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遺族厚生年金不支給処分取消等請求事件
事件番号平成30(行ウ)135
事件名遺族厚生年金不支給処分取消等請求事件
裁判年月日令和2年1月16日
裁判所名大阪地方裁判所
分野行政
裁判日:西暦2020-01-16
情報公開日2020-07-02 16:00:22
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令和2年1月16日判決言渡
平成30年(行ウ)第135号

遺族厚生年金不支給処分取消等請求事件

主文12
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実

第1

及び理由1
請求
厚生労働大臣が平成28年9月30日付けで原告に対してした遺族厚生年金を支給しない旨の決定を取り消す。

2
厚生労働大臣が平成28年11月8日付けで原告に対してした未支給年金及び未支給保険給付を支給しない旨の決定を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給権者であったAが死亡したこと
から,その妻である原告が,厚生労働大臣に対し,Aに係る遺族厚生年金の裁定の請求をするとともに,Aの未支給の年金及び未支給の保険給付の支給を請求したところ,厚生労働大臣から,原告はAの死亡の当時,Aによって生計を維持されていたとは認められないなどとして,いずれも支給しない旨の決定(以下,併せて本件各不支給決定という。
)を受けたため,被告を相手に,本件各不支給
決定の取消しを求める事案である。

1
法令の定め等
(1)

未支給の年金及び未支給の保険給付の支給請求権者
国民年金法(以下国年法という。)19条1項及び厚生年金保険法(以
下厚年法という。)37条1項は,年金給付及び保険給付の受給権者が死亡した場合において,その死亡した者に支給すべき年金給付及び保険給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは,その者の配偶者であって,その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは,自己の名で,その未支給の年金及び未支給の保険給付(以下,併せて未支給年金等という。)の支給を請求することができる旨規定する。
(2)

遺族厚生年金の受給権者
厚年法59条1項本文は,遺族厚生年金を受けることができる遺族は,被
保険者又は被保険者であった者(以下被保険者等という。)の配偶者,子,父母,孫又は祖父母であって,被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持したものとする旨規定し,
同条4項は,
同条1項の規定の適用上,
被保険者等によって生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は,政令で定める旨規定する(上記遺族のうち妻以外の者については,同条1項た
だし書各号に掲げる要件に該当することも要することとされている。)。厚生年金保険法施行令(以下厚年令という。)3条の10は,厚年法59条1項に規定する被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していた配偶者,子,父母,孫又は祖父母は,当該被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生労働大臣の定める金額以
上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする旨規定する
(ただし,
これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者を定めたものは存在しない。)。
(3)

平成23年3月23日付け年発0323第1号日本年金機構理事長宛て
厚生労働省年金局長通知別添生計維持・生計同一関係等に係る認定基準及びその取扱いについて(以下本件認定基準という。)の定め(乙14)

本件認定基準1(1)本文は,
遺族厚生年金の受給権者等
(生計維持認定対
象者)に係る生計維持関係の認定については,同2の生計維持関係等の認定日において,同3の生計同一に関する認定要件(以下生計同一要件という。)及び同4の収入に関する認定要件を満たす場合に受給権者又は
死亡した被保険者等と生計維持関係があるものと認定するものとし,同1(1)ただし書は,これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には,この限りでない旨規定する。

本件認定基準1(2)本文は,
未支給年金等の支給対象者等
(生計同一認定
対象者)に係る生計同一関係の認定については,同2の生計維持関係等の認定日において,同3の生計同一要件を満たす場合に受給権者又は死亡し
た被保険者等と生計同一関係があるものと認定するものとし,同1(2)ただし書は,これにより生計同一関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には,この限りでない旨規定する(以下,本件認定基準1(1)ただし書と同(2)ただし書とを併せて例外条項という。)。


本件認定基準3(1)は,生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者に係る生計同一関係の認定に当たっては,次に該当する者は生計を同じくしていた者又は生計を同じくする者に該当するものとする旨規定し,①生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者が配偶者又は子である場合
として,次のとおり規定する(以下,項目ごとに生計同一要件アなどと記載する。)。
ア住民票上同一世帯に属しているときイウ住民票上世帯を異にしているが,住所が住民票上同一であるとき住所が住民票上異なっているが,次のいずれかに該当するとき(ア)現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき(イ)単身赴任,就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっているが,次のような事実が認められ,その事情が消滅したときは,起居を共にし,消費生活上の家計を一つにすると認められるとき(ア)生活費,療養費等の経済的な援助が行われていること(イ)定期的に音信,訪問が行われていること2
前提事実(当事者間に争いがないか,当裁判所に顕著な事実。関連する書証は各項に掲記する。

(1)

当事者等
原告(昭和26年▲月▲日生まれ)とA(昭和24年▲月▲日生まれ)と
は,昭和49年▲月▲日に婚姻した。
同人らの間には,B(昭和50年▲月▲日生まれ)
,C(昭和53年▲月▲
日生まれ)及びD(昭和55年▲月▲日生まれ)の3人の子がいる(乙1)。
(2)

原告とAとの別居
Aは,平成12年頃,原告や子らと生活を共にしていた大阪府α市内の住
宅(以下α市宅という。
)を出て,原告や子らと別居するに至った。
(3)

Aの住民票の異動
Aは,α市宅を出た後も住民票上の住所を変更せずにいたところ,平成2
4年1月24日,同人の住民票は,職権消除された(乙4)

その後,Aは,平成27年2月15日に大阪市β区内に住民票上の住所を
定め,さらに,同年8月3日に大阪市γ区内のアパートの一室(以下γのアパートという。)に住民票上の住所を変更した(乙4)

(4)

Aの死亡等
A(当時67歳)は,国年法による老齢基礎年金及び厚年法による老齢厚
生年金の受給権者であったが,平成28年4月25日に,γのアパートにおいて死亡した(乙8)

Aについては,同月分の未支給年金等があった。
(5)

原告の住所
原告は,平成26年12月13日,α市宅から兵庫県δ市内の現在の自宅
(以下δ市宅という。
)に転居したところ,Aが死亡した平成28年4月
25日当時もδ市宅に居住しており,同所に住民票上の住所があった。(6)

本件各不支給決定に至る経緯等
原告は,平成28年5月20日,厚生労働大臣に対し,Aの妻として,遺族厚生年金の裁定の請求をするとともに,Aの未支給年金等の支給を請求した(乙9,10)



厚生労働大臣は,平成28年9月30日付けで,原告に対し,原告はAの死亡の当時,Aによって生計を維持されていたとは認められないことを理由として,遺族厚生年金を支給しない旨の決定をした(甲1)



厚生労働大臣は,平成28年11月8日付けで,原告に対し,原告はAの死亡当時,Aと生計を同じくしていたとは認められないことを理由として,Aの未支給年金等を支給しない旨の決定をした(甲2)



原告は,
平成28年12月21日,
近畿厚生局社会保険審査官
(以下
審査官という。
)に対し,上記イの決定につき審査請求をした(乙11)



原告は,平成29年1月4日,審査官に対し,上記ウの決定につき審査請求をした(乙12)



審査官は,平成29年5月30日付けで,上記エ及びオの各審査請求をいずれも棄却する旨の決定をした(甲3の2)



原告は,平成29年7月27日,社会保険審査会に対し,本件各不支給決定につき再審査請求をした(乙13)



社会保険審査会は,平成30年2月28日付けで,上記キの再審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした(甲4の2)


(7)

本件訴えの提起
原告は,平成30年8月30日,本件訴えを提起した。

3
争点及び当事者の主張
遺族厚生年金を支給しない旨の決定の取消請求についての争点は,原告がA
の死亡の当時Aによって生計を維持していたか(厚年法59条1項)である。なお,上記法令の定め等のとおり,厚年令3条の10は,上記生計を維持していたことの認定に関し,当該被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする旨規定するところ,原告が,上記金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者に当たらないことは,当事者間に争いがない。また,未支給年金等を支給しない旨の決定の取消請求についての争点は,原告がAの死亡の当時Aと生計を同じくしていたか(国年法19条1項,厚年法37条1項)である。
これらの点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。

(原告の主張)
(1)

原告とAとの関係に関する事実関係
Aは,
平成12年頃にα市宅を出て原告と別居するに至ったが,
これは,
Aがリストラにより職を失ったため,母子世帯として府営住宅(α市宅)の家賃の減免を受けるために,形式上,別居することとしたにすぎない。Aは,α市宅を出た際,その住民票上の住所を変更しなかった。


原告とAとは別居した後も連絡を取り合い,α市宅や喫茶店などで会っていた。また,不定期かつ不定額ではあったが,原告がAから生活費を受け取ることもあった。もっとも,Aと子らとの関係が悪化していたため,子らは原告とAとが連絡を取り合っていること等を知らされておらず,Aの連絡先も知らなかった。


平成24年頃,原告は,見当識障害によると思われるトラブルを起こすようになった。また,原告が家賃を滞納したり約300万円もの借金を抱えたりしていることが発覚したため,原告はパート勤務を退職し,日中は自宅で過ごすようになった。そこで,子らは,交流のなくなっていたAと
連絡を取って,Aに原告を扶養するよう求めようと考え(原告は子らにAの連絡先を伝えなかった。,α市役所に相談に行き,Aがα市宅に居住し)
ていないことを申告したところ,同年1月24日,Aの住民票が職権消除された。
子らは,平成25年,平成26年にもAの所在を調査するため,α年金事務所に相談したが,Aの連絡先は分からなかった。
なお,原告とAとが平成24年頃から平成27年頃までの間に連絡を取
り合っていたかは不明である。

平成27年頃,Aから原告の携帯電話に電話があり,長女が電話に出たことから,Aと子らとの連絡・交流が再開した。子らは,Aに対し,原告の健康状態を説明するとともに,
原告を扶養するよう求めたところ,
Aは,
一,二か月に1回,月によっては数回,δ市宅を訪問し,原告やδ市宅で
原告と同居していた長女及び長男と寝食を共にするようになった。Aは,δ市宅を訪問した際に,1回当たり二,三万円の生活費を現金で原告や子らに手渡していた。

平成28年頃からは,原告が若年性認知症・アルツハイマーの症状を来すようになっていたため,原告や子らは,Aに対し,γのアパートを引き
払ってδ市宅で同居し,原告を日常的に見守ったり,介護・看護をしたりしてくれるよう働き掛けていた。Aとしても,原告や子らの求めに応じ,δ市宅で再び原告と同居する方向で検討していた。Aが死亡したのは,その矢先のことであった。
(2)

厚年法及び国年法の趣旨に照らし,原告はAの死亡の当時Aと生計を同
じくし,Aによって生計を維持していたと認められるべきこと
本件認定基準は,行政内部における解釈基準を示すものであって,裁判所を拘束しないところ,国年法及び厚年法の趣旨からすれば,以下のとおり,原告は,Aの死亡の当時,Aと生計を同じくし,Aによって生計を維持していたと認められるべきである。

原告はAによって生計を維持されるべき立場にあったこと
原告とAとは,別居後も,離婚することなく夫婦であり続けており,夫婦として相互に扶養義務を負っていたところ,原告は,Aによる介護・看護を要する状況にあり,経済的にも困窮していた(原告自身の老齢年金は2か月に7万数千円であった。。

現に,Aは,平成27年頃以降,定期的にδ市宅を訪問して原告や子ら
に生活費を渡し,δ市宅で原告と同居する方向で検討していたのであるから,
仮にAが存命していれば,
Aは原告と同居して,
Aの老齢厚生年金
(2
か月に19万4500円)によって原告の生活や介護等が賄われていたはずである。

原告以外にはAによって生計を維持されるべき者は存在しないことAは,原告と一時別居していたものの,他に事実婚関係にあった者がいたわけではない。したがって,Aと法律上の婚姻関係にあり,定期的に生活費を受ける関係にあった原告こそが,Aによって生計を維持されるべき唯一の者である。


離婚時年金分割との対比
仮に,原告とAとが離婚していれば,離婚時年金分割制度によって,原告自身がAの納付した厚生年金保険料に基づく老齢厚生年金を受け取ることができたはずである。
それにもかかわらず,
離婚しないでいたがために,
Aの納付した厚生年金保険料に基づく遺族厚生年金を原告が受け取ることができないというのは,あまりに不合理である。

(3)

本件認定基準によっても原告はAの死亡の当時Aと生計を同じくしてい
たと認められる(生計同一要件を満たす)こと

生計同一要件アを満たすこと
原告とAとが住民票上の世帯を異にしたのは,Aの住民票が職権消除さ
れたことが原因である。原告とAは,別居後も住民票上の世帯を同一にし続ける意思を有していたのであるから,本件認定基準の適用においては,原告とAとは住民票上同一世帯に属しているとみなすか,又は,これに準じて生計同一要件アを満たすというべきである。

生計同一要件ウ(ア)を満たすこと
Aは,平成27年頃以降,定期的にδ市宅を訪問し,原告や長女及び長男と寝食を共にしていた(現に,δ市宅にはAのための布団,茶わん,歯
ブラシ,くしが備え付けられていた。。また,Aは,δ市宅を訪問した際)
には,原告や子らに生活費を手渡していた。
Aが死亡した後は,その葬儀費用等を原告が支払った。
以上の事情によれば,原告とAとは,現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにしていると認められる。


生計同一要件ウ(イ)を満たすこと
Aは,リストラにより失職したことをきっかけに原告や子らと別居して生活するようになったが,
平成27年頃以降は,
定期的にδ市宅を訪問し,
生活費も手渡していたのである。したがって,生活費,療養費等の経済的な援助が行われていること,及び定期的に音信,訪問が行われていること
との要件を満たす。

例外条項に該当すること
仮に,形式的には上記各要件を満たさないと認定されるとしても,それは,原告とAとの生活実態と著しくかけ離れた結論であり,かつ,社会通念上妥当性を欠くことが明らかである。

(被告の主張)
(1)

生計同一要件ア,イ及びウ(ア)を満たさないこと
原告は,Aが死亡した平成28年4月25日当時,Aと住民票上同一世帯に属しておらず,住民票上の住所も同一でなく,現にAと別居していた
のであるから,生計同一要件ア,イ及びウ(ア)を満たさない。
イ(ア)原告は,原告とAとは別居後も住民票上の世帯を同一にし続ける意思を有していたとして生計同一要件アを満たすものとみなすべきであるなどと主張するが,原告とAとが約16年間にわたって住民票上の住所を異にしてきたことなどからすると,原告とAとが上記のような意思を有していたこと自体が疑わしく,また,上記のような客観的状況からしても原告とAとが実質的に住民票上同一の世帯に属しているものと評
価することはできない。
(イ)原告は,Aは,平成27年頃以降,定期的にδ市宅を訪問し,原告と寝食を共にしていたなどとして生計同一要件ウ(ア)を満たす旨主張する。しかしながら,平成27年頃以降,Aが月によっては1か月に数回程度の頻度で原告の自宅を訪問していたとする原告の主張は,原告自身が以
前に提出した
生計同一関係に関する申立書
(乙3。本件申立書
以下
という。
)の内容と整合せず,信用することができない。
原告とAとは,約14年間の長きにわたって起居及び消費生活上の家計を別にし,互いに独立して生活圏を確立してきたわけであるから,仮に,その後に,原告とAとの間で一時的に経済的なやり取りがあったと
しても,そのことから直ちに,Aの死亡時において,今後,互いの確立した生活圏が解消して
起居を共にし,消費生活上の家計を一つにする
と見込まれると評価することはできない。
(ウ)原告は,Aの葬儀費用等を原告が負担したことを理由として生計同一要件ウ(ア)を満たす旨主張するが,
そもそも,
上記費用を支払ったのは長

男であり(甲6)
,原告が負担したことを裏付ける証拠はない。この点を
措くとしても,Aの死亡後において原告が同人死亡に伴う費用を負担したとの事情を生前における生計同一要件を基礎付ける事情として評価する余地はない。このことは,Aの遺品整理の費用等についても,同様である。

(2)

生計同一要件ウ(イ)を満たさないこと

仮に,原告の主張するとおり,当初はα市宅の家賃の負担の軽減のために別居を開始したとしても,原告は,平成26年12月13日にδ市宅に転居しているのであるから,別居すべき状況は解消しているといえる。そして,原告の主張によれば,同月以降,原告はAと連絡を取ることができたというのである。そうすると,Aが死亡した平成28年4月25日当時
において原告とAの住民票上の住所が同一でなかったことが,
単身赴任,就学又は病気療養等のやむを得ない事情によるものであったということはできない。
なお,Aの住民票が職権消除された平成24年当時,Aに原告との間で引き続き夫婦関係を維持する意思があったと認めることはできず,現にα
市宅に居住していた実態もなかったのであるから,Aの住民票が職権消除されたのは当然のことであって,このことをもって,
やむを得ない事情
により住所が住民票上異なったなどと評価することはできない。

Aが定期的に原告に生活費を手渡していたことを裏付ける客観的な証拠は何ら提出されていないし,そのほかに上記事実を裏付けるような事情
もない。むしろ,本件申立書の内容とも整合しないから,Aが定期的に原告に生活費を渡していた旨の原告の主張は,信用することができない。ウ
上記のとおり,Aが月によっては1か月に数回程度の頻度で原告の自宅を訪問していたとする原告の主張は,信用することができない。むしろ,Aが死亡したことは近隣住民によって発見されており,このことに照らす
と,Aの死亡時においても,原告とAとの間に定期的な音信や訪問はなかったものといわざるを得ない。

(3)

以上のとおり,生計同一要件ウ(イ)を満たさない。


例外条項に該当しないこと
以上に述べたところによれば,本件認定基準に従って原告につき生計同一要件を満たさないと判断することは,何ら実態とかけ離れたものとはならないというべきであり,例外条項には該当しない。

原告は,離婚時年金分割制度を利用した場合と対比して,上記判断が不合理である旨主張するが,離婚時年金分割制度と遺族厚生年金とでは,その趣旨・目的を全く異にするから,
原告の上記主張は失当というほかない。

第3
1
当裁判所の判断
判断枠組み
(1)

前記法令の定め等記載のとおり,
厚年法59条1項本文は,
遺族厚生年金

を受けることができる遺族としての配偶者等について,被保険者等の死亡の当時,その者によって生計を維持していたことを要する旨規定し,同条4項の委任を受けた厚年令3条の10は,上記の生計維持要件を満たす配偶者等とは,当該被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって,厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のもののほか,これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする旨を規定する。

ところで,厚年法は,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを保険給付の目的としており
(同法1条)同法に基づく遺族厚生

年金は,被保険者等が死亡した場合における遺族の生活の安定と福祉の向上を図る社会保障的性格を有する公的給付である。このような厚年法の目的や遺族厚生年金の性格に照らすと,厚年法59条1項の定める生計維持要件に
ついては,被保険者等の実態に即し,現実的な観点から理解するのが相当である。そうすると,厚年令3条の10が,被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていた配偶者等については,例外的に高額な収入を得て収入要件を欠く場合でない限り,厚年法59条1項本文の定める生計維持要件を満たすものとしているのも,上記のような厚年法の目的や遺族厚生年金の性
格に鑑み,社会通念上親族としての共同生活を現実に営んでいることに着目して,上記の生計維持要件を具体化したものと解される。
以上のような厚年令3条の10の趣旨に加え,多数の遺族厚生年金の裁定請求を適正かつ迅速に処理するためには,上記生計維持要件の認定について統一的な基準を定め,裁定の客観性及び給付の公平性を確保する要請があること等に照らすと,本件認定基準が,厚年令10条の3の定める被保険者等と配偶者等とが生計を同じくしていたとの要件については,原則として,被保険者等と配偶者等が住民票上同一世帯に属していることや,住民票上の住所が同一であることなど,当該遺族と被保険者等が生計を同じくしていたであろうと推認させる一定の事実関係(同基準3の定める生計同一要件)をもってこれを認定すべきこととしていることには合理性があるということが
できる。
もっとも,以上のとおり,本件認定基準が事務処理の適正・迅速化等を図るために定められたものであることのほか,本件認定基準3に定める生計同一要件の具体的内容からしても,同要件は,社会通念上一般的ないし典型的に想定される夫婦関係等を前提として定められたものということができる。
したがって,形式的に上記生計同一要件を満たさない場合であっても,個別の事情によっては,社会通念に照らし,厚年令10条の3の定める生計を同じくしていたとの要件を満たし,ひいては厚年法59条1項本文の定める生計維持要件を満たすものとして遺族厚生年金を支給することが,上記厚年法の目的に合致し,遺族厚生年金の性格にも沿うものというべき場合があ
り得る。そこで,本件認定基準は,例外条項を設け,上記生計同一要件により生計維持関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には,上記生計維持要件に該当するものと認定すべきことを明らかにしたものと解される。そして,上記厚年法の目的や遺族厚生年金の性格等に照らせば,例外条項該当性については,
個別の具体的事情に基づき,当該配偶者等の消費生活上の家計と被保険者等の消費生活上の家計とが経済的な一体性を有していた程度という観点から,社会通念に照らして判断すべきである。
(2)

未支給年金等について定める国年法19条1項及び厚年法37条1項の
生計を同じくしていたとの要件についても,基本的に,上記(1)で述べたところが同様に当てはまるということができる。
(3)

本件認定基準は,
以上のように,
厚年法等の趣旨に沿う合理的な基準とい

うことができるから,本件の争点(原告がAの死亡の当時Aによって生計を維持していたか,及び原告がAの死亡の当時Aと生計を同じくしていたか)についても,上記のような解釈に基づき,本件認定基準の定める生計同一要件の有無及び例外条項該当性について判断するのが相当である。
2
認定事実
前記前提事実に加え,証拠(甲3,5,8~10,乙1~7,13,17,19,20,22~24,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)

原告とAとの婚姻等
原告とAとは,昭和49年▲月▲日に婚姻した後,子らと共にα市宅で生
活していた。
(2)

原告とAとの別居等
A(当時51歳)は,平成12年頃,リストラにより職を失ったため,母
子世帯として府営住宅(α市宅)の家賃の減免を受けるため,α市宅を出て原告(当時49歳)や子らと別居するに至った。なお,原告とAとが別居した当時,原告とAとが不仲になっていたとか,婚姻関係が破綻していたといった事情は見当たらない。
原告は,Aと別居した後も,α市宅において,子らと同居して生活していた(その後,二女は,平成23年に大阪市内に転居した。。


原告とAとは別居した後も電話で連絡を取り合うなどしていたが,両人の交流の具体的状況は本件全証拠によっても明らかでない。子らは,上記別居当時,Aとの関係が悪化していたことなどから,原告とAとが別居後も連絡を取り合っていること等を知らされておらず,Aの連絡先も知らなかった。(3)

平成22年頃以降の原告の生活状況等
原告(当時59歳ないし60歳)は,平成二十二,三年頃から,物忘れが
ひどくなるなどして,パートの勤務先で注文を受けていないのに調理をするなどのトラブルを起こすようになった。また,原告が数か月分の家賃を滞納したり約300万円もの借金を抱えたりしていることが発覚したことなどから,原告はパート勤務を退職し,日中は自宅(α市宅)で過ごすようになり,家計は長女が管理するようになった。もっとも,原告が,その頃に受診
したメンタルクリニックでは,認知症や見当識障害との診断はされず,その後,平成28年10月まで認知症等について医療機関を受診すること自体がなかった。
長女らは,原告に介助等が必要であることから,交流のなくなっていたAと連絡を取って,Aに原告の面倒を見てもらいたいと考え,α市役所に相談
に行ったが,Aの所在を知ることはできなかった。その際,Aがα市宅に居住していないことを申告したため,平成24年1月24日,Aの住民票が職権消除された。また,長女は,平成25年6月13日及び平成26年3月31日に,Aの所在を調査するため,原告と共にα年金事務所を訪れて相談をしたが,Aの連絡先を知ることはできなかった。

(4)

δ市宅への転居等
平成25年に原告の妹が死亡し,原告は,その遺産から約5000万円の
現金を得たため,これを資金として約1900万円でδ市宅(戸建住宅)を購入し,平成26年12月,α市宅からδ市宅に転居して長女及び長男と生活をするようになった。
長女は,δ市宅に転居する直前頃に体調を崩すなどしたことからアルバイトを辞めており,δ市宅に転居した後は主に原告の世話をするなどしていた。また,長男は,会社員として稼働し,月額20万円程度の給料を得ていた。原告自身は,1か月当たり4万円余りの年金を受給していた。
原告が妹の遺産から得た現金の残りも原告一家の生活費に充てられてきており,平成27年ないし28年頃には500万円程度が残っていたが,現在は,ほとんど残額がない。
(5)

Aと長女らとの交流の再開等
平成27年春頃,長女が,原告(当時64歳)とA(当時66歳)とが携
帯電話で話をしていることに気付いたことから,長女らはAと連絡が取れるようになったため,Aに対し,原告の健康状態を説明するとともに,原告に生活費の援助等を求めた。その後,Aがδ市宅を訪れ,原告や長女らとの間でその後の生活についての話合いが行われ,長女らは,Aに対し,改めて生活費の援助等を求めた。
そうしたところ,Aは,長女らから頼まれた日や,自ら申し出た日に,原告の身の回りの世話等をするためにδ市宅を訪問するようになった(ただし,
自ら申し出ることは少なかった。。その頻度は,一,二か月に1回程度であ)
り,訪問した際には,日帰りをするときもあれば,宿泊するときもあった。また,Aから長女に対し二,三万円の現金が交付され,原告の生活費等に充てられたことがあった(ただし,その頻度や回数,金額は証拠上明らかでない。。

他方,原告や長女らがAの居宅を訪れることはなかった。

(6)

Aの生活状況等
Aは,原告と別居した後,郵便局で稼働していたこともあったが,平成2
7年春頃に長女らとの交流が再開した時点では稼働しておらず,年金で生活していた。
Aは,上記のとおり,平成24年1月24日にα市宅の住民票が職権消除された後,平成27年2月15日に大阪市β区内の知人宅に住民票上の住所を定めた。
Aは,平成27年6月に,γのアパートの賃貸借契約を締結し,同年8月に同所に転居した。なお,γのアパートの間取りは1Kであり,家賃等(水道代2200円を含む。
)の合計は1か月3万5200円であった。
(7)

長女らからAに対する同居の働き掛け等
平成27年8月15日にδ市宅で先祖の供養のための法要が行われたと
ころ,Aもこれに参加し,供養料として3万円を僧侶に納めた。
長女らは,
この頃までには,
Aに対し,
γのアパートからδ市宅に転居し,
原告や長女らと同居するよう提案し,
その旨働き掛けていたが,
これに対し,
Aは,遠慮ないし躊躇するような態度を示しており,その後,同居に向けた
具体的な予定が立てられることはなかった。
(8)

Aの死亡
A(当時67歳)は,平成28年▲月▲日,近隣住民によりγのアパート
で死亡しているのを発見され,その死因はガス壊疽,死亡日は同月▲日と推定された。

なお,Aに,原告以外に,内縁の妻等の扶養すべき者がいたことをうかがわせる事情は見当たらない。
(9)

原告の病状等
原告は,平成28年10月18日,Eを受診し,重度の認知機能障害を疑
われ,その後,平成29年3月,頭部MRIで側頭葉内側強度萎縮を指摘さ
れた。
原告は,現在,アルツハイマー型認知症と診断されており,一人で,排せつ,食事といった日常生活上の活動をすることができない状態(要介護3)にあり,長女が自宅で介護を行っている。
3
事実認定の補足説明
原告は,上記認定事実(5)に関し,Aは一,二か月に1回,月によっては数回δ市宅を訪問していたと主張し,長女(証人B)はAがδ市宅を訪れていた頻度は1か月に1回ないし3回であった旨証言する。しかしながら,上記のとおり,原告の主張と長女の証言とが必ずしも整合しない上,本件申立書には,原告がAの居宅を1週間に1回程度訪れていたといった記載があり,長女が平成29年3月7日付けで作成し審査官に提出した陳述書(甲3・23~24頁)には,Aがδ市宅を訪れていたのは一,二か月に1回程度と記載されているなど,長女の供述内容も変遷している。また,長女は,証人尋問において,Aが死亡する直前にδ市宅に来たのは平成28年3月後半だと思う旨証言しており,このことからしても,Aが1か月に1回ないし3回もの頻度でδ市宅を訪問し
ていたとする長女の証言をそのまま採用することはできない。
また,原告は,Aはδ市宅を訪問した際に1回当たり二,三万円の生活費を現金で原告や子らに渡していた旨主張し,長女は,2か月に1回Aに年金が支給された際にAから長女に対し二,
三万円の現金が交付されていた旨証言する。
しかしながら,上記のとおり,原告の主張と長女の証言とが必ずしも整合しな
い上,本件記録からうかがわれる当時のAの経済状況(原告の主張によればAが受給していた年金額は2か月に19万4500円であったというのであり,その他にAに一定の預貯金があったなどの様子もうかがわれない一方で,家賃等に1か月3万5200円の支出を要していたことが認められる。)からして
も,Aが2か月に1回,定期的に二,三万円の現金を長女に交付していたとは
にわかに考え難く,その旨をいう長女の証言をそのまま採用することはできない。
もっとも,平成27年8月15日に法要が行われた際にAから供養料を受け取った旨の僧侶作成の文書(乙13・末葉)やAがδ市宅に宿泊した際に使っていた寝具の写真があるなど,長女の証言には一定の裏付けがあることなどに
照らすと,Aがδ市宅を訪問していた事実や,長女に現金を交付したことがあった事実の限度では原告の主張ないし長女の証言を採用することができる。以上により,上記認定事実(5)の範囲で事実を認定した。
4
本件についての判断
(1)

生計同一要件ア及びイについて
上記認定事実によれば,
原告は,
Aが死亡した平成28年4月25日当時,

Aと住民票上同一世帯に属しておらず,住民票上の住所も同一でない。したがって,
原告につき,
生計同一要件ア又はイを満たすということはできない。
これに対し,原告は,原告とAとは別居後も住民票上の世帯を同一にし続ける意思を有していたにもかかわらず,職権消除がされたにすぎないとして生計同一要件アを満たすものとみなすべきであるなどと主張するが,生計同
一要件ア及びイについては,その文言や,これらの要件と別に生計同一要件ウが設けられていることからして,住民票の記載を形式的に見て判断すべきものと解され,住民票上世帯ないし住所を異にする理由のいかんや当事者の意思によって上記判断が左右されることはないというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。

(2)

生計同一要件ウ(ア)について
上記認定事実によれは,Aは,定期的にδ市宅を訪問していたとはいえ,
その頻度は一,二か月に1回程度であり,日帰りをすることもあったというのであるから,平成27年8月以降,Aの生活の本拠はγのアパートにあったというほかなく,平成28年4月25日当時,δ市宅を生活の本拠とする原告とAとが現に起居を共にしていたということはできない。したがって,原告につき,生計同一要件ウ(ア)を満たすということはできない。(3)

生計同一要件ウ(イ)について
上記認定事実によれば,原告とAとが別居するに至ったのは,母子世帯と
して自宅の家賃の減免を受けるためであったというのであるが,原告とAとは,その後,Aが郵便局で稼働するようになり,また,子らが自ら収入を得られるようになった後も,十数年にわたり別居を継続し,それぞれ独立して生活してきたものである。また,Aは,長女と連絡を取るようになった後,平成27年8月頃以降は長女らからδ市宅で原告や長女らと同居するよう提案されており,そのことに特段の支障があったとも考え難いにもかかわらず,同居することに遠慮ないし躊躇するような態度であり,結局,平成28年4月25日に死亡するまで同居するには至らず,その具体的な予定も立っていなかったというのである。このように,原告とAとは,別居の直接の原因となった事情が解消していたにもかかわらず,その後も別居を継続していたのであって,しかも,同居に向けた具体的な予定も立っていなかったのであるから,平成28年4月25日当時に原告とAとが別居していたことにつ
いて,やむを得ない事情によるものであったとか,その事情が消滅したときは,起居を共にし,消費生活上の家計を一つにすることが予定されていたなどと評価することはできない。したがって,原告につき,生計同一要件ウ(イ)を満たすということはできない。
(4)


例外条項について
上記認定事実によれば,原告とAとは,平成12年以降,十数年にわたり別居を継続し,それぞれ独立して生活してきていたものである(長女が原告とAとが携帯電話で話をしていることに気付いてAと連絡を取ることができるようになったことなどからすると,原告とAとの間では一定の音信が保たれていたことが推認されるが,その頻度等の具体的状況は証拠
上明らかでない。。そのような中で,Aは,平成27年春頃以降,Aと連)
絡が取れるようになった長女から,生活費の援助や原告の身の回りの世話を強く求められて,一応はこれに応じていたものの,δ市宅を訪問する頻度は一,二か月に1回程度であり,それも,自ら申し出ることは少なかったというのである。また,上記認定・説示のとおり,Aが二,三万円の現
金を長女に交付したことがあったこと自体は否定し難いものの,その頻度,回数ないし金額は証拠上明らかでなく,むしろ,2か月に1回支給される19万円余りの年金から毎月3万5200円の家賃等のほか,その他の生活費を支出する必要があったというAの当時の経済状況からすれば,定期的に長女に現金を交付していたとは考え難いものといわざるを得ない。他方で,当時,原告には妹から相続した現金が500万円程度は残っていたほか,同居する長男にも一定の収入があったというのであり,前者につい
ては,将来的に枯渇していくおそれがあったとしても,Aが死亡した当時の原告の生計において,Aから交付される現金の意味合いは相当に限られたものであったと考えざるを得ない。
以上のような事情を総合すると,Aが,δ市宅を訪問して原告の世話をしたり,現金を交付したりすることによって,一定程度,原告の生活を支
えていた側面があるとしても,社会通念上生計を同じくしていたと認めるべきほどに原告の消費生活上の家計とAの消費生活上の家計とが経済的な一体性を有していたと評価するには足りないというべきである。したがって,本件認定基準3の定める生計同一要件を満たさないとして,厚年令10条の3並びに国年法19条1項及び厚年法37条1項の生計を同じくしていたとの要件を満たさないとすることが,本件における実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなるということはできず,例外条項に該当するものと認めることはできない。イ
原告は,仮に原告がAと離婚していれば離婚時年金分割制度が利用できたにもかかわらず,離婚しないでいたがために遺族厚生年金を受給することができないというのは不合理である旨主張する。しかしながら,離婚時年金分割制度は,中高齢者の比較的婚姻期間の長い夫婦の離婚において,夫婦双方の年金受給額に大きな格差が生じる場合があることから,その解消を目的として設けられた制度である(乙21)
。これに対し,遺族厚生年

金及び未支給年金等の支給は,上記のとおり,遺族の生活保障の見地から認められたものであって,両制度はその趣旨目的を異にするものというべきであるから,その適用される配偶者の範囲が異なり得ることは,制度上やむを得ないものというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。
5
結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

松永
裁判官

森田
裁判官

渡邊栄治亮直樹
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