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マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件
事件番号平成28(ワ)1123
事件名マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件
裁判年月日令和2年6月15日
裁判所名・部福岡地方裁判所  第6民事部
結果棄却
裁判日:西暦2020-06-15
情報公開日2020-06-19 16:00:19
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告らに係る行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律2条5項に定める個人番号を収集,保管(保存),利用及び提供してはならない。
2被告は,保管している原告らの個人番号を削除せよ。

3被告は,原告らに対し,各11万円及びこれに対する第1事件原告らにつき平成28年4月16日から,第2事件原告らにつき同年9月21日から各支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関す
る法律(平成25年5月31日法律第27号。以下番号利用法という。)に基づき個人番号の付番を受けた原告らが,同法に基づく個人番号の収集,保管,利用及び提供等の制度(以下番号制度という。)は,原告らのプライバシー権(自己情報コントロール権)等を侵害し憲法13条に違反すると主張して,被告に対し,①プライバシー権に基づく妨害排除又は妨害予防請求とし
て,個人番号の収集,保管,利用及び提供の差止め並びに被告が保管している原告らの個人番号の削除を求めるとともに,②国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金各11万円(精神的苦痛に対する慰謝料10万円,弁護士費用1万円)及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)


当事者

原告らは,別紙当事者目録記載の市区町村に住民票を置き,番号利用法2条5項が定める個人番号の付番を受けた者である。(弁論の全趣旨)

被告は,平成28年1月以降,番号利用法が定めた社会保障制度,税制及び災害対策の各分野で,個人番号の収集,保管,利用,提供等を行って
いる。


番号制度の概要

番号制度の導入とその目的
番号制度の枠組みについて定める番号利用法は,行政手続における
特定の個人を識別するための番号の利用などに関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成25年5月31日法律第28号)等の関連法律とともに,同日公布,平成27年10月5日に施行された法律であり,同日から個人番号の指定及び通知が行われ,平成28年1月1日から個人番号の利用が開始されている。

番号制度は,①行政機関,地方公共団体その他の行政事務を処理する者が,個人番号及び法人番号の有する特定の個人及び法人その他の団体を識別する機能を活用し,並びに当該機能によって異なる分野に属する情報を照合してこれらが同一の者に係るものであるかどうかを確認することができるものとして整備された情報システムを運用して,効率的
な情報の管理及び利用並びに他の行政事務を処理する者との間における迅速な情報の授受を行うことができるようにするとともに,これにより②行政運営の効率化及び③行政分野におけるより公正な給付と負担の確保を図り,かつ,④これらの者に対し申請,届出その他の手続を行い,又はこれらの者から便益の提供を受ける国民が,手続の簡素化による負
担の軽減,本人確認の簡易な手段その他の利便性の向上を得られるようにすること等を目的とするものである(番号利用法1条参照)。

個人番号
(ア)

個人番号とは,住民票コード(住民基本台帳法〔以下住基法

という。〕7条13号)を変換して得られる番号であって,当該住民票コードが記載された住民票に係る者を識別するために指定されるものをいい(番号利用法2条5項),全国を通じて重複のない唯一無二の11桁の番号及び1桁の検査用数字により構成されている(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律施行令〔以下番号利用法施行令という。〕8条)。
この個人番号により,特定の個人を識別することが可能となり,行
政機関,地方公共団体その他の行政事務を処理する者が保有する個人の情報が,同一人の情報であるか否かを確認することができる。
(イ)

個人番号は,市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)が住

民票コードの通知とともにする求めにより,地方公共団体情報システム機構(以下機構という。)が生成する。機構は,○住民票

コードを変換して得られる番号であって,○他のいずれの個人番号ⅱ
とも異なり,○住民票コードを復元することができる規則性を備えⅲ
ない個人番号とすべき番号を生成し,当該市町村長に通知する(番号利用法7条1項,2項,8条1項,2項)。
(ウ)

市町村長は,出生届等が出され,新たにその市町村(特別区を含

む。以下同じ。)の住民基本台帳に記載されるべき者につき住民票の記載をする場合において,その者がいずれの市町村においても住民基本台帳に記載されたことがない者であるときはその者に係る住民票に住民票コードを記載するとともに,機構から通知された個人番号とすべき番号をその者の個人番号として指定し,その者に対

し,当該個人番号を通知カード(氏名・住所・生年月日・性別〔以下,併せて基本4情報という。〕,個人番号その他総務省令で
定める事項が記載されたカード)により通知しなければならない
(住基法30条の3第2項,番号利用法7条1項)。
なお,前記番号利用法の施行日において現に当該市町村の備える
住民票に記録されている者については,経過措置として,市町村長は,機構から通知された個人番号とすべき番号をその者の個人番号
として指定し,その者に対し,当該個人番号を通知カードにより通知しなければならない(番号利用法附則3条1項)。
(エ)

市町村長は,当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている

者の個人番号が漏えいして不正に用いられるおそれがあると認めるときは,その者の請求又は職権により,その者の従前の個人番号に
代えて,機構から通知された個人番号とすべき番号をその者の個人番号として指定し,速やかに,その者に対し,当該個人番号を通知カードにより通知しなければならない(番号利用法7条2項)。

個人番号カード
(ア)a

個人番号カードとは,基本4情報,個人番号その他政令で定め
る事項が券面に記載され,本人の顔写真が券面に表示され,か
つ,これら事項その他総務省令で定める事項(以下カード記録事項という。)が電磁的方法によりICチップに記録されたカードであって,番号利用法又は番号利用法に基づく命令で定める
ところによりカード記録事項を閲覧し,又は改変する権限を有す

る者以外の者による閲覧又は改変を防止するための措置が講じら
れたものをいう(番号利用法2条7項)。
これに対し,個人番号カードには,年金給付関係情報や地方税
関係情報等のプライバシー性の高い個人情報は記録されない。
(甲1,乙1,4)

b
個人番号カードには,複雑に組み合わせた模様を背景とするこ
とにより記載内容の削除や書換えを防止する彩紋パターン,コピ
ー時に隠れた文字が浮かび上がるコピーけん制,カード券面の内
層に印字することで記載内容の改ざんを防止するレーザーエング
レービング,顔写真の縁をぼかすことにより写真の貼替えを防ぐ
シェーディング加工など,厳格な偽造防止対策が施されている。

(乙4,弁論の全趣旨)
(イ)

市町村長は,当該市町村が備える住民基本台帳に記載されている

者に対し,その者の申請により,その者に係る個人番号カードを交付する。個人番号カード交付の際には,原則として,市町村窓口に来庁を求め,運転免許証や旅券等の顔写真が貼付された本人確認書類の提示を受け,当該書類の提示を行う者が,当該個人番号を交付すべき者であるか確認を行うほか,通知カードの返納を受けるなど,厳格な本人確認を行うことされている(番号利用法17条1項,番号利用法施行令13条1項,行政手続における特定の個人を識別す
るための番号の利用等に関する法律施行規則〔以下番号利用法施行規則という。〕1条2項)。(乙9)また,代理人を通じて個人番号カードを交付することはやむを得
ない理由がある場合に限られ(番号利用法施行令13条3項),本人及び代理人それぞれについて厳重な本人確認の措置が必要とされ
る(同項,番号利用法施行規則13条から16条まで)。(乙9)(ウ)

個人番号カードは,本人確認機能を備えており,個人番号利用事

務実施者(個人番号利用事務〔番号利用法2条10項〕を処理する者及び個人番号利用事務の全部又は一部の委託を受けた者。同条12項)及び個人番号関係事務実施者(個人番号関係事務〔同条11項〕を処理する者及び個人番号関係事務の全部又は一部の委託を受けた者〔同条13項〕をいい,個人番号利用事務実施者と併せて
個人番号利用事務等実施者という。)が本人から個人番号の提
供を受ける場合には,個人番号カードによって,個人番号及びその者が個人番号で認識される個人であることを確認することができる(番号利用法16条)。

個人番号の利用等
(ア)

個人番号の利用範囲
番号利用法は,同法9条において,個人番号の利用範囲を①国及び
地方の機関での社会保障分野,国税・地方税の賦課徴収及び防災に係る事務での利用(同条1項,2項,別表第1),②当該事務に係る申請・届出等を行う者(代理人,受託者を含む。)の事務処理上必要な
範囲での利用(同条3項),③災害時の金融機関での利用(同条4項),④同法19条12号から16号までのいずれかにより特定個人情報(個人番号〔個人番号に対応し,当該個人番号に代わって用いられる番号,記号その他の符号であって,住民票コード以外のものを含む。〕をその内容に含む個人情報。同法2条8項)の提供を受けた者
による必要な限度での利用(同条5項)に限定し,その範囲内においてのみ個人番号の利用を可能にしている。
なお,刑事事件の捜査は,番号利用法9条1項に該当せず,個人番号利用事務ではなく,個人番号の利用ができないから,個人番号による税関係情報の照会等を行うことはできない。

(イ)

特定個人情報の提供の制限
番号利用法は,特定個人情報の提供が許される場合を以下の①から⑯までのとおり限定列挙し(同法19条),これらのいずれかに該当する場合を除き,特定個人情報の提供を禁止しているほか,何人に対
しても,同条各号のいずれかに該当する場合を除き,特定個人情報(他人の個人番号を含むものに限る。)を収集し,又は保管することを禁止し(同法20条),また,これらのいずれかに該当して特定個人情報の提供を受けることができる場合を除き,他人(自己と同一の世帯に属する者以外の者をいう。)に対し,個人番号の提供を求めることを禁止している(同法15条)。


個人番号利用事務実施者が個人番号利用事務を処理するために
必要な限度で本人若しくはその代理人又は個人番号関係事務実施
者に対し特定個人情報を提供するとき(個人番号利用事務実施者
が,生活保護法〔昭和25年法律第144号〕29条1項,厚生
年金保険法100条の2第5項その他の政令で定める法律の規定
により本人の資産又は収入の状況についての報告を求めるために

その者の個人番号を提供する場合にあっては,銀行その他の政令
で定める者に対し提供するときに限る。)(1号)。(括弧内の
制限につき,平成27年9月9日法律第65号が平成28年1月
1日に施行された。)


個人番号関係事務実施者が個人番号関係事務を処理するために必
要な限度で特定個人情報を提供するとき(2号)。



本人又はその代理人が個人番号利用事務等実施者に対し,当該本
人の個人番号を含む特定個人情報を提供するとき(3号)。



機構が14条2項の規定により個人番号利用事務実施者に機構保
存本人確認情報(住基法30条の7第3項の規定により機構が保存
する本人確認情報であって同項の規定による保存期間が経過していないもの〔同法30条の9,番号利用法14条2項〕)を提供するとき(4号)。

特定個人情報の取扱いの全部若しくは一部の委託又は合併その他
の事由による事業の承継に伴い特定個人情報を提供するとき(5
号)。


住民基本台帳法30条の6第1項の規定その他政令で定める同法
の規定により特定個人情報を提供するとき(6号)。



別表第2の第1欄に掲げる者(法令の規定により同表の第2欄に
掲げる事務の全部又は一部を行うこととされている者がある場合
にあっては,その者を含む。以下情報照会者という。)が,

政令で定めるところにより,同表の第3欄に掲げる者(法令の規
定により同表の第4欄に掲げる特定個人情報の利用又は提供に関
する事務の全部又は一部を行うこととされている者がある場合に
あっては,その者を含む。以下情報提供者という。)に対
し,同表の第2欄に掲げる事務を処理するために必要な同表の第

4欄に掲げる特定個人情報の提供を求めた場合において,当該情
報提供者が情報提供ネットワークシステム(後記(ウ)参照)を使用して当該特定個人情報を提供するとき(7号)。(平成29年5
月30日に施行された。)


条例事務関係情報照会者(9条2項の規定に基づき条例で定める
事務のうち別表第2の第2欄に掲げる事務に準じて迅速に特定個
人情報の提供を受けることによって効率化を図るべきものとして
個人情報保護委員会規則で定めるものを処理する地方公共団体の
長その他の執行機関であって個人情報保護委員会規則で定めるも

のをいう。)が,政令で定めるところにより,条例事務関係情報
提供者(当該事務の内容に応じて個人情報保護委員会規則で定め
る個人番号利用事務実施者をいう。)に対し,当該事務を処理す
るために必要な同表の第4欄に掲げる特定個人情報であって当該
事務の内容に応じて個人情報保護委員会規則で定めるものの提供

を求めた場合において,当該条例事務関係情報提供者が情報提供
ネットワークシステムを使用して当該特定個人情報を提供すると
き(8号)。(平成27年9月9日法律第65号により新設,平
成29年5月30日に施行された。)


国税庁長官が都道府県知事若しくは市町村長に又は都道府県知
事若しくは市町村長が国税庁長官若しくは他の都道府県知事若し
くは市町村長に,地方税法46条4項若しくは5項,48条7

項,72条の58,317条又は325条の規定その他政令で定
める同法又は国税に関する法律の規定により国税又は地方税に関
する特定個人情報を提供する場合において,当該特定個人情報の
安全を確保するために必要な措置として政令で定める措置を講じ
ているとき(9号)。


地方公共団体の機関が,条例で定めるところにより,当該地方公
共団体の他の機関に,その事務を処理するために必要な限度で特
定個人情報を提供するとき(10号)。


社債,株式等の振替に関する法律2条5項に規定する振替機関等
が同条1項に規定する社債等の発行者又は他の振替機関等に対

し,これらの者の使用に係る電子計算機を相互に電気通信回線で
接続した電子情報処理組織であって,社債等の振替を行うための
口座が記録されるものを利用して,同法又は同法に基づく命令の
規定により,社債等の振替を行うための口座の開設を受ける者が
9条3項に規定する書面に記載されるべき個人番号として当該口

座を開設する振替機関等に告知した個人番号を含む特定個人情報
を提供する場合において,当該特定個人情報の安全を確保するた
めに必要な措置として政令で定める措置を講じているとき(11
号)。

35条1項の規定により求められた特定個人情報を個人情報保護
委員会(以下委員会という。)に提供するとき(12号)。

38条の7第1項の規定により求められた特定個人情報を総務大
臣に提供するとき(13号)。(平成29年5月24日法律第3
6号により同旨の規定が新設され,同月29日に施行された。)


各議院若しくは各議院の委員会若しくは参議院の調査会が国会法
104条1項若しくは議院における証人の宣誓及び証言等に関す

る法律1条の規定により行う審査若しくは調査,訴訟手続その他
の裁判所における手続,裁判の執行,刑事事件の捜査,租税に関
する法律の規定に基づく犯則事件の調査又は会計検査院の検査が
行われるとき,その他政令で定める公益上の必要があるとき(1
4号)。


人の生命,身体又は財産の保護のために必要がある場合におい
て,本人の同意があり,又は本人の同意を得ることが困難である
とき(15号)。


その他これらに準ずるものとして個人情報保護委員会規則で定
めるとき(16号)。

(ウ)
a
情報提供ネットワークシステム
同システムの内容
番号利用法19条7号及び8号の規定に基づく特定個人情報の情
報連携(上記(イ)⑦⑧参照)については,それ以外の特定個人情報
の提供の場合(たとえば,同条14号所定の刑事事件の捜査)と
異なり,情報提供ネットワークシステムを使用した特定個人情報
の提供が認められている(他方,同条7号及び8号の特定個人情
報の提供を,同システムを使用せずに行うことはできない。)。
同システムとは,行政機関の長等(行政機関の長,地方公共団体

の機関,独立行政法人等,地方独立行政法人及び機構並びに情報
照会者及び情報提供者並びに条例事務関係情報照会者及び条例事
務関係情報提供者)の使用に係る電子計算機を相互に電気通信回
線で接続した電子情報処理組織であって,暗号その他その内容を
容易に復元することができない通信の方法を用いて行われる同条
7号又は8号の規定による特定個人情報の提供を管理するため
に,総務大臣が設置し,管理するものをいう(同法2条14

項)。
b
情報提供の方法と保存
(a)

情報提供ネットワークシステムは,総務大臣が,委員会と協

議して設置し,管理する(番号利用法21条1項)。
(b)

総務大臣は,情報照会者から番号利用法19条7号の規定に

より特定個人情報の提供の求めがあった場合において,①情報照会者,情報提供者,情報照会者の処理する事務又は当該事務を処理するために必要な特定個人情報の項目が同法別表第2に掲げるものに該当しないとき及び②当該特定個人情報が記録されることになる情報照会者の保有する特定個人情報ファイル(個人番号をその内容に含む個人情報ファイル)又は特定個人情報が記録されている情報提供者の有する特定個人情報ファイルについて,同法28条(特定個人情報保護評価)に係る規定に違反する事実があったと認められるときに該当する場合を除き,政令で定めるところにより,情報提供ネットワーク

システムを使用して,情報提供者に対して特定個人情報の提供
の求めがあったことを通知しなければならない(同法21条2
項)。
(c)
情報提供者は,番号利用法19条7号の規定により特定個人
情報の提供を求められた場合において,当該提供の求めについ
て上記(b)記載の総務大臣からの通知を受けたときは,政令で定めるところにより,情報照会者に対し,当該特定個人情報を提
供しなければならない(同法22条1項)。
(d)

情報照会者及び情報提供者は,情報提供ネットワークシステ

ムを使用したとき,すなわち番号利用法19条7号の特定個人
情報の提供の求め又は提供があったときは,○情報照会者及び

情報提供者の名称,○提供の求めの日時及び提供があったとき

はその日時,○特定個人情報の項目など,所定の事項を記録

し,一定期間保存しなければならず(同法23条1項,2
項),総務大臣は,同じ情報を情報提供ネットワークシステム
に記録し,一定期間保存しなければならない(同条3項)。

c
秘密漏えい等の禁止
総務大臣並びに情報照会者及び情報提供者は,情報提供等事務

(番号利用法19条7号の規定による特定個人情報の提供の求め又は提供に関する事務)に関する秘密について,その漏えいの防止その他の適切な管理のために,情報提供ネットワークシステム並びに
情報照会者及び情報提供者が情報提供等事務に使用する電子計算機の安全性及び信頼性を確保することその他の必要な措置を講じなければならない(同法24条)。また,情報提供等事務又は情報提供ネットワークシステムの運営に関する事務に従事する者又は従事していた者は,その業務に関して知り得た当該事務に関する秘密を漏
らし,又は盗用してはならない(同法25条)。
d
番号利用法19条8号の規定による特定個人情報の提供の求め
があった場合についても,上記b((a)を除く。),cと同様である(同法26条)。



第1事件原告らの訴状は平成28年4月15日に,第2事件原告らの訴状は同年9月20日に,それぞれ被告に送達された。(裁判所に顕著)2争点


番号利用法及び番号制度による原告らのプライバシー権等侵害の有無(争
点1)

原告らの差止等請求の成否(争点2)



国家賠償法上の違法性並びに原告らの損害の発生及びその額(争点3)
3
争点に関する当事者の主張


番号利用法及び番号制度による原告らのプライバシー権等侵害の有無
(争点1)について
(原告らの主張)

憲法13条が保障する権利自由(自己情報コントロール権)
(ア)

私事の公開,私生活への侵入からの自由としてのプライバシー権

は,人格的自律を保護するという意味において人格的生存に不可欠な権利であり,憲法13条により保障される。そして,極めて高度な情報化社会を迎えた今日においては,私事の公開,私生活への侵入からの自由にとどまらず,自己の個人情報が収集,保管利用,提
供される各場面において,事前にその目的を示され,目的のための収集,利用等について,同意権を行使する(=自己決定する)ことが個人の人格的生存に不可欠となっている。かかる意味においての自己情報コントロール権も,憲法13条によって保障されていると解される。

最高裁判所の判例も,自己情報コントロール権という名称こそ使
用していないものの,具体的なプライバシーの侵害状況に応じて侵害される権利自由の内容を定義することにより,実質的に自己情報コントロール権を認めている。
(イ)

自己情報コントロール権について,論者によって表現やニュアン

スの強調点に若干の差異があるものの,憲法13条の理念である個人の人格的自律,自由な自己決定,自己統治の利益を構成要素としなければならないという意味において,同権利の実定法上の根拠及び権利の内容は明確である。表現の自由をはじめとするあらゆる典型的な人権について,外延の曖昧さはある程度認められるものであり,権利の外延部分に曖昧さがあることは,自己情報コントロール
権の人権性を否定する理由にはならない。
また,本件訴訟においては,個人番号が名寄せのためのマスター
キーとしての役割を果たすことによって,国民の思想,信条,宗
教,健康等に関わるセンシティブな情報が国家や他人に集積され,監視される状況が生じ,個人の自律的意思決定や行動の自由に対す
る大きな影響を及ぼすものとして,自己情報コントロール権の中核部分の侵害が問題となるのであるから,その外延部分の不明確性を問題とする必要はない。

原告らの権利自由に対する制約
(ア)

原告らの同意なき収集,利用等による侵害
番号利用法による特定個人情報の収集,保管,利用等はあまりにも広範であり,かつ,その規定の複雑性ゆえに利用範囲を認識することは困難である。同法に基づく情報の収集等は原告らの予想を超えるものとして到底同意し得ない。
それにもかかわらず,被告は,番号利用法に基づいているとして,
原告らの同意なく,原告らの特定個人情報を収集,保管し,さらに今後広く利用,提供等を行い利活用しようとしており,原告らが自己の個人情報の収集,保管,利用,提供について同意権を行使し,自己決定する権利を侵害している。
(イ)

情報漏えい又は目的外利用による侵害
a
漏えいの危険性
番号制度は,社会保障関係の番号及び納税者番号として,広く民
間で収集,保管され,行政機関等へ提出する書類に記載される番号であるため,行政機関のみならず民間においても,いたるところに特定個人情報データベースができることになる。
番号制度については,十分な周知や研修が行われておらず,セキ

ュリティ対策には高額な費用がかかるとされている。準備不足の状態で運用開始を迫られた民間企業等においては,セキュリティ対策が不十分なところも多く,特定個人情報の安全が確保されないま
ま,漏えいする危険性はより高い。日本年金機構から125万件にも上る基礎年金番号付き個人情報の漏えい事件等があったように,行政機関等からの特定個人情報漏えいの危険性もまた高くなる。
官民を問わずに大量の特定個人情報漏えいが発生し,機微なプラ
イバシー情報が違法に収集されたり,公開されたりする危険性の存在は明らかである。

b
名寄せ・突合(データマッチング)の危険性
一旦漏えいした特定個人情報は,名寄せのマスターキーである
個人番号により,多くの分野において,他人の個人情報と混同す
ることなく容易にかつ確実に名寄せ・突合することが可能にな
る。しかも,個人番号は原則生涯不変であるから,一生涯を通じ

た個人情報が名寄せされかねない。
番号利用法に定められた行政機関等の事務担当者が,情報要求
の目的を偽るなどして情報収集を行う危険性が存し,その危険性
は番号制度の利活用の促進により今後更に高まっていく。また,
警察等の捜査機関が,委員会のチェックを受けることなく刑事事

件の捜査という名目で特定個人情報の収集要求をすることが可能
になる。
原告らを含む全国民,外国人住民の個人情報が一元的収集,管
理の対象となる危険性,すなわち監視国家化の危険性は高い。
c
現代的プロファイリングの危険性
プロファイリングに用いられるデータ量の膨大性,手続の自動
性,科学的信ぴょう性,予測結果の予見困難性,項目の広範性・

細目性を特徴とする現代的プロファイリングは,プライバシー権
侵害,選挙権侵害,選挙の公正の揺らぎ,民主主義の弱体化,平
等原則・個人の尊重原理との抵触をもたらす。番号制度はまさに
現代的プロファイリングのインフラであり,個人の権利侵害の危
険性は極めて高い。

d
成りすましの危険性
特定個人情報が漏えいし,それが名寄せ・突合されれば,その
対象者の個人情報が明らかになる。通知カードや個人番号カード
の不正取得,あるいは偽造等による成りすましの危険性は高い。
また,番号利用法に基づき構築されたウェブサイトであるマイナ

ポータルへの不正なアクセスされた場合,対面によるチェックが
働かない分,危険性が高くなる。
成りすましによって,原告らは自己のプライバシー情報を他人
に公開されたり,自分が意図しない勝手な個人像が作られたり,
さらには誤った,もしくは歪んだ個人像を作られることによっ

て,プライバシーを侵害される危険性にさらされている。また,
勝手に債務を作れられる等の経済的被害も発生し得る。
(ウ)

プライバシー権にとどまらない人格的自律権等の侵害(萎縮効果)番号制度によって様々な個人情報が本人の意思による取捨選択と無
関係に名寄せされ結合されると,本人の意図しないところで個人の全体像が勝手に形成される。これにより,個人の自由な自己決定に基づいて行動することが困難となり,ひいては表現の自由といった権利の行使についても抑制的にならざるを得ず,民主主義の危機をも招くおそれがあることも看過してはならない。番号制度は,プライバシー権侵害にとどまらず,人格的自律権,ひいては表現の自由をも侵害し,民主主義の基盤を破壊することにもなる。

(エ)

性同一性障害者らの人格権侵害
番号制度によって,性同一性障害者は,戸籍上の性を雇用先等に対し明らかにすることを強制され,精神的に耐えがたい苦痛を受ける。また,ペンネームや芸名を利用している者も,同様に戸籍(住民票)上の氏名を告知することを強制され,プライバシーの開示にとどまら
ない人格の中核(アイデンティティ)が侵害される。
その他,DVやストーカーの被害者も住民票上の住所を告知することを強制されることになるし,これらの被害者等を支援する弁護士も事務所住所ではなく自宅住所を取引先等に告知することを強制される。自宅住所を知られることにより,業務妨害の危険性にとどまらず
生命身体への危険性すら発生し得る。
(オ)

番号利用法が憲法41条に違反すること等
a
番号利用法19条14号及び16号が憲法41条により禁止さ
れる命令への白紙委任を行うものであること

(a)

法19条14号
番号利用法19条は,特定個人情報の提供をいかなる場合に

許容するかを定めるものであり,同法の基本的性格を決定する
根幹規定となる重要なものである。同法は,特定個人情報の提
供及び利用について,本人の同意がある場合を含めて原則禁止
という非常に厳格な姿勢を採用していることから,特定個人情
報の提供範囲については,法律自体によって明確に規定される
ことを要し,他の国家機関に委任する合理的必要性を欠く。
また,同号の例示には,憲法の明文規定に基づいた三権分立
の観点から行政から独立した機関の行為など,統一的な限界を
見出し得る一群が存在する一方で,最も警戒すべき行政権力で
あり,その行使に歯止めがかけられることが主権者の利益に適

う刑事事件の捜査等も含まれている。同号の文言からは統
一的な限界が見出し難く,委任を受けた機関を指導又は制約す
べき目標,基準,考慮すべき要素等を見出すことはできない。
同号は白紙委任というほかない。
(b)

法19条16号
同号により委任を受けた委員会は,法を遵守して個人情報の適

正な取扱いが確保されているか否かを監督する第三者機関であ
る。監督機関であるにもかかわらず,行政事務における特定個
人情報の利用拡大を自ら許容した場合,当該行政事務に対する
監督の実効性が疑われる。委員会に権限を付与すること自体

が,正当な行政上の必要性を全く欠いている。
同号は,上記同条14号ひとつをとってもその限界を見出す
ことが困難な同条各号の規定について,これらに準ずると
の不明確な限定の下に広範な委任を行うものであって,白紙委
任というほかはない。

b
番号利用法施行令25条及び別表各号が同法19条14号によ

る委任の範囲を逸脱すること
(a)

番号利用法施行令25条を受けた同別表8号は,税務調査の
際の特定個人情報提供を認めているところ,番号利用法は,旧

法案17条11号において犯則調査及び税務調査がともに特定
個人情報の提供禁止の例外とされていたが,現行法では税務調
査に係る部分は削除され,犯則調査に係る例外のみが規定され
た(同法19条14号参照)経緯がある。そして,犯則調査と
税務調査は,裁判所の判断に基づく強制力の有無,実施頻度に
おいて性質を異にしていることからすれば,同法19条14号
は税務調査を意図的に除外したと考えるのが合理的であり,こ

れに反する別表8号は法の委任の範囲を逸脱する。
(b)

また,番号利用法19条14号のその他政令で定める公益上の必要性があるときとは,行政上の必要性も大きく,不正な情報提供は想定し難いという理由がある国政調査権の行使な
ど,憲法が明文で認める内在的制約といえるような範囲に限定

されるべきであるが,番号利用法施行令25条及び別表各号が
規定する事項はこの範囲を超えており,法律による委任の範囲
を逸脱する。
c
個人情報保護委員会規則が番号利用法19条16号の委任の範
囲を逸脱すること

個人情報保護委員会規則が定める行政書士法に基づく立ち入り検
査及び調査,税理士法に基づく報告の徴収,質問又は検査,社会
保険労務士法に基づく報告の求め又は立ち入り検査は,番号利用
法19条1号から15号のいずれとも全く関連がなく,これらに
準ずるものとはいえない。

個人情報保護委員会規則で定められている利用範囲は,同法1
9条16号の委任の範囲を超えており,法律による委任の範囲を
逸脱している。

違憲審査基準
(ア)

総論
番号利用法によって収集,保管,利用されることになる特定個人
情報は,個人の人格的生存に関わるものを含む極めてセンシティブなものである一方で,番号制度は,プライバシー侵害についての安全性が確保されていないまま,個人の極めてセンシティブな情報を強制的に取得していく制度であるといえる。
かかる事情に鑑みれば,番号利用法及び番号制度についての違憲

審査基準は,最も厳格な違憲審査基準,すなわち,①目的は必要不可欠でやむにやまれぬ利益で,②手段はその目的を達成するための必要最小限度のものに限定される旨を要求する基準が採用されるべきである。
(イ)

番号利用法の立法目的がやむにやまれぬ必要不可欠なものとはいえないこと等
a(a)

番号利用法の法案が衆議院に提出された際は国民の利便性の向上と負担の軽減だけが目的規定に掲げられており,行政運営の効率化や公正な給付と負担の確保は審議中に付
け加えられたものであった。法の根幹を成す目的規定が曖昧な
まま審議にかけられていたこと自体,番号利用法が掲げる目的
の存在を疑わせる。そして,番号制度には,社会保障給付を適
切に受ける権利を守る制度としての理念が欠如しており,行政運営の効率化とそれに付随する限りでの国民の利便性の向上と負担の軽減のほか,名目ばかりの公正な給付と負担の確保が議論されているだけである。また,番号制度を導入したとしても,商取引や金銭授受を完全に把握できないことは
従前から指摘されてきたほか,番号制度導入による所得把握の
適正化が税収に与える影響は事前に見込むことができないとさ

れており,番号制度のみでは公正な給付と負担の確保とい
う目的を十分に達成できない。さらに,大規模な自治体,過疎
化している自治体のいずれにおいても,個人番号がなくとも自
治体内で情報の一元化を実現していることから,番号制度が国
民の利便性の向上と負担の軽減に必要不可欠とはいえない。そ
もそも,番号制度の導入による費用対効果の試算について定量
的なものはなく,制度の目的を達成するにあたり番号制度が有

用であるか疑問を持たざるを得ない。
以上のとおり,番号制度では前記3つの目的が掲げられてい
るものの,公正な給付と負担の確保という目的は形骸化し
ている。国民の利便性の向上と負担の軽減については,番
号制度がなくても達成できるし,それ自体プライバシー保障及

び自己情報コントロール権に対する強度な介入を正当化するほ
ど重要でないことからすると,番号制度の主たる目的は行政運営の効率化にあったといわざるを得ず,その余はせいぜい副次的なものとして謳われているにすぎない。
(b)

番号制度によって実現しようとしている行政運営の効率化等
という利益は,人権を制限してまで実現しなければならないほ
どの普遍性を有する重要な公益とは考えにくく,現にわが国で
は番号制度に類似した共通番号制度の導入が昭和40年代から
検討されては見送られてきた経緯があるほか,多くの国家は,
番号制度のような共通番号制度に内包する様々な弊害を考慮

し,分野別番号を採用している状況にある。
番号利用法が目指す行政運営の効率化などという立法目的
が,生命,身体,財産やこれらを包摂する公共の安全といった
法益に比肩できる利益といえず,やむにやまれぬ利益といえな
いことは自明である。

b
立法事実による裏付けを欠くこと
番号利用法の立法目的がプライバシー権を制約する根拠たり得
るという前提に立っても,番号制度と同様の共通番号制度が国民の理解を得られずに頓挫してきた歴史的経過や,弱者,低所得者対策の理念に基づく給付のための番号制度という基本的性格が変容
し,税額控除や歳入庁導入が見送られた立法経過に照らせば,番号
利用法には,その立法目的を支える立法事実の重要部分,すなわち手段たる番号制度を導入することによって実現される政策目的という核心部分について立法事実が失われている。
また,番号制度の導入効果が限定的であること,導入による財政
効果の定量的な検証すらなく,行政運営の効率化及び国民が受ける
便益の内容,程度について明らかにされていないこと,国民の便益を図る指標の一つである個人番号カードの普及率が11.5%(平成30年7月1日時点)にとどまっていること等を考えれば,番号利用法の立法目的は立法事実による具体的な裏付けを明らかに欠いているというべきである。

(ウ)

手段と目的との実質的関連性を欠いており,手段が必要最小限度といえないこと
a
番号制度の基本的アプローチ自体について
(a)

番号制度は,索引情報(高い個人識別性・特定性を有する情
報)である個人番号を創出するものであるところ,個人番号は
原則として全ての国民につき重複なく付番するものであり,か
つ,原則生涯不変のものであるから,その個人識別性・特定性
の程度はあらゆる索引情報の中でも最も高いものとなる。ま
た,個人番号は,単なる数字の羅列であるため,格別の技術や

機器等を用いることなく,誰でも容易に判読,照合が可能なも
のである。
番号制度は,かかる性質を持つ個人番号を,被告が新たに創
出し,各分野における個人情報に付加するというものであり,
情報管理において有効に機能する一方で,国家又は他者が特定
の個人情報を効率的に集積,結合可能となるという意味におい
て,プライバシーに対し従来とは質的に異なる危険を生じさせ

るものである。
(b)

番号利用法においては,違反者に対する罰則こそ規定されて
いるものの,全ての民間事業者が個人情報の管理について高い
リテラシーや資源を有しているわけではないことは言うまでも
ない。また,番号制度における重要要素である個人番号カード

は,基本4情報及び個人番号が券面上明確にひも付けられ,I
Cチップの空き領域には民間事業者においてその他の個人情報
も格納され得る,特定個人情報の集合体である。個人番号カー
ドは,国民が日常的に携行することが予定されており遺失ない
し不正取得の危険性もある。

(c)

番号制度は,上記(イ)主張のとおり,目的との関係で得られる
利益が非常に限定的なものであるにもかかわらず,その引換え
として,プライバシーに対し従来とは質の異なる危険を生じさ
せるものであり,制度によって達成される目的の大きさと,そ
れにより生じる危険の重大性との均衡を明らかに欠いており,

目的と手段の実質的関連性を欠く。
番号制度は,同法が掲げる個別の目的について論じるまでも
なく,違憲と言わざるを得ない。
b
行政運営の効率化について
番号制度による行政運営の効率化についての効果は,定量化が
困難な定性的なものが多く,定量化を試みる場合であっても,一
定の前提の下での粗い計算にならざるを得ない。被告が効果の裏
付けとして提出するマイナンバー制度の効果(乙19)の算
定根拠も不明であり,被告において,費用対効果が十分に検討さ
れてきたとは到底いえない。また,被告が主張する効果を前提と
しても,番号制度の導入費用や運営費用には遠く及ばない。

被告が試算した効果は不十分なものであるにもかかわらず,そ
れすら全く実現できていないのであって,番号制度が予定すると
ころの行政運営の効率化は達成できていない。
c
公正な給付と負担の確保について
(a)

社会保障には予算の問題があり,番号制度を導入しても,予
算がなければ必要な社会保障給付ができないこと,また,税徴
収についても,番号制度は国内の取引にのみ適用されるもので
あり,富裕層が利用することが多い海外での取引は対象外とさ
れていること,銀行の預貯金口座と個人番号のひも付けが完全

に義務化されておらず,番号制度の導入によっても国民の全て
の資産を把握することはできないこと,預貯金口座以外の資産
は個人番号とひも付けされておらず,たんす預金等の資産は把
握できないこと,事業所得は事業者の自己申告によらざるを得
ず,正確な所得の捕捉は不可能であること等から,番号制度に

よっても所得や資産の把握を正確に行うことはできず,公正な
給付と負担の確保という目的が達成できるものではない。さら
に,社会保障の充実と平等な税徴収を包含する公正な給付と負
担の確保は,番号制度のみによって図られるものではなく(番
号制度が公正な負担の確保に資する面があるとしてもそれは部

分的なものにすぎない。),番号制度によっても公正な給付と
負担の確保という目的を十分に達成できるものではない。
(b)

番号利用法別表第2においては,医療保険給付関係情報や生
活保護関係情報,障害者関係情報,年金給付関係情報,失業等
給付関係情報,精神障害に関する情報,感染症の罹患に関する
情報等,極めて多様な情報が提供されることとなっている。別
表第2を見る限り,データマッチングされる個人情報が,社会保障制度,税制及び災害対策(同法3条2項)の分野における行政運営の効率化・迅速化・公平な給付と負担の確保にと
って必要不可欠な範囲に限定されているということはできな
い。
d
国民の利便性向上について
番号制度が想定する手続的な負担軽減等の一部は,既存の住基ネ

ット制度においても実現され得るものであるし,上記bで主張したとおり,番号制度によって,国民の利便性が向上したことを基礎づける具体的な試算はされていない。
(被告の主張)

自己情報コントロール権は憲法13条で保障された権利とはいえな
いこと
原告らが主張する自己情報コントロール権を実体法上の権利として明示的に定めた法令は存在しない。行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下行政機関個人情報保護法という。)も,開
示請求権,訂正請求権,利用停止請求権を明文で規定するにとどまり,それ以上に自己情報コントロール権を認めたものとは解されない。
また,自己情報コントロール権を論ずるにあたっては,自己に関する情報とは何か,コントロールとはどのような行為かなど,同権利の外延及び内容(誰に対して何を請求できる権利か)を明確にする必要があるところ,これらの点について統一した見解は見られないのであって,その概念はいまだ不明確である。
自己情報コントロール権は,その概念自体がいまだ不明確であり,統一的な見解が得られていないものであるから,名誉権などのそれのみで排他性を有する人格権とは異なり,差止請求及び削除請求の根拠
たり得る実定法上の権利とは認められない。
最高裁平成20年3月6日第一小法廷判決(民集62巻3号665頁)は,自己情報コントロール権が憲法上保障された人権と認め
られるか否かについて正面から判断せず,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由について明示的に憲法13
条により保障された人権として認める判断をしている。同判決も,自己情報コントロール権が憲法13条により保障された人権であることを認めていないものと解される。

番号制度が個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表され
ない自由を侵害するものでないこと
本件で原告らが主張する自己情報コントロール権が憲法13条で保障された権利といえないことは上記ア主張のとおりである。同条が保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由の侵害の有無については,①番号制度によって管理,利用等される個人番
号及び特定個人情報の秘匿性の程度,②番号制度による個人番号及び特定個人情報の管理,利用等が,法令又は条例の根拠に基づき,正当な行政目的の範囲内で行われているものか否か,③システム技術上又は法制度上の不備により個人番号及び特定個人情報が法令又は条例の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表さ
れる具体的な危険が生じているか否か等の観点から判断すべきである。(ア)

①の観点
個人番号の性質は前記前提事実⑵イ記載のとおりであり,個人番号自体は,個人の重要なプライバシーを包含するものではなく,単なる個人識別情報にすぎない。
また,行政機関等は番号利用法19条各号に個別具体的に列挙された事由に該当する場合のみ,他の行政機関等から特定個人情報の提供を受けることができるが,これらの個人情報は,各行政機関等が,番号利用法以外の法令又は条例に基づいて保有,利用することが認められている情報に限られる。番号制度の導入によって,行政機関等が法令又は条例に基づく事務の処理に際して,法令又は条例で認められた
範囲を超えて不必要な情報の提供を受けることが可能になるものではない。
(イ)

②の観点
前記前提事実⑵エ記載のとおり,番号利用法において個人番号の利
用が可能な範囲は,同法9条,別表第1及び別表第1の委任を受けた行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律別表第1の主務省令で定める事務を定める命令(平成26年内閣府・総務省令第5号。)により,特定個人情報の提供が可能な範囲は,同法19条各号,別表第2及び別表第2の委任を受けた行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律別表第2の主務省令で定める事務を定める命令(平成26年内閣府・総務省令第7号。)により,いずれも限定列挙方式で個別具体的に規定されており,その範囲は一部の例外を除き,全て行政事務において行政運営の効率化,より公正な給付と負担の確保及び国民の利便性の向上という番号制度の目的に資する場合に限定されている。

行政運営の効率化,より公正な給付と負担の確保及び国民の利便性の向上を図るという番号制度の目的は正当なものであり,番号制度及び個人番号カードがこれら行政運営の効率化等に資する経済効果があることは,各種試算等(乙19から21)により裏付けられている。(ウ)
a
③の観点
個人番号及び特定個人情報の目的外利用が行われないように必
要な措置が講じられていること
(a)

個人番号の利用及び特定個人情報の提供が可能な範囲は明確
に限定されており,必要な範囲を超えて個人番号や特定個人情
報を収集,保管,利用及び提供すること等が禁止されているこ

番号制度において,個人番号の利用や特定個人情報の提供が

可能な場合はそれぞれ番号利用法9条,19条に限定列挙形式
で個別具体的に規定されており,それ以外の場合には,たとえ
本人の同意があっても許されない。また,同法19条各号に規
定する場合を除いて,個人番号の提供の要求(同法15条),
特定個人情報の収集・保管(同法20条),必要な範囲を超え

た特定個人情報ファイルの作成(同法29条)も禁止されてい
る。そして,国の機関等の職員の職権濫用については,懲戒処
分の対象となるほか,特定個人情報の収集(同法52条),個
人番号利用事務等に従事する者等による特定個人情報ファイル
の不正提供(同法48条)及び個人番号の不正提供又は盗用

(同法49条)は刑罰の対象になるなど,制度的な措置が講じ
られている。
(b)

情報提供ネットワークシステムによる特定個人情報の提供に
当たって,不正アクセスを防止し,個人番号及び特定個人情報

が法令又は条例の規定に基づかずに又は正当な行政目的の範囲
を逸脱して第三者に開示又は公表されることを防ぐために必要
な対策が講じられていること
番号利用法は,前記前提事実⑵エ(ウ)記載のとおり,情報提供ネットワークシステムによる特定個人情報提供において適正な
情報連携を確保している(同法21条2項,22条1項)ほ
か,情報提供の求め及び情報提供の記録(同法23条)は行政

機関個人情報保護法に基づく開示請求や情報提供等記録開示シ
ステムを活用した確認(番号利用法附則6条3項参照)を通じ
て,行政機関等の職員による不正アクセスを抑止するととも
に,不正が行われた際にはそれを確認して必要な対応を行うこ
とができる制度になっている。

また,情報提供ネットワークシステムの運営主体である総務
大臣や情報照会者・情報提供者は,情報提供等事務に関する秘
密の漏えい等を防止するため,必要な措置を講じなければなら
ず(同法24条),その業務に関して知り得た秘密を洩らし,
又は盗用してはならないとされ(同法25条),後者は刑罰の

対象もなっている(同法50条)。
さらに,情報提供ネットワークシステムを通じた情報連携に
は,○情報が漏えいした際の影響を抑えるための分散管理(各

機関がそれぞれ個人情報を保有し,必要に応じて情報提供ネッ
トワークシステムを使用して情報の照会・提供を行うこと),


○同法19条7号による同法が規定しない情報連携のアクセス
制御,○個人番号から芋づる式に特定個人情報が漏えいしない

ための情報提供用個人識別符号の使用,○通信の暗号化などの

システム上の安全措置も講じられている。
b
個人番号及び特定個人情報の漏えいを防止するために必要な安
全管理措置が講じられていること
(a)

個人番号を取り扱う行政機関等及び事業者等に安全管理措置
を義務付けるとともに,その履行を確保するための様々な措置
を講じていること
番号利用法において,個人番号利用事務等実施者には,個人番

号の漏えい等を防止するために必要な措置(安全管理措置)を講
じることが義務付けられており(同法12条),これに違反する
行為は委員会による勧告及び命令(同法34条)並びに報告及び
立入検査(同法35条)の対象となり,命令違反(同法53条)
及び検査忌避等(同法54条)は刑罰の対象となる。委員会は,

講じられるべき安全管理措置の具体的内容についてガイドライン
等(乙7,8)を定めて公表しており,これに従わなかった場合
には法令違反と判断される可能性があることを明らかにしてい
る。
(b)

行政機関の長等に対しては,特定個人情報保護評価及び職員

に対する研修など,特に厳格な措置が義務付けられていること
行政機関の長等においては,特定個人情報ファイルを保有する
前に,個人のプライバシー等に与える影響を予測・評価し,かか
る影響を軽減する措置を予め講じるために実施する特定個人情報
保護評価が義務付けられ(番号利用法28条1項),特定個人情

報ファイルを取り扱う事務に従事する者に対してサイバーセキュ
リティの確保等に関する研修を行うものとされている(同法29
条の2)。
(c)

違法な手段による個人番号の取得が厳しく禁止されること
個人番号を保有する者の管理を害する行為により個人番号を取

得する行為(同法51条1項)や,偽りその他不正の手段により
通知カード又は個人番号カードの交付を受ける行為(同法55
条)は厳重な刑罰をもって禁止されている。
(d)

民間部門及び行政部門から特定個人情報が漏えいする具体的
な危険が生じているとはいえないこと
個人番号や特定個人情報に係るセキュリティ対策については,

その扱う個人情報の量や内容によって求められる水準は異なって

おり,費用の問題により,その規模にかかわらず全ての事業者が
対策を講じることが困難であるということにはならない。被告は
事業者の規模に応じた周知,広報を行っているほか,ホームペー
ジ上に資料を掲載する等して番号制度に関する周知を十分に図っ
ている。

c
委員会(個人情報保護委員会)の設置により,特定個人情報の
適切な取扱いを担保するための制度的措置が講じられていること
番号利用法においては,特定個人情報の取扱いに関する監視・監

督機関として,独立性の高いいわゆる三条委員会として委員会
が設置され,特定個人情報保護評価の承認(同法28条2項)や上記b記載の措置をとり得ることとされており,特定個人情報の適切な取扱いを担保する制度的措置が講じられている。
d
万が一,個人番号が漏えいした場合でも,直ちに被害が生じな

るものではないこと
個人番号は,単なる個人識別情報にすぎず,これのみから他の何
らの個人情報を得ることもできないし,番号利用法は個人情報の提供を受ける際に身元確認の実施を義務付けること(同法16条)で成りすましの防止を図っていることから,漏えいした個人番号を入手しても直ちにこれを利用することはできない。

また,個人番号に不正利用のおそれがあるときは職権による個人
番号の変更を認めること(前記前提事実⑵イ(エ)参照)で迅速な対応を可能となっているほか,個人番号カードを紛失した場合には本人がコールセンターに連絡して直ちに個人番号カードの機能を一時停止等させ,情報提供等記録開示システムを用いた特定個人情報等の漏えいも防ぐことが可能となる予定である。
e名寄せ・突合(データマッチング)について
(a)

特定個人情報が漏えいする具体的な危険自体が生じておら
ず,名寄せ・突合の危険も具体的に生じていないこと
これまで主張してきたように,原告らの特定個人情報が漏え
いする具体的な危険は生じておらず,仮に原告らの個人番号を
不正に入手した者がいたとしても,直ちに名寄せ・突合をする

ことができるわけでもない。
(b)

番号制度は国民や外国人住民の個人情報を一元管理して監視
国家化を実現することを目的とするものではないこと
番号制度の目的は前記前提事実⑵ア記載のとおりであり,特定個人情報の収集,利用,保管及び提供は厳しく制限されてい

る。特定の機関に個人情報を集約して単一のデータベースを構
築する一元管理は行われず,従来どおり各機関がそれぞれ個人
情報を保有する分散管理の方法がとられており,番号制度は国
民や外国人住民の個人情報を一元管理して監視国家化を実現す
ることを目的とするものではないことは明らかである。

(c)

番号制度の導入によって,行政機関等が法令又は条例に基づ
く事務処理に不必要な情報を無限定に収集することが可能とな
るものではないこと
番号利用法に基づいて収集等される個人情報は,番号制度の

有無にかかわらず行政機関及び地方公共団体等が,番号利用法
以外の法令又は条例に基づく事務を処理するために個別に収集
し,保有(分散管理)していたものであるし,情報提供ネット
ワークシステムを使用して特定個人情報を提供し,又は提供を
受けることができる場面は厳しく制限されている。
また,刑事事件の捜査は,特定個人情報の提供制限の例
外(同法19条14号)とされ,委員会による指導等の対象か

らも除外(同法36条)されているが,情報連携が刑事訴訟法
等の法令の定める手続に従って行われる必要があることは番号
利用法導入以前と何ら変わりない。
f
成りすましの危険性について
(a)

特定個人情報が漏えいする具体的な危険自体が生じておら
ず,成りすましの危険も具体的に生じていないこと
これまで主張してきたように,原告らの特定個人情報が漏え
いする具体的な危険は生じておらず,仮に原告らの個人番号を
不正に入手した者がいたとしても,直ちに原告らに成りすます
ことができるわけでもない。

(b)

成りすましを防ぐための制度が整備されており,その具体的
危険性が生じているとはいえないこと
個人番号カードは,前記前提事実⑵ウ記載のとおり,交付の際に厳格な本人確認を行うこととされているほか,カード自体

にも住基カード以上の偽造防止対策が施されている。通知カー
ドについても,確実に交付するため簡易書留により郵送される
ほか,カード本体にもセキュリティ対策を施している。個人番
号カード及び通知カードの不正取得は厳罰の対象となっている
こと(番号利用法55条)等からすれば,これらのカードを不

正取得又は偽造される具体的な危険性はない。
仮に第三者が個人番号カード又は通知カードを不正に入手し
たとしても,○個人番号利用事務等実施者が個人番号の提供を

受けるときは厳格な本人確認義務が課されており(同法16
条),これらのカードを身元確認の書類として用いて本人に成
りすますことはできず,各種行政手続を本人に無断で不正に行
う具体的な危険はない。また,○情報提供等記録開示システム

へのログインには厳格な電子認証が必須であり,個人番号カー
ド(ICチップに記録された公的個人認証サービスである電子
利用者証明によって電子的な本人確認が行われる。なお,公的
個人認証がいつどこで利用されたかの記録が機構に残ることは
ない。)に加えて各人が設定したパスワードを要するため,第

三者が同システムを利用して不正に特定個人情報を得る具体的
な危険もない。○第三者が個人番号カードを本人確認書類とし

て利用し,本人に成りすまして勝手にクレジットカードの作成
や債務の負担等の不正を行う危険は,個人番号カードに固有の
問題ではない。

g
安全対策等について
番号利用法は民間事業者に個人番号の安全管理措置を義務付けて

おり,委員会は具体的に講じるべき対策を,例示を踏まえ縷々明らかにする等しており,システム面の安全対策は行われている。
特定個人情報保護評価制度においては,行政機関の長等は,評価

した内容を公示して広く国民の意見を求め,委員会による承認を受けた上で公表することが義務付けられ,これらに違反する場には情報提供ネットワークシステムの利用ができなくなるなど,国民を含めた第三者の監視を制度として定めている。

番号利用法等が憲法41条に違反するものではないこと
(ア)

番号利用法19条14号が白紙委任ではないこと
番号利用法19条14号は,同号に具体的に列挙された行為の公益性に鑑みて特定個人情報の提供を認める趣旨であり,その他政令で定める公益上の必要性があるときとは,公益上の必要からなされる調査等であって,同号に列挙された調査等と同様の公益上の必要があるものを指すと解するのが相当である。同号の委任規定は,公益上の必要性から特定個人情報の提供を例外的に認める場合を具体的に定めるという処理すべき問題を決定し,同号列挙の調査等との同様の公益上必要があるものを定めるという問題の解決方向を決定した上で委任したものといえ,政令で無制限に定めることを許容する趣旨ではな
く,白紙委任でないのは明らかである。
また,同号の刑事事件の捜査は,刑事訴訟法等の法令の定める
手続(同法189条,191条1項等)に従って行われることが必要であり,刑事事件の捜査が行われる場合であればどのような場合でも特定個人情報の提供が認められるものではない。また,番号利用法9
条5項により,捜査機関は提供を受けた目的を達成するために必要な限度で個人番号を利用できるに過ぎない。
(イ)

個人番号利用法19条16号が白紙委任といえないこと
番号利用法19条16号は,前各号に定めのないものについて,例
外的に特定個人情報の提供を可能にする場合を,監視・監督機関である委員会が認める場合に限定するものである上,個人情報保護委員会規則で定めることができる場合もこれらに準ずるものとの限定を
加えているのであって,個人情報保護委員会規則で無制限に定めることを許容する趣旨ではなく,白紙委任を認めるものではない。
なお,委員会は法律により所掌事務について規則制定権を付与され
ている(個人情報の保護に関する法律〔以下個人情報保護法とい
う。〕74条)のであるから,特定個人情報の取扱いに関する事項につき個人情報保護委員会規則に委任することは問題視されるべきものではない。
(ウ)

番号利用法施行令25条が委任の範囲を超えるものではないこと
番号利用法19条14号は,税法に関する法律の規定に基づく犯則
事件の調査を含む同号で具体的に列挙された調査等と同様の公益上の
必要性があるものにつき,その他政令で定める公益上の必要性があるときとして政令に委任したものである。税の徴収権限の適正な運用を確保し,租税の公平確実な賦課徴収を図るため,税務調査においては,納税者等が保有している個人番号が記載された税務関係資料などの確認等を行う場合があり,かかる行為は同号で具体的に列挙され
た調査等と同様の公益上の必要性があると解される。税務調査と犯則調査の性質の差は,特定個人情報の提供を認める公益上の必要性に差異をもたらすものではないから,番号利用法施行令25条及び別表8号は,番号利用法19条14号の委任の範囲を超えるものではない。(エ)

原告らは,番号利用法施行令25条及び別表各号は番号利用法1

9条14号による委任の範囲を,特定個人情報保護委員会規則は同条16号の委任の範囲をそれぞれ超えると主張するが,これまでに述べたところによれば,かかる主張は失当というべきである。

性同一性障害,ペンネームの使用者,ストーカー被害者等の危険性
について
戸籍上の性,戸籍(住民票)上の氏名,住民票上の住所を含む基本4情報は個人を識別するための単純な情報にすぎず,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示することが予定されている上,個人の人格的自律などに関わらない客観的・外形的事項に関する
ものにすぎず,ましてや思想信条など個人の道徳的自律に関係したり人格権の内容を成したりするものではない。


原告らの差止等請求の成否(争点2)について
(原告らの主張)
番号利用法及び番号制度は,原告らのプライバシー等に対する侵害の
危険性が極めて高く,法及び制度の必要性等も存在しない。かかる危険性を除去するためには,原告らの個人番号の収集,保管,利用及び提供を差し止めるしかない。また,プライバシー権侵害に対する原状回復として,被告が保管している原告らの個人番号の削除が必要である。
(被告の主張)
番号制度に基づく個人番号の収集等は,憲法13条により保障された
個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではない。プライバシー権の侵害を理由とする本件差止請求及び本件削除請求は,理由がない。


国家賠償法上の違法性並びに原告らの損害の発生及びその額(争点
3)について
(原告らの主張)
番号利用法及び番号制度は原告らの自己情報コントロール権を侵害する違法なものであり,原告らはそれぞれ権利侵害による精神的苦痛を被った。かかる損害を慰謝するためには,少なくとも原告一人当たり10万円を要する。また,弁護士費用として1万円も相当因果関係を有する損害といえる。
(被告の主張)
公務員らによる原告らに係る個人番号の収集,保管,利用及び提供は,憲法13条により保障された個人の自由を侵害するものではなく,番号利用法に基づいて適法に行われるものであるから,国家賠償法1条1項の適用上違法と認められる余地はない。また,番号制度によって原告らの個人情報が具
体的な危険にさらされた事実がない以上,原告らには精神的損害も含めて何らの損害も発生していない。
第3争点に対する判断
1争点1(番号利用法及び番号制度による原告らのプライバシー権等侵害の有無)について

憲法13条によって保障されているプライバシー権の内容


憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される(最高裁昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁平成20年3月6日第一小法廷
判決・民集62巻3号665頁等参照)。
そして,高度の情報化が進んだ現代社会においては,個人に関する情報を保有する行政機関等が,その意思に基づき自ら当該情報を開示又は公表する場合のほか,行政機関等による情報の収集,保管,利用,提供等の過程で,職員の過誤や,その内外からの不正な手段による漏えい等が生じた場合にも,外部に出た個人情報が他者からのアクセスの対象となり,上記
自由が侵害される事態も否定できない。
したがって,番号利用法及び番号制度が上記自由を侵害するものであるか否かは,①番号制度において取り扱われる個人番号及び特定個人情報の秘匿性の程度,②行政機関等による情報の収集,保管,利用,提供等に関する法令等の根拠の有無及び行政目的の相当性,③法制度上又はシステム
技術上の不備による情報漏えい又は目的外利用の具体的な危険の有無等の観点から,番号制度によって,みだりに個人(原告ら)に関する情報が収集,保管,利用,開示又は公表が行われる具体的な危険があるといえるかによって判断するのが相当である。

これに対し,原告らは,憲法13条によって,自己の個人情報が収集,保管,利用,提供される各場面について,事前に目的を示され,目的のための個人情報の収集,利用等について同意権を行使する権利としてのプライバシー権(自己情報コントロール権)が保障されていると主張する。
しかしながら,プライバシーという概念は極めて多義的であって,○個ⅰ
人に関する情報は,その客観的な内容,性質によって定まる秘匿性の程度
や当該情報主体が主観的に認識している秘匿性の程度は様々であるから,どの範囲の情報が保護対象となるのか,その権利としての外延が明確ではないし,○情報の収集等の目的や態様によって,情報主体が被る不利益のⅱ
程度も異なるものであるから,どのような場面において情報主体によるどのようなコントロールを権利として認めるべきか,その権利としての内容
も明確であるとはいえない。それゆえ,憲法13条が自己情報コントロール権を具体的な内容を有する権利として保障しているものと解することは困難である。
また,原告らは,番号制度で取り扱われる個人情報は自己情報コントロール権の中核となる情報であり,自己情報コントロール権の対象となるこ
とは明らかであると主張するが,番号制度で取り扱われる個人情報には幅広く多様なものが含まれていること,それらの情報は従前から当該情報主体によるコントロールを経ることなく行政機関等で取り扱われてきたものであることからすれば,その前提を欠き,失当である。
以上のとおり,原告らの自己情報コントロール権に関する主張は採用す
ることができない。

そこで,以下,番号利用法又は番号制度が,憲法13条によって保障された個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものであるかどうかにつき検討する。



個人番号及び特定個人情報の秘匿性の程度
番号利用法は,行政機関や地方公共団体等に個人番号を利用した個人情報の管理等を認め(同法9条),同法19条各号に定める場合に限って特定個人情報の提供を認めている。
前記前提事実⑵イ記載のとおり,番号制度における個人番号は,住民票コードを変換して生成される番号であって,同番号から住民票コードを復元することができる規則性を備えないものとされている(個人番号から住民票コ
ードを推知することはできない)ことから,それ自体に何らかの個人のプライバシーに属する情報を含むものではない。
また,社会保障,税,災害対策の3分野において,個人番号と結びつけられた個人情報は,番号制度の構築前から行政機関等で収集,保管,利用,提供等されてきた情報であって,番号制度の導入によって新たに行政機関等に
よる収集,保管,利用,提供等が可能になったものではない。
もっとも,これらの個人情報は,福祉サービスの受給歴や所得・資産に関する情報等をはじめとした,直ちに思想信条等の個人の内面に関わる情報とはいえないが,情報主体がみだりに第三者に開示又は公表されたくないと考えるであろう情報も含まれているほか,かかる情報が個人番号と結びつけら
れたことによって,行政機関等において正確かつ迅速に集約されること等が可能になっており,これらが漏えいした場合や目的外利用された場合に個人のプライバシーが侵害される危険性は否定できない。
上記個人情報の内容,性質に鑑み,番号制度がこれらの個人情報の収集,保管,利用,提供等を認めることについての合理性,相当性等は慎重な検討
を要するというべきである。


法令等の根拠の有無及び行政目的の相当性

法令等の根拠の有無
(ア)

前記前提事実⑵エ記載のとおり,番号利用法上,個人番号を利用
することができる主体及び利用の対象となる事務については同法9条各項が,特定個人情報を提供することができる場合については同法19条各号が,これを定めており,番号制度における個人番号の利用及び特定個人情報の提供は,対応する法令の根拠を有するものといえる。
(イ)
この点,原告らは,番号利用法19条14号がその他政令で定める公益上の必要があるときとして,また,同条16号がその他これに準ずるものとして個人情報保護委員会規則で定めるときとして,特定個人情報の提供を認める範囲を政令及び個人情報保護委員会規則に委任していることは,政令等への白紙委任として憲法41条に違反する旨主張する。

a
番号利用法19条14号について
特定個人情報の提供を許容する場合を,番号利用法の立法時にお
いて漏れなく法律に規定することは困難であり,たとえば,社会
情勢の変化等に応じて調査等に関し新たな立法等が行われた場合
にはこれに柔軟に対応する必要があるから,法律が特定の事項に

限定された具体的内容を政令等に委任することには合理的必要性
があるといえる。また,同号は,国政調査,訴訟手続その他裁判
所における手続,刑事事件の捜査,犯則事件の調査又は会計検査
院の調査の場合を例示として具体的に列挙した後にその他政令で定める公益上の必要があるときと規定しているのであるか
ら,列挙された場合と同様の公益上の必要性がある場合を定める
ことを委任する趣旨であることは明らかである。同号が政令への
白紙委任を認めるものであるとはいえない。
なお,原告らは,同号の委任を受けて規定された番号利用法施行
令25条及び別表8号(乙42)が委任の範囲を超えるものであ

ると主張するが,租税の公平な賦課徴収を図るために,個人番号
が記載された税務関係資料等の確認等を認める必要性において
は,純然たる行政手続である税務調査と犯則事実が認められ
る場合には告発を経て刑事手続に移行する手続である犯則調査との間に特段の差異はなく,番号利用法が特定個人情報提供の場面から税務調査を排除する趣旨であるとは解されない。その
ほか,破壊活動防止法所定の公安調査(上記別表9号)や外国犯

罪共助等(同11号,13号,24号)を含む各号についても,
いずれも番号利用法19条14号に列挙された場合と同様の公益
上の必要性がある場合に当たると認められる。それゆえ,原告ら
の上記主張は採用できない。
b
番号利用法19条16号について
個人情報保護委員会規則に委任する合理的必要性が認められるこ
とは上記aと同様であるし,同号は,同条1号から15号までに
準ずる場合について個人情報保護委員会規則に委任するものであ
るから,白紙委任とはいえない。また,委員会は,政府から独立

して公正中立に特定個人情報の取扱いに関する監視監督を行う機
関として設置されており,同規則が定める特定個人情報の提供の
場面を合理的範囲に限定することが十分に期待できる。
また,原告らは,同号の委任を受けて規定された個人情報保護委
員会規則である行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第19条第16号に基づき同条第14号に準ずるものとして定める特定個人情報の提供に関する規則(乙41)が委任の範囲を超えるものであると主張するが,同規
則が定める各種機関による調査等(①行政書士法,②税理士法及び③社会保険労務士法による調査等が行われるときや,④地方公
共団体の機関がした開示決定等又は開示請求等に係る不作為につ
いて審査請求があった場合において,当該審査請求に対する裁決
をすべき当該地方公共団体の機関による諮問が行われるとき)
は,いずれも番号利用法19条14号に列挙された場合と同様の
公益上の必要性がある場合に当たり,委任の趣旨に沿うものであ
ると認められる。それゆえ,原告らの上記主張は採用できない。

番号利用法及び番号制度に関する行政目的の相当性
番号利用法及び番号制度の目的は,前記前提事実⑵ア記載のとおり,①
効率的な情報の管理及び利用並びに他の行政事務を処理する者との間における迅速な情報の授受を可能にすることにより,②行政運営の効率化及び③行政分野におけるより公正な給付と負担の確保を図り,かつ,④手続の簡素化による国民の負担軽減その他の利便性の向上を得られるようにすることであるところ,上記①は②から④までの目的を実現する手段であり,②から④までの目的こそが同法の本質的な目的であると解される。以下,上記②から④までの目的の相当性について検討する。(ア)行政運営の効率化について

番号利用法及び番号制度によって図られる行政運営の効率化とは,行政機関等が保有している情報の正確な名寄せ・突合・検索等の事務を効率化するとともに,行政機関等の間で情報連携を可能にする情報提供ネットワークシステム等の稼働等により,社会保障関係や税徴収関係における証明書発行や文書照会への回答書作成の事務が効率化されること等
であると認められる(乙19から21)。
かかる目的は,限りある国家予算を効率的に執行することにつながるものである点で公益に適うものといえるから,正当なものと認められる。
原告らは,番号制度の導入に伴ってセキュリティ費用や導入事務など
の負担が生じている一方で,行政運営の効率化への有用性は具体的に明らかにされていない等として,かかる目的の正当性を否定する。しかしながら,番号制度は将来にわたって長期継続的に行政運営を効率化することを想定したものであると解され,その性質上,制度の導入時に一定の負担が生じることはやむを得ない。導入時の短期的なコストのみならず,長期的な便益の検討が重要であり,この点について一定程度具体的な試算が行われていること(甲79から81,乙19から21)からすると,導入時の負担を考慮してもなお前記目的の正当性は否定されないというべきである。
(イ)行政分野におけるより公正な給付と負担の確保について
番号利用法及び番号制度によって図られる行政分野におけるより公正
な給付と負担の確保とは,番号制度によって,より正確に所得や資産を把握すること等によって,社会保障を必要とする者に対して適切な給付を行うとともに,税徴収の適正化を図ること等であると認められる(乙19から21)。
かかる目的は,真に社会保障を必要とする者に対して適切な保障を行
い,公平公正な租税負担を求める見地から,正当なものと認められる。これに対し,原告らは,番号制度を導入しても,商取引や金銭授受を完全に把握することはできず,税収への影響が不明であるほか,公正な給付と負担の確保(同法1条)が国会での審議で後付けされた名目的なものにすぎず,立法事実の裏付けを欠く等と主張する。しかしながら,より
正確に所得等を把握し,税徴収の適正化を図るべく制度の整備等を行うことは被告に期待される責務であって,所得等を完全に把握することが現実的でないとしても,その精度を向上させる取組みの正当性は何ら否定されない。また,より公正な給付と負担の確保は番号制度のみによって実現されるものでもない。

さらに,番号制度の内容自体は,社会保障及び税徴収の各分野における行政事務等の適正化を図るものであると認められ,番号利用法の目的に当初公正な給付と負担の確保が掲げられていなかったとしても,これらの目的が名目だけの形式的なものであったとはいえない。したがって,番号制度が立法事実の裏付けを欠くとはいえず,原告らの上記主張は採用できない。
ところで,原告らは,市町村が各事業者に対して送付する住民税特別徴
収税額決定通知書に従業員の個人番号を記載すること(地方税法43条)について,従業員の同意を得ていないと難ずるが,特別徴収義務者から市町村の長に対して提出される給与支払報告書に個人番号を記載することにより納税義務者の正確な把握が可能になるなど,市町村の長が特別徴収に係る事務を適切かつ効率的に処理するために資するものであり,番号利用
法19条1号に該当するのであり,原告らの上記主張は採用できない。(ウ)国民の利便性向上について
番号利用法及び番号制度によって図られる手続の簡素化による負担の軽減その他の利便性の向上とは,行政手続において国民が取得,提出すべき書類の省略等の手続の簡素化によって負担を軽減し,個人番号カードを
利用することで簡易な本人確認手段を提供すること等であると認められる。(乙19から22)
このように行政手続における手続的な負担を軽減することは,それ自体が手続を履践する国民の利益に適うものであるし,結果的に当該行政手続が予定する行政サービスによる効果を享受しやすくなるという意味
においても,国民に利益をもたらし得るものといえるから,かかる目的は正当であると認められる。
(エ)以上により,②行政の運営効率化,③行政分野におけるより公正な給付と負担の確保及び④国民の利便性の向上という番号利用法及び番号制度の目的は,いずれも正当なものであると認められる。


個人番号の利用及び特定個人情報の提供が正当な行政目的の範囲内で行われるものであるかどうかについて
番号利用法及び番号制度の目的が正当なものであることは上記イ記載のとおりであるところ,個人番号の利用及び特定個人情報の提供が可能な場合を限定列挙した同法9条各項及び同法19条各号に掲げられた各場合は,激甚災害の際の金融機関等における取扱いに関する同法9条4項を除
き,いずれも前記前提事実⑵ア記載の目的に資するものと認められる。また,番号利用法9条4項は,金融機関等に対し,激甚災害の際に,あらかじめ締結した契約に基づく金銭の支払を行うために必要な限度で個人番号の利用を認めたものであり,金融機関等の顧客である国民に対して,迅速に契約上の金銭支払を受けられることを可能にすることを目的とした
ものと解され,かかる目的に正当性が認められることは明らかである。以上のとおり,番号制度における個人番号の利用及び特定個人情報の提供は,正当な行政目的の範囲内で行われるものと認められる。

法制度上又はシステム技術上の不備による情報漏えい又は目的外利用の具
体的な危険の有無について

法制度上の個人情報保護措置
(ア)個人番号及び特定個人情報の取扱いに関する規制
番号利用法は,前記前提事実⑵エ(イ)記載のとおり,同法19条各号のいずれかに該当する場合を除き,特定個人情報の提供を禁止しているほ
か,何人に対しても,同条各号のいずれかに該当する場合を除き,特定個人情報(他人の個人番号を含むものに限る。)を収集し,又は保管することを禁止する(同法20条)とともに,同法19条各号のいずれかに該当して特定個人情報の提供を受けることができる場合を除き,他人(自己と同一の世帯に属する者以外の者をいう。)に対し,個人番号の提供を求め
ることも禁止している(同法15条)。
また,同法は,特定個人情報ファイルについても,個人番号利用事務等実施者その他個人番号利用事務等に従事する者が,同法19条12号から16号までのいずれかに該当して特定個人情報を提供し,又はその提供を受けることができる場合を除き,個人番号利用事務等を処理するために必要な範囲を超えて特定個人情報ファイルを作成することを禁止している(同法29条)。
(イ)特定個人情報保護評価の実施
特定個人情報保護評価とは,特定個人情報の漏えいその他の事態の発生の危険性及び影響に関する事前の評価のことをいい,委員会は,特定個人情報保護評価について指針を作成し,これを公表する(番号利用法
27条1項)。委員会は,かかる規定を受け,平成28年1月1日付け特定個人情報保護評価指針(乙15)を作成し,公表している。
行政機関の長等は,特定個人情報ファイルを保有しようとするときは,当該特定個人情報ファイルを保有する前に,個人情報保護委員会規則である特定個人情報保護評価に関する規則(乙14)に定めると
ころにより,特定個人情報ファイルに記録されることとなる特定個人情報の量,特定個人情報ファイルを取り扱う事務の概要,特定個人情報ファイルを取り扱うために使用する電子情報処理組織の仕組み及び電子計算機処理等の方式,特定個人情報ファイルに記録された特定個人情報を保護するための措置等の事項について評価を行い,結果を記載した書面
(以下評価書という。)を公示し,広く国民の意見を求める(同法28条1項,乙16参照)。
また,行政機関の長等は,国民からの意見を十分考慮した上で当該評価書に必要な見直しを行った後に,当該評価書に記載された特定個人情報ファイルの取扱いについて委員会の承認を受ける必要がある(同法2
8条2項)が,委員会は,当該評価書における特定個人情報ファイルの取扱いが委員会の定めた上記指針に適合していなければ,承認してはならない(同条3項)。行政機関の長等は,委員会の承認を得たときは,速やかに当該評価書を公表し(同条4項),この公表を行っていない特定個人情報ファイルに記録された情報を,情報提供ネットワークシステムを使用して提供し,又は特定個人情報ファイルに記録されることとなる情報の提供を求めてはならない(同条6項)。
(ウ)委員会による監視,監督等
a
委員会の概要等
委員会は,内閣府設置法49条3項に基づき,内閣府の外局に合議
制の機関として設置され(個人情報保護法59条1項),内閣総理大臣の所轄に属するものとされている(同条2項)。

委員会は,人格が高潔で識見の高い者のうちから,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命した委員長及び委員8人(うち半数は常勤)をもって組織され(同法63条1項から3項まで),その事務を処理させるため,事務局が置かれている(同法70条)。
委員会の所掌事務のうち,番号利用法に関するものは,特定個人情
報の取扱いに関する監視又は監督並びに苦情の申出についての必要なあっせん及びその処理を行う事業者への協力に関すること,特定個人情報保護評価に関することである(個人情報保護法61条4号,5号)。b
番号利用法における委員会の権限等
番号利用法は,委員会の権限等に関し,以下の定めを置いている。ⅰ
特定個人情報ファイルを保有する行政機関,独立行政法人等及び
機構は,個人情報保護委員会規則で定めるところにより,定期的
に,当該特定個人情報ファイルに記録された特定個人情報の取扱いの状況について,委員会による検査を受け,また,委員会に対して報告する(同法29条の3第1項,2項)。


個人番号利用事務等実施者は,個人情報保護委員会規則で定める
ところにより,特定個人情報ファイルに記録された特定個人情報の漏えいその他の特定個人情報の安全に係る重大な事態が生じたときは,委員会に報告する(同法29条の4)。

委員会は,特定個人情報の保護を図るため,サイバーセキュリテ
ィの確保に関する事務を処理するために内閣官房に置かれる組織と
情報を共有すること等により相互に連携を図りながら協力する(同法32条の2)。

委員会は,番号利用法の施行に必要な限度において,個人番号利
用事務等実施者に対し,特定個人情報の取扱いに関し,必要な指導及び助言をすることができ(同法33条前段),この場合におい

て,特定個人情報の適正な取扱いを確保するために必要があると認めるときは,当該特定個人情報と共に管理されている特定個人情報以外の個人情報の取扱いに関し,併せて指導及び助言をすることができる(同条後段)。
v
委員会は,特定個人情報の取扱いに関して法令の規定に違反する
行為が行われた場合において,特定個人情報の適正な取扱いの確保のために必要があると認めるときは,当該違反行為をした者に対
し,期限を定めて,当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告することができ(同法34条1

項),この勧告を受けた者が,正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは,その者に対し,期限を定めて,その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる(同条2項)。また,委員会は,これらの規定にかかわらず,個人の重大な権利
利益を害する事実があるため緊急に措置をとる必要があると認める
ときは,特定個人情報の取扱いに関して法令の規定に違反する行為をした者に対し,期限を定めて,当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を命ずることができる(同条3項)。

委員会は,特定個人情報を取り扱う者その他の関係者に対し,特
定個人情報の取扱いに関し,必要な報告若しくは資料の提出を求
め,又はその職員に,当該特定個人情報を取り扱う者その他の関係
者の事務所その他必要な場所に立ち入らせ,特定個人情報の取扱いに関し質問させ,若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる(同法35条1項)。

委員会は,特定個人情報の取扱いに利用される情報提供ネットワ
ークシステムその他の情報システムの構築及び維持管理に関し,機
能の安全性及び信頼性を確保するよう,直接,その設置及び管理主体たる総務大臣その他の関係行政機関の長に対し,必要な措置を実施するよう求めることができ(同法37条1項),当該措置の実施状況について報告を求めることができる(同条2項)。
また,委員会は,内閣総理大臣に対し,その所掌事務の遂行を通

じて得られた特定個人情報の保護に関する施策の改善についての意見を述べることができる(同法38条)。

上記ⅴの委員会による命令に違反した者は及び上記ⅵの委員会に
よる報告及び立入検査について,報告若しくは資料の提出をせず,若しくは虚偽の報告をし,若しくは虚偽の資料を提出し,又は当該
職員の質問に対して答弁をせず,若しくは虚偽の答弁をし,若しくは検査を拒み,妨げ,若しくは忌避した者は,後記(キ)aⅶ及びⅷ記載の刑罰の対象となる。
(エ)安全管理措置等
a
個人番号利用事務等実施者は,個人番号の漏えい,滅失又は毀損の
防止その他の個人番号の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない(番号利用法12条)。
ここでいう適切な管理のために必要な措置としては,特定個人情報を含む書類を机上に放置することの禁止,特定個人情報を含む記録媒体を施錠できる場所に保管すること等の物理的な保護措置のほか,特定個人情報を含むデータベースにアクセスできる従業員等の限定,データベースのウイルス対策等の技術的な保護措置,特定個人情報の取扱いに関する従業員等への教育・研修等の人的な保護措置,特定個人情報取扱責任者の設置等の組織的な保護措置などが挙げられる。委員会は,安全管理措置の具体的内容について,行政機関等,地方公共団
体等及び民間事業者に対し,それぞれガイドライン等を示しており,特定個人情報を取り扱う者は,その内容も踏まえつつ,適切な安全管理措置を講じることとされている。(乙7,8,34)
b
個人番号利用事務等については,その全部又は一部を委託すること
ができ(番号利用法9条1項から3項まで),その委託に伴い,委託元は,委託先に対し,特定個人情報を提供することができる(同法19条5号)。委託を受けた者は,委託の対象が個人番号利用事務である場合は,個人番号利用事務実施者として,委託の対象が個人番号関係事務である場合は,個人番号関係事務実施者として,上記a記載の安全管理措置義務を負う(同法2条12項,13項,12条)。
また,委託者は,当該委託に係る個人番号利用事務等において取り
扱う特定個人情報の安全管理が図られるよう,当該委託を受けた者に対する監督義務を負い(同法11条),委託を受けた者が再委託をするには委託者の許諾が必要である(同法10条)。
c
行政機関の長等は,特定個人情報ファイルを保有し,又は保有しよ
うとするときは,特定個人情報ファイルを取り扱う事務に従事する者に対して,特定個人情報の適正な取扱いを確保するために必要なサイバーセキュリティの確保に関する事項その他の事項に関する研修を行う(番号利用法29条の2)。
(オ)本人確認措置
個人番号利用事務等実施者は,本人から個人番号の提供を受けるときは,個人番号カード若しくは通知カード及び当該通知カードに記載された事項がその者に係るものであることを証するものとして主務省令で定める書類の提示を受けること又はこれらに代わるべきその者が本人であることを確認するための措置として政令で定める措置(個人番号が記載された住民票の写し等と併せて運転免許証等の身元確認書類の提示を受
けること等〔番号利用法施行令12条1項〕)をとらなければならない(番号利用法16条)。
(カ)懲戒処分
国の機関等の職員による番号制度に関わる職権濫用については,懲戒処分の対象となる(国家公務員法82条,地方公務員法29条)。
(キ)刑罰による禁止
a
番号利用法等は,以下の不正行為を刑罰の対象として禁止し,罰則を設けている。そのうち,ⅰからⅲまでは特定の公務員等が対象となる行為であり,ⅳとⅴは個人番号の取扱者が対象となる行為であり,ⅵからⅸまでは何人でも対象となる行為である。


情報提供ネットワークシステムに関する秘密漏えい等
情報提供等事務又は情報提供ネットワークシステムの運営に関す

る事務に従事する者又は従事していた者が,その業務に関して知り得た当該事務に関する秘密を漏らし,又は盗用したときは,3年以下の懲役若しくは150万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する(番号利用法50条)。

委員会の委員等による秘密漏えい等
委員長,委員,専門委員及び事務局の職員で,職務上知ることの
できた秘密を漏らし,又は盗用した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。その職務を退いた後も同様である(個人情報保護法72条,82条)。

職権濫用による文書等の収集
国の機関,地方公共団体の機関若しくは機構の職員又は独立行政

法人等若しくは地方独立行政法人の役員若しくは職員が,その職権を濫用して,専らその職務の用以外の用に供する目的で個人の秘密に属する特定個人情報が記録された文書,図画又は電磁的記録を収集したときは,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する(番号利用法52条)。

特定個人情報ファイルの不正提供
個人番号利用事務等又は個人番号の指定若しくは通知,個人番号

とすべき番号の生成若しくは通知若しくは機構保存本人確認情報
(住基法30条の9に規定する機構保存本人確認情報をいう。番号利用法14条2項)の提供に関する事務に従事する者又は従事していた者が,正当な理由がないのに,その業務に関して取り扱った個人の秘密に属する事項が記録された特定個人情報ファイル(その全部又は一部を複製し,又は加工した特定個人情報ファイルを含

む。)を提供したときは,4年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金の処し,又はこれを併科する(同法48条)。

個人番号の不正提供,盗用
上記ⅳに掲げる者が,その業務に関して知り得た個人番号を自己

若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し,又は盗用したときは,3年以下の懲役若しくは150万円以下の懲役に処し,又はこれを併科する(番号利用法49条)。

詐欺行為等による情報取得
人を欺き,人に暴行を加え,若しくは人を脅迫する行為により,

又は財物の窃取,施設への侵入,不正アクセス行為その他の個人番号を保有する者の管理を害する行為により,個人番号を取得した者は,3年以下の懲役又は150万円以下の罰金に処する(番号利用
法51条)。

命令違反
番号利用法34条2項又は3項の規定による委員会の命令に違反

した者は,2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(同法53条)。


検査忌避等
番号利用法35条1項の規定による委員会への報告若しくは資料

の提出をせず,若しくは虚偽の報告をし,若しくは虚偽の資料を提出し,又は当該職員の質問に対して答弁をせず,若しくは虚偽の答弁をし,若しくは検査を拒み,妨げ,若しくは忌避した者は,1年
以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(同法54条)。

通知カード及び個人番号カードの不正取得
偽りその他不正の手段により通知カード又は個人番号カードの交

付を受けた者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(番号利用法55条)。

b
上記aⅰからⅵまでの規定は,日本国外においてこれらの条の罪を
犯した者にも適用する(番号利用法56条,個人情報保護法86
条)。
また,法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。)の代表者若しくは管理人又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業務に関して,上記aⅳからⅸまでの規定の違反行為をしたときは,その行為者を罰するほか,その法人又は人に対しても,各本条の罰金刑を科する(番号利用法57条1項)。
c
その他の刑罰
個人番号や個人番号カード等を不正取得した第三者が本人に成りす
まし,行政手続の申請書類や身元確認書類を偽造したり,これらを行使したりする行為は,有印私文書偽造・同行使(刑法159条1項,161条1項)や有印公文書偽造・同行使(同法155条1項,158条1項)等の罪で,他人のパスワードを用いた情報提供等記録開示システムへの不正アクセスは,不正アクセス行為の禁止等に関する法律11条違反の罪で,罰則の対象となる。
(ク)情報提供等記録開示システム等
前記前提事実⑵エ(ウ)b(d)記載のとおり,番号利用法においては,情報提供ネットワークシステムの利用に係る情報を記録化することとさ
れており(同法23条),特定個人情報の本人は,行政機関個人情報保護法の特例として定められた手続によって,上記記録の開示を請求することができる(番号利用法31条1項,2項)。
本人の開示請求とこれに対する総務大臣の通知について,番号利用法の成立当時は,総務大臣の使用に係る電子計算機と本人の使用に係
る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織(情報提供等記録開示システム)を設置することとされていた(番号利用法附則6条3項)ところ,同システムは,政府が運営するオンラインサービスであるマイナポータルの機能の一部として,平成29年7月から運用が開始されている。(乙25)

(ケ)小括
以上のとおり,番号制度においては,個人番号の利用や特定個人情報の提供が可能な範囲は明確に限定されており,必要な範囲を超えて個人番号及び特定個人情報を収集,保管,利用,提供等することは,懲戒処分又は刑罰によって抑止されている。特に,情報提供ネットワークシステムを使用した特定個人情報の提供については,これを記録化した上で一定期間の保存を義務付けること及び本人の開示請求を可能にすることにより,情報提供の適正を確保し,個人情報の目的外利用を防ぐことが図られている。
また,個人番号利用事務等実施者に対し,個人番号の適切な管理のために必要な措置を講じることが義務付けられ,委員会が当該措置に関す
るガイドラインを提示しているほか,行政機関の長等は特定個人ファイルの保有に際して,委員会の承認を得た特定個人情報保護評価を行う必要がある等,個人情報を保管等する者からの漏えい防止が図られているし,不正な手段による個人番号の取得等が厳罰をもって禁じられることによって,第三者が関与する漏えいも抑止され,個人情報を安全に管理
するための方策が準備されている。
さらに,番号制度の運営に関して,独立性の高い委員会が設置されており,委員会には上記特定個人情報保護評価の承認のほか,特定個人情報の取扱いに関する指導及び助言,勧告及び命令,報告徴収及び立入検査等の権限が与えられ,是正措置に対する違反を刑罰の対象とすること
で,実効的な監視,監督が可能になっている。この点,原告らは,委員会による監視等の対象から刑事事件の捜査が除かれている点(番号利用法36条,19条14号)が問題であると主張するが,捜査機関が刑事事件の捜査のために特定個人情報の提供を受ける場合には,刑事訴訟法の規律や番号利用法9条5項の制限を受けるのであって,特定個人
情報の収集,利用等が無限定に行えるようになるわけではない。また,同法36条は,第19条第14号の政令で定める場合のうち各議院審査等に準ずるものとして政令で定める手続が行われる場合につき委員会による監視等の対象から除外するとし,同法施行令34条及び別表が少年法の規定による調査(別表7号),破壊活動防止法27条の規定による調査等(別表9号)などを除外している点についても,手続の迅速な履践が必要であり,刑事事件の捜査と同様に,手続の性質上独立性・
密行性が要求されることに鑑みると,法の委任の趣旨に反するものとはいえない。
このほか,個人番号利用事務等実施者において本人確認措置の実施が義務付けられ,漏えいのおそれがある場合には本人の請求又は市町村長の職権による個人番号の変更が認められ(前記前提事実⑵イ(エ)参照),
個人番号カードを紛失した場合には本人の連絡によりその機能を一時停止させること等が可能であること(乙4)からすれば,個人番号が漏えいした場合であっても,その被害が直ちに生じないような法制度上の措置が講じられているといえる。

システム上の個人情報保護措置
(ア)情報提供ネットワークシステムによる情報連携の概要
行政機関等及び地方公共団体は,本人による特定個人情報の提供等を契機として保有するようになった個人情報を,当該機関等の既存のシステム群において,基本4情報及び個人番号と結び付けて保有,管理す
る。
かかる特定個人情報のうち,番号利用法19条7号及び8号による情報連携の対象となる個人情報について,情報照会者等は機構に対し,機構は総務大臣に対して順次通知することにより,総務大臣は,情報提供ネットワークシステム(コアシステム。電気通信回線を通じた送信又は
電磁的記録媒体の送付の方法及び情報提供ネットワークシステムを使用した送信の方法に関する技術的基準〔平成27年総務省告示第401号〔乙29〕。以下技術的基準告示という。〕第2の1参照。)を使用して,情報連携に備えるため,情報連携に用いる際の識別子である情報提供用個人識別符号(住民票コードを変換して得られ,住民票コードを復元することのできる規則性を備えず,情報照会者等が取得した他のいずれのものとも異なり,他のいずれの情報照会者等が取得したものとも異なるもの。)を生成し(番号利用法施行令27条),地方公共団体以外の機関にあっては中間サーバー(各機関ごとに,当該機関の情報システムと情報提供ネットワークシステムの間に設置されるもの)上に,地方公共団体にあっては自治体中間サーバー(各地方公共団体の情報シ
ステムと情報提供ネットワークシステムの間に設置されるもの)上に,生成を受けた情報提供用個人識別符号と上記個人情報を結びつけた形で,保有,管理する。
番号利用法19条7号又は8号による情報連携は,概要,①情報照会者が,既存システム群から中間サーバーないし自治体中間サーバーに接
続したインターフェイスシステム(技術的基準告示第2の2参照)を経由し,コアシステムに対し,特定個人情報の提供を要求する。かかる要求の際に,情報照会者は,提供を求める先となる行政機関等又は地方公共団体を識別する情報をコアシステムに通知する,②コアシステムは,通知された情報提供用個人識別符号と提供を求める先の行政機関等又は
地方公共団体における当該本人に係る情報提供用個人識別符号とを照会することで,当該本人を識別し,番号利用法21条2項1号及び2号に該当する事由がないことを確認し,情報提供者に対し,当該本人に係る特定個人情報の求めがあった旨を通知する,③通知を受けた情報提供者は,提供を求められた特定個人情報を,インターフェイスシステムを介
し(コアシステムを介さないで),情報照会者に提供するという過程で実施される。
(甲1,乙1,9,13,28,37,38)
(イ)システム技術上の保護措置
特定個人情報の情報連携には,情報提供ネットワークシステムが使用される一方で,地方公共団体の情報については,クラウドを積極的に利用して共同化され,自治体中間サーバーは,全国2か所に設置されている自治体中間サーバー・プラットフォーム上に置かれ,同サーバーは相互にバックアップをとっている。(乙28)
また,これらのシステムにおいては,以下の個人情報保護措置がとられている。

a
分散管理
番号制度は,特定の機関に個人情報を集約して単一のデータベース
を構築する一元管理ではなく,従来どおり,各機関がそれぞれ個人情報を保有し,必要に応じて情報提供ネットワークシステムを使用して情報の照会,提供を行う分散管理の方法をとっている。(甲1,乙1,5,9,28,37)
b
アクセス制御
前記前提事実⑵エ(イ)記載のとおり,情報ネットワークシステムを使
用した特定個人情報の提供については,番号利用法19条7号の規定に基づき,同法別表第2の第1欄に掲げられる情報照会者が,同表の第3欄に掲げられる情報提供者から,同表の第2欄に掲げられる事務を処理するために必要な同表第4欄に掲げられる特定個人情報の提供をする場合に限定されており,情報提供ネットワークシステムは,同法が想定しない情報連携についてアクセスを制御し,同法が規定しない情報連携を防止するシステムとなっている。

なお,自治体中間サーバーは,地方公共団体ごとにアクセス権限が限定され(機構や総務大臣もアクセスできない。),芋づる式に他の地方公共団体の自治体中間サーバーに保存された情報を引き出すことはできない。
(乙5,9,28,38)
c
情報提供用個人識別符号によるひも付け
各行政機関が情報提供ネットワークシステムを使用した情報連携を
行うに際しては,上記(ア)記載のとおり,基本4情報や個人番号を用いず,それらを推知することもできない情報提供用個人識別符号を用いることとされている(番号利用法施行令20条,乙9,37)。それゆえ,仮に不正アクセス等による情報の漏えいがなされたとしても,誰の情報であるのかを特定することは極めて困難である。

d
通信等の暗号化
情報提供ネットワークシステムを通じた通信は暗号化され(番号利
用法2条14項),たとえば,自治体中間サーバーでは,個人情報を各地方公共団体により暗号化されたデータベースにおいて管理しているほか,提供される特定個人情報自体も,情報提供者により,当該情報照会者のみにしか復号できないように暗号化されている。(乙9,28,29)
e
インターネットからの隔離
情報提供ネットワークシステム(コアシステム)や自治体中間サー
バーは,インターネットから隔離されており,自治体中間サーバーが接続する回線については,VPN装置の利用等により,地方公共団体ごとに分離されている。
これに対し,インターネット回線を使用する情報提供等記録開示システム(マイナポータル)については,インターネット接続部分にフ
ァイアウォール,データ及び通信経路の暗号化,進入検知及び防止,改ざん検知及び防止並びに大量のデータ送信によるサービス妨害攻撃の防止等に対する措置が講じられている。
(乙17,28,29,38,39,弁論の全趣旨)
(ウ)小括
以上のとおり,特定個人情報の情報連携については,インターネットから隔離された上で,厳格なアクセス制御が施された情報提供ネットワ
ークシステムを使用するのであるから,外部からの不正アクセスが生じる危険性は低い。
また,仮に不正アクセスがあったとしても,特定個人情報は各行政機関ごとに分散管理されており,芋づる式に他の行政機関が保有する情報を引き出せるものではないし,当該行政機関等が保有する住民等の情報
は,暗号化や情報提供用個人識別符号による管理がされているため,当該情報が誰の情報であるのかを特定することは極めて困難である。番号利用法及び番号制度の採用するシステムは,不正アクセスによる情報漏えいの危険性を低減させる技術上の措置が講じられており,特定個人情報が容易に漏えいする具体的な危険はないといえる。


事故事例について
平成28年1月13日以降,機構が管理するカード管理システムのサー
バーが不安定な状態となり,一部の市区町村において個人番号カードの交付等の業務が行えなくなった。
また,その後も個人番号の指定,通知等の過程において,個人番号を記載した住民税特別徴収税額決定通知書の誤送付,誤配達(甲8,9,16,17),誤って個人番号を記載してしまった住民票の発行,交付(甲24①~③),住民の取違えによる個人番号が記載された住民票の誤送付,誤交付(甲25,26),通知カードの誤配達,誤交付(甲31,3
3,34),個人番号カードの誤交付(甲35)などによって,個人番号又は特定個人情報の漏えい等の事故が発生したことが認められる。もっとも,上記事故事例は,個人番号又は当該個人番号と結びつけられた個人情報が漏えいした(あるいは,その可能性がある)事例ではあるものの,その内容からして,いずれも法制度上又はシステム技術上の構造的な不備に起因するものではなく,専ら運用上の人為的なミスに起因するものであると認められる。また,実際にこれらの事故によって流出した情報
を利用して,本人の他の個人情報が名寄せ,突合されたことを認めるに足りる証拠もない。
それゆえ,上記事故事例は,番号制度に個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由に対する具体的な危険を生じさせる法制度上又はシステム技術上の不備があることを裏付けるものとはいえない。
2以上検討したところによれば,番号利用法及び番号制度は,行政運営の効率化,より公正な給付と負担の確保,国民の利便性向上という正当な目的の下,慎重な取扱いを要する場合がある個人番号や特定個人情報について,漏えい及び目的外利用等を防ぐ法制度上又はシステム技術上の措置がとられているというべきであり,法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して収集,保管,利用,開示又は公表される具体的な危険があるとはいえない。したがって,番号制度によって,憲法13条により保障された原告らの個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由が侵害されているとはいえない。

3その他の人格的利益の侵害に関わる主張について


以上判示したところによれば,法令等の根拠に基づかずに原告らの個人情報について名寄せ・突合,プロファイリング及び成りすましの被害が生じる具体的な危険があるとはいえないから,原告らの個人番号や特定個人情報が管理,利用等されることによって,原告らが主張する自己のプライバシーに
関わる情報の取扱いについて自己決定する権利ないし利益その他の人格的自律権や表現の自由が違法に侵害されることはない。


また,原告らは,性同一性障害者,ペンネームや芸名を使用する者,DVやストーカー被害者等が,番号制度によって,それぞれ戸籍上の性や氏名,住民票上の住所を明らかにすることを強制され,プライバシー権侵害にとどまらない権利侵害をもたらす旨を主張する。
しかしながら,これらの情報は,本人が個人番号を提供する際,本人確認
のための書類として個人番号カード又は通知カードを選択した場合に提示が予定される(番号利用法16条)ところ,本人確認資料として上記カードを利用しないことも可能である上,かかる情報は,個人識別のため,社会生活を営む上で一定程度開示が必要とされてきた基本的な性質のものであって,番号制度自体はそうした状況に何の変更を加えるものでもない。それゆえ,
番号制度の導入によって,これらの者に対する権利侵害が生じたとはいえない。
なお,性同一性障害者に関する性別情報につき慎重な取扱いが要求されることはもちろんであるが,上記カードの性別欄をマスキングするカードケースが配布されるなどの対策も講じられている。

4以上によれば,番号利用法及び番号制度が原告らの権利を侵害するものとは認められない。
第4

結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいず
れも理由がないから,これをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第6民事部

裁判長裁判官

立川毅
裁判官

石山
裁判官

田中仁朗悠
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