事件番号 | 平成30(行ウ)11 |
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事件名 | 政務活動費返還履行請求事件 |
裁判年月日 | 令和2年6月25日 |
裁判所名・部 | 札幌地方裁判所 |
判示事項の要旨 | 北海道の住民である原告が,被告補助参加人らが,平成28年度に北海道から交付を受けた政務活動費に関して,地方自治法及び北海道議会の会派及び議員の政務活動費に関する条例に反する違法な支出をしたと主張し,被告に対して,その返還を被告補助参加人らに請求するよう求める住民訴訟につき,同条例に反する支出があるなどとして,原告の請求が一部認容された事例。 |
裁判日:西暦 | 2020-06-25 |
情報公開日 | 2020-08-25 18:00:21 |
1被告は,自民党道民会議に対し,1661万7612円を北海道に支払うよう請求せよ。 2被告は,民主道民連合に対し,533万6397円を北海道に支払うよう請求せよ。 3原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4訴訟費用(補助参加によって生じた費用を除く。 )は,これを5分し,その3を 原告の負担とし,その余を被告の負担とする。被告補助参加人自民党道民会議の補助参加によって生じた訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の負担とし, その余を同被告補助参加人の負担とする。被告補助参加人民主道民連合の補助参加によって生じた訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の負担とし,その余を同被告補助参加人の負担とする。 事実及び理由 第1請求 1被告は,自民党道民会議に対し,4320万5184円を北海道に支払うよう請求せよ。 2被告は,民主道民連合に対し,1371万4032円を北海道に支払うよう請求せよ。 第2事案の概要 本件は,原告が,北海道議会の会派である被告補助参加人ら(以下,単に補助参加人らという。)が平成28年度に北海道から交付を受けた政務活動費に 関して,自民党道民会議については4320万5184円,民主道民連合については1371万4032円をそれぞれ地方自治法(以下法という。)100条 14項及び北海道議会の会派及び議員の政務活動費に関する条例(以下本件条例という。)に反して違法に支出したと主張し,北海道に対して,法242条の2第1項4号本文に基づき,補助参加人らに対して上記金額の返還を請求するよう求める事案である。 1関係法令等の定め 本件に関係する法令等には,以下の旨の定めがある。 (1)法100条 ア 普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として, その議会における 会派又は議員に対し,政務活動費を交付することができる。この場合において,当該政務活動費の交付の対象,額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は,条例で定めなければならない。(14 項) イ 14項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は, 条例の定めるところ により, 当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。 (15項) ウ 議長は,14項の政務活動費については,その使途の透明性の確保に努めるものとする。 (16項) (2)本件条例(乙1) ア 趣旨(1条) この条例は,法100条14項から16項までの規定に基づき,北海道議会議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として,北海道議会における会派及び議員に対する政務活動費の交付に関し必要な事項 を定めるものとする。 イ 政務活動費を充てることができる経費の範囲(2条) 政務活動費は,会派及び議員が実施する調査研究,研修,広聴広報,要請陳情, 住民相談, 各種会議への参加等, 道政の課題及び道民の意思を把握し, 道政に反映させる活動その他の住民福祉の増進を図るために必要な活動に要する経費に対して交付する。 (1項) 政務活動費は,会派にあっては別表第1に,議員にあっては別表第2に定める政務活動に要する経費に充てることができるものとする。 (2項) ウ 政務活動費の返納(11条) 会派の代表者又は議員は, その年度において交付を受けた政務活動費の総 額から, 当該会派又は議員がその年度において行った政務活動費による支出 (2条に規定する政務活動費を充てることができる経費の範囲に従って行った支出をいう。 )の総額を控除して残余がある場合,当該残余の額に相当 する額の政務活動費を返納しなければならない。 エ 別表第1(2条関係〔ただし,調査研究費及び人件費に係る記載部分に限る。) 〕 会派に係る政務活動に要する経費 経費 内容 調査研究費 会派(所属議員を含む。以下同じ。 )が行う道の事 務,地方行財政等に関する調査研究(視察を含む。 ) 及び調査委託に要する経費 人件費 会派が行う活動を補助する職員を雇用する経費 (3)北海道議会の会派及び議員の政務活動費に関する規程(以下本件規程という。(乙2) ) ア 運用方針(2条) 議長は, 本件条例2条に規定する政務活動費を充てることができる経費に 関し,運用方針を定めるものとする。 (1項) 会派及び議員は,政務活動費の支出に当たっては,2条1項の運用方針を尊重しなければならない。 (2項) イ 証拠書類等の整理保管(8条) 会派の政務活動費経理責任者及び議員は,政務活動費の支出について,会計帳簿を調製し, その内訳を明確にするとともに, 証拠書類等を整理保管し, これらの書類を当該政務活動費の収支報告書の提出期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない。 (4)本件運用方針(甲3) 北海道議会議長が,本件規程2条1項に基づいて定めた政務活動費の経費の範囲等に関する運用方針(以下本件運用方針という。 )は,平成25年 3月に発行された政務活動費の手引~実務・留意事項等~に記載されている。 本件運用方針は,政務活動費の取扱いの適正を期するため,経費の範囲の取扱い等について必要な事項を定めることを目的とし, 会派及び議員が行う政務活動は,会派及び議員の自発的な意志に基づいて行われるものであることから,政務活動費は,経費の範囲に基づき社会通念上妥当な範囲であることを前提とした上で,会派及び議員が行う政務活動に要した費用について実費弁償することを原則とする。(第2実費弁償の原則) , 「政務活動費の充当の範囲は,政務活動に直接必要とする経費に限られ,会派及び議員の資産形成につながるものには充当することができない。(第3」 充当の範囲)会派及び議員の活,動は,政務活動と政党活動又は後援会活動等が混在する場合もあることから,会派及び議員が政務活動費を充当するに当たっては,活動実態や使用実態に応じた合理的割合で按分するものとする。ただし,合理的に区分することが困難な場合は,活動等の実態を踏まえ別に掲げる按分率を上限として,適切に按分するものとする。(第4 按分による充当)と定める。 また, 調査委託費の範囲の運用について, 業務委託を行った場合は,活動記録を整理するものとし,契約書,成果物などにより実績確認するものと定めるほか, 活動の実態により明確に区分することができない場合の按分率の 上限について,政務活動と後援会活動とが混在する場合については2分の1,政務活動と後援会活動及び政党活動とが混在する場合については3分の1と定めている。 2前提事実(証拠等を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。) (1)当事者及び補助参加人らについて ア イ 原告は,北海道の住民である。 被告は,普通地方公共団体である北海道の執行機関である。 ウ 自民党道民会議は,北海道議会内で同一の行動をとるために,自由民主党(以下 自民党 という。に所属する北海道議会議員を中心に構成された会 ) 派である。 エ 民主道民連合は, 北海道議会内で同一の行動をとるために, 民進党 (当時) に所属する北海道議会議員を中心に構成された会派である。 (2)補助参加人らに対する政務活動費の交付 北海道は,法100条14項に基づき,平成28年度の政務活動費として,自民党道民会議に対して6110万円,民主道民連合に対して3120万円を交付した(甲2) (3)補助参加人らの支出及び政務活動費への充当 ア 自民党道民会議は, 平成28年4月1日, 自由民主党北海道支部連合会 (以 下自民党道連という。 )との間で,自民党道民会議の道政調査に係る事務 等の補助業務を自民党道連に委託する契約(以下本件契約1という。)を 締結し,同年度において,委託費1440万円を自民党道連に支払って,振込手数料を加えた1440万5184円を調査研究費に計上し(以下,この支払を本件支出1という。,その全額に政務活動費を充当した。 ) (丙自1 2,13) イ 自民党道民会議は,平成28年4月1日,自民党道連との間で,自民党道連の職員の派遣に関する委託契約(以下本件契約2という。 )を締結し, 自民党道連は,A,B,C,D,E及びFを,自民党道民会議に派遣した。 自民党道民会議は,同年度において,本件契約2に基づき,人件費の名目で合計2880万円を自民党道連に支払い (以下, この支払を 本件支出2 という。,その全額に政務活動費を充当した。 ) (丙自1~7,12) ウ 民主道民連合は,平成28年度において,委託費300万円を特定非営 利活動法人北海道地域政策調査会 (以下 北海道地域政策調査会 という。 ) に支払って,振込手数料を加算した300万1728円を調査研究費に計上し,その全額に政務活動費を充当した。上記300万1728円の支払の内訳は以下のとおりである。 (ア)民主道民連合は,平成28年5月12日付けで,北海道地域政策調査会との間で, TPP問題と北海道農業についての政策資料の策定に関する業 務委託契約(以下本件契約3という。 )を締結し,同年度において,委 託費80万円を支払い,この支払に係る振込手数料432円を負担した(以下,この支払及び振込手数料の負担を本件支出3という。。 )(丙民 6,15) (イ)民主道民連合は,平成28年6月27日付けで,北海道地域政策調査会との間で,北海道の生涯学習(教育)の在り方についての政策資料の策定 に関する業務委託契約(以下本件契約4という。 )を締結し,同年度に おいて,委託費70万円を支払い,この支払に係る振込手数料432円を負担した (以下, この支出及び振込手数料の負担を 本件支出4 という。。 ) (丙民7,15) (ウ)民主道民連合は,平成28年6月27日付けで,北海道地域政策調査会 との間で, 北海道の空港の民営化についての政策資料の策定に関する業務 委託契約(以下本件契約5という。 )を締結し,同年度において,委託 費80万円を支払い,この支払に係る振込手数料432円を負担した(以下,この支払及び振込手数料の負担を本件支出5という。。 )(丙民8, 15) (エ)民主道民連合は,平成28年6月27日付けで,北海道地域政策調査会との間で,男女平等参画社会の更なる前進についての政策資料の策定に関する業務委託契約(以下本件契約6という。 )を締結し,同年度におい て,委託費70万円を支払い,この支払に係る振込手数料432円を負担した(以下,この支払及び振込手数料の負担を本件支出6という。。) (丙民9,15) エ(ア)民主道民連合は,平成28年4月1日,Gとの間で雇用契約(以下本件契約7という。)を締結し,同年度において,466万9338円を人 件費の名目でGに支払うなどし (以下, この支払を 本件支出7 という。, ) その全額に政務活動費を充当した。 (丙民2,15,19) (イ)また,民主道民連合は,平成28年4月1日,民進党北海道総支部連合 会(当時の名称は民主党北海道総支部連合会 。以下,名称変更の前後を 問わず民進党北海道という。 )との間で,民進党北海道の職員であるH 及びIの派遣を受ける旨の各職員派遣協定を締結し,同年度において,合計1381万5132円のうち690万円を人件費の名目で民進党北海道に支払うなどし,その全額に政務活動費を充当した(以下,上記690 万円の支払を本件支出8といい,本件支出1から本件支出7と併せて本件各支出という。。 )(丙民3,4,15,19) (4)監査請求 原告は,平成30年1月29日,北海道監査委員に対し,法242条1項に基づいて,本件各支出が違法又は不当な公金の支出であると主張して,本件各 支出相当額の返還を求めるなどの損害を填補するために必要な措置を講ずるよう監査請求したところ,同委員は,原告に対し,同年3月28日付けで同監査請求を棄却する旨の通知を行った。 (甲2) (5)本件訴えの提起 原告は,平成30年4月26日,本件訴えを提起した。 (顕著な事実) 3争点及びこれに対する当事者の主張 (原告の主張) (1)本件支出1について 自民党道連が,本件契約1に基づいて行った業務には,政策集の作成業務,道政世論調査の実施及び団体政策懇談会の開催といった政党活動が混在している。そして,自民党道連が,本件契約1に基づいて行った業務のうち,これらの政党活動とそれ以外の政務活動を区分することは困難である。そうすると,本件支出1(1440万5184円)の全部又は少なくともその2分の1を超える額に対する政務活動費の充当は,本件条例に反し違法である。(2)本件支出2について 自民党道連が本件契約2に基づいて自民党道民会議に派遣したA,B,C, D,E及びFが行った業務には,政務活動のみならず政策集の作成,道政世論調査の実施,団体政策懇談会の開催,訴訟対応,選挙活動などの政党活動が含まれている。そして,これらの政党活動とそれ以外の政務活動を区分することは困難である。そうすると,本件支出2(2880万円)の全部又は少なくともその2分の1を超える額に対する政務活動費の充当は, 本件条例に反し違法 である。 (3)本件支出3から6までについて 北海道地域政策調査会は,その役員8名のうち6名が民進党北海道に所属していた元道議会議員であることからすれば,同会は,民進党北海道の党勢を拡大するための団体である。また,同会が,本件契約3から6に基づいて作成し た資料は, 民主道民連合との契約とは関係なく実施されたシンポジウムの資料であったり, インターネットから無償で入手できる調査結果をもとに作成した ものにすぎないし, 本件契約3から6の委託金額の算定根拠について客観的な 資料もない。これらの事情を考慮すると,本件支出3から6(合計300万1728円)は,民進党北海道の党勢拡大の費用として支出されたものであるか ら, これらに対して政務活動費を充当することは, 本件条例に反し違法である。 (4)本件支出7及び8について Gは,政策懇親会の開催などの政党活動を行っている。そして,Gが行った業務のうち,政党活動と政務活動を区分することは困難である。そうすると,本件支出7(466万9338円)の全部又は少なくともその2分の1を超える額に対する政務活動費の充当は, 本件条例に反し違法である。 (なお, 本件支 出8については,民主道民連合が,HとIの人件費の2分の1に限り政務活動費を充当したことが,本件訴訟を通じて確認されたため,違法であることを積極的には主張しない。 ) (被告の主張) 原告の本件各支出の全部又は少なくともその2分の1に対する政務活動費の 充当が本件条例に反し違法であるとの主張は争う。 (自民党道民会議の主張) (1)本件支出1について 自民党道連が本件契約1に基づいて行った業務は,いずれも自民党道民会議の議会活動を離れた活動や自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究 活動との間に合理的関連性が認められない行為ではなく,自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究である。そのため,本件支出1は,本件条例・別表第1の会派が行う道の事務,地方行財政等に関する調査研究及び調査委託に要する経費として会派に係る政務活動に要する経費に該当し,これに政務活動を充当することは適法である。 (2)本件支出2について A及びBが従事した業務の一部には,政党活動の要素を有する業務があったともいえるため,政党活動の要素を有する業務については,その業務に従事した時間の2分の1(Aについては80時間分,Bについては210時間分)について,政務活動費を充当していない。そして,A及びBが従事したその余の 業務は, いずれも自民党道民会議の議会活動を離れた活動や自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められない行為ではなく,自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究である。C,D,E及びFが従事した業務は,いずれも自民党道民会議の議会活動を離れた活動や自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められない行為ではなく,自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究である。 そのため,本件支出2は,本件条例・別表第1の会派が行う道の事務,地方行財政等に関する調査研究及び調査委託に要する経費として会派に係る政務活動に要する経費に該当し,これに政務活動費を充当することは適法である。 (民主道民連合の主張) (1)本件支出3から6までについて 本件契約3から6は, 北海道地域政策調査会の設立目的や活動内容及び業務 委託の内容に照らせば, いずれも民主道民連合の議会活動を離れた活動の委託 や民主道民連合の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性 が認められない行為の委託ではなく,民主道民連合の議会活動の基礎となる調査研究の委託である。そのため,本件支出3から6は,本件条例・別表第1の会派が行う道の事務,地方行財政等に関する調査研究及び調査委託に要する経費として会派に係る政務活動に要する経費に該当し,これらに政務活動費を充当することは適法である。 また,原告は本件契約3から6の委託料が適正ではない旨主張するが,本件契約3から6に基づいて北海道地域政策調査会が作成した資料は,調査の成果として十分な価値を有していることからすれば,本件契約3から6の委託料は適正な金額である。 (2)本件支出7及び8について G,H及びIが従事した業務には,政党活動は含まれていない。そのため,これら3名が行った業務は,いずれも民主道民連合の議会活動を離れた活動や民主道民連合の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められない行為ではなく,民主道民連合の議会活動の基礎となる調査研究である。そして,H及びIについては,その人件費を2分の1の割合で按分した額に限り,政務活動費を充当している。 以上によれば,本件支出7及び8は,本件条例・別表第1の会派が行う道の事務,地方行財政等に関する調査研究及び調査委託に要する経費として 会派に係る政務活動に要する経費に該当し,これらに政務活動費を充当することは適法である。 第3当裁判所の判断 1政務活動費を充当できる経費の範囲の判断枠組み等について (1)判断枠組みについて 法100条14項から16項が規定する政務活動費の制度の趣旨は,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究その他の活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究費用等の助成を制度化し,併せてそ の使途の透明性を確保しようとしたことにある。そして,同条14項後段が,政務活動費の交付の対象,額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は,条例で定めなければならないと規定する趣旨は,同条が定める政務活動費の交付の対象その他の具体的な定めについて,各地方公共団体の実情に応じた運用を図る点にある。そうすると,同条14項後段に基 づき制定された本件条例の別表第1の会派に係る政務活動に要する経費とは, 会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動及びその委託に要する経費をいうものであり, 会派としての議会活動を離れた活動に関する経費又は 当該行為の客観的な目的や性質に照らして会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性が認められない行為に関する経費は, これに該当しないものというべきである(最高裁判所平成25年1月25日第二小法廷判決・裁判集民事243号11頁参照) 。 そして,本件条例は,政務活動費について経費に充てることができる範囲を規定し (2条2項)会派は, , 交付を受けた政務活動費に残余がある場合には, これを北海道に返納しなければならないと規定している(11条)。このよう に,政務活動費は,使途を限定して交付される公金であり,残余がある場合にはこれを返納しなければならないことに鑑みれば,本件条例に基づき政務活動費の交付を受けた会派が,本件条例に違反して,当該年度において交付を受けた政務活動費を経費に充当した場合には,当該会派は,本件条例に違反して会派の経費に充当した政務活動費相当額について,北海道に対する不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。 また,本件運用方針は,北海道議会の議長が作成したものであるから,法規範性を有してはいないものの,本件条例の施行に関し必要な事項を定める本件規程2条1項に基づき,経費の範囲の取扱い等について必要な事項を定めることを目的として, 充当の範囲や政務活動と他の活動が混在する場合の按分の方 法などについての原則的な考え方を定めたものであり,会派及び議員は政務活 動費の支出に当たっては本件運用方針を尊重しなければならない(本件規程2条2項)ことなどからすると,経費に対する政務活動費の充当の適法性を判断するに当たって,参考とされるべきものであると解される。 (2)立証責任等について 一般に不当利得返還請求訴訟においては,不当利得の返還を請求する者にお いて, 利得者が法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受けた者であることについての主張・立証をすべきであると解される(最高裁昭和59年12月21日第二小法廷判決・裁判集民事143号503頁参照)ところ,これは, 怠る事実に係る相手方に不当利得の返還請求をすべき措置を当該普通地方公共団体の執行機関に対して求める住民訴訟においても当てはまる。した がって,原告は,補助参加人らが,本件条例に違反して政務調査費を会派の経費に充当したことによって,法律上の原因なく利得を保持していることについて立証責任を負う。 しかし,原告は,政務活動費の経費への充当に関与しておらず,それについての一般的, 外形的な事実を超えた具体的な事情を把握することは困難である 一方,本件規程8条が,補助参加人らの政務活動費経理責任者に対し,会計帳簿を調製し,その内訳を明確にするとともに,証拠書類を整理し,保管する義務を規定していることからすれば,補助参加人らが,これらの書類を提出することにより, 本件各支出に対して政務活動費を充当したことが本件条例に違反 していないことを説明することは比較的容易である。また,前記のとおり,政務活動費の使途の透明性の確保も政務活動費の制度趣旨に含まれていること からすれば,一定の場合には,会派に政務活動費の使途について説明を求めることが,同趣旨に適うともいうことができる。 そうすると,本件において,原告が,補助参加人らの本件各支出に対する政務活動費の充当の全部又は一部が本件条例に違反していることを裏付ける一般的,外形的な事実の存在を立証した場合には,補助参加人らにおいて適切な 反証をしない限り, 補助参加人らによる本件各支出に対する政務活動費の充当 の全部又は一部は, 本件条例に反する違法な充当であると推認されるとするの が相当である。 (3)政務活動費を充当した経費に関する活動に,政務活動費を充当することができない行為の要素が混在する場合の按分について ア 前記(1)で説示したとおり,本件条例の別表第1の会派に係る政務活動に要する経費とは,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動及び調査その他の活動の委託に要する経費をいい, 会派としての議会活動を離 れた活動に関する経費又は会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性が認められない行為に関する経費はこれに該当しない。もっとも,政務活動費を充当した経費に関する活動に,政務活動費を充当することができない行為の要素が混在することがあり得る(現に,本件運用方針第4も, 政務活動と政務活動費を充当することができない行為が 混在することがあり得ることを前提としている。。特に,政党やその所属議) 員の政治的支持の拡大を目的とするいわゆる政党活動は,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性があるとは認められないものの,本件条例2条1項の政務活動との関係においては,政治 上の主義主張を推進するという点で表裏一体ともいえる場合があって,このような場合,1つの活動が政務活動及び政党活動の両要素を兼ね備えることとなり,これらを明確に区分することは困難である。 イ この点について,本件運用方針は,政務活動と政党活動又は後援会活動等が混在し, かつ活動実態や使用実態に応じてこれらを合理的に区分すること が困難な活動の経費について, 政務活動費を充当することができる具体的な 按分率を示している。これは,本件条例が定める範囲を超えて政務活動費を経費に充てることができないことを踏まえて,社会通念に従って,相当な按分率を示したものと解され,このような取扱いは,前記の政務活動費の制度 の趣旨及び性質に照らして合理的なものであり,法及び本件条例に沿うものといえる。もっとも,本件運用方針も,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動の要素と政務活動費を充当することができない行為の要素が混在し, かつ活動実態や使用実態に応じてこれらを合理的に区分すること が困難な活動の経費への政務活動費の充当についての取扱いの全てを示し ているわけではない(少なくとも,政務活動と政党活動のみが混在する活動についての按分率は示されていない。。 ) そこで, 会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動の要素と政務 活動費を充当することができない行為の要素が混在し, かつ活動実態や使用 実態に応じてこれらを合理的に区分することが困難な活動の経費について は,本件運用方針を踏まえた上で,社会通念に従い相当な按分率を定めて,政務活動費を充当できる範囲を認定するのが相当であり, この範囲を超えて 政務活動費を充当することは, 本件条例に反するものとして違法とすべきで ある。そして,会派は,当該按分率を超えて政務活動費を経費に充当した場合には,北海道に対して,当該按分率を超えて経費に充当した政務活動費相当額の不当利得返還義務を負うと解すべきである。 よって,以下,本件各支出により行われた行為に,政務活動費を充当する ことができない行為が含まれていないか,また会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動の要素を有するとしても,同時に政務活動費を充当することができない行為の要素をも有する場合であって,政務活動費の経費への充当を按分した範囲に限り適法とすべきかを検討する。 2本件支出1について (1)後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。ア 自民党道連の概要 自民党道連は,国政政党である自由民主党の地方組織であり,道内にある自由民主党の支部の連合体として,政策立案,宣伝,選挙活動等を行っている。自民党道民会議と自民党道連は,それぞれ独立して活動することを基本 としながらも, 地域や団体の要望把握など両者にとって必要となる活動につ いては共同して行っていた。 (丙自24) イ 本件契約1の内容 本件契約1の内容は,各種資料・文書の作成等補助業務,各種会議等の開催補助業務,情報発信作業補助業務,その他道政調査活動に必要な事務作業 に係る補助業務を,自民党道民会議が自民党道連に委託するものであった。(丙自13) ウ 本件契約1に基づく具体的な業務の履行内容 (ア)自民党道連は,自民党道民会議に対し,本件契約1の履行として,①政 策集果たすべき責任 (以下本件政策集という。 )の作成,②月例道 政世論調査の実施,③北海道議会で行われる代表質問の作成補助,④団体政策懇談会の開催,⑤台風等被害現地調査の実施,⑥自民党道民会議の議員の北海道議会で行われた質問状況について,自民党道連のウェブサイトに掲載,⑦経費・給与・年金等の計算の補助業務などを行った。(丙自14 ~19〔枝番含む。以下同じ。,弁論の全趣旨〔補助参加人ら第1準備書〕 面・8~9頁〕 ) (イ)本件政策集は, 自民党道民会議の政策審議委員会と自民党道連の政務調 査会での合同会議を経て,自民党道民会議と自民党道連の共同名義で発行されている。本件政策集は,北海道議会議員,団体政策懇談会に出席した団体及び自民党の党員などの希望に応じて,自民党道連から送付して配布された。 (丙自14,24,証人A〔14頁〕 ) (ウ)月例道政調査は,質問事項として,回答者の年齢や性別,道政への要望課題を問うもののほかに, 「あなたは今,道議会のなかでどの政党に期待しますか。」 という問いがあり,これに対する回答の選択肢として,自民党,民進党,公明党,共産党などの政党が挙げられていた。(丙自15) (エ)団体政策懇談会は,年に1回,自民党道連の役員を含む北海道議会の議 員が出席して,全道規模で組織された団体などから要望を聴取したり,意見の交換を行うために実施するものである。そして,自民党道民会議は,同会の結果を基に,北海道議会で行われる代表質問や衆参両議院の議長や各省大臣などに提出する意見書を作成していた。団体政策懇談会は,自民党道民会議と自民党道連との共催であった。 (丙自17,24,証人A〔6 頁〕 ) (2)以上の認定した事実を基に,本件支出1に政務活動費を充当したことが,本件条例に反するか検討する。 ア 本件政策集は,これを配布することによって,自民党道民会議が進めようとする政策を道民に周知させ,道民からの意見や要望を聴取することの前提となるという意義を有するものであるから,本件政策集の作成は,自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動としての要素を有することが認められる。もっとも,前記(1)ウ(イ)によれば,本件政策集は,自民党道民会議と自民党道連の共同名義で発行され, 団体政策懇談会に出席し た団体及び自民党の党員などの希望に応じて配布されていたところ,本件政 策集の配布は,道民に自民党道連の政策を訴え,自民党道連ひいては国政政 党たる自由民主党の政治的支持の拡大の手段となり得ることからすれば,自民党道連の政党活動としての要素も同時に有するものと認められる。イ 前記(1)ウ(ウ)によれば, 月例世論調査は, 「あなたは今,道議会のなかでどの政党に期待しますか。」 という問いがあり,これに対する回答を検討することで,いかなる性別・年齢の者が,北海道議会において,自民党道民会議を支持しているかということと同時に,自民党道連を支持しているかも把握することができる。そうすると,月例世論調査の実施は,自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動としての要素を有することが認められる一方,自民党道連が,いかなる性別・年齢の者に自民党道連が支持されているのか,又はされていないのかを把握することが,その政治的支 持の拡大に資するといえるため,自民党道連の政党活動としての要素も同時に有するものと認められる。 ウ 前記(1)ウ(エ)によれば,団体政策懇談会の開催は,同会によって,自民党道民会議は,団体から意見を聴取し,意見の交換をすることができることか ら, 自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動としての要素を有することが認められる。もっとも,同会に出席した自民党道連の役員を含む北海道議会議員は,参加者と対話を行い,それに関する自らや自民党道連の見解を述べることとなるのであり,当該議員は,そのような過程を通じて, 自らや自民党道連の政治的支持を拡大する機会を提供されていると いえることからすれば,同会の開催は,自民党道連の政党活動としての要素も同時に有するものと認められる。 (Aも,団体政策懇談会が自民党道連の 政党活動の要素を有している旨供述している(丙自24)) 。 エ 以上のアからウによれば,自民党道連が本件契約1に基づいて行った業務には, 自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動及び政党活動の両要素を兼ね備えている活動が存在していたことが認められる。そして,本件の全証拠を精査しても,自民党道連が,本件契約1の履行におい て, 自民党道民会議の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動と政党活動の要素を有する活動とを明確に区分して活動時間を把握していたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件契約1に基づく自民党道連が行った業務には, 政務活動費を充当することができない政党活動の要素が混 在しており, かつこれらを合理的に区分することは困難であるといわざるを 得ない。 そして,本件運用方針を踏まえて,社会通念に従って判断すれば,本件契約1に政務活動費を充当することができる按分率は,2分の1とするのが相当である。そのため,本件支出1(1440万5184円)の2分の1である720万2592円を超える額に政務活動費を充当することは,本件条例 に反し違法である。 本件において,自民党道民会議は,本件支出1の全額である1440万5184円に政務活動費を充当している(前記前提事実(3)ア) 。よって,自民 党道民会議は,本件支出1について,その2分の1を超える額である720万2592円(1440万5184円-720万2592円)を北海道に返 還する義務を負う。 3本件支出2について (1)後掲の前提事実及び証拠によれば,以下の事実が認められる。ア 自民党道連の職員の業務内容 (ア)Aは,平成28年度,自民党道民会議の事務局長として,自民党道民会議の活動のスケジュール調整(スケジュールを自民党道民会議の議員や職員に周知することも含む。,北海道議会で行われる代表質問の文案作成,) 衆参両議院の議長や各省大臣などに提出される意見書の文案作成,議員提案の条例案の作成並びに会派の政務活動に関する事項が議題となる役員会や議員総会の日程及びその内容の調整などの業務に従事していた。このほかにも,Aは,本件政策集の作成に係る会議への出席や電話による打合 せ,衆・参議院選挙における立候補者の応援,団体政策懇談会の開催に向けた事前調整や同会に関する文書の決裁, 本件訴訟と同様の政務活動費の 返還に関する訴訟の打合せや裁判傍聴などを行っていた。 (丙自8, 24, 証人A〔12~20頁〕 ) (イ)Bは,平成28年度,政策立案の補助業務の専門職として,政策立案に 必要なデータの収集分析や資料作成の業務などに従事していた。このほかにも,Bは,本件政策集の作成,団体政策懇談会の日程や参加者の調整,同会への出席及び選挙業務などを行っていた(丙自9,24,証人A〔21頁〕 ) (ウ)C,D,E及びFは,平成28年度,自民党道民会議の政策審議役とし て,北海道議会で行われる代表質問の文案作成補助,衆参両議院の議長や各省大臣などに提出される意見書の文案作成補助及び議員提案条例の立案作成補助などの業務に従事していた。このほかに,Cは,本件政策集の作成補助の業務も行っていた。 (丙自24,25,証人A〔12頁〕 ) イ 自民党道連の職員の人件費等について(丙自23) (ア)平成28年度における自民党道連から自民党道民会議に派遣された職員の総人件費は,Aが971万8000円,Bが801万2000円,Cが360万円, Dが480万円, Eが360万円, Fが40万円であった。 (イ)自民党道民会議は,平成28年度において,Aが選挙応援や団体政策懇 談会などの政党活動や政務活動費返還に関する訴訟の裁判傍聴などの業務を行ったことから,総労働時間1968時間のうち80時間を控除し,残りの労働時間に対する人件費である932万2959円に限り,政務活 動従事分の人件費と算定した。また,自民党道民会議は,Bが選挙活動や政党活動の要素を有する団体政策懇談会などの業務を行ったことから,総労働時間1968時間のうち210時間を控除し,残りの労働時間に対する人件費である715万7061円に限り, 政務活動従事分の人件費と算 定した。その一方,自民党道民会議は,C,D,E及びFの人件費に対しては,その全額を政務活動従事分の人件費と算定した。 (ウ)平成28年度の自民党道連の職員の政務活動従事分の人件費の合計額は,2880万0020円(932万2959円(A)+715万7061円(B)+360万円(C)+480万円(D)+360万円(E)+ 40万円(F) )であるところ,自民党道民会議は,このうち2880万円 を負担することとし, 同額を自民党道連に支払い (本件支出2)その全額 , に政務活動費を充当した(前記前提事実(3)イ) 。 (2)以上の認定した事実を基に,本件支出2に政務活動費を充当したことが,本件条例に反するか検討する。 ア Aは,平成28年度,自民党道民会議の活動のスケジュール調整,北海道議会で行われる代表質問の文案作成,衆参両議院の議長や各省大臣などに提出される意見書の文案作成,議員提案の条例案の作成並びに会派の政務活動に関する事項が議題となる役員会や議員総会の日程及びその内容の調整な どの会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動に従事していたほか,本件政策集作成のための会議への出席や電話による打合せ,衆・参議院選挙における立候補者の応援,団体政策懇談会の開催に向けた調整や同会に関する文書の決裁など政党活動やその要素を有する業務にも従事していたことが認められる(前記(1)ア(ア)) 。また,Aは,本件訴訟と同様の政務活動 費の返還に関する訴訟の打合せ及び裁判傍聴なども行っていたが(前記(1)ア(ア)) ,これらは,その目的や性質に照らして,客観的にみると,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性が認められる行為ということはできない。 自民党道民会議は,Aが選挙応援や団体政策懇談会などの政党活動や政務活動費返還に関する訴訟の裁判傍聴などの業務を行ったことから,これらの活動と政務活動とを区分して活動時間を把握するため, 勤務実績表 (丙自8) を作成していると主張する。しかし,本件政策集の作成,団体政策懇談会の開催に向けた事前調整や同会に関する文書の決裁, 政務活動費の返還に関す る訴訟の打合せなどについては,当該勤務実績表上,政務活動と区分されていない(丙自8,証人A〔13,19頁〕。そうすると,当該勤務実績表を) もって, 会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動と政務活動費を充当することができない行為とを合理的に区分することはできない。そのため,結局のところ,Aが行った業務については,政務活動費を充当することができない行為の要素が混在しており,かつ会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動と政務活動費を充当することができない行為とを合理 的に区分することは困難であるといわざるを得ない。そこで,本件運用方針を踏まえて,社会通念に従って判断するに,Aの人件費に政務活動費を充当することができる按分率は,2分の1とするのが相当である。そして,平成28年度のAの人件費は971万8000円であるところ (前記(1)イ(ア)) , その2分の1である485万9000円を超える額に政務活動費を充当す ることは,本件条例に反し違法となる。 本件において,自民党道民会議は,平成28年度のAの人件費のうち80時間については,政党活動に従事したとして,これに係る人件費39万5041円には政務活動費を充当せず, その残額である932万2959円に限 り政務活動費を充当している(前記(1)イ(イ)及び(ウ)) 。そのため,自民党道 民会議は,平成28年度のAの人件費について,政務活動費を充当した932万2959円のうちの485万9000円を超える額である446万3959円(932万2959円-485万9000円)を北海道に返還する義務を負う。 イ Bは,平成28年度,政策立案に必要な各種データの収集分析や資料作成など政務活動に従事していたほか,本件政策集の作成,団体政策懇談会の日 程や参加者の調整, 同会への出席及び選挙に関する業務などの政党活動やそ の要素を有する業務にも従事していたことが認められる(前記(1)ア(イ))。 自民党道民会議は,Bが団体政策懇談会の業務や選挙に関する業務などを行ったことから, これらの活動と政務活動とを区分して活動時間を把握する ため,勤務実績表(丙自9)を作成していると主張する。しかし,本件政策 集の作成,団体政策懇談会の開催に向けた事前調整業務などについては,当該勤務実績表上, 政務活動と区分されていない (丙自9, 証人A 〔22頁〕。 ) そうすると,当該勤務実績表をもって,政務活動と政党活動とを合理的に区分することはできない。そのため,結局のところ,Bが行った業務については,政務活動費を充当することができない行為の要素が混在しており,かつ 会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動と政務活動費を充当することができない行為とを合理的に区分することは困難であるといわざるを得ない。 そこで, 本件運用方針を踏まえて, 社会通念に従って判断するに, Bの総人件費に政務活動費を充当することができる按分率は,2分の1とするのが相当である。そして,平成28年度のBの人件費は801万2000 円であるところ(前記(1)イ(ア)) ,その2分の1である400万6000円 を超える額に政務活動費を充当することは,本件条例に反し違法となる。本件において,自民党道民会議は,平成28年度のBの人件費のうち210時間については,政党活動に従事したとして,これに係る人件費85万4939円には政務活動費を充当せず,その残額である715万7061円に 限り政務活動費を充当している(前記(1)イ(イ)及び(ウ))。そのため,自民党 道民会議は,平成28年度のBの人件費について,政務活動費を充当した715万7061円のうち400万6000円を超える額である315万1061円(715万7061円-400万6000円)を北海道に返還する義務を負う。 ウ Cは,平成28年度,北海道議会における議員の質問の作成や補助,意見書の作成補助及び議員提案条例の立案補助などの政務活動に従事していた ほか, 本件政策集の作成補助の業務という政党活動の要素を有する業務にも従事していたことが認められる(前記(1)ア(ウ)) 。そして,自民党道民会議 は,Cについて,勤務実績表を作成するなどして,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動と政党活動の要素を有する行為とを明確に区分して活動時間を把握してはいなかった(弁論の全趣旨〔補助参加人ら第3準 備書面・6頁〕。そのため,Cが行った業務については,政務活動費を充当) することができない行為の要素が混在しており,かつ会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動と政務活動費を充当することができない行為とを合理的に区分することは困難であるといわざるを得ない。そこで,本件運用方針を踏まえて,社会通念に従って判断するに,Cの総人件費に政務活 動費を充当することができる按分率は,2分の1とするのが相当である。そして, 平成28年度のCの人件費は360万円であるところ (前記(1)イ(ア)) , その2分の1である180万円を超える額に政務活動費を充当することは,本件条例に反し違法である。 本件において,自民党道民会議は,平成28年度のCの人件費の全額であ る360万円に政務活動費を充当している (前記(1)イ(ウ))そのため, 。 自民 党道民会議は,平成28年度のCの人件費の2分の1を超える額である180万円(360万円-180万円)を北海道に返還する義務を負う。エ D,E及びFは,平成28年度,北海道議会における議員の質問の作成や補助, 意見書の作成補助及び議員提案条例の立案補助などの政務活動に従事していたことが認められる (前記(1)ア(ウ))そして, 。 本件の全証拠を精査し ても,D,E及びFが政党活動などの会派としての議会活動を離れた活動や会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性が認められない行為に従事したことをうかがわせる証拠はなく,むしろ,Fは, 本件政策集の作成や団体政策懇談会の開催に一切関わっていない旨を証言している(証人F〔6~9頁〕。そうすると,本件において,D,E及び) Fの人件費に政務活動費を充当したことが本件条例に違反していることを裏付ける一般的, 外形的な事実の存在が立証されているということはできな い。よって,D,E及びFの人件費への政務活動費の充当は適法である。(3)小括 以上の検討によれば,自民党道民会議は,本件支出2について,北海道に対して,合計941万5020円(Aの人件費について446万3959円+Bの人件費について315万1061円+Cの人件費について180万円)を返還する義務を負う。 なお,前記(1)イ(ウ)によれば,自民党道民会議は,自民党道連の職員の政務 活動従事分の人件費の合計である2880万0020円のうち,2880万円のみ負担し, 同額に限り政務活動費を充当させたものであるが, 前記のとおり, A, B及びCの人件費に対する政務活動費の充当が本件条例に違反していることを裏付ける一般的,外形的な事実の存在が立証されている一方,自民党道民会議が負担しなかった20円が,自民党道連のいずれの職員の人件費であるか について,自民党道民会議から適確な主張がされていないことを鑑みれば,本件では,自民党道民会議は,本件支出2について,北海道に対して,941万5020円を返還する義務を負うのが相当である。 4本件支出3から6までについて (1)本件運用方針は,調査委託費に関する政務活動費の充当について,成果物の 実績を確認して適法性を判断する旨示している(前記関係法令等の定め(4))。 そうすると, 本件支出3から6に政務活動費を充当することの適法性について は, 本件契約3から6に基づいて提供を受けた資料の内容を踏まえて検討するのが相当である。 (2)ア民主道民連合は,本件契約3に基づいて,北海道地域政策調査会から提供された資料として『北海道農業のあり方について(提言)』TPP『合意』を検証する―北海道の農業と食の安全を守るために―(丙民10)を提出 する。もっとも,同資料は,その内容をみるに,TPP問題に関するシンポジウムの内容を録取したものにすぎず,また,当該シンポジウム自体も,本件契約3が締結されたこととは無関係に開催されたものである。そして,民主道民連合は, 本件契約3の委託料の根拠について原告から釈明を求められ たにもかかわらず, 民主道民連合と北海道地域政策調査会とが調査内容や予 想される業務量等に照らして,協議の上決めたという抽象的な主張をするにとどまっている (補助参加人ら第4準備書面・5頁)これらの事情を考慮す 。 れば,本件契約3の適正な委託料が80万円に相当するとは認め難い。イ そうすると,本件支出3に対する政務活動費の充当については,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性が認められない行為の委託として,本件条例の範囲を超え違法であることを裏付ける一般的,外形的な事実の存在が立証されていると認められる一方,これに対して補助参加人らから適切な反証がされていないのであるから,本件支出3に政務活動費を充当することは,本件条例に反し違法である。 本件において,民主道民連合は,本件支出3の全額である80万0432円に政務活動費を充当している (前記前提事実(3)ウ(ア))よって, 。 民主道民 連合は,本件支出3について,80万0432円を北海道に返還する義務を負う。 (3)ア民主道民連合は,本件契約4に基づいて,北海道地域政策調査会から提供 された資料として『北海道の生涯学習 「(教育)の在り方に関する政策資料』(提言書)(丙民11)を提出する。もっとも,同資料の内容によれば,同」 会は,別の団体が実施した調査をもとに同資料を作成したのであって,同資料を作成するために何らかの調査を行ったとは認めることはできない。そして,民主道民連合は,本件契約4の委託料の根拠について原告から釈明を求められたにもかかわらず,民主道民連合と北海道地域政策調査会とが調査内容や予想される業務量等に照らして,協議の上決めたという抽象的な主張をするにとどまっている (補助参加人ら第4準備書面・5頁)これらの事情を 。 考慮すれば,本件契約4の適正な委託料が70万円に相当するとは認め難い。イ そうすると,本件支出4に対する政務活動費の充当については,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性が認めら れない行為の委託として,本件条例の範囲を超え違法であることを裏付ける一般的,外形的な事実の存在が立証されていると認められる一方,これに対して補助参加人らから適切な反証がされていないのであるから,本件支出4に政務活動費を充当することは,本件条例に反し違法である。 本件において,民主道民連合は,本件支出4の全額である70万0432 円に政務活動費を充当している (前記前提事実(3)ウ(イ))よって, 。 民主道民 連合は,本件支出4について,70万0432円を北海道に返還する義務を負う。 (4)ア民主道民連合は,本件契約5に基づいて,北海道地域政策調査会から提供された資料として 北海道の空港民営化に関する調査報告書 (丙民12) を 提出する。もっとも,同資料は,その半分以上が同会とは別の団体が作成した資料を添付したものであり,さらに残りの部分も北海道内の各空港の就航状況や財務資料をまとめたものにすぎない。そして,民主道民連合は,本件契約5の委託料の根拠について原告から釈明を求められたにもかかわらず,民主道民連合と北海道地域政策調査会とが調査内容や予想される業務量等 に照らして,協議の上決めたという抽象的な主張をするにとどまっている(補助参加人ら第4準備書面・5頁)これらの事情を考慮すれば,。 本件契約 5の適正な委託料が80万円に相当するとは認め難い。 イ そうすると,本件支出5に対する政務活動費の充当については,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性が認められない行為の委託として,本件条例の範囲を超え違法であることを裏付ける一般的,外形的な事実の存在が立証されていると認められる一方,これに対 して補助参加人らから適切な反証がされていないのであるから,本件支出5に政務活動費を充当することは,本件条例に反し違法である。 本件において,民主道民連合は,本件支出5の全額である80万0432円に政務活動費を充当している (前記前提事実(3)ウ(ウ))よって, 。 民主道民 連合は,本件支出5について,80万0432円を北海道に返還する義務を 負う。 (5)ア民主道民連合は,本件契約6に基づいて,北海道地域政策調査会から提供された資料として平成28年度第6回市民公開講座男女平等参画社会の前進にむけて(丙民13)を提出する。そして,同資料は,その内容をみ るに,同会が実施したシンポジウムの内容を録取したものであるところ,当 該シンポジウムは, 本件契約6が締結されたこととは無関係に開催されたも のである。そして,民主道民連合は,本件契約6の委託料の根拠について原告から釈明を求められたにもかかわらず,民主道民連合と北海道地域政策調査会とが調査内容や予想される業務量等に照らして,協議の上決めたという抽象的な主張をするにとどまっている (補助参加人ら第4準備書面・5頁) 。 これらの事情を考慮すれば,本件契約6の適正な委託料が70万円に相当するとは認め難い。 イ そうすると,本件支出6に対する政務活動費の充当については,会派の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動との間に合理的関連性が認めら れない行為の委託として,本件条例の範囲を超え違法であることを裏付ける一般的,外形的な事実の存在が立証されていると認められる一方,これに対して補助参加人らから適切な反証がされていないのであるから,本件支出6に政務活動費を充当することは,本件条例に反し違法である。 本件において,民主道民連合は,本件支出6の全額である70万0432円に政務活動費を充当している (前記前提事実(3)ウ(エ))よって, 。 民主道民 連合は,本件支出6について,70万0432円を北海道に返還する義務を負う。 (6)小括 以上の検討によれば,民主道民連合は,本件支出3から6までについて,北海道に対して,合計300万1728円を返還する義務を負う。 5本件支出7及び8について (1)Gは,平成28年度,民主道民連合の事務局長として,北海道内の各地域や諸団体が有する要望の把握,北海道議会で行われる代表質問の作成補助,衆参両議院の議長や各省大臣などに提出される意見書の作成補助,民主道民連合の内部に設置された政策立案のプロジェクトに関する事務運営,民主道民連合が 広報活動をする際に用いられる道議会活動の報告と題する冊子の作成等を行った。また,H及びIも,平成28年度,民進党北海道から民主道民連合に派遣された職員として,Gと同様の職務を行った。 (丙民26,27) 上記の北海道内の各地域や諸団体が有する要望の把握のうち,政策懇談会は,北海道内の支庁ごとに開催され,各地域や諸団体から意見や要望を聴取し,意 見交換が行われるものである。そして,証拠(丙民17,26,27,証人J〔5~6頁〕 )によれば,平成28年度の石狩管内及び後志管内の政策懇談会 では,民進党北海道の役員を含む北海道議会議員や国会議員が出席し,国政に関する要望聴取や情報提供がなされたことが認められ,また後志管内の政策懇談会では, 民主道民連合と国政政党である民進党の地域組織である民進党北海 道が共催であることが対外的に示されている。そうすると,政策懇談会の開催は,団体から要望を聴取し,意見交換をすることにより,民主道民連合の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動としての要素を有することが認められるものの,他方,出席した民主道民連合の役員を含む北海道議会議員にとっては,参加者と直接対話を行い,それに関する自らや民進党北海道の見解を述べることによって,自らや民進党北海道の政治的支持を拡大する機会となることや,また,北海道議会における活動を離れた国政に関する要望聴取や情報提供がされていることからすれば,民進党や民進党北海道の政党活動としての要素も有するものと認められる。そして,民主道民連合は,G,H及びIについて,勤務実績表を作成するなどして,民主道民連合の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動と政党活動の要素を有する行為とを明確に区分して活動 時間を把握してはいなかった(弁論の全趣旨〔補助参加人ら第4準備書面・5頁〕。 ) (2)そうすると,G,H及びIは,民主道民連合の議会活動の基礎となる調査研究その他の活動と政務活動費を充当することができない活動の要素を有する行為に従事しており, かつこれらを活動実態に応じて合理的に区分することは 困難であるといわざるを得ない。そこで,本件運用方針を踏まえて,社会通念に従って判断するに,G,H及びIの総人件費に政務活動費を充当することができる按分率は,2分の1とするのが相当である。そして,本件支出7については,平成28年度のGの人件費が466万9338円であるところ(丙民19) ,その2分の1である233万4669円を超える額に政務活動費を充当 することは,本件条例に反し違法である。また,本件支出8については,平成28年度のH及びIの総人件費の合計が1381万5132円であるところ(丙民19) ,その2分の1である690万7566円を超える額に政務活動 費を充当することは,本件条例に反し違法である。 (3)本件において,民主道民連合は,平成28年度のGの人件費の全額である4 66万9338円に政務活動費を充当している(前記前提事実(3)エ(ア))。そ のため,民主道民連合は,本件支出7について,平成28年度のGの人件費の2分の1を超える額である233万4669円(466万9338円-233万4669円)を北海道に返還する義務を負う。 他方,民主道民連合は,平成28年度のH及びIの人件費に対し,690万円の政務活動費を充当している (前記前提事実(3)エ(イ))そして, 。 平成28年 度のH及びIの総人件費の合計額の2分の1は690万7566円である。そうすると,本件支出8についての政務活動費の充当は,本件条例に反するものではなく,適法である。 6まとめ 以上によれば,自民党道民会議は,本件支出1について720万2592円, 本件支出2について941万5020円の合計1661万7612円の不当利得返還義務を北海道に負っている。また,民主道民連合は,本件支出3から6までについて300万1728円,本件支出7について233万4669円の合計533万6397円の不当利得返還義務を北海道に負っている。 第4結論 よって,原告の請求は,被告に対し,自民党道民会議に1661万7612円を, 民主道民連合に533万6397円をそれぞれ北海道に支払うよう請求することを求める限度で理由があるのでこれを認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 髙木勝己 裁判官 股直子 裁判官 豊富育 |