判例検索β > 令和1年(行ケ)第10085号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和1(行ケ)10085
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和2年6月4日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2020-06-04
情報公開日2020-06-10 16:00:44
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和2年6月4日判決言渡

令和元年(行ケ)第10085号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日令和2年1月30日
判原決告グ
訴訟代理人弁護士

大野聖二同小林英了同大野浩之
訴訟代理人弁理士

松野知紘被告特
指定代理人

塚本丈二同尾崎淳史同吉村同関口哲生同豊田純一主1リー許株式庁会長社官尚文特許庁が不服2019-2409号事件について平成31年4月18日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
1
特許庁における手続の経緯等
原告を特許出願人とする特願2018-146350号サーバ装置,その制御方法,プログラム,及びゲームシステム(以下本願という。)は,特願2013-042162号(平成25年3月4日出願)を原出願とする,いわゆる第5世代の分割出願に係るものである。
本願については,次の経過を経て拒絶査定がなされた。
平成30年8月3日

手続補正書

平成30年8月20日

拒絶理由通知

平成30年10月23日
平成30年11月19日
2
意見書,手続補正書
拒絶査定

原告は,平成31年2月22日,拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,これを不服2019-2409号事件として審理した上,同年4月18日,

本件審判の請求は,成り立たない。

との審決をした。
3
原告は,平成31年5月14日に審決謄本の送達を受け,同年6月12日,審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。

4
特許請求の範囲の記載
補正後の請求項1(以下本願発明という。)の記載は,次のとおりである(下線及び符号は本判決が付した。各符号ごとの段落を以下構成要件Aのようにいう。)。なお,記載中の第1フィールド等を,本件明細書(甲1)の記載を参酌して本願添付図面の【図4】の上に表示すると,別紙の図Aのとおりである。

AB他のコンピュータと通信可能に接続されるコンピュータを,それぞれに対して,キャラクタの選択に用いられるポイントおよび複数のパラメータが,キャラクタ毎に個別に設定された複数のキャラクタカードを互いに隣接配置した状態で第1フィールドに表示する第1制御手段と,C前記第1フィールドに表示された複数のキャラクタカードのうち,前記ポイントが時間の経過に伴って加算されるポイント総量(1)以下であるキャラクタカードをプレイヤの操作によって選択可能に表示する第2制御手段と,D選択されたキャラクタカードを前記第1フィールドから除去して,対応するキャラクタを前記第1フィールドとは異なる第2フィールドに配置する第3制御手段と,Eプレイヤの操作によって選択されたキャラクタカードに設定されたポイントを前記ポイント総量から減算された新たなポイント総量として表示する第4制御手段と,として機能させ,F前記第2フィールドへのキャラクタカードの配置に伴い,前記第1フィールドとは異なる第3フィールドに配置されていた追加のキャラクタカードが,前記第1フィールドに補充されるように表示され,G前記選択されたキャラクタカードに対応するキャラクタは(3),設定された前記複数のパラメータに基づいて(2),前記第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃し,H前記新たなポイント総量が時間の経過に伴って加算され(1),前記新たなポイント総量以下のポイントが設定された前記第1フィールド内のキャラクタカードをプレイヤの操作によって引き続き選択可能である,I5対戦ゲーム制御プログラム。
審決の理由
(1)審決の理由の要旨
本願は,オンラインゲームCARTE紹介ムービー(YouTube,2012年3月1日,https://www.youtube.com/watch?v=uCe5J7ESl-g)(甲2。以下CARTEという。)に開示された引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)引用発明の認定
審決は,CARTEに基づき,引用発明を次のとおり認定した。この中で第11領域等と定義されている画面上の各領域を示すと,別紙の図Bのとおりである。
それぞれに対して,「1●や4●などのレベルおよびAP1HP1やAP2HP1などのAPの値及びHPの値が,CREATURE毎に個
別に設定された複数のカードを互いに一部分が重なりながら第11領域に表示し,
第11領域に表示された複数のカードをプレイヤの操作によって選択可能に表示し,
選択されたカードを第11領域から,第11領域とは異なる第3領域または第4領域に移動して配置し,カードを第11領域から第3領域または第4領域に移動させ
るときに,第6領域の上下の数字表示のうち上の数字であるマナの数字が減算され,その減算額は,CREATUREの日本語名の直後に記載される1●や4●などのレベルの値に等しく,マナに関し,例えば第11領域の1レベルのCREATUREのカードを選択して第3領域に配置することで1であったものが,0と表示され,第11領域の
4レベルのCREATUREのカードを選択して第4領域に配置することで10であったものが,6と表示され,さらに,第11領域の2レベルのCREATUREのカードを第4領域に配置することで3であったものが,1と表示されるものであって,
第11領域から,第7領域へのカードの配置に伴い,第11領域とは異なる第10領域に配置されていたカードが,第11領域に補充され,
第3領域に配置されるカードのCREATUREが,(敵)第2領域に配置されるカードのヒーロー」を攻撃する際,当該攻撃による(敵)第2領域のヒーローのHPの値の減少量は,第3領域に配置されるカードのCREATUREのAPの値に等しく,
マナの数字は,ゲーム開始である1ターンを除く3ターン以降,新しいターンが開始される毎に増加し,
同一のターン内において,同じ第11領域にあるCREATUREのカードを引き続いて選択可能な
オンライン対戦ゲーム。」
(3)一致点及び相違点
審決が認定した本願発明と引用発明との一致点は,次のとおりである。なお,B’等の符号及び下線は,本願発明の構成との対比のために本判決で付した。
〈一致点〉
B’それぞれに対して,キャラクタのポイントおよび複数のパラメータが,キャラクタ毎に個別に設定された複数のキャラクタカードを互いに配置した状態で第1フィールドに表示し,C’前記第1フィールドに表示された複数のキャラクタカードのうちから,キャラクタカードをプレイヤの操作によって選択可能に表示し,D’選択されたキャラクタカードを前記第1フィールドから除去して,対応するキャラクタを前記第1フィールドとは異なる第2フィールドに配置し,E’プレイヤの操作によって選択されたキャラクタカードに設定されたポイントをポイント総量から減算された新たなポイント総量として表示し,F’前記第2フィールドへのキャラクタカードの配置に伴い,前記第1フィールドとは異なる第3フィールドに配置されていた追加のキャラクタカードが,前記第1フィールドに補充されるように表示され,G’前記選択されたキャラクタカードに対応するキャラクタは(3),設定された前記複数のパラメータに基づいて(2),前記第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃し,H’前記新たなポイント総量が時間の経過に伴って加算され(1),前記第1フィールド内のキャラクタカードをプレイヤの操作によって引き続き選択可能である,I’対戦ゲーム。(4)相違点
審決は,本願発明と引用発明との相違点を,以下のとおり6点認定した。ただし,そのうち相違点1,3~5が容易想到であることについては争いがない。
〈相違点1〉
本願発明は,他のコンピュータと通信可能に接続されるコンピュータを第1ないし第4制御手段として機能させる制御プログラムに係る発明であるのに対して,引用発明においてはオンライン対戦ゲームであって,コンピュータ,制御手段及び制御プログラムのそれぞれの関係が不明な点。
〈相違点2〉
本願発明は,複数のキャラクタカードを互いに隣接配置した状態で第1フィールドに表示しているのに対して,引用発明においては複数のカードを互いに一部分が重なりながら第11領域に表示している点。〈相違点3〉
本願発明は,ポイントをキャラクタの選択に用いているのに対
して,引用発明においては(ポイントに相当する)「レベルの
値」をキャラクタの選択に用いているかについては不明な点。
〈相違点4〉
本願発明は,第1フィールドに表示された複数のキャラクタカードのうち,前記ポイントが時間の経過に伴って加算されるポイント総量以下であるキャラクタカードをプレイヤの操作によって選択可能に表示しているのに対して,引用発明において,第11領域に表示された複数のカードをプレイヤの操作によって選択可能に表示しているものの時間の経過に伴って加算されるポイント総量以下については不明な点。〈相違点5〉
プレイヤの操作によって引き続き選択可能とするキャラクタカードに関して,本願発明においては,新たなポイント総量が時間の経過に伴って加算され,前記新たなポイント総量以下のポイントが設定された前記第1フィールド内のキャラクタカードであるのに対して,引用発明においては,マナの数字は,3ターン以降,新しいターンが開始される毎に増加し,同一のターン内において,同じ第11領域にあるCREATUREのカードを引き続いて選択可能であるものの,新たなポイント総量以下のポイントが設定されたカードを選択可能であるかについては不明な点。〈相違点6〉
第3フィールドに配置されていた追加のキャラクタカードが,第1フィールドに補充されるように表示することに関して,本願発明においては第2フィールドへのキャラクタカードの配置に伴うものであるのに対して,引用発明においては第11領域から,第7領域へのカードの配置に伴うものである点。
(5)相違点2及び6についての検討
〈相違点2について〉
引用発明の第11領域に表示される複数のカードは,一部が重なっているものの,その全てのカードが視認できるように表示されている。したがって,相違点2に係る本願発明の隣接配置した表示と,引用発明の一部が重なった表示とは,単なる表示態様の相違にすぎず,いずれの表示態様も,他に引用文献をあげるまでもなく周知技術(以下周知技術3という。)である。そして,引用発明に周知技術3を適用して相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることに格別の技術的困難性はなく,当該発明特定事項を備えることによる格別な作用効果について何ら記載されていないから,相違点2に係る本願発明の発明特定事項は当業者にとって設計的事項程度のことであって,当業者が当然なし得る程度の技術的事項にすぎないというべきである。
してみると,引用発明及び周知技術3から,相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得るものである。〈相違点6について〉
本願発明の第1フィールドに配置されたカードと,引用発明の第11領域に配置されたカードは,ともに手持ちのカードである点で共通している。
また,手持ちのカードが,他のフィールドもしくは領域への移動に伴い,その数を減じたときに,手持ちのカードを補充する点においても,両者は共通している。
ここで,カードの移動に関し,どのフィールドもしくはどの領域への移動を補充の対象とするかは,ゲーム上の取決めにすぎない。
そして,引用発明において,どの領域を補充の対象とするかについて,相違点6に係る本願発明の発明特定事項とすることに格別の技術的困難性はなく,当該発明特定事項を備えることによる格別な作用効果について何ら記載されていないから,相違点6に係る本願発明の発明特定事項は当業者にとって設計的事項程度のことであって,当業者が当然なし得る程度の技術的事項にすぎないというべきである。
してみると,引用発明から,相違点6に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得るものである。
第3原告の主張(審決の取消事由)
1
取消事由1-1(相違点Aの看過)
引用発明においては,ゲームのプレイヤによるカード選択等の操作がなされない限り,いくら時間が経過したとしてもターンは進行せず,よってマナも自動的に増加することはない。また,同一ターンにおいては,プレイヤによるカード選択等の操作がなされ,また時間がいくら経過してもマナは増加しない。このように,引用発明では,ターンの経過とともにマナが増加することが開示されているものの,ターンの経過は時間の経過と同じではなく,時間の経過に伴ってマナが増加するというものではない。そして,証拠上,引用発明においてターンの経過とは無関係に,時間の経過によってマナが増加する態様については,何ら開示されていない。よって,引用発明には,本願発明の構成のうち,時間の経過に伴って加算されるポイント総量新たなポイント総量が時間の経過に伴って加算されとの構成(上記第2の4の下線部⑴)は開示されていない。審決には,この相違点Aを看過した誤りがある。

2
取消事由1-2(相違点Bの看過)
引用発明においては,APの値という単一のパラメータにのみ基づいて攻撃が行われていることは示されているものの,APの値以外のパラメータをも用いて攻撃が行われているかどうかは,何ら示されていない。よって,引用発明には,本願発明の構成のうち,設定された前記複数のパラメータに基づいて(下線部⑵)第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃する構成は開示されていない。審決には,この相違点Bを看過した誤りがある。

3
取消事由1-3(相違点Cの看過)
引用発明において第3領域に配置されるものは,第11領域(本願発明の第1フィールドに相当)と同じカードであって対応するキャラクタではない。そして,証拠上,引用発明においてカードとは異なるキャラクタが配置されて敵キャラクタを攻撃する態様については,何ら開示されていない。
よって,引用発明は,第3領域に配置されたカードを用いて攻撃するものであって,本願発明の構成のうち,対応するキャラクタは(下線部⑶)敵キャラクタを攻撃する構成は開示されていない。審決には,この相違点Cを看過した誤りがある。
4
取消事由2-1(相違点2の容易想到性の判断誤り)
引用発明における第11領域には少なくとも8枚のカードが配置される(CARTEの00分51秒)。引用発明では,第11領域という限られたエリアに8枚ものカードを配置するために,互いに一部分が重なりながら表示されている。
仮に,引用発明において,第11領域に,互いに一部分が重なりながら表示に代えて互いに(一部分が重なることなく)隣接配置した状態で表示しようとすると,8枚のカードのうち左端あるいは右端のカードは第11領域内に収まらなくなってしまう。
よって,隣接配置した表示が周知技術であるとしても,これを引用発明に適用することには阻害要因があるから,審決が引用発明及び周知技術3から,相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得ると判断したことは誤りである。
5
取消事由2-2(相違点6の容易想到性の判断誤り)
本願発明では,敵キャラクタへの攻撃を行う第2フィールドへの配置に伴い,キャラクタカードが第1フィールドに補充されるのに対し,引用発明では,マナを増やすための第7領域にカードを配置させることに伴い,新たなカードが補充される。そして,証拠上,引用発明には,敵への攻撃を行う第3領域にカードを配置させることに伴い新たなカードが補充されることについては,何ら示されていない。
すなわち,本願発明と引用発明とは,カードを補充する契機が全く異なる。第3領域にカードを配置することで敵を攻撃するという技術的事項が開示された引用発明において,第3領域とは異なる目的の第7領域にカードを配置させることで敵キャラクタへの攻撃を行うようにしたり,あるいは,攻撃のために第3領域にカードを配置した際にカードが補充される構成に置き換えたりするように引用発明を変更する動機付けはないし,そもそもそのように変更する必要性も見いだせない。
よって,引用発明に記載の構成に基づき,相違点6に係る構成に置き換えることが容易想到であるとする審決の判断は,本願発明を見てなされた後付けの議論であって誤りである。
第4被告の反論
1
取消事由1-1(相違点Aの看過)について
CARTEでは,ターンが経過すると時間も経過し,また,新しいターンが開始される毎にマナの数字が増加する。そうすると,マナの数字は時間の経過に伴って増加するといえるから,審決が,引用発明のマナの数字と本願発明のポイント総量とは時間の経過に伴って加算される点で共通する旨認定したことに誤りはない。
仮に,原告の主張するとおり,ターンの経過と時間の経過が異なる概念であって相違点Aが存在するとしても,周知技術を適用して相違点Aに係る本願発明の構成に想到することは容易であるから,審決の結論に影響しない。
2
取消事由1-2(相違点Bの看過)について
(1)引用発明のHPの値の意味について
CARTEの〈01分27秒〉及び〈01分28秒〉から,(敵)第2領域に配置されていたカードについて,HP-1の文字が,カードに重なるように表示された後に,カードの上下の数字のうち,下の数字が,16から15に1だけ減っていることを把握できる。同様に,〈01分38秒〉及び〈01分40秒〉から,第4領域に配置されているカード及び(敵)第3領域に配置されているカードについて,共に,HP-1の文字が,カードに重なるように表示された後に,カードの上下の数字のうち,下の数字が,1から0に1だけ減っていることが把握できる。よって,カードの上下の数字のうち,下の数字がHPの値であることを理解できる。
また,(敵)第3領域の右端に配置されていたカードは,HPの値が0になったことで,(敵)第3領域から(敵)第8領域に,裏面を上側にして配置される。ここで,第3領域は,アタックゾーンであるから,カードを用いた対戦ゲームにおいて,自陣と敵陣の構造は同じであることが一般的であることを踏まえると,(敵)第3領域は,敵陣のアタックゾーンであることは明らかである。
そうすると,HPの値が0になったカードのCREATUREは,アタックゾーン,すなわち第3領域から除去され,以後,攻撃に使用することはできないものと解すべきである。
してみると,引用発明においては,各カードのHPの値が0でな
いことを条件として攻撃を行なうものであるといえるから,引用発明は,HPの値にも基づいて攻撃を行っているものということができる。(2)引用発明の攻撃について
引用発明は,APの値に基づいた攻撃を行うものであることは審決において認定したとおりである。そして,引用発明においては,HPの値に基づいて攻撃を行っているものといえることは上記⑴で検討したとおりである。
してみると,引用発明においては,HPの値とAPの値とに基づ
いて攻撃を行っているものであるから,本願発明と引用発明とは,複数のパラメータを同時に使って攻撃を行う点で共通するとした審決の認定に誤りはない。
3
取消事由1-3(相違点Cの看過)について
CARTEによれば,引用発明において,攻撃を行う主体はカードに描かれたクリーチャーであり,攻撃を受ける対象は,カードに描かれた相手のヒーローである。このように,引用発明において,カード自体が攻撃の主体及び対象であるわけではない。したがって,攻撃の主体及び客体につき,引用発明ではカードであるのに対して本願発明ではキャラクタである点を相違点Cとして認定すべき旨の原告の主張は失当である。
仮に,原告の主張する相違点Cがあるとしても,キャラクタが描かれたカードを用いた対戦ゲームの技術分野においては,選択されたカードに対応するキャラクタをゲーム画面に表示する演出は原出願時の周知技術であったから,本願発明の相違点Cに係る構成は周知技術の適用によって当業者が容易に想到できた。したがって,相違点Cの看過は審決の結論に影響しない。

4
取消事由2-1(相違点2の容易想到性の判断誤り)について
オンライン対戦カードゲームにおいて,複数のカードを表示する際に,当該複数のカードを表向きにして隣接配置した状態で表示装置に表示させることは,原出願時の周知技術であった。また,コンピュータのディスプレイ上で,一枚一枚のカードを小さく表示して多数のカードを表示できるようにすることに技術的な困難性はない。
そうすると,複数のカードを並べるに当たって,それぞれのカードの内容を視認可能とするために,引用発明のように一部を重ねて配置するか,上記周知技術のように隣接させて配置するかは,設計的事項にすぎない。したがって,引用発明に対して上記周知技術を適用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た。
5
取消事由2-2(相違点6の容易想到性の判断誤り)について
相手に勝利することを目的とする対戦ゲームにおいて,手持ちのカードの数が減じたときに,手持ちのカードを補充し,それ以降の行動において選択可能なカードの数を維持することで,相手に対して優位となる選択肢を選択しやすいゲーム性(例えば特開2002-52257号公報(乙7),特開2005-34277号公報(乙8))とするか,手持ちのカードが補充されないようにし,それ以降の行動の選択肢となるカードの数が限られ,相手に対して優位となる選択肢を選択しにくいゲーム性(例えば特開2002-78966号公報(乙9),特開2001-29656号公報(乙10))とするかは,ゲーム制作者がゲームのルールを決める際に,普通に考慮することである。そして,ゲームのルールは,ゲーム制作者が,どのようなゲーム性のゲームをプレイヤに提供しようとするかに応じて,適宜決めるべき設計的な事項にすぎない。
したがって,第7領域にカードを配置した場合には第11領域のカードが補充され,第3領域にカードを配置した場合には第11領域のカードが補充されないようになっている引用発明において,相手に対して優位となる選択肢を選択しやすいゲーム性のゲームを提供するために,第3領域にカードを配置した場合でも第11領域のカードが補充されるようにすることは,まさに,提供しようとするゲーム性に応じたゲーム上の取決めにすぎず,何ら技術的な困難性があることではない。
よって,引用発明に対して,相違点6に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは,当業者が容易に想到し得た。

第5裁判所の判断
1
本願発明の概要
(1)本件明細書には,本願発明の課題及び目的が以下のとおり記載されている。ア
従来,デッキ対戦型のゲームにおいては,デッキ(デッキ構成キャラクタの組)を一旦作成すると,ひとつの対戦イベント(クエストやターン等とも呼ばれる)においては,そのデッキ構成を変更することができなかった【0004,0005】。そのため,プレイヤは,対戦イベントに際し,キャラクタを選択するだけか,あるいは,攻撃を指示するためのボタンやスイッチ等を連打するといった非常に単調な作業を行うことができるのみであった【0005】。また,その攻撃のバリエーションが限定されてしまい,対戦イベント自体が画一的なものになったり,場合によっては,デッキが構成された時点において,プレイヤが対戦の行方(勝敗)をある程度予測することができてしまったりという不都合もあった【0006】。その結果,その対戦イベントひいてはゲーム全体の面白味や醍醐味が減退したり喪失されてしまい,プレイヤによるゲーム参加やゲーム継続への意欲を駆り立てることができないといった課題があった【0007】。

本願発明の目的は,かかる従来技術の課題を解決して,プレイヤの創意工夫を引き出し,従来単調な作業と化していた対戦イベントの興趣性及び趣向性を向上させることができ,プレイヤによるゲーム参加やゲーム継続の意欲を高め,且つ,ゲーム全体の面白味や醍醐味を増幅又は増長させることが可能なゲームを提供することにある【0008】。

(2)もっとも,本願が第5世代の分割出願に当たることもあってか,本願発明の課題及び目的は,上記⑴記載のものにとどまらないものとなっており,また,特許請求の範囲の記載と明細書の記載との対応関係は,一読して明らかとはいえないものとなっている。このような状況下で,本願発明について,審決が判断の前提とし,本件訴訟でも当事者間で特段の争いのない理解は,下記⑶のとおりとなる。
(3)本願発明の技術的意義
(なお,本件明細書においては,キャラクタとゲーム媒体(カードなど)が一対一で対応することが前提とされているため【0013】,以下においては,本件明細書のプレイヤキャラクタ又はキャラクタとゲーム媒体とを厳密に区別せず,文脈に応じて適宜キャラクタカード,キャラクタ,カードの語を用いる。)

プレイヤが複数のキャラクタカードの中から,敵キャラクタを攻撃するための少なくとも1つの所望のカードを選択可能なように,複数のカードを端末装置における第1フィールドに表示させる【構成要件B】【0010】。プレイヤが第1フィールドに表示されたカードの中から所望のカードを選択したとき(ただし,選択には下記ウの要件がある。),選択されたカードは第1フィールドから除去されて第2フィールドに移動する【構成要件C,D】【0010】。これに伴い,第1フィールドには,第3フィールドから,追加のカードが補充される【構成要件F】【0010】【0060】(なお,【0015】~【0017】には,補充されるカードを決定する方法が開示されているが,本願発明の構成要件には入っていない。)。
このようにして,対戦イベントにおいてプレイヤが選択するカードの組を,プレイヤの選択意思によって逐次かつ所望に変化させることができる,という目的が達成される【0014】。


各キャラクタカードは,敵と対戦する際の能力を示すパラメータを有している。このパラメータには,例えば,俊敏さ,体力又は生命力,攻撃力,使用可能な技の強さ等がある【0016】【0019】。
本願発明のゲームにおいては,各キャラクタカードには複数のパラメータが予め設定されている【構成要件B】。実施例においては,第1のパラメータ【0016】として俊敏さ(素早さ)の数値であるRPが設定されている【0051】。また,第2のパラメータとして,敵キャラクタに対して仕掛ける通常技によって与えることができるダメージの大きさを表すAP(アクションポイント)が設定されている【0053,0054】。

プレイヤが第1フィールドから第2フィールドに移すキャラクタカードを選択する際には,ポイントによる縛りがある【構成要件C,H】。実施例では,二つのパラメータのうちの第2のパラメータであるAP(アクションポイント)が,かかる縛りの機能を有するポイントに当たる【0053】。
ポイント総量は,本件明細書では第3のパラメータと称され【0018】,その総量の増減の仕方について種々の態様が開示されているが【0018,0021】,本願発明においては,時間の経過に伴って加算されるという態様【0021】に特定されている【構成要件C,H】。プレイヤは,AP(アクションポイント)のポイント総量によ
る縛りの範囲内で,第2フィールドに配置すべきキャラクタカードを第1フィールドから選択して第2フィールドに移すことができる【構成要件C,D】【0055,0058】。
APのポイント総量は,上記選択に伴い一旦減少するが【構成要件E】【0021,0059】,時間の経過とともに再び回復する【構成要件H】【0021】。


第2フィールドに移動したキャラクタカード上のキャラクタが,敵キャラクタを攻撃する【構成要件G】【0064~0069】。


上記イ~エの構成により,プレイヤには,ある限られた時間内に,キャラクタごとに設定された複数のパラメータを比較考量しながら,戦術的に有効なキャラクタカードを効率的に選択することが求められる。しかも,選択に当たって,パラメータのうちの一つ(実施例ではAP)には,時間の経過とともに増加するポイント総量による縛りがある。そのため,対戦におけるプレイヤの裁量余地を増大させることができ,かつ,プレイヤによる興趣的な欲求を満たすこともできる【0073】。
そして,これが,上記アの構成及び効果と相まって【0072】,ゲーム全体の面白みや醍醐味を増進させ,プレイヤのゲーム参加への意欲を相乗的に高める【0073】。
2
取消事由1-1(相違点Aの看過)について

〔原告の主張の要旨〕
引用発明のターンの経過は時間の経過と同じではなく,ターンの
経過とは無関係に時間の経過に伴ってマナが増加するというものではないから,引用発明には,本願発明の構成のうち時間の経過に伴って加算されるポイント総量,新たなポイント総量が時間の経過に伴って加算され(下線部⑴)は開示されていない。したがって,審決には,この相違点Aを看過した誤りがある。
〔検討〕
以下のとおり,原告の上記主張は採用することができず,取消事由1-1に係る原告の主張には理由がない。
(1)本願発明の時間の経過に伴って加算されるポイント総量及び新たなポイント総量が時間の経過に伴って加算されとの構成に関し,請求項1には,時間の経過が意味する事項について,ターンの経過とは無関係に,時間の経過のみによってポイント総量を加算することであると特定する具体的な記載はない。したがって,原告の主張は,本願の特許請求の範囲の記載に基づく主張であるとはいえないから,採用できない。
(2)また,原告の主張は,次のとおり審決の結論に影響しないことからしても,採用できない。
本件明細書にはターンTuで消費可能なAP総量が『第3のパラメータ値』及びその『上限値』に相当する【0056】,制御部が,第3のパラメータ値から,プレイヤによって選択されたゲーム媒体の第2のパラメータ値を逐次減算し,且つ,適宜のタイミングで第3のパラメータ値に所定量を加算し,又は,第3のパラメータ値の上限値を回復させるようにして,対戦イベントを継続させるようにしてもよい。ここで,『適宜のタイミング』とは,特に制限されず,例えば,上述の如く,所定の対戦イベントが複数の対戦(ターン)から構成され得るときには,その各ターンの途中において時間の経過とともに,或いは,プレイヤキャラクタが敵キャラクタに与えたダメージに基づいて,第3のパラメータ値の上限値を回復させてもよい。或いは,それに代えて又はそれに加えて,そのターンの開始時又は終了時に,まとまった値を回復させるようにしてもよい。【0021】と記載されている。そして,仮に,本願発明の時間の経過に伴って加算されるポイント総量及び新たなポイント総量が時間の経過に伴って加算されという構成が,本件明細書の上記各記載に基づいて,第3のパラメータ値の上限値が各ターンの途中において時間の経過とともに回復する態様を特定して特許請求したものと解されるとしても,本件明細書の上記記載【0021】の書きぶりからして,ポイント総量(第3のパラメータ値の上限値)が時間の経過とともに回復する(加算される)という態様は,上限値の回復の適宜のタイミングの一例として挙げられているにすぎず,特段の技術的意義は付与されていないから,その具体的態様,すなわち,時間の経過をターンの経過と関連付けるか関連付けないかは,当業者が適宜選択し得る設計的事項といえる。
したがって,原告の主張を前提としても,相違点Aについて本願発明の構成に想到することは容易であるから,その看過は審決の結論に影響を及ぼさない。
3
取消事由1-2(相違点Bの看過)について

〔原告の主張の要旨〕
引用発明においては,APの値という単一のパラメータにのみ基づいて攻撃が行われていることは示されているものの,APの値以外のパラメータをも用いて攻撃が行われているかどうかは,何ら示されていない。よって,引用発明には,本願発明の構成のうち,設定された複数のパラメータに基づいて(下線部⑵)第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃する構成は開示されていない。したがって,審決には,この相違点Bを看過した誤りがある。
〔検討〕
以下のとおり,原告の上記主張を採用することができるので,取消事由2-2に係る原告の主張には理由がある。
(1)本願発明における選択されたキャラクタカードに対応するキャラクタは,設定された前記複数のパラメータに基づいて,前記第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃するものである。一方,審決の認定した引用発明は,レベル,APの値及びHPの値という複数のパラメータ
が,CREATURE毎に個別に設定された複数のカードを用いて対戦ゲームを行うものであるが,選択されたカードのCREATUREによる対戦相手のカードのヒーローに対する攻撃は,もっぱら,APの値に基づいて行われており,CREATUREに設定された他のパラメータであるレベルやHPの値が,攻撃に用いられているとは認められない。そうすると,審決の認定した引用発明においては,APの値という単一のパラメータにのみ基づいて攻撃が行われているものと解するほかないから,本願発明の設定された複数のパラメータに基づいて第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃することに相当する事項は,審決の認定した引用発明には備わっておらず,この点は原告主張の相違点Bを構成する。
そして,相違点Bに係る構成が容易想到であるというためには,キャラクタが複数のパラメータに基づいて攻撃を行う構成を開示又は示唆する公知文献等を引用するか,又は当該構成が周知技術であることを示す等して,これを引用発明に適用して相違点Bに係る構成を得ることの容易想到性を検討すべきである。このように,相違点Bを看過した結果,かかる検討を行っていない点において審決には誤りがあり,この誤りは審決の影響に影響を及ぼしている。
(2)被告は,引用発明においては,HPの値が0になったカードは,以後,攻撃に使用することはできないから,各カードのHPの値が0でないことが条件となっているという意味において,引用発明は,HPの値にも基づいて攻撃を行っている旨主張する。
しかしながら,HPの値が0となり,第3領域から除去され
ると,その後は攻撃自体を行い得ないのであるから,APの値と0であるHPの値とに基づいて攻撃が行われているということはできない。また,HPの値が0を除く任意の値である場合においても,APの値と当該任意の値とに基づいて攻撃が行われることは,何らCARTEには開示されていないのであるから,引用発明においては,APの値とHPの値とに基づいて攻撃が行われているとみることはできない。したがって,被告の主張は採用することができない。
4
取消事由1-3(相違点Cの看過)について

〔原告の主張の要旨〕
引用発明において第3領域に配置されるものは,第11領域(本
願発明の第1フィールドに相当)と同じカードであって対応するキャラクタではないから,引用発明には,本願発明の対応するキャラクタを前記第1フィールドとは異なる第2フィールドに配置する構成は,開示されていない。したがって,審決には,この相違点Cを看過した誤りがある。
〔検討〕
以下のとおり,原告の上記主張は採用することができず,取消事由1-3に係る原告の主張には理由がない。
(1)本願発明のキャラクタについて検討すると,本願の特許請求の範囲の請求項1には,キャラクタの選択に用いられるポイントおよび複数のパラメータが,キャラクタ毎に個別に設定された複数のキャラクタカードとの記載はあるものの,第1フィールドとは異なる第2フィールドに配置する対応するキャラクタないし前記第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃する,前記選択されたキャラクタカードに対応するキャラクタの態様を具体的に特定する記載はなく,対応するキャラクタが,キャラクタカード上に描かれたキャラクタの態様であることを排除しているものと解すべき根拠は見当たらない。
そして,本願発明のキャラクタカードに対応する,引用発明のCREATUREのカードには,本願発明のキャラクタに対応するCREATUREが描かれているのであるから,引用発明においてCREATUREのカードを配置することは,カードに描かれたCREATUREを配置することにほかならないといえる。そうすると,引用発明において,CREATUREのカードを第11領域とは異なる第3領域に配置することは,本願発明の対応するキャラクタを前記第1フィールドとは異なる第2フィールドに配置することに相当し,また,引用発明において,第3領域に配置したカードにより,対戦相手のカードのヒーローを攻撃することが,本願発明の対応するキャラクタが前記第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃することに相当するといえる。
したがって,これと同旨の審決の判断に誤りがあるとはいえない。(2)仮に,本願発明の第2フィールドを,本件明細書の段落【0058】及び図4に記載されたイベントフィールド,もしくは,同段落【0062】及び図5に記載されたバトルフィールドを指示するものと解して,本願発明の対応するキャラクタの表示態様を,図4や図5に記載のような,カードから離れた状態の表示態様に限定して解釈するとしても,この態様は,特許第5135466号公報(乙3)の図4や特開2005-34303号公報(乙4)の図13に見られるように,対戦ゲームにおける周知の表示態様にすぎないから,キャラクタが描かれたカードを表示するという引用発明の表示態様を本願発明の表示態様に変更することは容易に想到し得るものである。
したがって,相違点Cの看過を前提としても,本願発明が甲2に基づいて当業者が容易想到であるとした審決の結論に影響を及ぼすものではない。5
取消事由2-1(相違点2の容易想到性の判断誤り)について

〔原告の主張の要旨〕
相違点2に関して,引用発明のゲームにおいて,第11領域に表示されるカードを隣接配置するように変更すると,全てのカードが表示できなくなり,また,第11領域に表示されるカードを縮小表示すると視認性が悪くなるから,カードの選択に支障をきたすことになる。よって,引用発明において,第11領域に表示されるカードの枚数ないし大きさを変更しようとすることには阻害事由がある。
したがって,引用発明に周知技術3を適用して相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることに格別の技術的困難性はなくとする審決の認定は誤りである。
〔検討〕
以下のとおり,原告の上記主張は採用することができず,取消事由2-1に係る原告の主張には理由がない。
(1)引用発明において,手持ちのカードは,カードに描かれた図柄の一部を視認できるように,互いに一部分が重なりながら表示されている(別紙の図B)。
オンライン対戦カードゲームにおいて,複数のカードを表示する際に,当該複数のカードを表向きにして隣接配置した状態で表示装置に表示させることは,特開2013-34826号公報(乙5)の【0019】及び【図1】,特開2012-210398号公報(乙6)の【0076】及び【図9】にも開示されており,原出願時の周知技術であったと認められる。そうすると,画面上に複数のカードを表示させるにあたり,引用発明のように,一部が重なった表示態様で表示させるか,周知の表示態様のように,隣接配置した状態で表示させるかは,ゲーム画面をデザインするにあたり,当業者が任意に選択する事項であるといえる。そして,この選択に当たっては,カードの図柄及び大きさ並びに表示領域の広さ等を適宜工夫することになるが,原出願時においてコンピュータディスプレイ上の高速かつ高精細な画像表示が一般化していたことは顕著な事実であるから,当業者にとって,そのような工夫をすることに技術的な困難性もなかったといえる。また,引用発明において,隣接配置した状態で表示させる周知の表示態様を採用することによって,当業者の予測を超える効果を奏するものでもない。したがって,引用発明及び周知技術に基づいて,相違点2に係る構成を得ることは,当業者が容易に想到し得る事項であるといえる。
(2)阻害事由がないこと
画面上に隣接配置するカードの大きさを枚数に応じて調整することは,CARTEにおいても,第3領域に隣接配置するカードの枚数が増えた場合にカードを縮小表示すること(2分5秒から同8秒,同32秒から33秒,同46秒から47秒,)が開示されているように,当業者が普通に採用し得る周知技術にすぎないと認められる。また,引用発明において,複数のカードを表示する第11領域は,プレイヤにカードを選択させるための表示領域であるから,ゲーム画面のデザインとして,周知の態様である隣接配置した状態の表示を採用した場合に,プレイヤによるカードの選択に支障が生じない程度の大きさを確保することは,当業者が当然に配慮する事項であるといえる。
したがって,引用発明において複数のカードを隣接配置した状態で表示させる態様を採用することに阻害事由があるとはいえない。
6
取消事由2-2(相違点6の容易想到性の判断誤り)について

〔原告の主張の要旨〕
本願発明では,敵キャラクタへの攻撃を行う第2フィールドへの配置に伴い,キャラクタカードが第1フィールドに補充される。これに対し,引用発明では,マナを増やすための第7領域への配置に伴い,新たなカードが第11領域に補充されるが,敵ヒーローへの攻撃を行うための第3領域への配置に伴い,新たなカードが第1領域に補充されることはない。
第3領域にカードを配置することで敵を攻撃するという技術的事項が開示された引用発明において,第3領域とは異なる目的の第7領域にカードを配置させることで敵キャラクタへの攻撃を行うように引用発明を変更することや,攻撃のために第3領域にカードを配置した際にカードが補充される構成に置き換えることについての動機付けはないし,そもそもそのように変更する必要性もない。また,仮に相違点6に係る本願発明の構成がゲーム上の取決めであったとしても,そのことをもって直ちに,本願発明が引用発明に基づき容易想到であったということにはならない。
よって,引用発明に記載の構成を相違点6に係る構成に置き換えることが容易想到であるとする審決の認定は,本願発明を見てなされた後付けの議論にすぎず,相違点6にかかる構成が容易想到であるとした審決の認定は誤りである。
〔検討〕
以下のとおり,原告の上記主張を採用することができるので,取消事由2-2に係る原告の主張には理由がある。
(1)相違点6に係る構成が容易想到であると判断するに当たっての審決の論理構成は,次のとおりである。
①手持ちのカードが他のフィールド又は領域への移動に伴いその数を減じたときに手持ちのカードを補充するという構成を採用するに当たって,どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の取決めにすぎない。


よって,第7領域への移動をカードの補充の契機とする引用発明の構成を,第3領域(敵ヒーローへの攻撃を行うための領域)への移動を補充の契機とする本願発明の構成に変更することは,ゲーム上の取決めを変更することにすぎない。



よって,引用発明の構成を本願発明における構成とすることも,ゲーム上の取決めの変更にすぎず,当業者が容易に想到し得た。

(2)しかしながら,審決の上記論理構成は,次のとおり不相当である。ア
審決は,引用発明の認定に当たってカードの種類に言及していないが,CARTEによれば,第10領域から第11領域へのカードの補充の契機となるのは,シャードカード(深緑の地色に白抜きで円形と三日月形が表示されているカード)の第11領域から第7領域への移動及び第7領域から第6領域への移動である(00分39秒~40秒,00分49秒~50秒等)。
そして,シャードカードは,専らマナ(カードのセッティング
やスキルの発動に必要不可欠なエネルギー<00分42秒>)を増やすために用いられるカードであり,その移動先はシャードゾーン(第7領域)又はマナゾーン(第6領域)に限られ,敵との直接の攻防のためにアタックゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移動させられることはない。これに対し,クリーチャーカードは,敵のクリーチャーやヒーローとの攻防に直接用いられるものであって,第11領域から適宜アタックゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移動させられ,攻防の能力を表すAPの値及びHPの値を有してい
る。

このように,引用発明におけるカードの補充は,本願発明におけるそれとの対比において,補充の契機となるカードの移動先の点において異なるほか,移動されるカードの種類や機能においても異なっており,相違点6は小さな相違ではない。そして,かかる相違点6の存在によって,引用発明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくるといえる。したがって,相違点6に係る構成がゲーム上の取決めにすぎないとして,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断することは,相当でない。

(3)被告の主張について
被告は,手持ちのカードの数が減じたときにこれを補充する構成(乙7,乙8)とするかこれを補充しない構成(乙9,乙10)とするかは,ゲーム制作者がゲームのルールを決める際に適宜決めるべき設計的な事項にすぎないから,引用発明において,第3領域(アタックゾーン)にカードを配置した場合でも第11領域の手持ちカードが補充されるようにすることは,何ら技術的な困難性があることではなく,まさに,提供しようとするゲーム性に応じたゲーム上の取決めにすぎない旨主張する。
しかしながら,相違点6は,ゲームの性格に関わる重要な相違点であって,単にルール上の取決めにすぎないとの理由で容易想到性を肯定することはできないことは,(2)において説示したとおりである。。
7
結論
よって,原告の請求は理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦上田卓哉石神有吾
裁判官

裁判官
別紙
図A

図B
トップに戻る

saiban.in