている状況であり,前記認定事実⒂アのとおり,原告が休暇を取得したのは同年4月12日,受診をしたのは同月17日であって,立証されている最終のパワーハラスメント行為から休暇取得及び受診までの期間は,1か月半程度である。発症後,休暇取得や受診に至るタイミングは,周囲の事情等にも左右されることや,A事務次長の行為が反復される持続的ストレス因であり,かつ前記2のとおり,日を追うごとに程度が悪化する傾向にあったことも考慮すると,原告の症状及び受診に至る経緯が,前記認定事実⒄オのICD-10における通常…1か月以内の発症
という基準に反するとはいえない。
さらに,被告は,原告の症状が休職後悪化していることから,ICD-10における,症状の持続は通常6か月を超えないという基準に合致しない旨も主張するが,被告が根拠として引用する平成29年5月1日付けの診断書(甲17)は,前記認定事実⒄イのとおりの内容からして,適応障
害という診断に至る前の症状増悪をいうものであることは明らかであるし,同日のカルテにおいて,気分が良くなったと原告が述べていることからしても,被告の当該主張は採用することができない。また,被告は,原告が自ら録音反訳を作成できていることを指摘するが,原告がA事務次長とのやり取りを録音していたのは業務上の必要のためであるとする推認を覆す
に足る証拠がないことは,前記2⑼イ記載のとおりである。そして,原告は,本件訴訟に提出された反訳文について,業務上の必要により既に議事録を作成していたものを優先して,苦痛をこらえつつ残部を反訳して作成したと供述するところ,前記録音の動機に照らし,当該供述は信用することのできるものといえる。このことからすると,被告の指摘する点は結論
を左右しない。
加えて,被告は,前記認定事実⒄キのとおりの協力医の意見書を提出しているが,当該意見書においても,強度のストレス因として,A事務次長の過剰な叱責行為を挙げている。また,A事務次長の行為を原因とする適応障害という診断に疑問を呈する根拠は,原告の適応状況や,表面的な言い訳に終始する態度,管理職としての業務遅滞が生じていたことを指摘し,これらの原因となったパーソナリティ等について精査すべきであったとい
うものであるところ,前記2のとおり,原告には,時に指導や注意喚起を要するような場面はあったものの,不当な言い訳と評価すべき言動や,特筆すべき重大な業務遅滞があったと認めるに足る証拠はない。このことからすると,上記意見書における診断への疑義は,前提とする事実が本判決における認定と異なる可能性があるため,直ちに採用することはできない。
4争点④(B事務長及びC庶務課長の行為についての安全配慮義務違反)⑴

一般に,使用者は,従業者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して従業者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。そして,使用者に代わって従業者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,使用者の
上記注意義務の内容に従って,その権限を行使すべき義務がある。⑵

前記認定事実⑵ア及びイによると,B事務長は,事務長として,病院の事務を掌り,所属職員を指揮監督する職責を有しており,原告の上司の立場であるほか,事務部でのハラスメント防止の責任者でもあったことが認め
られる。このことからすると,B事務長は,使用者に代わって従業者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者であったと認められる。そして,

及び

並びに前記認定事実⑷アのとおり,

B事務長は,発言1及び発言3の行われた会議に同席していたほか,事務室内でも事務次長席での叱責の声が聞こえる位置にいたことが認められる。このことからすると,B事務長は,A事務次長の原告に対するパワーハラスメント行為の少なくとも一端を目の当たりにし,状況を認識していたというのが相当である。したがって,B事務長としては,原告の負荷軽減のために然るべき措置をとるべきであったにもかかわらず,B事務長は,前記認定事実⒁アのとおり,そのことについて注意や制止をすることはなく,原告の休職以前に何らかの対応を採った様子も見当たらない。これは,上記の安全配慮義務に反するものというべきである。

さらに,B事務長は,前記認定事実⒁イのとおり,原告の休職後も,A事務次長に対して,この時代ではこの言葉を使うとパワハラという風に取られてしまうという,具体性を欠く不十分な注意をするにとどまっており,原告の復職に当たっても,A事務次長の行動を何ら制限せず,原告の行動のみを制限したものである。これは,復職に当たって適切な環境を整える
という観点からの安全配慮義務に違反した行為である。
したがって,被告には,安全配慮義務違反の債務不履行が認められる。⑶

他方,C庶務課長は,前記認定事実⑵エのとおり,課の所属職員を指揮監督する課長の立場であり,他の課の課長である原告に対し,業務上の指揮監督をする立場にはなかったと認められる。

したがって,C庶務課長は,原告に対し,安全配慮義務を負う立場にはない。庶務課が労働安全衛生に関することを所掌事務の一つとしていることを踏まえても,この結論は左右されないものである。
5争点③,⑤(因果関係ある損害)⑴

原告は,前記2のA事務次長の行為(国賠法上の違法行為)により,また前記4⑵のとおり,被告で安全配慮義務を負う立場のB事務長が,負担軽減のために適切な措置を採らなかったこと(安全配慮義務違反)により,適応障害を発症して,通院治療を要した。また,前記認定事実⒂ア及びウのとおり,胃腸痛や食欲不振の症状を来し,その治療のために消化器系の病院に通院し,内視鏡検査等の治療を受けたことが認められる。



これらによって原告の受けた損害は,次のとおり認められる。

治療費等

13万5580円

前記認定事実⒂エで認定したように,原告は,別紙2のとおり病院に通院し,治療費及び薬剤費を支出したことが認められる。このうち,次のの合計13万5580円については,本件と因果関係ある損
害として認める。

南晴病院精神科

5万3800円

ことぶき共同診療所精神科

5100円

山高クリニック胃腸科

9390円

おなかクリニック胃腸科
薬剤費

3万9590円
2万7700円

なお,原告は,これらに加えて,息苦しさや睡眠障害の緩和のために池谷医院(循環器科)や大塚歯科医院(歯科)の通院治療を要したと主張する。これについて,対応する通院及び支出の事実自体は認められるものの,これら病院での通院治療の具体的な内容や必要性については,原告本人尋問及び陳述書を含めた全証拠によっても,十分な立
証がなされていないというほかない。したがって,原告の支出した別紙2の治療費のうち,池谷病院及び大塚歯科医院にかかる部分合計1万8610円については,因果関係ある損害とは認められない。

通院交通費等

2万5802円

交通費

1万2102円

前記認定事実⒂カによると,原告が自宅から離れた南晴病院及び転院先のことぶき共同診療所に通院していたのは,自宅付近の病院が心情的に憚られたため,横浜市d区に所在する実家に近い病院を選択したことによるものであり,当該病院を選択すべきやむを得ない事情があったとは認められない。そして,原告は,前記認定事実⒂オのとおり,結局のところ自宅と実家とを行き来して生活していたことから,自宅からの通院に相当する通院交通費を請求するものの,上記の経緯に鑑み,南晴病院及びことぶき共同診療所への通院については,実家からこれら病院への通院に要する交通費を,相当な損害額の上限とすべきである。
また,原告は,他の薬局では薬の在庫がなかったため,あきる野市の
薬局に薬の処方を受けに行ったと主張して,自宅とあきる野市所在の薬局との間の交通費を請求するが,処方された薬について,自宅からも通院先からも離れたあきる野市の薬局でしか処方を受けられない事情があったことを認めるに足る証拠はないため,自宅からあきる野市の薬局(あきる野ルピア薬局)までの交通費は,相当因果関係のある損害とは認められない。
したがって,相当な損害として認められるのは次のとおり,合計1万2102円である。

南晴病院までの交通費

7800円

横浜市d区から大田区f所在の南晴病院(甲24)までの距離は,
片道約20キロメートル(所要時間30分前後)であり,所要時間や経路に鑑み,有料道路使用の必要性は認められないことから,1キロメートル当たりの燃料代を15円として,合計7800円(20キロメートル×2×15円×13回(通院回数))を相当な損害額と認める。


ことぶき共同診療所までの交通費

900円

横浜市d区から横浜市h区所在のことぶき共同診療所(甲27の15)までの距離は,片道約10キロメートル(所要時間20分前後)であり,所要時間や経路に鑑みて有料道路使用の必要性は認められないことから,合計900円(10キロメートル×2×15円×3回(通院回数))を相当な損害額と認める。

あきる野ルピア薬局までの交通費

0円

前記のとおり,当該薬局までの交通費は,相当な損害額とは認められない。

山高クリニックまでの交通費

1572円

原告の自宅と八王子市e町所在の山高クリニックとの距離は,片道
13.1キロメートルと認められる(弁論の全趣旨)ことから,合計1572円(13.1キロメートル×2×15円×4回(通院回数))を相当な損害額と認める。

おなかクリニックまでの交通費

1830円

原告の自宅と八王子市g町所在のおなかクリニックとの距離は,片
道12.2キロメートルと認められる(弁論の全趣旨)ことから,合計1830円(12.2キロメートル×2×15円×5回(通院回数))を相当な損害額と認める。

池谷医院及び大塚歯科医院への交通費
これらについては,通院自体の必要性が立証されていないことから,
通院交通費についても,同様に認めることはできない。
駐車料金

1万3700円

前記認定事実⒂エのとおり,原告は,南晴病院,ことぶき共同診療所,山高クリニック及びおなかクリニックへの通院に際して,駐車料金として合計1万3700円を支出しており,これらはいずれも因果関係
ある損害と認められる。

休業損害

71万7482円

前記認定事実⒃ア,エ及びオから,平成29年5月ないし8月支給分の給与並びに同年6月及び12月支給の賞与として,原告が本来受ける金額は,合計486万1042円(本来支給されるべき給与月額59万6447円(休職の影響のない平成29年3月,4月及び9月支給分相当額)の4か月分と,本来受けるべき6月支給分賞与122万2716円,12月支給分賞与125万2538円の合計額)であったと認められるところ,前記認定事実⒃イ,ウ,カ及びキのとおり,原告が実際に受けた金額は414万3560円(51万8650円×3(5月分ないし7月分の給与)+48万3287円(8月分の給与)+106万1675
円(6月支給賞与)+104万2648円(12月支給賞与))であり,全体として収入が71万7482円減少したと認められる。この点につき,平成29年4月17日から同年8月21日までの病気休暇及び休職以外に減収の理由は見当たらないことからして,これらの減収は,原告が病気休暇取得及び休職を余儀なくされたことによる損害であると認め
るのが相当である。

慰謝料

合計100万0000円

A事務次長が原告に対して行った行為は,前記2⑵ないし⑻のとおり,精神障害者,生きてる価値なんかない,嘘つきと言い訳の塊の人間,

最低だね。人としてね。

などといった著しい人格否定の言葉を投げつけるほか,時に事務室内の衆人環境や,会議中の他の管理職の面前において,また時に長時間にわたって,合理的理由に乏しい執拗な叱責を一方的に浴びせるものであり,少なくとも4か月にわたってパワーハラスメント行為が繰り返されていることも考慮す
ると,全体として悪質と評価するほかない。前記2⑽のとおり,A事務次長に,原告を精神疾患に陥れる積極的意図までは認められないものの,これら行為の内容,程度に照らし,原告が適応障害に罹患したことは,無理からぬものというべきであって,その精神的苦痛は,重大であったと認められる。その他本件で認められる一切の事情を総合
考慮し,A事務次長からパワーハラスメントを受けたことによる原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては,80万円が相当であると認められる。
また,B事務長が,前記4⑵のとおり,業務上の指揮監督を行う者として採るべき措置を怠ったことにより,原告の精神的苦痛は増大したものといえ,その他本件で認められる一切の事情を総合考慮し,これによる原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては,20万円が相当で
あると認められる。

弁護士費用

合計19万0000円

計額は,167万8864円),本件の弁護士費用としては,17万円をもって相当と認める。

債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求につき(上記,本件の弁護士費用としては,2万円をも
って相当と認める。

以上より,本件と因果関係のある相当な損害額は,合計206万8864円と認められる。

第4結論
以上によれば,原告の請求は,①国賠法1条1項に基づく損害賠償請求につき184万8864円及びこれに対する平成30年2月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(なお,選択的併合に係る債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求は上記認容額を上回るものではない。),②債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求につき22万円及びこれに対する平成30年2月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条及び64
条本文,仮執行の宣言につき民事訴訟法259条1項を適用し,仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所立川支部民事第1部

裁判長裁判官

吉田尚弘
裁判官

田中智子
裁判官

平井美衣瑠
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