判例検索β > 令和1年(行ウ)第13号
議員除名処分取消等請求事件
事件番号令和1(行ウ)13
事件名議員除名処分取消等請求事件
裁判年月日令和2年6月22日
裁判所名・部札幌地方裁判所
裁判日:西暦2020-06-22
情報公開日2020-08-12 14:00:18
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主1文
処分行政庁が,原告に対し,令和元年6月21日付けでした,原告を札幌市議会議員から除名する処分を取り消す。

2
被告は,原告に対し,1094万6725円を支払え。

3
被告は,原告に対し,令和2年5月以降本判決確定に至るまで毎月10日限り86万円を支払え。

4
被告は,原告に対し,令和2年6月以降本判決確定に至るまで毎年6月及び12月の各末日限りそれぞれ208万8725円を支払え。

5
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2

事案の概要
本件は,平成31年4月7日に実施された札幌市議会議員選挙に当選した原告が,その第1回臨時会本会議において議長選出のための臨時議長を務めた際
の言動等を対象事由として,札幌市議会(処分行政庁)から除名処分を受けたことについて,同処分は違法であるとして,その取消しを求めるとともに,被告に対し,地方自治法203条に基づく議員報酬及び期末手当(同処分以降本判決確定に至るまでの分)の支払を求めた事案である。
1
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。


当事者等(乙18の6)

原告は,平成31年4月7日に実施された札幌市議会議員選挙(以下本件選挙という。
)に当選し,札幌市議会第25期(令和元年5月2
日~令和5年5月1日)において,札幌市議会議員の任期を有していた者である。なお,原告は,同第24期(平成27年5月2日~令和元年5月1日)においても,札幌市議会議員であった。

被告は,札幌市議会を設置する普通地方公共団体である。


札幌市議会には,議会の自律権に基づき,次の各会議が設置されている。
(ア)幹事長会議

各交渉会派(議員3人以上の会派)の幹事長で構成される。
(イ)各派世話人会
改選後から任期開始までの間,各交渉会派(予定)の代表者により構成され,幹事長会議の前身的なものと位置付けられている。
(ウ)各派交渉会

議会運営委員会(地方自治法109条3項)の委員が選任されるまでの間,改選後の初議会における議会運営について協議し,当該期の議会運営における基本的な取決めを決定する。議会運営委員会の前身的なものと位置付けられ,議会運営委員の予定者で構成される。なお,所属議員数が2人の非交渉会派からは表決権を認めないオブザーバーとしての
出席を認め,会派無所属議員については出席を認めない取扱いとされていた。
(エ)全員協議会
改選後に全当選議員が議場に参集し,初議会の開催に向けて,各派交渉会の設置について協議する。



原告に対する除名処分に至る経緯(乙3,6~14〔枝番のあるものはこれを含む。)


札幌市議会においては,令和元年5月13日午後1時25分,第25期の第1回臨時会本会議が開会された(その後,同会議は,同月14日及び
同月27日にも開かれ,同日閉会された。以下,開かれた日に応じて13日臨時会14日臨時会及び27日臨時会という。。,


原告は,13日臨時会において,出席議員中最年長の議員として,臨時議長(地方自治法107条)となった。13日臨時会においては,まず,議長の選挙が行われることとなっていたところ,原告は,議長の選出方法について,立候補によることを提案した。これに対し,出席議員から異議が申し立てられたが,原告は,これを認めず,立候補による議長選挙を実
施しようとするなどしたため,同日午後2時17分,原告を除く出席議員全員が議場を退出した。原告を除く出席議員は,同日午後10時5分,議場に再入場し,その頃,原告を除く出席議員全員の賛成により,原告は臨時議長を解任された。そして,原告を除く出席議員中最年長のA議員が臨時議長となり,B議員が議長として選出され,原告は,同日午後10時3
0分頃,議長席から退いた。その後,議長のB議員によって,議事が進められ,同日午後11時42分,13日臨時会は散会となった。

13日臨時会においては,第1回臨時会本会議の会期は,同月14日までと議決されていたところ,14日臨時会において,これを同月31日まで延長するとの議決がされた。


札幌市議会議員のうち11人は,同月15日,札幌市議会に対し,13日臨時会における原告の言動,すなわち,議長の選出方法に対する出席議員の発言等を認めず,また,再三の議事の進行申入れに応じずに議長席に居座り続けたことなどが地方自治法104条,129条及び札幌市議会会議規則(以下本件規則という。
)99条,101条に違反することを

理由として,原告に対する懲罰動議を提出した(以下本件懲罰動議という。。


27日臨時会においては,懲罰特別委員会を設置した上で,本件懲罰動議を同委員会に付託することが議決され,第1回臨時会本会議は閉会した。

懲罰特別委員会は,同月27日,同年6月4日,同月11日及び同月17日の4回にわたり開かれたところ,同日,原告に対し,除名処分の懲罰を科するべきとの決定がされた。

札幌市議会は,同月21日,第2回定例市議会本会議(以下本件定例会という。)において,①13日臨時会において臨時議長となった原告は,議長の選挙方法について立候補制とする旨主張し,これに対して,他の出席議員が異議を唱えても発言を認めず,動議や議事進行の発言を求め
ても指名しなかったこと,②議事録を示して原告に上記行為の不当性を訴えたが,原告は自らの議事進行に誤りはないと主張したこと,③他の出席議員が再三正常に議事を進行するよう申し入れたが,原告は各派交渉会の決定には従わないと表明し,議長席に居座り続けたこと(以下本件一連の言動という。)を対象事由として,原告に対して除名の懲罰を科すこ

とを議決し,議長であるC議員は,原告に対し,その懲罰の宣告をした(以下本件除名処分という。。



原告の議員報酬等について

原告は,被告の求めに応じ,令和元年6月分の議員報酬のうち同月22日(本件除名処分の翌日)から同月30日までの日割分25万8000円
を被告に返還した。

原告に対する議員報酬等の額は,①毎月10日を支払日とする議員報酬月額86万円,②毎年12月及び6月の各末日を支払日とする期末手当各208万8725円と定められていたところ,本件除名処分があったことを理由として,被告は,原告に対し,①につき同年7月分以降,②につき
同年12月支給分以降,これらを支給していない。


関連規定

札幌市議会基本条例(以下本件条例という。乙1の1)

(ア)3条(議会の活動原則)
議会は,前条に規定する役割を果たすため,次に掲げる原則に基づき活動する。
1項

二元代表制の下,本市の意思決定を担う議決機関としての責任を

自覚し,その機能を最大限に発揮すること。
2項

多様な市民意見を充分に把握した上で,市民の代表として公正か

つ公平な議論,審議,審査等をし,意思決定を行うこと。
3項

市民が参加しやすい開かれた議会運営を行うとともに,議会活動

について,市民への説明責任を果たし,積極的に情報公開を進めること。
4項

市民の負託に的確に応える議会の在り方を常に追求し,議会の改

革に継続的に取り組むこと。
(イ)7条1項(議長の役割)
議長は,その職務として,議場の秩序を保持し,議事を整理し,議会事務をつかさどり,及び議会の代表者として中立かつ公平な立場において職務を行い,民主的な議会運営を行うものとする。
(ウ)10条(本会議及び委員会の運営)

1項

議会は,本会議及び委員会の運営に当たり,議会活動の公正性及

び透明性を確保するとともに,議員平等の原則にのっとり民主的で円滑な運営を推進するものとする。
2項

議員は,議案及び市政の課題等について,その論点が市民にとっ

て明らかになるよう質疑又は質問(以下質疑等という。
)を行
うものとする。
3項

省略

(エ)12条(議員の活動原則)
議員は,市民の代表として選挙により選ばれた公職にある者として,次に掲げる原則に基づき活動する。
1項

多様な市民意見と市政の課題を的確に把握し,市政全体を見据え

た広い視点及び長期的展望を持って,公正かつ誠実に職務を遂行すること。
2項

自らの議会活動及び議会における意思決定等の過程について,市

民に分かりやすく説明すること。
3項

政策の立案及び提言に係る能力の向上を図るため,常に研さんに

努めること。

4項

議会が言論の府であることを踏まえ,議員相互間の討議を活発に

行うこと。
(オ)13条1項(会派)
議員は,政策の決定及び形成に資するため,政策を中心とした同一の理念を共有する議員で構成する会派を結成することができる。

(カ)29条(最高規範性)
この条例は,議会における最高規範であり,議会に関する他の条例,規則等を制定し,又は改廃する場合においては,この条例に定める事項との整合を図らなければならない。

札幌市議会会議規則(本件規則。乙2)

(ア)15条(動議成立に必要な賛成者の数)
動議は,地方自治法又はこの規則において特別の定めがある場合を除くほか,他に2人以上の賛成者がなければ議題とすることができない。(イ)54条1項(議事進行に関する発言)
議事進行に関する発言は議題に直接関係のあるもの,又は直ちに処理する必要があるものでなければならない。
(ウ)85条(簡易表決)
議長は,問題について異議の有無を会議にはかることができる。異議がないと認めるときは,議長は,可決の旨を宣告する。ただし,議長の
宣告に対して,出席議員3人以上から異議があるときは,議長は,起立の方法で表決をとらなければならない。
(エ)99条(品位の尊重)
議員は,議会の品位を重んじなければならない。
(オ)101条(議事妨害の禁止)
何人も,会議中はみだりに発言し,騒ぎその他議事の妨害となる言動をしてはならない。

(カ)107条1項(懲罰動議の提出)
懲罰の動議は,文書をもつて所定の発議者が,連署して議長に提出しなければならない。
(キ)108条(懲罰の審査)
懲罰については,議会は,第36条(議案等の説明,質疑及び委員会
付託)第1項の規定にかかわらず,委員会の付託を省略して議決することはできない。
(ク)112条(懲罰の宣告)
議会が懲罰の議決をしたときは,議長は公開の議場において宣告する。2
争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,本件除名処分の違法性であり,これに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)


除名処分の違法性の判断枠組みについて

除名処分により,有権者の投票によって当選した議員の身分をはく奪するには,よほどの事由がなければならず,懲罰事由である議員の行為と比例するものでなければならない。


被告は,議会の裁量権の行使としての除名処分が,社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,その裁量権の範囲を超え,又は,
その濫用により違法となると主張する。
しかしながら,市議会議員の除名処分は,少数派に対する多数派によるものであるところ,そのような判断枠組みでは,多数派による除名処分に対して司法による救済が不可能となるから,相当性を欠く除名処分を選択することについては,議会に自律権があるというだけで議会の裁量権を正当化することはできないというべきである。


本件除名処分は相当性を欠くこと
本件一連の言動が懲罰事由に該当することは認める。しかしながら,以下の事情からすると,本件除名処分は,本件一連の言動に対して重過ぎるものであり,相当性を欠く。また,仮に除名処分についての議会の裁量権が肯定されたとしても,本件除名処分は社会通念上著しく妥当性を欠くから,その
裁量権の範囲を超える違法なものである。

被告が主張する本件除名処分の正当化事由は,臨時議長としての原告の言動にあるところ,臨時議長の解任に関する規定が存在しないとしても,議会の自律権に基づくものとして,議会の総意により臨時議長を解任することは当然に可能であるから,原告について,臨時議長としての職責に反する行動があったのであれば,臨時議長の職を解くことで足りるのであり,
臨時議長としての振る舞いの問題を,議員の身分としての問題に直結させるのは相当でない。
被告は,原告の行為により13日臨時会が約8時間空転した旨主張するが,原告を除く出席議員全員は,原告が議事進行を始めてから約1時間後には退席していることからすれば,より早期に原告を臨時議長の職
から解く判断をすることは可能であったから,約8時間の議会空転をもって本件除名処分を正当化することはできない。

被告は,原告の行為により13日臨時会が空転したことで,市民生活に重大な影響を及ぼす危険性があったと主張するが,13日臨時会において
円滑な審理が行われなかった点では支障といえるものの,議事の審議には支障が生じておらず,実際に市民生活に影響は出ていない。

また,原告の行為により13日臨時会が約8時間空転したことで,職員の人件費等の実損が生じたとしても,これは議会制度に基づく経費として観念すべきであるから,本件除名処分を正当化する事由にはならない。

本件除名処分前後の新聞報道や,懲罰特別委員会において原告に対する過去の懲罰動議に言及した質問がされたことなどからすれば,原告の過去
の行状が本件除名処分に影響したことは明らかである。

札幌市議会においては,従前,出席議員の投票により,全議員から1人を選出する方法で議長選挙が行われており,事前に各派交渉会で決定された内定候補者がこの方法で議長に選出されていた。このような議長選挙の方法は,結局,各派交渉会における3会派(札幌市議会自由民主党議員会,
札幌市議会民主市民連合議員,札幌市議会公明党議員会)が,非民主的に議長を決定していたことに他ならず,不透明であるとの非難を免れない。原告は,このような議長選挙の方法が,少数会派を排除するものとして問題であると考え,民主主義にのっとり,立候補制(所信表明演説)により議長を選出すべきと考えたものであり,そのような問題提起の方
法としては配慮に欠けていたにすぎない。本件除名処分の本質は,多数派である上記3会派が,自らが固執する非民主的な選挙方法に挑んできた原告を力尽くで排除したというものであり,実質的にも不当である。カ
過去の他の地方議会における除名処分事案と比較しても,本件除名処分は重きに過ぎる。なお,過去の市議会議員に対する懲罰処分例に,横浜市議会議員2人が,市会運営委員会において,本会議場の議長席横に国旗を掲揚することが決定されたことに抗議し,議長席を占拠するなどし,本会議が6時間空転し,同日の議事日程が翌日に延期されたことについて,両議員にされた除名処分があるが,本件においては,原告は,臨時議長とし
て議長席に着き続けたのであって,上記横浜市議会の処分例のように暴力的に議長席を占拠したものとは異なる。


本件除名処分の手続的な問題点について

本件における懲罰特別委員会の内実は,議会事務局が調査した内容を所属委員が確認するというものであり,調査終了後に,2会派(日本共産党札幌市議会議員団,札幌市議会市民ネットワーク北海道)から原告を除名処分とすることに反対する討論があったが,それに対する実質的な討議は
されず,識者からの意見聴取も行われないまま,本件定例会において,委員長提案である除名処分の議決がされたものであって,原告に対する本件除名処分は,札幌市議会自由民主党議員会等の3会派の意向で既に決定されており,結論として除名処分ありきであった。

本件除名処分に賛成した会派は,本件定例会での投票に当たり,党議拘束を外さなかったため,各議員は所属会派の決定に従って除名処分に賛成しただけであり,投票内容は個々の議員が熟慮した結果とはいえない。

原告は,27日臨時会において約8分間の弁明と陳謝を行い,同年6月11日の第3回懲罰特別委員会では与えられた20分間の弁明の機会の中で,約2分間の弁明を行ったほか,同月21日の本件定例会において,弁
明をするか否かの打診を受け,これを断ったという経過はあるが,上記のとおり,原告に対する懲罰の手続は結論ありきで進められていた上,原告においても準備が不十分であったことからすれば,原告に十分な弁明の機会が与えられたとはいえない。
(被告の主張)


除名処分の違法性の判断枠組みについて
除名処分は,住民により選挙された議員によって構成される議会の議決と
いう手続によってのみ可能とされ,しかも,議会の議員の3分の2以上の者が出席し,その4分の3以上の者の同意がなければならないという厳格な議決要件が定められていること(地方自治法135条3項)からすると,議会による議員の除名処分に対する司法審査においても,上記の議会の自律的権能とこれに基づく自律的判断を尊重すべきである。
したがって,ある議員について懲罰理由(同法134条)が認められる場合において,その議員に懲罰を科すかどうか,科すとして,いずれの種類の懲罰(同法135条1項各号)を科すかは,議会の裁量権の範囲に属するものというべきであるから,その裁量権の行使としての除名処分が,社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったものとして,違法であるということができると解するのが相当である。


本件除名処分に裁量権の逸脱及び濫用はないこと
ア(ア)札幌市議会における最高法規である本件条例は,議員は,市民の代表として選挙によって選ばれた公職にある者として,議会が言論の府であることを踏まえ,議員相互間の討議を活発に行い,議案や市政の課題等について,その論点が市民にとって明らかになるよう質疑等を行うものとし,このような議員の職責が果たされることにより,住民
自治・団体自治を実現し,市民福祉の向上が図られていくことを想定している(本件条例10条2項,12条)

このような議員の職責を全うさせるため,議会は,議員平等の原則にのっとり,民主的で円滑な運営をしなければならず,そうあることにより,議会は,多様な市民意見を十分に把握した上で,市民の代表
として公正かつ公平な議論等を行い意思決定することが可能となるのである(本件条例3条,10条1項)

そして,そうした議会運営ができるように,議長は,議場の秩序を保持し,議事を整理し,議会事務をつかさどり,及び議会の代表者として中立かつ公正な立場において職務を行い,民主的な議会運営を行
うものとされており(本件条例7条1項)
,この議長の役割は,臨時
議長であっても異なるところはない。
(イ)しかし,本件一連の言動は,原告が議長として果たすべき役割を怠ったという消極的なものではなく,積極的かつ計画的に中立公正な立場を捨て去り,自らの独善的な意見を押し通したものであった。さらに,これに反対する議員の発言を封殺,黙殺し,積極的に議員の職責を妨害する行為に及び,言論の府である議会において言論弾圧が行
われるという異常事態が発生し,これにより,議会の民主的運営が阻害され,審査が滞り,そのために市民生活が脅かされる事態も発生する危険が高まった。
このような本件一連の言動は,本来,議会制民主主義の擁護者であるべき議長が,議員の職責を妨害し,議会運営を妨げたものであり,
地方自治法及び本件条例において想定されている議会制民主主義を破壊する行為にほかならないものである。

また,本件一連の言動は,議会において議長が議員の言論を封殺,黙殺したという空前にして絶後である特異な事例であり,原告が指摘する他議会の事例とも全く異なるものであるから,比較対象とすることはできない。

懲罰特別委員会での審査並びに27日臨時会及び本件定例会における議論の全てを精査しても,原告の過去の言動が本件除名処分に影響していることはない。


本件除名処分の手続にも問題点はないこと

懲罰特別委員会での弁明時間は20分間であったにもかかわらず,原告が弁明に費やしたのは2分間であった。また,27日臨時会においては10分間の発言時間が与えられたのに,原告は8分間しか弁明をしなかった。さらに,本件定例会においては,弁明の機会が与えられたにもかかわらず,原告は弁明を行わなかった。このように,原告に対しては,十分な弁明の機会が与えられていた。


懲罰特別委員会におけるそれぞれの会派の意見表明は,賛成又は反対の立場から,原告の行為の評価に当たって考慮すべき諸般の要素が網羅されており,実質的な討議が行われている。懲罰特別委員会の審査は,定められた方法にのっとって,映像で事実を確認し,判断の基礎となる法令や他都市の実例を押さえた上で,原告の弁明と質疑応答を経て判断に至っており,行うべきことは全て行われている。


原告は,本件除名処分に賛成した議員は党議拘束に従って投票をしただけであり,熟慮の上,賛成票を投じたのではないと主張するところ,確かに投票結果は会派と一致しているが,そもそも会派とは,政策を中心とした同一の理念を共有する議員の集団であるから,このこと自体は不自然ではなく,原告の主張は何の根拠もない単なる思い込みにすぎない。
第3

当裁判所の判断

1
認定事実
掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。⑴

札幌市議会における議長選挙に関する慣例(乙11の1〔3頁〕

札幌市議会においては,改選後,速やかに議会活動を開始するため,各派
世話人会において新任期に必要な事項が協議されており,各派世話人会において各派交渉会の設置と協議予定事項が決定され,これが全員協議会で承認された後,各派交渉会が,議長及び副議長の選挙方法について決定し,改選後の初議会に向けた段取りを議論することとされている。
また,議長及び副議長については,第1会派及び第2会派からそれぞれ選
出するという慣例があり,被選挙人からの演説等は行わず,被選挙人となる全議員の中から1人の氏名を投票用紙に記載するという投票方法がとられていた。

札幌市議会第25期の第1回臨時会本会議開催に至る経緯(甲8,9,乙3〔6頁〕
,11の1〔3頁〕
,12〔5頁〕
,15~17,18の1~8)

本件選挙に先立ち,平成31年2月27日,幹事長会議が開催され,従前の慣習どおり,各派世話人会を設置し,本件選挙により当選した議員により構成される札幌市議会第25期の任期に必要な事項を協議していくことが決定された。

同年4月7日,本件選挙により,68人の議員が当選したところ,各会派の議席は以下のとおりであった。

札幌市議会自由民主党議員会

26人

札幌市議会民主市民連合議員会
札幌市議会公明党議員会

20人

10人

日本共産党札幌市議会議員団

10人

無所属(札幌市議会市民ネットワーク北海道)

無所属(改革)

1人

1人(原告)

原告は,本件選挙後,当選者中,自らが最年長であることを確認した。ウ
同月17日,第1回各派世話人会が,同月24日,第2回各派世話人会が,それぞれ開催された。各回の協議の結果,令和元年5月7日に開催予定の全員協議会について,本来であれば議員会会長が議事を進行すること
になるが,会長が選出されていないため,事務局長が司会進行すること,及び,初議会が招集されるまでの間は,議会運営委員会が設置されていないため,これに代わる機関として各派交渉会を設置することとし,交渉員については,各会派から,各派世話人会申合せに基づく人数の代表者を選出することを諮ることが確認された。また,各派交渉会については,同日
の全員協議会終了後に実施することが確認された。さらに,初議会を同月13日に招集し,その会期を同月14日までの2日間とすることや,招集日の議事,初議会以降の議会予定を確認し,各派交渉会へ引き継ぐこととされた。
議長及び副議長選挙については,投票により実施することが確認された。

原告は,平成31年4月25日,札幌市議会第25期において議長に立候補する旨の記者会見を行った。原告は,これに先立ち,記者クラブに対し,議長に立候補する理由として,本会議の審議を市民に分かりやすい内容に変えること,議長の報酬を廃止し,本会議以外で議長として勤務した日は旅費規程による日当を支給すること,自宅と議会との間の公用車による送迎を廃止することを挙げた文書を送付した。


令和元年5月7日,全員協議会に引き続き,第1回各派交渉会が開催され,会派無所属議員につき,従前どおり,各派交渉会の出席を認めないこと,意見は座長へ申し出ること,協議結果は座長から伝えること,決定事項は遵守する必要があることが決定された上,正副議長選挙の方法は,被選挙人となる全議員の中から1人の氏名を投票用紙に記載する投票とし,
投票に際しては,これまでと同様に,被選挙人からの演説等は行わせずに速やかに投票に入ることが決定された。

同月13日午前11時30分,第3回各派交渉会が開催され,13日臨時会においては,出席議員中最年長の議員が臨時に議長の職務を行い,議長選挙までの議事を行うこと,議長選出後は,臨時議長と交代して議長が
議事を行うことを決定した。


13日臨時会における原告の言動(甲6,乙3〔5~24頁〕
,4の1・
2,5,6,11の1〔4~6頁〕


令和元年5月13日午後1時,札幌市議会第25期の第1回臨時会本会議のために,本件選挙に当選した札幌市議会議員が議場に参集した。札幌
市議会議員の定数は68人であるところ,うち2人が欠席したため,出席議員は原告を含む66人であった。原告は,出席議員中最年長の議員として,臨時議長に就任し,同会議は,同日午後1時25分に開会した。イ
13日臨時会の冒頭,原告は,議長の選出方法について,

議長の選び方については,これは,私は立候補でやるのがいいと思うんです。したがって,私は,立候補を受け付けて,それによって議長の選挙を行っていくということにしたいと思いますが,異議ありませんか。

と述べ,立候補によることを提案した。これに対し,直ちに

異議あり。「発言を求めま

す。
」との声が上がり,D議員が,原告の指名を受け,議事進行について,各派交渉会で決定された選挙方法により議長を選出することを求める旨を発言した。原告は,

私はですね,各派交渉会をつくるときに,正式な,各派交渉会というのは全議員の同意によってつくっておりません,これは。「各派交渉会なるものについて,実は,ことしの2月の27日,24

期,前任期の幹事長会議で,選挙をやって新しく当選した議員が5月2日から仕事をするに当たって,議会の決め事を決めて,進んでいく事柄につ
いて,前任期の議員でそれを決めるということを決めているんですよ。」
そういうものについて決めたものについては,私は従うつもりはありませんよと言っているんです,これ。少なくとも,きょう,ここで臨時の議会が開かれて,そして,私が議長を選ぶまでの議長についた,法律に基づいて。ここから,それでは,どうするんだという話をするならまだわかりますよ。何の権限もない人が集まって,それに従えなんていうのは,全く,これは幼稚園の年少以下の話だ。そんな話でやるなんていうことにはなりません,これは。「したがって,動議にもならないですよ,それは。動議の内容を構成していない。したがって,動議としては取り上げるわけにいきません。立候補について,立候補で議長選挙をやるというのは,議長
の判断として,これはいわゆる憲法の精神からいっても何からいっても何一つ欠けるものはない。したがって,これで,私は,あと,ほかに皆さんからこれに対する意見がないようですから,それでは,立候補によって議長選挙を行います。
」などと発言し,D議員の上記意見を取り上げなかっ
た。

これに対し,
異議ありと呼ぶ者があったものの,原告は,

もう決定しました。

と述べ,さらに,複数の出席議員が,異議あり
動議が優先だ

議長,臨時議長,動議を提出いたします。臨時議長,動議を提出いたします。

などと発言したが,原告は,動議の前に,私が,議長として,立候補によって議長選挙をしようということをちゃんと提案して,それに対して意見はありますかと言ったら,何も意見がないから私は決定したんですよ。「議会には,一事不再議という原則があります。したがって,もう決定したんですから。動議優先って言ったってね,それに対して,議長の提案に対して,皆さんが何もないんだから。それはもう決定だもの。

終わった後だ,終わった後,決定の後。「諮らない,終わった後


だ。
」と発言し,D議員の上記意見について議会に諮ったり,他の出席議
員に発言を求めたりすることはしなかった。
その後,議長選挙に入る旨宣言した原告に対し,引き続き,他の出席議員から異議が述べられたり,動議を提出する旨の発言があったりしたものの,原告は,

決定したことについてはもう終わりです。「それでは,選

挙管理委員を私のほうで指名いたします。D議員の動議は私がもう動議
にならないという判断をいたしましたので,動議ではありません。職務は放棄していません。動議はもう決定しましたから,選挙に入ります。」

選挙に入ると言っているんだよ。決まったんだもん。「いいから黙って

聞いてれって。だめだって。決定した事項だから。もう選挙に入ります。もう,議長選挙の段取りに入っていますから,もう動議は要りませ
ん。管理委員会はなくてもいいんですよ,議長に届ければいいんです,それで。

決めがないんだもの,決めが。いいですか,決めがないんです

よ,これ,決めが。議長が,議長がその職務を行う,法律でなっているんです,これ。束になって皆さんがかかってきたって,私に,私をかえることなんかできないの。

もう選挙に入っています。「諮りません,諮りま



せん。

全然諮っていません。


」と発言した。
また,他の出席議員からは,原告を臨時議長から解任するべきだとの発言もあったが,原告は,

どうやって解任するんですか,言ってください。全員で。解任はできないんです,これ。「いいかい,臨時議長は解任…

…,臨時議長も議長も解任は……,副議長も解任できないんです。国会もそうです,これ。
」と発言した。さらに,原告は,各派交渉会で決定さ
れた選挙方法により,議長選挙をすることを求めるD議員の上記意見に
関し,

関係ない,それは。私的な行為です,私的な行為。私的雑談の行為です。

と発言した。その後,立候補の受付を開始する旨述べた原告に対し,複数の出席議員が,各派交渉会で決定された選挙方法に基づき議長選挙を行うことを求める意見を聞くべきであるとして,提出された動議を諮ることを求め続
ける中,原告は,

誰も出なかったらね,私,既に事前に立候補表明していますから,ここで私が立候補して,私に決まりますよ,これ。「いや,

いよいよ,私が議長にならなきゃ,これはだめになってきたな。これ,本当になってきたな,これ。
」と発言し,D議員の発言は動議ではないと
して,立候補の受付をする態度を示した。

複数の出席議員は,その後も,動議を諮り,議事進行を行うことを求め続けたものの,原告が依然としてこれを採用しなかったことから,休憩の動議を提出し,同日午後2時17分,これに賛同した原告を除く出席議員全員が議場から退出し,13日臨時会は事実上の休憩となった。

同日午後3時50分,第4回各派交渉会が開催され,原告に対し,これ以上議会を停滞させることがないよう,速やかに各派交渉会で決定したとおり,議長選挙を行うように説得する旨が決定された。第4回各派交渉会は,同日午後4時1分,休憩となり,各会派の代表である正副座長及び各会派の幹事長が,原告に対し,3回(同日午後4時5分,午後5時25分
及び午後8時45分)にわたり,各派交渉会の決定どおり議長選挙を進めることや,議事を進行する立場の者として,議員の発言を封殺,黙殺することのないようにすることを求めたが,原告は,
議長選挙の方法は異議が出なかったので決定済み議長選の立候補者を募っている段階であ,る決定した事項に対する動議は諮らないなどと述べ,これらの求め,
を聞き入れなかった。そのため,同日午後9時30分,第4回各派交渉会が再開され,原告を除く出席議員全員の総意により,原告を臨時議長から
解任することが決定された。

同日午後10時5分,原告を除く出席議員全員(65人)が議場に入り,13日臨時会が再開された。原告は,事実上の休憩中も議長席に着き続けていたところ,原告を除く出席議員全員の総意として,各派交渉会の決定に基づき,臨時議長の職を解かれた。これにより,原告は,議長席からの
退席を求められたものの,

法律に基づいてやっているんだ。「私はどか

ない。動かない。あなた,無断で離席をして,戻ってきてそういうことを言ってもだめなの。
」などと発言し,議長席から退かなかった(13日
臨時会における以上の原告の言動が,本件一連の言動の具体的内容である。。


そのため,議場に臨時の議長席を設けた上で,原告を除いた出席議員中最年長であるA議員が臨時議長となり,投票によって,B議員が議長に選出され,これを受けて,原告は,同日午後10時30分頃,議長席から退いた。

その後,議長のB議員によって13日臨時会において予定されていた全ての議事が進められ,原告も議事に参加し,質問をするなどした。13日臨時会において,第1回臨時会本会議の会期については,同月14日までの2日間とする旨が決定されていたところ,同月13日午後11時42分,同会議は散会となり,同月14日午後1時に再開されることとなった。


本件除名処分に至る経緯等(乙7~14〔枝番のあるものはこれを含む。)〕

14日臨時会において,予定されていた議事が進められたところ,原告も議事に参加し,質問をするなどした。また,14日臨時会では,原告への懲罰動議の提出を協議するために,第1回臨時会本会議の会期を17日間延長し,令和元年5月31日までとすることとした。

4会派(札幌市議会自由民主党議員会,札幌市議会民主市民連合議員会,札幌市議会公明党議員会,日本共産党札幌市議会議員団)の代表及び会派
無所属(市民ネットワーク北海道)の議員11人は,同月15日,原告の本件一連の言動が,議事を進行する者としての最低限の職務も果たさないものであり,また,事実上の議場占拠により,議会活動に支障を及ぼし,議案の審議ができず,臨時会の流会により市民生活に多大な影響を及ぼす危険性もあるものであったとして,本件懲罰動議を提出した。


本件懲罰動議を受け,札幌市議会は,27日臨時会を開いたところ,これに出席して発言をしたい旨申し出た原告は,

今日のような事態になったこと,5月の13日の臨時会において,議長選出までの臨時議長として,議事の取り扱いについて,私の判断の間違いにより,長時間,議事を停滞させ,大変ご迷惑をおかけいたしました。

として陳謝し,発言終了後,
降壇して土下座をした。その後,27日臨時会においては,懲罰特別委員会を設置することが議決され,同委員会審査のため,一旦休憩となった。同月27日,第1回懲罰特別委員会が開催され,その際,同委員会においては,慎重に審査を行うため,閉会中継続審査とすることが決められ,その後再開された27日臨時会において,これが承認された。


同年6月4日,第2回懲罰特別委員会が開催された。その際,13日臨時会の録画映像が視聴され,議会事務局が調査した関係法令及び政令指定都市における議員の懲罰事例の説明や質疑応答が行われ,また,原告に対して,次回懲罰特別委員会への出席を求めることとされた。


同年6月11日,第3回懲罰特別委員会が開催された。同委員会に出席した原告に対しては20分以内の弁明の機会が与えられたところ,原告は,

5月13日の臨時議長の職にあったときに,その職務の適否の判断を間違え,長時間にわたって議会を混乱させ,大変,議員の皆さん方にご迷惑をおかけいたしました。「このことは,本当に,私の知識の不足から起き

たことでありまして,まことに申しわけなく,深く深く陳謝をいたします。
」などと弁明した。その後,原告と委員との間で質疑応答が行われた。
原告は,各派世話人会や各派交渉会で決定された事項に従わなかった理由,及び,原告を除く他の議員の賛成で成立した各派交渉会の決定に従わないということは,他の議員の意思を無視して構わないとの認識であったのかについて質問され,原告が所属する会派内部の連携が悪く,臨時会開催に向けての各派交渉会の役割やそこで議論された内容を十分に認識していな
かった,各派交渉会の決定に従わなかったことは自らの知識不足であると回答した。また,原告は,臨時議長の解任規定がないことを利用して独裁的な議事運営を行おうとしたのではないか,地方自治法104条及び112条を前提に臨時議長が立候補制を提案することについてどのような考えであったのか,動議に関する議事進行の中でD議員の動議は動議として認
められない旨発言したことについての考え,臨時会開会前から自らが臨時議長である旨発言したり,事務局長の指名の前に議長席に上がったりした理由等について質問され,知識不足による判断の間違いであり,立候補制により,議長選出の過程が少しでもみんなに見えるようになればいいと考えていたが,手順を間違えたと回答した。また,原告は,昭和61年に懲
罰動議の対象となり,平成18年には暴行事件を引き起こしたことに伴い辞職勧告決議を受けたところ,その都度反省してきたことと今回の反省とで何が異なるのかについて質問され,本件一連の言動について非常に重く受け止めており,陳謝すると回答した。

令和元年6月17日,第4回懲罰特別委員会が開催され,各委員から要旨以下の意見表明が行われた。
(ア)札幌市議会自由民主党議員会所属のE委員は,本件一連の言動が悪質なものであることのほか,原告の27日臨時会での陳謝及び第3回懲罰特別委員会における弁明や質疑の内容がその場しのぎの言い訳にすぎないことなどを指摘し,本件一連の言動が議会制民主主義を踏みにじる極めて悪質で計画的なものであるとして,除名処分が相当であるとの意見を表明した。
(イ)札幌市議会民主市民連合議員会所属のF委員は,本件一連の言動が全国ニュースやワイドショー等で放送されることにより札幌市議会の品位を貶め,信頼を損ねたことのほか,原告の27日臨時会及び第3回
懲罰特別委員会における弁明及び質疑が場当たり的なものであり,14日臨時会における言動からも反省の姿勢がうかがわれなかったことなどから,原告の反省や陳謝は疑わしいものであること,27日臨時会における土下座が市民の気持ちを逆なでする行為であることなどを指摘し,除名処分が相当であるとの意見を表明した。

(ウ)札幌市議会公明党議員会所属のG委員は,原告による弁明及び陳謝が,合理性を欠き,深い反省とも乖離しており,信用できないものであること,本件一連の言動により臨時会が流会となった場合には市民生活に大きな影響を及ぼすことになったこと,今回のような事態を二度と起こさないためには,このような行いをしても議員活動の継続が許容
される先例を残してはならないことなどを指摘し,除名処分が相当であるとの意見を表明した。
(エ)日本共産党札幌市議会議員団所属のH委員は,本件一連の言動は懲罰事由に該当するが,原告が27日臨時会及び第3回懲罰特別委員会において陳謝をしていること,原告は本件選挙によって1万票を超える
得票で当選していることからすれば,除名処分でなく,公開の議場における陳謝の懲罰を科すべきとの意見を表明した。
(オ)市民ネットワーク北海道所属のI委員は,本件一連の言動は懲罰事由に該当するが,立候補制による議長選挙の提案した意図からすれば,その言わんとすることには一理あること,市民による選挙により選出された議員であることなどからすれば,除名処分ではなく,公開の議場における陳謝の懲罰を科すべきとの意見を表明した。

その後,採決が行われ,全会一致で,本件一連の言動については懲罰を科するべきものと決定された。懲罰内容については,委員長を除く11人の委員のうち8人が除名の懲罰を科するべきものと決定することに賛成し,懲罰特別委員会は,原告に対して除名の懲罰を科するべきとの結論に至った。


同年6月21日,本件定例会が開催され,札幌市議会議員である68人全員が出席した。地方自治法117条本文に従って原告が退場した後,まず,懲罰特別委員会の委員長であるJ議員から,同委員会において,原告に除名の懲罰を科するべきものという結論に至った経過が報告された。引き続き,同結論に反対の立場で,日本共産党札幌市議会議員団所属のK議
員と市民ネットワーク北海道所属のI議員が討論を行った。その後,記名投票の方法により,原告につき除名の懲罰を科するべきとした同委員会の報告のとおり決することの可否が問われたところ,原告を除く出席議員全員(67人)の4分の3以上である56人がこれに賛成し,これが可決された。これを受けて,議長であるC議員は,議場に入った原告に対し,除
名の懲罰を科す旨宣告した。
(本件除名処分)
2
争点に対する判断


除名処分の違法性についての判断枠組み
地方議会は,その規律及び品位を保つために,議会の秩序を乱した議員に
対する制裁として,懲罰処分を行うことができるところ(地方自治法134条1項)
,これは議会の自律作用に基づくものであることからすれば,地方議会の議員に懲罰事由がある場合に当該議員に対して懲罰処分を行うか否か,同法135条1項が定める懲罰の種類のうちいずれを選択するかについての判断は,自律的判断権を有する地方議会の合理的な裁量に委ねられるべきであるから,上記裁量権の行使の結果として行われた議会の除名処分は,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したと認め
られる場合に限り,違法となると解するのが相当である。


本件除名処分の相当性について

本件一連の言動の懲罰事由該当性について

(ア)普通地方公共団体の議会は,議員の中から議長及び副議長1人を選挙しなければならず(地方自治法103条1項)
,議長の選挙を行う場合
において,議長の職務を行う者がないときは,年長の議員が臨時に議長の職務を行う(同法107条)
。そして,一般選挙後の議長が不在の状
態における臨時議長の職務は,あくまでも,開会宣言から選挙で選ばれた議長と交代するまでの間において,議長を選挙するための議事を行い,
その議事を行う範囲で議長の権限(同法104条,本件条例7条1項)を行使することに限られるものと解される。また,議長は,議場の秩序を保持し,議事を整理し,議会事務をつかさどり,議会の代表者として中立かつ公平な立場において職務を行い,民主的な議会運営を行うものとされているところ(本件条例7条1項)
,臨時議長も,議長の権限を

行使するものであることから,これらの規定の趣旨は当然に及ぶと解される。
議長選挙の手続については,地方自治法118条において,公職選挙法46条1項(候補者1人の記載)
,46条4項(無記名とする秘密投
票)
,47条(点字投票)
,48条(代理投票)
,68条1項(投票の無

効原因)
,95条(法定得票数による当選人の決定等)の規定が準用さ
れているほかは,選挙方法についての定めはない(同法86条等の立候補に関する規定は準用されていない。。そうすると,議長の選挙方法に)
ついては,地方自治法に定めるほかは,立候補制を採用するか否かを含めて,各地方議会における自律権に委ねられているものと解される。札幌市議会における本会議の議事は,通常,議会運営委員会や,改選期における各派交渉会であらかじめ決定した議事運営に基づき,被選挙人となる全議員の中から1人の氏名を投票用紙に記載するという投票方法で,第1会派から議長を選出して議事を進行することが慣例とされていたところ(認定事実⑴)
,上記のとおり,臨時議長の職務が選挙によ
り選出された議長に交代するまでの限られたものであることからすると,
13日臨時会においても,原告は,臨時議長として,札幌市議会における慣例に従って議事を進行し,議長選挙を実施することが期待されていたものといえる。
(イ)以上を踏まえ,本件一連の言動について検討すると,原告は,臨時議長に就任した後,札幌市議会における慣例に従わず,議長の選挙を立候
補により行うことを提案したものであり(認定事実⑶イ),原告に期待
されていた臨時議長の職務を行ったものとはいい難いものの,議長の選挙に関して,立候補制を含め,いかなる選挙方法を採るかは議会の自律権に委ねられており,選挙方法について議事を整理し,採決すること自体も臨時議長の職務の範囲内の事項であると解されることからすれば,
このような原告の提案それ自体が,直ちに地方自治法及び本件規則等に反するものとはいえない。
しかしながら,原告による上記提案後すぐに,D議員から,各派交渉会で決定された選挙方法により議長選挙を行うことを求める旨の発言がされたほか,複数の出席議員から,異議がある旨の意思表示がされてい
たのであるから(同⑶イ)
,議長選挙を立候補により行うことについて,
異議がないと認めて可決することができないのは当然であり(本件規則85条参照)
,原告が,D議員や他の出席議員から出された異議を無視
し,立候補により議長選挙を行うことについて表決を採ることなく決定したと扱ったことは,何らの正当性もないといえる。
また,原告は,その後も複数の出席議員からの反対意見や動議の申出を無視して立候補による議長選挙を実行しようと,自らの考えを表出し
続けたため,令和元年5月13日午後1時25分に13日臨時会が開かれてから約50分後の同日午後2時17分,原告の考えに反対する原告以外の出席議員全員が退場し,これによって13日臨時会が事実上の休憩状態になったばかりか,原告は,その後も正常な議事進行を求める再三の申入れに応じず,13日臨時会が同日午後10時5分に再開され,
原告以外の出席議員65人の総意として,各派交渉会の決定に基づき,臨時議長の職を解かれてもなお,議長席に居続けたものであり,同日午後10時30分頃に至ってようやく,議長に選出されたB議員が正常に議事を進行できるようになったところである(認定事実⑶イ~エ)。
このような原告による本件一連の言動は,議長の選挙を行うために,
議場の秩序を保持し,中立かつ公平な立場において職務を行い,民主的な議会運営を行うという臨時議長の職責を果たすことなく,その権限を長時間にわたって濫用し続けたものであるといわざるを得ず,地方自治法及び本件規則に反する言動であって,地方自治法134条1項の懲罰事由に該当すると認められる。


本件除名処分の相当性について

(ア)上記アのとおり,本件一連の言動は懲罰事由に該当するものであるところ,13日臨時会の開会から,原告が臨時議長を解任されて,正常な議事進行に戻るまでに約9時間を要している。この点,第24期第1回臨時会本会議において,改選後の議長及び副議長選挙を行うための議事に要した時間は,約50分であったこと(乙11の1〔5頁〕
)に照ら
しても,その影響の大きさは看過し難い。
また,仮に,13日臨時会において議長を選出することができなかった場合には,臨時会が流会となり,市長は改めて同一議案を付議事件として告示し,臨時会を招集する必要があったところ,流会となった場合には,市税条例の一部改正では,議決が遅れることで,一部の納税者において住宅借入金等特別税額控除の適用が遅れ,不利益を被る可能性があったし,国民健康保険条例の一部改正や介護保険条例の一部改正では,議決が遅れることで,保険料額の決定が遅れ,納付通知書等を期限どおり市民に届けることができなくなった可能性もあったこと(乙11の1
〔5頁〕,令和元年5月13日には,常任委員会の開催も予定されてい)
たため,13日臨時会が長引いたことにより,議会事務局職員のほか,議案の所管課職員も深夜まで待機していたところ,これにより必要になった時間外勤務手当は,係長職以下の職員数を約100人と推計すると約170万円と概算され,また,庁舎の光熱費や深夜帰宅に伴うタクシ
ーチケット代の支出も必要となったこと(乙11の1〔6頁〕
)を考慮
しても,本件一連の言動の影響は,決して軽微なものとはいえない。さらに,13日臨時会における原告の発言内容に加え,原告が,13日臨時会に先立ち,自らが最年長の当選議員であることを認識し,議長に自ら立候補する旨を文書や記者会見で表明していたこと(認定事実⑵
イ,エ)からすれば,自らが臨時議長となった上で,議長選挙を立候補制により実施することを提案し,これを断行することを予定していたこともうかがわれるところである。
(イ)しかしながら,本件一連の言動により,13日臨時会は約9時間空転したものの,原告が臨時議長から解職された後,予定された議事は全て
行われ(同⑶オ)
,結果として,流会する事態には至らず,市民生活へ
の重大な影響は具体的に生じていない。また,原告が臨時議長を解任された後も議長が選任されるまでの約30分間議長席に居続けた点についても,その間,臨時議長による議長選挙の手続が進められ,議長を選任できており,結果として,重大な影響は生じなかったと認められる。この点に関し,本件除名処分の対象事由である本件一連の言動として,議事の進行を求められた原告が,これに応じることなく議長席に居座り続けたことが挙げられているところ(前提事実⑵キ),少なくとも,
原告が臨時議長を解職されるまでの間は,原告において議長席を退かなければならないという法的根拠はないから,原告が臨時議長として正常に議事を進行しなかったということを超えて,臨時議長解職前に議長席
を退かなかった点を捉えて,原告の言動が殊更に悪質であると評価することは相当でないというべきである。
なお,懲罰特別委員会での質疑や意見表明において,本件一連の言動がワイドショー等で放送されて札幌市議会の品位を貶めた,原告の弁明や謝罪が信用できないものであって,27日臨時会での土下座も市民の
気持ちを逆なでするパフォーマンスであるなどと強く指摘されていることに照らせば,同委員会の報告を受けてされた,原告に対して除名の懲罰を科すべきとの札幌市議会の議決に当たり,本件一連の言動そのものの悪質性を示す事情とはいい難い点までが考慮されたことも否定できない。

(ウ)以上からすれば,本件一連の言動は,議員としての身分を喪失させるべき程度にまで悪質性の高い懲罰事由であるということはできず,本件一連の言動に対して除名の懲罰を科すことは重きに失すると評価することとなる。したがって,本件除名処分は,社会通念上著しく相当性を欠き,議会の自律権に基づく裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したもの
であって,違法であるというべきである。

3
議員報酬等の請求について


前記2のとおり,本件除名処分は違法であり,取消しを免れないから,原告は,令和元年6月21日(本件除名処分の日)に議員としての資格を喪失しておらず,その任期中の議員報酬請求権(期末手当を含む。
)も喪失して
いないのであって,そうすると,原告には,同月22日から同月30日まで
の議員報酬の日割分25万8000円を返還すべき義務はなかったこととなる。


そして,被告が,原告に対して支給すべき議員報酬及び期末手当は,上記日割分25万8000円及び同年7月以降毎月10日限り86万円(口頭弁論終結日までの確定額計885万8000円)並びに令和元年12月以降毎
年6月及び12月の各末日限り208万8725円(口頭弁論終結日までの確定額208万8725円)である(前提事実⑶)。
第4

結論
よって,原告の請求はいずれも理由があるから,これを認容することとし,
主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

武部知子
裁判官

伊藤吾朗
裁判官

先﨑春奈
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