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不当利得返還請求事件、損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ワ)6183等
事件名不当利得返還請求事件,損害賠償請求事件
裁判年月日令和2年3月26日
裁判所名大阪地方裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2020-03-26
情報公開日2020-06-30 16:01:01
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令和2年3月26日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成30年(ワ)第6183号

不当利得返還請求事件(本訴事件)

平成30年(ワ)第9966号

損害賠償請求事件(反訴事件)

口頭弁論終結日令和2年1月27日

本訴原告・反訴被告


株式会社サンワード商会
(以下原告という。)

同訴訟代理人弁護士

藤幸江同西中宇紘同松本
久美子

本訴被告・反訴原告


ニチリンケミカル株式会社
(以下被告という。)

同訴訟代理人弁護士

德永信一同岩原義則主1文
被告は,原告に対し,349万9200円及びこれに対する平成30年4月
17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
被告の反訴請求のうち,不正競争防止法4条本文に基づく損害賠償請求をい
ずれも棄却する。
3訴訟費用は,本訴・反訴を通じ,被告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実
及び
第1請求
1本訴事件
理由
主文第1項と同じ。
2反訴事件
原告は,被告に対し,7700万円及びこれに対する平成30年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要等
(1)事案の概要
本訴事件は,被告とOEM販売契約を締結していた原告が,被告に対し,同契約の解除に伴う原状回復請求権に基づき,支払済み代金の一部の返還及びこれに対す
る代金受領後の日である平成30年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による民法545条2項所定の利息の支払を請求する事案である。反訴事件は,被告が,原告による被告の有する特許権の侵害,不正競争防止法2条1項1号,4号,20号及び21号(なお,後二者の行為時の該当法条は,平成30年法律第33号による改正前の14号及び15号である。)の不正競争,及び
上記OEM販売契約違反行為を主張して,原告に対し,特許権侵害の不法行為,不正競争防止法4条本文又は債務不履行に基づき,7700万円(逸失利益7000万円(予備的に1400万円),その余は弁護士費用相当損害)の損害賠償及びこれに対する不法行為又は不正競争の後の日であり,反訴状送達日の翌日である平成30年12月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を請求する事案である。
なお,被告は,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求に関し,文言侵害を理由とする請求を主位的請求,均等侵害を理由とする請求を予備的請求としているが,これらは請求原因を異にするにすぎず,請求の予備的併合の関係にはない。(2)反訴の位置付け

被告は,後述のとおり,本訴事件において,反訴事件の訴訟物のうち,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権及び債務不履行に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺の意思表示をし,これらに係る反訴を予備的反訴とする。2
前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠又は弁論の全趣旨により容
易に認められる事実。なお,本判決における書証の掲記は,枝番号の全てを含むときはその記載を省略する。)
(1)当事者

原告は,衣料用繊維製品の輸入販売及び空気触媒関連事業を主たる事業
とする株式会社である。

被告は,化成品の開発・製造・販売を主たる事業とする株式会社である。
(2)被告によるセルフィールの販売,OEM販売契約の締結等

被告は,空気触媒セルフィールないしセルフィールという商品

名の建築資材用の水性組成物(以下セルフィールという。)を販売してきた。セルフィールは,天然土壌由来の無機化合物(鉄化合物,アルミニウム化合物,カリウム化合物,チタン化合物)を含有する無色透明・無臭の水溶液である。被告のウェブページ(乙2)では,セルフィールにつき,消臭効果や抗菌・防カビ効果,抗ウイルス効果,防汚効果があること,その消臭効果や抗菌効果は分解反応によるものであり,吸着作用や中和作用によるものではないこと,セルフィールに含まれている金属化合物が空気中の水や酸素と反応し,分解反応が生ずること,噴霧又は浸漬等により施工可能であることなどが記載されている。また,このような分解反応の作用機序に照らし,セルフィールは空気触媒であるとされ,作用・効果の
発現に光(紫外線)を必要とする光触媒と対比して説明されている。なお,被告は,空気触媒セルフィールという標準文字からなり,指定商品を抗菌消臭剤(工業用),その他の化学品(第1類)とする商標に係る商標権(平成19年9月7日登録)等を有している(乙1,2)。

原告は,平成19年7月1日,被告との間で,セルフィールにつき,次
の内容の空気触媒セルフィールOEM販売契約(以下本件OEM契約という。)を締結した(甲3)。
(ア)第1条(目的)
原告・被告は,協力して二次製品である繊維分野において,恒常的に発展するため原告を国内の繊維分野において,被告の独占的な販売窓口会社とする。原告は,被告より商品の提供を受けて販売を行い,被告の販売方針を尊重して甲商品(裁判所注:本契約書において甲とは被告を指す。)の販売拡大に努めるものとする。
(イ)第2条(期間)
本契約における1年は7月1日より翌年6月30日とする。ただし,期間満了3か月前までに,原告・被告いずれかから別段の申し出のないときは,さらに
2年間延長するものとし,以降も同様とする。
(ウ)第3条(年間最低発注量)
1年間の最低発注量を56缶(18リットル/缶)1008リットルとする。最低発注量に達しない場合,本契約を解除する。また,契約期間満了の1か月前までに原告・被告協議の上,次の1年間の発注量を決定する。
(エ)第4条(商品の出荷)

被告は,原告より商品の注文がなされた場合,商品を一週間以内に原告の指定するところに出荷するものとする。
(オ)第6条(売買価格)
本件商品の原告に対する仕切価格は,―7,000/リットルとする。なお,この仕切価格は,必要に応じ,原告・被告協議のうえ変更することができる。(カ)第7条(商品の返品等)
被告が売り渡した商品については,それが製造上の不良品である場合,輸送中破損した場合及び注文内容と異なった商品が誤送された場合を除き,返品できない。

(キ)第8条(プライベートブランド)
被告は,空気触媒TioTioを正規OEMブランドと認める。ただし,甲商品を用い加工した商品に限る。(ク)第9条(商標)
原告は,被告との間で条件を満たす場合には,被告の所有する空気触媒の商標を使用することができる。
(ケ)第11条(製造物責任)
原告は,被告よりOEM供給を受けた製品を,原告自身を製造元として販売するとき,一切の製造物責任は原告が負うものとし,被告に一切の責任転嫁は行わないものとする。
(コ)第12条(品質保証)
被告は,本製品(空気触媒セルフィール)の品質は原告・被告がともに認
識している品質基準に合致することを保証する。(認識:平成19年5月までにお互いに検査,確認した成分及び製造方法)
製品保存の保証期間は未開封で納入日より1年とする。
(サ)第15条(情報交換)
被告は,本製品の製法成分を変更する場合,必ず原告に伝え,必要な試験
を共に行う。
原告は,繊維関係の進捗状態について,被告の求めがあればいつでも開示する。(シ)第16条(機密保持)
本契約中及び契約期間満了時においても原告は被告及び製品に関する技術情報,商売上の秘密の機密を保持し,第三者に開示しない。ただし,既に公になっている情報,原告の責任ではなく,後に公になった情報については除外する。ウ
本件契約は,数回にわたって自動更新され,平成28年7月にも自動更
新された。

原告は,平成29年10月2日,被告に対し,セルフィール(繊維用。
18リットル缶)56缶について,代金額6000円/リットル(合計653万1840円(消費税込))で,原告指定の出荷先に出荷する方法により引き渡すという条件で注文し,同月3日,被告が,これを受けて納品書を原告に送付したことにより,原告と被告との間で上記内容の売買契約(以下本件売買契約という。)が締結された。

原告は,同年11月30日,被告に対し,本件売買契約に基づき,その
代金全額を支払った。

被告は,本件売買契約に基づき,セルフィール合計26缶については,
原告指定の出荷日及び出荷先に出荷したが,その余の30缶については,指定された同年12月4日に出荷せず,その後も出荷していない。

本件契約は,遅くとも平成30年4月16日までには,解除された(こ
の限度では当事者間に争いがない。)。
(3)本件特許権

被告は,以下の特許権を有する(以下,この特許権を本件特許権,
本件特許権に係る特許を本件特許,本件特許に係る発明を本件発明という。また,本件発明に係る各請求項記載の発明を,請求項の番号に従い,本件発明1などという。乙12)。
特許番号

特許第5507787号

発明の名称

金属組成物を含有する水性組成物,および,該水性組成

物からなる消臭剤,抗菌剤および防カビ剤
出願日
平成18年9月19日

登録日

平成26年3月28日

特許請求の範囲
【請求項1】鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有する水性組成物からなる消臭剤であって,
鉄の含有量が16~40ppm,
アルミニウムの含有量が40~50ppm,
カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,
チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,
銀イオンを含まず,
対象物に固着させて使用するための消臭剤。
【請求項2】鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有する水性組成物からなる抗菌剤であって,
鉄の含有量が16~40ppm,
アルミニウムの含有量が40~50ppm,
カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,
チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,

銀イオンを含まず,
対象物に固着させて使用するための抗菌剤。
【請求項3】鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有する水性組成物からなる防カビ剤であって,
鉄の含有量が16~40ppm,

アルミニウムの含有量が40~50ppm,
カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,
チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,
銀イオンを含まず,
対象物に固着させて使用するための防カビ剤。


本件発明の構成要件は,次のとおり分説される。
(ア)本件発明1
A
鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有
する水性組成物からなる消臭剤であって,
B
鉄の含有量が16~40ppm,

C
アルミニウムの含有量が40~50ppm,

D
カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,
E
チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,

F
銀イオンを含まず,

G
対象物に固着させて使用するための消臭剤。

(イ)本件発明2
A’

鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有
する水性組成物からなる抗菌剤であって,
BC
アルミニウムの含有量が40~50ppm,

D
カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,

E
チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,

F
鉄の含有量が16~40ppm,

銀イオンを含まず,

G’対象物に固着させて使用するための抗菌剤。
(ウ)本件発明3
A”
鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有
する水性組成物からなる防カビ剤であって,
BC
アルミニウムの含有量が40~50ppm,

D
カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,

E
チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,

F
鉄の含有量が16~40ppm,

銀イオンを含まず,

G”

対象物に固着させて使用するための防カビ剤。

(4)原告による原告製品の販売等

原告は,被告から本件OEM契約に基づきセルフィールを購入し,これを
繊維関連の顧客に原液のまま販売したり,繊維に加工するために必要な調合を施した水溶液を販売したり,セルフィールを使用して原告が加工した繊維製品を第三者に販売したりしてきた。その際,原告は,上記水溶液又は繊維製品について,空気触媒TioTio(ティオティオ)等の文字を含む表示を使用していた。なお,原告は,TioTio及びティオ・ティオの文字を含む商標につき,指定商品・指定役務をボストンバッグ,リュックサック(第18類)等とする商標権(商標登録第4790099号,平成16年7月30日登録。甲23)及び指定商品を工業用消臭剤,工業用抗菌剤,防カビ剤,防汚剤(第1類)とする商標権(商標登録第4842091号,平成17年3月4日登録。甲24)を有するほか,空気触媒及びTioTioの文字を含む商標につき,指定商品・指定役務を空気触媒処理を施したかばん金具(第18類)等とする商標権(商標登録第4983264号,平成18年9月1日登録。甲25)を有する。


原告は,平成24年以前から,国立大学法人大阪大学(以下大阪大学
という。)と新型触媒の開発について共同研究をしていた。
この触媒を紹介する原告のウェブページ(乙4。以下原告ウェブページという。)では,これによりハイブリッド触媒ないしハイブリッド触媒TioTioPREMIUM加工という多機能新型触媒を開発したこと,ハイブリッド触媒は酸化機構の異なる2種類の触媒を特殊な技術で組合せた複合型高機能触媒であること,ハイブリッド触媒TioTioPREMIUMは,鉄イオン触媒の強力な酸化力を利用して,悪臭物質や細菌類を破壊,分解する新しいタイプの抗菌・消臭機能剤であることなどが記載されている。また,大阪府中小企業団体中央会ものづくり成果コーナーと題するウェブペ
ージ(乙6)の平成24年度ものづくり補助金活用事例一覧に,活用事例の1つとして原告と大阪大学との共同研究が紹介されている(以下,この記事を本件紹介記事という。)。当該記事には,(原告は)約10年前に天然鉱物より抽出した溶液から作られる「空気触媒TioTioを開発,抗菌・消臭分野に画期的な一歩を刻んだ。」天然抽出物ゆえに,機能面などを安定させるために労力がかかる。そこで同社は大阪大学との共同研究で,同大学保有の最先端機器によってメカニズムの解析を行い,改良型の新しい試作品を開発,今後は試作品を完成させ,天然抽出物だけでは不安定な面を改良し,従来の触媒を上回る“進化型ハイブリッド触媒”の実用化を図りたいと考えている。

今回実施した補助事業により,専門家,技術指導者,大学の協力を得て,これらの不安要素や弱点を補ったうえで,性能のパワーアップを図り,安全性の高いハイブリッドタイプの新型触媒を完成することができた。

等の記載がある。ウ
原告は,遅くとも平成28年末頃以降,上記ハイブリッド触媒に係
る製品(前記アの製品とは別の製品である。以下原告製品という。)の販売を開始し,平成29年5月頃までには,青山商事株式会社(以下青山商事という。)において,原告製品を使用して製造された繊維製品の店頭販売等も開始された。
なお,原告は,ハイブリッド触媒という標準文字からなる商標につき,指定商品・指定役務を織物,メリヤス生地(第24類)等とする商標権(商標登録第5632713号,平成25年11月22日登録。甲22の1)及び指定商品を染料,顔料(第2類)等とする商標権(商標登録第5673959号,平成26年5月3
0日登録。甲22の2)を有する。

原告は,平成28年3月24日,以下の特許出願(以下別件特許出願
という。)をしたが,当該出願については,令和元年8月14日付けで拒絶査定がされた(乙7,85,86,88,90)。
出願番号
特願2016-59347号

発明の名称

水性組成物および粉体組成物

特許請求の範囲(平成31年3月13日付け手続補正書による補正後のもの。なお,令和元年8月7日付け手続補正書による補正は却下された。)【請求項1】鉄と,アルミニウムと,酸化タングステンと,スルホン酸が水性溶媒中に存在し,
上記鉄は,4価の鉄イオンとして存在するものを少なくとも含み,上記スルホン酸は,p-トルエンスルホン酸として存在するものを少なくとも含み,
上記4価の鉄イオンとして存在する上記鉄と,上記p-トルエンスルホン酸として存在する上記スルホン酸から生成するスルホン酸鉄塩が,上記水性溶媒中にさらに存在している
ことを特徴とする水性組成物。
【請求項2】請求項1記載の水性組成物から水分が除去され,鉄と,アルミニウムと,酸化タングステンと,スルホン酸が含有され,
上記鉄は,上記水性組成物において4価の鉄イオンとして存在するものを少なくとも含み,

上記スルホン酸は,p-トルエンスルホン酸として存在するものを少なくとも含み,
上記水性組成物において上記4価の鉄イオンとして存在する上記鉄と,上記p-トルエンスルホン酸として存在する上記スルホン酸から生成するスルホン酸鉄塩が,さらに含有されている

ことを特徴とする粉体組成物。

株式会社ラーフエイド(以下ラーフエイド社という。)は,平成2
9年7月18日に設立され,原告の部長がその取締役に就任している。同社は,原告製品を使用したラーフエイド(LAFUADO)ないしラーフエイドコーティングという主に建築物向け施工(コーティング)サービスの提供(以下ラーフエイドという。)を行っている(乙8,9)。3争点
(1)原告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2)不正競争防止法2条1項20号の不正競争の成否(争点2)(3)不正競争防止法2条1項1号の不正競争の成否(争点3)

(4)不正競争防止法2条1項4号の不正競争の成否(争点4)
(5)不正競争防止法2条1項21号の不正競争の成否(争点5)(6)原告の債務不履行の成否(争点6)
(7)原告の不法行為,不正競争又は債務不履行による被告の損害額(争点7)なお,本訴事件の請求原因は前記第2の2(2)エ~キ記載のとおりであり,これらの事実については当事者間に争いがない。また,争点1,6及び7は本訴事件及び反訴事件に係る争点であり,その余は反訴事件に係る争点である。第3争点に関する当事者の主張
1争点1(原告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)
(被告の主張)
(1)文言侵害

原告が製造し,販売し,又は販売の申出をしている原告製品は,水性組成物である消臭剤,抗菌剤,防カビ剤であり,別紙原告製品の構成(被告の主張)記載の構成を有する。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件の全てを充足し,本件発明の技術的範囲に属する。
原告の取引先である東洋紡株式会社(以下東洋紡という。
)らが出願した特許

(乙75)の特許請求の範囲にチタンの記載があること,被告がセルフィールの供給を停止した後,原告がその納入を幾度も迫っていたこと,本件紹介記事の記載によれば,セルフィールを分析し,
改良型として,セルフィールにタングステンを
添加して原告製品が開発されたと理解されることなどから,原告製品はセルフィールを水で希釈し,これに酸化タングステンとスルホン酸を添加したものにすぎず,
文言侵害が成立することは明らかである。
(2)均等侵害
仮に原告製品の構成が前記(1)のとおりでないとすれば,原告製品の構成は,別件特許出願に係る発明の構成に基づくものである。すなわち,原告製品の構成は,本件発明のチタンをタングステンに置き換え,これにスルホン酸を添加したもので
ある。
したがって,原告製品の構成と本件発明の構成との相違点は,構成要件A,A’,A”及びEに係る構成のみである。
しかし,本件発明の作用効果は主に鉄によるフェントン反応に基づく酸化還元反応を利用したもので,本件発明の本質的部分を構成するのはフェントン反応に関わる鉄及びカリウム並びに定着剤としてのアルミニウムであり,極微量のチタンの配合は非本質的部分である。
また,光触媒の特性を持つチタンを同じく光触媒の特性を持つ物質として公知のタングステンと置き換えても,同一の作用効果が得られる。
さらに,本件発明は光触媒の作用がヒントになったものであり,実用化されている光触媒はチタン(酸化チタン)と酸化タングステンの2つしかないから,チタン
を同じ光触媒である酸化タングステンに置き換えることは,当業者は容易に想到し得る。このことは,別件特許出願につき拒絶査定がされたことからも明らかである。以上より,原告製品は,本件発明の構成と均等なものであるから,原告製品は本件発明の技術的範囲に属する。
(原告の主張)

(1)文言侵害に関する被告の主張について
原告が原告製品を製造販売等していること,原告製品が消臭,抗菌,防カビ等の作用効果を有する水性組成物であることは認める。
また,被告主張の原告製品の構成のうち,鉄及びアルミニウムを含む金属組成物を含有する水性組成物からなるという点(構成a,a’,a”の一部)は認める。カリ
ウム及びチタンについては,原告製品を製造する上で殊更原告が添加しているものではないが,鉄・アルミニウム等の金属及び水性組成物を製造する過程で使用する水等に不純物として含有されている程度には混入されているおそれはある。構成fは認める。
構成hについて,原告製品にタングステンが含まれていることは認める。しかし,
これは,水性組成物の製造段階で配合するもので,既に存在する消臭剤等に添加したものではない。
被告のその余の主張は否認し,争う。原告製品は本件発明の構成要件を充足しておらず,文言侵害は成立しない。
(2)均等侵害に関する被告の主張について

被告の主張は否認し,争う。次のとおり,原告製品の製造販売等につい
て均等侵害も成立しない。
すなわち,そもそも原告製品が充足していない本件発明の構成要件(構成要件A~E,G,A’,G’,A’’,G’’)が全て本質的部分でないということはあり得ない。また,原告製品に被告が本質的部分と認めるカリウムが含有されているとしても,本件発明の構成要件記載の最低含有量とはかけ離れた微量しか含まれておらず,原
告製品は本質的部分において本件発明の構成要件を充足していない。さらに,本件特許の出願経過に照らせば,本件発明は,チタンの存在及びそれぞれの金属組成物の含有量の限定があって初めて特許として認められたものである。加えて,フェントン反応自体は古くから存在の知られた化学反応であるから,鉄,カリウム及び定着剤としてのアルミニウムの存在だけをもって本件発明の本質的部
分ということはできない。そうすると,カリウムに限らず,チタン及び各金属組成物の含有量についても,本件発明の本質的部分であると考えられる。しかるに,原告製品はそれに係る構成要件を充足していない。

仮に,チタン及び各金属組成物の含有量については本件発明の本質的部
分でないとしても,上記のとおり,チタンが存在せず,又は本件発明の構成要件記載の各金属組成物の含有量の範囲外の物については,出願過程において,被告が自ら特許請求の範囲から意識的に除外したものである。したがって,被告は,禁反言の法理に照らし,均等侵害を主張することは許されない。

以上より,原告製品については,均等侵害も成立しない。

(3)したがって,原告製品は,本件発明の技術的範囲に属しない。2争点2(不正競争防止法2条1項20号の不正競争の成否)
(被告の主張)
原告は,本件OEM契約に基づき,繊維関連市場におけるセルフィールの独占販売権を有し,これに伴い被告の販売方針を尊重してセルフィールの販売拡大に努める契約上の義務を負担している(1条)
。また,本件OEM契約では,
空気触媒TioTioをセルフィールのOEMブランドとしている(8条)。
そのため,原告は,
空気触媒TioTioの品質,内容を誤認させるような表示をし,又はその表示をした商品を譲渡することは許されない。
ところが,原告は,原告製品にハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示を付して,原告製品を販売している。この表示は,原告製品が空気触媒と光触媒の長所をハイブリッド(組み合わせ)し,従来品である空気触媒TioTioを上回る性
能を発揮する高級品であるという印象を喚起するものであり,翻って,空気触媒TioTioがより品質・内容の劣る陳腐化した従来品であるという印象を一般消費者に与えるものであり,
空気触媒TioTioの品質,内容を誤認させるものである。
したがって,原告の上記行為は不正競争防止法2条1項20号の不正競争に当たる。

(原告の主張)
(1)原告が原告製品を販売していること,
ハイブリッド触媒TioTioプレミアム
の表示を使用していることは認め,被告のその余の主張は否認し,争う。原告は,原告製品(水性組成物)をハイブリッド触媒NANOCAT(ナノキャット)という商品名で製造・販売しており,顧客からの依頼でこれを用いて繊維製品
に加工することをハイブリッド触媒TioTioプレミアム加工
ハイブリッド触媒加工
TioTioプレミアム加工というところ,この加工を施した繊維製品を,原告及び顧客がハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示を付して販売している。このように,
ハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示は,繊維製品に関して使用しており,水性組成物である原告製品には使用していない。

(2)ハイブリッドとは単に組み合わせたという意味合いにすぎない。他方,プレミアムには上等,高級といった意味合いもあるが,極めて抽象的なものであり,それだけで何らかの品質や内容を誤認するということはない。(3)

TioTioという商標は,原告が,被告と本件OEM契約を締結する以前か
ら,繊維製品やタイル工事等の役務に関して有していた登録商標である。空気触媒TioTioも,空気触媒加工を施した繊維製品や繊維製品へのコーティング加工等に関して原告が有する登録商標である。また,
ハイブリッド触媒は,
空気触媒
という普通名称とは異なり,原告の商標としても登録されている。このため,原告の登録商標であるTioTioにハイブリッド触媒及びプレミアムの各表示を付したからといって,被告の商品であるセルフィールの品質・内容につき需要者が誤信するという関係にはない。

(4)以上より,原告の行為は被告主張に係る不正競争に当たらない。3争点3(不正競争防止法2条1項1号の不正競争の成否)
(被告の主張)
(1)空気触媒TioTioは,セルフィールを繊維分野に改良した商品(被告の空気触媒の技術を繊維分野において応用した技術ないし同技術を使用したスーツ等)
の商品表示であり,原告の登録商標であると同時に,被告の商品であるセルフィールの繊維分野におけるブランド(商品表示)でもある。
原告は空気触媒TioTioという商標を有しているが,当該商標に関しては,被告に事前に相談することなく商標登録出願したことについて,原告が被告宛ての念書において謝罪等したという経緯がある。このことから,本件OEM契約において,
空気触媒TioTioを繊維部門におけるセルフィールのブランドとすることが合意された(8条)

また,
空気触媒TioTioは,種々多様な媒体において,
TioTioの表示と共に
空気触媒について説明がされ,大量に宣伝広告に使用されており,その周知性は明らかである。

ところが,原告は,セルフィールのOEMブランド空気触媒TioTioを販売することなく,それとは異なる競合・類似品である製品を,
ハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示を使用して繊維関連市場において販売した。この表示が空気触媒TioTioと類似する商品等表示であることは明らかであり,このような製品が出現すれば,
空気触媒TioTioの出所である被告の商品と誤認混同される。以上より,原告の上記行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たる。(2)原告の主張について
不正競争防止法2条1項1号の要件である他人性について,被告は,光がないところで触媒効果が発揮される空気触媒に関する事業を展開する先駆者として知られており,本件OEM契約の締結もそのことが前提となっている。本件OEM契約の8条及び9条からも,
空気触媒TioTioが被告の商品等表示として扱われてい

ることは明らかである。また,原告の販売する空気触媒TioTioが被告のセルフィールであることは当業者においてはよく知られていた。原告と被告による空気触媒TioTioないしTioTioの商品等表示の周知性獲得の努力は,こうした事情を前提にしてされたものであった。
以上の事実からすれば,
空気触媒TioTioは,
他人たる被告の商品等の表示

として通用しており,被告の商品等表示として周知性を獲得したというべきである。また,
空気触媒TioTioは繊維分野における空気触媒セルフィールそのものであり,その品質管理は被告が行い,原告の注文に応じて被告が販売しており,その販売価格,販売数量も被告が決定していた。したがって,不正競争防止法2条1項1号により保護されるべき主体(商品に関する信用の保持者たる主体)は,被告
にほかならない。
(原告の主張)
(1)空気触媒TioTioが繊維製品の商品等表示であること,原告が繊維製品にハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示を使用していることは認め,被告のその余の主張は否認し,争う。

(2)空気触媒TioTioの表示は原告の出所を表示するものとして使用されており,被告の出所を表示するものとしては一切使用されていない。したがって,同表示は,被告の商品等表示には該当しない。
この点に関し,被告は,商標の登録出願の経緯を主張する。しかし,空気触媒
は一般的な用語であるから,原告が空気触媒TioTioの商標を取得するに当たり被告の承諾を得る必要はないにもかかわらず,被告から強く要求されたことから,被告との良好な関係を維持するためにやむなく念書を作成したものである。本件OEM契約8条についても,同条は,単にセルフィールを使用した原告の製品に空気触媒TioTioという原告の商標を付すことを確認したものにすぎず,被告自身のブランドとすることを合意したものではない。
(3)周知性の要件は,
他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものであることを要件とするものであるから,空気触媒TioTioが被告の商品
等表示として需要者の間に広く認識されていることが必要である。しかし,これを裏付ける証拠はない。
被告自身がTioTioや空気触媒TioTioの表示を使用して商品を販売したり,宣伝等したりしたことはない。原告が,
TioTioや空気触媒TioTioを販売・宣

伝等する際に,これを被告の製品として被告の氏名等を表示したこともない。このため,客観的に需要者がTioTioや空気触媒TioTioという商品等表示を見て被告の商品であると認識することはおよそありえない。
(4)したがって,原告の行為は被告主張に係る不正競争に当たらない。4争点4(不正競争防止法2条1項4号の不正競争の成否)

(被告の主張)
本件OEM契約では,
製品に関する技術情報についての秘密保持が規定され,
第三者への秘密漏洩を禁止し(16条)
,被告の同意なき成分分析も禁止されている
(15条)
。セルフィールの成分,成分の含有割合及びそのバランス(ただし,本件特許の特許公報記載のものを除く。
)は上記情報に当たる。また,当該情報は,商品

が被告の特約店等を通じてのみ販売されるものであると共に,上記契約条項のとおり,原告との関係でも秘密として管理されている。さらに,当該情報が有用であることは明らかであるし,情報自体を一般に入手することはできず,セルフィール自体を入手して分析することもできない点で,非公然性も認められる。したがって,上記情報は,営業秘密(不正競争防止法2条6項)に該当する。
ところが,原告は,大阪大学との共同研究において,被告に無断で,同大学保有の最先端機器により,契約上禁止されているセルフィールの解析を行い,上記営業秘密を不正取得すると共に,これを第三者である大阪大学の研究者に開示した。また,原告による原告製品の製造は,不正取得した営業秘密の使用に当たる。したがって,原告の上記行為は不正競争防止法2条1項4号の不正競争に当たる。(原告の主張)

(1)原告が大阪大学と共同研究を行ったこと,原告製品を製造したことは認め,被告のその余の主張は否認し,争う。
(2)被告主張に係る営業秘密は,極めて抽象的であり,本件特許の特許公報記載のもの以外の成分及びその含有量等につき,その存在を含め一切が不明である。このため,その有用性については,検討の余地がない。

また,本件OEM契約にはセルフィールの成分分析を禁止する条項はなく,被告から特許公報に記載されていない成分が秘密に該当すると示されたこともないから,被告が営業秘密と主張する情報につき秘密管理性は認められない。さらに,セルフィールが代理店や特約店から販売されることも考えられるから,被告主張の情報について非公然性も認められない。

したがって,被告主張の情報は営業秘密の要件を満たさない。
(3)原告が大阪大学の最先端機器によって解析したのは,あくまで原告と大阪大学が共同開発によって独自に開発した原告製品の試作品であって,セルフィールではない。原告がセルフィールの成分を分析したことはない。
(4)以上より,原告の行為は被告主張に係る不正競争に当たらない。
5争点5(不正競争防止法2条1項21号の不正競争の成否)
(被告の主張)
(1)株式会社デザインアーク(以下デザインアークという。
)は,平成31
年2月,不特定多数の者に対し,
新商品『ラーフエイドコーティング』のご案内
と題する書面(乙17。以下本件案内書面という。
)を頒布した。そこには,新
製品ラーフエイドコーティングについて,

以前よりご提案させて頂いているセルフィールの安全性はそのままに,抗菌・消臭分解効果はそれを上回る性能が確認出来ました。,

デザインアークとしましては,より効果の高い『ラーフエイドコーティング』への変更を推奨致します。

と記載されていた。これらの記載は,同社が下請会社である株式会社FONT(以下FONTという。
)から伝聞で聞いた内容を
そのまま記載したものである。FONTは,かつては被告のセルフィール総販売代理
店と特約店契約を締結していたが,現在は,原告が製造するラーフエイドの供給を受けていることに照らせば,FONTがラーフエイドの製造元である原告の指示,情報に基づき動いていたことは明白である。
(2)被告の性能分析によれば,ラーフエイドの性能は,セルフィールに遥かに及ばない。したがって,本件案内書面の上記記載内容は明らかな虚偽である。
(3)以上のとおり,原告は,事情を知らないデザインアークに対し,セルフィールの性能に関する虚偽の事実を告知した。原告のこのような行為は不正競争防止法2条1項21号の不正競争に当たる。
(原告の主張)
(1)被告の主張は不知又は否認し,争う。

(2)そもそも,原告は本件案内書面の作成に関与していない。また,FONT及びラーフエイド社は,原告とは全くの別法人であるから,被告主張に係る行動をとるはずがない。
被告が行った分析は,ラジカル発生の有無の測定という被告自身が発明した被告独自の試験方法によって,被告自身が実施したものである。第三者機関による検査
ではなく,検査過程にも疑義がある上,原告製品には,被告がラジカル発生のもとになるとするカリウムが添加されておらず,その消臭・抗菌・防カビ効果はラジカルの発生によってもたらされるものではない。したがって,およそラジカル発生の有無では,原告製品とセルフィールの消臭・抗菌・防カビ効果の性能を比較することはできない。
(3)以上より,原告は,被告主張に係る不正競争を行っていない。6争点6(原告の債務不履行の成否)
(被告の主張)
(1)本件OEM契約に基づく被告の原告に対するセルフィールの独占販売権の付与(1条)により,原告は,繊維関連市場においてセルフィールないし空気触媒TioTioを積極的に販売する義務を負うと共に,これと矛盾する行為,例えば,こ
れと競合する類似品の販売を行わない義務を負う。
併せて,原告は,
空気触媒ないしOEMブランド空気触媒TioTioの改良や
宣伝広告活動によって,そのブランド価値を高め,その販売拡大に努める義務を負っており,当然,これと矛盾する行為,例えば,そのブランド価値を低める行為を行わない義務を負う。

これらは,OEMブランドの設定及び独占販売権の付与に伴って当然導かれる契約上の義務であり,商取引における忠実義務ないし信義則上の義務でもある。さらにいえば,本件OEM契約は販売独占権の付与を伴う販売委託契約であり,その法的性質は委任契約であるから,受任者である原告は善管注意義務を負う(民法644条)。
上記各義務は,その表れでもある。

(2)ところが,原告は,OEMブランド空気触媒TioTioとは別に,ハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示を使用して,セルフィールに競合する類似品である原告製品を販売した。
また,
ハイブリッド触媒の表示は,空気触媒と光触媒の長所を組み合わせたものであるとの印象をもたらすものであり,
TioTioプレミアムの表示との組合せに

よって,それが空気触媒TioTioの改良品であり,かつ,より上級な高品質のものであるという印象を消費者に与えることになる。反面,OEMブランド空気触媒TioTioのブランド価値が低められ,陳腐化したことにより,被告はその販売機会を奪われた。
こうした原告の販売行為は,
空気触媒TioTioの表示に類似する商品表示を使用
することを含め,本件OEM契約に基づく原告の各義務に違反する。原告は,このほかにも,大阪大学との共同研究において空気触媒TioTioを第三者に分析させ,新しくTioTioプレミアムを開発したり,セルフィールの分析結果を東洋紡に無断提供して空気触媒TioTioの類似品であるTioTioプレミアムを売り込んだり,もとから無効な別件特許出願をした上で審査請求を放置し,TioTioプレミアムの販売ツールとして利用したりしたところ,これらも上記販
売拡大義務と矛盾する悪質な行為である。
(3)以上のとおり,原告は本件OEM契約上の債務に違反する行為をしていることから,原告には債務不履行が成立する。
(原告の主張)
(1)原告が原告製品を販売したこと,繊維製品にハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示を使用していること,東洋紡と取引があること,大阪大学と共同研究をしたこと,別件特許出願をしたことは認め,被告のその余の主張は否認し,争う。
(2)本件OEM契約の契約書には,原告が空気触媒TioTioと類似する商品を販売することを禁止する旨の規定はなく,本件OEM契約締結に当たり,競合品及び
類似品の取り扱いを禁止する合意はされなかった。本件OEM契約1条は,あくまで努力義務を定めているにすぎず,本件OEM契約に基づいて原告が空気触媒TioTioと類似する商品の販売を行わない義務を負担することはない。
原告は,主に衣類や繊維製品の製造・加工・販売を行っているが,触媒加工した機能性繊維を扱えなくなるというのは極めて不合理である。また,原告は,本件
OEM契約に基づき,
空気触媒TioTio
(セルフィール)の販売拡大に努める努力義
務を負うところ,これを積極的に宣伝・広告し,販売拡大のために努力をし,年間最低発注量をはるかに超える数量を発注してきた。一方で,ポリエステルやアクリル系の素材に対応できるような製品の開発を求める取引先の要望を原告から被告に伝えたにもかかわらず,被告には製品の改良や開発を行う姿勢が全く見られなかったため,これを原告自身で独自に開発することになったものである。(3)ハイブリッドとは単に組み合わせたという意味合いにすぎず,またプレミアムには上級,高級といった意味合いもあるが極めて抽象的なものであり,それだけで何らかの品質等を誤認するということはない。原告の取引先は,消臭・抗菌・防カビ等の効果や繊維への定着性等に着目しているのであり,加工した後の製品にプレミアムが付いているか否かで商品選択をしているのではない。
したがって,
TioTioプレミアムの表示によって空気触媒TioTioのブランド価値が下がるものではない。
(4)以上より,原告の行為は本件OEM契約に違反するものではなく,原告が債務不履行責任を負うことはない。
7争点7(原告の不法行為,不正競争又は債務不履行による被告の損害額)
(被告の主張)
(1)取引機会の喪失による損害
原告は,原告製品を加工して,青山商事に対し,平成29年までにスーツ等の6アイテム合計56万点を提供し,その売上げは平成28年度2000万円,平成29年度5000万円(合計7000万円)であった。被告は,原告のこの行為に
よってセルフィールの販売機会を奪われ,同額の売上高に相当する取引機会を喪失した。
また,原告は,学生服を扱う明石被服興業株式会社又はそのグループ会社である株式会社明石スクールユニフォームカンパニー,及びウィッグやインナーキャップを扱うフェザー株式会社に対し,
空気触媒TioTio又はTioTioプレミアム加工

をうたった製品を納入した。
以上より,被告は,原告の特許権侵害の不法行為,不正競争及び債務不履行により,少なくとも7000万円の損害を被った。
(2)利益相当損害
前記(1)の主張が認められない場合であっても,被告は,原告が得た売上げにおける利益相当分の損害を被ったといえる(特許法102条2項,不正競争防止法5条2項)
。原告の青山商事に対する売上げ7000万円における利益率は20%を下らないから,被告の損害額は1400万円である。
(3)弁護士費用
本件訴訟の追行に当たって相当な弁護士費用は,700万円である。(4)相殺の意思表示(本訴事件のみに関する主張)

被告は,原告に対し,次の各請求権をもって,次の順番で,原告の被告に対する本訴に係る請求権とその対当額において相殺する(なお,反訴提起後に追加された不正競争防止法4条本文に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺の意思表示はされていないと理解される。。


特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権


債務不履行に基づく損害賠償請求権

(原告の主張)
被告の主張は否認し,争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(原告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)
(1)文言侵害の成否

原告は,被告主張の原告製品の構成(別紙

原告製品の構成(被告の主張))のうち構成fは認めている。これによると,原告製品は本件発明の構成要件

Fを充足する。また,原告は,同構成aのうち,鉄及びアルミニウムを含む金属組成物を含有する水性組成物からなるという点についても認めるものの,その余の構成については否認し,本件発明の構成要件A~E及びG,A’,G’,A”及びG”の充足については当事者間に争いがある。

原告製品の構成について,被告は,自ら入手したというラーフエイドの
成分分析の結果(乙77)を提出する。
しかし,入手に係るラーフエイドが原告製品を使用して製造されたものであることを直接裏付けるに足りる証拠はない。その点は措くとしても,その結果は次のとおりである(なお,分析結果の単位はμg/gであるが,これは本件発明の特定事項の単位ppmに換算でき,数値の桁数は同じである。。これによると,少なくとも被)
告主張の原告製品の構成b~eが裏付けられたとはいえない。
本件発明において乙77のラーフエ乙77のラーフエ
特定された含有量
(ppm)

イドAの定性分析イドBの定性分析
結果(μg/g)

結果(μg/g)


0.3

0.2

アルミニウム

40~50

カリウム

0.20~0.45

0.06

<0.03

チタン


16~40

0.1~27.2

<0.05

<0.05

ラーフエイドAの定量分析結果によると,鉄0.29μg/g,アルミニウム410μg/g,ラーフエイドBの定量分析結果によると,鉄0.22μg/g,アルミニウム
310μg/g

被告は,原告製品はセルフィールを水で希釈し,これに酸化タングステ
ンとスルホン酸を添加したものであると主張する。
しかし,これを認めるに足りる証拠はない。そもそも,被告は,セルフィールが本件発明の実施品であることを前提として主張するが,その点についての立証もない。なお,特許第5944072号の特許公報(乙74)の【0024】等記載の原告製TioTio
(これがセルフィールであることは,被告も認める。
)の分析結果
によると,アルミニウムとチタンの含有量は,本件発明の構成要件記載の含有量に満たない。
また,被告は,上記主張を基礎付ける事情をるる主張する。しかし,原告が東洋紡にセルフィールの分析結果を提供したことを認めるに足りる的確な証拠はない上,東洋紡らの特許(乙75)に係る特許請求の範囲請求項2では,
金属組成物がチタンを含まないか,又は金属組成物中のチタン含有量が鉄100ppmに対して0.1ppm未満であることとされている。これによれば,上記特許に係る特許発明において,チタンは,発明に係る物質分解除去性複合体に全く含まれないか,含まれるとしても極微量にとどめるべきことが求められているものと理解し得るし,少なくとも,本件発明の構成要件で特定されるチタンの含有量を相当下回っているといえる。そうすると,東洋紡らの上記特許の内容から,原告製品の構成につき,被告主張の事実を推認することが合理的とはいえない。被告は,本件紹介記事に
改良型との記載があることも指摘するところ,本件紹介記事の文脈からは,改良型に対応する改良前の製品として空気触媒TioTioが想定されていると理解する余地はある。もっとも,そのことは,大阪大学保有の機器によるメカニズムの解析対象が空気触媒TioTioであることを直ちに意味することにはならないし,
改良という評価の着眼点としても,機能,構成,製造コスト等様々なものが
考えられることから,この記載をもって,被告主張の上記事実を合理的に推認させるものということはできない。別件特許出願や,本件売買契約に基づくセルフィールの納入の要求といった原告の行為も,原告製品とセルフィールとを関連付けなくとも合理的に理解可能な事実であり,これをもって被告主張の上記事実を合理的に推認することはできない。なお,原告ウェブページの記載も,原告製品に含有され
る成分については

鉄と相性の良い希元素を極微量配合しました。(乙4の3)と

いった程度の記載しかなく,具体的な成分や配合方法等は不明であるから,同様である。
したがって,被告の上記主張は採用できない。

以上より,原告製品は,少なくとも本件発明の構成要件B~Eを充足し
ないから,文言侵害は成立しない。
(2)均等侵害の成否
被告は,原告製品と本件発明の各構成との相違部分につき,構成要件A,A’,A”及びEに係る構成のみであるという前提で,均等侵害の主張をする。しかし,前記(1)のとおり,原告製品と本件発明とは,構成要件Eに係る構成に加えて,少なくとも構成要件B~Dに係る構成も相違する。しかるに,被告は,これを前提とした均等侵害の主張をしていない。
したがって,その余の点を論ずるまでもなく,均等侵害の成立は認められない。(3)以上より,原告製品は本件発明の技術的範囲に属するとはいえないから,原告による原告製品の製造販売等をもって本件特許権侵害の不法行為ということはできない。

したがって,この不法行為に基づく損害賠償請求権の成立は認められないことから,これを自働債権とする相殺の抗弁は理由がない。
2争点2(不正競争防止法2条1項20号の不正競争の成否)
(1)被告は,原告が原告製品に付しているハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示が,従来品である空気触媒TioTioを上回る性能を発揮する高級品である
という印象を喚起し,原告製品の品質,内容を誤認させるものであると主張する。しかし,被告は,上記主張に係る性能の意味ないし内容について,空気触媒と光触媒の長所をハイブリッド(組み合わせ)し,従来品である『空気触媒TioTio』を上回る性能を発揮する高級品などと抽象的に主張するにとどまり,具体的な主張はない。また,品質,内容の誤認表示に係る不正競争が認められるためには,あ
る表示から需要者に認識される品質,内容を特定する必要があるところ,本件では,上記表示が,需要者に対し,原告製品についてどのような品質,内容を認識させるものであるかについての必要な主張を欠くといえる。
さらに,これらの点を措くとしても,原告ウェブページ及び本件紹介記事の記載等から,原告製品(又はこれを使用して製造された繊維製品。本項において以下同
じ。
)は酸化機構の異なる2種類の触媒を組み合わせたものであることが認められることを踏まえると,原告が付している上記表示のうち,
ハイブリッド触媒につい
ては,これにより生じる需要者の認識が誤認となることはない。他方,プレミアム
の語は,
上等,高級といった意味を含むとしても,具体的にいかなる点において上等,高級であるかを含意するものではない。また,これらを組み合わせてハイブリッド触媒TioTioプレミアムないしTioTioプレミアムとして見た場合でも,当該表示は,せいぜい,触媒としての性能その他の何らかの点で優れている商品ないしサービスとの抽象的なイメージを喚起するにとどまり,誤認を問題
とすべき程度に具体的な品質,内容を喚起するものとも思われない。加えて,これらの表示は,需要者においてセルフィールないし空気触媒TioTioと結び付けて受け止められるとしても,それが付された商品等の品質,内容につき,空気触媒TioTioとの比較において相対的に優れたものであると需要者に認識させるものであることをうかがわせる具体的な事情はない。
(2)

なお,被告は,ラーフエイドとセルフィールを対象とする触媒活性の測定
結果(乙76)を証拠として提出する。その結果の信用性等についてはさておき,上記のとおり,
ハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示は,当該表示の付された商品等につき,セルフィールないし空気触媒TioTioとの比較において相対的に品質,内容面で優れたものであると需要者に認識させるものとはいえない以上,上記結果は,上記認定を妨げるものではない。
また,被告は,上記表示が空気触媒TioTioにつきより品質・内容の劣る陳腐化した従来品であるという印象を一般消費者に与えるものであるなどとも主張する。
しかし,不正競争防止法2条1項20号の不正競争は,自己の商品等に関する虚偽の情報を表示して不当に需要を喚起し,自己の市場における優位性を確保しようとする行為を禁ずるものであるから,被告の上記主張は同号の不正競争として問題にすべきこととはいえない。
(3)以上より,原告が原告製品に付している表示は,原告製品の品質,内容を誤
認させるものと認めることはできない。したがって,原告の行為は,不正競争防止法2条1項20号の不正競争に当たらない。この点に関する被告の主張は採用できない。
3争点3(不正競争防止法2条1項1号の不正競争の成否)
(1)被告は,
空気触媒TioTioの表示につき,被告の商品であるセルフィールの繊維分野におけるブランド(商品表示)であり,被告の商品等表示に当たると主張する。
(2)しかし,本件OEM契約の契約書ではOEM販売契約書とされているところ,そもそもOEM(originalequipmentmanufacturing)とは,委託者ブランドの製品の製造委託を意味するから,原告と被告との関係に即していえば,販売者に当たる原告が委託者,製造者に当たる被告が受託者の立場に立ち,原告のブランドと
して製品が販売されることが想定されることになる。
具体的に見ても,本件OEM契約によれば,原告が,被告から商品(セルフィール)を買い受け,これを用いて加工して商品化した商品に空気触媒TioTioの表示を付して販売することとされている(1条,8条)
。また,当該契約上,被告に対する
年間最低発注量の定めはあるものの(3条)
,被告が原告に売り渡した商品について

は,不良品の場合等を除き返品できないこと(7条)
,原告・被告間の仕切価格に関
する規定はあるものの(6条)
,原告が販売する商品の販売価格の決定に被告が関与
することをうかがわせる規定はないことから,原告が販売する商品の販売数量及び価格の決定権限は原告にあり,かつ,過剰在庫等の販売リスクは原告が負担するものとされていることがうかがわれる。しかも,原告自身が製造元として販売した商
品については,原告が一切の製造物責任を負い,被告に一切の責任転嫁は行わないことが明示されている(11条)。これらの条項に鑑みると,本件OEM契約に
おいては,
空気触媒TioTioの表示を付した商品の販売は,原告を主体としてその責任で行われることとされ,被告は,そのような原告に対し,商品に使用される水性組成物を製造販売する立場にあるにすぎないことが理解される。
実際,
空気触媒TioTioないしTioTio
ティオティオの表示が見られる新
聞その他の媒体における宣伝広告等(乙25~70,79~83)においても,これらの表示が被告の商品を示す表示として使用されている例はなく,被告に言及するものも,原告の商品のもとになった製品の製造元として言及するにとどまる(乙45,50)
。むしろ,連絡先や販売元・製造元,商標権者等として原告の社名等を示すことにより,原告の商品であることを示す表示として使用されていると理解されるものが多い(乙25,27~29,31,35,36,41,44,45,48~55,57,62,68~70,79,82,83)
。こうした宣伝広告等の状
況からは,需要者にとっても,
空気触媒TioTioの表示は原告の商品に係る表示と
して理解されていることがうかがわれる。
他方,被告自身,その製造販売する商品に空気触媒TioTioとの表示を付して
いるとの主張はしておらず,そのような事実を認めるに足りる証拠もない。被告のウェブページにも,セルフィールに関する記載はあるものの(乙2)空気触媒,TioTioに関する記載は見当たらない。以上の事情を総合的に考慮すると,
空気触媒TioTioの表示は,被告の商品に係
る表示と認めることはできず,むしろ,原告の商品に係る表示と認められる。
(3)被告の主張について
これに対し,被告は,被告宛ての念書(乙21)作成に至る経緯や本件OEM契約8条や9条の存在等を指摘して,
空気触媒TioTioの表示は被告の商品に係る表
示であると主張する。
しかし,本件OEM契約8条は,
空気触媒TioTioのブランド表示が原告の商品

を表示するものとして使用されることを前提とするものと理解される。当該契約9条も,被告が有する空気触媒という商標の使用について定めるにとどまり(なお,実際には,被告が商標権を有するのは空気触媒セルフィールという商標である。前記第2の2(2)ア)空気触媒TioTioという商標には何ら触れられていな,
い。そうすると,これらの条項は,
空気触媒TioTioが被告の商品に係る表示であ

ることを示すものとはいえず,むしろ原告の商品表示であることを基礎付けるものというべきである。
また,被告宛ての念書(乙21)については,その本文を全体として見れば,空気触媒の表示を使用して事業を展開していた被告に対し,今後の協力関係への配慮等に基づき原告が差し入れたものと理解されると共に,原告の登録商標空気触媒TioTioと被告の使用する空気触媒の表示とが意識的に書き分けられていることからすると,
空気触媒TioTioの表示は被告の商品等表示ではないことを前提とするものと理解される(本件OEM契約9条は,こうした経緯を踏まえた規定といえる。。そうすると,上記念書も,

空気触媒TioTioの表示が被告の商品に係るも
のであることを示すものとはいえない。
さらに,被告が空気触媒に関する事業を展開する先駆者であるとしても,そのこ
とから直ちに,被告が直接取り扱っているわけではない商品に付された空気触媒TioTioの表示が被告の商品に係るものであると需要者に受け取られることを意味するものではない。品質管理等の点についても,被告は,本件OEM契約上,原告に売り渡すセルフィールの品質に関する責任は負うものの(12条),原告が販売する
商品の品質に関する責任まで負うとはされていない。原告の販売する商品の販売価
格及び販売数量の決定に関与する権限ないし責任が被告にあることを定める規定もない。むしろ,本件OEM契約15条では,被告が製品の製法成分を変更する場合には,必ず原告に伝え,必要な試験を共に行うこととされていることから,被告が製造する製品の製法成分の決定に原告が関与することが前提とされているといえる。そうすると,品質管理等の点も,
空気触媒TioTioの表示が被告の商品に係るもの

であることを示すものとはいえない。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(4)以上のとおり,
空気触媒TioTioの表示は,被告ではなく原告の商品等表
示であるから,原告が原告製品の販売等に当たりこの表示を使用しても,他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用等したとはいえない。したがって,
空気触媒TioTioの表示を付して原告製品を販売する原告の行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たらない。
4争点4(不正競争防止法2条1項4号の不正競争の成否)
(1)被告は,原告が被告の営業秘密を不正取得すると共に,これを第三者に開示し,さらに不正取得した営業秘密を使用したと主張する。

しかし,被告は,営業秘密の内容として,本件特許の特許公報記載のも
のを除くセルフィールの成分,成分の含有割合及びそのバランスであると主張するものの,その具体的内容は明らかにしない。この程度の特定では,当該情報の有用性その他営業秘密の要件の有無や,当該情報と原告が取得等したとされる情報との同一性等を判断することは不可能又は著しく困難である。その意味で,被告の主張は,不正取得等されたという情報の特定の点で十分とはいえない。したがって,
被告主張の情報が営業秘密に該当するとは認められない。

これを措くとしても,被告は,本件紹介記事に基づき,原告による営業
秘密の不正取得及び開示の具体的態様として,原告と大阪大学との共同研究においてセルフィールの解析行為を行ったことを主張するところ,前記1(1)ウのとおり,本件紹介記事から直ちに,大阪大学保有の機器によるメカニズムの解析対象が空気触媒TioTioないしセルフィールであると考えることはできない。上記共同研究に関与したという大阪大学側の研究者も,共同研究に当たりセルフィールの試料等を受け取ったことはなく,セルフィールを参考にしたことはないとしているところ(甲16添付のハイブリッド触媒ティオティオプレミアムについてと題す
る書面)
,当該書面の信用性を否定すべき事情もない。その他に上記共同研究においてセルフィールの解析行為が行われたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,原告が被告主張に係る情報を不正の手段により取得したとは認められない。そうである以上,原告が不正取得した情報を第三者に開示したり,使用したりしたと認めることもできない。この点に関する被告の主張は採用できない。(2)以上より,原告が不正競争防止法2条1項4号の不正競争をしたとは認めら
れない。
5争点5(不正競争防止法2条1項21号の不正競争の成否)
(1)被告は,原告が,本件案内書面を頒布したデザインアークに対し,セルフィールの性能に関する虚偽の事実を告知したと主張する。
しかし,そもそも,被告主張に係る事実の告知の態様は具体性を欠き,判然としない。すなわち,被告は,原告がデザインアークの下請会社であるFONTを通じて事実を告知したと主張するものと理解されるものの,具体的には,ラーフエイドの供給に関する原告とFONTとのつながりを主張するのみであり,原告側からFONT側に告知がされたという時期,関与した人物,告知の具体的な内容その他の具体的態様については,何ら主張立証していない。
また,原告とデザインアークとの間に直接の取引関係があったことをうかがわせ
る具体的な事情はなく,被告の主張を前提としても,単にデザインアークが原告製品を使用したラーフエイド社のサービス(ラーフエイド)の供給を受けている会社の元請会社であるという間接的な関係があるにとどまる。そのような関係性を踏まえると,デザインアークが本件案内書面を頒布したことから,直ちに被告主張に係る事実を合理的に推認することはできない。

したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(2)以上より,原告がデザインアークに対してセルフィールの性能に関する何らかの事実を告知したとは認められない。このため,原告が不正競争防止法2条1項21号の不正競争をしたとは認められない。
6不正競争に係る被告の主張についての小括

以上のとおり,被告の原告に対する不正競争防止法4条本文に基づく損害賠償請求(反訴請求)には理由がない。
7争点6(原告の債務不履行の成否)
(1)被告主張に係る原告の債務の有無等について

被告は,本件OEM契約に基づく独占販売権の付与(1条)により,空気触媒TioTio等のブランド価値を高め,その販売拡大に努めるなどして,繊維関連市場においてセルフィールないし空気触媒TioTioを積極的に販売すると共に,競合する類似品の販売を行わないこと,ブランド価値を低める行為を行わないことといった,これと矛盾する行為を行わない債務を負うなどと主張する。イ
しかし,本件OEM契約1条は,原告との関係では,被告から商品の提供
を受けて販売を行い,被告の販売方針を尊重して甲商品
(セルフィール)の販売
拡大に努めるものとすることを定めたものであり,内容的な具体性には乏しい。このため,同条は,
目的という表題とも相まって,契約当事者としての原告の一般
的抽象的な責務ないし努力義務を示したものにとどまり,具体的な債務を定めたものではないと理解される。
また,前記3のとおり,本件OEM契約においては,
空気触媒TioTioの表示を

付した商品の販売は,原告を主体として行われることとされ,被告は,そのような原告に対し,商品の製造に使用される水性組成物を販売する立場にあるにすぎない。すなわち,原告は,本件OEM契約において,被告の商品の販売等を取り扱う販売代理店や特約店といった立場ではなく,被告から買い受けた商品を用いて加工した商品を自己のブランドの商品として販売する主体として位置付けられているのである
から,明示的な契約条項なしに,競合する類似品の販売を禁止されるとは必ずしも考えられない。しかるに,本件OEM契約には,被告との関係で,原告による空気触媒TioTioに係る商品と競合・類似する商品の販売行為を禁止する旨の条項は,明示的には設けられていない。そうすると,原告は,本件OEM契約に基づき,空気触媒TioTioに係る商品と競合・類似する商品の販売を行わないという債務を負
うとはいえない。このことは,商取引における忠実義務ないし信義則上の義務という見地から考えても,同様である。
なお,被告は,本件OEM契約につき,販売独占権の付与を伴う販売委託契約であり,法的性質は委任契約であるとも主張するけれども,本件OEM契約の内容に鑑みると,被告が被告製造に係る商品の販売を原告に委託するという内容のものとはお
よそいえないから,これを前提とする主張は採用できない。

他方,
空気触媒TioTio等のブランド価値を低める行為を行わない債務については,本件OEM契約9条その他の内容をも考慮すると,信義則に基づき,原告がそのような債務を負うと解する余地もないではない。
しかし,証拠(乙4,6)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品ないしこれを使用して製造された繊維製品は,
ハイブリッド触媒というその名称のとおり,酸化
機構の異なる2種類の触媒を組み合わせたものと認められ,セルフィールや空気触媒TioTioのように空気触媒のみを用いた商品とは異なる。前記イのとおり,原告は空気触媒TioTioと競合・類似する商品の販売を行わない義務を負わないから,少なくとも,
空気触媒TioTioに係る商品とは異なる触媒に係る商品について研究・開発し,販売することは,本件OEM契約との関係で許容される。そうして販
売することとなった商品について,その商品特性に応じた商品名にすることは普通に行われることであって,原告がハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表示を使用したとしても,これをもって直ちに空気触媒TioTioのブランド価値を低める行為ということはできない。そもそも,
ハイブリッド触媒TioTioプレミアムの
表示が,これを付された商品等につき,
空気触媒TioTioとの比較において相対的

に品質,内容面で優れたものであると需要者に認識させるものといえないことは,前記2のとおりであるから,
空気触媒TioTioのブランド価値の低下をもたらすと
もいえない。
したがって,仮に,被告主張のとおり,信義則上,原告が空気触媒TioTio等のブランド価値を低める行為を行わないという債務を負うとしても,原告による原
告製品の販売行為は,これに違反するものということはできない。エ
さらに,原告が原告製品にハイブリッド触媒TioTioプレミアムの表
示を付していることについては,本件OEM契約上,
空気触媒TioTioはOEMブラ
ンドとされ(8条)
,原告の商品の表示と位置付けられること,被告の商標とされて
いるのは空気触媒であること(9条)
,原告による空気触媒TioTioの競合・
類似品の販売は必ずしも禁止されないこと(前記イ)に加え,
空気触媒TioTio

ハイブリッド触媒TioTioプレミアムのいずれも原告が商品等表示の主体と理解されることなどから,本件OEM契約上の債務ないし忠実義務に違反するものとはいえない。

なお,被告は,競合・類似品の販売禁止及びブランド価値低下行為の禁
止という債務を包摂するものとして,
空気触媒TioTio等の積極的な販売拡大義務
に矛盾する行為を行わないという債務を措定し,原告によるその不履行を主張する趣旨とも理解し得る。しかし,その債務(義務)の具体的内容が特定されておらず,一般的抽象的なものにとどまることから,少なくとも,それ自体として原告に対する法的拘束力を持つものと考えることはできない。また,被告が販売拡大義務と矛盾する原告の悪質な行為と主張するもののうち,セルフィールの分析結果を東洋紡
に提供したことを認めるに足りる証拠はないし,大阪大学との共同研究や別件特許出願等も,そもそも,原告の販売拡大の責務ないし義務と矛盾するものではない。(2)以上のとおり,被告の主張に係る原告の債務については,そもそも債務として認められないか,仮に認められるとしてもその違反を認めることはできない。そうである以上,原告に債務不履行があったとはいえない。

したがって,この債務不履行に基づく損害賠償請求権の成立は認められないことから,これを自働債権とする相殺の抗弁は理由がない。
8結論
以上より,本訴請求については理由があるから,これを認容することとする。また,反訴請求のうち,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求及び債務不
履行に基づく損害賠償請求については,本訴請求において,その請求債権の全額について相殺の自働債権として既判力のある判断が示されているので,判断を示す必要がない(最高裁平成18年4月14日判決・民集60巻4号1497頁参照)。他
方,不正競争防止法4条本文に基づく損害賠償請求については,本訴請求における相殺の自働債権とされておらず,また,この請求についてはいずれも理由がないか
ら,これを棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官

杉浦正樹野上誠一大門宏
裁判官

裁判官
一郎別紙
原告製品の構成(被告の主張)
1本件発明1の構成要件に対応したもの
【a】
鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有する水
性組成物からなる消臭剤であって,
【b】
【c】

アルミニウムの含有量が40~50ppm,

【d】

カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,

【e】

チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,

【f】

銀イオンを含まず,

【g】

対象物に固着させて使用するための消臭剤に,

【h】

鉄の含有量が16~40ppm,

タングステンを添加したものである。

2本件発明2の構成要件に対応したもの
【a’】
鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有する水
性組成物からなる抗菌剤であって,
【b】
【c】

アルミニウムの含有量が40~50ppm,

【d】

カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,

【e】
鉄の含有量が16~40ppm,

チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,

【f】

銀イオンを含まず,

【g’】

対象物に固着させて使用するための抗菌剤に,

【h】

タングステンを添加したものである。

3本件発明3の構成要件に対応したもの
【a”】
鉄,アルミニウム,カリウムおよびチタンを含む金属組成物を含有する
水性組成物からなる防カビ剤であって,
【b】

鉄の含有量が16~40ppm,
【c】
【d】

カリウムの含有量が0.20~0.45ppm,

【e】

チタンの含有量が0.1~27.2ppmであって,

【f】
アルミニウムの含有量が40~50ppm,

銀イオンを含まず,

【g”】
【h】

対象物に固着させて使用するための防カビ剤に,
タングステンを添加したものである。
以上
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