判例検索β > 令和1年(ネ)第519号
事件番号令和1(ネ)519
裁判年月日令和2年7月14日
裁判所名・部福岡高等裁判所
原審裁判所名熊本地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)508
裁判日:西暦2020-07-14
情報公開日2020-08-26 14:00:20
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主1文
控訴について
本件控訴をいずれも棄却する

2
控訴人らの当審における予備的請求について
被控訴人は,控訴人甲に対して,165万円及びこれに対する平成25年
8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人は,控訴人乙及び控訴人丙に対し,それぞれ27万5000円及びこれに対する平成25年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
控訴人らのその余の予備的請求をいずれも棄却する。

3
当審における訴訟費用は,これを20分し,その1を被控訴人の,その余を控訴人らの各負担とする。
事実及び理由

第1
1
控訴人らの求めた裁判
控訴の趣旨
原判決中控訴人らの被控訴人に対する請求に関する部分を取り消す。被控訴人は,控訴人甲に対し,3688万1055円及びこれに対する平成25年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被控訴人は,控訴人乙及び控訴人丙に対し,それぞれ532万1842円及びこれに対する平成25年8月17日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
2
当審における控訴人らの予備的請求の趣旨
被控訴人は,控訴人甲に対し,550万円及びこれに対する平成25年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被控訴人は,控訴人乙及び控訴人丙に対し,それぞれ275万円及びこれに対する平成25年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
本件は,X高等学校(以下本件高校という。)に在学してこれに付設された学生寮(以下本件寮という。)に入寮していた亡Aの相続人であ
る控訴人らが,本件高校を設置する被控訴人に対し,亡Aが本件高校在学中に自殺したのは,同級生である寮生から違法な権利侵害行為(いじめ)を受けていた亡Aに対する本件高校の教職員の安全配慮義務違反行為によるものであり,それによって亡Aが被控訴人に対して国家賠償法1条1項に基づく死亡逸失利益等の損害賠償請求権を取得し,これを控訴人らが相続したなど
として,控訴人甲において,損害賠償金3688万1055円及びこれに対する違法行為の日(亡Aが死亡した日)である平成25年8月17日から支払済みまで民法
(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。

所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,控訴人乙及び控訴人丙において,損害賠償金各532万1842円及びこれに対する同日から支払済み
まで同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。原審が本件高校の教職員の安全配慮義務違反行為と亡Aの自殺との間に因果関係が認められないなどとして控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らは,これを不服として控訴するとともに,当審において,仮に上記因果関係が認められないとしても,亡Aが上記安全配慮義務違反行為によって生前
に精神的苦痛を被ったことにより被控訴人に対して取得した国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等の損害賠償請求権を控訴人らが相続したとして,控訴人甲において,損害賠償金550万円及びこれに対する違法行為後の日である平成25年8月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,控訴人乙及び控訴人丙において,損害賠償金各275万円及びこれ
に対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める請求を予備的に追加した。
以下に記載する日付は,別段の記載がない限り,いずれも平成25年のものを指す。
1
前提事実(争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
本件高校及び本件寮


本件高校
本件高校は,被控訴人が設立した商業科目の専門教育を行う高等学校である。


本件寮
本件寮は,被控訴人によって本件高校の敷地内に設置された本件高校に
通学する女子生徒のための寄宿舎である。
当事者等

亡Aは,熊本県上天草市a町内に自宅があり,3月に同町内の中学校を卒業して4月1日に本件高校に入学し,その頃本件寮に入寮したが,8月17日,自宅で自殺した。

亡Aの相続人は,母である控訴人甲と父である亡Dである。
亡Dは,平成▲年▲月▲日に死亡したところ,その相続人は,妻である控訴人甲といずれも子である控訴人乙及び控訴人丙である。

被控訴人は,本件高校及び本件寮を設置し,運営する地方公共団体である。
E(以下Eという。
)は,平成20年4月1日から平成28年3月
末まで本件高校の教諭であった者であり,平成24年4月1日から平成27年3月末まで本件寮の舎監長を務めていた。
(乙イ23)
F(以下Fという。
)は,平成21年4月1日から平成26年3月

末まで本件高校の教諭であった者であり,平成25年4月1日から亡Aが在籍した学級の担任を務めていた。
(乙イ24)

B及びCは,本件高校における亡Aの同級生であり,亡Aと同時期に本件寮に入寮していた者である。
亡Aの遺族に対する死亡見舞金の支払
G(以下Gという。)は,平成30年5月1日,亡Aの死亡が学校の管理下において発生した事件に起因する死亡に該当すると認定して,同年6
月14日,控訴人甲に対し,スポーツ振興センター法15条1項7号,16条に基づく災害共済給付として,
死亡見舞金2800万円を支給した。
(甲1
4)
2
争点及び争点についての当事者の主張
被控訴人には,本件高校の設置者として,亡Aに対する安全配慮義務違反
があったか(争点



【控訴人らの主張】

学校の設置者の生徒に対する安全配慮義務
学校の設置者には,学校の教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全の確保に配慮すべき義務があり,特に,生徒の生命,
身体,精神,財産等に大きな悪影響ないし危害が及ぶおそれがあるようなときには,その現実化を未然に防止するため,その事態に応じた適切な措置を講じる一般的な義務(安全配慮義務)がある。
そして,学校の管理下で発生したいじめは,教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全を害する行為であり,いじめを受け
た生徒の健全な成長及び人格形成に重大な影響を与えるのみならず,その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるから,その設置者は,いじめを認識した場合には,直ちに,被害生徒をその精神的苦痛から解放すべく,その事態に応じた適切な措置をとるべき義務を負う。イ
亡Aの置かれていた状況
亡Aは,以下のとおり,7月上旬までの時点において,同級生の寮生であるBやCから重大ないじめ行為を受けるなどして精神的に著しい悪影響を受けた状況にあった。
本件寮の環境
亡Aは,4月以降,日常生活のほとんど全てを本件高校又は本件寮のいずれかで過ごしていたところ,本件寮は,1年生が上級生と同室で日常生活を行わなければならない上,
1年生が各種当番を担当する等の
裏寮則と呼ばれる暗黙のルールが存在し,その遵守が上級生からのシメと呼ばれる指導によって1年生に強制されており,その環境は,1年生である亡Aらにとって,非常に負荷が大きいストレスのかかる閉塞
的なものであり,寮生らの負担感,不公平感等の不満を増強させ,寮内におけるいじめや紛争を誘発するものであった。
亡Aは,不合理・不適切な裏寮則に適応できず,
シメの際に個
人名を挙げて強い叱責を受けたり,連帯責任を負うものとされた他の1年生から注意を受けたりすることがあり,それらの回数も他の1年生に
比べて多かったため,

寮生活が嫌だ。

と口にして,泣くこともあった。また,寮内で唯一1年生が自由に会話をすることができる場所であった休養室は,BやCが頻繁に利用していたため,亡Aは,気軽に利用することができず,孤独感を募らせた。
Bらとのトラブル
亡Aは,4月から7月8日までの間,Bから,以下の各いじめ行

為を受けていた。
a
弁当当番の押し付け
本件寮の弁当当番
(寮生が学校で食べた昼食の弁当の箱を洗う当番)
は,事実上,1年生の寮生のうち体育系の部活動に参加していなかっ
た亡A,B及びCを含む4名のみが交代で担当することが常となっていたが,特に,5月頃以降,B及びCが亡Aに弁当当番を押し付け,亡Aが弁当箱を洗う様子を監視したため,亡Aは,毎日寮生全員分の弁当箱を1人で洗わなければならなかった。
b
身体的特徴についての揶揄
Bは,5月中旬頃から,1人で又はCとともに,亡Aに対し,日常的に,
たらこ唇等と身体的特徴を揶揄する言葉を浴びせていた。

c
本件寮のライングループのアイコンの変更及びグループ名の書き換え
Bは,5月頃,亡Aに無断で,インターネット上で電子メールの送受信や電話での会話ができるアプリケーションソフト
LINE
(以
下ラインという。
)のメッセージを送受信する機能を使って連絡を

取り合っていた本件寮の寮生のグループのアイコンに亡Aの写真を使用し,グループ名を死んだ魚の煮付けと変更した。
d
強い口調での文句
Bは,5月から6月頃,本件高校内で,亡Aに対し,強い口調で文句を言った。

e
お風呂セット隠し
Bは,6月頃,本件寮内で亡Aのお風呂セット(入浴用品)を隠した。

f
スマートフォンの無断使用
Bは,
6月頃,
本件寮内で亡Aのスマートフォンを無断で使用した。

スポーツ振興センター

ラインへのブスとの書き込み

Bは,6月頃,ライン上で,亡Aに対し,
ブスという内容の書き
込みを送信した。
h
寮及び校内での悪口
Bは,6月頃,友人に対し,亡Aを見ながら

なんあいつ。

などの陰口を言ったり,亡Aがa町の出身であることを知りながら

aって最悪ね。

などと発言したり,亡AがBの嫌がらせ行為を指摘すると,

被害妄想じゃ。

と返答したりするなどの悪口を言った。i
Bによるラインメッセージの送信
Bは,6月28日,Cのスマートフォンを使用して,亡Aに対し,
原判決別紙3記載のラインによる一連のメッセージ(以下本件Bメッセージという。)を送信した(ただし,冒頭のおいて電話で,ろてという部分はCが送信した。)
j
卒業アルバムへの落書き
Bは,具体的な時期は不詳であるものの,亡Aの中学校の卒業アルバムに,
ばーか。」などと落書きした。

k
一方的な謝罪の強要
Bは,7月8日,Eの仲直りの指導により亡A,B及びCの3人で
話合いをした際,Cとともに,亡Aを一方的に責め立て,謝罪を強要した。
l
夏季休暇前の状況
Bは,7月8日以降も,夏季休暇に入るまで,Cと共に亡Aに対して悪口を言うなどして,亡Aともめている状況にあった。
上記Bの行為のうちeは窃盗罪又は器物損壊罪,iは脅迫罪,jは器
物損壊罪にそれぞれ該当する行為であって,それ自体明らかに違法である上,上記Bの行為の多くは,いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号(同年9月28日施行)
。以下法という。
)2条にいういじめや,文部科学省が当時定めていたいじめの定義に該当するものである。
また,Cと亡Aとの関係も5月頃から悪化しており,Cは,6月下旬
頃,亡Aにラインで悪口を送信したことがあったほか,Bが亡Aに強い口調で文句を言った際や本件Bメッセージ送信の際にBのそばにいた。亡Aは,遅くとも5月以降,B及びCと対立する構造の下,弱者の立場にあって,継続的に複数の権利侵害行為を受けていたものであり,Bらとの関係は,対等な立場でのけんかということはできない。
そして,B及びCは,Eによる指導がされた7月8日以降も,亡Aの悪口を言うなど,同人らとAとの確執は解消しなかった。

シグマテストの結果
本件高校は,平成25年度に初めて,生徒を対象にした生徒理解のための調査
Σ教育相談のための綜合調査
(以下
シグマテスト
という。

を実施し,亡Aを含む生徒らは,6月6日,これを受検した。
亡Aは,
シグマテストにおいて,
身近に悪友がいるので困っている


今の生活は自分の理想とはまるで違っている将来に希望がもてな,い死んでしまいたいと本当に思うときがあるといった項目に該当,
すると回答しており,
亡Aの所属していたクラスでただ1人
対話不足
と判定されていた。

Eの不適切対応
Eの認識
Eは,本件寮の舎監長として,4月当初から,本件寮の裏寮則の
存在や,その違反を理由とする上級生によるシメの存在を認識しながら黙認していた。

また,Eは,控訴人甲に本件Bメッセージへの対応を相談された6月28日からそれに関する亡Aとの面談を終えた7月8日午後1時の時点で,Bの亡Aに対する権利侵害行為の内容,本件寮の中で孤立感を強めていた亡Aの心理的負荷の重大さ,本件寮から亡Aを退寮させたいとする両親の意向などを認識していた。

以上によれば,Eは,Bによる重大ないじめが発生しており,亡Aが寮生活に適応できずに追い詰められた精神状態にあり,両親と共に強い退寮の意向を有していることを容易に認識し得た。
Eの舎監長としての職務上の義務
上記の認識を持ったEとしては,7月8日午後1時の時点で,Bから亡Aに対するいじめが行われていると認識した上で,舎監長として,①事件の全体像の正確な把握に努めるべき義務(具体的には,亡A,B及びCや周囲の生徒からの十分な事情聴取を行い,他の教職員と情報を共有する等)
,②

亡Aをいじめから解放すべき義務(具体的には,他の教

職員と情報を共有し,役割分担をした上,亡Aに寄り添いその心理的負荷を除去するとともに,
中長期的な対策を立てて観察を継続し,
一方で,
BやCに対する教育的指導を行う等)③


亡Aと離れて暮らす亡Aの両

親に,適切な情報を提供すべき義務(具体的には,亡Aの生命や心身の安全を保護するために必要なときには退寮を含めた選択肢があることを提示する等)を負っていた。
Eの対応
ところが,Eは,上記義務を怠り,Bの亡Aに対する行為をいじめと認識せず,亡Aから心理的負荷について丁寧な事情聴取をしたり,他の寮生からの聴き取りをしたりするなどの調査をしないまま(上記①義務違反)亡Aも加害者であるとの前提の下で亡Aを指導し,

亡AがB及び
Cとの関係解消を希望しているにもかかわらず,3人だけでの話合いを
させて,形式的な和解を強制した上(上記②義務違反),控訴人甲には,
亡Aも加害者であるとの指導をした上で全て解決した旨伝え(上記③義務違反)
,亡Aには,本件寮からの退寮に消極の姿勢を示して,Bによる
いじめに関する対応を7月8日で終了した。
また,Eは,本件寮における不合理な裏寮則や上級生によるシメを放
置し,本件に関し,舎監以外の教職員と連携せず,校長にも報告しなかった(上記①②義務違反)


Fの不適切対応
Fの認識
Fは,7月9日までに,Eから,本件Bメッセージの送信を中核とする事実の経過について報告を受け,Eと同様の認識を有していた。また,6月14日及び7月5日には,亡Aと面談して退寮の意向を聴取してい
た上,7月上旬には,亡Aのシグマテストの回答結果を受領していた。以上によれば,Fは,Bによる重大ないじめが発生しており,亡Aが追い詰められた精神状態にあることについて容易に認識し得た。
Fの担任としての職務上の義務
Fも,と同様の認識を有している以上,
E
上記ウ

の各義務を負ってい

た。
また,Fは,亡Aの退寮の意向やシグマテストの回答結果に係る認識も有していたのであるから,8月1日に家庭訪問のために亡Aの自宅を訪問した時点において,亡Aをいじめから解放するために,亡Aが深刻な心理的負荷を抱えていることを認識し,その緊急的な保護を図るとと
もに,観察を継続する義務や,亡Aの両親に適切な情報を提供し,必要な場合には退寮を含めた選択肢があることを伝達すべき義務を特に尽くすべきであった。
Fの対応
ところが,Fは,E同様,上記ウ

の各義務を怠った上,亡Aの心理的

負荷を十分確認して,その情報をEその他の教職員と共有することも,亡Aの両親に亡Aの抱えている心理的負荷について情報提供することも全くせず,上記義務を怠った。

以上のとおり,E及びFを含む本件高校の教職員は,いじめに対する上記の職務上の義務に違反して,本件事態に応じた適切な措置を講じなかったものであるから,本件高校を設置する被控訴人には,亡Aに対する安全配慮義務違反がある。
【被控訴人の主張】
控訴人らの主張は争う。
本件の事実経過に照らせば,E及びFの適切な対応により,亡A,B及びCは,夏季休暇に入る前に仲直りをしていたことが明らかであり,EやFにいじめに対する職務上の不適切な対応はない。

亡Aの置かれていた状況
本件寮の環境
控訴人らのいうルールは,まさに集団生活におけるマナーや気遣い,
配慮の範疇に属するものであって,控訴人らが主張するように不当で合理性を欠いた過度の要求であると評価することはできない。また,本件寮での上級生から下級生への指導は,
行き過ぎたものにならないように,
舎監との相談の下でされていた。
Bらとのトラブル

Bが亡Aに対し本件Bメッセージを送信したこと,Bが亡Aの身体的特徴を揶揄したこと,本件寮のライングループのアイコンに亡Aの写真を使用してグループ名を変更したこと,お風呂セットを隠したこと,亡Aのスマートフォンを触ったこと,また,Bと亡Aとの関係が悪化しており,Bが亡Aに文句を言うなどしたことという外形的事実はいずれも
認めるが,その評価は争う。亡AとBらとのトラブルは,亡Aが,ライン上で,中学校の同級生に,Bに無断でその写真を送信して悪口を言ったことなどを端緒とするものであり,双方向性のある顕著なけんかであって,
本件当時の文部科学省が定めていたいじめの定義

けんか等(を除く。

とするもの)には該当しない。
また,これらの行為と亡Aの自殺との因果関係もない。
シグマテストの結果について
亡Aが,
シグマテストにおいて,
死んでしまいたいと本当に思うときがあるとの項目に該当するとの回答をしていたことは認めるが,自殺願望とは異なり,一般に二,三割の人が経験するとされる希死念慮にとどまるものである。
また,シグマテストは,6月6日に実施されているから,亡AとB及
びCとの関係が特に悪化した同月28日前後の亡Aの精神状態を評価する根拠資料とはならない。

Eの対応について
Eは,亡A及びその母である控訴人甲の言い分と,B及びCの言い分の
双方を丁寧に確認し,亡AとBらとのトラブルの双方向性を確認した上で,特定の誰かが悪いといった安易な人物否定に走らず,いずれの言い分も受け入れた上で,それぞれの行為にはやってはならないものがあったとして,3人それぞれに対し,人間関係が悪化した原因を考えさせ,それぞれの非のあった点を反省させる指導を行ったものであり,冷静かつ中立的
な指導であるといえ,強制的に和解をさせたものではない。実際,その後3人は談笑したり,学校から一緒に寮に帰ったりするなど,現に仲直りをした様子が見られており,同日以降,亡AとB及びCとの間でトラブルが発生したとは認められない。
また,Eは,当初から,舎監らと情報共有を行って亡AとBらとのトラ
ブルに複数名で対応し,生徒指導主事や教頭,担任にも本件を報告するなど,これについて可能な限りの組織的対応を行っていた。Eは,副舎監への連絡や,宿直の舎監への連絡,舎監会議での情報共有と意見交換を行いながら,組織としてこれに対応したのであり,7月8日以降も,舎監会議において本件を報告し,注意して見守るように指示をしていた。

以上のとおり,Eは,本件について,双方向性のある事案であるという適切な事実認識の下で適切な対応を行い,現に亡AとB及びCとが仲直りをするに至っているから,Eの対応に不適切な点は認められない。ウ
Fの対応について
亡AとBらとのトラブルは,Fの担任するクラスを超えた寮生間のトラブルであるから,舎監長として最も適切な対処のできるEが中心となって
対応し,クラス担任として,Eからの情報提供により事実経過を把握しながらクラスでの亡Aの様子を見守る等したFの対応に不適切な点はない。また,上記のとおり,亡AとBらとのトラブルは7月8日に解決していたこと,寮生活を継続するか否かは家庭が決めるべき問題であること,シグマテストの個人用シートに記載されていない項目に係る情報をあえて
親に提供すべき義務を負うとは考え難いことからすれば,家庭訪問時のFの対応にも問題はない。
さらに,シグマテストは,6月6日に実施されたものであり,その時点で亡Aの精神状態を評価したものにすぎないから,その結果をEに伝えていたとしても,Eの対応に影響を与えたものとは考えられない。

被控訴人の安全配慮義務違反と亡Aの自殺との間に相当因果関係はあるか(争点



【控訴人らの主張】
争点⑴についての【控訴人らの主張】記載のとおり,亡Aは,寮生活の環境の下で,
Bをはじめとする生徒らから種々の人格権侵害を受け,
その結果,
強い精神的ストレスを受ける状態となった。亡Aは,本件Bメッセージの送信をきっかけとしてEに相談したが,同人の誤った対応により,教職員に相談しても無駄であると感じ,さらに強い心理的圧力を受けるようになった。亡Aはこうした精神的ストレスを解決するために,本件寮を退寮することを強く願っていたが,EやFは,亡Aの両親に対して,亡AとBらとのトラブ
ルは解決したから亡Aはもう大丈夫であるという誤った報告をしたため,亡Aの両親は,亡Aを退寮させる途を模索する術を失った。それでも,亡Aは,退寮するという強い意思を持っていたが,Fが,8月1日の家庭訪問の際,亡Aが寮生活を続けることを前提とした話をした上,Eにより誤った認識を持たされた亡Aの両親に対応を一任したため,亡Aは,退寮できる見込みがない事態に直面し,強い心的ストレスにさらされ,うつ状態に至り,自殺しなければ問題解決はできないとの心理的視野狭窄に陥って自殺するに至った。
以上のとおり,E及びFの誤った対応がなければ,亡Aが,退寮の途が閉ざされたと思い込むことなく,本件寮から逃れる途を模索することが可能となったはずであり,亡Aが自殺に至ることもなかったから,EやFの不適切
な対応に基づく被控訴人の安全配慮義務違反と亡Aの自殺との間には相当因果関係がある。
【被控訴人の主張】
控訴人らの主張は,否認する。
争点

についての【被控訴人の主張】のとおり,亡AとB及びCとの関係
は,Eの適切な対応により7月8日の段階で改善しており,亡Aが絶望感を強めた理由は,夏季休暇期間中の帰省後の親子のコミュニケーションの中で生じたと考えられる。亡Aは,本件寮の当番やルールに適応できず,アパート生活をしている友人のような自由な生活に変えたいという思いが両親に届かないことにより,孤立感や絶望感,無力感を深め,絶対的な閉塞感を持つ
に至り,自殺に至ったと考えるべきである。
亡Aは,生前,被控訴人の安全配慮義務違反によって,精神的苦痛を被ったか(

)

【控訴人らの主張】
亡Aは,争点
についての控訴人ら主張のとおり,EやFの不適切な対応

に基づく被控訴人の安全配慮義務違反によって,前記のような強い心的ストレスにさらされて,生前に精神的苦痛を被った。
【被控訴人の主張】
控訴人らの主張は,否認する。
被控訴人が賠償すべき損害の額はいくらか(争点



【控訴人らの主張】
被控訴人の安全配慮義務違反により,亡A及び控訴人甲に以下の損害が生
じた。

主位的請求関係
亡Aに生じた損害
a
死亡慰謝料

b
合計4257万4741円

死亡逸失利益

2000万円
4415万8856円

計算式(468万9300円(平成25年度の賃金センサスの全労働者平均賃金)×15.6949(18歳から67歳までの49年間に対応する利率年5%のライプニッツ係数)×(1-0.4〈生活費割合〉)により算出した額

c
弁護士費用相当損害金

641万5885円

d損益相殺

▲2800万円

控訴人らがGから災害共済給付金であり,亡Aの死亡逸失利益との間でのみ,
同一の事由
(スポーツ振興センター法31条1項)によ
る利益として,損益相殺的処理がされるべきである。
控訴人甲に生じた損害

合計495万円

a
固有の慰謝料

300万円

c
150万円

bイ
葬式費用

弁護士費用相当損害金

45万円

予備的請求関係
生前慰謝料

1000万円

E及びFがいじめられる亡Aにも非があるなどといった不適切な対応をし,亡Aが退寮によりB及びCとの関係を解消する等して精神的苦痛から解放される途を閉ざしたことにより,亡Aが生前に受けた精神的苦痛に対する慰謝料
弁護士費用相当損害金

100万円

【被控訴人の主張】

控訴人らの主張は,否認し,争う。
なお,仮に,亡Aがその生前に控訴人ら主張の精神的苦痛を被ったとしても,それによる損害は,一審共同被告であったBが一審判決で支払を命じられた慰謝料10万円を控訴人らに支払ったことにより補填された。第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件高校について
本件高校は,熊本市a区に所在し,被控訴人が設置した熊本県の商業科
目の専門教育の中核となる高等学校であり,県内全域から入学者を受け入れている大規模校である。
(乙イ1・77頁)
本件寮について

組織等の概要
本件寮は,自宅が本件高校の所在地から遠方にあるなどの事情で自宅からの通学が困難な女子生徒のための寄宿舎として,被控訴人によって本件高校の敷地内に設置されたものである。その定員は56名であり,寮生の指導監督及び宿直は,本件高校の教諭を兼ねる舎監によって行わ
れている。
本件寮には,運営面における取決めを明文で規定したものとして寮則(乙イ1・208頁)と研志寮生活申し合わせ事項
(乙イ1・212
頁。以下,
寮申合せ事項といい,寮則と併せて寮則等ということ
がある。
)が存在した。
寮則においては,本件寮の入退寮に関し,入寮するには,入寮願と誓約書(寮則を遵守し規律ある生活を送ることを誓約する旨を記載したも
の)を提出して,校長の許可を得ること,入寮者は,原則として卒業まで在寮すること,退寮するには,必ず保護者から申出をして,校長宛ての退寮願に学級担任の検印を受けて舎監長に提出し,校長の承認を得ることなどが定められていたほか,
運用上,
退寮の申出がされた場合には,
保護者が舎監長と数回面談した上,舎監会議における報告,審議,了承
を経て,校長の承認を得るための決裁に上げることとされていた。本件寮の設置,運営に要する費用は,公費のほか,寮生が納付する月額4万2000円(平成25年当時)の寮費によって賄われていた。(乙イ1・99頁,208頁,乙イ4の1・2,乙イ5の1~3,乙ロ3,弁論の全趣旨)



運営の実情
平成25年の1学期
(4月から7月まで)
の当初の本件寮の寮生は,
総数が30人(3年生8人,2年生7人,1年生15人)であって,3人ないし4人ずつ9室に振り分けられ,
各室の寮生の学年の構成は,

3年生1人,2年生1人,1年生2人が基本とされていた。また,平成25年1学期当時の舎監は,舎監長を含めて9人であり,いずれも本件高校の教諭であって,そのうち7人が学級を担任し,残り2人は主幹教諭と舎監長を担当していた。
(乙イ1・15頁,95~96頁,98頁,弁論の全趣旨)


本件寮の寮生の数は,近年減少傾向にあり,平成25年1学期当初の寮生(30人)の定員(56人)に対する充足率は,54%であって,このような寮生の充足率の低さは,経費面での寮運営の難しさにつながっており,年度途中に退寮者が出ると,寮の運営に要する経費のやり繰りは更に厳しい状況となるため,
本件高校では,
できる限り退寮者は出さないという方針で寮運営を行い,
入寮者は,原則として卒業まで在寮するものとするとの寮則の規定には,このような寮運営における経費上の課題への対応という側面もあった。
(乙イ1・99頁)
本件寮においては,給食については,外部の給食業者から派遣される寮母や調理員が一日数時間勤務して,朝食(その片づけを含む。,)

昼食(弁当)
,夕食の調理をしていたが,寮経費を節減するために,そ
れ以外の寮の事務については,寮則等において,各種の当番が設けられていた。
当番の割当ては,寮則において風呂当番を1年生が1日交代で担当するものとされていたほかは,学年による区別はなかった。しかし,
実際の運用では,風呂当番以外の当番も1年生が主に担当し,2年生の当番はそれよりも少なく,3年生は当番を担当していなかった。寮則では,風呂当番以外の当番として,炊事当番(平日の炊事の手伝い,配膳,後始末を行い,日祭日の夕食の準備を手伝うもの)があり,炊事当番は,各室ごとに1週間交代で担当するものとされ,また,
寮則では,朝食は,原則として,午前7時の点呼が終わった後の午前7時20分から40分までの間に寮生が一斉に集合して摂ることとされていた。しかし,実際の運用では,朝食の準備(前日の夕食の食器の片づけや残飯の処理,当日の朝食の配膳等の準備)は,1年生のみが3人程度ずつ日替わりで担当することとされ,朝食を摂るのも,1
年生は午前6時までに,2年生は午前6時半までに終えるものとされていた。
そのため,1年生は,週2回程度は朝食準備の当番に当たることになり,その場合には午前5時に起床しなければならず,それ以外の1年生も朝食を摂るために午前5時半頃には起床しなければならなかったが,1年生の中には,それらの時刻に起床することを苦痛に感じる者も多く,自分では起床できずに他の寮生に起こされたり,当番や朝食に遅れたりする者もいた。
また,寮申合せ事項では,寮則に規定する風呂当番や炊事当番とは別に,弁当当番(本件高校から寮に持ち帰られた寮生全員分の昼食の弁当の空箱を午後4時から午後5時までの間に洗浄するもの)が設け
られ,その割当てについても,学年等による区別は設けられていなかった。しかし,実際の運用では,体育系の部活動に参加する寮生は,午後3時45分の授業終了後寮に戻らずに部活動を行うため,体育系の部活動に参加していない1年生の寮生がほとんど毎日弁当当番を担当しており,上級生の寮生や体育系の部活動に参加する寮生は,中に
は授業の終了から部活動の開始までの間に片道5分ほどかけて寮に戻り,自分の弁当箱を洗ってから部活動に参加する者もいたが,ほとんどが自分の食べた昼食の弁当箱も自分では洗わず,1年生の寮生の一部の者に洗わせることで済まされていた。
当番に当たった寮生に週末の帰省その他の事情による差し支えがある
場合には,他の寮生が当番を交代することが行われていたが,寮則等に当番の交代に関する取決めはなく,当番の交代は,その必要が生じた都度,寮生間の相対の交渉で行われ,また,当番の交代を記録することは行われず,交代により生じた寮生間の当番の分担の不均衡を事後的に確認して是正するための取決めや仕組みも整っておらず,上級生や舎監が
関与して調整することもされなかった。そのため,当番の交代により生じたその分担の不均衡は,交代してもらった寮生が申し出て,交代した寮生の別の当番を代わりに担当するという形で個別に調整されることもあったが,そのような申出がされない場合には,事後的に調整されないことも少なくなく,結局,当番の交代を頼まれると断れない寮生が多くの当番を担当することになり得る実情にあった。
(乙イ1・17頁,35頁,97頁~99頁,212頁,213頁,乙イ6・1~3頁,6頁,7頁,乙ロ3,乙ロ12,乙ロ13,弁論の全趣旨)
本件寮には,上記のような当番や食事時間の割当て以外にも,寮則等による明文の取決めとは別に,主に1,2年生を対象とした寮内での日
常生活に関する事実上の決まりとして,寮の敷地内では集団で行動しない,各学年に割り当てられた休養室以外の場所で会話をしない,廊下や学習室等において物音や足音を立てない,廊下や食堂で上級生や教員に会ったときはすぐに挨拶をする,当番のために朝起床する場合も目覚まし時計を使用してはいけない(携帯電話のバイブレーション機能を使用
することは可能。,携帯電話を使用するときはタオル等で覆うなどとい)
ったものが存在した(以下,本件寮におけるこれらの決まりを,明文化されていないという意味で裏寮則という。ただし,これらの決まりが当時寮生の間で裏寮則と呼び習わされていたかどうかは,証拠上明らかとまではいえない。。


裏寮則は,代々の寮生の間で受け継がれていたものであるが,だれがどのような手続でこれを定めたのか明らかでなく,それがいかなる根拠で寮生を拘束することを正当化し得るかが検討された形跡もなく,本件高校が入寮希望者に対して入寮前にその存在や内容を説明して承諾を得ていたこともなかった。

裏寮則の内容は,上級生の下級生に対する指示事項ないし指導事項という色彩の強いものが多く,その中には,寮の敷地内での会話や集団行動の禁止,下級生から上級生に対する挨拶,携帯電話使用時におけるタオルの使用など,1,2年生だけを対象とすることに合理性があるか疑わしいものや,廊下等で物音や足音を立てないといった他の寮生の主観的な感じ方で違反の有無の判断が分かれ得るようなものもあった。また,このような裏寮則が存在したため,1年生は,朝食の準備のために午前5時に起床しなければならない場合でも,寮則の上では同じく炊事当番に当たっていながら午前7時の点呼に間に合うように起床すれば足りる同室の上級生の安眠を妨げないために,目覚まし時計を使用することが許されず,1年生の中には,起床に苦労したり,寝過ごして当
番に遅れたりする者もいた。
(乙イ1・54頁,97頁,乙イ6・6頁,7頁,控訴人甲)
本件寮において,上級生(3年生又は2年生)の寮生は,下級生の寮生(2年生又は1年生)が寮則等や裏寮則を遵守していないと判断した場合,夜間舎監が帰宅した後の午後8時30分以降の時間帯に,下級生
の寮生を集めたミーティングを開き,下級生に対して,
シメと呼ばれ
る指導や指示を行っていた。シメが行われる際には,特定の下級生が上級生から名指しで違反行為を指摘されることもあり,裏寮則等の違反については,慣行上,同学年の寮生が連帯責任を負うものとされていたため,ある学年の寮生の違反行為についてシメが行われる場合には,同学
年の寮生全員が集められて上級生から注意を受けた。そのため,シメの場で違反行為を指摘された寮生の中には,シメの終了後に同学年の寮生に謝罪させられたり,普段の生活の中で同学年の寮生から廊下をスリッパの音を立てて歩く等の違反行為を指摘されたりする者もいた。
他方,当時,3年生の寮生の中には,深夜,立入りが禁止されている
食堂の厨房に勝手に入り込み,夜食を調理するなどの規律違反行為をしていた者がいるなど,上級生の寮生も,規律正しい生活を送っていた者ばかりではなかったが,上級生によるそのような行為については,舎監に目撃された場合に,舎監から個別に注意がされることはあっても,シメの場で指摘や指導がされることはなかった。
(乙イ1・26頁,34頁,76頁,乙イ2の3・5,乙イ3の3,証人C,弁論の全趣旨)
以上のような本件寮における当番,裏寮則及びシメの存在や運用などから,当番の大部分を担当し,シメによる指導を受ける1年生を中心とした下級生の寮生の中には,本件寮での生活をきついと感じる者も少なくなかった。

本件寮の舎監長や舎監は,かねてから,上記のような当番や食事時間の運用その他の寮則等とは別の取決め(裏寮則)
,上級生による指導(シ
メ)の存在を認識していたが,当番等の運用や裏寮則の内容に特段の問題があるとは考えず,シメの場に立ち会うこともなく,それらも,寮の自治の一環であり,寮生が自主的に定めた決まりであるから合理的で
適切なものであると考えて,これに介入することはなく,それらに関して,舎監から校長に対する報告がされたり,校長から舎監に対する指導監督がされたりすることもなかった。また,舎監長や舎監は,本件寮における厳しい上下関係を経験することが社会性を身に着ける上で有意義で,寮生の人間性が磨かれることにもなり,将来社会に出た場合に役に
立つと考え,そのような寮の環境や運営の実情をもって,寮生を家族同然に思い,接することでもあると認識していた者もいた。
また,寮生の保護者の中にも,そのような厳しい寮生活の経験が子供の成長のために有益であり,社会生活に役立ち,就職や進学にも有利になると考え,子供が退寮することについて,学校や舎監らに申し訳ない
と感じ,退寮のための舎監長との面談の際に謝罪する者もいた。
(乙イ1・34頁,97頁,乙イ6・6頁,11頁,乙イ7・31頁,乙イ18,乙イ23,乙ロ3,証人C,証人E,弁論の全趣旨)
本件の事実経過

亡Aの入寮から本件Bメッセージ受信までの経緯
亡Aは,4月,天草市a町内の中学校から希望どおりに本件高校に進
学して,本件寮に入寮し,初めて親元を離れて生活することになった。同中学校は,1学年1学級の小規模校であり,本件高校には,同中学校出身の同級生がいなかったが,亡Aは,4月当初,同じ天草市出身で,同時に本件高校に入学し,同時期に本件寮に入寮したB及びCと親しくなり,その頃,地元の友人に対して,ラインで

同じ出身の友達ができた。楽しい。

という趣旨のメッセージを送信したことがあった。亡A,B及びCは,それぞれ異なる学級に在籍しており,亡Aの在籍していた学級(1年2組。生徒数42名)には,亡A以外の寮生はいなかった。亡Aは,入学当初,同級生や寮生から,明るくて元気のいい性格に見られ,同級生とも普通に話ができ,交友関係や授業中の態度に特段の問題は見
られず,寮での生活態度について舎監から注意されたこともなかった。(甲7の1,甲16,乙イ1・22~24頁,77頁,乙イ・7~8頁,乙イ11,乙イ24,乙ロ1,乙ロ5,証人C,一審被告B)
亡Aは,本件寮に入寮した当初,そこでの生活が将来の社会生活に役立ち,就職にも有利になると考え,母親である控訴人甲にもそのように
述べて,当番の仕事をまじめにこなし,週末や休日に帰省することも比較的少なかったため,
他の寮生の当番をすすんで引き受けたりするなど,
他の寮生に比べて多くの当番を担当していた。
特に弁当当番については,
当時,
1年生の寮生で体育系の部活動に参加していなかったのは,
亡A,
B,Cともう一人の1年生の4人のみであり,これらの4人で,30個
ほどの寮生全員分の弁当箱を,平日はほぼ毎日洗浄しなければならなかったが,亡Aは,すすんでその当番をしていた。
そのような中,亡Aは,Bが当番に熱心でなく,特に弁当当番については,4人でこれを毎日分担しなければならないのに,Bが応分の仕事をせず,その分を自分に押し付けていると感じ,5月中旬頃以降,弁当当番を中心に,本件寮の当番の分担について負担感と不公平感を感じるようになり,
Bに対する鬱憤を募らせるようになった。
上級生の中には,
当時,1年生の間で当番を亡A一人に押し付けているという声を聞いた者もいたが,上級生が1年生の当番の調整をすることはなかった。(乙イ1・23~25頁,35頁)
亡Aは,4月末から5月にかけての連休を利用して帰省した際,控訴
人甲に対して,本件寮の当番や起床が辛く,先輩に何かと怒られるなどの不満を述べて寮をやめたいという愚痴を述べたが,控訴人甲は,寮生活で当番を担当し,厳しい上下関係を経験することが本人のためになることであり,退寮を認めることは亡Aを甘やかすことになると考え,寮生活を続けるように亡Aを励ました。

しかし,その後も,亡Aの退寮を希望する気持ちは変わらず,5月15日には,腹痛や頭痛を訴えて本件高校の保健室を訪れ,養護教諭に対して,

寮をやめたいが,親も寮の先生も反対する。

などと悩みを訴えたが,その情報は,本件寮の舎監や担任のFには伝わらなかった。亡Aは,その頃から,寮生,級友,出身中学の同級生に対しても同様の発言
をするようになった。
(甲16,乙イ1・24~26頁,35~37頁,乙ロ8)

亡Aは,シメの場において上級生から下級生に対して指導されたり指摘されたりした事項については,これを忘れないようにするため,ノートに詳細なメモを取り,守るように努力していた。しかし,亡Aは,そ
の年齢や体質(低血圧)のために,早起きが苦手であり,朝食準備の当番に当たっている日にも,目覚まし時計を使用することが禁止されていたため,午前5時に起床できずに当番に遅れたことがあった。また,亡Aは,5月ないし6月頃に行われたシメの場において,1年生が上級生から裏寮則(廊下では,足音を立てて歩かない,しゃべらない等)が守れていないとして指導を受けた際,違反者として名指しで注意されて泣き出したことがあり,連帯責任を問われることを心配した1年生の寮生からも,シメが終わった後や廊下を歩いている際などに物音や足音を立てているとして,注意されたことがあった。
(甲7の1・38,39頁,乙イ1・26頁,34頁,49頁,52頁,54頁,55頁,乙イ9の2,証人C)

亡Aは,かねて,同じ寮費を払っている寮生の間で当番等の分担に偏りがあるのは不公平であるとの思いを抱き,同級生のBが寮の当番にまじめでなく,弁当当番等の仕事を平等に分担せず,その分を自分に押し付けているとして,鬱憤を募らせていたところ,5月10日の体育大会の頃,Bに対してその趣旨の文句を言った。これに対し,Bや同人と仲
が良かったCは,強く反発し,亡Aが朝寝坊のために朝食の準備の当番に遅れたとか,亡Aがスリッパの音をさせて歩くために1年生全員がシメの場で上級生に注意されたなどとして,亡Aこそ寮の決まりを守っていないと反論して謝罪するように求め,亡AがBこそ当番にまじめでないとの思いからこれに従わないでいると,Bは,亡Aが自分のルール違
反を素直に謝らずに言い訳をしたなどと攻撃し,周囲の寮生や同級生にも亡Aに関してそのような悪口を言いふらすようになった。そのため,寮生の中には,
亡AとBらとのトラブルに巻き込まれることを警戒して,
亡Aと距離を置く者もいた。
この頃以降,
亡AとB及びCとは,
不仲になって対立するようになり,

Bが亡Aに対してその容貌を揶揄してたらこと言い,亡AもB及びCに対して同人らの容姿を揶揄してデブ豚と言うなど,互いに

相手の身体的特徴を揶揄する悪口を言い合うようになった。亡Aは,5月頃以降,BやCに唇を揶揄されたことを気にして,唇を隠すために,日常的にマスクを着用するようになった。
(甲3,乙イ1・27頁,38頁,44頁,45頁,50頁,62頁,68頁,69頁,113頁,乙イ6・4頁,8頁,乙イ7・32頁,
乙イ9の1・2,乙ロ4,乙ロ5,証人C,一審被告B)
亡AとB及びCとの間では,5月中旬頃から7月上旬頃までの間,寮や学校の廊下などで口げんかをすることがあったほか,以下のようなできごとがあった。
a
Bは,5月中旬頃,本件寮の寮生らがメンバーとなっているラインのグループのアイコンに使用する写真(アップ画)を無断で亡Aの顔写真に変更した上,同グループの名称を死んだ魚の煮付けに変更
した。

b
Bは,亡Aの唇をタラコ唇と揶揄し,亡Aは,6月上旬頃,B
との容姿を揶揄して,Bにミートボール
,Cに肉団子と発言し

た。
c
Bは,6月頃,亡Aに対する嫌がらせとして,亡Aが休養室内に置いていたお風呂セット(入浴用品)を隠したことがあった。

d
Bは,6月頃,亡Aの利用するスマートフォンを亡Aに無断で開いて見ようとしたことがあった。

e
Bは,5月ないし6月頃,亡Aの近くにいたBの友人に対して,亡Aの悪口と受け取れる発言(

aて最悪ね。

など)をし,これに抗議した亡Aに対し,

被害妄想ではないのか。

と言い返したことがあった。

f
Bは,具体的な時期は不詳であるものの,亡Aが所持していた亡Aの出身中学校の卒業アルバムに,

亡A’♡ばーか。(B)より



と落書きをした。
(甲3,甲7の1,乙イ1・58~61頁,69頁,73頁,乙ロ1,証人C,一審被告B,弁論の全趣旨)
Fは,6月14日,担任の生徒全員との個別面談の機会に,亡Aとも10分程度面談し,その際,亡Aから,本件寮を退寮して下宿をしたいが,できそうもないという話が出たことから,亡Aが寮生活に残念な思いを抱いていることを認識した。
(乙イ24,証人F)
亡Aは,6月下旬頃,出身中学校の同級生のラインのグループに,B
について述べていることを暗に示して,以下のメッセージ(以下本件Aメッセージという。)を送信した。
おい,まじY人うざいなーしねばいいまぁY人の一部つか1,,人あーーうざいがちで中学気分のまんまやけんうざいヤン,,,チー校からきたけん校則丸無視で寮則も守ったもんじゃない綺麗に,校則まもってない自分の周りを友達でかためて自分たちのこと,,しか考えとらんまぁ自己中なんだよけど1番こわい?うざい先,,輩から嫌われとる退学せんといいだしたけんまじはよやめろ,


あがんカスいらんわまじカスすぎがちでおらんくなってほし,,いあーーーきもい,

(乙イ1・69頁,乙ロ4)
Bは,
その頃,
亡Aの出身中学校の同級生の1人とBの友人を通じて,
亡Aが本件Aメッセージを送信した事実を知って腹を立て,本件高校内で亡Aに対し直接強い口調で文句を言って謝罪するよう要求したが,亡Aが事実をすぐに認めなかったため,その態度に更に怒った。

BとCは,6月28日(金曜日)
,本件寮の休養室から亡Aに電話をし
て呼び出そうとしたが,たまたま隣室にいてこれに気付いた亡Aが応答しなかったことから,同日午後5時前頃,亡Aに対して本件Bメッセージを送信した。
(甲2,乙イ1・58頁,69頁,乙ロ4,乙ロ5,証人C,一審被告B)

本件Bメッセージの送信からEによる指導前までの経緯
本件Bメッセージを受信直後に閲覧した亡Aは,それまでにもBやCから容貌を揶揄され,お風呂セットを隠されるなどしても,その都度親に知らせることはしていなかったが,本件Bメッセージの文面がそれまでの口げんかや嫌がらせとは異質の脅迫的な内容であり,Bが本件Bメ
ッセージを送信した際に隣室にいて耳にしたBの声音などから,本件Bメッセージで予告された次の日曜日(6月30日)には,Bから危害を加えられるのではないかとの恐怖を感じ,本件Bメッセージを閲覧して間もなく,泣きながら控訴人甲に電話をかけ,寮内でB及びCと揉めたこと,寮を出たいと考えていることを伝えるとともに,控訴人甲に本件
Bメッセージを転送したが,その際,まだ本件高校の教職員には知らせないでほしいと付言した。
控訴人甲は,亡Aから転送された本件Bメッセージを読んで,亡Aが危険にさらされていると感じて放置できないと考え,亡Aの上記付言にかかわらず,亡Aには断らずに担任のFに電話をして,亡Aが本件Bメ
ッセージを受信した事実を報告することとした。控訴人甲は,同日午後7時頃,Fに電話をかけ,本件Bメッセージへの対応について相談したところ,Fから,寮生間の問題であるから舎監長であるEと相談するように言われた。そこで,控訴人甲は,同日午後9時前頃,自宅にいたEに電話をかけ,亡Aからはまだ本件高校の教職員に知らせないように言
われていることを付言した上で,本件Bメッセージの内容が心配で舎監長に報告することにした旨を伝えたところ,7月1日(月曜日)に本件高校でEと面談することになった。
Eは,控訴人甲からの電話で控訴人甲が本件Bメッセージの内容に強い不安を覚えているのを感じ取り,6月28日(金曜日)から同月30日(日曜日)までの宿直担当の舎監に控訴人甲からの相談内容を伝え,寮での亡Aの様子に注意するように要請した。
Eは,6月29日(土曜日)
,控訴人甲に電話をかけ,その後の経過を
尋ねたところ,控訴人甲は,その後亡Aとの間でラインでのメッセージのやり取りができなくなった旨を回答するとともに,
7月1日
(月曜日)
の面談に教頭か生徒指導主事が同席するよう希望した。これに対し,E
は,まだ事実関係も明確ではないので,Eと副舎監長のHが対応する旨答えて,控訴人甲の希望に応じなかった。
亡Aは,本件Bメッセージに予告された6月30日(日曜日)には,危険を避けるために本件寮にはいないほうがよいと考え,同日午前中に実家に帰省したが,同日夕方には,当番に当たっていたことから,寮に
戻ったところ,亡AとBがもめていることを知った同級生の一人から,Bとの仲直りを仲介するとの申出があり,同日午後7時30分頃からその同級生を交えてBと話合いをしたものの,解決には至らなかった。(甲2,甲7の1,甲16,乙イ1・69頁,乙イ2の4・6,乙イ11,乙イ23,乙イ24,乙ロ3,乙ロ8,証人E,控訴人甲)

控訴人甲は,7月1日(月曜日)午後4時半頃に本件高校を訪れてE及び副舎監長のHと面談し,
持参した本件Bメッセージを印刷した紙
(甲
2)を示しながら対応を相談した。その際,Eは,控訴人甲から,亡Aが同じ中学校の出身者のグループのラインに書き込んだ寮生活の愚痴を述べるメッセージ(本件Aメッセージ)の中にBの悪口と分かるものが
あり,それがBの目に触れたことが本件Bメッセージ発信のきっかけとなった可能性があるとの話を聞き,これによって,本件が一方的ないじめの問題ではなく,
お互いに非があることが判明したものであって,
双方向性のあるけんかの事案であると判断し,控訴人甲から,亡Aを退寮させることについて相談を受けたのに対しても,亡Aが退寮する必要はないと答えた。
その上でEは,亡A本人と面談して事実確認をすることにし,その段取りに関し,控訴人甲に対し,数日中に本件Bメッセージについて舎監と相談したことを亡Aに伝えてその結果をEに連絡するように依頼し,控訴人甲からその連絡があり次第亡Aと面談するという方針を伝えて,この日の控訴人甲との面談を終えた。Eは,同日のうちに,教頭及び生
徒指導主事に対して控訴人甲との面談結果を報告し,その際,控訴人甲がうちのがきっかけを作ったと述べていたことから亡AとBらとのトラブルがけんかの事案であると判断されるとの前提で,対応を話し合った結果,寮生間のトラブルであるので,舎監のメンバーを中心に対応を進めることとなった。

(甲16,乙イ7,乙イ11,乙イ23,乙ロ3,乙ロ8,乙ロ9,証人E,証人F,控訴人甲,弁論の全趣旨)
Eは,数日を経ても控訴人甲から上記趣旨の連絡がなかったため,7月5日(金曜日)午前9時頃,自分から控訴人甲に電話をし,控訴人甲から,亡Aに対して本件Bメッセージの件を舎監長に相談した旨を伝え
たとの回答を得た。そこで,Eは,その旨をFにも連絡して,この日の放課後に,まずFが,続いてEが亡Aと面談することになった。
Fは,同日放課後,亡Aと面談して寮でのトラブルについて質問したところ,亡Aからは,寮でのトラブルはすでに解決したと聞かされるとともに,再び退寮の強い希望が述べられた。しかし,Fは,退寮につい
ては両親とよく話し合うように助言したにとどまり,亡Aが退寮を希望する理由については,寮での集団生活よりは下宿生のような自由な生活をしたいのであろうと推測しただけで,本人から聴取することはせず,面談を終えて,亡AをEとの面談に向かわせた。
Eは,亡AとFとの面談が終了した後の同日午後4時頃,亡Aを呼び出して面談し,Bとの確執について事情聴取したところ,亡Aは,Eに対しても,Bとは6月30日に同級生の寮生の仲介で既に仲直りしており,普通に話せていると述べた。その際,Eは,亡Aから,本件Bメッセージの主な部分をCのスマホを使って送信したのはBであること,Bが寮生のラインのグループのアイコン(トップ画)に亡Aの写真を載せて変なあだ名をつけたこと,Bが体育大会の頃から亡Aをいじるように
なったことなどを聴取した。亡Aは,この面談の際,Eに対しても,退寮したいと申し出たが,Eは,本件がけんかの事案であり,それが解決したのであれば退寮する理由もなくなったと考え,亡Aの退寮に消極の意向を示し,それ以上に亡Aが退寮を希望する理由を確認しなかった。Eは,7月5日午後8時40分頃,控訴人甲に電話をかけ,亡Aと面
談したところ,亡Aが本件Bメッセージの送信をめぐるBらとのトラブルは6月30日(日曜日)夜の同級生の寮生の仲介による話合いで既に解決したと述べたことを報告するとともに,それでも本件Bメッセージの内容についてBに指導を行う必要があるため,7月8日(月曜日)にBを呼び出して事実確認を行い,身体的特徴を誹謗中傷することが人権
侵害に当たることを理解させる予定であること等を説明した。控訴人甲は,6月30日(日曜日)夕方の時点で既に解決していたとのEの話を意外に思いながらも,Eに礼を言って電話を切った。
控訴人甲は,Eとの電話を終えた後,すぐに亡Aに電話をして,6月30日(日曜日)に解決していたのであれば,なぜそれを早く親に報告
しないかと叱ったところ,亡Aは,控訴人甲に対し,実際には問題は解決しておらず,かえってBから,より酷い悪口を言われるようになった旨を訴えた。そして,亡Aは,
お母さんが悪いとして,控訴人甲が亡
Aの了解もなく本件Bメッセージの件を学校側に報告したことに怒り,控訴人甲に対して以下の文面のメッセージを送信した。
うちのなかでは寮やめるまで解決せんしおたかい嫌いなまんまやしなんもかわってなかったもんEから聞きれてやったこといっただけだし影でこそころもせず顔に出しておまえといっしょにいるとやだて言われるとやけんねaまじすかんとかで,寮でなかいい子だけでどっかいこうぜとかの話をきかなんと?それを三年間せなんと?あいつはこがんこと言うと被害妄想じゃ?とか普通に言って来るやつけんねはなしあってもそれを仲良い子にあいつうざかていうだけやけんねEが寮はやめさせんて行ったけん寮やめっとて聞かれてわからんて答えたらうちがやめるていおよるけんねけっきょくいっしょにおれんもんもうやだ共同生活とかもうよか家かえってもなんか言われてうんとかはいとかしか言わんとはなんかいったらまた聞いてくるか文句いうかやけんたいほんとはいいたいことやまほどあるけんね頭ではずっといいよるとやけんね口足らずやけんなんかいっても丸め込まれてつたわらんしそんぐらいならしゃべりたくないわもう死にたい(甲16,乙イ1・92頁,乙イ11,乙イ15,乙イ23,乙イ24,乙ロ3,乙ロ8,証人E,証人F,控訴人甲)
亡Aからのメッセージを見た控訴人甲は,7月6日(土曜日)の朝,Eに電話し,亡Aに確認したところ実際には問題は解決しておらず,亡Aは本件寮の皆から悪口を言われている旨,亡Aは口下手であることからEとの面談の際に言いたいことをうまく伝えることができなかったと言っている旨,同日帰省する予定の亡Aからさらに事情を聞いてみるつもりである旨などを伝えた。
これに対し,Eは,

みんなから悪口を言われているということはないはずだ。という趣旨を述べて控訴人甲に反論し,

亡Aが帰省した際に事

実確認をして,その結果を報告するよう依頼して,電話を切った。(甲16,乙イ11,乙イ15,乙イ23,証人E,控訴人甲)
控訴人甲は,7月6日(土曜日)から7日(日曜日)にかけて帰省していた亡Aが,同月5日(金曜日)のEとの面談の際に口下手のためにうまく説明できなかったと訴えたのに対し,口頭でうまく説明できない
のであれば,Eに手紙で事実を説明するように促し,亡Aは,これに従って,Eに宛てて,

口では話せないので手紙にします。

との書出しで始まり,本文に,それまでBに直接,間接に悪口を言われ,その内容を友人にも言いふらされ,ラインのグループのアイコンに亡Aの顔写真を洗
面用具を隠されたり(同c)
,携帯電話を勝手に使われたり(同d)して
おり,
3年間Bと一緒にいるのは無理だと思う旨などを記載した手紙
(甲
3)を作成し,控訴人甲も,熊本市内に住む控訴人甲の姉にその自宅から亡Aを本件高校に通学させることの了承を取り付け,亡Aを退寮させることを決意した上で,Eに宛てて,亡Aが寮内や学校内でBにうざい嫌いなどの悪口を同級生や友達に言われて,ひとりにさせられ,,
どんどん精神的に追い詰められていることが分かったなどとした上で,末尾に

今退寮を考えております。色々お世話になりありがとうございました。

と記載した手紙(甲4)を作成し,これをEに届けさせるために亡Aに託した。
控訴人甲は,7月7日(日曜日)夜に亡Aを自動車で本件寮まで送り届けて自宅に戻る途中の同日午後8時半頃,Eからの電話を受けて亡A
の帰省中の様子を尋ねられたのに対し,亡Aが寮を出たいとしか言わな「い。」などと答えたところ,Eは,Bが亡Aのいうような行為をしているのであれば,退寮すべきはBであって,亡Aが退寮する必要はないと答え,亡Aが7月5日(金曜日)のEとの面談で事実を言わなかったことがその後の経過を生んだ原因であるから,一方から聴くよりB及びCを
呼んで同人らからも事情を聴いた上で指導を含めて検討する旨回答した。
(甲3,甲4,甲7の1,甲16,乙イ7・33頁,乙イ11,乙イ23,乙ロ3,証人E,控訴人甲)

7月8日(月曜日)のEによる指導の経緯
控訴人甲は,7月8日(月曜日)午前7時50分頃,Eに電話をして,亡Aが手紙を持参したかを尋ねるとともに,亡Aが手紙の内容がBに知られることを心配している旨を伝えた。これに対し,Eは,Bに手紙を見せるわけではないが,
まずは事実確認が必要であるから,そのため

の面談であると強調し,6月30日(日曜日)にせっかく仲裁に入った寮生の顔を立てなければならないとも述べ,けんかをしていつまででも仲直りをしない亡AとBの双方に不快感を覚えているような口吻を漏らし,
控訴人甲が仲介した寮生がB寄りであると述べたのに対しても,
それは違うと釘をさして,控訴人甲をたしなめ,昼に亡Aを,

放課後にB,Cを呼び出して面談すると告げた。
(乙イ11,乙イ23,乙ロ3,証人E)
Eは,7月8日(月曜日)の一限目の時間帯に,6月28日(金曜日)から7月7日(日曜日)までの亡AとB及びCとのトラブルの経緯を本件高校の生徒指導主事,副舎監長及びFに書面で報告し,このトラブルがけんかの事案であると説明し,寮内における寮生間のトラブルであるから自分一人で3人を仲直りさせて解決するとの方針を伝えて,了承を得た。そのため,生徒指導主事らは,亡AとBらとのトラブルについて,寮生間に起きたトラブルであると理解し,
いじめの疑いがあるも
のとは考えず,当時,本件高校には,いじめに組織的に対応するための機関としていじめ問題対策委員会が存在し,いじめが疑われる事案
が発生した場合には,生徒指導主事が委員会を招集することになっていたが,亡AとBらとのトラブルについて,その招集がされることはなかったし,その発生について,校長や副校長にまで報告されることもなかった。
(甲7の1,乙イ1・83頁,乙イ11,乙イ23,乙イ24,乙ロ3,
証人E)
Eは,7月8日(月曜日)午前中,Eを訪れた亡Aから,同人と控訴人甲が前日に書いた手紙を受領し,その場では手紙を開封せずに,同月5日(金曜日)の面談後の経過を簡単に聴取して,いったん亡Aを教室に帰らせた。

(乙イ11,乙イ23,証人E)
Eは,7月8日午前中のうちに,亡Aが持参した手紙を読んだ上で,同日午後1時に亡Aを呼び出して面談し,手紙に記載された事実に間違いがないかを確認し,これによって,亡AがBから本件Bメッセージの送信以外にも以前から様々な嫌がらせを受けていることや,
控訴人甲が,

亡AがBから悪口を言われて精神的に追い詰められていると感じており,亡Aを退寮させる意向であることを認識した。
しかし,Eは,本件Bメッセージの送信や亡Aの手紙に記載されたBやCの行為についての亡Aの心情を聴取することをせず,亡Aが7月5日(金曜日)の面談の際にBとの問題が解決したという事実に反する説明をした理由を聴取することもしなかった。
また,依然として本件がけんかの事案であると理解していたEは,この日の亡Aとの面談で亡Aから退寮の希望が述べられた際も,7月5日(金曜日)の面談の際と同様に消極の意向を示し,亡Aに退寮を希望する理由を聴くこともしなかった。
なお,Eが,この面談の際に,亡Aの手紙(甲3)で具体的に申告さ
れたBの亡Aに対する行為について,Bに事実確認をすることの承諾を亡Aから得た形跡はない。
(乙イ11,乙イ23,証人E,弁論の全趣旨)
Eは,7月8日(月曜日)の授業終了後の午後4時30分頃,BとCを呼び出し,亡Aに対して本件Bメッセージを送信した事実を確認して
両名を叱った上,亡Aに対してしたことと,亡Aからされたことをその場で書き出すように指示し,BとCから提出された紙(乙イ9の1・2)に記載された事実を確認しつつ,両名から個別に事情を聴取した。これに対し,Bは,亡Aから,
デブ豚等の悪口を言われたこと,

自身の写真や悪口を他人のラインのグループに勝手に送信されたこと,
これらの行為に対抗して,亡Aに対し,学校で直接文句や悪口を言ったり,ラインで悪口を送ったりしたことを認め,Cは,亡AがCを無断撮影した写真やBの悪口を亡Aの出身中学校のライングループに送信したこと,亡Aが寮の規則を守らなかったことについて言い訳しかしなかったためにけんかをしたこと,亡Aがラインで悪口を送ったりしたこと,
6月30日に同級生の仲介で亡Aとは仲直りし,今は普通に話していること等を述べた。
そして,Eは,亡AがEに宛てた手紙(甲3)で具体的に挙げたBらからされたとする

を個別に挙げて

その有無をBらに確認し,その結果,亡AがEにBらの行為をいじめとして具体的に学校側に申告していることがBらに知れることとなった。Eは,BとCの話を聞いて,亡AもBやCに対して攻撃的な言動をしており,このことは,控訴人甲が述べていた亡Aがきっかけを作った可能性があるということとも符合し,本件が双方向性のあるけんかであって,双方にその責任がある事案であることが確認できたと考えた。そして,Eは,BとCがこの事態を

このままではいけないことは分かっている。何とかしなければならないと思っている。

と述べたため,その場に亡Aを呼んで,Eが仲裁して手打ちをすることをBとCに了承させた。
(乙イ9の1・2,乙イ11,乙イ12,乙イ23,乙ロ3,証人E)Eは,7月8日(月曜日)午後6時頃,入浴を終えて寮の自室に戻っ
ていた亡Aを呼び出し,BとCの上記訴えについて事実かどうかを確認したところ,亡Aは,亡AがBやCと対立するに至った経緯を問うことなく,BやCが申告した亡Aの行為の有無だけを確認しようとするEの質問に対し,言い分があるような態度を示したが,Eは,このような亡Aの態度を見て,
非常に言い訳が多いと感じ,亡Aが素直に非を認め

ようとしていないと受け止めて,亡Aを問い詰めたところ,亡Aが最終的にBやCが申告した事実を認めたため,Eは,B及びCとの面談で考えたとおり,本件は,一方的ないじめではなく,
双方向性のあるけん
かであると確信するに至り,それが解決されれば,亡Aの寮生活に対する不満も解消すると考えた。そして,それ以上に,亡Aから,BやCと
のトラブルの背景事情,亡Aの寮生活に対する不満の内容や原因を聴取しないまま,Eの仲裁によりBやCと手打ちすることを亡Aに了承させた。
(乙イ11,乙イ23,証人E)
Eは,引き続き,亡A,B及びCを同席させた上,3人に対し,①人の誹謗中傷をしないこと,

ラインの使い方を考え直すこと,


他今
後同様のことが仲間内で発生した場合,関係者を全員について自宅通学等の措置をとることを考えると言い渡して指導し,亡A,B及びCはこれを了承した。
その後,Eは,3人だけで話合いをさせることとしてその場を離れ,亡A,B及びCは,20分程度自分たちだけで話合いをしたが,この間,
Bが怒りながら,Cと一緒になって,強い口調で,亡Aに対し,まず亡AがBの悪口を中学校の同級生にラインで送信したことなどを謝罪するよう要求したのに対し,亡Aは,これに従わず,3人だけでの話合いに応じたのを後悔する口吻を漏らすとともに,BやCに対して本件寮を退寮するつもりである旨繰り返し述べて何とかその場をやり過ごそうと
し,途中からは,BとCが一方的に謝罪を要求したり亡Aを誹謗中傷したりするのに対しても,反論せずに黙ったままとなって,結局,3人の話合いは,平行線のままで終わった。
もっとも,3人は,舎監長のEに呼び出されて指導までされている以上,Eに対しては仲直りしたといわざるを得ないし,そうしないと,そ
の場から解放されず,悪くすれば,自宅通学処分を受けることにもなると考え,Eの前では仲直りしたように振舞うという点では,3人の思惑が一致した。
(乙イ10,乙イ11,乙イ23,乙ロ1,乙ロ5,証人E,弁論の全趣旨)

Eは,約20分後にその場に戻って3人の様子を見たところ,3人が互いに談笑しており,わだかまりが解けたとの印象を受けたことから,同人らが本当に仲直りしたものと考え,話合いを終わりとし,それ以上に,同人らから,個別にも,また,全員からも,話合いの経過や結果,それぞれの真意や心情を聴取することもせず,午後7時頃,同人らを寮の自室に帰らせた。
Eは,亡Aが7月5日のEとの面談の際にBとの問題が解決したとい
う事実に反する説明をしたのを疑わなかったのと同様に,この時も,亡A,B及びCが仲直りしたと述べたことに嘘はないと信じ,3人がそのように装っているだけであるという可能性には思い至らなかった。(乙イ1・36頁,乙イ11,乙イ23,乙ロ6,証人E,証人C)Eは,本件Aメッセージの送信以外にも亡AがBとCに対して行った
行為が新たに判明したことを含めて,控訴人甲に報告する必要があると考え,また,亡Aにも問題があったのに,控訴人甲は,亡Aをかばうあまりその言い分を信じて事実関係が見えていなかったのだと一人で合点し,その点について,控訴人甲に反省させて,亡Aを指導させる必要があると考え,同日午後7時過ぎ頃,控訴人甲に電話をかけ,上記の経過
を報告するとともに,上記の趣旨のことを伝えて控訴人甲に反省するように求め,今後一切問題が起こらないよう家庭でも話をしてほしい,今後同様のことがあれば,自宅通学処分等の措置を取ることがある旨伝えた。控訴人甲は,Eに感謝を述べた。
Eは,その頃,BとCのそれぞれの母親にも電話し,一連の出来事に
ついて報告した上,同様の注意をした。
(甲16,乙イ11,乙イ23,証人E,控訴人甲)

7月8日(月曜日)のEによる指導後から夏季休暇に入るまでの経緯Eは,7月11日頃までに,Fや舎監に対し,本件Bメッセージの送
信を中核とする亡AとBらとのトラブルに関し,3人が仲直りした旨を連絡し,その旨が教頭までは伝わったが,校長や副校長には,そもそも亡AとBらとの間にトラブルがあったことも報告されなかった。Eは,7月11日の舎監会議で上記の連絡をした際,寮の問題は寮の関係者で解決するのが基本であるとの考え方を述べた。
(乙イ3の3,乙イ23,乙イ24)

Eは,7月8日の亡Aらに対する指導後,他の舎監に対し,夏期休暇が始まるまでの間亡Aの様子を見るよう依頼したものの,Eその他の舎監が,その後亡Aに対して個別に面談したり,声掛けをしたりして,B及びCとの関係や亡Aの心情を聴取したことはなく,亡Aがいじめを受けていたことを前提とした亡Aに対する支援の在り方等について検討し
たこともなかった。
(乙イ23,証人E)

BやCは,7月8日にEから指導を受けたことや,Eから今後けんかをした場合には自宅通学処分等の措置をとると言われたことから,同日以降,亡Aと仲直りしたように振る舞い,亡Aと日常会話を交わすよう
になり,表向き亡Aに対していじめやこれに類する行為に及ぶことはなかった。
(乙イ1・33頁)
亡Aも,EにBらとのトラブルを双方に非があるけんかとして処理されて,その背景事情についての亡Aの考えや心情については傾聴しても
らえず,亡AがB及びCに対して行った行為の有無を問い詰められただけで終わったことに加え,Bが亡Aに対して行ったいじめ行為をEに対してだけ伝えようとして記載した手紙の内容がBに対する事実確認という形でBに漏れてしまったことや,直接3人で話合いをさせられたことから,これ以上この問題についてEに相談しても,寮生活に対する不満
やBらとの対立の解決にならないだけでなく,かえって,Eに相談すれば,Bらとのトラブルが続いていることがEに知られて自宅通学処分にされたり,
更にBやCから攻撃されたりする危険があると考え,
今後は,
Eに相談することはやめることにし,表向きはBやCと仲直りしたように振舞い続けることにした。また,EやFに退寮の希望を申し出ても,本件寮則において寮生は原則として卒業まで在寮するとされているとか,3年生になれば楽になるなどとして説得されることから,EやFにその思いを打ち明けることはやめることにした。加えて,亡Aは,本件Aメッセージの内容がBに伝わったことから,出身中学校の同級生のラインのグループの中でも,高校生活や寮生活に関する思いや心情を安心して吐露できなくなったと感じた。

(甲7の1,乙イ1・33頁,37頁,証人C,一審被告B)
もっとも,本件寮における裏寮則やシメの存在,当番の運用等は従前のままであり,亡AとBらとの間では,当番の分担をめぐって夏季休暇に入るまでもめごとが続いていた。また,亡Aは,引き続き,本件寮を退寮するとの強い意思を持ち続けており,多くの友人や寮生にも夏季休暇明けには退寮する旨話し,そうなれば,寮生活への不満やBらとのトラブルも解消されることになると期待していた。
(乙イ1・33頁,乙イ6,乙イ10)
控訴人甲は,Eから上記のとおり亡AとBらとのトラブルに対する指導の経緯について報告を受けた後,亡AにもBらとの関係について尋ね
たところ,亡Aは,6月28日に控訴人甲に本件Bメッセージの件を相談した際,控訴人甲が亡Aの承諾を得ずに学校側に相談し,その結果,Eによって意に沿わない形で指導される結果となったことや退寮さえすればBやCと関わりを持たずに済むことから,控訴人甲には,Bらとの対立関係が解消されていないことを隠して,
大丈夫であると答えた。こ

れを聞いた控訴人甲は,亡AとBらとのトラブルが本当に解決したものと理解して安心し,それ以上に亡Aの真意や心情を問い質すなどのことはせず,
また,
亡Aが寮での生活を続ける気持ちになったものと判断し,
そうであれば,
寮の中で攻撃されたりしないためにも,
周囲に対して
退寮することは言うなという趣旨の助言をした。
(甲16,乙イ1・36頁,121頁,乙イ7・34頁,乙イ9~11,乙ロ8,証人E,控訴人甲)


夏季休暇に入ってから亡Aの自殺までの経緯
亡Aは,本件高校が夏季休暇に入った後の7月23日に友人と熊本市内の祭りに参加して翌24日に帰省し,同日,中学校の同級生にラインで,寮を辞めたいが,先生と親から説得されて辞められない旨のメッセ
ージを送信した。また,亡Aは,帰省中の7月30日に地元の友人に対し,本件高校を退学して,他の高校に転校したいとして,その手続をどうすればよいかなどについて相談した。
(甲7の1・40頁,甲16,乙イ1・37頁,122頁,乙ロ8,乙ロ9)

Fは,8月1日,家庭訪問のために亡Aの実家を訪れ,亡A及び両親と面談した。面談においては,主として,亡Aの学習や進路についての話がされて,寮生活についての話題はほとんど出ず,Fは,亡Aが本心では寮を出たいと思っているのではないかと感じていたが,亡Aや両親から退寮の話が出なかったことから,家族で十分に話した上で寮に残る
ことにしたのであろうと考え,亡Aに対し,

もう大丈夫だよね。,

寮に残るのであれば頑張らなんたい。

などと述べた。(甲5,甲7の1・42頁,甲16,乙イ14の2,乙イ24,証人F,控訴人甲)
亡Aは,家庭訪問の後,自室に鍵をかけて閉じこもり,食事と用便の
ため以外には部屋から出て来なくなり,昼夜が逆転した生活をするようになった。
(甲7の1・40頁,甲16,乙イ1・37頁,乙ロ8,乙ロ9,控訴人甲)
亡Aは,8月11日頃,控訴人甲に対し,初めて,本件高校を退学して,
他の高校に編入するか,
働きながら専門学校に行きたい旨を告げた。
亡Aの両親は,本件高校及び本件寮での生活を今後も続けるように説得
した。
(甲16,乙ロ8,乙ロ9,控訴人甲)
亡Aは,8月20日の登校日に備えて19日に寮に戻る予定にしていたところ,その2日前の同月17日に自殺した。亡Aは,遺書その他自殺の動機をうかがわせる文書等を残しておらず,当日の朝,ラインの退
会手続もしているため,家族がスマートフォンを起動させて通話記録を見ることができず,15日から17日までのラインでの通話内容にも自殺をほのめかすものは見当たらなかった。
(甲7の1,乙ロ7)

亡A自殺後の経過
Cは,亡Aの自殺直後,B,C及び亡Aがメンバーであるラインのグループの通信記録を全部抹消した。Bは,平成25年9月,本件寮から退寮した。
(乙イ1・29頁,乙ロ5)
シグマテストの結果とFの対応について


シグマテストは,生徒を理解し,生徒との教育相談に生かす資料とするために行われる生徒の心理テストであり,その説明書(乙イ13の1)には,その効用について,①
つこと,②

いじめや不登校などの早期発見や予防に役立

教育相談の材料として役立つことなどが挙げられ,具体的に

は,①については,

日頃,先生に自分のことをうまく表現できていない生徒が,心理検査を通した時に,正直に表わすことがあります。いじめや不登校のサインの早期発見や予防に役立てることが可能になります。との説

明が,②については,

質問の内容や仕方を教育相談的に作り,先生方が面接時に尋ねるような,答え易い問い掛けになっています。一人ひとりの生徒の希望する支援・援助が広範囲に分かるようになっています。と説明が

されている。


本件高校においては,平成25年度に初めてシグマテストが導入され,亡Aが在籍していた学級の生徒は,6月6日にこれを受検し,その担任教諭のFは,7月上旬頃,受検結果の資料として,生徒の個人表と学級全体の分布表(乙イ14の3~5)を受領した。

個人表には,教師用のもの(乙イ14の2)と生徒返却用のもの(甲5)の2種類があり,教師用のものには,生徒の悩み事や気がかりなことに関するテストの結果が,原判決別紙4の質問一覧表の教師用欄の項目欄記載の48項目に分類されて記載されているのに対し,生徒返却用のものでは,上記一覧表の個人用欄の項目欄記載のとおり,項目の一

部が統合又は削除されているところ,
亡Aの教師用個人表
(乙イ14の2)
には,上記一覧表の教師用欄の亡Aの結果欄に記載のとおりの各
項目に亡Aが該当する旨の記載がされていた。
また,上記一覧表の自己を見つめるという項目の結果は,10段階中1(特にゆきづまり感が強い状態。なお,Fが担任をしていた学級の生
徒42名中,この段階にあるとされた者は,亡Aを含む2名のみであった。,
)自己否定という項目の結果は10段階中2(投げやりな感じが
強い状態)行動のタイプという項目の結果は5段階中最も行動をお,さえるの側に近い状態,問題にくじけず,うちかっていこうとする力
という項目の結果は10段階中3(やや弱い)家庭という項目の結果,

は10段階中2(親しめなくなった感じが強い)となっており,
相談の要点欄には,亡Aは,ゆきづまり感が強くて心配である旨が記載されていた。亡Aの教師用個人表(乙イ14の2)の保護者懇談のテーマ(案)の欄には,亡Aは勉強に集中できないと言っているほか家族との対話不足を訴えており心配である旨の記載があり,シグマテストの結果利用の手引〔教師用〕
(乙14の6)には,対話不足を訴える生徒の場合,
積極的な働きかけで,まず家庭内での対話の習慣を取り戻すよう心掛けてくださいと記載されていた。ウ
Fは,上記資料を受領した後,学級全体の受検結果の一覧表の内容は見たが,個別の生徒の受検結果については仔細に確認せず,亡Aが,死んでしまいたいと本当に思うときがあるという項目に該当する旨回答してい
たことには気がつかず(Fの担任する学級の生徒のうち同項目に該当する旨回答した者は,亡Aを含む3名であった。,その情報をEやその他の教)
職員と共有することもなかった。
また,Fは,学年主任から,シグマテストの個人表の生徒返却用のもの(甲5)を家庭訪問で配布し,気になる点を話題として挙げるほか,生徒
との教育相談に生かすよう指示を受けていたが,これをその年の担任学級の生徒の教育相談に使用したことはなかった。
Fは,8月1日の家庭訪問の際,亡Aの両親に対し,シグマテストの個人表の生徒返却用のもの(甲5)を渡した。同表に記載された亡Aの悩みに関する回答の状況は,原判決別紙4の質問一覧表の個人用欄記載の
とおりであり,教師用の個人表(乙イ14の2)に記載されていた死んでしまいたいと本当に思うときがあるの項目は削除されており,教師用の個人表に記載された親は私の気持ちをわかろうとしないとの項目も親の期待が大き過ぎて重荷になるなど,考え方のちがいが大きくてなやむの項目に置き換えられていた。
Fは,家庭訪問の際,これら生徒返却用の個人表(甲5)にのみ記載された項目に亡Aが該当する旨の回答をし,家族との対話不足を訴えている旨の指摘がされていたことや死にたいと思うことがあるとの回答をしていることなど,シグマテストの具体的な結果に言及することはなかった。(甲5,甲7の1,乙イ1,乙イ13の1,乙イ14の2~6,乙イ24,証人F)
いじめに関する知見


法律等におけるいじめの定義
法施行前の定義
文部科学省は,平成25年9月28日の法施行前から,毎年実施する児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査において,
いじめの定義を示してきたところ,平成17年度までは,
いじめ
を自分より弱い者に対して一方的に,身体的・心理的な攻撃を継続的に加え,相手が深刻な苦痛を感じているものと定義していた。しかし,この定義では,多様ないじめの実態にそぐわない面があるとの理由で,平成18年度調査からいじめの定義について,個々の行
為がいじめに当たるか否かの判断は,表面的・形式的に行うことなく,いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとするとして,いじめかどうかの判断は,加害者側の行為の形態より,被害者側の気持ちを重視して行うこととしたうえで,
いじめとは,
当該児童生徒が,一定の人間関係のある者から,心理的,物理的な攻撃を受けたことにより,精神的な苦痛を感じているものと定義した。なお,この定義には,

けんか等を除く。

との注記が付されていた。(甲7の1,甲9)
法における定義
法は,
いじめを児童等に対して,当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。であって,)当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。と定義した(法2条)。

いじめへの対応に関する知見等
文部科学省の国立教育政策研究所は,教育政策に関する総合的な国立
の研究機関として,
学術的な研究活動から得た成果を,
教育政策の企画・
立案にとって有意義な知見として集約提示することを役割としている。・
同研究所は,昭和24年6月に国立教育研究所として発足し,平成13年1月,教育に関する政策の企画立案及び推進に関する研究機関としての役割・性格をより強化するため,総合的な政策研究機関として,
改組された。
国立教育政策研究所は,平成10年から開始したいじめ追跡調査
により,
深刻ないじめは,どの学校にも,どのクラスにも,どの子どもにも起こりうる(平成8年の文部大臣緊急アピール)
ことを明らかにす
る研究を行い,その成果を,
生徒指導支援資料
(平成21年以降発行)

や生徒指導リーフシリーズ
(平成24年以降発行)として,各学校や
教育委員会等に伝える活動をしてきた。
(甲18ないし甲20)
国立教育政策研究所が平成25年7月に発行した

いじめについて,正しく知り,正しく考え,正しく行動する。

と題する冊子(甲19)で
は,
いじめの追跡調査2010-2012を中心に,同研究所のいじ
めに関する研究成果を,より分かりやすい形で提供するために作成されたものである。同冊子には,
暴力を伴わないいじめの特徴に関して,
次の記載がある。
「暴力を伴わないいじめの場合,被害側と加害側の関係が固定的(一
方的)とは限りませんし,
目に見えにくいだけに全体像を把握でき
ていない可能性も高くなります。

たまたま見つけたのが,最初に被害を受けていた児童生徒が加害側にやり返した場面だったような場合,つまり最初の被害には気づいていなかったりした場合,やり返した被害側を一方的に指導したのでは話がこじれます。「暴力を伴わないいじめについては,
(中略)個々の行為自体はささいなこと
よくあるトラブルがほとんどです。個々の行為自体の
問題性というより,そうした行為によって被害側が実際に精神的に傷ついたこと,そうなることに少なからず気づきつつそうした行為を繰り返した,あるいはみんなで行ったという点を問題にしなければなりません。ですから,そうなったいきさつも重要になりますし,指導も
慎重に行う必要があります。

「暴力を伴わないいじめの場合,
(中略)教職員が100%気づくこ
となど不可能です。そのことを強く自戒しながら指導しないと,あたかも教職員が一方にのみ荷担した,一緒になっていじめたかのような形になりかねません。


「暴力を伴わないいじめ
の場合,
加害側には行為を正当化する言い訳
があるのが普通です。
(中略)教師がそうした言い訳に簡単に納得・同
調してはなりません。

「暴力を伴わないいじめ
の場合,
まず取り組むべきことは
未然防止
です。子ども同士の日々のトラブルが減り,相手に対する意地悪な気
持ちが減り,仮にそうした事態が起きても相手を不快にさせるような態度や言動を抑えられるなら,
深刻ないじめ
にエスカレートするこ
とはなくなるからです。

(甲19)
a
文部科学大臣が平成25年10月11日に決定したいじめの防止等のための基本的な方針(甲15。以下,決定当初のものを基本的方針という。
)は,法の具体的運用を定めたものであるが,それまで
に発出されたいじめの防止等に関する文部科学省の通達や通知な
どの内容を集積したものであり,それと同様の内容は,平成25年4月当時においても,教育現場におけるいじめの防止等に関する知見として共通の認識となっていた。

b
基本的方針の本文には次のような記載がある。
個々の行為が「いじめに当たるか否かの判断は,表面的・形式的
にすることなく,いじめられた児童生徒の立場に立つことが必要である。


いじめには,多様な態様があることに鑑み,法の対象となるいじめに該当するか否かを判断するに当たり,心身の苦痛を感じているも「のとの要件が限定して解釈されることのないよう努めることが必要である。例えばいじめられていても,本人がそれを否定する場合が多々あることを踏まえ,当該児童生徒の表情や様子をきめ細かく
観察するなどして確認する必要がある。

けんかは除くが,外見的にはけんかのように見えることでも,いじめられた児童生徒の感じる被害性に着目した見極めが必要である。

いじめは大人の目に付きにくい時間や場所で行われたり,遊びやふざけあいを装って行われたりするなど,大人が気付きにくく判断しにくい形で行われることを認識し,ささいな兆候であっても,いじめではないかとの疑いを持って,早い段階から的確に関わりを持ち,いじめを隠したり軽視したりすることなく積極的にいじめを認知することが必要である。

アンケート調査や個人面談において,児童生徒が自らSOSを発信すること及びいじめの情報を教職員に報告することは,当該児童生徒にとっては多大な勇気を要するものであることを教職員は理解しなければならない。

いじめがあることが確認された場合,学校は直ちに,いじめを受けた児童生徒やいじめを知らせてきた児童生徒の安全を確保し,いじめたとされる児童生徒に対して事情を確認し適切に指導する等,組織的な対応を行うことが必要である。(中略)教職員は平素より,いじめを把握した場合の対処の在り方について,理解を含めておくことが必要であり,また,学校における組織的な対応を可能とするような体制整備が必要である。c
基本的方針の別添2
【学校における
いじめの防止
早期発見
いじめに対する措置のポイント
】には次の記載がある。
発見・通報を受けた教職員は一人で抱え込まず,学校における「いじめの防止等の対策のための組織に直ちに情報を共有する。その後は,当該組織が中心となり,速やかに関係児童生徒から事情
を聴き取るなどして,いじめの事実の有無の確認を行う。事実確

認の結果は,校長が責任を持って学校の設置者に報告するととも
に被害・加害児童生徒の保護者に連絡する。

いじめられた児童生徒から,事実関係の聴取を行う。その際,いじめられている児童生徒にも責任があるという考え方はあってはならず,「あなたが悪いのではない

ことをはっきり伝えるなど,
自尊感情を高めるように留意する。

いじめられた児童生徒や保護者に対し,徹底して守り通すことや秘密を守ることを伝え,できる限り不安を除去するとともに,事態の状況に応じて,複数の教職員の協力の下,当該児童生徒の見守りを行うなど,いじめられた児童生徒の安全を確保する。
教職員による「いじめられる側にも問題があるという認識や発
言は,いじめている児童生徒や,周りで見ていたり,はやし立て
たりしている児童生徒を容認するものにほかならず,いじめられ
ている児童生徒を孤立させ,いじめを深刻化する。

いじめが解決したと思われる場合でも,継続して十分な注意を払い,折りに触れ必要な支援を行うことが大切である。

いじめの解決とは,加害児童生徒による被害児童生徒に対する謝罪のみで終わるものではなく,被害児童生徒と加害児童生徒を始めとする他の児童生徒との関係の修復を経て,双方の当事者や周りの者全員を含む集団が,好ましい集団活動を取り戻し,新たな活動に踏み出すことをもって判断されるべきである。

いじめへの対応は,校長を中心に全教職員が一致協力体制を確立することが重要である。一部の教職員や特定の教職員が抱え込むのではなく,学校における「いじめの防止等の対策のための組織

で情報を共有し,組織的に対応することが必要であり,いじめが
あった場合の組織的な対処を可能とするよう,平素からこれらの
対応の在り方について,全ての教職員で共通理解を図る。


(甲11,甲15,証人E,弁論の全趣旨)
各種委員会等による調査

本件高校は,平成25年8月27日,亡Aの遺族の何があったか知りたいという意向に応えるとともに,生徒の心のケアや再発防止に組織的
に対応することを目的として,校内プロジェクト会議(構成員は,校長,副校長,教頭,主幹教諭,学年主任,生徒指導主事,養護教諭,担任,舎監長,副舎監長,スクールカウンセラー等)を設置し,同月30日から平成26年9月29日までの間に38回の会議を開催し,教職員からの事実確認や生徒からのカウンセリングの中での聴き取り等の調査を行った。そ
の第1回会議(平成25年8月30日開催)においては,本件学校の副校長から寮則等の見直しについて指示がされ,
第7回会議(同年9月10日開
催)においては,
寮の当番等の実情についての情報共有が行われ,
第24回
会議(同年10月29日)においては,寮の当番や自治についても舎監会議で洗い出しの作業を行うことが確認された。校内プロジェクト会議は,亡AとBらとのトラブル(私物を隠す,
携帯電話を無断で扱う,
卒業アルバ
ムに落書きをする等)やライン上の書き込み等の中の脅迫めいた言葉は,亡
Aにとって精神的苦痛を感じさせるに十分な心理的圧迫があったと思われるとして,
いじめに当たると判断した。
(甲7の1)

本件高校の校長は,平成27年2月22日,亡Aの自殺について,法28条1項に基づく調査に準じた調査を行う組織としての学校調査委員会
(以下,単に学校調査委員会という。
)を本件高校に設置し,その委員
を学識経験者(臨床心理士)
,弁護士,社会福祉士,校長及び保護者会会長
の5名に委嘱した。学校調査委員会は,平成28年2月,調査結果を記載した報告書(乙イ1)を,熊本県教育委員会を通じて,熊本県知事に提出した。学校調査委員会は,法におけるいじめの定義を踏まえ,前記出
来事(前記

)におけるBの亡Aに対する行為のうちのc,d,fに

加え,本件Bメッセージの送信及び寮の上級生による亡Aの身体的特徴についての笑いについて,
いじめに当たると判断したが,それ以外のBの
行為については,双方向性が確認されることを根拠として,いじめとは認定しなかった。また,亡Aの自殺といじめの因果関係については,本件寮
において発生した亡Aに対するいじめが亡Aの自殺に直接的な影響を与えたとは認め難いと判断した。
(乙イ1)

被控訴人は,12月に熊本県いじめ調査委員会条例を制定し,同条例に基づき,法30条2項に基づく再調査を行う機関として熊本県いじめ調査委員会(以下県いじめ調査委員会という。
)を設置し,その委員を弁護
士,精神科医,臨床心理士,社会福祉士及び学識経験者の5名に委嘱した。熊本県知事は,学校調査委員会の調査結果につき,県いじめ調査委員会に対して再調査を諮問し,同委員会は,平成29年7月14日,再調査の結果を記載した報告書(甲7の1)を作成した。県委員会は,法におけるいじめの定義を踏まえ,前記出来事(前記
)におけるBの亡Aに対

する行為のうちのa,b,c,d,fに加え,本件Bメッセージの送信について,
いじめに当たると判断した。また,亡Aの自殺といじめの因果
関係については,学校調査委員会が亡Aに対するいじめが亡Aの自殺に直接的な影響を与えたとは認め難いとしたのとは異なって,遺書その他事実を明確化する資料が残されていないこともあり,自殺に至った直接の原因
(きっかけ)は特定できないと判断した。
(甲7の1)
2
事実認定の補足説明
Eの陳述書(乙イ23)や証言には,本件寮においてシメと呼ばれる
ような上級生から下級生に対する指導等はなかったし,その趣旨の寮生の集まりについては,舎監が事前にその開催の予定や内容の報告を受け,事後的に結果の報告を受けていたという趣旨の供述がある。
しかし,Cやその他の当時の寮生は,学校調査委員会による調査に対する回答において,
シメ
と呼ばれる上級生から下級生に対する指導や注意のた

めの集まりがあったことを認める回答をしている(乙イ1・28,34頁,証人C)また,

シメの開催や内容を事前又は事後に舎監に報告する運用につ
いて,報告の主体,相手方,時期,方法等について何らかの取決めがあったことなど,そのような報告が実際に行われていたことをうかがわせる客観的な証拠はなく,舎監が報告の内容を記録した日誌等の存在をうかがわせる証
拠もないことからすれば,Eの前記供述は,裏付けを欠き,採用できない。Bの陳述書(乙ロ13)や本人尋問の結果中には,炊事当番等が部屋ごとの割当てであったことなどを根拠に挙げて,Bから亡Aに対する当番の交代や押付けがあったはずはないとする部分がある。
しかし,そもそも,朝食の準備等の炊事当番については,寮則の規定に反して,部屋ごとにではなく,1年生が3人ずつ日替わりのローテーションで担当していたのであるし,少なくとも弁当当番は,ほとんど専ら亡A及びBを含む4人の1年生が担当していたのであるから,その4人の間で仕事の不公平や押付けといえる事態があった可能性は否定できない。そして,証拠(乙イ6,乙イ10,乙ロ5)によれば,亡Aは,Bが寮の仕事をしないとして不満を持っていた一方,Bは,7月8日のEによる
指導の際の亡Aとの話合いにおいて,
亡Aに対し,
仕事してくれるし好きばいなどと発言していることが認められるところ,上級生や舎監とは異なるBの亡Aとの関係,すなわち,亡AとBが同じ1年生であり,弁当当番等を分担し合う関係にあったことからすると,このBの発言は,Bがその本来分担すべき仕事を亡Aに代わってもらうことによって,Bが負担を
免れていることを反映したものであると考えられる。しかも,証拠(乙イ1・62頁,乙イ6・4頁,8頁・9頁)によれば,当時の3年生の寮生は,亡Aが当番にまじめに取り組んでいた一方,Bが当番に熱心でなく,亡Aに当番を押し付けていると認識していたこと,CもBに対して寮の当番の分担が不公平であるとの不満を抱いていたことが認められ,これらの
点も併せ鑑みると,Bが亡Aに当番を押し付けていた,又は少なくとも,Bが亡Aに比べて少ない仕事しかせず,それによって亡Aの負担が増えていたという事実があったものと推認するのが相当である。
BやCの陳述書(乙ロ12,乙ロ13)には,亡Aが寮の仕事をせず,約束を守らなかったとそろって指摘する部分がある。
しかし,証人Cは,証人尋問において,その陳述書の上記記載の具体的な意味内容について問われたのに対して,
当番を守らなかったというより,その当番中に休養室以外では話したらいけないんですけど当番をする場所でこそこそ話したりしてたということであって,当番自体は亡Aが

結構やっていました。

と証言しているのであり(証人C・18頁),上
記陳述書の作成より前において,BやCが,亡Aとのトラブルの中で,亡Aが朝寝坊をして当番に遅れたことや,廊下は足音を立てて歩かないなどの決まりを守らないことを指摘していたことをうかがわせる証拠はあるものの,亡Aが寮の当番自体に不熱心であるとの指摘をしていたことを認めるに足りる証拠がないこと,前記認定のとおり,Bが7月8日の話合いの際に亡Aに対して,
仕事してくれるし好きばい
と発言していることも併

せ考えると,上記陳述書におけるB及びCの供述は,本件訴訟提起後に,あたかも亡Aが当番自体を怠けていたことが亡AとBらとのトラブルの原因であるかのように印象付けるためにされたものである疑いがあり,採用することができない。
Eの証人尋問における供述中には,寮生の退寮は,保護者が自由に決定で
きることであり,舎監等の本件高校の教職員が容喙できる事柄ではなく,舎監が寮生に対して

寮をやめさせない。などと発言するはずもないという趣

旨を述べる部分がある。
しかし,本件寮の寮則においては,寮生は,原則として,卒業まで在寮するものとされ,
退寮するには,
校長の承諾が必要とされていたのであるから,

建前としても,保護者の意思決定だけで自由に退寮することができる制度にはなっていなかったといえるから,舎監がこれらの寮則の規定を根拠として寮生に対して上記のような趣旨に受け取れる発言をすることがあり得ないとはいえない。
また,実際の運用としても,退寮するには,保護者が数回舎監長と面談す
る必要があって,その際に退寮を謝罪までする保護者もいたのであるから,保護者や寮生の間には,舎監長や舎監に対して退寮を申し出ることが,寮生を家族同然に思い,接して
(乙ロ3)いた舎監らによる寮の運営や寮生活
の意義に対して消極的評価を下すものと受け止められることを心配して,これをためらう意識があったことは否定できないと考えられる。
したがって,Eの前記証言は,寮則の建前の点でも,その運用の点でも,実際とそぐわない面があるといわざるを得ない。
Bの本人尋問やCの証人尋問並びにこれらの者の陳述書(乙ロ12,乙ロ13)には,亡Aとのトラブルのきっかけについて,亡AがBやCの着替え中の上半身の写真や変顔の写真を無断で亡Aの出身中学校の同級生のラインのグループに送信したことであるかのように述べる部分がある。また,
証拠(乙イ9の2,乙イ1・68頁,143頁)によれば,Cは,7月8日のEによる指導の際,Eに対して,4月に入寮したばかりの頃にそのような事実があったことがトラブルの発端であると申告し,その後の学校調査委員会による調査に対しても,同様の回答をしたことがうかがわれる。しかし,亡Aが送信したとされるBやCの上半身や変顔の写真がどの
ようなものであったかを認めるに足りる証拠はなく,そのことをBやCが嫌がっていたことを認めるに足りる客観的な証拠もない。
むしろ,
BとCがEによる指導を受けた7月8日より前に上記送信の事実
を具体的に指摘して問題にした形跡はなく,特にCのいう4月に入寮したばかりの当時は,亡AとB及びCとの関係は良好であって,亡Aは,中学校の
同級生にラインで

同じ出身の友達ができた。楽しい。

という趣旨のメッセージを送信していたことからすると,仮に当時亡AがBやCの写真を出身中学校の同級生のラインのグループに送信したことがあったとしても,それがBやCに対する嫌がらせを目的としたものであったとか,BやCがそれを嫌がっていたと直ちに推認することはできない。

そして,証拠(乙ロ1)によれば,少なくともBは,平成26年1月17日に本件高校の副校長,1年生の学年主任,養護教諭と面談して,亡Aとのトラブルについて聴取された際,亡Aとの仲がこじれた経緯について,平成25年4月末頃に,
亡Aに寮の仕事や寮内での生活態度について注意したが,
素直に受け止めてもらえなかったことから,徐々に不満を持つようになった旨を話し,また,亡Aとのライン上のトラブルに至った経緯について,本件Aメッセージの送信以外に,亡Aが出身中学校の同級生にBやCの写真を送信したとの事実に言及していないことが認められる。
そうすると,BやCは,7月8日より前には,亡Aが自分たちの写真をその出身中学校の同級生のラインのグループに送信することを特段問題としていなかったのに,同日以降,Eや学校調査委員会等に対して亡Aとのトラブ
ルの経緯を説明する中で,それらの写真の送信と,本件Aメッセージ(それには,BやCの写真が掲載,添付されていた形跡はない。
)との区別をあいま
いにして両者を混同させ,あるいは両者が一連のものであるかのように述べることにより,既に4月頃から亡AのB及びCに対する嫌がらせが始まっていたかのように印象付ける意図で前記のような供述をしている疑いがあると
いうべきであるから,これを直ちに採用することができない。
Eの陳述書には,亡Aが7月8日午前中に持参した手紙の内容を亡A以外の生徒たちに最後まで知らせることはなかったとする部分がある。確かに,Eが7月8日の指導の中でBやCに亡Aから申告された嫌がらせ行為について事実確認をするに際し,BやCに対して当日午前中に亡Aから
受領した手紙自体を示した事実を認めるに足りる証拠はない。
しかし,証拠(乙イ9の1・2)によれば,BやCが同日Eから亡Aに対してした行為を書き出すように言われて作成したメモ(乙イ9の1・2)には,

a,c,dの各行為は記載されてい

ないことからすると,同日のB及びCとの面談でこれらの行為が確認できた(乙11,乙イ12。他方,これらの証拠によると,上記手紙に記載されていない同fの行為については,上記面談で確認されなかったことが認められる。もっとも,同fの行為は,7月8日より後にされたものである可能性も否定できない。
)のは,BやCがEに対して亡Aに対してこれらの行為をし
た事実を自発的に申告したのではなく,上記手紙を読んだEから,これらの行為を挙げて事実確認されてこれを認めたものと考えるのが自然であり,これによって,Eは,亡AがBやCに知られることをおそれていた上記手紙の内容を同人らに開示することになったことによるものと考えるのが相当である。
被控訴人は,7月8日のEによる指導の際の話合いにより,亡AがB及びCと真に仲直りをした旨主張し,Bの本人尋問やCの証人尋問における供述
にもそれに沿う部分がある。
しかし,証拠(乙イ10,乙ロ1,乙ロ6)によれば,7月8日の亡AとB及びCとの話合いの際,Bは,冒頭,亡Aに対して,一方的に自己の言い分を述べて,亡Aがまず謝罪するように要求し,Cもこれに同調したのに対して,亡Aは,これに応じず,和解はしない旨を断言し,3人だけでの話合
いに応じたことを後悔するとともに,本件寮を退寮する考えを繰り返し述べながら,それ以上の話合いを拒否する対応に終始したことが認められる。被控訴人は,上記証拠の録音内容が同日の3人の話合いでのやり取りの全部ではなく,
録音部分に続く話合いにより3人が仲直りをした旨主張するが,
上記録音に係るやり取りの後で,いかなる経緯を経て亡AとB及びCとが仲
直りするに至ったのかについて,B及びCは,何ら具体的に供述しない。そして,
亡A,
B及びCの話合いの場に戻ってきたEも,
証人尋問等において,
3人が談笑していたという事実のみをもって3人が仲直りしたものと判断した旨供述するにすぎない。
また,7月8日のEによる指導の後に3人の間で目立ったトラブルがなか
ったとしても,それは,舎監長であるEが,トラブルが続くようであれば自宅通学処分にするとまで述べて,指導をしたために,BやCが表向きは亡Aに対していじめやこれに類する行為に及ばなかったからにすぎないと考えることが可能である。
そして,証拠(乙イ10,乙ロ6)によれば,亡Aが,後日,本件寮に係る悩みを相談していた中学校の同級生に対して上記録音記録のデータを送信し,中学校の他の同級生に対しても退寮希望の心情を吐露していたことが認められるところ,これは,亡AがBやCと真に仲直りしたわけではないことを訴えるためであったと考えられる。
したがって,BやCの前記供述は,採用することができない。
Fの陳述書(乙イ24)には,6月6日に実施されたシグマテストの結果
は,同月下旬以降に始まった亡AとBらとのトラブルとは無関係であると考え,これをEには伝える必要性は感じなかったとする部分がある。しかし,そもそも,Fは,7月上旬にシグマテストの結果の資料を受領した当時,亡Aが死にたいと思うことがあるとの回答をしていたことに気づいていなかったのであるから,当時これをEと共有する必要があるかどう
かの判断をするきっかけすらなかったはずであるし,もしFが,亡Aのそのような回答に気づいていれば,6月14日の亡Aとの面談の際にも亡Aから退寮の意向が示されていたのであるから,その意向と6月6日の受検結果とが関係する可能性を疑うのがむしろ自然であるといえる。
そうすると,6月下旬に始まった亡AとBらのトラブルとシグマテストの
結果との間に関連性がないと考えたというFの供述は,亡Aのシグマテストでの回答を十分確認していなかったことを取り繕うための後付けの理屈であると考えざるを得ない。
証拠(乙イ6・3頁,9頁)によれば,7月8日のEによる指導以降も,夏季休暇に入るまで,本件寮の当番をめぐる亡AとBらとのトラブルは続い
ていたことが認められ,この事実からすると,7月8日のEによる指導の後も,亡AとBらとの間の当番の分担をめぐる問題は,解決されなかったものといえる。
もっとも,亡Aと他の寮生との間にどの程度の当番の不公平があったのかについては,当番の割当てや交代等の記録が証拠として提出されていないこともあり,的確に認定することはできず,当時の寮の当番についての亡Aの負担感や不公平感,それらによる心理的負荷の程度を客観的,具体的に確定することもできないといわざるを得ない。
控訴人甲は,本人尋問において,亡Aが,7月8日のEによる指導後も,Bらが暗に亡Aに関するものであることが分かる悪口を寮生のラインのグループに送信するなど,Bらの亡Aに対するいじめが継続している旨訴えてい
たという趣旨の供述をしている。
確かに,前記認定のとおり,亡AとBらとは7月8日のEによる指導によっても真に仲直りしていなかったこと,亡AとBらとが対立する原因となった当番の不公平等の寮の環境に変化はなかったことに加え,
当時の3年生が,
学校調査委員会による聴き取りに対し,当番をめぐる亡AとBとの対立が夏
季休暇に入るまで続いていたと述べていること(乙イ6・9頁)
,亡Aの父親
の亡Dも,8月28日に自宅を訪れた本件高校の副校長に対して,7月27日から亡Aの様子がおかしくなったとして,ライン上でBらとのトラブルが継続していた疑いを述べていたこと(甲7の1・20頁)
,亡Aの自殺後,C
が亡Aをメンバーとする寮生のラインのグループのアカウントを削除してい
ることなども併せ考えると,Bの亡Aに対するいじめは,7月8日以降も,ライン上でのメッセージのやり取りなどの従前より目立たない形で継続していた可能性も否定できないというべきである。
しかし,当時の亡AやCのラインの通信記録は,いずれも亡A死亡の前後に削除され,証拠として提出されていないから,控訴人甲が供述するEによ
る指導後におけるBの亡Aに対するいじめ行為の内容を的確に認定することはできず,それによる亡Aの心理的負荷の程度を具体的に推し量ることは,困難であるといわざるを得ない。
亡Aは,8月1日のFによる家庭訪問以降,昼夜逆転の生活を送り,部屋に鍵をかけて食事と用便のため以外には部屋から出て来なくなり,同月11日からは,本件高校を退学したいと言い出したことからすると,亡Aは,家庭訪問を境として,うつ状態が進行し,本件寮での生活のみならず,本件高
校への通学に対する意欲も無くしたもののように考えられなくもない。しかし,証拠(乙ロ9)によれば,亡Aは,本件高校に入学する直前の3月の春休みにも,生活が不規則になって昼夜逆転の生活を送っていたことがあることが認められ,家庭訪問後の昼夜逆転の生活の原因が家庭訪問の際の両親とFとの会話内容にあると即断することはできない。また,亡Aが8月
11日以降本件高校を退学したいと言い出したのは,本件寮を退寮できそうにない事態を打開するために,より極端な言動で退寮の意向を強調して訴えようとしたものとも考えられ,この時期に寮生活に対するものとは別に本件高校への通学に不満を持つようになったと考えることもできない。他に1の認定を左右するに足りる証拠はない。

3
争点

(被控訴人には,本件高校の設置者として,亡Aに対する安全配慮義
務違反があったか)について
公立高校の設置者の生徒に対する安全配慮義務
公立高校の在学関係は,入学許可処分によって発生する公法上の法律関係に当たると解されるところ,公立高校の設置者には,この法律関係に基づく付随的義務として,信義則上,学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全の確保に配慮すべき義務があり,生徒の生命,身体,精神,財産等に悪影響ないし危害が及ぶおそれがあるようなときには,そのような悪影響ないし危害の現実化を未然に防止するため,その事
態に応じた適切な措置を講じる一般的な義務があるというべきであって,これには,公立高校の設置者が生徒の通学の必要のためにこれに付設する寮での生活関係における生徒の安全の確保に配慮すべき義務も含まれるというべきである。
そして,公立高校の教職員は,このような公立高校の設置者の安全配慮義務の履行補助者として,学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために,生徒の生命,身体,精神,財産等に悪影響ないし危害が及ぶおそれがあるような場合には,そのような悪影響ないし危害の現実化を未然に防止するため,その事態に応じた適切な措置を講じるべき職務上の義務を負うものと解するのが相当である。

生徒間のいじめに関する公立高校の設置者の安全配慮義務の具体的内容前記認定のとおり,法施行の前後を通じて,
いじめは,被害を受けた児
童生徒の精神的苦痛に着目した概念であって,学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係において,児童生徒の生命,身体,精神,財産等に悪影響が及ぶ事態であるから,学校の教職員は,被害申告等により児童
生徒に対するいじめの発生又はその可能性を認識した場合には,当該児童生徒に対する安全配慮義務の内容として,いじめに係る事実関係をそれが生じる背景事情を含めて確認した上,いじめを行った児童生徒に対する指導等によっていじめをやめさせるだけでなく,いじめが発生する要因を除去し,かつ,いじめの再発防止のための措置を講じるべき義務を負うと解するのが相
当であり,そのような措置が講じられたといえるかどうかは,その当時におけるいじめ対応に関する知見に基づいて判断すべきものと考えられる。基本的方針は,法の施行を受けて平成25年10月11日に決定されたものではあるが,その内容は,それまでのいじめへの対応に関する文部科学省の通達や通知をまとめたものであり,亡AとBらとのトラブルが発生し
た平成25年4月以降において,本件学校の教職員の間においても,あるべきいじめ対応の知見として周知されていたのであるから,上記トラブルに関しても,いじめ対応として適切な措置が講じられたかどうかを判断する基準となるものというべきである。
そして,
いじめが,いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し,その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず,その生命,身体に重大な危険を生じさせるおそれがある(法1条)よう
な深刻な肉体的,精神的苦痛を与えるものであることに鑑みれば,公立学校の教職員がいじめに対してその当時の知見に反した対応をした場合には,その態様や児童生徒に対する影響の程度等により,公立学校の開設者の安全配慮義務違反を構成し,国家賠償法上も違法の評価を受け得るものというべき
である。
Bの行為のいじめ該当性
控訴人らは,Bの亡Aに対する行為のうち,①
のほかに,少なくとも,②

本件Bメッセージの送信

ライングループのアイコンへの亡Aの顔写真の
身体的特徴についての揶揄
(同

b)
,④
及び⑥

お風呂セット隠し(同c)
,⑤

スマートフォンの無断使用(同d)

卒業アルバムへの落書き(同f)は,当時の文部科学省の定義によ
るいじめに該当するから,本件高校の教職員らは,そのような認識の下で適切な措置を講じるべきであったと主張する。
本件は,法施行前の事案であるところ,前記認定のとおり,平成25年7月当時の文部科学省が用いていたいじめの定義は,
当該児童生徒が,一定の人間関係のある者から,心理的,物理的な攻撃を受けたことにより,精神的な苦痛を感じているものというものであった。上記①ないし⑤は,本件寮の同級生であるBが亡Aに対して行った行為であり,亡Aは,7月8日午後1時頃までに,Eに対して,手紙又は面談によ
り,①のほか,②ないし⑤の行為を受けたことを訴えていたのであるから,これらの行為により相応の精神的苦痛を感じたものと認められ,上記⑥は,亡Aが当時まだ認識していなかった可能性もあるが,仮に認識したとすれば精神的苦痛を感じるであろうと推測できるものである。
この点について,被控訴人は,亡AとBらとのトラブルが双方向性のあるけんかの事案であって,
いじめには当たらないと主張する。
前記認定のとおり,上記定義には,
けんか等を除くとの注記がされてい
るところ,上記①ないし⑥の各行為のうち,①は亡Aの行為がきっかけの1つとなって行われたもの,③は亡AとBが相互に行っていたものであり,その限りで,亡AとBらとのトラブルが双方向性を有していたといえなくもない。

しかし,そもそも,被控訴人が児童生徒に対して負う安全配慮義務の対象となるいじめが文部科学省の定義するいじめだけに限定されるものでないことは措くとしても,被控訴人がいう双方向性を有するものがすべて上記注記にいうけんか等に当たると解すべき根拠はなく,
けんか等と
いう概念も,その外延が明確であるとはいえず,双方が暴力で応酬し合うよ
うな日常的な意味での典型的なけんか以外にどのようなものがこれに含まれるのかは,必ずしも明らかとはいえない。
そして,前記認定の事実によれば,平成25年7月当時のいじめの定義やいじめ対応に関する知見においては,いじめ」
該当性の判断については,表面的・形式的にこれを行うのではなく,いじめられた児童生徒の立場に立って行うべきものとされていたのであり,また,いじめの被害を受けた児童生徒が加害側の児童生徒にやり返す場合もあることを当然の前提として,それに目を奪われて対応することの危険性の指摘もされていたところである。亡AとBらとのトラブルにおける亡AのBに対する行為のうち,一見最も攻撃的なもののように見える本件Aメッセージの送信でさえ,Bに宛ててではなく,むしろBに知れるのを避けるために,亡Aの出身中学校の同級生らのラインのグループに宛ててされたのであって,これは,亡A自身がそのような内容のメッセージを直接Bに送信した場合に予想されるBからの攻撃に耐えきれないことをよく分かっていたからであり,だからこそ,亡Aは,予想に反して本件Aメッセージの内容がBに伝わったことを知って,狼狽し,恐怖を感じたものと考えられるのである。したがって,亡AとBらとのトラブルにおける亡AとBの行為に被控訴人のいう「双方向性を有するものが含まれることは否定できないとしても,そのことからBの亡Aに対する行為がいじめに当たらないと即断することは許されないものというべきである。
以上のとおり,前記①ないし⑥の行為が亡Aに相応の精神的苦痛を感じさせるものであるから,前記認定のような当時のいじめの定義に照らして,上記各行為は,いずれも原則としていじめに該当するというべきところ,その中に被控訴人がいう双方向性を有するものがあるとしても,それによって直ちに前記注記にいうけんか等に当たるとすることはできないのであり,他に上記各行為がいじめに当たらないと解すべき根拠もない。したがって,上記各行為は,いずれもいじめに該当すると認めるのが
相当である。
Eの対応の適否について

本件寮の環境と舎監等の職務上の義務について
本件寮は,被控訴人が県下全域から本件高校に進学する生徒の寄宿舎と
して設置したものであること,寮生には,自宅からの距離や経済的な事情のために入寮を必要とされる者もいること,寮生は,日常生活の多くの時間を本件寮で過ごすこと,本件寮の運営に必要な費用は,公費のほか,生徒が平等に納める寮費によって賄われていることなどからすると,本件寮の運営は,公立学校の付属機関であることによる教育的な配慮をしつつ,
寮生に過大な又は合理的な理由もなく不平等な負担をさせたり,一部の寮生が他の寮生の生活を支配したりすることのないように行われるべきである。
ところが,平成25年1学期(4月ないし7月)当時,本件寮には,明文の寮則等とは別に裏寮則が存在し,その内容には,主に1,2年生を対象として,休養室以外の場所で会話をしない,集団行動をしない,廊下等を歩く際に物音や足音を立てない,携帯電話はタオルで隠して使用するなど,その必要性や1,2年生のみを対象とすることの合理性に疑問があるもの,違反の有無が他の寮生の主観によって決まり得るものが含まれていた。
また,裏寮則のために,各種当番については,寮則等の定めと異なって,
大部分が1年生に割り当てられ,その割当てを平等化するための決まりや仕組みも整備されておらず,特に弁当当番については,1年生のうち体育系の部活動に参加しない者がほぼ毎日担当し,他の寮生は,自分の食べた弁当の箱をこれらの1年生に洗わせることで済まされるという,公平性や,健全な教育的配慮の観点からは,疑問があるといわざるを得ない運用
が行われていた。
これらの裏寮則の存在や当番の運用は,それ自体,1年生を中心とする寮生に負担感や不公平感を抱かせ,心理的負荷を与えるものであったと考えられる上に,これらの規則や当番を守れない1年生がいた場合には,連帯責任の原則の下,1年生全員を集めてシメが行われ,違反者が上級生か
ら名指しで指導や注意を受けることもあるため,1年生が互いの行動を注意,監視することにもならざるを得ず,その間にいさかい等のトラブルを生じさせる原因となり得たということができる。
以上のように,平成25年1学期当時の本件寮の環境は,1年生を中心とした下級生に心理的負荷を与えるものであったということができ,これ
らの者の間に,裏寮則の遵守や当番の分担等をめぐる対立関係を生じさせ,いじめを誘発する要因にもなっていたということができる。
そして,このような本件寮の環境の問題は,3年生の寮生の中に規律違反行為に及ぶ者もいたことなどからすると,寮生が寮の自治を通じて自主的に解決,解消することを期待できないものであったというべきであるから,その解決のために,舎監等の教職員による積極的な関与が必要であったといえる。
舎監長であるEやその他の舎監は,裏寮則やシメの存在,当番の運用を知っていたのであり,3年生の規律違反行為も把握していたのであるから,以上のような本件寮の環境における問題点を認識していたということができ,それが1年生を中心とした寮生の心理的負荷となり,その間に対
立関係を生じさせ,いじめを誘発する要因となり得ることも容易に理解し得たものと考えられるから,本件寮の寮生間のトラブルについては,一般の在学関係にも増して,それがいじめに当たる可能性を考慮しながら,その発見に努め,いじめを発見した場合には,その当時のいじめ対応に関する知見に基づいて,適切に対応すべき職務上の義務を負っていたといえ
る。
また,本件寮は,公立高校に付設されて,公費と寮生の納める寮費によって運営され,自宅が遠隔地にある等の理由で自宅や下宿からの通学が困難な生徒のために設けられているのであり,寮生は日常生活のほとんどを寮で送り,保護者は寮生の様子を日常的に観察することが困難なのである
から,
本件寮の開設者としては,
寮生に対する安全配慮義務の一環として,
本件寮が一般に安全で適正に運営されるように努めるだけでなく,個々の寮生を見守り,寮生間のいじめなど特定の寮生が寮生活を継続することを困難とするような深刻な事態が生じた場合には,その保護者がその寮生に寮生活を継続させるかどうかの意思決定を適切に行うことができるよう
に,それに関する情報を的確に保護者に伝えるべき義務があるというべきである。

Eの対応について
前記認定事実によれば,Eは,6月28日(金曜日)に控訴人甲からの電話で本件Bメッセージに関するトラブルの発生を把握し,7月1日(月曜日)には控訴人甲と面談して,亡AとBとの間に対立があること
を認識した上,7月5日(金曜日)には亡Aから事情聴取をし,亡Aが7月6日(土曜日)から7日(日曜日)に帰省した際には,控訴人甲に架電して亡Aの様子を確認するなどして,状況の把握等に努め,7月8日(月曜日)午前中までには,生徒指導主事,副舎監長及びFのほか,教頭にまで,
それまでに得た情報を提供した上,
同日午後1時頃まで
(亡

Aから受け取った同人と控訴人甲の手紙の内容を確認し,亡Aとの当日2回目の面談を終えた時まで)に,更に,ⓐ

Bが,Cの関与の下で,

亡Aに本件Bメッセージを送信したこと,ⓑ

そのきっかけは,亡Aが

出身中学校のラインのグループにBの悪口を含むメッセージを送信したことにある可能性があること,ⓒ
それ以前に,亡Aが,Bから,寮生

のラインのグループのアイコンの写真(アップ画)を無断で自身の顔写真に変更されて,変なグループ名に変更される,悪口を言われる,お風呂セット(洗面用具)を隠される,携帯電話を無断で触られるなどのことをされ,Bと3年間一緒にいることは無理であると考えていること,ⓓ

控訴人甲も,亡AがBの悪口等によって精神的に追い詰められてい
ると感じ,亡Aを退寮させる決意をしたことなどの情報を得たものである。
以上のEの行為は,本件寮の運営に責任を負う舎監長として,寮内で発生した寮生間のトラブルを自分の力で解決しようとする責任感から,関係者からの事情聴取を中心として,情報を収集し,一定の範囲では,
他の教職員とも情報を共有しようとしたものと理解し得る。
しかし,亡Aが7月5日(金曜日)に控訴人甲に送信したメッセージの内容からすると,亡Aは,Bとのトラブルで寮生活を続けることに限界を感じ,退寮するしか解決方法はないと強く思い,
寮をやめたいと
いう気持ちを家族に訴えており,
寮生活やBとのトラブルなどによって,
強い心理的負荷を受けていたということができる。
そして,亡Aが7月5日以降Eに対して直接退寮の意向を表明していたこと,亡Aが同日のEとの面談や同月8日にEに手渡した手紙でBの亡Aに対する行為を具体的に挙げて,3年間Bと一緒に寮生活を送るのは無理と思うと訴えていたこと,控訴人甲もEに宛てた手紙で,亡AがBの悪口等によってどんどん精神的に追いつめられている事がわかりましたと訴えていたことからすると,Eとしては,遅くともこれらの手紙を読んで亡Aにその内容を確認した7月8日(月曜日)午後1時頃までには,亡Aが本件寮の同級生であるBの心理的,物理的行為によって強い心理的負荷を受けていることを認識し得たものといえる。
そうすると,前記認定のような当時のいじめの定義やいじめ対応

に関する知見にも照らせば,本件寮の舎監長として寮生の安全の確保に責任を負い,なおかつ,前記認定のような本件寮の環境を知る立場にあったEとしては,Bの亡Aに対する上記行為が本件寮の環境などに起因するいじめである可能性を考慮して,直ちに亡AとBらとのトラブルを校長にまで報告し,組織として,その原因,経緯,背景事情などに
関する情報を収集・共有した上,
いじめ該当性の判断をし,対応方針
を検討した上,その結果に基づいて行動する必要があったというべきであり,その場合,
いじめ該当性の判断に当たっては,表面的・形式的
にこれを行うのではなく,亡Aの立場に立って行うべきであり,いじめへの対応に当たっては,亡Aに徹底して守り通すことや秘密を守ること
を伝え,できる限り不安を除去するとともに,事態の状況に応じて,複数の教職員の協力の下,亡Aの見守りを行うなどしてその安全を確保すべく行動すべきであったといえる。
ところが,Eは,7月1日(月曜日)の控訴人甲との面談の際,本来Eよりも本件寮の環境や寮生の状況について乏しい情報しか持ち合わせないはずの控訴人甲から,亡AがBの悪口を含む本件Aメッセージを送信したことがBによる本件Bメッセージ送信のきっかけになったという趣旨の話を聞いたことから直ちに,亡AとBのトラブルが双方向性のあるけんかの事案であることが判明したとして,
いじめには
当たらないと判断してしまっており,その判断は,表面的・形式的なものであったといわざるを得ず,亡Aの立場に立ったものであったとはい
い難いものであった。
そして,Eは,7月1日(月曜日)
,事前に控訴人甲から教頭又は生徒
指導主事の同席を希望する旨の申出があったのに,事実関係が明らかになっていないとの理由でこれに応じず,自分と副舎監長とだけで面談することにした上,亡A,B及びCと面談する方針を固めた7月8日(月
曜日)朝になって初めて生徒指導主事,副舎監長のH及び担任であるFに連絡して,亡AとBらとのトラブルがけんかであるという自分の見方や,舎監長である自分が1人で対応するという方針を一方的に伝えたのみで,校長や副校長には報告もしなかったのであり,この時点でも,組織として,上記トラブルに関する情報を収集・共有して,対応方針を決
定することをしていない。
このような経過を経て,Eは,7月8日(月曜日)午前中,亡Aと控訴人甲の手紙を読み,
亡Aが,
具体的なBの亡Aに対する行為を挙げて,
本件Aメッセージ送信の前からBやCから嫌がらせを受けており,Bらと3年間一緒にいるのは無理であるとして,寮生活は続けられないと訴
えていること,控訴人甲がBの悪口等によって亡Aが精神的に追いつめられていると訴えていることを認識し,同日午後1時頃には,亡Aと面談してそれらの手紙の内容を確認したにもかかわらず,その段階において,これらの手紙や亡Aとの面談により新たに明らかになった事実について,
校長はもちろん他の教職員にも報告せず,
組織として,
改めて
いじめ該当性の判断,情報の収集・共有,対応方針の検討をすることもせず,同日朝に生徒指導主事らに報告したとおり,本件がけんかの事案であるとの自己の判断に基づき,自分一人でその後の対応を継続することとしたものである。
そして,同日放課後にEが亡AとBらとのトラブルについてとった対応は,①

B及びCを呼び出し,亡Aに対してしたことと亡Aからされ

たことを書き出すように指示し,個別にその内容を確認した上,B及びCが亡AからEに申告されたB及びCの行為を認めたことから,Eが仲裁して亡Aとのトラブルを解決することを承諾させる,②
亡Aを呼び

出し,B及びCから聴取した内容の事実確認をして,亡AがB及びCに対する行為を認めたことから,Eが仲裁してB及びCとのトラブルを解決することを承諾させる,③

3名に対し,他人の誹謗・中傷をしない

こと,ラインの使い方を考え直すこと,及び今後同様のことが発生した場合は全員を自宅通学の措置とする可能性があることを伝えて指導する,④

3名が話合いをする様子であったため,その場を離れ,20分

後に様子を確認するといったものであった。
その間,Eは,亡Aをいじめの被害者として守り通すのではなく,むしろ,けんかの当事者であると認識し,亡Aが同日午前中にEに手渡し手紙に記載されたBによる行為の内容がBに知れるのを恐れていることを控訴人甲からの電話で事前に認識していたにもかかわらず,Bに対する事実確認のためとしてBに開示してしまい,Bらとの面談を終えた後
の亡Aに対する事実確認においては,Bらが申告した亡Aの行為を認めるか認めないかを端的に答えるように迫り,亡Aがそれ以外の発現をしようとしたのを言い訳であるとして,これに真摯に耳を傾けようとしなかった。
加えて,Bは,本件の対応について,スクールカウンセラー等の専門的知見を有する者に助言を求めたり,複数の教職員による検討をしたりすることなく,仲直りするように一通りの指導をし,それをしない場合
には全員を自宅通学処分にする可能性にも言及しながら,3人だけで話合いをさせ,その結果,B及びCに亡Aに対して謝罪を要求したり,誹謗中傷したりする機会を与え,その終了後は,3人の表情や態度から仲直りが成立したものと判断して,それ以上に3人と個別に面談するなどしてその真意を確認したり,心情を聴取したりすることもしないまま,
その日の指導を終えて,
控訴人甲にも仲直りが成立した旨報告している。
そして,Eは,その後,夏季休暇までの間,亡Aと面談をするなどして,Bらの亡Aに対するいじめが解消したかどうかを確認しなかった。ウ
以上のとおり,Eは,7月8日の指導に際し,亡AとBらとのトラブルにおけるBの亡Aに対するいじめ行為についての対応を,組織としてではなく,ほぼ自分一人で決定して実行し,
いじめ該当性の判断をその被害
者である亡Aの立場に立つことなく,表面的・形式的に行った上で,被害者である亡Aを守り通すというのではなく,
むしろけんかの当事者と見て,
事実確認を亡AのBらに対する加害行為の有無を中心に行い,その背景事
情等については十分聴取せず,亡AがEに限って申告したBらによるいじめ行為の内容について秘密を守らず,Bらに亡Aを更に攻撃する機会を与えるという対応をしたものである。そして,Eは,Bの亡Aに対するいじめが解消したことを確認するのに必要とされる事後の見守り等の手続を履践せずに,7月8日のうちに控訴人甲に対して亡AとBらとのトラブルが
解決したとして,結果的に控訴人甲に対して誤った情報を提供したものである。
このようなEの対応は,当時のいじめの理解やいじめへの対応についての知見に沿わない不適切なものであって,亡Aに対して,重大な精神的苦痛を与えるものであったといわざるを得ず,たとえ,それが寮の問題は寮の関係者で解決するのが基本であるとの舎監長としての一種の責任感から出た行動であったとしても,公立高校の設置者である被控訴人
がその生徒である亡Aに対して負う安全配慮義務に違反するものであったというべきである。
Fの対応について

Eに伝達すべき義務
Fは,6月14日の亡Aとの面談の時点で,亡Aから寮生活の負担感を理由に退寮の意向を示され,その後,同月28日に控訴人甲からの電話で本件Bメッセージが送信された事実を認識した上,7月5日の面談の際には,
亡Aから再び強い退寮の意向を示され,
同月11日頃までに,
本件Bメッセージの送信を中核とする亡AとBらとのトラブルについて
Eから報告を受けていたほか,亡Aの担任教諭として,7月上旬の時点(7月8日との先後関係を含むその具体的な日時は証拠上明らかではない。
)で,亡Aのシグマテストの結果を受領したことにより,亡Aが,シグマテストにおいて,
死んでしまいたいと本当に思うときがある
とい
う項目に該当する旨回答していたことを認識し得たといえる。

以上の事情の下,Fは,上記7月5日の面談以外は,亡AとBらとのトラブルの主たる対応を舎監長であるEに任せていたと認められるところ,亡AとBらのトラブルは,本件寮の寮生の間で生じたものであったこと,亡Aの学級内での言動に何らかの問題がある兆候があったとは認められないことからすれば,Fが,亡AとBらとのトラブルの対応をま
ずは舎監長であるEに任せたこと自体は不適切であるとまではいい難い。
しかし,前記認定のとおり,亡Aは,シグマテストにおいて死んでしまいたいと本当に思うときがあるという項目に該当する旨の回答をしたところ,この項目に該当すると回答したからといって,直ちに亡Aが自殺を企図する具体的なおそれがあるとまではいえないとしても,亡Aは,少なくとも,6月6日の時点で,希死念慮を抱くほどには重大な心理的負荷を抱えていたことがうかがわれるし,5月から6月にかけて亡AとBらとの関係が悪化し,7月8日までには,Bによるいくつかのいじめ行為が発覚していたこと,亡Aが6月14日の時点でも寮生活の負担感を訴えて退寮の意向を示していたことからすれば,Fとしては,
亡Aの抱えていた心理的負荷が,本件寮における当番の負担やBらとのトラブル等,本件寮での生活に起因すると認識し得たものといえる。そして,シグマテストがいじめ等の早期発見のためのものであって,教育相談の資料とするために実施されたものであり,そのことは,シグマテストの効用等に関する説明書の記載からも容易に理解し得ることを
も踏まえれば,上記事実を認識し得たFとしては,亡Aに対する安全配慮義務の一環として,まず,シグマテストの受検結果が上記のとおりであることを確認し,それを受領した後に亡Aと面談するなどして,亡Aの心理的負荷の原因やその程度のほか,7月8日のEによる指導以降もこれが継続しているのかどうか等を把握した上,必要な場合には,専門
家の支援も得て,亡Aの心理的負荷の解消を図るための対応がとられるようにすべき義務を負っていたというべきであり,少なくとも,舎監長として本件寮における亡Aの状況を第一次的に見守るべき義務を負い,その一つとして,現に亡AとBらとのトラブルへの対応を担っていたEに対し,亡Aのシグマテストの受検結果を伝えるべき義務を負っていた
というべきである。
しかるに,Fは,亡Aがシグマテストで上記の回答をしていることを漫然と見過ごし,にこれを伝えなかったから,の上記対応には亡AにE
F
対する安全配慮義務違反があるといえる。
なお,Fは,シグマテストの結果は,6月28日以降の亡AとBらとのトラブルとは無関係であると考えていたとして,それをEに伝えなかったことを正当化しようとするが,それは,そのトラブルの発端が同月
下旬の亡Aの本件Aメッセージの発信であるとの前提に立っているからであって,Fと亡Aとの面談の経緯やシグマテストの受検結果からすれば,そのような前提自体,相当なものとはいい難い。
そして,Eは,その証人尋問において,亡Aが7月5日に控訴人甲に対してもう死にたいというラインのメッセージを送信していたこと
を認識していれば,亡Aが控訴人甲に伝えていた心情が切実なものであって,舎監としても学校としても何らかの対応ができたと思われるという趣旨の証言をしているから,Fが,7月8日(金曜日)の前後にEに対して前記のような回答結果を含む亡Aのシグマテストの受検結果を伝えていれば,同日のEによる指導やその後の面談の要否の判断も異なる
ものになった蓋然性があるといえる。

亡Aの両親に伝達すべき義務
前記認定のとおり,Fは,6月14日以降の亡Aとの面談によって,亡Aが強い退寮の意向を有することを認識していた。

また,Fは,7月上旬の時点で,亡Aがシグマテストの回答結果において死んでしまいたいと本当に思うときがあるという項目に該当する旨の回答のほか,
親は私の気持ちをわかろうとしないという項目等亡A
の両親との関係についても深い悩みのあることがうかがえる回答をしており,教師用個人表(乙イ14の2)の保護者懇談のテーマ(案)の
欄には,亡Aは家族との対話不足を訴えており心配である旨の記載があることを認識し得たものであり,シグマテストの結果利用の手引〔教師用〕(乙イ14の6)には,対話不足を訴える生徒の場合,まず家庭内での対話の習慣を取り戻すような積極的な働きかけを心掛けるようにすべき旨の記載されていたものである。
そして,前記のとおり,本件寮の開設者には,寮生に対する安全配慮義務の一環として,本件寮が一般に安全で適正に運営されるように努めるだ
けでなく,個々の寮生を見守り,寮生間のいじめなど特定の寮生が寮生活を継続することを困難とするような深刻な事態が生じた場合には,その保護者がその寮生に寮生活を継続させるかどうかの意思決定を適切に行うことができるように,それに関する情報を的確に保護者に伝えるべき義務があると解されるところである。

そうすると,その義務の履行補助者であるFには,家庭訪問等の際に,亡Aの両親に対し,かかるシグマテストの回答結果について情報を的確に提供すべき義務があったと認めるのが相当である。
しかるに,Fは,8月1日に実施した家庭訪問において,亡Aに対し,寮に残るのであれば頑張るようにという旨の助言をしたのみで,シグマテ
ストの生徒返却用の個人表(甲5)を控訴人甲に手渡したものの,その具体的な結果を取り上げることもしなかったのであるから,Fの上記対応には亡Aに対する安全配慮義務違反があるといえる。

以上のとおり,Fの対応は,当時のいじめ対応に関する知見の下で,公立高校の設置者である被控訴人がその生徒である亡Aに対して負う安全配慮義務に違反するものであったというべきである。
小括
以上のとおり,E及びFの対応は,当時のいじめ対応に関する知見に反す
るものであって,公立高校の設置者被控訴人が生徒である亡Aに対して負う安全配慮義務に違反するものであり,それが亡Aに対する直接的な行為として行われたという態様やそれによって亡Aが受けた心理的影響の程度等に鑑みれば,国家賠償法上も違法の評価を免れないものというべきである。
4
争点

(被控訴人の安全配慮義務違反と亡Aの自殺との間に相当因果関係は
あるか)について
事実的因果関係について
亡Aは,遺書などを残していないものの,前記のとおり,シグマテストが実施された6月6日の時点で本件寮での生活関係に起因する重大な心理的負荷を抱えていたとうかがわれること,7月8日のEによる指導後も,本件寮における裏寮則やシメの存在,当番の運用等に変更がなく,亡AとBらとの
間に当番の分担等をめぐるトラブルは継続しており,亡Aの心理的負荷の原因となった本件寮の環境に変化はなかったこと,同日のEによる指導後は,B及びCの亡Aに対する加害行為は表向き見られなくなったものの,亡Aは,
B及びCと仲直りはしておらず,B及びCの亡Aに対するいじめは,より目立たない形で継続していた可能性があること,亡Aは,8月1日の家庭訪問
の際に亡Aの両親とFが亡Aに対し夏季休暇の後も本件寮に戻るという前提で話をして以降,心身の状況が変化していること,亡Aは,同月11日に,両親に対し,本件高校を退学したい旨訴えたものの反対され,亡Aが本件寮に戻る2日前に自殺したこと,本件高校への通学そのものや本件寮の問題を除く家族との関係に特段の問題があったことはうかがわれないことなどから
すれば,亡Aは,EやFの対応によって事態が改善しなかったことから,本件寮の環境やB及びCとの確執の下で本件寮での生活を続けたくないという思い,それが教師や家族に理解してもらえず,退寮の見通しが立たないまま,寮に戻って寮生活を継続しなければならないとの思いから,
うつ状態に陥り,
自殺に至った蓋然性が高いといえる。

予見可能性について
上記のとおり,亡Aは,E及びFの不適切対応の結果として,寮生活を継続しなければならないとの不安に追いやられたところ,亡Aの置かれていた客観的状況(本件寮の環境,B及びCとの確執など)は,前記のとおり,亡Aに相当な心理的負荷を生じさせるものであったといえる。
しかし,亡Aが7月8日のEの指導の際に被った精神的苦痛それ自体は,自殺に結びつくようなものであったとまでは認められない。
また,7月8日以降も変わらなかった本件寮における当番の負担等,7月8日以降も継続していた可能性のあるB及びCによるいじめの内容については,いずれも,当番の割当表やラインの通信データなどの客観的な形で記録が残っていないため,それらが自殺を決意するほどの強度の心理的負荷を生
じさせるものであったとまで認定することはできないというほかない。さらに,8月1日以降進行した可能性のある亡Aのうつ状態も,部屋に閉じこもって昼夜逆転の生活を送るようになったこと以外に,その程度をうかがわせる客観的事実を認めることができないところ,亡Aは,本件高校入学直前の春休みにも昼夜逆転の生活を送っていたこと(乙ロ9)からすると,
そのような亡Aの生活状況が当時の同人のうつ状態の程度を直ちに推認させるものとはいえない。
そして,6月6日のシグマテストで死んでしまいたいと本当に思うときがあるという項目に該当する旨の回答をしたという事実は,亡Aの重大な心理的負荷の徴表ではあるが,亡Aがいたクラスにおいても亡Aのほかに2
名の生徒が上記項目に該当する旨回答していることからすれば,このことが直ちに自殺を図る具体的なおそれがあることを予想させるものとまではいい難く,他に,7月8日のEによる指導以降の本件高校や本件寮における亡Aの言動や生活状況からは,自殺の可能性をうかがわせるような特段の注意を要すべき兆候が現れていたということはできない。

むしろ,Eによる指導の後,亡Aには,外形上は元気な様子も見られていたこと,夏季休暇に入った後の教職員と亡Aとの接点は,8月1日にFによる家庭訪問があっただけであり,その時点で亡Aが特に心配な様子であったとは認められないこと,
夏季休暇中の亡Aの生活ぶりや両親とのやり取りは,
本件高校に報告されていなかったことからすれば,EやFその他の本件高校の教職員において,亡Aの自殺を具体的に予見することができたとはいい難い。

小括
以上のとおり,亡Aの自殺についての予見可能性があったとはいえないから,E及びFの不適切な対応による被控訴人の安全配慮義務違反と亡Aの自殺との間の相当因果関係を肯定することはできない。
よって,争点

5
争点

についての控訴人らの主張は理由がない。

(亡Aは,生前,被控訴人の安全配慮義務違反によって精神的苦痛を
被ったか)について
亡Aは,前記のようなE及びFの不適切な対応により,7月8日(月曜日)午後1時頃以降も,亡AとBらとのトラブルがいじめではなく亡Aにも非があるけんかとして処理され,亡Aの重大な心理的負荷の存在がEや亡Aの両親に情報として提供されず,その結果,①

いじめの被害者でありながらBらとの

トラブルの背景事情について真摯に聞いてもらえなかったこと,②
けんかの

当事者としてBらが申告した亡Aの行為の有無を問い詰められたこと,③

じめの被害者としてEに申告したBのいじめ行為の内容をBに開示されたこと,④

けんかの仲直りのためとして3人だけでの話合いをさせられ,結果として
Bらから謝罪を要求され,誹謗中傷されたことによって,精神的苦痛を被ったということができ,これらは,国家賠償法上も保護に値する利益の侵害に当たるということができる。
なお,
このほかの亡Aの精神的苦痛として,及びFの情報提供の不適切によE
って,亡Aを退寮させることを決意していた控訴人甲が翻意し,亡Aが退寮を断念せざるを得ないかもしれないとの心境に追いやられたというものも考えられないではないが,控訴人甲の翻意によって実際に亡Aの寮生活が2学期以降にまで延長されて,
亡Aがそれによる心理的負荷を受けたものではなく,
他方,
2学期以降も寮生活を継続することになって心理的負荷を受けることになるかもしれないとの不安は,国家賠償法上の損害ということはできないから,この点は,他の精神的苦痛に対する慰謝料額の算定に際して考慮すれば足りるとい
うべきである。
したがって,争点

についての控訴人らの主張は,被控訴人の安全配慮義務

違反と上記①ないし④の精神的苦痛との間に因果関係があるとする限度で,理由がある。
6
争点

(被控訴人が賠償すべき損害の額はいくらか)について

亡Aの死亡による精神的苦痛に対する慰謝料の請求について
被控訴人の安全配慮義務違反と亡Aの死亡との間に相当因果関係が認められないことは,前記説示のとおりであるから,控訴人らは,亡Aの死亡による損害を被控訴人に請求することはできない。
亡Aの生前の精神的苦痛に対する慰謝料の請求について


慰謝料額について
Bの亡Aに対するいじめ行為には,被控訴人による本件寮の運営上の問題が背景としてあり,そのことを被控訴人としても認識し得る状況にあったこと,その上で,7月8日の指導の際のEやFの対応には,
いじめ

該当性の判断やいじめの対応に関して基本的な事項に反する点が多々あり,その落ち度が大きいこと,その結果,亡Aは,いじめの被害者ではなく,けんかの当事者として扱われ,いじめ被害の対応に関する教職員との信頼関係を損なわれたこと,Bらとの対立の背景事情となった本件寮の環境に変化はなく,心理的負荷の大きい寮生活を継続せざるを得ないとの心
理状態に追いやられたことなどを考慮すると,E及びFの不適切対応によって亡Aが被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は,200万円が相当というべきである。

過失相殺の可否について
前記認定のとおり,E及びFの不適切対応による被控訴人の安全配慮義務違反によって亡Aに生じた損害といえる精神的苦痛は,いずれも,7月8日のEによる指導の際における不適切対応によるものであるところ,亡
Aや控訴人甲が手紙等によってBのいじめ行為に関する情報を提供していたことからすれば,Eが上記不適切対応をしたことについて,亡Aやその両親の側に落ち度があったということはできない。
もっとも,控訴人甲は,Eに対し,7月5日に亡Aから受信したメッセージにもう死にたいとの文言が含まれていることを伝えた形跡はない
が,そもそも,Eが控訴人甲からそのような情報を得ていなかったからといって,その後のあるべきEの対応が異なるものになったと考えることはできない。また,控訴人甲が上記文言を文字どおりに理解して学校側に伝えることに躊躇を覚えたとしても無理がないといわざるを得ない一方,控訴人甲は,7月7日にEに宛てて書いた手紙の中で亡AがBの悪口等によ
って相当追いつめられた心理状態にあると説明していたのであり,本件高校は,より客観性,科学性のある情報として,亡Aがシグマテストで死んでしまいたいと本当に思うときがあるに該当するとの回答をしたとの情報を得ていた上,EやFには,夏季休暇に入るまでに,亡Aの寮生活を日常的に観察したり,個別面談でその心情を把握したりする機会があった
のであるから,控訴人甲が亡Aから受信した上記メッセージ中の上記文言をそのままEに伝えなかったからといって,そのことを過失相殺の理由とするのは相当でない。

損害の填補の成否について
Gによる死亡見舞金について
控訴人甲は,Gより死亡見舞金として2800万円の支給を受けているところ,学校の設置者が国家賠償法による損害賠償の責めに任ずる場合において,免責の特約を付したスポーツ振興センター法16条1項の災害共済給付契約に基づきGが災害共済給付を行ったときは,同一の事由については,当該学校の設置者は,その価額の限度においてその損害賠償の責めを免れるものとされている(スポーツ振興センター法31条
1項)

しかし,前記慰謝料は,被控訴人の安全配慮義務違反により亡Aがその生前に被った精神的苦痛に対するものであって,これと上記死亡見舞金の支給の原因となった亡Aの死亡による損害との間に同一の事由の関係があるということはできない。

したがって,控訴人甲に対して支給された死亡見舞金をもって前記慰謝料を填補するものとしてその額を控除することはできない。
Bによる損害賠償金の支払について
被控訴人は,Bが原判決において支払を命じられた慰謝料10万円を支払ったことにより,被控訴人の安全配慮義務違反を理由とする亡Aの
生前の精神的苦痛に対する慰謝料が填補されたことになると主張する。しかし,記録によれば,Bが原判決において支払を命じられた慰謝料は,Bの亡Aに対する個別のいじめ行為(具体的には,本件Bメッセージの送信と卒業アルバムへの落書き)によって亡Aが被った精神的苦痛に対するものであって,それらのいじめ行為に対する7月8日以降のE
やFの不適切対応によって亡Aが被った精神的苦痛に対するものではないことが認められるから,前者の精神的苦痛に対する損害賠償としての上記慰謝料の支払をもって,後者の精神的苦痛に対する慰謝料の支払があったとみることはできない。

各控訴人による慰謝料請求権の相続
以上によれば,控訴人らが亡A及び亡Dを相続した結果,控訴人甲は亡Aが被控訴人に対して取得した200万円の慰謝料請求権のうち元本150万円(=200万円×3/4)の部分を,控訴人乙及び丙は,上記請求権のうち元本各25万円(200万円×1/8)の部分をそれぞれ取得したこととなる。
弁護士費用相当損害金請求について

控訴人らは,弁護士を訴訟代理人に選任して本件訴訟を追行しているところ,本件事案の内容,審理経過,請求認容額等に照らし,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害の額は,控訴人甲につき15万円,控訴人乙及び丙につき各2万5000円と認めるのが相当である。
小括

よって,被控訴人が亡Aの生前の精神的苦痛に対する損害賠償金として控訴人らに支払うべき額は,
控訴人甲につき165万円
(=150万円+15万
円)
,控訴人乙及び丙につき各27万5000円(=25万円+2万5000円)とな
第4

結論
以上によれば,控訴人らの主位的請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であって,控訴人らの控訴はいずれも理由がないから,これを棄却すべきであるが,控訴人らの当審における予備的請求のうち,控訴人甲において損害賠償金165万円及びこれに対する違法行為後の日である平成25年8月1
7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分,控訴人乙及び丙においてそれぞれ損害賠償金27万5000円及びこれに対する同日から各支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから,その限度でこれらを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。

よって,主文のとおり判決する(なお,控訴人らの仮執行宣言の申立ては相当でないから,これを却下する。。

福岡高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

矢尾
裁判官

佐藤渉拓海
裁判官村上典子は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官

矢尾渉
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