判例検索β > 平成30年(ネ)第10062号
職務発明対価請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ネ)10062
事件名職務発明対価請求控訴事件
裁判年月日令和2年6月30日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2020-06-30
情報公開日2020-07-30 10:00:37
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令和2年6月30日判決言渡

平成30年(ネ)第10062号

職務発明対価請求控訴事件

(原審東京地方裁判所平成27年(ワ)第1190号)
口頭弁論終結日令和2年1月28日
判決
控訴人・被控訴人(一審原告)

X
(以下一審原告という。)

同訴訟代理人弁護士

大野聖二同小林英了同大野浩之同木村広行同多田宏文
被控訴人・控訴人(一審被告)

ソニー株式会社
(以下一審被告という。)

同訴訟代理人弁護士

熊倉禎男同富岡英次同𠮷田和彦同渡辺同奥村直樹同松野仁彦同山本飛翔同補佐人弁理士

鈴木信彦主文光1
一審被告の控訴に基づき,原判決の1項及び2項を次の2項及び3項のとおり変更する。

2
一審被告は,一審原告に対し,2959万0513円及びこれに対する平成27年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
一審原告のその余の請求を棄却する。

4
一審原告の控訴を棄却する。

5
訴訟費用は,原審及び当審を通じてこれを16分し,その15を一審原告の,その余を一審被告の各負担とする。

6
この判決の2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1控訴の趣旨
1
一審原告
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)一審被告は,一審原告に対し,3億円,及び
内4560万9277円に対する平成17年7月30日から支払済みまで,3912万8186円に対する平成17年8月20日から支払済みまで,4604万5775円に対する平成17年9月23日から支払済みまで,3279万2505円に対する平成18年12月16日から支払済みまで,3088万3606円に対する平成19年1月6日から支払済みまで,2284万9307円に対する平成19年10月27日から支払済みまで,2216万1278円に対する平成19年12月15日から支払済みまで,1681万9536円に対する平成21年2月28日から支払済みまで,1929万5364円に対する平成22年5月1日から支払済みまで,996万6364円に対する平成22年8月7日から支払済みまで,1444万8802円に対する平成22年12月18日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2
一審被告
(1)原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。
(2)一審原告の請求を棄却する。

第2事案の概要等(略語は特に断らない限り原判決の例による。)1
事案の要旨


本件は,一審被告の従業員であった一審原告が,一審被告に対し,職務発明について特許を受ける権利を一審被告に承継させたことにつき,平成16年法律第79号による改正前の特許法(旧法)35条3項の規定に基づき,相当の対価の未払分296億6976万3400円の一部である5億円及びこれに対する請求の日(訴状送達の日)の翌日である平成27年1月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。



原判決は,3181万8836円及びこれに対する遅延損害金の限度で一審原告の請求を認容し,その余の請求を棄却した。
原判決では,上記認容額の算定過程を説示するに当たって,原判決添付の別表及び別紙が引用されている。これらを一覧できる形にまとめたものが,本判決の別紙1である。
本判決別紙1の各表と,原判決添付の別表及び別紙とのおおむねの対応関係は,次のとおりである。
本判決別紙1

原判決

表1

別表(売上高)

表2

別表(実施月数)

表3表4

(別紙)対価算定表の第2表

表5

同第3表

表6

同第1表

なお,本判決別紙1の表3は,原判決(別紙)対価算定表の第2表(自己実施分)のうちの関係売上の算定経過を明らかにしたもので,本件各発明ごとに,表3の2014(平成26)までの分が関係売上の上段に,表3の2015(平成27)以降の分が関係売上の下段にそれぞれ対応する。


原判決に対し,両当事者がそれぞれ控訴した。
一審原告は,控訴に当たり,一部請求の範囲を3億円として不服の範囲を限定した。また,当審において,遅延損害金について訴えの拡張を行った。その内容は,当審において請求する相当の対価3億円を関係各特許に割り付けた上,各特許の特許登録日を遅延損害金の起算日とするものである。
2
前提事実


後記⑵のとおり改めるほかは,原判決事実及び理由第2要2事案の概前提事実(2頁15行目から6頁末尾まで。ただし,原判決3
頁1行目の被告のから同2行目の共同で,までを削り,同8行目の末尾に

なお,これらの発明を一審原告が単独で行ったのか,一審被告の他の従業員と共同で行ったのかについては争いがある。

を加える。)に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,原判決の引用に当たり,内容にわたらない加除訂正は別紙5の正誤表に一括して掲げる(以下,本判決において同じ。)。

ア原判決4頁17行目から末行までを次のとおり改める。被告製品について(争いのない事実,弁論の全趣旨)(ア)一審被告は,原判決別紙被告製品目録1に記載された製品群(以下,総称して「被告製品1

という。)を製造販売している(この製造には他の事業者への製造委託を含む。)。
被告製品1(商品名FeliCaStandard)の製品群には,ICチップ,アンテナモジュール及びICカードが含まれる。概略,ICチップにアンテナ等の回路を付加した製品がアンテナモジュールである。アンテナモジュールに他の部品を付加してプラスチックカードに一体化した製品が,最終製品としてのICカード
(SuicaカードPASMOカードなど)である。すなわち,アンテナモジュール又はICカードにも,その構成要素としてICチップが必ず用いられているという関係にある。
被告製品1のうち,早い時期に製造された製品群はICチップ上のメモリとしてEEPROMを搭載していたが,遅い時期にはFeRAMを搭載している。
(イ)

一審被告は,原判決別紙被告製品目録2に記載された製品群(以下,
総称して被告製品2という。)を製造販売している。
被告製品2(商品名FeliCaLite)は,被告製品1のセキュリティ機能の一部を省いた製品群である。
被告製品2のICチップ,アンテナモジュール及びICカードの関係は,被告製品1と同様である。(ウ)

一審被告は,原判決別紙被告製品目録3に記載された製品群(以下,
総称して被告製品3という。)を製造販売している。
被告製品3(商品名FeliCaLite-S)は,被告製品2のセキュリティ機能を強化した製品群である。
被告製品3のICチップ,アンテナモジュール及びICカードの関係は,被告製品1と同様である。なお,実際には,一審被告は被告製品3のICカードを製造していない(ICカードは,被告製品3のICチップ又はアンテナモジュールを用いて,一審被告以外の事業者が製造している。)。
(エ)

一審被告は,原判決別紙被告製品目録4に記載された製品(以下被告製品4という。)を製造販売している。被告製品4(商品名FeliCaトークン)は,コイン状の物であり,その中にはICチップが埋め込まれている。
(オ)

一審被告は,原判決別紙被告製品目録5に記載された製品群(以下,
総称して被告製品5という。)を製造販売している。
被告製品5(商品名FeliCaリーダライタ)は,被告製品1~4,6と相互に通信する機器及びその構成要素としての製品群である。概略,ICチップにアンテナ及びメモリ等を付加した製品がモジュールであり,モジュールを用いて最終製品としての機器としたものがリーダライタである。すなわち,リーダライタ及びモジュールにはその構成要素としてICチップが必ず用いられているという関係にある。
被告製品5には,セキュアタイプ及びノンセキュアタイプと呼ばれる二通りの仕様の製品がある(それぞれ被告製品5セキュア被告製品5ノンセキュアという。)。被告製品5セキュア(更に被告製品5Sと略すことがある。)は,かざされたFeliCaICカード,トークン等が真正なものであることを当該製品内において認証する機能を有する。被告製品5ノンセキュア(更に被告製品5nSと略すことがある。)は,同機能を有しない。
また,被告製品5Sには,発券機能を有する製品と有さない製品
とがある。被告製品5nSは,発券機能を有さない。
(カ)

一審被告は,原判決別紙被告製品目録6に記載された製品(以下被告製品6という。)を平成16年1月7日まで製造販売していた。被告製品6(商品名モバイルFeliCa)は,携帯電話端末などに搭載するICチップである。
同日以降は,上記⑸(原判決4頁9行目から15行目まで)のFN社の設立等に伴い,一審被告では被告製品6を製造していない。
被告製品1と同様に,被告製品6も,早い時期にはEEPROMを搭載し,遅い時期にはFeRAMを搭載している。
イ3
被告製品ごとの本件発明の実施状況」

争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点及びこれに対する当事者の主張は,後記4及び5のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決事実及び理由第2の概要3争点及び4事案争点についての当事者の主張(7頁冒頭か
ら48頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。4
当審における一審原告の主張


消滅時効について

原判決は,特許登録前の発明の実施に係る相当の対価の支払請求権につき,一審被告の発明考案規定の解釈等に基づいて,その支払時期は特許を受ける権利の一審被告への譲渡時である旨判断し(原判決90頁2行目から93頁15行目まで),これを前提として,上記支払請求権は時効消滅したと判断した。
しかしながら,一審被告の発明考案規定を総合的に解釈すれば,被告発明考案規定においては,その審査等の対象となる実績について,登録前のものと,登録後のものとを特段区別していないことが明らかである。そして,このように解釈することは,当事者の合理的意思に合致するし,一審被告における上記規定の実際の運用とも整合する。したがって,特許登録前の発明の実施に係る対価の支払請求権について,登録後のそれとは別個に消滅時効が進行すると考えるのは誤りである。


原判決は,一審被告による報奨金の支払によって,上記支払請求権の消滅時効の中断又は時効利益の放棄のいずれの効果も生じない旨判断した(原判決93頁16行目から22行目まで)。
しかしながら,相当の対価について,職務発明規程でどのように定められていたとしても,当該規程に基づく対価の支払いは相当の対価の一部であることには変わりない。したがって,仮に,被告発明考案規定に基づいて,登録後の実績に対応する対価が支払われたとしても,それは相当の対価の一部弁済であるから,相当の対価の未払分全額について時効中断ないし時効援用権の喪失の効果が生じている。


被告製品における本件発明の実施の有無について

原判決は,発券機能を有する被告製品5Sについて,本件発明5-3との関係で,仮に第三者が製造販売していれば特許法101条所定の間接侵害が成立する製品(以下間接実施品という。なお,以下実施とい
うときは,間接実施を含む。)でない旨判断した(原判決73頁5行目から74頁8行目まで)。
しかしながら,本件発明5-3は,被告製品1に該当するデータ記憶装置に対して,管理情報を提供するための処理を行う情報処理方法の発明であるところ,仮に発券機能を有する被告製品5Sが,その情報処理方法における管理情報作成ステップを実行しないとしても,その余の暗号化ステップと送信ステップの全てを実行することは,一審
被告も認めている。よって,発券機能を有する被告製品5Sが,本件発明5-3との関係でその方法の使用に用いる物に当たることは明らかである。


原判決は,発券機能を有する被告製品5Sについて,本件発明10-1の間接実施品でない旨判断した(原判決84頁2行目から86頁24行目まで)。
しかしながら,本件発明10は,複数の事業者で単体のICカード等を共用使用する場合に,サービス提供元のセキュリティの面を含む各種要望に対応することができるデータ処理方法およびそのシステム,携帯装置,データ処理装置およびその方法とプログラムを提供することを目的とする発明である。本件発明10-1は,かかる課題を解決するため,第1のモジュールデータを分割用鍵で暗号化し,この暗号化されたものを含む第2のモジュールデータを更に第1の領域管理鍵データ
で暗号化し,この暗号化された第2のモジュールデータをICカードの集積回路に提供してICカードの記憶領域を分割することを可
能にした発明である。そして,発券機能を有する被告製品5Sは,ICカードに相当する被告製品1(のICチップ)に対して,暗号化された第2のモジュールデータに相当するデータを提供して,その記憶領域に相当するメモリの分割を実行するから,まさに記憶領域の分割の実行に用いられ,本件発明10-1の方法の使用に用いる物であってその発明の課題の解決に不可欠なものに当たる。


本件特許の承継によって一審被告が得た利益又は価値について

自己実施に係る独占の利益について
(ア)

一審被告の売上高を計算する際の単価について
原判決は,自己実施に係る独占の利益の算定に当たって用いる一審被告の売上高を,ICカードやモジュールについてもICチップの単価によって計算すれば足りると判断した(原判決96頁12行目から98頁13行目まで)。
しかしながら,本件各発明は,ICチップのみを対象とした発明ではなく,ICカード等もその技術的範囲に含むものである。また,被告各製品のICカード等は,本件各発明が実施されているからこそ需要が生じるのであって,本件各発明の1つでも実施されていなければ鉄道事業者等が被告各製品を購入することはない。そうすると,ICカード等とICチップの単価の差額についても,専ら本件各発明に帰属する部分であることは明らかであるから,相当の対価の算定の基礎としては,被告各製品の全体としての売上高を考慮すべきである。

(イ)

超過売上割合について
原判決は,自己実施に係る独占の利益の算定に当たって用いる超過売上割合を,40%と認定した(原判決100頁6行目から102頁19行目まで)。
しかしながら,超過売上高とは,仮に他社に実施許諾した事態を想定した場合に使用者等が得たであろう仮想の売上高と現実に使用者等が得た売上高とを比較して算出された差額に相当するものをいう。一審被告が製造販売するICチップ及びICカードについては,もし本件各発明の実施許諾がなされれば,これらを製造販売するための技術力及び生産能力を有する著名な大企業が多数存在しているから,一審被告は,被告各製品の売上の大半(少なく見積もっても7割程度)を喪失することが明らかである。したがって,いくら控えめに考えたとしても,超過売上高の割合は,70%を下ることはない。
(ウ)

仮想実施料率について
原判決は,自己実施に係る独占の利益の算定に当たって仮想実施料率を用い,その割合を特許1件当たり0.8%と認定した(原判決102頁20行目から104頁18行目まで)。
しかしながら,本件においては,仮想実施料率ではなく限界利益率(その率は50%を下回らない)を用いるべきであるし,仮想実施料率を用いるとしても,その率は25%を下回らない。本件各特許が被告各製品の市場独占力にとって決定的であることは原審において主張してきたとおりであり,例えば,一審被告の従業員がFeliCa技術の特長を紹介した記事(甲100)においても,特長として挙げられた内容はいずれも本件各発明そのものである。


FN社への現物出資によって得た利益について
原判決は,一審被告からFN社に対して現物出資された本件特許の実施権の価値を,現物出資の際に取得した株式の価値●●●●をもとに算出することとし,ライセンス事業の価値をそのうち●●●●●●●●●であるとした上で,特許とノウハウとの価値の割合が2:1であるとして3分の2を乗じ,さらに現物出資された特許権150件のうち本件各特許は8件であることを理由に更に150分の8を乗じて,●●●●●●●●と評価した(原判決105頁13行目から107頁16行目まで)。
しかしながら,FN社は一審被告のグループ会社であるところ,グループ会社間においては,グループ会社間に於ける利益配分により,ライセンサー企業に間接的に利益が還元されることが当然に予定されているから,単に現物出資に対する対価のみでは,本件各特許権の実施権が評価し尽くされているとはいえない。そして,間接的に還元される利益の額を個別具体的に確定することは困難であるから,FN社の売上額のうち本件各製品の売上げに係るものを抽出した上で,この売上げについて一審被告がFN社から受領すべき相当なライセンス料を基に算出すべきである。本件各証拠に基づきかかるライセンス料を計算すると●●●●●●●●●にものぼるのであるから,ライセンス事業の価値を●●●●●●●●●としたことは,現実から大きくかい離しており明らかに不合理である。
また,原判決の上記評価において,特許とノウハウとの価値の割合を2:1であるとしたことは,ノウハウに比して特許が圧倒的に大きな価値を有することに照らして誤りであるし,本件各特許と他の特許との価値の割合を単に件数によって定めたことは,本件各特許が決定的に重要であることに照らして誤りである。

第三者に対する実施許諾に伴う利益について
原判決は,FN社以外の第三者に対するFeliCaOSのライセンスにより得られる利益に本件発明の実施許諾の対価の趣旨を含んでいるか否かは明らかでない等として,第三者に対する実施許諾に伴う利益を相当の対価の算定の基礎としなかった(原判決107頁17行目から108頁3行目まで)。
しかしながら,一審被告は,ICカードを製造する他社に対し,FeliCaOSについてOSライセンスを許諾し,チップ1個当たり少なくとも●●●を受領している。そして,FeliCaOSでは本件各発明が実施されていること,OSライセンスには本件各発明の実施を許諾する趣旨が含まれていることが明らかであるから,かかるライセンス契約により一審被告が受領した金員は,そのまま独占の利益として算定されるべきものであり,その金額は●●●●●●●●●を下らない。


本件発明に対する一審被告の貢献度について
原判決は,本件発明に対する一審被告の貢献度を95%と評価した(原判決108頁4行目から114頁19行目まで)。
しかしながら,評価の前提となる一審原告の関与を発明者しか行うことができない行動に限るかのように説示するなど,不当に狭く解した上,発明者としての一審原告の貢献を示す重要な事情や,一審被告の貢献度を低減させる事情について考慮を欠いている。一審原告は,自らビジネスモデルを考えながら,それを実現する技術を開発し,そのビジネスモデルで利益を確保する特許発明をし,実際に営業活動を自ら行うなどして,FeliCa事業を成功に導いたのであり,その貢献度は他に例をみないほど極めて高い。それに対し,一審被告は,FeliCaの開発にほとんど貢献しておらず,むしろ,その事業展開に失敗するなど,その貢献は非常に小さい。ポイントとなる点は,別紙6一審原告の貢献度の高さと一審被告の貢献度の低さを示す事情についての一審原告の主張に記載のとおりであり,これらの事情を正しく認定判断すれば,一審被告の貢献度は80%を超えず,いかに高く評価しても90%を超えることはあり得ない。



共同発明者間における一審原告の貢献の割合について
原判決は,共同発明者各自の発明に対する貢献の程度は均等であるとの認定を前提に,一審原告の貢献の割合を算定した(原判決114頁20行目から115頁18行目まで)。しかし,次に述べるとおり,本件各発明は,その全部,あるいはその大部分を一審原告が単独で行ったものであり,貢献の程度が均等であると判断するのは誤りである。

本件発明1~3,11
これらについて,発明のすべての構成を創作したのは一審原告である。Aは,一審原告の指示を受けてプログラミングを担当したのにすぎず,その行為は,技術的創作活動という評価には値しない。したがって,上記各発明は,一審原告が行ったものというべきであるし,その貢献を少なく見積もっても70%を下ることはない。


本件発明4~7,9,10,12
一審原告は,これらの発明の前提となる非接触式ICカードに関する事業化モデルを発想し,それを具体化するために,上記各発明を行った。各発明の具体的構成を創作したのは一審原告であり,他の者は,技術的創作活動という評価には値しない関与をしたのみである。
すなわち,A及びBは,一審原告の指示を受けてプログラムを作成し,また,A及びCは,本件発明7の縮退鍵についてセキュリティの高さの検証を行ったが,これらはいずれも技術的創作活動という評価に値するものではない。更に,Dは,本件特許10について出願時に関与したことから発明者として記載されているが,このような出願時の関与が,技術的創作活動という評価に値しないことは明らかである。
以上の点を考慮すると,上記各発明は一審原告が行ったものというべきであるし,その貢献を少なく見積もっても70%を下ることはない。

本件発明8
本件発明8も,一審原告が長年携わってきた被告各製品の開発過程における知見に基づいて行われたものであり,一審原告の貢献度は70%を下らない。


遅延損害金の起算日について
被告発明考案規定の定めによれば,相当の対価の支払時期は,特許権の設定登録時または特許発明の実施時のいずれか遅い時点である。本件発明は,それぞれの特許登録前から実施されていたから,本件発明についての相当の対価の支払時期は特許権の設定登録日であり,その日が遅延損害金の起算日となる。
よって,一審原告は,遅延損害金の起算日を原審での請求よりも遡らせて本件各特許の設定登録日とすることにより,請求を拡張する。

5
当審における一審被告の主張


被告製品における本件発明の実施の有無について

原判決は,FeRAMを搭載した被告製品1及び6について,本件発明2-2の実施品である旨判断した(原判決53頁17行目から56頁12行目まで)。
しかしながら,本件発明2-2では,記憶手段が有するデータ領域及びポインタ領域が同一のブロック単位でデータ及びデータブロック番号を記憶することを構成要件としているところ,FeRAMでは,ページ単位ではなく1バイト単位でデータの更新を行っているため,ブロック領域におけるデータブロック容量と管理テーブルにおけるセグメントの容量が異なっているから,所定のブロック単位でデータ及びデータブロック番号を記憶しているとはいえない。このように,被告製品1及び6のうちFeRAMが採用された製品は,本件発明2-2の構成要件を充足しないから,同発明を実施していない。


原判決は,FeRAMを搭載した被告製品1及び6について,本件発明3-2の実施品である旨判断した(原判決56頁13行目から60頁9行目まで)。
しかしながら,特許発明3-2に記載の消去ステップは,古いデータを更新中に電源が遮断される等の事態が生じてもデータの読み出しが不安定にならないようにするため,第1の領域又は第2の領域のいずれか一方に記録されているデータを消去することにより,他方に記録されているデータの完全性を保証するという技術的意義を有するものである。しかるに,FeRAMでは,1クロックサイクルで1バイトの書き込みが完全に行われるため,書き込みの途中で電源が遮断されるとデータの読出しが不安定になるという事態がそもそも存在しない。このように,FeRAMは,EEPROMとは異なり,第1の領域又は第2の領域のいずれか一方に記録されているデータを消去することにより,他方に記録されているデータの完全性を保証するという構成を採用する必要がないため,FeRAMを搭載した被告製品1及び6では,一方の領域が有効である場合に,他方の領域が消去済みであるかを判断する必要はなく,当該他方の領域を消去せずに,当該他方の領域を更新するという構成を採っており,本件発明3-2を実施していない。


本件特許の承継によって一審被告が得た利益について

超過売上割合について
原判決は,自己実施に係る独占の利益の算定に当たって用いる超過売上割合を,40%と認定した(原判決100頁6行目から102頁19行目まで)。
しかしながら,本件各特許の実施品又は間接実施品である被告製品の売上高のうち,本件特許によって得られた独占の利益に由来する部分はきわめて限定的である。特に,下記の各事情を考慮すれば,超過売上割合は存在せず,仮に存在するとしても10%を超えない。


FeliCa事業は,JR東日本を始めとする全国交通系の企業が構築した巨大なインフラストラクチャーの市場影響力に基づき,特許権の排他的効力を利用することなく,事業が拡大・維持されてきた。


本件各発明は,E発明のような基本発明を含む従来技術と比較して,格別に画期的といえるものではなく,市場における排他的効力は,もともと低いものであった。



非接触型ICカードの市場においては,有力な代替技術が存在し,そのような代替技術を選択するユーザーないしプラットフォーマーが独占的な市場を形成している分野もあり,特許権による独占力は低いものであった。



FeliCa事業からは多額の損失が生じており,大きな利益を生ずるような事業でなかった。


仮想実施料率について
原判決は,自己実施に係る独占の利益の算定に当たって用いる仮想実施料率を特許1件当たり0.8%と認定し,実施品ごとに実施又は間接侵害されている特許の件数を累積して計算した(原判決102頁20行目から104頁18行目まで)。この認定及び計算手法は,上記アの①~④のとおりのFeliCa事業の特殊性に照らして誤りである。また,本件各特許がFeliCaという規格を構成する特許の一つであって,その実施料率を高くみるとロイヤルティスタッキングの問題が生じるにもかかわらず,このことを看過している点においても誤りである。
本件においては,FeliCa事業に用いる知的財産権の全体について,仮想実施料率は0.42%ないし0.56%を上回らず(乙53),これらの知的財産権にはノウハウやハードウェア関連の特許権も含まれ,本件各特許以外のソフトウェア関連の特許権も多数存在するから,本件各特許(11件)合計でもその仮想実施料率は更に低い。このことは,FeliCaやこれに類似する技術の特許ライセンスの実例(乙346,396,397)とも整合する。

特許設定登録前の発明の実施に係る相当の対価について
仮に,上記4⑴の一審原告の主張のとおり,特許設定登録前の実施に係る相当対価請求権が時効消滅していないとしても,特許設定登録前の発明の実施には独占の利益がないか,あるとしても特許登録後に補償金請求権が生じ得ることによる限定的なものにすぎない。したがって,特許設定登録前の実施に基づく一審被告の売上は,相当対価の算定に当たって考慮すべきでなく,仮に考慮するとしてもその相当対価は僅少なものである。


本件発明に対する一審被告の貢献度について
原判決は,本件発明に対する一審被告の貢献度を95%と評価した(原判決108頁4行目から114頁19行目まで)。しかしながら,この評価は低きに過ぎ,本件発明に対する一審被告の貢献を裏付ける事情を正しく認定した上でその貢献度を評価すれば,99%を超える。



弁済の充当について
原判決は,本件発明について一審被告が支払った報奨金(合計●●●●●●)を,個別の本件発明の自己実施に関する相当の対価の弁済として扱うという計算方法をとっているので,相当の対価よりも報奨金の額が多い本件発明4及び11の報奨金が過払いとなっている。この過払いは,FN社に対する現物出資に関する相当の対価の弁済として扱うべきである。

第3当裁判所の判断
1
争点(1)(被告製品における本件発明の実施の有無)について


当裁判所の判断は,下記⑵のとおり原判決を改め,同⑶及び⑷のとおり当審における各当事者の主張を採用しない理由につき補充するほかは,原判決の事実及び理由の第3の1項(原判決48頁3行目から87頁14行目まで)の記載のとおりであるからこれを引用する。



原判決73頁5行目から74頁8行目まで(被告製品5S(発券機能有り)が本件発明5-3の間接実施品に当たらない旨を判断した箇所)を,当審における一審原告の主張にかんがみ,次のとおり改める。
(ウ)本件発明5-3の特許請求の範囲の記載によれば,同発明にかかる「情報処理方法は,データ記憶装置(具体的にはICカード)に対して,管理情報を提供するための処理を行うものである。そして,管理情報を提供するに当たっては,管理情報作成ステップ,暗号化ステップ及び送信ステップの三つの工程が実行される。被告製品5S(発券機能有り)は,前記ア(ウ)②(原判決70頁19行目から23行目参照)のとおり,ICカードの製造者がその製造工程で使用する機器であり,本件発明5-3のうちの暗号化ステップ及び送信ステップを実行する。これに対し,管理情報作成ステップ
は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,カード製造者がその製造工程で実行することはない。
しかしながら,管理情報作成ステップがFN社によって他の機器
によって実行されるとしても,上記三つのステップをすべて実行することによって初めて本件発明5-3の実施が可能になることからすれば,暗号化ステップ及び送信ステップを実施する機器は,本件発明
5-3の方法の使用に用いる装置であるといえる。そして,FeliCaのシステム全体の中で,被告製品5S(発券機能有り)以外に暗号化ステップ及び送信ステップを実施する機器が存在するとは想定し難いから,被告製品5S(発券機能有り)は,本件発明5-3の発明の課題を解決するために不可欠なものといえる。
したがって,被告製品5S(発券機能有り)は,第三者が製造,販売していたとすれば特許法101条5号に該当する物であって,本件発明5-3の間接実施品に当たる。」


当審における一審原告の補充主張のうち,被告製品5S(発券機能有り)が本件発明10-1の間接実施品でない旨の原判決の判断(原判決84頁2行目から86頁24行目まで)の誤りをいうものは,以下の理由により,採用することができない。
すなわち,本件発明10-1は,①分割用鍵データで第1のモジュールデータを暗号化する機能,②第1の領域管理鍵データで暗号化された第1のモジュールを含む第2のモジュールデータを暗号化する機能,③携帯装置の集積回路に対して暗号化された第2のモジュールデータを提供し,集積回路内で第2のモジュールデータ,第1のモジュールデータを順次復号し,第2の領域管理データを用いて第1の記憶領域と第2の記憶領域に分割する機能,という3つの機能から構成されるところ,一審原告は,発券機能を有する被告製品5Sは,ICカードに相当する被告製品1(のICチップ)に対して,暗号化された第2のモジュールデータに相当するデータを提供して,その記憶領域に相当するメモリの分割を実行するから,まさに記憶領域の分割の実行に用いられ,本件発明10-1の方法の使用に用いる物であってその発明の課題の解決に不可欠なものに当たると主張する。しかしながら,本件発明10-1を構成する機能のうち,①の暗号化と②の暗号化,及び③のうち集積回路内で実行される二次にわたる復号と記憶領域の分割とが,本件発明10-1が有する特徴的工程であるといえるところ,被告製品5(発券機能有り)は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●関与するにとどまる。そうすると,被告製品5(発券機能有り)は,本件発明10-1特有の解決手段を構成するものとはいえず,したがって,本件発明10-1の発明による課題の解決に不可欠なものであるとはいえないから,一審原告の主張は採用することができない。


当審における一審被告の補充主張は,次のとおり,いずれも採用することができない。

FeRAMを採用した被告製品1及び6は本件発明2-2を実施していない旨の主張について
本件発明2-2のデータ領域,ポイント領域及び第1及び第2の領域は,それぞれあらかじめ定められたブロック単位で情報を記憶するものであればよく,各領域のブロック単位が同一であることは要しない(原判決55頁3行目から6行目まで)。そうすると,FeRAMを採用した被告製品1及び6が上記各領域を有し,それぞれが所定のブロック単位で情報を記憶していると認められる以上,上記各領域のブロック単位が同一でないとしても,FeRAMを採用した被告製品1及び6は本件発明2-2を実施しているといえる。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。


FeRAMを採用した被告製品1及び6は本件発明3-2を実施していない旨の主張について
本件明細書3には,本件発明3-2における消去ステップと,EEPROMのセル書換えの際の消去工程との関係を示唆する記載はなく,当該消去ステップが,不揮発性メモリとしてEEPROMを用いたことに起因して採用されたものであるとする根拠はない。
また,FeRAMが採用され,セル単位の書込みサイクルが短縮されたことにより,古いデータを更新中に例えば電源が遮断されると,その更新したデータを読み出したとき,そのデータが正しいデータとして読み出されたり,誤ったデータとして読み出すことができず前回のデータが読み出されたり不安定な状態になるとの事象が発生しなくなったことを裏付ける証拠もない。さらに,仮にかかる事象が発生しないとしても,そのことによって直ちにFeRAMを採用した被告製品1及び6が消去ステップを備えていないことになるわけではないのであるから,被告製品1及び6の具体的構成等の推認を妨げる事実が指摘されない限り,消去ステップが採用されているという推認が覆されるものではない。したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
2
争点⑸(登録日前の実施に対応する相当の対価支払請求権の消滅時効の成否)について


関連する被告発明考案規定の内容は,原判決の事実及び理由の第3の1項の⑴(原判決87頁20行目から90頁1行目)までの記載のとおりであるから,これを引用する。



勤務規則等の定めに基づき職務発明について特許を受ける権利を使用者に承継させた従業者は,使用者に対し相当の対価支払請求権を取得する(旧法35条3項)ところ,同請求権についての消滅時効の起算点は,特許を受ける権利の承継時であるのが原則であるが,勤務規則等に使用者が従業者に対して支払うべき対価の支払時期に関する定めがあるときは,その支払時期が消滅時効の起算点となると解される(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。そして,特許発明の実施の実績を考慮して支払われる相当の対価について,対象期間の実績に対応する対価に関する支払時期の定めが勤務規則等にある場合には,当該所定の支払時期までは権利行使について法律上の障害があるといえ,当該期間の実績に対応する対価支払請求権について,所定の支払時期が消滅時効の起算点となると解される。
上記⑴の認定事実によれば,一審被告の発明考案規定上,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●この規定が,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●の実施等を問題にしている以上,報奨金が支払われるためには,特許権等の登録がされることが必要であることは明らかである。しかしながら,上記規定が,実施等に関しては,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,実質的に見ても,この両者を区別する必要に乏しいと考えられること(一審被告は,登録前の実施等に関しては,独占の利益が極めて小さいと主張するが,後に述べるとおり,この主張をそのまま採用することは困難である。)からすると,上記規定は,登録前の実施等についても報奨金を支給する趣旨を定めたものであると解するのが相当である。これを前提に検討するに,被告発明考案規定は,上記のとおり,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●などからすると,特許権等の登録及び実施等がされた後,直ちに報奨金等の支払が行われる(すなわち,特許権等の登録の時又は実施等の時のうち遅い方の時を支払時期とする)旨が定められていると解することも困難である。したがって,対価支払請求権は,上記の原則どおり,特許を受ける権利の承継時に,期限の定めのないものとして発生していると解するほかはない。そうすると,対価支払請求権の消滅時効期間は,特許を受ける権利の承継時から進行することとなるが,被告発明考案規定が,登録前の実施等に対する対価支払請求権と登録後の実施等に対する対価支払請求権を区別することなく,その支払を定めているものと解される以上,被告発明考案規定に基づく報奨金の支払は,登録前後を問わず,実施等に対する対価支払請求権全体に対する一部弁済であって,債務の承認又は時効援用権の放棄に当たると解すべきである。そして,一審被告は,本訴が提起された後である平成28年3月ころまで,報奨金の支払をしていたことは,原判決「事実及び理由の第2の2項⑺記載の前提事実のとおりであるから,登録前の実施等に対する対価支払請求権について,時効の完成を主張できないことは明らかである。
以上により,一審被告の消滅時効の主張は採用することができない。3
争点⑵(本件発明により受けるべき利益)について⑴

旧法35条4項によれば,相当の対価はその発明により使用者等が受けるべき利益の額を考慮して算定すべきところ,本件発明により使用者等が受けるべき利益としては,①使用者等が特許権を自ら独占実施することによって得る利益,②一審被告がFN社に対して実施権の現物出資をしたことに伴う利益,③第三者に対する実施許諾に伴う利益,の三つが考えられる。①は,いわゆる独占の利益である。独占の利益の意義及び本件におけるその基本的な算定方法は,原判決の事実及び理由の第3の3項⑴(原判決94頁1行目から22行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。その具体的な算定は下記⑵のとおりである。これに加えて,上記②の利益について下記⑶で,上記③の利益について下記⑷で,順次検討する。



独占の利益
原判決の上記引用部分に説示されたとおり,独占の利益は,売上高に超過売上げの割合及び仮想実施料率を乗じることによって算定すべきものであるところ,その具体的内容は,以下のとおりとなる。

実施品の売上高
(ア)

前記第2の2の前提事実及び上記1によれば,本判決別紙2の表Aの
本件発明欄記載の発明につき,被告製品1~6の各欄に○が記
載された被告製品はその実施品であり,被告製品1及び6欄に△が記載されたものは,被告製品1及び6のうちEEPROMが搭載された製品が,その実施品である(なお,以下,本件発明のうちの被告製品において実施された発明を総称して,単に本件実施発明ということがある。また,表Aにおいて,被告製品5Sの有無は発券機能の
有無を意味する。)。
もっとも,本件発明2ないし6及び10は,本件発明2-1及び2-2を併せて本件発明2というなど複数の発明を総称したものであるところ,原判決事実及び理由の第2の2⑵及び同⑶記載の前提事実並びに弁論の全趣旨によれば,総称される発明に含まれる複数の発明は同一の発明報告書から具体化された発明であると認められることからすると,総称される発明に含まれる発明が実施されていれば本件実施発明の実施品であるとして売上高を計上するのが相当といえる。
この点を考慮して,表Aを修正すると表Bのとおりとなる。
(イ)

別紙2の表Bのとおり,被告製品のすべてについて,本件発明1~1
1が少なくとも一つは実施されている。そして,被告製品はICチップそのもの又はICチップを部品として用いた製品であることにかんがみ,被告製品において利用されたICチップの売上高を,証拠(乙332,400)及び弁論の全趣旨に基づき年度ごとに集計したものが別紙3の表1である。
別紙3の表1について補足説明する。
a
被告製品全体の売上高ではなく,被告製品において利用されたICチップの売上高を計上したことの理由は,原判決96頁12行目から98頁13行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。
一審原告は,ICチップを含む製品全体の売上高を計上すべきである旨主張するが,ICチップが独立の取引の対象になっていると認められる以上,その売上高のみを計上すれば足りるというべきである。b
年度の区切りは一審被告の会計年度によった。平成25年以前は4月から翌年3月まで,平成26年は4月から12月まで,平成27年以降は1月から12月までである。

c
平成12年度以前の売上高は計上しなかった。その理由は次のとおりである。


一審被告においても正式な決算書類としては記録が残っておらず,FeliCa事業の売上高として担当者が私的に記録していた金額が判明するのみであり,被告製品ごとの売上高は不明である(乙340)。


後記認定のとおりのFeliCa事業の経過によれば,平成12年度以前は,JR東日本の改札システムが始動する前の時期であって,
FeliCa事業が軌道に乗っていたとはいいがたい。生産ラインを新規に立ち上げたため(乙16),初期においては生産効率も悪かったであろうこと等の事情も考慮すると,独占の利益を検討する以前の問題として,そもそも利益が生じていたかどうかに疑問が大きい。
d
平成27年度以降は,平成24年度から26年度までの3か年度の平均である。


超過売上げの割合
(ア)

超過売上げの割合は40%と認めるのが相当である。その理由は,原
判決100頁6行目から102頁19行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。
(イ)

一審原告は,70ないし100%を主張し,一審被告は10%を主張
する。具体的には,一審原告は,本件各製品のいずれについても,これらを独自に製造販売し得る技術力を有する著名な大企業が多数存在するから,仮にこれらの競合他社に本件各発明をライセンスした事態を想定した場合,一審被告が得たであろう仮想の売上高は実際の売上高からいくら少なく見積もっても7割程度は喪失していたことが明らかである旨主張し,他方,一審被告は,FeliCa事業は,一審被告及びJR東日本の主導により構築されたインフラストラクチャーの市場影響力及び策定された標準規格の通用力等に基づき,特許権の排他的効力を利用することなく,事業が拡大・維持されてきたのであるから,独占の利益は極めて小さく1割を超えることはない旨主張する。
そして,これらの主張が前提とする,強力な競合他社の存在や,一審被告とJR東日本等が構築した強力な市場影響力の存在や標準規格の通用力等については,それぞれに裏付けとなる証拠が存在するといえるから,本件においては,これらの事情を総合的に考慮した上で,超過売上げの割合を決定する必要がある。すなわち,双方が主張する事情の一方のみに基づいて,極端に高い,あるいは極端に低い超過売上げの割合を決定することはできないのであって,全体としてみれば,原判決が指摘するとおり,半分をやや下回る40%を超過売上げの割合と認定するのが相当である。

なお,一審被告は,本件各特許の特許権登録前の実施等に関しては,独占の利益は極めて小さいから,このことを考慮すべきであると主張する。たしかに,出願公開前の段階においては,特許法上何ら特別な保護は認められていないのであるから,この段階における特許発明の実施について独占の利益を肯定することは困難というべきである。しかし,出願公開後においては,一定の条件の下に補償金支払請求権が認められ,この限度で特許法上の保護が与えられているのであるから,特許権登録後の2分の1の限度では独占の利益が認められるというべきである。一審被告は,特許権登録前の段階では,特許が成立しているかどうかも定かではないと主張するが,現実に特許が成立している以上,この点を重視するのは相当ではない。
以上を前提に考えると,特許1~3,5~7は,対価支払請求権の計算対象前である平成12年以前に出願公開がされているから(甲1~3,5~7),平成13年以降出願登録までの全期間について2分の1の限度で独占の利益が認められることになるが,特許4は平成16年12月2日,特許8は平成20年7月17日,特許9は平成13年7月19日,特許10は平成13年10月18日,特許11は平成17年1月27日に出願公開されているので(甲4,8~11),出願公開日の翌月である特許4については平成17年1月,特許8については平成20年8月,特許9については平成13年8月,特許10については平成13年11月,特許11については平成17年2月から各特許権登録までの期間について2分の1の限度で独占の利益を認めるのが相当である。

仮想実施料率
(ア)

本件実施発明の意義は,原判決102頁21行目から103頁11行
目までに記載のとおりであるからこれを引用する。
(イ)

本件実施発明の実施に係る諸事情を考慮すると,本件実施発明に係る
各発明についてそれぞれ仮想実施料率を定め,その仮想実施料率をいずれも0.3%と認めるのが相当である。この認定に当たって考慮した事情については,原判決102頁21行目から104頁15行目まで及び104頁19行目から105頁3行目までの各記載を引用するほか,本件各証拠(当審で新たに提出された多数の証拠を含む。)に基づき認定できる事情とそれに基づく判断を次のa以下のとおり補足する。
なお,一審原告は,本件においては仮想実施料率ではなく限界利益率を用いるべき旨主張するが,限界利益率を用いるべき理由は見当たらず,その主張は採用することができない。
a
当事者双方が提出した資料から認定できる実施料率等のうち,本件において参考になると思われるものとしては,次のようなものがある。⒜

経済産業省知的財産政策室編ロイヤルティ料率データハンドブック(甲98)によれば器械分野のロイヤルティ料率の平均値は3.5%,最大値は9.5%,最小値は0.5%,標準偏差は1.9%であり,電気分野の平均値は2.9%,最大値は9.
5%,最小値は0.5%,標準偏差は1.5%であり,コンピュータテクノロジー分野の平均値は3.1%,最大値は7.5%,最小値は0.5%,標準偏差は2.0%であり,精密機器分野
の平均値は3.5%,最大値は9.5%,最小値は0.5%,標準偏差は1.9%である。


IT業界のライセンスの実務においては,必須特許の累積ロイヤ
ルティ料率は最大限5%とされていることが多い(乙381,382)。



標準規格であるMPEG(動画圧縮)やデジタルテレビチューナ
ーのパテントプールにおいて,きわめて多数の対象特許(ARIBではピーク時に600件)についてのライセンス料は,最終製品のエンドユーザーに対する販売価格の●●とされた(乙390)。



FeliCa開発の過程で一審被告がフランステレコムから同社保有特許のライセンスを持ち掛けられた際の同社の当初の申出額は,1件当たり●●●●●●●●であった(乙396)。

b
上記aの⒝~⒟掲記の各証拠はいずれも一審被告が提出したものであるところ,一審原告は,⒝及び⒞については,FRAND宣言の有無等の点で本件とは事情が異なること,算定の基礎となる製品価格が最終製品の価格であるからICチップの価格を基礎とする本件には適用できないこと等を主張し,⒟については,フランステレコムの有していた特許は本件各特許に比してFeliCa事業の実現のための重要性が格段に劣ること等を主張する。
しかしながら,類似の実施料率に基づいて仮想実施料率を算定しようとする場合,仮想実施料率を算定すべき事例と類似事例との間には,多かれ少なかれ違いが存することは免れないのであるから,違いの存在を考慮しつつ,仮想実施料率を算定せざるを得ないところ,一審原告主張の事情が,このような観点から参考資料とするのにも適さないといえるほど決定的な事情であるとは認められない。一審原告の主張は,採用することができない。
c
両当事者は,aで掲げたもののほかにも,参考とすべき実施料率例が存在すると主張するが,以下のとおり,その主張を採用することはできない。


一審原告は,一審被告の内部資料(乙329)においてICチッ
プのライセンス単価は2004年度で●●●,2010年度で●●●とされており,各年度のICチップの単価はそれぞれ●●●●,●●●●であるから,料率としてみるとそれぞれ25%,20%になる旨主張する。
しかしながら,上記内部資料は,FN社の設立に先立つ一審被告
内部の会議の資料として同社の事業計画を記載したものであって
(乙389),不確実な予測にとどまる。そして,同資料にいう
ICチップは,携帯電話用に新たに開発されるものであるから
本件各製品とは別の製品であり(乙389),しかも,携帯電話特有の技術(その多くは共同出資者のNTTドコモが保有するものと推認される。)も多数用いられるので,本件各特許がどの程度重要性を持つか定かでない(なお,携帯電話はそれ自体に電源を有するから,少なくとも,リーダライタ等からICチップへ無線で給電することに関連する技術である本件特許2及び8が実施されないことは確かである。)。
よって,上記資料は,本件の仮想実施料率を認定するための資料
として用いるのは適切でない。


一審原告は,発明協会研究センター編実施料率(副題)技術契約のためのデータブック第5版(甲99)によれば,電子計算機・その他の電子応用装置の実施料率の平均は33%であるから,これも参考にすべき旨主張する。
しかしながら,上記データブックによれば,実施料率は,契約の
件数的に見れば,1%から10%程度の範囲に相当数が集中しているが,例えば,実施料率40%の契約件数が50件以上あるなど,高率の実施料率の範囲内で契約件数が突出しているところが数か所あり,その結果,平均実施料率が高率化していることが認められるところ(甲99,172頁の図2-20-2参照),高率の実施料率による契約件数が突出している部分については,特殊な事情が存在している可能性を否定することができない。そうであるとすると,特殊事情を考慮しない単純平均としての平均実施料率にどれだけの意味があるのかは疑問といわざるを得ず,この数値を参考にすることはできない。



一審被告は,デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー
合同会社作成の報告書(乙53)を根拠として,FeliCa関連事業の累積利益率は●●●●であるから,これを前提に25%ルール(利益のうち,知的財産権が貢献している部分はその25%であるとして,その価値を計算する方法)又は利益三分法(営業利益は,資本力,営業力,技術力の3つから構成されるとして,営業利益の3分の1が技術力=知的財産権の価値であるとする方法)を適用すると,FeliCa関連の知的財産全体の適正実施料率は0.42%(25%ルール)~0.56%(三分法)であるところ,FeliCaに用いられた知的財産権には特許権以外にノウハウもあること,特許権は本件各特許のほかに少なくとも20件は存在すること(当審における補充立証により裏付けられる事実)からすれば,本件各特許の適正実施料率は更に低い旨主張する。
しかしながら,このように仮想実施料率を算定するベースとなる
利率を利益率とする必然性はないし,この方法によった場合,例えば,何らかの事情によって事業の利益率がマイナスになってしまった場合には,事業に用いられた技術の知的財産権の価値がいくら高くても仮想実施料率を算定し得ないこととなるという不都合が生ずることも考慮する必要がある。以上の点を考慮すると,FeliCa関連特許権の価値が営業利益に適正に反映されているかどうかについて深刻な争いがある本件においては,営業利益率をベースとして仮想実施料率を算定することは相当ではないというべきである(なお,aで取り上げた実施料率に基づいて検討する場合に比べると,利益率をベースとした場合には,それだけで実施料率が一桁小さくなることになるが,このような大きな違いを正当化するような事情が存するかどうかは疑問である。)。
d
そこで,aで指摘した料率を前提として,本件における適切な仮想実施料率を検討する。
aで掲げた各料率のうち,⒞のパテントプールに関する事例は,最終製品の価格に対する実施料率が問題とされている点で,料率が低めに設定されている可能性があり,また,⒟のフランステレコムが申し出たライセンス料率は,その対象となる発明の意義等が本件実施発明と比べてどの程度なのかが明らかではなく,いずれも参考資料としての重要性は高くないものといわざるを得ない。したがって,⒜と⒝を中心に検討するのが相当である。
まず,⒜を見ると,本件実施発明が関連すると考えられる器械
電気コンピュータテクノロジー精密機器の分野における
平均実施料率は,2.9%~3.5%である。また,⒝によれば,IT業界におけるライセンスの実務においては,必須特許の累積ロイヤルティ料率は最大限5%であるというのであるから,平均累積ロイヤルティ料率は,上記の平均実施料率とそれほど異ならないであろうことが予想される。そして,FeliCa技術は,Suicaを初めとする交通系カードに採用されたほか,電子マネーカードにも採用されるなど,その技術的意義は高いと認められるから,この点は,仮想実施料率を高める方向に働くと考えられる一方,本件実施発明は,その内容やその技術的意義に照らし,FeliCa技術の中核的技術に当たると考えられるものの,FeliCaには本件特許発明以外の技術も用いられており,それらも相応の意義を有すると考えられるから(一審原告は,他の発明にはほとんど価値がないと主張し,一審被告は,本件実施発明の技術的意義は極めて低いと主張するが,いずれも極端な主張であって,採用することはできない。),FeliCa技術に対して支払われるべき実施料のすべてを本件実施発明に帰属させるべきであると考えることはできず,この点は,本件実施発明に対する仮想実施料率を下げる方向に働く要素であると考えざるを得ない。
これらの点を総合考慮すると,本件実施発明に対して支払われるべき仮想実施料の料率は,11件の特許発明全体で3.3%,1件当たり0.3%程度と認めるのが相当である。
e
一審原告は,上記a⒜の実施料率を参考にするとしても,本件実施発明の価値は極めて高いのであるから,器械分野における実施料
率の最大値である9.5%を採用すべきであると主張するが,9.5%という実施料率は,平均実施料率(3.5%)を3標準偏差分(標準偏差1.9%×3=5.7%)を超えて上回るものであり,このような実施料率の主張は非現実的といわざるを得ない(平均値+3標準偏差=3.5%+5.7%=9.2%であるから,9.5%は,3標準偏差分を上回る数値である。なお,統計学上,データの99.7%は平均値の3標準偏差の範囲内に収まるはずであるから,一審原告の主張は,その範囲をはずれた,通常では考えられないような例外的な実施料率を主張していると評価せざるを得ない。)。
他方,一審被告は,被告各製品においては,本件実施特許のほかにも一審被告保有の特許及びノウハウ等が実施されているから,被告各製品の価格に対するライセンス料が高額となりすぎるスタッキングの問題が生じ得る旨主張するが,上記の計算は,スタッキングの問題も考慮した上での計算であるから,一審被告の主張は,上記の結論を左右するものではない。


FN社に対する実施権の現物出資に伴う利益

この点に関する認定判断は,原判決106頁17行目のまた,から22行目末尾までを次のとおり改めるほか,原判決の認定判断(105頁14行目から107頁16行目までの記載)のとおりであるからこれを引用する。
そして,乙48その他の本件の証拠上,上記の出資に当たり,出資の目的となった特許出願に係る発明のそれぞれにつきその軽重が考慮されたとは認められないものの,これまで認定した諸事情を踏まえると,本件対象実施権に係る発明の技術的意義は高いと認められる一方,他の出資の対象となった特許発明は,件数は非常に多いものの,その中に本件対象実施権に係る発明に匹敵するような技術的価値を有するものが存在したことを裏付ける的確な証拠は存在しない。そうであるとすると,本件対象実施権の価値を算出するのに当たり,単純に,件数に応じた計算をするのは相当ではなく,むしろ,本件対象実施権は,現物出資の対象となった実施権の半分の価値を有するものとみて,その価値は●●●●●●●●●(●●●●●●●●●×2/3×1/2)であると認めるのが相当である。イ
一審原告は,現物出資後にFN社から一審被告に間接的に還元される利益の額も考慮に入れるべきであり,具体的には,FN社の売上額のうち本件各製品の売上げに係るものを抽出した上で,この売上げについて一審被告がFN社から受領すべき相当なライセンス料を,現物出資に当たっての評価に基づき計算された価値に加算すべきである旨主張する。
しかしながら,現物出資の後にFN社から一審被告へ利益の還元がなされたとしても,それは,一審被告が,FN社へ特許権等の独占実施権を出資した対価として得たFN社の株式を保有し続け,FN社がその営業努力により事業利益を上げ,かつその利益の一部を株主である一審被告に還元することによるものである。かかる利益還元は,あくまで見込みとしてではあるが,FN社への現物出資の評価に当たって評価され尽くしているものであるから,これを一審原告の主張のように,現物出資の対価としての評価額に更に加算するのは相当でない。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。



第三者に対する実施許諾に伴う利益
両当事者の当審における主張も踏まえて,次のとおり認定判断する。ア
証拠(乙334,342,425)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認定することができる。
(ア)

2008年(平成20年)以降,JR東日本が販売するSuicaカード
のうちには,ICチップを一審被告以外の他社(以下A社とい
う。)が製造し,最終製品としてのカードのJR東日本への納入までの商流に一審被告が介在していないものがある。
(イ)

そのICチップの製造個数は,2019年(平成31年)3月までの累計で●●●●●●●●●●である。
(ウ)

これらのICチップには,一審被告が開発したFeliCaOSが搭載され
ている。
(エ)

一審被告はこれらのICチップ1個当たり●●●●●●●●●●●●
●●をA社から受領している。

一審原告は,FeliCaOSでは本件各発明が実施されていること,OSライセンスには本件各発明の実施を許諾する趣旨が含まれていることが明らかであるから,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●そのまま独占の利益として算定されるべきものである旨主張する。
しかしながら,●●●●●●●●●●●を本件各特許の実施許諾料と同視して独占の利益に加算するのは相当でない。なぜなら,弁論の全趣旨によれば,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,本件各発明を実施するステップも含まれてはいるが,ICチップの動作に関連するそれ以外のステップも多数含まれており,本件各発明を実施するステップに対応する部分は極めて少ないと考えられるからである(一審原告は,これに対して的確な反論反証をしていない。)。
そして,一審被告が●●●●●●●●●●●●●●,本件各発明を実施するステップが占める割合を具体的に算定するに足りる資料はないが,その割合は極めて少ないと考えられることを考慮し,次のとおり,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●を第三者に対する実施許諾に伴う独占の利益と考えることとする。
(計算式)
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

4
争点⑶(本件発明について一審被告が貢献した程度)について⑴

本件全証拠を総合すると,本件発明について一審被告が貢献した程度を95%(発明者らの貢献度を5%)と評価するのが相当である。その理由は,原判決の108頁5行目から114頁19行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。


当審において,両当事者はそれぞれ,自己に有利な事実を原判決が適切に認定し考慮していないと主張する。
しかしながら,例えば,一審原告は,FeliCa事業が一審被告の社内で断念されかかった時期においても一審原告は開発の継続を進言するとともに独力で研究を続けたこと等を一審原告の貢献として主張するが,これを一審被告の側から見れば,一審原告の人件費及び研究費用等の負担を甘受して,実用化・事業化の目途の立たないFeliCaの研究に注力するのを容認していた,ということになる。このように,長期継続的な雇用関係のもとでの従業者の職務発明においては,従業者が独力で成し遂げた発明に見えるものであっても,使用者による有形無形の貢献が大きく寄与しているのが常態であり,本件各発明もその例に漏れない。また,逆に,使用者による貢献がいかに大きくても,個々の従業者の創意工夫なくしては発明は生まれないのであり,このことに対する評価を欠いては職務発明制度そのものが成り立ちえない。以上の点を踏まえ,当事者双方の主張について更に補足すると以下のとおりである。
まず,一審原告は,①非接触式ICカードに関し,一審被告の技術的蓄積は皆無であったから,本件各発明は,一審原告がほぼ独力で行ったものである,②一審原告は,本件各発明を行ったばかりではなく,その事業化についても大きな貢献(例えば,香港の主要交通機関におけるFeliCa採用の実現に当たっては,一審原告は一人で関係者に対する説明等を行ったし,JR東日本におけるFeliCaの採用に当たっても,一審原告が,関係者に対する説明等必要な交渉に積極的に関与した。)を行った,③一審被告は,FeliCaの事業化に関する経営判断を誤るなど,本件各発明から収益を上げるについて大きなマイナスをもたらしており,その貢献は極めて低いなどといった主張をしている。しかしながら,①についていえば,本件各発明は,仮に直接それに関わる技術は開発されていなかったとしても,原判決が認定するとおり,それまでの関連技術や知識の蓄積があって初めて行われたものと認められるのであって,一審原告の主張は,このような技術や知識の継承の重要性を無視するものであるといわざるを得ない。また,②についていえば,香港の主要交通機関におけるFeliCaの採用に当たっては,一審被告の企業規模や財務の安定性も大きな要素となっていたこと,JR東日本におけるFeliCaの採用についても,一審被告とJR東日本との密接な関係が大きな要素となっていたことは既に指摘したとおりであるし,一審原告の活動に関しても,その背後には,一審被告の支援やバックアップ等があったことは容易に推認できるところである。さらに,③については,経営判断は,表面に出ない事情も含めた諸般の事情に基づいて行われるものであって,その当否を軽々に論ずることはできないのであって,一審原告の主張は,これら様々な事情を考慮しない結果論の嫌いを免れないものといわざるを得ない。以上の点を考慮すると,一審原告の主張をそのまま採用することは困難である。
他方,本件各発明の重要性も既に指摘したとおりであるし,一審原告が,関係者に対する技術説明等,単なる技術開発にとどまらない貢献を行ったことも事実であると認められる。一審被告の主張は,このような一審原告の貢献を軽視しているといわざるを得ず,やはり,そのままその主張を採用することはできない。
以上の次第であって,両当事者の当審における補充主張は,上記⑴の判断を左右しない。
5
争点⑷(発明者間における一審原告の貢献の程度)について本件全証拠を総合すると,各本件実施発明の共同発明者間における一審原告の貢献の程度は,共同発明者各自の貢献の程度を均等として評価するのが相当である。その理由及び具体的な割合は,原判決の114頁21行目から115頁18行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。
一審原告は,本件各発明に係る技術的創作を行ったのは一審原告であり,他の者は,一審原告の指示に基づいてプログラミングをするなど,技術的創作に該当しない関与を行ったにすぎないという趣旨の主張をし,その陳述書(甲90~92)にもこれに沿う部分があるが,F(乙162),A(乙163)は,これに反する陳述をしており,いずれの陳述が正当であるかは,にわかに決し難いところがある上に,発明報告書(乙27~36)等の客観的証拠にも一審原告の主張を裏付けるに足りる記述は存在しない。したがって,一審原告の主張は,そのまま採用することは困難であるといわざるを得ない。
6
一審原告に支払うべき相当の対価
以上に基づき,一審被告が一審原告に支払うべき相当の対価を検討する。⑴

一審被告が被告製品1~5を製造したことに関しては,別紙3の表1~4による計算のとおりである。別紙3の各表は,原判決の計算過程を一覧化した別紙1の各表に対応するが,当審の計算につき原判決の計算との相違点を中心に補足説明すると次のとおりである。

消滅時効についての判断を変更したため(上記2),平成13年(2001年)から各特許登録までの期間の売上についても対象とした。

もっとも,上記期間の売上のうち,出願公開前の期間の売上は対象とせず,出願公開の翌月から特許登録の月までの期間については売上の2分の1を,特許登録の翌月以降は売上の全額を計算の基礎とすることとして(上記3⑵ウ),表1及び表2の各数値に基づいて表3の関係売上高を計算するに当たり,表2の月数を,特許登録前の期間については実際の月数の半分とした。
なお,これによる表2掲記の修正月数を,各特許の出願公開及び特許登録の日の属する年月と併せて再掲した表を本判決の別紙4とする。ウ
上記イを踏まえて,具体的な計算方法を例示すると次のとおりである。(ア)仮定


特許権Pが,製品A及び製品Bで実施されている。



製品Aの年間売上高

900万円



製品Bの年間売上高

300万円



会計年度



出願



出願公開

18年6月



特許登録

19年8月



特許権存続期間終了

4月から翌年3月まで

元年2月

21年2月

(イ)18年度の特許権Pの関係売上(表3)


修正月数

4.5か月

(出願公開の翌月である18年7月から19年3月までは9か月。その2分の1は4.5か月。)


製品AとBの売上高合計



関係売上

1200万円

1200万円×4.5月/12月=450万円

(ウ)19年度の特許権Pの関係売上(表3)


修正月数

9.5か月

(19年4月から特許権登録の同年8月までは5か月であり,その2分の1は2.5か月。特許権登録翌月の同年9月から20年3月までは7か月)


関係売上

1200万円×9.5月/12月=950万円

(エ)20年度の特許権Pの関係売上(表3)


月数

11か月

(20年4月から特許権存続満了の21年2月までは11か月)


関係売上

1200万円×11月/12月=1100万円
(オ)発明Pに対する相当の対価(表4)
(450+950+1100)万円×40%×0.3%×5%×50%=750円エ
仮想実施料率を本件各発明につき等しいものとしたこととの均衡上,報奨金も本件各発明に対して支払われた総額を均等割して,本件各発明の相当対価の弁済として扱うべきである。表4では,本件各発明について相当対価と実際に支払われた報奨金との差額をプラスマイナス通算しており,これによって,最終的な未払額合計は,均等割で計算したのと同様の結果となる。



FN社に本件対象実施権を現物出資したことに関する相当の対価は,上記3⑶の判断に従い,表5のとおり計算した。ここで共同発明者間の原告の貢献率38.37%は,現物出資の対象となった特許(本件各特許から特許2,8及び11を除いたもの)に対する一審原告の貢献率の平均である。


第三者(A社)に対する実施許諾による利益は,上記3⑷の判断に従い,表6のとおり計算した。ここで原告の貢献率39.27%は,被告製品1に用いられた特許(本件各特許から特許12を除いたもの)に対する一審原告の貢献率の平均である。



上記⑴~⑶の各計算結果を合計して,一審被告が一審原告に対して支払うべき相当の対価(未払額)の合計を表7のとおり算出した。

7
遅延損害金の起算日について
一審原告は,当審において,遅延損害金の起算日を本件各特許の登録日に遡らせて請求している。これは,相当対価請求権の支払期は本件各特許の登録日であるとの見解に基づくものと解される。
しかしながら,既に説示したとおり,上記2において検討した被告発明考案規定の定めによれば,相当対価請求権に係る債務は期限の定めがない債務として発生するものと解すべきである。したがって,同債務は,債権者の支払催告によって遅滞に陥ると解されることになるから,遅延損害金の起算日は,原判決と同様に,訴状送達の日の翌日とするのが相当である。
8
結論
よって,一審原告の請求は,主文第2項記載の限度で理由があり認容すべきであるが,これを超える部分は理由がなく棄却すべきであるから,原判決中,これと異なる部分は不当といわざるを得ない。そこで,一審被告の控訴に基づいて原判決を一部変更し,一審原告の控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦上田卓哉
裁判官

裁判官石神有吾は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
(別紙省略)
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