判例検索β > 平成30年(ワ)第35011号
放送受信契約締結義務不存在確認請求事件
事件番号平成30(ワ)35011
事件名放送受信契約締結義務不存在確認請求事件
裁判年月日令和2年6月26日
裁判所名・部東京地方裁判所
裁判日:西暦2020-06-26
情報公開日2020-08-14 16:00:19
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和2年6月26日判決言渡

同日原本領収

平成30年(ワ)第35011号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

放送受信契約締結義務不存在確認請求事件

令和2年1月24日
判主1決文
原告は,原告の現住所において,被告とその地上系テレビジョン放送の受信についての放送受信契約を締結する義務が存在しないことを確認する。
2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2

事案の概要
本件は,原告が,自身が自宅に設置したテレビジョン受信機(以下,テレビジョン受信機をテレビといい,原告が自宅に設置したテレビを本件テレビという。)は被告の放送を受信することのできないものであるから,被告と
の間で被告の放送の受信に係る契約(以下放送受信契約という。
)を締結す
る義務の対象となる放送法64条1項の定める受信設備には当たらないと主張して,被告に対し,本件テレビの設置にかかわらず原告は被告との間で放送受信契約を締結する義務が存在しないことの確認を求める事案である。1
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。


原告は,以前から被告による受信料の強制徴収に批判的な意見を有していたところ,インターネット上で,A大学のシステム情報系准教授であるBが
被告の放送の信号のみを減衰するカットフィルター
(以下
本件フィルター
という。を開発していることを知り,

同人に連絡を取った。
そして,
原告は,
平成30年10月1日,Bが代表理事を務める特定非営利活動法人Cから,本件テレビを3000円で購入し,自宅に設置した。
(甲5~8)


Bは,原告への販売に先立ち,市販されている別紙テレビ受像機目録記載のテレビ(以下加工元テレビという。
)をインターネットオークションに
おいて3000円で購入した上で,次のア~エの手順で本件フィルターを取
り付ける加工(以下本件加工という。
)を行い,本件テレビを製作した。
本件加工の結果,本件テレビは,民間放送事業者の放送(以下民放ということがある。の信号については問題なく受信することができるが,)
被告の
放送の信号については極めて微弱にしか受信できないため,被告の放送を視聴することはできない。なお,本件テレビは,Bが,原告とは別の知人に貸
与するために製作し,実際に貸与していたが,同人から不要となったとの連絡を受けたところで原告から引き合いがあったため,原告に販売したものであった。
(甲2,5)
アイ
本件テレビのチューナーから同軸ケーブルのコネクタを取り外す。チューナーを浮かせ,それによってできたスペースに本件フィルターを埋め,本件フィルターからの出力をスピーカーコードによってチューナーの入力部に繋ぐ。


アクリル板とアルミ箔を重ね合わせた板でチューナーとフィルターの周りを囲い,その中にエポキシ樹脂を何度か重ねて流し込み,上部までエポキシ樹脂で埋める。


周辺に流れ出たエポキシ樹脂の層の上にアルミ箔を重ね,更にその上にエポキシ樹脂を流して固める。

2
争点及び当事者の主張
原告は,被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者といえる
か。
(被告の主張)


放送法64条1項の趣旨からすれば,
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者とは,およそ被告の放送を受信可能な状態に置いた者を意味すると解すべきである。被告の放送を受信することのできる機能を備えたテレビを保有する者が,放送の信号を遮断する機器を取り付ける等により,自らの意思で意図的に,当該テレビによって被告の放送を受信する
ことのできない状況においたとしても,その者が被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に当たることに変わりはない。
Bは,
原告に対し,
加工元テレビの入手価格と同額で本件テレビを販売し,
本件フィルターの調達及び取付けに要した費用を求めていないことからすれば,同人は原告の協力者といえるから,原告は,自らの意思に基づいて意図
的に本件フィルターを本件テレビに取り付けたと評価できる。また,本件テレビを被告の放送を受信することのできる状態に復元することは,容易である。
仮に,原告が自ら本件加工を行ったと認められないとしても,原告は,被告の放送を受信することのできるテレビを入手することもできたにもかかわ
らず,あえて本件テレビを選択して購入したのであるから,自らの意思で意図的に,本件テレビによって被告の放送を受信することのできない状況においたといえる。
以上によれば,原告は,被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に当たる。



加工元テレビは,被告の放送を受信する機能を有していた。本件加工は,本件テレビのチューナー自体の機能を損なうものではないから,本件テレビは,本件フィルターによって放送を受信する機能の一部を制限されているものの,その基本的構造として被告の放送を受信することのできるテレビとし
ての機能を維持している。
したがって,本件テレビは,本件フィルターが誰の意図に基づいて取り付けられたかや,本件フィルターの取外しの難易にかかわらず,被告の放送を受信することのできる受信設備に当たる。


放送法は,被告の提供する放送と民間放送事業者による放送の二系列の事業システム(以下放送二元体制という。
)を構築し,これを並立させるこ

とにより,二つの異なる視点からそれぞれに特色のある番組が供給され,放送が全体としてバランスの取れた編成となることを企図し,放送事業が全体として公共の福祉に適合する健全な発達を促す総合的な体制を確保しようとしている。
放送法64条1項は,被告の財政的基盤となる受信料を請求する根拠とな
る放送受信契約の締結義務を定めた規定であるが,同項の意義は,租税等に頼ることを避けて国家権力からの独立性を確保するとともに,放送二元体制における被告の役割に鑑み,あまねく日本全国において放送を可能とするためにおよそ放送の便益を享受する国民一般に薄く広く負担を求めて,被告の財政的基盤を可能な限り確かなものにするという点にある。そのため,放送
法64条1項の解釈は,放送二元体制に即して行うべきである。
放送二元体制の下では,被告は,市場経済原則によっては十分な対応が期待できない面において,公的な観点から放送事業を実施する役割を担うことを期待されており,被告がこの役割を果たすことにより,放送制度全体の発展をもたらすにとどまらず,被告の放送を視聴しない者を含め,国民一般が
便益を享受することとなる。このような被告の役割に照らし,受信設備を設置した者は,被告の放送を現に視聴しているかどうかにかかわらず,被告の財政的基盤を等しく分かち合って担うべきものとするのが法の趣旨である。こうした趣旨に照らせば,ここでいう受信設備とは,たとえ抽象的にせよ,およそ被告の放送を受信する可能性を有する受信設備を全て含むと解すべき
であり,仮にテレビに被告の放送を受信することを不可能にする付加機器が設置されているとしても,そのような事情及び被告の放送を受信することができる状態への復元可能性及びその難易度は一切考慮する必要がない。以上によれば,原告は,被告の放送を受信することができる状態への復元可能性及びその難易度にかかわらず,放送受信契約締結義務を負う。⑷
上記⑶記載の放送法64条1項の趣旨に照らすと,民放は視聴できるが被告の放送は視聴できない状態を意図的に作出することで,放送受信契約締結義務を免れ,受信料を負担しないことは,被告の放送を受信することのできる地位にある者に対し広く公平に放送受信契約締結義務を課し,適正かつ公平な受信料の負担を求めている同項を潜脱するものである。したがって,被告の放送のみを視聴することのできない状況を意図的に作出した者は,被告
の放送を視聴することができる状態への復元可能性の有無にかかわらず,同項の
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者
に当たり,
放送受信契約締結義務を負う。
さらに,自ら被告の放送のみを視聴することのできない状態を作出していないとしても,他者によって作出された被告の放送のみを視聴することので
きない状態を意図的に利用する者も,同様に放送法64条1項の潜脱であるから,放送受信契約締結義務を負う。原告は,放送受信契約締結義務を免れるために,Bに対し,被告の放送のみを遮断するカットフィルターを取り付けたテレビジョン受信機を購入したい旨伝え,本件テレビが被告の放送のみを視聴することができない状態にあることを認識しながら,本件テレビを購
入し設置しているのであるから,本件テレビの状態を意図的に利用しているといえ,
被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に当たり,放送受信契約締結義務を負う。
(原告の主張)
本件テレビは,本件フィルターにより被告の放送を受信できないのであり,
被告の放送を受信することができる受信設備とはいえない。仮に,本件フィルターのような放送の信号を遮断する機器を任意に取り外すことができるのであれば,被告の放送を受信することができる受信設備ということもできるとしても,本件テレビは,本件テレビを破壊することなく本件フィルターを取り除くことはできない。
第3
当裁判所の判断

1
認定事実
前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


加工したTVケーブルを接触させる方法(以下本件方法①という。)に
係る実験用テレビを用いた実験(乙6)
被告は,本件テレビと同じ型番のテレビジョン受信機を元に,本件フィル
ターと同じ型番のフィルター(以下実験用フィルター①という。)を用い
て,本件テレビと同様の手順で加工したもの(以下実験用テレビ①という。
)を用いて,原告の自宅と同様のアンテナレベルの環境において,次の手順により実験を行い,次の結果を得た。

TVケーブルに,その先端の芯線の周囲の金属を取り除く加工を施した上で(以下,この加工を施したTVケーブルを加工済みケーブルという。,加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビの端子取り出し口のF)
型ジャック出口を塞ぐアルミ板に接触させた。すると,被告の放送を受信することができた。


加工済みケーブルの位置を変えて,加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビのチューナーの上部に接触させた。すると,被告の放送を受信することができた。



本件方法①に係る本件テレビを用いた実験(乙9)ア
被告は,本件テレビを用いて,原告の自宅と同様のアンテナレベルの環境において,次の手順により実験を行い,次の結果を得た。
加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビの端子取り出し口のF型ジャック出口を塞ぐアルミ板に接触させた。しかし,被告の放送を受信することはできなかった。
加工済みケーブルの位置を変えて,加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビのチューナーの上部に接触させた。しかし,被告の放送を受信することはできなかった。


被告は,本件テレビを用いて,原告の自宅と同様のアンテナレベルの環境において,ブースターを使用した上で,次の手順により実験を行い,次の結果を得た。なお,ブースターとは,テレビの電波を強める増幅器のことであり,室外アンテナとテレビジョン受信機との間のTVケーブルに接続してこれを中継させることにより,使用することができる。

加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビの端子取り出し口のF型ジャック出口を塞ぐアルミ板に接触させた。すると,被告の放送を受信することができた。
加工済みケーブルの位置を変えて,加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビのチューナーの上部に接触させた。すると,被告の放送を受
信することができた。
(ウ)


なお,ブースターは,税込3824円で市販されている(乙9)


ニッパを用いて切除を行う方法(以下本件方法②という。)に係る実験
用テレビを用いた実験(乙10)
被告は,本件テレビと同じ型番のテレビジョン受信機を元に,本件フィル
ターと同じ型番のフィルター(以下実験用フィルター②という。)を用い
て,本件テレビと同様の手順で加工したもの(以下実験用テレビ②という。
)を用いて,原告の自宅と同様のアンテナレベルの環境において,次の手順により実験を行い,次の結果を得た。

実験用テレビの3箇所のアルミ箔で包んだアクリル板を糸のこぎりとニッパを用いて切除した。この切除は,単独の人間の力のみで,約6分で行うことができた。その結果,実験用フィルター②とチューナーとを接続するスピーカーコードが露出した。なお,スピーカーコードの露出を妨げている1枚のアクリル板のみの切除に要した時間は,
約2分40秒であった。

加工済みケーブル先端の芯線をスピーカーコードの芯線に接触させたところ,被告の放送を受信することができた。


なお,糸のこぎりは税込1093円,ニッパは税込1800円で市販されている(乙10)


2
検討


放送法64条1項は,被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,被告とその放送の受信についての契約をしなければならない旨規定する。ここにいう被告の放送を受信することができる受信設備とは,通常の空中線により被告の放送を視聴し得る程度に被告の放送の信号を受信できる構造を有する受信設備のことをいい,設置したとは,これを使用できる状態に置くことをいう。


原告は,自宅に本件テレビを設置したが(前提事実⑴),本件テレビは,
内部に本件フィルターが取り付ける本件加工がされているため,被告の放送の信号を極めて微弱にしか受信できず,その結果,被告の放送を視聴することができない(前提事実⑵)

よって,本件テレビは,被告の放送を受信することができる受信設備であるとは直ちにいうことはできない。


まず,本件方法①については,ブースターを使用しない限り,被告の放送を受信することができない。ブースターは,電波が弱い地域等で,テレビジョン放送を受信することが困難な場合に,電波を増幅するために使用することを主に想定して市販されているものであるが,そのような場合に
は,ブースターを設置して,被告の放送を受信することが現に可能になった時点で初めて,
放送受信契約締結義務が発生するものと解される。
また,
ブースター及びそれに附帯する設備の購入費用として5000円以上が必要であるところ,これは,加工元テレビをインターネットオークションで購入した価格を超えており,そのような出費をしなければ被告の放送を受信できないようなテレビジョン受信機は,社会通念上,被告の放送を受信できる設備とはいえない。
そして,
原告がブースターを所有しているとか,

使用しているという立証は全くないから,放送受信契約締結義務が発生するとは認められない。


被告は,本件テレビを被告の放送を受信することのできる状態に復元するのは本件方法①及び本件方法②により容易に可能であることを主張して,原
告は,被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に当たると主張する。

本件方法②については,実験用テレビ②を用いた実験しか行われていない。本件方法①について,実験用テレビ①を用いた実験と本件テレビを用いた実験とで結果に差異があったこと(認定事実⑴,⑵)からは,被告が実験用に作成したテレビが必ずしも本件テレビを完全に再現できているわ
けではないと認められるから,本件方法②について,本件テレビにおいても実験用テレビ②と同様に可能であることを直ちに認めることはできない。また,仮に,同様に可能であるとしても,本件テレビの設置者は原告であるところ,どのようにこの加工が行われたか知っており,かつ,専門的な知識を有していて初めてとることのできる方法であり,自ら本件加工を行
ったわけではなく,専門的な知識も有しない原告にとっては,このような方法を思い付くことすら容易ではなく,実行することはなおさら困難であるといわざるを得ない。

以上のように,本件テレビを被告の放送を受信することのできる状態に復元することは,少なくとも困難であるといえるのであるから,被告の主張は採用できない。


被告は,本件テレビはその基本的構造として被告の放送を受信することのできる受信設備としての機能を維持していることから,本件テレビは被告の放送を受信することのできる受信設備に当たるとも主張する。
たしかに,本件加工は,TVケーブルの差込口とチューナーとの間に本件フィルターを介在させることによって,被告の放送を受信することができな
くするものであって,チューナー部分に直接手を加えるものではない。したがって,テレビの基本的構造はモニター部分とチューナー部分であるとするならば,そうした基本的構造は,被告の放送を受信することのできる市販のテレビと全く同様に維持されている。
しかし,前記⑵で説示したとおり,本件テレビは,チューナー部分に影響
を与えることなく本件フィルターを取り外すことができるとは認められず,本件フィルターを取り外すことのないまま,被告の放送を受信することができるとも認められないのであるから,結局,本件テレビを用いて被告の放送を受信しようとする場面においては,モニター部分かチューナー部分が故障によって受信機能を喪失した場合と何ら変わるところがないというべきであ
る。基本的構造がどうであれ,本件テレビを用いて被告の放送を受信することができると認めることはできない。よって,原告が被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に当たるとは認められない。

被告は,放送法における放送二元体制に照らせば,本件テレビが民間放送事業者による放送を受信することができる以上,被告の放送を受信することのできる受信設備に当たるとも主張する。
しかし,放送法は,
協会の放送を受信することのできる受信設備と明文
で規定しているのであって,被告の放送を受信することはできないが民間放送事業者による放送を受信することができる設備であればこれに当たると解
するのは,文理上採用できない解釈と言わざるを得ない。放送法における放送二元体制において公共放送を担う被告の役割に鑑みても,受信料が一種の負担金の性質を有し,法の定める要件を満たす場合には被告との間で放送受信契約の締結義務を負わせるという放送法の仕組みに照らせば,明文に反して義務の範囲が広がるような法解釈は,相当とはいえない。
また,被告は,原告が放送受信契約締結義務を免れるために本件テレビの状態を意図的に利用していることを挙げ,放送法64条1項の潜脱であるか
ら許されないとも主張するが,
放送法は,
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置したことのみを要件として放送受信契約締結義務を課しているのであるから,原告がどのような意図をもって本件テレビを設置したものであれ,現に本件テレビが被告の放送を受信することのできる受信設備と認められない以上,
放送受信契約締結義務を負うと認めることはできない。



以上によれば,本件テレビは,被告の放送を受信することのできる受信設備であるということはできず
(前記⑴)被告の放送を受信することのできる

状態に復元することができると認めることはできない(前記⑵)。そして,そ
うであるにもかかわらず,原告が被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に当たるとの被告の主張は,いずれも採用することができな
いから(前記⑶・⑷)
,原告が被告の放送を受信することのできる受信設備を
設置した者に当たるとは認めることができない。
第4

結論
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担
につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部

裁判長裁判官

小川理津子
裁判官

山田裕貴
裁判官泉地賢治は,転補のため,署名押印することができない。

裁判長裁判官

小川理津子
別紙
テレビ受像機目録

株式会社ティー・エム・ワイ社製
VERINI

品番:TLD-19S2210B
2010年製

19V型地上デジタルテレビ

トップに戻る

saiban.in