判例検索β > 平成30年(う)第1000号
贈賄
事件番号平成30(う)1000
事件名贈賄
裁判年月日令和2年6月17日
裁判所名・部大阪高等裁判所  第6刑事部
結果破棄自判
判示事項の要旨民間企業が自社製品の開発研究に関しその分野を専門とする国立大学教授と個人契約を結んで技術指導を仰ぎ対価(技術指導料)を支払うのと並行して,開発研究に関連する実験が大学との共同研究として実施され,個人契約に基づく技術指導も研究期間中は実験の計画策定や準備・実行等が主であったという事実関係において,大学教授がその職務として学生らのために指導する実験により民間企業もまた企業目的に資する有益なデータを得ていたことなどから,技術指導料は大学教授の職務である実験に関する指導に対する対価を含むなどとしてこれに賄賂性を認め,技術指導料の支払を決裁するなどした民間企業の役員らに贈賄罪の成立を認めた原判決に対し,控訴審判決は,大学教授の実験に関する指導には,大学教授の職務である学生らに対する指導と個人契約に基づく民間企業に対する私的な指導とが併存していたとみるのが自然であるとして,技術指導料と職務との対価関係に疑問を呈するとともに,仮にいわゆる職務密接関連行為の理論によるなどしてその対価性が認められるとしても,大学教授をはじめとする研究職公務員の職務の特殊性に鑑みれば,実体のある職務外活動に関し適法な趣旨で供与された金員についてそのような対価関係のみで直ちに賄賂すなわち不正な報酬と認めるのは相当ではなく,賄賂であることを認定するには報酬の不正さを基礎付ける事情が対価性とは別に認められることが必要であると解されるとした上で,本件においてそのような事情は見当たらないとし,技術指導料の賄賂性を否定して,被告人らを無罪とした。
裁判日:西暦2020-06-17
情報公開日2020-07-09 16:00:15
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令和2年6月17日宣告,平成30

1000号,贈賄被告事件

主文
原判決を破棄する
被告人両名はいずれも無罪。

第1
1由
控訴の趣意等
控訴の趣意

本件控訴の趣意は,弁護人矢田次男(主任),同熊田彰英,同吉野弦太連名作成の控訴趣意書及び控訴理由補充書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官宮本健志作成の答弁書及び検察官宮本健志,同長野辰司連名作成の補充答弁書に記載のとおりである。また,本件では,当審において事実取調べが行われているところ,これを踏まえた弁護人の弁論は,弁護人矢田次男(主任),同吉野弦太連名作成の弁論要旨に,検察官の弁論は,検察官宮本健志,同長野辰司連名作成の弁論要旨に,それぞれ記載のとおりである。
本件は,民間企業の役員等である被告人A・B両名が,国立大学教授に対し,同企業と同大学との共同研究の受入れ,実施等に関し,賄賂を供与したとして起訴された事案であるが,原判決が,ほぼ公訴事実記載のとおりの事実を認定して,被告人両名を有罪としたことに対し,被告人両名が控訴したものである。控訴趣意の論旨は,大要,以下のとおりである。
原判決には,賄賂性の判断について,理由不備ないし理由そごがあるほか,この点に関する原審の訴訟手続には,不意打ち認定及び判断の遺脱など,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反がある。
原審の訴訟手続には,過去の経緯を有罪認定の重要な根拠としたことに関し,釈明義務に違反して不意打ち認定をした法令違反があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
原判決には,本件共同研究の職務行為性,供与に係る金員の賄賂性及びその
認識,さらには被告人Bの共謀に関し,それらがいずれも否定されるべきであるのに,誤ってこれらを認定した事実の誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
以下,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。2
当裁判所の結論

当裁判所の判断については後に述べるが,ここでは結論のみを示す。当裁判所は,控訴趣意中,理由不備ないしそご及び訴訟手続の法令違反の各論旨については理由があるとは認めないが,事実誤認の論旨には理由があり,原判決は破棄を免れないものとの結論に至った。
第2
1
事案の概要と原審の審理
本件公訴事実

本件公訴事実の要旨は,被告人両名は,甲株式会社の常務取締役及び営業部長であったが,共謀の上,国立大学法人大阪大学の教授であり,講座専任教授として,同大学と外部機関等との共同研究に関し,同大学の研究代表者として外部機関等と協議し,その受入れの可否を決した上,受け入れた研究を実施するなどの職務に従事していたCに対し,平成27年6月30日から平成28年6月30日までの間,3回にわたり,甲との共同研究の受入れを決した上,同研究を実施し,その結果について情報を提供してくれたことなど,甲のため有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨の下に,甲経理担当職員を介して,東京都千代田区所在のa銀行本店に開設された甲名義の当座預金口座から愛知県豊橋市所在のa銀行の支店に開設されたCが管理する株式会社乙研究所名義の普通預金口座に,現金合計194万4000円を振込送金し(①平成27年6月30日,②同年12月30日,③平成28年6月30日に,各64万8000円),もって同人の職務に関して賄賂を供与した,というものである。2
原判決の結論

原判決は,罪となるべき事実として,公訴事実においては,現金供与の趣旨につ
いて本件共同研究の受入れを決した上,同研究を実施し,その結果について情報を提供してくれたことなど,甲のため有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨の下にとされていたのを,その末尾の部分を今後も同様の取り計らいを受けたいことを含む趣旨でと改めたほかは,全て公訴事実と同旨の事実を認定・判示し,被告人両名を本件贈賄についていずれも有罪として,被告人Aを懲役10月・執行猶予3年,被告人Bを懲役8月・執行猶予3年に処した。
3
事案の背景と起訴に至る経緯の概略

本件事案の理解に資するため,当事者間に原審以来争いがなく,証拠上比較的容易に認められる事実によって,本件の背景等をも含む概略を示しておく。関係者など
(以下において,人名は,初出以外は原則として姓のみを示し,大学を除く法人名は,初出以外は法人の種類の表記を略する。)
被告人Aは,鋼線,鋼索の製造及び販売等を業とする甲株式会社の常務取締役として建築部材であるフープ筋(高強度せん断補強筋)の開発等の業務を統括掌理していたもの,被告人Bは,甲のフープ筋営業部長としてフープ筋の営業部門を統括していたものである。
他方,Cは,平成20年4月から大阪大学大学院工学研究科の教授(国立大学法人法によるみなし公務員。以下,便宜大阪大学教授ということがある。)であり,同科地球総合工学専攻建築構造学講座の専任教授の地位にあった(以下,便宜,単に講座専任教授ということがある。)。
Cは,前職(b技術科学大学)在籍中に,特許権使用料の受け皿などとするため株式会社乙研究所を設立していたが,本件当時は,大阪大学から兼業許可を受けて同社取締役の職にあり,同社を実質的に支配・管理していた。
技術指導契約
甲は,主力製品の一つであるフープ筋・商品名RB1275について,他社(丙
株式会社)の競合製品に対抗する必要上,同製品が採用するのと同種の新工法(損傷制御式)を開発し第三者機関(一般財団法人日本建築センター)の評定を取ることを企業課題としていたが,その研究開発に関する技術指導を,耐震工法の専門家であるCに依頼し,これに対する報酬として月額10万円を基礎に算出した技術指導料を一括して支払うことをCと合意した。平成26年10月,正式に契約(技術指導契約)が取り交わされたが(契約期間半年,技術指導料64万8000円(消費税込み。以下同様)),その際,Cの希望により,契約は甲と乙研究所との間で締結され,後に,契約どおり技術指導料が支払われた。
その後引き続き,平成27年4月,同内容の技術指導契約(契約期間1年,技術指導料合計129万6000円を2回に分けて支払)が,甲と乙研究所との間で締結され,平成28年4月にも,同様の技術指導契約が締結された。これらに基づき,平成27年6月から同28年6月までの間に,3回にわたって(27年度上下期及び28年度上期分),技術指導料合計194万4000円が,被告人Aの最終決裁を経て,甲の経理担当職員を介して,乙研究所名義の預金口座に振り込まれて支払われた(原判決別表)(以下,各技術指導契約について,それぞれ年度により27年度技術指導契約などという。また,本件技術指導契約というときは,26年度のものも含め,上記の全てを指すものとする。)。
共同研究(委託研究契約)
他方,甲は,平成27年1月末頃までに,RB1275を用いた部材実験を中核とする共同研究を大阪大学(C研究室)と行うことをCと合意し,同年4月,正式に契約が取り交わされた(委託研究契約。契約期間1年,C研究室において大阪大学の施設・設備等を用いて部材実験を行うことを前提に,試験体製作費及び実験等の費用459万円(試験体1体85万円を基礎とする額。消費税込み。以下同様)を甲が負担する。)。その際,これもまたCの希望により,契約は甲と乙研究所との間で締結された。以後,実験実行に先立つ同年5月末,委託研究費用が乙研究所に支払われるとともに,同年7,8月に大阪大学で部材実験が実行された。
さらに,甲は,平成28年1月頃までに,同様の部材実験を中核とする大阪大学との共同研究(2件。梁と柱)を行うことをCと合意し,同年4月,上記と同様の委託研究契約が2つ取り交わされたが,これらについても,Cの希望により,契約は甲と乙研究所との間で締結された。以後,各契約に係る委託研究費がそれぞれの実験実行に先立って,乙研究所に支払われるとともに,同年7月(梁),同年8月から9月(柱)に大阪大学で部材実験が実行された(以下,これらの委託契約に定められた研究を総称して本件共同研究と,各委託契約を年度により27年度委託研究契約,28年度委託研究契約(梁),28年度委託研究契約(柱)という。また,本件共同研究の実施として企画・実行された各部材実験を総称して本件実験ということがある。)。
技術指導と共同研究の実施及びCの不正
前記

のとおり,平成26年10月以降,Cによる甲に対する技術指導が継続し
て行われるのと並行して,平成27年及び同28年,本件共同研究の実施として,講座専任教授であるCの指導の下,RB1275を用いた部材実験が企画・立案・準備され,大阪大学の設備を用いて,Cの研究室に所属する同大学の助教や大学院生参加の下に,実行された。
ところが,Cは,本件共同研究について,大阪大学の定める民間企業等との共同研究の受入れに関する正規の手続を踏んでおらず,したがって,本件各委託研究契約の存在も,これらに基づいて甲から乙研究所に支払われた委託研究費についても,大学には無届けのままであったが,これとは別に,大阪大学から本件共同研究に関する研究費の支給を受けており,かつ,なすべき精算をしなかった(なお,28年度委託研究契約(梁)に係る共同研究が開始された後,大阪大学の他の教授の研究費不正使用が発覚して懲戒免職となったことが契機となって,Cの希望により,急きょ,28年度委託研究契約(柱)の一部について,甲から大阪大学への共同研究申入れの手続が行われ,同年7月4日に共同研究契約が締結されて,本来委託研究費(柱)として合意されていた金額459万円の一部である54万円が大阪大学に
寄附金として入金された経緯がある。)。
C及び被告人両名の起訴
Cには,他の数社との間でも,本件同様大学に無届けでした共同研究に関する不正があり,それらが発覚して,順次,大阪府警による捜査の対象となったが,甲の件に関し,検察官は,平成29年1月25日付け起訴状で,①Cを,27年度の委託研究費用及び28年度の委託研究費用(梁)の受領

と無届けの実験実

施等に関し,共同研究実施に伴う経費負担に関する大阪大学に対する任務違背とこれによって同大学に生じた財産的損害について,背任として起訴するとともに,②,Cを収賄により,被告人両名を贈賄により
(本件公訴事実)それぞれ起訴した。
Cは,被告人両名とは併合審理されず,背任及び収賄のいずれについても事実関係を争わないまま,被告人らに先立って有罪判決の宣告を受け,原審証人出廷時にはこれが既に確定していた。
4
原審における主要な争点
本件公訴事実に対して,被告人両名及び原審弁護人(当審弁護人と同じ)は,
まずもって現金供与の趣旨を争い,本件技術指導契約は,RB1275の第三者機関による評定取得を目標に,そのための高度の専門性ある諸作業(すなわち,①競合他社製品の採用する損傷制御式(丙式)の解明,②これと同等若しくはそれ以上の経済性を有する独自の損傷制御式の構築,及び,③第三者機関への評定申請に係る資料作成への協力・助言など)について,Cの専門知識を頼り,大阪大学教授としての職務の外で,技術指導を依頼したもので,本件技術指導料は,そのような公務外指導に対する正当な報酬として,社会通念上相当と認められる額を定めて支払ったものであり,共同研究受入れや実施に対する謝礼等の趣旨によるもの,すなわち賄賂ではないと主張するとともに,その他,共同研究受入れに関するCの職務権限及び大阪大学における正規の受入れ手続を経ていない本件共同研究の職務行為性,賄賂性の認識,被告人Bの共謀を争った。

原審検察官は,賄賂性及びその認識の争点に関し,本件技術指導契約の締結とこれに基づく指導助言等が,それ自体としては国立大学教授(講座専任教授)の職務(学生の教授,その研究の指導及び自らの研究従事並びにその他大学内行政上の諸職務)に属するものではないことを前提として承認しつつ(原審第2回公判),訴追に係る期間中(平成27年及び同28年上期)におけるCの甲に対する実際の技術指導が,専ら,甲と大阪大学との共同研究の中核とされた部材実験の計画策定やその準備・実行に際しての指導・助言に終始していたことを主たる根拠に,少なくとも上記期間内については,本件技術指導と本件共同研究とは不可分一体であり,本件技術指導料はCの公務である本件共同研究に関する指導等に対する対価であるとし,さらに,被告人両名は,本来大阪大学に支払うべき金員を乙研究所に支払うことによってCが自由にすることのできる金を作ることに協力したなどとして,27年度及び28年度技術指導契約に基づきC(乙研究所)に支払われた本件技術指導料は,本件共同研究の受入れ決定及びその研究実施に対する謝礼等の趣旨のもの,すなわち賄賂であると主張した。
第3
1
理由不備等の論旨について
理由不備ないし理由そごの論旨について

所論は,原判決が,罪となるべき事実として,本件技術指導料の全体についてCの職務に対する謝礼であるとして賄賂性を認定したとの理解を前提に,①原判決は,他方で,本件技術指導料の相当部分は職務外の指導の対価である旨矛盾した説示もしており,理由のそごがある,②本件技術指導料のどの部分が職務に対する対価で,どの部分が対価ではないのか不明である上,職務に対する対価ではない部分までなぜ賄賂となるのかの説示がなく,理由不備である,という。
しかし,前記のとおり,原判決は,本件技術指導料が有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨を含むものとして,その一部について賄賂性を認定したことを明示しているから,所論は,原判決の内容を正解しないもので,採用することはできない。

理由不備ないし理由そごに関する論旨は理由がない。
2
訴訟手続の法令違反の論旨について
賄賂性の判断に関する不意打ち認定など

所論は,原審において,検察官が,本件技術指導契約の締結に当たって甲がCに依頼した丙式の解明や独自の損傷制御式の構築といった,本来,Cの職務外の作業が,その職務である共同研究の実施等と密接に関連するとして,前者に対する対価の支払もまた賄賂となるとの主張(いわゆる職務密接関連行為の理論)をするものではないと釈明していた経緯があるが,他方,原判決は,本件技術指導契約の主な対象である丙式の解明と,本件共同研究に係る実験との密接な関連性を指摘するなどして,本件技術指導料の賄賂性を認定している。①これが,いわゆる職務密接関連行為に対する対価の支払として,本件技術指導料の全体について賄賂性を認定した趣旨であるとすれば,釈明権の適切な行使や争点顕在化の措置を経ずにした不当な不意打ち認定であるし,②これが,検察官の主張を一部排斥し,丙式の解明や独自の損傷制御式の構築などはCの職務外の私的活動に属するものとする趣旨であるとすれば,その賄賂性を認めるについては,報酬額の相当性などが検討・判断されるべきであるのに,原審が,釈明を求めてこれらの点について争点化することもないまま,一切判断を示していないのは,判断の遺脱ないし審理不尽である,そして,①②のいずれであっても,その訴訟手続の法令違反は,判決に影響を及ぼすことが明らかである,という。
しかし,前記のとおり,原判決は,本件技術指導料の一部についてのみ賄賂性を認定したものであるから,所論①は,その前提において失当である。詳細は後述するが,原判決が,本件技術指導契約の締結に際してCが甲から依頼を受けた諸事項と本件共同研究に係る実験との密接な関連性を指摘しているのは,本件技術指導料が,Cの大阪大学教授としての職務である共同研究の実施として行われた実験に関する指導・助言等に対する対価としての趣旨をも含むとの認定の理由付けの一部として説示されたもので,いわゆる職務密接関連行為の理論を直接適用する趣旨のも
のとは解されない。また,所論②の,報酬額の相当性の問題については,むしろ賄賂性の事実誤認の論旨に深く関連するところであるから,そちらにおいて扱うこととする。
過去の経緯を有罪認定の重要な根拠とした不意打ち認定など
所論は,本件技術指導契約が本件共同研究に係る実験に関する指導をも対象とする旨説示するに際し,甲がC以前に技術指導を仰いでいたc大学教授(後出)との契約関係を論拠の一つとしていることについて,原審公判前整理手続の経過に照らして,不当な不意打ち認定であると主張する。この点についても,賄賂性の事実誤認の論旨に対する判断の中で扱うこととする。
第4

事実誤認の論旨について

1
事実経過

原判決が争点に対する判断に先立って認定・説示している本件の事実経過は,原審記録に照らし,一部を除いて大きな誤りはないが,取り分け本件技術指導料の賄賂性を判断する上では,本件技術指導契約が締結されるまでの経過はもとより,賄賂とされる技術指導料が支払われた頃の,甲とCの関係,本件共同研究実施の実情等を,経過をも踏まえて詳細に検討する必要があるから,原判決が摘示した程度の事実経過では十分とはいえない。そこで,原審記録により,当審での事実取調べの結果をも踏まえて,訂正・補正し,かつ大幅に補充したものを,以下に掲げる(なお,証拠関係は略する。)。

甲は,かねてより(遅くとも平成19年度以降),c大学(私立大学)工
学部建築学科のD教授との間で,少なくとも平成26年度まで毎年,技術指導契約を締結し,同教授から,自社のコンクリート系構造部材(RB785,RB1275など)の開発研究に関する技術指導を受け,その報酬として年間120万円(月額10万円を基礎に定められた。)の技術指導料を同教授個人に支払っていた。また,遅くとも平成20年度以降はほぼ毎年のように,部材実験を中核とするc大学との共同研究を行い,その都度,これに関してD教授を研究受託者とする委託
研究契約をc大学との間で締結し(契約書が直接確認できるのは平成22~24年度,26年度),毎回,委託研究費用として100万円の研究助成寄附金を同大学に支払うとともに(証拠上確認できるのは,平成20年度,22~24年度,26年度),それとは別に,部材実験用の試験体を甲が用意し,外注費用を負担していた(証拠上確認できるのは,平成21~24年度。その金額は273万円から1613万円と年度によりまちまちである。)。

なお,原判決は,甲とc大学との共同研究に関し,実験の際の試験体を大学
が用意する際には共同研究契約を交わし,試験体を甲が用意する場合には共同研究契約を交わさない取り扱いをしていた旨認定・説示しているが,客観的に明白な誤りである。おそらく,原判決自体が挙示している証拠(Eの検察官調書)を誤解し,確認が容易なことであったのに,それを怠ったことによるものと思われる。実際は,甲が試験体を用意するか否かに関わりなく,共同研究契約は取り交わされ,試験体製作費を除く諸経費について100万円の研究助成寄附金が支払われていたことは前記のとおりである。
この点に関し,所論は,原審公判前整理手続において,被告人側は本件に先行するc大学及びD教授との関係を重視していたが,これについて原審裁判所からその点の立証の簡略化を求められ,これに応じた経緯があったにもかかわらず,原審裁判所は,釈明を求められれば容易に反証可能であった上記の事実関係について,そのような措置を執ることなく,上記のように認定した上で,それを賄賂性の争点に関し,本件技術指導契約の対象と本件共同研究の実施として実行された実験との関係を認定する際の重要な論拠としたのは不当な不意打ちであるとして,訴訟手続の法令違反を主張している(前記第3の2

)。その主張には,原審記録からうかが

われる本件の手続経過に照らし,もっともなところがあると認めざるを得ないが,しかし,後述のとおり

,この点は,結局,賄賂性認定には影響しないと

判断したので,判決に影響することが明らかとはいえない。
甲は,フープ筋を主力商品とし,そのうちの一つとしてRB1275を販売していたが,競合他社(丙)の同種商品が独自の損傷制御式(丙式)を構築して,平成21年8月に第三者機関(日本建築センター)の評定を取得したことを契機として(なお,平成25年10月更新),建築市場でのシェアを大きく奪われるに至っていたことから,対応を検討していた。
平成24年頃,D教授が高齢となり同大学の定年退職の時期も近づいていたことから,甲では,フープ筋に関する共同研究及び技術指導に関する後継候補を探す中で,大阪大学のCが浮上した。Cの建築工学分野における目覚ましい実績のほか,Cが,D教授の旧職(d工業大学)における教え子で,同時期に甲からD教授の研究室に出向在籍していたEと旧知であったことや,RB1275の開発初期に関わった縁があったことなどによる。
平成24年5月,当時営業担当役員付きの理事であった被告人Bは,Eを介してCに連絡を取って接触し,D教授の後継として,商品全般にわたる指導,技術顧問を引き受けてもらえないかと持ち掛けるとともに,大阪大学の試験装置がc大学とおおむね同レベルにあることや,研究室の人員態勢(准教授1名,学生17名,うち博士課程4名)などから,大阪大学が共同研究の相手方としても魅力的であるとの感触を抱いた。
その後,甲では,数回Cを飲食接待するなどし,そのような中で,Cから,他社をも交えた共同研究(非構造壁の耐震性向上)を持ち掛けられ,これが平成25年度から同26年度にかけて大阪大学で実施された。しかし,同研究の開始直後,同研究にはRB1275のような高強度の素材は必要ないと判明したことから,甲では,これに参加する実益が疑われるに至り,平成25年7月の社長審議等を経て,結局,同研究からは撤退することになったが,以後のCとの関係維持も考えて,既に始まっていた同研究の費用の2分の1(160万円)を研究助成金として支払うこととされた。この話を被告人BからCに伝えたところ,Cから,その費用は業務委託費として乙研究所に支払ってほしいとの要望があったが,被告人Bが甲内部の経理部門や総務部門に相談した結果,甲としての業務性がないことから,大学への寄附金として支払われることとなり,Cの指示で,同年9月,大阪大学に奨学寄附金160万円が支払われた。なお,その頃,Eが建築学会でCに会った際,酒に酔ったCがEに対し,支払先について強い不満を述べたということがあった。甲でフープ筋の研究開発を担当していたフープ筋評定室(室長F,Eほか)は,RB1275の開発研究に関し,Cからの技術指導や大阪大学との共同研究をなお模索していたが,平成25年当時は,並行して,RB785の設計指針の変更についての第三者機関による評定取得に向けてD教授による指導が続いており(最終的には,平成26年10月に評定申込み,同27年2月に評定取得),RB1275の実験にまで手が回らないという事情や,RB785については,研究的なテーマではないのでCが興味を持たないだろうとの判断もあって,上記寄附金の支払後,甲とCとの接触は一旦途切れた。
その後,甲では,平成26年1月の中下旬,27年度上期利益計画社長審議の前後において,フープ筋評定室が,RB785損傷制御式変更の評定取得まではD教授の指導が必要であることを確認しつつ,その後任としてCとの関係強化を打ち出し,Cに,RB1275の損傷制御式の指導及び甲の開発テーマ全般についての技術指導を依頼したい旨提案したが,被告人Aは,RB1275の損傷制御式として,RC規準方式と丙式に準じる独自式のいずれによるかでCへの依頼の要否は変わってくるため,その方針決定が先決問題であるとして,上記提案に反対し,社長もこれに同調した。
なお,Fらは,CにRB1275の評定取得に向けた技術指導を依頼したいとしつつ,それに必要な実験の委託先については,大阪大学以外でも可としており,具体的には,大阪大学のほか,実験設備のあるc大学,e工業大学,d工業大学などが想定されていた。
平成26年4月,フープ筋評定室が廃止され,甲のナンバー2である被告人Aが直轄するフープ筋開発室に組織改編されるとともに,社長の指示により,フープ筋部会という定例会議が開かれるようになり,フープ筋に関する様々な課題が検討されたが,その中にRB1275の損傷制御式の問題もあった。平成26年5月末,それまでに業者に依頼して,RC規準式と丙式とで実際の建物を設計し,必要な鉄筋量がどう変わるかのシミュレーションを進めていた結果が出たが,これによって,経済的優位性は後者がはるかに大きく,甲でも丙式と同等若しくはそれ以上の独自式を開発して評定を取らないことには,市場では到底太刀打ちできないことが明らかになった。
ここにおいて,甲では,RB1275について,独自の損傷制御式を構築して,その評定を取得することが方針として決定され,そのために,Cに技術指導(具体的には,評定取得までのマスタースケジュールの作成,難解で鳴る丙式の解明,丙式と同等若しくはそれ以上の経済性を有する独自の損傷制御式の構築,評定取得に向けた審査部会向けの資料作成の手伝いや部会における質問対応の助言など)を依頼することとなった。他方,丙式と同等以上の式が構築できないなら実験をする意味はなかったことから,実験の要否及びこれが必要となった場合にどこに依頼するかについてはなお流動的な状況で,D教授との関係もにらみつつ,当面はc大学での実施が想定されていた。
被告人Aは,Cに丙式解明等のための技術指導を受ける件について,社長の指示により自ら大阪に出向くこととなり,平成26年6月17日,既にCと面識のあった被告人Bを伴って,大阪市内の甲(親会社)西日本支社でCと面談し,甲の直面している前記の課題について説明した後,RB1275の損傷制御式の評定取得を目標とした前記諸作業のほか,そのために何が必要かの検討も含めた技術指導を依頼するとともに,データを採取するための実験の実施あるいはその解析など,共同実験の可能性についても相談した。
Cは,技術指導を引き受ける旨回答し,同年度下期からの実施とその前の契約締結が話し合われたが,この日,Cからは,乙研究所取締役としての名刺が交付され,パンフレットを交えて,大学から兼業許可を得て経営しているベンチャー企業で,耐震構造に関する技術コンサルタントや,大学との共同研究等を業としている旨の詳しい説明がなされ,技術指導の契約先は同社とするよう要望があった。また,検討の結果,共同実験をすることになった場合は,C研究室に所属する学生の一般的な在籍年数を念頭に,3年間で結論を出すことや,試験体が30体必要であれば,大阪大学で15体,Cの前職で,今も教え子が在籍し,同じ実験施設のあるb技術科学大学で15体とするなどの案が,Cから提示された。
平成26年7月,甲では,フープ筋開発室から,同年度下期よりRB1275の損傷制御式開発についてCの指導により丙式解明のための定期的な勉強会を開始すること及びそのため同年度下期のCに対する技術指導料として,D教授に対する支払額月額10万円ベースが参照されて,67万円(半年分)の予算が申請された。その際,資料として,勉強会の結果により変化することを留保しつつ,開発スケジュールのイメージが提示されたが,その概要は,26年度下期の勉強会の後,27年度一杯で開発計画・実験計画を策定し,28年度・29年度に大阪大学とb技術科学大学とでそれぞれ部材実験(各15体),29年度にc大学で寸法効果実験を実施するというものであった。平成26年7月16日の26年度下期利益計画社長審議において,上記技術指導料の予算が承認された。
平成26年9月9日,被告人Aは,被告人Bを伴って,大阪大学にCを訪れ,技術指導契約書の内容確認と今後の進め方についての打合せを行った。被告人Aは,当時並行して進めていたRB785の部材実験(c大学)に人手をとられることから,すぐに実験は難しいとの実情を説明したが,Cは,勉強会に1年半もかけるのは長過ぎる,勉強会は6か月,後半の3か月は実験計画の叩き台を作成して,来年秋の実験を予定したいとの希望を述べ,甲は,RB785の進捗状況によって判断することとした。また,実験計画の具体的な策定方法についても話題となり,甲としての過去の実験データの蓄積状況や,公表されている丙式構築時の実験内容などを勘案しながら,柱と梁の優先順位,試験体のサイズ,実験に関する役割分担(データ整理は大阪大学,甲は実験立会い)などが話し合われたほか,Cから,計画段階での甲からの人的応援の必要が言及された。なお,この際,Cから,大型の試験体実験については,大阪大学の設備上の問題から,場合によってはc大学に依頼してもよいとの発言,試験体製作は豊橋の業者であるf建設に依頼する旨の発言があった。Cは,翌平成27年4月からの共同研究実施,同年秋の実験実行に意欲的であった。
平成26年10月1日付けで,甲と乙研究所を契約当事者とし,26年度技術指導契約(契約期間半年)が締結された。契約の骨子は,甲が実施するコンクリート系構造部材の開発研究に対し乙研究所(C)が技術指導を行い,これに対して甲が技術指導料64万8000円を支払うというものであったが,契約書中に指導項目との条項があり,次の指導及び情報提供を行うこととされていた。①実験計画立案への参画・指導,②論文・資料作成時の指導,③各種情報の提供,④その他。
その後,平成26年10月下旬から同27年3月中旬まで,甲の東京・蔵前会議室で,合計5回の勉強会が実施された。Cのほか,おおむねフープ筋開発室のメンバー(F,E,G),被告人両名がほぼ毎回出席したほか,途中,RC規準式と丙式の設計シミュレーションを受注した専門業者の社員が数回出席した。内容的には,Cが,文献の整理や調査などを指示し,丙式の基礎にある考え方の理解や式の検証など,その解明について指導を行うとともに,実験の計画なども話し合われている。取り分け,後述のとおり,27年度の実験(共同研究)が予算承認された後の第4回(2月),第5回(3月)では,4月以降の勉強会に大阪大学の学生が参加することが確認されたほか,実験のマスタープランが練られ,院生の修士論文のプランや,27年度から30年度までの実験の概要についても議論されていた。
勉強会の初期の頃は27年度の実験ないし共同研究について,甲では未決定の状況にあったが,平成26年12月の第2回,同27年1月の第3回で,繰り返し,27年度上期の予算が決まる1月末頃までには方針が決まる見通しであること,その決定には技術面(丙式に対抗できる設計指針を得られるめど)と営業面(新設計指針の下での販売量)の両面から検討されることがCに伝えられていた。この点,当時,甲としては,実験は28年度からでもよいのではとの考えで(前記
),

1月の勉強会でも再びその旨伝えたところ,Cは,27年度からさっさと始めるべきで,1年延びるのであればだらだらやっても仕方がないといった発言をした。なお,1月の勉強会に被告人Aは出席していないが,このとき,Cから,今回は,試験体は甲ではなくCが直接豊橋の業者等に発注するので,研究費・奨学寄附金は乙研究所に入れるように,大学に直接納めると10数%を大学等にとられるが,乙研究所に委託しているので安く済むといった話があった。また,この日,EからCに,今後,RB1275に関する技術指導にとどまらず,フープ筋の開発商品全般について助言指導をしてほしいとの話があり,Cはこれを快諾した。平成27年1月中旬頃,下旬の27年度上期利益計画社長審議に向けて,甲内部で諸々の協議が進められていたが,丙式の解明は未了であったものの,CによればRB1275の評定取得は可能との見通しであったことから,被告人Aは,損傷制御式構築のために27年度も引き続きCの技術指導が必要であるとし,社長の事前承認を得た。また,Cが強く望む27年度からの実験(共同研究)開始についても,翌28年度以降の継続実施は,①損傷制御式の評定取得の見込み,②建築需要の動向,③会社の生産能力をポイントに,28年1月の利益計画までに甲の経営判断として決めるとの留保を付け,Cの了承を得ることを条件に,社長の承認を得た。
平成27年1月21日の社長審議において,27年度の技術指導契約及び実験に関する予算が承認され(技術指導120万円,実験5体分500万円。実験費用額は1月の勉強会でCの1体100万円との提示によったもの。なお,後日,EがCと交渉して,1体85万円ベースに減額された。),2月3日の勉強会で,27年度の実験(共同研究)実施が決まったこと及び28年度以降に関する上記の留保条件等がCにも伝えられた。なお,丙式が未解明であったので,27年度も技術指導契約を継続することは,被告人AとCの共通の認識であったため,これについては取り立てて話はされていない。
平成27年4月1日付けで,甲と乙研究所を契約当事者として,27年度技術指導契約が締結された(期間1年,技術指導料129万6000円,半年ごとに64万8000円支払とされたほかは,前年と同内容)。
また,同日付けで,甲と乙研究所を契約当事者として,27年度委託研究契約が締結された。
Cは,27年度委託研究契約に係る研究テーマ高強度せん断補強筋RB1275を用いたコンクリート構造部材の損傷制御設計法に関する研究開発(OAシリーズ)を,自身の研究室に属する大学院生の修士論文のテーマとして担当させることとした。
4月以降の勉強会は,大阪大学に場所を移し,大阪大学から,Cのほか,C研究室に所属する助教1名,研究生1名と上記院生が,甲からは,E,Gが出席し(初回のみ被告人両名も出席),実験実行までの間に,4月中に2回,5月に1回実施された。その主たる内容は,7,8月に実行が予定された実験に向けて,実際の実験の細かい方法やデータ採取の範囲,フープ筋加工や豊橋の業者による試験体製作に関する図面の作成,完成品の大阪大学への搬入の段取り等々,実験の具体的な計画策定からその準備に関する詳細を詰めていく作業のほか(その際,甲から提供されたc大学での実験の資料が参照されるなどしている。),院生や研究生らの論文作成に向けた計画概要の確認,実験スケジュールの細かい調整などである。平成27年7月から8月にかけて,C研究室の上記メンバーのほか,E,Gが参加して,大阪大学で部材実験が行われた。
平成27年9月以降,RB研究会の名称で,大阪大学において勉強会が実施されるようになったが,出席者は,大阪大学側及び甲側ともに,4月以降の勉強会,7,8月の実験に参加ないし関与したのとおおむね同じ者らである。9月の第1回の後,平成28年3月まで5回開かれた。
残された議事録的なメモから主要な項目を拾えば,実験結果解析状況/大阪大学せん断ひび割れ幅解析/甲などとされ,7,8月に実行された実験から,大阪大学側と甲側それぞれの問題関心により採取されたデータに基づき,それぞれの課題について検討が進められていることがうかがわれるほか,独自式(丙式)の解析の項目で,丙式の作成に関わった他大学教授の論文やコメントが検討されるなどもしていた。
平成27年7,8月の実験実行の前後にわたり,前記

の勉強会等と並行

して,甲では,Gらが,丙式の解明を試みて分析したり,地震力の計算値を丙式とRC規準ベース式とで比較検討したり,また,評定のための審査会における論証方法等について検討するなどして,それらの経過や結果をメモないしペーパーにまとめてCに見てもらい,勉強会ないしRB研究会の機会に助言・コメント・指導をもらうなどしていた。
なお,フープ筋開発室では,平成28年1月中旬,社内報告用にRB1275を用いた場合の損傷制御式確立実験(解析結果)との資料を作成しているが,その中では,大阪大学の実験で得られたデータに加えて,c大学の実験で得られたデータをも併せて,丙式に対抗可能な損傷制御式構築の可否が検討されている。平成27年12月,甲では,フープ筋開発室から丙式解明作業の進捗状況が報告され,今後の予定として,RB研究会を更に続け,丙式の内容について試行錯誤を重ねながら考えて,その結果を次の実験計画に反映させるとの意見が表明され,引き続き28年度もCの技術指導が必要であることが示唆された。平成28年1月末の28年度上期利益計画社長審議において,Cに対する28年度技術指導契約の予算が承認された。
他方,28年度の部材実験継続については,前年に確認された経営判断上のポイント(前記

)を踏まえ,まず,①Cから,大阪大学での実験及びc大学で実施さ
れた実験により得られたひび割れデータ解析の結果,丙式に対抗できる損傷制御式構築のめどが立ったことを確認の上,②市場の動向や,③会社の生産能力について,さらにフープ筋部会で検討を続けた結果,同年1月末ないし2月初頭頃には,継続の意向がCに伝えられ,その後,3月初頭までに,28年度の実験(梁5体,柱5体)の予算が正式に承認されるに至った。
平成28年4月1日付けで,甲と乙研究所を契約当事者として,前年と同内容の技術指導契約が締結された。
また,同日付けで,甲と乙研究所を契約当事者として,28年度委託研究契約(梁)及び同年度委託研究契約(柱)がそれぞれ締結された。なお,前年度研究テーマの題目のうち損傷制御設計法に関する研究という部分が研究内容とそぐわなかったとのCの判断により,28年度は高強度せん断補強筋RB1275を用いたコンクリート構造部材の損傷制御レベルにおける構造性能と改められた。2
争点に関する原判決の判断

以上の事実経過を踏まえて論旨について検討するが,争点についての原判決の結論をみておく。
本件の争点は,前述のとおり,

職務行為性

の共謀であるが,

賄賂

B
①Cには,外部機関等との共同研究の受

入れの可否を決する実質的な権限があった,②本件共同研究はCの職務として行われたと判断し,

について,本件技術指導料は賄賂の趣旨を含み,被告人両名にそ

の認識に欠けるところはないと判断し,

について,被告人Bの共謀も認める判断

をしている。
これに対し,所論は,原判決の前記判断のいずれもが誤っていると主張する。当裁判所は,原判決の認定・判断について,
とはいえず,

②の点は,疑問はあるものの,これが肯定されるものとして検討を
進めることとし,
ら,

①の点は,結論として誤っている

の賄賂性を認めた点は,誤っていて是認することができないか

も含めその余の点について検討するまでもなく,原判決には判決に影響を及
ぼすことが明らかな事実の誤認があり,破棄を免れないものと判断した。3
当裁判所の判断(その1)~職務行為性の認定について
検察官が訴因において賄賂の対象として特定したCの大阪大学教授・講座専任教授としての職務は,①同大学と甲との本件共同研究の受入れの決定及び②受入れの決まった本件共同研究を実施し,③その結果について情報を提供してくれたことなどであるが,共同研究を実施すれば,その結果について情報提供するのはいわば当然であるから,③は,原判決も言及するとおり,②の一環と見て差し支えなく,職務行為や賄賂性の争点を検討するについて,独自の意味を持たないものと考えられる。
原審弁護人は,それらのうち,①に関して,Cには共同研究の受入れの可否を決する職務権限がない,①②に共通する問題として,前記(第2の3
)のとおり,

Cが本件共同研究について正規の受入れ手続を経ていなかったことから,本件共同研究の受入れ及び実施のいずれについても,Cの大阪大学教授としての職務行為とみることはできないとして,賄賂の前提となる職務行為性について争った。共同研究の受入れ決定に関する職務権限について

受入れ決定に関する職務権限の点について,原判決は,Cが,講座専任教授
として,大阪大学の規則上,同大学と外部機関等との共同研究に関し,同大学の研究代表者として委託者と協議し,委託者が作成した共同研究申込書を工学研究科長に提出し,工学研究科の教授らにより構成される部局委員会による審理を経て工学研究科長が受入れを決定した研究を実施する立場にあったことを指摘した上で,①Cの,自身の申請した共同研究について工学研究科長による受入れの決定が得られないことはほとんどなかった旨の原審公判供述,②前記(第2の3
)のとおり,

28年度委託研究契約(梁)に係る共同研究が始まった頃に,他の教授の懲戒免職を契機として,急きょ28年度委託研究契約(柱)の一部について,所要の手続を行ったところ,実際に,甲と大阪大学との間で共同研究契約を締結させることができた事実を挙げて,Cには,外部機関等との共同研究の受入れの可否を決する実質的な権限があった旨説示している。

これに対して所論は,要旨,①Cの供述には裏付けがない,②たまたま1件
の受入れ決定がなされたことをもって,実質的な決定権限を認定するのは飛躍が過ぎる,などとする。
確かに,原判決の指摘するような事実のみから,直ちに,Cに外部機関等との共同研究の受入れの可否を決する実質的な権限があったと断定できるかは疑問の余地はあり得ようが,結論的には原判決の認定に誤りがあるとはいえない。なぜなら,原判決が説示するとおり,Cに共同研究を希望する外部機関(委託者)と協議し,委託者が作成した共同研究申込書を決定(専決)権者である工学研究科長に提出する権限があったことは疑問の余地がなく,訴因がその限度で構成されていたならば,その職務権限が争いになることはなかったものと思われるし,また,当該共同研究の受入れが決まった場合には,Cは,講座専任教授として,それを実施する立場にあったのであり,大学における講座制の一般的な趣旨を踏まえ,さらに,大阪大学においても,特に理系の学部にあっては,大学の予算だけでは研究に限界があり,新技術の開発等も不可能であることから,研究費を負担してもらえる民間企業等との共同研究を歓迎し,推進していた実情があることをも踏まえれば,講座専任教授がこれと見込んで申込書を決定権者に提出した場合,それが大いに尊重される実情にあったであろうことは容易に推認されるからである。
したがって,委託者の申込書の提出権限を有し,かつ,受入れ決定後の研究を実施する立場にある講座専任教授としてのCには,実質的に,共同研究の受入れの可否を決する職務権限があるとした原判決の認定が誤っているとはいえない。本件共同研究の受入れ手続の欠如について

原判決は,Cが27年度,28年度ともその正規の受入れ手続を経ることな
く本件共同研究を実施したことを指摘しつつ,他方で,①Cが,共同研究の内容が学生の研究テーマとして相応しいように3年間をめどとした上,本件共同研究をC研究室の学生(院生・研究生)の研究テーマとし,実験後には,実際に学生が実験データを用いた論文を作成していること,②実験の打合せや実験の実施,実験データの整理や分析結果等の報告を行う勉強会は,大阪大学において,学生及び助教が参加して行われたこと,③研究にかかった経費には大阪大学がCに支給する研究費が充てられていたこと,④前記

ア②のとおり,一部についてではあるが,契約上

も大阪大学が当事者となるようにしていたことからすると,Cは,職務として本件共同研究を行ったものであると認められる旨説示している。

しかし,所論も指摘するとおり,原判決が挙げる①ないし④の諸事実は,賄
賂罪の成否を考える上で,本件共同研究に係る部材実験が大阪大学との共同研究の実施とみられるべきことの理由としては十分というべきであるが(所論も,当審においてもはやこの点を争っていない。),共同研究の受入れが,実際にはなかったのにもかかわらず,あったものとして扱われるべきことの理由になるかは疑わしい。
共同研究の受入れとその実施とは,Cの場合,いずれも講座専任教授としての職務とされているものであるが,本来の職務権限に着眼すれば明らかなとおり(前記,両者は,職務そのものとしては明確に区別されるべきものであり,実際に行われた実験が共同研究の実施としてCの職務行為と認められることから,遡って,その前提となる共同研究の受入れがあったことになるわけではない。Cは,本件共同研究に関し,その職務であることの明白な,共同研究申込書の提出すらしていないのであるから,にもかかわらず,本件賄賂罪の成否を考える上で,共同研究の実施にとどまらず,その受入れがあったことを前提とすることには疑問があるといわなければならない。
もっとも,大阪大学との共同研究の実施があったと認められるのである以上,この点の事実誤認が直ちに判決に影響するとはいえない。そこで,以上を踏まえて,さらに,賄賂性の認定について検討する。
4
当裁判所の判断(その2)~賄賂性の認定について
まず,原判決が,賄賂性を認定した理由について検討する。原判決は,この
点につき,要旨以下のような理由を示している。

本件技術指導料(の一部)とCの職務である本件実験に関する諸指導との間
には対価関係があるから,本件技術指導料は共同研究の実施に対する謝礼等の趣旨を含むと認められる。

被告人らがCとの継続的な関係を望み,関係の維持・強化のために種々配慮
していたこと,技術指導料が指導の回数・内容にかかわらない定額で支払うこと自体にも,意味を見いだし得るものであることから,本件技術指導料を支払う趣旨には,共同研究実施に対する謝礼のみならず,共同研究の受入れを決したことについての謝礼や今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨も含まれると認められる。
しかし,アについて,本件実験に際しての甲に対するCの指導をその職務と把握し,本件技術指導料の一部とCの職務との間に対価関係があるとした判断には,必ずしも十分な理由があるとはみえず,また,仮にその対価関係を是認したとしても,そこから直ちに,本件技術指導料に共同研究実施への謝礼等の趣旨を含むものとした判断には,本件事案の実質に照らして疑問がある。さらに,イについて,技術指導料が定額であることに着眼して賄賂性を基礎づける判断は,合理的なものとはいえず,是認することができない。
以下,原判決の説示と所論に即して説明する。
本件技術指導料とCの本件実験に関する指導との対価関係及びその指導の職務性について

原判決が,本件技術指導料(の一部)とCの本件実験に関する諸指導との間
に対価関係があるとする理由は,要約すれば,①甲がC(乙研究所)と本件技術指導契約を締結した目的と本件実験の密接な関係,②27年度及び28年度各技術指導契約がいずれもその指導対象として実験計画の策定その他実験に関する指導等を含んでいるところ,本件実験に関する指導がそこから排除されると解する理由はない,ということと解される。
他方,原判決が,本件実験に関する甲に対する指導もまたCの職務に属するとする理由は,やや難解だが,結局のところ,原審検察官の主張とほぼ同旨,すなわち,③同じ実験から大学側が求めていたデータと甲側が求めていたデータが異なっていたことを考慮しても,一つの実験によって双方に得るものがあるからこそ共同実験が成り立ち,その実験に関するCの指導が不可分一体であったということに帰着するように思われる。

前記説示のうち,①②については,所論がるる指摘するところを踏まえても,
その内容が誤っているとはいえない。
所論に鑑み,特に②について若干触れておくと,本件技術指導契約にはいずれも指導項目として実験計画立案への参画・指導が挙げられているところ(前記1),原審検察官は,27年度及び28年度のそれらが,それぞれ同日付けで締結された27年度及び28年度各委託研究契約で定められた各部材実験,すなわち本件実験そのものを指すと主張したのに対し,原判決は,前記のような説示をしたのであるが,その際,c大学D教授との間の契約の在り方に関する誤った認定事実(前記1

イ)を援用していたことは所論指摘のとおりである。しかし,それを除
いて考えても,本件実験に関する指導が上記条項から排除されると解する理由はなく,原判決の説示は結論において誤ってはいない。確かに,CあるいはD教授に技術指導を依頼するに際して,甲自身が,それぞれの所属大学における実験の実施にこだわる理由は必ずしもなく,それはむしろ,企業からの研究費によって実験・研究を実施したい大学側の都合であったと考えられるが,だからといって,各技術指導の一環となり得る実験が各所属大学との共同研究の形で実施されることが排斥される理由もなかったことは,契約の趣旨及び各事実経過に照らして明らかである。ウ
他方,前記③の説示については,疑問がある。

原審弁護人が,甲が丙式解明や損傷制御式構築のために必要としていた実験と本件実験とは,内容的に全くの別ものであると主張したのに対し,原判決は,確かに,本件実験によって目指す目的も求めるデータも大阪大学側(耐久式の構築など,ひび割れ発生過程に関するデータ)と甲側(損傷制御式の構築など,ひび割れ収縮過程に関するデータ)とでは異なっていたが,一つの実験によって双方に得るものがあるから共同研究なのであり,現に甲も,Cが指導する本件実験から損傷制御式の構築に資するデータを得ていた旨説示しているところ,前記事実経過からみて,この説示自体に誤りはない。
しかし,原判決が,そこから直ちに,本件実験に関する甲に対する指導もまたCの大阪大学教授としての職務に属するとしたことには,疑問を禁じ得ない。本件実験の企画立案から準備・実行の諸経過に照らせば,確かに行った実験は一つであっても,Cの指導は,自身の研究室に属する学生らに対する,大学教授としての職務そのものとしてのものと,甲に対する私的な技術指導契約に基づくものとが併存していたとみるのが自然である。後者は,その実質においても技術指導契約の範囲内にあるものと認められるから,これは本来Cの大阪大学教授としての職務そのものとは区別されるべきである。
また,契約の形式面に着目しても,本件では,共同研究とはいうものの,企業の研究担当者を大阪大学に企業等共同研究員として受け入れることを予定している共同研究契約(大阪大学共同研究規程)ではなく,そのような制度のない委託研究契約(大阪大学受託研究規程)の形式が採られており,本件実験の立案から準備・実行段階に至るまで終始参加し,試験体の搬入・設置から,大学側のためのものも含めたデータ採取等の実務的諸作業に従事していた甲のE,G(前記1の事実経過ほか)は,その位置付けとして,大学教授としてのCの指導下にあったとはいい難く,大阪大学に研究を委託し,また,技術指導契約に基づきCから私的な技術指導を受けていた甲側からの,協力者・補助者としての地位にあったとみるべきである。この点も,本件実験に関するCの指導が2面性をもっており,甲に対するCの指導が,Cの大学教授としての職務に属していたとすることについての疑問の一つの理由となり得る。
本件技術指導料と対価関係があるとされる,Cの本件実験に関する指導の職務性については,このような疑問が存するところである。

この点,原判決はそれと明言はしていないものの,Cの本件実験に関する甲
に対する指導を,その職務であることの明らかな,同じ実験に関する学生らに対する指導と,密接に関連する行為とみて,いわゆる密接関連行為の理論を適用して,これと本件技術指導料(の一部)との間に対価関係があるとした,と考えられないではない。
そのような考え方の当否そのもの,また,訴訟手続の法令違反の論旨について述べたところとの関係(前記第3の

)が問題となり得るほか,さらには,訴因と

の関係も微妙である(原判決において,実験に関する指導はCの大学教授としての職務と捉えられていると考えられるが,本件で謝礼の対象として訴追されている職務は,講座専任教授としての職務である共同研究の実施であり,両者は同一ではない。実験に関する助言・指導は,例えば,研究室に属する助教の職務でもあり得る。学校教育法92条8項)。
しかし,以下では,以上に指摘した疑問点をひとまず措いて,仮に,原判決がいうような本件技術指導料(の一部)とCの職務である又はこれと密接に関連する本件実験に関する指導との間に対価関係が認められるのだとして,さらに,その賄賂性について検討することとする。
本件技術指導料の賄賂性について

原判決は,本件技術指導料とCの職務である本件実験に関する指導との対価
関係が認められることから,直ちに本件技術指導料には共同研究実施への謝礼等の趣旨が含まれるものと認めている。
なるほど一般に,賄賂とは,公務員の職務に対する不正な報酬であり,不正すなわち社会通念上受領することが許されない性質の報酬であることが必要と解されつつも,他方で,公務員がその職務の対価を受領することは原則として許容されないから,一般的には職務との対価性が認められれば,不正の利益に該当すると考えられているところである。
本件に即していえば,例えば,本件技術指導契約に係る職務外の私的指導に何らの実体がなく,その対価である技術指導料も単なる名目にすぎないといった場合であれば,それは,専ら,本件共同研究の実施等に関する謝礼などとして,現金支払の名目いかんに関わらず,直ちにその賄賂性が肯定されることには問題がないものと思われる。

しかし,本件技術指導契約がそのようなものでないことは,事実経過からみ
ても明らかである。
すなわち,甲は,RB1275のために独自の損傷制御式を構築し,これについて第三者機関による評定を取得するという高度の専門性ある課題のため,Cの専門知識に期待し,指導・助言を得ることを主たる目的として,Cが実質的に経営する乙研究所との間で,本件技術指導契約を締結し,同契約に基づいて,Cから一連の技術指導(具体的には,丙式解明のための勉強会のほか,RB1275を用いた素材実験の計画策定及び実行も含む。)を受けるとともに,これに対する対価として,月額10万円を基礎とする報酬を支払っていたのである。
したがって,本件技術指導料は,一見明白に賄賂であると認定することはできないものである。

そこで,本件技術指導料の賄賂性を判断するために,大学教授のような研究
職公務員に対して,民間人,民間企業から支払われる報酬の賄賂性について,検討してみる。
民間企業の依頼を受け,その製品開発に関し,自らの専門的知識を活かして助言・指導するなどして協力することは,本来国立大学教授あるいは同講座専任教授の職務(学生の教授・その研究の指導及び自らの研究への従事並びに各種学内行政上の職務)のいずれにも属さないから,その労に報いるのに相当と認められる金額を報酬・対価として授受することは,大学内部における職務専念義務ないし兼業規制の問題が生じ得ることは別論として,賄賂の問題を直ちに生じないと考えられる。また,そのような大学教授の民間企業に対する助言・指導の内容が,教授の本来的な研究テーマの一部をなしていて,大学における研究の一環として行われるなど,何らかの形で職務との対価性を否定できないと考えられる場合であっても,そのことから直ちに賄賂性を認めるのは問題であろう。
その理由は,大学教授の職務が調査研究という一般の公務員と異なる性質を有するからである。
すなわち,そのような職務内容からすれば,原則として,民間から報酬を受け取って指導したとしても,本来の大学における研究や指導という公務について公正を害し,また公正に対する信頼を損なうことはないと考えられるし,また,現状において,産学連携の政策理念のもとに,技術開発・産業発展に貢献すべく,大学教授は,国公立と私立を問わず,民間企業と研究・開発をすることが多く行われているとみられる。国立大学等でも,大学教授の専門的知識を民間企業の研究開発・技術指導に振り向けることを,本務との関係で支障を生じない限り,広く容認しているといえ(後述・大阪大学教職員兼業規程),このことは,大学側にとっても,民間企業の資金を大学における研究の進展と教育の充実のために積極的に活用でき有益であるのである。そして,その産学連携の在り方も両者の合意により多様であり得る。
確かに,民間企業が業界における優位を得るため,研究の適正を歪めてでも自身に都合のよい結果を出すことを求めて,そのための報酬を国立大学の教授に支払うならば,これが職務の公正を害し,不正な報酬に当たることは明らかである。しかし,そのような何らかの不正・不当な事情がない場合,一方で,職務専念義務と抵触しない範囲内で,民間企業の開発研究に自らの専門的知識を活かして協力し,これに対する相当の報酬を得ている国立大学の教授が,他方で,その企業の資金を受け入れて,企業の当該開発研究にも資する内容の研究を所属大学において実施する(理科系の場合は,実験等によりデータを得ることはほぼ必須であろうから,大学教授としては,設備等のある大学で実施するのが通例と思われる。)ことは,産学連携の政策理念に照らして,社会から歓迎されることはあっても,疑問視,不当視されることはないというべきである。確かに,企業は競争社会の一員として自らの営利を追求する存在であるが,それでも企業と大学との共同・連携は,それが健全になされる限り,新しい学問上の知見の獲得や,実務的・産業的な技術の革新といった,社会的にも有意義な成果を得られることが期待できるというのが,産学連携の政策理念の基礎にある考え方であり,今日における研究職公務員の職務に関する賄賂の問題を考える上で,このような視点を欠かすことはできないと解される。このように考えると,実体のある職務外活動に関し適法な趣旨で供与された金員については,公務員の職務に関し有利かつ便宜な取り計らいをしてくれたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨といった不正な報酬,すなわち賄賂と認定することには慎重でなければならない。単に対価性があるからというだけで,不正なものであることが推認される,ましてやみなされるといった認定は許されないものと考える。賄賂であることを認定するには,本来の意味に従い,報酬の不正さを基礎付ける事情が,対価性とは別に認められることが必要であると解される。

以上を前提に,さらに検討する。

原判決は,正当な職務外指導の対価として支払われた本件技術指導料が,部分的に,大学との共同研究の実施として企画・実行された本件実験に際しての指導への対価ともみることができるとの一事をもって,直ちにそれは不正な報酬を含むことになるとしているが,この判断は是認できないことになる。その上で,対価性に加えて,それとは別に,不正な報酬であることを基礎付けるに足りる事情が認められるかを検討する。
不正な目的
甲とCの間で,甲に有利になるように,正しい方法で行った場合の実験結果に反する,虚偽の結果を出すことを意図して実験を行い,これに対して報酬を支払ったというような,目的自体に不法性を認めるべき事情は一切認められない。経過
事実経過を検討しても,不正な報酬を基礎付ける事情は認められない。本件の場合,本件実験を大阪大学との共同研究として実施することに利益があり,それをより強く望んだのは,甲よりもむしろC(大阪大学)の方である。甲としては,その企業課題に即していえば,Cの技術指導が得られればそれでよいのであり,実験を他大学との共同研究として実施し,そのデータを用いるということでもその目的を達する上で支障はなかった(前記1の事実経過ほか)。このような状況下で,技術指導料がそれ自体として支払われた後,あるいはこれと並行して,本件実験の実施が大阪大学との共同研究として行われることが決まったといっても,それに伴って金額が変更されたわけでもない技術指導料の一部が,不正な報酬になるとみるべき説得的な理由ないし事情は見いだし難い。
技術指導料の金額
金額の相当性も,一つの事情となり得る。報酬金額が社会的相当性を欠いていると判断される場合,例えば,本件技術指導料の金額が,同契約本来の趣旨に照らして不釣り合いに過大であり,その過大な分については,職務外活動に対する正当な対価と考えることができない場合などである。
この点,訴訟手続の法令違反の論旨について前述したところ(第3の
)とも

関係するが,本件にあっては,検察官から,技術指導料の額が契約の本旨(丙式の解明,これと同等以上の独自の損傷制御式の構築,その他甲の製品開発全般に対する助言指導)に照らして過大であるとの主張・立証はなく,原判決もそのような検討をしていない。
しかし,技術指導の中心であった勉強会・RB研究会は,月1回弱の頻度で東京ないし大阪で開かれており,その内容も,宿題をもとに高度に専門的な事項について議論が積み重ねられていた様子が,残されている議事録や出席者のノートなどからうかがわれ,それらに鑑みれば,月額10万円を基礎に算定された技術指導料の額が常識的に見て直ちに高額に過ぎると断じることはできない。むしろ,そもそもその金額が,c大学D教授との間で同種の技術指導契約を締結していた際の先例が参照され,これと同額に決められた経緯があることにも鑑みれば

,そ

の額が適正な範囲を出るものでないことは明らかというべきである。なお,この点に関連して,原判決は,前記
のとおり,技術指導料が指導の回

数・内容に関わらない,定額で支払うこと自体にも意味を見いだし得るものであることから,技術指導料を支払う趣旨には,共同研究実施に対する謝礼のみならず,共同研究の受入れを決したことについての謝礼や今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨も含まれると認められるなどと説示しているが,疑問である。結論からいえば,技術指導に相応の実体があると認められる以上,原判決のような立論に根拠がないのは,所論が指摘するとおりである。中心的な課題である丙式の解明等以外にも,甲の製品開発全般についての指導が依頼されてもいたことを踏まえれば(前記1

),Cも述べるように,本件技術指導契約は一種の技術コン

サルタント契約と考えられ,その金額が定額であることはむしろ自然なことであり,その点が賄賂性を基礎付けるものと評価するのは誤りである。
原審において,検察官は,技術指導料が不正な報酬であることを基礎付けるに足りる事情として,甲(被告人ら)が,大阪大学ではなく乙研究所に現金を支払うことによって,Cの不正(前記第2の3

)に加担し,Cが自由にすること

のできる金を作ることに協力していた,といった主張を構想し,その立証を企図していたことがうかがわれる。原審裁判所も,公判前整理手続において,争点整理案の中で,賄賂性とその認識に関する検察官の主張として,その旨整理していた。もっとも,原審検察官は,この主張を,委託研究費ではなく,技術指導料についてしていた(平成29年4月24日付け追加証明予定事実記載書)。技術指導料のうち本件実験に関する指導と対価関係のある部分については,本来大阪大学に支払われるべきものであった,というのである(原審論告では,故意を認めるべき事情として論じられている。)。しかし,これでは,本来,職務外の私的契約に基づいて支払われた金員について,私的契約の対象である指導と職務との一体性を理由に職務との対価性を指摘したのと変わらない。ここで検討する不正な報酬であることを基礎付ける更なる事情とはいえない。原判決も,そのように考えたためか,あるいは,そもそも対価性のみで賄賂性を基礎付けるのに十分と考えたことによるものか,いずれにしろ,自ら上記のような争点整理をしておきながら,この点に関する認定・判断を何ら示してはいない(技術指導料を乙研究所に振り込めば,C個人がそれを受け取ったものと同視できる旨の,いわずもがなのことに言及するのみである。)。
しかし,この点に関する検察官立証の中心と目される大学に直接納めると10%を大学に取られる云々とのCの勉強会における発言(前記1
)は,そこに

出席していたGの供述に即しても,また,その時期・文脈に照らしても,本来は明らかに,技術指導料ではなく,委託研究費について述べられたものであった。この点が明確にされなかったため,そもそも,委託研究費の個人的な受領によるCの不正を甲がそれと知りつつ支払先についてCの希望に応じたのだとして,そのことによっていかなる意味で技術指導料が賄賂性を帯びることになるのか,その実質的理由,理論的根拠も,検察官から明らかにされることはなかった。
さらに一歩を進め,原審検察官の主張を,委託研究費に関するCの不正をそれと知って協力したとするものと捉え直したとしても,結局のところ,原審で取り調べられた証拠中に,そのように認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。確かに,平成25年に非構造壁の耐震性向上の研究から離脱するに当たり甲から大阪大学に奨学寄附金が支払われた際,Eが,Cから乙研究所に支払われなかったことを不満とする言葉をかけられたことがあったようである(前記1
)。また,

上記のとおり,勉強会でCから委託研究費の振込先について乙研究所とするよう求められた際,Gらが大学に直接納めるより安く済むといった説明を受けたこと(同1
),その後,Eが委託研究費の額についてCに減額交渉をした経緯があること
(同1

)などの事情は認められる。しかし,原審で取り調べられた証拠を全て精
査しても,甲が,乙研究所に委託研究費を振り込んだ後,Cにおいて,これを大阪大学に納付する手続をとらないのみならず,大阪大学から別に研究費の支給を受けてその精算もしないなどの不正に及んでいることを知っていたとか,察知していたことをうかがわせるような証拠は全く存在しない。かえって,28年委託研究契約(柱)の一部を大阪大学との共同研究契約に切り替えた際(前記第2の3の対

応をみると,単なる手続,形式の問題と受け止めて,淡々と対応している様子が明らかであり,そこに,不正の発覚を懸念するような動きは全くみられない。この点に関する当審検察官の主張についても検討を加えておく。
検察官は,本件技術指導料が,Cの共同実験に関する指導に対する不正な報酬である根拠として,研究職公務員の特殊性をある程度認めつつも,国立大学等の職員が,国立大学等から支払われる給与等に含まれる,執務時間中に行った職務の対価として,民間企業から個人として別途金員の支払を受けることができないのは当然であるとして,本件の技術指導料が不正な報酬であるとする。しかし,この主張は,基本的には,

で検討した原審検察官の主張と同じとみられ,そこでの議論

が基本的に妥当するものと思われるが,若干付け加える。同一の労働時間帯における一定の労働・活動について,契約の内容次第により,複数か所からの報酬を受けることがあり得るのは当然のことであり,本件の場合は,Cの本件実験に関する指導に2面性があること,すなわち,学生らに対する大学教授としての指導と,甲に対する技術指導契約に基づく指導という面が併存していることを考えれば,それ自体不合理なことではない。ただし,公務員の場合,職務専念義務との関係で問題となることがあり,一般的にはそのようなことが起きることは少ないとはいえよう。しかし,それは,原則として公務員の所属する組織との関係の対内的な問題(学内での懲戒の問題や,内部の財産関係についての背任等)であり,本件のような研究職公務員の場合,そのことが直ちに,職務である研究・教育の公正やこれに対する社会の信頼を損なうというものではない。
検察官の,不正な報酬であることを基礎付けるに足りる事情についての主張は,これまで検討したもので尽きており,それ以外にみるべき主張はない。オ
以上によれば,本件技術指導料の一部とCの職務である本件実験に関する指
導との間に対価関係が認められるとし,そこから直ちに本件技術指導料に共同研究実施への謝礼等の趣旨を含むもの,すなわち賄賂と認められるとした原判決の認定・判断は

を度外視しても),誤っており,是認するこ
とができない。
結語
Cが甲との間で技術指導契約を結びその報酬を受け取っていたことと,大阪大学の教職員兼業規程による規制との関係は,必ずしも明らかではない。Cの甲に対する説明では,乙研究所の取締役に就任することについては兼業許可を得ていたようであるが(前記1

),同大学において,これにより個別の技術指導契約を結ぶこ

とについても兼業許可を得たものとして扱う運用であったのかは定かではない。しかし,同兼業規程においては,営利企業の役員兼業及び自営の兼業以外の兼業を所属長の許可制とする中で(6条),その許可基準について,営利企業の事業に直接関与する場合は,原則としてこれを許可しないと定めつつも(7条2項
),

研究開発及び技術指導などをその例外としており(同号ただし書),兼業により教職員の職務の遂行に支障が生じないことなどを条件にこれを許可するものとしている(7条1項)。勉強会の実施や実験の実行等,甲に対する技術指導に関し,Cにそれら兼業条件に違反していると目すべき事情は見当たらない。
Cが,本件共同研究(委託研究)の受入れやその後の研究費用の受入れと精算について,大阪大学における正規の手続を踏まずに,大学に対する背任として訴追されるような不正があったことは,本件特有の非常に特異な事情であり,大変遺憾なことであったが,その点を除けば,本件は,民間企業において,製品等開発研究について大学教授個人に対し職務外の指導を依頼する一方で,大学において,関連する実験等を共同研究として受け入れ,その費用を企業が負担するという,産学連携のあり様としては,至極通常のあり様だったと思われる(私立大学であるが,c大学のD教授の場合をみてもそれは明らかであろう。)。そのような通常の場合を想定すれば,相手が国立大学教授の場合であったとしても,その技術指導料の授受をもって賄賂の問題が生じるとは考え難い。
本件において,Cの不正を知らず,単にその知名度と専門知識を頼みに製品開発のための技術指導を依頼し,自らの目的のために有用な実験を,Cの望むままに大学との共同研究の形で実施し,その費用を全て負担した甲は,Cの不正に巻き込まれた犠牲者ということはいえても,Cの公的職務の公正やそれに対する社会の信頼を損なうとされる賄賂を贈ったなどと評価される謂れはないといわなければならない。
原判決には,賄賂ではないものを賄賂と認めた事実の誤認があり,これが被告人両名の関係で,判決に影響を及ぼすことが明らかである。
事実誤認の論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
第5

破棄・自判

よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,被告事件について,更に次のとおり判決する。
本件公訴事実は,前記第2の1のとおりであるが,これについては,前記第4のとおり,供与した金銭が賄賂であるとの証明がなく,結局,被告人両名の関係で犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条後段により被告人両名に対し無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。
令和2年6月17日
大阪高等裁判所第6刑事部

裁判長裁判官

村山浩昭
裁判官

木山暢

裁判官

宇田美穂
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