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公害防止事業費負担決定取消請求事件(第1事件、第2事件)
事件番号平成26(行ウ)645
事件名公害防止事業費負担決定取消請求事件(第1事件,第2事件)
裁判年月日令和元年12月26日
裁判所名東京地方裁判所
分野行政
裁判日:西暦2019-12-26
情報公開日2020-07-02 16:00:25
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令和元年12月26日判決言渡
平成26年
(行ウ)
第645号

公害防止事業費負担決定取消請求事件
(第1事件)

平成27年(行ウ)第47号

公害防止事業費負担決定取消請求事件(第2事件)
主1文
処分行政庁が第1事件原告日産化学株式会社に対してした別紙2通知目録記載の通知に係る公害防止事業について第1事件原告日産化学株式会社を費用を負担させる事業者として定め,事業者負担金の額を7076万1629円と定める旨の決定のうち,事業者負担金の額が2280万0967円を超える部分を取り消す。

2
処分行政庁が第2事件原告JX金属株式会社に対してした別紙2通知目録記載の通知に係る公害防止事業について第2事件原告JX金属株式会社を費用を負担させる事業者として定め,事業者負担金の額を1785万1351円と定める旨の決定のうち,事業者負担金の額が1781万9896円を超える部分を取り消す。

3
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,第1事件原告日産化学株式会社に生じた費用と被告に生じた費用の2分の1を10分し,その3を第1事件原告日産化学株式会社の,その余を被告の負担とし,第2事件原告JX金属株式会社に生じた費用と被告に生じたその余の費用を100分し,その99を第2事件原告JX金属株式会社の,その余を被告の負担とする。


第1
1実及び理由
請求
原告日産化学株式会社の請求(第1事件)
処分行政庁が原告日産化学株式会社に対してした別紙2通知目録記載の通知
に係る公害防止事業について原告日産化学株式会社を費用を負担させる事業者として定め,事業者負担金の額を7076万1629円と定める旨の決定を取
り消す。
2
原告JX金属株式会社の請求(第2事件)
処分行政庁が原告JX金属株式会社に対してした別紙2通知目録記載の通知に係る公害防止事業について原告JX金属株式会社を費用を負担させる事業者として定め,事業者負担金の額を1785万1351円と定める旨の決定を取
り消す。
第2

事案の概要
ダイオキシン類対策特別措置法(以下ダイオキシン法という。
)29条1
項に基づくダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定された東京都北区内の地域に係る公害防止事業(以下本件公害防止事業という。
)の施行者である処分

行政庁は,上記地域において食塩電解工場を順次操業していた大日本人造肥料株式会社(以下大日本人造肥料という。,現在の原告JX金属株式会社(平)
成28年1月1日にJX日鉱日石金属株式会社から商号変更。以下原告JX金属という。)及び現在の原告日産化学株式会社(平成30年7月1日に日産
化学工業株式会社から商号変更。以下原告日産化学という。
)がそれぞれ上

記工場から発生するダイオキシン類を排出して土壌の汚染を引き起こしたとして,
公害防止事業費事業者負担法
(以下
負担法
という。9条1項に基づき,

原告らに対し,それぞれ,本件公害防止事業について費用を負担させる事業者として定めた上,事業者に負担させる負担金(以下事業者負担金という。)
の額を,原告日産化学につき7076万1629円,原告JX金属につき17
85万1351円と定める旨の各決定(以下,併せて本件各決定という。)
を行った。
本件は,原告日産化学が同原告に対する上記決定の取消しを(第1事件),原
告JX金属が同原告に対する上記決定の取消しを(第2事件)それぞれ求める事案である。

1
関係法令の定め

本件に関係する法令の定めは,別紙3-1から3-5までのとおりである。2
前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。

(1)

ダイオキシン類土壌汚染対策計画の策定等
被告は,平成16年12月,旧北区立G1小学校の跡地の利用計画を立てるために土壌調査を実施したところ,平成17年2月,ダイオキシン類
による汚染を確認し,更に調査を行い,同年4月頃,北区立G2保育園の園庭及び植樹帯(以下,単にG2保育園というときは,この園庭及び植樹帯を指す。並びに北区立G3公園においても土壌汚染を確認し,)
同年
10月頃までに詳細調査を実施した(乙1の1・2,乙2の1・2,乙3の1~4,弁論の全趣旨)



東京都知事は,平成18年3月6日,ダイオキシン法29条1項に基づき,北区(住所省略)の一部(北区立G3公園の一部。以下G3公園といい,道路で隔てられた北側,南側をそれぞれG3公園(北),G3公園(南)という。),北区(住所省略)の一部(旧北区立G1小学校の跡地の一部。以下,G1小学校というときは,この跡地の一部を
指す。),北区(住所省略)の一部(G2保育園)の合計約1万3410㎡の区域(以下本件対策地域という。)をダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定し(以下,本件公害防止事業の対象となる本件対策地域の土壌汚染を本件土壌汚染という。),同月7日,その旨を公告した(甲A1,2,13の2〔17頁〕)。


上記イの指定を踏まえ,東京都知事は,平成18年12月6日,ダイオキシン法31条1項に基づき,北区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策計画(以下本件対策計画という。)を定め,同月19日,次のとおり,その概要を公告した。

(ア)事業の実施地域
本件対策地域の全域を含む以下の地域

a
北区(住所省略)の一部(北区立G3公園)

b
北区(住所省略)(旧北区立G1小学校)

c
北区(住所省略)の一部(北区立G2保育園)

(イ)事業の内容
汚染土壌による曝露経路を遮断するため,事業実施地域に覆土等を行
う。
(ウ)事業実施後の措置の内容
対策事業として実施した覆土等の効果を維持するよう適切に管理する。(エ)事業費の額
2億1100万円

(オ)事業の実施者
被告
(カ)その他
将来,大規模な土地改変や技術の進歩等に伴い汚染除去を行う場合には,改めて対策計画を策定する。


本件公害防止事業(北区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業)は,平成18年度から平成19年度にかけて,
前記ウ(ア)の各土地を実施地域と
して実施された。平成18年度における本件公害防止事業は,①同事業に伴う環境調査,②同事業に係る設計,③北区立G2保育園園庭改修工事,平成19年度における同事業は,①同事業に伴う環境調査,②旧北区立G
1小学校におけるダイオキシン類対策工事,③北区立G3公園におけるダイオキシン類対策工事であった(弁論の全趣旨)。
(2)

前回の費用負担計画の策定及び前訴の経緯
処分行政庁は,
平成19年1月31日,
北区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画
を定め,
これに基づき,
同年2月1日に
公害防止事業にかかる事業費負担金の額について(通知)を原告日産化学に対
して送付した上,同年3月30日及び平成20年3月31日にそれぞれ事業者負担金の額を決定し,原告日産化学に対し送付した。
原告日産化学は,上記各決定の取消しを求めて訴えを提起し(東京地方裁判所平成19年(行ウ)第466号公害防止事業費負担決定取消請求事件。以下,控訴審を含め,
前訴ということがある。,同裁判所は,平成23年

7月7日,上記各決定を取り消す旨の判決を言い渡した(甲A7)。被告はこ
れを不服として控訴したが(東京高等裁判所平成23年(行コ)第261号公害防止事業費負担決定取消請求控訴事件)同裁判所は控訴を棄却し,
(甲A
8)
,上記判決は確定した。

(3)

費用負担計画の策定
処分行政庁は,平成26年6月13日,負担法6条1項に基づき,次のと
おり,北区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画(以下本件費用負担計画という。)を策定した。

公害防止事業の種類
負担法2条2項3号に規定するダイオキシン類により土壌が汚染されて
いる土地について実施した事業

費用を負担させる事業者を定める基準
ダイオキシン法29条1項の規定に基づき,平成18年3月6日付けでダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定された区域(本件対策地域)を含む土地において,苛性ソーダの生産をするために,陽極に黒鉛電極を用い
た隔膜法による食塩電解工程を有する工場を操業することにより,当該工程から発生するダイオキシン類を排出し,土壌の汚染を引き起こした事業者ウ
公害防止事業費の額
1億7882万6458円


負担総額と算定基礎及び各事業者の負担額

(ア)負担総額
1億3411万9843円
(イ)算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=1億7882万6458
円×(1-1/4)=1億3411万9843円
ダイオキシン類による土壌の汚染が行われた期間が,負担法規制以前の行為であるため,同法4条2項の規定に基づく減額を行う。大田区β地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業(以下,この事業に係る事業者負担金の決定例を大田区事例という。
)における減額率が4分の1とさ

れていることから,これを参考に,負担総額は1億3411万9843円とする。

各事業者の負担額
各事業者の苛性ソーダの生産量(大日本人造肥料については生産能力)
を,各事業者の生産量の合計で除した割合(単位は%,小数点第三位を五捨六入)に,上記の負担総額を乗じて各事業者の負担額を次のとおりとした。
(ア)日本鉱業株式会社(原告JX金属)
1億3411万9843円×13.31%=1785万1351円
(イ)原告日産化学
1億3411万9843円×52.76%=7076万1629円(大日本人造肥料に対しては,
1億3411万9843円×33.
93%
=4550万6863円を本来負担させるべきであるが,同社は既に消滅しており,負担を求めることができない。)

なお,

平成18年12月作成の北区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策計画の4〔注:前記(1)ウ(カ)を指す。〕を参照のこと。

(以下,この
一文を本件なお書きという。)
(4)

本件各決定
処分行政庁は,平成26年7月8日,原告日産化学に対し,負担法9条1項及び本件費用負担計画に基づき,同原告を費用を負担させる事業者とし,納付すべき事業者負担金の額を7076万1629円とする旨の決定
をし,その頃,同原告に通知した。

処分行政庁は,平成26年7月8日,原告JX金属に対し,負担法9条1項及び本件費用負担計画に基づき,同原告を費用を負担させる事業者とし,納付すべき事業者負担金の額を1785万1351円とする旨の決定をし,その頃,同原告に通知した。

(5)

本件訴えの提起に至る経緯
原告日産化学は,平成26年12月19日,第1事件に係る訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。


原告JX金属は,
平成26年9月4日,
上記(4)イの決定を不服として異
議申立てをしたが,処分行政庁は,同年12月24日,これを棄却する旨
の決定をした。
そこで,原告JX金属は,平成27年2月3日,第2事件に係る訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。
(6)

本件対策地域における化学工場の操業等
本件対策地域の用途の概要
本件対策地域及びその周辺は,
明治13年頃は田,
畑,
桑畑であった
(乙
9〔2枚目〕。

明治28年頃,本件対策地域の北側に化学工場が建設され,操業を開始した(乙9〔3枚目〕
,弁論の全趣旨)
。その後,大正6年12月,本件対

策地域内にも化学工場が建設され,一体の工場として操業されていたが(以下,この工場全体を王子工場という。)
,昭和44年12月に稼

働停止となり,遅くとも昭和46年までに王子工場全体が撤去され,跡地は更地化された(乙9〔1,5枚目〕,11の1,弁論の全趣旨)。昭和45年3月,王子工場跡地は,日本住宅公団(現在のUR都市再生機構)に引き渡された後,G4団地として整備され,団地建物敷地,G3公園等として使用され,現在に至っている(乙9〔1,6枚目〕
,弁論の全

趣旨)


本件対策地域において化学工場を操業した会社の変遷
(ア)関東酸曹株式会社(以下関東酸曹という。)は,明治28年頃,本件対策地域の北側に化学工場を建設したが,大正6年12月,本件
対策地域内へ工場敷地を拡張した(王子工場。乙9,11の1,弁論の全趣旨)。
大日本人造肥料は,大正12年,関東酸曹を吸収合併した(乙1
0,11の1。以下,合併前の関東酸曹を含めて大日本人造肥料
ということがある。)。

(イ)日本化学工業株式会社は,昭和12年4月24日,大日本人造肥料から,包括的な営業譲渡を受けた(乙10,11の1)。
日本鉱業株式会社(現在の原告JX金属)は,昭和18年4月,日産化学工業株式会社(昭和12年12月に日本化学工業株式会社から改称。
以下,
改称の前後を問わず
旧日産化学工業
という。
なお,

原告日産化学とは別会社である。)を吸収合併した(乙10,11の1~3。以下,日本鉱業株式会社,合併前の旧日産化学工業を含めて原告JX金属ということがある。)。
(ウ)日本油脂株式会社(現在の原告日産化学。以下,商号変更の前後を問わず原告日産化学ということがある。)は,昭和20年4月

1日,日本鉱業株式会社(現在の原告JX金属)から,化学部門に係る営業の譲渡を受けた(以下,この営業譲渡を本件営業譲渡とい

う。甲A49,B21,乙10,11の1)。
原告日産化学は,昭和44年12月,王子工場の稼動を停止し,遅くとも昭和46年までに同工場を撤去し,跡地は更地化された(乙9〔1,5枚目〕,11の1,弁論の全趣旨)。
(エ)以上のとおり,
本件対策地域において化学工場を操業した会社は,

和12年4月23日までは大日本人造肥料,同月24日から昭和20年3月末までは原告JX金属,同年4月から王子工場の稼働が停止した昭和44年12月までは原告日産化学となる。

食塩電解工場の操業
(ア)関東酸曹は,大正6年12月,王子工場の一部として本件対策地域内
に食塩電解工場を建設し
(以下,
この工場を
本件電解工場
という。,

フーカー・エレクトロ・ケミカル社のタウンセンド式(フーカーF型)電槽(以下フーカーF型電解槽という。
)を用いた苛性ソーダの生産
を開始した(乙9,11の1,35の2〔208頁〕。

そして,
大日本人造肥料は,
フーカーF型電解槽を増設するとともに,

昭和8年,ビリター・ジーメンス電解槽を新設して,苛性ソーダの生産を行った(乙35の2〔209,210頁〕。

(イ)大日本人造肥料又は旧日産化学工業は,昭和12年,フーカーF型電解槽をより能率の良いフーカーS型電槽(以下フーカーS型電解槽という。に置き換えた

(乙35の2
〔210頁〕乙35の3

〔74頁〕。


(ウ)原告日産化学は,
昭和44年12月,
本件電解工場の稼動を停止し,
昭和45年3月に本件電解工場を撤去した(乙9,11の1,弁論の全趣旨)。

大日本人造肥料及び原告らによるルブラン法関連工程及びさらし粉製造工場の操業
(ア)関東酸曹の前身である合資会社王子製造所は,明治28年12月,ル
ブラン法(後記(10)参照)のソーダ工場の払下げを受けるとともに,工場を王子工場の場所に移すこととした。
関東酸曹は,
王子工場において,
明治30年11月に硫酸工場の操業を開始し,明治31年前半にルブラン法のソーダ工場及びさらし粉工場の大半を竣工し,同年6月に操業を開始して,ルブラン法によるソーダ製造及びこれにより副生される塩素
を長方形又はかまぼこ形の石室に導き消石灰に反応吸収させて行うさらし粉製造を行った(甲A27,28)

(イ)大日本人造肥料は,大正9年後半頃から,ルブラン法によるソーダ工業を休止したが,大正11年頃,その設備を利用して苛性ソーダの製造が行われ,また,大正15年まで,ルブラン法によるさらし粉製造が継
続された。なお,ルブラン法の設備は,昭和31年7月まで,硫酸カリウムの製造のために操業していた
(甲A27,
乙35の2
〔209頁〕。

(ウ)大日本人造肥料は,
前記ウ(ア)のとおり,
大正6年以降本件電解工場を
操業しており,あわせて,ルブラン法によって発生した塩酸から塩素を製造し,
これを消石灰と反応させるという上記(ア)の方法とは異なり,

件電解工場の電解室から直接塩素を長方形の鉛室に送入し消石灰に反応吸収させるという方法により,さらし粉の製造を行っていた(甲A27,乙35の2〔209頁〕
,弁論の全趣旨)

(エ)原告日産化学は,昭和25年にさらし粉の製造方式をロータリーキルン方式に改造したが,昭和37年,王子工場におけるさらし粉生産を休
止し,昭和40年,
鉛晒粉室が解体された(甲A57〔371頁〕。

(7)

ダイオキシン類の概要等
ダイオキシン法2条1項に定めるダイオキシン類とは,ポリ塩化ジベンゾフラン(
PCDFPCDFsなどと略称され,ポリ塩素化ジベ,ンゾフランと称されることもある。),ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキ
シンPCDD


PCDDs
などと略称される。ダイオキシン
以下
という。
)及びコプラナーポリ塩化ビフェニル(
Co-PCBCo-,PCBsなどと略称される。以下コプラナーPCBという。)である
(甲A50〔1頁〕,乙55〔2頁〕,弁論の全趣旨)。
イ(ア)ポリ塩化ジベンゾフランは,二つのベンゼン環が1個の酸素原子を介して2箇所で結合した骨格構造(以下ジベンゾフランという。)に
ついて,そのベンゼン環の周囲に存在する8個の水素原子の幾つかが塩素原子によって置換された化合物である。塩素原子は,1個から8個まで置換することが可能であり,置換数が同じ化合物の一群を同族体というところ,ポリ塩化ジベンゾフランには,置換した個数の順に,1塩素化体から8塩素化体までの8種類の同族体がある(甲A50〔1,
2頁〕,乙55〔2頁〕,弁論の全趣旨)。
(イ)ダイオキシンは,二つのベンゼン環が2個の酸素原子を介して2箇所で結合した骨格構造(ジベンゾ-パラ-ジオキシン)を有し,そのベンゼン環の周囲に存在する8個の水素原子の幾つかが塩素原子によって置換された化合物である。塩素原子は,1個から8個まで置換することが
可能であり,ダイオキシンには1塩素化体から8塩素化体までの8種類の同族体がある(甲A50〔1頁〕,乙55〔1,2頁〕)。
(ウ)ポリ塩化ビフェニル(PCBと略称される。)は,二つのベンゼン環が1箇所で直接結合した骨格構造(ビフェニル)を有し,そのベンゼン環の周囲に存在する10の水素原子の幾つかが塩素原子によって置
換された化合物である。塩素原子は,1個から10個まで置換することが可能であり,ポリ塩化ビフェニルには1塩素化体から10塩素化体までの10種類の同族体がある。このうちの一部が,ダイオキシン類であるコプラナーPCBである(甲A50〔1頁〕,乙55〔2,4頁〕,弁論の全趣旨)。


骨格構造及び塩素置換数が同一でも置換位置の異なる化合物があり,これを異性体といい,同じ骨格構造を持ち,異なる塩素置換数を持つ化合物群の総称をコンジェナーという。ポリ塩化ジベンゾフランには135種,ダイオキシンには75種,ポリ塩化ビフェニルには209種のコンジェナーが存在する(甲A50〔2頁〕,乙55〔2~4頁〕)。

ダイオキシン類の中で最も毒性が高いコンジェナーは,2位,3位,7位及び8位の4箇所の水素原子が塩素原子に置き換わった2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシンである。
ダイオキシン類の毒性は,2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシンの毒性を1とした係数(毒性等価係数)を測定濃度に乗じた値で評価し,測定したダイオキシン類全体の毒性の量を評価する場合は,それ
ぞれのコンジェナーの測定値に毒性等価係数を乗じた毒性量を合計して毒性等量(TEQともいう。)を求める。
強毒性のコンジェナーは,ポリ塩化ジベンゾフランには10種類,ダイオキシンには7種類,コプラナーPCBには12種類あり,ダイオキシン類の毒性の測定は,この合計29種類のコンジェナーの毒性量の総和で評
価するのが一般的である(以上につき,乙55〔2~4頁〕)。

ダイオキシン類による大気の汚染,水質の汚濁(水底の底質の汚染を含む。)及び土壌の汚染に係る環境基準について

(平成11年環境庁告示第68号)は,ダイオキシン法7条にいう人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準(以下環境基準という。)として,土壌に
ついて1000pg(ピコグラム)-TEQ/g以下と定めている(乙27)。
(8)

本件対策地域の汚染状況
本件対策地域及びその近接部分の土壌から発見されたダイオキシン類の深度別の濃度は,別紙4記載のとおりである(乙12〔2~5枚目〕,45,46,50~52)。

本件対策地域及びその近接部分のうち,G2保育園の一部(別紙4・1枚目のA2~D2),G1小学校の一部(別紙4・2枚目のA6~I6),G3公園(北)及びその近接部分の一部(別紙4・3枚目のE1~E9),G3公園(南)及びその近接部分の一部(別紙4・4枚目のC2~L2)における地質等とダイオキシン類の濃度は,別紙5記載のとおり
である(乙13)。

本件公害防止事業実施地域において検出されたダイオキシン類のうち,G2保育園の濃度が高い上位5試料,G1小学校の濃度が高い上位10試料,G3公園(北)の盛土部分,より深い部分の濃度が高い上位5,10試料,G3公園(南)及びその近接部分の盛土部分,より深い部分のそれ
ぞれ濃度が高い5試料の同族体組成比及び異性体組成プロフィールは,別紙6記載のとおりである(乙17。なお,別紙6においては,G3公園(北)はG3公園北側又は単にG3公園,G3公園(南)及び

その近接部分はG3公園南側又はG3公園南と表記す

る。)。

(9)

食塩電解工程の概要等


食塩電解工程は,
食塩を電気分解し,
塩素ガス
(Cl2)
と苛性ソーダ
(N
aOH)を製造する工程である。
すなわち,食塩(NaCl)は,水に溶けるとナトリウムイオン(Na


)と塩化物イオン(Cl-)に電離し,食塩水の中に電極を入れて直流電
流を流すと,陽イオンであるナトリウムイオンは陰極(マイナス極)に,陰イオンである塩化物イオンは陽極(プラス極)に移動する。その際,隔膜法(下記イ参照)では陰極において水の電気分解も起こり,水素(H2)が発生するとともに水酸化物イオン(OH-)が生成し,陰極付近で苛性ソーダ(NaOH)の水溶液ができる。また,陽極では塩素(Cl2)ガスが発生する(以上につき,公知の事実)


食塩電解の工業的な方法としては,隔膜法や水銀法などがあるところ,本件電解工場が採用していた電解槽
(前記(6)ウ(ア),
(イ)のフーカーF型電
解槽,ビリター・ジーメンス電解槽及びフーカーS型電解槽)は,いずれも隔膜法の電解槽である
(乙35の3
〔73,
74頁〕35の9

〔476,
477頁〕。


隔膜法の食塩電解工程では,隔膜により陽極室と陰極室を区分する構造となっており,これにより陰極に発生した水素及び水酸化物イオンが陽極に拡散することが防止されていた(弁論の全趣旨)

本件電解工場で使用されていた上記の各電解槽においては,陽極には黒鉛が使用され,隔膜は石綿が使用されていた(乙35の3〔73頁〕,35

の4〔354頁〕
,35の9〔476,477頁〕
,弁論の全趣旨)

(10)

ルブラン法関連工程等の概要


ルブラン法とは,炭酸ナトリウム(ソーダ灰)の工業的生産法である。ルブラン法の具体的な工程は,①塩化ナトリウムを硫酸と混合して加熱し,硫酸ナトリウムを生成する工程,②硫酸ナトリウムと石灰石及び石炭
を混合して加熱し,炭酸ナトリウムと硫化カルシウムの混合物を生成する工程の2段階に分かれる(以上につき,弁論の全趣旨)


上記①の工程においては,塩酸(塩化水素ガス)が発生することから,これを塩酸吸収塔で凝縮,精製し,二酸化マンガン法により塩酸から塩素を製造し,この塩素を消石灰(水酸化カルシウム)と反応させることによ
り,さらし粉が製造されていた(甲A27,弁論の全趣旨)


なお,前記(6)エ(ア)のとおり,王子工場内には,前記①の原料である硫酸の製造工程が存在していた(以下,硫酸製造工程,前記アのルブラン法の工程及び上記イの塩素製造工程を併せて
ルブラン法関連工程
という。。


3
争点
(1)

負担法施行前の事業活動に関して事業者負担金を課すことが憲法31条,39条,84条に反するか否か
(2)

原告らが負担法3条の事業者に該当するか否か
負担法施行時以降公害の原因となる事業活動を行わず,本件公害防止事業の実施時点において北区内で事業活動を行っていない原告らが負担法の事業者となるか否か


(3)

事業所内にダイオキシン類を排出した場合にも事業者となるか否か本件土壌汚染に係るダイオキシン類に原告らが本件電解工場から排出し
たものが含まれるか否か

ダイオキシン法31条7項の因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合の意義

原告らが本件土壌汚染に係るダイオキシン類を発生させ,これを排出したか否か

(4)

原告JX金属固有の事情により原告JX金属が事業者負担金の支払義務
を負わないこととなるか否か

本件費用負担計画及び原告JX金属に対する本件各決定が前訴控訴審判決の拘束力又は趣旨に反し違法であるか否か


覆土措置である本件公害防止事業が原告JX金属の排出したダイオキシン類による公害を防止するための事業に当たるか否か

(5)

本件公害防止事業につき大日本人造肥料及び原告らに負担させる費用の
総額は幾らであるか

(6)
(7)

負担法6条1項の審議会の意見の聴取がされたといえるか否か

(8)
4
本件公害防止事業についての原告らの事業者負担金の額

本件なお書きが違法な附款であるか否か

争点に関する当事者の主張の概要
(1)

負担法施行前の事業活動に関して事業者負担金を課すことが憲法31条,
39条,84条に反するか否か(争点(1))
(被告の主張)

一般的には,不利益事項を定める行政法令不遡及の原則(憲法84条の趣旨)が認められているが,この原則は全く例外が認められないような性質を持つものではなく,行政の本来目的としての公益実現のため必要な場合には,一定の合理性の認められる範囲で不利益事項を定める行政法令の
遡及適用も許容される。
負担法は,公害を防止し環境を保護するためには従来の不法行為法では不十分であるとして,公害を生成した原因者に対して応分の負担を新たな立法により求めたものである。公害対策における正義と公平の原則としての原因者負担の観点から事業者に応分の負担を求めている同法の趣旨及び
構造からすれば,事業活動に伴って特定の地中に公害汚染物質の保持,排出等をしていた事業者は,いずれの時点にせよ,当該土地の公害原因物質が顕在化したときには,原因事業者としてその公害防止費用を負担すべきであって,負担法施行前の事業活動についても事業者負担金を課すことには合理性が認められる。

また,負担法4条2項及び7条3号の規定は,同法成立前に発生した公害をも念頭に置いているものであるし,同法の施行に当たって発せられた内閣大臣官房公害対策室長通達(乙31)においても,同法施行前の事業活動において公害を排出した者が事業者負担金を負担させる事業者の範囲に含まれるとされている。

したがって,負担法3条を遡及適用することが,不利益事項を定める行政法令不遡及の原則に違反し許されないということはない。

この点について,原告らは,ダイオキシン類は意図せず発生するものであり,王子工場を操業していた時期にはその発生を認識しておらず,毒性
を予見することは不可能であったことから,負担法施行前の事業活動に対して同法を適用することは許されないと主張する。
しかしながら,負担法は公用負担の性格を有するものであり,原因物質を廃棄した事業者に負担を課すに当たっては,故意又は過失等の事業者の事情は一切考慮する必要がないから,上記主張は理由がない。

また,原告らは,王子工場の操業停止後,負担法改正や本件各決定までに長期間経過していることから,同法を遡及適用することが許されないと
主張する。
しかしながら,負担法の趣旨に鑑みれば,時間の経過によって負担を求める根拠が失われることにはならないし,時間の経過によって反論のための証拠収集が困難になることは被告も同様であるから,上記主張は理由がない。


さらに,原告らは,現在の医学的知見によればダイオキシン類の毒性は高くないことから,負担法を遡及適用することは許されないと主張する。しかしながら,ダイオキシン類が人の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがある物質ダイオキシン法1条)(
とされていることからすれば,
上記主張は理由がない。

(原告らの主張)

負担法3条の事業者負担金の負担は,公法上の金銭債権の性質を有し,納付しないときは強制徴収されるものであるから,租税に類する性質を有する。したがって,これを遡及的に適用することは,租税法規の遡及適用
禁止の原則(憲法84条)や,行政法令不遡及の原則(憲法31条,39条)に抵触するものであり,負担法3条の遡及適用が認められる場合があるとしても,国民の予測可能性と法的安定性を害さない範囲で客観的合理性を有すると認められる場合に限定されるべきである。
本件においては,負担法が施行された昭和46年5月10日及びダイオ
キシン法が施行された平成12年1月15日より前である昭和45年には,王子工場における全ての事業活動が停止し,同工場が閉鎖されているところ,①仮に本件電解工場の操業に伴いダイオキシン類が発生していたとしても,ダイオキシン類は意図せずに発生するものであり,原告らが王子工場を操業していた時期にはその発生を認識しておらず,毒性を予見することも不可能であったこと,②王子工場の操業停止後,ダイオキシン類を対象とする内容の負担法改正や本件各決定までに長期間経過していること,
③現在の医学的知見によればダイオキシン類の毒性は高いとはいえないことを考慮すると,本件各決定によって原告らに事業者負担金が課されることは,原告らの企業活動の予測可能性と法的安定性を完全に奪うものであって,
上記憲法各条項の例外として認めるべき客観的合理性が存在しない。なお,負担法4条2項及び7条3号の規定の文言が同法施行以前に発生
した公害を念頭に置いているということはできないし,被告が指摘する通達も,
同法施行後についての一般的な法律解釈を述べているものであって,法律の遡及適用を容認しているものではない。
したがって,本件においては,原告らに対して負担法3条の事業者負担金の負担を負わせることは許されない。


被告は,負担法は公用負担という性格であって,事業者の事情は一切考慮する必要がないと主張する。
しかしながら,企業は,現在及び未来の環境を維持することを前提条件として生産活動を行うことは当然であるものの,将来の科学技術の進歩ま
で予測して事業活動を行うことは不可能であるから,その前提は当該時点における科学的知見に基づくものというべきであり,そのような前提に立って,当該事業活動が企業にとって利益を生み出し,株主,従業員その他のステークホルダーに有益であるとの判断の下に事業活動を行っている。このような前提を覆し,将来の科学技術の進歩によって当該事業活動が環
境に悪影響を及ぼすことが判明した場合に,立法することで何ら制限なくさかのぼって除去に必要な費用を当該事業者に負担させることを可能にしたならば,いかなる事業者も安んじて事業を行うことができなくなり,企業が成り立たないといえる。
憲法は,このようなことがないように,私人の財産権などの権利を保護し,租税は遡及しないとの原則を明記しているのであり,被告の主張は企業の活動を無視した暴論というべきである。

(2)

負担法施行時以降公害の原因となる事業活動を行わず,
本件公害防止事業

の実施時点において北区内で事業活動を行っていない原告らが負担法の事業者となるか否か(争点(2)ア)(被告の主張)

負担法3条は,当該公害防止事業に係る地域において同事業に係る公害の原因となる
事業活動を行ない又は行うことが確実と認められる事業

者を,同事業に要する費用を負担させることができる事業者であると定めるところ,①行いという文言は,現在行っていることだけでなく,過去行ったことを含むこと,②そもそも同法が事業者に公害防止事業費を負担させることとした趣旨は,過去に公害を発生させた者にもこれを負担さ
せることにあり,内閣公害対策本部が発行した同法の解説などの文献においても,過去に事業活動を行ったことがあるが現に事業活動を行っていない者も費用負担の対象となり得るとされていること等からすれば,過去において当該公害の原因となる事業活動を行ったことはあるが,同法施行後はこれを行っていない事業者も,同条に規定する事業者に含まれることは
明らかである。

原告らは,上記負担法の解説において,事業の施行者である地方公共団体の管轄区域外に移転した者には費用負担をさせることができない旨が記載されているとして,本件公害防止事業の実施時点において北区の管轄区
域外に移転していた原告らに対して費用負担をさせることができない旨主張する。
しかしながら,上記解説の記載は,地方自治体の権限に着目して記載されたものであって,権限が及ばない場合には負担を求めることができないという当然のことを記載したものにすぎないし,現時点において,環境省総合環境政策局環境経済課は,負担法の解釈上このような者も公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者に該当することを認めて
いる。なお,同課の回答(乙49の2)では,
公害防止事業の施行者である地方公共団体の管轄区域外に移転したものに負担を求めることについては,管轄権が及ばない事業者に対して費用負担を求める等の事柄の性質上,実際に費用負担を求めることができない場合もあること。と付言されているが,原告らは,本件対策地域の土壌を汚染した時点で北区に王子工場を
設置していたのであり,そのときの活動が費用負担の原因となっているのであるから,原告らに対して北区の管轄権が及んでいる。

したがって,本件公害防止事業の実施時点において北区内で事業活動を行っていない原告らも,負担法上の事業者となる。

(原告らの主張)

事業活動を行ないという表現は,現在の状態を示すものであって,過去の状態を示すものではない。仮に,過去に事業活動を行っていたにすぎず現在は行っていない者も含むか否かについて,その表現上明らかではないとしても,負担法による事業者負担金に憲法84条の趣旨が及ぶことからすれば,厳格に解されなければならないのであるから,拡張的に解釈
して租税に類する負担を原告らに課すことは許されない。

また,内閣公害対策本部は,事業の施行者である地方公共団体の管轄区域外に移転した者には事柄の性質上事業者負担金の負担を求めることはできないと解説している。そして,原告日産化学は,負担法が施行された昭
和46年までには王子工場を閉鎖し日本住宅公団に王子工場の跡地を引き渡して北区から撤退しており,本件公害防止事業の実施時点において原告らは北区の管轄区域外に移転していた。

これに対し,被告は,負担法3条の公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者には,過去に事業活動を行ったことがあるが,既に事業活動を行っていない者で,公害防止事業の施行者である地方公共団体の管轄区域外に移転した者も該当する旨を環境省総合環境政策局環境経
済課が認めていると主張する。しかしながら,このような回答は公にされていないものであるし,内閣公害対策本部の解説に記載された内容を変更する理由が全く示されていないものであることなどから,信用することができない。
また,被告は,原告らが公害を発生させた時点で北区内に事業所をそれ
ぞれ有していたことから,
北区に管轄権があると主張する。
しかしながら,
前記内閣公害対策本部の解説や前記課長の回答において問題とされているのは,負担法により費用を負担させようとしている地方公共団体がその管轄区域外の事業者に費用を負担させることができないという点であるから,費用負担をさせる時点すなわち事業実施時点が基準時であるというべきで
あって,上記主張は失当である。
(3)

事業所内にダイオキシン類を排出した場合にも
事業者
となるか否か
(争

点(2)イ)
(被告の主張)

原告らは,
公害を定義する環境基本法2条3項の人の健康又は生活環境に係る被害とは事業所外の他の人の健康又は生活環境に係る被害であり,原告らは一般市民の出入りが可能な地域に被害を発生させていないから,公害を発生させておらず,
事業者に当たらない旨主張する。
しかしながら,
公害の定義上,事業所内の土壌を汚染した場合も公害

に当たり,事業所外に汚染物質を排出した場合に限られない。また,事業所内に汚染物質を排出した者が事業を廃止し,当該事業所用地の使用目的が事業所以外のものとなったとき(本件においては王子工場の跡地を売却したとき)は,当然に人の健康又は生活環境に係る被害が生じることとなる。

本件においては,王子工場に近接する株式会社G5の敷地(以下G5敷地という。からも明らかに同種のダイオキシン類が検出されていると)

ころ,このダイオキシン類による汚染は本件電解工場の操業に何らかの関連があるものとみるのが自然であり,王子工場内にあった土砂ないしダイオキシン類を含む汚泥が他の鉱滓などとともに当該地に移置された可能性が高いと考えられるから,原告らの主張を前提としても,このことだけで人の健康又は生活環境に係る被害が発生していたといえる。

(原告らの主張)

負担法は公害防止事業を対象とするものであるから公害の発生
を前提とするところ,
公害とは人の健康又は生活環境に係る被害を
発生させるものであるから(負担法2条1項,環境基本法2条3項),工場

などの事業所として,専ら特定の事業者が占有し,一般市民などが自由に出入りすることのできない地域は,負担法による公害防止事業の対象とならないことは明らかである。
したがって,事業者が事業を廃止しても,その事業所跡地を塀などにより囲い,一般市民などが自由に出入りすることができない状態を続けてい
れば,負担法を適用することができないのは当然である。そして,このような状態の事業所跡地が,何らかの行為により一般市民など不特定多数の者が出入り可能な状態となったときに公害が発生することとなるが,この場合の公害を発生させた者は,かつて事業所を運営していた者ではなく,事業所の跡地を一般市民に開放した者であるから,原告らはこれに当
たらない。
なお,土壌の汚染については,土壌汚染対策法が制定されており,同法7条1項は,土壌の特定有害物質による汚染がある場合に,都道府県知事が第一次的に当該土地の所有者等に対して汚染の除去等の措置を講ずべきことを命じることができると規定されているのであって,本件のような工場跡地の汚染の排除については,負担法ではなく,土壌汚染対策法が適用されるべきである。そして,ダイオキシン類は同法の対象となる物質に含
まれていないから,ダイオキシン類による土壌汚染の公害対策は何ら法規制の対象となっていないと解釈されるべきである。

被告は,G5敷地からダイオキシン類が検出されたことをもって,王子工場由来のダイオキシン類が同地に移置された可能性が高いなどと臆測を述べるが,そもそもG5敷地と王子工場とは広い道路を隔てて位置してい
ることからしても,被告の主張の誤りは明らかである。
(4)

ダイオキシン法31条7項の
因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合の意義(争点(3)ア)(被告の主張)

ダイオキシン法31条7項は,国民の健康保護と事業者の負担の調和を図る見地から,事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌汚染との因果関係について科学的知見が明確な場合に負担法を適用するものと解されるところ,同項の規定の文言上,直接科学的知見に基づくことが要請されているのは,事業者による排出と汚染との因果関係につ
いてである。そして,裁判上の事実認定に当たっては,当該事実の有無が科学的知見に関わる場合であっても,これを認定するために一点の疑義も許されない自然科学的証明が求められるものではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,高度の蓋然性を証明すれば足りるものと解され(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決民集・

29巻9号1417頁。以下昭和50年最判という。,他に科学的な)
可能性が存在する場合であっても,他の間接事実と総合し,経験則に照らして当該事実を認定することは妨げられない。

原告らは,本件において医療過誤に関する判断である昭和50年最判の基準は当てはまらない旨主張するが,本件のようなダイオキシン類に係る公害事件においては,自然科学的要素の占める部分が大きいだけでなく,不断に進展する科学によっても解明されない部分が存在するという状況の
中で法的評価としての因果関係が追求されるのであって,自然科学的メカニズムを解明しようとするものではないという点において,医療過誤事件と同様の特色が認められるのであり,原告らの主張は理由がない。(原告らの主張)

ダイオキシン法31条7項は,
事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合に負担法の規定を適用する旨を定めている。これは,同法による事業者負担金の定めが条件によっては憲法で保障されている財産権の侵害ともなりかねないこと,及び,ダイオキシン類がそもそも意図しない副生成物として生じるものであり,汚染経路等の科学的知見になお不十分な点
が多いことから,
事業者による排出と土壌の汚染との因果関係
が科学的知見により明確な場合にのみ,その排出者に公害防止事業費を負担させるという趣旨である。したがって,
科学的知見とは自然科学
的知見を意味し,同項の因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合とは,排出と汚染との間の因果関係の証明度について,高度の蓋然性より
高い,自然科学的知見に裏打ちされた証明を求める趣旨を明文化したものであって,排出と汚染との間に科学的知見に基づいて一点でも疑義が残れば,これに該当しないというべきである。

被告は,本件において昭和50年最判の基準が当てはまる旨主張する。しかしながら,このような解釈では,ダイオキシン法31条7項に付加されている文言の説明がつかないし,医療過誤事案という特別の不法行為の事案において述べられた因果関係に関する立証の緩和の考えを,同法による事業者に対する費用負担の決定という行政処分におけるダイオキシン類の排出と土壌汚染との因果関係に適用することができないことは明らかである。
(5)

原告らが本件土壌汚染に係るダイオキシン類を発生させ,
これを排出した

か否か(争点(3)イ)
(被告の主張)

本件土壌汚染に含まれるダイオキシン類は本件電解工場の食塩電解工程由来であるといえること

本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因について,本件対策地域の地歴及びダイオキシン類の土壌汚染状況等を前提として,検出されたダイオキシン類の各同族体の種類並びに異性体の種類及び構成組成比等の特徴を明らかにするとともに,食塩電解工程において発生するダイオキシン類以外の類縁化合物である高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素類の共存と
いった事実を総合して判断すると,本件対策地域の土壌から検出されたダイオキシン類は,食塩電解工程における電解槽中にある黒鉛電極の結合材として用いられたピッチに含まれるジベンゾフランと,電解により発生した塩素が化学反応(塩素置換反応)を起こした結果,生成されたものであるといえる。

(ア)本件対策地域の地歴
a
関東酸曹は,大正6年12月,本件対策地域に本件電解工場を建設し,食塩電解工程による苛性ソーダの生産を開始した。同工場が建設されるまでは,本件対策地域は田,畑等であり,ダイオキシン類の発生原因は存在しなかった。

その後,本件電解工場においては,経営主体の変更を経て,最終的に原告日産化学が苛性ソーダの生産を昭和44年12月まで継続した。原告日産化学が昭和45年3月に本件電解工場を撤去した後に,本件対策地域は更地とされ,その後は,日本住宅公団によって建設された住宅団地及び公共施設として利用されており,ダイオキシン類の発生原因となる施設は存在しない。したがって,王子工場のみがダイオキシン類の発生原因と考えられる。

b
なお,王子工場撤去後にも,本件対策地域には土砂が搬入されている。その量は1万0522㎥であるが,そのうち1388㎥が住宅団地内の植栽のために,7580㎥がG3公園の植栽のために,1200㎥が隅田川の防潮堤建設工事のために,それぞれ利用されている。
上記住宅団地内の植栽に使用された1388㎥のうち,945㎥については客土用畑土として一括購入したものの一部であり,残りの443㎥は山砂であることからすれば,ダイオキシン類等が含まれる可能性は乏しい。
残りの土砂のうち別途で使用されたものを除いた7943㎥につい
ては,必ずしも由来が明確とはいえないものの,昭和40年代に日本住宅公団が日本全国で行った造成工事に関して搬入土のダイオキシン類による汚染が問題になったことはないし,上記の土砂の量を本件対策地域全体(1万3410㎡)に等しく置いた場合の厚さは約59㎝であり,ダイオキシン類の汚染が高濃度で検出された深さ2m~4m
程度の層全体には影響しないものである。
また,本件土壌汚染に係るダイオキシン類は食塩電解工程由来であるところ,
昭和50年頃,
食塩電解工場は,
都内にはG6株式会社
(現
在の株式会社G7)の尾久工場があるのみで,関東近県においても神奈川県にあったのみであるから,他の場所から食塩電解工程由来のダ
イオキシン類に汚染された土壌が偶然運び込まれる可能性は極めて低い。
なお,
原告らは,
G3公園には上記の土砂の搬入以降に盛土がされ,
その盛土部分がダイオキシン類により汚染されている旨主張する。しかしながら,原告らが根拠とする調査結果(甲A13の1)には,本件各決定において資料とされている調査結果(G3公園(南)KB2-27地点の調査結果である乙46)が反映されていないし,原告らの主張を前提としても,その次の深度(-3.24m~3.54m)が環境基準を超えるダイオキシン濃度であるのに比べて,盛土部分が汚染されているといえない。
したがって,王子工場の撤去後に搬入された土砂によってダイオキ
シン類の汚染が新たに発生した可能性は,乏しいものといえる。
(イ)ダイオキシン類の土壌汚染状況
本件対策地域のダイオキシン類による汚染土壌は,自然地層には存在せず,その上部の埋土・盛土層に広く深く高濃度部分があることが確認されている。

この埋土・盛土層は,もともとの堆積物による細砂又はシルトなどからなる自然地層の上部に形成された地層であり,表層からの深さが2m~4mの所が多く,
最も深い所では深さ7m程度の箇所がある。
そして,
この埋土・盛土層は,礫,コンクリートガラ,レンガ片等が全体的に混入したものであり,自然地層とは性質が明確に異なる。

本件対策地域全域に広がるこのような大規模な埋土・盛土層は,王子工場の設置時及びその後行われた工場拡張時のかさ上げの際に形成されたほか,王子工場から排出される産業廃棄物の埋立てなどによって更に形成された後,王子工場の撤去時に,建物の基礎などに由来するコンクリートガラ等とともに本件対策地域を含む一帯に敷きならされたものと
考えられる。特に,最も深い表層から7m程度の部分は,自然地層を掘削した池の跡地と考えられる。
(ウ)検出されたダイオキシン類の種類,構成組成比等の特徴
a
被告の主張
本件対策地域から検出されたダイオキシン類は,①数百万~数千万pg-TEQ/gの超高濃度のダイオキシン類濃度を有していること,②ダイオキシン類はポリ塩化ジベンゾフランを主体とする特異的組成
で構成されていること,
③ポリ塩化ジベンゾフランは,
毒性の強い2,
3,7,8-塩素置換体(少なくとも2位,3位,7位,8位が塩素に置換されたポリ塩化ジベンゾフラン)を主体とする特異的異性体組成で構成されているという特徴がある。
そして,本件対策地域から検出されたダイオキシン類は,ほぼ全て
がポリ塩化ジベンゾフランであるため,ポリ塩化ジベンゾフランの発生原因さえ確認すれば因果関係の判断に足りるところ,本件対策地域から検出されたダイオキシン類のような上記①~③の特徴及び④塩素化多環芳香族炭化水素がダイオキシン類よりもはるかに高濃度で共存していることという特徴(後記(エ)参照)を併せ持つ,科学的に解明,
公表されている汚染原因物質は,黒鉛電極を用いた食塩電解工程における陽極スラッジのみである。
b
ダイオキシン類が発生しない旨の原告らの主張に理由がないこと
原告らは,隔膜法による食塩電解工程においてはダイオキシン類が
発生しない旨主張する。
しかしながら,高温で電解を行っていた過去のソーダ工業においては,電解槽中で溶解した黒鉛由来のピッチと陽極で発生する塩素との反応によって高濃度のダイオキシン類が生成されたことが推定されている。
なお,
原告らは,
上記推定の根拠となったG8らが執筆した
食塩電解過程から生成するダイオキシン類について
(乙18)
記載の実
験(以下乙18号証の実験という。
)及び食塩電解過程に由来するダイオキシン類及びその類縁化合物(乙20)
記載の実験
(以下
乙20号証の実験という。
)について,ピッチを別途投入している点で
実際の食塩電解における工程と実験条件が異なるから,上記推定は適切ではない旨主張するが,上記実験は,二酸化イリジウム/チタン電極を用いたがダイオキシン類の生成が見られず,実験時に市販されて
いた黒鉛電極を用いたところダイオキシン類の生成が認められたとするものであり,現在市販されている黒鉛電極は昭和45年頃までのものに比べピッチの量が少ないことから,過去の黒鉛電極に近づけるためにピッチを固体として食塩溶液に共存させて電解を行ったというものであって,実験条件の違いを問題視するのは妥当性を欠く。

c
同族体組成比(Rタイプ,Oタイプ)を理由とする原告らの主張に理由がないこと
(a)ジベンゾフランの塩素化反応によって生成するポリ塩化ジベンゾフランの一連の複合的な同族体組成は,塩素化反応の条件等に

よって変動する性質を有するところ,本件対策地域で検出されたポリ塩化ジベンゾフランも,4塩素化体から8塩素化体(以下,特に断りのない限り塩素化体はポリ塩化ジベンゾフランをいう。
)の
広範囲な同族体で構成されており,検出されたダイオキシン類の各同族体の種類に係る特徴を同じくする(この点において特徴的な同族体組成であるといえる。。)
もっとも,食塩電解工程で生成されるダイオキシン類は,広範囲
かつ高濃度のポリ塩化ジベンゾフランが検出されるという特徴を有する一方で,実際の含有量は極めて微量であるため,その同族体組成比は,原料の純度又は性質,製造装置,反応条件等の僅かな
変化によって変動し,実際にも食塩電解工場ごとに反応条件等が異なるため同族体組成比も異なっている。また,陽極槽内の有機物が汚泥として排出されるまでの電解時間,及び陽極槽内のジベンゾフランの存在位置によって塩素にさらされる程度に依存して塩素化の程度が異なるため,
同族体組成比は一様とはいえない。
そのため,ダイオキシン類による土壌汚染の原因の特定において
は,原告らが主張するように単純にダイオキシン類の同族体組成比のみによって判断するのではなく,ポリ塩化ジベンゾフランに係る異性体の種類及び構成組成比等の事情を踏まえて総合的に判断する必要がある。
(b)これに対し,原告らは,ダイオキシン類の発生原因について,生
成されるポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比に関し,栗原
博之助教授の意見書(甲A37)にいうOタイプ(同族体のうち4塩素化体の割合が最も多く,高塩素化体になるにつれて割合が減少するもの,又は4塩素化体の割合が最も多く,5塩素化体から7塩素化体になるにつれて割合が減少し,8塩素化体が7塩素化体の2
倍量未満のもの。
ただし,
隣接の塩素化体が同量である場合を含む。

及びRタイプ(同族体のうち5塩素化体,6塩素化体又は7塩素化体の割合が最大のもの)の違いを殊更に重視し,フーカーS型電解槽においてダイオキシン類が発生する場合にはOタイプが検出されないのに対し,本件対策地域から検出されたポリ塩化ジベンゾフラ
ンの同族体組成はほとんどすべてがOタイプを示しているとした上で,本件土壌汚染に係るダイオキシン類は本件電解工場由来ではない旨主張する。
しかしながら,そもそも同族体組成比のみによってダイオキシン
類による土壌汚染の原因を判断することができないことは,
上記(a)

のとおりである。
また,実際に生じた極めて微量のポリ塩化ジベンゾフランの生成
を再現することは困難であるとともに,王子工場においては,長期間にわたって食塩電解工程が稼働されていたところ,この長期間に同一の品質を有するタールピッチを含む黒鉛電極が用いられ,食塩電解工程における電解液の品質,交換期間,隔膜の品質及び交換期間といった全ての稼働状況が同一の条件下で操業されていたと考えることはできない。食塩電解工程で用いられる黒鉛電極自体もプレス成形されるために製品が不均質になりやすく,食塩水の濃度,温度,不純物等によっても影響を受け,同一電解槽内においてその消耗度が異なり,電流分布の不均等が生じる。加えて,結合材として
使用されるピッチの品質は,原料である石炭の産地や種類,製造条件によって異なり,同様に,ピッチの構成物でありダイオキシン類の前駆物質であるジベンゾフランを含む多環芳香族炭化水素類の構成組成も,
製造状況によって異なる。
電解によって生じる塩素量も,
電解液,食塩濃度,電解装置,電解温度等の条件によって変動し,
黒鉛電極に含まれるジベンゾフランの塩素化反応の進行度合いも一律ではない。
したがって,実際の食塩電解工程の稼働条件を考慮せずに,単に
生成されるポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比を基準とし
て,本件対策地域における土壌汚染の原因となったダイオキシン類
の発生原因を特定することはできず,原告らの主張は理由がない。(c)ⅰ原告らは,G9教授らによる王子工場で用いられていたフーカーS型電解槽と同様の反応条件であるとした装置を用いた実験
(甲A51。以下G9実験という。
)の結果,同装置では,少
なくとも49日目以降はOタイプが存在しなくなり,Rタイプし

か排出されないから,本件土壌汚染に係るダイオキシン類は本件
電解工場由来ではない旨主張する。

しかしながら,G9実験においては,フーカーH-4型電解槽
の文献値を参考として,
陽極槽の温度を70℃としているところ,
過去のソーダ工業では90℃よりも高温で電解を行っている。さ
らに,G9実験においては,陽極槽には焼成成形された黒鉛電極

を用いておらず,黒鉛電極に含まれるピッチの代わりに陽極槽に
はコールピッチに珪砂を少量混合して直方体に成形したものを設
置している。
食塩電解工程で用いられる黒鉛電極は,電解の進行に伴い,塩
素の酸化反応によって,黒鉛電極の主成分である黒鉛の剝離に加

え,結合材であるピッチの剝離も伴うことになる。このようにし
て黒鉛電極から物理的に剝離したピッチに含まれるジベンゾフラ
ンが電解槽内の陽極室において発生した塩素と化学反応(塩素化
反応)することでポリ塩化ジベンゾフランが生成されるため,黒
鉛電極からピッチが剝離して塩素化反応を受けるまでには一定の

時間があり,また,その剝離の程度も黒鉛電極の位置によって異
なる。このように,本件電解工場において実際に行われていた食
塩電解工程においては,黒鉛電極に含まれるピッチが塩素化反応
を受けるまでに,物理的・化学的な制御因子が存在する。一方,
G9実験の内容では,陽極槽中に置かれたコールピッチを主体と

した珪砂混合物が物理的な剝離を伴うことなく,そのコールピッ
チの全体が直ちに陽極槽内において発生した塩素と化学反応を起
こすことになるため,黒鉛電極を使用した場合と比べて,ポリ塩
化ジベンゾフランの生成や塩素化進行が極めて速い結果となるも
のと考えられる。

また,
陽極槽内のピッチが固体として存在している場合よりも,
液体として存在している場合の方がやや高塩素化しやすい傾向に
あるところ,剝離されたピッチが溶液として存在する陽極槽内の
ように,コールピッチを主体とした珪砂混合物を用いるG9実験
では,黒鉛電極を用いた食塩電解工程における場合よりも,ピッ
チに含まれるジベンゾフランの塩素化が容易に進行するものとい
える。

したがって,G9実験は,実際の食塩電解工程で用いられる黒
鉛電極のピッチに含まれるジベンゾフランの塩素化反応と同一の
結果を示すことはできない。

また,G9教授の意見書においては,ラッペらの論文(乙44
の1・2。以下ラッペ論文という。
)において示されたポリ塩

化ジベンゾフランの同族体組成比のパターンをRタイプとしてい
るが,同論文で示されたポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比
のパターンも,当時の食塩電解工場における特定の食塩電解条件
下における同族体組成比の一つを示すものにすぎない。

さらに,G9実験で示された経時的な同族体組成比の変化の状
況から考えて,ラッペ論文において示されたポリ塩化ジベンゾフ
ランの同族体組成比のパターン(5塩素化体の割合が最も高く,
次に6塩素化体の割合が高いもの)は,実験開始後の35日目から42日目の期間中に生成されたとみる余地がある。仮に,
G9実験が当時の食塩電解装置の稼働状況を正確に再現している
とすると,
ラッペ論文で示された食塩電解装置は,
約7か月から14か月の期間にわたって継続的に稼働したとされているにもかかわらず,一方では稼働中の35日目頃において電解槽内のピ
ッチを含む溶液を土壌中に排出するために稼働を止めていたこと

になり,不自然である。また,
約7か月から14か月の期間に
わたって塩素化反応を受けていたのであれば,ラッペ論文におい
て示された同族体組成比も6塩素化体が卓越するなどの高塩素化
体となるはずであるが,そのようになっていない。
加えて,ラッペ論文に示された黒鉛電極のスラッジ中のダイオ
キシン類の同族体組成比は,5塩素化体>4塩素化体=6塩素化
体>8塩素化体>7塩素化体であり,5塩素化体が卓越し,8塩

素化体が7塩素化体よりも割合として多く存在しているところ,
このような同族体組成比の構成は,G9実験の結果には見当たら
ない。

そして,隔膜法においては,不要な汚泥の沈積の結果,隔膜の
目が閉塞するため,隔膜が約3か月に1回交換され,汚泥は機械

的に除去されることから,黒鉛電極は3か月ごとの比較的短期間
の塩素化反応を受けていたことになるのに対して,水銀法では,
7~14か月の長期間にわたって塩素化反応を受けていたことか
らすれば,隔膜法では水銀法よりも塩素化反応が進んでいないポ
リ塩化ジベンゾフランが生成するといえる。


以上からすれば,G9実験の結果も,食塩電解工程における黒
鉛陽極に含まれるジベンゾフランと塩素の反応によって生じる一
つの同族体組成比を示すにすぎず,本件対策地域において検出さ
れたダイオキシン類の発生原因を特定するための唯一絶対の基準

となるものではないというべきである。
(d)王子工場の食塩電解工程においては,電力状況の悪化,製造設備の老朽化による実質的能力の低下により,その都度,必要に応じて黒鉛電極又は石綿隔膜の取替え,更新が行われ,その際にダイオキシン類を含む汚泥(スラッジ,マッド)が本件対策地域に排出され
た。また,黒鉛電極自体の品質の低下により,1か月などの短期間のうちに容易に崩壊する製品が食塩電解工程において用いられていた。
したがって,本件電解工場における食塩電解工程で使用する黒鉛
電極の結合材
(ピッチ)
に含まれるジベンゾフランの塩素化反応は,
このような不安定な電力状況及び生産設備の能力低下の影響を受けるとともに,短期間で取替えとなり,又は崩壊する黒鉛電極の使用
や,石綿隔膜の更新時の洗浄除却などにより,少なくとも陽極スラッジ(汚泥)の除去間隔が短期間に及ぶことがあり,この結果,G9実験の結果を前提としたとしても,塩素化の進行程度がより低いポリ塩化ジベンゾフランが本件対策地域に排出されたことも優に認められる。

(e)以上のとおり,G9実験は,本件対策地域において検出されたダイオキシン類の発生原因の特定に関し,原告らの主張するOタイプ及びRタイプの違いをもって,唯一の判断基準とする誤りを犯しており,信用することができない。
(エ)食塩電解工程において発生するダイオキシン類以外の類縁化合物である高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素の共存
a
黒鉛電極を用いた食塩電解工程における陽極スラッジに生成する塩素化多環芳香族炭化水素は,ポリ塩化ジベンゾフランよりもはるかに多く,また,黒鉛電極を用いた食塩電解工程における陽極スラッジに
よる汚染土壌においては,塩素化多環芳香族炭化水素がダイオキシン類よりもはるかに高濃度で共存しているとの科学的知見があるところ,本件対策地域から検出されたダイオキシン類は,塩素化多環芳香族炭化水素がダイオキシン類よりもはるかに高濃度で共存しているという特徴がある。このことなどから,上記ダイオキシン類が黒鉛電極を用
いた食塩電解工程における陽極スラッジに由来するということができる。
b
この点について,本件電解工場操業当時の食塩電解工程において,ダイオキシン類と高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素が発生することは乙20号証の実験から明らかであるところ,原告らは,この実験において大量のピッチを加えるなどしたことは,実験条件として適切ではないと主張する。

しかしながら,
上記の実験条件が正当なものであることは,
前記(ウ)
bのとおりである。
c
原告らは,類縁化合物はありふれた物質であるから特徴的なものであるとはいえない,また,ポリ塩化ジベンゾフランと高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素が独立に発生した可能性があると主張する。

しかしながら,本件対策地域の土壌に含まれていた高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素は,多環芳香族炭化水素と塩素が共存した状態でなければ発生するものではなく,ありふれた物質ではない。また,処分行政庁は,上記の各物質が共存する場合にどのような発生原因から考えられるのかについて,大正期から昭和40年代まで過去に行われ
てきた工業製品の製造過程から発生するダイオキシン類の特徴を比較したが,そのような特徴を持つダイオキシン類は,黒鉛電極を用いた苛性ソーダ製造工程におけるダイオキシン類以外には見当たらない。したがって,原告らの主張は失当である。
(オ)ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程に関する原告らの主張について
a
原告らは,王子工場においてはルブラン法による一連の炭酸ナトリウムの工業的製造工程(ルブラン法関連工程)及びさらし粉製造工程があり,これらの工程にはジベンゾフランと塩素の反応が存在したた
め,本件土壌汚染に係るダイオキシン類はこれらが発生原因の可能性がある旨主張する。
b
しかしながら,原告日産化学は,東京都北区環境審議会ダイオキシン部会(以下単にダイオキシン部会という。
)に対して,ダイオキ
シン類の排出原因と思われる設備製品を三つ挙げたにもかかわらず,・
上記の各工程を挙げていない。これは,原告日産化学自身がこれらの工程を本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因と考えていない
ことの証拠といえる。
c
本件対策地域は,その地歴に照らして,大正7年から大正15年までの期間に埋立て等の土地整備が行われたものであるところ,ルブラン法によるソーダ製造は,大正6年までは主力として,大正7年から大正9年まで及び大正11年は副次的に行われ,その後は実施されて
いないのであるから,本件対策地域におけるルブラン法関連工程によるソーダ事業に起因するダイオキシン類等の汚染関与は,認められないというべきである。
d
また,文献によれば,本件対策地域におけるさらし粉の反応室は,石やレンガで建造された石室ではなく鉛室であり,その床面

にコールタールでコーティングがされたものではなかったから,ジベンゾフランを含有するコールタールと塩素の化学反応が存在していた場所が王子工場のさらし粉製造工程にあったということはできない。仮に,関東大震災の際に,さらし粉鉛室1棟の倒壊とそれに伴う何らかのダイオキシン類の排出の可能性が存在したとしても,本件対策
地域の広範囲にわたってダイオキシン類による高濃度の汚染地域が認められ,表層土壌から深い層の土壌までダイオキシン類による汚染が検出されたこと等の事実関係に照らし,上記倒壊によって本件対策地域におけるダイオキシン類の土壌汚染を説明することはできない。e
ルブラン法関連工程のうち塩素製造工程(塩酸吸収塔,二酸化マンガン法)及びさらし粉製造工程においては,食塩電解工程と同様に高濃度のポリ塩化ジベンゾフランを主体とするダイオキシン類が生成する可能性が考えられるが,これらはコールタールに含まれるジベンゾフランの塩素化反応によって生じたものであることから,コールタールに含まれるジベンゾフラン以外の含有化合物も塩素化反応を受けるものと推測される。しかるところ,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程で使用されるコールタールが塩素化反応を受けた場合に生成する塩素化合物は,黒鉛電極結合材であるタールピッチの場合と異なり,1環や2環の塩素化合物が生成するとともに,3環~5環の塩素化合物の生成割合が低いものと推定される(なお,本件対策地域では
前記(エ)aのとおり塩素化多環芳香物炭化水素が存在する。。

さらに,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程の残渣による汚染土壌の特徴は,高濃度のダイオキシン類とともに,硫酸製造に由来する高濃度のヒ素,鉛,銅などの非金属・重金属が存在するところ,本件対策地域においてはダイオキシン類濃度と鉛濃度や銅濃度との相
関は認められなかった。その上,本件対策地域からは,上記各工程の残渣によって汚染された地域から採取された土壌試料から検出されたダイオキシン類の最高濃度を超えるダイオキシン類が検出されている。したがって,本件対策地域における主要な原因物質がルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程に起因した廃棄物である可能性は,極め
て低いものというべきである。
(カ)その他の原因に関する原告らの主張について
原告らは,①山火事,焼き畑,田畑での不要物の焼却によるダイオキシン類の排出,②関東酸曹が製造した農薬,輸入農薬等の各種化学製品によるダイオキシン類の排出,③ゴミ焼却炉,工場の煙突からのダイオ
キシン類の排出,河川の氾濫による他の工場で発生したダイオキシン類の流入の可能性があると主張する。
しかしながら,①及び②については,ジベンゾフランと塩素とが反応したものではなく,
本件土壌汚染に係るダイオキシン類とは異なるから,
本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因とはいえないし,②のうち製造された農薬の点については,ダイオキシン類の発生が問題となっている農薬の国内生産は第二次世界大戦後(以下戦前戦後は第


二次世界大戦前,後を指す。
)に開始されたものであり,②のうち輸入農
薬の点については,これが使用されていた証拠もない。また,③については,気流や河川の氾濫によってダイオキシン類のうちポリ塩化ジベンゾフランのみが混入し,大規模な土壌汚染が発生する自然現象は起こりえない。


食塩電解工程において汚泥が発生すること
(ア)食塩電解工程により,黒鉛電極は炭酸ガスとして摩耗消滅するとともに,
崩落,
剝離してダイオキシン類を含む不要物である汚泥
(スラッジ,
マッド等)となる。王子工場の生産を始めた大正6年から生産を全面停
止した昭和44年まで,食塩電解工程ではダイオキシン類を含む不要物である汚泥が苛性ソーダの生産に伴って必ず発生し,隔膜に沈殿するため,この汚泥を機械的に取り除き,あるいは堆積した汚泥を除去しなければ操業ができなかったし,黒鉛電極は消耗し崩壊するため1年半に1回程度,隔膜は3か月に1回程度交換する必要があった。

(イ)食塩電解をした際に生成するダイオキシン類の検証実験である乙18号証の実験において,黒鉛電極重量の1割程度の黒鉛が8日間で剝離してスラッジとなることが確認されているし,食塩電解工程において汚泥が発生することは,王子工場や過去の食塩電解工程に係る文献の記載からも明らかである。さらに,本件対策地域には大量のダイオキシン類汚
染土壌が現に存在し,これは食塩電解工程で隔膜に付着した黒鉛末,電解槽に堆積した汚泥等を機械的に除去したものと考えるほかなく,除去された汚泥を王子工場内に埋め立て,撹拌し直接処理したと考えるほかない。
これらからすれば,
上記(ア)のとおり汚泥が発生したことは明らか
である。

原告らがダイオキシン類を含む汚泥を排出していたこと
(ア)本件対策地域において確認された土壌汚染状況からすると,本件電解工場において生成された高濃度のダイオキシン類が電解槽に沈殿した汚泥に含まれることとなり,その汚泥が操業期間を通じて,本件対策地域内で池などを直接埋め立てるなどして排出され続け,土壌を汚染したものと考えられる。

なお,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)が制定されたのは,原告日産化学が工場を撤去した昭和45年3月以降のことであり,大日本人造肥料及び原告らが本件電解工場を操業していた期間において,ダイオキシン類を含む産業廃棄物については規制がなかったため,これら3社だけでなく同業他社においても,ダイオキ
シン類を含む産業廃棄物を無害化して処理する取扱いはされていなかったと考えられる。
(イ)この点について,原告らは,①建物の敷地の下からダイオキシン類が検出されたこと,②近隣のG5敷地からダイオキシン類が検出されたことが,それぞれ原告らによる汚泥の排出と整合しない事情であると主張
する。
しかしながら,王子工場の建物の建築位置は常に一定であったわけではない上,本件対策地域においては原告日産化学から日本住宅公団に土地が引き渡された際に王子工場内の土壌を用いて大規模に土地の平準化が行われている。したがって,本件電解工場付近に存在していた汚染土
壌が他の本件対策地域等に及んだものと考えられるのであり,上記①の事情は原告らによる本件対策地域内への汚泥の排出と矛盾するものではない。
また,王子工場に近接するG5敷地からダイオキシン類が検出されたことは,原告らによる本件電解工場の操業と何らかの関連があると解釈するのが自然であり,何らかの理由により王子工場内のダイオキシン類を含む土砂又は汚泥が当該地に移置された可能性が高い。例えば,G5
敷地においては,昭和20年4月13日の東京大空襲で倉庫1棟以外の設備が全て焼失したが,そのわずか3か月後に工場が再建されていることからすれば,近接した王子工場内の土壌等を利用して埋立て等の整地をした可能性が考えられる。また,同空襲により本件電解工場由来のダイオキシン類を含む土壌が飛来するなどした可能性や,原告らの主張を
前提とするならば隅田川の氾濫により本件電解工場由来のダイオキシン類を含む土壌が流出した可能性なども考えられる。したがって,上記②の事情は,本件土壌汚染に係るダイオキシン類と共通する別の発生原因があることをうかがわせるものではなく,原告らによる本件対策地域内への汚泥の排出と矛盾するものではない。

(ウ)前記アのとおり,原告らは本件電解工場においてダイオキシン類を発生させ,前記イのとおり同工場の食塩電解工程において汚泥が発生していたことからすれば,この汚泥にはダイオキシン類が含まれているといえるところ,
上記(ア)のとおり,
原告らはこの汚泥を本件対策地域内に排
出していた。

したがって,原告らが,食塩電解工程由来のダイオキシン類を本件対策地域に排出したことは明らかである。

小括
以上によれば,原告らは,本件電解工場の操業に伴って,それぞれ本件
土壌汚染に係るダイオキシン類を発生させ,これを排出したといえる。(原告ら共通の主張)

本件土壌汚染に係るダイオキシン類が本件電解工場の食塩電解工程由来であるとはいえないこと
(ア)本件対策地域の地歴に関する被告の主張について
a
被告が提出する証拠(乙12)によれば,自然地層に環境基準を超える濃度のダイオキシン類の汚染が存在していることが認められ,このことからすれば,化学工場建設前にダイオキシン類の発生原因が存在しないということはできない。

b(a)被告は,搬入土のうち1388㎥が畑土や山砂であることを理由としてダイオキシン類が含まれている可能性が乏しいとし,残りの7934㎥についてはその量がわずかであるとして無視しているが(なお,搬入土の具体的な量は証拠がない。,非科学的な判断とい)
わざるを得ない。
(b)搬入土が汚染されていないのであれば,少なくとも表層部からはダイオキシン類が検出されないという結果になってもおかしくない
ところ,表層や深度-1mの箇所からもダイオキシン類が検出されている。
また,少なくともG3公園(南)については,王子工場撤去後昭
和54年頃までは全く平らであったが,平成9年頃までに一部が盛土され,約2m高くなったところ,この盛土部分はダイオキシン類
に汚染されている。
なお,
被告は,
原告らが根拠とする調査結果
(甲
A13の1)
には,
特定の地点についての被告の調査結果
(乙46)
が反映されていないと主張するが,原告らの主張は当該地点だけでなく,G3公園(南)全体についてのものであるから,被告の主張は原告らが根拠とする調査結果(甲A13の1)の結論を揺るがす
ものではない。
以上からすれば,本件対策地域の搬入土自体が,ダイオキシン類
に汚染されていたといえる。
(c)また,被告は,搬入土を本件対策地域に等しく置いた場合の厚さは約59cmであり,ダイオキシン類が高濃度で検出された深さ2m~4m程度の層全体には影響しないと反論する。しかしながら,搬入土が本件対策地域に等しく置かれたという前提自体が認められ
ないから,被告の主張には理由がない。
(イ)検出されたダイオキシン類の種類,構成組成比等の特徴に関する被告の主張について
a
フーカーS型電解槽の黒鉛電極からポリ塩化ジベンゾフランが発生しないこと
食塩電解工程で用いられる焼成成形された黒鉛電極には,タールやピッチはほとんど残存していないし,仮に,食塩電解工程における黒鉛の酸化反応により剝離した黒鉛粒子に黒鉛電極の結合材として添加されたピッチ
(ジベンゾフランを含んでいる。がごく僅かに付着して


いたとしても,ピッチやジベンゾフランは黒鉛同様に炭素を主成分としており,
かつ,
黒鉛よりも酸化を受けやすい有機化合物であるため,
崩落した黒鉛粒子のガス化よりも先にガス化して消失する。
なお,
乙18号証の実験は,
実験に用いた黒鉛電極の約1割相当が8日間で剝離・堆積したという過酷な電解条件で実施されたもので
あって,フーカーS型電解槽の電解条件とはかけ離れている。また,乙18号証の実験及び乙20号証の実験では,現実の食塩電解工程とは異なる大量のピッチを加えているが,現在市販されている黒鉛電極を使用して,当時(実験で再現しようとしている時代)の黒鉛電極に入っていたピッチとの差を埋めようとするのであれば,両者の違いを
可能な限り正確に検証した上,
加えるピッチの量を計測すべきところ,
そのようなことがされていない。乙18号証の実験における黒鉛の剝離により陽極溶液中には,多くのピッチが含有される可能性があるとの指摘は,飽くまで著者らの推測に過ぎず,フーカーS型電解槽の電解条件において,黒鉛電極から剝離・堆積したものや着色された溶液が目視で確認された事実はない。以上のとおり,黒鉛電極には,塩素の反応相手となるタールやピッ
チ中のジベンゾフランはほとんど存在せず,したがって,フーカーS型電解槽の黒鉛電極からポリ塩化ジベンゾフランが発生するとはいえない。
b
フーカーS型電解槽においてダイオキシン類が発生する場合にはOタイプが排出されないこと
(a)ジベンゾフランに塩素原子が順次結合する反応には,反応が進みやすいステップと進みにくいステップが存在し,水中のジベンゾフランと塩素の逐次反応では,1塩素化から4塩素化までは速やかに進行するが,4塩素化から5塩素化への反応は著しく遅い。したが
って,同じポリ塩化ジベンゾフランであっても,Oタイプ(4塩素化体が最も多い。とRタイプ

(5塩素化体~7塩素化体が最も多い。

では塩素化の程度に大きな相違があるところ,これはジベンゾフランと塩素の反応条件における大きな相違を示している。
したがって,
同じ反応条件が維持される工業生産の同一工程(同一の汚染源)か
ら,ジベンゾフランと塩素の反応条件が大きく異なる両タイプのポリ塩化ジベンゾフランが生成し,排出されることはあり得ない。
また,フーカーS型電解槽の装置の仕様及び運転条件に基づきそ
の反応条件を再現したG9実験によれば,固体のピッチと溶存塩素の70℃付近での反応は,反応開始から7日目の試料では4塩素化
体が卓越するOタイプとなり,1か月を境に6塩素化体が卓越し始め,遅くとも49日目にはOタイプからRタイプに移行し,Rタイプが長く持続し,
98日目の試料においてもRタイプが観測された。
被告は,隔膜法では隔膜の交換寿命を考慮すると黒鉛陽極の塩素
化反応期間は水銀法よりも短いことから,水銀法によるものに比べて塩素化反応が進んでいないポリ塩化ジベンゾフランが生成すると主張するが,上記実験結果によれば,仮に3か月の時点で食塩電解装置からダイオキシン類が排出されたとしても,そのダイオキシン類は全てOタイプではなくRタイプの同族体組成比を示すことになる。
しかしながら,本件対策地域から検出されたポリ塩化ジベンゾフ

ランの同族体組成比は,ほとんどすべてがOタイプを示しているという点で共通しており,このことは,本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因が本件電解工場由来ではないことをうかがわせるものである。
(b)被告は,①食塩電解工程で生成されるダイオキシン類の同族体組
成比は,原料の純度又は性質,製造装置,反応条件等によって変動し,実際にも食塩電解工場ごとに反応条件等は異なる上,陽極槽内の有機物が汚泥として排出されるまでの電解時間及び陽極槽内の存在位置によって塩素にさらされる程度に依存して塩素化の程度が異なるため,一様ではないこと,②本件対策地域で生成,汚染された
ダイオキシン類含有量が極めて微量であるため,反応条件等の僅かな変化によって,ポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比が容易に変動を受けることから,実際の食塩電解工程の稼動条件を考慮せずに,単に生成されるポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比を基準として発生原因を特定することはできないなどと主張する。

しかしながら,ダイオキシン類の同族体組成によって発生源を特
定するという方法は,ごく一般的に採用されている標準的な方法であり,そもそも被告自身が本件各決定に添付した公害防止事業費事業者負担法に基づく費用負担計画の考え方について(甲A10
〔別紙3〕
。以下本件費用負担計画の考え方という。
)において
採用している方法である。
食塩電解工程やルブラン法関連工程,さらし粉製造工程等のその
他の製造工程は,それぞれ工程に固有の反応条件を定め,一定の条件のもとで設備を稼働させる工程である。いかなる化学反応にせよ最適の反応条件が存在するのであって,生産効率と経済性の向上が最重要課題とされる工業生産において,一定の品質の製品を可能な
限り効率よく量産しようと試みるのであれば,設備の稼働条件は最適化された一定の条件となるというのが必然的な帰結である。したがって,工業生産に伴ってダイオキシン類が副生される場合にあっても,必然的に一定の操業条件のもとで一定に塩素化されたダイオキシン類が生成され,その結果,副生されたダイオキシン類は一定
の同族体組成比を示すことになる。そのことから,ダイオキシン類の同族体組成比,すなわち塩素化の程度は,それがいかなる反応条件によって生成されたものであるのか,いかなる製造工程や設備等に由来するものであるのかを特定する重要な手掛かりとなる。ダイオキシン類の同族体組成比におけるOタイプとRタイプとの差異は,
ダイオキシン類の生成過程における反応条件が大きく異なること,すなわち,発生源に重要な差異があることを示すものであることは前記(a)のとおりであり,
これは発生源の特定のために極めて重要な
手掛かりとなる。
また,ジベンゾフランと塩素の逐次反応によって生成されたポリ

塩化ジベンゾフランの塩素化の程度と,生成されたポリ塩化ジ
ベンゾフランの量は,全く次元の異なる問題であり,両者の間
に相関関係はないから,この点をもって同族体組成比を利用したダイオキシン汚染源の特定が適切ではないということはできない。
(c)さらに,G9実験は,陽極槽の温度を70℃として実験を行っているところ,被告は,この実験条件は異なる型の電解槽の文献値を参考にしているものである上,過去のソーダ工業では90℃よりも高温で電解を行っていたから,実験結果は妥当でないと主張する。しかしながら,70℃という温度は,フーカーS型電解槽と隔膜
式食塩電解装置としての基本的な構造,仕様等に差異がないフーカーH-4型電解槽の実験条件を参考にしたものであり,陽極槽の温
度の点でも相違がないものと考えられるし,類似の装置を参考に実験の前提条件を設定することは一般的に行われている。
また,高温の環境下では,ジベンゾフランと塩素の逐次反応は加
速され,より短時間で高塩素化が進行することになることから,被告が主張するように本件電解工場において電解槽の温度を90℃と
して操業が行われていた場合であっても,仮にポリ塩化ジベンゾフランが排出されたとすれば,全てRタイプを示すはずである。
被告は,G9実験で検出されたRタイプのダイオキシン類につい
て,ラッペ論文に示されているポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比と比較して塩素化反応の進行の程度が低いことなどを指摘し,
G9実験の実験結果はラッペ論文において示されたポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比のパターンであるRタイプの生成について証明していないなどとも主張する。しかしながら,G9実験は,飽くまでもフーカーS型電解槽において塩素とジベンゾフランの反応があった場合の反応条件を設定したものであって,ラッペ論文等の
再現を試みたものではないから,被告の主張は反論として失当である。
加えて,被告は,本件電解工場の操業期間を通じて非定常的な運
転状況にあったとして,同工場において生成されるダイオキシン類が一定の同族体組成比を保っていたことを否定する旨の主張をする。しかしながら,被告が主張するように,戦災や関東大震災など非定常状態も含めて塩素化の反応時間に変化が生じたというのであれば,
本件対策地域からは様々な同族体組成を示すポリ塩化ジベンゾフランが検出されるはずであって,Oタイプのみが検出されるということはあり得ない。そうであれば,本件対策地域のポリ塩化ジベンゾフランは,Oタイプを生成する反応条件での発生源に由来するとみるのが相当であり,被告の主張は理由がない。

(ウ)高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素の共存に関する被告の主張について
被告は,本件対策地域におけるダイオキシン類による土壌汚染について,高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素の共存といった事実などから,黒鉛電極を用いた食塩電解工程における陽極スラッジに由来するといえる旨主張する。
しかしながら,被告がその根拠とする乙20号証の実験は,陽極に黒鉛電極ではなくチタン電極を使用し,当時の黒鉛電極に含まれていたピッチを加えているところ,これは隔膜法による食塩電解工程とは異なる
条件である上,当時の黒鉛電極に含まれていた分量を再現するために必要なピッチの量を計測せずに,これを投入しているのであるから,このような実験結果は食塩電解工程において高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素が発生したことを基礎付けるものではない。
また,上記実験において類縁化合物の発生原因となるとされる多環芳
香族炭化水素は,炭素の不完全燃焼過程からも容易に発生する極めてありふれた物質であるから,その類縁化合物は,食塩電解工程以外の様々な原因によって発生したものと考えられる。
そして,ダイオキシン類も塩素化多環芳香族炭化水素も,様々な物質から独立に発生し得るものであるから,両者の発生が確認されたとしても,両者が同一の工程から発生したとする被告の主張は推測の域を出ない。
加えて,後記のとおり,ルブラン法関連工程やさらし粉製造工程においても,ピッチやコールタールと塩素との反応過程があるために,高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素が発生するものであるから,塩素化多環芳香族炭化水素の種類や組成比を根拠として,本件対策地域の汚染源を
食塩電解工程と特定することはできない。
(エ)ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程が原因である可能性についてa
王子工場に存在したルブラン法関連工程のうち硫酸ナトリウム(芒硝)製造工程,塩酸吸収塔及び二酸化マンガン法による塩素製造工程並びにさらし粉製造工程(以上につき,塩素発生設備だけでなく,配
管を含む塩素使用設備における工程も含む。にも,

ジベンゾフランと
塩素の反応という化学反応の機構が存在する。そして,これらの工程で生成されるダイオキシン類の同族体組成及び異性体組成は食塩電解工程由来のものと同様のものを示すであろうし,高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素が共存する可能性もあるといえるから,本件対策地域
の汚染源を食塩電解工程と特定することはできない。
そして,さらし粉製造工程において生成するダイオキシン類は,Oタイプであった。
b
この点について,被告は,上記各工程で用いられるコールタールと黒鉛電極に含まれるピッチは性状や含有成分が大きく異なる旨主張する。
しかしながら,コールタールとピッチはいずれも多環芳香族炭化水素を含んでおり,その中にジベンゾフランが含まれている以上,ジベンゾフランと塩素の反応によりポリ塩化ジベンゾフランと塩素化多環芳香族炭化水素が発生するという生成機構は共通する。
また,ピッチはコールタールを蒸留して得られるものであるが,ル
ブラン法関連工程においてコールタールが継続的に繰り返し沸点を超える高温にさらされていたことや,ピッチはコールタールを加熱蒸留した際の残留成分であることを考慮すれば,ルブラン法関連工程のコールタールは,低沸点物が揮発して成分組成がピッチに近づいていたものと考えられる。

c
被告は,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程からの残渣による汚染土壌の特徴は,高濃度のダイオキシン類とともに,高濃度のヒ素,鉛,銅などの非金属・重金属が存在するところ,本件対策地域では,ダイオキシン類濃度と鉛や銅の濃度との相関関係が認められないと主張する。

しかしながら,土壌中の重金属は,ルブラン法関連工程のうち最初の製造プロセスである硫酸ナトリウム(芒硝)製造の原料の一つである硫酸の製造に由来するものであって,それ以降のプロセスと不可分一体のものではないし,王子工場のダイオキシン類と重金属には,明らかに濃度との共存相関が認められることからすれば,被告の主張に
は理由がない。
d
また,被告は,本件対策地域の土地利用の経緯及び王子工場におけるルブラン法関連工程によるソーダ事業の操業実態(大正9年に事業を休止し,大正11年頃まで副次的に操業していた。
)を考慮すると,

本件対策地域におけるルブラン法関連工程によるソーダ事業がダイオキシン類等による汚染に寄与したことは認められないと主張する。しかしながら,さらし粉製造に必要な塩素は,ルブラン法で製造される塩酸から製造されるものに限定されず,食塩電解工程で生成される塩素も用いられていた。そして,さらし粉製造工程は,ルブラン法関連工程の工場の稼動期間にかかわらず,大正12年以降も主力的に操業しており,本件対策地域上にさらし粉製造工程の反応室が存在し
ていた(大正12年の関東大震災で反応室は倒壊したが,その後昭和6年までに建築されている。。

e
さらに,被告は,文献の記載からすると,王子工場内のさらし粉の反応室は
鉛室
であり,
コールタールが使用されていなかったから,

そもそもこれらと塩素とが反応していたとはいえない旨主張する。しかしながら,
鉛室と記載されている日産化学80年史
(乙
35の2)
よりも前に作成された大日本人造肥料株式会社50年史
(乙
81)には,コンクリート室も存在したことが記載されているし,鉛室と記載されていても,底部に鉛板が敷かれているだけであって,
それ以外の壁や天井のコンクリートには,塩素による劣化を防止するための被覆措置として,高価な鉛ではなく安価なアスファルトが使用されていたとみることが自然であるから,本件対策地域上のさらし粉製造工程に,塩素とジベンゾフランの反応があったことは明らかである。

(オ)その他に考えられる本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因本件土壌汚染に係るダイオキシン類のうちジベンゾフランと塩素との反応を主とするダイオキシン類の他の発生原因としては,①山火事,焼き畑,田畑での不要物の焼却によるダイオキシン類の排出,②関東酸曹が製造した農薬,輸入農薬等の各種化学製品によるダイオキシン類の排
出,③ゴミ焼却炉,工場の煙突からのダイオキシン類の排出,河川の氾濫による他の工場で発生したダイオキシン類の流入の可能性がある。イ
食塩電解工程において汚泥が発生するとの主張について
(ア)本件電解工場では隔膜法を採用していたところ,隔膜法による食塩電解工程では,次のとおり,
電解槽のメンテナンスの際に電解槽か
ら排出されるスラッジや隔膜に付着する汚泥(スラッジ)は存在せず,
多少の付着物は全て循環し,反応系の外に出ることはなかった。
a
本件電解工場においては,電解槽に至る前段階の工程において,電解槽からの循環塩水を含む工程塩水として,溶解した原料塩に塩化カルシウムを混ぜて硫酸イオンを取り除き,その後,苛性ソーダ,ソーダ灰を混ぜてカルシウムイオン,マグネシウムイオンを除去する。その際,上澄みと不要物の懸濁液が発生し,上澄みは電解槽に送られる
が,懸濁液は電解槽に送られることなくそのまま工場外へ放流される(別紙8参照)

b
電解槽の中では,
黒鉛電極が時間の経過とともに少しずつ崩壊する。
この黒鉛は酸素と反応し,炭酸ガスとなり,製品である塩素ガス中に
混入して反応系外に出るが,気体であるので大気中に拡散する。電解中に発生した不純物などが電解槽及び隔膜に多少付着することがあるかもしれないが,これらは特定の洗浄場所で洗浄され,洗浄水には食塩が含まれているので,電解後に電解槽から排出される循環淡塩水に合流させ,再度原料塩とともに電解槽に戻される。したがって,電解
槽や隔膜の付着物は,全て循環し,反応系外に出ることはない。
なお,黒鉛電極は,消耗するので一定期間が経過すると取り替えるが,黒鉛はそれなりの価値があり有価物として売却可能であるので,交換の際に業者に売却していた。
(イ)被告は,別紙7の文献を根拠として,食塩電解工程による苛性ソーダ
の生産には,ダイオキシン類を含む汚泥(マッドやスラッジ等と呼ばれる。が必ず生じ,

これを処理しなければ王子工場を操業することができ
なかった旨主張する。しかしながら,これらの文献には主張の根拠となる事実が記載されていないか,記載内容を曲解するなど,原告らが王子工場において稼働させていた装置と異なるものを稼働させていたかのごとく主張するものであり,これらの文献から被告の主張が結論付けられることはない。

また,被告は,乙18号証の実験を汚泥発生の根拠として挙げるが,この実験においても,黒鉛電極が崩壊し,それが電解液とともに流出しないような汚泥となるという結果は示されていない。
(ウ)したがって,本件電解工場において汚泥が発生したということはできない。


原告らが汚泥を排出したとの主張について
(ア)本件対策地域においては,工場や倉庫等の建物が密集していた場所からダイオキシン類が検出されているが,そもそも建物が建っている土壌の下に不要物である汚泥を廃棄することはできないのであるから,この
ことは原告らが汚泥を廃棄していないことを裏付けるものである。なお,
工場内の一部の建物は建て替えられているが,全部が建て替えられているわけではないし,不要物である汚泥を投棄していた場所に建物を建築することは考え難い。
(イ)ダイオキシン類は,王子工場と道路を挟んで10mの距離にあり,王
子工場を操業していた会社が所有や占有をしたことがないG5敷地からも発見されている。このことからすれば,王子工場とG5敷地が,何らかの同じ理由により外部から汚染されたことによって上記ダイオキシン類により汚染された可能性も否定できない。
この点について,被告は,原告らが排出した汚泥をG5敷地に移置し
たなどと主張して幾つかの可能性を挙げるが,他社に立ち入り不要物である汚泥を投棄することは考え難い。また,G5敷地のダイオキシン類と本件対策地域のダイオキシン類が,類似の同族体組成比及び異性体組成比を有していることを裏付ける証拠はない。
(ウ)以上のとおり,原告らが汚泥を排出した旨の被告の主張と整合しない事情が認められるから,被告の主張には理由がない。
(原告日産化学の主張)
ア(ア)上記(原告ら共通の主張)のとおり,原告日産化学は食塩電解工程において,ダイオキシン類を生成し,排出したことはない。
これに対して,原告JX金属は,主として争点(4)イに関して,本件対策地域のうち表層部の汚染はほぼ全てが第二次世界大戦終了後に生成し,
排出されたものであると主張し,これを裏付ける証拠として,G10株式会社作成のα地域ダイオキシン類土壌汚染に係る詳細調査委託要約報告書(甲B18)
,同α地域ダイオキシン類土壌汚染に係る詳細調査委託報告書
(甲B19)及びG11教授作成のα地域ダイオキシン類土壌汚染に係わる埋め立て物の年代推定に関する意見書甲B2(
0。
以上を併せて
前訴G11意見書等
という。を提出する。

そして,
被告は,前訴G11意見書等に記載されている内容のうち,本件対策地域における盛土部及び表層部分に分布するダイオキシン類は,ほぼ全てが戦後に生成,排出されたものであるとの主張は本件訴訟では行わない(撤回する)と主張するものの,分析方法は適切であったと主張し,こ
れを裏付ける証拠として,被告が撤回した主張の結論は適切である旨を述べる上記G11教授の陳述書
(乙78。G11陳述書
以下
という。

を提出する。
しかしながら,以下のとおり,前訴G11意見書等及びG11陳述書の内容は適切ではなく,本件対策地域の土壌において第二次世界大戦終
了後に生成し,
排出されたダイオキシン類があるということはできない。
(イ)前訴G11意見書等の骨子は,堆積層ではない本件対策地域の土壌について,鉛の安定同位体比を測定することにより,既存の論文の研究成果を利用して,土壌中のダイオキシン類の発生年代を明らかにすることができるというものである。
しかしながら,前訴G11意見書等は,①鉛の同位体を用いた二つの測定法である,鉛の放射性同位体(210Pb)を用いた測定法(堆積速度を求めて堆積層が形成された年代を推定するもの)と,鉛の安定同位体(204Pb,206Pb,207Pb,208Pb)を用いた測定法(鉛鉱石の産地を推定する手掛かりになるもの)の二つの測定法を混同し,後者の測定法を用いて土壌試料の年代測定が可能であるとしている点,②堆積
層ではない本件対策地域の土壌について,堆積層において年代推定を行った既存の論文の研究成果を利用することによって年代測定が可能であるとしている点,③鉛とダイオキシン類が混在して排出され,同時に土壌に堆積したという前提が満たされているか明らかでないにもかかわらず,土壌中にダイオキシン類と鉛が共存していることからダイオキシン
類の発生年代を推定することができるとしている点,④既存の論文の研究成果において,大正9年から昭和20年までの区分の試料の安定同位体比と,同年以降の区分の試料の安定同位体比には有意な相違がないとされているにもかかわらず,各試料における本件対策地域の表層部の鉛の産地が,既存の論文の研究成果に示された戦後に堆積した鉛の産地と
一致する(表層部の鉛の安定同位対比が,同年以降の区分の試料の安定同位対比と一致する)としている点において,誤っている。
(ウ)aG11陳述書は,年代推定に関する前訴G11意見書等の分析方法については適切性を欠くような誤りはないとした上で,本件対策地域中のダイオキシン類を含む土壌のうち,同族体組成比による分類では
4塩素化体のダイオキシンが多く,異性体組成比による分類では特に1,3,6,8-塩素置換体の存在割合が高いものであって,2.5m以浅の比較的浅い埋立部分に多く出現するグループ(前訴G11意見書等におけるグループ⑤。以下グループ⑤試料という。)は昭和
20年代以降に排出されたといえると述べ,その理由として,①グループ⑤試料からは王子工場で昭和20年以降に製造されたCNP(除草剤,
塩素系殺虫剤等に使用される化学物質である。の製造廃棄物が


検出されていること,②水底における堆積速度,本件対策地域の埋立地の深さや埋立期間を考慮すると,50cm以上の垂直方向を加味した埋立地試料について鉛の安定同位体分析をすることにより年代推定が可能であると判断されることを挙げる。
b
しかしながら,
王子工場において昭和20年以降CNPが製造され,
それが工場敷地に流出したとの前提に誤りがある。すなわち,原告日産化学がCNP原体を製造した事実はないし,昭和41年2月に王子工場についてCNPを有効成分の一つとする農薬製剤の製造登録を受けているが,実際に王子工場で製造された記録はなく(製造登録を受
けた製品は全て実際に製造するというものではない。,工場閉鎖の直)
前である王子工場において新製品を実際に製造したとは考え難い。仮に王子工場において上記農薬製剤を生産していたとしても,その製造工程は外部企業から供給を受けたCNP原体を他の原材料と混和した上で,成型し,包装して出荷するというだけの作業であって,その過
程において副生物等が生成されて残渣が発生するということは全くないし,経済性の観点からCNP原体や上記農薬製剤を工場敷地に流出させることも考え難い。
本件対策地域で発見されたCNPは,客土等によって外部から持ち込まれたものである可能性が非常に高く,あるいは,王子工場の閉鎖
後に更地となった本件対策地域を除草するために散布された除草剤に起因するという可能性も考えられる。
G11陳述書は,王子工場で昭和20年以降にCNPが製造され,それが工場敷地に流出したなどと断定し,そのことを理由にグループ⑤試料の埋立時期が昭和20年以降の王子工場の操業期間であるなどとしているのであり,上記a①の点が根拠に欠けることは明らかである。
c
G11陳述書は,210Pbは経年的に持続して陸域や水域に堆積す
るとした上で,水域における1mの底質の堆積期間が739~2660年であるのに対し,本件対策地域における埋立地は地表0~7m及び盛土0~2.5mで,埋立期間が大正6年~昭和38年の46年間であり,当該埋立地には人為的に継続して製造廃棄物等が埋め立てられている状況を考慮すると,少なくとも50cm以上の垂直方向を加味した埋立地試料について,鉛の安定同位体分析をすることにより時代推定が可能であると判断されるとする。
しかしながら,
50cm以上の垂直方向を加味
することの合理的

な根拠は明らかではないし,このことと前訴G11意見書等におけるグループ⑤試料の年代推計の方法の関係も明らかでない。また,前訴G11意見書等においても210Pbの分析をしていないのに,210Pbが経年的に持続して陸域や水域に堆積することをもって上記年代推計の適切性が担保されるのか不明である。

さらに,G11陳述書の上記内容は,当該埋立地には人為的に継続して製造廃棄物等が埋め立てられているとの前提で,水底における底質の堆積速度と本件対策地域の埋立地の深さや埋立期間からグループ⑤試料の年代推定の適切性が担保されるとするもののようであるが,本件対策地域に人為的に継続して製造廃棄物等が埋め立てられている
といった前提自体が根拠を欠いている上,水底における底質の堆積速度と本件対策地域の埋立地の深さや埋立期間から適切性が担保されることになるのかが不可解である(この見解は,製造廃棄物等による人為的な埋立てがあたかも水底における堆積物の形成と同様に均一の速度で進行する事態を前提としていると考えられるが,このような事態が起こることは考え難い。。

d
なお,G11陳述書は,原告日産化学が王子工場で使用された鉛の産地を示していないことを問題視する。しかしながら,大正9年から昭和20年の区分の試料の安定同位体比と昭和20年以降の区分の試料の安定同位体比には有意な相違がなく,いずれも国産鉛とは異なる外国産鉛に近い安定同位体比になっているといえるにすぎないから,鉛の産地を特定する必要がない。また,我が国において,鉛は戦前盛
んに輸入されたが戦後は国産鉛が主流になっていたことから,外国産鉛の安定同位体比を示すグループ⑤試料はむしろ戦前のものである可能性が高いといえ,それ以上に鉛の産地を特定する必要があるとはいえない。
(エ)以上のとおり,前訴G11意見書等の分析が不適切な分析であること
は明らかであり,グループ⑤試料の年代推定が適切であるとするG11陳述書の内容もまた不可解である。したがって,これらを根拠とする原告JX金属の主張も誤りであり,昭和20年以降に王子工場を操業した原告日産化学がダイオキシン類を排出した事実は認められない。

前記(原告ら共通の主張)イ(イ)記載の点に加えて,別紙7の4,5の各文献の記載内容は,戦後の食塩電解工程には当てはまらないから,少なくとも原告日産化学が本件電解工場を操業していた時期においては,別紙7の文献を根拠として,食塩電解工程による苛性ソーダの生産にはダイオキシン類を含む汚泥(マッドやスラッジ等と呼ばれる。
)が必ず生じ,これを

処理しなければ王子工場を操業することができなかった旨の主張は理由がない。
(原告JX金属の主張)

次のとおり,
表層部分のダイオキシン類は戦後に排出されたものである。
(ア)G11教授は,本件公害防止事業の実施地域における土壌ダイオキシン類濃度実測値の全1242データを分析することによって,ダイオキ
シン類が排出された時期を推定することを目的とする調査を実施し,その結果,
盛土及び表層部分において環境基準を超過している土壌のうち,
検体数においては約96%,ダイオキシン類濃度の合計値及び毒性等量においては約98%が,昭和20年以降に排出されたものであることが判明し,その結果を取りまとめた意見書(甲B20)を作成し,被告は
前訴G11意見書等を前訴において証拠として提出した。
したがって,前訴G11意見書等が専門家による合理的な調査結果である以上,表層土壌の汚染が昭和20年以降に発生したことは明白である。
なお,前訴G11意見書等においても,グループ⑤試料の大半は
戦後に埋立処理されたものと判断されたと記載されている部分があるが,これは結論に至る途中過程の部分にすぎない。また,年代測定の結果,第2次世界大戦前(1920年から1945年)に排出されたものと判断された資料があるが,
1945年
すなわち昭和20年を排出時期
に含んでいるし,前訴G11意見書等の分析方法が土壌中の鉛が生産さ
れた年代を測定するものであるため,これが土壌中に含まれるに至るまで時間差が生じることからすれば,戦後に排出されたことが否定されるものではない。
(イ)G11陳述書にも,グループ⑤試料(2.5m以浅の比較的浅い埋立部分に多く出現する。の処理年代は戦後であり,

前訴G11意見書等の

分析方法には,適切性を欠くような誤りがない旨の記載がある。その上で,G11陳述書には,深層土壌に戦後に排出されたダイオキシン類が存在した旨の記載がある一方,表層部分に戦前に排出されたダイオキシン類が存在した旨の記載がないことに照らせば,表層土壌の汚染は戦後に発生したものであるとの見解をG11教授が維持していることは明らかである。

本件対策地域の土壌から発見されたダイオキシン類が,戦時中などの異常時にのみ排出されたものであると考えるべき理由はない。すなわち,文献においても,本件対策地域上にあった施設について停電が発生したとは記載されていないし,昭和12年4月から昭和20年3月までの期間に王子工場で使用されていた黒鉛電極が1か月程度で消耗し尽くされる状況であったとも記載されていない。


原告JX金属がさらし粉製造工程からダイオキシン類を土壌に排出した事実はない。

(6)

本件費用負担計画及び原告JX金属に対する本件各決定が前訴控訴審判
決の拘束力又は趣旨に反し違法であるか否か(争点(4)ア)
(原告JX金属の主張)
前訴控訴審判決は,処分行政庁が原告日産化学を費用を負担させる事業者と定めた理由それ自体を違法と判断したわけではなく,処分行政庁の見解に沿った行政処分をするためには費用負担計画の変更又は新規策定をすべきであると判断したものである。

行政事件訴訟法33条1項に基づき取消判決にはいわゆる拘束力が認められていることから,処分行政庁は,前訴控訴審判決の趣旨に沿って行政処分を行うため,改めて費用負担計画を策定する際に,費用を負担させる事業者を定める基準について,例えばダイオキシン法29条1項の規定に基づきダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定された北区αの区域を含む土地において,第二次世界大戦終了後から工場を撤去するまで,工場の操業に伴いダイオキシン類を排出し,土壌の汚染を引き起こした事業者というように期間を限定した内容とすべきであった。それにもかかわらず,処分行政庁は,操業期間を限定せず,本件電解工場の操業者を全て含むように費用を負担させる事業者を定める基準を策定した上で,同費用負担計画に基づいて原告JX金属に係る本件各決定を行ったことから,同決定は違法である。(被告の主張)
被告が前訴の控訴審において追加した,戦後に生成し,排出されたダイオキシン類を排出した原告日産化学のみが負担者であるとの主張について,前訴の控訴審は,前回の事業者負担金の額を定めた各決定の基礎とされた費用負担計画とは異なる費用負担計画に基づく処分であると認定し,費用負担計
画に基づかない処分であるから違法であると判断した。
前訴控訴審判決は,このような違法性の指摘をしたものであり,判決の拘束力はその範囲で生じているのであるから,新たに本件費用負担計画を策定した上で行った原告JX金属に係る本件各決定が,前訴控訴審判決の拘束力に反することはない。

(7)

覆土措置である本件公害防止事業が原告JX金属の排出したダイオキシ
ン類による公害を防止するための事業に当たるか否か(争点(4)イ)(原告JX金属の主張)

表層部分の汚染は戦後に発生したものであること
前訴G11意見書等及びG11陳述書によれば,表層部分の汚染は戦後
に排出されたものであることは前記(5)
(原告JX金属の主張)
アのとおり
である。
また,被告は,前訴において,本件公害防止事業に係る公害を引き起こした者として費用負担を課されるべき事業者は,王子工場を戦後操業していた事業者である原告日産化学をおいて他にないこと,すなわち,仮に本
件電解工場からダイオキシン類が排出されたものと認められるとしても,それは昭和20年以降の王子工場の操業に起因するものにすぎないことを自認している。そして,被告はこの点に係る主張を撤回するが,併せて提出したG11陳述書の記載内容がむしろ原告JX金属の主張を裏付けるものであることは,前記(5)(原告JX金属の主張)アのとおりである。イ
覆土措置は表層土壌の汚染に対する措置であること
(ア)本件で実施された公害防止事業は,汚染土壌による曝露経路を遮断するため,事業実施地域に覆土等を行い,実施後の措置として覆土等の効果を維持するよう適切に管理するというものである。
覆土措置とは,汚染土壌が存在する範囲の上面を砂利等の仕切りにより覆った上で,厚さが50cm以上の汚染されていない土壌の層により
覆う措置であり,表層土壌(表層から50cm未満の深さまでの土壌)が汚染された土地におけるリスク管理の方法である。すなわち,覆土措置は,飽くまでも汚染された表層土壌が人体に接触することを防ぐための措置であり,深層土壌の汚染に対する措置ではない。仮に,表層土壌が汚染されておらず深層土壌のみが汚染されていた場合においては,既
に覆土措置が講じられている状態と同視できるため,同措置は不要であり,掘削の制限をすることで十分である。
したがって,本件公害防止事業に係る費用負担を課される事業者は,本件対策地域における表層土壌のダイオキシン類の汚染物質を生成し,排出した事業者である。

(イ)被告は,覆土措置は表層汚染に限らずに行われるものであり,本件対策計画及び本件公害防止事業が表層部分のみを対象としているという議論は失当であると主張する。
しかしながら,被告は,前訴控訴審において,公害防止事業の内容は覆土措置であり,表層土壌の汚染を対象としている旨主張していたので
あり,本件訴訟においてこれを撤回することは,訴訟法上の禁反言の法理に抵触し,許されない。
この点をおくとしても,東京都知事が定めて公告した対策計画の概要にも,覆土措置が曝露経路の遮断のための事業であることが記載されているし,東京都北区環境審議会(以下本件審議会という。
)が過去に
設置したダイオキシン専門部会においても,本件公害防止事業は覆土措置であり,同措置は表層部分の汚染のみを対象としているという内容の
結論が出ている。
(ウ)また,被告は,本件公害防止事業における覆土措置は土壌汚染対策法施行規則40条を参考にして実施したものである旨主張するが,同条が定める覆土(盛土)措置は,表層土壌に汚染がある場合の直接暴露を遮断するためのものにほかならない。


小括
したがって,本件公害防止事業は,原告JX金属の排出したダイオキシン類による公害を防止するための事業には当たらない。

(被告の主張)

表層部分の汚染は戦後に発生したものとはいえないこと
(ア)被告は,前訴控訴審において,前訴G11意見書等を提出し,本件対策地域の土壌ダイオキシン類濃度実測値の1242データを分析した結果として,このデータから408検体を抽出し,鉛同位体分析並びに金属類及び非金属の定量分析を実施した結果,そのうち盛土部分及び表層
部分に分布していた95検体は,ほぼ全てが昭和20年以降に排出されたものであると主張した。
しかしながら,前訴G11意見書等に係る分析方法は科学的に適切であるものの,本件対策地域には,その表層土壌のみならず,深い層の土壌においても,戦後に生成し,排出されたCNP由来の可能性のあるダ
イオキシン類が存在しており,このことは王子工場の除却及びその後の団地の造成等によって全体的にダイオキシン類により汚染された土壌が撹拌されていることに由来するため,当該土壌中の鉛同位体の分析結果と金属・非金属の定量分析を行うことにより,本件対策地域の土壌に関する年代測定を厳密に実施することは困難といえる。
そこで,被告は,本件訴訟においては,本件対策地域における盛土部分及び表層部分に分布するダイオキシン類はほぼ全てが戦後に生成し,
排出されたものであるとする主張を行わない(前訴における主張を撤回する。。

(イ)原告JX金属は,前訴G11意見書等に依拠して,表層部分の汚染が戦後に発生した旨主張するが,前訴G11意見書等には,グループ⑤試料の大半は戦後埋立処理されたものと判断された旨記載され,表層土壌
である試料の中には年代推定が大正9年から昭和20年と判断されたものがあることからすれば,前訴G11意見書等によっても,表層部分からも戦前に排出されたと推測されるダイオキシン類が検出されていることが示されている。

覆土措置が深層汚染の対策とはいえないこと
(ア)原告JX金属は,本件公害防止事業の覆土措置は表層部分のみを対象とするものであると主張する。
しかしながら,本件対策地域における表層部分の汚染の度合いは相対的には低く,工場の設置,拡張,撤去等の際に,掘り起こされ,埋め戻
されていると推測されるだけでなく,非常に広範囲に分布しており,深度もかなり深い位置にまで達している。このため,この汚染土壌から現に居住している住民を保護することが必要不可欠であり,かつ,汚染土壌の掘削,処理等といった方法では早期の解決が望めないことから,本件対策地域の表層を覆土することにより,汚染土壌からの影響力を地表
面から遮断する対策が,最も合理的かつ最善の方法であると判断したものである。したがって,本件対策計画及び本件公害防止事業が表層部分のみを対象としているという主張は,失当である。
(イ)なお,本件公害防止事業は,土壌汚染対策法施行規則40条に定める覆土措置の実施方法を参考にしたものであるが,これは,ダイオキシン法に土壌の汚染の除去に関する事業の具体的な実施方法が規定されていないことによるものであって,土壌汚染対策法における基準や考え方が
ダイオキシン法に基づく対策計画にそのまま適用されるわけではない。(原告日産化学の主張)

原告JX金属は,表層部分の汚染は戦後に発生したものであると主張するが,
その旨を述べる前訴G11意見書等及びG11陳述書について,
その分析方法が適切でなかったことは前記(5)
(原告日産化学の主張)

のとおりであり,原告JX金属の主張は理由がない。

また,原告JX金属は,覆土措置が深層汚染の対策ではないと主張する。しかしながら,被告が主張するとおり,覆土措置は深層部の汚染の曝露経路をも遮断するという点で深層汚染対策でもあるから,原告JX金属の主張は理由がない。

(8)

本件公害防止事業につき大日本人造肥料及び原告らに負担させる費用の
総額は幾らであるか(争点(5))
(被告の主張)

本件費用負担計画の算定方法
前記(5)被告の主張)

のとおり,
本件土壌汚染に係るダイオキシン類は,
本件電解工場において食塩電解工程により苛性ソーダを生産したことが発生原因である。
そして,本件電解工場の操業を行った事業者は,大日本人造肥料及び原告らの3社である。上記3社によって順次事業活動が行われてきたことか
らすると,今回の公害防止事業の費用は,本来であれば,負担法4条1項に従い,上記各事業者がその全額を負担すべきである。もっとも,同条2項は,一定の事情により公害防止事業費のうち原因に応じた額を費用負担とすることが妥当でないと認められるときは,当該事情を勘案して妥当と認められる額を減じた額を事業者の負担総額とする旨規定し,この規定を受けて,同法7条は,公害防止事業の種類に応じて事業者の負担を定めるに当たって基準とすべき一定範囲の割合(いわゆる概定割合)を規定して
いる。
ダイオキシン類対策事業についての概定割合は定められていないが,今回の事案と類似した大田区事例では減額率を4分の1としていること及び大田区事例の減額率は裁判においても妥当であると認められていることからすると,本件の事案では,減額率を4分の1とし,公害防止事業費に4分の3を乗じた金額を負担総額として上記各事業者に負担させることが
適当である。

本件電解工場に由来しない汚染に関する原告らの主張について
原告らは,本件土壌汚染に係るダイオキシン類は複合汚染の可能性があると主張し,複合汚染の他原因に係るダイオキシン類の排出者等を特定し
た上で,各排出者の事業費の負担割合等を決定しなければならない旨主張する。
しかしながら,本件対策地域における食塩電解工程以外の要因による土壌汚染は,いずれも塩素処理,すなわち食塩電解工程由来のものを含む土壌汚染であり,それ以外の要因により排出されたダイオキシン類の毒性等
量が全くないか,又は全体の毒性等量の割合に比して極めて低いことなどから,本件対策地域において検出された環境基準値を超える高濃度のダイオキシン類による土壌汚染の主たる発生原因は,原告らにより操業された同一の食塩電解工程であるという事実は明らかであり,複合汚染の可能性があることによって本件各決定の適法性に影響があるとはいえない。
なお,原告らは,さらし粉製造工程など,食塩電解工程以外に由来するダイオキシン類が本件土壌汚染に寄与した旨主張するが,
前記(5)
(被告の
主張)ア(オ),(カ)のとおり,それらは本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因ではない。

負担法4条2項の減額に関する原告らの主張について
原告らは,①ダイオキシン類に対する法規制がされる前の排出であるか
ら概定割合を2分の1(減額率を2分の1)とすべきである,②大田区事例との比較において,本件は汚染の程度が低いことを考慮すべきである,③大田区事例との比較において,本件は公害の原因物質が蓄積された期間が長期にわたることを考慮すべきである旨主張して,
概定割合
を4
分の3(減額率を4分の1)としたことは違法である旨主張する。
しかしながら,法規制前の排出であることを理由として概定割合を2分の1とした事例は,それ以外にも減額をすべき事由があるものであり,本件とは異なる。また,概定割合を3分の2(減額率を3分の1)とした事例は存在するが,わずか1例にすぎない。このようなことからすれば,上記①の主張は理由がない。

また,大田区事例における最大値は57万pg-TEQ/gであるのに対し,本件対策地域内の毒性等量の最大値は59万pg-TEQ/gであり,対策計画策定時に判明していた濃度の最大値も24万pg-TEQ/gと,いずれも高濃度であることには変わりがないことから,上記②の主張も理由がない。

さらに,汚染の経緯として,本件では工場の操業により長年にわたり汚染が発生したのに対し,大田区事例では工場除却時に汚染が発生したものであるが,この事情の相違は負担総額を減額させる理由にはなり得ず,本件と同様の費用負担計画においても概定割合が4分の1とされ,当該計画の事業者がこの点を争っていないことに照らしても,上記③の主張も
理由がない。
(原告らの主張)

本件電解工場に由来しない汚染が存在すること
(ア)負担法4条1項は,事業者負担費用の総額は事業者の事業活動が公害の原因となると認められる程度に応じた額にすると定めているのであって,主たる原因でなければその程度を考慮しなくてよいとしているわけではない。

(イ)被告は,前訴において,本件対策地域の汚染原因を,①塩素処理,②塩素処理+CNP(MCP,アルドリン)
,③その他の3パターンがある
と結論付け,食塩電解工程に由来しない汚染の存在を自認していた。この点について,被告は,これら三つのパターンはいずれも塩素処理を含んでいることに変わりはない旨主張し,またダイオキシン部会にお
いて配布された資料(甲A20)には③その他については計算値により汚染原因を推定したところ,塩素処理による汚染を含む複合汚染である可能性がある旨の記載がある。
しかしながら,計算値による推定によって塩素処理を含む可能性があると判断されることが,ダイオキシン法31条7項にいう事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合に該当するといえないことは明らかである。
(ウ)本件においては,
仮に本件電解工場由来の汚染が肯定されたとしても,
前記(5)(原告ら共通の主張)ア(エ),(オ)及び上記(イ)のとおり,他の汚
染原因が認められるのであるから,これを考慮する必要がある。処分行政庁としては,その汚染源のそれぞれを特定し,それぞれの汚染源が本件対策地域の汚染原因となっていると認められる程度を個別具体的に明らかにした上で,本件対策地域の汚染が複合的な原因による汚染であることを前提とする費用負担計画を定めなければならない。


負担法4条2項の減額事由について
(ア)処分行政庁が作成した公害防止事業費事業者負担法事業者負担総額の算定についてと題する資料(甲B6)において,複数の概定割合の適用事例が示されているが,有害物質に対する社会的認識不足や有害性の不知期間を考慮して概定割合を2分の1とした事例が半数を占めている。この点について,被告は,これらの事例には他の減額事情があると
主張するが,概定割合を2分の1としている事例はいずれも基本的に法規制前の行為であること又は有害性の不知が主たる理由とされていると解すべきであるし,有害性の認識がなかったことのみを理由として概定割合を3分の2(減額率を3分の1)とした事例もあるから,被告の主張は失当である。

(イ)被告は,本件の事案と大田区事例に類似性がある旨主張するが,大田区事例においては非常に高濃度の汚染が確認されているのに対し,本件では同程度に高濃度の汚染は確認されていなかったから,両者は公害の程度の点で事案を異にするものである。また,大田区事例では,工場の建物を除却し,更地化した際にダイオ
キシン類を排出して土壌の汚染を引き起こしたことが問題とされているのに対し,本件では,工場における通常操業が問題とされていることから,
公害の原因物質が蓄積された期間
に関する点で事案を著しく異に
する。処分行政庁としては,この点を考慮した上で,少なくとも大田区事例における減額率を上回る減額率を定めるべきであったというべきで
ある。
(9)

本件公害防止事業についての原告らの事業者負担金の額(争点(6))
(被告の主張)

負担割合の算定方法
(ア)処分行政庁は,本件各決定において,公害の原因となる施設である本件電解工場の規模であり,かつ排出量を推測する基礎となる本件電解工場の苛性ソーダの生産量
(大日本人造肥料及び原告JX金属については,
合併前の操業者である関東酸曹,旧日産化学工業が操業した際の生産量をそれぞれ含む。を基準とし,

この生産量に応じて大日本人造肥料及び
原告らの負担割合を定めることとしたものである。なお,原告らについては,本件電解工場の操業期間中の各年度における苛性ソーダの生産量が確認されているが,大日本人造肥料については,大正6年から昭和12年までの操業期間中のうち大正6年から昭和10年までは生産量を確認することができず,生産能力のみが確認されている。そのため,大日本人造肥料については,生産量が確認できない期間については生産能力
を生産量として算定した。このように算定すると,原告らにとっては有利に働くこととなる。
この結果,各事業者の負担割合は,大日本人造肥料が33.93%,原告JX金属が13.31%,原告日産化学が52.76%(小数点第三位を五捨六入)となる。

(イ)本件において,公害の原因となる施設である本件電解工場から排出される公害物質の量を特定することができれば,それが最も妥当な公害についてその原因となると認められる程度に当たるが,公害物質であるダイオキシン類は,食塩電解工程に伴って発生していることから,工場の規模であり,かつ排出量を推測する基礎となる苛性ソーダの生産量
を基準とし,生産量に応じた負担割合を定めたものであり,この負担割合は正当なものである。
この点について,原告らは,負担割合を苛性ソーダの生産量の割合に基づいて決定したことが違法である旨主張する,しかしながら,黒鉛電極中のタールピッチの含有量及び黒鉛電極の消耗率を考慮したダイオキ
シン類の排出量に関する情報は全く見当たらない。このように,排出量を具体的に判断する資料が入手不可能であり,苛性ソーダの生産量のみが入手しうる資料である場合においては,苛性ソーダの生産量の比率でダイオキシン類の排出量の比率を推測し,これにより負担額を配分することが,配分基準として妥当である。
また,原告らは,関東大震災により電解槽が倒壊した事情が考慮されていない旨主張する。しかしながら,本件電解工場においては操業期間
を通じてダイオキシン類に汚染された汚泥の排出が継続的に行われていたのであり,個別の事象により特別に排出されたわけではない。また,関東大震災後は直ちに復旧し,残った1棟を利用して震災の翌月中旬から操業を再開したというのであって,電解槽が破壊されたわけではないし,操業中断期間については生産能力の算定上差し引いている。


原告JX金属の負担割合を定めるに当たって,旧日産化学工業の操業時期を含めた生産量を基準とすることが適切であること
原告JX金属は,
昭和18年4月に旧日産化学工業を吸収合併しており,
同社を吸収合併した以上,同社の地位を包括的に承継することは明らかである。


本件営業譲渡によって原告JX金属が負担金債務を免れるとはいえないこと
原告JX金属は,本件電解工場を含む化学部門を原告日産化学に営業譲渡(本件営業譲渡)した際,化学部門が負う一切の債務を原告日産化学が
引き受ける旨の合意があったと主張する。
しかしながら,本件公害防止事業の施行者である処分行政庁としては,客観的な事実関係等を前提として,本件対策地域の土壌を汚染させた原因者たる事業者を特定し,この事業者に同事業の費用を負担させることができる。
仮に,
負担法上の責任を負う地位を他に譲渡することが可能であり,

このような地位を譲渡することが本件営業譲渡の際に原告JX金属と原告日産化学との間で合意されていたとしても,譲渡人たる原告JX金属が本件対策地域を汚染させたという事実自体がなくなるものではないから,この合意が同法に基づいて本件公害防止事業の費用を負担させる事業者を決定する処分行政庁の判断を拘束すると解すべき理由はないし,上記合意がされたことによって,上記地位を譲り受けた原告日産化学のみが同法に基づく責任を負うと解すべき根拠もない。

加えて,公害防止事業の施行者は,費用負担計画を定めた上,これに基づいて費用を負担させる事業者及び事業者負担金の額を決定するのであり,施行者によりこれらの決定がされることによって,初めて費用を負担すべき事業者の債務が発生するものと解されるから,施行者によるこれらの決定以前にされた本件営業譲渡によってこのような債務が譲受人に移転する
と解することはできない。

昭和18年度に本件電解工場で生産された苛性ソーダの量は2697tであること
処分行政庁は,大日本人造肥料,原告JX金属及び原告日産化学の苛性ソーダの各生産量を日本ソーダ工業会統計表の数値に基づき算定したもの
である。さらに,処分行政庁は,昭和18年度の生産量について,資料により値が異なることから,
原告らに対し,
上記統計表の数値
(3559t)
が正しいものか否かを文書照会したところ,いずれからも確認できないので回答しかねる旨の回答がされた。
このように,昭和18年度に本件電解工場で生産された苛性ソーダの量
は,原告JX金属すら確定できない数字であるから,処分行政庁が本件各処分に当たって上記統計表の数値を採用したことは合理的である。オ
以上により,本件各決定において,本件公害防止事業に係る事業費の額1億7882万6458円から減額率4分の1に相当する額を減じた1億
3411万9843円を負担額の総額とし,原告日産化学の事業者負担金の額を総額の52.76%である7076万1629円,原告JX金属の事業者負担金の額を総額の13.31%である1785万1351円としたことは,適法である。
(原告日産化学の主張)

被告は,ダイオキシン類の発生・排出量が苛性ソーダの生産量に比例する旨主張する。


しかしながら,ダイオキシン類が生成されるプロセスと苛性ソーダが生成されるプロセスは,化学的に全く別個のものであり,両者の生成量の間に原理的・本質的に相関関係があるとはいえない。また,黒鉛電極の品質その他の製造装置の仕様や稼働条件が異なれば,食塩電解工程における苛性ソーダの生産量とダイオキシン類の生成量との相関関係は異なることに
なり,被告も認めるとおり本件電解工場の操業期間中において食塩電解装置の仕様や稼働条件が一律でないことに照らせば,上記相関関係が一定の比例関係を保ち続けていたとする前提が成り立たないことは明らかである。なお,被告は,各事業者の苛性ソーダの生産量に基づいて負担割合を定めた理由について,タールピッチの含有量及び黒鉛電極の消耗量を考慮した
ダイオキシン類の排出量に関する情報がないからであると主張するが,事業者間の負担割合の定めは,各事業者の事業活動が当該公害についてどの程度その原因となったかを定めるものであって,原因者の特定の一つに他ならないのであり,ダイオキシン法31条7項により科学的知見に基づいて定められるべきであるから,被告の主張は負担割合の定めが適法である
ことの根拠とはならない。

また,王子工場は,関東大震災において電解槽が全部将棋倒しになっており,陽極槽内の電解液,製造装置に設置された黒鉛電極,石綿隔膜等が本件対策地域に流出,排出された場合には,ダイオキシン類が発生してい
るのであればこれらに含有されるダイオキシン類も本件対策地域に排出されることとなり,このような場合には,ダイオキシン類の排出量が製品化され出荷された苛性ソーダの生産量に反映されないことは明らかである。本件各決定における事業者間の負担割合は,このような異常事態によるダイオキシン類の排出を全く考慮していないことは明らかであり,この点から見ても,ダイオキシン類の本件対策地域への排出量が苛性ソーダの生産量に比例するという前提は成り立たない。

(原告JX金属の主張)

上記(原告日産化学の主張)ウのとおり,ダイオキシン類の本件対策地域への排出量が苛性ソーダの生産量に比例するとの前提が成り立たないから,被告の主張には理由がない。
なお,本件電解工場において停電や品質の悪い黒鉛電極の使用といった
事情はなく,前記(原告日産化学の主張)イの主張には理由がない。イ
原告JX金属が王子工場を自ら操業していた期間は,昭和18年4月から昭和20年3月までの僅か2年間にすぎないから,それ以前の操業者である旧日産化学工業の操業時期を含めた生産量を基準として原告JX金属の負担割合を定めるのは不合理であり,仮に旧日産化学工業の操業期間に
ついての責任を原告JX金属が承継しなければならないとしても,直接に操業していないことを考慮し,減額をするなどの配慮をすべきである。ウ
原告JX金属(当時の日本鉱業株式会社)は,昭和20年4月,原告日産化学(当時の日本油脂株式会社)に対し,本件電解工場の操業を含む化
学部門の営業の一切につき営業譲渡し(本件営業譲渡)
,その際,両社の間
において,化学部門が負う一切の債務を原告日産化学が引き受ける旨の合意があった。当時は会社分割という法制度がなかったため,営業譲渡という形式を選択しているが,実質的には負債について包括承継しているものであり,当時の学説においても営業譲渡は包括的な地位の承継と解されて
いた。
被告は,譲渡人たる事業者が土壌を汚染させたという事実はなくならないし,本件各決定以前には債務が発生していないとして,当該譲渡人が事業者負担金債務を負うと主張するが,その汚染に伴う潜在的債務又はその責任を負う地位を合意により移転させることは可能であるし,被告は前訴において上記合意を主張していたのであるから,上記合意につき悪意である処分行政庁は,上記合意に沿った処分をすることが合理的である。
したがって,原告JX金属は負担金債務を負わない。

昭和18年度の苛性ソーダ生産量は2697tにすぎないにもかかわらず,処分行政庁はこれを3559tと認定しており,事実誤認がある。この点について,被告は,3559tと認定したのは日本ソーダ工業会の統計表に基づくものであり,原告JX金属も生産量を確定できていない
と主張するが,
原告JX金属がその主張の根拠とする資料
(甲B10)
は,
上記統計表の原資料である生産量の報告にほかならないし,本件各決定前の時点で2種類の生産量の数値につき処分行政庁においても真偽不明であったのであるから,処分行政庁が処分の名宛人の利益を慮らず,合理的な理由がないにもかかわらずより多い生産量を選択したことは適切ではない。
(10)

負担法6条1項の審議会の意見の聴取がされたといえるか否か(争
点(7))
(被告の主張)

本件各決定に至る本件審議会に対する諮問手続等は,土壌汚染に関する専門家等により構成されるダイオキシン部会での審議を含む適正な手続の
下で実施されたものであり,形式的にも実質的にも適法である。

この点について,原告らは,①本件対策地域の汚染原因がルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程から発生したダイオキシン類であるかについて,本件審議会の意見を聴いていないこと,②本件対策地域の汚染が複合
汚染であることについて,
実質的に本件審議会の意見を聴いていないこと,
③本件訴訟における被告の主張と本件各決定の根幹である本件費用負担計画の考え方が大きく相違していることからすれば,実質的に本件審議会の意見を聴いていないといえることなどから,本件各決定は違法である旨主張する。
しかしながら,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程が本件対策地域におけるダイオキシン類の発生原因ではなく,本件電解工場における食
塩電解工程が原因であることは,前記(5)(被告の主張)のとおりである。また,処分行政庁は,前回の費用負担計画の策定に際し,原告日産化学に意見を求めたところ,原告日産化学は,ダイオキシン類の排出原因と思われる設備・製品を挙げてそれらによる汚染原因を否定したものの,ルブラン法関連工程やさらし粉製造工程については主張しておらず,本件費用負
担計画を策定した際の意見の求めに対しても同様であった。したがって,上記①の主張は失当である。
また,前記(8)(被告の主張)イのとおり,複合汚染はいずれも塩素処理を含んでいるものであるし,複合汚染に関する資料はダイオキシン部会の配布資料に含まれていたのであるから,この点について本件審議会で何ら
の議論もなかったとはいえず,上記②の主張も失当である。さらに,本件対策地域で検出されたダイオキシン類の分析に係る判断について,
その特徴的な同族体組成及び異性体組成の考え方は前記(5)
(被告
の主張)ア(ウ)c(a)のとおりであるところ,上記③の主張は,これを誤解するものであり,失当である。

(原告らの主張)

本件各決定に際して意見を聴いた本件審議会には,本件対策地域のダイオキシン類による汚染原因の可能性の一つと考えられるルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程に関する資料が全く提供されておらず,
その結果,

本件審議会は,本件対策地域のダイオキシン類の発生原因がルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程であるか否かについて,
全く検討していない。
本件対策地域のダイオキシン類の発生原因が何かという,本件各決定における核心部分について,本件審議会に必要かつ十分な問題の提起がされず,かつそれを審議するに必要な資料も提供されず,その結果,その点についての検討が欠落したまま本件審議会が結論を出し,その結論に基づいて本件各決定がされているのである。

この点について,被告は,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程が汚染源でないことが明らかであったと反論するが,要するに,これらの工程が汚染源でないと自ら結論を出したことから本件審議会にかける必要がないというものであり,論理が破綻している。また,被告は,費用負担計画の策定に際し,原告日産化学に意見を求めたものの,これらの工程につ
いては主張がなかったことも指摘するが,原告日産化学は,王子工場を閉鎖した約36年後になって本件対策地域のダイオキシン類の発生原因について意見を求められたのであり,当時の関係者が在籍していないために短期間に発生原因を的確に推測することができないことはやむを得ない上,そもそも意見聴取はダイオキシン類の発生原因を特定する責任を負う被告
の参考資料の一つとするものにすぎない。
したがって,本件各決定は,実質的に審議会の意見を聴くことなく行われた違法な決定である。

本件対策地域の汚染が複合汚染であることは被告も認めるところであるにもかかわらず,そのことを示唆する資料さえも本件審議会に提出された
形跡がなく,本件審議会の議事録要旨からも本件対策地域の汚染が複合汚染であることについて何らかの議論がなされた形跡は認められない。本件においては,本件対策地域の汚染が複合汚染であることを前提として審議会の意見を聴いた上で費用負担計画が定められていないから,本件各決定は違法な決定である。


本件対策地域のダイオキシン類の発生原因を本件電解工場における食塩電解工程と特定した本件各決定の基本的な考え方は,科学者を含む本件審議会において検討された結果明らかにされた,本件費用負担計画の考え方に明確に開示されている。そして,本件費用負担計画の考え方は,ラッペ論文に掲載されたダイオキシン類の同族体組成及び異性体組成のみを塩素製造所由来のダイオキシン類として掲げた上で,本件対策地域におけるダイオキシン類のほぼ全てが食塩電解工程から発生するダイオキシン類に特徴的な同族体組成及び異性体組成を示していると判断したものであるから,それぞれの同族体組成及び異性体組成を比較する方法が採られたといえる。しかしながら,本件対策地域のダイオキシン類とラッペ論文掲載
のダイオキシン類の同族体組成比とが一致しないことはグラフを見れば明らかであって,この指摘を原告らから受けたことを踏まえ,被告は,本件訴訟においては,本件審議会に提出されていない資料であるG12教授の意見書(乙55)を提出した上で,同族体組成比によるのではなく異性体組成比を比較すべきであるという,本件費用負担計画の考え方の内容とは
異なる主張を行っている。このように,被告は,本件訴訟においては,本件各決定と異なる理由,すなわち,本件審議会では検討されなかった理由をもって,本件各決定の結論は正しいと主張しているのである。
なお,被告は,現時点においては,ダイオキシン類の同族体組成及び異性体組成の両者について比較を行っているが,同族体組成比は発生原因の
特定に寄与しないので,主として異性体組成について判断すべきであると主張しながらも,なお,これを本件費用負担計画の考え方における同族体及び異性体の両者について,比較しているという記載と同義であり,本件各決定の基本をなす考え方と現時点における被告の主張は同一であると主張するものと思われる。しかしながら,被告が,同族体組成比による
のではなく異性体組成比を比較すべきである旨へと主張を大きく転換したことは明白である。
このように,被告は,本件審議会において検討された本件各決定の基本的な考え方と異なる主張を本件訴訟において行っており,このような主張を認めて本件各決定を適法とすることは,実質的に審議会の審議の欠落を是認することとなり,採り得ないものである。
(11)

本件なお書きが違法な附款であるか否か(争点(8))

(被告の主張)

本件なお書きが附款ではないこと
附款とは,行政行為の効果を制限するために意思表示の主たる内容に付加された従たる意思表示をいうところ,本件なお書きは,本件対策計画の効果に制限を及ぼす趣旨は全くなく,単に,本件対策計画とは別に新たな
対策計画が立てられる可能性があることを知らしめた事実の通知であって,これにより本件費用負担計画の内容及び本件各決定の効力に変化は全く生じていない。
したがって,本件なお書きは,本件費用負担計画及び本件各決定の効力に対し何らの影響を及ぼしていないものであるから,
附款には該当しない。


本件なお書きが附款であるとしても違法ではないこと
本件なお書きの存在は,
原告らに不当な義務を課すものといえないから,
これによって本件各決定が違法になるものではない。

(原告らの主張)

本件なお書きは附款であること
被告は,本件各決定に基づいて原告らから金銭の支払を受けた後であっても,将来,新たに汚染除去を行う場合には費用の納付を命じることを留保するために,本件なお書きを設けたものと解される。
本件なお書きの定めは,一定の条件が成就した場合に,直ちに将来の事
業者負担金の具体的納付義務を生じさせるものではない。しかしながら,今回の事業者負担金で不利益処分は完了するという原告らの期待や信頼保護,法的安定性や予測可能性をあらかじめ奪うものであって,行政側の裁量権を拡大する効果を有するものであるから,その意味で,一定の法律効果(負担留保)をもたらす意思表示である附款といえる。

附款である本件なお書きは違法であること
本件公害防止事業の実施により,本件対策地域において公害が存在
しない状態となるから,将来の汚染除去のための公害防止事業は実施の前提を欠き違法なものとなるところ,違法な公害防止事業に伴う将来の負担を留保することは,原告らに不当な義務を課すものであるから,違法である。
また,将来生じるかもしれない公害を含めて原告らに負担させることは
過度のものといえるし,一度覆土措置等の対策をしながら将来これを破棄して新たな公害防止事業を行うことは,本件公害防止事業に要した事業者負担金を無駄にする結果をもたらすものである上,将来の負担を不確定な要素に係らしめることにより原告らの事業経営を過度に制約するものといえることからすれば,本件なお書きは比例原則に反する将来の負担を留保
するものであり,
原告らに不当な義務を課すものであるから,
違法である。
さらに,本件なお書きは,再度の汚染除去がどのような場合に実施されるのかを明確にしていないため,被告の恣意を許し,原告らをいつまでも費用負担の危険性にさらすものであって,このような不明確,不確定な内容の附款は,原告らに不当な義務を課すものであるから,違法である。
したがって,本件各決定には,この点についても明白な違法がある。第3
1
当裁判所の判断
争点(1)負担法施行前の事業活動に関して事業者負担金を課すことが憲法3(
1条,39条,84条に反するか否か)について

(1)ア

原告らは,
処分行政庁が原告らに対して,
負担法制定前の事業活動に起

因する公害について同法3条を適用して負担金を課すことは,租税法規の遡及適用禁止の原則(憲法84条)
,行政法規不遡及の原則(憲法31条,
39条)に反するものであると主張する。

負担法が定める費用負担は,課税権に基づいて課すものではないから,憲法84条の租税には当たらないが,負担法に基づく事業者負担金を納付しない場合には,督促の上で国税滞納処分の例により延滞金と併せて強制
徴収できること(同法12条)からすれば,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものとして,憲法84条の趣旨が及ぶものと解される(最高裁平成12年(行ツ)第62号,同(行ヒ)第66号同18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587頁参照)。
そして,憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明
確に定められるべきことを規定するものであるが,これにより課税関係における法的安定が保たれるべき趣旨を含むものと解するのが相当であるところ
(前掲最高裁平成18年3月1日判決参照)法律で一旦定められた財,
産権の内容が事後の法律により変更されることによって法的安定に影響が及び得る場合における当該変更の憲法適合性については,当該財産権の性
質,その内容を変更する程度及びこれを変更することによって保護される公益の性質などの諸事情を総合的に勘案し,その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって判断すべきものであり(最高裁昭和48年(行ツ)第24号同53年7月12日大法廷判決・民集32巻5号946頁,最高裁平成21年(行ツ)第73
号同23年9月22日第一小法廷判決・民集65巻6号2756頁参照),
財産権を制約する行政法規の遡及立法が公共の福祉に反するか否かについても,同様に判断すべきものと解される。

そこで検討すると,既に発生した公害について,その除去,防止に係る事業を行って地域環境の汚染の拡大を防止するとともに,汚染された環境の回復を図ることは,社会的な要請であるといえるところ,このような事業を行う費用については,経済的観点や正義,公平の観点等に照らすと,原因行為が負担法施行後にされたか否かを問わず,当該公害の原因をもたらした事業者に負担させることには合理性があるものといえる。
また,負担法は,費用を負担させることができる事業者の要件を規定してその範囲を絞り
(3条)負担額の減額措置を定めるなど

(4条,
7条)

公害が同法施行前の事業活動に起因する場合に負担額を減額することができるようにして,事業者の負担が過度に厳しくならないように配慮しているものといえる。
そして,負担法制定前の事業活動に起因する公害について,同法に基づ
く事業者負担金が支払われることによって,公害防止事業の財政的基礎が強化され,当該事業の早急かつ円滑な実施が可能となり,地域環境の汚染の拡大が防止され,汚染された環境の回復が図られるものといえる。これらの事情に鑑みれば,負担法制定前の事業活動に起因する公害について同法に基づき事業者負担金を課すことは,公害の原因となる事業活動
を行った事業者の財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものと解するのが相当であるから,このような行政法規の遡及立法が公共の福祉に反するということはできない。
したがって,原告らの前記アの主張を採用することはできない。
(2)ア

また,
原告らは,
①仮に本件電解工場の操業に伴いダイオキシン類が発
生していたとしても,ダイオキシン類は意図せずに発生するものであり,原告らはその発生を認識しておらず,毒性を予見することもできなかったこと,②王子工場の操業停止後,負担法改正や本件各決定までに長期間が経過していること,③現在の医学的知見によればダイオキシン類の毒性は高いとはいえないことから,原告らに対して事業者負担金を課すことは企
業活動の予測可能性と法的安定性を完全に奪うものであって,
憲法31条,
39条,84条の例外として負担法3条の遡及適用を認めるべき合理性がない旨主張する。

しかしながら,前記(1)ウのとおり,公害防止事業を行う費用について,公害の原因をもたらした事業者に負担させることには合理性があり,事業者に公害の発生や毒性についての認識がなかったことは,負担額を減額すべき事情として考慮され得るとしても,このことをもって,公用負担の形
式により事業者の故意・過失を問わずに課す事業者負担金の定めが,財産権に対する合理的な制約として容認し得ないものということはできない。また,汚染された環境の回復を図るべきであるとする社会的要請や,正義,公平の観点等に照らせば,公害の原因をもたらした事業活動から期間が経過したことをもって,直ちに事業者負担金を課すことが財産権に対す
る合理的な制約として容認し得ないものということもできない。
さらに,ダイオキシン法1条はダイオキシン類が人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある物質であるとしており,前記前提事実(7)オのとおり環境基準が具体的に定められていることに照らせば,ダイオ
キシン類の毒性が高くないことを理由に,原告らに対して事業者負担金を
課すことが財産権に対する合理的な制約として容認し得ないものということはできない。
したがって,原告らの上記アの主張は,いずれも採用することができない。
(3)

以上によれば,
本件において,
負担法制定前の事業活動に起因する公害に

ついて,同法を適用して事業者負担金を課すことが,租税法規の遡及適用禁止の原則や行政法規不遡及の原則に反するものであるとはいえない。2
争点(2)ア
(負担法施行時以降公害の原因となる事業活動を行わず,
本件公害
防止事業の実施時点において北区内で事業活動を行っていない原告らが負担法
の事業者となるか否か)について
(1)

原告らは,負担法3条が事業活動を行ない
,又は行なうことが確実な
事業者を対象としており,文言上,過去に事業活動を行った事業者は対象に含めるべきではないこと,内閣公害対策本部は,事業の施行者である地方公共団体の管轄区域外に移転した者に費用負担を求めることはできないと解説していることから,同法施行前に事業活動を中止し,本件公害防止事業の実施時点において北区の管轄区域外に移転していた原告らに対し,費用負担をさせることはできない旨主張する。
(2)ア

この点について,
内閣公害対策本部が作成した負担法の逐条解説
(乙2

8〔46,48頁〕
)には,事業の施行者である地方公共団体の管轄区域外
に移転した者について,事柄の性質上,費用負担を求めることができない旨の説明がある。しかしながら,同法3条の行ないとの文言が過去に
行われた場合を排除しているとはいい切れず,前記1のとおり,同法が,地域環境の汚染の拡大を防止し,汚染された環境の回復を図るべきであるとする社会的要請や,正義,公平の観点等から,公害の原因をもたらした事業者に費用負担をさせることとしたことに照らせば,同条の事業活動を行ない又は行うことが確実な事業者には,公害防止事業の実施時点に
おいては事業活動を行っていないが過去において公害の原因となる事業活動を行っていた事業者が含まれるものと解される。
なお,負担法9条2項は,費用負担計画を定める際現に公害防止事業に係る区域に工場又は事業所が設置されていない事業者については,工場等の設置後に費用負担計画に基づき事業者負担金の額を定める旨規定するが,
この規定は,今後事業活動を行う予定の者について,公害の原因となる施設の種類及び規模等が費用負担計画を定める時点で明確ではない場合の規律を定めたものというべきであり,過去に事業活動を行っていたが現在行っていない事業者について,現に工場又は事業所が設置されていなければ費用負担を求めることができないとするものとはいえない。


そして,事業者が事業活動によって公害の原因物質を排出した以上,その後に施行者である地方公共団体の管轄地域外に工場や事業所を移転したとしても,管轄地域内における過去の事業活動を根拠として事業者負担金を負担させることが,公害の原因をもたらした事業者に費用負担をさせることとした負担法の趣旨に照らして合理的であって,同法が当該施行者の管轄権が及ばない者に対する行政処分であるとしてこれを行い得ないとす
るものとは解されない。

したがって,負担法施行時以降において公害の原因となる事業活動を行わず,本件公害防止事業の実施時点において北区内で事業活動を行っていない原告らも,同法の事業者となり得るといえるから,原告らの主張を採用することはできない。

3
争点(2)イ(事業所内にダイオキシン類を排出した場合にも事業者となるか否か)について
本件公害防止事業は,本件対策地域における土壌汚染についての公害防止事業であるところ,原告らは,負担法2条1項にいう公害は人の健康又は生活環境に係る被害を発生させるものであるから,本件対策地域のように,専ら特定の事業者が占有し,一般市民などが自由に出入りすることのできない地域は,同法による公害防止事業の対象とはならない旨主張する。しかしながら,負担法2条1項にいう公害は,環境基本法2条3項に規定する公害,すなわち環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる〔中略〕土壌の汚染〔中略〕によって,人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。に係る被害が生ずる)ことを指す。そして,事業所内において土壌の汚染を発生させた場合であっても,事業所内の人の健康又は生活環境に係る被害を生じさせたのであれば,
同項の文言上も,また被害の実質に照らしても,上記の公害に当たると解するのが相当である。
したがって,原告らの主張を採用することはできない。
4
争点(3)ア
(ダイオキシン法31条7項の
因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合の意義)について
(1)

ダイオキシン法31条7項は,
ダイオキシン類土壌汚染対策計画に基づく

事業について,事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合に負担法の規定を適用する旨を定めている。
(2)ア

訴訟上の因果関係の立証は,
一点の疑義も許されない自然科学的証明で

はなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,そ
の判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものと解される(昭和50年最判参照)

そして,
上記(1)のダイオキシン法の規定の文言に照らせば,
事業者によ
るダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係
については,経験則に照らして自然科学的知見に基づく立証を含めた全証拠を総合検討し,因果関係が明確であること,すなわち,原因・結果の関係を是認し得る高度の蓋然性を通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る程度に証明することが求められるというべきである。イ
これに対し,原告らは,上記の科学的知見に基づいて明確な場合とは,ダイオキシン類の排出と汚染との間の因果関係の証明度について,高度の蓋然性よりも高い,自然科学的知見に裏打ちされた証明を求める趣旨を明文化したものであり,排出と汚染との間に自然科学的知見に基づいて一点でも疑義が残ればこれに該当しないと解すべきであると主張する。
しかしながら,ダイオキシン法31条7項は,飽くまでダイオキシン類の排出と汚染との間の法的因果関係の判断を規律するものであり,訴訟上の因果関係の立証における証明の程度については上記アのとおり解するのが相当であって,同項が上記因果関係の立証について高度の蓋然性よりも高い証明の程度を求めるものとは解されないから,原告らの主張を採用することはできない。
5
争点(3)イ
(原告らが本件土壌汚染に係るダイオキシン類を発生させ,
これを
排出したか否か)について
当裁判所は,①本件電解工場で使用されていた3種類の電解槽のいずれからも食塩電解工程においてダイオキシン類が発生し,②本件土壌汚染に係るダイオキシン類には,本件電解工場の食塩電解工程に由来するものが含まれており
(なお,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程に由来するもの,G3公園(南)については搬入土に由来するものが含まれている可能性も否定し得ない。,③本件電解工場において電解槽で汚泥が発生し,④ダイオキシン類が付)
着した汚泥を大日本人造肥料及び原告らが地中に排出したと認められることから,大日本人造肥料及び原告らにつき,それぞれのダイオキシン類の排出と本
件対策地域中の土壌汚染との間の因果関係が,
いずれも認められると判断する。
その理由は,以下のとおりである。
(1)

本件電解工場の食塩電解工程においてダイオキシン類は発生するか
ア(ア)証拠(甲A51,54)によれば,日本ソーダ工業会の資料(甲A54)に記載されたフーカーS型電解槽の操業条件を参考に,陽極電極をプラチナ/チタン電極とし,陽極槽内に固形ピッチを設置した装置で行った実験(G9実験。甲A51)において,ダイオキシン類であるポリ塩化ジベンゾフランが観測されたことが認められる。
(イ)この点に関し,原告らは,食塩電解工程で用いられる黒鉛電極にはタールやピッチ(ジベンゾフランを含む。
)はほとんど残存せず,黒鉛電極

に僅かに残るピッチは黒鉛よりも酸化を受けやすい有機化合物であるから,ガス化して消失するため,フーカーS型電解槽においてダイオキシン類は発生しないと主張する。
確かに,昭和初期の黒鉛陽極の製造過程において,ピッチ等が一様に均質な黒鉛に変化することを認める文献(乙83・別紙7の2(3))もある。しかしながら,原告らも,黒鉛電極にタールやピッチが残ること自体は認めているし,上記文献の記載も厳密にジベンゾフランが存在しな
いことを確認したものとはいえない。さらに,電解工場由来の黒鉛電極スラッジからジベンゾフランと塩素が反応したダイオキシン類が検出されていること(乙16〔4枚目〕
・別紙9,乙44の1・2,60〔枝番
を含む。)からすれば,黒鉛電極に残るタールやピッチに含まれるジベ〕
ンゾフランが食塩電解の過程において塩素と反応する可能性を否定する
ことはできないから,原告らの上記主張を採用することはできない。(ウ)したがって,フーカーS型電解槽における食塩電解工程において,ダイオキシン類が発生するものと認めることができる。

本件電解工場においては,フーカーS型電解槽のほかに,大日本人造肥料や原告らによって,ビリター・ジーメンス電解槽を用いた食塩電解が行われていたこと,大日本人造肥料によって,フーカーF型電解槽を用いた食塩電解が行われていたこと(旧日産化学工業も同電解槽を用いていた可能性がある。
)は,前記前提事実(6)ウ(ア),(イ)のとおりである。
上記電解槽は,いずれも隔膜式であり,陽極に黒鉛電極を用いていたこ
とからすると(前記前提事実(9)イ)
,後二者の電解槽においても,陽極に
おいて黒鉛電極中のジベンゾフランと食塩電解の過程で発生した塩素との化学反応があったものと考えられ,フーカーS型電解槽と異なりこのような化学反応が発生しなかったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,ビリター・ジーメンス電解槽及びフーカーF型電解槽にお
ける食塩電解工程においても,ダイオキシン類が発生するものと認めることができる。

以上によれば,原告ら及び大日本人造肥料が操業していたいずれの電解槽による食塩電解工程においても,ダイオキシン類が発生したと認められる。

(2)
原告らが食塩電解工程において発生させたダイオキシン類と本件土壌汚
染に係るダイオキシン類は同一か
当裁判所は,①ダイオキシン類の発生源を推定する方法として,基本的に同族体組成比及び異性体組成比を比較することにより判断すべきであるところ,②異性体組成比等に着目すると,本件対策地域において毒性等量の高いダイオキシン類はジベンゾフランが塩素化反応したものと認められ,食塩電
解工程において発生するものと化学反応機構は同じということができ,③同族体組成比の観点からは,原告らが食塩電解工程において生成させたダイオキシン類と本件土壌汚染に係るダイオキシン類が同一であるとしても矛盾しないといえるにとどまり,両者の同一性については,なおその他の事情を併せて更に検討する必要があるものと考える。そして,④土壌中から検出され
た塩素化多環芳香族炭化水素について,食塩電解工程由来のダイオキシン類の特徴と一致すること,⑤本件対策地域の地歴等に鑑みると,一部の搬入土が原因である可能性を除き,ダイオキシン類は王子工場操業時に排出されたといえること,⑥原告らが挙げる他事情のうち,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程については,本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因
である可能性があるものの,汚染原因の大半であるとはいえず,その他の事情はいずれも汚染原因とは認められないことを考慮すると,本件土壌汚染に係るダイオキシン類には,原告らが食塩電解工程において発生させたダイオキシン類が含まれると判断する。
その理由は,以下のとおりである。


工場由来のダイオキシン類の発生源推定の方法について
(ア)異性体組成について
証拠(乙16,54〔2~6頁〕
,55〔5頁〕
)によれば,ダイオキ
シン類は,塩素(苛性ソーダ)製造工程に限らず,銅やアルミニウムの二次精錬,
マグネシウムの製造,
五塩素化フェノール
(PCP)
の製造,
ポリ塩化ビフェニルの絶縁油の製造等の,様々な工程において副生することがあり,詳細な生成機構が不明な部分はあるものの,上記で例示した各工程はいずれもダイオキシン類が生成するに至る化学反応の機構等が異なると考えられていることが認められる。
そして,証拠(甲A37〔参考資料1〕
)によれば,ダイオキシン類が
生成するに至る化学反応の機構の一つと考えられるジベンゾフランの塩
素化反応についてみると,2,3,7,8-塩素置換体を優先的に生成する一定の主要反応経路に従い高塩素化することが予測されることが認められるところ,この予測結果は,東京都環境局環境改善部のG13らの測定結果(乙19)等の過去の調査結果とも整合するものであり(甲A37〔参考資料1・図2-2〕,全証拠に照らしても,上記のジベン)

ゾフランと塩素との反応における主要反応経路が誤っていることを示す事情は見当たらない。したがって,ジベンゾフランと塩素との反応においては,一定の主要な反応経路により高塩素化が進行し,生成したダイオキシン類はこれに従った異性体組成比を示すものということができる。このように,ダイオキシン類が発生する各工程により生成されたダイ
オキシン類は,
化学反応の機構に応じて高塩素化するものといえるから,
異性体組成比もこれに応じて異なるものとなるといえる。
(イ)同族体組成について
食塩の電解工程に限らず,化学工場における種々の製造工程は,いずれも各工程に固有の反応条件を定め,一定の条件の下で設備を稼働させ
る工程であり,工業生産において一定の品質の製品を可能な限り効率よく量産しようと試みるのであれば,設備の稼働条件は最適化された一定の反応条件とすることが通常であると考えられる。
そうすると,工業生産に伴ってダイオキシンが副生される場合,同じ製造工程,設備等の下では,最適化された反応条件の下で操業することができない等の事情がない限り,基本的には,一定の反応条件の下で,一定の程度に塩素化されたダイオキシン類が生成され,その結果副生さ
れたダイオキシン類は,
一定の同族体組成比を示すことになるといえる。
(ウ)同族体組成比及び異性体組成比を比較する方法について
以上によれば,工業的に生成されたダイオキシン類からその発生源を推定するに当たっては,同族体組成比及び異性体組成比をそれぞれ対比してダイオキシン類の同一性を検討する方法によることが考えられると
ころ,このような方法が実際に広く採用されていること(甲A37〔2頁〕
,59〔16頁〕
,60,弁論の全趣旨)からすれば,基本的に上記
方法により同一性を判断することが相当と考えられる。

化学反応の機構の推定(異性体組成の比較検討等)について
(ア)前記前提事実(8)ウ及び証拠(乙17〔1~8頁〕
,45〔10,11
枚目〕
)によれば,本件公害対策事業の実施地域中,G2保育園,G1小学校,G3公園(北)
(盛土部分,盛土以深部分)
,G3公園(南)及び
近接部分(盛土部分,盛土以深部分)における試料のうち地区ごとにダイオキシン類濃度の高い順に選択した5試料
(G2保育園,
G3公園
(北)

の盛土部分,
G3公園
(南)
及び近接部分の盛土部分及び盛土以深部分)
又は10試料(G1小学校,G3公園(北)の盛土以深部分)の合計40試料のダイオキシン類の同族体組成比(別紙6)をみると,いずれもポリ塩化ジベンゾフランを含み,コプラナーPCBをほぼ含まず,うち22試料はダイオキシンをほぼ含んでいないことが認められる。

(イ)そして,証拠(乙17〔1~8頁〕
)によれば,上記(ア)の40試料に
ついて,
ポリ塩化ジベンゾフランの異性体組成比を見ると,
2,
3,
7,
8-塩素置換体の割合が高いことが認められるところ,このような特徴は,ジベンゾフランと塩素とが反応してできたダイオキシン類の異性体組成の特徴(前記ア(ア))と共通するものである。また,同族体の濃度に占める割合で表示する方法により規格化した2,3,7,8-塩素置換ダイオキシン類コンジェナーの組成について,黒鉛電極を用いた食塩電
解工程の汚泥検体(ラッペ論文記載のもの)と本件土壌汚染に係るダイオキシン類とを比較すると,
概ね一致することが認められる
(乙55
〔1
0~14頁〕。

そうすると,上記40試料におけるダイオキシン類は,主としてジベンゾフランと塩素の反応によりダイオキシン類を生成する発生源による
ものということができるところ,
前記(1)のとおり,
食塩電解工程はその
発生源となり得るものである(弁論の全趣旨)

他方において,上記40試料の一部に含まれているダイオキシンの同族体組成比,異性体組成比の構成は,CNP製品(塩素系殺虫剤や除草剤に使用される。に含まれるダイオキシン類と類似するものということ)

ができる(乙16〔3枚目〕
,弁論の全趣旨)


同族体組成比について
(ア)本件土壌汚染に係るダイオキシン類の同族体組成
a
後掲各証拠によれば,①前記イ(ア)の試料は,G3公園(北)(盛土
以深)の1試料((9)KA-52(2m)
)を除き,いずれも4塩素化
体が卓越し,7塩素化体・8塩素化体になるにつれて組成比が減少するか又は8塩素化体が7塩素化体の2倍量未満であり
(Oタイプ)上

記1試料は,6塩素化体が卓越し,4塩素化体,8塩素化体になるにつれてそれぞれ組成比が減少する同族体組成比(Rタイプ)を示して
いること(乙17〔1~8頁〕,②本件対策地域で環境基準値を超過)
した407地点におけるダイオキシン類のポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比を見ると,Oタイプを示すものが376試料(92.4%)
,Rタイプを示すものが11試料(2.7%)であったこと(甲
A37〔6~7頁〕
)が認められる。
b
ジベンゾフランが塩素と反応する際の反応速度については,
計算上,
時間以外の条件が同一である場合において,4塩素化体になるまでに要する反応時間は短く,4塩素化体が5塩素化体になる反応及びそれ以降の塩素化反応に要する時間はこれに比べて著しく遅いと推定されるところ
(甲A38,
40)この推定に誤りがあることを認めるに

足りる証拠はない。

したがって,OタイプとRタイプとは,塩素化の程度について有意な差があるといえるところ,原告らは,G9実験を根拠として,本件電解工場においてポリ塩化ジベンゾフランが発生したとすれば,高塩素化したRタイプの同族体組成比を示すことになると主張した上で,本件土壌汚染に係るダイオキシン類は主としてOタイプを示すもので
あるから,本件電解工場における食塩電解工程は本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因ではない旨主張する。そこで,以下検討する。
(イ)ダイオキシン類の同族体組成比に関する原告らの主張についてa(a)証拠(甲A51)によれば,G9実験において,フーカーS型電
解槽の操業条件におけるダイオキシン類の生成について検討したところ,陽極槽内のピッチと塩素ガスの反応により生成したポリ塩化ジベンゾフランについて,反応開始から7日目の試料では4塩素化体が卓越していたが,1か月目を境に6塩素化体が卓越し始め,49日目の試料からは6塩素化体が卓越した同族体組成に移行し,こ
のような同族体組成は98日目の試料においても観測されたことが認められる。
(b)これに対し,被告は,G9実験において陽極槽の温度が70℃一定とされているところ,この条件設定には根拠がなく,過去のソーダ工業では90℃よりも高温で電解を行っていることから,実験結果は適切ではない旨主張し,これに沿う文献(乙18〔33,34頁〕
)を証拠として提出する。
この点について,昭和29年12月に発行された化學工業掲
載の論文には,電解槽の温度は60℃~70℃くらいが適当とされている旨の記載があるが(乙35の7・別紙7の6(2))
,昭和14
年頃に日本電解ソーダ工業組合が作成したパンフレットには,隔膜
式の電解槽は70~80℃で操業するのが普通である旨が記載されていること
(乙35の4・別紙7の3(1)イ(イ),
(オ))
も踏まえると,
実際の電解槽の温度は70℃よりも高温であった可能性を否定することはできない。しかしながら,仮にG9実験において電解槽の温度を70℃から被告が指摘する90℃よりも高温に上昇させた場合
には,黒鉛電極内のピッチがより軟化することで,ピッチ中のジベンゾフランと塩素との反応が促進されることが考えられる。
そうであれば,被告が主張する点をもって,フーカーS型電解槽
におけるジベンゾフランと塩素の反応が,少なくともG9実験と比較して塩素化の進行が遅いものであったと認めることはできない。
(c)また,被告は,G9実験の結果ではラッペ論文において示されたポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比のパターンが存在せず,G9実験においては実験開始後35日目~42日目にラッペ論文に記載された結果と同様の同族体組成比になったと推測されるが,この期間はラッペ論文が対象とした食塩電解工程である水銀法における
黒鉛電極の使用期間である約7か月~14か月とは大きくかけ離れているなどとして,G9実験の結果には信用性がない旨主張する。しかしながら,被告も認めるとおり,食塩電解工程で生成される
ダイオキシン類の同族体組成比は,食塩の電解量,電解温度,電解時間や,黒鉛電極の品質,使用時間といった食塩電解条件によって異なり,実際の食塩電解工場においても異なる結果を示すものであるから,電解槽の種類あるいは工場ごとにジベンゾフランの塩素化の程度が異なることは不思議なことではない。したがって,G9実験の結果においてラッペ論文におけるポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比のパターンが存在しないことが,直ちにG9実験の信用性を疑わせるものということはできない。

また,隔膜法と水銀法とでは工程が異なる以上,隔膜法において
稼働開始35日目に電解槽内に存在したポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比と,水銀法において稼働開始14か月目に電解槽内に存在したポリ塩化ジベンゾフランの同族体組成比とが一致することが不自然であるということもできない。

(d)さらに,被告は,黒鉛電極から剝離し陽極槽内に液体として存在するピッチ(融解したピッチと理解される。なお,固形ピッチは細かく粉砕した状態にしても,
NaCl溶液に溶解しない。
乙18
〔3
3頁〕は高塩素化しやすい傾向にあるところ,

ピッチを含む黒鉛電
極ではなく固形ピッチを使用しているG9実験は,黒鉛電極に含ま
れるピッチが塩素化反応を受けるまでに物理的・化学的な制御因子が存在しないため,実際よりもジベンゾフランの塩素化が進行している旨主張する。
しかしながら,G9実験において用いられたピッチは,コールピ
ッチに珪砂
(9号)
を少量混合して直方体に成形したものであり
(甲

A51〔3頁〕,ピッチの融点は,中ピッチで70~85℃,硬ピ)
ッチで85℃以上であり
(甲A61)G9実験においては陽極槽の

温度を70℃としていたことからすれば(甲A51〔3頁〕,G9)
実験において,本件電解工場内の装置とは異なりピッチが陽極槽内に液体として存在したことを直ちに認めることはできない。
確かに,黒鉛電極に含まれるジベンゾフランは表面部分のものが
反応し,仮に微細孔内のものが反応するとしても,孔内は塩素イオンが少ないとする文献(乙35の7・別紙7の6(3))があることからすれば,反応の程度は低いと思われることから,黒鉛電極中のジベンゾフランの塩素化反応は,固形ピッチ中のジベンゾフランの塩素化反応に比べて遅いとも思われる。しかしながら,G9実験にお
いても,固形ピッチの表面のジベンゾフランのみが塩素と反応するものと考えられ,黒鉛やジベンゾフランが脱落すること等により表面に現れたジベンゾフランが新たに反応を開始するという
物理的・化学的な制御因子は,一定程度共通するものと考えられる。したがって,G9実験と比較して本件電解工場の電解槽内のジベ

ンゾフランの塩素化反応が遅く進行するとしても,その程度が大きいとまでは認め難い。
(e)以上のとおり,G9実験の結果がフーカーS型電解槽において生成したダイオキシン類の同族体組成比を示すものではないとして被告が主張する点は,いずれも採用し得ないか,又は重視し得ないも
のというべきである。
そして,
前記(ア)bのとおり,
ジベンゾフランの4塩素化体が5塩
素化体になる反応及びそれ以降の塩素化反応に要する時間が4塩素化体になるまでに要する反応時間に比べて長いことも考慮すれば,フーカーS型電解槽を日本ソーダ工業会発行の文献(甲A53,5
4)記載の操業条件下で操業した場合には,基本的にG9実験の結果と同様に塩素化したダイオキシン類が生成されるものとみるのが自然である。また,原告らは,ビリター・ジーメンス電解槽も使用していたところ,同電解槽はフーカーS型電解槽と近接した時期に本件電解工場に導入された隔膜式の電解槽であること(前記前提事実(6)ウ(ア),(イ))日本ソーダ工業百年史において,ビリター・,
ジーメンス電解槽は,フーカーS型電解槽と同じ旧型電解槽と

されていること,
(乙35の9〔476,477頁〕,フーカーS型

電解槽に比べて電解槽の寸法が大きいものの,電圧及び電流密度が高く,隔膜及び黒鉛電極の寿命が長いこと(甲A54,乙35の9〔476,
477頁〕に照らせば,

日本ソーダ工業会発行の文献
(甲
A53,54,乙35の9〔477頁〕
)記載の操業条件において操

業した場合には,フーカーS型電解槽と比較して,稼働時間当たりの塩素の生産量,濃度等は同等であったと考えられるから,基本的にG9実験の結果と同様に塩素化したダイオキシン類が生成されるものとみるのが自然である。
一方で,大日本人造肥料が操業していたフーカーF型電解槽(旧

日産化学工業も操業していた可能性がある。を曹達晒粉同業会発行)
の文献(乙35の3〔74頁〕
)記載の操業条件において操業した場
合,フーカーF型電解槽の能率を良くしたものがフーカーS型電解槽であること(前記前提事実(6)ウ(イ))からすれば,同電解槽に比べて稼働時間当たりの塩素の生産量,濃度等が低かった可能性も否
定できず,この場合,ジベンゾフランと塩素の反応時間が短く,反応量が少ないことから,Oタイプが生成された蓋然性が高いと考えられるというべきである。
b
もっとも,同じ装置を使用しても,その他の操業条件が異なれば生成するダイオキシン類の同族体組成比は変動するものということができ(弁論の全趣旨)
,さらに,原料の純度又は性質が変動することよっ
て反応物質の量が変わることによっても,同一の反応時間における同族体組成比が変動することが十分に考えられる(乙55〔5頁〕。)
そして,黒鉛電極についてみると,後掲各証拠によれば,①第一次世界大戦中(大正3年~7年)においては,国産の黒鉛電極が使用されたが,これは電解槽内で崩壊し1か月程度で消耗する程度のものであったこと(乙35の5・別紙7の4(1),乙80・別紙7の2(4)),
②その後,国産電極の品質が向上したものの,戦局の苛烈化とともに米国からの石油コークスが輸入できなくなることで原料そのものの品質が低下することとなり,昭和15年下期より品質が低下し,電極の
地肌が粗く,ところどころに顆粒があり,均一性を欠くなどの問題が生ずるに至ったところ,基本的にはその後終戦まで品質の回復は実現しなかったこと(乙35の4・別紙7の3(2)ア,イ(ア),乙35の5・別紙7の4(1))
,③戦時中,他社において,黒鉛電極を油加工して電極の寿命を延ばす試みがされ,各社がこれを参考にしようとしたが,
戦局の苛烈化により実地に応用されなかったこと(乙35の4・別紙7の3(2)イ(イ))④戦後しばらくの間,

電極生産は不調であったもの
の,昭和23年頃から生産は順調となり,昭和24年から石油コークスの輸入が許可されるようになったことで電極供給の前途に光明が見られるようになったこと(乙35の4・別紙7の3(2)ア)が認められ
る。
また,電力事情についてみると,後掲各証拠によれば,①戦前においては,電力需要が急速に増加した一方,供給がこれに伴わなかったため,次第に電力不足となり,昭和14年8月頃からはしばしば短時間の停電や電圧降下が生じたこと(乙35の4・別紙7の3(1)ア),

②終戦から昭和30年頃までは,電力事情が悪かったこと(乙35の9・別紙7の8(2)エ)
,③停電が長時間にわたる場合,隔膜が剥離す
ることや,急激に通電することにより,黒鉛電極が崩壊することがあったこと(乙35の4,別紙7の3(1)イ)が認められる。
これらの事実に鑑みると,本件電解工場の操業期間において,黒鉛電極の品質が低下していた時期や,停電,電圧降下の発生した時期があったことが認められるところ,このような事情があった時期におい
ては,通常の操業時に比べてジベンゾフランの塩素化反応の進行が遅かったことや,黒鉛電極が早期に崩壊し隔膜の交換が早まったことが十分に考えられ,Oタイプのダイオキシン類が本件電解工場の電解槽において生成された可能性が高いと考えられる。
また,
前記a(e)で述
べたことからすれば,フーカーF型電解槽の操業期間においては,O
タイプが生成された蓋然性が高いといえる。
(ウ)同族体組成比に関する主張の検討結果
前記(ア)のとおり,本件土壌汚染に係るダイオキシン類のうちポリ塩化ジベンゾフランは,OタイプとRタイプの双方を含んでいるところ,前記(イ)のとおり,原告らは,食塩電解工程において,Oタイプのみなら
ず,少なくとも一定の時期についてはRタイプのダイオキシン類を生成した可能性があると十分に考えられることからすると,同族体組成比の観点からは,原告らが食塩電解工程で生成したダイオキシン類と本件土壌汚染に係るダイオキシン類が異なるということはできない。したがって,同族体組成比の点をもって本件電解工場における食塩電解工程は本
件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因ではないとする原告らの主張を採用することはできない。

同族体組成比及び異性体組成比の比較による検討
本件対策地域において検出されたポリ塩化ジベンゾフランの異性体組
成比の特徴等からすれば,食塩電解工程がその発生源となり得るものといえることは,前記イのとおりである。しかしながら,本件対策地域(近接部分を含む。
)において検出されたダイオキシン類の同族体組成比及び異
性体組成比(別紙6)と,食塩電解工程により発生したことが知られているダイオキシン類の同族体組成比及び異性体組成比(乙16〔4枚目〕・別
紙9)をグラフで比較した場合,形状が同じであるといい切ることはできない。そして,上記ウの同族体組成比の観点からは,原告らが食塩電解工
程で発生させたダイオキシン類と本件土壌汚染に係るダイオキシン類が同一であるとしても矛盾しないといえるにとどまり,前記ウ(イ)における検討が推論を含むものであることや,原告らが他にダイオキシン類の発生源が存在する旨主張していることなどからすると,前記イの点を考慮しても,同族体組成比及び異性体組成比の比較のみをもって,本件土壌汚染に
係るダイオキシン類に,原告らが食塩電解工程において発生させたダイオキシン類が含まれると認定することまではできず,この点については,その他の事情を併せて更に検討をする必要があるというべきである。オ
類縁化合物の存在
(ア)証拠(乙20,47)によれば,本件対策地域のダイオキシン類により汚染された土壌においては,塩素化多環芳香族炭化水素(Cl-PAH)が存在することが認められる。
そして,黒鉛電極の結合剤として使用されるピッチの成分は,主に多環芳香族炭化水素類で構成されており,食塩電解工程においては,ダイ
オキシン類のほかに,その類縁化合物として高濃度の塩素化多環芳香族炭化水素が発生すること(乙20,54,66〔枝番を含む。)からす〕
れば,類縁化合物の存在は,本件対策地域におけるダイオキシン類が食塩電解工程に由来することを推認させるものといえる。
なお,
原告らは,
上記認定及び判断に係る乙20号証の実験について,

当時の黒鉛電極に含まれていた分量を再現するために必要なピッチの量を計測せずにこれを投入していること等から,実験として不適切である旨主張する。しかしながら,乙20号証の実験は,食塩電解の電解槽にピッチが存在する場合において,ピッチ内のジベンゾフラン及び多環芳香族炭化水素と塩素との反応機構を確認し,ポリ塩化ジベンゾフラン及び塩素化多環芳香族炭化水素の発生を確認することを目的とするものであり,発生量を測定するためのものではないから,原告ら主張の点をも
って同実験の結果が不適切であるということはできない。
(イ)原告らは,本件対策地域におけるダイオキシン類と塩素化多環芳香族炭化水素とが別に発生した可能性がある旨主張する。
しかしながら,土壌中にこれらの物質が同時に存在することから直ちに同じ原因により発生したものであるとはいえないものの,本件におい
ては,ダイオキシン類の発生とは別に塩素化多環芳香族炭化水素が発生し,本件対策地域の土壌中に存在するに至った具体的な可能性をうかがわせるに足りる主張及び証拠が見当たらないことに照らせば,原告らの主張を採用することはできない。

地歴
(ア)認定事実
前記前提事実(6),後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。a
本件対策地域は,
明治13年頃は畑,
明治42年頃は荒れ地であり,
大正6年の本件電解工場建設前には関東酸曹の敷地外であり,沼,田,
荒れ地,水路のいずれかであった(乙9〔1~4枚目〕
。なお,明治4

2年測量の地図上(同〔3枚目〕
)において黄色で塗られた箇所は,大
正6年以降の地図(同〔4枚目〕
)に照らして,本件対策地域と合致し
ているものとはいい難く,本件対策地域は明治42年当時も関東酸曹の工場敷地外であったと認めるのが相当である。。

b
本件電解工場は昭和45年3月に撤去され,本件対策地域は更地化された。
c
その後,本件対策地域を含めた地区において,G4団地の建設が行われた。
本件対策地域のうち,①G2保育園は,G2保育園(12号棟)の園庭及びプールとして利用された(甲A13の2〔17~20頁〕。)
なお,昭和47年3月から昭和48年4月までの間に,畑土945㎥
(土取場は横浜市港北区勝田町,同区山田,東京都町田市大野,千葉県松戸市新田,埼玉県入間市元加治)
,山砂443㎥が搬入された(甲
A13の2〔8頁〕
,乙15)

また,②G3公園(北)は,団地の建物の間の緑地帯として利用された(甲A13の2〔25~29頁〕。なお,昭和48年10月から)

昭和49年8月までの間に,G3公園(南)と併せ,高井戸,北区内工事現場由来の土7580㎥が搬入された(甲A13の2〔8頁〕,乙
15)

③G3公園(南)は,G3公園(北)と連続した広場,運動場として利用されていたが,平成7年頃以降工事が行われて土砂置場として
利用され,盛土等の造成工事が行われた(甲A13の2〔38~44頁〕。なお,昭和48年頃の土の搬入は上記②のとおりであり,加え)
て,平成13年及び14年に盛土工事及びスーパー堤防工事として合計1320㎥の土が搬入された(甲A13の2〔8頁〕
,乙15)

④G1小学校は,小学校の校舎,体育館敷地及びグラウンド,プー
ルとして利用された(甲A13の2〔49~53頁〕。なお,昭和4)
8年5月から同年7月までの間に,府中市由来の土234㎥が搬入された(甲A13の2〔8頁〕
,乙15)

(イ)検討
a
本件対策地域は,
王子工場が建設される前は畑,
荒れ地等であって,
ジベンゾフランと塩素とが反応してできたダイオキシン類が土壌中に含まれる契機が具体的にあったとは認められない。
b
王子工場撤去後に搬入された土のうち,上記(ア)c①の畑砂及び②,③(昭和48年頃に搬入されたもの)
,④の土については,各土取場の
付近においてジベンゾフランと塩素との反応過程を有する工場等があると認めるに足りる証拠はなく,ジベンゾフランと塩素との反応に由
来するダイオキシン類が同地域において発見されたことをうかがわせる事情も見当たらないから
(弁論の全趣旨)これらの土の中に本件対

策地域中のダイオキシン類が含まれていたと認めることはできない。c
これに対し,上記(ア)c①の山砂及び③の土(平成13年,14年に搬入されたもの)については,由来が明らかではない。
さらに,G3公園(南)は,対策地域の面積が約900㎡(甲A2〔2頁〕
,13の1〔7,8枚目〕
,乙51〔8枚目〕
)であり,昭和4
5,46年当時の標高と平成17年,18年に実施されたボーリング調査とを比較すると平均2.69mかさ上げされているところ(甲A
13の1〔4頁〕,平成13年,14年に搬入された土が合計132)
0㎥であることからすれば,
この間,
同地点に前記(ア)c③以外の土が
搬入されている可能性も否定できない。
この点について,被告は,由来が明らかでない土砂の量は,本件対策地域全体に等しく置いても厚さが約59cmにすぎず,ダイオキシ
ン類の汚染が高濃度で検出された深さ2m~4mの層全体には影響しない旨主張する。しかしながら,本件対策地域は王子工場の撤去に伴い一旦整地されていること
(前記前提事実(6)ア)本件対策地域には,

表層下3mより深い地点にもCNP由来の可能性の高いダイオキシン類に汚染された土壌が認められ(乙53〔資料18〕,戦後に排出さ)

れたとみられるCNP由来のダイオキシン類が自然の土壌の堆積等によりこのように深い地点から検出されることは考え難いことからすれば,本件対策地域中の盛土,埋土部分は攪拌されているものと認められる(乙78〔6頁〕。そして,被告自身も,本件土壌汚染の原因物)
質に含まれていたダイオキシン類濃度が土壌との混和によりかなり希釈されていたと主張していること
(被告準備書面(8)の4頁参照)
に照
らせば,汚染物質がその量と対比して広範囲に拡散している可能性に
ついても否定することができず,搬入土砂の量が本件汚染土壌の量よりも少ないことをもって,直ちにこれが汚染原因ではないと断ずることはできない。
また,被告は,原告らが依拠する証拠(甲A13の1)ではG3公園(南)KB2-27地点の調査結果が反映されておらず,上記調査
結果によれば,
盛土部分には環境基準を超える汚染がないと主張する。
しかしながら,上記証拠においては,G3公園(南)のうち対策地域を含む部分について検討がされているのであるから,対策地域以外の箇所であるKB2-27地点の結果が反映されていないことがその信用性を失わせるものとはいえない。この点をおくとしても,実際にG
3公園(南)の盛土部分に環境基準を超えるダイオキシン類による汚染が認められること(乙13〔4枚目〕
,17〔7頁〕
)に照らせば,
上記地点の盛土部分の汚染状況をもって,由来が明らかでない土砂にジベンゾフランと塩素が反応したダイオキシン類が存在しないといい切ることはできない。したがって,被告の主張を採用することはでき
ない。

ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程について
(ア)さらし粉製造工程について
a
さらし粉は,消石灰と塩素との化学反応により製造されるところ,王子工場における製造方法は,本件電解工場の電解質から直接塩素を鉛室に送入し,消石灰に反応吸収させるというものであったこと
は,
前記前提事実(6)エ(ア),
(ウ)のとおりである。
このことからすると,
上記鉛室におけるさらし粉の製造工程においては,アスファルト
等のジベンゾフランを含む物質と塩素との反応が存在したとは認め難いとも思料されるところである。
しかしながら,かつての欧州においては鉛や鉄製の部屋も存在した
ものの(甲A29の1・2〔4頁〕,戦前における我が国のさらし粉)
の製造は,コンクリートの室(むろ)の底部を鉛板かアスファルトでカバーした場所に塩素ガスを導入して吸収させる方法で行われていたとされており
(乙82)鉛は被覆材としてアスファルトに比べて高価

であったと考えられることからすれば,上記鉛室の壁や天井まで

鉛で覆われていたとまではにわかに認め難く,ジベンゾフランを含有するアスファルトで覆われていた可能性を否定することはできないものというべきである。
したがって,さらし粉製造工程の反応室においてジベンゾフランと塩素の反応過程があり,これによりダイオキシン類が発生した可能性
を否定することはできない。
b
また,証拠(甲A52)によれば,ガラス管にジベンゾフランを含む固体のコールピッチを敷き,管内に空気で希釈した50%塩素ガスを封入し,45℃の恒温槽内に入れた実験において,250日経過時
点で発生していたダイオキシン類は,ほとんど全てがポリ塩化ジベンゾフランで構成され,その異性体組成比は2,3,7,8-塩素置換体が大部分を占め,同族体組成比は4塩素化体が卓越したものとなるとの結果が出たことが認められる。
上記aのとおり,王子工場においては,さらし粉製造工程において
アスファルト内のジベンゾフランと塩素ガスとが反応する工程があった可能性を否定し得ないところ,この反応が固体と気体との反応であることなどを踏まえれば,長期間にわたって反応することを考慮しても,この工程において発生するダイオキシン類は,上記実験における同族体組成比,異性体組成のとおり,4塩素化体が卓越した組成(Oタイプ)のポリ塩化ジベンゾフランである可能性が高いといえる。(イ)ルブラン法関連工程について
a
ルブラン法の第1段階である硫酸ナトリウムの製造工程においては,鉄製の硫酸塩釜で塩化ナトリウムと硫酸を200℃に加熱していたが,添加する塩化物の3分の2が主として塩化水素として釜から放出されるため,塩化水素による腐食を避ける目的でコールタールを釜に含浸させていたものであり(弁論の全趣旨)
,このことは,ルブラン法関連

工程の工場を由来とするポリ塩化ジベンゾフランによる汚染が報告されていること(甲A29の1・2)からも裏付けられるといえるところ,王子工場の上記製造工程においてこれと異なる処理がされていたことをうかがわせる事情は見当たらない。
そうすると,王子工場の硫酸ナトリウム製造工程においては,ジベ
ンゾフランと塩素との化学反応によりポリ塩化ジベンゾフランが発生した可能性があることは否定し得ないものというべきである。
b
ルブラン法関連工程である塩素製造工程のうち塩酸吸収塔は,硫酸ナトリウムの製造工程で発生した塩化水素(塩酸ガス)を凝縮,精製
する工程であって
(前記前提事実(10)イ)コークスを充填した複数の

コークス塔で塩酸ガスを凝縮する際,鉱油を含んだ水を上から流して塩酸ガスを凝縮し,含まれているヒ素を取り除いており,塩酸ガスの導管や凝縮室は,主としてコールタールに浸した粘土で製作されていたものであり(弁論の全趣旨)日本曹達工業史にも,塩酸ガスを


炉より導く土管はしばしば破損していたが,コールタールで煮て炉の上で乾燥させて温めておき,破損の際に取り替えると良くなった旨の記載があるところ(甲A30)
,王子工場の上記製造工程において,以
上と異なる処理がされていたことをうかがわせる事情は見当たらない。そうすると,王子工場の塩酸吸収塔においては,コールタールに含まれるジベンゾフランと塩素との化学反応によりポリ塩化ジベンゾフランが発生した可能性があることは否定し得ないものというべきであ
る。
c
ルブラン法関連工程である塩素製造工程のうち二酸化マンガン法は,陶器製又は石造の反応槽中に二酸化マンガンを入れ,そこに塩酸吸収塔で凝縮・生成された塩酸を注ぎ蒸気を吹き込んで塩素を発生させる
工程であり(弁論の全趣旨)
,二酸化マンガン法については,塩素室は
砂岩で製作され,コールタールを約2cmの厚さで砂岩片間の充填材に使用し,砂岩片自身についてもコールタールを含浸させていたことから,ポリ塩化ジベンゾフラン及び塩素化多環芳香族炭化水素が生成する高い可能性が明白にあったことが報告されているところ(甲A2
9の1・2〔4頁〕,王子工場の上記製造工程において,以上と異な)
る処理がされていたことをうかがわせる事情は見当たらない。
そうすると,王子工場の二酸化マンガン法工程において,コールタールに含まれるジベンゾフランと塩素との化学反応によりポリ塩化ジベンゾフランが発生した可能性があることは否定し得ないものという
べきである。
(ウ)重金属との併存に係る被告の主張について
被告は,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程の残滓による汚染土壌には,ダイオキシン類と非金属・重金属が併存するところ,本件対策地域においてダイオキシン類濃度と鉛濃度や銅濃度との相関が認めら
れなかったことからすれば,これらの工程は本件対策地域におけるダイオキシン類の汚染と関連性を有しないと主張する。
確かに,ルブラン法関連工程のうち硫酸製造工程においては,黄鉄鋼などの硫黄酸化物を含む鉱石の焙焼の工程において,
ヒ素が溶出したり,
重金属を含む焼鉱が発生したりするため(乙68〔枝番を含む。,弁論〕
の全趣旨)ルブラン法由来のダイオキシン類は非金属,

重金属と併存す
ると考えられる。もっとも,前記前提事実(10)のとおり,上記の硫酸製造工程と,その工程で発生した塩酸から塩素を製造する工程や塩素と消石灰を反応させてさらし粉を製造する工程とは,別個の工程であるといえる上,王子工場においては少なくとも硫酸工場とさらし粉の反応室とは離れた場所に存在したこと(甲A58)からすれば,重金属と併存し
ていないからといって,さらし粉製造工程や塩素ガスの配管を由来とするダイオキシン類の排出が否定されるものとはいえない。
また,
前記(イ)bのとおり,
塩酸吸収塔において非金属であるヒ素が除
去されていることからすれば,その前工程である硫酸ナトリウム製造工程において発生した塩酸ガスにはヒ素が含まれることがうかがわれる。
しかるところ,G1小学校の2地点の土壌中からは,東京都土壌汚染対策指針の基準値(溶出量0.3mg/l)を超えるヒ素が検出され,表層土壌を中心に多くの地点から東京都環境確保条例施行規則別表12の基準値(溶出量0.01mg/l)を超えるヒ素が検出されている(乙52〔41頁〕。また,王子工場跡地における土壌分析の結果,地下土)

壌において平均431ppm,
最大値1601ppmのヒ素が検出され,
表層土壌においても平均232ppm,最大値494ppm,あるいは最大値310mg/kgのヒ素が検出されている(甲A45,46)。ま
た,
重金属である鉛についても,
王子工場跡地における土壌分析の結果,
地下土壌において平均3655ppm,最大値18679ppmが検出
され,
表層土壌においても平均1246ppm,
最大値2102ppm,
あるいは最大値1700mg/kgが検出されている
(甲A45,
46)

そうすると,本件対策地域中の土壌にもヒ素を含む非金属,重金属が存在することは否定し得ないものといえる。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
(エ)コールタールとタールピッチとの違いに係る被告の主張について被告は,ルブラン法関連工程のうち塩素製造工程(塩酸吸収塔,二酸化マンガン法)及びさらし粉製造工程において発生する可能性があるポリ塩化ジベンゾフランを主体とするダイオキシン類は,コールタールに含まれるジベンゾフランの塩素化反応によるものであり,タールピッチ由来のものと異なり,1環や2環の塩素化合物が生成するとともに,3
環~5環の塩素化合物の生成割合が低いものと推定されると主張する。確かに,コールタールとタールピッチの化学的な性質の違いに照らせば,上記の各工程において生成する類縁化合物については,食塩電解工程において発生するものとは異なり,塩素化多環芳香族炭化水素を生成しない可能性が十分に考えられる。しかしながら,本件対策地域中のポ
リ塩化ジベンゾフランについて,塩素化多環芳香族炭化水素を併産する原因に由来するものと,これを併産しない原因に由来するものとが混合している可能性を否定するに足りる証拠はない。
そうすると,本件対策地域のダイオキシン類のうちポリ塩化ジベンゾフランについては,塩素化多環芳香族炭化水素が存在すること(前記オ
(ア))
に照らしてその多くがルブラン法関連工程又はさらし粉製造工程に由来するものとはいえないものの,その一部がこれらに由来するものである可能性を否定することはできないというべきである。
(オ)排出量について
被告は,仮にさらし粉鉛室1棟の倒壊とそれに伴うダイオキシン類の
排出可能性が存在したとしても,本件対策地域の広範囲にわたってダイオキシン類による高濃度の汚染地域が認められ,表層土壌から深い層の土壌までダイオキシン類による汚染が検出されたこと等の事実関係に照らし,上記1棟の倒壊によって本件対策地域におけるダイオキシン類の土壌汚染を説明することはできないと主張する。
この点について,さらし粉製造工程において発生したダイオキシン類は,
関東大震災によりさらし粉鉛室1棟が倒壊したとき
(乙35の2
〔2

09頁〕に限らず,

被覆材であるアスファルトの劣化等による定期的な
メンテナンス時に排出された可能性も否定し得ないほか,ルブラン法関連工程の工場の除去時の残骸に含まれていた可能性も否定し得ないというべきである。
もっとも,ルブラン法関連工程やさらし粉製造工程において発生した
ダイオキシン類の排出の契機として合理的に想定されるものは,上記の程度に限られ,この点からも,本件対策地域中のダイオキシン類のうちポリ塩化ジベンゾフランの多くがルブラン法関連工程やさらし粉製造工程に基づくものであるとはいえないものと考えられる。
(カ)以上によれば,本件土壌汚染に係るダイオキシン類には,ルブラン法
関連工程やさらし粉製造工程によって発生したものが含まれている可能性があるものの,前記(エ)及び(オ)で述べたところからすれば,これらが本件土壌汚染に係るダイオキシン類の主たる発生原因であるとは認め難いものというべきである。

山火事,焼き畑,焼却について
原告らは,山火事,焼き畑,田畑での不要物の償却が本件対策地域中のダイオキシン類の発生原因である可能性があると主張する。
しかしながら,
前記イのとおり,本件土壌汚染に係るダイオキシン類は主としてジベンゾフランと塩素との反応により発生したものであるところ,原告らの挙げる
発生原因によってこのようなダイオキシン類が具体的に発生することを認めるに足りる証拠はないから,原告らの主張を採用することはできない。ケ
ごみ焼却炉,工場の煙突,河川の氾濫について
原告らは,ごみ焼却炉や工場の煙突からの排煙が本件対策地域中のダイオキシン類の発生原因である可能性や,河川の氾濫によって他の地域で生成したダイオキシン類が本件対策地域中に流入した可能性があると主張する。
しかしながら,
本件対策地域中のダイオキシン類は,
前記イのとおり,

主としてジベンゾフランと塩素が反応したダイオキシン類であるところ,ごみ焼却炉の排煙に含まれるダイオキシン類の組成は焼却物に依存するため一定ではないと考えられるから,これが発生原因であるとはいい難い。また,本件対策地域の周辺や近隣河川の上流にジベンゾフランと塩素の反応工程を有する工場があったことを認めるに足りる証拠はないから(昭和
50年頃,近隣に電解工場であるG6株式会社の尾久工場があったと認められるが(弁論の全趣旨)
,尾久(荒川区)は王子工場からみて隅田川の川
下に当たる(公知の事実))
。,これも発生原因であるとは考え難い。
したがって,原告らの主張を採用することはできない。

関東酸曹が製造していた農薬等について
原告らは,本件対策地域中のダイオキシン類が,関東酸曹が製造していた農薬等によるダイオキシン類によるものである可能性がある旨主張する。しかしながら,ジベンゾフランと塩素との反応過程を含む農薬(CNP製品)は,国内においては戦後に製造されたものであり(弁論の全趣旨),
上記農薬等の製造工程において同様の反応過程が存在したと認めるに足り
る証拠はない。
したがって,原告らの主張を採用することはできない。

小括
以上によれば,本件対策地域のうちG3公園(南)以外については,本
件土壌汚染に係るダイオキシン類のうちポリ塩化ジベンゾフランは,食塩電解工程由来のものとルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程(配管を含む。由来のもの以外には具体的に考えられないところ,

本件土壌汚染か
らは,OタイプだけでなくRタイプを示すポリ塩化ジベンゾフランも検出されており,さらし粉製造工程から発生するポリ塩化ジベンゾフランはOタイプのみであると考えられることからすれば,上記地域の土壌汚染の原因となるダイオキシン類には,食塩電解工程を発生原因とするポリ塩化ジ
ベンゾフランが含まれるとみるのが相当である。
また,G3公園(南)については,搬入土にダイオキシン類が含まれていた可能性も否定することはできないが,その他の本件対策地域と汚染の状況自体が共通するものといえることからすれば,土壌汚染の原因となるダイオキシン類には,食塩電解工程が原因となるポリ塩化ジベンゾフラン
が含まれるとみるのが相当である。
(3)

本件電解工場において汚泥が発生したか
上記(2)のとおり,
本件土壌汚染に係るダイオキシン類には,
原告らが食塩

電解工程において発生させたダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾフラン)が含まれるというべきであるところ,被告は,原告ら及び大日本人造肥料が食塩電解工程において生成したダイオキシン類を同工程において発生した汚泥とともに本件対策地域中に排出した旨主張し,原告らは,そもそも隔膜法による食塩電解工程では,電解槽や隔膜に付着物が生じたとしても反応系の外に出ることはなく,本件電解工場において汚泥が発生していたということも
できない旨主張することから,以下検討する。

後掲各証拠等によれば,次の事実が認められる。
(ア)フーカーS型電解槽においては,隔膜の寿命が約3か月~約6か月,黒鉛電極の寿命が約12か月~約20か月であった(甲A54,乙35の9〔476頁〕。そして,黒鉛電極の交換は,隔膜の交換と同時に行)

われていた(乙35の3・別紙7の2(1),乙72・別紙7の9,弁論の全趣旨)

(イ)第一次世界大戦中に使用された国産の黒鉛電極は,電解槽中で崩壊して1か月程度の使用にしか耐えられなかった(乙35の5・別紙7の4(1),乙80・別紙7の2(4))

(ウ)フーカーS型電解槽においては,運転によって陽極が消耗することで厚みが減少し,隔膜との間隔が開いて陽極自体の抵抗が増すなどの変化
が生じた(乙72・別紙7の9)

また,食塩電解工程において黒鉛電極が消耗すると,黒鉛が燃焼することで二酸化炭素になるか,黒鉛結晶を結合している組織が燃焼することで構造が崩壊し,粉末泥となり,苛性ソーダ1t当たり約5kgが二酸化炭素として,約5kgが粉末泥として黒鉛電極から失われた(乙3
5の5・別紙7の4(2),乙35の6・別紙7の5(3),乙35の7・別紙7の6(1),乙35の8・別紙7の7(4))

(エ)食塩電解工程において発生した粉末泥は,電解液とともに電解槽から流出するか,隔膜上に沈積した(乙35の5・別紙7の4(2))。隔膜法
においては,粉末泥が隔膜に堆積していたが,隔膜に多少の粉末泥が付
着して目を詰めることはあらかじめ想定されていた(乙35の4・別紙7の3(1)イ(ウ),乙35の5・別紙7の4(2),乙72・別紙7の9)。
隔膜を再利用する際には,隔膜に付着した黒鉛の粉末泥等を機械的に除去し,塩酸で洗浄して付着物を溶解し,更に水で洗浄した上乾燥させる方法が採られていた(乙35の4・別紙7の3(3)イ)



原告らは,電解槽や隔膜に付着物が生じたとしても,全て循環し,反応系の外に出ることはなかったと主張する。
しかしながら,原告日産化学の従業員は,本件電解工場で食塩電解工程を担当していた職員の聴取等を踏まえ,本件電解工場における電解液中の
不純物の循環については,①電解中に発生した不純物などが電解槽及び隔膜に多少付着したとしても,これらは特定の洗浄場所で洗浄され,この洗浄水には食塩が含まれているので,電解後に電解槽から排出される循環淡塩水(別紙8フローシートの右端の紫の枠)に合流させ,②電解槽に至る前段階の工程において,上記循環淡塩水に原料塩を溶解し,これに塩化カルシウムを混ぜて硫酸イオンを取り除き
(別紙8フローシートの※
[1],

その後,苛性ソーダ,ソーダ灰を混ぜてカルシウムイオン,マグネシウム
イオンを除去し
(別紙8フローシートの※
[2],
)上澄みを電解槽に送り,
不要物の懸濁液は,電解槽に送られることなくそのまま工場外に放流された(別紙8フローシートの※[3]
。なお,昭和42年頃以降は,懸濁液を
フィルタープレスによりろ過し,ろ過残滓を産業廃棄物として業者に処分させ,
ろ過後の塩水は工場内循環淡塩水として再利用した。と説明すると)

ころ(甲A55)
,これに反する証拠はないことからすれば,基本的にこの
ような処理がされていたものと認められる。
上記①,②に加え,汚泥を埋立処理したとしても汚泥は電解槽内に残らないことからすれば,電解中に発生し電解槽及び隔膜に多少付着した不純物は,電解槽内には残らなかったものということができる。

したがって,原告らの主張を採用することはできない。

次に,本件電解工場における汚泥の発生の有無等について検討する。(ア)前記ア(エ)の事実に照らせば,当時の隔膜法による食塩電解工程においては,黒鉛の粉末泥が隔膜に付着することが想定されていたことから
すれば,黒鉛電極中の黒鉛やピッチ等の材質の粒子間の結合が崩壊してできた粉末泥(汚泥)が発生したものと認められるところ,本件電解工場において,一般の隔膜法による食塩電解工程と異なり,上記の粉末泥が発生しなかったことを裏付けるに足りる証拠は見当たらず,かえって証拠(甲A55〔3頁〕
)によれば,本件電解工場においても,使用後の

隔膜は特定の洗浄場所で洗浄されていたことが認められる。そして,前記ア(ウ)の事実によれば,
食塩電解工程による苛性ソーダの生産1t当た
り約5kgの粉末泥が発生したものと認められるところ,本件電解工場において,一般の食塩電解工程と異なり,粉末泥の発生量がより少なかったことを裏付ける証拠は見当たらない。したがって,本件電解工場において食塩電解を行っていた大正6年12月から昭和44年12月までの間,特に電極の質が悪化していた時期に限らずその他の時期においても,同工場の隔膜法電解槽において使用されていた黒鉛電極は,使用中に黒鉛を含む材質の粒子間の結合が破れて崩壊を起こし,苛性ソーダ生産量1t当たり5kg黒鉛が粉末泥として電解槽や隔膜上に沈殿したものと認めるのが相当である。

(イ)aこれに対し,原告らは,別紙7の各文献について,食塩電解工程による苛性ソーダの生産にはダイオキシン類を含む汚泥が必ず生じるという被告の主張の根拠となる事実が記載されていないなどとして,これらの文献から汚泥が発生することが結論付けられることはなく,食塩電解工程においては黒鉛電極のほとんどが炭酸ガスとなると主張する。

確かに,別紙7の文献は,乙35号証の2(別紙7の1)を除き,いずれも隔膜法による食塩電解工程の一般的な内容を記載したものであるところ,日本において使用されていた隔膜法の電解槽には,原告らが操業していない種類のものもあることが認められる(乙35の9〔476,477頁〕。しかしながら,上記各文献が基本的には電解)

槽の種類を区別せずに記載していることや,原告らが使用していた電解槽がその他の電解槽と事情を異にすることを裏付ける具体的な事情が見当たらないことからすれば,原告らが使用していた電解槽について,上記各文献の記載内容が当たらないということはできない。
b
以上に加え,原告日産化学は,別紙7の4,5の各文献の記載内容は,戦後の食塩電解工程には当てはまらないと主張する。
しかしながら,別紙7の4の文献は,昭和26年に刊行されたものであるところ,黒鉛電極消耗量の約2分の1は組織が弛緩崩壊してマッドとなる旨の記載と同じ項目には,電解板の日本標準規格の制定の研究が行われている旨の記載があり(乙35の5〔17頁〕,昭和2)
7年10月にJIS規格が制定されたこと
(乙35の7
〔1000頁〕


からすれば,上記各記載は,いずれも昭和26年頃の状況に基づくものとみるのが相当である。また,別紙7の5の文献は,昭和27年に刊行されたものであるところ(乙35の6,弁論の全趣旨)
,黒鉛電極
の消耗の一つとして粉として崩壊する(泥状沈殿となる)とする記載と同じ項目には昭和23年における調査結果を引用した記載がある
ほか,他の項目には昭和27年に発行された文献が引用されていること(乙35の6〔36,37頁〕
)に照らせば,上記各記載は,いずれ
も昭和27年頃の状況に基づくものと考えられる。
そして,これらの文献上,昭和20年4月以降における黒鉛電極の消耗に関して,従前と異なる状況があったとする趣旨は読み取れない
から,原告日産化学の主張を採用することはできない。
(4)

原告らが王子工場において発生したダイオキシン類を含む汚泥を土壌中
に排出したか

上記(3)のとおり,
本件電解工場の電解槽においては,
ダイオキシン類を
含む粉末泥(汚泥)が発生していたことが認められるところ,前記(2)のとおり,王子工場の敷地である本件対策地域内には,原告らが本件電解工場を操業していた際に発生した,食塩電解工程に由来するものと認められるダイオキシン類が含まれている。そうすると,本件電解工場が操業されていた当時,食塩電解工程において電解槽に発生した粉末泥が,工場外へ放
流されたり,ろ過残渣として産業廃棄物として処理された(前記(3)イ)だけでなく,何らかの方法で本件対策地域内の土壌に排出されたものと考えざるを得ない。
そして,かつての欧州においては食塩電解工程に由来するスラッジが工場内の砂利の埋立穴等に埋められていたこと(乙60〔枝番を含む。,6〕
1〔枝番を含む。,,昭和45年12月25日に廃棄物処理法が制定され〕)
る以前には,工場敷地内に穴を掘って不要な物を埋設して処理したり地下
に浸透させたりする行為を明確に禁止する法令は見当たらないこと等に照らせば,大日本人造肥料又は原告らが,黒鉛電極や隔膜を交換する際に発生した粉末泥を周辺の土壌に排出した可能性も十分にあることがうかがわれ,本件電解工場において発生したダイオキシン類を含む粉末泥(汚泥)が本件対策地域内の土壌に廃棄されたものとみることは,不自然,不合理
ではないというべきである。

これに対し,原告らは,操業期間中に汚泥を建物が建っている土壌の下に廃棄することはできないところ,工場や倉庫等の敷地下部からダイオキシン類が検出されており,このことは汚泥の廃棄の事実と矛盾する旨主張する。

しかしながら,王子工場内においては建物の建て替えも行われていること(乙9〔4,5枚目〕,本件対策地域内の地中が攪拌されていること(前)
記(2)カ(イ)c)からすれば,排出地点と当該汚染物質の最終的な存在場所が一致するとは限らないから,原告ら指摘の点をもって,本件対策地域内に汚泥が廃棄されたことを否定することはできないから,上記主張を採用
することはできない。

また,原告らは,王子工場と道路を挟んで10mの距離にあり,大日本人造肥料や原告らが所有や占有したことがないG5敷地内からもダイオキシン類が検出されていることから,共通の理由により外部から汚染された
可能性があるとして,原告らがダイオキシン類を含む汚泥を排出したとはいえない旨主張する。
しかしながら,G5敷地の土壌において検出されたダイオキシン類が環境基準値を上回るものであることを認めるに足りる証拠はないところ(なお,被告はその毒性等量が最大で260pg-TEQ/gであると主張するところ,これを否定する主張,立証は見当たらない。,一般的に食塩電)
解工程に由来するダイオキシン類の毒性等量は極めて高いこと
(乙54
〔6

頁〕に照らせば,

そもそもG5敷地の土壌中のダイオキシン類が食塩電解
工程由来のダイオキシン類であるとは認め難いというべきである。そうすると,原告らが主張するような他の共通の理由があるということはできないから,原告らの主張を採用することはできない。
(5)

前訴G11意見書等及びG11陳述書に係る原告日産化学の主張につい
てア
前訴G11意見書等及びG11陳述書は,グループ⑤試料のダイオキシン類につき戦後(昭和20年以降)に排出されたものである旨述べていることから,この内容を採用することができるのであれば,王子工場を昭和20年以降に操業した原告日産化学がダイオキシン類を排出したことを裏
付ける証拠となるところ,原告日産化学は上記内容が不適切な分析に基づくものであると主張することから,以下,この点について検討する。イ
前訴G11意見書等は,地中のある地点に存在するダイオキシン類と,鉛の安定同位体や金属類・非金属が同一時期に排出,堆積されたものであ
ることを前提として,鉛の安定同位体分析から推定される鉛の産地から,過去日本において当該産地の鉛が排出,堆積した時期に排出,堆積したものであると推定し,また金属類・非金属の濃度を過去の東京湾の堆積物調査の結果に当てはめて排出時期を推定するものと理解される。
しかしながら,
本件対策地域の土壌は撹拌されていることが認められ
(前

記(2)カ(イ)c)
,その結果,最終的に同じ地点に存在するダイオキシン類,
鉛の安定同位体,金属類・非金属が同一時期に排出,堆積したものであるということはできない。したがって,本件対策地域の土壌においては,前訴G11意見書等の採用した分析方法によって地中のダイオキシン類の年代分析を行うことはできないといわざるを得ず,本件対策地域中のダイオキシン類を含む土壌のうち,グループ⑤試料(2.5m以浅の比較的浅い埋立部分に多く出現する。
)の埋立時期は戦後(昭和20年以降)であると
判断した前訴G11意見書等の分析結果を採用することはできない(なお,
G11教授自身,G11陳述書において,本件対策地域の土壌は全体に撹拌されており,土壌中の鉛同位体の分析結果と金属類・非金属の定量分析を行うことにより,土壌の年代測定を厳密に実施することは困難であるこ
とを認めている。乙78〔6頁〕。

ウ(ア)G11陳述書は,年代推定に関する前訴G11意見書等の分析方法については適切性を欠くような誤りはないとした上で,グループ⑤試料は昭和20年代以降に排出されたといえると述べ,その理由として,グループ⑤試料からは王子工場で昭和20年以降に製造された除草剤のCN
Pの製造廃棄物が検出されていることを挙げる。
しかしながら,この判断は,最終的に同じ地点に存在するダイオキシン類とCNPが同一時期に排出,堆積されたものであることを前提とするものと理解されるところ,本件対策地域の土壌は撹拌されていることから(前記(2)カ(イ)c)
,前提を欠くものといわざるを得ない。

また,王子工場については,昭和41年2月にCNPを有効成分の一つとする農薬製剤の製造登録を受けたことが認められるが(弁論の全趣旨)王子工場において実際に上記農薬製剤が製造されたことを認めるに,
足りる証拠はないし,仮に製造されていたとしても,王子工場において行われていた可能性がある製造工程は,外部企業から供給を受けたCN
P原体を他の原材料と混和した上で成型し,包装して出荷するというだけの作業にすぎないと考えられること(弁論の全趣旨)に照らせば,原告日産化学がCNP原体や上記農薬製剤を工場敷地に流出させたとは考え難く,むしろ,王子工場の閉鎖後に客土等によって外部から持ち込まれたものである可能性や,更地となった本件対策地域を除草するために散布された除草剤に起因するという,食塩電解工程由来のダイオキシン類の排出時期とは明らかに整合しないCNPの排出の可能性が考えられるところである。
したがって,グループ⑤試料からCNPの製造廃棄物に由来するダイオキシン類及び食塩電解工程由来のダイオキシン類の双方が検出されていることをもって,グループ⑤試料に含まれる食塩電解工程由来のダイ
オキシン類が昭和20年代以降に排出されたものということはできない。(イ)また,G11陳述書は,年代推定に関する前訴G11意見書等の分析方法について適切性を欠くような誤りはないとする理由として,堆積物の堆積速度,本件対策地域の埋立地の深さ,埋立期間等を考慮すると,50cm以上の垂直方向を加味した埋立地試料について鉛の安定同位体
分析をすることにより年代推定をすることが可能であると判断されることを挙げる。
これは,G3公園(南)又はその近接部分に存在していた池が昭和38年に消失していること(乙9〔5枚目〕
)に着目し,水底における堆積
速度と本件対策地域の汚泥の廃棄による埋立速度が一定の関係を保って
いることを前提とするものと考えられるが,食塩電解工程で発生した懸濁液が工場外に放流された際(前記(3)イ)
,汚泥が懸濁液とともに対策
地域外に排出されたことも考えられることや,汚泥の排出が定常的ではない時期も考えられること(後記9(1)イ)からすれば,ダイオキシン類を含む汚泥の廃棄による埋立速度が一定の速度を保っていると直ちには
考え難い。また,同年の時点で,上記の池のあった場所には建物が建っていること(乙9〔5枚目〕
)からすれば,汚泥のみが埋め立てられたと
は考え難い。

したがって,前訴G11意見書等及びG11陳述書の前記アの見解は,いずれも採用することができず,これらを根拠として,昭和20年以降に原告日産化学が王子工場由来のダイオキシン類を本件対策地域の土壌に廃棄したものと認定することはできない。

(6)

小括
以上によれば,原告らが本件電解工場で操業していた食塩電解工程におい
てダイオキシン類が発生し,同工程において発生した汚泥とともに,本件対策地域中の土壌に廃棄され,本件土壌汚染を構成するに至ったものと認めることができる。

したがって,大日本人造肥料及び原告らが,それぞれ本件土壌汚染に係るダイオキシン類を発生させ,これを本件対策地域に排出したことを認めることができる。
6
争点(4)ア
(本件費用負担計画及び原告JX金属に対する本件各決定が前訴控訴審判決の拘束力又は趣旨に反し違法であるか否か)について
(1)

原告JX金属は,
処分行政庁が前訴控訴審判決の拘束力に従って改めて費

用負担計画を作成する際に,
費用を負担させる事業者を定める基準について,
期間を限定した内容とすべきであったにもかかわらず,期間を限定することなく本件電解工場の操業者を全て含む内容としたことが,前訴控訴審判決の拘束力又は趣旨に反し違法である旨主張する。
(2)

しかしながら,前訴控訴審判決は,
公害の原因となる事業活動を一定期間にわたり法人格を異にする複数の事業者が順次承継して行った場合,負担法3条の事業者は複数存在することになり,その内の一事業者は,同事業者が事業活動を行った期間においてだけ同条の事業者となり,それ以前の事業活動に係る期間については,この事業者が前事業者の事業活動を行ったのと同視し得る特段の事情のない限り,同条の事業者には該当しないというべきであるところ,王子工場は大日本人造肥料,原告JX金属及び原告日産化学というそれぞれ法人格を異にする事業者によって操業が行われてきたと認められ,特段の事情も認められず,原告日産化学が他社の負担法上の責任等が引き継がれたなどということはできないと判断したものである。その上で,
同判決は,
費用負担計画に定められた『費用を負担させる事業者を定める基準』に複数の事業者が該当するのであれば,施行者としては,費用負担計画に基づいて,費用を負担させる事業者としてこの複数の事業者を決定すべきことになるものと解するのが相当であって,処分行政庁が原告日産化学のみに費用を負担させるのが相当とするのであれば,審議会の意見をきいた上で費用負担計画を変更する手続を執る必要があるとし,また,処分行政庁が
追加した処分理由によってされる処分と前訴で取消しを求められた処分とは,処分の同一性がなく,審議会の前置等を欠くことから,処分行政庁による上記処分理由の追加は許されないと判断したものである
(以上につき,
甲A8)

したがって,前訴控訴審判決は,本件電解工場を操業していた大日本人造肥料及び原告らが該当する費用を負担させる事業者を定める基準を定め
た費用負担計画の内容の適否は判断していないのであり,上記費用負担計画を基に原告日産化学のみを費用を負担させる事業者とすることは,前訴控訴審判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)に反するが,上記費用負担計画又は新たな費用負担計画を基に上記3社について費用を負担させる事業者とすることは,同判決の拘束力に反するものとはいえない。

(3)

原告JX金属に対する本件各決定は,
新たな費用負担計画を基に上記3社

について費用を負担させる事業者とすることとして行われたものであるから,前訴控訴審の拘束力に反するとはいえず,
前記(1)の原告JX金属の主張を採
用することはできない。
7
争点(4)イ
(覆土措置である本件公害防止事業が原告JX金属の排出したダイオキシン類による公害を防止するための事業に当たるか否か)について(1)

原告JX金属は,
①原告JX金属が排出したダイオキシン類は表層部には
なく,②本件公害防止事業の内容である覆土措置は表層土壌の汚染のみを対象とした対策であるから,原告JX金属は本件公害防止事業が対象とする公害を排出していない旨主張する。
(2)

しかしながら,原告JX金属は,上記①の主張に当たり,前訴G11意見
書等及びG11陳述書を根拠として,本件対策地域の表層部分の土壌汚染が戦後に廃棄されたダイオキシン類によるものである旨をいうところ,前訴G11意見書等及びG11陳述書を根拠としてそのようにいうことができないことは前記5(5)のとおりであり,
かえって本件対策地域の土壌が攪拌されて
いること(前記5(2)カ(イ)c)からすれば,原告JX金属が本件電解工場か
ら排出したダイオキシン類は表層部分にも含まれるというべきである。(3)

したがって,前記(1)②の点について判断するまでもなく,原告JX金属
の主張を採用することはできない。
8
争点(5)本件公害防止事業につき大日本人造肥料及び原告らに負担させる費(
用の総額は幾らであるか)について
(1)

負担法4条1項に基づく負担総額について
本件公害防止事業に係る公害防止事業費は,1億7882万6458円である(前記前提事実(3)ウ)


イ(ア)負担法4条1項は,公害防止事業につき事業者に負担させる費用の総額(負担総額)について,公害防止事業費の額のうち,
費用を負担させるすべての事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じた額とすると規定する。したがって,公害の原因が全て費用を負担させる事業者の事業活動にある場合には,
公害防止事業費の総額が負担総額となるし,
他に複合原因があり,

これが事業活動とあいまって公害を発生させている場合には,上記事業活動が原因となっている割合に応じて負担総額が定められる。
(イ)この点について,被告は,食塩電解工程以外の要因により排出されたダイオキシン類の毒性等量が全くないか,又は全体の毒性等量の割合に比して極めて低いことなどから,本件対策地域における土壌汚染の主たる原因が原告らにより操業された食塩電解工程にあることは明らかであり,複合汚染の可能性があることによって本件各決定の適法性に影響があるとはいえないと主張する。
しかしながら,前記前提事実(1),(3)及び証拠(甲A1,2,10)によれば,本件対策計画の内容,本件費用負担計画の内容,本件費用負担計画の考え方のいずれにおいても,一定の毒性等量の高いダイオキシ
ン類のみを事業の対象とすることとはされていないことが認められ,かえってG1小学校では,いずれの深度においても環境基準を超えるダイオキシン類が検出されない部分も本件対策地域に含められている(甲B1,乙12〔3枚目〕
,52)
。このようなことからすれば,本件電解工
場における食塩電解工程以外の原因によるダイオキシンが毒性等量の低
いものであったとしても,そのことから直ちに,本件公害防止事業が対象とする公害に含まれないとすることはできず,本件各決定の適法性について直ちに影響を及ぼさないということもできない。
ウ(ア)本件土壌汚染に係るダイオキシン類には,
前記5(2)サのとおり,
本件
電解工場における食塩電解工程に由来するダイオキシン類が含まれてい
ることが認められるほか,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程,搬入土由来のダイオキシン類が含まれている可能性がある。
また,前記5(2)イ(ア)のとおり,本件対策地域の土壌の試料の一部から,CNP製品に含まれるダイオキシン類と共通する同族体組成比,異性体組成比のダイオキシンが検出されたところ,証拠(乙53〔2頁,
資料18〕によれば,

本件対策地域を含む1242地点における調査に
おいて,CNP製品に由来する可能性の高いダイオキシン類が275地点において検出されたこと,また,環境基準値を超えるダイオキシン類が認められた420地点
(同じ場所の異なる深度の点を含む。のうちダ

イオキシンである1368-4D又は1379-4Dの毒性等量が1000以上の地点が144地点であったことが認められる。そうすると,本件対策地域中の環境基準値を超えるダイオキシン類には,CNP製品由来のものが含まれている可能性が高いものというべきである。
(イ)しかしながら,本件土壌汚染に係るダイオキシン類のうち,①ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程に由来するものについては,本件対策地域中のダイオキシン類に塩素化多環芳香族炭化水素が存在すること
や,合理的に想定されるダイオキシン類排出の契機の内容に照らして,主たる発生原因とは認め難いことは前記5(2)キ(カ)のとおりである。また,②搬入土由来のダイオキシン類については,本件土壌汚染に係るダイオキシン類の発生原因でないといい切れないことは前記5(2)カ(イ)cのとおりであるものの,飽くまで抽象的な可能性があるにとどまるもの
といわざるを得ない。さらに,③CNP製品由来の可能性が高いダイオキシン類については,
前記5(2)イのとおり,
本件公害防止事業の実施地
域中で採取した毒性等量が特に高い40試料の全てに含まれていたポリ塩化ジベンゾフランと異なり,22試料に含まれるにとどまり,同地域中の環境基準値を超過するダイオキシン類を検出した420地点(深度
が異なるものを含む。のうち,

CNP由来の可能性が高いダイオキシン
類を含む地点は275地点,CNP由来の可能性の高いダイオキシン類を高濃度で含む地点(ダイオキシンの1,3,6,8-塩素置換体又は1,3,7,9-塩素置換体の実測濃度がいずれも1000pg-TEQ/g以上)の地点数は144地点にとどまっている(乙53〔資料1
8〕ことからも,

本件電解工場に由来するダイオキシン類ほど広範に拡
散していないことが認められ,これが本件土壌汚染に係るダイオキシン類の主たる発生原因とはいい難い。
以上に対し,
④本件電解工場の食塩電解工程由来のダイオキシン類は,同工場の操業内容,操業状況,本件対策地域の地歴,検出されたダイオキシン類の組成比,毒性等量,具体的排出契機の存在等の点において,本件土壌汚染に係るダイオキシン類に整合的であり,本件対策地域中の
土壌が攪拌されていること(前記5(2)カ(イ)c)を考慮すれば,本件対策地域において全体的に高い毒性等量の汚染土壌が認められること(前記前提事実(8))とも十分に整合する。
したがって,
本件土壌汚染に係るダイオキシン類の主たる発生原因は,
本件電解工場の食塩電解工程によるものと認めるのが相当である。
(ウ)以上に基づいて,本件電解工場を操業していた大日本人造肥料及び原告らの事業活動が本件公害防止事業に係る公害についてその原因となる程度を検討すると,この点については,本件電解工場の食塩電解工程に由来するダイオキシン類が本件対策地域中のダイオキシン類全体に占める比率により求めるのが基本的に相当であると考えられる。しかしな
がら,
上記(イ)のとおり,
本件土壌汚染に係るダイオキシン類の主たる発
生原因は本件電解工場の食塩電解工程によるものと認められるものの,その全体における比率を具体的な数値をもって示すことは極めて困難であるといわざるを得ない。そうすると,大日本人造肥料及び原告らが本件公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に
ついては,
概括的な割合を示すにとどめるほかないところ,
上記(イ)で検
討した本件土壌汚染に係るダイオキシン類の各発生原因に係る事情を総合考慮すれば,その割合は,少なくともその3分の2を下回るものではないというべきである。

したがって,本件公害防止事業につき,大日本人造肥料及び原告らに負担させる費用の総額は,公害防止事業費全体の3分の2に相当する1億1921万7639円を下回らないものと認めるのが相当である。
(2)

事案を勘案して妥当と認められる額について
本件公害防止事業は負担法2条2項3号の公害防止事業であるところ,同法4条2項は,その公害防止の機能以外の機能,当該公害防止事業に係
る公害の程度,当該公害防止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情により同条1項の額を負担総額とすることが妥当でないと認められるときは,事情を勘案して妥当と認められる額を減じた額を負担総額とすることができる旨を規定している(なお,本件においては,概定割合を定める同法7条の適用はない。。


そこで検討すると,本件公害防止事業に係る上記の公害防止事業に係る公害の程度については,本件対策計画策定時に判明していた本件対策地域のダイオキシン類の最大濃度は24万pg-TEQ/gであり,ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る事案という点で本件と共通する大田区事業の事案の最大濃度(57万pg-TEQ/g)より低いものの,なお
相当に高濃度の汚染であるといえるし,現時点における本件対策地域及びその近接部分における最大濃度は59万pg-TEQ/gとなっており,大田区事例よりも高濃度の汚染であるといえる
(前記前提事実(8)ア・別紙
4〔4枚目・-2.0mのE2〕
,乙8〔2頁〕
,弁論の全趣旨。もっとも,
ダイオキシン類の濃度が59万pg-TEQ/gの地点は本件対策地域に
含まれていない。甲A13の1〔8,9枚目〕,乙45〔3,17頁〕,51〔9枚目,40頁〕)

また,上記の当該公害防止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情については,大田区事例と同様に,法規制以前の排出行為であるといえる。

そして,大田区事例においては,上記の事情を勘案して妥当と認める額を負担法4条1項の額の4分の1相当額としているところ,この額については当該事例に係る事業費を負担させる決定の取消訴訟においても是認されていること(甲B7,8)にも照らせば,本件において,
事情を勘案して妥当と認める額を同項の額の4分の1相当額とすることが不合理であるということはできない。

これに対し,原告らは,負担法施行以前の排出行為については,他の事例に従い,4分の1よりも多くの割合相当額の減額を認めるべきである旨主張する。しかしながら,原告らが指摘する他の事例はダイオキシン類に係る事例ではないし,いずれも個別事例の判断であることに照らせば,本件について大田区事例と同様に判断することが不合理であるということは
できない。
また,原告らは,本件は大田区事例と異なり,工場における通常操業が問題とされており,
公害の原因物質が蓄積された期間
に関する点で著し
く異なるから,大田区事例に比べて減額する割合を多くすべきである旨主張する。確かに,大田区事例は,工場の建物を除却し更地にした際にPC
Bを排出して土壌を汚染した事例であるのに対し
(甲B7)本件は工場の

通常操業時にダイオキシン類を排出して土壌を汚染した事例であって,負担総額を定めるに当たり,長期にわたり公害の原因物質が蓄積されたことを考慮すべきであるともいえる。しかしながら,長期間にわたって原因物質が蓄積されることによって生ずる蓄積公害について公害の原因物質が蓄積された期間を考慮することができるのは,化学知識や防止技術の進歩の度合い,公害規制の体制の整備の関係等に照らして事業者の責任を減じることが衡平の原則にかなうことがあり得るためであると解されるところ,大田区事例(昭和39年~40年に排出。甲B7)も本件(昭和44年12月までに排出)も,いずれも排出物質であるダイオキシン類の毒性
に対する科学的知見が十分ではなかった時期の事案であり
(弁論の全趣旨)

考慮すべき事情が重複するものというべきである。したがって,本件において蓄積型であることをもって大田区事例に比べて減額の割合を多くしなかったことが直ちに不合理であるということはできない。
(3)

小括
以上によれば,本件費用負担計画により費用を負担させる事業者である大
日本人造肥料及び原告らが負担すべき本件公害防止事業に係る事業費の総額
は,
前記(1)エの額からその4分の1相当額を減額した,
8941万3229
円(小数点以下四捨五入)と認めるのが相当である。
9
争点(6)
(本件公害防止事業についての原告らの事業者負担金の額)
について
(1)


算定方法
負担法5条は,事業者負担金の額につき,各事業者について,公害防止事業の種類に応じて事業活動の規模,公害の原因となる施設の種類及び規模,事業活動に伴い排出される公害の原因となる物質の量及び質その他の事項を基準とし,各事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じて,負担総額を配分した額とすると規定する。


この点に関し,被告は,本件負担計画における各事業者の負担割合について,
大日本人造肥料及び原告らが本件電解工場から排出した公害物質
(ダ
イオキシン類)の量を特定することができれば最も妥当な公害についてその原因となると認められる程度に当たるが,上記公害物質は食塩電解
工程に伴って発生していることから,工場の規模であり,かつ排出量を推測する基礎となる苛性ソーダの生産量を基準とし,生産量に応じた負担割合を定めたものであって,合理的なものであると主張する。
確かに,本件食塩電解工場から排出されたダイオキシン類に係る公害についてその原因となると認められる程度を判断するに当たり,各事業
者が排出したダイオキシン類の量を数値をもって明確に示すことは極めて困難であり,各事業者が排出したダイオキシン類の概括的な割合をもって示すにとどまらざるを得ないところ,本件電解工場におけるダイオキシン類が苛性ソーダの生産に伴って発生したものであることからすれば,上記の割合を求めるに当たり,苛性ソーダの生産量(これが不明である場合には,苛性ソーダの生産能力)を参照することには,一定の合理性があるということができる。

しかしながら,
前記5(2)ウ(イ)bのとおり,
電力事情が悪化した時期や,
黒鉛電極が粗悪で早期に崩壊するなどしていた時期には,ジベンゾフランの反応時間が短いこと等から,そのような事情がない時期に比べて,苛性ソーダの生産量当たりのダイオキシン類の排出量が多いことが考えられる(この場合は,本件対策地域内に多く見られるOタイプが排出された蓋然
性が高いと考えられる。。また,前記5(2)ウ(イ)a(e)のとおり,フーカー)
F型電解槽は,
フーカーS型電解槽に比べて能率が悪いものであったから,
同電解槽に比べて稼働時間当たりの塩素の生産量,濃度等が低かった可能性も否定できない
(この場合も,
ジベンゾフランと塩素の反応時間が短く,
反応量が少ないことから,Oタイプが排出された蓋然性が高いと考えられ
る。。さらに,前記5(3)イのとおり,陽極槽において発生したダイオキシ)
ン類を含む懸濁液が本件電解工場の外に放流されていた可能性があるところ,原告日産化学は,昭和42年頃以降,この懸濁液をフィルタープレスにてろ過し,ろ過残渣を産業廃棄物として業者に処分させていたことに鑑みれば,同年以降は,苛性ソーダを生産しているものの,ろ過残渣である
汚泥(粉末泥)を本件対策地域の土壌にそのまま排出していたとは考え難い。
本件において原因となると認められる程度に応じて負担割合を配分する際には,以上のような事情を踏まえる必要があるといえる。
(2)

原告らの負担割合及び事業者負担金の額
本件電解工場は,大正6年12月から昭和44年12月まで操業されていたところ,大正7年までの間は国産の粗悪な黒鉛電極が使用されていたこと,昭和11年まではフーカーF型電解槽が使用されていたこと,戦前においては電力が不足しており,特に昭和14年8月以降終戦まではしばしば短時間の停電や電圧降下が生ずるなど電力事情が悪く,また戦後も昭和30年頃までは電力事情が悪かったこと,昭和15年下期から昭和22年頃までは電極の品質が低下していたことは,
前記前提事実(6)ウ,
前記5
(2)ウ(イ)bのとおりである。そして,本件対策地域で環境基準値を超過した407地点のポリ塩化ジベンゾフランの大半が,Oタイプ(黒鉛電極の質や電力事情により反応時間が短い等の事情がある場合はこのタイプを示
すものが発生する蓋然性が高いことにつき,前記5(2)ウ(イ)b参照)を示すものであったことは,前記5(2)ウ(ア)のとおりである。また,乙22号証によれば,本件電解工場における苛性ソーダの生産量は,戦後基本的に伸び続けており,特に,昭和36年以降は戦前のピークであった年の生産量を超え続けていることが認められる。さらに,昭和42年以降,原告日
産化学がダイオキシン類を含む汚泥を本件対策地域の土壌に排出していたとは考え難いことは,上記(1)イのとおりである。
以上に照らせば,少なくとも①黒鉛電極の品質や電力事情が悪かった時期,
又はフーカーF型電解槽が使用されていた時期
(昭和30年度より前)
と,②これらの事情がうかがわれない時期(同年度以降)との間において
は,本件対策地域に排出したダイオキシン類の量に相当程度の差があるものとみるべきであるから,苛性ソーダの生産量(又は生産能力)を基に負担割合を概括的に算定するに当たっては,これらの時期を分けて算定することが,事業者間の負担の公平を図る見地から相当ということができる。そして,上記のような本件電解工場の操業状況,Rタイプを示すものが少
ないという本件対策地域におけるダイオキシン類の特徴等を考慮すると,②の時期については,①の時期と比較して,苛性ソーダの生産量に対して本件対策地域に排出したダイオキシン類の量が顕著に少ないものとみられることに照らせば,苛性ソーダの生産量の4分の1の数値を前提として負担割合を算定するのが相当というべきである。また,原告日産化学がろ過残渣の廃棄物処理を開始した月が不明であることを踏まえると,昭和42年度以降においては,原因となると認められる程度は0として判断するこ
とが相当である。

そこで,まず,負担割合の計算の前提となる苛性ソーダの生産量(これが明らかでない場合には生産能力)について検討すると,被告が作成した王子工場苛性ソーダ生産量・生産能力と操業企業按分比率算定根拠
(乙22)には,王子工場における大正6年度から昭和44年度までの各年又は各年度の苛性ソーダの生産量又は生産能力が記載されているところ,上記各年の苛性ソーダの生産量又は生産能力については,これと異なる証拠がない限り,乙22号証の記載のとおり認めるのが相当である。なお,乙22号証の大正6年~昭和10年の生産能力について

は年度単位であるため(乙22記載の大正6年の特記事項欄参照),昭
和10年度については同年4月~12月分を生産能力である6600t(計算式:8800t×9か月÷12か月)として,昭和11年1月~3月分を生産量に基づいて算定する。
また,昭和12年4月24日に大日本人造肥料から原告JX金属へ包括
的な営業譲渡がされていることから,同年の生産量は日割り(大日本人造肥料:113日,原告JX金属:252日)により各社の生産量として計算する。
さらに,昭和20年4月1日に原告JX金属が原告日産化学へ営業譲渡をしている(本件営業譲渡)ことから,同年の生産量は月割り(原告JX
金属:3か月,原告日産化学:9か月)により各社の生産量として計算する。
そして,昭和25年1月~3月は生産量の値が明らかでないことから,昭和24年及び昭和25年度の月平均生産量の3か月分である739.125t
(計算式:
(2488t+3425t)
×3か月÷24か月)
とする。
以上により算定した本件電解工場における大正6年度から昭和44年度までの各年又は年度の苛性ソーダの生産量又は生産能力は,別紙10のとおりである。
ウ(ア)なお,苛性ソーダの生産量に関して,処分行政庁は,大正12年の苛性ソーダの生産能力を,関東大震災により本件電解工場が1.5か月の間操業しなかったことを考慮して,月当たりの生産能力の10.5か月
分として計算した上で,これを前提に事業者間の負担割合を計算して,本件費用負担計画を策定し,本件各決定を行っている(乙22)
。しかし
ながら,関東大震災の際には,電解槽が将棋倒しになっており(乙35の2〔209頁〕,操業中断期間が隔膜交換期間よりも短いことに照ら)
せば,電解液が漏出したり,隔膜や汚泥を廃棄したりしたことなどによ
り,結果的に本来の苛性ソーダの生産能力に応じた量と類似したダイオキシン類が排出された可能性もないとはいえないから,原告らとの関係においては,操業中断期間に生産されるはずの苛性ソーダの生産能力に応じたダイオキシン類が排出されたことを前提として算定するのが相当である。
したがって,
大正12年度の苛性ソーダの生産能力については,

12か月分の生産能力である4356tであることを前提として,事業者間の負担割合を算定することが相当というべきである。
(イ)また,被告は,日本ソーダ工業会が発行した『続日本ソーダ工業史』の記載(乙43〔2枚目〕
)を根拠に,昭和18年度の苛性ソーダの生産
量を3559tとし,これを前提に事業者間の負担割合を算定している
ところ,原告JX金属は,日本鉱業株式会社の経理部会計課が文書課に対して作成した手書きの資料(甲B10)を根拠として,同年の生産量が2697tにすぎないと主張する。
そこで検討すると,上記資料の体裁等からすれば,後で作成されたとか,誤記や意図的に少ない生産量を記載したなどとうかがわれる事情がないこと,被告が根拠とする文献記載の数値は上記資料を原資料とするものであることがうかがわれるところ,数値が増えた事情が明らかとは
いえないことに照らせば,昭和18年度の王子工場における苛性ソーダの生産量が上記資料記載の2697tを超えるものであるか否かについては明らかでないといわざるを得ない。そうすると,同年度の苛性ソーダの生産量については,2697tであることを前提として,事業者間の負担割合を算定することが相当というべきである。


以上のとおり認定した苛性ソーダの生産量及び生産能力を基に,別紙10のとおり,前記アの計算方法により大日本人造肥料及び原告らの負担割合を算定すると,別紙11負担割合一覧表記載の値となり,これを踏まえて計算すると,別紙10負担金額欄のとおり,原告日産化学に対する事業者負担金の額は2280万0967円(小数点以下四捨五入,以下同
じ)原告JX金属に対する事業者負担金の額は1781万9896円とな,
る(別紙10参照)

(3)

事業者間の負担割合に関する原告JX金属の主張について
化学部門の一切を承継させたことにより負担金債務を免れるか
(ア)原告JX金属は,本件営業譲渡の際,本件電解工場の操業を含む化学部門が負う一切の債務を譲受人である原告日産化学が引き受ける旨の約定があったことから,負担法に基づく事業者負担金債務は負わないと主張する。
(イ)a負担法3条に基づく事業者の費用負担は,環境基本法8条1項に規
定する事業者の責務を根拠として同法37条の規定により事業者に課せられる公法上の特別負担であり,その性質は広い意味での原因者負担であると解される。そして,負担法3条は,このような趣旨から,公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者を,当該公害防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行い,又は行うことが確実と認められる事業者に限定しているといえる。

そうであれば,公害防止事業の施行者は,客観的な事実関係等を前提として,公害防止事業に係る公害を発生させた原因者たる事業者を特定し,当該事業者に事業の費用を負担させることができるというべきである。仮に負担法上の責任を負う地位を譲渡する旨の合意が当該事業者と第三者との間でされていたとしても,法人格が承継されてい
ないのであれば,公害を発生させた主体は上記第三者ではなく譲渡人である当該事業者といわざるを得ない以上,上記合意が同法に基づいて公害防止事業の費用を負担させる事業者を決定する施行者の判断を拘束すると解すべき理由はなく,上記合意によって上記地位を譲り受けた者のみが施行者との関係で同法に基づく責任を負うということは
できない。
したがって,前記(ア)の約定が原告JX金属の主張するとおりの内容であるとしても,原告JX金属が被告との関係において負担法に基づく事業者負担金債務を負わないとはいえず,原告JX金属の主張を採用することはできない。

b
また,
原告JX金属は,
処分行政庁が上記(ア)の合意について悪意で
あるから,
当該合意に沿った処分をすべき合理性があると主張するが,
仮に上記(ア)の内容の合意が存在し,
これにつき処分行政庁が悪意であ
るとしても,これをもって原告JX金属に対し事業者負担金を課すこ
とが違法となるとはいえないから,上記主張を採用することはできない。
c
なお,原告JX金属は,昭和20年前後の学説においては,営業譲渡は包括的な地位の承継とされていたと主張し,
営業譲渡は,単なる財産の譲渡処分ではなくて,相続に類した一種の地位の承継である。すなわち,物的・人的諸要素を有機的に組織化した生きた経済体〔括弧内略〕の主体的地位が,有償的に承継される法的現象にほかならないと解説する文献(甲B22)を提出する。しかしながら,上記文献の記載を踏まえても,当時において営業譲渡が法人格の移転を意味していたと直ちに解することはできない。また,営業譲渡により債務が譲受人に譲渡することは,債権者にとっては免責的債務引受けとなることに照らせば,債権者保護の観点か
ら問題があるといわざるを得ないから,原告JX金属が主張する営業譲渡の理解が昭和20年当時に取られていたとしても,原告JX金属が被告との関係で負担法に基づく事業者負担金債務を負わないということはできない。
(ウ)したがって,原告JX金属の前記(ア)の主張を採用することはできな
い。

原告JX金属が排出した公害は自ら操業していた2年間分に限られるか(ア)原告JX金属は,王子工場を自ら操業していた期間は昭和18年4月から昭和20年3月までの2年間にすぎないから,旧日産化学工業の操
業時を含む昭和12年から昭和19年までの生産量を基準として負担割合を計算することは不合理であると主張する。
(イ)しかしながら,原告JX金属は旧日産化学工業を吸収合併してその法人格を承継している以上,旧日産化学工業の排出に係る部分を含め原告JX金属が公害を発生させた主体であると認められる。また,自ら操業
していないことをもって減額を認めないことが,負担法の規定に反するとか著しく不合理であるなどと認めるに足りる事情があるということもできない。
(ウ)したがって,原告JX金属の前記(ア)の主張を採用することはできない。
10
争点(7)(負担法6条1項の審議会の意見の聴取がされたといえるか否
か)について
(1)

原告らは,
処分行政庁が本件各決定に際して意見を聴いた本件審議会につ

いて,①本件対策地域の汚染原因の一つと考えられるルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程に関する資料が提供されておらず,この点について検討していないこと,②本件対策地域の汚染が複合汚染であるにもかかわらず,この点についての資料が提供されず,この点を議論した形跡もないこと,③本件訴訟における被告の主張は本件審議会で議論された内容とは異なることから,処分行政庁が実質的に負担法6条1項の審議会の意見を聴取したとはいえないとして,本件各決定は違法である旨主張する。
(2)

負担法6条1項の趣旨は,
同法に係る公害防止事業の遂行及びその費用の

負担が,
対象となる事業者のみならず,
公衆の重大な利害に関わるとともに,
公害の原因について科学的,専門的な判断を伴うことから,公害防止事業の施行者において同法に基づく費用負担計画を決定するに当たり,第三者的な諮問機関からの意見を得て,公害防止事業に係る費用負担を適正に行うことを可能にすることにあるものと解される。

そして,後掲各証拠等によれば,①処分行政庁は,本件費用負担計画を策定するに当たり,本件審議会に対し費用負担計画について諮問し,本件審議会はダイオキシン部会に付議したところ,同部会は,平成24年度から平成26年度まで複数回にわたり本件対策地域におけるダイオキシン類の発生根拠等を審議し,原告らに対する意見陳述の機会も付与した上で,費用負担計
画とその考え方を取りまとめて本件審議会に提出し,本件審議会は文言等を修正した上で処分行政庁に対して答申を行ったこと(乙6の1,7の2,73,弁論の全趣旨)
,②ダイオキシン部会は,G11教授,G12教授を臨時委員とするなど,土壌汚染に関する専門家を含む委員により構成されていること(弁論の全趣旨)が認められる。また,証拠(甲A20,乙73)及び弁論の全趣旨によれば,複合汚染に関する資料がダイオキシン部会で配布されていることが認められ,本件審議会における議論もこの資料を踏まえたも
のといえる。
他方において,ルブラン法関連工程及びさらし粉製造工程は,ダイオキシン部会及び本件審議会における議論において議論されていないが(当事者間に争いがないとみられる。,ダイオキシン法31条7項が要求するダイオキ)
シン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係は抽象的な可
能性を排除することまでを要求するものとは解されないこと
(前記4(2)ア)

上記意見陳述の機会及び前回の費用負担計画における意見陳述の機会において原告らから上記各工程の存在が指摘されていなかったこと(乙56の1・2,弁論の全趣旨)も踏まえれば,当時これらの議論がされていなかったことをもって,負担法6条1項の審議会の意見が適切に得られていないという
ことはできない。
(3)

また,負担法6条1項は,施行者は,公害防止事業を実施するときは,審
議会の意見を聴いて費用負担計画を定めなければならないことを定めているところ,費用負担計画の根拠となる事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係を基礎づける事実や考え方につ
いて,同計画が争われた訴訟において他方当事者からの指摘を受けてこれを修正することが許されないとはいえないから,本件訴訟における被告の主張が本件審議会で議論された考え方と異なるとしても,そのことをもって実質的に同項所定の審議会の意見の聴取がされていないということはできない。(4)
11

したがって,原告らの前記(1)の主張を採用することはできない。争点(8)(本件なお書きが違法な附款であるか否か)について
(1)

原告らは,本件費用負担計画4項ウが

なお,平成18年12月作成の北区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策計画の4を参照のこと。(本件なお書

き)として

将来,大規模な土地改変や技術の進歩等に伴い汚染除去を行う場合には,改めて対策計画を策定する。

との記載を引用していること(甲A9)について,本件なお書は附款であるとした上で,附款として内容が違法
であると主張する。
(2)

附款とは,
行政行為の効果を制限する,
あるいは特殊な効果を付加するた

めに,処分本体に付加される従たる定めをいうところ,本件なお書きは,本件各決定に基づいて原告らから金銭の支払を受けた後であっても,将来新たに汚染除去等を行う場合に費用の納付を命じることを留保するために記載さ
れたものと解されるが,本件費用負担計画は,その内容上,今回実施する事業についての費用負担を定めたものにすぎないものというべきであり,本件なお書きは,同計画による行政行為に効果を制限したということも,特殊な効果を付加したものということもできないから,
単なる事実の通知にすぎず,
附款ということはできない。

したがって,本件なお書きが附款であることを前提とする原告らの主張を採用することはできない。
12

結論
以上によれば,原告日産化学に対する事業者負担金の額は2280万096
7円,原告JX金属に対する事業者負担金の額は1781万9896円をそれぞれ上回るものとはいえないから,本件各決定のうち,これらをそれぞれ超える額を事業者負担金の額として定めた部分は,違法というべきである。よって,原告らの請求は主文掲記の限度で理由があるから,それぞれその範囲で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決
する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官


裁判官


裁判官

鈴英明納有子鹿祥吾
(別紙1省略)

(別紙2)
通知目録

平成26年7月8日付け26北環環第1666号公害防止事業に係る事業者負担金の額について(通知)と題する通知以上
(別紙3-1)

条を準



。)
るのポこ取


ラ塩塩法摂染類係量よ環大上の条染シもるフる境気の汚件

つ質略て汚そ





底い基ニにルかがみ水の


濁れ水れの人質











イダにるこ対よ事ろ地キにオンキる次よ事類る土壌事のの汚染のち除要去にも関をするてるに事、
事係業の土実地のすとるすと府告政



ダオイにめ対し要る関

め土件壌内キの該にシ汚当おン染すい類にるてに関もダよすのイるるをオ汚基ダと域オにこ区イる定ち要でのダすつうる令県の定か定のめ省府壌指、
で準定境道土てし基で環令県くら報のなしとに道滞な


く項遅
。)

臣一都ばなう大



い滞第はの遅都のと境でとれめ関この令


環域き


該内域


きけは地条政きにべと地当域策も

七てたとのたもにすな定定しる施定定めで一第地対



指指定令のは該しといて事がと定知況当

る内状、のしなしをめ政項るをじす壌定の応関土。)なうににると況のいい必状もて画のなれ


う域策用要さ

地項利必染計のち汚対る県て下キ染オイ


のも以す域っる指らとあ定道あ


指汚がを府で都染のの要域告区画策
地うり下な域計対げ土のよ以掲域汚域壌必域条地壌地土る地公九い土対よす。類地ばのる二さ策を策る策れ地な対旨村を等対のけ策ンシ、な町き(に染そ市対た十去第キはし、策、事、該。対(る項に染はにあをる汚事画に当き知計、げン策内り知の壌〕通、で知よ汚で略県にも土県は掲に府対域類シ染〔にはが府長る類ろ与が、道村長と3こ村すン道て当こ都市町るシと市法のと2る町4係にキ汚区該都い次す請条壌のシイ類お、オ土域件一にりダオンシ画策イ項計策イ要)境本る5ダ三い対(十。。一第キえ基め。ン環定う環をるのいシよ策を来響施等本キ影に置をオな大類るのイ重にンすもて康関る措っなシ係るあ2に。げダキに掲質でる類る物健オ壌に法インす(及シ土次化ダ染と学い〕。にびキ的、る置、汚はす命みオ目措がイ、と生中準ロ
生ダ制をン発別のん規と特人


こ類がかなン策類ンにめるシてシた要シキっんと必図オ伴オこるをキ類るす、

オジにをに護対あもイ


動と等保ンェ
、〔

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大正12年9月1日の関東大震災の際,
王子工場は焼失は免れたが,電解

槽は全部将棋倒しとなり,
さらし粉鉛室1棟は倒壊するという被害を受けた。
しかし,発電機及び苛性ソーダ濃縮装置等は無事であったので,直ちに電解槽の復旧修理を行い,残ったさらし粉鉛室1棟を使用して同年10月中旬から操業を再開した。
(乙35の2〔209頁〕

(2)

当社
〔当時は大日本人造肥料〕が採用したフーカーF型といわれるタウン
センド式電解槽は,
技術的には陽極液を循環し,
循環中に不純物を堆積させ,
かつ食塩を再度飽和させること,また,陰極室には苛性液と混和しないケロシン油のような液体を充満させることを特徴とする。この方法は電流効率をあげる上に非常に有効であるが,他面電圧が上昇すること,動力及び労力を多く要するなどの欠点があった。
(乙35の2〔210頁〕

(3)

王子工場は,
太平洋戦争末期の昭和20年3月,及び4月の2回にわたっ

て,アメリカ空軍の爆撃を受けた。しかし,従業員が自宅の焼けるのを顧みないで献身的に消火作業を行ったので,被害を最小限に食い止めることができた。ソーダ関係では,苛性ソーダ蒸発室及び煮詰室が焼失しただけにとどまった。
したがって,
戦後はいち早く生産を再開することができ
〔中略〕た。
(乙35の2〔211頁〕

(4)

戦局が進むに従い,戦災あるいは長年にわたる過度の酷使で設備は老朽
化し実質的能力は大幅に低下,更に原料塩,電力の供給減から操業度も急激に低下した。
昭和15年のアンモニア法苛性ソーダの操業度が64%,電解法苛性ソーダが63%であったものが,
19年には各14%,
43%へとそれぞれ低下,
終戦の年には更に4%,17%にまで落ち込〔んだ〕
〔中略〕
。他の化学工業

と同様,戦後のソーダ工業もこのような状況の中から再出発しなければならなかった。特にソーダ工業は,肥料,硫酸工業のように超重点的な重要産業に指定されず,一方では賠償指定,軍需工業の制限などがあったため,終戦直後は去就に迷い,操業中止の状態であった。
(乙79〔229頁〕


2
日本曹達工業史〔改訂増補〕(昭和13年12月刊行)の記載
(1)

タウンセンド〔中略〕式電槽は〔中略〕
,陽極室は幅の狭い鉄筋コンクリ

ート製箱で,その中に黒鉛陽極が2列に配列されており〔中略〕
,またその両
側が長さに沿って開放されており,
そこに隔膜並びに陰極室がはめ込まれる。
〔中略〕陽極に対する面は陰極となるのであって平滑又は波形〔中略〕の有孔鉄板から成りその陽極側に石綿紙隔膜が張られる。
かん水はまず陽極室に入り隔膜を経て陰極室に進むのである。
〔中略〕
隔膜の取換えは3箇月に1回くらいずつ行われるので陰極室を取り外して簡単に作業することができる。また陽極黒鉛の取換えは1年半に1回くらい行われるので隔膜の取換えと同時に簡単に行われる。
(乙35の3〔73,7
4頁〕

(2)

電極の使用期間は電槽の形式,
操業法の様子,
また電極そのものの厚さ等

によって異なることもちろんで,直立式電槽では数箇月,水平式電槽では2箇年くらい継続して使用されており,その消耗率は苛性ソーダ100kgに対し1kg程度であった。昭和6~7年頃にはアチェソン会社のXグレードと称する製品が輸入されその寿命が20~30%延長されるといわれたけれども,その価格普通品に比し高価であったため広く採用されるに至らなかった。その後電極に油を塗布浸潤せしめる方法が各社に採用されてその寿命が倍加され消耗率が苛性ソーダ100kgに対し0.5kg以下に低下することができた。今日においては電極製造者自身で油処理を行った製品を販売しているものもある。
(乙35の3〔352頁〕


(3)

(昭和2年より同4年まで)
この期間は工業的製作及び試用の時代であった。この人造黒鉛陽極の製造
方法の大要は電気炉用その他の人造黒鉛と同様にして次の如くである。原料としては石油コークス,ピッチコークス,レトルトカーボン,無煙炭等比較的純粋な炭素にして,これらをまず高温度に焙焼する。しかる後に粗粒並びに微粉にそれぞれ粉砕する。次に適宜の割合に配合,混合してこれを熱混合機に入れ,タール及びピッチを結合剤として添加してよく混合する。〔中略〕
これにていわゆる生電極ができるからこの物を窯の中で粉末コークス中に埋めて焼成炭化せしめる。窯は石炭窯又は発生機ガス窯である。ここで堅緻なカーボン電極ができる。しかしこのカーボン電極は陽極の塩素に耐えず速やかに崩壊しまた電解液を褐色に汚すものであるから更に電気炉にて黒鉛化する。黒鉛化炉は電極自体を抵抗とし約2200℃以上の高温となすもので,かくするときは使用原料〔中略〕も,結合用に用いたピッチ・タール等の炭化した結合コークスも全部一様に均質な黒鉛と変化し,よく酸化に耐え特に塩素に対しての抵抗力を増す。かつそのとき〔中略〕不純分は全部除去せられる。
(乙83〔554,555頁〕

(4)

(日本カーボン株式会社による電解用人造黒鉛電極の記載)
次いで我が社は大正6年〔中略〕我が国最初の組織的人造黒鉛製造研究に
着手した。
〔中略〕
約2箇年間相当巨額の資金を投じて努力を傾注せるもその
完成を見るに至らず,再びこれを基礎研究に引き戻し,大正12年関東大震火災に遭遇し非常の打撃を蒙りたるもこれが研究を継続し〔中略〕たのである。
すなわちかかる新規事業は一朝一夕にして容易に成功するものにあらず,当業者はその間幾多の苦心努力を続けたるはいうまでもないのである。然るに大正8年〔第一次〕世界大戦の結果突如米国製品は全然輸入を見るあたわざるに至り,我が業界は直ちに陽極黒鉛供給の途を絶たれ想像以上の困難に
遭遇したのである。ここにおいてソーダ業者はやむを得ず国産の陽極黒鉛を使用したるも〔中略〕その品質に格段の相違があり,米国品の寿命平均が1箇年前後であるに対し,国産品は僅々1箇月内外で消耗し尽くされ全く問題にならなかった。
したがってソーダ業者の蒙った打撃は甚大なものがあった。
その後幸いに平和回復して再び米国品の輸入を見るに至りソーダ業界はようやく一時的に安定を保ち得るに至った。
(乙80〔557頁〕


3
続日本ソーダ工業史
(昭和27年5月刊行)の記載(乙35の4)
(1)ア

電力の需要が急速に増加したにもかかわらず供給がこれに伴わなかっ
たので次第に電力が不足するに至り昭和14年〔中略〕8月頃よりしばしば短時間の停電や電圧降下を誘致した。
〔中略〕
日本電解ソーダ工業組合は
〔中略〕停電,電圧降下等〔中略〕が電解ソーダ工業の操業上いかなる影響を及ぼすかにつきパンプレットを作成し一般を啓蒙した。
〔342頁〕

(パンフレット停電により電解ソーダ工業の受ける損害についての内容)
(ア)(冒頭部分)
電解ソーダ工業は連続作業であるから時間の長短を問わず停電によりそれに相当する損害を受けることは免れないのである。停電が数分ないし十数分の短時間であり,しかもたまたま起こるものであればたとえ動力用の電気も止まるとしても,貯槽より食塩溶液を電槽に流入しおくときはさしたる影響なく再度通電し得るため,その受ける損害も比較的少ないけれども,停電が長時間にわたるか又は短時間であっても回数の多い場合はその受ける影響は甚大であって,場合によっては全く操業不可能に陥ることもあ〔中略〕る。
〔342頁〕
(イ)(直立隔膜式の,電槽温度の降下に係る説明部分)
70~80℃で操業するを普通とする。停電により温度が降下するた
め再通電により常規温度に達するには両3日を要する。
この間電流効率,
製品の品質低下を来す。
〔342頁〕
(ウ)(直立隔膜式の,隔膜の破損又はその有孔度の変化に係る説明部分)直立隔膜式電槽においては休止によって受ける損害が最も大である。〔中略〕停電が一昼夜にも上りしかも食塩溶液を流入し得ない場合は隔膜の剝離するおそれがある。
〔中略〕
隔膜はその使用の始めにおいては食
塩溶液の透過量が大であるが,ある日数使用すれば隔膜の孔が繊維の膨潤すること,黒鉛末,石灰,苦土等の沈殿物の附着すること等により適宜に塞がれて透過量を標準量にもたらし,その後長時間この状態を保つのである。
〔342,343頁〕
(エ)(直立隔膜式の,黒鉛陽極の破損に係る説明部分)
黒鉛陽極は,板等をピン又はネジ等をもって締結するのであるが,棒,
これもまたある程度使用し消耗したるものに急激に通電するときはそのショックにより崩壊することがある。よって停電なしに使用する場合はそのまま継続使用し得るものも停電のために取り換えなくてはならない例が少なくない。また再通電後電解が常態に復するまでの期間電流効率の低下する等のため黒鉛電極の消耗が大となる。
隔膜の剝落したものは全部これを更新して再通電する。もし剝落の程度が一部分であって流出する陰極液の量よりこれを明らかに認識し得ない程度であった場合でもそのまま再通電を行えば陽極の塩素と陰極の水素とが混合し爆発を起こす危険がある。したがって多少なりとも剝落の疑いあるもの又は有孔度の大にすぎる隔膜は取換えを行うのが常である。隔膜を更新するには1日3台ないし数台を限度とする。したがって数十台を1組として使用する電槽においては全部の隔膜の取換えには数日ないし十数日を要する。
しかも隔膜を更新した上,再通電をなすも直ちに常態の作業に復する
ことなく,相当期間は稀薄な苛性ソーダ溶液を生ずるから蒸発能力と相並行して作業を進めなければならない。したがって操業が順調となるには通電後なお数日を要することとなる。しかも1工場においては電槽数十組を使用するを常とするから,十余時間停電したため電槽を全部更新して再通電し,常態に復するまで1か月半くらいを要した実例もある。〔343頁〕
(オ)(水平隔膜式の,電槽温度の降下に係る説明部分)
直立隔膜式電槽と同様〔上記(イ)参照。343頁〕
(2)

(黒鉛電極についての説明部分)
黒鉛電極はほとんどすべてを国産に仰〔中略〕
〔いでい〕た。
しかしてこれら諸会社〔国内の黒鉛電極製造会社4社〕の製品はその品質いまだアチェソン会社のものに及ばない点があったけれども価格が安かったので広く一般に使用された。
電解ソーダ工業において消費した黒鉛電極の量は同工業の最も生産高の多かった昭和14年〔中略〕においても恐らく2000tを出でなかったものと推定される。したがって国内における供給には大した支障はなかったが,その原料である石油コークスがすべて米国から輸入しておったので戦局の苛烈化とともにその輸入が全く不可能となった。よってその代用としてピッチコークス又は南方産の石油コークスが使用されるに至り原料そのものの品質が低下した。これに加うるに電極の製造に当たっても電力,労力等の不足から粗製濫造の傾きも生じたので電極の品質低下を来し電解作業において消費量の増加となったばかりでなく製造上にも種々の悪影響を及ぼした。昭和16年電解ソーダ工業技術協議会が設立されるや直ちに本問題を議題として使用者及び製造者間に種々調査研究され〔中略〕製品の規格等も決定されたが生産に対する諸条件がますます悪化する情勢にあったので,品質の回復が容易に実現されなかったばかりでなく生産減退と
もなり,これがため電解ソーダ業者の受けた打撃は少なくなかった。特にその頃より軍需目的をもって拡張又は新設された電解ソーダ工場においては一時に多量の電極を必要としたので,その入手困難から工場運転の開始が遅延した例が少なくなかった。
終戦後においても電極の生産はしばらくの間不調であった。
〔中略〕
しか
しながら昭和23年〔中略〕頃より電極の生産もようやく順調となり,なお翌24年よりは米国からの石油コークスの輸入も許可されたので,ここに電極供給の前途に光明をみられるに至った。
〔352,353頁〕
イ(ア)

日華事変前には国産電極の品位はほぼ輸入品に匹敵する程度まで向
上したが,昭和15年〔中略〕下期頃より品質低下の兆候を示し,電極の地肌が粗となり,ところどころに顆粒があり,均一性を欠き,光沢不良でかつ湾曲,ゆがみ等が認められるに至り,しかも有孔度がやや大となり,比抵抗も多少増大したので,電解業者と電極生産者との間に協議を重ねた結果,原料の品質低下,電力等の供給不足から製品品質の多少の低下はやむを得ないけれども,
その維持に努力し有孔度25%前後
〔中
略〕程度の電極を供給することとした。その結果しばらくの間は品質を幾分向上し得た。
〔383頁〕
(イ)電極に亜麻仁油のような乾性油を浸潤せしめて,油加工を行った電極の寿命は加工しないものに比し倍加され苛性ソーダ1t当たりの消費量は半減(10kg程度から5kg程度に減少)され,しかも電槽電圧の上昇は0.
1~0.
2Vにすぎないので電力消費量の増加は5%以下に止
まり電極の消費節約となることが大である。しかしながら油加工には数か月の長期間を要するので電極のストックの少ない場合はこれが実施は困難であり,また当時は亜麻仁油の入手も甚だ困難であったので,各社において油加工法の改良により期間を短縮すること及び亜麻仁油以外の油を使用すること等を研究した。G6株式会社〔中略〕
,また日本曹達株

式会社では〔中略〕それぞれ好結果を得た。よって各社ではこれらの方法を実地見学して参考に資することとしたが戦局の苛烈化によりついに実地に応用されなかった。
〔383頁〕
(3)

(石綿隔膜についての説明部分)
電解ソーダ工業に使用される石綿隔膜には布(水平式)
,紙(直立式)及
びファイバー(フーカー式のみ)の3種がある。我が国には石綿の算出甚だ乏しく,しかも隔膜に使用するがごとき良質のものの産出は全くないので隔膜又は石綿繊維を米国市場〔中略〕から輸入しそのまま使用するか又はこれを加工して使用していた。
〔354頁〕


日産化学工業株式会社ではフーカー式電槽を採用している。該電槽では隔膜として石綿ファイバーそのものを使用しているが早くより古ファイバーを回収し新品に混用していた。ちなみに古ファイバーの回収法はまず隔膜に附着した黒鉛末及び石灰苦土泥等の大部分を機械的に除去した後,塩酸で洗浄し附着物を十分溶解し去り,更に水で洗浄した上乾燥し篩別するのである。
〔385頁〕

4化學工業臨時増刊化学工業の進歩第1集
(昭和26年12月発行)の記

載(乙35の5)
(1)

(電極の沿革及び推移)
我が国〔日本〕においては〔中略〕大正7年頃までに電解ソーダ工業は著
しい発達を示したにかかわらず未だ電解板を国産自給することができず専ら米国のAcheson〔アチェソン〕会社製品及び少量のドイツSiemens〔シーメンス〕社の製品が輸入されてきた。たまたま第一次世界大戦中これらの輸入が杜絶するに至ったので非常な困難に出会ったのであるが,その間において〔中略〕日本電気黒鉛会社が設立され,
〔中略〕日本カーボン会
社も〔中略〕電化工場を設けて研究試作を行い,また〔中略〕代替品も現れ
て相当広く使用された。しかしこれらのものは電槽中で崩壊して命数短く輸入品の1箇年以上に対して1箇月程度の使用にしか耐えない状態であり黒鉛粒子が多く製品中に流入する障害のため戦後〔第一次世界大戦後〕輸入の再開を見るに及んで顧みられなくなり成功をみるに至らなかった。
大正7年に至って〔中略〕東海電極製造会社が設立されるに及んで早速大正8年より〔中略〕人造黒鉛の研究に着手した。
〔中略〕14年に至って東海
ソーダ,関東ソーダ会社等にて使用されるようになり〔中略〕昭和4年に至ってついに研究の完成を見ることとなった。
日本カーボン会社においても大正14年頃より〔中略〕電解板の研究を再開して旭電化会社において最初の実用試験に成功をみている。
かくて昭和5年よりは曹達晒粉同業組合の共同購入する電解板は国産品10%,6年には30%,7年には〔中略〕国産化が達成されるに至った。その後は量的増加と併せて品質も次第に向上して普通品としては米国Acheson製品に遜色のないものを製造できるようになったので今日では我が国における電解板のほとんど全需要は上記二大メーカーによって供給され他に二,三の電極業者による試験的生産が行われており輸入は全く行われていない。
〔16,17頁〕
(2)

(電解板の特性及び品質)
黒鉛は酸素以外の化学作用に耐える極めて安定なものである。作業中電解
槽中の陽極反応においては〔中略〕電解液中の少量の不純物に起因する各種陰イオンの放電による発生期の酸素の作用を受けて消耗しその原単位は普通ソーダ1t当たり10kg前後となっている。その消耗量の約2分の1はCO2となってCl2ガスに混じって消失するものであり約2分の1は酸化により組織が弛緩崩壊してマッドとなって電解液とともに流出するか又は隔膜上に沈積する。
〔中略〕更に電解板の品質の良否は最も重要であることもちろんで黒鉛化
不十分の場合は炭素は塩素によっても浸されて褐色液を生じ崩壊著しく消耗量大である。
〔17頁〕

5
電解板
(日本炭素材料学会学会誌炭素昭和27年第1号33頁)の記
載の概要(乙35の6)
(1)

水平隔膜法電槽で一定の条件の場合における油処理による変化は,①ア
チェソン社製品(昭和10年)をそのまま使用した場合は,消耗が1t当たり7.
0kg,
寿命が15箇月であるところ,
油処理後に使用した場合には,
消耗が1t当たり2.7kg,寿命が51箇月となる。また,②国産品(昭和10年)をそのまま使用した場合は,消耗が1t当たり8.5kg,寿命が13箇月であるところ,油処理後に使用した場合には,消耗が1t当たり3.8kg,寿命が42箇月となる。
〔35頁〕
(2)

電解板の寸法は,
電槽の種類,
大きさ,
構造等によって様々である。
なお,

使用に当たっては,表面に溝を付け,又は無数の小孔を穿って電解表面積を増し,発生ガスの逸散を容易にする等の工夫が講じられている。
〔35頁〕
(3)

電解板の消耗は,①粉として崩壊する(泥状沈殿となる),②酸化してC

O2ガスとなる,③電解屑として残る,の3態に生じる。一般に②が消耗の大きな因子である。液温の上昇は①を促進する。
〔36頁〕

6
ソーダ工業における黒鉛陽極について化学工業1954年12月号998頁の記載(乙35の7)
(1)

電解板の使用上第一に問題になるのは,
その消耗である,
消耗度の大きい

ことは需要者にとって好ましくないのは当然であるが,消耗が異常に大きい場合には多量のマッドを生じ,
〔中略〕
隔膜法においては隔膜の目を詰め電解
液の流下を妨げる結果となる。電解板の消耗には科学的な消耗とそれに伴う崩壊とが挙げられる。科学的消耗の大部分は酸化によるものである〔中略〕。

〔中略〕隔膜法の場合にはOH-の陽極への拡散及び泳動が大きく,〔中略〕
生成したClO-による酸化が大きな因子となる。
〔中略〕このような陽極の
化学酸化によってCO2が発生するとともに,それによって陽極材質の粒子間の結合が破れて崩壊を起こしマッドが生ずる。
〔1000,1001頁〕
(2)

陽極電流密度,
電槽温度,
電解液の酸性度,
塩水の純度,
塩水の流通速度,

電解液中の食塩濃度,電流密度,電流分布等はいずれも電解板の消耗に関係する。
〔中略〕電槽の温度については,先に述べた塩素ガスの溶解度や,酸化反応速度等の相対立するいろいろの因子があるので一概にはいえないのであるが,ほぼ60~70℃くらい〔中略〕が適当とされているようである。〔1
001頁〕
(3)

電解板の材質として消耗に影響する因子は,おおざっぱにその黒鉛化度
と組織にあるといえよう。電気伝導度及び耐蝕性の面から概論的には黒鉛化度はできる限り高いことが希望される。
〔中略〕黒鉛化度はまた,十分に均一
でなければならない。
〔中略〕
陽極の組織に関連しては,有孔度及びそれに伴う孔の形状,大きさ,分布等が考えられる。
孔内ではCl-が少なくなり
〔中略〕
酸化消耗が助成される。
また孔内では〔中略〕純科学的酸化が放電によるそれよりも大きいともいわれている。したがって定性的には有孔度が小さく,小さい孔が均一に分布しているのが良いということができよう。しかし最近は電槽の操作や塩水の精製が進歩発達したため,上記の酸化反応も僅少であり,またこのような反応の比較的多い隔膜法においては種々の充孔処理が行われているので〔中略〕有孔度は本質的には大きな問題ではないと思われる。
〔1001頁〕

7隔膜法食塩電解における陽極黒鉛の消耗について
(昭和34年2月28日
受理)
(乙35の8)
(1)

隔膜法食塩電解において,陽極黒鉛の消耗は重要な問題点の一つである。
この黒鉛の消耗量は電解条件や,
食塩中に含まれている不純物
(Na2SO4)
によって著しく影響される。
〔1枚目〕
(2)

食塩水を電解して苛性ソーダ,塩素を製造する電解槽に陽極として黒鉛
が使用される。
この黒鉛は徐々に酸化を受け,
CO2あるいはCOとなって燃
焼し,また崩壊を起こして消耗する。
〔1枚目〕
(3)

電極の材質の相違に基づく消耗量の差をみるために,我が国の代表的な
数社の試料を用いて比較試験してみたところ,消耗量は余り違わなかった。しかしこれらの電極を米国アチソンの電極,あるいは油加工した電極との間にはかなり成績に開きがあることを電解工場で指摘している。したがってこれについて試験を行ってみた。
〔中略〕明らかに,一般の国産電極と比較して
アチソン製のものは消耗量が少なく,また更に国産品を油加工したものはそれより更に少ない。
〔中略〕
しかし電流効率が悪いところでは顕著な優秀性を
示さなかった。このことは油加工,あるいはアチソンの電極の特徴を生かして使用するには,陰極電流効率を下げないようにして使用すべきであることを教えている。次にボウ硝が電解液中に存在する場合につき触れてみよう。〔中略〕油加工電極は極めて消耗が著しく,特に電流効率の悪いところでは何らの利点が見いだされなくなる。すなわち油加工電極は極めて消耗量が少ないがその効果を上げるためには,陰極電流効率を上げるとともに,ボウ硝の量をできるだけ少なくすることが必要である。
〔102,103頁〕
(4)

黒鉛の消耗機構は従来次のように考えられている。①酸素の放電による
黒鉛の燃焼,②黒鉛結晶を結合している組織の燃焼による構造の崩壊。①によっては一般にCO2を生じ,②によって黒鉛粉末泥を生ずる。〔103頁〕
(5)

隔膜法による食塩溶液の電解に際しての陽極黒鉛の消耗量について特に
陽極電流分布を均一にするような模型試験槽を考案し,これを用いて実際に電解を行い,次の結果を得た。①陽極黒鉛の消耗量は陰極電流効率が低下すると直線的に大となる。②陽極電流密度が増加すると単位電流量当たりの黒
鉛消耗量がかえって減少する。③ボウ硝が存在するといずれの場合でも消耗量が大となる。④陽極のimpregnation〔充孔〕は陰極電流効率が高く,ボウ硝のない場合に効果を発揮する。電流効率が90%以下となり,ボウ硝量が多い場合は効果がない。⑥アチソンの黒鉛は電流効率の良いところで国産の電極より消耗量が少ないが,電流効率の悪いところでは国産のものと大差ない。
〔104頁〕

8
『日本ソーダ工業百年史』
(昭和57年9月発行)の記載(乙35の9)
(1)

戦後の隔膜法電解技術の進歩は,水銀法の飛躍的進歩に比べて昭和48
年頃までは余り目立った進歩はなかったが,地道な改善努力は常に行われて技術の蓄積がなされてきた。
〔449頁〕
(2)

(終戦より昭和30年頃まで)
次に,この期間の隔膜法電解槽を機能別に分類した技術進歩について述べる。
〔中略〕電解槽の陽極に使用された黒鉛電極の品質については,この期間では余り大きな進歩はなく〔中略〕戦時中の電極に比べて見掛け比重が増加し,曲げ強度が向上した程度である。
また,G6株式会社は,塩素化油を気孔中に含浸処理した電極を開発使用したが,
〔中略〕電解層構造によって効果も異なり,水平式では寿命が延
長し経済的であったが,縦型の場合には〔中略〕油含浸処理費を勘案するとほとんどメリットがなかった。


陰極材料としては安価で水素過電圧の低い軟鋼製の網又は有孔板が使用されており進歩はなかった。


隔膜材料にはクリソタイル系アスベストが主に使用されていたが,国内では生産されないのでアメリカ及びカナダなどからの輸入に頼っていた。アスベスト隔膜の使用形態は電解槽形式によって異なっており〔中略〕水平式ではアスベストファイバーを紡織したアスベストクロス上にタルク
又は黒鉛電極が消耗崩壊して生成したマッドなどの充填物を塗布して流量抵抗を調節して使用した。
第二次大戦中に輸入が止まり,終戦当時は各社とも乏しい在庫を使用して操業を開始した工場が多かったが,アスベスト不足のため生産が上がらない苦しい経験をなめた。
〔以上451,452頁〕

操業管理と改善,特に電流効率については,電力事情が悪かったこの期間には数々の研究が行われ多くの成果が得られた。
〔452頁〕

9
食塩電解工業現在の課題化学29巻6号427頁以下(乙72。昭和49年1月の講演内容)
黒鉛陽極は塩素電極反応〔中略〕に対して完全に耐食的であるが,酸素電極反応に対しては酸化されてCO2となり,またそれが物理的崩壊の原因ともなって消耗する。図2〔図は省略〕は黒鉛陽極を使用するHooker
S型電

解槽の電圧収支を示す
〔同図で記載されている運転日数は0日~280日〕陽

極消耗により陽極・隔膜間隔がしだいに広がって,IR損は経時的に大きくなる〔中略〕
。陽極板の厚み減少につれて陽極自体の抵抗も増す〔中略〕
。電解液
の精成は極めて厳密に行われるが,ごく微量の不純物も長期間の運転によって隔膜の目を閉塞する。上記の物理的崩壊に基づく黒鉛微粉もまた一因で,そのため隔膜の電気抵抗を増す
〔中略〕100~150日の連続運転によって△I


R隔膜がかなり大きくなるから,ここで隔膜交換を行い,運転を継続する。その後の100~150日には陽極も寿命がきて,電解槽を解体補修する。すなわち,黒鉛陽極1寿命に対し隔膜補修2回の操作が一般である。
〔429頁〕
以上

(別紙8)
原告日産化学準備書面4の別紙(隔膜法の部分のみ)
(別紙9)
乙16〔4枚目〕の塩素製造所の部分
(別紙10)
エクセル
(別紙11)

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