判例検索β > 令和2年(む)第53号
準抗告申立事件
事件番号令和2(む)53
事件名準抗告申立事件
裁判年月日令和2年3月24日
裁判所名・部神戸地方裁判所  姫路支部
裁判日:西暦2020-03-24
情報公開日2020-06-05 16:00:21
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和2年(む)第53号
決定
令和2年2月14日,検察官がした押収物の還付に応じない旨の処分に対し,同月20日,申立人から適法な準抗告の申立てがあったので,当裁判所は,次のとおり決定する。
主文
本件準抗告を棄却する
理1由
本件準抗告の趣旨及び理由
本件は,申立人が,検察官に対し,申立人が被告人であった当庁平成30年
(わ)第●号,第●号強要未遂,公務執行妨害,有印私文書偽造,偽造有印私文書行使,住民基本台帳法違反,戸籍法違反被告事件(以下本件基本事件という。)のうち,有印私文書偽造及び偽造有印私文書行使の各事実について捜査中に差し押さえられた,前記強要未遂事件の被害者(以下Aという。)に係る住民票の写し(神戸地方検察庁姫路支部平成30年領第●号符号●),戸籍の全部事項証明書(同庁平成30年領第●号符号●)及び戸籍の附票の写し(同庁平成30年領第●号符号●。以下,本件各押収物と総称する。)について,前記被告事件の確定判決において没収の言渡しがなかったのでこれらを還付することを求めたところ,検察官がこれを拒絶したことが不当であるので,その処分の取消し及びこれらを申立人に交付すべきことを命じる決定を求めるというものである。
2
認定事実
一件記録によれば,以下の事実が認められる。



申立人は,平成30年8月●日,Aを,当時の申立人方に呼び出し,申立
人への連絡を強要しようとしたが,Aが警察に通報したことからその目的を
遂げなかったとの強要未遂及び申立人を護送中の警察官に対して暴行を加えたとの公務執行妨害の公訴事実で,当裁判所に起訴された(当庁平成30年(わ)第●号)。


兵庫県a警察署の警察官は,同年9月●日,申立人が本件各押収物を不正
に入手しようと企て,A名義の委任状を2通偽造し(以下偽造された2通の委任状を本件各委任状という。),本件各押収物の各交付元の地方自治体の職員に対し提出等して行使したとの有印私文書偽造・同行使被疑事件について,同月●日に発付されたB方における捜索差押許可状に基づき,同所において,被差押人をB,所有者を申立人として,本件各押収物をいずれも差し押さえた。その後,本件各押収物は,いずれも,神戸地方検察庁姫路支部に送致された。なお,申立人は,本件各押収物について所有権を放棄していないが,Bは,平成30年10月●日,本件各押収物についての還付請求権を放棄した。


申立人は,同年10月●日,前記有印私文書偽造,同行使に,住民基本台
帳法違反及び戸籍法違反を加えた公訴事実で当庁に起訴された(当庁平成30年(わ)第●号)。


被告人は,平成31年●月●日,当裁判所において,本件基本事件につき,
懲役●年●月に処する旨及び本件各委任状の偽造部分を没収する旨の有罪判決の言渡しを受けた。なお,当裁判所は,本件各押収物をいずれも差押え又は領置しておらず,かつ,提出命令によって提出させてもいない。また,本件各押収物に関する没収又は被害者還付の判決は言い渡されていない。⑸

申立人は,同年●月●日,同判決に対し,控訴の申立てをしたが,同月●
日,同申立てを取り下げたことで,同日,同判決が確定した。(中略)⑹

申立人は,Aの職場に宛てて,Aへの気付を付して,要旨,以下の内容の
手紙を送付した。
(中略)



申立人は,神戸地方検察庁姫路支部のC検察官に対し,要旨,以下の内容
の手紙を送付した。
(中略)


申立人は,令和2年1月24日,神戸地方検察庁姫路支部の検察官に対し,
本件各押収物を還付するよう請求したところ,同年2月14日,同検察官は,申立人に還付すべき場合ではないとして,
同請求に応じない旨の処分をした。
3
当裁判所の判断



捜査機関が押収した物は,被告事件が終了したとき,没収や被害者還付の
言渡しがなされていないときは,実体的な権利関係によって還付先を決するのではなく,被押収者が還付請求権を放棄しているときや被押収者に還付することができない場合のほかは,被押収者に還付しなければならないところ(刑訴法222条1項,123条1項。なお,最高裁昭和62年(し)第15号平成2年4月20日決定・刑集44巻3号282頁参照。ところで,申立人は同法346条を適示するが,同条は,裁判所が差し押さえた物,領置した物及び提出命令により提出させた物について適用されるものである。本件各押収物は,これらのいずれにも該当しない。),前記のとおり,本件基本事件に係る判決において,本件各押収物について没収や被害者還付の言渡しはない。また,Bは,還付請求権を放棄しているから,次いで,所有者である申立人に還付すべきこととなる。
以上検討したことを前提に,申立人に還付することの適否を検討する。⑵

本件各押収物は,申立人が,法律上,存在が認容されない偽造文書(大審
院大正4年(れ)第898号同年5月14日・刑録21輯631頁)である本件各委任状を自ら行使し,かつ,当該行使によって直接的に得られたものである。
また,戸籍,住民票の写し及び戸籍の附票は,従前,何人でも謄本の交付申請ができたが,個人情報に対する配慮等を理由に,平成19年法律第35
号及び同法律第75号によって,第三者が交付請求をできる場合を制限し,不正の手段によって本件各押収物の交付を受けることを,刑事罰を以て禁止することとなった(令和元年法律第17号による改正前の戸籍法133条,住民基本台帳法46条2号)。
そうすると,本件各押収物について申立人に還付することは,戸籍法及び住民基本台帳法の趣旨を没却するものというべきであり許されないというべきである。
この点,法禁物について,被押収者(被押収者に次いで還付を受けるべき地位にある者を含む。以下同じ。)があくまでも還付を求めるのであれば,被押収者に還付した上で,直ちに所持罪で逮捕することができるのであるから,法禁物であることを以て,還付を認めないとすることは相当ではないという見解も存する(前記最高裁決定判解参照)。そうすると,法禁物ですらない本件各押収物について申立人に還付すべきとも考えられる。
しかし,法禁物の場合に,直ちに逮捕することを前提として還付すること自体,相当とはいい難い。また,たとえ所持罪が定められていない物であったとしても(前記のとおり,戸籍法及び住民基本台帳法は,戸籍の全部事項証明書,戸籍の附票及び住民票の写しを不正の手段によって交付を受けることを処罰しているが,不正の手段によって入手したこれらの書面の所持それ自体を処罰していない。),還付し,所持させることによって法の趣旨が没却されるような場合は,還付を認めるべきではないし,むしろ,所持罪が定められていないからこそ,還付を認めないこととしなければ,法の趣旨が没却されてしまうというべきである。
本件でいうならば,本件各押収物は,申立人が不正の手段によって得たことによって,少なくとも申立人が還付請求権を行使し得ない物として取り扱われるに至ったというべきである。
そうすると,本件は,申立人に還付することができない場合に該当すると
することが相当である。


また,申立人に還付請求権が認められると解するとしても,本件のように,
不正の手段によって本件各押収物を取得した本人が,その還付を受けようとすること自体,自らなした違法行為の結果を保持しようとするものであり,法秩序維持の観点から是認できるものではない。そのため,申立人が還付を受けるべき特段の事情がない限り,申立人の還付請求権の行使は,権利の濫用に該当するというべきである。
そして,本件基本刑事事件によって認定された強要未遂罪の性質から推認される申立人とAの関係や,申立人がAに送付した文書の内容や送付方法から,現時点でも申立人がAに対して執着心ないし復讐心を抱いていると認められ,本件還付請求が,これらの執着心ないし復讐心を果たす手段として用いられていると推認されることからすると,申立人に対し,還付を受けさせるべきではない事情こそあれ,還付を受けるべき正当な事由はない。なお,申立人は,本件申立てと同時になした,検察官がなした本件基本事件の判決謄本の交付申請を拒絶した処分に対する不服申立て(当庁令和2年(む)第●号)において,同判決に対する再審請求を申し立てる予定である旨述べているが,この点を考慮しても,結論は左右されない。
そうすると,申立人に本件各押収物の還付請求権が認められるとしても,申立人がこれを行使することは権利の濫用に当たるというべきである。⑷

以上の次第であり,結局,申立人が本件各押収物の還付を求めることはで
きないから,検察官が申立人の還付請求を拒絶した処分は正当である。4
よって,本件準抗告は理由がないから,刑訴法432条,426条1項によ
り,主文のとおり決定する。
令和2年3月24日
神戸地方裁判所姫路支部刑事部
裁判官

伊藤太一
トップに戻る

saiban.in