判例検索β > 令和1年(わ)第2326号
現住建造物等放火(変更後の訴因現住建造物等放火、重過失致死)、占有離脱物横領、廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反
事件番号令和1(わ)2326
事件名現住建造物等放火(変更後の訴因現住建造物等放火,重過失致死),占有離脱物横領,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反
裁判年月日令和2年7月8日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第3刑事部
裁判日:西暦2020-07-08
情報公開日2020-08-04 12:00:20
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主文
被告人を懲役16年に処する
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は
第1

Aと共謀の上,
法定の除外事由がないのに,
平成30年4月6日午前0時頃,
大阪府泉南市(住所省略)株式会社B敷地内において,廃棄物であるプラスチック製警報装置約420個(重量合計約37.8キログラム)を焼却し
第2

同年11月18日頃,大阪府泉南郡a町(住所省略)C公民館南側駐輪場において,Dの意思に基づかずにその占有を離れて同所に放置された前記D所有の自転車1台(時価約3000円相当)を発見したのに,自己の用に供する目的で同所から乗り去り,もって占有を離れた他人の物を横領

第3

同年12月5日頃,a町(住所省略)路上付近において,Eの意思に基づかずにその占有を離れて同所に放置された前記E所有の自転車1台(時価約6000円相当)を発見したのに,自己の用に供する目的で同所から乗り去り,もって占有を離れた他人の物を横領

第4

F(当時80歳)及びG(当時74歳)が現に住居に使用し,かつ,前記F及びGが現にいるa町(住所省略)の木造瓦葺平家建住宅(床面積約92.4平方メートル)を放火しようと考え,同月5日午後11時30分頃から同月6日午前0時頃までの間に,前記住宅北側ガレージ南西部付近において,同ガレージ内にあった可燃物にライターで点火して放火し,その火を同住宅の壁等に燃え移らせ,よって,同住宅西側和室等を焼損(焼損面積約24.9平方メートル)するとともに,同住宅に放火すれば,その居住者らの生命身体にも危害を及ぼすおそれのあることが十分に予想されたのであるから,同住宅への放火を厳に慎むべき注意義務があるのにこれに違反して,前記放火行為をした重大な過失により,その頃,同住宅において,前記F及びGをいずれも一酸化炭素中毒及び酸素欠乏により死亡させ
たものである。
(証拠の標目)
省略
(争点に対する判断等)
第1

争点等
本件の争点は,判示第4の現住建造物等放火,重過失致死被告事件について,
①被告人が放火した時点で,
火が前記F及びG方住宅
(以下
本件住宅
という。

に燃え移るかもしれないという認識があったといえるかどうか,②被告人が,放火した当時,
責任能力を有していたかどうか,
すなわち,
精神障害の影響により,
物事の善悪の判断や自分の行動を思いとどまることが非常に難しい状態にあったか,あるいはそれほどでもなかったかである。
第2
1
当裁判所の判断
争点①(現住建造物等放火の故意)について
(1)

まず,出火場所であるガレージは,南北310センチメートル,東西72
0センチメートルの広さで,木造瓦葺平家建である本件住宅の北東側に隣接しており,側面にガレージ独自の壁はなく,上部には高さ210センチメートルの位置にポリカーボネート製波板の屋根が設置され,北側は道路に,西側は本件住宅玄関の外壁に,
南側は本件住宅の東西2つの六畳和室の外壁に,
東側は隣家との塀に,
それぞれ接していた。
火災発生当時,
ガレージ内には,
西側外壁沿いに物置(西側物置)が,南西側外壁沿いには西から室外機,木製下駄箱,物置(南側物置)がそれぞれ設置され,南側物置の前には単車が停められていた。
そして,ガレージ屋根の鉄骨材の変形の有無(住宅側の鉄骨が熱の影響で垂れているのに対し,道路側の鉄骨にはそのような変形がない。,屋根の波)
板の焼失の有無(波板の西側は焼失しているのに対し,東側は燃え残っている。,物置や下駄箱,室外機の各面の焼けの強さ(焼けが強いのは南側物置)
の西側,室外機の北東側,西側物置の南側である。
)などからすれば,出火場
所はガレージの南西部であると考えられる(証人H)

(2)

以上を踏まえ,放火の方法について検討する。被告人は,捜査段階では,
下駄箱から30から50センチメートルくらい離れた場所で段ボールや新聞紙という燃えそうな物に火を点け,更にガレージの中にあった燃えそうな物をくべていったところ,炎が大きくなって高さが80センチメートルから1メートルくらいになり,下駄箱の裏辺りにあった本件住宅のガラス障子にも炎の光が映ったため,怖くなってその場から逃げた。旨供述した一方,公判では,
物置の前にあった単車から1メートルくらい離れた場所,すなわち住宅よりも道路に近い場所で,はっきり覚えていないが段ボールや新聞紙という燃えそうな物1つに火を点けた。地面に置くとその火はある程度燃えた。5分から15分ほどガレージにいたが,火はだんだん小さくなっていった。立ち去るときに火がどうなっていたかについては,キツネにつままれたようであった。えらいことをやってしまった,顔見知りに見られたらえらいことになるなどと思って逃げた。よっぽど怖かったのか。などと供述する。被告人の捜査段階供述は,火を点けた場所などその供述の核心部分について出火場所と極めてよく整合する。また,被告人は,取調べ担当検察官について,

ごっつええようにしてくれた。一番分かる人やった。嘘はついていない。などと述べているし,

犯行時間帯などの分からないことはそのとおり話
したというのであり,取調官による不当な影響もうかがわれない。供述内容も具体的で不自然な点はない。弁護人は,認知症やIQが低いために誘導を受けやすい被告人が,実際にはあったはずの単車が記載されていない見取図を示された結果,誤導により供述したもので,信用性がないと主張する。しかし,被告人は,捜査段階で,ガレージ内に

原付がとめてありました。

とも述べており,単車の存在を前提に供述したものと考えられるから,見取図に単車が記載されていなかったからといって誤導されたとはいえない。さらに,被告人は,公判でも自分の言いたいことを繰り返し述べて自己主張をしており,誘導を受けやすいともいい難い(起訴前に精神鑑定を行った証人Iも同旨を述べる。。弁護人の前記主張は採用できない。以上より,被告人の)
捜査段階供述は信用できる。
他方,被告人の公判供述についてみると,その供述からすれば,火を点けた場所はガレージの北側中心部ということになるが,これは出火場所がガレージの南西部であることと整合しない。また,その供述内容も,火を点けて地面に置いた後,しばらくその場にとどまり火の様子を見ていたというのに,立ち去るときに炎がどうなっていたのか,キツネにつままれたなどとしてはっきり答えない上,それにもかかわらず立ち去った理由をえらいことをやってしまったよっぽど怖かったなどと述べており,不自然である。捜査
段階からの大きな変遷についても合理的な点は見いだせない。以上より,被告人の公判供述は信用できない。
(3)

以上からすれば,被告人は,ガレージの構造や,下駄箱,新聞紙,段ボー
ル等の可燃物があること,隣接して本件住宅があることなどの周囲の状況を認識しつつ,ガレージの中でも本件住宅に近い南西部,下駄箱から30センチメートルから50センチメートル程度の場所で,可燃物に火を点け,更にその火に可燃物をくべていき,かなりの大きさの炎を作り出したのであって,このような周囲の状況の認識と放火行為の態様からすれば,火が本件住宅に燃え移るかもしれないという認識があったものと強く推認できる。これに対し,弁護人は,証人I作成の鑑定書の視覚的情報をもとに状況や場面を捉えることは非常に困難であるとの記載を援用し,被告人は認知症やIQ70の影響で,目前の火の意味内容を正しく理解しておらず,火が住宅に燃え移るかもしれないという認識がなかった旨主張する。しかし,前記記載は,臨床心理士においてWAIS-Ⅲという一般的,定型的知能検査の一項目の結果を記したものにとどまり,直ちに本件での被告人の火に対する理解等に当てはまるものではないし(証人Iも同旨)
,判示第1では,被告
人がプラスチック製警報装置をドラム缶に入れて焼却するなど火の意味内容を理解した行動を現に取っている上,炎を見て怖くなったとの供述からも,火の性質を理解していたものと考えられる。そうすると,弁護人の指摘する事情をもって,火が本件住宅に燃え移るかもしれないと認識していたことに疑問を生じさせることにはならない。
以上より,被告人は,放火した時点で,火が本件住宅に燃え移るかもしれないと認識していたと認められる。また,かかる認識があった以上,その住宅の住民が燃え移った火によって死亡するかもしれないということは十分に予見できるというべきであり,
過失致死罪が成立することも明らかである。
2
争点②(責任能力の有無,程度)について
(1)

証人Iは,

被告人は,本件当時,軽度の血管性認知症にり患していたが,認知症は,放火行為に関与しておらず,認知症による影響は全くない。

旨述べる。証人Iの能力や公正さに疑問はなく,鑑定手法は相当であり,鑑定の前提条件にも問題は見受けられない。弁護人は,被告人の知能検査の結果がIQ70であり,しかも,本件当時いわば動物のような生活をしていたなどとして,知的障害の有無に関する証人Iの供述は信用できず,被告人は知的障害に陥っていたと主張する。しかしながら,証人Iは,被告人の知能検査(WAIS-Ⅲ)の結果はIQ70と境界域であるものの,家族がいたことや長年仕事に就いてきたことなどの被告人の生活歴,本件当日も被告人は,警察の職務質問がきっかけで,妹の家に送り届けられたが,妹に迷惑をかけたくないという思いで独力で生活を送っていたことなどを総合考慮し,知的障害ではないとしたものであり,その判断は合理的であって信用することができる。弁護人の前記主張は採用できない。
(2)

以上を踏まえ,
被告人の責任能力について検討すると,
被告人は軽度の血

管性認知症にり患していたものの,それが犯行に影響を及ぼすことはなかった。なお,犯行時の被告人の思考や行動をみても,ホームレス生活を送る現状への憤り等からくる鬱憤を晴らすために火を点けるという動機,火を点けるのに可燃物を探し,更に可燃物をくべていくという犯行態様や,怖くなって逃げるという犯行後の行動もごく普通のものであって,そこに精神障害の影響をうかがわせる事情は見いだせない。そうすると,被告人は,物事の善悪の判断や自分の行動を思いとどまることが非常に難しい状態ではなかったというべきで,完全責任能力を有していたと認められる。
(法令の適用)
1
被告人の判示第1の所為は刑法60条,廃棄物の処理及び清掃に関する法律25条1項15号,16条の2に,判示第2及び第3の各所為はいずれも刑法254条に,判示第4の所為のうち,現住建造物等放火の点は刑法108条に,重過失致死の点は被害者ごとにいずれも刑法211条後段に,それぞれ該当する。
2
判示第4は1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として最も重い現住建造物等放火罪の刑で処断する。
3
各所定刑中判示第1ないし第3の各罪についてはいずれも懲役刑を,判示第4の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択する。

4
以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により最も重い判示第4の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役16年に処する。

5
刑法21条を適用して未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
6
訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。

(量刑の理由)
量刑の中心となる現住建造物等放火,重過失致死(判示第4)についてみると,本件では,何ら落ち度のない居住者2名が死亡するという取り返しのつかない重大な結果が生じており,量刑に当たってはこの点を重視すべきである。遺族が大きな精神的苦痛を受け,厳しい処罰感情を抱くのも当然といえる。このような結果を招いたのは,被告人が,火災が発見されにくい深夜に,住宅密集地にある本件住宅のすぐそばで,可燃物に火を点け,その火に燃えそうな物をくべて炎を大きくしていったという危険性の高い行為を行ったからである。被告人がこのような行為に及んだのは,ホームレス生活などで募らせた鬱憤を晴らすためと認められるが,そこに人が住んでいることを知っていたのに全く無関係の住宅へ放火するなど許されるはずはなく,動機に酌量すべき点はない。これらに照らせば,最初から本件住宅を燃やすつもりだったとまでは認められないことや,油類も使用していないことを踏まえても,
本件犯行は,
同種事案
(処断罪が現住建造物等放火
所在地が住宅密集地,
示談等なし)の中で重い部類に位置づけられる。短期間のうちに廃棄物の不法焼却(判示第1)及び自転車の占有離脱物横領2件(同第2,第3)に及んだことも併せると,被告人の刑事責任は誠に重い。
以上に加え,被告人に事の重大さに向き合おうとする姿勢が感じられず,内省の深まりが不十分であるようにうかがわれること,認知症のり患や知的能力の低さについては犯行に直接関係しておらず,さほど有利にしん酌することはできないことを踏まえると,前科がなく元来から犯罪傾向があったわけではないことなどを考慮しても,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断した。
(求刑

懲役16年)

令和2年7月8日

大阪地方裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

中川綾子
裁判官

千葉康一
裁判官

西田篤史
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