判例検索β > 令和1年(う)第173号
覚醒剤取締法違反、関税法違反、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反
事件番号令和1(う)173
事件名覚醒剤取締法違反,関税法違反,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反
裁判年月日令和2年4月21日
裁判所名・部広島高等裁判所  第1部
結果棄却
原審裁判所名山口地方裁判所
原審事件番号平成30(わ)213
判示事項の要旨覚醒剤約965グラムを国際スピード郵便物の中に隠し入れて輸入し,クリーン・コントロールド・デリバリー捜査により検挙された覚醒剤の営利目的輸入等の事案において,関係者との通信履歴等から被告人に在中物が覚醒剤であることの認識を認定した原判決(裁判員裁判)の判断が是認された事例
裁判日:西暦2020-04-21
情報公開日2020-07-17 14:00:25
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和2年4月21日宣告

広島高等裁判所

令和元年(う)第173号

覚醒剤取締法違反,関税法違反,国際的な協力の下に

規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反被告事件
原審

山口地方裁判所

平成30年(わ)第213号
主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中90日を原判決の懲役刑に算入する。理
第1


控訴趣意について

本件控訴の趣意は,弁護人正畠大生作成の控訴理由書と題する書面に記載されたとおりであるから,これを引用する。
本件は,被告人が,氏名不詳者らと共謀の上,営利目的で,覚せい剤約965.7グラム(以下本件覚せい剤という。)を,国際スピード郵便物(以下本件郵便物という。)の中に隠し入れて輸入した(関税法違反の点は未遂。原判示第1)ほか,A及び氏名不詳者らと共謀の上,覚せい剤を所持する意思をもって,あらかじめ覚せい剤として取得した物品相当量を所持した
(原判示第2)
事案である。
論旨は,①本件で実施されたクリーン・コントロールド・デリバリー捜査には不備があって原判示各事実を認定することができない,②被告人が,本件郵便物に覚せい剤が在中していることを認識していたものと認めるに足る証拠はないとして,被告人を原判示各事実について有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるという。
第2

論旨①
(クリーン・コントロールド・デリバリー捜査の不備による事実誤認)
について
所論は,クリーン・コントロールド・デリバリー捜査が適法と認められるためには,規制薬物と代替物品との紐づけが,事後的に一見して明らかに確認できる方策
がとられる必要があるのに,本件で実施されたクリーン・コントロールド・デリバリー捜査においては前記方策がとられておらず,本件証拠上,本件郵便物に本件覚せい剤が在中していたことや,原判示第2において被告人が所持した氷砂糖(以下本件氷砂糖という。)が,本件覚せい剤を代替した物品であることが立証されていないと主張する。
しかしながら,クリーン・コントロールド・デリバリー捜査の適法性に関する所論の主張は独自の見解であって採用の余地はない。
本件において,
本件郵便物内に,
2つの茶箱に分割,隠匿される形で本件覚せい剤が在中していたことは,関係証拠によって明らかに認められる。また,本件氷砂糖が,本件覚せい剤を代替した物品であることについては,
関係証拠上,
郵便物番号の一致や外観の同一性が確認でき,
本件氷砂糖が本件覚せい剤に替えて本件郵便物に封入されたものであることが明らかに認められる。
よって,本件クリーン・コントロールド・デリバリー捜査に所論指摘の不備はなく,原判決に所論がいうような事実誤認はない。
第3
1
論旨②(覚せい剤の認識の立証不十分による事実誤認)について原判決の説示等

原判決は,要旨,次のとおり説示して,被告人に本件郵便物内に覚せい剤が在中していることの認識があったものと認定した。


関係証拠によれば,以下の各事実が認められる。


平成30年6月28日(以下,平成30年の日付については,その旨の記載を省略する。)から同月30日にかけて,在中品を茶葉,零食とする本件郵便物が台湾から,山口県熊毛郡ⅰ町ⅱB宛てに発送され,航空便で日
本に運ばれ,税関職員の検査によって本件覚せい剤が発見された。イ
その後,
クリーン・コントロールド・デリバリー捜査が実施され,
7月6日,
本件覚せい剤の代替品として本件氷砂糖が詰められた本件郵便物が,山口県熊毛郡ⅲ町ⅳ番地(以下本件送付先という。)に配送された。なお,本件送
付先住居の住人であったBは,1月10日に死亡し,その後,同住居は空き家になっていた。

同日,被告人が,Aとともに本件送付先を訪れ,本件郵便物を受領したところで警察官に現行犯逮捕された。


被告人は,携帯電話機により,●●●●●と称するアカウント名の人物(以下●●●●●という。)との間で,次のようなメッセージを送受信している。
平成29年11月18日,被告人は,●●●●●に対し,

住所教えておきます。

として,Bの氏名を送信するとともに,山口県熊毛郡ⅲ町ⅱなどと送信した。
6月29日,●●●●●が,本件郵便物の送り状の写真とともに,

このクシャクシャで送って来ます。

とのメッセージを被告人に対して送信し,被告人は,

参りましたね!私がキャッチです。

と返信した。6月30日から7月5日までの間,●●●●●が被告人に対し,本件郵便物の配送状況が分かる画像や配送状況について動きがない旨のメッセージを繰り返し送信したほか,6月30日,●●●●●がところで,kですか?ハーフ?と送信したのに対し,被告人がKですと返信し,7月1日,●●●●●が被告人に対し,

明日の夕方に出荷はデリバリー。可能性大。

デリバリーコントロールも視野に入れて下さいよなどと送信し,被告人が分かってますなどと返信した。
7月6日,●●●●●が,本件郵便物が岩国郵便局に到着したこと及び配達予定日が同日であることなどが表示されている配送状況の画像や,

吉報になって欲しいです。

硬軟を使い分けて下さいよなどのメッセージを送信したのに対し,被告人が,ベスト尽くしますと返信した。


本件郵便物の送り状の受取人電話番号欄には,被告人が使用する携帯電話機の番号が記載されていた。



以上を踏まえて検討するに,被告人が,平成29年11月,●●●●●に対し,本件送付先住所等を伝えていることや,●●●●●との間のメッセージのやり取りが本件郵便物の発送や到着の時期と近接しているだけでなく,送り状の写真や本件郵便物の配送状況を示す画像の送受信を含んでいること,本件郵便物の送り状の受取人電話番号に被告人の使用する携帯電話機の番号が記載されていたことに照らせば,被告人が本件郵便物の海外発送から受領まで一貫して関与する立場にあったことは明らかである。
加えて,被告人と●●●●●が,本件郵便物の配送状況に関するやり取りの際,kですか?ハーフ?Kですといった隠語によるものと疑われる問答や,デリバリーコントロールも視野に入れて下さいよ分かってますといった,いわゆるコントロールド・デリバリー捜査の対象となり得る禁制品の授受を巡るものと考えるのが自然なやり取りをしていることに加え,名宛人であるBは1月に死亡し,被告人の弁解によればそのことは被告人自身承知していたというのに,宛先を変更してもらうことなく,わざわざ空き家となったB方宛にそのまま荷物を発送させて受け取りに行っていることなどを考慮すれば,被告人は本件郵便物に追跡捜査の対象となり得る,覚せい剤等の違法薬物を始めとする禁制品が在中していると認識していたものと推認できる。以上の原判決の事実認定に,論理則,経験則等に照らし不合理な点はない。
2
所論の検討

所論は,Bからの依頼に基づいて本件郵便物を受け取っただけで,中身はお茶と聞いていたという被告人供述等に依拠し,①原判決が指摘する間接事実が,被告人がBの依頼に沿う行動をとったものとみて矛盾せず,被告人の主体的な関与を基礎づけるものではない,②Bの死亡後も送り先を変更しなかった点については,荷送人との面識もない中,変更のために種々説明をしたり資料を求められたりするのが面倒であったため,
B宛のまま受領したに過ぎない,kですか?ハーフ?

Kです
デリバリーコントロールも視野に入れてくださいよ
分かってます

などのメッセージの送受信については,いわゆるブラックジョークに過ぎない,などと主張し,原判決の推認を論難する。
しかしながら,個々の間接事実に対する所論の指摘を踏まえても,各間接事実を総合評価して被告人の認識を推認した原判決の事実認定に不合理な点はない。また,
被告人供述についてみると,●●●●●との多数回にわたるメッセージの送受信履歴を含め,本件証拠上,本件郵便物の輸入については,終始,被告人が主体的に関与している状況が認められる一方,被告人がBの依頼によって本件に関与していることをうかがわせるような事情は見当たらない。被告人は,原審公判廷において,本件郵便物についての送り状の写真を含むメッセージの送受信の趣旨や,デリバリーコントロールも視野に入れてくださいよ分かってますなどという内容を含むメッセージの送受信の趣旨を問う質問に対しても,どういう趣旨か覚えていないなどとあいまいな供述しかせず,客観的な証拠関係を何ら合理的に説明できていないのであって,被告人の供述は,およそ信用しがたい。主としてこれに依拠する所論についても,結局,採用の余地はない。
なお,原判決は,被告人が,●●●●●に対し,①2月7日,Aら数名が電子計量器や白い粉のようなものが入った小袋複数の周りで白い粉のようなものやチャック付き透明袋を扱っている様子が映った動画を送信した事実,②3月6日,AがB方付近路上にいる画像や,室内でAが白い枕のようなものから白い粉のようなものが入った袋を取り出す様子が映った動画を届きました!というメッセージと共に送信した事実について,被告人の本件覚せい剤についての認識を推認させる事情の一つとして指摘している。これに対し,所論は,前記白い粉のようなものが覚せい剤でない可能性は排除できていないなどとして原判決の前記説示を論難する。このうち,前記②の事実については,●●●●●の仲介によってアメリカからB方に布地の枕という品目のB方宛ての貨物の輸入許可がされた3月4日の2日後の3月6日に●●●●●から貨物の配送状況に関する画像が被告人に送付され,その日のうちに被告人から●●●●●に対し,届きました!というメッセージ
と併せて前記画像,動画が送信され,これが被告人使用の携帯電話機に保存されていることも併せ考慮すれば,前記動画中でAが白い粉のようなものを取り出していた白い枕のようなものは,●●●●●の仲介によってB方宛てに輸入された貨物であると認められる。Aが取り出した白い粉のようなものは,枕の中への隠匿という特異な輸入形態からして,覚せい剤を含む規制薬物以外には考え難く,被告人は,●●●●●の仲介によってB方宛てに送付される前記貨物の中に覚せい剤を含む規制薬物が隠匿されていることを事前に認識した上で輸入に関与したものと認められる。そうすると,●●●●●の仲介によってB方宛てに海外から貨物が郵送された本件において,これと類似する形態で送られた貨物に関する②の事実は,本件郵便物の中に覚せい剤を含む規制薬物が隠匿されていることを被告人が事前に認識していたことを推認させる一つの有力な間接事実として評価できる。
また,
①の事実も,
動画の撮影の経緯等は不明ながら,②の貨物の送り先についての被告人と●●●●●とのメッセージのやり取りの中で,覚せい剤の小分け作業と思しき動画を送っているのであり,これも②の貨物の内容物について被告人の前記認識を支える間接事実と見ることができる。所論は採用できない。
3
小括

以上のとおり,原判決に事実誤認はなく,論旨は理由がない。
第4

結論

よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中90日を原判決の懲役刑に算入し,当審における訴訟費用については刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。
令和2年4月23日
広島高等裁判所第1部

裁判長裁判官

多和田隆史
裁判官

水落桃子
裁判官

廣瀬裕亮
トップに戻る

saiban.in