判例検索β > 平成30年(行コ)第213号
事件番号平成30(行コ)213
裁判年月日令和2年3月25日
裁判所名・部東京高等裁判所
裁判日:西暦2020-03-25
情報公開日2020-07-07 16:01:03
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主1文
原判決主文第2項のうち,控訴人Aの請求に係る部分を次のとおり変更する。


東京都教育委員会が平成21年3月31日付けで控訴人Aに対してした懲戒処分を取り消す。



控訴人Aのその余の請求を棄却する。

2
控訴人Bの本件控訴を棄却する

3
訴訟費用は,第1審及び第2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人らの負担とし,その余は被控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決主文第2項を取り消す。

2
主文第1項⑴と同旨

3
被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ300万円及びこれに対する平成21年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
(以下においては,
特に断らずに原判決記載の略称を用いることが
ある。


1
本件は,控訴人Aが所属していた東京都立Xにおいて平成21年3月24日に,控訴人Bが所属していた東京都立Yにおいて同月19日にそれぞれ挙行された卒業式の際,事前に各学校の校長から控訴人らに対して式典では国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するようにとの職務命令(本件職務命令)が発せられていたにもかかわらず,控訴人らがそれぞれの所属校での卒業式における国歌斉唱時に着席したまま起立しなかったため,処分行政庁である東京都教育委員会(都教委)が,地方公務員法(地公法)32条及び33条に違反するとして,同月31日,同法29条1項1ないし3号に基づき,控訴人らに対してそれぞれ停職6月の懲戒処分(本件各処分)をしたところ,控訴人らにおいて,本件各処分は憲法13条,19条,23条,26条,教育基本法16条1項等に違反するなどと主張して,本件各処分の取消しを求めるとともに,本件各処分により精神的苦痛を受けたと主張して,
都教委の設置者である被控訴人に対し,
国家賠償法(国賠法)1条1項による損害賠償請求権に基づき,慰謝料各300万円及びこれに対する本件各処分がされた日である平成21年3月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,本件職務命令は憲法19条等の規定に違反するものでも,教育基本法16条1項に違反するものでもないなどとしたが,本件B懲戒処分については,処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであり,懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱してされた違法なものであるとして,同処分を取り消し,本件A懲戒処分については,同処分を選択した都教委の判断は社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず,停職期間も裁量権の範囲内ということができ,適法であるとして,同処分の取消しを求める請求を棄却し,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求については,本件A懲戒処分は違法とはいえず,
本件B懲戒処分については国賠法上の過失は認められないなどとして,控訴人らの請求をいずれも棄却する旨の判決をした。
そこで,上記敗訴部分を不服とする控訴人らが本件控訴を提起し,控訴人Aが本件A懲戒処分は違法である旨主張するとともに,控訴人Bとともに本件各処分は国賠法上の過失があるなどと主張したが,被控訴人は,本件B懲戒処分を取り消した被控訴人敗訴部分につき控訴も附帯控訴も提起しなかった。したがって,原判決のうち本件B懲戒処分を取り消した部分は確定しているから,当審における審理の対象は,控訴人Aによる本件A懲戒処分の取消請求及び控訴人らによる国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の当否である。2
前提事実
前提事実は,次のとおり補正するほかは,原判決事実及び理由欄の第2の2(原判決3頁12行目から20頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)


原判決10頁6行目から7行目の都立高等学校長及び都立盲・ろう・養護学校長に対し,の次に職務命令の発出の必要性を基礎付ける事項として,都教委が児童・生徒に国旗及び国歌に対して一層正しい認識をもたせ,それらを尊重する態度を育てるために,学習指導要領に基づき入学式及び卒業式を適正に実施するよう各学校を指導してきたことにより,平成12年度卒業式から,すべての都立高等学校及び都立盲・ろう・養護学校で国旗掲揚及び国歌斉唱が実施されているが,その実施態様には様々な課題があり,このため,各学校は,国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について,より一層の改善・充実を図る必要があるということを示した上,を加える。


同12頁11行目の
勤務態度
から13行目の

戒告と定められている。


までをそして,勤務態度不良(職務命令違反,職務専念義務違反,職場離脱)を行った場合には,減給,戒告と定められており,欠勤については,無届欠勤1日又は私事欠勤5日以上が戒告,無届欠勤3日又は私事欠勤9日以上が減給,無届欠勤5日又は私事欠勤15日以上が停職,3週間以上の無届欠勤の継続が免職と細分化して定められている。と改める。


同16頁末行の東京地裁から17頁2行目の

係属中である。

までを最高裁令和元年(行ツ)第250号,同年(行ヒ)第295号同年10月3日第一小法廷決定は,控訴人らの上告を棄却するとともに,上告受理申立てを受理せず(乙イ207),控訴人Aの請求を棄却した第一審の判決が確定した。と改める。


同17頁5行目の平成17から8行目末尾までを

平成17年5月27日付けの停職1月の懲戒処分,平成18年3月31日付けの停職3月の懲戒処分及び平成20年3月31日付けの停職6月の懲戒処分はいずれも有効であることが確定していることになる。

と改める。⑸

同19頁18行目の

本件A不起立に及んだ。

の次に控訴人Aが本件A職務命令に従わなかったのは,控訴人Aの歴史観ないし世界観等において,「君が代や日の丸が過去の我が国において果たした役割が否定的評価の対象となることなどから,起立斉唱行為をすることは自らの歴史観ないし世界観等に反するもので,これをすることはできないと考えたことによるものであった。」を加え,19行目



同20頁2行目の

本件B不起立に及んだ。

の次に控訴人Bが本件B職務命令に従わなかったのは,控訴人Bの歴史観ないし世界観等において,「君が代や日の丸が過去の我が国において果たした役割が否定的評価の対象となることなどから,起立斉唱行為をすることは自らの歴史観ないし世界観等に反するもので,これをすることはできないと考えたことによるものであった。」を加える。

3
争点及びこれに対する当事者の主張


争点及びこれに対する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記⑵において当審における当事者の補充主張を摘示するほかは,
原判決
事実及び理由
欄の第2の3(原判決20頁14行目から21行目まで)及び第3(原判決20頁22行目から30頁末行まで)(ただし,いずれも控訴人Bの本件B懲戒処分の取消請求に関する部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決23頁5行目の必要性,合理性というを必要性や合理性の有無というと改める。

同30頁12行目から13行目の
平成17年度から平成21年度まで
を平成17年から平成21年までと改める。



当審における当事者の補充主張

本件各処分の適法性について
(控訴人らの主張。ただし,控訴人Bの主張は,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求との関係でのものである。

本件通達,本件職務命令及び本件各処分が憲法19条に違反していることについて
都教委は,卒業式等における不起立者を皆無にするために本件通達を発し,校長の職務命令を一律に介在させることで,控訴人らの不起立を職務命令に違反する非違行為として顕在化させ,君が代斉唱時に国旗に向かって起立しない者に対し懲戒処分をするだけでなく,勤務先校長等をも連座させて再発防止研修を受けさせ,不起立を繰り返した場合の免職処分をも視野に入れた機械的な累積加重処分を行っている。都教委の不起立者を皆無にするという目的に照らすと,本件通達,職務命令,処分及び研修は,それぞれが独立して存在するものではなく,有機的に相互に関連して存在するものであり,不起立者を皆無にするという目的に向けた一連のものとして機能しているとみることができる。そして,機械的な累積加重処分の論理的帰結として,不起立者は最終的に免職処分を受けることが想定されている。
こうした一連の指導及び処分は,当該不起立者の内心に執拗に踏み込み,追い詰めていくものであり,起立させるという都教委の政策目的に基づき教育者の専門的良心や教育的営みを変更させる一つの強制的な制度・装置として機能している。
そして,このような機能を持つ上記一連の措置は,自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教師に対し,自らの思想や信条を捨てるか,それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一を迫るものであり,その思想及び信条を制約し,侵害するものであって,思想及び良心の自由を直接的かつ実質的に侵害するものとして憲法19条に違反する。
控訴人らは,教育実践の積み重ねがあったからこそ,懲戒処分を受けることが想定されても繰り返し不起立をしたのである。
まさに,
それは,
教育公務員としての職業上の信念,信条に基づく行為であって,控訴人らは,自らの教育実践を通じて,この信念,信条を繰り返し語り,実行してきた。そこに,控訴人らの教育公務員としての尊厳があり,これに執拗に踏み込み,侵害する都教委の行為は,控訴人らの教師人格を破壊するものである。
そして,このように,本件通達,本件職務命令及び本件各処分等による一連の措置ないし指導及び処分が控訴人らの思想及び良心の自由を直接的かつ実質的に侵害し,思想及び良心の自由に対する直接的な制約となる点を考慮すると,これが正当化される余地はないし,仮に,思想良心の自由に対する制約が間接的であったとしても,その制約の程度が極めて強度であることに照らせば,学校の卒業式や入学式等という教育上の特に重要な節目となる儀式的行事においては,
生徒等への配慮を含め,
教育上の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが必要か否かという判断要素を厳格に審査するべきであり,必要性及び合理性の有無という緩やかな基準によって制約を正当化することは不当である。
本件通達,本件職務命令及び本件各処分が憲法13条,23条,26条及び教育基本法16条1項に違反していることについて
a
旭川学力テスト事件最高裁判決は,教育の目的は人格の完成に
あり,国民各自が,一個の人間として,また,一市民として,成長,発達し,自己の人格を完成,実現するために必要な学習をする固有の権利を有する旨判示し,憲法13条,23条,26条は,子どもが自由かつ独立の人格として,思想及び良心の自由を尊重されながら,教員との人格的触れ合いの中で人格を発達完成させていく権利を保障したことを明らかにした。子どもは,自ら自律的に考え,成長していく主体として捉えられ,そのため,教員には一定の範囲での教育の自由が保障され,公権力による教育内容及び方法への過度の介入は許されない。
しかし,本件で,国旗及び国歌に対して起立を強制することは,国民の間で意見が分かれる問題について,一方的に国旗及び国歌に対する敬意,賛同を要求することになる。したがって,教師に起立と
いう一定の価値観の表明をさせ,これにより生徒にも同様の態度をとらせることを期待することは,まさしく価値観にかかわる問題について,一定の価値観と態度を押し付け,子どもに自ら考える教育で
はなく,押し付けられる教育を施そうとするものである。
そして,本件通達や本件職務命令は,子どもに対して直接起立
を命じるものではないとされているが,本件通達や本件職務命令による教師に対する起立の強制は,子どもに対し,示威的で強い心理的強制を及ぼすものであり,子どもの自律的な成長発達を阻害し,その学習権を侵害する。
b
憲法が要請する子どもの個性に応じ自由かつ独立した人格を形成

するための教育においては,教師の教育の自由ないし教育上の裁量が十分に尊重されなければならない。特に,本件のように日の丸・君が代という,すぐれて意見の分かれる問題については,政治的な多数決による意見が教育の方向を強く左右することがあってはならず,一方の考えを教師が子どもに教え込むことは許されない。
控訴人らは,
日頃の教育実践において,子どもたちが自分で考えを選択することができるようにする教育を展開していたのであり,日の丸・君が代
に関しても,一方的な考え方を押し付けることはできないという信念を有し,子どもたちが自分自身の考えを形成できるように支援してきた。このような控訴人らは,自ら教育者としての立場に反して国歌斉唱時に起立するということはできないのであり,このことは,憲法13条,23条,
26条に定められた教師の教育の自由として保障されて
いる。
c
教育基本法16条1項は,教育行政に対し,不当な支配を禁じ
ている。不当な支配に当たるか否かは,旭川学力テスト事件最高
裁判決に示されているとおり,①教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準にとどまるべきものであること,②教師による創造的かつ弾力的な教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地が十分残されていること,③教職員に対し一方的な一定の理論ないし観念を生徒に教え込むことを強制するものでないことという基準によって判断されるべきである。これに照らすと,本件通達,本件職務命令及び本件各処分は教育基本法16条1項が禁止する不当な支配
に当たるといえる。
国旗及び国歌に対する起立斉唱は,
単なる儀礼的行為ではない。
国旗・国歌の問題は,国民が様々な見解を持つ主題であり,個人の世界観や国家観にかかわり,
人によってさまざまに意見が分かれる。
起立は,国旗及び国歌に対する敬意の表明であり,そのような価値観を表明させる行為を強制することは,
一定の価値観と態度を押し付け,
子どもに自ら考える教育でなく,押し付けられる教育を施そ
うとするものである。
学習指導要領には国旗の掲揚と国歌の斉唱の指導をすることし
か記載されておらず,それ以上の価値観の表明にわたる指導につ
いての記載はない。したがって,入学式及び卒業式において,起立を要請する必要性はそもそもない。これについて,学校で一方的な価値観の強制,義務付けをすることについては,世論の反対も多く,国旗国歌法制定時には,政府答弁においても,義務付けをしたり,強制にわたったりすることがないようにするとの説明が繰り返しされた。したがって,本件通達には,必要性及び合理性は認められないのであり,学習指導要領から本件通達や本件職務命令の合理性を導き出すことはできない。
また,本件通達は,教師の裁量の余地を残していない。すなわち,本件通達の内容は,極めて詳細かつ厳格なものであり,自主的な創意工夫の余地や教師の裁量の余地を残していない。特に学校行事などの特別活動においては,教科教育とは教育の内容が異なり,教師や学校の裁量の範囲が異なっている。学習指導要領においても,学校行事については,学校や地域及び生徒の実態に応じて,種類ごとに,行事及びその内容を重点化するとされているのであり,特に特別活動の場面においては,生徒の自主的な判断の尊重,各学校の自主的な行事運営の必要性が高いのであるから,教育委員会は,学校の自主的な決定を尊重し,学校行事について一律かつ詳細な内容での介入をすることは許されない。
d
以上のとおり,本件通達及び都教委の一連の指導並びにこれに基づいてされた本件職務命令及び本件各処分は,憲法13条,23条,26条に定める,子どもを独立かつ自律的な人格とみてその成長を目指すという教育の目的を逸脱するものであり,必要性も合理性もなく,過度に教師の裁量を制限し,教師に対し一方的な価値観や観念を生徒に教え込むことを強制するものであって,憲法13条,23条,26条に違反し,教育基本法16条1項が禁止する不当な支配に当た
る違法なものである。
本件A懲戒処分が裁量権の逸脱濫用に当たることについて
a
本件A懲戒処分がされた事案と同種の事案である平成19年度卒業式での不起立行為を理由として平成20年3月にされた控訴人Aに対する停職6月の懲戒処分においては,
控訴人Aが
強制反対日の丸・君が代などの語句がプリントされたトレーナー(以下本件トレーナーという。)を着用した行為(以下本件トレーナー着用行為という。)も懲戒処分の対象とされているが,平成20年3月の懲戒処分から平成21年3月にされた本件A懲戒処分までは,本件A不起立のほかに懲戒処分の対象となる事由は生じておらず,また,停職処分の相当性を基礎付ける具体的な事情もない。このことは,控訴人Aにとって有利な事情として考慮されるべきである。
なお,そもそも,本件トレーナー着用行為は,懲戒事由となる職務専念義務違反や職務命令違反には当たらないものであり,
控訴人Aは,
本件トレーナー着用行為を憲法によって保障された服装の自由に
基づくものとして行っており,
これにより学校の業務が妨げられたり,
生徒や同僚教師に対し何らかの不適切な影響が及んだりしたことはない。
b
公務員に対する懲戒処分における裁量権の逸脱濫用の有無は,処分権者の裁量判断の過程及び方法に立ち入った厳格な審査がされるべきであり,考慮すべき事項及び考慮すべきでない事項の全てを,その重み付けまでして検討すべきである。
そして,本件A懲戒処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか否かの判断においては,少なくとも,次の事由が,すなわち,①国旗国歌法の制定過程において,政府が,同法は国旗掲揚,国歌斉唱を義務付けるものではないことを繰り返し表明していたこと,②学習指導要領の国旗国歌条項は,国旗に正対して起立することは命じておらず,国旗及び国歌に対する起立そのものは,いかなる法令によっても教育公務員に義務付けられてはいないこと,③本件通達,本件職務命令,本件各処分及び再発防止研修は,それぞれが独立して存在するものではなく,不起立者をなくすという目的の下,一連のものとして機能し,最終的には不起立者が免職処分を受けることが想定され,不起立者の内心に執拗に踏み込み,追い詰めていくものであって,自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教師にとっては,自らの思想や信条を捨てるか,教師としての身分を捨てるかの二者択一を迫られることになるものであり,そのような事態は,憲法19条が保障する思想及び良心の自由に対する実質的な侵害になること,④教育公務員は,本来教育活動について一定の裁量を有しており,これを妨げるような処分権の発動は謙抑的でなければならず,教育活動についての不当な支配が禁止されていることからも,処分権の行使は抑制的
である必要があること,⑤本件では日の丸・君が代という国民の間でも意見,評価の分かれる事項についての教育活動の在り方が問題となっているのであり,そのような場面では,教育委員会は,懲戒処分をもって同事項に係る教育を阻害したり,教師に対し一方的な見解を教え込むことを強制したりすることは許されないこと,⑥控訴人Aの本件A職務命令への不服従は,教師としての良心に基づくものであり,意見の分かれる問題についての教育を実践するという真摯な動機に基づくものであること,⑦控訴人Aの本件職務命令への不服従は,教育者としての信念及び長年にわたる教育実践と不可分一体のものであり,不起立は控訴人Aの教育実践の必然的帰結であること,⑧本件A不起立は,
卒業式の進行を遅らせたり,
妨げたりするものではなく,
学校行事に支障は生じておらず,児童・生徒の学習権が侵害されたことや出席者に不快感や嫌悪感を抱かせたことについては立証がされていないこと,⑨停職処分は,教育がその上に成り立つ教師と児童・生徒及び保護者との人間的交流及び信頼関係を破壊するものであり,教育現場や教育上の関係に悪影響を及ぼすこと(停職処分がされると,教師と生徒及び保護者との関係は分断され,停職期間が6か月に及ぶときには,教師と生徒との信頼関係構築に与える影響は同期間が3か月にとどまる場合に比して極めて大きく,被処分者は2学期開始から1か月が経過した10月1日に職場に復帰することになり,生徒との間の信頼関係構築が非常に困難なものとなる。),⑩累積加重処分の機械的適用は違法不当であり,その結果は被処分者にとり過酷であって,教師と児童・生徒及び保護者との信頼関係を破壊し,後は免職しかないという威嚇効果を生じさせ,更に被処分者に不適格のレッテルを貼り,その名誉,信用を最大限に破壊すること,⑪過去の処分歴を理由に累積加重処分を行うことは,過去の処分を繰り返し不利益に評価することであり,一時不再議の原則に反し,実質的な二重処分,二重処罰に当たること,⑫他県の同種事案における懲戒処分との比較では,全国的に不起立は懲戒処分の対象とはされておらず,懲戒処分がされる場合でもその種類は戒告にとどまっており,東京都の区町村においても,不起立の前歴や処分歴があっても,また,不起立の意思が予め表明されていても,職務命令は出されず,不起立について校長が報告もしない事例があり,また,東京都におけるその他の懲戒処分と比較しても,停職3月ないし6月の懲戒処分がされた事例はほとんどが児童・生徒に対する体罰,セクハラや同僚教師に対するセクハラ,万引き,酒気帯び運転による事故など,重大な非違行為であって,本件不起立をこれらと同列に論じることは権衡を欠いた不当な扱いとなり,比例原則及び平等原則違反となること,⑬本件当時,不起立のみを理由として停職の懲戒処分をした任命権者は全国でも被控訴人のみであること,⑭控訴人Aが平成18年度卒業式において不起立をしたことついて平成19年3月にされた停職6月の懲戒処分は取り消されていること,以上の事由が十分に考慮されなければならない。
c
控訴人Aの過去の懲戒処分の対象となった行為については,前記のとおり,これを理由に累積加重処分を行うことは過去の懲戒処分を繰り返し不利益に考慮することであり,一時不再議の原則に反し,実質的な二重処分,二重処罰に当たることに留意するほか,①その行為の原因及び動機について,教師の教育の自由の保護という観点からの評価が必要であること,②その行為の影響について,同行為が学校外の行為であるにもかかわらず,被控訴人や市教委の教育内容に関する方針又は校長の教育内容に関する方針に反するものとして安易に学校の秩序を乱すものと評価されるべきではないこと,③国旗国歌法制定前後において,日の丸・君が代をめぐって守られるべき学校の秩序の意味は大きく異なっていることに留意すべきである。そうしたとき,控訴人Aの,平成5年度卒業式において校長が校庭のポールに掲揚した日の丸の旗を引き降ろした行為
(減給10分の1,
1月),平成7年3月に出した学級だよりにおいて,校長が日の丸の旗をポールに掲揚したことについて自律的な思考を放棄していると批判する意見を述べた記事を掲載した行為(文書訓告)及び平成11月2月に行った家庭科の最後の授業において,日の丸・君が代を卒
業式において用いる学校が全都的及び全国的に圧倒的多数になっている状況について,自分で考えず,教育委員会の命令にのみ従う校長はオウム真理教の幹部と変わりがないとの意見を記載したプリントを用いた行為(文書訓告)は,いずれも,教師としての真摯な信念に由来する動機に基づいてしたものであって,その態様は,教育活動の範囲内のものであり,学校の秩序を乱すものではなく,むしろ,子ど
もの教育に当たる学校の秩序の一環として守られるべきものと評価されることになるのであり,以上の行為をもって,平成16年度卒業式における不起立(減給10分の1,6月)及び平成17年度入学式における不起立(停職1月)の各懲戒処分の量定判断において考慮すべき事由とみることは許されない。
また,平成17年7月に行われた再発防止研修において,控訴人Aが,着用したゼッケンを取るよう求めたられたのに対し,その理由を尋ね,研修の目的を質問して研修の開始を遅らせたとの行為(減給10分の1,1月)も,教師としての真摯な信念に由来する動機に基づいてしたものであって,その態様は,学校外における再発防止研修において,研修を少しの時間遅らせたというものにすぎず,学校教育に対しては何らの影響も及ぼさないものであったのであり,これを処分量定において考慮することは,考慮すべきでない事由を考慮したことになり,裁量権の逸脱濫用となる。
そして,本件通達後,平成16年度卒業式における1回目の不起立行為を理由とする給与6月の10分の1を減ずる懲戒処分後にされた不起立行為を理由とする各懲戒処分は,過去の懲戒処分の理由となった行為を考慮に入れて機械的に量定を加重したものであり,上記各行為に対して本来されるべき評価を行わないまま,誤った評価に基づいて量定の加重をしたもの,すなわち,考慮に入れるべきことを考慮せず,また,考慮に入れてはならない事項を考慮に入れて行ったものといえ,裁量権を逸脱濫用したものとして違法となる。
(被控訴人の主張)
本件通達,本件職務命令及び本件各処分が憲法19条に違反しているとの主張について
控訴人ら教育公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではないのであり(憲法15条2項),全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,かつ,職務の遂行に当たっては,全力を挙げてこれに専念しなければならず(地公法30条),その職務の遂行に当たって,法令等に従い,かつ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないものである(地公法32条)。そして,学校教育法及び同法施行規則に基づいて定められた学習指導要領は,学校行事のうち儀式的行事について,

学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。と定め,

入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するように指導するものとする。と定めている。

したがって,上司(校長)が控訴人ら教職員に対して,入学式,卒業式等において,国旗及び国歌の指導に関して職務上の命令を発することができるのは当然のことであり,これに従わなかった教職員は服務上の義務に違反したのであるから,懲戒処分を受けるのは当然であり,繰り返し服務上の義務に違反すれば加重された懲戒処分を受けるのも当然のことであって,一方,任命権者として服務上の義務に違反して懲戒処分を受けた者に対して,その再発を防止するための措置(再発防止研修)をとることも当然のことである。
控訴人らが一連の措置として問題にする職務命令,懲戒処分,再発防止研修はいずれも当然の措置であって,控訴人ら教職員の教育の自由を侵害するものでは全くなく,本件各処分の本質的構造が執拗に控訴人らの教育の自由を侵害するものであるとする控訴人らの主張には理由がない。控訴人らが繰り返し懲戒処分,再発防止研修を受け,加重された懲戒処分を受けてきているのは,控訴人らがまさに執拗に校長の職務命令に違反した結果に他ならない。
控訴人らは,
控訴人らの不起立を,
職務命令を介在させて
非違行為
として顕在化させる必要があったため,都教委は,本件通達に基づき校長を通じて職務命令を発することで処分の対象を作出したなどとも主張するが,都教委は教育課程の適正な実施のために本件通達を発し,都立学校を指導したものであり,教職員を処分するために通達を発する等したものでないことはいうまでもない。
そして,本件職務命令は,いうまでもなく教職員に対して一定の外部的行為(国歌斉唱時の起立)を命ずるにとどまるものであり,命令を受けた教職員の思想及び良心の自由を一般的(客観的)不可避的に侵害するものではなく,当該外部的行為に消極的な考えを有する教職員にあっても,自己の考えを表に出すことなく,当該命令に従うことは不可能ではないのであって,控訴人ら教職員の思想及び良心の自由を侵害するものではない。また,懲戒処分は,加重処分も含めて,全て当該教職員が校長の職務命令に違反したという外部的,外形的行為を問題とし,これを理由に発せられているものであって,その思想及び良心の内容は全く問題になどしていないのであり,これも控訴人らの教職員の思想及び良心の自由を侵害するものではない。
控訴人らは,都教委の一連の措置は,自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教師にとっては,自らの思想や信条を捨てるか,それとも教師としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫られることになる旨主張するが,同主張には理由がなく,根拠もない。本件通達,本件職務命令及び本件各処分が憲法13条,23条,26条及び教育基本法16条1項に違反しているとの主張について
普通教育の場において,教師の教育の自由が一定の範囲で認められるとしても,その根拠が憲法13条,26条にあるとすれば,それは教師個人の人権としてではない。
普通教育の場における教育の自由は,その憲法上の根拠をいずれに求めるにせよ,教育を受ける子どもの利益のためのものであり,仮に教育の自由が侵害されても,その違憲を主張する適格を有するのは子どもであって,教師にはない。教師がその主張をすることは,行訴法10条1項所定の自己の法律上の利益に関係のない違法を主張するものとして許されない。
仮に,普通教育における教育の自由が教師個人の人権として保障されているとの立場に立つとしても,その自由は限られた一定の範囲に限定されるものであり,教育行政機関は,誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような教育を施すことを強制することはできないものの,許容された目的のために必要かつ合理的な介入をすることは許され,その範囲では教師の教育の自由は制約される。また,本件のような儀式的行事については,その教育活動は儀式にふさわしい内容及び方法でされるべきであって,裁量の範囲はもともと広いものではなく,学校単位で行われるものであり,個々の教師が決定できるものではない。
控訴人らが都教委の一連の指導等を教育基本法16条1項に違反すると主張する理由は,都教委がその一連の指導等によって各都立学校に対し,その所属教職員も含めて本件通達どおりに入学式,卒業式などを実施することを義務付け,これを強制したということにある。
しかし,都教委は学校管理機関としてその管理する学校に対し,必要な場合には,
普通教育の目的を達成するために必要かつ合理的な限度で,
教育の内容及び方法についても具体的な命令をすることができるのであり,学校が校長,教頭(副校長),一般教職員からなる組織体である以上,上記命令が校長の職務命令を通して学校の構成員たる一般教職員に特定の事項を命ずることになるものであって,そのことゆえに教育基本法に違反することになるものではない。
本件通達は普通教育の目的を達成するために必要かつ合理的なものであり,ことに本件で問題となる①国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が「国歌斉唱と発声し,起立を促す。」,②

式典会場においては,教職員は,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する。

との条項は学習指導要領の内容及び趣旨に沿うものであり,それは控訴人らの勤務する特別支援学校においても同様なのであって,これを都教委の一連の指導等によって校長の職務命令を通して一般教職員に義務付けることになっても,それによって都教委の一連の指導等が教育基本法に違反することになるものではない。
よって,控訴人らの都教委の一連の指導等を問題とする主張はそもそも理由がない。
本件A懲戒処分が裁量権の逸脱濫用に当たるとの主張について
a
控訴人Aは,平成19年10月3日,同月9日,同月11日,同月12日,同月15日から同月19日までの間,同月22日,同月26日,同月30日,同年11月1日,同月7日,同月12日から同月15日までの間,同月20日,同年12月5日及び同月6日の勤務時間中に,左胸及び背部に,強制反対ECTIONHINOMARU日の丸君が代又はOBJKIMIGAYOなどの語句が
印刷された服(本件トレーナー)を着用し,職務専念義務に違反する行為を続けるとともに,平成19年10月18日及び19日には,都立Z(以下Zという。)の校長から口頭で,上記の服を着用しな
いようにという職務命令を受けたにもかかわらず,その後も,上記のとおり勤務時間中に本件トレーナーの着用を続け,同校長の上記職務命令に違反する行為をした。控訴人Aの本件トレーナー着用行為は,地方公務員法32条,
33条,
35条に違反し,
同法29条1項1号,
2号,3号に該当する。
控訴人Aの本件トレーナー着用行為は,都教委が本件通達を発し,都立学校の入学式,卒業式等においては,国旗を掲揚し,国歌を斉唱することとし,Zの校長も従前から都教委の上記方針と同様,同校の入学式,卒業式においては,国旗を掲揚し,国歌を斉唱することとしてきており,今後も同様の方針であることに対し,これに反対する旨のスローガンを同校の校長,副校長,職場の同僚,生徒等に訴えかけるものである。
本件通達や校長の上記方針は,学習指導要領に沿った適法なものである。
控訴人Aは,
憲法及び地方公務員法により全体の奉仕者とされ,
地方公務員法により職務専念義務が課されている教育公務員であるが,かかる地位にある者が,職務に専念すべき勤務時間中に,本件トレーナーを着用することにより,都教委や校長の学習指導要領に沿った適法な方針に反対する旨のスローガンを訴えているのである。
b
公務員に対する懲戒処分は,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するために科される制裁であり,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の右行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができる(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1225頁)。
本件A不起立は,最高裁において裁量権の逸脱濫用がないとされた平成18年3月の停職3月の懲戒処分後,さらに平成18年度卒業式において校長の職務命令に違反して不起立を行い,その上また平成19年度卒業式において不起立を行ったのに加え,引き続き本件の平成20年度卒業式において確信的に不起立を行ったものであり,本件A不起立までの処分歴に係る非違行為がその内容,頻度において学校の規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであることは,上記最高裁判決自体から明らかであり,しかも,本件A懲戒処分の前年度においては,職務専念義務違反等である本件トレーナー着用行為を継続的に行っている。控訴人Aは,憲法及び地方公務員法により全体の奉仕者とされ,地方公務員法により職務専念義務が課せられている教育公務員であり,このような地位にある者が,職務に専念すべき勤務時間中に,都教委や校長の学習指導要領に沿った適法な方針に反対する旨のスローガンを訴える行為をしているのであるから,それが学校の規律と秩序を阻害するものであることは明らかであり,本件トレーナー着用行為は,
非違行為として重大である。
これらのことを考慮すれば,
本件A懲戒処分(停職6月)は上記最高裁判決の趣旨に合致し,裁量権の逸脱や濫用は存しないというべきである。
控訴人Aは,本件A懲戒処分の不利益性が重大であることを主張するが,本件A不起立の重大性とそれを是正防止すべき必要性が大きいことに加え,そのような非違行為を控訴人Aが確信的に繰り返してきたことを考慮すれば,不利益性の大きい懲戒処分を受けるのは当然のことである。
また,控訴人Aは,停職期間を6月とする本件A懲戒処分は最高裁平成24年1月判決によって適法と判断された停職期間を3月とする平成18年3月の懲戒処分に比して不利益の内容がより重大であるなどと主張するが,本件A懲戒処分の停職期間には約1か月半の夏期休業期間が含まれており,子どもとの学校における関わりという観点からすれば,それが不能となるのは約4か月半であり,最高裁平成24年1月判決が適法と判断した停職3月の懲戒処分に比べ約1か月半長くなるに過ぎない。控訴人Aは,最高裁によって適法と認められた停職3月の懲戒処分を受けながら,平成19年3月,平成20年3月,平成21年3月と引き続き校長の適法の起立斉唱命令に違反する行為を繰り返したのであり,しかも前回の平成20年3月の懲戒処分時には本件トレーナー着用行為という非違行為も行っていたのであるから,上記程度の不利益を受けるのは当然のことである。
さらに,控訴人Aは,被控訴人が,次は免職しかないという極めて重い処分として意図的に停職6月を利用している旨主張するが,
職員の懲戒に関する条例には,停職期間を6月とする懲戒処分がされた後は,同種行為については必ず1ランク上の免職処分を発令するとの規定はなく,また,都教委が不起立行為に対する懲戒処分として停職6月の発令をした後に,再度,同種の不起立行為をした場合には,繰り返し停職6月の懲戒処分をすることはせず,免職とする取扱いをしてきたということもない。現に,都教委は,控訴人Aの平成18年度卒業式における不起立行為後の平成19年度卒業式及び平成20年度卒業式における不起立行為についても処分を一貫して停職6月の懲戒処分にとどめている。

控訴人らによる国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の当否について
(控訴人らの主張)
本件各処分をしたことに過失があることについて
a
本件各処分の量定につき,都教委が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたか否かは,
当時の裁判状況ではなく,
国旗国歌法制定時
(平
成11年)における立法者の意思を踏まえて判断すべきである。
東京都教育庁指導部は,平成14年11月には,入学式や卒業式などにおける国旗掲揚及び国歌斉唱の指導に関する資料を作成し,その資料の一つとして国旗及び国歌に関する法律主要国会審議状
況を掲載し,処分量定においては国旗国歌法制定時における立法者意思を尊重すべきことを明確にしていた。そして,上記審議状況においては,学校における国旗及び国歌の指導と児童・生徒の内心の自由との関係につき,

学習指導要領に基づいて,校長,教員は,児童・生徒に対し国旗国歌の指導をするものであります。このことは,児童・生徒の内心にまで立ち至って強制しようとする趣旨のものでない

,単に従わなかった,あるいは単に起立しなかった,あるいは歌わなかったといったようなことのみをもって,何らかの不利益をこうむるようなことが学校内で行われたり,あるいは児童・生徒に心理的な強制力が働くような方法でその後の指導等が行われるということがあってはならない等の答弁がされたことが示されていた。都教委は,本件各不起立について処分量定をする際にも,本件職務命令の違憲性に関する最高裁平成23年5月判決や最高裁平成24年1月判決を待つまでもなく,国旗国歌法制定時における立法者意思を検討することによって,本件職務命令が憲法の保障する思想及び良心の自由との関係で微妙な問題を含むものであること,すなわち,思想及び良心の自由についての間接的制約となる面があること,したがって,処分量定を行うに当っては,不起立の理由(控訴人らは,本件職務命令は控訴人らの思想及び良心の自由を侵害するものと考えていた。)を考慮する必要があることを容易に認識することができたといえるが,
都教委は,
このことを一切考慮することなく,むしろ意図的に控訴人らの思想及び良心の自由を侵害することを目的として,機械的に累積加重処分をしたのであるから,都教委は本件各不起立に係る処分量定をするに当り職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず,したがって,本件各処分をしたことには過失があったということができる。
b
また,本件各処分に係る過失の有無については,控訴人らのような教育公務員に特別の身分保障が認められていること(教育基本法9条2項,教育公務員特例法1条,同21条1項参照)を踏まえるとともに,本件各処分が平等取扱原則(地方公務員法13条),公正原則(同法27条),比例原則及び二重処罰の禁止原則に適合するかどうかを検討することが必要である。
そうしたとき,本件各処分については,①都教委が自ら定めた標準的な処分量定を量的にも質的にも優に超えた停職6月の懲戒処分であること,②都教委がとった機械的な累積加重処分は不利益処分の内容との権衡が考慮されずに次々と処分が重くなっていくものであること,③都教委は控訴人らに対し意図的,目的的な累積加重処分を行っており,
不起立者がいなくなるまで行うというその政策目的は強固であり,不起立者を起立させるという目的からみると,本件通達,本件職務命令,懲戒処分及び研修は,その目的に向けた一連のものとして機能していること,④停職6月の懲戒処分は経済的に過酷な不利益処分であり,また,控訴人らと児童・生徒及び保護者との信頼関係を破壊し,控訴人らの名誉及び信用を最大限破壊するものであるが,都教委は,本件非違行為とそのような処分の具体的な内容及び性質との権衡や,処分の影響,効果を考慮せず,また,本件非違行為の原因や動機を斟酌せず,標準的な処分量定の考慮事項をも考慮せずに本件各処分をしていること,⑤本件各処分は,都教委による他の懲戒処分事例との均衡がとれておらず,他の都道府県の措置,処分内容との均衡も失していること,以上の事情がみられるのであり,本件各処分が平等取扱原則,公正原則,比例原則に違反するものであることは明らかである。そして,都教委が控訴人らの過去の処分事例を累積加重処分の基礎付け事情として考慮し,実質的に二重処分をして二重処罰の禁止原則に違反していることは前記のとおりであり,本件各処分をしたことには国賠法上の過失が認められる。
控訴人らの損害について
控訴人らは,本件各処分により,停職期間中教壇に立てないという不利益を被っているが,教育公務員の性質上,この不利益による精神的苦痛は,懲戒処分が取り消されたり,その結果,支払われなかった給与が支払われたりすることをもって回復するものとはいうことができない。特に,養護学校では,教諭と児童・生徒との人格的触れ合いが教育活動に欠かすことのできないものであるところ,控訴人らは,児童・生徒との触れ合いを特に重視していたことを考慮すると,財産的損害の回復のみによっては,控訴人らの精神的損害が慰謝されるものでないことは明らかである。
また,本件各処分の場合,控訴人らが職場に復帰するのは2学期の半ばである10月1日になるのであり,本件各処分が生徒との間で信頼関係を構築することに対し極めて大きな障害となったことは明らかである。(被控訴人の主張)
本件各処分をしたことに過失があるとの主張について
a
仮に,本件各処分が処分量定につき裁量権の逸脱濫用があるとして取り消されるべきものであったとしても,そのことから直ちに都教委に過失が認められ,損害賠償責任が肯定されるわけではない。
控訴人らの損害賠償請求は,国賠法1条1項によるものであり,控訴人らの損害賠償請求が認容されるには被控訴人の公務員の行為に国賠法上の違法性が認められなければならず,そのためには,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたことが必要であり
(最高裁昭和60年11月21日判決民集39巻7号1512頁)・

かつ,当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことをしなかったと認め得るような事情があることが必要である(最高裁昭和53年10月20日判決・民集32巻7号1367頁,最高裁昭和57年3月12日判決・民集36巻3号329頁,最高裁平成元年6月29日判決・民集43巻6号664頁,最高裁平成5年3月11日判決・民集47巻4号2863頁)。
また,国賠法1条1項による損害賠償責任の要件である公務員の故意過失については,法令の解釈につき異なる見解が対立して疑義が生じており,拠るべき明確な判例学説がなく,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても一応の論拠が認められる場合に,公務員がその一方の解釈に立脚して公務を執行したときは,後にその執行が違法と判断されたからといって,直ちに当該公務員に過失があったとすることはできない(最高裁昭和46年6月24日判決・民集25巻4号574頁,最高裁昭和49年12月12日判決・民集28巻10号2028頁)。
控訴人らの場合,控訴人らに職務命令違反があり,懲戒事由該当性が認められること自体は明らかであって,都教委が控訴人らを懲戒処分に付したこと自体には,
何ら職務上通常尽くすべき注意義務違反も,
過失もなかったことは明らかである。
b
処分量定について
公務員法上,公務員には職務命令遵守義務があり,公務員は上司から職務命令が発せられれば,重大かつ明白な瑕疵がない限り,例え違法な職務命令であってもこれに従わなければならないと解されているところ
(最高裁平成15年1月17日判決・民集57巻1号1頁等)

その根拠は公務員関係の秩序維持の見地に求められている(東京高裁昭和49年5月8日判決・行裁集25巻5号373頁)。すなわち,公務員の職務命令遵守義務違反はそれ自体,公務員関係の秩序維持の
見地からして重大な非違行為であり,
懲戒権者がこのことを考慮して,
処分の選択をすることは当然のことである。
控訴人らは,公務として学校教育を担う教育公務員であるところ,本件非違行為は学習指導要領に基づき教育課程を適正に実施するために校長から発せられた重要な職務命令に違反したものであり,しかもそれは,重要な学校行事である卒業式の場で,自らの考えに反する命令であるとの理由で,児童・生徒,保護者,来賓,その他学校関係者の面前で,公然とされたものであり,公務員関係の秩序維持のため本件各処分が必要であると懲戒権者が判断しても,それは当然のことであって,その判断が社会観念上著しく妥当を欠く等といえないことは明らかであり,都教委に職務上の注意義務違反などないことは極めて明らかである。
そして,過去に処分歴があれば,加重された処分となることは,公務員の懲戒処分の本質からしても当然のことである。
すなわち,公務員に対する懲戒処分は,当該公務員に職務上の義務違反,その他,単なる労使関係の見地においてではなく,国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において,公務員としてふさわしくない非違行為がある場合に,
その責任を確認し,
公務員関係の秩序を維持するため,
科される制裁である。当該公務員に過去に処分歴があれば,当該公務員についてはその責任を確認し,公務員関係の秩序を維持する必要が増大するのであり,これが繰り返されればその必要は量的にばかりではなく,質的にも増大していくのであって,当該公務員に対する懲戒処分の量定が加重されたものとなるのは当然のことである。
そして,控訴人らが卒業式等の国歌斉唱時に起立しないことを繰り返し,職務命令に違反していたことは前記前提事実のとおりである。もっとも,最高裁平成24年1月判決は,卒業式等の式典における不起立行為については,個人の歴史観ないし世界観等に起因するものであるとの特殊性があるとし,この点から不起立行為に対する懲戒において停職処分を選択するには,過去の1,2年度に数回の卒業式等における不起立行為による懲戒処分の処分歴があることのみをもってただちにその相当性を基礎付けるには足りず,上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど,過去の処分歴が停職処分の不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要すると判示しているが,上記は最高裁平成24年1月判決によってはじめて示された新判断であって,神戸税関事件最高裁判決(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁)では懲戒処分の処分量定において懲戒権者は過去の処分歴等を考慮することができ,また懲戒処分は社会観念上著しく不合理でない限り,裁量権の範囲内の措置として適法であるとされているのであり,現に,最高裁平成24年1月判決こそ,
控訴人Bに対する停職の懲戒処分
(1月)
については,
上記の理由で裁量権の逸脱濫用を認め取り消したが,差戻前一審東京地裁判決及び差戻前控訴審東京高裁判決は何れも裁量権の逸脱濫用がないとして適法と判断し,控訴人Aについては,3回前の平成17年度卒業式における不起立に係る平成18年3月の停職3月の懲戒処分は上記最高裁平成24年1月判決によって是認されているばかりか,前々回の平成19年3月の停職6月の懲戒処分も一審東京地裁判決では裁量権の逸脱濫用はないとして適法と判断されており,さらには,前回の平成20年3月の停職6月の懲戒処分も一審東京地裁判決で適法と判断されているのである。
以上のことからすれば,都教委が控訴人らの今回の非違行為(本件各不起立)に対し,本件各処分にすることを裁量権の範囲内の措置として適法と判断したことはやむを得ないことであって,職務上通常尽くすべき注意義務違反も,過失もない。
c
控訴人らは,本件各処分が標準量定を大幅に超えていると問題にする。
しかし,公務員に対する懲戒処分は,前記のとおり,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するために科せられる制裁であるが,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の右行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができるものである(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁。以下,併せて最高裁昭和52年12月等各判決と
いう。)。そして,最高裁昭和52年12月等各判決は,懲戒権者が裁量権を行使する場合の考慮要素を挙げているが,
同各最高裁判決は,
これら諸般の事情を考慮して処分を決定することができるとしているものであって,こられの事情を全て考慮しなければ裁量権の行使が違法になるとしているわけではない。これらの考慮要素のもつ意味は具体的事案において異なり得るのであって,いかなる要素をどの程度考慮するのかは具体的事案において懲戒権者の裁量に任されているものである。

また,控訴人らは,懲戒権者には,平等原則違反,公平原則違反について裁量の余地はないとの趣旨の主張をするが,最高裁昭和52年12月等各判決は,懲戒権者の裁量権の行使に基づいてされた懲戒処分は社会通念上著しく妥当を欠いていない限り,違法と判断すべきものではないとしているのであって,当該懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠くものでない限り,平等原則違反,公正原則違反も否定される。
公務員の懲戒処分にあっては,懲戒事由がある場合に,懲戒処分をするかどうか,
また,いかなる処分を選択するかを懲戒権者の裁量に任
せているのは,懲戒処分が広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上,平素から庁内の事情に通暁し,部下職員の指揮監督の衝に当たる者の裁量に任せるのでなければ,とうてい適切な結果を期待することができないからであり,また,裁量に任せている範囲には,いかなる要素を,どの程度考慮するかも含まれているのであって,裁量の範囲は極めて広範なものである。
したがって,公務員の懲戒処分が比例原則等に違反して,裁量権の逸脱濫用と評価されるのは,選択された処分がおよそ合理的な選択と評価される余地のない極端な場合に限られるものである。
控訴人らは,
国旗国歌法制定時の政府答弁についても言及するが,同
答弁は,公立学校の教職員が卒業式等において国歌斉唱時に国旗に向かって起立することを義務付けない趣旨を述べたものではない。
損害について
控訴人らに対する本件各処分が違法として取り消されれば,取消判決の効力によって控訴人らの経済的不利益は遡って回復される(具体的には,停職期間中に職員の懲戒に関する条例(昭和26年東京都条例第84号)4条3項に基づき支給されなかった給与(給料及び諸手当)については全て回復措置が図られるとともに,本件各処分によって昇給,退職手当や退職共済年金に影響がある場合にはそれらも是正される。。)
また,地方公務員たる教師教員が教育活動を行うのは職務上の義務であって,教員の個人的権利ではないし,また,その個人的利益のためではないのであって,当該活動が本件各処分によってできなくなったからといって,そのことによる損害の賠償を求めることはできない。
したがって,本件各処分が仮に違法であるとして取り消されれば,控訴人らについては慰謝すべき損害は存在しないことになるから,控訴人らの国賠法に基づく損害賠償請求はいずれも理由がない。
第3

当裁判所の判断

1
当裁判所は,本件A懲戒処分については,原審と異なり,取り消されるべきものと判断するが,控訴人らの国賠法1条1項に基づく各損害賠償請求については,原審と同様,いずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

2
本件通達,本件職務命令及び本件各処分の憲法19条違反の有無について⑴

本件通達,本件職務命令及び本件各処分の憲法19条違反の有無については,当裁判所も,同通達等は憲法19条に違反するとはいえないと解するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり改め,後記⑵において当審における控訴人らの主張について判断するほかは,
原判決
事実及び理由
欄の第4の1(原判決31頁2行目から36頁18行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決31頁5行目の本件通達は,の次に前記前提事実⑵の内容等から明かなとおり,を加え,21行目の原告らの有する歴史観から23行目の

ということはできない。

までをかつ,そのような所作として外部からも認識されるものというべきである。したがって,上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,その性質の点から見て,控訴人らの有する歴史観ないし世界観を否定することと不可分に結びつくものとはいえず,控訴人らに対して上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為を求めることを内容とする本件職務命令は,上記の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものということはできない。と改める。イ
同32頁12行目の

制約となる。

制約となる面があることは否定し難い。

と,13行目の世界観であっても,を世界観には多種多様なものがあり得るのであり,と,18行目の本件において,を職務命令においてある行為を求められることが,個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行動を求められることとなる限りにおいて,当該職務命令が個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があると判断される場合にも,職務命令の目的及び内容には種々のものが想定され,また,これによってもたらされる上記の制約の態様等も,職務命令の対象となる行為の内容及び性質並びにこれが個人の内心に及ぼす影響その他の諸事情に応じて様々であるといえる。したがって,と,23行目の本件職務命令は,から25行目のあるところ,までを本件職務命令に係る国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,前記のとおり,控訴人らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となるものに対する敬意の表明の要素を含むことから,そのような敬意の表明には応じ難いと考える控訴人らにとって,その歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行動となるものである。この点に照らすと,本件職務命令は,一般的,客観的な見地からは式典における慣例上の儀礼的な所作とされる行為を求めるものであり,それが結果として上記の要素との関係においてその歴史観ないし世界観に由来する行動との相違を生じさせることとなるという点で,その限りにおいて控訴人らの思想及び良心の自由について間接的な制約となる面があるということができる。他方,とそれぞれ改める。ウ
同33頁12行目の

立場にある。

を立場にあり,地方公務員法に基づき,学習指導要領に沿った式典の実施の指針を示した本件通達を踏まえて,その勤務する学校の各校長から学校行事である卒業式の式典に関して本件職務命令を受けたものである。これらの点に照らすと,公立学校の教職員である控訴人らに対して当該学校の卒業式という式典における慣例上の儀礼的な所作として国歌斉唱の際の起立斉唱行為を求めることを内容とする本件職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものであるということができる。と,13行目の以上の諸事情を踏まえ,を以上の諸事情を踏まえると,本件職務命令については,前記のように控訴人らの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの,と改め,15行目から16行目にかけての地方公務員から18行目のその範囲内にとどまるものである限り,を削り,19行目の違反するものではなくから20行目の認められるまでを違反するものではないと解するのが相当であると改める。

同34頁20行目から21行目の教育行政の一端を担う地方公務員としての地位を有するを教職員であって,法令やそれに基づく職務命令に従って学校行事を含む教育活動に従事する義務を負っていると改める。


同35頁22行目の
原告らは,から36頁15行目末尾までを次のと
おり改める。
控訴人らは,本件職務命令は,累積加重される重い懲戒処分を背後に備える形で発出され,再発防止研修等を通じて組織的に被処分教員の心の中身を入れ替えることを狙った意図的な思想弾圧を目的とした,本件通達,本件職務命令違反による機械的な累積加重処分,再発防止研修等の一連の行為の一環であるから,思想及び良心の自由に対する制約の程度は極めて強度であり,不起立を繰り返すと,より長期間の停職処分を受け,ついには免職処分を受けることにならざるを得ない事態に至って,自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教員にとっては,自らの思想や信条を捨てるか,それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一を迫るものとして,思想及び良心の自由に対する直接的な制約となる点を考慮すると,これが正当化される余地はないし,仮に,思想及び良心の自由に対する制約が間接的であったとしても,その制約の程度が極めて強度であることに照らせば,学校の卒業式や入学式等という教育上の特に重要な節目となる儀式的行事においては,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが必要か否かという判断要素を厳格に審査するべきであり,必要性及び合理性の有無という緩やかな基準によって制約を正当化することは不当である旨主張する。しかし,まず,本件通達は,前記前提事実⑵の内容等から明らかなとおり,旧地教行法23条5号所定の学校の教育課程,学習指導等に関する管理及び執行の権限に基づき,学習指導要領を踏まえ,上級行政機関である都教委が関係下級行政機関である都立学校の各校長を名宛人としてその職務権限の行使を指揮するために発出したものであって,個々の教職員を名宛人とするものではなく,本件職務命令の発出を待たずに当該通達自体によって個々の教職員に具体的な義務を課すものではないことは,前記⑴説示のとおりである。また,本件通達には,各校長に対し,本件職務命令の発出の必要性を基礎付ける事項を示すとともに,教職員がこれに従わない場合は服務上の責任を問われることの周知を命ずる旨の文言があり(前記前提事実⑶),これらは国歌斉唱の際の起立斉唱の実施が必要に応じて職務命令により確保されるべきことを前提とする趣旨と解されるものの,職務命令の発出を命ずる旨及びその範囲等を示す文言は含まれておらず,具体的にどの範囲の教職員に対し職務命令を発するか等については個々の式典及び教職員ごとの個別的な事情に応じて各校長の裁量に委ねられているものと解される。そして,本件通達では,職務命令の違反について教職員の責任を問う方法も,懲戒処分に限定されておらず,訓告や注意等も含み得る表現が採られており,具体的にどのような問責の方法を採るかは個々の教職員ごとの個別的な事情に応じて都教委の裁量によることが前提とされているものと解される。したがって,本件通達をもって,本件職務命令と不可分一体のものとみることはできない。そして,当該職務命令は,教科とともに教育課程を構成する特別活動である学校の儀式的行事における教育公務員としての職務の遂行の在り方に関する校長の上司としての職務上の指示を内容とするものであり,上記のとおり,具体的にどの範囲の教職員に対し職務命令を発するか等については個々の式典及び教職員ごとの個別的な事情に応じて各校長の裁量に委ねられているものと解され,職務命令違反に対し具体的にどのような問責の方法を採るかも都教委が個々の教職員ごとの個別的な事情に応じてその裁量によって定め,不起立行為が繰り返された場合に加重処分がされることがあっても,当然に機械的な加重処分がされるとまではいえないのであるから,本件職務命令をもって,控訴人らが主張するような意図的な思想弾圧を目的とした,本件通達,本件職務命令違反による機械的な累積加重処分,再発防止研修等の一連の行為の一環とみることはできないし,思想及び良心の自由に対する直接的な,あるいは間接的であってもその程度が極めて強度な制約とまでみることはできない。したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。カ
同36頁17行目の憲法19条等を憲法19条と改める。


当審における控訴人らの主張について
控訴人らは,当審においても,本件通達,職務命令,処分及び研修は,不起立者を皆無にするという目的の下,有機的に相互に関連した一連のものとして機能し,機械的な累積加重処分の論理的帰結として,不起立者は最終的に免職処分を受けることが想定され,自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教師にとっては,自らの思想や信条を捨てるか,それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一を迫られるのであり,その思想及び信条を制約し,侵害するものであって,思想及び良心の自由を直接的かつ実質的に侵害するものとして憲法19条に違反する旨主張する。しかし,本件通達,本件職務命令及びその違反による処分や再発防止研修を一連のものとみることはできないし,これらが思想及び良心の自由に対する直接的な,
あるいは間接的であってもその程度が極めて強度な制約であり,
憲法19条に違反するものとまで認めることができないことは前記⑴引用に係る原判決(ただし,補正後のもの)説示のとおりであり,控訴人らの上記主張は採用することができない。

3
本件通達,本件職務命令及び本件各処分の憲法13条,23条,26条及び教育基本法16条1項違反の有無について


本件通達,本件職務命令及び本件各処分の憲法13条,23条,26条及び教育基本法16条1項違反の有無については,当裁判所も,同通達等は憲法13条,23条,26条及び教育基本法16条1項に違反するとはいえないと解するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり改め,後記⑵において当審における控訴人らの主張について判断するほかは,原判決
事実及び理由欄の第4の2(原判決36頁19行目から41頁末行まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)
原判決39頁24行目の認められる(の次に前記前提事実⑶,を加える。


当審における控訴人らの主張について
控訴人らは,本件通達及び都教委の一連の指導並びにこれに基づいてされた本件職務命令及び本件各処分は,憲法13条,23条,26条に定める子どもを独立かつ自律的な人格とみてその成長を目指すという教育の目的を逸脱し,子どもに日の丸・君が代に対する起立を事実上強制して自律的な成長発達を阻害し,その学習権を侵害するものであり,必要性も合理性もなく,また,その内容は,過度に教師の裁量を制限し,教師に対し一方的な価値観や観念を生徒に教え込むことを強制するものであって,教師の教育の自由を侵害するものとして憲法13条,23条,26条に違反し,教育基本法16条1項が禁止する不当な支配に当たる違法なものであるとして,前記
主張する。
しかし,①本件通達は各学校の校長を名宛人とし,本件職務命令は控訴人
ら教職員を名宛人とするものであって,いずれも生徒を名宛人とするものではないから,本件通達や本件職務命令によって直接生徒が国歌斉唱時に起立を強制されるという関係に立つものではないこと,②自国及び他国の国旗及び国歌を尊重する態度を養うことが重要であるという学習指導要領の考え方は,国の教育行政機関が正当な理由に基づき合理的な決定権能を行使した結果として,憲法上許容される内容のものといえること,③教育活動は生徒の内心に対する働きかけを伴うものであり,本件通達及び本件職務命令を通じて学校における儀式的行事の場において教員らが国旗及び国歌として定められたものを尊重する態度を示すことにより,生徒らにも同様の態度が涵養され,学習指導要領の内容が実現されることを効果として期待することは,その目的及び態様に照らし,
教育活動として許容される範囲内のものであって,
これにより生徒が事実上起立を強制されたものと評価することはできないこと,④普通教育においては,憲法23条を根拠として完全な教授の自由を認めることはできず,憲法上,控訴人らが所属していた学校の児童・生徒の教育内容については,国の教育行政機関等には,正当な理由に基づく合理的な決定権能が認められていると解され,教育に対する行政権力の不当,不要の介入は排除されるべきであるとしても,許容される目的のために必要かつ合理的と認められる場合には,教育の内容及び方法に関し,教育行政機関が指示や命令を行うことは,教育基本法にいう不当な支配に該当するものではなく,憲法26条及び23条に違反すると解することもできないこと,そして,⑤日の丸及び君が代は,これを国旗及び国歌とすることについて反対する意見があることは事実であるが,いずれも全国民を代表する議員により構成される国権の最高機関である国会が制定した法律により国旗及び国歌として定められているものであり,入学式や卒業式という式典の場における国旗の掲揚や国歌の斉唱を通じて,これらを尊重する態度を育てるという学習指導要領の考え方が,誤った知識や一方的な観念を生徒に植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなものと評価することはできず,したがって,国旗及び国歌に関する学習指導の内容は,国の教育行政機関が正当な理由に基づき合理的な決定権能を行使した結果として,憲法上許容される内容のものということができること,⑥本件通達は外形的に秩序だって行われるべき学校の式典における儀式的行事の実施指針を定めるものであるところ,本件通達が学習指導要領の適正な実施のために発せられた公務員組織の内部の命令として,不当な支配に該当せず,憲法13条,23条及び26条に違反するとは認められないものであり,本件通達で定められた限度で控訴人ら現場の教員の式典の実施に関する裁量が認められないとしても,違法,不当ということができないこと,以上は前記引用に係る原判決説示のとおりであり,控訴人らの上記主張は採用することができない。4
本件各不起立の地公法32条及び33条該当性について
当裁判所も,
本件各不起立は地公法32条及び33条に該当すると判断する。
その理由は,原判決事実及び理由欄の第4の3(原判決42頁1行目から12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
5
本件A懲戒処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか否かについて


当裁判所は,本件A懲戒処分は懲戒権者としての都教委に与えられている裁量権の合理的範囲を逸脱してされたものといわざるを得ず,違法なものというべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。

総論
総論は,次のとおり補正するほかは,原判決事実及び理由欄の第4の4⑴(原判決42頁14行目から44頁7行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決42頁24行目の1号1頁の次に

。最高裁昭和52年12月等各判決

を加え,同行目の末尾に続けて,改行の上,本件において,上記諸事情についてみると,不起立行為の性質,態様は,全校の児童生徒等の出席する重要な学校行事である卒業式等の式典において行われた教員による職務命令違反であり,当該行為は,その結果,影響として,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものであって,それにより式典に参列する児童生徒への影響も伴うことは否定し難い。他方,不起立行為の動機,原因は,当該教員の歴史観ないし世界観等に由来する「君が代や日の丸に対する否定的評価等のゆえに,本件職務命令により求められる行為と自らの歴史観ないし世界観等に由来する外部的行為とが相違することであり,個人の歴史観ないし世界観等に起因するものである。また,不起立
ような性質,態様に鑑み,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかは客観的な評価の困難な事柄であるといえる。を加」
え,25行目の原告らは,から26行目の「ある。」までを削る。同43頁1行目の適法なものであるから,を学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮も含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであって(最高裁平成22年(オ)第951号同23年6月6日第一小法廷判決・民集65巻4号1855頁等参照)このような観点から,,その遵守を確保する必要があるものということができ,このことに加え,前記アにおいてみた事情によれば,と,
2行目の起立を規律と,12行目の原告らは,から13行目

不起立行為に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となるものといえる。そして,
」とそれぞれ改める。

本件A懲戒処分について
控訴人Aが本件A懲戒処分より前に不起立行為以外の非違行為による3回の懲戒処分及び不起立行為による5回の懲戒処分を受けていることは,前記引用に係る原判決の前提事実⑸ア摘示のとおりである。不起立行為以外の非違行為3回のうち2回は,卒業式における国旗の掲揚の妨害と引き降ろし及び服務事故再発防止研修におけるゼッケンの着用と研修の妨害等の実力行使を伴うなど,積極的に式典や研修の進行を妨害する行為によるものである。このほか,控訴人Aは,国旗や国歌に関する対応について校長を批判する内容の文書の生徒への配布等により2回の文書訓告を受けている。また,不起立行為により控訴人Aが受けた5回の懲戒処分のうち,4回は停職の処分であり,このうち平成19年3月30日付け停職6月の懲戒処分は確定判決により取り消されたが,平成18年3月31日付けの停職3月の懲戒処分及び平成20年3月31日付けの停職6月の懲戒処分(後記のとおり本件トレーナー着用行為も懲戒処分の対象として含む。は)
いずれも最高裁判決によって有効であることが確定している。
このように,控訴人Aの過去の処分歴に係る非違行為は,自己の思想及び良心と社会一般の規範等により求められる行為とが抵触する場面において積極的に式典や研修の進行を妨害する行為が含まれているほか,校長の職務命令に違反して,
勤務時間中に,
強制反対BJECTIONHINOMARU日の丸君が代O又はKIMIGAYOなどの語句が
印刷された服(本件トレーナー)を着用する(本件トレーナー着用行為)という職務専念義務違反行為に及ぶなど,あえて学校の規律や秩序を乱すような行為を選択して実行したものも含まれており,処分の頻度も懲戒処分8回,訓告2回という高いものであることからすれば,規律や秩序を害した程度は相応に大きいものであるということができる。これらを踏まえたとき,本件職務命令に違反した本件A不起立に対する懲戒処分につき,同処分の種類として停職処分を選択すること自体については,前記相当性を基礎付ける具体的な事情があるということができる。
そして,停職期間について検討すると,控訴人Aは,1回目の平成16年度卒業式における不起立行為につき平成17年3月31日給与6月の10分の1を減ずる懲戒処分を受け,2回目の平成17年度入学式における不起立行為につき同年5月27日停職1月の懲戒処分を受け,3回目の同年度卒業式における不起立行為につき平成18年3月31日停職3月の懲戒処分を受けているところ,2回目の不起立行為につき停職1月の懲戒処分を受けた後,再発防止研修でのゼッケン着用を巡る抗議等を行ったことによって給与1月の10分の1を減ずる懲戒処分を受けている。これらを考慮すると,3回目の不起立行為に対する処分の停職期間を2回目の不起立行為に対する停職処分の期間(1月)を加重した3月とすることは,その期間の選択が重すぎて相当ではないとはいえない。そして,4回目の平成18年度卒業式における不起立行為については,停職期間を6月とした平成19年3月の懲戒処分が取り消されているが,それまで不起立行為が繰り返されているほか,不起立行為に関連した非違行為が行われていること及びこれらに対する懲戒処分の内容を踏まえれば,少なくとも停職期間を3月とする限度で停職処分とすることはその期間の選択が重すぎて相当ではないとはいえず,また,5回目の平成19年度卒業式における不起立行為については,同非違行為のほかに,同年度の勤務時間中に上記語句が印刷された本件トレーナーを着用し,このことについて,再三にわたり,校長及び副校長から注意指導を受け,さらに本件トレーナー着用行為をしないようにとの職務命令を受けたにもかかわらず,その後も同行為を続けたことにより,これらが地公法32条,33条及び35条に違反するとして,これと併せて停職期間を6月とする懲戒処分がされたのであり(乙イ205~207)同処分についても,

その期間の選択が重すぎて相当では
ないとはいえない。そして,6回目の本件A不起立は,その翌年,再び不起立行為が繰り返されたものであり,これに対する懲戒処分を平成17年度卒業式及び平成18年度卒業式における各不起立行為に対するものとして重すぎて相当ではないとはいえない停職3月の懲戒処分よりさらに重くすることはやむを得ないものというべきである。
しかし,前記アの説示のとおり,停職処分は,それ自体によって被処分者に対して一定の期間,職務の停止及び給与の全額不支給という直接の職務上及び給与上の不利益が及ぶ処分であり,将来の昇給等にも相応の影響が及ぶほか,職員の懲戒に関する条例によれば,停職期間の上限は6月とされていて,停職期間を6月とする停職処分を科すことは,さらに同種の不起立行為を繰り返し,より重い処分が科されるときには,その処分は免職のみであり,これにより地方公務員である教師としての身分を失うことになるとの警告を与えることとなり,その影響は,単に期間が倍になるという量的な問題にとどまらず,身分喪失の可能性という著しい質的な違いを被処分者に意識させることになり,これによる被処分者への心理的圧迫の程度は強い。特に,控訴人Aの場合には,前記説示のとおり,その不起立行為の動機,原因は,控訴人Aの歴史観ないし世界観等に由来する君が代や日の丸に対する否定的評価等のゆえに,本件職務命令により求められる行為と自らの歴史観ないし世界観等に由来する外部的行為とが相違するというものであることに照らすと,その後も施行される入学式,卒業式では,少なくとも,控訴人Aは,その内心においては,上記歴史観,世界観等に反して本件職務命令に従うか,教師としての身分を失うことになるかの選択を迫られる状況に置かれることになる。
以上の事情を踏まえれば,本件A不起立について停職期間を6月とする停職処分を科すことは,十分な根拠をもって慎重に行わなければならないものというべきであるところ,控訴人Aについて過去に懲戒処分や文書訓告の対象となったいくつかの行為は,平成17年度卒業式における不起立行為についての平成18年3月の懲戒処分において考慮され,その後,同種の非違行為が繰り返されて懲戒処分を受けたという事実は認められない上,本件A不起立は,以前において行われた掲揚された国旗を引き降ろすなどの積極的な式典の妨害行為ではなく,控訴人Bと同様の国歌斉唱時に起立しなかったという消極的な行為であって,卒業式の会場において不快に感じた参列者がいたことは否定できないものの,その限度にとどまるものであり,また,停職6月の平成20年3月の懲戒処分がされた後は,本件A懲戒処分時まで,控訴人Aが,勤務時間中に,平成19年度の本件トレーナー着用行為のような行為をしたことはなく,また,その他の非違行為がされたことについては,これを認めるに足りる的確な証拠はない。これらのことを踏まえれば,本件A不起立については,職員の懲戒に関する条例により停職期間の上限とされている6月を停職期間とする停職処分を科すことは,控訴人Aの過去の処分歴や不起立行為が繰り返されてきたことを考慮しても,
なお正当なものとみることはできないというべきである。
以上によれば,本件A懲戒処分において停職期間を6月とした都教委の判断は,具体的に行われた非違行為の内容や影響の程度等に鑑み,社会通念上,行為と処分との均衡を著しく失していて妥当性を欠くものであり,懲戒権者としての都教委に与えられている裁量権の合理的範囲を逸脱してされたものといわざるを得ず,違法なものというべきである。


被控訴人は,控訴人Aが本件A懲戒処分により受ける不利益は,本件A不起立の重大性とそれを是正防止すべき必要性が大きいことに加え,そのような非違行為を控訴人Aが確信的に繰り返してきたことを考慮すれば,不利益性の大きい懲戒処分を受けるのは当然のことである,また,本件A懲戒処分の停職期間には約1か月半の夏期休業期間が含まれており,子どもとの学校における関わりという観点からすれば,それが不能となるのは約4か月半であり,最高裁平成24年1月判決が適法と判断した停職3月の懲戒処分に比べ約1月半長くなるに過ぎない,控訴人Aは,最高裁によって適法と認められた停職3月の懲戒処分を受けながら,平成19年3月,平成20年3月,平成21年3月と引き続き校長の適法な起立斉唱命令に違反する行為を繰り返したのであり,しかも前回の平成20年3月の処分時には本件トレーナー着用行為という非違行為も行っていたのであるから,停職6月による不利益を受けるのは当然のことである,職員の懲戒に関する条例には,停職6月より重い懲戒処分として免職が定められているが,同処分については,停職6月の懲戒処分がされた非違行為と同種行為が繰り返された場合に必ず科されなければならない旨の規定はなく,現に都教委は,控訴人Aについて,平成19年3月に停職6月の懲戒処分をした後,控訴人Aが不起立行為を繰り返しても,免職の処分はしていない旨主張する。
しかし,前記⑴の判断は被控訴人が主張する上記事情をも踏まえた上でのものであり,被控訴人の上記主張は同判断を左右するものとしては採用することができない。
6
控訴人らによる国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の当否について⑴

本件A懲戒処分が懲戒権者の裁量権の範囲を超えるものとして違法であ
り,取り消されるべきものであることは前記5に説示したとおりである。また,本件B懲戒処分が懲戒権者の裁量権の範囲を超えるものとして違法であり,取り消されるべきものであることは,次のとおり補正するほかは,原判決事実及び理由欄の第4の4⑶(原判決48頁2行目から49頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
原判決48頁4行目の前提事実2⑸ウを前記前提事実⑸ウと,18行目のあった認めるをあったと認めるとそれぞれ改める。


しかし,
控訴人らによる国賠法1条1項に基づく損害賠償請求については,当裁判所も,いずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記⑶において当審における控訴人らの主張について判断するほかは,原判決事実及び理由欄の第4の5⑵アからエまで(原判決49頁24行目から52頁25行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ア
原判決49頁24行目の本件B懲戒処分は,を本件各処分は,いずれもと改める。

同50頁13行目から14行目の本件B不起立を本件各不起立
と,同行目の原告Bを控訴人らと,15行目,17行目から18
行目の各本件B懲戒処分をいずれも本件各処分とそれぞれ改め,
20行目の
前判示のとおり,から22行目から23行目にかけての
推認されるところ,までを削る。


同51頁2行目及び19行目の各本件B懲戒処分をいずれも本件各処分と,11行目の前提事実1⑷アを前記前提事実⑷アと,23行目の原告Bを控訴人らとそれぞれ改める。

同頁25行目の以上に判示したとおり,から52頁6行目末尾までをそして,本件各処分の時点において,控訴人らには,前記前提事実⑸の非違行為と処分歴があり,控訴人Aにあっては,不起立行為をしたことにつき,平成17年3月に給与6月の10分の1を減ずる懲戒処分を,同年5月に停職1か月の懲戒処分を,平成18年3月に停職3月の懲戒処分を,平成19年3月に停職6月の懲戒処分を,平成20年3月に停職6月の懲戒処分をそれぞれ受け,平成17年5月の懲戒処分の後に実施された再発防止研修においては,被控訴人の日の丸,君が代強制反対と書かれたゼッケンの着用を巡る抗議等を行ったことにより給与1月の10分の1を減ずる懲戒処分を受け,平成19年3月の停職6月の懲戒処分を受けた後には,勤務時間中に平成20年3月の懲戒処分の対象ともなった本件トレーナー着用行為を行い,控訴人Bにあっても,不起立行為について,平成16年4月に戒告の懲戒処分を,同年5月に給与1月の10分の1を減ずる懲戒処分を,平成17年3月に給与6月の10分の1を減ずる懲戒処分を,平成18年3月に停職1月の懲戒処分を,平成19年3月に停職3月の懲戒処分を,平成20年3月に停職6月の懲戒処分をそれぞれ受け,これらを考慮して処分量定をすべき状況にあったものであり,前記のとおり,停職の懲戒処分については,単に過去の不起立の回数だけでは足りず,当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的事情が必要であることを判示した最高裁平成24年1月判決がまだ示されておらず,裁判例の考え方も分かれていた状況の下において,都教委が,本件各不起立について,本件処分量定の考え方に沿って控訴人らについて過去の処分が有効であることを前提として停職6月の懲戒処分を選択したことは,その処分の量定に際して職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず,本件各処分を行ったとまでは認めることはできない。と改める。オ
同52頁7行目,11行目,21行目及び24行目の各原告Bをいずれも控訴人らと,7行目の本件B不起立を本件各不起立と,
15行,19行目及び23行目の各本件B懲戒処分をいずれも本件各処分と,24行目の行為があるを行為であるとそれぞれ改める。



当審における控訴人らの主張について
控訴人らは,都教委が処分の量定に際して職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたか否かの判断においては,当時の裁判状況ではなく,国旗国歌法制定時の立法者の意思を重視すべきであり,東京都教育庁指導部が平成14年11月には入学式や卒業式などにおける国旗掲揚及び国歌斉唱の指導に関する資料を作成し,その資料の一つとして国旗及び国歌に関する法律主要国会審議状況を掲載し,処分量定においては国旗国歌法制定時における立法者意思を尊重すべきことを明確にしていたこと及び同国会審議状況を踏まえれば,都教委は,本件各不起立について処分量定をする際にも,本件職務命令の違憲性に関する最高裁平成23年5月判決や最高裁平成24年1月判決を待つまでもなく,国旗国歌法制定時における立法者意思を検討することによって,本件職務命令が憲法の保障する思想及び良心の自由との関係で微妙な問題を含むものであること,すなわち,思想及び良心の自由についての間接的制約となる面があること,
したがって,
処分量定を行うに当っては,
不起立の理由(控訴人らは,本件職務命令は控訴人らの思想及び良心の自由を侵害するものと考えていた。)を考慮する必要があることを容易に認識することができたといえるが,都教委は,このことを一切考慮することなく,むしろ意図的に控訴人らの思想及び良心の自由を侵害することを目的として,機械的に累積加重処分をしたのであるから,都教委は本件各不起立に係る処分量定をするに当り職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず,したがって,本件各処分をしたことには過失があったということができる旨主張する。
しかし,国旗国歌法制定時の国会審議において,政府から,処分についてはその裁量権が濫用されることがあってはならない等の説明がされていたとしても,懲戒権者の裁量権の行使や本件処分量定について上記のとおり説示したところに照らせば,そのことから直ちには,本件各不起立について,停職期間を6月とする停職処分をすることが違法となるとの判断は導くことができないというべきであり,本件各処分前にされた控訴人Bの不起立行為に対する停職処分が取り消される一方で,控訴人Aの不起立行為に対する平成17年5月の停職1月の懲戒処分,平成18年3月の停職3月の懲戒処分,平成20年3月の停職6月の懲戒処分はいずれも最高裁の判決等によりその有効性が確定し,取り消された控訴人Aの平成19年3月の懲戒処分(停職6月)も処分取消訴訟の第1審ではそれが適法であることが確認され,控訴人Bの平成18年3月の懲戒処分(停職1月)も取消訴訟の第1,2審においては処分の適法性が確認されている。
また,控訴人らは,国賠法上の注意義務違反の有無については,控訴人らのような教育公務員に特別の身分保障が認められていることを前提として,本件各処分が平等取扱原則,公正原則,比例原則に適合するかどうかとの観点から検討することが必要であるところ,これに照らせば,本件各処分は上記各原則に違反するものであり,これを選択することについては,都教委に職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかった過失がある旨主張する。しかし,この点についての認定判断は,前記引用に係る原判決説示のとおりであり,控訴人らの主張は採用することができない。
さらに,控訴人らは,都教委が過去の処分事例を考慮して後の非違行為についての処分量定をすることは過去の非違行為を重ねて評価し,処分するものであり,二重処罰の禁止原則に違反する旨主張するが,懲戒権者たる都教委が,その裁量権の行使に当たって,過去の非違行為及び処分歴を考慮すること自体は違法ではなく,式典における国歌斉唱時の不起立で戒告を受けた教員がさらに不起立を繰り返した場合において,戒告処分以上の減給,停職等の懲戒処分をすることが,どのような場合に,社会観念上,著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,
又はこれを濫用したことになるかについては,
下級審の裁判例も判断が分かれており,
実務上は,
本件処分量定においては,
過去に非違行為を行い懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合は,量定を加重すると定められており,非違行為を重ねた場合に懲戒処分を加重するという考え方は,非違行為の再発防止や公務員関係の秩序維持の必要性という観点から,一般的にみて合理性がないということはできないことは,前記引用に係る原判決説示のとおりであって,控訴人らの主張するところから直ちに被控訴人が本件各処分をするに当たって職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかったものと認めることはできず,上記主張は採用することができない。
7
以上によれば,控訴人Aの本件A懲戒処分の取消しを求める請求は理由があるからこれを認容すべきであり,控訴人らの国賠法1条1項による損害賠償請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれらを棄却すべきであるところ,控訴人Aの上記処分取消請求及び控訴人らの各損害賠償請求をいずれも棄却した原判決は,控訴人Aの取消請求を棄却した限度で不当であり,その余は相当であるから,同不当部分を上記判断に符合するように変更すべきである。

第4

結論
よって,控訴人Aの控訴に基づき,原判決主文第2項のうち,控訴人Aの請求に係る部分を主文第1項のとおり変更し,控訴人Bの控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第9民事部
裁判長裁判官

小川秀樹
裁判官

廣田泰士
裁判官

和波宏典
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