判例検索β > 令和1年(う)第948号
私電磁的記録不正作出・同供用
事件番号令和1(う)948
事件名私電磁的記録不正作出・同供用
裁判年月日令和2年6月11日
裁判所名・部東京高等裁判所  第4刑事部
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成27刑(わ)2274
裁判日:西暦2020-06-11
情報公開日2020-07-16 14:00:13
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和2年6月11日宣告

東京高等裁判所第4刑事部判決

令和元

私電磁的記録不正作出,同供用被告事件

第948号
主文
本件控訴を棄却する
理由
第1本件事案の概要と控訴の趣意等
1本件は,暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの取引所を運営していた会社の代表取締役であった被告人が,
同社の事務処理を誤らせる目的
で,平成25年2月から同年9月までの間,21回にわたり,パーソナルコンピュータを使用し,
サーバコンピュータ内のビットコイン取引の仲介
を行うシステムに接続して,
同システム内に設けた被告人のAというアカ
ウントの米ドル口座の残高が増加した旨の虚偽情報を作出し,
前記サーバ
コンピュータに記録保存させ,同社の事務処理の用に供した,という私電磁的記録不正作出,同供用の罪に問われた事案である(なお原審では,被告人は,同社が取引所の利用者から振込入金を受けていた預金口座から,被告人名義の預金口座等に現金を振込送金した行為について,
業務上横領
予備的訴因

会社法違反)の罪にも問われ,原判決はこれらの罪につい

ては無罪としたが,この点につき検察官は控訴しなかった。。

2本件控訴の趣意は,
主任弁護人緒方延泰,
弁護人工藤啓介,
同園部裕治,
同飯野毅一及び同落合祐一作成の控訴趣意書並びに主任弁護人緒方延泰,弁護人飯野毅一及び同落合祐一作成の検察官答弁書に対する反論書と題する書面に記載されたとおりであり,論旨は,要するに,原判決には事実誤認ないし法令適用の誤りがある,というものと解される。これに対する答弁は,検察官小栗健一作成の答弁書に記載されたとおりである。以下,略称,表現等は原判決の例による。
第2原判決の概要

1原判決が認定した前提事実等の骨子は,次のとおりである。


被告人は,平成21年10月T社を設立し,平成23年2月本件取引所を譲り受けた。同年8月M社が本件取引所の運営会社として設立され,T社がその株式の88%(議決権は100%)を保有した。その後,M社が本件取引所を運営することとなった。なお被告人は,T社の全株式を保有する唯一の取締役であるとともに,Ⅿ社の唯一の取締役である代表取締役となった。



本件取引所でビットコインを売買しようとする利用者は,本件取引システムでアカウントを作成し,同システム上において,購入又は売却を希望するビットコインの数量及び金額等を入力し,双方の希望が一致すると取引が成立することとなっていたところ,この取引は売主と買主との間で行われることとされ,本件取引システム上のⅯ社の関与は仲介とされていた。また利用者は,Ⅿ社に対しいつでも,口座残高に相当する金額の返金及びビットコインの送付を請求することができた。ただし,利用者間で取引が行われても,本件取引システム上の口座残高に増減が生じるだけで,Ⅿ社の銀行口座で管理されている金銭残高に実際の変動が生じることはなく,ビットコインも,本件取引システム上の口座残高に変動は生じるが,ブロックチェーン上に変動は生じない。利用者の請求により,Ⅿ社が利用者の銀行口座に送金し,あるいはビットコインをⅯ社の管理するビットコインアドレスから利用者のビットコインアドレスに送付した段階で実際の変動が生じる。



T社は平成23年8月頃,ビットコイン取引所を運営していたB社を買収したが,B社はこれ以前に,システムの不具合により保有していた1万7000BTCを失っていたため,T社は利用者に対し,ブロックチェーン上に存在しない1万7000BTCの返還債務を引き受けることとなった。被告人は,同月9日,金銭をⅯ社が指定する銀行口座に
送金することなく,残高約13米ドルであったA口座の米ドル口座に係る口座履歴情報に,残高を15万米ドル増加させる旨の情報を入力し,同日から同年9月11日までの間,利用者から合計約15万米ドルで合計約1万8000BTCを購入した。被告人は,同月20日,A口座のビットコイン口座の残高を1万7500BTC削除した。この結果,Ⅿ社は利用者に対し,約15万米ドルの返還債務を負担する代わりに,1万7500BTCの返還債務を免れることとなった。


被告人は平成23年11月,Ⅿ社が利用していたフランスの銀行口座が一時的に凍結され,預けていた約1億円を引き出せなくなり,Ⅿ社のキャッシュフローが回らなくなることを危惧した。そこで,同月14日から平成24年4月13日までの間,合計8回にわたって,ビットコインをⅯ社管理のビットコインアドレスに送付することなく,残高約4734BTCであったA口座のビットコイン口座に係る口座履歴情報に,残高を30万BTC増加させる旨の情報を入力し(30万BTC増加行為)
,平成23年11月14日から平成25年2月14日までの間,利用者との間で合計約30万BTCを売却し,その対価としてA口座の米ドル口座に約130万米ドルを得た。



この結果,
本件取引システムにおいて,
ブロックチェーン上には存在
しないビットコイン30万BTCが利用者間で取引されることとなった。そこで被告人は,これを回収する目的で,原判示のとおり,平成25年2月14日から同年9月27日までの間,
合計21回にわたり,

銭をⅯ社が指定する銀行口座に送金することなく,残高約320米ドルであったA口座の米ドル口座に係る口座履歴情報に,残高を合計3350万米ドル増加させる旨の情報(本件電磁的記録)を入力し(本件各行為)
,利用者から,代金約2977万米ドルで,合計約30万BT
Cを購入した後,A口座のビットコイン口座の残高を約30万BTC
削除した。


なお,被告人がAのログイン名で本件取引システムを使用していたことは,利用者に公表されていなかった。また被告人は,平成25年2月か3月頃,T社の従業員にA口座の存在を知られると,本件各行為の終了直後に同口座に係るデータを変更した。さらに,同年9月27日以降も,金銭の送金ないしビットコインの送付をすることなく,同口座とは異なる極めて多数の口座の米ドル口座及びビットコイン口座の残高を増加させ,その後利用者と取引を行ったが,これらの行為の痕跡となるデータを削除していた。

2原審における争点は,次のとおりである。被告人が30万BTC増加行為及び本件各行為を行ったことや,
それに至る客観的な経緯に争いはなく,
関係各証拠からも認められるところ,入金がないのに口座残高を増加させたこと,すなわち本件各行為により本件電磁的記録を不正に作ったといえるかが争われた。原審検察官は,被告人が本件取引システムの設置運営主体であるⅯ社の意思に反し,
権限の範囲内では作ることが許されな
い電磁的記録を作出したなどと主張したのに対し,原審弁護人は,被告人はⅯ社の唯一の包括的業務執行権限を有する取締役であり,
両者は人格的
に同一と扱われるべきであるから,被告人の行為はⅯ社の意思に合致し,また,被告人は内容虚偽の電磁的記録を作出していないなどと主張した。3
争点に対する原判決の判断の要旨は,次のとおりである。


Ⅿ社が,本件取引システムを取引上のサービスの一環として広く提
供し,これを用いた利用者同士の直接取引の成否という効果に直結するものとして設置運営していること
(利用規約上,
利用者間において口
座情報に基づく金銭及びビットコインの存在を保証することを含め,売買のオファーが各利用者の意思でもあるとされていること)を踏まえると,
Ⅿ社は,
何の制約もなくその処理に供する電磁的記録の内容を

決定できるものではなく,法令や契約関係等により制約を受けていたというべきである。
つまりⅯ社は,
本件取引システムの利用状況や性質
に反する電磁的記録を作出すべきではないとの意思を有していたと認めるのが相当である。
したがって,
Ⅿ社の意思に反する作出であったか
については,
この観点から検討すべきであり,
本件取引システムの設置
運営者としてのⅯ社の意思は,唯一の意思決定権者である被告人の内心の意思と当然には合致するものではない。


そこでまず,
本件各行為自体がⅯ社の意思に反したかを検討する。

用者がⅯ社の指定する銀行口座に送金した金銭はⅯ社に帰属すると認められ,
金銭に関しては,
利用者の口座残高に相当する金銭がⅯ社の銀
行口座等にも存在すべきであるとはいえない。
したがって,
Ⅿ社の意思
が,
Ⅿ社の銀行口座等における金銭の入出金があった場合に限って,

件取引システム上の口座残高を増減させるべきであるというものであったとは認められない。



次に,
本件各行為が,
本件取引システムの利用状況や性質に反してお
り,Ⅿ社の本件取引システム設置の意思に反する電磁的記録を不正に作出したものかを検討する。

前述のとおり,
本件各行為の目的は,
30万BTC増加行為の結果
利用者間で取引されることとなった,ブロックチェーン上には存在しない30万BTCを回収するための取引を,本件取引システムを利用して行うことにあったから,本件各行為は30万BTC増加行為と不可分の性質を有すると認められ,これが本件取引システムの利用状況や性質に反するかは,これらを一体として考察すべきである。


まず30万BTC増加行為が本件取引システムの利用状況や性質

に反するかを検討すると,
次の事情が指摘できる。
①ビットコインの

存在根拠及びその経済的価値の根拠は,それがブロックチェーン上に存在することにかかっており,ブロックチェーン上に存在しないビットコインは,本件取引システム上のビットコイン口座に残高が表示されたとしても,
架空のビットコインといわざるを得ない。
②Ⅿ
社の利用規約のメンバーの義務の項には,
売主は,
売却オファーの目
的等となるビットコインが実際のビットコインに対応することを保証し,
買主は,
ビットコイン購入のために入金した通貨が本人の銀行
口座の実際の資産に対応する実際の通貨であることを保証する旨の条項があった。
一方,
信用取引やこれと類似する取引が行われ得るこ
とについては,その旨の条項もウェブサイトの操作画面上行えるような表示もなかった。
③一般の利用者間の取引実態としても,
利用者
が,Ⅿ社の管理するビットコインアドレスに送付した数量を超えて,ビットコインの売却が行われたことは,
証拠上うかがわれない。
④3
0万BTC増加行為のような,ブロックチェーン上の裏付けのないビットコイン口座残高を作出すれば,
取引市場の状況によっては,

用者の返還請求の総数が,ブロックチェーン上でⅯ社名義となっているビットコインの数量を超えることもあり得るし,その際Ⅿ社がビットコインを調達できず,利用者が口座残高に相当するビットコインの返還を受けられないおそれが生じることは否定できない。

以上を総合すれば,
本件取引システム上では,
ブロックチェーン上
に存在しないビットコインが取引されることは想定されておらず,その口座残高は,
利用者に対し,
ブロックチェーン上に存在するビッ
トコインに裏付けられたものであることを保証しており,利用者もそのように認識していたと認められる。
したがって,
Ⅿ社の意思は,
本件取引システム上の利用者の口座残高に相当するビットコインがⅯ社管理のブロックチェーン上にも存在すべきであり,Ⅿ社管理の
ビットコインアドレスにおけるビットコインの受送付等による裏付けがある場合に限って,本件取引システム上の利用者の口座残高を増加させるべきであるというものであり,被告人に与えられた権限もこの範囲に限定されていたと認められる。
そして,
前述のとおり,
被告人が行った30万BTC増加行為により増加した残高について,利用者に約130万米ドルで売却した分に相当するビットコインを被告人やⅯ社は保有していなかったから,この取引及びこれと不可分の30万BTC増加行為は,Ⅿ社の意思に反する。したがって,被告人の30万BTC増加行為は,その権限の範囲内では作ることが許されない虚偽の電磁的記録を作出したものと認められる。


以上を踏まえて検討すると,
本件各行為,
これに基づいた利用者との
取引,
その後被告人が約30万BTCを削除した一連の行為は,
30万
BTC増加行為及びこれに基づき被告人が行った利用者との取引の露見を防ぐことにつながり,被告人は30万BTC増加行為等を隠蔽するために,本件各行為をしたと認められる。このように,本件各行為がⅯ社の意思に反する30万BTC増加行為等を隠蔽する目的を実現するための手段であることからすれば,
本件各行為は,
被告人に許された
権限を濫用し,Ⅿ社の意思に反するものというべきである。そして,Ⅿ社は,本件取引システム上のビットコイン取引をその利用規約に沿って事務処理を行っていたところ,
本件各行為は,
架空のビットコインに
ついての取引を行うためのものであるから,利用規約上予定されていない事務処理であって,Ⅿ社の事務処理を誤らせる目的であったことも明らかである。


第3
1
以上により,原判示のとおりの事実を認定した。
所論と検討
前記のような原判決の認定には,論理則,経験則等に照らし不自然,不
合理な点はなく,これに基づく判断にも誤りはない。
付言すると,
原判決が説示するように,
Ⅿ社は自ら作成した利用規約に
おいて,売主は,売却しようとするビットコインが実際のビットコインに対応することを保証し,買主は,ビットコイン購入のために入金した通貨が銀行口座の実際の資産に対応する実際の通貨であることを保証する旨を定めていたのであり,当然本件取引所の利用者は,仲介される相手方もそのような規約を遵守して利用関係に入っていると認識していたはずであるし,そうでなければ,利用者の保護として不十分というほかない。また本件取引システムは,同じく原判決が説示するように信用取引を行える仕様にはなっていなかった上,極めて大量の取引を迅速かつ正確に行うための自動プログラムであり,被告人が行ったような,人が個々の取引やその履歴のデータ等を直接入力するようなことは想定されていなかったと認められる。こうした事情に照らせば,Ⅿ社の意思は,本件取引所の利用者に対し,実際のビットコイン,すなわち,ブロックチェーン上に存在するビットコインや,銀行口座に入金された実際の通貨をもってビットコインの売買取引の申込みを行うことを求め,Ⅿ社はそのような利用者の間で,本件取引システムを用いて機械的に公正かつ公平な売買仲介を行うことを約するというものであったと認められる。そうすると,本件取引システム上の利用者の口座残高に相当するビットコインがⅯ社管理のブロックチェーン上にも存在すべきであり,Ⅿ社管理のビットコインアドレスにおけるビットコインの受送付等による裏付けがある場合に限って,本件取引システム上の利用者のビットコイン口座残高を増加させるべきであるというのがⅯ社の意思である,被告人に与えられた権限もこの範囲に限定されていた,とした原判決の判断は,概ね同旨をいうものとして是認できる。そしてこのことは,A口座が実質は被告人が使用するアカウントの口座であった場合でも,別異に解す
る理由はない。そうすると,ブロックチェーン上に存在しない架空のビットコイン残高を作出した30万BTC増加行為は,Ⅿ社の意思に反するもので,被告人の権限の範囲内では作ることが許されない虚偽の電磁的記録を作出したものと認められる,これを隠蔽するための行為という意味で一体的に考察すべきである本件各行為も,被告人に許された権限を濫用し,Ⅿ社の意思に反するものであった,とした原判決の判断は是認できる。
2⑴

これに対し所論は,本件で作成された電磁的記録は内容が真実であったのに,原判決はこれを虚偽と断定している点で誤っている,などとして次のように主張する。すなわち,被告人はⅯ社が設置した本件取引システム上の電磁的記録の作出に関与する権限があったから,30万BTC増加行為及び本件各行為が不正作出に当たるといえるためには,作成された電磁的記録が虚偽でなければならない。そして本件では,A口座には,
被告人が作出した電磁的記録どおりにビットコイン
取引権限の数量及び総量が与えられたのであるし,
同口座の米ドル増加
の口座情報は,銀行送金の結果としての口座残高ではなく,ある時点の本件取引システム上の口座残高を示す電磁的記録にすぎないから,被告
人は存在しない銀行送金の事実や存在しないビットコイン取引を記録した電磁的記録を作出したのではない。



そこで検討すると,電磁的記録の作出に当たり一定の権限を有する者の行為がその不正作出に当たるのは,システムの設置運営主体との関係において真実のデータを入力すべき義務のある者が,その権限を濫用して虚偽のデータを入力し,本来その者の与えられた権限の範囲内では作ることが許されない記録を作出する場合であると解される。本件についてみると,原判決は要するに,ブロックチェーン上に対応するビットコインの裏付けがある場合に限り,
本件取引システム上の利用者のビット

コインの口座残高を増加させるべきであるというのがその設置運営主体であるⅯ社の意思であるとし,
被告人はこの意思に反し,
前述のよう
に限定されていた権限を越えて30万BTC増加行為を行ったと判断したものである。
これはつまり,
Ⅿ社の意思に基づき,
同社との関係で,
ブロックチェーン上のビットコインの受送付等の裏付けがある場合に限ってこれと一致する利用者の口座残高を増加させるデータを入力すべき義務
(ただし,
前述のとおり本件システムは自動プログラムであっ
たから,そのようなシステムを保持すべき義務ともいえる。
)を負って
いた被告人が,これと一致しない虚偽のデータを入力してビットコイン口座残高を増加させたことにほかならない。
そうすると,
30万BT
C増加行為が電磁的記録を不正に作出した場合に該当することは明らかである。原判決の判断に誤りはない。


なお所論は,
電磁的記録が真実か虚偽かは,
記録作出の権限すなわち
システムの設置運営主体の意思とは独立して判断されるべきである,などとも主張する。しかしながら,電磁的記録には,以下のような文書偽造罪等における文書とは異なる特質がある。
すなわち,
作成過程につ
いては,可視性,可読性がないだけでなく,入力されたデータが既存のデータとともに加工,処理され新たに作り出されることが少なくなく,その作出に複数の者の意思や行為が関わることがある。
また,
利用過程
については,それを使用することが予定されている一定のシステムやプログラムのもとで用いられて初めて本来の証明機能を果たし得るものである。そうであると,電磁的記録の証明機能は,それが作出されるべきシステムの設置運営主体の意思に基づき,正当に作出されることが当然の前提とされているもので,このように正当に作られたものであることの信頼を確保する必要があるという観点から解釈すべきと解される。そこで刑法は,設置運営主体との関係において,記録作出の関
与権限がないのに,
あるいはその権限があってもこれを濫用し,
設置運
営主体の意思に反して,本来その権限の範囲内では作ることが許されない記録を作出する行為を処罰対象としていると解される。そうであれば,システムの設置運営主体の意思との関係で虚偽の記録を作出したといえるかを判断すべきであり,同様に解した原判決に誤りはない。3⑴

また所論は,
30万BTC増加行為も本件各行為も,
本件取引システ
ムの設置運営主体たるⅯ社の意思に反しないと評価できるから,不正作出に該当しないとして次のように主張する。すなわち,原判決は,Ⅿ社の意思を被告人の意思から離れて認定している点で誤りがある。そもそも,会社の意思は会社機関によって決定されるから,会社の意思とは会社機関の有する考え,思いにほかならず,したがって,Ⅿ社の意思は唯一の会社機関たる被告人の考え,思いと完全に一致し,被告人の行為がⅯ社の意思に反することは論理的にあり得ない。
原判決のように,
被告人の意思を離れて,
本件取引システムは多数の利用者らに対して経
済的な影響を与えるものであることや,
利用規約上種々の義務をⅯ社が
負っていることなどの外部環境から,
会社機関たる被告人が現実に有し
た考えを明確に認定できるにもかかわらず,
それを離れてⅯ社の意思を
認定することは不可能である。
原判決のように会社機関の意思を一切斟
酌せず,会社の意思の認定の基礎とする対象を,会社内部にとどまらず無限定に拡大し,あるべき会社の意思として認定する判断手法は,処罰範囲の拡大をもたらす危険なものである。



しかし,
会社と会社機関たる自然人とが別個の法人格である以上,

れぞれの意思を個別に観念できることは当然である。個別に観念した上で,それぞれの意思の関係を検討することをせずに,そもそも両者の意思が異なることを否定しなければならない理由はない。原判決はこのことを前提に,
Ⅿ社が利用規約を作成し,
それによって負った契約

上の義務に従い,本件取引システムを利用者に提供していたことに着目して,Ⅿ社は,本件取引システムの利用状況や性質に反する電磁的記録を作出すべきではないとの意思を有していたと認定したものと解される。これはⅯ社の意思の合理的な解釈といえる。
外部環境から,あるべき会社の意思としてⅯ社の意思を認定している,などとして原判決を論難する所論は,
原判決の理解を誤ったものである。


所論は,
さらに,
被告人の意思に基づきⅯ社の意思を認定すべきであ
る旨主張し,また,利用規約や本件取引システムの内容を決定した後に,それに反する意思決定を被告人がすれば,それがⅯ社の意思になる,などとも主張する。しかしながら,そもそも所論のいう被告人の意思とは何であるのか,
その意味内容は判然としない。
Ⅿ社の意思は,
利用規約という形で表明され,それに応じて利用者が参入しているものである。これに対して,本件各行為は,被告人が行ったものであるが,Ⅿ社の行為として行う旨表明されているものでもない。また本件では,利用規約の改定が行われるとか,それが本件取引所の利用者等に周知されたなどといった事実はなく,他に,何らかの形でⅯ社の意思が被告人により表明されたとも認められない。そうすると,本件の実態は結局のところ,Ⅿ社の利用規約に反する行為が被告人によって秘密裏になされたにすぎないと評価するほかない。

4さらに,所論は,30万BTC増加行為及び本件各行為の目的は,①Ⅿ社の利用していたフランスの銀行口座が一時的に凍結等され,
これにより
キャッシュフローが枯渇することを危惧して,
A口座上にビットコイン残
高を作出してビットコイン取引を行い,
同口座上の米ドル残高記録を消去
し,
Ⅿ社の保有米ドル残高と本件システムの利用者アカウント上の米ドル残高との乖離を少なくする,また,②ビットコイン価格の長期的な上昇トレンドに照らし,
A口座上に米ドル残高を作出してビットコイン取引を行

い,同口座上のビットコイン残高記録を消去し,Ⅿ社の保有ビットコイン残高と本件システムの利用者アカウント上のビットコイン残高との乖離を少なくすることにより,
利用者からのビットコインや現金の引出要求に
応えられなくなって,
Ⅿ社が破綻することを回避しようとしたものであり,
この点を認定事実から除外し,
Ⅿ社の意思に反するとした原判決には事実
誤認がある,などと主張する。
しかしながら,
前述のとおり,
30万BTC増加行為がⅯ社の意思に反
するものであったことは明らかである。
また,
原判決も説示するとおり,
そもそも本件各行為は30万BTC増加行為を隠蔽する目的でなされたものと認められる。これらのいずれもがⅯ社の意思に反しないという所論は到底採用できない。
5
所論のその余の主張を踏まえて検討してみても,原判決に事実の誤認はなく,法令適用の誤りもないというべきである。
いずれの論旨も理由がない。

第4

結論
よって,
刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,
主文のとお

り判決する。
令和2年6月18日
東京高等裁判所第4刑事部

裁判長裁判官

後藤
眞理子

裁判官

安藤
祥一郎

裁判官

丸山哲巳
トップに戻る

saiban.in